(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-06
(54)【発明の名称】2次元電子ガスに基づいた不揮発性電界効果トランジスタ
(51)【国際特許分類】
H10D 30/47 20250101AFI20250130BHJP
【FI】
H01L29/80 H
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024545993
(86)(22)【出願日】2023-02-01
(85)【翻訳文提出日】2024-09-30
(86)【国際出願番号】 EP2023052391
(87)【国際公開番号】W WO2023148196
(87)【国際公開日】2023-08-10
(32)【優先日】2022-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502124444
【氏名又は名称】コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】323002277
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ グルノーブル アルプ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】セシル・グレゼス
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-フィリップ・アッタネ
(72)【発明者】
【氏名】マニュエル・ビベ
(72)【発明者】
【氏名】ローラン・ヴィラ
【テーマコード(参考)】
5F102
【Fターム(参考)】
5F102GB01
5F102GC01
5F102GD01
5F102GJ03
5F102GJ04
5F102GJ05
5F102GK10
5F102GL04
5F102GL05
5F102GM00
5F102GQ01
5F102GR06
5F102GR09
5F102GV07
(57)【要約】
本発明は、
第1の接点(C1)を含むゲート電極と、
第2の接点(C2)を備えるソース(14)と、
第3の接点(C3)を含むドレイン(16)と、
ドレイン(16)とソース(14)との間の、2次元電子ガスからなるチャネル(20)と、
2つの電気的に制御可能な残留状態を有し、少なくとも1つの酸化物層を含む、残留状態サブアセンブリ(18)と、
少なくとも1つの金属タイプの還元材料でできており、50%を超える金属元素の原子濃度を有する還元層(22)と
を備え、
第1の接点(C1)と別の接点(C2、C3)との間の電圧の印加によって、2次元電子ガスの導電率の不揮発性の変調がもたらされる、不揮発性電界効果トランジスタ(10)に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不揮発性電界効果トランジスタ(10)であって、
第1の接点(C1)を含む、ゲート電極と呼ばれる第1の電極(12)と、
ソース(14)と呼ばれる第2の電極(14)であって、前記ソース(14)が、第2の接点(C2)を備える、第2の電極(14)と、
ドレイン(16)と呼ばれる第3の電極(16)であって、前記ドレイン(16)が、第3の接点(C3)を含む、第3の電極(16)と、
前記ドレイン(16)と前記ソース(14)との間のチャネル(20)であって、2次元電子ガスからなるチャネル(20)と、
少なくとも2つの電気的に制御可能な残留状態を有し、前記チャネル(20)と接触し、少なくとも1つの酸化物層を含む、残留状態サブアセンブリ(18)と、
還元層(22)と前記残留状態サブアセンブリ(18)との間の界面に前記チャネル(20)を形成する前記2次元ガスを作るように働く還元層(22)であって、少なくとも1つの金属タイプの還元材料でできており、各金属タイプ還元材料が50%以上の金属元素の原子濃度を有する、還元層(22)と
を備え、
前記第1の電極(12)が、前記残留状態サブアセンブリ(18)と接触し、前記第1の接点(C1)と、前記第2の接点(C2)および前記第3の接点(C3)のうちの1つの接点との間の電圧の印加が、前記チャネル(20)を形成する前記2次元ガスの導電率の不揮発性変調をもたらす、不揮発性電界効果トランジスタ(10)。
