(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-04
(54)【発明の名称】培養プロセスにおける培養条件を最適化するための方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
C12N 1/00 20060101AFI20250128BHJP
C12N 1/16 20060101ALI20250128BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20250128BHJP
C12N 5/07 20100101ALI20250128BHJP
C12N 5/04 20060101ALI20250128BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20250128BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20250128BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20250128BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20250128BHJP
C12P 7/64 20220101ALI20250128BHJP
C12P 21/00 20060101ALI20250128BHJP
G16B 5/00 20190101ALI20250128BHJP
【FI】
C12N1/00 A
C12N1/16 A
C12N1/20 A
C12N5/07
C12N5/04
C12N1/19
C12N1/15
C12N1/21
C12N5/10
C12P7/64
C12P21/00 Z
G16B5/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024537957
(86)(22)【出願日】2022-12-21
(85)【翻訳文提出日】2024-07-30
(86)【国際出願番号】 US2022053733
(87)【国際公開番号】W WO2023122224
(87)【国際公開日】2023-06-29
(32)【優先日】2021-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524234145
【氏名又は名称】パウ ジェネティック ソリューションズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】ホール シャノン
(72)【発明者】
【氏名】ワン オウウェイ
(72)【発明者】
【氏名】リー ブライアン
(72)【発明者】
【氏名】エムリック チャールズ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AD01
4B064AG01
4B064AH01
4B064CA01
4B064CC24
4B064CC30
4B064DA20
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA87X
4B065BC02
4B065BC03
4B065BC08
4B065BC14
4B065CA10
4B065CA24
4B065CA41
4B065CA60
(57)【要約】
培養プロセスにおける少なくとも1つの培養出力のための培養条件を反復的に改善するための方法およびシステムを提供する。この方法は、以下を含む:(a)バイオリアクター内で細胞の連続培養を提供することであって、該細胞が、培養パラメータのセットを含む培養条件下で培養され、細胞の該培養が、少なくとも1つの培養出力を第1の測定値で生成する、該提供すること;(b)該細胞を連続培養で維持しながら、(i)培養出力の該測定値を改善すると予測される培養パラメータの新しいセットを含む新しい培養条件を選択すること;(ii)該細胞に該新しい培養条件で摂動を加えること;および(iii)培養出力の新しい測定値を求めること、によって異なる培養条件を反復的にテストすることであって、テストが、培養出力の該測定値に複数の改善をもたらすために反復される、該テストすること。反復プロセスは、自動化された人工知能によって行うことができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)バイオリアクター内で細胞の連続培養を提供することであって、該細胞が、培養パラメータのパラメータセットを含む培養条件下で培養され、細胞の該培養が、少なくとも1つの培養出力を第1の測定値で生成する、該提供すること;
b)該細胞を連続培養で維持しながら、
(i)新しいパラメータセットを含む新しい培養条件を選択することであって、該新しい培養条件が、培養出力の該測定値を改善すると予測され、かつ培養出力の1つ以上の以前の測定値に基づいて選択される、該選択すること;
(ii)該細胞に該新しい培養条件で摂動を加えること;および
(iii)培養出力の新しい測定値を求めること
によって異なる培養条件を反復的にテストすることであって、テストが、培養出力の該測定値に複数の改善をもたらすために反復される、該テストすること
を含む、培養プロセスにおける少なくとも1つの培養出力のための培養条件を反復的に改善するための方法。
【請求項2】
(1)目標の出力測定値が達成される;または
(2)複数回の反復が、以前の最適出力測定値を改善する培養条件を特定しなくなる
まで、異なる培養条件を反復的にテストすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ユーザー定義のパラメータ空間の探索が尽きるまで、新しい培養条件をテストすることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
選択することが、自動エージェントを用いて行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
自動エージェントが人工知能法を使用する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
人工知能法が、強化学習、深層学習、Q学習、およびニューラルネットから選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
自動エージェントが、ダイレクト探索法(例えば、ネルダー・ミード法、動的計画法、滑降シンプレックス法、シンプレックスアルゴリズム、線形回帰、二分探索木、またはランダムウォーク)を使用する、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
操作(b)の前に、培養下の細胞のベースライン遺伝的安定性を求めることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
操作(b)を少なくとも2、3、4、5、10、15、20、25、30、50または100回(例えば、4~15回)のいずれかの回数反復することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
培養出力が、複数の異なる培養出力を含む重み付きスコアを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
c)パラメータセットの中から、培養出力の測定値を最適化するパラメータセットを選択すること;選択されたパラメータセットを用いてバッチ培養(例えば、フェドバッチ培養)で細胞を増殖させること;および培養出力を測定すること
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
該培養物の体積が約50mL~約15L、例えば約500mL~約10Lである、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
培養出力が比増殖速度である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
培養出力が、産物力価、産物収量、比生産速度、体積生産速度から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
培養出力が、バイオマス収量、比CO
2生成速度、比O
2消費速度、有機酸プロファイル、代謝物プロファイル、副産物プロファイル、および生産経済性から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
培養出力が、ポリペプチド(例:タンパク質、酵素、抗体)、細胞内の合成経路の産物である有機分子(例えば、香味料(例:バニリン)、香料(例:アルデヒド、クマリン、インドール)、アミノ酸、有機酸(例:クエン酸、乳酸、酢酸)、アルコール(例:エタノール、イソプロパノール、アセトンなどのケトン)、および脂肪酸(例:パルミチン酸、オレイン酸)などの工業用化学物質)から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
比速度が1時間あたりの細菌1個あたりの培養出力の変化速度として定義される、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
細胞が古細菌、原核細胞および/または真核細胞を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
細胞が、真菌細胞(例えば、酵母(例:サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ピキア属菌(Pichia spp.)、クリベロマイセス属菌(Kuyveromyces spp.)またはアスペルギルス属菌(Aspergillus spp.)、ロドスポリジウム属菌(Rhodoporidium spp)、リポリティカ属菌(Lipolytica spp.)、アスペルギルス属菌(Aspergillus spp.)、ニューロスポラ属菌(Neurospora spp)、トリコデルマ属菌(Trichoderma spp.)、カンジダ属菌(Candida spp.)、ペニシリウム属(Penicillium))を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
細胞が、細菌細胞(例えば、大腸菌(Escherichia coli)、バチルス属菌(Bacillus spps)、コストリジア属菌(Costridia spp)、ストレプトマイセス属菌(Streptomyces spp)、シュードモナス属菌(Pseudomonas spp)、ラルストニア属菌(Ralstonia spp)、シェワネラ属菌(Shewanella spp))を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
細胞が、昆虫細胞、動物細胞または植物細胞を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
細胞が、動物細胞(例えば、節足動物(例:昆虫、エビ、ロブスター、ザリガニ、およびカニ)および脊索動物(例:魚類、両生類、爬虫類、鳥類(例:ニワトリまたはシチメンチョウ)、および哺乳類(例:ヒトまたは非ヒト、例えば、ウシ、ラム、ヤギ、ブタ、ウマ、イヌ、ネコ、霊長類))を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
細胞が、細胞株(例:CHO(チャイニーズハムスター卵巣細胞)、BHK21(ベビーハムスター腎臓)、NS0、Sp2/0マウス細胞株)、昆虫細胞(例:SP9、Sf9、sf21、S2)、タバコBY-2細胞、イネ(Oryza Sativa)および藻類の細胞を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
培養出力の前記測定値が、定常状態まで増殖させた細胞に基づいている、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
培養出力の前記測定値が、増殖中の細胞の傾向線(trend line)に基づいている、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
