IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

2025-504235半導体試料を層ごとに検査するための方法およびそのような方法を実行するための検査装置
<>
  • -半導体試料を層ごとに検査するための方法およびそのような方法を実行するための検査装置 図1
  • -半導体試料を層ごとに検査するための方法およびそのような方法を実行するための検査装置 図2
  • -半導体試料を層ごとに検査するための方法およびそのような方法を実行するための検査装置 図3
  • -半導体試料を層ごとに検査するための方法およびそのような方法を実行するための検査装置 図4
  • -半導体試料を層ごとに検査するための方法およびそのような方法を実行するための検査装置 図5
  • -半導体試料を層ごとに検査するための方法およびそのような方法を実行するための検査装置 図6
  • -半導体試料を層ごとに検査するための方法およびそのような方法を実行するための検査装置 図7
  • -半導体試料を層ごとに検査するための方法およびそのような方法を実行するための検査装置 図8
  • -半導体試料を層ごとに検査するための方法およびそのような方法を実行するための検査装置 図9
  • -半導体試料を層ごとに検査するための方法およびそのような方法を実行するための検査装置 図10
  • -半導体試料を層ごとに検査するための方法およびそのような方法を実行するための検査装置 図11
  • -半導体試料を層ごとに検査するための方法およびそのような方法を実行するための検査装置 図12
  • -半導体試料を層ごとに検査するための方法およびそのような方法を実行するための検査装置 図13
  • -半導体試料を層ごとに検査するための方法およびそのような方法を実行するための検査装置 図14
  • -半導体試料を層ごとに検査するための方法およびそのような方法を実行するための検査装置 図15
  • -半導体試料を層ごとに検査するための方法およびそのような方法を実行するための検査装置 図16
  • -半導体試料を層ごとに検査するための方法およびそのような方法を実行するための検査装置 図17
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-06
(54)【発明の名称】半導体試料を層ごとに検査するための方法およびそのような方法を実行するための検査装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/66 20060101AFI20250130BHJP
   G01N 23/2252 20180101ALI20250130BHJP
   G01N 23/2202 20180101ALI20250130BHJP
【FI】
H01L21/66 P
G01N23/2252
G01N23/2202
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024547515
(86)(22)【出願日】2023-01-25
(85)【翻訳文提出日】2024-10-09
(86)【国際出願番号】 EP2023051768
(87)【国際公開番号】W WO2023151946
(87)【国際公開日】2023-08-17
(31)【優先権主張番号】102022201394.8
(32)【優先日】2022-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503263355
【氏名又は名称】カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【弁理士】
【氏名又は名称】那須 威夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141553
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 信彦
(72)【発明者】
【氏名】イルケ イヴォ
(72)【発明者】
【氏名】ロス-メッセマー マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ノイマン イェンス ティモ
(72)【発明者】
【氏名】クリーシュ アリアン
【テーマコード(参考)】
2G001
4M106
【Fターム(参考)】
2G001AA03
2G001BA05
2G001CA01
2G001EA03
2G001JA02
2G001KA01
2G001LA11
2G001RA04
4M106BA02
4M106BA03
4M106CA51
4M106DH25
(57)【要約】
集束イオンビームエッチングとX線検出を用いて、半導体試料(2)を層(181から1818まで)ごとに検査するために、FIBエッチングを介して、検査される初期層(18i)を準備する。試料(2)の準備した層(18i)の対象領域体積(20)の表面エリアは、走査型電子顕微鏡(SEM)の対物視野と位置合わせされる。SEMの電子ビーム(8)の電子エネルギーが調整される。対象領域体積は、対物視野内で走査電子ビームによりプロービングされる。位置合わせした対象領域体積から発せられるX線が検出される。検出ステップ中に取得した検出信号は、検出信号を対象領域体積内の試料構造に由来する構造化データに逆畳み込むように後処理される。次の検査される層がFIBエッチングによって準備され、試料(2)の重畳された対象体積について層ごとの検査が完了するまで、「準備する」ステップから「後処理する」ステップまでが繰り返される。このような方法を実行するための検査装置は、集束イオンビーム源と、走査型電子顕微鏡と、X線検出装置と、後処理を実行するコンピュータと、を備える。結果として、対象体積内の体積空間分解能が改善された方法が得られる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
集束イオンビーム(FIB)エッチングとX線検出とを用いて、試料表面を有する半導体試料(2)を、層(18i)から層(18i+1)への層ごとに検査するための方法であって、前記試料(2)は元素組成の異なる構造(23、38)を有し、前記方法は以下のステップ、すなわち、
前記半導体試料(2)の検査される層(181)を、集束イオンビーム(FIB)を用いて初期試料表面をエッチングすることによって準備するステップと、
前記試料(2)の前記準備した層(18i)の対象領域体積(20)の表面エリアを走査型電子顕微鏡(SEM)の対物視野(21)と位置合わせするステップと、
前記SEMの電子ビーム(8)の電子エネルギーを調整するステップと、
前記対物視野(21)内で前記対象領域体積(20)を前記走査電子ビーム(8)によりプロービングするステップと、
前記位置合わせした対象領域体積(20)から発せられるX線(7)を検出するステップと、
前記検出ステップ中に取得した検出信号を、前記検出信号を前記対象領域体積(20)内の前記試料構造に由来する構造データに空間的に逆畳み込むために後処理するステップと、
前記試料(2)の重畳された対象体積について層ごとの検査が完了するまで、前記「準備する」ステップから前記「後処理する」ステップまでを繰り返すステップと、
を有する、方法。
【請求項2】
X線検出が波長依存的に実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記後処理は、前記対象領域体積(20)における前記電子ビーム(8)と前記試料(2)との体積相互作用を考慮する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記後処理は、前記対象領域体積(20)におけるプロービングされた前記試料(2)内の元素の元素マッピングを考慮する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記後処理は、前記検出されたX線(7)のスペクトル逆畳み込みを含む、請求項2~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記後処理は、プローブ電子と前記試料の材料との間の相互作用のモンテカルロシミュレーションを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記後処理は、ジオメトリ入力または更なる測定からの他の先験的条件入力を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記検査中に以下のステップ、すなわち、
nの各値について、所与のビームパラメータ値に対する前記試料のバルクにおけるプロービングビームの挙動を表すカーネル値Knを有する、点広がり関数を定義するステップと、
前記試料の物理的特性をそのバルクにおける位置の関数として表す、空間変数Vを定めるステップと、
nの各値について、Qn=Kn*VとなるようなKnとVとの多次元畳み込みである値Qnを有する結像(imaging)量を定めるステップと、
nの各値について、MnとQnとの間の最小発散
min D(Mn∥Kn*V)
を演算によって決定するステップであって、上式が前記値Knに対して制約をかけながらVについて解かれる、決定するステップと、
が実行される、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記値Knに対する前記制約は、
少なくとも値Knのセットの演算シミュレーション、
少なくとも値Knのセットの経験的な決定、
少なくとも値Knのセットをそれに基づき推定できるモデル化パラメータの数が限定されたパラメータ化された関数としての、点広がり関数のモデリング、
物理的に意味がないと判定される理論的には可能な値Knが破棄されるような、論理的な解空間の制限、
値Knの第1のセットに外挿および/または内挿を適用することによる、値Knの第2のセットの干渉、
を含む群から選択される少なくとも1つの方法を用いて導出される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
集束イオンビーム(FIB)源(3)と、
走査型電子顕微鏡(SEM)(4)と、
