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2025-504263内耳への薬剤の送達のためのCSF輸送経路
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-10
(54)【発明の名称】内耳への薬剤の送達のためのCSF輸送経路
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20250203BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20250203BHJP
   A61P 27/16 20060101ALI20250203BHJP
   A61K 31/4439 20060101ALI20250203BHJP
   A61K 31/555 20060101ALI20250203BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20250203BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20250203BHJP
   A01H 1/00 20060101ALI20250203BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20250203BHJP
   C12N 15/864 20060101ALN20250203BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20250203BHJP
【FI】
A61K45/00 ZNA
A61K48/00
A61P27/16
A61K31/4439
A61K31/555
A61K35/76
A61K49/00
A01H1/00 Z
C12N15/113 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538665
(86)(22)【出願日】2022-12-22
(85)【翻訳文提出日】2024-07-05
(86)【国際出願番号】 US2022082225
(87)【国際公開番号】W WO2023122719
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】63/293,209
(32)【優先日】2021-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PYTHON
(71)【出願人】
【識別番号】508144129
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ロチェスター
(71)【出願人】
【識別番号】513004906
【氏名又は名称】ユニバーシティ・オブ・コペンハーゲン
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF COPENHAGEN
(71)【出願人】
【識別番号】524238534
【氏名又は名称】カロリンスカ インスティテューテット
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ネダーガード, マイケン
(72)【発明者】
【氏名】マティーセン, バーバラ
(72)【発明者】
【氏名】セダーロス, クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】カンロン, バーバラ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084AA17
4C084MA55
4C084MA66
4C084MA70
4C084NA05
4C084NA10
4C084ZA341
4C084ZA342
4C085HH20
4C085KB82
4C085KB92
4C085KB99
4C085LL20
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC81
4C086BC95
4C086GA08
4C086GA10
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA55
4C086MA66
4C086MA70
4C086NA05
4C086NA10
4C086ZA34
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA55
4C087MA66
4C087MA70
4C087NA05
4C087NA10
4C087ZA34
(57)【要約】
本開示は、対象の内耳への様々な薬剤の送達に関する。
【選択図】図1F
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の内耳に薬剤を送達するための方法であって、前記対象における脳脊髄液(CSF)に前記薬剤を投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記薬剤は、治療薬剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記治療薬剤は、小分子、大分子、ペプチド、タンパク質、抗体、核酸、ベクター、及び細胞からなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記治療薬剤は、前記核酸又は前記ベクターである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記核酸又は前記ベクターは、タンパク質又はポリペプチドをコードする遺伝子を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記遺伝子は、VGLUT3、MYO7A(USH1B)、USH1C、CDH23、PCDH15(USH1F)、SANS(USH1G)、USH2A、ADGRV1/VLGR1、WHRN(DFNB31)、USH3A(CLRN1)、HARS、Cx26(GJB2)、Cx30(GJB6)、Cx29(GJC3)、Cx31(GJB3)、ACTG1、FSCN2、RDX、POU4F3、TRIOBP、TPRN、XIRP2、ATOH1、GFI1、CHRNA9、CIB3、CDH23、PCDH15、KNCN、DFNB59、OTOF、MKRN2OS、LHX3、TMC1、MYO15、MYO7A、MYO6、MYO3A、MYO3B、GRXCR1、PTPRQ、LCE6A、LOXHD1、ART1、ATP2B2、CIB2、CACNA2D4、CABP2、EPS8、EPS8L2、ESPN、ESPNL、PRPH2、STRC、SLC8A2、ZCCHC12、LRTOMT2、LRTOMT1、USH1C、ELFN1、TTC24、DYTN、KCP、CCER2、LRTM2、KCNA10、NTF3、CLRN1、CLRN2、SKOR1、TCTEX1 D1、FCRLB、SLC17A8、GRXCR2、BDNF、SERPINE3、NHLH1、HSP70、HSP90、ATF6、PERK、IRE1、BIP、GJB2、及びUSH1Gからなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記治療薬剤は、Jun N末端キナーゼ阻害剤、脳由来神経栄養因子リガンド、PPARアゴニスト、ガンマ-セクレターゼ阻害剤、ベータ-カテニン刺激剤、幹細胞刺激剤、Lgr5陽性上皮幹細胞増殖の活性化剤、細胞分化調節剤、感覚有毛細胞再生化合物、グルタチオンペルオキシダーゼ刺激剤、ビタミンK依存性プロテインC刺激剤、耳保護剤、化学保護剤、有毛細胞再生化合物、グリコーゲンシンターゼキナーゼ-3阻害剤、5-HT 3受容体アンタゴニスト、カルシニューリン阻害剤、フリーラジカルスカベンジャ、抗炎症剤、アポトーシス阻害剤、神経保護剤、サイクリン依存性キナーゼ-2阻害剤、アポトーシスプロテアーゼ活性化因子1阻害剤、代謝型グルタミン酸受容体7アンタゴニスト、toll様受容体(TLR)アンタゴニスト、TLR-2アンタゴニスト、TLR-4アンタゴニスト、TLR-9アンタゴニスト、トロポミオシン受容体キナーゼ(Trk)-Cアゴニスト、熱ショックタンパク質刺激剤、グアニル酸シクラーゼ刺激剤、PDE 5阻害剤、抗ウイルス薬、DNAポリメラーゼ阻害剤、トランスフェラーゼ阻害剤、KCNCカリウムチャネル1調節剤、KCNCカリウムチャネル2調節剤、及びHSF1遺伝子刺激剤からなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記治療薬剤は、ブリマピチド、OTO-413、ピオグリタゾン、OTO-510、NXT-596、FX-322、塩酸ピオグリタゾン、PIPE-505、オトポチン、LY-3056480、エブセレン、SPI-3005、アンクロッド、チオ硫酸ナトリウム、ACOU-085、OTO-6XX、DB-020、ORC-13661、FX-345、ベシル酸アラザセトロン、ディスフェントンナトリウム、アセチルシステイン、AC-102、AZD-5438、LPT-99、NT-12、OR-112、PGT-117、P-13、PIPE-336、OR-102C、エブセレン、低分子量熱ショックタンパク質、TOP-M119、AP-001、ガンシクロビル、デンドロゲンB、AUT-00206、デキサメタゾン(DEX)、DEX-サルビアノール酸B(DEX-SAL)結合体、HB-097、及びプレクサリスからなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記治療薬剤は、細胞である、請求項3に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞は、幹細胞である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記幹細胞は、胚性幹細胞、ES様幹細胞、胎児幹細胞、成体幹細胞、多能性幹細胞、人工多能性幹細胞、多能性幹細胞、寡能性幹細胞、又は単能性幹細胞である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ベクターは、プラスミド、コスミド、人工染色体、又はウイルスベクターである、請求項4に記載の方法。
【請求項13】
前記ウイルスベクターは、AAVベクターである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記AAVベクターの血清型は、AAV1、AAV2、AAV2quad(Y-F)、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、rh10、rh39、rh43、rh74、Anc80、Anc80L65、DJ/8、DJ/9、7m8、PHP.B、PHP.eb、及びPHP.Sからなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記薬剤は、イメージング剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記イメージング剤は、有機分子、フルオロフォア、金属イオン、塩若しくはキレート、粒子、ペプチド、タンパク質、核酸、ポリマー、又はリポソームからなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記投与ステップの後に、前記内耳における前記薬剤のレベルを調べることを更に含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
聴力損失を有するか、又は発症するリスクがある対象を治療する方法であって、前記対象におけるCSFに有効量の治療薬剤を投与することを含む、方法。
【請求項19】
前記治療薬剤は、小分子、大分子、ペプチド、タンパク質、抗体、核酸、ベクター、及び細胞からなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記治療薬剤は、前記核酸又は前記ベクターである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記核酸又は前記ベクターは、治療用タンパク質又はポリペプチドをコードする遺伝子を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記遺伝子は、VGLUT3、MYO7A(USH1B)、USH1C、CDH23、PCDH15(USH1F)、SANS(USH1G)、USH2A、ADGRV1/VLGR1、WHRN(DFNB31)、USH3A(CLRN1)、HARS、Cx26(GJB2)、Cx30(GJB6)、Cx29(GJC3)、Cx31(GJB3)、ACTG1、FSCN2、RDX、POU4F3、TRIOBP、TPRN、XIRP2、ATOH1、GFI1、CHRNA9、CIB3、CDH23、PCDH15、KNCN、DFNB59、OTOF、MKRN2OS、LHX3、TMC1、MYO15、MYO7A、MYO6、MYO3A、MYO3B、GRXCR1、PTPRQ、LCE6A、LOXHD1、ART1、ATP2B2、CIB2、CACNA2D4、CABP2、EPS8、EPS8L2、ESPN、ESPNL、PRPH2、STRC、SLC8A2、ZCCHC12、LRTOMT2、LRTOMT1、USH1C、ELFN1、TTC24、DYTN、KCP、CCER2、LRTM2、KCNA10、NTF3、CLRN1、CLRN2、SKOR1、TCTEX1 D1、FCRLB、SLC17A8、GRXCR2、BDNF、SERPINE3、NHLH1、HSP70、HSP90、ATF6、PERK、IRE1、BIP、GJB2、及びUSH1Gからなる群から選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記遺伝子は、VGLUT3である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記薬剤は、(i)RNAi剤若しくは標的遺伝子のセグメントに相補的な配列を含むアンチセンス配列である前記核酸、又は(ii)前記RNAi剤若しくは前記アンチセンス配列をコードする前記ベクターである、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記治療薬剤は、Jun N末端キナーゼ阻害剤、脳由来神経栄養因子リガンド、PPARアゴニスト、ガンマ-セクレターゼ阻害剤、ベータ-カテニン刺激剤、幹細胞刺激剤、Lgr5陽性上皮幹細胞増殖の活性化剤、細胞分化調節剤、感覚有毛細胞再生化合物、グルタチオンペルオキシダーゼ刺激剤、ビタミンK依存性プロテインC刺激剤、耳保護剤、化学保護剤、有毛細胞再生化合物、グリコーゲンシンターゼキナーゼ-3阻害剤、5-HT 3受容体アンタゴニスト、カルシニューリン阻害剤、フリーラジカルスカベンジャ、抗炎症剤、アポトーシス阻害剤、神経保護剤、サイクリン依存性キナーゼ-2阻害剤、アポトーシスプロテアーゼ活性化因子1阻害剤、代謝型グルタミン酸受容体7アンタゴニスト、toll様受容体(TLR)アンタゴニスト、TLR-2アンタゴニスト、TLR-4アンタゴニスト、TLR-9アンタゴニスト、トロポミオシン受容体キナーゼ(Trk)-Cアゴニスト、熱ショックタンパク質刺激剤、グアニル酸シクラーゼ刺激剤、PDE 5阻害剤、抗ウイルス薬、DNAポリメラーゼ阻害剤、トランスフェラーゼ阻害剤、KCNCカリウムチャネル1調節剤、KCNCカリウムチャネル2調節剤、及びHSF1遺伝子刺激剤からなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項26】
前記治療薬剤は、ブリマピチド、OTO-413、ピオグリタゾン、OTO-510、NXT-596、FX-322、塩酸ピオグリタゾン、PIPE-505、オトポチン、LY-3056480、エブセレン、SPI-3005、アンクロッド、チオ硫酸ナトリウム、ACOU-085、OTO-6XX、DB-020、ORC-13661、FX-345、ベシル酸アラザセトロン、ディスフェントンナトリウム、アセチルシステイン、AC-102、AZD-5438、LPT-99、NT-12、OR-112、PGT-117、P-13、PIPE-336、OR-102C、エブセレン、低分子量熱ショックタンパク質、TOP-M119、AP-001、ガンシクロビル、デンドロゲンB、AUT-00206、デキサメタゾン(DEX)、DEX-サルビアノール酸B(DEX-SAL)結合体、HB-097、及びプレクサリスからなる群から選択される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記治療薬剤は、細胞である、請求項19に記載の方法。
【請求項28】
前記細胞は、幹細胞である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記幹細胞は、胚性幹細胞、ES様幹細胞、胎児幹細胞、成体幹細胞、多能性幹細胞、人工多能性幹細胞、多能性幹細胞、寡能性幹細胞、又は単能性幹細胞である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記ベクターは、プラスミド、コスミド、人工染色体、又はウイルスベクターである、請求項20に記載の方法。
【請求項31】
前記ウイルスベクターは、AAVベクターである、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記AAVベクターの血清型は、AAV1、AAV2、AAV2quad(Y-F)、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、rh10、rh39、rh43、rh74、Anc80、Anc80L65、DJ/8、DJ/9、7m8、PHP.B、PHP.eb、及びPHP.Sからなる群から選択される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記聴力損失は、遺伝性聴力損失である、請求項18~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記遺伝性聴力損失は、常染色体優性聴力損失、常染色体劣性聴力損失、又はX連鎖性聴力損失である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記聴力損失は、後天性聴力損失である、請求項18~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記後天性聴力損失は、騒音性聴力損失、加齢性聴力損失、疾患若しくは感染関連聴力損失、頭部外傷関連聴力損失、又は耳毒性薬物性聴力損失である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
対象の内耳細胞における遺伝子の発現を増加させる方法であって、前記遺伝子を含む核酸又はベクターを前記対象におけるCSFに投与することを含む、方法。
【請求項38】
前記内耳細胞は、内有毛細胞、外有毛細胞、前庭有毛細胞、蝸牛細胞、及び前庭支持細胞からなる群から選択される、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記ベクターは、プラスミド、コスミド、人工染色体、又はウイルスベクターである、請求項37又は38に記載の方法。
【請求項40】
前記ウイルスベクターは、AAVベクターである、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記AAVベクターの血清型は、AAV1、AAV2、AAV2quad(Y-F)、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、rh10、rh39、rh43、rh74、Anc80、Anc80L65、DJ/8、DJ/9、7m8、PHP.B、PHP.eb、及びPHP.Sからなる群から選択される、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記対象は、聴力損失を有するか、又は発症するリスクがある、請求項37~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記聴力損失は、遺伝性聴力損失である、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記遺伝性聴力損失は、常染色体優性聴力損失、常染色体劣性聴力損失、又はX連鎖性聴力損失である、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記聴力損失は、後天性聴力損失である、請求項42に記載の方法。
【請求項46】
前記後天性聴力損失は、騒音性聴力損失、加齢性聴力損失、疾患若しくは感染関連聴力損失、頭部外傷関連聴力損失、又は耳毒性薬物性聴力損失である、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記方法は、前記投与ステップの前に、前記対象の聴力を評価することを更に含む、請求項18~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記方法は、前記投与ステップの後に、前記対象の前記聴力を評価することを更に含む、請求項18~47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記薬剤、治療薬剤、核酸、又はベクターは、大槽内又は髄腔内に投与される、請求項1~48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記遺伝子は、配列番号1~15からなる群から選択される1つをコードする、請求項6又は22に記載の方法。
【請求項51】
前記遺伝子は、配列番号1をコードする、請求項6、22、23、及び50のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年12月23日に出願された米国仮出願第63/293,209号に対する優先権を主張する。本出願の内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、対象の内耳への様々な薬剤の送達に関する。
【背景技術】
【0003】
聴力損失は、12歳を超える個人の約12%、すなわち約3000万人のアメリカ人に影響を及ぼす(NIDCD 2010)。両側性聴力損失を有する可能性は、50歳を過ぎると10年ごとに2倍になり、70歳以上の人々の60%超が聴力損失を有する点に達する。2050年までに、推定24.5億人の個人が軽度から完全な聴力障害を有すると予測されている。補聴器又は人工内耳を使用する現在の改善療法は、聴覚機能の完全な能力を回復するには不十分なままである。出生後早期のマウスにおける蝸牛内又は前庭内注射を通して投与される遺伝子療法は、最近、遺伝性難聴のモデルにおいて聴力を回復することが示されている(Bankotiら、2021)。しかしながら、出生後段階を超えた遺伝子療法は、不成功に終わったことが証明されており(Bankotiら、2021)、これらの手技は、内耳構造に損傷を引き起こす可能性のある侵襲的手術である。聴力損失を回復させるための治療法及び方法が必要である。
【発明の概要】
【0004】
本開示は、いくつかの態様において上で言及される必要性に対処する。
【0005】
一態様では、本開示は、対象の内耳に薬剤を送達するための方法であって、対象における脳脊髄液(cerebrospinal fluid、CSF)に薬剤を投与することを含む方法を提供する。
【0006】
