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特表2025-504799強誘電性ネマチック液晶をベースとする複合材料およびそれを含む素子
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-19
(54)【発明の名称】強誘電性ネマチック液晶をベースとする複合材料およびそれを含む素子
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/13 20060101AFI20250212BHJP
   G02F 1/141 20060101ALI20250212BHJP
   C09K 19/00 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
G02F1/13 505
G02F1/141
C09K19/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024541655
(86)(22)【出願日】2023-01-10
(85)【翻訳文提出日】2024-08-19
(86)【国際出願番号】 US2023010510
(87)【国際公開番号】W WO2023133356
(87)【国際公開日】2023-07-13
(31)【優先権主張番号】63/298,116
(32)【優先日】2022-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508214950
【氏名又は名称】ザ・リージェンツ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・コロラド,ア・ボディー・コーポレイト
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100120754
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 豊治
(72)【発明者】
【氏名】グレイサー,マシュー・エイ
(72)【発明者】
【氏名】クラーク,ノエル
(72)【発明者】
【氏名】マクレナン,ジョセフ・イー
(72)【発明者】
【氏名】チェン,シー
【テーマコード(参考)】
2H088
4H127
【Fターム(参考)】
2H088EA51
2H088GA02
2H088HA02
2H088HA03
2H088HA07
2H088JA17
4H127BA01
4H127BA06
4H127BA16
4H127BE06
4H127BE07
(57)【要約】
複合材料、および複合材料を含む素子が開示される。例示的な複合材料は、多孔質材料と、多孔質材料の細孔内の強誘電性ネマチック液晶とを含む。複合材料は、多様な用途、例えば、キャパシタ、エネルギー貯蔵および/または変換素子に使用されうる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔を備え、前記細孔が体積を備える、第1の多孔質材料と、強誘電性ネマチック液晶とを含む複合材料であって、
前記第1の多孔質材料の細孔の体積が、強誘電性ネマチック液晶を含有する、複合材料。
【請求項2】
前記第1の多孔質材料の前記細孔の体積が、強誘電性ネマチック液晶で実質的に充填されている、請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記第1の多孔質材料が固体である、請求項1に記載の複合材料。
【請求項4】
前記第1の多孔質材料がポリマーである、請求項1に記載の複合材料。
【請求項5】
前記第1の多孔質材料がガラス質である、請求項1に記載の複合材料。
【請求項6】
前記第1の多孔質材料が結晶性である、請求項1に記載の複合材料。
【請求項7】
前記第1の多孔質材料が非晶質である、請求項1に記載の複合材料。
【請求項8】
前記第1の多孔質材料が発泡体である、請求項1に記載の複合材料。
【請求項9】
前記第1の多孔質材料がエアロゲルである、請求項1に記載の複合材料。
【請求項10】
前記第1の多孔質材料が多孔質セラミックである、請求項1に記載の複合材料。
【請求項11】
請求項1に記載の複合材料を含む、電気光学素子。
【請求項12】
細孔を備え、前記多孔質固体材料の前記細孔の体積が、強誘電性ネマチック液晶を含む多孔質固体材料を含む、半導体構造体。
