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特表2025-504751抗細菌性および再生性歯科用複合充填材を製造するための新しい支持相システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-19
(54)【発明の名称】抗細菌性および再生性歯科用複合充填材を製造するための新しい支持相システム
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/887 20200101AFI20250212BHJP
【FI】
A61K6/887
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024536375
(86)(22)【出願日】2022-12-05
(85)【翻訳文提出日】2024-07-19
(86)【国際出願番号】 TR2022051405
(87)【国際公開番号】W WO2023129020
(87)【国際公開日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】2021/021083
(32)【優先日】2021-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520224133
【氏名又は名称】イルディズ テクニク ユニヴァーシテシ
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】ハザー,アフィフェ ビンナツ
(72)【発明者】
【氏名】アイディノグル,アイス
(72)【発明者】
【氏名】サギル,カディール
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA06
4C089BA01
4C089BA06
4C089BA11
4C089BA13
4C089BC02
4C089BC12
4C089BC20
4C089BD02
4C089BD07
4C089CA10
(57)【要約】
本発明は、光硬化性および重合性の修復用アクリル歯科用複合充填材、および歯科用複合材を製造するための新規支持相システム、ならびに当該技術分野における新規アクリル歯科用複合充填材の製造に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光硬化性および重合性有機化合物、光開始剤、ならびに支持相システムを含むアクリル歯科用複合充填材であって、
・前記支持相システム内の複合充填材に再生特性を付与するナノフラワー形態を有するハイドロキシアパタイト成分と、
・前記支持相システム内の前記複合充填材に抗細菌特性を付与するための支持相システムとして、ナノフラワー形態を有するAl-Si-Sr-OFおよびAl-Sr-OFフッ化物を含む化合物と、
・前記支持相システム内のシリカ成分と、
・有機化合物としてのBisGMAとTEGDMA化合物との混合物と、
・光開始剤として、CQ、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、1-フェニル-1,2-プロパンジオン、4-EDMABからなる群のうち少なくとも1つと、を含むことを特徴とする、複合充填材。
【請求項2】
前記BisGMAが、1~5重量%の範囲にある、請求項1に記載の複合充填材。
【請求項3】
前記TEGDMAが、1~5重量%の範囲にあることを特徴とする、請求項1に記載の複合充填材。
【請求項4】
前記CQが、0.1~0.5重量%の範囲にあることを特徴とする、請求項1に記載の複合充填材。
【請求項5】
前記ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシドが、0.1~0.5重量%の範囲にあることを特徴とする、請求項1に記載の複合充填材。
【請求項6】
前記1-フェニル-1,2-プロパンジオンが、0.1~0.5重量%の範囲にあることを特徴とする、請求項1に記載の複合充填材。
【請求項7】
前記4-EDMABが、0.5~1.0重量%の範囲にあることを特徴とする、請求項1に記載の複合充填材。
【請求項8】
前記支持相システムの量が、50重量%~90重量%の範囲にあることを特徴とする、請求項1に記載の複合充填材。
【請求項9】
前記有機化合物および前記支持相システムに加えて、顔料をさらに含むことを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の複合充填材。
【請求項10】
前記顔料が、0.01~1重量%であることを特徴とする、請求項11に記載の複合充填材。
【請求項11】
前記顔料が、デュラナットイエロー酸化鉄(Pigment Yellow 42&43 CI77492)、デュラナットレッド酸化鉄(Pigment Red 101 CI77491)、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、1-フェニル-1,2-プロパンジオン98%、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、デュラナットブラウン酸化鉄(Pigment Brown)、デュラナットブラック酸化鉄(Pigment Black11 CI77499)、酸化鉄(Fe O -赤)、水酸化鉄(FeOOH-黄)、TiO 、E171二酸化チタン、Pigment White 6 CI77891、またはそれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項9~10のいずれか一項に記載の複合充填材。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の光硬化性および重合性の抗細菌性修復用アクリル歯科用複合充填材を製造する方法であって、以下のプロセスステップ:
i.1重量%~5重量%のBisGMAを超音波水浴中、一定温度で撹拌させることと、
ii.前記複合構造の前記有機樹脂部分が、プロセスステップi)で得られた前記混合物にTEGDMAを1重量%~5重量%の範囲で添加することによって調製されることと、
iii.0.05重量%~0.2重量%の範囲のカンファーキノンおよび0.05重量%~0.2重量%の範囲のジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド化合物を光開始剤として、および0.5~1重量%の範囲の4-EDMAB化合物を活性化剤としてプロセスステップii)で得られた有機樹脂混合物に添加し、前記混合物を10分間加熱することと、
