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特表2025-503625非ステロイド性抗炎症薬を含む涙小管内挿入物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-04
(54)【発明の名称】非ステロイド性抗炎症薬を含む涙小管内挿入物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/165 20060101AFI20250128BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20250128BHJP
   A61K 9/00 20060101ALI20250128BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20250128BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20250128BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20250128BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20250128BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20250128BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20250128BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250128BHJP
   A61K 31/352 20060101ALI20250128BHJP
【FI】
A61K31/165
A61P27/02
A61K9/00
A61K47/10
A61K47/32
A61K47/34
A61K47/36
A61K47/42
A61K45/00
A61P43/00 121
A61K31/352
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024541021
(86)(22)【出願日】2023-01-06
(85)【翻訳文提出日】2024-08-02
(86)【国際出願番号】 US2023010319
(87)【国際公開番号】W WO2023133276
(87)【国際公開日】2023-07-13
(31)【優先権主張番号】63/297,776
(32)【優先日】2022-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】521465348
【氏名又は名称】オキュラ セラピューティクス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(72)【発明者】
【氏名】ブリザード,チャールズ,ディー.
(72)【発明者】
【氏名】デサイ,アンキタ
(72)【発明者】
【氏名】エル-ハイエク,ラミ
(72)【発明者】
【氏名】ゴールドステイン,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ジャレット,ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ウズン,オクテイ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA51
4C076AA94
4C076BB24
4C076BB32
4C076CC01
4C076CC04
4C076EE16
4C076EE23
4C076EE24
4C076EE26
4C076EE30
4C076EE41
4C076FF31
4C084AA19
4C084MA67
4C084NA05
4C084ZA331
4C084ZA332
4C084ZC751
4C084ZC752
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA67
4C086NA05
4C086NA12
4C086ZA33
4C206AA01
4C206AA02
4C206GA09
4C206GA22
4C206KA01
4C206MA02
4C206MA05
4C206NA12
4C206ZA21
4C206ZA33
4C206ZB11
4C206ZC75
(57)【要約】
特定の実施形態では、本発明は、疼痛及び炎症の処置のための、ハイドロゲルに分散されたネパフェナクを含有する持続放出生分解性涙小管内挿入物に関する。本発明の特定の実施形態によれば、生分解性挿入物を眼の上涙小管及び/または下涙小管に投与することにより、疼痛及び炎症が処置される。挿入物は、単回投与のみで、薬物が枯渇した挿入物の除去を必要とせず、例えば、1週間以上の期間中、患者の疼痛及び炎症を処置するのに有効である、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬の持続放出を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
持続放出生分解性眼内挿入物であって、ハイドロゲルと、約0.1~約1.2mgのネパフェナクまたはその薬学的に許容される塩を含み、前記ネパフェナクが、前記ハイドロゲル内に分散されている、前記持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項2】
前記挿入物が、約0.1~約1.0mgのネパフェナクを含有する、請求項1に記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項3】
前記挿入物が、投与後最大約2週間または1ヶ月の期間にわたる、治療有効量のネパフェナクの放出を提供する、請求項1または2に記載の持続放出生分解性挿入物。
【請求項4】
前記ネパフェナクが、ネパフェナク塩基である、先行請求項のいずれかに記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項5】
前記挿入物が、涙小管内挿入物である、先行請求項のいずれかに記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項6】
約0.2mg~約0.8mgのネパフェナクを含む、先行請求項のいずれかに記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項7】
約0.2mgのネパフェナクを含む、請求項6に記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項8】
約0.3mgのネパフェナクを含む、請求項6に記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項9】
約0.4mgのネパフェナクを含む、請求項6に記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項10】
約0.5mgのネパフェナクを含む、請求項6に記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項11】
約0.6mgのネパフェナクを含む、請求項6に記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項12】
前記挿入物が、円筒形または本質的に円筒形である、先行請求項のいずれかに記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項13】
前記挿入物が、非円筒形である、請求項1~11のいずれかに記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項14】
前記挿入物が、円筒形または本質的に円筒形であり、乾燥状態で、長さが、約3.5mm未満、約3.2mm未満、または約3.0mm未満である、請求項1~12のいずれかに記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項15】
前記挿入物が、円筒形または本質的に円筒形であり、乾燥状態で、直径が、約3.2mm未満である、請求項1~12及び14のいずれかに記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項16】
前記挿入物が、円筒形または本質的に円筒形であり、乾燥状態で、長さが、約2.8mm~約3.2mmであり、直径が、約0.4mm~約0.8mmである、請求項1~12、14、または15に記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項17】
前記挿入物が、円筒形または本質的に円筒形であり、水分吸収時(37℃でpH7.2のリン酸緩衝生理食塩水中で24時間後)、前記挿入物の直径が、増加し、前記挿入物の長さが、減少する、請求項1~12または14~16に記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項18】
水分吸収状態の前記挿入物の直径対乾燥状態の前記挿入物の直径の比が、約1.5~約4の範囲にある、請求項17に記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項19】
水分吸収状態の前記挿入物の直径対乾燥状態の前記挿入物の直径の比が、約2~約3.5の範囲にある、請求項18に記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項20】
水分吸収状態の前記挿入物の長さ対乾燥状態の前記挿入物の長さの比が、約0.99以下である、請求項17~19のいずれかに記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項21】
水分吸収状態の前記挿入物の長さ対乾燥状態の前記挿入物の長さの比が、約0.95以下である、請求項20に記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項22】
前記挿入物が、円筒形または本質的に円筒形であり、水分吸収状態で(37℃でpH7.2のリン酸緩衝生理食塩水中で24時間後)、長さ対直径の比が、1超または1.2超または約1.4超または約1.7超である、請求項1~12または14~21のいずれかに記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項23】
前記挿入物が、円筒形または本質的に円筒形であり、水分吸収状態で、直径が、約1.2mm~約2.2mmの範囲であり、長さが、約2.0mm~約3.0mmの範囲である、請求項1~12または14~22のいずれかに記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項24】
総重量が、約50~約1200μgの範囲にある、先行請求項のいずれかに記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項25】
総重量が、約400~約1100μgまたは約650~約1000μgの範囲である、請求項24に記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項26】
前記挿入物が、投与後約12時間以上にわたる、治療有効量のネパフェナクの放出を提供する、先行請求項のいずれかに記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項27】
前記挿入物が、投与後最大約7日間、または最大約14日間にわたる、治療有効量のネパフェナクの放出を提供する、先行請求項のいずれかに記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項28】
前記挿入物が、投与後最大約21日間にわたる、治療有効量のネパフェナクの放出を提供する、先行請求項のいずれかに記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項29】
前記挿入物が、投与後最大約5日間にわたる、アンフェナクの臨床的に有効な薬物レベルを提供するために、ネパフェナクの前記放出を提供する、請求項28に記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項30】
前記挿入物が、投与後最大約7日間にわたる、アンフェナクの臨床的に有効な薬物レベルを提供するために、ネパフェナクの前記放出を提供する、請求項28に記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項31】
前記挿入物が、投与後最大約14日間にわたる、アンフェナクの臨床的に有効な薬物レベルを提供するために、ネパフェナクの前記放出を提供する、請求項28に記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項32】
前記挿入物が、投与後約7日以内、または約14日以内、または約1ヶ月以内、または約2ヶ月以内に生分解する、先行請求項のいずれかに記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項33】
前記ネパフェナクが前記挿入物から完全にまたは実質的に完全に枯渇した後、前記挿入物が、生分解する、請求項32に記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項34】
前記ハイドロゲルが、ポリアルキレングリコール、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリアルキレンオキシド、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ乳酸、ポリ乳酸-コ-グリコール酸、ランダムもしくはブロックコポリマー、またはこれらのいずれかの組み合わせもしくは混合物のうちの1つ以上の単位、あるいは、ポリアミノ酸、グリコサミノグリカン、多糖類、またはタンパク質のうちの1つ以上の単位、を含むポリマーネットワークを含む、先行請求項のいずれかに記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項35】
前記ハイドロゲルが、同じかまたは異なり且つ約10,000~約60,000ダルトンの数平均分子量を有するマルチアームPEG単位を含む、請求項34に記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項36】
前記ハイドロゲルが、同じかまたは異なり且つ約10,000~約40,000ダルトン、または約20,000ダルトンの数平均分子量を有するマルチアームPEG単位を含む、請求項35に記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項37】
前記ハイドロゲルが、架橋されたPEG単位を含み、前記PEG単位間の架橋が、以下の式で表される基を含む、請求項35または36に記載の持続放出生分解性眼内挿入物:

【化1】
(式中、mは、0~10の整数、例えば、2である)。
【請求項38】
前記PEG単位が、4a20kPEG単位などの約20,000ダルトンの数平均分子量を有する4アーム及び/または8アームPEG単位を含む、請求項35~37のいずれかに記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項39】
乾燥状態の前記挿入物が、約25重量%~約75重量%の前記ネパフェナクと、約75重量%~約25重量%のポリマー単位(乾燥組成物)を含む、請求項34~38のいずれかに記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項40】
乾燥状態の前記挿入物が、約40重量%~約70重量%のネパフェナクと、約20重量%~約60重量%のPEG単位(乾燥組成物)を含む、請求項39に記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項41】
乾燥状態の前記挿入物が、約50重量%~約70重量%のネパフェナクと、約25重量%~約50重量%のPEG単位(乾燥組成物)を含む、請求項39に記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項42】
前記挿入物が、涙小管内挿入物であり、約0.10mg~約1.2mgのネパフェナクを含み、円筒形または本質的に円筒形であり、前記ハイドロゲルが、架橋された4a20kPEG単位を含み、前記PEG単位間の架橋が以下の式で表される基を含む、請求項1に記載の持続放出生分解性眼内挿入物:
【化2】
(式中、mは、2である)。
【請求項43】
前記挿入物が、投与後最大約7日間または最大約14日間または最大約21日間または最大約30日間にわたるネパフェナクの放出を提供する、請求項42に記載の持続放出生分解性挿入物。
【請求項44】
前記挿入物が、涙小管内挿入物であり、約0.4mg~約0.6mgのネパフェナクを含み、円筒形または本質的に円筒形であり、乾燥状態で、直径が約0.4mm~約0.7mmの範囲であり、長さが約2.8mm~約3.2mmの範囲であり、水分吸収状態で(37℃でpH7.2のリン酸緩衝生理食塩水中で24時間後)では直径が約1.2mm~約2.0mmの範囲であり、長さ対直径の比が1.2を超え、前記ハイドロゲルが架橋された4a20kPEG単位を含み、前記PEG単位間の架橋が以下の式で表される基を含む、請求項1に記載の持続放出生分解性眼内挿入物:
【化3】
(式中、mは、2である)。
【請求項45】
前記挿入物が、投与後最大約7日間または最大約14日間または最大約1ヶ月間にわたる、ネパフェナクの放出を提供する、請求項44に記載の持続放出生分解性挿入物。
【請求項46】
前記ネパフェナクが、d90粒径が約10~5μm以下、及び/またはd50粒径が約6~3μm以下、及び/またはd10粒径が約2または1μm以下である、先行請求項のいずれかに記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項47】
可視化剤を含有する、先行請求項のいずれかに記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項48】
前記可視化剤が、フルオレセインなどのフルオロフォアである、先行請求項のいずれかに記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項49】
前記挿入物が、抗菌防腐剤を含まないか、または実質的に含まない、先行請求項のいずれかに記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項50】
請求項1~49のいずれかに記載の持続放出生分解性眼内挿入物を製造する方法であって、前記方法が、ポリマーネットワーク及びハイドロゲル内に分散しているネパフェナク粒子を含む前記ハイドロゲルを形成するステップ、前記ハイドロゲルを成形するステップ、及び前記ハイドロゲルを乾燥させるステップを含む、前記方法。
【請求項51】
前記ポリマーネットワークが、ネパフェナク粒子の存在下で緩衝溶液中で、求電子基含有PEG前駆体を求核基含有架橋剤と混合し、反応させること、及び前記混合物をゲル化させて、前記ハイドロゲルを形成することにより形成される、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記架橋剤が、アミン基を含む、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記架橋剤が、トリリジンまたはトリリジンアセタートである、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記PEG前駆体の前記求電子基が、活性エステル基である、請求項51~53のいずれかに記載の方法。
【請求項55】
前記PEG前駆体が、4a20kPEG-SGである、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
可視化剤を前記ポリマーネットワークとコンジュゲートさせることを含む、請求項50~55のいずれかに記載の方法。
【請求項57】
前記ポリマー前駆体を架橋する前に、前記可視化剤を前記架橋剤とコンジュゲートさせることを含む、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記可視化剤が、フルオレセイン、フルオレセイン誘導体、または別のフルオロフォアである、請求項56または57に記載の方法。
【請求項59】
