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  • 特表-熱間圧延高強度鋼ストリップ 図1
  • 特表-熱間圧延高強度鋼ストリップ 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-12
(54)【発明の名称】熱間圧延高強度鋼ストリップ
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20250204BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20250204BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20250204BHJP
   C22C 18/04 20060101ALN20250204BHJP
   C22C 18/00 20060101ALN20250204BHJP
【FI】
C22C38/00 301W
C21D9/46 U
C21D9/46 T
C22C38/58
C22C18/04
C22C18/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024543993
(86)(22)【出願日】2023-01-20
(85)【翻訳文提出日】2024-09-24
(86)【国際出願番号】 EP2023051306
(87)【国際公開番号】W WO2023144019
(87)【国際公開日】2023-08-03
(31)【優先権主張番号】22153227.8
(32)【優先日】2022-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500252006
【氏名又は名称】タタ、スティール、アイモイデン、ベスローテン、フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】TATA STEEL IJMUIDEN BV
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】ロルフ、アルヤン、リーケンベルク
(72)【発明者】
【氏名】マキシム、ペーテル、アールンツ
(72)【発明者】
【氏名】アントン、ロムルス、シェザン
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA05
4K037EA06
4K037EA11
4K037EA13
4K037EA15
4K037EA16
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA20
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA31
4K037EA32
4K037EB05
4K037EB07
4K037EB09
4K037EB11
4K037EC04
4K037FA02
4K037FA03
4K037FA05
4K037FC04
4K037FC07
4K037FD04
4K037FD06
4K037FE02
4K037FE06
4K037GA05
(57)【要約】
本発明は、重量%で、0.02~0.13重量%のCと、1.20~3.50重量%のMnと、0.10~1.00重量%のSiと、0.05~1.0重量%のMoと、0.02~0.70重量%のAlと、0.04~0.25重量%のTiと、0.010重量%以下のNと、0.02重量%以下のPと、0.01重量%以下のSと、0.005重量%以下のBと、必要に応じて(1.5重量%以下のCu、0.70重量%以下のCr、0.50重量%以下のNi、0.30重量%以下のV、0.10重量%以下のNb)からなる群から選択される1以上の元素と、Feと、不可避的不純物とからなる組成を有する熱間圧延高強度鋼ストリップであって、該鋼ストリップは、少なくとも95体積%のフェライトおよび最大で5体積%のマルテンサイトのミクロ組織を有し、該鋼ストリップは、1/4厚さにおいて少なくとも0.65の方位差分布(MOD)指数と、0~1のカーネル平均方位差(KAM)を有する最大で55%の面積分率と、1~5のカーネル平均方位差(KAM)を有する少なくとも45%の面積分率と、少なくとも1400 mm-1の全粒界長さ(ΣGB[5°~65°])とを有し、該鋼ストリップは、少なくとも以下の機械的特性:少なくとも950MPaの最大引張強さ(Rm)、少なくとも10%の全伸び(A50)および少なくとも40%の穴広げ率(λ)値を有する熱間圧延高強度鋼ストリップに関する。また、本発明は、上記熱間圧延鋼ストリップおよび上記熱間圧延鋼ストリップを含む自動車パーツに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、
0.02~0.13重量%のCと、
1.20~3.50重量%のMnと、
0.10~1.0重量%のSiと、
0.05~1.0重量%のMoと、
0.02~0.70重量%のAlと、
0.04~0.25重量%のTiと、
0.010重量%以下のNと、
0.02重量%以下のPと、
0.01重量%以下のSと、
0.005重量%以下のBと、
必要に応じて、
1.5重量%以下のCu、
0.70重量%以下のCr、
0.50重量%以下のNi、
0.30重量%以下のV、および、
0.10重量%以下のNb
からなる群から選択される1以上の元素と、
残部であるFeおよび不可避的不純物と
からなる組成を有する熱間圧延高強度鋼ストリップであって、
前記鋼ストリップは、少なくとも95体積%のフェライトおよび最大で5体積%のマルテンサイトのミクロ組織を有し、
前記鋼ストリップは、
1/4厚さにおいて少なくとも0.65の方位差分布(MOD)指数と、
0~1のカーネル平均方位差(KAM)を有する最大で55%の面積分率と、
1~5のカーネル平均方位差(KAM)を有する少なくとも45%の面積分率と、
少なくとも1400 1/mmの全粒界長さ(ΣGB[5°~65°])と
を有し、
前記鋼ストリップは、少なくとも以下の機械的特性:
少なくとも950MPaの最大引張強さ(Rm)、
少なくとも10%の全伸び(A50)、および、
少なくとも40%の穴広げ率(λ)値
を有する、前記熱間圧延高強度鋼ストリップ。
【請求項2】
前記鋼ストリップが、少なくとも98体積%のフェライト、好ましくは少なくとも99体積%のフェライトを有する、請求項1に記載の熱間圧延高強度鋼ストリップ。
【請求項3】
前記鋼ストリップのミクロ組織全体が、0.2~4体積%、好ましくは0.2~3体積%、より好ましくは0.2~2体積%のマルテンサイトを有する、請求項1または2に記載の熱間圧延高強度鋼ストリップ。
【請求項4】
前記ミクロ組織が、少なくとも0.80の方位差分布(MOD)指数、より好ましくは少なくとも0.83のMOD指数を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱間圧延高強度鋼ストリップ。
【請求項5】
前記ミクロ組織が、少なくとも1500 1/mmの全粒界長さ(ΣGB[5°~65°])を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の熱間圧延高強度鋼ストリップ。
【請求項6】
前記組成が、0.45~2.2、好ましくは0.55~2.1の範囲の、
【数1】
[式中、Ti_solは、
【数2】
と定義される。]
を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の熱間圧延高強度鋼ストリップ。
【請求項7】
前記鋼ストリップが、0.10~0.80重量%の範囲、好ましくは0.25~0.80重量%の範囲、より好ましくは0.30~0.80重量%の範囲のMo含有率を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の熱間圧延高強度鋼ストリップ。
【請求項8】
前記鋼ストリップが、0.10重量%以下、好ましくは0.050重量%以下、より好ましくは0.03重量%以下のCr含有率を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の熱間圧延高強度鋼ストリップ。
【請求項9】
前記鋼ストリップが、0.05~0.30重量%、好ましくは0.05~0.30重量%、より好ましくは0.08~0.20重量%の範囲のV含有率を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の熱間圧延高強度鋼ストリップ。
【請求項10】