薬剤は、治療薬剤であることができる。治療薬剤の例としては、小分子、大分子、ペプチド、タンパク質、抗体、核酸、ベクター、及び細胞からなる群から選択される1つ以上が挙げられる。一実施形態では、治療薬剤は、核酸又はベクターである。核酸又はベクターは、タンパク質又はポリペプチドをコードする遺伝子を含むことができる。遺伝子、タンパク質又はポリペプチドの例としては、VGLUT3、MYO7A(USH1B)、USH1C、CDH23、PCDH15(USH1F)、SANS(USH1G)、USH2A、ADGRV1/VLGR1、WHRN(DFNB31)、USH3A(CLRN1)、HARS、Cx26(GJB2)、Cx30(GJB6)、Cx29(GJC3)、Cx31(GJB3)、ACTG1、FSCN2、RDX、POU4F3、TRIOBP、TPRN、XIRP2、ATOH1、GFI1、CHRNA9、CIB3、CDH23、PCDH15、KNCN、DFNB59、OTOF、MKRN2OS、LHX3、TMC1、MYO15、MYO7A、MYO6、MYO3A、MYO3B、GRXCR1、PTPRQ、LCE6A、LOXHD1、ART1、ATP2B2、CIB2、CACNA2D4、CABP2、EPS8、EPS8L2、ESPN、ESPNL、PRPH2、STRC、SLC8A2、ZCCHC12、LRTOMT2、LRTOMT1、USH1C、ELFN1、TTC24、DYTN、KCP、CCER2、LRTM2、KCNA10、NTF3、CLRN1、CLRN2、SKOR1、TCTEX1 D1、FCRLB、SLC17A8、GRXCR2、BDNF、SERPINE3、NHLH1、HSP70、HSP90、ATF6、PERK、IRE1、BIP、GJB2、及びUSH1Gが挙げられる。一実施形態では、遺伝子は、配列番号1~15からなる群から選択される1つをコードする。一実施形態では、遺伝子は、VGLUT3である。一実施形態では、遺伝子は、配列番号1をコードする。
【0007】
別の実施形態では、治療薬剤は、Jun N末端キナーゼ阻害剤、脳由来神経栄養因子リガンド、PPARアゴニスト、ガンマ-セクレターゼ阻害剤、ベータ-カテニン刺激剤、幹細胞刺激剤、Lgr5陽性上皮幹細胞増殖の活性化剤、細胞分化調節剤、感覚有毛細胞再生化合物、グルタチオンペルオキシダーゼ刺激剤、ビタミンK依存性プロテインC刺激剤、耳保護剤、化学保護剤、有毛細胞再生化合物、グリコーゲンシンターゼキナーゼ-3阻害剤、5-HT 3受容体アンタゴニスト、カルシニューリン阻害剤、フリーラジカルスカベンジャ、抗炎症剤、アポトーシス阻害剤、神経保護剤、サイクリン依存性キナーゼ-2阻害剤、アポトーシスプロテアーゼ活性化因子1阻害剤、代謝型グルタミン酸受容体7アンタゴニスト、toll様受容体(TLR)アンタゴニスト、TLR-2アンタゴニスト、TLR-4アンタゴニスト、TLR-9アンタゴニスト、トロポミオシン受容体キナーゼ(Trk)-Cアゴニスト、熱ショックタンパク質刺激剤、グアニル酸シクラーゼ刺激剤、PDE 5阻害剤、抗ウイルス薬、DNAポリメラーゼ阻害剤、トランスフェラーゼ阻害剤、KCNCカリウムチャネル1調節剤、KCNCカリウムチャネル2調節剤、及びHSF1遺伝子刺激剤からなる群から選択される。例えば、治療薬剤は、ブリマピチド、OTO-413、ピオグリタゾン、OTO-510、NXT-596、FX-322、塩酸ピオグリタゾン、PIPE-505、オトポチン、LY-3056480、エブセレン、SPI-3005、アンクロッド、チオ硫酸ナトリウム、ACOU-085、OTO-6XX、DB-020、ORC-13661、FX-345、ベシル酸アラザセトロン、ディスフェントンナトリウム、アセチルシステイン、AC-102、AZD-5438、LPT-99、NT-12、OR-112、PGT-117、P-13、PIPE-336、OR-102C、エブセレン、低分子量熱ショックタンパク質、TOP-M119、AP-001、ガンシクロビル、デンドロゲンB、AUT-00206、デキサメタゾン(DEX)、DEX-サルビアノール酸B(DEX-SAL)結合体、HB-097、及びプレクサリスからなる群から選択することができる。
【0008】
更なる実施形態では、治療薬剤は、幹細胞などの細胞である。幹細胞の例としては、胚性幹細胞、ES様幹細胞、胎児幹細胞、成体幹細胞、多能性幹細胞、人工多能性幹細胞、多能性幹細胞、寡能性幹細胞、又は単能性幹細胞が挙げられる。
上で言及されるベクターは、プラスミド、コスミド、人工染色体、又はウイルスベクターであることができる。ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、アデノウイルスベクター、及びレンチウイルスベクターを含むが、これらに限定されない、任意の好適なウイルスベクターであることができる。好ましい実施形態では、ウイルスベクターは、AAVベクターである。AAVベクターの血清型は、AAV1、AAV2、AAV2quad(Y-F)、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、rh10、rh39、rh43、rh74、Anc80、Anc80L65、DJ/8、DJ/9、7m8、PHP.B、PHP.eb、及びPHP.Sからなる群から選択されるものであることができる。
【0009】
上で言及される薬剤は、イメージング剤であることができる。イメージング剤の例としては、有機分子、フルオロフォア、金属イオン、塩又はキレート、粒子、ペプチド、タンパク質、核酸、ポリマー、及びリポソームからなる群から選択される1つ以上が挙げられる。
【0010】
いくつかの実施形態では、上で説明される方法は、投与ステップの後に、内耳における薬剤のレベルを調べることを更に含むことができる。
【0011】
第2の態様では、本開示は、聴力損失を有するか、又は発症するリスクがある対象を治療する方法を提供する。方法は、対象におけるCSFに有効量の治療薬剤を投与することを含む。治療薬剤は、小分子、大分子、ペプチド、タンパク質、抗体、核酸、ベクター、及び細胞からなる群から選択されるものであることができる。
【0012】
いくつかの実施形態では、治療薬剤は、核酸又はベクターである。核酸又はベクターは、タンパク質又はポリペプチドをコードする遺伝子を含むことができる。遺伝子の例としては、VGLUT3、MYO7A(USH1B)、USH1C、CDH23、PCDH15(USH1F)、SANS(USH1G)、USH2A、ADGRV1/VLGR1、WHRN(DFNB31)、USH3A(CLRN1)、HARS、Cx26(GJB2)、Cx30(GJB6)、Cx29(GJC3)、Cx31(GJB3)、ACTG1、FSCN2、RDX、POU4F3、TRIOBP、TPRN、XIRP2、ATOH1、GFI1、CHRNA9、CIB3、CDH23、PCDH15、KNCN、DFNB59、OTOF、MKRN2OS、LHX3、TMC1、MYO15、MYO7A、MYO6、MYO3A、MYO3B、GRXCR1、PTPRQ、LCE6A、LOXHD1、ART1、ATP2B2、CIB2、CACNA2D4、CABP2、EPS8、EPS8L2、ESPN、ESPNL、PRPH2、STRC、SLC8A2、ZCCHC12、LRTOMT2、LRTOMT1、USH1C、ELFN1、TTC24、DYTN、KCP、CCER2、LRTM2、KCNA10、NTF3、CLRN1、CLRN2、SKOR1、TCTEX1 D1、FCRLB、SLC17A8、GRXCR2、BDNF、SERPINE3、NHLH1、HSP70、HSP90、ATF6、PERK、IRE1、BIP、GJB2、及びUSH1Gが挙げられる。一実施形態では、遺伝子は、配列番号1~15からなる群から選択される1つをコードする。一実施形態では、遺伝子は、VGLUT3である。一実施形態では、遺伝子は、配列番号1をコードする。
【0013】
薬剤は、(i)RNAi剤若しくは標的遺伝子のセグメントに相補的な配列を含むアンチセンス配列である核酸、又は(ii)RNAi剤若しくはアンチセンス配列をコードするベクターであることができる。例としては、Otologic Pharmaceutics Inc.によって開発されたHES遺伝子調節剤などのsiRNAベースの治療法が挙げられ得る。
【0014】
いくつかの実施形態では、治療薬剤は、Jun N末端キナーゼ阻害剤、脳由来神経栄養因子リガンド、PPARアゴニスト、ガンマ-セクレターゼ阻害剤、ベータ-カテニン刺激剤、幹細胞刺激剤、Lgr5陽性上皮幹細胞増殖の活性化剤、細胞分化調節剤、感覚有毛細胞再生化合物、グルタチオンペルオキシダーゼ刺激剤、ビタミンK依存性プロテインC刺激剤、耳保護剤、化学保護剤、有毛細胞再生化合物、グリコーゲンシンターゼキナーゼ-3阻害剤、5-HT 3受容体アンタゴニスト、カルシニューリン阻害剤、フリーラジカルスカベンジャ、抗炎症剤、アポトーシス阻害剤、神経保護剤、サイクリン依存性キナーゼ-2阻害剤、アポトーシスプロテアーゼ活性化因子1阻害剤、代謝型グルタミン酸受容体7アンタゴニスト、toll様受容体(TLR)アンタゴニスト、TLR-2アンタゴニスト、TLR-4アンタゴニスト、TLR-9アンタゴニスト、トロポミオシン受容体キナーゼ(Trk)-Cアゴニスト、熱ショックタンパク質刺激剤、グアニル酸シクラーゼ刺激剤、PDE 5阻害剤、抗ウイルス薬、DNAポリメラーゼ阻害剤、トランスフェラーゼ阻害剤、KCNCカリウムチャネル1調節剤、KCNCカリウムチャネル2調節剤、及びHSF1遺伝子刺激剤からなる群から選択される。例えば、治療薬剤は、ブリマピチド、OTO-413、ピオグリタゾン、OTO-510、NXT-596、FX-322、塩酸ピオグリタゾン、PIPE-505、オトポチン、LY-3056480、エブセレン、SPI-3005、アンクロッド、チオ硫酸ナトリウム、ACOU-085、OTO-6XX、DB-020、ORC-13661、FX-345、ベシル酸アラザセトロン、ディスフェントンナトリウム、アセチルシステイン、AC-102、AZD-5438、LPT-99、NT-12、OR-112、PGT-117、P-13、PIPE-336、OR-102C、エブセレン、低分子量熱ショックタンパク質、TOP-M119、AP-001、ガンシクロビル、デンドロゲンB、AUT-00206、デキサメタゾン(DEX)、DEX-サルビアノール酸B(DEX-SAL)結合体、HB-097、及びプレクサリスからなる群から選択することができる。
【0015】
いくつかの実施形態では、治療薬剤は、幹細胞などの細胞である。幹細胞の例としては、胚性幹細胞、ES様幹細胞、胎児幹細胞、成体幹細胞、多能性幹細胞、人工多能性幹細胞、多能性幹細胞、寡能性幹細胞、又は単能性幹細胞が挙げられる。
【0016】
上で言及されるベクターは、プラスミド、コスミド、人工染色体、又はウイルスベクターであることができる。ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、アデノウイルスベクター、及びレンチウイルスベクターを含むが、これらに限定されない、任意の好適なウイルスベクターであることができる。好ましい実施形態では、ウイルスベクターは、AAVベクターである。AAVベクターの血清型は、AAV1、AAV2、AAV2quad(Y-F)、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、rh10、rh39、rh43、rh74、Anc80、Anc80L65、DJ/8、DJ/9、7m8、PHP.B、PHP.eb、及びPHP.Sからなる群から選択されるものであることができる。
【0017】
上で言及される聴力損失は、常染色体優性聴力損失、常染色体劣性聴力損失、又はX連鎖性聴力損失などの遺伝性聴力損失であることができる。聴力損失は、騒音性聴力損失、加齢性聴力損失、疾患若しくは感染関連聴力損失、頭部外傷関連聴力損失、又は耳毒性薬物性聴力損失などの後天性聴力損失であることができる。
【0018】
第3の態様では、本開示は、対象の内耳細胞における遺伝子の発現を増加させる方法を特徴とし、方法は、遺伝子を含む核酸又はベクターを対象におけるCSFに投与することを含む。内耳細胞の例としては、内有毛細胞、外有毛細胞、前庭有毛細胞、蝸牛細胞、及び前庭支持細胞が挙げられる。ベクターは、プラスミド、コスミド、人工染色体、又はウイルスベクター(例えば、AAVベクター、アデノウイルスベクター、及びレンチウイルスベクター)であることができる。好ましい実施形態では、ウイルスベクターは、AAVベクターである。AAVベクターの血清型は、AAV1、AAV2、AAV2quad(Y-F)、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、rh10、rh39、rh43、rh74、Anc80、Anc80L65、DJ/8、DJ/9、7m8、PHP.B、PHP.eb、及びPHP.Sからなる群から選択されるものであることができる。対象は、聴力損失を有し得るか、又は発症するリスクがあり得る。聴力損失は、遺伝性聴力損失(例えば、常染色体優性聴力損失、常染色体劣性聴力損失、若しくはX連鎖性聴力損失)又は後天性聴力損失(例えば、騒音性聴力損失、加齢性聴力損失、疾患若しくは感染関連聴力損失、頭部外傷関連聴力損失、若しくは耳毒性薬物性聴力損失)であることができる。一実施形態では、方法は、投与ステップの前に、投与ステップの後に、又は両方の時点で、対象の聴力を評価することを更に含み得る。
【0019】
上で説明される方法では、薬剤、治療薬剤、核酸、又はベクターは、大槽内又は髄腔内に投与される。
【0020】
本開示の1つ以上の実施形態の詳細は、以下の説明に記載される。本開示の他の特徴、目的、及び利点は、説明及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
特許又は出願ファイルは、カラーで実施された少なくとも1つの図面を含有する。カラー図面(複数可)付きのこの特許又は特許出願公開のコピーは、要求及び必要な手数料の支払いに応じて局によって提供されるであろう。
【0022】
図1A-1I】脳脊髄液トレーサーが蝸牛水管を介して蝸牛に容易に入ることを示す一連のグラフである。図1Aは、MRI及びCTスキャンのための実験準備を示す。図1Bは、耳の解剖学的構造を示す。図1Cは、Gadovist(0.6kDa)の大槽注射後の動的造影増強磁気共鳴(dynamic contrast-enhanced magnetic resonance、DCE-MR)映像法を示し、トレーサーが脳槽及び蝸牛に入ることを示す(白い矢印)。図1D及び1Eは、くも膜下腔におけるGadovistが、蝸牛水管として識別される開口部を通って内耳に入ることを示す(Dにおける赤い矢印)時系列である。図1Fは、MRI関心領域(regions of interest、ROI)平均(+/-SEM)の時系列を示し、Gadovistが蝸牛水管の外側に到着し、次いで蝸牛水管の中に移動し、最後に耳に到着することを描示する(図4Aにおける到着時間統計)。図1G、1H、及び1Iは、Omnipaque(0.8kDa)の大槽注射後に実行されたROI平均(+/-SEM)の高空間分解能CT時系列を示し、トレーサーシグナルが鼓室階の底部に移動する前に水管において最初に増加すること(Gにおける赤色矢印)、及び有意なトレーサーがスキャンニングの30分以内に前庭階に到達しないことを確認する。Sidakの多重比較検定による、ゼロ平均に対する反復t検定;*P<0.0021。
図2A-2F】蝸牛水管がリンパ様膜によって包まれていることを示す一連のグラフである。図2Aは、蝸牛の概略図である。図2B及び図2Cは、大槽に注射されたマイクロスフェア(0.2μm)が蝸牛水管に存在し、その中に位置する繊維様構造にしばしば関連付けられることを示す。マイクロスフェアはまた、鼓室階の底部において、及び蝸牛において存在する。図2Dは、リンパマーカー分析を示し、くも膜が、PROX1、CRABP2及びポドプラニン陽性であるがLYVE1陰性である水管(赤い矢じり)の蝸牛端部で横隔膜様構造(緑色の矢じり)を形成することを明らかにする。横隔膜に付着したIba1及びLYVE1陽性マクロファージ様細胞(赤い矢じり)がある。図2Eは、大槽に注射された多数のミクロスフェアが膜に閉じ込められ、Iba1陽性マイクロスフェアによって貪食されることを示す。
図3A-3I】CSF送達VGLUT3過剰発現ウイルスがヒト難聴のマウスモデルにおける聴力及び聴覚求心性シナプスを救済することを示す一連のグラフである。図3A及び3Bは、aCSF又はVGLUT3-AAVのいずれかで治療された(救済された)、ベースライン(破線、白丸)及び注射後2週間(実線、黒丸)におけるSlc17a8+/+(緑)及び-/-(赤)マウスの聴性脳幹反応(図3A)及び耳音響放射の歪成分(図3B)を示す。GFP-AAVの注射は、聴力に影響を及ぼさなかったので、aCSF及びGFP-AAVは、一緒にマージされて、対照として役立てられた。データは、平均+/-SEMであり、個々の応答は、バックグラウンドに示される。VGLUT3で治療されたWTのABR閾値は、ベースラインと比較したとき、32及び40kHzでそれぞれ25及び16dB上昇した(二元配置ANOVA、治療因子:F(1,96)=7.98,p=0.0058;周波数因子:F(5,96)=88.4,p<0.0001,(A)、一方、他の周波数は、影響を受けないままであった。KOマウスは、48kHzを除く全ての周波数で改善されたABR閾値を示した(二元配置ANOVA、遺伝子型因子:F(1,72)=237,p<0.0001;周波数因子:F(5,72)=24.9,p<0.0001)。KOマウスにおける聴力は、24kHzを除いて、WT動物と同様のレベルであり(二元配置ANOVA、遺伝子型因子:F(1,72)=18,p<0.0001;周波数因子:F(5,72)=72,p<0.0001;Sidakの事後試験においては24kHz,p=0.0065)、KOマウスは、WTマウスよりも5dB高い閾値を有していた。歪成分放射(B)によって測定された外有毛細胞の機能は、WTマウス又はKOマウスのいずれにおいても、aCSF又はウイルス治療による影響を受けなかった。図3Cは、刺激強度の低下による誘発応答を示す、Slc17a8+/+(緑色)及び-/-(赤色)マウスのSEM(網掛け)を用いた平均聴性脳幹反応波形を示す。図3D、3E及び3Fは、CtBP2(赤)、GluR2(緑)及びミオシンVIIa(青)、又はVGLUT3(白)について基底、中間、及び頂端回転で染色した、aCSF又は救済された(F)で治療されたSlc17a8+/+(D)及び-/-(E)マウスの代表的な顕微鏡写真を示す。内有毛細胞(inner hair cell、IHC)の列がマークされる。バーは、5μmである。図3G、3H、及び3Iは、aCSF(白バー)で治療された又は救済された(黒バー)Slc17a8+/+(緑)及び-/-(赤)マウス由来のシナプス前リボン(G)、シナプス後GluR2(H)、及び対になったシナプス(I)の定量を示す。データは、平均+/-SEMであり、個々の値が示され、N=3~10である。星は、有意差を示す;*:p<0.05;**:p<0.01;***:p<0.0001;Sidakの事後分析による三元配置ANOVA。
図4A-4G】Aqp4非依存性であるが分散性の機構が内耳へのCSF輸送を駆動することを示す一連のグラフである。図4Aは、トレーサーが耳と比較して蝸牛水管で有意に速く到着することを示すMRIデータである。図4Bは、CTにおいて測定された全てのROIについての時間活性曲線を示す。蝸牛神経の顕著な上昇はない。図4C、4D、及び4Eは、野生型及びAQP4ノックアウトにおけるCM注射後のトレーサー流入に有意差がなかったことを示す。図4Fは、分散モデル予測(実線)に対応するCT画像(ドット)からの時間軸及び空間軸の両方に示される、蝸牛水管におけるトレーサー濃度を示す。図4Gは、水中のOmnipaqueのStokes-Einstein自由拡散に類似した蝸牛水管におけるデータから推定される分散係数を示す。
図5】マイクロスフェアが1時間後に蝸牛水管において豊富であり、24時間後に耳の基底部に到達していることを示す。
図6A-6C】CSF送達ウイルスが、静脈内注射されたウイルスと比較して、有毛細胞における有意に高い発現をもたらすことを示す。図6Aは、CSFから耳に入るウイルスの概略図を示す。図6Bは、大槽注射及び静脈内注射後の内耳におけるウイルスの発現を示す。そのウイルスは、大槽に注射された動物の蝸牛底部及び中央部で高度に発現される。図6Cは、静脈内注射された動物と比較して、大槽注射された動物における内耳におけるウイルス発現の定量が、大槽注射された動物の底部及び中央において有意により高い発現を示す。
図7A-7B】aCSFで治療された(破線、白丸)又は救済された(全線、黒丸)Slc17a8+/+(緑)及び-/-(赤)からの聴性脳幹反応波1の振幅(A)及び潜時(B)が、KO救済された群がWT治療群の62%に回復したことを示すことを示す(二元配置ANOVA、遺伝子型因子:F(3,94)=24,p<0.0001;刺激強度因子:F(4,94)=18.8,p<0.0001。aCSFで治療された(白バー)又は救済された(黒バー)Slc17a8+/+(緑)及び-/-(赤)マウスにおける波1、3、及び5のピーク潜時。データは、平均+/-SEMであり、個々の値が示され、N=6~10である。ヌル記号はSlc17a8-/-未治療のマウスについてのABR応答の欠如を表す。星は、有意差を示す;*:p<0.05;**:p<0.01;Sidakの事後分析による一元配置ANOVA。
図8】CTにおける関心領域の配置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本開示は、聴力損失を回復するために使用することができる、対象の内耳への様々な薬剤の送達に関する。本開示の特定の態様は、遺伝子治療薬などの治療薬を内耳に送達するために脳脊髄液経路を使用することによって、成体失聴マウスにおける聴力が救済されるという予想外の発見に少なくとも部分的に基づいている。
【0024】
内耳への送達経路としての脳脊髄液
グリンパティック系を介した脳脊髄液(CSF)の流れは、薬物送達の脳全体の送達のための新しいアプローチとして出現している。内耳リンパ液及びCSFは、リンパ様特徴を示す蝸牛水管を介して直接接続されている。リアルタイム磁気共鳴イメージング、コンピュータ断層撮影、及び光学蛍光顕微鏡検査は、大型CSFトレーサーが、成体マウスにおける蝸牛水管を介した分散輸送によって内耳に到達することを示した。
【0025】
本明細書の実施例において開示されるように、VGLUT3を発現するアデノ随伴ウイルスの単回の大槽内注射は、常染色体優性難聴のモデルであるSlc17A8-/-マウスにおいて、内有毛細胞を形質導入し、聴力閾値が救済され、聴覚シナプスが再確立された。したがって、CSF輸送は、成人内耳への効果的な遺伝子送達のための新規経路を含む。
【0026】
2050年までに、推定24.5億人の個人が軽度から完全な聴力障害を有すると予測されている(Collaborators、2021)。補聴器又は人工内耳を使用する現在の改善療法は、聴覚機能の完全な能力を回復するには不十分なままである。出生後早期のマウスにおける蝸牛内又は前庭内注射を通して投与される遺伝子療法は、最近、遺伝性難聴のモデルにおいて聴力を回復することが示されている(Bankotiら、2021)。しかしながら、出生後段階を超えた遺伝子療法は、不成功に終わったことが証明されており(Bankotiら、2021)、これらの手技は、内耳構造に損傷を引き起こす可能性のある侵襲的手術である。
【0027】
脳において、脳脊髄液(CSF)は、グリンパティック系と呼ばれるものにおいて血管周囲空間に沿って輸送されることによって脳の深部領域に到達する。アミロイドβ、タウ、及び乳酸などの代謝老廃物を流体流出が除去するため、グリンパティック液輸送は、重要な恒常性の役割を果たす(Iliffら、2012、Xieら、2013)。内耳における有毛細胞は、血液迷路関門によって保護されているが、代謝的にも非常に活性である(Nybergら、2019;Spinelliら、2012)。しかしながら、耳は、リンパ管をほとんど有しない脳及び眼に類似している(Saltら、2015)。最近、眼のグリンパティッククリアランス系が説明されており(Wangら、2020)、耳が、他の神経組織と同様に、活性CSF輸送によって代謝老廃物を輸出する可能性が高まっている。治療的観点から、グリンパティック液輸送が血液脳関門(blood brain barrier、BBB)をバイパスし、BBB不透過性薬物を脳に送達するための経路として使用することができることに留意することが重要である。CSF中の治療薬剤は、血管周囲CSF輸送によって数分以内に深部脳構造に到達することができる(Liliusら、2019;Plogら、2018)。
