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特表2025-504563DNAバーコードを使用する細胞融合事象のデジタル計測
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-12
(54)【発明の名称】DNAバーコードを使用する細胞融合事象のデジタル計測
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6869 20180101AFI20250204BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALI20250204BHJP
【FI】
C12Q1/6869 Z
C12Q1/6876 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024544788
(86)(22)【出願日】2023-01-27
(85)【翻訳文提出日】2024-08-19
(86)【国際出願番号】 US2023011768
(87)【国際公開番号】W WO2023147073
(87)【国際公開日】2023-08-03
(31)【優先権主張番号】63/304,380
(32)【優先日】2022-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522384318
【氏名又は名称】エー-アルファ バイオ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エマーソン,ライアン
(72)【発明者】
【氏名】ロペズ,ランドルフ
(72)【発明者】
【氏名】エンゲルハート,エミリー
(72)【発明者】
【氏名】ヤンガー,デイビッド
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QQ07
4B063QQ13
4B063QQ14
4B063QQ42
4B063QR32
4B063QS05
4B063QS10
4B063QS14
4B063QS24
4B063QS38
4B063QS39
4B063QX01
(57)【要約】
多重化されたオリゴヌクレオチド分子バーコード及び次世代シークエンシングを使用して、液体培養物内で生ずる細胞融合事象の数を推定するための組成物及び方法が開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固有の細胞融合事象を定量するための方法であって、
第1の量の細胞を提供することであって、前記第1の量の細胞の各細胞が、外因性核酸ベクターの第1のライブラリーの外因性核酸ベクターを含み、前記第1のライブラリー内の前記外因性核酸ベクターのそれぞれが、第1の複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列から選択されるオリゴヌクレオチド分子バーコード配列とリンクした第1のオープンリーディングフレーム(ORF)を含む、第1の量の細胞を提供することと、
第2の量の細胞を提供することであって、前記第2の量の細胞の各細胞が、外因性核酸ベクターの第2のライブラリーの外因性核酸ベクターを含み、前記第2のライブラリー内の前記外因性核酸ベクターのそれぞれが、第2の複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列から選択されるオリゴヌクレオチド分子バーコード配列とリンクした第2のORFを含む、第2の量の細胞を提供することと、
前記第1の量の細胞と前記第2の量の細胞とを液体培地内で組み合わせて培養物を産生することと、
前記第1の量の細胞の細胞と前記第2の量の細胞の細胞との間で融合事象が生じて、複数の融合細胞を産生することを可能にするのに十分な時間及び条件下で、前記培養物を増殖させることであって、組換え事象が、前記融合細胞内の第1の外因性核酸ベクターと第2の外因性核酸ベクターとの間で生じて、組み合わされたオリゴヌクレオチド分子バーコード配列を産生する、前記培養物を増殖させることと、
前記培養物から組み合わされたオリゴヌクレオチド分子バーコード配列をシークエンシングすることと、
第1のORF及び第2のORFの対毎に、前記培養物内で観察された組み合わされたオリゴヌクレオチド分子バーコード内に存在する第1及び第2のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列の固有の対の第1の数を決定することと、
第1のORF及び第2のORFの対毎に、可能性のある組み合わされたオリゴヌクレオチド分子バーコード配列の第2の数を決定することと、
前記第1の数及び前記第2の数に基づき、前記培養物内の固有の融合事象の推定される数を計算することと
を含む、方法。
【請求項2】
前記第1の量の細胞及び前記第2の量の細胞が酵母菌細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の量の細胞がa型ハプロイド酵母菌細胞であり、前記第2の量の細胞がα型ハプロイド酵母菌細胞である、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1のORFが目的とするタンパク質「a」(POI)をコードし、及び前記第2のORFが目的とするタンパク質「α」(POIα)をコードする、請求項2又は請求項3に記載の方法。
【請求項5】
POIをコードする各ORFが、前記第1の複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列から選択されるオリゴヌクレオチド分子バーコード配列と作動可能にリンクしており、POIαをコードする各ORFが、前記第2の複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列から選択されるオリゴヌクレオチド分子バーコード配列と作動可能にリンクしている、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
各POIが、前記第1の量の細胞の細胞表面上で発現しており、各POIαが、前記第2の量の細胞の細胞表面上で発現している、請求項4又は請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の量の細胞又は前記第2の量の細胞の少なくとも1つが、第1の量の組換えハプロイド酵母菌細胞及び第2の量の組換えハプロイド酵母菌細胞が任意の天然型性的凝集プロセスに従って交配する能力を有さないように、任意の天然型性的凝集プロセスに従って交配できないようにされている、請求項3~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
各POI及び各POIαが合成接着タンパク質(SAP)である、請求項4~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
各POI及び各POIαが、
i)前記第1の量の組換えハプロイド酵母菌細胞若しくは第2の量のハプロイド酵母菌細胞の一部分の表面上に存在する細胞壁グリコシルフォスファチジルイノシトール(GPI)係留型タンパク質に結合した融合タンパク質、又は
ii)第1の量のハプロイド酵母菌細胞若しくは前記第2の量のハプロイド酵母菌細胞の一部分の表面上に存在するグリコシルフォスファチジルイノシトール(GPI)係留型融合タンパク質のいずれかである、
請求項4~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列が3以上の固有のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列を含み、前記第2の複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列が3以上のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列を含むか、又は前記第1の複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列及び前記第2の複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列の両方が、それぞれ、3以上の固有のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列を含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列が10以上の固有のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列を含み、前記第2の複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列が10以上のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列を含むか、又は前記第1の複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列及び前記第2の複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列の両方が、それぞれ、10以上の固有のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列を含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列が100以上の固有のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列を含み、前記第2の複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列が、100以上のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列を含むか、又は前記第1の複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列及び前記第2の複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列の両方が、それぞれ100以上の固有のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列を含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列が1000以上の固有のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列を含み、前記第2の複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列が1000以上のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列を含むか、又は前記第1の複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列及び前記第2の複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列の両方が、それぞれ、1000以上の固有のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列を含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
可能性のあるオリゴヌクレオチド分子バーコードの対の第2の数が9以上である、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
可能性のあるオリゴヌクレオチド分子バーコードの対の第2の数が100以上である、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
可能性のあるオリゴヌクレオチド分子バーコードの対の第2の数が10,000以上である、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
POIのライブラリーが10以上のPOIを含み、及び/又は、POIαのライブラリーが10以上のPOIαを含む、請求項4~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
POIのライブラリーが100以上のPOIを含み、及び/又は、POIαのライブラリーが100以上のPOIαを含む、請求項4~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
POIのライブラリーが1000以上のPOIを含み、及び/又は、POIαのライブラリーが1000以上のPOIαを含む、請求項4~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
