(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-04
(54)【発明の名称】低分子シャペロンMOG1遺伝子をコードする突然変異体及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20250128BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20250128BHJP
A61P 9/06 20060101ALI20250128BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20250128BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20250128BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20250128BHJP
A61K 31/711 20060101ALI20250128BHJP
C12N 15/63 20060101ALN20250128BHJP
C07K 14/47 20060101ALN20250128BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
A61P9/00
A61P9/06
A61P9/04
A61K38/16
A61K48/00
A61K31/711
C12N15/63 Z
C07K14/47
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024542416
(86)(22)【出願日】2022-05-31
(85)【翻訳文提出日】2024-07-17
(86)【国際出願番号】 CN2022096227
(87)【国際公開番号】W WO2023201851
(87)【国際公開日】2023-10-26
(31)【優先権主張番号】202210425547.0
(32)【優先日】2022-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512007144
【氏名又は名称】華中科技大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】王 ▲チン▼
(72)【発明者】
【氏名】熊 洪波
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA13
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
4C084NA14
4C084ZA36
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA36
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、低分子シャペロンMOG1遺伝子をコードする突然変異体及びその使用に関し、生物医薬技術の分野に属する。本発明は、低分子シャペロンMOG1遺伝子をコードする突然変異体及び低分子シャペロンMOG1の突然変異体を、Brugada症候群、不整脈、拡張型心筋症又は心不全などの疾患を治療する薬物の調製に使用し、本発明における突然変異体は、野生型MOG1よりも心筋ナトリウム電流を効果的に向上させる。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基配列がSEQ ID NO:1で示される、ことを特徴とする低分子シャペロンMOG1遺伝子をコードする突然変異体。
【請求項2】
アミノ酸配列がSEQ ID NO:2で示される、ことを特徴とする低分子シャペロンMOG1の突然変異体。
【請求項3】
Brugada症候群、不整脈、拡張型心筋症又は心不全を治療する薬物の調製における請求項1に記載の低分子シャペロンMOG1遺伝子をコードする突然変異体の使用。
【請求項4】
前記不整脈は、心室頻拍、心室細動、洞不全症候群又は心房細動である、ことを特徴とする請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記低分子シャペロンMOG1遺伝子をコードする突然変異体は、心筋細胞のナトリウム電流密度を向上させることに用いられる、ことを特徴とする請求項3又は4に記載の使用。
【請求項6】
Brugada症候群、不整脈、拡張型心筋症又は心不全を治療する薬物の調製における請求項2に記載の低分子シャペロンMOG1の突然変異体の使用。
【請求項7】
