(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-06
(54)【発明の名称】フリードライヒ運動失調症に関連する心筋症の治療及び予防のための方法及び医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/76 20150101AFI20250130BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20250130BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20250130BHJP
C12N 15/864 20060101ALN20250130BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20250130BHJP
C12N 7/01 20060101ALN20250130BHJP
C07K 14/47 20060101ALN20250130BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20250130BHJP
【FI】
A61K35/76
A61P25/02
A61K48/00
C12N15/864 100Z
C12N15/11 Z ZNA
C12N7/01
C07K14/47
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024545832
(86)(22)【出願日】2023-02-01
(85)【翻訳文提出日】2024-09-26
(86)【国際出願番号】 US2023061766
(87)【国際公開番号】W WO2023150563
(87)【国際公開日】2023-08-10
(32)【優先日】2022-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508057896
【氏名又は名称】コーネル・ユニバーシティー
【氏名又は名称原語表記】CORNELL UNIVERSITY
(71)【出願人】
【識別番号】524286281
【氏名又は名称】レクセオ セラピューティクス,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100225598
【氏名又は名称】桐島 拓也
(72)【発明者】
【氏名】ロナルド ジー.クリスタル
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン エム.カミンスキー
(72)【発明者】
【氏名】ドーラン ソンディ
(72)【発明者】
【氏名】ジェイ エー.バース
(72)【発明者】
【氏名】リッチー カンナ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA93Y
4B065AA95X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA24
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4C084NA14
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4C087ZA22
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、フリードライヒ運動失調症に関連する心筋症の治療のための方法及び組成物を提供する。本開示の方法及び組成物は、フラタキシンポリペプチドをコードする核酸配列を含む導入遺伝子核酸分子を含む、AAVベクター及びAAVウイルスベクターを含む。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象におけるフリードライヒ運動失調症に関連する心筋症を治療または予防する方法であって、フラタキシン(FXN)ポリペプチドまたはそのフラグメントをコードする核酸配列を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの治療有効量を前記対象に投与することを含み、前記AAVベクターが、5’→3’方向に
第1のAAV ITR配列、
エンハンサー配列、
プロモーター配列、
キメラ型イントロン、
フラタキシン(FXN)ポリペプチドをコードする前記核酸配列、
ポリA配列、及び
第2のITR配列を含み、
前記ベクターが、約1.0×10
10gc/kg~約6.0×10
14gc/kgの範囲の用量で前記対象に静脈内投与される、前記方法。
【請求項2】
対象におけるフリードライヒ運動失調症に関連する心筋症を治療または予防する方法であって、フラタキシン(FXN)ポリペプチドまたはそのフラグメントをコードする核酸配列を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの治療有効量を前記対象に投与することを含み、前記AAVベクターが、配列番号9に記載の核酸配列を含み、前記ベクターが、約1.8×10
11gc/kgまたは約5.6×10
11gc/kgの用量で前記対象に静脈内投与される、前記方法。
【請求項3】
フラタキシン(FXN)ポリペプチドをコードする前記核酸配列が、配列番号3に記載の核酸配列を含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記第1のITR配列が、配列番号1に記載の核酸配列を含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記第2のITR配列が、配列番号2に記載の核酸配列を含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記エンハンサー配列が、配列番号5に記載の核酸配列を含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記プロモーター配列が、配列番号6に記載の核酸配列を含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記ポリA配列が、配列番号8に記載の核酸配列を含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記AAVベクターが、配列番号9に記載の核酸配列を含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記AAVベクターが、AAVカプシドタンパク質を含むAAVウイルスベクターとしてパッケージ化される、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記AAVカプシドタンパク質が、AAV1カプシドタンパク質、AAV2カプシドタンパク質、AAV4カプシドタンパク質、AAV5カプシドタンパク質、AAV6カプシドタンパク質、AAV7カプシドタンパク質、AAV8カプシドタンパク質、AAV9カプシドタンパク質、AAV10カプシドタンパク質、AAV11カプシドタンパク質、AAV12カプシドタンパク質、AAV13カプシドタンパク質、AAVPHP.Bカプシドタンパク質、AAVrh74カプシドタンパク質、またはAAVrh.10カプシドタンパク質である、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記AAVカプシドタンパク質がAAVrh10カプシドタンパク質である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記用量が約1.8×10
11gc/kgである、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記用量が約5.6×10
11gc/kgである、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記対象が、プレドニゾンをさらに投与される、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記プレドニゾンが以下の投与量で投与される、請求項15に記載の方法:
AAVウイルスベクターを投与する24時間前に1日1回40mg、
AAVウイルスベクターを投与した後の1週目~8週目に1日1回40mg、
AAVウイルスベクターを投与した後の9週目に1日1回30mg、
AAVウイルスベクターを投与した後の10週目に1日1回20mg、
AAVウイルスベクターを投与した後の11週目に1日1回10mg、
AAVウイルスベクターを投与した後の12週目に1日1回5mg、
AAVウイルスベクターを投与した後の13週目に1日1回2.5mg、及び
AAVウイルスベクターを投与した後の14週目に1日おきに2.5mg。
【請求項17】
前記静脈内投与が約60分にわたり行われる、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記対象が、AAVベクターを投与した後に、AAVベクターを投与する前のベースラインと比較して、ピークVO2の増加を経験する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記対象における前記ピークVO2が、AAVベクターを投与してから約12週間後、約24週間後、約36週間後、約52週間後、約18か月後、約2年後、約3年後、約4年後、及び/または約5年後に測定される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
ピークVO2が、腕エルゴメトリーを用いた心肺運動負荷試験(CPET)により測定される、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
前記対象が、AAVベクターを投与した後に、AAVベクターを投与する前のベースラインと比較して左心室重量係数(LVMi)の減少を経験する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
LVMiの前記減少が、AAVベクターを投与してから約12週間後、約24週間後、約36週間後、約52週間後、約18か月後、約2年後、約3年後、約4年後、及び/または約5年後に測定される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
LVMiの前記減少が心臓MRIにより測定される、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
前記対象が、AAVベクターを投与した後に、心臓MRIによる測定において、AAVベクターを投与する前のベースラインと比較して、長軸方向グローバルストレインの減少、一回心拍出量の増加、左室駆出率(LVEF)の増加、及び心臓線維化の減少または安定のうちの1つ以上を経験する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
心臓MRIによる前記測定が、AAVベクターを投与してから約12週間後、約24週間後、約36週間後、約52週間後、約18か月後、約2年後、約3年後、約4年後、及び/または約5年後に行われる、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記対象が、AAVベクターを投与した後に、AAVベクターを投与する前のベースラインと比較して、血清NTproBNP、hsTNT、及びCK-MBレベルの減少を経験する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記対象が、AAVベクターを投与した後に、AAVベクターを投与する前のベースラインと比較して心不整脈の減少を経験する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
心不整脈が、遠隔心調律モニタリングにより評価される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記対象が、AAVベクターを投与した後に、AAVベクターを投与する前のベースラインと比較して、修正疲労影響スケール(MFIS)または疲労重症度スケール(FSS)による測定において、疲労の減少を経験する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記対象が、AAVベクターを投与した後に、AAVベクターを投与する前のベースラインと比較して、修正ボルグ呼吸困難、ボルグ知覚疲労評価(RPE)、及びCPETを用いた狭心症スケールによる測定において、(腕エルゴメトリーによるCPET中の)労作症状の改善を経験する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記対象が、AAVベクターを投与した後に、AAVベクターを投与する前のベースラインと比較して、FXN発現レベルの増加を経験する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記FXNレベルが心筋FXN発現レベルである、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
心筋FXN発現が心臓生検により測定される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記対象が、FXN発現レベルの少なくとも約1%、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約150%、少なくとも約200%、少なくとも約300%、少なくとも約400%の増加を経験する、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
前記対象が、AAVベクターを投与した後に、AAVベクターを投与する前のベースラインと比較して、フリードライヒ運動失調症評価スケール(FARS)または修正フリードライヒ運動失調症評価スケール(mFARS)の改善または安定化を経験する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記対象が、AAVベクターを投与した後に、AAVベクターを投与する前のベースラインと比較して、運動失調の評価スケール(SARA)の改善または安定化を経験する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記対象が、AAVベクターを投与した後に、AAVベクターを投与する前のベースラインと比較して、息切れ日常活動スコア(SOBDA)の改善または安定化を経験する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記対象が、AAVベクターを投与した後に、AAVベクターを投与する前のベースラインと比較して、シアトル狭心症質問票(SAQ)の改善または安定化を経験する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記用量が約1.0×10
10gc/kg~約6.0×10
12gc/kgである、請求項1に記載の方法。
【請求項40】
前記用量が約6.0×10
12gc/kg~約1.0×10
14gc/kgである、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国仮出願第63/305,494号(2022年2月1日出願)及び米国仮出願第63/341,669号(2022年5月13日出願)の優先権及び利益を主張する。これらの各内容は、参照により全体として本明細書に援用される。
アスキーテキストファイルでの配列表の提出
【0002】
電子配列表(LEXE_009_001WO_SeqList_ST26.xml、サイズ:17,703バイト、作成日:2023年1月31日)の内容を、参照により全体として本明細書に援用する。
【0003】
政府による資金提供
本発明は、国立衛生研究所の認可を受けたR61 HL151355の下、政府支援によって行われた。政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0004】
本発明は、フリードライヒ運動失調症に関連する心筋症の予防または治療を、それを必要とする対象において行うための方法であって、フラタキシン(FXN)コード核酸を含むAAVベクターの治療有効量を当該対象に投与することを含む、方法に関する。
【背景技術】
【0005】
フリードライヒ運動失調症は常染色体劣性進行性神経変性運動障害であり、典型的な発症年齢は10~15歳である。臨床症状としては、不安定歩行及び高頻度の転倒が挙げられ、可動性及び協調性に進行性の影響を及ぼす。
【0006】
フリードライヒ運動失調症は、9q214にある常染色体FXN遺伝子の変異により引き起こされる。FXNタンパク質は、ミトコンドリアに向けられている(Lupoli 2018;FEBS Lett,592:718-27)。FA患者の96パーセント(96%)は、第1のイントロン内のGAAトリヌクレオチド伸長においてホモ接合性であり、これによってエピジェネティックな変化を伴う機序により転写サイレンシングが引き起こされ、最終的には、健康な対象と比較してFXNメッセンジャーRNA(mRNA)のレベルが低減される。罹患した個体では、全ての組織においてFXNタンパク質が低減する(Puccio 2000;Hum Mol Genet,9: 887-92)。残りの対象(4%)は、GAA伸長と、他方のアレルにおけるより古典的な変異(点変異、小さな欠失または挿入)とを有するため複合ヘテロ接合性であり、これがFXNタンパク質の機能喪失につながっている(Campuzano 1996;Science,271:1423-7)。
【0007】
FXN遺伝子は、85kbのゲノムDNAに広がる7つのエキソンから構成されている(Pandolfo 2006;Genetic Instabilities and Neurological Diseases:Chapter 17)。主要な転写産物(1.3kb)は、40kb間隔以内に局在する最初の5つのエキソンから構成されている(Campuzano 1996;Pandolfo 2006)。フラタキシンは、核コードミトコンドリアタンパク質に典型的な成熟プロセスを経る210アミノ酸タンパク質をコードする(Miranda 2002;FEBS Lett,512:291-7;Puccio 2001;Nat Genet,27:181-6)。標的化配列はアミノ酸1~80の間に含まれ、アルファ-ヘリックス内の正に荷電した残基(アルギニン)からなる(Martelli 2014;Front Pharmacol,5:130)。成熟プロセスは、ミトコンドリアプロセシングペプチダーゼにより2ステップで発生し、41位と42位との間の切断によってFXNの中間形態に至り、次にアミノ酸818で開始する切断によって成熟形態が得られる(Seznec 2004;Hum Mol Genet.2004;13:1017-1024)。
【0008】
FXNのレベルが低減するとミトコンドリア機能不全が生じ、鉄-硫黄(Fe-S)クラスター酵素活性(アコニターゼ及び呼吸鎖複合体I~III)の喪失、ミトコンドリア鉄蓄積、ならびに酸化ストレスに対する感受性増加を伴う(Adinolfi 2009;Nat Struct Mol Biol,16:390-6;Huynen 2001;Hum Mol Genet,10:2463-8;Muhlenhoff 2002;J Biol Chem,277:29810-6;Puccio 2001;Schmucker 2011;PLoS One,6:e16199;Tsai 2010;Biochemistry,49:9132-9)。
