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特表2025-503575ナノ構造を含む被膜を有するセパレータエレメント
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-04
(54)【発明の名称】ナノ構造を含む被膜を有するセパレータエレメント
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0228 20160101AFI20250128BHJP
   H01M 8/0213 20160101ALI20250128BHJP
   H01M 8/0258 20160101ALI20250128BHJP
   H01M 8/0206 20160101ALI20250128BHJP
   C25B 1/042 20210101ALI20250128BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20250128BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20250128BHJP
   C25B 13/04 20210101ALI20250128BHJP
   C25B 13/05 20210101ALI20250128BHJP
   H01G 11/52 20130101ALI20250128BHJP
   H01G 11/84 20130101ALI20250128BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20250128BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20250128BHJP
【FI】
H01M8/0228
H01M8/0213
H01M8/0258
H01M8/0206
C25B1/042
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B13/04 302
C25B13/05
H01G11/52
H01G11/84
H01M8/10 101
H01M8/12 101
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024540560
(86)(22)【出願日】2023-01-02
(85)【翻訳文提出日】2024-08-27
(86)【国際出願番号】 EP2023050015
(87)【国際公開番号】W WO2023135032
(87)【国際公開日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】2250014-4
(32)【優先日】2022-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513091308
【氏名又は名称】スモルテク アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】チー リー
(72)【発明者】
【氏名】ファビアン ウェンガー
【テーマコード(参考)】
4K021
5E078
5H126
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021CA02
4K021DB40
4K021DB49
4K021DB53
4K021DC01
4K021DC03
5E078AA03
5E078AA08
5E078AB02
5E078CA02
5E078CA06
5E078CA08
5E078CA12
5H126AA08
5H126AA12
5H126BB06
5H126DD01
5H126DD05
5H126DD14
5H126EE45
5H126GG02
5H126GG05
5H126GG06
5H126HH04
(57)【要約】
電気化学セル(100、200)のためのセパレータエレメント(300)であって、前記セパレータエレメント(300)が、導電性基体(310)と、導電性基体に被着された被膜(320)とを含む、セパレータエレメント。被膜が第1部分と第2部分とを含み、第1部分が、導電性基体(310)の表面に沿って延びる基底層(321)を含み、そして第2部分が、導電性基体(310)の表面から延びる複数のナノ構造(322)を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学セル(100、200)のためのセパレータエレメント(300)であって、前記セパレータエレメント(300)が、導電性基体(310)と、前記導電性基体に被着された被膜(320)とを含み、前記被膜が第1部分と第2部分とを含み、前記第1部分が、前記導電性基体(310)の表面に沿って延在する基底層(321)を含み、かつ前記第2部分が、前記導電性基体(310)の表面から延びてい複数のナノ構造(322)を含む、セパレータエレメント。
【請求項2】
前記基底層(321)が炭素材料を含む、請求項1に記載のセパレータエレメント(300)。
【請求項3】
前記基底層(321)が、グラフェン、グラファイト、及び非晶質炭素のいずれかを含む、請求項2に記載のセパレータエレメント(300)。
【請求項4】
前記複数のナノ構造(322)が複数の炭素ナノ構造を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載のセパレータエレメント(300)。
【請求項5】
前記複数の炭素ナノ構造(322)が、少なくとも1つの炭素ナノ壁を含む、請求項4に記載のセパレータエレメント(300)。
【請求項6】
前記複数の炭素ナノ構造(322)が、炭素ナノチューブ、炭素ナノワイヤ、及び炭素ナノ繊維のいずれかを含む、請求項4又は5に記載のセパレータエレメント(300)。
【請求項7】
前記複数の炭素ナノ構造中に含まれる前記ナノ構造が、前記導電性基体(310)の延在平面に対して垂直な方向に沿って互いに平行に延びている、請求項1から6のいずれか1項に記載のセパレータエレメント(300)。
【請求項8】
前記導電性基体(310)が流動場装置(600)を含み、前記流動場装置が、複数の流路支持体(620)によって分離された複数の流路(610)を含んでおり、前記流路が、前記導電性基体全体にわたるガス及び/又は液体の均一な分布を促進するように配置されている、請求項1から7のいずれか1項に記載のセパレータエレメント(300)。
【請求項9】
前記セパレータエレメントが、耐腐食性を高めるように配置された保護層によって少なくとも部分的に覆われている、請求項1から8のいずれか1項に記載のセパレータエレメント(300)。
【請求項10】
前記保護層がチタン、金、及び白金のいずれかを含む、請求項9に記載のセパレータエレメント(300)。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の少なくとも1つのセパレータエレメント(300)を含む、電解槽(200)。
【請求項12】
請求項1から10のいずれか1項に記載の少なくとも1つのセパレータエレメント(300)を含む、燃料電池(100)。
【請求項13】
セパレータエレメント(300)を製造する方法であって、前記セパレータエレメント(300)が導電性基体(310)と、前記導電性基体に被着された被膜(320)とを含み、前記方法が、
前記導電性基体(310)を配置すること(S1)、
前記導電性基体(310)上へ前記被膜(320)の第1部分を堆積すること(S2)、ここで、前記第1部分は、前記導電性基体の表面に沿って延びる基底層(321)を含んでいる、及び
前記導電性基体(310)上へ前記被膜(320)の第2部分を堆積すること(S3)、ここで、前記第2部分は、前記導電性基体の表面から延びる複数のナノ構造(322)を含んでいる、
を含んでいる、
セパレータエレメント(300)を製造する方法。
【請求項14】
前記被膜の第1部分を堆積すること(S2)が、化学蒸着を用いて前記基底層(321)を成長させること(S21)を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
