(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-06
(54)【発明の名称】VCI、PSCIまたはCSVDの治療におけるカリクレイン1またはその誘導体の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 38/48 20060101AFI20250130BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20250130BHJP
A61K 47/60 20170101ALI20250130BHJP
C12N 9/64 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
A61K38/48 110
A61P25/28
A61K47/60
C12N9/64 A ZNA
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024545009
(86)(22)【出願日】2022-12-30
(85)【翻訳文提出日】2024-09-30
(86)【国際出願番号】 CN2022144054
(87)【国際公開番号】W WO2023142889
(87)【国際公開日】2023-08-03
(31)【優先権主張番号】202210106039.6
(32)【優先日】2022-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524159077
【氏名又は名称】江蘇衆紅生物工程創薬研究院有限公司
【氏名又は名称原語表記】ZONHON BIOPHARMA INSTITUTE,INC
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲馬▼ 永
(72)【発明者】
【氏名】江 辰▲陽▼
(72)【発明者】
【氏名】王 俊
(72)【発明者】
【氏名】王 和
(72)【発明者】
【氏名】▲許▼ 振
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076BB01
4C076BB11
4C076CC01
4C076CC41
4C076EE59
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA42
4C084BA44
4C084DC04
4C084MA52
4C084MA66
4C084NA12
4C084NA14
(57)【要約】
血管性認知障害(VCI)、脳卒中後認知機能障害(PSCI)又は脳小血管病(CSVD)の治療におけるカリクレイン1又はその誘導体の使用。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管性認知機能障害を治療または改善する薬物の製造におけるカリクレイン1またはその誘導体の使用。
【請求項2】
血管性認知機能障害を治療または改善するための薬物組成物であって、カリクレイン1またはその誘導体を含むことを特徴とする、薬物組成物。
【請求項3】
血管性認知機能障害を治療または改善する方法であって、カリクレイン1またはその誘導体を患者に投与することを特徴とする、方法。
【請求項4】
脳卒中後認知機能障害を治療または改善する薬物の製造におけるカリクレイン1またはその誘導体の使用。
【請求項5】
脳卒中後認知機能障害を治療または改善するための薬物組成物であって、カリクレイン1またはその誘導体を含むことを特徴とする、薬物組成物。
【請求項6】
脳卒中後認知機能障害を治療または改善する方法であって、カリクレイン1またはその誘導体を患者に投与することを特徴とする、方法。
【請求項7】
血管病変を伴うアルツハイマー病を治療または改善する薬物の製造におけるカリクレイン1またはその誘導体の使用。
【請求項8】
血管病変を伴うアルツハイマー病を治療または改善するための薬物組成物であって、カリクレイン1またはその誘導体を含むことを特徴とする、薬物組成物。
【請求項9】
血管病変を伴うアルツハイマー病を治療または改善する方法であって、カリクレイン1またはその誘導体を患者に投与することを特徴とする、方法。
【請求項10】
脳小血管病または脳小血管病による認知機能障害を治療または改善する薬物の製造におけるカリクレイン1またはその誘導体の使用。
【請求項11】
脳小血管病または脳小血管病による認知機能障害を治療または改善するための薬物組成物であって、カリクレイン1またはその誘導体を含むことを特徴とする、薬物組成物。
【請求項12】
脳小血管病または脳小血管病による認知機能障害を治療または改善する方法であって、カリクレイン1またはその誘導体を患者に投与することを特徴とする、方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載のカリクレイン1は、天然ヒト組織カリクレイン1であるか、または突然変異された組換えヒト組織カリクレイン1または突然変異されていない組換えヒト組織カリクレイン1であることを特徴とする、カリクレイン1。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか一項に記載のカリクレイン1誘導体は、カリクレイン1の全長タンパク質、その部分的タンパク質、またはその突然変異体、融合タンパク質、またはその種々の形式の修飾体であることを特徴とする、カリクレイン1誘導体。
【請求項15】
請求項1~12のいずれか一項に記載のカリクレイン1誘導体は、カリクレイン1のポリエチレングリコール修飾体であることを特徴とする、カリクレイン1誘導体。
【請求項16】
請求項15に記載のカリクレイン1のポリエチレングリコール修飾体は、M-SPA-
5K、M-SPA-10K、Y-PALD-30K、またはY-PALD-40Kで修飾されることを特徴とする、カリクレイン1のポリエチレングリコール修飾体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管性認知機能障害(VCI)、脳卒中後認知機能障害(PSCI)または脳小血管病(CSVD)の治療におけるカリクレイン1またはその誘導体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
社会の発展と高齢化の進展に伴って、脳血管疾患の発症率が年々上昇しており、患者と家族の生活の質に深刻な影響を及ぼす。1993年にHachinskiとBowlerが血管性認知機能障害(vascular cognitive impairment,VCI)という概念を初めて提唱した。これは脳血管疾患の危険因子(例えば高血圧、糖尿病、高脂血症など)、明らかな脳血管疾患(例えば脳梗塞と脳出血など)または明ら