前記試料(2)から発せられるX線(7)であって、前記SEM(4)のプローブ電子によって生成される前記X線(7)を検出するX線検出装置(6)と、
前記X線検出装置(6)によって取得した検出信号の前記後処理を行うためのコンピュータ(9)と、
を備える、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法を実行するための検査装置(1)。
【請求項11】
前記X線検出装置(6)はX線分光計(10)を含む、請求項10に記載の検査装置。
【請求項12】
前記検査装置は、前記SEM(4)が初期バルク試料表面平面(15)から測定して90°未満で前記試料(2)をプロービングするように配置されている、請求項10または11に記載の検査装置。
【請求項13】
前記検査装置は、前記X線検出装置(6)が初期バルク試料表面平面(15)から測定して90°未満で前記X線(7)を検出するように配置されている、請求項10~12のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項14】
前記検査装置は、前記FIB源(3)が初期バルク試料表面平面(15)に対して20°~60°の角度を含むエッチング平面(17)において前記試料(2)をエッチングするように配置されている、請求項10~13のいずれか1項に記載の検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
独国特許出願第10 2022 201 394.8号の内容が参照によって組み込まれる。
【0002】
本発明は、集束イオンビームエッチングとX線検出とを用いて、半導体試料を層ごとに検査するための方法に関する。更に、本発明は、このような方法を実行するための検査装置に関する。
【背景技術】
【0003】
集束イオンビーム/SEMクロスビーム方式を用いて半導体試料を検査するための検査装置が、米国特許第8,969,835号に開示されている。SEMにおいてX線スペクトロメトリを用いる検査方法が、当技術分野で知られている。
【0004】
M. Cantoni、L. Holzer:Advances in 3D focused ion beam tomography、MRS Bulletin39巻354~360頁(2014年)には、集束イオンビームトモグラフィの詳細が開示されている。I. Utke(編集)、S. Moshkalev(編集)、P. Russell(編集)、Oxford series on nanomanufacturing、Nanofabrication using focusing ion and electron beams, Principles and applications、2012年の410~435頁、L.Holder、M. Cantoni: Review of FIB tomographyには、集束イオンビーム(FIB)トモグラフィの詳細が開示されている。P. Burdet: Three Dimensional Microanalysis by Energy Dispersive Spectrometry: Improved Data Processing、スイス連邦工科大学ローザンヌ校学の博士論文(2012年)には、複合顕微鏡技術、すなわち、集束イオンビームを備えた電子顕微鏡を用いた、3D微小分析に拡張されたエネルギー分散分光法(EDS)が開示されている。P. Burdet、C. Hebert、M. Cantoni: Enhanced Quantification for 3D Energy Dispersive Spectrometry: Going Beyond the Limitation of Large Volume of X-Ray Emission、Microsc. Microanal.20巻、1544~1555頁、2014年には、X線の放射源となる体積よりも小さいボクセルサイズで3次元エネルギー分散分光測定データを定量化するために開発された方法が開示されている。P-Burdet、S.A. Croxall、P.A. Midgley: Enhanced quantification for 3D SEM-EDS: Using the full set of available X-ray lies、Ultramicroscopy 148巻、158~167頁、2015年には、走査型電子顕微鏡を用いて3Dで記録されたエネルギー分散スペクトルを定量化するための方法中に、ビームが生成した利用可能な全てのX線の線を使用することが開示されている。L. Struder、A. Niculae、P. Holl、H. Soltau: Development of the Silicon Drift Detector for Electron Microscopy Applications、Microscopy Today、28巻5号、2020年9月には、シリコンドリフト検出器の開発に関する詳細が掲載されている。米国特許第6,924,484号には、X線発光分析を用いた金属相互接続構造のボイド特性評価が開示されている。国際出願公開第2019/071 352号には、断面試料準備のための方法が開示されている。欧州特許出願第2 557 584号には、荷電粒子顕微鏡結像(imaging)法が開示されている。米国特許第11,282,670号には、3D試料像の生成を改善するための、モデルシミュレーションを用いた荷電粒子像のスライス深さの再構成が開示されている。米国特許出願公開第2022/0 102 121号には、荷電粒子システムにおける試料の3D像の深さの再構成が開示されている。
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、対象体積内の体積空間分解能を改善するために、特に、対象領域体積(region of interest volume)からの元素情報を改善するために、上述した検査方法を改善することである。
【0006】
この目的は請求項1の特徴による方法によって達成される。
【0007】
本方法中に準備される層の数は、2~100の範囲内であり得る。非弾性電子/物質相互作用によるX線の検出に加えて、オージェ電子(AE)も検出される場合がある。後処理の結果、関心体積内の体積空間分解能が向上する。このような体積空間分解能は、25nmよりも良好である場合、20nmよりも良好である場合、15nmよりも良好である場合、および10nmよりも良好である場合がある。実用的には、このような体積空間分解能は1nm超である。このような体積空間分解能の定義は、隣接する構造同士を区別するためのエッジ分解能基準を援用して行われる。エッジ分解能基準の例は当技術分野で知られている。
【0008】
後処理ステップは最適化アルゴリズムを含んでもよい。この検査方法により、チップ構造、特に半導体メモリ構造、更に特にフラッシュメモリ構造、更に特にNAND構造、更に特に3D-NAND構造、および更に特に垂直3D-NAND構造の検査が可能である。
【0009】
請求項2に記載の波長依存X線検出を用いると、本検査方法の汎用性が更に改善される。非弾性散乱X線を検出するスペクトルX線検出(EDX)に加えて、オージェ電子(AE)を検出することもできる。このようなEDXおよび/またはAE検出の結果、対象領域体積から元素情報が得られる。
【0010】
典型的な検出X線エネルギーは50eV~3keVの範囲であり得る。検出されることになる線は、検査される試料内のそれぞれの元素のK、L、M、およびNの線を含み得る。この点で、277eVは炭素に由来し、392eVは窒素に由来し、452eVはチタンに由来し、525eVは酸素に由来し、1486eVはアルミニウムに由来し、1740eVはケイ素に由来し、1775eVはタングステンに由来することが想起される。一例では、1000eV未満の電子エネルギーが使用される。このような電子エネルギーは、後処理の逆畳み込みの効果を向上させる。波長依存X線検出および/またはより低い電子エネルギーを利用して、体積空間分解能の更なる改善が可能である。
【0011】
後処理ステップでは、プローブ電子の自由相互作用経路長が物質密度に依存し、したがって元素組成に依存することを考慮してもよい。
【0012】
更に、本方法を用いて、ドーパントの発生および/または量を検査してもよい。
【0013】
目標は、解析的トモグラフィFIB-SEM結像(imaging)における3D分解能、すなわち、バルク材料の試料体積内の物質結像(imaging)(EDS/EDX)のためのスペクトルX線データの空間的3次元取得の向上である。方法は、顕微鏡の電子ビーム中の電子の運動エネルギーによる原子内殻電子の励起(およびその後のその緩和)に起因する、X線放射の効果に基づく。励起は、相互作用体積としてまたは対象領域体積として知られる試料体積内で生じる。
【0014】
従来、この技術における分解能を制限する一面は、電子ビームと試料との相互作用体積のサイズ、すなわち、一次電子がX線放射を励起するのに十分なエネルギーを有するような試料体積のサイズである。
【0015】
相互作用体積のサイズはビームエネルギー(加速電圧)が大きくなるほど大きくなるが、このことは高分解能に対する低値を示唆している。他方で、電子は、好ましくは試料中に存在する可能性のある広範なあり得る元素に対して、原子内殻電子を励起するのに十分な運動エネルギーを有する必要がある。このため、実用的な最低エネルギー範囲は約1keVとなる。この場合のドブロイ波長は約38[pm]である。ただし、元素と、相互作用体積の範囲をどの程度正確に測定するかとに応じて、相互作用体積のサイズは約20[nm]のオーダーになり得る。
【0016】
高分解能EDX走査では、試料中の電子相互作用体積のサイズを最小にするため、低い電子ビームエネルギーが要求され得る。X線光子の発生効率は、この例で採用した低ビームエネルギーでは非常に低い。このため従来から、分解能と取得時間はトレードオフの関係となっている。
【0017】
検査方法内で後処理を用いる結果、先行技術の限界を超えて解析的EDXの分解能を向上させる、アルゴリズムによる超分解能技術が得られる。相互作用体積によって導入される空間混合挙動は、後処理ステップにおいて演算手段によって数学的にモデル化され得る。ここでは測定/相互作用プロセスの適度に現実的な数学的モデルを利用することができる。
