IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ドムペ・ファルマチェウティチ・ソチエタ・ペル・アツィオーニの特許一覧

特表2025-503488眼疾患の局所治療のためのイソシクロスポリンA
<>
  • 特表-眼疾患の局所治療のためのイソシクロスポリンA 図1
  • 特表-眼疾患の局所治療のためのイソシクロスポリンA 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-04
(54)【発明の名称】眼疾患の局所治療のためのイソシクロスポリンA
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/12 20060101AFI20250128BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20250128BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20250128BHJP
   A61P 27/14 20060101ALI20250128BHJP
【FI】
A61K38/12
A61P27/02
A61P37/06
A61P27/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538018
(86)(22)【出願日】2022-12-22
(85)【翻訳文提出日】2024-08-21
(86)【国際出願番号】 EP2022087581
(87)【国際公開番号】W WO2023118487
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】21217735.6
(32)【優先日】2021-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】315012541
【氏名又は名称】ドムペ・ファルマチェウティチ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100106080
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 晶子
(72)【発明者】
【氏名】マッキ,イラリア
【テーマコード(参考)】
4C084
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084BA24
4C084BA44
4C084DA11
4C084MA16
4C084MA27
4C084MA58
4C084NA14
4C084ZA331
(57)【要約】
本発明は、好ましくは角膜及び眼表面の炎症性及び/又は自己免疫性疾患ならびに眼瞼辺縁の炎症性疾患から選ばれる眼の炎症性及び/又は自己免疫性疾患の個体における予防又は治療において眼に局所使用するためのイソシクロスポリンA、その塩、及びその眼科用組成物に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎症性及び/又は自己免疫性眼疾患の個体における予防又は治療において眼に局所使用するためのイソシクロスポリンA又はその眼科的に許容可能な塩。
【請求項2】
前記炎症性及び/又は自己免疫性眼疾患が、角膜及び眼表面の炎症性及び/又は自己免疫性疾患ならびに眼瞼辺縁の炎症性疾患から選ばれる、請求項1に記載の眼に局所使用するためのイソシクロスポリンA又はその眼科的に許容可能な塩。
【請求項3】
前記角膜及び眼表面の炎症性及び/又は自己免疫性疾患が、春季カタル(VKC)、アトピー性角結膜炎(AKC)、アレルギー性結膜炎、眼型酒さ、ブドウ膜炎、ドライアイ疾患(DED)、眼類天疱瘡(OCP)、眼移植片対宿主病(GVHD)、及び免疫性角膜潰瘍から選ばれる、請求項1又は2に記載の眼に局所使用するためのイソシクロスポリンA又はその眼科的に許容可能な塩。
【請求項4】
前記眼瞼辺縁の炎症性疾患が、炎症性翼状片及び慢性眼瞼炎から選ばれる、請求項1又は2に記載の眼に局所使用するためのイソシクロスポリンA又はその眼科的に許容可能な塩。
【請求項5】
前記塩が、イソシクロスポリンAの酢酸塩、アジピン酸塩、アスコルビン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、炭酸水素塩、硫酸水素塩、酪酸塩、樟脳酸塩、樟脳スルホン酸塩、クエン酸塩、シクロヘキシルスルファミン酸塩、エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、グルタミン酸塩、グリコール酸塩、ヘミ硫酸塩、2-ヒドロキシエチルスルホン酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、ヒドロキシマレイン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、パモ酸塩、過硫酸塩、フェニル酢酸塩、リン酸塩、二リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、キナ酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、スルファミン酸塩、スルファニル酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、トシル酸塩(p-トルエンスルホン酸塩)、トリフルオロ酢酸塩、及びウンデカン酸塩から選ばれる、請求項1~4のいずれか1項に記載の眼に局所使用するためのイソシクロスポリンAの眼科的に許容可能な塩。
【請求項6】
イソシクロスポリンA又はその眼科的に許容可能な塩と、少なくとも一つの眼科的に許容可能な賦形剤又は希釈剤とを含む眼科用製剤。
