(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-06
(54)【発明の名称】キニン又はその誘導体のポリエチレングリコール修飾体とその薬物への使用
(51)【国際特許分類】
C07K 14/47 20060101AFI20250130BHJP
A61K 38/08 20190101ALI20250130BHJP
A61K 47/60 20170101ALI20250130BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20250130BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20250130BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250130BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20250130BHJP
【FI】
C07K14/47 ZNA
A61K38/08
A61K47/60
A61P9/00
A61P9/10
A61P43/00 111
C12N15/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024545277
(86)(22)【出願日】2023-01-17
(85)【翻訳文提出日】2024-09-30
(86)【国際出願番号】 CN2023072604
(87)【国際公開番号】W WO2023143246
(87)【国際公開日】2023-08-03
(31)【優先権主張番号】202210113869.1
(32)【優先日】2022-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524159077
【氏名又は名称】江蘇衆紅生物工程創薬研究院有限公司
【氏名又は名称原語表記】ZONHON BIOPHARMA INSTITUTE,INC
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲馬▼ 永
(72)【発明者】
【氏名】庄 宇
(72)【発明者】
【氏名】王 俊
(72)【発明者】
【氏名】王 和
(72)【発明者】
【氏名】江 辰▲陽▼
(72)【発明者】
【氏名】▲許▼ 振
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA94
4C076AA95
4C076BB01
4C076BB11
4C076CC11
4C076CC29
4C076EE23
4C076EE59
4C076FF31
4C076FF63
4C076FF68
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA17
4C084BA42
4C084DB01
4C084MA52
4C084MA66
4C084NA03
4C084NA05
4C084NA12
4C084NA13
4C084ZA361
4C084ZA362
4C084ZC161
4C084ZC162
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA40
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
キニン又はその誘導体のポリエチレングリコール修飾体とその薬物への使用。本発明はPEG修飾技術により、キニンの半減期を大幅に延長させ、同時にその生物学的活性を発揮させ、半減期が短いためドラッガビリティがないという問題を解決した。PEG修飾剤はSPA、SCM、SS修飾剤を含むが、これらに限定されない。直鎖型又は分岐型のPEG修飾剤であってよい。本発明の改造したキニン変異体は受容体への親和性を保持しながら半減期が延長され、さらにPEG修飾後の薬効が野生型キニンより優れるので、キニンのドラッガビリティをさらに向上させた。本発明のキニンのPEG修飾体は様々な経路で投与しても顕著な薬効を発現する。特に、皮下注射、経口投与は臨床使用に便利で、患者のコンプライアンスを効果的に向上させ、脳卒中患者の回復期治療など長期的な治療投与に適している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレングリコール修飾のリシルブラジキニン又はブラジキニンであって、前記ポリエチレングリコール修飾がN末端修飾であり、C末端修飾ではなく、前記リシルブラジキニン又はブラジキニンが野生型のリシルブラジキニン又はブラジキニンであり、又は野生型のリシルブラジキニン又はブラジキニンをもとに改造して得られた誘導体であることを特徴とする、ポリエチレングリコール修飾のリシルブラジキニン又はブラジキニン。
【請求項2】
請求項1に記載のポリエチレングリコール修飾のリシルブラジキニン又はブラジキニンであって、PEG修飾剤がSPA、SCM、SS修飾剤を含むが、これらに限定されないことを特徴とする、ポリエチレングリコール修飾のリシルブラジキニン又はブラジキニン。
【請求項3】
請求項1に記載のポリエチレングリコール修飾のリシルブラジキニン又はブラジキニンであって、PEG修飾剤が直鎖型又は分岐型のPEG修飾剤であることを特徴とする、ポリエチレングリコール修飾のリシルブラジキニン又はブラジキニン。
【請求項4】
請求項3に記載のポリエチレングリコール修飾のリシルブラジキニン又はブラジキニンであって、PEG修飾剤が直鎖型のPEG修飾剤であることを特徴とする、ポリエチレングリコール修飾のリシルブラジキニン又はブラジキニン。
【請求項5】
請求項1に記載のポリエチレングリコール修飾のリシルブラジキニン又はブラジキニンであって、PEG修飾剤の分子量が2KD~20KDであることを特徴とする、ポリエチレングリコール修飾のリシルブラジキニン又はブラジキニン。
【請求項6】
請求項1に記載のポリエチレングリコール修飾のリシルブラジキニン又はブラジキニンであって、PEG修飾剤の分子量が2KD、又は10KDであることを特徴とする、ポリエチレングリコール修飾のリシルブラジキニン又はブラジキニン。
【請求項7】
リシルブラジキニン又はブラジキニンの誘導体であって、野生型のリシルブラジキニン又はブラジキニンのアミノ酸配列中の任意の位置にシステインを導入したことを特徴とする、リシルブラジキニン又はブラジキニンの誘導体。
【請求項8】
請求項7に記載のリシルブラジキニン又はブラジキニンの誘導体であって、野生型のリシルブラジキニンのアミノ酸配列の一位のLysをCysに突然変異したことを特徴とする、リシルブラジキニン又はブラジキニンの誘導体。
【請求項9】
請求項7に記載のリシルブラジキニン又はブラジキニンの誘導体であって、野生型のリシルブラジキニンのN末端の1位と2位のアミノ酸残基との間に任意の数、任意の種類のアミノ酸を挿入し、又は野生型のブラジキニンのN末端の1位のアミノ酸残基の前に任意の数、任意の種類のアミノ酸を挿入したことを特徴とする、リシルブラジキニン又はブラジキニンの誘導体。
【請求項10】
請求項7に記載のリシルブラジキニン又はブラジキニンの誘導体であって、野生型のリシルブラジキニンのN末端の1位と2位のアミノ酸残基との間に1個又は2個又は3個のアミノ酸を挿入し、又は野生型のブラジキニンのN末端の1位のアミノ酸残基の前に1個又は2個又は3個のアミノ酸を挿入したことを特徴とする、リシルブラジキニン又はブラジキニンの誘導体。
【請求項11】
請求項9、10のいずれか一項に記載のリシルブラジキニン又はブラジキニンの誘導体
であって、前記挿入したアミノ酸がアルギニンであることを特徴とする、リシルブラジキニン又はブラジキニンの誘導体。
【請求項12】
請求項7に記載のリシルブラジキニン又はブラジキニンの誘導体であって、2個あるいは2個以上のリシルブラジキニン単体を、又は2個あるいは2個以上のブラジキニン単体を、又はリシルブラジキニン単体とブラジキニン単体を繋ぎ合わせたことを特徴とし、前記リシルブラジキニン又はブラジキニンの単体が、野生型のリシルブラジキニン又はブラジキニンであってよいし、野生型のリシルブラジキニン又はブラジキニンをもとに一部のアミノ酸の置換、挿入又は欠失を行って得られた変異体であってもよい、リシルブラジキニン又はブラジキニンの誘導体。
【請求項13】
請求項7に記載のリシルブラジキニン又はブラジキニンの誘導体であって、野生型リシルブラジキニンの6位のPhe又は野生型ブラジキニンの5位のPheを他の任意のアミノ酸に突然変異したことを特徴とする、リシルブラジキニン又はブラジキニンの誘導体。