【請求項13】
細孔を備える、多孔質、固体かつ電気絶縁性材料を含む誘電構造体であって、前記多孔質、固体かつ電気絶縁性材料の前記細孔の体積が、強誘電性ネマチック液晶を含有する、誘電構造体。
【請求項14】
電極および細孔を備える多孔質で固体の電気絶縁性材料を含む誘電媒体を含むキャパシタであって、前記多孔質で固体の電気絶縁性材料の前記細孔の体積が、強誘電性ネマチック液晶を含有する、キャパシタ。
【請求項15】
強誘電性ネマチック液晶および固体材料を含む誘電媒体であって、前記固体材料が、微粒子として液晶中に分散している、誘電媒体。
【請求項16】
強誘電性ネマチック液晶および固体材料を含む誘電媒体であって、前記固体材料が、強誘電性または超常誘電性粒子から構成されている、誘電媒体。
【請求項17】
強誘電性ネマチック液晶および固体材料の分散体を含む誘電媒体であって、前記分散体が相分離によって形成されている、誘電媒体。
【請求項18】
強誘電性ネマチック液晶および固体材料の分散体を含む誘電媒体であって、前記分散体が光重合によって形成されている、誘電媒体。
【請求項19】
強誘電性ネマチック液晶および固体材料の分散体を含む誘電媒体であって、前記分散体が両親媒性分子成分によって安定化されている、誘電媒体。
【請求項20】
請求項1から7、10から13および15から19のいずれか一項に記載の複合材料または誘電媒体を含む、素子。
【請求項21】
エネルギー貯蔵素子である、請求項20に記載の素子。
【請求項22】
エネルギー変換素子である、請求項20に記載の素子。
【請求項23】
情報貯蔵および処理素子である、請求項20に記載の素子。
【請求項24】
アクチュエータ、センサ、熱電素子、または圧電効果を通じて電気エネルギーを機械エネルギーに変換する素子である、請求項20に記載の素子。
【請求項25】
誘電材料である、請求項1から7および11から13のいずれか一項に記載の複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
この出願は、2022年1月10日に出願され、強誘電性ネマチック液晶をベースとする超常誘電性(Superparaelectric)複合材料と題する、米国仮特許出願第63/298,116号の利益を主張するものであり、その内容は、本開示と競合しない限度で、参照によってここに組み込まれる。
【0002】
連邦政府資金による研究
この発明は、米国国立科学財団によって授与された、助成金番号DMR1710711のもと、政府支援を受けてなされた。政府は、本発明における一定の権利を有する。
【0003】
本開示は、一般に、強誘電性ネマチック液晶を含む複合材料に関する。より特定的には、本開示の実施例は、1種または複数の多孔質材料と、1種または複数の多孔質材料の細孔内の強誘電性ネマチック液晶とを含む、複合材料に関する。
【背景技術】
【0004】
液体における強誘電性は、強磁性のLangevin-Weissモデルを分子の電気双極子の配向秩序に適用した、P.DebyeおよびM.Bornによって、1910年代に予見された。近頃、ネマチック強誘電性における関心が高まっている。ネマチック強誘電性は、巨視的に極性の秩序と流動性との特有の組合せによって、新規な液晶科学技術の機会を与える。
【0005】
このセクションに述べられる問題および解決の一切の議論は、もっぱら、本開示のための文脈を提供するという目的のためにこの開示に含まれており、議論のいずれかまたはすべてが、本発明がなされた時点で公知であったと認めるものとして受け取られるべきではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この概要は、精選した概念を紹介するために提供される。この概要では、特許請求される主題事項の主要な特徴または本質的な特徴を特定することは、必ずしも意図されず、特許請求される主題事項の範囲を限定するために使用されることも意図されない。
【0007】