【請求項2】
前記還元層(22)が、金属タイプの還元材料の単層または金属タイプの還元材料の多層であり、1つまたは複数の前記還元材料が各々、50%以上の金属元素の原子濃度を有する、請求項1に記載の不揮発性トランジスタ。
【請求項3】
前記残留状態サブアセンブリ(18)が、強誘電体効果、捕獲電荷効果、イオンマイグレーション効果、または複数の前記効果の組合せによって電気的に制御される少なくとも1つの不揮発性誘電体層または多層を備える、請求項1または2に記載の不揮発性トランジスタ。
【請求項4】
各金属タイプ還元材料が、80%以上の金属元素の原子濃度を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の不揮発性トランジスタ。
【請求項5】
各金属元素が、Mg、Al、Ti、V、Ni、Cr、Mn、Cu、Mo、Nb、Ru、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、W、Ir、Bi、Co、Y、Pt、W、Au、およびFe、またはこれらの合金からなるリストから選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の不揮発性トランジスタ。
【請求項6】
各金属元素が、アルミニウム、タンタル、イットリウム、マグネシウム、およびルテニウムからなるリストから選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の不揮発性トランジスタ。
【請求項7】
前記還元層(22)が、15ナノメートル以下、好ましくは10ナノメートル以下の厚さを有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の不揮発性トランジスタ。
【請求項8】
前記トランジスタ(10)が、前記ドレイン(16)、前記ソース(14)、および前記還元層(22)を載せる基板(24)を含み、
前記還元層(22)、前記チャネル(20)、および前記残留状態サブアセンブリ(18)が、前記順番でスタックを形成し、
前記第1の電極(12)が、前記残留状態サブアセンブリ(18)上に載る、請求項1から7のいずれか一項に記載の不揮発性トランジスタ。
【請求項9】
前記残留状態サブアセンブリ(18)が、前記第1の電極(12)の上に載り、
前記ドレイン(16)、前記チャネル(20)、および前記ソース(14)が、前記残留状態サブアセンブリ(18)の上に載り、
前記還元層(22)が、前記チャネル(20)を覆って配置される、請求項1から8のいずれか一項に記載の不揮発性トランジスタ。
【請求項10】
前記還元層(22)を覆う保護層(30)をさらに含む、請求項9に記載の不揮発性トランジスタ。
【請求項11】
前記残留状態サブアセンブリ(18)が、
ペロブスカイト酸化物から作られる酸化物の層、
(Hf
1-xZr
x)O
2の酸化物の層であって、xが0と1の間で変化し、適切な場合にはドープされる酸化物の層、および、
ポリ(ビニリデンフッ化物)から作られる層
の中から選択される層を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の不揮発性トランジスタ。
【請求項12】
前記トランジスタ(10)が、読取りユニットを含み、前記読取りユニットが、前記ドレイン(16)と前記ソース(14)との間に電圧を印加するためのサブユニット、および、前記ドレイン(16)と前記ソース(14)との間の電流を測定するためのサブユニットを含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の不揮発性トランジスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2次元電子ガスを使用する不揮発性電界効果トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
電界効果トランジスタは、しばしば、FETという略称で呼ばれる。そのようなトランジスタは、しばしば、スイッチまたは増幅器として使用される。
【0003】