前記ハイドロゲルを完全にゲル化する前に、前記混合物をモールドまたはチューブにキャストすることにより、前記ハイドロゲルを成形して、ハイドロゲルストランドを形成すること、及び前記ハイドロゲルストランドを乾燥させること、を含む、請求項51~58のいずれかに記載の方法。
【請求項60】
さらに、前記ハイドロゲルの乾燥前または乾燥後に、前記ハイドロゲルストランドを伸張させること(湿式伸張または乾式伸張)を含む、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
さらに、前記ハイドロゲルの乾燥前に、前記ハイドロゲルストランドを縦方向に約1~約5の範囲の伸張係数で伸張させること(湿式伸張)を含む、請求項59に記載の方法。
【請求項62】
前記伸張係数が、約2.2~約2.8の範囲にある、請求項60または61に記載の方法。
【請求項63】
処置を必要とする患者の疼痛及び炎症を処置する方法であって、前記方法が、請求項1~49のいずれかに記載の、または請求項50~62のいずれかに記載の方法に従って製造された持続放出生分解性眼内挿入物を前記患者に投与することを含む、前記方法。
【請求項64】
前記処置が、白内障手術後の疼痛及び炎症のうちの1つ以上に対するものである、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
処置を必要とする患者の疼痛及び炎症を処置する方法であって、前記方法が、ハイドロゲル及びネパフェナクを含む持続放出生分解性眼内挿入物を前記患者に涙小管内投与することを含み、ネパフェナク粒子が、前記ハイドロゲル内に分散されている、前記方法。
【請求項66】
前記処置期間が、最大約14日間または1ヶ月間である、請求項63~65のいずれかに記載の方法。
【請求項67】
前記挿入物が、請求項1~49のいずれかに記載の、または請求項50~62のいずれかに記載の方法に従って製造される持続放出生分解性眼用挿入物である、請求項65または66に記載の方法。
【請求項68】
前記挿入物が、請求項42に定義される通りであり、前記処置期間が、最大7日間であるか、または約7日間である、請求項63~67のいずれかに記載の方法。
【請求項69】
前記挿入物が、請求項44に定義される通りであり、前記処置期間が、最大14日間であるか、または約14日間である、請求項63~67のいずれかに記載の方法。
【請求項70】
前記挿入物が、眼の涙小管内に挿入することにより投与される、請求項63~69のいずれかに記載の方法。
【請求項71】
前記挿入物が、下涙小管及び/または上涙小管に投与される、請求項70に記載の方法。
【請求項72】
前記挿入物が、片側に投与される、請求項63~71のいずれかに記載の方法。
【請求項73】
前記挿入物が、両側に投与される、請求項63~71のいずれかに記載の方法。
【請求項74】
第1の挿入物がまだ涙小管内に保持されている間に、さらなる持続放出生分解性挿入物を前記涙小管内に投与すること(「挿入物スタッキング」)を含む、請求項63~73のいずれかに記載の方法。
【請求項75】
前記第1の挿入物のネパフェナクが完全にまたは本質的に完全に枯渇している時に、前記さらなる挿入物が投与される、請求項74に記載の方法。
【請求項76】
前記持続放出生分解性涙小管内挿入物による疼痛及び炎症の前記処置が、疼痛及び炎症の別の処置と組み合わされるか、またはその後に行われる、請求項63~75のいずれかに記載の方法。
【請求項77】
前記別の処置が、白内障手術後の疼痛及び/または炎症に対するものである、請求項76に記載の方法。
【請求項78】
請求項63~77のいずれかに記載の方法に使用される、請求項1~49のいずれかに記載の持続放出生分解性眼内挿入物、または請求項50~62のいずれかに記載の方法に従って製造された持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項79】
請求項63~77のいずれかに記載の方法に使用される薬剤の調製のための、請求項1~49のいずれかに記載の持続放出生分解性眼内挿入物、または請求項50~62のいずれかに記載の方法に従って製造された持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項80】
キットであって、請求項1~49のいずれかに記載の、または請求項50~62のいずれかに記載の方法に従って製造された1つ以上の持続放出生分解性眼内挿入物(複数可)と、前記挿入物(複数可)を使用するための使用説明書を含み、前記挿入物(複数可)が、単回投与用に個別にパッケージングされている、前記キット。
【請求項81】
前記挿入物(複数可)が、フォーム担体に固定されている、請求項80に記載のキット。
【請求項82】
さらに、前記挿入物(複数可)を投与するための1つ以上の手段を含む、請求項80または81に記載のキット。
【請求項83】
前記ネパフェナクのd50(レーザー回折法で測定)が、約1μ~約15μ、約2μ~約12μ、約4μ~約10μ、または約5μ~約8μである、請求項1~49のいずれかに記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項84】
ネパフェナクのd90(レーザー回折法で測定)が、約5μ~約50μ、約10μ~約40μ、約15μ~約30μ、または約18μ~約28μである、請求項1~49のいずれかに記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項85】
前記挿入物の1日目の平均ネパフェナク放出率が、37℃、1XのPBS(pH7.4)中で、約2%~約25%、約5%~約20%、約10%~約18%、約3%~約18%、または約3%~約10%である、請求項1~49、83、または84のいずれかに記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項86】
前記挿入物の2日目の平均ネパフェナク放出率が、37℃、1XのPBS(pH7.4)中で、約5%~約50%、約8%~約40%、約15%~約35%、約15%~約25%、または約25%~約35%である、請求項1~49または83~85のいずれかに記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【請求項87】
前記挿入物の9日目の平均ネパフェナク放出率が、37℃、1XのPBS(pH7.4)中で、約65%~約100%、約75%~約98%、または約80%~約95%である、請求項1~49または83~86のいずれかに記載の持続放出生分解性眼内挿入物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疼痛及び炎症の処置に関する。本発明の特定の実施形態によれば、生分解性挿入物を、眼の上涙小管及び/または下涙小管に投与することにより疼痛及び炎症が処置され、挿入物は、ネパフェナクの持続放出を提供する。
【背景技術】
【0002】
疼痛及び炎症は、頻繁に遭遇する眼の状態である。通常、白内障手術後に他の臨床症状と共に現れる。疼痛及び炎症は、一般に、非ステロイド性抗炎症点眼薬で処置される。現在入手可能な点眼薬の製剤化に特有の問題。有効成分の大部分が、すぐに眼から洗い流され、それ故、眼表面の活性薬への曝露が短いことがあるので、点眼薬は、1日当たり数回投与されなければならないことがある。この理由から、製剤は、多くの場合、この非効率性を補うように濃度を最大化し、これは、安全性の問題を引き起こし得る、眼表面での急激な高濃度に関連することがある。加えて、点眼薬に含まれる抗菌防腐剤などの防腐剤に関連する灼熱感、痒み、及び刺すような痛みが観察され得る。さらに、患者は、1日に複数回点眼する必要があり得る場合、日常生活に大きな影響があり、患者のコンプライアンスが低下し得る。点眼薬を眼内に投与することが、難しいと感じられ得るので、点眼薬の眼表面への送達の精度も、制限され得る。従って、過剰投与または投与不足が、生じ得る。
【0003】
現在利用可能な処置の欠点及び課題を考慮すると、非ステロイド性抗炎症薬を毎日投与する必要を回避しながら、非ステロイド性抗炎症薬を適切な用量で効果的に送達し、1週間以上の疼痛及び炎症を長期間にわたり処置することが効果的である新規処置法が患者に利益を提供するであろう。
【発明の概要】
【0004】
本発明の特定の実施形態の目的は、例えば、1週間以上の期間中、患者の疼痛及び炎症を処置するのに有効である、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬を含む眼用挿入物を提供することである。
【0005】
本発明の特定の実施形態の別の目的は、涙液を介して眼表面への非ステロイド性抗炎症薬及び/または代謝物の持続放出を提供する、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬を含む眼用挿入物を提供することである。
【0006】
本発明の特定の実施形態の別の目的は、投与後、例えば、3日後、5日後、7日後、14日後、21日後、または30日後に、房水中に治療有効量のアンフェナクを提供するネパフェナクを含む眼用挿入物を提供することである。
【0007】
本発明の特定の実施形態の別の目的は、涙液を介して眼表面への非ステロイド性抗炎症薬及び/または代謝物の持続放出を提供し、持続放出期間が、1日当たり一定または実質的に一定の非ステロイド性抗炎症薬の放出の期間を含む、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬を含む眼用挿入物を提供することである。
【0008】
本発明の特定の実施形態の別の目的は、単回投与のみで、1週間以上にわたる疼痛及び炎症の処置を提供する、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬を含む眼用挿入物を提供することである。
【0009】
本発明の特定の実施形態の別の目的は、十分に生分解性があり、それにより、薬物が枯渇した挿入物を除去する必要性を回避する、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬を含む眼用挿入物を提供することである。
【0010】
本発明の特定の実施形態の別の目的は、動物またはヒト由来の構成要素を含まない特定の実施形態の挿入物により生体適合性があり、免疫原性が低いか、または非免疫原性である、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬を含む眼用挿入物を提供することである。
【0011】
本発明の特定の実施形態の別の目的は、抗菌防腐剤を含まない、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬を含む眼用挿入物を提供することである。
【0012】
本発明の特定の実施形態の別の目的は、乾燥状態では寸法が安定しているが、例えば、眼への投与後に、水分吸収により寸法が変化する、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬を含む眼用挿入物を提供することである。
【0013】
本発明の特定の実施形態の別の目的は、乾燥状態で投与され、(例えば、涙小管内に)挿入される時に水分吸収する、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬を含む眼用挿入物を提供することである。
【0014】
本発明の特定の実施形態の別の目的は、乾燥状態では、投与が容易であるが、涙小管内にしっかりと固定され、処置期間中に挿入物の潜在的な喪失を回避し、それにより、一般に適用されるプラグ(例えば、コラーゲンまたはシリコンプラグ)と比較した保持力の向上がもたらされる、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬を含む眼用挿入物を提供することである。
【0015】
本発明の特定の実施形態の別の目的は、挿入物が安定しており、挿入前及び挿入後(すなわち、涙小管内)の両方で定義された形状及び表面積を有する、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬を含む眼用挿入物を提供することである。
【0016】
本発明の特定の実施形態の別の目的は、取り扱いが容易、特に、こぼれたり、砕けやすい、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬を含む眼用挿入物を提供することである。
【0017】
本発明の特定の実施形態の別の目的は、正確な用量(広い用量範囲内)の投与し、それにより、過剰投与及び投与不足のリスクの回避を可能にする、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬を含む眼用挿入物を提供することである。
【0018】
本発明の特定の実施形態の別の目的は、悪影響をもたらし得る非ステロイド性抗炎症薬のピークまたは潜在的に実質的なピークを引き起こさない、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬を含む眼用挿入物を提供することである。
【0019】
本発明の特定の実施形態の別の目的は、一般に既知の疼痛及び炎症の治療と比較して、灼熱感、刺痛または痒みなどの副作用の発生率が低い、疼痛及び炎症の処置(例えば、疼痛及び炎症の急性または慢性処置)用の、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬を含む眼用挿入物を提供することである。
【0020】
本発明の特定の実施形態の別の目的は、従来の疼痛及び炎症の処置と比較して、患者にとってハンズフリーの代替手段を提供する、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬を含む眼用挿入物を提供することである。
【0021】
本発明の特定の実施形態の別の目的は、一般に、下涙小管及び/または上涙小管(垂直部)などの、投与された眼の領域内に留まる、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬を含む眼用挿入物を提供することである。
【0022】
本発明の特定の実施形態の別の目的は、現在利用可能な疼痛及び炎症の処置と比較して患者の服薬遵守を向上させている、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬を含む眼用挿入物を提供することである。
【0023】
本発明の特定の実施形態の別の目的は、迅速且つ簡単な方法で、非侵襲的な方法により視覚化することができる、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬を含む眼用挿入物を提供することである。
【0024】
本発明の特定の実施形態の別の目的は、投与後最大約7日間、最大約14日間、最大約21日間、最大約30日間、または最大42日間などの長期間にわたる、治療有効量の非ステロイド性抗炎症薬(例えば、ネパフェナク及び/またはアンフェナク)の持続放出を提供する、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬を含む眼用挿入物を提供することである。
【0025】
本発明の特定の実施形態の別の目的は、投与後最大約7日間、または最大約14日間、または最大約21日間、または最大約30日間、または最大約42日間の期間など、長期間にわたり、一定量または本質的に一定量の、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬及び/または代謝物を放出する、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬を含む眼用挿入物を提供することである。
【0026】
本発明の特定の実施形態の別の目的は、投与後長期間(例えば、最大約7日間、最大約14日間、または最大約21日間、または最大約30日間、または最大約42日間)にわたる、治療有効量の、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬及び/または代謝産物の持続放出を提供し、それにより、点眼薬を使用する場合に、例えば、1日に数回、必要とされる頻繁な非ステロイド性抗炎症薬の投与の必要性を回避する、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬を含む眼用挿入物を提供することである。
【0027】
本発明の特定の実施形態の別の目的は、投与後長期間、例えば、最大約7日間、最大約14日間、または最大約21日間、または最大約30日間、または最大約42日間の期間にわたる、治療有効量の、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬または代謝産物の持続放出を提供し、涙液膜中の非ステロイド性抗炎症薬の量が、眼表面の抗炎症療法に十分な治療上有効なレベルに一貫して維持される、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬を含む眼用挿入物を提供することである。
【0028】
本発明の特定の実施形態の別の目的は、投与後最大約7日間、最大約14日間、または最大約21日間、または最大約30日間、または最大約42日間の長期間にわたる、治療有効量の、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬及び/または代謝物の持続放出を提供し、眼表面及び/または涙液膜に、本質的に非ステロイド性抗炎症薬の毒性濃度が観察されない、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬を含む眼用挿入物を提供することである。
【0029】
本発明の特定の実施形態の別の目的は、投与後最大約7日間、最大約14日間、または最大約21日間、または最大約30日間、または最大約42日間の長期間にわたる、治療有効量の、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬及び/または代謝物の持続放出を提供し、非ステロイド性抗炎症薬が、全身的に再吸収されないか、または全身的に実質的に再吸収されず、それにより、全身毒性が最小限に抑えられるか、または回避される、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬を含む眼用挿入物を提供することである。
【0030】
本発明の特定の実施形態の別の目的は、本明細書に開示の眼用挿入物を用いて、それを必要とする患者の疼痛及び炎症を処置する方法を提供することである。
【0031】
本発明の特定の実施形態の別の目的は、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬を含む眼用挿入物を製造する方法を提供することである。
【0032】
本発明のこれらの目的及び他の目的の1つ以上は、本明細書に開示され、特許請求される本発明の1つ以上の実施形態で解決される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】例示的な挿入物パッケージの概略図。挿入物は、フォーム担体に入れられ、ホイルポーチで密封される。
図2】眼の下涙点から下涙小管垂直部に挿入物を配置する模式図の例(A)。挿入物の可視化は、例えば、青色光(B)で照射することにより可能である。一実施形態における涙小管内挿入物内のフルオレセインは、青色光で励起されると発光し、非侵襲的な方法で挿入物の存在を確認することが可能になる。
図3】ビーグル犬の涙液中のネパフェナク及びアンフェナクの涙液濃度を示す。
図4】実施例3の結果を示す。
図5】実施例4の結果を示す。
図6】実施例4の結果を示す。
図7】実施例4の結果を示す。
図8】実施例5の結果を示す。
【0034】
定義