かでない脳血管疾患(例えば白質粗しょう化、慢性脳虚血)による軽度の認知障害から痴呆までの一連の症候群である(『2019年中国血管性認知障害診療ガイドライン』、『中国の脳卒中の予防治療の指導規範(2021版)』における『中国血管性認知障害診療指導規範』)。
【0003】
血管性認知機能障害(VCI)の患者には、認知機能障害と精神・行動症状が見られる。一部の患者では、その認知障害は抽象的思惟、概念の形成と変換、思惟の柔軟性、情報処理速度などの機能的障害を主としており、記憶力が保たれている。また、複数の領域に障害がみられ、記憶力も著しく障害されている患者もいる。VCIの認知機能障害の治療薬には、コリンエステラーゼ阻害薬や非競合的N-メチル-D-アスパラギン酸受容体拮抗薬がある。VCIの精神・行動症状には、知覚、思惟、心境、行動などの異常が含まれ、無気力、抑うつ、焦燥感、興奮・攻撃性などがよくみられる。その治療は、抗うつ薬である選択的セロトニン再取り込み阻害薬などの対症治療薬が利用可能である(『中国血管性認知障害診療指導規範』)。脳卒中後認知機能障害(post-stroke cognitive impairment、PSCI)、脳小血管病(cerebral small vessel disease、CSVD)による認知機能障害、血管病変を伴うアルツハイマー病(Alzheimer’s disease、AD)などがVCIの主要なサブタイプである。
【0004】
脳卒中後認知機能障害は、脳卒中によって起こる認知機能障害が強調され、同じく認知機能の損傷や精神・行動症状が見られる。PSCIとVCIとADは、神経病理学的と神経生化学的機序においてある程度の共通性があることを考慮して、中国の『卒中後認知障害管理専門家共通認識2021』は、PSCIを治療するにあたって、VCIやADなどの研究や証拠を参考にして、その認知障害に対しては一般的にアセチルコリンエステラーゼ阻害剤や非競合的N-メチル-D-アスパラギン酸受容体拮抗薬(メマンチン)を使用し、卒中後の抑うつに対しては一般的に抗うつ薬を使用することを推奨している。欧州脳卒中組織が最近発表した『2021年 ESO/EAN共同ガイドライン:脳卒中後認知障害』によれば、脳卒中後認知障害に対する治療薬はまだ存在しない。本ガイドラインが注目する試験の中に脳卒中後認知障害に焦点を当てたものは一つあるが、陽性の結果は得られなかった。本ガイドラインはまた、PSCIに対するランダム化比較試験の高品質のデータが著しく不足すると指摘している。
【0005】
脳小血管病(CSVD)は、脳内の小動脈、細動脈、毛細血管、細静脈、小静脈が複数の危険因子による影響を受けて引き起こされる一連の臨床的、画像的、病理学的症候群であり、急性CSVDと慢性CSVDに分類される。急性CSVDは虚血性脳卒中を引き起
こす可能性があり、現在では急性虚血性脳卒中の予防・治療法(例えば、血圧降下、血栓溶解、抗血小板、脂質降下など)を参考にして治療することが推奨されている。慢性CSVDの患者には、認知障害、運動障害、感情障害、排便障害などの症状が見られ、明確に診断された後は、一般的に対症的な治療が推奨される。例えば、CSVDによる認知障害に対してはコリンエステラーゼ阻害薬や非競合的N-メチル-D-アスパラギン酸受容体拮抗薬が使用され、抑うつに対しては一般的にセロトニン再取り込み阻害薬などの抗うつ薬が使用される(『中国脳小血管病診療専門家共通認識』)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】『2019年中国血管性認知障害診療ガイドライン』
【非特許文献2】『中国の脳卒中の予防治療の指導規範(2021版)』
【非特許文献3】『卒中後認知障害管理専門家共通認識2021』
【非特許文献4】『2021年 ESO/EAN共同ガイドライン:脳卒中後認知障害』
【非特許文献5】『中国脳小血管病診療専門家共通認識』
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする第一の技術的課題は、血管性認知機能障害治療用の新薬を提供することである。本発明が解決しようとする第二の技術的課題は、脳小血管病治療用の新薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明が解決しようとする第一の技術的課題は、血管性認知機能障害治療用の新薬を提供することであり、具体的には、血管性認知機能障害を治療または改善する薬物の製造におけるカリクレイン1またはその誘導体の使用を提供する。
【0009】
本発明はまた、血管性認知機能障害を治療または改善するための薬物組成物を提供する。前記組成物は、カリクレイン1またはその誘導体を含む。
【0010】
本発明はまた、血管性認知機能障害を治療または改善する方法を提供する。前記方法は、カリクレイン1またはその誘導体を患者に投与する方法である。
【0011】
前記血管性認知機能障害には、脳卒中後認知機能障害、脳小血管病による認知機能障害、血管病変を伴うアルツハイマー病などが含まれるが、これらに限定されない。
【0012】
好ましくは、前記血管性認知機能障害は、脳卒中後認知機能障害である。
好ましくは、前記血管性認知機能障害は、脳小血管病による認知機能障害である。
好ましくは、前記血管性認知機能障害は、血管病変を伴うアルツハイマー病である。
【0013】
本発明が解決しようとする第二の技術的課題は、脳小血管病治療用の新薬を提供することであり、具体的には、脳小血管病を治療または改善する薬物の製造におけるカリクレイン1またはその誘導体の使用を提供する。
【0014】
本発明はまた、脳小血管病を治療または改善するための薬物組成物を提供する。前記組成物は、カリクレイン1またはその誘導体を含む。
【0015】
本発明はまた、脳小血管病を治療または改善する方法を提供する。前記方法は、カリクレイン1またはその誘導体を患者に投与する方法である。
【0016】
前記カリクレイン1は、天然抽出物のカリクレイン1であってよく、組換えカリクレイン1であってもよい。前記カリクレイン1誘導体は、カリクレイン1の全長タンパク質であってよく、その部分的タンパク質、突然変異体、融合タンパク質、または種々の形式の修飾体であってもよい。
【0017】
好ましくは、前記カリクレイン1誘導体は、ポリエチレングリコールで修飾したカリクレイン1である。
【0018】
前記カリクレイン1またはその誘導体は単独で投与してよいし、または脳小血管病、血管性認知機能障害を治療または改善する他の薬物(例えば、コリンエステラーゼ阻害薬や非競合的N-メチル-D-アスパラギン酸受容体拮抗薬など)と併用で投与してもよい。
【0019】
投与方法は、注射投与、経口投与などを含むが、これらに限定されない。前記注射投与には、静脈注射、皮下注射、筋肉注射などが含まれるが、これらに限定されない。