iv.プロセスステップiii)で得られた前記有機樹脂混合物に対する重量比50~90重量%の前記支持相システムおよび前記複合充填材は、均質な混合物が得られるまで、前記超音波水浴中でまたは高速ミキサーによる混合プロセスの結果として得られることであって、
前記支持相システムが、ナノフラワー形態を有する前記ハイドロキシアパタイト化合物、ナノフラワー形態を有する前記Al-Si-Sr-OF化合物、ナノフラワー形態を有するAl-Sr-OF化合物、および前記シリカ化合物を含み、
v.プロセスステップiv)で得られた前記複合充填材を、室温に戻すことによって、スパチュラでテフロン(登録商標)型に入れることと、
vi.前記硬化プロセスが、青色LED光デバイスを使用して適用されることと、を含むことを特徴とする、方法。
【請求項13】
請求項12に記載のアクリル歯科用複合充填材を製造する方法であって、プロセスステップi)において、前記混合ステップが40℃で10分間行われることを特徴とする、方法。
【請求項14】
請求項12~13のいずれか一項に記載のアクリル歯科用複合充填材を製造する方法であって、前記支持相システムが、プロセスステップiv)において、70%の比率で添加されることを特徴とする、方法。
【請求項15】
請求項12~14のいずれか一項に記載のアクリル歯科用複合充填材を製造する方法であって、前記混合ステップが、プロセスステップiii)において3時間行われることを特徴とする、方法。
【請求項16】
請求項12~15のいずれか一項に記載のアクリル歯科用複合充填材を製造する方法であって、前記混合ステップが、プロセスステップiv)において、1日行われることを特徴とする、方法。
【請求項17】
請求項12~16のいずれか一項に記載のアクリル歯科用複合充填材を製造方法であって、前記青色LED光デバイスによる処理プロセスが、プロセスステップvi)において20秒間行われることを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性および重合性の修復用アクリル歯科用複合充填材、および歯科用複合材を製造するための新規支持相システム、ならびに当該技術分野における新規アクリル歯科用複合充填材の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂ベースの複合材料(RBC)は、1958年にBowenによって初めて報告された。一方、樹脂ベースの複合材料の商業利用は、1962年に本発明者の主題「a vinyl-silane treated fused silica and binder」という特許によって可能になった。化学的に硬化させたRBCの概念は、1970年に歯科市場に導入された後に初めて概念化された。一方、大規模な修復において研磨剤を使用せずに行われる適用は限られているが、グレードIおよびグレードIIの修復では、多くの場合、これらの材料が好まれる。
【0003】
1974年にDartが名称「A method of repairing teeth using a composition which was curable by visible light」という特許を取得し、1980年代に「トータルエッチ」接着剤が開発されたことで、グレードIおよびグレードIIの修復における光硬化型RBCの臨床使用がサポートされ、これらの材料への道が開かれた。
【0004】
近年、審美歯科への期待が高まっているため、審美的なニーズをもたらす高度な物理的特性および機械的特性を備えた臨床的に長持ちする樹脂複合材の開発が、直接修復に使用するために不可欠となっている。この分野における最も重要な開発のうちの1つは、ナノ結晶と組み合わせることによって、従来の樹脂の構造にナノ構造粒子を使用することである。
【0005】
現存する樹脂モノマーの歴史は、ドイツの化学者J.Redtenbacherによる「アクリル酸」と呼ばれる新しい酸の発見に基づく。1900年代には、メタクリル酸および多くのエステル誘導体の合成に加えて、重合技術によってメチルメタクリレートポリマーも製造された。1930年代後半、ポリメチルメタクリレートは、義歯床樹脂として初めて歯科分野に導入され、数年後には、間接充填材として使用されるようになった。第二次世界大戦中にドイツで過酸化ベンゾイル-第三級アミン酸化還元開始剤-促進剤システムが発見され、室温でのメチルメタクリレートの重合を行うことが可能になり、したがって、これらのポリマー構造を直接充填材料として使用できるようになった。一方、これらの材料は、必要な臨床上の期待を満たすことができなかった。
【0006】
メチルメタクリレート樹脂の不十分な特性を観察した米国の歯科医R.L.Bowenは、歯科充填材に使用するための他の合成樹脂も開発した。この文脈において、R.L.Bowenは、室温で重合できるエポキシ樹脂に関する研究を行った。エポキシ樹脂は、口腔内で優れた審美特性を呈するが、硬化段階が遅いため、充填材として直接使用することはできない。
【0007】
エポキシ樹脂で遭遇した問題に応じて、Bowenは、1956年に新しいモノマーシステム、2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシプロポキシ)フェニル]プロパン-BisGMA構造に関する研究を行った。このモノマーシステムは、高分子量、化学構造、低揮発性、低重合収縮、および急速硬化特性により、メチルメタクリレートシステムに比べて非常に優れていることが見出されている。
【0008】
BisGMAは、市販の歯科用樹脂複合材に広く使用されていることが判明している。一方、モノマーの色安定性は不十分であり、粘度が高く、蒸留および結晶化などの方法によって精製することができなかった。この問題を防ぐために、Bowenは、室温で共晶形成を呈し、液体である新しいモノマーシステムである異性体結晶性ジメタクリレートに関する研究を行っていた。この文脈では、フタル酸(P)、イソフタル酸(I)、およびテレフタル酸(T)の3つの芳香族ジエステルから、ビス(2-メタクリロキシエチル)-P/I/Tエステルモノマーを合成し、再結晶法によって精製した。これらのモノマーから製造された複合材の機械的特性は、BisGMAと同等であり、重合収縮値は、期待される特性を満たすと判定した。一方、これらのモノマーシステムは、in vivoにおいて期待される色安定性を提供できなかった。
【0009】
ジメタクリレート樹脂は、極性構造に応じて、口腔環境中の水分を吸着し、吸湿膨張を呈する傾向がある。この膨張は、いくつかの利点を有する、長期的には、機械的強度および耐摩耗性の低下など、様々な欠点を引き起こす。このため、樹脂の保水能力を最小限に抑えるために、BisGMA鎖中のヒドロキシル基を除去することによって得られる疎水性モノマーシステムが開発された。しかし、これらのシステムでは、所望の機械的特性を満たすことができなかった。
