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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-19
(54)【発明の名称】色調整の方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   H04N 1/60 20060101AFI20250212BHJP
   G06T 1/00 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
H04N1/60
G06T1/00 510
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024541802
(86)(22)【出願日】2023-01-09
(85)【翻訳文提出日】2024-09-11
(86)【国際出願番号】 EP2023050269
(87)【国際公開番号】W WO2023135069
(87)【国際公開日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】22150933.4
(32)【優先日】2022-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.QRコード
(71)【出願人】
【識別番号】390008981
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーティングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings GmbH
【住所又は居所原語表記】Glasuritstrasse 1, D-48165 Muenster,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【弁理士】
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【弁理士】
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】ビショフ,グイド
(72)【発明者】
【氏名】ヴィニョーロ,カルロス
【テーマコード(参考)】
5B057
【Fターム(参考)】
5B057CA01
5B057CB01
5B057CE17
(57)【要約】
本明細書に記載される態様は、一般に、サンプルコーティングの色を基準コーティングの色にマッチングさせるための方法及びシステムに関する。より具体的には、本明細書に記載される態様は、基材上に塗布されたときに、サンプルコーティング配合中に存在する個々の色成分について調整された光学データを決定し、前記調整された光学データを、修正されたサンプルコーティング配合を決定するために使用することにより、基準コーティングの色と十分にマッチングする、適合された修正サンプルコーティング配合を決定するための方法及びシステムに関する。色調整プロセスでは、サンプルコーティング配合中に存在する個々の色成分について調整した光学データを使用することにより、塗料製造における着色剤(colorant)の着色強度特性(colorant strength characteristics)のばらつきを補正することができる。前記光学データの調整により、修正されたサンプルコーティング配合の品質及び/又は精度を向上させることができ、したがって、基準コーティングに対するサンプルコーティングの所望の色を得るために必要な修正ステップの数を減らすことができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準コーティングの色にマッチングするように、調整されたサンプルコーティングの配合を決定するためのコンピュータ実装方法であって、前記方法は:
(i) 通信インターフェイスを介してコンピュータプロセッサに
・サンプルコーティングの色データとサンプルコーティング配合を含むサンプルコーティングのデジタル表現と、
・基準コーティングの色データを含む基準コーティングのデジタル表現と、
・個々の色成分の光学データを含む個々の色成分のデジタル表現と、
・サンプルコーティングの配合と個々の色成分の光学データを入力パラメータとして使用することによって、サンプルコーティングの色を予測するように構成された物理モデルと、
を提供するステップと、
(ii) 提供されたサンプルコーティングの色データと提供された基準コーティングの色データとの間の色差をコンピュータプロセッサで決定するステップと、
(iii) 提供された前記物理モデルのモデルバイアスを、コンピュータプロセッサで、
・前記サンプルコーティングのデジタル表現、前記個々の色成分のデジタル表現、及びステップ(i)で提供された前記物理モデルに基づいて、サンプルコーティングの色データを予測することと、
・提供されたサンプルコーティングの色データと前記予測されたサンプルコーティングの色データとの間の色差を決定することと、
によって、決定するステップと、
(iv) サンプルコーティング配合中に存在する個々の色成分の少なくとも一部の提供された光学データを適合させることにより、ステップ(iii)で決定されたモデルバイアスをコンピュータプロセッサで最小化するステップと、
(v) ステップ(iv)で適合された光学データを使用して、サンプルコーティングの提供された色データと予測された色データとの間の色差を決定することにより、残留モデルバイアスをコンピュータプロセッサで決定するステップと、
(vi) ステップ(ii)において決定された色差、ステップ(iv)において得られた個々の色成分の適合された光学データ、ステップ(v)において決定された残留モデルバイアス、及び提供された物理モデルに基づいて、調整されたサンプルコーティング配合をコンピュータプロセッサで計算するステップと、
(vii) 前記計算された調整されたサンプルコーティング配合を通信インターフェイスを介して提供するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記サンプルコーティングのデジタル表現は、サンプルコーティングを示すデータ、サンプルコーティングの層構造、サンプルコーティング配合を調製するための指示、価格、又はそれらの組み合わせをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記基準コーティングのデジタル表現は、基準コーティングを示すデータ、基準コーティングの層構造、基準コーティングに関連する配合、基準コーティング配合を調製するための指示、価格、又はそれらの組み合わせをさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記色データは、反射率データ、色空間データ、特にCIEL値又はCIEL値、光沢データ、テクスチャパラメータ、特に輝き特性及び/又は粗さ特性、又はそれらの組み合わせを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
個々の色成分の前記光学データは、個々の色成分の光学定数、特に個々の色成分の波長依存の散乱及び吸収特性を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記サンプルコーティングの色は、サンプルコーティング配合及びサンプルコーティング配合内に存在する個々の色成分の光学データ、特に光学定数を、提供された物理モデルの入力パラメータとして用いてステップ(iii)において予測される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(iii)で決定されるモデルバイアスの最小化は、
- ステップ(i)で提供された光学データから開始して所定のコスト関数を最小化することにより、サンプルコーティング配合中に存在する個々の色成分の少なくとも一部の光学データを適合させるように構成された数値的方法を提供するステップと、
- 前記コスト関数が所定の閾値を下回るまで、又は反復回数が予め定義された限界に達するまで、提供された物理モデルを用いて得られたサンプルコーティングの再帰的に予測された色データと提供されたサンプルコーティングの色データとを比較することにより、提供された数値的方法及び提供された物理モデルを用いて、サンプルコーティング配合に存在する個々の色成分の少なくとも一部の光学データを適合させるステップとを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
サンプルコーティング配合中に存在する個々の色成分の少なくとも一部の光学データを適合させることは、前記光学データにスケーリング関数を適用することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記スケーリング関数は、式(1)の線形スケーリング関数を含み、
【数1】
ここで
特に光学定数を指し、

タ、特に適合された光学定数を指し、
インデックスを指し、1からnの範囲であり、
1からmの範囲である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
特に個々の色成分のすべての波長依存の光学定数に対して使用される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
修正されたサンプルコーティング配合を計算することが、
- 提供されたサンプルコーティングのデジタル表現に含まれる個々の色成分の濃度から開始して、所定のコスト関数を最小化することによって、サンプルコーティング配合中に存在する少なくとも1つの個々の色成分の濃度を調整するように構成された数値的方法を提供するステップと、
- 色差が所定の閾値を下回るまで、又は反復回数が予め定義された限界に達するまで、サンプルコーティングの再帰的に調整された配合の再帰的に予測された色データと提供された基準コーティングの色データとを比較することによって、提供された数値的方法、ステップ(iv)で得られた適合された光学データ、残留モデルバイアス、及び提供された物理モデルを使用して、サンプルコーティング配合中に存在する少なくとも1つの個々の色成分の濃度を調整するステップと、
を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項12】
基準コーティングの色にマッチングするように、調整されたサンプルコーティングの配合を決定するコンピューティング装置であって、前記システムは:
- 通信インターフェイスであって、
〇 サンプルコーティングの色データとサンプルコーティング配合を含むサンプルコーティングのデジタル表現と、
〇 基準コーティングの色データを含む基準コーティングのデジタル表現と、
〇 個々の色成分の光学データを含む個々の色成分のデジタル表現と、
〇 サンプルコーティングの配合と個々の色成分の光学データを入力パラメータとして使用することによってサンプルコーティングの色を予測するように構成された物理モデルと、
を提供するための通信インターフェイスと、
- 前記通信インターフェイスと通信する処理モジュールであって、前記処理モジュールは少なくとも1つのコンピュータプロセッサを備える、処理モジュールと、
- 前記処理モジュールによって実行されるときに、コンピューティング装置に請求項1に記載のコンピュータ実装方法のステップを実行させるように構成された命令を保存するメモリと、
を備える、コンピューティング装置。
【請求項13】
非一過性のコンピュータ可読記憶媒体であって、前記コンピュータ可読記憶媒体は、請求項12のコンピューティング装置によって実行されるときに、前記コンピューティング装置に請求項1又は2に記載の方法によるステップを実行させる命令を含む、コンピュータ可読記憶媒体。
【請求項14】
色調整プロセスにおける請求項1に記載の方法又は請求項12のコンピューティング装置の使用。
【請求項15】
サーバ装置で、基準コーティングの色にマッチングするように、調整されたサンプルコーティング配合を決定するためのクライアント装置であって、前記クライアント装置は、サンプルコーティングの色データ及びサンプルコーティング配合を含むサンプルコーティングのデジタル表現、基準コーティングの色データを含む基準コーティングのデジタル表現、及び個々の色成分の光学データを含む個々の色成分のデジタル表現を、サーバ装置に提供するように構成され、前記サーバ装置は、請求項12のコンピューティング装置である、クライアント装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に記載される態様は、一般に、十分な色のマッチングが得られるように、サンプルコーティングの色を基準コーティングの色に調整するための方法及びシステムに関する。より具体的には、本明細書に記載される態様は、基材上に塗布されたときに、サンプルコーティング配合中に存在する個々の色成分について適合された光学データを決定し、前記適合された光学データを、修正されたサンプルコーティング配合を決定するために使用することにより、基準コーティングの色と十分にマッチングする、適合された修正サンプルコーティング配合を決定するための方法及びシステムに関する。色調整プロセスでサンプルコーティング配合中に存在する個々の色成分について適合した光学データを使用することにより、塗料製造における着色剤(colorant)の着色強度特性(colorant strength characteristics)のばらつきを補正することができる。前記光学データの適合により、調整されたサンプルコーティング配合の品質及び/又は精度を向上させることができ、したがって、基準コーティングに対するサンプルコーティングの所望の色を得るために必要な調整ステップの数を減らすことができる。
【背景技術】
【0002】