化学蒸着を用いて前記基底層(321)を成長させることが、所期の層厚を達成するために成長パラメータを調節することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記成長パラメータが、基体温度、プラズマ出力、前駆体ガスの分圧、及び成長チャンバ内の全圧のいずれかである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記被膜の第2部分を堆積すること(S3)が、化学蒸着を用いて前記基底層(321)上に複数のナノ構造(322)を成長させること(S31)を含む、請求項13から16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
化学蒸着を用いて複数のナノ構造(322)を成長させること(S31)が、所期のナノ構造形態学的特性を達成するために成長パラメータを調節することを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記成長パラメータが、基体温度、プラズマ出力、前駆体ガスの分圧、及び成長チャンバ内の全圧のいずれかである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
化学蒸着を用いて複数のナノ構造(322)を成長させること(S31)が、種々異なるタイプの複数のナノ構造、例えばナノ壁、ナノチューブ、ナノワイヤ、及びナノ繊維を成長させることを含む、請求項17から19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
種々異なるタイプの複数のナノ構造(322)を成長させることが、種々異なるナノ構造タイプを成長させるために成長パラメータを調節することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記導電性基体(310)上に成長触媒層を堆積し、そして前記成長触媒層の上部に前記基底層(321)及び/又は前記複数のナノ構造(322)を成長させることを含む、請求項13から21のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気化学セル、例えば燃料電池及び電解槽に関し、そして具体的にはこのようなセルに適したセパレータエレメントに関する。
【背景技術】
【0002】
現代のエネルギーシステムにおいて、電気化学セル、例えばバッテリー、燃料電池、及び電解槽がますます幅広く使用されつつある。水素ガスを形成するための水の電解が、化石燃料からの水素ガスの製造に取って代わるための有望な技術である。これはまた、例えば間欠的エネルギー源、例えば太陽光発電及び風力発電からの余剰の電気エネルギーを使用して電解プロセスに給電し得るのであれば、エネルギー貯蔵のためにも有用である。その一方で、例えば車両において使用する際に化学エネルギーを電気エネルギーへ変換するために燃料電池が使用される。燃料電池は一般に内燃機関よりも効率が高く、いくつかの燃料電池は、持続可能に製造される水素ガスを燃料として使用することができる。
【0003】
既存の電気化学セルの場合、相異なるセル構成部分間の高い接触抵抗が効率の低下を招くおそれがある。この問題は、セルの化学的環境の影響を受けて、いくつかの構成部分上に非導電性表面層が形成されることにより、深刻化するおそれがある。加えて、バイポーラプレート又はセパレータプレートのような構成部分の腐食自体が、効率を低下させ、セル寿命を短くするおそれがある。
【0004】
国際公開第2021/014144号パンフレットには、耐腐食性を改善するように意図された、セパレータエレメントのための炭素系被膜が開示されている。
【0005】
国際公開第2019/186047号パンフレットには、接触抵抗が低減された電気化学セルのためのセパレータエレメントが開示されている。
【0006】
依然として、より低い接触抵抗と、より良好な耐腐食性とを示すセパレータエレメントが必要とされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示の目的は、とりわけ、隣接する構成部分との接触抵抗を低減し、そして耐腐食性を高める、電気化学セルのための改善されたセパレータエレメントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、電気化学セルのためのセパレータエレメントによって少なくとも部分的に達成される。前記セパレータエレメントは、導電性基体と、前記導電性基体に被着された被膜とを含む。前記被膜は第1部分と第2部分とを含み、前記第1部分は、前記導電性基体の表面に沿って延びる基底層を含み、そして前記第2部分は、前記導電性基体の表面から延びる複数のナノ構造を含む。
【発明の効果】
【0009】
被膜の第1部分内に含まれる基底層は、導電性基体の表面を覆い、電気化学セルの化学的環境から導電性基体を遮蔽し、そして腐食のリスクを低減するので有利である。その一方で、被膜の第2部分内に含まれる複数のナノ構造は、セパレータエレメントと、隣接するセル構成部分との間の多数の接触点を提供することにより、セパレータエレメントと、隣接するセル構成部分、例えばガス拡散層との間の接触抵抗を低減する。
【0010】
具体的には、隣接する構成部分が、リッジ、バンプ、ピット、及び/又は溝を含む、凹凸のある又は多孔質の表面を有する場合には、被膜を有しないセパレータエレメントと、隣接する構成部分との実際の接触面積は、極めて小さいと言える。それというのも、リッジ及びバンプだけしかセパレータエレメント表面と接触しないからである。セパレータエレメントが、セパレータエレメントの表面から延びる複数のナノ構造を含む被膜を有する場合、これらのナノ構造は、隣接する構成部分の表面の付加的な部分と接触し、これにより、接触面積を増大させる。このことは、セパレータエレメントと、隣接する構成部分との間の接触抵抗を低減する。
【0011】
態様によれば、基底層は炭素材料を含んでよい。数多くの炭素材料が、良好な導電性及び熱伝導性を有することで知られており、このことは、炭素材料を、セパレータエレメント被膜としての使用に適したものにし、そして具体的には接触抵抗を低減するのに適したものにするので有利である。いくつかの炭素材料はまた、電気化学セル、具体的にはプロトン交換膜(PEM)燃料電池、及びPEM電解槽のカソード側に見いだされる条件下で化学的に安定であることも知られている。例えば、基底層は、グラフェン、グラファイト、及び非晶質炭素のいずれかを含んでよい。
【0012】
前記複数のナノ構造は複数の炭素ナノ構造を含んでよい。例えば、複数の炭素ナノ構造は、少なくとも1つの炭素ナノ壁、及び/又は炭素ナノチューブ、炭素ナノワイヤ、及び炭素ナノ繊維のいずれかを含んでよい。一般的な炭素材料の前述の利点に加えて、これらの炭素ナノ構造の特性、例えば密度及び形状を、ナノ構造が製造される際の条件を変更することにより調節することができる。炭素ナノ壁、ナノ繊維、及びナノワイヤは、機械的に剛性でもあり、導電性基体の表面に対するナノ構造の好ましい配向の配向を維持するのをより容易にする。
【0013】
鉛直方向グラフェンとしても知られる炭素ナノ壁のさらなる利点は、成長触媒を使用せずにこれらを成長させ得ることである。具体的には、炭素を含む基底層と複数の炭素ナノ壁との組み合わせを、成長触媒なしに単一製造工程で成長させることができる。このことは効率的であり製造コストを下げる。
【0014】
前記複数の炭素ナノ構造中に含まれる前記ナノ構造は、前記導電性基体の延在平面に対して垂直な方向に沿って互いに平行に延びている。ナノ構造のほとんど一様なこのような配向は、隣接する構成部分、例えばガス拡散層との付加的な接触点の形成を容易にする。
【0015】
任意には、前記導電性基体は流動場装置を含む。流動場は、複数の流路支持体によって分離された複数の流路を含む。前記流路は、前記導電性基体全体にわたるガス及び/又は液体の均一な分布を促進するように配置されている。流動場全体にわたるガス及び/又は液体の均一な分布は、電気化学セル内の反応物質及び生成物の均一な分布をもたらし、セルの全域のより効率的な利用につながるので有利である。
【0016】
例えば高い又は低いpH及び高い電位から生じる、電気化学セル内の過酷な化学的環境に起因して、電気化学セルの構成部分を形成する材料は腐食のリスクがあり得る。したがって、前記セパレータエレメントは、耐腐食性を高めるように配置された保護層によって少なくとも部分的に覆われていてよい。前記保護層は例えばチタン、金、及び白金のいずれかを含んでよい。
【0017】