【0010】
疎水性モノマーの期待特性が満たされなかったため、表面エネルギーが低く、疎水特性が高いフルオロカーボン含有ポリマーを開発するための様々な研究が行われた。この文脈では、ポリフルオロモノメタクリレートおよびオクタフルオロペンチルメタクリレートモノマーシステムが樹脂複合材に使用された。これらの複合構造は、水に対して期待される疎水性を提供するが、十分な物理的特性および機械的特性を提供しておらず、かなり高い重合収縮を呈する。
【0011】
複合樹脂に使用される別のモノマーシステムであるウレタンジメタクリレート(UDM)は、最初にヒドロキシアルキルメタクリレートおよびジイソシアネートから合成された。このモノマーは、BisGMAと同様の分子量を有するが、より低い粘度値を有する。UDMモノマーを使用して製造された複合システムのモノマー変換率は、BisGMAシステムよりも高いため、生体適合性も確実に高いものとなる。これらのシステムは、その経済性に応じて、市販の樹脂複合材におけるBisGMAモノマーの代替品として使用される。
【0012】
重合収縮は、複合樹脂における最も一般的な問題である。BisGMAベースのポリマーのおおよその体積収縮率は、約5%であるが、この値は、支持相システムの添加量を増加させることによって減少させ得る。重合収縮は、複合材の使用期間に影響を与える重要なパラメータのうちの1つであるため、非収縮性化合物および開環重合法による重合二環式化合物について様々な研究が行われてきた。Baileyは、スピロオルトカーボネート、スピロオルトカーボネート、二環式ケトラクトン、およびトリオキサビシクロオクタンを含む様々な二環式モノマーおよび不飽和ジセテル(dicetel)が、収縮および/または膨張を伴わずに、二重環重合を呈すると述べた。一方、反応終了時には、ポリマー構造に付加されないモノマーが環境中に多数存在していることが判明した。
【0013】
有機樹脂構造の開発後、1994年に「コンポマー」として知られるポリ酸改質複合材が製造された。これらの複合材料は、カルシウム-アルミニウム-フルオロケイ酸ガラスなどの支持相システムをポリマー樹脂に埋め込むことによって得られる。コンポマーは、従来の複合材の審美特性およびグラスアイオノマーセメントのフッ化物放出特性および接着特性を組み合わせた歯科材料である。対照的に、コンポマーは、グラスアイオノマーセメントから2つの方法で分離される:第1に、ガラス粒子が部分的にシラン化されて、樹脂との結合が可能になる。第2に、モノマーが光によって活性化されて、ラジカル重合反応が起こり、その結果としてポリマー構造が形成される。
【0014】
1984年に、Schmidtは、初めて「オルモシル(ormosil)(有機修飾ケイ酸塩)」、その後に「オルモセル(ormocer)(有機修飾セラミックス)」と呼ばれる有機-無機ポリマーハイブリッド構造を合成した。オルモセルでは、有機化合物および無機化合物がナノスケール、すなわち分子スケールで結合する。このため、これらの材料は、構造内に有機成分および無機成分の特性を有するにもかかわらず、その原因が未だ理解されていない固有の特徴を呈する[9]。オルモセルは、1998年に歯科分野で使用が開始され、特に近年では、修復材料用途での商業利用が見出されている。
【0015】
近年の歯科用市販材料における技術開発のうちの1つに、シロランベース有機樹脂モノマーの使用がある。シロランモノマーは、その構造を構成するシロキサン分子およびオキシラン分子から命名されている。3M ESPE内で重合収縮を減少させ、適切な機械的強度を維持する複合材料を得るために開発されたシロランモノマーは、メタクリレートベースのモノマーの代替品になることが予測されており、所望の臨床上の期待に応えるか否かに応じて、短期間での商業用途が見出され得る。
【0016】
重合収縮を減少させることに加えて、モノマーシステムに導入することが望まれるもう一つの特徴は、抗細菌効果である。この文脈では、フッ化物放出化合物を構造に加える代わりに、抗細菌特性を呈するモノマーが製造された。この文脈において、最も有望なモノマーは、抗細菌剤の臭化ドデシルピリジニウムとメタクリレート基との反応によって製造されるメタクリリルドデシルピリジニウム臭化物(MDPB)である。様々な研究により、従来の歯科用モノマーとメタクリルドデシルピリジニウム(MDP)の共重合の結果として製造された複合システムは、表面上の細菌形成に対して阻害効果を有することが判明している。一方、現在商業的に製造されている複合システムでは、抗細菌効果は、そのようなモノマーシステムを介して提供されるのではなく、フッ化物を放出する支持相粒子を通じて実現される。
【0017】
1960年代には、最初の複合樹脂の構造に、モノマー、シラン処理された支持相、および開始剤という3つの基本材料が使用された。1963年にBowenが使用した支持相は、平均サイズが8~12μm(8000~12000nm)の粉砕された石英粒子からなる。審美修復において、マクロフィリック(macrophilic)複合材が制限されているため(表面研磨の問題など)、1970年代にミニフィル複合材が開発された。発熱法で製造された支持相システムは、複合材に最大55%添加することが可能になることによって、研磨能力が向上したが機械的強度が顕著に低下した。
【0018】
1980年および1990年にのみ、支持相システムを混合物としてのみ試験することができた。600~2,000nmの粒径を有するハイブリッド支持相システムを含むこれらの修復材料は、ハイブリッド、マイクロハイブリッド、および凝縮(ウィスカー構造)複合材として商品化されている。これらの製品では、機械的強度が顕著に上昇したが、研磨性は、依然として制限されている。これらの製品では、最大添加率は、70~77重量%に達した。しかしながら、従来の複合材の粒径の値は、歯の自然な構造におけるハイドロキシアパタイト結晶、象牙質細管、およびエナメル質小体との十分な調和をもたらすことができなかった。このため、マクロレベルの修復材料とナノレベル(1~10nm)の歯の構造との間に必要な接着性を提供する可能性を得ることができなかった。
【0019】
粉砕法では、100nm未満の支持相を製造することは不可能であるため、支持相の製造の使用、制御された結晶成長、構造およびサイズの点での最終製品の均質性などの特徴を提供することによるナノテクノロジー手法は、この分野における革新的な技術となっている。今世紀初頭、Filtek Supreme(3MESPE,St.Paul,USA)は、手術歯科におけるナノテクノロジーの用途の商業的転換点となっている。この文脈において、製造される複合樹脂には、5~20nmの主粒径を有する集塊となった(凝集した)ジルコニア/シリカクラスターと、集塊のない20nmの粒径を有するシリカベースの支持相システムが78.5%含まれている。
