(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-04
(54)【発明の名称】スタフィロコッカス・アウレウス株のメチシリン耐性を決定するための方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/14 20060101AFI20250128BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20250128BHJP
C12N 9/76 20060101ALN20250128BHJP
C07K 14/31 20060101ALN20250128BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20250128BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20250128BHJP
【FI】
C12Q1/14 ZNA
G01N33/68
C12N9/76
C07K14/31
C12N15/31
C12N1/20 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024542311
(86)(22)【出願日】2023-01-11
(85)【翻訳文提出日】2024-09-11
(86)【国際出願番号】 FR2023050038
(87)【国際公開番号】W WO2023135390
(87)【国際公開日】2023-07-20
(32)【優先日】2022-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】503161615
【氏名又は名称】ウニベルシテ クロード ベルナール リヨン 1
(71)【出願人】
【識別番号】514077888
【氏名又は名称】エコール ノルマル シュペリウール ドゥ リヨン
(71)【出願人】
【識別番号】511171866
【氏名又は名称】オスピス シヴィル ドゥ リヨン
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンスティチュート、ナシオナル、ドゥ、ラ、サンテ、エ、ドゥ、ラ、ルシェルシュ、メディカル
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DELA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE
(71)【出願人】
【識別番号】524266560
【氏名又は名称】ウィジオン
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジェローム・ルモアーヌ
(72)【発明者】
【氏名】フランシス・デフォレ
(72)【発明者】
【氏名】フランソワ・ヴァンデネシュ
(72)【発明者】
【氏名】オリビエ・ダウワルデール
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA28
2G045BB01
2G045CA25
2G045CA26
2G045CB03
2G045CB11
2G045CB21
2G045CB30
2G045DA36
2G045FA40
2G045FB05
2G045FB06
4B063QA01
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4B063QQ06
4B063QR16
4B063QS16
4B063QS17
4B065AA53X
4B065AA53Y
4B065CA44
4B065CA46
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045BA61
4H045CA11
4H045EA20
4H045EA50
(57)【要約】
本発明は、生物学的試料中に存在するスタフィロコッカス・アウレウス株のメチシリン耐性特性を決定するための方法であって、以下の工程:・a)以下の群:セフォキシチン及び6-APA(6-アミノペニシラン酸)から選択されるベータ-ラクタムのクラスからの抗生物質の存在下で、スタフィロコッカス・アウレウス株を含有する生物学的試料を、少なくとも15分間インキュベートする工程;・b)生物学的試料中に存在する細菌を単離する工程;・c)ペプチドの混合物を得るために、細菌を溶解させ、細菌タンパク質を加水分解する工程;並びに・d)ペプチドのこの混合物を、標的化された質量分析によって分析する工程、を含み、この分析工程の間のタンパク質PBP2a(配列番号1)又はPBP2c(配列番号2)に起源する少なくとも1つのペプチドの検出が、生物学的試料中に存在するスタフィロコッカス・アウレウス株のメチシリン耐性を示す、方法、に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的試料中に存在するスタフィロコッカス・アウレウスの株のメチシリン耐性特性を決定するための方法であって、以下の工程:
a)セフォキシチン及び6-アミノペニシラン酸(6-APA)から選択されるベータ-ラクタムクラスからの抗生物質の存在下で、前記スタフィロコッカス・アウレウス株を含有する前記生物学的試料を、少なくとも15分間インキュベートする工程;
b)前記生物学的試料中に存在する細菌を単離する工程;
c)ペプチドの混合物を得るために、前記細菌を溶解させ、細菌タンパク質を加水分解する工程;
d)ペプチドのこの混合物を、ペプチド分離とカップリングされた標的化された質量分析によって分析する工程
を含み;
前記分析工程(d)の間のPBP2aタンパク質(配列番号1)又はPBP2cタンパク質配列番号2)由来の少なくとも1つのペプチドの検出が、前記生物学的試料中に存在する前記スタフィロコッカス・アウレウス株の前記メチシリン耐性を示す、方法。
【請求項2】
前記ペプチドの前記分離が、クロマトグラフィー又は電気泳動による分離であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記質量分析の分析が、前記分析(SRM/MRM、MRM3又はPRMモード)の間又は前記分析(DIA/SWATHモード)の後に標的化されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記インキュベーション工程(a)が、15分間と180分間との間の期間にわたって実施されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程(b)が、前記生物学的試料中に存在する非細菌細胞の選択的溶解の工程もまた含むことを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程(c)における前記細菌タンパク質の前記加水分解が、酵素的加水分解であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記酵素が、トリプシンであることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
