(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-19
(54)【発明の名称】多孔質永久分極ヒドロキシアパタイト、その製造のためのプロセス、およびその使用
(51)【国際特許分類】
C01B 25/32 20060101AFI20250212BHJP
B01J 27/14 20060101ALI20250212BHJP
C01C 1/04 20060101ALI20250212BHJP
C07C 31/08 20060101ALI20250212BHJP
C07C 29/153 20060101ALI20250212BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20250212BHJP
【FI】
C01B25/32 Q
C01B25/32 W
B01J27/14 M
B01J27/14 Z
C01C1/04 E
C07C31/08
C07C29/153
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024543046
(86)(22)【出願日】2023-01-16
(85)【翻訳文提出日】2024-09-17
(86)【国際出願番号】 EP2023050902
(87)【国際公開番号】W WO2023139032
(87)【国際公開日】2023-07-27
(32)【優先日】2022-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】513233665
【氏名又は名称】ウニベルジテート ポリテクニカ デ カタル-ニア
(71)【出願人】
【識別番号】599012422
【氏名又は名称】ベー・ブラウン・サージカル・ソシエダッド・アノニマ
【氏名又は名称原語表記】B. Braun Surgical, S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ポウ トゥロン ドルス
(72)【発明者】
【氏名】カルロス エンリケ アレマン ランソ
(72)【発明者】
【氏名】マーク アルナウ
(72)【発明者】
【氏名】ジョーディ サンズ
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA08
4G169BB14A
4G169BB14B
4G169BC09B
4G169BD01B
4G169BD02B
4G169BD07B
4G169CB25
4G169CB82
4G169DA06
4G169EA02Y
4G169EC25
4G169EC27
4G169FA01
4G169FB08
4G169FB29
4G169FB58
4G169FB70
4G169FC03
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC41
4H006BA68
4H006FE11
4H039CA60
4H039CB20
(57)【要約】
本発明は、10nm~10,000nmの平均細孔直径を有する多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトに関する。さらに、本発明は、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトを得るためのプロセス、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトを含む組成物または材料、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトまたは組成物もしくは材料の触媒としての使用、および多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトを調製するための組成物に関する。
【選択図】
図1(a)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトであって、前記多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトが10nm~500,000nmの平均細孔直径を有する、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイト。
【請求項2】
前記平均細孔直径が10nm~10,000nm、特に50nm~1,000nm、好ましくは60nm~600nm、より好ましくは100nm~350nmであることを特徴とする、請求項1に記載の多孔質永久分極ヒドロキシアパタイト。
【請求項3】
前記多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトが、ナノメートル細孔およびサブマイクロメートル細孔、またはナノメートル細孔、サブマイクロメートル細孔およびマイクロメートル細孔を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の多孔質永久分極ヒドロキシアパタイト。
【請求項4】
- 前記ナノメートル細孔は、1nm~100nm、特に10nm~90nm、好ましくは50nm~80nmの平均細孔直径を有し、
かつ/または
- 前記サブマイクロメートル細孔は、101nm~999nm、特に120nm~900nm、好ましくは150nm~200nmの平均細孔直径を有し、
かつ/または
- マイクロメートル細孔は1μm~500μm、特に2μm~100μm、好ましくは5μm~10μmの平均細孔直径を有する
ことを特徴とする、請求項3に記載の多孔質永久分極ヒドロキシアパタイト。
【請求項5】
-
図1(a)に示す広角X線散乱(WAXS)パターン
および/または
-
図1(b)に示すラマンスペクトル
および/または
-
図1(d)に示す
31P-NMRスペクトル