【0020】
広く受け入れられている血管性認知機能障害の動物モデルには、4血管閉塞法(4-vessel occlusion、4-VO)、改良的4-VO法、3期4-VO法、2血管閉塞法(2-VO)、改良的2-VO法、改良的一側総頚動脈閉塞一側総頚動脈狭窄法(modified common carotid artery occlusion,mCCAO)などによるラットのモデル、及び総頚動脈狭窄法(bilateral CCA stenosis,BCAS)、非対称的頚動脈手術(asymmetric CCA surgery,ACAS)などによるマウスのモデルがある(『血管性認知障害動物モデルの研究進展』)。
【0021】
広く受け入れられている脳小血管病の動物モデルには、主に両側総頸動脈結紮モデル、両側総頸動脈狭窄モデル(BCAS)、脳卒中易発症高血圧自然発症ラットモデルなどがある(『脳小血管病トランスレーショナル・リサーチに関する中国専門家の共通認識』)。
【0022】
血管性認知障害と脳小血管病の研究においてよく受け入れられている実験動物モデルであるBCASモデルは、動物の脳血流が著しく低下し、これによって慢性的な低灌流損傷が引き起こされることで、血液脳関門の透過性が増加し、白質が損傷され、さらに記憶機能障害、運動機能損傷などが引き起こされる。
【0023】
本発明の研究結果は、BCASモデルマウスにカリクレイン1またはその誘導体を投与することで、動物の損傷した協調運動機能、前肢の損傷した筋肉強度、ワーキング・メモリー、空間学習・記憶機能が顕著に改善されたことを示している。したがって、カリクレイン1またはその誘導体は、血管性認知機能障害、脳小血管病の治療に使用できる。
【0024】
なお、脳卒中後認知機能障害、脳小血管病による認知機能障害、血管病変を伴うアルツハイマー病は、すべて血管性認知機能障害の重要なサブタイプであり、それぞれの臨床上の治療は同様な対症療法薬を使用する。例えば、認知機能障害に対して、血管性認知機能障害と脳卒中後認知機能障害と脳小血管病の治療ガイドラインや専門家共通認識は一般的に、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤や非競合的N-メチル-D-アスパラギン酸受容体拮抗薬(メマンチン)の使用を推奨しており、抑うつなどの精神・行動症状に対する薬物治療は、一般的に抗うつ薬の使用を推奨する。したがって、カリクレイン1又はその誘導体は、血管性認知機能障害のさまざまなサブタイプ、例えば脳卒中後認知機能障害、脳小血管病による認知機能障害、血管病変を伴うアルツハイマー病などの治療に用いることができる。
【0025】
カリクレイン-キニン系(KKS、kallikrein-Kinin system)は、心血管系、腎臓、神経系の機能調節などさまざまな生理的および病理的な過程に関与している。KKS系には、カリクレイン、キニノゲン、キニン、キニン受容体(B1、B2受容体)及びキニナーゼが含まれる。カリクレインは、キニノゲナーゼあるいはカリジノゲナーゼとも称され、セリンプロテアーゼの一種であり、血漿カリクレイン1(PK)と組織カリクレイン1(TK)の2種に分けられ、どちらも非常に重要な生理作用を発揮している。現在、ヒト組織カリクレインは少なくとも15のメンバー(KLK1-KLK15)で構成されると考えられており、そのなかで組織カリクレイン1(KLK1)に対する研究が比較的に多く行われている。KLK1はキニノゲンをキニンに変換させ、対応する受容体に作用して一連の生物学的作用を発揮する。中国では2種類の注射用カリクレイン1が販売されており、適応症には微小循環障害や軽度・中等度の急性虚血性脳卒中などが含まれる。
【0026】
血管性認知機能障害や脳小血管病などは、KLK1の承認適応とはかなり異なる。病理的メカニズムの面では、急性虚血性脳卒中は様々な原因による血管壁病変によって、脳動脈の主幹動脈や分枝動脈の内腔に狭窄や閉塞が生じ、または血栓が形成されるため、脳局所の血流が減少し、又は血液供給が遮断されて、脳組織に虚血性または低酸素性の壊死が発生して局所神経系症状や徴候が現れるのである。一方、血管性認知障害は、脳血管疾患の危険因子(例えば高血圧、糖尿病、高脂血症など)、明らかな脳血管疾患(例えば脳梗塞、脳出血など)又は明らかでない脳血管疾患(例えば白質粗しょう化、慢性脳虚血)による軽度の認知障害から痴呆までの一連の症候群である。
【0027】
脳小血管病の発病過程において、神経血管ユニット(neurovascular unit,NVU)の機能異常が重要な役割を果たしており、何らかの原因でNVUが構造的または機能的に変化した場合にCSVDが起こりうる。よく考えられる発病のメカニズムとして慢性脳虚血や低灌流、内皮機能障害や血液脳関門の破壊、組織間液の還流障害、炎症反応、遺伝的要因などが挙げられる。異なるメカニズムの間は相互に影響し合っている(the neurovaseular unit coming of age:a
journey through neurovaseular coupling in health and disease)。
【0028】
さらに、急性虚血性脳卒中の診断と治療法は、血管性認知障害や脳小血管病とは大いに異なっている。急性虚血性脳卒中に対する最も効果的な治療は、タイム・ウィンドウ内で血管内再開通療法(静脈内血栓溶解、機械的血栓回収、血管形成術など)を行うことであり、治療の成功率は発症時間と密接に関係する。薬物治療には、抗血小板・抗凝・繊維減少・容積拡張・血管拡張薬、スタチン系薬剤、神経保護薬などの使用が含まれる。VCIとPSCIはよく認知機能障害と精神・行動症状が表れる。VCIとPSCIにおける認知機能障害の治療薬には、コリンエステラーゼ阻害薬、非競合的N-メチル-D-アスパラギン酸受容体拮抗薬があり、精神・行動症状に対する対症療法薬には抗うつ薬である選択的セロトニン再取り込み阻害薬などが挙げられる。慢性脳小血管病の患者には、認知障害、運動障害、感情障害と排便障害などの症状が見られ、明確に診断された後は、一般的に対症的な治療が推奨される。例えば、脳小血管病による認知障害に対してはコリンエステラーゼ阻害薬や非競合的N-メチル-D-アスパラギン酸受容体拮抗薬を使用し、抑うつに対してはセロトニン再取り込み阻害薬などの抗うつ薬を一般的に使用する。
【0029】
本発明は研究を通して、カリクレイン1またはその誘導体は血管性認知機能障害、脳卒中後認知機能障害、脳小血管病などの治療に使用できることを明らかにした。カリクレイン1の承認適応と異なる、血管性認知機能障害、脳卒中後認知機能障害、及び脳小血管病の治療に新たな方法を提供している。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、KLK1とその突然変異体が下流のCREBタンパク質のリン酸化を活性化することを示す図である。