本開示の実施形態は、強誘電性ネマチック液晶を含む複合材料に関する。以下により詳細に述べられる通り、複合材料は、所望の特性、例えば、高い比誘電率および/または所望の電気光学特性を有する、多様な素子を形成するために使用されうる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の実施例によれば、複合材料は、細孔を備え、前記細孔が体積を備える、第1の多孔質材料と、強誘電性ネマチック液晶とを含み、前記第1の多孔質材料の細孔の体積が、強誘電性ネマチック液晶を含有する。細孔は、強誘電性ネマチック液晶で充填、または実質的に充填されうる。本開示の様々な実施形態によれば、第1の多孔質材料は固体でありうる。追加の実施形態によれば、第1の多孔質材料は、例えば、ポリマーであってもよく、ガラス質であってもよく、結晶性であってもよく、非晶質であってもよく、発泡体であってもよく、エアロゲルであってもよく、または多孔質セラミックであってもよい。複合材料は、追加の多孔質材料および/または強誘電性ネマチック液晶を含むことができる。第2の多孔質材料は、第1の多孔質材料と同じであっても、異なってもよい。
【0009】
本開示の追加の実施例によれば、複合材料(例えば誘電媒体)は、強誘電性ネマチック液晶と固体材料とを含み、前記固体材料は、微粒子として液晶中に分散している。固体材料は、例えば、強誘電性または超常誘電性粒子とすることもでき、これらを含むこともできる。分散体は、例えば、相分離または光重合等によって形成されうる。さらなる実施例によれば、分散体は、両親媒性分子成分によって安定化されている。
【0010】
ここに記載される複合材料および/または誘電媒体を使用して、例えば、半導体構造体もしくは素子、誘電性構造体、キャパシタ、電気光学素子、エネルギー貯蔵素子、エネルギー変換素子、情報貯蔵および処理素子、アクチュエータ、センサ、熱電素子、または圧電効果を通じて電気エネルギーを機械エネルギーに変換する素子等を形成することができる。
【0011】
本開示の実施形態のより完全な理解は、以下の説明図面に関して検討する際に、詳細な説明および特許請求の範囲を参照することによって導かれうる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本開示の実施例による複合材料を示す図である。
図2】本開示の追加の実施例による素子を示す図である。
図3】本開示の実施例による別の素子を示す図である。
図4】本開示の実施例による半導体素子または構造体を示す図である。
図5】本開示の実施例による別の素子を示す図である。
図6】例示的な、強誘電性ネマチック液晶を形成する分子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図中の要素は、単純かつ明瞭にするために図示されており、必ずしも縮尺通りに描かれていないことが認識される。例えば、本開示に図示される実施態様の理解の向上に役立つように、図中の要素の一部の寸法が、他の要素に対して誇張されることがある。
【0014】
以下に提供される例示的な実施形態の記載は、例示的なものに過ぎず、説明という目的のみが意図され、以下の記載は、本開示または特許請求の範囲を限定することは意図されない。さらに、述べられた特徴を有する複数の実施形態の列挙では、追加の特徴を有する他の実施形態、または述べられた特徴の異なる組合せを組み込んだ他の実施形態を除外することは意図されない。
【0015】
この開示では、変数の任意の2つの数字は、変数の使用可能な範囲を構成することができ、指示される任意の範囲は、端点を含んでも、除外してもよい。加えて、指示される変数の任意の値は(「約」とともに指示されるか否かにかかわらず)、正確な値を指すことも、またはおよその値を指すこともあり、等価物を含むこともあり、平均、メジアン、代表、大部分または値±10%(例えば、体積%、原子%もしくは質量%)等を指すこともある。さらに、この開示において、「含む(comprising)」、「含む(including)」、「によって構成される」および「有する」という用語は、いくつかの実施形態では、独立して、「典型的には、もしくは広く~を含む(comprising)」、「含む(comprising)」、「から本質的になる」または「からなる」を指すことがある。この開示において、一切の定義された意味は、必ずしも、通常のおよび慣習的な意味を除外しない。
【0016】
本開示は、一般に、強誘電性ネマチック液晶を含む複合材料に関する。複合材料は多機能にすることができ、その結果、複合材料を多様な用途に(例えば、キャパシタ、アクチュエータまたは電気光学素子に)使用することができる。様々な実施例によれば、複合材料は、誘電材料、例えば、10超、または約2から約5000の間の比誘電率(相対誘電率)を有する誘電材料とすることができる。
