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特表2025-503524ネオジム鉄ボロン磁石及びその製造方法並びに応用
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  • 特表-ネオジム鉄ボロン磁石及びその製造方法並びに応用 図1
  • 特表-ネオジム鉄ボロン磁石及びその製造方法並びに応用 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-04
(54)【発明の名称】ネオジム鉄ボロン磁石及びその製造方法並びに応用
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/057 20060101AFI20250128BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20250128BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20250128BHJP
   B22F 9/04 20060101ALI20250128BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20250128BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20250128BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20250128BHJP
   B22F 3/10 20060101ALI20250128BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20250128BHJP
   C21D 6/00 20060101ALI20250128BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20250128BHJP
【FI】
H01F1/057
H01F1/057 170
H01F41/02 G
C22C38/00 303D
B22F9/04 C
B22F1/00 Y
B22F1/05
B22F3/00 F
B22F3/10 D
B22F3/24 B
B22F3/24 K
C21D6/00 B
B22F3/02 R
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024539034
(86)(22)【出願日】2022-11-28
(85)【翻訳文提出日】2024-06-26
(86)【国際出願番号】 CN2022134600
(87)【国際公開番号】W WO2023124688
(87)【国際公開日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】202111616641.6
(32)【優先日】2021-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522310502
【氏名又は名称】烟台正海磁性材料股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】于永江
(72)【発明者】
【氏名】劉磊
(72)【発明者】
【氏名】安仲▲シン▼
(72)【発明者】
【氏名】房効広
(72)【発明者】
【氏名】耿国強
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017BA06
4K017BB01
4K017BB05
4K017BB06
4K017BB12
4K017BB13
4K017BB18
4K017CA07
4K017DA04
4K017EA03
4K017EA09
4K017EA11
4K017FA03
4K018AA27
4K018BA18
4K018BB04
4K018BC08
4K018BC12
4K018CA02
4K018CA04
4K018CA08
4K018CA23
4K018DA03
4K018DA21
4K018DA22
4K018DA32
4K018FA08
4K018FA11
4K018KA45
5E040AA04
5E040AA19
5E040BD01
5E040CA01
5E040HB03
5E040HB05
5E040HB11
5E040HB17
5E040NN01
5E040NN06
5E040NN17
5E040NN18
5E062CD04
5E062CE04
5E062CG02
5E062CG05
5E062CG07
(57)【要約】
本発明は、ネオジム鉄ボロン磁石及びその製造方法並びに応用を提供しており、前記磁石は、R(Fe,M)14B構造を有する主相結晶粒及び粒界相を含み、粒界相は、2つの主相結晶粒の間の二粒粒界と、3つ以上の主相結晶粒隙間で構成された三角粒界と、を含み、そのうち、Mは、Cu、Ga、及び/又はAlを含み、Rは、Ndを含む少なくとも1種の希土類元素である。Cu、Ga、Alなどの元素の成分の配合比及び磁石での分布規則、並びに結晶粒の粒径サイズを調節することで、磁気が比較的高いBr及びHcj磁石を得ることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高性能ネオジム鉄ボロン磁石であって、
前記磁石は、R(Fe,M)14B構造を有する主相結晶粒及び粒界相を含み、前記粒界相は、2つの主相結晶粒の間の二粒粒界と、3つ以上の主相結晶粒隙間で構成された三角粒界と、を含み、そのうち、Mは、Cu、Ga及び/又はAlを含み、Rは、Ndを含む少なくとも1種の希土類元素である、
ことを特徴とする高性能ネオジム鉄ボロン磁石。
【請求項2】
磁石の主相結晶粒の平均粒径は1.8~8μm、好ましくは2.5~6μmであり、
好ましくは、隣接する主相結晶粒におけるCuの原子濃度を[Cu]に設定し、二粒粒界におけるCuの原子濃度を[Cu]に設定し、1≦[Cu]/[Cu]<2の関係を満たし、
好ましくは、磁石内の三角粒界はCuリッチ区域を含み、三角粒界におけるCuの原子濃度を[Cu]に設定し、[Cu]/[Cu]≧2の関係を満たし、
好ましくは、粒界相の総面積に占める三角粒界のCuリッチ区域面積の比率<5%である、
ことを特徴とする請求項1に記載の磁石。
【請求項3】
隣接する主相結晶粒におけるGaの原子濃度を[Ga]に設定し、二粒粒界におけるGaの原子濃度を[Ga]に設定し、1≦[Ga]/[Ga]<2の関係を満たし、