【
図2】
図2は、Lys-BKが下流のERK1/2とCREBタンパク質のリン酸化を活性化することを示す図である。
【
図3】
図3は、実験一において、13日目のロータロッドテスト(Rotarod test)での落下するまでの時間に対する薬物の影響を示す図である。
【
図4】
図4は、実験一において、投与後26日目のロータロッドテスト(Rotarod test)での落下するまでの時間に対する薬物の影響を示す図である。
【
図5】
図5は、実験一において、20日目のワイヤー・ハング・テスト(Wire hang test)での落下するまでの時間に対する薬物の影響を示す図である。
【
図6】
図6は、実験一において、28日目のワイヤー・ハング・テスト(Wire hang test)での落下するまでの時間に対する薬物の影響を示す図である。
【
図7】
図7は、実験一において、29日目のY字型迷路テストでの交替スコアに対する薬物の影響を示す図である。
【
図8】
図8は、実験一において、44日目のY字型迷路テストでの交替スコアに対する薬物の影響を示す図である。
【
図9】
図9は、実験一において、48日目のモリス水迷路テストでのプラットフォームへの到達潜時に対する薬物の影響を示す図である。
【
図10】
図10は、実験二において、ロータロッド・テスト(Rotarod test)での落下するまでの時間に対する薬物の影響を示す図である。
【
図11】
図11は、実験二において、ワイヤー・ハング・テスト(Wire hang test)での落下するまでの時間に対する薬物の影響を示す図である。
【
図12】
図12は、実験二において、モリス水迷路テストでのプラットフォームへの到達潜時(第3象限での行動距離)に対する薬物の影響を示す図である。
【
図13】
図13は、実験二において、モリス水迷路テストでのプラットフォームへの到達潜時(第3象限での行動時間)に対する薬物の影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
特に明記しない限り、本発明における技術用語または略語は次の意味を持つ。
hKLK1:配列が天然ヒト組織カリクレイン1と同一である突然変異されていないヒト組織カリクレイン1を指し、ヒトKLK1の種々のホモログを含み、Genbank登録番号AAA59455.1、NP002248.1、AAA36136.1、AAP35917、AAU12569などで登録されたKLK1を含むが、これらに限定されない。具体的な実施例ではその配列がSEQ ID NO:5に示される通りである。
【0032】
KLK1の3つのグリコシル化修飾部位(N78、N84とN141):それぞれは、KLK1アミノ酸配列の78位、84位、141位のアスパラギンを指し、該当するN-グリコシル化トライアド配列モチーフはそれぞれNMS、NHT、NFSである。Nはアスパラギンを表し、Mはメチオニンを表し、Sはセリンを表し、Hはヒスチジンを表し、Tはトレオニンを表し、Fはフェニルアラニンを表す。
【0033】
高グリコシル化hKLK1:突然変異されていないhKLK1であり、高グリコシル化修飾されている。すなわち、グリコシル化修飾部位N78、N84、N141には、いずれも多くのグリコシル化修飾がある。
【0034】
低グリコシル化hKLK1:突然変異されていないhKLK1であり、低グリコシル化修飾されている。すなわち、グリコシル化修飾部位N78、N84には、ともに多くのグリコシル化修飾があり、グリコシル化修飾部位N141には、グリコシル化修飾がないか
、またはごく少量に起こった。組換えの高グリコシル化hKLK1と低グリコシル化hKLK1は、通常の精製方法、例えば疎水クロマトグラフィー、陰イオン・クロマトグラフィー、陽イオン・クロマトグラフィーまたはその組み合わせにより単離することができる。本発明の出願人は予想外にも、低グリコシル化KLK1の活性が高グリコシル化KLK1の活性より遥かに高いことを発見した。
【0035】
PEG-hKLK1(高グリコシル化):ポリエチレングリコールで修飾した高グリコシル化hKLK1である。前記高グリコシル化hKLK1は上述の突然変異されていない高グリコシル化修飾を有するhKLK1を指す。
【0036】
PEG-hKLK1(低グリコシル化):ポリエチレングリコールで修飾した低グリコシル化hKLK1である。前記低グリコシル化hKLK1は上述の突然変異されていない低グリコシル化修飾を有するhKLK1を指す。
【0037】
hKLK1X:hKLK1の突然変異体である。KLK1はグリコシル化修飾を多く有する酵素である。N-グリコシル化修飾は糖タンパク質薬物の最も注目されるグリコシル化修飾のタイプであり、糖鎖が新生ペプチド鎖中の特定のアスパラギンの遊離基-NH2を通して結合される。N-グリコシル化修飾部位のトライアド配列モチーフは必ずNXSまたはNXTでなければならない。ここで、Nはアスパラギンを表し、Sはセリンを表し、Tはトレオニンを表し、Xはプロリン以外のアミノ酸を表す。上記の条件を満たさない場合、アスパラギンにはN-グリコシル化修飾が発生しない。hKLK1X1、hKLK1X2、hKLK1X3、hKLK1X4はそれぞれ異なる突然変異体を表し、その配列はそれぞれSEQ ID NO:1、2、3、4に示される通りである。これらの突然変異体は、グリコシル化修飾部位N141に対して部位特異的突然変異を行い、アスパラギンを極性中性アミノ酸グルタミン(Gln)、酸性アミノ酸アスパラギン酸(Asp)、塩基性アミノ酸アルギニン(Arg)、脂肪族アミノ酸アラニン(Ala)といった4種類の異なるアミノ酸にそれぞれ突然変異させて得られた突然変異体である。得られたhKLK1突然変異体は、N-グリコシル化修飾モチーフNFSを含まず、2つのみのグリコシル化修飾部位を含むので、産物がより均一で、低グリコシル化hKLK1の生産量がより高いことを実現した。そして、予想外にも突然変異された後の低グリコシル化KLK1の活性が突然変異されていない低グリコシル化KLK1の活性より遥かに高いことも発見した。
【0038】
上述の突然変異体は例示を目的とするものであり、本発明の適用範囲を限定するものではない。以下の方法は、いずれも元のNFS配列を変更してN-グリコシル化モチーフを形成させないことにより、N141にグリコシル化修飾が起こらなくなって、したがって産物がより均一で、低グリコシル化hKLK1の生産量がより高いという効果が実現できる。たとえば、NFS中のアミノ酸N(即ちN141)を突然変異させ、F、S中の0個、1個、あるいは2個のアミノ酸をほかの任意のアミノ酸に突然変異させることや、NFS中のF(即ちF142)をプロリンに突然変異させ、N、S中の0個、1個、あるいは2個のアミノ酸をほかの任意のアミノ酸に突然変異させること、またはNFS中のS(即ちS143)をトレオニン以外の任意のアミノ酸に突然変異させ、N、F中の0個、1個、あるいは2個のアミノ酸をほかの任意のアミノ酸に突然変異させることなどが挙げられる。そして、予想外にも突然変異された後の低グリコシル化KLK1の活性が突然変異されていない低グリコシル化KLK1の活性より遥かに高いことを発見した。