【0028】
発明者らの知識によれば、ヒト難聴のマウスモデルにおいて聴力を救済するために遺伝子療法を送達するためのCSF経路を使用する可能性があることを実証した以前の研究はない。本明細書では、発明者らは、内耳リンパ液及び脳を取り巻くCSFとの間の接続、及びその接続が薬物送達のために使用することができるかどうかを評価した。CSFが数分以内に内耳に入り、この容易にアクセス可能なCSF経路が、ヒト難聴の成体マウスモデルにおける難聴に関連付けられた遺伝的変異の機能を回復するために、ウイルス遺伝子療法を含む様々な薬剤を送達することができることが見出された。したがって、CSF経路は、様々な薬剤を内耳に送達するために使用することができる。
【0029】
治療薬剤
本明細書に開示されるように、薬剤は、治療薬剤であることができる。治療薬剤の例としては、小分子、大分子、ペプチド、タンパク質、抗体、核酸、ベクター、又は細胞が挙げられる。
【0030】
一実施形態では、治療薬剤は、Jun N末端キナーゼ阻害剤、脳由来神経栄養因子リガンド、PPARアゴニスト、ガンマ-セクレターゼ阻害剤、ベータ-カテニン刺激剤、幹細胞刺激剤、Lgr5陽性上皮幹細胞増殖の活性化剤、細胞分化調節剤、感覚有毛細胞再生化合物、グルタチオンペルオキシダーゼ刺激剤、ビタミンK依存性プロテインC刺激剤、耳保護剤、化学保護剤、有毛細胞再生化合物、グリコーゲンシンターゼキナーゼ-3阻害剤、5-HT 3受容体アンタゴニスト、カルシニューリン阻害剤、フリーラジカルスカベンジャ、抗炎症剤、アポトーシス阻害剤、神経保護剤、サイクリン依存性キナーゼ-2阻害剤、アポトーシスプロテアーゼ活性化因子1阻害剤、代謝型グルタミン酸受容体7アンタゴニスト、toll様受容体(TLR)アンタゴニスト、TLR-2アンタゴニスト、TLR-4アンタゴニスト、TLR-9アンタゴニスト、トロポミオシン受容体キナーゼ(Trk)-Cアゴニスト、熱ショックタンパク質刺激剤、グアニル酸シクラーゼ刺激剤、PDE 5阻害剤、抗ウイルス薬、DNAポリメラーゼ阻害剤、トランスフェラーゼ阻害剤、KCNCカリウムチャネル1調節剤、KCNCカリウムチャネル2調節剤、及びHSF1遺伝子刺激剤からなる群から選択される。例えば、治療薬剤は、ブリマピチド、OTO-413、ピオグリタゾン、OTO-510、NXT-596、FX-322、塩酸ピオグリタゾン、PIPE-505、オトポチン、LY-3056480、エブセレン、SPI-3005、アンクロッド、チオ硫酸ナトリウム、ACOU-085、OTO-6XX、DB-020、ORC-13661、FX-345、ベシル酸アラザセトロン、ディスフェントンナトリウム、アセチルシステイン、AC-102、AZD-5438、LPT-99、NT-12、OR-112、PGT-117、P-13、PIPE-336、OR-102C、エブセレン、低分子量熱ショックタンパク質、TOP-M119、AP-001、ガンシクロビル、デンドロゲンB、AUT-00206、デキサメタゾン(DEX)、DEX-サルビアノール酸B(DEX-SAL)結合体、HB-097、及びプレクサリスからなる群から選択することができる。
【0031】
別の実施形態では、治療薬剤は、有毛細胞又は支持細胞などの内耳細胞の増殖及び/又は分化を促進する化合物である。そのような化合物の例としては、限定されないが、レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤、Wntシグナル伝達活性化剤、骨形成タンパク質(bone morphogenetic protein、BMP)シグナル伝達阻害剤、サイクリン依存性キナーゼ(cyclin-dependent kinase、CDK)活性化剤、Eボックス依存性転写活性化剤、Notchシグナル伝達活性化剤、ヒストンデアセチラーゼ(histone deacetylase、HDAC)阻害剤、タンパク質分解阻害剤、PI3K-Aktシグナル伝達阻害剤、及びcAMP応答配列結合タンパク質(cAMP response element binding protein、CREB)活性化剤が挙げられる。追加の例は、米国特許出願公開第2019/0010449号に説明され、その開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0032】
一実施例では、治療薬剤は、フソソームを含む。「フソソーム」は、管腔又は空洞を囲む両親媒性脂質の二重層、及び両親媒性脂質二重層と相互作用するフソゲンを指す。いくつかの実施形態では、フソソームは、核酸を含む。いくつかの実施形態では、フソソームは、膜封入調製物である。いくつかの実施形態では、フソソームは、ソース細胞に由来する。フソソームは、様々な形態をとることができる。例えば、いくつかの実施形態では、本明細書に説明されるフソソームは、ソース細胞に由来する。フソソームは、例えば、細胞外小胞、微小胞、ナノ小胞、エクソソーム、微粒子、又はそれらの任意の組み合わせであり得るか、又はそれを含み得る。いくつかの実施形態では、フソソームが、ソース細胞から自然に放出され、いくつかの実施形態では、ソース細胞が、フソソームの形成を増強するように処理される。いくつかの実施形態では、フソソームは、直径が約10~10,000nm、例えば、直径が約30~100nmである。いくつかの実施形態では、フソソームは1つ以上の合成脂質を含む。
【0033】
いくつかの実施形態では、フソソームは、ウイルス、例えば、レトロウイルス、例えば、レンチウイルスであるか、又はそれを含む。例えば、いくつかの実施形態では、両親媒性脂質のフソソームの二重層は、ウイルスエンベロープであるか、又はそれを含む。ウイルスエンベロープは、フソゲン、例えば、ウイルスに内因性であるフソゲン、又は偽型のフソゲンを含み得る。いくつかの実施形態では、フソソームの管腔又は空洞は、ウイルス核酸、例えば、レトロウイルス核酸、例えば、レンチウイルス核酸を含む。ウイルス核酸は、ウイルスゲノムであり得る。いくつかの実施形態では、フソソームは、1つ以上のウイルス非構造タンパク質を、例えば、その空洞又は管腔に更に含む。
【0034】
フソソームは、標的細胞へのペイロードの送達を促進する様々な構造又は特性を有し得る。例えば、いくつかの実施形態では、フソソーム及び源細胞は、標的細胞と融合することができる粒子を作製するのに十分な核酸をともに含む。実施形態では、これらの核酸は、以下の活性:gagポリタンパク質活性、ポリメラーゼ活性、インテグラーゼ活性、プロテアーゼ活性、及びフソゲン活性のうちの1つ以上(例えば、全て)を有するタンパク質をコードする。
【0035】
核酸及びベクター
本明細書に開示されるように、遺伝子療法は、組換え発現カセット又は発現ベクターを介して送達され得る。「ベクター」という用語は、核酸配列が、それが複製することができる細胞への導入のために、挿入することができる担体核酸分子を指すために使用される。核酸配列は、「外因性」であることができ、これは、ベクターが導入される細胞にとって外来であること、又は配列が細胞内の配列と相同であるが、配列が通常見出されない宿主細胞核酸内の位置にあることを意味する。ベクターの例としては、プラスミド、コスミド、ウイルス(バクテリオファージ、動物ウイルス、及び植物ウイルス)、並びに人工染色体(YACなど)が挙げられる。当業者であれば、標準的な組換え技術を通じてベクターを構築するために十分な設備を有しているであろう。
【0036】
「発現ベクター」という用語は、転写することができる遺伝子産物の少なくとも一部をコードする核酸配列を含有するベクターを指す。いくつかの場合には、RNA分子は、次いで、タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドに翻訳される。miRNAなどの他の場合には、これらの配列は、翻訳されない。発現ベクターは、様々な「制御配列」を含有することができ、それは、特定の宿主生物における作動可能に連結されたコード化配列の転写及びおそらくは翻訳に必要な核酸配列を指す。転写及び翻訳を支配する制御配列に加えて、ベクター及び発現ベクターは、他の機能も同様に果たし、以下に説明される核酸配列を含有し得る。
【0037】
プロモーター及び導入遺伝子
プロモーターは、転写の開始及び速度が制御される、核酸配列の領域である、制御配列である。それは、RNAポリメラーゼ及び他の転写因子などの調節タンパク質並びに分子が結合し得る遺伝要素を含有し得る。「作動可能に位置付けられた」、「作動可能に連結された」、「制御下」、及び「転写制御下」という句は、プロモーターが、その配列の転写開始及び/又は発現を制御するために、核酸配列に関して正しい機能的位置及び/又は配向にあることを意味する。プロモーターは、核酸配列の転写活性化に関与するシス作用性調節配列を指す「エンハンサー」と組み合わせて使用される場合又はされない場合がある。
【0038】
プロモーターは、コード化セグメント及び/又はエキソンの上流に位置する5′非コード化配列を単離することによって得られ得るような、遺伝子又は配列と天然に関連付けられたものであり得る。このようなプロモーターは、「内因性」と呼称することができる。同様に、エンハンサーは、その配列の下流又は上流のいずれかに位置する、核酸配列と天然に関連付けられるものであり得る。代替的に、特定の利点は、コード化核酸セグメントを組換え又は異種プロモーターの制御下に位置付けることによって得られるが、これは、その自然環境において核酸配列と通常関連付けられていないプロモーターを指す。組換え又は異種エンハンサーはまた、その自然環境において核酸配列と通常関連付けられていないエンハンサーも指す。そのようなプロモーター又はエンハンサーは、他の遺伝子のプロモーター又はエンハンサー、及び任意の他の原核、ウイルス、又は真核細胞から単離されたプロモーター又はエンハンサー、及び「天然に存在しない」、すなわち異なる転写調節領域の異なる要素、及び/又は発現を変化させる変異を含有するプロモーター又はエンハンサーを含み得る。
【0039】
発現のために選択された細胞型、細胞小器官、及び生物におけるDNAセグメントの発現を効果的に指向するプロモーター及び/又はエンハンサーを用いることが重要であり得る。分子生物学の当業者は、概して、タンパク質発現のためのプロモーター、エンハンサー、及び細胞型の組み合わせの使用を知っている。用いられるプロモーターは、構成的、組織特異的、誘導可能、並びに/又はインビボ若しくはインビトロで(例えば、組換えタンパク質及び/若しくはペプチドの大規模産生において)導入されたDNAセグメントの発現を指向するために適切な条件下で有用であり得る。プロモーターは、異種又は内因性であり得る。組織特異的プロモーター又は要素の同一性、並びにそれらの活性を特徴付けるアッセイは、当業者に周知である。
【0040】
本開示の一態様は、(i)SIX1、ATOH1、SOX21、MYO7a、以下に列挙するもの、及び表Aにおけるものからなる群から選択される遺伝子のプロモーター又はエンハンサー配列と少なくとも85%(例えば、90%、95%、96%、96%、98%、99%、及び100%)同一である調節配列、並びに(ii)調節配列に作動可能に連結された導入遺伝子を含むポリヌクレオチドを提供し、導入遺伝子は、VGLUT3、MYO7A(USH1B)、USH1C、CDH23、PCDH15(USH1F)、SANS(USH1G)、USH2A、ADGRV1/VLGR1、WHRN(DFNB31)、USH3A(CLRN1)、HARS、Cx26(GJB2)、Cx30(GJB6)、Cx29(GJC3)、Cx31(GJB3)、ACTG1、FSCN2、RDX、POU4F3、TRIOBP、TPRN、XIRP2、ATOH1、GFI1、CHRNA9、CIB3、CDH23、PCDH15、KNCN、DFNB59、OTOF、MKRN2OS、LHX3、TMC1、MYO15、MYO7A、MYO6、MYO3A、MYO3B、GRXCR1、PTPRQ、LCE6A、LOXHD1、ART1、ATP2B2、CIB2、CACNA2D4、CABP2、EPS8、EPS8L2、ESPN、ESPNL、PRPH2、STRC、SLC8A2、ZCCHC12、LRTOMT2、LRTOMT1、USH1C、ELFN1、TTC24、DYTN、KCP、CCER2、LRTM2、KCNA10、NTF3、CLRN1、CLRN2、SKOR1、TCTEX1 D1、FCRLB、SLC17A8、GRXCR2、BDNF、SERPINE3、NHLH1、HSP70、HSP90、ATF6、PERK、IRE1、BIP、GJB2、及びUSH1Gからなる群から選択される。アミノ酸配列及びこれらのポリペプチドをコードする関連核酸配列は、当該技術分野で既知である。以下の表Bに列挙されるのは、いくつかの例についてのGenBank受入番号である。
【0041】
いくつかの実施形態では、導入遺伝子は、VGLUT3、MYO7A(USH1B)、USH1C、CDH23、PCDH15(USH1F)、SANS(USH1G)、USH2A、ADGRV1/VLGR1、WHRN(DFNB31)、USH3A(CLRN1)、HARS、Cx26(GJB2)、Cx30(GJB6)、Cx29(GJC3)、及びCx31(GJB3)からなる群から選択される。例示的なアミノ酸配列は、以下の表Cに示される。
【0042】
いくつかの遺伝子は、蝸牛細胞、例えば、有毛細胞(hair cell、HC)、支持細胞(supporting cell、SC)、及びらせん神経節ニューロン(spiral ganglion neuron、SGN)において特異的に発現することが既知である。以下の表を参照されたい。本明細書に説明される方法は、それらの細胞におけるこれらの遺伝子のうちのいずれかの発現を増加させるためにも使用することができる。
【0043】
1つ以上の遺伝子は、蝸牛感覚上皮の発達中に特異的に発現され、成人の脳におけるそれらの低い発現又は非存在の発現によって区別される。例えば、米国特許出願公開第2021/0388045号、同第2020/0392516号、Ahmedら、Developmental Cell 22、377-390、February 14, 2012、Wingard and Zhao, Frontiers in Cellular Neuroscience, volume 9, article 202, 2015、Lanら、Gene Ther 27(7):329-337, 2020)を参照されたい。これらの参考文献の全ては、それらの全体が、参照により組み込まれる。これらの遺伝子のプロモーターは、蝸牛上皮細胞選択的遺伝子発現を可能にする。
【0044】
一実施形態では、導入遺伝子は、ヒト小胞性グルタミン酸輸送体3(VGLUT3遺伝子)タンパク質をコードする。例示的なヒトVGLUT3アミノ酸配列(GenBank:AJ459241.1)(配列番号1)は、表Bに示される。以下に列挙されるのは、そのコード化核酸配列である(Takamoriら、EMBO Rep.3 (8),798-803(2002))。
配列番号:16:
【0045】
一実施形態では、プロモーター又はエンハンサー配列は、MYO7aプロモーター又はエンハンサーである。MYO7a(又はミオシン7A)プロモーター又はエンハンサーは、外若しくは内有毛細胞、前庭有毛細胞、らせん神経節、又は前庭神経節における下流ポリヌクレオチドの発現を指向するのに十分な核酸配列を含むか、又はそれからなり、かつ以下のヌクレオチド配列のうちのいずれかに対して少なくとも約85%の配列同一性を有する調節ポリヌクレオチド配列を指す。実施例はまた、以下の配列若しくはその機能的フラグメントのいずれかを含むか、又はそれらからなることができる。例えば、米国特許出願公開第2020/0392516号を参照されたい。
MYO7Aプロモーター1(配列番号17):
gactttcctgtgtccctctgtccccctggggggaagggacaatggaggaatattccccaggcctgggcgactgtccgctggtcagagggaaggccccgctgcctgcccggtgcacctgtgagctgagattgtggggatcattcagtcattcctttattcagtagatctgtacggggctggctttgtgccaaggcctgccccgggcacctgggatgtggggaaccaggcatagcaatccctgctctgggacagtctacaaacgagcagcgagaacaaagacatactctggtcatgacagacactaccccgcacattactgatggggcagtgtgggcctgctgggttagagacggcctactccctgatctgtgcatgaagggctgggaagaggagatgggccttcggggcacaggaaggtgtggggggaccagagcggaggctgctgagggcagatgcaggcatctagggccaggaagctggtgtggtggtggggagaagcagggttgggatgactgaaagcagagtggacgactcaatgaaaaacgacttgggagacggggtgagtgcagtgtgagggcaaagtgaaccgagatgcctcgctttcttcatgggactgagaaatgggtattgcaaatcgtgtgatctgcttagcatagtgcctggttcatagcatggctgaacacaatgtagctgtcatcctggtgtttggaggccgccctgtcccccataacctgcccacctctctgccccattcccacagctcactgcattttgtccctgctgccagtcgtgtgccatgggctctcctgtgctcccccggggtctcatttccccatccgtgtagggctgacgccactggccccgcccagcctgggaggatggagaggggggacttgaggagtggccagtactgggtttcggcagcaggtgcaaatcccaggtggggactgtgttccagggactcctggactcctgttaggccagcaggctaaggggcagacggcatcctggggtcttcctgggacagggtcgtcgggtctgaggggacccaggccctagcagaagctgactcctgtcacggtcacttcccagcggtgctcagcccgcctgacggaagcagctgggcagtggggcctgtgaccagcaggcggcgctggcgagctatagcgcccctttgggcccccaccccaccttctgggcagcttccctgcagacaccccagttatgggggctagggacccaaaagagacatccttctgccacccagagctgccctggcgaggtgcactatggggccgccgacagctgcgtggctgccgagggcggaaaggagaaactgtcatgtcccgatagggccgcgcgaggtctccatcctcgacaacgctaataacaaagacgtgtgctcctctttgcttggttccccccactcctttaaatcacagatttcacttcagtttatctgtgtcgctgtcacacgtggggtggctcccagtcagctggtttggcaaagtttctggatgattacggaataacatgtgtccccaacccgcagagcaggttgtgggggcaatgttgcattgaccagcgtcagagaacacacatcagaggcaagggtgggtgtgcaggagggagaaggcgcagaaggcagggctttagctcagcactctccctcctgccatgctctgcctgaccgttccctctctgagtcccaaacagccaggtagaggaggaagaaatggggctgagaccccagcacatcagtgattaagtcaggatcaggtgcggtttcctgctcaggtgctgagacagcaggcggtgtcctgcaaacaacaggaggcacctgaagctagcctggggggcccacgcccaggtgcggtgcattcagcagcacagccagagacagaccccaatgaccccgcctccctgtcggcagccagtgctctgcacagagccctgagcagcctctggacattagtcccagccccagcacggcccgtcccccacgctgatgtcaccgcacccagaccttggaggccccctccggctccgcctcctgggagaaggctctggagtgaggaggggagggcagca
MYO7Aプロモーター2(配列番号18):
gtaaggatgggctgcccactgtcctgggcattgggaggggtttggatgtggaggagtcatggacttgagctacctctagagcctctgccccacagccacttgctcctgggactgggcttcctgccacccttgagggctcagccaccacagccactgaatgaaactgtcccgagcctgggaagatggatgtgtgtcccctggaggagggaagagccaaggagcatgttgtccatcgaatcttctctgagctggggctggggttagtggcatcctggggccaggggaatagacatgctgtggtggcagagagaagagtccgttctctctgtctcctttgctttctctctgacactctttatctccgtttttggataagtcacttccttcctctatgccccaaatatcccatctgtgaaatgggagtatgaagccccaacagccagggttgtagtggggaagaggtaaaatcaggtatagacatagaaatacaaatacagtctatgccccctgttgtcagttggaaaagaaattaacttgaaggtggtctagttctcatttttagaaatgaaatgtctgtctggtcattttaaaatgtggcccttaaatttcacgccctcaccactctcccccatcccttggagccccatgtctctagtgaaagcactggctctgcccccagccctcatggctcatgctggcatagggcgcctgctccacagcctgggcaccatcttcagacaagtgcccggtggcaactgcctgctggccctgttgaatccacatctccaccaggcatccagactagttcaggtctctggaaggactgtgggtttgctgtgtcccagagctccagggcaggggtcagggctcggatgtcgggcagtgtcatgggcagaggatcgaatgccccggcggctctgaatgggcccttgtgaaaaattgatgcgcattctaggagacaggttgggagccagaggggcctcataccagggtctgtaggctggggctgccttttaagctccttcctgaggccgtctctgggtctggccctgtgctggacaaggctggagacaaggcaatgtctcagaccctctcccattggccacatcctgccctggatcaactcgccaactttgggggcagaggtgggactgacccttaccctgacaacataatgcatatagtcaaaatgggataaaggggaatatagaggctcttggcagcttgggagtggtcagggaaggcttcctggaggaggtatcatctgaactgagccatgaaccataagtggaaattcactagtcaaaatttcaggtagaagggccagtgtgtgaaggccaggagatggcaagagctggcgtatttcaggaacagtgagtcactgaggatgtccaagtataagggtaggaaagggagtgagcagtgagagaaaagaccgaggcatcagcaggggccagattgtgctgggcctagcggggcgggcccgggcccgggcccaggcccaggtgcggtgcattcagcagcacagccagagacagaccccaatgaccctgcctccccgtcagcagccagtgctctgcacagagccatcctgagggcagtgggtgctcttgagaggtttcaggcagggtgtgctgtgagcaggtcatgcccagcccttgaccttctgctcagtcaggcttgtccttgtcacccacattcctggggcagtccctaagctgagtgccggagattaagtcctagtcctaaatttgctctggctagctgtgtgaccctgggcaagtcttggtccctctctgggcccctttgccgtaggtccctggtggggccagacttgctactttctaggagccctttgggaatctctgaatgacagtggctgagagaagaattcagctgctctgggcagtggtgctggtgacagtggctgaggctcaggtcacacaggctgggcagtggtcagagggagagaagccaaggagggttcccttgagggaggaggagctggggctttgggaggagcccaggtgaccccagccaggctcaaggcttccagggctggcctgcccagaagcatgacatggtctctctccctgcaga