好ましくは、磁石内の三角粒界はGaリッチ区域を含み、三角粒界におけるGaの原子濃度を[Ga]に設定し、[Ga]/[Ga]≧2の関係を満たし、
好ましくは、前記Gaリッチ区域の粒界相は非強磁性相であり、粒界相の総面積に占める三角粒界のGaリッチ区域面積の比率<5%である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の磁石。
【請求項4】
隣接する主相結晶粒におけるAlの原子濃度を[Al]に設定し、二粒粒界におけるAlの原子濃度を[Al]に設定し、1<[Al]/[Al]<2の関係を満たし、
好ましくは、磁石内の三角粒界はAlリッチ区域を含み、三角粒界におけるAlの原子濃度を[Al]に設定し、[Al]/[Al]≧2の関係を満たし、
好ましくは、粒界相の総面積に占める三角粒界のAlリッチ区域面積の比率<5%であり、
好ましくは、隣接する主相結晶粒は、二粒粒界に隣接する主相結晶粒を指す、
ことを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の磁石。
【請求項5】
前記高性能ネオジム鉄ボロン磁石は遷移金属元素を更に含み、Mn、Si、Zr、Ti、Nbのうちの少なくとも1種である、
ことを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載の磁石。
【請求項6】
前記高性能ネオジム鉄ボロン磁石は、質量比100%で、
27~35%のRと、
0.8~1.2wt%のBと、
0~3.0wt%のCoと、
0.1~0.6wt%のCuと、
0.1~0.8wt%のGaと、
0~1.0wt%のAlと、
60~72wt%のTと、を含み、
そのうち、Rは、Ndを含む少なくとも1種の希土類元素であり、Tは、Fe及び他の遷移金属元素、並びに不可避的な不純物元素を含み、前記遷移金属元素は、請求項5に記載の意味を有する、
ことを特徴とする請求項1~5の何れか一項に記載の磁石。
【請求項7】
請求項1~6の何れか一項に記載の磁石の製造方法であって、
(a)前記磁石の各成分を溶融し、鋳造し、冷却した後に合金シートを形成する製錬プロセスと、
(b)合金シートを粉砕して合金粉末にする製粉プロセスと、
(c)合金粉末を磁場の作用下でプレス成形し、ビレットを得るプレス成形プロセスと、
(d)ビレットを焼結処理し、時効処理し、製造してネオジム鉄ボロン磁石を得る焼結プロセスと、を含む、
ことを特徴とする方法。
【請求項8】
ステップ(b)において、前記合金粉末のSMD粒度は1.8~8μm、好ましくは2.5~6μmであり、且つX90/X10≦4.5であり、
好ましくは、ステップ(d)において、焼結処理は、3段以上の焼結保温段階及び焼結保温前昇温段階を有し、例示的には3~10段であり、焼結保温段階の温度は950~1200℃、好ましくは980~1070℃であり、各段の保温時間は20~120minであり、
好ましくは、各段の焼結処理時、昇温速度は0.5~5℃/min、より好ましくは1~4℃/minであり、
好ましくは、各隣接する2段の焼結保温プロセスの間、前段の焼結保温段階終了後に次の昇温保温プロセスを直接行うか、又は前段の焼結保温段階終了後に先に冷却し、更に次の昇温保温プロセスを行い、即ち各隣接する2段の焼結保温プロセスの間に、任意のランダムなプロセスを設けることができる、
ことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記時効処理は、一次時効処理又は二次時効処理から選ばれ、
好ましくは、前記一次時効処理の条件は、時効処理温度が500~700℃、保温時間が240~420minであることであり、
好ましくは、前記二次時効処理は、昇温して温度を800~950℃とし、保温時間を180~300minとするように1回目の時効処理を行うことと、200℃以下に冷却した後、昇温して温度を450~600℃の間とし、保温時間を240~360minとするように2回目の時効処理を行うことと、を含み、
好ましくは、焼結プロセス後、拡散処理を行うこともでき、
好ましくは、前記拡散処理は、拡散材料を磁石表面に施し、真空加熱拡散処理、拡散冷却及び拡散時効処理を行うことを含み、
好ましくは、拡散材料は、Dy及び/又はTbの純金属、Dy及び/又はTbの水素化物、Dy及び/又はTbの酸化物、Dy及び/又はTbの水酸化物、Dy及び/又はTbのフッ化物合金から選ばれる少なくとも1種である、
ことを特徴とする請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
モータに使用される、請求項1~6の何れか一項に記載の磁石の応用であって、
好ましくは、新エネルギー自動車又は省エネルギー家電に使用される、
ことを特徴とする応用。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本願は、2021年12月27日に中国国家知識産権局に提出された、特許出願番号が202111616641.6であり、名称が「ネオジム鉄ボロン磁石及びその製造方法並びに応用」である先行出願の優先権を主張する。上記先行出願は全体として援用により本願に組み込まれている。
【0002】
〔技術分野〕
本発明は、ネオジム鉄ボロン磁石分野に属し、具体的にはネオジム鉄ボロン系焼結磁石及びその製造方法並びに応用に関する。
【0003】
〔背景技術〕
ネオジム鉄ボロン系焼結永久磁石材料は、現在総合的な磁気性能が最も高く、応用が最も広い永久磁石機能材料であり、現代の「磁石の王様」と呼ばれ、エネルギー、情報などの関連分野の発展を促進する重要な支持材料である。ネオジム鉄ボロン系焼結磁石は、20世紀80年代の登場以来、その優れた磁気性能及び極めて高いコストパフォーマンスにより、自動車産業、医療機器、電子情報、航空宇宙などの多くの分野で広く適用され、関連分野におけるインテリジェント化、小型化、軽量化への発展の重要な支持となっている。近年、ネオジム鉄ボロン系焼結磁石の性能がますます向上するにつれて、その応用分野も拡大し続けている。
【0004】
ネオジム鉄ボロン系焼結永久磁石材料は、高温条件下での安定した磁場出力を確保するために、高い保磁力性能を備える必要がある。従来、磁石の保磁力を向上させるために、製錬プロセスで重希土類Dy/Tb原材料を添加することが多い。重希土類資源の貯蔵量が少なく、価格が高いため、重希土類資源の大規模利用は、重希土類資源の持続可能な採掘及び使用に役立たないだけでなく、磁石の生産製造コストの顕著な上昇に直結している。また、重希土類金属の添加は、磁石の残留磁気を低下させ、磁石から空間に提供する磁場強度を更に低下させ、関連機器の軽量化及び小型化に不利である。
【0005】