POIのライブラリーが10,000以上のPOIを含み、及び/又は、POIαのライブラリーが10,000以上のPOIαを含む、請求項4~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記第1の外因性核酸ベクター及び前記第2の外因性核酸ベクターが、それぞれ、固有のプライマー結合部位、組換え部位、及び選択可能なマーカーを更に含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記第1の量の細胞の各細胞、及び前記第2の量の細胞の各細胞が、外因性リコンビナーゼを更に含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記外因性リコンビナーゼが組換え事象を媒介する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
第1のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列の一部分、及び第2のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列の一部分をシークエンシングすることで、複数のシークエンシング読み取りが得られ、各シークエンシング読み取りが、前記第1のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列の一部分及び前記第2のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列の一部分を含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
i)前記第1の量の細胞の各細胞が、機能的Aga1若しくは機能的Aga2タンパク質のいずれかを欠いているか、又は
ii)第2の数量細胞の各細胞が機能的Sag1タンパク質を欠いているか、又は
iii)前記第1の量の細胞の各細胞が、機能的Aga1若しくは機能的Aga2タンパク質のいずれかを欠いており、且つ前記第2の数量細胞の各細胞が機能的Sag1タンパク質を欠いている、
請求項7~24のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2022年1月28日出願の米国仮特許出願第63/304,380号の利益を主張する。この出願の内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
連邦政府より資金提供を受けた研究又は開発
本発明は、国立科学財団により付与された契約番号#1950992の下、政府の支援を受けてなされた。政府は本発明において一定の権利を有する。
【0003】
発明の分野
本開示は、多重DNAバーコードを使用して、液体培養物内で細胞融合事象を定量することに関し、例えば、タンパク質-タンパク質相互作用を特定及び測定するためのハイスループットアッセイの正確性を改善するのに使用可能である。
【背景技術】
【0004】
背景
タンパク質結合パートナー間のタンパク質-タンパク質相互作用(PPI)の強度を特定及び定量すること、及び複雑なPPIネットワークを特徴付けることは、バイオメディカル研究及び開発のための中心的目標であり、PPIネットワークの特徴付けに向けたハイスループット法は、様々な用途の中でも、創薬、タンパク質エンジニアリング、受容体-リガンド結合動力学の特徴付けに有用であり得る。タンパク質結合パートナーとして、例えば、数多くあるタンパク質結合パートナーの例の中でも、リガンドとその受容体、抗体とその抗原、E3ユビキチンリガーゼとその基質を挙げることができる。他のものの中でも、酵母2ハイブリッドスクリーニング、マススペクトロメトリーとカップリングしたアフィニティー精製、ファージ及び酵母菌表面ディスプレイ法を含む様々なハイスループット法が、PPIネットワークを調べるために開発された。これらすべての方法において、スループットを増加させ、アッセイのコストを削減しながら、タンパク質結合パートナーを正確に特定し、タンパク質結合パートナー間の結合親和性を定量することは、最適化され得る望ましい特性である。
【0005】
合成酵母菌凝集に基づく別のアプローチは、酵母菌の性的凝集(天然に存在するタンパク質-タンパク質相互作用)をリプログラミングして、液体培養物内で、タンパク質-タンパク質相互作用強度を、a型組換えハプロイド酵母菌細胞とα型組換えハプロイド酵母菌細胞との間の交配効率に結びつけることに立脚する(例えば、米国特許第11,136,573号を参照されたい)。合成酵母菌凝集に基づくPPIスクリーニングプラットフォームの場合、乱流液体培養物内で形成されたディプロイド酵母菌細胞の数により表される交配効率は、PPI親和性に対する代理特性である。従って、PPIスクリーニングプラットフォームの正確性は、エンドポイント読み取りから、液体培養に基づくアッセイの過程で形成されるディプロイド酵母菌細胞の数を正確に再構成することに依存する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
概要
本明細書で開示される組成物及び方法は、多重化されたオリゴヌクレオチド分子のバーコーディングアプローチが、液体培養物内の細胞-細胞融合事象の数をより正確に推定するのに使用可能であるという発見に少なくとも一部基づく。例えば、多重化されたバーコーディングアプローチは、ハプロイド酵母菌細胞の液体培養物内でディプロイド形成事象の数を推定するのに使用可能である。多重化されたバーコーディングアプローチは、液体培養物内での酵母菌合成凝集に基づき、PPIスクリーニングプラットフォーム内でディプロイド形成事象の数を推定するのにも使用可能である。PPIのライブラリー逐次スクリーニングの場合、目的とするタンパク質(POI)又はそのバリアントのライブラリーが、本明細書で開示される合成酵母菌凝集組成物及び方法に基づき、POI又はそのバリアントの別のライブラリーに対する相互作用についてスクリーニングされ得る。本明細書に記載される組成物及び方法は、合成酵母菌凝集に基づくPPIスクリーニングプラットフォームに対し、ディプロイド形成事象の検出においてその正確性の向上をもたらす。
【0007】
タンパク質結合パートナーが対形成することを、本明細書においては、a型組換えハプロイド酵母菌細胞及びα型組換えハプロイド酵母菌細胞によりそれぞれ発現されるタンパク質が関わるPOI-POIαの対と呼ぶ。本出願者らは、POIライブラリーの構築中に、単一固有のオリゴヌクレオチド分子バーコードを特定のPOIに割り振る代わりに、後続する凝集アッセイ中のPOI-POIαディプロイド形成事象の実質的大部分が固有のバーコード-バーコードの組合せをそれぞれ含むように、各POIを、十分な数の固有のオリゴヌクレオチド分子バーコードと複数組み合わせることができることを発見した。
【0008】
PPIスクリーニングプラットフォームの後続のステップにおいて導入される実験的変動によらず、所与のPOI-POIα相互作用からの、任意のシークエンシングサポート情報を含む固有のバーコード-バーコードの組合せの実測数は、当該POI-POIα相互作用からの可能性のあるバーコード-バーコードの組合せの数と比較すると、液体培養酵母菌合成凝集アッセイ中に生じたディプロイド形成事象の数の高度に正確な推定を提供するのに使用され得る。
【0009】
固有の細胞融合事象を定量するための方法が本明細書に記載される。方法は、第1の量の細胞を提供することであって、第1の量の細胞の各細胞が、外因性核酸ベクターの第1のライブラリーの外因性核酸ベクターを含み、第1のライブラリー内の外因性核酸ベクターのそれぞれが、第1の複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列から選択されるオリゴヌクレオチド分子バーコード配列とリンクした第1のオープンリーディングフレーム(ORF)を含む、第1の量の細胞を提供することを含む。方法は、第2の量の細胞を提供することであって、第2の量の細胞の各細胞が、外因性核酸ベクターの第2のライブラリーの外因性核酸ベクターを含み、第2のライブラリー内の外因性核酸ベクターのそれぞれが、第2の複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列から選択されるオリゴヌクレオチド分子バーコード配列とリンクした第2のORFを含む、第2の量の細胞を提供することを更に含む。
【0010】
方法は、第1の量の細胞と第2の量の細胞とを液体培地内で組み合わせて培養物を産生することを更に含む。方法は、第1の量の細胞の細胞と第2の量の細胞の細胞との間で融合事象が生じて、複数の融合細胞を産生することを可能にするのに十分な時間及び条件下で、培養物を増殖させることであって、組換え事象が、融合細胞内の第1の外因性核酸ベクターと第2の外因性核酸ベクターとの間で生じて組み合わされたオリゴヌクレオチド分子バーコード配列を産生する、培養物を増殖させることを更に含む。
【0011】
方法は、培養物からの組み合わされたオリゴヌクレオチド分子バーコード配列をシークエンシングすることと、第1及び第2のORFの対毎に、培養物内で観察された組み合わされたオリゴヌクレオチド分子バーコード内の第1及び第2のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列の固有の対の第1の数を決定することと、第1及び第2のORFの対毎に、可能性のある組み合わされたオリゴヌクレオチド分子バーコード配列の第2の数を決定することと、第1の数及び第2の数に基づき、培養物内の固有の融合事象の推定される数を計算することとを更に含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、第1の量の細胞及び第2の量の細胞は酵母菌細胞である。いくつかの実施形態では、第1の量の細胞はa型ハプロイド酵母菌細胞を含み、及び第2の量の細胞はα型ハプロイド酵母菌細胞を含む。いくつかの実施形態では、第1のORFは目的とするタンパク質「a」(POIa)をコードし、及び第2のORFは目的とするタンパク質「α」(POIα)をコードする。
【0013】
その他の実施形態では、POIaをコードする各ORFは、第1の複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列から選択されるオリゴヌクレオチド分子バーコード配列と作動可能にリンクしており、POIαをコードする各ORFは、第2の複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列から選択されるオリゴヌクレオチド分子バーコード配列と作動可能にリンクしている。
【0014】
いくつかの実施形態では、各POIaは、第1の量の細胞の細胞表面上で発現しており、各POIαは、第2の量の細胞の細胞表面上で発現している。いくつかの実施形態では、第1の量の細胞又は第2の量の細胞の少なくとも1つは、第1の量の組換えハプロイド酵母菌細胞及び第2の量の組換えハプロイド酵母菌細胞が任意の天然型性的凝集プロセスに従って交配する能力を有さないように、任意の天然型性的凝集プロセスに従って交配できないようにされている。
【0015】
いくつかの実施形態では、各POIa及び各POIαは、合成接着タンパク質(SAP)である。ある特定の実施形態では、各POIa及び各POIαは、i)第1の量の組換えハプロイド酵母菌細胞若しくは第2の量のハプロイド酵母菌細胞の一部分の表面上に存在する細胞壁グリコシルフォスファチジルイノシトール(GPI)係留型タンパク質に結合した融合タンパク質、又はii)第1の量のハプロイド酵母菌細胞若しくは第2の量のハプロイド酵母菌細胞の一部分の表面上に存在するグリコシルフォスファチジルイノシトール(GPI)係留型融合タンパク質のいずれかである。
【0016】
その他の実施形態では、第1の複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列は、3以上の固有のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列を含み、及び/又は第2の複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列は、3以上のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列を含む。いくつかの実施形態では、第1の複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列は、10以上の固有のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列を含み、及び/又は第2の複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列は、10以上のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列を含む。その他の実施形態では、第1の複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列は、100以上の固有のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列を含み、及び/又は第2の複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列は、100以上のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列を含む。その他の実施形態では、第1の複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列は、1000以上の固有のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列を含み、及び/又は第2の複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列は、1000以上のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列を含む。
