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特表2025-504682ポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲートおよびそれを含む脂質粒子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-14
(54)【発明の名称】ポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲートおよびそれを含む脂質粒子
(51)【国際特許分類】
   C07C 323/52 20060101AFI20250206BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20250206BHJP
   A61K 9/127 20250101ALI20250206BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20250206BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20250206BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20250206BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20250206BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20250206BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250206BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20250206BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20250206BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20250206BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20250206BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250206BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
C07C323/52 CSP
A61K47/34
A61K9/127
A61K9/51
A61K47/28
A61K47/18
A61K47/24
A61K48/00
A61P35/00
A61P25/00
A61P11/00
A61P1/16
A61P31/12
A61P43/00 105
A61K31/7088
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024545123
(86)(22)【出願日】2023-01-30
(85)【翻訳文提出日】2024-08-28
(86)【国際出願番号】 IB2023050796
(87)【国際公開番号】W WO2023144792
(87)【国際公開日】2023-08-03
(31)【優先権主張番号】63/305,211
(32)【優先日】2022-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522162266
【氏名又は名称】ジェネバント サイエンシズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】ヘイズ ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】ラム キエウ モン
(72)【発明者】
【氏名】ホランド リチャード ジェイ.
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4H006
【Fターム(参考)】
4C076AA19
4C076AA65
4C076AA95
4C076BB13
4C076BB15
4C076BB21
4C076BB25
4C076BB27
4C076CC29
4C076DD49
4C076DD63
4C076DD70
4C076EE25
4C084AA13
4C084MA05
4C084MA24
4C084MA38
4C084MA56
4C084MA59
4C084MA65
4C084NA13
4C084ZA011
4C084ZA012
4C084ZA591
4C084ZA592
4C084ZA751
4C084ZA752
4C084ZB211
4C084ZB212
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB331
4C084ZB332
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA24
4C086MA38
4C086MA56
4C086MA59
4C086MA65
4C086NA13
4C086ZA01
4C086ZA59
4C086ZA75
4C086ZB21
4C086ZB26
4C086ZB33
4H006AA01
4H006AB20
4H006TA04
4H006TC34
(57)【要約】
本開示は、ポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲート、そのようなコンジュゲートを含む脂質粒子、および細胞または対象への核酸送達のために脂質粒子を投与する方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iによるポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲート:
またはその薬学的に許容される塩であって、
式中:
下付きのnは10~100の範囲の整数であり;
R1は独立にC1~6アルキルであり;
各R2は、水素、C1~6アルキル、およびC1~6アシルからなる群より独立に選択され;
(i)Zは-S(CH2)2C(O)-であり、
R3は、-NR3aR3b、-NR3aCH2CH(R3b)2、-CH(R3b)2、および-CH2CH(R3b)2からなる群より選択され;
または
(ii)Zは、-Z1-OC(O)-、-Z1-NHC(O)-、-Z1-S(O)2-、および-Z1-OCH2-からなる群より選択され、
Z1は、共有結合、オリゴ(エチレングリコール)ジラジカル、およびポリ(エチレングリコール)ジラジカルからなる群より選択され、
R3は、-NR3aR3bおよび-CH(R3b)2からなる群より選択され;
式中、各R3aおよびR3bは、水素、C6~22アルキル、C6~22アルケニル、およびC6~22アルキニルからなる群より独立に選択され、R3aおよびR3bにおける1つまたは複数の非隣接のCH2基は、独立に酸素と置き換えられていてもよく、
但し、少なくとも1つのR3aまたはR3bが、C6~22アルキル、C6~22アルケニル、およびC6~22アルキニルからなる群より選択され、R3aまたはR3bにおける1つまたは複数の非隣接のCH2基が、独立に酸素と置き換えられていてもよい、
前記ポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲート、またはその薬学的に許容される塩。
【請求項2】
R1がエチルである、請求項1記載のポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲートまたはその薬学的に許容される塩。
【請求項3】
R1がメチルである、請求項1記載のポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲートまたはその薬学的に許容される塩。
【請求項4】
各R1がエチルおよびメチルからなる群より独立に選択される、請求項1記載のポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲートまたはその薬学的に許容される塩。
【請求項5】
下付きのnが約15~約55の範囲の整数である、請求項1~4のいずれか一項記載のポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲートまたはその薬学的に許容される塩。
【請求項6】
前記コンジュゲートのポリ(アルキルオキサゾリン)部分が、約2,000Da~約5,000Daの範囲の数平均分子量を有する、請求項5記載のポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲートまたはその薬学的に許容される塩。
【請求項7】
式IIa:
による構造を有し、
式中:
R2は、水素およびメチルからなる群より選択され;
R3aは、水素、C12~18アルキル、およびC12~18アルケニルからなる群より選択され;
R3bは、C12~18アルキルおよびC12~18アルケニルからなる群より選択される、
請求項1~6のいずれか一項記載のポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲート、またはその薬学的に許容される塩。
【請求項8】
R3aおよびR3bが、C12~18アルキルおよびC12~18アルケニルからなる群より独立に選択される、請求項7記載のポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲート。
【請求項9】
式IIb:
による構造を有し、
式中:
R2は、水素およびメチルからなる群より選択され;
各R3cは、C12~18アルキルおよびC12~18アルケニルからなる群より独立に選択される、
請求項1~6のいずれか一項記載のポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲート、またはその薬学的に許容される塩。
【請求項10】
Zが-Z1-OC(O)-であり、Z1が、共有結合およびポリ(エチレングリコール)ジラジカルからなる群より選択され、R3が-NR3aR3bである、請求項1~6のいずれか一項記載のポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲート。
【請求項11】
Zが-Z1-NHC(O)-であり、Z1が共有結合であり、R3が-NR3aR3bである、請求項1~6のいずれか一項記載のポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲート。
【請求項12】
Zが、およびR3が-Z1-OC(O)-であり、Z1が共有結合であり、R3が-CH(R3b)2である、請求項1~6のいずれか一項記載のポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲート。
【請求項13】
Zが-Z1-S(O)2-であり、Z1が共有結合であり、R3が-NR3aR3bである、請求項1~6のいずれか一項記載のポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲート。
【請求項14】
Zが-Z1-OCH2-であり、Z1が共有結合であり、R3が-CH(R3b)2である、請求項1~6のいずれか一項記載のポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲート。
【請求項15】
Zが-Z1-NHC(O)-であり、Z1が共有結合であり、R3が-CH(R3b)2である、請求項1~6のいずれか一項記載のポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲート。
【請求項16】
R3aおよび各R3bが、C12~18アルキルおよびC12~18アルケニルからなる群より独立に選択される、請求項10~15のいずれか一項記載のポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲート。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか一項記載のポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲートを含む、脂質ナノ粒子。
【請求項18】
陽イオン性脂質、中性脂質、ステロール、またはこれらの組み合わせをさらに含む、請求項17記載の脂質ナノ粒子。
【請求項19】
核酸をさらに含む、請求項17または18記載の脂質ナノ粒子。
【請求項20】
以下を含む、脂質ナノ粒子:
(a)核酸;
(b)前記脂質ナノ粒子中に存在する全脂質の30mol%~80mol%を構成する陽イオン性脂質;
(c)中性脂質;
(d)ステロール;および
(e)前記脂質ナノ粒子中に存在する全脂質の0.1mol%~10mol%を構成するポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲート。
【請求項21】
前記陽イオン性脂質が、前記脂質ナノ粒子中に存在する全脂質の40mol%~70mol%を構成する、請求項20記載の脂質ナノ粒子。
【請求項22】
前記陽イオン性脂質が、前記脂質ナノ粒子中に存在する全脂質の45mol%~65mol%を構成する、請求項20または21記載の脂質ナノ粒子。
【請求項23】
前記陽イオン性脂質が、前記脂質ナノ粒子中に存在する全脂質の45mol%~60mol%を構成する、請求項20~22のいずれか一項記載の脂質ナノ粒子。
【請求項24】
前記陽イオン性脂質が、前記脂質ナノ粒子中に存在する全脂質の50mol%~60mol%を構成する、請求項20~23のいずれか一項記載の脂質ナノ粒子。
【請求項25】
前記中性脂質が、前記脂質ナノ粒子中に存在する全脂質の3mol%~20mol%を構成する、請求項20~24のいずれか一項記載の脂質ナノ粒子。
【請求項26】
前記中性脂質が、前記脂質ナノ粒子中に存在する全脂質の5mol%~15mol%を構成する、請求項20~25のいずれか一項記載の脂質ナノ粒子。
【請求項27】
前記中性脂質が、前記脂質ナノ粒子中に存在する全脂質の8mol%~12mol%を構成する、請求項20~26のいずれか一項記載の脂質ナノ粒子。
【請求項28】
前記ステロールが、前記脂質ナノ粒子中に存在する全脂質の10mol%~60mol%を構成する、請求項20~27のいずれか一項記載の脂質ナノ粒子。
【請求項29】
前記ステロールが、前記脂質ナノ粒子中に存在する全脂質の20mol%~50mol%を構成する、請求項20~28のいずれか一項記載の脂質ナノ粒子。
【請求項30】
前記ステロールが、前記脂質ナノ粒子中に存在する全脂質の30mol%~40mol%を構成する、請求項20~29のいずれか一項記載の脂質ナノ粒子。
【請求項31】
前記ポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲートが、前記脂質ナノ粒子中に存在する全脂質の0.1mol%~5mol%を構成する、請求項20~30のいずれか一項記載の脂質ナノ粒子。
【請求項32】
前記ポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲートが、前記脂質ナノ粒子中に存在する全脂質の0.5mol%~3mol%を構成する、請求項20~31のいずれか一項記載の脂質ナノ粒子。
【請求項33】
前記陽イオン性脂質が、前記脂質ナノ粒子中に存在する全脂質の50mol%~60mol%を構成し、前記中性脂質が、前記脂質ナノ粒子中に存在する全脂質の8mol%~12mol%を構成し、前記ステロールが、前記脂質ナノ粒子中に存在する全脂質の30mol%~40mol%を構成し、前記ポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲートが、前記脂質ナノ粒子中に存在する全脂質の0.5mol%~3mol%を構成する、請求項20記載の脂質ナノ粒子。
【請求項34】
前記中性脂質がリン脂質を含む、請求項20~33のいずれか一項記載の脂質ナノ粒子。
【請求項35】
前記ステロールがコレステロールを含む、請求項20~34のいずれか一項記載の脂質ナノ粒子。
【請求項36】
前記ポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲートが、請求項1~16のいずれか一項記載のポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲートを含む、請求項20~35のいずれか一項記載の脂質ナノ粒子。
【請求項37】
前記核酸がRNAを含む、請求項19~35のいずれか一項記載の脂質ナノ粒子。
【請求項38】
前記RNAがmRNAを含む、請求項37記載の脂質ナノ粒子。
【請求項39】
前記核酸が前記脂質ナノ粒子中に完全にカプセル化されている、請求項19~38のいずれか一項記載の脂質ナノ粒子。
【請求項40】
前記脂質ナノ粒子が40nm~150nmの範囲の平均径を有する、請求項17~39のいずれか一項記載の脂質ナノ粒子。
【請求項41】
請求項17~40のいずれか一項記載の脂質ナノ粒子および薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物。
【請求項42】
静脈内、筋肉内、肺、脳内、髄腔内、または鼻腔内投与のために製剤化される、請求項41記載の薬学的組成物。
【請求項43】
細胞中に核酸を導入するための方法であって、
該細胞を、請求項17~40のいずれか一項記載の脂質ナノ粒子または請求項41もしくは42記載の薬学的組成物と接触させる工程を含む、前記方法。
【請求項44】
核酸を対象に送達するための方法であって、
請求項17~40のいずれか一項記載の脂質ナノ粒子または請求項41もしくは42記載の薬学的組成物を該対象に投与する工程を含む、前記方法。
【請求項45】
その必要がある対象において疾患または障害を予防または処置するための方法であって、
請求項17~40のいずれか一項記載の脂質ナノ粒子または請求項41もしくは42記載の薬学的組成物を該対象に投与する工程を含む、前記方法。
【請求項46】
前記疾患または障害が、ウイルス感染症、肝疾患もしくは障害、肺疾患もしくは障害、CNSの疾患もしくは障害、またはがんである、請求項45記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2022年1月31日に出願された米国仮出願第63/305,211号に対する優先権を主張し、その開示は、すべての目的のために、その内容全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
背景
脂質ナノ粒子(LNP)は、Onpattro(登録商標)およびmRNA-LNP COVIDワクチンの登場にともなって、主流の薬学的モダリティーになった。LNPは、陽イオン性脂質、非陽イオン性脂質、例えばリン脂質、およびステロール、およびポリマーコンジュゲート脂質を含めた、4種の異なる脂質成分を典型的には有する。それぞれ特定の役割を果たし、特定の比で慎重にアセンブルされて、非常に強力かつ忍容性に優れた送達ビヒクルをもたらす。
【0003】
陽イオン性脂質は酸性pHで正に荷電し、粒子形成の間に、負に荷電した核酸(例えば、mRNA)ペイロードのカプセル化を促進する。LNPの細胞取り込みに続いて、これは、エンドソーム融合およびペイロードの細胞質内放出をさらに推進する。リン脂質およびコレステロールは、構造脂質と称されることが多く、粒径、カプセル化および安定性を最適化するように濃度が選択される。ポリマーコンジュゲート脂質は、形成の間に粒径を制御し、LNPを立体的に安定化することによって粒子の凝集を防止する。これは粒子の表面にあり、親水性ポリマーは外向きに向けられ、水性環境と接し、脂質成分は粒子中に埋められて、所定の位置にこれを固定させる。
【0004】
核酸送達のための脂質粒子の過去数十年間の開発を通して、ポリマーコンジュゲート脂質成分について、選り抜きのポリマーは、ポリ(エチレングリコール)(PEG)であった。PEG-脂質は、COVID-19ワクチンComirnaty(登録商標)およびSpikeVaxを含めて、いくつかの承認された核酸含有LNPで首尾よく使用されている。しかし、他の生成物(例えば、化粧品)中のPEGへの暴露が理由で、一部の集団は、PEGを認識しPEGに結合する抗体を発達させていると考えられ、これにより、過敏症が引き起こされ、薬物活性が失われる可能性が残る(Judge et al. Mol Ther. 2006, 13(2):328-37(非特許文献1))。米国食品医薬品局(FDA)が上記のCOVIDワクチンに対して緊急使用許可を発行した直後に、投与後のアナフィラキシー様タイプの応答の症例が報告され始めた(Shimabukuro et al. JAMA. 2021, 325(11):1101-1102(非特許文献2))。これらの症例の原因はまだ証明されていないが、原因はこれらの生成物中にPEGが含まれていることである可能性があることを示唆したものもいる。したがって、望ましい活性および忍容性プロファイルを有する有効な粒子を形成する代替ポリマーが必要である。本開示は、この必要性および他の必要性に対処する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Judge et al. Mol Ther. 2006, 13(2):328-37
【非特許文献2】Shimabukuro et al. JAMA. 2021, 325(11):1101-1102
【発明の概要】
【0006】
簡単な概要
式Iによるポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲート:
およびその薬学的に許容される塩が本明細書に提供され、
式中:
下付きのnは10~100の範囲の整数であり;
各R1は独立にC1~6アルキルであり;
各R2は、水素、C1~6アルキル、およびC1~6アシルからなる群より独立に選択され;
(i)Zは-S(CH2)2C(O)-であり、
R3は、-NR3aR3b、-NR3aCH2CH(R3b)2、-CH(R3b)2、および-CH2CH(R3b)2からなる群より選択され;
または
(ii)Zは、-Z1-OC(O)-、-Z1-NHC(O)-、-Z1-S(O)2-、および-Z1-OCH2-からなる群より選択され、
Z1は、共有結合、オリゴ(エチレングリコール)ジラジカル、およびポリ(エチレングリコール)ジラジカルからなる群より選択され、
R3は-NR3aR3bおよび-CH(R3b)2からなる群より選択され;
式中、各R3aおよびR3bは、水素、C6~22アルキル、C6~22アルケニル、およびC6~22アルキニルからなる群より独立に選択され、R3aおよびR3bにおける1つまたは複数の非隣接のCH2基は、独立に酸素と置き換えられていてもよく、
但し、少なくとも1つのR3aまたはR3bが、C6~22アルキル、C6~22アルケニル、およびC6~22アルキニルからなる群より選択され、R3aまたはR3bにおける1つまたは複数の非隣接のCH2基が、独立に酸素と置き換えられていてもよい。
【0007】
いくつかの態様では、R1はエチルである。いくつかの態様では、R1はメチルである。いくつかの態様では、各R1は、メチルおよびエチルからなる群より独立に選択される。
【0008】
いくつかの態様では、下付きのnは約15~約55の範囲の整数である。いくつかの態様では、コンジュゲートのポリ(アルキルオキサゾリン)部分は、約2,000Da~約5,000Daの範囲の数平均分子量を有する。
【0009】
いくつかの態様では、ポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲートは、式IIaによる構造:
またはその薬学的に許容される塩を有し、
式中:
R2は、水素およびメチルからなる群より選択され;
R3aは、水素、C12~18アルキル、およびC12~18アルケニルからなる群より選択され;
R3bは、C12~18アルキルおよびC12~18アルケニルからなる群より選択される。
【0010】
ある特定の局面では、本開示は、本明細書に記載される(例えば、式Iによる)ポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲートを含む脂質ナノ粒子を提供する。いくつかの態様では、脂質ナノ粒子は、陽イオン性脂質、中性脂質(例えば、リン脂質)、ステロール(例えば、コレステロール)またはこれらの組み合わせをさらに含む。いくつかの態様では、脂質ナノ粒子は核酸をさらに含む。ある特定の態様では、核酸はRNA(例えば、mRNA)を含む。いくつかの態様では、核酸は脂質ナノ粒子中に完全にカプセル化されている。いくつかの態様では、脂質ナノ粒子は40nm~150nmの範囲の平均径を有する。