【0020】
近年では、マイクロハイブリッド複合材およびナノ親和性複合材を含む複合システムが商品化されている。この新しい組成により、支持相内容物のより大きい粒子とより小さい粒子との間に、充填剤空洞が形成されるため、支持相システムの添加率を、最大87重量%増加させることができた。
【0021】
複合材の重合に使用される硬化技術も、支持相およびモノマーシステムの開発に応じて進化してきた。前述のように、歯科で使用された最初の複合充填材は、室温での酸化還元反応によって重合させた。2つの別々の材料としてパッケージ化されたこれらの生成物の重合反応は、生成物の混合から開始して、適切に重合を完了するまでに8分という長時間を要した。
【0022】
重合期間の長さに応じて、光重合性複合システム(Nuva;Dentsplay/Caulk)が1970年代後半に開発された。このような重合法は、製品を置いた後に迅速に硬化し、所望の輪郭を作ることができるという利点を歯科医に提供した。これらのシステムでは、最初に波長354nmの石英ランプをUV光源として使用して、フリーラジカルの形成を通じて、重合反応を進行させる。このシステムは、当初は有利であったが、その後の期間に集中的に使用した場合には、重合が完全に実現されない、光源の枯渇に非常に急速に遭遇するなどの様々な問題があった。このため、その後の期間では、光重合には、紫外線の代わりに400~500nmの波長範囲の可視光エネルギーの適用が開始された。可視光システムでは、石英-タングステン-ハロゲン光源が最初に使用された。これらのシステムで最も一般的に使用される光開始剤システムは、カンファーキノンである。従来の石英・タングステン・ハロゲン光源を使用する2mm厚の修復物の重合時間は、約40~60秒を要する。これらのシステムは、自己硬化システムに比較して重合にとって有利であるが、複合材表面上の光エネルギーは、下層領域よりも強く、光は、低い領域を透過し、より低い強度になるため、新しい方法の探索が続けられている。
【0023】
歯科材料の光重合に必要なエネルギー帯域範囲で高い光強度を提供するレーザー技術の開発により、歯科用途も改善されている。波長448nmで高エネルギー出力を提供する「アルゴンレーザー」は、市販の歯科用修復材料において急速重合などの様々な利点をもたらしている。
【0024】
重合時間を短縮するために開発されたもう一つのシステムは、「プラズマアークユニット」である。この文脈では、キセノン光源の使用によって提供されるショートアークシステムは、プラズマアーク光源と呼ばれる。このユニットは、2つのトンネル間に高エネルギー電位を適用することによって生成されるスパークおよび流体ガスシステムからなる。このシステムは、400~500nmの波長で動作し、重合は、1秒未満で行われる。一方、一部の研究者らは、重合が非常に短時間で起こるため、最終製品の特徴が所望の品質にならないことを示唆している。
【0025】
石英-タングステン-ハロゲンランプを市場に残すために、製造業者は、プラズマアークシステムと同様の「高エネルギー」出力および短い適用時間をもたらすことによって、既存のシステムを開発した。一方で、急速硬化条件(fast curing conditions)の開発により、重合収縮が懸念されていた。
【0026】
発光ダイオード(LED)技術で見られる開発は、歯科業界において、これらの光源を使用する上で不可欠なものとなっている。青色LED光源の吸収範囲は、歯科用光開始剤システムの波長範囲に対応する。この光源の主な利点としては、携帯性、メンテナンス要件の最小化、長寿命、およびフォトスターターの活性化に必要な波長でのみの吸収などが挙げられる。特にセメント技術で使用されるの別の硬化方法は、デュアルキュア法である。化学硬化法では、環境中に残留する過剰の開始剤を環境から除去し、生成物が完全に安定するまで長時間待機する必要があるため、光硬化法によってこの問題を解決しようと試みられてきた。一方、光硬化では、深部まで光が十分に届かないため、完全な重合は達成できない。これらの問題を防ぐために、生成物に化学システムおよび光開始剤システムの両方を使用することによって、デュアルキュア樹脂セメントシステムが開発された。
【0027】
複合材修復において最も重要なケースのうちの1つは、モノマー変換率である。重合を達成する最も簡易な方法のうちの1つは、熱を添加することである。熱により、モノマーの粘度が低下し、フリーラジカルがモノマー内によりよく拡散するようになり、モノマー変換率が高くなることが観察される。この原理に基づいて、光開始剤複合システム用の「後硬化加熱」法が開発された。この方法では、最初に複合材を従来の光源で硬化させて、光重合させ、次に熱を添加する。この方法は、複合充填材よりもグラスアイオノマーシステムにおいて好ましい。
【0028】
メチルメタクリレート樹脂組成物から開始した樹脂ベースの複合修復物は、有機樹脂、無機相、および硬化技術の面で発展している。一方で、樹脂ベースの複合充填材は、天然歯の構造を模倣できる構造を持たず、臨床上必要な期待を満たすことができるほど十分な特徴を有しない。そのため、臨床上の期待として、複合充填材の特性の開発に関する研究が、ますます加速的に継続している。
【0029】
2014年に、Martin et al.は、モノマー変換率が低いおよび体積収縮率が高いなどの問題を引き起こすBisGMAベースの複合材の代替となり得るウレタンマルチメタクリレートベースのモノマーシステムの合成に関する研究を実施した。この文脈では、研究者らは、メタクリロイルオキシプロピルフェニルメタン(BMPM)およびウレタンメタクリロイルオキシエチル(UME)初期モノマーを使用してウレタンマルチメタクリレートモノマーを製造した。このモノマーシステムにシリカ支持相粒子を添加することによって、製造した複合材は、従来の複合材に比較して、低い重合収縮、および高い曲げ強度を示し、複合材の物理的特性、化学的特性、および機械的特性が、一定のバランスを有することを明らかにした。
【0030】
Liu et al.は、二次う蝕の形成を防ぐために歯科用複合材に使用されるAgナノ結晶を有機樹脂に均一に分散させる問題に注目し、これらを有機剤で改質することによって、複合システムに銀粒子を添加した。この文脈において、Agは、ナノ粒子をオレイン酸でコーティングして、歯科用樹脂複合材の機械的特性および抗細菌特性を調べた。研究者らは、改質銀ナノ粒子は、未改質粒子と比較して、曲げ強度、弾性率、および圧縮強度などの複合材の機械的特性および抗細菌特性を顕著に改善することを明らかにした。