【0017】
いくつかの実施形態では、可能性のあるオリゴヌクレオチド分子バーコードの対の第2の数は7、8、9、10、又はそれ超である。その他の実施形態では、可能性のあるオリゴヌクレオチド分子バーコードの対の第2の数は100以上である。その他の実施形態では、可能性のあるオリゴヌクレオチド分子バーコードの対の第2の数は10,000以上である。
【0018】
その他の実施形態では、POIのライブラリーは10以上のPOIを含み、及び/又はPOIαのライブラリーは10以上のPOIαを含む。その他の実施形態では、POIのライブラリーは100以上のPOIを含み、及び/又はPOIαのライブラリーは100以上のPOIαを含む。その他の実施形態では、POIのライブラリーは1000以上のPOIを含み、及び/又はPOIαのライブラリーは1000以上のPOIαを含む。その他の実施形態では、POIのライブラリーは10,000以上のPOIを含み、及び/又はPOIαのライブラリーは、10,000以上のPOIαを含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、第1の外因性核酸ベクター及び第2の外因性核酸ベクターは、それぞれ、固有のプライマー結合部位、組換え部位、及び選択可能なマーカーを更に含む。いくつかの実施形態では、第1の量の細胞の各細胞、及び第2の量の細胞の各細胞は、外因性リコンビナーゼを更に含む。いくつかの実施形態では、外因性リコンビナーゼは組換え事象を媒介する。
【0020】
いくつかの実施形態では、第1のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列の一部分、及び第2のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列の一部分をシークエンシングすることで、複数のシークエンシング読み取りが得られ、各シークエンシング読み取りは第1のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列の一部分及び第2のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列の一部分を含む。
【0021】
いくつかの実施形態では、i)第1の量の細胞の各細胞は、機能的Aga1若しくは機能的Aga2タンパク質のいずれかを欠いており、及び/又はii)第2の量の細胞の各細胞は、機能的Sag1タンパク質を欠いている。
【0022】
用語「相補的ヌクレオチド」とは、本明細書で使用される場合、ヌクレオチド間でのワトソン・クリック塩基対形成を指し、特に、2つの水素結合によりアデニン残基とリンクしたチミン又はウラシル残基、及び3つの水素結合によりリンクしたシトシンとグアニン残基のような、相互に水素結合したヌクレオチドを指す。一般的に、核酸は、特定の第2のヌクレオチド配列に対して「パーセント相補性」を有するなどと記載されるヌクレオチド配列を含む。例えば、ヌクレオチド配列は、特定の第2のヌクレオチド配列に対して80%、90%、又は100%相補性を有し得るが、それは、配列のヌクレオチド10個のうちの8個、10個のうちの9個、又は10個のうちの10個が、特定の第2のヌクレオチド配列に対して相補的であることを示す。例えば、ヌクレオチド配列3’-TCGA-5’は、ヌクレオチド配列5’-AGCT-3’に対して100%相補的であり、またヌクレオチド配列3’-TCGA-5’は、ヌクレオチド配列5’-TTAGCTGG-3’の領域に対して100%相補的である。
【0023】
用語「相同性」、「同一性」、又は「類似性」とは、配列に関して本明細書で使用される場合、アミノ酸、例えばペプチド若しくはタンパク質の2つのストランド、又はヌクレオチド若しくは塩基、例えば核酸分子のストランド間の配列類似性を指す。用語「相同的領域」又は「ホモロジーアーム」とは、標的ゲノムDNA配列とある程度の相同性を有するドナーDNA上の領域を指す。相同性は、比較する目的でアライメントされた各配列内の位置を比較することにより決定可能である。比較される配列内のある位置が同一塩基又はアミノ酸により占有されるとき、分子は当該位置において相同である。配列間の相同性の程度は、配列間で共有される一致する位置又は相同的な位置の数に応じる。
【0024】
「作動可能にリンクした」とは、本明細書で使用される場合、エレメント、例えばバーコード配列、遺伝子発現カセット、コーディング配列、プロモーター、エンハンサー、転写因子結合部位の配置構成を指し、そのように記載されるコンポーネントは、その通常の機能を実施するように構成される。従って、コーディング配列と作動可能にリンクした制御配列は、コーディング配列の転写、いくつかのケースでは翻訳を有効にする能力を有する。制御配列は、それが機能してコーディング配列の発現を指令する限り、コーディング配列と隣接する必要はない。従って、例えば、転写されているがまだ翻訳されていない中間的な配列が、プロモーター配列とコーディング配列との間に存在することができ、またプロモーター配列はコーディング配列と作動可能にリンクしているものとなおもみなすことができる。実際、そのような配列は、同一の連続したDNA分子(すなわち、染色体)上に存在する必要はなく、また制御の変化を引き起こす相互作用をなおも有し得る。
【0025】
本明細書で使用される場合、用語「選択可能なマーカー」とは、細胞に導入され、人工的選択に適する特性を付与する遺伝子を指す。選択可能なマーカーの一般的な用途は当業者に周知されている。薬物選択可能なマーカー、例えばアンピシリン/カルベニシリン、カナマイシン、クロラムフェニコール、エリスロマイシン、テトラサイクリン、ゲンタマイシン、ブレオマイシン、ストレプトマイシン、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、ブラストサイジン、及びG418等が採用され得る。選択可能なマーカーは、栄養素要求性の選択可能なマーカーであってもよく、その場合選択される細胞株は必須栄養分を合成不能にする突然変異を担持する。そのような株は、欠損している必須栄養分が増殖培地内に供給される場合にのみ増殖する。例えば、酵母菌突然変異株の必須アミノ酸栄養要求性選択が一般的であり、また当技術分野において周知されている。「選択培地」とは、本明細書で使用される場合、選択可能なマーカーを選択するか、若しくはそれを排斥する化学物質又は生物学的部分が添加された細胞増殖培地、又は必須栄養分を欠損しており、栄養要求性株を排斥する培地を指す。
【0026】
本明細書で使用される場合、用語「ベクター」は、細胞に送達され及び/又はそこで発現される所望の配列(単数)又は配列(複数)を含む様々な核酸のいずれかである。ベクターはDNAから一般的に構成されるものの、RNAベクターも利用可能である。ベクターとして、とりわけプラスミド、フォスミド、ファージミド、ウイルスゲノム、細菌人工染色体(BAC)、酵母菌人工染色体(YAC)、P1由来の人工染色体(PAC)、及び合成染色体が挙げられるが、但しこれらに限定されない。
【0027】
本明細書で使用される場合、「親和性」は、生体分子とそのリガンド、又は結合パートナーとの間の結合相互作用の強度である。親和性は、平衡解離定数Kを使用して通常測定され、記載される。K値が低いほど、結合親和性は高い。親和性は、結合パートナー間の水素結合、静電相互作用、疎水性及びファンデルワールス力により、又はその他の分子、例えば、結合性のアゴニスト若しくはアンタゴニストの存在により影響され得る。
【0028】
いくつかの導入形態では、親和性は任意単位を使用して記載され得るが、その場合、アッセイ内の特定の結合親和性、例えば2つの野生型タンパク質結合パートナー、又は第1のタンパク質結合パートナーの野生型種と第2のタンパク質結合パートナーの野生型種との間の結合親和性が1.0の任意単位に設定され、そしてタンパク質結合パートナー、例えば第1のタンパク質結合パートナーの突然変異体種及び第2のタンパク質結合パートナーの突然変異体種からなる別の対に対する結合親和性が、当該特定の結合親和性と比較して測定される。
【0029】
本明細書で使用される場合、「部位飽和突然変異誘発」(SSM)とは、タンパク質エンジニアリング及び分子生物学において使用される突然変異誘発技術を指し、その場合、コドン又はコドンのセットが、ポリペプチド内の位置において可能性のあるほとんど又はすべてのアミノ酸と置換される。SSMは、1つのコドン、いくつかのコドンについて、又はポリペプチド内のあらゆる位置について実施可能である。置換は可能性のあるすべての代替的アミノ酸に対して実施可能であるか、又は選ばれたアミノ酸について省略可能である。例えば、システインに対する置換は、酵母菌表面発現及びタンパク質のフォールディングに対する有害な効果に起因して多くの場合省略される。結果は、ポリペプチド内の1つ、いくつか、又はすべてのアミノ酸位置における複数の単一残基アミノ酸置換を代表する突然変異体タンパク質のライブラリーである。
【0030】
本明細書で使用される場合、「ユーザー指向性突然変異誘発」とは、ポリヌクレオチド配列を改変することにより、ユーザーがポリヌクレオチド(核酸分子)によりコードされるポリペプチドのアミノ酸配列を改変する任意のプロセスを指す。ポリペプチド配列は、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列のユーザー指向性突然変異誘発により改変され得る。ポリペプチドは、1つ又は複数のアミノ酸残基において、定義された手法で改変することができ、例えばアラニン残基はアルギニン残基に変化させることができ、又はポリペプチドは、ランダム化された手法で、すなわち縮重プライマー及びランダム化PCR増幅を使用して、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を改変することにより、改変され得る。ポリペプチドは、1つのアミノ酸残基、又は多くのアミノ酸残基において、ユーザー指向性突然変異誘発により改変され得る。ポリペプチドは、所与の位置のアミノ酸残基が、当該位置において可能性のあるアミノ酸置換のサブセットのうちの1つに改変されるように、ユーザー指向性突然変異誘発により、例えば、当技術分野において公知のような保存的アミノ酸置換、又はシステインを除く可能性のあるすべてのアミノ酸に対する置換により改変され得る。ポリペプチドは、1つ若しくは複数のアミノ酸残基の挿入及び/若しくは欠損を含めるために、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列のユーザー指向性突然変異誘発により改変され得るか、又はポリペプチド配列はユーザー指向式突然変異誘発によりトランケートされ得る。ポリペプチドは、天然又は非天然アミノ酸を用いた挿入又は置換を含めるために、ユーザー指向性突然変異誘発により改変され得る。
【0031】
本明細書で使用される場合、用語「目的とするタンパク質」(「POI」)とはポリペプチド分子を指し、その生化学特性が本明細書で開示される組成物及び方法による調査の対象とされる。POIは、タンパク質の種やバリアントの中でもとりわけ、完全長タンパク質、トランケートされたタンパク質、融合タンパク質、又は機能的にタグ化されたタンパク質であり得る。いくつかの導入形態では、第1のPOI又はそのバリアントのライブラリーは、第2のPOI又はそのバリアントのライブラリーに対する結合親和性についてスクリーニングされる。いくつかの導入形態では、第1のPOIはa型ハプロイド酵母菌細胞により発現され、「POI」と呼ばれ得、また第2のPOIはα型ハプロイド酵母菌細胞により発現され、「POIα」と呼ばれ得る。いくつかの導入形態では、相互作用が、本明細書で開示される組成物及び方法によりPOIとPOIαとの間で検出される場合、第1のPOI及び第2のPOIは「POI-POIαの対」と呼ばれ得る。
【0032】
本明細書で使用される場合、「タンパク質-タンパク質相互作用」(「PPI」)とは、例えば、疎水性効果を含む静電力により駆動される生化学的事象の結果として、2つ以上のタンパク質の間で確立された高い特異性を有する物理的接触を指す。多くのタンパク質-タンパク質相互作用は、特別な生体分子の文脈において、細胞内又は生物内で生ずるタンパク質の特定のドメイン間の分子会合を伴う、タンパク質それぞれの表面間の物理的接触である。いくつかの導入形態では、タンパク質-タンパク質相互作用は、天然型性的凝集タンパク質の機能に置き換わるのに十分強い。例えば、交配効率を、特定のタンパク質-タンパク質相互作用の相互作用強度と関連付けることが可能である。ある特定の実施形態では、アッセイは、合成接着タンパク質間のタンパク質-タンパク質相互作用を特徴付けるか又は決定することができる。ある特定の実施形態では、タンパク質-タンパク質相互作用は、第3の化学的実体(とりわけ小分子、ポリペプチド、又はポリヌクレオチドであり得る)により調節され、強化又は阻害される。
【0033】
本明細書で使用される場合、「合成接着タンパク質」(「SAP」)とは、任意のその他のタンパク質又はポリペプチドとの結合性又はそれとの相互作用についてアッセイされる任意のタンパク質又はポリペプチドを指す。タンパク質は、非相同的に又は外因的に発現され得る。合成接着タンパク質は、野生型性的凝集タンパク質に認められるような凝集に必要とされる接着とは一般的に関連しないので、そのように呼ばれる。