【0011】
いくつかの局面では、本開示は、
(a)核酸;
(b)脂質ナノ粒子中に存在する全脂質の30mol%~80mol%を構成する陽イオン性脂質;
(c)中性脂質;
(d)ステロール;および
(e)脂質ナノ粒子中に存在する全脂質の0.1mol%~10mol%を構成するポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲート
を含む脂質ナノ粒子を提供する。
【0012】
いくつかの態様では、陽イオン性脂質は、脂質ナノ粒子中に存在する全脂質の40mol%~70mol%を構成する。いくつかの態様では、陽イオン性脂質は、脂質ナノ粒子中に存在する全脂質の45mol%~65mol%を構成する。いくつかの態様では、陽イオン性脂質は、脂質ナノ粒子中に存在する全脂質の45mol%~60mol%を構成する。いくつかの態様では、陽イオン性脂質は、脂質ナノ粒子中に存在する全脂質の50mol%~60mol%を構成する。
【0013】
いくつかの態様では、中性脂質は、脂質ナノ粒子中に存在する全脂質の3mol%~20mol%を構成する。いくつかの態様では、中性脂質は、脂質ナノ粒子中に存在する全脂質の5mol%~15mol%を構成する。いくつかの態様では、中性脂質は、脂質ナノ粒子中に存在する全脂質の8mol%~12mol%を構成する。ある特定の態様では、中性脂質はリン脂質を含む。
【0014】
いくつかの態様では、ステロールは、脂質ナノ粒子中に存在する全脂質の10mol%~60mol%を構成する。いくつかの態様では、ステロールは、脂質ナノ粒子中に存在する全脂質の20mol%~50mol%を構成する。いくつかの態様では、ステロールは、脂質ナノ粒子中に存在する全脂質の30mol%~40mol%を構成する。ある特定の態様では、ステロールはコレステロールを含む。
【0015】
いくつかの態様では、ポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲートは、脂質ナノ粒子中に存在する全脂質の0.1mol%~5mol%を構成する。いくつかの態様では、ポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲートは、脂質ナノ粒子中に存在する全脂質の0.5mol%~3mol%を構成する。ある特定の態様では、ポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲートは、本明細書に記載される(例えば、式Iによる)ポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲートを含む。
【0016】
特定の態様では、陽イオン性脂質は、脂質ナノ粒子中に存在する全脂質の50mol%~60mol%を構成し、中性脂質は、脂質ナノ粒子中に存在する全脂質の8mol%~12mol%を構成し、ステロールは、脂質ナノ粒子中に存在する全脂質の30mol%~40mol%を構成し、ポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲートは、脂質ナノ粒子中に存在する全脂質の0.5mol%~3mol%を構成する。
【0017】
いくつかの態様では、核酸はRNAを含む。ある特定の態様では、RNAはmRNAを含む。いくつかの態様では、核酸は脂質ナノ粒子中に完全にカプセル化されている。いくつかの態様では、脂質ナノ粒子は40nm~150nmの範囲の平均径を有する。
【0018】
ある特定の局面では、本開示は、本明細書に記載される脂質ナノ粒子および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物を提供する。いくつかの態様では、薬学的組成物は、静脈内、筋肉内、肺、脳内、髄腔内、または鼻腔内投与のために製剤化される。
【0019】
いくつかの局面では、本開示は、細胞中に核酸を導入するための方法であって、細胞を、本明細書に記載される脂質ナノ粒子または薬学的組成物と接触させる工程を含む方法を提供する。他の局面では、本開示は、核酸を対象に送達するための方法であって、本明細書に記載される脂質ナノ粒子または薬学的組成物を対象に投与する工程を含む方法を提供する。さらなる局面では、本開示は、その必要がある対象において疾患または障害を予防または処置するための方法であって、本明細書に記載される脂質ナノ粒子または薬学的組成物を対象に投与する工程を含む方法を提供する。いくつかの態様では、疾患または障害は、ウイルス感染症、肝疾患もしくは障害、肺疾患もしくは障害、CNSの疾患もしくは障害、またはがんである。
【0020】
本開示の他の目的、特色および利点は、以下の詳細な説明から当業者に明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0021】
詳細な説明
I. 序論
本発明者らは、ポリ(2-エチル2-オキサゾリン)(PEOZ)などのポリ(アルキルオキサゾリン)ポリマーを含む新規なポリマーコンジュゲート脂質を設計した。本発明者らは、様々な異なる脂質部分にポリマーをコンジュゲートし、一連のポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲートを得た。そのような脂質コンジュゲートを、本明細書の実施例に記載されているように、mRNAペイロードなどの核酸を含む脂質ナノ粒子に製剤化し、特徴づけした。
【0022】
本発明者らは、本明細書に記載される脂質コンジュゲートは、好都合な物理化学的特性、例えば、望ましい粒径および低い多分散度ならびに核酸(例えば、mRNA)ペイロードの高いカプセル化効率を有する、有効な脂質ナノ粒子を形成することを発見した。インビボ研究により、本明細書に記載される脂質ナノ粒子製剤は、標的部位で高レベルの活性を媒介し、PEG-脂質コンジュゲートと比較して同等かまたは向上した活性を示し、非特異的(オフターゲット)活性がより低いことが実証された。本明細書に記載される脂質ナノ粒子製剤は、PEG-脂質コンジュゲートと比較して同様かまたは低いサイトカインレベルを含み、それにより、より好都合な免疫刺激性プロファイルを有する。本明細書に記載される脂質ナノ粒子製剤は、PEG-脂質コンジュゲートと比較して血漿からのクリアランス速度の向上も示し、それにより、血漿における滞留時間がより短くなり、反復用量投与の際に抗体応答が緩和される。さらなるインビボ研究により、本明細書に記載される脂質ナノ粒子製剤をワクチンプラットフォーム中に首尾よく組み入れて、抗原をコードするmRNAを送達し、PEG-脂質コンジュゲートと比べて同様かまたはより大きな程度で抗原特異的免疫原性を誘導することができることが実証された。したがって、ポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲートを含む脂質ナノ粒子は、PEG-脂質コンジュゲートを含む粒子よりも有利な活性および忍容性プロファイルを提供する。
【0023】
II. 定義
本明細書において使用する場合、単数形「1つ(a)」、「1つ(an)」および「その(the)」は、文脈において特に明記しない限り、複数の指示物を含む。したがって、「1つのコンジュゲート」への言及は、任意で、2つ以上のそのような分子の組み合わせなどを含む。
【0024】
本明細書において使用する場合、用語「約」および「およそ」は、数値または範囲で明記される量を修飾するために使用される場合、数値、および当業者に公知の、値からの合理的な偏差、例えば、±20%、±10%、または±5%が、列挙される値の意図された意味内であることを示す。
【0025】
本明細書において使用する場合、用語「アルキル」は、それ自体で、または別の置換基の一部として、示される炭素原子数を有する、直鎖または分枝の飽和脂肪族基を指す。アルキルは、任意の数の炭素、例えば、C1~2、C1~3、C1~4、C1~5、C1~6、C1~7、C1~8、C1~9、C1~10、C2~3、C2~4、C2~5、C2~6、C3~4、C3~5、C3~6、C4~5、C4~6、およびC5~6を含むことができる。例えば、C1~6アルキルとしては、限定されないが、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ヘキシルなどが挙げられる。アルキルは、最大で20炭素原子までを有するアルキル基、例えば、限定されないが、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシルなどを指すこともできる。
【0026】
本明細書において使用する場合、用語「アルケニル」は、それ自体で、または別の置換基の一部として、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有するアルキル基を指す。
【0027】
本明細書において使用する場合、用語「アルキニル」は、それ自体で、または別の置換基の一部として、少なくとも1つの炭素-炭素三重結合を有するアルキル基を指す。
【0028】
本明細書において使用する場合、用語「アシル」は、それ自体で、または別の置換基の一部として、Rがアルキル基である部分-C(O)Rを指す。
【0029】
本明細書において使用する場合、用語「ハロ」および「ハロゲン」は、それら自体で、または別の置換基の一部として、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素原子を指す。
【0030】
本明細書において使用する場合、用語「アミノ」は、各R基がHまたはアルキルである、部分-NR2を指す。アミノ部分は、イオン化されて、対応するアンモニウム陽イオンを形成することができる。
【0031】
本明細書において使用する場合、用語「スルホニル」は、R基がアルキル、ハロアルキル、またはアリール(例えば、フェニル、トルイル、ナフチルなど)である、部分-SO2Rを指す。アミノ部分は、イオン化されて、対応するアンモニウム陽イオンを形成することができる。「アルキルスルホニル」は、R基がアルキルである、アミノ部分を指す。
【0032】
本明細書において使用する場合、用語「ヒドロキシ」は部分-OHを指す。
【0033】
本明細書において使用する場合、用語「塩」は、少なくとも1つの陽イオン(例えば、有機陽イオンまたは無機陽イオン)および少なくとも1つの陰イオン(例えば、有機陰イオンまたは無機陰イオン)を含む化合物を指す。本開示による脂質の酸性塩としては、限定されないが、鉱酸塩(例えば、塩酸、臭化水素酸、リン酸などを使用して形成される塩)、有機酸塩(例えば、酢酸、プロピオン酸、グルタミン酸、クエン酸などを使用して形成される塩)塩、および第4級アンモニウム塩(例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化エチルなどを使用して形成される塩)が挙げられる。酸性官能基は、塩基と接触して、塩基塩、例えば、アルカリおよびアルカリ土類金属塩(例えば、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、およびマグネシウム塩)、ならびにアンモニウム塩(例えば、アンモニウム、トリメチル-アンモニウム、ジエチルアンモニウム、およびトリス-(ヒドロキシメチル)-メチル-アンモニウム塩)をもたらすことができる。
【0034】
いくつかの態様では、所望ならば、塩を塩基または酸と接触させ、従来の方式で親化合物を単離することによって、中性形態の化合物を再生することができる。いくつかの態様では、化合物の親形態は、ある特定の物理的性状、例えば、極性溶媒中の溶解度が様々な塩形態とは異なり得るが、その他の点では、塩形態は化合物の親形態と同等であり得る。
【0035】
「薬学的に許容される」は、賦形剤が製剤の他の成分と適合性であり、その受容者に対して有害ではないことを意味する。例えば、薬学的に許容される賦形剤および塩は無毒であることが理解される。有用な薬学的賦形剤としては、限定されないが、溶媒、希釈剤、pH調節剤、および可溶化剤が挙げられる。
【0036】
用語「核酸」は、一本鎖形態または二本鎖形態のいずれかの、少なくとも2つのデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドを含むポリマーを指し、DNAおよびRNAを含む。DNA(例えば、ssDNAまたはdsDNA)は、例えば、アンチセンス分子、プラスミドDNA、前濃縮DNA、PCR産物、ベクター(P1、PAC、BAC、YAC、人工染色体)、発現カセット、キメラ配列、染色体DNA、またはこれらの群の誘導体および組み合わせの形態であってもよい。RNA(例えば、ssRNAまたはdsRNA)は、例えば、伝令RNA(mRNA)、干渉RNA(例えば、低分子干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピン型RNA(shRNA)、非対称干渉RNA(aiRNA)、マイクロRNA(miRNA)、ガイドRNA(gRNA)、自己増幅型RNA、tRNA、rRNA、ウイルスRNA(vRNA)、およびこれらの組み合わせの形態であってもよい。いくつかの態様では、核酸は、mRNAまたは干渉RNAなどのRNAが転写されるプラスミドである。本用語は、公知のヌクレオチド類似体または修飾された骨格残基または結合を含む核酸を包含し、これらは、合成的、天然、および非天然であり、参照核酸と同様の結合性状を有する。そのような類似体の例としては、限定されることなく、ホスホロチオエート、ホスホロアミデート、メチルホスホネート、キラル-メチルホスホネート、2’-O-メチルリボヌクレオチド、およびペプチド核酸(PNA)が挙げられる。別段指示がない限り、特定の核酸配列は、明示的に示された配列だけでなく、保存的に修飾されたその変異体(例えば、縮重コドン置換)、アレル、オルソログ、SNP、および相補的配列も暗黙的に包含する。特に、縮重コドン置換は、1つまたは複数の選択された(またはすべての)コドンの第3の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換されている配列を生成することによって、達成され得る(Batzer et al., Nucleic Acid Res., 19:5081 (1991); Ohtsuka et al., J. Biol. Chem., 260:2605-2608 (1985); Rossolini et al., Mol. Cell. Probes, 8:91-98 (1994))。「ヌクレオチド」は、糖デオキシリボース(DNA)またはリボース(RNA)、塩基、およびリン酸基を含む。ヌクレオチドはリン酸基を通じて互いに連結している。「塩基」は、プリンおよびピリミジンを含み、これは、天然化合物のアデニン、チミン、グアニン、シトシン、ウラシル、イノシン、および天然類似体、ならびにプリンおよびピリミジンの合成誘導体をさらに含み、これは、限定されないが、アミン、アルコール、チオール、カルボキシレート、およびアルキルハライドなどの新しい反応基を配置する修飾を含むが、これらに限定されるわけではない。
【0037】
本明細書において使用する場合、用語「脂質粒子」、「脂質ナノ粒子」、または「LNP」は、ポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲートを含む粒子を指す。脂質粒子は、さらなる脂質成分、例えば、陽イオン性脂質ならびに1つまたは複数の非陽イオン性脂質(例えば、リン脂質および/またはステロール)を含んでもよく、さらに核酸を含んでもよく、核酸は、粒子内にカプセル化されていてもよい。一態様では、核酸は粒子内に少なくとも50%カプセル化されており;一態様では、核酸は粒子内に少なくとも75%カプセル化されており;一態様では、核酸は粒子内に少なくとも90%カプセル化されており;一態様では、核酸は粒子内に完全にカプセル化されている。脂質粒子は、全身適用に非常に有用であり、なぜならば、脂質粒子は、静脈内注射後の循環寿命の延長を示すことができ、遠位部位(例えば、投与部位から物理的に分離された部位)で蓄積することができ、かつトランスフェクトされた遺伝子の発現またはこれらの遠位部位における標的遺伝子発現のサイレンシングを媒介することができるからである。脂質粒子は、典型的には、約40nm~約150nm、約50nm~約150nm、約60nm~約130nm、約70nm~約110nm、約60nm~約100nm、約50~約80nm、約60~約80nm、約60~約90nm、または約70~約90nmの平均径を有し、実質的に無毒である。さらに、核酸は、脂質粒子中に存在する場合は、水溶液中で、ヌクレアーゼによる分解に抵抗性である。脂質粒子およびその調製方法は、例えば、米国特許出願公開第2004/0142025号および第2007/0042031号に開示されている。
【0038】
本明細書において使用する場合、用語「脂質カプセル化された」は、完全カプセル化、部分的カプセル化、または両方で核酸(例えば、mRNA)を提供する脂質粒子を指す。一態様では、核酸は粒子内に完全にカプセル化されている。
【0039】
用語「陽イオン性脂質」は、選択されたpH、例えば、酸性pHまたは生理的pHで正味正電荷を保有する脂質種を指す。陽イオン性脂質の非限定例は、本明細書において詳細に記載されている。場合によっては、陽イオン性脂質は、イオン化可能な第1級、第2級または第3級アミン(例えば、pH滴定可能な)頭部基を含む。一態様では、陽イオン性脂質は、粒子形成の間に、負に荷電した核酸(例えば、mRNA)ペイロードのカプセル化を促進する。一態様では、陽イオン性脂質は、LNPの細胞取り込みに続いて、エンドソーム融合およびペイロードの細胞質内放出を推進する。
【0040】
用語「非陽イオン性脂質」は、選択されたpH(例えば、生理的pH)で無電荷形態または中性双性イオン性形態のいずれかで存在する中性脂質、ステロール、および生理的pHで負に荷電した陰イオン性脂質を含む。非陽イオン性脂質の非限定例は、本明細書において詳細に記載されている。中性脂質としては、例えば、リン脂質、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸、パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン、リゾホスファチジルコリン、リゾホスファチジルエタノールアミン(LPE)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、およびジリノレオイルホスファチジルコリン(DLPC)が挙げられる。ステロールとしては、例えば、コレステロールおよびその誘導体、例えば、コレスタノール、コレスタノン、コレスタエノン、コプロスタノール、コレステリル-2’-ヒドロキシエチルエーテル、およびコレステリル-4’-ヒドロキシブチルエーテルが挙げられる。陰イオン性脂質としては、例えば、ホスファチジルグリセロール、カルジオリピン、ジアシルホスファチジルセリン、ジアシルホスファチジン酸、N-ドデカノイルホスファチジルエタノールアミン、N-スクシニルホスファチジルエタノールアミン、N-グルタリルホスファチジルエタノールアミン、リジルホスファチジルグリセロール、パルミトイルオレオイルホスファチジルグリセロール(POPG)、および中性脂質に結合した他の陰イオン性修飾基が挙げられる。
【0041】
本明細書において使用する場合、「遠位部位」は、隣接する毛細血管床に限定されるのではなく、対象全体にわたって広く分布している部位を含む、物理的に分離された部位を指す。
【0042】
本明細書に記載される脂質粒子に関する「血清安定性」は、粒子が、遊離DNAまたはRNAを有意に分解するであろう血清またはヌクレアーゼアッセイへの暴露後に、有意に分解されないことを意味する。適切なアッセイとしては、例えば、標準的な血清アッセイ、DNAseアッセイ、またはRNAseアッセイが挙げられる。
【0043】
本明細書において使用する場合、「全身送達」は、対象内でmRNAなどの核酸の広い生体内分布をもたらす、脂質粒子の送達を指す。全身送達は、有用な、好ましくは、治療的な量の核酸が、体の大抵の部分に曝露されることを意味する。広い生体内分布を得ることは、一般に、核酸が、投与部位より遠位の標的部位に到達する前に、(例えば、第1通過器官(肝臓、肺など)によって、または急速な非特異的細胞結合によって)急速に分解されず、排除もされないような血中寿命を必要とする。脂質粒子の全身送達は、例えば、静脈内、皮下および腹腔内投与を含めて、当技術分野において公知である任意の手段によるものであり得る。一態様では、脂質粒子は静脈内送達される。
【0044】
本明細書において使用する場合、「局部送達」は、対象内の標的部位へのmRNAなどの核酸の直接的な送達を指す。例えば、核酸は、疾患部位、例えば腫瘍、または他の標的部位、例えば炎症部位、または標的器官、例えば、肝臓、心臓、膵臓、腎臓などへの直接注射によって、局部的に送達され得る。
【0045】
本明細書において互換的に使用される、用語「対象」、「個体」、および「患者」は、限定されないが、ヒト、非ヒト霊長類、げっ歯類(例えば、ラット、マウス、およびモルモット)、ウサギ、ウシ、ブタ、ウマ、および他の哺乳動物種を含めて、哺乳動物を指す。一態様では、対象、個体、または患者はヒトである。
【0046】
III. ポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲート
式Iによるポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲート:
およびその薬学的に許容される塩が本明細書に提供され、
式中:
下付きのnは10~100の範囲の整数であり;
各R1は独立にC1~6アルキルであり;
各R2は、水素、C1~6アルキル、およびC1~6アシルからなる群より独立に選択され;
(i)Zは-S(CH2)2C(O)-であり、
R3は、-NR3aR3b、-NR3aCH2CH(R3b)2、-CH(R3b)2、および-CH2CH(R3b)2からなる群より選択され;
または
(ii)Zは、-Z1-OC(O)-、-Z1-NHC(O)-、-Z1-S(O)2-、および-Z1-OCH2-からなる群より選択され、
Z1は、共有結合、オリゴ(エチレングリコール)ジラジカル、およびポリ(エチレングリコール)ジラジカルからなる群より選択され、
R3は、-NR3aR3bおよび-CH(R3b)2からなる群より選択され;
式中、各R3aおよびR3bは、水素、C6~22アルキル、C6~22アルケニル、およびC6~22アルキニルからなる群より独立に選択され、R3aおよびR3bにおける1つまたは複数の非隣接のCH2基は、独立に酸素と置き換えられていてもよく、
但し、少なくとも1つのR3aまたはR3bが、C6~22アルキル、C6~22アルケニル、およびC6~22アルキニルからなる群より選択され、R3aまたはR3bにおける1つまたは複数の非隣接のCH2基が、独立に酸素と置き換えられていてもよい。
【0047】
いくつかの態様では、R1はエチルである。いくつかの態様では、R1はメチルである。いくつかの態様では、各R1は、メチルおよびエチルからなる群より独立に選択される。
【0048】
いくつかの態様では、下付きのnは約15~約55の範囲の整数である。いくつかの態様では、コンジュゲートのポリ(アルキルオキサゾリン)部分は、約2,000Da~約5,000Daの範囲の数平均分子量を有する。分子量は、例えば、浸透圧、蒸気圧、光散乱、超遠心分離法、またはサイズ排除クロマトグラフィーによるものを含めて、任意の適切な方法によって決定することができる。適切に較正されたカラムを用いるサイズ排除クロマトグラフィーを使用して、数平均分子量Mnは、式1:
によって決定することができ、
重量平均分子量Mwは、式2:
によって決定することができ、
式中Wはポリマーの総重量であり、Wiはi番目のポリマーの重量であり、Miはクロマトグラム中のi番目のピークの分子量であり、Niは分子量Niを有する分子の数であり、Hiはクロマトグラム中のi番目のピークの高さである。
【0049】
いくつかの態様では、ポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲートは、式IIaによる構造:
またはその薬学的に許容される塩を有し、
式中:
R2は、水素およびメチルからなる群より選択され;
R3aは、水素、C12~18アルキル、およびC12~18アルケニルからなる群より選択され;
R3bは、C12~18アルキルおよびC12~18アルケニルからなる群より選択される。