前記測定値が、摂動を加えた後1時間から24時間の間に作成される、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
培養が、タービドスタットまたはケモスタット内で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
培養パラメータの1つ以上が、温度、pH、溶存酸素、炭素供給速度、および窒素供給速度のうち1つ以上を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
1つ以上の培養パラメータが栄養素の濃度を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項30】
1つ以上の培養パラメータが、金属(例:鉄、亜鉛、コバルト、銅、ニッケル、マンガン、モリブデン酸塩、亜セレン酸塩および他の遷移金属)、ビタミン(例:ナイアシン、ピリドキシン、リボフラビン、パントテン酸塩、アミノ安息香酸(類)、チアミン、ビオチン、シアノコバラミン、葉酸)、誘導剤、塩、窒素節約率、通気速度、酸素スパージ速度、二酸化炭素節約率、リン酸塩、硫酸塩、塩化物、酢酸塩、クエン酸塩および他の陰イオン塩、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウムおよび他の陽イオン塩、ホウ酸、コリン、アスコルビン酸、リポ酸、ニコチン酸、イノシトールおよび他のビタミン類、消泡剤(例:アンチフォーム204、アンチフォームA、アンチフォームC)、アミノ酸類(例:グルタミン酸、ロイシン、およびトリプトファン)、核酸塩基(例:アデニン、シトシン、チミン、ウラシル、およびグアニン)、複合栄養素(例:酵母エキス、ペプトン、トリプトン、およびカザミノ酸類)、マクロ栄養素、および/またはミクロ栄養素の濃度を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項31】
1つ以上の培養パラメータが、細胞増殖因子の濃度、CO
2の濃度、培養撹拌速度、および抗生物質の濃度を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項32】
培養パラメータが炭素源の濃度を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項33】
炭素源が、糖(例:グルコース、キシロース、スクロース、グリセロール、またはアセタート)、糖蜜、麦芽エキス、デンプン、デキストリン、果肉、COまたはCO
2から選択される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
培養パラメータが窒素源の濃度を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項35】
窒素源が、アミノ酸またはポリペプチド、尿素、アンモニウム塩(例:硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウムまたはアンモニア)、コーンスティープリカー、酵母エキス、ペプトン、および大豆ミールから選択される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
パラメータセットが、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、または8種(例えば、2~6種)の培養パラメータのいずれかを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項37】
24時間以内に2~20回(例えば8~15回)の反復を行うことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項38】
目標産物を生産する生化学的経路の活性を誘導することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項39】
細胞が構成的または誘導性の遺伝子発現系を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項40】
遺伝子が商用産物をコードする、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
遺伝子が、商用産物の生化学的生産経路における酵素をコードする、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
産物が、組換えタンパク質、天然タンパク質(例:酵素)、栄養サプリメント、カンナビノイド、代謝産物、有機酸(類)、脂質(類)、胞子、または細胞バイオマスから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項43】
ステップ(b)の前に、
バッチ式またはフェドバッチ式リアクターにおける微生物の増殖、生産力価、および生産性のベースライン発酵プロセスを決定すること
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項44】
第1および第2の最適化プロセスを含み、第1の最適化プロセスが細胞増殖のための最適化パラメータセットを特定し、第2の最適化プロセスが分子産物のための最適化パラメータセットを特定する、請求項1に記載の方法。
【請求項45】
細胞増殖のための最適化パラメータセットが、分子産物を最適化するための初期培養条件に情報を与える、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
初期のパラメータセットが、ランダム化された、繰り返された、または選択されたパラメータセットを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項47】
以下を含むシステム:
a)細胞の連続培養用に構成された容器(例えば、タービドスタットまたはケモスタット);
b)(i)該容器内で培養されている細胞の1つ以上の培養出力を測定し、(ii)測定値をコンピュータのメモリに送信する、1つ以上のセンサ;
c)該容器に配合物(例えば、栄養素)を供給する、1つ以上の供給手段;
d)(i)プロセッサと、
(ii)該プロセッサに接続され、かつ以下のモジュール:
(1)複数の培養条件のそれぞれについて、培養パラメータの測定値と、センサから受信されかつ培養条件に関連付けられた培養出力の測定値とを含む、データセット;
(2)培養出力の測定値の向上をもたらすと予測されかつ該データセットに基づく新しい培養条件を選択するアルゴリズムを含む、自動エージェント;および
(3)新しい培養条件を該システムに実装し、培養出力を測定し、かつ培養条件と培養出力を該データセットに追加する、コンピュータ実行可能命令
を含むメモリと
を含むコンピュータ。
【請求項48】
自動エージェントが人工知能法を使用する、請求項47に記載のシステム。
【請求項49】
人工知能法が、強化学習、深層学習、Q学習、およびニューラルネットから選択される、請求項48に記載のシステム。
【請求項50】
自動エージェントが、ダイレクト探索法(例えば、ネルダー・ミード法、動的計画法、滑降シンプレックス法、シンプレックスアルゴリズム、線形回帰、二分探索木、またはランダムウォーク)を使用する、請求項47に記載のシステム。
【請求項51】
A)容器内の液体を混合するための、モーターによって作動するミキサー(例えば、インペラーまたは空気式撹拌機);
B)温度調整器および温度センサ;
C)容器内部と連通する酸性およびアルカリ性試薬の供給源、ならびにpHメーター;
D)容器内部と連通する通気システム、および溶存酸素メーター;
E)容器内部と連通する栄養素の供給源、および栄養素を測定するための分析計;
F)容器内部と連通する排出、および容器からの流体流量を調節するための調節可能なバルブまたはポンプ;
G)容器内のバッフル;
H)1つ以上のガスおよびその混合物を投入するための、容器内部と連通するスパージャおよびマスフローコントローラ;および
I)指示をコンピュータと通信するためのユーザインターフェース
のうち1つ以上を含む、請求項47に記載のシステム。
【請求項52】
ミキサー、温度調整器、酸性およびアルカリ性試薬の供給源、酸素の供給源、ならびに栄養素の供給源の操作が、コンピュータの制御下にある、請求項51に記載のシステム。
【請求項53】
a)連続培養において、培養下の細胞の遺伝的安定性を求めること;
b)培養出力のための、培養パラメータのパラメータセットを含む培養条件を、
(i)細胞増殖のための培養条件を最適化すること;および/または
(ii)産物出力のための培養条件を最適化すること
によって最適化することであって、
I)複数の異なるパラメータセットの下で、細胞増殖または産物出力の初期測定値を提供すること;
II)以下を反復的に実行すること:
A)細胞増殖または産物出力の測定値に基づいて、細胞増殖または産物出力を改善すると予測される新しいパラメータセットを選択すること;
B)培養下の細胞に該新しいパラメータセットで摂動を加えること;および
C)細胞に摂動を加えた後、細胞増殖または産物出力を測定すること;ならびに
III)最適化されたパラメータセットを選択すること
を含む一連の操作を行うことを含む、該最適化すること;ならびに
c)最適化されたパラメータセットを、
i)最適化されたパラメータセットの下で、細胞を連続モードまたはフェドバッチモードで増殖させること;および
ii)培養出力を測定すること
によって検証すること
を含む方法。
【請求項54】
選択することが自動エージェントにより実行される、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
遺伝的安定性が、細胞増殖または産物出力の測定値が著しく悪化するまでの世代数の関数として測定される、請求項53に記載の方法。
【請求項56】
細胞増殖の最適化がタービドスタットで行われ、培養出力の最適化がケモスタットで行われる、請求項53に記載の方法。
【請求項57】
連続培養での最適化が、遺伝的安定性の期間よりも長く行われない、請求項53に記載の方法。
【請求項58】
検証することが、約5リットルから約500リットルの体積で行われる、請求項53に記載の方法。
【請求項59】
a)バイオリアクター内で細胞の連続培養を提供することであって、細胞の該培養が、少なくとも1つの培養出力を生成する、該提供すること;および
b)該細胞を連続培養で維持しながら、少なくとも1つの培養出力の生成のための1つまたは複数の異なる培養パラメータに沿って、異なる培養条件を反復的に変更しかつテストするために、機械学習最適化法を使用することであって、複数回の反復が、少なくとも1つの培養出力の生成を改善するために、モデルによって予測された方向に培養条件を変更し、該反復が、複数の改善をもたらすために継続される、該使用すること
を含む方法。
【請求項60】
前記反復が、生成の局所的最大値に達するまで継続される、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記反復が、2~25回、例えば5~20回行われる、請求項59に記載の方法。
【請求項62】
前記反復が、少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24または25回行われる、請求項59に記載の方法。
【請求項63】
前記反復が、少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24または25の改善のいずれかをもたらすように行われる、請求項59に記載の方法。
【請求項64】
機械学習最適化法が、強化学習、勾配降下、遺伝的アルゴリズム、またはランダム探索を使用する、請求項59に記載の方法。
【請求項65】
複数回の反復が、複数の培養パラメータに沿って培養条件を変更することを含む、請求項59に記載の方法。
【請求項66】
複数の培養パラメータが、pH、温度、溶存酸素、炭素供給速度、および窒素供給速度の1つ以上を含む、請求項65に記載の方法。
【請求項67】
培養産物を生産するために、改善されたまたは最適化された培養条件下で細胞を培養すること、および、該培養産物を培養物から回収することをさらに含む、請求項59に記載の方法。
【請求項68】