【0034】
本明細書で使用される場合、「媒介する」とは、あるプロセスを促進するか又は触媒することを意味し、例えばリコンビナーゼは、二本鎖又は一本鎖ポリヌクレオチド間の組換えを媒介することができる。別の例として、酵母菌細胞の表面上で発現される性的凝集タンパク質は、反対の交配型を有するハプロイド酵母菌細胞間の凝集及び後続する細胞融合を媒介することができる。
【0035】
本明細書で開示される組成物及び方法はいくつかの長所を提供する。液体培養物内での酵母菌合成凝集に基づくPPIスクリーニングプラットフォームの場合、検出される重要な事象は、a型組換えハプロイド酵母菌細胞の表面上で発現されるPOIとα型組換えハプロイド酵母菌細胞の表面上で発現されるPOIαとの相互作用により媒介されるディプロイド酵母菌細胞の形成である。ディプロイド形成事象の数、すなわちa型ハプロイドとα型ハプロイドとの間の交配効率は、POIとPOIαとの間の親和性に対する代理特性である。実際、交配効率及びPOI-POIαは、Kについて5桁にわたり対数線形的に関連する(Youngerら、“High-throughput characterization of protein-protein interactions by reprogramming yeast mating,”PNAS USA, 14;114巻(46号):12166~12171頁(2017年)を参照されたい)。しかしながら、液体培養物内でディプロイド形成事象が経時的に生じた後に、後続するいくつかのプロセスが、最終的な定量的アウトプットに対する確率論的又は系統的な変動に寄与し、そして所与のPOI-POIαの対について親和性の推定の定量的正確性を棄損する。例えば、酵母菌細胞内でのいくつかのタンパク質の発現は、その他のタンパク質よりも多くの代謝的負荷を引き起こす可能性があり、そのようなタンパク質を発現するディプロイド酵母菌細胞がその他のタンパク質を発現するディプロイド酵母菌細胞よりも低速で増殖する原因となる。ディプロイド酵母菌細胞における確率論的又は系統的差異は、アッセイ内の融合事象の数を定量する際の変動に寄与する。
【0036】
確率論的又は系統的変動の起源として、(1)90分を超える長時間アッセイの過程で細胞融合が生ずる時間、(2)90分を超えるアッセイの過程で生ずる、液体培養物内でのディプロイド酵母菌細胞の増殖速度の相違、(3)固有の組換えバーコード-バーコードの対のPCR増幅中に生ずる増幅速度における増幅バイアス又は確率論的変動、及び/又は(4)PCR増幅されるバーコード-バーコードの対の次世代シークエンシング(NGS)ライブラリーの調製を挙げることができる。このようなプロセスのアウトプットから、所与のバーコード-バーコードの対に関するNGSシークエンシング読み取りが得られ、その存在量は、対応するPOI-POIα相互作用により媒介されるディプロイド形成事象の数の間接的な推定情報である。しかしながら、この定量的読み取りは、上記変動の起源となりやすい。
【0037】
本明細書で開示される、すなわちPOI毎に単一のバーコードではなく、POI毎に複数の固有のオリゴヌクレオチド分子バーコードを利用する組成物及び方法は、上記した確率論的及び系統的な変動の起源を除去し、そして測定されたPOI-POIα相互作用に関するPPI親和性の推定の定量的正確性を実質的に改善する。結果は、実際には、固有のバーコード-バーコードの組合せに対応するシークエンシング読み取りの存在量に関わらず、プラットフォームのNGS読み取りにおける固有のバーコード-バーコード配列の検出が、固有のディプロイド形成事象を表すような「デジタル」読み取りである。当該POI-POIαの対と関連するシークエンシング読み取りの存在量ではなく、POI-POIαの対について検出される固有のバーコード-バーコード配列の数は、アッセイ中に生じたディプロイド形成事象の数を表し、そしてPOI-POIα相互作用に対するPPI親和性を推測するのに使用される。
【0038】
別途定義されなければ、本明細書で使用されるすべての技術的及び科学的用語は、このような組成物及び方法が属する技術分野の当業者により一般的に理解される意味と同一の意味を有する。本明細書に記載されるものに類似するか又はそれと同等の組成物及び方法が本明細書で開示される組成物及び方法を実践又はテストする際に使用可能であるものの、適する組成物及び方法が下記に記載される。本明細書に記載されるすべての公開資料、特許出願、特許、及びその他の参考資料は、参照によりそれらの全体が組み込まれる。矛盾する場合、定義を含め、本明細書が優先する。それに加えて、材料、方法、及び実施例は、例示のみを目的としており、限定することを意図しない。
【0039】
文脈が別途明確に要求しない限り、明細書及び特許請求の範囲全体を通じて、単語「含む(comprise)」、「含むこと(comprising)」等は、排他的又は網羅的意味合いとは異なり、包括的な意味合い、すなわち「含むが、これに限定されない」という意味合いを有するものと解釈される。単数又は複数を使用する単語は、明示的に限定されない限り、複数及び単数もそれぞれ含む。更に、単語「本明細書において」、「上記」、及び「下記」、並びに類似した趣旨の単語は、本出願において使用されるとき、本出願を全体として指すものとし、本出願の任意の特別な部分を指さない。
【0040】
開示は、様々な代替的態様を参照しながら、本明細書においてことさらに示され及び記載されているが、形態及び詳細事項における様々な変更が、本発明の精神及び範囲から逸脱せずに、本明細書においてなされ得ることが当業者により理解される。本開示の実施形態の説明は、網羅的であるように、又は本開示を開示される厳密な形態に限定するように意図するものではない。本開示の具体的実施形態及びその実施例が、例証目的で本明細書において記載されているが、当業者が認識するように、様々な等価的改変が本開示の範囲内で可能である。
【0041】
本発明の1つ又は複数の実施形態の詳細事項を、添付図面及び下記の説明に記載する。本発明のその他の特性、目的、及び利点は、説明及び図面から、並びに特許請求の範囲から明白である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】S.セレビシエ(S. cerevisiae)における天然及び合成酵母菌凝集の概略を示す図である。
図2A】外因性Creリコンビナーゼにより媒介されるSAP発現カセット間の組換えの概略を示す図である。
図2B】外因性Creリコンビナーゼにより媒介されるSAP発現カセット間の組換えのより詳細な概略を示す図である。
図2C】外因性Creリコンビナーゼにより媒介されるSAP発現カセット間の組換えの概略を示す図であり、ディプロイド形成事象及び後続のSAP発現カセットの組換えの結果である、固有のバーコード-バーコードの対のPCR増幅を示す。
図3】各POIが単一のオリゴヌクレオチドバーコード種にリンクしているPOI-POIαに関する酵母菌合成凝集アッセイの概略を示す図である。
図4】各POIが複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード種にリンクしているPOI-POIαに関する酵母菌合成凝集アッセイの概略を示す図である。
図5A】POIをコードするORFが複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列を用いて合成され、各ORFが異なる固有のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列にリンクした核酸コンストラクトの部分の概略を示す図である。
図5B】核酸コンストラクトの部分の概略を示す図である。ここでは、オリゴヌクレオチド分子バーコード配列のライブラリーが個別に合成され、そして等温in vitroアセンブリによりPOIをコードするORFと共にアセンブルされ、その結果複数の核酸コンストラクトが得られ、各核酸コンストラクトは、POIをコードするORFを含み、各ORFは異なる固有のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列にリンクしている。
図6】POI-POIαの対に関する「可能性のある」及び「観測された」バーコード-バーコードの組合せの頻度のヒストグラムプロットを示す図である。
図7】POI-POIαの対に関するシークエンシング読み取りの分布のヒストグラムプロットを示す図であり、この場合、10個のディプロイド酵母菌が合成凝集アッセイ中に形成された。
図8】合成凝集アッセイ中に、10例の推定されたディプロイド形成事象を有するPOIA-POIαの対に関する推定されるディプロイドの分布のグラフを、期待値のポアソン分布と比較して示す図である。
図9】様々なサイズのPOI-POIαネットワークを横断して、多重化されたバーコーディングを用い又は用いないで行った信頼区間キャリブレーションを比較するプロットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
図面内の同じ参照記号は同じエレメントを表す。
【0044】
詳細な説明
多重化されたバーコードを用いた合成酵母菌凝集
本開示は、読み取り深度を、形成されたディプロイドの数の推定情報と置き換えることによって、タンパク質-タンパク質相互作用PPI強度について、シークエンシング読み取り深度の代理特性の正確性を向上させることにより、PPI親和性をきわめて正確に推定するための方法を提供する。合成酵母菌凝集は、酵母菌性的凝集(天然に存在するタンパク質-タンパク質相互作用)をリプログラミングして、タンパク質-タンパク質相互作用強度を、液体培養物内でのa型組換えハプロイド酵母菌細胞及びα型組換えハプロイド酵母菌細胞間の交配効率に関連付けることに立脚する。合成酵母菌凝集に基づくPPIスクリーニングプラットフォームの場合、交配効率(乱流液体培養物内で形成されたディプロイド酵母菌細胞の数により表される)は、PPI親和性に対する代理特性である。従って、PPIスクリーニングプラットフォームの正確性は、液体培養に基づくアッセイの過程で形成されたディプロイド酵母菌細胞の数を、エンドポイントの読み取りから正確に再構成することに依存する。本明細書で開示される組成物及び方法は、合成酵母菌凝集に基づくPPIスクリーニングプラットフォームについて、ディプロイド形成事象を検出する際の正確性の有意な増加を実現する。
【0045】
以下で更に詳細に議論されるように、POIのライブラリー内のPOI毎に、複数の固有のオリゴヌクレオチド分子バーコードが、POIのライブラリー内のPOIをコードする単一のオープンリーディングフレーム(ORF)に割り振られる。多くのディプロイド形成事象が予測される強いPPIの場合であっても、可能性のあるバーコード-バーコードの組合せの数が、所与のアッセイにおいて形成されるディプロイドの予想される数を実質的に上回るように、十分な数の固有のバーコードが各POIに割り振られる。ディプロイド形成事象の実質的に大多数が、シークエンシングにより特定可能な固有のバーコードの組合せを形成する。単一のPOI-POIαの対を表す単一のバーコード-バーコードの組合せのシークエンシング読み取り深度に基づきディプロイド形成を数値化することよりはむしろ、本明細書に提示される方法は、当該POI-POIαの対に関して形成されたディプロイドの数を表すために、観測された固有のバーコードの組合せの数を数値化する。この数量は、酵母菌細胞増殖条件、PCR増幅、又はNGSライブラリー調製により最低限度でしか影響を受けず、従ってディプロイド形成事象について、シークエンシング読み取り深度のみに由来し得る場合よりも良好な推定情報をもたらす。
【0046】
例えば、16時間合成凝集アッセイの7時間目に液体培養物内でディプロイド形成事象が生ずる場合、1時間目のバーコードのシークエンシング読み取りは7時間目のバーコードのシークエンシング読み取りよりも大幅に数で勝る可能性があるという事実にもかかわらず、得られたバーコードの組合せは、1時間目に生ずるディプロイド形成事象に起因するバーコードに限定され、それと等価的に定量される。酵母菌ハプロイド及びディプロイド細胞の2倍増加速度はおよそ90分であることを踏まえ、1時間目と7時間目の間の6時間において、1時間目の融合事象により形成されたディプロイド細胞は4回の2倍増加を経て、2の4乗個の細胞又は16個の細胞がもたらされるものと予測される。本明細書に開示される多重化されたバーコーディング法を用いなければ、1時間目のディプロイド形成事象は、7時間目のディプロイド形成事象と比較しておよそ16倍多くカウントされることとなる。本明細書に開示される多重化されたバーコーディング法は、この変動要因についてコントロールすること、及び細胞-細胞融合事象において形成された固有のバーコード-バーコードの対が存在するか又は存在しないかによって融合事象を計測することにより、融合事象の数についてより正確な推定を提供する。
【0047】
例えば米国特許第10,988,759号及び同第11,136,573号に開示されるような先行する方法では、各POIには固有のオリゴヌクレオチド分子バーコードが割り振られ、そしてディプロイド形成事象後には、対応するディプロイド形成事象を媒介した個々の合成接着タンパク質(SAP)を特定するために、このようなタンパク質特異的バーコードが組み換えられ、配列決定される。固有のバーコード-バーコードの組合せのシークエンシング読み取りを定量することは、ディプロイド形成事象の数、及び従ってPPI親和性の代理指標として作用する。