【0017】
描かれた図を参照すると、図1(a)および(b)は、本開示の実施例による、複合材料102を含む素子100を示す。図示された実施例では、複合材料102は、多孔質材料または媒体104と、強誘電性ネマチック液晶106とを含む。図示される通り、多孔質材料104は壁108を含む。素子100は、第1の電極110、第2の電極112、電圧源114およびスイッチ116も含むことができる。
【0018】
本開示の実施例によれば、多孔質媒体または材料104は、強誘電性ネマチック液晶106を含有する。これらの場合、図1(a)に図示される通り、多孔質媒体104のドメイン壁108は、強誘電性ネマチック液晶106を、ランダムに配向した強誘電性ドメインを備えるモルフォロジーを生じるように構成する。この場合、複合材料102は、電場を適用しなければ、正味ゼロの電気分極を有する。図1(b)に図示される通り、十分な電場(例えば、約10~約10、または約10~約10V/m)が適用された場合、分極が再配向し、複合材料102が大きな正味の電気分極を獲得し、これによって、多孔質媒体104の壁108が大きな電場に曝露され、壁108は、有効比誘電率に寄与することができる。さらに、複合材料の極性ドメインは、電場の適用なしでは、ひずみ場によって配向され、大きな圧電効果が生じることがあり、反対に、電場の適用によって、機械的ひずみが発生することもある。そのため、これらの材料は、誘電性構造体、高エネルギー密度キャパシタ、アクチュエータおよび変換器、センサ、電気光学素子、熱電素子、圧電効果を通じて電気エネルギーを機械エネルギーに変換する素子、ならびにここに述べられる他の素子等を含む、多様な素子への応用の潜在性を有する。
【0019】
再び図1を参照すると、多孔性材料104は、体積120を備えた複数の細孔118を含む。細孔118は、少なくとも部分的であっても、または全面的であってもよいが、壁108によって画定されうる。体積120は、強誘電性ネマチック液晶で充填されていてもよく、実質的に(例えば、少なくとも90、95または99%)充填されていてもよい。細孔同士は、相互接続されていてもよい。
【0020】
多孔質材料104は固体でありうる。例として、多孔質材料104は、ポリマー(例えば、ポリエチレン、シリコーン、ポリフッ化ビニリデン、セルロース、ポリペプチド)、ガラス質材料(例えば、シリケート、ボロシリケートもしくはアルミノシリケートガラス、ガラス質ポリマー)、結晶性材料(例えば、ケイ素、シリカ、アルミナ、チタネート、ペロブスカイト、LiNbO)、非晶質材料(例えば、非晶質炭素、非晶質ケイ素、非晶質金属)、発泡体(例えば、ポリスチレンもしくはビニル発泡体、金属酸化物発泡体、液体エマルション)、エアロゲル(例えば、シリカ、炭素もしくは金属酸化物から形成される)、または多孔質セラミック(例えば、ゼオライト、アノポア(anopore)膜、ハニカムセラミック、珪藻土)でありうる。多孔質材料104の多孔性は、約0.05~約0.4、または約0.5~約0.95の範囲に及びうる。多孔質材料104の細孔の細孔サイズまたは平均細孔サイズは、約2nm~約50nm、または約0.1マイクロメートル~約10マイクロメートルの範囲に及びうる。
【0021】
強誘電性ネマチック液晶106としては、任意の好適な強誘電性ネマチック液晶材料を挙げることができる。例として、強誘電性ネマチック液晶106としては、強誘電性ネマチック液晶形成分子、例えば、図6に図示されるRM734またはDIOを挙げることができる。
【0022】
電極110、112は、任意の好適な導電性材料、例えば、金、銅、アルミニウムまたは酸化インジウムスズ(ITO)で形成されうる。
複合材料102は、ランダムに配向したナノメートル規模の極性ドメインを有する固体状態強誘電体である、「リラクサー強誘電体」と呼ばれる無機材料またはポリマー性材料のクラスに類似するものと考えられうる。この等方性ドメイン構造は、ナノメートル規模の強誘電性ドメインを有する多結晶性モルフォロジーを得るために、急速にクエンチして強誘電性状態とすること、またはナノ多孔性ホスト材料中、ランダムに配向したナノメートル規模の強誘電性ドメインを含むナノ構造複合材料の形成を含む、多様な方法で達成されうる。「超常誘電性」という用語は、超高エネルギー密度および高効率を有する誘電性キャパシタを作製するために使用される、局所的極性秩序を有するナノメートル規模のドメインを含む固体状態リラクサー強誘電体を記載するために、近頃導入された[Y-H.Chu,Science 374,33~34ページ(2021); H.Panら、Science 374,100~104ページ(2021)]。