培養産物が、少なくとも500リットル、1000リットル、5000リットル、10,000リットル、50,000リットル、100,000リットル、500,000リットルまたは1,000,000リットルのいずれかのスケールで生産される、請求項67に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府支援による研究に関する声明
なし。
【0002】
関連出願の参照
本出願は、2021年12月21日に出願された米国仮出願第63/292,397号の出願日の恩典を主張するものであり、その内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0003】
共同研究契約の当事者の名称
なし。
【0004】
配列表
なし。
【背景技術】
【0005】
背景
急成長を遂げているバイオ製造(biomanufacturing)および合成生物学(synthetic biology)産業は、原材料を付加価値の高い製品にバイオ変換するためのバイオリアクター(発酵槽とも呼ばれる)に依存している。バイオ製造は、性能の向上だけでなく、気候変動と闘うための環境フットプリントの改善を含めて、世界経済の物理的マテリアルの大部分を生産するために活用できる、新たに生まれた分野である。最近の試算では、合成生物学の総年間経済効果は2040年までに2~4兆ドルに達する。この効果の3分の2は、医療以外の分野、すなわち、農業、消費者向製品、バイオマテリアル、バイオケミカル、バイオエネルギー、その他多くの分野に及んでいる。合成生物学のあらゆる潜在的応用の中でも、代替タンパク質、バイオマテリアル、バイオケミカル、およびバイオ燃料のバイオ製造は、今後10~20年で最大の成長を遂げるであろう。
【0006】
バイオ製造業は、技術的に最も複雑な産業の一つであり得るが、その根底にある生産プロセスであるバッチ式発酵は、ここ数十年間で変化していない。バッチ式リアクターは、本質的に時間がかかり、反復的で、連続的である。バイオリアクターは、リードタイム(lead time)が長いことに加えて、入手するのに非常に高価である。バイオリアクターの法外な価格と限られた入手可能性のために、「タンク時間」(tank-time)が発酵プロセス(バイオプロセス)の最適化にとって最大のボトルネックとなっている。例えば、最適なプロセス条件を特定するために実験計画法(Design of Experiment:DoE)のアプローチを用いると、それぞれ異なる運転条件のセットで、何百回ものバイオリアクターの運転(run)が必要になる可能性がある。各回の運転に平均1週間かかると仮定すると、単一のバイオリアクターで100回の運転を実現するには丸2年かかるであろう。複数台のバイオリアクターを保有する確立された企業であっても、プロジェクトごとに費やすことができる「タンク時間」には限りがあり、テストする条件の数を減らさざるを得ないことがある。多くのプロジェクトは、バイオプロセスのスケールアップの間に経時的改善が見られないために「棚上げ」される。同様の制限がバイオリアクターの株のスクリーニングにも存在し、この場合には、タンク時間が限られているため、全株をスクリーニングするのに1つの「ベースライン」プロセス条件しか使用されず、その結果、最適ではないバイオプロセス条件が原因で、真の最適株の性能をひどく低下させることがよくある。高いバイオリアクターコストによるタンク時間の制限は、不十分なプロセス最適化と、株のスクリーニングでの偽陰性結果の多発を招き、結果として、経済財政上の機会を逃し、ラージスケールでの性能を最適ではなくする。
【発明の概要】
【0007】
概要
本明細書では、複数のプロセスパラメータに対する迅速なプロセス最適化と株のスクリーニングのためのハイスループット発酵プロセスデータを生成する方法論が開示される。このハイスループット発酵プラットフォームは、比資源消費速度(細胞1個あたりの1時間あたりに消費される資源の質量)、比生産速度(細胞1個あたりの1時間あたりに生産される産物の質量)、および生産経済学に基づいて、機械学習(machine learning:ML)により強化されたリアルタイム最適化などの、自律エージェント(autonomous agent)を活用する。このリアルタイム自動最適化では、堅牢な連続発酵プラットフォームが使用される。従来のフェドバッチ(fed-batch)式バイオリアクターシステムを連続式バイオリアクターに置き換えると、装置のダウン時間(downtime)が最小限に抑えられ、体積生産性が向上し、運転コストが削減される。1回のタンク運転ごとに単一の条件のみをテストするバッチ発酵とは異なり、連続式バイオリアクターは、プロセス条件をテストすることの時間的多重化(temporal multiplexing)を可能にする。運転中は、必要に応じて条件をいくつでもテストすることができる。その結果、プロセス最適化に要する時間が5倍~20倍に短縮され、また、最適化キャンペーンを完了するために必要なタンクの数が削減される。この開示された技術は、1日あたりのタンク1台あたりに生成されるデータによって測定されるように大幅な生産性の向上をもたらし、バイオ製造業の主要なペインポイント(pain point)に対処し、かつ合成生物学の最適化のボトルネックを解消するものである。連続的な最適化をうまく実現することで、ハイスループット自動化技術と、連続的下流処理における将来的な進展が見込まれる。
【0008】
このハイスループット法の第1のステップは、連続式バイオリアクター(例:タービドスタット(turbidostat))でベースライン株安定性を求め、かつ(フェド)バッチ式リアクターでベースライン生産性を測定することである。連続運転により、株安定性がテストされ、生産性が低下する前に連続システムで実行できる世代数が得られる;これにより、連続式リアクターを運転できる時間の範囲が決まる。(フェド)バッチ式リアクターの運転では、最適化に先立って初期増殖速度、生産性、および収量が決定される。生産経路の構成的発現または誘導性発現を示す株は、バイオマス濃度と発酵入力パラメータを一定にしたタービドスタット内で培養される。誘導性プロセスでは、生産経路を誘導するために、初期増殖後に誘導剤/抑制剤分子が添加/除去される。24時間後、タービドスタットシステムは、一定の産物力価と比生産性が観察される定常状態に達する。株の破損は、時間の経過とともに徐々に力価と生産性の低下を引き起こし、これはオフラインサンプル分析によって観察および測定される。株の安定性は、株の破損までの経過時間に基づいて評価される。不安定な株は商業生産には適さないため、このステップは、迅速な継続/中止(go/no-go)をもたらし、さらなる実りのない開発を実行する前に時間と費用の節約を可能にする。
【0009】
第2のステップは、堅牢な増殖環境が生産の基礎となるため、生産用生物にとって最良の培養条件について最適化することである。タービドスタットを使用することで、増殖速度を最適化することができる。生産経路の構成的発現または誘導性発現を示す株は、バイオマス濃度が一定であるが発酵入力パラメータが変化するタービドスタット内で培養され得る。24時間後、タービドスタットシステムは、全ての栄養素が過剰となりかつ生産用生物がその最大比増殖速度に達する、定常状態に到達する。異なる入力発酵パラメータを適用して、目下の定常状態からこのシステムに摂動を加え(perturb)、新しい定常状態に移行させる。この新しい定常状態は、以前の比増殖速度とは異なる、新しい最大比増殖速度を有する。このプロセスは、最大比増殖速度が確認されるまで、またはステップ(1)で定義された世代時間に達するまで継続される。このシステムに摂動を加えるために、入力発酵パラメータが実行される。その入力は、定常状態に到達させるのではなく、段階的にまたは正弦波的に変化させることができる。2セットの入力発酵パラメータ間の比増殖速度の変化速度または変化傾向を比較することで、2つの条件の順位を決めることができる。テストするプロセス条件は、結果の統計的検定力を高めるためにランダム化されるか、または繰り返される。大腸菌(Escherichia coli)、バチルス属菌(Bacillus spps)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)などの特定の一般的な生産宿主では、ほとんどの一般的な生産プラットフォームでの増殖範囲がすでに知られているため、このステップは任意選択的であり得る。
【0010】
第3のステップは、生産用生物にとって最良の生産条件について最適化することである。このアプローチは、最高の生産性と収量を得るための発酵条件のアレイをスキャンするだけでなく、フェドバッチモードにおけるような単一スクリーニング条件にもはや制限されないため、株のスクリーニングのより包括的な方法をも提示する。比生産性と収量について最適化するために、ケモスタット(chemostat)を使用することができる。誘導性株の場合は、生産経路を誘導するために、初期増殖後に誘導剤/抑制剤分子が添加/除去される。24時間後、ケモスタットシステムは、1種類を除く全ての栄養素が過剰となりかつ生産用生物が安定した状態に達する、定常状態に到達する。定常状態では、この律速(rate-limiting)栄養素の添加速度が、このシステムの増殖速度を決めることになる。異なる入力発酵パラメータを適用して、目下の定常状態(状態1)からこのシステムに摂動を加えて、新しい定常状態(状態2-N)に移行させる。この新しい定常状態は、以前の比生産性と収量とは異なる、新しい最大の比生産性と収量をもたらすことになる。このプロセスは、最大の比生産性と収量が確認されるまで、または株安定性までの世代時間に達するまで継続される。このシステムに摂動を加えるために入力発酵パラメータが実行される場合、その入力は段階的または正弦波的に変化させることができる。テストするプロセス条件は、結果の統計的検定力を高めるためにランダム化されるか、または繰り返される。2セットの入力発酵パラメータ間の比増殖速度の変化速度または変化傾向を比較することで、2つの条件の順位を決めることができる。
【0011】
ハイスループット発酵のデータ生成は、機械学習ベースのアルゴリズムなどの計算アルゴリズム(computational algorithm)によって自動化することができる。例えば、3つの基本的な機械学習パラダイムの一つである強化学習(reinforcement learning)を使用して、望ましい発酵出力パラメータを最大化するために連続タービドスタットまたはケモスタットプロセス中に行動を起こすことができる。動的計画法、勾配降下法、シンプレックスアルゴリズムなどの他の数学的最適化法も適用できる。この機械学習支援アプローチは、テストする必要がある条件を劇的に減らし、また、人間の直感に反するような最適条件をも特定するであろう。
【0012】
第4のステップは、最適化されたパラメータをフェドバッチ式バイオリアクターで検証することである。pH、温度、溶存酸素、炭素供給速度、窒素供給速度、培地の他の化学組成など、新たに最適化された発酵入力パラメータをテストすることで、生産性および/または生産経済性の大幅な改善をもたらした最適化パイプラインが検証され、その妥当性が確認されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成する添付の図面は、例示的な態様を説明するものであり、さらに、本明細書とともに、関連分野の当業者がこれらの態様および当業者には明らかな他の態様を利用できるようにするのに役立つものである。本発明は、以下の図面と併せて、より具体的に説明されるであろう:
【
図1】
図1は、バイオリアクター内で培養された細胞による細胞増殖と産物生産に向けて培養条件を最適化するための例示的な全体プロセスを示す。
【
図2】
図2は、3つのプロセス段階をより詳細に示す。
【
図3】
図3は、培養条件を最適化するプロセスのより詳細な例示的なバージョンを示す。
【
図5】
図5は、温度とpHが経時的に一定に保たれ、細胞が一定濃度(AU)に維持されたタービドスタットからの結果を示す。
【
図6】
図6は、連続培養で実施される最適化プロセスと、バッチ培養で実施されるプロセスとの比較を示す。連続培養では、1回の運転の間に複数の異なる培養条件をテストすることができるが、バッチ条件下では、各運転が単一の培養条件によって特徴づけられる。
【
図7】
図7は、最適化実験の進捗状況を示し、知的エージェント(intelligent agent)が、培養出力を改善すると予測される新しい培養条件を選択する;この場合、予測は以前の結果(prior result)に基づいて行われる。