【0048】
天然型凝集タンパク質と多重バーコード化POIとの置換
図1は、S.セレビシエにおける天然及び合成性的凝集の概略を示す。左側には、MATa及びMATαハプロイドを上段及び下段にそれぞれを示す。各ハプロイド細胞の細胞壁を灰色で示す。乱流液体培養物内では、MATa及びMATαハプロイド細胞は結合性の性的アグルチニンタンパク質に起因して互いにくっつき、交配を可能にする。天然型性的アグルチニンタンパク質は、MATa細胞により発現されるAga1及びAga2、並びにMATα細胞により発現されるSag1から構成される。Aga1及びSag1は、細胞壁と共にグリコシルフォスファチジルイノシトール(GPI)アンカーを形成し、そしてグリコシル化された茎部を用いて細胞壁の外部まで延在する(挿入図の左側フレームを参照されたい)。Aga2はMATa細胞により分泌され、そしてAga1と共にジスルフィド結合を形成する。Aga2とSag1との間の相互作用は野生型性的凝集にとって必須である。天然型性的アグルチニン相互作用は、両方の交配型内でAga1を発現させ、そして相補的バインダーをAga2と融合させることにより、工学操作されたものと置き換え可能である(挿入図の中央フレームを参照されたい)。直接的な凝集の代わりに、凝集及び交配が標的の存在下においてのみ生ずるように、多価標的に対するバインダーを発現させることが可能であり得る(挿入図の右側フレームを参照されたい)。
【0049】
図2Aは、ディスプレイ対相互作用のハイスループット分析に関するCreリコンビナーゼ転位スキームの概略を示す。ここでは、単一の組換えMATa酵母菌株と単一の組換えMATα酵母菌株との間の交配を示す。しかしながら、バッチ式の交配アッセイの場合、各交配型のディスプレイヤー細胞のライブラリーが使用される(それぞれ、Aga2に融合したSAPのライブラリーを含む)。各MATa及びMATαハプロイド細胞は、標的染色体に組み込まれたAga2に融合したSAPを含有する(例えば、第III染色体)。交配した際には、標的染色体の両方のコピーが同一のディプロイド細胞中に存在する。
【0050】
SAP/Aga2カセットに加えて、標的染色体の各コピーは、固有のプライマー結合部位、特定のSAPに作動可能リンクした複数の固有のオリゴヌクレオチドバーコードのうちの1つ、及びlox組換え部位を有する。単一のSAP種が複数の固有のオリゴヌクレオチドバーコードと作動可能にリンクするように、複数のオリゴヌクレオチドバーコードは、SAP発現カセットのライブラリーを用いて合成及びアセンブルされ得る。Creリコンビナーゼが発現されると、lox部位において染色体転座が生じ、標的染色体の同一コピー上にプライマー結合部位及びバーコードの並列配置を引き起こす。次に、固有のバーコード-バーコードの対(それぞれディプロイド形成事象を表す)を含む配列が増幅されるように、PCRが実施され、両方のSAPに由来するバーコードを含有する染色体の領域が増幅される。
【0051】
バッチ式の交配では、結果は、それぞれ、単一のディプロイド形成事象に関与した2つのSAPと関連する固有のバーコード-バーコードの対を含有する断片のプールである。ペアドエンド次世代シークエンシングが、次にバーコードを一致させ、当該SAPの対により媒介されたディプロイド形成事象の数を決定するために使用される。
【0052】
図2Bは、ディスプレイ対相互作用のハイスループット分析に関するCreリコンビナーゼ転位スキームの別の概略を示す。天然型の凝集を除去するために、a-アグルチニン、Sag1がMATa細胞においてノックアウトされている。MATa及びMATアルファ細胞はリジン又はロイシンをそれぞれ合成することができる。次に、両方のアミノ酸を欠いている培地内でディプロイドが選択され得る。MATa細胞は、ディプロイド細胞内でCreリコンビナーゼ発現を活性化させるβE誘導可能転写因子ZEV4を発現する。MATa及びMATアルファ細胞は、フローサイトメトリーを用いて株型を特定するためのmCherry及びmTurquoiseをそれぞれ発現する。MATa及びMATアルファ細胞は、Aga2に融合している一義的にバーコード化されたSAPと共に、Aga1を構成的に発現する。βEを用いてディプロイド内でCreリコンビナーゼ発現が誘発されるとき、lox部位における染色体転座により、両SAP-Aga2融合発現カセットが同一染色体上に統合される。ディプロイド形成事象と関連する固有のバーコード-バーコード配列を含有する単一の断片が、次にP及びP(ゲノム標的部位に組み込まれた第1及び第2の核酸コンストラクトに由来するプライマーに対して特異的なプライマー)にアニーリングするプライマーを用いてPCRにより増幅され、そしてディプロイド形成事象の数を定量し、相互作用性のSAPの対を特定するために配列決定される。
【0053】
図2Cは、ライブラリー逐次スクリーニングに由来するSAP間の相互作用についてハイスループット分析するためのCREリコンビナーゼ転位スキームの概略を示す。CREリコンビナーゼ発現がβEを用いてディプロイド内で誘発されるとき、lox部位における染色体転座により、両SAP-Aga2発現カセットが同一の染色体上に統合される。当該ディプロイド形成事象と関連する固有のバーコード-バーコード配列を含有する単一の断片が、次に第1及び第2の核酸コンストラクトのそれぞれに由来するプライマー結合部位にアニーリングするプライマーを用いてPCRにより増幅され、そしてディプロイド形成事象の数を定量し、相互作用性のSAPの対を特定するために配列決定される(例えば、次世代シークエンシングのペアドエンド分析を使用して)。
【0054】
図3は、多重化されたバーコーディングを用いない、すなわち各POIは単一のオリゴヌクレオチドバーコード種にリンクしている、POI-POIαの対に関する酵母菌合成凝集アッセイの概略である。酵母菌細胞集団300は、目的とするタンパク質又はその突然変異バリアントの第1のライブラリーを含むa型組換えハプロイド酵母菌細胞の集団である。図3において、例証を目的として、1つのPOI種を片側矢印で表す。このアッセイでは、個々の細胞の多くは、同一の分子バーコードとリンクした同一のPOIの種をそれぞれ含む可能性がある。酵母菌細胞集団302は、目的とするタンパク質又はその突然変異バリアントの第2のライブラリーを含むα型組換えハプロイド酵母菌細胞の集団である。酵母菌細胞集団300及び集団302は、上記で議論した方法に基づき、液体培養物内で組み合わされ、SAP間の相互作用はハプロイド細胞間の交配を促進してディプロイド酵母菌細胞集団304を産生し、そしてSAP発現カセット間の組換えにより、図3において両側矢印として表されるバーコード-バーコードの組合せがもたらされる。
【0055】
DNA単離、PCR増幅、及び次世代のシークエンシングにより、シークエンシング読み取り306がもたらされ、その存在量はPOI-POIαの対の結合親和性を表す。相互作用の強度を推測するのに利用可能な情報は、POI-POIαの対について観測されたシークエンシング読み取りの合計数である。
【0056】
本明細書に記載される新たな方法及び組成物の例として、図4は、多重化されたバーコーディングを用いた、すなわち各POIは複数の固有のオリゴヌクレオチドバーコード種にリンクしている、POI-POIαの対に関する酵母菌合成凝集アッセイの例の概略である。酵母菌細胞集団400は、目的とするタンパク質又はその突然変異バリアントの第1のライブラリーを含むa型組換えハプロイド酵母菌細胞の集団である。図4において、1つのPOI種を片側矢印により表す。このアッセイでは、個々の細胞の多くは同一のPOIの種をそれぞれ含む可能性があるが、当該POIの種を含む各細胞は、当該POIとリンクした固有の分子バーコードを有するはずである。酵母菌細胞集団402は、目的とするタンパク質又はその突然変異バリアントの第2のライブラリーを含むα型組換えハプロイド酵母菌細胞の集団である。酵母菌細胞集団400及び集団402は、上記で議論した方法に従って、液体培養物内で組み合わされ、SAP間の相互作用はハプロイド細胞間の交配を促進してディプロイド酵母菌細胞集団404を産生し、そしてSAP発現カセット間の組換えにより、図4において両側矢印として表されるバーコード-バーコードの組合せがもたらされる。
【0057】
本明細書に記載されるような多重化されたバーコーディングの結果として、ディプロイド酵母菌細胞集団404の各細胞は、固有のバーコード-バーコードの組合せを含む。DNA単離、PCR増幅、及び次世代シークエンシングによりシークエンシング読み取り406がもたらされ、検出された固有のバーコード-バーコードの組合せの数は、アッセイ中に生じたディプロイド形成事象の数を表す。POI-POIαの対の結合親和性は、検出された固有のバーコード-バーコードの組合せの数から正確に推測され得る。指摘すべき重要事項として、図4に示すように、アッセイ条件(すなわち、酵母菌増殖速度、PCR増幅、NGSライブラリー調製)の可変性に起因して、固有のバーコード-バーコードの組合せのそれぞれは、異なる数のシークエンシング読み取りにより検出される可能性があることが挙げられる。
【0058】
しかしながら、本方法における有益なデータは、バーコード-バーコードの組合せそれぞれについて検出されるシークエンシング読み取りの存在量ではなく、検出される固有のバーコード-バーコードの組合せの種の数である。POI-POIα相互作用の強度を推測するのに利用可能な情報は、検出された固有のバーコード-バーコードの組合せの合計数(ディプロイド形成事象の数を表す)である。図3に示すようなシークエンシング読み取り及びシークエンシング読み取り306の合計数に基づきディプロイド形成事象を定量しようと試みるのではなく、何らかのシークエンシングエビデンスを有する固有のバーコード-バーコードの組合せの数が、図4及びシークエンシング読み取り406に示すように定量される。当該数量が、アッセイ期間中に導入される変動を考慮せずに、凝集アッセイ中に形成されたディプロイド酵母菌の数を直接推測するのに使用される。
【0059】
固有のバーコード-バーコード配列の定量に基づき、オリジナルのディプロイド形成事象の数をディプロイド形成の代理特性として定量することが、シークエンシングデータからPPI親和性を推定する際にそれを改善し、また不確実性をより正確に定量するための基本として使用される。
【0060】
コンストラクト及びバーコード
本明細書で使用される場合、用語「核酸コンストラクト」とは、酵母菌株に組込み可能である連続したポリヌクレオチド又はDNA分子を指す。いくつかの導入形態では、核酸コンストラクトは、(a)核酸コンストラクトの5’末端に位置するホモロジーアーム、(b)細胞壁グリコシルフォスファチジルイノシトール(GPI)係留型タンパク質と結合する合成接着タンパク質(SAP)をコードする遺伝子を含む第1の発現カセット、(c)第1のマーカーを含む第2の発現カセット、(d)固有のプライマー結合部位、(e)オリゴヌクレオチド分子バーコード、(f)組換え部位、及び(g)核酸コンストラクトの3’末端に位置するホモロジーアームを含む。いくつかの導入形態では、核酸コンストラクトのコンポーネント(a)~(g)は、核酸コンストラクト上、5’→3’の方向で配置構成され、その場合コンポーネント(a)はコンポーネント(b)に対して5’側にあり、またコンポーネント(b)はコンポーネント(c)に対して5’側にあり、またコンポーネント(c)はコンポーネント(d)に対して5’側にあり、またコンポーネント(d)はコンポーネント(e)に対して5’側にあり、またコンポーネント(e)はコンポーネント(f)に対して5’側にあり、またコンポーネント(f)はコンポーネント(g)に対して5’側にあり、またコンポーネント(g)は核酸コンストラクトの3’末端に位置する。
【0061】
いくつかの導入形態では、合成接着タンパク質(SAP)をコードする第1の発現カセットを含む核酸コンストラクトは、ユーザー定義されたゲノム標的部位において酵母菌細胞のゲノムに組み込まれ得る。その他の導入形態では、SAPをコードする第1の発現カセットを含む核酸コンストラクトは、例えば、酵母菌ゲノムに組み込まれない2ミクロンプラスミド又はセントロメアプラスミドであり得る。
【0062】
本明細書で使用される場合、用語「発現カセット」とは、プロモーター、オープンリーディングフレーム、及びターミネーターを含むDNA配列を指す。ある特定の実施形態では、核酸コンストラクトは1つ又は複数の発現カセットを含む。例えば、核酸コンストラクトは、1、2、3、又はそれ超の発現カセットを含み得る。ある特定の実施形態では、核酸コンストラクトは、第1の細胞壁GPI係留型タンパク質に結合した第1のSAPをコードする融合遺伝子を含む第1の発現カセット、及び第1のマーカーを含む第2の発現カセットを含む。いくつかの実施形態では、図1及び図2A図2Cに示すように、第1の核酸コンストラクトの第1の発現カセットのSAPは性的凝集タンパク質Aga2に融合しており、第2の核酸コンストラクトの第1の発現カセットのSAPは性的凝集タンパク質Aga2に融合している。
【0063】
いくつかの導入形態では、核酸コンストラクトは組換え部位を含む。組換え部位は、核酸コンストラクトがゲノム標的領域中に組み込まれ、そして交配が生じた際に、ある特定の部位特異的組換え事象を可能にする。その他の導入形態では、核酸コンストラクトは酵母菌ゲノムに組み込まれず、そして染色体外核酸コンストラクト、例えば2ミクロンプラスミド又はセントロメアプラスミド間で部位特異的組換え事象が生ずる。