MYO7Aプロモーター3(配列番号19):
ttctttcttgacagtttttttattctttcatcattttaaatatgccatcctactgccctctggccgccgtggtttctgatgagaaatcagccgagactcatactaacgattcgttgtatagaatgagtcacctctctgttgctgctttcaagagtctctgtctttgccacttgtggagaagaggcctattcctccagctcaagggtggtctcagtagtcgttctggaaccaggcaaggtcaggttcttagcaccttgcagggtctcccccaggggacctctctttagccaccagccgccagacttactttacaatctcttccctctctcctctgattctctgagtttgctgttccctcttcctgggatgccctttcccctaatgtctgcctaaaaaaaaaatcttaaaacccagctgtcacccctaacacgactcccttagttaaccatggctggcactcatatacatttggtctaacaggcaccaatctaggtgcattacgcatcttaacctgttaaatcctcacgagcacgtggaagcagtgtcattttgtcacctgacggatgaggaaagaaaggaacatagaggttgaggaacttgcccaaggtaacacagcttgtgagtggctgagctgggattgaaactaagccatctgactccagggtccaaactcttagtggccatgctatcctatgtctccgggactgatctgcctcttatctggtggtaccatccttatctgtgcctgggtctgtccaccacaccaggctgggagctctgaggacatgtcttgttaacagtgtcctctgtactttagtctgaacctgtactcagtgaaggtcggttatatgaactcgtggtagaatgcctggaagctcaccaccagcacttccttgtgtctgaggtctgggtcctgtcccaatgtactgctatagatgggcggggagagataggtgtgcctgttttcggcttgactgggggaaggacctctcctgagagcggtgtccctgagaggtcacaggaagtgagtgggaatcactgatcagtcagcttcgtgctggacagcagagccctgggttcccaaggctgggacagggagtggggtagaactgggcccatcctgggtggctctgagccctgtgtgaggcatcaccgtctttttcgttgccattccccccacccagtcccccgcccccactctctgccgttgttcattcgttggggagcagttggcttccaggatactaggcaatgcagagagccacaaatgcagactggaggccttgaaaagagaagaggaagaaaaaggaggaaagaggggaggaggacaaagataggcagggcaaggcgagaaggagggaatgggagaggagtcacagggcctgggccttccggaccctcgggatgggacggtggcctctggctcacagcccagcgtggaccgacgcctggtgtccagccctgtgtggctgctaggacacaggaggccagcttggcccattgcagggagagctctgagccatcgaggtggttcagctgtcctggggagttcaggggaccccacaccaggcctccaaggcctcttctgcaggatggacgtgggctgctatttgacctcgggggctgcgggaggaggacatagcctcttcaggggctttcccccaaacttaccccagaaggaaactgtatctgccctcactccccagaggcagccagggagccagaaatatcttcaatgcatctctcctttagtcttaaaaaccccgggagtttaccgcgttctagtccataacatcctcgtgtttccttccatggaaaacatagaaaaaaacatgacgattttttccaaaactgccgtcaggtgcggtgccaggtgccacgtttatcccgggcctaccgccgcggtgccagtgaagccgcctgggattccgggcaaagtggggctgtggggggttcggccgagacggagggggccggggtggcgcgggcgccccctcgccgtcccgcccgcgggcgtcacctaagccgccgttgccatgggcccgc
MYO7Aプロモーター4(配列番号20):
【0046】
一実施形態では、プロモーター又はエンハンサー配列は、MYO6プロモーター又はエンハンサーである。MYO6(又はミオシン6)プロモーター又はエンハンサーは、外若しくは内有毛細胞、前庭有毛細胞、らせん神経節、又は前庭神経節における下流ポリヌクレオチドの発現を指向するのに十分な核酸配列を含むか、又はそれからなり、かつ以下のヌクレオチド配列に対して少なくとも約85%の配列同一性を有する調節ポリヌクレオチド配列を指す。実施例は、以下の配列若しくはその機能的フラグメントを含むか、又はそれらからなり得る。例えば、米国特許出願公開第2020/0392516号を参照されたい。
MYO6プロモーター(配列番号25):
【0047】
一実施形態では、プロモーター又はエンハンサー配列は、ATOH1プロモーター又はエンハンサーである。ATOH1プロモーター又はエンハンサーは、外若しくは内有毛細胞、前庭有毛細胞、らせん神経節、又は前庭神経節における下流ポリヌクレオチドの発現を指向するのに十分な核酸配列を含むか、又はそれからなり、かつ以下のヌクレオチド配列に対して少なくとも約85%の配列同一性を有する調節ポリヌクレオチド配列を意味する。実施例は、以下の配列若しくはその機能的フラグメントを含むか、又はそれらからなり得る。例えば、米国特許出願公開第2019/0010449号を参照されたい。
ATHO1プロモーター1(配列番号21):
aaagttctacttaagcatctacagctactagcaattattttctcaagaagcacattttatatggtagcactatttatagtaacagcattattagtcgatttcaataacacccacttcaatcaccaaacggagaattttctgcccaaaaaaaaaaaaatacattagatggccttttctttttctttgttctcatggatggttttcagattaggtttgttttttgttgttgcttttgtgtgtctttaacatttatttcagcagagcccaaacattcacacaagaataaagctctgaagtttctggcacgtaagatacgcccaagactattcctagacaccagcaaacagacgaggttgaagaagaaacaggtgaagaataatgtcttaaacatcattttagcaccctattctgccattctgtatctttataggatatgtccagtccagtcccagaaaatctactgcccaaggagttctagatgacaggttagatcaagccccggcaaatgtttgcgaaaacaacattcaactgcctctggacattgcaaagacatattccagggagctatctcttgggctcttttttaacatctctcctagaggatgagactcctttcgggattacagccactgggaaagtaaaagcaacagtagcatcaacaggttgcatcgcactcccgcgccccaggggcggtgcaggagagcgcccggagccagagccagggcgcgctgggcgcaagctggggcgcgcccagggccaatgagcttctgattggctctttgctgtgaatagactaggccgaggctaataggaccggagggggcgttcacctgggaattggcctcccccccttgccaaggacctccctgattgtatggggcggagtggggtgggggtgggggctggaaaggggaagcccaccctaactaaacggaggggcgggaggaggttaaactgaggaagccacgagcccgcagtaaagagagggcgatcgaggcaaaagggtaggtaacttgggacttctgtgccttgaaagtgttaaggattgcagggaatgcaggcgcctttcattttactttgggcaccctcccctggctgggcatttaatgaggagtcctactgtgtgtgttgaaactctgcataataccgtaaaatattctggccctaaattacactcaacggagagatttaggcagattacaatcctaattggccgcagggtgctggggaaaggggacagagagaattgggggatctggaatttggtgtgctatcactacaccgcagctctattttccattaagaaaaagatcatatgacgaagtcgaactaagagatctgaagtaaaaaatgaaaagatggagcaaaagtaagaaacatactctgagacgagtgggttttccccctttattccaacagcaatcttaaatgatggacgtcatgtagcagttatatatctatgaacatgcatgagagatttataaatacctgcatacataaatacaaacatcctattatacatgagaaatcgtaaatgcttgggcatcagaagtgggagctgtgatcctagcttgggggcagcacagggtaggcggccttctctctgctttgagtggcttctgggcgcctggcgggtccagaatcgcccagagccgcccgcggtcgtgcacatctgacccgagtcagcttgggcaccagccgagagccggctccgcaccgctcccgcaccccagccgccggggtggtgacacacaccggagtcgaattacagccctgcaattaacatatgaatctgacgaatttaaaagaaggaaaaaaaaaaaaaaacctgagcaggcttgggagtcctctgcacacaagaacttttctcggggtgtaaaaactctttgattggctgctcgcacgcgcctgcccgcgccctccattggctgagaagacacgcgaccggcgcgaggagggggttgggagaggagcggggggagactgagtggcgcgtgccgctttttaaaggggcgcagcgccttcagcaacc
ATHO1プロモーター2(配列番号22):
【0048】
一実施形態では、プロモーター又はエンハンサー配列は、SIX1プロモーター又はエンハンサーである。SIX1プロモーター又はエンハンサーは、外若しくは内有毛細胞、前庭有毛細胞、らせん神経節、又は前庭神経節における下流ポリヌクレオチドの発現を指向するのに十分な核酸配列を含むか、又はそれからなり、かつ以下の配列若しくはGH14J060640のヌクレオチド配列に対して少なくとも約85%の配列同一性を有する調節ポリヌクレオチド配列を指す。実施例は、対応する配列若しくはその機能的フラグメントを含み得るか、又はそれからなり得る。
SIX1プロモーター(配列番号23):
ggcaattggggaggaggaaggcattgggagaaaacaacccgaaggaaaaagaagctggctctttgcaatgggagaaggggttcactcctgaactaggggcaggcctgcgcctgggcggacgctgtagggtgggaacgctcgataactggagagtcccagagaccaccaggcctttccgcaccaggaaaaaaaaaaaaaatctgctctgagaatcttcatctcggtccaccagggtgagtttgggcctggaaaatgggggaaagaaaagagagtagcgaaaggttttcgggttgcggcgccccgcgtgcagacgtctgctctccccagccgcccagcctgctgtggcagccacgctgtgcgcgtgtctttatccttcagttcaaaccagcccccacatcttgaagtaatcagcagccgagaagagacttgtccccctggcatctcaggttaaagaaggaggtccaggaaaatgtggtagagccattacaagaaacccgagccgcagtcatcagggactccaattgccatcgcattaggattgattagagaccagcagtaccgtaatgacccggaaagaggggcagccggggattattaatatcagaatgcgggggtggggggggagtgggtgggcaaagtgggtagggagaagtttcaaattactaggatttatatgtaagtgcaggtttacctgaggaaaccagatagtcagtgaatcacgctaacgataaatctaattgcatttcaaatttcacgaagcctgatttttttggagagtggagtaaaaccatcatgaaaccaagccaatatcttagtttttataaacacatagttttataagcttattgtaagaattcaagtgaagagatggggaggggtgctaaatgtctgctttccttgtcactgggcctccttaccatttggactccaaatagcttgatttttcttctcgtgggagtacatttttgagtcgctttggttcttccctccagggatatggggcaatggagtggacattttttcagagcctgcagaggagtaataaaccaaaatttaagtgaagcagtgatacctgggtagtggtttttgttttttgttttgttgaagacatgaatgatcaggatcccaaggagatgtggagaagagtggtttgtctccttcctccaaatatgagccaaaacaaatcagcccctgatggtctgggctgaaatgcagctcactggataattaactccatctttccagtccaccctaactgtttatttagtgtcaccctgcattaccgtcactagcactttcctctgaacaggaggagctgcaggctttcacctcccaaaaggaaattctttttagcttagacagatgtggtattcaggatgtacataagttgagaaaaaaaagttgattggaaattcaatggaagatagcggttttggagagtttcatttcataaacctgccctaaggagacattttaaaaaacagggaatggggggtggggcgcagagtccctttaattcttaagaattgtttcttgtgacaccttggctccactttccagagaggtagttggcatctgatgttgagtagggtcttctagctcaaacctggcgattggtcagagctttctcagagggcaatttgttaacccttttctcccctaggtggccaatacacctttgcccgccctccgtgcaggctacaccatctattgcccgccctccactccctgtgaaaggttctcgccaagtaaggcctactacaccgcccagacttgagggtctactttcaagagaacttacctgcgctgcctcagtgggtgacataagcacactctgtgaaacctcacagcgcccagtcccggagagaaaaaaacgagcgcccagagccgaggggaagggagagggagggaaggaggaagaaagaggaggatgagaagaggaagaggaaaaacaatgagaaagaagagagagagataaggagagagaatgagaaacaggttcacatacagacagaatgaacgagcgtcctctttcagatggagaaaagagttagagacacactctgggaaagacctgccacggggacacacgtagagggagagagagaataactcttccaaagacacacaccccagctctgttcccctccagtctgagctccctcccagtgcttgaccctcagtcggtccatcagtctgtgtgtgtttctctctttctcccttccctgacctcgagacaatacggagatggtattttcgggagccgcgcggggcggcagggttttcagcggcgagccaggctcacagctggctctgtttgtccaggtgtgggcggtggaggtggtggggggcgtcagtcgccctgaatcttgggccagcgcagcgttttcgcaccaaagaagtaggaggctctgctctcgagcttcccgcttccaggagaaaacttcctccctccatacatacataaatacacttggggaagagacaaatcttcattgttcagaaataagctgaggaggcccgcctgctcccctcagccaggcagagcgaggcagggagggaggcgggggccgcgcggatccggtgtcacgttgcagattcccactaaagataacgaaacgtgatctatttttcagaacagcaagtggatgggaaagaaccttgacaacacaaaactcatttactaatggactggttttgggtttctcttctctgagtccgcaaatctctctgcctgagccccaggcctattcagacctcgcggggagcggcgtcccccaggagcaggtgggctgctgctccggcgccacgccggccatcggagccggagttcccaagggtcgagggcacccggagtttccgactaagcagaggaaaaagaattttggcacttcagccggatttggggagtctccgcactgccccagagcgatgacacgaatttattgaagaaacacctctctatgccctccctttccaaatatttgtaggtagagtagaatcctcaccgtcgttctggatggtgaaagaattccaagaaagcggcccgggagcccctaactatcttgctacaagccagaagggaaacaagtgggtcccagctaggggtgtttgcatcaaggcctgtcaacccagccgagaaaccctagcaacagctaatgctgtcccactgaatgctttttcatcgactaaagcgcacgcggccgttacctgcacagaggaggcactggagagccgaaacctggcatcgggcgctccttgccagcggtgttccctcccgagccgcgctgcagcgagggcagcagccggctggctagagttgctcatttcctttaaatctccaacgcatctctgcttttcgtgcgatttgcattgacagcaaaggttttatgttacgagaacaactcaaacctttctgtgtgcgatttaaaatggatcatttagtttaggtggtttgtaaattcatgtcattttacctctttcagcggttttcagtgaaaggttccattttgggaaaccttatatatccgagccaataattaacatttataacaattggttcccctaaccgagggatcgaaatagcaggtagactccttggtataaagcgcatagcactttccctttccagttacgcgatctattggattaagcgggaggaaaaatgttggccggcccagtcacggcctccgaggaagagcacctcttttctgcccgggttcccgcaatcacaccttctacacgtcgtcttcccagatgacggcaatgtagtacgtcctggttccttttgaagacagataaaaagaaatgggcaggtaggtctggaggaagccgggaaaaaaaggtggtcctatttgtgtctaattgccatctctgctgtcatcctctgtaaatttatacctgcccttatttgtgcaggctatgcctcatttccttatacaaaattgttaattacaaagcacaccccatactcaacatactgtttgtcttttaagagacgtggttgtgcttaaagaccctccccccattgtaattgtgcgcacttgctccagactttagggtattaactgatttttagagccgggtttaagcctccgttccggtcctcacacagctgccatgtcaataaggactgtttcaagcagaggcattccttctgggagggcactgcagctccttaagacttcatgtgaaacatcataagcactaaaataagacagtgaggggaaattaccagacatggctctgggtttagcagtgccaggcttccagtttagaaagtcattgggcatactatatggcagaggctcttttgaaagcatgcacacctattaaatgcatttttttaaaaaaaaagcctaaggtaatgaaatatcagcatctgcttccaagatctaattgcatggaataagcaagagtttcaaggatgcagaaaacattatgttcagcagagaagcagcttcctgtctacttggaatctcccatgtggcagccctgaggtgggaaccctttatgagtttagaatgtatgttgcagggtgcactgtactgggtgcatcattttaaaaccatattaataataaaagaggaaaccaagacatgcttctccttctcccacttgcatctcaatatgcaaaaggttctgtagtgctgggctctttggctaaaggaatcaaaacatatttgaagaagacaagccagtttaaggagcctacagtttgttcttcaccactcactaagagggcacattgaaatcaaaagcatttttgaagtgtacttagaattctgttttgaacttatctaatcagagataagtatagtcataaagtcactctccttccaccatttggcttcccttatctccacgcattgttcttatctcctgctagtctcagctactgacaatagattatctttgtttagagaggctaattgttttcaaaatccttttaattattgctttggaactaggtgtgcaaatgaggcttaagataattacaa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【0049】