を有することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の多孔質永久分極ヒドロキシアパタイト。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトを得るためのプロセスであって、
(a)ヒドロキシアパタイト粉末および細孔形成材料を含む、またはそれらからなる混合物を提供する工程と、
(b)工程(a)で提供された前記混合物を成形して、前記ヒドロキシアパタイト粉末および前記細孔形成材料を含む、またはそれらからなる成形体を得る工程と、
(c)工程(b)で得られた前記成形体を焼結して前記細孔形成材料を除去し、多孔質ヒドロキシアパタイトを含む、またはそれからなる成形体を得る工程と、
(d)一定または可変の、特に250V~2550Vの直流電圧、もしくは特に1.49kV/cm~15kV/cmの等価電界
あるいは、
特に2500V~1500000Vの静電放電、または特に148.9kV/cm~8928kV/cmの等価電界を、
工程(c)で得られた前記成形体に印加し、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトを含む、またはそれからなる成形体を得る工程と、
(e)工程(d)で得られた前記成形体を、工程(d)で印加された前記直流電圧または前記等価電界を維持したまま冷却する工程、
あるいは、
工程(d)で得られた前記成形体を、工程(d)で印加された前記静電放電または前記等価電界を維持したまま冷却する工程、
あるいは、
工程(d)で得られた前記成形体を、工程(d)で印加された前記直流電圧または前記等価電界を維持せずに冷却する工程、
あるいは、
工程(d)で得られた前記成形体を、工程(d)で印加された前記静電放電または前記等価電界を維持せずに冷却する工程と
を含むプロセス。
【請求項7】
前記細孔形成材料は、ポリマー、特に、ポロキサマー、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアルキルテレフタレート、ポリアリールテレフタレート、ポリアリールエーテルケトン、ポリヒドロキシアルカノエート、タンパク質、例えば細胞外タンパク質および/または球状タンパク質および/または酵素および/または抗体および/または血液凝固因子、多糖類、ならびに前記ポリマーの少なくとも2つの混合物からなる群から選択されるポリマーを含むことを特徴とする、請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
前記ポリマーはポロキサマーであることを特徴とする、請求項9~11のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記ポロキサマーは、1g/mol~500,000g/mol、特に1,000g/mol~30,000g/mol、好ましくは10,000g/mol~20,000g/molの分子量を有するポリオキシプロピレンコアを含むことを特徴とする、請求項7または8に記載のプロセス。
【請求項10】
前記ポロキサマーは、1重量%~90重量%、特に10重量%~80重量%、好ましくは35重量%~65重量%のポリオキシエチレン含有量を有することを特徴とする、請求項7~9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記ポリマーは、前記細孔形成材料の総重量に基づいて、1重量%~90重量%、好ましくは20重量%~80重量%、より好ましくは35重量%~65重量%の割合を有することを特徴とする、請求項7~10のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
前記細孔形成材料はヒドロゲルの形態であることを特徴とする、請求項7~11のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
請求項6~12のいずれか一項に記載のプロセスによって得られる、または得ることができる多孔質永久分極ヒドロキシアパタイト。
【請求項14】
請求項1~5または13のいずれか一項に記載の多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトを含む、特に触媒の形態の組成物または材料。
【請求項15】
特に有機分子、好ましくはエタノール、または無機分子、好ましくはアンモニアの合成のための反応における、触媒としての、請求項1~5または13のいずれかに記載の多孔質永久分極ヒドロキシアパタイト、または請求項14に記載の組成物もしくは材料の使用。
【請求項16】
ヒドロキシアパタイト粉末および細孔形成材料を含む、請求項1~5または13のいずれか一項に記載の多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトを調製するための組成物、特にペースト状またはインク組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイト、その製造のためのプロセス、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトを含む組成物または材料、その使用、および多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトを製造するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自然界に見られるリアクタの形態を模倣することで、触媒活性が飛躍的に向上することが科学者たちを魅了している。