【
図8】
図8Aおよび8Bは、例示的なバイオリアクターを示す。
【
図9】
図9は、例示的なコンピュータシステムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
詳細な説明
I. はじめに
本明細書では、望ましい培養出力のための培養条件を最適化する方法が提供される。(フェド)バッチ培養法に頼っていた従来の方法とは対照的に、本明細書に記載される最適化方法は連続培養で実施される。
【0015】
A. 連続培養
バッチ培養と連続培養の主な違いは、バッチ培養が、発酵などの細胞培養を一定量の栄養分で行う閉鎖系であるのに対し、連続培養は、栄養分を培養物に連続的に添加する開放系であることである。バッチ培養は、最初に細胞が急速に増殖し、その後、栄養分が使い尽くされて、細胞密度がそれ以上の増殖を抑制した後にプラトーが続くことを特徴とする。連続培養は、栄養分がシステムに連続的に添加され、かつ培養物から過剰の細胞が抜き取られることによって細胞密度が維持されるため、一定した増殖速度および/または一定した培養出力の速度を特徴とする。
【0016】
培養プロセスには、培養出力を生成するための細胞のあらゆる培養が包含される。こうしたプロセスには、「発酵」および「細胞培養」と呼ばれるプロセスが含まれるが、これらに限定されない。「発酵」とは一般的に、通常単細胞の生物による、ある分子からの異なる分子種への酵素的変換(例えば、糖からのエタノールへの変換)を指す。「細胞培養」とは一般に、ポリペプチドや付加価値のある有機化合物などの産物を生産するための単細胞、例えば哺乳類細胞または昆虫細胞、の培養を指す。これらのプロセスにはさらに合成生物学の方法が包含され、この方法では、例えば合成経路に沿った酵素の細胞内発現によって、分子出力を生産するように、細胞が遺伝子工学的に操作される。
【0017】
B. バイオリアクター
細胞の培養は通常、バイオリアクター内で行われる。バイオリアクターは、培養培地を入れるように構成された容器(container,vessel)であり、様々な培養パラメータを維持または変更するための構成要素を含んでいる。これには、例えば、温度を測定するための温度調整器と温度計、栄養分の供給源、および培養パラメータを測定するための、pHメーターなどのセンサが含まれる。バイオリアクターはまた、パドルなどの撹拌装置、および栄養分と他の化学物質を投入するための、および培養培地(細胞を含んでもよい)を排出するためのポートを含むこともできる。バイオリアクターは、栄養分と他の分子を添加するための供給手段、ならびにバイオリアクターから培養液を抜き取るための流入を含むことができる。
【0018】
連続培養に使用されるバイオリアクターの2つのタイプとして、タービドスタットとケモスタットが挙げられる。どちらの場合も、栄養分と他の化学物質が、希釈率と呼ばれる比率で細胞培養物に加えられる。希釈率は、望ましいパラメータを維持するために、培養中のセンサからのフィードバックによって決定される。
【0019】
タービドスタットは、細胞密度(例えば、濁度により測定)が一定に保たれる連続式バイオリアクターである。追加的に、または代替的に、タービドスタットの培養液量を一定に保つこともできる。細胞密度またはバイオマスは、濁度やキャパシタンス(静電容量)などの代理測定値(proxy measure)によって決定される。細胞が定常状態に達すると、細胞密度が維持されるならば、増殖速度は一定になる。このシステムでは、栄養分を過剰に維持することで、最大のまたは望ましい増殖速度を達成することができる。最大増殖速度は、培地の処方およびプロセス条件に応じて変化する。特定の態様では、タービドスタットモード下で細胞培養物を培養している間、その培養物の増殖速度は最大化され、かつ/または望ましい速度に設定され、結果として、培養産物のバイオ生産が制限される。特定の態様では、タービドスタットモード下で細胞培養物を培養している間、培養産物は生成されない。特定の態様では、タービドスタットは体積センサに連結され、体積が設定点を超えるとタービドスタットから培養物を抜き取ることによって、濁度と体積の両方を一定に維持する。
【0020】
ケモスタットは、連続式バイオリアクターの1種であり、培養条件の定常状態を維持し、それによって増殖速度を保つものである。栄養分と他の化学物質の濃度を維持するために培養物に培地を連続的に添加し、同時に培養液量を一定に保つために培養液を取り出すことによって、培養条件が維持される。増殖速度は、ケモスタットへの化学物質の添加速度を変えることにより、および培養液を取り出す速度を変えることにより、物理的に調整することができる。
【0021】
図8Aおよび8Bは、例示的なバイオリアクターを示す。
図8Bは、コンピュータに接続されたバイオリアクターを示し、コンピュータには、培養条件を制御するためのユーザー指示を受け取るのではなく、培養のパラメータを示すユーザインターフェースが備わっている。様々な種類の栄養素を含むボトルが、チューブを介して培養物に接続されている。ボトルは培養物から余分な培養培地を受け取ることもできる。
【0022】
ケモスタットとタービドスタットは一般に、約500mL~50Lの容積を有する。これには、例えば、約1L~約10Lの容積が含まれる。工業用サイズの発酵槽は、約5リットル~500リットルの大きさであり得る。
【0023】
バイオリアクターは、例えば、Sartorius社(Goettingen, ドイツ)、およびThermoFisher社(Waltham, MA)から市販されている。
【0024】
C. 培養条件と培養パラメータ
培養条件は、細胞を培養するための複数の培養パラメータを含み、これを本明細書では「パラメータセット」と呼ぶ。パラメータセット内の任意の培養パラメータの測定値の変化が新しい培養条件を生み出す。培養パラメータには、温度、pH、溶存酸素、炭素供給速度、および窒素供給速度が含まれるが、これらに限定されない。その他の培養パラメータには、例えば栄養素の濃度が含まれる。配合物(その濃度を操作できる)には、例えば、以下が含まれる:金属(例:鉄、亜鉛、コバルト、銅、ニッケル、マンガン、モリブデン酸塩、亜セレン酸塩および他の遷移金属)、ビタミン(例:ナイアシン、ピリドキシン、リボフラビン、パントテン酸塩、アミノ安息香酸類、チアミン、ビオチン、シアノコバラミン、葉酸)、誘導剤、塩、窒素節約率、通気速度、酸素スパージ速度、二酸化炭素節約率、リン酸塩、硫酸塩、塩化物、酢酸塩、クエン酸塩および他の陰イオン塩、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウムおよび他の陽イオン塩、ホウ酸、コリン、アスコルビン酸、リポ酸、ニコチン酸、イノシトールおよび他のビタミン類、消泡剤(例:アンチフォーム204、アンチフォームA、アンチフォームC)、アミノ酸類(例:グルタミン酸、ロイシン、およびトリプトファン)、核酸塩基(例:アデニン、シトシン、チミン、ウラシル、およびグアニン)、複合栄養素(例:酵母エキス、ペプトン、トリプトン、およびカザミノ酸類)、マクロ栄養素、および/またはミクロ栄養素。哺乳類細胞などの真核細胞の細胞培養では、培養パラメータは、細胞増殖因子の濃度、CO2濃度、撹拌速度、および抗生物質濃度のいずれかを含むことができる。
【0025】
炭素源は、糖(例:グルコース、キシロース、スクロース、グリセロール、またはアセタート)、糖蜜、麦芽エキス、デンプン、デキストリン、果肉、COまたはCO2であり得る。窒素源は、例えば、アミノ酸またはポリペプチド、尿素、アンモニウム塩(例:硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウムまたはアンモニア)、コーンスティープリカー、酵母エキス、ペプトン、および大豆ミールであり得る。
【0026】
D. 培養出力
培養出力(culture output)は、最適化される培養物の任意の測定可能な特性であり得る。培養出力には、例えば、細胞バイオマス、分子産物、および細胞生理学に基づく産物生産または細胞健全性の代理(proxy)が含まれる。
【0027】
特定の態様では、培養出力は細胞自体のバイオマスである。この場合、最適化される培養出力は細胞増殖速度であり得る。細胞増殖速度は、濁度の経時的変化の関数として測定することができる。
【0028】
他の態様では、培養出力は細胞によって生産される化学産物(「培養産物」)である。培養産物は、発酵または遺伝子発現の産物であり、通常は培養物から回収されて商品化される産物である、分子実体(molecular entity)であり得る。本明細書で想定される培養産物には、ポリペプチド、例えば、タンパク質、酵素、抗体が含まれる。培養産物には、例えば酵素を介した、細胞内の合成経路の産物である有機分子も含まれる。そのような産物には、例えば、工業用の化学物質が含まれる。これらには、香味料(例:バニリン);香料(例:アルデヒド、クマリン、インドール)、アミノ酸、有機酸(例:クエン酸、乳酸、酢酸);アルコール(例:エタノール、イソプロパノール、アセトンなどのケトン);脂肪酸(例:パルミチン酸、オレイン酸)が含まれるが、これらに限定されない。培養出力は、濃度として直接測定することもできるし、量の関数として、例えば、体積生産速度、産物力価、産物収量、または比生産速度として、測定することもできる。
【0029】
他の態様では、培養出力は、例えば細胞生理学に基づいた、出力生成の代理(「培養代理」)である。培養代理(culture proxy)は、細胞の培養物の健全性および/または生理機能を示す測定可能なパラメータである。これらには、比CO2生成速度、比O2消費速度、有機酸プロファイル、代謝物プロファイル、副産物プロファイル、生産経済性(特定の細胞培養条件下で1gの産物を生産するコスト)が含まれるが、これらに限定されない。比速度は、1時間あたりの細菌1個あたりの化合物の変化速度として定義することができ、体積生産速度は、1時間あたりの発酵培地1リットルあたりの化合物の変化速度として定義することができる。
【0030】
E. 細胞の培養
本明細書に開示された方法で培養される細胞は、あらゆる種類の細胞であり得る。これには原核細胞と真核細胞が含まれる。原核細胞は細菌と古細菌を含むことができる。真核細胞は、真菌、植物細胞、および動物細胞を含むことができる。真菌には、例えば、酵母が含まれる。植物には、例えば、藻類が含まれる。動物細胞には、節足動物(例:昆虫、エビ、ロブスター、ザリガニ、およびカニ)、および脊索動物(例えば、魚類、両生類、爬虫類、鳥類(例:ニワトリまたはシチメンチョウ)、および哺乳類(例:ヒトまたは非ヒト動物、例えば、ウシ、ラム、ヤギ、ブタ、ウマ、イヌ、ネコ、霊長類))など、あらゆる門(phylum)からの細胞が含まれる。
【0031】
細胞株には、例えば、CHO(チャイニーズハムスター卵巣細胞)、BHK21(ベビーハムスター腎臓)、NS0、Sp2/0マウス細胞株、昆虫細胞(例:SP9、Sf9、sf21、S2)、タバコBY-2細胞、イネ(Oryza Sativa)および藻類の細胞が含まれる。
【0032】
分子産物を生産する細胞は、構成的に生産するものもあれば、誘導によって生産するものもある。誘導系の場合には、誘導剤、例えば分子、またはプロモーターが光誘導性であれば光、を培養物に導入し得る。ストレス誘導性プロモーターの場合には、ストレッサーが導入される。例えば、リン酸飢餓誘導性プロモーターの場合には、リン酸を制限するか、培養物から除去することができる。
【0033】
F. 測定値
培養出力などの可変要素の測定値は、数字と単語の任意の組み合わせであり得る。測定値は、名義尺度(例えば、名前またはカテゴリー)、順序尺度(例えば、カテゴリーの階層的順序)、間隔尺度(順序のメンバー間の距離)、比率尺度(意味のある「0」と比較した間隔)、またはセット内のものの数を数える基数(cardinal number)測定値などの、任意の尺度であり得る。名義尺度での変数の測定値は、名前またはカテゴリー、例えばシーケンシングリードが分類されるカテゴリーを示す。順序尺度での変数の測定値は、「1位」、「2位」、「3位」などの順位をもたらす。比率尺度での測定値には、例えば、所定の尺度での任意の測定値、リードの絶対数、正規化または推定された数値、および頻度、平均値、中央値、標準偏差、または分位数などの統計的測定値が含まれる。定量化を含む測定値は、通常、比率尺度レベルで決定される。