上記の少なくとも1つのセパレータエレメントを含む電解槽もここに開示される。セパレータエレメント内に含まれる被膜は、セパレータエレメントと、隣接する構成部分、例えばガス拡散層との間の接触抵抗を低減し、これにより電解槽の効率を高めるので有利である。
【0018】
さらに、上記少なくとも1つのセパレータエレメントを含む燃料電池も、ここに開示される。電解槽と同様に、燃料電池の効率は、セパレータエレメントと、隣接する構成部分、例えば拡散層との間の接触抵抗の低減に基づき高められる。
【0019】
目的はまた、導電性基体と、前記導電性基体に被着された被膜とを含むセパレータエレメントを製造する方法によっても、少なくとも部分的に達成される。前記方法は、前記導電性基体を配置し、そして前記導電性基体上へ前記被膜の第1部分を堆積することを含み、前記第1部分は、前記導電性基体の表面に沿って延びる基底層を含む。方法は、前記導電性基体上へ前記被膜の第2部分を堆積することをさらに含み、前記第2部分は、前記導電性基体の表面から延びる複数のナノ構造を含む。
【0020】
被膜の第1部分内に含まれる基底層は、導電性基体の表面を保護し、電気化学セルの化学的環境から導電性基体を遮蔽し、そして腐食のリスクを低減するので有利である。その一方で、被膜の第2部分内に含まれる複数のナノ構造は、セパレータエレメントと、隣接するセル構成部分との間の多数の接触点を提供することにより、セパレータエレメントと、隣接するセル構成部分、例えばガス拡散層との間の接触抵抗を低減する。
【0021】
態様によれば、有利には、前記被膜の第1部分を堆積することが、化学蒸着を用いて前記基底層を成長させることを含んでよい。化学蒸着を用いて前記基底層を成長させることの利点は、所期の結果、例えば基体表面の高度な被覆率、又は基底層の所期厚を達成するように、基底層の構造及び厚さを制御し得ることである。
【0022】
化学蒸着を用いて前記基底層を成長させることが、所期の層厚を達成するために成長パラメータを調節することを含んでよい。成長パラメータは例えば、基体温度、プラズマ出力、前駆体ガスの分圧、及び成長チャンバ内の全圧のいずれかであってよい。成長パラメータの調節は、基底層厚を制御する直接的な手段であるので、有利である。
【0023】
態様によれば、前記被膜の第2部分を堆積することが、化学蒸着を用いて前記基底層上に複数のナノ構造を成長させることを含んでよい。化学蒸着を用いて複数のナノ構造を成長させることにより、ナノ構造のタイプ、基体の単位面積当たりのナノ構造の数、及びナノ構造のサイズ及び形状のようなパラメータを制御することが可能になる。具体的には、化学蒸着を用いて複数のナノ構造を成長させることは、所期のナノ構造形態学的特性を達成するために成長パラメータを調節することを含んでよい。前記成長パラメータは、例えば基体温度、プラズマ出力、前駆体ガスの分圧、及び成長チャンバ内の全圧のいずれかであってよい。このことは、セパレータエレメントと、隣接する構成部分との間の接触抵抗のより大きな低減を達成するように、ナノ構造を調整し得ることを意味する。このことは有利である。
【0024】
化学蒸着を用いて複数のナノ構造を成長させることが、種々異なるタイプの複数のナノ構造、例えばナノ壁、ナノチューブ、ナノワイヤ、及びナノ繊維を成長させることを含んでよい。種々異なるタイプの複数のナノ構造を有することの利点は、種々異なるタイプのナノ構造の組み合わせが、或る特定の比率の基体表面を覆い、又は所期の高さ又は機械的剛性を有するナノ構造を製造するというような所期の結果を達成するために、構造全体を調整するより多くの可能性を提供することである。種々異なるタイプの複数のナノ構造を成長させることは、種々異なるナノ構造タイプを成長させるために成長パラメータを調節することを含んでよい。
【0025】
炭素材料、例えばグラフェン、グラファイト、又は非晶質炭素を含む基底層と、鉛直方向グラフェンとしても知られる炭素ナノ壁とを成長させることにより、特定の利点を達成することができる。炭素基底層と炭素ナノ壁とのこのような組み合わせは、成長触媒を使用せずに成長させることができ、これにより製造コストを下げる。
【0026】
この方法は、前記導電性基体上に成長触媒層を堆積し、そして前記成長触媒層の上部に前記基底層及び/又は前記複数のナノ構造を成長させることを含んでもよい。いくつかのタイプのナノ構造を成長させるためには、ナノ構造の成長に関与する化学反応を容易にするために成長触媒の使用が必要となり得る。成長触媒層を使用することにより、被膜内にこれらのタイプのナノ構造を含むことが可能になる。このことは有利である。
【0027】
ここに開示された方法は、種々異なる装置に関して上述したものと同じ利点と関連付けられる。
【0028】
大まかに言えば、クレーム中に使用されるすべての用語は、本明細書中に明示的に別段の定義がない限り、当該技術分野における通常の意味に従って解釈されるべきである。「ある/その(a/an/the)エレメント、装置、構成部分、手段、工程など」へのあらゆる言及は、明示的に別段の定めがない限り、そのエレメント、装置、構成部分、手段、工程などの少なくとも1つの事例を意味するものとしてオープンに解釈されるべきである。本明細書中に開示されたいかなる方法の工程も、明示的に定めのない限り、開示されたそのままの順序で実施される必要はない。添付のクレーム及び下記の説明を検討すると、本発明のさらなる特徴、及び利点が明らかになる。当業者には明らかなように、本発明の種々異なる特徴を組み合わせて、本発明の範囲を逸脱することなしに、下記のものとは異なる実施態様を形成してよい。
【0029】
添付の図面を参照しながら、本開示をここで詳述する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、燃料電池を示す概略図である。
図2図2は、電解槽を示す概略図である。
図3図3は、セパレータエレメントを示す概略図である。
図4図4A及びBは、セパレータエレメント配置を示す概略図である。
図5図5は、炭素ナノ壁を概略的に示す断面図である。
図6図6A及びBは、流動場装置を示す概略図である。
図7図7は、炭素ナノ構造を示す走査電子顕微鏡(SEM)画像である。
図8図8は、方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
添付の図面を参照しながら本開示の態様を以下に詳述する。しかしながら、本明細書中に開示された種々異なるデバイス及び方法は、多くの異なる形態で実現することができ、本明細書中に示された態様に限定するものと解釈されるべきではない。図面の同様の符号は、図面全体を通して同様のエレメントを示す。
【0032】
本明細書中に使用される用語は、開示の態様の説明を目的とするにすぎず、本発明を限定しようとするものではない。本明細書中に使用される単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が明確に別段の指示をするのでない限り、複数形をも含むものとする。
【0033】
下記説明は、2つのタイプの電気化学セル、つまり燃料電池及び電解槽に焦点を当てる。具体的には、下記説明は、プロトン交換膜を含み、そして水素ガスを燃料として使用するか、又は水から水素ガスを製造する、それぞれ燃料電池及び電解槽に取り組む。しかしながら、当業者には明らかなように、本明細書中に記載されたデバイス及び方法は、他のタイプの電気化学セル、バッテリー又はスーパーキャパシタに使用することもできる。
【0034】
本開示は、ここで詳述したもの以外のタイプの燃料電池及び電解槽、例えばメタノールを燃料として使用する燃料電池、又はアルカリ電解質を使用する電解槽に適用することもできる。具体的には、本開示は、別のタイプの固体電解質、例えばアニオン交換膜がプロトン交換膜の代わりに使用される、燃料電池及び電解槽に適用することができる。
【0035】
燃料電池の場合、燃料からの化学エネルギーが、還元反応及び酸化反応を通して電気エネルギーへ変換される。燃料電池は2つの電極と、イオンが電極間で移動するのを可能にする電解質とを含む。電極はまた電気負荷に電気的に接続されており、この電気負荷において、発生した電気エネルギーが使用される。
【0036】
