(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-12
(54)【発明の名称】エチレン性不飽和化合物の貯蔵および/または輸送
(51)【国際特許分類】
C08F 20/00 20060101AFI20250204BHJP
C08F 2/40 20060101ALI20250204BHJP
【FI】
C08F20/00 510
C08F2/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024544499
(86)(22)【出願日】2023-01-16
(85)【翻訳文提出日】2024-07-25
(86)【国際出願番号】 EP2023050806
(87)【国際公開番号】W WO2023143939
(87)【国際公開日】2023-08-03
(32)【優先日】2022-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521037411
【氏名又は名称】ベーアーエスエフ・エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100133086
【氏名又は名称】堀江 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100163522
【氏名又は名称】黒田 晋平
(72)【発明者】
【氏名】ヤン・ニクラス・ゴーゲス
(72)【発明者】
【氏名】ティレ・ギースホフ
(72)【発明者】
【氏名】ペーター・ズロウスキー
(72)【発明者】
【氏名】フリーデリケ・フライシュハーカー
(72)【発明者】
【氏名】レベッカ・スレ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン・ライン
(72)【発明者】
【氏名】フリードリヒ-ゲオルク・マルティン
【テーマコード(参考)】
4J011
【Fターム(参考)】
4J011AA01
4J011NA02
(57)【要約】
本発明は、エチレン性不飽和化合物の貯蔵および/または輸送の方法に関し、該エチレン性不飽和化合物は、立体障害型N-オキシルを用いて望ましくないフリーラジカル重合から保護されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン性不飽和化合物の貯蔵および/または輸送の方法であって、前記エチレン性不飽和化合物が少なくとも90重量%の純度を有し、貯蔵および/または輸送されるエチレン性不飽和化合物の前記質量が少なくとも100kgであり、前記エチレン性不飽和化合物の貯蔵および/または輸送中の温度が50℃未満であり、前記エチレン性不飽和化合物がカルボン酸またはカルボン酸エステルであり、前記エチレン性不飽和化合物が、エチレン性不飽和化合物の前記総量に基づいて0.00001重量%~0.00050重量%の立体障害型N-オキシルを含む、方法。
【請求項2】
前記エチレン性不飽和化合物が、いずれの場合にもエチレン性不飽和化合物の前記総量に基づいて、マンガン塩、銅塩、N-オキシルではない2,2,6,6-テトラメチルピペリジン化合物、およびニトロソ化合物のそれぞれを0.0001重量%未満含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記立体障害型N-オキシルが、本質的に唯一の重合阻害剤として使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-オールが、使用される立体障害型N-オキシルである、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記エチレン性不飽和化合物の貯蔵および/または輸送が、少なくとも10時間の期間にわたって行われる、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記エチレン性不飽和化合物が、エチレン性不飽和化合物の前記総量に基づいて0.00005重量%~0.00045重量%の立体障害型N-オキシルを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記エチレン性不飽和化合物が、エチレン性不飽和化合物の前記総量に基づいて0.00010重量%~0.00040重量%の立体障害型N-オキシルを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記エチレン性不飽和化合物が、エチレン性不飽和化合物の前記総量に基づいて0.00015重量%~0.00035重量%の立体障害型N-オキシルを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記エチレン性不飽和化合物が、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチルおよび/またはアクリル酸2-エチルヘキシルである、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記エチレン性不飽和化合物が、酸素含有雰囲気下で貯蔵および/または輸送される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記エチレン性不飽和化合物が、酸素含有量が5体積%~10体積%である酸素含有雰囲気下で容器に貯蔵され、前記容器内の前記エチレン性不飽和化合物が定期的に再循環される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
