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特表2025-503692ターゲット材料,高輝度EUV源およびEUV放射の生成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-04
(54)【発明の名称】ターゲット材料,高輝度EUV源およびEUV放射の生成方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/20 20060101AFI20250128BHJP
   H05G 2/00 20060101ALI20250128BHJP
【FI】
G03F7/20 503
G03F7/20 521
H05G2/00 K
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024541939
(86)(22)【出願日】2023-01-17
(85)【翻訳文提出日】2024-07-12
(86)【国際出願番号】 EP2023050981
(87)【国際公開番号】W WO2023135322
(87)【国際公開日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】2022100914
(32)【優先日】2022-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521466910
【氏名又は名称】アイエスティーイーキュー ビー.ヴィー.
(71)【出願人】
【識別番号】323002842
【氏名又は名称】アイエスティーイーキュー グループ ホールディング ビー. ヴィー.
(74)【代理人】
【識別番号】110001830
【氏名又は名称】弁理士法人東京UIT国際特許
(72)【発明者】
【氏名】アスタクホフ・ドミトリー・イゴレヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】エルウィー・サミル
(72)【発明者】
【氏名】グルシュコフ・ヂェニース・アレクサンドロヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】イワノフ・ウラジミール・ヴィタリエヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】クリストフォロヴ・オレーグ・ボリーソヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】コシェレブ・コンスタンチン・ニコラエヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】クリヴコリトフ・ミハイル・セルゲーヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】クリフツン・ヴラジミル・ミハイロヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】ラシ・アレクサンドル・アンドレーエヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】メドヴェージェフ・ヴャチェスラフ・ヴァレリエヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィノクードフ・アレクサンドル・ユリエヴィチ
【テーマコード(参考)】
2H197
4C092
【Fターム(参考)】
2H197AA10
2H197BA05
2H197BA23
2H197CA10
2H197CA11
2H197GA01
2H197GA03
2H197GA05
2H197GA06
2H197GA09
2H197GA20
2H197GA24
2H197HA03
2H197JA01
4C092AA06
4C092AA15
4C092AB19
(57)【要約】
この発明は,EUV放射を放出するプラズマを形成するように設計されたLi含有ターゲット材料に関する。ターゲット材料は,少なくとも一つの追加元素を含むLiベースの組成物とすることができる。一例として追加元素はAu,Ag,Bi,Ba,Srからなるグループから選択される。上記組成物はLiの密度に比べてターゲット材料の密度を複数倍に増加させるように構成される。その結果,Liターゲットと比較してデブリ粒子の液滴部分の速度を急激に低下させることができ,ターゲットの速度が速いためにプラズマからの出射方向を制御することができる。ターゲット材料は好ましくはレーザー生成プラズマ光源に使用される。このような光源は高速回転ターゲット(たとえば少なくとも100m/s)を有することができる。このターゲット材料は幅広い用途向けに設計される高スペクトル輝度を有するコンパクトな低デブリEUV光源の作成を可能にする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
極紫外線(EUV)領域の波長を有する放射ビーム(8)を生成するように構成され,かつ配置されたプラズマ源において使用するためのターゲット材料であって,
少なくとも一つの追加元素を有するリチウム(Li)ベースの組成物を備え,上記組成物が上記ターゲット材料の密度をLiの密度に比べて3倍以上増加させるように構成されていることを特徴とする,
ターゲット材料。
【請求項2】
上記少なくとも一つの追加元素が,Ag,Au,Bi,Ba,Srからなるグループから選択される,請求項1に記載のターゲット材料。
【請求項3】
上記組成物が共晶合金を構成する,請求項1または2に記載のターゲット材料。
【請求項4】
上記ターゲット材料中のLiの原子分率が60%から90%の範囲にある,請求項1から3のいずれか一項に記載のターゲット材料。
【請求項5】
上記ターゲット材料中の上記少なくとも一つの追加元素の原子分率が10%から40%,好ましくは15%から30%の範囲であり,好ましくは上記ターゲット材料中のLiの原子分率と上記少なくとも一つの追加元素の原子分率の合計が約100%である,請求項1から4のいずれか一項に記載のターゲット材料。
【請求項6】
EUV放射のプラズマ源であって,
プラズマを生成するために請求項1から5のいずれに記載のターゲット材料を備えている,
プラズマ源。
【請求項7】
上記プラズマ源が,レーザー生成プラズマまたはレーザー誘導放電生成プラズマのいずれかとして上記プラズマを生成するように構成されている,請求項6に記載のプラズマ源。