【0023】
これまでに記載されたリラクサー強誘電体と、ここに記載される複合材料との間の主要な違いは、後者の複合材料に使用される強誘電性成分が、固体状態の無機またはポリマー性強誘電性材料ではなく、流体の強誘電性ネマチック液晶であることである。強誘電性ネマチック材料の主要な利点は、流動性から生じる加工の容易さである。強誘電性ネマチック物質は、例えば、エアロゲル、ポリマーネットワーク、逆オパール、ゼオライト、ならびにナノ多孔性のガラスおよびセラミック等を含む、多種多様な多孔質媒体に容易に注入されうること、または一体化されうることであり、これによって、材料の設計および最適化が促進し、場合によっては材料製造のコストが低減する。
【0024】
別の主要な利点は、構造的に極性の表面を使用して、近傍の強誘電性ネマチック材料の体積の極性配列を制御できるという発見に由来し、その結果、細孔の表面に固有の構造的極性が、細孔内の体積の強誘電性材料に、好ましい極性配列をもたらしうる。この効果によって、複合材料における各強誘電性ドメインは、ゼロ電場極性配向を「覚えている」ことが可能となりうるが、これによって、キャパシタ用途において、ヒステリシスおよび関連するエネルギー損失が低減しうる。このような表面極性は、極性ポリマー、もしくは極性の表面構造を有する無機材料(固体状態強誘電体を含む)から構成される多孔質材料において、または多孔質媒体の内表面の化学官能化(例えば、シランもしくはチオール自己集合単層、オリゴマー、ポリマー、ブロックコポリマーの1つもしくは複数を使用した官能化)によって達成されうる。ここに記載される複合材料のさらなる潜在的利点は、流体の強誘電性ネマチック物質が、適用された電場に高速で応答することに由来し、これによって、これらの材料をベースとするキャパシタを、より迅速に充電および放電させることが可能となりうる。
【0025】
高効率な容量性エネルギー貯蔵には、一般に、小さなヒステリシスを有する材料を要するが、大きなヒステリシスを有する強誘電性ネマチック物質をベースとする複合材料は、材料の状態が履歴依存性である、固有の記憶を有する材料であるため、やはり目的のものである。言い換えれば、強誘電性ネマチック複合体の材料特性は、場の処理の履歴(例えば、適用された電場、磁場および光場、ならびに機械的応力およびひずみによる)、ならびに熱力学的パラメータ(例えば、温度、圧力および化学ポテンシャル)の変動を含む、材料の詳細な履歴によって決まりうる。
【0026】
固有の記憶を有するこのような材料は、情報の貯蔵および処理のための光学的、電気的または機械的読み出しを伴う、例えば、光学的およびニューロモルフィックコンピューティング用途のための、記憶要素としてのもの、温度の変動によって、化学的刺激によって、または光場もしくは電場によって駆動される、プログラム可能な形状変化を伴う、例えば、ソフトロボティクス、ならびに多様なセンサおよびアクチュエータ用途および素子のための、形状記憶材料としてのものを含む、広範囲の潜在的用途を有する、新規なタイプのプログラム可能な物質に相当する。このような素子は、素子100として模式的に図示されうる。
【0027】
本開示のさらなる実施例によれば、素子100および複合材料102は、エネルギー変換素子およびエネルギー貯蔵素子に使用されうる。1つのアプローチは、スイッチングについての電気的閾値が大きいという制限下で、強誘電性ネマチック液晶を含有する多孔質媒体を作製することを伴う。体積Vおよび寸法aの細孔を有する系において、N液晶と多孔質媒体との間の単位接触面積当たりの典型的な表面エネルギーは、Wである。系の全体的な表面エネルギーは、
【0028】
【数1】
【0029】
に比例するが、これは、細孔の寸法が減少するにつれて、表面エネルギーによって決定されるスイッチング閾値が上昇することを示す。液晶配向子場の歪みに起因する弾性エネルギー密度はKa-2に比例し、これも、電気スイッチングについてのエネルギー閾値に寄与する。
【0030】