所定の色標準のための塗料製造プロセスは、通常、データベースから読み込まれる配合などの初期コーティング配合から始まる。初期コーティング配合の色は、少なくとも1つの顔料ペースト(以下、着色剤とも呼ぶ)をバインダー、溶媒、及び任意で添加剤を含むベースワニスに添加することによって得られる。顔料ペーストは、マトリックス(典型的にはバインダー、溶媒、及び任意で添加剤)中に色付与成分(顔料など)を含む中間生成物である。典型的には、前記中間生成物の色は、顔料などの原材料の品質のばらつきにより、バッチごとに異なる。製造される各顔料ペーストの色の調整を避けるために、顔料ペーストは、初期コーティング配合のみが調整される必要があるように、初期コーティング配合の調製のために「そのまま」使用される。通常、初期コーティング配合は、製造されたコーティングバッチがコーティング配合中に存在する1つ以上の着色剤の着色強度特性のオーバーシュートのために濃くなりすぎるのを避けるために、(最終的な塗料配合と比較して)減少した量の顔料ペーストを含む。初期コーティングバッチは、この初期コーティング配合にしたがって製造され、このコーティングバッチの対応する色が測定され、基準色と比較される。着色剤の量が減少しているため、最初のコーティングバッチは通常、基準コーティングと比較して顕著な残留色差を有する。したがって、コーティングバッチの色と基準コーティングの色との間の残留色差をできるだけ小さくするために、色調整プロセスが、初期のコーティングの配合を修正することによって適用される必要がある。次に、修正されたコーティングが、修正された初期コーティング配合から調製され、修正されたコーティングの色が決定され、基準コーティングの色と比較される。十分にマッチングしない場合は、色調整プロセスは、調整された初期コーティング配合で繰り返される必要がある。
【0003】
ほとんどのコンピュータ支援された色調整法(カラーマッチング法とも呼ばれる)は、光と散乱媒体又は吸収媒体、例えばコーティング層中の着色剤との相互作用を記述する物理モデルに基づいている。各コーティング層は、当該コーティング層に存在する着色剤に起因する特定の光反射率特性を有している。これらの着色剤はそれぞれ、それぞれの光学定数又は光学データによって表される特定の光学特性を有する。これらの光学定数は、例えば、よく知られている「クベルカ/ムンク(Kubelka/Munk)」モデルにおけるK/S値のように、物理モデルの環境におけるこれらの着色剤の吸収及び散乱特性を記述する。「クベルカ/ムンク(Kubelka/Munk)」モデルのような物理モデルは、着色剤の対応する光学特性又はそれぞれの光学定数とともに、当該コーティング層中に存在する着色剤に関する情報に基づいて(例えば、コーティング層を調製するために使用される配合に関する情報に基づいて)、コーティング層の光反射率特性(色)を予測することができる。
【0004】
着色剤の光学特性は,既知の反射率データを有する既知のコーティング配合から調製された既存の基準コーティングの色データに基づいて決定されることができる。したがって、物理モデルの色予測及びマッチングプロセスは、常に、基準コーティングを調製するために使用されるバッチ(以下、「基準色剤バッチ」とも呼ぶ)内に存在する着色剤の光学特性を使用する。
【0005】
与えられた基準色に対する適切な配合(又は適切な色調整)は、入力パラメータとして着色剤の既存の光学定数及び基準コーティングの反射率データを有する物理モデルに基づいて、数値最適化アルゴリズムを使用して、予測されることができる。しかし、物理モデルの色予測精度は、系統誤差と統計誤差の存在により制限される。統計誤差は、色を決定するために使用される機器、又は測定プロセス、例えばサンプル上の機器の位置の相違によって引き起こされる可能性がある。系統誤差(以下、モデルバイアスともいう)は、サンプルコーティングの測定された色と物理モデルによって予測されたサンプルコーティングの色との差として定義される。色調整プロセス中の前記モデルバイアスを考慮することにより、前記プロセスの精度を向上させることができる。例えば、欧州特許EP 2149038 B1は、数値最適化アルゴリズムと組み合わせた物理モデルに基づく色調整アルゴリズムを開示している。この色調整アルゴリズムは、色調整のための定数オフセットとして物理モデルの決定されたモデルバイアスを考慮しつつ、コーティングバッチと基準色との間の残留色差を最小化する。したがって、調整されたサンプルコーティングの配合は、基準色と、サンプルコーティングの予測反射率データと測定反射率データの間のオフセットとの関数である。この色調整アルゴリズムは、配合が「小さなスケール」で変化した場合はモデルのバイアスは一定に保たれる、つまり、調整されたコーティング配合が元のコーティング配合に「類似」している限り、モデルのバイアスも類似していると予想される、という基本的な仮定に基づいている。
【0006】
このアプローチの限界は、着色剤の光学特性(例えば着色強度特性)が時間の経過にわたって一定ではなく、典型的には、例えば顔料(pigment)などの原材料の偏差に起因して、特定の範囲内で製造バッチごとに変化することである。着色強度は、コーティング層の色を修正する着色剤の能力として定義され、着色剤の量当たりの色変化の程度を測定するため、着色剤の効率の指標として使用されることができる。着色強度は、以下の式:


に従って定義されることができる。
【0007】
着色強度の例としては、例えば、着色するために使用される着色剤の着色力、又は白色着色剤の着色低減力が挙げられる。
【0008】
着色剤の着色強度が大きいほど、コーティング層の色に与える影響は大きくなる。したがって、各着色剤の着色強度特性は、着色剤の吸収特性及び散乱特性「K」及び「S」のスケールと相関している。
【0009】
結論として、サンプルコーティング配合を調製するために使用される着色剤バッチに存在する顔料ペーストなどの着色剤の着色強度特性は、基準コーティングを調製するために使用される基準着色剤バッチに存在する着色剤の着色強度特性と異なり得る。着色強度特性の差のスケール、及びサンプルコーティングと基準コーティングの色差のスケールによっては、EP 2149038 B1に記載されているようなモデルバイアスを考慮したにもかかわらず、色の調整結果が著しく不正確になる可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、前述の欠点を伴わない、基準コーティングの色に十分にマッチングする調整されたコーティング配合を生成するための方法及びシステムを提供することが望ましい。より具体的には、基準コーティングの色にマッチングする調整されたサンプルコーティング配合を決定するためのコンピュータ実装方法及びシステムは、特に、コーティング配合中に存在する着色剤の着色強度のばらつきを考慮することによって、より正確な色調整結果を提供する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
定義
「基準コーティング」とは、定義された比色特性(colorimetric properties)などの定義された特性を有するコーティングを指し得る。基準コーティングは、少なくとも1つの定義されたコーティング材料を表面に塗布し、当該塗布されたコーティング材料を硬化させることによって調製させることができるが、ただし、定義されたコーティング材料の少なくとも1つは少なくとも1つの着色剤を含む。対照的に、「サンプルコーティング」という用語は、比色特性など定義された特性の少なくとも一部に関して、基準コーティングと比較して評価されるコーティングを指し得る。サンプルコーティングは、基準コーティングについて説明したように、好ましくは、基準コーティングの調製に使用したのと同じ数及び種類のコーティング配合を使用することによって調製されることができる。「サンプルコーティング配合」という用語は、サンプルコーティングを調製するために使用されるコーティング材料を指し、一方、「基準コーティング配合」という用語は、基準コーティングを調製するために使用されるコーティング材料を指す。「修正サンプルコーティング配合」という用語は、サンプルコーティング配合内に存在する少なくとも1つの成分が、サンプル配合(すなわち、修正されていないサンプル配合)に関して、例えば前記成分の量を修正することによって修正されたサンプルコーティング配合を指す。「配合」、「色配合」及び「塗料配合」という用語は、本明細書において同義的に使用される。
【0012】
「ディスプレイ装置」とは、視覚形式又は触覚形式(後者は視覚障害者用の触覚電子ディスプレイに使用され得る)で情報を提示するための出力装置を指す。「ディスプレイ装置の画面」とは、ディスプレイ装置の物理的画面と投影ディスプレイ装置の投影領域を同様に指す。
【0013】
「色データ」には、反射率データ、CIEL値又はCIEL値などの色空間データ、光沢データ、輝き特性及び/又は粗さ特性などのテクスチャパラメータ、又はそれらの組み合わせが含まれる。
【0014】
「デジタル表現」は、コンピュータ可読形式におけるサンプルコーティング、基準コーティング及び個々の色成分の表現を指し得る。特に、サンプルコーティングのデジタル表現は、少なくともサンプルコーティングの色データ及びサンプルコーティング配合、特に、マルチアングル分光光度計などの測定装置を用いて前記色データを決定することによって得られるサンプルコーティングの色データ及びサンプルコーティング配合を含む。サンプルコーティングのデジタル表現は、サンプルコーティングを示すデータ、例えば、サンプルコーティングに関連する色番号/カラーコード/バーコード/固有のデータベースID、サンプルコーティングの層構造、サンプルコーティングの湿潤膜厚又は乾燥膜厚、サンプルコーティングに関連するサンプルコーティング材料を調製するための指示、価格、適合させる個々の成分の光学データに関する予め定義された基準、又はそれらの組み合わせ、をさらに含むことができる。基準コーティングのデジタル表現には、少なくとも基準コーティングの色データ、特に、マルチアングル分光光度計などの測定装置を用いて前記色データを決定することによって得られる基準コーティングの色データが含まれる。基準コーティングのデジタル表現は、基準コーティングを示すデータ、例えば、基準コーティングに関連する色番号/カラーコード/バーコード/固有のデータベースID、基準コーティング配合、基準コーティングの層構造、基準コーティングの湿潤膜厚又は乾燥膜厚(以下、目標湿潤膜厚又は目標乾燥膜厚ともいう)、基準コーティングに関連する基準コーティング配合を調製するための指示、価格、色差を決定する方法を示すデータ、例えば、色許容方程式、又はスペクトル曲線の形状の類似性を含む他の方法、適合させる個々の成分の光学データに関する予め定義された基準、又はそれらの組み合わせをさらに含むことができる。個々の色成分のデジタル表現は、少なくとも個々の色成分の光学データを含む。個々の色成分のデジタル表現は、個々の色成分を示すデータ、例えば個々の色成分に関連する材料コード/番号又は商標名、適合されるべき個々の成分の光学データに対する予め定義された基準、又はそれらの組み合わせなどをさらに含むことができる。
【0015】
「個々の色成分」とは、サンプルコーティング配合及び基準コーティング配合などのコーティング配合内に存在する別々の成分を指す。個々の色成分の例としては、着色顔料及び効果顔料などの顔料、バインダー、溶媒、及び例えばマットペーストなどの添加剤が挙げられる。好ましくは、「個々の色成分」という用語は、着色顔料及び効果顔料などの顔料ペースト又は顔料を指す。
【0016】
「個々の色成分の光学データ」とは、個々の色成分の光学特性及び/又は特定の光学定数を指す。個々の色成分の光学定数は、物理モデルのパラメータであり、該パラメータは、前述のように、顔料ペーストの参照バッチを用いて基準コーティングを調製し、例えば分光光度計を用いて調製された基準コーティングの反射スペクトルを測定することによって、光学特性を決定することにより、決定されることができる。反射スペクトル及び対応する配合データから、K/S定数などの特定の光学特性が決定され、光学データとしてそれぞれの個々の色成分に割り当てられることができる。「個々の色成分の光学データ(optical data of individual color components)」、「個々の色成分の光学データ(optical data of the individual color components)」又は「着色剤の光学データ(optical data of the colorants)」という用語は、同義的に使用される。
【0017】
「物理モデル」という用語は、物理法則に基づく決定論的な色予測モデルを指す。特に好ましくは、本発明に従って使用される物理モデルは、顔料系の光吸収特性及び光散乱特性を記述する物理法則に基づいている。
【0018】
「モデルバイアス」(以下、物理モデルバイアスともいう)という用語は、コーティング配合及び個々の色成分の光学データに基づく色データを予測する間の物理モデルの系統誤差を指す。系統誤差は、物理モデルの限界と、サンプルコーティング配合中に存在する個々の色成分の光学データに存在するバイアスを含む。個々の色成分の光学データに存在するバイアスは、顔料ペーストの着色強度特性が、顔料ペーストを調製するために使用される原材料(顔料など)の偏差により、バッチごとに異なるため、基準コーティングを調製するために使用される顔料ペーストの着色強度特性と、サンプルコーティングを調製するために使用される顔料ペーストの着色強度特性の差から生じる。「残留モデルバイアス」という用語は、個々の色成分の光学データを調整した後に、調整された光学データを使用した予測色データが、参照着色剤バッチについて決定された光学データを使用した予測色データよりも、測定された色によくマッチングするように、残るモデルバイアスを指す。個々の色成分の光学データを調整することで、色調整プロセス中に顔料ペーストの異なる着色強度特性を考慮することができる。
【0019】
「通信インターフェイス」は、信号又はデータの転送又は交換などの通信を確立するためのソフトウェア及び/又はハードウェアインターフェイスを指し得る。ソフトウェアインターフェイスは、例えば、関数呼び出し、APIであり得る。通信インターフェイスは、トランシーバ及び/又はレシーバを備えることができる。通信は有線でも無線でもよい。通信インターフェイスは、1つ以上の通信プロトコルに基づくか、又はそれをサポートしていてよい。通信プロトコルは、無線プロトコル、例えば、Bluetooth(登録商標)もしくはWiFiなどの近距離通信プロトコル、又は、例えば、第2世代セルラーネットワーク(「2G」)、3G、4G、Long-Term Evolution(「LTE」)、もしくは5Gなどのセルラー又はモバイルネットワークなどの長距離通信プロトコルであってよい。代替的に、又は追加的に、通信インターフェイスは、専用の短距離又は長距離プロトコルに基づいていてよい。通信インターフェイスは、任意の1つ以上の標準プロトコル及び/又は専用プロトコルをサポートすることができる。