【請求項14】
請求項7に記載のリシルブラジキニン又はブラジキニンの誘導体であって、前記誘導体の配列がSEQ ID NO:14に示した配列であることを特徴とする、リシルブラジキニン又はブラジキニンの誘導体。
【請求項15】
請求項1~6のいずれか一項に記載のポリエチレングリコール修飾のリシルブラジキニン又はブラジキニンであって、前記リシルブラジキニン又はブラジキニンが請求項7~14のいずれか一項に記載のリシルブラジキニン又はブラジキニンの誘導体であることを特徴とする、ポリエチレングリコール修飾のリシルブラジキニン又はブラジキニン。
【請求項16】
虚血性脳卒中の治療、予防、予後回復、又は再発防止のための請求項1~6、15のいずれか一項に記載のポリエチレングリコール修飾のリシルブラジキニン又はブラジキニン。
【請求項17】
注射、経口で投与される請求項1~6、15のいずれか一項に記載のポリエチレングリコール修飾のリシルブラジキニン又はブラジキニン。
【請求項18】
虚血性脳卒中の治療、予防、予後回復、又は再発防止のための請求項7~13のいずれか一項に記載のリシルブラジキニン又はブラジキニンの誘導体。
【請求項19】
注射、経口で投与される請求項7~13のいずれか一項に記載のリシルブラジキニン又はブラジキニンの誘導体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キニン又はその誘導体のポリエチレングリコール修飾体とその薬物への使用に関し、特に、PEG修飾技術によってキニンのドラッガビリティを向上させることに関する。
【背景技術】
【0002】
カリクレイン-キニン系(KKS,kallikrein-Kinin system)は、生体の重要な調節系であり、心血管系、腎臓、神経系の機能調節などさまざまな生理的および病理的な過程に関与している。KKS系には、カリクレイン(KLK)、キニノゲン、キニン、キニン受容体(B1、B2受容体)及びキニナーゼが含まれる。その中で、カリクレイン、キニンがコアとなる構成因子である。現在、ヒト組織カリクレインは少なくとも15のメンバー(KLK1-KLK15)で構成されると考えられており、その中で組織カリクレイン1(KLK1)に対する研究が比較的に多く行われている。KLK1はキニノゲンをキニンに変換させ、対応する受容体に作用して一連の生物学的作用を発揮する。キニンは、人体中にごく微量に存在する活性ペプチドの一種である。よく研究されているキニンには、リシルブラジキニン(Lys-BK)、ブラジキニン(BK)とアンジオテンシンがある。
【0003】
リシルブラジキニンは、主にKLK1の触媒による低分子キニノーゲンLMWKの加水分解によって生成され、KRPPGFSPFRの配列を持つ10個のアミノ酸からなる。リシルブラジキニンは生体内でアミノペプチダーゼによって切断されブラジキニン(RPPGFSPFRの9ペプチド・ユニット)となるが、両者とも血圧や炎症の調節など幅広い生理機能を持っている。具体的に言えば、両者はGタンパク質共役型受容体と結合して、細胞外シグナル調節キナーゼ(extracellular regulated protein kinases 1/2,ERK1/2)、環状アデノシン-リン酸エフェクター結合タンパク質(cAMP-response element binding protein,CREB)のリン酸化を活性化し、一酸化窒素(NO)、環状アデノシン-リン酸(cAMP)とプロスタサイクリンI2などのセカンド・メッセンジャーの放出を刺激し、レニン・アンジオテンシン系(RAS)の作用に拮抗することを通して、小動脈の拡張、局所血流量の増加、血管透過性の増加、及び血管拡張などの生物学的効果を発揮する。
【0004】
生体内におけるリシルブラジキニンの分解には、主にアミノペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼ及びアンジオテンシンACEIIが関与しており、キニンの放出酵素系と分解酵素系により、生体内におけるブラジキニンの動的バランスを維持する。リシルブラジキニン、ブラジキニンを外因的に投与することは血管を弛緩させ、脳心血管疾患の治療へ応用する潜在力がある。しかし、リシルブラジキニンとブラジキニンは生体内での半減期がわずか数秒と極めて短く、キナーゼの加水分解によってはやく失活してしまうため、生物学的半減期の短さが原因でそのドラッガビリティが大きく制限される。
【0005】
現在、ペプチド薬物を長時間作用させる主な策略は、化学修飾法(ポリエチレングリコール修飾、ペプチド主鎖末端修飾、側鎖修飾、環化、アミノ酸置換、グリコシル化修飾などが含まれる)、マイクロスフェア包埋法(マイクロ・ナノ粒子包埋法のことで、脂質キャリア・ナノ粒子、ポリマー・キャリア・ナノ粒子、無機キャリア・ナノ粒子が含まれる)、タンパク質融合技術(現在、一般的に用いられている融合タンパク質はアルブミンと免疫グロブリン(IgG)である)などがある。現在、各種の方法が用いられており、そ
れぞれに長所と短所があるが、マイクロ・ナノ粒子包埋法の応用潜在力が比較的に高いと文献に述べられている。(程念、胡中平ほか.ペプチド薬物の長時間作用化についての研究進展[J].中国新薬雑誌2016年第25巻第22期)。
【0006】
アミノ酸置換によって酵素切断部位を除去してペプチドが分解されないようにすることは、ペプチドの生体内での半減期を延長する効果的な方法である。Lobradimilは、BKのアミノ酸配列の3位(Pro)、5位(Phe)、8位(Phe)、9位(Arg)をそれぞれ非天然アミノ酸に突然変異して、BKの生体内半減期を延長した薬物である。その主な効果は、血液脳関門の透過性を高め、カルボプラチンベースの化学療法と併用して小児脳腫瘍を治療することであり、安全性は比較的良好であったが、有効性はエンドポイントに達しておらず(Cancer Chemother. Pharmacol. 2006,58:343-347)、第2相臨床試験終了後に当該プロジェクトが中止された。2011年にFDAが販売承認したイカチバント(Icatibant)もブラジキニンをもとにした薬物である。これはBKのアミノ酸配列の3位(Pro)、5位(Phe)、7位(Pro)、8位(Phe)をそれぞれ非天然アミノ酸に突然変異して体内半減期を延長した薬物であり、適応症は遺伝性血管性浮腫という稀な疾患である。この薬物分子はB2受容体の選択的な競合的拮抗剤であり、ブラジキニンとは逆の作用を果たす。現在、アミノ酸突然変異によりLBK/BKの生体内半減期を延長して血管拡張の効果を発揮することを臨床の治療に成功に応用した報告がまだない。
【0007】
ポリエチレングリコール(polyethylene glycol、PEG)による修飾は、タンパク質の生体内での半減期を延長し、安定性を向上させる方法の一つである。現在販売されているPEG修飾タンパク質の薬物が十数種類ある。しかし、PEG修飾ペプチドの薬物はまだ少ない。ペプチドは一般的に体内の受容体に結合することで生物学的機能を発揮する。ペプチド分子が小さいため、PEG修飾はペプチドの受容体への結合に影響を及ぼすかねない。その結果、ペプチドの生物学的活性が失われてしまう。例えば、ブラジキニンはわずか9個のアミノ酸からなり、分子構造も小さい。国内外において、ポリエチレングリコール化リシルブラジキニン又はブラジキニンに関する研究報告はまだない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】程念、胡中平ほか.ポリペプチド薬物の長時間作用化についての研究進展[J].中国新薬雑誌2016年第25巻第22期
【非特許文献2】Cancer Chemother. Pharmacol. 2006,58:343-347
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする技術的課題は、リシルブラジキニン又はブラジキニンの半減期を延長し、同時にその生体内での生物学的活性を発揮し、そのドラッガビリティ上の問題を解決することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は一方で、PEG修飾技術により、リシルブラジキニン又はブラジキニンの半減期を顕著に延長させ、同時にその生体内での生物学的活性を発揮させる。
【0011】
本発明が提供するポリエチレングリコール修飾のリシルブラジキニン又はブラジキニンは、前記PEG修飾はN末端修飾であり、C末端修飾ではなく、前記リシルブラジキニン又はブラジキニンは野生型のリシルブラジキニン又はブラジキニンであり、又は野生型のリシルブラジキニン又はブラジキニンをもとに改造(非ポリエチレングリコール修飾)し