ここで、特許申請者らは液晶特性についての典型的なパラメータ値を使用して、いくつかの実験に関係する量を推定する。極性分子配向(極性配向子)が、多孔質構造内の表面アンカリングによって固定され、適用場Eに供された、一様に配列されたバルク強誘電性ネマチック材料を検討する。表面およびバルクの弾性エネルギーは、十分に深いエネルギー井戸を生じ、減極場に応答した分極場の再配向を防止することを要する。ゼロ次エネルギー分析が提案される。適用場Eにおける分極の電気エネルギー密度はf=-P・Eであり、多孔質単位セルの歪みエネルギー密度はfelastic=K/aである。最大の減極場は、電極表面における分極変化E=P/εから生じる。単純にするため、ε=εとする。このとき、P=6μC/cmで、f=406J/cmを得る。felastic=fである場合、K=10-11Nとすると、a=16nmである。弾性トルクの存在下で表面配向を維持するために、
【0031】
【数2】
【0032】
が必要である。これまでの研究において示された通り、典型的なポリマー配列セルの極性表面エネルギーは、およそW=3×10-3J/mである。したがって、要求される分極固定は、10nm前後(または約2nmから約50nmの間)の細孔寸法、ならびに十分な表面アンカリングエネルギーを提供する、ポリマー表面処理(例えば、ポリイミド、ナイロンもしくはポリペプチドを使用した)、またはいくつかの他の処理(例えば、シランもしくはチオール自己集合単層)によって達成されうる。
【0033】
極性配列体積と称する、分極方向を固定するのに十分に大きなエネルギー障壁(内(細孔)表面における極性アンカリングに起因する)を有する構造を考えると、図2は、環境温度の変動(例えば、日中と夜間との間)のもとで充電および放電されえ、電気的仕事を行うために使用されうる、ポテンシャルエネルギー貯蔵素子200を示す。
【0034】
素子100と同様に、素子200は複合材料202を含む。複合材料202は、複合材料102と同じまたは同様とすることができる。図2は、素子200の極性配列体積(複合材料202)における、熱から電気へのエネルギー変換プロセスを示す。
【0035】
複合材料202は、2つの導電性電極204、206の間の間隙を、配列層なしで充填する。熱から電気エネルギーへの変換プロセスが模式的に示され、図の上段左から開始して時計回りに進む。N相における巨視的で一様な分極は、表面で極性配列によって安定化されており、分極表面電荷、およびその結果の減極場を生じる。この場は、電極204、206の間に電圧低下を生じ、電極204、206の間のスイッチ208が閉じられると(上段中央の図)、電圧源212を含む外部回路210に電流が流れて、分極電荷を中和する。これが、第1の放電プロセスである。いくらかの時間の後、自由電荷が分極電荷を平衡させ、電極同士の間の電位差がゼロに近づく(上段右の図)。次いで、スイッチ208が開かれ、液晶が加熱されてN相からN相となり、分極電荷が消失する。電極に残った自由電荷が、電極204、206間の電圧を低下させ、これが第1の充電プロセスである(下段右の図)。次に、スイッチ208が閉じられ、電流が外部回路210を流れて、自由電荷を中和する(下段中央の図)。これが、第2の放電プロセスである。最終ステップでは、スイッチ208が開かれ、試料が冷却されてN相からN相となる。極性表面アンカリングに起因して、分極が以前と同じ方向に配列する(上段左の図)。これが、第2の充電プロセスである。
【0036】
次の通り、充電状態(図2上段左)において達成可能なエネルギー密度を推定することができる。まず、総静電エネルギーFを計算する:
【0037】
【数3】
【0038】
式中、Qは表面分極電荷であり、Cは、厚さdの液晶層の静電容量であり、Aは境界表面の面積であり、Vは液晶層の体積である。このとき、エネルギー密度(静電エネルギー密度等)fは、次式によって与えられる。
【0039】
【数4】
【0040】
強誘電性分極P=6μC/cm、相対誘電率ε=1と仮定すると、エネルギー密度は203J/cmである。これは、現在利用可能な高エネルギー密度電池よりも1桁小さいが(表1参照)、しかしながら、図2に描かれる充電プロセス全体は、素子を加熱および冷却することによって、単純に達成される。室温強誘電性ネマチック相は、ニート材料および混合物において、既に実証されており、例えば日中と夜間との間の、環境温度の変動によって、転移は駆動されうる。
【0041】
【表1】
【0042】