【0020】
「コンピュータロセッサ」とは、コンピュータ又はシステムの基本動作を実行するように構成された任意の論理回路、及び/又は、一般に、計算又は論理演算を実行するように構成された装置を指す。特に、処理手段又はコンピュータプロセッサは、コンピュータ又はシステムを駆動する基本命令を処理するように構成されることができる。一例として、処理手段又はコンピュータプロセッサは、少なくとも1つの算術論理コンピューティングデバイス(「ALU」)、数学コプロセッサ又は数値コプロセッサなどの少なくとも1つの浮動小数点ユニット(「FPU」)、複数のレジスタ、特に、オペランドをALUに供給し、演算結果を保存するように構成されたレジスタ、及びL1キャッシュメモリ及びL2キャッシュメモリなどのメモリを備えることができる。特に、処理手段、又はコンピュータプロセッサは、マルチコアプロセッサであってよい。具体的には、処理手段、又はコンピュータプロセッサは、中央処理装置(「CPU」)であってよく、又は中央処理装置を備えていてよい。処理手段又はコンピュータプロセッサは、(「GPU」)グラフィックス処理ユニット、(「TPU」)テンソルプロセッシングユニット、(「CISC」)複雑命令セットコンピュータマイクロプロセッサ、縮小命令セットコンピュータ(「RISC」)マイクロプロセッサ、超長命令語(「VLIW」)マイクロプロセッサ、又は他の命令セットを実装するプロセッサ、又は命令セットの組み合わせを実装するプロセッサであってよい。処理手段はまた、特定用途向け集積回路(「ASIC」)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(「FPGA」)、複合プログラマブルロジックデバイス(「CPLD」)、デジタル信号プロセッサ(「DSP」)、ネットワークプロセッサ又はその類似物などの1つ以上の特殊用途処理装置であってよい。本明細書で説明される方法、システム、及び装置は、DSP、マイクロコントローラ、又はその他のサイドプロセッサ内のソフトウェアとして、あるいはASIC、CPLD、又はFPGA内のハードウェア回路として実装されることができる。処理手段又はプロセッサという用語は、複数のコンピュータシステム(例えばクラウドコンピューティング)にまたがって配置された処理装置の分散システムなど、1つ以上の処理装置を指し得、特に指定がない限り、単一の装置に限定されないことを理解されたい。「プロセッサ」と「コンピュータプロセッサ」という用語は、本明細書では同義的に使用される。
【0021】
「データ記憶媒体」とは、コンピュータ実行可能な命令及び/又はデータ構造を担持又は保存するための物理的媒体及びその他のコンピュータ可読媒体を指し得る。このようなコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用目的のコンピュータシステムによってアクセス可能な任意の利用可能な媒体であり得る。コンピュータ可読媒体には、コンピュータ実行可能命令及び/又はデータ構造を保存する物理的記憶媒体を含めることができる。物理的記憶媒体には、RAM、ROM、EEPROM、ソリッドステートドライブ(「SSD」)、フラッシュメモリ、相変化メモリ(「PCM」)、光ディスクストレージ、磁気ディスクストレージ又は他の磁気ストレージ装置などのコンピュータハードウェア、あるいは、コンピュータ実行可能命令又はデータ構造の形態でプログラムコードを保存するために使用され得る任意の他のハードウェアストレージ装置が含まれ、これらは、本発明の開示された機能を実装するために、汎用又は専用目的のコンピュータシステムによってアクセス及び実行されることができる。
【0022】
「データベース」は、検索及び取得が可能な関連情報の集合体を指し得る。データベースは、検索可能な電子数値、英数字、又はテキスト文書;検索可能なPDF文書;マイクロソフト(Microsoft Excel)(登録商標)スプレッドシート;又は最新技術において一般的に知られているデータベースであり得る。データベースは、検索及び取得が可能なコンピュータ可読記憶媒体に存在する電子文書、写真、画像、図、データ、又は図面のセットであり得る。データベースは、単一のデータベース、関連するデータベースのセット、又は関連しないデータベースの集合であってよい。「関連するデータベース」とは、そのようなデータベースを関連付けるために使用され得る関連するデータベースに少なくとも1つの共通の情報要素が存在することを意味する。
【0023】
「クライアント装置」とは、その動作の一部として、別のプログラムへリクエストを送信することに依存するコンピュータ又はプログラム、あるいはサーバによって提供されるサービスにアクセスするコンピュータのハードウェア又はソフトウェアを指し得る。
【0024】
概要
俯瞰して上記の問題を解決するために、次が提案される:
基準コーティングの色にマッチングするように、調整されたサンプルコーティングの配合を決定するためのコンピュータ実装方法であって、前記方法は:
(i) 通信インターフェイスを介してコンピュータプロセッサに
・サンプルコーティングの色データとサンプルコーティング配合を含むサンプルコーティングのデジタル表現と、
・基準コーティングの色データを含む基準コーティングのデジタル表現と、
・個々の色成分の光学データを含む個々の色成分のデジタル表現と、
・サンプルコーティングの配合と個々の色成分の光学データを入力パラメータとして使用することによって、サンプルコーティングの色を予測するように構成された物理モデルと、
を提供するステップと、
(ii) 提供されたサンプルコーティングの色データと提供された基準コーティングの色データとの間の色差をコンピュータプロセッサで決定するステップと、
(iii) 提供された物理モデルのモデルバイアスを、コンピュータプロセッサで、
・サンプルコーティングのデジタル表現、個々の色成分のデジタル表現、及びステップ(i)で提供された物理モデルに基づいて、サンプルコーティングの色データを予測することと、
・提供されたサンプルコーティングの色データと予測されたサンプルコーティングの色データとの間の色差を決定することと、
によって、決定するステップと、
(iv) サンプルコーティング配合中に存在する個々の色成分の少なくとも一部について、提供された個々の色成分の光学データを適合させることにより、ステップ(iii)で決定されたモデルバイアスをコンピュータプロセッサで最小化するステップと、
(v) ステップ(iv)で適合された光学データを使用して、サンプルコーティングの提供された色データと予測された色データとの間の色差を決定することにより、残留モデルバイアスをコンピュータプロセッサで決定するステップと、
(vi) ステップ(ii)において決定された色差、ステップ(iv)において得られた個々の色成分の適合された光学データ、ステップ(v)において決定された残留モデルバイアス、及び提供された物理モデルに基づいて、調整されたサンプルコーティング配合をコンピュータプロセッサで計算するステップと、
(vii) 前記計算された調整されたサンプルコーティング配合を通信インターフェイスを介して提供するステップと、
を含む。
【0025】
本発明による方法の本質的な利点は、基準コーティング材料及びサンプルコーティング材料の製造に使用される顔料ペーストの着色強度特性のばらつき(個々の色成分の着色強度のばらつき)によって生じる物理モデルのモデルバイアスの部分が最小化されることである。着色強度特性のばらつきによって生じるモデルバイアスのこの部分を最小化するために、サンプルコーティングのモデルバイアスは、物理モデル内に含まれる個々の色成分の着色強度特性のばらつきと相関される。これは、サンプルコーティング配合に含まれる個々の色成分の提供された光学データを、物理モデルのモデルバイアスが最小化されるように適合させることによって行われる。この結果、サンプルコーティング配合内に使用される個々の色成分の実際の光学特性をより正確に記述する、適合された光学データが得られる。個々の色成分の適合された光学データを使用するサンプルコーティング配合の次の調整により、より堅固でより正確な色調整が行われ、先行技術で知られている方法と比較して、より少ない調整ステップで十分なカラーマッチングを得ることができる。これにより、本発明の色調整方法の効率が著しく向上する。
【0026】
本発明の方法のステップ(i)では、サンプルコーティングと基準コーティングのデジタル表現、個々の色成分のデジタル表現、及び物理モデル(すなわち物理的色予測モデル)が、通信インターフェイスを介してコンピュータプロセッサに提供される。
【0027】
ステップ(i)の態様では、サンプルコーティングのデジタル表現及び/又は基準コーティングのデジタル表現を提供することが、測定装置を用いてサンプルコーティング及び/又は基準コーティングの色データを決定することと、決定された色データを、任意でさらなるデータ及び/又はメタデータ及び/又はユーザ入力と組み合わせて、通信インターフェイスを介してコンピュータプロセッサに入力することと、を含む。
【0028】
色データは、Byk-Mac(登録商標)I又はXRite MA(登録商標)-Tファミリーの分光計などの、市販のマルチアングル分光計を使用して測定されることができる。この目的のために、それぞれのサンプル及び/又は基準コーティングの反射率は、いくつかのジオメトリについて測定される。効果コーティングの場合、テクスチャ画像(グレースケール又はカラー画像)は、好ましくはいくつかのジオメトリで取得される。マルチアングル分光光度計は、好ましくは、例えば定義された測定ジオメトリについて測定された反射率及び/又はテクスチャ特性から各測定ジオメトリの色データを計算することによって、測定された反射率データ及びテクスチャ画像を処理するようにプログラムされ得るコンピュータプロセッサに接続される。決定された色データは、決定された色データを通信インターフェイスを介してコンピュータプロセッサに提供する前に、内部メモリ又はデータベースなどのデータ記憶媒体に保存されることができる。これは、決定された色データを保存する前に、必要に応じて、保存された色データが、さらなるデータ及び/又はメタデータ及び/又はユーザ入力を使用して検索され得るように、決定された色データをさらなるデータ及び/又はメタデータ及び/又はユーザ入力と相互関連付けることを含むことができる。決定された色データを保存することは、それぞれの効果コーティングの外観がディスプレイ装置の画面上に表示されるたびにデータを取得する必要がないため、当該データが数回必要とされる場合は、好ましくあり得る。
【0029】
さらなるデータ及び/又はメタデータ及び/又はユーザ入力は、それぞれのコーティングに関連する前述のリストされた色番号/カラーコード/バーコード/固有のデータベースID、それぞれのコーティングの層構造、それぞれのコーティングの湿潤膜厚又は乾燥膜厚、それぞれのコーティングに関連するそれぞれのコーティング材料の調製指示、価格、又はそれらの組み合わせを含むことができる。
【0030】
代替的な態様では、基準コーティングのデジタル表現を提供することは、サンプルコーティングのデジタル表現を提供すること、及び/又は基準コーティングを示すデータを提供すること、提供されたサンプルコーティングの表現及び/又は提供された基準コーティングを示すデータに基づいて基準コーティングのデジタル表現を取得すること、及び取得された基準コーティングのデジタル表現を提供することを含む。
【0031】
基準コーティングを示すデータには、基準コーティングに関連する色名、色番号、カラーコード、バーコード、IDなどが含まれ得る。基準コーティングを示すデータは、ディスプレイ装置の画面上に表示されるGUIを介してユーザによって入力されてよく、QRコードなどのスキャンされたコードに基づいてデータベースから取得されてよく、又は予め定義されたユーザアクションに関連付けられてよい。予め定義されたユーザアクションは、例えば、関連する画像を含む保存された測定値のリストの表示、又は検索基準、ユーザプロファイルなどに従った利用可能な基準コーティングのリストの表示など、ディスプレイ装置の画面上に表示されるGUI上で所望のアクションを選択することを含むことができる。
【0032】
一実施例では、提供されたサンプルコーティングのデジタル表現に基づいて基準コーティングのデジタル表現を取得することは、サンプルコーティングの色名、カラーコード、バーコードなどのサンプルコーティングのデジタル表現に含まれるデータと相互に関連する基準コーティングのデジタル表現を含むデータベースにアクセスすることと、データベースからサンプルコーティングのデジタル表現に含まれるデータに基づいて基準コーティングのデジタル表現を取得することとを含む。データベースは、好ましくは、通信インターフェイスを介してコンピュータプロセッサに接続され、サンプルコーティングのデジタル表現は、例えば、ディスプレイ装置の画面上に表示されるGUIを介して、データ記憶媒体に記憶されたデジタル表現を選択することによって、又は、色名、カラーコードなどのサンプルコーティングを示すデータを入力し、入力されたデータに基づいてサンプルコーティングのデジタル表現を取得することによって、コンピュータプロセッサに提供され得る。
【0033】
サンプルコーティングのデジタル表現は、サンプルコーティングの色データ、及びサンプルコーティングの配合、すなわちサンプルコーティングの配合に含まれる成分の種類と量を含む。サンプルコーティングの色データは、好ましくは、測定装置を用いて決定された色データであり、したがって、シミュレートされた色データ、すなわち、反射率値又はテクスチャ画像などの測定データから生成されない色データは含まれない。一態様では、サンプルコーティングのデジタル表現は、サンプルコーティングを示すデータ、サンプルコーティングの層構造、サンプルコーティングの配合を調製するための指示、価格、適合させるべき個々の成分の光学データに関する予め定義された基準、又はそれらの組み合わせをさらに含む。サンプルコーティングを示すデータは、例えば、色番号、カラーコード、固有のデータベースID、バーコード、又はそれらの組み合わせを含み得る。