フリーラジカル重合の方法であって、少なくとも1つのエチレン性不飽和化合物が重合開始剤によって重合され、前記エチレン性不飽和化合物がカルボン酸またはカルボン酸エステルであり、使用される前記エチレン性不飽和化合物が少なくとも90重量%の純度を有し、前記エチレン性不飽和化合物が、エチレン性不飽和化合物の前記総量に基づいて0.00001重量%~0.00050重量%の立体障害型N-オキシルを含む、方法。
【請求項13】
前記立体障害型N-オキシルが、本質的に前記唯一の重合阻害剤として使用される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
重合開始剤によるフリーラジカル重合のためのエチレン性不飽和カルボニル化合物の使用であって、前記エチレン性不飽和化合物がカルボン酸またはカルボン酸エステルであり、前記エチレン性不飽和化合物が少なくとも90重量%の純度を有し、前記エチレン性不飽和化合物が、エチレン性不飽和化合物の前記総量に基づいて0.00001重量%~0.00050重量%の立体障害型N-オキシルを含む、使用。
【請求項15】
前記立体障害型N-オキシルが、本質的に前記唯一の重合阻害剤として使用される、請求項14に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン性不飽和化合物の貯蔵および/または輸送の方法に関し、該エチレン性不飽和化合物は、立体障害型N-オキシルを用いて望ましくないフリーラジカル重合から保護されている。
【背景技術】
【0002】
1つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物は、フリーラジカル重合の傾向が顕著である。したがって、このような化合物は、重合性化合物とも呼ばれている。これらの化合物がフリーラジカル重合の傾向を有することは、これらの化合物がポリマーを製造するためのモノマーとして使用されることを意味する。しかしながら、これらの化合物の顕著なフリーラジカル重合の傾向は欠点でもある。これは、貯蔵および輸送中、ならびに化学的および/または物理的処理中に、例えば蒸留または精留中に、特に熱および/または光などのエネルギーの作用下で望ましくない自発的なフリーラジカル重合が起こる可能性があるためである。このような制御されていない重合の結果として、例えば加熱された表面上にポリマー堆積物が徐々に形成される可能性があり、これによりポリマー堆積物の除去が必要となり、したがって、稼働時間が短縮されることがよくある。制御されていない重合は、爆発的に進行することさえある。
【0003】
したがって、フリーラジカル重合の傾向のあるエチレン性不飽和化合物、またはこのような化合物を含む混合物の貯蔵および輸送中、ならびに化学的および/または物理的処理中に、望ましくない自発的なフリーラジカル重合を防止するか、または少なくとも遅延させる化合物を添加することが通例である。このような物質は、重合阻害剤と呼ばれる。
【0004】
重合阻害剤は、個々の化合物として、または化合物の混合物として用いることができる。重合阻害剤には、その使用分野に応じて特定の要件が課される。重合阻害剤がエチレン性不飽和化合物の輸送および/または貯蔵安定剤として適切であるためには、重合阻害剤の効率、すなわち重合の阻害の程度が制御可能であることが重要である。エチレン性不飽和化合物の貯蔵および/または輸送の条件下では、重合阻害剤は、望ましくない自発的フリーラジカル重合を十分に防止または遅延させるべきであるが、適切な重合条件下では、貯蔵および/または輸送中に使用される重合阻害剤を最初に分離する必要なく、エチレン性不飽和化合物の望ましいフリーラジカル重合が可能であるべきである。貯蔵および/または輸送中に使用される安定剤が望ましい重合のために分離されない場合、この安定剤が望ましい重合に悪影響を及ぼさないこと、例えば意図せず連鎖移動剤として作用しないことが重要である。
【0005】
世界的な生産量の観点からみれば、アクリル酸は間違いなく最も重要なエチレン性不飽和化合物の1つである。アクリル酸は通常、貯蔵および/または輸送中に、アクリル酸の量に基づいて0.018重量%~0.022重量%のヒドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)を用いて望ましくない自発的フリーラジカル重合に対して安定化される。MEHQを使用して望ましくない自発的フリーラジカル重合に対してアクリル酸を十分に安定化するためには、十分な量の酸素がアクリル酸に溶解していることが必要である。アクリル酸が5体積%~21体積%の酸素を有する雰囲気下で貯蔵および/または輸送される場合、一般に、十分な量の酸素がアクリル酸に溶解する。アクリル酸の望ましい重合では、アクリル酸中の溶存酸素の含有量は減少し、それにより、アクリル酸がMEHQの存在下で重合を受けるのに十分なほど、MEHQの重合阻害剤としての効率が低下する。
【0006】
アクリル酸の貯蔵および/または輸送のための重合阻害剤としての使用に加えて、MEHQは、メタクリル酸、アクリル酸エステル、および/もしくはメタクリル酸エステル、または前記化合物のうち1種以上を含む混合物の貯蔵および/または輸送のための重合阻害剤としても使用される。
【0007】
MEHQは広範に使用されているため、エチレン性不飽和化合物、特にアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、およびメタクリル酸エステルの最も重要な貯蔵および/または輸送安定剤の1つになっている。