【0064】
いくつかの導入形態では、組換え部位は、バーコード化されたSAP発現カセット近傍に位置し、そして組換えが、第1及び第2の酵母菌株それぞれの同一染色体上にこれまでに組み込まれた第1及び第2の核酸コンストラクトそれぞれに由来する2つのバーコードをディプロイド酵母菌細胞の同一染色体上に配置する染色体転座を引き起こすように構成される。いくつかの導入形態では、第1及び第2の核酸コンストラクトの組換え部位は、組換えが染色体を破壊するか又は細胞の殺傷を引き起こすことがないように設計される。組換え部位における部位特異的組換え事象は、2つのDNA組換え部位間の部位特異的組換え事象を触媒及び媒介する部位特異的リコンビナーゼによりコントロールされる。
【0065】
いくつかの導入形態では、酵母菌株の一方又は両方は外因性リコンビナーゼを含む。リコンビナーゼは、交配後のディプロイド細胞内でのみ発現される。例えば、第2の組換え酵母菌株は転写因子を発現することができ、そして第1の組換え酵母菌株は外因性リコンビナーゼを含むか、又は第1の組換え酵母菌株は転写因子を発現することができ、そして第2の組換え酵母菌株は外因性リコンビナーゼを含む。両方の株が外因性リコンビナーゼ及び転写因子を含むようにすることも可能である。ディプロイド細胞内で発現される場合、リコンビナーゼは部位特異的Cre組換え部位間の組換えを媒介する。
【0066】
いくつかの実施形態では、複数の株のうちたった1つが、外因性リコンビナーゼの発現をコントロールする誘導性プロモーターを含む。交配後のディプロイド細胞においてのみリコンビナーゼを発現させるために、誘導可能な転写因子(例えば、Zev4)が制御可能に誘導され(すなわち、Zev4は、Zev4が核内に進入し、次にそこでZev4がプロモーターpZ4を活性化させるのを可能にするβ-エストラジオールを用いて活性化される)、そしてリコンビナーゼの上流に配置されたそのプロモーターからの転写を活性化させる。従って、誘導物質(すなわち、ベータ-エストラジオール)を交配後の細胞に添加することで、外因性リコンビナーゼの発現が活性化し、そして2つのバーコードを共に対となすディプロイド内で染色体転座が引き起こされる。
【0067】
いくつかの導入形態では、核酸コンストラクトそれぞれは、固有のプライマー結合部位を含む。固有のプライマー結合部位は、適正に組み換えられたディプロイド細胞に由来する2つの固有のバーコードを含有する標的核酸断片のみを増幅する当該プライマーのセットを用いた増幅が可能となるように設計される。標的核酸断片のプールが、次に、例えば次世代シークエンシングを使用して配列決定される。
【0068】
本明細書で使用される場合、プライマー又はプライマーの対とは、天然又は合成のオリゴヌクレオチドの対(すなわち、フォアワード及びリバースプライマー)を指し、ポリヌクレオチドテンプレートと共に二本鎖を形成した際には、核酸合成の開始点として作用し、また標的核酸断片が形成されるようにテンプレートに沿ってその3’末端から伸長する能力を有する。別の導入形態では、第1の核酸コンストラクトの固有のプライマー結合部位及び第2の核酸コンストラクトの固有のプライマー結合部位が同一の染色体に組み込まれ、そして交配及び染色体転座の後に、プライマー結合部位は、第1の核酸コンストラクトの固有のバーコード及び第2の核酸コンストラクトの固有のバーコードの両方、又は第1の核酸コンストラクトの固有のバーコードの一部分及び第2の核酸コンストラクトの固有のバーコードの一部分の両方を含む標的ヌクレオチド配列を増幅するのに使用可能である。
【0069】
一実施形態では、第1の核酸コンストラクトの固有のバーコード及び第2の核酸コンストラクトの固有のバーコードは同一の染色体遺伝子座に組み込まれ、そして交配及び染色体転座の後には、それらは約5,000、4,000、3,000、2,000、1,000、900、800、700、600、500、400、300、200、又は100塩基対内に存在する。いくつかの実施形態では、次世代シークエンシングを使用しながら、ペアドエンド読み取りが、標的核酸断片のいずれかの末端においてバーコードを読み取るのに使用される。
【0070】
別の導入形態では、第1のオリゴヌクレオチド分子バーコードとカップリングした第1のSAPをコードする第1の染色体外核酸コンストラクト及び第2のオリゴヌクレオチド分子バーコードとカップリングした第2のSAPをコードする第2の染色体外核酸コンストラクト間での交配後に、ディプロイド細胞内で組換えが生ずる。その結果として、第1の核酸コンストラクトの固有のプライマー結合部位及び第2の核酸コンストラクトの固有のプライマー結合部位は同一分子上に存在し、そしてプライマー結合部位は、第1の核酸コンストラクトの固有のバーコード及び第2の核酸コンストラクトの固有のバーコードの両方、又は第1の核酸コンストラクトの固有のバーコードの一部分及び第2の核酸コンストラクトの固有のバーコードの一部分の両方を含む標的ヌクレオチド配列を増幅するのに使用可能である。
【0071】
新たな方法では、核酸コンストラクトは、それぞれ、オリゴヌクレオチド分子バーコードを含む。いくつかの導入形態では、各バーコードは、ある特定のPOIを含むある特定のSAPに特有である。その他の導入形態では、複数の固有のバーコード配列が、ある特定のPOIを含むある特定のSAPと関連する。単一のPOIをコードする複数の核酸コンストラクト内では、各コンストラクトは、単一のPOIが多様な複数の固有のオリゴヌクレオチド分子バーコードと関連するように、固有のオリゴヌクレオチド分子バーコードを含み得る。
【0072】
本明細書で開示される組成物及び方法において使用されるオリゴヌクレオチド分子バーコードは、例えば、長さ約5ヌクレオチド~40ヌクレオチド;長さ約10ヌクレオチド~35ヌクレオチド;長さ約15ヌクレオチド~30ヌクレオチド;長さ約20ヌクレオチド~25ヌクレオチドであり得る。いくつかの導入形態では、オリゴヌクレオチド分子バーコードは、長さ10、15、20、25、又は30ヌクレオチドである。
【0073】
いくつかの実施形態では、バーコードは特に選択されない。むしろ、それはランダム塩基対を含む領域を含有する縮重プライマーと共に添加される(例えば、SAPのライブラリー逐次スクリーニングにおいて)。いくつかの導入形態では、オリゴヌクレオチド分子バーコードは、当技術分野において周知の核酸合成法により縮重ライブラリーとして合成され、そして核酸アセンブリ法、例えば等温in vitro組換え法により、POIのライブラリーをコードするコンストラクトのライブラリーと組み合わされる。
【0074】
図5Aは、POIをコードするORFが複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列を用いて合成される、核酸コンストラクトのいくつかの部分の概略図であり、各ORFは異なる固有のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列とリンクしている。図5Aは、単一のPOIをコードするORF500を含む複数の核酸コンストラクトを表し、各コンストラクトは固有のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列504を含む。異なる核酸コンストラクトにおけるオリゴヌクレオチド分子バーコード配列504の配列多様性は、図5Aの概略図に示す様々なパターンにより表される。プライマー結合部位502が、上記したような細胞融合事象の後に、組み合わされた固有のバーコード-バーコード配列を増幅するのに使用される。いくつかの導入形態では、ORF500、プライマー結合部位502、及びオリゴヌクレオチド分子バーコード配列504が、当技術分野において公知のいくつかのDNA合成法のうちの1つにより合成され得る。
【0075】
図5Bは、核酸コンストラクトのいくつかの部分の概略図であり、この場合、オリゴヌクレオチド分子バーコード配列のライブラリーが個別に合成され、そして等温in vitroアセンブリ法によりPOIをコードするORFと共にアセンブルされ、その結果複数の核酸コンストラクトが得られ、そのそれぞれはPOIをコードするORFを含み、各ORFは異なる固有のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列とリンクしている。図5Bは、単一のPOIをコードするORF506を含む複数の核酸コンストラクト、及び上記したように、細胞融合事象の後に、組み合わされた固有のバーコード-バーコード配列を増幅するのに使用されるプライマー結合部位508を表す。オリゴヌクレオチド分子バーコード配列510のライブラリーは、当技術分野において公知のいくつかのDNA合成法のうちの1つにより個別に合成され得る。オリゴヌクレオチド分子バーコード配列510の配列多様性は、図5Bの概略図に示す様々なパターンにより表される。得られた多様なオリゴヌクレオチド分子バーコード配列のライブラリーは、ORF506によりコードされる単一のPOIAが、多様な複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列510にリンクするように、等温in vitroアセンブリ法により、ORF506及びプライマー結合部位508と組み合わせることができる。
【0076】
新たな方法では、所与のPOI-POIαの対について、当該POI-POIαの対に対する可能性のあるバーコード-バーコードの組合せの合計数と比較して、下流シークエンシングにより検出される、観測された固有のバーコード-バーコードの組合せの数が、POI及びPOIαを含むSAPにより媒介されたディプロイド形成事象の数を推定するのに使用される。
【0077】
目的とするタンパク質
いくつかの導入形態では、組成物及び方法は、第1の目的とするタンパク質(POI)及び第2のPOIのライブラリーを含む。第2のPOIのライブラリーは、POIに関して複数のユーザー指定型又はランダム付加型の突然変異体及び野生型タンパク質を含み得る。第2のPOIのライブラリーは、複数の遺伝子、例えばヒト遺伝子によりコードされる複数のタンパク質種を含み得る。その他の導入形態では、方法は、第1のPOIのライブラリー及び第2のPOIのライブラリーを含む。第1のPOI又は第2のPOIに関する複数のユーザー指定型又はランダム付加型の突然変異体は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又はそれ超のアミノ酸置換を有するPOIのバリアントを含み得る。アミノ酸置換は、POIに電荷の変化及び/又はPOIに高次構造の変化を導入するために選択され得、また野生型アミノ酸が天然又は非天然のアミノ酸と置換され得る。
【0078】
いくつかの導入形態では、アミノ酸置換は、部位飽和突然変異誘発(SSM)を行ってPOIバリアントのSSMライブラリーを産生することにより生成され得る。いくつかの導入形態では、第1のPOI又は第2のPOIのライブラリーはアラニンスキャニングにより生成され得る。いくつかの導入形態では、第1のPOI又は第2のPOIのライブラリーは、ランダム突然変異誘発、例えばエラープローンPCR又は発現されたタンパク質のアミノ酸配列中に変化を導入する別の方法を用いる等により生成され得る。第1のPOI及び第2のPOIのライブラリー又は第1のPOIのライブラリー及び第2のPOIのライブラリーは、親和性が第1のPOIと複数の第2のPOIのそれぞれとの間、又は複数の第1のPOIのそれぞれと複数の第2のPOIのそれぞれとの間の相互作用についてペアワイズ並列化ハイスループット方式で個別に測定されるように、本明細書に開示する方法に基づき、結合親和性についてアッセイされる。
【0079】
第1のPOIのライブラリー又は第2のPOIのライブラリーは、POIに関する複数のユーザー指定型又はランダム付加型の突然変異体及び野生型POIを含み得る。POIに関する複数のユーザー指定型又はランダム付加型の突然変異体は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又はそれ超のアミノ酸置換を有する標的タンパク質のバリアントを含み得る。アミノ酸置換は、POIに電荷の変化、又はPOIに高次構造の変化を導入するために選択され得、また野生型アミノ酸は天然又は非天然のアミノ酸と置換され得る。
【0080】
第1のPOIのライブラリーが結合親和性について第2のPOIのライブラリーと比較してアッセイされるいくつかの導入形態では、アッセイは、酵母菌2ハイブリッドシステム、液体培養物内での合成酵母菌凝集、又は別の並列化ハイスループットライブラリー逐次スクリーニング法であり得る。野生型POI間の結合親和性と比較して、突然変異体POI間の相互作用に関する結合親和性は、酵母菌2ハイブリッドスクリーニング、バイオレイヤー干渉法、ELISA、定量的ELISA、表面プラズモン共鳴法、FACSに基づく濃縮法、液体培養物内での合成酵母菌凝集を含む、タンパク質結合親和性を定量するための任意数の方法、又はタンパク質相互作用強度に関する任意のその他の測定法により測定可能である。例えば、液体培養物内での合成酵母菌凝集は、米国特許出願公開第2017/0205421号に記載されている。
【0081】