検出される前記少なくとも1つのペプチドが、以下の配列:配列番号3~配列番号14を有する12個のペプチドの群から選択されることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記生物学的試料が、
- 生物学的液体、例えば、血液、血清、血漿、尿、脳脊髄液及び涙;
- 細菌培養物、例えば、血液培養物、寒天上の細菌コロニー、細菌培養ブロス;
- 食品試料;並びに
- 任意の他の型の生物学的試料
から選択されることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
- セフォキシチン及び6-アミノペニシラン酸(6-APA)から選択されるベータ-ラクタムクラスの少なくとも1つの抗生物質;
- トリプシン;並びに
- 前記生物学的試料中に存在する非細菌細胞の選択的溶解を可能にする試薬、例えば、界面活性剤
を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法を実施するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野
本発明は、スタフィロコッカス(staphylococcus)科に属する細菌株を特徴付けるための方法、特に、ある特定の抗生物質に対して耐性の細菌株を同定するための方法に関する。これは、医療従事者が、この耐性データに基づいて、各感染患者にとって適切な抗生物質を選択することを可能にする。
【背景技術】
【0002】
技術の状況
最近数十年における抗生物質の使用の増加は、多数の細菌種において耐性機構の出現をもたらしてきた。
【0003】
スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)の最初のペニシリン耐性株は、細菌感染に対する一連の処置へのこの抗生物質の導入の僅か2年後に特徴付けられ(Kirby、1944)、迅速に広がって、新たな半合成抗細菌分子、例えば、メチシリン及びオキサシリンを支持する臨床的実務において、ペニシリンの使用の段階的な中断をもたらした。
【0004】
次いで、1960年代には、メチシリンに対して、並びに他の抗生物質化合物に対して耐性のスタフィロコッカス・アウレウスの新たな株が出現した。これらの株は、メチシリン耐性スタフィロコッカス・アウレウスの頭字語MRSAによって示される。
【0005】
これらのMRSA株は、特定の毒素、パントン・バレンタイン型ロイコシジン(PVL)を発現する。このいわゆる孔形成性毒素は、特に免疫系の細胞の細胞壁中に孔を誘導し、そうして、感染と戦うことが可能な細胞を死滅させる。
【0006】
最初は病院環境に限定されていたが、MRSA株は次いで、集団中に広がった。2019年には、欧州において、MRSA株は、スタフィロコッカス・アウレウス感染の1%と46%との間を占めると推定された。World Health Organizationによれば、MRSA株に感染した人は、非耐性株に感染した人よりも、死亡の確率が64%高い。
【0007】
したがって、MRSA株の検出は、スタフィロコッカス・アウレウス感染を有する患者の管理及び処置のための主要課題である。
【0008】
MRSA表現型は、MecA遺伝子によってコードされる特定のタンパク質、ペニシリン結合タンパク質2a(PBP2a)の発現に、及びより稀なケースでは、MecC遺伝子によってコードされるPBP2cタンパク質の発現に起因する。これらのタンパク質は、細菌細胞壁形成に関与する酵素であるトランスペプチダーゼPBP2を置き換える。代替的タンパク質PBP2a及びPBP2cは、メチシリン及びペニシリンに対する低い親和性を有するので、これらの抗生物質の存在は、それらの活性を阻害せず、細胞壁合成は正常に継続し、したがって、これらの抗生物質の存在下であっても、細菌成長を確実にする。
【0009】
最初のMRSA株の出現以来、3つの主要なアプローチに従う、この耐性特性を検出するためのいくつかの方法が開発されている:
- 表現型的方法は、抗生物質の存在下での細菌成長の評価に基づく;
- 分子生物学法は、研究される株の細菌ゲノムにおけるMecA及び/又はMecC遺伝子の検出に基づく;
- 免疫学的及びプロテオミクス的方法は、PBP2aタンパク質又はそのペプチドの検出に基づく。
これらの技術のうち、免疫クロマトグラフィー(抗体を使用する検出)及び質量分析法が、特に使用される。
【0010】
これらの異なるアプローチは、以下に簡潔に示される。
【0011】
表現型的方法
従来の寒天拡散法は、古くはあるが、その単純さ及び低いコストに起因して、実験室でいまだに広く使用されている。これは、抗生物質ディスク、通常はオキサシリン又はセフォキシチンの存在下で寒天上で細菌を培養することからなる。細菌株の感受性又は耐性表現型は、ディスク周囲の成長阻害ゾーンの直径を評価することによって決定される。
【0012】
この技術の主な欠点は、結果を得るためにおよそ12~18時間の時間がかかることである(Felten、2002)。
【0013】
機器、例えば、bioMerieux社によって頒布されるVitek(登録商標)2、又はBecton Dickinson社によって頒布されるPhoenix(商標)の、市場への到着は、抗生物質感受性試験のハイスループットの自動化を可能にしている。寒天拡散法よりもロバストではあるが、これらの試験もまた、細菌の成長時間によって制限される。スタフィロコッカス・アウレウスの場合、結果は、約10~13時間で得られる。
【0014】
例えば、Sparbierら、2013による論文は、細菌成長が抗生物質の存在下で評価されるかかる表現型的方法を開示している。細菌は、オキサシリン又はセフォキシチン、及び高分子量の「重い」リジンの存在下でインキュベートされる。この重いアミノ酸の取り込みは、新たに合成されたタンパク質においてのみ観察される。しかし、抗生物質に対して耐性の細菌のみが、著しいタンパク質生合成活性を示す。次いで、重いリジンを含むタンパク質は、MALDI-TOFによって検出される。
【0015】
このいわゆる表現型的技術の主要な欠点は、細菌成長に影響し得る因子、例えば、接種材料体積、インキュベーションの時間及び温度、培地、pH又は塩濃度に対して感受性であることである(Tenoverら、1999)。
【0016】
分子生物学法