一実施形態では、プロモーター又はエンハンサー配列は、SOX21プロモーター又はエンハンサーである。SOX21プロモーター又はエンハンサーは、外若しくは内有毛細胞、前庭有毛細胞、らせん神経節、又は前庭神経節における下流ポリヌクレオチドの発現を指向するのに十分な核酸配列を含むか、又はそれからなり、かつ以下の配列若しくはGeneHancer(GH)識別子GH13J094705のヌクレオチド配列に対して少なくとも約85%の配列同一性を有する調節ポリヌクレオチド配列を指す。実施例は、対応する配列若しくはその機能的フラグメントを含み得るか、又はそれからなり得る。
SOX21プロモーター(配列番号24):
ataaatcgtaggaagacttaaagagttaaccgtttgtagatgttcctacttgcacataccacagggctaggtcaaatccaaactgccaaagaaagaaggcaagcaagttctccctgaagggcaggccaccatgtgaataaaacctccagacagatcatgttctaaatgtgccgcagcataccaaaaagtgaggaaaatacggaaacagaatcatgctgtttgacttctgcatcgtgttaactattttttttaaaaaactgctctaactactaaagaaggaaattatgcttagcataaaaatattccagcactgagtgattggtacgttttacttctctcttccagggaaactacttacacttattgattttaaacaccttcacctcagcagcgcatgtaagtgagacactgtaagttaactgtaccttaaagagatcagtatatagatggttctggcgaccaagattacaacaaaagacaaacaacacagaatttttaaagagctgaatagtcagtcaaggatgcatactctcagtctgggctagctcttttttggaaaggttgccaagaatgtccttattccctccagagttatttttcactccactacctctgactaggtgcatcgccagtgcaagaaaatgcgagaagcctctgtttctgttgcaagcaacacctggacctccaaggaaaatgagcactttcttgctaggaacagtctcaaacattttcaagggtgagtctccccttctccaggtttaaccctcttcctccgtagctggagaggctctcctactcgtgcccgccgccttcttcctcccggcgaggattccagggccacaaccagggcagctgcacgccaggccggcctgggtagccgggatgacaccagggtttgccaacgccaaacagggcgcagactccccggcgcgctccggactctccactcgcctaaacctgctctcaagtgaaaaggagtgggaggaggaggattgggagggggcggggggcggaggggatctgttaattcgaggtcctgggggtgtgggagcgggaggcggctccgctgatccctcctccctccccgagtcctgggctccacctcctccgcaggcccccagatatacacacacagccgcggctggacatgcacacccagtgccggctccgggcgcgcacacatgcaggtagccacactcacctgagccggtgcagagggcggcctgggctgggaaggggccccctgcgccgcgggagtggggagagcgggaggtgccacagcgcggacctgcgaactgaggtgatggcccgttttccttaactctcctgcagcacctccgcccctgcgccggctcggctctggccacagcagcgaggacagaggggccccgggcgcggcggactcgcgggcgcacgctcccaggagcgcgccgagaggggcgccgcggcgcaggaaacttgggcgaagttagttgcaagtgccaggcggctgccgagaagagcgaggcggggacgcggccggtgccaggcctgcggcgccgcgtggaggctgcgctgccctccgcggccggcgagctccgggagccctaagtcggcaggcgcgcctgaaggggctcggagcgaacagagccggcatggcccaggggacggccggacgcggctcctcggcgagccgggagaacttcctctgaggccgggcgaccaacgcttgctcaagcctcatccaccctccttcctcgccccacccgtcagtccagcagcgggagaggaagactcgagaggcaggtgctgcgggggacagctcccccctccaaaaaaaaaaaatcacccagccgattgggggtttcccatcggcgcaccctgcccggagccaagaagacaggctggtgctgctgtatttgtatttatatccattgctgcgctctgcgttctcgtggcacgcctggacactcctccgcctccccctcctcttcctcctccagggccacctccccgccttccccacccccatctgcttctgtcaaatgagaaagtcaccgaggagaaccc
【0050】
ウイルスベクター
任意の好都合なウイルスが、対象に関心対象のベクターを送達する際に利用され得る。関心対象のウイルスとしては、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、単純ヘルペスウイルス、及びレンチウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。ウイルス遺伝子治療ベクターは、当該技術分野において周知であり、例えば、Heilbronn&Weger(2010)Handb Exp Pharmacal.197:143-70を参照されたい。関心対象のベクターとしては、レトロウイルス、アデノウイルス(AdV)、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レンチウイルス、ポックスウイルス、アルファウイルス、及びヘルペスウイルスに基づくものなどの組み込み型及び非組み込み型ベクターが挙げられる。
【0051】
いくつかの場合には、AAVなどの非組み込み型ウイルスベクターが利用され得る。一態様では、非組み込み型ベクターは、任意の恒久的な遺伝子改変を引き起こさない。ベクターは、対象が発達の初期段階から構成的発現の影響を受けることを回避するために、成人組織を標的とし得る。場合によっては、非組み込み型ベクターは、導入遺伝子発現細胞の過剰増殖を回避するための安全機構を効果的に組み込む。細胞が急速に増殖し始めると、ベクター(及び結果としてのタンパク質発現)を失う可能性がある。
【0052】
関心対象の非組み込み型ベクターとしては、腹なし(gutless)アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、インテグラーゼ欠損レンチウイルス、ポックスウイルス、アルファウイルス、及びヘルペスウイルスなどのアデノウイルス(AdV)に基づくものが挙げられる。特定の実施形態では、使用される非組み込み型ベクターは、天然のアデノ随伴ウイルス粒子と同様の、アデノ随伴ウイルスベースの非組み込み型ベクターである。アデノ随伴ウイルスベースの非組み込み型ベクターの例としては、任意のAAV血清型、すなわち、AAVI、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVIO、AAVII、及びシュードタイプAAVに基づくベクターが挙げられる。関心対象のベクターには、免疫原性が低く、優れた安全性プロファイルを有する、高効率で広範囲の組織を形質導入することができるベクターが含まれる。いくつかの場合には、ベクターは、有糸分裂後細胞を形質導入し、関連する障害の小動物モデル及び大動物モデルの両方において長期的な遺伝子発現(最大数年)を維持することができる。
【0053】
医薬組成物
本明細書に説明されるポリヌクレオチド又はベクターは、感音性聴力損失及び/又は前庭機能障害に罹患しているヒト患者などの患者への投与のためのビヒクルに組み込まれ得る。治療用導入遺伝子に作動可能に連結された本明細書に説明されるポリヌクレオチドを含有する、ウイルスベクターなどのベクターを含有する医薬組成物は、当該技術分野で既知の方法を使用して調製することができる。例えば、そのような組成物は、例えば、生理学的に許容される担体、賦形剤、又は安定剤を使用して(Remington:The Science and Practice of Pharmacology第22版、Allen,L.Ed.(2013);参照により本明細書に組み込まれる)、並びに所望の形態で、例えば、凍結乾燥製剤又は水溶液の形態で調製することができる。
【0054】
本明細書に説明されるポリヌクレオチドを含有する核酸ベクター(例えば、ウイルスベクター)の混合物は、1つ以上の賦形剤、担体、又は希釈剤と好適に混合された水で調製され得る。分散剤はまた、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、及びそれらの混合物中で、並びに油中で調製され得る。保管及び使用の通常条件下で、これらの調製物は、微生物の増殖を防止するための防腐剤を含有し得る。注射用途に好適な医薬形態には、無菌水溶液又は分散液、及び無菌注射溶液又は分散液の即時調製用の無菌粉末が含まれる(米国特許第5,466,468号に説明され、その開示は参照により本明細書に組み込まれる)。いずれの場合も、製剤は、無菌であり得、容易な注射可能性が存在する程度に流動性であり得る。製剤は、製造及び保管の条件下で安定であり得、細菌及び真菌などの微生物の汚染作用に対して保護され得る。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコールなど)、それらの好適な混合物、及び/又は植物油を含有する溶媒又は分散媒体であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用によって、分散の場合は必要な粒径の維持によって、及び界面活性剤の使用によって維持され得る。微生物の作用の防止は、様々な抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによって引き起こすことができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖又は塩化ナトリウムを含むことが好ましい。注射可能な組成物の持続的吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンの組成物における使用によって引き起こすことができる。
【0055】
例えば、本明細書に説明される医薬組成物を含有する溶液は、必要に応じて好適に緩衝され得、液体希釈剤は、最初に十分な生理食塩水又はグルコースで等張にされ得る。これらの特定の水溶液は、大槽内、髄腔内、静脈内、筋肉内、皮下、及び腹腔内投与に特に好適である。これに関連して、用いることができる無菌水性媒体は、本開示に照らして当業者に既知である。例えば、一用量は、1mlの等張NaCl溶液に溶解され、1000mlの皮下注射液に添加されるか、又は提案された注入の部位に注射され得る。投与量におけるいくつかの変動は、治療される対象の状態に応じて必然的に生じる。内耳への局所投与のために、組成物は、合成ペリリンフ溶液を含有するように製剤化され得る。例示的な合成ペリリンフ溶液は、約6~9のpH及び約300mOsm/kgの浸透圧を有する、20~200mMのNaCl、1~5mMのKCl、0.1~10mMのCaCl.sub.2)、1~10mMのグルコース、及び2~50mMのHEPEを含む。投与についての責任者は、いずれにせよ、個々の対象に適切な用量を決定する。更に、ヒト投与の場合、製剤は、FDA生物製剤標準局(FDA Office of Biologics standards)によって要求される無菌性、発熱性、一般的安全性、及び純度標準を満たし得る。
【0056】
医薬組成物は、典型的には、必要に応じて、液体、半固体(例えば、ゲル)又は固体(例えば、マトリックス、足場など)として製剤化される。液体組成物は、標的組織(例えば、内耳)への薬剤、化合物、細胞、又は組成物の送達を達成するために、当該技術分野で既知の任意の許容される経路による投与のために製剤化することができる。典型的には、これらは、ポンプデバイスを用いる又は用いない頭蓋内若しくは椎骨内針及び/若しくはカテーテルを介する送達による、眼内、脳内、脳室内(intraventricular)、脳室内(intracerebroventricular)、髄腔内、大槽内、脊髄内及び/又は脊髄周囲の投与経路を含むがこれらに限定されない投与経路による、びまん性様式で、又は疾患若しくは苦痛の部位を標的にした、CNS又はPNSへの注射又は注入を含む。注射又は注入されると、薬剤、化合物、細胞、又は組成物は、関心対象の部位に移動し得る。
【0057】
治療方法
いくつかの実施形態では、本開示は、それぞれ、内耳細胞、例えば、蝸牛有毛細胞又は前庭有毛細胞の損傷又は損失に関連付けられた聴力損失又は平衡感覚損失を治療するための新規の治療戦略を提供する。
【0058】
本明細書に説明される組成物は、感音性聴力損失及び/又は前庭機能障害を有する対象に、内耳への局所投与(例えば、楕円形の窓、丸い窓、又は半円形の管(例えば、水平管)を介した、髄腔内、楕円形の窓、円形の窓、又は半円形の管(例えば、蝸牛又は前庭有毛細胞への投与)を介した、外耳内、非経口、経皮、筋肉内、鼻腔内、皮下、経皮、気管内、腹腔内、動脈内、血管内、吸入、灌流、洗浄、及び経口投与などの様々な経路によって投与され得る。任意の所与の症例における投与のための最も好適な経路は、投与される特定の組成物、患者、医薬製剤方法、投与方法(例えば、投与時間及び投与経路)、患者の年齢、体重、性別、治療される疾患の重症度、患者の食事、及び患者の排泄速度に依存する。組成物は、1回、又は2回以上(例えば、毎年1回、毎年2回、毎年3回、隔月、又は毎月)投与され得る。
【0059】
本明細書に説明されるように治療され得る対象は、感音性聴力損失及び/若しくは前庭機能障害を有するか、又は発症するリスクがある対象(例えば、聴力損失、前庭機能障害、若しくはその両方を有するか、又は発症するリスクがある対象)である。本明細書に説明される組成物及び方法は、蝸牛有毛細胞に対する損傷(例えば、音響外傷、疾患若しくは感染症、頭部外傷、耳毒性薬物、若しくは老化に関する損傷)を有するか、若しくは発症するリスクがある対象、前庭有毛細胞に損傷(例えば、疾患若しくは感染症、頭部外傷、耳毒性薬物、若しくは老化に関連する損傷)を有するか、若しくは発症するリスクがある対象、感音性聴力損失、難聴、若しくは聴覚神経障害を有するか、若しくは発症するリスクがある対象、前庭機能障害(例えば、めまい、空間識失調、若しくは平衡失調)を有するか、若しくは発症するリスクがある対象、耳鳴り(例えば、単独の耳鳴り、又は感音性聴力損失若しくは前庭機能障害に関連付けられた耳鳴り)を有する対象、聴力損失及び/若しくは前庭機能障害に関連付けられた遺伝子変異を有する対象、又は遺伝性聴力損失、難聴、聴覚神経障害、耳鳴り、若しくは前庭機能障害の家族歴を有する対象を治療するために使用することができる。いくつかの実施形態では、対象は、有毛細胞(例えば、蝸牛又は前庭有毛細胞)の損失に関連付けられるか、又はそれに起因する聴力損失及び/又は前庭機能障害を有する。本明細書に説明される方法は、本明細書に説明される組成物の治療又は投与の前に、聴力損失又は前庭機能障害に関連付けられることが既知の遺伝子における変異について対象をスクリーニングするステップを含み得る。対象は、当業者に既知の標準的な方法(例えば、遺伝子検査)を使用して、遺伝子変異についてスクリーニングすることができる。本明細書に説明される方法はまた、本明細書に説明される組成物の治療又は投与の前に、対象における聴覚及び/又は前庭機能を評価するステップを含み得る。聴覚は、聴力検査、聴性脳幹反応(auditory brainstem response、ABR)、蝸電図検査(electrocochleography、ECOG)、及び耳音響放射などの標準的な試験を使用して評価することができる。前庭機能は、Mancini and Horak,Eur J Phys Rehabil Med,46:239(2010)に説明されているものなどの、眼球運動試験(例えば、電気眼振図(electronystagmogram、ENG)又はビデオ眼振図(videonystagmogram、VNG))、重心動揺検査、回転椅子試験、ECOG、前庭誘発筋電位(vestibular evoked myogenic potentials、VEMP)などの標準的な試験を使用して評価され得る。本明細書に説明される組成物及び方法はまた、聴力損失及び/又は前庭機能障害を発症するリスクがある患者、例えば、聴力損失又は前庭機能障害(例えば、遺伝性聴力損失又は前庭機能障害)の家族歴を有する患者、まだ聴力損失又は前庭機能障害を示さない聴力損失又は前庭機能障害に関連付けられた遺伝子変異を有する患者、又は後天性聴力損失(例えば、疾患若しくは感染症、頭部外傷、耳毒性薬物、若しくは加齢)又は前庭機能障害(例えば、音響外傷、疾患若しくは感染症、頭部外傷、耳毒性薬物、若しくは加齢)の危険因子に曝露された患者に対する予防的治療として投与され得る。
【0060】
本明細書に説明される組成物及び方法は、対象における有毛細胞の再生(例えば、蝸牛及び/又は前庭有毛細胞の再生)を促進又は誘導するために使用することができる。有毛細胞再生を促進又は誘導する組成物から利益を受け得る対象としては、有毛細胞の損失(例えば、外傷(例えば、音響外傷若しくは頭部外傷)に関する有毛細胞の損失、疾患若しくは感染症、耳毒性薬物、又は老化)の結果としての聴力損失若しくは前庭機能障害に罹患している対象、並びに異常な有毛細胞(例えば、正常な有毛細胞と比較して適切に機能しない有毛細胞)、損傷した有毛細胞(例えば、外傷(例えば、音響外傷若しくは頭部外傷)に関連する有毛細胞損傷、疾患若しくは感染症、耳毒性薬物、又は老化)、あるいは遺伝子変異若しくは先天性異常による有毛細胞数の低減を有する対象が挙げられる。本明細書に説明される組成物及び方法はまた、有毛細胞の生存を促進又は増加させる(例えば、損傷した有毛細胞の生存を増加させる、損傷した有毛細胞の修復を促進する、又は有毛細胞の損失(例えば、年齢による有毛細胞の損失、大きな騒音、疾患若しくは感染、頭部外傷若しくは耳毒性薬物への曝露)のリスクがある対象における有毛細胞を保存する)ために使用することができる。
【0061】
本明細書に説明される組成物及び方法はまた、耳毒性薬物で治療された対象、又は現在耳毒性薬物で治療を受けているか、又はすぐに治療を開始する対象における耳毒性薬物誘発性有毛細胞損傷又は死(例えば、蝸牛及び/又は前庭有毛細胞損傷又は死)を予防又は低減するために使用することができる。耳毒性薬物は、内耳の細胞に対して有毒であり、感音性聴力損失、前庭機能障害(例えば、空間識失調、めまい、又は平衡失調)、耳鳴り、又はこれらの症状の組み合わせを引き起こす可能性がある。耳毒性であることが見出されている薬物としては、アミノグリコシド抗生物質(例えば、ゲンタマイシン、ネオマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシン、カナマイシン、バンコマイシン、及びアミカシン)、ビオマイシン、抗腫瘍薬(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、及びオキサリプラチンなどの白金含有化学療法剤)、ループ利尿薬(例えば、エタクリン酸及びフロセミド)、サリチル酸塩(例えば、特に高用量で、アスピリン)、及びキニンが挙げられる。いくつかの実施形態では、本明細書に説明される方法は、音響外傷、疾患若しくは感染症、頭部外傷、又は老化に関する有毛細胞損傷若しくは死を予防又は低減する。
【0062】
本明細書に説明される対象の治療のためにプロモーター又はその機能部分若しくは誘導体に作動可能に連結された導入遺伝子は、健康な有毛細胞(例えば、蝸牛及び/又は前庭有毛細胞、例えば、有毛細胞の発達、機能、細胞運命の特定、再生、生存、若しくは維持において役割を果たすタンパク質、又は感音性聴力損失及び/若しくは前庭機能障害を有する対象において欠損しているタンパク質)又は他の関心対象の治療用タンパク質で発現されるタンパク質をコードする導入遺伝子であり得る。導入遺伝子は、対象の聴力損失又は前庭機能障害の原因(例えば、対象の聴力損失又は前庭機能障害が特定の遺伝子変異に関連付けられている場合、導入遺伝子は、対象において変異された遺伝子の野生型であることができるか、又は対象が有毛細胞の損失に関連付けられた聴力損失を有する場合、導入遺伝子は、有毛細胞の再生を促進するタンパク質をコードすることができる)、対象の聴力損失又は前庭機能障害の重症度、対象の有毛細胞の健康状態、対象の年齢、対象の聴力損失又は前庭機能障害の家族歴、又は他の因子に基づいて選択され得る。本明細書に説明される対象の治療のために本明細書に説明されるプロモーターに作動可能に連結された導入遺伝子によって発現され得るタンパク質としては、VGLUT3、MYO7A(USH1B)、USH1C、CDH23、PCDH15(USH1F)、SANS(USH1G)、USH2A、ADGRV1/VLGR1、WHRN(DFNB31)、USH3A(CLRN1)、HARS、Cx26(GJB2)、Cx30(GJB6)、Cx29(GJC3)、Cx31(GJB3)、ACTG1、FSCN2、RDX、POU4F3、TRIOBP、TPRN、XIRP2、ATOH1、GFI1、CHRNA9、CIB3、CDH23、PCDH15、KNCN、DFNB59、OTOF、MKRN2OS、LHX3、TMC1、MYO15、MYO7A、MYO6、MYO3A、MYO3B、GRXCR1、PTPRQ、LCE6A、LOXHD1、ART1、ATP2B2、CIB2、CACNA2D4、CABP2、EPS8、EPS8L2、ESPN、ESPNL、PRPH2、STRC、SLC8A2、ZCCHC12、LRTOMT2、LRTOMT1、USH1C、ELFN1、TTC24、DYTN、KCP、CCER2、LRTM2、KCNA10、NTF3、CLRN1、CLRN2、SKOR1、TCTEX1 D1、FCRLB、SLC17A8、GRXCR2、BDNF、SERPINE3、NHLH1、HSP70、HSP90、ATF6、PERK、IRE1、BIP、GJB2、及びUSH1Gが挙げられる。
【0063】