【請求項7】
前記眼科用製剤が、液体の眼科用製剤、好ましくは液体点眼製剤である、請求項6に記載の眼科用製剤。
【請求項8】
前記眼科用製剤が、半固体の眼科用製剤、好ましくはクリーム、軟膏又はゲルである、請求項6に記載の眼科用製剤。
【請求項9】
前記眼科用製剤が、投与前に眼科的に許容可能な希釈剤を添加することにより、請求項7又は8に記載の液体又は半固体の眼科用製剤を即席調製するための固体の眼科用製剤である、請求項6に記載の眼科用製剤。
【請求項10】
6~8、好ましくは6.4~7.8、さらに好ましくは6.5~7.5を含むpHを有する、請求項6~8のいずれか1項に記載の眼科用製剤。
【請求項11】
炎症性及び/又は自己免疫性眼疾患の個体における予防又は治療に使用するための、請求項6~10のいずれか1項に記載の眼科用製剤。
【請求項12】
前記炎症性及び/又は自己免疫性眼疾患が、角膜及び眼表面の炎症性及び/又は自己免疫性疾患ならびに眼瞼辺縁の炎症性疾患から選ばれる、請求項11に記載の眼科用製剤。
【請求項13】
炎症性及び/又は自己免疫性眼疾患の治療に適切な少なくとも一つの薬物をさらに含む、好ましくはコルチコステロイドをさらに含む、請求項6~10のいずれか1項に記載の眼科用製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソシクロスポリンA、その塩及び医薬組成物、ならびに炎症性及び/又は自己免疫性眼疾患の個体における予防又は治療におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
シクロスポリンAは、真菌トリポクラジウム・インフラタム(Tolypocladium Inflatum)から得られた中性親油性環状ウンデカペプチドで、7個のN-メチルアミノ酸残基と、1位に異常アミノ酸(4R)-4-([E]-2-ブテニル)-4-N-メチル-(L)-トレオニン(MeBmt)を含有する。
【0003】
シクロスポリンは最初、移植臓器の臓器拒絶反応を予防するための免疫抑制薬として承認された。
眼科では、シクロスポリンAは当初、角膜移植後に投与するための研究がなされていたが、後に、ブドウ膜炎、春季カタル(VKC)、角結膜炎(AKC)及びドライアイ疾患(DED)などのいくつかの眼の炎症性疾患にも有効であることが示された(Ferozeら,J Ophthalmol 2019,31:182-190;Prabhuら,British Journal of Ophthalmology 2016,100:345-347)。
【0004】
この分子は疎水性であるため、当初は眼科適応でも静脈内注射又は経口投与などの全身経路で投与されていた。これらの投与経路により、治療濃度の有効成分が眼内液(房水又は硝子体液)や眼球外器官又は付属器(角膜、結膜及び涙腺)に到達できた。しかしながら、腎毒性及び高血圧などの深刻な全身副作用が発生したため、当該分子の局所投与に適切な製剤の研究が促進された(Lallemandら,European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics 2003,56:307-318)。
【0005】
眼に局所使用するためのシクロスポリンAの点眼製剤の開発は、この分子の疎水性及び極端に低い水溶解度(6.6mg/ml)のために妨げられており、一般的に使用されている水性の眼科用ビヒクルを基剤とする製剤を調製することはできない。
【0006】
シクロスポリンAは当初ヒマシ油やコーン油のような油性溶媒中の溶液の形態で製剤化されていたが、これらは後に水中油型エマルション及びミセルベース溶液に置き換わった(de Oliveiraら,Clinical Ophthalmology 2019:13 1115-1122)。
【0007】
しかしながら、後者の製剤に必要な界面活性剤の存在は角膜に悪影響を及ぼし、視覚のぼやけをもたらすことが判明した。さらに、エマルションは適用すると眼に迅速拡散するという利点を有するが、エマルション由来の親油性薬物のバイオアベイラビリティが低いため、ただでさえ厳しい水性の眼内環境中で利用できる有効成分の量はなお限られている(Jerkinsら,Clinical Ophthalmology 2020:14 481-489)。
【0008】
シクロスポリンが難溶性であることと、現在入手できる眼科用製剤の大部分に角膜に悪影響を及ぼす界面活性剤が含まれていることが、眼科的治療の観点から見たシクロスポリンの使用に対する主要な制約であり、おそらくは忍容性の低さと臨床試験で報告される応答のばらつきの大きさの原因でもある。
【0009】
イソシクロスポリンAはシクロスポリンAの異性体で、1位の残基(N-メチル-(4R)-4-ブタ-2E-エン-1-イル-4- メチル-(L)トレオニル)がN-原子ではなく3’-O-原子を介して11位の残基に結合している点がシクロスポリンAとは異なる。イソシクロスポリンAは当初シクロスポリンAの酸処理によって形成される再配列分解産物(rearranged degradation product)として同定された。イソシクロスポリンAは、それ自体に何の生物活性もなく、全身投与された場合、インビボで非常にゆっくりと対応する活性シクロスポリン形に変換されると記述されている(WO1993017039A1、5ページ及び15ページ)。特に、この分子は、5より高いpHでシクロスポリンAに定量的に変換されることが示されている。詳しくは、イソシクロスポリンの異性化速度はpH8~10で最大であるが(Oliyai R,Stella VJ,Pharm Res,1992,May;9(5):617-22)、最も遅い変換速度はpH6~8で観察されている。特に、pH7.4で変換は最小となり、変換半減期は21.7時間である(Bundgaardら,International Journal of Pharmaceutics,82(1992):85-90参照)。