【0034】
基準コーティングのデジタル表現は、基準コーティングの色データを含む。基準コーティングの色データは、好ましくは、測定装置で決定された色データであり、したがって、シミュレートされた色データ、すなわち、反射率値又はテクスチャ画像などの測定データから生成されない色データを含まない。一態様では、基準コーティングのデジタル表現は、基準コーティングを示すデータ、基準コーティングの層構造、基準コーティングに関連する配合、基準コーティング配合を調製するための指示、価格、色許容方程式又はスペクトル曲線の形状類似性を含む他の方法などの色差を決定する方法を示すデータ、適合させる個々の成分の光学データに関する予め定義された基準、又はそれらの組み合わせをさらに含む。基準コーティングを示すデータは、例えば、色番号、カラーコード、固有のデータベースID、バーコード、又はそれらの組み合わせを含むことができる。
【0035】
一態様では、色データは、反射率データ、色空間データ、特にCIEL値又はCIEL値、光沢データ、テクスチャパラメータ、特に輝き特性及び/又は粗さ特性、又はそれらの組み合わせを含む。色データは、前述したように、マルチアングル分光光度計を用いて決定されることができる。色データは、色及び/又はテクスチャオフセットを使用することによって、例えば色を明るくしたり暗くしたりすることによって変更されることができる。
【0036】
個々の色成分のデジタル表現は、個々の色成分の光学データを含む。一態様では、前記デジタル表現は、個々の色成分を示すデータをさらに含む。個々の色成分を示すデータは、名称、商標名、成分に関連する固有のID(すなわち、材料コード又は番号)、又はそれらの組み合わせであってもよい。
【0037】
一態様では、個々の色成分の光学データは、個々の色成分の光学定数、特に個々の色成分の波長依存散乱及び吸収特性を含む。光学定数はさらに、コーティング内の効果顔料などの個々の色成分の配向を含むことができる。
【0038】
ステップ(ii)では、提供されたサンプルコーティングの色データと提供された基準コーティングの色データとの間の色差をコンピュータプロセッサで決定する。ステップ(ii)は、ステップ(iii)の後に実行することもできる。したがって、ステップ(ii)と(iii)の順序を逆にすることができ、すなわち、ステップ(iii)をステップ(ii)の前に実行することができる。
【0039】
一態様では、ステップ(ii)及び/又は(iii)及び/又は(v)における色差は、色許容方程式、特にデルタE(CIE1994)色許容方程式、デルタE(CIE2000)色許容方程式、デルタE(DIN99)色許容方程式、デルタE(CIE1976)色許容方程式、デルタE(CMC)色許容方程式、デルタE(Audi95)色許容方程式、デルタE(Audi2000)色許容方程式又は他の色許容方程式を用いて決定される。
【0040】
代替的な態様では、ステップ(ii)及び/又は(iii)及び/又は(v)における色差は、スペクトル曲線の形状類似性を用いて決定される。スペクトル曲線の形状類似性の使用は、色調整プロセスをより複雑にする個々の色成分の特性又は「フィンガープリント」を変更することを回避するため、好ましい。
【0041】
決定された色差は、内部データ記憶媒体又はデータベースなどのデータ記憶媒体に保存されることができる。決定された色差は、続く方法ステップのいずれか1つにおいてデータの取得を可能にするように、提供されたサンプルコーティング配合のデジタル表現に含まれるデータなどのさらなるデータと相互に関連付けられてよい。
【0042】
一態様では、ステップ(ii)から(vii)は同時に実行される。「同時に」とは、コンピュータプロセッサがステップ(ii)から(vii)を実行する時間を指す。好ましくは、この時間は、調整されたサンプル配合をアドホックに、すなわち、ステップ(ii)を開始してから数ミリ秒内に生成できるように、十分に小さい。
【0043】
ステップ(iii)では、提供された物理モデルのモデルバイアスはコンピュータプロセッサで決定される。前述したように、提供された物理モデルのモデルバイアスは、主に、基準色成分とサンプルコーティング配合を調製するために使用された色成分との間の個々の色成分の着色強度のばらつきに起因する偏った特定の光学定数によって、及び物理モデルの限界によって、引き起こされる。モデルバイアスを決定するために、物理モデルは、提供されたサンプルコーティングのデジタル表現と提供された個々の色成分のデジタル表現に基づいて、サンプルコーティングの色データを予測するために使用される。その後、提供されたサンプルコーティングのデジタル表現に含まれるサンプルコーティングの色データと、予測されたサンプルコーティングの色データとの間の色差が決定される。色差は、ステップ(ii)に関連して前述したように決定されることができる。
【0044】
一態様では、サンプルコーティングの色データは、サンプルコーティング配合、及びサンプルコーティング配合内に存在する個々の色成分の光学データ、特に光学定数を、提供された物理モデルの入力パラメータとして用いてステップ(iii)において予測される。次に、提供された物理モデルは、入力パラメータに基づいて、サンプルコーティング配合の反射率データなどの色データを予測する。予測された色データは、内部データ記憶媒体又はデータベースなどのデータ記憶媒体に保存されることができる。予測された色データは、続く方法ステップのいずれか1つにおいてデータの取得を可能にするように、提供されたサンプルコーティング配合のデジタル表現に含まれるデータなどのさらなるデータと相互に関連付けられてよい。
【0045】
本発明の方法のステップ(iv)では、決定されたモデルバイアスは、サンプルコーティング配合中に存在する個々の色成分の少なくとも一部の提供された光学データを適合させることにより、コンピュータプロセッサを用いて最小化される。サンプルコーティングのモデルバイアスを、提供された物理モデル内の含まれる個々の色成分の着色強度のばらつきと相関させることにより、サンプルコーティング配合を製造するために使用された個々の色成分の実際の光学特性をより良く記述することができ、その結果、本発明の方法のステップ(vi)において調整されたサンプルコーティング配合をより正確に計算することができる。
【0046】
一態様では、ステップ(iii)で決定されるモデルバイアスの最小化は、
- ステップ(i)で提供された光学データから開始して、所定のコスト関数を最小化することにより、サンプルコーティング配合中に存在する個々の色成分の少なくとも一部の光学データを適合させるように構成された数値的方法を提供するステップと、
- コスト関数が所定の閾値を下回るまで、又は反復回数が予め定義された限界に達するまで、提供された物理モデルを用いて得られたサンプルコーティングの再帰的に予測された色データと、提供されたサンプルコーティングの色データとを比較することにより、提供された数値的方法及び提供された物理モデルを用いて、サンプルコーティング配合に存在する個々の色成分の少なくとも一部の光学データを適合させるステップと、
を含む。
【0047】
したがって、モデルバイアスの最小化は、提供された数値的方法及び物理的モデルを使用して、サンプルコーティング配合中に存在する個々の色成分の少なくとも一部の光学データを適合させることを含む。一例では、すべての個々の色成分の光学データを適合させる。別の例では、個々の色成分の一部のみの光学データが後述のように適合され、したがって、個々の色成分の残りの部分の光学データは変更されないままである。
【0048】
適切な数値的方法としては、M. J. D. Powellによる「線形補間によって目的関数と制約関数をモデル化する直接探索最適化法(A direct search optimization method that models the objective and constraint functions by linear interpolation)」 最適化と数値解析の進歩(Advances in Optimization and Numerical Analysis), S. Gomez 及びJ.-P. Hennart編(Kluwer Academic: Dordrecht, 1994), 51~67頁に記載されているCOBYLA (線形近似による制約付き最適化)法が含まれる。COBYLA法は、任意の非線形不等式及び等式制約をサポートするローカル導関数なしの最適化である。
【0049】
数値的方法は、コンピュータプロセッサを備えるコンピューティング装置の内部メモリなどのデータ記憶媒体、又は通信インターフェイスを介してコンピュータプロセッサに接続されたデータベースに保存されていてよい。ステップ(iv)を実行するときに、コンピュータプロセッサは、コンピュータプロセッサなどのデータ記憶媒体から数値的方法を取得する。
【0050】
適合された光学データ及び/又はサンプルコーティングの再帰的に予測された色データは、内部データストレージ又はデータベースなどのデータ記憶媒体に保存され得る。一例では、適合された色データ及び/又はすべての再帰的に予測された色データが保存される。これは、データストレージの制限が重要でない場合には好ましくあり得る。別の例では、適合された色データ、及び/又は、再帰的に予測された色データの一部のみ、例えば、コスト関数が所定の閾値を下回るか、又は、反復の最大限界で得られる、適合された光学定数に関連する予測された色データは、データ記憶媒体に保存される。これは、データストレージ容量が限られている場合に好ましくあり得る。保存された適合された光学データ及び/又は予測された色データは、本発明の方法の続くステップのいずれかにおいて保存されたデータの取得を可能にするように、サンプルコーティングのデジタル表現に含まれるデータと相互に関連付けられてよい。
【0051】
一例では、コスト関数は、提供されたサンプルコーティングの色データと、予測されたサンプルコーティングの色データとの間の色差である。前記色差は、上記ステップ(ii)に関連して説明したように計算されることができる。コスト関数が色差である場合、所定の閾値は、好ましくは所定の色差である。
【0052】
一例では、コスト関数は、個々の色成分の少なくとも一部の光学データのより大きな適合にペナルティ項を割り当てるペナルティ関数を含む。「より大きな適合」という用語は、少なくとも10%の個々の色成分の少なくとも一部の光学データの適合を示す。一例では、ペナルティ項は10%の光学データの適合に割り当てられる。別の例では、ペナルティ項は20%の光学データの適合に割り当てられる。さらに別の例では、ペナルティ項は50%の光学データの適合に割り当てられる。これにより、元の光学データ(すなわち、提供された個々の色成分のデジタル表現に含まれる光学データ)にできるだけ類似した調整された光学データを提供することができ、個々の色成分の色が、提供されたサンプルコーティングの色データとサンプルコーティングの予測された色データとの間の小さな色差を補正するために、又はモデルバイアスもしくは残留モデルバイアスの一部を補正するために過度にシフトされることを防止することができる。このような色の過度のシフトは、利用可能な個々の色成分を使用して調製することができない、あり得ない調整されたサンプルコーティング配合をもたらすため、望ましくない。
【0053】
サンプルコーティング配合中に存在する個々の色成分の少なくとも一部の光学データの適合は、提供された物理モデルを用いて得られたサンプルコーティングの再帰的に予測された色データと、提供されたサンプルコーティングの色データとを比較する前に、特に少なくとも1つの予め定義された基準に基づいて、適合される個々の色成分の光学データを決定することを含み得る。予め定義された基準の例としては、サンプルコーティング配合中に存在する個々の色成分の量、及び/又は個々の色成分の種類などが含まれ得る。予め定義された基準は、ステップ(i)で提供されたサンプルコーティング、基準コーティング又は個々の色成分のデジタル表現に含まれ得る。これにより、例えば、より多く存在する個々の色成分、又は白色顔料ではない個々の色成分など、定義された数の個々の色成分のみの光学データを適合させることができ、数値的方法によって使用される変数の総数を減らすことができる。変数の総数を減らすと、例えば、類似の光学的挙動を有する着色剤がサンプルコーティング配合内に存在する場合などに、最適化方法がより堅固になる。
【0054】
一例では、サンプルコーティング配合中に存在する個々の色成分の少なくとも一部の光学データを適合させることが、前記光学データにスケーリング関数を適用することを含む。
【0055】
適切なスケーリング関数には、式(1)の線形スケーリング関数が含まれ、
ここで
特に光学定数を指し、

適合された光学データ、特に適合された光学定数を指し、
インデックスを指し、1からnの範囲であり、
1からmの範囲である。
【0056】
好ましくは、個々の色成分のすべての波長依存光学データ、特に個々の色成分のすべての波長依存光学定数に対して使用される。個々の色成分のすべての光学定数K及びSのようなすべての波長依存性光学データに対して同じスケーリング係数を使用することは、適合の間に、個々の色成分の特性又は「フィンガープリント」を保持することを可能にする。これとは対照的に、光学データを任意に適合させることは、個々の色成分の特性又は「フィンガープリント」の大幅な変更をもたらし得、前述のように色調整プロセスを複雑にする。
【0057】
本発明の方法のステップ(v)では、残留モデルバイアスは、提供されたサンプルコーティングのデジタル表現に含まれる色データと、ステップ(iv)において調整された光学データを用いて得られる予測された色データとの間の色差を決定することにより、コンピュータプロセッサを用いて決定される。ステップ(iv)で調整された光学データを用いて得られる予測された色データは、前述のように、ステップ(iv)でモデルバイアスを最小化する際に決定される予測された色データを指す。色差は、ステップ(ii)に関連して前述したように決定されることができる。
【0058】
本発明の方法のステップ(vi)では、調整されたサンプルコーティング配合は、ステップ(ii)において決定された色差、ステップ(iv)において得られた個々の色成分の適合された光学データ、ステップ(v)において決定された残留モデルバイアス、及び提供された物理モデルに基づいて、コンピュータプロセッサにより計算される。