【請求項8】
上記ターゲット材料のプラズマから排出されるデブリ粒子の液滴部分の速度が,リチウム・ターゲットのプラズマから排出されるデブリ粒子の液滴部分の速度よりも小さくなるように,好ましくは複数倍小さくなるように,より好ましくは約1桁小さくなるように,構成されている,
請求項6または7に記載のプラズマ源。
【請求項9】
上記ターゲット材料を含むターゲット(3)の速度が,上記プラズマから排出されるデブリ粒子の液滴部分の平均スピード以上である,請求項6から8のいずれか一項に記載のプラズマ源。
【請求項10】
レーザー生成プラズマEUV源であって,
真空チャンバ(1),ターゲット(3)を上記ターゲット(3)上に集光されるレーザビーム(5)との相互作用ゾーン(4)内に供給するように構成された回転ターゲットアセンブリ(2)を備え,上記ターゲット(3)が上記回転ターゲットアセンブリ(2)の回転軸(6)に面するターゲット表面を持つ回転ターゲットアセンブリ(2)に実装された環状溝の表面上の溶融ターゲット材料の層であり,上記レーザー生成プラズマEUV源が,上記相互作用ゾーン(4)から出るEUV放射ビーム(8)を通過させるように構成されており,デブリ軽減手段(10,11,12,13,14,15)を備えており,
上記ターゲット材料が請求項1から5のいずれかにしたがって製造されたものであり,
上記ターゲットの線速度が好ましくは100m/s以上である,
レーザー生成プラズマEUV源。
【請求項11】
スペクトル純度フィルタがEUV放射ビームの経路に設置されている,請求項10に記載のレーザー生成プラズマEUV源。
【請求項12】
上記スペクトル純度フィルタが,多層Mo/Siミラー(9),ジルコニウムまたはベリリウムを含む箔の形態の反射フィルターからなるグループから選択される,請求項11に記載のレーザー生成プラズマEUV源。
【請求項13】
上記デブリ軽減手段が,保護ガス流,磁気軽減,フォイルトラップ,デブリシールド,EUV放射のほとんどを透過する膜,からなる一または複数のデブリ軽減技術によって提供されている,請求項10から12のいずれかに記載のレーザー生成プラズマEUV源。
【請求項14】
請求項1から5のいずれかに記載のターゲット材料を用いるプラズマ源によってEUV範囲の波長を有する放射ビームを生成する,
極紫外線(EUV)放射を生成する方法。
【請求項15】
遠心力の作用の下,ターゲット(3)を,回転ターゲットアセンブリ(2)の回転軸(6)に面するターゲット表面を持つ回転ターゲットアセンブリ(2)に実装された環状溝の表面上に溶融状態のターゲット材料の層として形成し,
集光レーザビーム(5)によって上記ターゲット(3)を照射し,
相互作用ゾーン(4)にレーザー生成プラズマを生成し,
デブリ軽減手段(10,11,12,13,14,15)を通じてEUV放射ビーム(8)を出力し,ここで上記ターゲット(3)が好ましくは100m/s以上の速い線速度において回転している,
請求項14に記載の方法。
【請求項16】
上記ターゲット(3)の遠心加速度が少なくとも10000gであり,gは重力加速度である,
請求項15に記載の方法。
【請求項17】
上記相互作用ゾーン(4)からのデブリ排出速度の空間分布が計算され,上記集光レーザビーム(5)およびEUV放射ビーム(8)の両方の通過方向が,上記デブリ排出速度が最小となる空間領域に選択される。
請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
上記デブリ軽減が,保護ガス流(13),磁気軽減(14),フォイルトラップ,デブリシールド(12),60%を超える透過性を持つEUV放射(15)のほとんどを透過する膜,からなる一または複数のデブリ軽減技術によって提供される,請求項15から17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
上記EUV放射ビーム(8)において,波長13.5nmのイオン化Li2+の遷移において狭帯域放射のスペクトルフィルタが提供される,
請求項15から18のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
この特許出願は,2020年11月19日に出願された米国特許出願第16/952,587号の一部継続出願であり,この一部継続出願は2020年1月27日に出願された米国特許出願第16/773,240号の一部継続出願であり,この一部継続出願は2019年8月8日に出願された米国特許出願第16/535,404号の一部継続出願であり,この一部継続出願は2018年8月14日に出願された米国特許出願第16/103,243号の一部継続出願であり,この出願は2017年11月24日に出願されたロシア特許出願RU2017141042を優先権を伴うものであり,本願は,2022年1月17日に出願されたロシア特許出願RU2022100914に対する優先権も主張するものであり,これらのすべてについてのその全体が参照によってこの明細書に組み込まれる。
【0002】
この発明は,プラズマ源に使用されるLi含有ターゲット材料,ならびに高輝度の極紫外線(extreme ultraviolet)(EUV)光源およびEUV放射を生成する方法に関するもので,放射とともにプラズマによって生成されるデブリ粒子の軽減を含むものである。
【背景技術】
【0003】
高輝度EUV光源は,顕微鏡,材料科学,生物および医療診断,材料試験,結晶およびナノ構造解析,原子物理学,リソグラフィなど,多くの分野において使用されている。
【0004】
シンクロトロン(synchrotrons)をそのような放射源(radiation sources)として使用することができるが,非常に高価であってどこでも入手できるわけではない。
【0005】
これに代えて,高出力レーザーの放射をターゲットに集光することおよび放電させることの両方によって,EUV(10-20nm)領域のプラズマを効率よく生成することができる光源がある。EUV光の生成はレーザー生成プラズマ(laser-produced plasma)(LPP)の使用が最も効果的である。
【0006】
近年,多層膜Mo/Siミラーの反射帯域に対応するスペクトル領域(13.5±0.135nm)において放射されるEUV光源の開発が,7nmノード以下のチップの大量生産のための投影EUVリソグラフィの開発によって大きく刺激されている。
【0007】