【0010】
シクロスポリンAへの緩やかな変換能力と水中での高い溶解度を考慮すると、イソシクロスポリンAは、安定性を向上させ、シクロスポリンのピーク血中濃度に関連する副作用を回避するために、経口投与用のシクロスポリンAのプロドラッグとしての用途が提案されている。
【0011】
この関連で、WO1993017039A1には、溶解性及び安定性の向上といった改良されたガレヌス製剤的特徴を提供する、イソシクロスポリンAを含むイソシクロスポリンの酸付加塩が記載されている。この文書には、これらの塩は、経口投与された場合、緩やかな速度で活性分子を放出し、血液中のシクロスポリンを一定濃度に維持するので、シクロスポリンの経口投与用プロドラッグとして特に有用であると開示されている。
【0012】
しかしながら、イソシクロスポリンAを眼に局所使用することは、その環境でのこの分子の遅い変換速度を考慮すると実用的でないと考えられている。実際、イソシクロスポリンAからシクロスポリンAへの相互変換速度はとても遅いので、この分子が眼表面に滞留している間にシクロスポリンAが実質的に形成されることはない。上記のように、6~8のpH値で変換速度は最も遅くなり、特にpH7.4でイソシクロスポリンAからシクロスポリンAへの50%変換に要する時間は21.7時間であることが記載されている(Bundgaardら,International Journal of Pharmaceutics,82(1992):85-90)。
【0013】
上記に鑑み、出願人の知識では、イソシクロスポリンAは何の薬理活性も発揮しないと予想されたため、眼への局所用途のためのシクロスポリンAの実現可能な代替品と考えられたことはなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際特許公開第1993/017039号(WO1993017039A1)
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Feroze et al, J Ophthalmol 2019, 31: 182-190
【非特許文献2】Prabhu et al, British Journal of Ophthalmology 2016, 100: 345-347
【非特許文献3】Lallemand et al, European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics 2003, 56: 307-318
【非特許文献4】de Oliveira et al, Clinical Ophthalmology 2019:13 1115-1122
【非特許文献5】Jerkins et al, Clinical Ophthalmology 2020:14 481-489
【非特許文献6】Oliyai R, Stella VJ, Pharm Res, 1992, May;9(5):617-22
【非特許文献7】Bundgaard et al, International Journal of Pharmaceutics, 82 (1992):85-90
【発明の概要】
【0016】
出願人は今回、驚くべきことに、イソシクロスポリンAは、眼に局所投与された場合、シクロスポリンAへの変換とは無関係の生物活性を思いがけず示すことを見出した。上記のように、この知見は背景技術文献に基づいては全く予測できないことである。
【0017】
さらに驚くべきことに、実験の項に炎症性眼表面疾患の関連動物モデルで実施されたインビボ試験によって示されているように、出願人は、イソシクロスポリンAによる治療はシクロスポリンAと比べていくつかの薬理学的関連パラメーターでより高い有効性を示すことを観察した。
【0018】
また、本発明者らは、イソシクロスポリンAは、文献に炎症性及びアレルギー性疾患の症状に関与すると記載されているTRPV3及びTRPML2イオンチャネルの活性を阻害できることも見出した(Takahiro Yamadaら,Exp Eye Res.2010 Jan;90(1):121-129;MP Cuajungcoら,Pflugers Arch.2016 Feb;468(2):177-92;及びEva Pleschら,eLife.2018;7:e39720)。さらに、シクロスポリンAとは異なり、イソシクロスポリンAは、炎症性及びアレルギー性の眼疾患においては望ましくないTRPC4チャネルの活性化によって誘導される上皮細胞の過剰増殖を刺激しない。
【0019】
そこで、本発明の第一の目的は、炎症性及び/又は自己免疫性の眼疾患の予防又は治療に眼に局所的に使用するためのイソシクロスポリンA又はその眼科的に許容可能な塩である。
【0020】
好ましくは、前記炎症性及び/又は自己免疫性の眼疾患は、角膜及び眼表面の炎症性及び/又は自己免疫性疾患ならびに眼瞼辺縁の炎症性疾患から選ばれる。
本発明の第二の目的は、イソシクロスポリンA又はその眼科的に許容可能な塩と少なくとも一つの眼科的に許容可能な賦形剤又は希釈剤とを含む眼科用製剤である。
【0021】
本発明の更なる目的は、好ましくは角膜及び眼表面の炎症性及び/又は自己免疫性疾患ならびに眼瞼辺縁の炎症性疾患から選ばれる炎症性及び/又は自己免疫性眼疾患の予防又は治療法であって、該方法は、それを必要としている個体に有効量のイソシクロスポリンA又はその眼科的に許容可能な塩及び/又はその眼科用製剤を局所投与することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、実施例1に記載のように、スコポラミン処置後0、9、11、17、22及び25日目に各群で測定された、平均値として報告された蛍光のパーセンテージを示す。