【0018】
空間反転/逆畳み込みのための実行可能な数学モデルを導出するために、後処理中に近似を使用してもよい。これには、空間-スペクトル分解EDX測定の3Dスタックからの、すなわち、空間分解からおよびスペクトル分解からの、高分解能物質マップの復元が含まれ得る。このような復元には元素輝線に関する定式化が含まれる場合があるが、この定式化には、観測されることになるスペクトルへの異なる元素線の寄与を除去するための、取得されたEDXスペクトルの処理が必要である。異なるモダリティからの情報を復元タスクをサポートするために使用してもよい。
【0019】
一般的な測定設定は、任意の走査ジオメトリ(geometry)を有し得る、空間-スペクトル分解3D EDX走査であり得る。測定ジオメトリは、クロスビーム構成(イオンビーム/電子ビーム)、または、傾斜FIB取得、すなわち、イオン(FIB)と電子(SEM)ビームとの間の傾斜角が0°~90°の範囲であるものであり得る。検査方法の結果は、試料中に存在する様々な元素についての、修正され鮮鋭化された物質体積のマップとなり得る。
【0020】
請求項3~7に記載の後処理精緻化によって、対象領域体積内の体積空間分解能のおよび/または元素情報の更なる改善が可能になる。
【0021】
請求項7に記載のジオメトリ入力または他の先行の条件入力は、更なる独立した測定によって達成され得る。SEM結像(imaging)は、このような更なる幾何形状入力および/または先験条件入力を提供し得る。既知のジオメトリを使用することで、後処理ステップの分解能力を改善することができる。物質ライブラリから取得される他の物質依存条件が、後処理ステップの先験的条件入力に寄与する場合がある。
【0022】
請求項8に記載の後処理は、測定データを逆畳み込みするための、および有利に高い分解能で試料像を生成するための変形である。請求項8の方法の更なるステップに関する詳細については、欧州特許第2 557 584号が参照される。
【0023】
請求項9に記載の値制約が特に有利である。
【0024】
請求項9に記載の演算シミュレーションは、モンテカルロシミュレーションおよび/または有限要素解析を援用して実行され得る。
【0025】
請求項8に記載の最小発散の決定は、最小二乗距離、Csiszar-Morimoto F発散、Bregman発散、Alpha-Beta発散、Bhattacharyya距離、Cramer-Raoの限界、および/またはこれらの導関数であり得る。
【0026】
集束イオンビームおよび/または電子ビームのビームパラメータは、以下のパラメータから選択され得る:ビームエネルギー、ビーム収束角度、および/またはビーム集束深さ。
【0027】
検査方法中、それぞれの測定中に試料から放射されるシミュレーションされる放射線が検出され得る。このような誘発される放射線は、二次電子、後方散乱電子、および/またはX線放射であり得る。強度測定および/または電流測定が行われてもよい。
【0028】
空間変数の物理的特性は、作用因子の密度、原子密度、および/または二次放射係数であり得る。
【0029】
それぞれの準備ステップ中の材料除去方法は、切断装置による機械的スライスであってもよく、イオンビームによるイオンミリングであってもよく、電磁ビームによるアブレーションであってもよく、ビーム誘起エッチングであってもよく、化学エッチングであってもよく、かつ/または反応性エッチングであってもよい。
【0030】
検査方法中、物理的にスライスするステップを、演算的にスライスするステップと組み合わせてもよい。これらの物理的/演算的にスライスするステップを交互に繰り返してもよい。
【0031】
本発明の更なる目的は、検査方法を実行できる検査装置を提供することである。
【0032】
この目的は、請求項10に記載の検査装置によって達成される。このような検査装置の利点は、検査方法に関して上述したものに対応している。このことは請求項11に記載の検査装置にも当てはまる。
【0033】
請求項12~14に記載の準備および/またはプロービングおよび/または検出のジオメトリによって、FIBエッチング準備ステップによって生じるイオンおよび/またはデブリによる対象領域体積の望まれない汚染が減少するか、または回避されることが分かっている。
【0034】
エッチング平面と初期バルク試料表面平面との間の角度は、20°~40°の領域内であってもよく、約35°であり得る。
【0035】
本発明の例示の実施形態について、付属の図面を参照して以下に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】集束イオンビーム(FIB)源と走査型電子顕微鏡(SEM)とX線検出装置とを含む、半導体試料を層ごとに検査するための検査方法を実行するための検査装置の概略図である。
図2】FIBエッチングによって準備されることになる後続の試料層を規定するFIBエッチング平面の向きと、検査される半導体試料の初期バルク試料表面平面と、X線検出方向と一致するSEMプローブ方向と、を示す、試料検査ジオメトリを示す図である。
図3】3D垂直NANDフラッシュメモリ設計の軸方向断面図であり、互いに隣接する異なる材料エリアが異なるハッチングで描かれている。
図4】検査される試料の対象領域体積の概略断面図であり、電子ビーム/試料相互作用およびそのような体積のそれぞれの相互作用エリアから発せられるX線の概略的なスケッチを含む。
図5図4の描写と同様の描写の、電子ビーム/試料相互作用体積のサイズがプロービング電子のエネルギーに依存することを示す図である。
図6図5の描写と同様の描写の、相互作用体積がかかる相互作用体積中に存在している試料元素の原子番号に依存することを示す図である。
図7】メモリセルキャパシタ、例えば垂直NAND設計の一部として具現化された半導体試料の、FIB-SEM走査のシーケンスを示す概略図であり、検査方法の一部である左から右へのシーケンスにおいて、電子ビーム/試料相互作用体積は、メモリセルキャパシタが位置する上側層から底部基板層へと移動する。
図8図4と同様の描写で、頂部から底部へと電子ビームエネルギーが増加している、検査方法の後処理ステップの一部であり得る電子ビーム/試料相互作用体積のモンテカルロシミュレーションを示す図であり、図8の最下段の描写にはX線経路も描かれている。
図9】より軽い材料とより重い材料との間の、垂直方向(図9および図10)および水平方向(図11および図12)の境界線における、対象領域体積の概略図である。
図10】より軽い材料とより重い材料との間の、垂直方向(図9および図10)および水平方向(図11および図12)の境界線における、対象領域体積の概略図である。
図11】より軽い材料とより重い材料との間の、垂直方向(図9および図10)および水平方向(図11および図12)の境界線における、対象領域体積の概略図である。
図12】より軽い材料とより重い材料との間の、垂直方向(図9および図10)および水平方向(図11および図12)の境界線における、対象領域体積の概略図である。
図13図9図12と同様に表現した、同一のプローブ電子エネルギーを用いた、より軽い材料およびより重い材料の中にある、対象領域体積の比較の図である。
図14】垂直境界におけるより軽い材料体積部分とより重い材料体積部分の重ね合わせとして相互作用体積の領域を近似する、複合的手法の概略図である。
図15】2つの隣接するタングステン領域によって限定された中央の炭素領域を描いた、半導体試料層を通るSEM走査の像である。
図16図15の左側のタングステン/炭素境界領域に関する、図1の検査装置を用いた検査方法の結果の図である。
図17図15の右側の炭素/タングステン境界領域に関する、図1の検査装置を用いた検査方法の結果の図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
図1は、集束イオンビーム(FIB)エッチングとX線分光法とを用いて半導体試料2を層ごとに検査するように設計されている検査装置1を、概略的に示す。検査装置1は、集束イオンビーム(FIB)源3と、電子光学系5を含む走査型電子顕微鏡(SEM)4とを含む。更に、検査装置1は、SEM4のプローブ電子8(図2および図4と比較されたい)によって生成される、試料2から発せられるX線7(図4と比較されたい)を検出する、X線検出装置6を含む。更に、検査装置1は、X線検出装置6によって取得した検出信号の後処理を行うためのコンピュータ9を備える。
【0038】
X線検出装置6は、図1に概略的に示すX線分光計10を含む。X線検出装置6のX線分光器10により、波長依存X線検出が可能である。
【0039】
図1には更に、試料2上の対象領域を境界付けるための絞り機構(stop)11が示されている。
【0040】
試料2は、チャンバ壁12、13で境界付けられた検査チャンバ内に位置する。
【0041】
絞り機構11は、図1に概略的に示されているように、可動の絞り機構部品によって境界付けることのできる、プロセスウィンドウ14を規定する。
【0042】
図2には、一方で試料2のジオメトリが、他方で検査装置1の検査ジオメトリが、概略的に描かれている。図2のデカルトxyz座標系は図1に示したものに対応している。
【0043】
試料2は、xy平面に平行に位置する初期バルク試料表面平面15を有する。SEM4からの電子ビーム、すなわちプローブ電子8は、初期バルク試料表面平面15から測定して90°未満で試料2をプロービングする。更に、X線検出装置6は、初期バルク試料表面平面15から測定して90°未満でX線7を検出する。言い換えれば、一方のSEMプローブ方向とX線検出装置の検出方向は一致するか、または互いに平行に延びている。
【0044】
FIB源3によって生成されたFIB16は、xy初期バルク試料表面平面15に対して36°の角度を含むエッチング平面17において、試料2をエッチングする。このような角度は、例えば20°~40°の範囲内にあり得る。
【0045】
図2には、FIB16を介して半導体試料2の検査される初期層18、181が準備される、検査装置1を用いた検査方法の一時的状況が示されている。このような初期層18の表面平面は、一時的なエッチング平面17と一致する。