前記鋼ストリップが、1.40~2.40重量%、好ましくは1.40~2.20重量%の範囲のMn含有率を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の熱間圧延高強度鋼ストリップ。
【請求項11】
前記鋼ストリップが、45mm未満、好ましくは40mm未満の平均総亀裂長さ(ATCL)を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の熱間圧延高強度鋼ストリップ。
【請求項12】
前記鋼ストリップが、金属コーティング層、好ましくはZn層、Zn基合金層およびAl基合金層を含んでなる群から選択される金属コーティング層を備える、請求項1~11のいずれか一項に記載の熱間圧延高強度鋼ストリップ。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の熱間圧延高強度鋼ストリップを製造する方法であって、以下の工程:
・スラブを鋳造した後、固化されたスラブを1050℃~1260℃の温度に再加熱してスラブを熱間圧延するか、あるいは、スラブまたはストリップを鋳造した後、直ぐに、スラブまたはストリップを熱間圧延する工程;
・鋼スラブまたはストリップを熱間圧延し、820℃~940℃、好ましくは850℃~940℃、かつ、鋼のAr3温度より高い仕上げ圧延温度で、熱間圧延を仕上げる工程;
・熱間圧延された鋼ストリップを、20~250℃/秒、好ましくは40~200℃/秒のランアウト冷却速度で、560℃~620℃のランアウトテーブル温度に加速冷却する工程;
・550℃~600℃、好ましくは550℃~595℃、より好ましくは550℃~590℃の温度で、熱間圧延および冷却されたストリップを巻き取る工程;
・巻き取られた熱間圧延鋼ストリップを、周囲温度に更に冷却する工程;
・熱間圧延鋼ストリップを酸洗する工程
を含む、前記方法。
【請求項14】
酸洗された熱間圧延鋼ストリップが、金属コーティング層、好ましくはZn層、Zn基合金層およびAl基合金層を含んでなる群から選択され、好ましくはヒートトゥコートまたは溶融めっきによって形成される金属コーティング層を備える、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~12のいずれか一項に記載の熱間圧延高強度鋼ストリップを含む、あるいは、請求項13または14に記載の方法により得られる、自動車部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延高強度鋼ストリップ、特に、自動車部品における使用に適する熱間圧延高強度鋼ストリップに関する。また、本発明は、上記熱間圧延高強度鋼ストリップの製造方法に関する。更に、本発明は、熱間圧延高強度鋼ストリップを含む自動車部品に関する。
【背景技術】
【0002】
熱間圧延(HR)鋼ストリップの強度が増加するとともに、加工性は低下することは、周知である。輸送および自動車用途におけるHR鋼の応用の主要な領域は、シャーシおよびサスペンション(C&S)である。他の領域としては、トラックのフレームレール、バンパービームまたは電気自動車のバッテリーボックスが挙げられる。これらの応用のために用いられるHR鋼の典型的厚さは、4.5mm未満である。12mm以下などのより厚いゲージのHR鋼ストリップは、クレーンブームなどのエンジニアリング用途または大型トラックのフレームのための輸送用途において用いられる。重量削減の視点から、鋼ストリップのゲージを減少させるために、より高強度の鋼が上記応用に用いられるべきであることが絶対必要である。したがって、通常950MPaを超える最大引張強さ(Rm)を有する超高強度鋼は、この目的のために有用であろう。HR鋼のこれらの応用は、一致させることが難しい機械的特性を必要とする。高強度に加えて、これは熱間加工と比較してエネルギー効率の良い製造経路であるので、鋼ストリップは、例えば、冷間加工により部品を作製するための優れた加工性も有するべきである。更に、優れた衝撃および破壊靱性またはエネルギー吸収能も、バンパービーム、バッテリーハウジング、クレーンブームまたはフレームレールの様な用途に必要である。部品のアセンブリのため、優れた溶接性も必要である。しかしながら、鋼の引張強さが増加すると、加工性パラメータは減少する。加工性は、伸ばし、曲げ、絞りおよびフランジ加工などのいくつかの機械的操作中の材料挙動の組合せとして見られる鋼板に関する一般的な用語である。部品形状に応じて、材料の2以上の属性のいずれかまたは組合せは、板金加工中重要である。
【0003】
部品軽量化のため、一般的アプローチは、高強度鋼を適用することおよび軽量化のため用いられる鋼ストリップの厚さを減らすことである。しかしながら、これは、剛性の低下をもたらす可能性があり、自動車部品のいくつかの用途では望ましくない。自動車部品の製造に用いられる鋼ストリップの厚さの減少による本質的な剛性低下を、部品形状の最適化、例えば、より深いフランジまたは伸びもしくは曲げの程度を増やしたフランジの作製により取り戻すことができる。形状の最適化による部品剛性向上を可能にするため、高強度鋼ストリップは、引張伸びおよび穴広げ能力に関して優れた加工性を要する。
【0004】
グローバル加工性(例えば、引張伸び)と局所的加工性(例えば、穴広げ能力またはHEC)との間の従来の制約から、高レベルの両加工性モードを用いて抜け出す単相析出強化フェライト高強度鋼は、特定の条件下、例えば圧縮下において、低い破壊靱性値および増加したエッジ亀裂感度を有する可能性があり、せん断縁疲労を損なうせん断中の不安定な脆性破壊挙動および層間剥離に対する感度を増加させる傾向がある。
【0005】
特許文献EP1616970A1は、1150~1300℃の範囲の温度において、重量%で、0.04~0.15%のC、1.5%以下のSi、0.5~1.6%のMn、0.04%以下のP、0.005%以下のS、0.04%以下のAl、0.03~0.15%のTi、0.03~0.5%のMo(いずれも質量基準)、ならびに、残部であるFeおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを再加熱する工程;再加熱された鋼スラブをAr3変態温度以上の仕上げ温度で熱間圧延鋼板に熱間圧延する工程;熱間圧延鋼板を20℃/秒以上の平均冷却速度で700~850℃の範囲の温度に第一冷却する工程;第一冷却された鋼板を1秒超の間680℃以上の温度に保持する工程;鋼板を30℃/秒以上の平均冷却速度で550℃以下の温度に第二冷却した後、鋼板を巻き取る工程を含む高強度熱間圧延鋼板の製造方法を開示する。好ましくは、熱間圧延鋼板は、700~850℃の範囲の温度、かつ、(SRT/3+300)~(SRT/8+700)℃の範囲の温度に第一冷却され、ここで、SRTは鋼スラブの再加熱温度を表す。EP1616970A1の実施例において、これは、実際に、667~860℃の範囲の温度の第一保持につながる。処理条件は、析出物を含むフェライトと、ベイナイトおよび/またはマルテンサイトの第二相と、他の相とからなるミクロ組織が得られるような条件であり、析出物を含むフェライトのパーセンテージは40~95%であり、他の相のパーセンテージは5%以下である。
【0006】
特許文献EP1338665A1は、重量%で、0.06%以下のC、0.5%以下のSi、0.5~2.0%のMn、0.06%以下のP、0.005%以下のS、0.1%以下のAl、0.006%以下のN、0.05~0.6%のMo、0.02~0.10%のTi、および、残部Feから本質的になり、0.8≦(C/12)/[(Ti/48)+(Mo/96)]≦1.3の式を満足する鋼スラブを製造する工程;Ar3変態点以上の温度で鋼スラブを熱間圧延することにより熱間圧延鋼板を製造する工程;550~700℃の温度で熱間圧延鋼板を巻き取る工程を含む高強度熱間圧延鋼板の製造方法を開示する。処理条件は、フェライト組織単相と、TiおよびMoを含む複合炭化物である微細析出物とのマトリックスから本質的になるミクロ組織が得られるような条件であり、上記微細析出物は、10nm未満の結晶粒度を有し、5×10/m以上の単位体積当たりの数で、上記マトリックス中に分散する。
【0007】
高い加工性を有し、低い亀裂感度を有する熱間圧延高強度鋼ストリップに対する需要がある。
【発明の概要】
【0008】
本明細書において認識されるように、合金組成または好ましい合金組成のいずれの記載に関しても、別段規定される場合を除き、全ての%は重量%である。
【0009】
本明細書において、合金添加の組成範囲または量を説明するために用いられる用語「約(about)」は、合金添加の実際の量が、当業者が理解するように標準的処理変動などの因子のために名目の意図される量から変動する可能性があることを意味する。
【0010】