燃料電池電解質は良イオン伝導体であり、すなわちイオンを輸送できなければならないと同時に、不良電子伝導体であり、すなわち電子の輸送を阻害しなければならない。燃料電池電解質は液体、例えばアルカリ塩又は溶融炭酸塩化合物の溶液、又は固体、例えばポリマー膜又は金属酸化物であってよい。ポリマー膜材料の例は、ナフィオン(Nafion)としても知られるスルホン化テトラフルオロエチレン、及びポリスルホン又はポリフェノールオキシドを基剤とするポリマーである。イオン伝導性金属酸化物は、例えばドープ型ジルコン酸バリウム、ドープ型セリウム酸バリウム、ドープ型ランタンガレート、又は安定化ジルコニアであってよい。種々異なる電解質が、異なるタイプのイオンを伝導するのに適し得る。例えば、スルホン化テトラフルオロエチレン系の膜、例えばナフィオンは、水素イオン、すなわちプロトンを伝導することができ、したがってプロトン交換膜又はPEMとして知られている。数多くの金属酸化物が、酸素イオンを伝導するのに適している。
【0037】
好ましくは、電解質はまた、一方の電極から電解質を通って他方の電極へ燃料を輸送するのを阻害するべきである。電解質膜が、燃料透過性があまりにも高い材料から形成されている場合には、燃料輸送を阻害するために、膜へ別の材料が添加されてよい。一例としては、ナフィオン膜を含むメタノール燃料電池内で、膜の一方の側にルテニウムが添加されてよい。
【0038】
イオン交換膜、例えばナフィオンを使用する燃料電池は、膜がプロトンを伝導するため、しばしばプロトン交換膜燃料電池又はPEMFCと呼ばれる。PEMFCの場合、水素含有燃料、例えば水素ガスが第1電極であるアノードにおいて導入されるのに対して、酸素含有ガスが第2電極であるカソードにおいて導入される。アノードでは、水素は電極触媒の支援によってプロトンと電子とに分解される。これは水素酸化反応と呼ばれる。プロトンはイオン交換膜を横切ってカソードに達するのに対して、電子はアノードとカソードとの間の電気接続部を横切り、この場所で、発生した電気エネルギーを利用することができる。カソードにおいて、プロトン及び電子は、酸素還元反応を介して酸素と反応することにより、水を形成する。この反応は電極触媒によって支援される。
【0039】
触媒は、例えば化学反応のために必要となるエネルギー量を低減することにより、化学反応を容易にする材料又は化合物である。電極触媒は、燃料電池内で行われる電気化学反応、例えば水素酸化反応及び酸素還元反応において使用される触媒である。燃料電池の電極触媒は貴金属、例えば白金、ルテニウム、又はパラジウムをしばしば含む。
【0040】
PEMFC、及び固体イオン伝導体を使用する他の燃料電池の場合、アノード及びカソードの触媒は、イオン交換膜の互いに対向する表面上に電極触媒層としてしばしば配置される。特にPEMFCに関しては、電極触媒層は多くの場合、ナノ粒子、すなわち1マイクロメートルを大幅に下回る、主として1~100nmの直径を有する粒子の形態を成す白金のような電極触媒材料を含む。電極触媒層は典型的には、炭素ナノ材料、例えば炭素ナノ粒子又はナノチューブ、又はカーボンブラックをしばしば含む触媒バインダー又は触媒担体をも含む。電極触媒層は、イオン交換膜への水素イオンの輸送を容易にするために配置されたイオン伝導性ポリマーと、疎水性材料、例えばポリテトラフルオロエチレンとを含んでもよい。態様によれば、触媒層は5~50nm厚であってよい。他の態様によれば、触媒層の厚さは、使用される触媒のタイプに依存してよい。
【0041】
アノード電極触媒層とカソード電極触媒層とが互いに対向する表面上に配置されたイオン交換膜は、膜電極接合体と呼ばれることがある。
【0042】
燃料電池が動作するためには、イオン及び電子がアノード側電極触媒から、それぞれイオン交換膜及び電気負荷を通って移動し、そしてカソード側電極触媒に到達できなければならない。加えて、反応ガス、例えば水素ガス及び酸素ガスは電極触媒層へ到達できなければならず、これに対して、生成物である水蒸気は電池から連続的に取り出されなければならない。大抵のPEMFCでは、このことは、導電性多孔質材料をそれぞれの電極触媒層の次の層内に配置し、そしてやはり導電性セパレータエレメントを多孔質層の隣に配置することによって達成される。
【0043】
多孔質材料層は、例えば多孔質輸送層(PTL)、質量輸送層、ガス拡散層(GDL)、又は単に拡散層と呼ばれることがある。これらの用語のいくつか、例えばガス拡散層は、燃料電池の文脈において一般に使用されるのに対して、いくつかの用語、例えば多孔質輸送層は、電解槽の文脈においてより一般的に使用される。しかしながら、これらはすべて、電極触媒層のような活性層への、そして活性層からの電子輸送、及び生成物及び反応物質の輸送の両方を同時に許す機能を発揮する多孔質材料層を意味する。したがって、上述の種々異なる用語は、燃料電池の文脈でも、電解槽の文脈でも、本開示においては相互置き換え可能に使用されることになる。
【0044】
導電性の材料、エレメント、又は構成部分はここでは、高い導電率を有する材料、エレメント、又は構成部分であると考えられる。高い導電率は、金属材料又は半導体材料と通常関連する導電率、又は100Sm-1超の導電率でもあり得る。
【0045】
図1は、イオン交換膜130と、第1電極触媒層111と、第2電極触媒層121とを含む燃料電池100を示している。第1及び第2電極触媒層111、121は、イオン交換膜の両側で、イオン交換膜に隣接して配置されている。電極触媒層の、イオン交換膜130とは反対側では、それぞれの第1電極触媒層111及び第2電極触媒層121に隣接して、第1GDL112及び第2GDL122が配置されている。第1GDL112及び第2GDL122に隣接して、それぞれの電極触媒層111、121とは反対側には、それぞれの第1セパレータエレメント113及び第2セパレータエレメント123が設けられている。各セパレータエレメントは負荷140に電気的に接続されている。
【0046】
GDL112、122は、電極触媒層とセパレータエレメントとの電気的接触をなおも維持しながら、反応物質及び生成物、例えば水素ガス、酸素ガス、及び水がGDLの孔を通って輸送されるのを可能にするように配置されている。GDLは、多孔質の導電性材料、例えば金属発泡体、多孔質炭素、又はカーボンペーパーをしばしば含む。GDLは電極触媒層111、121及びイオン交換膜130のための構造的な支持を提供することもできる。
【0047】
セパレータエレメント113、123は金属材料、例えば鋼、チタン、及び/又は他の導電性材料、例えば炭素複合体をしばしば含む。セパレータエレメント113、123は電気負荷に接続され、そしてまた燃料電池をその周囲から分離する。燃料電池が燃料電池スタックの部分を形成する場合、セパレータエレメントは1つの燃料電池のカソード側の部分と、隣接する燃料電池のアノード側の部分とを形成してよく、この場合には、セパレータエレメントはバイポーラプレートと呼ばれることがある。セパレータエレメントを示すために使用される他の可能な用語は、セパレータプレート、セパレータエレメント、又はフロープレートである。
【0048】
前述のように、本開示はまた電解槽に関する。水電解槽はその一方で、電気エネルギーを使用して水を酸素ガスと水素ガスとに分解する。電解槽は通常は、燃料電池に関して上述したものと同様の構成部分を含んでよい。具体的には、電解槽はイオン伝導性電解質と2つの電極とを含む。これらの電極のうちの一方はカソードであり、そして他方はアノードである。カソード及びアノードは電源に電気的に接続されている。プロトン交換膜、例えばナフィオンは、他の上述のポリマー膜及び固体酸化物イオン伝導体と同様に、電解槽内並びに燃料電池内の電解質として使用することができる。アルカリ溶液を含む液体電解質を使用してもよい。
【0049】
プロトン伝導性電解質、例えばPEMを含む電解槽内では、アノード側で水が導入され、水は酸素と水素とに分解される。これは酸素発生反応として知られている。
酸素は酸素ガスを形成するのに対して、水素は続いてイオン交換膜を横切ってカソードに到達するプロトンと、電源を介してカソードへ移動する電子とに分解される。
カソードでは、プロトンと電子とが、水素発生反応を介して水素ガスを形成する。
【0050】
電解槽内で使用される電極触媒は、燃料電池に使用されるものとは異なっていてよい。PEM電解質を使用する電解槽内では、アノード側の電極触媒は多くの場合、酸化イリジウムを含むのに対して、カソード側の電極触媒は概ね白金又は他の白金族の金属を含む。アニオン交換膜AEMの電解質を使用する電解槽内では、両電極触媒はその代わりに、ニッケル又はコバルトのような材料を含んでよい。
【0051】