【0046】
エッチング平面17が初期バルク試料表面平面15に対してある角度未満で延びていることに起因して、試料2内の第1の元素Aと第2の元素Bとの交互の元素層構造は、初期層18に沿って存在している。これらのA/B/A…元素層構造は、初期バルク試料表面平面15と平行に延びている。更に、z軸と平行に延びる円筒軸を有する円筒境界を有するNAND構造19が、この初期層18内である角度で切断される。エッチング平面17がz軸に対して傾斜していることに起因して、このような円筒の切断の結果、NAND構造19の輪郭は楕円形になる。
【0047】
層の準備後、図4において破線で示す水滴形状の形態を有する対象領域体積20の表面エリアが、SEM4の対物視野(object field)21と位置合わせされる。対象領域体積20は、検査方法中に検出および解析される電子/試料相互作用が起こる体積である。対物視野21はxy平面と平行に延びている。図4では、試料層表面と初期バルク試料表面平面との間の実際の傾斜は省略されている。
【0048】
SEM4の電子ビーム8の電子エネルギーが調整され、対物視野21内で対象領域体積20が電子ビーム8でプロービングされる。位置合わせされた対象領域体積20から発せられたX線7は、X線検出装置6を介して検出される。
【0049】
続いて、先行する検出ステップ中に取得した検出信号の後処理が、この検出信号を、後からより詳細に説明する対象領域体積20内の構造に由来する構造信号に空間的に逆畳み込むために行われる。
【0050】
その後、試料2の次の層182が準備される。このような次の層182は、先にエッチングされた試料表面の下に更なる試料表面を有する。次の層182のこのような準備は、それぞれ位置合わせされた集束イオンビーム16を用いた試料2のエッチングを介して、次の層182の更なる試料表面をエッチングすることによって行われる。試料2の対象体積の層ごとの検査が完了するまで、これら位置合わせするステップから後処理するステップまでが繰り返される。このようなステップの繰り返しの結果である後続の層183~1818が、図2に更に示されている。層厚さは、隣り合う層18iと18i+1との間の距離によって規定される。このような層厚さによって、図2において層ごとに描かれてもいる、z方向に沿った有効切断深さdが得られる。
【0051】
層18iの数は2~1000、特に2~500または2~100の範囲であり得る。
【0052】
検査装置1は、試料2の対象領域体積20の表面エリアを、プロセスウィンドウ14によって規定され得る検査装置1の対物視野21と位置合わせするための、位置合わせユニット21aを含む。図1では、このような位置合わせユニット21aが試料2に対して有効な状態で概略的に描かれている。位置合わせユニット21aを援用して、少なくとも3自由度を介した、検査装置1の対物視野14に対する試料2の平行移動および/または傾斜移動が可能である。位置合わせユニット21aの実施形態に応じて、このような位置合わせは4自由度、5自由度、または6自由度を介して可能である。
【0053】
更に、検査装置1は、SEM4の電子ビーム8の電子エネルギーを調整するための調整ユニット22(図1も参照されたい)を含む。このような調整は、電子光学系5内の電子加速電圧の制御によって行うことができる。
【0054】
FIB源3、SEM4、分光器10を含む検出装置6、絞り機構11の構成要素、位置合わせユニット21a、および調整ユニット22は、検査方法のステップを制御する制御ユニットとしても機能するコンピュータ9と信号接続されている。
【0055】
図3には、半導体試料2内の構造23の例が概略的に描かれている。ここでも、図3のデカルトxyz座標系は図1および図2に示したものに対応している。このような構造23は、3D V-NAND構造として具現化され得る。このような構造は、直径d1を有する円筒形のSiO2コア24を含む。このようなコア24は、トランジスタデバイスを確立するべくドープされていてもよい、ポリシリコンのスリーブ25によって囲まれている。スリーブ25の頂部はカバー26として具現化されている。スリーブ25のスリーブ厚さを図3においてd2で示す。カバー26の高さを図3においてh1で示す。
【0056】
スリーブ25は厚さd3の更なるSiO2のスリーブ27で囲まれており、このスリーブ27も同様に、厚さd4の更なるSi23のスリーブ28で囲まれている。この結果得られるアセンブリ24~28は、SiO2バルク材料体積29のプラグホールを構成する。このバルク体積29の半径方向縁部には、半径方向の広がりの異なる更なるタングステンの飛び地部(enclave)30、31が位置している。スリーブカバー26と飛び地部30、31のうち上にある方との間の高さの差を、図3においてh2で示す。飛び地部30、31のz方向の広がりを、図3においてt1で示す。隣り合う飛び地部30と31との間のz距離をそれぞれ、図3においてt2で示す。
【0057】
スリーブ壁の典型的な厚さd2、d3、および/またはd4は、10nmの範囲内である。
【0058】
飛び地部30、31および一番外側のスリーブ28との間の距離を、図3においてd5で示す。
【0059】
検査装置1によって実行される検査方法によって特定される測定量は、構造構成要素24~31の材料構造寸法d1~d5、h1、h2、t1、t2、および/もしくは材料(原子タイプ、元素タイプ、元素組成タイプ)、および/もしくは材料組成、および/もしくは材料分布、ならびに/またはこれらの構成要素26~31のうちの1つ内のドーパント量である。
【0060】
図4は、電子ビーム8を用いた試料2のプロービングに関連する相互作用プロセスを、概略的に示す。電子ビーム8が試料2に当たる対物視野21内の層表面における直接的な表面相互作用から、試料2内の構造の材料のそれぞれの元素に直接由来する離散的エネルギーを有するオージェ電子AEが生じる。
【0061】
相互作用表面の下に位置する対象領域体積20の第1の水滴状体積部分32から、この体積部分32内の表面構造のトポグラフィ情報を担う二次電子SEが放射される。
【0062】
SE体積部分32の下に位置し電子ビーム8のプローブ電子と試料2との間の次の相互作用経路長を表す更なる水滴状の体積部分33から、後方散乱電子BSEが放射されるが、そのエネルギーから、体積部分33内に含まれる元素の原子番号に関する情報と、更なる位相差情報とが明らかになる。
【0063】
電子ビーム8のプローブ電子と試料2との間の次の相互作用経路長を表す、更に大きな水滴状の対象領域体積20から、この対象領域体積20内の原子/元素組成に由来する波長を有する特性EDX X線7が発せられる。このような対象領域体積20の深さは、一方では電子ビーム8内の電子エネルギーに依存し、更に、対象領域体積20内に存在する元素の原子番号に依存する。
【0064】
更なる放射線34(制動放射)および35(カソードルミネセンス)が、対象領域体積20の下にある更なる水滴状のシェル36、37から発せられる。この更なる放射線34、35も検査装置1内で検出および解析され得るが、この先の検討においては特に関係がない。
【0065】
図5は、対象領域体積20のサイズが電子ビーム8の電子のエネルギーに依存することを例示している。図5の3つの例は、プロービングされることになる同じ元素について与えられている。
【0066】
図5は左側に、調整ユニット22で設定された低い加速電圧の結果生じる、小さな対象領域体積20を示している。
【0067】
図5の中央には、調整ユニット22の中程度の加速電圧の結果生じる、より大きい対象領域体積20が描かれている。
【0068】
図5の右側には、調整ユニット22の高い加速電圧の結果生じる、より大きい対象領域体積20が示されている。
【0069】
図6は、対象領域体積20のサイズがプロービングされる試料構造の元素の原子番号に依存することを示している。
【0070】
図6の左側には、原子番号の高い元素を所与の、例えば中程度の加速電圧でプロービングした結果生じる、小さい対象領域体積20が示されている。
【0071】
図6の中央には、中程度の原子番号の元素を同じ加速電圧でプロービングした結果生じる、より大きい対象領域体積20が示されている。
【0072】
図6の右側には、低い原子番号の元素を同じ電子加速電圧でプロービングしたときに生じる、大きい対象領域体積20が示されている。
【0073】
したがって、対象領域体積20のサイズも、検査される試料内に存在する元素組成の指標として使用され得る。
【0074】
図7は、図3を参照して上記したスリーブ25、27、28のうちの1つによるスリーブ38として例示されている試料構造の、進行中の、層ごとのFIB-SEM走査を示している。
【0075】
図7の左側には、例えば検査される初期層18iを準備した後の状況が示されている(図2に関する上記の説明も参照されたい)。示されているのは対象領域体積20、すなわち、電子ビーム(図7には図示せず)と試料材料との間の、試料2内の相互作用体積である。このような対象領域体積は定量的体積Xを有する。
【0076】
第1の層18iに入る電子ビーム8の交点をyで表す。図7の左側には、調査される放射線が発せられる起点となる、対象領域体積20全体内の例示的な場所としての場所xも示されている。この場所xから、検出装置6によって検出されるX線が検出コーンΩ内で発せられる。
【0077】
第1層18i内の対象領域体積20は、スリーブ38の内部円筒の材料からの一部、スリーブ38自体の一部、スリーブ38を半径方向に囲んでいる材料の一部、および更にはスリーブ38の下方の基板材料39の一部を含む。
【0078】
図7の中央の描写は、検査される別の層18i+1を準備した後の状況を示している。したがって、対象領域体積20はこの場合はそのサイズは変化していないが、基板材料39に向かって移動している。図7の中央の対象領域体積20のうち、内部円筒の材料またはスリーブ38の材料を含むのはこの時点で、より小さい部分のみである。
【0079】
図7の右側には、次の層18i+2を準備した後の状況が示されている。この時点で、対象領域体積20は基材39に向かって更に移動している。この対象領域体積20のうち、中心円筒の材料を含むのはごく小さい部分である。層18i+2をプロービングするとき、スリーブ38の材料は対象領域体積20内にほとんど含まれない。
