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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-04
(54)【発明の名称】Fab断片の噴霧
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20250128BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250128BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20250128BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20250128BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20250128BHJP
   A61P 11/02 20060101ALI20250128BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20250128BHJP
   A61P 33/00 20060101ALI20250128BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20250128BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20250128BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20250128BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20250128BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20250128BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20250128BHJP
   C07K 16/18 20060101ALN20250128BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20250128BHJP
   C07K 16/46 20060101ALN20250128BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61P43/00 ZNA
A61K9/12
A61P1/00
A61P11/00
A61P11/02
A61P11/06
A61P33/00
A61P31/04
A61P31/00 171
A61P9/00
A61P35/02
A61K9/08
A61K9/72
A61K39/395 D
C07K16/18
C12N15/13
C07K16/46
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024541983
(86)(22)【出願日】2023-01-18
(85)【翻訳文提出日】2024-07-12
(86)【国際出願番号】 EP2023051073
(87)【国際公開番号】W WO2023139090
(87)【国際公開日】2023-07-27
(31)【優先権主張番号】2200592.0
(32)【優先日】2022-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】517303085
【氏名又は名称】アルジェニクス ビーブイ
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】ナタリー ヒューゼ‐ヴルク
(72)【発明者】
【氏名】セバスチャン ヴァン デール ウォニング
(72)【発明者】
【氏名】ジャン‐ミシェル ペルシエ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076AA24
4C076AA93
4C076CC07
4C076CC11
4C076CC15
4C076CC16
4C076CC27
4C076CC31
4C076CC32
4C076CC34
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB12
4C085BB41
4C085EE01
4C085GG08
4H045AA10
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、ガレクチン-10結晶の存在又は形成と関連する疾患又は疾病を治療する方法であって、それを必要としている対象に、ガレクチン-10に結合するFab断片を含む医薬組成物の治療有効量を投与することを含み、ここで、該組成物がエアロゾルとして投与される、方法に関する。また本発明に含まれるのは、ガレクチン-10に結合するFab断片を含む医薬組成物、及び該医薬組成物を含むネブライザーである。該医薬組成物は、ガレクチン-10結晶の存在又は形成と関連する疾患又は疾病、例えば、喘息又は嚢胞性線維症を治療するのに有用であり得る。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガレクチン-10結晶の存在又は形成と関連する疾患又は疾病を治療する方法において使用するための、ガレクチン-10に結合するFab断片を含む医薬組成物であって、該方法が、それを必要としている対象に、該医薬組成物の治療有効量を投与することを含み、ここで、該組成物がエアロゾルとして投与される、前記医薬組成物。
【請求項2】
ガレクチン-10結晶の存在又は形成と関連する疾患又は疾病を治療する方法であって、それを必要としている対象に、ガレクチン-10に結合するFab断片を含む医薬組成物の治療有効量を投与することを含み、ここで、該組成物がエアロゾルとして投与される、前記方法。
【請求項3】
前記ガレクチン-10結晶の存在又は形成と関連する疾患又は疾病が、喘息;慢性鼻副鼻腔炎;セリアック病;蠕虫感染症;消化管好酸球性炎症;嚢胞性線維症(CF);アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA);チャーグ・ストラウス血管炎;慢性好酸球性肺炎;及び急性骨髄性白血病:からなる群から選択される、請求項1記載の使用のための医薬組成物、又は請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記ガレクチン-10結晶の存在又は形成と関連する疾患又は疾病が喘息又は嚢胞性線維症(CF)である、請求項3記載の使用のための医薬組成物又は方法。
【請求項5】
前記医薬組成物が吸入を介して前記対象に投与される、請求項1~4のいずれか一項記載の使用のための医薬組成物又は請求項2~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
前記Fab断片が、可溶性ガレクチン-10に結合したとき、ガレクチン-10の結晶化を阻害し、かつ/又は結晶性ガレクチン-10に結合したとき、結晶性ガレクチン-10の溶解を促進する、請求項1~5のいずれか一項記載の使用のための医薬組成物又は請求項2~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
前記結晶性ガレクチン-10がシャルコー・ライデン結晶(CLC)である、請求項6の使用のための医薬組成物又は方法。
【請求項8】
前記Fab断片がヒトガレクチン-10に結合する、請求項1~7のいずれか一項記載の使用のための医薬組成物又は請求項2~7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
前記Fab断片が可変重鎖(VH)ドメイン及び可変軽鎖(VL)ドメインを含み、
ここで、該VHドメインが、
配列番号4
【化1】
を含むか又はそれからなるHCDR3;
配列番号3
【化2】
を含むか又はそれからなるHCDR2;及び
配列番号2
【化3】
を含むか又はそれからなるHCDR1
:を含み;かつ
ここで、該VLドメインが、
配列番号8
【化4】
を含むか又はそれからなるLCDR3;
配列番号7
【化5】
を含むか又はそれからなるLCDR2;及び
配列番号6
【化6】
を含むか又はそれからなるLCDR1
:を含む、
請求項1~8のいずれか一項記載の使用のための医薬組成物、又は請求項2~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
前記Fab断片が可変重鎖(VH)ドメイン及び可変軽鎖(VL)ドメインを含み、ここで:
該VHドメインが、配列番号1のアミノ酸配列、又はそれに対する少なくとも90%、95%、97%、98%、もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ
該VLドメインが、配列番号5のアミノ酸配列、又はそれに対する少なくとも90%、95%、97%、98%、もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、
請求項1~9のいずれか一項記載の使用のための医薬組成物、又は請求項2~9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
前記Fab断片が可変重鎖(VH)ドメイン及び可変軽鎖(VL)を含み、ここで:
該VHドメインが配列番号1
【化7】
のアミノ酸配列を含み;かつ
該VLドメインが配列番号5
【化8】
のアミノ酸配列を含む、
請求項10記載の使用のための医薬組成物又は方法。
【請求項12】
前記Fab断片が、ヒト化されているか、生殖系列化されているか、又は脱免疫化されている、請求項1~11のいずれか一項記載の使用のための医薬組成物、又は請求項2~11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
前記エアロゾル中の粒子の粒子サイズが、30μm未満、25μm未満、10μm未満、2μm未満、1μm未満、0.5μm未満、0.4μm未満、0.3μm未満、0.2μm未満、又は0.1μm未満である、請求項1~12のいずれか一項記載の使用のための医薬組成物、又は請求項2~12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
前記エアロゾル中の粒子の濃度が、2×105個未満、1×105個未満、2×104個未満、又は1×104個未満の総粒子/mlである、請求項1~13のいずれか一項記載の使用のための医薬組成物、又は請求項2~13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
前記エアロゾル中の2μmを超えるサイズの粒子の濃度が、1×105個未満、5×104個未満、2×104個未満、1×104個未満、1×103個未満、又は1×102個未満の>2μmの粒子/mlである、請求項1~14のいずれか一項記載の使用のための医薬組成物、又は請求項2~14のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
前記医薬組成物が、ネブライザー、加圧式定量吸入器(pMDI)、乾燥粉末吸入器、ソフトミスト吸入器、又はスマート吸入器を用いて、エアロゾルとして投与される、請求項1~15のいずれか一項記載の使用のための医薬組成物、又は請求項2~15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
前記医薬組成物が、ネブライザーを用いて、エアロゾルとして投与される、請求項16記載の使用のための医薬組成物又は方法。
【請求項18】
前記ネブライザーが、ジェットネブライザー、超音波ネブライザー、又はメッシュネブライザーである、請求項17記載の使用のための医薬組成物又は方法。
【請求項19】
投与前、前記組成物が水性液体製剤である、請求項1~18のいずれか一項記載の使用のための医薬組成物、又は請求項2~18のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
前記組成物が、5%未満、2%未満、1%未満、0.5%未満、0.1%未満、0.05%未満、0.02%未満、又は0.01%未満の量の界面活性剤を含む、請求項1~19のいずれか一項記載の使用のための医薬組成物、又は請求項2~19のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
前記組成物が界面活性剤を含有しない、請求項1~19のいずれか一項記載の使用のための医薬組成物、又は請求項2~19のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
前記組成物中のFab断片の濃度が、約1~約20mg/ml、約1~約15mg/ml、約1~約10mg/ml、約1~約5mg/ml、約2~約10mg/ml、約3~約10mg/ml、約4~約10mg/ml、又は約5~約10mg/mlである、請求項1~21のいずれか一項記載の使用のための医薬組成物、又は請求項2~21のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
前記組成物中のFab断片の濃度が、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、又は15mg/mlである、請求項1~21のいずれか一項記載の使用のための医薬組成物、又は請求項2~21のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
前記組成物が医薬として許容し得る担体又は賦形剤を含む、請求項1~23のいずれか一項記載の使用のための医薬組成物、又は請求項2~23のいずれか一項記載の方法。
【請求項25】
前記賦形剤が、液体賦形剤、任意に、溶媒又は水性溶媒である、請求項24記載の使用のための医薬組成物又は方法。
【請求項26】
前記組成物がエアロゾル化のために製剤化される、ガレクチン-10に結合するFab断片を含む医薬組成物。
【請求項27】
前記組成物が水性液体製剤である、請求項26記載の医薬組成物。
【請求項28】
前記組成物が、5%未満、2%未満、1%未満、0.5%未満、0.1%未満、0.05%未満、0.02%未満、又は0.01%未満の量の界面活性剤を含む、請求項26又は請求項27記載の医薬組成物。
【請求項29】
前記組成物が界面活性剤を含有しない、請求項26又は請求項27記載の医薬組成物。
【請求項30】
前記組成物中のFab断片の濃度が、約1~約20mg/ml、約1~約15mg/ml、約1~約10mg/ml、約1~約5mg/ml、約2~約10mg/ml、約3~約10mg/ml、約4~約10mg/ml、又は約5~約10mg/mlである、請求項26~29のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項31】
前記組成物中のFab断片の濃度が、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、又は15mg/mlである、請求項26~29のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項32】
前記組成物が医薬として許容し得る担体又は賦形剤を含む、請求項26~31のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項33】
前記賦形剤が、液体賦形剤、任意に、溶媒又は水性溶媒である、請求項32記載の医薬組成物。
【請求項34】
前記Fab断片が可変重鎖(VH)ドメイン及び可変軽鎖(VL)ドメインを含み、
ここで、該VHドメインが、
配列番号4
【化9】
を含むか又はそれからなるHCDR3;
配列番号3
【化10】
を含むか又はそれからなるHCDR2;及び
配列番号2
【化11】
を含むか又はそれからなるHCDR1
:を含み;かつ
ここで、該VLドメインが、
配列番号8
【化12】
を含むか又はそれからなるLCDR3;
配列番号7
【化13】
を含むか又はそれからなるLCDR2;及び
配列番号6
【化14】
を含むか又はそれからなるLCDR1
:を含む、
請求項26~33のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項35】
請求項26~34のいずれか一項記載の医薬組成物を含むネブライザー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、ガレクチン-10に結合するFab断片を含む医薬組成物に関するものであり、ここで、該組成物は、エアロゾル化のために製剤化される。本発明はまた、ガレクチン-10結晶の存在又は形成と関連する疾患又は疾病を治療する方法、及びその方法において使用するための医薬組成物に関する。本方法は、例えば、ネブライザーを使用することにより、医薬組成物をエアロゾルとして投与することを含む。本発明はまた、医薬組成物を含むネブライザーに関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
喘息は、誘導気道の慢性炎症性疾患であり、世界中で3億人が罹患している。病理学的に、この疾患は、気道好酸球増多症及び一部の患者において、小気道の不可逆的閉塞などの致命的な好酸球性炎症応答を引き起こし得る濃厚粘液の過剰産生を特徴とする。
【0003】
好酸球性喘息では、好酸球は、気道上皮に非常に多く存在し、好酸球細胞外トラップ細胞死(EETosis)を起こし得る。EETosisの過程で、好酸球は、ガレクチン-10タンパク質とともに、核クロマチンを放出する。高濃度になると、細胞外ガレクチン-10は結晶化し始め、シャルコー・ライデン結晶(CLC)と呼ばれる特徴的な無色の結晶を形成する。これらのCLCは、喘息患者の2型免疫を増強し、粘液の粘弾性の増加及び粘液栓の気道上皮への固定に寄与することが分かっている。CLCは、骨髄性白血病、アレルギー性及び寄生虫性疾患、並びに好酸球性嚢胞性線維症などの好酸球性炎症応答に関連したヒトの組織及び分泌物中でも観察されている。
【0004】
本発明者らは、抗ガレクチン-10抗体がCLCを可溶化することができることを以前に示した(WO2019/197675号)。ガレクチン-10結晶がインビボでどのように炎症促進性応答を誘導することができるか、及びこの応答がガレクチン-10結晶化を中断させることができるガレクチン-10抗体の投与によってどのように抑制されることができるかが報告されており;重要なことに、ガレクチン-10抗体は、患者の粘液試料由来のCLCを溶解させることができた。まとめると、これは、ガレクチン-10結晶化を標的とする薬剤を用いて、その病理がCLCの存在に関連している疾病及び障害をどのように治療することができるかということを示している。
【0005】
CLCは、これらの患者の粘液中に存在し、それゆえ、気道の内腔に存在する。したがって、これらのCLCに到達する唯一の効果的な方法は、気道への局所送達によるものである。エアロゾル化は、低分子薬剤の送達に日常的に使用されている;しかしながら、吸入によるタンパク質の投与は稀である。特に、モノクローナル抗体(mAb)については、エアロゾル技術及び薬物製剤化に関して、多くの課題が残っている。エアロゾル化は、mAbに物理的ストレスを与え、タンパク質立体構造の変化を誘発し、その生物学的活性を潜在的に減少させ、それらを免疫原性にする可能性が高い。
【0006】
ネブライザーは、タンパク質溶液からエアロゾルを生成させるための最も広く使用されている吸入器である;しかしながら、ネブライザーは、より低い活性レベル、部分的なタンパク質分解、及びより高い凝集レベルが観察されるため、完全に成功しているとは言えない(Respaudらの文献、2014; mAbs; 6(5): 1347-1355)。これらの凝集体は、治療活性の消失を引き起こすことがあり、結果として、凝集体形成を低下させる試みにおいて、製剤を最適化する必要があり得る。したがって、吸入によるタンパク質療法の送達においてさらなる改良の必要が存在する。
【発明の概要】
【0007】
(発明の概要)