本明細書に使用される「挿入物」という用語は、活性薬、特に、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬を含有し、ヒトまたは動物の体内、例えば、眼の涙小管(片眼または両眼、ならびに下涙小管及び/または上涙小管)に投与され、活性薬を周囲の環境に放出する間、一定期間に留まる物体を指す。挿入物は、挿入される前に、任意の所定の形状を有し得、その一般的な形状は、挿入物を所望の位置に配置すると、ある程度維持され得るが、挿入物の寸法(例えば、長さ及び/または直径)は、本明細書でさらに開示されるように、水分吸収により投与後に変化し得る。言い換えれば、眼の涙小管に投与されるものは、溶液及び懸濁液ではなく、既に成形された整合的な物体である。従って、挿入物は、投与される前に、例えば、本明細書に開示の方法に従って完全に形成されている。時間の経過とともに、特定の実施形態で挿入された挿入物は、(本明細書で開示されているように)生分解され、それにより、完全に溶解/再吸収されるまで、その形状が変化し得る(例えば、直径が拡大し、長さが減少し得る)。本明細書では、「挿入物」という用語は、水を含有する場合(例えば、眼に投与されるか、もしくは別の方法で水性環境(例えば、in vitro)に浸漬された時に、挿入物が水分吸収した後、または再水分吸収した後)の水分吸収(本明細書で「湿潤」とも呼ばれる)状態の挿入物、及び乾燥(乾燥/脱水)状態の挿入物の両方を指すために使用される。従って、特定の実施形態では、本発明の文脈における乾燥/乾燥状態の挿入物は、約1重量%以下の水を含有してもよい。乾燥/乾燥後の状態の挿入物の水分含有量は、例えば、カールフィッシャー電量法で、測定され得る。水分吸収状態の挿入物の寸法(すなわち、長さ、直径、または体積)が本明細書で報告される時はいつでも、これらの寸法は、挿入物が37℃、pH値7.4のリン酸緩衝生理食塩水に24時間浸漬した後に測定される。本明細書において挿入物の寸法が乾燥状態で報告される場合、これらの寸法は、挿入物が完全に乾燥した(従って、特定の実施形態では、約1重量%以下の水を含有した)後に測定される。特定の実施形態では、挿入物は、20ppm未満の酸素と水分の両方を含有する不活性雰囲気グローブボックス内に少なくとも約7日間保管される。
【0035】
本発明の特定の実施形態では、「繊維」(本明細書では「ロッド」という用語と互換的に使用)という用語が、一般に細長い形状を有する物体(すなわち、この場合は、本発明の特定の実施形態による挿入物)を特徴とする。本発明の挿入物の特定の寸法は、本明細書に開示されている。挿入物は円筒形もしくは本質的に円筒形の形状を有しても、非円筒形の形状を有してもよい。繊維または挿入物の断面積は、円形または本質的に円形であってよいが、特定の実施形態では、また、楕円形または長方形であっても、他の実施形態では、異なる形状、例えば、十字形、星形、または本明細書に開示されている他の形状、であってもよい。
【0036】
本明細書で使用される「眼」という用語は、一般に眼、または(本発明による「眼用挿入物」は、原則として、眼の任意の部分または部位に投与することができる挿入物を指すように)眼の任意の部分もしくは部位を指す。特定の実施形態では、本発明は、眼内挿入物の涙小管内投与(この場合、「眼内挿入物」は、「涙小管内挿入物」である)と、疼痛及び炎症の処置に関する。
【0037】
本明細書で使用される「生分解性」という用語は、in vivo、すなわち、ヒトまたは動物の体内に配置された時に分解されるようになる材料または物体(例えば、本発明による涙小管内挿入物)を指す。本発明の文脈では、本明細書に詳細に開示されているように、ネパフェナク粒子などの非ステロイド性抗炎症薬の粒子が分散しているハイドロゲルを含む挿入物は、眼内、例えば、涙小管内に、沈着すると、経時的に徐々に生分解される。特定の実施形態では、生分解は、涙液により提供される水性環境内でのエステル加水分解を介して少なくとも部分的に起こる。特定の実施形態では、本発明の涙小管内挿入物は、経時的に徐々に軟化し、液化する。特定の実施形態では、それらは、最終的に鼻涙管を通してクリアランスされる(排泄される/流出する)。
【0038】
「ハイドロゲル」は、水中で膨潤し、例えば、個々のポリマー鎖の化学的または物理的架橋により、その構造を維持または実質的に維持しながら、一定量の水を保持し得る、1つ以上の親水性天然または合成ポリマー(本明細書に開示)の3次元ネットワークである。高水分含有量のために、ハイドロゲルは、柔らかく、柔軟性があり、このため、天然組織に非常に似ている。本発明では、「ハイドロゲル」という用語は、水を含有する場合(例えば、ハイドロゲルが水溶液中で形成された後、またはハイドロゲルが水分吸収された後、もしくは眼内に挿入された時もしくは別の方法で水性環境に浸漬された時に再水分吸収された後)水分吸収状態(本明細書では「湿潤状態」とも同義で呼ばれる)のハイドロゲルと、例えば、本明細書に開示される1重量%以下の低水分含有量まで乾燥された場合の乾燥(乾燥/脱水)状態のハイドロゲルの両方を指すために使用される。本発明では、有効成分がハイドロゲル内に含有(例えば、分散)されている場合、ハイドロゲルは、「マトリックス」とも呼ばれ得る。
【0039】
本明細書において使用される「ポリマーネットワーク」という用語は、互いに架橋されている(同じまたは異なる分子構造の、及び同じまたは異なる平均分子量の)ポリマー鎖から形成された構造について記載する。本発明の目的に適したポリマーの種類が本明細書に開示される。ポリマーネットワークは、本明細書にも開示される架橋剤を用いて形成され得る。
【0040】
「非晶質」という用語は、X線または電子散乱実験で結晶構造を示さないポリマーまたはポリマーネットワークまたは他の化学物質または実体を指す。
【0041】
「半結晶性」という用語は、いくつかの結晶特性を有する、すなわち、X線または電子散乱実験でいくつかの結晶特性を示す、ポリマーもしくはポリマーネットワーク、または他の化学物質もしくは実体を指す。
【0042】
「結晶性」という用語は、X線または電子散乱実験により証明される結晶特性を持つポリマーまたはポリマーネットワーク、またはその他の化学物質または実体を指す。本明細書での「前駆体」または「ポリマー前駆体」または、特に、「PEG前駆体」という用語は、互いに反応し、それにより架橋を介して連結されて、ポリマーネットワーク、それにより、ハイドロゲルマトリックスを形成する分子または化合物を指す。活性薬、可視化剤、緩衝剤などの他の物質が、ハイドロゲル中に存在し得るが、それらは、「前駆体」とは呼ばれない。
【0043】
本発明の目的のために使用され、本明細書で開示するポリマー前駆体の分子量は、当技術分野で知られている解析方法によって定量され得る。例えば、ポリエチレングリコールの分子量は、ゲル電気泳動、例えば、SDS-PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動)、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)(動的光散乱(DLS)を伴うGPCを含む)、液体クロマトグラフィー(LC)、及び質量分析(例えば、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間(MALDI-TOF)分光分析またはエレクトロスプレーイオン化(ESI)質量分析)を含む、当技術分野で既知の任意の方法によって定量され得る。本明細書に開示のポリエチレングリコール前駆体を含むポリマーの分子量は、平均分子量(ポリマーの分子量分布に基づく)であり、それ故、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を含む様々な平均値で示され得る。そのような平均値はいずれも、一般に、本発明の文脈で使用され得る。本発明の文脈において、本明細書に開示のポリエチレングリコール単位または他の前駆体もしくは単位の平均分子量は、数平均分子量(Mn)であり、「ダルトン」単位で示される。
【0044】
最終的なポリマーネットワーク内に依然として存在する前駆体分子の部分も、本明細書では、「単位」と呼ばれる。従って、「単位」は、ハイドロゲルを形成するポリマーネットワークのビルディングブロックまたは構成物質である。例えば、本発明で使用するのに適したポリマーネットワークは、本明細書でさらに開示されるように、同一または異なるポリエチレングリコール単位を含有してもよい。
【0045】
本明細書で使用される「架橋剤」または「架橋剤」という用語は、架橋を介して前駆体を連結して、ポリマーネットワーク、それにより、ハイドロゲルマトリックスを形成するのに適した任意の分子を指す。特定の実施形態では、架橋剤は、低分子量化合物であっても、本明細書に開示のポリマー化合物であってもよい。
【0046】
「徐放性」という用語は、本発明の目的のために、一般に、活性剤(例えば、本発明による非ステロイド性抗炎症薬、具体的には、限定されないが、ネパフェナクを含む)を、投与後の長期間(例えば、1週間以上)にわたり利用可能にするように製剤化された医薬剤形または製品(本発明の場合、これらの製品は挿入物である)を指すように定義され、それにより、即時放出剤形、例えば、眼に局所的に塗布される非ステロイド性抗炎症薬の溶液(すなわち、非ステロイド性抗炎症薬を含む点眼薬)と比較して投与頻度を低減させることができる。本明細書において「持続放出」と互換的に使用され得る他の用語は、「徐放性」または「制御放出」である。従って、「持続放出」は、一般に、本発明による挿入物に含有されるAPI(具体的には、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬)の放出を特徴とする。「持続放出」という用語は、それ自体が、(in vitroまたはin vivo)放出の特定の速度と関連しないか、またはそれに制限されないが、本発明の特定の実施形態では、挿入物は、本明細書で開示されるように、(in vitroまたはin vivo)放出の特定の平均速度、または特定の放出プロファイルを特徴とし得る。本発明の挿入物(本明細書では明示的に「持続放出」挿入物と呼ばれるか、単に「挿入物」と呼ばれるかに関わらず)は、APIの持続放出を提供するので、本発明の挿入物は、それ故「デポー」とも呼ばれ得る。
【0047】
本発明の特定の意味において、「持続放出」という用語は、一定または実質的に一定の放出期間の後に、非ステロイド性抗炎症放出の漸減の期間が続く場合、1日当たり一定または実質的に一定(すなわち、あるレベルを超える)の非ステロイド性抗炎症放出の期間も含む。そのような特定の場合では、(上記で定義される)本発明の挿入物により提供される全体的な持続放出は、放出速度が非ステロイド性抗炎症放出の全期間を通して、必ずしも一定または本質的に一定ではないが、今説明されたように、経時的に(すなわち、一定または本質的に一定の初期期間、すなわち、持続放出があり、その後、漸減放出期間に伴い)変化し得ることを意味することがある。本発明の意味において、「漸減した」または「漸減させること」という用語は、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬の放出が、非ステロイド性抗炎症薬が完全に放出されるまで、経時的に減少することを指す。
【0048】
本明細書で使用される「可視化剤」という用語は、本発明の挿入物内に含有され得、挿入物が眼の涙小管内に位置する場合に、非侵襲的な方法で、例えば、青色光などの好適な光源で対応する眼の部分を照射することにより、挿入物を容易に可視化する可能性を提供する分子または組成物を指す。可視化剤は、フルオロフォア、例えば、フルオレセイン、ローダミン、クマリン、及びシアニン、または本明細書に開示の他の好適な薬剤であってよい。特定の実施形態では、可視化剤は、フルオレセインであるか、またはフルオレセイン部分を含む。
【0049】
本明細書で使用される場合、「眼表面」という用語は、涙器(涙点ならびに涙小管及び関連眼瞼構造を含む)などの要素と共に、結膜及び角膜を含む。本発明の意味において、眼表面は、房水も包含する。
【0050】
本明細書で使用される場合、「涙液」または「涙」または「涙液膜」という用語は、涙腺から分泌される液体を指し、これは、眼を潤滑化する。涙は、水、電解質、タンパク質、脂質、及びムチンで構成されている。
【0051】
本明細書で使用される場合、「両側」または「両側性」という用語は、(本発明の挿入物の投与の文脈において)挿入物を患者の両眼へ投与することを指す。従って、「片側」または「片側性」は、挿入物を片眼のみへ投与することを指す。挿入物は、両眼または片眼の上涙小管及び/または下涙小管に独立して挿入され得る。
【0052】
本明細書で使用される場合、本発明の挿入物の文脈における「投与」または「投与すること」または「投与された」などの用語は、涙点の開口部を通して眼の涙小管に、挿入物を挿入するプロセスを指す。従って、「挿入物を投与すること」または類似の用語は、挿入物を涙小管に挿入することを指す。本発明の挿入物の文脈における「挿入」または「挿入すること」または「挿入された」などの用語は、同様に、涙点の開口部を通して眼の涙小管に挿入物を挿入するプロセスを指し、従って、本明細書では、「投与」または「投与すること」または「投与された」という用語と互換的に使用される。対照的に、点眼薬などの局所眼科用薬理学的製品(本発明の主題ではない)の文脈における「投与」または「投与する」または「投与された」などの用語は、これらの製品を眼に局所適用することを指す。
【0053】
本明細書で使用される場合、「挿入物スタッキング」または「スタッキング」という用語は、(まだ十分に生分解されていない、及び/または鼻涙管を通ってまだクリアランスされていないので)第1の挿入物が依然として涙小管内に保持されている状態で、第1の挿入物の上部にさらなる挿入物を挿入することを指す。特定の実施形態では、第1の挿入物に含有される非ステロイド性抗炎症薬が完全にまたは本質的に完全に放出された後、または第1の挿入物に含有される非ステロイド性抗炎症薬の少なくとも約70%または少なくとも約80%または少なくとも約90%が放出された後に、さらなる挿入物が第1の挿入物の上に配置される。挿入物スタッキングにより、例えば、長期の非ステロイド性抗炎症の処置が可能になる。
【0054】
本明細書で使用される「プラグ」という用語は、涙管(複数可)の閉塞、実質的閉塞、または部分的閉塞(「涙管閉塞」)を提供し、それにより、涙の排出を最小限に抑えるか、または防止することが可能なデバイスを指す。従って、プラグは、涙の保持力を高め、これは、眼の潤いを保つのに役立つ。プラグは、「涙点プラグ」及び「涙小管内プラグ」に分類することができる。涙小管内プラグは、文献内で「涙小管プラグ」とも称される。いずれのプラグ分類も、眼の上涙点及び/または下涙点を通して挿入される。涙点プラグは、涙点の開口部に設置され、容易に見ることができ、それ故に、それほど困難なく除去可能になる。しかし、涙点プラグは、不十分な保持率を示し、感染を引き起こし得る露出した局地部分にあるため、容易に微生物に汚染し得る。対照的に、涙小管内プラグは、本質的に眼に見えず、涙小管垂直部または水平部内に配置されるので、涙点プラグと比較して保持率が高くなる。しかし、現在利用可能な涙小管内プラグは、除去が容易でないことがあり、及び/またはフィットが緩いために動くリスクを増加させ得る。市販のプラグは、多くの場合、コラーゲン、アクリルポリマー、またはシリコンで製造される。
【0055】
本明細書で使用される「涙小管(canaliculus)」(複数形の「涙小管(canaliculi))または「涙管」という用語は、涙小管、すなわち、涙液(涙液)を涙点から鼻涙管に排出する各瞼の小さな管、を指す(図2も参照)。従って、小管は、涙液を眼表面から鼻腔に排出する涙器官の一部を形成する。上瞼の涙小管は、「上涙小管」または「上部涙小管」と呼ばれ、下瞼の涙小管は、「下涙小管」または「下部涙小管」と呼ばれる。各涙小管は、涙点に続く垂直な領域(「涙小管垂直部」と称される)と、涙小管垂直部に続く水平な領域(「涙小管水平部」と称される)とを含み、涙小管水平部は鼻涙管に合流する。
【0056】
「涙点(punctum、複数形はpuncta)」という用語は涙点(lacrimal punctum)を指し、瞼の縁にある開口部であり、涙小管の入口に相当する。涙が生成された後に、まばたきの合間にいくつかの液体が蒸発し、いくつかは、涙点を通して排出される。涙点は、上瞼及び下瞼にも見られるため、涙点は、それぞれ、「上涙点」または「上部涙点」、及び「下部涙点」または「下涙点」と呼ばれる(図2も参照)。
【0057】
「涙小管内挿入物」という用語は、上涙点及び/または下涙点を通して、眼の上涙小管及び/または下涙小管(特に、眼の上涙小管及び/または下涙小管垂直部)内に投与することができる挿入物を指す。挿入物が涙小管内に局在化するので、挿入物は、(例えば、涙小管内プラグでも観察される)涙小管閉塞を通して涙液の排出を妨げる。本発明の涙小管内挿入物は、眼の下涙小管及び/または上涙小管の垂直部に両方または一方に挿入され得る。本発明の特定の実施形態によれば、涙小管内挿入物は、持続放出生分解性挿入物である。
【0058】
「API」、「有効(医薬)成分」、「有効(医薬)剤」、「有効(医薬)成分」、「(有効)治療剤」、「実薬」、及び「薬物」という用語は、本明細書では互換的に使用され、薬理活性を与えるか、または疾患の診断、治癒、緩和、処置、もしくは予防に直接効果を有するか、または患者の生理機能の回復、矯正、もしくは修正に直接効果を有することを意図した、完成した医薬品(FPP)に使用される物質と、そのような完成した医薬品の調製に使用される物質を指す。
【0059】
ネパフェナク原薬
ネパフェナクは、白内障手術後の疼痛及び炎症を処置するための点眼薬で使用されるアンフェナクのプロドラッグである。他の潜在的な適応症は、様々な外科的屈折矯正手術後に伴う疼痛及び炎症の処置、嚢胞様黄斑浮腫(CME)の予防及び処置、アレルギー性結膜炎の処置、中心性漿液性脈絡網膜症(CSCR)の処置、術中の瞳孔散大の維持、術中の縮瞳の予防/抑制、ならびに不快感及び羞明の低減がある。
【0060】
ネパフェナクのIUPAC名(INN/USAN)は、2-(2-アミノ-3-ベンゾイルフェニル)アセトアミドであり、CAS番号は、78281-72-8である。
【0061】
分子式は、C15H14N2O2であり、化学構造は、以下である:
【化1】
【0062】
ネパフェナクは、プロドラッグ、シクロオキシゲナーゼ2阻害剤、シクロオキシゲナーゼ1阻害剤、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、及び非麻薬性鎮痛剤としての役割を果たす。ネパフェナクは、角膜を通過した後、急速に生体活性化されてアンフェナクになり(下の画像を参照)、アンフェナクは、COX1及びCOX2の活性を均一に阻害する強力なNSAIDである。
【化2】
【0063】
ネパフェナクは、アンフェナクのカルボン酸基が対応するカルボキサミドに変換されたモノカルボン酸アミドである。ネパフェナクは、水にほとんど溶けない黄色の結晶または粉末状の物質である(14mcg/mL)。ネパフェナクは、エタノール、DMSO、及びジメチルホルムアミド(DMF)などの有機溶媒に可溶である。ネパフェナクのエタノールへの溶解度は、約0.5mg/mLであり、DMSO及びDMFへの溶解度は、約30mg/mLである。0.1%の水性懸濁液は、平均pHが6.75なる。n-オクタノール/水の分配係数は、128である。この物質は、約185℃で融解し、多形性を示さない。ネパフェナクは、アキラルな物質であり、立体化学配置に可能な変化はない。
【0064】
ネパフェナクのPBS溶解度試験(pH7.2、37℃)は、約102mcg/mLである。
【0065】
特定の実施形態では、ネパフェナクを含む本発明で使用される任意の非ステロイド性抗炎症薬について、約100μm以下、または約75μm以下、または約50μm以下の粒径(例えば、d90値で表される)を使用され得る。本発明の特定の実施形態では、ネパフェナクは、微粉化粒子の形態で使用され得、d90粒径が約100μm以下、または約75μm以下、または約50μm以下、または約20μm以下、または約10μm以下、または約5μm以下であってよい。これらの実施形態及び他の実施形態では、微粉化ネパフェナクのd98粒径は、約100μm以下、または約75μm以下、または約50μm以下、または約25μm以下、または約20μm以下、または約10μm以下、または約5μm以下であってよい。本発明の特定の実施形態では、微粉化ネパフェナクは、d90粒径が約5μm以下であり、d98粒径が約10μm未満である。「d90」値は、測定されたバルク材料(特定の粒度分布を持つ)内の全ての粒子の少なくとも90体積%が、示された値を下回る粒径を有することを意味する。例えば、d90粒径が約50μm未満の場合、測定されたバルク材料内の粒子の少なくとも90体積%が、約50μm未満の粒径を有することを意味する。対応する定義は、「d98」値などの他の「d」値にも適用される。粒径分布は、当該技術分野で既知の方法(ふるい分け、レーザー回折、または動的光散乱法を含む)で測定することができる。本発明でネパフェナク以外の別の非ステロイド性抗炎症薬が使用される実施形態では、ネパフェナクについて開示されたものと同様の粒径が適用され得る。特定の実施形態では、ネパフェナクのd50は、約1μ~約15μ、約2μ~約12μ、約4μ~約10μ、または約5μ~約8μである。他の実施形態では、ネパフェナクのd90は、約5μ~約50μ、約10μ~約40μ、約15μ~約30μ、または約18μ~約28μである。粒径は、例えば、レーザー回折で測定することができる。
【0066】