図2図2は、実施例1に記載のように、スコポラミン処置後22日目(上図)及び25日目(下図)に3つの実験群で測定された涙液分泌(mmで表示)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の第一の目的は、炎症性及び/又は自己免疫性眼疾患の個体における予防又は治療において眼に局所使用するためのイソシクロスポリンA又はその眼科的に許容可能な塩である。
【0024】
好ましくは、前記炎症性及び/又は自己免疫性の疾患は、角膜及び眼表面の炎症性及び/又は自己免疫性疾患ならびに眼瞼辺縁の炎症性疾患から選ばれる。
角膜及び眼表面の炎症性及び/又は自己免疫性疾患は、局所的炎症状態によって誘導された、角膜及び結膜を覆う上皮の損傷を特徴とする疾患である。
【0025】
眼瞼辺縁の炎症性疾患は、眼瞼の一般的及び持続的炎症を特徴とする疾患である。
特に、本発明によれば、前記炎症性及び/又は自己免疫性の眼疾患は、春季カタル(VKC)、アトピー性角結膜炎(AKC)、アレルギー性結膜炎、眼型酒さ、ブドウ膜炎、ドライアイ疾患(DED)、眼類天疱瘡(OCP)、眼移植片対宿主病(GVHD)、免疫性角膜潰瘍、炎症性翼状片及び慢性眼瞼炎から選ばれる。
【0026】
本発明によれば、前記イソシクロスポリンA又はその塩は、前記個体の眼に局所投与される。
本発明によれば、“予防”という用語は、障害又は病的事象が確立又は発生する前に、これを部分的に又は完全に予防することを指す。
【0027】
本発明の一態様によれば、予防は、障害又は病的事象が完全に阻止される完全予防である。
本発明の代替の態様によれば、予防は、障害又は病的事象の発生を遅らせる及び/又はその重症度を軽減させる部分的予防である。
【0028】
本発明によれば、“治療”という用語は、障害又は病的事象が既に確立又は発生した後に、これを完全に逆転する又はその重症度もしくは進行を軽減することを指す。
本発明によれば、“個体”という用語は、ヒト又は動物、好ましくはヒトを指す。
【0029】
好ましくは、イソシクロスポリンA又はその眼科的に許容可能な塩を用いて治療できる前記炎症性及び/又は自己免疫性眼疾患は、コルチゾン及び類似のコルチコステロイドによる治療で改善又は回復を示す眼疾患である。
【0030】
イソシクロスポリンA又はその眼科的に許容可能な塩を用いて治療できる角膜及び眼表面の炎症性及び/又は自己免疫性疾患は、好ましくは、春季カタル(VKC)、アトピー性角結膜炎(AKC)、アレルギー性結膜炎、眼型酒さ、ブドウ膜炎、ドライアイ疾患(DED)、眼類天疱瘡(OCP)、眼移植片対宿主病(GVHD)及び免疫性角膜潰瘍から選ばれる。好ましくは、前記アレルギー性結膜炎は、季節性又は通年性のアレルギー性結膜炎である。
【0031】
イソシクロスポリンA又はその眼科的に許容可能な塩を用いて治療できる眼瞼辺縁の炎症性疾患は、例えば、炎症性翼状片及び慢性眼瞼炎である。
本発明によれば、好ましくは前記イソシクロスポリンA又はその眼科的に許容可能な塩は、上記の一つ、二つ又はそれ以上の炎症性及び/又は自己免疫性眼疾患の予防及び治療のために使用できる。
【0032】
本発明によれば、前記イソシクロスポリンA又は前記その塩は、前記個体の眼の眼表面又は眼瞼辺縁に局所適用される。
好適な態様によれば、前記イソシクロスポリンA又は前記その塩は、以下に記載されるような眼科用の液体又は半液体製剤によって前記個体の眼の眼表面に局所適用される。
【0033】
好ましくは、前記イソシクロスポリンA又は前記その塩は、医学的状況及び治療される疾患の重症度に応じて1日1回、2回、3回、4回、又はそれ以上の回数投与される。
本発明の好適な態様によれば、前記眼科的に許容可能な塩はイソシクロスポリンAの酸付加塩である。
【0034】
好ましくは、前記イソシクロスポリンAの眼科的に許容可能な塩は、イソシクロスポリンAの酢酸塩、アジピン酸塩、アスコルビン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、炭酸水素塩、硫酸水素塩、酪酸塩、樟脳酸塩、樟脳スルホン酸塩、クエン酸塩、シクロヘキシルスルファミン酸塩、エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、グルタミン酸塩、グリコール酸塩、ヘミ硫酸塩、2-ヒドロキシエチルスルホン酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、ヒドロキシマレイン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、パモ酸塩、過硫酸塩、フェニル酢酸塩、リン酸塩、二リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、キナ酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、スルファミン酸塩、スルファニル酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、トシル酸塩(p-トルエンスルホン酸塩)、トリフルオロ酢酸塩、及びウンデカン酸塩から選ばれる。
【0035】
さらに好ましくは、前記塩は、イソシクロスポリンAの塩酸塩又はトリフルオロ酢酸塩である。
本発明の酸付加塩は、好ましくは、イソシクロスポリンAの1位にある残基のアルファ-N原子の位置で形成される。
【0036】
本発明による塩の製造法は周知であり、例えば特許出願WO1993017039A1に記載されている。
本発明の第二の目的は、有効成分としてイソシクロスポリンA又は上に定義のようなその眼科的に許容可能な塩と、少なくとも一つの眼科的に許容可能な賦形剤又は希釈剤とを含む眼科用製剤である。
【0037】
好適な態様によれば、前記眼科用製剤は液体の眼科用製剤、好ましくは液体点眼製剤である。