本明細書において用いられる用語「以下(up to)」および「約・・・以下(up to about)」は、これに限定されないが、それが表す特定の合金成分の0重量%の可能性を明示的に含む。例えば、0.03%以下のCrは、Crを全く有しない鋼ストリップの組成を含み得る。
【0011】
本発明の目的は、高い穴広げ能力(hole-expansion capacity)とともに、高い全伸び(total elongation)(A50またはA80)を有する熱間圧延高強度鋼ストリップを提供することである。
【0012】
本発明の目的は、高い穴広げ能力および低い亀裂感度(crack sensitivity)、特に低いエッジ亀裂感度(edge-crack sensitivity)とともに、高い全伸び(A50またはA80)を有する熱間圧延高強度鋼ストリップを提供することである。
【0013】
本発明の別の目的は、全伸びと、穴広げ能力と、低い亀裂感度、特に低いエッジ亀裂感度との改良されたバランスを有する熱間圧延高強度鋼ストリップの製造方法を提供することである。
【0014】
これらのおよび他の目的ならびに更なる利点は、重量%で、
0.02~0.13重量%のCと、
1.20~3.50重量%のMnと、
0.10~1.0重量%のSiと、
0.05~1.0重量%のMoと、
0.02~0.70重量%のAlと、
0.04~0.25重量%のTiと、
0.010重量%以下のN(100ppm)、好ましくは0.0065重量%以下のN(65ppm)と、
0.02重量%以下のP、好ましくは0.015重量%以下のPと、
0.01重量%以下のS、好ましくは0.0025重量%以下のS(25ppm)と、
0.0050重量%以下のB(50ppm)、好ましくは0.0030重量%以下のB(30ppm)と、
必要に応じて、
1.5重量%以下のCu、好ましくは0.6重量%以下のCu、より好ましくは0.10重量%以下のCu、
0.70重量%以下のCr、好ましくは0.40重量%以下のCr、より好ましくは0.25重量%以下のCr、
0.50重量%以下のNi、好ましくは0.3重量%以下のNi、より好ましくは0.10重量%以下のNi、
0.30重量%以下のV、好ましくは0.20重量%以下のV、および、
0.10重量%以下のNb、好ましくは0.03重量%以下のNb
からなる群から選択される1以上の元素と、
残部であるFeならびに製鉄および製鋼プロセスから生じる不可避的不純物と
からなる組成を有する熱間圧延高強度鋼ストリップであって、
鋼ストリップは、少なくとも95体積%のフェライトおよび最大で5体積%のマルテンサイト、好ましくは少なくとも0.2体積%のマルテンサイトのミクロ組織を有し、
鋼ストリップは、
1/4厚さにおいて少なくとも0.65の方位差分布(Misorientation Distribution:MOD)指数と、
0~1のカーネル平均方位差(Kernel Average Misorientation:KAM)を有する最大で55%の面積分率と、
1~5のカーネル平均方位差(KAM)を有する少なくとも45%の面積分率と、
少なくとも1400 1/mmの全粒界長さ(total grain boundary length)(ΣGB[5°~65°])と
を有し、
鋼ストリップは、少なくとも以下の機械的特性:
少なくとも950MPa、好ましくは少なくとも960MPa、より好ましくは少なくとも980MPaの最大引張強さ(ultimate tensile strength)(Rm);
少なくとも10%、好ましくは少なくとも14%の全伸び(total elongation)(A50)、および、
少なくとも40%の穴広げ率(hole expansion ratio)(λ)値
を有する、熱間圧延高強度鋼ストリップを提供する本発明により達成される。
【0015】
本発明によれば、ミクロ組織とともに、これらの狭い合金組成範囲を有する熱間圧延鋼ストリップが、高強度(Rm)と、全伸び(A50)と、穴広げ率との改良されたバランスを提供することが判明した。鋼ストリップのミクロ組織が、加工操作においてエッジ亀裂感度の低下させることも、本発明の重要な発見である。低下された亀裂感度、特に低下されたエッジ亀裂感度を、本明細書に記載の測定方法に従って平均総亀裂長さ(average total crack length:ATCL)で客観的に表すことができる。本発明による鋼ストリップは、好ましい実施形態では、45mm未満のATCL、最良の例では、40mm未満のATCLを有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1A図1Eは、絞りカップのための一般的円筒深絞り試験を用いた鋼ストリップ製品の平均総亀裂長さ(ATCL)の決定方法のいくつかの特徴を示す。
図2図2Aは、厚い鋳造鋼スラブを処理するための熱間圧延機の概略図を示し、図2Bは、直接圧延機を有する薄スラブ鋳造設備を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
鋼ストリップの一実施形態では、降伏強さ(yield strength)(Rp)は、少なくとも800MPa、好ましくは少なくとも850MPaである。鋼ストリップの一実施形態では、鋼ストリップは、最大で960MPa、好ましくは最大で950MPaの降伏強さ(Rp)を有する。
【0018】
鋼ストリップは、少なくとも950MPaの最大引張強さ(Rm)を有する。鋼ストリップの一実施形態では、鋼ストリップは、少なくとも960MPa、好ましくは少なくとも980MPaの最大引張強さを有する。
【0019】
鋼ストリップは、少なくとも10%、好ましくは少なくとも14%の全伸び(A50)を有する。
【0020】
本発明の鋼ストリップで要求されるミクロ組織は、狭い組成範囲により、ならびに、製造過程、ランアウトテーブル(run-out table:ROT)での鋼ストリップの加速冷却、および、特に巻取り温度(CT)のための狭い操作ウインドウ(operating window)の注意深い制御により、達成される。
【0021】
本発明による鋼ストリップのミクロ組織は、チタンおよびモリブデンの炭化物析出物により、ならびに、必要に応じてバナジウムおよび/またはニオブにより析出強化された少なくとも95体積%のフェライトと、最大で5体積%のマルテンサイトとからなり、残部は不可避量の介在物(inclusion)であり、合計は100体積%である。一実施形態では、ミクロ組織は、少なくとも98体積%のフェライト、より好ましくは少なくとも99体積%を有する。本発明によれば、ある程度(some)のマルテンサイトの存在は、いずれもの亀裂先端(crack tip)を鈍らせ、亀裂伝播を減らすために好ましいと考えられる。実際、マルテンサイトは、ある微量(some traces)の残留オーステナイトを含み得るが、残留オーステナイトは好ましくは存在しない。鋼ストリップのミクロ組織は、好ましくは少なくとも0.2体積%、より好ましくは少なくとも0.3体積%のマルテンサイトを有する。好ましい実施形態では、鋼ストリップは、最大で3体積%、より好ましくは最大で2体積%のマルテンサイトを有する。
【0022】
鋼ストリップのミクロ組織全体のテクスチャー(texture)は、少なくとも0.65、好ましくは少なくとも0.80、より好ましくは少なくとも0.83、最良の例では少なくとも0.90の充分に高い方位差分布(MOD)指数によって更に特徴付けられる。MOD指数は、鋼ストリップの1/4厚さにおいて測定される。
【0023】
鋼ストリップのミクロ組織全体のテクスチャーは、0~1のカーネル平均方位差(KAM)を有する最大で55%、より好ましくは最大で52%の面積分率、および、1~5のカーネル平均方位差(KAM)を有する少なくとも45%、より好ましくは少なくとも48%の面積分率によって更に特徴付けられる。
【0024】
鋼ストリップのミクロ組織全体は、mm/mmあたり少なくとも1400、すなわち、少なくとも1400 1/mm、好ましくは少なくとも1500 1/mmの(5°~65°)粒界長さ(ΣGB)によって更に特徴付けられる。より高いΣGBは、所望の低い亀裂感度をもたらすより高い程度の結晶粒微細化(grain refinement)を示すとともに、例えば圧縮下において、好ましいより短いATCLをもたらす亀裂伝播(crack propagation)の抑制(suppression)または阻止(arrest)を示す。
【0025】