本発明の特定の実施形態の目的のために、最終製品中の含有量の均一性を高める(従って、離散粒子による薬物含有量が高すぎるか、または低すぎることを回避し)、及び/または挿入物の製造中(本明細書に開示されるハイドロゲルのキャスティング中)に個別のAPI粒子が凝集する可能性を低減するために、特定の粒径仕様(例えば、本明細書に開示されるd90及び/またはd98値)を満たすことに加えて、特定サイズより大きい(例えば、約120μm超、または約100μm超、または約90μm超)API出発物質中に存在する離散粒子が全くないか、または本質的にないことを確認するのに有益であり得る。これは、例えば、ふるい分けにより達成することができる。特定の実施形態では、本発明による挿入物を製造するために使用されるネパフェナクは、d90粒径が、約10または5μm以下であり、及び/または、d98粒径が、約10μm未満であり、全てのまたは本質的に全ての離散粒子のサイズが約90μm未満である。
【0067】
本発明の目的のために、活性薬(ネパフェナクを含む)は、任意の活性薬の多形、または活性薬の任意の薬学的に許容される塩、無水物、水分吸収物、他の溶媒和物、もしくは誘導体を含む、あらゆる可能な形態で使用することができる。この説明または特許請求の範囲において、活性薬は、例えば「ネパフェナク」などの名前で呼ばれる時はいつでも、明示的に記載されていない場合でも、活性薬のそのような任意の薬学的に許容される多形、塩、無水物、溶媒和物(水分吸収物を含む)または誘導体も指す。特に、「ネパフェナク」という用語は、ネパフェナク及びその薬学的に許容される塩を指し、これらは、全て、本発明の目的に使用され得る。本明細書で使用される「多形」という用語は、ネパフェナクなどの活性薬の任意の結晶形態を指す。多くの場合、室温で固体である活性薬は、様々な異なる結晶形態、すなわち、多形、で存在し、1つの多形は、所与の温度及び圧力で熱力学的に最も安定している。
【0068】
本明細書で使用される場合、「治療上有効な」という用語は、投与後に所望の治療反応または結果を生ずるために必要とされる薬剤または活性薬(すなわち、非ステロイド性抗炎症薬)の量を指す。例えば、本発明の文脈において、望ましい治療結果の1つは、疼痛及び炎症に関連する症状の軽減となる。
【0069】
本明細書での「患者」という用語は、ヒトと動物の患者の両方を含む。本発明による挿入物は、一般に、ヒトまたは獣医の医療用途に適する。臨床試験に登録され処置される患者は、「対象」と呼ばれることもある。一般に、「対象」は、例えば、臨床試験中に、本発明による挿入物が投与される(ヒトまたは動物)個体である。「患者」は、特定の生理学的または病的状態のために処置を必要とする対象である。
【0070】
本明細書で使用される「平均」という用語は、データ(ポイント)のセット内の中心値または代表値を指し、これは、セット内のデータ(ポイント)の合計を、その数で除することにより計算される(すなわち、データのセットの平均値)。
【0071】
本明細書で使用される場合、測定量に関連する「約」という用語は、測定を行い、測定の目的及び測定装置の精度と等しい注意レベルを行使する上で、当業者が予想する測定量の通常のばらつきを指す。
【0072】
本明細書で使用される場合、測定量に関連する「少なくとも約」という用語は、測定を行い、測定の目的及び測定装置の精度と等しい注意レベルを行使する上で、当業者が予想する測定量の通常のばらつきと、それよりも高い任意量を指す。
【0073】
本書で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が別途明示しない限り、複数の指示対象も含む。
【0074】
本書で「A及び/またはB」などの語句で使用される「及び/または」という用語は、「A及びB」と「AまたはB」の両方を含むことが意図される。
【0075】
本明細書で使用される「含む」、「含むこと」、「含有する」、「含有すること」などのオープン用語は、「含むこと」を意味し、要素、方法ステップなどの制約のないリストまたは要素の列挙を指すことが意図され、従って、列挙された要素、方法ステップなどに限定されることが意図されないが、追加の列挙されていない要素、方法ステップなどを含むことも意図される。
【0076】
「最大」という用語は、ある値または数字とともに本明細書で使用される場合、それぞれの値または数字を含むことが意図されている。例えば、「最大25日間」という用語は、「最大25日間及び25日を含む」を意味する。
【0077】
本明細書で使用される略語「PBS」は、リン酸緩衝生理食塩水を意味する。
【0078】
本明細書で使用される略語「PEG」は、ポリエチレングリコールを意味する。
【0079】
本明細書に開示の全ての参考文献は、あらゆる目的のために、全体が参照により本明細書に組み込まれる(矛盾がある場合は、本仕様が優先される)。
【発明を実施するための形態】
【0080】
特定の実施形態では、本発明は、ネパフェナクの持続放出用に設計された吸収性ハイドロゲル涙小管内挿入物であるネパフェナク涙小管内挿入物に関する。特定の実施形態では、挿入物は、白内障手術に伴う疼痛及び炎症の処置のために、ネパフェナクを眼表面に持続的に局所送達するために、涙点に配置することが意図される。特定の実施形態では、本発明は、中心性漿液性脈絡網膜症(CSCR)の処置、術中瞳孔拡張の維持、術中縮瞳の防止/抑制、不快感及び羞明の軽減、嚢胞様黄斑浮腫(CME)及びアレルギー性結膜炎の処置などの適応症に利用され得る。
【0081】
特定の実施形態では、挿入物は、2つの主要な構成要素:ネパフェナクと、フルオレセインとコンジュゲートされているポリエチレングリコール(PEG)系ハイドロゲルを含む。蛍光PEGハイドロゲルは、青色光源で励起され、黄色フィルターで補助される時に発光し、挿入物の存在を確認するための視覚化が可能になる。特定の実施形態では、ネパフェナクは、例えば、微粒子化形態で、挿入物の蛍光ハイドロゲルマトリックスに埋め込まれる。特定の実施形態では、乾燥挿入物(例えば、円筒形)は、涙小管内に投与された後、涙液と接触した時に水分吸収するであろう。こうなると、長さが減少し、直径が拡大して、涙小管内に保持される。特定の実施形態では、微粉化ネパフェナクは、涙液中で徐々に溶解し、治療期間にわたるネパフェナクの持続放出を提供する。特定の実施形態では、加水分解により、挿入物は、軟化し、経時的に液化し、除去の必要がなく、鼻涙管を通してクリアランスされる。
【0082】
特定の実施形態では、薬剤の放出速度は、主に、涙点開口部に面した露出断面積上の涙液洗浄液の界面におけるハイドロゲルマトリックス中の薬物の溶解度により制御される。添付文書は、ネパフェナクが、約0.1mg~0.8mgを含有してもよい。ネパフェナクの低用量は、薬物の放出期間を短縮するために意図され、高用量は、薬剤の放出期間を長くすることが意図される。
【0083】
特定の実施形態では、ハイドロゲルは、完全に合成されており、動物またはヒト由来の構成要素は含まれない。特定の実施形態では、ハイドロゲルの主要な構成要素は、PEGであり、これは、医療機器、医薬品、及び化粧品における安全な使用の長い歴史を有する。ネパフェナクは、2005年に承認されたNEVANAC(登録商標)(ネパフェナク点眼液、0.1%)の有効成分でもある[NDA#021862]。
【0084】
挿入物
本発明は、一般には、ハイドロゲル及び非ステロイド性抗炎症薬を含む持続放出生分解性眼内挿入物に関し、非ステロイド性抗炎症薬粒子が、ハイドロゲル内に分散されている。特定の実施形態では、挿入物は、眼の涙小管内に投与するためのものであり、すなわち、涙小管内挿入物である。
【0085】
一態様では、本発明は、ハイドロゲル及び非ステロイド性抗炎症薬を含む持続放出生分解性眼内(例えば、涙小管内)挿入物に関し、非ステロイド性抗炎症粒子が、ハイドロゲル内に分散されており、乾燥状態の挿入物の長さが、約3.5mm未満、約3.2mm未満、約3.0mm未満、または約2.75mm未満である。
【0086】
別の態様では、本発明は、一般に、ハイドロゲルと、約800μg以下のネパフェナクまたは同等の用量の別の非ステロイド性抗炎症薬を含む、持続放出生分解性眼内(例えば、涙小管内)挿入物に関する。
【0087】
別の態様では、本発明は、一般に、ハイドロゲル及び非ステロイド性抗炎症薬を含む持続放出生分解性眼内(例えば、涙小管内)挿入物に関し、(例えば、投与前の)乾燥状態での挿入物が、約3.5mm以下、約3.2mm以下、約3.0mm以下、または約2.75mm以下の長さを有する。
【0088】
別の態様では、本発明は、一般に、ハイドロゲル及び非ステロイド性抗炎症薬を含む持続放出生分解性眼内(例えば、涙小管内)挿入物に関し、挿入物が、投与後最大約7日間、最大約14日間、最大約30日間、または最大約42日間の期間にわたる、治療的有効量の非ステロイド性抗炎症薬の放出を提供する。
【0089】
これら全ての態様では、本発明で使用される特定の非ステロイド性抗炎症薬は、ネパフェナクである。
【0090】
これら全ての態様では、本発明の特定の実施形態における眼用挿入物は、涙小管内挿入物であってよい。すなわち、挿入物は、片眼または両眼の涙小管内に挿入/投与するためのものである。
【0091】
本発明の3つの態様において上で列挙された特徴のそれぞれは、本発明の持続放出生分解性挿入物に別々に存在し得るか、またはこれらの特徴のうちの任意の2つが、組み合わせて存在し得るか、またはこれらの特徴の3つ全てが組み合わせて存在し得る。
【0092】
従って、特定の一実施形態では、本発明は、ハイドロゲルと、非ステロイド性抗炎症薬としてのネパフェナクを含む持続放出生分解性涙小管内挿入物に関し、挿入物が、約800μg以下のネパフェナクを含み、約3.2mm以下の長さを有し、投与後最大約14日間にわたる治療的有効量のネパフェナクの放出を提供する。
【0093】
特定の実施形態では、持続放出生分解性眼内挿入物は、1日目におけるネパフェナクの平均放出率が、37℃の1Xのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(pH7.4)中で、約2%~約25%、約5%~約20%、約10%~約18%、約3%~約18%、または約3%~約10%である。
【0094】
特定の実施形態では、持続放出生分解性眼内挿入物は、2日目のネパフェナクの平均放出率が、37℃の1XのPBS(pH7.4)中で、約5%~約50%、約8%~約40%、約15%~約35%、約15%~約25%、または約25%~約35%を有する。
【0095】
特定の実施形態では、持続放出生分解性眼内挿入物は、9日目のネパフェナクの平均放出率が、37℃の1XのPBS(pH7.4)中で、約65%~約100%、約75%~約98%、または約80%~約95%を有する。
【0096】
本発明の挿入物の具体的な実施形態及び特徴が以下に開示される。
【0097】
有効成分
本発明は、特定の実施形態では、一般に、ハイドロゲル及び非ステロイド性抗炎症薬を含む持続放出生分解性眼内(例えば、涙小管内)挿入物に関する。本発明のあらゆる態様に使用される1つの特定の非ステロイド性抗炎症薬は、ネパフェナクである。ネパフェナク、その化学構造、及び溶解度などの特性に関する詳細は、本書の定義セクションで開示される。
【0098】
本発明の特定の実施形態では、持続放出生分解性眼内(例えば、涙小管内)挿入物に含有される非ステロイド性抗炎症薬は、ネパフェナクであり、挿入物中に約100μg~約1200μg、または約10μg~約800μg、または約50μg~約600μgの用量範囲で存在する。これらの用量範囲内の任意のネパフェナク量、例えば、約50μg、約100μg、約150μg、約400μg、約450μg、約500μg、約600μgなど、が使用され得、全ての値は、+25%~-20%の変動、または±10%の変動も含む。特定の実施形態では、本発明の挿入物に含有されるネパフェナクの用量は、以下の通りである。
【0099】
ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬の開示された量(上述の差異を含む)は、挿入物中の有効成分の最終含有量と、挿入物の製造時に開始構成要素として使用される有効成分の量の両方を指す。
【0100】
特定の実施形態では、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬は、非ステロイド性抗炎症薬の粒子が、ポリマーネットワークからなるハイドロゲル内に分散または分布するように、本発明の挿入物に含有され得る。特定の実施形態では、粒子は、ハイドロゲル内に均一に分散されている。ハイドロゲルは、薬剤粒子が凝集するのを防ぎ得、涙液と接触すると持続的な方法で薬剤を放出する粒子のマトリックスを提供し得る。
【0101】
本発明の特定の実施形態では、ネパフェナク粒子などの非ステロイド性抗炎症粒子は、マイクロカプセル化され得る。「マイクロカプセル」という用語は、多くの場合、例えば、約50nm~約2mmで変動するサイズを有するほぼ球形の粒子として定義される。マイクロカプセルは、材料を取り囲むまたは部分的に取り囲む(シェルとも呼ばれる)にカプセル化されている活性薬の少なくとも1つの個別のドメイン(またはコア)を有する。本発明の目的のために、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬をマイクロカプセル化するのに適した薬剤は、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)である。
【0102】
一実施形態では、ネパフェナク粒子などの非ステロイド性抗炎症粒子は、粒径が小さくてもよく、微粉化粒子であってよい。別の実施形態では、ネパフェナク粒子などの非ステロイド性抗炎症粒子は、微粉化され得る。微粉化は、固体物質の粒子の平均直径を縮小するプロセスを指す。直径が小さい粒子は、とりわけ、溶解速度が高くなり得、これは、医薬品成分の生物学的利用能が向上する。複合材料の分野では、粒径は、マトリックスと組み合わせた場合の機械的特性に影響を与えることが知られており、粒子が小さいほど、所定の質量分率に対して優れた強化効果が得られる。従って、微粒子化非ステロイド性抗炎症粒子が分散されているハイドロゲルマトリックスは、同様の質量分率のより大きな非ステロイド性抗炎症粒子と比較して、機械的特性(例えば、脆さ、破損までの歪みなど)が向上していることがある。そのような特性は、挿入物の製造において、投与中、及び分解中に重要である。微粉化により、選択された剤形またはマトリックス内の有効成分のより均一な分布も促進され得る。特定の実施形態では、ネパフェナクを含む本発明で使用される任意の非ステロイド性抗炎症薬について、約100μm以下、または約75μm以下、または約50μm以下の粒径(例えば、本明細書で定義され、本明細書でも開示されているように測定されるd90値で表される)を使用され得る。特定の実施形態では、ネパフェナクは、微粉化粒子の形態で使用され得、d90粒径が約100μm以下、または約75μm以下、または約50μm以下、または約20μm以下、または約10μm以下、または約5μm以下であってよい。これらの実施形態及び他の実施形態では、微粉化ネパフェナクのd98粒径は、約100μm以下、または約75μm以下、または約50μm以下、または約25μm以下、または約20μm以下、または約10μm以下、または約5μm以下であってよい。本発明の特定の実施形態では、本発明の挿入物に使用される(または調製するために使用される)微粉化ネパフェナクは、d90粒径が約5μm以下であり、d98粒径が約10μm未満である。本発明でネパフェナク以外の別の非ステロイド性抗炎症薬が使用される実施形態では、ネパフェナクについて開示されたものと同様の粒径が適用され得る。
【0103】
特定の実施形態では、特定のサイズ(例えば、約120μmより大きい、または約100μmより大きい、または約90μmより大きい)より大きい出発材料である非ステロイド性抗炎症薬(特に、ネパフェナク)内の離散粒子の存在を低減させるために、本明細書に開示される(d90及び/またはd98)粒径仕様(複数可)を満たすバルクの非ステロイド性抗炎症薬が、挿入物の湿潤組成物を調製する前にふるいにかけてもよい。特定の実施形態では、本発明による挿入物を製造するために使用されるネパフェナクは、d90粒径が、約5μm以下であり、及びd98粒径が、約10μm未満であり、全てのまたは本質的に全ての離散粒子のサイズが約90μm未満である。
【0104】
ポリマーネットワーク
特定の実施形態では、ハイドロゲルは、架橋を形成してポリマーネットワークを形成する官能基を有する前駆体から形成され得る。ポリマー鎖またはアーム間のこれらの架橋は、本質的に化学的(すなわち、共有結合であってよく)及び/または物理的(例えば、イオン結合、疎水性結合、水素ブリッジなど)であり得る。
【0105】
ポリマーネットワークは、1つのタイプの前駆体から、または反応することができる2つ以上のタイプの前駆体から、のいずれかの前駆体から調製され得る。前駆体は、得られるハイドロゲルに所望される特性を考慮して選択される。ハイドロゲルの作製で使用するための様々な好適な前駆体が存在する。一般に、ハイドロゲルを形成する任意の薬学的に許容される架橋可能なポリマーが、本発明の目的に使用され得る。ハイドロゲルと、それに組み込まれる構成要素(例えば、ポリマーネットワークを作成するために使用されるポリマー)は、例えば、免疫応答または実質的な免疫応答または他の悪影響を引き起こさないような、生理学的に安全でなければならない。ハイドロゲルは、天然、合成、または生合成ポリマーから形成され得る。
【0106】
天然ポリマーは、グリコサミノグリカン、多糖類(例えば、デキストラン)、ポリアミノ酸、及びタンパク質、またはそれらの混合物もしくは組み合わせを含んでもよいが、このリストは、限定的であることが意図されない。
【0107】
合成ポリマーは、一般に、様々な種類の重合(例えば、フリーラジカル重合、アニオン重合またはカチオン重合、連鎖成長または付加重合、縮合重合、開環重合など)で、様々な原料から合成的に生成される任意のポリマーであってよい。重合は、特定の開始剤、光及び/または熱により開始され得、触媒により媒介され得る。合成ポリマーは、特定の実施形態では、ヒトまたは動物由来の任意の成分を含有しない剤形におけるアレルギーの可能性を低減するために使用され得る。
【0108】
一般に、本発明の目的のために、1つ以上のポリアルキレングリコール単位を含む群の1つ以上の合成ポリマー(特に、限定されないが、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンオキシドなどのポリアルキレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ乳酸、ポリ乳酸-コ-グリコール酸、ランダムもしくはブロック共重合体、またはこれらのいずれかの組み合わせ/混合物を含む)の1つ以上の合成ポリマーを使用することができるが、このリストは、限定的であることが意図されない。
【0109】
共有結合により架橋されたポリマーネットワークを形成するために、前駆体は、互いに共有結合により架橋され得る。特定の実施形態では、(例えば、フリーラジカル重合において)少なくとも2つの反応中心を有する前駆体は、各反応性基が、異なる成長ポリマー鎖の形成に関与することができるため、クロスリンカーとして機能することができる。
【0110】
前駆体は、生物学的に不活性且つ親水性の部分、例えば、コアを有し得る。分岐ポリマーの場合において、コアとは、コアから伸張するアームに連結した分子の連続部分を指し、ここで、アームは、しばしばアームまたは分岐の末端にある官能基を有する。マルチアームPEG前駆体は、そのような前駆体の例であり、本明細書でさらに開示されるように、本発明の特定の実施形態で使用される。
【0111】
本発明で使用されるハイドロゲルは、例えば、第1の官能基(複数可)(のセット)を有する1つのマルチアーム前駆体と、第2の官能基(複数可)(のセット)を有する別の(例えば、マルチアーム)前駆体から作製することができる。例として、マルチアーム前駆体は、親水性アーム(例えば、ポリエチレングリコール単位)が1級アミン(求核剤)で末端処理され得るか、または活性化エステル末端基(求電子剤)を有し得る。本発明によるポリマーネットワークは、互いに架橋された同一または異なるポリマー単位を含み得る。前駆体は、高分子量の構成要素(例えば、本明細書でさらに開示するような官能基を有するポリマー)であっても、低分子量の構成要素(例えば、これもまた本明細書でさらに開示するような低分子アミン、チオール、エステルなど)であってもよい。
【0112】
特定の官能基は、活性化基を使用することにより、反応性を高めることができる。そのような活性化基としては、カルボニルジイミダゾール、スルホニルクロリド、アリールハライド、スルホスクシンイミジルエステル、N-ヒドロキシスクシンイミジル(「NHS」として略記)エステル、スクシンイミジルエステル、ベンゾトリアゾリルエステル、チオエステル、エポキシド、アルデヒド、マレイミド、イミドエステル、アクリラートなどが挙げられるが、これらに限定されない。NHSエステルは、求核性ポリマー、例えば、1級アミン末端もしくはチオール末端ポリエチレングリコール、または他の求核性基含有薬(例えば、求核性基含有架橋薬)との架橋に有用な基である。NHS-アミン架橋反応は、水溶液中で、緩衝液(例えば、リン酸緩衝液(pH5.0~7.5)、トリエタノールアミン緩衝液(pH7.5~9.0)、ホウ酸緩衝液(pH9.0~12)、または重炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.0~10.0))の存在下で実施され得る。