前記不整脈は、心室頻拍、心室細動、洞不全症候群又は心房細動である、ことを特徴とする請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記低分子シャペロンMOG1の突然変異体は、心筋細胞のナトリウム電流密度を向上させることに用いられる、ことを特徴とする請求項6又は7に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物医薬技術の分野に属し、より具体的には、低分子シャペロンMOG1遺伝子をコードする突然変異体及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
不整脈は毎年世界中で何百万人もの突然死を引き起こしている。ほとんどの抗不整脈薬は不整脈を予防できるものではなく、逆に、不整脈を引き起こす可能性がある。Brugada症候群(BrS)は、心電図(ECG)の前胸部誘導におけるST上昇、心室頻拍(VT)又は心室細動(VF)を特徴とする致命的な心室不整脈症候群で、失神、てんかんや突然死を引き起こす。Brugada症候群は、30~40歳の比較的若くて健康な人において多数の心臓突然死を引き起こしており、特に東南アジアの人口において4%の突然死を引き起こしている。しかし、この症候群に利用できる治療法は限られている。植込み型除細動器(ICD)はよく使用されているが、不整脈を予防できるものではない。さらに、ICDはアレルギー反応、感染症、不適切な放電などを含む副作用を引き起こすことがよくある。したがって、Brugada症候群とそれに関連する不整脈に対する効果的な治療法を見つけることは、極めて重要である。
【0003】
1998年に、Brugada症候群を引き起こす最初の遺伝子SCN5Aが報告され、この遺伝子は、心臓ナトリウムチャネルNav1.5をコードしている。心臓ナトリウムチャネルNav1.5は、ヒト心筋細胞における活動電位の開始と伝導を担っている。Brugada症候群のような不整脈を引き起こすSCN5A突然変異は、機能喪失型突然変異である。現在までのところ、SCN5A突然変異はBrugada症候群を引き起こす最も一般的な突然変異であり、BrS症例の25%~30%を引き起こす。2008年、酵母ツーハイブリッドスクリーニングにより、Nav1.5と相互作用できるわずか20kDaの低分子シャペロンであるMOG1を同定した。さらなる研究により、MOG1は小胞体から細胞表面へのNav1.5の輸送を促進するが、ナトリウムチャネルの動態や個々のナトリウムチャネルのコンダクタンスには影響を及ぼさないことが示された。2003年、HEK293細胞において、Brugada症候群の突然変異p.G1743Rにより心臓ナトリウムチャネルNav1.5が細胞膜に正しく輸送されることができなくなり、心臓ナトリウム電流が大幅に減少する一方、MOG1の高発現によりこのような欠陥を回復させ得ることを発見した。また、SCN5A突然変異p.D1275Nは、洞不全症候群、心房細動などの不整脈や拡張型心筋症、心不全を引き起こす。SCN5A突然変異p.D1275Nによっても、心臓ナトリウムチャネルNav1.5が細胞膜に正しく輸送されることができなくなり、心臓ナトリウム電流が大幅に減少する一方、MOG1の高発現によりこのような欠陥を回復させ得る。最近、SCN5A突然変異体p.G1743Rノックイン(KI)マウス(Scn5aG1746R/+)が樹立された。ホモ接合型KIマウスは胎生期E12より前に死亡する。一方、ヘテロ接合型Scn5aG1746R/+ KIマウスは、心電図のST異常(顕著なJ波)や自発性心室頻脈性不整脈(VT)、てんかん発作や突然死などを含むBrugada症候群の臨床的特徴を再現する。心室頻拍の根本的なメカニズムは、心臓活動電位持続時間の短縮、第3相後期早期後脱分極(EAD)やナトリウム電流密度の低下である。さらに、アデノ随伴ウイルスAAVをベクターとして使用するAAV-MOG1遺伝子治療が、外因性MOG1遺伝子の発現を向上させ、細胞表面の心臓ナトリウムチャネルNav1.5の発現量を増加させ、心臓ナトリウム電流を増加させ、心臓の活動電位異常を正常化し、J波を除去し、Scn5aG1746R/+マウスの不整脈の病症を解消することを発見した。SCN5A突然変異p.D1275Nを持つヒト化KIマウスは以前に報告されている。p.D1275Nヒト化KIヘテロ接合マウスが不整脈、拡張型心筋症、心不全の特徴を持っていることを発見した。細胞表面の心臓ナトリウムチャネルNav1.5の発現量の低下と心臓ナトリウム電流密度の低下がこの疾患の主な原因である。AAV-MOG1遺伝子治療はまた、細胞表面でのNav1.5発現を向上させ、心臓ナトリウム電流密度を向上させ、ヒト化KIヘテロ接合マウスの拡張型心筋症と不整脈の表現型を回復させた。これらの研究は、AAV-MOG1遺伝子治療の使用により、SCN5A突然変異による不整脈、Brugada症候群、心室頻拍、心室細動、洞不全症候群、心房細動、拡張型心筋症、心不全などを治療できることを示した。