いくつかの導入形態では、第1のPOI及び第2のPOIは完全長タンパク質である。その他の導入形態では、第1のPOI及び第2のPOIはトランケートされたタンパク質である。その他の導入形態では、第1のPOI及び第2のPOIは融合タンパク質である。その他の導入形態では、第1のPOI及び第2のPOIはタグ化されたタンパク質である。タグ化されたタンパク質として、当技術分野において公知なものの中でもとりわけ、エピトープタグ化された、例えば、FLAGタグ化、HAタグ化、Hisタグ化、Mycタグ化されたタンパク質が挙げられる。いくつかの導入形態では、第1のPOIは完全長タンパク質であり、第2のPOIはトランケートされたタンパク質である。第1のPOI及び第2のPOIは、それぞれ、完全長タンパク質、トランケートされたタンパク質、融合タンパク質、タグ化されたタンパク質、又はその組合せのいずれかであり得る。
【0082】
いくつかの導入形態では、第1のPOIは、抗体又は抗体ポリペプチドのトランケートされた部分である。その他の導入形態では、第1のPOIのライブラリーは、抗体、トランケートされた抗体ポリペプチドのライブラリー、又は部位飽和突然変異誘発、アラニンスキャニング、若しくは当技術分野において周知の複数のアミノ酸バリアントを導入するその他の方法により生成される抗体突然変異体のライブラリーである。免疫グロブリンとしても知られている抗体は、固有の分子(単数)又は分子(複数)を特異的に認識し、そしてそれに結合する比較的大きなマルチユニットタンパク質構造である。ほとんどの抗体の場合、およそ50kDAの2本の重鎖ポリペプチド及びおよそ25kDAの2本の軽鎖ポリペプチドが、ジスルフィド結合によりリンクして、より大きなY字形のマルチユニット構造を形成する。Y字形構造の先端部においてアミノ酸配列の可変性を提示する可変及び高度可変領域は、所与の抗体に対し、その標的を認識するための特異性を付与する。
【0083】
いくつかの導入形態では、第1のPOIは、短いリンカーペプチドにより結びつけられた免疫グロブリンの重鎖(VH)及び軽鎖(VL)の可変領域からなる融合タンパク質である単鎖可変断片(scFv)である。いくつかの導入形態では、第1のPOIのライブラリーは、scFvのライブラリー、又は部位飽和突然変異誘発、アラニンスキャニング、若しくは当技術分野において周知の複数のアミノ酸バリアントを導入するその他の方法により生成されるscFv突然変異体のライブラリーである。
【0084】
いくつかの導入形態では、第1のPOIは、抗原と結合する抗体の領域である抗原結合断片(Fab)である。Fabは、重鎖及び軽鎖それぞれの1つの定常ドメイン及び1つの可変ドメインを含む場合があり、また抗体のパラトープ領域を含む。いくつかの導入形態では、第1のPOIのライブラリーは、Fabのライブラリー、又は部位飽和突然変異誘発、アラニンスキャニング、若しくは当技術分野において周知の複数のアミノ酸バリアントを導入するその他の方法により生成されるFab突然変異体のライブラリーである。
【0085】
いくつかの導入形態では、第1のPOIは、重鎖のみの抗体の抗原結合断片である単一ドメイン抗体の一部分又はVHHであり得る。VHHは重鎖抗体の1つの可変ドメインを含む。いくつかの導入形態では、第1のPOIのライブラリーは、VHHのライブラリー、又は部位飽和突然変異誘発、アラニンスキャニング、若しくは当技術分野において周知の複数のアミノ酸バリアントを導入するその他の方法により生成されるVHH突然変異体のライブラリーである。
【0086】
いくつかの導入形態では、第1のPOIはE3ユビキチンリガーゼである。その他の導入形態では、第1のPOIのライブラリーは、E3ユビキチンリガーゼのライブラリー、又は数ある方法の中でもとりわけ部位飽和突然変異誘発により生成されるE3ユビキチンリガーゼ突然変異体のライブラリーである。E3ユビキチンリガーゼとして、MDM2、CRL4CRBN、SCFβ-TrCP、UBE3A、及び当技術分野において周知されているその他の種が挙げられる。E3ユビキチンリガーゼは、ユビキチンと共に負荷されたE2ユビキチンコンジュゲート酵素を導入し、その標的タンパク質基質を認識し、そしてプロテアソーム複合体による後続する分解のために、E2からタンパク質基質へのユビキチン分子の移送を触媒する。
【0087】
いくつかの導入形態では、第2のPOIはデグロンを含む標的タンパク質である。その他の導入形態では、第2のPOIのライブラリーは、デグロンを含むポリペプチドのライブラリー、又は数ある方法の中でもとりわけ部位飽和突然変異誘発により生成されるデグロン突然変異体を含むポリペプチドのライブラリーである。デグロンは、いくつかのケースではユビキチンプロテアソーム系により制御を受けるタンパク質分解を媒介するポリペプチドの一部分である。デグロンは、短いアミノ酸モチーフ、翻訳後修飾、例えばリン酸化、構造的モチーフ、及び/又は糖修飾を含み得る。
【0088】
第2のPOIがデグロンであるいくつかの導入形態では、デグロンは、蛍光的に、すなわち遺伝学的にコードされた蛍光タグ、例えば、とりわけ緑色蛍光タンパク質(GFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)、mCherry、M Scarlet、tdTomatoを含む融合タンパク質としてデグロンを発現させることにより、タグ化され得る。
【0089】
いくつかの導入形態では、第2のPOIはE3ユビキチンリガーゼである。第2のPOIのライブラリーは、例えば、E3ユビキチンリガーゼと会合するための、当技術分野において公知のポリペプチド基質を含み得る。第2のPOIのライブラリーは、例えば、これまでに知られている完全長マップ化E3ユビキチンリガーゼ基質ドメイン;ハイスループットオリゴヌクレオチドコード化可能なトランケートされたE3ユビキチンリガーゼ基質;部位飽和突然変異誘発により改変されたE3ユビキチンリガーゼ基質種;これまでに定義されたデグロンモチーフ;又は計算により予測されたデグロンモチーフを更に含み得る。第2のPOIのライブラリーは、ポリペプチド基質の複数のユーザー指定型突然変異体及び野生型ポリペプチド基質を含み得る。POIの複数のユーザー指定型突然変異体は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又はそれ超のアミノ酸置換を有するPOIのバリアントを含み得る。アミノ酸置換は、部位飽和突然変異誘発により生成され得る。第1のPOI及び第2のPOIのライブラリーは結合親和性についてアッセイされ得るが、その場合、親和性は、第1のPOIと第2のPOIの複数のユーザー指定型突然変異体のそれぞれとの間の相互作用について、ペアワイズ並列化ハイスループット方式で個別に測定される。
【0090】
酵母菌株及び培養条件
本明細書に開示する方法に基づくPPIのライブラリー逐次スクリーニングでは、酵母菌性的凝集が工学的に再操作される。例えば、S.セレビシエ内の天然型性的凝集タンパク質(その結合は液体培養物内での交配にとって必須である)間の天然タンパク質-タンパク質相互作用は、組換えハプロイド酵母菌細胞の表面上で、多重バーコード化された合成接着タンパク質として発現される2つの目的とするタンパク質間の相互作用に置き換えられる。本明細書に開示される方法で使用するための組換え酵母菌株を構築するために、酵母菌変換又はプラスミドアセンブリのための同質遺伝子断片が、既存のプラスミド、酵母菌ゲノムDNA、動物若しくはヒトcDNA、動物若しくはヒトゲノムDNA、プラスミド消化物から抽出されたcDNAゲルからPCR増幅可能、又は従来式のDNA合成法により商業的に合成可能である。プラスミドは等温アセンブリ法により構築可能であり、サンガーシークエンシング法(SAP又はSAPバリアントをコードする各ORFとリンクしている多様な複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列を同定するのにも使用され得る)を用いて検証可能である。
【0091】
いくつかの導入形態では、表面ディスプレイについて最適化されたMATaハプロイド株、例えばEBY100が親株として使用可能である。親MATアルファハプロイド表面ディスプレイ株が、交配、胞子形成、四分胞分離、及び選択可能なマーカーを用いたスクリーニングを用いて構築可能である。同質遺伝子染色体組込みは、Pme1を用いたプラスミドの消化、それに後続する標準的な酢酸リチウム酵母菌変換プロトコールにより実施可能である。SAPのSSMライブラリーは、ヌクレアーゼ支援式の染色体組込みを使用して酵母菌に変換され得る。ランディングパッド、例えばScelランディングパッドを含有する親株は、変換前にガラクトース培地内で6時間増殖させることができる。URA3遺伝子のリサイクリングは、URA選択を用いずに株を飽和に達するまで増殖させ、そして5-FOA上に播種することにより達成され得る。
【0092】
いくつかの導入形態では、同質遺伝子株が個別に構築され得、また各SAPと関連する複数のオリゴヌクレオチド分子バーコードが、サンガーシークエンシング法又は次世代シークエンシング法を用いて決定され得る。すべてが同一交配型であり、SAPをコードする各ORFが複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列にリンクしている固有のバーコード化されたSAPを提示する酵母菌株のライブラリーが産生され得る。ライブラリー内の各ハプロイド株は、飽和に達するまで個別に増殖可能であり、これまでに記載したように表面発現強度について評価可能であり、等量混合可能である。飽和に達するまで増殖させた後、細胞は、遠心分離により採取され、そして200mMのLiOAc及び1% SDS内で5分間、70℃に加熱することにより溶解され得る。細胞デブリが除去され、そして0.05mg/mLのRNase Aと共に37℃で4時間インキュベートされ得る。エタノール沈殿が、ゲノムDNAを精製及び濃縮するために実施され得る。標準的なアダプターを用いてバーコード領域を増幅するために一次qPCRが実施され得、またPCR産物が、インデックスバーコードを連結するための二次qPCR用のテンプレートとして、及び次世代シークエンシング用の標準的なIlluminaアダプターとして使用される。この断片は、ゲル抽出され、Qubitを用いて定量され、そして市販の次世代シークエンシングプラットフォーム上で分析され得る。
【0093】
いくつかの導入形態では、ヌクレアーゼ支援式の染色体組込みを用いて構築される大規模ライブラリー交配の場合、交配型ライブラリーを、3mLのYPD培地内で飽和に達するまで個別に増殖させることができる。1mLのMATa培養物及び2mLのMATアルファ培養物が混合され、そして標準条件に基づきゲノム調製され得る。このゲノムDNAは、2つの別個のqPCR反応(一方はMATa発現カセットとバーコードを増幅し、他方はMATアルファ発現カセットとバーコードを増幅する)のためのテンプレートとして使用され得る。二次PCRが、異なるシークエンシングインデックスバーコード及びIlluminaアダプターを付加するのに使用され得る。これらの断片は、市販の次世代シークエンシングプラットフォーム、例えばIllumina MiSeqを使用して配列決定され得る。2.5μLのMATa培養物及び5μLのMATアルファ培養物が3mLのYPD培地内で組み合わせ可能であり、また小規模のバッチ式交配の場合と同様に処理され得る。
【0094】
いくつかの導入形態では、小スケールライブラリーの場合、合成されたバーコードのライブラリーがSAP発現カセットを含む核酸コンストラクトと共にアセンブルされた後に、SAPそれぞれに対する複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列がサンガーシークエンシング法を用いて決定される(例えば、図5Bを参照されたい)。大スケールライブラリーの場合、次世代シークエンシングの実施が、各SAPを関連する複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列に対してマッピングし、また各SAP発現株の開始濃度を決定するために必要とされ得る。SAP媒介式の融合事象の後にディプロイドゲノムDNAから増幅された断片について次世代シークエンシングを行うと、同一断片内で生ずる、組み合わされた固有のバーコード-バーコードの対に関する識別情報がもたらされ(例えば、図4を参照されたい)、固有の組み合わされた配列は個別の交配事象を表す。
【0095】
いくつかの導入形態では、多重化されたSAPのバーコーディング及び組換えスキームが、単回アッセイにおいて全タンパク質相互作用ネットワークを分析するのに使用され得る。単一のMATa及びMATa親株、例えばyNGYSDaやyNGYSDaを構築することができ、また従来式の酵母菌変換プロトコールに従って、多重バーコード化されたSAPカセット又は多重バーコード化されたSAPカセットを担持するプラスミドを株に変換することができる。両親株内のSag1並びに相補的リジン及びロイシンマーカーのノックアウトに加えて、yNGYSDaは、誘導性プロモーターpZ4を含むCREリコンビナーゼ発現カセットを含有し、そしてZEV4(核内局在化のためのエストラジオール結合ドメインを有するpZ4プロモーターのアクチベーター)を構成的に発現する。
【0096】