治療は、本明細書に説明されるプロモーターを含有する核酸ベクター(例えば、AAVウイルスベクター)を含有する組成物を様々な単位用量で投与することを含み得る。各単位用量は、通常、所定量の治療用組成物を含有する。投与される量、並びに特定の投与経路及び製剤は、臨床分野の当業者の技術範囲内である。単位用量は、単回注射として投与される必要はないが、一定期間にわたる連続注入を含み得る。投与は、内耳(例えば、蝸牛)への損傷を最小限に抑えるために、注入速度を制御するためにシリンジポンプを使用して実行され得る。核酸ベクターがAAVベクター(例えば、AAV1、AAV2、AAV2quad(Y-F)、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、rh10、rh39、rh43、rh74、Anc80、Anc80L65、DJ/8、DJ/9、7m8、PHP.B、PHP.eb、又はPHP.Sベクター)である場合、ウイルスベクターは、例えば、1μL~200μL(例えば、1、2、3、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、又は200μL)の容量にて、約1×1010ベクターゲノム(VG)~1×1015VGの用量で患者に投与され得る。
【0064】
本明細書に説明される組成物は、聴力を改善し、前庭機能を改善し(例えば、平衡感覚を改善し、又はめまい若しくは空間識失調を低減し)、耳鳴りを低減し、導入遺伝子によってコードされる治療用タンパク質の発現を増加させ、導入遺伝子によってコードされる治療用タンパク質の機能を増加させ、有毛細胞損傷を予防若しくは低減し、有毛細胞死(例えば、耳毒性薬物誘発性有毛細胞死、加齢性有毛細胞死、又は騒音(例えば、音響外傷)関連有毛細胞死)を予防若しくは低減し、有毛細胞発達を促進若しくは増加させ、有毛細胞数を増加させ(例えば、有毛細胞再生を促進若しくは誘導し)、有毛細胞生存を増加若しくは促進し、又は有毛細胞機能を改善するのに十分な量で投与される。聴力は、標準的な聴力試験(例えば、聴力検査、ABR、蝸電図検査(ECOG)、及び耳音響放射)を使用して評価され得、治療前に得られた聴力測定値と比較して、5%、又はそれ以上(例えば、5%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、125%、150%、200%、若しくはそれ以上)改善され得る。前庭機能は、平衡感覚及び空間識失調についての標準試験(例えば、眼球運動試験(例えば、ENG又はVNG)、重心動揺検査、回転椅子試験、ECOG、VEMP、及び専門的臨床平衡感覚試験)を使用して評価され得、治療前に得られた測定値と比較して、5%、又はそれ以上(例えば、5%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、125%、150%、200%、若しくはそれ以上)改善され得る。いくつかの実施形態では、組成物は、発話を理解するための対象の能力を改善するのに十分な量で投与される。本明細書に説明される組成物はまた、感音性聴力損失及び/又は前庭機能障害の発症若しくは進行を減速若しくは防止するのに十分な量で投与され得る(例えば、聴力損失若しくは前庭機能障害に関連付けられた遺伝子変異を保有する対象、聴力損失若しくは前庭機能障害(例えば、遺伝性聴力損失若しくは前庭機能障害)の家族歴を有する対象、又は聴力損失若しくは前庭機能障害に関連付けられた危険因子(例えば、耳毒性薬物、頭部外傷、音響外傷、若しくは感染症)に曝露されたが、聴力損失若しくは前庭機能障害(例えば、空間識失調、めまい、若しくは平衡失調)を示さない対象、又は軽度から中程度の聴力損失若しくは前庭機能障害を示す対象において)。対象に投与される核酸ベクターにおいて、本明細書に説明されるプロモーターに作動可能に連結された導入遺伝子によってコードされる治療用タンパク質の発現は、免疫組織化学的検査、ウエスタンブロット分析、定量的リアルタイムPCR、又はタンパク質若しくはmRNAの検出のために当該技術分野で既知の他の方法を使用して評価され得、本明細書に説明される組成物の投与前の発現と比較して、5%、又はそれ以上(例えば、5%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、125%、150%、200%、又はそれ以上)増加され得る。対象に投与される核酸ベクターによってコードされる治療用タンパク質の有毛細胞数、有毛細胞機能、又は機能は、聴力試験又は前庭機能の試験に基づいて間接的に評価され得、本明細書に説明される組成物の投与前の治療用タンパク質の有毛細胞数、有毛細胞機能、又は機能と比較して、5%、又はそれ以上(例えば、5%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、125%、150%、200%、又はそれ以上)増加され得る。有毛細胞損傷又は死は、未治療の対象において典型的に観察される有毛細胞損傷及び死と比較して、5%、又はそれ以上(例えば、5%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、125%、150%、200%、又はそれ以上)低減され得る。これらの効果は、例えば、本明細書に説明される組成物の投与後、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、15週間、20週間、25週間、又はそれ以上以内に生じ得る。患者は、治療のために使用される用量及び投与経路に応じて、組成物の投与後、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、又はそれ以上で評価され得る。評価の結果に応じて、患者は、追加の治療を受け得る。
【0065】
キット
本明細書に説明される組成物は、感音性聴力損失又は前庭機能障害の治療の際に使用するためのキットにおいて提供することができる。組成物は、本明細書に説明されるポリヌクレオチド又はそのようなポリヌクレオチドを含有する核酸ベクターを含み得る。核酸ベクターは、AAVウイルスカプシド(例えば、AAV1、AAV2、AAV2quad(Y-F)、AAV6、AAV9、Anc80、Anc80L65、DJ/9、7m8、又はPHP.B)にパッケージ化され得る。キットは、医師などのキットの使用者に、本明細書に説明される方法を実行するように指示する添付文書を更に含むことができる。キットは、任意選択で、組成物を投与するためのシリンジ又は他のデバイスを含み得る。
【0066】
定義
「ポリペプチド」及び「ペプチド」という用語は、一本鎖におけるアミノ酸残基のポリマーを指すために本明細書において互換可能に使用される。本用語はまた、1つ以上のアミノ酸残基が対応する天然に存在するアミノ酸の人工的な化学的模倣体であるアミノ酸ポリマー、並びに天然に存在するアミノ酸ポリマー及び天然に存在しないアミノ酸ポリマーに適用される。アミノ酸ポリマーは、完全にL-アミノ酸、完全にD-アミノ酸、又はLアミノ酸とDアミノ酸の混合物を含み得る。本明細書で使用される「タンパク質」という用語は、ポリペプチド若しくは一本鎖ポリペプチドの二量体(すなわち、2つ)若しくは多量体(すなわち、3つ以上)のいずれかを指す。タンパク質の一本鎖ポリペプチドは、共有結合、例えば、ジスルフィド結合、又は非共有結合相互作用によって連結され得る。
【0067】
「核酸」という用語は、糖、リン酸、及びプリン若しくはピリミジンのいずれかである塩基を含有するモノマー(ヌクレオチド)から構成される、一本鎖又は二本鎖形態のいずれかのデオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチド及びそれらのポリマーを指す。別途限定されない限り、本用語は、参照核酸と同様の結合特性を有し、天然に存在するヌクレオチドと同様の方法で代謝される天然ヌクレオチドの既知の類似体を含有する核酸を包含する。「核酸フラグメント」は、所与の核酸分子の画分である。「ヌクレオチド配列」という用語は、DNA又はRNAポリマーに組み込むことができる合成、非天然又は改変されたヌクレオチド塩基を任意選択で含有する、一本鎖又は二本鎖であることができるDNA又はRNAのポリマーを指す。「核酸」、「核酸分子」、「核酸フラグメント」、「核酸配列若しくはセグメント」、又は「ポリヌクレオチド」という用語はまた、遺伝子、遺伝子によってコードされるcDNA、DNA、及びRNAと互換可能に使用され得る。
【0068】
本明細書における「抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、所望の抗原結合活性を示す限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、及び抗体フラグメントを含むがこれらに限定されない様々な抗体構造を包含する。「抗体フラグメント」は、インタクト抗体が結合する抗原に結合する無傷の抗体の一部分を含むインタクト抗体以外の分子を指す。抗体フラグメントの例は、当該技術分野で周知であり(例えば、Nelson、MAbs(2010)2(1):77-83を参照されたい)、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)、及びFv;ダイアボディ;線形抗体;一本鎖可変フラグメント(scFv)、リンカーの有無にかかわらず(及び任意選択で連携して)軽鎖及び/又は重鎖抗原結合ドメインの融合を含むがこれらに限定されない一本鎖抗体分子;並びに抗体フラグメント(Fc領域を欠く複数の可変ドメインから構築された多重特異性抗体を含むがこれらに限定されない)から形成された単一特異性又は多重特異性抗原結合分子が挙げられるが、これらに限定されない。
【0069】
本明細書で使用される場合、「阻害性核酸」は、哺乳動物細胞に投与されたときに標的遺伝子の発現の低下をもたらす二本鎖RNA、RNA干渉、miRNA、siRNA、shRNA、若しくはアンチセンスRNA、又はそれらの一部分、若しくはそれらの模倣物である。典型的には、核酸阻害剤は、標的核酸分子の少なくとも一部分若しくはそのオーソログを含むか、又は標的核酸分子の相補鎖の少なくとも一部分を含む。典型的には、標的遺伝子の発現は、10%、25%、50%、75%、又は更に90~100%低減する。
【0070】
本明細書で使用される「治療用RNA分子」又は「機能的RNA分子」は、アンチセンス核酸、リボザイム(例えば、米国特許第5,877,022号に説明されるような)、スプライソソーム媒介性トランススプライシングをもたらすRNA(Puttarajuら、(1999)Nature Biotech. 17:246、米国特許第6,013,487号、米国特許第6,083,702号を参照されたい)、遺伝子発現抑制を媒介するsiRNA、shRNA又はmiRNAを含む干渉RNA(RNAi)(Sharpら、(2000)Science 287:2431を参照されたい)、及び「ガイド」RNA及びCRISPR RNAなどの任意の他の非翻訳RNA(Gormanら、(1998) Proc.Nat.Acad.Sci.USA 95:4929;、米国特許第5,869,248号を参照されたい)、並びに同様のものが当該技術分野で既知のようなものであることができる。
【0071】
「アンチセンス」とは、長さにかかわらず、核酸配列のコード鎖又はmRNAに相補的である核酸配列を指す。アンチセンスRNAは、個々の細胞、組織、又はオルガナノイドに導入することができる。アンチセンス核酸は、修飾骨格、例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、又は当該技術分野で既知の他の修飾骨格を含有し得るか、又は非天然ヌクレオシド間結合を含有し得る。
【0072】
本明細書で言及されるように、「相補的核酸配列」は、相補的ヌクレオチド塩基対からなる別の核酸配列とハイブリダイズすることができる核酸配列である。「ハイブリダイズする」とは、好適な厳格な条件下で、相補的なヌクレオチド塩基間に二本鎖分子を形成する対を意味する(例えば、DNAにおいて、アデニン(A)は、チミン(T)と塩基対を形成し、グアニン(G)は、シトシン(C)と塩基対を形成する)。(例えば、Wahl,G.M.及びS.L.Berger(1987)Methods Enzymol.152:399;Kimmel,A.R.(1987)Methods Enzymol.152:507を参照されたい)
【0073】
本明細書で使用される場合、「siRNA」という用語は、転写後の特定の遺伝子又は複数の遺伝子の発現を干渉する二本鎖RNA分子を意図する。いくつかの実施形態では、siRNAは、RNA干渉経路を使用して遺伝子発現を干渉又は阻害するように機能する。同様の干渉又は阻害効果は、1つ以上の修飾核酸残基、例えば、ペプチド核酸(PNA)、ロック核酸(LNA)、アンロック核酸(UNA)、又はトリアゾール連結DNAを含む短いヘアピンRNA(shRNA)、マイクロRNA(mRNA)、及び/又は核酸(siRNA、shRNA、又はmiRNAなど)のうちの1つ以上で達成され得る。最適には、siRNAは、18、19、20、21、22、23、又は24個のヌクレオチドの長さであり、その3’末端に2塩基のオーバーハングを有する。これらのdsRNAは、個々の細胞又は培養系に導入することができる。そのようなsiRNAは、mRNAレベル又はプロモーター活性を下方調節するために使用される。
【0074】
「イメージング剤」は、その存在及び/又は位置が直接的又は間接的に検出されることを可能にする1つ以上の特性を有する化合物である。そのようなイメージング剤の例としては、検出を可能にする標識された部分を組み込むタンパク質及び小分子化合物が挙げられる。イメージング剤は、撮像におけるシグナル又は造影剤を提供するために使用される任意の化学物質又は物質であり得る。例としては、有機分子、金属イオン、塩若しくはキレート、粒子、標識ペプチド、タンパク質、ポリマー、又はリポソームが挙げられる。
【0075】
「対象」としては、ヒト及び哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ブタ、ネコ、イヌ、及びウマ)が挙げられる。多くの実施形態では、対象は、哺乳動物、特に霊長類、とりわけヒトである。いくつかの実施形態では、対象は、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ブタなどのような家畜、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、シチメンチョウなどのような家禽、並びに飼育動物、特にイヌ及びネコのようなペットである。いくつかの実施形態では(例えば、研究の文脈では)、対象の哺乳動物は、例えば、げっ歯類(例えば、マウス、ラット、ハムスター)、ウサギ、霊長類、又は近交系ブタなどのブタである。「哺乳動物」は、ヒト、マウス、ラット、ヒツジ、サル、ヤギ、ウサギ、ハムスター、ウマ、ウシ又はブタを含むが、これらに限定されない任意の哺乳動物を指す。
【0076】
本明細書で使用される場合、「蝸牛有毛細胞」という用語は、音を感知することに関与する内耳内の特殊化された細胞の群を指す。蝸牛有毛細胞には、内有毛細胞と外有毛細胞の2種類がある。蝸牛有毛細胞への損傷及び蝸牛有毛細胞機能を破壊する遺伝子変異は、聴力損失及び難聴に関与している。
【0077】
蝸牛上皮に関連して本明細書で使用される「支持細胞」は、有毛細胞ではないコルチ器官内の上皮細胞を含む。これは、内柱細胞、外柱細胞、内指節細胞、Deiter細胞、Hensen細胞、Boettcher細胞、及び/又はClaudius細胞を含む。
【0078】
本明細書で使用される場合、「発現」という用語は、以下の事象、すなわち、(1)DNA配列からの(例えば、転写による)RNA鋳型の産生、(2)RNA転写産物の処理(例えば、スプライシング、エディティング、5’キャップ形成、及び/又は3’末端処理による)、(3)RNAのポリペプチド又はタンパク質への翻訳、並びに(4)ポリペプチド又はタンパク質の翻訳後修飾のうちの1つ以上を指す。
【0079】
本明細書で使用される場合、「有毛細胞特異的発現」という用語は、内耳の他の細胞型(例えば、らせん神経節ニューロン、神経膠、又は他の内耳細胞型)と比較して、主に有毛細胞(例えば、蝸牛有毛細胞及び/又は前庭有毛細胞)内でのRNA転写産物又はポリペプチドの産生を指す。導入遺伝子の有毛細胞特異的発現は、任意の標準的な技術(例えば、定量的RT PCR、免疫組織化学的検査、ウエスタンブロット(Western Blot)分析、又はプロモーターに作動可能に連結されたレポーター(例えば、GFP)の蛍光の測定)を使用して、内耳の様々な細胞型(例えば、有毛細胞対非有毛細胞)間の導入遺伝子発現(例えば、RNA又はタンパク質発現)を比較することによって確認することができる。有毛細胞特異的プロモーターは、それが作動可能に連結されている導入遺伝子の発現(例えば、RNA又はタンパク質発現)を、以下の内耳細胞型、すなわち、境界細胞、内指節細胞、内柱細胞、外柱細胞、第1列Deiter細胞、第2列Deiter細胞、第3列Deiter細胞、Hensen細胞、Claudius細胞、内溝細胞、外溝細胞、らせん隆起細胞、根細胞、歯間細胞、血管条の基底細胞、血管条の中間細胞、血管条の周辺細胞、らせん神経節ニューロン、シュワン(Schwann)細胞のうちの少なくとも3つ(例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、又はそれ以上)と比較して、有毛細胞において少なくとも50%大きい(例えば、50%、75%、100%、125%、150%、175%、200%大きい、又はそれ以上)発現(例えば、RNA又はタンパク質発現)を誘導する。
【0080】
本明細書で使用される場合、「内因性」という用語は、特定の生物(例えば、ヒト)において、又は生物内の特定の位置(例えば、器官、組織、又はヒト細胞、例えば、ヒト毛細胞のような細胞)において、天然に見出される分子(例えば、ポリペプチド、核酸、又は補因子)を説明する。
【0081】
本明細書で使用される場合、「外因性」という用語は、特定の生物(例えば、ヒト)において、又は生物内の特定の位置(例えば、器官、組織、又はヒト細胞、例えば、ヒト毛細胞のような細胞)において、天然に見出されない分子(例えば、ポリペプチド、核酸、又は補因子)を説明する。
【0082】
本明細書で使用される場合、「増加する」及び「減少する」という用語は、それぞれ、参照と比較してメトリックの機能、発現、又は活性の量が増加又は減少することをもたらす調節を指す。例えば、本明細書に説明される方法における組成物の投与後に、本明細書に説明されるメトリック(例えば、導入遺伝子発現)のマーカーの量は、対象において、投与前のマーカーの量と比較して、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は98%、又はそれ以上増加又は減少し得る。概して、メトリックは、投与が列挙された効果を有した時点で、例えば、治療レジメンが開始された後の少なくとも1週間、1ヶ月、3ヶ月、又は6ヶ月で、投与後に測定される。
【0083】
本明細書で使用される場合、「局所的に」又は「局所投与」は、全身的な効果ではなく、局所的効果を意図した身体の特定の部位での投与を意味する。局所投与の例は、対象の皮膚上、吸入、関節内、髄腔内、膣内、硝子体内、子宮内、病変内投与、リンパ節投与、腫瘍内投与、内耳への投与、及び粘膜への投与であり、投与は、局所的であり、全身的ではない効果を有することを意図している。
【0084】
本明細書で使用される場合、「作動可能に連結された」という用語は、第2の分子に連結され得る第1の分子を指し、分子は、第1の分子が第2の分子の機能に影響を与えるように配置される。「作動可能に連結された」という用語は、その両方の成分が正常に機能し、かつ成分のうちの少なくとも1つが他の成分のうちの少なくとも1つに及ぶ機能を媒介することができる可能性を可能にするような、2つ以上の成分(例えば、プロモーター及び別の配列要素)の並列を含む。2つの分子は、単一の連続した分子の一部である場合又はない場合があり、隣接している場合又はしていない場合がある。例えば、プロモーターが、細胞における関心対象の転写可能なポリヌクレオチド分子の転写を調節する場合、プロモーターは、転写可能なポリヌクレオチド分子に作動可能に連結される。追加の実施形態では、転写調節要素の2つの部分は、一方の部分の転写活性化機能が他方の部分の存在によって悪影響を受けないように、それらが連結されている場合、互いに作動可能に連結される。2つの転写調節要素は、リンカー核酸(例えば、介在する非コード化核酸)を介して互いに作動可能に連結され得るか、又は介在するヌクレオチドが存在しない状態で互いに作動可能に連結され得る。
【0085】
本明細書で使用される場合、「プラスミド」という用語は、追加のDNAセグメントが結紮され得る染色体外環状二本鎖DNA分子を指す。プラスミドは、ベクターの一種であり、それが連結されている別の核酸を輸送することができる核酸分子である。特定のプラスミドは、それらが導入される宿主細胞において自己複製することができる(例えば、細菌の複製起点を有する細菌プラスミド及びエピソーム哺乳動物プラスミド)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は、宿主細胞への導入時に宿主細胞のゲノムに組み込まれ、それにより、宿主ゲノムとともに複製され得る。特定のプラスミドは、それらが作動可能に連結される遺伝子の発現を指向することができる。
【0086】
本明細書で使用される場合、「転写調節要素」という用語は、関心対象の遺伝子の転写を少なくとも部分的に制御する核酸を指す。転写調節要素は、プロモーター、エンハンサー、及び遺伝子転写を制御するか、又は遺伝子転写を制御するのに役立つ他の核酸(例えば、ポリアデニル化シグナル)を含み得る。転写調節要素の例は、例えば、Lorence,Recombinant Gene Expression:Reviews and Protocols(Humana Press,New York,N.Y., 2012)に説明されている。
【0087】
本明細書で使用される場合、「プロモーター」という用語は、RNAポリメラーゼによって結合されるDNA上の認識部位を指す。ポリメラーゼは、導入遺伝子の転写を駆動する。
【0088】
「導入遺伝子」は、人工的に細胞に挿入され、その細胞から発達する生物のゲノムの一部となるDNAのフラグメントを意味する。そのような導入遺伝子は、トランスジェニック生物に対して部分的又は完全に異種(すなわち、外来)である遺伝子を含み得、又は生物の内因性遺伝子に対して相同な遺伝子を表し得る。
【0089】
参照ポリヌクレオチド又はポリペプチド配列に関する「パーセント(%)配列同一性」は、配列を整列させ、必要に応じて、最大のパーセント配列同一性を達成するために、ギャップを導入した後の、参照ポリヌクレオチド又はポリペプチド配列の核酸又はアミノ酸と同一である候補配列における核酸又はアミノ酸のパーセンテージとして定義される。核酸又はアミノ酸配列同一性パーセントを決定する目的のためのアラインメントは、例えば、BLAST、BLAST-2、又はMegalignソフトウェアなどの公的に利用可能なコンピュータソフトウェアを使用して、当業者の能力の範囲内である様々な方式で達成することができる。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、配列を整列させるための適切なパラメータを決定することができる。例えば、配列同一性パーセント値は、配列比較コンピュータプログラムBLASTを使用して生成され得る。例解として、所与の核酸若しくはアミノ酸配列Bに、所与の核酸若しくはアミノ酸配列Bとの、又は所与の核酸若しくはアミノ酸配列Bに対する所与の核酸若しくはアミノ酸配列Aの配列同一性パーセント(これは、代替的に、所与の核酸若しくはアミノ酸配列Bに、特定のパーセントの配列同一性を有する所与の核酸若しくはアミノ酸配列A、所与の核酸若しくはアミノ酸配列Bとの、特定のパーセントの配列同一性を有する所与の核酸若しくはアミノ酸配列A、又は所与の核酸若しくはアミノ酸配列Bに対する特定のパーセントの配列同一性を有する所与の核酸若しくはアミノ酸配列Aとして別の言い方ができる)は、以下のように、すなわち、
100に(分数X/Y)を掛けるように計算される。
式中、Xは、そのプログラムのA及びBのアラインメントにおける配列アラインメントプログラム(例えば、BLAST)によって同一の一致としてスコアリングされたヌクレオチド又はアミノ酸の数であり、Yは、Bにおける核酸の総数である。核酸又はアミノ酸配列Aの長さが核酸又はアミノ酸配列Bの長さに等しくない場合、Bに対するAの配列同一性パーセントは、Bに対するA配列同一性パーセントに等しくないことが理解される。