炭素は、0.02~0.13重量%の量で存在する。充分な強度を達成するために、適切な最小のC含有率は、0.04重量%、好ましい実施形態では、少なくとも0.070重量%である。好ましい実施形態では、C含有率は、最大で0.12重量%であり、最終ミクロ組織の均質性に対する冷却速度の依存性の影響を抑制するために、および、高い穴広げ能力を促進するために有益である。更に、Cは、チタン、ニオブ(添加される場合)またはバナジウム(添加される場合)のような炭化物生成微量合金元素と組み合わせて析出強化を達成するために、および、Cを捕捉(scavenge)して最終ミクロ組織におけるセメンタイト形成を抑制するために必須の元素である。Ti、Nbおよび/またはVを含む他の合金元素の最適化により、実質的にセメンタイトを含まないほとんど均質なフェライトまたはベイナイト-フェライトミクロ組織を得ることが可能である。
【0026】
充分な焼入性および結晶粒微細化を達成するために、鋼ストリップは、1.20重量%~3.50重量%の範囲のMnを有する。一実施形態では、強度と、腐蝕耐性と、破壊靱性と、エッジ亀裂感度との改良されたバランスのために、Mn含有率は、1.40重量%~2.40重量%の範囲である。破壊靱性の改良および亀裂感度の低下に充分な結晶粒微細化を得るために、Mn含有率は、好ましくは少なくとも1.50重量%である。一実施形態では、Mn含有率は、最大で2.20重量%、より好ましくは最大で2.0重量%である。高すぎるMn含有率は、要求される特性バランスに悪影響を与える鋳造中の偏析(segregation)をもたらす可能性がある。
【0027】
鉄格子の置換型固溶強化により鋼の強度を改良するために、ケイ素は、0.10~1.0重量%の量で存在する。更に、Siは、炭化物析出(セメンタイトおよび他の炭化物)を抑制するために有益である。しかしながら、より高い量のSiが用いられる場合、鋼の溶接性およびコーティング性が劣化するため、Siの量は、好ましくは最大で0.95重量%、好ましい実施形態では、最大で0.70重量%、より好ましくは最大で0.60重量%である。
【0028】
アルミニウムは、本発明による鋼においてSiと同等な挙動をする。アルミニウムは、炭化物析出動態を遅くし、セメンタイトの形成を抑制する。Alが0.02重量%未満である場合、炭化物生成の抑制の効果は、無視できる程度である。0.02重量%未満のアルミニウムの値は、製鋼中の脱酸素工程からの残留物であると考えられ、したがって、約0.02重量%の最小値が好ましい。他方では、Alが0.70重量%を超える場合、鋼の熱機械処理(スラブ再加熱、熱間圧延、巻取りなど)の間に過剰な酸化物が形成され得る。更に、Alは、フェライトからオーステナイトへの変態温度を増加させ、より低温度において二相域フェライト(intercritical ferrite)が出現するため、オーステナイト相における熱間圧延を仕上げるために、より高温度における鋼の熱間圧延に対する必要性を要求する。より高い酸化の量は、より高い温度において起こり得る。これらの酸化物スケールは、熱間圧延、酸洗、コーティングおよび表面全体の外観に弊害をもたらす。更に、熱間圧延中の圧延荷重(rolling force)は、Siの存在と組み合わされてAlが0.70重量%を超える場合、鋼を非常に脆性にし、熱間圧延をより困難にするようなレベルまで増加する。したがって、本発明におけるAlは、0.02~0.70重量%、好ましくは0.02~0.60重量%、より好ましくは0.030~0.50重量%の範囲の量で存在する。
【0029】
チタンは、もう1つの必須合金元素であり、焼入性を提供し、小さいTi系炭化物の形成により析出強化を提供しながらセメンタイトの形成を抑制する炭化物生成元素として機能するため、0.04~0.25重量%の量で存在する。しかしながら、Tiは、鋼の特定の化学組成に応じて、N、SおよびCと結合して窒化物および炭素硫化物も形成する。したがって、鋼中の実質的に全てのNおよびSと結合するために、および、鋼中のCと結合するのに充分過剰なTiを有するために、少なくとも0.04重量%のTiが存在する。0.25重量%を超えるTiが存在する場合、熱間圧延前にスラブの再加熱中に溶解するのが難しい粗大なTi窒化物、窒化炭素および炭化物が形成する可能性がある。更に、これらの粗大なTi窒化物、窒化炭素および炭化物は、鋼の穴広げ能力の低下をもたらす。好ましくは0.07~0.22重量%のTiが存在する。一実施形態では、Ti含有率は、0,20重量%を超えず、好ましくは0.15重量%を超えず、より好ましくは0.13重量%を超えない。
【0030】
鋼ストリップは、焼入性を得るために約0.05重量%~1.0重量%の範囲で存在する目的のある合金元素として、Moを有する。一実施形態では、Mo含有率は、少なくとも約0.10重量%、好ましくは少なくとも約0.20重量%、より好ましくは少なくとも0.25重量%、最も好ましくは少なくとも0.30重量%である。一実施形態では、Mo含有率は、約0.80重量%を超えず、好ましくは約0.55重量%を超えず、より好ましくは0.40重量%を超えない。Moの存在は、鋼ストリップの溶接性も改良し得る。
【0031】
炭化物析出物の熱安定性を向上させ、これにより、熱エイジング(例えば、鋼のコイル冷却中または後続の任意の熱加熱処理中(例えば、コーティング中または溶接中)の熱エイジング)に起因する析出物の粗大化による析出強化の損失を低減するために、下記式により重量%で表される、微量合金元素Nb、TiおよびVの総量に対するMoの原子比は、0.75~1.25の範囲に維持されることが好ましい。
【0032】
【数1】
【0033】
窒素、硫黄およびリンは、製鋼および精錬過程の結果として鋼中に存在する残留元素である。これらの量は、0.01重量%以下のS、0.02重量%以下のP、および、0.010重量%以下のNに限定される。これらを超える量は、機械的特性、加工性、靱性および溶接性に弊害をもたらす。一実施形態では、Pは、0.015重量%以下しか存在しない。一実施形態では、Sは、0.005重量%以下、より好ましくは0.0025重量%以下しか存在しない。Nは、Tiとともにチタン窒化物を形成し、再加熱中のオーステナイト結晶粒度制御のための分散質として機能する。しかしながら、高すぎるNは、穴広げ能力を損ない得る過度に粗大なTiN粒子をもたらす。好ましくは、N含有率は、0.0065重量%(65ppm)以下である。適切な最小N含有率は、0.0010重量%(10ppm)である。
【0034】
ホウ素は、鋼ストリップの特性の所望のバランスを得るために要求されないが、0.005重量%以下、したがって50ppm以下、好ましくは0.0030重量%(30ppm)以下で存在し得る。Bは、鋼の焼入性を強化するために非常に効果的であり、これは、前共晶フェライト(pro-eutectic ferrite)が全く形成されないか、または、ほんのわずかしか形成されずに、低炭素含有率および/またはより低い冷却速度をランアウトテーブルで用いることができることを意味する。Bは、降伏強さを増加させるのに非常に適した合金元素でもある。
【0035】
Crは、約0.70重量%、好ましくは0.25重量%以下の量で鋼ストリップに添加することができ、これにより、鋼の焼入性を向上させることができる。好ましい実施形態では、鋼ストリップは、許容できる不純物元素としてCrを有する。実際には、これは、コーティングされていない鋼ストリップ基材の耐蝕性を損ない得るため、Crが、0.10%以下、好ましくは0.050%以下、より好ましくは0.03%以下で存在し得ることを意味する。
【0036】
銅は、1.5重量%以下で存在する場合、固溶強化ならびに銅析出物による析出硬化の両方により鋼の強度を向上させる。一実施形態では、Cu含有率は、0.6重量%を超えない。一実施形態では、Cuは、目的のある合金元素として添加されず、0.10重量%以下、より好ましくは0.05重量%以下で存在し得る。約0.50重量%以下、好ましくは0.30重量%以下のニッケルは、衝撃靱性を向上させ、銅の存在に起因する鋼ストリップの熱間加工中に起こり得る任意の熱間脆性に対抗する。一実施形態では、Niは、目的のある合金元素として添加されず、0.3重量%以下、好ましくは0.10重量%以下、より好ましくは0.050重量%以下で存在し得る。
【0037】
バナジウムは、約0.30重量%以下、好ましくは約0.20重量%以下、より好ましくは0.17重量%以下の量で鋼中に存在し得る。しかしながら、Vは、その析出強化効果のためにTiを置換するために、および、バナジウム炭化物の生成によりセメンタイトの形成を回避するために、主として用いられる比較的高価な合金元素である。好ましい実施形態では、Vは、少なくとも0.05重量%、より好ましくは少なくとも0.08重量%の量で、目的をもって添加される。TiがV析出に対して触媒効果を提供し、V析出をより効果的にするために、TiおよびVの組合せの添加が好ましい。
【0038】