て得られた誘導体である。前記誘導体は、本発明の実施例で例示した各種突然変異体のみならず、本発明のLys-BK/BK突然変異体をもとにさらに改造して得られたペプチド、融合タンパク質(アルブミン融合、Fc融合などを含むが、これらに限定されない)、種々の形式の修飾体(ポリエチレングリコール修飾を除く)をも含む。前記誘導体は、野生型のリシルブラジキニン又はブラジキニンのin vitro活性(受容体に対する結合活性)を保持している。実施例では、リシルブラジキニン又はブラジキニン及びそれらの数種の変異体に対して、そのPEG修飾体の安定性、in vitro活性及びin
vivo薬効を検証した結果、すべて良好な安定性を示した。また、in vitroでの活性を保持しているリシルブラジキニン又はブラジキニンの変異体はPEGで修飾された後、全てリシルブラジキニン又はブラジキニンの半減期が延長され、同時にin vivoでの生物活性の発揮することができる。一方、in vitro活性を保持していない他のリシルブラジキニン又はブラジキニンの変異体はPEGで修飾された後、又はこれらのリシルブラジキニン又はブラジキニンの変異体自体(PEGで修飾されていない)は、全てin vivo薬効を示さなかった。従って、当業者は、実施例で例示した特定のリシルブラジキニン又はブラジキニンの変異体に限定されることなく、受容体に対する結合活性を保持している他のリシルブラジキニン又はブラジキニンの誘導体であれば、ポリエチレングリコールで修飾された後、全てリシルブラジキニン又はブラジキニンの半減期が延長され、同時にin vivoにおける生物活性を発揮することができると合理的に予想することができる。
【0012】
PEG修飾剤はSPA、SCM、SS修飾剤を含むが、これらに限定されない。PEG修飾剤は直鎖型又は分岐型であってよい。
好ましくは、前記PEG修飾剤は直鎖型PEG修飾剤である。
好ましくは、前記PEG修飾剤の分子量は2KD~20KDである。
好ましくは、前記PEG修飾剤の分子量は2KD~10KDである。
好ましくは、前記PEG修飾剤の分子量は2KD、10KDである。
【0013】
本発明はもう一方で、リシルブラジキニン又はブラジキニンのアミノ酸配列を最適化することにより、そのドラッガビリティをさらに向上させる。
【0014】
本発明は、野生型のリシルブラジキニン又はブラジキニンのアミノ酸配列中の任意の位置にシステイン(Cys)を導入して得られたリシルブラジキニン又はブラジキニンの誘導体を提供する。システインを導入したリシルブラジキニン又はブラジキニンは、in vivoでの薬効評価において有意に利点を示した。好ましくは、野生型のリシルブラジキニンのアミノ酸配列の一位のLysをCysに突然変異する。即ち、アミノ酸配列をCRPPGFSPFRになるようにする。
【0015】
本発明はまた、野生型のリシルブラジキニンのN末端の1位と2位のアミノ酸残基との間に任意の数、任意の種類のアミノ酸を挿入して得られたリシルブラジキニン誘導体、即ちKXRPPGFSPFR、及び野生型のブラジキニンのN末端の1位のアミノ酸残基の前に任意の数、任意の種類のアミノ酸を挿入して得られたブラジキニン誘導体、即ちXRPPGFSPFR、を提供する。Xは任意の数、任意の種類のアミノ酸を表す。N末端を延長したリシルブラジキニン又はブラジキニンがより良好な活性を有することは、実験結果により示されている。好ましくは、1個又は2個又は3個のアミノ酸を挿入する。好ましくは、1個又は2個のアルギニン(Arg)を挿入する。
【0016】
本発明はまた、2個あるいは2個以上のリシルブラジキニン単体を、又は2個あるいは2個以上のブラジキニン単体を、又はリシルブラジキニン単体とブラジキニン単体を繋ぎ合わせたリシルブラジキニン又はブラジキニンの誘導体(例えばm14、m12)を提供する。前記リシルブラジキニン又はブラジキニン単体は、野生型のリシルブラジキニン又
はブラジキニンであってよいし、野生型のリシルブラジキニン又はブラジキニンをもとに一部のアミノ酸の置換、挿入又は欠失を行って得られた変異体であってもよい。
【0017】
本発明はまた、野生型リシルブラジキニンの6位のPhe又は野生型ブラジキニンの5位のPheを他のアミノ酸、例えば非天然アミノ酸Igl(α-2-インドリルグリシン)、THI(β-2-チエニルアラニン)に突然変異したリシルブラジキニン又はブラジキニンの誘導体を提供する。前記部位突然変異したLBK又はBKは生体内の酵素に認識されにくいため、その生体内での半減期が効果的に延長された。
【0018】
好ましくは、本発明のリシルブラジキニン又はブラジキニンの誘導体のアミノ酸配列はSEQ ID NO: 14に示される配列である。
【0019】
本発明はまた、前記リシルブラジキニン又はブラジキニンの誘導体を含む組成物を提供する。
【0020】
リシルブラジキニン又はブラジキニンは、対応する受容体に作用して一連の生理作用を発揮する。しかし、リシルブラジキニン及びブラジキニンは、生体内での半減期が数秒と極めて短く、キニナーゼによる加水分解によって速く失活してしまうため、生物学的半減期の短さにそのドラッガビリティが大きく制限される。本発明は、ポリエチレングリコール修飾技術により、リシルブラジキニン又はブラジキニンの生体内での半減期を大幅に延長させ、同時にリシルブラジキニン又はブラジキニンのin vitro及びin vivoにおける生物学的活性をよく発揮させ、MCAO脳虚血再灌流モデルにおける脳梗塞症状を改善するin vivo活性を顕著に発現し、単独のリシルブラジキニン又はブラジキニンでは半減期が短すぎてドラッガビリティがないという問題を解決した。
【0021】
本発明は、虚血性脳卒中の治療、予防、予後回復及び再発防止のための薬物の製造における、ポリエチレングリコール修飾のリシルブラジキニン又はブラジキニンの使用を提供する。前記リシルブラジキニン又はブラジキニンは、野生型のリシルブラジキニン又はブラジキニンであってよいし、野生型のリシルブラジキニン又はブラジキニンをもとに改造(非ポリエチレングリコール修飾)して得られた誘導体であってもよい。前記誘導体は、野生型のリシルブラジキニン又はブラジキニンのin vitro活性(即ち、受容体に対する結合活性)を保持しており、本発明の実施例で例示した種々の突然変異体のみならず、本発明のLys-BK/BK突然変異体をもとにさらに改造して得られたペプチド、融合タンパク質(アルブミン融合、Fc融合などを含むが、これらに限定されない)、種々の形式の修飾体(ポリエチレングリコール修飾体を除く)をも含む。
【0022】
好ましくは、前記リシルブラジキニン又はブラジキニンの変異体及びそれらのPEG複合体は、注射、経口で投与される。
【0023】
従来技術と比較して、本発明には以下のようなメリットがある。
第一に、本発明はポリエチレングリコール修飾技術により、リシルブラジキニン又はブラジキニンの生体内での半減期を大幅に延長させ、同時にリシルブラジキニン又はブラジキニンの生物学的活性をよく発揮させ、単独のリシルブラジキニン又はブラジキニンでは半減期が短すぎてドラッガビリティがないという問題を解決した。In vivo薬効については、リシルブラジキニン又はブラジキニン及びその変異体のPEG修飾体は、MCAO脳虚血再灌流モデルにおける神経欠損症状に対して顕著な改善効果を示し、脳梗塞面積に対して顕著な改善効果を示した。
【0024】
第二に、本発明の改造したリシルブラジキニン又はブラジキニンの変異体は明らかに利点を持つ。それらの変異体は、受容体に対する親和性を保持しながら、血清系における安
定性が野生型より顕著に優れており、生体内での半減期の延長が示唆される。また、それらの変異体はPEGで修飾された後、野生型のリシルブラジキニン又はブラジキニンのPEG修飾体よりもIn vivo薬効が優れている。
【0025】
第三に、本発明のリシルブラジキニン又はブラジキニンのPEG修飾体は、静脈注射、皮下注射、経口投与などの様々な投与経路で投与しても顕著な薬効を発現することができる。特に、皮下注射、経口投与は、患者が注射を受けるために定期的に病院に行く必要がなく、在宅自己投与ができるため、臨床使用に便利で、患者のコンプライアンスを効果的に向上させ、脳卒中患者の回復期治療など長期的な治療投与にはより適している。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、ペプチド変異体Lys-BKm13のUPLC-RP純度分析プロファイルを示す図である。
【
図2a】