【0090】
「投与する」又は「投与」という用語は、薬剤、化合物、細胞、又は組成物を、生物学的作用の所望の部位に送達する方法を指す。これらの方法としては、局所送達、非経口送達、静脈内送達、皮内送達、筋肉内送達、髄腔内送達、結腸内送達、直腸送達、又は腹腔内送達が挙げられるが、これらに限定されない。薬剤、化合物、細胞、又は組成物は、これらに限定されないが、経口、鼻、眼、及び静脈内を含む非経口を含む、標的組織(例えば、内耳)への薬物及び生物学的薬剤の送達を達成するために、当該技術分野で既知の任意の許容される経路による投与のために製剤化され得る。非経口投与の特定の経路としては、ポンプデバイスを用いる又は用いない頭蓋内若しくは椎骨内針及び/若しくはカテーテルを介する送達による、筋肉内、皮下、腹腔内、脳内、脳室内(intraventricular)、脳室内(intracerebroventricular)、髄腔内、大槽内、脊髄内及び/又は脊髄周囲の経路が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、本明細書に説明される薬剤、化合物、又は組成物は、髄腔内又は大槽内に投与される。いくつかの実施形態では、投与は、例えば、注射による耳投与、耳内投与、蝸牛内投与、前庭内投与、又は経鼓室投与であることができる。いくつかの実施形態では、投与は、内耳に直接、例えば、円形又は楕円形、耳嚢、又は前庭管を通る注射である。いくつかの実施形態では、投与は、人工内耳送達システムを介して内耳に直接行われる。いくつかの実施形態では、該物質は、中耳に経鼓室的に注射される。特定の実施形態では、「投与されることを引き起こす」とは、第1の成分が既に投与された後に(例えば、異なる時間に、及び/又は異なるアクターによって)、第2の成分を投与することを指す。
【0091】
本明細書で使用される場合、「治療」(及び「治療する」又は「治療すること」などのその文法的変形形態)は、治療される個体の自然経過を変化させる試みにおける臨床介入を指し、予防のために、又は臨床病理学的経過の間のいずれかに実行することができる。治療の望ましい効果としては、限定されないが、疾患の発生又は再発の予防、症状の緩和、疾患の任意の直接的又は間接的な病理学的結果の減少、疾患の進行速度の減少、病状の改善又は緩和、寛解又は予後の改善が挙げられる。いくつかの実施形態では、本明細書に説明される薬剤は、疾患の発症を遅延させるために、又は疾患の進行を減速させるために使用される。
【0092】
薬剤、例えば、医薬製剤の「有効量」は、所望の治療又は予防結果を達成するのに必要な投薬量及び期間で有効な量を指す。
【0093】
「医薬的に許容される」という句は、本明細書では、健全な医学的判断の範囲内で、過剰な毒性、刺激、アレルギー応答、若しくは他の問題、又は、合理的な利益/リスク比に見合う合併症を伴わずに、ヒト及び動物の組織との接触における使用に好適なそれらの化合物、材料、組成物、及び/又は剤形を指すために用いられる。本明細書で使用される場合、「医薬組成物」という用語は、医薬産業で一般的に使用される医薬的に許容される担体と組み合わせた活性剤を指す。
【0094】
本明細書で使用される場合、「ベクター」という用語は、核酸ベクター、例えば、プラスミド、コスミド、若しくは人工染色体などのDNAベクター、RNAベクター、ウイルス、又は任意の他の好適なレプリコン(例えば、ウイルスベクター)を含む。外因性タンパク質をコード化するポリヌクレオチドを原核細胞又は真核細胞に送達するための様々なベクターが開発されている。そのような発現ベクターの例は、例えば、Gellissen,Production of Recombinant Proteins:Novel Microbial and Eukaryotic Expression Systems(John Wiley&Sons,Marblehead,M A,2006)に説明されている。本明細書に説明される組成物及び方法とともに使用するのに好適な発現ベクターは、ポリヌクレオチド配列、並びに、例えば、タンパク質の発現及び/又はこれらのポリヌクレオチド配列の哺乳動物細胞のゲノムへの組み込みのために使用される追加の配列要素を含有する。本明細書に説明されるような導入遺伝子の発現に使用することができる特定のベクターは、遺伝子転写を指向するプロモーター及びエンハンサー領域などの調節配列を含有するベクターを含む。導入遺伝子の発現のための他の有用なベクターは、導入遺伝子の翻訳速度を増強させる、又は遺伝子転写から生じるmRNAの安定性若しくは核外輸送を改善するポリヌクレオチド配列を含有する。これらの配列要素は、発現ベクター上で運ばれる遺伝子の効率的な転写を指向するために、例えば、5’及び3’非翻訳領域並びにポリアデニル化シグナル部位を含む。本明細書に説明される組成物及び方法とともに使用するのに好適な発現ベクターはまた、そのようなベクターを含有する細胞の選択のためのマーカーをコードするポリヌクレオチドを含有し得る。好適なマーカーの例としては、アンピシリン、クロラムフェニコール、カナマイシン、又はノーセオトリシン(nourseothricin)などの抗生物質への耐性をコードする遺伝子が挙げられる。
【0095】
本明細書で使用される場合、「ウイルス(virus)ベクター」又は「ウイルス(viral)ベクター」という用語は、核酸送達ビヒクルとして機能し、ビリオン内にパッケージ化されたベクターゲノム(例えば、ウイルスDNA[vDNA])を含むウイルス(例えば、AAV)粒子を指す。代替的に、いくつかの文脈では、「ベクター」という用語は、ベクターゲノム/vDNAのみを指すために使用され得る。
【0096】
本明細書に開示されるように、いくつかの範囲の値が提供される。文脈によって明確に指示されない限り、下限の単位の10分の1までの各介在値もまた、その範囲の上限と下限との間に具体的に開示されることを理解されたい。記載された範囲内の任意の記載された値又は介在値と、その記載された範囲内の任意の他の記載された値又は介在値との間の各々のより小さい範囲は、本発明に包含される。これらのより小さい範囲の上限及び下限は、独立して、範囲内に含まれるか、又は除外され得、より小さい範囲内にいずれか、どちらも、又は両方の限界が含まれる各範囲も、記載された範囲内の任意の具体的に除外された限界に従うことを条件として、本発明に包含される。記載された範囲が限界のうちの一方又は両方を含む場合、それらの含まれる限界のうちの一方又は両方を除く範囲も本明細書に含まれる。
【0097】
「約」又は「およそ」という用語は、当業者によって決定される特定の値に対する許容可能な範囲内であることを意味し、それは、値がどのように測定されるか、又は決定されるか、例えば、測定システムの限界に一部依存する。例えば、「約」は、所与の値の最大で20%、好ましくは最大で10%、より好ましくは最大で5%、及びより好ましくは更に最大で1%の範囲を意味し得る。代替的に、特に生物学的な系又はプロセスに関して、本用語は、値の1桁以内、好ましくは5倍以内、より好ましくは2倍以内を意味することができる。別段明記しない限り、「約」という用語は、特定の値について許容可能な誤差範囲内であることを意味する。
【0098】
「混合物」は、溶液、分散液、懸濁液、固体/液体混合物、及び液体/液体混合物を含むことが意図される。溶液は、分散液、懸濁液、及び混合物とは異なり、それらの可溶化分子と溶媒との間の識別可能な界面を欠く。したがって、混合物という用語は、固体が液体(溶液)と直接接触しているとき、及び固体が単に液体によって担持又は懸濁されているときに使用され得る。いずれの場合も、液体は、「溶媒」と呼称され得る。
【0099】
「融合性」という用語は、標的細胞膜と融合し、したがって標的細胞膜の一部となる小胞の能力を説明する。
【0100】
「フソゲン」は、脂質小胞二重層が標的細胞膜と融合し、したがって標的細胞膜の一部になる能力を増加させる任意の物質である。融合すると、脂質小胞は、小胞の内容物を細胞の内部に放出し得る。フソゲンは、安定した小胞形成物を除外し、小胞を不安定にし得る。
【実施例
【0101】
実施例1
本実施例は、以下の実施例2~6で使用される材料及び方法を説明する。
【0102】
動物
我々は、雄のC57BL/6JRjマウス(Janvier Labs、Le Genest Saint-Isle、France)、Kari Alitalo博士の好意により提供されたProx1-EGFP+マウス(Choiら、2011)を、C57BL/6JRjバックグラウンド(Janvier Labs、Le Genest-Saint-Isle、France)、Aqp4-ノックアウト及びVGLUT3ノックアウトマウス(Voglら、2016)と交配することによって、Gottingen大学医療センター耳鼻咽喉科のTina Pangrsic Vilfan博士の好意により提供され、4週齢から3ヶ月齢まで老化させた。マウスは、主に、12時間の明/暗サイクル(6:00に点灯)で、制御された温度及び湿度を有する群(1ケージ当たり2~5匹のマウス)に収容され、通常のげっ歯類飼料を与えられ、滅菌された水道水を自由に与えられた。Denmarkにおける全ての実験は、Danish環境食品省(Danish Ministry of Environment and Food)の下で動物実験評議会(Animal Experiments Council)によって承認された(ライセンス番号:2015-15-0201-00535及び2020-15-0201-00480)。Swedenにおける全ての手技は、Karolinska Institutetの規則に従い、Stockholmの地域倫理委員会(Stockholm’s Norra Djurforsoksetiska Namnd、11778-2019)によって承認された。手技は、研究に含まれる動物の数を最小限に抑えるように細心の注意を払って、欧州指令2010/63/EUに従って実行された。
【0103】
マウスの大槽への注射
大槽(cisterna magna、CM)にトレーサー及びAAVを注射するために本研究で使用されるプロトコルは、先で説明される慢性カニューレ移植手技(Xavierら、2018)からの適応である。簡潔に述べると、マウスは、ケタミン/キシラジン(それぞれ100mg/kg、10mg/kg)の混合物で麻酔され、反射の停止によって麻酔の深さが確認された後、切開領域を適切に剃毛され、エタノール70%綿棒(Vitrex Medical A/S Herlev、DK)、続いて綿棒を使用して適用されたヨウ素溶液(Povidone Iodine 7.5% Henry Schein、Melville、NY、USA)を用いて滅菌された。手術の開始前に、鎮痛剤は、塗布され、切開部位にリドカイン(0.05ml、0.2mg/ml)が塗布され、術後鎮痛のためにブプレノルフィン(0.05mg/kg)が皮下注射された。後頭稜の周囲の皮膚切開を行った後、頸部の筋肉は、下のCMを露出するために分離された。30Gの針(SOPIRA(登録商標)Carpule 30G 0.3x12mm、Kulzer、Hanau、Germany)は、ACSFで充填されたPE10チューブの一方の端に取り付けられ、チューブの他方の端は、シリンジ(ハミルトンシリンジGASTIGHT(登録商標)、1700シリーズ、1710TLL、体積100μL、PTFE Luer lock、Reno、NV、USA)に接続され、次にシリンジポンプ(LEGATO(登録商標)130 Syringe pump、KD Scientific、Holliston、MA、USA)に配置された。ポンプは、注射媒体をチューブに吸引するために使用され、針は、その後、硬膜に穿刺されてCMに挿入され、一滴の接着促進剤(Insta-Set(商標)CA Accelerator、Bob Smith Industries、Atascadero、CA、USA)で硬化されたシアノアクリレート接着剤(Loctiteスーパーグルーゲルコントロール)で所定の位置に保持された。
【0104】
IV注射
4週齢の動物は、加熱ラムの下に配置され、100μLの1/10希釈されたssAAV-PHP.B/2-hCMV-chI-EGFP-WPRE-SV40p(A)(4.7*10E13vg/ml)溶液を尾静脈に注射しながら覚醒させた。注射後、動物は、印を付けられ、ケージに配置され、灌流前に14日間生存させられ、組織は、以下に説明されるように処理された。
【0105】
ウイルス
eGFPウイルス注射については、10μLのssAAV-PHP.B/2-hCMV-chI-EGFP-WPRE-SV40p(A)(4.7*10E13vg/ml)(Viral Vector Facility VVF,Institute of Pharmacology and Toxicology, University of Zurich or Viral Core at Boston Children’s Hospital、下記を参照されたい)は、注射された。また、治療用ウイルスについては、AAV2/Php.B-CBA-VGLUT3-WPRE(2.27E13)(Boston小児病院(Boston Children’s Hospital、BCH)のViral Core)が使用された。AAVは、1ul/分の制御された速度で注射され、逆流を最小限に抑えるために、針及び接着剤は、注射の終了後30分後にのみ除去された。次いで、皮膚は、6-0吸収性縫合糸(Vicryl、Ethicon)で縫合され、覚醒時に、マウスは、カルプロフェン(5mg/kg、S.C.)を投与され、最終的にケージに戻された。マウスは、手術後72時間まで、毎日カルプロフェンを投与された。eGFP注射されたマウスは、2週間の生存期間の後に安楽死させられ、以下に説明されるように経心的に灌流された。治療用ウイルスが注射されたマウスの聴性脳幹反応は、注射の2週間後に測定された。
【0106】
マイクロスフェア
マウスは、上で説明されるように、CMカニューレ挿入に供された。注射前に、アミン修飾マイクロスフェア(Thermofisher)は、ACSF中で1:3の比率で希釈され、超音波振動に5分間供された。次いで、それらは、1ul/分の注入速度で注射され、動物が灌流される前に、1時間及び24時間循環させられ、組織は、以下に説明されるように処理された。
【0107】
組織診及び免疫組織化学的検査
灌流
Prox1-EGFP+、Slc17A8変異体、及びC57BL/6JRjマウスは、ケタミン及びキシラジンの混合物(100mg kg/10mg kg)の腹腔内注射によって麻酔され、10mL 0.01Mリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4、Sigma-Aldrich、St. Louis、Missouri、USA)で経心的に灌流され、続いて、30mLの4%パラホルムアルデヒド溶液(PFA、Sigma-Aldrich)でPBS中に希釈され、pHは、7.4に調整された。
【0108】
ウイルス及びマイクロスフェア注射された動物
凍結切片化
灌流後、マイクロスフェア注射された動物の耳は、採取され、PBS中で5℃での保管の前に、24時間ホルムアルデヒド中に入れられた。内耳は、脱水のために一晩PBS中の20%スクロース中でのインキュベーションの前に、おおよそ4日間、0.12Mのエチレンジアミン四酢酸EDTA中で脱石灰化された。凍結切片化のために、次いで、蝸牛は、ゼラチン中に3時間、37℃で包埋され、その後、それらは、脱水のために20%スクロース中で24時間インキュベートされた。次いで、蝸牛は、ドライアイス及びイソペンタンを使用して組織培地(SPECS)中で凍結され、10μmの厚さの切片で切片化された。
【0109】
GFPで治療された蝸牛は、GFPでトランスフェクトされた内有毛細胞(IHC)の定量のためにマウスモノクローナルGFP(1:400)で、及び有毛細胞体の描写のためにウサギポリクローナルカルバインジン(1:400)又はウサギポリクローナルミオシンVIIA(1:400)で染色された。蝸牛試料は、一次抗体とともに37℃で一晩インキュベートされ、続いて、一次抗体に対応して、Alexaフッ素染料、ヤギ抗マウス488(緑、1:1000)及びヤギ抗ウサギ594又はロバ抗ウサギ594(赤、1:1000)に結合された二次抗体と37℃で2時間インキュベートされた。次いで、蝸牛片は、DAPIを有するVectashield退色防止封入剤(H-1200、Vector Laboratories)中に封入され、カバースリップされ、マニキュア液で密封された。
【0110】
VGLUT3ウイルス又はaCSFで処理された(対照として使用された)蝸牛は、(a)シナプス前リボンの実証及び定量のためのC末端結合タンパク質2(マウスIgG1抗CtBP2、BD-Biosciencesからの612044、1:200で使用)、(b)グルタミン酸作動性シナプス後受容体を定量するためのグルタミン酸受容体サブユニットA2(マウスIgG2A抗GluA2、MilliporeからのMAB397、1:800で使用)、(c)有毛細胞体の描写のための抗ミオシンVIIA(Proteus BiosciencesからのウサギIgG、25-6790、1:200で使用)、及び(d)有毛細胞の回復の観察のための抗小胞性グルタミン酸トランスポーター3(モルモット、抗VGLUT3、Sigma-AldrichからのAB5421-I、1:400で使用)について、37℃で一晩染色された。Alexa蛍光色素に結合された二次抗体とのインキュベーションは、一次抗体に対応して、(a)ヤギ抗マウスIgG1 647(遠赤、1:500)、(b)ヤギ抗マウスIgG2a 555(赤、1:500)、(c)ロバ抗ウサギIgG 405(青、1:200)、及び(d)ヤギ抗モルモットIgG 488(緑、1:500)を用いて、37℃で2時間追跡された。次いで、蝸牛片は、DAPIなしのVectashield退色防止封入剤(H-1000、Vector Laboratories)中に封入され、カバースリップされ、マニキュア液で密封された。
【0111】
次に、蝸牛周波数マッピングは、NIH(Eaton-Peabody研究所でのLiberman研究グループからのMeasure_Line.class)によって提供されるカスタムImage-Jソフトウェアプラグインを使用して実行された。このマッピングは、各マウス蝸牛の全長及びいくつかのそれぞれの周波数点(頂端、中央、基底)を提供し、蝸牛の全長にわたる離散周波数領域について共焦点顕微鏡において高品質の画像を得るためのガイドとして使用された。寸法1024×1024及び16ビット画像を有するZスタック(20~40)は、Zeiss LSM880共焦点顕微鏡上で63倍油浸漬対物レンズ(NA1.40)で撮影された。642nm及び間隔1μmのZスタックは、全てのシナプス前及びシナプス後構造、並びに少なくとも10のIHCのそれらのカップリングを捕捉するために使用された。
【0112】
シナプス前及びシナプス後の内有毛細胞構造の定量
IHC当たりのリボン及びシナプス後GluA2点(puncta)の総数を評価するために、表面及びマスキング構造が作成された。画像スタックは、リボン、シナプス後受容体、及びそれらのシナプス対合の数について、Imarisソフトウェア(x64 9.2.0、Bitplane AG、Zurich、Switzerland)を使用して分析された。次いで、関心領域(およそ10のIHC)は、「スポット」機能を使用することによって、計数するためにタグ付けされた。閾値を調整した後、8ビットスケール(0~255)でピクセル強度0.7~0.8μmを有する点(puncta)が計数された。シナプス対合を決定するために、「距離変換」及び「スポット共局在化」が使用された。スポット間の閾値/距離は、1μmに設定された。
【0113】
リンパマーカー分析のための全頭部
灌流固定されたProx1-EGFP+マウスのマウス全体及び胴体は、パラフィン包埋及び連続切片化の前に、室温でTris緩衝液(pH7)中の10%EDTAで3週間脱石灰化された。上で説明されるように、切片は、免疫組織化学的検査のために処理された。
【0114】
免疫組織化学的検査
PBS洗浄後、耳、脳、及び他の分析器官の組織切片は、0.3%TritonX-100(Sigma-Aldrich)及び5%正常ロバ又はヤギ血清(Gibco(商標);Thermo Fisher Scientific,Waltham,Massachusetts、USA)を含有するPBS溶液中で、室温(room temperature、RT)で1時間ブロッキングされ、続いてブロッキング溶液中で希釈された一次抗体(表S1)を用いて4℃で一晩インキュベートした。免疫標識は、フルオロフォア(Alexa Fluor、1:500;Invitrogen(商標)Molecular Probes(商標);Thermo Fisher Scientific)に結合された適切な二次抗体と室温で2時間インキュベートすることによって明らかにされた。DAPI(4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール、Thermo Fisher Scientific、PBSで希釈された1g/mL)は、核対比染色のために使用され、切片は、Prolong Gold Antifade試薬(Invitrogen/Thermo Fisher Scientific、Carlsbad、California、USA)を使用してスライドガラス上に取り付けられた。免疫標識された切片及び髄膜の画像は、Plan Apo λ4X/0.20対物レンズを備えた落射蛍光顕微鏡(Nikon Ni-E)、並びにPlan Fluor 20X/0.75及び40X/1.30油対物レンズを備えた共焦点顕微鏡(Nikon Eclipse Ti, Tokyo,Japan)で取得された。
【0115】
MRライブイメージング
CMカニューレ挿入手技の直後に、動物は、MRIスキャナに移動させられ、スキャン中の頭部の動きは、イヤーバーを備えたMR互換性の定位ホルダーに動物を拘束することによって最小限に抑えられた。体温は、サーモスタット制御された水床を用いて37±0.5℃に維持され、MR互換性遠隔監視システム(SA Instruments、NY、米国)によって呼吸速度とともに監視された。MRIは、1H低温冷却された直交共振器Tx/Rxコイル(CryoProbe,Bruker)及び240mT/m勾配コイル(BGA-12S,Bruker)を装備された9.4Tの前臨床スキャナ(BioSpec 94/30 USR,Paravision 6.0.1ソフトウェア,Bruker BioSpin,Ettlingen,Germany)で実行された。修正されたスキャンニング手技は、先で説明されるように実行された(Stantonら、2021)。T2強調構造画像は、3D建設的干渉定常状態(3D-CISS)を使用して遂行された。全ての3D-CISS画像は、4つの直交位相符号化方向(TR/TE 3.9/1.95ms、Nex2、FA50°、FOV 19.2x12.8x12.8mm、Matrix 192x128x128、BW150kHz)を有する4つの再整列された3D-TrueFISPボリュームからの最大強度投影として計算された。流れ補償された3D time-of-flight MR Angiography(3D-TOF-MRA)は、FLASHシーケンス(TR/TE 10/1.95ms、Nex 2、FA 20°、FOV 19.2x15x16mm、Matrix 246x192x205、BW=100kHz)で収集された。動的造影増強MRI(DCE-MRI)のために、造影前及び造影後のT1強調画像は、3D-FISPシーケンス(TR/TE 4/2ms、FA15°、FOV 19.2x12.8x12.8mm、Matrix 192x128x128、BW 150kHz)で収集された。T1増強造影剤ガドブトロール(20mM;Gadovist, Bayer Pharma AG, Leverkusen,Germany)を大槽(1μL/min、10分間)内に注射されたとき、マウス脳全体のDCE-MRIは、100μmの等方空間分解能で1分間又は0.5分間で実行された。時系列DCEスキャンニングプロトコルは、3回のベースラインスキャン(3分)、続いて大槽内注入を含んだ。スキャンは、90~120回の測定(60~90分)にわたって継続された。