実際、化学反応の容積をマイクロスケールおよびナノスケールに制限することによって、表面対体積比の増大、ならびに熱および物質移動の制御など、数多くの利点が得られ、これは最終的な選択性および効率の向上につながる(Gaitzsch,J.;Huang,X.;Voit,B.Engineering Functional Polymer Capsules towards Smart Nanoreactors.Chem.Rev.2016,116,1053-1093;Renggli,K.;Baumann,P.;Langowska,K.;Onaca,O.;Bruns,N.;Meier,W.Selective and Responsive Nanoreactors.Adv.Funct.Mater.2011,21,1241-1259;Vriezema,D.M.;Aragones,M.C.;Elemans,J.A.A.W.;Cornelissen,J.J.L.M.;Rowan,A.E.;Nolte,R.J.M.Self-Assembled Nanoreactors.Chem.Rev.2005,105,1445-1489)。
【0003】
最近の研究では、ヒドロキシアパタイト(HAp)、Ca10(PO4)6(OH)2を、穏やかな反応条件下で窒素固定化および炭素固定化に利用することが報告され(Revilla-Lopez,G.;Sans,J.;Casanovas,J.;Bertran,O.;Puiggali,J.;Turon,P.;Aleman,C.Analysis of Nitrogen Fixation by a Catalyst Capable of Transforming N2,CO2 and CH4 into Amino Acids under Mild Reactions Conditions.Appl.Catal.A Gen.2020,596,117526;Sans,J.;Revilla-Lopez,G.;Sanz,V.;Puiggali,J.;Turon,P.;Aleman,C.Permanently Polarized Hydroxyapatite for Selective Electrothermal Catalytic Conversion of Carbon Dioxide into Ethanol.Chem.Commun.2021,57,5163-5166)、ヒドロキシアパタイトは、従来の触媒に代わるグリーンで安価な触媒であると仮定し、優れた可塑性挙動を示す(Sans,J.;Sanz,V.;L.J.del Valle;Puiggali,J.;Turon,P.;Aleman,C.Optimization of Permanently Polarized Hydroxyapatite Catalyst.Implications for the Electrophotosynthesis of Amino Acids by Nitrogen and Carbon Fixation.J.Catal.2021,397,98-107)。
【0004】
HApの触媒活性化は、HAp粉末を圧縮して先に得られた焼結ペレットに熱刺激分極(TSP)処理を施すことによって開発された。TSP処理は、格子中に含まれるOH-基を特定の方向に永久的に配列させ、電気的特性および電気化学的特性の両方を付与する(Sans,J.;Arnau,M.;Turon,P.;Aleman,C.Article OH-.Regulating the Superficial Vacancies and OH- Orientations on Polarized Hydroxyapatite Electrocatalysts.Adv.Mater.Interfaces 2021,in press(DOI:10.1002/admi.202100163);Rivas,M.;delValle,L.J.;Armelin,E.;Bertran,O.;Turon,P.;Puiggali,J.;Aleman,C.Hydroxyapatite with Permanent Electrical Polarization: Preparation,Characterization,and Response against Inorganic Adsorbates.ChemPhysChem 2018,19,1746-1755)が、触媒HAp(以下、HAp/cと表記)ペレットの均一で高密度な構造は、触媒の効率、したがって反応の最終収率を制限する。
【0005】
このように、すでに進展があったにもかかわらず、さらに最適化された触媒活性を示す永久分極ヒドロキシアパタイトおよび対応する組成物が必要とされ続けている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
したがって、上記に鑑みて、本発明の根底にある目的は、上記の必要性に適切に対処する組成物または材料、その製造プロセス、およびその使用を利用可能にすることである。
【0007】
この目的は、請求項1および13に記載の多孔質永久分極ヒドロキシアパタイト、請求項6に記載の多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトを製造するためのプロセス、請求項14に記載の多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトを含む組成物または材料、請求項15に記載の多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトまたは多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトを含む組成物もしくは材料の使用、および請求項16に記載の多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトを調製するための組成物によって達成される。本発明の好ましい実施形態は、従属請求項2~5および7~12に定義される。本発明のさらに好ましい実施形態は、本明細書において定義される。すべての請求項の主題および文言はそれぞれ、明示的な参照により本明細書に組み込まれる。