【0080】
その結果、層18i、18i+1ごとに準備し、検出された光線を慎重に比較することで、図7の試料2内のスリーブ構造の構造組成および/または材料組成を推定が可能になる。
【0081】
対象領域体積20内の相互作用体積部分32、33は、点広がり関数のカーネル値を呈する体積として理解することができる。このようなカーネル値は、電子ビーム8と試料との間の相互作用の種類に依存するカーネル値を有する制約的な点広がり関数の定義によって、体積依存の物理的試料特性を表す空間変数を定義することによって、ならびに、対象領域体積20から放射される測定される電子ビームおよび/または放射線の結像(imaging)特性を定義することによって、相互作用パラメータと、特に入射電子ビーム8のエネルギーと関連付けられる。最小発散
min D(Mn∥Kn*V)
を決定することによって、試料2内の特にスリーブ構造の構造組成および/または材料組成の推定が可能であり、上式で、
nは、電子ビーム8の測定特性が異なるそれぞれの測定の回数であり、
nは、試料2のバルクにおけるプロービング電子ビーム8の挙動を表す点広がり関数のカーネル値であり、
Vは、試料2の物理的特性を試料2内の位置の関数として表す空間変数である。この点に関しては、欧州特許第2 557 584号が参照される。
【0082】
図8は、電子ビーム8からの電子と対象領域体積20内の試料2との間の相互作用に関するモンテカルロシミュレーションの、3つの異なる結果を示す。個々の電子の軌跡が示されている。
【0083】
上記図8は、プローブ電子に低い加速電圧を用いたシミュレーション結果を示す。
【0084】
図8の中央には中間の加速電圧を使用した状況が示されており、図8の下方には高い加速電圧を使用した状況が示されている。対象領域体積20の境界も示されている。更に、図8の下方には、X線検出器装置6のX線検出器40に向かうX線7の経路が示されている。
【0085】
検出ステップ中に取得した検出信号の後処理の間に、ジオメトリ入力、または更なる、特に予備的な測定からの、他の先験的条件入力を使用してもよい。
【0086】
図9図11には、このような先験的条件入力の例示としての例が示されている。実線で、対象領域体積20の当初想定された拡張を示す。破線で示されて、検査される試料2内の様々な物質の分布に関する先験的知識を考慮した、対象領域体積20の精緻化された部分が示されている。
【0087】
図9は、より軽い材料Aとより重い材料Bとの間の垂直境界41の状況を示している。図6に関して上で説明したように、原子番号の高いより重い材料は、対象領域体積の拡張を減少させる(対象領域体積20の実線と比較した場合の、図9の破線20a)。
【0088】
図10は逆の状況を示しており、対象領域体積20の主要部分はより重い材料B内にあり、垂直なB-A材料境界41を横切っている対象領域体積20の部分はより小さい。より軽い材料A内に対象領域体積20のより大きい部分が存在するので、破線の実際の結果的な対象領域体積(図10の線20a)は、当初想定した対象領域体積よりも大きくなる。
【0089】
図11および図12は、材料A(軽い)と材料B(より重い)との間の、水平層境界42の状況を示す。
【0090】
図11の状況では、より重い材料Bの最上層は、水平境界42を介して、より軽い材料Aの最下層から分離されている。対象領域体積20はより軽い材料Aの中に入ると、その実際の形状20aへと膨張する。
【0091】
図12の状況では、最上層はより軽い材料Aでできており、水平境界42で分離された下側の層はより重い材料Bでできている。したがって、理論上の対象領域体積20はより重い材料Bに当たると、実際の対象領域体積20aへと圧縮される。
【0092】
図13は、図9図11の描写と同様の描写で、入射電子ビーム8の他の条件が同一であると仮定した場合の、より軽い材料Aにおける対象領域体積20aとより重い材料20Bにおける対象領域体積20Bとの比較を示している。対象領域体積20Aは、より圧縮されている対象領域体積20Bと比較してより拡張されている。このような圧縮の結果、試料表面(対応する層18iの表面)下で、圧縮された対象領域体積20Bがより速く広がる場合がある。
【0093】
図14は、図9および図10と同等の垂直境界41の位置の知識から出発して、ならびに更に、対象領域体積20A(より軽い材料)および20B(より重い材料)の拡張の知識から出発して、検査方法の後処理ステップにおいて複合対象領域体積20PPの近似が計算可能になる仕組みを示す。
【0094】
図14は式として描かれている。
【0095】
左側には2つの「項」が示されている。このような先験的条件の場合、境界41の片側に、より軽い材料Aの対象領域体積の寄与20PP,Aを入力する。図14の式の左側の2番目の「項」は、垂直境界41のもう一方側のより重い材料Bの対象領域体積の寄与20PP,Bを示す。
【0096】
図14に示す式の右辺は結果として得られる複合対象領域体積20ppを示しており、これは対象領域体積の寄与20pp,Aと20pp,Bの和である。
【0097】
本発明のある例によれば、組成は均質な物質散乱断面積の重ね合わせによって記述される。本発明によれば、このような単純化されたモデル構成により、追跡可能な最適化が可能になる。別の例によれば、推定されることになるそれぞれの材料A、Bの密度は、対象領域体積20の基本形状に影響しない。このような手法は、モンテカルロシミュレーション手法の代替として使用され得る(上の図8と比較されたい)。
【0098】
図15は、従来のSEM走査の結果としての、例示的な例2の準備された層18iの従来のSEM写真を示す。示されているSEM走査の合計水平幅は約6μmである。図15はこの層18iを上から示している、つまり、先に導入したxyz座標系のxy平面が、描画平面と一致している。SiO2であり得る周囲のマトリックス材料21が示されている。図15の中央には、左から右へと、タングステン(「W」)、炭素(「C」)、および再びタングステン(「W」)の材料配列が示されている。図15に示す層18iは、試料2内の検査される元素構造の例である。
【0099】
図16は、図15のW/C境界において示されているW/CのSEM/EDX走査線43で行われ検査装置1を用いて実行された本発明による検査方法の、検出および後処理の結果を示す。図16においてnm横座標として示す走査線43の全長は250nmである。
【0100】
測定は、電子ビーム8の約3keVのプローブ電子エネルギーを用いて行われた。境界[270eV,290eV]に対応するX線帯域幅で測定したEDX強度Iを、図16において線44として示す。
【0101】
本発明による検査方法の後処理ステップにおいて、この測定されるEDX強度I 44から、測定されたEDX強度I 44のリフル(riffle)が平滑化された、畳み込みEDX強度I 45が生成される。
【0102】
図16は更に、検査方法の後処理ステップの最終結果である、空間逆畳み込みEDX強度I 46を示す。測定されたEDX強度I 44および畳み込みEDX強度I 45とは異なり、逆畳み込みEDX強度I 46は、W/C走査線43に沿ったW/C境界位置で急な上昇を示す。このような急な上昇は、W/C境界の再現性に関して約20nmの分解能に対応している。
【0103】
図17は、図15に示すSEM/EDXのC/W境界走査線47を介したX線検出の結果を示す。走査線47の全長はここでも約250nmである。図17は、電子ビーム8の2keVのプローブ電子エネルギーを用いて再びタングステンを検出したときの状況を示すが、今度は帯域幅[1760eV,1780eV]のEDXエネルギーに対応するX線が検出される。ここで、測定された空間スペクトル44、畳み込み空間スペクトル45、および逆畳み込み空間スペクトル46について、エッジ急峻度は程度の差はあれほとんど同じであり、やはり約20nmの分解能をもたらす。
【0104】
図16および図17の縦座標は、規格化されたX線強度を表す。
【0105】
図16および図17の結果を比較すると、本発明による検査方法の後処理ステップの空間逆畳み込みは、特に炭素(約280eV)、窒素(約390eV)、チタン(約450eV)、および酸素(約530eV)の各元素に由来する、検出されるより低いX線エネルギーに対して、特に有利であることが分かる。
【0106】
上でも検討したように、図4図6には、電子ビーム8と材料試料2の相互作用体積のスケッチが示されており、この場合、材料試料2は均質であると仮定されている。スケッチは3次元で考慮され、体積におけるある点をx
【数1】
またはy
【数2】
で表す。
以下の解析的手法における相互作用体積内の散乱断面積(電子/電子または電子/X線)は、σSi(x;y)で表され、ここで、xは体積における評価点、yは電子ビームの標的点である。添え字Siは材料、例えばこの場合はケイ素を示し得る。
【0107】
上でも検討したように、本発明の例では、試料層18iを繰り返し除去することによる試料体積の破壊的3D走査を用いる、FIB-SEM構成が用いられる。このため、標的点y
【数3】
も3次元であると考えられる、図7と比較されたい。
【0108】
一般に、散乱断面積は空間的に変化するが、このことはそのyへの依存性によって示される、つまり、均質な材料を走査しない限り、走査位置が異なると、相互作用体積の形状が通常は変化することになる。更に、走査全体を通してビーム8に対する試料表面18iの傾きが固定されているが、これは、走査装置のパラメータおよび試料/装置ジオメトリのパラメータである。これらの装置/ジオメトリのパラメータを総称して、以下の解析では
【0109】
【数4】
と呼ぶ。
【0110】
固定された走査位置y’において、断面関数はその場合、3次元のスカラ関数
【数5】
となる。関数の実際の形態は、相互作用体積X、すなわち対象領域体積20(図7左と比較されたい)内の物質密度分布ρ1(x),…,ρN(x)に依存し、ここでρi(x)は3次元の物質密度を表し、体積中にN個の物質種が存在する。
【0111】
散乱断面積はまた、λ、すなわち検査装置1を用いて実行されたEDX測定におけるみなしX線エネルギーによって、パラメータ化されることにもなる。
【0112】