13.5nmのEUV放射を高効率に発生させるために,多くの元素,特にキセノン(Xe),リチウム(Li),スズ(Sn)の高温プラズマを使用することが知られている。他の材料とは異なり,ターゲット材料としてLiを使用することで,波長13.5nmの水素様のLi2+の単一共鳴遷移(a single resonant transition of hydrogen-like Li2+ at a wavelength of 13.5 nm)から実質的に単色放射(monochromatic radiation)を得ることができる。シュリーバーGその外による文献,光電子分光法のための狭帯域拡張紫外放射源としてのレーザー生成リチウムプラズマ Appl Opt. 1998年3月1日;37(7):1243-8(Schriever G, et al. Laser-produced lithium plasma as a narrow-band extended ultraviolet radiation source for photoelectron spectroscopy. Appl Opt. 1998 Mar 1; 37(7):1243-8.)から知られるように,13.5nmにおけるLi2+発光の測定線幅は,分光器のスペクトル分解能によって制限され,λ/Δλ≒1800 と推定された。
【0008】
放射リチウムプラズマの製造は,レーザーによって開始される金属蒸気中における放電(米国特許7427766号,2008年9月23日公開),液滴Liターゲットを用いたレーザープラズマの生成(米国特許7449703号,2008年11月11日公開),およびジェットLiターゲットを用いたレーザープラズマの生成(米国特許第9476841号,2016年10月25日公開)を含む方法を用いることが知られており,これらはすべて参照によってこの明細書に組み込まれる。
【0009】
このように,本質的に,Liプラズマに基づく点状かつ単色放射源は,様々な光学系を使用する可能性がある多くの用途において魅力的であり,上記光学系は13.5nmにおいて高い(70%)反射率を有する多層Mo/Siミラーに基づくもの,および/またはフレネルゾーンプレートに基づくものなどである。ターゲット材料としてLiを使用する利点の一つはその融点が160.54℃と比較的低いことである。
【0010】
しかしながら,EUV放射の生成中,デブリ粒子が副産物として生成され,これによってEUV光源と一体化された光学部品(optics)の表面が劣化することがある。EUV光源の動作中にプラズマの副産物として発生するデブリは,高エネルギーイオン,中性原子,ターゲット材料のクラスター(clusters)や微小液滴(microdroplets)の形態をとる。
【0011】
参考文献として挙げられるWO2013/122505A1の下で公開された国際特許出願PCT/RU2012/000701から,金属蒸気中のレーザー誘導放電生成プラズマに基づく短波長放射源が知られている。電極は,液体金属ジェットの形態,または溶融ターゲット材料で濡れた回転ディスクの形態をとることができる。放電が湾曲したバナナ状になることで,レーザービームは電極の一方の照射部位に向けられる。このような放電の固有磁場は,EUVビームの出射方向とは大きく異なる方向における,あまり強くない磁場の領域への放電プラズマ流の優勢な移動を決定する勾配を持つ。この発明は,放射ビーム中の荷電粒子の簡単かつ非常に効果的な抑制を提供する。
【0012】
しかしながら,中性粒子や微小液滴の流れの抑制には,より高度なデブリ軽減(緩和)手段が必要とされる。
【0013】
WO2019103648の下で2019年5月31日に公開された特許出願PCT/RU2018/000520,WO2020216950の下で2020年10月29日に公開されたPCT/EP2020/061562,および2021年2月20日に公開された特許RU2743572では,高速回転,約100m/sの線速度,液体金属ターゲットに基づく高輝度LPP光源の開発のための新しいアプローチが提案されており,デブリ粒子の液滴部分を光コレクターおよびレーザービームの入射窓から遠ざけることによって高効率のデブリ軽減が実現される。このデブリ軽減方法は,たとえば,ρ=7.31g/cmのスズなど,十分に高い密度ρのターゲット材料を使用するときに非常に効果的である。
【0014】
しかしながら,ターゲット材料としてLiを使用すると,ターゲット材料の密度が低い(ρ=0.534g/cm)ことに起因してデブリ粒子の液滴部分の形成率(excessively high rate of formation)が過度に高いという特徴があり,相互作用ゾーンにおける爆発型ショックパルスのインパクトの結果として,その破片(フラグメント)が1000m/sに達する速度を獲得し,これがLiターゲットデブリの液滴部分に対する防護効果を劇的に低下させてしまう。
【発明の開示】
【0015】
したがって,上記の欠点を解消する必要がある。特に,プラズマ形成ターゲット材料としてリチウムを使用する,13.5nmの高いスペクトル輝度を有する改良されたLPP EUV源が必要とされている。光源がコンパクト,強力なもので,高効率に好ましくはほぼ完全にデブリ軽減(緩和)を提供できればさらに有益である。
【0016】
この必要性は独立請求項の特徴によって満たされる。従属請求項にはこの発明の実施形態が記載されている。
【0017】
この発明の一実施形態では,極紫外線(extreme ultraviolet)(EUV)範囲の波長を有する放射ビームを生成するように構成されかつ配置(アレンジ)されたプラズマ源において使用するためのターゲット材料が提供され,このターゲット材料は,Liの密度と比較してターゲット材料の密度を数倍に,3倍よりも増加させる少なくとも一つの追加元素(さらなる元素)(further element)を持つ,リチウム(Li)ベースの(リチウム系の)組成物を含むものである(comprising),またはリチウム(Li)ベースの(リチウム系の)組成物である(consisting of)。特に,組成物中の少なくとも一つの追加元素の種類および量は,ターゲット材料の密度がLiの密度に比べて3倍以上増加するように構成され得る。
【0018】
この発明の好ましい実施形態では,上記追加元素は,Ag,Au,Bi,Ba,Srを含む/からなる(comprising or consisting of)グループから選択される。
【0019】