【0009】
ヒトFXN遺伝子をコードするAAVベクターが開示されている。AAVベクターは静脈内に注入される。rh10カプシドは、心筋への送達を標的とするように特異的に設計されており、心筋でFXN遺伝子の正常なコピーを送達して、心筋細胞内でのFXN発現を増加させる。このベクターは、心肺運動負荷試験(CPET)及び心臓磁気共鳴画像法(MRI)による測定においてFAに関連する心筋症を安定化及び/または改善させるという仮説が立てられている。
【発明の概要】
【0010】
本開示は、対象におけるフリードライヒ運動失調症に関連する心筋症を治療または予防する方法であって、フラタキシン(FXN)ポリペプチドまたはそのフラグメントをコードする核酸配列を含むアデノ関連ウイルス(AAV)ベクターの治療有効量を対象に投与することを含み、ベクターが、約1.0×1010gc/kg~約6.0×1014gc/kgの範囲の用量で対象に静脈内投与される、方法を提供する。
【0011】
本開示は、対象におけるフリードライヒ運動失調症に関連する心筋症を治療または予防する方法であって、フラタキシン(FXN)ポリペプチドまたはそのフラグメントをコードする核酸配列を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの治療有効量を対象に投与することを含み、AAVベクターが、配列番号9に記載の核酸配列を含み、ベクターが、約1.8×1011gc/kgまたは約5.6×1011gc/kgの用量で対象に静脈内投与される、方法を提供する。
【0012】
いくつかの態様において、AAVベクターは、5’→3’方向に、第1のAAV ITR配列、エンハンサー配列、プロモーター配列、キメラ型イントロン、フラタキシン(FXN)ポリペプチドをコードする核酸配列、ポリA配列、及び第2のITR配列を含む。
【0013】
いくつかの態様において、フラタキシン(FXN)ポリペプチドをコードする核酸配列は、配列番号3に記載の核酸配列を含む。いくつかの態様において、第1のITR配列は、配列番号1に記載の核酸配列を含む。いくつかの態様において、第2のITR配列は、配列番号2に記載の核酸配列を含む。いくつかの態様において、エンハンサー配列は、配列番号5に記載の核酸配列を含む。いくつかの態様において、プロモーター配列は、配列番号6に記載の核酸配列を含む。いくつかの態様において、ポリA配列は、配列番号8に記載の核酸配列を含む。いくつかの態様において、AAVベクターは、配列番号9に記載の核酸配列を含む。
【0014】
いくつかの態様において、AAVベクターは、AAVカプシドタンパク質を含むAAVウイルスベクターとしてパッケージ化される。いくつかの態様において、AAVカプシドタンパク質は、AAV1カプシドタンパク質、AAV2カプシドタンパク質、AAV4カプシドタンパク質、AAV5カプシドタンパク質、AAV6カプシドタンパク質、AAV7カプシドタンパク質、AAV8カプシドタンパク質、AAV9カプシドタンパク質、AAV10カプシドタンパク質、AAV11カプシドタンパク質、AAV12カプシドタンパク質、AAV13カプシドタンパク質、AAVPHP.Bカプシドタンパク質、AAVrh74カプシドタンパク質、またはAAVrh.10カプシドタンパク質である。いくつかの態様において、AAVカプシドタンパク質はAAVrh10カプシドタンパク質である。
【0015】
いくつかの態様において、投与量は約1.8×1011gc/kgである。いくつかの態様において、投与量は約5.6×1011gc/kgである。
【0016】
いくつかの態様において、対象は、さらにプレドニゾンを投与される。いくつかの態様において、プレドニゾンは、AAVウイルスベクターを投与する24時間前に1日1回40mg、AAVウイルスベクターを投与した後の1週目~8週目に1日1回40mg、AAVウイルスベクターを投与した後の9週目に1日1回30mg、AAVウイルスベクターを投与した後の10週目に1日1回20mg、AAVウイルスベクターを投与した後の11週目に1日1回10mg、AAVウイルスベクターを投与した後の12週目に1日1回5mg、AAVウイルスベクターを投与した後の13週目に1日1回2.5mg、及びAAVウイルスベクターを投与した後の14週目に1日おきに2.5mgの投与量で投与される。
【0017】
いくつかの態様において、静脈内投与は、約60分にわたり行われる。
【0018】
いくつかの態様において、対象は、AAVベクターを投与した後に、AAVベクターを投与する前のベースラインと比較して、ピークVO2の増加を経験する。
【0019】
いくつかの態様において、対象におけるピークVO2は、AAVベクターを投与してから約12週間後、約24週間後、約36週間後、約52週間後、約18か月後、約2年後、約3年後、約4年後、及び/または約5年後に測定される。いくつかの態様において、ピークVO2は、腕エルゴメトリーを用いた心肺運動負荷試験(CPET)により測定される。
【0020】
いくつかの態様において、対象は、AAVベクターを投与した後に、AAVベクターを投与する前のベースラインと比較して、左心室重量係数(LVMi)の減少を経験する。いくつかの態様において、LVMiの減少は、AAVベクターを投与してから約12週間後、約24週間後、約36週間後、約52週間後、約18か月後、約2年後、約3年後、約4年後、及び/または約5年後に測定される。いくつかの態様において、LVMiは心臓MRIにより測定される。
【0021】
いくつかの態様において、対象は、AAVベクターを投与した後に、心臓MRIによる測定において、AAVベクターを投与する前のベースラインと比較して、長軸方向グローバルストレインの減少、一回心拍出量の増加、左室駆出率(LVEF)の増加、及び心臓線維化の減少または安定のうちの1つ以上を経験する。いくつかの態様において、心臓MRIによる測定は、AAVベクターを投与してから約12週間後、約24週間後、約36週間後、約52週間後、約18か月後、約2年後、約3年後、約4年後、及び/または約5年後に行われる。
【0022】
いくつかの態様において、対象は、AAVベクターを投与した後に、AAVベクターを投与する前のベースラインと比較して、血清NTproBNP、hsTNT、及びCK-MBレベルの減少を経験する。
【0023】
いくつかの態様において、対象は、AAVベクターを投与した後に、心不整脈の減少を経験する。いくつかの態様において、心不整脈は、遠隔心調律モニタリングにより評価される。
【0024】
いくつかの態様において、対象は、AAVベクターを投与した後に、AAVベクターを投与する前のベースラインと比較して、修正疲労影響スケール(MFIS:Modified Fatigue Impact Scale)または疲労重症度スケール(FSS)による測定において、疲労の減少を経験する。
【0025】
いくつかの態様において、対象は、AAVベクターを投与した後に、AAVベクターを投与する前のベースラインと比較して、修正ボルグ呼吸困難、ボルグ知覚疲労評価(RPE)、及びCPETを用いた狭心症スケールによる測定において、(腕エルゴメトリーによるCPET中の)労作症状の改善を経験する。
【0026】
いくつかの態様において、対象は、AAVベクターを投与した後に、AAVベクターを投与する前のベースラインと比較して、FXN発現レベルの増加を経験する。いくつかの態様において、FXNレベルは心筋FXN発現レベルである。いくつかの態様において、心筋FXN発現は、心臓生検により測定される。
【0027】
いくつかの態様において、対象は、FXN発現レベルの少なくとも約1%、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約150%、少なくとも約200%、少なくとも約300%、少なくとも約400%の増加を経験する。
【0028】
いくつかの態様において、対象は、AAVベクターを投与した後に、AAVベクターを投与する前のベースラインと比較して、フリードライヒ運動失調症評価スケール(FARS)または修正フリードライヒ運動失調症評価スケール(mFARS)の改善または安定化を経験する。
【0029】
いくつかの態様において、対象は、AAVベクターを投与した後に、AAVベクターを投与する前のベースラインと比較して、運動失調の評価スケール(SARA)の改善または安定化を経験する。
【0030】
いくつかの態様において、対象は、AAVベクターを投与した後に、AAVベクターを投与する前のベースラインと比較して、息切れ日常活動スコア(SOBDA)の改善または安定化を経験する。
【0031】
いくつかの態様において、対象は、AAVベクターを投与した後に、AAVベクターを投与する前のベースラインと比較して、シアトル狭心症質問票(SAQ)の改善または安定化を経験する。
【0032】
上記の任意の態様、または本明細書に記載する任意の他の態様は、任意の他の態様と組み合わせることができる。
【0033】
別段の定義がない限り、本明細書で使用する全ての技術用語及び科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有するものとする。本明細書において、文脈による別段の明確な定めがない限り、単数形は複数形も含み、例として、「a」、「an」、及び「the」という用語は単数または複数であるように理解され、「または」という用語は包括的であるものと理解される。例として、「要素(an element)」とは1つ以上の要素を意味する。
【0034】
本開示の実施または試験を行う際は、本明細書に記載の方法及び材料と同様または同等のものを使用することができるが、好適な方法及び材料について以下に記載する。本明細書で言及される全ての刊行物、特許出願、特許、及び他の参考文献は、参照によりそれらの全体が援用される。本明細書で引用されている参考文献は、特許請求されている発明に対する先行技術として認められるものではない。矛盾が生じる場合は、定義を含めて本明細書が優先されるものとする。さらに、材料、方法、及び実施例は、例示的なものに過ぎず、限定的であるようには意図されていない。本開示における他の特徴及び利点は、以下の発明を実施するための形態及び特許請求の範囲から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1A】様々な用量のAAVrh.10FXNがMCKマウスにおけるhFXNの心臓発現に及ぼす影響を示すグラフを示している。
図1Aは、3つの投与量を静脈内投与した後の用量依存的な心臓hFXNレベルを示す折れ線グラフを示している。x軸は投与量を示す。y軸はhFXNタンパク質の総心臓レベルを示す。
【
図1B】様々な用量のAAVrh.10FXNがMCKマウスにおけるhFXNの心臓発現に及ぼす効果を示すグラフを示している。
図1Bは、FAホモ接合体をヘテロ接合体に変換するためのヒトレベル推定に関連する用量依存的心臓hFXNレベルを示す棒グラフである。x軸は投与量を示す。y軸は心臓組織中のhFXNタンパク質レベルを示す。FAにヘテロ接合性の対象における心臓フラタキシンレベルの範囲が、グラフ内の灰色の枠で示されている。
【
図2A】AAVrh.10hFXNの静脈内投与が雄雌MCKマウスの体重に及ぼす有効性を示す2つのグラフである。x軸は、ベクターを投与した後の時間(日数)を示す。y軸は体重(グラム)を示す。PBS処置MCKマウスの死亡予想が垂直方向の破線で示されている。
図2Aは雄マウスにおけるグラフを示す。
【
図2B】AAVrh.10hFXNの静脈内投与が雄雌MCKマウスの体重に及ぼす有効性を示す2つのグラフである。x軸は、ベクターを投与した後の時間(日数)を示す。y軸は体重(グラム)を示す。PBS処置MCKマウスの死亡予想が垂直方向の破線で示されている。
図2Bは雌マウスにおけるグラフを示す。
【
図3】3つの処置群(野生型/無処置;MCK/PBSモック処置;MCK/1.8×10
12gc/kg AAVrh.10hFXN)において、処置後の複数の時点でマウスの心臓組織を撮影した一連の心エコー検査画像を示している。画像は、傍胸骨短軸像からの左心室の側壁(上)及び中隔壁(下)を示す。垂直方向の破線は、収縮期(緑色)及び拡張期(赤色)における壁の相対的な位置を比較するものである。
【
図4A】1.8×10
12gc/kgのAAVrh.10hFXNを静脈内投与したMCKマウスにおける心機能改善を示す2つのグラフである。
図4Aは、3つの処置群におけるマウスの心臓駆出率を示している。治療群ごとに線を表示している。x軸はマウスの週齢を示す。y軸は駆出率を示す。
【
図4B】1.8×10
12gc/kgのAAVrh.10hFXNを静脈内投与したMCKマウスにおける心機能改善を示す2つのグラフである。
図4Bは、それぞれの線の隣に示す3群のマウスにおける心臓短縮率を示している。x軸はマウスの週齢を示す。y軸は短縮パーセンテージを示す。
【
図5】AAVrh.10hFXNの静脈内投与がMCKマウスの生存に及ぼす用量依存的影響を示す生存曲線を示している。マウスに3つの用量のAAVrh.10hFXN、またはPBSによるモック処置を投与した。線は処置に従って表示されている。x軸はマウスの日齢を示す。y軸は生存パーセントを示す。
【
図6】MCKマウスにおいて定量された最小有効用量及び有意な有効用量の非ヒト霊長類(NHP)における影響について評価する例示的モデルの模式図を示している。2つの用量を静脈内投与し、モック処置したPBS対照と比較した。投与から12週間後に心臓組織を採取し、hFXNレベルを評価した。
【
図7A】
図6に示す例示的なモデルを用いて、AAVrh.10hFXNが非ヒト霊長類におけるhFXNの心臓発現に及ぼす影響を示す2つのグラフを示している。
図7Aは、非ヒト霊長類の心臓組織における用量依存的なhFXNレベルを示す棒グラフを示している。x軸は処置群を示す。y軸はhFXNレベルを示す。PBS対照群のhFXNレベルは水平方向の破線で示されている。
【
図7B】
図6に示す例示的なモデルを用いて、AAVrh.10hFXNが非ヒト霊長類におけるhFXNの心臓発現に及ぼす影響を示す2つのグラフを示している。
図7Bは、hFXNのヘテロ接合体標的レベルに対する関連性を示す棒グラフを示している。x軸はベクター用量を示す。y軸はhFXNレベルを示す。FAにおいてヘテロ接合性の対象における心臓フラタキシンレベルの範囲が、グラフ内の灰色の枠により示されている。
【
図8A】AAVrh.10hFXNのMCKマウスにおける拡大投与量試験を示している。
図8Aは、マウスに投与したAAVrh.10hFXNの投与量を示す表である。
【
図8B】AAVrh.10hFXNのMCKマウスにおける拡大投与量試験を示している。
図8Bは、AAVrh.10hFXNを指示投与量で投与した後の、処置マウスの肝臓内でのヒトフラタキシンの発現を示すグラフである。
【
図8C】AAVrh.10hFXNのMCKマウスにおける拡大投与量試験を示している。
図8c波、AAVrh.10hFXNを指示投与量で投与した後の、処置マウスの心臓内でのヒトフラタキシンの発現を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本開示は、対象におけるフリードライヒ運動失調症に関連する心筋症を治療または予防する方法を提供する。いくつかの態様において、この方法は、フラタキシン(FXN)ポリペプチドまたはそのフラグメントをコードする核酸配列を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの治療有効量を対象に投与することを含む。いくつかの態様において、ベクターは、1.0×1010gc/kg~約6.0×1014gc/kgの範囲の用量の治療有効量で投与される。いくつかの態様において、ベクターは静脈内投与される。
【0037】
AAVベクター
いくつかの態様において、フラタキシン(FXN)をコードする核酸配列を含む単離核酸配列は、AAVベクターであり得る。
【0038】
本明細書で使用する場合、「アデノ随伴ウイルス」または「AAV」という用語は、この名称に関連し、Parvoviridae科Dependoparvovirus属に属するウイルスのクラスのメンバーを指す。アデノ随伴ウイルスは、共感染ヘルパーウイルスによってある特定の機能を与えられた細胞内で成長する一本鎖DNAウイルスである。AAVについての全般的な情報及び概説は、例えば、Carter,1989,Handbook of Parvoviruses,Vol.1,pp.169-228及びBerns,1990,Virology,pp.1743-1764,Raven Press,(New York)に記載されている。様々な血清型が、構造及び機能の両方において、さらには遺伝子レベルでも、かなり密接に関連していることが周知されているため、これらの概説で述べられているのと同じ原理が、これらの概説の発表日以降に特徴付けられたさらなるAAV血清型にも適用可能であることは十分に予想される(例えば、Blacklowe,1988(Parvoviruses and Human Disease,J.R.Pattison,ed.のpp.165-174);及びRose,Comprehensive Virology 3:1-61 (1974)を参照)。例えば、全てのAAV血清型は、相同なrep遺伝子により媒介される非常に類似した複製特性を明らかに示しており、いずれもAAV2で発現されるような3つの関連するカプシドタンパク質を有する。さらに、ゲノムの長さに沿った血清型間での広範なクロスハイブリダイゼーション、及び「逆方向末端リピート配列」(ITR)に対応する類似の自己アニーリングセグメントが末端に存在することを明らかにしたヘテロデュプレックス分析により、関連性の程度がさらに示唆される。また、感染性パターンの類似性からは、各血清型における複製機能が同様の調節制御下にあることも示唆される。このウイルスの複数の血清型が遺伝子送達に適していることが知られており、全ての既知の血清型が様々な組織タイプの細胞に感染することができる。少なくとも11の連続でナンバリングされたAAV血清型が当技術分野で知られている。本明細書で開示する方法に有用な非限定的な例示的な血清型としては、11の血清型のいずれか、例えば、AAV2、AAV8、AAV9、またはバリアント血清型、例えば、AAV-DJ及びAAV PHP.Bが挙げられる。AAV粒子は、3つの主要なウイルスタンパク質VPl、VP2、及びVP3を含む、それらから本質的になる、またはそれらからなる。いくつかの態様において、AAVは、血清型AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13、AAVPHP.B、AAVrh74、またはAAVrh.10を指す。
【0039】
例示的なアデノ随伴ウイルス及び組換えアデノ随伴ウイルスとしては、限定されるものではないが、全ての血清型(例えば、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13、AAVPHP.B、AAVrh74、及びAAVrh.10)が挙げられる。例示的なアデノ随伴ウイルス及び組換えアデノ随伴ウイルスとしては、限定されるものではないが、自己相補的AAV(scAAV)、ならびにある血清型のゲノム及び別の血清型のカプシドを含むAAVハイブリッド(例えば、AAV2/5、AAV-DJ、及びAAV-DJ8)が挙げられる。例示的なアデノ随伴ウイルス及び組換えアデノ随伴ウイルスとしては、限定されるものではないが、rAAV-LK03、AAV-KP-1(詳細はKerun et al.JCI Insight,2019;4(22):e131610に記載)、及びAAV-NP59(詳細はPaulk et al.Molecular Therapy,2018;26(1):289-303に記載)が挙げられる。