電界効果トランジスタは、ドレインとソースとの間に配置されるチャネルの導電率への電界の作用に依拠する3つの端子(ドレイン、ソース、およびゲート)を有するユニポーラ3端子デバイスである。チャネル中で、前記2つの端子間に印加される電圧の作用の下で、電子または正孔といったキャリアがソースとドレインとの間を自由に動くことができる。チャネルのコンダクタンスは、電圧をゲートに印加することによって制御される。キャリア(電子または正孔)の性質またはチャネル上に加えられる電気制御の性質に依存して、多くのタイプの電界効果トランジスタが存在する。
【0004】
電界効果トランジスタは、現在では、様々な半導体材料、特に単結晶シリコン材料を使用して構築される。しかし、アモルファスシリコン、多結晶シリコン、ガリウムヒ素、または窒化ガリウムなどといった、他の材料が使用される。
【0005】
FETトランジスタでは、状態は、ゲートに印加される電圧に依存するために、電源がトランジスタのオン状態(すなわち、非ゼロのチャネル導電率)またはオフ状態(ゼロのチャネル導電率)を維持する。電力供給が中断される場合に、ゲートに印加される電圧は必然的にゼロになり、状態が保存されない。そのような状態は揮発性である。メモリ状態を保存するため常に電圧を印加することによって、トランジスタ状態を維持するための電力消費がもたらされる。そのような消費は、それが漏れ電流の発生に関係し、メモリを書き込むまたは読み取る動的プロセスに関係しないために、静的と呼ばれる。
【0006】
したがって、電力供給をせずにトランジスタの状態を維持するのに適した不揮発性電界効果トランジスタを作成することによって、静的なエネルギー消費をなくし、したがってエネルギー消費を低減する。不揮発性によって、メモリ機能または論理計算機能などといった、追加機能を有するトランジスタを考えることも可能になる。
【0007】
半導体トランジスタに基づいて、複数の非揮発性電界効果トランジスタが提案されている。より具体的には、研究は、Fe-FETと呼ばれることが多い強誘電性電界効果トランジスタの開発に焦点を当てている。Fe-FETは、電力供給のない場合にオンまたはオフ状態を維持する働きをする、ゲートとドレインソースチャネル間の強誘電性要素を備える。
【0008】
知られているFe-FETには、限られた持続時間およびオン状態とオフ状態との間のコントラスト(オン/オフコントラストと呼ばれることがある)の問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、よりよい持続時間およびオン状態とオフ状態との間の改善されたコントラストを有する不揮発性トランジスタの必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的のために、本明細書では、不揮発性電界効果トランジスタを説明する。このトランジスタは、第1の接点を含む、ゲート電極と呼ばれる第1の電極と、ソース電極と呼ばれる第2の電極であって、ソースが、第2の接点を備える、第2の電極と、ドレインと呼ばれる第3の電極であって、ドレインが、第3の接点を含む、第3の電極と、ドレインとソースとの間のチャネルであって、2次元電子ガスからなるチャネルと、残留状態サブアセンブリであって、少なくとも2つの電気的に制御可能な残留状態を有し、チャネルと接触し、少なくとも1つの酸化物層を含む残留状態サブアセンブリと、少なくとも1つの金属タイプの還元材料からなる還元層であって、各金属タイプ還元材料が50%以上の金属元素の原子濃度を有する、還元層とを備える。第1の電極は、残留状態サブアセンブリと接触し、第1の接点と、第2の接点および第3の接点のうちの1つとの間の電圧の印加によって、チャネルを形成する2次元ガスの導電率の不揮発性変調がもたらされる。
【0011】
還元層によって、還元層と残留状態サブアセンブリとの間の界面にチャネルを形成する電子の2次元ガスを作ることが可能になる。
【0012】
特定の実施形態によれば、不揮発性トランジスタは、個別にまたはすべての技術的に可能な組合せに従って採用される1つまたは複数の以下の特徴を有する。
- 還元層が、還元層と残留状態サブアセンブリとの間の界面にチャネルを形成する2次元ガスを作るように働く。
- 還元層が、金属タイプの還元材料の単層または金属タイプの還元材料の多層であり、還元材料は各々、50%以上の金属元素の原子濃度を有する。