【0113】
特定の実施形態では、各前駆体は、求核前駆体及び求電子前駆体の両方が架橋反応に使用される限りにおいて、求核官能基のみまたは求電子官能基のみを含み得る。従って、例えば、クロスリンカーが求核官能基(例えば、アミン)のみを有する場合、前駆体ポリマーは求電子官能基(例えば、N-ヒドロキシスクシンイミド)を有し得る。一方、クロスリンカーがスルホスクシンイミドなどの求電子官能基を有する場合、機能性ポリマーはアミンやチオールなどの求核官能基を有することができる。従って、機能性ポリマー(例えば、タンパク質、ポリ(アリルアミン)、またはアミン末端二官能性または多官能性ポリ(エチレングリコール)は、また、本発明のポリマーネットワークを調製するために使用することができる。
【0114】
本発明の一実施形態では、本発明による挿入物を形成するために、非ステロイド性抗炎症薬が分散されているハイドロゲルを形成するポリマーネットワークの前駆体は、それぞれ、約2~約16の求核性官能基(官能性と呼ばれる)を有し、別の実施形態では、前駆体は、それぞれ約2~約16の求電子性官能基(官能性と呼ばれる)を有する。4の倍数である反応性(求核性または求電子性)基、それにより、例えば、4、8、及び16個の反応性基を有する反応性前駆体は、特に、本発明に適する。しかし、任意数の官能基(例えば、前駆体を使用する場合、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、または16の基のうちのいずれかを含む)は、官能性が、十分に架橋されたネットワークを形成するのに十分であることを確保しながら、前駆体が本発明に従って使用されることが可能になる。
【0115】
PEGハイドロゲル
本発明の特定の実施形態では、ハイドロゲルを形成するポリマーネットワークは、ポリエチレングリコール(「PEG」)単位を含む。PEGは、架橋されると、ハイドロゲルを形成することが当該技術分野で知られており、これらのPEGハイドロゲルは、例えば、ヒトまたは動物の体の任意の部分に投与されることが意図される薬剤のマトリックスとして、医薬用途に適する。
【0116】
本発明のハイドロゲル挿入物のポリマーネットワークは、2~10のアーム、または4~8つのアーム、または4、5、6、7、もしくは8つのアームを有する1つ以上のマルチアームPEG単位を含んでもよい。特定の実施形態では、本発明のハイドロゲルに使用されるPEG単位は、4つのアームを有する。特定の実施形態では、本発明のハイドロゲルに使用されるPEG単位は、8つのアームを有する。特定の実施形態では、4個のアームを有するPEG単位及び8つのアームを有するPEG単位が、本発明のハイドロゲルに使用される。特定の実施形態では、1つ以上の4アームPEGが利用される。マルチアームPEGの任意の組み合わせが使用され得る。特定の実施形態では、4アームPEG単位のみが、使用される(同じであっても異なっていてもよい)。
【0117】
使用されるPEG(複数可)のアーム数は、得られるハイドロゲルの柔軟性または柔らかさを制御するのに役立つ。例えば、4アームPEGを架橋することにより形成されたハイドロゲルは、通常、同じ分子量の8アームPEGから形成されたものよりも柔らかく、柔軟性がある。特に、本明細書の挿入物の製造に関するセクションで後述するように、乾燥前(または乾燥後も)にハイドロゲルを伸張させることが望ましい場合、任意に、別のマルチアームPEG(例えば、上で開示された8アームPEG、または別の(異なる4アームPEG))と組み合わせて、より柔軟なハイドロゲル(例えば、4アームPEG)が使用され得る。
【0118】
本発明の特定の実施形態では、前駆体として使用されるポリエチレングリコール単位の平均分子量(Mn)は、約2,000~約100,000ダルトンの範囲、または約10,000~約60,000ダルトンの範囲、または約15,000~約50,000ダルトンの範囲である。特定の実施形態では、ポリエチレングリコール単位の平均分子量は、約10,000~約40,000ダルトンの範囲、または約15,000~約30,000ダルトンの範囲、または約15,000~約25,000ダルトンの範囲である。特定の実施形態では、本発明によるハイドロゲルの製造に使用されるポリエチレングリコール単位の平均分子量(Mn)は、約20,000ダルトンである。異なる分子量のポリエチレングリコール前駆体は、互いに組み合わされ得る。本明細書では、(本明細書で定義される)特定の平均分子量(例えば、約20,000ダルトン)を有するPEG材料について言及する場合、±10%の変動が含まれることが意図され、すなわち、約20,000ダルトンの平均分子量を有する材料について言及することは、約18,000~約22,000ダルトンの平均分子量を有するそのような材料も指す。本明細書で使用される場合、分子量の文脈における「k」という略語は、1,000ダルトンを指し、すなわち、「20k」は、20,000ダルトンを意味する。
【0119】
さらに、など、特定の平均分子量を持つPEG前駆体(例えば、15kPEGまたは20kPEG前駆体)を指す場合、示された平均分子量(すなわち、それぞれ15,000または20,000のMn)は、末端基が追加される前の前駆体のPEG部分を指す(本明細書では、「20k」は、20,000ダルトンを意味し、「15k」は、15,000ダルトンを意味し-同じ略語が、他の平均分子量のPEG前駆体にも本明細書で使用される)。特定の実施形態では、前駆体のPEG部分のMnは、MALDIで決定される。本明細書に開示される末端基との置換度は、末端基官能化後に、H-NMRにより決定され得る。
【0120】
4アーム(「4a」)PEGでは、特定の実施形態では、各アームの平均アーム長(または分子量)は、4で除したPEGの総分子量であってよい。本発明で使用される特に適した前駆体である4a20kPEG前駆体は、平均分子量が、それぞれ約5,000ダルトンの4つのアームと、20,000ダルトンの総分子量を有する。従って、本発明において4a20kPEG前駆体と組み合わせてまたはその代わりに使用することもできる8a20k PEG前駆体は、平均分子量が各々2,500ダルトンで総分子量が20,000ダルトンである8個のアーム(「8a」)を有する。アームが長いと、短いアームと比較して柔軟性が高くなり得る。アームが長いPEGは、アームが短いPEGと比較して多く膨潤し得る。アームの数が少ないPEGは、アームの数が多いPEGよりも膨張率が高く、柔軟性が高くなり得る。特定の実施形態では、本発明では、1つ以上の4アームPEG前駆体(複数可)のみが使用される。他の特定の実施形態では、本発明では、1つ以上の4アームPEG前駆体(複数可)及び1つ以上の8アームPEG前駆体(複数可)の組み合わせが使用される。さらに、PEGアームが長いほど、乾燥時の融点が高くなり、これにより、保管中の寸法安定性が向上し得る。
【0121】
特定の実施形態では、本発明のハイドロゲルを調製するためのPEG前駆体と共に使用される求電子末端基は、N-ヒドロキシスクシンイミジル(NHS)エステルであり、これは、例えば、スクシンイミジルマロナート基、スクシンイミジルマラート基、スクシンイミジルフマルラート基などのNHSジカルボン酸エステル、スクシンイミジルアゼラート末端基を指す「SAZ」、スクシンイミジルアジパート末端基を指す「SAP」、スクシンイミジルグルタルラート末端基を指す「SG」、及びスクシンイミジルスクシナート末端基を指す「SS」を含むが、これらに限定されない。本発明で有用なNHSエステルに加えて活性エステルの例としては、チオエステル、ベンゾトリアゾリルエステル、及びアクリル酸エステルである(これらに限定されない)。
【0122】
特定の実施形態では、本発明のハイドロゲルを調製するための求電子基含有PEG前駆体と共に使用される求核末端基は、アミン(「NH」と表示)末端基である。チオール(-SH)末端基または他の求核末端基も可能である。
【0123】
本発明の特定の実施形態では、平均分子量が、約20,000ダルトンであり、上で開示された求電子末端基(例えば、SAZ、SAP、SG、及びSS末端基、特に、SG末端基)を有する4アームPEGが架橋されて、ポリマーネットワーク、それにより、本発明によるハイドロゲルが形成される。好適なPEG前駆体は、Jenkem Technologyなどの多数のサプライヤーから入手できる。
【0124】
例えば、求核基含有架橋剤及び求電子基含有PEG単位の反応(例えば、アミン基含有架橋剤の活性化エステル基含有PEG単位との反応)により、以下の式を有する加水分解性リンカーで架橋される複数のPEG単位が生じる:
【化3】
(式中、mは、0~10の整数であり、具体的には、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10である)。SAZ末端基の場合、mは、6となり、SAP末端基の場合、mは、3となり、SG末端基の場合、mは、2となり、SS末端基の場合、mは、1となる。特定の実施形態では、mは、2である。ポリマーネットワーク内の全ての架橋は、同じであっても、異なってもよい。
【0125】
特定の実施形態では、本発明によるハイドロゲルを形成するために使用されるポリマー前駆体は、4a20kPEG-SAZ、4a20kPEG-SAP、4a20kPEG-SG、4a20kPEG-SS、8a20kPEG-SAZ、8a20kPEG-SAP、8a20kPEG-SG、8a20kPEG-SS、またはそれらの混合物から選択され、これは、4a20kPEG-NH、8a20kPEG-NH、及びトリリジン、またはトリリジン塩もしくは誘導体(例えば、トリリジンアセタート)から選択される1つ以上のPEGまたはリジンベースのアミン基を含む。
【0126】
特定の実施形態では、SG末端基が、本発明で利用される。この末端基は、他の末端基(例えば、SAZ末端基)を使用した場合と比較して、涙液におけるような水性環境でハイドロゲルが生分解されるまでの時間をより短くし得る。SAZ末端基は、リンカー内により多くの数の炭素原子をもたらし、従って疎水性が高いため、SG末端基よりもエステル加水分解が生じにくい可能性がある。
【0127】
特定の実施形態において、SG末端基(上記で定義の通り)を有する4アーム20,000ダルトンPEG前駆体は、1つ以上の反応性アミン末端基を有する架橋剤で架橋される。このPEG前駆体を本明細書では4a20kPEG-SGと略記する。4a20kPEG-SGの概略的な化学構造を以下に再現する:
【化4】
この式において、nはそれぞれのPEGアームの分子量によって決定される。
【0128】
ある特定の実施形態では、使用される架橋剤(本明細書では「クロスリンカー」とも称される)は、求核末端基(例えば、アミンまたはチオール末端基)を含む低分子量の構成要素である。特定の実施形態では、求核基含有架橋剤は、1,000Da未満の分子量を有する低分子アミンである。特定の実施形態では、求核基含有架橋剤は、2つ、3つ、またはそれ以上の一級脂肪族アミン基を含む。本発明の使用に適した架橋剤は、(限定されないが)スペルミン、スペルミジン、リジン、ジリジン、トリリジン、テトラリジン、ポリリジン、エチレンジアミン、ポリエチレンイミン、1,3-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノプロパン、ジエチレントリアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,1,1-トリス(アミノエチル)エタン、それらの薬学的に許容される塩、水和物または他の溶媒和物、及びそれらの誘導体、例えば、コンジュゲート(架橋に十分な求核基が存在する限り)、ならびにそれらの混合物である。本発明で使用される特定の架橋剤は、リジンベースの架橋剤、例えば、トリリジンまたはトリリジン塩もしくは誘導体である。本発明で使用される特定の求核性架橋剤は、トリリジン酢酸塩である。他の低分子量のマルチアームアミンも使用され得る。トリリジンの化学構造は、以下に再現される。
【化5】
【0129】
本発明の非常に特別な実施形態では、4a20kPEG-SG前駆体をトリリジンアセタートと反応させて、ポリマーネットワークを形成する。
【0130】
特定の実施形態では、求核基含有架橋剤は、可視化剤に結合しているか、または可視化剤と結合体化している。フルオロフォア、例えば、フルオレセイン、ローダミン、クマリン、及びシアニンを本明細書で開示する可視化剤として使用することができる。本発明の特定の実施形態では、可視化剤としてフルオレセインが使用される。可視化剤は、例えば、架橋剤の求核基のいくつかを介して、架橋剤とコンジュゲートされ得る。十分な量の求核基が架橋に必要であるので、「コンジュゲートされた」または「コンジュゲーション」は、一般に、部分的なコンジュゲーションを含み、これは、求核基のいくつかのみが、可視化剤とのコンジュゲーションに使用され得、例えば、架橋剤の求核基の約1%~約20%、または約5%~約10%、または約8%が可視化剤とコンジュゲートされ得ることを意味する。特定の実施形態では、架橋剤は、トリリジンアセタートであり、フルオレセインとコンジュゲートされている。
【0131】
他の実施形態において、可視化剤は、例えば、ポリマー前駆体の特定の反応性(例えば、求電子)基を介し、ポリマー前駆体と結合体化してもよい。特定の実施形態では、架橋剤自体またはポリマー前駆体自体が、例えばフルオロフォア(fluorophoric)基または他の可視化可能な基を含み得る。
【0132】
本発明では、可視化剤を、以下で開示するポリマー前駆体(複数可)または架橋剤と結合体化させることが意図されており、これにより、活性薬が涙液中に放出される間、可視化剤がハイドロゲル内に保持されるため、涙小管内の挿入物の存在を便利且つ非侵襲的な方法によって確認することが可能になる。
【0133】
特定の実施形態では、互いに反応する求核末端基及び求電子末端基のモル比は約1:1であり、すなわち、1つの求電子基(例えば、SG基)毎に1つのアミン基が提供される。4a20kPEG-SG及びトリリジン(アセタート)の場合、これにより、トリリジンが、求電子性SGエステル基と反応し得る4つの1級アミン基を有するので、2つの構成要素のモル比は、約1:1になる。しかし、求電子性(例:NHS、例えば、SG)末端基前駆体または求核性(例えば、アミン)末端基前駆体のいずれかを過剰に使用され得る。特に、過剰な求核剤(例えば、アミン末端基含有前駆体または架橋剤)が使用され得る。特定の実施形態では、求電子基含有前駆体対求核基含有架橋剤のモル比、例えば、4a20kPEG-SG対トリリジンアセタートのモル比は、約1:2~約2:1である。
【0134】
最後に、代替実施形態では、アミン結合剤は、また、4a20kPEG-SGと同じまたは異なるアーム数と、同じまたが異なるアーム長(平均分子量)を有するが、末端アミン基(すなわち、4a20kPEG-NH)を有する別のPEG前駆体であり得る。
【0135】
追加成分
本発明の挿入物は、上で開示されるポリマーネットワークを形成するポリマー単位及び有効成分に加えて、他の追加成分を含有してもよい。そのような追加成分は、例えば、ハイドロゲルの調製中に使用される緩衝液に由来する塩、例えば、リン酸塩、ホウ酸塩、重炭酸塩、または他の緩衝剤、例えば、トリエタノールアミンである。本発明の特定の実施形態では、リン酸ナトリウム緩衝液(具体的には、一塩基性及び二塩基性リン酸ナトリウム)が使用される。
【0136】
特定の実施形態では、本発明の挿入物は、抗菌防腐剤を含まないか、または少なくとも相当量の抗菌防腐剤(限定されないが、塩化ベンザルコニウム(BAK)、クロロブタノール、過ホウ酸ナトリウム、及び安定化オキシクロロ複合体(SOC)を含む)を含有しない。
【0137】
さらに具体的な実施形態では、本発明の挿入物は、動物またはヒト由来の成分を含有せず、合成成分のみを含有する。
【0138】
特定の実施形態では、本発明の挿入物は、可視化剤を含む。本発明に従って使用される可視化剤は、ハイドロゲルの構成要素とコンジュゲートすることができるか、またはハイドロゲル内に閉じ込めることができ、可視であるか、または、例えば、特定の波長の光に曝露されると可視になり得るか、または造影剤である全ての薬剤である。本発明で使用するのに適した可視化剤は、例えば、フルオレセイン、ローダミン、クマリン、シアニン、ユーロピウムキレート錯体、ホウ素ジピロメテン、ベンゾフラザン、ダンシル、ビマン、アクリジン、トリアザペンタレン、ピレン、及びそれらの誘導体である(が、これらに限定されない)。そのような可視化剤は、例えば、TCIから、市販されている。特定の実施形態では、可視化剤は、フルオレセインなどのフルオロフォアであるか、またはフルオレセイン部分を含む。フルオレセイン含有挿入物の視覚化は、青色光及び黄色フィルターを用いる照射で可能である。涙小管内挿入物内のフルオレセインは、青色光で励起されると発光し、挿入物の存在を確認することが可能になる。特定の実施形態では、可視化剤は、ハイドロゲルを形成する構成要素の1つとコンジュゲートされている。例えば、フルオレセインなどの可視化剤は、架橋剤、例えば、トリリジンまたはトリリジン塩もしくは誘導体(例えば、トリリジン酢酸塩)と、またはPEG構成要素とコンジュゲートされている。例えば、NHS-フルオレセインは、PEG前駆体(複数可)との架橋反応前にトリリジン酢酸塩とコンジュゲートされ得る。可視化剤のコンジュゲーションは、可視化剤が挿入物から溶出または放出されるのを防ぐ。十分な量の求核基(少なくとも1当量以上)が架橋に必要であるので、可視化剤の、例えば、上に開示される架橋剤との部分的なコンジュゲーションが実施され得る。
【0139】
本発明の挿入物は、特定の実施形態では、界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤は、非イオン性界面活性剤であってよい。非イオン性界面活性剤は、ポリ(エチレングリコール)鎖を含んでもよい。例示的な非イオン性界面活性剤は、Tween(登録商標)として市販されているポリ(エチレングリコール)ソルビタンモノラウラート(特に、PEG-20-ソルビタンモノラウラートであるTween(登録商標)20、またはPEG-80-ソルビタンモノラウラートであるTween(登録商標)80)、クレモフォールとして市販されているヒマシ油のポリ(エチレングリコール)エステル(特に、PEG-40-ヒマシ油であるクレモフォール40)、及びTyloxapolとして市販されているエトキシル化4-tert-オクチルフェノール/ホルムアルデヒド縮合ポリマー、及びTritonなどの他のものである。界面活性剤は、有効成分の分散を助け得、粒子の凝集を防ぎ得、乾燥中にハイドロゲルストランドがチューブに付着する可能性も低減させ得る。
【0140】
製剤化
特定の実施形態では、本発明による挿入物は、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬、本明細書に開示の1つ以上のポリマー前駆体から作成されるポリマーネットワーク(ハイドロゲル形態)と、生成プロセスから挿入物内に残留する任意の追加構成要素(例えば、可視化剤)、塩(例えば、緩衝液として使用されるリン酸塩)などを含む。特定の好ましい実施形態では、非ステロイド性抗炎症薬は、ネパフェナクである。特定の実施形態では、挿入物は、防腐剤が含まれない。
【0141】
いくつかの実施形態では、乾燥状態の本発明による挿入物は、約25重量%~約75重量%の、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬と、約75重量%~約25重量%の上に開示されたポリマー単位を含有する。さらなる実施形態では、乾燥状態の本発明による挿入物は、約40重量%~約70重量%の、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬と、約20重量%~約60重量%のポリマー単位(例えば、上に開示されたもの)を含有する。
【0142】
特定の実施形態では、乾燥状態の本発明による挿入物は、約50重量%~約70重量%の、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬と、約20重量%~約60重量%のポリマー単位(例えば、上に開示されたポリエチレングリコール単位)を含有する。
【0143】
特定の実施形態では、本発明による挿入物は、乾燥状態で、可視化剤、例えば、フルオレセイン、またはフルオレセイン部分を含む分子、を約0.1重量%~約1重量%で含んでもよい。また、特定の実施形態では、本発明による挿入物は、乾燥状態で、約0.5重量%~約5重量%の1つ以上の緩衝塩(複数可)を(別々にまたは一緒に)含有してもよい。特定の実施形態では、乾燥状態の挿入物は、例えば、約0.01重量%~約2重量%、または約0.05重量%~約0.5重量%の界面活性剤を含有してもよい。