【0050】
いくつかの態様では、R3aおよびR3bは、式IIaによるポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲートにおいて、C12~18アルキルおよびC12~18アルケニルからなる群より独立に選択される。いくつかの態様では、R3aおよびR3bは独立にC12~18アルキルである。いくつかの態様では、式IIaのR3aおよびR3bは、n-ドデシル(ラウリル)、n-トリデシル、n-テトラデシル(ミリスチル)、n-ペンタデシル、n-ヘキサデシル(セチル)、n-ヘプタデシル、またはn-オクタデシル(ステアリル)である。いくつかの態様では、R3aは式IIaにおいてHであり、R3bは、n-ドデシル(ラウリル)、n-トリデシル、n-テトラデシル(ミリスチル)、n-ペンタデシル、n-ヘキサデシル(セチル)、n-ヘプタデシル、またはn-オクタデシル(ステアリル)である。
【0051】
いくつかの態様では、ポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲートは、式IIbによる構造:
またはその薬学的に許容される塩を有し、
式中:
R2は、水素およびメチルからなる群より選択され;
各R3cは、C12~18アルキルおよびC12~18アルケニルからなる群より独立に選択される。いくつかの態様では、式IIbにおけるR3aおよびR3bは、n-ドデシル(ラウリル)、n-トリデシル、n-テトラデシル(ミリスチル)、n-ペンタデシル、n-ヘキサデシル(セチル)、n-ヘプタデシル、またはn-オクタデシル(ステアリル)である。
【0052】
脂質コンジュゲートは、有機合成化学の分野において公知である合成方法またはその変形とともに、以下に記載の方法を使用して、合成することができる。好ましい方法としては、限定されないが、作業実施例および以下のスキームに記載されている方法が挙げられる。本開示の化合物の調製で使用される出発材料および試薬は、商業的供給業者から入手可能であるか、またはFieser and Fieser’s Reagents for Organic Synthesis, Vol. 1-28 (Wiley, 2016); March’s Advanced Organic Chemistry, 7th Ed. (Wiley, 2013);およびLarock’s Comprehensive Organic Transformations, 2nd Ed. (Wiley, 1999)などの参考文献に記載される手順に従って、当業者に公知の方法によって調製されるかのいずれかである。反応の出発材料および中間体は、所望ならば、限定されないが、濾過、クロマトグラフィー、結晶化、蒸留などを含めて、従来の技法を使用して、単離および精製することができる。そのような材料は、物理定数の測定およびスペクトルのデータの取得を含めて、従来の手段を使用して特徴づけすることができる。
【0053】
式IIaおよびIIbによるコンジュゲートは、式IIIによるN-ヒドロキシスクシンイミジルエステル末端ポリマー(例えば、WO2008/106186に記載されるように合成される)を様々なアミンと反応させることによって、形成することができる。
【0054】
いくつかの態様では、カルバメート連結コンジュゲートが提供され、Zは-Z1-OC(O)-であり、Z1は、共有結合およびポリ(エチレングリコール)ジラジカルからなる群より選択され、R3は-NR3aR3bである。カルバメート連結コンジュゲートは、以下のスキームに示すように調製することができる。ヒドロキシ末端ポリ(アルキルオキサゾリン)をビス(4-ニトロフェニル)カルボネートと最初に反応させて、カルボネート末端ポリ(アルキルオキサゾリン)をもたらし、次いでこれを、適切なアミンとの反応を介してカルバメート連結生成物に変換することができる。反応は、典型的には、塩基、例えば、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、2,6-ルチジンを含めたルチジン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、リチウムジイソプロピルアミド、2,6-ジ-tert-ブチルピリジン、1,8-ジアザビシクロウンデカ-7-エン(DBU)などの存在下で行われる。
【0055】
いくつかの態様では、尿素連結コンジュゲートが提供され、式中、Zは-Z1-NHC(O)-であり、Z1は共有結合であり、R3は-NR3aR3bである。尿素連結コンジュゲートは、以下のスキームに示すように調製することができる。最初に、Mitsunobu条件下でフタルイミドと反応させ、その後にヒドラジンで還元することによって、ヒドロキシ末端ポリ(アルキルオキサゾリン)をアミン末端ポリ(アルキルオキサゾリン)に変換する。次いで、末端アミンをトリホスゲンおよびアミンHNR3aR3bと反応させる。
【0056】
いくつかの態様では、アミド連結コンジュゲートが提供され、式中、Zは-Z1-NHC(O)-であり、Z1は共有結合であり、R3は-CH(R3b)2である。以下のスキームに示すように、上記のように調製したアミン末端ポリ(アルキルオキサゾリン)をカルボン酸でアシル化して、アミド連結コンジュゲートを形成することができる。アミド結合形成を容易にするために、カップリン作用物質を使用することができる。適切なカップリン作用物質の例としては、限定されないが、カルボジイミド(例えば、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド(EDC)など)、ホスホニウム塩(例えば、(ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)-トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロリン酸(PyBOP);ブロモトリス(ジメチルアミノ)-ホスホニウムヘキサフルオロリン酸(BroP)など);グアニジウム/ウロニウム塩(例えば、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N',N'-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸(HBTU);2-(7-アザ-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸(HATU);1-[(1-(シアノ-2-エトキシ-2-オキソエチリデンアミノオキシ)ジメチルアミノモルホリノ)]ウロニウムヘキサフルオロリン酸(COMU)など)、およびプロパンホスホン酸無水物が挙げられる。カップリン作用物質は、塩基および/または触媒、例えば、限定されないが、ピリジンおよびジメチルアミノピリジン(DMAP)とともに使用することができる。
【0057】
いくつかの態様では、エステル連結コンジュゲートが提供され、式中、Zは-Z1-OC(O)-であり、Z1は共有結合であり、R3は-CH(R3b)2である。エステル連結コンジュゲートは、カルボン酸をヒドロキシ末端ポリ(アルキルオキサゾリン)と連結するためにカップリン作用物質を使用して、以下のスキームに示すように調製することができる。
【0058】
いくつかの態様では、スルホンアミド連結コンジュゲートが提供され、式中、Zは-Z1-S(O)2-であり、Z1は共有結合であり、R3は-NR3aR3bである。以下のスキームに示すように、塩化チオニルおよび亜硫酸ナトリウムを用いて、ヒドロキシ末端ポリ(アルキルオキサゾリン)を塩化スルホニル末端ポリ(アルキルオキサゾリン)に変換することができる。次いで、塩化スルホニル末端ポリ(アルキルオキサゾリン)を塩基の存在下でアミンと反応させて、スルホンアミド連結コンジュゲートをもたらすことができる。
【0059】
いくつかの態様では、エーテル連結コンジュゲートが提供され、式中、Zは-Z1-OCH2-であり、Z1は共有結合であり、R3は-CH(R3b)2である。エーテル連結コンジュゲートは、以下に示すように調製することができる。ヒドロキシ末端ポリ(アルキルオキサゾリン)をスルホネート末端ポリ(アルキルオキサゾリン)に変換することができ、これは、アルコールと反応して、エーテル連結コンジュゲートを形成する。限定されないが、メシレート(メタンスルホン酸)、トリフレート(トリフルオロメタンスルホン酸)、ベシレート(ベンゼンスルホネート)、トシレート(p-トルエンスルホネート)、およびブロシレート(brosylate)(4-ブロモベンゼンスルホネート)を含めたスルホネートを用いることができる。
【0060】
いくつかの態様では、R3aおよび各R3bは、カルバメート連結コンジュゲート、尿素連結コンジュゲート、アミド連結コンジュゲート、エステル連結コンジュゲート、スルホンアミド連結コンジュゲート、またはエーテル連結コンジュゲートにおいて、C12~18アルキルおよびC12~18アルケニルからなる群より独立に選択される。いくつかの態様では、R3aおよび各R3bはC12~18アルキルから独立に選択される。R3aおよびR3bは、例えば、n-ドデシル(ラウリル)、n-トリデシル、n-テトラデシル(ミリスチル)、n-ペンタデシル、n-ヘキサデシル(セチル)、n-ヘプタデシル、またはn-オクタデシル(ステアリル)であってもよい。いくつかの態様では、R3aはHであり、R3bはC12~18アルキルである。いくつかの態様では、2つのR3bはC12~18アルキルから独立に選択される。
【0061】
いくつかの態様では、ポリ(アルキルオキサゾリン)-ポリ(エチレングリコール)脂質コンジュゲートが提供され、式中、Zは-Z1-S(CH2)2C(O)-、-Z1-OC(O)-、-Z1-NHC(O)-、-Z1-S(O)2-、または-Z1-OCH2-であり、Z1はオリゴ(エチレングリコール)ジラジカルまたはポリ(エチレングリコール)ジラジカルである。コンジュゲートのオリゴ-またはポリ-(エチレングリコール)部分は、2~200個のエチレングリコールモノマーを含み得る。いくつかの態様では、オリゴ-またはポリ-(エチレングリコール)Z1は、(例えば、Z1の数平均分子量および/または重量平均分子量が0.025~5kDaまたは0.5~1kDaの範囲であるように)平均3~100個のエチレングリコールモノマーを含む。以下に示すように、ポリ(エチレングリコール)を末端スルホネート基で官能化することができ、次いで、これをヒドロキシ末端ポリ(アルキルオキサゾリン)のアルキル化に使用して、ポリ(アルキルオキサゾリン)-ポリ(エチレングリコール)コポリマーを形成することができる。次いで、上記のような様々な連結ストラテジーを用いて、コポリマーから所望の脂質コンジュゲートを調製することができる。
【0062】
IV. 脂質粒子
一局面では、脂質粒子は、式Iによるポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲートを含む。いくつかの態様では、脂質粒子は、陽イオン性脂質、中性脂質、ステロール、またはこれらの組み合わせをさらに含む。いくつかの態様では、脂質粒子は核酸をさらに含む。別の局面では、脂質粒子は、核酸、陽イオン性脂質、中性脂質、ステロール、およびポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲート(例えば、式Iによる)を含む。いくつかの態様では、核酸は、脂質粒子の脂質部分内に完全にカプセル化されており、その結果、脂質粒子中の核酸は、水溶液中で、例えばヌクレアーゼまたはプロテアーゼによる酵素分解に抵抗性ある。いくつかの態様では、脂質粒子は、ヒトなどの哺乳動物に対して実質的に無毒である。
【0063】
ある特定の態様では、本開示は、複数の脂質粒子または脂質粒子の集団を含む脂質粒子製剤を提供する。いくつかの態様では、核酸は、脂質粒子の脂質部分内に完全にカプセル化されており、その結果、複数の脂質粒子または脂質粒子の集団中の脂質粒子の約30%~約100%、約40%~約100%、約50%~約100%、約60%~約100%、約70%~約100%、約80%~約100%、約90%~約100%、約30%~約95%、約40%~約95%、約50%~約95%、約60%~約95%、約70%~約95%、約80%~約95%、約85%~約95%、約90%~約95%、約30%~約90%、約40%~約90%、約50%~約90%、約60%~約90%、約70%~約90%、約80%~約90%、または少なくとも約30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%(またはこれらの任意の端数またはその中の範囲)が、その中に核酸をカプセル化している。
【0064】
いくつかの態様では、脂質粒子は、約40nm~約150nm、約50nm~約150nm、約60nm~約130nm、約70nm~約110nm、約60nm~約100nm、約50~約80nm、約60~約80nm、約60~約90nm、または約70~約90nmの範囲の平均径を有する。
【0065】
いくつかの態様では、脂質粒子中に存在する陽イオン性脂質は、粒子中に存在する全脂質の約30mol%~約80mol%、約40mol%~約80mol%、約50mol%~約80mol%、約30mol%~約70mol%、約40mol%~約70mol%、約50mol%~約70mol%、約45mol%~約80mol%、約45mol%~約70mol%、約45mol%~約65mol%、約45mol%~約60mol%、約45mol%~約55mol%、約50mol%~約65mol%、約50mol%~約60mol%、または約55mol%~約65mol%を構成する。いくつかの態様では、脂質粒子中に存在する陽イオン性脂質は、粒子中に存在する全脂質の約40mol%、約45mol%、約50mol%、約55mol%、約60mol%、または約65mol%を構成する。
【0066】
いくつかの態様では、脂質粒子中に存在する中性脂質(例えば、リン脂質)は、粒子中に存在する全脂質の約3mol%~約20mol%、約5mol%~約20mol%、約8mol%~約20mol%、約10mol%~約20mol%、約3mol%~約15mol%、約5mol%~約15mol%、約8mol%~約15mol%、約10mol%~約15mol%、または約8mol%~約12mol%を構成する。いくつかの態様では、脂質粒子中に存在する中性脂質(例えば、リン脂質)は、粒子中に存在する全脂質の約5mol%、約6mol%、約7mol%、約8mol%、約9mol%、約10mol%、約11mol%、約12mol%、約13mol%、約14mol%、または約15mol%を構成する。
【0067】
いくつかの態様では、脂質粒子中に存在するステロール(例えば、コレステロール)は、粒子中に存在する全脂質の約10mol%~約60mol%、約20mol%~約60mol%、約30mol%~約60mol%、約40mol%~約60mol%、約20mol%~約50mol%、約30mol%~約50mol%、約35mol%~約50mol%、約40mol%~約50mol%、約20mol%~約45mol%、約25mol%~約45mol%、約30mol%~約45mol%、約35mol%~約45mol%、約20mol%~約40mol%、約25mol%~約40mol%、または約30mol%~約40mol%を構成する。いくつかの態様では、脂質粒子中に存在するステロール(例えば、コレステロール)は、粒子中に存在する全脂質の約20mol%、約25mol%、約30mol%、約35mol%、約40mol%、約45mol%、または約50mol%を構成する。
【0068】
いくつかの態様では、ポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲート(例えば、式Iによる)は、粒子中に存在する全脂質の約0.1mol%~約10mol%、約0.5mol%~約10mol%、約1mol%~約10mol%、約1.5mol%~約10mol%、約2mol%~約10mol%、約2.5mol%~約10mol%、約3mol%~約10mol%、約4mol%~約10mol%、約5mol%~約10mol%、約0.1mol%~約5mol%、約0.3mol%~約5mol%、約0.5mol%~約5mol%、約1mol%~約5mol%、約1.5mol%~約5mol%、約2mol%~約5mol%、約2.5mol%~約5mol%、約3mol%~約5mol%、約0.1mol%~約3mol%、約0.5mol%~約3mol%、約1mol%~約3mol%、約1.5mol%~約3mol%、約2mol%~約3mol%、約2.2mol%~約3mol%、または約2.5mol%~約3mol%を構成する。いくつかの態様では、脂質粒子中に存在するポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲート(例えば、式Iによる)は、粒子中に存在する全脂質の約0.1mol%、約0.5mol%、約1mol%、約1.2mol%、約1.4mol%、約1.5mol%、約1.6mol%、約1.8mol%、約2mol%、約2.2mol%、約2.5mol%、または約3mol%を構成する。
【0069】
ある特定の態様では、脂質粒子は以下を含む:粒子中に存在する全脂質の約30mol%~約80mol%(例えば、粒子中に存在する全脂質の約40mol%~約70mol%、約45mol%~約65mol%、約45mol%~約60mol%、または約50mol%~約60mol%)を構成する陽イオン性脂質;中性脂質、例えば、リン脂質(例えば、粒子中に存在する全脂質の約3mol%~約20mol%、約5mol%~約15mol%、または約8mol%~約12mol%);ステロール、例えばコレステロール(例えば、粒子中に存在する全脂質の約10mol%~約60mol%、約20mol%~約50mol%、または約30mol%~約40mol%);および粒子中に存在する全脂質の約0.1mol%~約10mol%(例えば、粒子中に存在する全脂質の約0.1mol%~約5mol%または約0.5mol%~約3mol%)を構成するポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲート(例えば、式Iによる)。
【0070】
特定の態様では、脂質粒子は以下を含む:粒子中に存在する全脂質の約50mol%~約60mol%を構成する陽イオン性脂質;粒子中に存在する全脂質の約8mol%~約12mol%を構成する中性脂質(例えば、リン脂質);粒子中に存在する全脂質の約30mol%~約40mol%を構成するステロール(例えば、コレステロール);および粒子中に存在する全脂質の約0.5mol%~約3mol%を構成するポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲート(例えば、式Iによる)。
【0071】
例示的な一態様では、脂質粒子は以下を含む:粒子中に存在する全脂質の約55mol%(例えば、54.6mol%)を含む陽イオン性脂質;粒子中に存在する全脂質の約11mol%(例えば、10.9mol%)を含む中性脂質(例えば、リン脂質);粒子中に存在する全脂質の約33mol%(例えば、32.8mol%)を含むステロール(例えば、コレステロール);および粒子中に存在する全脂質の約1.6mol%を構成するポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲート(例えば、式Iによる)。ある特定の場合では、脂質粒子は、静脈内投与に適した薬学的組成物に製剤化される。
【0072】
別の例示的な態様では、脂質粒子は以下を含む:粒子中に存在する全脂質の約50.0mol%を構成する陽イオン性脂質;粒子中に存在する全脂質の約10mol%を構成する中性脂質(例えば、リン脂質);粒子中に存在する全脂質の約38.5mol%を構成するステロール(例えば、コレステロール);および粒子中に存在する全脂質の約1.5mol%を構成するポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲート(例えば、式Iによる)。ある特定の場合では、脂質粒子は、筋肉内投与に適した薬学的組成物に製剤化される。
【0073】
さらに別の例示的な態様では、脂質粒子は以下を含む:粒子中に存在する全脂質の約50.5mol%を構成する陽イオン性脂質;粒子中に存在する全脂質の約10mol%(例えば、10.1mol%)を含む中性脂質(例えば、リン脂質);粒子中に存在する全脂質の約39mol%(例えば、38.9mol%)を含むステロール(例えば、コレステロール);および粒子中に存在する全脂質の約0.5mol%を構成するポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲート(例えば、式Iによる)。
【0074】
さらなる例示的な態様では、脂質粒子は以下を含む:粒子中に存在する全脂質の約49mol%(例えば、49.2mol%)を含む陽イオン性脂質;粒子中に存在する全脂質の約10mol%(例えば、9.8mol%)を含む中性脂質(例えば、リン脂質);粒子中に存在する全脂質の約38mol%(例えば、37.9mol%)を含むステロール(例えば、コレステロール);および粒子中に存在する全脂質の約3.0mol%を構成するポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲート(例えば、式Iによる)。
【0075】
様々な陽イオン性脂質のいずれかを、単独で、または1種もしくは複数種の他の陽イオン性脂質種もしくは非陽イオン性脂質種と組み合わせて、本明細書に記載される脂質粒子で使用することができる。
【0076】
本明細書に記載される脂質粒子に有用な陽イオン性脂質は、生理的pHで正味正電荷を保有する多数の脂質種のいずれかであり得る。そのような脂質としては、限定されないが、N,N-ジオレオイル-N,N-ジメチル塩化アンモニウム(DODAC)、1,2-ジオレイルオキシ-N,N-ジメチルアミノプロパン(DODMA)、1,2-ジステアリルオキシ-N,N-ジメチルアミノプロパン(DSDMA)、N-(1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル)-N,N,N-トリメチル塩化アンモニウム(DOTMA)、N,N-ジステアリル-N,N-ジメチルアンモニウムブロミド(DDAB)、N-(1-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピル)-N,N,N-トリメチル塩化アンモニウム(DOTAP)、3-(N-(N’,N’-ジメチルアミノエタン)-カルバモイル)コレステロール(DC-Chol)、N-(1,2-ジミリスチルオキシプロパ-3-イル)-N,N-ジメチル-N-ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DMRIE)、2,3-ジオレイルオキシ-N-[2(スペルミン-カルボキシアミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパンアミニウムトリフルオロアセテート(DOSPA)、ジオクタデシルアミドグリシルスペルミン(DOGS)、1,2-ジリノレイルオキシ-N,N-ジメチルアミノプロパン(DLinDMA)、1,2-ジリノールエニルオキシ-N,N-ジメチルアミノプロパン(DLenDMA)、3-ジメチルアミノ-2-(コレスタ-5-エン-3-ベータ-オキシブタン-4-オキシ)-1-(シス,シス-9,12-オクタデカジエンオキシ)プロパン(CLinDMA)、2-[5’-(コレスタ-5-エン-3.ベータ.-オキシ)-3’-オキサペントキシ)-3-ジメチル-1-(シス,シス-9’,1-2’-オクタデカジエンオキシ)プロパン(CpLinDMA)、N,N-ジメチル-3,4-ジオレイルオキシベンジルアミン(DMOBA)、1,2-N,N’-ジオレオイルカルバミル-3-ジメチルアミノプロパン(DOcarbDAP)、1,2-N,N’-ジリノレイルカルバミル-3-ジメチルアミノプロパン(DLincarbDAP)、1,2-ジリノレオイルカルバミル-3-ジメチルアミノプロパン(DLinCDAP)、2,2-ジリノレイル-4-(2-ジメチルアミノエチル)-[1,3]-ジオキソラン(DLin-K-C2-DMA)、2,2-ジリノレイル-4-(3-ジメチルアミノプロピル)-[1,3]-ジオキソラン(DLin-K-C3-DMA)、2,2-ジリノレイル-4-(4-ジメチルアミノブチル)-[1,3]-ジオキソラン(DLin-K-C4-DMA)、2,2-ジリノレイル-5-ジメチルアミノメチル-[1,3]-ジオキサン(DLin-K6-DMA)、2,2-ジリノレイル-4-N-メチルペピアジノ(methylpepiazino)-[1,3]-ジオキソラン(DLin-K-MPZ)、2,2-ジリノレイル-4-ジメチルアミノメチル-[1,3]-ジオキソラン(DLin-K-DMA)、1,2-ジリノレイルカルバモイルオキシ-3-ジメチルアミノプロパン(DLin-C-DAP)、1,2-ジリノレイオキシ(dilinoleyoxy)-3-(ジメチルアミノ)アセトキシプロパン(DLin-DAC)、1,2-ジリノレイオキシ-3-モルホリノプロパン(DLin-MA)、1,2-ジリノレオイル-3-ジメチルアミノプロパン(DLinDAP)、1,2-ジリノレイルチオ-3-ジメチルアミノプロパン(DLin-S-DMA)、1-リノレオイル-2-リノレイルオキシ-3-ジメチルアミノプロパン(DLin-2-DMAP)、1,2-ジリノレイルオキシ-3-トリメチルアミノプロパン塩化物塩(DLin-TMA.Cl)、1,2-ジリノレオイル-3-トリメチルアミノプロパン塩化物塩(DLin-TAP.Cl)、1,2-ジリノレイルオキシ-3-(N-メチルピペラジノ)プロパン(DLin-MPZ)、3-(N,N-ジリノレイルアミノ)-1,2-プロパンジオール(DLinAP)、3-(N,N-ジオレオイルアミノ)-1,2-プロパンジオール(DOAP)、1,2-ジリノレイルオキソ-3-(2-N,N-ジメチルアミノ)エトキシプロパン(DLin-EG-DMA)、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0077】