ニオブは、0.10重量%以下で鋼中に存在し得る。Nbは、部分的には析出硬化により、主として結晶粒微細化により、鋼の強度を改良する。しかしながら、高い量のNbでは、これらの効果が飽和する。したがって、好ましくは最大で0.08重量%、より好ましくは最大で0.060重量%のNbが存在する。Nbは、むしろ高価な合金元素であるため、一実施形態では、Nbは、目的をもって添加されず、不純物元素として存在し、0.03重量%を超えず、好ましくは0.02重量%を超えず、より好ましくは0.0050重量%を超えない。最も好ましい実施形態では、Nbは、製鉄および製鋼過程から生じる不可避的不純物である。Tiを充分に高いレベルに維持することにより、加工性と、機械的特性と、改良された破壊またはエッジ亀裂特性との、目的のバランスを依然として実現しながら、Nbの使用を回避できることが判明した。更に、Nbは、中心線偏析(centre-line segregation)に起因する偏析および粗大なNbC粒子の形成をもたらす傾向が高く、したがって、Nbの使用の回避は、穴広げ能力向上およびせん断エッジ品質向上をもたらす。
【0039】
更に、重量%で表される炭化物生成元素Ti、Nb、VおよびMoの量が下記式を満足する場合、セメンタイトの形成が抑制され得るとともに、ミクロ組織における少ない割合(small fraction)のマルテンサイト+残留オーステナイトの好ましい形成がより良好に制御され得ることが判明した。
【0040】
【数2】
【0041】
上記式において、Ti_solは、溶体(solution)中の遊離Tiの量と定義され、
【数3】
として表され、TiおよびNの量は重量%で表される。
【0042】
好ましくは、上記式の下限は、0.75、好ましくは0.80である。一実施形態では、セメンタイトの存在を更に抑制するために、および/または、マルテンサイトの量を制御するために、上限は、好ましくは1.8、より好ましくは1.5である。好ましい実施形態では、上記式は、0.9~1.1の範囲である。
【0043】
一実施形態では、鋼ストリップは、0.02~0.13重量%のCと、1.20~2.0重量%のMnと、0.10~0.60重量%のSiと、0.01~0.70重量%のAlと、0.04~0.25重量%のTiと、0.05~0.80重量%のMoと、0.10%以下のCr、好ましくは0.050%以下のCrと、0.010重量%以下のNと、0.02重量%以下のP、好ましくは0.015重量%以下のPと、0.01重量%以下のS、好ましくは0.0025重量%以下のSと、0.0050重量%以下のBと、必要に応じて(0.10%以下のCu、0.10%以下のNi、0.30%以下のV、0.10重量%以下のNb、好ましくは0.03%以下のNb)からなる群から選択される1以上の元素と、残部であるFeならびに製鉄および製鋼過程から生じる不可避的不純物とからなる組成を有し、より好ましい範囲は、本明細書および特許請求の範囲に記載されている。
【0044】
0.2%のオフセット耐力(offset proof strength)または降伏強さ(Rp)、最大引張強さ(Rm)、一様伸び(Ag)および引張伸び(A50)は、A50試験片形状(A50 specimen geometry)を用いた室温での準静的(ひずみ速度3×10-4-1)引張試験により、EN10002-1/150 6892-1に従って圧延方向に対して平行な引張試験を行うことにより決定された。引張試験片の形状は、圧延方向に50mmゲージ長さ、幅12.5mmおよび最終ゲージに応じた厚さであった。0.2%オフセット歪(offset strain)における鋼の強度は、降伏強さ(RpまたはYS)として測定される。最大引張強さに対する降伏強さの比(Rp/Rm)は、降伏比として表される。
【0045】
鋼ストリップの伸びフランジ性(stretch-flangeability)または穴広げ能力(HEC)は、穴広げ試験により決定された。寸法90mm×90mm×ストリップの最終厚さの試験片は、巻き取られたままの鋼から切り出された。直径10mmの穴が、試験片の中央部にパンチングされ、ISO/TS16630:2003(E)標準に従って穴広げ試験が行われた。サンプルの穴広げ試験は、上向きバーリングで行われた。60°の円錐パンチが下から押し上げられ、厚さ方向の亀裂が形成された場合に穴の直径dが測定された。穴広げ率λは、d=10mmとし、下記式を用いて算出された。
【0046】
【数4】
【0047】
上記機械的試験の全てについて、少なくとも3試験片が、各条件で試験され、それらの平均値が本明細書で報告されている。
【0048】
工業的適用と同様な状況において亀裂形成の感度(susceptibility)を評価するために、平均総亀裂長さ(ATCL)が用いられる。ATCLパラメータは、パンチ、絞り型およびブランクホルダを用いた一般的実験室円筒深絞り試験(common laboratory cylindrical deep drawing test)で決定される。この試験において、パンチは、50mmの直径および7mmのパンチ半径を有する。ダイは、62mmの直径および8mmの半径を有する。このセットアップの概略を図1Bに示す。内径は、形成されたカップのエッジが自由に動くことが可能となるように充分に大きい。クリアランス、すなわち、パンチ壁とダイ壁との距離は、6mmである。ブランクホルダ力は、50kNに設定される。ブランクは四角形であり、90×90mmである。四角形の4つの角は、図1Aに示されるように、2対角線の方向に10mm切断される。円筒深絞り試験の初期段階の間に、ブランクのエッジにおける4領域は、絞り中の高い局所的圧縮応力による塑性変形を受ける。この結果、エッジの局所的しわ(wrinkling)が生じる。試験の最後およびブランクホルダ力の解放時に、形成された円筒カップのこれらの領域がブランクホルダとの接触を失い始めるため、4圧縮領域は、スプリングバック(spring back)による逆荷重(reverse loading)を受ける。このスプリングバックによる逆荷重は、圧縮およびしわ形成された絞りカップの4領域における亀裂の核生成および成長をもたらし得る(例えば、図1E参照)。亀裂は、鋼ストリップの全厚さを貫通して、絞りカップの両側、すなわち、内側および外側で視認可能であるか、または、絞りカップの両側のうちの一方でのみ視認可能である可能性がある。深絞りカップの4圧縮エッジの内側および外側における全ての視認可能な亀裂の長さ(図1Dに示す)は、スケールグリッドを備える10倍の拡大鏡を用いて測定される。カップ壁の内側および外側における全ての観察可能な亀裂の長さの合計が、4絞りカップのうち3つについて平均され、平均総亀裂長さ(ATCL)として報告され、mmの単位で表される。
【0049】
鋼ストリップのミクロ組織は、電子線後方散乱回折法(Electron Back Scatter Diffraction:EBSD)によって分析された。EBSDは、当技術分野において周知の技術であり、様々な成分の面積または体積分率の定量も順次可能とする。EBSD測定は、導電性樹脂中に封入され、1μmまで機械的に研磨された、圧延方向に平行な横断面(RD-ND平面)上で行われた。完全に歪みのない面を得るために、仕上げ研磨工程が、コロイド状シリカ(OPS)を用いて行われた。
【0050】
EBSD測定に用いられた走査電子顕微鏡(SEM)は、電界放射型電子銃(FEG-SEM)およびEDAX PEGASUS XM4 HIKARI EBSDシステムを備えるZeiss Ultra55装置である。EBSDスキャンは、1/4厚さにおいてシートのRD-ND平面上に集められた。サンプルは、SEMにおいて70°の角度で配置された。加速電圧は15kVとし、高電流オプションのスイッチはonにした。120μmのアパーチャー(aperture)が用いられ、走査中の通常作業距離は17mmとした。サンプルの高傾斜角(tilt angle)を補償するため、走査中にダイナミックフォーカス補正(dynamic focus correction)が用いられた。
【0051】
EBSDスキャンは、TexSEMラボラトリーズ(TSL)ソフトウェア「Orientation Imaging Microscopy(OIM) Data Collectionバージョン7.2」を用いてキャプチャーされた。典型的には、次のデータ収集設定が用いられた:背景差分(標準モード)と組み合わせた5×5ビニングにおけるHikariカメラ。全ての場合において、スキャン領域は、1/4サンプル厚さの位置とし、スキャン領域に非金属介在物が含まれることを可能な限り避けるように注意が払われた。全ての場合において、EBSDスキャンサイズは100×100μmとし、ステップサイズは0.1μmとし、スキャン速度は約100フレーム/秒とした。菊池パターンを指数付け(index)するために、Fe(α)およびFe(γ)が用いられた。データ収集中に用いられたハフ(hough)設定は、ビニングパターンサイズ(binned pattern size):約96、シータセットサイズ(theta set size):1、ロー分率(rho fraction):約90、最大ピーク数(maximum peak count):10、最小ピーク数(minimum peak count):5、ハフタイプ(hough type)設定:クラシック(classic)、ハフ解像度(hough resolution)設定:低(low)、バタフライ畳み込みマスク(butterfly convolution mask):9×9、ピーク対称性(peak symmetry):0.5、最小ピーク振幅(minimum peak magnitude):10、最大ピーク距離(maximum peak distance):20とした。