【0144】
特定の実施形態では、乾燥状態の挿入物の残り(すなわち、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬及びポリマーハイドロゲル(例えば、トリリジン架橋PEGハイドロゲル)、任意に、可視化剤(例えば、フルオレセイン)が既に考慮されている場合の製剤の残り)は、本明細書に開示される挿入物の製造中に使用される緩衝液から残留する塩であっても、挿入物の製造中に使用される他の成分(例えば、使用される場合の界面活性剤)であってよい。特定の実施形態では、そのような塩は、リン酸塩、ホウ酸塩、または(重)炭酸塩である。一実施形態では、緩衝塩は、リン酸ナトリウム(一塩基性及び/または二塩基性)である。
【0145】
非ステロイド性抗炎症薬及びポリマー(複数可)の量は、変動し得、本明細書に開示される量以外の非ステロイド性抗炎症薬及びポリマーハイドロゲルの量は、また、本発明による挿入物を調製するために使用され得る。
【0146】
特定の実施形態では、約20%~約50%(w/v)の固形物(「固形分」が、溶液中のポリマー前駆体(複数可)、任意の可視化剤、塩、及び薬物の合計重量を意味する)は、本発明による挿入物のハイドロゲルを形成するために利用される。
【0147】
特定の実施形態では、乾燥(脱水/乾燥)状態のハイドロゲルの水分含有量は、低く、例えば、多くとも、約1重量%(例えば、本明細書で開示される通り決定)の水であってよい。特定の実施形態では、水分含有量は、また、それより低く、おそらく、約0.25重量%以下、または約0.1重量%以下であってよい。
【0148】
挿入物の寸法及び水分吸収時の寸法変化
乾燥挿入物は、製造方法(例えば、非ステロイド性抗炎症薬を含むハイドロゲル前駆体を含む混合物が完全なゲル化の前にキャスティングされるモールドまたはチューブの内径または外形)に応じて異なる形状を有してもよい。本発明による挿入物は、「ファイバー」(用語は、本明細書では「ロッド」という用語と互換的に使用される)とも呼ばれ、一般に、ファイバーの長さは、その直径を超える。挿入物(またはファイバー)は、本明細書に開示される特定の寸法で、異なる形状を有してもよい。
【0149】
一実施形態では、挿入物は、円筒形であるか、または本質的に円筒形の形状である。明細書または特許請求の範囲で、本明細書で挿入物の外形に関して「円筒形」と記載される時はいつでも、これは、常に、「本質的に円筒形」を含む。この場合、挿入物は、円形または本質的に円形の断面を有する。本発明の他の実施形態では、挿入物は、非円筒形である。本発明による挿入物は、乾燥状態では、任意に細長くなっており、挿入物の長さは、挿入物の幅よりも大きく、幅は、長さに対して実質的に垂直な最大断面寸法である。円筒形または本質的に円筒形の挿入物は、幅は直径とも呼ばれる。
【0150】
外側挿入物の外形またはその断面の様々な形状も、本発明で使用され得る。例えば、円形の直径のファイバー(すなわち、円筒形の挿入物の場合)の代わりに、楕円形(または楕円形)の直径のファイバーが使用され得る。楕円形または矩形、長方形、三角形、星形、十字形などの他の断面形状が、一般に、使用され得る。本明細書に開示されているように、挿入物の直径が、涙小管内で水分吸収する時に、水分吸収直径まで拡大する限り、正確な断面形状は、組織が挿入物の周囲に形成されるので重要ではない。特定の実施形態では、水分吸収状態の挿入物の長さ対挿入物の直径の比は、少なくとも約1、または少なくとも約1.1、または少なくとも約1.2、または少なくとも約1.4、または少なくとも約1.7であり、これにより、挿入物を涙小管内の所定の位置に保持するのに役立ち、挿入物が涙小管内でねじれ、回転するのを防ぎ、周囲の組織との密接な接触を維持するのにも役立つ。特定の実施形態では、この比は、約2.5未満、約2.2未満、約2未満、または約1.8未満であり得る。
【0151】
本発明の特定の実施形態によるハイドロゲル挿入物のポリマーネットワーク(例えば、PEGネットワーク)は、室温以下の乾燥状態では半結晶性であり、湿潤状態では非晶質であることがある。伸張された形態であっても、乾燥挿入物は、室温以下で寸法的に安定していることがあり、これは、挿入物を涙小管内に投与するのに有利であり、さらには品質管理に有利であることがある。
【0152】
涙液により涙小管内の挿入物が水分吸収されると(これは、例えば、平衡状態と考えられる24時間後に37℃でpH7.4のPBSに挿入物を浸漬することにより、in vitroでシミュレートすることができる)、本発明による挿入物の寸法が、変化し得る。一般に、挿入物の直径は、増加し得るが、その長さは、減少し得るか、または、特定の実施形態では、同じもしくは実質的に同じままであることがある。この寸法変化の利点は、乾燥状態の挿入物は、水分吸収時に、涙点(それ自体の直径が、涙小管より小さい)を通して、涙小管内に投与及び配置されるほど十分に細いが、それにより、直径の拡張を通して、涙小管に密接に適合し、それにより、涙小管プラグとして機能する。それ故、挿入物は、本明細書に開示されているように、一定期間にわたり涙液に制御された方法で有効成分を放出することに加えて、涙管閉塞、それによる涙液の保存を提供する。
【0153】
特定の実施形態では、本明細書にも開示されているように、この寸法変化は、少なくとも部分的に、製造中にハイドロゲルストランドを縦方向に伸張させることにより挿入物に導入される「形状記憶」効果により可能になる。特定の実施形態では、この伸張は、湿潤状態で、すなわち、乾燥前に、実施され得る。しかし、他の特定の実施形態では、ハイドロゲルストランドの伸張(キャスト及び硬化後)は、乾燥状態(すなわち、ハイドロゲルストランドを乾燥させた後)で実施され得る。全く伸張が実施されない場合、挿入物は、水の吸収により単に膨張し得るが、本明細書に開示の直径の増加及び長さの減少の寸法変化は達成されなくても、大幅に達成されなくてもよいことに留意する。これにより、挿入物が涙小管内に最適に固定されない可能性があり、挿入物が(潜在的に、有効成分の全量が放出される前に)鼻涙管または涙点を通してクリアランスされる可能性がある。これが望ましくない場合、ハイドロゲルストランドは、例えば、再水分吸収時に直径の拡張をもたらすために、乾燥または湿潤で伸張され得る。
【0154】
本発明のハイドロゲルでは、材料を伸張させ、その後、固定されるようにし、分子配向を固定することにより、ある程度の分子配向が付与され得る。分子配向は、挿入物を涙液などの水分吸収媒体と接触させた時に、異方性膨潤に1つの機序を提供する。水分吸収時に、本発明の特定の実施形態の挿入物は、半径方向の寸法のみで膨張するが、長さが減少するか、または維持されるか、または実質的に維持される。「異方性膨張」という用語は、主に直径方向に膨張するが、縦方向では顕著に拡大しない(または収縮する)円筒のように、別の方向ではなく一方向に優先的に膨張することを意味する。
【0155】
水分吸収時の寸法変化の程度は、とりわけ伸張係数に依存し得る。伸張の効果を説明するための単なる例として、(例えば、湿式伸張によって)例えば約1.3の伸張係数で伸張した場合、あまり顕著な効果を有しないか、または水和時の長さ及び/または直径をあまり変化させない場合がある。これに対し、(例えば、湿式伸張によって)例えば約1.8の伸張係数で伸張した場合、結果として、水和時に長さが短くなり、及び/または直径が増加し得る。(例えば、乾式伸張によって)例えば約3または4の伸張係数で伸張した場合、結果として、水和時に長さがはるかに短くなり、直径がはるかに大きくなる可能性がある。伸張以外の他の要因も膨潤挙動に影響を及ぼし得ることを、当業者は理解するであろう。
【0156】
ハイドロゲルを伸張させ、水分吸収時に挿入物の寸法変化を引き起こす可能性に影響を与える他の要因の中には、ポリマーネットワークの組成がある。PEG前駆体が使用される場合、少数のアームを有するもの(例えば、4アームのPEG前駆体)は、多数のアームを有するもの(例えば、8アームのPEG前駆体)よりもハイドロゲルの柔軟性を高めるのに役立る。ハイドロゲルが柔軟性が低い構成要素を多く含む場合(例えば、より多くの数のアームを含むPEG前駆体(例えば、8アームPEG単位)の量が多い場合)、ハイドロゲルはより堅くなり、破損なしで伸張するのが容易でなくなることがある。一方、より柔軟な構成要素(例えば、少数のアームを有するPEG前駆体、例えば、4アームPEG単位)を含有するハイドロゲルは、容易に伸張し柔軟になり得るが、また、水分吸収時に、より膨張する。従って、挿入物が投与され、再水分吸収された時の挙動及び特性は、構造的特徴を変化させることにより、及び挿入物が最初に形成された後の挿入物の処理を変更することにより調整することができる。
【0157】
乾燥挿入物の寸法は、とりわけ、組み込まれた非ステロイド性抗炎症薬の量、及び非ステロイド性抗炎症薬対ポリマー単位の比に依存し得、さらに、ハイドロゲルがゲル化するモールドまたはチューブの直径及び形状により制御することができる。乾燥挿入物の直径は、本明細書に開示されているように形成されたハイドロゲルストランドを(湿式または乾式)伸張させることによりさらに制御され得る。乾燥ハイドロゲルストランド(伸張後)を、所望の長さの断片に切断して、挿入物を形成し;従って、長さを必要に応じて選択することができる。
【0158】
以下では、特定の寸法を有する挿入物の実施形態が開示される。本明細書の特定の実施形態で開示される寸法範囲または値は、円筒形または本質的に円筒形の挿入物の長さ及び直径に関する。しかし、円筒形挿入物の全ての値及び範囲は、非円筒形挿入物にも同様に使用され得る。1つの挿入物の長さまたは直径の測定が複数回実行される場合、または測定中に複数のデータポイントが収集される場合、平均(すなわち、平均)値が、本明細書で定義されている通り報告される。本発明による挿入物の長さ及び直径は、例えば、顕微鏡、または(任意に自動化された)カメラシステムで測定され得る。挿入物の寸法を測定する他の好適な方法も使用され得る。
【0159】
一実施形態では、本発明は、ハイドロゲル及び非ステロイド性抗炎症薬を含む持続放出生分解性涙小管内挿入物に関し、乾燥状態の挿入物の長さは、約3.5mm以下、約3.2mm未満、または約3.00mm未満である。特定の実施形態では、非ステロイド性抗炎症薬は、ネパフェナクである。
【0160】
本発明の特定の実施形態では、乾燥状態の挿入物の長さが、約3.5mm以下、約3.2mm以下、約3.0mm以下、約2.8mm以下、もしくは約2.6mm未満であるか、または長さが約2.5mmである。本発明の特定の実施形態では、乾燥状態の挿入物の長さは、約1mm超、または約1.5mm超、または約2mm超、または約2.5mm超、または約2.8mm超である。特定の実施形態では、乾燥状態の挿入物の長さは、約3.2mm以下、及び約2.8mm超である。
【0161】
代替実施形態では、挿入物の長さは、約0.5mm~約3.5mm(例えば、約0.5mm~約3.2mm、約1mm~約3.0mm、約1.25mm~約2.8mm、約1.5mm~約2.5mm、約0.5mm、約0.75mm、約1mm、約1.25mm、約1.5mm、約1.75mm、約2.0mm、約2.25mm、約2.5mm、約2.75mm、または約3mm)であってよい。
【0162】
本発明の特定の実施形態では、乾燥状態の挿入物の直径は、約1mm未満、または約0.8mm未満、または約0.75mm未満、または約0.6mm未満、または約0.40mm~約0.7mm、または約0.5mm、または約0.6mmである。
【0163】
特定の実施形態では、本発明による挿入物は、円筒形または本質的に円筒形であり、水分吸収すると(in vivoでは涙小管内、またはin vitro、37℃で、pH7.2のリン酸緩衝生理食塩水中で24時間後)、挿入物の直径が増加し、挿入物の長さが減少する。特に、挿入物の直径は、約1.5~約4倍、または約2~約3.5倍、または約3倍の範囲で係数で増加され得る。言い換えれば、水分吸収状態の挿入物の直径対乾燥状態の挿入物の直径の比は、約1.5~約4、または約2~約3.5、または約3の範囲であってよい。
【0164】
特定の実施形態では、本発明による挿入物の長さは、水分吸収後に、乾燥状態での長さの約0.99倍以下または0.95倍に、乾燥状態での長さの0.92倍に、乾燥状態での長さの0.90倍に、または乾燥状態での長さの約0.75倍に、または乾燥状態での長さの約3分の2に減少する。言い換えれば、水分吸収状態の挿入物の長さ対乾燥状態の挿入物の長さの比は、約0.99以下もしくは約0.95以下、または約0.9以下もしくは約0.85以下、または約3分の2以下であってよく、少なくとも約0.25または少なくとも約0.4であってよい。
【0165】
従って、特定の実施形態では、本発明による挿入物は、水分吸収状態で約1~約2.5mmの範囲の直径を有し、乾燥状態の挿入物の長さよりも短い長さを有する。特定の実施形態では、水分吸収状態で、例えば、挿入物が涙小管内に配置されている場合、挿入物の長さ対直径の比は、適切には、1より大きく、すなわち、挿入物の長さは、直径よりも長い。これにより、いかなるねじれまたは回転もなく、挿入物を涙小管内の所定の位置に保持するのに役立つ。これは、涙小管/涙点を閉塞し、涙液を眼内に保持し、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬を放出するために挿入物の表面と涙液の接触を確実にするのに役立つ。
【0166】
特定の実施形態では、水分吸収状態の本発明による挿入物は、直径が、約1.4mm~約2.2mmもしくは約1.4mm~約2.0mmまたは約1.5mmもしくは約1.8mmの範囲のである。
【0167】
特定の実施形態では、寸法変化は、約1.5~約3、または約2.2~約2.8、または約2.5~約2.6の範囲の伸張係数でハイドロゲルストランドを湿式伸張させることにより達成され得る。他の実施形態では、そのような寸法変化は、乾式伸張により達成され得る。
【0168】
特定の実施形態では、このように伸張させると、形状記憶が形成され、これは、挿入物が、涙小管に投与された時に水分吸収すると、及び涙液と接触すると、(多かれ少なかれ)平衡寸法(とりわけ、元の成形寸法及び組成変数で決定される)に近づくまで、長さが縮み、直径が広がることを意味する。乾燥寸法が狭いと、涙点を通して涙小管へ挿入物を投与することが容易になるが、活性薬を主にその近位表面(涙液と接触し、涙点開口部に向けられた挿入物の表面)で放出しながら、投与後に直径が広がり長さが短くなると、涙小管に密接に適合して閉塞する挿入物が短く幅が広くなる。
【0169】
特定の実施形態では、本発明の挿入物の総重量は、約50~約1500μgの範囲、例えば、約100~約1000μgの範囲、または約200~約800μgの範囲、または約400~約1100μgの範囲、または約650~約1000μgの範囲、または約50~約1200μgの範囲である。
【0170】
活性物質の放出及び挿入物の生分解
1つの実施形態では、本発明は、ハイドロゲル及び非ステロイド性抗炎症薬を含む持続放出生分解性眼内(例えば、涙小管内)挿入物に関し、挿入物は、投与後(すなわち、涙小管内に挿入された後)最大約5日間、最大約7日間、最大約14日間、最大約21日間、最大約30日間、または最大約42日間の期間にわたり、治療有効量の非ステロイド性抗炎症薬または代謝物を放出する。特定の実施形態では、非ステロイド性抗炎症薬は、ネパフェナクであり、代謝物は、アンフェナクである。
【0171】
特定の実施形態では、活性薬は、徐々に溶解し、ハイドロゲルから涙液中に拡散する。これは、主に、挿入物の近位表面の挿入物及び涙液の界面から始まり、一方向に生じる。「薬物前部」は、一般に、最終的に、挿入物全体の活性薬剤が枯渇するまで、反対方向、すなわち、近位表面から離れて進行する。
【0172】
特定の実施形態では、投与後、挿入物から1日当たりに放出される活性薬のレベルは、ネパフェナクの場合、(活性薬の溶解度に基づく放出の制限による)一定期間(例えば、約5日間または約7日間または約11日間または約14日間)にわたり、持続され、一定、または本質的に一定のままである。次に、1日に放出される活性薬の量は、ネパフェナクの場合、活性薬の全てまたは実質的に全てが放出されるまで、別の期間、例えば、さらに約7日間(特定の実施形態では、それ以上)の期間減少し得(「漸減」とも呼ばれる)、「空の」ハイドロゲルは、完全に分解されるまで、及び/または鼻涙管を通してクリアランスされる(排泄される/流出する)まで、涙小管内に留まる。
【0173】
特定の実施形態では、薬剤が主に挿入物の近位表面から放出されると、ハイドロゲル挿入物のこの領域は、薬剤粒子がなくなり、それ故、「クリアランスゾーン」とも呼ばれることがある。特定の実施形態では、水分吸収すると、「クリアランスゾーン」は、水分吸収したハイドロゲルの別の領域の活性薬よりも低い濃度の活性薬を有する挿入物の領域となる。クリアランスゾーンが増加すると、薬物の放出速度を漸減させ得る挿入物内に濃度勾配が生じる。
【0174】
特定の実施形態では、薬物がハイドロゲルから拡散するのと同時に(薬物の全量がハイドロゲルから拡散した後も)、ハイドロゲルは、例えば、涙液の水性環境におけるエステル加水分解により徐々に分解され得る。分解ステージの進行時に、ハイドロゲルの歪み及び侵食が生じ始める。これが生じるにつれて、ハイドロゲルは、最終的にハイドロゲルは溶解し、完全に再吸収されるまで、より柔らかくなり、より液体になる(従って、その外形は歪む)。しかし、ハイドロゲルは、柔らかくなり、薄くなり、外形が歪むにつれて、ある時点で、投与されている涙小管内の意図された部位に留まらなくなることがあるが、涙小管のより深いところまで進み得、最終的には、鼻涙管を通してクリアランスされ(排泄され/流出し)得る。
【0175】
一実施形態では、ヒトの眼(涙小管を含む)などの水性環境内でのハイドロゲルの持続性は、とりわけ、ハイドロゲル内のポリマー単位(例えば、PEG単位)を架橋するリンカーの構造に依存する。特定の実施形態では、ハイドロゲルは、投与後約1週間、約2週間、または約1ヶ月、または約2ヶ月、または約3ヶ月、または最大約4ヶ月の期間内に生分解される。しかし、水性環境(例えば、涙小管内の涙液)中の分解プロセス中で、ハイドロゲルは、徐々に柔らかくなり、変形し、挿入物は、完全に生分解される前に、鼻涙管を通してクリアランスされ(流出し/排泄され)得る。
【0176】
本発明の実施形態では、ハイドロゲル、それにより、挿入物は、投与後最大約1週間、最大約2週間、最大1ヶ月、または最大約2ヶ月、または最大約3ヶ月、または最大約4ヶ月の期間、涙小管内に留まる。
【0177】
本発明の特定の実施形態では、非ステロイド性抗炎症薬がネパフェナクである場合、ネパフェナクの全量は、ハイドロゲルの完全な分解前に放出され得、挿入物は、それ以降、投与後全体で最大約1週間、最大約2週間、最大約1ヶ月間、または投与後最大約2ヶ月間、または投与後最大約3ヶ月間、もしくは最大約4ヶ月間にわたり、涙小管内に持続し得る。他の特定の実施形態では、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬が挿入物からまだ完全に放出されていない時に、ハイドロゲルは、完全に生分解され得る。他の実施形態では、挿入物は、非ステロイド性抗炎症薬の少なくとも約90%、または少なくとも約92%、または少なくとも約95%、または少なくとも約97%の放出後に完全に分解され得る。
【0178】
特定の実施形態では、例えば、品質管理または他の定性評価の目的で、異なる挿入物(例えば、異なる製造バッチ、異なる組成、及び異なる投与強度などのもの)を互いに比較するために、in vitro放出試験が使用され得る。本発明の挿入物からの非ステロイド性抗炎症薬のin vitro放出は、様々な方法、例えば、37℃のPBS(リン酸緩衝生理食塩水、pH7.4)中の非沈降人工生理学的条件(ヒトの眼の涙液と同等の量のPBSを毎日交換する)下で、測定することができる。
【0179】
特定の実施形態では、涙液は、ネパフェナク及びアンフェナクを含有する。
【0180】
特定の実施形態では、0.1日目の涙液中のネパフェナク対アンフェナクの比は、約2:1より大きい、約3:1より大きい、約4:1より大きい、または約2:1~約6:1、もしくは約3:1~約5:1である。
【0181】
特定の実施形態では、涙液中の1日目のネパフェナク対アンフェナクの比は、約2:1より大きい、約3:1より大きい、約4:1より大きい、約5:1より大きい、約7:1より大きい、または約2:1~約10:1、もしくは約6:1~約8:1である。
【0182】
特定の実施形態では、涙液中の3日目のネパフェナク対アンフェナクの比は、約1:1より大きい、約2:1より大きい、約3:1より大きい、約4:1より大きい、または約2:1~約6:1、もしくは約2:1~約5:1である。