- 残留状態サブアセンブリが、強誘電体効果、捕獲電荷効果、イオンマイグレーション効果、または複数の前記効果の組合せによって電気的に制御される少なくとも1つの不揮発性誘電体層または多層を備える。
- 各金属タイプ還元材料が、80%以上の金属元素の原子濃度を有する。
- 各金属元素が、アルミニウム、タンタル、イットリウム、マグネシウム、およびルテニウムからなるリストから選択される。
- 還元層が、15ナノメートル以下、好ましくは10ナノメートル以下の厚さを有する。
- トランジスタが、ドレイン、ソース、および還元層を載せる基板を含み、還元層、チャネル、および残留状態サブアセンブリが、前記の順番でスタックを形成し、第1の電極が残留状態サブアセンブリ上に載る。
- 残留状態サブアセンブリが、第1の電極上に載り、ドレイン、チャネル、およびソースが、残留状態サブアセンブリ上に載り、還元層がチャネル上に配置される。
- 不揮発性トランジスタが、還元層を覆う保護層をさらに含む。
- 残留状態サブアセンブリが、ペロブスカイト酸化物から作られる酸化物の層、(Hf1-xZrx)O2から作られ、ここでxが0と1の間で変化し、適切な場合にはドープされる酸化物の層、および、ポリ(ビニリデンフッ化物)から作られる層から選択される層を含む。
- トランジスタが、読取りユニットを含み、読取りユニットが、ドレインとソース間に電圧を印加するためのサブユニット、および、ドレインとソース間の電流を測定するためのサブユニットを含む。
- ソースおよびドレインがチャネルの端部と接触する。
【0013】
本発明の特徴および利点は、例としてのみ与えられるが限定されない以下の記載を読み、同封の図面への参照をすれば明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】2次元電子ガスを使用する不揮発性電界効果トランジスタの例の概略図である。
【
図2】2次元電子ガスを使用する不揮発性電界効果トランジスタの別の例の概略図である。
【
図3】印加される電圧の関数として、2つの接点間の抵抗の依存性を示すグラフである。
【
図4】オン状態とオフ状態におけるトランジスタの例の電流電圧特性を図示するグラフである。
【
図5】読取りユニットおよび書込みユニットを有するトランジスタの例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
【0016】
トランジスタ10は、不揮発性電界効果トランジスタである。
【0017】
トランジスタ10は、3つの電極を含み、第1の電極は第1の接点C1を含むゲート電極12と呼ばれ、第2の電極は第2の接点C2を含むソース14と呼ばれ、第3の電極は第3の接点C3を含むドレイン16と呼ばれる。
【0018】
電極は、有利には金属であり、または、高度にドープされた半導体材料から作られる。
【0019】
トランジスタ10は、残留状態サブアセンブリ18、2次元電子ガスから形成されドレイン16とソース14との間に配置されるチャネル20、および還元層22をさらに含む。
【0020】
図5に見ることができるように、トランジスタ10は、読取りユニット40および書込みユニット42をさらに含む。
【0021】
読取りユニット40は、電圧印加サブユニット44および電流測定サブユニット46をさらに含む。
【0022】
トランジスタ10の層の2つの別個の配置が、それぞれ
図1と
図2に提案される。
【0023】
以下では、スタックの層は、スタック方向に沿ってスタックされる層である。スタックの方向に関する低と高の相対的な概念も規定される。ある層が
図1のシート上の表現でより低い場合、それは別の層よりも低い。
【0024】
図1に示される例では、不揮発性トランジスタ10は、その上にドレイン16、ソース14、ならびに、還元層22、チャネル20、および残留状態サブアセンブリ18を備える層のスタック26を載せる基板24を含み、スタック26は底から頂部に(底はこの場合に基板に対応する)わたるとき前記の順番でスタックされる。
【0025】
最後に、層の厚さは、層のスタックの方向に沿った寸法、すなわち、その2つの面の間の距離として規定される。
- ゲート電極12が、残留状態サブアセンブリ18と接触する。
【0026】
スタック26の層の順番は、
図2に示されるように反転することができる。
【0027】