磁石の性能を改善すると共にテルビウム、ジスプロシウムなどの重希土類の使用量を減少させるために、二合金技術、結晶粒微細化技術、粒界拡散技術が業界の注目を集めている。現在、結晶粒微細化技術及び粒界拡散技術が最も広く適用され、結晶粒微細化技術は、製錬、製粉プロセスのプロセスパラメータを制御することで、比較的小さいジェットミル粉末の粒度を得て、対応する焼結システムに合わせ、最終的に磁石粒度の微細化制御の目的を達成し、それにより、磁石内部の結晶粒の欠陥を低減し、磁石の保磁力を向上させる。
【0006】
粒界拡散技術は、浸漬塗布、スプレー塗布などの方法により、テルビウム、ジスプロシウム元素を含有する拡散源を磁石の表面にコーティングし、テルビウム、ジスプロシウム元素は、粒界相を介して磁石の内部に拡散し、粒界におけるネオジムリッチ相のNdと置換し、主相結晶粒の周囲に形成(Dy/Tb)Fe14Bを形成し、粒界の異方性を向上させ、保磁力を向上させる目的を達成する。
【0007】
結晶粒微細化技術及び粒界拡散技術は、単独で使用してもよく、組み合わせて応用してもよい。組み合わせ応用では、結晶粒微細化技術が磁石の最終性能の基礎を決定する。結晶粒微細化技術を用いる場合、磁石の粒度が細かく、主相結晶粒の表面積が増加し、表面エネルギーが上昇し、活性がより大きくなり、不純物元素であるC、S、O、Nへの吸着が排除しにくく、性能が劣化するだけでなく、異常結晶粒の成長が起こりやすくなり、更に磁気性能を劣化させる。磁石に異常に成長した結晶粒が存在し、粒界拡散の効果も大幅に低下する。
【0008】
特許文献CN106252012Aは、ネオジム鉄ボロン磁石の焼結温度よりも20℃低い一定の温度で0~1h保温し、次に焼結温度に昇温して3~6h保温し、700~800℃の間に自然冷却し、更に焼結温度よりも0~20℃高い温度に昇温して5~8h保温し、それにより結晶粒が細かく、密度が均一な磁石を得て、重希土類含有量が低く、高性能なネオジム鉄ボロン磁石を実現する、結晶粒の異常成長を防止する分割焼結方法を提供する。上記分割焼結プロセスを用いたが、細粒度の条件下で焼結温度が高く、分割保温時間が長く、依然として結晶粒の異常成長のリスクがあり、且つ総合的な焼結周期が長く、量産の効率が低い。
【0009】
〔発明の概要〕
上記技術問題を改善するために、本発明は、高性能ネオジム鉄ボロン磁石を提供し、上記磁石は、R(Fe,M)14B構造を有する主相結晶粒及び粒界相を含み、上記粒界相は、2つの主相結晶粒の間の二粒粒界と、3つ以上の主相結晶粒隙間で構成された三角粒界と、を含み、そのうち、Mは、Cu、Ga、及び/又はAlを含み、Rは、Ndを含む少なくとも1種の希土類元素である。
【0010】
本発明の実施形態によれば、RはNdを含み、Y、La、Ce、Pr、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Scである希土類元素から選ばれる少なくとも1種を更に含む。
【0011】
本発明の実施形態によれば、磁石の主相結晶粒の平均粒径は1.8~8μm、好ましくは2.5~6μmである。当該粒径範囲内で、磁石は比較的優れた磁気性能が得られ、粒径が更に小さく、1.8μm未満の場合、結晶粒の表面活性は更に大きくなり、O/Nなどの不純物元素を更に吸着しやすくなり、且つ吸着した不純物元素が抜けにくくなり、性能の低下を招き、粒径が比較的大きく、8μmを超える場合、主相結晶粒の内部構造欠陥が増加し、且つ粒界相が相対的に希薄になり、高性能ネオジム鉄ボロン磁石を得ることは困難である。
【0012】
本発明の実施形態によれば、隣接する主相結晶粒におけるCuの原子濃度を[Cu]に設定し、二粒粒界におけるCuの原子濃度を[Cu]に設定し、1≦[Cu]/[Cu]<2の関係を満たす。
【0013】
本発明の実施形態によれば、磁石内の三角粒界はCuリッチ区域を含み、三角粒界におけるCuの原子濃度を[Cu]に設定し、[Cu]/[Cu]≧2の関係を満たし、上記Cuリッチ区域の粒界相は非磁性相であり、磁石におけるCuリッチ区域の含有量が比較的高い場合、磁石のBrを顕著に低下させる。本発明の三角粒界において、Cu元素の濃度が[Cu]/[Cu]≧2を満たす区域をCuリッチ区域として定義する。
【0014】
本発明の実施形態によれば、粒界相の総面積に占める三角粒界のCuリッチ区域面積の比率<5%である。
【0015】
本発明の実施形態によれば、隣接する主相結晶粒におけるGaの原子濃度を[Ga]に設定し、二粒粒界におけるGaの原子濃度を[Ga]に設定し、1≦[Ga]/[Ga]<2の関係を満たす。
【0016】
本発明の実施形態によれば、磁石内の三角粒界はGaリッチ区域を含み、三角粒界におけるGaの原子濃度を[Ga]に設定し、[Ga]/[Ga]≧2の関係を満たし、即ち三角粒界において、Ga元素の濃度が[Ga]/[Ga]≧2を満たす区域をGaリッチ区域として定義し、上記Gaリッチ区域の粒界相は非強磁性相であり、好ましくは、粒界相の総面積に占める三角粒界のGaリッチ区域面積の比率<5%である。
【0017】
本発明の実施形態によれば、隣接する主相結晶粒におけるAlの原子濃度を[Al]に設定し、二粒粒界におけるAlの原子濃度を[Al]に設定し、1<[Al]/[Al]<2の関係を満たす。
【0018】
本発明の実施形態によれば、磁石内の三角粒界はAlリッチ区域を含み、三角粒界におけるAlの原子濃度を[Al]に設定し、[Al]/[Al]≧2の関係を満たし、即ち三角粒界において、Ga元素の濃度が[Al]/[Al]≧2を満たす区域をAlリッチ区域として定義し、上記Alリッチ区域の粒界相は非磁性相であり、好ましくは、粒界相の総面積に占める三角粒界のAlリッチ区域面積の比率<5%である。
【0019】
本発明において、隣接する主相結晶粒は、二粒粒界に隣接する主相結晶粒を指す。
【0020】
従来の磁石製造プロセスにおいて、Cuは主相結晶粒にはほとんど入り込まず、主に粒界のNdリッチ相に存在し、hcjを向上させ、不可逆を改善する作用を奏するが、Cuの含有量が高すぎる場合、Br及びHcj性能の低下を招き、少量のAlが主相結晶粒において8j結晶位置を占め、結晶粒を微細化にし、大部分のAlが粒界においてNdリッチ相及びBリッチ相の団塊状分布を減少させ、主相との濡れ角を改善し、Ndリッチ相がより均一に境界に沿って分布し、少量のGaが主相結晶粒において存在し、主に粒界に濃化し、結晶粒を微細化にし、結晶粒表面の濡れ性を改善する作用を奏するが、その形成する化合物は非強磁性相であるため、不可避的にCu/Ga/Alなどの添加によりBrを低下させる。更に、これらの安定的な化合物は結晶粒表層に濃化し、拡散プロセスにおけるDy/Tbなどの重希土類元素による結晶粒表層成分構造の置換反応を抑制し、拡散Hcj増幅の顕著な低下を直接に招いた。