上記眼科用液体製剤は、単相性の液体製剤、好ましくは溶液、さらに好ましくは水溶液、又は二相性の液体製剤、好ましくはエマルション、さらに好ましくはマイクロエマルションでありうる。
【0038】
上記眼科用液体製剤は、好ましくは、ビヒクルとして生理食塩水を含有する。
別の好適な態様によれば、前記眼科用製剤は、半固体の眼科用製剤、好ましくはクリーム、軟膏又はゲルである。
【0039】
さらに別の好適な態様によれば、前記眼科用製剤は、投与前に眼科的に許容可能な希釈剤を添加することにより、上記の液体又は半固体の眼科用製剤を即席調製するための固体の眼科用製剤である。
【0040】
好ましくは、前記固体の眼科用製剤は粉末の形態であり、さらに好ましくは、それは凍結乾燥粉末の形態である。
好ましくは、前記液体又は半固体の眼科用製剤は、6~8、さらに好ましくは6.4~7.8、なおさらに好ましくは6.5~7.5を含むpHを有する。実際、これらの条件で、イソシクロスポリンAからシクロスポリンAへの相互変換速度は最小であることが知られており、最終生成物の安定性が確保される(pH7.4、37℃で、50%の変換に21.7時間かかる。Bundgaardら,International Journal of Pharmaceutics,82(1992):85-90)。
【0041】
好ましくは、前記液体又は半固体の眼科用製剤は、製剤を所望pHに維持することができる緩衝液を含有する。
緩衝液は、好ましくは、酢酸緩衝液、炭酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液及びホウ酸緩衝液から選ばれるが、これらに限定されない。必要に応じて、これらの製剤のpHを調整するために酸又は塩基を使用することもできる。
【0042】
好ましくは、本発明による眼科用製剤は、眼科的に許容可能な界面活性剤、保存剤、安定剤、張度調整剤、粘度調整剤、抗酸化剤及びキレート化剤から選ばれる一つ又は複数の賦形剤も含有する。
【0043】
界面活性剤は(一つ又は複数)は、賦形剤又は活性薬の溶解、組成物中の固体又は液体の分散、湿潤性(濡れ)の増強、液滴サイズの修正、又はいくつかのその他の目的を補助するために使用できる。
【0044】
好ましくは、本発明による眼科用製剤中に含有される界面活性剤は、アルコール、アミンオキシド、ブロックポリマー、カルボキシル化アルコール又はアルキルフェノールエトキシレート、カルボン酸/脂肪酸、エトキシル化アルコール、エトキシル化アルキルフェノール、エトキシル化アリールフェノール、エトキシル化脂肪酸、エトキシル化脂肪酸エステル又は油(動物性及び植物性)、脂肪酸エステル、脂肪酸メチルエステルエトキシレート、グリセロールエステル、グリコールエステル、ラノリン系誘導体、レシチン及びレシチン誘導体、リグニン及びリグニン誘導体、メチルエステル、モノグリセリド及び誘導体、ポリマー性界面活性剤、プロポキシル化及びエトキシル化脂肪酸、アルキルフェノール、タンパク質系界面活性剤、サルコシン誘導体、ソルビタン誘導体、スクロースならびにグルコースエステル及び誘導体から選ばれる。
【0045】
好ましくは、本発明による眼科用製剤中に含有される保存剤は、カチオン性保存剤、好ましくは第四アンモニウム化合物、さらに好ましくは塩化ベンザルコニウム又は塩化ポリドロニウム(polyquad);グアニジン系保存剤、好ましくはPHMB又はクロルヘキシジン;クロロブタノール;水銀保存剤、好ましくは、チメロサール、酢酸フェニル水銀及び硝酸フェニル水銀から選ばれる;酸化保存剤、好ましくは安定化オキシクロロ複合体、さらに好ましくは安定化二酸化塩素、例えば市販製品のPurite(登録商標);パラベン、例えばメチルパラベン及びポリプロピルパラベンから選ばれる。
【0046】
一態様によれば、本発明による眼科用製剤は保存剤を含有しない。
好ましくは、本発明による眼科用製剤中に含有される張度調整剤は、塩、好ましくは塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、ソルビトール、トレハロース、マンニトール及びグリセリンから選ばれる。
【0047】
好ましくは、本発明による眼科用製剤の室温における粘度は25~50cpsである。所望粘度にするために粘度調整剤を製剤に添加してもよい。
好ましくは、本発明による眼科用液体製剤中に含有される粘度調整剤は、ポリビニルアルコール、ポロキサマー、ヒアルロン酸、カルボマー、アクリレート、セルロース誘導体、デキストラン、ポリアクリル酸、ポビドン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、キトサン、ジェランガム、及びキサンタンガムから選ばれる。好ましくは、前記セルロース誘導体は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース及びヒドロキシエチルセルロースから選ばれる。
【0048】
好ましくは、本発明による眼科用製剤中に含有される抗酸化剤は、クエン酸塩、L-メチオニン、システイン、メタ重亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、アセチルシステイン、ブチル化ヒドロキシアニソール及びブチル化ヒドロキシトルエンから選ばれる。
【0049】
好ましくは、本発明による眼科用製剤中に含有されるキレート化剤は、エデト酸二ナトリウムである。
好ましくは、前記眼科用液体製剤がエマルションの場合、該製剤はさらに一つ又は複数の油を含有する。
【0050】
好ましくは、前記油は、アニス油、ヒマシ油、丁子油、カッシア油、シナモン油、アーモンド油、コーン油、落花生油、綿実油、サフラワー油、トウモロコシ油、亜麻仁油、菜種油、大豆油、オリーブ油、キャラウェイ油、ローズマリー油、ピーナッツ油、ペパーミント油、ヒマワリ油、ユーカリ油、及びゴマ油から選ばれる。