【0040】
AAVは複製欠損型パルボウイルスであり、その一本鎖DNAゲノムの長さは約4.7kbであり、2つの145ヌクレオチド逆方向末端リピート(ITR)が含まれる。AAVには複数の血清型が存在する。AAV血清型のゲノムの塩基配列が知られている。例えば、AAV-1の完全なゲノムは、GenBankアクセッション番号NC_002077で提供され、AAV-2の完全なゲノムは、GenBankアクセッション番号NC_001401及びSrivastava et al.,J.Virol.,45:555-564(1983)で提供され、AAV-3の完全なゲノムは、GenBankアクセッション番号NC_l829で提供され、AAV-4の完全なゲノムは、GenBankアクセッション番号NC_001829で提供され、AAV-5ゲノムは、GenBankアクセッション番号AF085716で提供され、AAV-6の完全なゲノムは、GenBankアクセッション番号NC_001862で提供され、AAV-7及びAAV-8ゲノムの少なくとも一部は、それぞれGenBankアクセッション番号AX753246及びAX753249で提供され、AAV-9ゲノムは、Gao et al.,J.Virol.,78:6381-6388(2004)で提供され、AAV-10ゲノムは、Mol.Ther.,13(1):67-76(2006)で提供され、AAV-11ゲノムは、Virology,330(2):375-383(2004)で提供されている。AAV rh.74ゲノムの配列は、米国特許第9,434,928号に記載されている。また、米国特許第9,434,928号も、カプシドタンパク質の配列及び自己相補的ゲノムを提供している。いくつかの態様において、AAVゲノムは自己相補的ゲノムである。ウイルスのDNA複製(rep)、カプシド化/パッケージ化、及び宿主細胞の染色体統合を指示するシス作用配列が、AAV ITR内に含まれている。3つのAAVプロモーター(相対的なマップ位置からp5、p19、及びp40と称される)が、rep遺伝子及びcap遺伝子をコードする2つのAAV内部オープンリーディングフレームの発現を駆動する。2つのrepプロモーター(p5及びp19)により、1つのAAVイントロン(ヌクレオチド2107及び2227)の差次的スプライシングを伴って、rep遺伝子から4つのrepタンパク質(rep78、rep68、rep52、及びrep40)が生成される。repタンパク質は複数の酵素的性質を有し、究極的にはウイルスゲノムの複製に関与する。
【0041】
cap遺伝子はp40プロモーターから発現し、3つのカプシドタンパク質VPl、VP2、及びVP3をコードする。選択的スプライシング及び非コンセンサス翻訳開始部位が、3つの関連カプシドタンパク質の生成に関与する。より具体的には、VP1、VP2、及びVP3タンパク質の各々が翻訳される単一のmRNAが転写された後、これが2つの異なる方法でスプライシングされる。すなわち、長いイントロンまたは短いイントロンが切除され得、その結果、2.3kb長及び2.6kb長の2つのmRNAプールが形成される。長い方のイントロンがしばしば好まれるため、2.3kb長のmRNAはメジャースプライスバリアントと呼ばれることがある。この形態は、VP1タンパク質の合成を開始する最初のAUGコドンが欠如しており、その結果、VP1タンパク質の合成レベルが全体的に低減される。メジャースプライスバリアントに残存する最初のAUGコドンは、VP3タンパク質の開始コドンである。しかし、同じオープンリーディングフレーム内のこのコドンの上流には、最適なKozak(翻訳開始)コンテキストに囲まれたACG配列(スレオニンをコード)が存在する。これは、VP2タンパク質(実際には、VP1と同様に、VP3タンパク質にN末端残基が付加されたもの)が低いレベルで合成されることに寄与している(Becerra SP et al.,(December 1985).“Direct mapping of adeno-associated virus capsid proteins B and C:a possible ACG initiation codon”.Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America.82(23):7919-23;Cassinotti P et al.,(November 1988).“Organization of the adeno-associated virus(AAV)capsid gene:mapping of a minor spliced mRNA coding for virus capsid protein 1”.Virology.167(1):176-84;Muralidhar S et al.,(January 1994).“Site-directed mutagenesis of adeno-associated virus type 2 structural protein initiation codons:effects on regulation of synthesis and biological activity”.Journal of Virology.68(1):170-6;及びTrempe JP,Carter BJ(September 1988).“Alternate mRNA splicing is required for synthesis of adeno-associated virus VP1 capsid protein”.Journal of Virology.62(9):3356-63(これらの各々が、参照により本明細書に援用される)に記載されている通り)。単一のコンセンサスポリA部位は、AAVゲノムのマップ位置95に存在する。AAVのライフサイクル及び遺伝学については、Muzyczka,Current Topics in Microbiology and Immunology,158:97-129(1992)で概説されている。
【0042】
各VP1タンパク質は、VP1部分、VP2部分、及びVP3部分を含む。VP1部分は、VP1タンパク質にユニークなVP1タンパク質のN末端部分である。VP2部分は、VP1タンパク質内に存在するアミノ酸配列であり、これはVP2タンパク質のN末端部分にも存在する。VP3部分及びVP3タンパク質は同じ配列を有する。VP3部分は、VP1及びVP2タンパク質と共有されるVP1タンパク質のC末端部分である。
【0043】
VP3タンパク質はさらに、離散した可変表面領域I~IX(VR-I~IX)に分類することができる。可変表面領域(VR)の各々は、単独でまたは他のVRの各々の特定のアミノ酸配列との組合せで、ユニークな感染表現型(例えば、他のAAV血清型と比較しての抗原性の減少、形質導入の改善、及び/または組織特異的トロピズム)を特定の血清型に付与することができる、特定のアミノ酸配列を含むまたは含有することができる(DiMatta et al.,“Structural Insight into the Unique Properties of Adeno-Associated Virus Serotype 9”J.Virol.,Vol.86(12):6947-6958,June 2012(この内容は参照により本明細書に援用される)に記載の通り)。
【0044】
AAVは、例えば遺伝子療法において、外来DNAを細胞に送達するためのベクターとしての魅力をもたらすユニークな特徴を有する。AAVの培養下細胞への感染は非細胞変性であり、ヒト及び他の動物への自然感染は無症候性である。さらに、AAVは多くの哺乳類細胞に感染することから、in vivoで多くの異なる組織を標的とする可能性が得られる。さらに、AAVは、ゆっくり分裂する細胞及び非分裂細胞に形質導入し、転写的に活性の核エピソーム(染色体外エレメント)として、本質的にそれらの細胞の一生にわたり持続することができる。AAVプロウイルスゲノムは、クローンDNAとしてプラスミドに挿入されるため、組換えゲノムの構築を実現可能にする。さらに、AAV複製及びゲノムカプシド化を指示するシグナルは、AAVゲノムのITR内に含まれているため、(複製及び構造カプシドタンパク質rep-capをコードする)ゲノムの内部のおよそ4.3kbの一部または全部を外来DNAで置き換えて、AAVベクターを生成することができる。rep及びcapタンパク質はトランスで提供されることもある。AAVのもう1つの重要な特徴は、極めて安定し頑健なウイルスであるということである。アデノウイルスの不活性化に使用される条件(56℃~65℃で数時間)に容易に耐えることから、AAVの低温保存は重要ではない。AAVはさらに凍結乾燥することができる。最後に、AAV感染細胞は重複感染に抵抗性ではない。
【0045】
複数の研究から、組換えAAV媒介性タンパク質が長期(1.5年超)にわたり筋肉内で発現することが実証されている。Clark et al.,Hum Gene Ther,8:659-669(1997);Kessler et al.,Proc Nat Acad Sc USA,93:14082-14087(1996);及びXiao et al.,J Virol,70:8098-8108(1996)を参照。また、Chao et al.,Mol Ther,2:619-623(2000)及びChao et al.,Mol Ther,4:217-222(2001)も参照。さらに、筋肉は高度に血管形成されているため、組換えAAV形質導入を行った結果、筋肉内注射後に、全身循環中に導入遺伝子産物が出現した(Herzog et al.,Proc Natl Acad Sci USA,94:5804-5809(1997)及びMurphy et al.,Proc Natl Acad Sci USA,94:13921-13926(1997)に記載の通り)。さらに、Lewis et al.,J Virol,76:8769-8775(2002)は、骨格筋線維が正しい抗体グリコシル化、フォールディング、及び分泌に必要な細胞因子を有することを実証した。これは、筋肉で分泌タンパク質治療薬の安定した発現が可能であることを示すものである。本発明の組換えAAV(rAAV)ゲノムは、UBE3A-ATSに対し向けられた少なくとも1つのショートヘアピンRNA(shRNA)分子をコードするポリヌクレオチド配列を含む核酸分子と、核酸分子に隣接する1つ以上のAAV ITRとを含む、それらから本質的になる、またはそれらからなる。シュードタイプrAAVの生成については、例えば、WO2001083692で開示されている。他のタイプのrAAVバリアント、例えば、カプシド変異を有するrAAVも企図されている。例えば、Marsic et al.,Molecular Therapy,22(11):1900-1909(2014)を参照。当技術分野では、様々なAAV血清型のゲノムのヌクレオチド配列が知られている。
【0046】
本明細書で使用する場合、「AAVベクター」とは、1つ以上の導入遺伝子配列と、1つ以上のAAV逆方向末端リピート配列(ITR)とを含む、それらから本質的になる、またはそれらからなるベクターに関するものである。いくつかの態様において、AAVベクターは、エンハンサー、プロモーター、少なくとも1つのタンパク質をコードすることができる少なくとも1つの核酸、イントロン配列、及びポリA配列のうちの1つ以上を含む。
【0047】
いくつかの態様において、本発明は、心筋症の治療または予防を、それを必要とする対象において行うのに使用するための、フラタキシン(FXN)コード核酸を含むAAVベクターに関する。
【0048】
いくつかの態様において、本発明は、フリードライヒ運動失調症に関連する心筋症の治療または予防を、それを必要とする対象において行うのに使用するための、フラタキシン(FXN)コード核酸を含むAAVベクターに関する。
【0049】
いくつかの態様において、本発明は、フリードライヒ運動失調症に関連する心筋症の症状の回復または安定化を、それを必要とする対象において行うための、フラタキシン(FXN)コード核酸を含むAAVベクターに関する。
【0050】
いくつかの態様において、本発明は、フリードライヒ運動失調症に関連する心臓ミトコンドリアの機能不全の回復を、それを必要とする対象において行うための、フラタキシン(FXN)コード核酸を含むAAVベクターに関する。
【0051】
いくつかの態様において、本発明は、フリードライヒ運動失調症に関連する心臓ミトコンドリアの改善を、それを必要とする対象において行うための、フラタキシン(FXN)コード核酸を含むAAVベクターに関する。
【0052】
いくつかの態様において、本発明は、フリードライヒ運動失調症に関連する心筋症を患う対象における心機能を修復するための、フラタキシン(FXN)コード核酸を含むAAVベクターに関する。
【0053】
いくつかの態様において、本発明は、フリードライヒ運動失調症に関連する心筋症を患う対象における心機能を改善するための、フラタキシン(FXN)コード核酸を含むAAVベクターに関する。
【0054】
いくつかの態様において、本発明は、フリードライヒ運動失調症に関連する心筋症の治療を、それを必要とする無症候性または前症候性の対象において行うのに使用するための、フラタキシン(FXN)コード核酸を含むAAVベクターに関する。
【0055】
いくつかの態様において、本発明は、フリードライヒ運動失調症に関連する心筋症の治療を、それを必要とする症候性の対象において行うのに使用するための、フラタキシン(FXN)コード核酸を含むAAVベクターに関する。
【0056】
いくつかの態様において、本開示の方法に使用されるAAVベクターは、5’→3’方向に、第1のAAV ITR配列、エンハンサー配列、プロモーター配列、キメラ型イントロン配列、フラタキシンをコードする核酸配列、ポリA配列、及び第2のITR配列を含む。
【0057】
いくつかの態様において、本開示のフラタキシンコードAAVベクターは、配列番号9に対し少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%(またはこの間の任意のパーセンテージ)同一である核酸配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなることができる。
フラタキシンをコードする核酸配列
【0058】
いくつかの態様において、フラタキシン(FXN)ポリペプチドをコードする核酸配列は、配列番号3に対し少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%(またはこの間の任意のパーセンテージ)同一である核酸配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなることができる。
【0059】
いくつかの態様において、フラタキシン(FXN)ポリペプチドは、配列番号4に対し少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%(またはこの間の任意のパーセンテージ)同一であるアミノ酸配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなることができる。
【0060】
いくつかの態様において、本発明は、フリードライヒ運動失調症に関連する心筋症を治療するための、配列番号3またはそのバリアントを含む核酸配列を提供する。
【0061】
バリアントとしては、例えば、個体間のアレル変異(例えば、多型)に起因する天然のバリアント、選択的スプライシング形態、特に転写バリアント2及び3(アクセッション番号NM_001161706及びNM_181425)などが挙げられる。バリアントという用語は、他の供給源または生物からのFXN遺伝子配列も含む。バリアントは、好ましくは、配列番号3と実質的に相同であり、すなわち、配列番号3に対し、典型的には少なくとも約75%、好ましくは少なくとも約85%、より好ましくは少なくとも約90%、より好ましくは少なくとも約95%、96%、97%、98%、または99%のヌクレオチド配列同一性を示す。また、FXN遺伝子のバリアントは、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、上記で定義されるような配列(またはその相補鎖)にハイブリダイズする核酸配列も含む。典型的なストリンジェントなハイブリダイゼーション条件としては、30℃超、好ましくは35℃超、より好ましくは42℃を上回る温度、及び/または約500mM未満、好ましくは200mM未満の塩分が挙げられる。ハイブリダイゼーション条件は、当業者が、温度、塩分、及び/または他の試薬(例えば、SDS、SSCなど)の濃度を変更することにより調整することができる。
【0062】
いくつかの態様において、FXNコード核酸は配列番号3のフラグメントである。
【0063】
いくつかの態様において、ミトコンドリア標的化シグナルまたはミトコンドリア標的化シグナルとして知られる配列を、FXNコード配列またはそのバリアント(例えば、FXNコード配列「81-210」を含む)に付加することができる。ミトコンドリア(mitochondrion)標的化シグナルまたはミトコンドリア(mitochondrial)標的化シグナルとして知られる配列は、当業者にMTSと称されている。
【0064】
MTS配列は、当業者によりタンパク質または核酸の配列内で特定することができる。
【0065】
ほとんどのミトコンドリア標的ペプチドは、約15~100残基、好ましくは約20~80残基のN末端プレ配列からなる。これらは、アルギニン、ロイシン、セリン、及びアラニンに富む。ミトコンドリアプレ配列は、正に荷電したアミノ酸残基(ほとんどはアルギニン残基を介し提供される)の統計的バイアス偏りを示し、ごく少数の配列は負に荷電したアミノ酸を含む。ミトコンドリア標的化ペプチドは、両親媒性アルファヘリックスを形成する能力も共有する。
【0066】
MTSを特定する方法についての完全な説明は、M.G.Claros,P.Vincens,1996(Eur.J.Biochem.241,779-786(1996),“Computational method to predict mitochondrially imported proteins and their targeting sequences”)(当該文献の内容は参照により本明細書に援用される)で得られる。
【0067】
逆方向末端リピート配列