ある特定の態様では、陽イオン性脂質は、以下の構造:
を有する(6Z,16Z)-12-((Z)-デカ-4-エン-1-イル)ドコサ-6,16-ジエン-11-イル5-(ジメチルアミノ)ペンタノエートである。
【0078】
ある特定の他の態様では、陽イオン性脂質は以下の構造:
を有する。
【0079】
本明細書に記載される脂質粒子で使用される非陽イオン性脂質は、様々な中性無電荷双性イオン性脂質または陰イオン性脂質のいずれかであり得る。
【0080】
中性脂質は、リン脂質、例えば、レシチン、ホスファチジルエタノールアミン、リゾレシチン、リゾホスファチジルエタノールアミン(LPE)、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴミエリン、卵スフィンゴミエリン(ESM)、セファリン、カルジオリピン、ホスファチジン酸、セレブロシド、リン酸ジセチル、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、パルミトイルオレオイル-ホスファチジルコリン(POPC)、パルミトイルオレオイル-ホスファチジルエタノールアミン(POPE)、パルミトイルオレオイル-ホスファチジルグリセロール(POPG)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン4-(N-マレイミドメチル)-シクロヘキサン-1-カルボキシレート(DOPE-mal)、ジパルミトイル-ホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジミリストイル-ホスファチジルエタノールアミン(DMPE)、ジステアロイル-ホスファチジルエタノールアミン(DSPE)、モノメチル-ホスファチジルエタノールアミン、ジメチル-ホスファチジルエタノールアミン、ジエライドイル-ホスファチジルエタノールアミン(DEPE)、ステアロイルオレオイル-ホスファチジルエタノールアミン(SOPE)、リゾホスファチジルコリン、ジリノレオイルホスファチジルコリン、およびこれらの混合物を含む、非陽イオン性脂質の例示的なクラスである。他のジアシルホスファチジルコリンおよびジアシルホスファチジルエタノールアミンリン脂質も使用することができる。これらの脂質のアシル基は、C10~C24炭素鎖を有する脂肪酸、例えば、ラウロイル、ミリストイル、パルミトイル、ステアロイル、またはオレオイルに由来するアシル基であり得る。ある特定の態様では、中性脂質はDSPCを含む。
【0081】
ステロールは、コレステロールおよびその誘導体、例えば、コレスタノール、コレスタノン、コレスタエノン、コプロスタノール、コレステリル-2’-ヒドロキシエチルエーテル、コレステリル-4’-ヒドロキシブチルエーテルおよびこれらの混合物を含む、非陽イオン性脂質の別の例示的なクラスである。ある特定の態様では、ステロールはコレステロールを含む。
【0082】
式Iによる任意のポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲートを本明細書に記載される脂質粒子で使用することができる。例示的な一態様では、コンジュゲートのポリ(アルキルオキサゾリン)部分は、ポリ(2-エチル2-オキサゾリン)(PEOZ)ポリマーを含む。いくつかの態様では、コンジュゲートのポリ(アルキルオキサゾリン)部分は、約2,000Da~約5,000Daの範囲の平均分子量を有する。特定の態様では、コンジュゲートのポリ(アルキルオキサゾリン)部分は、約5,000Daの平均分子量を有する。いくつかの態様では、コンジュゲートの脂質部分は、1つまたは2つの独立に選択されるC12~18アルキル鎖を含む。特定の態様では、コンジュゲートの脂質部分は、1つまたは2つの独立に選択されるC12、C14、C16、またはC18アルキル鎖を含む。本明細書に記載される脂質粒子での使用に適するさらなるポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲートとしては、米国特許出願公開第2011/0313017号に開示されるポリ(アルキルオキサゾリン)-ジアルキルオキシプロピルコンジュゲートおよび国際公開公報第WO2010/006282号に開示されるポリ(アルキルオキサゾリン)-リン脂質コンジュゲートが挙げられる。
【0083】
V. 核酸
ある特定の態様では、本明細書に記載される脂質粒子は核酸と結合し、その結果、核酸-脂質粒子をもたらす。いくつかの態様では、核酸は脂質粒子中に完全にカプセル化されている。本明細書において使用する場合、用語「核酸」は、任意のオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを含み、最大で60ヌクレオチドまでを有する断片は一般にオリゴヌクレオチドと呼ばれ、より長い断片はポリヌクレオチドと呼ばれる。核酸は、本明細書に記載される脂質粒子中で単独で、またはペプチド、ポリペプチド、もしくは小分子、例えば、従来の薬物を含む脂質粒子と組み合わせて(例えば、同時投与する)、投与することができる。
【0084】
本明細書において使用する場合、用語「ポリヌクレオチド」および「オリゴヌクレオチド」は、天然の塩基、糖、および糖間(骨格)結合からなる、ヌクレオチドまたはヌクレオシドモノマーのポリマーもしくはオリゴマーを指す。用語「ポリヌクレオチド」および「オリゴヌクレオチド」は、同様に機能する、非天然モノマーまたはその一部を含むポリマーまたはオリゴマーも含む。そのような修飾または置換されたポリヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチドは、例えば、細胞取り込みの増強、免疫原性の低減、およびヌクレアーゼの存在下での安定性の増大などの性状が理由で、天然型よりも好ましいことが多い。
【0085】
オリゴヌクレオチドは、一般に、デオキシリボオリゴヌクレオチドまたはリボオリゴヌクレオチドに分類される。デオキシリボオリゴヌクレオチドは、糖の5’および3’炭素でリン酸に共有結合して、交互の分岐していないポリマーを形成するデオキシリボースと呼ばれる5炭糖からなる。リボオリゴヌクレオチドは、5炭糖がリボースである同様の反復構造からなる。
【0086】
本明細書に記載される脂質粒子中に存在する核酸は、公知である任意の核酸形態を含む。本明細書において使用される核酸は、一本鎖DNAもしくはRNA(例えば、ssDNAもしくはssRNA)または二本鎖DNAもしくはRNA(例えば、dsDNAもしくはdsRNA)またはDNA-RNAハイブリッドであり得る。一本鎖核酸としては、例えば、mRNA、ガイドRNA(gRNA)、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、成熟miRNA、および三重鎖形成オリゴヌクレオチドが挙げられる。二本鎖DNAの例としては、例えば、構造遺伝子、制御および終結領域を含む遺伝子、ならびに自己複製系、例えば、ウイルスDNAまたはプラスミドDNAが挙げられる。二本鎖RNAの例としては、例えば、siRNAおよび他のRNAi作用物質、例えば、aiRNAおよびpre-miRNAが挙げられる。
【0087】
核酸は様々な長さのものであり得、一般に、核酸の特定の形態に依存する。例えば、特定の態様では、mRNA、プラスミド、または遺伝子は、約1,000~約100,000ヌクレオチドの長さであり得る。特定の態様では、オリゴヌクレオチドは約10~約100ヌクレオチドの長さの範囲であり得る。様々な関連した態様では、一本鎖、二本鎖および三本鎖のいずれのオリゴヌクレオチドも約10~約60ヌクレオチド、約15~約60ヌクレオチド、約20~約50ヌクレオチド、約15~約30ヌクレオチド、または約20~約30ヌクレオチド長の長さの範囲であり得る。
【0088】
特定の態様では、オリゴヌクレオチド(またはその鎖)は、標的ポリヌクレオチド配列に特異的にハイブリダイズするか、または標的ポリヌクレオチド配列に相補的である。本明細書において使用する場合、用語「特異的にハイブリダイズ可能」および「相補的」は、DNAまたはRNA標的とオリゴヌクレオチドの間で安定かつ特異的な結合が生じるような、十分な程度の相補性を示す。オリゴヌクレオチドは、特異的にハイブリダイズ可能であるために、その標的核酸配列に対して100%相補的である必要はないことが理解されよう。いくつかの態様では、オリゴヌクレオチドは、標的配列へのオリゴヌクレオチドの結合が標的配列の正常な機能を妨げて、その有用性または発現の喪失を引き起こす場合に、特異的にハイブリダイズ可能であり、特異的結合が所望される条件下で、すなわち、インビボアッセイもしくは治療的処置の場合には生理的条件下で、またはインビトロアッセイの場合には、アッセイが行われる条件下で、非標的配列へのオリゴヌクレオチドの非特異的結合を回避するのに十分な程度の相補性がある。したがって、オリゴヌクレオチドは、それが標的にするか、またはそれが特異的にハイブリダイズする遺伝子またはmRNA配列の領域と比較して、1つ、2つ、3つ、またはそれ以上の塩基置換を含むことができる。
【0089】
A. mRNA
ある特定の態様は、本明細書に記載される脂質粒子を含む組成物および細胞(例えば、ヒトの体内の細胞)で1種または複数種のmRNA分子(例えば、mRNA分子のカクテル)を発現させるためのその使用方法を提供する。mRNA分子は、細胞内で発現させられる1種または複数種のポリペプチドをコードする。本明細書に記載されるmRNA分子を含む脂質粒子製剤は、タンパク質補充療法、ワクチン、がん免疫療法、および遺伝子編集を含めて、様々な用途に有用である。いくつかの態様では、本明細書に記載される脂質粒子は、疾患を処置するために使用され、病的な生物(例えば、ヒトなどの哺乳動物)内におけるmRNA分子にコードされるポリペプチドの発現は、疾患の1つまたは複数の症状を改善する。本明細書に記載される組成物および方法は、ヒトの体内の機能的ポリペプチドの非存在またはレベルの低減によって引き起こされるヒト疾患を処置するために特に有用である。他の態様では、本明細書に記載される脂質処粒子は、疾患を予防するためのワクチンとして使用され、生物(例えば、ヒトなどの哺乳動物)内におけるmRNA分子にコードされるポリペプチドの発現は、疾患に対して免疫を誘発する。本明細書に記載される組成物および方法は、抗原性ポリペプチド(例えば、ウイルスタンパク、例えば、S(スパイク)、E(エンベロープ)、M(膜)、もしくはN(ヌクレオカプシド)タンパク質、またはこれらの抗原性断片をコードするmRNA分子由来)を発現させて、適応免疫系を刺激して、病原体を標的にする抗体を作り出すことにより、生物(例えば、ヒトなどの哺乳動物)内で免疫応答をもたらすことによって、ウイルス(例えば、SARS-CoV-2などのコロナウイルス)などの病原体によって引き起こされる感染症を予防するために特に有用である。さらに他の態様では、本明細書に記載される脂質処粒子は、疾患を処置するためのワクチンとして使用され、生物(例えば、ヒトなどの哺乳動物)内におけるmRNA分子にコードされるポリペプチドの発現は、病的な細胞に対して免疫応答を誘発する。本明細書に記載される組成物および方法は、抗原性ポリペプチド(例えば、腫瘍特異的抗原またはその抗原性断片をコードするmRNA分子由来)を発現させて、適応免疫応答を刺激して、がん細胞を標的にし、破壊する抗体を作り出すことによってがんを処置するために特に有用である。
【0090】
いくつかの態様では、mRNA分子は脂質粒子中に完全にカプセル化されている。mRNAカクテルを含む製剤に関して、カクテル中に存在する異なるタイプのmRNA種(例えば、異なる配列を有するmRNA)を同じ粒子中に共カプセル化することができ、またはカクテル中に存在する各タイプのmRNA種を別々の粒子中にカプセル化することができる。mRNAカクテルは、同一の、同様の、または異なる濃度またはモル比での2つ以上の個々のmRNA(それぞれ、ユニークな配列を有する)の混合物を使用して、本明細書に記載される粒子に製剤化することができる。一態様では、mRNAのカクテル(異なる配列を有する複数のmRNAに対応する)は、同一の、同様の、または異なる濃度またはモル比の各mRNA種を使用して製剤化され、異なるタイプのmRNAは同じ粒子に共カプセル化される。別の態様では、カクテル中に存在する各タイプのmRNA種は、同一の、同様の、または異なるmRNA濃度またはモル比で異なる粒子中にカプセル化され、このようにして形成された粒子(それぞれ、異なるmRNAペイロードを含む)は、別々に(例えば、予防的もしくは治療的レジメンに従って、異なる時間に)投与されるか、または(例えば、薬学的に許容される担体とともに)単回単位用量として、組み合わされ、一緒に投与される。特定の態様では、脂質粒子は血清安定性であり、ヌクレアーゼ分解に対して抵抗性であり、ヒトなどの哺乳動物に対して実質的に無毒である。
【0091】
1. mRNAへの修飾
脂質粒子中に存在するmRNA分子は、1つ、2つ、または2つより多いヌクレオシド修飾を含むことができる。いくつかの態様では、修飾mRNAは、対応する未修飾mRNAと比較して、mRNAが導入される細胞中での分解の低減を示す。
【0092】
いくつかの態様では、修飾ヌクレオシドとしては、ピリジン-4-オンリボヌクレオシド、5-アザ-ウリジン、2-チオ-5-アザ-ウリジン、2-チオウリジン、4-チオ-プソイドウリジン、2-チオ-プソイドウリジン、5-ヒドロキシウリジン、3-メチルウリジン、5-カルボキシメチル-ウリジン、1-カルボキシメチル-プソイドウリジン、5-プロピニル-ウリジン、1-プロピニル-プソイドウリジン、5-タウリノメチルウリジン、1-タウリノメチル-プソイドウリジン、5-タウリノメチル-2-チオ-ウリジン、1-タウリノメチル-4-チオ-ウリジン、5-メチル-ウリジン、1-メチル-プソイドウリジン、4-チオ-1-メチル-プソイドウリジン、2-チオ-1-メチル-プソイドウリジン、1-メチル-1-デアザ-プソイドウリジン、2-チオ-1-メチル-1-デアザ-プソイドウリジン、ジヒドロウリジン、ジヒドロプソイドウリジン、2-チオ-ジヒドロウリジン、2-チオ-ジヒドロプソイドウリジン、2-メトキシウリジン、2-メトキシ-4-チオ-ウリジン、4-メトキシ-プソイドウリジン、および4-メトキシ-2-チオ-プソイドウリジンが挙げられる。
【0093】
いくつかの態様では、修飾ヌクレオシドとしては、5-アザ-シチジン、プソイドイソシチジン、3-メチル-シチジン、N4-アセチルシチジン、5-ホルミルシチジン、N4-メチルシチジン、5-ヒドロキシメチルシチジン、1-メチル-プソイドイソシチジン、ピロロ-シチジン、ピロロ-プソイドイソシチジン、2-チオ-シチジン、2-チオ-5-メチル-シチジン、4-チオ-プソイドイソシチジン、4-チオ-1-メチル-プソイドイソシチジン、4-チオ-1-メチル-1-デアザ-プソイドイソシチジン、1-メチル-1-デアザ-プソイドイソシチジン、ゼブラリン、5-アザ-ゼブラリン、5-メチル-ゼブラリン、5-アザ-2-チオ-ゼブラリン、2-チオ-ゼブラリン、2-メトキシ-シチジン、2-メトキシ-5-メチル-シチジン、4-メトキシ-プソイドイソシチジン、および4-メトキシ-1-メチル-プソイドイソシチジンが挙げられる。
【0094】
他の態様では、修飾ヌクレオシドとしては、2-アミノプリン、2,6-ジアミノプリン、7-デアザ-アデニン、7-デアザ-8-アザ-アデニン、7-デアザ-2-アミノプリン、7-デアザ-8-アザ-2-アミノプリン、7-デアザ-2,6-ジアミノプリン、7-デアザ-8-アザ-2,6-ジアミノプリン、1-メチルアデノシン、N6-メチルアデノシン、N6-イソペンテニルアデノシン、N6-(シス-ヒドロキシイソペンテニル)アデノシン、2-メチルチオ-N6-(シス-ヒドロキシイソペンテニル)アデノシン、N6-グリシニルカルバモイルアデノシン、N6-トレオニルカルバモイルアデノシン、2-メチルチオ-N6-トレオニルカルバモイルアデノシン、N6,N6-ジメチルアデノシン、7-メチルアデニン、2-メチルチオ-アデニン、および2-メトキシ-アデニンが挙げられる。
【0095】
ある特定の態様では、修飾ヌクレオシドは、5’-0-(1-チオリン酸)-アデノシン、5’-0-(1-チオリン酸)-シチジン、5’-0-(1-チオリン酸)-グアノシン、5’-0-(1-チオリン酸)-ウリジン、または5’-0-(1-チオリン酸)-プソイドウリジンである。α-チオ置換リン酸部分は、非天然のホスホロチオエート骨格結合を通じてRNAポリマーに安定性を与えるために、提供される。ホスホロチオエートRNAは、細胞環境において、ヌクレアーゼ抵抗性が増大し、続いて、半減期がより長くなる。ホスホロチオエート連結核酸は、細胞の自然免疫分子のより弱い結合/活性化を通じて自然免疫応答を低減させることも期待される。
【0096】
ある特定の態様では、例えば、タンパク質産生の正確なタイミングが望まれる場合、細胞中に導入された修飾核酸を細胞内分解することが望ましい。したがって、本開示は、細胞内で指示された方法で作用することができる分解ドメインを含む修飾核酸を提供する。
【0097】
他の態様では、修飾ヌクレオシドとしては、イノシン、1-メチル-イノシン、ワイオシン、ウイブトシン、7-デアザ-グアノシン、7-デアザ-8-アザ-グアノシン、6-チオ-グアノシン、6-チオ-7-デアザ-グアノシン、6-チオ-7-デアザ-8-アザ-グアノシン、7-メチル-グアノシン、6-チオ-7-メチル-グアノシン、7-メチルイノシン、6-メトキシ-グアノシン、1-メチルグアノシン、N2-メチルグアノシン、N2,N2-ジメチルグアノシン、8-オキソ-グアノシン、7-メチル-8-オキソ-グアノシン、1-メチル-6-チオ-グアノシン、N2-メチル-6-チオ-グアノシン、およびN2,N2-ジメチル-6-チオ-グアノシンが挙げられる。
【0098】
2. 任意のmRNA成分
さらなる態様では、脂質粒子中に存在するmRNA分子は他の任意の成分を含むことができる。これらの任意の成分としては、限定されないが、非翻訳領域、コザック配列、イントロンヌクレオチド配列、配列内リボソーム進入部位(IRES)、キャップ、およびポリAテールが挙げられる。例えば、5’非翻訳領域(UTR)および/または3’UTRを含むことができ、いずれかまたは両方が、1つまたは複数の異なるヌクレオシド修飾を独立に含むことができる。そのような態様では、ヌクレオシド修飾は、翻訳可能な領域中に存在してもよい。コザック配列を含むmRNA分子も提供される。さらに、mRNA配列から切除され得る1つまたは複数のイントロンヌクレオチド配列を含むmRNA分子が本明細書に提供される。
【0099】
a. 非翻訳領域(UTR)
遺伝子の非翻訳領域(UTR)は転写されるが、翻訳されない。5’UTRは転写開始点から始まり、開始コドンまで続くが、開始コドンを含まず;一方で、3’UTRは終止コドンの直後から始まり、転写終結シグナルまで続く。mRNA分子の安定性および翻訳に関して、UTRによって果たされる調節的役割についての証拠がますます増えている。分子の安定性を高めるために、本明細書に記載される脂質粒子で使用されるmRNAにUTRの調節機能を組み入れることができる。転写産物が望ましくない組織または器官部位に誤って向けられた場合に、転写産物の制御されたダウンレギュレーションを確実にするために、特定の機能を組み入れることもできる。
【0100】
b. 5’キャップ形成
mRNAの5’キャップ構造は核外輸送に関与し、mRNAの安定性を高め、mRNAキャップ結合タンパク質(CBP)に結合し、これは、CBPとポリ(A)結合タンパク質が結合して、成熟した環状mRNA種を形成することを通じて、細胞におけるmRNAの安定性および翻訳能力に関与する。キャップは、mRNAスプライシングの間に、5’近位イントロン除去の除去をさらに援助する。
【0101】
内在性mRNA分子は、5’末端がキャップ形成されて、mRNA分子の末端グアノシンキャップ残基と5’末端転写センスヌクレオチの間で5’-ppp-5’-三リン酸結合を生成し得る。次いで、この5’グアニル酸キャップは、メチル化されて、N7-メチル-グアニル酸残基を生成し得る。mRNAの5’末端の末端および/または抗末端転写ヌクレオチドのリボース糖は、任意で2’-O-メチル化もされ得る。グアニル酸キャップ構造の加水分解および切断を通じた5’キャップ除去は、mRNA分子を分解の標的にし得る。
【0102】
c. IRES配列
配列内リボソーム進入部位(IRES)を含むmRNAも本明細書に記載される脂質粒子に有用である。IRESは、唯一のリボソーム結合部位として作用することができるか、またはmRNAの複数のリボソーム結合部位のうちの1つとして働くことができる。1つより多い機能的リボソーム結合部位を含むmRNAは、リボソームによって独立に翻訳されるいくつかのペプチドまたはポリペプチドをコードすることができる(「マルチシストロニックmRNA」)。IRESとともにmRNAが提供される場合、第2の翻訳可能な領域がさらに任意で提供される。IRES配列の例としては、限定されることなく、ピコルナウイルス(例えば、FMDV)、ペストウイルス(例えば、CFFV)、ポリオウイルス(PV)、脳心筋炎ウイルス(ECMV)、口蹄疫ウイルス(FMDV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、ブタコレラウイルス(CSFV)、マウス白血病ウイルス(MLV)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、およびクリケット麻痺ウイルス(CrPV)由来のものが挙げられる。
【0103】
d. ポリAテール
RNAプロセシングの間に、安定性を高めるために、長鎖のアデニンヌクレオチド(ポリAテール)が、mRNA分子などのポリヌクレオチドに付加され得る。転写の直後に、転写産物の3’末端が切断されて、3’ヒドロキシルが遊離し得る。次いで、ポリAポリメラーゼがアデニンヌクレオチドの鎖をRNAに付加する。ポリアデニル化と呼ばれるプロセスによって、100~250残基長であり得るポリAテールが付加される。
【0104】
一般に、ポリAテールの長さは、30ヌクレオチドの長さより長い。いくつかの態様では、ポリAテールは35ヌクレオチドの長さより長い(例えば、少なくとも約35、40、45、50、55、60、70、80、90、100、120、140、160、180、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、2,000、2,500、および3,000ヌクレオチドであるか、または約35、40、45、50、55、60、70、80、90、100、120、140、160、180、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、2,000、2,500、および3,000ヌクレオチドより長い)。いくつかの態様では、ポリAテールは、mRNAよりも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%長い長さであり得る。他の態様では、ポリAテールは、mRNAの全長の10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、またはそれ以上であり得る。