【0039】
PEG-hKLK1X:ポリエチレングリコールで修飾したhKLK1突然変異体である。
【0040】
KLK1誘導体:KLK1全長タンパク質を含み、KLK1の部分的タンパク質をも含
む。また、本発明のKLK1突然変異体を含み、本発明のKLK1突然変異体をもとに、さらに突然変異して得られたタンパク質、融合タンパク質(アルブミン融合、Fc融合などを含むが、これらに限られない)、種々の形式の修飾体(ポリエチレングリコール化修飾体を含むが、これらに限られない)をも含む。
【0041】
ポリエチレングリコール:略称がPEGであり、通常、エチレンオキシドの重合により形成され、分岐型、直鎖型と多腕型がある。一般的に、分子量が20,000以下のものをPEG、分子量がより大きいものをPEOと呼ぶ。通常のポリエチレングリコールは両末端に1個ずつヒドロキシ基があり、片末端をメチル基でブロックするとメトキシ・ポリエチレングリコール(mPEG)が得られる。
【0042】
ポリエチレングリコール修飾剤:略称がPEG修飾剤であり、官能基を持つポリエチレングリコール誘導体のことを指し、タンパク質及びポリペプチドの薬物の修飾に用いられる活性化されたポリエチレングリコールである。本発明で使用するポリエチレングリコール修飾剤は、江蘇衆紅生物工程創薬研究院有限公司、または北京鍵凱科技股▲ふん▼有限公司から購入している。特定の分子量のPEG修飾剤の実際の分子量は、表示値の90%~110%であってよい。例えばPEG5Kの分子量は4.5kDa~5.5kDaであってよい。
【0043】
実施例で使用するPEG5Kは、具体的にM-SPA-5Kのことを指し、これは分子量が約5kDaの直鎖型メトキシ・ポリエチレングリコール・スクシンイミジルプロピオネートであり、構造式は式(1)に示される通りである。式中、nは105~110の整数である。
【0044】
【0045】
実施例で使用するPEG10Kは、具体的にM-SPA-10Kのことを指し、これは分子量が約10kDaの直鎖型メトキシ・ポリエチレングリコール・スクシンイミジルプロピオネートであり、構造式は式(1)に示される通りである。式中、nは220~225の整数である。
【0046】
実施例で使用するPEG30Kは、具体的にY-PALD-30Kのことを指し、これは分子量が約30kDaの分岐型ポリエチレングリコール・プロピオンアルデヒドであり、構造式は式(2)に示される通りである。式中、mは335~340の整数である。
【0047】
【0048】
実施例で使用するPEG40Kは、具体的にY-PALD-40Kのことを指し、これは分子量が約40kDaの分岐型ポリエチレングリコール・プロピオンアルデヒドであり、構造式は式(2)に示される通りである。式中、mは450~455の整数である。
【0049】
KLK1の修飾に用いられるポリエチレングリコール修飾剤は、具体的な実施例で使用する前述のポリエチレングリコール修飾剤に限定されなく、他の公知のポリエチレングリコール修飾剤を使用してもよい。
【0050】
以下の実施例で使用するKLK1のポリエチレングリコール化修飾体は、当該技術分野における公知の方法でポリエチレングリコール修飾を行って、精製して得られたポリエチレングリコール修飾タンパク質である。例えば、中国特許CN109498815A、中国特許CN107760661Aまたは先願発明CN202111353294.2を参考にしてポリエチレングリコール修飾体を作製してよいのである。
【実施例】
【0051】
実施例1 組換えヒトカリクレイン1(hKLK1)及びその突然変異体(hKLK1X)のin vitroでの活性測定
一、人工基質を用いたin vitro活性評価
KLK1は生体内で低分子量キニノーゲンLMWKの加水分解を触媒して、リシルブラジキニンを遊離させて生物学的機能を発揮する。この加水分解反応にはアルギニン(Arg)のカルボキシル基末端のペプチド結合の切断が含まれる。したがって、加水分解によって発色性人工合成基質S-2266(H-D-Val-Leu-Arg-PNA)内のArgとパラニトロアニリンの間のアミド結合を切断してパラニトロアニリン(PNA)を生成することに基づいて、405nmにおけるPNAの生成を検出することを通して、組換えhKLK1およびその突然変異体のin vitro生物学的活性を評価することが可能である。活性単位IUは、37℃、pH8.0の条件下で、一分間で1μmolのS-2266を加水分解してPNAを生成する場合の酵素量を1IUとして定義されている。反応系は、200μl 20mMのトリスヒドロキシメチルアミノメタン緩衝液、10μlの供試品、20μl 20mMのS-2266基質溶液で構成される。反応系を37℃の水浴中に置き10分間正確に反応させ、20μlの50%酢酸溶液を加えて反応を停止させる。異なる濃度のPNA標準品に基づいてフィッティングした標準曲線によって反応系中のPNA生成量を定量する。上記の方法を用いて、高・低グリコシル化hKLK1、hKLK1突然変異体のin vitro生物学活性を測定した。
【0052】
結果は表1に示される通りである。突然変異体(hKLK1X1、hKLK1X2、hKLK1X3、hKLK1X4)サンプルの活性は、全て突然変異されていない低グリコシル化hKLK1サンプルより高かった。
【0053】
【0054】
二、天然基質を用いたin vitro活性測定
1、酵素反応と液相測定
KLK1は生体内で低分子量キニノーゲンLMWKの加水分解を触媒して、リシルブラジキニンを遊離させて生物学的機能を発揮する。本実施例では、基質(低分子量キニノーゲンLMWK)と酵素(KLK1またはそのPEG修飾体)を異なる比で酵素反応させてエフェクター分子であるブラジキニンの生成状況を比較する。逆相クロマトグラフィーで生成したエフェクター分子を分離して産物のピーク面積を計算し、基質と酵素が異なる比で反応する場合のブラジキニンの生成状況曲線を描き、異なる供試品が同じ反応条件下で生成したエフェクター分子の量を比較する。このようにin vitroにおいて体内での作用様式を模擬することを通して、異なる供試品サンプルの体内作用効果を間接的に比較した。
【0055】
供試品中のKbはブタ膵臓より抽出したKLK1であり、PEG-KbはPEG10Kで修飾したKbである。PEG10K-hKLK1X1、PEG-Kbはポリエチレングリコールによる薬物修飾の通常の方法で作製される。
【0056】