液晶を従来の誘電材料と組み合わせることは、現在入手可能なものよりも遥かに高いエネルギー貯蔵容量を達成する潜在性を有する。厚さdの誘電層を有する平行板キャパシタに貯蔵される静電エネルギーは、
【0043】
【数5】
【0044】
である。このエネルギー密度は、厚さをN材料で部分的に充填することによって上昇させることができる。
これらの場合、複合材料は、第2の誘電材料の領域に割り込まれた、強誘電性ネマチック領域を含む。前記強誘電性ネマチック領域は分極場P(r)を呈し、これは、電場の存在下では、場に平行に再配向する。この再配向によって、強誘電性ネマチック領域と、第2の材料の領域との間の界面に、分極電荷が堆積する。最大Vsat=P/C[式中、Cは、誘電層の静電容量/面積である]の電圧が適用されると、N液晶の内側の電場が、分極の再配向によって遮蔽される。結果として、適用された電圧において、複合材料中の電場が、第2の材料に閉じ込められる。したがって、分極電荷が、第2の材料の領域に、E=P/εと同じ大きさでありうる電場を適用する。この電場は、自由電子または正孔が第2の材料と接触することなく、第2の材料に適用され、強誘電性ネマチック物質が、自由電荷ではない束縛電荷の移動を促進することによって、電荷輸送を可能にする。このメカニズムによって、自由電荷キャリアのカスケードプロセスによって生じる絶縁破壊を回避しながら、第2の材料を高電圧に充電することができる。
【0045】
したがって、従来の薄膜キャパシタの達成可能なエネルギー密度は、誘電層の破壊電場によって限定される(最良の場合、表2に示される通り、約5MV/cm)。ここに記載されるものなどのN複合材料の利点は、誘電材料の大部分が、電極とではなく、非導電性のN液晶と接触していることである。その結果、電荷輸送がないことで、場合により、表2に示されるもののような公知の薄膜誘電体よりも遥かに高い値まで、破壊電場が上昇しうる。N複合体において、電場の限度は、最大表面分極電荷:Emax=P/εε≒67MV/cm(ε=1)によって設定され、これは、最良の薄膜キャパシタよりも約10倍大きい。これはとりわけ、エネルギー貯蔵について重要である。なぜなら、N複合体において、エネルギー密度f∝Eであり、潜在的に100倍大きなエネルギー密度を含意するからである。
【0046】
【表2】
【0047】
このような極性配列体積を達成することは、技術的に困難でありうる。図3は、より容易に達成可能な充電および放電サイクルを用いた、代替スキームを示す。このプロセスは、非極性配列体積のみを要する。言い換えれば、配列性表面は、ネマチック様配向子配列を維持することだけが必要であり、分極がどのように局所的に配向するかについて、好ましいものはない。この場合、細孔の寸法は、aが1~10mmの範囲内で、より大きくてもよい。強誘電性分極は、冷却中、1V/mmという小さな配列電場Eを適用することによって配列される。材料を配列するのに必要な総エネルギーは、Falign=EdQ=EAdPであり、E=1V/mmの場合、エネルギー密度損失falign=EP=6×10-5J/cmを与える。
【0048】
このサイクルは図3に示され、素子300を使用して、上段右から開始して時計回りに進む。素子300は、素子200と同じまたは同様とすることができる。具体的には、素子300は、複合材料302(複合材料202と同じまたは同様とすることができる)、電極304、306、スイッチ308および電圧源312を含むことができる。電極304、306、スイッチ308および電圧源または電力供給312は、図2に関して上に記載されたものとすることができる。
【0049】
まず、スイッチ308を開いて素子300を加熱して、N相をN相とし、これによって、境界表面において分極電荷が消失する。スイッチ308を閉じると、残りの自由電荷が電圧低下を生じ、外部回路310における電流を駆動する(下段中央の図)。すべての自由電荷が中和された後、外部電力供給、例えば電圧源312によって供給される小さな配列場の存在下で、試料が冷却されてN相からN相となる。電力供給312は、電極304、306に連続的に電流を供給して、分極電荷を平衡させることができる。結果として、試料中の電場は常にEである。大きな減極場がないことで、強い体積配列の要請が緩和される。
【0050】
図4は、本開示のなおも追加の実施例による半導体素子または構造体400を示す。図示された実施例では、半導体素子400は、基材402、複合材料404および追加の層406を含む。
【0051】