図2の場合には、残留状態サブアセンブリ18はゲート電極12上に載る。ドレイン16、チャネル20、およびソース14は、残留状態サブアセンブリ18上に載る。
【0028】
チャネル20と還元層22は、前記の順番で、底からスタック28を通して頂部に至るスタック28を形成する。
【0029】
さらに、任意選択で、スタック28は、還元層22上に載る保護層30を含む。
【0030】
保護層30は、ゼロ導電率またはほとんどゼロの導電率によって特徴づけられ、スタック28を特に酸化から保護することを可能にする絶縁材料から作られる。
【0031】
保護層30は、たとえば、SiO2から作られる。
【0032】
図示される2つの場合では、ソース14およびドレイン16は、チャネル20のそれぞれの端部と接触する。
【0033】
残留状態サブアセンブリ18は、少なくとも2つの電気的制御可能な残留状態を有する。電気的制御は、ここで、第1の接点C1と、第2の接点C2または第3の接点C3との間に電圧を加えることによって得られる。
【0034】
言い換えると、残留状態サブアセンブリ18は、印加電圧とヒステリシスサイクルに従う明らかな貯蔵電荷との間の非線形な関係、および、少なくとも2つの残留状態を生じさせることによって特徴づけられる。
【0035】
このため、残留状態サブアセンブリ18は、強誘電体効果、捕獲電荷効果、イオンマイグレーション効果、または複数の前記効果の組合せによって電気的に制御される誘電体層または不揮発性誘電体層のスタックである。残留状態は、強誘電性分極、捕獲電荷の数、もしくはイオンの位置の変化、またはそのような変化の組合せに対応する。
【0036】
より正確には、サブアセンブリが、ペロブスカイト酸化物、または、(Hf1-xZrx)O2もしくは(Hf1-xGax)O2(xは0と1の間で変化する)などといった、可能なら他の要素でドープされた、HfO2に基づいた酸化物、またはこれらの合金、またはポリビニリデンフッ化物から選択される材料から作られる少なくとも1つの酸化物層を含む。
【0037】
ペロブスカイト酸化物は、AおよびBが陽イオンであるタイプABO3の構造を有する。BaTiO3、PZT(すなわち、PbZr1-xTixO3、ここでxは0と1の間で変化する)、PMN-PT(すなわち、[1-x]Pb(Mg1/3Nb2/3)O3-xPbTiO3、ここでxは0と1の間で変化する)、BiFeO3(適切な場合には、たとえば、Bi部位に希土類元素またはFe部位にMnでドープされる)、SrTiO3(適切な場合にはドープされる)、KTiO3(適切な場合にはドープされる)、Pr0.7Ca0.3MnO3(適切な場合にはドープされる)、またはYMnO3(適切な場合にはドープされる)がそのような材料の例である。
【0038】
残留状態サブアセンブリ18を生成するための誘電体材料の使用は、不揮発性の方式でチャネル20の導電率を電気的に制御する働きをする。
【0039】
上記の例の各々で、残留状態が存在するのは、強誘電体効果、捕獲電荷効果、イオンマイグレーション効果、または複数のそのような効果の組合せからもたらされる。実際には、主な効果は、材料に依存し、残留状態サブアセンブリ18を形成する層の堆積の状態に依存する。記載される例によれば、誘電体要素の抗電界およびその厚さは、書込みデバイス14がマイクロエレクトロニック技術と互換性がある電圧、すなわち、10ボルト未満の電圧(<10V)で残留状態を書き込むのに適して、十分小さい。上述の材料における100nm未満、有利には50nm未満の厚さによって、そのような特性を得ることが可能である。残留状態サブアセンブリ18は、繰返しに対する耐性もあり、典型的には、少なくとも104サイクルを耐えるのに適する。
【0040】
チャネル20は、2次元電子ガス、すなわち、2つの層の間の界面で形成される閉じ込められた電子ガスからなり、一方で、別個にされた材料の体積中にはガスは存在しない。
【0041】
こうして、チャネル20は、残留状態サブアセンブリ18と還元層22との間の界面で形成される電子ガスである。それは、高いキャリア濃度(典型的には、1010cm-2以上)を有する。閉込めは、界面の近傍だけが導電性であるため、ガスが厳密に2次元であると考えることができるようなものである。
【0042】