【0051】
好適な態様によれば、本発明による製剤はエタノールを含有しない。
本発明による眼科用製剤は、さらに、炎症性及び/又は自己免疫性眼疾患の予防又は治療に使用される一つ又は複数の薬物及び/又はシクロスポリンを含むこともできる。
【0052】
本発明の更なる目的は、上に定義されているような、角膜及び眼表面の炎症性及び/又は自己免疫性疾患ならびに眼瞼辺縁の炎症性疾患から選ばれる炎症性及び/又は自己免疫性眼疾患の個体の予防又は治療で眼に局所使用するための上記製剤である。
【0053】
本記載は、角膜及び眼表面の炎症性及び/又は自己免疫性疾患ならびに眼瞼辺縁の炎症性疾患から選ばれる少なくとも一つの炎症性及び/又は自己免疫性眼疾患の予防又は治療法にも関し、該方法は、それを必要としている個体に有効量のイソシクロスポリンA又はその眼科的に許容可能な塩及び/又は上記の眼科用製剤を局所投与することを含む。
【0054】
イソシクロスポリンA又はその眼科的に許容可能な塩を用いて治療できる角膜及び眼表面の炎症性及び/又は自己免疫性疾患は、好ましくは、春季カタル(VKC)、アトピー性角結膜炎(AKC)、アレルギー性結膜炎、眼型酒さ、ブドウ膜炎、ドライアイ疾患(DED)、眼類天疱瘡(OCP)、眼移植片対宿主病(GVHD)及び免疫性角膜潰瘍から選ばれる。
【0055】
好ましくは、前記アレルギー性結膜炎は、季節性又は通年性のアレルギー性結膜炎である。
イソシクロスポリンA又はその眼科的に許容可能な塩を用いて治療できる眼瞼辺縁の炎症性疾患は、炎症性翼状片及び慢性眼瞼炎である。
【0056】
本発明によれば、治療法は、上記の一つ、二つ又はそれ以上の炎症性及び/又は自己免疫性眼疾患の予防及び治療のために、イソシクロスポリンA又はその眼科的に許容可能な塩及び/又は上記のような眼科用製剤を眼に局所投与することを含む。
【0057】
好ましくは、前記イソシクロスポリンA又は前記その塩、又は眼科用製剤は、前記個体の眼の眼表面又は眼瞼辺縁に局所適用される。
好適な態様によれば、前記イソシクロスポリンA又は前記その塩は、眼科用の液体又は半液体製剤によって前記個体の眼の眼表面に局所適用される。
【0058】
好ましくは、前記イソシクロスポリンA又は前記その塩は、医学的状況及び治療される疾患の重症度に応じて1日1回、2回、3回、4回、又はそれ以上の回数投与される。
一態様によれば、治療法は、イソシクロスポリンA又はその眼科的に許容可能な塩及び/又は上記眼科用製剤の眼への局所投与と共に、炎症性及び/又は自己免疫性眼疾患の予防又は治療に使用されている一つ又は複数の薬物の投与を含む。
【0059】
炎症性及び/又は自己免疫性眼疾患の治療に一般的に使用されている薬物は、コルチコステロイド及び当該技術分野で公知のその他の抗炎症薬、免疫抑制薬及び/又は免疫調節薬である。
【0060】
一態様において、治療法は、イソシクロスポリンA又はその眼科的に許容可能な塩及び/又は上記眼科用製剤の投与と共に、シクロスポリンの投与を含む。
イソシクロスポリンA又はその眼科的に許容可能な塩又は眼科用製剤の眼への局所投与は、炎症性及び/又は自己免疫性眼疾患の治療に一般的に使用されている一つ又は複数の薬物の投与の前、同時、又は後でありうる。
【0061】
特に好適な態様によれば、イソシクロスポリンA又はその眼科的に許容可能な塩及び/又はその眼科用製剤を用いて治療できる前記炎症性及び/又は自己免疫性眼疾患は、コルチゾン及び類似のコルチコステロイドによる治療で改善又は回復を示す眼疾患である。
【0062】
従って、この好適な態様に従って、イソシクロスポリンA、又はその眼科的に許容可能な塩、又はイソシクロスポリンAと少なくとも一つの眼科的に許容可能な賦形剤又は希釈剤とを含む眼科用製剤は、コルチゾン及び類似のコルチコステロイドによる治療の前、同時又は後に投与される。
【実施例
【0063】
実験の項
実施例1-角膜フルオレセイン染色
イソシクロスポリンA点眼製剤の有効性を、スコポラミンで角膜上皮損傷を誘導したマウスモデルで評価した。
【0064】
詳しくは、15匹のマウス(N=5/群)を処置前(ベースライン時)に3群に無作為に割り振り、以前の記載のとおり(Yeh S et al.Invest Ophthalmol Vis Sci,2003,44(1):124-9)、0.5mg/0.2mlの臭化水素酸スコポラミンの皮下注射プロトコルで処置することによりドライアイを誘導した。
【0065】
実験群は、何の点眼処置も受けなかった対照群(“CTRL”群)と、2つの処置群、すなわち、2%Tween 80入りのリン酸緩衝液中に0.05%のシクロスポリンAトリフルオロアセテートを含有する従来のシクロスポリンAトリフルオロアセテート眼科用懸濁液で処置された1群(“旧”群)と、2%Tween 80入りのリン酸緩衝液中に0.05%のイソシクロスポリンAトリフルオロアセテートを含有する対応するイソシクロスポリンAトリフルオロアセテート眼科用溶液で処置されたもう1群(“新”群)で構成された。
【0066】
処置群では、10マイクロリットルの試験製剤を、最初のスコポラミン注射後第1日目から25日間、各マウスに1日3回両眼に点眼した。処置はコード化(暗号化)され、グループの割り付けは、処置を投与する技術者及び実験の結果を評価する研究者には盲検化された。グループの識別(identification)は分析の最後に明らかにされた。
【0067】
インビボのフルオレセイン染色は、スコポラミン処置後0、9、11、17、22、及び25日目に各群で実施し、角膜上皮欠損がないか確認した。
角膜フルオレセイン染色は、上皮の生存性を評価するための有益な臨床ツールである。
【0068】
デジタル画像は、細隙灯下でコバルトブルーの光を用いて10倍の倍率で取得され、ImageJソフトウェアを使用してフルオレセイン染色について半自動的に分析された。