基材402は、任意の下地材料、または素子、回路もしくはフィルムを形成するのに使用することができる材料を含むこと、もしくは上にこれらを形成することができる。基材は、バルク材料、例えば、ケイ素(例えば単結晶ケイ素)、他の第IV族材料、例えばゲルマニウム、または他の半導体材料、例えば、第II族~第VI族もしくは第III族~第V族半導体材料を含むことができ、バルク材料の上にあるまたは下にある、1つまたは複数の層を含むことができる。さらに、基材は、基材の層の少なくとも一部内に、または一部の上に形成された様々な特徴、例えば、窪みおよび突起等を含むことができる。例として、基材は、半導体材料を含むことができる。半導体材料は、素子のソース、ドレインまたはチャネル領域の1つまたは複数を含むこと、またはこれらを形成するために使用することができる。基材は、半導体材料の上にある、中間層誘電体(例えば酸化ケイ素)および/または高比誘電率材料層をさらに含むことができる。この文脈において、高比誘電率材料または高k誘電材料とは、二酸化ケイ素の比誘電率よりも高い比誘電率を有する材料である。
【0052】
複合材料404は、ここに記載される任意の複合材料または誘電媒体、例えば複合材料102であってもよく、これらを含んでもよい。
追加の層406は、任意の好適な層を含むことができる。例として、追加の層406は、導電層、例えば金属層であってもよく、これを含んでもよい。
【0053】
本開示の追加の実施例によれば、複合材料、またはより特定的には誘電媒体は、強誘電性ネマチック液晶および固体材料を含み、前記固体材料は、微粒子として液晶中にある(例えば分散している)。固体材料は、強誘電性または超常誘電性粒子、例えば、LiNbO、BaTiOまたはチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)から構成されうる。
【0054】
本開示の実施例によれば、分散体は、相分離または光重合によって形成される。分散体を、両親媒性分子成分、例えば、アニオン性もしくはカチオン性脂質、非イオン性界面活性剤またはイオン液体によって安定化することができる。
【0055】
図5は、液晶中に分散した固体材料を含む複合材料/誘電材料502、ならびに電極504および506を含む素子500を示す。電極504および506は、電極110、112と同じまたは同様とすることができる。
【0056】
素子500は、エネルギー貯蔵および/または様々なエネルギー源を利用したエネルギー変換スキームのために使用されうる。例えば、光応答性染料分子をドーピングした強誘電性ネマチック材料は、光の作用下でN相からN相(または等方性相)に駆動されえ(光誘導性相転移)、電磁エネルギー(例えば太陽光)を電気エネルギーに変換することができる。強誘電性スメクチック液晶を利用した、非常に類似した「電荷ポンプ」アプローチが、以前に提案されている[M.KnezevicおよびM.Warner、「Photoferroelectric solar to electrical conversion」、Applied Physics Letters 102、043902ページ(2013)]。本発明は、多孔質媒体または分散体中に強誘電性ネマチック材料を含む複合材料を利用して、高効率エネルギー変換を達成するという点、および近頃発見された極性アンカリング現象を使用して、強誘電性ネマチック材料の体積極性配列を実現するという点で、この先行技術とは異なる。
【0057】
上記の開示の例となる実施形態は、本発明の範囲を限定するものではない。なぜなら、これらの実施形態は、添付の特許請求の範囲および法的等価物によって定義される、本発明の実施形態の例に過ぎないからである。例えば、本開示の実施例は、ここに記載される強誘電性ネマチック液晶または誘電媒体で少なくとも部分的に充填された、空隙または1つもしくは複数の細孔を層間に有する、複数の層を含む複合材料を含むことができる。同等の実施形態はいずれも、この発明の範囲内であることが意図される。ここに示され、記載されるものに加えて、本開示の様々な実施形態、例えば、代わりの有用な記載される要素の組合せが、当業者には記載から明らかとなりうる。このような修正および実施形態も、添付の特許請求の範囲に含まれることが意図される。
図1(a)】
図1(b)】
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】