この発明の好ましい実施形態では上記組成物は共晶合金を構成する。ターゲット材料中のLiの原子分率(原子百分率)(または物質量分率)(amount-of-substance fraction)は60%~90%(at%とも表記される)の範囲とすることができる。
【0020】
好ましい実施形態では,ターゲット材料中の上記少なくとも一つの追加元素の原子分率は,10%から40%の範囲,たとえば15%から30%の範囲とすることができる。好ましくは,ターゲット材料中のLiの原子分率と上記少なくとも一つの追加元素の原子分率の合計は(約)100%に達する。用語「約」は,たとえば,ターゲット材料が形成される原料の純度に依存して,存在することがある不純物および/または汚染物の残部(reminder)を意味する。
【0021】
別の態様において,この発明は,プラズマがこの発明にしたがって製造されたターゲット材料から生成されることを特徴とするEUV放射のプラズマ源に関する。
【0022】
この発明の好ましい実施形態では,プラズマは,レーザー生成プラズマ(LPP)またはレーザー誘導放電生成プラズマ(laser-initiated discharge produced plasma)のいずれかである。
【0023】
この発明の好ましい実施形態では,上記ターゲット材料のプラズマから排出(放出)されるデブリ粒子の液滴部分(droplet fraction)のスピード(速度)は,リチウムターゲットのプラズマから排出されるデブリ粒子の液滴部分のスピードに比べて何倍も,約1桁も,小さい。
【0024】
この発明の好ましい実施形態では,ターゲットスピード(target speed)は,プラズマから排出されるデブリ粒子の液滴部分の平均スピード以上である。
【0025】
別の態様では,この発明は,この明細書に記載のいずれかの構成を有するターゲット材料を用いて,プラズマ源によってEUV範囲の波長を有する放射ビームを生成することを含む,EUV放射を生成する方法に関する。
【0026】
一実施形態において,この方法は,遠心力の作用の下,ターゲット表面が回転軸に面している回転ターゲットアセンブリにおいて実施される,環状溝の表面上に溶融ターゲット材料の層としてターゲットを形成し,好ましくはパルス繰り返し速度(pulse repetition rate),たとえば10kHzよりも高い(速い)高パルス繰り返し速度において,集光(集束)レーザビームによってターゲットを照射し,相互作用ゾーンにおいてレーザー生成プラズマを生成し,デブリ軽減(緩和)手段を介してEUV放射ビームを出力することをさらに含むことができる。上記溶融ターゲット材料は,この明細書に開示されるターゲット材料のいずれかから構成され,特に,Liの密度に比べてターゲット材料の密度を3倍以上の複数倍増加させるように構成された,少なくとも一つの追加元素を有するLiベースの組成物から構成される。ターゲットは少なくとも100m/sの速い(高い)線速度で回転される。
【0027】
この発明の好ましい実施形態では,上記ターゲットの遠心加速度は少なくとも10,000gであり,ここでgは重力加速度である。
【0028】
この発明の実施形態では,相互作用ゾーンからのデブリ排出(放出)速度(debris ejection rate)の空間分布を計算し,デブリ排出速度が最小となる空間領域に,集光レーザビームとEUV放射ビームの両方の通過方向が選択される。
【0029】
この発明の好ましい実施形態では,上記デブリ軽減は,保護ガス流,磁気軽減(緩和),フォイルトラップ,デブリシールド,EUV放射に対してほとんど透明な,60%以上の透明度を有する膜を含む,一または複数のデブリ軽減技術によって提供される。
【0030】
この発明の好ましい実施形態では,EUV放射ビームにおいて,波長13.5nmのイオン化Li2+の遷移(transitions)において狭帯域放射のスペクトルフィルタが提供される。
【0031】
別の態様では,この発明は,真空チャンバ,回転ターゲットアセンブリに実装された環状溝の表面上の溶融ターゲット材料の層であるターゲットに集光されるレーザビーム,好ましくはパルスレーザビームとの相互作用ゾーンにターゲットを供給する回転ターゲットアセンブリであって,回転軸に面するターゲット表面を備える回転ターゲットアセンブリ,相互作用ゾーンから出るEUV放射ビーム,およびデブリ軽減手段を備えるEUV放射源に関する。
【0032】
EUV放射源は,ターゲット材料がこの発明の実施形態のいずれかにしたがって作製され,ターゲットの線速度が好ましくは少なくとも100m/sである点で異なる。EUV放射源は,この明細書に記載される構成のいずれかのプラズマ源を使用することができる。
【0033】
この発明の好ましい実施形態では,EUV放射ビームの経路中(in the way)にスペクトル純度フィルターが設置される。
【0034】
上記スペクトル純度フィルターは,多層Mo/Siミラーの形態の反射フィルター,ジルコニウムまたはベリリウムを含む箔(フォイル)を含むまたはからなるグループから選択される。
【0035】
この発明の好ましい実施形態では,デブリ軽減手段は,保護ガス流,磁気軽減,フォイルトラップ,デブリシールド,EUV放射に対してほとんど透明な膜を含む,一または複数のデブリ軽減技術によって提供される。
【0036】
この発明の好ましい特徴および達成される技術的結果との間には,以下の因果関係が存在し得る。
【0037】
一実施形態によると,Liベースのターゲット材料(Li密度ρ=0.534g/cm)に対して少量の追加元素,たとえばAg(ρ=10.5g/cm)またはAu(ρ=19.32g/cm)を原子分率(または物質量分率)10%~40%,たとえば約20%添加しても,リチウムプラズマの13.5nm発光線の強度は実質的に変化しない。
【0038】
同時に,「重リチウム」(heavy lithium)と呼ぶことができるターゲット材料の密度については,Liの密度に比べてそれぞれ4.7倍または8倍に増加し,融点は比較的低いままであり,Agとの合金では約150℃,Auとの合金では約280℃である。さらに,ターゲット材料の密度が高くなると,最大の懸念であるデブリ粒子の液滴部分の速度(velocity)が何倍も低下するので,高いターゲット速度(100m/s以上)を使用した場合に,プラズマからのその主な排出(放出)方向を制御することが可能になる。
【0039】