図2は、Lys-BK及びその変異体が下流のERK1/2及びCREBタンパク質のリン酸化を活性化することを示す図である。その5つのシグナルの中で、β-actinは内部対照であり、p-は対応するタンパク質のリン酸化を表し、controlは緩衝液空白対照であり、Lys-BK-M06-EHはm06と血清と混合してインキュベートした後のサンプルである。
【
図2b】
図2は、Lys-BK及びその変異体が下流のERK1/2及びCREBタンパク質のリン酸化を活性化することを示す図である。その5つのシグナルの中で、β-actinは内部対照であり、p-は対応するタンパク質のリン酸化を表し、controlは緩衝液空白対照であり、Lys-BK-M06-EHはm06と血清と混合してインキュベートした後のサンプルである。
【
図2c】
図2は、Lys-BK及びその変異体が下流のERK1/2及びCREBタンパク質のリン酸化を活性化することを示す図である。その5つのシグナルの中で、β-actinは内部対照であり、p-は対応するタンパク質のリン酸化を表し、controlは緩衝液空白対照であり、Lys-BK-M06-EHはm06と血清と混合してインキュベートした後のサンプルである。
【
図2d】
図2は、Lys-BK及びその変異体が下流のERK1/2及びCREBタンパク質のリン酸化を活性化することを示す図である。その5つのシグナルの中で、β-actinは内部対照であり、p-は対応するタンパク質のリン酸化を表し、controlは緩衝液空白対照であり、Lys-BK-M06-EHはm06と血清と混合してインキュベートした後のサンプルである。
【
図3】
図3は、Lys-BKm13-SPA10KサンプルのUPLC-RP純度分析プロファイルを示す図である。
【
図4a】
図4は、Lys-BK及びその変異体のPEG複合体のB2受容体との親和性の測定結果を示す図である(レポーター遺伝子アッセイにより)。
【
図4b】
図4は、Lys-BK及びその変異体のPEG複合体のB2受容体との親和性の測定結果を示す図である(レポーター遺伝子アッセイにより)。
【
図5】
図5は、Lys-BK及びその変異体のPEG複合体が下流のERK1/2及びCREBタンパク質のリン酸化を活性化することを示す図である。その5つのシグナルの中で、β-actinは内部対照であり、p-は対応するタンパク質のリン酸化を表し、controlは緩衝液空白対照である。
【
図6】
図6は、SDラット体内におけるLys-BKm13-SPA10Kの薬物濃度-時間曲線を示す図である。
【
図7a】
図7は、神経欠損症状、脳梗塞面積に対する実施例6の被験物の影響を示すグラフである。
【
図7b】
図7は、神経欠損症状、脳梗塞面積に対する実施例6の被験物の影響を示すグラフである。
【
図8a】
図8は、神経欠損症状、脳梗塞面積に対する実施例7の被験物の影響を示すグラフである。
【
図8b】
図8は、神経欠損症状、脳梗塞面積に対する実施例7の被験物の影響を示すグラフである。
【
図8c】
図8は、神経欠損症状、脳梗塞面積に対する実施例7の被験物の影響を示すグラフである。
【
図8d】
図8は、神経欠損症状、脳梗塞面積に対する実施例7の被験物の影響を示すグラフである。
【
図8e】
図8は、神経欠損症状、脳梗塞面積に対する実施例7の被験物の影響を示すグラフである。
【
図8f】
図8は、神経欠損症状、脳梗塞面積に対する実施例7の被験物の影響を示すグラフである。
【
図8g】
図8は、神経欠損症状、脳梗塞面積に対する実施例7の被験物の影響を示すグラフである。
【
図8h】
図8は、神経欠損症状、脳梗塞面積に対する実施例7の被験物の影響を示すグラフである。
【
図8i】
図8は、神経欠損症状、脳梗塞面積に対する実施例7の被験物の影響を示すグラフである。
【
図8j】
図8は、神経欠損症状、脳梗塞面積に対する実施例7の被験物の影響を示すグラフである。
【
図8k】
図8は、神経欠損症状、脳梗塞面積に対する実施例7の被験物の影響を示すグラフである。
【
図8l】
図8は、神経欠損症状、脳梗塞面積に対する実施例7の被験物の影響を示すグラフである。
【
図9】
図9は、神経欠損症状、脳梗塞面積に対する実施例8の被験物の影響を示すグラフである。
【
図11a】
図11は、神経欠損症状、脳梗塞面積に対する実施例9の被験物の影響を示すグラフである。
【
図11b】
図11は、神経欠損症状、脳梗塞面積に対する実施例9の被験物の影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
特に明記しない限り、本発明における技術用語又は略語は次の意味を持つ。
Lys-BK:野生型リシルブラジキニンであり、天然ヒトリシルブラジキニンのアミノ酸配列と一致し、そのアミノ酸配列はKRPPGFSPFRである。
【0028】
BK:野生型ブラジキニンであり、天然ヒトブラジキニンのアミノ酸配列と一致し、そのアミノ酸配列はRPPGFSPFRである。
【0029】
突然変異体:野生型のリシルブラジキニン又はブラジキニンをもとに一部のアミノ酸の置換、挿入又は欠失を行って得られた変異体である。
【0030】
誘導体:本発明の実施例で例示した各種突然変異体のみならず、本発明のLys-BK/BK突然変異体をもとにさらに改造して得られたペプチド、融合タンパク質(アルブミン融合、Fc融合などを含むが、これらに限定されない)、種々の形式の修飾体(ポリエチレングリコール修飾を除く)をも含む。
【0031】
ポリエチレングリコール:略称がPEGであり、通常、エチレンオキシドの重合により形成され、分岐型、直鎖型と多腕型がある。通常のポリエチレングリコールは両末端にヒドロキシ基があり、片末端をメチル基でブロックするとメトキシ・ポリエチレングリコール(mPEG)が得られる。
【0032】
ポリエチレングリコール修飾剤:略称がPEG修飾剤であり、官能基を持つポリエチレングリコール誘導体のことを指し、タンパク質とペプチドの薬物の修飾に用いられる活性化されたポリエチレングリコールである。本発明で使用するポリエチレングリコール修飾剤は、江蘇衆紅生物工程創薬研究院有限公司、又は北京鍵凱科技股▲ふん▼有限公司より購入している。特定の分子量であるPEG修飾剤の実際の分子量は、表示値の90%~110%であってよい。例えばPEG5Kの分子量は4.5kDa~5.5kDaであってよい。
【0033】
M-SPA-5K:分子量が約5kDaの直鎖型モノメトキシ・ポリエチレングリコール・スクシンイミジルプロピオネートであり、構造式は式(1)に示される通りである。式中、nは98~120の整数である。
【0034】
【0035】
M-SPA-2K:分子量が約2kDaの直鎖型モノメトキシ・ポリエチレングリコール・スクシンイミジルプロピオネートであり、構造式は式(1)に示される通りである。式中、nは37~45の整数である。
【0036】
M-SPA-10K:分子量が約10kDaの直鎖型モノメトキシ・ポリエチレングリコール・スクシンイミジルプロピオネートであり、構造式は式(1)に示される通りである。式中、nは200~245の整数である。
【0037】
M-SPA-20K:分子量が約20kDaの直鎖型モノメトキシ・ポリエチレングリコール・スクシンイミジルプロピオネートであり、構造式は式(1)に示される通りである。式中、nは405~495の整数である。
【0038】
M-SCM-5K:分子量が約5kDaの直鎖型モノメトキシ・ポリエチレングリコール・スクシンイミジルカルボキシメチレートであり、構造式は式(2)に示される通りである。式中、nは99~120の整数である。
【0039】
【0040】
M-SS-5K:分子量が約5kDaの直鎖型モノメトキシ・ポリエチレングリコール・スクシンイミジルサクシネートであり、構造式は式(3)に示される通りである。式中、nは98~119の整数である。
【0041】
【0042】
M-YNHS-10K:分子量が約10kDaの分岐型モノメトキシ・ポリエチレングリコール・スクシンイミジルカルボキシメチレートであり、構造式は式(4)に示される通りである。式中、nは98~120の整数である。
【0043】
【実施例】
【0044】
実施例1 リシルブラジキニン/ブラジキニンの変異体の設計と合成
リシルブラジキニン/ブラジキニンの配列及び生体内における可能な分解経路に基づいて、一連の変異体を設計した(表1-1)。主にリシルブラジキニン/ブラジキニンの配列中のアミノ酸を構造的に類似する天然アミノ酸又は非天然アミノ酸に置き換えた変異体(m01~m04、m07、m02はBKの変異体である)と、リシルブラジキニン/ブ