チャネル20の電子ガスは残留状態サブアセンブリ18と還元層22との間の界面に作られるため、その特性、特にその抵抗は、残留状態サブアセンブリ18の状態に直接依存する。2次元電子ガスしたがってチャネル20の抵抗は、こうして、残留状態サブアセンブリ18の状態に従って、不揮発性の方式で電気的に変調することができる。それによって、残留状態サブアセンブリ18の残留状態を選択することにより、チャネル20の抵抗を変調することが可能である。
【0043】
還元層22は、還元層22と残留状態サブアセンブリ18との間の界面でチャネルを形成する2次元電子ガスを作るために使用される。
【0044】
還元層22は、50%以上、好ましくは80%以上の金属元素の原子濃度を有する還元材料でできている。
【0045】
規定によれば、原子濃度は、金属元素の原子の数と原子の総数との間の比率である。
【0046】
この意味で、還元層22は、金属タイプの還元層として記載できる還元層である。
【0047】
具体的な例として、還元層22の各金属元素は、Al、Ta、Ru、Pt、W、Ir、Mo、Ti、Y、Au、または、PtWなど、これらの合金から選択される。
【0048】
Mg、Cr、Mn、Cu、Pd、Ag、Hf、Bi、Co、およびFeなどの他の金属元素が考えられる。
【0049】
それによって、各金属元素は、Mg、Al、Ti、V、Ni、Cr、Mn、Cu、Mo、Nb、Ru、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、W、Ir、Bi、Co、Y、Pt、W、Au、およびFe、またはこれらの合金からなるリストから選択される。
【0050】
好ましくは、各金属元素は、アルミニウム、タンタル、イットリウム、マグネシウム、およびルテニウムからなるリストから選択される。
【0051】
変形形態では、還元層22が多層である。そのような場合に、前記多層の各層が、この場合も、50%以上、好ましくは80%以上の金属元素の原子濃度を有する。
【0052】
還元層22によって、残留状態サブアセンブリ18と接触する電子の2次元ガスの形成が可能になる。この意味で、2次元電子ガスによって形成されるチャネル20は、還元層がない従来型電界効果トランジスタのチャネルと全く異なる。また、従来型電界効果トランジスタのチャネルでは、静電界を生成するゲート電圧を印加することによって、半導体材料(一般的にドープSiからできている)中で、キャリアが可逆的に現れる。
【0053】
還元層22は、15ナノメートル(nm)以下である厚さを有する。
【0054】
上記によって、還元層22は、残留状態サブアセンブリ18と接触して部分的または完全に酸化されて、2次元電子ガスの導電率より低い導電率を有することが可能になる。還元層22の厚さは、好ましくは、それが残留状態サブアセンブリ18との接触によって完全に酸化されるように選択され、その結果、その導電率は可能な最低値となる。
【0055】
上記で示されるように、ソース14およびドレイン16は、チャネル20のそれぞれの端部と接触し、それによって、チャネル20を介して互いに電気的に接続される。
【0056】
電極12、14、および16の各々は、高い導電率を有するように、好ましくはドープされた金属の導電性材料または半導体材料でできている。
【0057】
ここで、トランジスタ10の動作を
図3から
図4を参照して記載する。
【0058】
動作の第1の例では、残留状態サブアセンブリ18がAおよびBによって示される2つの状態を有する。
【0059】
上記は具体的には
図3で見ることができ、ここでは、第1の接点C1と第2の接点C2との間に印加される電圧(ゲート電圧V
g)の関数として、第2の接点C2と第3の接点C3との間の抵抗の依存性が示される。ゲート電圧の関数としてのチャネル20の導電率の変動は、サブアセンブリの2つの残留状態AおよびBに対応するヒステリシスを有することが実際に観察される。
【0060】
そのような動作の第1の例によれば、書込みは、書込みユニットにより第1の接点C1と第2の接点C2との間に電圧を印加することによって実行される。
【0061】
書込みは、第2の接点C2を第3の接点C3で置き換えることによって実行することもできる。
【0062】
物理的な観点から、チャネル20の導電率は、ここでは、第1の接点C1と第2の接点C2との間の電圧の印加による残留状態サブアセンブリ18の残留状態に従って、不揮発性の方式で変調される。