ターゲット材料の追加元素としてAgおよびAuを使用することが好ましく,それは,これらの材料は無毒であり,化学的攻撃性がなく,Liの密度よりも何倍も高いターゲット密度のLiの含有比率が高い(60~90%)共晶可溶合金(eutectic fusible alloys)を得ることができるからである。
【0040】
追加的または代替的には,ターゲットの材料の追加元素として,Bi(ρ=9.79 g/cm),Ba(ρ=3.5 g/cm),Sr(ρ=2.54 g/cm)を使用することができる。
【0041】
上記ターゲット材料の追加元素のプラズマ発光帯域は,二重イオン化リチウムの13.5nmの発光線から分離されているので,複雑な光学系を使用することなく,たとえばMo/Siミラーからの反射だけで容易に遮断することができ,実質的にEUV光源の単色性(monochromaticity)を確保することができる。EUV光源の単色性は,多層Mo/Siミラー,微小角入射ミラー(grazing-incidence mirrors),フレネルゾーンプレート(Fresnel zone plates)を含む幅広い光学素子の使用を可能にし,この発明において開示する,本質的に点(~100μmの特性サイズを有する)の放射源の応用範囲を拡大する。
【0042】
一般には,この発明は,レーザー生成プラズマまたはレーザー誘導放電生成プラズマに基づく多くのEUV光源に適用可能である。
【0043】
一態様において,この発明は,「重リチウム」,すなわち開示された構成のいずれかのターゲット材料からなる高速回転液体金属ターゲットを有する低デブリLPP EUV光源に関する。
【0044】
これによると,この発明は,幅広い用途を持つ13.5nmの低デブリ高輝度単色放射源を作成する可能性を提供することができる。
【0045】
この明細書に開示される態様および実施形態の特徴は,反対の記載がない限り,互いに組み合わせることができる。
【0046】
この発明の利点および特徴は,添付の図面を参照して例示的に与えられ,その例示的な実施形態の以下の非限定的な説明からより明らかになるであろう。
【0047】
この発明の例示的な実施態様を図面により説明する。
【0048】
図面において,デバイスの同一要素には同一符号を付す。
【0049】
これらの図面は,この技術的解決策を実施するための選択肢の全範囲をカバーするものではなく,また制限するものでもなく,その実装の特定のケースの例示的な材料のみを表す。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】一実施態様による高速回転ターゲットを持つ高輝度LPP EUV光源の概略図である。
図2】上記実施態様による高輝度LPP EUV光源の概略図である。
図3図3Aおよび図3Bは,Li,ならびにLi(80%)およびAg(20%)の原子分率を持つ組成のターゲット材料についての相互作用ゾーンからの液滴排出の空間分布の計算結果を示す図である。
図4図4Aおよび図4Bは,高輝度LPP EUV光源において,Liターゲット材料を80%Li+20%Agの組成に置き換えることによってデブリ軽減効果が得られることを示すSEM画像を示している。
図5図5Aおよび図5Bは,Liおよび80%Li+20%Agの組成のターゲット材料についてのEUV放射源のスペクトルを示している。
図6】反射ミラーとして用いられるMo/Siミラーのスペクトル反射曲線を示している。
図7図7Aおよび図7Bは,Liおよび80%Li+20%Agの組成のターゲット材料についてのMo/Siミラーからの反射後の放射スペクトルを示している。
図8図8A図8B図8Cおよび図8Dは,この発明の実施例による,EUV光源の概略図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0051】
図1に示すこの発明の例示的な実施例では,短波長放射の高輝度光源は回転ターゲットアセンブリ2を備える真空チャンバ1を含み,回転ターゲットアセンブリ2はターゲット3を相互作用ゾーン4に供給し,そこで上記ターゲット3は集光レーザービーム5と相互作用する。上記回転ターゲットアセンブリ2の一部は回転シャフト(軸)に固定されたディスク(円盤)の形に作られている。上記ディスクは上記回転軸6に面する環状溝を備える環状バリアの形態の周辺部分を持つ。上記ターゲット3は上記回転ターゲットアセンブリ2の環状溝の表面上に遠心力によって形成される溶融金属の層である。上記ターゲット3には,この明細書に開示するいずれかの構成におけるターゲット材料を使用することができる。
【0052】
ターゲットの材料は,加熱システム7を使用して溶融され,かつ所定の最適温度範囲に維持される。
【0053】
環状溝の構成によって,上記ターゲット材料の体積が溝の体積を超えない場合に,上記ターゲット3の材料が半径方向および上記回転軸6に沿う両方向に排出されるのが防止される。
【0054】
相互作用ゾーン4では,集光レーザビーム5の作用の下,ターゲット材料のパルス状高温プラズマが生成される。このプラズマはEUVスペクトル範囲の放射(radiation)を生成する。生成されたEUV放射は,EUV放射の発散ビーム8の形態で相互作用ゾーン4から出る。
【0055】
この発明の一実施形態では,EUV放射のビームは波長13.5nmに最大反射を有するMo/Siミラーの形態の光コレクタ9に向かう。他のケースでは,微小角入射ミラー(glazing incidence mirrors)またはフレネルゾーンプレート(Fresnel zone plates)の形態の光学素子に基づくコレクタを使用することができる。
【0056】
集光レーザビーム5およびEUV放射ビーム8の経路上に,以下の一または複数の技術からなるデブリ軽減手段(means for debris mitigation)が設けられている。
【0057】
レーザーおよびEUV放射のビーム5,8を囲むケーシング10,11。
【0058】
レーザーおよびEUV放射ビームの経路内のデブリ粒子の蒸気部分(vapor fraction)を軽減するためにケーシング10,11のガス入口13を通して導かれる保護ガス流。
【0059】
スリットギャップによって回転ターゲットアセンブリ2から分離され,2つの小さな穴のみ(集光レーザービームの入力用およびEUV放射ビームの出力用)を有するデブリシールド12。2つの小さい穴を通してデブリ粒子はターゲットアセンブリから出ることができる。
【0060】