【0021】
本発明の実施形態によれば、[Cu]/[Cu]は1以上且つ2未満であり、更に好ましくは1.2~1.8である。当該原子濃度比の範囲内で、Cuは、主相結晶粒表層及び二粒粒界内で相対的に均一に分布され、Ga及びAlも同じ規則性を示している。
【0022】
本発明の実施形態によれば、上記高性能ネオジム鉄ボロン磁石は、Mn、Si、Zr、Ti、Nbなどの遷移金属元素を更に含み、遷移金属元素が粒界相に濃化し、磁石内でCu、Ga、Alと類似する分布規則を有する、即ち1≦[Zr]/[Zr]<2、及び/又は1≦[Ti]/[Ti]<2、及び/又は1≦[Nb]/[Nb]<2である場合、高性能磁石を得ることができる。そのうち、[Zr]は隣接する主相結晶粒におけるZrの原子濃度を表し、[Zr]は二粒粒界におけるZrの原子濃度を表し、[Ti]は隣接する主相結晶粒におけるTiの原子濃度を表し、[Ti]は二粒粒界におけるTiの原子濃度を表し、[Nb]は隣接する主相結晶粒におけるNbの原子濃度を表し、[Nb]は二粒粒界におけるNbの原子濃度を表す。
【0023】
本発明の実施形態によれば、上記高性能ネオジム鉄ボロン磁石は、質量比100%で、
27~35%のRと、
0.8~1.2wt%のBと、
0~3.0wt%のCoと、
0.1~0.6wt%のCuと、
0.1~0.8wt%のGaと、
0~1.0wt%のAlと、
60~72wt%のTと、を含み、
そのうち、Rは、Ndを含む少なくとも1種の希土類元素であり、Tは、Fe及び他の遷移金属元素、並びに不可避的な不純物元素を含み、上記遷移金属元素は、上記の意味を有する。
【0024】
本発明の実施形態によれば、RはNdを含み、Y、La、Ce、Pr、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Scである希土類元素から選ばれる少なくとも1種を更に含む。好ましくは、上記Rは、Nd、Y、Dy、Tb、Ho、La、Ceのうちの少なくとも1種であり、そのうち、Dy、及び/又はTb、及び/又はHoの総質量は磁石総質量の≦5wt%を占め、La、及び/又はCe、及び/又はYの総質量は磁石総質量の≦3wt%を占める。磁石中のRが高すぎる場合、磁石のネオジムリッチ相が増加し、Brが低下し、Rが低すぎる場合、磁石中に、主相結晶粒の磁気絶縁のための均一で連続的なNdリッチ相を形成することができず、磁石のHcj及び直角度が急激に悪化する。Pr、Dy、Tb、Hoなどの希土希土類元素で構成されたR(Fe,M)14B系主相結晶粒は、磁気分極強度がNdより低く、異方性磁場がNdより優れるため、磁石のBrを顕著に低下させ、Hcjを向上させ、磁石の高Brを確保すると同時に、Dy、Tb、Hoなどの重希土類元素を少量使用することで磁石のHcjを向上させ、総磁石成分におけるその含有量≦5wt%であり、La、Ce、Yなどの希土類元素は、固有磁気性能がNdより顕著に低く、貯蔵量が豊富で、且つ安価であり、少量を添加して使用することもでき、総磁石成分におけるその含有量≦3wt%である。好ましくは、Rは、Nd及びPrを含む。
【0025】
本発明の実施形態によれば、Bの含有量は0.8~1.2wt%、より好ましくは0.87~1.05wt%、更に好ましくは0.93~1.00wt%であり、Bの含有量が低すぎる場合、Rは相対的に高く、形成したRリッチ相の比率が比較的高く、主相結晶粒の体積比が小さいため、磁石Brが低くなり、且つ磁石のHcj及び直角度が不安定となり、Bの含有量が高すぎる場合、Bリッチ相の体積比が顕著に向上し、磁気性能を大幅に低下させる。
【0026】
本発明の実施形態によれば、Coは、磁石内で主相結晶粒におけるFeの位置を占め、Coの原子磁気モーメントはFeより小さく、Coの添加は磁石のBrを低下させると同時に、Coの添加は磁石の耐食性及び温度耐性に顕著な効果を有するため、Coの含有量は0~3.0wt%、より好ましくは0.5~2wt%であり、Coの含有量が0である場合、その耐食性及び温度係数が顕著に悪化するが、Coの含有量が3wt%より大きくなる場合、そのBrが顕著に低下し、更にHcjも明らかに悪化し、且つ高いCoが磁石の脆さを増加させ、加工割れが生じやすく、製品の合格率が低く、且つCoは戦略金属に属し、使用量が大きいため、原料の安定供給に対する要求が非常に高い。
【0027】
本発明の実施形態によれば、Cuの含有量は0.1~0.6wt%、更に好ましくは0.2~0.5wt%であり、Cuの含有量が高すぎる場合、結晶粒の成長を抑制し、且つ粒界相が増幅し、主相結晶粒の体積比が低下し、磁石のBrを低下させ、Cuの含有量が低すぎて更にCuを含まない場合、磁石の主相結晶粒及びBリッチ相が相対的に粗大となり、磁石の磁気性能を大幅に低下させる。
【0028】
本発明の実施形態によれば、Gaの含有量は0.1~0.8wt%、更に好ましくは0.2~0.6wt%であり、Gaの含有量が高すぎる場合、結晶粒の成長を抑制し、且つ粒界相が増幅し、主相結晶粒の体積比が低下し、磁石のBrを低下させ、Gaの含有量が低すぎて更にGaを含まない場合、磁石の主相結晶粒及びBリッチ相が相対的に粗大となり、磁石の磁気性能を大幅に低下させる。
【0029】
本発明の実施形態によれば、Alの含有量は0~1.0wt%、更に好ましくは0.1~0.5wt%であり、Alの含有量が高すぎる場合、結晶粒の成長を抑制し、且つ粒界相が増幅し、主相結晶粒の体積比が低下し、磁石のBrを低下させ、磁石内にAlを含まない場合、磁石の主相結晶粒及びBリッチ相が相対的に粗大となり、磁石の磁気性能を大幅に低下させる。
【0030】
本発明の実施形態によれば、Tは、Fe及び他の遷移金属元素、並びに不可避的な不純物元素を含む。その他の遷移金属元素は、例えばMn、Si、Zr、Ti、Nbなどであり、不可避的な不純物元素は、例えばC、S、O、Nなどの元素である。好ましくは、Tは、Fe及び/又はTiを含む。
【0031】
本発明は、上記ネオジム鉄ボロン磁石の製造方法を更に提供し、上記方法は、
(a)上記磁石の各成分を溶融し、鋳造し、冷却した後に合金シートを形成する製錬プロセスと、
(b)合金シートを粉砕して合金粉末にする製粉プロセスと、
(c)合金粉末を磁場の作用下でプレス成形し、ビレットを得るプレス成形プロセスと、
(d)ビレットを焼結処理し、時効処理し、製造してネオジム鉄ボロン磁石を得る焼結プロセスと、を含む。
【0032】