「逆方向末端リピート」または「ITR」とは、AAVゲノムの両端に存在する当技術分野で認識された領域を意味し、DNA複製の起点として、またウイルスのパッケージ化シグナルとして、シスで一緒に機能する。AAV ITRは、AAV repコード領域と一緒に、2つのフランキングITRの間に介在するヌクレオチド配列を効率的に切除し、レスキューし、哺乳類細胞ゲノムに統合する。AAV ITR領域の塩基配列が知られている。例えば、AAV-2配列についてはKotin,1994;Berns,KI“Parvoviridae and their Replication”in Fundamental Virology,2nd Edition,(B.N.Fields and D.M.Knipe,eds.)を参照。本明細書で使用する場合、「AAV ITR」は、必ずしも野生型ヌクレオチド配列を含むとは限らず、例えばヌクレオチドの挿入、欠失、または置換により改変されてもよい。さらに、AAV ITRは、数種のAAV血清型(限定されるものではないが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6などを含む)のうちのいずれかに由来してもよい。さらに、AAVベクター内の選択されたヌクレオチド配列に隣接する5’及び3’ITRは、意図された通りに機能する限り、すなわち、宿主細胞ゲノムまたはベクターからの目的配列を切除しレスキューできるようにし、AAV Rep遺伝子産物が細胞内に存在するときに、異種配列をレシピエント細胞ゲノムに統合できるように機能する限り、必ずしも同一である必要はなく、また同じAAV血清型または単離株に由来する必要もない。さらに、AAV ITRは、数種のAAV血清型(限定されるものではないが、AAV1、AA2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6などを含む)のうちのいずれかに由来してもよい。さらに、AAV発現ベクター内の選択されたヌクレオチド配列に隣接する5’及び3’ITRは、意図された通りに機能する限り、すなわち、宿主細胞ゲノムまたはベクターからの目的配列を切除及びレスキューできるようにし、AAV Rep遺伝子産物が細胞内に存在するときに、DNA分子をレシピエント細胞ゲノムに統合できるように機能する限り、必ずしも同一である必要はなく、また同じAAV血清型または単離株に由来する必要もない。
【0068】
いくつかの態様において、AAV ITR配列は、当技術分野で知られている任意のAAV ITR配列を含むことができる。いくつかの態様において、AAV ITR配列は、AAV1 ITR配列、AAV2 ITR配列、AAV4 ITR配列、AAV5 ITR配列、AAV6 ITR配列、AAV7 ITR配列、AAV8 ITR配列、AAV9 ITR配列、AAV10 ITR配列、AAV11 ITR配列、AAV12 ITR配列、AAV13 ITR配列、AAVrh74 ITR配列、またはAAVrh10 ITR配列であり得る。
【0069】
したがって、いくつかの態様において、AAV ITR配列は、AAV1 ITR配列、AAV2 ITR配列、AAV4 ITR配列、AAV5 ITR配列、AAV6 ITR配列、AAV7 ITR配列、AAV8 ITR配列、AAV9 ITR配列、AAV10 ITR配列、AAV11 ITR配列、AAV12 ITR配列、AAV13 ITR配列、AAVrh74 ITR配列、またはAAVrh10 ITR配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなることができる。
【0070】
いくつかの態様において、本開示のrAAVベクターは、AAV2 ITR配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなることができる。いくつかの態様において、本開示のrAAVベクターは、AAV2 ITR配列または修飾AAV2 ITR配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなることができる。
【0071】
いくつかの態様において、第1のITRは、配列番号1に対し少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%(またはこの間の任意のパーセンテージ)同一である核酸配列またはその相補配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなることができる。いくつかの態様において、第1のITRは、配列番号2に対し少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%(またはこの間の任意のパーセンテージ)同一である核酸配列またはその相補配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなることができる。
【0072】
いくつかの態様において、第2のITRは、配列番号1に対し少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%(またはこの間の任意のパーセンテージ)同一である核酸配列またはその相補配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなることができる。
いくつかの態様において、第2のITRは、配列番号2に対し少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%(またはこの間の任意のパーセンテージ)同一である核酸配列またはその相補配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなることができる。
【0073】
プロモーター及びエンハンサー配列
本明細書で使用する場合、「プロモーター」及び「プロモーター配列」という用語は、遺伝子または導入遺伝子などのコード配列の転写の開始及び速度が制御されるポリヌクレオチド配列の一領域である制御配列を意味する。プロモーターは、例えば、構成的、誘導性、抑制性、または組織特異的であり得る。プロモーターは、RNAポリメラーゼ及び転写因子などの調節タンパク質及び分子が結合することができる遺伝子エレメントを含むことができる。
【0074】
選択されたヌクレオチド配列、例えばフラタキシンコードヌクレオチド配列は、in vivoで対象におけるその転写または発現を指示する制御エレメントに作用可能に結合している。このような制御エレメントは、選択された遺伝子に通常関連する制御配列を含むことができる。
【0075】
代替形態として、異種の制御配列を用いてもよい。有用な異種の制御配列としては、概して、哺乳類またはウイルス遺伝子をコードする配列に由来する配列が挙げられる。例としては、限定されるものではないが、ホホグリセリン酸キナーゼ(PKG)プロモーター、CAG、MCK(筋クレアチンキナーゼ)、SV40初期プロモーター、マウス乳腺腫瘍ウイルスLTRプロモーター、アデノウイルス主後期プロモーター(Ad MLP)、単純ヘルペスウイルス(HSV)プロモーター、CMV最初期プロモーター領域(CMVIE)などのサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、ニワトリβ-アクチン(CBA)プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、合成プロモーター、ハイブリッドプロモーターなどが挙げられる。プロモーターは、ヒト起源であっても、マウスを含む他の種に由来してもよい。さらに、マウスメタロチオネイン遺伝子などの非ウイルス遺伝子に由来する配列も本明細書で使用される。このようなプロモーター配列は、例えば、Stratagene(San Diego,CA)から市販されている。
【0076】
異種プロモーターの例としては、CMVプロモーターが挙げられる。
【0077】
誘導性プロモーターの例としては、エクジソン、テトラサイクリン、ハイポキシア、及びオーフィン(andaufin)に対するDNA応答性エレメントが挙げられる。
【0078】
エンハンサーは、標的配列の発現を増加させる調節エレメントである。「プロモーター/エンハンサー」は、プロモーター及びエンハンサーの両方の機能を提供可能な配列を含むポリヌクレオチドである。例えば、レトロウイルスの長末端リピートには、プロモーター及びエンハンサーの両方の機能が含まれる。エンハンサー/プロモーターは、「内在性」の場合も「外在性」の場合も「異種性」の場合もある。「内在性」エンハンサー/プロモーターは、ゲノム内の所与の遺伝子と天然に結合しているものである。「外在性」または「異種性」のエンハンサーまたはプロモーターは、遺伝子操作(すなわち、分子生物学的技法)または合成技法により遺伝子に並列して配置され、その結果遺伝子の転写が結合したエンハンサー/プロモーターによって指示されるエンハンサーまたはプロモーターである。本明細書で提供する方法、組成物、及びコンストラクトに使用するための結合したエンハンサー/プロモーターの非限定的な例としては、CBAプロモーターに結合したCMVエンハンサーが挙げられる。当技術分野では、エンハンサーは離れた位置でも、また内在性または異種プロモーターの位置に対する向きにかかわらず作用し得ると理解されている。したがって、プロモーターから離れた位置で作用するエンハンサーは、ベクター内の位置またはプロモーターの位置に対する向きにかかわらず、そのプロモーターに「作用可能に結合」しているとさらに理解される。
【0079】
本開示の全体で使用する場合、「作用可能に結合した」という用語は、空間的に接続したプロモーターの制御下にある遺伝子(すなわち、導入遺伝子)の発現を指す。プロモーターは、その制御下にある遺伝子の5’(上流)側または3’(下流)側に位置することができる。プロモーターは、その制御下にある遺伝子の5’(上流)側に位置することができる。プロモーターと遺伝子との間の距離は、プロモーターが由来する遺伝子内でのプロモーターとプロモーターが制御する遺伝子との間の距離とほぼ同じであり得る。プロモーターと遺伝子との間の距離の変動は、プロモーター機能を喪失せずに適応させることができる。
【0080】
いくつかの態様において、エンハンサー配列は、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)エンハンサー配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなることができる。CMVエンハンサー配列は、配列番号5に対し少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%(またはこの間の任意のパーセンテージ)同一である核酸配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなることができる。
【0081】
いくつかの態様において、プロモーター配列は、ニワトリβ-アクチンプロモーター配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなることができる。ニワトリβ-アクチンプロモーター配列は、配列番号6に対し少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%(またはこの間の任意のパーセンテージ)同一である核酸配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなることができる。
【0082】
イントロン配列
いくつかの態様において、イントロン配列は、当技術分野で知られている任意のイントロン配列を含むことができる。いくつかの態様において、イントロン配列はキメラ型イントロン配列であり得る。いくつかの態様において、キメラ型イントロン配列は、配列番号7に対し少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%(またはこの間の任意のパーセンテージ)同一である核酸配列を含むか、本質的になることができる。
【0083】
ポリアデニル化配列
いくつかの態様において、ポリアデニル化(ポリA)配列は、当技術分野で知られている任意のポリA配列を含むことができる。いくつかの態様において、ポリA配列はβ-グロビンポリA配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなることができる。β-グロビンポリA配列は、配列番号8に対し少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%(またはこの間の任意のパーセンテージ)同一である核酸配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなることができる。
【0084】
AAVウイルスベクター
本開示のAAVベクターは、AAVウイルスベクターとしてパッケージ化することができる。
【0085】
「AAVウイルスベクター」とは、少なくとも1つのAAVカプシドタンパク質と、カプシド化ポリヌクレオチドAAVベクターとを含むウイルス粒子を指す。したがって、AAVウイルスベクターの生成は、必然的にAAVベクターの生成を含む。「ウイルスカプシド」または「カプシド」という用語は、ウイルス粒子のタンパク質性の殻または被膜を指す。カプシドは、ウイルスゲノムをカプシド化し、保護し、輸送し、宿主細胞内に放出する。概して、カプシドは、タンパク質のオリゴマー構造サブユニット(「カプシドタンパク質」)から構成されている。本明細書で使用する場合、「カプシド化」という用語は、ウイルスカプシド内に封入されていることを意味する。AAVのウイルスカプシドは、3つのウイルスカプシドタンパク質VP1、VP2、及びVP3の混合物から構成されている。
【0086】
本発明の実施に有用なAAVウイルスベクターは、分子生物学の技術分野で周知されている方法論を利用して構築することができる。典型的には、導入遺伝子を有するAAVウイルスベクターは、導入遺伝子をコードするポリヌクレオチド、好適な調節エレメント、及び細胞形質導入を媒介するウイルスタンパク質の生成に必要なエレメントから組み立てられる。
【0087】
「遺伝子移入」または「遺伝子送達」という用語は、外来DNAを宿主細胞に確実に挿入するための方法またはシステムを指す。このような方法により、統合されていない移入DNAを一過性発現したり、移入レプリコン(例えば、エピソーム)を染色体外で複製及び発現させたり、移入遺伝子材料を宿主細胞のゲノムDNAに統合したりすることができる。
【0088】
ウイルスベクターの例としては、限定されるものではないが、アデノウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、ヘルペスウイルス、及びアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターが挙げられる。
【0089】
このような組換えウイルスは、当技術分野で知られている技法(例えば、パッケージ化細胞の形質移入、またはヘルパープラスミドもしくはウイルスによる一過性形質移入)により生成することができる。ウイルスパッケージ化細胞の典型的な例としては、PA317細胞、PsiCRIP細胞、GPenv+細胞、293細胞などが挙げられる。このような複製欠損組換えウイルスを生成するための詳細なプロトコルについては、例えば、WO95/14785、WO96/22378、US5,882,877、US6,013,516、US4,861,719、US5,278,056、及びWO94/19478で見出すことができる。
【0090】
1つの実施形態において、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターが用いられる。
【0091】
他の実施形態において、AAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13、AAVPHP.B、AAVrh74、AAVrh.10、またはヒト、サル、もしくは他の種に感染することができる当技術分野で知られている任意の他のAAV血清型である。
【0092】
例示的な実施形態において、AAVベクターはAAVrh10ベクターである。
【0093】
「AAVベクター」とは、アデノ随伴ウイルス血清型(限定されるものではないが、AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13、AAVPHP.B、AAVrh74、またはAAVrh.10を含む)に由来するベクターを意味する。AAVベクターは、AAV野生型遺伝子のうちの1つ以上を、全体的または部分的に、好ましくはrep遺伝子及び/またはcap遺伝子を欠失させることができるが、機能的フランキングITR配列は保持することができる。機能的ITR配列は、AAVビリオンのレスキュー、複製、及びパッケージ化に必要である。したがってAAVベクターは、本明細書では、少なくともウイルスの複製及びパッケージ化にシスで要求される配列(例えば、機能的ITR)を含むものと定義される。ITRは、野生型ヌクレオチド配列である必要はなく、また配列が機能的なレスキュー、複製、及びパッケージ化を提供する限りはヌクレオチドの挿入、欠失、または置換により改変されてもよい。AAV発現ベクターは、少なくとも、転写方向に作用可能に結合した構成要素として、転写開始領域と目的DNA(すなわちFXN遺伝子)と転写終結領域とを含む制御エレメントを提供するために、既知の技法を用いて構築される。
【0094】
制御エレメントは、哺乳類細胞で機能するように選択される。作用可能に結合した構成要素を含む得られたコンストラクトは、機能的なAAV ITR配列と(5’及び3’に)結合している。
【0095】
特に好ましいのは、哺乳類の心筋の細胞、特に心筋細胞及び心筋細胞前駆体に対するトロピズム及び高い導入効率を有するAAV血清型に由来するベクターである。異なる血清型の形質導入効率の概説と比較については、Cearley CN et al.,2008に示されている。他の非限定的な例において、好ましいベクターとしては、心筋細胞の細胞を形質導入することも示されているAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AA5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、またはAAVrh10のような任意の血清型に由来するベクターが挙げられる。
【0096】
AAV ITRにより結合している目的DNA分子を有するAAV発現ベクターは、そこから主要なAAVオープンリーディングフレーム(「ORF」)を切除したAAVゲノムに、選択された配列(複数可)を直接挿入することにより構築することができる。AAVゲノムの他の部分も、複製及びパッケージ化機能を得るのに十分なITRの部分が残存する限りは欠失させてもよい。このようなコンストラクトは、当技術分野で周知されている技法を用いて設計することができる。例えば、米国特許第5,173,414号及び同第5,139,941号;国際公開第WO92/01070号(1992年1月23日発行)及び同第WO93/03769号(1993年3月4日発行);Lebkowski et al.,1988;Vincent et al.,1990;Carter,1992;Muzyczka,1992 ;Kotin,1994;Shelling and Smith,1994;ならびにZhou et al.,1994を参照。代替形態として、AAV ITRは、標準的なライゲーション技法を用いて、ウイルスゲノムから、または同じものを含むAAVベクターから切除し、別のベクターに存在する選択された核酸コンストラクトの5’及び3’を融合させることができる。ITRを含むAAVベクターについては、例えば、米国特許第5,139,941号に記載されている。詳細には、この文献にはAmerican Type Culture Collection(「ATCC」)からアクセッション番号53222、53223、53224、53225、及び53226で入手可能ないくつかのAAVベクターが記載されている。さらに、キメラ遺伝子は、1つ以上の選択された核酸配列の5’及び3’に配置されたAAV ITR配列を含むように合成的に生成することができる。哺乳類CNS細胞内でキメラ型遺伝子配列を発現するのに好ましいコドンを使用することができる。完全なキメラ型配列は、標準的な方法により調製されたオーバーラップオリゴヌクレオチドから組み立てられる。例えば、Edge,1981;Nambair et al.,1984;Jay et al.,1984を参照。AAVビリオンを生成するため、AAV発現ベクターは、形質移入などの既知の技法を用いて好適な宿主細胞に導入される。多くの形質移入技法が当技術分野で一般的に知られている。例えば、Graham et al.,1973;Sambrook et al.(1989)Molecular Cloning, a laboratory manual,Cold Spring Harbor Laboratories,New York,Davis etal.(1986)Basic Methods in Molecular Biology,Elsevier;及びChu et al.,1981を参照。特に好適な形質移入方法としては、リン酸カルシウム共沈殿(Graham et al.,1973)、培養細胞への直接マイクロインジェクション(Capecchi,1980)、エレクトロポレーション(Shigekawa et al.,1988)、リポソーム媒介遺伝子移入(Mannino et al.,1988)、脂質媒介形質導入(Felgner et al.,1987)、及び高速マイクロプロジェクタイルを用いた核酸送達(Klein et al.,1987)が挙げられる。