図1に示されているように、イソシクロスポリンA眼科用溶液で処置された群(新)では、シクロスポリンAによる処置群(旧)又は非処置群と比べて、上皮損傷が少ないことが観察された(角膜フルオレセイン染色によって示されている通り)。
【0069】
興味深いことに、この効果は研究の最初の17日間で大きく、9日目に統計的有意に達していた。このことは、角膜上皮治癒に対するイソシクロスポリン製剤の直接的な効果を示唆するものである(長期間の眼の潤滑(点眼)とは無関係である)。
【0070】
涙液分泌についても、Rossi S.et al.Arch Ital Biol.2012 Mar;150(1):15-21に記載されているように、修正Schirmer試験により22日目及び25日目に全動物で測定した。
【0071】
図2から分かるように、両時点における涙液分泌にも異なる処置群間で有意差が観察され、イソシクロスポリン処置群で有意に高いレベルであった。
サンプル動物では眼組織に吸収されたシクロスポリン及びイソシクロスポリンのレベルも評価された。3つの異なる時点、すなわち1日目(最初の処置の5分後)、2日目(最初の処置の5分後)、及び7日目(最初の処置の5分後)に、3匹のマウス/群のサブグループで関係組織の生検を実施した。
【0072】
組織を遠心分離し、ホモジナイズし、凍結乾燥させた。1mgの凍結乾燥組織を室温でEtOAc(0.5ml)により抽出し、有機溶液をHPLCで分析して、シクロスポリンAとイソシクロスポリンAの組織濃度及び相対量を評価した。
【0073】
HPLC分析のクロマトグラフィー条件を以下の表A及びBに示す。
表A
【0074】
【表A】
【0075】
表B:移動相(グラジエント)
【0076】
【表B】
【0077】
移動相A:
0.5mlのトリフルオロ酢酸(TFA)を1000mlの水に溶解。
移動相B:
0.5mlのトリフルオロ酢酸(TFA)を1000mlのアセトニトリルに溶解。
【0078】
得られたデータによれば、イソシクロスポリンAはシクロスポリンAと比べて眼表面及び眼内組織に高い生体内分布を示し(>10倍)、同じ処置を受けた異なる動物間でのばらつきが著しく小さかった。
【0079】
角膜、結膜、及び眼内組織(強膜及びブドウ膜)におけるイソシクロスポリンA及びシクロスポリンAの平均検出レベル(ng/mg)を以下の表Cに報告する。
表C
角膜、結膜、及び眼内組織におけるイソシクロスポリンA及びシクロスポリンAの生体内分布
【0080】
【表C】
【0081】
眼内組織におけるイソシクロスポリンA及びシクロスポリンAの生体内分布は、強膜及びブドウ膜で評価されたが、これらは切開時に分離されなかった。従って、上記表C中の“合算”という用語は、切開時に分離されなかった強膜とブドウ膜における生体内分布レベルの評価を指す。
【0082】
眼組織内でのイソシクロスポリンAからシクロスポリンAへの経時的変換についても測定したが、予想通り単回投与後及び反復投与後とも最小であった。得られたデータから、観察された有効性は明らかにイソシクロスポリンAの直接的な効果に起因することが示されているため、新規かつ独立した作用機序が導き出されている。
【0083】
実施例2-眼のアルカリ熱傷ラットモデルにおける局所適用されたイソシクロスポリンA点眼薬の抗炎症特性
実施例1のイソシクロスポリンAトリフルオロアセテート製剤を、アルカリによる眼熱傷急性ラットモデルでも試験した。熱傷は、1NのNaOHに浸漬したろ紙ディスクを角膜に10秒間適用することによって誘導された。
【0084】
実験群(各群n=6)は、何の点眼処置も受けなかった対照群(“CTRL”群)と、上記イソシクロスポリン眼科用溶液で処置(10マイクロリットルの試験製剤を各マウスに24時間で3回点眼)された群(“新”群)で構成された。
【0085】
次に、結膜の炎症性浸潤を処置終了時に測定した。
処置群では非処置群と比べて炎症性浸潤に顕著な低減が観察されたため、局所適用されたイソシクロスポリン点眼薬の活性な抗炎症特性がさらに確認された。
【0086】
さらに、これらの動物でも上記のようなイソシクロスポリンAからシクロスポリンAへの変換を評価したが、眼表面及び/又は眼内組織のどちらにも顕著な相互変換は観察されなかった。
【0087】
実施例3-Draize眼刺激試験
典型的なDraize眼刺激試験を6匹の健常ウサギ(3匹/群)の右眼で実施し、シクロスポリンAに優るイソシクロスポリンAの眼科用局所製剤の忍容性を比較した(Draize,J.H.,et al,Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics(1944),82:377-390)。
【0088】
どちらの群でも、目をこするなどの行動反応や眼刺激の徴候(すなわち結膜反応、腫脹及び/又は分泌物)は観察されなかった。
しかしながら、シクロスポリンA処置動物ではまばたき率の増加が観察されたため、Liらの記載によるウサギまばたき法(Li et al.,Int.J Pharm,2008;363(1-2):177-182)も実施した。すなわち、点眼薬の投与10秒後にウサギのまばたき頻度を2分間記録した。
【0089】
頻度は、イソシクロスポリンA群(5±1)と比べてシクロスポリンA群(9±1)で高かった。p<0.05。
実施例4-FLIPRアッセイ
いくつかの炎症性及び/又はアレルギー性眼疾患に関与しているイオンチャネルの活性化を調節するイソシクロスポリンA及びシクロスポリンAの能力をFLIPRアッセイで試験した。
【0090】