【0059】
一態様では、調整されたサンプルコーティング配合を計算することは、
- 提供されたサンプルコーティングのデジタル表現に含まれる個々の色成分の濃度から開始して、所定のコスト関数を最小化することによって、サンプルコーティング配合中に存在する少なくとも1つの個々の色成分の濃度を調整するように構成された数値的方法を提供するステップと、
- 色差が所定の閾値を下回るまで、又は反復回数が予め定義された限界に達するまで、サンプルコーティングの再帰的に調整された配合の再帰的に予測された色データと、提供された基準コーティングの色データとを比較することによって、提供された数値的方法、ステップ(iv)で得られた適合された光学データ、残留モデルバイアス、及び提供された物理モデルを使用して、サンプルコーティング配合中に存在する少なくとも1つの個々の色成分の濃度を調整するステップと、
を含む。
【0060】
適切な数値的方法には、減衰最小二乗法(DLS)としても知られるレーベンベルグマルカールト(Levenberg-Marquardt)アルゴリズム(LMA又はLMと呼ばれる)が含まれる。数値的方法は、コンピュータプロセッサを含むコンピューティング装置の内部メモリなどのデータ記憶媒体に、又は通信インターフェイスを介してコンピュータプロセッサに接続されたデータベースに保存されることができる。ステップ(vi)を実行すると、コンピュータプロセッサは、コンピュータプロセッサなどのデータ記憶媒体から数値的方法を取得する。
【0061】
残留モデルバイアスは、定数として少なくとも1つの個々の色成分の濃度の調整中に考慮される。これにより、ステップ(iv)でモデルバイアスをゼロに最小化できなかった場合に、残存するモデルバイアスを考慮することができ、したがって調整されたサンプルコーティング配合の計算精度を向上させることができる。
【0062】
一例では、コスト関数は、サンプルコーティングの予測された色データと基準コーティングの色データとの間の色差である。前記色差は、上記ステップ(ii)に関連して説明したように計算されることができる。コスト関数が色差である場合、所定の閾値は、好ましくは所定の色差である。
【0063】
サンプルコーティングの配合は、ステップ(iv)で得られた適合された光学データ及び再帰的に調整されたサンプルコーティング配合を提供された物理モデルの入力パラメータとして使用して、ステップ(vi)で調整される。次に、提供された物理モデルは、入力パラメータに基づいて、調整されたサンプルコーティング配合の反射率データなどの色データを予測する。この予測は、コスト関数が所定の閾値を下回るか、反復の最大限界が到達されるまで、サンプルコーティング配合の調整ごとに実行される。
【0064】
本発明の方法のステップ(vii)では、ステップ(vi)で計算された調整されたサンプルコーティング配合は、通信インターフェイスを介して提供される。一態様では、計算された調整されたサンプルコーティング配合を提供することは、前記調整サンプルコーティング配合を、任意でさらなるデータと組み合わせて、通信インターフェイスを介して、画面上に表示するための画面を備えるディスプレイ装置に提供することを含む。次に、ディスプレイ装置は、提供された調整サンプルコーティング配合とさらなるデータとを、例えばGUI内で画面上に表示する。
【0065】
一態様では、ディスプレイ装置は、ステップ(ii)から(vii)を実行するコンピュータプロセッサと画面とを収容するハウジングを備える。したがって、ディスプレイ装置は、コンピュータプロセッサと画面を備える。ハウジングは、プラスチック製、金属製、ガラス製、又はそれらの組み合わせであってよい。
【0066】
別の態様では、ディスプレイ装置と、ステップ(ii)から(vii)を実行するコンピュータプロセッサとは、別個のコンポーネントとして構成される。この態様によれば、ディスプレイ装置は、画面を収容するが、本発明の方法のステップ(ii)から(vii)を実行するコンピュータプロセッサは収容しないハウジングを備える。したがって、本発明の方法のステップ(ii)から(vii)を実行するコンピュータプロセッサは、ディスプレイ装置とは別個に、例えばさらなるコンピューティング装置内に存在する。ディスプレイ装置のコンピュータプロセッサとさらなるコンピュータプロセッサとは、データ交換を可能にするために通信インターフェイスを介して接続される。ディスプレイ装置の外部に存在するさらなるコンピュータプロセッサの使用は、ディスプレイ装置のプロセッサによって提供されるよりも高い計算能力を使用することを可能にし、したがって、これらのステップを実行するのに必要な計算時間を短縮し、したがって、計算された調整されたサンプルコーティング配合がディスプレイ装置の画面上に表示されるまでの全体的な時間を短縮する。これにより、高い計算能力を有するディスプレイ装置を必要とすることなく、計算された調整されたサンプルコーティング配合をアドホックに表示することができる。さらなるコンピュータプロセッサは、本発明の方法のステップ(ii)から(vii)がクラウドコンピューティング環境で実行されるように、サーバ上に配置されることができる。この場合、ディスプレイ装置はステップ(i)に関連して説明したデジタル表現を提供するために使用することができ、したがって、後述するように、ネットワークを介してサーバに接続されるクライアント装置として機能する。
【0067】
ディスプレイ装置は、モバイルディスプレイ装置又は固定ディスプレイ装置でよく、好ましくはモバイルディスプレイ装置である。固定ディスプレイ装置には、コンピュータモニター、テレビ画面、プロジェクターなどが含まれる。モバイルディスプレイ装置には、ラップトップ、又はスマートフォン及びタブレットなどのハンドヘルドデバイスが含まれる。
【0068】
ディスプレイ装置の画面は、適切な解像度と色域を有するように任意の放射型又は反射型ディスプレイ技術に従って構築されることができる。適切な解像度とは、例えば、72ドット/インチ(dpi)以上の解像度、例えば、300dpi、600dpi、1200dpi、2400dpi以上の解像度である。これにより、生成された外観データを高品質で表示できることが保証される。適切な広い色域は、標準赤緑青(sRGB)以上の色域である。さまざまな実施形態では、画面は、人間の視覚によって知覚可能な色域に近い色域を選択することができる。一態様では、ディスプレイ装置の画面は、液晶ディスプレイ(LCD)技術に従って、特にタッチ画面パネルをさらに含む液晶ディスプレイ(LCD)技術に従って構築される。LCDは、任意の適切な照射源によってバックライトを当てられてよい。しかしながら、LCD画面の色域は、発光ダイオード(LED)バックライト又は複数のバックライトを選択することによって、広くするか、又は他の方法で改善されることができる。別の態様では、ディスプレイ装置の画面は、発光ポリマー又は有機発光ダイオード(OLED)技術に従って構築される。さらに別の態様では、ディスプレイ装置の画面は、電子ペーパー又はインクなどの反射型ディスプレイ技術に従って構築されることができる。電子インク/ペーパーディスプレイのメーカーとしては、E INK及びXEROXなどが知られている。好ましくは、ディスプレイ装置の画面は、ユーザが異なる角度から画面を見たときに、不鮮明になり、又は大きく変化しない画像を生成することができる、適度に広い視野も有する。LCD画面は偏光によって動作するため、いくつかのモデルは高い視野角依存性を示す。しかし、さまざまなLCDの構造は、比較的広い視野を有し、そのために好ましい場合がある。例えば、薄膜トランジスタ(TFT)技術に従って構築されたLCD画面は、適切に広い視野を有することができる。また、電子ペーパー/インク技術及びOLED技術に従って構築された画面は、多くのLCD画面よりも広い視野を有することができ、このような理由のため選択されてよい。
【0069】
ディスプレイ装置は、ディスプレイ装置とのユーザインタラクションを容易にするためにインタラクション要素を含んでいてよい。一例では、インタラクション要素は、入力装置又は入力/出力装置、特にマウス、キーボード、トラックボール、タッチ画面又はそれらの組み合わせなどの物理的インタラクション要素であってよい。インタラクション要素は、本発明の方法のステップ(i)でコンピュータプロセッサにデジタル表現を提供するために、又は後述するように、さらなるアクションを模倣するために使用され得る。
【0070】
計算された修正サンプルコーティング配合とともに表示されるさらなるデータの例には、サンプルコーティング及び/又は基準コーティングのデジタル表現に含まれるデータ、個々の色成分の決定された適合色データ、残留モデルバイアス、又はそれらの組み合わせが含まれ得る。
【0071】
一態様では、本発明の方法は、サンプルコーティング配合の調整に関連する少なくとも1つのアクションを開始することをさらに含む。アクションは、予め定義されたアクションであってよい。一例では、アクションは、そのプログラミングに基づいてコンピュータプロセッサによって開始されてよい。別の例では、アクションは、アクションを開始することを示すユーザ入力を検出した後に開始されてよい。ユーザ入力は、例えば、ディスプレイ装置のインタラクション要素を介して検出されてよい。
【0072】
少なくとも1つのアクションを開始することは、調整されたサンプルコーティング配合を印刷装置及び/又はデータ記憶媒体及び/又は混合装置に提供することを含み得る。混合装置は、調整された量の個々の色成分を既に調製されたサンプルコーティング配合に加えるように構成された自動混合装置であってよい。一実施例では、プロセッサは、調整されたサンプル配合を印刷装置及び/又はデータ記憶媒体及び/又は混合装置に提供する前に、計算された調整が所定の閾値を超えているかどうかを決定する。所定の閾値は、提供されたサンプルコーティングのデジタル表現に含まれる個々の色成分の濃度と比較した、個々の色成分の調整された濃度の偏差、例えばパーセンテージ偏差であってよい。これにより、ステップ(vii)で計算された調整されたサンプルコーティング配合がサンプルコーティング配合とほぼ同一である場合に、不要なデータ転送が実行されないことが保証される。
【0073】
本発明の方法は、サンプルコーティングと基準コーティングを調製するために使用される着色剤バッチ間の着色強度特性のばらつきを考慮することにより、基準コーティングの色に十分にマッチングするために必要なサンプルコーティング配合のより正確で信頼性の高い色調整を得ることを可能にする。これにより、サンプルコーティング配合内に存在する着色剤について、当該着色剤の実際の着色強度特性をより正確に記述する調整された光学データを決定することができ、したがって、より正確で信頼性の高い色調整プロセスを可能にし、十分なカラーマッチングを得るために必要なステップ数を減らし、したがって、本発明の方法の効率を大幅に改善することができる。
【0074】
さらに開示されているのは:
基準コーティングの色にマッチングするように、調整されたサンプルコーティングの配合を決定するコンピューティング装置であって、前記システムは:
- 通信インターフェイスであって、
〇 サンプルコーティングの色データとサンプルコーティング配合を含むサンプルコーティングのデジタル表現と、
〇 基準コーティングの色データを含む基準コーティングのデジタル表現と、
〇 個々の色成分の光学データを含む個々の色成分のデジタル表現と、
〇 サンプルコーティングの配合と個々の色成分の光学データを入力パラメータとして使用することによってサンプルコーティングの色を予測するように構成された物理モデルと、
を提供するための通信インターフェイスと、
- 通信インターフェイスと通信する処理モジュールであって、前記処理モジュールは少なくとも1つのコンピュータプロセッサを備える、処理モジュールと、
- 処理モジュールによって実行されると、コンピューティング装置に本発明のコンピュータ実装方法のステップを実行させるように構成された命令を保存するメモリと、
を備える。
【0075】
本発明のコンピューティング装置は、サンプルコーティング配合と基準コーティング配合を調製するために使用される着色剤バッチ間の着色強度特性のばらつきが色調整プロセス中に考慮されるため、サンプルコーティングと基準コーティングの十分なカラーマッチングを得るために必要な色調整をより正確かつ確実に決定することができる。
【0076】
ある態様では、装置は、画面を有するディスプレイ装置をさらに備える。この場合、ディスプレイ装置は、処理モジュール及びメモリとは別に存在する。
【0077】
代替的な態様では、処理モジュール及びメモリは、処理モジュールから受け取った計算された調整されたサンプルコーティング配合をディスプレイ装置の画面上に表示するための画面をさらに含むディスプレイ装置内に存在する。
【0078】
一態様では、装置は、デジタル表現及び/又は物理モデルを含む少なくとも1つのデータベースをさらに備える。デジタル表現及び物理モデルは、1つのデータベース、又は複数のデータベースに保存されてよい。データベースは、通信インターフェイスを介して本発明の装置の処理モジュールに接続され、処理モジュールのプロセッサによって、データベースに保存されたデータを取得できるようにする。
【0079】
一態様では、装置は、サンプルコーティング及び/又は基準コーティングの色データを測定するための測定装置をさらに備える。測定装置は、先に説明したマルチアングル分光光度計などの分光光度計であってよい。複数の測定ジオメトリでそのような分光光度計を用いて決定された反射率データ及びテクスチャ画像及び/又はテクスチャ特性は、通信インターフェイスを介して処理モジュールに提供されてよく、及び、処理モジュールのコンピュータプロセッサによって処理されてよく、又は、本発明の方法に関連して前述したように測定装置のプロセッサによって処理されてよい。測定装置は、通信インターフェイスを介して処理モジュールに接続されてよい。
【0080】
さらに開示されているのは:
非一過性のコンピュータ可読記憶媒体であって、前記コンピュータ可読記憶媒体は、本明細書に開示されるコンピューティング装置によって実行されると、前記コンピューティング装置に本明細書に記載されるコンピュータ実装方法によるステップを実行させる命令を含む、コンピュータ可読記憶媒体である。
【0081】