本発明の実施形態によれば、ステップ(a)の製錬プロセスは、従来技術の一般的な技術であり、例えば、スピニング法を用いて合金シートを作製し、例示的に、上記ステップ(a)は、具体的に製錬プロセスであり、目標成分の配合比に応じて、上記磁石の各成分を真空又は不活性ガスの雰囲気で、中周波誘導製錬炉で合金溶鋼に充分に溶融した後、急速冷却して合金シート又は合金インゴットを形成する。例示的には、二次冷却を行う。
【0033】
本発明の実施形態によれば、上記ステップ(b)は、具体的に粗粉砕及び微粉砕を含む製粉プロセスであり、好ましくは、上記粗粉砕は、水素破砕及び/又は中粉砕から選ばれる。
【0034】
好ましくは、上記微粉砕はジェットミルから選ばれる。好ましくは、上記ジェットミルは不活性ガス雰囲気で行われる。好ましくは、上記不活性ガスは窒素ガス、ヘリウムガスなどから選ばれる。
【0035】
本発明において、上記水素破砕、中粉砕又はジェットミルは、従来技術における公知の操作を使用することができる。
【0036】
本発明の実施形態によれば、ステップ(b)において、微粉砕後、更にグレーディングホイールスクリーニングなどのスクリーニングによって得られる。例示的に、上記合金粉末のSMD粒度は1.8~8μm、好ましくは2.5~6μmであり、且つX90/X10≦4.5である。そのうち、SMDは面積平均粒径であり、SMDが小さいほど、粉末粒子の粒度が小さいことを意味し、SMDが大きいほど、粉末粒子の粒度が大きいことを意味し、X90は累積分布百分率が90%に達した時に対応する粒径値を表し、即ち、全ての粒子の粒径が何れもこの粒径以下であり、この粒径値より大きい粒子の数は0であり、X10は累積分布百分率が10%に達した時に対応する粒径値を表し、即ち、全ての粒子の粒径が何れもこの粒径以下であり、この粒径値より大きい粒子の数は0であり、X90/X10は粉末の粒度分布を表し、X90/X10が小さいほど、粉末の粒度分布が更に集中することを意味する。
【0037】
本発明の実施形態によれば、ステップ(b)において、微粉砕時に潤滑剤を更に添加する必要があり、好ましくは、ジェットミルの前後にいずれも潤滑剤を添加する。ジェットミルの前に潤滑剤を添加することで、粉末の流動性を向上させることができ、ジェットミル時に添加することで、粉末の流動性及び均一性を改善することができ、ジェットミルの後に潤滑剤を添加することで、粉末の均一性及び流動性を改善することもでき、均一な粉末充填及びプレスを容易にする。
【0038】
好ましくは、上記潤滑剤は、粉末の充分且つ均一な混合、成形の容易さを達成するために、従来技術における公知の試薬から選ばれ、及び従来技術の群における公知の量で使用される。例示的には、上記潤滑剤は、揮発しやすい脂質類又はアルコール類などの有機溶媒から選ばれ、例えばステアリン酸亜鉛である。例示的には、上記潤滑剤の添加量は、製造原料の総質量の0.1~1wt%である。
【0039】
好ましくは、潤滑剤を加えた後、更に混合する必要がある。好ましくは、混合時間は1~6hである。
【0040】
本発明に記載の混合は、例えば、ミキサーに入れて混合するなど、従来技術における公知の方法を使用して行うことができる。
【0041】
本発明の実施形態によれば、ステップ(c)において、プレス成形は、プレス金型キャビティ内で行われる。
【0042】
本発明の実施形態によれば、ステップ(c)において、プレス成形前に、2T以上の磁場強度で配向着磁、成形を行う必要があり、コイル着磁を用いてもよく、パルス着磁を用いてもよい。
【0043】
本発明の実施形態によれば、ステップ(c)において、プレス成形後に、逆磁場を印加して消磁を行う。
【0044】
本発明の実施形態によれば、ステップ(c)において、成形ビレットを冷間等方圧プレス機で処理して、ビレット密度を更に向上させることもできる。
【0045】
本発明の実施形態によれば、ステップ(d)において、焼結処理前に、更にビレットを加熱処理し、加熱処理の温度は100~950℃、好ましくは150~900℃であり、加熱処理の保温時間は60~120minであり、例示的に、加熱処理の温度は3~6段であり、各段の加熱処理の保温温度は同じであってもよく異なってもよく、保温時間は同じであってもよく異なってもよく、加熱処理段階は不活性ガスで行われてもよく、真空状態で行われてもよい。例示的に、加熱処理の温度は4段であり、それぞれ100~200℃、200~550℃、550~700℃、700~950℃である。
【0046】
本発明の実施形態によれば、ステップ(d)において、焼結処理は、3段以上の焼結保温段階及び焼結保温前昇温段階を有し、例示的には3~10段、例えば3、4、5、6、7、8、9又は10段であり、焼結保温段階の温度は950~1200℃、好ましくは980~1070℃であり、各段の保温時間は20~120minであり、各段の焼結処理の保温温度は同じであってもよく異なってもよく、保温時間は同じであってもよく異なってもよく、焼結保温段階は不活性ガスで行われてもよく、真空状態で行われてもよい。
【0047】
例示的に、各段の焼結処理時、昇温速度は0.5~5℃/min、より好ましくは1~4℃/minであり、各段の昇温段階の昇温速度は同じであってもよく異なってもよい。
【0048】
本発明の実施形態によれば、各隣接する2段の焼結保温プロセスの間に、前段の焼結保温段階終了後に次の昇温保温プロセスを直接行ってもよく、前段の焼結保温段階終了後に先に冷却し、更に次の昇温保温プロセスを行ってもよく、前段の焼結保温段階の温度より低い限り、冷却の温度は限定されず、必要な冷却温度に達する限り、冷却の段数は特に限定されず、即ち、各隣接する2段の焼結保温プロセスの間に、任意のランダムなプロセスを設けることができる。例えば、前段の焼結保温段階終了後、先に1~10段の冷却を行い、更に次の昇温保温プロセスを行い、1~10段の冷却温度は相同又は相異であってもよい。
【0049】
生産効率を確保するために、好ましくは、焼結保温段階は10組以内に制御される。
【0050】
本発明において、上記3段以上の焼結保温プロセスを用いることで、Cu、Ga、Alなどの元素の均一な分布を実現することができ、この焼結モードにより、Cu、Ga、Alなどの元素が粒界相から主相結晶粒に偏析することに役立つ。
【0051】
本発明の実施形態によれば、ステップ(d)において、上記時効処理は焼結処理冷却後に行われる。例示的に、時効処理は、焼結完了後に室温まで冷却し、更に昇温処理を行うことを含む。
【0052】
好ましくは、上記時効処理は、一次時効処理又は二次時効処理から選ばれる。
【0053】
好ましくは、上記一次時効処理の条件は、時効処理温度が500~700℃、保温時間が240~420minであることである。好ましくは、上記二次時効処理は、昇温して温度を800~950℃とし、保温時間を180~300minとするように1回目の時効処理を行うことと、200℃以下に冷却した後、昇温して温度を450~600℃の間とし、保温時間を240~360minとするように2回目の時効処理を行うことと、を含む。