【0063】
そのような動作の例では、第1の接点C1と第2の接点C2との間の負の電圧の印加によって、残留状態サブアセンブリ18を残留状態Aで開始して、チャネル20に低い導電率がもたらされる。他方で、正の電圧の印加によって、残留状態サブアセンブリ18の残留状態Bに対応する、チャネル20の高い導電率が引き起こされる。
【0064】
使用する材料に依存して、高抵抗および低抵抗の残留状態をもたらす電圧の符号を反転することができる。それによって、チャネル20の低い導電率の残留状態がもたらされる、第1の接点C1と第2の接点C2との間に正の電圧の印加となってよい。そのような場合、チャネル20の高い導電率に対応する残留状態を引き起こす負の電圧の印加となる。
【0065】
そのような動作の第1の例では、読取りユニット40は、電圧印加サブユニット44を使用して第2の接点C2と第3の接点C3との間に電圧を印加して、測定サブユニット46によって2つの接点C2とC3との間の結果として得られる電流を測定することによって、残留状態を非破壊的に読み取る。
【0066】
それによって、第2の接点C2と第3の接点C3との間の電流電圧特性は、トランジスタ10の出力特性に対応するが、残留状態サブアセンブリ18の残留状態によって制御される。
【0067】
【0068】
動作の第2の例では、電圧印加サブユニット44は、ヒステリシスサイクルの任意の状態を得るために、第1の接点C1と第2の接点C2との間に電圧を印加する。チャネル20の導電率は、2つより多い状態をとることができ、それによって、人工知能のためのニューラルネットワーク中のシナプス重みなどといった、アナログで非2進数情報をコード化するために使用することができる。
【0069】
これまで記載してきたトランジスタ10は、酸化物層と金属タイプの還元層22との間の界面で2次元電子ガスチャネル20を使用する不揮発性電界効果トランジスタである。それは、還元層22を有する残留状態サブアセンブリ18の酸化物層に関連し、これによって、チャネル20の導電率の不揮発性制御を達成することが可能になる。
【0070】
上記によって、構造上に追加される強誘電体要素を使用するのを回避することが可能になる。というのは、残留状態サブアセンブリ18と還元層22の組合せによって、2次元電子ガスと残留状態の両方が作られるためである。
【0071】
さらに、酸化物層、2次元電子ガス、および還元層22によって形成される組立体の存在によって、従来技術の不揮発性電界効果トランジスタと比較して、チャネル20の導電率を最適化し、よりよい持続時間およびオン状態とオフ状態との間のコントラストの改善を得ることが可能になる。カソードスパッタリングなどといった従来型マイクロエレクトロニック法に従って形成される還元層を使用することによって作られる2次元電子ガスチャネル20によって得られる性能によって、トランジスタ10を産業用に使用するのに好適にする働きをする。
【符号の説明】
【0072】
10 不揮発性電界効果トランジスタ
12 第1の電極、ゲート電極
14 第2の電極、ソース、書込みデバイス
16 第3の電極、ドレイン
18 残留状態サブアセンブリ
20 チャネル
22 還元層
24 基板
26 スタック
28 スタック
30 保護層
40 読取りユニット
42 書込みユニット
44 電圧印加サブユニット
46 電流測定サブユニット
【手続補正書】
【提出日】2024-10-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不揮発性電界効果トランジスタ(10)であって、
第1の接点(C1)を含む、ゲート電極と呼ばれる第1の電極(12)と、
ソース(14)と呼ばれる第2の電極(14)であって、前記ソース(14)が、第2の接点(C2)を備える、第2の電極(14)と、
ドレイン(16)と呼ばれる第3の電極(16)であって、前記ドレイン(16)が、第3の接点(C3)を含む、第3の電極(16)と、
前記ドレイン(16)と前記ソース(14)との間のチャネル(20)であって、2次元電子ガスからなるチャネル(20)と、
少なくとも2つの電気的に制御可能な残留状態を有し、前記チャネル(20)と接触し、少なくとも1つの酸化物層を含む、残留状態サブアセンブリ(18)と、