ラジキニンの生物学的活性/機能を発揮する最小活性単位を同定するために設計した部分的に切断又は延長されたペプチド変異体(m05、m06、m08~m11)と、変異体の抗酸化力をさらに高めるためにシステインを導入した変異体(m13、m15、m16)と、ペプチドの安定性をさらに向上させるためにリシルブラジキニン/ブラジキニン単体を繋ぎ合わせた変異体(m12はLys-BKとBKと繋ぎ合わせたものであり、m14は二つのLys-BKを繋ぎ合わせた変異体である)と、N末端の延長が薬効に及ぼす影響を比較するためにペプチドm13を基に設計した変異体m15、m16である。
【0045】
【0046】
2020年版『中国薬典』の通則0512高速液体クロマトグラフィー法を参考に測定を行った。測定クロマトグラフィーのタイプはC18-RP(逆相クロマトグラフィー)で、流動相はA:0.1%TFA/H2O;B:0.1%TFA/ACNで、クロマトグラフィーカラムはACQUITY BEH C18:(1.7μm,2.1×50mm)で、収集条件は214nmであった。測定の結果が示すように、各ペプチドの純度はすべて>95%であった。Lys-BKm13を例に、純度分析クロマトグラムは
図1に示されている。
【0047】
実施例2 リシルブラジキニン/ブラジキニンとその変異体の安定性研究
リシルブラジキニン/ブラジキニンの安定性をin vitro血清系において評価した。2mg/mlのペプチドとSDラット血清を体積比85:15で混合し、37℃で30分、60分、90分、120分、180分と異なる期間のインキュベートを行った。3%のトリクロロ酢酸(上記のペプチド-血清混合系の50%の体積で)を加えて終止させ、血清中の基質による干渉も効果的に除去できた。さらに、UPLC-RP-UV214nm法に基づいて血清系におけるペプチドサンプルの分解をモニターすることによりペプ
チドサンプルの安定性を評価した。RP分析法:ロマトグラフィーカラムはProtein BEH C4 2.1x150mm、1.7μmで、カラム温度は30℃で、移動相A:0.1%TFA/H2O、移動相B:0.1%TFA/ACNで、グラジエント:0-5min,5%B;5-10min,5-40%B;10-30min,40-60%B;30-32min,60-100%B;32-35min,5%Bであった。
【0048】
【0049】
表2-1の結果は、野生型リシルブラジキニンと比較して本発明で設計した複数のペプチドの変異体が血清中でより優れた安定性を有することを示している。このことから、変異体はin vivoでの安定性と有効性において有利であることが示唆される。
【0050】
実施例3 リシルブラジキニン/ブラジキニンとその変異体のin vitroでの活性評価
一、レポータ遺伝子アッセイによるB2受容体への親和性評価
リシルブラジキニン/ブラジキニンは、B2受容体に結合して下流のシグナル経路を活性化することによりin vivoでの薬理作用を発揮する。CHO-K1宿主細胞へB2受容体レポーター遺伝子を安定的にトランスフェクションした細胞株B2-NFAT-CHO-K1を構築し、細胞ライブラリーの構築を完成した。これを用いて、リシルブラジキニン/ブラジキニン又はその変異体、及びそれらのPEG修飾体のB2受容体への結合活性をin vitroで測定と評価を行った。
【0051】
測定方法:細胞を5×104個/ウェルの密度で96ウェルプレートに敷き詰め、37
℃、5% CO2下で16~20時間培養した。その後、濃度勾配をつけて希釈した標準品と試験品の溶液を加えた。5時間後に、Bio-Liteルシフェラーゼ酵素検出試薬を加え、化学発光強度を測定した。GraphPadでグラフを作成し、4パラメータ方程式曲線をフィッティングし、EC50値に基づいた相対的活性を算出した。B2受容体に対するペプチド変異体の相対的親和性を表3-1に示しており、変異体Lys-BKm11、Lys-BKm13、Lys-BKm15とLys-BKm16は野生型リシルブラジキニンと比較して活性の増加を示した。
【0052】
【0053】
二、下流シグナル経路の主要な標的タンパク質に基づく活性分析
B2Rを過剰発現するCHO-K1細胞B2-NFAT-CHO-K1をもとに、in
vitroでLys-BK/BK又はその異なる変異体の投与によるB2Rの下流シグナルp-CREB、p-ERK1/2の変化をWB法で測定した。これを通して、被験物の活性の差異を比較した。細胞外シグナル調節キナーゼ(extracellular regulated protein kinases 1/2,ERK1/2)、環状アデノシン-リン酸エフェクター結合タンパク質(CAMP-response element binding protein,CREB)はともにB2Rが活性化した後で、下流で直接作用するシグナル分子である。脳卒中発症後に、CREBとERK1/2の活性化は虚血後の炎症反応やニューロン損傷の発生を防ぐことができるので、その発現レベルは被験物のB2R活性化能力をある程度反映するとともに、発揮した神経保護作用の効果も側面から反映する。
【0054】
対数増殖期のCHO-K1(B2R+)細胞を収集し、培地で3×106cells/mLに調製し、3×105個/ウェルで細胞培養プレートに接種した。細胞を37.0℃、5.0%CO2のCO2インキュベーターで24~48時間培養し、細胞密度が90%以上に増殖した時点で、細胞をPBSで洗浄した。ウェルごとに1mL 1μMのLys-BK/BK又はその変異体を加え、F12培地を対照群とした。細胞培養プレートを37.0℃、5.0%CO2のインキュベーター内で5分間インキュベートし、PBSで細胞培養プレートを洗浄した。タンパク質溶解液(RIPA、PMSF、ホスファターゼ阻害剤)を80μL/ウェルで加え、細胞溶解を加速するためにウェルの底をスクレーパーで前後に研磨した。細胞破片と溶解液を遠心チューブに移し、12,000rpm、10分間、4℃で遠心した。上清を吸い取って、5×Loading Bufferと4:1の体積比で均一に混合し、100℃の金属浴で10分間煮沸した。等量のタンパク質サン
プルを10%SDS-PAGEにロードし、ゲルランニング、メンブレン転写、ブロッキング、抗体インキュベーション、発光同定などの操作を行った。
【0055】
Lys-BK/BK及びその変異体が下流シグナルを活性化する活性の測定結果を
図2に示しており、リシルブラジキニン(Lys-BK)は、下流のERK1/2とCREBタンパク質のリン酸化を活性化することができる。これは当該薬物の作用メカニズムと一致している。下流のERK1/2とCREBタンパク質のリン酸化レベルを判定することを通して、サンプルのin vitroでの生物学的活性を定性的に評価した結果、変異体Lys-BKm05、Lys-BKm07は既に下流経路を活性化する活性を失っており、変異体LBKm01、m02、m06、m11、m12、m13、m14、m15、m16は全て下流経路を活性化する活性を示した。
【0056】
上記2つのin vitroでの活性評価結果から次のことが分かる:リシルブラジキニン/ブラジキニンはC末端を切断されると、B2Rに対する親和性と下流経路を活性化する活性を失う;N末端からリシンを欠失されることは、リシルブラジキニンのB2Rに対する親和性と下流経路を活性化する活性に影響しない;N末端から他のアミノ酸を欠失されることで、リシルブラジキニンはB2Rに対する親和性と下流経路を活性化する活性を失う;最小活性単位はRPPGFSPFRである;N末端の延長(m11)又はシステインの導入(m13)はB2Rに対する親和性を高めるのに有利である。
図1dに示すように、m12群、m13群、m14群のCREBタンパク質のリン酸化は、LBK群に比べて顕著に高く、m12、13、14はLBKに比べて、より優れたin vitro活性を持ち、より下流経路を活性化できることが明らかになった。
【0057】
実施例4 リシルブラジキニン/ブラジキニン及びその変異体のPEG複合体の作製
リシルブラジキニン/ブラジキニン及びその変異体のPEG修飾は、当該技術分野の公知の方法で行う。特定の変異体を特定のPEG修飾剤で修飾する場合、工程パラメータの一部に若干の変更があるが、当業者であれば限られた回数の実験によって修飾方法を最適化することができ、技術上問題がない。M-SPA-5Kによる野生型BKの修飾を例にして、作製プロセスは以下の通りである:
【0058】
一、PEG複合体サンプルの作製
ペプチドサンプルをリン酸二水素ナトリウム/リン酸水素二ナトリウム緩衝液(pH7.0)で溶解し、最終濃度を10mg/mLに調製した。ペプチドとM-SPA-5Kとの質量比が1:7であるように、ペプチド溶液にPEGを加え、均一になるまでゆっくりと撹拌し、その後2~8℃の条件下で1時間反応させた。
【0059】