分子生物学法の出現は、表現型的方法と比較して、MRSA株の同定時間を著しく改善した。現在市場にある試験の高い感度及び特異性は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によるMecA遺伝子の検出を、MRSAの診断のゴールドスタンダードにしている。一般に使用される試験には、Cepheid社によって頒布されるGeneXpert MRSA/SA BC、Becton Dickinson社によって頒布されるGeneOhm(商標)StaphSR Assay、AmplexDiagnostics社によって頒布されるeazyplex(登録商標)MRSAplus、又はbioMerieux社によって頒布されるFilmArray BCIDが含まれる。これらの試験は、細菌を単離すること及びそれらを増殖させることからなる事前の継代培養工程を必要としない、陽性血液培養ボトルから直接の、1~3時間でのMRSA株の検出を可能にする。
【0017】
この技術の主な欠点は、特に、MecA遺伝子を含有しないSSCmecカセットを有する株の場合、又はMecA遺伝子について確立されたものとは僅かに異なる配列を有する遺伝子によってコードされるバリアントタンパク質を発現する株については、偽陽性を生じる傾向があることである。
【0018】
更に、分子生物学分析の高いコストが、依然として、それらの慣用的な使用にとっての主要な障害である。
【0019】
免疫学的試験:PBP2Aタンパク質の検出
PBP2aタンパク質を検出する特異的モノクローナル抗体とカップリングされたラテックスビーズの使用は、試料中の抗原の存在を示す凝集を裸眼で見ることを可能にする。これは、Thermo Fisher Scientific社によって頒布されるOxoid PBP2'試験又はMast Diagnostic社によって頒布されるMastalex-MRSA試験が基づいている原理である。
【0020】
試験自体の持続時間は、15分間と20分間との間からなる。この試験は、100%の感度及び99%よりも高い特異性で、非常に良好に機能する。
【0021】
この技法の主要な欠点は、試験される試料中に1.5×109細菌の最低限の量を必要とし、少なくとも10時間持続する細菌培養工程を含むことである。
【0022】
更に、これらの試験は、使用されるある特定のモノクローナル抗体によって認識されないPBP2cタンパク質を発現するMRSA株の検出は可能にしない。これは、Oxoid PBP2'試験について特に示されている(Dupieuxら、2017)。
【0023】
MRSA株の検出のための免疫クロマトグラフィー試験、例えば、Alere社によって頒布されるClearview(商標)PBP2a SA Culture Colony Testキットも、市販されている。
【0024】
非常に速く、98%よりも高い感度及び特異性を有するが、この試験もまた細菌培養工程を必要とする。
【0025】
Clearview(商標)PBP2a SA Culture Colony Testは、有利なことに、寒天培養後にセフォキシチンディスクの縁で成長するコロニーからPBP2cを検出することができる。しかし、MecCの検出に必要なこの誘導工程は、結果が提供される前に、およそ18時間の更なる遅延を生じる(Dupieuxら、2017)。
【0026】
標的化された質量分析
最近の研究は、病原体の同定及び耐性機構の実証のための、いわゆるボトムアップの、即ち、標的化された質量分析ペプチドフラグメンテーションスペクトルに基づく、プロテオミクス的アプローチの潜在力を強調している。
【0027】
これらのアプローチは、以下の工程を含む:
1)細胞内タンパク質を放出させるための、細菌試料の機械的又は化学的溶解;
2)ペプチドの混合物を生成するための、プロテアーゼ(典型的にはトリプシン)を使用する細菌タンパク質の酵素的消化;
3)試料の標的化された質量分析とカップリングさせたクロマトグラフィー分離、このとき、質量分析計は、耐性タンパク質のマーカーペプチドの検出のためにMS/MSモードで作動する;
4)試料中のマーカーペプチドの存在/非存在を立証するための、結果の再処理。
【0028】
用語「標的化された」は、特定のペプチド配列が捜索されることを示す;これらは、タンパク質配列全体、又は当該タンパク質の酵素的消化に由来するペプチドであり得る。
【0029】
標的化された質量分析は、特に、PBP2aタンパク質又はビルレンス因子、例えば、PVLを検出することによって、スタフィロコッカス・アウレウス株の耐性及びビルレンスを特徴付けるために首尾よく使用されている(Charretierら、2015)。
【0030】
国際出願WO 2011/045544は、出発生物学的材料が寒天培地上で単離されたコロニーである、標的化された質量分析とカップリングされた液体クロマトグラフィーによる、スタフィロコッカス・アウレウスの耐性及びビルレンスの特徴付けを含む方法を記載している。
【0031】
最後に、PBP2aタンパク質は、液体クロマトグラフィー及びMS分析(タンパク質全体のフラグメンテーションスペクトルの分析に基づくトップダウン技術)による分離の後に、そのインタクトな形態で検出され得ることが最近示された。酵素的タンパク質消化工程の非存在下では、結果を得るために必要な時間は短縮される(Neilら、2021)。しかし、著者らは、事前の継代培養工程なしの血液培養試料における直接的なPBP2aの検出への、彼らの方法の適用可能性を実証しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0032】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0033】
今日まで、病院での設置のために要求される全ての基準、特に、短い分析時間、試料調製の単純さ、限定的なコスト及び満足のいく性能を満たす技術は、知られていない。
【0034】
分析実験室の現在の要求を満たすために、MRSA株を同定するための方法は、少なくとも以下の基準を満たさなければならない:
- 血液から単離された細菌の継代培養工程を有さない(陽性として検出される場合には、血液培養ボトルからの直接の分析);
- 結果を迅速に得、したがって、可能な最も短い時間での、患者への適切な抗生物質処置の投与を可能にするための、短い試料調製及び分析時間(2時間未満);
- 試験が慣用的に実施できるような低いコスト;
- 配列番号1又は2と配列同一性を有するペプチド配列を有するバリアントタンパク質が含まれる両方のタンパク質PBP2a及びPBP2cを、100%に近い感度及び特異性で検出する試験。
【0035】
本発明者らは、誘導工程及び迅速な試料調製を含む、陽性血液培養ボトルから直接実施される、質量分析とカップリングされた液体クロマトグラフィーによってMRSA株を検出し、生物学的試料中のスタフィロコッカス・アウレウスの株の存在の検出から1.5時間未満で結果が得られることを可能にするための、標的化された方法を開発した。
【課題を解決するための手段】
【0036】
本発明の開示
本発明は、生物学的試料中に存在するスタフィロコッカス・アウレウスの株のメチシリン耐性特性を決定するための方法であって、以下の工程:
a)以下の群:セフォキシチン及び6-アミノペニシラン酸(6-APA)から選択されるベータ-ラクタムクラスからの抗生物質の存在下で、当該S.アウレウス(S. aureus)株を含有する生物学的試料を、少なくとも15分間インキュベートする工程;
b)当該生物学的試料中に存在する細菌を単離する工程;
c)ペプチドの混合物を得るために、細菌を溶解させ、細菌タンパク質を加水分解する工程;
d)ペプチドのこの混合物を、標的化された質量分析によって分析する工程
を含み、
この分析工程の間のPBP2a(配列番号1)又はPBP2c(配列番号2)タンパク質に由来する少なくとも1つのペプチドの検出が、当該生物学的試料中に存在するスタフィロコッカス・アウレウス株のメチシリン耐性を示す、方法に関する。
【0037】
本発明は、
- 以下の群:セフォキシチン及び6-アミノペニシラン酸(6-APA)から選択されるベータ-ラクタムクラスの抗生物質;
- トリプシン;
- 生物学的試料中に存在する非細菌細胞の選択的溶解を可能にする試薬、特に、サポニン、Triton X100及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)から選択される界面活性剤;
- 任意選択で、標的化された質量分析のための試薬
を含む、この方法を実施するためのキットにも関する。
図面の説明
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】
図1は、MRSA26b株のMRM分析から得られたクロマトグラムを示す図である。A)誘導工程なしで調製した試料。B)誘導工程ありで調製した試料。PBP2aペプチドのトランジションに対応するピークは、矢印で示される。
【
図2】
図2は、MRSA26b株のMRM3分析から得られたクロマトグラムを示す図である。A1及びA2)誘導工程なしで調製した試料についての、VALELGSK(A1)及びFQITTSPGSTQKK(A2)ペプチドのMRM3クロマトグラム。B1及びB2)誘導工程ありで調製した試料についての、VALELGSK(B1)及びFQITTSPGSTQKK(B2)ペプチドのMRM3クロマトグラム。
【
図3】
図3は、MRSA28b株のMRM分析から得られたクロマトグラムを示す図である。A)誘導工程なしで調製した試料。B)誘導工程ありで調製した試料。PBP2aペプチドのトランジションに対応するピークは、矢印で示される。
【
図4】
図4は、MRSA28b株のMRM3分析から得られたクロマトグラムを示す図である。A1及びA2)誘導工程なしで調製した試料についての、VALELGSK(A1)及びFQITTSPGSTQKK(A2)ペプチドのMRM3クロマトグラム。B1及びB2)誘導工程ありで調製した試料についての、VALELGSK(B1)及びFQITTSPGSTQKK(B2)ペプチドのMRM3クロマトグラム。
【
図5】
図5は、誘導工程後のMSSA16b株のクロマトグラムを示す図である。A)MRMクロマトグラム。B1及びB2)VALELGSK(B1)及びFQITTSPGSTQKK(B2)ペプチドについてのMRM3クロマトグラム。両方の型の分析について、ペプチドは検出されない。
【
図6】
図6は、誘導工程後のMSSA1b株のクロマトグラムを示す図である。A)MRMクロマトグラム。B1及びB2)VALELGSK(B1)及びFQITTSPGSTQkk(B2)ペプチドについてのMRM3クロマトグラム。両方の型の分析について、ペプチドは検出されない。
【
図7】
図7は、PBP2cを発現する株のMRM分析から得られたクロマトグラムを示す図である。A)誘導工程なしで調製した試料。B)誘導工程ありで調製した試料。PBP2cペプチドのトランジションに対応するピークは、矢印で示される。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明の詳細な説明
本発明は、S.アウレウスの株を含有すると同定された生物学的試料から、1.5時間未満で結果を得ることを可能にする、MRSA株と呼ばれるスタフィロコッカス・アウレウスのメチシリン耐性株を検出するための方法に関する。
【0040】
メチシリン(methicillin)は、メチシリン(meticillin)とも綴られ、ペニシリンサブファミリーに属するベータ-ラクタム抗生物質である。そのCAS番号は、61-32-5である。これは、細菌耐性を発達させる可能性が低いクロキサシリンに取って代わられる前には、スタフィロコッカス・アウレウス感染に対して広く使用されていた。
【0041】
有利なことに、本発明の方法は、100%に近い感度及び特異性で、この抗生物質に対して耐性の株(MRSA)を同定することを可能にする。
【0042】
本発明に従う方法は、細菌継代培養工程なしの生物学的試料、例えば、陽性血液培養試料(血液細胞及び細菌を含有する)を使用する。ベータ-ラクタムクラスの抗生物質を使用する、PBP2a又はPBP2cタンパク質の発現の誘導の第1の工程の後には、細菌の迅速な単離の工程が続き、次いで、細菌の溶解及びタンパク質の酵素的消化の工程、並びに最後に、PBP2a又はPBP2cタンパク質の酵素的消化由来のペプチドの検出のための標的化された質量分析が続く。
【0043】
したがって、本発明は、生物学的試料中に存在するスタフィロコッカス・アウレウスの株のメチシリン耐性特性を決定するための方法であって、以下の工程:
a)以下の群:セフォキシチン及び6-アミノペニシラン酸(6-APA)から選択されるベータ-ラクタムクラスからの抗生物質の存在下で、当該スタフィロコッカス・アウレウス株を含有する生物学的試料を、少なくとも15分間インキュベートする工程;
b)当該生物学的試料中に存在する細菌を単離する工程;
c)ペプチドの混合物を得るために、細菌を溶解させ、細菌タンパク質を加水分解する工程;
d)ペプチドのこの混合物を、標的化された質量分析によって分析する工程
を含み;
この分析工程におけるPBP2aタンパク質又はPBP2cタンパク質に由来する少なくとも1つのペプチドの検出が、当該生物学的試料中に存在するスタフィロコッカス・アウレウスの株のメチシリンに対する耐性を示す、方法に関する。
【0044】
この方法は、国際出願WO 2011/045544に記載される方法から開発された。
【0045】
この方法に基づいて、本発明者らは、PBP2aタンパク質が、非常に異なるレベルの発現で、MRSA株の間で非常に不均一に発現されることを同定した。
【0046】
出願WO 2011/045544に示されたものと類似であるが、出発生物学的試料として、スタフィロコッカス・アウレウスについて陽性の血液培養培地を用いる、即ち、細菌継代培養工程なしの方法論を使用して、フランスの疫学を代表する98のMRSA株のコホートに関して、当該MRSA株のおよそ60%が、記載された方法論によって検出するには低すぎるPBP2a発現レベルを有することが実証されている(実験部分を参照されたい)。