吸入による送達に好適な抗体治療の開発は、薬物処方者にとって困難であることが分かっている。エアロゾル化は、抗体に大きな物理的ストレスを与え、多くの場合、凝集体の形成をもたらす。これは、生物学的活性の減少及び抗薬物抗体(ADA)応答によって引き起こされる免疫原性の増加の一因となり得る。本発明者らは、Fab断片のエアロゾル化により、タンパク質凝集体がほとんど、及び多くの場合、全く形成されないことを確認した。特に、全長IgGに由来するFab断片は首尾よくエアロゾル化され得るが、全長IgGの対応物のエアロゾル化は凝集を生じることが見出された。ガレクチン-10に結合するエアロゾル化Fab断片が凝集体をほとんど産生しないだけでなく、その生物学的活性及び効力も保持することが本明細書で報告されている。具体的には、これらのエアロゾル化Fab断片は、ガレクチン-10への結合を保持し、かつガレクチン-10結晶(CLC)を可溶化する能力を保持する。結果として、界面活性剤を添加する必要なしに、又は低濃度の界面活性剤を添加するだけで、Fab断片を含む医薬製剤を調製することが可能となる。
【0008】
第一の態様において、本発明は、ガレクチン-10結晶の存在又は形成と関連する疾患又は疾病を治療する方法において使用するための、ガレクチン-10に結合するFab断片を含む医薬組成物であって、該方法が、それを必要としている対象に、該医薬組成物の治療有効量を投与することを含み、ここで、該組成物がエアロゾルとして投与される、医薬組成物を提供する。
【0009】
第二の態様において、本発明は、ガレクチン-10結晶の存在又は形成と関連する疾患又は疾病を治療する方法であって、それを必要としている対象に、ガレクチン-10に結合するFab断片を含む医薬組成物の治療有効量を投与することを含み、ここで、該組成物がエアロゾルとして投与される、方法を提供する。
【0010】
ある実施態様において、ガレクチン-10結晶の存在又は形成と関連する疾患又は疾病は、喘息;慢性鼻副鼻腔炎;セリアック病;蠕虫感染症;消化管好酸球性炎症;嚢胞性線維症(CF);アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA);チャーグ・ストラウス血管炎;慢性好酸球性肺炎;及び急性骨髄性白血病:からなる群から選択される。ある好ましい実施態様において、ガレクチン-10結晶の存在又は形成と関連する疾患又は疾病は、喘息又は嚢胞性線維症(CF)である。
【0011】
ある実施態様において、Fab断片は、可溶性ガレクチン-10に結合したときに、ガレクチン-10の結晶化を阻害し、かつ/又は結晶性ガレクチン-10に結合したときに、結晶性ガレクチン-10の溶解を促進する。ある実施態様において、結晶性ガレクチン-10は、シャルコー・ライデン結晶(CLC)である。
【0012】
ある実施態様において、Fab断片は、ヒトガレクチン-10に結合する。ある好ましい実施態様において、Fab断片は、可変重鎖(VH)ドメイン及び可変軽鎖(VL)ドメインを含み、
ここで、該VHドメインは、
配列番号4
【化1】
を含むか又はそれからなるHCDR3;
配列番号3
【化2】
を含むか又はそれからなるHCDR2;及び
配列番号2
【化3】
を含むか又はそれからなるHCDR1
:を含み;かつ
ここで、該VLドメインは、
配列番号8
【化4】
を含むか又はそれからなるLCDR3;
配列番号7
【化5】
を含むか又はそれからなるLCDR2;及び
配列番号6
【化6】
を含むか又はそれからなるLCDR1
:を含む。
【0013】
ある実施態様において、Fab断片は、可変重鎖(VH)ドメイン及び可変軽鎖(VL)ドメインを含み、ここで:
該VHドメインは、配列番号1のアミノ酸配列、又はそれに対する少なくとも90%、95%、97%、98%、もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ
該VLドメインは、配列番号5のアミノ酸配列、又はそれに対する少なくとも90%、95%、97%、98%、もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0014】
ある実施態様において、Fab断片は、可変重鎖(VH)ドメイン及び可変軽鎖(VL)を含み、ここで:
該VHドメインは、配列番号1
【化7】
のアミノ酸配列を含み;かつ
該VLドメインは、配列番号5
【化8】
のアミノ酸配列を含む。
【0015】
ある実施態様において、Fab断片は、ヒト化されているか、生殖系列化されているか、又は脱免疫化されている。
【0016】
ある実施態様において、医薬組成物は、吸入を介して対象に投与される。ある実施態様において、医薬組成物は、ネブライザー、加圧式定量吸入器(pMDI)、乾燥粉末吸入器、ソフトミスト吸入器、又はスマート吸入器を用いて、エアロゾルとして投与される。ある好ましい実施態様において、医薬組成物は、ネブライザーを用いて、エアロゾルとして投与される。ある実施態様において、医薬組成物は、ジェットネブライザー、超音波ネブライザー、又はメッシュネブライザーを用いて、エアロゾルとして投与される。
【0017】
ある実施態様において、投与前、医薬組成物は、水性液体製剤である。ある実施態様において、医薬組成物は、医薬として許容し得る担体又は賦形剤を含む。ある実施態様において、賦形剤は、液体賦形剤、任意に、溶媒又は水性溶媒である。
【0018】
ある実施態様において、組成物は、5%未満、2%未満、1%未満、0.5%未満、0.1%未満、0.05%未満、0.02%未満、又は0.01%未満の量の界面活性剤を含む。ある代わりの実施態様において、組成物は、界面活性剤を含有しない。
【0019】
ある実施態様において、組成物中のFab断片の濃度は、約1~約20mg/ml、約1~約15mg/ml、約1~約10mg/ml、約1~約5mg/ml、約2~約10mg/ml、約3~約10mg/ml、約4~約10mg/ml、又は約5~約10mg/mlである。ある実施態様において、組成物中のFab断片の濃度は、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、又は15mg/mlである。
【0020】
ある実施態様において、エアロゾル中の粒子の粒子サイズは、30μm未満、25μm未満、10μm未満、2μm未満、1μm未満、0.5μm未満、0.4μm未満、0.3μm未満、0.2μm未満、又は0.1μm未満である。ある好ましい実施態様において、エアロゾル中の粒子の粒子サイズは、2μm未満である。
【0021】
ある実施態様において、エアロゾル中の粒子の濃度は、2×105個未満、1×105個未満、2×104個未満、又は1×104個未満の総粒子/mlである。
【0022】
ある実施態様において、エアロゾル中の2μmを超えるサイズの粒子の濃度は、1×105個未満、5×104個未満、2×104個未満、1×104個未満、1×103個未満、又は1×102個未満の>2μmの粒子/mlである。
【0023】
第三の態様において、本発明は、ガレクチン-10に結合するFab断片を含む医薬組成物を提供し、ここで、該組成物は、エアロゾル化のために製剤化される。
【0024】
本発明の第一及び第二の態様における医薬組成物に関する上記の実施態様は、第三の態様の医薬組成物に等しく適用される。
【0025】
第四の態様において、本発明は、本明細書に記載される医薬組成物のいずれかを含むネブライザーを提供する。ある実施態様において、ガレクチン-10に結合するFab断片を含む医薬組成物を含むネブライザーが提供され、ここで、該組成物は、エアロゾル化のために製剤化される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
(図面の簡単な説明)
図1図1は、レーザー回折によるエアロゾル液滴のサイズ分析を示している。生データが図1Aに提示されている。各々の試料を2つの濃度(3mg/ml及び10mg/ml)で試験し、エアロゾル化をAerogen(登録商標) Solo及びPari eFlow(登録商標)という2つの異なる装置を用いて実施した。実験は、そのシリアル番号によって識別された、3台のAerogen(登録商標) Solo装置と3台のPari eFlow(登録商標)装置を用いて3連で実行した。図1Bの棒グラフは、2つの濃度(3mg/ml及び10mg/ml)における各々の試料の噴霧時の体積平均径(VMD)の中央値範囲を示している。
図2図2は、Aerogen(登録商標) Solo及びPari eFlow(登録商標)という2つの異なる装置を用いた噴霧前(3mg/ml及び10mg/ml)と噴霧後のタンパク質試料濃度を示している。生データは図2Aに提示されている。実験は、そのシリアル番号によって識別された、3台のAerogen(登録商標) Solo装置と3台のPari eFlow(登録商標)装置を用いて3連で実行した。図2Bの棒グラフは、試験された抗体/断片の噴霧後の濃度変動の中央値範囲(%)を示している。
図3図3は、凝集体形成に対する噴霧の効果を示している。凝集体をフローセル顕微鏡法(FCM)によって検出し、Aerogen(登録商標) Solo装置又はPari eFlow(登録商標)装置で噴霧した後の中央値粒子数/mlとして表した。バッファーのみの粒子数の平均を試料値から差し引いた。1mL当たりの粒子数は、総粒子として並びに>2μm、>10μm、及び>25μmの相当直径を有する粒子として表した。図3Bにおいて、黒丸及び白丸は、それぞれ、10mg/mL及び3mg/mLの濃度についての噴霧後のデータを表している。
図4図4は、噴霧前後の試料の動的光散乱(DLS)分析を示している。メインピークのパラメータが各々の試料について表されている。必要な場合(多峰性の場合)、残りの試料を新しい分析の前に濾過した。
図5図5は、噴霧前後の試料のSEC-HPLCによって分析されたモノマーのパーセンテージを示している。図5Aの結果は、モノマーと高分子量(HMW)種の平均質量パーセンテージとして表されている。図5Bの棒グラフは、高分子量種のパーセンテージを示している。試料を、噴霧前(1)、並びにAerogen(登録商標) Solo装置による噴霧後(2)及びPari eFlow(登録商標)による噴霧後(3)に分析した。
図6図6は、Aerogen Solo振動メッシュネブライザーによる噴霧の前後の試験されたFabクローンの各々のタンパク質濃度を示している。実験は、3つの異なるAerogen Solo装置を用いて3連で実行した。図6A及び図6Bは、2つの独立した実験を提供している。
図7図7は、T0での及び+5℃で4週間保存した(4W)後のメッシュ噴霧前後の全てのFabクローンの動的光散乱(DLS)結果の概要を提供している。全ての試料を事前濾過工程(0.2μm)に供した。
図8図8は、全ての噴霧されたFabのフローセル顕微鏡法(FCM)によるサブビジブル粒子数(左上枠、総粒子/mL;右上枠、>2μm粒子/mL;左下枠、>10μm粒子/mL;右下枠、>25μm粒子/mL;丸-噴霧前;四角-噴霧後)。
図9図9は、噴霧後の試験された全てのFabについてのSPR(Biacore 3000)によって評価された結合活性を示している。全てのクローンは、各々のクローンの非ストレス参照材料(噴霧前)に対するパーセント相対活性の損失なく、完全に機能的であることが分かった。
図10図10は、全ての噴霧されたFabについてのSEC-HPLCによって評価されたパーセント純度を示している。
図11図11は、全ての噴霧されたFabについてのキャピラリーゲル電気泳動(cGE)によって評価されたパーセント純度を示している。図11Aは、非還元条件下でのインタクトFabの%純度を示し、図11Bは、還元条件下での%総Fab純度を示している。
図12図12は、GAL10結晶溶解に対する試験されたFab、18C06、20H09、23H09、並びに24F02_N53A(及び7B07_N53A)の効力を示している。
図13図13は、+5℃で4週間保存する前及び保存した後の噴霧後のGAL10結晶溶解に対する試験されたFab、18C06、20H09、並びに23H09(並びに7B07_N53A)の効力を示している(アッセイ1)。
図14図14は、+5℃で4週間保存する前及び保存した後の噴霧後のGAL10結晶溶解に対する試験されたFab、23H09、及び24F02_N53Aの効力を示している(アッセイ2)。
図15図15は、44種の上市されている治療用抗体のセットの全体的なDRB1リスクスコアを示している。ヒト抗体は、中間グレーのバーによって、ヒト化抗体は、薄いグレーのバーによって、キメラ抗体は、濃いグレーのバーによって示されている。スコアは、試験されたFab、18C06、20H09、23H09、及び24F02_N53Aについて示されている。
図16図16は、IFNγ応答(左枠)及びIL-5応答(右枠)を有するドナーのパーセンテージを示している(DFR2x及びDFReqは、Lonzaで使用された統計解析を表している)。
図17図17は、31人のドナー試験集団における試験された4つの分子のIFNγ応答(上枠)及びIL-5応答(下枠)ランキングを示している(DFR2x及びDFReqは、Lonzaで使用された統計解析を表している)。
図18図18は、噴霧後の試験されたFab属性の概要を提供している。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(詳細な説明)
(A.定義)
別途定義されない限り、本明細書で使用される技術的及び科学的用語は全て、本発明が関連する技術分野の専門家によって一般的に理解されているものと同じ意味を有する。いかなる用語も限定することなく、本明細書で使用される用語のいくつかのさらなる明確化を以下に提供する。
【0028】
本明細書で使用される場合、ガレクチン-10(又はGal10又はGal-10という用語は、自己結晶化して、シャルコー・ライデン結晶を形成する小型の疎水性グリカン結合タンパク質を指す。ガレクチン-10は、シャルコー・ライデン結晶タンパク質(CLCP)、好酸球リゾホスホリパーゼ、及びリゾレシチンアシルヒドロラーゼとも呼ばれる。「ガレクチン-10」という用語は、ヒトタンパク質及び任意の種ホモログを網羅するのに十分な幅がある。Gal10は、ガラクトース結合ドメインを特徴とするガレクチンファミリーのメンバーであり、その様々なメンバーは、炎症の複数の段階を正又は負に調節することが示されている。この小さい自動結晶化する疎水性タンパク質(わずか16.5kDa)は、好酸球の細胞質に局在している。このタンパク質は、好酸球の構成成分の中で最も多く存在するものの1つであり、全細胞タンパク質の7~10%に相当する。重要なことに、Gal10遺伝子は、ヒト及び非ヒト霊長類にしか見られない。Gal10は、分泌ペプチドシグナル及び膜貫通ドメインを欠き、好酸球細胞外トラップ細胞死(EETosis)の間に放出される。
【0029】
全長ヒトガレクチン-10のアミノ酸配列は、配列番号9によって表される(下記参照)。この配列は、UniProtデータベースにヒトガレクチン-10、アクセッション番号Q05315として寄託された配列に対応する。ヒト配列の天然の変異体、例えば、位置28におけるAla→Val変異体も「ガレクチン-10」という用語に包含される。
配列番号9
【化9】
【0030】
本明細書で使用される場合、ガレクチン-10結晶又はシャルコー・ライデン結晶(CLC)という用語は、ガレクチン-10から形成された結晶を指すために、本明細書で互換的に使用される。ガレクチン-10によって形成された結晶は、通常、六角両錐型結晶であり、長さが約20~40μm、幅が約2~4μmである。これらの結晶は、好酸球性炎症性障害と関連付けられている。
【0031】
本明細書で使用される場合、抗体又は免疫グロブリンという用語は、その間の鎖間共有結合の有無を問わず、軽鎖及び重鎖を含む構造を指す。「免疫グロブリン」という用語は、それが何らかの関連性のある特異的な免疫反応性を保有するか否かにかかわらず、2つの重鎖と2つの軽鎖の組合せを有するポリペプチドを含む。「抗体」は、対象となる抗原(本明細書では、ガレクチン-10)に対する顕著な既知の特異的免疫反応活性を有するそのような会合体を指す。「ガレクチン-10抗体」という用語は、ヒトガレクチン-10を含むガレクチン-10タンパク質に対する免疫学的特異性を示す抗体、及び場合によっては、その種ホモログを指すために本明細書で使用される。
【0032】
「免疫グロブリン」という一般用語は、生化学的に区別することができる5つの異なるクラスの抗体を含む。以下の議論は、概して、IgGクラスの免疫グロブリン分子に対するものである。IgGに関して、免疫グロブリンは、分子量約23,000ダルトンの2つの同一の軽ポリペプチド鎖及び分子量53,000~70,000の2つの同一の重鎖を含む。これら4つの鎖は、「Y」形状でジスルフィド結合により接続されており、ここで、軽鎖は、「Y」の口から始まり、可変領域を通して続いている重鎖を下支えする。
【0033】
抗体の軽鎖は、カッパ又はラムダ(κ、λ)のいずれかに分類される。各々の重鎖クラスは、カッパ軽鎖又はラムダ軽鎖のいずれかと結合することができる。一般に、軽鎖及び重鎖は、互いに共有結合しており、2つの重鎖の「テール」部分は、免疫グロブリンが、ハイブリドーマ、B細胞、又は遺伝子改変宿主細胞のいずれかによって生成されるとき、共有結合的ジスルフィド連結又は非共有結合的連結によって互いに結合する。重鎖において、アミノ酸配列は、Y形状のフォーク型端部のN-末端から各々の鎖の下端のC-末端まで続いている。当業者は、重鎖が、ガンマ、ミュー、アルファ、デルタ、又はイプシロン(γ、μ、α、δ、又はε)に分類され、その中にいくつかのサブクラス(例えば、γ1~γ4)があることを理解しているであろう。抗体の「クラス」を、それぞれ、IgG、IgM、IgA、IgD、又はIgEとして決定するのは、この鎖の性質である。免疫グロブリンサブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1などは、十分に特徴付けられており、機能特化を付与することが知られている。これらのクラス及びアイソタイプの各々の修飾バージョンは、本開示に照らして、当業者に直ちに識別可能である。
【0034】
抗体の可変領域は、抗体が抗原上のエピトープを選択的に認識し、それに特異的に結合することを可能にする。すなわち、抗体のVLドメインとVHドメインが組み合わさって、3次元抗原結合部位を規定する可変領域を形成する。この4つの要素からなる抗体構造は、Y字の各々のアームの端に存在する抗原結合部位を形成する。より具体的には、抗原結合部位は、VH鎖及びVL鎖の各々の上にある3つの相補性決定領域(CDR)によって規定される。
【0035】
本明細書で使用される場合、VHH抗体又は重鎖のみの抗体という用語は、ラクダ、ラマ、アルパカを含む、ラクダ科(Camelidae)ファミリーの種によってのみ産生される抗体のタイプを指す。重鎖のみの抗体又はVHH抗体は、2つの重鎖から構成され、軽鎖を欠いている。各々の重鎖は、N-末端に可変ドメインを有し、これらの可変ドメインは、それらを上記の従来のヘテロ四量体抗体の重鎖の可変ドメイン、すなわち、VHドメインと区別するために、「VHH」ドメインと呼ばれる。
【0036】
本明細書で使用される場合、可変領域及び可変ドメインという用語は、本明細書で互換的に使用されており、かつ等価な意味を有することが意図される。「可変」という用語は、可変ドメインVH及びVLのある部分が配列に関して抗体間で広範囲に異なり、かつその標的抗原に対する各々の特定の抗体の結合及び特異性に関して使用されるという事実を指す。しかしながら、可変性は、抗体の可変ドメインの全体を通して一様には分布していない。それは、抗原結合部位の部分を形成するVLドメイン及びVHドメインの各々の中の「超可変ループ」と呼ばれる3つのセグメントに集中している。Vラムダ軽鎖ドメインの第一、第二、及び第三の超可変ループは、本明細書において、L1(λ)、L2(λ)、及びL3(λ)と称され、VLドメイン中の残基24~33(9、10、又は11個のアミノ酸残基からなるL1(λ))、49~53(3個の残基からなるL2(λ))、及び90~96(5個の残基からなるL3(λ))を含むものとして定義することができる(Moreaらの文献、Methods 20:267-279(2000))。Vカッパ軽鎖ドメインの第一、第二、及び第三の超可変ループは、本明細書において、L1(κ)、L2(κ)、及びL3(κ)と称され、VLドメイン中の残基25~33(6、7、8、11、12、又は13個の残基からなるL1(κ))、49~53(3個の残基からなるL2(κ))、及び90~97(6個の残基からなるL3(κ))を含むものとして定義することができる(Moreaらの文献、Methods 20:267-279(2000))。VHドメインの第一、第二、及び第三の超可変ループは、本明細書において、H1、H2、及びH3と称され、VHドメイン中の残基25~33(7、8、又は9個の残基からなるH1)、52~56(3又は4個の残基からなるH2)、及び91~105(長さに大きなばらつきがあるH3)を含むものとして定義することができる(Moreaらの文献、Methods 20:267-279(2000))。