二、反応混合物の精製
第一段階精製のクロマトグラフィー条件は以下の通りである:
精製用充填剤はGE社のSuperdex75ミディアムを使用し、精製の移動相はpH7.0~7.5、20mM リン酸二水素ナトリウム/リン酸水素二ナトリウム緩衝液であった(0.2M NaClを含む)。
サンプルローディング:反応終了後の上記のペプチド-PEG修飾反応混合物を取って、直接にロードした。
溶出:サンプルローディングが終わった後で、クロマトグラフィーカラムを移動相で1.5カラムベッド以上の体積で洗浄し、UV214nmのトレンドに基づいて溶出サンプルを段階的に収集した。
【0060】
第二段階精製のクロマトグラフィー条件は以下の通りである:
C18逆相カラム分離精製法により、極性の違いで二つの物質の分離を達成した。この方法で、生成物の精製収率が80%以上に達するほか、遊離PEGも完全に除去できる。
【0061】
三、PEG複合体サンプルの純度分析
(1)HPLCによる純度分析
2020年版『中国薬典』の通則0512高速液体クロマトグラフィー法を参考に測定を行った。測定クロマトグラフィーのタイプはSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)で、流動相は20mM PB7.0+10%IPAで、クロマトグラフィーカラムはTSK G2000で、収集条件は214nmであった。
RP純度分析方法:クロマトグラフィーカラムはProtein BEH C4 2.1x150mm,1.7μmであり、移動相A:0.1%TFA/H
2O、移動相B:0.1%TFA/ACNであった。
純度分析の結果が示すように、作製した一連のリシルブラジキニン変異体のPEG修飾体は生成物ピークが均一で、明らかな不純物ピークが見られず、純度が>95%であった。Lys-BKm13-SPA10Kを例にとると、その純度分析クロマトグラムは
図3に示す通りである。
【0062】
(2)SDS-PAGEによる純度分析
2020年版『中国薬典』の0541電気泳動法第五法のSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法に基づきサンプルの純度測定を行った。12.5%のSDS-PAGEを用いてサンプル測定を行った。
電気泳動の結果が示すように、作製した一連のリシルブラジキニン変異体のPEG修飾体はバンドが均一で、不純物バンドが見られず、純度が>95%であった。
なお、リシルブラジキニン/ブラジキニン及びその変異体は、N末端にしか理論的修飾可能部位がないため、そのPEG修飾体はすべてN末端の単一修飾を有する産物である。
【0063】
実施例5 リシルブラジキニン/ブラジキニン及びその変異体のPEG複合体のin vitroでの評価
一、安定性
リシルブラジキニン及びその変異体のPEG複合体の安定性は、in vitro血清系での安定性評価によって、in vivoでの安定性を間接的に評価した。評価方法は実施例2と同様である。リシルブラジキニン及びその変異体のPEG複合体はin vitro血清系での残存期間が全て6時間以上であり(表5-1)、その安定性が著しく向上した。同一分子量のPEGの場合、分岐型複合体Lys-BKm01-YNHS10Kの安定性は直鎖型複合体Lys-BKm01-SPA10Kよりも優れている。
【0064】
【0065】
二、in vitroでの活性
リシルブラジキニン及びその変異体のPEG複合体に対して、B2受容体への親和性及
び下流シグナル経路活性化の活性をin vitroで評価した。評価方法は実施例3と同様である。リシルブラジキニン及びその変異体は、PEGで修飾された後もB2受容体に対する親和性を有しており(
図4a、4b)、またB2受容体の下流シグナル経路の主要タンパク質のリン酸化を活性化することができる(
図5)。異なる構造タイプと異なる分子量のPEG修飾剤による複合体は、全てB2受容体への結合活性を保持している。PEG修飾剤には、分子量2Kから20K、直鎖型又は分岐型、及び異なる構造(SPA、SCM、SSなど)のPEG修飾剤が含まれた。評価の結果から分かるように、同じ分子量では直鎖型PEG複合体の方は分岐型PEG複合体よりも活性が高い。これは分子量10Kと20Kの2種類のPEGで示されている。
図4aに示すように、Lys-BKm01-SPA10KとLys-BKm01-YNHS10KのEC
50値はそれぞれ90.8μg/ml、346.6μg/mlであり、直鎖型PEG複合体の活性は分岐型PEG複合体の活性より4倍近く高かった。また、同じ構造タイプのPEGでは、分子量2K、5K、10K、20Kの4種類のPEGの中で、2Kと10KのPEGの複合体の方は比較的に活性が高かった。
【0066】
リシルブラジキニン及びその変異体のPEG複合体による下流シグナル経路の活性化を評価した結果(
図5)、PEGで修飾された後もペプチドはB2受容体の下流シグナルであるERK1/2和CREBのリン酸化を活性化する活性を保持している。Lys-BKペプチドと比較して、上記の活性(特にERK1/2リン酸化を活性化する活性)はある程度下がった。同じSPA5K-PEG修飾剤で修飾される場合、異なるペプチド変異体の中でLys-BKm13-SPA5Kは活性が最も高かった。同じペプチド変異体Lys-BKm01をPEGで修飾するの場合、分子量2Kと10KのPEGによる複合体の活性が最も高く、さらに直鎖型PEGの複合体Lys-BKm01-SPA10Kの活性は分岐型PEGの複合体Lys-BKm01-YNHS10Kより高かった。
【0067】
実施例6 リシルブラジキニン-PEG複合体のin vivoにおける代謝研究
一、実験方法
SDラットにリシルブラジキニン-PEG複合体(Lys-BKm13-SPA10Kを例として)を0.5mg/kgで皮下注射で投与し、投与前と投与5分後・15分後・0.5時間後・1時間後・2時間後・4時間後・8時間後・24時間後・48時間後・72時間後に血漿を採取し、特異的ELISA法で血漿サンプル中のLys-BKm13-SPA10Kの含有量を測定した(単位はng/mlである)。
【0068】
二、測定方法
1、コーティング:ストレプトアビジン(4ug/ml)をマイクロプレートにコーティングし、2~8℃で一晩放置した。洗浄液で1回洗浄してブロッキング液を加え、37℃で2時間ブロッキングして、後で使うように置いておく。
2、捕捉用物質:市販のanti-PEG-biotinをブロッキング液で0.5ug/mlに希釈して上記のマイクロプレートに加えた。37℃、300rpmで2時間後、洗浄液で3回洗浄して叩いて乾燥させた。
3、サンプルローディング:標準物質又はサンプルを対応する濃度に希釈し、希釈後の標準品又はサンプルをブロッキング液で10倍希釈して上記のマイクロプレートに加えた。37℃、300rpmで1.5時間後、洗浄液で3回洗浄して叩いて乾燥させた。
4、検出用物質:HRP標識抗Lys-BKm13-SPA10K特異的抗体を1000倍希釈して上記のマイクロプレートに加えた。37℃、300rpmで1.5時間後、洗浄液で3回洗浄して叩いて乾燥させた。
5、発色:TMBを上記のマイクロプレートに加え、37℃で15分間発色させた後、2M H2SO4を加えた。
6、プレートリーディング:マイクロプレートリーダーにてOD450とOD630を読み取った。
OriginPro 9.1を用いて、4パラメータ・フィッティングでサンプル中の薬物の濃度を計算した。
【0069】
三、測定結果
SDラット体内におけるLys-BKm13-SPA10Kの薬物濃度-時間曲線は
図6に示す通りである。SDラットに1回の皮下投与(0.5mg/kg)を行って、雌雄1匹ずつ合計2匹の動物はともに投与4時間後にC
maxに達しており、C
maxはそれぞれ88.07ng/ml、114.68ng/mlであった。成人にイカチバント(icatibant、ブラジキニンの構造類似物質である)を皮下投与で30mg投与した後、血中薬物濃度が1.79時間でピーク(405ng/ml)に達したとの研究報告がある。(文献:Efficacy, pharmacokinetics, and safety of icatibant for the treatment of Japanese patients with an acute attack of hereditary angioedema: A phase 3 open-label study)。体表面積換算に基づく等価用量で比較すると、同じ投与量ではLys-BKm13-SPA10KのほうはC
maxがより高く、ピークになるまでの時間がより長い。このことから、Lys-BKm13-SPA10Kがより高いバイオアベイラビリティを有することが推定される。