【0052】
EBSDスキャンは、TSL OIM解析ソフトウェア バージョン「8.0x64[12-14-16]」を用いて評価された。典型的には、データセットは、測定方向に対して適切な方向のスキャンを得るために、RD軸に対して90°回転された。標準的粒子拡張クリーンアップ(standard grain dilation clean-up)が行われた(粒子許容角度(Grain Tolerance Angle:GTA):5°、最小粒子サイズ(minimum grain size):5ピクセル、単一の拡張反復クリーンアップ(single dilation iteration clean-up)のために粒子は複数の行(multiple rows)を含まなければならないという基準)。この次に、シュードシンメトリークリーンアップ(pseudo-symmetry clean-up)(GTA5、軸角度30°@111)が適用された。
【0053】
マルテンサイトの量を決定するために、EBSDイメージクォリティ(Image Quality:IQ)マップが用いられた。低IQの領域がMS領域と同定された。所与の実験条件の場合、典型的には、低IQ閾値は、IQヒストグラムにおけるピーク最大位置の約0.4であった。しかしながら、粒状ベイナイト領域または上部ベイナイト領域に由来する粒界がマルテンサイト面積分率に含まれること(including grain boundaries from granular bainite or upper bainitic areas in the martensite area fraction)を防ぐために、低IQ閾値は、スキャン毎に手動でチェックされた。
【0054】
EBSDカーネル平均方位差(KAM)マップの算出のために、5°の最大方位差とともに、第五最近接物(the fifth nearest neighbor)が用いられた(カーネルにおける全点がKAM算出のために用いられた)。カーネル平均方位差は内部転位密度の尺度であるため、カーネル平均方位差は、フェライトのタイプのシグネチャー(signature)とみなされる。比較的低い内部転位密度を有する領域は、主として、0~1°のKAM値を有する領域と一致する。比較的高い内部転位密度を有する領域は、主として、1~5°のKAM値を有する領域と一致する。
【0055】
1/4厚さにおけるRD-ND平面上の100×100μm領域(0.01mm)におけるEBSDスキャンから、更に、5°~15°(ΣGB5~15)および15°~65°(ΣGB15~65)の方位差角(misorientation angle)とともに粒界の全粒界長さの合計(ΣGB)が測定された。ΣGBの値は、mm-1の単位で表され、高角粒界(high-angle grain boundary)の密度の尺度である。高角粒界は、亀裂伝播を阻止するために効果的である。したがって、ΣGBの値の増加は、破壊靱性の向上および亀裂感度の低下に有益である。
【0056】
本発明の一態様は、本明細書および特許請求の範囲に記載されているように、鋼ストリップの製造方法に関し、該方法は、以下の工程:
・スラブを鋳造した後、固化されたスラブを1050℃~1260℃の温度に、好ましくは30分以上、より好ましくは60分以上の時間、再加熱してスラブを熱間圧延するか、あるいは、スラブまたはストリップを鋳造した後に、スラブまたはストリップを熱間圧延する工程;
・鋼スラブまたはストリップを熱間圧延し、820℃~940℃、好ましくは850℃~940℃、最も好ましくは850℃~920℃、かつ、鋼のAr3温度より高い仕上げ圧延温度で熱間圧延を仕上げる工程(仕上げ熱間圧延温度(finish rolling temperature:FRT)は、鋼のAr3温度より高く、Ar3は、冷却中にオーステナイトがフェライトへ変態開始する温度である。当技術分野において公知であるように、Ar3温度は、下記式:
Ar3=910℃-203×[C]1/2+44.7×[Si]-30×[Mn]+31.5×[Mo]
に従って算出することができる。);
・熱間圧延鋼ストリップを、20~250℃/秒、好ましくは40~200℃/秒のランアウトテーブル冷却速度(run-out table cooling rate)で、560℃~620℃のランアウトテーブル温度に加速冷却する工程;
・550℃~600℃、好ましくは550℃~595℃、より好ましくは550℃~590℃の温度で、熱間圧延および冷却されたストリップを巻き取る工程;
・巻き取られた熱間圧延鋼ストリップを、周囲温度に更に冷却する工程;
・熱間圧延鋼ストリップを酸洗する工程;
・必要に応じて、熱間圧延鋼ストリップに、金属コーティング層、好ましくは、Zn層、Zn基合金層およびAl基合金層を含んでなる群から選択される金属コーティング層を設けて、使用中の腐蝕耐性を改良する工程;
を、記載の順序で含む。金属コーティング層は、好ましくは、ヒートトゥコート(heat-to-coat)または溶融めっきコーティングにより形成される。
【0057】
本明細書および特許請求の範囲に記載の製造方法は、加工性と、機械的特性と、破壊特性との、目標とする改良されたバランスを提供する所望のミクロ組織をもたらす。本発明は、上記ミクロ組織と、加工性、機械的特性および破壊特性の改良されたバランスとを有する、本明細書および特許請求の範囲に記載の方法により製造された鋼ストリップにおいても具体化される。
【0058】
本発明は、鋳造方法により限定されない。鋼は、150mm~350mm、典型的には225mm~250mmの鋳造物厚さを有する従来の厚いスラブとして、ならびに、ダイレクトストリッププラント(direct strip plant)において50mm~150mmの鋳造物厚さを有する薄スラブ(thin slab)として、鋳造可能である。従来の熱間圧延機および薄スラブ鋳造/直接圧延機を含む方法の概要例をそれぞれ図2Aおよび図2Bに示す。従来の厚いスラブ鋳造の場合、周囲温度からスラブを再加熱するために(通常、厚い鋳造スラブはスラブヤードにおいて鋳造温度から周囲温度へ冷却されている)、および、組成に関してスラブを均質化するために、スラブの再加熱が必要であり、したがって、ミクロ合金元素が存在する場合に任意の析出物を溶解するために、および、スラブを、仕上げ圧延機における最終熱間圧延がFRT>Ar3でも依然として実施可能であるような温度にするために、再加熱温度は、約1050℃を超えるべきである。しばしば、これは、1050℃から約1260℃までの(スラブ)再加熱温度を必要とする。薄スラブ鋳造の場合、鋳造スラブは、薄スラブの鋳造直後に均質化炉において均質化処理を受け、均質化温度は、約1050℃を超えるべきであり、典型的には、約1100~1160℃である。これはまた、ミクロ合金元素が存在する場合(もし存在するならば)に、任意の析出物の形成を抑制するとともに、薄スラブを、仕上げ圧延機における最終熱間圧延がFRT>Ar3でも依然として実施可能であるような温度にする。本発明によれば、薄スラブ鋳造経路のための再加熱または均質化時間は、好ましくは30分以上である。
【0059】
鋼の熱間圧延は、最終ミクロ組織を制御するために、オーステナイト相において実施されなければならない。FRTの圧延の工業的スケールでは、FRTは、Ar3温度より高く維持されるべきである。好ましい実施形態では、FRTは、ストップのより冷たいエッジまたは尾部において、局所的にAr3より低い温度で熱間圧延が実施されることを避けるために、(Ar3+30℃)超、例えば、典型的には850℃超である。より低いFRTは、より多くのオーステナイト歪みを促進し、したがって、結晶粒微細化の増加およびΣGBの増加に寄与するため、オーステナイト領域において高すぎるべきでない。950℃を超えるFRTは、エッジ亀裂感度の増加をもたらす。更に、高すぎないFRTは、靱性(例えば、{332}<113>)に有益である最終ミクロ組織のテクスチャーを促進するとともに、弊害(例えば、{001}<110>回転キューブ)であるものを抑制する。そのような理由で、FRTは、約940℃を超えるべきでなく、好ましくは約920℃を超えず、より好ましくは約910℃を超えない。