【0105】
3. mRNA分子の生成
RNAを単離する、RNAを合成する、核酸をハイブリダイズする、cDNAライブラリーを作製し、スクリーニングする、およびPCRを行うための方法は、当技術分野において周知であり(例えば、Gubler and Hoffman, Gene, 25:263-269 (1983); Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual (2nd ed. 1989)を参照されたい)、PCR方法も同様である(例えば、米国特許第4,683,195号および第4,683,202号;PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications (Innis et al., eds, 1990)を参照されたい)。発現ライブラリーも当業者に周知である。本開示における一般的な使用方法を開示するさらなる基礎的テキストとしては、Kriegler, Gene Transfer and Expression: A Laboratory Manual (1990);およびCurrent Protocols in Molecular Biology (Ausubel et al., eds., 1994)が挙げられる。
【0106】
4. mRNA療法の適用
本明細書に記載される脂質粒子のmRNA成分は、関心対象のポリペプチドを発現させるために使用することができる。ヒトのある特定の疾患は、ある機能タンパク質が通常は存在し、活性である細胞型における、該タンパク質の非存在または機能障害によって引き起こされる。機能タンパク質は、例えば、コード遺伝子の転写が不活性であること、またはタンパク質を完全にまたは部分的に非機能性にする突然変異がコード遺伝子中に存在することにより、完全にまたは部分的に存在しない可能性がある。タンパク質の完全なまたは部分的な不活性化によって引き起こされるヒト疾患の例としては、メチルマロン酸アカデミア(欠陥メチルマロニルCoAムターゼによって引き起こされる)、糖原病1A型(グルコース-6-ホスファターゼの欠陥触媒サブユニットによって引き起こされる)、糖原病1B型(グルコース-6-リン酸トランスロカーゼの欠如によって引き起こされる)、脆弱X症候群(FMR1タンパク質の欠乏によって引き起こされる)、尿素回路障害(オルニチントランスカルバモイラーゼ(OTC)遺伝子中の突然変異によって引き起こされる)、クリグラー・ナジャー症候群1型(ビリルビンウリジンジホスフェートグルクロノシルトランスフェラーゼ(ビリルビン-UGT)の欠如につながる遺伝子変異によって引き起こされる)、アルファ-1アンチトリプシン欠乏(SERPINA1遺伝子中の突然変異によって引き起こされる)、血栓性血小板減少性紫斑病(トロンボスポンジ1型モチーフを有するジスインテグリンおよびメタロプロテイナー、メンバー13(ADAMTS13)遺伝子中の突然変異によって引き起こされる)、急性間欠性ポルフィリン症(PBGD座位の遺伝子変異によって引き起こされる)、第IX因子欠乏血友病B(第IX因子(FIX)タンパク質の欠乏によって引き起こされる)、X連鎖重症複合免疫不全(X-SCID)(免疫系内のBおよびT細胞の発達および成熟に関与するいくつかのインターロイキンに対する受容体の成分である共通ガンマ鎖タンパク質をコードする遺伝子中の1つまたは複数の突然変異によって引き起こされる)、ならびにX連鎖副腎白質ジストロフィー(X-ALD)(ABCD1と呼ばれるペルオキシゾーム膜トランスポータータンパク質遺伝子中の1つまたは複数の突然変異によって引き起こされる)が挙げられる。
【0107】
いくつかの態様では、本明細書に記載される脂質粒子のmRNA成分は、感染症抗原、例えば、ウイルス性、細菌性、真菌性、原生動物性、および/または蠕虫性感染症抗原を発現する。抗原をコードするmRNAを有する脂質粒子を含むそのようなワクチンは、感染症を予防または処置するために特に有用である。ある特定の態様では、感染症抗原は、コロナウイルス(例えば、SARS-CoV-1、SARS-CoV-2、MERS-CoV)、インフルエンザウイルス(例えば、インフルエンザA、BおよびCウイルス)、フィロウイルス(例えば、エボラウイルス、マールブルグウイルス)、アレナウイルス(例えば、ラッサウイルス、フニンウイルス、マチュポウイルス、ガナリトウイルス、サビアウイルス)、ジカウイルス、狂犬病ウイルス、ライノウイルス、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、肝炎ウイルス(例えば、C型肝炎ウイルス)、単純ヘルペスウイルス、ヒトパピローマウイルス(HPV)、またはエプスタイン-バーウイルス由来のウイルス性感染症抗原である。特定の態様では、感染症抗原は、S(スパイク)タンパク質、E(エンベロープ)タンパク質、M(膜)タンパク質、N(ヌクレオカプシド)タンパク質、およびこれらの抗原性断片からなる群より選択されるSARS-CoV-2タンパク質である。ある特定の場合では、mRNAワクチンからの抗原特異的免疫の発生は、抗原提示細胞、例えば樹状細胞のトランスフェクションを必要とする。樹状細胞が皮膚組織および骨格筋に密集しているので、投与は、典型的には、皮内、筋肉内または皮下注射によって達成される。
【0108】
いくつかの態様では、本明細書に記載される脂質粒子のmRNA成分は腫瘍関連抗原を発現する。ある特定の場合では、樹状細胞へのmRNAがんワクチンの投与に続いて、細胞障害性T細胞が腫瘍を標的にし、破壊することができる。他の態様では、本明細書に記載される脂質粒子のmRNA成分は、CAR T細胞療法のためにキメラ抗原受容体(CAR)を発現する。典型的には、対象のT細胞が単離され、T細胞表面上に提示され、特異的腫瘍エピトープに結合するタンパク質断片であるCARをコードするmRNAで、エクスビボでトランスフェクトされる。対象への改変T細胞の再導入に続いて、CARが腫瘍細胞を標的にし、死滅させる。
【0109】
いくつかの態様では、本明細書に記載される脂質粒子のmRNA成分は遺伝子編集ヌクレアーゼを発現する。遺伝子編集ヌクレアーゼの例としては、CRISPR/Casヌクレアーゼ(例えば、Cas9、Cpf1)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、およびメガヌクレアーゼが挙げられる。CRISPR媒介性遺伝子編集は、DNA切断に関与するCasヌクレアーゼと正確な位置でDNAを切断するようにCasヌクレアーゼに指示する短いガイドRNA(gRNA)とを必要とする。いくつかの態様では、gRNAは、Casヌクレアーゼをウイルスゲノム中の遺伝子に標的化する。非限定例として、ウイルスゲノムはSARS-CoV-2ゲノムであり、遺伝子は、orf1ab、S遺伝子、ORF3a、E遺伝子、M遺伝子、ORF6、ORF7a、ORF8、N遺伝子、およびORF10からなる群より選択される。ある特定の場合では、Cas9などのCasヌクレアーゼをコードするmRNAおよびgRNAは同じ脂質粒子中にカプセル化される。他の例では、CasヌクレアーゼをコードするmRNAおよびgRNAは別々の脂質粒子中にカプセル化される。
【0110】
B. siRNA
本明細書に記載される脂質粒子のsiRNA成分は、関心対象の標的遺伝子の発現をサイレンシングすることができる。siRNA二重鎖の各鎖は、典型的には約15~約60ヌクレオチドの長さ、好ましくは、約15~約30ヌクレオチドの長さである。ある特定の態様では、siRNAは、少なくとも1つの修飾ヌクレオチドを含む。修飾siRNAは、一般に、対応する未修飾siRNA配列よりも免疫刺激性が低く、関心対象の標的遺伝子に対してRNAi活性を保持する。いくつかの態様では、修飾siRNAは、少なくとも1つの2’OMeプリンまたはピリミジンヌクレオチド、例えば、2’OMe-グアノシン、2’OMe-ウリジン、2’OMe-アデノシン、および/または 2’OMe-シトシンヌクレオチドを含む。修飾ヌクレオチドは、siRNAの一方の鎖(すなわち、センスもしくはアンチセンス)または両方の鎖に存在し得る。siRNA配列は、突出(例えば、Elbashir et al., Genes Dev., 15:188 (2001)もしくはNykanen et al., Cell, 107:309 (2001)に記載されているように3’もしくは5’突出)を有していてもよく、または突出を欠いていてもよい(すなわち、平滑末端を有していてもよい)。
【0111】
適切なsiRNA配列は、当技術分野において公知である任意の手段を使用して特定することができる。典型的には、Elbashir et al., Nature, 411:494-498 (2001)およびElbashir et al., EMBO J., 20:6877-6888 (2001)に記載されている方法が、Reynolds et al., Nature Biotech., 22(3):326-330 (2004)に記載される合理的設計ルールと組み合わされる。
【0112】
siRNAは、例えば、1つまたは複数の単離低分子干渉RNA(siRNA)二重鎖として、より長い二本鎖RNA(dsRNA)として、またはDNAプラスミド中の転写カセットから転写されるsiRNAもしくはdsRNAとしてなど、いくつかの形態で提供することができる。siRNAは、化学的に合成することができる。siRNA分子を含むオリゴヌクレオチドは、当技術分野において公知である様々な技法のいずれか、例えば、Usman et al., J. Am. Chem. Soc., 109:7845 (1987); Scaringe et al., Nucl. Acids Res., 18:5433 (1990); Wincott et al., Nucl. Acids Res., 23:2677-2684 (1995);およびWincott et al., Methods Mol. Bio., 74:59 (1997)に記載されているものを使用して、合成することができる。
【0113】
修飾ヌクレオチドの例としては、限定されないが、2’-O-メチル(2’OMe)、2’-デオキシ-2’-フルオロ(2’F)、2’-デオキシ、5-C-メチル、2’-O-(2-メトキシエチル)(MOE)、4’-チオ、2’-アミノ、または2’-C-アリル基を有するリボヌクレオチドが挙げられる。例えば、Saenger, Principles of Nucleic Acid Structure, Springer-Verlag Ed. (1984)に記載されているもののようなノーザンコンフォメーションを有する修飾ヌクレオチドもsiRNA分子での使用に適する。そのような修飾ヌクレオチドとしては、限定されることなく、ロックド核酸(LNA)ヌクレオチド(例えば、2’-O,4’-C-メチレン-(D-リボフラノシル)ヌクレオチド)、2’-O-(2-メトキシエチル)(MOE)ヌクレオチド、2’-メチル-チオ-エチルヌクレオチド、2’-デオキシ-2’-フルオロ(2’F)ヌクレオチド、2’-デオキシ-2’-クロロ(2’Cl)ヌクレオチド、および2’-アジドヌクレオチドが挙げられる。ある特定の場合では、本明細書に記載されるsiRNA分子は1つまたは複数のG-クランプヌクレオチドを含む。G-クランプヌクレオチドは、修飾が二重鎖内の相補的なグアニンヌクレオチドのワトソン-クリック面およびフーグスティーン面の両方に水素結合する能力を与える、修飾シトシン類似体を指す(例えば、Lin et al., J. Am. Chem. Soc., 120:8531-8532 (1998)を参照されたい)。さらに、ヌクレオチド塩基類似体、例えば、C-フェニル、C-ナフチル、他の芳香族誘導体、イノシン、アゾールカルボキサミド、ならびにニトロアゾール誘導体、例えば3-ニトロピロール、4-ニトロインドール、5-ニトロインドール、および6-ニトロインドールなどを有するヌクレオチド(例えば、Loakes, Nucl. Acids Res., 29:2437-2447 (2001)を参照されたい)をsiRNA分子中に組み入れることができる。
【0114】
ある特定の態様では、siRNA分子は、1つまたは複数の化学修飾、例えば、末端キャップ部分、リン酸骨格修飾などをさらに含むことができる。末端キャップ部分の例としては、限定されることなく、逆位デオキシ脱塩基残基、グリセリル修飾、4’,5’-メチレンヌクレオチド、1-(β-D-エリスロフラノシル)ヌクレオチド、4’-チオヌクレオチド、炭素環式ヌクレオチド、1,5-アンヒドロヘキシトールヌクレオチド、L-ヌクレオチド、α-ヌクレオチド、修飾塩基ヌクレオチド、スレオ-ペントフラノシルヌクレオチド、非環式3’,4’-セコヌクレオチド、非環式3,4-ジヒドロキシブチルヌクレオチド、非環式3,5-ジヒドロキシペンチルヌクレオチド、3’-3’-逆位ヌクレオチド部分、3’-3’-逆位脱塩基部分、3’-2’-逆位ヌクレオチド部分、3’-2’-逆位脱塩基部分、5’-5’-逆位ヌクレオチド部分、5’-5’-逆位脱塩基部分、3’-5’-逆位デオキシ脱塩基部分、5’-アミノ-アルキルホスフェート、1,3-ジアミノ-2-プロピルホスフェート、3-アミノプロピルホスフェート、6-アミノヘキシルホスフェート、1,2-アミノドデシルホスフェート、ヒドロキシプロピルホスフェート、1,4-ブタンジオールホスフェート、3’-ホスホロアミデート、5’-ホスホロアミデート、ヘキシルホスフェート、アミノヘキシルホスフェート、3’-ホスフェート、5’-アミノ、3’-ホスホロチオエート、5’-ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、および架橋または非架橋メチルホスホネートまたは5’-メルカプト部分が挙げられる(例えば、米国特許第5,998,203号;Beaucage et al., Tetrahedron 49:1925 (1993)を参照されたい)。リン酸骨格修飾(すなわち、修飾ヌクレオチド間結合をもたらす)の非限定例としては、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、モルホリノ、アミデート、カルバメート、カルボキシメチル、アセトアミダート、ポリアミド、スルホネート、スルホンアミド、スルファメート、ホルムアセタール、チオホルムアセタール、およびアルキルシリル置換が挙げられる(例えば、H Hunziker et al., Nucleic Acid Analogues: Synthesis and Properties, in Modern Synthetic Methods, VCH, 331-417 (1995); Mesmaeker et al., Novel Backbone Replacements for Oligonucleotides, in Carbohydrate Modifications in Antisense Research, ACS, 24-39 (1994)を参照されたい)。そのような化学修飾は、siRNAのセンス鎖、アンチセンス鎖、または両方の鎖の5’末端および/または3’末端に生じ得る。
【0115】
いくつかの態様では、siRNA分子のセンスおよび/またはアンチセンス鎖は、約1~約4個(例えば、1、2、3、もしくは4個)の2’-デオキシリボヌクレオチドならびに/または修飾および未修飾ヌクレオチドの任意の組み合わせを有する3’末端突出をさらに含むことができる。siRNA分子中に導入することができる修飾ヌクレオチドおよび化学修飾のタイプのさらなる例は、例えば、英国特許第GB2,397,818 B号および米国特許出願公開第20040192626号、第20050282188号、および第20070135372号に記載されている。
【0116】
本明細書に記載されるsiRNA分子は、siRNAの一方または両方の鎖に非ヌクレオチドを任意で含むことができる。本明細書において使用する場合、用語「非ヌクレオチド」は、糖および/またはリン酸置換を含めて、1つまたは複数のヌクレオチド単位の代わりに核酸鎖中に組み入れることができ、残りの塩基がその活性を示すことを可能にする、任意の基または化合物を指す。基または化合物は、アデノシン、グアニン、シトシン、ウラシル、またはチミンなどの一般に認識されているヌクレオチド塩基を含まず、したがって、1’位の塩基を欠くという点において、脱塩基である。
【0117】
他の態様では、siRNAの化学修飾は、コンジュゲートをsiRNA分子に結合することを含む。例えば、生分解性リンカーなどの共有結合を介して、siRNAのセンスおよび/またはアンチセンス鎖の5’および/または3’末端にコンジュゲートを結合することができる。例えば、カルバメート基または他の連結基を通じて、コンジュゲートをsiRNAに結合することもできる(例えば、米国特許出願公開第20050074771号、第20050043219号、および第20050158727号を参照されたい)。ある特定の場合では、コンジュゲートは、細胞中へのsiRNAの送達を容易にする分子である。siRNAへの結合に適したコンジュゲート分子の例としては、限定されることなく、ステロイド、例えばコレステロール、グリコール、例えばポリエチレングリコール(PEG)、ヒト血清アルブミン(HSA)、脂肪酸、カロテノイド、テルペン、胆汁酸、フォレート(例えば、葉酸、フォレート類似体およびそれらの誘導体)、糖(例えば、ガラクトース、ガラクトサミン、N‐アセチルガラクトサミン、グルコース、マンノース、フルクトース、フコースなど)、リン脂質、ペプチド、細胞取り込みを媒介することができる細胞受容体に対するリガンド、ならびにこれらの組み合わせが挙げられる(例えば、米国特許出願公開第20030130186号、第20040110296号、および第20040249178号;米国特許第6,753,423号を参照されたい)。他の例としては、米国特許出願公開第20050119470および第20050107325号に記載されている、親油性部分、ビタミン、ポリマー、ペプチド、タンパク質、核酸、小分子、オリゴ糖、炭水化物クラスター、インターカレーター、副溝結合剤、切断剤、および架橋結合剤コンジュゲート分子が挙げられる。さらに他の例としては、米国特許出願公開第20050153337号に記載されている、2’-O-アルキルアミン、2’-O-アルコキシアルキルアミン、ポリアミン、C5-陽イオン性修飾ピリミジン、陽イオン性ペプチド、グアニジニウム基、アミジニウム基、陽イオン性アミノ酸コンジュゲート分子が挙げられる。さらなる例としては、米国特許出願公開第20040167090号に記載されている、疎水性基、膜活性化合物、細胞透過性化合物、細胞標的化シグナル、相互作用変更因子、および立体安定剤コンジュゲート分子が挙げられる。さらなる例としては、米国特許出願公開第20050239739号に記載されているコンジュゲート分子が挙げられる。使用されるコンジュゲートのタイプおよびsiRNA分子へのコンジュゲーションの程度は、RNAi活性を保持しながらのsiRNAの薬物動態プロファイル、バイオアベイラビリティ、および/または安定性の向上について評価することができる。したがって、当業者は、様々な周知のインビトロ細胞培養またはインビボ動物モデルのいずれかを使用して、様々なコンジュゲートが結合したsiRNA分子をスクリーニングして、性状が向上し、完全なRNAi活性を有するものを特定することができる。
【0118】
本明細書に記載される脂質粒子のsiRNA成分は、関心対象の遺伝子の翻訳(すなわち、発現)をダウンレギュレートまたはサイレンシングするために使用することができる。関心対象の遺伝子としては、限定されないが、ウイルスの感染および生存に関連する遺伝子、代謝疾患および障害(例えば、肝疾患および障害)に関連する遺伝子、腫瘍発生および細胞形質転換(例えば、がん)に関連する遺伝子、血管新生促進遺伝子、免疫調節因子遺伝子、例えば、炎症性および自己免疫性応答に関連するもの、リガンド受容体遺伝子、ならびに神経変性障害に関連する遺伝子が挙げられる。
【0119】
ウイルスの感染および生存に関連する遺伝子としては、細胞に結合する、細胞に進入する、および細胞で複製するためにウイルスが発現するものが挙げられる。特に興味深いウイルス配列としては、コロナウイルス(例えば、SARS-CoV-1、SARS-CoV-2、MERS-CoV)、インフルエンザウイルス(例えば、インフルエンザA、B、およびCウイルス)、フィロウイルス(例えば、エボラウイルス、マールブルグウイルス)、アレナウイルス(例えば、ラッサウイルス、フニンウイルス、マチュポウイルス、ガナリトウイルス、サビアウイルス)、ジカウイルス、狂犬病ウイルス、ライノウイルス、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、肝炎ウイルス(例えば、C型肝炎ウイルス)、単純ヘルペスウイルス、ヒトパピローマウイルス(HPV)、またはエプスタイン-バーウイルス由来の配列が挙げられる。サイレンシングすることができる例示的なコロナウイルス(例えば、SARS-CoV-2)核酸配列としては、限定されないが、S(スパイク)タンパク質、E(エンベロープ)タンパク質、M(膜)タンパク質、およびN(ヌクレオカプシド)タンパク質をコードする核酸配列が挙げられる。サイレンシングすることができる例示的なフィロウイルス核酸配列としては、限定されないが、構造タンパク質(例えば、VP30、VP35、核タンパク質(NP)、ポリメラーゼタンパク質(L-pol))および膜結合性タンパク質(例えば、VP40、糖タンパク質(GP)、VP24)をコードする核酸配列が挙げられる。サイレンシングすることができる例示的なインフルエンザウイルス核酸配列としては、限定されないが、核タンパク質(NP)、マトリックスタンパク質(M1およびM2)、非構造タンパク質(NS1およびNS2)、RNAポリメラーゼ(PA、PB1、PB2)、ノイラミニダーゼ(NA)、ならびにヘムアグルチニン(HA)をコードする核酸配列が挙げられる。サイレンシングすることができる例示的な肝炎ウイルス核酸配列としては、限定されないが、転写および翻訳に関与する核酸配列(例えば、En1、En2、X、P)、ならびに構造タンパク質(例えば、コアタンパク、例えば、CおよびC関連タンパク質、カプシド、ならびにエンベロープタンパク質、例えば、S、M、および/もしくはLタンパク質、またはこれらの断片)をコードする核酸配列が挙げられる。
【0120】
代謝疾患および障害(例えば、肝臓が標的にされる障害ならびに肝疾患および障害)に関連する遺伝子としては、例えば、脂質異常症(例えば、肝臓X受容体、例えば、LXRαおよびLXRβ、ファルネソイドX受容体(FXR)、ステロール調節エレメント結合タンパク質(SREBP)、サイト1プロテアーゼ(S1P)、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル補酵素-Aレダクターゼ(HMG補酵素-Aレダクターゼ)、アポリポタンパク質B(ApoB)、アポリポタンパク質CIII(ApoC3)、ならびにアポリポタンパク質E(ApoE);ならびに糖尿病(例えば、グルコース6-ホスファターゼ)で発現している遺伝子が挙げられる。代謝疾患および障害(例えば、肝臓が標的にされる疾患および障害ならびに肝疾患および障害)に関連する遺伝子としては、肝臓それ自体で発現している遺伝子ならびに他の器官および組織で発現している遺伝子が挙げられることを当業者は認識するであろう。代謝疾患および障害に関連する遺伝子をコードする配列のサイレンシングは、好都合には、疾患または障害を処置するために使用される従来の剤の投与と組み合わせて使用することができる。
【0121】
腫瘍発生および細胞形質転換(例えば、がんまたは他の新生物)に関連する遺伝子配列の例としては、有糸分裂キネシン、例えばEg5(KSP、KIF11);セリン/スレオニンキナーゼ、例えばポロ様キナーゼ1(PLK-1);チロシンキナーゼ、例えばWEE1;アポトーシスのインヒビター、例えばXIAP;COP9シグナロソームサブユニット、例えば、CSN1、CSN2、CSN3、CSN4、CSN5;CSN6、CSN7A、CSN7B、およびCSN8;ユビキチンリガーゼ、例えばCOP1(RFWD2);ならびにヒストン脱アセチル化酵素、例えば、HDAC1、HDAC2、HDAC3、HDAC4、HDAC5、HDAC6、HDAC7、HDAC8、HDAC9などが挙げられる。
【0122】
腫瘍発生および細胞形質転換に関連する遺伝子配列のさらなる例としては、転座配列、例えば、MLL融合遺伝子、BCR-ABL、TEL-AML1、EWS-FLI1、TLS-FUS、PAX3-FKHR、BCL-2、AML1-ETO、およびAML1-MTG8;過剰発現される配列、例えば、多剤耐性遺伝子、サイクリン、ベータ-カテニン、テロメラーゼ遺伝子、c-MYC、N-MYC、BCL-2、増殖因子受容体(例えば、EGFR/ErbB1、ErbB2/HER-2、ErbB3、およびErbB4);ならびに突然変異した配列、例えばRASが挙げられる。