【0070】
実施例7 リシルブラジキニン(突然変異されていない)-PEG複合体のin vivoでの活性評価
一、モデルの作製
SDラット、雄性、SPF級、体重270~300gの動物を使用した。中大脳動脈線栓法を用いて中大脳動脈閉塞(Middle cerebral artery occlusion,MCAO)脳虚血再灌流モデルを作製した。動物はイソフルランで麻酔し,仰向けに固定し、皮膚を消毒し、頚部正中部を切開し、右側の総頸動脈、外頸動脈、内頸動脈を分離して、迷走神経を優しく剥離し、外頸動脈を結紮、切断した。総頸動脈の近心端をクランプし、外頚動脈の結紮部の遠位に切開し、MCAO線栓(型番2438-A5、北京西濃科技有限公司より購入)を挿入し、総頚動脈分岐部を通過して内頚動脈に入り、徐々に挿入し、わずかな抵抗が感じられるところまで(分岐部から約20mm)で止まり、中大脳動脈の血流を遮断した。頸部の皮膚を縫合し、消毒後、ラットをケージに戻した。虚血90分間後、ラットを再度麻酔し、板に固定し、頸部の皮膚を切開し、線栓を見つけて優しく抜き取り、血流を回復させ再灌流を行った。頸部の皮膚を縫合し、消毒後、ラットをケージに戻して飼育した。
【0071】
群分けと投与:偽手術群、モデル群(静脈注射でPBSを投与)、エダラボン群(静脈注射、6mg/kgで投与)、リシルブラジキニン-PEG複合体群(静脈注射、3mg/kgで、投与量はペプチドに基づいて算出)を設定した。投与群は再灌流2時間後に注射で1回の投与行った。
【0072】
【0073】
三、脳梗塞体積の測定
動物は10%の抱水クロラールで麻酔し、頭部を切断し脳を摘出し、嗅球、小脳及び低位脳幹を除去し、生理食塩水で大脳表面の血痕を洗い流し、表面の残留水分を吸い取って、-80℃で7分間放置した。その後、取り出してすぐに視線の交差平面と垂直して下向きで冠状断面を切り、さらに2mmごとに後方に向かって切片を切った。脳切片を生理食塩水で新鮮に調製したTTC(20g/L)染色液に入れ、37℃で90分間温めて、正常な脳組織は濃い赤色に染まり、虚血が生じた脳組織は蒼白色になった。生理食塩水で洗い流した後、すぐに脳切片を前から後ろへ向かって順番に並べ、表面の残留水分を吸い取り、写真を撮った。画像解析ソフトウェア(Image Tool)を使って写真に基づいて統計を取り、右側の虚血面積(白色部分)と右側面積を囲んで、次の計算式により脳梗塞面積の割合を算出した。計算式:脳梗塞面積%=虚血総面積÷右側総面積×100。
【0074】
四、結果
1、被験物の神経欠損症状への影響
図7aに示すように、陽性薬群(エダラボン)はモデル群と比較して、神経欠損症状に対して著しい改善効果があった。また、リシルブラジキニン-PEG複合体Lys-BK-SPA5群はモデル群と比較して、神経欠損症状に対して著しい改善効果があり、統計学的に有意差はあった。
【0075】
【0076】
2、被験物の脳梗塞面積(%)への影響
図7bに示すように、陽性薬群(エダラボン)はモデル群と比較して、脳梗塞面積に対して著しい改善効果があった。また、リシルブラジキニン-PEG複合体群はモデル群と比較して、脳梗塞面積に対して著しい改善効果があり、統計学的に有意差があった。
【0077】
【0078】
実施例8 リシルブラジキニン/ブラジキニンの変異体-PEG複合体のin vivoでの活性評価
リシルブラジキニン及びその変異体のPEG複合体に対してMCAOモデルにおけるin vivoでの薬効評価を数回実施した。表7-6を除く全ての実験は、3mg/kgの投用量で投与し(投与群の投用量は全てペプチドに基づいて算出)、投与法は静脈注射又は皮下注射であり、再灌流2時間後に注射で1回の投与を行った。その他の具体的な実験プロトコールは実施例7を参照して実施した。実験の結果を
図8及び表7に示している。
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
実施例9 異なる投与経路における異なるPEG修飾剤による複合体のin vivo
での活性評価
本実施例では、同一のモデルにおいて、静脈注射又は皮下注射で投与する場合のリシルブラジキニン変異体-PEG複合体の薬効を検討した。投与量は4.5mg/kg(ペプチドに基づいて算出)とし、その他の具体的な実験プロトコールは実施例7を参照して実施した。実験の結果を
図9、
図10及び表8-1に示した。静脈注射又は皮下注射で投与する場合、Lys-BKm13-SPA5K群はモデル群と比較して、神経欠損症状と脳梗塞面積に対してともに著しい改善効果があり、統計学的に有意差があった。異なる分子量のPEG修飾剤による複合体の薬効を評価した結果、Lys-BKm01-SPA2KはLys-BKm01-SPA5Kよりもin vivo薬効が著しく優れている。
【0086】
【0087】
実施例10 経口投与におけるリシルブラジキニン/ブラジキニンの変異体-PEG複合体のin vivoでの活性評価
MCAOモデルにおいてリシルブラジキニンのPEG複合体とリシルブラジキニン変異体のPEG複合体を経口投与してin vivoでの薬効を比較した。本実施例では、リシルブラジキニンは突然変異されていない野生型のリシルブラジキニンであり、変異体はM01であり、PEGはM-SPA-5Kである。投与は単回投与で6mg/kg(ペプチドに基づいて算出)の投与量で行った。実験の結果を
図11、
図12、表9-1に示した。
【0088】
1、被験物の神経欠損症状への影響
表9-1に示すように、リシルブラジキニン突然変異体のPEG複合体はモデル群と比較して、神経欠損症状に対して著しい改善効果があった。
【0089】
2、被験物の脳梗塞面積への影響
表9-1に示すように、突然変異体のPEG複合体はモデル群と比較して、脳梗塞面積に対して著しい改善効果があった。
神経欠損症状スコアと脳梗塞面積の結果を総合的に見れば、同じPEG修飾剤を用いてPEG複合体を作製する場合、リシルブラジキニン変異体-PEG複合体はリシルブラジキニン-PEG複合体よりも優れた薬効を示した。
【0090】
【0091】
実施例7~10のデータを総合的に見れば、リシルブラジキニン及びその異なる変異体のPEG複合体は全て有意な薬効を示し、Lys-BK、変異体Lys-BKm01、Lys-BKm02、Lys-BKm11、Lys-BKm12、Lys-BKm13、Lys-BKm15、及びLys-BKm16のPEG複合体はモデル群と比較して、神経欠損症状、脳梗塞面積に対して著しい改善効果があり、統計学的に有意差があった。
【0092】
分子量の異なるPEG修飾剤(2K、5K、10K)で修飾されたリシルブラジキニン/ブラジキニンの変異体は全て良好な薬効を示した。実施例では、修飾剤SPAで修飾されたリシルブラジキニン/ブラジキニンの変異体のin vivo活性の評価結果を示している。実際、受容体への結合活性を保持しているリシルブラジキニン/ブラジキニン又はその変異体を他の種類のPEG修飾剤を用いて修飾する場合も、リシルブラジキニン/ブラジキニンの生体内での半減期を顕著に延長させるとともに、良好なin vivo活性を示す。
【0093】
一方、PEGで修飾されていないリシルブラジキニン/ブラジキニン又はその異なる変異体(野生型のリシルブラジキニン/ブラジキニン、m01、m02、m11、m12など)、又は受容体への結合活性を保持していないリシルブラジキニン/ブラジキニンのPEG複合体は、異なる投与量かつ多種の投与経路で投与される場合、モデル動物の神経欠損症状及び脳梗塞を改善する効果を示さなかった。これは、それらのin vivoでの半減期が非常に短いことに関係している可能性があると考えられる。
【0094】
もちろん、異なるリシルブラジキニン変異体-PEG複合体の薬効にはある程度の差がある。中でもLys-BKm13変異体のPEG複合体は最も薬効が優れている。Lys-BKm13群の神経欠損症状及び脳梗塞面積に対する改善効果はモデル群と比較して統計学的に極めて顕著な差が認められた(P<0.001)(表7-4)。一方、Lys-BKm11群の神経欠損症状及び脳梗塞面積に対する改善効果はモデル群と比較して統計学的に顕著な差が認められた(P<0.01)(表7-3)。Lys-BKm13とLys-BKm11とは一位のアミノ酸が異なるのみであるから、一位のアミノ酸をCysに突然変異することはin vivo薬効に有意に有利であることが示唆された。
【0095】
Lys-BKm11はLys-BKm01の一位と2位のアミノ酸の間にArgを挿入して得られた変異体であり、脳梗塞面積の改善に一定の優位性がある(表7-3)。この結論は、Lys-BKm13とLys-BKm15との薬効比較でさらに明らかになった。同じ条件下では、Lys-BKm13変異体のPEG複合体がよりよい薬効を示した(