【0008】
エチレン性不飽和化合物は、目的に合った恒久的に設置された容器、例えば貯蔵タンクに貯蔵される(例えば、Acrylic Acid,A Summary of Safety and Handling,4th edition 2013,7 Bulk Storage Facilities and Accessoriesを参照されたい)。好ましくは、それぞれの容器内でのエチレン性不飽和化合物の貯蔵は、好ましくは少なくとも1時間、より好ましくは少なくとも10時間、最も好ましくは少なくとも100時間にわたる。適切な条件下での貯蔵期間は理論的には無制限であるが、経済的理由から、貯蔵期間は一般に最小限に短縮される。好ましくは、それぞれの容器内でのエチレン性不飽和化合物の貯蔵は、180日間以下、より好ましくは90日間以下、最も好ましくは30日間以下にわたる。特に好ましい範囲は、上記の下限と上限との自由な組み合わせから生じる。
【0009】
エチレン性不飽和化合物は、典型的には、適切な輸送可能な容器、例えばタンクまたはドラムで、船舶、鉄道、および/またはトラックで輸送される(例えば、Acrylic Acid,A Summary of Safety and Handling,4th edition 2013,9 Safe Transport of Acrylic Acidを参照されたい)。輸送可能な容器は、もちろん、対応する輸送手段、例えばタンカー船または鉄道タンク車に恒久的に設置されてもよい。もちろん、容器を別の場所に輸送する前に、特定の場所に一定時間貯蔵することも可能である。エチレン性不飽和化合物はまた、貯蔵タンクから輸送可能な容器に移される場合、および/または1つの輸送可能な容器から別の輸送可能な容器に移される場合、エチレン性不飽和化合物の精製後に、パイプラインまたはホースで、例えば貯蔵タンクに輸送されることもある。好ましくは、それぞれの容器に入ったエチレン性不飽和化合物の輸送は、好ましくは少なくとも1時間、より好ましくは少なくとも10時間、最も好ましくは少なくとも100時間にわたる。適切な条件下での期間は理論的には無制限であるが、経済的理由および安全上の理由から、期間は一般に最小限に短縮される。好ましくは、それぞれの容器内でのエチレン性不飽和化合物の輸送は、180日間以下、より好ましくは90日間以下、最も好ましくは30日間以下にわたる。特に好ましい範囲は、上記の下限と上限との自由な組み合わせから生じる。
【0010】
欧州特許第0685447号明細書および特開2002-234858号公報は、(メタ)アクリル酸およびそのエステルの重合阻害剤の混合物を開示している。この混合物はN-オキシルを含む。
【0011】
国際公開第2001/040149号パンフレットおよび国際公開第2001/040319号パンフレットは、エチレン性不飽和モノマーのための重合阻害剤の混合物を開示している。この混合物は同様にN-オキシルを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】欧州特許第0685447号明細書
【特許文献2】特開2002-234858号公報
【特許文献3】国際公開第2001/040149号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2001/040319号パンフレット
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Acrylic Acid,A Summary of Safety and Handling,4th edition 2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、エチレン性不飽和化合物の貯蔵および/または輸送方法を提供することであった。重合阻害剤は、望ましくないフリーラジカル重合に対して、エチレン性不飽和化合物を確実に十分に安定化するものである。しかしながら、望ましいフリーラジカル重合では、重合前に混合物から重合阻害剤を分離する必要はない。したがって、重合阻害剤は、望ましいフリーラジカル重合において重合連鎖移動剤および/または重合阻害剤として作用しない。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的は、エチレン性不飽和化合物の貯蔵および/または輸送の方法であって、エチレン性不飽和化合物が少なくとも90重量%の純度を有し、貯蔵および/または輸送されるエチレン性不飽和化合物の質量が少なくとも100kgであり、エチレン性不飽和化合物の貯蔵および/または輸送中の温度が50℃未満であり、エチレン性不飽和化合物がカルボン酸またはカルボン酸エステルであり、エチレン性不飽和化合物が、エチレン性不飽和化合物の総量に基づいて0.00001重量%~0.00050重量%(0.1~5ppm)の立体障害型N-オキシルを含む、エチレン性不飽和化合物の貯蔵および/または輸送の方法によって達成される。
【0016】
立体障害型N-オキシルは、酸素原子上に自由電子を有するNO基と、NO基とは別に完全に置換された炭素原子とを有する。
【0017】