【0004】
しかし、高用量のMOG1のみが心臓ナトリウム電流を約1.6倍向上させ得ることが判明し、これが原因で将来の臨床遺伝子治療がより困難になる。その主な理由としては、超高用量のウイルスを患者に注射するために、超高力価のAAV-MOG1ウイルス製剤を調製する必要があるためである。この問題を解決するために、MOG1タンパク質の突然変異を試みたところ、超強力なMOG1突然変異体が見つかった。E50K MOG1突然変異体がHEK293/Nav1.5細胞の細胞表面でのNav1.5発現を効果的に向上させ、心臓ナトリウム電流密度を3.7倍向上させることを発見した。また、ラット心筋細胞では、E50K MOG1突然変異体も心臓ナトリウム電流密度を大幅に向上させた。その主な分子メカニズムは以下のとおりである。E50K MOG1突然変異体は、低分子GTPaseRanへの結合強度を低下させ、核内のMOG1の量を減らしてMOG1を細胞質に富化し、心臓ナトリウムチャネルNav1.5の細胞膜への輸送により深く関与するようにし、また、E50K MOG1突然変異体のタンパク質の安定性も向上する。さらに、野生型MOG1と比較して、低用量E50K MOG1突然変異体では、SCN5A突然変異によって引き起こされる心臓ナトリウム電流密度の減少を完全に回復できる。したがって、Ranとの相互作用に影響を与え、MOG1タンパク質の安定性を高めるMOG1突然変異体は、AAV-MOG1ベースの遺伝子治療においてより効果的に使用できると考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、心臓ナトリウム電流を向上させるための用量が高く、効果が不十分であるという従来技術における野生型MOG1の技術的課題を解決する。本発明は、低分子シャペロンMOG1遺伝子をコードする突然変異体及び低分子シャペロンMOG1の突然変異体を、Brugada症候群、不整脈、拡張型心筋症又は心不全などの疾患を治療する薬物の調製に使用し、本発明における突然変異体は、野生型MOG1よりも心筋ナトリウム電流を効果的に向上させる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1態様によれば、塩基配列がSEQ ID NO:1で示される、低分子シャペロンMOG1遺伝子をコードする突然変異体を提供する。
【0007】
本発明の第1態様によれば、アミノ酸配列がSEQ ID NO:2で示される低分子シャペロンMOG1の突然変異体を提供する。
【0008】
本発明の第1態様によれば、Brugada症候群、不整脈、拡張型心筋症又は心不全を治療する薬物の調製における、前記低分子シャペロンMOG1遺伝子をコードする突然変異体の使用を提供する。
【0009】
好ましくは、前記不整脈は、心室頻拍、心室細動、洞不全症候群又は心房細動である。
【0010】
好ましくは、前記低分子シャペロンMOG1遺伝子をコードする突然変異体は、心筋細胞のナトリウム電流密度を向上させることに用いられる。
【0011】
本発明の第1態様によれば、Brugada症候群、不整脈、拡張型心筋症又は心不全を治療する薬物の調製における前記低分子シャペロンMOG1の突然変異体の使用を提供する。
【0012】
好ましくは、前記不整脈は、心室頻拍、心室細動、洞不全症候群又は心房細動である。
【0013】
好ましくは、前記低分子シャペロンMOG1の突然変異体は、心筋細胞のナトリウム電流密度を向上させることに用いられる。
【発明の効果】
【0014】
総じて言えば、従来技術と比較して、本発明で考案された上記の技術的解決手段は主に以下の技術的利点を有する。
【0015】
(1)遺伝子治療に使用されるアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、サイズが4.3kb未満の遺伝子しかパッケージングできず、SCN5A遺伝子のコード領域のサイズは6048bpで、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターのパッケージング能力を超えている。この限界を克服するために、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを介してわずか561bpのMOG1遺伝子をパッケージングすることにより、Brugada症候群、心室頻拍、心室細動、洞不全症候群、心房細動、拡張型心筋症、心不全などの疾患を治療する遺伝子治療技術を開発した。本発明の遺伝子治療技術は、遺伝子が大きすぎるために遺伝子治療に使用できない他の遺伝子や疾患に対しても参照的意義を有する。
【0016】