表2に従って、サンプルを混合反応させた(PEG修飾体サンプルの場合、修飾される活性物質のモル質量で換算)。混合サンプルを37℃の恒温器内に置き、正確に計時しながら15分間インキュベートし、体積比10:1で50%の酢酸溶液を加えて反応を停止させた。
【0057】
【0058】
反応停止後のサンプルを卓上遠心機に置き、12000rpmで5分間遠心分離して、上清を取った。Waters ACQUITY UPLC H-Classで測定し、移動相Aは0.1% TFA-H2Oであり、移動相Bは0.1% TFA-ACNであり、測定波長は214nmで、カラム温度は30℃で、サンプルローディング量はすべて10μlであり、流速は0.2mL/minで、実行時間は35分間で、実行グラジエントは次の通りであった。
【0059】
【0060】
2、結果
酵素反応混合物のUPLCクロマトグラムの結果に基づいて、反応混合物のクロマトグラムで保持時間が13±0.5min(ブラジキニンのピーク位置)のピークに対して積分して和を求め、単位質量あたり(1mg/mL、10μLのサンプルローディング量)のブラジキニンのピーク面積と比較して、酵素反応で生成したブラジキニンの濃度を計算し、表2の総反応系に基づいてブラジキニンの生成量を計算し、最後にそれぞれのモル比条件下での1mg酵素あたりのブラジキニン生成量(μg/mg)に換算した。結果は表4に示す通りである。
【0061】
【0062】
天然基質に基づいた測定の結果から分かるように、全体的な傾向として、修飾後のタンパク質は、酵素反応で生成したブラジキニンが修飾前のサンプルよりも低かった。これはPEG修飾タンパク質の特性に合致している。PEG修飾後のタンパク質は、原タンパク質と比較して、酵素反応をより穏やかに維持するので、エフェクター分子を持続的に生成することができる。また、KLK1類の薬物の効果発現は、体内のカリクレイン-キニン系(KKS)の調節作用に基づいているが、この調節にはエフェクター分子の生成と除去が含まれる。明らかなことで、穏やかで持続的な酵素反応プロセスは、KKSにおける除去メカニズムを効果的に減少するため、PEG修飾KLK1のほうはより安定して効果的に生物学的作用を発揮することができる。
【0063】
実施例2 KLK1がB2受容体の下流シグナルに対する活性化作用
対数増殖期のCHO-K1細胞(B2受容体を含む)を収集し、血球計算盤を用いて生細胞の数をカウントした。生細胞懸濁液を培地で3×106cells/mLに調製し、最終の細胞濃度が3×105個/ウェルとなるように6ウェル細胞培養プレートに接種した。細胞を37.0℃、5.0%CO2のCO2インキュベーターで24~48時間培養した。各ウェルの細胞密度が90%以上に増殖した時点で、細胞をPBSで2回洗浄した。あらかじめF12培地を用いてサンプルを調製し(KLK1とLMWKを質量比1:10で混合し、反応系がF12培地で、15分間反応する)、反応終了後、各ウェルに1mlずつサンプルを加え、KLK1の最終濃度が0.1μMであり、F12培地を対照群とした。添加終了後、細胞培養プレートを37.0℃、5.0%CO2のインキュベーター内で0.5時間培養した。培養終了後、6ウェルプレートをインキュベーターから取り出し、PBSで2回洗浄し、最後にPBSを完全に吸引除去した。調製したタンパク質溶解液(RIPA、PMSF、ホスファターゼ阻害剤)を80μL/ウェルで加え、細胞溶解を加速するためにウェルの底をスクレーパーで前後に研磨した。研磨時間が1分間であった。細胞破片と溶解液を遠心チューブに移し、12,000rpm、10分間、4℃で遠心した。タンパク質上清を慎重に吸い取って、5×Loading Bufferと4:1の体積比で混合した後、100℃の金属浴で10分間煮沸した。サンプルを室温で冷却した後、短期間保存は4℃で、長期間保存は-20℃で保存した。タンパク質サンプルとあらかじめ染色したマーカーを同じ量で10%SDS-PAGEにロードし、ゲルランニング、メンブレン転写、ブロッキング、抗体インキュベーション、発光同定などの操作を行った。
【0064】
環状アデノシン-リン酸エフェクター結合タンパク質(CAMP-response element binding protein ,CREB)は、B2R(B2受容体)が活性化した後で、下流で直接作用するシグナル分子である。CREBの活性化は虚血後の炎症反応やニューロン損傷の発生を防ぐことができるので、CREBの発現レベルは被験物のB2R活性化能力をある程度で反映するとともに、発揮した神経保護作用の効果も側面から反映している。
【0065】
B2-NFAT-CHO-K1細胞株をもとに、KLK1が低分子量キニノーゲンLMWKから活性分子の生成を触媒し、生成した活性分子がB2受容体と結合して下流シグナルであるCREBタンパク質を活性化することを証明した。
図1に示すように、KLK1は下流のCREBタンパク質のリン酸化を活性化することができる。これは当該薬物の作用メカニズムと一致している。下流のCREBタンパク質のリン酸化レベルを判定することを通して、サンプルのin vitroにおける生物学的活性を定性的に評価した結果、hKLK1X1、hKLK1X2、hKLK1X3、hKLK1X4、低グリコシル化hKLK1、高グリコシル化hKLK1はLMWKと反応して全て下流経路を活性化する活性を示した。
【0066】
実施例3 リシルブラジキニンLys-BKがB2受容体の下流シグナルに対する活性化作用
対数増殖期のCHO-K1(B2受容体含有)細胞を収集し、血球計算盤を用いて生細胞の数をカウントした。生細胞懸濁液を培地で3×106cells/mLに調製し、最終の細胞濃度が3×105個/ウェルとなるように6ウェル細胞培養プレートに接種した。細胞を37.0℃、5.0%CO2のCO2インキュベーターで24~48時間培養した。各ウェルの細胞密度が90%以上に増殖した時点で、細胞をPBSで2回洗浄した。あらかじめF12培地を用いてサンプル(Lys-BK)を調製し、各ウェルに1mlずつサンプルを加え、Lys-BKの最終濃度が1μMであり、F12培地を対照群とした。添加終了後、細胞培養プレートを37.0℃、5.0%CO2のインキュベーター内で0.5時間培養した。培養終了後、6ウェルプレートをインキュベーターから取り出し、
PBSで2回洗浄し、最後にPBSを完全に吸引除去した。調製したタンパク質溶解液(RIPA、PMSF、ホスファターゼ阻害剤)を80μL/ウェルで加え、細胞溶解を加速するためにウェルの底をスクレーパーで前後に研磨した。研磨時間が1分間であった。細胞破片と溶解液を遠心チューブに移し、12,000rpm、10分間、4℃で遠心した。タンパク質上清を慎重に吸い取って、5×Loading Bufferと4:1の体積比で混合した後、100℃の金属浴で10分間煮沸した。サンプルを室温で冷却した後、短期間保存は4℃で、長期間保存は-20℃で保存した。タンパク質サンプルとあらかじめ染色したマーカーを同じ量で10%SDS-PAGEにロードし、ゲルランニング、メンブレンへの転写、ブロッキング、抗体インキュベーション、発光同定などの操作を行った。