これらの前提を所与として、測定は
【数6】
(1)
として定式化され、上式で、散乱断面積σは、物質密度関数ρ1(x),…,ρN(x)、つまり、試料中の元素/原子の(未知の)分布と、デバイス/ジオメトリのパラメータ
【数7】
に格納されたデバイス設定およびジオメトリとに依存する、空間角度的に変化するカーネルとして機能する。試料およびデバイスの設定は、散乱断面積の引数リスト中のその他のパラメータから(「;」によって)分離されているが、その理由は、それらが所与の実験において固定されていると考えられるからである。立体角Ω(図7と比較されたい)は検出器ジオメトリを示し、ωは検出器に向かう微分立体角である(多重散乱は省略)。
【0113】
式(1)はマルチモード結像(imaging)手法を一般的に記述している。マルチモード結像(imaging)手法によれば、X線放射を含む電磁放射の、ここではλで示されるスペクトル範囲の異なる複数の強度が検出される。マルチモード結像(imaging)手法では、散乱電子または二次電子などの更なる二次放射も考慮することができる。本発明は、マルチモード結像(imaging)手法とマルチモード結像(imaging)手法のコンピュータ処理による反転とを利用することにより、より高い分解能で試料の像を生成する方法を提供する。ある例では、マルチモード結像(imaging)手法のコンピュータ処理による反転は、検査される試料の事前情報、例えばCAD情報または試料の事前の既知の材料組成を利用することによって改善される。ある例では、X線の物質固有のスペクトル範囲と典型的な散乱断面積に関する事前情報とを利用することにより、マルチモード結像(imaging)手法のコンピュータ処理による反転が改善される。ある例では、マルチモード結像(imaging)手法のコンピュータ処理による反転は、上記したようなFIB-SEMによるスライス-結像(imaging)法を用いることによって改善される。以下では、マルチモード結像(imaging)手法のコンピュータ処理による反転を利用した検査方法の、いくつかの例を示す。
【0114】
以下では、相互作用体積内の空間的に変化する散乱断面積をカーネルと呼ぶ。ベクトル
【数8】
は、散乱断面積に影響を与える装置/ジオメトリ結像(imaging)パラメータ、特に
電子ビーム8におけるプローブ電子の電子エネルギー(加速電圧)、単位[kV]、
電子ビーム8のビーム電流、単位[nA]、
検出装置6の検出器40の積分時間、単位[s]、
例えば表面層法線に対して測定された、電子ビーム8に対する試料層18iの傾斜角、単位[deg]
を収集する。
【0115】
電子ビーム8による励起時に、ν=c/λである異なるエネルギーE=hνのX線7が発生しているため、カーネルはベクトル値であることに留意すべきである。ここで、νは光子の周波数、cは光速、hはプランク定数、λは光子の波長である。参考として:
【0116】
【数9】
(2)
上式で、波長は[nm]の単位で与えられる。
【0117】
カーネルは一般に未知であり、いくつかのパラメータに依存する。以下で、主な効果および超分解能問題へのその影響について検討する。
【0118】
カーネルの根本的な物理的道理は、試料のプロービングに使用されている一次電子の(多重)散乱プロセスである(図8)。一般に、相互作用生成物を伴う3つの散乱プロセスが存在する(図4とも比較されたい):
1.電子:試料と相互作用すると、電子は根底にある様々な機序で散乱され、一次電子はそのプロセスでエネルギーを失っていく。
2.X線:
(a)電子は荷電されたものであるため、速度または方向が変化すると電磁放射が発生する。この放射は連続スペクトルを有し、制動放射と呼ばれる。
(b)第2のX線源は、検査中の材料内の原子のイオン化である。X線は、物質の原子の内部電子殻における遷移から発生する(基底状態への緩和時に光子が発生する)。イオン化スペクトルは凹凸が顕著であり、その物質に特徴的である。これは特性放射とも呼ばれる。放射遷移の確率はwで与えられる。
(c)イオン化原子はまた、Coster-Kronig遷移と呼ばれる非放射性のプロセスを経て緩和される場合もあり、この結果放射(オージェ)電子AEが生じる。非放射性遷移の確率は1-wで与えられる。
3.可視光:電子の運動エネルギーが十分に低くなると、原子の外側の電子殻のみが励起可能となり、カソードルミネセンスとして知られる可視光放射が生じる。これは低分解度のもの(大きな相互作用体積から放射されている)であるが、分光法で分解すれば原子種の情報を含んでいる。
【0119】
検出器のサイズに制約があるため、全ての後方散乱電子または光子を捕捉できるわけではない。修正されたカーネルは収集された二次放射線に限定され、例えば検出器40に当たるX線光子の一部のみを記述するように制限される。
【0120】
更に、材料内部で電流が発生し、これが入射電子と相互作用する可能性がある。また、電子が十分に速く「排出」されない場合には充電現象も生じる。
【0121】
X線は多重散乱される可能性があるため、それらはまた蛍光を発生させる、つまり測定波長にストークスシフトを導入する可能性もある。この結果通常は、より低いエネルギーにおいて新しいスペクトルピークが生じる。
【0122】
デバイス/ジオメトリ/結像(imaging)/試料のパラメータ
【数10】
からの主な効果は以下である:
励起エネルギー:一次電子ビーム中の電子のエネルギーは、相互作用体積のサイズに影響する、図5を参照されたい。これは実際には加速電圧の影響を受ける。一次電子のエネルギーが高いほど結果的に相互作用体積がより大きく、すなわちカーネルがより大きくなるが、このことは、EDX像/3Dスタックの分解能がより低くなることを意味している。
【0123】
加速電圧はSEMの装置パラメータであるため、一次電子エネルギーまたは励起エネルギーは、
1.少なくとも1回のSEM走査の全体を通して調整可能である、および
2.その変動は例えばシミュレーションによってモデル化可能である。
【0124】
ビーム電流および露光時間:これらのパラメータは、材料への全体的な電子束を決定する。これらは主に、測定における信号対雑音比(SNR)に関与する。以下では良好なSNRが、すなわち、光子ショットノイズ、すなわち大きな平均値を有するポアソンノイズが支配的な測定が仮定される。
【0125】
試料の傾斜:試料の傾斜は、試料層181の表面法線に対して非対称な状況が導入されるため、相互作用体積に影響する。電子の一部は、試料から離れるための有効経路が他の電子よりも短い。傾斜角は走査中は固定されるものと仮定する。したがってその効果をシミュレーションに含めることができる。
【0126】
検出器効率および/または検出器ジオメトリをシミュレーションによって扱うことができる。
【0127】
他の例では、後方散乱電子または二次電子、およびX線レジメン未満の電磁放射など、他の二次放射も考慮することができる。
【0128】
効果の2番目のクラスは、試料組成に由来するものである。主な影響因子は、対象領域体積20内に存在している原子種および分子種である。これらは電子-X線断面積に大きな影響を与える。
【0129】
材料(原子番号):対象領域体積20の形状は、材料の原子番号に依存する。より重い原子核ではより軽い元素と比較して相互作用体積がより小さくなる、図6を参照されたい。
【0130】
以下では、本開示による検査方法の例を提供する。続けて近似を行うことで、最適化問題の数学的特性が改善され、演算要件が軽減される。いくつかの例では、検査方法は通常、検査するべき試料の材料または材料組成に関する事前情報またはモデルベースの仮定を利用する。
【0131】
モンテカルロシミュレーションは、電子顕微鏡の物理のシミュレーションに利用可能な順方向モデルである。モンテカルロシミュレーションに利用可能なソフトウェアは当技術分野でよく確立されかつ知られている。
【0132】
モンテカルロシミュレーションの結果を検査方法の後処理ステップに適合させるには単純化が必要である。
【0133】
一般に、立体角Ω(図7と比較されたい)に応じた収集角への依存性については、以下の説明では説明していない。
【0134】
第1の例によれば、散乱断面積
【数11】
図14に示す例に従って単純化される。このような場合、断面積は
【数12】
(3)
として単純化され、上式で、空間的に変化する断面積σは、局所的な物質密度ρiによってスケーリングされた単一材料の均質な断面積σの和として記述される。この近似モデルは、X線発生が単一の物質種に対してのみ考慮できると仮定している。物質密度ρi(x)は、特定の物質が存在しない領域では、特性X線発生をゼロにスケーリングする可能性のあることに留意されたい。
【0135】
この場合式1は、空間的に変化する畳み込みのような操作:
【数13】
(4)
であると解釈できる。本発明によれば、式4を関数ρiについて解くことができる。1番目の例による離散化された設定では、最適化問題は
【数14】
(5)
と書くことができ、ここで、行列Aiは物質断面積ρiに関する式4の線形演算子を離散化したものであり、∥・∥は物質密度ρiと測定値I(E2=I)とに起因する予測されるスペクトルの乖離を測定するためのノルムであり、「priors」は摂動した物質密度ρiに課される先験的条件の総称である。
【0136】
式(5)は、励起によって光子がちょうど検出器に到達可能となるような、限界状況を指すものと解釈できる。
【0137】
対象領域体積20および結果的な強度I(y,λ)を適切なSNRで演算するには、単一の点yに対して例えば数分のオーダーの長い滞留時間が必要となる場合があり、これを3D(層18i,181+1,…)データスタック内のあらゆるFIB-SEM試料場所ごとに(例えば100万試料のオーダー)繰り返さなければならないことになる。この労力は、試料ジオメトリおよび/または走査構成の対称性、並列演算、等を利用することで軽減できる。
【0138】
本発明による検査方法の更なる例は以下の通りである:出発点は、例えばCADファイルおよび材料データによって提供される、既知の理論上の設計であり、その実現は完全なモデル処方からはわずかに逸脱する。この場合、実試料における事前モデルから小アクターの乖離で(at small actor deviations)導入される重要な事前知識を使用して、式1の反転を直接計算してもよい。