【0031】
He et al.は、歯科用樹脂複合材に使用するための抗細菌性および放射線不透過性のジメタクリレートモノマーの合成に関する研究を行った。この文脈において、研究者らは、N,N-ビス[2-(3-(メタクリロイルオキシ)プロパンアミド)エチル]-N-メチルドデシルアンモニウムヨウ化物(QADMAI-12)、N,N-ビス[2-(3-(メタクリロイルオキシ)プロパンアミド)エチル]-N-メチルヘキサデシルアンモニウムヨウ化物(QADMAI-16)、およびN,N-ビス[2-(3-(メタクリロイルオキシ)プロパンアミド)エチル]-N-メチルオクタデスエチルアンモニウムヨウ化物(QADMAI-18)などの第三級アンモニウムジメタクリレート化合物を合成した。研究者らは、製造された複合材のモノマー変換率が従来の複合材と比較して、優れているのみでなく、抗細菌性および放射線不透過性も優れていることを明らかにした。一方で、複合材の曲げ強さおよび弾性率の値は、従来の複合材よりも低いことが観察された。
【0032】
Liu et al.は、光硬化性抗細菌性歯科用樹脂複合材に関する研究を実施した。Liu et al.は、ポリ(BisGMA)グラフトシラン化ウィスカーハイドロキシアパタイト(PGSHW)とシラン化シリカ(s-SiO)ナノ粒子とを組み合わせることによって製造した支持相システムを、ビスフェノールAグリシジルメタクリレート(BisGMA)/トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)ベースの歯科用樹脂に添加した。研究者らは、製造したPGSHW/s-SiOハイブリッド支持相システムを含む複合材は、ハイドロキシアパタイトナノ粒子を含む複合材と比較して、曲げ強度、弾性率、圧縮強度、および靭性、およびモノマー変換率の値が顕著に改善されたことを明らかにした。さらに、彼らは、in vitro生体活性試験によって製造された複合材がアパタイトを形成できることを示した。
【0033】
Wu et al.は、抗細菌機能を提供するジメチルアミノヘキサドデシルメタクリレート(DMAHDM)と再石灰化のためのナノサイズの非晶質リン酸カルシウム(NACP)を含む自己修復性複合材を開発し、複合修復物において発生する亀裂および二次う蝕などの問題の解決策を見い出した。研究の結果、この文献において初めて製造されたこの複合構造は、亀裂の修復、抗細菌効果、および亀裂形成後の再石灰化の能力を有することを記述した。
【0034】
Wu et al.,と同様に、Chan et al.も抗微生物効果を有する複合システムに関する研究を実施した。彼らは、ナノサイズの非晶質リン酸カルシウムセラミックおよびジメチルアミノドデシルメタクリレート(DMADDM)モノマー構造を、従来の複合材の有機樹脂システムに添加した。これらの研究の結果、細菌の成長の結果としてのpHの低下と関連して、CaイオンおよびPイオンの放出が増加し、DMADDMモノマーが抗微生物効果を示すことによって、細菌の成長を阻害することが判明し、これにより、これらの材料を複合材中の支持相システムとして使用することが適切であり得ることが示唆された。
【0035】
Chan et al.,と同様に、Zhang et al.は、抗微生物効果を有するジメチルアミノドデシルメタクリレート(DMADDM)、非晶質リン酸カルシウムナノ粒子、および銀ナノ粒子(NAg)を支持相システムとして使用し、他の複合材と比較して、抗微生物効果がより長いことを明らかにした。
【0036】
Zhou et al.は、新しい抗微生物モノマーシステムを開発し、このシステムに非晶質リン酸カルシウムナノ粒子を添加して、複合構造上に観察されるバイオフィルムの形成およびそれに伴う二次う蝕の発生を防いだ。抗微生物モノマーとして、ChanおよびZhangの研究と同様に、6つの炭素鎖を有するジメチルアミノヘキサンメタクリレート(DMAHM)モノマーを使用して、12の炭素鎖を有するジメチルアミノドデシルメタクリレート(DMADDM)モノマーを合成し、この構造の支持相として、スプレードライヤー技術で製造された非晶質リン酸カルシウムナノ粒子(nACP)を添加した。これらの研究の結果、DMADDMモノマーは、DMAHMモノマーと比較して、抗微生物効果が高いことを示されたことを明らかにした。研究者らは、DMADDM-NACPナノ複合材は、第三級アンモニウムジメタクリレートを使用したシステムと比較して、同様の強度値を有し、複合材上のバイオフィルム形成はわずかに5%減少したことを明らかにした。これらの所見を考慮して、研究者らは、モノマーの炭素鎖の長さが抗菌活性に非常に効果的であったことを示唆した。
【0037】
Jan et al.は、歯科修復における最も一般的な問題の1つである重合収縮に注目し、ジメタクリレートモノマーをジイソシアネート側基で修飾することによって、複合構造の重合収縮を減少させ、硬度値を改善することを目的とした。研究の結果、ジイソシアネート側基を使用することにより、鎖長に応じて重合収縮を減少させ、複合材の表面硬度を上昇させることができることが判明した。
【0038】
Khan et al.は、充填材と歯の界面との結合を改善し、フッ化物の放出をもたらすための研究を行った。この文脈では、ゾルゲル法によって製造されたナノフルオロアパタイト(nFA)粒子が、ジイソシアネート側鎖を介してウレタンモノマー構造からなる有機樹脂に結合された。研究者らは、製造された複合材が、従来の複合材と比較して、歯の構造に対して優れた接着性を示しており、長期的にはフッ化物が放出されることを明らかにし、この複合材構造を充填材として使用できる可能性を示唆した。
【0039】
Liu et al.は、シリカナノ粒子を含むBisGMA/TEGDMA有機樹脂構造を含む複合材と含まない複合材に、ウニに類似している形態を有するシラン化ハイドロキシアパタイト(DK-sHA)粒子を添加することによって、複合材の形態、添加、および機械的特性を調べた。彼らは、シリカ非含有複合構造に、DK-sHA支持相を、5重量%および10重量%添加することによって、複合材の機械的特性を改善できること、および複合材の弾性率および微小硬度の値は、20%~30%の添加レベルで増加するが、強度は、それ以上増加しないことを明らかにした。彼らは、DK-sHAが樹脂に埋め込まれ、シラン化非晶質ハイドロキシアパタイトおよびウィスカーハイドロキシアパタイトと比較して、複合材中に均一に分散していることを明らかにした。シリカ粒子を含む複合システムに複合材を添加した場合、複合材の強度および弾性率の値が顕著に改善され得ることが明らかになった。