FLIPRアッセイは、膜透過性蛍光色素を用いてイオンチャネルのターゲットをスクリーニングするために使用される。特に、顕著なCa透過性を有するイオンチャネルのターゲットは細胞内カルシウムの増加をもたらすため、カルシウム感受性色素を用いて測定できる(Michelle R.Arkin et al.FLIPRTM Assays for GPCR and Ion Channel Targets.Assay Guidance Manual[インターネット].ベセスダ(メリーランド州):Eli Lilly & Company and the National Center for Advancing Translational Sciences;2004)。
【0091】
詳しくは、30μMの濃度のイソシクロスポリンA又はシクロスポリンAを含有する上記製剤を、イオンチャネルTRPV3、TRPML2又はTRPC4を活性化又は阻害するそれらの能力についてFLIPRアッセイで試験した。TRPV3は、VKC及びAKCなどの眼表面疾患の二つの特徴的側面である痒みと炎症に重要な役割を演ずるイオンチャネルである。
【0092】
TRPML2は、免疫応答及び炎症反応の点で重要な役割を有するイオンチャネルである。
TRPC4は、角膜上皮によって発現されているイオンチャネルで、上皮細胞の増殖及び遊走に役割を果たしている。
【0093】
詳しくは、ヒトTRP細胞をトリプシン処理し、カウントし、そして黒色の透明底96ウェルプレートにウェルあたり50,000細胞の密度で播種し、一晩インキュベートする。翌日、培地を細胞プレートから除去し、25μlのアッセイ緩衝液を加える。赤色膜電位(Red membrane potential)色素又はカルシウム5(Calcium 5)色素溶液(10μl)をウェルに加え、37℃で1時間インキュベートする。膜電位色素を用いてTRPV3、TRPML2及びTRPC4を試験する。
【0094】
色素溶液はアッセイ緩衝液中に調製される。化合物希釈を100%DMSO又はdH2O中で実施した後、細胞プレートに添加する直前に、短時間(<10分)中間希釈(5%DMSO/アッセイ緩衝液又は5%dH2O/アッセイ緩衝液)に移す。
【0095】
アゴニスト試験の場合:色素とのインキュベーション後、プレートをFLIPRに配置し、蛍光を1.52秒ごとにモニターする。20秒後、IsoCsA、CsA又は標準アゴニストをウェルに加え、蛍光を5分間、ex/em(励起/発光波長):488nm/510~570nmでモニターする。
【0096】
アンタゴニスト試験の場合:色素とのインキュベーション後、イソシクロスポリンA又はシクロスポリンAを手動マルチチャンネルを用いて加え、室温で10分間インキュベートする。プレートをFLIPRに配置し、蛍光を1.52秒ごとにモニターする。20秒後、10μlの適切な標準アゴニストを加え、蛍光を5分間、ex/em:488nm/510~570nmでモニターする。
【0097】
アッセイの正当性を立証するために、参照アゴニスト及びアンタゴニストを各チャネルに対して試験し、値が許容範囲内であることをチェックする。
試験化合物及び参照化合物の活性化率及び阻害率の値について評価した。
【0098】
シクロスポリンAと比べてイソシクロスポリンAに有意なアゴニスト活性は検出されなかったが、顕著な阻害効果が観察された。阻害アッセイの結果を以下の表1~3に報告する。
【0099】
表1に、イソシクロスポリンA、シクロスポリンA及び参照化合物によるTRPV3の阻害率を報告する。
以下のデータから分かるように、イソシクロスポリンA(表中IsoCsA)は、このチャネルに、シクロスポリンA(表中CsA)より4倍以上拮抗する能力を有している。
【0100】
表1-TRPV3の阻害率
【0101】
【表1】
【0102】
表中、2-APBは2-アミノエトキシジフェニルボレート(ボリナート)(アゴニスト)であり、RRはルテニウムレッド(アンタゴニスト)である。2-APBは参照標準アゴニスト、すなわち受容体を活性化して生物学的応答を引き起こすので、そのTRPV3の阻害率は0%に等しいと見なされる。
【0103】
表2に、イソシクロスポリンA、シクロスポリンA及び参照化合物によるTRPML2の阻害率を報告する。
以下のデータから分かるように、イソシクロスポリンA(表中Iso-CsA)は、このチャネルに、シクロスポリンA(表中CsA)と比べて2倍以上拮抗する能力を有している。
【0104】
表2-TRPML2の阻害率
【0105】
【表2】
【0106】
表中、CaCl2はアゴニストであり、ガドリニウムGd3はアンタゴニストである。
CaCl2はアゴニストとして作用する、すなわち受容体を活性化して生物学的応答を引き起こすので、そのTRPML2の阻害率は0%に等しいと見なされる。
【0107】
TRPC4は、角膜上皮によって発現されているイオンチャネルで、上皮細胞の増殖及び遊走に役割を果たしている(Hua Yang et al, J Biol Chem.2005 Sep 16;280(37):32230-7)。春季カタル(VKC)及びアトピー性角結膜炎(AKC)は眼表面の過剰増殖現象を特徴とする。従って、これらの病状において上皮の増殖と遊走を促進できる分子は有害でありうる。
【0108】
表3に、イソシクロスポリンA、シクロスポリンA及び参照化合物によるTRPC4の活性化率を報告する。
以下のデータから、イソシクロスポリンA(表中Iso-CsA)はこのチャネルの活性化に何の影響も及ぼしていないが、シクロスポリンA(表中CsA)はアゴニストとして作用するため、その活性化により望まざる副作用をもたらすことが分かる。
【0109】
表3-TRPC4の活性化率
【0110】
【表3】
【0111】
表中、エングレリンA(Englerin A)はアゴニストであり、ガドリニウムGD3はアンタゴニストである。
GD3はアンタゴニストとして作用する、すなわち受容体を阻害して生物学的応答を引き起こすので、そのTRPC4の活性化率は0%に等しいと見なされる。
図1
図2
【国際調査報告】