(2)野生型MOG1をパッケージングするAAV-MOG1ベクターは関連遺伝子治療に使用することができるが、本発明によって開発されたMOG1に基づく超機能性突然変異体(MOG1-Ran結合を破壊した突然変異体、MOG1の安定性を向上させた突然変異体を含む)は、効果がより高く、患者に注入されるウイルスの量を減少させ、臨床治療での使用がより容易になる。
【0017】
(3)本発明において、E50K MOG1突然変異体が野生型MOG1よりも心筋ナトリウム電流を効果的に向上させる分子メカニズムは以下の通りである。HEK293/Nav1.5細胞において、E50K MOG1突然変異体は、野生型MOG1よりも心筋ナトリウム電流を効果的に向上させる。MOG1は、約22kDの小さなタンパク質であり、核内のRan-GTPレベルを調節し、タンパク質の核輸送に関与するRan-GTP放出因子であることが最初に発見された。MOG1は主に核に局在しており、Ranとの相互作用は進化的に高度に保存されている。マウスMOG1突然変異体R30Aは、Ran-GTPへの結合を強化することにより、GTP放出に対して過剰に活性化する。最近、核磁気共鳴(NMR)に基づく構造解析と生化学的特性評価を組み合わせた結果、RanとMOG1の相互作用には、いくつかの塩橋(RanR95-MOG150、RanR106-MOG1D27、RanK130-MOG1D70、RanK132-MOG153、及びRanK134-MOG153)が関与していることが明らかになった。ヒトMOG1突然変異体E50K及びD70Kは、Ranへの結合を大幅に減少させる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】HEK293/Nav1.5細胞におけるE50K MOG1突然変異体及び野生型MOG1による心筋ナトリウム電流の向上の結果を示す図である。
【
図2】ラット初代心筋細胞におけるE50K MOG1突然変異体及び野生型MOG1による心筋ナトリウム電流密度の結果を示す図である。
【
図3】半用量のE50K MOG1スーパー突然変異体と全用量の野生型MOG1がp.D1275N Nav1.5突然変異体のナトリウム電流密度を回復した結果を示す図である。
【
図4】半用量のE50K MOG1スーパー突然変異体と全用量の野生型MOG1がp.G1743R Nav1.5突然変異体のナトリウム電流密度を回復した結果を示す図である。
【
図5】半用量のE50K MOG1スーパー突然変異体と全用量の野生型MOG1がp.T353I Nav1.5突然変異体のナトリウム電流密度を回復した結果を示す図である。
【
図6】HEK293/Nav1.5細胞におけるE50K MOG1突然変異体及び野生型MOG1によるNav1.5の細胞表面発現の向上の結果を示す図である。
【
図7】E50K MOG1突然変異体のRanへの結合能の結果を示す図である。
【
図8】E50K MOG1突然変異体が核内での発現量を低下させ、細胞質内での発現量を向上させた結果を示す図である。
【
図9】本発明のE50K MOG1突然変異体がSCN5A機能喪失型突然変異によって引き起こされる不整脈及び心不全を治療するときの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の目的、技術的解決手段及び利点をより明確にするために、以下、図面及び実施例を参照して、本発明をさらに詳細に説明する。本明細書に記載される具体的な実施例は、本発明を説明するためにのみ使用されるものであり、本発明を限定するために使用されるものではないことが理解されるべきである。さらに、以下に説明する本発明の各実施形態に係る技術的特徴は、互いに矛盾しない限り、互いに組み合わせてもよい。
【0020】
本発明における突然変異体は、グルタミン酸(E)をコードする50位のコドンGAAが、リジン(K)をコードするコドンAAAに突然変異したE50K突然変異体である。MOG1遺伝子は4つの転写物を有し、本発明は、合計186個のアミノ酸を持つ最も長いMOG1タンパク質をコードするA型転写物AF265206である。B型転写物AF265205によってコードされるMOG1は合計146個のアミノ酸を持ち、3番目の転写物NM_001177802によってコードされるMOG1は合計165個のアミノ酸を持ち、4番目の転写物NM_001330127によってコードされるMOG1は合計118個のアミノ酸を持つ。すべての転写物の50位はグルタミン酸である。
【0021】
実施例1