【0034】
培養出力は、当技術分野で知られた任意の方法で測定することができる。例えば、増殖速度は培養物の濁度の関数として測定される。タンパク質は、例えばイムノアッセイで、測定できる。酵素は酵素アッセイで測定できる。小分子はガスクロマトグラフィー、HPLC、または質量分析で測定できる。
【0035】
II. プロセス
図1を参照すると、培養出力のための培養条件の最適化には、一般的に3つの段階が含まれる。第1段階100では、培養下の細胞の遺伝的安定性が確立される。第2段階200では、培養条件が細胞増殖210および/または培養出力もしくはその代理220について最適化される。第3段階300では、培養条件がスケールアップして検証される。これら3つの段階のそれぞれは、独立して、または一緒に行うことができる。
【0036】
これらのプロセスは、
図2に詳しく示される。準備段階は、初期妥当性確認(validation)および検証(verification)運転を含むことができ、ここではベースラインの力価および生産性が確立される。初期タービドスタット運転では、ベースラインの遺伝的安定性が確立される。最適化段階では、最適化増殖パラメータがタービドスタットで決定され、最適化生産パラメータがケモスタットを用いて決定される。検証段階では、選択され最適化された培養条件の力価と生産性の向上が、フェドバッチまたはバッチ運転でのベースラインと比較して、スケールアップして確認される。
【0037】
A. 遺伝的安定性の確立
最適化の第1段階は、培養下の細胞の遺伝的安定性の決定を含むことができる。遺伝的安定性とは、特定の培養出力の生成が著しく悪化する前に培養下の細胞が増殖できる世代数を指す。それはまた、特定の培養出力の生成が著しく悪化するまでの培養期間として表すこともできる。培養出力の生成が少なくとも20%、少なくとも25%、または少なくとも50%悪化する場合に、培養出力の生成は著しく悪化すると言える。
【0038】
遺伝的安定性を求めるために、細胞は連続培養で確立される。ひとたび確立されると、培養出力の生成が時間の経過とともに順次測定される。ある時点で、培養出力の生成は悪化するだろう。世代数、または培養出力の生成が悪化するまでの時間(世代サイクルとして測定することも可能)は、細胞株の安定性を表している。
【0039】
B. 培養条件の最適化
本明細書では、培養出力を生成するための培養プロセスにおける培養条件を最適化する方法が提供される。この方法は、以前の培養条件のセットのそれぞれについて、以前の培養出力のセットを決定すること;新しい培養出力を求めるために、以前の培養出力を改善することが期待される新しい培養条件をテストすること;および培養出力の最良の以前の測定値を改善する新しい培養条件が特定されるまで、以前の動作を繰り返すこと、を含む。以前の培養条件よりも改善された培養出力を生成する新しい培養条件を特定するステップは、培養出力の継続的な改善を示す培養条件をもたらすために反復され、培養条件を継続的に改善するために反復的に実施され得る。この方法は、例えば、培養出力の目標測定値が達成されるまで、培養出力の測定値のさらなる改善が数回の反復後に達成できなくなるまで、または培養パラメータ空間が使い尽くされるか、十分に探索されたとみなされるまで、継続することができる。
【0040】
図3は、最適化プロセスを詳細に示している。培養物の接種に用いられる種培養物が確立され、初期の培養パラメータのセットを含む連続培養条件が使用される。最適化段階では、培養物は定常状態の方へ向かわされる。1つ以上の培養出力が測定される。オペレータまたはエージェント(例えば、強化学習を利用する自動エージェント)がその結果を解釈し、性能の向上をもたらすと予測されるどのパラメータを変更するかを決定する。このシステムはこれらのパラメータを用いて摂動が加えられ、定常状態に戻される。培養出力が再度測定される。このプロセスは、最適化が完了するまで反復される。この時点で、オペレータは検証段階に移ることができる。
【0041】
1. 最適化
最適化とは、複数回の反復(実験パラメータが変更される)を通して、プロセスの測定出力が改善されるプロセスである。複数回の反復は、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、40、50、60、70、80、90、または100回のいずれかであり得る。パラメータ空間内で実験パラメータを繰り返し変更しても、出力の測定値が改善されない場合、プロセスは最適化されたと言える。通常、このような最適化は、テストされるパラメータをパラメータ空間が2~8種含む場合、4~15回の反復後に達成される。目標は、多次元(培養条件)空間における最小値または最大値を特定することである。局所的な最大値または最小値の存在は、限られたパラメータ空間内で最適化されたプロセスを意味し得る。しかし、パラメータ空間のより広範な探索は、より最適な結果の発見につながる可能性がある。それゆえに、最適化では、パラメータ空間にわたって局所的な最大値または最小値、あるいは大域的な最大値または最小値を特定することが可能である。
【0042】
最適化プロセスでは、1つまたは複数のパラメータ、つまり可変要素、をテストすることができる。最適化されるパラメータは、1つ以上、2つ以上、3つ以上、4つ以上、5つ以上、6つ以上、7つ以上、または8つ以上とすることができる。任意のパラメータの境界は、そのパラメータが合理的に取り得る最大値および最小値である。パラメータ空間は、テストされる全てのパラメータの境界によって囲まれた空間である。こうして、例えば、pHと温度のパラメータ空間は、pH=2とpH=10.0;および温度=15℃と温度=50℃で囲まれた空間であり得る。これら2つの範囲内の数値の対はどれも、パラメータ空間内にあると言える。パラメータ空間を使い尽くすことは、その空間全体にわたる組み合わせをテストすることを含むであろう。これには、例えば、各パラメータの極値付近の空間、ならびに極値間の組み合わせが含まれる。こうして、例えば、pHの極値がpH2とpH10であり、テストされる温度の極値が15℃と50℃である場合、全探索(exhaustive search)には、少なくとも、約pH2と約15℃;約pH2と約50℃;pH10と約15℃;およびpH10と約50℃での測定が含まれる。これらの極値の内部では、中間範囲周辺の複数の組み合わせ(例えば、約pH6と約32℃)もテストされるだろう。
【0043】
1つまたは複数の培養出力の最適化が可能である。例えば、条件は、増殖速度について、または培養産物の生産について最適化され得る。あるいは、2つ以上の培養出力が同時に最適化され得る。培養条件は、決定プロセスで培養出力の重み付けをすることによって、2つ以上の培養出力について最適化され得る。例えば、CO2の生成は、どのくらいの栄養素が産物に変換されているかを示す指標である。したがって、より低いCO2生成速度の方がよいと言える。かくして、CO2生成と産物力価の両方が測定され得る。最適値(optimum)は、CO2生成速度よりも高く産物力価の重み付けをして、両方のスコアを組み合わせてもよい。
【0044】
2. 反復テスト
本明細書に記載の方法を用いると、培養パラメータ空間を迅速かつ効率的に探索して、1つ以上の選択された培養出力のための最適な培養条件を特定することができる。
【0045】
前もって、ユーザーは、培養すべき細胞の株と、その測定値が最適化されることになる培養出力(複数可)を選択する。細胞が培養培地を含むバイオリアクター内に置かれ、通常は、定常状態が連続培養で確立される。望ましい培養出力は、細胞増殖速度、分子実体の生産、生産コスト、またはこれらの代理とすることができる。
【0046】
図5は、時間の経過とともに細胞が増殖の定常状態で維持されることを示す。細胞濃度は「AU」で示される。細胞増殖を最適化しようとする場合、すなわち、増殖速度が最適化される培養出力である場合、タービドスタットが使用され、これは細胞密度を反映する培養物の濁度を一定に保つことができる。培養パラメータを最初に設定して、定常状態に至らせる。そのためには、例えば、3~5世代またはそれ以上の世代数の細胞が必要になるかもしれない。培養パラメータのいくつかは、その空間が最適な増殖条件(複数可)を特定するためにテストされることになっているものである。タービドスタットは、細胞を含む培養培地をバイオリアクターから取り出して、その容量を新鮮な培地で置き換えることによって、細胞密度を維持している。したがって、増殖速度は、培養物が定常状態にあるとき、経時的に取り出される培養培地の量の関数である。
【0047】
連続培養における反復テストのスピードが
図6に示される。連続培養での1回の運転でテストされる最大12種の異なる条件が示される。対照的に、バッチ培養の1回の運転では単一の培養条件がテストされ得る。
【0048】
培養条件を最適化するプロセスは反復的である。それは、培養出力の初期測定から始めることを含む。細胞増殖の速度は、例えば、培養物中の細胞の倍加時間として表すことができる。細胞増殖の速度は、最初に、複数の異なる培養条件下でテストすることができる。培養条件の変更は、温度またはpHの変更など、一度に1つの可変要素のみの変更を含むこともあれば、温度とpHの両方を変更するなど、複数の可変要素の変更を含むこともある。いずれにせよ、1つ以上の異なる条件下での培養出力の初期測定値は、「以前の値」(priors)として機能し、これに対して今後の培養条件が選択され得る。
【0049】
人間のオペレータまたは知的エージェントが、今や、テスト用の新しい培養条件を選択する。通常、選択される新しい培養条件は、培養出力の測定値を改善するとオペレータまたはエージェントが予測したものであり、培養出力の1つ以上の以前の測定値に基づいている。こうして、例えば、培養温度の上昇を含む3つの異なる培養条件が培養出力の増加をもたらす場合、オペレータまたはエージェントは、温度をさらに上昇させると培養出力もさらに増加する、と予測するかもしれない。したがって、オペレータまたはエージェントは、温度をさらに上昇させる新しい培養条件を選択することができる。培養物はその後、新しい培養条件を反映するように摂動を加えられ、培養出力がもう一度測定される。
【0050】
培養物が定常状態に達したら、新しい測定を行うことができる。あるいは、培養出力の測定は、一定期間後の培養物のテストに基づいてもよいし、経時的な複数の測定値を用いて1つの傾向を特定し、その傾向を用いて培養出力の最終測定値を予測してもよい。
【0051】
このプロセスは、培養出力の以前の測定値をチェックし、これらの以前の値に基づいて、培養出力を改善すると予想される培養条件の変更を予測し、予測された培養条件でシステムに摂動を加え、摂動を加えられたシステムの培養出力を測定することを含むプロセスであって、反復される。反復の回数は、特定のイベントが達成されるまで続けられる。これは、株の遺伝的安定性が達成されるまで続く可能性がある。つまり、細胞の遺伝的不安定性を理由に、産物出力が悪化し始めるまでの世代数について、反復テストを行うことができる。反復は、目標の培養出力が達成されるまで続けられる。例えば、これは分子産物の一定の生産速度とすることができる。培養条件が最適化されたことを示す1つの指標は、培養条件を変更し続けても培養出力のそれ以上の改善が得られないことである。培養パラメータ空間内の局所的な最大値または最小値の存在は、大域的な最適化の誤った指標を提供する可能性があることを理解されたい。したがって、局所的な最小/最大領域にとらわれないように、パラメータ空間全体にわたって様々なポイントがテストされ得る。
【0052】
培養産物をテストするための条件の初期セットは、細胞増殖の速度について最適化されたことが判明した培養条件によって情報が与えられる。例えば、初期のパラメータセットは、細胞増殖段階で特定されたものと同じか、ほぼ同じであり得る。初期の培養パラメータは、各培養パラメータが以前のパラメータとほぼ同じ、すなわち、以前の培養パラメータの測定値のプラスまたは±5%以内であれば、以前のパラメータとほぼ同じである。
【0053】
図7は、2つの可変要素をテストする反復テストの例示的なセットを示す。この場合、変化させるパラメータはpHと温度である。培養出力ミュー(mu)は、生物の増殖速度を表す。数回の試行の後、ミューを最大化するパラメータの最適値は、約pH7と温度約37℃で特定される。
【0054】