【0040】
Taubock et al.は、歯科用樹脂に添加したアルカリ性生体活性ガラスナノ粒子(SiO-NaO-CaO-P-Bi)が複合材の特性に及ぼす影響を調べた。研究者らは、20%を添加しても、微小硬度に対する影響を有しない、モノマー変換率を顕著に上昇させることを明らかにした。
【0041】
Hojati et al.は、歯科修復材料の抗微生物効果を改善するために複合材料にZnOナノ粒子を添加し、複合材のストレプトコッカスミュータンスに対する抗微生物効果と共に、複合材料の物理的特性および機械的特性を評価した。彼らは、ZnOナノ粒子の添加を増加させたときに、細菌の発達が顕著に減少し、曲げ強さ、圧縮弾性率、およびモノマー変換値は、従来の複合システムと比較して、変化しないことを明らかにした。
【0042】
Jan et al.は、Bis-GMAモノマーを改変させ、このモノマーシステムにトルエン2,4-ジイソシアネート(TDI)および1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)官能側基を追加して、歯科用複合材の重合収縮問題の解決策を見出した。彼らは、高官能性側基を含み、TDIにより改変された樹脂が、HDIにより改変された樹脂よりも低い細胞傷害性効果を示すことを明らかにした。さらに、TDIで改変された樹脂は、構造内の毒性樹脂モノマーが圧縮されているため、BisGMAモノマーと比較して、少ない毒性の影響を引き起こすことを示唆した。
【0043】
歯は、審美的外観、発音、および消化など、多くのシステムに関与する器官である。歯の疾患は、個体の生活の質に直接影響を与える問題と説明されている。歯に生じる健康問題、特に虫歯は、生活機能の遂行に負の影響を及ぼすのみでなく、個体および国の経済にも影響を及ぼす可能性がある。虫歯は、過去から現在に至るまで、歯科および口腔環境において最も一般的な疾患のうちの1つである。世界保健機関のデータによれば、虫歯は、風邪に次いで、世界中で最も一般的な非感染性疾患と説明されている。虫歯の治療では、劣化した組織を構造から除去し、噛むおよび咀嚼するなどの歯の機能を果たせ得る充填材で置き換える。過去から現在まで、アマルガム、グラスアイオノマー、および複合材など様々な充填材が使われてきたが、これらの材料でみられる最も大きな問題は、二次う蝕による複合充填材と歯の接合部の劣化である。このため、二次う蝕の予防を可能にする複合材を製造することは、最も研究されている課題の1つである。AlF、Ag、MgO、ZnO、クロルヘキシジン(CHX)、MDPB、この目的で使用されるガラスセラミックなどの様々な構造で強化された複合材の放出が多く、添加率が多い場合は、複合材の機械的特性を低下させる。さらに、歯に発生した二次的な虫歯が進行し得るため、介入が必要になる。ハイドロキシアパタイトを用いて様々な研究が行われているが、十分な機械的特性がもたらされ得ないため、タイプ1およびタイプ2の修復物での使用に好適である再生および抗細菌性の市販材料はない。
【0044】
その結果、歯科充填材の製造において、重合収縮および二次う蝕形成などの問題を最小限に抑えるための技術革新が、当該技術分野にもたらされると予測される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0045】
本発明は、当該技術分野における既存の欠点を排除するため、かつ当該技術分野にさらなる技術的利点および解決策を提供するために、光硬化性および重合性の修復用アクリル歯科用複合充填材および歯科用複合充填材を製造するための新規支持相システムに関する。
【0046】
本発明の主な目的は、重合収縮を減少させることにより、エッジ適合性が改善されたアクリル歯科用複合充填材を提供することである。
【0047】
本発明の別の主な目的は、改善された抗細菌性および生体活性特性を有するアクリル歯科用複合充填材を提供することである。
【0048】
別の態様では、本発明は、患者における二次う蝕の形成を最小限に抑えるアクリル歯科用複合充填材を提供することである。
【0049】
本発明は、一態様では、改善された再生特性を有するアクリル歯科用複合充填材を提供することを目的とする。
【発明を実施するための形態】
【0050】
この詳細な説明では、本発明の主題は、光硬化性かつ重合性の修復用アクリル歯科用複合充填材を製造するための新しい支持相システムおよび歯科用複合充填材に関し、主題をより良く理解するためのみに、いかなる制限効果も有しない実施例を用いて説明される。
【0051】
本発明は、当該技術分野について記載されたこれらすべての利点を提供する歯科用充填材に関する。歯科用充填材は、複合材料である。歯科用充填材として使用できる複合充填材は、充填材内に少なくとも1つの有機成分を含むマトリックスと、最終製品に抗細菌性、再生性、および生体活性特性を提供する成分を含む支持相システムと、を含む。
【0052】
本発明のアクリル歯科用複合充填材内の支持相システムは、最終製品に抗細菌特性を提供し、また、高い機械的特性を有する成分も含む。
【0053】
本発明のアクリル歯科用複合充填材は、生体模倣ハイドロキシアパタイト、Al-Sr-OF、およびAl-Si-Sr-OF化合物、ならびに支持相としてシリカ成分を含む。本発明の支持相システムに含まれる成分は、現在の技術とは異なり、ナノフラワー形態を有する。ナノフラワー形態を有する成分から得られる支持相システムは、高い表面積/体積特性を有する。さらに、支持相システムは、これらの特性を有する成分が存在することにより、高い表面反応性を有する。最終的に、このように開発された支持相システムにより、得られるアクリル歯科用複合充填材の性能が、確実に、非常に高いレベルまで向上する。
【0054】
本発明の支持相システムにより、ナノフラワー形態を有するAl-Sr-OFおよびAl-Si-Sr-OF成分により、高い抗細菌性を有するアクリル歯科用複合充填材を得ることが可能になる。これらの成分は、含まれるフッ化物により、患者に見ることができる二次う蝕の形成を防ぐ。
【0055】
本発明の支持相システムにより、ナノフラワー形態を有する生体模倣ハイドロキシアパタイト成分により、高い生体適合性および再生特性を有するアクリル歯科用複合充填材を得ることが可能になる。前述の特性に加えて、生体模倣ハイドロキシアパタイト成分は、最終製品であるアクリル複合充填材の曲げ強さ、圧縮強度、硬度、硬化深度、および重合収縮の特性の改善にも寄与する。
【0056】
本発明において、発明者らは、ナノフラワー形態における支持相内の各成分を製造するための方法を提供する。
【0057】
本発明の支持相システムは、歯科用複合充填材中、50重量%~90重量%の範囲にある。