【0123】
DNA修復酵素をコードする配列のサイレンシングは、化学療法剤の投与との組み合わせで使用される。腫瘍遊走に関連するタンパク質をコードする遺伝子も関心対象の標的配列であり、例えば、インテグリン、セレクチン、およびメタロプロテイナーゼである。前述の例は排他的ではない。腫瘍発生もしくは細胞形質転換、腫瘍増殖、または腫瘍遊走を容易にするかまたは促進する任意の全体または部分的遺伝子配列が鋳型配列として含まれ得ることを当業者は理解するであろう。
【0124】
血管新生促進遺伝子は、新しい血管の形成を促進することができる。特に興味深いものは、血管内皮増殖因子(VEGF)またはVEGFRである。抗血管新生促進遺伝子は、血管新生を阻害することができる。これらの遺伝子は、血管新生が疾患の病的発生で役割を果たすがんを処置するために特に有用である。抗血管新生促進遺伝子の例としては、限定されないが、エンドスタチン、アンギオスタチン、およびVEGFR2が挙げられる。
【0125】
免疫調節因子遺伝子は、1種または複数種の免疫応答をモジュレートする遺伝子である。免疫調節因子遺伝子の例としては、限定されることなく、サイトカイン、例えば、増殖因子(例えば、TGF-α、TGF-β、EGF、FGF、IGF、NGF、PDGF、CGF、GM-CSF、SCFなど)、インターロイキン(例えば、IL-2、IL-4、IL-12、IL-15、IL-18、IL-20など)、インターフェロン(例えば、IFN-α、IFN-β、IFN-γなど)、およびTNFが挙げられる。FasおよびFasリガンド遺伝子も関心対象の免疫調節因子標的配列である。造血細胞およびリンパ球系細胞において2次シグナリング分子をコードする遺伝子も含まれ、例えば、Tecファミリーキナーゼ、例えばブルトンチロシンキナーゼ(Btk)である。
【0126】
細胞受容体リガンドとしては、細胞表面受容体(例えば、インスリン受容体、EPO受容体、Gタンパク質共役型受容体、チロシンキナーゼ活性を有する受容体、サイトカイン受容体、増殖因子受容体など)に結合して、受容体が関与する生理的経路(例えば、グルコースレベルのモジュレーション、血液細胞の発達、有糸分裂誘発など)をモジュレートする(例えば、阻害する、活性化するなど)ことができるリガンドが挙げられる。細胞受容体リガンドの例としては、限定されないが、サイトカイン、増殖因子、インターロイキン、インターフェロン、エリスロポエチン(EPO)、インスリン、グルカゴン、Gタンパク質共役型受容体のリガンドなどが挙げられる。トリヌクレオチドリピート(例えば、CAGリピート)の伸長をコードする鋳型は、トリヌクレオチドリピートの伸長によって引き起こされる神経変性障害、例えば、球脊髄性筋萎縮症およびハンチントン病における病原性配列のサイレンシングに使用される。
【0127】
遺伝子の発現をダウンレギュレートまたはサイレンシングするために、核酸(例えば、siRNA)によって標的にされ得るある特定の他の標的遺伝子としては、限定されないが、アクチン、アルファ2、平滑筋、大動脈(Actin, Alpha 2, Smooth Muscle, Aorta)(ACTA2)、アルコール脱水素酵素1A(ADH1A)、アルコール脱水素酵素4(ADH4)、アルコール脱水素酵素6(ADH6)、アファミン(AFM)、アンギオテンシノーゲン(AGT)、セリン-ピルビン酸アミノトランスフェラーゼ(AGXT)、アルファ-2-HS-糖タンパク質(AHSG)、アルド-ケトレダクターゼファミリー1メンバーC4(AKR1C4)、血清アルブミン(ALB)、アルファ-1-ミクログロブリン/ビクニン前駆体(AMBP)、アンジオポエチン関連タンパク質3(ANGPTL3)、血清アミロイドP成分(APCS)、アポリポタンパク質A-II(APOA2)、アポリポタンパク質B-100(APOB)、アポリポタンパク質C3(APOC3)、アポリポタンパク質C-IV(APOC4)、アポリポタンパク質F(APOF)、ベータ-2-糖タンパク質1(APOH)、アクアポリン-9(AQP9)、胆汁酸-CoA:アミノ酸N-アシルトランスフェラーゼ(BAAT)、C4b結合タンパク質ベータ鎖(C4BPB)、LINC01554にコードされる推定機能未知タンパク質(Putative uncharacterized protein)(C5orf27)、補体因子3(C3)、補体因子5(C5)、補体成分C6(C6)、補体成分C8アルファ鎖(C8A)、補体成分C8ベータ鎖(C8B)、補体成分C8ガンマ鎖(C8G)、補体成分C9(C9)、カルモジュリン結合転写活性化因子1(CAMTA1)、CD38(CD38)、補体因子B(CFB)、補体因子H関連タンパク質1(CFHR1)、補体因子H関連タンパク質2(CFHR2)、補体因子H関連タンパク質3(CFHR3)、カンナビノイド受容体1(CNR1)、セルロプラスミン(CP)、カルボキシペプチダーゼB2(CPB2)、結合組織増殖因子(CTGF)、C-X-Cモチーフケモカイン2(CXCL2)、チトクロームP450 1 A2(CYP1A2)、チトクロームP450 2A6(CYP2A6)、チトクロームP450 2C8(CYP2C8)、チトクロームP450 2C9(CYP2C9)、チトクロームP450ファミリー2サブファミリーDメンバー6(CYP2D6)、チトクロームP450 2E1(CYP2E1)、フィロキノンオメガ-ヒドロキシラーゼCYP4F2(CYP4F2)、7-アルファ-ヒドロキシコレスタ-4-エン-3-オン12-アルファ-ヒドロキシラーゼ(CYP8B1)、ジペプチジルペプチダーゼ4(DPP4)、凝固因子12(F12)、凝固因子II(トロンビン)(F2)、凝固因子LX(F9)、フィブリノーゲンアルファ鎖(FGA)、フィブリノーゲンベータ鎖(FGB)、フィブリノーゲンガンマ鎖(FGG)、フィブリノーゲン様1(FGL1)、フラビン含有モノオキシゲナーゼ3(FM03)、フラビン含有モノオキシゲナーゼ5(FM05)、群特異成分(ビタミンD結合タンパク質)(GC)、成長ホルモン受容体(GHR)、グリシンN-メチルトランスフェラーゼ(GNMT)、ヒアルロナン結合タンパク質2(HABP2)、ヘプシジン抗菌ペプチド(HAMP)、ヒドロキシ酸オキシダーゼ(グリコール酸オキシダーゼ)1(HAO1)、HGF活性化因子(HGFAC)、ハプトグロビン関連タンパク質;ハプトグロビン(HPR)、ヘモペキシン(HPX)、ヒスチジンリッチ糖タンパク質(HRG)、ヒドロキシステロイド(11-ベータ)、脱水素酵素1(HSD11B1)、ヒドロキシステロイド(17-ベータ)脱水素酵素13(HSD17B13)、インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H1(ITIH1)、インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H2(ITIH2)、インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3(ITIH3)、インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H4(ITIH4)、プレカリクレイン(KLKB1)、乳酸脱水素酵素A(LDHA)、肝臓発現抗菌ペプチド2(LEAP2)、白血球細胞由来ケモタキシン2(LECT2)、リポタンパク質(a)(LPA)、マンナン結合レクチンセリンペプチダーゼ2(MASP2)、S-アデノシルメチオニン合成酵素アイソフォーム1型(MAT1 A)、NADPHオキシダーゼ4(NOX4)、ポリ[ADP-リボース]ポリメラーゼ1(PARP1)、パラオキソナーゼ1(PON1)、パラオキソナーゼ3(PON3)、ビタミンK依存性タンパク質C(PROC)、レチノール脱水素酵素16(RDH16)、血清アミロイドA4、構成的(SAA4)、セリンデヒドラターゼ(SDS)、セルピンファミリーAメンバー1(SERPINA1)、セルピンA11(SERPINA11)、カリスタチン(SERPINA4)、コルチコステロイド結合グロブリン(SERPINA6)、抗トロンビン-PI(SERPINC1)、ヘパリンコファクター2(SERPIND1)、セルピンファミリーHメンバー1(SERPINH1)、溶質輸送体ファミリー5メンバー2(SLC5A2)、ナトリウム/胆汁酸コトランスポーター(SLC10A1)、溶質輸送体ファミリー13メンバー5(SLC13A5)、溶質輸送体ファミリー22メンバー1(SLC22A1)、溶質輸送体ファミリー25メンバー47(SLC25 A47)、溶質輸送体ファミリー2、促進性グルコーストランスポーターメンバー2(SLC2A2)、ナトリウム結合中性アミノ酸トランスポーター4(SLC38A4)、溶質輸送体有機陰イオントランスポーターファミリーメンバー1B1(SLCO1B1)、スフィンゴミエリンホスホジエステラーゼ1(SMPD1)、胆汁酸塩スルホトランスフェラーゼ(SEILT2A1)、チロシンアミノトランスフェラーゼ(TAT)、トリプトファン2,3-ジオキシゲナーゼ(TDO2)、UDPグルクロノシルトランスフェラーゼ2ファミリー、ポリペプチドB10(UGT2B10)、UDPグルクロノシルトランスフェラーゼ2ファミリー、ポリペプチドB15(UGT2B15)、UDPグルクロノシルトランスフェラーゼ2ファミリー、ポリペプチドB4(UGT2B4)、およびビトロネクチン(VTN)が挙げられる。
【0128】
C. aiRNA
siRNAと同様に、非対称干渉RNA(aiRNA)は、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)を動員し、アンチセンス鎖の5’末端に対してヌクレオチド10と11の間の標的配列の配列特異的切断を媒介することによって、哺乳動物細胞において様々な遺伝子の有効なサイレンシングを導くことができる(Sun et al., Nat. Biotech., 26:1379-1382 (2008))。典型的には、aiRNA分子はセンス鎖およびアンチセンス鎖を有する短いRNA二重鎖を含み、二重鎖はアンチセンス鎖の3’および5’末端に突出を含む。aiRNAは、相補的アンチセンス鎖と比較した場合、センス鎖が両端で短いので、一般に非対称である。いくつかの局面では、aiRNA分子はsiRNA分子について使用されるものと同様の条件下で、設計し、合成し、アニールさせることができる。非限定例として、aiRNA配列は、siRNA配列を選択するための上記の方法を使用して、選択および生成することができる。
【0129】
別の態様では、様々な長さ(例えば、約10~25、12~20、12~19、12~18、13~17、または14~17塩基対、より典型的には、12、13、14、15、16、17、18、19、または20塩基対)のaiRNA二重鎖は、関心対象のmRNAを標的にするためにアンチセンス鎖の3’および5’末端に突出を付けて、設計することができる。ある特定の場合では、aiRNA分子のセンス鎖は、約10~25、12~20、12~19、12~18、13~17、または14~17ヌクレオチドの長さであり、より典型的には、12、13、14、15、16、17、18、19、または20ヌクレオチドの長さである。ある特定の他の例では、aiRNA分子のアンチセンス鎖は、約15~60、15~50、または15~40ヌクレオチドの長さであり、より典型的には、約15~30、15~25、または19~25ヌクレオチドの長さであり、好ましくは、約20~24、21~22、または21~23ヌクレオチドの長さである。
【0130】
いくつかの態様では、5’アンチセンス突出は、1つ、2つ、3つ、4つ、またはそれ以上の非標的化ヌクレオチド(例えば、「AA」、「UU」、「dTdT」など)を含む。他の態様では、3’アンチセンス突出は、1つ、2つ、3つ、4つ、またはそれ以上の非標的化ヌクレオチド(例えば、「AA」、「UU」、「dTdT」など)を含む。ある特定の局面では、本明細書に記載されるaiRNA分子は、例えば、二本鎖(二重鎖)領域および/またはアンチセンス突出中に、1つまたは複数の修飾ヌクレオチドを含むことができる。非限定例として、aiRNA配列は、siRNA配列について上で記載される修飾ヌクレオチドの1つまたは複数を含むことができる。
【0131】
ある特定の態様では、aiRNA分子は、siRNA分子、例えば、本明細書に記載されるsiRNA分子のうちの1つのアンチセンス鎖に対応するアンチセンス鎖を含むことができる。他の態様では、aiRNA分子は、siRNA分子の文脈で上述した標的遺伝子、例えば、ウイルスの感染および生存に関連する遺伝子、代謝疾患および障害に関連する遺伝子、腫瘍発生および細胞形質転換に関連する遺伝子、血管新生促進遺伝子、免疫調節因子遺伝子、例えば、炎症性および自己免疫性応答に関連するもの、リガンド受容体遺伝子、ならびに神経変性障害に関連する遺伝子などのいずれかの発現をサイレンシングするために使用することができる。非限定例として、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、S(スパイク)タンパク質、E(エンベロープ)タンパク質、M(膜)タンパク質、またはN(ヌクレオカプシド)タンパク質をコードするSARS-CoV-2遺伝子の発現をサイレンシングするために使用することができる。
【0132】
D. miRNA
一般に、マイクロRNA(miRNA)は、遺伝子発現を調節する、約21~23ヌクレオチドの長さの一本鎖RNA分子である。miRNAは、それが転写されるDNA由来の遺伝子にコードされるが、miRNAはタンパク質に翻訳されず(非コードRNA);代わりに、各一次転写産物(pri-miRNA)がプロセッシングを受けて、pre-miRNAと呼ばれる短いステムループ構造になり、最終的に機能的な成熟miRNAになる。成熟miRNA分子は、1種または複数種の伝令RNA(mRNA)分子に部分的に相補的であるかまたは完全に相補的であるかのいずれかであり、その主な機能は、遺伝子発現をダウンレギュレートすることである。
【0133】
miRNAをコードする遺伝子は、プロセッシングを受けた成熟miRNA分子よりもはるかに長い。miRNAは、細胞の核内で、キャップおよびポリAテールを有する一次転写産物またはpri-miRNAとして最初に転写され、プロセッシングを受けて、pre-miRNAとして公知である短い約70ヌクレオチドのステムループ構造になる。このプロセシングは、動物において、ヌクレアーゼDroshaおよび二本鎖RNA結合タンパク質Pashaからなるマイクロプロセッサー複合体として公知であるタンパク質複合体によって行われる(Denli et al., Nature, 432:231-235 (2004))。次いで、これらのpre-miRNAは、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)の形成も開始するエンドヌクレアーゼDicerとの相互作用によって、細胞質中でプロセッシングを受けて、成熟miRNAになる(Bernstein et al., Nature, 409:363-366 (2001)。DNAのセンス鎖またはアンチセンス鎖のいずれかが、miRNAを生じさせるための鋳型として機能することができる。
【0134】
Dicerがpre-miRNAのステムループを切断すると、2つの相補的短鎖RNA分子が形成されるが、一方のみがRISC複合体に組み込まれる。この鎖はガイド鎖として公知であり、5’末端の安定性に基づいて、RISC複合体中の触媒活性のあるRNaseであるアルゴノートタンパク質によって選択される(Preall et al., Curr. Biol., 16:530-535 (2006))。アンチガイド鎖またはパッセンジャー鎖として公知である残りの鎖は、RISC複合体基質として分解される(Gregory et al., Cell, 123:631-640 (2005))。活性なRISC複合体への組み込み後に、miRNAはその相補的なmRNA分子と塩基対形成し、標的mRNAの分解および/または翻訳サイレンシングを誘導する。
【0135】
哺乳動物のmiRNA分子は、通常、標的mRNA配列の3’UTR中のある部位に相補的である。ある特定の例では、標的mRNAへのmiRNAのアニーリングは、タンパク質翻訳マシナリーを遮断することによって、タンパク質翻訳を阻害する。ある特定の他の例では、標的mRNAへのmiRNAのアニーリングは、RNA干渉(RNAi)と同様のプロセスを通じて、標的mRNAの切断および分解を容易にする。miRNAは、標的mRNAに対応するゲノム部位のメチル化を標的にすることもできる。一般に、miRNAは、miRNPと総称されるタンパク質の補完体と結合して機能する。
【0136】
ある特定の局面では、本明細書に記載されるmiRNA分子は、約15~100、15~90、15~80、15~75、15~70、15~60、15~50、または15~40ヌクレオチドの長さ、より典型的には、約15~30、15~25、または19~25ヌクレオチドの長さであり、好ましくは、約20~24、21~22、または21~23ヌクレオチドの長さである。ある特定の他の局面では、miRNA分子は、1つまたは複数の修飾ヌクレオチドを含むことができる。非限定例として、miRNA配列は、siRNA配列について上で記載される修飾ヌクレオチドの1つまたは複数を含むことができる。
【0137】
いくつかの態様では、miRNA分子は、siRNA分子の文脈で上述した標的遺伝子、例えば、ウイルスの感染および生存に関連する遺伝子、代謝疾患および障害に関連する遺伝子、腫瘍発生および細胞形質転換に関連する遺伝子、血管新生促進遺伝子、免疫調節因子遺伝子、例えば、炎症性および自己免疫性応答に関連するもの、リガンド受容体遺伝子、ならびに神経変性障害に関連する遺伝子などのいずれかの発現をサイレンシングするために使用することができる。非限定例として、miRNAは、S(スパイク)タンパク質、E(エンベロープ)タンパク質、M(膜)タンパク質、またはN(ヌクレオカプシド)タンパク質をコードするSARS-CoV-2遺伝子の発現をサイレンシングするために使用することができる。
【0138】
他の態様では、関心対象のmRNAを標的にするmiRNAの活性を遮断する1種または複数種の剤が、本明細書に記載される脂質粒子を使用して投与される。遮断剤の例としては、限定されないが、立体遮断オリゴヌクレオチド、ロックド核酸オリゴヌクレオチド、およびモルホリノオリゴヌクレオチドが挙げられる。そのような遮断剤は、直接miRNAに、または標的mRNA上のmiRNA結合部位に、結合することができる。
【0139】
E. アンチセンスオリゴヌクレオチド
いくつかの態様では、本明細書に記載される脂質粒子の核酸成分は、関心対象の標的遺伝子または配列に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドである。用語「アンチセンスオリゴヌクレオチド」または「アンチセンス」は、標的ポリヌクレオチド配列に相補的なオリゴヌクレオチドを含む。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、選択された配列に相補的なDNAまたはRNAの一本鎖である。アンチセンスRNAオリゴヌクレオチドは、RNAに結合することによって、相補的なRNA鎖の翻訳を妨害する。アンチセンスDNAオリゴヌクレオチドは、特異的な相補的(コードまたは非コード)RNAを標的にするために使用することができる。結合が生じると、このDNA/RNAハイブリッドは、RNaseH酵素によって分解され得る。ある特定の態様では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、約10~約60個のヌクレオチドまたは約15~約30個のヌクレオチドを含む。この用語は、所望の標的遺伝子に正確に相補的でない可能性があるアンチセンスオリゴヌクレオチドも包含する。したがって、本明細書に記載される脂質粒子は、アンチセンスを用いて非標的特異的活性が見られる場合、または標的配列と1つまたは複数のミスマッチを含むアンチセンス配列が特定の用途について最も好ましい場合に、利用可能である。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、天然ヌクレオチド、ならびに非天然または修飾ヌクレオチド(例えば、修飾核酸塩基、修飾ヌクレオシド間結合、および/または修飾糖、例えば、本明細書に記載されるもの)を含むことができる。
【0140】
アンチセンスオリゴヌクレオチドを生成する方法は当技術分野において公知であり、任意のポリヌクレオチド配列を標的にするアンチセンスオリゴヌクレオチドを生成するように容易に適合させることができる。所与の標的配列に対して特異的なアンチセンスオリゴヌクレオチド配列の選択は、選択された標的配列の解析、ならびに二次構造、Tm、結合エネルギー、および相対的安定性の決定に基づく。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、ホスト細胞において標的mRNAへの特異的結合を低減するかまたは阻む二量体、ヘアピン、または他の二次構造を形成の相対的不能性に基づいて選択することができる。mRNAの非常に好ましい標的領域としては、AUG翻訳開始コドンの領域またはその近くの領域、およびmRNAの5’領域に実質的に相補的な配列が挙げられる。これらの二次構造解析および標的部位選択の検討は、例えば、OLIGOプライマー解析ソフトウェアのv.4(Molecular Biology Insights)および/またはBLASTN 2.0.5アルゴリズムソフトウェア(Altschul et al., Nucleic Acids Res., 25:3389-402 (1997))を使用して行うことができる。
【0141】
いくつかの態様では、本明細書に記載される脂質粒子のアンチセンスオリゴヌクレオチド成分は、関心対象の遺伝子の発現または複製を阻害するために使用することができる。関心対象の遺伝子はsiRNA分子の文脈で上述され、限定されないが、ウイルスの感染および生存に関連する遺伝子、代謝疾患および障害(例えば、肝疾患および障害)に関連する遺伝子、腫瘍発生および細胞形質転換(例えば、がん)に関連する遺伝子、血管新生促進遺伝子、免疫調節因子遺伝子、例えば、炎症性および自己免疫性応答に関連するもの、リガンド受容体遺伝子、ならびに神経変性障害に関連する遺伝子が挙げられる。非限定例として、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、SARS-CoV-2遺伝子(例えば、orf1ab、S遺伝子、ORF3a、E遺伝子、M遺伝子、ORF6、ORF7a、ORF8、N遺伝子、またはORF10)にハイブリダイズすることができ、遺伝子の発現または複製を阻害することができる。
【0142】
F. リボザイム
いくつかの態様では、本明細書に記載される脂質粒子の核酸成分はリボザイムである。リボザイムは、エンドヌクレアーゼ活性を有する特異的触媒ドメインを有するRNA-タンパク質複合体である。例えば、多数のリボザイムは、オリゴヌクレオチド基質中のいくつかのリン酸エステルのうちの1つのみを切断することが多い高い特異性で、リン酸エステル転移反応を加速する。この特異性は、化学反応より前に、特異的な塩基対形成相互作用を介して基質がリボザイムの内部ガイド配列(「IGS」)に結合する必要があることに起因していた。
【0143】
少なくとも6種の基本的種類の天然の酵素性RNA分子が現在公知である。それぞれ、生理的条件下で、RNAホスホジエステル結合の加水分解をトランスで触媒することができ(それにより、他のRNA分子を切断することができる)。一般に、酵素性核酸は、最初に標的RNAに結合することによって作用する。そのような結合は、標的RNAを切断するように作用する分子の酵素部分に極めて近接して保持される、酵素性核酸の標的結合部分を通じて生じる。したがって、酵素性核酸は、相補的な塩基対形成を通じて、最初に標的RNAを認識し、次いで、標的RNA結合し、一旦正確な部位に結合すれば、酵素的に作用して標的RNAを切断する。そのような標的RNAの戦略的な切断は、コードされるタンパク質の合成を指示するその能力を破壊すると考えられる。酵素性核酸がそのRNA標的に結合し、これを切断した後、酵素性核酸はそのRNAから遊離して、別の標的を探索し、繰り返し新しい標的に結合し、これを切断することができる。
【0144】