【0116】
CTライブイメージング
CMカニューレ挿入手技中に、オーダーメイドのヘッドバーは、動物の頭蓋骨の上部に固定された。ヘッドバーは、画像取得中の望ましくない動きを最小限に抑えるように設計されており(Yoshidaら、2016)、動物ホルダーに固定された。CMカニューレ挿入手技の直後に、動物は、CTスキャナに移動された。動物の呼吸は、Biovetソフトウェアを使用して監視された。CTスキャンは、Vector4CTシステム(MILabs、Utrecht、Netherlands)で実行され、マウス頭部全体のスキャンは、20μmの等方空間分解能で4.56分で実行された。時系列CTスキャンプロトコルは、1回のベースラインスキャン(4.5分)、続いて、Omnipaque(350mgI/ml、1μL/分、10μL、GE healthcare)の大槽内注入を含んだ。スキャンは、Omnipaqueの大槽内注入後、6回の測定(30分)にわたって継続された。
【0117】
画像処理
DCE-MRI及びCT時系列データの両方は、Advanced Normalization Tools(ANTs ver.2.1.0)(Avantsら、2008、Avantsら、2011)を使用して動き補正された。MRI画像における運動補正時系列は、ベースライン画像の平均シグナルからのパーセントシグナル変化として計算された、ベースライン時系列からのパーセント変化に変換された。MRIスキャン間の対象の動きについて補正するために、解剖学的画像(3D-CISS及び3D-TOF-MRA)は、ITK-SNAP(ver.3.8.0)における2つの剛性位置合わせプロセスを使用して、DCE-MRIのベースライン画像に位置合わせされた。MRIでは、3D-CISS画像は、関心体積(volumes of interest、VOI)を大槽内、蝸牛水管の外側、蝸牛水管内、及び蝸牛内に配置するために、解剖学的基準として使用された。3D-CISSの高強度は、蝸牛内側のCSF空間及び流体を表し、したがって、上で言及されるVOIは、ITK-SNAPを使用して3D-CISSのシグナル強度に基づいて閾値化を使用して半自動セグメント化された。VOIは、DCE-MRI画像の最大強度投影によって解明された蝸牛水管のトレーサー蓄積及び配置に基づいて、手動で蝸牛水管の外側に引き出された。CT VOIの配置は、以下に説明され、距離は、ITK-SNAPにおいて手動で測定された。
ROI位置の実施例が図8に示されている。
【0118】
CT
時間強度データは、バックグラウンド減算後に上で説明されるROIを有するITK snapを使用して抽出され、次いで、最大大槽強度に正規化された。蝸牛水管の寸法は、#4匹の動物について、ITK snapの#X特徴を使用して測定された。ROI間の距離は、それらの空間座標を使用して計算された。
【0119】
MR
Amiraによる#3D画像生成バックグラウンド減算された画像は、最大大槽強度に正規化された。
AQP4統計比較(p値)
3D画像生成
【0120】
分散モデル
我々は、長さLの蝸牛水管又は鼓室階などの狭い空間を通るトレーサー輸送が、分散方程式によって近似することができることを示唆する。
dC(x,t)/dt=D /nabla C(x,t),
ここで、xは、近位端からの軸方向距離であり、tは、時間であり、Dは、(一定の)分散係数である。境界は、近位及び遠位位置で測定を行うことによって、ディリクレ(Dirichlet)条件を与えられる。蝸牛水管のモデルについて、
C(0,t)=c_SAS(t),C(L,t)=c_coch.(t),
ここで、c_SAS及びc_coch.は、蝸牛水管の近位端及び遠位端で測定されたトレーサー濃度である。同様に、鼓室階について、
C(0,t)=c_1(t),C(L,t)=c_#N(t),
ここで、下付き文字は、鼓室階VOIインデックスを指す。
【0121】
この公式は、チャネル境界での平坦な濃度勾配を仮定して、シェルベースのアプローチ(Roselli、Diller 2011)を使用したフィック(Fick)の第一法則に由来した。(我々は、軸長よりもかなり小さい直径のVOIから濃度測定を行う必要がある。)
【0122】
式(#ref)を解くために、発明者は、NumPy及びScipy(#ref)を使用してPython(#ref)において単純な有限差分スキームを実装した。分散係数の推定は、Scipy (#ref)Eを使用して、L2ノルム予測誤差を最小化することによって達成された。
E(D, data)=sum/_observations(prediction(x,t)-observation(x,t))^2
【0123】
ウイルスベクター産生
eGFP又はマウスVGLUT3のコード配列を運ぶAAV9-PHP.Bベクターは、BCH Institutional Biosafety Committee(機関内安全委員会)の権限の下で、Boston Children’s Hospital(ボストン小児病院)のViral Coreによって生成された(プロトコル#IBC-P0000047)。ニワトリβ-アクチン(chicken β-actin、CBA)プロモーター及びサイトメガロウイルス(cytomegalovirus、CMV)エンハンサーの制御下にあるマウスVGLUT3 cDNAを含有するAM/CBA-VGLUT3-WPRE-BGHプラスミド(Akilら、2012)は、Omar Akilによって好意により提供された。プラスミドは、同一性を確認するために、増幅され、精製され、及び配列決定された。ITRの完全性は、制限消化によって評価され、次いで、AAV9-PHP.BカプシドへのパッケージングのためにViral Coreに提出された。同様に、CMVプロモーターによって駆動されるeGFPを含有するプラスミドは、AAV2ベクターにクローニングされ、先で説明されるように(Leeら、2020)、ヘルパーウイルスフリーシステム及び二重トランスフェクション方法を使用して、Viral CoreによってAAV9-PHP.Bカプシドにパッケージ化された。ベクターは、イオジキサノールステップ勾配超遠心分離機、続いてイオン交換クロマトグラフィーを介して精製された。AAV9-PHP.B-CBA-VGLUT3-WPRE-BGHのゲノム含有粒子の力価は、ウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナル(bGH pA)についてのプライマーを使用するSyber-GreenベースのqPCRアッセイによって評価された2.27×1013gc/mLであった。AAV9-PHP.B-CMV-eGFP-WPREの2つの独立したバッチは、GFPのプライマーを使用して定量された、3.54×1012gc/mL及び4.49×1012gc/mLの力価で使用された。ウイルスアリコートは、使用時まで-80℃で維持された。
【0124】
聴性脳幹反応及び歪成分耳音響放射
シグナル生成及び取得は、Tucker-Davis Technologies System IIIハードウェア及びソフトウェアを使用して行われた。刺激は、シグナルプロセッサ(RZ6)に接続されたPC上で動作するBioSigRZソフトウェアを使用して生成された。耳音響放射の歪成分(distortion product of otoacoustic emissions、DPOAE)について、オーダーメイドされたものに合体された2つの独立して駆動されるMF1スピーカーは、閉電界刺激のために使用された。聴性脳幹反応(ABR)について、刺激は、オープンフィールドスピーカー(MF1)を通した出力であった。Bruel and Kjaer 1/4-inchマイク並びにコンディショニングプリアンプ(4939 A 011及び2690 A 0S1)は、刺激レベルを較正するために使用された。スピーカーは、周波数掃引(4~32kHz)を使用して一度に1回較正された。出力は、90dB SPL(オープンフィールドスピーカー、ABR)及び80dB SPL(クローズドフィールドスピーカー、DPOAE)で平坦なスペクトルを生成するために補正された。マウスは、ケタミン(ケタミノール50mg/ml、Intervet、511485)及びキシラジン(Rompun 20mg/ml、Bayer、KP0A43D)(それぞれ100及び10mg/kg体重)の混合物で麻酔され、壁及び天井に吸音材を有するオーダーメイドの音響筐体内に配置された。体温は、加熱パッド(Homeothermic Monitoring System 55-7020、Harvard Apparatus)を使用して、36.5℃に維持された。最初のDPOAEが記録された。要するに、音響カプラは、外耳道に挿入された。マイクロフォン(EK23103、Knowles)は、外耳道における音レベルを測定するために、プリアンプ(ER-10B+、Etymotic Research)及びプロセッサ(200kHzサンプリングレート)に接続された音響カプラに挿入された。各スピーカーは、2つの喉頭原音(f1及びf2)のうちの1つを再生し、80~10dB SPL(f2の場合)から5dBステップで掃引した。2f1-f2の歪成分は、f2=8、12、16、24、32kHz、f2/f1=1.25、及び刺激レベルL1=L2+10dB SPLで測定された。続いて、ABRは、測定された。ステンレス鋼皮下針電極は、頭部頂点(陽)、右耳介の下(陰)、及び右脚の上(接地)に配置された。ABRは、毎秒21回提示される8、12、16、24、及び32kHzのバースト音(0.5ms立ち上がり/下降時間、5ms持続時間)によって誘発された。シグナルは、プリアンプ(RA4PA)に接続された低インピーダンスヘッドステージ(RA4LI)を介して収集され、デジタルサンプリングされた(200kHzサンプリングレート)。200~3000回のバーストに対する応答は、BioSigRZを使用して0.3~3kHzでバンドパスフィルタリングされ、各レベルで平均化された。各周波数について、音レベルは、5Dbステップで90dB SPLから減少した。DPOAE及びABRは、大槽ウイルス注射の2~3日前(ベースライン)及びウイルス注射の14日後(2w)に記録され、その時点で、動物は、蝸牛組織診のために安楽死させられた。
【0125】
実施例2 CSF溶質は、蝸牛水管を介して内耳に入る
内耳が、野生型成体マウスにおいてCSFトレーサーにアクセス可能であるかどうかを評価するために、動的造影増強磁気共鳴イメージング(dynamic contrast enhanced magnetic resonance imaging、DCE-MRI)は、Gadovist(0.6kDa)のCSF輸送を視覚化するために利用された。リアルタイムイメージングは、大槽(CM)のCSF充填された空間に注射されたGadovist(0.6kDa)が蝸牛に到達することを示し、くも膜下腔と蝸牛とを連結するCSF充填されたチャネルを識別し、これは、蝸牛水管の解剖学的局在と一致する(図1A~D)。蝸牛水管が入射点であることと一貫して、Gadovistシグナルは、最初に蝸牛水管のすぐ外側で、次いで蝸牛水管で、最後に蝸牛で上昇する(図1D~F、S1A)。最大50に達するまでの時間は、他の全ての群と比較して、蝸牛において著しく高かった(図4A)。
【0126】
蝸牛神経が蝸牛へのトレーサーの侵入に寄与するかどうかを定義するために、高空間分解能コンピュータ断層撮影(computed tomography、CT)スキャンは、実行された。Omnipaque(0.8kDa)を大槽内に送達し、連続CTスキャンにより、トレーサー濃度が上昇し、最初に蝸牛水管の初期セグメントで最高濃度に達することが確認された。次いで、トレーサーは、それが鼓室階の底部及び中央領域に達する前に、水管に更に分散する(図1G~I)。トレーサー濃度における顕著な上昇は、30分間のスキャンの間、前庭階又は蝸牛神経において検出されなかった(図1I、4B)。したがって、CTスキャンは、水管がCSFトレーサー流入の主要なポイントであることを示した。より大きなCSFトレーサーのアクセス可能性を決定するために、動物は、マイクロスフェア(0.2μm)のCSF送達の1及び24時間後に安楽死させられた。組織学的分析は、マイクロスフェアが両方の時点で蝸牛水管に豊富であり、24時間後に鼓室階で検出されたことが示された(図2A及び5)。併せて、この分析は、蝸牛水管が鼓室階の底部をCSF充填された大きなくも膜下腔に直接連結していることを示す。
【0127】
実施例4 Aqp4非依存性分散機構は、内耳へのCSF輸送を駆動する
グリンパティック液輸送は、水チャネルであるAquaporin-4 (AQP4)によって促進されるため、次に、AQP4が内耳へのCSF流入において役割を果たすかどうかが問われた。aqp4ノックアウト及び野生型同腹仔へのCSF流入は、Gadovistの大槽注射後に比較された。aqp4を欠くマウスにおけるGadovist流入についての時間活性曲線は、流体流がAQP4非依存性であることを実証する野生型動物と差異がなかった(図4A、C~D)。実際、免疫標識は、蝸牛水管を裏打ちする細胞がAQP4陰性であったことを示すことによって、これらの観察を支持した(図2F)。内耳へのCSF輸送を駆動する機構を理解するために、CT時間活性曲線は、有効拡散定数を推定するために、蝸牛水管及び鼓室階について、並びに解剖学的測定で使用された。フィック(Fick)の第二法則を使用して分散ベースのモデルを導出することは、トレーサーについての純粋な拡散に類似した推定有効拡散係数に対応し、これは、リンパ様膜が移流及び分散の寄与を最小限に抑えたために可能である。これは、耳へのCSF輸送のための駆動機構が、aqp4非依存性分散輸送であることを示唆する。
【0128】
実施例3 蝸牛水管は、リンパ様特徴を示す
トレーサーは容易に耳内に入るので、蝸牛水管は前眼房から房水を排出するシュレム管と類似していると仮定された(Aspelundら、2014)。およそ126マイクロメートルの直径を有する狭い骨性蝸牛管(表1)は、非常に狭いクローディン11陽性くも膜関門細胞層によって覆われた隣接する薄い硬膜層を示した。この管は、蝸牛への入口で終端まで下方に延在する膜の管状外転を439±39マイクロメートルの距離で裏打ちされた(表1)。膜は、横隔膜の大脳側にマクロファージ様細胞の蓄積を伴う横隔膜様構造として終結した。膜は、CRABP2(細胞レチノイン酸結合タンパク質2)及びリンパマーカーのプロスポホメオボックスタンパク質1(Prox1)及びポドプラニンについて陽性に染色されたが、VEGFR3又はリンパヒアルロナン受容体(LYVE1)については染色されなかった(図2D)。Prox1は、リンパ内皮細胞の運命の主要制御因子であり、Prox1を発現するリンパ管は、CSFからの巨大分子の排出に寄与することが示されている(Louveauら、2018-2015 Nature論文を参照されたい)。眼におけるシュレム管は、同様に、Prox-1及びポドプラニン陽性であるが、LYVE-1及びVEGFR3陰性である(Aspelundら、2014)。LYVE1及びIba1染色マクロファージは、膜に関連付けられたが、膜を形成する細胞は、LYVE1陰性であった。マイクロスフェア画像のIba1染色は、Iba1陽性マクロファージがチャネル内のマイクロスフェアを貪食することを示した(図2E)。
【0129】
実施例5 大槽に注射されたウイルスは、内耳において発現される
蝸牛水管CSF経路は、内耳へのウイルス構築物の送達のための代替戦略として使用することができるか?レポーターウイルス、AAV-PHP.B-CMV-EGFPは、以前に、耳に直接注射されたときに有毛細胞において堅牢な発現を誘導することが示されている(Leeら、2020)。青年期マウスは、AAV-PHP.B-CMV-EGFPの単回注射を受け、内耳は、14日後に採取された。内有毛細胞は、蝸牛の底部においてより堅牢であり、トランスフェクトされた細胞の数及びシグナル強度の両方において頂端に向かって減少する発現の勾配を有するウイルスによって成功裏に形質導入された(図6A~B)。この分布は、ウイルスが水管を通って内耳に入るという仮説と一致する(図6A)。BBB透過性を制御するために、年齢を一致させたマウスのサブグループは、AAV-PHP.B-CMV-EGFPを静脈内に受け、内耳は、同じ構築物のCSF送達と比較したとき、わずかではあるが均等に分布したウイルス発現を示した(図6A~B)。要するに、CSFは、内耳へのウイルスの送達経路として使用することができる。
【0130】
実施例6 VGLUT3発現ウイルスのCM送達は、DFNA25のマウスモデルの聴力を救済する
内有毛細胞をウイルス的にトランスフェクトする効果的なパラダイムとしてCSF経路を決定した後、小胞性グルタミン酸輸送体-3(VGLUT3)をコードするSlc17a8の内有毛におけるウイルス媒介性の過剰発現が、2ヶ月齢の成体Slc17a8-/-マウス、DFNA25についてのマウスモデルにおいて、常染色体優性及び進行性感音性聴力損失を救済できるかどうかを評価した(Ruelら、2008)。VGLUT3は、グルタミン酸がシナプス裂隙に放出される前にシナプス小胞に輸送し、内有毛細胞からのシグナルの形質導入に不可欠である。Slc17a8-/-マウスは、外有毛細胞の機能が影響を受けないままであるが、内有毛細胞の欠陥により、グルタミン酸を取り込み、それらの求心性ニューロンに放出するために聴覚障害を有する(Ruelら、2008)。聴性脳幹反応及び歪成分耳音響放射ベースライン閾値は、CSF又はEGFP若しくはVGLUT3発現AAVのいずれかのウイルス送達の前、並びに注射後2週間のいずれか前に、野生型及びSlc17a8-/-マウス7において測定された(図3)。WTの平均聴性脳幹反応ベースライン値は、8~24kHzで8~20dB SPLの範囲であったが、32及び40kHzでは、平均値はより高く(38~74dB SPLの間)、2ヶ月齢までに高頻度の聴力損失を引き起こすことが既知の加齢性聴力損失遺伝子(ahl遺伝子)の変異に起因するC57BL/6Jマウスで見られる既知の効果であった(Johnsonら、1997)(図3A)。比較では、VGLUT3 KOマウスは、74~95dB SPLの範囲の平均上昇ベースライン閾値を有した。DPOAEは、WT及びKOマウスの両方において正常であった(図3B)。ビヒクル(aCSF)又はレポーター遺伝子(EGFP-AAV)のいずれかの投与の2週間後、聴覚閾値の変化は見出されず、大槽内注射が聴覚に悪影響を及ぼさないことを確認した。VGLUT3過剰発現AAVで治療された野生型マウスでは、閾値は、ベースラインと比較したとき、32及び40kHzでそれぞれ25及び16dB上昇した。対照的に、VGlut3 KOマウスは、48kHzを除く全ての周波数で聴覚閾値の改善を示した。対照的に、DPOAEによって測定された外有毛細胞の機能は、WTマウス又はKOマウスのいずれにおいても、aCSF又はウイルス救済による影響を受けなかった(図3B)。
【0131】
平均波形は、VGlut3のウイルストランスフェクション後にSlc17a8-/-マウスにおいて得られた聴覚救済の程度の視覚的印象を提供する(図3C)。全体として、AAVを発現するVGLUT3のCSF送達は、成体Slc17a8-/-マウスにおける誘発応答の回復をもたらし、内有毛におけるグルタミン酸シグナル伝達が修復されることを指し示す。しかしながら、聴力閾値が正常レベルに達するにもかかわらず、ABR波1振幅は、VGLUT3-AAVで治療されたWTマウスの62%に回復した(図3e)。波1及び3の潜時また、Slc17a8+/+マウスと比較して、救済されたSlc17a8-/-において、それぞれ0.2ms(p=0.002)及び0.38ms(p=0.0112)遅延することが見出され(図3)、一方、波5の潜時は、影響を受けなかった。これらの知見は、聴覚閾値が、Slc17a8-/-マウスにおいて完全に回復したが、ある程度の神経非同期性が、VGLUT3発現AAVのCSF送達の2週間後に残ったことを示唆する。
【0132】
ウイルス救済によるシナプス修復の程度を決定するために、発明者らは、頂端、中央及び基底蝸牛領域におけるリボン(CtBP2)及びAMPAサブユニットGluR2に対する高分解能免疫細胞化学的手技を使用して、内有毛細胞と求心性樹状突起との間の対合シナプスの数を定量した。各蝸牛位置における異なる群からの代表的な顕微鏡写真を例解する(図3G)。ウイルス救済は、Slc17a8-/-マウスにおける個々のシナプス前及びシナプス後実体の数、又はそれらの対合のいずれにも影響を与えなかった。しかしながら、VGLUT3-AAVは、リボン及びGluR2単位の数を、中央及び基底ターンにおいて増加させたが、一方では、シナプス対合が基底領域において完全に回復した(統計分析については、補足表1を参照されたい、図3)。
【0133】
考察
聴覚器官は、伝統的に末梢神経系の一部であると考えられている。蝸牛前庭神経節とともに内耳は、中枢神経系を生じさせる神経外胚葉ではなく、表面外胚葉に由来する(Freyerら、2011)。しかし、耳及び脳の液体は、蝸牛水管を介して接続され、溶質は、CSF充填くも膜下腔から内耳に数分以内に輸送される。ここでは、大きなウイルス構築物が、蝸牛水管を通って耳に成功裏に送達され、聴覚障害のある成体マウスにおいて聴力を回復させることが示された。輸送は、脳の移流性Aqp4依存性グリンパティック輸送とは対照的に、分散によって駆動される。膜内に存在するマクロファージによるCSFマイクロスフェアの広範囲な食作用によって証明されるように、耳と脳との間の輸送を制限するように見える擬似リンパ膜が、蝸牛水管において識別された。それにもかかわらず、レポーター遺伝子及びVGlut3は、大槽内CSF投与後に内有毛細胞によって容易に発現された。CSFを介して成体蝸牛における聴力損失を治療するためのウイルス遺伝子療法の首尾よい送達は、広範な翻訳的意味を有する。大槽注射は、正円窓膜又は蝸牛を通る直接注射の従来の経路とは対照的に、蝸牛に損傷を与えない。現代の画像下治療(interventional radiology)は、大槽投与を相対的に安全な手技にしてきたので、遺伝子治療薬のCSF送達は、遺伝的に駆動される先天性聴力損失の治療を促進する。本研究では、治療後2週間の聴力回復を評価したが、他の研究では、正円窓膜を通した注射後1年までの聴力の持続的なAAV救済が示されている(Gyorgyら、2019)。加えて、大槽内注射は、円形窓注射とは対照的に、蝸牛損傷のリスクなしに複数回実行することができる。全体として、本研究は、聴覚障害の遺伝子療法のための新規の、相対的に非侵襲的で非常に効果的な経路の概念実証を提供する。
【0134】
【0135】
参考文献
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【0136】
好ましい実施形態の前述の実施例及び説明は、特許請求の範囲によって定義される本開示を限定するものではなく、例解するものとして理解されるべきである。容易に理解されるように、上に記載される特徴の多数の変形及び組み合わせは、特許請求の範囲に記載される本開示から逸脱することなく利用され得る。そのような変形例は、本開示の範囲から逸脱したものとはみなされず、全てのそのような変形例は、以下の特許請求の範囲の範囲内に含まれることが意図される。本明細書で引用される全ての参照は、それらの全体が、参照により組み込まれる。
図1A-1C】
図1D-1F】
図1G-1I】
図2A-2C】
図2D-2E】
図3A-3C】
図3D-3F】
図3G-3I】
図4A
図4B
図4C-4G】
図5
図6A-6C】
図7A-7B】
図8
【配列表】
2025504263000001.xml
【国際調査報告】