【0037】
別途示されない限り、L1、L2、及びL3という用語は、それぞれ、VLドメインの第一、第二、及び第三の超可変ループを指し、VカッパアイソタイプとVラムダアイソタイプの両方から得られる超可変ループを包含する。H1、H2、及びH3という用語は、それぞれ、VHドメインの第一、第二、及び第三の超可変ループを指し、γ、ε、δ、α、又はμを含む、既知の重鎖アイソタイプのいずれかから得られる超可変ループを包含する。
【0038】
超可変ループL1、L2、L3、H1、H2、及びH3は、各々、以下で定義される「相補性決定領域」又は「CDR」の部分を含むことができる。「超可変ループ」及び「相補性決定領域」という用語は、厳密には同義ではないが、それは、超可変ループ(HV)が構造に基づいて定義されるのに対し、相補性決定領域(CDR)は配列可変性に基づいて定義されており(Kabatらの文献、免疫学的関心のあるタンパク質の配列(Sequences of Proteins of Immunological Interest)、第5版. Public Health Service、National Institutes of Health, Bethesda, MD., 1983)、かつHV及びCDRの境界がいくつかのVH及びVLドメインで異なり得るからである。
【0039】
VL及びVHドメインのCDRは、通常、以下のアミノ酸:軽鎖可変ドメイン中の残基24~34(LCDR1)、50~56(LCDR2)、及び89~97(LCDR3)、並びに重鎖可変ドメイン中の残基31~35又は31~35b(HCDR1)、50~65(HCDR2)、及び95~102(HCDR3)を含むものとして定義することができる;(Kabatらの文献、免疫学的関心のあるタンパク質の配列(Sequences of Proteins of Immunological Interest)、第5版. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD.(1991))。したがって、HVは、対応するCDR内に含まれることができ、別途示されない限り、VH及びVLドメインの「超可変ループ」に対する本明細書中の言及は、対応するCDRも包含するものとして解釈されるべきであり、逆もまた同様である。
【0040】
可変ドメインのより高度に保存された部分は、以下で定義されるように、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる。天然の重鎖及び軽鎖の可変ドメインは、各々、3つの超可変ループによって接続された、主としてβ-シート形状を取っている4つのFR(それぞれ、FR1、FR2、FR3、及びFR4)を含む。各々の鎖の超可変ループは、FRによりごく接近して結び付けられ、他の鎖由来の超可変ループとともに、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する。抗体の構造解析により、相補性決定領域によって形成される結合部位の配列と形状の関係性が明らかになった(Chothiaらの文献、J. Mol. Biol. 227: 799-817(1992)); Tramontanoらの文献、J. Mol. Biol, 215:175-182(1990))。その高い配列変動性にもかかわらず、6つのループのうちの5つは、「標準構造」と呼ばれる、主鎖立体構造のわずかなレパートリーを採用している。これらの立体構造は、第一に、ループの長さによって、第二に、その充填、水素結合、又は異常な主鎖立体構造を取る能力によって立体構造を決定するループ中及びフレームワーク領域中の特定の位置における重要な残基の存在によって決定される。
【0041】
本明細書で使用される場合、CDR又は相補性決定領域という用語は、重鎖ポリペプチドと軽鎖ポリペプチドの両方の可変領域内に見られる非連続的な抗原結合部位を意味する。これらの特定の領域は、Kabatらの文献、J. Biol. Chem. 252, 6609-6616(1977)及びKabatらの文献、免疫学的関心のあるタンパク質の配列(Sequences of Protein of Immunological Interest)(1991)、並びにChothiaらの文献、J. Mol. Biol. 196:901-917(1987)、並びにMacCallumらの文献、J. Mol. Biol. 262:732-745(1996)によって記載されており、ここで、これらの定義は、互いに比較したとき、アミノ酸残基の重複又は部分集合を含む。上で引用された参考文献の各々によって定義されるCDRを包含するアミノ酸残基が比較のために示されている。好ましくは、「CDR」という用語は、配列比較に基づいてKabatにより定義されたCDRである。
表1: CDR定義
【表1】
1残基の付番はKabatらの文献(上記)の命名体系に従う
2残基の付番はChothiaらの文献(上記)の命名体系に従う
3残基の付番はMacCallumらの文献(上記)の命名体系に従う
【0042】
本明細書で使用される場合、フレームワーク領域又はFR領域という用語は、(例えば、CDRのKabat定義を用いて)可変領域の部分であるが、CDRの部分ではないアミノ酸残基を含む。それゆえ、可変領域フレームワークは、約100~120アミノ酸の長さであるが、CDRの外側のアミノ酸しか含まない。重鎖可変ドメインの具体的な例について、及びKabatらによって定義されるCDRについて、フレームワーク領域1は、アミノ酸1~30を包含する可変領域のドメインに対応し;フレームワーク領域2は、アミノ酸36~49を包含する可変領域のドメインに対応し;フレームワーク領域3は、アミノ酸66~94を包含する可変領域のドメインに対応し、フレームワーク領域4は、アミノ酸103から可変領域の末端までの可変領域のドメインに対応する。軽鎖のフレームワーク領域は、軽鎖可変領域CDRの各々によって同様に隔てられる。同様に、Chothiaら又はMcCallumらによるCDRの定義を用いて、フレームワーク領域境界は、上記のようなそれぞれのCDR末端によって隔てられる。好ましい実施態様において、CDRは、Kabatによって定義されている通りである。
【0043】
天然の抗体において、各々の単量体抗体上に存在する6つのCDRは、抗体が水性環境中でその3次元形状を取るときに、抗原結合部位を形成するように特異的に配置されている、アミノ酸の短い非連続的な配列である。重及び軽可変ドメインの残りの部分は、アミノ酸配列に関してより小さい分子間可変性を示し、フレームワーク領域と呼ばれる。フレームワーク領域は、主としてβ-シート立体配置を取っており、CDRは、β-シート構造に接続し、場合によっては、その部分を形成するループを形成する。したがって、これらのフレームワーク領域は、6つのCDRを鎖間の非共有結合的相互作用によって正しい方向に配置する足場を形成するように作用する。配置されたCDRによって形成される抗原結合部位は、免疫反応性抗原上のエピトープに相補的な表面を規定する。この相補的な表面は、抗体と免疫反応性抗原エピトープとの非共有結合を促進する。CDRの位置は、当業者により容易に同定されることができる。
【0044】
本明細書で使用される場合、Fab又はFab断片という用語は、重鎖及び軽鎖から構成される分子を指し、ここで、該軽鎖は、VLドメインと1つの定常ドメイン(CL、Cκ、又はCλ)とからなり、該重鎖は、VHドメインとCH1ドメインのみとからなる。Fab断片は、通常、Y形の免疫グロブリン分子の1つの腕である。Fab断片は、酵素パパインの作用により、免疫グロブリン分子から生成させることができる。パパインは、2つのFab断片と別々のFc領域とを生じるように、ヒンジの領域中で免疫グロブリン分子を切断する。Fab断片は、全長抗体分子と解釈されない。
【0045】
本明細書で使用される場合、ヒト化置換という用語は、抗体又は断片(例えば、ラクダ科動物由来ガレクチン-10抗体又は断片)のVH又はVLドメイン中の特定の位置に存在するアミノ酸残基が参照ヒトVH又はVLドメイン中の等価な位置に生じるアミノ酸残基と置き換えられるアミノ酸置換を指す。参照ヒトVH又はVLドメインは、ヒト生殖系列によってコードされるVH又はVLドメインであってもよい。ヒト化置換は、本明細書で定義される抗体又は断片のフレームワーク領域及び/又はCDR中で行われてもよい。
【0046】
本明細書で使用される場合、ヒト化変異体という用語は、参照抗体と比較して1以上の「ヒト化置換」を含有する変異体抗体を指し、ここで、該参照抗体の部分(例えば、少なくとも1つのCDRを含有するVHドメイン及び/もしくはVLドメイン又はその部分)は、非ヒト種に由来するアミノ酸を有し、かつ該「ヒト化置換」は、非ヒト種に由来するアミノ酸配列内で生じる。
【0047】
本明細書で使用される場合、生殖系列化変異体という用語は、「ヒト化置換」が抗体又は断片(例えば、ラクダ科動物由来ガレクチン-10抗体又は断片)のVH又はVLドメイン中の特定の位置に存在する1以上のアミノ酸残基とヒト生殖系列によってコードされる参照ヒトVH又はVLドメイン中の等価な位置に生じるアミノ酸残基との置換をもたらす「ヒト化変異体」を具体的に指す。任意の所与の「生殖系列化変異体」について、生殖系列化変異体へと置換される置換アミノ酸残基は、ヒト生殖系列によってコードされる単一のVH又はVLドメインから独占的に又は優先的に取得されることが一般的である。「ヒト化変異体」及び「生殖系列化変異体」という用語は、多くの場合、本明細書で互換的に使用される。ラクダ科動物由来(例えば、ラマ由来)VH又はVLドメインへの1以上の「ヒト化置換」の導入は、ラクダ科動物(ラマ)由来VH又はVLドメインの「ヒト化変異体」の産生をもたらす。置換されるアミノ酸残基が優先的に又は独占的にヒト生殖系列によってコードされる単一のVH又はVLドメイン配列に由来する場合、ラクダ科動物(ラマ)由来VH又はVLドメインの「ヒト生殖系列化変異体」という結果になり得る。
【0048】
本明細書で使用される場合、脱免疫化された又は脱免疫化という用語は、結合分子中のT細胞エピトープの同定及びその後の除去を指す。通常、必ずしもそうではないが、これは、抗体又は断片の可変領域で行われる。また、必ずしもそうではないが、多くの場合、これは、フレームワーク領域で、したがって、CDR領域の外側で行われる。T細胞エピトープの除去は、通常、T細胞エピトープをコードする1以上のアミノ酸を置換することにより達成される。配列は、それによって、T細胞エピトープとは異なる配列に変化する。脱免疫化された可変領域は、通常、1~5個のアミノ酸置換を含む。置換されたアミノ酸は、可変領域の三次構造が大きく変化しないように選択される。それゆえ、置換されたアミノ酸は、通常、同じアミノ酸群(すなわち、中性、正荷電、負荷電、親油性)から選択される。同じ群の中で利用される場合、構造的に近いヒト抗体で、可変領域中の同じ又は類似の位置にあるアミノ酸に置換される。
【0049】
ヒトで使用するための結合分子の脱免疫化は、通常、重鎖を最大5カ所で、軽鎖を最大5カ所で、又はその両方で修飾することにより達成することができる。可変領域の脱免疫化は、確立された技術であり、ヒトで免疫応答を誘発する確率が減少した結合分子を常に生じる。この結果を得るために必要とされるアミノ酸置換の数は、通常、各々の鎖において、5未満である。多くの場合、未修飾の配列と比較したときにヒトで免疫応答を誘発する確率が減少した結合分子を得るために、各々の鎖における1、2、又は3つのアミノ酸の置換で十分である。本発明のFab断片は、好ましくは、ヒト化又は脱免疫化Fab断片である。
【0050】
本明細書で使用される場合、それに対する%配列同一性という用語は、2つの配列間の類似性の程度を指す。2つのアミノ酸配列間のパーセント配列同一性は、最適な方法でアラインされたこれら2つの配列を比較することにより決定することができ、比較されることになるアミノ酸配列は、これら2つの配列間の最適なアライメントのための参照配列に関して付加又は欠失を含むことができる。同一性のパーセンテージは、これら2つの配列間の同一性のパーセンテージを得るために、アミノ酸残基が2つの配列間で同一である同一位置の数を決定し、この同一位置の数を比較ウィンドウ内の位置の総数で除し、かつ得られた結果に100を乗じることにより計算される。例えば、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/ gorf/bl2.htmlというサイトで入手可能なBLASTプログラム「BLAST 2配列」(Tatusovaらの文献、「Blast 2配列-タンパク質及びヌクレオチド配列を比較するための新たなツール(Blast 2 sequences - a new tool for comparing protein and nucleotide sequences)」、FEMS Microbiol Lett. 174:247-250)を使用することが可能であり、使用されるパラメータは、デフォルトで与えられているものであり(特に、パラメータについては、「オープンギャップペナルティ」: 5及び「伸長ギャップペナルティ」: 2であり;選ばれるマトリックスは、例えば、本プログラムによって提案されるマトリックス「BLOSUM 62」である)、比較されることになる2つの配列間の同一性のパーセンテージは、本プログラムによって直接計算される。
【0051】
本明細書で使用される場合、エアロゾル化という用語は、物質(例えば、薬)をエアロゾル中に分散させることを指し、ここで、エアロゾルは、空気又は別の気体中の微細な固体微粒子又は液滴の懸濁液である。肺へのエアロゾルの治療的送達は、ネブライザー、加圧式定量吸入器(pMDI)、並びに他の装置(例えば、乾燥粉末吸入器、ソフトミスト吸入器、及びスマート吸入器)を介して提供することができる。
【0052】
本明細書で使用される場合、噴霧という用語は、液体薬を、患者が呼吸用マスク又はマウスピースを通して吸入することができるエアロゾルに変換するネブライザーの助けを借りて、薬剤を吸入によって直接投与するプロセスを指す。ネブライザーは、酸素、圧縮空気、又は超音波振動によって、液体をエアロゾルの微細なスプレーに変換するために使用される装置である。3つの主なタイプのネブライザー:エアロゾルを作るために圧縮ガスを使用するジェットネブライザー;エアロゾルを作るために高周波振動を使用する超音波ネブライザー;及び振動素子が非常に細かいメッシュを通して液体を押し出してエアロゾルを作るメッシュネブライザー(別名、振動メッシュネブライザー)がある。
【0053】
本明細書で使用される場合、界面活性剤という用語は、表面又は界面に吸着して、表面張力又は界面張力を低下させる物質を指す。これらの薬剤は、疎水性医薬活性成分の湿潤及び分散を補助し、かつこれらは、通常、懸濁液中の固体と液体の間の界面張力を低下させることにより作用する。界面活性剤は、生物学的製剤における凝集体の形成を防ぐために使用されることが多い。ポリソルベートは、製薬業界で最も広く使用されている界面活性剤である。例えば、それらは、噴霧時の薬剤の分散又は溶解を促進するために、吸入コルチコイド(フルチカゾン及びブデソニド)の製剤化中に添加される。しかしながら、ヒト対象への又は動物への投与が意図される製剤中の乳化剤、可溶化剤、懸濁安定化剤としての及び湿潤剤としての界面活性剤の使用は、製剤中の活性剤の生物学的活性の顕著な変化をもたらし得る。製剤中に取り込まれた界面活性剤分子は、いくつかの方法で、例えば、固体投与形態の脱凝集及び溶解に影響を及ぼすことにより、溶液形態で投与される薬物の沈殿の速度を制御することにより、膜透過性を増加させ、膜の完全性に影響を及ぼすことにより、薬物代謝酵素活性を変化させることにより、及び受容体部位への薬物の結合に影響を及ぼすことにより、その効果を発揮することができる。
【0054】
本明細書で使用される場合、エアロゾル液滴という用語は、医薬組成物のエアロゾル化後に産生される液滴を指す。エアロゾル液滴のサイズを、例えば、レーザー回折によって測定して、産生されたエアロゾル液滴の大部分が要求される呼吸可能なサイズ範囲内にあるかどうかを決定することができる。エアロゾル液滴のサイズは、エアロゾライザー性能の重要な特性である。大きすぎる液滴は下気道に到達しないが、小さすぎる液滴は吐き出される。噴霧された溶液は、例えば、下気道で沈着させるための最適なエアロゾル液滴サイズ範囲である、1~5μmの直径を有するエアロゾル液滴を産生しなければならない。分析装置は、試料の液滴サイズ分布を測定し、報告する能力を提供する。エアロゾル液滴サイズは、多くの場合、空気動力学的質量中央径(MMAD)を単位として表される。MMADは、質量で液滴の50%が大きく、50%が小さい直径として定義される。サイズ分布は、体積平均径(VMD)として表すこともでき、これは、集団を2等分する液滴サイズの値である。VMDは、液滴の密度によって質量中央径(MMD)に直接関係する。VMDは、エアロゾルの体積の半分が中央値よりも小さい液滴のものであり、かつ体積の半分が中央値よりも大きい液滴のものである、中間点の液滴サイズ(中央値)を指す。50μmのVMD(DV0.5)は、例えば、体積の半分が50μmよりも小さい液滴サイズのものであり、かつ体積の半分が50μmよりも大きい液滴サイズのものであることを示す。
【0055】
本明細書で使用される場合、粒子サイズ及び粒子濃度という用語は、タンパク質含有溶液又はエアロゾル中に存在するタンパク質粒子又はタンパク質凝集体のサイズ及び分量を指すために使用される。粒子サイズ及び粒子濃度は、エアロゾル化前の液体試料中で測定することができ、かつエアロゾル化され、回収され、その後、濃縮された試料中で測定することもできる。理想的には、治療に使用するための医薬組成物は、エアロゾル化前とエアロゾル化後の両方で、タンパク質粒子又はタンパク質凝集体をほとんど又は全く含有しない。これらの粒子は、視認できる(すなわち、肉眼で見える)場合もあれば、視認できない場合もある。粒子サイズと粒子濃度の両方を決定するために、限定されないが、動的光散乱法及びフローセル顕微鏡法を含む、様々な方法が利用可能である。粒子濃度は、試料1ml当たりの粒子の総数として報告することができる。粒子濃度は、試料1ml当たりの特定のサイズの粒子の数又は試料1ml当たりの特定のサイズよりも大きい粒子の数として報告することもできる。
【0056】
(B.ガレクチン-10に結合するFab断片)
本発明は、ガレクチン-10に結合するFab断片を含む医薬組成物に関する。本発明者らは、Fab断片がエアロゾル化のための好ましいフォーマットであることを確認した。凝集体をほとんど、又は場合によっては全く産生しないで、Fab断片をエアロゾル化に供することができることが本明細書で報告されている。
【0057】
ガレクチン-10に結合する任意のFab断片が本発明における使用のために企図される。Fab断片は、ヒトガレクチン-10に優先的に結合する。ある実施態様において、Fab断片は、ヒトガレクチン-10に結合する。全長ヒトガレクチン-10のアミノ酸配列は、配列番号9によって表される。したがって、ある実施態様において、Fab断片は、配列番号9のアミノ酸配列に結合する。ある実施態様において、Fab断片は、ヒトガレクチン-10の天然の変異体に結合する。ある実施態様において、Fab断片は、配列番号9のアミノ酸配列の天然の変異体に結合する。ある実施態様において、Fab断片は、ヒトガレクチン-10及びカニクイザルガレクチン-10に結合する。
【0058】