E50K MOG1突然変異体は、野生型MOG1よりも心筋ナトリウム電流密度を効果的に向上させる。MOG1は、約22kDの小さなタンパク質であり、核内のRan-GTPレベルを調節し、タンパク質の核輸送に関与するRan-GTP放出因子であることが最初に発見された。MOG1は主に核に局在しており、Ranとの相互作用は進化的に高度に保存されている。マウスMOG1突然変異体R30Aは、Ran-GTPへの結合を強化することにより、GTP放出に対して過剰に活性化する。最近、核磁気共鳴(NMR)に基づく構造解析と生化学的特性評価を組み合わせた結果、RanとMOG1の相互作用には、いくつかの塩橋(RanR95-MOG150、RanR106-MOG1D27、RanK130-MOG1D70、RanK132-MOG153、及びRanK134-MOG153)が関与していることが明らかになった。2018年、Baoらは、ヒトMOG1変異体E50K及びD70KがRanへの結合を大幅に減少させることを発見した。
【0022】
次に、本発明は、ヒトMOG1について3つの突然変異体、すなわちR29A、E50K及びD70Kを確立し、心臓ナトリウムイオンチャネル機能及び心臓ナトリウム電流(INa)密度に対する、MOG1-Ran相互作用に影響を及ぼす可能性のあるこれらの突然変異体の影響を検出した。本発明は、3つの突然変異体、野生型MOG1陽性対照及び空のプラスミド陰性対照をそれぞれHEK293-Nav1.5細胞にトランスフェクトし、全細胞パッチクランプを使用してナトリウム電流の変化を記録及び分析する。対照プラスミドと比較して、本発明のすべての突然変異体は、心臓ナトリウム電流INaのピーク密度を有意に向上させた(
図1のA、
図1のB)。さらに、野生型(WT)MOG1と比較して、E50K-MOG1突然変異体は約2.14倍向上した(-593.9±75.61 pA/pF VS-276.4±34.05、P<0.01、E50K-MOG1 VS野生型MOG1)。このような結果は、E50K-MOG1突然変異体が野生型よりも心臓ナトリウム電流INaのピーク密度を大幅に向上できることを示している。
図1からわかるように、HEK293/Nav1.5細胞では、E50K MOG1突然変異体は野生型MOG1よりも心筋ナトリウム電流を効果的に向上させた。(A)ナトリウム電流の模式図、(B)ナトリウムのピーク電流密度、*:P<0.05、**:P<0.01、ns:not significant (n=15~34 cells per group)。したがって、E50K-MOG1突然変異体は野生型MOG1よりも機能が高い。同じ結果がラット初代心筋細胞でも検証された(
図2のA、
図2のB、及び
図2のC)。
図2からわかるように、E50K MOG1突然変異体は、ラット初代心筋細胞において野生型MOG1よりも心筋ナトリウム電流密度を効果的に向上させることが分かった。A:全細胞パッチクランプによって記録されたナトリウム電流の元の模式図、B:ナトリウム電流I-V曲線(current vs voltage;-120mV~100mVで活性化)、C:ピークナトリウム電流密度(pA/pF)。*:P<0.05、**:P<0.01、ns:not significant (n=13~19 cells per group)。
【0023】
実施例2
E50K MOG1突然変異体は、SCN5A突然変異p.D1275Nによって引き起こされるナトリウム電流異常を過剰に機能的に回復する。野生型Nav1.5及びp.D1275N Nav1.5突然変異体、並びにさまざまな量の野生型MOG1 p3XFLAG-CMV10-WT-MOG1又は突然変異体MOG1 p3XFLAG-CMV10-E50K-MOG1をtsA-201細胞株にトランスミッションし、次に、ナトリウム電流をパッチクランプによって記録した。p.D1275N SCN5A突然変異体は、ナトリウム電流ピーク密度を約32.48%低下させた(-132.8±19.76 vs-196.7±24.33、D1275N-Nav1.5 vs野生型Nav1.5)。0.6μgの野生型MOG1はD1275N-Nav1.5のナトリウム電流密度を回復できるが、0.3μgの野生型MOG1はp.D1275N突然変異体のナトリウム電流密度を向上させることができない。逆には、0.3μgのE50K MOG1突然変異体は、D1275N-Nav1.5のナトリウム電流密度を正常に回復でき、0.6μgの野生型MOG1と同じ有効性であった(
図3のA、
図3のB、及び
図3のC)。
図3からわかるように、半用量のE50K MOG1スーパー突然変異体は、p.D1275N Nav1.5突然変異体のナトリウム電流密度の回復において全用量の野生型MOG1と同等である。*:P<0.05, **:P<0.01, ns:not significant (n=25~31 cells per group)。
【0024】
実施例3
E50K MOG1突然変異体は、SCN5A突然変異p.G1743Rによって引き起こされるナトリウム電流異常を過剰に機能的に回復する。上記のp.D1275N Nav1.5突然変異体と同じ実験により、0.3μgのE50K MOG1突然変異体が、G1743R-Nav1.5のナトリウム電流密度を正常に回復でき、0.6μgの野生型MOG1と同じ有効性であることが実証された(