【0008】
第1の態様によれば、本発明は、多孔質、特に開孔の永久分極ヒドロキシアパタイト、すなわち、細孔、特に開孔を含む永久分極ヒドロキシアパタイトに関する。
【0009】
原則として、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトの細孔は、どのような形状または形態を有していてもよい。しかし、好ましくは、細孔は球状細孔の形態である。
【0010】
さらに、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトの細孔は、相互に連結している細孔、すなわち相互連結性を示す細孔の形態であってもよい。
【0011】
さらに、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトの細孔は、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトの外面上または外面に存在していてもよく、すなわち、表層細孔の形態であってもよく、かつ/あるいは多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトの内面上もしくは内面に存在していてもよく、または多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトの内面の一部であってもよく、すなわち、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトの内部に存在してもよく、または内部細孔の形態であってもよい。好ましくは、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトは、表層細孔および内部細孔の両方を含む。
【0012】
多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトは、特に電子顕微鏡(EM)または電子顕微鏡(EM)技術によって測定される、1nm~500,000(言葉では五十万)nmの平均細孔直径を含むか、または、有する。
【0013】
本発明に従って使用される「多孔質永久分極ヒドロキシアパタイト」という用語は、高い結晶化度、すなわち特に非晶質リン酸カルシウムの量が少なく、電気化学的活性の増加、ならびに単位質量および表面あたりの電荷の蓄積によって検出される空孔の存在によって、完全な、特にほぼ完全な構造再分配を受けた多孔質ヒドロキシアパタイト、特に合成多孔質ヒドロキシアパタイトを意味する。これは、消失しない電気化学的活性およびイオン移動度を有している。多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトは、
図1(d)に示すように、
31P-NMRスペクトルを有し得る。
【0014】
本発明は、永久分極ヒドロキシアパタイトの触媒活性、特に不均一系触媒活性が、有利なことに上記の平均直径を有する細孔の存在によって増強されるという驚くべき知見に基づく。このような多孔度は、永久分極ヒドロキシアパタイトの適切な濡れ性を有利にもたらし、この濡れ性は、永久分極ヒドロキシアパタイトの活性部位を通るガス拡散の改善および固体-液体-気体界面における水の存在の点で特に有利である。したがって、特に、分子ガスからの炭素および/または窒素の不均一系触媒固定化を有利に促進することができる。例えば、本発明者らは、エタノールを得るための二酸化炭素(CO2)およびメタン(CH4)からの炭素固定化が、従来の永久分極ヒドロキシアパタイトと比較して3000%以上向上することを実証することができた。同様に、本発明者らは、二窒素(N2)固定化によるアンモニア(NH3)の合成が2000%以上増加したことを証明することができた。したがって、本発明による多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトは、多くの化学反応に対するスケーラビリティおよび工業的利用に対して並外れた可能性を示し、特に重金属系触媒に代わる実現可能なグリーンケミストリーを可能にする。
【0015】
本発明の実施形態では、特に電子顕微鏡(EM)または電子顕微鏡(EM)技術によって測定される上記の平均細孔直径は、10nm~10,000(言葉では一万)nm、特に50nm~1,000(言葉では一千)nm、好ましくは60nm~600nm、より好ましくは100nm~350nmである。上記細孔直径は、本発明の上記の利点を実現するために特に有用である。
【0016】
本発明のさらなる実施形態では、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトが、ナノメートル細孔および/またはサブマイクロメートル細孔および/またはマイクロメートル細孔を有する。好ましくは、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトが、ナノメートル細孔およびサブマイクロメートル細孔、またはナノメートル細孔、サブマイクロメートル細孔およびマイクロメートル細孔を有する。したがって、触媒反応の選択性が有利に改善され得る。さらに、バッチプロセスから連続プロセスへの変更も、物質移動の改善により、所望により容易になり得る。
【0017】
本発明に従って使用される「ナノメートル細孔」という用語は、特に電子顕微鏡(EM)または電子顕微鏡(EM)技術によって決定される、1nm~100nm、特に10nm~90nm、好ましくは50nm~80nmの平均直径を有する細孔を意味する。
【0018】
本発明に従って使用される用語「サブマイクロメートル細孔」とは、特に電子顕微鏡(EM)または電子顕微鏡(EM)技術によって決定される、100nm超1000nm未満、特に101nm~999nm、特に120nm~900nm、好ましくは150nm~200nmの平均直径を有する細孔を意味する。