適切な立体障害型N-オキシルは、1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-オール(HTEMPO)、1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-オン、1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イルアセテート、1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル2-エチルヘキサノエート、1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イルステアレート、1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イルベンゾエート、1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル(4-tert-ブチル)ベンゾエート、ビス(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)スクシネート、ビス(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)アジペート、ビス(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)セバケート、ビス(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)n-ブチルマロネート、ビス(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)フタレート、ビス(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)イソフタレート、ビス(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)テレフタレート、ビス(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)ヘキサヒドロテレフタレート、N,N’-ビス(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)アジパミド、N-(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)カプロラクタム、N-(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)ドデシルスクシンイミド、2,4,6-トリス[N-ブチル-N-(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル]-s-トリアジンおよびトリス(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)ホスファイトである。
【0018】
エチレン性不飽和化合物の純度は、好ましくは少なくとも95重量%であり、より好ましくは少なくとも98重量%であり、最も好ましくは少なくとも99重量%である。
【0019】
貯蔵および/または輸送されるエチレン性不飽和化合物の質量は、好ましくは少なくとも200 kgであり、より好ましくは少なくとも500 kgであり、最も好ましくは少なくとも1000 kgである。貯蔵および/または輸送されるエチレン性不飽和化合物の質量は、典型的には10000000 kg未満である。
【0020】
エチレン性不飽和化合物は、貯蔵中および/または輸送中温度が好ましくは45℃未満、より好ましくは40℃未満、最も好ましくは35℃未満である。アクリル酸の場合、貯蔵および/または輸送中の温度は、少なくとも15℃でなければならない。
【0021】
エチレン性不飽和化合物は、好ましくは、エチレン性不飽和化合物の総量に基づいて、マンガン塩、銅塩、N-オキシルではない2,2,6,6-テトラメチルピペリジン化合物、およびニトロソ化合物のそれぞれを0.0001重量%未満含む。
【0022】
本発明の好ましい実施形態において、立体障害型N-オキシルは、本質的に唯一の重合阻害剤として使用される。
【0023】
エチレン性不飽和化合物は、いずれの場合もエチレン性不飽和化合物の総量に基づいて、好ましくは0.00005重量%~0.00045重量%(0.5~4.5ppm)、より好ましくは0.00010重量%~0.00040重量%(1~4ppm)、最も好ましくは0.00015重量%~0.00035重量%(1.5~3.5ppm)を含む。
【0024】
エチレン性不飽和化合物は、好ましくは、モノ-、ジ-、またはトリエチレン性不飽和C3~C8カルボン酸、エステル基中に1~20個の炭素原子を有するモノ-、ジ-、またはトリエチレン性不飽和C3~C8カルボン酸エステルである。
【0025】
モノ-、ジ-、またはトリエチレン性不飽和C3~C6カルボン酸、例えばアクリル酸、メタクリル酸、ジメタクリル酸、エタクリル酸、シトラコン酸、メチレンマロン酸、クロトン酸、フマル酸、メサコン酸、イタコン酸、およびマレイン酸、エステル基中に1~12個の炭素原子を有するモノ-、ジ-、またはトリエチレン性不飽和C3~C6カルボン酸エステル、例えばC1~C12アルキルを有するアクリル酸エステル、C1~C12アルキルを有するメタクリル酸エステル、C1~C12アルキルを有するジメタクリル酸エステル、C1~C12アルキルを有するエタクリル酸エステル、C1~C12アルキルを有するシトラコン酸エステル、C1~C12アルキルを有するメチレンマロン酸エステル、C1~C12アルキルを有するクロトン酸エステル、C1~C12アルキルを有するフマル酸エステル、C1~C12アルキルを有するメサコン酸エステル、C1~C12アルキルを有するイタコン酸エステル、およびC1~C12アルキルを有するマレイン酸エステルが特に好ましい。
【0026】