フォイルトラップ(図示略)。プラズマ放射に対して非常に透明(transparent)であり,プラズマに対して半径方向に配向した本質的にはプレート(plates)のシステムであり,ターゲット物質の中性原子およびクラスターを十分効果的に捕捉する。
【0061】
デブリ粒子の荷電部分を軽減するために,好ましくは永久磁石によって生成される磁場。
【0062】
本質的に短波長放射に対して透明であり,かつデブリおよびガスに対して不透過性である,好ましくは交換可能な膜(membrane)15。
【0063】
EUV放射ビームの経路上に設置される上記膜は,好ましくは,カーボンナノチューブ(carbon nanotubes)(CNT),Ti,Al,Si,ZrSi,BNを含むグループに属する材料から作られる。
【0064】
集光レーザービーム5の伝搬経路にも同様のデブリ軽減手段が配置される。
【0065】
図2は,上述したEUV光源の簡略図を示すもので,高密度高温プラズマの放射流体力学分野における応用のために作成されたRZLINEコードを用いて実行された,相互作用ゾーン4からのデブリ排出(放出)の空間分布の計算モデリングである。このコードは,たとえば,K.コシェレフ,V.イワノフ,V.メドベデフその外の「極紫外線レーザープラズマ源用の分散錫ターゲットのゼロ復帰ラインコードモデリング」(Return-to-zero line code modeling of distributed tin targets for laser-produced plasma sources of extreme ultraviolet radiation),マイクロ/ナノリソグラフィ,MEMSおよびMOEMSジャーナル(Journal of Micro / Nanolithography, MEMS, and MOEMS),11巻,第2号(2012年5月)という論文で知られているように,長年の実験的および理論的研究に基づく数学的モデルを使用している。このコードによって,レーザー放射と気体,液体および固体表面との相互作用,その後のプラズマ生成,ならびにプラズマ自体との相互作用をモデル化することができる。
【0066】
図3は,LiおよびLi/Agターゲット材料についての,実験座標におけるデブリ粒子の排出(放出)速度の空間分布図を示しており(すべてのスピード(速度)のすべての部分の粒子が考慮されている),θは回転軸に対する角度であり,φは図の平面に横たわる方位角(the azimuthal angle lying in the plane of the figure)である。座標の原点は相互作用ゾーン内にある。相互作用ゾーンの典型的な方向は以下の通りである:
【0067】
I 回転軸に平行:θ=0,φは任意(any)
【0068】
II ターゲット速度に沿う:θ=90°,φ=0°
【0069】
III ターゲット表面に垂直(normal to the target surface):θ=90°,φ=90°
【0070】
IV ターゲット速度と反対(against):θ=90°,φ=180°
【0071】
図3に示すデブリ排出速度の空間分布は,EUV光源が24時間365日稼働している状態で,相互作用ゾーンから40cm離れた位置にある露光試料表面上の堆積デブリ粒子の膜厚の単位レーザー出力あたりの特定増加率(a specific growth rate)として,nm/(month・W)において計算したものである。
【0072】
この分布は,レーザー放射波長が1~2μm,レーザーパルスエネルギーがパルス継続(持続)時間が数nsにおいて数mJ,焦点スポット直径が数十μm,ターゲット線速度が200m/sという,光源パラメータの典型的な値に対して得られたものである。ターゲットの高速回転以外にはデブリ軽減技術は用いなかった。
【0073】
図3に示すように,デブリ粒子の質量は0°-80°の方位角(azimuth angles)φおよび0°-90°の極角(polar angles)θによって制限されるターゲット速度の方向に沿うセクタ内に主に集中する。ターゲットの回転方向に沿う最大デブリ排出速度(maximum debris ejection rate)は10nm/(month・W)である。
【0074】
図3において,楕円は,レーザーおよびEUV放射ビームの円錐が位置する,デブリ排出速度が最小レベルの実施形態にしたがって選択された空間領域を示すために使用されている。
【0075】
図3AのLi,図3Bの80%Liおよび20%Ag(原子百分率)(atomic fractions)の組成のターゲット材料に対する計算結果は,以下のことを示している。すなわち,ターゲット材料の密度の増加(本件ではリチウムの4.7倍)によって,レーザーおよびEUVビームの空間領域へのデブリ粒子の排出(放出)速度を急激に(1桁以上)低減することが可能である。
【0076】
膜15に代えて試験試料を配置した図1に模式的に示す光源を用いて,この発明のこの好ましい効果の達成を実験的に確認した。
【0077】
図4は,Liの場合(図4A),および80Liおよび20%Agの組成の場合(図4B)のターゲット材料について得られた立会試料(witness samples)の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。SEM画像のフレームサイズは125μmである。試験は以下の条件で行った。
【0078】
ターゲットの直線速度は150m/s,遠心加速度は23000g,
【0079】
レーザービームのエネルギーはターゲット上で3.3mJ/パルス,焦点サイズは1/e強度レベル(1/e2intensity level)において120μm,
【0080】
パルス繰り返し速度(周波数)は25kHz
【0081】
立会試料の露光時間は2.5時間(図4A)および10時間(図4B
【0082】
この発明によるターゲット材料の密度の増加によって劇的な(シャープな)デブリ軽減効果がもたらされることがわかる。
【0083】
実施された試験に基づくと,CNT膜を透過する300nm以上の比較的大きな液滴は完全に抑制されることが示された。このように,試験試料を交換可能な膜,特にカーボンナノチューブ製の膜に交換することによって,この発明にしたがって製造される13.5nmの高輝度単色放射源の超高純度化が可能になる。
【0084】