また、このプロセスには、以前の値(priors)に入れるデータをより多く提供するために、培養出力を改善することが必ずしも予測されない新しい培養条件のテストが含まれ得ることも理解される。このようなテストは、反復プロセスのどの時点でも行うことができる。様々な培養条件のテストは、パラメータ空間全体にわたって各培養パラメータの可変要素を系統的に変更する体系的プロセスを含むことができる。このようなプロセスにより、培養出力の最適値をもたらす培養条件(複数可)が特定されるであろう。しかし、こうしたプロセスは、培養出力を改善する培養条件を予測するために以前の結果を使用するインテリジェントなプロセスよりも遅く、効率的でない可能性がある。
【0055】
したがって、このプロセスは、細胞の培養に最大の増殖速度をもたらす培養条件を特定するために使用され得る。さらに、このプロセスは、産物の生産に最適な培養条件、または産物の生産コストを最小限に抑える培養条件を特定するために使用され得る。
【0056】
特定の態様では、測定される培養出力は、生産される特定の分子産物の量であり得る。他の態様では、生産される産物の絶対量は、産物生産の経済性よりも重要でないことがある。こうして、例えば、培養出力は、1単位(unit)の分子産物を生産するための相対的コストであり得る。次いで、出力の値に全ての入力のコストを考慮に入れることができる。これは、このプロセスの付加価値を反映することになる。
【0057】
C. 大きなスケールでの培養条件の検証
最適条件が、本明細書に記載するように、連続培養で反復テスト法を通じて特定された後、これらの条件はスケールアップして検証され得る。通常、工業システムでの産物の生産は、(フェド)バッチ式リアクターを使って、10,000リットルから1,000,000リットル程度のスケールで行われる。検証ステップは、選択された最適培養条件下に(フェド)バッチ式リアクター内で細胞の培養物を確立し、ベースラインの開始条件と比較して培養出力を測定することを含む。(フェド)バッチ式リアクターでの培養出力が、連続培養で決定された最適条件下での出力と合理的に相関することが証明された場合には、これらの条件を、産物を生産するための商業的プロセスにおいて使用することができる。
【0058】
III. システム
また、本明細書では、培養出力の生成に向けて培養条件を最適化するためのシステムも提供される。このようなシステムは、細胞を増殖させるバイオリアクターと、知的エージェントを含むコンピュータから構成され、コンピュータは、バイオリアクターに培養条件を確立するよう指示し、かつ以前のデータから培養出力を改善すると期待される培養条件を予測するようにプログラムされている。
【0059】
A. コンピュータシステム
本明細書で提供されるモデルは、プログラマブル・デジタル・コンピュータで実行することができる。
【0060】
図9は、例示的なコンピュータシステムを示す。コンピュータシステム9901は、中央処理装置(central processing unit:CPU、本明細書では「プロセッサ」および「コンピュータプロセッサ」ともいう)9905を含み、これは、シングルコアもしくはマルチコアプロセッサ、または並列処理のための複数のプロセッサであり得る。コンピュータシステム9901はまた、メモリまたはメモリロケーション9910(例えば、ランダムアクセスメモリ、リードオンリーメモリ、フラッシュメモリ)、電子記憶装置9915(例えば、ハードディスク)、1つ以上の他のシステムと通信するための通信インターフェース9920(例えば、ネットワークアダプタ)、ならびに周辺デバイス9925、例えば、キャッシュ、他のメモリ、データ記憶装置、バイオリアクター、および/または電子ディスプレイアダプタなどを含む。コンピュータ可読メモリ9910、記憶装置9915、インターフェース9920および周辺デバイス9925は、マザーボードなどの通信バス(実線)を介してCPU 9905と通信可能である。記憶装置9915は、データを記憶するためのデータ記憶装置(またはデータリポジトリ)であり得る。コンピュータシステム9901は、通信インターフェース9920の助けを借りて、コンピュータネットワーク(「ネットワーク」)9930に動作可能に連結され得る。ネットワーク9930は、インターネット、インターネットおよび/またはエクストラネット、あるいはインターネットと通信するイントラネットおよび/またはエクストラネットであり得る。ネットワーク9930は、場合によっては、電気通信ネットワークおよび/またはデータネットワークである。ネットワーク9930は、クラウドコンピューティングなどの分散コンピューティングを可能にする、1つ以上のコンピュータサーバーを含むことができる。
【0061】
CPU 9905は、プログラムまたはソフトウェア(コード)に具体化され得る、一連の機械可読命令を実行することができる。命令は、コンピュータ可読メモリ9910などのメモリロケーションに格納され得る。命令はCPU 9905に送信され、その後、本開示の方法を実行するようにCPU 9905をプログラミングするか、または他の方法で設定することができる。
【0062】
記憶装置9915は、ドライバ、ライブラリ、保存されたプログラムなどのファイルを保存することができる。記憶装置9915は、ユーザデータ、例えば、ユーザプリファレンス、ログファイル、ビデオまたは他の画像、およびユーザプログラムを保存することができる。コンピュータシステム9901は、場合によっては、コンピュータシステム9901の外部にある1つ以上の追加のデータ記憶装置を含むことができ、追加の記憶装置は、例えば、イントラネットまたはインターネットを介してコンピュータシステム9901と通信しているリモートサーバー上に設置される。
【0063】
コンピュータシステム9901は、ネットワーク9930を介して1つ以上のリモートコンピュータシステムと通信することができる。
【0064】
本明細書に記載される方法は、例えば、コンピュータ可読メモリ9910または電子記憶装置9915などの、コンピュータシステム9901の電子記憶場所に格納された機械(例えば、コンピュータプロセッサ)実行可能コードによって実行され得る。機械実行可能コードまたは機械可読コードは、ソフトウェアの形で提供される。使用中、該コードはプロセッサ9905によって実行され得る。場合によっては、該コードは記憶装置9915から取り出され、プロセッサ9905がすぐにアクセスできるようにメモリ9910に格納される。状況によっては、電子記憶装置9915が排除され、機械実行可能命令はメモリ9910に格納される。該コードは、機器上の電子デバイス、例えば、回路基板9940、モジュール、またはサブシステムと通信し、それらに指示を出すために使用され得る。
【0065】
コンピュータシステム9901は、ネットワーク9930を介して1つ以上のリモートコンピュータシステムと通信することができる。
【0066】
機械実行可能コードは、メモリ(例えば、リードオンリーメモリ、ランダムアクセスメモリ、フラッシュメモリ)またはハードディスクなどの、電子記憶装置に格納することができる。「記憶」タイプの媒体は、コンピュータ、プロセッサなどの有形(tangible)メモリ、またはそれらの関連モジュール(例えば、様々な半導体メモリ、テープドライブ、ディスクドライブなど)のいずれかまたは全てを含むことができ、これらは、ソフトウェアプログラミングのための非一時的な記憶(non-transitory storage)をいつでも提供することができる。ソフトウェアの全部または一部は、時には、インターネットまたは他の様々な電気通信ネットワークを介して通信されることがある。
【0067】
コンピュータシステム9901は、例えば本明細書に記載される方法の入力パラメータを提供するための、ユーザインターフェース(UI)9940を含む電子ディスプレイ9935を含むか、またはそれと通信することができる。UIの例には、グラフィカルユーザインターフェース(GUI)およびウェブベースのユーザインターフェースが含まれるが、これらに限定されない。
【0068】
さらに、本明細書では、コードを含む有形のソフトウェア製品を含むコンピュータシステムが提供される;該コードは、実行されると、本明細書に記載の最適化方法を実行するように本明細書で提供するシステムに指示する。
【0069】
機械学習の最適化
機械学習の最適化とは、機械学習モデルの精度を反復的に向上させ、エラーの程度を下げるプロセスである。最適化は損失関数(loss function)またはコスト関数(cost function)を通して測定される;これは通常、データの予測値と実際の値の差を定義する方法である。機械学習モデルは、この損失関数を最小化することを目指している。今回のケースでは、コスト関数は培養出力の生成レベルの逆数であり得る。したがって、コスト関数を最小化することは、培養出力の生成を最大化することに等しい。機械学習の最適化方法としては、例えば、ランダム探索、勾配降下、および遺伝的アルゴリズムが挙げられる。
【0070】
ランダム探索、つまり全探索は、パラメータ空間全体を通してポイントをテストし、それらの結果に基づいてコスト関数の最小値を特定する方法である。
【0071】
勾配降下法では、パラメータまたはパラメータのセットの任意の値が選択され、テストされる。次に、ある方向のパラメータの近傍の値(例えば、より高いか低いか)がテストされ、最小値により近いかまたは最小値からより遠いかが判定される。より遠い場合は、次のパラメータ値が他の方向で選択され、テストされる。このプロセスは、局所的または大域的な最小値が見つかるまで継続することができる。
【0072】
遺伝的または進化的アルゴリズムは、複数のパラメータ値のセットをテストし、コスト関数を最小化するパラメータの値を選択する。こうして、例えばpHと温度と溶存酸素の様々な組み合わせが培養出力についてテストされる。培養出力の向上に関連する各パラメータの値が選択され、組み替えられ、再度テストされて、パラメータ値のより良い組み合わせが特定される。
【0073】
深層学習(ディープラーニング)の手法の一つに強化学習がある。強化学習は機械学習の一側面であり、エージェントが、特定の行動を実行し、その行動から得られる報酬/結果を観察することで、ある環境において行動することを学習する。強化学習の概略図は
図3に示される。エージェントはその環境に対して行動(a
t)をとる。これは、環境の状態(S
t)と、その結果が以前の結果よりも良いかどうかを示す報酬(R
t)に関する情報をもたらす。エージェントは報酬最大化の仮説に取り組む。
【0074】
強化学習の1つのバージョンは、ダイレクト探索と呼ばれている。「ダイレクト探索」(direct search)とは、各試行解(trial solution)をその時点までに得られた「最良」と比較し、次の試行解が何であるかを(以前の結果の関数として)決定する戦略とともに、試行解を逐次検討することを指す。
【0075】
Q学習は、特定の状態における行動の価値を学習するためのモデルフリーの強化学習アルゴリズムである。
【0076】
いくつかの変形例では、分析は、線形モデルおよび非線形モデルを含む機械学習手法の実装を含むことができ、例えば、CART(classification and regression trees:分類木および回帰木)などのプロセス、バックプロパゲーションネットワークなどの人工ニューラルネットワーク、判別分析(例えば、ベイジアン分類器またはフィッシャー分析)、ロジスティック分類器、およびサポートベクター分類器(例えば、サポートベクターマシン)を含む。
【0077】
最適な培養条件を特定するための機械学習アルゴリズムは、深層学習の手法を活用することができる。深層学習の手法では、学習プロセスで多数の層(layer)を利用する。
【0078】
人工ニューラルネットワークでは、相互接続されたノード(node)の集合体を使用する。ニューラルネットワークは、入力層、1つ以上の隠れ層、および出力層を含むノード層で構成される。各ノード、つまり人工ニューロンは、別のノードに接続しており、関連する重みと閾値を有する。個々のノードの出力が指定された閾値を超えると、そのノードが活性化されて、ネットワーク(入力層、1つ以上の隠れ層、および出力層を含むノード層で構成される)の次の層にデータを送信する。各ノード、つまり人工ニューロンは、別のノードに接続しており、関連する重みと閾値を有する。個々のノードの出力が指定された閾値を超えると、そのノードが活性化されて、ネットワークの次の層にデータを送信する。
【0079】
例示的な態様
1.