図4のA、
図4のB、
図4のC)。
図4からわかるように、半用量のE50K MOG1スーパー突然変異体は、p.G1743R Nav1.5突然変異体のナトリウム電流密度の回復において全用量の野生型MOG1と同等である。*:P<0.05, **:P<0.01, ns:not significant (n=14~22 cells per group)。
【0025】
実施例4
E50K MOG1突然変異体は、SCN5A突然変異p.T353Iによって引き起こされるナトリウム電流異常を過剰に機能的に回復する。Nav1.5突然変異p.T353IはBrugada症候群を引き起こす。ナトリウム電流は、野生型チャネルと比較して約74%減少した。上記p.D1275N及びp.G1743R Nav1.5突然変異体と同じ実験により、0.3μgのE50K MOG1突然変異体が、T353I-Nav1.5のナトリウム電流密度を正常に回復でき、0.6μgの野生型MOG1と同じ有効性であることが実証された(
図5のA、
図5のB、及び
図5のC)。
図5からわかるように、半用量のE50K MOG1スーパー突然変異体は、p.T353I Nav1.5突然変異体のナトリウム電流密度の回復において全用量の野生型MOG1と同等である。*:P<0.05, **:P<0.01, ns:not significant (n=14~22 cells per group)。
【0026】
実施例5
E50K MOG1突然変異体は、野生型MOG1よりもNav1.5の細胞表面発現を効果的に向上させる。HEK293/Nav1.5細胞では、野生型MOG1と同様に、E50K又はD70K MOG1突然変異体はいずれも細胞内の総Nav1.5タンパク質の発現に影響を与えなかった(
図6のA、
図6のB)。しかし、細胞膜表面上のNav1.5については、野生型MOG1は対照ベクターと比較して細胞表面上のNav1.5の発現量を有意に増加させた(
図6のC、
図6のD)。野生型MOG1と比較して、E50K MOG1突然変異体は、細胞表面でのNav1.5の発現量をより強く有意に増加させたが、D70K MOG1突然変異体にはこの効果はなかった(
図6のC、
図6のD)。
図6からわかるように、HEK293/Nav1.5細胞では、E50K MOG1突然変異体は野生型MOG1よりもNav1.5の細胞表面発現を効果的に向上させた。A:細胞内の総Nav.15発現量のWestern blotting(WB)の模式図。B:(A)Western blotting図と同様の定量的統計分析。C:細胞膜表面上のNav.15発現量のWestern blottingの模式図。D:(C)Western blotting図と同様の定量的統計分析。*:P<0.05, **:P<0.01, ns:not significant。したがって、E50K MOG1突然変異体が野生型MOG1よりも心筋ナトリウム電流を効果的に向上させる分子メカニズムは以下のとおりである。E50K MOG1突然変異体は野生型MOG1よりもNav1.5を細胞表面に効果的に輸送する。
【0027】
実施例6
E50K MOG1突然変異体は、Ranへの結合をほとんど失った。E50K MOG1突然変異体がナトリウム電流を向上させる分子メカニズムをさらに明らかにするために、本発明は、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)プルダウン実験(GSTプルダウン)により、E50K MOG1突然変異体のRanへの結合能を検出した。GST-Ranを餌として、MOG1をプルダウンする能力を検出した。野生型MOG1と比較して、E50K MOG1突然変異体は、Ranへの結合を約95%低下させたが、D70K MOG1突然変異体はこの結合を約26%だけ低下させた(
図7のA、
図7のB)。さらに、本発明は、免疫共沈降法によりGSTプルダウンの実験結果をさらに検証した。tsA-201細胞では、MOG1とRanとの間に相互作用がある(
図7のC)。野生型MOG1と比較して、E50K MOG1突然変異体はRanへの結合を約92%低下させたが、D70K MOG1突然変異体は約47%低下させた(
図7のD、