固体電解質、例えばPEM及びAEMを含む電解槽内では、アノード及びカソードの電極触媒は多くの場合、燃料電池に関して前述したように、膜電極接合体を形成するように、電解質膜の互いに対向する側で電極触媒層内に配置される。一方又は両方の電極触媒はナノ粒子の形態を成していてよい。電極触媒自体に加えて、電極触媒層は触媒担体、例えばカーボンブラック、炭素ナノチューブ、又は金属発泡体を含んでよい。電極触媒層は、イオン伝導性ポリマーと、疎水性材料、例えばテフロン(登録商標)とを含んでもよい。
【0052】
電解質を通したイオン輸送、電極触媒へのそして電極触媒からの反応物質及び生成物の質量輸送、及びセル内のエレメント間の良好な電気的接触に対する要件は、電解槽において、燃料電池におけるものと同様である。したがって、電解槽も多くの場合、それぞれの電極触媒層に隣接して配置された多孔質拡散層と、それぞれの拡散層に隣接して配置されたセパレータエレメントとを備えている。拡散層は、しばしばチタンを含む多孔質炭素材料、金属発泡体、又は金属メッシュを含んでよい。セパレータエレメントは、例えば金属材料、例えば鋼又はチタン、又は導電性炭素複合体を含んでよい。
【0053】
図2は、イオン交換膜230と、第1電極触媒層211と、第2電極触媒層221とを含む電解槽200を示している。第1及び第2電極触媒層は、イオン交換膜の両側で、イオン交換膜230に隣接して配置されている。電極触媒層の、イオン交換膜230とは反対側では、第1電極触媒層及び第2電極触媒層に隣接して、第1多孔質輸送層212及び第2多孔質輸送層222が配置されている。第1多孔質輸送層212及び第2多孔質輸送層222に隣接して、それぞれの電極触媒層とは反対側には、それぞれの第1セパレータエレメント213及び第2セパレータエレメント223が配置されている。両セパレータエレメントは電源240に電気的に接続されている。
【0054】
燃料電池及び電解槽の両方において、セパレータエレメントとガス拡散層/多孔質輸送層との間の電気的接触抵抗を最小化すること、そして効率的な動作を維持するために構成部分の腐食を防止することが重要である。しかしながら、例えば2つの構成部分間の物理的接触が不十分である結果、セパレータエレメントと、隣接するガス拡散層との間に、より高い接触抵抗が発生することがある。この問題は、導電性ではない化合物、例えば金属酸化物がセパレータエレメントの表面上に形成されることによって深刻になり得る。
【0055】
接触抵抗及び腐食に関連する問題を軽減するために、セパレータエレメントの表面に被膜を被着することができる。図3は、電気化学セルのためのセパレータエレメント300を示している。ここでは、セパレータエレメント300は、導電性基体310と、導電性基体に被着された被膜320とを含む。被膜は第1部分と第2部分とを含む。第1部分は、導電性基体310の表面に沿って延びる基底層321を含む。第2部分は、導電性基体310の表面から延びる複数のナノ構造322を含む。
【0056】
典型的には、導電性基体310は、金属エレメント、例えばステンレス鋼又はチタンを含む平面状のエレメント又はプレートである。平面状のエレメントは2つの次元において長く延びており、第3の次元において比較的薄い。このようなエレメントが延びているこれら2つの次元は、エレメントの延在平面を画定する。
【0057】
それぞれの平面状のエレメントは概ね2つの広い境界表面を含む。これらの境界表面は延在平面に対してほとんど平行であり、そして典型的にはエレメントの最も広い境界表面である。これらの境界表面は、平面状のエレメントの第1側及び第2側と呼ぶことができる。電気化学セルの場合、導電性基体の少なくとも一方の側がガス拡散層又はGDLに面するようになっている。GDLも平面状のエレメントであってよい。この場合、導電性基体310の第1側はGDLの第1側に面していると言うことができる。
【0058】
GDLは概ね多孔質材料、例えばカーボンペーパー、カーボンフェルト、又は多孔質金属材料を含む。GDLの表面はしたがって凹凸を有することになり、例えばピット、バンプ、リッジ、及び溝を含み得る。GDLがセパレータエレメントに押し付けられると、バンプ及びリッジだけがセパレータエレメントの表面と接触するようになり得る。このことは、セパレータエレメントとGDLとが接触する実際の表面積が、セパレータエレメントの総表面積と比較して比較的小さく、より高い接触抵抗を招くことを意味する。留意すべきなのは、導電性基体310も凹凸のある表面を有し得ることであり、これは、上記問題に関与し得る。
【0059】
導電性基体310に被着された被膜320は、この問題を軽減するように配置されている。基底層321を含む被膜の第1部分は、導電性基体310の、GDLに面する側の大部分を覆っている。例えば、基底層321は表面の90%超を覆ってよい。好ましくは、基底層321は表面の100%超を覆ってよい。
【0060】
留意すべきなのは、セパレータエレメント300が、2つの隣接する電気化学セルを分離するバイポーラプレートである場合、導電性基体310の第1側に面する第1GDLと、導電性基体310の第2側に面する第2GDLとが設けられていてよい。この場合、被膜320は導電性基体310の第1側及び第2側の両方を覆ってよい。それというのも第1側及び第2側の両方がガス拡散層に面しているからである。
【0061】
被膜の第2部分は複数のナノ構造322を含む。複数のナノ構造322内に含まれるナノ構造は、被膜320によって覆われる基体の比率を高めるように配置されてよい。一例としては、基体321が表面の90%を覆う場合、複数のナノ構造322内のナノ構造のいくつかは残りの10%を覆い得る。効率的な腐食保護のために、被膜320が、導電性基体310の可能な限り大きな比率の表面を覆うようにすると有利である。
【0062】
ナノ構造は、少なくとも1つの次元において、1マイクロメートルよりも実質的に小さなサイズ、好ましくは1~100nmのサイズを有する構造である。複数のナノ構造322は、概ね平面状のナノ構造を含んでよい。これらのナノ構造は、ここでは厚さとして示される1つの次元が、ここでは長さ及び高さとして示される2つの他の次元よりも実質的に小さい。「実質的に小さい」は、例えば厚さが長さ又は高さの20%よりも小さいことを意味してよい。このようなナノ構造は、ナノ壁又はナノシートと呼ばれることがある。
【0063】
ナノ構造が概ね平面状であるということを、これが完全に平らであることを意味するととらえてはならず、2つの次元に沿って延びており且つ第3の次元に沿っては著しく小さい限り、ナノ構造が例えば凹面状、凸面状、凹凸状、又は起伏状であることを意味することもできる。
【0064】
導電性基体310の表面に対して、平面状のナノ構造の長さはここでは、導電性基体310の表面に沿って延びる次元であると考えられ、これに対して高さは、導電性基体310の表面から延びる寸法である。
【0065】
複数のナノ構造322は、ここでは高さとして示された1つの次元が、2つの他の次元よりも実質的に大きい細長いナノ構造を含んでもよい。一例として、高さと直径とによって特徴づけられるほぼ円筒形のナノ構造を考えることにする。ナノ構造は、高さが直径よりも著しく大きい場合、例えば高さが直径の2倍よりも大きい場合に、細長いと考えられる。実質的に円錐形、円錐台状、方形、又は任意の形状であるナノ構造にも、同様の推論を当てはめ得る。
【0066】
細長いナノ構造は例えば、真直ぐ、らせん状、分枝状、波状、又は傾斜状であってよい。任意には、細長いナノ構造はナノワイヤ、ナノホーン、ナノチューブ、ナノ壁、結晶性ナノ構造、又は非晶質ナノ構造として分類することができる。
【0067】
複数のナノ構造322に含まれるナノ構造は、導電性基体310の表面から出る方向に延びるものと考えることができる。この延在方向は、ここではナノ構造の高さ次元として示されているものに沿っている。ナノ構造が導電性基体の表面から延びるということは、延在方向が導電性基体の延在平面に対して所定の角度を形成すること、そしてこの角度が少なくとも30度、好ましくは45度超であることを意味するものととらえられる。任意には、角度は約90度であってよい。
【0068】
導電性基体の表面から延びることによって、複数のナノ構造322は、GDLがセパレータエレメント300と物理的に接触し得る点の数を増大させる。このことは、セパレータエレメントがGDLと接触する総表面積を増大させる。このことは、2つの構成部分間の接触抵抗を低減する。
【0069】