【0058】
発明者は、支持相システム内で生体模倣ハイドロキシアパタイト成分を製造するために、3つの異なる方法を使用することができる。これらの方法として、マイクロ波照射、超音波化学、および水熱合成が用いられる。この見出しの下では、上記の製造方法によるナノフラワー形態のハイドロキシアパタイト成分の製造について詳細に説明する。
【0059】
ナノフラワー形態におけるハイドロキシアパタイト化合物の合成
(NHHPOおよびCa(NO.4HO溶液は、ハイドロキシアパタイト化合物の製造のための原料として使用される。さらに、当該技術分野で知られているように、組成物を有する合成体液が使用される。したがって、ナノフラワーの形態では、ハイドロキシアパタイト成分は、最初に以下のプロセスステップで構成される。
i.0.05~0.15Mの範囲のCa(NO.4HOと0.1M EDTAとの混合物50mlを、0.03~0.08Mの範囲の(NHHPO溶液50mlに添加する。
ii.SVSに取り込まれた溶液にNaOHを添加し、制御された方法でpH値を9~13まで上昇させ、数分間混合させる。
【0060】
発明者らは、プロセスステップi)およびii)の適用後に得られる溶液ナノフラワー形態において、生体模倣ハイドロキシアパタイトを得るために、異なる方法を適用することができる。
【0061】
マイクロ波法を適用することによって、ナノフラワー形態のハイドロキシアパタイトを得る
iii.プロセスステップiiで得られた溶液をマイクロ波オーブンで処理し、少なくとも6時間開放し、少なくとも10時間密閉する。
好ましくは、マイクロ波オーブンとして、700Wのオーブンを使用する。
iv.プロセスステップiiiを適用することによって得られた混合物を室温まで冷却し、脱イオン水で洗浄する。
v.プロセスステップivを適用することによって得られた混合物を、少なくとも70℃の温度の真空オーブン内で少なくとも2時間乾燥させる。
【0062】
超音波化学法を適用することによって、ナノフラワー形態のハイドロキシアパタイトを得る
iii.プロセスステップiiで得られた溶液を超音波処理デバイスに入れ、混合プロセスを適用する;
超音波処理デバイスは、好ましくは、少なくとも28kHzの周波数および200Wの電力特性を有する。
iv.プロセスステップiiiで得られた混合物は、少なくとも90分間、超音波エネルギーにさらされる。
v.次いで、得られたナノフラワー形状形態を有するハイドロキシアパタイト化合物を脱イオン水および/またはエタノールで洗浄する。
vi.次いで、乾燥プロセスを行う:
乾燥ステップは、好ましくは24時間、少なくとも600℃の温度で行われる。
【0063】
水熱合成法を適用することによって、ナノフラワー形態のハイドロキシアパタイトを得る
iii.プロセスステップiiで得られた混合物は、混合プロセス後、水熱反応器内に置く;
混合プロセスは、好ましくは、少なくとも300rpmの速度で、10分間行われる。
iv.プロセスステップiiiで得られた混合物を水熱反応器に入れ、水熱反応を行う;
水熱反応は、少なくとも12時間、150~220℃の温度範囲で行われる。
v.その後、混合物は、室温まで低下することが予想される。
vi.反応器から除去された沈殿物を、蒸留水によりすすぎ洗いする。
vii.オーブンで60℃で24時間乾燥させる。
【0064】
上記の製造方法により、ナノフラワー形態のハイドロキシアパタイト化合物が提供される。その後、ハイドロキシアパタイト化合物は、ナノフラワー形態の支持相システムの成分として使用される。
【0065】
ナノフラワー形態におけるAl-Sr-OFの合成
本発明の支持相システムは、フッ素放出剤として、Al-Sr-OF化合物およびAl-Si-Sr-OF化合物を含む。これらの支持相システムは、通常、溶融法によって得られるが、大きい粒径を有するため、支持相システムとしての使用が制限されている。本発明者らが本発明で製造したナノフラワー形態を有するAl-Sr-OFおよびAl-Si-Sr-OF金属オキシフッ化物は、その優れた機械的特性により、ナノフラワー形態においてハイドロキシアパタイトと共に支持相システムとして使用されてきた。ナノフラワー形態では、Al-Sr-OFおよびAl-Si-Sr-OF化合物は、ハイドロキシアパタイト化合物の製造と同様に、3つの異なる方法によって製造可能である。この製造方法を適用するには、Al-Sr-OF化合物およびAl-Si-Sr-OF化合物を製造するための予備調製プロセスが適用される。本プロセスステップは、次のとおりである:
i.陽イオン溶液は、0.1~0.3Mの範囲のAl(NO)9HO 80mL、0.1~0.3Mの範囲のSr(NO 20mL、および0.1M EDTA溶液を混合することによって調製する。
ii.陰イオン溶液は、0.1M~0.3Mの範囲のNHOH 720mLと0.1M~0.3Mの範囲のNHF 180mLを混合することによって調製する。
iii.陽イオン溶液を激しく撹拌しながら陰イオン溶液に加える。
【0066】
ナノフラワー形態のAl-Sr-Of化合物の合成は、プロセスステップi~iiiを適用することによって得られた混合物に、2つの異なる製造方法である超音波化学合成法および水熱合成法を適用することによって可能になる。
【0067】
超音波化学法を適用することによるナノフラワー形態のAl-Sr-OFを得る
プロセスステップiiiを適用することによって得られた溶液は、超音波処理デバイス内で、室温で少なくとも90分間撹拌され、次いでナノフラワー形態のAl-Sr-OF化合物が合成される。超音波処理デバイスは、少なくとも28kHzの周波数および200Wの電力であることが好ましい。
【0068】
水熱合成法を適用することによってナノフラワー形態のAl-Sr-OFを得る
プロセスステップiiiで得られた混合物を水熱反応器に入れ、水熱反応を行う。水熱反応は、少なくとも12時間、150~220℃の温度範囲の任意の値で行われる。
【0069】
ナノフラワー形態を有するAl-Si-Sr-OFの合成
i.陽イオン溶液は、0.1~0.3Mの範囲のAl(NO.9HO60~70mLと、0.1~0.3Mの範囲のSr(NOおよび0.1M EDTA溶液30~40mLを混合することによって調製する。
ii.陰イオン溶液は、0.1~0.3Mの範囲のNaSiO溶液60~70mL、0.1~0.3Mの範囲のNHOH溶液600~700mL、および2M NHF溶液180mLを混合することによって調製される。
【0070】
ナノフラワー形態のAl-Si-Sr-Of化合物の合成は、プロセスステップi~iiを適用することによって得られた混合物に、2つの異なる製造方法である超音波化学合成法および水熱合成法を適用することによって可能になる。