酵素性核酸分子は、例えば、ハンマーヘッド、ヘアピン、δ型肝炎ウイルス、グループIイントロンもしくはRNaseP RNA(RNAガイド配列と結合)、またはニューロスポラVS RNAモチーフで形成することができる。ハンマーヘッドモチーフの具体例は、例えば、Rossi et al., Nucleic Acids Res., 20:4559-65 (1992)に記載されている。ヘアピンモチーフの例は、例えば、EP0360257、Hampel et al., Biochemistry, 28:4929-33 (1989); Hampel et al., Nucleic Acids Res., 18:299-304 (1990);および米国特許第号5,631,359号に記載されている。δ型肝炎ウイルスモチーフの例は、例えば、Perrotta et al., Biochemistry, 31:11843-52 (1992)に記載されている。RNasePモチーフの例は、例えば、Guerrier-Takada et al., Cell, 35:849-57 (1983)に記載されている。ニューロスポラVS RNAリボザイムモチーフの例は、例えば、Saville et al., Cell, 61:685-96 (1990); Saville et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88:8826-30 (1991); Collins et al., Biochemistry, 32:2795-9 (1993)に記載されている。グループIイントロンの例は、例えば、米国特許第号4,987,071号に記載されている。酵素性核酸分子の重要な特性は、これが、標的遺伝子のDNAまたはRNA領域の1つまたは複数に相補的である特異的基質結合部位を有すること、およびこれが、RNA切断活性を分子に与えるヌクレオチド配列を基質結合部位の内部または周囲に有することである。したがって、リボザイムコンストラクトは、本明細書において言及される特定のモチーフに限定される必要はない。
【0145】
任意のポリヌクレオチド配列を標的にするリボザイムを生成する方法は、当技術分野において公知である。リボザイムは、例えば、PCT公開第WO93/23569号および第WO94/02595号に記載されているように設計することができ、その中に記載されるように、合成して、インビトロおよび/またはインビボで試験することができる。
【0146】
リボザイム活性は、リボザイム結合アームの長さを変化させるか、または血清RNA分解酵素による分解を防止する修飾(例えば、PCT公開第WO92/07065号、第WO93/15187号、第WO91/03162号、および第WO94/13688号;EP92110298.4;および米国特許第号5,334,711号を参照されたい。これらは、酵素性RNA分子の糖部分に行うことができる様々な化学修飾を記載している)、細胞におけるその有効性を増強する修飾、ならびにRNA合成時間を短縮し、かつ化学的要件を低減するためのステムII塩基の除去を有するリボザイムを化学的に合成することによって、最適化することができる。
【0147】
G. 免疫刺激性オリゴヌクレオチド
いくつかの態様では、本明細書に記載される脂質粒子の核酸成分は、ヒトなどの哺乳動物であり得る対象に投与された場合に免疫応答を誘導することができる免疫刺激性オリゴヌクレオチド(ISS;一本鎖または二本鎖)である。ISSは、例えば、ヘアピン二次構造をもたらすある特定のパリンドローム(Yamamoto et al., J. Immunol., 148:4072-6 (1992)を参照されたい)またはCpGモチーフおよび他の公知のISSの特色(例えば、多重Gドメイン;PCT公開第WO96/11266号を参照されたい)を含む。
【0148】
免疫刺激性核酸は、免疫応答を惹起するために、免疫刺激性核酸が標的配列に特異的に結合し、標的配列の発現を低減することが必要とされない場合、非配列特異的であるとみなされる。したがって、ある特定の免疫刺激性核酸は、天然の遺伝子またはmRNAのある領域に対応する配列を含むことができるが、それらは依然として非配列特異的免疫刺激性核酸とみなされ得る。
【0149】
一態様では、免疫刺激性核酸またはオリゴヌクレオチドは、少なくとも1つのCpGジヌクレオチドを含む。オリゴヌクレオチドまたはCpGジヌクレオチドは、メチル化されていなくてもよいし、またはメチル化されていてもよい。別の態様では、免疫刺激性核酸は、メチル化シトシンを有する少なくとも1つのCpGジヌクレオチドを含む。一態様では、核酸は単一のCpGジヌクレオチドを含み、CpGジヌクレオチド中のシトシンがメチル化されている。代替の態様では、核酸は少なくとも2つのCpGジヌクレオチドを含み、CpGジヌクレオチド中の少なくとも1つのシトシンがメチル化されている。さらなる態様では、配列中に存在するCpGジヌクレオチド中の各シトシンがメチル化されている。別の態様では、核酸は複数のCpGジヌクレオチドを含み、CpGジヌクレオチドの少なくとも1つがメチル化シトシンを含む。ある特定の態様では、本明細書に記載される組成物および方法で使用されるオリゴヌクレオチドは、ホスホジエステル(「PO」)骨格もしくはホスホロチオエート(「PS」)骨格および/またはCpGモチーフ中の少なくとも1つのメチル化シトシン残基を有する。
【0150】
VI. 脂質粒子の調製
mRNAなどの核酸をカプセル化し、分解から保護することができる、本明細書に記載される脂質粒子は、限定されないが、連続混合方法および直接希釈プロセスを含めて、当技術分野において公知である任意の方法によって形成することができる。
【0151】
いくつかの態様では、本明細書に記載される脂質粒子は、連続混合方法、例えば、第1のリザーバー中に核酸を含む水溶液を準備する工程と、第2のリザーバー中に有機脂質溶液中を準備する工程と、核酸をカプセル化する脂質粒子を実質的に即座に生成するために、有機脂質溶液が水溶液と混ざるように水溶液を有機脂質溶液と混合する工程とを含むプロセスを介して生成される。このプロセスおよびこのプロセスを進めるための装置は、米国特許出願公開第20040142025号に記載されている。
【0152】
混合環境中に、例えば混合チャンバーに脂質および緩衝溶液を連続的に導入する行為によって、緩衝溶液での脂質溶液の連続的な希釈が引き起こされ、それによって、混合時に脂質粒子が実質的に即座に生成される。本明細書において使用する場合、フレーズ「緩衝溶液で脂質溶液を連続的に希釈する」(および変形)は、一般に、小胞生成を果たすのに十分な力で、水和プロセスにおいて脂質溶液が十分急速に希釈されることを意味する。核酸を含む水溶液を有機脂質溶液と混合することによって、有機脂質溶液は、緩衝溶液(すなわち、水溶液)の存在下で連続的な段階的希釈を受けて、脂質粒子が生成される。
【0153】
連続混合方法を使用して形成される脂質粒子は、典型的には、約40nm~約150nm、約50nm~約150nm、約60nm~約130nm、約70nm~約110nm、または約70nm~約90nmのサイズを有する。こうして形成された粒子は凝集せず、任意で、均一な粒径を得るようにサイズ調整される。
【0154】
いくつかの態様では、本明細書に記載される脂質粒子は、脂質粒子溶液を形成し、制御された量の希釈緩衝液を含む収集容器中に脂質粒子溶液を即時に直接導入する工程を含む直接希釈プロセスを介して生成される。ある特定の態様では、収集容器は、収集容器の内容物を撹拌して希釈を容易にするように構成された1つまたは複数の要素を含む。一態様では、収集容器中に存在する希釈緩衝液の量は、そこに導入される脂質粒子溶液の体積に実質的に等しい。非限定例として、脂質粒子の45%エタノール溶液は、等体積の希釈緩衝液を含む収集容器中に導入された場合に、好都合なことに、より小さな粒子をもたらすと考えられる。
【0155】
いくつかの態様では、本明細書に記載される脂質粒子は、希釈緩衝液を含む第3のリザーバーが第2の混合領域に流体結合している直接希釈プロセスを介して生成される。この態様では、第1の混合領域で形成される脂質粒子溶液は、第2の混合領域において希釈緩衝液で即時に直接混合される。ある特定の態様では、第2の混合領域は、脂質粒子溶液および希釈緩衝液の流動が180°対向する流動として合流するように配置されたT-コネクターを含むが;例えば、約27°~約180°のより浅い角度を提供するコネクターを使用してもよい。ポンプ機構は、緩衝液の制御可能な流動を第2の混合領域に送達する。一態様では、第2の混合領域に提供される希釈緩衝液の流速は、第1の混合領域からそこに導入される脂質粒子溶液の流速に実質的に等しくなるように制御される。この態様は、好都合なことに、第2の混合プロセスの全体にわたって、第2の混合領域において脂質粒子溶液と混ざる希釈緩衝液の流動、したがって、緩衝液中の脂質粒子溶液の濃度もよりいっそう制御することを可能にする。希釈緩衝液の流速のそのような制御は、好都合なことに、低減濃度で小さな粒径の形成を可能にする。
【0156】
これらのプロセスおよびこれらの直接希釈プロセスを実施するための装置は、米国特許出願公開第20070042031号に記載されている。
【0157】
直接希釈プロセスを使用して形成される脂質粒子は、典型的には、約40nm~約150nm、約50nm~約150nm、約60nm~約130nm、約70nm~約110nm、または約70nm~約90nmのサイズを有する。このようにして形成された粒子は凝集せず、任意で、均一な粒径を得るようにサイズ調整される。
【0158】
必要に応じて、当業者が利用可能な方法のいずれかによって、本明細書に記載される脂質粒子をサイズ調整することができる。サイズ調整は、所望のサイズ範囲および比較的狭い粒径分布を達成するために行うことができる。
【0159】
所望のサイズへ粒子をサイズ調整するために、いくつかの技法が利用可能である。リポソームに使用され、本粒子にも等しく適用可能な1つのサイズ調整方法が、米国特許第号4,737,323号に記載されている。バスまたはプローブ超音波処理のいずれかによる粒子懸濁液の超音波処理は、約50nm未満のサイズの粒子に至るまでサイズを漸減させる。ホモジナイズは、大きな粒子を小さな粒子に断片化するために剪断力に依拠する別の方法である。典型的なホモジナイズ手順では、粒子は、典型的には約60~約80nmの間までの選択された粒径が観察されるまで、標準的なエマルジョンホモジナイザーを通して再循環される。両方の方法において、従来のレーザー光線粒径判別またはQELSによって粒径分布をモニターすることができる。
【0160】
小孔ポリカーボネート膜または非対称セラミック膜を通した粒子の押出しも、比較的明確なサイズ分布まで粒径を低減するための有効な方法である。典型的には、所望の粒径分布が達成されるまで、懸濁液を膜を通して1または複数回循環させる。連続的により小さな孔の膜を通して粒子を押出しして、サイズの段階的な低減を達成することができる。
【0161】
いくつかの態様では、形成された脂質粒子の核酸対脂質の比(質量/質量比)は、約0.01~約0.2、約0.02~約0.1、約0.03~約0.1、または約0.01~約0.08の範囲である。出発材料の比もこの範囲内に入る。他の態様では、脂質粒子の調製は、10mgの全脂質あたり約400μgの核酸、または約0.01~約0.08の、例えば、50μgの核酸あたり1.25mgの全脂質に対応する約0.04の核酸対脂質の質量比を使用する。ある特定の態様では、粒子は約0.08の核酸:脂質の質量比を有する。
【0162】
他の態様では、形成された脂質粒子中の脂質対核酸の比(質量/質量比)は、約1(1:1)~約100(100:1)、約5(5:1)~約100(100:1)、約1(1:1)~約50(50:1)、約2(2:1)~約50(50:1)、約3(3:1)~約50(50:1)、約4(4:1)~約50(50:1)、約5(5:1)~約50(50:1)、約1(1:1)~約25(25:1)、約2(2:1)~約25(25:1)、約3(3:1)~約25(25:1)、約4(4:1)~約25(25:1)、約5(5:1)~約25(25:1)、約5(5:1)~約20(20:1)、約5(5:1)~約15(15:1)、約5(5:1)~約10(10:1)、約5(5:1)、6(6:1)、7(7:1)、8(8:1)、9(9:1)、10(10:1)、11(11:1)、12(12:1)、13(13:1)、14(14:1)、または15(15:1)の範囲である。出発材料の比もこの範囲内に入る。
【0163】
VII. 脂質粒子の投与
一旦形成されれば、本明細書に記載される脂質粒子は、細胞中へのmRNAなどの核酸の導入に有用である。したがって、本開示は、細胞中にmRNAなどの核酸を導入するための方法も提供する。方法は、最初に粒子を形成し、次いで、細胞への核酸の送達が生じるのに十分な期間にわたって粒子を細胞と接触させることによって、インビトロまたはインビボで行われる。
【0164】
本明細書に記載される脂質粒子は、それが混合されるかまたは接触させられるほとんどすべての細胞型に吸着することができる。一旦吸着すれば、粒子は、細胞の一部によってエンドサイトーシスされ得るか、脂質を細胞膜と交換することができるか、または細胞と融合することができるかのいずれかであり得る。粒子の核酸部分の移行または組み入れは、これらの経路のうちの1つのいずれかを介して起こり得る。特に、融合が起こる場合、粒子の膜が細胞膜に組み込まれ、粒子の内容物が細胞内液と混ざる。
【0165】
本明細書に記載される脂質粒子は、単独で、または投与経路および標準的な薬学的慣例に従って選択される薬学的に許容される担体(例えば、生理食塩水もしくはリン酸緩衝液)との混合物で投与することができる。一般に、通常の緩衝食塩水(例えば、135~150mM NaCl)が薬学的に許容される担体として使用される。他の適切な担体としては、例えば、安定性の増強のための糖タンパク質、例えば、アルブミン、リポタンパク質、グロブリンなどを含む、水、緩衝水、0.4%食塩水、0.3%グリシンなどが挙げられる。さらなる適切な担体は、例えば、REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES, Mack Publishing Company, Philadelphia, PA, 17th ed. (1985)に記載されている。本明細書において使用する場合、「担体」は、ありとあらゆる溶媒、分散媒、ビヒクル、コーティング剤、希釈剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤、緩衝液、担体溶液、懸濁液、コロイドなどを含む。フレーズ「薬学的に許容される」は、ヒトに投与される場合にアレルギーまたは同様の有害な反応を生じさせない分子実体および組成物を指す。
【0166】
薬学的に許容される担体は、一般に、粒子形成後に添加される。したがって、粒子が形成された後に、通常の緩衝食塩水などの薬学的に許容される担体中に粒子を希釈することができる。
【0167】
薬学的製剤中の粒子の濃度は、例えば、約0.05重量%未満、通常は約2~約5重量%または少なくとも約2~約5重量%から約10~約90重量%程度まで広く変動する可能性があり、選択された特定の投与様式に従って、主として流体の体積、粘性などによって選択することができる。例えば、処置に関連する流体負荷を低下させるために濃度を高めることができる。これは、アテローム性動脈硬化症関連うっ血性心不全または重度の高血圧の患者で特に望ましい可能性がある。代わりに、刺激性脂質から構成される粒子は、投与部位での炎症を減らすために、低濃度に希釈することができる。
【0168】
本明細書に記載される薬学的組成物は、従来の周知の滅菌技法によって滅菌することができる。水溶液は使用のためにパッケージ化することができるか、または無菌条件下で濾過し、凍結乾燥することができ、凍結乾燥調製物は、投与より前に滅菌水溶液と混ぜ合わされる。組成物は、生理的条件に近づけるために必要とされる薬学的に許容される補助物質、例えば、pH調整および緩衝剤、張性調整剤など、例えば、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、および塩化カルシウムを含むことができる。さらに、粒子懸濁液は、貯蔵時のフリーラジカルおよび脂質過酸化損傷から脂質を保護する脂質保護性剤を含むことができる。アルファトコフェロールなどの親油性フリーラジカル失活剤およびフェリオキサミンなどの水溶性鉄特異的キレート剤が適切である。
【0169】
A. インビボ投与
いくつかの態様では、本明細書に記載される脂質粒子は、例えば、循環などの身体システムを介した遠位標的細胞への全身送達によって、対象に投与される。ある特定の態様では、本開示は、血清中のヌクレアーゼ分解から核酸を保護し、非免疫原性であり、サイズが小さく、反復投薬に適した、完全にカプセル化された脂質粒子を提供する。
【0170】
インビボ投与については、投与は、例えば、注射、経口投与、吸入(例えば、鼻腔内もしくは気管内)、経皮適用、または直腸内投与による、当技術分野において公知である任意の方法であってもよい。投与は、単回または分割用量によって達成することができる。薬学的組成物は、非経口的に、すなわち、関節腔内、静脈内、腹腔内、皮下、または筋肉内に投与することができる。いくつかの態様では、薬学的組成物は、ボーラス注射によって、静脈内または腹腔内に投与される(例えば、米国特許第号5,286,634号を参照されたい)。細胞内核酸送達は、Straubringer et al., Methods Enzymol., 101:512 (1983); Mannino et al., Biotechniques, 6:682 (1988); Nicolau et al., Crit. Rev. Ther. Drug Carrier Syst., 6:239 (1989);およびBehr, Acc. Chem. Res., 26:274 (1993)でも論じられている。脂質ベースの治療剤を投与するさらに他の方法は、例えば、米国特許第3,993,754号;第4,145,410号;第4,235,871号;第4,224,179号;第4,522,803号;および第4,588,578号に記載されている。脂質粒子は、疾患部位における直接注射によって、または疾患部位から遠位の部位における注射によって、投与することができる(例えば、Culver, HUMAN GENE THERAPY, MaryAnn Liebert, Inc., Publishers, New York. pp. 70-71(1994)を参照されたい)。
【0171】
本明細書に記載される組成物は、単独で、または他の適切な成分と組み合わせて、吸入(例えば、鼻腔内または気管内)によって投与されるように、エアロゾル製剤にすることができる(すなわち、これを「噴霧する」ことができる)(Brigham et al., Am. J. Sci., 298:278 (1989)を参照されたい)。エアロゾル製剤は、加圧された許容される噴射剤、例えば、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素などの中に入れることができる。
【0172】
ある特定の態様では、薬学的組成物は、鼻腔内スプレー、吸入、および/または他のエアロゾル送達ビヒクルによって送達することができる。鼻エアロゾルスプレーを介して核酸組成物を肺に直接送達するための方法は、例えば、米国特許第5,756,353号および第5,804,212号に記載されている。同じように、鼻腔内マイクロ粒子樹脂およびリゾホスファチジル-グリセロール化合物を使用する薬物の送達(米国特許第5,725,871号)も薬学分野で周知である。同様に、ポリテトラフルオロエチレン支持マトリックスの形態の経粘膜的薬物送達が米国特許第号5,780,045号に記載されている。
【0173】
例えば、関節腔内(関節内)、静脈内、筋肉内、皮内、腹腔内、および皮下経路によるなどの非経口投与に適した製剤としては、抗酸化剤、緩衝液、静菌薬、および意図された受容者の血液と製剤を等張にする溶質を含むことができる水性および非水性の等張滅菌注射溶液剤、ならびに懸濁化剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、および防腐剤を含むことができる水性および非水性の滅菌懸濁剤が挙げられる。特定の態様では、組成物は、静脈内(例えば、静脈内注入による)、筋肉内、経肺的、経口的、局所的、鼻腔内、脳内、腹腔内、膀胱内、または髄腔内に投与される。
【0174】
一般に、静脈内に投与される場合、脂質粒子製剤は、適切な薬学的担体を用いて製剤化される。多くの薬学的に許容される担体を本明細書に記載される組成物および方法で用いることができる。使用に適した製剤は、例えば、REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES, Mack Publishing Company, Philadelphia, PA, 17th ed. (1985)に見出される。例えば、水、緩衝水、0.4%食塩水、0.3%グリシンなど、様々な水性担体を使用することができ、水性担体は、安定性の増強のための糖タンパク質、例えば、アルブミン、リポタンパク質、グロブリンなどを含むことができる。一般に、通常の緩衝食塩水(135~150mM NaCl)が薬学的に許容される担体として使用されるが、他の適切な担体でも十分であろう。これらの組成物は、従来のリポソームの滅菌技法、例えば、濾過によって滅菌することができる。組成物は、生理的条件に近づけるために必要とされる薬学的に許容される補助物質、例えば、pH調整および緩衝剤、張性調整剤、加湿剤など、例えば、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、ソルビタンモノラウレート、トリエタノールアミンオレエートなどを含むことができる。これらの組成物は、上記で言及される技法を使用して滅菌することができるが、代わりに、無菌条件下で生成することができる。得られた水溶液は、使用のためにパッケージ化することができるか、または無菌条件下で濾過し、凍結乾燥することができ、凍結乾燥調製物は投与より前に滅菌水溶液と混ぜ合わされる。
【0175】
ある特定の適用では、本明細書に記載される脂質粒子は、経口投与によって対象に送達することができる。粒子は、賦形剤とともに組み入れ、摂取可能な錠剤、バッカル錠、トローチ剤、カプセル剤、丸剤、ロゼンジ剤、エリキシル剤、口腔洗浄薬、懸濁剤、口腔スプレー、シロップ剤、カシェ剤などの形態で使用することができる(例えば、米国特許第5,641,515号、第5,580,579号、および第5,792,451号を参照されたい)。これらの経口投与剤形は、結合剤、ゼラチン;賦形剤、潤滑剤、および/または着香剤も含むことができる。単位剤形がカプセル剤である場合、これは、上記の材料に加えて、液体担体を含むことができる。様々な他の材料が、コーティング剤として、またはそうでなければ、投薬単位の物理的形態を改変するために、存在可能である。当然ながら、任意の単位剤形の調製で使用される任意の材料は、使用量において、薬学的に純粋であり、実質的に無毒であるべきである。
【0176】
典型的には、これらの経口製剤は、少なくとも約0.1%の脂質粒子またはそれ以上を含むことができるが、当然ながら、粒子のパーセンテージは変化する可能性があり、好都合には、製剤全体の重量または体積の約1%もしくは約2%~約60%もしくは約70%の間またはそれ以上であり得る。当然、治療的に有用な各組成物中の粒子の量は、化合物の任意の所与の単位用量で適切な投薬量が得られると考えられる方法で、調製することができる。溶解度、バイオアベイラビリティ、生物学的半減期、投与経路、生成物の貯蔵寿命、および他の薬理学的考慮事項などの因子は、そのような薬学的製剤を調製する分野の当業者によって熟慮されると考えられ、そのため、様々な投薬量および治療的レジメンが望ましい可能性がある。
【0177】
経口投与に適した製剤は、以下からなり得る:(a)水、食塩水、またはPEG400などの希釈剤に懸濁された、核酸(例えば、mRNA)を含む有効量の脂質粒子などの、液体溶液;(b)それぞれ、核酸(例えば、mRNA)を含む所定量の脂質粒子を液体、固体、顆粒、またはゼラチンとして含む、カプセル、サシェ、または錠剤;(c)適切な液体中の懸濁液;および(d)適切な乳剤。錠剤形態は、ラクトース、ショ糖、マンニトール、ソルビトール、リン酸カルシウム、トウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、微結晶セルロース、ゼラチン、コロイド状二酸化ケイ素、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、および他の賦形剤、着色剤、フィラー、結合剤、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、防腐剤、着香剤、色素、崩壊剤、および薬学的に適合性の担体の1つまたは複数を含むことができる。ロゼンジ形態は、香料、例えば、ショ糖中に核酸(例えば、mRNA)を含む脂質粒子を含むことができ、同様に、香錠は、不活性基剤、例えば、ゼラチンおよびグリセリンまたはショ糖およびアラビアゴム乳剤、ゲルなどの中に脂質粒子を含み、脂質粒子に加えて、当技術分野において公知である担体を含む。