本開示は、本明細書に開示される方法、システム、及び非一過性のコンピュータ可読記憶媒体に同様に適用される。したがって、方法、システム、及び非一過性のコンピュータ可読記憶媒体を区別することはない。本発明の方法に関連して開示されたすべての特徴は、本明細書に開示されたシステム及び非一過性のコンピュータ可読記憶媒体にも有効である。
【0082】
さらに開示されるのは、色調整プロセスにおける、本明細書に開示される方法又は本明細書に開示されるコンピューティング装置の使用である。「色調整プロセス」という用語は、既存のサンプルコーティング配合、例えばデータベースから取得されたサンプルコーティング配合又はコンピュータで計算されたサンプル配合の色が、基準コーティングの色に十分にマッチングするように、少なくとも1つのステップで調整される、プロセスを指す。特に好ましくは、色調整プロセスは、データベースから取得され、コーティングバッチの製造に使用されるサンプルコーティング配合から開始され、製造されたコーティングバッチから得られるコーティングの外観に関して顧客の要求を満たすように、製造されたコーティングバッチの色を基準コーティングの色にマッチングさせる。
【0083】
さらに開示されるのは、サーバ装置で基準コーティングの色にマッチングするように、調整されたサンプルコーティングの配合を決定するためのクライアント装置であって、クライアント装置は、サンプルコーティングの色データ及びサンプルコーティング配合を含むサンプルコーティングのデジタル表現、基準コーティングの色データを含む基準コーティングのデジタル表現、及び個々の色成分の光学データを含む個々の色成分のデジタル表現、をサーバ装置に提供するように構成され、該サーバ装置は本発明のコンピューティング装置である、クライアント装置である。
【0084】
サーバはHTTPサーバであってよく、従来のインターネットウェブベース技術でアクセスされることができる。クライアント装置の使用は、調整されたサンプルコーティング配合を決定するサービスが顧客(複数)に提供される場合、又はより大きな会社の構成では特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0085】
本発明のこれらの特徴及び他の特徴は、本発明の例示的な実施形態に関する以下の説明においてより完全に説明される。任意の特定の要素又は行為の議論を容易に識別するために、参照番号の最上位桁又は数字は、その要素が最初に導入される図番号を指す。この説明は、添付図面を参照して提示される:
図1】先行技術で知られている色調整方法の概略図を示す。
図2】本発明の色調整方法の概略図を示す。
図3】基準コーティングの色にマッチングするように、調整されたサンプルコーティングの配合を決定するための本発明の方法の一実施形態のブロック図を示す。
図4】基準コーティングの色にマッチングするように、調整されたサンプルコーティングの配合を決定するための、本発明のシステムの一実施形態を示す図である。
図5】本発明の方法のクライアントサーバのセットアップを示す図である。
図6】基準コーティングの反射率スペクトルを含むグラフ(上)と基準コーティング配合(下)を示す図である。
図7】基準コーティング及び調整されたサンプルコーティングの測定された反射率スペクトル並びに予測された反射率スペクトルを含むグラフ(上)、EP 2149038 B1に記載された方法を使用して決定された基準コーティング、調整されたサンプルコーティングと予測されたサンプルコーティングの色データ(中)、調整されたサンプル着色剤配合(下)を示す図である。
図8】基準コーティングの測定された反射率スペクトルを含むグラフ(上)、本発明の方法を使用して決定された、基準コーティング、調整されたサンプルコーティングと予測されたサンプルコーティングの色データ(中)、調整されたサンプル着色剤配合(下)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0086】
図面の詳細な説明
以下に述べる詳細な説明は、本主題のさまざまな態様の説明として意図したものであり、本主題が実施され得る唯一の構成を表すことを意図したものではない。添付の図面は、本明細書に組み込まれ、詳細な説明の一部を構成する。詳細な説明には、本主題を完全に理解することを目的として具体的な詳細を含む。しかしながら、これらの具体的な詳細がなくても主題を実施できることは当業者には明らかであろう。
【0087】
図1は、例えばEP 2149038 B1に開示されているような、先行技術で公知の色調整方法100の概略図を示している。この色調整方法は、物理モデル104、例えば、散乱又は吸収媒体例えばコーティング層中の着色剤との光の相互作用を記述する物理モデル、及び数値最適化アルゴリズム106を使用しており、両者は少なくとも1つのプロセッサ102上で実装され実行される。プロセッサは、サンプルコーティングと基準コーティングのデータを受信する。
【0088】
サンプルコーティング108のデータには、サンプルコーティング配合から調製されたサンプルコーティング及びサンプルコーティングの配合の色データ、例えば反射率データが含まれる。サンプルコーティングの色データは、前述のようにマルチアングル分光光度計を用いて決定されることができる。
【0089】
基準コーティング110のデータには、基準コーティング配合から調製された基準コーティングの反射率データなどの色データ、及び基準コーティング配合内に存在する個々の色成分(図1では「着色剤」として示されている)のK値及びS値などの光学定数が含まれる。個々の色成分は、波長依存性のK値及びS値などの定数のセットが関連付けられている。提供された光学定数、及びサンプルコーティング配合又は調整されたサンプルコーティング配合は、前述のように、サンプルコーティングの色データを予測するために物理モデル104の入力パラメータとして使用される。
【0090】
予測されたサンプルコーティングの色データは、提供されたサンプルコーティングの色データと物理モデル104で予測されたサンプルコーティングの色データとの間の色差を決定することにより、前述のようにモデルバイアスを決定するために使用される。次いで決定されたモデルバイアスは、数値的方法106を使用してサンプルコーティング配合を調整する間、定数として考慮される。
【0091】
モデルバイアスを決定した後、数値的方法106は、基準コーティングの色データと物理モデル104によって予測されたサンプルコーティングの色データとの間の色差を最小化することによって、サンプルコーティング配合中に存在する少なくとも1つの着色剤の濃度を調整する。数値的方法106によるサンプルコーティング配合の各調整時に、物理モデル104は、光学定数と調整されたサンプルコーティング配合に基づいて色データを予測するために使用される。調整は、基準コーティングの色データと調整されたサンプルコーティングの予測された色データとの間の色差が所定の閾値に達するまで、又は反復の予め定義された最大限界に達するまで、数値的方法106によって繰り返される。所定の閾値に達した色差に関連する調整されたサンプル配合112、又は反復回数の最大値に関連する調整された配合112は、次に、例えば通信インターフェイスを介してプロセッサによって画面に表示するために提供される。
【0092】
図2は、本発明による色調整方法200の概略図である。本発明の色調整方法はまた物理モデル204、例えば、散乱又は吸収媒体例えばコーティング層中の着色剤との光の相互作用を記述する物理モデル、及び数値最適化アルゴリズム206を使用し、両者は少なくとも1つのプロセッサ202上で実装され実行される。
【0093】
サンプルコーティング108のデータ及び基準コーティング110のデータは、図1に関連して前述したように、プロセッサ202に提供される。図1に記載された色調整方法とは対照的に、物理モデル204は、調整されたサンプルコーティング配合の色を予測するために、適合された光学定数212(図2において「Adj.constants」と表記される)を使用する。個々の色成分(図2において「colorants」と表記される)の適合された光学定数212は、本発明の方法に関連して記載されるように、数値最適化アルゴリズム206及び物理モデル204を使用して、図1に関連して記載されたモデルバイアスを最小化することによって得られる。モデルバイアスの代わりに、残留モデルバイアス(すなわち、光学定数を適合させた後に残るモデルバイアス)が考慮される。適合された光学定数の使用は、光学定数の調整が、前述したように、サンプルコーティング配合を調製するために使用される個々の色成分と、基準コーティング配合を調製するために使用される個々の色成分との着色強度のばらつきを考慮することができるため、より正確な調整サンプルコーティング配合を計算することを可能にする。
【0094】
サンプルコーティング配合中に存在する個々の色成分の少なくとも一部の適合された光学定数を決定した後、数値最適化アルゴリズム206を使用して、サンプルコーティング配合中に存在する少なくとも1つの個々の色成分の濃度を調整し、物理モデル204を使用して、適合された光学定数を使用して、調整されたサンプルコーティング配合の色データを予測する。調整は、基準コーティングの色データと調整されたサンプルコーティングの予測された色データとの間の色差が所定の閾値に達するまで、又は反復の予め定義された最大限界に達するまで、数値的方法206によって繰り返される。その後、所定の閾値に達した色差に関連する調整されたサンプル配合214、又は反復回数の最大値に関連する調整されたサンプル配合214は、例えば通信インターフェイスを介してプロセッサによって画面上に表示される。
【0095】
図3は、本発明の一実施形態による、基準コーティングの色にマッチングするように、調整されたサンプルコーティングの配合を決定するための方法300の非限定的な実施形態を示す。この例では、サンプルコーティングはソリッドシェード、すなわち効果顔料を含まないサンプルコーティングである。別の例では、サンプルコーティングは少なくとも1つの効果顔料を含む効果コーティングである。本発明の方法は、サンプルコーティング配合の製造中に、製造されたサンプルコーティング配合の色を基準コーティングの色とマッチングするように調整するために、例えば、サンプルコーティング材料を自動車又はその部品などの基板に塗布する際に光学的外観の点で仕様を満たすために、使用されることができる。この例では、本発明の方法は、画面と、図4に関連して説明したように図3のブロック302から334を実行するコンピュータプロセッサ(複数可)とを収容するハウジングを備えるモバイルディスプレイ装置又は固定ディスプレイ装置で実行される。別の実施例では、図3のブロック302から336を実行するプロセッサ(複数可)は、図5のクライアント-サーバ構成に関連して説明したように、調整されたサンプルコーティング配合が表示される画面を有するディスプレイ装置とは別に存在する。
【0096】
方法300のブロック302では、ルーチン301は、基準コーティングの色データを含む基準コーティングのデジタル表現を取得する。反射率データ及び/又はテクスチャ特性などの色データは、本発明の方法のステップ(i)に関連して説明したように、マルチアングル分光光度計を使用して決定されることができる。この例では、基準コーティングのデジタル表現(DRR)は、ルーチン301を実施するプロセッサ(複数可)に提供されるサンプルコーティングのデジタル表現(DRS)に含まれるデータに基づいて取得される。この目的のために、ルーチン301は、サンプルコーティングの色名、カラーコード、バーコードなど、サンプルコーティングのデジタル表現に含まれるデータと相互に関連する基準コーティングのデジタル表現を含むデータベースにアクセスし、提供されたサンプルコーティングのデジタル表現に含まれるデータに基づいて対応するデジタル表現(DRR)をデータベースから取得することができる。別の例では、基準コーティングのデジタル表現は、色名、色番号、カラーコードなどの基準コーティングを示すデータに基づいて取得される。前記データは、GUIを介してユーザによって入力されてよく、データベースなどのデータ記憶媒体からユーザによって入力されたデータと相互に関連するデジタル表現(DRR)を含むデータベースからそれぞれのデジタル表現(DRR)を取得するために、ルーチン301を実施するプロセッサ(複数可)によって使用されてよい。別の例では、基準コーティングのデジタル表現は、前記装置からマルチアングル分光光度計を用いて決定された色データを取得することにより、例えば、ルーチン301を実施するプロセッサ(複数可)に装置を接続し、前記装置を用いて基準コーティングの色データを決定することにより、取得される。
【0097】
ブロック304では、ルーチン301は、サンプルコーティングのデータ、すなわちサンプルコーティングの色データ及び配合が利用可能であるかどうかを判定する。これは、例えば、色データを含むサンプルコーティングのデジタル表現及びサンプルコーティングの配合がブロック302で提供されたかどうかによって、又は、データが利用可能かどうかを選択するようユーザに促すメニューを表示し、ユーザ入力を検出することによって、判定することができる。サンプルコーティングのデジタル表現(DRS)がステップ302で既に提供されている場合、ルーチン301は後述するブロック308に進む。ルーチン301が、ブロック304で、サンプルコーティングのデータが利用可能であるが、ブロック302においてまだ提供されていないと判定した場合、ルーチン301は、後述するブロック306に進む。ルーチン301がブロック304においてサンプルコーティングのデータが利用可能でないと判定した場合、後述のブロック308に進む。
【0098】