【0060】
熱間圧延後、鋼ストリップは、560℃~620℃の温度にランアウトテーブル(ROT)上で加速冷却される。加速冷却速度は、最終ミクロ組織の結晶粒微細化およびΣGBの増加を促進するために、オーステナイトにおける内部貯蔵エネルギーの回復および損失を抑制することが望ましい。冷却速度は、高温においてオーステナイトからフェライトへの相変態を避けるために、および、ランアウトテーブルにおける約560~630℃の比較的低温でのオーステナイトからフェライトへの相変態を好ましく促進するために、充分高くするべきである。冷却速度の増加は、結晶粒微細化、ΣGBの増加、ひいては、破壊靱性の増加および亀裂感度の低下を促進する。冷却速度の増加は、更に、テクスチャーランダム化(texture randomization)を抑制し、ひいては、靱性(例えば、{332}<113>)を促進する変形オーステナイトから発達したこれらのテクスチャーの強度の損失を抑制する。本明細書で言及されている冷却速度は、ミクロ組織の観点から、鋼ストリップの厚さ方向を超える(exceeded through-thickness)限り、クリティカルなランアウトテーブル冷却速度(ROT-CR)はない。しかしながら、不必要に高いROT-CRは、冷却後のストリップの平面性に影響を与え、適正な冷却停止温度(correct cooling stop temperature)で停止するための制御問題を引き起こす可能性があり、したがって、適切な最大ROT-CRは、約250℃/秒、好ましくは約200℃/秒、より好ましくは約150℃/秒である。実際のROT-CR範囲は、約20~100℃/秒、より好ましくは約40~100℃/秒であり、これは、鋼ストリップの厚さに応じて、空気冷却、層流冷却またはウォータージェット冷却により達成可能である。実用的な理由から、ランアウトテーブル冷却速度(ROT-CR)は、鋼ストリップの表面の平均冷却速度と定義される。
【0061】
次に、熱間圧延鋼ストリップは、550℃~600℃、好ましくは550℃~600℃、より好ましくは560℃~600℃の温度で巻き取られる。一実施形態では、熱間圧延ストリップは、595℃を超えない温度、より好ましくは590℃を超えない温度で巻き取られる。鋼ストリップの巻取り温度は、本明細書に記載の機械的特性の改良されたバランスを提供する鋼ストリップに要求されるミクロ組織に到達するための重要なプロセスパラメータである。
【0062】
巻取り温度が低すぎる場合、析出物に関する動態が不充分となり、その結果、低い強度レベルが得られる。巻取り温度が高すぎる場合、結晶粒微細化が不充分となり、破壊靱性の低下およびエッジ亀裂感度の増加をもたらす。また、高すぎる巻取り温度は、最終ミクロ組織における第二相構成成分としてマルテンサイトを促進しない。また、高すぎる巻取り温度は、MOD指数を減少させ、フラクションKAM0~1が増加し、フラクションKAM1~5が小さくなりすぎる。コイル冷却中、いくつかの更なる析出、ならびに、いくつかの更なる相変態が生じる可能性がある。望ましくないことに、一旦形成された析出物は、コイル冷却中に粗大化し得る。特許請求範囲に記載の巻取り温度と組み合わせられた合金組成は、この現象を抑制する。この巻取り温度は、巻取りまたはコイル冷却中に形成されたフェライトの結晶粒の微小化を促進するとともに、フェライトマトリックスを強化する析出物の粗大化を抑制し、更に、少量のマルテンサイトの形成を促進するのに役立つ。
【0063】
特許文献EP1616970A1では、680℃未満の保持温度は、フェライト変態のための不充分な推進力(driving force)をもたらすとともに、その後に、低すぎる割合の、析出物を含むフェライトをもたらす。本発明の場合、オーステナイトからフェライトへの相変態は、析出のための充分な動態を依然として有しながら、破壊靱性の増加および亀裂感度の低下のための結晶粒微細化の増加およびΣGBの増加を達成するために、680℃未満の範囲の温度において強化される。更に、特許文献EP1616970A1は、680℃以上の温度において1秒より長く鋼ストリップを保持した後、30℃/秒以上、好ましくは50℃/秒以上の平均冷却速度で、550℃以下、好ましくは450℃以下、より好ましくは350℃以下の巻取り温度に第二冷却を適用するとともに、ベイナイトおよび/またはマルテンサイトの第二相を形成するための、および、他の相の形成を5体積%以下に抑制するための巻取りを適用することが必要であることを開示する。本発明の場合、巻取り温度は、オーステナイトからフェライトへの相変態が比較的低温において継続し、TiおよびMoならびに必要に応じてNbおよび/またはVを含む炭化析出物とともに強化された析出物である微粒フェライト(fine-grained ferrite)を促進することを可能とするために、550℃~600℃、好ましくは550℃~595℃、より好ましくは550℃~590℃の値であり、かなり高い。結晶粒微細化およびΣGBの増加は、破壊靱性の増加および(エッジ)亀裂感度の低下を提供する。550℃未満の巻取りは、不充分なフェライトの形成および析出の損失をもたらす。更に、これは、高すぎるマルテンサイト分率をもたらし得る。
【0064】
特許文献EP1338665A1は、550~700℃の範囲の巻取り温度を開示するとともに、少なくとも950MPaの引張強さおよび少なくとも40%の穴広げ能力を有する鋼が全て、600℃を超える巻取り温度を用いて製造されたことを開示する。これらの全ての鋼のための仕上げ圧延温度は、880~930℃の範囲であった。本発明によれば、高すぎる巻取り温度は、とりわけ、亀裂感度の増加、特に、エッジ亀裂感度の増加、更に、破壊靱性の低下をもたらすことが判明した。
【0065】
鋼ストリップが室温まで冷却された後、熱間圧延鋼ストリップ上の酸化物(スケール)は、暖かい温度(80~120℃)における酸溶液(例えば、HCl)中での酸洗、または、ストリップ表面の酸洗および機械的ブラッシングの組合せのいずれかにより、除去される。この工程は、鋼ストリップ表面を、コーティングされていない熱間圧延鋼として直接用いるために適するようにするために、または、必要に応じて腐蝕耐性に必要な場合に、コーティング処理に適するようにするために必要である。
【0066】
一実施形態では、熱間圧延鋼ストリップの厚さは、約1.5~8mm、より好ましくは約1.8~6mm、最も好ましくは約1.8~4mmの範囲である。
【0067】
熱間圧延鋼ストリップ製品は、裸の製品(bare product)もしくはコーティングされていない製品であるか、あるいは、熱間圧延鋼ストリップ製品の片側の主面または両側の主面上に、典型的には、鋼ストリップの片側当たり約100g/m以下、好ましくは片側当たり約50g/m以下の薄い金属コーティング層を設けることができる。金属コーティングは、好ましくは、アルミニウム合金コーティング(例えば、Al-Si合金またはAl-Zn合金)、亜鉛コーティングおよび亜鉛合金コーティング(例えば、Zn-Al合金、Zn-Mg合金、Zn-Fe合金、Zn-Al-Mg合金またはZn-Mg-Al合金)を含んでなる群から選択される。
【0068】
亜鉛または亜鉛合金コーティング層の組成は限定されない。コーティング層を様々な方法で形成することができるが、溶融亜鉛めっきが好ましく、標準的Glコーティング浴が用いられる。Znをベースとするコーティング層は、合金元素としてAlを含むZn合金を含み得る。好ましい亜鉛浴の組成は、約0.10~0.35重量%のAlを含み、残部は亜鉛および不可避的不純物である。
【0069】
他の亜鉛コーティング層を適用してもよい。一例としては、特許文献WO2008/102009A1(参照により本明細書に組み込まれる)による亜鉛合金コーティング、特に、0.3~4.0重量%のMgおよび0.05~6.0重量%のAl、好ましくは0.1~5.0%のAl、必要に応じて最大で0.2重量%の1以上の追加元素、不可避的不純物および残部である亜鉛からなる亜鉛合金コーティング層が挙げられる。主要合金元素としてMgおよびAlを含む好ましいZn浴は、組成:0.5~3.8重量%のAl、0.5~3.0重量%のMg、必要に応じて最大で0.2重量%の1以上の追加元素;残部である亜鉛および不可避的不純物を有する。典型的には、0.2重量%未満の少量で添加される追加の元素は、Pb、Sb、Ti、Ca、Mn、Sn、La、Ce、Cr、Ni、ZrおよびBiを含んでなる群から選択することができる。Pb、Sn、BiおよびSbは、スパングルを形成するために通常添加される。亜鉛合金における追加元素の総量は、好ましくは最大で0.2重量%、より好ましくは最大で0.1重量%である。これらの少量の追加元素は、コーティングまたは浴の特性を、通常の適用に対して、有意な程度まで変化させない。コーティング中に1以上の追加元素が存在する場合、各追加元素は、好ましくは0.02重量%以下の量で存在し、各追加元素は、より好ましくは0.01重量%以下の量で存在する。追加元素は、通常、溶融亜鉛めっきのための溶融亜鉛合金を含む浴中のドロス形成を防止するために、または、コーティング層中のスパングルを形成するために添加されるだけである。