対応する酵母菌親株内への組込みを目的として、SAPカセットが、標準化されたベクター、例えばpNGYSDa又はpNGYSDα内でアセンブル可能である。表面発現カセットに加えて、各ベクターバックボーンは、交配型特異的蛍光レポーターカセット、複数のオリゴヌクレオチド分子バーコード配列のうちの1つ、交配型特異的プライマー結合部位、及びlox組換え部位のうちの1つ又は複数を含有し得る。細胞-細胞融合及び交配時に、β-エストラジオール(βE)を添加することで、融合したディプロイド細胞内でCREリコンビナーゼ発現を誘発可能であり、各ハプロイド染色体に由来するバーコードが統合され、そうすることで、次世代シークエンシングを使用して固有のバーコード-バーコードの組合せ(それぞれ相互作用性のSAPの対により媒介される個別の固有細胞-細胞融合事象を表す)を特定することができる(図1図4を参照されたい)。
【0097】
以下で更に詳細に記載される方法に従って、シークエンシングによって検出された固有の組み合わされたバーコード配列の数からネットワーク内の各SAP相互作用に関する固有の細胞-細胞融合事象の数が推定され、ネットワーク内のPPI毎に相対的な相互作用強度が提供される。POI-POIαの対の対毎に形成されたディプロイド酵母菌の推定される数を使用し、各POIで構成されたインプットライブラリーの割合について調整することで、既知の親和性を有するPPI標準、すなわち陽性及び陰性コントロールのセットを参照することによってPPI親和性を推定することができる。
【0098】
本明細書に開示される方法で使用するための酵母菌株が記載されているが、その多くに対して複数の変換を施すことができる。例えば、CREリコンビナーゼアッセイに対して適合性があるディスプレイヤー株は、構成型プロモーターの制御下に置かれたAga1の組込み、天然型性的アグルチニンタンパク質のノックアウト、蛍光レポーターの組込み、CREリコンビナーゼ及びGAVN又はHygMX及びZEV4の組込み、並びにlox部位を有する複数のバーコード化された表面発現カセットの組込みを必要とし得る。組込み毎に、必要とされる酵母菌カセット、大腸菌(E. coli)耐性マーカー、及び複製開始点、並びに組込み用に酵母菌ゲノムに対して相同性を有する5’及び3’領域を含有するプラスミドが構築され得る。
【0099】
統計分析
次世代シークエンシング及びシークエンシング読み取りにおいて検出された固有のバーコード-バーコードの組合せの数を定量した後に、ディプロイド形成事象の数が推測され得る。推測は、未知数のボールをn個のビン内に投げ込み、次にボールを収容するビンの数を数値化した場合、投げ込まれたボールの数はいくつか?という確率理論における古典的な『ボール・イントゥ・ビン』問題と本質的に同等である。ビンの数がボールの数を大幅に上回り、且つボールがランダムに投げ込まれるシナリオでは、ボールの推定される数は、単純にボールをその中に収容するビンの数に等しい。
【0100】
それをここに適用すると、「ビン」は、可能性のある固有のバーコード-バーコードの組合せの数(すなわちPOIバーコード数×POIαバーコード数)に等しい。「ビン内のボール」の数は、シークエンシング後に検出された固有のバーコード-バーコードの組合せの数に等しい。可能性のある固有のバーコード-バーコードの組合せの数が、発生すると予測されるディプロイド形成事象の数を大幅に上回るとき(本明細書に記載されるライブラリー逐次PPIアッセイに当てはまるものと予測される)、ディプロイド形成事象の数は、シークエンシング後に検出された固有のバーコード-バーコードの組合せの数に等しいと推定され得る。一部のバーコードの対が2回以上対形成した可能性がある確率を相殺するために、ここではその可能性は低いものの、実測されたバーコードの対の割合に一致するポアソン率パラメーターを解くことにより、ディプロイド形成事象の総数を推定することができる:
形成されたディプロイドの推定値=可能性のあるバーコードの対の数*-ln(観測されないバーコードの対の割合)
POI-POIαの対の対毎に形成されたディプロイド酵母菌の推定される数を使用し、各POIで構成されたインプットライブラリーの割合について調整することで、既知の親和性を有するPPI標準、すなわち陽性及び陰性コントロールのセットを参照することによってPPI親和性を推定することができる。
【実施例
【0101】
本明細書で開示される組成物及び方法が下記の実施例において更に記載されるが、これは、特許請求の範囲に記載されている組成物及び方法の範囲を制限するものではない。本発明に関していくつかの実施形態が記載されてきた。それにもかかわらず、本発明の精神及び範囲から逸脱せずに様々な改変を加えることができることが理解される。
【0102】
実施例1-多重化されたバーコーディングを用いた合成酵母菌凝集
本実施例は、タンパク質-タンパク質相互作用(PPI)のライブラリー・オン・ライブラリー式の特徴付けを目的とする液体培養物内での合成酵母菌凝集アッセイ法について実証するが、同アッセイ法は、本明細書に記載される多重化されたバーコーディングアプローチを利用して、酵母菌表面ディスプレイ及び性的凝集を組み合わせてタンパク質結合性をS.セレビシエの交配と関連付け、その場合、SAPのライブラリーの各SAPは複数の固有のオリゴヌクレオチド分子バーコードと関連付けられた。相互に作用する所与のSAPの対により、a型組換えハプロイド酵母菌細胞とα型組換えハプロイド酵母菌細胞との間の交配が媒介された後、ディプロイド内でCREリコンビナーゼ発現が誘発され、そしてlox部位におけるβEa組換え事象により、同一染色体上に両SAP-Aga2融合発現カセットが統合され、相互に近接する第1のSAPとリンクしたバーコード及び第2のSAPとリンクしたバーコードがもたらされた。
【0103】
本実施例では、SAPライブラリーの各SAPは、多くの固有のバーコードとリンクしており、そのため、各ディプロイド融合事象及び後続する組換え事象により、固有のバーコード-バーコードの組合せが産生した。次に、両バーコードを含有する単一断片を、Pf及びPr(ゲノム標的部位に組み込まれた第1及び第2の核酸コンストラクトに由来するプライマーに対して特異的なプライマー)にアニーリングするプライマーを用いてPCRにより増幅し、そして相互作用性のSAPの対を特定するために配列決定した。
【0104】
単一の液体培養物内で全タンパク質相互作用ネットワークを分析するために、多重化されたバーコーディング及び組換えスキームを開発した。36,000個のPOIのライブラリー(抗体の突然変異バリアント)を、500個のPOIのライブラリー(交差反応性を評価するための目的とする抗体標的)と対比して分析した。単一のMATa及びMATα親株、yNGYSDa及びyNGYSDαを構築した。等温アセンブリ法により、SAPライブラリーを固有オリゴヌクレオチド分子バーコードのライブラリーと組み合わせることにより、多重バーコード化されたSAP発現カセットをアセンブルした。
【0105】
多重バーコード化されたSAPカセットを、各SAPとリンクした7つの固有のオリゴヌクレオチド分子バーコードと共に酵母菌株に変換した。両親株内のSag1並びに相補的リジン及びロイシンマーカーのノックアウトに加えて、yNGYSDaは、誘導性プロモーターpZ4を含むCREリコンビナーゼ発現カセットを含有した。yNGYSDaは、核内局在化のためのエストラジオール結合ドメインを有するpZ4プロモーターのアクチベーターであるZEV4を構成的に発現した。対応する酵母菌親株内への組込みを目的として、SAPカセットを2つの標準化されたベクター、pNGYSDa又はpNGYSDaのうちの1つにおいてアセンブルした。表面発現カセットに加えて、各ベクターバックボーンは、交配型特異的蛍光レポーターカセット、各SAPとリンクした7つの固有バーコードを含む固有ランダム化10-ヌクレオチドバーコード、交配型特異的プライマー結合部位、及びlox組換え部位を含有した。
【0106】
交配時に、β-エストラジオール(βE)を添加することで、ディプロイド細胞内でCREリコンビナーゼ発現が誘発され、各ハプロイド染色体に由来するバーコードが統合され、そうすることで、次世代シークエンシングを使用してアッセイ中に生じた固有のディプロイド形成事象の数を特定することができる。各SAPの対に関する固有のバーコード-バーコードの組合せの数を、固有のNGSシークエンシング読み取りから定量し、デジタル定量化を介する、オリジナルのディプロイド形成事象の数に対するきわめて正確な推定情報を得た。
【0107】
図6は本実施例から得られたデータのプロットであり、そして何らかの観測されたシークエンシングデータを有するPOIの対それぞれについて、可能性のあるバーコードの対及び観測されたバーコードの対のヒストグラムを示す。この実施例では、POI-POIαについて、各POIとリンクした7つの固有のバーコードを有するおよそ48個の潜在的な固有のバーコード-バーコードの組合せが存在した。圧倒的多数のPOIの対についてごくわずかなバーコードの対しか観測されず、POI-POIαの対を横断して平均0.5個のバーコードが観測された。しかしながら、潜在的バーコードの対の分布は、より高い数値に向かって実質的にシフトしている。本実施例は、多重化されたバーコーディングスキームが定量的正確性の改善に特に有用である状況について例証する。
【0108】
図7はPOIの対において観測されたシークエンシング読み取りの分布を示し、本実施例の合成酵母菌凝集アッセイ期間中に10個のディプロイド酵母菌が形成されたものと高い信頼度を有して推定された。これは、正確に10個の固有のバーコード-バーコードの組合せがシークエンシングデータにおいて認められ、POIの対それぞれについて少なくとも200個の可能性のあるバーコード-バーコードの組合せが予測されるPOIの対である。この図は、予測される通り、固有のPOIの対においてシークエンシング読み取りの数に幅広い分布が認められることがプロットから明らかであり、酵母菌増殖のプロセス、PCR増幅、及び次世代シークエンシングから、POIの対毎に生成された最終的なシークエンシング読み取りの数にかなりの変動が持ち込まれることを実証する。
【0109】
POIの多重化されたバーコーディングにより可能となるデジタル定量から、POIの対毎に10個のディプロイドが形成されたことを高い信頼度を有して推測することができる。多重化されたバーコーディングを用いなければ、この推測は歪曲されて、シークエンシング読み取りの数をより多く有するPOIの対ほどより高い親和性を有したことを示唆することとなるが、実際は必ずしもそうではない。
【0110】
図8は、多重化されたバーコーディング法は、結合するPOIの対それぞれについて交配中に形成されたディプロイド酵母菌の数を正確に推定することができることを確認する。アッセイ中に形成されたディプロイド酵母菌の数が正しく推定された場合、実験を繰り返した際に観測されるばらつきは概ねポアソン分布(μ=POIの対についてアッセイ中に形成された推定されるディプロイドの数)に従うはずである。図8は、POIの対に関する推定されるディプロイドの分布を示す(推定されるディプロイド10例が本実施例の実験中に形成された)。アッセイを生物学的反復として更に2回実施した。図8に示すように、実験に基づいた実測値と統計予測との間に緊密な一致が認められることから、第1の反復におけるディプロイド事象10例の当初の推定はきわめて正確であったことが示唆される。
【0111】
PPI親和性の推定について、SAPの単純バーコーディングよりもSAPの多重バーコーディングの方が改善していることを更に実証するために、本発明者らはサイズを漸増させたPPIネットワークについて信頼区間を計算した。図9は、PPI親和性における不確実性の推定に対する多重化されたバーコーディングの影響を示す。様々な全体的なネットワークサイズの、POI-POIα相互作用の4つのネットワークを、合成酵母菌凝集アッセイを使用して測定した。すべてのネットワークは、14個の標準的な陽性及び陰性コントロール、陽性コントロールの42個の追加バリアント、33個の抗SARS-CoV2抗体、複数のSARS-CoV2株及びバリアントに由来する60個のRBDドメイン、47個の抗flaA抗体、並びに5個のflaAバリアントのコアセットを共有した。抗体及び関連する標的の追加バリアントを追加することにより、この相互作用のコアセットより更に大きなネットワークに拡張させた。
【0112】
各ネットワークについて、不確実性の定量に対する適正挙動は、最小のネットワークからの測定の95%を占め(高い信頼度の推定、図9に示すプロットの上部に位置する水平線により表される)、より大きなネットワークについて計算された公称95%信頼区間内に収まる。
【0113】
多重化されたバーコーディングを使用して計算される信頼区間は、データの70~90%を捕捉する。これらの結果は、信頼区間はわずかながら狭めであるものの、しかし公称目標である95%に近いことを示唆する。対照的に、多重化されたバーコーディングを用いないでこれまでに利用された方法(信頼区間を構築するのに、生物学的反復において±2の実験的標準偏差を使用する)では、信頼区間は非常に幅狭く、高い信頼度を有する測定の20~40%しか公称95%信頼度ウィンドウ内に収まらない。本実施例は、多重化されたバーコードをどのように各POIに対して割り振れば、合成酵母菌凝集アッセイに由来するPPI親和性測定における不確実性を定量する能力を実質的に改善することができるかについて例証する。
【0114】
その他の実施形態
本発明のいくつかの実施形態が記載されてきた。それにもかかわらず、本発明の精神及び範囲から逸脱せずに様々な改変を加えることができることが理解される。従って、その他の実施形態も下記の特許請求の範囲内にある。
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】