ブロック306では、ルーチン301は、サンプルコーティングの色データ及びサンプルコーティングの配合を含むサンプルコーティングのデジタル表現(DRS)を取得するが、このブロックは一般に任意である。反射率データ及び/又はテクスチャ特性などの色データは、マルチアングル分光光度計を用いて前述したように決定されることができる。一例では、サンプルコーティングのデジタル表現は、ブロック304で取得されたデジタル表現(DRR)に含まれるデータに基づいてデータベースから取得される。別の例では、デジタル表現(DRS)は、マルチアングル分光光度計を用いて決定された色データを前記装置から取得することによって、例えば、ルーチン301を実施するプロセッサ(複数可)に装置を接続し、前記装置を用いてサンプルコーティングの色データを決定することにより、取得される。さらに別の例では、デジタル表現(DRS)は、色名、色番号、カラーコードなどのサンプルコーティングを示すデータに基づいて取得される。前記データは、GUIを介してユーザによって入力されてよく、データベースなどのデータ記憶媒体からのユーザによって入力されたデータと相互に関連するデジタル表現(DRS)を含むデータベースからそれぞれのデジタル表現(DRR)を取得するように、ルーチン301を実施するプロセッサ(複数可)によって使用されてよい。
【0099】
ブロック308では、ルーチン301は、個々の色成分の光学データ、特に散乱特性及び吸収特性などの光学定数を含む個々の色成分のデジタル表現(DRC)を取得する。デジタル表現(DRC)は、名前、商標名、固有ID又はそれらの組み合わせなどの個々の色成分を示すデータをさらに含むことができる。一例では、取得は、ブロック304で提供されるデジタル表現(DRR)に含まれるデータ及び/又はブロック306で提供されるデジタル表現(DRS)に含まれるデータに基づいて実行され得る。
【0100】
ブロック310では、ルーチン301は、サンプルコーティングの配合及び個々の色成分の光学データを入力パラメータとして使用することにより、サンプルコーティングの色を予測するように構成された物理モデルを取得する。適切な物理的色予測モデルは、先行技術でよく知られており(例えばEP 2149038 B1に開示された物理的モデルを参照)、Kubelka/Munkモデルなどの、光と散乱媒体又は吸収媒体、例えばコーティング層中の着色剤との相互作用を記述する物理モデルを含む。この例では、「Kubelka/Munk」モデルがブロック310で取得される。
【0101】
ブロック312では、ルーチン301は、サンプルコーティングのデジタル表現(DRS)がブロック306において取得されたか、又はブロック302において提供されたかを判定する。デジタル表現(DRS)が取得されたか又は提供された場合、ルーチン301は後述するブロック320に進む。そうでなければ、ルーチン301は後述のブロック314に進む。
【0102】
ブロック314では、ルーチン301は、いわゆる「ゼロからのマッチング」方法を実行し、ブロック302で提供されたデジタル表現(DRR)、ブロック308で提供されたデジタル表現DCC、及びブロック310で提供された物理モデルを使用して、サンプルコーティング配合を決定する。この方法は、例えば配合データベースがない場合に適用される。実際には、「ゼロからのマッチング」方法は、多くの場合、基準コーティング配合に含まれると予想される成分の事前選択ステップから開始される。事前選択ステップは必須ではない。「ゼロからのマッチング」方法/アルゴリズムは、第1ソリューションとして、基準コーティングに対する1つ以上の予備的なマッチング配合を計算する。
【0103】
ブロック316では、ルーチン301は、計算されたマッチング式を表示するために提供する。一例では、式は、式がディスプレイ装置の画面例えばGUI内で表示され得るように、画面を備えるディスプレイ装置に提供される。これにより、ユーザは、表示された配合に基づいてサンプルコーティング材料を調製することができる。一例では、表示されたサンプルコーティング材料を調製することは、表示されたサンプルコーティング配合を自動投与装置に送信し、送信されたデータに基づいてそれぞれのサンプルコーティング材料を自動的に調製することを含むことができる。別の例では、サンプルコーティング材料は、表示されたデータに基づいてそれぞれの成分を手動によって投与することにより調製されることができる。
【0104】
ブロック318では、ルーチン301は、ブロック316において提供されたサンプルコーティング配合から調製されたサンプルコーティングの色データを取得する。色データの取得は、ブロック302に関連して説明したように、例えば、マルチアングル分光光度計を使用して色データを決定することによって、実行されることができる。
【0105】
ブロック320では、ルーチン301は、提供されたサンプルコーティングの色データと提供された基準コーティングの色データとの間の色差を決定する。この例では、ブロック320はブロック322の前に実行される。別の例では、ブロック320はブロック324の後、ブロック326の前に実行される。この例では、スペクトル曲線の形状類似性が色差を決定するために使用される。スペクトル曲線の形状類似性の使用は、色調整プロセスをより複雑にする個々の色成分の特性又は「フィンガープリント」を変更することを回避するため、好ましい。別の例では、色差は、デルタE(CIE1994)色許容方程式、デルタE(CIE2000)色許容方程式、デルタE(DIN99)色許容方程式、デルタE(CIE1976)色許容方程式、デルタE(CMC)色許容方程式、デルタE(Audi95)色許容方程式、又はデルタE(Audi2000)色許容方程式などの色許容方程式を使用して決定される。これらの方程式は、デジタル表現(DRR)又は(DRS)に含まれてよい。この例では、決定された色差は、サンプルコーティングを示すデータと相互に関連し、データ記憶媒体に保存される。
【0106】
ブロック322及び324では、ルーチン301は、ブロック322においてサンプルコーティング層の色データを予測し、ブロック324において提供されたサンプルコーティングの色データと予測されたサンプルコーティングの色データとの間の色差を決定することによって、提供された物理モデルのモデルバイアスを決定する。前述したように、提供された物理モデルのモデルバイアスは、主に、基準色成分とサンプルコーティング配合を調製するために使用された成分との間の個々の成分の着色強度のばらつきに起因する偏った特定の光学定数によって、及び物理モデルの限界によって引き起こされる。
【0107】
ブロック322では、ルーチン301は、サンプルコーティングの色データ、サンプルコーティングの配合、ブロック308で提供されたデジタル表現DRC、及びブロック310で提供された物理モデルに基づいて、サンプルコーティングの色データを予測する。この例では、サンプルコーティングの色データ及びサンプルコーティングの配合は、ブロック302又は306で提供されるデジタル表現(DRS)に含まれる。別の例では、すなわち「ゼロからのマッチ」方法が実行された場合には、サンプルコーティングの配合はブロック314で決定され、色データはブロック318で取得される。この例では、サンプルコーティングの色データは、提供されたサンプルコーティング配合及びサンプルコーティング配合内に存在する個々の色成分の提供された光学データ、特に光学定数を、提供された物理モデルの入力パラメータとして用いてブロック322において予測される。予測された色データは、内部データ記憶媒体又はデータベースなどのデータ記憶媒体に保存されることができる。予測された色データは、以下のブロックのいずれか1つにおいてデータの取得を可能にするために、提供されたサンプルコーティング配合のデジタル表現に含まれるデータなどのさらなるデータと相互に関連付けられてよい。
【0108】
ブロック324では、ルーチン301は、提供されたサンプルコーティングの色データとブロック322において予測されたサンプルコーティングの色データとの間の色差を決定する。色差は、ブロック320に関連して前述したように決定されることができる。
【0109】
ブロック326及び328では、ブロック322及び324において決定されたモデルバイアスは、個々の色成分の少なくとも一部の提供された光学データ、特に光学定数を適合させることによって、ルーチン301によって最小化される。サンプルコーティングのモデルバイアスを、提供された物理モデル内の含まれる着色剤の着色強度のばらつきと相関させることにより、サンプルコーティング配合を製造するために使用された個々の色成分の実際の光学特性をより良く記述することができ、その結果、本発明の方法のブロック332において調整されたサンプルコーティング配合がより正確に計算される。
【0110】
ブロック326では、ルーチン301は、少なくとも1つの数値最適化アルゴリズム(数値的方法とも呼ばれる)を取得する。取得された数値最適化アルゴリズムは、所定のコスト関数を最小化することによって、提供された光学データを適合させ、取得されたサンプルコーティング配合中に存在する少なくとも1つの個々の色成分の濃度を調整するように構成される。この例では、所定のコスト関数を最小化することによって提供された光学データを適合させるように構成された数値最適化アルゴリズムと、所定のコスト関数を最小化することによって取得されたサンプルコーティング配合中に存在する少なくとも1つの個々の色成分の濃度を調整するように適合するように構成された数値最適化アルゴリズムとが、ブロック326において取得される。別の例では、ブロック326は、提供された光学データを適合させるように構成された数値最適化アルゴリズムのみがブロック326で取得される場合には、ブロック332を実行する前に繰り返される。アルゴリズムは、保存されたアルゴリズムと相互に関連するデータに基づいて、前述のようにデータ記憶媒体から取得されてよい。
【0111】
ブロック328では、ルーチン301は、サンプルコーティング配合中に存在する個々の色成分の少なくとも一部の提供された光学データ、特に提供された光学定数を、
- 取得された光学データから開始して所定のコスト関数を最小化することにより、サンプルコーティング配合中に存在する個々の色成分の少なくとも一部の光学データを適合させるように構成された、取得された数値最適化アルゴリズムと、
- 取得された物理モデルと、
を使用して適合させる。
【0112】
適合は、コスト関数が所定の閾値を下回るまで、又は反復回数が所定の限界に達するまで、取得された物理モデルを用いて得られたサンプルコーティングの再帰的に予測された色データと、取得されたサンプルコーティングの色データとを比較することによって実行される。この例では、コスト関数は、取得されたサンプルコーティングの色データと、予測された、特に再帰的に予測されたサンプルコーティングの色データとの間の色差である。色差はブロック320に関連して前述したように計算されることができる。この例では、所定の閾値は所定の色差である。
【0113】
ブロック328において生成された適合された光学データ及び/又はサンプルコーティングの再帰的に予測された色データは、前述したように、内部データ記憶装置又はデータベースなどのデータ記憶媒体に完全に又は少なくとも部分的に保存され得る。保存された適合光学データ及び/又は予測された色データは、以下の方法300のブロックのいずれかにおいて保存されたデータの取得を可能にするために、サンプルコーティングのデジタル表現に含まれるデータと相互に関連付けられてよい。
【0114】
一例では、ブロック328で使用されるコスト関数は、個々の色成分の少なくとも一部の光学データのより大きな適合にペナルティ項を割り当てるペナルティ関数を含む。これにより、元の光学データ(すなわち、提供された個々の色成分のデジタル表現に含まれる光学データ)にできるだけ類似した適合された光学データを提供することができ、個々の色成分の色が過度にシフトされることを防止することができる。
【0115】
サンプルコーティング配合中に存在する個々の色成分の一部のみの光学データをブロック328で適合させる場合、ブロック328は、提供された物理モデルを用いて得られたサンプルコーティングの再帰的に予測された色データと、提供されたサンプルコーティングの色データとを比較する前に、特に少なくとも1つの予め定義された基準に基づいて、適合させる個々の色成分の光学データを決定することを含むことができる。予め定義された基準は、取得されたデジタル表現(DRS)及び/又は(DRR)及び/又は(DRC)に含まれ得る。これにより、定義された数の個々の色成分のみ、例えば、多量に存在する個々の色成分、又は白色顔料でない個々の色成分の光学データを適合させることができ、その結果、数値的方法によって使用される変数の総数を減らすことができる。変数の総数を減らすことで、モデルのバイアスを最小化するために必要な計算時間が短縮され、又はモデルのバイアスを決定するために使用する計算リソースが削減され得る。
【0116】
この例では、サンプルコーティング配合中に存在する個々の色成分の少なくとも一部の光学データが、スケーリング関数、特に先述した式(1)の線形スケーリング関数を使用して、数値最適化アルゴリズムによってブロック328で適合される。個々の色成分のすべての波長依存光学データ、特に個々の色成分のすべての波長依存光学定数に対して同じ
合中に個々の色成分の特性又は「フィンガープリント」を保持することができ、したがって、前述のように、色調整プロセスをより複雑にする個々の色成分(複数可)の特性又は「フィンガープリント」の著しい変化を回避することができるからである。
【0117】
ブロック330では、残留モデルバイアスは、取得されたサンプルコーティングの色データと、ブロック328におけるモデルバイアスの最小化の間に得られた予測されたサンプルコーティングの色データとの間の色差を決定することによって、ルーチン301によって決定される。色差は、ブロック320に関連して前述したように決定されることができる。
【0118】
ブロック332では、ルーチン301は、
- ブロック320と330で決定された色差と、
- ブロック328で得られた適合された光学データと、
- ブロック326において取得され、取得されたサンプルコーティング配合に含まれる個々の色成分の濃度から開始して所定のコスト関数を最小化することによって、サンプルコーティング配合に存在する少なくとも1つの個々の色成分の濃度を調整するように構成された、数値最適化アルゴリズムと、
- ブロック310で取得された物理モデルと、
に基づいて調整されたサンプルコーティング配合を決定する。
【0119】
この例では、コスト関数は、ブロック332で予測されたサンプルコーティングの色データと、提供された基準コーティングの色データとの間の色差である。前記色差は、上記ブロック320に関連して説明したように計算されることができる。この例では、所定の閾値は所定の色差であってよい。
【0120】