【0067】
細胞外シグナル調節キナーゼ(extracellular regulated protein kinases 1/2,ERK1/2)、環状アデノシン-リン酸エフェクター結合タンパク質(CAMP-response element binding protein,CREB)はともにB2Rが活性化した後で、下流で直接作用するシグナル分子である。CREBとERK1/2の活性化は虚血後の炎症反応やニューロン損傷の発生を防ぐことができるので、その発現レベルは被験物のB2R活性化能力をある程度で反映するとともに、発揮した神経保護作用の効果も側面から反映している。
【0068】
B2-NFAT-CHO-K1細胞株をもとに、リシルブラジキニンLys-BKがB2受容体と結合して下流シグナルであるCREB、p-ERK1/2タンパク質を活性化することを証明した。
図2に示すように、Lys-BKは下流のCREB、p-ERK1/2タンパク質のリン酸化を活性化することができる。
【0069】
実施例4 BCASマウスモデルにおけるKLK1-PEGの薬効作用
実験一
一、群分けと実験設計
両側総頸動脈スプリング狭窄術を行ってマウスの両側総頸動脈狭窄(Bilateral common carotid artery stenosis、BCAS)脳小血管虚血損傷モデルを作製した。
【0070】
BCAS脳小血管損傷モデルの作製:BCAS脳小血管虚血損傷モデルの作製によって、マウスの前脳を持続的に慢性虚血させた。イソフルランでマウスを麻酔した。まずは、マウスを麻酔器の導入麻酔ボックスに入れ、マウスへ麻酔の導入を行った。その後、マウスを仰向けに固定し呼吸用マスクと接続し、皮膚を剃毛、消毒し、頸部正中部を切開し、両側総頸動脈を分離した。特注のスプリングで(スプリングの材質:輸入品のピアノ線、寸法:線径0.08mm、内径0.18mm、ピッチ:約0.5mm、全長:2.5mm)、両側総頸動脈を狭窄させ血流の大部分を遮断することによって、脳への血液供給を減少させ、脳全体を持続的な慢性虚血の状態にした。頸部の皮膚を縫合し、マウスをケージに戻して飼育した。
【0071】
計3群、即ち偽手術群(SHAM群)、モデル対照群(BCAS群)、薬物候補群(KLK1-PEG群)を設定した。
【0072】
BCAS術後3日目に群分けと投与を行い、投与は週に1回で計7回行った。KLK1-PEG群は80μg/kgで投与し(前記KLK1はhKLK1X1であり、PEGはSPA10Kである)、BCAS群及びSHAM群は週1回で同じ体積の生理食塩水を尾静脈より注射した。
【0073】
術後13日目、26日目に、ロータロッド・テスト(Rotarod test)を行
ってマウスの協調運動機能を評価した。マウスをマウス用ロータロッド(直径30mm×長さ60mm)の上に回転方向と反対の方向に乗せた。ロッドを回転させ、20rpm/minから40rpm/minに一様に加速し、その後は速度を維持した。マウスがロータロッド上に滞在する時間(即ち、マウスがロッドから落下するまでの時間)を指標として記録した。各マウスは、20~30分の間隔で3~5回のテストを行った。記録値の平均値をマウスの落下するまでの時間とし、落下するまでの時間が長いほど協調運動機能が高いことを示す。
術後20日目、28日目に、ワイヤー・ハング・テストを行ってマウスの前肢筋肉強度の損傷状況を評価した。マウスの前肢をワイヤー(直径1.5mm×長さ60cm)に吊り下げ、マウスがワイヤーに吊り下げる時間(即ち、マウスがワイヤーから落下するまでの時間)を指標として記録した。各マウスは、20~30分の間隔で3~5回のテストを行った。記録値の平均値をマウスの落下するまでの時間とし、落下するまでの時間が長いほど筋肉の損傷が少ないことを示す。
【0074】
術後29日目、44日目に、Y字型迷路テスト(Y Maze test)を行ってマウスのワーキング・メモリーの損傷状況を評価した。Y字型迷路は、3本の同じのアームが120°の角度で接続されたY字型のテスト装置であり、各アームの長さが30cmで、幅が8cmで、高さが15cmである。これはげっ歯類動物の新しい環境に対する探索本能を利用した学習や記憶などを評価する実験的研究装置である。マウスをY字型迷路に置き、自由に行動させ、7分間にわたってマウスが各アームに進入(4本の足がすべてアームに進入すること)した順を記録する。各アームに進入した総回数をアーム進入回数と定義し、連続して異なるアームに進入した回数を交替行動回数と定義し、交替スコアをY字型迷路テストの評価指標とした。
交替スコア=[交替行動回数/(アーム進入回数-2)]*100
実験中にアームに進入した回数が8回未満の動物を除外した(そのデータは精確に変化を反映できないため)。交替スコアが高いほどワーキング・メモリの損傷が少ないことを示す。
【0075】
術後48日目に、モリス水迷路テスト(Morris maze)を行ってマウスの空間学習・記憶の損傷状況を評価した。モリス水迷路の水温を23±2℃に維持し、プールの壁に「東」「南」「西」「北」と書いて水に入る4つの位置を表示する。プールを4等分して、4つの象限(E、S、W、N)とする。水迷路の上部にディスプレイシステム付きのビデオカメラを設置し、マウスの行動軌跡を同期して記録する。マウスがプラットフォームの位置を特定するように、訓練期間中、水迷路の外の参照物を変えないようにする。プラットフォームへの到達潜時(マウスが水に入ってからプラットフォームに到達するまでの時間)を測定指標として、プラットフォームへの到達潜時が短いほど空間学習・記憶の損傷が少ないことを示す。
【0076】
二、結果
BCAS群とSHAM群との比較では、両群の間にロータロッド・テスト、ワイヤ・ハング・テスト、Y字型迷路テスト、モリス水迷路テストの結果において統計学的に顕著な差が認められた。これはBCASモデルの作製によって動物の運動協調性、前肢筋肉強度、ワーキング・メモリー及び空間学習・記憶が損傷されたこと示した。KLK1-PEG群は、BCASモデル群と比較して、上記の各実験において改善が認められた。BCASモデルは血管性認知障害および脳小血管病の研究においてよく受け入れられている実験動物モデルであるので、上記の実験の結果は、KLK1またはその誘導体が脳小血管病および血管性認知障害の治療に使用できることを示した。詳しい結果を
図3~9、表5~8にまとめた。
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
実験二
一、群分けと実験設計