【0019】
本発明に従って使用される「マイクロメートル細孔」という用語は、特に電子顕微鏡(EM)または電子顕微鏡(EM)技術によって決定される、1μm~500μm、特に1μm~100μmまたは2μm~100μm、好ましくは1μm~10μm、より好ましくは5μm~10μmの平均直径を有する細孔を意味する。
【0020】
有利なことに、サブマイクロメートル細孔および/またはマイクロメートル細孔のさらなる存在は、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトの触媒活性を促進する。
【0021】
本発明のさらなる実施形態では、ナノメートル細孔は、特に電子顕微鏡(EM)または電子顕微鏡(EM)技術によって決定される、1nm~100nm、特に10nm~90nm、好ましくは50nm~80nmの平均細孔直径を有する。
【0022】
本発明のさらなる実施形態では、サブマイクロメートル細孔は、特に電子顕微鏡(EM)または電子顕微鏡(EM)技術によって決定される、100nm超1000nm未満、特に101nm~999nm、特に120nm~900nm、好ましくは150nm~200nmの平均細孔直径を有する。
【0023】
本発明のさらなる実施形態では、マイクロメートル細孔は、特に電子顕微鏡(EM)または電子顕微鏡(EM)技術によって決定される、1μm~500μm、特に1μm~100μm、好ましくは1μm~10μmの平均細孔直径を有する。
【0024】
さらに、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトは、特に走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察される空隙空間の割合を計算することによって決定される、0.1%~99%、特に5%~50%、好ましくは10%~35%の多孔度を有し得る。
【0025】
さらに、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトは、特にブルナウアー-エメット-テラー(BET)ポロシメトリによって決定される、1m2/g~100m2/g、特に5m2/g~80m2/g、好ましくは10m2/g~50m2/gの比表面積(SSA)を有し得る。
【0026】
さらに、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトは、30cm-1~150cm-1、特に40cm-1~120cm-1、好ましくは60cm-1~85cm-1の表面積対体積比(sa/vol)を有し得る。
【0027】
さらに、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトは、特に広角X線散乱(WAXS)によって決定される、65%以上、特に70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは75%~99.9%の結晶化度を有し得る。
【0028】
さらに、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトは、特に広角X線散乱(WAXS)または広角X線回折(WAXD)によって決定される、20nm~500nm、特に50nm~200nm、好ましくは70nm~100nmの平均サイズ、好ましくは平均直径を有する結晶子を含み得る。
【0029】
さらに、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトは、特に光学顕微鏡(特に接触角ゴニオメータを備える)によって決定される、0.1μL/s~20μL/s、特に0.2μL/s~10μL/s、好ましくは1μL/s~6μL/sの水流吸収量を有し得る。
【0030】
本発明のさらなる実施形態では、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトは、
図1(a)に示す広角X線散乱(WAXS)パターンまたは広角X線回折(WAXD)パターンを有する。広角X線散乱(WAXS)パターンまたは広角X線回折(WAXD)パターンは、2θ=25.9°、31.7°、32.1°、32.8°、34.0°および39.8°にピーク、特に代表的な、または固有のピークを示す。好ましくは、前記パターンは、室温、好ましくは20℃~25℃の温度、かつ/または大気条件下、特に大気湿度および/もしくは大気圧下で実施または得られる。
【0031】
本発明に従って使用される「室温」という用語は、15℃~35℃、特に18℃~30℃、好ましくは20℃~30℃、より好ましくは20℃~28℃、特に20℃~25℃の温度を意味する。
【0032】
本発明のさらなる実施形態では、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトは、
図1(b)に示すラマンスペクトルを有する。ラマンスペクトルは、ν1=962cm
-1、ν2=400cm
-1~480cm
-1、ν3=570cm
-1~625cm
-1、およびν4=1020cm
-1~1095cm
-1にピーク、特に代表的な、または固有のピークを示し、ヒドロキシアパタイトについては3574cm
-1にν-OH、および878cm
-1、848cm
-1および794cm
-1に分極ピークを示す。好ましくは、前記パターンは、室温、好ましくは20℃~25℃の温度、かつ/または大気条件下、特に大気湿度および/もしくは大気圧下で、特に532nmの波長のレーザを用いて記録して実施または得られる。
【0033】
本発明のさらなる実施形態では、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトは、
図1(d)に示す