【0139】
更に、以下では、事前知識の必要量を減らすことでより広い適用可能性を提供することもできる、より近似的なスキームを提示する。
【0140】
このような更なる近似の例は、σiの演算において材料の不均質さを無視することを本質とする(式4)。特にこの例では、断面関数の形状を決定する際に材料境界の効果が無視される。
【0141】
このモデルは依然として式4に従う。しかしながら、断面積関数σiを決定するのに必要な演算はこの時点で試料に依存しなくなり、断面形状は空間的に不変となる。
【0142】
式1のモデルはしたがって
【数15】
(6)
となるが、これは各スペクトルチャンネルλに対する3D空間畳み込みである。これには3D畳み込みの高速FFTベースの実装が可能になるという追加の利点がある。更に、シミュレーション/再構成と実験的測定との間に整合要件(registration requirement)はない。このモデルは、式5の最適化スキームとともに使用することができる。
【0143】
シミュレーションの準備時間が短縮されるだけでなく、もはや試料組成を事前に知る必要がなくなる。近似は以下となる、a)相互作用体積は材料境界に近づいても変形しない、およびb)発生部位と検出器との間のX線吸収は試料の空間構造を無視し、代わりに光子放出物質の吸収断面積が体積全体で保持されると仮定する(試料と検出器との間の自由空間を除く、これは正確にモデル化される)。
【0144】
悪影響は、本明細書の別のところで検討する事前情報によって、部分的に補償される場合がある。
【0145】
実際の検出器では、無限に細くかつスペクトル中で容易に区別できるような、X線の理想的な遷移線は見えず、検出器が分解できる線幅には限界がある。これはEDXセンサのスペクトル応答と呼ばれる。スペクトル応答は、異なる検出エネルギーに対して分散が様々なガウス分布で記述することもできる。スペクトル応答が制限される結果、近くにあるX線遷移ピークがぼやけて互いに混じり合う場合があるが、これはスペクトル畳み込みと呼ばれるプロセスである。
【0146】
実際に記録されるスペクトル強度はしたがって、放射されるX線放射I(y,λ)に対してモデル式4または式6のいずれかを使用することによって与えられ、更に、従来は無視されてきた制動放射成分Ebs(y,λ)がここでは導入されている:
c(y,λ)=∫I(y,λ’)r(λ,λ’)dλ’+∫Ebs(y,λ’)r(λ,λ’)dλ’
(7)
上式で、Ic(y,λ)は試料位置yにおけるエネルギーλについて記録された光子計数であり、r(λ,λ’)はセンサのエネルギー依存スペクトル応答関数である。式7の積分は、後で参照できるように、異なる物理プロセスに起因する2つの部分に分割されている。
【0147】
ピークの混合を解消するプロセスはこの場合、スペクトル逆畳み込みとして知られている。
【0148】
ある手法では、式7を直接反転させることができる。しかしながら、データは通常非常にノイズが多く、カーネルは高周波を減衰させ、このため反転が不安定になり、ノイズが増幅する。実際には、不適切な条件設定により、高いスペクトル分解能の達成が妨げられる。本発明による式(7)を解く更なる例を以下に示す。
【0149】
3D最適化への統合:式7を式4または式6の一方のモデルと解析的に組み合わせ、式5におけるような最適化手法を導出することで、後処理の逆畳み込みステップのための直接的な演算手法が可能になるが、比較的高い必要演算能力が費やされる。
【0150】
既知の物質を用いた逆畳み込みI:既知の輝線エネルギー:ここでは、試料中存在する元素が既知であると仮定する。この場合、L個の離散的な数の、放射される放射線のX線遷移線λ’i=1…Lに加えて、導出の最初のステップでは無視される、連続的な制動放射バックグラウンドが存在する。その場合、式7の最初の積分は以下の和になる:
【0151】
【数16】
(8)
測定された計数Ic(y,λ)、センサのスペクトル応答関数r、およびX線遷移線λ’iが既知であるため、係数I(y,λ’i)=:ei(y)を演算することが可能であり、直前の表記は、この量が、波長λ’iを中心とするセンサ応答の特定のガウシアンr(λ,λ’i)=:r(λ)に対する単なるスカラ係数であることを強調している。式8はしたがって、あらゆる試料場所yにおける線形系を記述している。線形系はスペクトル、すなわちエネルギー次元のみをカバーする。式8は、既知の放射ピークのセットを有する測定されるスペクトルのフィッティングと見なすことができる。これを縮小表記で書き空間的なy依存性を無視することで、このことがより明白になる:
【0152】
【数17】
(9)
典型的なスペクトルはL X線遷移線よりもλ試料をより多く有するので、線形系は
【数18】
(10)
のように書ける最小二乗法で解かねばならず、上式の太字の記号は、上で導入した量のベクトル版である。行列Rはその列にサンプリングされたセンサ応答関数rを含む。値ei≧0が既知であることが、更に利用されるべきである。このことは、最適化制約e≧0を追加し、制約のない最小二乗フィットを実行する代わりに二次計画法ソルバを使用して解くことによって、行うことができる。
【0153】
ここまで、連続的な制動放射バックグラウンド(式7、第2項)は無視してきた。したがって、式10を直接適用すると、ブロード化した放射X線遷移の離散的なセットで制動放射成分をフィッティングしようとするため、偏った推定値が生じることになる。
【0154】
ただし更なる例によれば、式10の最適化定式化により、追加情報を含めることも簡単になる。制動放射成分は、ブロード化した輝線に重畳される平滑な関数としてモデル化される。制動放射はK個の基底関数の線形結合で表現され、それらはスペクトル的に変化するセンサ応答関数r(λ,λ’)で畳み込まれる:
【0155】
【数19】
ここで、bkは係数であり、φk(λ)は制動放射バックグラウンドの基底関数である。こうして、式10は以下のように書くことができる:
【数20】
(11)
行列Φはその列に離散化された畳み込み制動放射基底関数を含み、ベクトルbは係数bkを収集する。制動放射基底の選択には様々な展開が可能であり、標準的な基底としては多項式基底が挙げられる。
【0156】
もう一つの可能性は、低[keV]範囲に適していると提唱されてきた、限定的べき乗則スペクトル(truncated power law spectra)である。このような限定的べき乗則スペクトルは、天文学および天体物理学での応用から、専門家にはよく知られている。もう一つの柔軟なオプションは、多数のモンテカルロ制動放射スペクトルのシミュレーション、および、PCA(主成分分析)ベースにすることでそれらを統計的に削減することである。このような削減は、処理されるデータ量を劇的に削減するのに役立つ可能性がある。この結果、演算時間を大幅に短縮することができる。
【0157】
ある変形では、未知の物質を用いるが候補元素の上位集合が与えられた逆畳み込みが実行される。この設定は、既に検討した方法の延長線上にある。特定の用途に対する対象元素の上位集合が既知であると仮定されるが、そのような元素の全てが特定の試料に存在する必要はない。ただし、この元素の上位集合から欠落している元素がないようにすべきである。この場合、変数選択およびフィッティングの例があるが、これに関しては例えば、非線形全変動に基づくノイズ除去アルゴリズムが専門家に知られている。つまり、アルゴリズムは正しい元素を選択し、式11におけるようなフィットを適用せねばならない。標準的な選択方法は、LASSOとして知られる回帰縮小および選択アルゴリズムである。これはL1正則化によって実装できる。この最適化方法は以下のように書かれている:
【0158】
【数21】
(12)
ここで、γはチューニングパラメータであり、大きく選ぶとよりスパースな解(すなわちゼロ係数のより多い解)が強制される。代替の解決法はL0正則化であるが、ただしこれは結果的に、演算コストの高い網羅的探索手続きになる。
【0159】
既知の輝線エネルギーおよびその相対割合を用いて、基本物質による逆畳み込みを行うことができる。前の段落で提案した技術によれば、アルゴリズムはデータをフィットさせるために、X線輝線を任意の比率で選択する。現実には、これらの比率は任意ではなく、元素が任意の混合物として異な空間構造にわたって存在するため定量化の困難な、特定の分布に従う。この理由から、より良好なデータフィットが達成できるのであれば、より確率の低いピーク比率を選択するために、アルゴリズムに何らかの柔軟性を導入してもよい。この場合、上記のスキームの単純な拡張、すなわち、例えば均質なバルク材料の走査またはシミュレーションから抽出できる、共通の要素に属する個々の放射ピーク応答riの線形結合の利用は排除される。元素応答jが
【0160】
【数22】
で表現できると仮定し、上式で要素jは上付き文字で示されている。
【0161】
厳しい制約を課すのではなく、αiを、個々の輝線応答の係数(式10およびその変形式における係数ベクトルeの一部)が共変動する可能性の高い方向を指しているベクトルと仮定してもよい。このことは、予想される変動係数の部分空間に近い解を奨励することによって行うことができる。
【0162】
【数23】
(13)
がその列に個々の元素係数の変動方向を含むものとする。ここでは、M個の元素をN1、N2、…、NMの輝線で各々示す。
【数24】
は対応する係数である。
Π=P(PTP)-1T
(14)
は、行列Pにおいて符号化された部分空間についての正射影演算子である。最適化問題、式10は、予想される変動係数の部分空間から遠い解にペナルティを課す追加の正則化因子(regularizer)を用いて、以下のように書き直すことができる:
【0163】
【数25】
(15)