このように、複数のナノ構造は、セパレータエレメント300とGDLとの間の機械的接触を増大させる。機械的接触が増大すると、電気的接触が改善され、そしてナノ構造が導電性材料を含む場合には、接触抵抗が低減される。この場合、ナノ構造とGDLとの間の物理的接触はまた、電気的接触をも確立する。
【0070】
図4A及び4Bは、セパレータエレメント300と、凹凸状表面を含む多孔質ガス拡散層410とを含むセパレータエレメント装置400を示す。セパレータエレメント300とガス拡散層とは、互いに隣接して配置されている。図4Aは、被膜を有しない導電性基体310を含むセパレータエレメント300を示している。導電性基体310は、ガス拡散層410の表面が凹凸を有することに基づき、少数の点411においてしか、ガス拡散層410と接触しない。図4Bは、基底層321と複数のナノ構造322とを有する導電性基体310を含むセパレータエレメント300を示している。ナノ構造は、ガス拡散層410とセパレータエレメントとが上記のように接触している点411の数を増大させる。
【0071】
いくつかの態様によれば、複数のナノ構造内に含まれる種々異なるナノ構造の延在方向は、導電性基体の延在平面に対して種々異なる角度を有してよいので、種々異なるナノ構造は、表面から種々異なる方向に延びる。他の態様によれば、そして図3を参照すると、複数のナノ構造内に含まれるナノ構造は、導電性基体310の延在平面に対して垂直の方向に沿って、互いに平行に延びている。
【0072】
GDLとセパレータエレメントとの間の接触点の数を増大させるために、一様の方向に配向されたナノ構造を有することが有利である。このことは、ナノ構造が導電性基体310の延在平面に対して完全に真直ぐ又は完全に垂直であることを意味するようにとらえてはならない。ナノ構造は概ね、延在平面に対して垂直な方向に沿って延びていてよい。これは、延在平面の鉛直方向ベクトルに対してわずかな傾斜を有し得るか、あるいはらせん形状又は波形状を形成するために前後に湾曲し得ることを意味するように捉えることができる。この文脈において、わずかな傾斜とは、ナノ構造の延在方向と延在平面との間の角度が60度超であり、そして好ましくは80度超であることを意味し得る。
【0073】
基底層321は好ましくは、セルの化学的環境から導電性基体を遮蔽するように配置されており、これにより、その耐腐食性を高める一方で、良好な導電性をも維持する。基底層321はこのように好ましくは、電気化学セルの条件下で、高い導電性及び良好な化学安定性を有する材料を含む。基底層は金属、例えばチタン、白金、又は金、又は窒化チタンのような化合物を含んでよい。好ましくは、基底層321は炭素材料を含む。
【0074】
それらの良好な導電性及び化学的安定性に基づき、電気化学セル内では、炭素材料が頻繁に使用される。具体的には、炭素材料は燃料電池内ではアノード側及びカソード側の両方で、そして電解槽内ではカソード側で使用される。態様によれば、基底層321はグラフェン、グラファイト、及び非晶質炭素のいずれかを含む。基底層321はグラフェン発泡体又はグラファイト発泡体を含んでもよい。
【0075】
複数のナノ構造322内に含まれるナノ構造は、導電性材料、例えば金属、金属合金、半導体、及び導電性金属酸化物のいずれかを含む。具体的には、複数のナノ構造322は複数の炭素ナノ構造を含んでよい。前述の炭素材料と同様に、炭素ナノ構造も高い導電性及び良好な化学安定性を有する。加えて、例えばナノ構造の所期の密度又は形状、ナノ構造の所期サイズ、又は表面積当たりの所期ナノ構造数を得るように、ナノ構造が成長させられる条件を調節することにより、炭素ナノ構造の形状及び構造に変更を加えることもできる。
【0076】
例えばナノ構造の所期の密度又は形状、ナノ構造の所期サイズ、又は表面積当たりの所期ナノ構造数を得るために、ナノ構造が成長させられる条件を調節することにより、細長い炭素ナノ構造の形状及び構造に変更を加えることもできる。炭素ナノ構造はこれらの化学的安定性に基づき、非導電性化合物が表面上に形成される可能性が低いという利点をも有する。このことは低い電気的接触抵抗を維持するのに有利である。このことは、表面上に非導電性の金属酸化物を形成し得る、金属材料、例えば鋼又はチタンと比較して特に有利である。
【0077】
複数の炭素ナノ構造322は少なくとも1つの炭素ナノ壁を含んでよい。炭素ナノシート又は鉛直方向グラフェンとしても知られる炭素ナノ壁は、ナノ構造が成長させられる表面から所定の角度で突出する少なくとも1つのグラフェン層を含む。角度は80度超であってよく、すなわち鉛直方向グラフェンは、これが成長させられる表面から延在平面に対して垂直に近い方向に沿って突出してよい。
【0078】
グラフェンは、高い導電性と高い熱伝導性とを有している。このことはグラフェンを、セパレータエレメント300の被膜320の部分を形成するのに適したものにする。鉛直方向グラフェンは具体的には、グラフェンとGDLとの間にできる限り数多くの接触点を有する広い表面積を提供する。このことは接触抵抗を低減するのに有利である。
【0079】
基底層321が炭素材料、例えば非晶質炭素、グラフェン、又はグラファイトを含む場合、基底層と鉛直方向グラフェンとの両方を導電性基体上に成長させることにより、鉛直方向グラフェンナノ構造が基底層と一体的に形成されてよい。鉛直方向グラフェン中のグラフェンシートと、基底層321内に含まれる炭素とは、次いで鉛直方向グラフェンの基底部において接合することになる。このことは、被膜320が全体として、導電性基体の表面を、穴又はギャップの数が低減された状態で覆うのを可能にする。これは図5に概略的に示されている。この図は2つの炭素ナノ壁の構造を断面で示している。炭素ナノ壁510は、基底層から上方へ向かって延び、そして基底層に接合された状態で示されている。
【0080】
加えて、炭素基底層321と、鉛直方向グラフェンを含む複数のナノ構造322とを導電性基体上に成長させることは、特別な触媒を使用せずに達成し得る。図7は、基体上に成長させられた炭素ナノ壁又は鉛直方向グラフェンを示すSEM画像である。
【0081】
再び図3を参照すると、複数の炭素ナノ構造は、炭素ナノチューブ、炭素ナノワイヤ、及び炭素ナノ繊維のいずれかを含んでよい。炭素ナノ繊維及びナノワイヤの利点は剛性(スティフネス及びリジディティ)が高いことであり、これにより、構成部分を押し合わせるような方法によって燃料電池が集成される場合に、炭素ナノ繊維及びナノワイヤがより変形されにくくなり、また導電性基体310に対する所期配向に炭素ナノ繊維及びナノワイヤがより留まりやすくなる。炭素ナノチューブ、炭素ナノワイヤ、及び炭素ナノ繊維が一例として、複数の炭素ナノ構造内に別々に、組み合わせて、且つ/又は鉛直方向グラフェンと組み合わせて含まれてよい。有利には、炭素を含む基底層及び鉛直方向グラフェンナノ構造と一緒に、炭素ナノチューブ、炭素ナノ繊維、及び炭素ナノワイヤを導電性基体上に成長させることもできる。複数の炭素ナノ構造がいくつかのタイプの炭素ナノ構造、例えば炭素ナノ繊維と鉛直方向グラフェンとの組み合わせを含む場合、種々異なるナノ構造の特性は、例えば被膜320によって覆われる導電性基体310の表面積を最大化し、又は被膜320によって覆われる導電性基体310の表面の比率を高めるために用いることができる。
【0082】
例えばナノ構造の所期の密度又は形状、ナノ構造の所期サイズ、又は表面積当たりの所期ナノ構造数を得るように、ナノ構造が成長させられる条件を調節することにより、炭素ナノ構造の形状及び構造に変更を加えることもできる。
【0083】
電気化学セル内に使用されるセパレータエレメントは多くの場合、流動場装置を含む。流動場装置はセパレータエレメント全体にわたる反応物質の均一な分布を促進し、また反応生成物の取り出しを容易にするために使用される。均一又は一様な分布とは、反応物質の濃度が流動場装置全体にわたって同様であることを意味するように、ここではとらえられる。このように、流動場装置は、これが流動場装置なしのセパレータエレメントと比較して、反応物質の濃度をセパレータエレメント表面全体にわたってより一様にすることに関与するならば、反応物質の均一な分布を促進するように配置される。
【0084】
流動場装置の一例の概略図が図6A及びBに示されている。流動場装置600は、流路610として知られる複数の溝を含み、これらの溝はリブ又は流路支持体620として知られるリッジによって分離されている。ガス及び液体は流路610に沿って流れ、ひいてはセパレータエレメント全体にわたって広がることができる。一例としては、流路610を形成するようにセパレータエレメントの導電性基体310内に刻み目を付けることによって、流動場装置は形成されてよい。別の例としては、流動場装置は、流路支持体620を形成するようにセパレータエレメント310の表面上に材料を堆積することによって、流動場装置は形成されてよい。