【0097】
例えば、AAVrh10などの好ましいウイルスベクターは、FXNをコードする核酸配列に加えて、AAV2に由来するITRを有するAAVベクターの骨格、プロモーター、例えば、マウスPGK(ホスホグリセレートキナーゼ)遺伝子もしくはサイトメガロウイルス最初期遺伝子由来のエンハンサーからなるサイトメガロウイルス/β-アクチンハイブリッドプロモーター(CAG)、ニワトリβ-アクチン遺伝子由来のプロモーター、スプライスドナー、及びイントロン、ウサギβ-グロビン由来のスプライスアクセプター、またはPGK、CAG、MCKなどの任意のプロモーターを含む。
【0098】
本開示のAAVウイルスベクターは、i)本明細書に記載のAAVベクターと、ii)AAVカプシドタンパク質とを含む。
【0099】
いくつかの態様において、AAVカプシドタンパク質は任意のAAVカプシドタンパク質であり得る。いくつかの態様において、AAVカプシドタンパク質は、AAV1カプシドタンパク質、AAV2カプシドタンパク質、AAV4カプシドタンパク質、AAV5カプシドタンパク質、AAV6カプシドタンパク質、AAV7カプシドタンパク質、AAV8カプシドタンパク質、AAV9カプシドタンパク質、AAV10カプシドタンパク質、AAV11カプシドタンパク質、AAV12カプシドタンパク質、AAV13カプシドタンパク質、AAVPHP.Bカプシドタンパク質、AAVrh74カプシドタンパク質、またはAAVrh.10カプシドタンパク質である。いくつかの態様において、AAVカプシドタンパク質はAAVrh.10カプシドタンパク質である。
【0100】
治療方法
本発明の第1の目的は、心筋症の治療または予防を、それを必要とする対象において行うための方法であって、フラタキシン(FXN)ポリペプチドまたはそのフラグメントをコードする核酸配列を含むAAVベクターの治療有効量を当該対象に投与することを含む、方法に関する。
【0101】
特定の実施形態において、心筋症は、拡張型心筋症、肥大型心筋症、拘束型心筋症、または虚血性心筋症である。
【0102】
別の特定の実施形態において、心筋症は、脂肪酸化の欠損(限定されるものではないが、原発性カルニチン欠損症、LCHAD、トランスロカーゼ、VLCADを含む)に起因する心筋症であり得る。
【0103】
別の特定の実施形態において、心筋症は、フリードライヒ運動失調症に関連する心筋症であり得る。
【0104】
特定の実施形態において、AAVベクター内の核酸配列によりコードされる遺伝子は、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体のサブユニットをコードする核遺伝子、酸化的リン酸化に関与する複合体I、III、IV、もしくはVのサブユニットをコードする核もしくはミトコンドリア遺伝子、移入RNAをコードするミトコンドリア遺伝子、SIRT1などのミトコンドリアの生合成に関与する遺伝子、OPA1などのミトコンドリアの融合に関与する遺伝子、FIS1などのミトコンドリアの分裂に関与する遺伝子、または超長鎖特異的アシル-CoAデヒドロゲナーゼなどの脂肪酸の酸化に関与する遺伝子であり得る。
【0105】
特定の実施形態において、AAVベクター内の核酸配列によりコードされる遺伝子は、フラタキシン(FXN)遺伝子である。
【0106】
本明細書で最も広い意味で使用する場合、「予防すること」または「予防」という用語は、疾患または状態が、それを有するとまだ診断されていないまたは臨床症状を有しない対象に発生するのを予防することを指す。
【0107】
本明細書で使用する場合、「治療すること」または「治療」という用語は、このような用語が該当する障害もしくは状態、またはこのような障害もしくは状態の1つ以上の症状の進行を回復、緩和、または阻害することを意味する。「治療有効量」は、対象に治療上の利益を付与するのに必要な活性薬剤の最小量が意図されている。例えば、患者に対する「治療有効量」とは、障害に屈することに関連するまたは抵抗性の病理学的症状、疾患の進行、または生理的状態を誘導、緩和、安定化、その進行を低速化する、または他の形で改善を引き起こす量である。
【0108】
本明細書で使用する場合、「対象」という用語は、哺乳類(例えば、げっ歯類、ネコ、イヌ、及び霊長類)を意味する。いくつかの態様において、本発明に従う対象はヒトである。本発明の文脈において、「それを必要とする対象」とは、対象、好ましくはヒト、より詳細にはフリードライヒ運動失調症に関連する心筋症を有する対象を示す。フリードライヒ運動失調症に関連する心筋症を有する対象は、いくつかの心臓の症状を提示し、このような症状は、限定されるものではないが、駆出率の減少、心室重量の増加、または心肥大であり得る。したがって、本発明の方法は、このような症状を提示する疾患(フリードライヒ運動失調症)を有する対象の治療に非常に有用である。
【0109】
本明細書で使用する場合、「遺伝子」という用語は、転写及び翻訳された後に特定のポリペプチドまたはタンパク質をコードすることが可能な少なくとも1つのオープンリーディングフレームを含むポリヌクレオチドを指す。
【0110】
本明細書で使用する場合、「コード配列」、「特定のタンパク質をコードする配列」、または「コード核酸」という用語は、適切な調節配列の制御下に置かれると、in vitroまたはin vivoでポリペプチドに転写され(DNAの場合)、翻訳される(mRNAの場合)核酸配列を示す。コード配列の境界は、5’(アミノ)末端の開始コドン及び3’(カルボキシ)末端の翻訳終止コドンにより決定される。コード配列としては、限定されるものではないが、原核生物または真核生物mRNA由来のcDNA、原核生物または真核生物DNA由来のゲノムDNA配列、さらには合成DNA配列が挙げられる。
【0111】
特定の実施形態において、本発明は、フリードライヒ運動失調症に関連する心筋症の予防または治療を、それを必要とする対象において行うための方法であって、フラタキシン(FXN)コード核酸を含むAAVベクターの治療有効量を当該対象に投与することを含む、方法に関する。
【0112】
特定の実施形態において、本発明は、フリードライヒ運動失調症に関連する心筋症の治療を、それを必要とする対象において行うための方法であって、フラタキシン(FXN)コード核酸を含むAAVベクターの治療有効量を当該対象に投与することを含む、方法に関する。
【0113】
特定の実施形態において、本発明は、フリードライヒ運動失調症に関連する心筋症の症状の回復または安定化を、それを必要とする対象において行うための方法であって、フラタキシン(FXN)コード核酸を含むAAVベクターの治療有効量を当該対象に投与することを含む、方法に関する。
【0114】
本明細書で使用する場合、「フリードライヒ運動失調症に関連する心筋症の症状を回復させる」という用語は、例えば、駆出率の改善及び/または心室重量の減少により、心機能の復旧を、それを必要とする対象において行うことを示す。
【0115】
特定の実施形態において、本発明は、フリードライヒ運動失調症に関連する心臓ミトコンドリアの機能不全の回復を、それを必要とする対象において行うための方法であって、フラタキシン(FXN)コード核酸を含むAAVベクターの治療有効量を当該対象に投与することを含む、方法に関する。
【0116】
特定の実施形態において、本発明は、フリードライヒ運動失調症に関連する心臓ミトコンドリアの改善を、それを必要とする対象において行うための方法であって、フラタキシン(FXN)コード核酸を含むAAVベクターの治療有効量を当該対象に投与することを含む、方法に関する。
【0117】
特定の実施形態において、本発明は、フリードライヒ運動失調症に関連する心筋症を患う対象における心機能を回復させるための方法であって、フラタキシン(FXN)コード核酸を含むAAVベクターの治療有効量を当該対象に投与することを含む、方法に関する。
【0118】
特定の実施形態において、本発明は、フリードライヒ運動失調症に関連する心筋症を患う対象の心機能を改善するための方法であって、フラタキシン(FXN)コード核酸を含むAAVベクターの治療有効量を当該対象に投与することを含む、方法に関する。
【0119】
特定の実施形態において、本発明は、フリードライヒ運動失調症に関連する心筋症の治療を、それを必要とする無症候性または前症候性の対象において行うための方法であって、フラタキシン(FXN)コード核酸を含むAAVベクターの治療有効量を当該対象に投与することを含む、方法に関する。
【0120】
別の実施形態において、本発明は、フリードライヒ運動失調症に関連する心筋症の治療を、それを必要とする症候性の対象において行うための方法であって、フラタキシン(FXN)コード核酸を含むAAVベクターの治療有効量を当該対象に投与することを含む、方法に関する。
【0121】
本明細書で使用する場合、「無症候性」または「前症候性」という用語は、遺伝子診断により定義される疾患(フリードライヒ運動失調症)(概説はLynch DR et al.,Arch Neurol.2002;59:743-747を参照)を有するが、検出可能な臨床的心臓症状を有しない対象を示す。
【0122】
本明細書で使用する場合、症候性という用語は、遺伝子診断により定義される疾患(フリードライヒ運動失調症)を有し、心臓症状(心肥大、線維化、心筋灌流予備係数の低下、心筋または骨格筋ミトコンドリア呼吸鎖機能の障害、不顕性心筋症、上室性不整脈、心不全、収縮期左心室機能不全、疲労…)が存在する対象を示す。
【0123】
FXN遺伝子はタンパク質フラタキシンをコードする。フラタキシンは、ミトコンドリアに局在するタンパク質である。フラタキシンは、鉄の進入及びシステイン脱硫酵素の活性を調節することにより、鉄-硫黄クラスターの組立に関与する。
【0124】
いくつかの態様において、本発明は、フラタキシン欠損に関連する疾患の予防または治療を、それを必要とする対象において行うのに使用するための方法であって、フラタキシンをコードする核酸を含むAAVベクターの治療有効量を当該対象に投与することを含む、方法に関する。
【0125】
いくつかの態様において、本発明は、心筋症の予防または治療を、それを必要とする対象において行うのに使用するための方法であって、フラタキシン(FXN)コード核酸を含むAAVベクターの治療有効量を当該対象に投与することを含む、方法に関する。
【0126】
いくつかの態様において、対象は、AAVベクターを投与した後に、AAVベクターを投与する前のベースラインと比較して、ピーク酸素消費(ピークVO2)の増加を経験する。いくつかの態様において、対象におけるピークVO2は、AAVベクターを投与してから約12週間後、約24週間後、約36週間後、約52週間後、約18か月後、約2年後、約3年後、約4年後、及び/または約5年後に測定される。いくつかの態様において、VO2は、酸素消費の速度を表す基準である。いくつかの態様において、VO2は、単位時間当たりに消費される酸素の量である。
【0127】
いくつかの態様において、ピークVO2は、腕エルゴメトリーを用いた心肺運動負荷試験(CPET)により測定される。
【0128】
いくつかの態様において、対象は、AAVベクターを投与した後に、AAVベクターを投与する前のベースラインと比較して、左心室重量係数(LVMi)の減少を経験する。
【0129】
いくつかの態様において、LVMiの減少は、AAVベクターを投与してから約12週間後、約24週間後、約36週間後、約52週間後、AAVベクターを投与してから約18か月後、約2年後、約3年後、約4年後、及び/または約5年後に測定される。いくつかの態様において、LVMiは心臓MRIにより測定される。
【0130】
いくつかの態様において、対象は、AAVベクターを投与した後に、心臓MRIによる測定において、AAVベクターを投与する前のベースラインと比較して、長軸方向グローバルストレインの減少、一回心拍出量の増加、左室駆出率(LVEF)の増加、及び心臓線維化の減少または安定のうちの1つ以上を経験する。
【0131】
いくつかの態様において、心臓MRIによる測定は、AAVベクターを投与してから約12週間後、約24週間後、約36週間後、約52週間後、約18か月後、約2年後、約3年後、約4年後、及び/または約5年後に行われる。
【0132】
いくつかの態様において、対象は、AAVベクターを投与した後に、AAVベクターを投与する前のベースラインと比較して、血清NTproBNP、hsTNT、及び/またはCK-MBレベルの減少を経験する。
【0133】
いくつかの態様において、対象は、AAVベクターを投与した後に、AAVベクターを投与する前のベースラインと比較して、心不整脈の減少を経験する。いくつかの態様において、対象は、AAVベクターを投与した後に、AAVベクターを投与する前のベースラインと比較して、心筋梗塞の発生の減少を経験する。
【0134】
いくつかの態様において、心不整脈は、遠隔心調律モニタリングにより評価される。
【0135】
いくつかの態様において、対象は、AAVベクターを投与した後に、AAVベクターを投与する前のベースラインと比較して、修正疲労影響スケール(MFIS:Modified Fatigue Impact Scale)または疲労重症度スケール(FSS)による測定において、疲労の減少を経験する。
【0136】
いくつかの態様において、対象は、AAVベクターを投与した後に、AAVベクターを投与する前のベースラインと比較して、修正ボルグ呼吸困難、ボルグ知覚疲労評価(RPE)、及びCPETを用いた狭心症スケールによる測定において、(腕エルゴメトリーによるCPET中の)労作症状の改善を経験する。
【0137】
フリードライヒ運動失調症のヘテロ接合体(1つの正常なFXNアレルを有する)はFAの臨床症状を有しないことが知られている。一方、FAホモ接合体(2つの異常な及び/または変異したFXNアレルを有する個体)は症状を経験する。5例の健康な個体の心臓の剖検試料において平均FXNレベルを分析したところ、ヒト心臓におけるFXNの正常レベルが59±5ng/mgタンパク質であることが示された。FAホモ接合体の平均心臓フラタキシンタンパク質レベルは約9.4ng/mgと推定されている。さらに、FAヘテロ接合体は、健康な個体と比較して、正常レベルの30~80%(19~50ng/mgフラタキシンタンパク質)のFXNを有することが知られている。理論に束縛されることは望まないが、FAホモ接合体のフラタキシンレベルをFAヘテロ接合体または健康な個体のレベル付近またはそれを超えるまで増加させることで、結果としてFAホモ接合体による症状の経験が改善すると予想することは合理的である。いくつかの態様において、本明細書で開示するFXNコードベクターのAAVベクターを投与した後、患者はフラタキシンタンパク質発現の増加を経験する。いくつかの態様において、フラタキシンの発現増加は心臓で発生する。
【0138】
いくつかの態様において、AAVベクターを投与した後の対象の心臓におけるフラタキシンの量は、投与前のベースラインと比較して、約1ng/mg、約2ng/mg、約3ng/mg、約4ng/mg、約5ng/mg、約6ng/mg、約7ng/mg、約8ng/mg、約9ng/mg、約10ng/mg、約11ng/mg、約12ng/mg、約13ng/mg、約14ng/mg、約15ng/mg、約20ng/mg、約25ng/mg、約30ng/mg、約35ng/mg、約40ng/mg、約45ng/mg、約50ng/mg、約60ng/mg、約70ng/mg、約80ng/mg、約90ng/mg、約100ng/mg、約200ng/mg、約300ng/mg、約400ng/mg、または約500ng/mgだけ増加する。
【0139】
いくつかの態様において、対象は、AAVベクターを投与した後に、AAVベクターを投与する前のベースラインと比較して、FXN発現レベルの増加を経験する。いくつかの態様において、FXNレベルの増加とは、FXNのmRNAレベルの増加を指す。いくつかの態様において、FXNレベルの増加とは、フラタキシン(FXN)タンパク質レベルの増加を指す。
【0140】
いくつかの態様において、FXNレベルは心筋FXN発現レベルである。いくつかの態様において、心筋FXN発現は、心臓生検により測定される。
【0141】
いくつかの態様において、対象は、AAVベクターを投与する前のベースラインと比較して、FXN発現レベルの少なくとも約1%、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約150%、少なくとも約200%、少なくとも約300%、少なくとも約400%、または少なくとも約500%の増加を経験する。
【0142】
いくつかの態様において、対象は、AAVベクターを投与した後に、AAVベクターを投与する前のベースラインと比較して、フリードライヒ運動失調症評価スケール(FARS)または修正フリードライヒ運動失調症評価スケール(mFARS)の改善または安定化を経験する。
【0143】
いくつかの態様において、対象は、AAVベクターを投与した後に、AAVベクターを投与する前のベースラインと比較して、運動失調の評価スケール(SARA)の改善または安定化を経験する。
【0144】
いくつかの態様において、対象は、AAVベクターを投与した後に、AAVベクターを投与する前のベースラインと比較して、息切れ日常活動スコア(SOBDA)の改善または安定化を経験する。
【0145】
いくつかの態様において、対象は、AAVベクターを投与した後に、AAVベクターを投与する前のベースラインと比較して、シアトル狭心症質問票(SAQ)の改善または安定化を経験する。
【0146】
ベクターの送達
本明細書では、対象におけるフリードライヒ運動失調症に関連する心筋症を治療するための方法であって、(a)上記で定義されるような、フラタキシン(FXN)ポリペプチドまたはそのフラグメントをコードする核酸配列を含むAAVベクターを準備することと、(b)当該AAVベクターを、それを必要とする対象に送達して、FXNが形質導入細胞により治療有効レベルで発現することとを含む、方法を提供する。
【0147】
好ましい用量及びレジメンは、医師により決定され得、また対象の年齢、性別、体重、及び疾患のステージに依存し得る。
【0148】