【0054】
本発明の実施形態によれば、焼結プロセス後、拡散処理を行うこともできる。
【0055】
好ましくは、上記拡散処理は、拡散材料を磁石表面に施し、真空加熱拡散処理、拡散冷却及び拡散時効処理を行うことを含む。
【0056】
好ましくは、拡散材料は、Dy及び/又はTbの純金属、Dy及び/又はTbの水素化物、Dy及び/又はTbの酸化物、Dy及び/又はTbの水酸化物、Dy及び/又はTbのフッ化物などの合金から選ばれる少なくとも1種であり、例示的にDy金属である。
【0057】
好ましくは、拡散処理は、真空蒸着、マグネトロンスパッタリング、コーティング又は埋め込みなどの方法を選用して行うことができる。
【0058】
好ましくは、真空加熱拡散処理の温度は850~950℃であり、真空加熱拡散処理の時間は10~30hである。
【0059】
好ましくは、拡散冷却の温度は100℃未満である。
【0060】
好ましくは、上記拡散時効処理の温度は450~600℃であり、上記拡散時効処理の時間は4~8hである。
【0061】
本発明の実施形態によれば、焼結プロセス後、拡散処理前、ビレットを目標サイズに加工することもできる。
【0062】
本発明の実施形態によれば、焼結プロセス後、拡散処理前に、ビレットを目標サイズに加工した後、磁石表面の加工破片、加工切削液残留物又は加工接着剤を除去するために、磁石を明示的に洗浄処理する。
【0063】
本態様の実施形態によれば、拡散前の洗浄処理は、純水による超音波洗浄及び酸洗いなどを用いることができるが、これらに限定されず、酸は硝酸、硫酸、クエン酸などを用いることができるが、これらに限定されない。
【0064】
本発明は、モータにおける応用に使用される、上記ネオジム鉄ボロン磁石の応用を更に提供する。
【0065】
本発明は、上記磁石を含むモータを更に提供する。
【0066】
本発明は、上記モータの応用であって、好ましくは、上記モータが新エネルギー自動車、省エネルギー家電に適用できる、応用を更に提供する。
【0067】
本発明の有益な効果:
本発明は、Cu、Ga、Alなどの元素の成分配合比及び磁石での分布、並びに結晶粒の粒径サイズを調整することで、比較的高いBr及びHcjを有する磁石を得ることができる。本発明により提供される焼結処理方法、即ち3段以上の焼結保温段階及び保温前の昇温段階は、磁石の主相結晶粒及び粒界相の充分な焼結、密度向上の効果を確保するに加えて、主相結晶粒の異常成長を抑制し、且つ配向秩序化した結晶粒が焼結時に偏向することを回避し、磁石の配向度を確保し、磁石のBrを顕著に向上させることができる。
【0068】
本願のCu、Ga及びAl原子濃度比の範囲内(即ち、1≦[Cu]/[Cu]<2、1≦[Ga]/[Ga]<2、1<[Al]/[Al]<2)で、主相結晶粒内にR(Fe,M)14B構造が形成されると同時に、主相結晶粒が接触した二粒粒界におけるM濃化度が相対的に低く、比較的高いHcjを得ると同時に、依然として比較的高い残留磁気を保持することができる。且つ拡散処理後、Hcj向上効果が顕著であり、Tbの拡散は、Hcj≧880kA/mの向上を実現することができ、Dyの拡散は、Hcj≧480kA/mの向上を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
図1】実施例1の磁石におけるCuの分布を示す図である。
図2】比較例1の磁石におけるCuの分布を示す図である。
【0070】
〔発明を実施するための形態〕
以下、具体的な実施例に合わせて、本発明の技術案を更に詳しく説明する。下記の実施例は、単に本発明を例示的に説明し解釈するものであり、本発明の請求範囲を限定するものとして解釈されるべきではないと理解すべきである。本発明の上記内容に基づいて実現される技術は、何れも本発明による請求範囲内に含まれる。
【0071】
特に説明のない限り、下記の実施例に使用される原料及び試薬は何れも市販品であり、又は既知の方法によって製造することができる。
【0072】
実施例1~2
ネオジム鉄ボロン磁石の製造方法であって、上記方法は以下のステップを含む。
【0073】
(a)下記表1の磁石の目標成分に従って原料を調製し、真空誘導製錬炉を用いてArガス雰囲気保護で製錬し、溶融した液体を、鋳造温度を1420℃(即ち、ストリップキャスティング鋳造プロセス)とするように回転速度33rpmの急冷ロールに鋳造し、製造してネオジム鉄ボロン合金シートを得て、目標合金シートの平均厚さは0.22mmであった。
【0074】
【表1】
【0075】
(b)水素破砕プロセスにより上記合金シートを粗粉砕処理して粉末を得て、質量が原材料の0.1wt%であるステアリン酸亜鉛を潤滑剤として粉末に添加し、60min混合した。混合後の材料を流動床式ジェットミルで微粉砕処理し、窒素ガスを研磨ガスとして、グレーディングホイールの回転速度、研磨圧力などの設備パラメータを調整することにより、目標粒度SMD=2.5μmのジェットミル粉末(即ち、合金粉末)を得て、X90/X10は4.2であった。
【0076】
(c)製造して得られた目標粒度のジェットミル粉末に、質量が原材料の0.2wt%であるステアリン酸亜鉛を潤滑剤として更に添加し、120min混合し、充分に混合した後、2Tの着磁磁場強度でビレットにプレスし、更に等方圧プレス機で180MPaの圧力、15sで等方圧処理を行い、ビレットの緻密性を向上させ、密度が4.3g/cmのビレットを得た。
【0077】
(d)ビレットを焼結炉に入れ、真空雰囲気で加熱処理し、150℃、260℃でそれぞれ100min保温して脱潤滑剤処理を行い、600℃、900℃でそれぞれ90min保温して脱ガス処理を行い、次に下記表2に示される3段焼結保温プロセスを行い、3段目の焼結保温終了後に室温に直接冷却して焼結体を得た。具体的な3段の昇温保温焼結プロセスは下記表2に示され、且つ各焼結保温段階終了後に直接昇温して次の昇温プロセスを行った。
【0078】
【表2】
【0079】
(e)二次時効処理:上記焼結体を取り、900℃に昇温して180min保温した後、200℃に冷却し、次に、更に530℃に昇温して240min保温し、保温終了後に室温に冷却し、時効処理後の磁石を得た。
【0080】
(f)時効処理後の磁石を規格φ10-10のサンプルカラムに加工し、BH装置を用いて磁石の性能を測定し、具体的な磁気性能試験の結果は表3に示された。
【0081】
【表3】
【0082】