【0047】
実際、異なるMRSA株間には、PBP2a発現の不均一性が存在する。高いレベル(誘導なしに検出可能)でPBP2aを天然に発現する一部の株等は、誘導工程なしの直接的分析によるPBP2aの検出を可能にすることのない、非常に低い基底発現レベルを有する。
【0048】
したがって、多くのMRSA株が検出できないので、出願WO 2011/045544に記載される技術は、臨床分析実験室での実施には適していないと結論付けられた。
【0049】
本出願は、ベータ-ラクタム抗生物質の存在下で、当該S.アウレウス株を含有する生物学的試料を、少なくとも15分間インキュベートして、PBP2aタンパク質又はPBP2cタンパク質の発現を誘導し、したがって、MRSA株の100%において発現されるバリアントタンパク質を検出するのに十分な新たな発現を有する、工程(a)の追加を含む、当該方法の改善に関する。
【0050】
PBP2aタンパク質は、以下の配列を有する:
配列1、PBP2a、スタフィロコッカス・アウレウス(NCBI ID: WP_001801873.1):
【化1】
【0051】
PBP2cタンパク質は、以下の配列を有する:
配列2、PBP2c、スタフィロコッカス・アウレウス(NCBI ID: WP_000725529.1):
【化2】
【0052】
有利なことに、本発明の方法は、2つのPBP2a及びPBP2cタンパク質並びにバリアントタンパク質を検出することを可能にする。
【0053】
用語「バリアントタンパク質」は、配列番号1又は2の配列との強い配列同一性、特に、配列番号1又は配列番号2の配列のうちの1つと、少なくとも90%の、又は更に良くは少なくとも95%の、又は更には99%の配列同一性を有するペプチド配列を有するタンパク質を意味すると理解される。バリアントタンパク質は一般に、野生型タンパク質配列中に1つ、2つ又は3つの点変異を有する、即ち、ペプチド配列において1つ、2つ又は3つのアミノ酸のみが異なる。
【0054】
本発明の開示の文脈で参照がなされる同一性のパーセンテージは、配列の最適なアラインメントが比較された後に決定され、したがって、1つ以上の付加、欠失、短縮及び/又は置換を含み得る。
【0055】
同一性のこのパーセンテージは、当業者に周知の任意の配列分析法によって計算され得る。
【0056】
同一性のパーセンテージは、それらの長さ全体にわたる、その全体で行われる、比較される配列のグローバルアラインメントの後に、決定され得る。手動の方法に加えて、Needleman及びWunsch(1970)のアルゴリズムによって、配列のグローバルアラインメントを決定することが可能である。
【0057】
アミノ酸配列について、配列は、当業者に周知の任意のソフトウェア、例えば、Needleソフトウェア等を使用して比較され得る。使用されるパラメーターには、特に以下が含まれ得る:10.0と等しい「ギャップオープン」、0.5と等しい「ギャップ伸長」及びBLOSUM62マトリックス。
【0058】
好ましくは、本発明の文脈で定義される同一性のパーセンテージは、その長さ全体にわたって比較される配列のグローバルアラインメントによって決定される。
【0059】
PBP2a又はPBP2cの発現を誘導する工程(a)
誘導は、PBP2a又はPBP2cタンパク質の発現を調節する系を活性化し、したがって、これらのタンパク質の過剰発現をもたらすための、抗生物質の存在下での迅速なインキュベーション(特に、3時間未満、好ましくは、1時間未満持続する)を実施することからなる。
【0060】
セフォキシチン及び6-アミノペニシラン酸(6-APA)から選択されるベータ-ラクタムクラスの抗生物質の存在下での、スタフィロコッカス・アウレウスの当該株を含有する生物学的試料の、少なくとも15分間にわたるこのインキュベーションは、当該細菌株におけるPBP2a及びPBP2bから選択される少なくとも1つのタンパク質の発現を誘導する。
【0061】
使用される抗生物質は、ベータ-ラクタムクラス、即ち、ベータ-ラクタム環を含有する抗生物質のものである。この抗生物質は、セフォキシチン及び6-アミノペニシラン酸(6-APA)から選択される。
【0062】
セフォキシチン、CAS番号35607-66-0は、いわゆる第2世代セファロスポリン類に分類されるベータ-ラクタムファミリーの抗生物質である。セフォキシチンは、細胞壁合成を阻害することによって、殺菌作用を発揮する。
【0063】
6-APAと略される6-アミノペニシラン酸、CAS番号551-16-6は、ペニシリンの誘導体である。
【0064】
好ましくは、誘導工程(a)に使用される抗生物質は、セフォキシチンである。
【0065】
PBP2a又はPBP2c発現の誘導は、典型的には、30セルシウス度と40セルシウス度との間で構成される温度で、適切な量の抗生物質の存在下での、生物学的試料のインキュベーションによって実施される。生物学的試料のインキュベーションは、好ましくは、攪拌しながら37℃で実施される。
【0066】
本発明の方法の特定の実施によれば、インキュベーション工程(a)は、少なくとも15分間の期間にわたって実施される。
【0067】
好ましくは、このインキュベーション工程(a)は、3時間未満、又は2時間未満、又は優先的には1時間未満の期間にわたって実施される。
【0068】
有利なことに、インキュベーション時間は、少なくとも15分間、少なくとも20分間、少なくとも25分間、少なくとも30分間、少なくとも35分間、少なくとも40分間又は少なくとも45分間であり得る。
【0069】
特に、このインキュベーション工程(a)は、以下の持続時間のうちの1つにわたって実施される:
15~180分間;
15~120分間;
15~90分間;又は
15~60分間。
【0070】
実施例に示されるように、PBP2a又はPBP2cの発現を誘導するこの工程の非存在下では、PBP2a又はPBP2cタンパク質のうちの1つの検出は、当該株における当該タンパク質の低すぎる発現に起因して不可能であるので、一部のメチシリン耐性S.アウレウス株は、そのままでは同定されない。
【0071】
細菌を単離する工程(b)
細菌は、当業者に公知の任意の手段によって、特に、遠心分離によって、単離され得る。
【0072】
方法の1つの実施によれば、工程(b)は、生物学的試料中に存在する非細菌細胞の選択的溶解の工程もまた含み、この選択的溶解工程は、試料の遠心分離の前に実施される。
【0073】
界面活性剤化合物は、膜の解離によって、動物細胞の溶解を可能にする。細菌は、硬いペプチドグリカン壁から構成されるので、界面活性剤の作用によっては溶解されない。
【0074】
界面活性剤化合物は、例えば、サポニン、Triton X100又はドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の群から選択され得る。