いくつかの態様において、AAVベクターは、対象に静脈内(IV)投与される。いくつかの態様において、IV注入は、少なくとも約5分、少なくとも約10分、少なくとも約20分、少なくとも約30分、少なくとも約40分、少なくとも約50分、少なくとも約60分、少なくとも約70分、少なくとも約80分、少なくとも約90分、少なくとも約100分、少なくとも約110分、または少なくとも約120分にわたり行われる。いくつかの態様において、IV注入は60分にわたり行われる。
【0149】
いくつかの態様において、対象は、本開示のAAVベクターを治療有効な投与量で投与される。いくつかの態様において、投与量は、1キログラム(kg)当たり約1.0×1010ゲノムコピー(gc)(gc/kg)~約9.9×1014gc/kgである。いくつかの態様において、投与量は約1.0×1010gc/kg~約6.0×1014gc/kgである。いくつかの態様において、投与量は約1.0×1010gc/kg~約6.0×1013gc/kgである。いくつかの態様において、投与量は約1.0×1010gc/kg~約9.9×1013gc/kgである。いくつかの態様において、投与量は約1.0×1010gc/kg~約9.9×1012gc/kgである。いくつかの態様において、投与量は約1.0×1010gc/kg~約9.9×1011gc/kgである。いくつかの態様において、投与量は約1.0×1011gc/kg~約9.9×1014gc/kgである。いくつかの態様において、投与量は約1.0×1012gc/kg~約9.9×1014gc/kgである。いくつかの態様において、投与量は約1.0×1013gc/kg~約9.9×1014gc/kgである。いくつかの態様において、投与量は約1.0×1014gc/kg~約9.9×1014gc/kgである。
【0150】
いくつかの態様において、投与量は、約1.0×1010gc/kg、約1.1×1010gc/kg、約1.2×1010gc/kg、約1.3×1010gc/kg、約1.4×1010gc/kg、約1.5×1010gc/kg、約1.6×1010gc/kg、約1.7×1010gc/kg、約1.8×1010gc/kg、約1.9×1010gc/kg、約2.0×1010gc/kg、約2.1×1010gc/kg、約2.2×1010gc/kg、約2.3×1010gc/kg、約2.4×1010gc/kg、約2.5×1010gc/kg、約2.6×1010gc/kg、約2.7×1010gc/kg、約2.8×1010gc/kg、約2.9×1010gc/kg、約3.0×1010gc/kg、約3.1×1010gc/kg、約3.2×1010gc/kg、約3.3×1010gc/kg、約3.4×1010gc/kg、約3.5×1010gc/kg、約3.6×1010gc/kg、約3.7×1010gc/kg、約3.8×1010gc/kg、約3.9×1010gc/kg、約4.0×1010gc/kg、約4.1×1010gc/kg、約4.2×1010gc/kg、約4.3×1010gc/kg、約4.4×1010gc/kg、約4.5×1010gc/kg、約4.6×1010gc/kg、約4.7×1010gc/kg、約4.8×1010gc/kg、約4.9×1010gc/kg、約5.0×1010gc/kg、約5.1×1010gc/kg、約5.2×1010gc/kg、約5.3×1010gc/kg、約5.4×1010gc/kg、約5.5×1010gc/kg、約5.6×1010gc/kg、約5.7×1010gc/kg、約5.8×1010gc/kg、約5.9×1010gc/kg、約6.0×1010gc/kg、約6.1×1010gc/kg、約6.2×1010gc/kg、約6.3×1010gc/kg、約6.4×1010gc/kg、約6.5×1010gc/kg、約6.6×1010gc/kg、約6.7×1010gc/kg、約6.8×1010gc/kg、約6.9×1010gc/kg、約7.0×1010gc/kg、約7.1×1010gc/kg、約7.2×1010gc/kg、約7.3×1010gc/kg、約7.4×1010gc/kg、約7.5×1010gc/kg、約7.6×1010gc/kg、約7.7×1010gc/kg、約7.8×1010gc/kg、約7.9×1010gc/kg、約8.0×1010gc/kg、約8.1×1010gc/kg、約8.2×1010gc/kg、約8.3×1010gc/kg、約8.4×1010gc/kg、約8.5×1010gc/kg、約8.6×1010gc/kg、約8.7×1010gc/kg、約8.8×1010gc/kg、約8.9×1010gc/kg、約9.0×1010gc/kg、約9.1×1010gc/kg、約9.2×1010gc/kg、約9.3×1010gc/kg、約9.4×1010gc/kg、約9.5×1010gc/kg、約9.6×1010gc/kg、約9.7×1010gc/kg、約9.8×1010gc/kg、または約9.9×1010gc/kgである。
【0151】
いくつかの態様において、投与量は、約1.0×1011gc/kg、約1.1×1011gc/kg、約1.2×1011gc/kg、約1.3×1011gc/kg、約1.4×1011gc/kg、約1.5×1011gc/kg、約1.6×1011gc/kg、約1.7×1011gc/kg、約1.8×1011gc/kg、約1.9×1011gc/kg、約2.0×1011gc/kg、約2.1×1011gc/kg、約2.2×1011gc/kg、約2.3×1011gc/kg、約2.4×1011gc/kg、約2.5×1011gc/kg、約2.6×1011gc/kg、約2.7×1011gc/kg、約2.8×1011gc/kg、約2.9×1011gc/kg、約3.0×1011gc/kg、約3.1×1011gc/kg、約3.2×1011gc/kg、約3.3×1011gc/kg、約3.4×1011gc/kg、約3.5×1011gc/kg、約3.6×1011gc/kg、約3.7×1011gc/kg、約3.8×1011gc/kg、約3.9×1011gc/kg、約4.0×1011gc/kg、約4.1×1011gc/kg、約4.2×1011gc/kg、約4.3×1011gc/kg、約4.4×1011gc/kg、約4.5×1011gc/kg、約4.6×1011gc/kg、約4.7×1011gc/kg、約4.8×1011gc/kg、約4.9×1011gc/kg、約5.0×1011gc/kg、約5.1×1011gc/kg、約5.2×1011gc/kg、約5.3×1011gc/kg、約5.4×1011gc/kg、約5.5×1011gc/kg、約5.6×1011gc/kg、約5.7×1011gc/kg、約5.8×1011gc/kg、約5.9×1011gc/kg、約6.0×1011gc/kg、約6.1×1011gc/kg、約6.2×1011gc/kg、約6.3×1011gc/kg、約6.4×1011gc/kg、約6.5×1011gc/kg、約6.6×1011gc/kg、約6.7×1011gc/kg、約6.8×1011gc/kg、約6.9×1011gc/kg、約7.0×1011gc/kg、約7.1×1011gc/kg、約7.2×1011gc/kg、約7.3×1011gc/kg、約7.4×1011gc/kg、約7.5×1011gc/kg、約7.6×1011gc/kg、約7.7×1011gc/kg、約7.8×1011gc/kg、約7.9×1011gc/kg、約8.0×1011gc/kg、約8.1×1011gc/kg、約8.2×1011gc/kg、約8.3×1011gc/kg、約8.4×1011gc/kg、約8.5×1011gc/kg、約8.6×1011gc/kg、約8.7×1011gc/kg、約8.8×1011gc/kg、約8.9×1011gc/kg、約9.0×1011gc/kg、約9.1×1011gc/kg、約9.2×1011gc/kg、約9.3×1011gc/kg、約9.4×1011gc/kg、約9.5×1011gc/kg、約9.6×1011gc/kg、約9.7×1011gc/kg、約9.8×1011gc/kg、または約9.9×1011gc/kgである。
【0152】
いくつかの態様において、投与量は、約1.0×1012gc/kg、約1.1×1012gc/kg、約1.2×1012gc/kg、約1.3×1012gc/kg、約1.4×1012gc/kg、約1.5×1012gc/kg、約1.6×1012gc/kg、約1.7×1012gc/kg、約1.8×1012gc/kg、約1.9×1012gc/kg、約2.0×1012gc/kg、約2.1×1012gc/kg、約2.2×1012gc/kg、約2.3×1012gc/kg、約2.4×1012gc/kg、約2.5×1012gc/kg、約2.6×1012gc/kg、約2.7×1012gc/kg、約2.8×1012gc/kg、約2.9×1012gc/kg、約3.0×1012gc/kg、約3.1×1012gc/kg、約3.2×1012gc/kg、約3.3×1012gc/kg、約3.4×1012gc/kg、約3.5×1012gc/kg、約3.6×1012gc/kg、約3.7×1012gc/kg、約3.8×1012gc/kg、約3.9×1012gc/kg、約4.0×1012gc/kg、約4.1×1012gc/kg、約4.2×1012gc/kg、約4.3×1012gc/kg、約4.4×1012gc/kg、約4.5×1012gc/kg、約4.6×1012gc/kg、約4.7×1012gc/kg、約4.8×1012gc/kg、約4.9×1012gc/kg、約5.0×1012gc/kg、約5.1×1012gc/kg、約5.2×1012gc/kg、約5.3×1012gc/kg、約5.4×1012gc/kg、約5.5×1012gc/kg、約5.6×1012gc/kg、約5.7×1012gc/kg、約5.8×1012gc/kg、約5.9×1012gc/kg、約6.0×1012gc/kg、約6.1×1012gc/kg、約6.2×1012gc/kg、約6.3×1012gc/kg、約6.4×1012gc/kg、約6.5×1012gc/kg、約6.6×1012gc/kg、約6.7×1012gc/kg、約6.8×1012gc/kg、約6.9×1012gc/kg、約7.0×1012gc/kg、約7.1×1012gc/kg、約7.2×1012gc/kg、約7.3×1012gc/kg、約7.4×1012gc/kg、約7.5×1012gc/kg、約7.6×1012gc/kg、約7.7×1012gc/kg、約7.8×1012gc/kg、約7.9×1012gc/kg、約8.0×1012gc/kg、約8.1×1012gc/kg、約8.2×1012gc/kg、約8.3×1012gc/kg、約8.4×1012gc/kg、約8.5×1012gc/kg、約8.6×1012gc/kg、約8.7×1012gc/kg、約8.8×1012gc/kg、約8.9×1012gc/kg、約9.0×1012gc/kg、約9.1×1012gc/kg、約9.2×1012gc/kg、約9.3×1012gc/kg、約9.4×1012gc/kg、約9.5×1012gc/kg、約9.6×1012gc/kg、約9.7×1012gc/kg、約9.8×1012gc/kg、または約9.9×1012gc/kgである。
【0153】
いくつかの態様において、投与量は、約1.0×1011gc/kg、約1.1×1011gc/kg、約1.2×1011gc/kg、約1.3×1011gc/kg、約1.4×1011gc/kg、約1.5×1011gc/kg、約1.6×1011gc/kg、約1.7×1011gc/kg、約1.8×1011gc/kg、約1.9×1011gc/kg、約2.0×1011gc/kg、約2.1×1011gc/kg、約2.2×1011gc/kg、約2.3×1011gc/kg、約2.4×1011gc/kg、約2.5×1011gc/kg、約2.6×1011gc/kg、約2.7×1011gc/kg、または約2.8×1011gc/kgである。
【0154】
いくつかの態様において、投与量は、約5.0×1011gc/kg、約5.1×1011gc/kg、約5.2×1011gc/kg、約5.3×1011gc/kg、約5.4×1011gc/kg、約5.5×1011gc/kg、約5.6×1011gc/kg、約5.7×1011gc/kg、約5.8×1011gc/kg、約5.9×1011gc/kg、約6.0×1011gc/kg、約6.1×1011gc/kg、約6.2×1011gc/kg、約6.3×1011gc/kg、約6.4×1011gc/kg、約6.5×1011gc/kg、または約6.6×1011gc/kgである。
【0155】
いくつかの態様において、投与量は、約1.0×1012gc/kg、約1.1×1012gc/kg、約1.2×1012gc/kg、約1.3×1012gc/kg、約1.4×1012gc/kg、約1.5×1012gc/kg、約1.6×1012gc/kg、約1.7×1012gc/kg、約1.8×1012gc/kg、約1.9×1012gc/kg、または約2.0×1012gc/kgである。
【0156】
いくつかの態様において、投与量は約1.8×1011gc/kgである。いくつかの態様において、投与量は約5.6×1011gc/kgである。いくつかの態様において、投与量は約5.7×1011gc/kgである。いくつかの態様において、投与量は約1.8×1012gc/kgである。
【0157】
いくつかの態様において、投与量は、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)力価により測定される。いくつかの態様において、投与量は、液滴デジタルポリメラーゼ連鎖反応(ddPCR)力価により測定される。
【0158】
いくつかの態様において、治療有効投与量は、AAVカプシド血清型ごとに調整することができる。いくつかの態様において、治療有効投与量は、異なるAAVカプシド血清型における心臓トロピズムの違いを考慮して調整される。
【0159】
いくつかの態様において、対象は、AAVベクターの単回用量を投与される。いくつかの態様において、対象はさらに、AAVベクターの第2、第3、第4、または第5の投与量が投与される。いくつかの態様において、AAVベクターの第2以降の投与は、第1の投与量とは異なる投与量で行うことができる。
【0160】
いくつかの態様において、対象はさらに、AAVベクター投与とともにプレドニゾンを投与される。
【0161】
いくつかの態様において、プレドニゾンは、以下の投与量で投与される:
AAVウイルスベクターを投与する24時間前に1日1回40mg、
AAVウイルスベクターを投与した後の1週目~8週目に1日1回40mg、
AAVウイルスベクターを投与した後の9週目に1日1回30mg、
AAVウイルスベクターを投与した後の10週目に1日1回20mg、
AAVウイルスベクターを投与した後の11週目に1日1回10mg、
AAVウイルスベクターを投与した後の12週目に1日1回5mg、
AAVウイルスベクターを投与した後の13週目に1日1回2.5mg、及び
AAVウイルスベクターを投与した後の14週目に1日おきに2.5mg。
【0162】
いくつかの態様において、AAVベクターは、心外膜注射に続いて小開胸術、冠動脈内注射、心内膜注射、心膜下もしくは心外膜注射、または心臓で有用な他のタイプの注射を行うことにより、心筋内に直接送達される。
【0163】
さらなる投与経路は、直接可視化下でのベクターの局所適用、例えば、表層皮質適用、または他の非定位適用も含むことができる。ベクターは、髄腔内、心室内、または静脈内注射により投与することができる。
【0164】
本発明のベクターの標的細胞は、フリードライヒ運動失調症に関連する心筋症に罹患した対象の心筋の細胞である。好ましくは、対象はヒトであり、成人または小児である。
【0165】
ただし、本発明は、疾患の生物学的モデルへのベクター送達も包含する。その場合、生物学的モデルは、送達時に任意の発達段階(例えば、胎生期、胎児期、乳児期、幼若期、または成体期)にある哺乳類とすることができる。さらに、標的心筋細胞は、本質的に任意の供給源からのものとすることができ、特にFRDA患者、非ヒト霊長類、ならびにげっ歯目(マウス、ラット、ウサギ、ハムスター)、食肉目(ネコ、イヌ)、及び偶蹄目(ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ)の哺乳類、ならびに他の任意の非ヒト系(例えば、ゼブラフィッシュモデル系)からのhiPSに由来する任意の細胞とすることができる。
【0166】
本明細書で使用されるベクターは、送達のための任意の好適なビヒクルで製剤化することができる。例えば、ベクターは、医薬的に許容される懸濁液、溶液、またはエマルションに入れることができる。好適な媒体としては、食塩水及びリポソーム調製物が挙げられる。より具体的には、医薬的に許容される担体としては、無菌の水性または(of)非水性溶液、懸濁液、及びエマルションを挙げることができる。非水性溶媒の例としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油、及びオレイン酸エチルなどの注射用有機エステルがある。水性担体としては、水、アルコール/水性溶液、エマルション、または懸濁液(食塩水及び緩衝媒体を含む)が挙げられる。静注用ビヒクルとしては、液体及び栄養補充液、電解質補充液(例えば、リンゲルデキストロースに基づくもの)などが挙げられる。
【0167】
防腐剤及び他の添加物、例えば、抗微生物薬、抗酸化剤、キレート剤、及び不活性ガスなどが存在してもよい。
【0168】
コロイド分散系も、標的遺伝子送達に使用することができる。コロイド分散系としては、巨大分子複合体、ナノカプセル、マイクロスフェア、ビーズ、及び脂質ベース系(水中油型エマルション、ミセル、混合ミセル、及びリポソームを含む)が挙げられる。
【0169】
いくつかの態様において、本発明は、対象におけるフリードライヒ運動失調症に関連する心筋症の治療または予防に使用するためのFXNコード核酸を含むベクターであって、AAVベクターがそれを必要とする対象に送達され、FXNが、治療有効レベルで形質導入された細胞により発現する、ベクターに関する。
【0170】
特定の実施形態において、本発明は、フリードライヒ運動失調症に関連する心筋症の症状の回復を、それを必要とする対象において行うためのFXNコード核酸を含むベクターであって、当該AAVベクターが、それを必要とする対象に送達され、FXNが、形質導入細胞により治療有効レベルで発現する、ベクターに関する。
【0171】
非ウイルス性ベクター
特定の実施形態において、本発明に従うベクター使用は非ウイルス性ベクターである。典型的には、非ウイルス性ベクターは、上記のようなFXN遺伝子またはそのバリアントをコードする核酸配列を含むプラスミドであり得る。
【0172】
医薬組成物
いくつかの態様において、本発明は、フリードライヒ運動失調症に関連する心筋症の予防または治療を、それを必要とする対象において行うための医薬組成物であって、FXNをコードする核酸を含むAAVベクターの治療有効量を含む、医薬組成物に関する。
【0173】
「治療有効量」とは、フリードライヒ運動失調症に関連する心筋症を任意の医学的治療に適用できる合理的なベネフィット/リスク比で治療するのに十分な本発明のAAVベクターの量を意味する。
【0174】