31P-NMRスペクトルを有する。前記スペクトルは、ヒドロキシアパタイトのリン酸基に対応する2.6ppmまたは2.6ppm付近、すなわち2.5ppm~2.7ppmの範囲に固有のピークを示す。好ましくは、前記スペクトルは、固形多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトを用いて、20℃~25℃の温度、リン酸(H
3PO
4)を参照として実施または得られる。さらに、前記スペクトルは、好ましくは、400MHzまたは400.1MHzの核磁気共鳴(NMR)スペクトロメータを用いて得られるか、または得ることができる。一般に、特に使用されるNMRスペクトロメータに応じて、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトは、ヒドロキシアパタイトのリン酸基に対応する2.3ppm~2.9ppm、特に2.4ppm~2.8ppm、好ましくは2.5ppm~2.7ppm、より好ましくは2.5ppm~2.6ppmの範囲のピーク、特に固有のピークを有する
31P-NMRスペクトルを有し得る。
【0034】
さらに、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトは、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトの総重量に基づいて、0重量%超から17重量%、特に0重量%超から9重量%、好ましくは0重量%超から5重量%の非晶質リン酸カルシウムの割合を有し得る。
【0035】
さらに、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトは、非晶質リン酸カルシウムを含まなくてもよい。
【0036】
さらに、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトは、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトの総重量に基づいて、0重量%超から35重量%、特に0重量%超から12重量%、好ましくは0重量%超から5重量%、特に0.5重量%未満のリン酸三カルシウム、特にβ-リン酸三カルシウムの割合を有し得る。
【0037】
さらに、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトは、リン酸三カルシウム、特にβ-リン酸三カルシウムを含まなくてもよい。
【0038】
さらに、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトは、107Ωcm2~104Ωcm2、特に107Ωcm2~105Ωcm2、好ましくは105Ωcm2のバルク抵抗を有し得る。特に、バルク抵抗は、3ヶ月後に(わずか)0.1%~33%、特に4%~63%、好ましくは4%増加し得る。本発明に従って使用される「バルク抵抗」という用語は、電子移動への抵抗力を意味し、電気化学インピーダンス分光法によって測定され得る。
【0039】
さらに、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトは、3ヶ月後に8%未満、特に5%未満減少する表面静電容量を有し得る。好ましくは、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトは、3ヶ月後に0%または0%超から8%、より好ましくは0%または0%超から5%減少する表面静電容量を有し得る。本発明に従って使用される「表面静電容量」という用語は、熱分極プロセスによって誘導されるヒドロキシアパタイトの表面変化に起因する静電容量を意味し、電気化学インピーダンス分光法によって測定され得る。
【0040】
好ましくは、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトは、コーティングを有していない、すなわち、いかなるコーティングも有していない。したがって、コーティングの存在による細孔の閉塞が有利に回避され得、細孔は、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトの触媒活性に対する促進的な影響を何ら損なうことなく行使することができる。
【0041】
あるいは、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトは、コーティングを有するか、または含んでいてもよい。
【0042】
さらに、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトは粒子の形態であってもよい。粒子は、特に電子顕微鏡(EM)または電子顕微鏡(EM)技術によって決定される、10nm~5,000(言葉では五千)nm、特に100nm~1,000(言葉では一千)nm、好ましくは100nm~300nmの直径、好ましくは平均直径を有し得る。
【0043】
さらに、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトは、粉末の形態であってもよく、特に前段落で述べた粒子を有する。
【0044】
さらに、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトは、成形体の形態であってもよい。成形体は、多角形、例えば三角形、四角形もしくは長方形、五角形、六角形、七角形、八角形、または九角形の断面、あるいは角のない、特に円形、卵形または楕円形の断面を有し得る。
【0045】
特に、成形体は円盤、板、円錐(コーヌス)または円筒の形態であってもよい。
【0046】
さらに、成形体は、例えば、0cm超から10cm、特に0cm超から1cm、好ましくは0cm超から0.2cmの厚さを有し得る。
【0047】