【0075】
特に、生物学的試料が血液試料である場合、細菌を単離する工程(b)は、有利なことに、界面活性剤化合物の添加による、試料中に存在する血液細胞の溶解と同時に実施される。
【0076】
細菌を溶解させ、細菌タンパク質を加水分解する工程(c)
細菌細胞を溶解させるための種々の方法が使用され得る。例には、熱的方法(100℃を上回る温度で10分間、又は液体窒素中での凍結)、酵素的方法(リゾチーム又はリチカーゼ(lyticase)の作用)又は機械的方法(高圧、粉砕又は超音波処理)が含まれる。
【0077】
本発明の方法の好ましい実施によれば、細菌は、超音波処理によって溶解される。
【0078】
細菌タンパク質のペプチドへの加水分解は、通常、以下の2つのプロセスのうちの1つによって実施される:
a)ペプチド結合のレベルでのランダムな切断を誘導する、化学的薬剤、例えば、ヒドロキシル基の作用による;又は
b)タンパク質結合の加水分解の作用を有するタンパク質分解性酵素(プロテアーゼ)の作用による。
【0079】
方法の好ましい実施によれば、工程(c)における細菌タンパク質の加水分解は、酵素的加水分解である。
【0080】
一般に使用されるプロテアーゼには、優先的には芳香族アミノ酸(チロシン、トリプトファン及びフェニルアラニン)の前でペプチド結合を加水分解するペプシン、グルタミン酸残基においてペプチド結合を切断するGluCエンドプロテアーゼ、又はアミノ酸リジン及びアルギニンのC末端側でタンパク質を切断するトリプシンが含まれる。
【0081】
本発明の方法の好ましい実施によれば、トリプシンが、細菌タンパク質加水分解工程のための酵素として使用される。トリプシンは、その活性の特異的な性質、それが生成するペプチドの適切なサイズ、及びC末端側に正に荷電し得るアミノ酸(リジン又はアルギニン)を有するトリプシンペプチドの性質のために好ましく、したがって、質量分析による分析(荷電した分子の分析)を促進する。
【0082】
工程(c)のための具体的なプロトコルは、実験部分に示される。
【0083】
標的化された質量分析による分析の工程(d)
質量分析は、目的の分子を検出及び同定する物理的分析技術である。これは、単一反応モニタリング、又は多重反応モニタリング、又は並行反応モニタリングとしても公知である。その原理は、それらの質量/電荷比(m/z)に従う荷電した分子(イオン)の気相分離にある。
【0084】
質量分析計は、
i)分析される分子をイオン化する、即ち、これらの分子に正又は負の電荷を付与するためのイオン化源;
ii)イオン化された分子を、それらの質量の電荷に対する比(m/z)に従って分離するための質量分析器;
iii)以下に記載されるように、分子イオンによって直接的に、又は分子イオンから産生されたイオンによって生成された信号を測定するための検出器
を含む。
【0085】
質量分析を実施するために必要なイオン化工程は、当業者に公知の任意の方法によって実施され得る。イオン化源は、アッセイされる分子を、ガス状のイオン化された状態にすることを可能にする。イオン化源は、正イオンを研究するために正モードで、又は負イオンを研究するために負モードで、使用され得る。いくつかの型の供給源が存在し、所望の結果及び分析される分子に依存して使用される。
【0086】
それらの質量/電荷比(m/z)の関数としてイオン化されたマーカーを分離する工程が実施される質量分析器は、当業者に公知の任意の質量分析器である。例としては、低分解能分析器、例えば、四重極(Q)、3Dイオントラップ(IT)又は線形イオントラップ(LIT)、及び分析物の正確な質量を測定し、電気セクターにカップリングされた磁気セクター、飛行時間(TOF)、又はOrbitrapを使用する、高分解能分析器が含まれる。
【0087】
それらのm/z比の関数としての分子イオンの分離は、1回実施され得る(単純な質量分析又はMS)、又は数回連続するMS分離が実施され得る。2回連続するMS分離が実施される場合、分析は、MS/MS又はMS2と呼ばれる。3回連続するMS分離が実施される場合、分析は、MS/MS/MS又はMS3と呼ばれる。
【0088】
標的化された質量分析は、この分析技法によって探索される目的の分子が事前に既知であり、試料中にそれらが存在するかどうかを同定するために分析が使用される、変形形態である。
【0089】
標的化されたアプローチ(多重反応モニタリング、MRM;並行反応モニタリング、PRM;多重反応モニタリング高分解能、MRM-HR;多重反応モニタリングキューブド(cubed)、MRM3、DIA/SWATH)は、衝突セル中で次いでフラグメント化される目的のペプチドに対応する正確な質量の、第1の分析器による選択からなる。次いで、生成されたフラグメントは、第3の分析器によってモニタリングされ、それらの信号/強度が測定される。
【0090】
クロマトグラフィーカップリングの場合、フラグメントの信号は、クロマトグラムの形態で示される時間の関数として測定され、したがって、同時に起こるクロマトグラフィーピークの出現(フラグメントの同時検出)は、試料中のペプチドの存在を示す。
【0091】
これらのアプローチは、それらの配列/質量独自性(又は質量/電荷比、m/z)及びそれらの検出可能性を確実にするために、マーカーペプチドの予備的選択及びバリデーションを必要とする。
【0092】
SRMモードの、又はMRMモードの原理は、前駆体イオンを特異的に選択し、それをフラグメント化し、次いで、そのフラグメントイオンのうちの1つを具体的に選択することである。かかる適用のために、トリプル四重極型又はイオントラップとのトリプル四重極ハイブリッドのデバイスが、一般に使用される。
【0093】
DIA/SWATH分析モードは、質量の電荷に対する比(m/z)1単位分通常は重複する連続前駆体イオン選択ウインドウのフラグメンテーションスペクトルを記録することからなり、これらのウインドウは、m/zにおける固定幅若しくは可変幅によって、又はm/zにおける固定幅のスライディングウインドウを使用することによって特徴付けられ、一方で、これら全てのウインドウをカバーする総サイクル時間は、各クロマトグラフィーピークが少なくとも5ポイント分サンプリングされることを可能にすることを確実にする。
【0094】
本発明の好ましい実施形態によれば、質量分析は、分析(SRM/MRM、MRM、MRM3又はPRMモード)の間又は分析(DIA/SWATHモード)の後に標的化される。
【0095】
より好ましくは、標的化された質量分析による分析は、MRM又はMRM3モードで実施され、最も好ましくは、MRM3モードで実施される。
【0096】
標的化された質量分析は、好ましくは、ペプチドのクロマトグラフィー分離又は電気泳動分離によるペプチドの分離とカップリングされる。
【0097】