【0183】
特定の実施形態では、7日目の涙液中のネパフェナク対アンフェナクの比は、約1:1より大きい、約1.5:1より大きい、約2:1より大きい、約3:1より大きい、約4:1より大きい、または約1:1から約3:1、もしくは約1.5:1から約2:1である。
【0184】
特定の実施形態では、涙液中の10日目のネパフェナク対アンフェナクの比は、約1:1より大きい、約2:1より大きい、約3:1より大きい、約4:1より大きい、または約2:1~約6:1、もしくは約2:1~約5:1である。
【0185】
特定の実施形態では、0.1日、1日、3日、7日、または10日のいずれかの時点での涙液中のネパフェナク対アンフェナクの比は、約1:1より大きい、約2:1より大きい、約3:1より大きい、約4:1より大きい、約5:1より大きい、もしくは約8:1より大きい、または約1:1~約15:1、もしくは約1:1~約10:1である。
【0186】
特定の実施形態では、5日目、7日目、14日目、21日目、30日目、または42日目の房水中のアンフェナク対ネパフェナクの比は、約100:1より大きい、約1000:1より大きい、約10,000:1より大きい、または約100,000:1より大きい。特定の実施形態では、5日目、7日目、14日目、21日目、30日目、または42日目の房水中の、アンフェナクは、IC50と比較して、2倍超、5倍超、10倍超、20倍超、25倍超、30倍超、35倍超、40倍超、50倍超、75倍超、100倍超、150倍超、約200倍超、または2~500倍、5~400倍、10~300倍、15~200倍、20~100倍、25~75倍、または30~50倍の濃度である。
【0187】
挿入物の製造
特定の実施形態では、本発明は、ハイドロゲル及びネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬を含む、本明細書に開示の持続放出生分解性涙小管内挿入物を製造する方法にも関する。
【0188】
特定の実施形態では、本発明による製造方法は、ポリマーネットワーク(例えば、PEG単位を含む)と、ハイドロゲル内に分散されている非ステロイド性抗炎症粒子を含むハイドロゲルを形成するステップ、ハイドロゲルを成形またはキャスティングするステップ、及びハイドロゲルを乾燥させるステップ、を含む。一実施形態では、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬は、本明細書に開示のように、挿入物を調製するために微粉化形態で使用され得る。別の実施形態では、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬は、挿入物を調製するために微粉化形態で使用され得る。
【0189】
本発明の特定の実施形態のハイドロゲルを形成するのに適した前駆体は、挿入物自体に関するセクションで上で開示されている通りである。特定の実施形態では、ハイドロゲルは、本明細書に開示される架橋ポリエチレングリコール単位を含むポリマーネットワークから作製される。特定の実施形態におけるポリエチレングリコール(PEG)単位は、約2,000~約100,000ダルトン、または約10,000~約60,000ダルトン、または約15,000~約50,000ダルトン、または約20,000ダルトンの平均分子量を有する、4アームなどの多アームPEG単位である。本明細書に開示される求電子基などの反応性基を有する好適なPEG前駆体は、架橋されてポリマーネットワークを形成する。架橋は、本明細書にも開示されているように、求核基などの反応基を有する低分子化合物または別のポリマー化合物(別のPEG前駆体を含む)のいずれかである架橋剤により実施され得る。特定の実施形態では、求電子末端基を有するPEG前駆体は、求核末端基を有する架橋剤(低分子化合物または別のPEG前駆体)と反応させて、ポリマーネットワークを形成する。
【0190】
具体的な実施形態では、本発明の挿入物を製造する方法は、ネパフェナク粒子の存在下で緩衝溶液中で、求電子基含有マルチアームポリエチレングリコール(例えば、4a20kPEG-SG)を求核基含有架橋剤(例えば、トリリジンアセタート)を混合して反応させること、及び混合物をゲル化させること、を含む。特定の実施形態では、PEG前駆体中の求電子基対架橋剤中の求核基のモル比は、約1:1であるが、約2:1~約1:2の範囲であってもよい。
【0191】
特定の実施形態では、本明細書に開示の可視化剤は、挿入物が涙小管内に投与されていると可視化され得るように、ハイドロゲルを形成する混合物に含まれる。例えば、可視化剤は、フルオレセインなどのフルオロフォア、またはフルオレセイン部分を含む分子、または上で開示される別の可視化剤であってよい。特定の実施形態では、可視化剤は、挿入物が、生分解されるまで常に、挿入物内に留まるように、ポリマーネットワークの1つ以上の構成要素としっかりとコンジュゲートされ得る。
【0192】
可視化剤は、PEGなどのポリマー、前駆体、または(ポリマーまたは低分子量の)架橋剤のいずれかとコンジュゲートされ得る。特定の実施形態では、可視化剤は、フルオレセインであり、架橋剤をPEG前駆体と反応させる前に、トリリジンアセタート架橋剤にコンジュゲートされる。例えば、フルオレセインの場合、NHS-フルオレセイン(N-ヒドロキシスクシンイミジル-フルオレセイン)が、トリリジンアセタートと反応させ得、トリリジン-フルオレセインコンジュゲートの形成の完了が監視され得る(例えば、UV検出を備えたRP-HPLCにより)。次に、このコンジュゲートは、さらに、4a20kPEG-SGなどのポリマー前駆体(複数可)を架橋するために使用され得る。
【0193】
特定の実施形態では、本発明の挿入物の製造中に、非ステロイド性抗炎症薬及びPEG前駆体(複数可)(例えば、ネパフェナク及び4a20kPEG-SG)の(任意に緩衝化された)混合物/懸濁液が水中で調製される。次に、非ステロイド性抗炎症薬/PEG前駆体混合物が、架橋剤及びそれにコンジュゲートされた可視化剤(例えば、リジン酢酸塩/フルオレセイン結合体)を含有する溶液(任意に、緩衝化)と混合する。次に、得られる混合混合物は、非ステロイド性抗炎症薬、ポリマー前駆体(複数可)、架橋剤、可視化剤、及び(任意に)緩衝剤を含有する。特定の実施形態では、求電子基含有ポリマー前駆体、求核基含有架橋剤、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬、任意に、可視化剤(任意に、架橋剤とコンジュゲートされている)、及び任意に、緩衝液の混合物が調製されていると(すなわち、これらの構成要素が混合された後)、得られる混合物は、例えば、ハイドロゲルストランド、最終的には、所望の最終外形のハイドロゲルを提供するために、完全なゲル化の前に好適なモールドまたはチューブにキャストされる。次に、混合物を、ゲル化させる。次に、得られたハイドロゲルを乾燥させる。
【0194】
挿入物の最終形状が円筒形または本質的に円筒形である場合、ハイドロゲルストランドが、非ステロイド性抗炎症粒子を含むハイドロゲル前駆体混合物を、ポリウレタン(PU)チューブなどの細い直径のチューブにキャスティングすることにより調製される。ハイドロゲルストランド、それによる最終挿入物の所望の最終断面形状、その初期直径(伸張によりさらに減少し得る)に応じて、及び反応混合物がチューブを均一に満たし、乾燥後にチューブから除去される能力に応じて、異なる形状及び直径のチューブが使用され得る。従って、チューブの内側は、円形の形状、または非円形の形状、例えば、楕円形(または他の)形状を有してもよい。
【0195】
特定の実施形態では、ハイドロゲルストランドが形成されており、チューブ内に硬化及びゲル化プロセスが完了するまで放置された後、本明細書に開示されているように、ハイドロゲルストランドは、湿潤状態または乾燥状態で縦方向に伸張され得る。伸張させると、例えば、挿入物を涙小管内に配置した後に、水分吸収時に挿入物の寸法の変化がもたらされ得る。特定の実施形態では、ハイドロゲルストランドは、(完全な)乾燥前に、約1~約3、または約1.5~約3、または約2.2~約2.8、または約2.5~約2.6の範囲の伸張係数で伸張される。特定の実施形態では、ハイドロゲルストランドが依然としてチューブ内にある時に、伸張が実施され得る。あるいは、ハイドロゲルストランドは、伸張される前にチューブから除去され得る。本発明の特定の実施形態で、乾式伸張が実施される場合、ハイドロゲルストランドは、最初に乾燥され、次に(依然としてチューブ内にある時、またはチューブから除去された後)伸張される。本発明の特定の実施形態で、湿式伸張が実施される場合、ハイドロゲルは、湿潤状態(すなわち、完全に乾燥する前)で伸張され、次に、張力下で乾燥させる。任意に、伸張時に、熱を加えてもよい。
【0196】
ハイドロゲルストランドの伸張及び乾燥後が、最終的な挿入物を生成するために、本明細書に開示されているように、チューブから除去され、所望の長さの断片に切断され得る(チューブ内で切断される場合、切断セグメントは、切断後にチューブから除去される)。本発明の目的のために特に望ましい長さは、例えば、約3.5mm以下、約3.2mm以下、約3.0mm以下、もしくは約2.75mm以下、例えば、約2.0mm~約2.6mmの範囲の長さ、または約2.5mmである。
【0197】
特定の実施形態では、挿入物は、溶融押し出しまたは射出成形により製造される。
【0198】
方法は、ポリマー組成物及び活性薬を押出機に供給すること;押出機内で構成要素を混合すること;ストランドを押し出すこと;ならびにストランドを単位用量挿入物またはインプラントに切断すること、を含んでもよい。
【0199】
特定の実施形態では、ポリマー組成物及び活性薬は、別々に押出機に供給される。他の実施形態では、ポリマー組成物及び活性薬は、同時に押出機に供給される。特定の実施形態では、ポリマー組成物は、押出機に導入される前に、予め混合(例えば、溶融ブレンド)される。混合は、例えば、オービタルミキサー、アコースティックミキサー、またはVシェルブレンダーを使用した方法によるものであり得る。特定の実施形態では、ポリマー組成物及び活性薬は、溶融混合され、粉砕され、次に、押出機に供給される。
【0200】
特定の実施形態では、方法は、さらに、例えば、ストランドを切断する前に、押し出されたストランドを冷却することを含む。
【0201】
特定の実施形態では、方法は、さらに、例えば、ストランドを切断する前に、押し出されたストランドを伸張させることを含む。
【0202】
特定の実施形態では、伸張は、湿潤もしくは湿度状態、加熱状態、またはそれらの組み合わせの下で実施される。他の実施形態では、伸張は、乾燥状態、加熱状態、またはそれらの組み合わせの下で実施される。特定の実施形態では、高湿度環境(例えば、湿度チャンバー)内で架橋後に伸張されるストランドは、乾燥後に水性環境に置かれた時に、形状記憶または部分的形状記憶を有してもよい。特定の実施形態では、まだ温かい押出直後且つ架橋前に、伸張させるか、または他の方法で直径が小さくなるよう作られる押出ストランドは、形状記憶を有さないことがある。
【0203】
特定の実施形態では、押し出された組成物は、硬化工程(例えば、湿度曝露)にかけられる。1つの反応物が塩、例えばアミンの塩である場合、その塩は乾燥したポリマー溶融物には不溶である。この場合、硬化は、乾燥した押し出された組成物を湿度にさらし、押し出された組成物が周囲から水を吸収できるようにすることで達成され、それによって塩が溶解し、反応して前駆体を架橋し、マトリックスを形成できるようになる。特定の実施形態では、硬化により、ポリマー組成物が架橋される。
【0204】
特定の実施形態では、方法は、さらに、ストランドを伸張させた後に押し出されたストランドを乾燥させることを含む。
【0205】
他の実施形態では、本明細書に開示される方法のステップのいずれも、同時または逐次的に実施することができる。
【0206】
方法は、押出機でポリマーを活性薬の融点より低い温度で溶融することをさらに含む。溶融ポリマーの最適温度は、その押し出し特性によって実験により決定される。特定の実施形態では、溶融していない活性薬は、この溶融押し出しプロセスを通して変化しないままである。特定の実施形態では、押し出しはポリマー及び活性薬の融点を超える温度で実施される。これにより、活性薬の色の変化及び/または形態の変化、例えば非晶質から結晶質への変化が生じ得る。温度は、例えば、約180℃未満、約150℃未満、約130℃未満、約120℃未満、約100℃未満、約90℃未満、約80℃未満、約70℃未満、約60℃未満、約50℃未満であり得る。いくつかの実施形態では、温度は約50℃~約80℃である。他の実施形態では、温度は、約50℃~約200℃、約60℃~約180℃、または約80℃~約140℃である。例示的な温度は、約40℃~約90℃である。本発明の特定の実施形態によれば、温度は、賦形剤粉末及び有効成分を保護し、安定性を最適化するために可能な限り低く保たれる。特定の実施形態では、活性薬は、ネパフェナクであり、ポリマーは、押出機内で57℃~約175℃、約65℃~約150℃、または約70℃~約90℃の温度で溶融される。
【0207】
特定の実施形態では、押し出された組成物は、ストランド形態または単位用量の状態で乾燥される。特定の実施形態では、乾燥は、ストランドの伸張後に実施される。乾燥は、例えば、周囲温度での蒸発乾燥であり得るか、または熱、真空、もしくはそれらの組み合わせを含み得る。
【0208】
特定の実施形態では、ハイドロゲルストランドが、約1.1~約10、1.2~約6または約1.5~約4の範囲の伸張係数で伸張される。
【0209】
特定の実施形態では、ストランドは、平均の長さが約20mm、17mm、15mm、12mm、10mm、8mm、5mm、4mm、3mm、2mm、1mmまたは0.5mm以下の断片に切断される。特定の実施形態では、サイズは約0.5mm~約10mm、約1mm~約8mm、または約1.5mm~約5mmである。
【0210】
特定の実施形態では、活性薬は、ポリマー組成物中に懸濁される。
【0211】
特定の実施形態では、活性薬は、ポリマー組成物中に均一に分散されている。
【0212】
特定の実施形態では、押し出しプロセスは、溶媒(例えば、水)なしで実施される。特定の実施形態では、溶媒は、約10%w/w未満、約5%w/w未満、または約1%w/w未満の量で使用される。溶媒は、例えば水または油であり得る。油は、親油性活性薬の放出速度を速め得る。油は、生体適合性植物油、合成油もしくは鉱油、液体脂肪酸もしくはトリグリセリド組成物であり得、またはそれは疎水性生分解性液体ポリマー、もしくはそれらの組み合わせであり得る。特定の実施形態では、油は、トリエチルシトラート、アセチルトリエチルシトラート(ATEC)、アセチルトリブチルシトラート(ATBC)、α-トコフェロール(ビタミンE)、α-トコフェロールアセタート、ゴマ油、オリーブ油、大豆油、ヒマワリ油、ココナッツ油、キャノーラ油、菜種油などの植物油、ヘーゼルナッツ、クルミ、ピーカン、アーモンド、綿実油、コーン油、ベニバナ油、亜麻仁油などのナッツ油、オレイン酸エチル、ヒマシ油及びその誘導体(Cremophor(登録商標))、37℃以下で液体となる脂質、例えば飽和または不飽和脂肪酸、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド(Myglyols(登録商標))、リン脂質、グリセロリン脂質、スフィンゴ脂質、ステロール、プレノール、ポリケチド、疎水性生分解性液体ポリマー(例えば、低分子量PLGA、PGA、またはPLAなど)、低融点ワックス、例えば植物性、動物性、または合成ワックス、ラノリン、ホホバ油、またはそれらの組み合わせを含み得る。
【0213】
特定の実施形態では、単位用量挿入物またはインプラントの含有量の均一性は、10%以内、5%、または1%以内である。
【0214】
特定の実施形態では、投与形態の持続期間は、投与後約1日~約1年、約2日~約9ヶ月、または約7日~約6ヶ月である。これは、架橋などの要因に基づいて増加または減少し得る。
【0215】
特定の実施形態では、活性薬の多形形態は、変化しないか、または実質的に変化しない。特定の実施形態では、硬化後の活性薬の純度は、押し出し前の活性薬と比較して、99%超、99.5%超、または99.9%超である。純度は、活性薬の化学的分解で測定される。
【0216】
特定の実施形態では、活性薬は、約100μm未満、約50μm未満、約25μm未満、または約10μm未満の中央値(D50)粒子径を有する。
【0217】
特定の実施形態では、活性薬は、約10μm未満のD50粒子サイズ及び/または約50μm未満のD99粒子サイズ、または約5μm以下のD90粒子サイズ、及び/または約10μm以下のD98粒子サイズを有する。
【0218】
特定の実施形態では、ポリマー組成物は、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ乳酸、ポリ乳酸-グリコール酸共重合体、ランダムもしくはブロック共重合体、ポリカプロラクトン、エチレン酢酸ビニル、またはこれらのいずれかの組み合わせもしくは混合物、またはポリアミノ酸、グリコサミノグリカン、多糖類、タンパク質、セルロースポリマー(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、ポビドン、ポロキサマー、アクリルポリマー(例えば、ポリメタクリラート)もしくはそれらの組み合わせの1つ以上の単位を含む。
【0219】
特定の実施形態では、ポリマー組成物は、求電子基含有マルチアームポリエチレングリコールを含む。
【0220】
特定の実施形態では、ポリマー組成物は、さらに、求核基含有架橋剤を含む。
【0221】
特定の実施形態では、架橋剤は、アミン基を含有する。
【0222】
特定の実施形態では、求電子基含有マルチアームポリマー前駆体は、4a20kPEG-SGであり、架橋剤は、トリリジンアセタートである。
【0223】
特定の実施形態では、ポリマー組成物は、さらに、可視化剤を含む。他の実施形態では、ポリマー組成物は、さらに、放射線不透過性剤、例えば、X線または核磁気共鳴画像法用のもの、を含む。
【0224】
特定の実施形態では、可視化剤は、フルオロフォアである。
【0225】
特定の実施形態では、眼用挿入物またはインプラントは、涙小管内、脈絡膜上、眼房内、円蓋内、または硝子体内投与に適する。投与は、挿入物もしくはインプラントのツールもしくはデバイスを用いて、または注射により、手動で行うことができる。
【0226】
特定の実施形態では、押し出しプロセスは、水を排除する。
【0227】
特定の実施形態では、本発明は、本明細書に開示される方法によって調製される眼内挿入物またはインプラントに関する。
【0228】
特定の実施形態では、本発明は、本明細書に開示される眼内挿入物またはインプラントを投与することを含む、眼疾患を処置する方法に関する。
【0229】
本発明のこれらの目的及び他の目的の1つ以上は、本明細書に開示され、特許請求される本発明の1つ以上の実施形態で解決される。
【0230】
次に、切断後、挿入物は、密封されたホイルポーチなどの湿気を防ぐパッケージにパッケージングされ得る。挿入物は、所定の位置に保持するために、挿入物の損傷を避けるために、さらには、挿入物をパッケージから除去し、患者に投与するために挿入物を把持/保持することを容易にするために、マウントまたは支持体に固定され得る。例えば、本発明の挿入物は、フォーム担体の開口部に固定され得、挿入物の一部は、除去及び把持が容易になるように突出している(図1に示される)。挿入物は、ピンセットを用いてフォーム担体から除去され得、次に、すぐに患者の涙小管に挿入される。
【0231】
本発明による製造プロセスの特定の実施形態は、実施例で詳細に開示される。
【0232】
治療
1つの態様では、本発明は、処置を必要とする患者の疼痛及び炎症を処置する方法に関し、方法は、本明細書に開示の持続放出生分解性眼内(例えば、涙小管内)挿入物を患者に投与することを含む。
【0233】
本発明に従って処置されるべき患者は、疼痛及び炎症の治療(急性または慢性の疼痛及び炎症の治療を含む)を必要とするヒトまたは動物対象であってよい。特定の実施形態では、患者は、疼痛及び炎症の断続的な再発の急性処置を必要とする対象であってよい。
【0234】
特定の代替実施形態では、疼痛及び炎症の処置は、疼痛及び炎症の長期(またはより長期)処置であってよい。
【0235】
一実施形態では、本発明は、処置を必要とする患者の疼痛及び炎症の処置に使用される本明細書に開示の持続放出生分解性眼内(例えば、涙小管内)挿入物にも関する。
【0236】
一実施形態では、本発明は、本明細書に開示の持続放出生分解性眼内(例えば、涙小管内)挿入物を、処置を必要とする患者の疼痛及び炎症を処置するための医薬品の製造に使用することに関する。
【0237】
本発明による挿入物の投与は、涙点の開口部を通して、下涙小管及び/または上涙小管内に実施される。
【0238】