還元層(22)と前記残留状態サブアセンブリ(18)との間の界面に前記チャネル(20)を形成する前記2次元ガスを作るように働く還元層(22)であって、少なくとも1つの金属タイプの還元材料でできており、各金属タイプ還元材料が50%以上の金属元素の原子濃度を有する、還元層(22)と
を備え、
前記第1の電極(12)が、前記残留状態サブアセンブリ(18)と接触し、前記第1の接点(C1)と、前記第2の接点(C2)および前記第3の接点(C3)のうちの1つの接点との間の電圧の印加が、前記チャネル(20)を形成する前記2次元ガスの導電率の不揮発性変調をもたらす、不揮発性電界効果トランジスタ(10)。
【請求項2】
前記還元層(22)が、金属タイプの還元材料の単層または金属タイプの還元材料の多層であり、1つまたは複数の前記還元材料が各々、50%以上の金属元素の原子濃度を有する、請求項1に記載の不揮発性トランジスタ。
【請求項3】
前記残留状態サブアセンブリ(18)が、強誘電体効果、捕獲電荷効果、イオンマイグレーション効果、
および複数の前記効果の組合せ
の中から選択される効果によって電気的に制御される少なくとも1つの不揮発性誘電体層または多層を備える、請求項1または2に記載の不揮発性トランジスタ。
【請求項4】
各金属タイプ還元材料が、80%以上の金属元素の原子濃度を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の不揮発性トランジスタ。
【請求項5】
各金属元素が、Mg、Al、Ti、V、Ni、Cr、Mn、Cu、Mo、Nb、Ru、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、W、Ir、Bi、Co、Y、Pt、W、Au、およびFe、またはこれらの合金からなるリストから選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の不揮発性トランジスタ。
【請求項6】
各金属元素が、アルミニウム、タンタル、イットリウム、マグネシウム、およびルテニウムからなるリストから選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の不揮発性トランジスタ。
【請求項7】
前記還元層(22)が、15ナノメートル以
下の厚さを有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の不揮発性トランジスタ。
【請求項8】
前記還元層(22)が、10ナノメートル以下の厚さを有する、請求項7に記載の不揮発性トランジスタ。
【請求項9】
前記トランジスタ(10)が、前記ドレイン(16)、前記ソース(14)、および前記還元層(22)を載せる基板(24)を含み、
前記還元層(22)、前記チャネル(20)、および前記残留状態サブアセンブリ(18)が、前記順番でスタックを形成し、
前記第1の電極(12)が、前記残留状態サブアセンブリ(18)上に載る、請求項1から
8のいずれか一項に記載の不揮発性トランジスタ。
【請求項10】
前記残留状態サブアセンブリ(18)が、前記第1の電極(12)の上に載り、
前記ドレイン(16)、前記チャネル(20)、および前記ソース(14)が、前記残留状態サブアセンブリ(18)の上に載り、
前記還元層(22)が、前記チャネル(20)を覆って配置される、請求項1から
9のいずれか一項に記載の不揮発性トランジスタ。
【請求項11】
前記還元層(22)を覆う保護層(30)をさらに含む、請求項
10に記載の不揮発性トランジスタ。
【請求項12】
前記残留状態サブアセンブリ(18)が、
ペロブスカイト酸化物から作られる酸化物の層、
(Hf
1-xZr
x)O
2の酸化物の層であって、xが0と1の間で変化し、適切な場合にはドープされる酸化物の層、および、
ポリ(ビニリデンフッ化物)から作られる層
の中から選択される層を含む、請求項1から
11のいずれか一項に記載の不揮発性トランジスタ。
【請求項13】
前記トランジスタ(10)が、読取りユニットを含み、前記読取りユニットが、前記ドレイン(16)と前記ソース(14)との間に電圧を印加するためのサブユニット、および、前記ドレイン(16)と前記ソース(14)との間の電流を測定するためのサブユニットを含む、請求項1から
12のいずれか一項に記載の不揮発性トランジスタ。
【国際調査報告】