ペプチドの分離は、当業者に公知の任意の技法によって実施され得、特に、逆相液体クロマトグラフィーによって、順相液体クロマトグラフィーによって、親水相液体クロマトグラフィーによって、又はキャピラリー電気泳動によって、実施され得る。
【0098】
好ましくは、ペプチドの分離は、逆相液体クロマトグラフィーによって実施される。
【0099】
この分析工程の間に探索されるペプチドは、これらのタンパク質に特異的な、PBP2a又はPBP2cタンパク質に由来するペプチドである。
【0100】
これらのタンパク質に由来する少なくとも1つのペプチドが検出され得るが、好ましくはいくつかのペプチドが分析の間に検出されて、得られた結果を確認することが理解される。
【0101】
本発明の方法の好ましい実施によれば、検出される、即ち、その存在が標的化された質量分析によって検出されるPBP2a又はPBP2cタンパク質に由来する少なくとも1つのペプチドは、以下のTable 1(表1)及びTable 2(表2)に示される以下の配列:配列番号3~配列番号14を有する12個のペプチドからなる群から選択される。
【0102】
【0103】
【0104】
有利なことに、これら全てのペプチドは、タンパク質の保存された領域中で選択され、したがって、PBP2a及びPBP2cのバリアントタンパク質中でも同定される。
【0105】
本発明に従う方法は、スタフィロコッカス・アウレウス株を含有することが可能な任意の型の生物学的試料に対して実施され得る。
【0106】
方法の特定の実施によれば、生物学的試料は、
- 生物学的液体、例えば、血液、血清、血漿、尿、脳脊髄液及び涙;
- 細菌培養物、例えば、血液培養物、寒天上の細菌コロニー、細菌培養ブロス;
- 食品試料;並びに
- 任意の他の型の生物学的試料
から選択される。
【0107】
これは、好ましくは、生物学的液体、特に、血液試料(血液、血清、血漿)、特に、スタフィロコッカス・アウレウスを含有する陽性血液培養物の培地である。
【0108】
用語「血液培養物」は、患者から採取され、次いで、当該試料中に存在する任意の細菌の増殖を可能にする適切な条件でインキュベートされた血液試料を意味すると理解される。
【0109】
この血液培養物は、血液培養物ボトル、例えば、bioMerieux社によって頒布されるBact/Alert範囲で市販されるもの、又はBecton Dickinson社によって頒布されるBactec範囲のものにおいて実施され得る。
【0110】
方法を実施するためのキット
本発明は、
- 以下の群:セフォキシチン及び6-アミノペニシラン酸(6-APA)から選択されるベータ-ラクタムクラスの抗生物質;
- トリプシン;
- 生物学的試料中に存在する非細菌細胞の選択的溶解を可能にする試薬、例えば、界面活性剤
を含む、上記方法を実施するためのキットにも関する。
【0111】
例えば、非細菌細胞の選択的溶解を可能にするための試薬には、以下の群の化合物:サポニン、Triton X100又はドデシル硫酸ナトリウム(SDS)から選択される界面活性剤化合物が含まれる。
【実施例】
【0112】
実施例
以下に示される実施例は、本発明に従う方法を例示することを意図しているが、本発明の目的の限定では決してない。
【0113】
特に、以下に示される実施例では、誘導工程の間に使用される抗生物質は、セフォキシチンであるが、6-APAもまた使用され得ることが理解される。
【0114】
(実施例1)
材料及び方法
誘導の工程(a)を、以下のプロトコルに従って実施する:
- 血液培養ボトルの隔壁を消毒する。
- 21Gシリンジ及び針を使用して、3.8mLの陽性血液培養培地を取り出し、15mLチューブに移す。
- 8μg/mLのセフォキシチン溶液200μLを添加する。
- 混合物をホモジナイズし、攪拌(180rpm)しながら37℃で30分間チューブをインキュベートする。
【0115】
細菌を単離する工程(b)を、有利なことに、以下のプロトコルに従って、血液細胞の溶解と同時に実施する:
- 30分間の誘導後、1mLの培地を1.5mLチューブに移し、12%SDS溶液200μLを添加し、10秒間ボルテックスする。
- 16,100gで2分間遠心分離し、上清を除去する。
- ペレットを1mLの食塩水中に再懸濁する。
- 16,100gで1分間遠心分離し、上清を廃棄する。
- 1mLの食塩水中に再懸濁する。
【0116】
細菌の機械的溶解及びタンパク質の酵素的消化の工程(c)を、以下のプロトコルに従って実施する:
- およそ70mgのガラスビーズ(ガラスビーズ、酸洗浄済み、150~212μm、Sigma-Aldrich社、参照G1145)を含有する1.5mL Eppendorf社LoBindチューブに、200μLの予め調製した細菌懸濁物を移す。
- 凍結乾燥したトリプシンから150mm重炭酸アンモニウム緩衝液中に即座に調製した1mg/mLのトリプシン溶液50μLを添加する。
- 50℃に設定した超音波破砕機の水浴中に試料を即座に配置し、次いで、10回の超音波サイクル(低出力)を開始する。
〇 30秒間の超音波オン
〇 30秒間の超音波オフ
- 10回の超音波サイクルの終了時に直接、5μLのギ酸を添加する。
- チューブを9600gで5分間遠心分離する。
- 150μLの上清を、質量分析のためのインサートを有する2mL琥珀色ガラスバイアルに移す。
【0117】
標的化された質量分析の工程(d)を、以下のプロトコルに従って実施する:
5μLの体積の、事前の溶解/消化工程からの試料を、クロマトグラフィーシステム中に注入する。分析を、Agilent 1290 infinity LCポンプ、Agilent 1290 Autosampler、及び60℃に設定したAgilent 1290 TCCカラムオーブンを備えたクロマトグラフィーシステムを使用して、Waters XBridge Peptide BEH C18逆相カラム、内径1mm、長さ100mm、粒径3.5μm、孔サイズ130Å上で実施する。クロマトグラフィー分離に使用した勾配は、Table 3(表3)に示される。
【0118】
溶媒A:H2O+0.1%ギ酸
溶媒B:アセトニトリル+0.1%ギ酸
【0119】
【0120】
クロマトグラフィーシステムの出口を、細菌タンパク質消化からのペプチドのオンライン分析のために、QTRAP 6500+質量分析計(Sciex社)のイオン化源に直接接続する。質量分析計を、MRM又はMRM-キューブド(MRM3)モードで操作し、PBP2aタンパク質についてモニタリングしたトランジションは、Table 4(表4)に記載される。
【0121】
【0122】
PBP2cタンパク質について従ったトランジションは、Table 5(表5)に記載される。
【0123】
【0124】
MRMモードでの分析のための質量分析計パラメーターは、以下のTable 6(表6)に記載される。
【0125】
【0126】