本発明の化合物及び組成物の単回投与量または1日の合計投与量は、妥当な医学的判断の範囲内で主治医により決定されることが理解されよう。いかなる特定の患者に対する特定の治療有効用量レベルも、治療する障害、障害の重症度、用いる特定の化合物の活性、用いる特定の組成物、患者の年齢、体重、全体の健康状態、性別、及び食事、用いる特定の化合物の投与時間、投与経路、及び排泄率、治療の持続期間、用いる特定のポリペプチドと組み合わせでまたは同時に使用する薬物、ならびに医学分野で周知されている類似の因子を含めた様々な因子に依存する。例えば、所望の治療効果を達成するのに必要なレベルよりも低いレベルで化合物の用量を開始すること、及び所望の効果が達成されるまで投与量を徐々に増加させることは、十分に当業者の技能範囲である。ただし、生成物の1日投与量は、1日当たりの成人1人当たりにおいて広い範囲で変動し得る。投与すべき本発明に従うベクターの治療有効量、ならびに本発明のウイルスまたは非ウイルス粒子及び/または医薬組成物の数による病的状態の治療のための投与量は、多数の因子(患者の年齢及び状態、妨害または障害の重症度、投与の方法及び頻度、ならびに使用されるべき特定のペプチドを含む)に依存する。
【0175】
本発明によるAAVベクターを含む医薬組成物の表現は、選択された投与様式、例えば、心室内投与、心筋内投与、冠動脈内投与、または静脈内投与に適した任意の形態をとることができる。
【0176】
筋肉内投与、静脈内投与、心筋内投与、冠動脈内投与、または心室内投与のための本発明の医薬組成物において、有効成分は、単独で、または別の有効成分と組み合わせて、単位投与形態で、従来の医薬支持体との混合物として、動物及びヒトに投与することができる。
【0177】
好ましくは、医薬組成物は、注射可能な製剤として医薬的に許容されるビヒクルを含む。これらは、詳細には等張溶液、無菌溶液、食塩水(リン酸一ナトリウムもしくは二ナトリウム、塩化ナトリウム、カリウム、カルシウム、もしくはマグネシウムなど、またはこのような塩の混合物)、あるいは乾燥、特に凍結乾燥組成物であり得、場合により、滅菌水または生理食塩水を加えて注射可能な溶液の構成を可能にする。
【0178】
注射使用に適した医薬形態としては、無菌の水溶液または分散液;ゴマ油、ピーナッツ油、または水性プロピレングリコールを含む製剤;及び無菌の注射用溶液または分散液を即時調製するための無菌の粉末が挙げられる。全ての場合において、形態は無菌かつ流動性でなければならない。形態は、製造条件及び貯蔵条件下で安定しなければならず、かつ細菌及び真菌などの微生物の汚染作用から守られなければならない。
【0179】
本発明の化合物を遊離塩基または薬理学的に許容される塩として含む溶液は、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と好適に混合された水中で調製することができる。また、分散液は、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、及びこれらの混合物中、ならびに油中でも調製することができる。通常の貯蔵条件及び使用条件下では、このような調製物は微生物の成長を予防するために防腐剤を含む。
【0180】
本発明に従うAAVベクターは、中性または塩形態で組成物に製剤化することができる。医薬的に許容される塩としては、(タンパク質の遊離アミノ基で形成された)酸付加塩が含まれ、これは、例えば塩酸もしくはリン酸などの無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などの有機酸で形成される。遊離カルボキシル基で形成された塩は、無機塩基(例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、または水酸化鉄)、及び有機塩基(例えば、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなど)に由来してもよい。
【0181】
また担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール及び液体ポリエチレングリコールなど)、これらの好適な混合物、ならびに植物油を含む溶媒または分散媒であってもよい。適正な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用、分散させる場合には必要な粒径の維持、及び界面活性剤の使用により維持することができる。微生物の作用は、様々な抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどにより防止することができる。多くの場合、等張剤(例えば、糖または塩化ナトリウム)を含むことが好ましい。注射用組成物は、吸収を遅らせる薬剤(例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチン)の組成物中で使用することにより、持続的に吸収させることができる。
【0182】
無菌注射液は、必要とされる量の活性ポリペプチドを、必要に応じて上に挙げたいくつかの他の成分とともに適切な溶媒中に組み込み、次に濾過滅菌することにより調製される。概して、分散液は、様々な無菌化された活性成分を、塩基性分散媒と上に挙げた他の成分のうち必要とされる成分とを含む無菌ビヒクルに組み込むことにより調製される。無菌注射溶液を調製するための無菌粉末の場合、好ましい調製方法は真空乾燥及び冷凍乾燥の技法であり、これらを用いることで事前に滅菌濾過した溶液から活性成分及び任意の追加的な所望成分を含む粉末が得られる。
【0183】
溶液は、製剤化されると、投与製剤に適合する方式で、かつ治療上有効であるような量で投与される。製剤は、様々な投与形態(例えば、上述の注射溶液)で容易に投与されるが、薬物放出カプセルなどを用いてもよい。
【0184】
複数の用量を投与することもできる。
【0185】
いくつかの態様において、本発明は、フラタキシン欠損に関連する疾患の治療または予防を、それを必要とする対象において行うための医薬組成物であって、フラタキシンをコードする核酸を含むベクターの治療有効量を当該対象に投与することを含む、医薬組成物に関する。
【実施例】
【0186】
本発明を、以下の図面及び実施例によりさらに例示する。ただし、これらの実施例及び図面は、いかなる形においても本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0187】
実施例1:フラタキシンAAVベクター療法の前臨床評価
in vivoのアデノ随伴ウイルス(AAV)遺伝子療法を成功させるには、最小有効臨床用量の特定及びヒト臨床試験の治療目標の設定が不可欠である。フリードライヒ運動失調症(FA)は、疾患修飾療法が存在しない生命を脅かす疾患であり、神経及び心臓の機能障害を特徴とする。ほとんどのFA患者は、フラタキシン(FXN)遺伝子の第1イントロン内のGAAトリヌクレオチド伸長においてホモ接合性であり、これにより転写サイレンシングが引き起こされ、FXNのmRNA及びタンパク質のレベルの低減につながる。進行性神経疾患が可動性を制限するのに対し、心筋症はほぼ3分の2の個体の死因となっている。実験動物における先行研究から、ヒトFXNを発現するアデノ随伴ウイルス血清型rh.10(AAVrh.10hFXN)が、FAのマウスモデルにおいて心臓症状を効果的に治療することが知られているが、治療ウインドウは狭く、高用量のhFXN導入遺伝子は毒性を伴う。そのため、対象におけるFAの心臓所見を効果的に治療する用量を確立することが不可欠である。
【0188】
1つの正常なFXNアレルを有するFAヘテロ接合体はFAの臨床的徴候を有しないことが知られている。そのため、FAホモ接合体の心臓をヘテロ接合体の心臓に変換するのに必要なFXNのレベルを推定した。5例の個体の心臓剖検試料における平均FXNレベルを分析したところ、ヒト心臓におけるFXNの正常レベルは59±5ng/mgタンパク質であることが示された。FAホモ接合体の平均心臓フラタキシンタンパク質レベルは約9.4ng/mgと推定されている。さらに、FAヘテロ接合体は、正常レベルの30~80%(19~50ng/mgフラタキシンタンパク質)のFXNを有することが知られている。有効となるためには、AAVベクターが9ng/mgを上回るフラタキシンタンパク質(ヘテロ接合体19~50ng/mg-FAホモ接合体約10ng/mg=9~40ng/mg)を有効な療法のために発現する必要があることが推定された。
【0189】
マウス投与量試験
MCK(クレアチンキナーゼ-/-fxn欠損)マウスは、心筋及び骨格筋においてマウスFXNタンパク質が完全に欠損した重症心疾患モデルである。MCKマウスは進行的に疾患が悪化し、無処置動物の場合11週目までに死亡する。
【0190】
心臓内で8.3ng/mg超を生成するのに必要なAAVrh.10hFXNの用量を決定するため、1.8×1011、5.7×1011、または1.8×1012gc/kg(qPCRで決定)のAAVrh.10hFXNを7週齢のMCKマウス(n=20/用量;雌10頭、雄10頭)に静脈内投与した。これらの用量は、過去に毒性が示された用量(14~140倍)よりも顕著に低いため選択した。投与後、心臓組織中のhFXNタンパク質レベル、体重、心エコー図、心機能、及び死亡率を評価した。
【0191】
マウス心臓組織におけるhFXNの発現
AAVrh.10hFXNを投与した後のMCKマウスの心臓組織中のhFXN総タンパク質を評価したところ、AAVrh.10hFXNの静脈内への用量増加に伴い、心臓hFXN発現における用量依存的増加が認められることが示された。
図1Aに示すように、1.8×10
11gc/kg、5.7×10
11gc/kg、及び18×10
12gc/kg用量のAAVrh.10hFXNベクターの静脈内投与は、それぞれ0.51ng/mg、6.07ng/mg、及び33.71ng/mgの心臓hFXNタンパク質レベルに関連した。MCKマウスで観察された心臓レベルが「治療的」範囲にあるのかを確証するため、これらの心臓hFXNレベルを、上記で引用したFA患者における予想内在性FXNレベルに加えた。
図1Bに示すように、5.7×10
11及び1.8×10
12gc/kgにおいて、内在的に加えたときのFXNレベルの増加は、それぞれ正常なヒト心臓FXNレベルの26%及び73%に達し、1.8×10
12gc/kg用量においてはヘテロ接合性の範囲内であった。
【0192】
静脈内投与がマウスの体重に及ぼす有効性
3つの用量(1.8×10
11gc/kg、5.7×10
11gc/kg、及び1.8×10
12gc/kg)のAAVrh.10hFXNを静脈内投与した後のMCKマウスの体重をモニターし、対照としてのPBSを投与したマウスと比較した。
図2Aは、PBSと比較して3つの用量のベクターを投与した雄マウスの体重を示している。
図2Bは、PBS対照と比較して3つの用量のベクターを投与した雌マウスの体重を示している。PBS処置コホートと1.8×10
12gc/kg AAVrh.10FXNコホート(雄雌混合;時間の影響を伴う反復測定ANOVA)との間で有意差(p<0.001)が観察された。
【0193】
強化投与量試験
より高用量及びより高いフラタキシン発現レベルからさらなる利益が得られるかを判定するため、7週齢のMCKマウスに、ビヒクル(0gc/kg)、1.8×10
11gc/kg、5.7×10
11gc/kg、1.8×10
12gc/kg、5.7×10
12gc/kg(3.3倍)、1.8×10
13gc/kg(10倍)、5.7×10
13gc/kg(33倍)と1/2対数ずつ増加させたAAVrh.10 FXNを静脈内投与した(
図8A)。目標としてのヘテロ接合性心筋FXNレベルに基づいたオリジナル用量(1.8×10
12gc/kg)を参照して、これらの用量を3.3倍、10倍、及び33倍用量コホートと称する。ベクターを投与した後、健康及び行動評価、心エコー図、ならびに心臓及び肝臓のヒトFXNレベルを得た(
図8B及び
図8C)。全ての高用量コホートが、非FAヒト心臓に基づく目標を上回るヒト心臓FXNレベルを有し、33倍用量コホートでは20,800±3,200ng/mgタンパク質まで上昇した(
図8C)。
【0194】
心エコー検査による評価における心機能
1.8×10
12gc/kgのAAVrh.10hFXNを投与したマウスの心機能を心エコー検査により評価し、無処置の野生型MCKマウス及びPBSでモック処置したMCKマウスと比較した。
図3は、3つの処置を比較する一連の心エコー検査画像である。投与の1週間前、投与の2週間後、及び投与の4週間後に左心室傍胸骨短軸像の心エコー検査画像を撮影した。画像は、左心室の側心室壁及び中隔壁、ならびに収縮期及び拡張期におけるこれらの相対位置を評価するために使用した。PBSモック対照を投与した無処置MCKマウスは、4週時点まで生存することはなかった。
【0195】
心臓駆出率及び短縮率を実験期間中に測定した。
図4A~Bは、3つの処置におけるマウスの駆出率及び短縮率をそれぞれ示している。1.8×10
12gc/kgを投与したところ、PBS対照と比較して駆出率及び短縮率が改善された(p<0.05、両方の比較)。
【0196】
心エコー図により評価したところ、基準用量(1.8×1012gc/kg)と比較して、11週時の駆出率が、無処置対照群の18.9±4.5%から基準用量群の31.9±2.9%へと有意な用量依存的増加が認められ、10倍(1.8×1013gc/kg)用量コホートでは54.5±9.8%に増加した。33倍用量(5.7×1013gc/kg)では、心臓毒性と整合する駆出率減少が認められた。要約すると、フリードライヒ運動失調症のMCKマウスモデルにおいて、AAV媒介性のフラタキシン発現は、正常な生理学的レベルを上回るかなりの生存率及び心臓の利益が認められるものの、高用量では毒性が見られる。
【0197】
生存率
3つの用量のAAVrh.10hFXNを投与したマウスの生存率を評価し、PBSを投与したモック処置マウスと比較した。生存曲線を作成して、各治療後の経時的なマウスの生存パーセントを比較した。ログランク(Mantel-Cox)検定を用いて、PBS対照処置コホートとAAVrh.10hFXN用量コホートとの間の生存曲線(Kaplan-Meier)の比較を行った。
図5に示すように、最小有効用量の5.7×10
11gc/kg用量により、わずかではあるものの有意な死亡率の改善が見られた(対照と比較してp<0.01)。1.8×10
12gc/kgの有意な有効用量により死亡率の21.5%改善を媒介した(無処置対照と比較してp<0.001)。
【0198】
生存期間は、基準用量(1.8×1012gc/kg)における中央値87.5日から、3.3倍コホート(5.7×1012gc/kg)では119日に増加し、10倍コホート(1.8×1013gc/kg)では128日でプラトーに達した。33倍用量(5.7×1013gc/kg)では生存期間に様々な影響が認められ、一部の動物は200日超生存したが、一部の動物は10倍コホートよりも早く死亡した。これは、おそらくはこの用量における毒性を表すものである。
【0199】
結論
MCKマウスでは、最小有効用量の5.7×1011gc/kgで、生存率に軽度の改善傾向が見られた。この用量は、正常なヒト内在性レベルの26%をもたらし(FA対象における16%の残存レベルと合わせた場合)、4%の死亡率改善を示した。体重、心機能、及び生存率については、1.8×1012gc/kgで有意な改善が見られた。この用量は、MCKマウスにおいて、正常なヒト内在性レベルの73%(FA対象における16%の残存レベルと合わせた場合)をもたらし、無処置MCKマウスと比較して駆出率及び短縮率が有意に改善するという有益なアウトカムが得られた。これらのデータは、フリードライヒ運動失調症の心臓所見の治療に臨床的に関連する潜在可能性を有する最小有効用量及び有意な有効用量を特定するものである。
【0200】
マウスにおける毒性学試験
7週齢の野生型C57Bl/6Nマウスに、1.2×1012、3.7E×1012、及び1.2×1013gc/kgのLX2006(AAVrh.10hFXN、すなわちフラタキシンをコードするAAVベクター)を1か月間及び3か月間、5.6×1011、1.8×1012、及び5.6×1012gc/kgのLX2006を10か月間投与して、安全性及び毒性を評価した。
【0201】
1か月及び3か月コホートの動物は予定された終了時まで生存したが、10か月コホートの動物は体重減少の時期が2回あり、そのため早期の安楽死が必要となった。最初の時点はおよそ1.5か月(6週間)であり、5.6×1012gc/kgの10か月コホートにおける12頭中4頭の雄で発生した。早期死亡は、10か月コホートでは肝毒性に起因するものであった。これらのマウスでは、ヒトフラタキシンタンパク質(hFXN)レベルは定量されなかったものの、1か月コホートからの同様の用量群(3.7×1012gc/kg)に基づけば、肝臓のhFXNレベルが高く、毒性に寄与した可能性があることが分かった。中用量(3.7×1012gc/kg)及び高用量(1.2×1013gc/kg)の雄では、1か月及び3か月の時点で、重症度がより低い(しかし依然として有害な)複数の肝臓所見が見られたが、雌では投与から3か月後まで有害作用は認められなかった。
【0202】
10か月コホートで早期安楽死に至った第2の体重減少時点は、投与後7か月(30週)で発生した。高用量(5.6×1012gc/kg)群の残りの動物及び中用量(1.8×1012gc/kg)群の雌マウスの12頭中6頭は、予定された3か月コホートと同様の最小限~中程度の肝臓の変化を示した。臨床病理変化は、5.6×1012gc/kg群のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)及びクレアチンキナーゼ(CK)の上昇に限定された。この時点までにおいて、1か月後に見られた高い肝臓hFXNレベルは減少しており、一方、心臓hFXNレベルは5.6×1012gc/kg群においてレベルが同等となるように増加していた。この用量レベルにおいて、雄マウスにおける心臓コハク酸デヒドロゲナーゼ(SDH)組織化学スコアが減少した(雄対照値の88%)ことからは、7か月目に安楽死させたマウスの体重減少には、肝フラタキシンレベル及び場合によっては心臓フラタキシンレベルの両方が寄与した可能性があるという仮説が支持される。
【0203】
予定された10か月後の剖検で、唯一の有害な処置関連所見は肝細胞癌(HCC)であり、これは5.6×1011gc/kgでは雄6頭中1頭、1.8×1012gc/kgで雄6頭中3頭で観察された。この所見は試験の文脈では有害とみなされたものの、大量の入手可能なデータからは、AAV処置後にマウスで観察されたHCCは、より高等な種またはヒトでは観察されていないため、ヒトのリスクに至る可能性は低いことが示唆される(FDA,Toxicity Risks of Adeno-associated Virus Vectors for Gene Therapy(GT)”02-03 September,2021)。したがって、臨床対象がAAVrh.10hFXN治療後にHCCを発症するリスクは極めて低い。
【0204】
投与から10か月後、最低用量レベルの5.6×1011gc/kgでは、処置関連の臨床徴候、体重変化、血清トロポニンの変化を含む血液学的または臨床化学的所見は認められず、病理組織学的所見も、気管気管支リンパ節濾胞過形成(免疫学的応答を示し、有害とはみなされない)及び1頭の雄マウスにおけるHCC以外には認められなかった。AAV関連肝細胞新生物は、マウス以外の種において、AAV前臨床試験の動物にもAAV臨床試験のヒト対象にも観察されていない(FDA 2021)ため、臨床対象がAAVrh.10hFXN治療後にHCCを発症するリスクは極めて低い。
【0205】