図7のE)。A:GSTプルダウン実験。GST-Ran又は対照GSTタンパク質を、餌としてグルタチオンセファロースによって大腸菌から精製し、その結果はカーミン染色で示されている(下)。FLAG標識野生型MOG1、E50K又はD70K MOG1突然変異体を、発現のためにヒトtsA201細胞にトランスミッションした。細胞溶解物は獲物とした。餌と獲物を混合してGSTプルダウン分析を行った。次に、相互作用を、抗FLAG抗体を使用してウェスタンブロットによって検出した。B:(A)Western blotting図と同様の定量的統計分析。C:共免疫沈降実験。FLAG標識MOG1とHA標識RanをTSA-201細胞で共発現させた後、溶解し、HA抗体又は対照マウスIgGとインキュベートして沈殿させ、次に、野生型MOG1と野生型Ranの相互作用を、抗FLAG抗体を使用してウェスタンブロットによって検出した。D:Ranとの相互作用に対するMOG1突然変異体の影響を検出するための免疫共沈降実験。E:(D)Western blotting図と同様の定量的統計分析。**:P<0.01 (n=3 per group)。
【0028】
実施例7
E50K MOG1突然変異体は核内での発現を低下させ、細胞質での発現の向上を引き起こす。E50K MOG1突然変異体はRanへの結合能をほぼ完全に失っているため、このMOG1突然変異体は核内での発現を低下させることができ、それにより細胞質での発現量を大幅に増加させると考えられる。FLAGタグを保持する野生型及び突然変異体MOG1をtsA-201細胞で発現させたところ、野生型と突然変異体MOG1の総タンパク質発現量が同等であることがわかった(
図8のA、
図8のB)。しかし、核成分と細胞質成分を分離したところ、核内のE50K MOG1突然変異体とE70K MOG1突然変異体の発現はそれぞれ約95.72%及び約63.32%低下することが判明した(
図8のC、
図8のD)。また、E50K MOG1及びE70K MOG1突然変異体は、細胞質における発現をそれぞれ約42.67%及び約19.14%向上させた(
図8のE、
図8のF)。一方、R29A、D33A、又はD44A MOG1突然変異体は、核又は細胞質におけるこれらの発現に影響を与えなかった。また、免疫蛍光法により、HEK293細胞におけるE50K MOG1突然変異体の発現も検出した。
図8のGに示すように、野生型MOG1は核と細胞質に均一に分布しており、D70K MOG1突然変異体は核での発現が低下し、細胞質での発現が向上しているが、E50K MOG1突然変異体は核ではほとんど発現せず、細胞質で多量に発現する。
図8からわかるように、E50K MOG1突然変異体は核内での発現量を低下させ、その結果、細胞質での発現量が向上する。A:Western blottingの模式図。FLAG標識野生型及びMOG1突然変異体をtsA-201細胞にトランスミッションし、総MOG1タンパク質発現を抗FLAG抗体によって検出した。B:(A)Western blotting図と同様の定量的統計分析。C:核タンパク質のWestern blottingの模式図。D:(C)Western blotting図と同様の定量的統計分析。E:細胞質タンパク質のWestern blotting模式図。F:(E)Western blotting図と同様の定量的統計分析。G:免疫蛍光染色は、tsA-201細胞内のMOG1タンパク質の特定の位置を示す。FLAG標識MOG1プラスミドをtsA-201細胞にトランスミッションし、MOG1タンパク質を抗FLAG抗体、次に二次抗体でインキュベートすると、青色DAPI染色により細胞核が示された。Scale bar:20 um。
【0029】
図9は、本発明のE50K MOG1突然変異体がSCN5A機能喪失型突然変異によって引き起こされる不整脈及び心不全を治療するときの模式図である。p.G1743R、p.D1275N、p.T353Iなどの機能喪失型突然変異は、心臓ナトリウムイオンチャネルNav1.5によって生成されるナトリウム電流密度を低下させるため、Brugada症候群、拡張型心筋症、心不全、心房細動、洞不全症候群などの疾患を引き起こす。E50K MOG1突然変異体は、心臓ナトリウムチャネル機能及び心臓ナトリウム電流密度に対するこれらのNav1.5突然変異体の影響を正常に回復することができ、その回復強度は野生型よりも高かった。その分子メカニズムは以下のとおりである。E50K MOG1突然変異体は、MOG1と核タンパク質Ranの相互作用を阻害し、それによって核に入るMOG1の数を減らし、このように、細胞質内のMOG1の数を大幅に増加させる。したがって、E50K MOG1突然変異体は、Nav1.5とより効果的に相互作用し、Nav1.5の上膜輸送を促進し、最終的にナトリウム電流を正常レベルに回復して、疾患を治療する目的を達成することができる。
【0030】
当業者であれば、上記の説明は本発明の好ましい実施例態に過ぎず、本発明を限定するためのものではなく、本発明の精神及び原則の範囲内で行われるいかなる修正、等価な置換及び改良等は、すべて本発明の保護範囲に含まれるべきであることが容易に理解される。
【配列表】
【国際調査報告】