ある実施態様において、ガレクチン-10に結合するFab断片は、ガレクチン-10、好ましくは、ヒトガレクチン-10の結晶充填界面の1以上のアミノ酸を含むエピトープに結合する。該エピトープは、Ser2、Leu3、Leu4、Tyr8、Thr9、Glu10、Ala11、Ala12、Ser13、Thr16、Thr42、Glu43、Met44、Lys45、Asp49、Ile50、 Glu68、Tyr69、Gly70、Ala71、Lys73、Gln74、Gln75、Val76、Glu77、Ser78、Lys79、Asn80、Met81、Leu96、Pro97、Asp98、Lys99、Gln101、Met103、Gly106、Gln107、Ser108、Ser109、Tyr110、Thr111、Asp113、His114、Arg115、Ile116、Lys117、Ala120、Gln125、Thr133、Lys134、Phe135、Asn136、Val137、Ser138、Tyr139、Leu140、及びLys141:からなる群から選択される1以上、2以上、3以上、4以上、5以上のアミノ酸を含み得る。ある実施態様において、Fab断片は、Tyr69を含むエピトープ又はTyr69に隣接するアミノ酸を含むエピトープに結合する。好ましい実施態様において、Fab断片は、Tyr69を含むエピトープに結合する。或いは、又はさらに、Fab断片は、ガレクチン-10の二量体化界面からの1以上のアミノ酸を含むエピトープに結合することができる。そのような実施態様において、Fab断片は、Pro5、Pro7、Leu27、Ala28、Cys29、Leu31、Asn32、Glu33、Pro34、Tyr35、Gln37、His41、Glu46、Glu47、Gln55、Arg60、Arg61、Arg67、Trp72、Gln75、Trp127、Arg128、及びAsp129:からなる群から選択される1以上のアミノ酸を含むエピトープに結合することができる。ガレクチン-10のアミノ酸残基又は位置は、本明細書において配列番号9として同定されたヒトタンパク質配列を参照して定義される。
【0059】
エアロゾル化後、Fab断片は、ガレクチン-10に結合する能力を保持する。ある実施態様において、Fab断片は、エアロゾル化前のFab断片と同じ又は類似の結合親和性で、エアロゾル化後にガレクチン-10に結合する。ある実施態様において、Fab断片は、エアロゾル化前のFab断片の結合親和性と比べて、エアロゾル化後に50%、60%、70%、80%、90%、95%、又は100%、ガレクチン-10に結合する。ある実施態様において、Fab断片は、エアロゾル化前のFab断片の結合親和性と比べて、エアロゾル化後に90%以上、ガレクチン-10に結合する。
【0060】
Fab断片は、ガレクチン-10のエピトープに結合し、それにより、ガレクチン-10の結晶充填界面を遮蔽することができる。ガレクチン-10の結晶充填界面は、結晶格子内で1以上の隣接するガレクチン-10分子と接触するアミノ酸の表面パッチである。ガレクチン-10の結晶充填界面を遮蔽する働きをするガレクチン-10のエピトープに結合することにより、Fab断片は、ガレクチン-10の結晶化を中断させる。したがって、Fab断片がガレクチン-10の結晶化を中断させるのであれば、Fab断片は、結晶充填界面を完全に又は部分的に遮蔽することができるということになる。ある実施態様において、Fab断片は、結晶性ガレクチン-10に結合したとき、ガレクチン-10の溶解を促進する。ある実施態様において、Fab断片は、可溶性ガレクチン-10に結合したとき、ガレクチン-10の結晶化を阻害する。ある実施態様において、Fab断片は、結晶性ガレクチン-10に結合したとき、結晶性ガレクチン-10の溶解を促進し、可溶性ガレクチン-10に結合したとき、ガレクチン-10の結晶化を阻害する。
【0061】
本明細書に記載されるガレクチン-10 Fab断片の拮抗特性は、本明細書に記載されるアッセイに従って測定することができる。例えば、ガレクチン-10に結合するFab断片を、ガレクチン-10の結晶化に有利に働く実験条件下で可溶性ガレクチン-10とともにインキュベートすることができ、このプロセスを阻害するFab断片の能力を測定することができる。ガレクチン-10に結合するFab断片の阻害活性は、対照、例えば、ガレクチン-10に結合しないFab断片と比べて測定することができる。ガレクチン-10に結合するFab断片の阻害活性は、結晶化阻害活性を有さないガレクチン-10結合分子である対照と比べて測定することもできる。ガレクチン-10に結合するFab断片は、対照と比べて100%、対照と比べて90%、対照と比べて80%、対照と比べて70%、ガレクチン-10の結晶化を阻害することができる。
【0062】
或いは、ガレクチン-10に結合するFab断片を予め形成されたガレクチン-10結晶とともにインキュベートすることができ、かつ結晶を溶解させるFab断片の能力を好適な時間経過にわたって測定することができる。ガレクチン-10の結晶は、インビトロで産生された組換えガレクチン-10から形成された組換え結晶であってもよい。或いは、ガレクチン-10結晶は、患者試料、例えば、患者の鼻腔又は副鼻腔内のポリープから得られた結晶であってもよい。ある実施態様において、ガレクチン-10に結合するFab断片は、最大10時間、最大12時間、最大14時間、最大16時間、最大18時間、最大20時間の期間にわたって、予め形成されたガレクチン-10結晶を溶解させることができる。ガレクチン-10に結合するFab断片は、結晶を完全に、すなわち、100%溶解させることができる。或いは、ガレクチン-10に結合するFab断片は、結晶の50%以上が溶解し、結晶の60%超が溶解し、結晶の70%超が溶解し、結晶の80%超が溶解し、結晶の90%超が時間経過にわたって溶解するように、結晶を溶解させることができる。
【0063】
エアロゾル化後、ガレクチン-10に結合するFab断片は、結晶性ガレクチン-10に結合したときに結晶性ガレクチン-10の溶解を促進する能力、及び/又は可溶性ガレクチン-10に結合したときにガレクチン-10の結晶化を阻害する能力を保持する。ある実施態様において、Fab断片は、エアロゾル化前のFab断片と同じ又は類似の程度に、エアロゾル化後の結晶性ガレクチン-10の溶解を促進する。ある実施態様において、Fab断片は、エアロゾル化前のFab断片と比べて、50%、60%、70%、80%、90%、95%、又は100%、エアロゾル化後の結晶性ガレクチン-10の溶解を促進する。ある実施態様において、Fab断片は、エアロゾル化前のFab断片と同じ又は類似の程度に、エアロゾル化後の可溶性ガレクチン-10の結晶化を阻害する。ある実施態様において、Fab断片は、エアロゾル化前のFab断片と比べて、50%、60%、70%、80%、90%、95%、又は100%、エアロゾル化後の可溶性ガレクチン-10の結晶化を阻害する。
【0064】
(C.ガレクチン-10に結合する例示的なFab断片)
本明細書に記載されるのは、ガレクチン-10に結合し、かつ本発明における使用が企図される例示的なFab断片である。これらのFab断片は、本発明に従って使用するための好ましいFab断片として働く。ガレクチン-10に結合する例示的なFab断片は、下記のように、もっぱらその構造的特徴に関して定義することができる。
【0065】
ガレクチン-10に結合し、かつ本発明における使用が企図される好ましいFab断片は、本明細書に記載される24F02_N53Aクローンである。
【0066】
したがって、ある実施態様において、Fab断片は、可変重鎖(VH)ドメイン及び可変軽鎖(VL)ドメインを含み、
ここで、該VHドメインは、
配列番号4
【化10】
を含むか又はそれからなるHCDR3;
配列番号3
【化11】
を含むか又はそれからなるHCDR2;及び
配列番号2
【化12】
を含むか又はそれからなるHCDR1
:を含み;かつ
ここで、該VLドメインは、
配列番号8
【化13】
を含むか又はそれからなるLCDR3;
配列番号7
【化14】
を含むか又はそれからなるLCDR2;及び
配列番号6
【化15】
を含むか又はそれからなるLCDR1
:を含む。
【0067】
ある実施態様において、Fab断片は、可変重鎖(VH)ドメイン及び可変軽鎖(VL)ドメインを含み、ここで:
該VHドメインは、配列番号1のアミノ酸配列、又はそれに対する少なくとも90%、95%、97%、98%、もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ
該VLドメインは、配列番号5のアミノ酸配列、又はそれに対する少なくとも90%、95%、97%、98%、もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0068】
ある実施態様において、Fab断片は、可変重鎖(VH)ドメイン及び可変軽鎖(VL)を含み、ここで:
該VHドメインは、配列番号1
【化16】
のアミノ酸配列を含み;かつ
該VLドメインは、配列番号5
【化17】
のアミノ酸配列を含む。
【0069】
ガレクチン-10に結合し、かつ本発明における使用が企図される好ましいFab断片は、本明細書に記載される24F02クローンである。
【0070】
したがって、ある実施態様において、Fab断片は、可変重鎖(VH)ドメイン及び可変軽鎖(VL)ドメインを含み、
ここで、該VHドメインは、
配列番号4
【化18】
を含むか又はそれからなるHCDR3;
配列番号25
【化19】
を含むか又はそれからなるHCDR2;及び
配列番号2
【化20】
を含むか又はそれからなるHCDR1
:を含み;かつ
ここで、該VLドメインは、
配列番号8
【化21】
を含むか又はそれからなるLCDR3;
配列番号7
【化22】
を含むか又はそれからなるLCDR2;及び
配列番号6
【化23】
を含むか又はそれからなるLCDR1
:を含む。
【0071】
ある実施態様において、Fab断片は、可変重鎖(VH)ドメイン及び可変軽鎖(VL)ドメインを含み、ここで:
該VHドメインは、配列番号24のアミノ酸配列、又はそれに対する少なくとも90%、95%、97%、98%、もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ
該VLドメインは、配列番号5のアミノ酸配列、又はそれに対する少なくとも90%、95%、97%、98%、もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0072】
ある実施態様において、Fab断片は、可変重鎖(VH)ドメイン及び可変軽鎖(VL)を含み、ここで:
該VHドメインは、配列番号24
【化24】
のアミノ酸配列を含み;かつ
該VLドメインは、配列番号5
【化25】
のアミノ酸配列を含む。
【0073】
ガレクチン-10に結合し、かつ本発明における使用が企図される好ましいFab断片は、本明細書に記載される18C06クローンである。
【0074】
したがって、ある実施態様において、Fab断片は、可変重鎖(VH)ドメイン及び可変軽鎖(VL)ドメインを含み、
ここで、該VHドメインは、
配列番号13
【化26】
を含むか又はそれからなるHCDR3;
配列番号12
【化27】
を含むか又はそれからなるHCDR2;及び
配列番号11
【化28】
を含むか又はそれからなるHCDR1
:を含み;かつ
ここで、該VLドメインは、
配列番号17
【化29】
を含むか又はそれからなるLCDR3;
配列番号16
【化30】
を含むか又はそれからなるLCDR2;及び
配列番号15
【化31】
を含むか又はそれからなるLCDR1
:を含む。
【0075】
ある実施態様において、Fab断片は、可変重鎖(VH)ドメイン及び可変軽鎖(VL)ドメインを含み、ここで:
該VHドメインは、配列番号10のアミノ酸配列、又はそれに対する少なくとも90%、95%、97%、98%、もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ
該VLドメインは、配列番号14のアミノ酸配列、又はそれに対する少なくとも90%、95%、97%、98%、もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0076】
ある実施態様において、Fab断片は、可変重鎖(VH)ドメイン及び可変軽鎖(VL)を含み、ここで:
該VHドメインは、配列番号10
【化32】
のアミノ酸配列を含み;かつ
該VLドメインは、配列番号14
【化33】
のアミノ酸配列を含む。
【0077】
ガレクチン-10に結合し、かつ本発明における使用が企図される好ましいFab断片は、本明細書に記載される20H09クローンである。
【0078】
したがって、ある実施態様において、Fab断片は、可変重鎖(VH)ドメイン及び可変軽鎖(VL)ドメインを含み、
ここで、該VHドメインは、
配列番号21
【化34】
を含むか又はそれからなるHCDR3
配列番号20
【化35】
を含むか又はそれからなるHCDR2;及び
配列番号19
【化36】
を含むか又はそれからなるHCDR1
:を含み;かつ
ここで、該VLドメインは、
配列番号8
【化37】
を含むか又はそれからなるLCDR3;
配列番号7
【化38】
を含むか又はそれからなるLCDR2;及び
配列番号6
【化39】
を含むか又はそれからなるLCDR1
:を含む。
【0079】
ある実施態様において、Fab断片は、可変重鎖(VH)ドメイン及び可変軽鎖(VL)ドメインを含み、ここで:
該VHドメインは、配列番号18のアミノ酸配列、又はそれに対する少なくとも90%、95%、97%、98%、もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ
該VLドメインは、配列番号5のアミノ酸配列、又はそれに対する少なくとも90%、95%、97%、98%、もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0080】
ある実施態様において、Fab断片は、可変重鎖(VH)ドメイン及び可変軽鎖(VL)を含み、ここで:
該VHドメインは、配列番号18
【化40】
のアミノ酸配列を含み;かつ
該VLドメインは、配列番号5
【化41】
のアミノ酸配列を含む。
【0081】
ガレクチン-10に結合し、かつ本発明における使用が企図される好ましいFab断片は、本明細書に記載される23H09クローンである。
【0082】
したがって、ある実施態様において、Fab断片は、可変重鎖(VH)ドメイン及び可変軽鎖(VL)ドメインを含み、
ここで、該VHドメインは、
配列番号21
【化42】
を含むか又はそれからなるHCDR3;
配列番号23
【化43】
を含むか又はそれからなるHCDR2;及び
配列番号19
【化44】
を含むか又はそれからなるHCDR1
:を含み;かつ
ここで、該VLドメインは、
配列番号8
【化45】
を含むか又はそれからなるLCDR3;
配列番号7
【化46】
を含むか又はそれからなるLCDR2;及び
配列番号6
【化47】
を含むか又はそれからなるLCDR1
:を含む。
【0083】
ある実施態様において、Fab断片は、可変重鎖(VH)ドメイン及び可変軽鎖(VL)ドメインを含み、ここで:
該VHドメインは、配列番号22のアミノ酸配列、又はそれに対する少なくとも90%、95%、97%、98%、もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ
該VLドメインは、配列番号5のアミノ酸配列、又はそれに対する少なくとも90%、95%、97%、98%、もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0084】
ある実施態様において、Fab断片は、可変重鎖(VH)ドメイン及び可変軽鎖(VL)を含み、ここで:
該VHドメインは、配列番号22
【化48】
のアミノ酸配列を含み、;かつ
該VLドメインは、配列番号
【化49】
のアミノ酸配列を含む。
【0085】
Fab断片のドメインが参照配列に対する特定の配列同一性パーセントによって規定される実施態様については、VH及び/又はVLドメインは、ばらつきがフレームワーク領域内にのみ存在するように、参照配列中に存在するものと同一のCDR配列を保持し得る。
【0086】
ある実施態様において、本明細書に記載されるガレクチン-10 Fab断片は、ラクダ科動物由来であり得る。例えば、ガレクチン-10 Fab断片は、ラクダ科動物を、対象となる標的、すなわち、ガレクチン-10で免疫する工程を含む方法によって得られる免疫ライブラリーから選択することができる。ラクダ科動物を、標的タンパク質又はそのポリペプチド断片で、又は該タンパク質もしくはそのポリペプチド断片を発現するmRNA分子もしくはcDNA分子で免疫することができる。抗体又は断片をラクダ科動物種で産生し、好ましい標的に対する抗体又は断片をラクダ科動物免疫ライブラリーから選択する方法は、例えば、引用により本明細書中に組み込まれる、国際特許出願WO2010/001251号に記載されている。
【0087】
ある実施態様において、ガレクチン-10 Fab断片は、ラクダ科ファミリーの種のVHドメイン又はVLドメインから得られる少なくとも1つの超可変(HV)ループ又は相補性決定領域を含むという点で、ラクダ科動物由来であり得る。特に、ガレクチン-10 Fab断片は、ガレクチン-10による非近交系のラクダ科動物、例えば、ラマの能動免疫によって得られるVH及び/もしくはVLドメイン、又はそのCDRを含むことができる。
【0088】
これに関連した「から得られる」という用語は、Fab断片のHV又はCDRがもとはラクダ科免疫グロブリン遺伝子によってコードされていたアミノ酸配列(又はそのマイナー変異体)を具体化するという意味で構造的関係性を意味する。しかしながら、これは、Fab断片を調製するために使用される産生プロセスに関して、必ずしも特定の関係性を意味するものではない。
【0089】
ラクダ科動物由来Fab断片は、とりわけ、ラマ、ヒトコブラクダ、アルパカ、ビクーニャ、グアナコ、又はラクダを含む、任意のラクダ科動物種に由来することができる。
【0090】
ラクダ科動物由来VH及びVLドメイン、又はそのCDRを含むFab断片は、通常、組換え発現されたポリペプチドであり、キメラポリペプチドであってもよい。「キメラポリペプチド」という用語は、それ以外の場合には隣接して生じることがない2以上のペプチド断片の並置によって作り出される人工的な(非天然の)ポリペプチドを指す。この定義に含まれるのは、2以上の種、例えば、ラクダ科動物及びヒトによってコードされるペプチド断片の並置によって作り出される「種」キメラポリペプチドである。
【0091】
ある実施態様において、VHドメイン全体及び/又はVLドメイン全体は、ラクダ科ファミリーの種から得ることができる。ラクダ科動物由来VHドメイン及び/又はラクダ科動物由来VLドメインは、その後、1以上のアミノ酸置換、挿入、又は欠失がラクダ科動物アミノ酸配列に導入されるタンパク質エンジニアリングに供することができる。これらの人為的に作出される変化は、好ましくは、ラクダ科動物配列に対するアミノ酸置換を含む。そのような変化には、ラクダ科動物によってコードされるVH又はVLドメイン中の1以上のアミノ酸残基がヒトによってコードされる相同なVH又はVLドメイン由来の等価な残基と置き換えられる、「ヒト化」又は「生殖系列化」が含まれる。
【0092】
ガレクチン-10によるラクダ科動物(例えば、ラマ)の能動免疫によって得られる単離されたラクダ科動物VH及びVLドメインは、本発明に従って、ガレクチン-10 Fab断片を人為的に作出するための土台として使用することができる。インタクトのラクダ科動物VH及びVLドメインから出発して、出発ラクダ科動物配列から逸脱する1以上のアミノ酸置換、挿入、又は欠失を人為的に作出することが可能である。ある実施態様において、そのような置換、挿入、又は欠失は、VHドメイン及び/又はVLドメインのフレームワーク領域中に存在していてもよい。
【0093】