実施例1~2で製造した磁石の垂直配向面を研磨し、走査型電子顕微鏡SEMにより磁石結晶粒のサイズを確認し、Image-Pro Plusソフトウェア分析により視野内(×2000倍)の平均結晶粒粒径を定義し、視野内の最大結晶粒の粒径を最大結晶粒粒径として定義した。×2000倍視野内で、結晶粒の数を数え、視野面積を結晶粒の数で割って単位結晶粒面積とし、円面積式により結晶粒の粒径を算出して平均粒径とし、視野内での面積が最も大きい結晶粒を取り、円面積式により結晶粒の粒径を算出し、最大結晶粒粒径とし、試験結果は表4に示された。
【0083】
電界放出型電子プローブマイクロアナライザ(FE-EPMA)(日本電子株式会社(JEOL)、8530F)を用いて検出し、磁石内の各成分の分布を分析して確認し、線走査により主相結晶粒、二粒粒界、三角粒界を通過することで、上記区域におけるCu、Ga、Alなどの元素の分布濃度の違いを確認して分析し、二粒粒界から主相結晶粒の内部0.5μmに入った位置におけるCu、Ga及びAlの原子濃度をそれぞれ[Cu]、[Ga]、[Al]と定義し、2つの主相結晶粒の中間の二粒粒界の中央位置におけるCu、Ga及びAlの原子濃度をそれぞれ[Cu]、[Ga]、[Al]と定義し、視野内で5組の隣接する主相結晶粒と二粒粒界との比の平均値を[Cu]/[Cu]と定義し、両者の濃度比により主相結晶粒及び二粒粒界におけるCu元素が相対的に均一に分布しているか否かを確認した。三角粒界において、Cu元素濃度が[Cu]/[Cu]≧2を満たす区域をCuリッチ区域として定義し、Image-Pro Plusソフトウェア分析により、Cuリッチ区域面積と粒界相総面積との比を計算した。Ga及びAlの相対分布及び濃化区域の面積占有率は同じ試験分析方法を用いた。
【0084】
上記分析方法によって測定されたCu、Ga、Alの分布及び構造特徴は下記表4に示された。
【0085】
【表4】
【0086】
図1は、実施例1の磁石におけるCuの分布を示す図であり、図1から分かるように、Cuは、主相結晶粒表層及び二粒粒界に相対的に均一に分布され、三角粒界にはCuリッチ区域が存在するが、Cuリッチ区域の面積占有率が比較的小さく、及び三角粒界でのその濃化も相対的に低かった。
【0087】
比較例1~2
(a)下記表5の磁石の目標成分に従って原料を調製し、ストリップキャスティング鋳造プロセスを用いて製造し、ネオジム鉄ボロン合金シートを得て、目標合金シートの平均厚さは0.22mmであった。
【0088】
【表5】
【0089】
実施例1~2と同じプロセスを用いて合金シートの粉砕製粉を行い、合金粉末をプレス成形し、下記表6の3段昇温保温焼結プロセスに従って焼結処理し、且つ各焼結保温段階終了後に直接昇温して次の昇温プロセスを行い、3段目の保温終了後に室温に冷却し、製造して焼結体を得た。
【0090】
二次時効処理:上記焼結体を取り、900℃に昇温して180min保温した後、200℃に冷却し、次に、更に530℃に昇温して240min保温し、保温終了後に室温に冷却し、時効処理後の磁石を得た。
【0091】
【表6】
【0092】
上記磁気性能試験方法に従って磁気性能を試験し、試験結果は表7に示され、上記磁石結晶粒粒径試験及び元素分布方法に従って試験し、結果は表8に示された。
【0093】
【表7】
【0094】
【表8】
【0095】
*比較例2の磁石設計成分にGa及びAlを添加していないため、「--」は成分濃度の比較を行わなかったことを表した。
【0096】
図2は、比較例1の磁石におけるCuの分布を示す図であり、図2から分かるように、主相結晶粒表層及び二粒粒界のCu濃化度が比較的低いが、図1と比較して、二粒粒界での相対濃度が依然として比較的高く、且つ三角粒界におけるCuリッチ区域が明らかに増加し、面積占有率が比較的高く、即ちCuが三角粒界において高度に濃化した。
【0097】
実施例1~2と比較例1~2とを比較して、比較例2のBrは実施例1~2のBrよりも若干向上したが、保磁力Hcjが大きく低下し、且つ直角度が大きく低下した。磁石の各成分元素が本発明の範囲内にある場合、そのBr及びHcjの総合的な性能がより優れ、且つ優れた直角度Hk/Hcjを有し、磁石の安定した磁場出力を確保することができる。
【0098】
実施例3
実施例3と実施例1との違いは、下記表9の3段昇温保温焼結プロセスに従って焼結処理し、且つ各段の焼結保温終了後に900℃に冷却した後、更に次の段階の昇温を行うステップ(d)であった。
【0099】
【表9】
【0100】
比較例3
比較例3と実施例1との違いは、下記表10の2段昇温保温焼結プロセスに従って焼結処理し、且つ1段の保温終了後に400℃に冷却した後、更に2段目の昇温を行うステップ(d)であった。
【0101】
【表10】
【0102】
実施例3及び比較例3で製造した磁石について、磁気性能試験、磁石結晶粒粒径及び元素分布分析を行い、磁気性能試験の結果は表11に示され、結晶粒粒径及び元素分布は表12に示された。
【0103】
【表11】
【0104】
【表12】
【0105】
実施例3と比較例3とを比較して、本発明の昇温保温焼結プロセスの使用は、従来の2段焼結プロセスよりも、周期が更に短く、且つ磁気性能が更に優れ、磁石結晶粒の異常成長を効果的に抑制し、且つCu、Ga、Al元素は、主相結晶粒及び二粒粒界の均一な分布を実現し、三角粒界でのその濃化を減少させた。
【0106】
実施例3は実施例1と比較して、各昇温保温後に、各段保温終了後に900℃以下に冷却した後、更に次の段階を昇温を行うステップを増加させ、3段の昇温降温を分けて行う焼結プロセスを用いることで、更に磁石結晶粒の異常成長を効果的に抑制し、磁石性能も若干向上した。
【0107】
実施例4
実施例3の焼結時効後の磁石を取り、長さ20mm、幅20mm、厚さ5mmのシート製品に加工し、浸漬塗布プロセスにより、磁石表面に金属Dyの薄膜を加え、次に900℃で15時間保温して拡散処理を行い、拡散温度を100℃未満に冷却した後、更に500℃に昇温して5時間時効処理を行った。最終的な磁石について磁気性能試験を行い、試験結果は下記表13に示された。
【0108】
比較例4
比較例3の焼結時効後の磁石を取り、実施例4と同じ拡散処理プロセスにより、即ち、磁石を長さ20mm、幅20mm、厚さ5mmのシート製品に加工し、浸漬塗布プロセスにより、磁石表面に金属Dyの薄膜を加え、次に900℃で15時間保温して拡散処理を行い、拡散温度を100℃未満に冷却した後、更に500℃に昇温して5時間時効処理を行った。最終的な磁石について磁気性能試験を行い、試験結果は下記表13に示された。
【0109】
【表13】
【0110】