アクリル酸、メタクリル酸、C1~C8アルキルを有するアクリル酸エステル、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、およびアクリル酸2-エチルヘキシル、ならびにC1~C8アルキルを有するメタクリル酸エステル、例えばメタクリル酸メチルが最も好ましい。
【0027】
さらに適切なエチレン性不飽和化合物は、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、グリセロールトリアクリレート、エトキシ化グリセロールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、ブタンジオールモノアクリレート、ジシクロペンタジエニルアクリレート、アクリル酸2-ジメチルアミノエチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、およびアクリル酸2-ヒドロキシプロピルである。
【0028】
アクリル酸および/またはメタクリル酸は、典型的には、ステンレス鋼容器内で貯蔵および/または輸送される。適切なステンレス鋼は、16.5重量%~19.5重量%のクロムおよび8.0重量%~13.5重量%のニッケルを含む。
【0029】
エチレン性不飽和化合物は、典型的には、酸素含有雰囲気下で貯蔵および/または輸送される。
【0030】
エチレン性不飽和化合物は、好ましくは、酸素含有量が5体積%~10体積%である酸素含有雰囲気下で容器に貯蔵され、容器内の混合物は、例えばタンク内容物全体のポンプ再循環によって、少なくとも週に1回定期的に再循環される。この比較的低い酸素含有量は、容器内での着火性ガス混合物の形成を防止する。再循環により、液状のエチレン性不飽和化合物中の消費された溶存酸素が補充される。
【0031】
本発明はさらに、上記エチレン性不飽和化合物のうち少なくとも1種が重合開始剤によって重合されるフリーラジカル重合の方法、および重合開始剤によるフリーラジカル重合のための上記エチレン性不飽和化合物のうち1種の使用を提供する。
【0032】
本発明のフリーラジカル重合により、例えば、水溶性および水膨潤性のポリアクリル酸およびそのナトリウム塩を得ることができる。
【0033】
フリーラジカル重合自体は一般的な知識であり、典型的には溶液中で行われる。適切な重合開始剤は、選択された反応条件下でフリーラジカルに分解することができるすべての化合物、例えば熱開始剤、レドックス開始剤、光開始剤である。適切な熱開始剤は、ペルオキソ一および二硫酸塩、ならびにペルオキソ一および二リン酸塩である。適切なレドックス開始剤は、ペルオキソ二硫酸ナトリウム/アスコルビン酸、過酸化水素/アスコルビン酸、ペルオキソ二硫酸ナトリウム/次亜リン酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム/亜硫酸水素ナトリウム、および過酸化水素/亜硫酸水素ナトリウムである。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0034】
重合阻害の実験
使用したエチレン性不飽和化合物を2回蒸留して、ヒドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)重合阻害剤を除去した。規定量の指定された重合阻害剤を、いずれの場合も、得られたエチレン性不飽和化合物に添加した。MEHQおよび4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンN-オキシル(HTEMPO)を使用した。
【0035】
0.5 mlの各混合物を1.8 mlのアンプルに移し、空気循環オーブン中で指定された温度で貯蔵した。
【0036】
一連の試験のそれぞれでは、いずれの場合にも3つのアンプルに各混合物を充填して試験し、完全な重合にかかる平均時間を目視検査で測定した。
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンN-オキシル(HTEMPO)は、明らかに低い濃度であっても、MEHQに匹敵する阻害効果を有する。
【0044】
重合実験
反応容器に、最初に窒素雰囲気下で450 gの水を投入した。最初に投入した反応混合物を撹拌しながら95℃に加熱した。95℃の温度に達したら、温度を維持しつつ、撹拌しながら3つの流れを計り入れた。
流れ1:5時間かけて計り入れた500 gのアクリル酸
流れ2:4.75時間かけて計り入れた、次亜リン酸ナトリウム15 gの脱イオン水35 g溶液
流れ3:5.25時間かけて計り入れた、ペルオキソ二硫酸ナトリウム5 gの脱イオン水66.4 g溶液
【0045】
3つの流れを添加した後、反応混合物を95℃でさらに1時間撹拌した。次いで、反応混合物を室温に冷却し、水80 gを添加した。
【0046】
流れ1で使用したアクリル酸をMEHQまたは4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンN-オキシル(HTEMPO)で安定化した。
【0047】
得られたポリマーを、GPC(Na-PAA標準による較正、溶離液:0.01 MのNaN3を含有する蒸留水中0.01 mol/lリン酸緩衝液、pH=7.4)によって分析した。
【0048】
【0049】
試験した濃度の4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンN-オキシル(HTEMPO)は、標準濃度のMEHQを使用した場合と同程度のモル質量を有するポリアクリル酸をもたらす。
【国際調査報告】