他の実施態様において、ラクダ科動物由来VH及びVLドメイン(又はその人為的に作出される変異体)並びに非ラクダ科動物抗体由来の1以上の定常ドメイン、例えば、ヒトによってコードされる定常ドメイン(又はその人為的に作出される変異体)を含む「キメラ」分子が提供される。そのような実施態様において、VHドメインとVLドメインは両方ともラクダ科動物の同じ種から得られることが好ましく、例えば、(人工的に作成されるアミノ酸配列変異の導入の前に)、VHとVLは両方ともラマ(Llama glama)に由来するものであってもよく、又はVHとVLは両方ともアルパカ(Llama pacos)に由来するものであってもよい。そのような実施態様において、VHドメインとVLドメインは両方とも、単一の動物、特に、対象となる抗原で能動免疫された単一の動物に由来してもよい。
【0094】
ラクダ科VH及び/又はVLドメインの一次アミノ酸配列の変化を人為的に作出する代わりとして、個々のラクダ科動物由来超可変ループもしくはCDR、又はその組合せをラクダ科動物VH/VLドメインから単離し、CDR移植により、代わりの(すなわち、非ラクダ科)フレームワーク、例えば、ヒトVH/VLフレームワークに移すことができる。
【0095】
非限定的な実施態様において、本明細書に記載されるCDR、VH及び/又はVL配列を有する例示的なガレクチン-10 Fab断片は、CH1ドメイン及び/又はCLドメイン(それぞれ、重鎖及び軽鎖由来)を含むことができ、そのアミノ酸配列は、完全に又は実質的にヒトのものである。ヒトでの治療的使用が意図される分子について、定常領域全体、又は少なくともその一部が完全に又は実質的にヒトのアミノ酸配列を有することが典型的である。それゆえ、本明細書に記載されるFab断片のCH1ドメインとCLドメインの一方又は両方は、そのアミノ酸配列に関して完全に又は実質的にヒトのものであってもよい。ヒト化Fab断片の定常領域との関連において、「実質的にヒトの」という用語は、ヒト定常領域との少なくとも90%、又は少なくとも92%、又は少なくとも95%、又は少なくとも97%、又は少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を指す。
【0096】
(D.治療用途)
本明細書に記載されるFab断片は、結晶性ガレクチン-10の溶解を促進し、かつ/又は可溶性ガレクチン-10の結晶化を阻害することができ、それゆえ、その病理がシャルコー・ライデン結晶(CLC)の形成/存在に関連している疾患及び疾病を予防及び治療する方法において有用である。医薬として使用される場合、ガレンクチン-10に結合するFab断片は、通常、医薬組成物として製剤化される。したがって、ガレクチン10に結合するFab断片を含む、本発明の医薬組成物は、ガレクチン-10結晶の存在又は形成と関連する疾患又は疾病を治療する方法において使用することができる。
【0097】
本発明の第一の態様において、ガレクチン-10結晶の存在又は形成と関連する疾患又は疾病を治療する方法において使用するための、ガレクチン-10に結合するFab断片を含む医薬組成物であって、該方法が、それを必要としている対象に、該医薬組成物の治療有効量を投与することを含み、ここで、該組成物がエアロゾルとして投与される、医薬組成物が提供される。
【0098】
本発明の第二の関連態様において、ガレクチン-10結晶の存在又は形成と関連する疾患又は疾病を治療する方法であって、それを必要としている対象に、ガレクチン-10に結合するFab断片を含む医薬組成物の治療有効量を投与することを含み、ここで、該組成物がエアロゾルとして投与される、方法が提供される。
【0099】
重要なことに、治療用途に関して記載される全ての実施態様は、本発明の第一の態様と第二の態様の両方に等しく適用可能である。
【0100】
好ましい実施態様において、ガレクチン-10に結合するFab断片を含む医薬組成物は、本明細書中の別所に記載されている医薬組成物である。
【0101】
治療されることになる疾患又は疾病は、ガレクチン-10結晶の存在又は形成と関連する任意の疾患又は疾病であってもよい。治療されることになる疾患又は疾病は、CLCの存在又は形成と関連する任意の疾患又は疾病であってもよい。
【0102】
ある実施態様において、それを必要としている対象は、ガレクチン-10結晶の存在又は形成と関連する疾患又は疾病と診断された患者であってもよい。他の実施態様において、それを必要としている対象は、ガレクチン-10結晶の存在又は形成と関連する疾患又は疾病を発症する「リスクにさらされている」と特定された患者であってもよい。ガレクチン-10結晶の存在を特徴とする疾患又は疾病を有する患者について、治療方法は、通常、ガレクチン-10に結合し、かつ患者の組織中にあるガレクチン-10結晶を溶解させることができるFab断片を含む医薬組成物の投与を含む。ガレクチン-10結晶の形成を特徴とする疾患又は疾病を発症する「リスクにさらされている」と特定された患者について、治療方法は、ガレクチン-10に結合し、かつガレクチン-10結晶の結晶化を阻害することができるFab断片を含む医薬組成物の投与を含み得る。
【0103】
ガレクチン-10結晶又はCLCは、様々な疾患及び疾病を有する患者で観察されている。ある非限定的な実施態様において、ガレクチン-10結晶の存在又は形成と関連する疾患又は疾病は、喘息;慢性鼻副鼻腔炎;セリアック病;蠕虫感染症;消化管好酸球性炎症;嚢胞性線維症(CF);アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA);チャーグ・ストラウス血管炎;慢性好酸球性肺炎;及び急性骨髄性白血病:からなる群から選択することができる。特定の好ましい実施態様において、ガレクチン-10結晶の存在又は形成と関連する疾患又は疾病は、喘息又は嚢胞性線維症(CF)である。
【0104】
上記のように、ガレクチン-10結晶又はCLCは、特に、好酸球性炎症を特徴とする疾患又は疾病と関連している。好ましい実施態様において、本明細書に記載される医薬組成物は、好酸球性炎症と関連する疾患又は疾病を治療するために使用される。
【0105】
本明細書で使用される場合、疾患又は疾病を「治療する」方法は、疾患もしくは疾病を治癒させること、及び/又は患者の苦しみが軽減されるように、疾患もしくは疾病と関連する症状を緩和するかもしくは根絶させることを意味する。
【0106】
本明細書で使用される場合、「治療有効量」という用語は、治療効果を生じるのに十分である医薬組成物中に存在するFab断片の分量又は用量、例えば、疾患又は疾病と関連する症状を根絶するか又は少なくとも緩和するために必要とされるFab断片の分量又は用量を意味することが意図される。適当な量又は用量は、必要に応じて、医師により決定されることができる。例えば、該用量は、治療されることになる対象のサイズ又は重量、治療されることになる対象の年齢、治療されることになる対象の全身の健康状態、治療されることになる疾病、及び投与経路などの因子に基づいて調整することができる。
【0107】
臨床的使用のために、ある実施態様において、医薬組成物は、それを必要としている対象に、Fab断片の濃度が約0.1mg/kg体重~約20mg/kg体重である1以上の用量として投与される。ある実施態様において、医薬組成物は、それを必要としている対象に、Fab断片の濃度が約0.1mg/kg体重~約10mg/kg体重である1以上の用量として投与される。ある実施態様において、医薬組成物は、それを必要としている対象に、Fab断片の濃度が約0.5mg/kg体重~約10mg/kg体重である1以上の用量として投与される。ある実施態様において、医薬組成物は、それを必要としている対象に、Fab断片の濃度が約1mg/kg体重~約10mg/kg体重である1以上の用量として投与される。
【0108】
(E.医薬製剤)
医薬として使用される場合、ガレクチン-10に結合するFab断片は、通常、医薬組成物として製剤化される。したがって、本発明の範囲は、ガレクチン-10に結合するFab断片を含む医薬組成物を含む。
【0109】
本発明の第一の態様において、本明細書中の別所に既に記載されているように、ガレクチン-10結晶の存在又は形成と関連する疾患又は疾病を治療する方法において使用するための、ガレクチン-10に結合するFab断片を含む医薬組成物であって、該方法が、それを必要としている対象に、該医薬組成物の治療有効量を投与することを含み、ここで、該組成物がエアロゾルとして投与される、医薬組成物が提供される。
【0110】
関連する第三の態様において、ガレクチン-10に結合するFab断片を含む医薬組成物であって、該組成物がエアロゾル化のために製剤化される、医薬組成物が提供される。
【0111】
重要なことに、医薬製剤に関して記載される全ての実施態様は、本発明の第一の態様と第三の態様の両方に等しく適用可能である。
【0112】
本明細書で使用される場合、「エアロゾル化のために製剤化される」という用語は、医薬組成物が、例えば、噴霧によるエアロゾル化に好適であることを意味する。医薬組成物中に存在する活性成分、例えば、ガレクチン-10に結合するFab断片は、エアロゾル化後に医薬として活性があるものでなければならず、肺のクリアランス機構を回避しながら、適切な作用部位に、肺に送達されなければならず、かつ所望の薬理学的作用が生じるまで、そこに留まらなければならない。エアロゾル化のために製剤化される医薬組成物は、吸入時の刺激、咳、及び肺の気管支収縮を回避するために、生理的pH及びオスモル濃度を有することができる。薬物製剤の物理的特性は、エアロゾル化速度及びエアロゾル液滴サイズに影響を及ぼす可能性がある。医薬組成物は、エアロゾル化に特に好適である粘度、イオン強度、及び/又は表面張力を有することができる。例えば、医薬組成物は、粘度増強剤を含有することができ、かつ/又は肺への効率的な標的化のためのより小さな霧化液滴サイズを生じさせる表面電荷の影響を低下させる電解質を含有することができる。医薬組成物は、肺におけるタンパク質分解から活性タンパク質を保護する薬剤を含有することができる。
【0113】
ある実施態様において、エアロゾル化の前、医薬組成物は、水性液体製剤である。ある好ましい実施態様において、エアロゾル化の前、医薬組成物は、リン酸緩衝生理食塩水を含む水性液体製剤である。ある実施態様において、エアロゾル化の前、医薬組成物は、非水性液体製剤である。ある実施態様において、エアロゾル化の前、医薬組成物は、懸濁液である。ある実施態様において、エアロゾル化の前、医薬組成物は、粉末である。
【0114】
医薬組成物は、界面活性剤を含有することができる。界面活性剤は、疎水性医薬活性成分の湿潤及び分散を補助し、かつこれらは、通常、懸濁液中の固体と液体の間の界面張力を低下させることにより作用する。界面活性剤は、生物学的製剤における凝集体の形成を防ぐために使用されることが多い。ある実施態様において、医薬組成物は、1以上の界面活性剤を含む。ある実施態様において、医薬組成物は、0.001%~0.1%w/vの濃度の1以上の界面活性剤を含む。ある実施態様において、医薬組成物は、約0.02%w/vの濃度の1以上の界面活性剤を含む。ある実施態様において、医薬組成物は、0.05%w/v未満の濃度の1以上の界面活性剤を含む。当業者は、限定されないが、ポリソルベート、ソルビタンエステル、オレイン酸、大豆レシチン、ラウリル硫酸ナトリウム、ドクサートナトリウム、ホスファチジルコリン、ポリオキシエチレン15ヒドロキシステアリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、Brij-35(登録商標)、Tween-20、Tween-80、ポリソルベート20、及びポリソルベート80を含む、医薬製剤中で使用するための市販の界面活性剤を把握している。ある実施態様において、医薬組成物は、ポリソルベート20を含む。ある実施態様において、医薬組成物は、0.05%未満のポリソルベート20を含む。ある実施態様において、医薬組成物は、約0.02%のポリソルベート20を含む。ある実施態様において、医薬組成物は、Tween 80を含む。ある実施態様において、医薬組成物は、0.05%未満のTween 80を含む。ある実施態様において、医薬組成物は、約0.02%のTween 80を含む。
【0115】
本明細書の実施例に示されているように、エアロゾル化される場合、本発明の医薬組成物は、タンパク質粒子をほとんど産生せず、したがって、凝集に対する感受性がより低いことが示される。結果として、本発明の医薬組成物は、界面活性剤の添加を必要としない場合もあるし、又はごく少量の界面活性剤の添加を必要とする場合もある。界面活性剤の存在は治療用製剤中の抗体の分子完全性に悪影響を及ぼす可能性があることが証拠によって示唆されているので、これは特に有益であり得る(Mailletらの文献、2007; Pharmaceutical Research; 25(6): 1318-1326)。
【0116】
したがって、ある実施態様において、医薬組成物は、界面活性剤を含有しない。他の実施態様において、組成物は、0.05%w/v未満、0.01%w/v未満、0.002%w/v未満、又は0.001%w/v未満の量の界面活性剤を含む。
【0117】
ある実施態様において、医薬組成物は、Fab断片を含む。ある好ましい実施態様において、医薬組成物は、ガレクチン-10に結合するFab断片を含む。医薬組成物は、本明細書に記載されるFab断片のいずれかを含むことができる。医薬組成物は、24F02_N53Aとして本明細書に記載されるFab断片を含むことが特に好ましい。
【0118】
したがって、ある好ましい実施態様において、医薬組成物は、可変重鎖(VH)ドメイン及び可変軽鎖(VL)ドメインを含むFab断片を含み、
ここで、該VHドメインは、
配列番号4
【化50】
を含むか又はそれからなるHCDR3;
配列番号3
【化51】
を含むか又はそれからなるHCDR2;及び
配列番号2
【化52】
を含むか又はそれからなるHCDR1
:を含み;かつ
ここで、該VLドメインは、
配列番号8
【化53】
を含むか又はそれからなるLCDR3;
配列番号7
【化54】
を含むか又はそれからなるLCDR2;及び
配列番号6
【化55】
を含むか又はそれからなるLCDR1
:を含む。
【0119】
ある実施態様において、医薬組成物は、可変重鎖(VH)ドメイン及び可変軽鎖(VL)ドメインを含むFab断片を含み、ここで:
該VHドメインは、配列番号1のアミノ酸配列、又はそれに対する少なくとも90%、95%、97%、98%、もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ
該VLドメインは、配列番号5のアミノ酸配列、又はそれに対する少なくとも90%、95%、97%、98%、もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0120】
ある実施態様において、医薬組成物は、可変重鎖(VH)ドメイン及び可変軽鎖(VL)を含むFab断片を含み、ここで:
該VHドメインは、配列番号1
【化56】
のアミノ酸配列を含み;かつ
該VLドメインは、配列番号5
【化57】
のアミノ酸配列を含む。
【0121】
Fab断片は、薬理学的に有効であるために、医薬組成物中に好適な濃度で存在しなければならない。薬物濃度が高すぎると、一部の噴霧装置内で発泡が生じ、エアロゾル化が非効率的になるか、又は不可能になることさえあり得る。それゆえ、Fab断片の濃度は、エアロゾル化の前と後の両方でタンパク質の凝集を制限し、かつエアロゾル化装置内での組成物の発泡又は泡立ちを防止するのに十分であるべきである。
【0122】
医薬組成物のある実施態様において、組成物中のFab断片の濃度は、約1~約20mg/ml、約1~約15mg/ml、約1~約10mg/ml、約1~約5mg/ml、約2~約10mg/ml、約3~約10mg/ml、約4~約10mg/ml、又は約5~約10mg/mlである。
【0123】
医薬組成物のある実施態様において、組成物中のFab断片の濃度は、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20mg/mlである。
【0124】
医薬組成物のある好ましい実施態様において、組成物中のFab断片の濃度は、約3mg/mlである。医薬組成物のある好ましい実施態様において、組成物中のFab断片の濃度は、約10mg/mlである。
【0125】
本発明の範囲には、1以上の医薬として許容し得る担体又は賦形剤とともに製剤化された、本明細書に記載されるガレクチン-10に結合するFab断片を含有する医薬組成物が含まれる。したがって、ある実施態様において、医薬組成物は、医薬として許容し得る担体又は賦形剤を含む。ある実施態様において、賦形剤は、液体賦形剤、任意に、溶媒又は水性溶媒である。
【0126】
組成物を製剤化するために使用し得る医薬として許容し得る賦形剤としては、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、血清タンパク質、例えば、ヒト血清アルブミン、緩衝物質、例えば、リン酸塩、クエン酸ナトリウム、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、飽和植物脂肪酸の部分グリセリド混合物、水、塩、又は電解質、例えば、プロタミン硫酸塩、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、コロイド状シリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロース系物質、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリエチレングリコール、ポリアクリレート、ワックス、ポリエチレン-ポリオキシプロピレン-ブロックポリマー、羊毛脂、グリセロール、可溶化剤、例えば、エタノール、シクロデキストリン、安定化剤、例えば、ポリソルベート20、ポリソルベート80、PVP K30、Solutol(登録商標)、及び粘度増強剤、例えば、スクロース:が挙げられるが、これらに限定されない。
【0127】
本明細書に記載される実施例は、0.02%ポリソルベート20又はTween 80を含む(ダルベッコの)リン酸緩衝生理食塩水中の3mg/ml又は10mg/mlのいずれかのFab断片の基本製剤を利用する。したがって、ある実施態様において、エアロゾル化のために製剤化される医薬組成物は、Fab断片及び界面活性剤、例えば、ポリソルベート20を含む。ある実施態様において、エアロゾル化のために製剤化される医薬組成物は、Fab断片及び界面活性剤、例えば、Tween 80を含む。ある実施態様において、エアロゾル化のために製剤化される医薬組成物は、リン酸緩衝生理食塩水中のFab断片及び界面活性剤、例えば、ポリソルベート20を含む。ある実施態様において、エアロゾル化のために製剤化される医薬組成物は、リン酸緩衝生理食塩水中のFab断片及び界面活性剤、例えば、Tween 80を含む。具体的な実施態様において、エアロゾル化のために製剤化される医薬組成物は、1~10mg/mlのFab断片及び0.01~0.05%の濃度の界面活性剤、例えば、ポリソルベート20を含む。具体的な実施態様において、エアロゾル化のために製剤化される医薬組成物は、1~10mg/mlのFab断片及び0.01~0.05%の濃度の界面活性剤、例えば、Tween 80を含む。具体的な実施態様において、エアロゾル化のために製剤化される医薬組成物は、リン酸緩衝生理食塩水中の1~10mg/mlのFab断片及び0.01~0.05%の濃度の界面活性剤、例えば、ポリソルベート20を含む。具体的な実施態様において、エアロゾル化のために製剤化される医薬組成物は、リン酸緩衝生理食塩水中の1~10mg/mlのFab断片及び0.01~0.05%の濃度の界面活性剤、例えば、Tween 80を含む。
【0128】
(F.投与の経路)
本発明の医薬組成物は、誘導気道にエアロゾルとして送達するためのものである。誘導気道は、鼻、咽頭、喉頭、気管、気管支、及び細気管支を含む。これらの構造は、空気が肺を出入りする連続した通路を形成する。エアロゾル化療法の治療効果は、肺内に沈着する薬物の用量及びその分布に左右される。種々の吸入装置が吸入薬の送達に利用可能である。ほとんどの吸入薬は、加圧式定量吸入器(pMDI)、乾燥粉末吸入器、又はネブライザーによって送達される。しかしながら、ソフトミスト吸入器及びスマート吸入器などの他の装置が存在する。
【0129】