マウスにおける中枢神経系(CNS)病理学(脊髄及び脳)については、全ての用量及び全ての時点において特に所見は認められなかった。後根神経節(DRG)毒性は、いずれの動物においてもいずれの用量でも観察されなかった。
【0206】
雄及び雌のC57Bl/6マウスにAAVrh.10hFXNを静脈内投与したところ、用量依存的及び時間依存的な毒性が生じた。これは(6週目及び30週目に安楽死させた雄マウスにおいて、5.6×1012gc/kg用量レベルでの、対照と比較した心臓SDH組織化学低減に基づけば)肝臓及び場合によっては心臓におけるhFXNの発現レベルと関連するように思われた。5.6×1011gc/kgの低用量では、試験全体において有害な所見は、10か月後の剖検で1頭の雄マウスがHCCを有したこと以外では認められなかった。HCCは、1.8×1012gc/kgの用量レベル(雄の動物が試験期間中生存した唯一の用量レベル)でも6頭中3頭の雄マウスで観察され、このことからこれは処置関連事象であることが示唆される。このことから、5.6×1011gc/kgの用量レベルは、雄マウスにおける最小毒性量(LOAEL)、雌マウスにおける無毒性量(NOAEL)であることが示唆される。ただし、雄マウスにおけるAAV関連HCCは、他の種で対応する所見が欠如していることに基づけば、ヒトに関連することは予想されない。この所見は試験の文脈では有害とみなされたものの、入手可能なデータからは、AAV処置後にマウスで観察されたHCCがヒトのリスクに至る可能性は低く、より高等な種またはヒトでは観察されていない(FDA 2021)。
【0207】
非ヒト霊長類投与量試験
MCKマウスで定量された1.8×10
12gc/kgという有意な有効用量が、大型動物モデルにおいてヘテロ接合体レベルを達成できるのかを判定するため、この用量をアフリカミドリ非ヒト霊長類(NHP)(n=10)に静脈内投与した。
図6は、NHPにおける投与及び投与量の評価の方法を示す模式図を示している。有意な有効用量を投与してから12週間後、心臓でのレベルは約18ng/mgであり、FAホモ接合体をFAヘテロ接合体に変換するのに必要と推定される範囲内のレベルに匹敵するものであった。
【0208】
MCKマウスにおいて定量した最小有効用量(5.7×1011gc/kg)及び有意な有効用量(1.8×1012gc/kg)を含む2つの用量を、非ヒト霊長類において評価した。2つの用量のAAVrh.10hFXNをアフリカミドリ非ヒト霊長類に静脈内投与し(用量当たり霊長類4頭、2頭/性/用量)、PBS投与(霊長類合計2頭、1頭/性)と比較した。投与から12週間後、心臓の5つの領域(左右心室壁、左右心房、及び中隔)から試料を採取し、hFXNレベルを調べた。全体の心臓組織の測定のために5つの領域全てからのデータを合わせた。
【0209】
非ヒト霊長類心臓組織におけるhFXNの発現
【0210】
2つの投与量のAAVrh.10hFXNを投与した後のNHPの心臓組織中のhFXN総タンパク質を評価したところ、心臓のhFXN発現における用量依存的な増加が示された。PBSを投与したNHPの心臓試料は、抗体の交差反応性に起因するFXNのバックグラウンドレベルを有した。
図7Aに示すように、5.7×10
11gc/kg及び1.8×10
12gc/kgのAAVrh.10hFXNの静脈内投与は、それぞれ49ng/mg及び63.1ng/mgの心臓hFXNタンパク質レベルと関連した。PBS対照群のhFXNタンパク質レベルは45.2ng/mgであった。
【0211】
NHPで観察された心臓レベルが「治療的」範囲にあるのかを確証するため、これらのhFXNレベルを、上記で先に引用した予想内在性FXNレベルに加えた。
図7Bに示すように、5.7×10
11及び1.8×10
12gc/kgにおいて、内在的に加えたときのFXNレベルの増加は、それぞれ正常なヒト心臓FXNレベルの22%及び46%に達し、1.8×10
12gc/kg用量においてはヘテロ接合性の範囲内であった。
【0212】
結論
非ヒト霊長類では、5.7×1011gc/kg及び1.8×1012gc/kgの静脈内投与で、FA対象における16%の残存レベルと合わせた場合、それぞれ22%及び46%の正常な内在性レベルが得られた。
【0213】
ヒトにおける治療用FXNタンパク質の要求されるレベルを慎重に決定することにより、「無毒性」レベルの閾値を設定した。2つの動物モデル(MCKマウス及び非ヒト霊長類)を用いた用量設定試験により、AAVrh.10hFXNの用量(1.8×1011、5.6~5.7×1011、及び1.8×1012gc/kg)がFA疾患進行における意味のある改善を媒介する可能性が示された。これらのデータを合わせると、フリードライヒ運動失調症の心臓所見の治療に臨床的に関連する潜在可能性を有する最小有効用量及び治療的有効用量が特定される。
【0214】
実施例2:フラタキシンAAVベクター療法におけるヒト投与量の評価
心筋症のエビデンスを有するFA患者において、LX2006(本開示のフラタキシンAAVベクター)のファーストインヒューマン(FIH)52週間用量漸増非盲検試験を行い、次にLX2006を投与した全ての参加者に対する長期追跡調査(LTFU)部分を行う。
【0215】
2つの連続コホート(それぞれN=5例の成人FA参加者)をLX2006の漸増用量(1.8×1011、5.6×1011gc/kg)で登録する。全ての参加者は投与後に2泊入院し、次いで3日目に退院する。各コホートの最初の2例の参加者は、最初の4週間、施設の近くに居住する。次の3例の参加者(#3、4、及び5)は、最低2週間、施設の近くに滞在する。過去の参加者からの4週間安全性データ(臨床検査を含む)を取得するため、各コホートの参加者間で少なくとも4週間の間隔を設定する。過去の全ての参加者からの利用可能な安全性データからは、追加参加者の用量設定も決定される。
【0216】
治療期間は、試験コホートに応じた適切な用量のLX2006を単回投与し、60分にわたり低速な静脈内(IV)注入として投与する。さらに、AAVベース療法に対する宿主の免疫応答を最小限に抑えるため、患者に予防的プレドニゾンを投与する。参加者に、-1日目から8週目まで1日1回(QD)40mgを投与する。漸減は9週目に開始し14週目まで継続するが、後述のように、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)及びアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)の値に応じて用量調整を行う。プレドニゾンは、1日1回服用とし、午前中の服用を推奨する。
【0217】
安全性及び有効性の評価
hFXN発現はFA疾患の安全性及び有効性に関連する重要な決定因子であるため、非臨床試験を行うことで、どの用量が毒性に関連し、どの用量が安全かつ効果的なFXN発現をもたらすことができるかをよりよく理解することができる。要約すると、正常なヒト心筋FXNレベルのおよそ30%を達成することで、FA患者に臨床的に意味のある利益がもたらされることが予想される。
【0218】
主要有効性目標
心肺運動負荷試験(CPET)(腕エルゴメトリー使用)に基づいてLX2006がピークV02に及ぼす効果を評価する。測定は、治療前ベースラインに対する52週目のピークVO2の変化を見る。
【0219】
副次的目標
心臓MRIにより測定した左心室重量係数(LVMi)にLX2006が及ぼす効果を評価する。LVMiのベースラインからの変化を52週目に測定する。LVMiのベースラインからの変化を12週目、24週目、及び36週目に測定し、LTFUで年1回4年間測定する。
【0220】
CPET(腕エルゴメトリー使用)に基づいてピークVO2にLX2006が及ぼす効果を評価する。ピークVO2のベースラインからの変化を、投与した後の12週目、24週目、36週目、及びLTFUで年1回4年間、合計5年間測定する。
【0221】
心臓磁気共鳴画像法(MRI)に基づいて長軸方向グローバルストレインを測定する。長軸方向グローバルストレインのベースラインからの変化を、投与した後の12週目、36週目、24週目、36週目、及び52週目、ならびにLTFUで年1回4年間、合計5年間測定する。
【0222】
心臓MRIに基づいて一回心拍出量を測定する。一回心拍出量のベースラインからの変化を、投与した後の12週目、24週目、36週目、及び52週目、ならびにLTFUで年1回4年間、合計5年間測定する。
【0223】
心臓MRIに基づいて左室駆出率(LVEF)を測定する。LVEFのベースラインからの変化を、投与した後の12週目、24週目、36週目、及び52週目、ならびにLTFUで年1回4年間、合計5年間測定する。
【0224】
心臓MRIに基づいて心臓線維化を測定する。心臓線維化のベースラインからの変化を、投与した後の12週目、24週目、36週目、及び52週目、ならびにLTFUで年1回4年間、合計5年間測定する。
【0225】
血清NTproBNP、hsTNT、及びCK-MBレベルを測定する。心臓バイオマーカーのベースラインからの変化を、投与した後の2週目、12週目、24週目、36週目、及び52週目、ならびにLTFUで年1回4年間、合計5年間測定する。
【0226】
遠隔心調律モニタリングに基づく心筋梗塞の測定。投与した後の12週目、24週目、36週目、及び52週目、ならびにLTFUで年1回4年間、合計5年間における心筋梗塞の有無及び重症度。
【0227】
修正疲労影響スケール(MFIS)及び疲労重症度スケール(FSS)に基づいて疲労度を測定する。疲労の有無及び重症度を、投与した後の12週目、24週目、36週目、及び52週目、ならびにLTFUで年1回4年間、合計5年間測定する。
【0228】
修正ボルグ呼吸困難、ボルグ知覚疲労評価(RPE),及びにCPET中の狭心症スケールに基づいて労作症状を測定する。修正ボルグ呼吸困難、ボルグRPE、及び狭心症スケールのベースラインからの変化を、投与した後の12週目、24週目、36週目、及び52週目、ならびにLTFUで年1回4年間、合計5年間測定する。
【0229】
第3の目標
心臓生検においてベクターコピー数(VCN)を定量する。ベクターコピーのベースラインからの変化を12週目に測定する。
【0230】
心エコー図(ECHO)に基づいて心臓パラメーター(限定されるものではないが、LVMi、LVEF、及び長軸方向グローバルストレインを含む)を測定する。心臓ECHO測定値のベースラインからの変化を、投与した後の1週目、2週目、4週目、12週目、24週目、36週目、及び52週目、ならびにLTFUで年1回4年間、合計5年間測定する。
【0231】
12誘導心電図(ECG)パラメーター(限定されるものではないが、ST-T波の変化を含む)を測定する。12誘導ECGのベースラインからの変化を、投与した後の1週目、2週目、4週目、12週目、24週目、36週目、及び52週目、ならびにLTFUで年1回4年間、合計5年間測定する。
【0232】
シアトル狭心症質問票、息切れ-日常活動スコア、視覚的浮腫スコア、及び足首の直径に基づいて症状を測定する。シアトル狭心症質問票、息切れ-日常活動スコアのベースラインからの変化を、投与した後の12週目、24週目、36週目、及び52週目、ならびにLTFUで年1回4年間、合計5年間測定する。
【0233】
LX2006が他のCPET基準(限定されるものではないが、1.二酸化炭素産生に対する分時換気量(VE/VCO2)スロープ;2.呼気終末CO2分圧(PETCO2);3.CPET中の運動の持続時間;4.換気閾値(VT)におけるVO2;5.酸素摂取効率スロープ(OUES)を含む)に及ぼす効果を評価する。VE/VCO2スロープ、PETCO2、運動の持続時間、VT時のVO2、及びOUESのベースラインからの変化を、投与した後の12週目、24週目、36週目、及び52週目、ならびにLTFUで年1回4年間、合計5年間測定する。
【0234】
探索的目的
心臓の細胞外容積(ECV)を調べる。心臓ECVのベースラインからの変化を、心臓MRIに基づき、投与した後の12週目、24週目、36週目、及び52週目、ならびにLTFUで年1回4年間、合計5年間測定する。
【0235】
LX2006が頬細胞及びPBMCにおけるFXNタンパク質レベルに及ぼす効果を調べる。頬細胞及びPBMCのFXNタンパク質のベースラインからの変化を、4週目、12週目、24週目、36週目、及び52週目に測定する。
【0236】
LX2006がFAの基準(限定されるものではないが、フリードライヒ運動失調症評価スケール(FARS)、フリードライヒ運動失調症評価スケール-日常生活の活動(FARS-ADL)、修正フリードライヒ運動失調症評価スケール(mFARS)、運動失調の評価スケール(SARA)を含む)に及ぼす効果を調べる。FARS、FARS-ADL、mFARS、SARA、及びその他のベースラインからの変化を、投与した後の12週目、24週目、36週目、及び52週目、ならびにLTFUで年1回4年間、合計5年間測定する。
【0237】
LX2006のベクター排出を調べる。頬、尿、血液、便の試料のベクター排出を、投与した後の1週目、2週目、4週目、12週目、24週目、及び52週目に、ならびにLTFUで年1回4年間、合計5年間測定する。
【0238】
心臓生検:
蛍光透視検査及び超音波を心臓生検に使用する。これは、遺伝子療法の開始前及び治療した後の12週目に、試験施設で適切な訓練を受けたスタッフが実施する。全ての対象に身体検査を行って、参加者のリスクを高める任意の併発性状態が存在するかを判定する。中隔の採取断片はおよそ8片に分割することができる。評価には、ベクターコピー数、FXNタンパク質、心筋細胞FXN染色(利用可能な場合)、及び電子顕微鏡検査が含まれる。
【0239】
組織サンプリングについての詳細は心臓生検マニュアルに示す。さらに、心臓生検手順中にSwan-Ganzカテーテルを使用して、Fickの式を用いて心拍出量を測定する。各コホート内の最後の患者が12週目に生検を受けた後、全ての組織を一緒に解析する。
【0240】
心臓エコー:
全ての参加者は、スクリーニング/ベースライン時及び本開示で詳述している時点に心臓ECHOを受け、これにはLVMi、LVEF、一回心拍出量、及びストレインの測定が含まれる。
【0241】
心臓MRI:
全ての参加者に、心臓のMRIスキャンをスクリーニング/ベースライン時及び本開示に詳述されている時点で行う。LTFUにおいて、心臓MRI検査を1日目(用量漸増中の52週目の来院時にまだ行われていない場合)及び年1回実施する。参加者は、除外基準#13に記載のように、造影剤(例えば、ガドリニウム)を許容できなければならない。心臓MRI評価には、LVMi、LVEF、一回心拍出量、ストレイン、及び線維化の測定が含まれる。
【0242】
心調律モニタリング:
心不整脈の測定は、遠隔心調律モニタリングに基づく。パッチを参加者の胸部に設置し、連続7日間遠隔で装着して、直接の来院後に中央で評価する。
【0243】
臨床医報告型アウトカム
フリードライヒ運動失調症評価スケール(FARS)及びmFARS
FARSは、臨床医報告型のアウトカム基準であり、3つの下位スケール:運動失調の総合スコア、日常生活の活動(ADL)のスコア、及び神経学的検査からなる。神経学的検査は、FAを有する個体の神経学的機能を測定するために開発された評価手段である。完全な評価手段は25項目あり、最高スコアは125である。FARSの5つのドメインは、延髄機能、上肢協調性、下肢協調性、末梢神経系、及び直立安定性である。各項目を、試験中の対象の状況に基づいて評価する。
【0244】
修正FARS(mFARS)は、FARSスケールにおける神経学的検査のサブセットである。mFARSスコアは、完了したFARSスケールの神経学的検査から導き出される。mFARSは、FARS評価の5つのドメインのうちの4つを有し、末梢神経系は含まない。
【0245】
運動失調の評価スケール(SARA)
SARAは、歩行、立位、座位、言語障害、指追い、鼻指試験、手の高速交互運動、及び踵脛スライドを評価する8項目パフォーマンススケールである。合計スコアは、運動失調がないことを示す0点から最も重度の運動失調を示す40点までの範囲であり得る。
【0246】
患者報告型アウトカム
息切れ日常活動スコア(SOBDA)
SOBDA 13項目質問票は、参加者の日常活動に関する呼吸困難の認知を定量化し、経時的な変化を評価するために開発された日常質問票である。参加者に、直接来院の7日前から毎日SOBDAに記入するよう依頼する。
【0247】
シアトル狭心症質問票(SAQ)
SAQは、心臓病の患者に広く使用されている患者報告型アウトカム基準である。SAQは自己記入式であり、19項目からなる。この質問票は、健康関連クオリティーオブライフの以下の5つの領域を測定するし、想起期間は4週間である。これらのドメインは、身体的制限(9項目)、狭心症の安定性(1項目)、狭心症の頻度(2項目)、治療満足度(4項目)、及び疾患の知覚(3項目)である。項目は、5または6ポイントリッカートスケールでスコア化される。
【0248】
疲労スケール(FSS、MFIS)
疲労重症度スケール(FISS)は、疲労の影響を評価する患者報告型スケールである。7ポイントリッカートスケールを使用して、9項目を支持または否定する。この評価手段の想起期間は、最近1週間以内である。評価手段の最後にある視覚的アナログ疲労スケールは全体的な疲労を取り込むものであり、0が最悪の疲労レベルを表し、10が正常を表す。
【0249】
修正疲労影響スケール(MFIS)は、身体的、認知的、及び心理社会的機能の観点から疲労の影響を評価する。この評価手段には21項目が含まれ、想起期間は4週間である。
【0250】
ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)
PSQIは、過去4週間にわたる睡眠の質及び障害を測定するために使用する19項目の患者報告型評価手段である。睡眠の質の7つの構成要素は、1)睡眠時間、2)睡眠障害、3)睡眠潜時、4)眠気による日中時の機能不全、5)睡眠効率、6)総合的な睡眠の質、及び7)睡眠薬の使用である。
【0251】
短形式健康調査(SF-36)
SF-36は、健康関連のクオリティーオブライフを測定するための36項目の患者報告型評価手段である。身体的機能、身体的役割、身体の疼痛、全身健康状態、活力、社会的機能、感情的役割、及び精神健康状態を測定する。
【0252】
CPET中の評価
修正ボルグ呼吸困難スケール
修正ボルグ呼吸困難スケールは、CPET中の患者による報告における呼吸の困難を測定するのに使用される10ポイントスケールであり、10が困難が最大であることを表し、0は全く呼吸困難がないことを表す。
【0253】
狭心症スケール
狭心症スケールは、CPET中の参加者による報告において知覚された胸痛を標準化するために使用される、言語記述子を伴う4ポイントスケールである。
【0254】
ボルグ知覚労作評価スケール(RPE)
ボルグスケールは、身体的作業中に個体が知覚する努力及び労作を測定するためのツールである。これは15ポイントスケールであり、CPET中の参加者による報告において知覚された労作を標準化するための言語記述子を伴う。
【0255】
バイオマーカー評価
血液試料は、この治療アプローチに有益であり得る心臓バイオマーカー(例えば、FXN発現、血清N末端プロホルモンB型ナトリウム利尿ペプチド[NTproBNP]、hsTNT、クレアチンキナーゼ[CK]、及びそのMBアイソザイム[CK-MB])のために採取する。試料は、SoAに記載されたスケジュールに従い、施設に別途提供される実験マニュアルに詳述されている通りに採取する。バイオマーカー試料はCPET評価の前に採取すべきである。
【配列表】
【国際調査報告】