【0085】
セパレータエレメントが平面状のエレメントであるときには、流動場装置は上記第1側及び第2側に、すなわちエレメントの延在平面に対して平行であるエレメントの表面上に概ね配置される。本明細書中に記載されたセパレータエレメント装置内では、流動場はセパレータエレメントの、GDLに面する表面上に配置されてよい。セパレータエレメントが電気化学セルのスタック内に使用されるバイポーラプレートである場合、セパレータエレメントの互いに対向する側に、2つの流動場装置が配置されてよい。
【0086】
図6A及び6Bに示された流動場装置600のタイプは、リブの配置が、互いに隣接する流路を通るガス及び/又は液体の平行流を促進するのに基づいて、直線平行流動場装置として知られている。他の流動場装置デザイン、例えば蛇行式、相互嵌合式、又はピンタイプの流動場装置が使用されてもよい。
【0087】
したがって、導電性基体310は流動場装置600を含んでよい。流動場装置は、複数の流路支持体620によって分離された複数の流路610を含む。流路は、流動場装置全体にわたるガス/液体の均一又は一様な分布を促進するように配置されている。すなわち、流路は、ガス及び液体の濃度を流動場装置全体にわたってより一様にすることに関与するように配置される。
【0088】
電気化学セル内の化学的環境は、何らかの材料の腐食及び/又は劣化を引き起こすおそれがある。炭素材料は燃料電池内で、そして電解槽内のカソード側で使用するのに概ね十分に化学的に安定ではあるものの、これらは、例えば電解槽内のアノード側で使用するためには付加的な表面処理を必要とすることがある。セパレータエレメント内に使用される他の材料、例えばステンレス鋼も、電気化学セル内の環境に耐えるために付加的な処理を必要とすることがある。したがって、セパレータエレメントは、耐腐食性を高めるために配置された保護層によって少なくとも部分的に覆われてよい。保護層はチタン、金、及び白金、又はこれらの組み合わせを含んでよい。保護被膜は窒化チタン、セラミック材料又は金属酸化物、例えば酸化アルミニウム、酸化セリウム、及び酸化ジルコニウムを含んでもよい。保護被膜は炭素系材料を含んでもよい。保護被膜は、被膜320の少なくとも一部を覆ってよい。保護被膜は、導電性基体310の、被膜320によって覆われていない表面、例えば導電性基体310の反対側又はエッジを覆ってもよい。
【0089】
前述の少なくとも1つのセパレータエレメント300を含む電解槽100、並びに前述の少なくとも1つのセパレータエレメント300を含む燃料電池200も、ここに開示される。
【0090】
図8は、セパレータエレメント300を製造する方法を示しており、セパレータエレメントは導電性基体310と、導電性基体に被着された被膜320とを含む。方法は、導電性基体310を配置し(S1)、そして導電性基体310上へ被膜320の第1部分を堆積する(S2)、ことを含む。被膜320の第1部分は、導電性基体の表面に沿って延びる基底層321を含む。方法はまた、導電性基体310上へ被膜320の第2部分を堆積する(S3)、ことを含み、第2部分は、導電性基体の表面から延びる複数のナノ構造322を含む。
【0091】
導電性基体は、ステンレス鋼又はチタンのような材料を含んでよい。被膜の第1部分及び第2部分は、金属、金属合金、半導体、及び導電性金属酸化物のような材料を含んでよい。被膜の第1部分及び第2部分は、炭素材料を含んでもよい。
【0092】
蒸発、メッキ、スパッタリング、分子線エピタキシー、パルスレーザー堆積、スピン塗布、スプレー塗布のような方法、又は他の適宜の方法を用いて、基底層321が堆積されてよい。堆積法は、基底層321内に含まれる材料に応じて選択されてよい。
【0093】
リソグラフィック法、例えばコロイダル・リソグラフィ又はナノスフィア・リソグラフィ、集束イオンビーム機械加工、及びレーザー機械加工を通して、複数のナノ構造322が生成されてよい。炭化物又は金属有機化合物、例えば炭化チタン及びフェロセンのエレクトロスピニング又は塩素化のような方法を用いて、炭素又は有機化合物を含むナノ構造が生成されてよい。生成されたナノ構造は次いで、導電性基体310又は基底層321上へ堆積することができる。
【0094】
好ましくは、被膜の第1部分及び/又は第2部分を堆積するために、化学蒸着(CVD)法を用いることができる。一般に、CVDプロセスは、基体を前駆体ガスに晒すことを含む。前駆体ガスを続いて基体の表面上で反応させることにより、所期の構造を生成する。構造の形成は、基体温度、成長チャンバ内の圧力、他のガス、例えば不活性キャリアガス又は還元ガスの存在、及び成長触媒の存在のようなファクタによって支援されてよい。
【0095】
CVD法の例は、ラピッドサーマルCVD、ホットフィラメントCVD、レーザーCVD、燃焼CVD、及びプラズマ支援CVDを含む。プラズマ支援CVD又はPECVDは、容量結合プラズマPECVD、誘導結合プラズマPECVD、高周波数プラズマPECVD、DCプラズマCVD、及びマイクロ波プラズマPECVD、のような方法をさらに含む。
【0096】
態様によれば、被膜の第1部分を堆積する(S2)ことが、化学蒸着を用いて基底層321を成長させる(S21)ことを含んでよい。任意には、基底層321は、ホットフィラメントCVD又はラピッドサーマルCVDを用いて堆積されてよい。
【0097】
基底層321はPECVDを用いて堆積されてもよい。一実施例によれば、基底層321は、低いプラズマ出力、例えば5~50wのプラズマ出力を使用して堆積されてよい。別の実施例によれば、プラズマ出力は、望ましい特性、例えば高い密度又は所期の構造を有する基底層をもたらすように調節されてよい。
【0098】
CVDを用いた基底層321の成長は、複数の成長パラメータ、例えば温度、圧力、そして前駆体ガス、還元ガス及び不活性キャリアガスとしてどのガスが使用されるか、並びに前駆体ガス、還元ガス、及び不活性キャリアガスの相対濃度によって制御される。PECVDの場合、プラズマ出力、及びプラズマのタイプ、例えばRFプラズマ又はDCプラズマも、成長パラメータである。これらの成長パラメータは、基底層321の特性、例えば厚さ及び構造に影響を与える。したがって、化学蒸着を用いて前記基底層321を成長させることは、所期の層厚を達成するために、これらの成長パラメータのうちの1つ又はいくつかを調節することを含む。
【0099】
他の態様によれば、被膜の第2部分を堆積する(S3)ことが、化学蒸着を用いて基底層321上に複数のナノ構造322を成長させる(S31)ことを含む。好ましくは、複数のナノ構造322はPECVDを用いて成長させられてよい。
【0100】
基底層321を成長させるのと同様に、CVDによって成長させられる、結果として生じた複数のナノ構造の特性は、成長パラメータ、例えば温度、圧力、そして前駆体ガス、還元ガス及び不活性キャリアガスとしてどのガスが使用されるか、並びに前駆体ガス、還元ガス、及び不活性キャリアガスの相対濃度に依存する。PECVDの場合、プラズマ出力、及びプラズマのタイプ、例えばRFプラズマ又はDCプラズマも、成長パラメータである。化学蒸着を用いて複数のナノ構造322を成長させる(S31)ことは、所期のナノ構造形態学的特性を達成するために、これらの成長パラメータのうちの1つ又はいくつかを調節することを含み得る。
【0101】
複数のナノ構造はただ1つのタイプのナノ構造、例えばただ1つのタイプのナノ構造、例えばナノ壁、ナノチューブ、ナノワイヤ、又はナノ繊維を含んでよい。複数のナノ構造は種々異なるタイプのナノ構造、例えばナノ壁とナノ繊維との組み合わせを含んでもよい。したがって、化学蒸着を用いて複数のナノ構造322を成長させる(S31)ことは、種々異なるタイプの複数のナノ構造、例えばナノ壁、ナノチューブ、ナノワイヤ、及びナノ繊維を成長させることを含んでよい。種々異なるタイプの複数のナノ構造322を成長させることは、種々異なるナノ構造タイプを成長させるために成長パラメータ、例えば温度、圧力、又はプラズマ出力を調節することによって達成され得る。調節し得る他のパラメータは、前駆体ガス、還元ガス及び不活性充填剤ガスとしてどのガスが使用されるかということ、並びに前駆体ガス、還元ガス、及び不活性キャリアガスの相対濃度である。プラズマのタイプ、例えばRFプラズマ又はDCプラズマを変更することにより、成長結果に影響を与えることもできる。