【0070】
別の実施形態では、金属コーティングは、(市販の純粋な)アルミニウム層またはアルミニウム合金層を含む。このようなアルミニウム層を溶融めっきするための典型的な金属浴は、ケイ素と合金化されたアルミニウム、例えば、約8~11重量%のケイ素と合金化されたアルミニウム、および、最大で4重量%の鉄、必要に応じて最大で0.2重量%の1以上の追加元素(例えばカルシウムなど)、不可避的不純物、残部であるアルミニウムを含む。ケイ素は、接着性および加工性を低下させる厚い鉄-金属を含む金属間層の形成を防止するために存在する。鉄は、好ましくは1~4重量%、より好ましくは少なくとも2重量%の量で存在する。
【0071】
本発明の一態様は、本発明による熱間圧延高強度鋼ストリップを溶融亜鉛めっきすることにより得られる亜鉛めっきされた鋼ストリップに関する。
【0072】
本発明の一態様は、自動車部品、特に、本発明による熱間圧延高強度鋼ストリップを含むか、または、本発明による熱間圧延高強度鋼ストリップから作製され、とりわけ、強度と、加工性と、破壊靱性の向上および(エッジ)亀裂感度の低下との改良されたバランスから利益を得る自動車シャーシパーツに関する。鋼ストリップは、当技術分野において公知であるように、冷間加工操作、温間加工および熱間加工操作で自動車部品に成形することができる。自動車部品としては、サスペンションアーム、補強材、サイドメンバーとしてのホワイトボディフレーム材、シートフレーム、シートレール、バンパービーム、電気自動車のバッテリーボックス、複雑な形状を有する全ての部品が挙げられる。熱間圧延高強度鋼ストリップを用いることにより、これらの部品を、高品質、高い対費用効果および高収率で製造することができる。本発明による高強度熱間圧延鋼製品は、エンジニアリング用途でも用いることができる。
【0073】
以下、本発明について、以下の非限定的な図面を用いて説明する。
【0074】
図1A図1Eは、絞りカップのための一般的円筒深絞り試験を用いた鋼ストリップ製品の平均総亀裂長さ(ATCL)の決定方法のいくつかの特徴を示す。
図2Aは、厚い鋳造鋼スラブを処理するための熱間圧延機の概略図を示し、図2Bは、直接圧延機を有する薄スラブ鋳造設備を示す。
【実施例
【0075】
以下、本発明について、非限定的な比較例および本発明の実施例を参照して説明する。
【0076】
寸法320×100×100mmの5つの本発明例(Inv.)の鋼A~Eおよび比較例(Comp.)の鋼Fの鋼インゴットを、真空誘導炉でチャージ(charges)を溶融することにより鋳造した。これらの鋼の化学組成を表1に示す。表1には、更に、以下の2つの比AおよびBも示す。
【0077】
【数5】
【0078】
【数6】
【0079】
全てのインゴットを1240℃で1時間再加熱し、35mm厚まで粗圧延した。次いで、ストリップを1220℃まで40分間、再度、再加熱し、これらの全ての鋼に対して、オーステナイトフェーズフィールドになる870℃を超え910℃より低いFRTを用いた5圧延パスにより、約3.2~3.6mmの最終厚さまで熱間圧延した。仕上げ圧延パス後、熱間圧延鋼を、開始温度ランアウトテーブル(TSTART)が840~880℃の範囲であるランアウトテーブルに移動させ、水および空気の混合物を用いて、オーステナイトフェーズフィールドから、フェライトフェーズフィールドの最終温度まで、565~615℃の範囲のランアウトテーブル(TEND)にて、30~70℃/秒の範囲の冷却速度で積極的に冷却した。次に、鋼を、ゆっくりとしたコイル冷却(slow coil cooling)を反復するために炉に移動させた。これを540℃、580℃および610℃の炉温度(CT-巻取り温度)で行った(表2参照)。
【0080】
本明細書に記載の方法による機械的特性、穴広げ能力および平均総亀裂長さの試験前に、熱間圧延シートをサンドブラストして酸化物層を除去した。熱間圧延ストリップのミクロ組織を、本明細書に記載の方法によるEBSGを用いて決定した。これらの試験の結果を、適用される処理パラメータの関数として、表2に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
表2の結果から、特許請求の範囲に記載の範囲外の組成を有し、本発明に従って処理(CT 580℃)された鋼17は、低すぎるRmを有することが分かる。巻取り温度の増加(CT 610℃)はRmを増加させるが、鋼16のエッジ亀裂感度は有意に低下する。この低下は、低すぎるMOD指数を有するミクロ組織、および、ΣGBにより反映される不充分な程度の結晶粒微細化の結果である可能性が高い。鋼18の場合、低すぎる巻取り温度(CT 540℃)が鋼17と比較して更により低いRmをもたらす。
【0083】
鋼1~3(合金A)は全て、本発明に従う組成を有し、鋼2は、本発明に従って処理(CT 580℃)された。鋼2は、高強度(Rm 1011MPa)と、高い伸び(A50 15.8%)と、優れた穴広げ率(HEC 42%)と、非常に優れたエッジ亀裂耐性(ATCL 28.9mm)との非常に優れたバランスを提供する。これは、組成、処理およびミクロ組織に起因する。ミクロ組織は、非常に高度の結晶粒微細化(ΣGB 1854 1/mm)および高MOD指数(1.20)により特徴付けられる。鋼1の場合、610℃へのCTの上昇は、依然として高いRmを与えるが、エッジ亀裂感度は、許容されないレベル(ATCL 49.3mm)まで低下する。これは、ミクロ組織の変化、とりわけ、低すぎるMOD指数(0.52)、高すぎるKAM0~1および低すぎるKAM1~5、ならびに、低すぎるΣGBにより反映される小さすぎる結晶粒微細化により反映されるミクロ組織の変化の結果である。鋼3の場合、540℃へのCTの低下は、RpおよびRmの有意な減少をもたらす。
【0084】
鋼1~3(合金A)と同様な傾向は、鋼4~6(合金B)において見られる。
【0085】
鋼7~9(合金C)は全て、本発明に従う組成を有し、Vが目的をもって添加されている。本発明に従ってCT580℃で処理された鋼8は、高強度(Rm 1005MPa)と、高伸び(A50 14.7%)と、優れた穴広げ率と、非常に優れたエッジ亀裂耐性(ATCL 34.8mm)との非常に優れたバランスを提供する。これは、組成、処理およびミクロ組織に起因する。ミクロ組織は、非常に高い程度の結晶粒微細化により特徴付けられる。ミクロ組織は、約2.6体積%のマルテンサイトを有し、これは、34.8mmのATCLにより表される優れたエッジ亀裂耐性に寄与すると考えられる。鋼7の場合、610℃へのCTの上昇は、RmおよびRpをわずかに増加させるが、鋼7のエッジ亀裂感度は有意に低下する。この低下は、MOD指数およびKAM値により反映されるミクロ組織の変化、ならびに、ΣGB(ΣGB 1134 1/mm)により反映される不充分な程度の結晶粒微細化の結果である可能性が高い。鋼9の場合、低すぎる巻取り温度(CT 540℃)は、鋼8と比較して、低いRmおよび有意に低いRpならびに低すぎる穴広げ率をもたらす。
【0086】
合金D(鋼10~12)は、合金B(鋼4~6)と比較して、増加したAl含有率を有する。鋼5および11の比較(両方とも本発明に従って処理された)は、Alの添加により強度(Rm)の増加が得られることを示す。鋼11は、MOD指数、KAM値により示される好ましいミクロ組織、および、ΣGBにより示される充分な程度の結晶粒微細化も示し、その結果、特性の所望のバランスを提供する。
【0087】
合金E(鋼13~15)は、合金D(鋼10~12)と比較して、Vが目的をもって添加されている。鋼14は、鋼11と比較して、更に低下したエッジ亀裂感度を提供する。鋼14と鋼15との比較は、より低い巻取り温度(CT 540℃)が、とりわけ、有意に低下されたRpをもたらすことを示す。また、鋼13と鋼14との比較は、鋼13の場合、610℃へのCTの上昇は、依然として高いRmを与えるが、エッジ亀裂感度は、許容されないレベル(ATCL 56.3mm)まで低下することを示す。これは、とりわけ、低すぎるMOD指数、高すぎるKAM0~1および低いKAM1~5、ならびに、低いΣGBにより反映される。
【0088】
本発明をできる限り説明したが、本明細書に記載の本発明の趣旨または範囲から逸脱することなく多くの変更および修正を行うことができることは、当業者に明白であろう。
【0089】
【表2】
図1
図2
【国際調査報告】