式15は、式10~12とは対照的に、個々の元素についての異なる先験的なほぼ既知の相対的ピーク高さを有する特定の元素応答を強制する。これはしたがって、輝線の偶発的な入れ替わりに対してより安定している。タングステン/シリコン混合物の場合を検討する。W M5-N6+7(1773.60[eV])およびSi K-L2+3(1739.70[eV])のX線の線は、X線検出装置6で使用され得る典型的なSDD検出器のスペクトル応答幅(例えば、Mn Kαにおける122[eV]FWHM)よりも、スペクトル的に互いに近い。したがって、Si、W、または両方から成り得る単一のピークが観察される。単一のピークの観察によって元素を見分けるのは困難である。しかしながら、Wは更なる孤立したピークの群W M4-N2+M5-N3(1380.00[eV]および1383.90[eV])を有し、その存在および高さは、a)Wの存在、およびb)そのおおよその相対量を示している。式15はこの推論を利用したものであるが、式10および変形式ではピークが個別にフィッティングされ、このため由来する元素を誤る可能性がある。
【0164】
標準事前情報:事前情報(先験的条件)の使用は特に有利である。これは本明細書では、式5で「priors」と短略されている用語を指している。このようなpriorsには、再構成関数(物質密度)の勾配に対するL2ノルムなどの平滑性のpriors、非線形全変動に基づくノイズ除去アルゴリズムで知られる全変動などのエッジ保存のpriors、チコノフ正則化などの小係数のpriorsなどが含まれ得る。本発明による再構成スキームでは、これらのまたは類似の事前情報を使用することが有利である。
【0165】
マルチモード電子顕微鏡における異なるモードは、異なる空間分解能および異なる強度特性を有する。上で検討したように、マルチモード結像(imaging)手法は、スペクトル分解されたX線強度の分析に限定されない。ある例では、後方散乱電子(BSE)に基づく強度像は、二次電子(SE)からのその運動エネルギーによって区別される。BSE強度コントラストは、試料の元素の陽子の数によって支配される(Zコントラスト)。コントラストはビームエネルギーに更に依存する。
【0166】
したがって、BSE強度像におけるエッジ(SE像の場合も可能であるが、それほど適していない)は、化学的コントラストの指標として使用され得る。
【0167】
更に、BSEは3つの空間次元全てにおいて相互作用体積が小さく、より高い空間分解能を提供する。
【0168】
同時のBSE像から、提案される超分解能マルチモード結像(imaging)スキームのロバスト性を高めることのできる、適切な追加情報が得られる場合がある。SE/BSE像は、像クリーニングのためのガイド像として使用することができる。SE/BSE像は、(ジョイント双方向フィルタリングを使用した)EDX物質マップのクリーニングおよびその分解能の向上のためのガイド像として提案され得る。同様に、STEM(走査型透過EM)においてはHAADF(High-angle annular dark-field imaging:高角度環状暗視野結像)が良好な材料コントラストおよび高分解能を有し、したがってこれを、この場合は非局所的平均値フィルタリングによって、分光像のクリーニングに使用することが提案されている。
【0169】
BSE像は、典型的なEDXスペクトルチャンネルよりも分解度が高いため、エッジ位置の事前情報として使用され得る。これは再構成の枠組みにおいて、追加のpriorとしてモデル化され得る。
【0170】
このようなpriorを式5の最適化スキームとともに、例えば式6の空間畳み込みモデルと組み合わせて、使用することができる。その場合以下で用語「priors」を置き換える。
【数26】
(16)
この定式化は、セグメンテーションの文脈で導入された先行技術のモデルのエッジ項を修正したものである。関数gは、ガイド像Ig、例えばBSE像によって決定されるようなエッジ位置において、低い値を有する。例として、a=10、b=0,55である、g(x)=exp(-a|∇I|xb)を使用する。これは他の像領域において高い値を有する。このことにより、関数ρiにおけるジャンプがg(x)の値の低い領域で望ましくは生じることが助長され、一方他の領域では、定数関数ρiが助長される。prior項(式16)に乗じる使用者が調整可能な正則化パラメータがあれば有用である。
【0171】
結論として、電子顕微鏡と材料試料の相互作用体積の知識を-空間逆畳み込みを介して-使用することにより体積空間分解能の改善をもたらす、および更に、スペクトル逆畳み込み、すなわち、測定および記録されたEDXスペクトルからの材料輝線の同定の改善をもたらす、技術が記載されている。上で検討した1つの手法は、構造的な3D情報を得るための、インターリーブ式EDX結像(imaging)および最適化フィッティング(特に上記の式(5)と式(10)を比較されたい)である。更に、試料中に存在する可能性のある物質の物質ライブラリの知識が利用される。この知識によって特に、安定した解が得られる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【手続補正書】
【提出日】2024-10-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
集束イオンビーム(FIB)エッチングとX線検出とを用いて、試料表面を有する半導体試料(2)を、層(18i)から層(18i+1)への層ごとに検査するための方法であって、前記試料(2)は元素組成の異なる構造(23、38)を有し、前記方法は以下のステップ、すなわち、
前記半導体試料(2)の検査される層(181)を、集束イオンビーム(FIB)を用いて初期試料表面をエッチングすることによって準備するステップと、
前記試料(2)の前記準備した層(18i)の対象領域体積(20)の表面エリアを走査型電子顕微鏡(SEM)の対物視野(21)と位置合わせするステップと、
前記SEMの電子ビーム(8)の電子エネルギーを調整するステップと、
前記対物視野(21)内で前記対象領域体積(20)を前記走査電子ビーム(8)によりプロービングするステップと、
前記位置合わせした対象領域体積(20)から発せられるX線(7)を検出するステップと、
前記検出ステップ中に取得した検出信号を、前記検出信号を前記対象領域体積(20)内の前記試料構造に由来する構造データに空間的に逆畳み込むために後処理するステップと、
前記試料(2)の重畳された対象体積について層ごとの検査が完了するまで、前記「準備する」ステップから前記「後処理する」ステップまでを繰り返すステップと、
を有する、方法。
【請求項2】
X線検出が波長依存的に実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記後処理は、前記対象領域体積(20)における前記電子ビーム(8)と前記試料(2)との体積相互作用を考慮する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記後処理は、前記対象領域体積(20)におけるプロービングされた前記試料(2)内の元素の元素マッピングを考慮する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記後処理は、前記検出されたX線(7)のスペクトル逆畳み込みを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記後処理は、プローブ電子と前記試料の材料との間の相互作用のモンテカルロシミュレーションを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記後処理は、ジオメトリ入力または更なる測定からの他の先験的条件入力を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記検査中に以下のステップ、すなわち、
nの各値について、所与のビームパラメータ値に対する前記試料のバルクにおけるプロービングビームの挙動を表すカーネル値Knを有する、点広がり関数を定義するステップと、
前記試料の物理的特性をそのバルクにおける位置の関数として表す、空間変数Vを定めるステップと、
nの各値について、Qn=Kn*VとなるようなKnとVとの多次元畳み込みである値Qnを有する結像(imaging)量を定めるステップと、
nの各値について、MnとQnとの間の最小発散
min D(Mn∥Kn*V)
を演算によって決定するステップであって、上式が前記値Knに対して制約をかけながらVについて解かれる、決定するステップと、
が実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記値Knに対する前記制約は、
少なくとも値Knのセットの演算シミュレーション、
少なくとも値Knのセットの経験的な決定、
少なくとも値Knのセットをそれに基づき推定できるモデル化パラメータの数が限定されたパラメータ化された関数としての、点広がり関数のモデリング、
物理的に意味がないと判定される理論的には可能な値Knが破棄されるような、論理的な解空間の制限、
値Knの第1のセットに外挿および/または内挿を適用することによる、値Knの第2のセットの干渉、
を含む群から選択される少なくとも1つの方法を用いて導出される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
集束イオンビーム(FIB)源(3)と、
走査型電子顕微鏡(SEM)(4)と、
前記試料(2)から発せられるX線(7)であって、前記SEM(4)のプローブ電子によって生成される前記X線(7)を検出するX線検出装置(6)と、
前記X線検出装置(6)によって取得した検出信号の前記後処理を行うためのコンピュータ(9)と、
を備える、請求項1に記載の方法を実行するための検査装置(1)。
【請求項11】
前記X線検出装置(6)はX線分光計(10)を含む、請求項10に記載の検査装置。
【請求項12】
前記検査装置は、前記SEM(4)が初期バルク試料表面平面(15)から測定して90°未満で前記試料(2)をプロービングするように配置されている、請求項10または11に記載の検査装置。
【請求項13】
前記検査装置は、前記X線検出装置(6)が初期バルク試料表面平面(15)から測定して90°未満で前記X線(7)を検出するように配置されている、請求項10に記載の検査装置。
【請求項14】
前記検査装置は、前記FIB源(3)が初期バルク試料表面平面(15)に対して20°~60°の角度を含むエッチング平面(17)において前記試料(2)をエッチングするように配置されている、請求項10に記載の検査装置。
【国際調査報告】