【0102】
種々異なるタイプのナノ構造が順次に成長させられる場合、これは、導電性基体310の、ナノ構造によって覆われる表面の比率を高めるために使用されてよい。一例としては、複数のナノ壁が先ず成長させられ、そして複数のナノ繊維が続いて成長させられる場合、ナノ繊維はナノ壁間のギャップを埋め、これにより被覆率を高め得る。
【0103】
成長プロセスは、基体上の付加的な層、例えば補助層又は成長触媒層の堆積を必要とし得る。成長触媒層は、触媒的に活性であり、且つ成長させられるナノ構造の形成に含まれる化学反応を促進する材料を含む。例えば、成長させられるナノ構造の特性を制御し、鉛直方向に配向される成長を容易にし、あるいはその他の点で成長プロセス結果を改善するために、補助層が使用されてよい。触媒層又は補助層、又はその両方は、ニッケル、鉄、白金、パラジウム、ニッケル-シリサイド、コバルト、モリブデン、又は金のような材料を含んでよい。したがって、方法は、導電性基体310上に成長触媒層を堆積し、そして成長触媒層の上部に基底層321及び/又は複数のナノ構造322を成長させることを含んでよい。
【0104】
蒸発、メッキ、スパッタリング、分子線エピタキシー、パルスレーザー堆積、スピン塗布、スプレー塗布のような方法、又は他の適宜の方法を用いて、補助層又は成長触媒層が堆積されてよい。一実施例によれば、成長触媒層は均一な成長触媒材料層を含んでよい。別の実施例によれば、成長触媒層は複数の成長触媒ナノ粒子を含んでよい。
【0105】
いくつかの態様によれば、ナノ構造の成長後に補助層又は触媒層の一部を、例えばエッチングによって除去してもよい。補助層又は触媒層の除去された部分は、成長させられたナノ構造間に延びる部分であってよい。
【0106】
いくつかの事例では、複数のナノ構造322は、好ましくは成長触媒の支援によって成長させられた1つのタイプのナノ構造と、好ましくは成長触媒なしで成長させられた別のタイプのナノ構造とを含んでよい。この事例では、成長触媒を必要とするタイプのナノ構造が、成長パラメータの第1集合を用いて先ず成長させられてよい。成長触媒を必要としないタイプのナノ構造が、次いで成長パラメータの第2集合を用いて成長させられてよい。
【0107】
いくつかの態様によれば、方法は、セパレータエレメント上に保護被膜を堆積することを含んでもよい。保護被膜は耐腐食性を高めるように配置される。保護被膜は例えば、チタン、窒化チタン、金、及び白金のうちのいずれかを含んでよい。
【0108】
一実施例によれば、基底層321は炭素材料、例えばグラフェン、グラファイト、ダイヤモンド様炭素、又は非晶質炭素を含んでよいのに対して、複数のナノ構造322は炭素ナノ壁又は鉛直方向グラフェンを含んでよい。複数のナノ構造322は、炭素ナノ繊維、炭素ナノチューブ、及び炭素ナノワイヤのいずれかを含んでもよい。
【0109】
有利には、炭素材料を含む基底層321と、鉛直方向グラフェンを含む複数のナノ構造322とを含む被膜を、単一プロセス工程でCVDを用いて、任意には成長触媒を使用することなしに成長させてよく、これにより、他の被膜と比較して製造コストを下げる。単一プロセス工程とは、基体が成長チャンバから取り出されるか又は基底層321と複数のナノ構造322とを成長させる間にハンドリングされることを必要とするのではなく、基底層及び複数のナノ構造の両方の成長を、CVDプロセスの成長パラメータを調節することにより達成し得ることを意味するものと、ここではとらえられる。
【0110】
炭素を含む基底層と、複数の炭素ナノ壁とを基体上に成長させる方法もここに記載される。この方法は、基体を配置し、化学蒸着(CVD)を用いて基体上に炭素基底層を堆積し、そしてCVDを用いて基体上に複数の炭素ナノ壁を成長させる、ことを含む。
【0111】
基体は、上記のように、例えばステンレス鋼又はチタンを含む導電性基体であってよい。基体は、任意にはシリコン、ガラス、セラミックス、又は炭化ケイ素のような材料を含む、任意の他の適宜の基体であってもよい。
【0112】
一般に、CVDプロセスは、基体を前駆体ガスに晒すことを含む。前駆体ガスを続いて基体の表面上で反応させることにより、所期の構造を生成する。構造の形成は、基体温度、成長チャンバ内の圧力、不活性キャリアガス及び/又は還元ガスの存在、及び成長触媒の存在のようなファクタによって支援される。炭素構造を成長させるために、前駆体ガスは炭化水素ガス、例えばアセチレン又はメチレンであってよく、そして還元ガスは水素ガス又はアンモニアであってよい。キャリアガスは、例えばアルゴン又は窒素ガスであってよい。
【0113】
炭素基底層、及び複数の炭素ナノ壁は、CVD法、例えばラピッドサーマルCVD、ホットフィラメントCVD、レーザーCVD、又は燃焼CVDによって成長させられてよい。任意には、炭素基底層、及び複数の炭素ナノ壁は、プラズマ支援CVD、PECVDによって成長させられる。PECVDは、容量結合プラズマPECVD、誘導結合プラズマPECVD、高周波数プラズマPECVD、DCプラズマCVD、及びマイクロ波プラズマPECVD、のような方法をさらに含む。
【0114】
炭素基底層の成長中、基体温度は好ましくは、前駆体ガスが基体上で解離するのを可能にするように選択される。これは、炭素基底層の成長を促進する。必要とされる正確な温度は、用いられる具体的なCVD法、及び他のパラメータ、例えば圧力、プラズマ出力、及びプラズマのタイプの設定に依存することになる。一実施例によれば、炭素基底層は500~1000℃の基体温度で、サーマルCVDを用いて成長させることができる。別の実施例によれば、炭素基底層は約600℃の基体温度で、RF-CVDを用いて成長させることができる。第3実施例によれば、炭素基底層は1000℃近くの基体温度で、ホットフィラメントCVDを用いて成長させることができる。
【0115】
有利には、炭素基底層が成長させられたら、成長チャンバ内の成長条件を変更することにより、炭素ナノ壁の成長を開始してよい。このことは、用いられるCVDの、例えばサーマルCVDからプラズマ支援CVDへの変更を伴ってよい。これは前駆体ガス、還元ガス、又は不活性充填剤ガスの変更、又は種々異なるガスの相対濃度の調節を伴ってもよい。温度及び圧力が変更されてもよい。PECVDの場合には、プラズマ出力が調節されてよい。プラズマのタイプを例えばDCプラズマからRFプラズマへ、又はその逆に変更してもよい。
【0116】
一実施例によれば、炭素ナノ壁の成長を開始することは、前駆体ガスを例えばアセチレンからメタンへ変更することを伴ってよい。別の実施例によれば、炭素ナノ壁の成長を開始することは、還元ガスをアンモニアの代わりに水素へ切り換え、又は不活性充填剤ガスをアルゴンへ変更することを伴ってよい。第3実施例によれば、炭素ナノ壁の成長を開始することは、温度を700℃超へ、又は圧力を1~10mbarの間へ設定することを伴ってよい。
【0117】
炭素基底層と複数の炭素ナノ壁とを含む被膜の利点は、成長触媒を使用することなしに両者を成長させ得ることである。しかしながら、いくつかの状況下では、基体を配置することは、成長触媒層又は補助層を堆積することをなおも含んでよい。具体的には、炭素ナノ壁に加えて別のタイプの炭素ナノ構造、例えば炭素ナノ繊維又は炭素ナノチューブを成長させるために、成長触媒が使用されてよい。
【0118】
成長触媒層は、触媒的に活性であり、且つ成長させられるナノ構造の形成に含まれる化学反応を促進する材料を含む。例えば、成長させられるナノ構造の特性を制御し、鉛直方向に配向される成長を容易にし、あるいはその他の点で成長プロセス結果を改善するために、補助層が使用されてよい。触媒層又は補助層、又はその両方は、ニッケル、鉄、白金、パラジウム、ニッケル-シリサイド、コバルト、モリブデン、又は金のような材料を含んでよい。
【0119】
蒸発、メッキ、スパッタリング、分子線エピタキシー、パルスレーザー堆積、スピン塗布、スプレー塗布のような方法、又は他の適宜の方法を用いて、補助層又は成長触媒層が堆積されてよい。一実施例によれば、成長触媒層は均一な成長触媒材料層を含んでよい。別の実施例によれば、成長触媒層は複数の成長触媒ナノ粒子を含んでよい。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図7
図8
【国際調査報告】