【0071】
超音波化学法を適用することによってナノフラワー形態のAl-Si-Sr-OFを得る
プロセスステップiiを適用することによって得られた溶液は、超音波処理デバイス内で、室温で少なくとも90分間撹拌され、次いでナノフラワー形態のAl-Si-Sr-OF化合物が合成される。超音波処理デバイスは、少なくとも28kHzの周波数および200Wの電力であることが好ましい。
【0072】
水熱合成法を適用することによってナノフラワー形態のAl-Sr-OFを得る
プロセスステップiiで得られた混合物を水熱反応器に入れ、水熱反応を行う。水熱反応は、少なくとも12時間、150~220℃の温度範囲の任意の値で行われる。
【0073】
シリカ合成
シリカ粉末は、支持相システムにおいて商業使用のためのコロイドシリカ溶液であるLudoxHS-40を使用して、ロータリーエバポレーターで得られた。実施された実験段階の概要は次のとおりである:
i.100mLのコロイドシリカ溶液をロータリーエバポレーターの250mLガラスチャンバーに入れる。
ii.乾燥プロセスでは、温度は、160℃から40℃まで徐々に低下させる。
iii.温度を40℃で固定させた後、3時間乾燥を継続させる。
iv.乾燥シリカ粉末は、ボールミルを用いて24時間、機械的に粉砕させる。
v.粉砕させた粉末は、250メッシュのふるいを通過させ、支持相として使用する。
【0074】
本発明の支持相システムは、好ましくはシラン化プロセスを行い、シラン化された支持相システムを得ることができる。本発明の好ましい実施形態は、本発明で示した製造方法によって得られた支持相成分粉末を組み合わせて、シラン化プロセスにかけることである。
【0075】
支持相システムのシラン化
支持相システムのシラン化は、それぞれ以下のステップに従って窒素雰囲気中で行われる。
i.密封されたガラス瓶中に、エタノール:水の溶液に、重量比4:1~10:1で、5重量%~10重量%の3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを加え、酢酸溶液で、溶液のpHを3~4の範囲の値に調節し、室温で1時間混合する。
ii.次に、強力な撹拌下で改質させる支持相システムをこの溶液に加え、室温で24時間撹拌する。
iii.シラン接種後、反応混合物を濾過し、エタノールですすぎ洗いして、物理的に吸着したシランを除去する。
iv.このプロセスの後、シラノール分子の濃度を上昇させ、残留溶媒を除去するために60℃で乾燥させる。
【0076】
本発明の歯科用充填材は、複合材料であり、少なくとも1つの支持相およびマトリックス成分を含む。本発明でマトリックス成分として使用される成分は、すべて有機化合物から得られる。
【0077】
有機マトリックスの合成
指定されたステップで実施される有機マトリックスおよび光開始剤として使用されるCQ、TPO、および4-EDMAB成分の調製中に従う実験ステップを以下に記載する。
i.BisGMAおよびTEGDMAを37℃のオーブンに入れることによって予熱を行う。
ii.BisGMAおよびTEGDMAを精密スケールで計量し、混合するためにスピードミキサーの容器に入れる。
iii.CQ、TPO、および4-EDMABと呼ばれる光開始剤は、製造される歯科用複合材が青色光光硬化デバイスで硬化され得るように、その組成比に遵守するために精密スケールで計量する。
iv.有機相および光開始剤を同じ容器に入れ、5分間隔で、2000rpmで3回激しく撹拌させる。
【0078】
アクリル歯科用複合充填材の合成
i.1重量%~5重量%のBisGMAを超音波水浴中、一定温度で10分間撹拌させる。
ii.複合構造の有機樹脂部分は、プロセスステップi)で得られた混合物にTEGDMAを1重量%~5重量%の範囲で添加することによって調製される。
iii.0.05重量%~0.2重量%の範囲のカンファーキノンおよび0.05重量%~0.2重量%の範囲のジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド化合物を光開始剤として、および0.5~1重量%の範囲の4-EDMAB化合物を活性化剤としてプロセスステップii)で得られた有機樹脂混合物に添加し、その混合物を10分間加熱する。
iv.プロセスステップiii)で得られた有機樹脂混合物に対して重量比50~90%の支持相システムおよび複合充填材は、均質な混合物が得られるまで少なくとも1日の間、超音波水浴中でまたは高速ミキサーによる混合プロセスの結果として得られる。
支持相システムは、ナノフラワー形態を有するハイドロキシアパタイト化合物、ナノフラワー形態を有するAl-Si-Sr-OF化合物、ナノフラワー形態を有するAl-Sr-OF化合物、およびシリカ化合物を含む。
v.プロセスステップivで得られた複合充填材料を、室温に戻してスパチュラでテフロン(登録商標)型に入れ、青色LED光デバイスを使用して、硬化プロセスを適用する。
【0079】
修復歯科用複合材において、ナノフラワー形態を有するハイドロキシアパタイト、Al-Sr-OF、およびAl-Si-Sr-OF支持相システムを使用することは、個別であっても組み合わせても、当該技術分野において新しいことである。これにより、当該技術の歯科用複合材と比較して、生体適合性、抗細菌性、および改善された機械的特性を有する複合充填材を得ることができる。高い表面反応性および表面積/体積比を有するナノ次元支持相システムは、現在の方法と比較して、より感度の高いプロセスステップで得られるナノフラワー形態によって得られる。その結果、ナノフラワー形態を有するハイドロキシアパタイト、Al-Sr-OF、およびAl-Si-Sr-OF支持相システムにより、複合充填材の再生特性および抗細菌特性が向上し、機械的特性も改善する。したがって、ナノサイズのロッドを全体的に組み合わせることによって形成されたナノフラワー形態を有するBHA、Al-Sr-OF、およびAl-Si-Sr-OF支持相を含む歯科用複合充填材の機械的特性、物理的特性、化学的特性、および抗細菌特性を同時に最適化できる。この用途により、歯の元の構造のミネラルおよび要素を合成して、ナノフラワー形態を有するようにし、歯科用複合構造に追加することができる。現在までこの状況の最大の障害である、機械的強度が低い問題を克服することにより、現在の解決策の提案とは異なる、より有利な充填材を製造できる。
【0080】
本発明の保護範囲は、添付の特許請求の範囲に明記されており、この詳細な説明でサンプルとして説明されたものに限定され得ない。当業者であれば、上記の事実を鑑みて、本発明の主題から逸脱することなく、同様の実施形態を呈し得ることは明らかである。
【国際調査報告】