サンプルコーティングの配合は、ブロック328で得られた適合された光学データ及び再帰的に調整されたサンプルコーティング配合を、取得された物理モデルの入力パラメータとして使用して、ブロック332で調整される。次に、取得された物理モデルは、入力パラメータに基づいて、調整されたサンプルコーティング配合の反射率データなどの色データを予測する。この予測は、コスト関数が所定の閾値を下回るか、反復の最大限界に達するまで、サンプルコーティング配合の各調整に対して実行される。
【0121】
ブロック334では、ルーチン301は、ディスプレイ装置の画面上に表示するために、調整されたサンプルコーティング配合をディスプレイ装置に提供する。調整されたサンプルコーティング配合に加えてさらなるデータ、例えば、取得されたサンプルコーティング及び/又は基準コーティングの表現に含まれるデータ、個々の色成分の決定された適合色データ、残留モデルバイアス、又はそれらの組み合わせが、ブロック334において表示のために提供されてよい。適切なディスプレイ装置には、先に述べたモバイルディスプレイ装置又は固定ディスプレイ装置が含まれ得る。
【0122】
ブロック336では、ルーチン301は、ブロック332において決定されたサンプルコーティング配合の調整に関連する少なくとも1つのアクションを開始し、このブロックは、通常任意である。アクションは、好ましくは、予め定義されたアクションである。一例では、アクションは、そのプログラミングに基づいてルーチン301によって開始されてよい。別の例では、アクションは、ルーチン301によってアクションを開始することを示すユーザ入力を検出した後に開始されてよい。ユーザ入力は、例えば、ディスプレイ装置のインタラクション要素を介して検出されてよい。少なくとも1つのアクションを開始することは、調整されたサンプルコーティング配合を印刷装置及び/又はデータ記憶媒体及び/又は混合装置に提供することを含み得る。
【0123】
ブロック336の終了後、ルーチン301は方法300を終了するか、ブロック302に戻る。
【0124】
図4は、図3に関連して説明した方法300のブロック302から336を実施するために使用されることができる基準コーティングの色にマッチングするように、調整されたサンプルコーティング配合を決定するためのシステム400の一例を示す。システム400は、コンピュータプロセッサ404及びメモリ406を収容するコンピューティングデバイス402を備える。プロセッサ404は、例えばメモリ406から取得された命令を実行し、コンピュータシステム400に関連する動作、すなわち
- 通信インターフェイスを介して
・ サンプルコーティングの色データとサンプルコーティング配合を含むサンプルコーティングのデジタル表現と、
・ 基準コーティングの色データを含む基準コーティングのデジタル表現と、
・ 個々の色成分の光学データを含む個々の色成分のデジタル表現と、
・ サンプルコーティングの配合と個々の色成分の光学データを入力パラメータとして使用することによって、サンプルコーティングの色を予測するように構成された物理モデルと、
を受信することと;
- 提供されたサンプルコーティングの色データと提供された基準コーティングの色データとの間の色差を決定することと;
- 取得された物理モデルのモデルバイアスを、
・ サンプルコーティングのデジタル表現、個々の色成分のデジタル表現、及び取得された物理モデルに基づいて、サンプルコーティングの色データを予測することと、
・ 取得されたサンプルコーティングの色データと予測されたサンプルコーティングの色データとの間の色差を決定することと、
によって決定することと;
- サンプルコーティング配合中に存在する個々の色成分の少なくとも一部について取得された個々の色成分の光学データを適合させることにより、決定されたモデルバイアスを最小化することと;
- 適合された光学データを使用して、取得されたサンプルコーティングの色データと予測された色データとの間の色差を決定することにより、残留モデルバイアスを決定することと;
- 決定された色差、適合された個々の色成分の光学データ、決定された残留モデルバイアス、及び取得された物理モデルに基づいて、調整されたサンプルコーティング配合を計算することと;
- 計算された調整されたサンプルコーティング配合を通信インターフェイスを介して提供することと、
を実行するように構成されている。
【0125】
プロセッサ404は、シングルチッププロセッサとすることもでき、又は複数のコンポーネントで実装することもできる。ほとんどの場合、プロセッサ404は、オペレーティングシステムとともに、コンピュータコードを実行し、データを生成して使用するように動作する。この例では、コンピュータコードとデータは、プロセッサ404に動作可能に結合されたメモリ406内に存在する。メモリ406は一般に、コンピュータシステム400によって使用されるデータを保持する場所を提供する。一例として、メモリ406は、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、ハードディスクドライブ及び/又は同様のものを含むことができる。別の例では、コンピュータコード及びデータは、リムーバブル記憶媒体上に存在することができ、必要なときにコンピュータシステムにロード又はインストールされることもできる。リムーバブル記憶媒体には、例えば、CD-ROM、PC-CARD、フロッピーディスク、磁気テープ、及びネットワークコンポーネントが含まれる。プロセッサ404は、ローカルコンピューティングデバイス、又はクラウド環境に配置されることができる(例えば図5参照)。後者の場合、表示装置424はクライアント装置として機能し、ネットワーク(すなわち通信インターフェイス426)を介してサーバ(すなわちコンピューティングデバイス402)にアクセスすることができる。
【0126】
コンピューティングデバイス402は、通信インターフェイス416、418、420、422を介してデータベース408、410、412、414に接続されている。データベース408、410、412、414は、サンプルコーティング、基準コーティング、個々の色成分のデジタル表現、及び通信インターフェイス416、418、420、422を介してプロセッサ404によって取得され得る物理モデルを保存する。前記データベースに保存されたサンプルコーティングのデジタル表現は、サンプルコーティングの色データと配合を含む。基準コーティングのデジタル表現は、基準コーティングの色データを含む。個々の色成分のデジタル表現は、個々の色成分の光学データ、特に光学定数を含む。一例では、デジタル表現はそれぞれ、前述のさらなるデータを含むことができる。一例では、サンプルコーティング及び基準コーティングのそれぞれのデジタル表現は、ディスプレイ装置424を介してユーザによって入力されたサンプルコーティング及び/又は基準コーティングを示すデータ、又は、ディスプレイ装置424上で実行された予め定義されたユーザアクション、例えばディスプレイ装置424のGUI上で所望のアクション(例えば、保存され測定された色データのリストの表示、利用可能なサンプル/基準コーティングのリストの表示など)を選択することに関連付けられたサンプルコーティング及び/又は基準コーティングを示すデータ、に基づいてプロセッサ404によって、それぞれのデータベースから取得される。
【0127】
システム400は、通信インターフェイス426を介してコンピューティングデバイス404に結合される、ディスプレイ装置424をさらに含み得る。ディスプレイ装置424は、プロセッサ404から計算された調整されたサンプルコーティング配合を受信し、受信された調整されたサンプルコーティング配合を画面上に、特にグラフィカルユーザインターフェイス(GUI)を介してユーザに、表示する。この目的のために、ディスプレイ装置424は、通信インターフェイス426を介してコンピューティングデバイス402のプロセッサ404に動作可能に結合される。この例では、ディスプレイ装置424は、画面を備え、プロセッサ及びメモリ(図示せず)と一体化されてデスクトップコンピュータ(オールインワンマシン)、ラップトップ、ハンドヘルド又はタブレットなどを形成する入出力装置であり、また、前述のようにデジタル表現を取得するためのユーザ入力を可能にするために使用される。別の例では、ディスプレイ装置424の画面は、別個のコンポーネント(周辺装置、図示せず)であってよい。例として、ディスプレイ装置424の画面は、モノクロディスプレイ、カラーグラフィックスアダプタ(CGA)ディスプレイ、拡張グラフィックスアダプタ(EGA)ディスプレイ、可変グラフィックスアレイ(VGA)ディスプレイ、スーパーVGAディスプレイ、液晶ディスプレイ(例えば、アクティブマトリックス、パッシブマトリックスなど)、陰極線管(CRT)、プラズマディスプレイなどであってよい。
【0128】
システムは、基準コーティング及び/又はサンプルコーティングの色データが前記装置428を用いて決定されることができるように、例えばマルチアングル分光光度計などの測定装置428をさらに含むことができる。測定装置は、決定されたデータがプロセッサ404によって取得され得るように、通信インターフェイス430を介してプロセッサ404に結合される。決定されたデータは、測定されたデータ、又は測定装置のプロセッサによって既に処理された色データであってよい。
【0129】
図5に目を向けると、図3に関連して説明した方法300を実施するために使用されることができる基準コーティングの色にマッチングするように、調整されたサンプルコーティング配合を決定するためのインターネットベースのシステム500が示されている。システム500は、インターネットなどのネットワーク504を介して、1つ又は複数のクライアント506.1~506.nによってアクセス可能なサーバ502を備える。一例では、サーバは図4に関連して説明したコンピューティングデバイス402に相当する。好ましくは、サーバはHTTPサーバであり、従来のインターネットウェブベース技術を介してアクセスされる。クライアント306は、ユーザによってアクセス可能なコンピュータ端末であり、データ入力キオスクなどのカスタマイズされた装置であってよく、又はパーソナルコンピュータなどの汎用装置であってもよい。一例では、クライアント装置は、図4のディスプレイ装置424に相当する。クライアントは画面を備え、生成された外観データを表示するために使用される。プリンタ508をクライアント端末506に接続することができる。インターネットベースのシステム500は、サービスが顧客に提供される場合、又はより大きな会社のセットアップにおいて特に有用である。クライアント506は、サンプルコーティングの色データ及びサンプルコーティング配合を含むサンプルコーティングのデジタル表現、基準コーティングの色データを含む基準コーティングのデジタル表現、及び個々の色成分の光学データを含む個々の色成分のデジタル表現を、サーバのコンピュータプロセッサに提供するために使用されることができる。
【0130】
図6は、基準コーティング(上)及び関連する基準コーティング配合608(下)の反射率スペクトル604のグラフ602を示す。左側には、マルチアングル分光光度計で決定された色データ606が示されている。基準コーティングは大量の白色顔料を含み、100%の着色強度を有する少量の黒色顔料で着色されている。
【0131】
図7は、基準コーティング及び調整されたサンプルコーティングの測定された反射率スペクトルならびに予測された反射率スペクトルを含むグラフ702(上)、EP2149038 B1に記載の方法を使用して決定された基準コーティング706’、調整されたサンプルコーティング710’及び予測されたサンプルコーティング708’の色データ(中)、調整されたサンプルコーティング配合714(下)を示す。グラフ702の一部は、基準コーティング706の測定された反射率スペクトル、調整されたサンプルコーティング710の測定された反射率スペクトル、及び調整されたサンプルコーティング708の予測された反射率スペクトル間のばらつきを示すために704に拡大されている。基準コーティング706と調整されたサンプルコーティング710との間の反射率スペクトルのばらつきは、色データ712にも反映される。このばらつきは、調整されたサンプルコーティング配合を決定する間に、黒色着色ペーストの着色強度を調整せず、100%と想定したことに起因する。調整されたサンプルコーティング配合は薄すぎるので、サンプルコーティング配合を調製するために使用される黒着色ペーストの着色強度は100%未満でなければならない。最先端のこの方法の限界は、着色剤の光学的特性が時間と共に一定でないことである。実際の着色剤は、「基準」着色剤と比較して着色剤の光学特性の変化によって(特に着色強度特性の変化によって)引き起こされる系統的なバイアスの影響を受け、このバイアスは調整された配合に伝播する。このバイアスのスケール及び残留色差のスケールに応じて、図7に示すように、色の調整結果が著しく不正確になる可能性がある。
【0132】
図8は、基準コーティングの測定された反射率スペクトルを含むグラフ802(上)、図3に関連して説明した方法300などの本発明の方法を使用して決定された基準コーティング806’、調整されたサンプルコーティング810’及び予測されたサンプルコーティング808’の色データ(中)、調整されたサンプルコーティング配合814(下)を示す。グラフ802の一部は、基準コーティング806の測定された反射率スペクトル、調整されたサンプルコーティング810の測定された反射率スペクトル、及び調整されたサンプルコーティング808の予測された反射率スペクトル間のばらつきを示すために804に拡大されている。図7に示された結果と比較して本発明の方法の精度が高いのは、基準コーティング配合を配合するために使用された黒色着色ペーストの着色強度と比較して100%未満である、サンプルコーティング配合を配合するために使用された黒色着色ペーストの着色強度を考慮したためである。要約すると、本発明の色調整方法は、基準コーティング配合及びサンプルコーティング配合を調製するために使用される個々の色成分の着色強度に関係なく、正確に調整されたサンプル配合を達成することができ、したがって、所望のカラーマッチングを達成するために必要な色調整の回数を減らすことができる。
図1
図2
図3
図3-2】
図4
図5
図6
図7
図7-2】
図8
図8-2】
【国際調査報告】