a)バイオリアクター内で細胞の連続培養を提供することであって、該細胞が、培養パラメータのパラメータセットを含む培養条件下で培養され、細胞の該培養が、少なくとも1つの培養出力を第1の測定値で生成する、該提供すること;
b)該細胞を連続培養で維持しながら、
(i)新しいパラメータセットを含む新しい培養条件を選択することであって、該新しい培養条件が、培養出力の該測定値を改善すると予測され、かつ培養出力の1つ以上の以前の測定値に基づいて選択される、該選択すること;
(ii)該細胞に該新しい培養条件で摂動を加えること;および
(iii)培養出力の新しい測定値を求めること
によって異なる培養条件を反復的にテストすることであって、テストが、培養出力の該測定値に複数の改善をもたらすために反復される、該テストすること
を含む、培養プロセスにおける少なくとも1つの培養出力のための培養条件を反復的に改善するための方法。
2.
(1)目標の出力測定値が達成される;または
(2)複数回の反復が、以前の最適出力測定値を改善する培養条件を特定しなくなる
まで、異なる培養条件を反復的にテストすることを含む、態様1の方法。
3.ユーザー定義のパラメータ空間の探索が尽きるまで、新しい培養条件をテストすることをさらに含む、態様1の方法。
4.選択することが、自動エージェントを用いて行われる、態様1の方法。
5.自動エージェントが人工知能法を使用する、態様4の方法。
6.人工知能法が、強化学習、深層学習、Q学習、およびニューラルネットから選択される、態様5の方法。
7.自動エージェントが、ダイレクト探索法(例えば、ネルダー・ミード法、動的計画法、滑降シンプレックス法、シンプレックスアルゴリズム、線形回帰、二分探索木、またはランダムウォーク)を使用する、態様4の方法。
8.操作(b)の前に、培養下の細胞のベースライン遺伝的安定性を求めることをさらに含む、態様1の方法。
9.操作(b)を少なくとも2、3、4、5、10、15、20、25、30、50または100回(例えば、4~15回)のいずれかの回数反復することを含む、態様1の方法。
10.培養出力が、複数の異なる培養出力を含む重み付きスコアを含む、態様1の方法。
11.c)パラメータセットの中から、培養出力の測定値を最適化するパラメータセットを選択すること;選択されたパラメータセットを用いてバッチ培養(例えば、フェドバッチ培養)で細胞を増殖させること;および培養出力を測定すること
をさらに含む、態様1の方法。
12.該培養物の体積が約50mL~約15L、例えば約500mL~約10Lである、態様1の方法。
13.培養出力が比増殖速度である、態様1の方法。
14.培養出力が、産物力価、産物収量、比生産速度、体積生産速度から選択される、態様1の方法。
15.培養出力が、バイオマス収量、比CO2生成速度、比O2消費速度、有機酸プロファイル、代謝物プロファイル、副産物プロファイル、および生産経済性から選択される、態様1の方法。
16.培養出力が、ポリペプチド(例:タンパク質、酵素、抗体)、細胞内の合成経路の産物である有機分子(例えば、香味料(例:バニリン)、香料(例:アルデヒド、クマリン、インドール)、アミノ酸、有機酸(例:クエン酸、乳酸、酢酸)、アルコール(例:エタノール、イソプロパノール、アセトンなどのケトン)、および脂肪酸(例:パルミチン酸、オレイン酸)などの工業用化学物質)から選択される、態様1の方法。
17.比速度が1時間あたりの細菌1個あたりの培養出力の変化速度として定義される、態様13の方法。
18.細胞が古細菌、原核細胞および/または真核細胞を含む、態様1の方法。
19.細胞が、真菌細胞(例えば、酵母(例:サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ピキア属菌(Pichia spp.)、クリベロマイセス属菌(Kuyveromyces spp.)またはアスペルギルス属菌(Aspergillus spp.)、ロドスポリジウム属菌(Rhodoporidium spp)、リポリティカ属菌(Lipolytica spp.)、アスペルギルス属菌(Aspergillus spp.)、ニューロスポラ属菌(Neurospora spp)、トリコデルマ属菌(Trichoderma spp.)、カンジダ属菌(Candida spp.)、ペニシリウム属(Penicillium))を含む、態様1の方法。
20.細胞が、細菌細胞(例えば、大腸菌(Escherichia coli)、バチルス属菌(Bacillus spps)、コストリジア属菌(Costridia spp)、ストレプトマイセス属菌(Streptomyces spp)、シュードモナス属菌(Pseudomonas spp)、ラルストニア属菌(Ralstonia spp)、シェワネラ属菌(Shewanella spp))を含む、態様1の方法。
21.細胞が、昆虫細胞、動物細胞または植物細胞を含む、態様1の方法。
22.細胞が、動物細胞(例えば、節足動物(例:昆虫、エビ、ロブスター、ザリガニ、およびカニ)および脊索動物(例:魚類、両生類、爬虫類、鳥類(例:ニワトリまたはシチメンチョウ)、および哺乳類(例:ヒトまたは非ヒト、例えば、ウシ、ラム、ヤギ、ブタ、ウマ、イヌ、ネコ、霊長類))を含む、態様1の方法。
23.細胞が、細胞株(例:CHO(チャイニーズハムスター卵巣細胞)、BHK21(ベビーハムスター腎臓)、NS0、Sp2/0マウス細胞株)、昆虫細胞(例:SP9、Sf9、sf21、S2)、タバコBY-2細胞、イネ(Oryza Sativa)および藻類の細胞を含む、態様1の方法。
24.培養出力の前記測定値が、定常状態まで増殖させた細胞に基づいている、態様1の方法。
25.培養出力の前記測定値が、増殖中の細胞の傾向線(trend line)に基づいている、態様1の方法。
26.前記測定値が、摂動を加えた後1時間から24時間の間に作成される、態様1の方法。
27.培養が、タービドスタットまたはケモスタット内で行われる、態様1の方法。
28.培養パラメータの1つ以上が、温度、pH、溶存酸素、炭素供給速度、および窒素供給速度のうち1つ以上を含む、態様1の方法。
29.1つ以上の培養パラメータが栄養素の濃度を含む、態様1の方法。
30.1つ以上の培養パラメータが、金属(例:鉄、亜鉛、コバルト、銅、ニッケル、マンガン、モリブデン酸塩、亜セレン酸塩および他の遷移金属)、ビタミン(例:ナイアシン、ピリドキシン、リボフラビン、パントテン酸塩、アミノ安息香酸(類)、チアミン、ビオチン、シアノコバラミン、葉酸)、誘導剤、塩、窒素節約率、通気速度、酸素スパージ速度、二酸化炭素節約率、リン酸塩、硫酸塩、塩化物、酢酸塩、クエン酸塩および他の陰イオン塩、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウムおよび他の陽イオン塩、ホウ酸、コリン、アスコルビン酸、リポ酸、ニコチン酸、イノシトールおよび他のビタミン類、消泡剤(例:アンチフォーム204、アンチフォームA、アンチフォームC)、アミノ酸類(例:グルタミン酸、ロイシン、およびトリプトファン)、核酸塩基(例:アデニン、シトシン、チミン、ウラシル、およびグアニン)、複合栄養素(例:酵母エキス、ペプトン、トリプトン、およびカザミノ酸類)、マクロ栄養素、および/またはミクロ栄養素の濃度を含む、態様1の方法。
31.1つ以上の培養パラメータが、細胞増殖因子の濃度、CO2の濃度、培養撹拌速度、および抗生物質の濃度を含む、態様1の方法。
32.培養パラメータが炭素源の濃度を含む、態様1の方法。
33.炭素源が、糖(例:グルコース、キシロース、スクロース、グリセロール、またはアセタート)、糖蜜、麦芽エキス、デンプン、デキストリン、果肉、COまたはCO2から選択される、態様32の方法。
34.培養パラメータが窒素源の濃度を含む、態様1の方法。
35.窒素源が、アミノ酸またはポリペプチド、尿素、アンモニウム塩(例:硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウムまたはアンモニア)、コーンスティープリカー、酵母エキス、ペプトン、および大豆ミールから選択される、態様34の方法。
36.パラメータセットが、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、または8種(例えば、2~6種)の培養パラメータのいずれかを含む、態様1の方法。
37.24時間以内に2~20回(例えば8~15回)の反復を行うことを含む、態様1の方法。
38.目標産物を生産する生化学的経路の活性を誘導することを含む、態様1の方法。
39.細胞が構成的または誘導性の遺伝子発現系を含む、態様1の方法。
40.遺伝子が商用産物をコードする、態様39の方法。
41.遺伝子が、商用産物の生化学的生産経路における酵素をコードする、態様39の方法。
42.産物が、組換えタンパク質、天然タンパク質(例:酵素)、栄養サプリメント、カンナビノイド、代謝産物、有機酸(類)、脂質(類)、胞子、または細胞バイオマスから選択される、態様1の方法。
43.ステップ(b)の前に、
バッチ式またはフェドバッチ式リアクターにおける微生物の増殖、生産力価、および生産性のベースライン発酵プロセスを決定すること
をさらに含む、態様1の方法。
44.第1および第2の最適化プロセスを含み、第1の最適化プロセスが細胞増殖のための最適化パラメータセットを特定し、第2の最適化プロセスが分子産物のための最適化パラメータセットを特定する、態様1の方法。
45.細胞増殖のための最適化パラメータセットが、分子産物を最適化するための初期培養条件に情報を与える、態様44の方法。
46.初期のパラメータセットが、ランダム化された、繰り返された、または選択されたパラメータセットを含む、態様1の方法。
47.以下を含むシステム:
a)細胞の連続培養用に構成された容器(例えば、タービドスタットまたはケモスタット);
b)(i)該容器内で培養されている細胞の1つ以上の培養出力を測定し、(ii)測定値をコンピュータのメモリに送信する、1つ以上のセンサ;
c)該容器に配合物(例えば、栄養素)を供給する、1つ以上の供給手段;
d)(i)プロセッサと、
(ii)該プロセッサに接続され、かつ以下のモジュール:
(1)複数の培養条件のそれぞれについて、培養パラメータの測定値と、センサから受信されかつ培養条件に関連付けられた培養出力の測定値とを含む、データセット;
(2)培養出力の測定値の向上をもたらすと予測されかつ該データセットに基づく新しい培養条件を選択するアルゴリズムを含む、自動エージェント;および
(3)新しい培養条件を該システムに実装し、培養出力を測定し、かつ培養条件と培養出力を該データセットに追加する、コンピュータ実行可能命令
を含むメモリと
を含むコンピュータ。
48.自動エージェントが人工知能法を使用する、態様47のシステム。
49.人工知能法が、強化学習、深層学習、Q学習、およびニューラルネットから選択される、態様48のシステム。
50.自動エージェントが、ダイレクト探索法(例えば、ネルダー・ミード法、動的計画法、滑降シンプレックス法、シンプレックスアルゴリズム、線形回帰、二分探索木、またはランダムウォーク)を使用する、態様47のシステム。
51.