表7-6)。さらに、Lys-BKm13をもとにArgをもう1つ挿入してLys-BKm16が得られた。Lys-BKm16のPEG複合体の薬効はLys-BKm13のPEG複合体と同等であった(表7-5)。このことは、N末端にArgを挿入してペプチドを延長することがペプチド-PEG複合体の薬効を発揮するのに有利であることを示している。
【0096】
Lys-BKm01は突然変異によりLys-BKに非天然アミノ酸を導入して得られた変異体である。Lys-BKm01のPEG複合体はLys-BKのPEG複合体と比較してよりよい薬効を示している(表9-1)。
【0097】
Lys-BKm06はLys-BKm01のC末端を延長して得られた変異体である。Lys-BKm06のPEG修飾体は3mg/kgの投与量で、神経欠損症状と脳梗塞面積を改善する傾向が認められたが、モデル群と比較して有意差がなく、in vivoでの薬効がLys-BKm01のPEG複合体より低かった(表7-2)。このことから、C末端構造がブラジキニンの薬効及び活性の発揮に非常に重要であることが示された。これは実施例3での最小活性単位の確認結果と一致している。投与量をさらに増加して投与したら、Lys-BKm06のPEG修飾体は神経欠損症状、脳梗塞面積に対する顕著な改善効果が観察された。
【0098】
要するに、本発明は従来技術に比べて以下のようなメリットを有する。
第一に、本発明はポリエチレングリコール修飾技術により、リシルブラジキニン又はブラジキニンの生体内での半減期を大幅に延長させ、同時にその生物学的活性をよく発揮させ、単独のリシルブラジキニン又はブラジキニンでは半減期が短すぎてドラッガビリティがないという問題を解決した。In vivoにおける薬効については、リシルブラジキニン又はブラジキニン及びその変異体のPEG修飾体は、MCAO脳虚血再灌流モデルにおける神経欠損症状に対して顕著な改善効果を示し、脳梗塞面積に対して顕著な改善効果を示した。
【0099】
第二に、本発明の改造したリシルブラジキニン又はブラジキニンの変異体は明らかに利点を持つ。それらの変異体は、受容体に対する親和性を保持しながら、血清系における安定性が野生型より顕著に優れており、生体内での半減期の延長が示唆される。また、それらの変異体はPEGで修飾された後、野生型のリシルブラジキニン又はブラジキニンのPEG修飾体よりもIn vivoでの薬効が優れている。
【0100】
第三に、本発明のリシルブラジキニン又はブラジキニンのPEG修飾体は、静脈注射、皮下注射、経口投与などの様々な投与経路で投与しても顕著な薬効を発現することができる。特に、皮下注射、経口投与は、患者が注射を受けるために定期的に病院に行く必要がなく、在宅自己投与ができるため、臨床使用に便利であり、患者のコンプライアンスを効果的に向上させ、脳卒中患者の回復期治療など長期的な治療投与にはより適している。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2024-09-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレングリコール修飾のリシルブラジキニン又はブラジキニンであって、前記ポリエチレングリコール修飾がN末端修飾であり、C末端修飾ではなく、前記リシルブラジキニン又はブラジキニンが野生型のリシルブラジキニン又はブラジキニンであり、又は野生型のリシルブラジキニン又はブラジキニンをもとに改造して得られた誘導体であることを特徴とする、ポリエチレングリコール修飾のリシルブラジキニン又はブラジキニン。
【請求項2】
前記ポリエチレングリコール修飾のPEG修飾剤がSPA、SCM、
又はSS修飾剤を含
む、請求項1に記載のポリエチレングリコール修飾のリシルブラジキニン又はブラジキニン。
【請求項3】
前記ポリエチレングリコール修飾のPEG修飾剤が直鎖型又は分岐型のPEG修飾剤であることを特徴とする、
請求項1に記載のポリエチレングリコール修飾のリシルブラジキニン又はブラジキニン。
【請求項4】
前記ポリエチレングリコール修飾のPEG修飾剤が直鎖型のPEG修飾剤であることを特徴とする、
請求項3に記載のポリエチレングリコール修飾のリシルブラジキニン又はブラジキニン。
【請求項5】
前記ポリエチレングリコール修飾のPEG修飾剤の分子量が2KD~20KDであることを特徴とする、
請求項1に記載のポリエチレングリコール修飾のリシルブラジキニン又はブラジキニン。
【請求項6】
前記ポリエチレングリコール修飾のPEG修飾剤の分子量が2KD、又は10KDであることを特徴とする、
請求項1に記載のポリエチレングリコール修飾のリシルブラジキニン又はブラジキニン。
【請求項7】
リシルブラジキニン又はブラジキニンの誘導体であって、野生型のリシルブラジキニン又はブラジキニンのアミノ酸配列中の任意の位置にシステインを導入したことを特徴とする、リシルブラジキニン又はブラジキニンの誘導体。
【請求項8】
前記野生型のリシルブラジキニンのアミノ酸配列の一位のLysをCysに突然変異し
たことを特徴とする、
請求項7に記載のリシルブラジキニン又はブラジキニンの誘導体。
【請求項9】
前記野生型のリシルブラジキニンのN末端の1位と2位のアミノ酸残基との間に任意の数、任意の種類のアミノ酸を挿入し、又は
前記野生型のブラジキニンのN末端の1位のアミノ酸残基の前に任意の数、任意の種類のアミノ酸を挿入したことを特徴とする、
請求項7に記載のリシルブラジキニン又はブラジキニンの誘導体。
【請求項10】
前記野生型のリシルブラジキニンのN末端の1位と2位のアミノ酸残基との間に1個又は2個又は3個のアミノ酸を挿入し、又は
前記野生型のブラジキニンのN末端の1位のアミノ酸残基の前に1個又は2個又は3個のアミノ酸を挿入したことを特徴とする、
請求項7に記載のリシルブラジキニン又はブラジキニンの誘導体。
【請求項11】
前記挿入したアミノ酸がアルギニンであることを特徴とする、
請求項9に記載のリシルブラジキニン又はブラジキニンの誘導体。
【請求項12】
前記挿入したアミノ酸がアルギニンであることを特徴とする、請求項10に記載のリシルブラジキニン又はブラジキニンの誘導体。
【請求項13】
2個あるいは2個以上のリシルブラジキニン単体を、又は2個あるいは2個以上のブラジキニン単体を、又はリシルブラジキニン単体とブラジキニン単体を繋ぎ合わせたことを特徴とし、前記リシルブラジキニン又はブラジキニンの単体が、野生型のリシルブラジキニン又はブラジキニ
ン、又は野生型のリシルブラジキニン又はブラジキニンをもとに一部のアミノ酸の置換、挿入又は欠失を行って得られた変異体
である、
請求項7に記載のリシルブラジキニン又はブラジキニンの誘導体。
【請求項14】
前記野生型リシルブラジキニンの6位のPhe又は
前記野生型ブラジキニンの5位のPheを他の任意のアミノ酸に突然変異したことを特徴とする、
請求項7に記載のリシルブラジキニン又はブラジキニンの誘導体。
【請求項15】
配列がSEQ ID NO:14に示した配列であることを特徴とする、
請求項7に記載のリシルブラジキニン又はブラジキニンの誘導体。
【請求項16】
前記リシルブラジキニン又はブラジキニンが請求項7~
15のいずれか一項に記載のリシルブラジキニン又はブラジキニンの誘導体であることを特徴とする、
請求項1~6のいずれか一項に記載のポリエチレングリコール修飾のリシルブラジキニン又はブラジキニン。
【請求項17】
虚血性脳卒中の治療、予防、予後回復、又は再発防止のための請求項1~
6のいずれか一項に記載のポリエチレングリコール修飾のリシルブラジキニン又はブラジキニン
を含む組成物。
【請求項18】
虚血性脳卒中の治療、予防、予後回復、又は再発防止のための請求項16に記載のポリエチレングリコール修飾のリシルブラジキニン又はブラジキニンを含む組成物。
【請求項19】
注射、経口で投与される請求項1~
6のいずれか一項に記載のポリエチレングリコール修飾のリシルブラジキニン又はブラジキニン
を含む組成物。
【請求項20】
注射、経口で投与される請求項16に記載のポリエチレングリコール修飾のリシルブラジキニン又はブラジキニンを含む組成物。
【請求項21】
虚血性脳卒中の治療、予防、予後回復、又は再発防止のための請求項7~
15のいずれか一項に記載のリシルブラジキニン又はブラジキニンの誘導体
を含む組成物。
【請求項22】
注射、経口で投与される請求項7~
15のいずれか一項に記載のリシルブラジキニン又はブラジキニンの誘導体
を含む組成物。
【国際調査報告】