特定の実施形態では、本明細書に開示されているように、涙小管への投与後にin vivoで水分吸収すると、患者に投与された持続放出生分解性涙小管内挿入物の直径が増加し、長さが減少し得る。
【0239】
特定の実施形態では、挿入物は、下涙小管垂直部及び/または上涙小管垂直部に投与される。
【0240】
特定の実施形態では、持続放出生分解性涙小管内挿入物は、涙小管内に配置された時に、挿入物の迅速且つ非侵襲的な可視化を可能にするために、フルオレセインなどの可視化剤を含む。可視化剤がフルオレセインである場合、青色光源で照射し、黄色フィルターを使用することにより、挿入物が可視化され得る。
【0241】
特定の実施形態では、ネパフェナクまたは代謝産物などの非ステロイド性抗炎症薬は、挿入物から放出されると、涙液膜中で溶解するので、涙液膜を介して挿入物から眼表面に送達される。非ステロイド性抗炎症薬は、主に、ハイドロゲル及び涙液の界面にある挿入物の近位端から放出される。非ステロイド性抗炎症薬の持続放出速度は、ハイドロゲルマトリックス及び涙液中の非ステロイド性抗炎症薬の溶解度により制御される。特定の実施形態では、非ステロイド性抗炎症薬は、ネパフェナクである。
【0242】
特定の実施形態では、挿入物からネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬が完全に枯渇した後も、ハイドロゲルが生分解し、及び/または鼻涙管を通して排泄される(流出する/クリアランスされる)まで、挿入物は、涙小管内に留まる。挿入物のハイドロゲルマトリックスは、涙小管内の涙液の水性環境において(例えば、エステル加水分解により)生分解するように製剤化されているので、挿入物は、経時的に軟化して液化し、除去の必要がなく鼻涙管からクリアランスされる。それにより、不快な除去が回避され得る。しかし、挿入物が、例えば、潜在的なアレルギー反応もしくは挿入物の除去を必要とする他の状況(例えば、患者が感じる不快な異物感)のために、または、処置が別の理由で中止されるべきであるために、挿入物が除去されなければならない場合、挿入物は、例えば、手動で、涙小管から放出され得る。
【0243】
特定の実施形態では、挿入物は、投与後最大約1週間、最大約2週間、約1ヶ月、または最大約2ヶ月、または最大約3ヶ月、または最大約4ヶ月間、涙小管内に留まる。
【0244】
特定の実施形態では、本発明の挿入物の投与後の、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬の全身濃度は、非常に低く、例えば、定量可能量を下回る。これにより、薬物間相互作用または全身毒性のリスクが大幅に軽減され、例えば、眼疾患を頻繁に患い、これは、さらに他の薬剤を服用している高齢患者にとって、有益となり得る。
【0245】
特定の実施形態では、本発明の挿入物は、涙小管内に配置され、それ故、眼の表面上には配置されず、本明細書に開示されているように、非ステロイド性抗炎症薬の長期間放出にもたらされるために、唯一の単回投与が必要とされ、挿入物は、コンタクトレンズと干渉しないか、または実質的に干渉せず、それにより、コンタクトレンズを装着している患者にとって特に適切且つ便利であることがある。
【0246】
特定の実施形態では、本発明の挿入物で処置される患者は、白内障及び屈折矯正手術の結果/満足度を改善するために、そのような手術の前に疼痛及び炎症の処置を必要とする。
【0247】
特定の実施形態では、本発明の挿入物で処置される患者は、白内障または屈折矯正手術後の疼痛及び炎症の兆候及び症状の短期的な処置を必要とする。
【0248】
本発明の特定の実施形態では、第1の持続放出生分解性涙小管内挿入物が、依然として涙小管内に保持される間に(第1の挿入物が、依然として、非ステロイド性抗炎症薬を放出する間、あるいは第1の挿入物の非ステロイド性抗炎症薬が完全に枯渇した後、あるいは第1の挿入物の非ステロイド性抗炎症薬が、部分的に、少なくとも約70%、もしくは少なくとも約80%、もしくは少なくとも約90%枯渇し、及び/または第1の挿入物が、投与後当初よりも少量の非ステロイド性抗炎症薬を放出した後のいずれかで)、さらなる持続放出生分解性涙小管内挿入物が、眼の涙点を通して涙小管内に投与される(この手順は、「挿入物スタッキング」または略して「スタッキング」と呼ばれる)。
【0249】
特定の実施形態では、挿入物のスタッキングにより、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬による長期処置が可能になる。特定の実施形態では、挿入物のスタッキングにより、第1の挿入物の投与後最大約7日間、最大約14日間、または最大約28日間、または最大約42日間、または最大約50日間、または最大約2ヶ月の合計期間の、治療有効量の非ステロイド性抗炎症薬の放出がもたらされる。
【0250】
キット
特定の実施形態では、本発明は、さらに、本明細書に開示されるか、または本明細書に開示の方法に従って製造される1つ以上の挿入物(複数可)を含むキットに関する。
【0251】
特定の実施形態では、キットは、本明細書に開示の1つ以上の持続放出生分解性涙小管内挿入物(複数可)を含む。特定の実施形態では、キットは、さらに、1つ以上の持続放出生分解性涙小管内挿入物(複数可)を使用するための使用説明書を含む。1つ以上の持続放出生分解性涙小管内挿入物(複数可)の使用説明書は、挿入物(複数可)を投与する医師用の操作マニュアルの形式であってよい。キットは、さらに、製品関連情報を有する添付文書を含んでもよい。
【0252】
特定の実施形態では、キットは、さらに、1つ以上の持続放出生分解性涙小管内挿入物(複数可)を投与するための1つ以上の手段を含んでもよい。投与手段は、1回の使用または繰り返しの使用で、例えば、1つ以上の好適なピンセット(複数可)または鉗子であってよい。例えば、好適な鉗子は、鈍い(歯がない)ものである。投与手段は、また、注射器またはアプリケーターシステムなどの注射装置であってよい。
【0253】
特定の実施形態では、キットは、さらに、1つ以上の持続放出生分解性涙小管内挿入物(複数可)を投与する前に、涙点を拡張し、それにより、涙点を通して涙小管内への挿入物(複数可)の挿入を容易にする眼科用拡張器を含んでもよい。拡張器は、また、例えば、デバイスの一端が拡張器であり、デバイスの他端が挿入物を投与するのに適するように、鉗子またはアプリケーターと組み合わされ/統合されてもよい。あるいは、キットは、例えば、拡張及び挿入の両方に使用され得る先細りの先端を有する、改良アプリケーターも含有してもよい。
【0254】
特定の実施形態では、1つ以上の持続放出生分解性涙小管内挿入物(複数可)は、単回投与用に個別にパッケージングされる。特定の実施形態では、1つ以上の持続放出生分解性涙小管内挿入物(複数可)は、ホイルポーチ内に密封されたフォーム担体内に、各挿入物を固定することにより、単回投与用に個別にパッケージングされる。フォーム担体は、挿入物を保持するための、例えば、V字型ノッチまたは、V字型ノッチの底部に開口部がある円形切り込み、を有してもよい。
【0255】
キットに含有される2つ以上の持続放出生分解性涙小管内挿入物が含有されている場合、これらの挿入物は、同一であっても、異なっていてもよく、同一または異なる用量である、ネパフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬を含有してもよい。
【実施例
【0256】
以下の実施例は、特許請求の範囲に記載の本発明の特定の態様及び実施形態を示すために含まれる。しかし、以下の説明は、例示のみであり、決して、本発明を制限と解釈すべきではないことを、当業者らは理解すべきである。
【0257】
ネパフェナク涙小管内挿入物の製造プロセス
原薬
ネパフェナクは、GMP微粒子粉末として入手される。
【0258】
ネパフェナクハイドロゲル挿入物の製造
トリリジンアセタート/NHS-フルオレセイン/リン酸二ナトリウムを含有する注射器と、ネパフェナク/PEG-SG/リン酸一ナトリウムを含有する注射器を調製することにより、製剤化プロセスを実施する。2本の注射器を結合し、次に、混合してハイドロゲル/ネパフェナク懸濁液を作成し、これを、チューブにキャスティングし、硬化させ、伸張させ、乾燥させ、パッケージング及び滅菌の前の長さに切断する。
【0259】
4アームのポリエチレングリコールを、ペンタエリスリトールのコア分子から合成し、これにより、約20,000Daの概算分子量を有する1分子当たり4つのポリエチレングリコール鎖がもたらされる。PEGのヒドロキシル末端基(各アームに1つ)を、直鎖アルファ-Ω-ジカルボン酸末端基でエステル化する。各末端カルボン酸を、反応性4アーム20K PEG SG(スクシンイミジルグルタラート)のN-ヒドロキシスクシンイミジル(NHS)脱離基でエステル化する。この活性化エステルは、トリリジン上のアミノ基と反応してハイドロゲルネットワークを形成するための部位を提供する。同様の機序で、トリリジン上の反応性アミンのごく一部が、ハイドロゲルネットワークの架橋前にNHS-フルオレセインと共有結合的に反応し、青色光及び黄色フィルターを使用して、最終製品中のハイドロゲルの蛍光による可視化が可能になる。
【0260】
トリリジンアセタート/NHSフルオレセイン(TLA/FL)注射器の調製(パートA)
TLA/FLシリンジは、トリリジンアセタート、NHSフルオレセイン、及びリン酸二ナトリウム溶液の組み合わせである。成分を塩基性pH条件で制御期間混合し、室温で1~24時間反応させることにより、バルク溶液を調製する。
【0261】
ネパフェナク/PEG(NPF/PEG)注射器の調製(パートB)
2つの別々の注射器を調製し、次に、それを組み合わせて、ハイドロゲルの製造に使用するネパフェナク/PEG-SG注射器を作成する。最初の注射器は、水中の微粒子化ネパフェナクの懸濁液が入っている。第2の注射器は、リン酸一ナトリウム緩衝液中のPEG-SG溶液を含有する。次に、ネパフェナク懸濁液注射器を、ルアーコネクタでPEG-SG注射器に連結し、混合するまで、注射器の内容物を戻す。次に、懸濁液を1つの注射器に移し、ネパフェナク/PEG-SG注射器を形成する。
【0262】
ハイドロゲルの混合及びキャスティング
ハイドロゲル/ネパフェナク懸濁液を形成するために、TLA/FL注射器(パートA)とNPF/PEG-SG注射器(パートB)をルアーコネクタで連結する。注射器の内容物を、混合するまで戻し、ハイドロゲル/ネパフェナクの反応性懸濁液を生成し、これを1つの注射器に移す。次に、ハイドロゲル前駆体/ネパフェナク懸濁液注射器をチューブのバーブフィッティングに連結し、懸濁液をチューブに注入する。利用される代表的なチューブ径は、2.0~2.2mmであるが、乾燥及び/または水分吸収した異なる直径のインセットを生成するために、必要に応じて調整され得る。チューブがいっぱいになると、チューブを注射器から取り外し、チューブのバーブフィッティングにキャップをする。次に、残りのチューブ片を、同様の方法で充填する。この時点で、ハイドロゲル/ネパフェナク懸濁液を含有する充填チューブは、キャストされたストランドと呼ばれる。製剤化及びキャストプロセスを、バッチ毎に所望の数のストランドを調製するために、必要に応じて繰り返す。キャストされたストランドは、ゲルが完全に反応(硬化)させるために、約2~24時間保管される。
【0263】
伸張及び乾燥
窒素気流で約32.0℃に設定されたインキュベーターを乾燥に使用する。硬化時間が経過すると、キャストされたストランドを、伸張固定具に配置し、ダイナミッククランプで所定の位置に固定する。キャストされたストランドを、伸張固定具で元のチューブの長さの約2.5倍まで伸張させる。次に、伸張固定具を、除去及び切断前の約3日間(またはストランドが完全に乾燥するまで)インキュベーターに移す。
【0264】
切断及び検査
乾燥時間が経過した後、乾燥したストランドが入った伸張固定具を、インキュベーターから取り出す。キャストされたストランドを含有するチューブを、伸張固定具から切断する。乾燥したストランドを、チューブから取り出す。ストランドを、カッターで処理し、約3.0mmの長さに切断する。切断された挿入物は、パッケージングされるまで窒素雰囲気下でバイアルに保管される。
【0265】
パッケージング及び容器密閉システム
挿入物を、フォーム担体内に配置し、窒素環境下で、乾燥剤を含浸させた熱融着可能な低蒸気透過性アルミニウム-LDPEラミネートホイルポーチ(Amcor Dessiflex(商標))内に密封する。袋入り挿入物を、ガンマ線照射で最終滅菌する。パッケージングされた製品は、2℃~8℃の冷蔵条件で保管される。パッケージング構成の概略図が図1に示される。
【0266】
実施例2-ビーグルの薬物動態研究で使用されたネパフェナク挿入物
完了した低用量薬物動態研究で使用された挿入物を、乾燥直径0.5mm、長さ3.0mmのネパフェナク約0.4mgを含有するように製剤化した。37℃でPBS(pH7.4)で24時間水分吸収後、挿入物は、水分吸収して直径が1.5mmになり、長さが2.7mmに短くなった。乾燥直径0.6mm、長さ3.0mmのネパフェナク約0.6mgを含むように、進行中の高用量薬物動態研究で使用された挿入物を製剤化した。37℃でPBS(pH7.4)で24時間水分吸収後、挿入物は、水分吸収して直径が1.8mmになり、長さが2.8mmに短くなった。PK研究で使用された2つのロットの重要な変数(寸法及び質量の出力と共に、製剤化、キャスティング/伸張変数、パッケージング、及び滅菌を網羅する)を以下の表に示される。
【表1-1】
【表1-2】
【0267】
涙液及び房水におけるネパフェナク及び活性代謝物アンフェナクの両方の薬物放出プロファイルを評価するために、ビーグル犬の28日間の薬物動態研究で薬物放出について、低用量ネパフェナク挿入物を評価した。0日目に、ハイドロゲルネパフェナクの涙小管内挿入物を、ビーグル犬20匹の下涙小管の両側に配置した。挿入物の涙小管内の存在を、青色光源及び黄色フィルターを用いて視覚的に確認した後、挿入後2時間、及び1、3、7、10、14、17、21、24、ならびに28日目に、予め切断された10mmシルマー試験紙を用いて眼から涙液を採取した。房水を、7、14、21、及び28日目に、n=6の眼から採取した。涙液及びAH試料を、液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC-MS/MS)で、ネパフェナク及びアンフェナクについて分析した。研究から返却された未使用の挿入物10個からネパフェナクを抽出し、LC-MS/MSで分析し、393~436mcgの範囲で413±15mcgという良好な分析一貫性が示された。
【0268】
挿入後の涙液試料中のネパフェナク、アンフェナク、及び総濃度(両方の分析対象物)の平均及び標準偏差濃度が以下の表に提示される。薬剤の放出プロファイルは、約10日間の持続放出を示し、その後、徐々に減量し、14日目及び17日目までに涙液測定値からほぼ完全に消失した。
【0269】
7、14、21、及び28日目の房水試料中のアンフェナクの平均及び標準偏差が以下の表に提示される。結果は、AHで7日目にアムフェナクのレベルが上昇し、14日目に最低レベルになることを示した。アンフェナクの全ての結果は、涙液レベルと一致して、21日目及び28日目に定量限界以下であった。ネパフェナクの結果は全て、角膜を通過するにつれて、ネパフェナクが活性代謝物であるアンフェナクに変換されることと一致して、全時点で定量限界以下であった。レベル。
【0270】
OT-2101 PK研究期間中のビーグル犬の涙液中のネパフェナク、アンフェナク、及び総濃度の平均及び標準偏差
【表2】
【0271】
OT-2101 PK研究期間にわたるビーグル犬の房水中のアンフェナクの平均値及び標準偏差
【表3】
【0272】
炎症及び疼痛の原因となるシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)酵素に対するアンフェナクの半最大阻害濃度(IC50)は、約0.45ng/mLである(Walters et al.、2007)。7日目に、挿入物は、IC50の約40.6倍の濃度で、アンフェナクをビーグル犬の房水に送達した。これは、COX-2経路を介して疼痛及び炎症を抑制する可能性を示す。
【0273】
ネパフェナク0.6mgを含有する高用量挿入物は、現在、ビーグル犬の研究で評価されている。この高用量含有挿入物は、長時間にわたり、房水中のアムフェナクレベルの増加がもたらされることが期待される。
【0274】
実施例3.代表的なサイズ分布を代表するレーザー回折によるサイズ分布のネパフェナク微粒子APIの特性
ネパフェナクの医薬原薬のサイズ分布を、レーザー回折に得、微粉化APIのサイズ分布の中央値は、D50:7.03μmであり、粒子の90パーセントは、D90:23.4μm未満の直径を有していた。結果は、以下及び図4に示される。
【表4】
【0275】
実施例4-ネパフェナク挿入物のin vitro放出プロファイル
試験物質のin vitro放出プロファイルを、37℃の1X PBS(pH7.4)で評価した。N=5の結果は、低用量ネパフェナク試験物質の平均ネパフェナク放出率が、1日目で14.1%、9日目で88.9%であったことを示す。まとめた結果が下の表及び図5に示される。
【表5】
【0276】
結果は、高用量ネパフェナク試験物質の平均ネパフェナク放出率が、1日目で14.1%、9日目で88.9%であったことを示す。まとめた結果が下の表及び図6に示される。
【表6】
【0277】
高用量及び低用量の試験物質のネパフェナク挿入物のin vitro放出プロファイルの重ね合わせが図7に示される。
【0278】
実施例5-高用量PK研究のビーグル犬の房水中のネパフェナク及びアンフェナクの濃度
0.125、1、7、14、21、28、及び42日の房水試料中のネパフェナク及びアンフェナクの平均及び標準偏差が以下の表に提示される。結果は、AHで1日目にアムフェナクのレベルが上昇し、14日目に最低レベルになることを示した。アンフェナクの全ての結果は、21日及び42日に定量限界以下であった。房水中のネパフェナクの結果は全て、角膜を通過するにつれて、ネパフェナクが活性代謝物であるアンフェナクに変換されることと一致して、全時点で定量限界以下であった。
【0279】
研究期間にわたりビーグル犬の房水中のネパフェナク及びアンフェナクの濃度の平均及び標準偏差
【表7】
【0280】
高用量及び低用量のネパフェナク挿入物に対するビーグル犬の房水中のアンフェナク濃度の重ね合わせが図8に示される。
【0281】
実施例の要約が以下に提示される。
【0282】
目的
局所用非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)が、眼の疼痛を軽減し、炎症を調節するために、眼科手術後に処方されることが多い。NSAIDの徐放性薬物送達は、局所療法のいくつかの限界(例えば、患者の自己投与及び非遵守)を克服し得る。本明細書では、本発明者らは、イヌモデルにおいて、生分解性ハイドロゲル涙小管内挿入物から送達されたネパフェナク0.4mgの薬物動態を評価する。
【0283】
方法
0日目に、ハイドロゲルネパフェナク(0.4mg)の涙小管内挿入物を、ビーグル犬20匹の下涙小管の両側に配置した。挿入物の涙小管内の存在を、視覚的に確認した後、挿入後2時間、及び1、3、7、10、14、17、21、24、ならびに28日目に、予め切断された10mmシルマー試験紙を用いて眼(n=10)から涙液を採取した。挿入後7、14、21、及び28日目に房水(0.1mL、眼(n=6))を採取した。涙液及び房水の試料を液体クロマトグラフィータンデム質量分析法で、ネパフェナク(プロドラッグ)及びアンフェナク(活性代謝物)について分析した。残存する挿入物を28日目に動物から除去し、薬物含有量について分析した。
【0284】
結果
挿入後2時間で涙液中のネパフェナク(671ng/mL)及びアンフェナク(153ng/mL)の最大平均濃度を測定した。これは、設置後すぐに、薬剤が挿入物から急速に溶解したことを示す。涙液試料中のネパフェナク及びアンフェナクの平均レベルは、経時的に薬物レベルが徐々に減少したことを示した。ネパフェナク及びアンフェナクのレベルは、10~14日で涙液から消失した。プロドラッグ及び活性代謝物の両方が、涙液中では、85:15の比で見られたが。房水試料中では、アンフェナクのみが検出された。房水中のアンフェナクの濃度は、7日目に、18.3ng/mLで最高となり、14日目に、2.6ng/mLに減少した。AHにおけるアンフェナクのレベルは、アンフェナクに対するシクロオキシゲナーゼ-2の半最大阻害濃度(COX-2IC50=0.45ng/mL)の41倍であった。これは、これらの濃度における潜在的な治療効果を示す。
【0285】
結論
ネパフェナク0.4mgを含むハイドロゲルベースの涙小管内挿入物は、治療レベルの薬物を眼表面に素早く放出し、10~14日間持続した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】