A)容器内の液体を混合するための、モーターによって作動するミキサー(例えば、インペラーまたは空気式撹拌機);
B)温度調整器および温度センサ;
C)容器内部と連通する酸性およびアルカリ性試薬の供給源、ならびにpHメーター;
D)容器内部と連通する通気システム、および溶存酸素メーター;
E)容器内部と連通する栄養素の供給源、および栄養素を測定するための分析計;
F)容器内部と連通する排出、および容器からの流体流量を調節するための調節可能なバルブまたはポンプ;
G)容器内のバッフル;
H)1つ以上のガスおよびその混合物を投入するための、容器内部と連通するスパージャおよびマスフローコントローラ;および
I)指示をコンピュータと通信するためのユーザインターフェース
のうち1つ以上を含む、態様47のシステム。
52.ミキサー、温度調整器、酸性およびアルカリ性試薬の供給源、酸素の供給源、ならびに栄養素の供給源の操作が、コンピュータの制御下にある、態様51のシステム。
53.
a)連続培養において、培養下の細胞の遺伝的安定性を求めること;
b)培養出力のための、培養パラメータのパラメータセットを含む培養条件を、
(i)細胞増殖のための培養条件を最適化すること;および/または
(ii)産物出力のための培養条件を最適化すること
によって最適化することであって、
I)複数の異なるパラメータセットの下で、細胞増殖または産物出力の初期測定値を提供すること;
II)以下を反復的に実行すること:
A)細胞増殖または産物出力の測定値に基づいて、細胞増殖または産物出力を改善すると予測される新しいパラメータセットを選択すること;
B)培養下の細胞に該新しいパラメータセットで摂動を加えること;および
C)細胞に摂動を加えた後、細胞増殖または産物出力を測定すること;ならびに
III)最適化されたパラメータセットを選択すること
を含む一連の操作を行うことを含む、該最適化すること;ならびに
c)最適化されたパラメータセットを、
i)最適化されたパラメータセットの下で、細胞を連続モードまたはフェドバッチモードで増殖させること;および
ii)培養出力を測定すること
によって検証すること
を含む方法。
54.選択することが自動エージェントにより実行される、態様53の方法。
55.遺伝的安定性が、細胞増殖または産物出力の測定値が著しく悪化するまでの世代数の関数として測定される、態様53の方法。
56.細胞増殖の最適化がタービドスタットで行われ、培養出力の最適化がケモスタットで行われる、態様53の方法。
57.連続培養での最適化が、遺伝的安定性の期間よりも長く行われない、態様53の方法。
58.検証することが、約5リットルから約500リットルの体積で行われる、態様53の方法。
59.
a)バイオリアクター内で細胞の連続培養を提供することであって、細胞の該培養が、少なくとも1つの培養出力を生成する、該提供すること;および
b)該細胞を連続培養で維持しながら、少なくとも1つの培養出力の生成のための1つまたは複数の異なる培養パラメータに沿って、異なる培養条件を反復的に変更しかつテストするために、機械学習最適化法を使用することであって、複数回の反復が、少なくとも1つの培養出力の生成を改善するために、モデルによって予測された方向に培養条件を変更し、該反復が、複数の改善をもたらすために継続される、該使用すること
を含む方法。
60.前記反復が、生成の局所的最大値に達するまで継続される、態様59の方法。
61.前記反復が、2~25回、例えば5~20回行われる、態様59の方法。
62.前記反復が、少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24または25回行われる、態様59の方法。
63.前記反復が、少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24または25の改善のいずれかをもたらすように行われる、態様59の方法。
64.機械学習最適化法が、強化学習、勾配降下、遺伝的アルゴリズム、またはランダム探索を使用する、態様59の方法。
65.複数回の反復が、複数の培養パラメータに沿って培養条件を変更することを含む、態様59の方法。
66.複数の培養パラメータが、pH、温度、溶存酸素、炭素供給速度、および窒素供給速度の1つ以上を含む、態様65の方法。
67.培養産物を生産するために、改善されたまたは最適化された培養条件下で細胞を培養すること、および、該培養産物を培養物から回収することをさらに含む、態様59の方法。
68.培養産物が、少なくとも500リットル、1000リットル、5000リットル、10,000リットル、50,000リットル、100,000リットル、500,000リットルまたは1,000,000リットルのいずれかのスケールで生産される、態様67の方法。
【実施例】
【0080】
最適な比増殖速度(ミュー(mu))を最適化するために、規定培地を用いて大腸菌(Escherichia coli)細胞の連続タービドスタット培養を行う。関心対象の2つのパラメータは、増殖温度とpHである。最適化を開始する前に増殖温度とpHの範囲(25℃~50℃、5.5~8.5)をあらかじめ決定する。リアクターは、温度=25℃、pH=7.5でランダムに初期化され、一定のバイオマス濃度(タービドスタット)で定常状態に入った。
【0081】
3体積置換(すなわち、一定の1リットル体積を有するタービドスタットを通して3リットルの培地が消費される)後、強化学習もしくはネルダー・ミード法(Nelder-Mead method)などの、機械学習または数値探索法を実行して、最適ポイントを探索する。開始条件の後、リアクターの条件を温度=27℃、pH=6.4、次に温度=29℃、pH=7.0に変更した;変更ごとに、より高い比増殖速度が生じた。比増殖速度は定常状態で測定される;定常状態は3体積置換後にこれらの条件のそれぞれで達成される。時間の経過とともに、リアクターを温度=33℃、pH=7.0の最終最適化条件で停止させる;この最終最適化増殖条件は最高の増殖速度をもたらす。例示的な結果を
図7に示す。
【0082】
本明細書で使用する場合、特に指定しない限り、以下の意味が適用される。単語「may」は、強制的な意味(すなわち、しなければならないという意味)ではなく、許容的な意味(すなわち、する可能性があるという意味)で使用される。単語「含む」(include、including、includesなど)は、~を含むがこれらに限定されない、を意味する。単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、複数形の指示対象を含む。かくして、例えば、「要素」(an element)への言及は、「one or more」のような1つ以上の要素を表す他の用語や表現が使用されているにもかかわらず、2つ以上の要素の組み合わせを含む。「少なくとも1つ」という表現には、「1つ」、「1つ以上」、「1つまたは複数」、および「複数」が含まれる。用語「または」は、特に指示しない限り、非排他的であり、すなわち「および」と「または」の両方を包含する。修飾子とシーケンスの間の「いずれか」(any of)という用語は、修飾子がシーケンスの各メンバーを修飾することを意味する。かくして、例えば、「少なくとも1、2または3のいずれか」(at least any of 1, 2 or 3)という表現は、「少なくとも1、少なくとも2、または少なくとも3」を意味する。用語「約」は、特定の使用状況の文脈内で、明記された数値からプラスマイナス5%の範囲を指す。こうして、例えば、「約100」は95と105の間を意味する。「本質的に~からなる」(consisting essentially of)という用語は、列挙された要素と、クレームされた組み合わせの基本的かつ新規な特性に重大な影響を与えない他の要素とを含むことを指す。
【0083】
本明細書および図面は、本発明を開示された特定の形態に限定することを意図したものではなく、それとは反対に、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の精神および範囲内に含まれる全ての変更、均等物、および代替物をカバーすることを意図したものであることを理解されたい。本発明の様々な局面のさらなる変更および代替的態様は、本明細書から当業者には明らかであろう。したがって、本明細書および図面は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実施する一般的な方法を当業者に教示することを目的としている。本明細書に示され記載された本発明の形態は、実施態様の例として捉えられるべきであることを理解されたい。要素および材料は本明細書に例示され記載されたものに代えて使用することができ、部品およびプロセスは逆にしたり省略したりすることができ、本発明のある種の特徴は独立して利用することができるが、これらは全て、本発明のこの説明の恩恵を受けた後に当業者には明らかであろう。本明細書に記載された要素には、以下の特許請求の範囲に記載された本発明の精神および範囲から逸脱することなく、変化を加えることができる。
【0084】
本明細書で言及された全ての刊行物、特許、および特許出願は、個々の刊行物、特許、または特許出願が参照により組み入れられることを具体的かつ個別に示された場合と同じ程度に、参照により本明細書に組み入れられる。
【国際調査報告】