図5Aおよび図5Bは,それぞれ,ターゲット材料がLiの場合,および組成が80%Li+20%Agの場合のEUV光源のスペクトルを示している。図5に示すスペクトルは,図1に模式的に示したEUV光源を用いて,プラズマから直接に(ミラー9からの反射なし,膜15を用いない)入射する放射について測定したものである。ターゲット材料をLiから80%Li+20%Agの組成に置き換えても,13.5nmのLi2+線の発光強度は実質的に変化しないことがわかる。同時に,プラズマ中にAgイオンが存在することで13.5nmのLi2+の輝線と重ならない波長17nmにピークを持つ発光帯が現れるが,これは,たとえばMo/Siミラー9(図1)を用いて容易にフィルタリングすることができる。
【0085】
図6は,Agプラズマからの放射が入らない(does not fall)反射帯域を持つMo/Siミラーの分光反射率曲線(spectral reflectivity curve)を示している。これは,この発明にしたがって多層Mo/Siミラーを反射フィルターとして使用する可能性を決定するものであるが,この選択肢のみに限定されるものではない。同様に,たとえばジルコニウムやベリリウムを含む箔(フォイル)から作られた他のタイプのフィルターを使用することもできる。
【0086】
図7Aおよび図7Bから分かるように,Mo/Siミラーからの反射後のEUV光源のスペクトルは,ターゲット材料がLiの場合と80%Li+20%Agの場合とで実質的に一致している。
【0087】
多層膜ミラーの背後の放射は単色であり(monochromatic),バンド幅はλ/Δλ≧1300である。この値は10.8nmのスペクトル線Li2+(1s-4p),11.39nmのLi+2(1s-3p),および13.5nmのLi2+(1s-2p)の測定されたバンド幅(最大500のスペクトル分解能λ/Δλを使用)から推定されたものである(図5A)。
【0088】
EUV光源において,2π srの空間角におけるレーザー放射エネルギーの帯域内EUV放射(13.5±0.135nm)への最大変換効率CE13.5は,いずれのLi系ターゲット材料においても2%であった。
【0089】
一般的には,レーザースポットの大きさ,レーザーパルスのエネルギーと持続時間を含む一連のパラメーターがあり,これによって,高いCEとともにデブリ量を最小限に抑えることができる。
【0090】
図1図2図3に模式的に示すEUV光源を用いた放射の生成方法は,以下に説明するように実施される。
【0091】
遠心力の作用によって,回転ターゲットアセンブリ2の環状溝の表面に溶融金属の層の形態でターゲットが形成され,その表面は回転軸6に面している。ターゲット3はパルス集光レーザービーム5によって照射され,相互作用ゾーン4においてプラズマが形成される。EUV放射の出力ビーム8が生成され,デブリ軽減手段11,12,13,14,15を通って光コレクター9に入射する。
【0092】
ターゲットの回転は100m/s以上の速い線速度で行われる。この明細書に開示される実施形態にしたがって少なくとも一つの追加元素を有するリチウム組成物を含むターゲット材料が使用され,これによって,ターゲットの材料の密度を,Liの密度に比べて複数倍,たとえば3倍以上に増加させることができ,それによってデブリ粒子の液滴部分の排出速度を劇的に低下させることが可能になる。デブリ粒子の液滴部分は,ターゲットの高速回転に起因して,液滴の飛び出し速度に匹敵する速度の有意な接線方向成分を獲得するが,この発明によると,これは,Li含有ターゲット材料の密度を増加させることによって急激に低減される。その結果,デブリ粒子の液滴部分の速度ベクトルはレーザーおよびEUV放射のビーム6,8から遠ざかり,その伝播経路はデブリ排出速度が最小レベルの空間領域に選択される。
【0093】
AgまたはAuが好ましくはターゲット材料の追加元素として選択され,これにより,それが少ないたとえば20%の原子分率であるとしても,ターゲット材料の密度を,Liの密度に比べて何倍も(それぞれ約5倍および約8倍)増加させることができる。この発明の好ましい実施形態では,ターゲット材料はLiの原子分率が60%から90%の範囲の共晶合金であり,これによりターゲット材料の均一性と比較的低い融点が保証される。
【0094】
Bi,Ba,Srをターゲット材料の追加元素として使用することもできる。
【0095】
EUV放射ビーム8において,13.5nmのLi2+の狭帯域線発光の分光フィルタリングが,たとえば反射フィルタの役割を果たすMo/Siミラー9を用いて行われる。特に,ジルコニウムやベリリウムを含む箔をフィルターとして使用することもできる。
【0096】
EUV放射が発生するときにデブリ軽減手段11,12,13,14,15が使用され,これは保護ガスフロー,磁石,フォイルトラップ,13.5nmにおいて非常に透明な膜15,レーザーおよびEUV放射ビーム5,8の伝播領域の外側に設置されるデブリシールド12によって構成される。
【0097】
100m/s以上の速いターゲット速度および少なくとも10000gの遠心加速度を有する高速ターゲット回転を使用すると,ターゲット4の表面は円柱状となる。その結果,相互作用ゾーン4におけるターゲット表面3の安定した形状が確保されることになり,相互作用ゾーンにおけるターゲット材料の継続的な循環および更新,ならびに次のレーザーパルス後のターゲット表面の形状の復元によってEUV放射源の長期安定性が達成される。
【0098】
一般には,この発明にしたがって製造されるターゲット材料は,レーザー生成プラズマおよび放電生成プラズマの両方に基づく,先行技術から公知の様々なタイプのEUV光源に幅広く適用可能である。
【0099】
たとえば,図8は,この発明の実施形態にしたがって作製されるターゲット材料を用いたEUV光源の実施形態を示している。
【0100】
図8Aにおいて,LPP EUV光源は,ノズル17および溶融ターゲット材料を移送するための高圧ポンプ18を備える閉ループ16に沿って,相互作用ゾーン4内を高速で循環する液体金属ジェットの形態のターゲット3を持つ。ターゲット材料の融点を超える温度のデブリシールド12が上記ジェットの周囲に設置されている。上記ジェットは連続的であってもよいし,互いに高速に追従する個別のターゲット液滴(target droplets)から構成されていてもよい。この実施形態における装置の他の部品は,上記実施形態(図1図2)と同様であり,図8において同じ符号を付し,その詳細な説明をここでかつ以下では省略する。
【0101】
図8Bに示す別の実施形態では,2つの高速液体金属ジェットが,パルス電源ソース20が接続された電極19として用いられており,ターゲット3のターゲット材料の蒸発中にレーザー誘導放電プラズマ21を生成する。