そのうち、表13において、ΔBr、ΔHcjはそれぞれ、実施例3に対する実施例4のBr増幅及びHcj増幅、及び比較例3に対する比較例4のBr増幅及びHcj増幅を指した。
【0111】
実施例4と比較例4との結果を比較して、同じ拡散プロセスを用いて、本発明の方法で製造した磁石拡散のHcj増幅が更に優れ、最終的な磁石性能が更に優れ、その組織構造が拡散に更に適した。
【0112】
以上、本発明の実施形態について例示的に説明した。しかし、本発明の請求範囲は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨及び原則を逸脱しない範囲で当業者により行われた何れの修正、同等置換、改善なども、本発明の請求範囲内に含まれる。

図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2024-06-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高性能ネオジム鉄ボロン磁石であって、
前記磁石は、R(Fe,M)14B構造を有する主相結晶粒及び粒界相を含み、前記粒界相は、2つの主相結晶粒の間の二粒粒界と、3つ以上の主相結晶粒隙間で構成された三角粒界と、を含み、そのうち、Mは、Cu、Ga及び/又はAlを含み、Rは、Ndを含む少なくとも1種の希土類元素である、
ことを特徴とする高性能ネオジム鉄ボロン磁石。
【請求項2】
磁石の主相結晶粒の平均粒径は1.8~8μm、好ましくは2.5~6μmであり、
好ましくは、隣接する主相結晶粒におけるCuの原子濃度を[Cu]に設定し、二粒粒界におけるCuの原子濃度を[Cu]に設定し、1≦[Cu]/[Cu]<2の関係を満たし、
好ましくは、磁石内の三角粒界はCuリッチ区域を含み、三角粒界におけるCuの原子濃度を[Cu]に設定し、[Cu]/[Cu]≧2の関係を満たし、
好ましくは、粒界相の総面積に占める三角粒界のCuリッチ区域面積の比率<5%である、
ことを特徴とする請求項1に記載の磁石。
【請求項3】
隣接する主相結晶粒におけるGaの原子濃度を[Ga]に設定し、二粒粒界におけるGaの原子濃度を[Ga]に設定し、1≦[Ga]/[Ga]<2の関係を満たし、
好ましくは、磁石内の三角粒界はGaリッチ区域を含み、三角粒界におけるGaの原子濃度を[Ga]に設定し、[Ga]/[Ga]≧2の関係を満たし、
好ましくは、前記Gaリッチ区域の粒界相は非強磁性相であり、粒界相の総面積に占める三角粒界のGaリッチ区域面積の比率<5%である、
ことを特徴とする請求項1に記載の磁石。
【請求項4】
隣接する主相結晶粒におけるAlの原子濃度を[Al]に設定し、二粒粒界におけるAlの原子濃度を[Al]に設定し、1<[Al]/[Al]<2の関係を満たし、
好ましくは、磁石内の三角粒界はAlリッチ区域を含み、三角粒界におけるAlの原子濃度を[Al]に設定し、[Al]/[Al]≧2の関係を満たし、
好ましくは、粒界相の総面積に占める三角粒界のAlリッチ区域面積の比率<5%であり、
好ましくは、隣接する主相結晶粒は、二粒粒界に隣接する主相結晶粒を指す、
ことを特徴とする請求項1に記載の磁石。
【請求項5】
前記高性能ネオジム鉄ボロン磁石は遷移金属元素を更に含み、Mn、Si、Zr、Ti、Nbのうちの少なくとも1種である、
ことを特徴とする請求項1に記載の磁石。
【請求項6】
前記高性能ネオジム鉄ボロン磁石は、質量比100%で、
27~35%のRと、
0.8~1.2wt%のBと、
0~3.0wt%のCoと、
0.1~0.6wt%のCuと、
0.1~0.8wt%のGaと、
0~1.0wt%のAlと、
60~72wt%のTと、を含み、
そのうち、Rは、Ndを含む少なくとも1種の希土類元素であり、Tは、Fe及び他の遷移金属元素、並びに不可避的な不純物元素を含み、前記遷移金属元素は、請求項5に記載の意味を有する、
ことを特徴とする請求項5に記載の磁石。
【請求項7】
請求項1~6の何れか一項に記載の磁石の製造方法であって、
(a)前記磁石の各成分を溶融し、鋳造し、冷却した後に合金シートを形成する製錬プロセスと、
(b)合金シートを粉砕して合金粉末にする製粉プロセスと、
(c)合金粉末を磁場の作用下でプレス成形し、ビレットを得るプレス成形プロセスと、
(d)ビレットを焼結処理し、時効処理し、製造してネオジム鉄ボロン磁石を得る焼結プロセスと、を含む、
ことを特徴とする方法。
【請求項8】
ステップ(b)において、前記合金粉末のSMD粒度は1.8~8μm、好ましくは2.5~6μmであり、且つX90/X10≦4.5であり、
好ましくは、ステップ(d)において、焼結処理は、3段以上の焼結保温段階及び焼結保温前昇温段階を有し、例示的には3~10段であり、焼結保温段階の温度は950~1200℃、好ましくは980~1070℃であり、各段の保温時間は20~120minであり、
好ましくは、各段の焼結処理時、昇温速度は0.5~5℃/min、より好ましくは1~4℃/minであり、
好ましくは、各隣接する2段の焼結保温プロセスの間、前段の焼結保温段階終了後に次の昇温保温プロセスを直接行うか、又は前段の焼結保温段階終了後に先に冷却し、更に次の昇温保温プロセスを行い、即ち各隣接する2段の焼結保温プロセスの間に、任意のランダムなプロセスを設けることができる、
ことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記時効処理は、一次時効処理又は二次時効処理から選ばれ、
好ましくは、前記一次時効処理の条件は、時効処理温度が500~700℃、保温時間が240~420minであることであり、
好ましくは、前記二次時効処理は、昇温して温度を800~950℃とし、保温時間を180~300minとするように1回目の時効処理を行うことと、200℃以下に冷却した後、昇温して温度を450~600℃の間とし、保温時間を240~360minとするように2回目の時効処理を行うことと、を含み、
好ましくは、焼結プロセス後、拡散処理を行うこともでき、
好ましくは、前記拡散処理は、拡散材料を磁石表面に施し、真空加熱拡散処理、拡散冷却及び拡散時効処理を行うことを含み、
好ましくは、拡散材料は、Dy及び/又はTbの純金属、Dy及び/又はTbの水素化物、Dy及び/又はTbの酸化物、Dy及び/又はTbの水酸化物、Dy及び/又はTbのフッ化物合金から選ばれる少なくとも1種である、
ことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項10】
モータに使用される、請求項1~6の何れか一項に記載の磁石の応用であって、
好ましくは、新エネルギー自動車又は省エネルギー家電に使用される、
ことを特徴とする応用。
【国際調査報告】