MRM3モードでの分析のための質量分析計パラメーターは、以下のTable 7(表7)(ペプチドVALELGSK)及びTable 8(表8)(ペプチドFQITTSPGSTQK)に記載される。
【0127】
【0128】
【0129】
(実施例2)
第1の結果
図1及び
図2は、MRMによるPBP2aに由来するペプチドの検出にとっての、誘導工程の必要性を示している。
【0130】
クロマトグラムAは、誘導工程なしの株の分析に由来し、クロマトグラムBは、誘導工程後の同じ株の分析に対応する。
【0131】
誘導の非存在下では、PBP2aに由来するペプチドのピークは、背景ノイズと混同され、したがって、検出不能である。
【0132】
対照的に、誘導工程の後に、特徴的なピークが観察される:これらは正確に描かれ、背景ノイズを上回る。PBP2aは、正確に検出される。
【0133】
血液培養物を、98株のMRSA、及びPBP2aを発現しないメチシリン感受性スタフィロコッカス・アウレウス(MSSA)19株で接種し、次いで、試料を、実施例1のプロトコルに従って、ボトル陽性性において調製し、分析した。
【0134】
曲線下面積を、各トランジションについて測定した。PBP2aを発現してはいないが、ペプチド溶出ウインドウ上でMSSA感受性株試料についても曲線下面積を測定して、ベースライン値を得た。トランジションの信号は、マトリックスに起因するノイズ又は干渉によって汚染され得るので、それを上回ったときに我々がペプチドの存在を確認できる閾値を確立するために、分析物(本明細書ではPBP2a)を含有しないマトリックスにおいてこのベースラインを評価することが必要である。
【0135】
各トランジションについて、閾値は、MSSA対照試料についてペプチド溶出ウインドウにわたって測定された最大面積の150%に対応する。
【0136】
(実施例3)
MRM分光分析結果
面積値が閾値よりも大きい全てのMRMトランジションを正とみなし、以下の結果表において1として示す。面積が閾値未満のトランジションは、0として示され、したがって、負とみなされる。少なくとも3つのペプチドが少なくとも2つの正のトランジションで検出される場合に、試料を、MRSA株を含むとみなした。
【0137】
以下のTables 9(表9)及びTable 10(表10)は、誘導工程なしで98のMRSAのMRM分析の間に得られた結果に対応する。
【0138】
以下のTable 11(表11)及びTable 12(表12)は、誘導工程ありで98のMRSAのMRM分析の間に得られた結果に対応する。
【0139】
【0140】
【0141】
【0142】
【0143】
Table 9(表9)~Table 12(表12)に示される結果に基づいて、以下の結論を述べることができる:
誘導工程なしの場合、98のMRSAのうち38が、少なくとも3つのペプチドについて少なくとも2つの正のトランジションを示し、これは、39%の検出感度に対応する。
【0144】
誘導工程ありの場合、98のMRSAのうち96が、少なくとも3つのペプチドについて少なくとも2つの正のトランジションを有する。これは、これらのバリデーション基準によるMRSAの98%検出の感度に対応する。MRSA9b及びMRSA41b株だけは正確に同定されないが、それは、MRSA41b株については、僅か2つのペプチドが2つのトランジションで検出され、MRSA9b株については、1つのペプチドが2つのトランジションで検出されているからである。
【0145】
同じ方法を使用して分析した全てのMSSAが、各トランジションについて、以前に設定された閾値よりも低い曲線下面積値を有する。これは、MSSAがMRSAとして同定されないことを意味し、これは、100%の特異性と等しい。
【0146】
(実施例4)
PBP2aについてのMRM3分光分析結果
面積値が閾値よりも大きいMRM3トランジションを正とみなし、1として示す。面積が閾値未満であるか又はそれと等しいトランジションは、0として示され、負とみなされる。少なくとも1つのMRM3トランジションが正と検出された場合に、試料を、MRSAと同定されたとみなした。19のMSSA株を、同じ手順に従って分析し、結果を以下の表に示す。
【0147】
Table 13(表13)は、誘導工程なしで98のMRSAのMRM3分析の間に得られた結果に対応する。これは、誘導工程なしで調製した98のMRSAのMRM3トランジションのバリデーションを示す。
【0148】
Table 14(表14)は、誘導工程ありで98のMRSAのMRM3分析の間に得られた結果に対応する。これは、誘導工程ありで調製した98のMRSAのMRM3トランジションのバリデーションを示す。
【0149】
【0150】
【0151】
19のメチシリン感受性株(MSSA1b、2b、3b、4b、5b、6b、7b、8b、9b、10b、11b、12b、13b、14b、15b、16b、17b、18b及び19b)を試験した:予想されたように、PBP2aに由来するペプチドは検出されなかった。全てゼロの値を有する結果は、詳細には示さない。
【0152】
誘導工程なしの場合、98の株のうち87が、少なくとも1つの正のトランジションを示し、これは、89%の感度に対応する(Table 12(表12))。
【0153】
誘導工程ありの場合、試験した全てのMRSA株は、少なくとも1つの正のMRM3トランジションを有し、これは、100%の感度に対応する(Table 13(表13))。
【0154】
同じ方法(誘導工程あり)に従って分析した全てのMSSAは、各トランジションについて、事前に決定された閾値未満又はそれと等しい曲線下面積値を有する。これは、感受性MSSA株がMRSAとして同定されないことを意味し、これは、100%の特異性と等しい。
【0155】
結論
本発明に従う方法の性能は、誘導工程の重要さを示す以下のTable 15(表15)に示される。
【0156】
【0157】
これらの結果は、本発明に従う方法が、1.5時間未満での、陽性血液試料(血液培養物)から直接の、現在市場にある他の方法よりも優れた性能(MRMでは98%の感度及び100%の特異性、MRM3では100%の感度及び100%の特異性)での、MRSAの迅速な同定を可能にすることを示す。
【0158】
試料調製プロトコルの実施は、単純であり、1回の分析当たりの消耗品のコストは最小限である。
【0159】
更に、分析は、PBP2aタンパク質の8つの異なるペプチドの検出に基づくので、1つ以上の点変異を有するPBP2aバリアントタンパク質の場合の非検出の可能性は、非常に低い。
【0160】
最後に、この方法の誘導工程は、そのタンパク質を発現するスタフィロコッカス・アウレウスの株におけるPBP2cタンパク質の検出のために必要であることも示されている。
図7に示される結果は、検出が、ベータ-ラクタムファミリーの抗生物質とのインキュベーションによる誘導の事前の工程なしには不可能であったことを示している。
【0161】
【配列表】
【国際調査報告】