両側総頸動脈スプリング狭窄術を行ってマウスの両側総頸動脈狭窄(Bilateral common carotid artery stenosis、BCAS)脳小血管虚血損傷モデルを作製した。BCAS脳小血管損傷モデルの作製方法は実験一と同じである。
【0082】
計3群、即ちモデル群(BCAS群)、KLK1群、KLK1-PEG群を設定した。前記KLK1はhKLK1X1であり、PEGはSPA10Kである。
【0083】
BCAS術後72時間後に群分けと投与を行った。KLK1群は静脈注射(0.5mg/kg)で毎週5回投与し、KLK1-PEG群は筋肉注射(0.1mg/kg)で毎週1回投与し、合計で8週間の投与を行った。
【0084】
投与して8週間後、ロータロッド・テスト(Rotarod test)を行ってマウスの協調運動機能を測定した。評価方法は実験一と同様とした。
投与して8週間後、ワイヤ・ハング・テスト(Wire hang)を行ってマウスの前肢筋肉強度の損傷状況を測定した。評価方法は実験一と同様であった。
投与して8週間後、モリス水迷路テスト(Morris maze)を行って、マウスの空間学習・記憶の損傷状況を測定した。モリス水迷路の水面を4つの象限に分割して、第3象限の中央にプラットフォームを置いた。実験段階ではプラットフォームを水中から撤去し、動物がそれぞれの象限で行動する時間と距離を記録した。動物が第3象限で行動する時間と距離が総時間、総距離に占める割合は動物の記憶能力を示し、割合が高いほど
空間学習・記憶能力の損傷が少ないことを示す。
【0085】
二、結果
KLK1群、KLK1-PEG群はモデル群と比較して、ロータロッド・テスト、ワイヤ・ハング・テスト、モリス水迷路テストの結果において統計学的に顕著な差が認められた。KLK1またはKLK1-PEGは、BCASモデルの作製による動物の運動協調性、前肢筋肉強度、空間学習・記憶の障害を顕著に改善でき、脳小血管病、血管性認知障害の治療に使用できる。詳しい結果を
図10~13、表9~11にまとめた。
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
実施例では、血管性認知機能障害、脳小血管病の研究においてよく受け入れられているBCASモデルという実験動物モデルを使用した。BCASモデルマウスにKLK1またはそのポリエチレングリコール修飾体を投与して、動物の損傷した協調運動機能、前肢の損傷した筋肉強度、ワーキング・メモリー、空間学習・記憶機能の改善が認められた。これはKLK1またはそのポリエチレングリコール修飾体が血管性認知機能障害、脳卒中後認知機能障害、脳小血管病の治療に使用できることを示した。
【0090】
上記の被験薬のほかに、低分子量キニノーゲンLMWKの加水分解を触媒してリシルブ
ラジキニンを遊離させて生物学的機能を発揮することをよく保持するほかのKLK1誘導体、例えばKLK1のほかの突然変異体(hKLK1X2、hKLK1X3、hKLK1X4など)、部分的タンパク質、融合タンパク質、ほかのPEG修飾体、ほかの形式の修飾体を、BCASモデルマウスに投与した場合、全て同様の効果、すなわち、損傷した協調運動機能、前肢の損傷した筋肉強度、ワーキング・メモリー、空間学習・記憶機能の改善が観察される。これらも血管性認知機能障害、脳卒中後認知機能障害、脳小血管病の治療に使用できる。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2024-09-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管性認知機能障害を治療または改善する薬物の製造におけるカリクレイン1またはその誘導体の使用。
【請求項2】
血管性認知機能障害を治療または改善するための薬物組成物であって、カリクレイン1またはその誘導体を含むことを特徴とする、薬物組成物。
【請求項3】
脳卒中後認知機能障害を治療または改善する薬物の製造におけるカリクレイン1またはその誘導体の使用。
【請求項4】
脳卒中後認知機能障害を治療または改善するための薬物組成物であって、カリクレイン1またはその誘導体を含むことを特徴とする、薬物組成物。
【請求項5】
血管病変を伴うアルツハイマー病を治療または改善する薬物の製造におけるカリクレイン1またはその誘導体の使用。
【請求項6】
血管病変を伴うアルツハイマー病を治療または改善するための薬物組成物であって、カリクレイン1またはその誘導体を含むことを特徴とする、薬物組成物。
【請求項7】
脳小血管病または脳小血管病による認知機能障害を治療または改善する薬物の製造におけるカリクレイン1またはその誘導体の使用。
【請求項8】
脳小血管病または脳小血管病による認知機能障害を治療または改善するための薬物組成物であって、カリクレイン1またはその誘導体を含むことを特徴とする、薬物組成物。
【請求項9】
前記カリクレイン1は、天然ヒト組織カリクレイン1であるか、または突然変異された組換えヒト組織カリクレイン1または突然変異されていない組換えヒト組織カリクレイン1であることを特徴とする、
請求項1、3、5、又は7に記載の使用。
【請求項10】
前記カリクレイン1は、天然ヒト組織カリクレイン1であるか、または突然変異された組換えヒト組織カリクレイン1または突然変異されていない組換えヒト組織カリクレイン1であることを特徴とする、請求項2、4、6、又は8に記載の薬物組成物。
【請求項11】
前記カリクレイン1誘導体は、カリクレイン1の全長タンパク質、その部分的タンパク質、またはその突然変異体、融合タンパク質、またはその種々の形式の修飾体であることを特徴とする、
請求項1、3、5、又は7に記載の使用。
【請求項12】
前記カリクレイン1誘導体は、カリクレイン1の全長タンパク質、その部分的タンパク質、またはその突然変異体、融合タンパク質、またはその種々の形式の修飾体であることを特徴とする、請求項2、4、6、又は8に記載の薬物組成物。
【請求項13】
前記カリクレイン1誘導体は、カリクレイン1のポリエチレングリコール修飾体であることを特徴とする、
請求項1、3、5、又は7に記載の使用。
【請求項14】
前記カリクレイン1誘導体は、カリクレイン1のポリエチレングリコール修飾体であることを特徴とする、請求項2、4、6、又は8に記載の薬物組成物。
【請求項15】
前記カリクレイン1のポリエチレングリコール修飾体は、M-SPA-5K、M-SPA-10K、Y-PALD-30K、またはY-PALD-40Kで修飾されることを特徴とする、
請求項13に記載の使用。
【請求項16】
前記カリクレイン1のポリエチレングリコール修飾体は、M-SPA-5K、M-SPA-10K、Y-PALD-30K、またはY-PALD-40Kで修飾されることを特徴とする、請求項14に記載の薬物組成物。
【国際調査報告】