定量吸入器(MDI)は、世界中の喘息及びCOPD療法の中心である。MDIは、エアロゾル生成のために圧縮された噴射剤のエネルギーを利用するポケットサイズの携帯式薬物送達装置である。これは、噴射剤又は噴射剤と共溶媒の混合物に溶解した又は懸濁した薬物を有する。MDIは、患者に直接、又はスペーサーもしくはバルブド・ホールディング・チャンバー(VHC)のようなアドオン装置を介して、少量の薬物用量を送達する。ある実施態様において、医薬組成物は、定量吸入器、例えば、加圧式定量吸入器(pMDI)を用いて、エアロゾルとして投与される。
【0130】
乾燥粉末吸入器(DPI)は、乾燥粉末の形態で肺に薬剤を送達する装置である。DPIは、一般的に、喘息、気管支炎、肺気腫、及びCOPDなどの呼吸器疾患を治療するために使用される。乾燥粉末のエアロゾルは、空気をさらさらした粉末のアリコートに通すことにより作出される。DPIは、呼吸によって作動するので、吸入を作動と同期させる必要がなくなる。しかしながら、粉末の呼吸可能な微粒子中への分散は、吸入器内の乱流の生成に依存する。ほとんどの粉末分配システムは、担体物質の使用を必要とする。このビヒクル物質が薬物と混合されると、粉末が装置からより容易に排出されることが可能になる。通常使用される担体としては、ラクトース及びグルコースが挙げられる。医薬組成物が粉末形態のものである、ある実施態様において、医薬組成物は、乾燥粉末吸入器(DPI)を用いて、エアロゾルとして投与される。
【0131】
ネブライザーは、薬剤を液体からミストに変化させるので、それを肺に吸入することができる。ネブライザーは、エアコンプレッサーを保持する土台、液体薬用の小さい容器、及びエアコンプレッサーと薬剤容器を接続するチューブで構成されている。薬容器の上には、ミストを吸入するために使用されるマウスピース又はマスクがある。3つの主なタイプのネブライザー:エアロゾルを作るために圧縮ガスを使用するジェットネブライザー;高周波振動を通してエアロゾルを作る超音波ネブライザー;及び液体が非常に細かいメッシュを通過して、エアロゾルを形成するメッシュネブライザーがある。ある実施態様において、医薬組成物は、ネブライザーを用いて、エアロゾルとして投与される。ある実施態様において、医薬組成物は、ジェットネブライザーを用いて、エアロゾルとして投与される。ある実施態様において、医薬組成物は、超音波ネブライザーを用いて、エアロゾルとして投与される。ある実施態様において、医薬組成物は、メッシュネブライザーを用いて、エアロゾルとして投与される。
【0132】
本発明の第四の態様によれば、本明細書中の別所に記載される医薬組成物を含むネブライザーが提供される。ある実施態様において、ガレクチン-10に結合するFab断片を含む医薬組成物を含むネブライザーであって、該組成物がエアロゾル化のために製剤化される、ネブライザーが提供される。
【0133】
各々のエアロゾル化装置は、その薬物エアロゾルを異なる形で発生させ、例えば、異なるエアロゾル液滴サイズ、薬物産出量、全肺沈着及び分布を生じさせる。それゆえ、医薬品組成物を使用される具体的な吸入装置の性能に適合させることが必要となる場合がある。
【0134】
エアロゾル化中に産生されるエアロゾル液滴は、肺沈着に必要とされるサイズ範囲でなければならない。通常、より小さい気道及び肺胞での沈着には、1~5μmのエアロゾル液滴サイズが必要とされる。さらに、エアロゾル液滴は、望ましい作用部位での沈着を増加させるために及び治療の有効性を増加させるために、できるだけ単分散に近いものであるべきである。エアロゾル液滴サイズは、レーザー回折を用いて測定することができ、通常、体積平均径(VMD)又は空気動力学的質量中央径(MMAD)のいずれかとして報告される。実施例1(図1)に示されているように、本明細書に記載される医薬組成物のエアロゾル化は、肺沈着に必要とされるサイズ範囲内のエアロゾル液滴を生成させた。特に、Aerogen(登録商標) Solo装置による抗体製剤の噴霧後のVMDは4.8μmであり、Pari eFlow(登録商標)装置による噴霧後のVMDは4.3μmであった。
【0135】
エアロゾル化のプロセスは、医薬組成物中のタンパク質を、剪断力及び熱などの物理的ストレスだけでなく、変性、化学修飾(酸化、脱アミド化)、及び凝集を通じてタンパク質の立体構造及び/又は構造を変化させることができる大きな気液界面にも曝露させる。ジェットネブライザーによって生じる剪断力及び超音波ネブライザーで生じる温度上昇などの装置特有の制限もまた、タンパク質の分解及び望ましくない凝集体の増加をもたらし得る。タンパク質凝集体の存在は、生物学的活性及び免疫原性に関して、生成物の品質に大きな影響を及ぼし得る。抗薬物抗体(ADA)応答などの有害な免疫反応は、アナフィラキシー、薬物半減期の低下、及び治療的タンパク質の中和などの、臨床的結果をもたらし得る。したがって、エアロゾル化後のタンパク質凝集体のレベルをモニタリングすること、及びその数を制限することができることが重要である。
【0136】
タンパク質凝集体は、サイズが顕微鏡的なものから肉眼的なものにまで及び得る。これらのサブビジブル粒子と可視粒子は、種々の認められている業界技術を用いて、タンパク質含有溶液中で検出することができる。タンパク質凝集体をモニタリングするための生化学的アッセイは、多くの場合、超遠心分離、サイズ排除クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、動的光散乱法、フローセル顕微鏡法、又は濁度測定に依存する。本明細書中の実施例に記載されているように、医薬組成物を噴霧し、エアロゾル液滴を回収して凝縮させることができ、その結果、噴霧された溶液に対して粒子分析を実施することができる。本明細書中の実施例において、粒子サイズ及び濃度は、動的光散乱法とフローセル顕微鏡法の組合せを用いて決定される;しかしながら、他の周知の技法を利用して、エアロゾル化後のタンパク質凝集体を検出及び定量することができることが理解される。重要なことは、可視粒子とサブビジブル粒子の数が可能な限り少なくあるべきであることである。特に、直径2μmを超える粒子の数は可能な限り少なくあるべきであるが、それは、このサイズの粒子が、多くの場合、免疫原性及び重度のADA応答と関連しているからである。
【0137】
したがって、ある実施態様において、エアロゾル中の粒子の粒子サイズは、30μm未満、25μm未満、10μm未満、2μm未満、1μm未満、0.5μm未満、0.4μm未満、0.3μm未満、0.2μm未満、又は0.1μm未満である。好ましくは、エアロゾル中の粒子の粒子サイズは、2μm未満である。
【0138】
この場合の粒子サイズは、エアロゾル化試料中に存在する粒子(タンパク質凝集体)の全てのサイズを指してもよく、又はエアロゾル化試料中に存在する粒子(タンパク質凝集体)の大部分のサイズを指してもよい。例えば、2μm未満の粒子サイズを有するエアロゾル化組成物は、エアロゾル中の粒子の全てが2μm未満の直径を有することを意味してもよい。或いは、2μm未満の粒子サイズを有するエアロゾル化組成物は、エアロゾル中の粒子の大部分が2μm未満の直径を有すること、例えば、エアロゾル中の全粒子の60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は98%が2μm未満の直径を有することを意味してもよい。
【0139】
粒子(凝集体)の濃度は、1ml当たりの粒子の総数として定量することができる。好ましくは、エアロゾル化後に産生される粒子の総数は、1ml当たり1×105個未満である。粒子の濃度は、あるサイズの粒子の数、例えば、1ml当たりの2μmを超えるサイズの粒子の数、又は1ml当たりの10μmを超えるサイズの粒子の数、又は1ml当たりの25μmを超えるサイズの粒子の数として定量することもできる。
【0140】
したがって、ある実施態様において、エアロゾル中の粒子の濃度は、2×105個未満、1×105個未満、2×104個未満、又は1×104個未満の総粒子/mlである。
【0141】
ある実施態様において、エアロゾル中の2μmを超えるサイズの粒子の濃度は、1×105個未満、5×104個未満、2×104個未満、1×104個未満、1×103個未満、又は1×102個未満の>2μmの粒子/mlである。
【0142】
本発明は、以下の非限定的な実施例を参照して、さらに理解されるであろう。
【実施例
【0143】
(実施例)
(実施例1:凝集体形成に対する噴霧の効果-FabとIgG及びVHHとの比較)
抗体のような生物製剤を噴霧することの問題の1つは、凝集体の形成である。これらの凝集体は、様々な機能的特徴を有し、抗薬物抗体を引き起こすことができる。したがって、実施例1では、凝集体形成に対する噴霧の効果が評価されている。
【0144】
本試験の目的は、2つのメッシュネブライザー(市販品)で噴霧した後、2つの異なる濃度で、0.02%Tween 80を含有するPBS中に製剤化された5つの異なる全長抗体又は抗体断片の安定性及び生物学的活性を評価することであった。
【0145】
本実験は、3つのIgG、1つのFab、及び1つのVHHを噴霧した後の凝集体の数を比較した。各々の試料を3mg/ml及び10mg/mlの濃度で試験した。実験に含まれたのは、Fabフォーマットの7B07クローン、対応するIgGフォーマットの7B07クローン、さらに2つのIgG(10A06クローン及び08H11クローン)、並びにVHH(1D06クローン)であった。
【0146】
到着後、凍結試料を-20℃で維持した。噴霧の前に、(同じ抗体の)アリコートを15mLのポリプロピレン円錐チューブにプールし、溶液を4℃で保存した。タンパク質濃度を決定し、必要に応じて、PBS 0.02%Tween 80で3又は10mg/mLに調整した。試料を、0.22μm Minisart(登録商標) High Flowシリンジフィルター(Sartorius)を用いて濾過した。タンパク質濃縮、目視検査、動的光散乱法(DLS)、フロー顕微鏡法(FCM)、及びサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を噴霧前後の試料に対して実施した。
【0147】
噴霧は、基本製剤中の2つの異なる市販の振動メッシュネブライザー: Aerogen(登録商標) Soloネブライザー及びPARI eFlow(登録商標)電子ネブライザー)を用いて実施した。どちらの装置も、薬液を小さいエアロゾル液滴に変換するアクティブ振動メッシュネブライザーである。他のアクティブ装置と同様、アパチャープレートが高周波で振動し、プレートの開口部から溶液を引き込み、エアロゾル液滴を生成させる。各々の試料を3つの異なるPari eFlow(登録商標)メッシュジェネレーターを用いて3連で噴霧した。抗体噴霧の前に、各々のメッシュネブライザーを0.9%NaCl溶液でレーザー回折(吸入チャンバーとクローズドセルなし)により特性解析したところ、同等であることが分かった(体積平均径=5.6μm)。同様に、3つの異なるAerogen(登録商標) Soloエアロゾルジェネレーター装置を3連用に使用した。製剤を噴霧する前に、3つのメッシュネブライザーを0.9%NaCl溶液でレーザー回折(クローズドセルなし)により特性解析したところ、同等であることがわかった(装置s0087及びs0094の体積平均径=4.8μm、装置s0210の体積平均径=4.9μm)。
【0148】
各々の試料を噴霧し、噴霧の時間をモニタリングした。エアロゾル液滴を、振動メッシュの直前に置かれた15mLのポリプロピレン円錐チューブ(ref: 352097、Dominique Dutscher)を用い、エアロゾル形成のための十分な空間を残し、かつ噴霧された溶液を凝縮させて回収した。チューブの表面でのこのさらなる凝縮工程は、タンパク質にとってストレスとなる可能性があり、したがって、インビボで起こり得ることと比較して、最悪のケースとなる。エアロゾル回収は、層流下で行われた。
【0149】
洗浄及び噴霧プロセスは、2つの装置について同様であった。
工程:
1.メッシュとネブライザーの他の部分を、5mL/LのSurfaniosプレミアムを入れた熱い水道水の浴槽に浸し、短時間混合して、5~10分間待機する。
2.メッシュとネブライザーの他の部分を熱い水道水で十分にすすぐ。
3. 3mLの熱い水道水を噴霧する。
4. 0.22μmで濾過された1.2mL(Aerogen(登録商標) Soloの場合)又は2×1.2mL(Pari eFlow(登録商標)の場合)のPBS pH 7.2を噴霧する。
5. 0.22μmで濾過された1.2mLの脱塩水を噴霧し、エアロゾルを回収する。
6.粒子数が実験室によって規定された限度下(Aerogen(登録商標) Soloの場合は<200粒子及びPari eFlow(登録商標)の場合は<300粒子)であることをFCMにより確認する。必要であれば、工程4又は工程1から繰り返す。
7. 0.22μmで濾過された1.2mLのPBS 0.02%Tween 80バッファーを噴霧する。
8. 1.2mLの試料を噴霧する。
9.別の試料について、工程1から開始する。
【0150】
全ての噴霧を同じコントローラー: USB Aerogen又はeBase Controllerで実現した。これらのコントローラーは、連続的な噴霧を施す。噴霧の時間を測定して、各々の装置/試料の流量を決定した(流量=噴霧の時間/1.2mL)。
【0151】
(1.1 粒度分布)
レーザー回折実験を、Spraytec(商標)装置(Malvern Instruments Ltd.)を用いて実施した。この技法を、ネブライザーによって生成されるエアロゾル液滴のサイズを決定するために使用した。レーザー回折は、球状エアロゾル粒子の中央値サイズであるVMD(体積平均径)の測定を可能にする。装置の特性解析用の1mLのNaCl 0.9%又は0.5mLの抗体溶液を使用した。実験を、室温(20~25℃)で、かつそれぞれ、試料又は適格性確認用にクローズドセルあり又はなしで行った。クローズドセルでは、エアロゾル液滴をエアロゾルビームの反対側で30L/分の風量で一定の吸引ポンプにより吸引した。
【0152】
エアロゾルをレーザー回折法で分析した。NaCl 0.9%での装置の適格性確認をクローズドセルなしで行い、Aerogen(登録商標) SoloとPari eFlow(登録商標)で、それぞれ、4.8と5.6のVMDの結果が与えられた。
【0153】
Ab製剤については、レーザー回折をクローズドセルありで実行し、これにより、Aerogen(登録商標) Solo装置で噴霧した後のVMDは全く影響を受けず、Pari eFlow(登録商標)では、VMDが4.3μmに低下した(図1)。
【0154】
エアロゾル液滴サイズの有意差は、(クローズドセルありで)異なるAb製剤と生理食塩水溶液の間で観察されなかった。
【0155】
(1.2 タンパク質濃度)
タンパク質濃度を、Thermo Fisher Scientific製のNanodrop 2000を用いて、2μlの溶液で280nmの吸収を測定することにより、噴霧の前後で決定した。
【0156】
試料を噴霧前に濾過し、タンパク質濃度を分光光度計を用いて測定した。必要に応じて、噴霧前に、濃度を3又は10mg/mLに調整した。噴霧後、タンパク質濃度を測定して、噴霧時の生体物質の損失を決定した。生データと噴霧前後の濃度変動を図2に示す。濃度は、噴霧前後で-12%から+12%まで変化した。
【0157】
(1.3 粒子の目視検査)
噴霧前後の抗体溶液を、自然光下、可視粒子について、15mLのポリプロピレン円錐チューブ中で観察した。
【0158】
噴霧前及び濾過後、バイアル中に粒子は観察されなかった。噴霧後、ほとんどの試料で可視粒子が観察された(表2)。特に、噴霧後、7B07 Fabでは(全長7B07 IgGとは対照的に)、粒子が見られなかった。
【0159】
1D06 VHHの噴霧が多くの可視粒子の形成をもたらし、溶液が他の試料と比較して濁っていたことは注目に値する。いくつかの試料において、及びバッファーのみの場合、泡が装置のリザーバー中に観察された。
表2:噴霧された抗体溶液の目視検査
【表2】
【0160】
(1.4 フローセル顕微鏡法(FCM)によるサブビジブル粒子)
フローセル顕微鏡法(Flow-Imaging FC200S装置、Occhio)は、タンパク質含有溶液中のサブビジブル粒子と可視粒子を検出及び測定するために適用されるイメージング技術である。
【0161】
各々の分析の前に、装置を脱塩濾過水で洗浄した。さらに進めるためには、測定された粒子の数が<100個でなければならなかった。噴霧前後に、250μLの各々の試料(バッファーのみ及び抗体溶液)をFCMによって分析した。メッシュ上のバッファーを用いた粒子の数の平均を試料の値から差し引いた。1mL当たりの粒子の数を、>2μm、>10μm、及び>25μmの相当直径を有する粒子について表した。
【0162】
試料を噴霧前及び噴霧直後にFCMによって分析した。結果は、図3に提示されている。粒子の総数は、できるだけ少なくするべきである。好ましくは、粒子の総数は、1ml当たり1×105個の総粒子を超えない。このデータは、Fabフォーマットの生物学的製剤が噴霧時の凝集に対して低下した感受性を有する証拠を初めて提供するものである。
【0163】
分析前に、+/-噴霧されたバッファー(PBS 0.02%Tween 80)のバックグラウンドを評価した。結果は、平均1208個の総粒子を噴霧前に示した。噴霧後、総粒子の平均は、Aerogen(登録商標) Solo装置及びPari eFlow(登録商標)装置について、それぞれ、3918個及び10203個に増加した。
【0164】
噴霧前、試料は、ほとんど粒子を有さなかった。噴霧後、粒子(>2μm)の数は、通常、増加し、試料に依存した。全体的に、1D06 VHHを除き、3mg/mLよりも10mg/mLの方が粒子が多かった。
【0165】
全長IgGの場合: 10A06が最も多くの粒子を示した(それぞれ、Aerogen(登録商標) Solo及びPari eFlow(登録商標)装置について、3mg/mLで平均104381個及び97476個)。8H11 IgGは、最も少ない粒子を産生した(それぞれ、Aerogen(登録商標) Solo及びPari eFlow(登録商標)装置について、噴霧後、3mg/mLで平均1,160個及び1,737個並びに10mg/mLで平均9.744個及び776個)。
【0166】
7B07 IgGと比較して、Fabフォーマットは、噴霧後により少ない粒子(>2μm)を産生した(それぞれ、Aerogen(登録商標) Solo及びPari eFlow(登録商標)装置について、3mg/mLで2349個及び3183個並びに10mg/mLで6040個及び20353個)。最悪の試料は、最も多くの粒子(>2μm)を生じさせる1D06 VHHであった(それぞれ、Aerogen(登録商標) Solo及びPari eFlow(登録商標)装置について、10mg/mLで2,149,534個及び1,874,236個の粒子)。
【0167】
ほとんどの場合、粒子のレベルは、Aerogen(登録商標) Solo装置と比較して、Pari eFlow(登録商標)メッシュによる噴霧の後により高かった。
【0168】
(1.5 動的光散乱法(DLS)によるサブミクロン粒子)
動的光散乱実験を、659nm/100mWレーザーと90°の検出角度を用いて、Dynapro Nanostar(登録商標)装置(Wyatt Technology, Europe GmbH)により25℃で実施して、噴霧前後の溶液のサイズ分布プロファイルを決定した。100μLの試料を使い捨ての単一のキュベット(UVette 80、Eppendorf)に入れた。各々の試料について、本発明者らは、7秒毎に10回の取得を実施した。結果をDynamics(登録商標)(7.1.5.6)ソフトウェアで解析した。取得成功が70%未満の試料は、製造元によって推奨される「評価不能」とみなした。この場合、溶液を0.45μmで濾過した。動的データフィルターは、次のように設定した:ベースライン限度±0.01及び最大SOS 100。結果は、モノマーとその他の種の質量パーセントとして表した。解析により、分子の流体力学的半径、多分散性、及び多分散性指数を含むいくつかのパラメータが得られた。多分散性は、粒子のサイズの均一性のレベルを指す。多分散性パーセントが15%未満である場合、均一性のレベルは高いとみなされる。多分散性指数は、キュムラント解析に基づいている。これは、分布幅を平均で除したものに相当する。
【0169】