【0178】
それらの使用の別の例では、幅広い局所剤形中に脂質粒子を組み入れることができる。例えば、脂質粒子を含む懸濁液は、ゲル剤、油剤、乳剤、局所クリーム剤、ペースト剤、軟膏剤、ローション剤、フォーム剤、ムース剤などとして、製剤化し、投与することができる。
【0179】
本明細書に記載される脂質粒子の薬学的調製物を調製する場合、空粒子または核酸が外部表面に結合している粒子を低減または排除するために、精製された多量の粒子を使用することが好ましい。
【0180】
本明細書に記載される方法は、様々なホストで実施することができる。好ましいホストとしては、哺乳動物種、例えば、霊長類(例えば、ヒトおよびチンパンジー、ならびに他の非ヒト霊長類)、イヌ科の動物、ネコ科の動物、ウマ科の動物、ウシ属の動物、ヒツジ、ヤギ、げっ歯類(例えば、ラットおよびマウス)、ウサギ目の動物、およびブタが挙げられる。
【0181】
投与される粒子の量は、核酸(例えば、mRNA)対脂質の比、使用される特定の核酸、処置される疾患または障害、対象の年齢、体重、および状態、ならびに臨床医の判断に依存すると考えられるが、一般に、投与(例えば、注射)あたり、約0.01mg/kg~約50mg/kg体重の間、約0.1mg/kg~約5mg/kg体重の間、または約108~1010粒子であると考えられる。
【0182】
B. インビトロ投与
インビトロ適用については、核酸(例えば、mRNA)の送達は、植物起源のものであろうと動物起源のものであろうと、脊椎動物のものであろうと無脊椎動物のものであろうと、いかなる組織またはタイプのものであろうと、培養で増殖した任意の細胞に対するものであり得る。ある特定の態様では、細胞は、動物細胞、例えば哺乳動物細胞、例えばヒト細胞である。
【0183】
細胞と脂質粒子の接触は、インビトロで行われる場合、一般に、生物学的に適合性の培地中で起こる。粒子の濃度は、特定の用途に応じて広く変動する可能性があるが、一般に、約1μmol~約10mmolの間である。脂質粒子による細胞の処理は、一般に、約1~約48時間、例えば、約2~約4時間に及ぶ期間にわたって、生理的温度(約37℃)で行われる。
【0184】
いくつかの態様では、脂質粒子懸濁液は、約103~約105細胞/ml、例えば、約2×104細胞/mlの細胞密度を有する60~80%コンフルエントなプレーティングされた細胞に添加される。細胞に添加される懸濁液の濃度は、約0.01~0.2μg/ml、例えば、約0.1μg/mlであり得る。
【0185】
エンドソーム放出パラメーター(ERP)アッセイを使用して、脂質粒子の送達効率を最適化することができる。ERPアッセイは、米国特許出願公開第20030077829号に記載されている。より詳細には、ERPアッセイの目的は、エンドソーム膜の結合/取り込みまたはエンドソーム膜との融合/エンドソーム膜の不安定化に対する相対的影響に基づいて、様々な陽イオン性脂質とヘルパー脂質成分の影響を識別することである。このアッセイによって、脂質粒子の各成分が送達効率にどのように影響を及ぼすかを定量的に決定し、それによって、脂質粒子を最適化することが可能になる。通常、ERPアッセイは、レポータータンパク質(例えば、ルシフェラーゼ、βガラクトシダーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)など)の発現を測定し、ある場合には、発現プラスミドについて最適化された脂質粒子製剤は、mRNAなどの他のタイプの核酸をカプセル化するのにも適していると考えられる。ある場合には、干渉RNA(例えば、siRNA)の存在または非存在下で標的配列の転写または翻訳のダウンレギュレーションを測定するようにERPアッセイを適合させることができる。他の例では、mRNAの存在または非存在下で標的タンパク質の発現を測定するようにERPアッセイを適合させることができる。様々な脂質粒子のそれぞれに対するERPを比較することによって、最適化された系、例えば、細胞中への取り込みが最大の脂質粒子を容易に決定することができる。
【0186】
C. 脂質粒子の送達のための細胞
本明細書に記載される組成物および方法は、多種多様の細胞型をインビボおよびインビトロで処置するために使用される。適切な細胞としては、例えば、造血前駆(幹)細胞、線維芽細胞、ケラチノサイト、肝細胞、免疫細胞、内皮細胞、骨格筋および平滑筋細胞、骨芽細胞、ニューロン、静止リンパ球、最終分化細胞、周期遅延または周期停止(slow or noncycling)初代細胞、実質細胞、リンパ球系細胞、上皮細胞、骨細胞などが挙げられる。いくつかの態様では、核酸(例えば、mRNA)を含む脂質粒子は、例えば、抗原提示細胞(例えば、樹状細胞、マクロファージ、B細胞)およびT細胞(例えば、ヘルパーT細胞、細胞障害性T細胞、メモリーT細胞、調節性T細胞、ナチュラルキラーT細胞)などの免疫細胞に送達される。いくつかの態様では、核酸(例えば、siRNA)を含む脂質粒子は、例えば、肺癌細胞、結腸癌細胞、直腸癌細胞、肛門癌細胞、胆管癌細胞、小腸癌細胞、胃癌細胞、食道癌細胞、胆嚢癌細胞、肝臓癌細胞、膵臓癌細胞、虫垂癌細胞、乳癌細胞、卵巣癌細胞、子宮頸癌細胞、前立腺癌細胞、腎臓癌細胞、中枢神経系の癌細胞、膠芽腫腫瘍細胞、皮膚癌細胞、リンパ腫細胞、絨毛癌腫瘍細胞、頭頸部癌細胞、骨原性肉腫腫瘍細胞、および血液がん細胞などのがん細胞に送達される。
【0187】
核酸を含む脂質粒子のインビボ送達は、任意の細胞型の細胞を標的にするのに適する。方法および組成物は、哺乳動物、例えば、イヌ科の動物、ネコ科の動物、ウマ科の動物、ウシ属の動物、ヒツジ、ヤギ、げっ歯類(例えば、マウス、ラット、およびモルモット)、ウサギ目の動物、ブタ、ならびに霊長類(例えば、サル、チンパンジー、およびヒト)などを含めて、多種多様の脊椎動物の細胞で用いることができる。
【実施例
【0188】
本開示を具体例としてより詳細に記載する。以下の実施例は、例示目的のみに提供され、いかなる方法によっても本開示を限定することを意図するものではない。
【0189】
実施例1. ポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲートのためのジテトラデシルアミンの合成
以下に示すスキームに従って、ジテトラデシルアミン(5)を合成した。
【0190】
4-メチル-N,N-ジテトラデシルベンゼンスルホンアミド(3)の合成。K2CO3(20.18g、146.0mmol)、p-トルエンスルホンアミド(1)(5.00g、29.2mmol)および1-ブロモテトラデカン(2)(21.7ml、73.0mmol)をDMF(75ml)中で20時間加熱還流した。反応物を室温に冷却し、Et2O(100ml)で希釈し、濾過した。濾液をH2O(50ml)で洗浄し、水溶液をEt2O(100ml)で逆抽出した。合わせた有機物を乾燥させ(Na2SO4)、濾過し、真空濃縮し、自動フラッシュクロマトグラフィー(DCM/ヘキサン 40/60)によって残留物を精製して、4-メチルN,N-ジテトラデシル-p-トルエンスルホンアミド(3)(15.86g、96%)を得た。
【0191】
ジテトラデシルアミン(5)の合成。4-メチル-N,N-ジテトラデシルベンゼンスルホンアミド(3)(10g、17.7mmol)のTHF(5ml)溶液を0℃のリチウムナフタレニド(ナフタレン(4)(11.36g、88.7mmol)およびリチウム金属(0.92g、133.0mmol)をTHF(40ml)中で室温で1時間撹拌することで調製した)の溶液に添加し、反応物を室温で1時間撹拌した。MeOH(4ml)を添加し、続いてH2O(50ml)を添加し、混合物をエーテル(100ml)で抽出した。有機物を乾燥させ(Na2SO4)、濾過し、真空濃縮した。自動フラッシュクロマトグラフィー(EtOAc/Hex(50:50))によって残留物を精製して、ジテトラデシルアミン(5)(4.85g、66.7%)を得た。
【0192】
実施例2. ポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲートのための2,3-ビス(テトラデシルオキシ)プロパン-1-アミンの合成
以下のスキームに従って、2,3-ビス(テトラデシルオキシ)プロパン-1-アミン(TFA塩)(10)を合成した。
【0193】
tert-ブチル(2,3-ジヒドロキシプロピル)カルバメート(8)の合成。ジ-t-ブチルジカルボネート(7)(14.23g、65.2mmol)および3-アミノ-1,2-プロパンジオール(6)(5.4g、59.3mmol)をDCM/MeOH(1:1)中で室温で16時間撹拌した。反応物を真空濃縮して、8(11.25g、99%)を得て、これを精製しないで使用した。
【0194】
tert-ブチル(2,3-ビス(テトラデシルオキシ)プロピル)カルバメート(9)の合成。tert-ブチル(2,3-ジヒドロキシプロピル)カルバメート(8)(5g、26.2mmol)、ブロモテトラデカン(21.75g、78.5mmol)、およびTBAHS(4.44g、13.1mmol)をトルエン(20ml)中で0℃で撹拌した。NaOH(15mL、50%w/v)を添加し、二相性混合物を18時間激しく撹拌して、室温に温めた。反応物を水で希釈し、ヘキサンで抽出した。合わせた有機物を洗浄し(ブライン)、乾燥させ(MgSO4)、濾過し、真空濃縮した。粗製物質をクロマトグラフィー(10%EtOAc-ヘキサン)に供して、tert-ブチル(2,3-ビス(テトラデシルオキシ)プロピル)カルバメート(9)(定量的)を得た。
【0195】
2,3-ビス(テトラデシルオキシ)プロパン-1-アミン(TFA塩)(10)の合成。工程2で調製したtert-ブチル(2,3-ビス(テトラデシルオキシ)プロピル)カルバメート(9)をTFA/DCM(1:1)中で室温で2時間撹拌した。反応物を真空濃縮して、2,3-ビス(テトラデシルオキシ)プロパン-1-アミン(TFA塩)(10)(8.3g、定量的)を得て、これを精製しないで使用した。
【0196】
実施例3. ポリ(アルキルオキサゾリン)-脂質コンジュゲートの合成
コンジュゲート(11)のために、以下に示すようにN-アルキル化チオプロパンアミドPOZ脂質を合成した。
【0197】
試薬をDCM中で室温で16時間撹拌した。反応物を真空濃縮し、自動フラッシュクロマトグラフィー(0~25%MeOH/DCM)によって、残留物を精製した。画分を含む同様の生成物を合わせ、真空濃縮した。残留物を最小量のDCM中に溶解し、Et2Oを添加して、沈殿物を生じさせ、濾過によってこれを回収して、11(38mg、11.7%)を得た。
【0198】
適切なアミンを用いて、上記と類似の方法論を使用して、以下の脂質コンジュゲートを調製した。
【0199】
実施例4. 脂質ナノ粒子の調製および特徴づけのための一般的方法
脂質ナノ粒子(LNP)製剤
脂質溶液は、4成分:ポリマーコンジュゲート脂質、イオン化可能な陽イオン性脂質(例えば、(6Z,16Z)-12-((Z)-デカ-4-エン-1-イル)ドコサ-6,16-ジエン-11-イル5-(ジメチルアミノ)-ペンタノエート)、コレステロール、およびリン脂質(例えば、DSPC)を含む。記載されている脂質の同一性およびモル比を使用して、脂質ストックを調製して、100%エタノール中でおよそ7mg/mLの全濃度とした。ホタルルシフェラーゼ(Luc)mRNA(TriLink Biotechnologies、L-7202)またはオボアルブミン(OVA)mRNA(TriLink Biotechnologies、L-7210)をpH5の酢酸緩衝液およびヌクレアーゼ非含有水に希釈して、100mM酢酸、pH5中で目的濃度の0.366mg/mL mRNAにした。等体積の脂質溶液および核酸溶液をT-コネクターを通して400mL/分の流速で混和し、およそ4倍量のPBS、pH7.4で希釈した。製剤をSlide-A-Lyzer透析ユニット(MWCO 10,000)に入れ、10mMトリス、500mM NaCl、pH8緩衝液に対して一晩透析した。透析に続いて、VivaSpin濃縮器ユニット(MWCO 100,000)を使用しておよそ0.5mg/mLに配合物を濃縮し、5mMトリス、10%ショ糖、pH8緩衝液に対して一晩透析した。0.2μmシリンジフィルターを通して製剤を濾過し、使用するまで、これを-80℃で保存した。核酸濃度をRiboGreenアッセイによって決定した。Malvern Nano Series Zetasizerを使用して、動的光散乱測定によって、粒径(流体力学的直径)および多分散度指数(PDI)を決定した。
【0200】
静脈内投与による脂質ナノ粒子のインビボ試験(ルシフェラーゼモデル)
ホタルルシフェラーゼをカプセル化するLNP製剤を雌BALB/cマウス(6~8週齢)に対して0.5mg/kgで静脈内に注射した。注射の当日、LNPストックを濾過し、pH7.4のリン酸緩衝食塩水で必要とされる投薬濃度に希釈した。用量投与後6時間で、致死投薬量のケタミン/キシラジンで動物に麻酔をかけた。EDTAマイクロティナチューブ中に血液試料を収集し、16,000xgで4℃で5分間これを遠心分離した。サイトカイン解析を行うまで、すべての血漿試料を-80℃で保存した。肝臓試料を収集し、秤量し、液体窒素中で瞬間凍結した。ルシフェラーゼ活性を解析するまで、肝臓試料を-80℃でFastPrep(登録商標)チューブ中に保存した。
【0201】
サイトカイン解析
BD Biosciences製のペアマッチモノクローナル抗体を使用するELISAによって、炎症誘発性サイトカイン(すなわち、単球走化性タンパク質-1、MCP-1)の産生を測定した。プレートを捕捉抗体でコーティングし、2~8℃で一晩保存した。翌日、1×PBS中の10%FBSでプレートをブロッキングし、試験試料を添加した。3回洗浄した後、検出抗体を添加し、1時間インキュベートした。インキュベーションおよび洗浄後、TMB基質を添加して発色させ、硫酸で反応を止めた。OD 450/570でプレートを読み取った。
【0202】
ルシフェラーゼ活性解析
肝臓の凍結した一定部分を解凍し、FastPrep(登録商標)ホモジナイザーを使用して、1mLの1×CCLR(Cell Culture Lysis Reagent)中でホモジナイズした。ホモジネートを16,000rpmで4℃で10分間遠心分離した。20μLの上清を96ウェル白色プレートに入れ、ルシフェラーゼ試薬(Promega Luciferase Assay System)の添加に続いて、発光を測定した。ホモジナイズした試料の発光をルシフェラーゼタンパク質標準と比較することによって、ルシフェラーゼ活性を決定した。肝臓ホモジネート中の成分による、発光の任意のクエンチングを説明するために、ルシフェラーゼを未処置の動物の肝臓ホモジネートに添加し、得られた発光を測定した。クエンチ係数をすべての試料に適用して、補正されたルシフェラーゼ活性値を取得し、これを解析した組織の単位質量あたりで正規化した。
【0203】
筋肉内投与による脂質ナノ粒子のインビボ試験(オボアルブミン免疫原性モデル)
OVA mRNAをカプセル化するLNP製剤を、0日目(プライム)および21日目(ブースト)にBALB/cマウス(7~8週齢)に対して1μg用量で筋肉内に投与した。投与前ならびに7、14、21、および28日目に、EDTAマイクロティナチューブ中に血液試料を収集した。35日目に、致死投薬量のケタミン/キシラジンで動物に麻酔をかけた。EDTAマイクロティナチューブ中に血液試料を収集し、16,000xgで4℃で5分間遠心分離した。抗OVA IgG ELISAを行うまで、すべての血漿試料を-80℃で保存した。脾臓試料も最終時点で収集し、ELISpotアッセイのために、脾臓細胞を採取した。
【0204】
抗OVA IgG解析
ELISA方法を使用して、抗OVA IgG抗体の産生を測定した。プレートをオボアルブミンタンパク質でコーティングし、2~8℃で一晩保存した。翌日、PBS中の10%FBSでプレートをブロッキングし、試料を添加した。洗浄後、二次抗体を添加し、室温で2時間インキュベートした。インキュベーションに続いて、プレートを洗浄し、TMB基質を添加して、発色させた。反応を2Nの硫酸で止め、OD 450/570でプレートを読み取った。
【0205】
ELISpot解析
最終時点で、脾臓試料を動物から収集し、脾臓細胞を単離した。プレートを洗浄し、少なくとも30分間培地とインキュベートすることにより、ELISpotプレートを調製した。インキュベーションに続いて、培地を除去し、刺激を加えた。細胞を添加し、37℃で一晩インキュベートした。一晩インキュベートした後、細胞を除去し、プレートを洗浄した。検出抗体を添加し、続いて、室温で2時間インキュベートした。プレートを洗浄し、ストレプトアビジン-HRP抗体を添加した。室温で1時間インキュベートした後、プレートを洗浄し、TMB基質を添加して、発色させた。反応を2Nの硫酸で止め、OD 450/570でプレートを読み取った。
【0206】
実施例5. ポリ(2-エチル2-オキサゾリン)(PEOZ)-脂質コンジュゲートを含むLNP製剤の粒子特性
異なるアルキル鎖長およびリンカーを有する約5000DaのPEOZ脂質をLNPに製剤化し、2つのPEG-脂質対照と比較した。Luc mRNAをペイロードとして使用した。PEOZ 5000ポリマーが疎水性であるにもかかわらず、LNP中へのその組み入れによって、安定な粒子が形成された。重要なことに、PEOZ脂質の異なる化学的性質を用いて製剤化されたLNPによって、PEG2000-C-DMAおよび市販のPEG-DMG脂質を用いて調製されたものと匹敵する物理化学的特性が報告された(表1)。
【0207】
(表1)様々なPEOZ脂質を含むLNP製剤の粒子特性
%EE=カプセル化効率;PDI=多分散度
【0208】
実施例6. 静脈内マウスモデルにおけるPEOZ-脂質コンジュゲートを含むLNPの性能
静脈内投与後のルシフェラーゼマウスモデルにおける活性について、ルシフェラーゼmRNAペイロードおよびPEOZ5000脂質を担持するLNP製剤を、基準対照(PEG2000-C-DMAおよびPEG-DMG)と比較した。投与後6時間で、PEOZ脂質製剤は、肝臓で高レベルのルシフェラーゼ活性を媒介し、対照と比較して同等かまたは向上した活性が報告された(表2)。さらに、これらのPEOZ脂質製剤によって、市販のPEG-DMGと比較して、脾臓で低いルシフェラーゼ発現が報告され、非特異的(オフターゲット)活性がより低いことが示された(表3)。
【0209】
(表2)BALB/cマウス(n=4)における、PEG-コンジュゲート化またはPEOZ-コンジュゲート化脂質を含む0.5mg/kgのLNPの静脈内投与後6時間の肝臓におけるルシフェラーゼ活性
【0210】
(表3)BALB/cマウス(n=4)におけるPEG-コンジュゲート化またはPEOZ-コンジュゲート化脂質を含む0.5mg/kgのLNPの静脈内投与後6時間の脾臓におけるルシフェラーゼ活性
【0211】
これらのPEOZ製剤の免疫刺激性の潜在能力を評価するために、静脈内投与後6時間の血漿試料においてMCP-1誘導を測定した。PEOZベースのLNPは、確立されたペグ化対応物と比較して、同様かまたは低いサイトカインレベルを誘導した(表4)。
【0212】
(表4)BALB/cマウス(n=4)における、PEG-コンジュゲート化またはPEOZ-コンジュゲート化脂質を含む0.5mg/kgのルシフェラーゼmRNA-LNPの静脈内投与後6時間でのMCP-1誘導
【0213】
実施例7. 血漿におけるクリアランス速度に対するPEOZ-脂質の影響
約5000DaのPEOZ脂質を担持するLNP製剤を、静脈内注射後の血漿からのクリアランス速度について基準対照(PEG2000-C-DMA)と比較した。組成物中のイオン化可能な脂質レベルを代用物として使用して、質量分析を使用してクリアランスの速度を評価した。ポリマーコンジュゲート脂質:陽イオン性脂質:コレステロール:DPSCが1.6:54.6:32.8:10.9のLNP比で、PEOZ含有製剤(化合物11、12、13、14、および15)は、基準と比較して、注射後0.25時間で、血漿からのクリアランス速度の向上を示した(表5)。PEOZ含有LNPによって示される、血漿コンパートメント中のより短い滞留時間は、反復用量投与の際に抗体応答を緩和するのに潜在的に役立つ可能性がある。
【0214】
(表5)BALB/cマウス(n=4)における、PEG-コンジュゲート化またはPEOZ-コンジュゲート化脂質を含む0.5mg/kgのルシフェラーゼmRNA-LNPの静脈内注射後の血漿クリアランス速度。投与後15分、30分、1時間、3時間、および6時間で血液試料を収集した。
【0215】
実施例8. 粒子特性に対するPEOZ-脂質の比および構造の影響
ジアルキルC14鎖を有する約5000DaのPEOZ脂質を様々なモル比(0.5%、1.5%、および3.0%)でLNPに製剤化した。PEOZ5000ポリマーが疎水性であるにもかかわらず、LNP中へのその組み入れによって、安定な粒子が形成され、サイズは、PEOZ脂質の量に依存していた。PEOZ脂質の量が増加するにしたがって、粒径は減少した(表6)。1.5mol%の固定PEOZ脂質濃度では、PEOZ脂質の化学的性質を変動させることは、粒子特性に有意に影響しなかった(表7)。まとめると、これらの結果は、鎖長およびモル比を変動させることによって、PEOZ製剤を操作することができることを実証するものである。
【0216】
(表6)PEOZ5000-DMA脂質のタイトレーションを含むオボアルブミンmRNA-LNP製剤の粒子特性
%EE=カプセル化効率;PDI=多分散度
【0217】
(表7)PEOZ脂質を含むオボアルブミンmRNA-LNP製剤の粒子特性
%EE=カプセル化効率;PDI=多分散度
【0218】
実施例9. オボアルブミンモデルにおけるPEOZ-LNPの免疫原性に対する脂質比の影響
オボアルブミン(OVA)モデルにおいて、筋肉内(IM)投与後に抗原特異的免疫原性を誘導する能力について、様々な量のPEOZ5000脂質を含むLNP製剤を評価した。このモデルは、ワクチン設定における製剤の有効性を明らかにする。製剤をPEG-脂質基準対照と比較した。
【0219】
実施例4に記載されているプライム/ブーストレジメンにおいてLNPで動物を処置し、次いで、35日目に産生された抗OVA IgG抗体のレベルについてこの動物を評価した。0.5%PEOZを含むLNPは、基準対照と比較して同等レベルの抗OVA IgGを産生した(表8)。これらの傾向は、インターフェロンガンマ産生脾臓細胞の解析を通して引き続いて見られた(表9)。代替PEOZ-脂質構造も試験し、基準と比較して、匹敵するレベルの抗OVA IgGレベル(表10)、および同様のまたはより高いレベルのインターフェロンガンマ産生脾臓細胞(表11)をもたらした。
【0220】
これらの結果は、PEOZ-脂質を含むLNPは、抗原をコードするmRNAを送達し、これらの抗原に対してホスト免疫応答を発生させるために使用することができ、したがって、ワクチンプラットフォームに首尾よく組み入れことができることを、実証するものである。PEGは化粧品などの多くの他の生成物で見出され、報告によると、一部の集団にPEGに対する抗体を産生させる。そうした個体がLNP、例えば、コロナウイルスワクチンの形態でPEGに曝露される場合、これは、有害反応を引き起こす可能性がある(Shimabukuro 2021)。したがって、LNPのPEG脂質を代替のポリマーコンジュゲート脂質、例えばPEOZ-脂質に置き換えることができることは、有用性が高い。
【0221】
(表8)BALB/cマウス(n=4)における、0日目および21日目での1μg用量のOVA mRNA LNPの筋肉内投与後35日目の抗OVA IgGレベル
【0222】
(表9)BALB/cマウス(n=4)における、0日目および21日目での1μg用量のOVA mRNA LNPの筋肉内投与後35日目のIFN-ガンマ産生脾臓細胞
【0223】
(表10)BALB/cマウス(n=4)における、0日目および21日目での1μg用量のOVA mRNA LNPの筋肉内投与後35日目の抗OVA IgGレベル
【0224】
(表11)BALB/cマウス(n=4)における、0日目および21日目での1μg用量のOVA mRNA LNPの筋肉内投与後35日目のIFN-ガンマ産生脾臓細胞
【0225】
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【国際調査報告】