【0102】
図8C示す別の実施形態では,LPP EUV光源が示されており,ターゲット3のターゲット材料は,レーザービーム5の入射とEUV放射ビーム8の出射のための穴(holes)を持つケーシング23を備える高速回転ディスク22によって相互作用ゾーン4に送られる。相互作用ゾーン4の外側(outside)において,ディスク22は溶融ターゲット材料24によって濡れている。
【0103】
同様に,図8Dに示す実施形態では,溶融ターゲット材料によって濡れた高速回転ディスク22が,ターゲット3のターゲット材料の蒸発中にレーザー誘導放電生成プラズマ21を生成するための電極19として用いられる。
【0104】
したがって,この発明は,高い分光輝度および平均出力,長寿命,使いやすさを特徴とする波長13.5nmの単色EUV光源を作成することを可能する。
【産業上の利用分野】
【0105】
提案されるデバイスは,顕微鏡,材料科学,材料のX線診断,生物および医療診断,ナノ・マイクロ構造の検査,リソグラフィEUVマスクのアクチニック制御(actinic control)を含むリソグラフィなど,多くの用途を想定している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2024-07-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー生成プラズマまたはレーザー誘導放電生成プラズマのいずれかとしてプラズマを生成するように構成され,上記プラズマを生成するためのターゲット材料を備えるEUV放射のプラズマ源であって,
上記ターゲット材料が,少なくとも一つの追加元素を有するリチウム(Li)ベースの組成物を備え,上記組成物が合金であり,上記少なくとも一つの追加元素がAg,Au,Bi,Ba,Srからなるグループから選択され,上記組成物が上記ターゲット材料の密度をLiの密度に比べて3倍以上増加させるように構成されていることを特徴とする,
プラズマ源
【請求項2】
上記組成物が共晶合金を構成する,請求項1に記載のプラズマ源
【請求項3】
上記ターゲット材料中のLiの原子分率が60%から90%の範囲にある,請求項1に記載のプラズマ源
【請求項4】
上記ターゲット材料中の上記少なくとも一つの追加元素の原子分率が10%から40%,好ましくは15%から30%の範囲であり,好ましくは上記ターゲット材料中のLiの原子分率と上記少なくとも一つの追加元素の原子分率の合計が約100%である,請求項1に記載のプラズマ源
【請求項5】
上記ターゲット材料のプラズマから排出されるデブリ粒子の液滴部分の速度が,リチウム・ターゲットのプラズマから排出されるデブリ粒子の液滴部分の速度よりも小さくなるように,好ましくは複数倍小さくなるように,より好ましくは約1桁小さくなるように,構成されている,
請求項1に記載のプラズマ源。
【請求項6】
上記ターゲット材料を含むターゲット(3)の速度が,上記プラズマから排出されるデブリ粒子の液滴部分の平均スピード以上である,請求項1に記載のプラズマ源。
【請求項7】
レーザー生成プラズマEUV源であって,
真空チャンバ(1),ターゲット(3)を上記ターゲット(3)上に集光されるレーザビーム(5)との相互作用ゾーン(4)内に供給するように構成された回転ターゲットアセンブリ(2)を備え,上記ターゲット(3)が上記回転ターゲットアセンブリ(2)の回転軸(6)に面するターゲット表面を持つ回転ターゲットアセンブリ(2)に実装された環状溝の表面上の溶融ターゲット材料の層であり,上記レーザー生成プラズマEUV源が,上記相互作用ゾーン(4)から出るEUV放射ビーム(8)を通過させるように構成されており,デブリ軽減手段(10,11,12,13,14,15)を備えており,
上記レーザー生成プラズマEUV源が請求項1からのいずれかにしたがって製造されたものであり,
上記ターゲットの線速度が好ましくは100m/s以上である,
レーザー生成プラズマEUV源。
【請求項8】
スペクトル純度フィルタがEUV放射ビームの経路に設置されている,請求項に記載のレーザー生成プラズマEUV源。
【請求項9】
上記スペクトル純度フィルタが,多層Mo/Siミラー(9),ジルコニウムまたはベリリウムを含む箔の形態の反射フィルターからなるグループから選択される,請求項に記載のレーザー生成プラズマEUV源。
【請求項10】
上記デブリ軽減手段が,保護ガス流,磁気軽減,フォイルトラップ,デブリシールド,EUV放射のほとんどを透過する膜,からなる一または複数のデブリ軽減技術によって提供されている,請求項に記載のレーザー生成プラズマEUV源。
【請求項11】
請求項1からのいずれかに記載のプラズマ源によってEUV範囲の波長を有する放射ビームを生成する,
極紫外線(EUV)放射を生成する方法。
【請求項12】
遠心力の作用の下,ターゲット(3)を,回転ターゲットアセンブリ(2)の回転軸(6)に面するターゲット表面を持つ回転ターゲットアセンブリ(2)に実装された環状溝の表面上に溶融状態のターゲット材料の層として形成し,
集光レーザビーム(5)によって上記ターゲット(3)を照射し,
相互作用ゾーン(4)にレーザー生成プラズマを生成し,
デブリ軽減手段(10,11,12,13,14,15)を通じてEUV放射ビーム(8)を出力し,ここで上記ターゲット(3)が好ましくは100m/s以上の速い線速度において回転している,
請求項11に記載の方法。
【請求項13】
上記ターゲット(3)の遠心加速度が少なくとも10000gであり,gは重力加速度である,
請求項12に記載の方法。
【請求項14】
上記相互作用ゾーン(4)からのデブリ排出速度の空間分布が計算され,上記集光レーザビーム(5)およびEUV放射ビーム(8)の両方の通過方向が,上記デブリ排出速度が最小となる空間領域に選択される。
請求項12に記載の方法。
【請求項15】
上記デブリ軽減が,保護ガス流(13),磁気軽減(14),フォイルトラップ,デブリシールド(12),60%を超える透過性を持つEUV放射(15)のほとんどを透過する膜,からなる一または複数のデブリ軽減技術によって提供される,
請求項12に記載の方法。
【請求項16】
上記EUV放射ビーム(8)において,波長13.5nmのイオン化Li2+の遷移において狭帯域放射のスペクトルフィルタが提供される,
請求項12に記載の方法。
【国際調査報告】