試料を噴霧前及び噴霧直後にDLSによって分析した。結果は、図4に提示されている。噴霧前、溶液中の主要種(メインピーク)の質量パーセンテージは、全ての製剤で同程度であった。メインピークの半径は、タンパク質のサイズと一致した。
【0170】
噴霧後、ほとんどの試料は、DLSによって分析することができなかったが、これは、おそらく、(FCMによって実証されたように)大きい粒子の量が原因であった。分析することができる試料は、2つの装置について、3mg/ml及び10mg/mlの08H11 IgG、3mg/mlの7B07 Fab、並びにAerogen(登録商標) Solo装置による噴霧の後の10mg/mlの7B07 Fabであった。
【0171】
濾過なしで多峰性の結果が得られた場合、試料を0.45μmで濾過した後に分析した。しかしながら、試料の大部分が濾過後も多峰性のままであったため、濾過を適用してもDLSの結果は改善されなかった。多分散性のパーセンテージとPDIの間に大きなばらつきは観察されなかった。全体として、DLSの結果は、FCMの結果と一致した。
【0172】
(1.6 SEC-HPLCによるサイズ純度)
試料を1mg/mlに希釈し、0.22μmで濾過した後、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)分析を、インラインを装備したUltimate(商標) 3000 UHPLCシステムで実施した。各々の試料について、50μgをUltimate(商標)オートサンプラーによって、Agilent Technologies(Santa Clara, CA)のBio SEC-3カラム(3μm、300Å、7.8×300mm)に注入し、1mL/分の流量で分離した。溶出バッファーをPBS pH 7.2とし、UV検出をUltimate(商標)ダイオードアレイ検出器(Thermo Fisher Scientific)を用いて280nmで実施した。結果は、モノマーと高分子量種(HMWS)のパーセンテージとして表されている。
【0173】
試料を噴霧前後にサイズ排除クロマトグラフィーによって分析した。結果は、図5に提示されている。噴霧前、溶液中の主要種(メインピーク)の質量パーセンテージは、全ての製剤及び濃度で変動した。7B07 IgGは、95%よりも下方にあるモノマーピークを示した。噴霧後、モノマーのパーセンテージは、いくつかの試料で減少した。全長IgGについては、7B07の噴霧が、特に、3mg/mLで、最も顕著な損失を示した。ほとんどの場合、装置は、影響を及ぼさなかった。
【0174】
(1.7 まとめ)
本試験の目的は、噴霧時の異なる抗ガレクチン-10 Abの安定性を評価することであった。3つのIgG、1つのFab、及び1つのVHHを調べた。結果は、噴霧後、凝集のプロファイルが抗体に依存することを示した。8H11 IgGと7B07 Fabは、噴霧時に最も安定であり、凝集をあまり誘導しなかった。1D06 VHHは、最も不安定であり、高い凝集レベルをもたらした。
【0175】
試料を2つのメッシュネブライザー: Aerogen(登録商標) Solo装置及びPari eFlow(登録商標)で噴霧した。2つのシステム間で凝集プロファイルに有意差は認められなかったが、Aerogen(登録商標) Solo装置の方がより少ない凝集物を産生する傾向を有していた。試料の噴霧によって、Aerogen(登録商標) Solo装置がタンパク質濃度の軽い減少を誘発し、Pari eFlow(登録商標)よりも少ない流量及びわずかに大きい液滴サイズを有することが示された。
【0176】
2つの濃度: 3mg/ml及び10mg/mlの試料を噴霧した。通常、3mg/mlよりも10mg/mlで、多くのサブビジブル凝集体(FCM)が観察された。全体として、データにより、試験された5つの分子の中で、7B07 Fab型が噴霧時に最も安定であることが示された。実際、この抗体断片の噴霧は、異なる凝集体集団をスキャンする方法を用いて回収した後、ほとんど粒子を誘発しなかった。
【0177】
(実施例2:様々なFab断片の安定性に対する噴霧の効果)
本試験は、CLCを可溶化することができる4つの抗ガレクチン-10 Fabクローンのいくつかの物理化学的特性を評価した。Fabフォーマットで評価された分子は、クローン: 18C06、20H09、23H09、及び24F02_N53Aであった(Fabの産生及び特徴解析のさらなる詳細については、下の実施例3を参照)。
【0178】
Fabフォーマットのクローン7B07_N53Aも比較対象として含めた。Fab 7B07_N53Aは、上の実施例1で試験されたFab 7B07に関連するが、脱アミド化傾向を軽減するために、N53A突然変異を含むように人為的に作出された。Fab 7B07_N53Aは、Fab 7B07よりも安定性が低いことが分かったが、インビトロCLCを溶解させる効力は十分にあることが分かった。それゆえ、7B07_N53Aは、比較目的で、選択された条件及び特定の時点のために含まれた。
【0179】
本試験に記載される4つのクローンは全て、共通のVH+CH1、CH2、及びCH3部分を共有し、3つのクローン(20H09、23H09、及び24F02_N53A)が7B07_N53Aの親LCである共通の軽鎖を共有する一方、1つのクローン(18C06)は、独自の軽鎖を有する。
【0180】
エンドトキシンを含まない生殖系列化Fabは、Utrecht, The NetherlandsのU-Protein Express(UPX)によって産生された。抗ガレクチン-10 Fab分子は、0.02%ポリソルベート20を含有するダルベッコPBSバッファー中でUPXによって精製され、argenxに送達された。タンパク質及び製剤バッファーは、0.22μmで濾過された材料として送達された。産生された材料は、UPXにて2~8℃で保存され、argenxに2~8℃で出荷された。到着後、全てのクローンの精製された材料を2~8℃で最大48時間保存し、タンパク質濃度を、無菌条件下、もとの製剤バッファー中で10mg/mLに調整した。
【0181】
4つ全てのFabを噴霧後のその安定性について評価した。噴霧ストレス及びクローンの物理化学的特性へのその影響を、3連のメッシュネブライザーを用いて、保存前(T0)及び+5℃で4週間の保存後(T4W)に評価した。全てのエアロゾル化溶液(製剤溶液を含む)を両方の時点で完全に特性解析した。
【0182】
各々のクローンを、薬液を吸入可能なエアロゾルに変換するアクティブ振動メッシュネブライザーのAerogen Soloで噴霧した。各々の時点について3つの異なる装置をクローン毎に使用した。結果は、装置(ネブライザー)のシリアル番号別に報告されている。所与のサイズのアリコートについて通常よりも長い噴霧時間によって示される装置汚損の場合、3連の装置による噴霧を完了するために、同じタイプの予備装置が利用可能であった。
【0183】
クローン18C06、20H09、23H09、及び7B07_N53Aを、シリアル番号#1690、#0125、及び#0259のAerogen Solo装置で噴霧した。後半に噴霧されるクローン24F02_N53Aは、同じ装置で噴霧した後に評価したが、#0125で若干の汚損が観察されたため、番号#1512の追加の装置を使用した。本試験で使用されたこの4番目の装置によるエアロゾル化タンパク質の結果を橋渡しするために、クローン20H09及び23H09からのアリコートも、クローン24F02_N53Aとともに、この4番目の装置で噴霧した。結果は、別途明記されない限り、装置毎の3連測定の平均値として示されている。
【0184】
試験されたFabのいくつかの中心的特性(任意のタイプのストレスが適用される前)を示す表形式のまとめが表3に提供されている。
表3:抗ガレクチン-10 Fabの属性のまとめ
【表3】
NT:未試験
【0185】
(2.1 タンパク質濃度)
タンパク質濃度をA280nm(Nanodrop)で評価した。全てのエアロゾル化溶液のタンパク質濃度は、全てのクローンについて明らかな低下を示した。図6に示されているように、これは、冷蔵条件下で保存した後、T0とT4Wの両方の時点で使用された全てのネブライザーについて同じであった。この傾向は、独立した測定によって確認された。
【0186】
(2.2 粒子の目視検査)
試料の目視検査は、噴霧(透明なガラスバイアル中1.5mLに0.5mL充填)の前後に、T0とT4Wの両方の時点で、全てのクローンについて2人ずつ行った。噴霧前、溶液を可視粒子の存在について検査したが、検査したどのクローンについても、粒子を確認することができなかった。T0エアロゾル化溶液は、クローン23H09を除き、可視粒子を示さなかった。4W時点については、23H09と24F02_N53Aの噴霧後アリコートで白い粒子が観察されたが、18C06と20H09は、粒子がないことが分かった。エアロゾル化により、リザーバー内のメッシュ振動モジュールの上流で発泡が誘発された(表4)。
表4:メッシュ噴霧前後のクローンの目視検査
【表4】
+: 2~5個の凝集体;
++: 5~15個の凝集体;
Solo 0125は、異常な結果が観察された装置である。
【0187】
(2.3 動的光散乱法(DLS)によるサブビジブル粒子)
DLS分析を噴霧前後のT0とT4Wの両方の時点で全てのクローン及び製剤試料について実施した。測定は、DynaPro Nanostart装置を用いて、3連調製物で行った。質量パーセント、分子の流体力学的半径、多分散性パーセント(%PD)、及び多分散性指数(PDI)を用いて、溶液中のサブミクロン粒子の分布プロファイルをモニタリングした。分析を実施するために、両方の時点の全ての試料溶液を噴霧前後に濾過した(0.2μm)。
【0188】
評価は、噴霧前と噴霧直後の噴霧されたタンパク質を比較することにより行った(図7)。噴霧前、全てのクローンについての溶液中の主要種(モノマー)の質量中のパーセンテージは99.9%を超えていた。同様に、クローン18C06と24F02_N53A(7B07_N53Aと併せて)については、主要種の質量中のパーセンテージは、噴霧後に99.9%を超えており、非モノマー種の存在は、ごくわずかであった。噴霧後のクローン20H09と23H09のデータは、粒子レベルが上昇したため、利用不可能であった。メインピークの半径は、全てのFabについて、予想されるタンパク質サイズと一致していた。
【0189】
(2.4 フローセル顕微鏡法(FCM)によるサブビジブル粒子)
フローセル顕微鏡法(FCM)は、溶液中の1~100μmの粒子を検出及び測定するために、Occhio社のFlow-Imaging FC200S装置を用いて実施した。各々の分析の前に、装置を脱塩濾過水アリコートで十分に洗浄した。システム好適性試験として、各々の分析は、これらのアリコート中の粒子の数が総数<100個であると測定された時点で行われた。1mL当たりの粒子の数は、総粒子として並びに>2μm、>10μm、及び>25μmの相当直径を有する粒子として表される。
【0190】
全てのクローンをT0及び5℃で4週間保存した後(T4W)の時点について噴霧の前後に測定した。上と同様、評価を完了するために、全ての試料を濾過した(0.2μm)。両方の時点についてのバッファー試料も同様に(噴霧の前後に)濾過した。本明細書における全てのFCM値は、全ての装置(装置毎に3連の測定)の製剤バッファーの粒子(合計及びカテゴリー毎)の平均値を差し引いた後に使用された3つの装置(装置毎に3連の測定)から得られた平均値を表す。
【0191】
Fabクローン18C06、20H09、23H09、及び7B07_N53Aは、第一波で全てまとめて噴霧し、Fabクローン24F02_N53Aは、汚損した装置を交換した後、後の段階で噴霧した(#0125)。噴霧の波と結果の橋渡しをするために、入手可能であれば、第一波のクローンの溶液をクローン24F02_N53Aに使用された新しい装置(#01215)で噴霧した。
【0192】
図8に示されているように、Fab 18C06と24F02_N53Aは、T0とT4Wの両方で(7B07_N53Aとともに)、他の試料と比較して、噴霧後の全てのサイズカテゴリーにおいて、より少ない粒子数を示した。噴霧実験から得られたサブビジブル数は、表5に示されており、この最後のカテゴリーは吸入医薬の薬物投与時に潜在的に免疫原性を誘発し得る粒子を含むため、総数/mL及び>2μm粒子/mLに焦点が当てられている。
【0193】
サブビジブル粒子及びサブミクロン粒子の試験は、製剤最適化の必要性を示した。クローン24F02_N53Aは、4週間保存及び噴霧後の全てのカテゴリーについて、相対的に少なくかつより安定した粒子数を示した。クローン23H09は、クローン24F02_N53Aと比較したとき、噴霧後の全てのカテゴリーにおいて相対的に高い数を示し、このカテゴリーには、薬物の安全性、有効性、及び薬物動態を危うくする可能性のある免疫原性及び重度のADA応答としばしば関連するカテゴリーである>2μmのサイズの粒子が含まれる。
表5:総粒子/mL及び>2μmの粒子/mLとして表されるサブビジブル粒子の結果の概要
*アスタリスクは、異常な結果につながる汚損を示した装置#0125を含む累積数を示す
【表5】
【0194】
(2.5 表面プラズモン共鳴(SPR)によるガレクチン-10結合活性)
噴霧された溶液の機能活性濃度をBiacore 3000装置でのSPRによって評価した。全ての試料を標準的な適格性基準を満たす方法で評価した。アリコートを、参照試料(T0)からの滴定曲線に対してかつ品質管理(QC)試料の存在下で、予め規定された試験濃度で試験した。
【0195】
図9に示されているように、全ての噴霧されたクローンは、各々のクローンの非ストレス参照物質に対する相対活性パーセントを損なうことなく、完全に機能することが分かった。噴霧ストレスは、T0でも、+5℃で4週間保存した後でも、クローンの活性に影響を及ぼさなかった。
【0196】
(2.6 SE-HPLCによるサイズ純度)
SE-HPLCによる純度を、クォータナリポンプ、自動インジェクター、オンライン脱気装置及びDAD検出器、カラム恒温コンパートメント(21℃)、並びに6℃に設定されたオートサンプラーが装備された、Agilent 1260 Infinity IIクロマトグラフィーシステムで評価した。検出器を280nmと214nmの波長に同時に設定して、サイズ変化をモニタリングした。試料をT0とT4Wの両方の時点について噴霧の前後に分析した。
【0197】
図10に示されているように、4つ全てのFabクローンは、使用された時点又は装置に関係なく、噴霧後に97%を上回る純度で測定された。全凝集のパーセンテージ(%HMW種)及び全断片化のパーセンテージ(%LMW種)は、どの場合においても、非常に低いレベル、すなわち、全体の非モノマーのパーセンテージとして3%未満にとどまった。
【0198】
全てのアリコートを、T0とT4Wの両方の時点について、噴霧前に濾過した。これは、溶液がDLS測定(第2.3節)によって粒子数の増加を示したので実行された。結果として、噴霧されたクローンについて本明細書に示されたSEC結果は、主に定性的なアプローチで解釈されるべきである。図は、冷蔵条件下で4週間保存した後でも、メッシュ噴霧後の全てのクローンの相対的安定性を示している。
【0199】
(2.7 cGEによる純度)
cGEによる純度を、Expert 2100 Bioanalyzer装置(Agilent)を用いるラボ・オン・チップ分析で評価した。試料を、噴霧の前後で、還元条件下及び非還元条件下で分析した。
【0200】
図11に示されているように、適用された噴霧ストレスは、最低純度の計測値を有していたクローン18C06を除き、Fabクローンの純度に影響を及ぼさなかった。これは、非ストレス材料についてさえも、これまでの全ての分析と一致している。このクローンは、非還元条件下で90%を上回るメインピークの純度を示さなかったが、噴霧によるそれ以上の影響はなかった。残りのクローンについては、純度は、噴霧の時点に関係なく、非還元条件下で90%を超えていた(図11、上のパネル)。還元条件下では、全ての分子が95%を上回る純度を示した(図11、下のパネル)。
【0201】
(2.8 翻訳後修飾(PTM))
全てのFabクローンの構造的特性解析は、いくつかの分析技法(icIEF、オンライン脱塩MS、還元タンパク質に対するRPLC-UV-MS、トリプシン消化後のRPLC-MSを用いるペプチドマップ)を用いて、タンパク質及びペプチドレベルで実施した。クローンは、T0と+5℃で4週間保存した後(T4W)の両方で、噴霧後のPTMについて分析した。どの場合においても、分析は、各々のクローンについて、対照の非ストレス参照物質(噴霧前)と並べて実施した。
【0202】
噴霧後のクローンについて、大きな問題は見つけられなかった。主な結果を以下にまとめる:
・4つのFabクローンのアミノ酸配列は、各々のインタクトFab(LC及びVH+CH1)の分子量に基づいて、タンパク質レベルで確認され、ペプチド配列のカバレッジは100%であった。
・Fabのストレス前後の構造的完全性は、変化しないままであり、(鎖間及び鎖内の)予想されるジスルフィド架橋の存在を実証及び確認するインタクトタンパク質及びペプチドのマッピング解析によって確認された。18C06(参照を含む全ての試料)のみ、VH+CH1部分との予想される架橋の代わりに、LC中の遊離システインが検出され、その代わりに、LC中の密接に位置する2つのシステイン間のジスルフィド架橋の代替形成が検出された。
・噴霧後の酸化は、全てのクローンについて、<1%のままであった。
・異性化及び脱アミド化などの部位特異的事象は、全てのクローンについて、噴霧後も概ね影響を受けないままであった。
【0203】
(2.9 効力-結晶溶解アッセイ)
この試験において、全てのFabクローンを、GAL10結晶を溶解させるその能力についてインビトロで評価した。このため、結晶溶解アッセイ(CDA)を開発し、噴霧の前後のFabクローンの生物学的活性を評価するために、Charles Rivers Laboratories(CRL), Leiden, The Netherlandsで標準化した。その目的は、保存前/保存後の噴霧がクローンの(生物学的)活性に影響を及ぼし、GAL10結晶の溶解力の低下をもたらすかどうかを評価することであった。
【0204】
全てのFabについて、解析を、適切なアッセイ対照の存在を伴う2回の独立した実験で実施した。3連の装置を用いて噴霧されたクローンについては、1つの共通の装置からのエアロゾル化タンパク質を8濃度点曲線として解析し(Solo #0125)、残りの2つを予め選択された固定濃度で、常に2回の独立したアッセイで解析した。+5℃で4週間保存した後の試料を全てのクローンについて8濃度点曲線として解析した。本明細書に示されている結果は、結晶のサイズ分布が10μmを上回った(10~15μm)アッセイから得られたものである。
【0205】
図12は、GAL10結晶を溶解させる4つのFabクローンの非ストレス試料の効力を示している。非ストレス材料と一緒に、全てのクローンを上記のストレス条件を経た後の効力について試験して、この効力を保存後及び/又は噴霧後に保持することができるかどうかを評価した。クローン18C06、20H09、及び23H09を第一波で並行して試験し(アッセイ1、図13)、7B07_N53Aクローンを比較のために使用した。クローン24F02_N53Aを第二波(アッセイ2、図14)でクローン23H09と並べて解析した。
【0206】
図12図13、及び図14に示されているように、全てのクローンは、適用されるストレスとは無関係に、分析ランを通してガレクチン-10結晶を完全に溶解させる効力を有している。したがって、クローンの比較は、効力差を見つけて評価することができる5時間までの最初の時点に、主に焦点を当てた。クローン23H09と24F02_N53Aは、実施されたアッセイにおいて、4つのクローンの中で最も効力の高い分子であった。図14は、アッセイ2から得られた結果を、これら2つの最も効力の高いクローンの並列比較とともに示している。全ての独立したランについて、プレーティングされた結晶のサイズ分布に関係なく、クローン24F02_N53Aは、結晶をインビトロで溶解させる効力が常により高いように思われた。温度又は噴霧ストレスは、非ストレス材料と比較したとき、その溶解能力に影響を及ぼさなかった。結晶溶解効力をモニタリングするこのアッセイに基づいて、クローンを最も効力の高いものから最も効力の低いものへとランク付けすることができる:
・24F02_N53>23H09>20C06>18C06
【0207】
クローン24F02_N53Aは、23H09に優るいくつかの利点を示し;両クローンとも、結晶をインビトロで消失させることができたが、これら2つのクローンを独立した機会に並べて試験したとき、24F02_N53Aは、より速い溶解速度及び結晶化タンパク質の消失を示した。
【0208】
(2.10 免疫原性)
インシリコ及び細胞ベースのインビトロ評価を含むLonza Epibase(登録商標)を用いて免疫原性リスクを評価するために、全てのクローンのエンドトキシン非含有材料をLonza, Slough, UKに送付した。
【0209】
Lonza Epibase(登録商標)のインシリコ評価は、HLA-DRB1スコアを測定することにより、影響を受ける可能性のあるアロタイプと主要組織適合性複合体とを含む、潜在的な免疫原性エピトープについてクローンのアミノ酸配列をスクリーニングするアルゴリズムを使用する。
【0210】
本アッセイは、これらのアロタイプをその世界的な集団頻度(図15)と比べてスクリーニングし、免疫原性スコアに基づいて、クローンを免疫原性が最も低いものから最も高いものへとランク付けした:
・g24F02_N53<[g23H09、g18C06]<g20H09
【0211】
これらの結果は、Lonza Epibaseインビトロアッセイでも確認された。簡単に説明すると、クローンを31人の健常ドナー由来のPBMCで誘導されたT細胞応答について評価した。スクリーニングを刺激されたIFNγ及びIL-5細胞の検出及び計数時に評価して、望ましくない免疫応答リスクとしてのT細胞応答を誘発するドナーの数(図16)、及び試験集団にわたる大きさ(図17)を決定した。
【0212】
対応する図(図16図17)に示されているように、全てのFabは、免疫応答を誘導する低い能力を示した。4つのうち、IFNγ応答に関しては、クローン23H09及び18C06が最も高い頻度を示し、一方、IL-5応答に関しては、Fab18C06及び20H09が最も高い頻度を示した。全ての場合において、及び全ての統計的アプローチに関して、クローンg24F02_N53Aは、望ましくないT細胞応答を誘発する頻度が最も低い分子であり、したがって、このクローンは、最もリスクの低いクローンと考えられる。
【0213】
(2.11 結果のまとめ)
4つの生殖系列化Fabクローンを評価し、4つのクローン全てが、由来する7B07_N53Aクローンと比較して改善された特性を示した。結果のまとめは、図18に提供されている。
【0214】
全てのクローンの噴霧は、タンパク質濃度、SE-HPLC及びcGE(還元及び非還元)による純度、SPRによる結合活性、翻訳後修飾、並びにインビトロでのガラクチン-10結晶溶解に顕著な影響を及ぼさなかった。4週間の保存期間の前後の噴霧について得られた安定性データに基づくと、全てのクローンは、設定された目標基準から大きく逸脱することなく、同等の属性を示した。
【0215】
抗GAL10 Fabクローンの免疫原性に関して、関連するリスク評価は、クローン24F02_N53Aの利点を示し、これは、より低い免疫原性スコアという観点からも望ましいが、23H09との違いは限定的である。これら2つのクローンをそのヒト同一性について比較したとき(表3)、同じ絵が得られ、クローン24F02_N53Aは100%を示した。
【0216】
クローン23H09(及び20H09)の非ストレス試料でさえも、極めて不均一で、多峰性で、かつ利用不可能であることが分かったため、サブビジブル及びサブミクロン粒子分析(DLS及びFCMによる)は、製剤最適化の必要性を示した(図7)。噴霧は、これらの現象を全ての粒子カテゴリーについて増幅させ、クローン24F02_N53Aは、4週間保存及び噴霧後に、相対的に少なくかつより安定した数を示した。クローン23H09は、24F02_N53Aと比較したとき、噴霧後の全てのカテゴリーにおいてより高い数を示した(表5)。吸入による薬物送達のためにエアロゾル化される製剤を最適化する必要性はあるが、全体的なクローン24F02_N53Aは、特に、薬物の安全性、有効性、及び薬物動態を危うくする可能性のある免疫原性及び重度のADA応答としばしば関連するカテゴリーである、>2μmのサイズの粒子のカテゴリーについて、より少ない粒子数を有し、より望ましいことがわかった。
【0217】
任意の噴霧ストレス前(図12)並びに保存及び振動メッシュネブライザーによるエアロゾル化後(図14)に得られた効力結果から、クローン24F02_N53Aは、23H09に優る利点を有していた。アッセイに関係なく、並べて試験された全ての試料について、全てのクローンは、結晶化されたタンパク質をインビトロで除去することができたが、24F02_N53Aは、ガレクチン-10結晶を溶解させるときに、23H09よりも速い効力を示した。
【0218】
(実施例3:抗ガレクチン-10 Fab断片の作製及び特性解析)
先の発見キャンペーンで、クローン7B07を同定した。このクローンは、組換えCLCを溶解させる最良の効力を示し、かつ適切な結合特性を示した。しかしながら、さらなる安定性試験により、37℃でのインキュベーション後の結合及び効力の劇的な低下の原因となる重鎖のCDR2中の脱アミド化部位(N53G54)が強調された。N53とG54がランダム化された生殖系列化7B07(g7B07)クローンの変異体を作製したが、7B07_N53Aクローンを含む全ての突然変異が結合特性の明らかな低下をもたらした。しかしながら、これらの突然変異体7B07クローンが組換えCLCを溶解させる効力は維持された。
【0219】
したがって、良好な効力、親和性、及び安定性を有する抗Gal10クローンを同定するために、3つの発見キャンペーンを開始した。このキャンペーンは、7B07と同様のエピトープに結合する変異体クローンを見出すことを目的としたが、それは、このクローンが最も効力が高いクローンであり、かつユニークなエピトープに結合すると思われたからである。クローンが7B07と同様のエピトープに結合する場合、同様の効力が得られるという前提であった。第一のキャンペーンは、同様のエピトープに結合するクローンを利用可能な免疫ライブラリー中で見出すことを目的とした(「7B07エピトープキャンペーン」)。第二のキャンペーンでは、CDR2_VHの配列を、N53とG54を含む最大6つの位置でランダム化して、良好な結合特性を有し、かつ脱アミド化部位を含まないクローンを同定した(「g7B07_CDR2_VHランダム化キャンペーン」)。第三のキャンペーンでは、重鎖シャッフリングアプローチを実行して、7B07軽鎖と対になり、かつGal10に対する良好な親和性及び安定性の向上を可能にするクローンを見出した(「重鎖シャッフリングキャンペーン」)。
【0220】
これらの発見キャンペーンの後、さらなる試験のために4つのクローン: 18C06、24F02_N53A、23H09、及び20H09を同定した。
【0221】
(3.1 ヒトFab骨格中のクローンの生殖系列化、再フォーマット化、及び産生)
4つのクローンをさらなる特性解析のために選択してヒト化し、ヒトFab骨格中に再クローニングした。ラマに由来する抗Gal10クローンの免疫原性を低下させるために、最も近いヒト生殖系列フレームワーク(FW)に相補性決定領域(CDR)を移植することにより、可変領域(VH及びVL)の生殖系列化を開始した。AbAligner及びAntibody extractorソフトウェアバージョンN°8.1を用いて、選択されたクローンのV領域の同一性が最も高いヒト生殖系列配列を同定した。変異体24F02を人為操作して、7B07と全く同じ位置にある潜在的な脱アミド化部位(pos53_CDR2_VH)を除去した。このため、N位置53は、Aに突然変異した。
【0222】
(3.2 Fabクローンの結合特性の確認)
ヒトGal10に対する選択されたFabクローンの結合特性をBiacore 3000で確立された捕捉法によって解析した。2つの濃度の選択されたFabクローンをモノクローナル抗HisでコーティングされたCM5チップ上に固定されたヒトGal10-Hisに対して適用することにした。対照として、クローン7B07及び7B07_N53Aをランの最初と最後に注入した。
【0223】
3つの異なる発見キャンペーンから単離された選択されたクローンは、クローン7B07と同様又はそれよりも良好なオフレート及び親和性を示した。このパネルの中で、7B07エピトープキャンペーンから単離されたクローン(18C06)は、最も良好なオフレートを示し、クローンg7B07よりも9.8倍良好なオフレートを有していた。重鎖シャッフリングアプローチから単離されたユニークなクローン(g24F02)及びその人工変異体(g24F02_N53A)は、極めて類似した結合能を示し、位置53に見られる脱アミド化部位の除去がその結合特性に影響を及ぼさないことを示した。7.1~8.3 E+05のオンレート、及び1.6E-03 1/sに等しいオフレート、及び2.0~2.3nMの親和性を伴って、これらのクローンは、クローンg7B07よりも1.6~1.9倍良好なオンレート、2.8倍良好なオフレート、及び4.7倍良好な親和性を示した。最後に、CDR2ランダム化キャンペーンから単離された2つのクローン(20H09及び23H09)は、スクリーニングデータと一致して、異なる結合特性を示した。クローンg23H09は、クローンg7B07と比較して、同様のオンレート、2.8倍良好な親和性(3.9nM)、及び1.8倍良好なオフレートを示した。クローンg20H09は、3倍高い解離速度を示したが、親和性は同様であった。予想された通り、全てのクローンは、人工変異体g7B07_N53A(kd 7.8E-02 1/s、KD 143.5nM)と比較して、より良好な親和性及びオフレートを示した。
表6:選択された生殖系列クローンの結合特性のBiacore 3000での特性解析
【表6】
【0224】
選択されたクローンが7B07エピトープに結合することを確認するために、クローンのエピトープビニング解析を、ヒトFabフォーマットで、7B07(ヒトFab)に対して行った。この目的のために、準最適濃度のビオチン化クローン7B07ヒトFabを、選択されたクローンとともにプレインキュベートされたGal10コーティングプレートに添加した。7B07に対する競合のパーセンテージが表7に掲載されている。ヒトFab骨格中のモタビズマブ(Mota)を陰性対照(競合0%)として使用した。クローン7B07を競合の陽性対照として使用し、それゆえ、100%競合値として設定した。抗ヒト特異的クローン1D11(チロシン69残基に結合)は、7B07が結合する場所と比較して、Gal10の反対側(チロシン69を含む)に結合することが知られているので、1D11をGal10結合について7B07と競合する陰性対照として試験パネルに含めた。スクリーニングデータと一致して、選択されたクローンは全て、Gal10結合について7B07と競合することが分かった。
表7: ELISAでのビオチン化7B07ヒトFabに対する選択されたクローン抗Gal10のエピトープビニング
【表7】
【0225】
ヒト及びカニクイザルGal10に対する選択されたクローンの結合特性をBiacore 3000で確立された捕捉法によって解析した。この目的のために、2つのアプローチを使用した。第一に、2つの濃度の選択されたFabクローンを、モノクローナル抗HisでコーティングされたCM5チップ上のカニクイザル(WGSアイソフォーム) Gal10-His捕捉物に対して適用した。第二のアプローチでは、連続希釈物をヒト又はカニクイザル(WGSアイソフォーム) Gal10-Hisに対して同じ設定で適用した。
【0226】
第一段階で、クローンのカニクイザル交差反応性を捕捉されたカニクイザルGal10(WGSアイソフォーム)に対する2つの濃度の注入によって試験した。完全抗体フォーマットを用いて作成された以前のデータと比較して、クローンg7B07及びその人工変異体g7B07_N53Aは、カニクイザルGal10のWGSアイソフォームに対する弱い結合を示した(KDは、g7B07-hFabの69nMに対して、g7B07-mIgG1の1.5nM)。試験されたパネルの中で、クローンg20H09がカニクイザル抗原に対する不良な結合能を示したのに対し、クローンg18C06は全く結合を示さなかった。しかしながら、クローンg23H09、g24F02及びその人工変異体g24F02_N53Aは、良好なカニクイザル交差反応性を示した。これらのクローンのカニクイザル交差反応性のさらなる特性解析によって、g24F02_N53A及びg23H09が強調された。実際、これら2つのクローンは、それぞれ、ヒトGal10に対する1.4nM及び5.34nMの親和性、並びにカニクイザルGal10に対する8.0nM及び9.9nMの親和性を示した。さらに、これら2つのクローン(g23H09及びg24F02_N53A)は、クローンg7B07よりも1.7倍及び6.3倍良好な親和性、並びに1.9倍から最大3.5倍良好なオフレートを示した。g24F02_VHのCDR2中の位置53のAsnの突然変異は、ヒト又はカニクイザルGal10に対する結合の低下にはつながらず、同様の親和性及びオフレートを有していた。スクリーニングデータと一致して、クローンg18C06は、ヒトGal10に対して試験されたパネルの中で最も良好な親和性(1.27nM)及びオフレート(4.9E-04 1/s)を示したが、そのカニクイザル対応物には結合しなかった。興味深いことに、g7B07_VHのCDR2の6つのアミノ酸をランダム化して、g23H09を作製すると、親クローンと比較して、カニクイザル交差反応性の増加が示された。しかしながら、CDR2の3つのアミノ酸がランダム化された同様の発見キャンペーンから単離されたクローンg20H09は、このカニクイザル交差反応性の増加を示さず、重要なアミノ酸がクローンg23H09のCDR2に導入され、カニクイザルへの結合の増加がもたらされることが示された。
表8:ヒト及びカニクイザルGal10(WGSアイソフォーム)に対するヒトFab骨格中の選択されたクローンの結合特性のBiacoreでの特性解析
【表8】
【0227】
(3.3 Fabクローンの安定性の確認)
ストレス試験の後、重鎖の可変ドメインのCDR2における脱アミド化部位が結合及び効力の明らかな低下を誘発したクローン7B07で直面したのと同様の問題を回避するために、選択されたクローンの安定性を解析した。この目的のために、短時間の加速温度ストレス試験を実施した。この設定では、ストレス試料を37℃で2週間インキュベートした後、非ストレス試料(T0)と並べて、結合(Biacoreはargenxで行われた)及び効力(CLC溶解はVIBで行われた)について解析した。
【0228】
選択されたクローンの2週間の温度ストレス試料の結合特性を分析するために、Biacore 3000で確立された捕捉法を最適化した。簡単に説明すると、温度ストレスをかける前に、キャリブレーターとQCポイントを決定した。ストレス試料の結合特性を決定し、キャリブレーションポイントと比較し、相対活性のパーセンテージ(%RA)として表した。
【0229】
表9に示されているように、クローン18C06及び24F02_N53Aは、37℃で2週間後、最良の安定性を示し、非温度ストレス試料と同様の結合能(それぞれ、106%及び99%RA)を有していた。さらに、24F02の非人工変異体は、37℃で2週間のインキュベーションの後、結合の損失を示さず、位置53における脱アミド化がその結合特性に影響を及ぼさないことを示した。クローン23H09及び20H09は、37℃でのインキュベーション後に結合能の低下を示し、これは、2週間後に、それぞれ、78%及び86%のRAをもたらした。しかしながら、この結合の14%及び22%の低下は、アッセイのばらつきの範囲内であるか、又はより長い温度ストレス試験が必要であるかのいずれかであり得ると考えられる。
表9:選択されたクローンの温度ストレス試料の結合特性の解析
【表9】
【0230】
(3.4 Fabクローンの効力の確認)
組換えCLCを溶解させるヒトFab骨格中の選択されたクローンの温度ストレス試料の効力をCharles River Laboratoriesで試験した。クローン1D11をアッセイ間のばらつきを補正するための参照として含めた。結晶の溶解を、2、5、7、及び16時間のインキュベーションの後、InCell 2200により経時的にモニタリングした。ランの前に実施された結晶生成は、5~10μm(ラン2)から10~20μm(ラン1)まで幅がある、様々なサイズのCLCを示した。以前の観察と一致して、結晶サイズは、化合物の有効性に強い影響を及ぼし、10~20μmのサイズを有するCLCは、クローン間の最も優れた識別を可能にした。Charles River Laboratoriesで作成されたCLC溶解データは、どちらもCDR2ランダム化キャンペーンから単離されたクローン20H09と23H09がパネルの中で最も効力の高いクローンであることを示した(表10)。実際、これらのクローンは、組換えCLCの59.6%及び68.6%を2時間以内に溶解させることができた(ラン1)。全体として、5時間のインキュベーション後、ほとんどのクローン(1D11を除く)は、CLCの~90%を可溶化することができた。陽性対照であるクローン1D11は、結晶を溶解させる最低の効力を示し、2時間及び5時間のインキュベーション後のCLC溶解は、それぞれ、20%及び36%であった。
【0231】
他の安定性の結果(結合)と一致して、クローン18C06、20H09、及び23H09の温度ストレス試料は、非ストレス試料と同様の効力を示した。
表10: Charles River Laboratoriesの細胞イメージングシステムでの組換えCLCを溶解させる選択されたクローン(ヒトFab)の温度ストレス試料の効力の特性解析
【表10】
【0232】
クローン24F02_N53Aは、パネルの後半に現れるので、このクローンの組換えCLCを溶解させる効力は、Charles River Laboratoriesで試験することができなかった。しかしながら、24F02_N53Aの組換えCLCを溶解させる効力をVIBでスピニングディスク共焦点顕微鏡を用いて解析した。この目的のために、ヒトFab断片を予め形成されたCLCとともにインキュベートし、結晶の溶解を経時的にモニタリングした。結合データと一致して、温度ストレス試料(37℃で2週間)は、非ストレス試料と比較して、同様の有効性を示し(表11)、このクローンが37℃で2週間安定であることを強調した。実際、このクローンの試験された試料は、43~46分以内に50%のCLC溶解を示した。24F02が37℃でストレスを受けたかどうかに関係なく、これは、7B07と比較して近いが、わずかに低い効力を示した。
表11:スピニングディスク共焦点顕微鏡でのクローン24F02_N53A(hFab)の温度ストレス試料による組換えシャルコー・ライデン結晶(CLC)の可溶化のタイムラプス
【表11】
部分曲線
【0233】
(3.5 Fabクローンの配列)
【表12】
【表13】
【表14】
【表15】
【表16】
【0234】
本発明は、本明細書に記載される特定の実施態様によって範囲が限定されるものではない。実際、本明細書に記載されるものに加えた本発明の様々な修正が、前述の説明及び添付の図から当業者に明らかになるであろう。そのような修正は、添付の特許請求の範囲に含まれることが意図される。さらに、本明細書に記載される本発明の全ての態様及び実施態様は、広く適用可能であり、かつ必要に応じて、本発明の他の態様から取られたものを含む(分離されたものを含む)、任意の及び全ての他の一貫した実施態様と組み合わせることが可能であると考えられる。
【0235】
様々な刊行物及び特許出願が本明細書に引用されており、その開示はその全体が引用により組み込まれる。
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図3-1】
図3-2】
図4
図5
図6
図7-1】
図7-2】
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18-1】
図18-2】
【配列表】
2025503701000001.xml
【国際調査報告】