さらに、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトは、好ましくは触媒、特にセラミック触媒、好ましくはバイオセラミック触媒の形態である。
【0048】
第2の態様によれば、本発明は、特に本発明の第1の態様に従って、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトを得るまたは調製するためのプロセスに関する。プロセスは以下の、
(a)ヒドロキシアパタイト粉末、特に結晶質ヒドロキシアパタイト粉末および細孔形成材料を含む、またはそれらからなる混合物を提供する工程と、
(b)工程(a)で提供された前記混合物を成形またはモデリングして、前記ヒドロキシアパタイト粉末および前記細孔形成材料を含む、またはそれらからなる成形体を得る工程と、
(c)工程(b)で得られた前記成形体を焼結して前記細孔形成材料を除去し、多孔質ヒドロキシアパタイトを含む、またはそれからなる成形体を得る工程と、
(d)一定または可変の、特に250V~2550Vの直流電圧、もしくは特に1.49kV/cm~15kV/cmの等価電界
あるいは、
特に2500V~1500000Vの静電放電、または特に148.9kV/cm~8928kV/cmの等価電界を、
工程(c)で得られた前記成形体に印加し、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトを含む、またはそれからなる成形体を得る工程と、
(e)工程(d)で得られた前記成形体を、工程(d)で印加された前記直流電圧または前記等価電界を維持したまま冷却する工程、
あるいは、
工程(d)で得られた前記成形体を、工程(d)で印加された前記静電放電または前記等価電界を維持したまま冷却する工程、
あるいは、
工程(d)で得られた前記成形体を、工程(d)で印加された前記直流電圧または前記等価電界を維持せずに冷却する工程、
あるいは、
工程(d)で得られた前記成形体を、工程(d)で印加された前記静電放電または前記等価電界を維持せずに冷却する工程と、を含む。
【0049】
本発明に従って使用される「細孔形成材料」という用語は、特に別の材料から除去した後に、前記別の材料の中、すなわち内部、および/または上、すなわちその表面に細孔を形成または残すことができる材料または添加剤を意味する。本発明による細孔形成材料は、「細孔形成添加剤」とも称してもよい。
【0050】
本発明に従って使用される「ヒドロキシアパタイト粉末」という用語は、ヒドロキシアパタイトを含む、またはヒドロキシアパタイトからなる粉末を意味する。ヒドロキシアパタイトは、天然の、すなわち天然に存在するヒドロキシアパタイトの形態、および/または合成ヒドロキシアパタイトの形態であってもよい。さらに、ヒドロキシアパタイトは、結晶質ヒドロキシアパタイトの形態であってもよい。
【0051】
好ましくは、ステップ(a)において、混合物は、均質および/またはペースト状の混合物の形態、特にインクまたはインク組成物の形態で提供される。
【0052】
さらに、混合物を提供するためのステップ(a)で使用されるヒドロキシアパタイト粉末は、特に電子顕微鏡(EM)または電子顕微鏡(EM)技術によって決定される、10nm~5,000(言葉では五千)nm、特に50nm~1,000(言葉では一千)nm、好ましくは100nm~1,000(言葉では一千)nm、より好ましくは100nm~300nmの平均粒径を有し得る。
【0053】
さらに、ステップ(a)で提供される混合物は、好ましくは、混合物の総重量に基づいて、1重量%~99.9重量%、特に10重量%~90重量%、好ましくは20重量%~65重量%のヒドロキシアパタイト粉末の割合を有する。
【0054】
さらに、ステップ(a)で提供される混合物は、好ましくは、混合物の総重量に基づいて、1重量%~90重量%、特に10重量%~80重量%、好ましくは35重量%~65重量%の細孔形成材料の割合を有する。
【0055】
有利には、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトの細孔直径、特に平均細孔直径および多孔度は、ステップ(a)の混合物を提供するために使用される細孔形成材料の割合によって制御され得る。
【0056】
さらに、ステップ(a)で提供される混合物は、さらに液体、特に水を含む。液体、特に水は、混合物の総重量に基づいて、10重量%~90重量%、特に20重量%~80重量%、好ましくは40重量%~60重量%の割合を有し得る。
【0057】
さらに、ステップ(a)は、最初に細孔形成材料の一部をヒドロキシアパタイト粉末に添加し、特に次いで撹拌し、その後、細孔形成材料の残りの部分をヒドロキシアパタイト粉末に添加し、特に次いでさらに撹拌することによって実施され得る。
【0058】
さらに、ステップ(a)は、-10℃~250℃、特に-5℃~100℃、好ましくは0℃~25℃の温度で実施され得る。本段落に開示された温度範囲は、良好なレオロジー条件を示す混合物を提供するために特に有用であり、これはステップ(b)を実施するために有利である。
【0059】
さらに、プロセスは、ステップ(a)とステップ(b)との間に、混合物をエージングさせる、すなわち混合物を保存するさらなるステップ(ab)を含んでもよい。このようにして、混合物中の細孔形成材料の均一な分布が有利なことに保証され得る。ステップ(ab)は、-10℃~250℃、特に-5℃~100℃、好ましくは0℃~25℃の温度で実施され得る。さらに、ステップ(ab)は、1分~96時間、特に1分~24時間、好ましくは1分~12時間、例えば6時間実施され得る。
【0060】
さらに、ステップ(a)で使用されるヒドロキシアパタイト粉末は、リン酸二アンモニウム(リン酸水素二アンモニウム、(NH4)2HPO4)および硝酸カルシウム(Ca(NO3)2)を反応物または出発物質として使用することにより調製され得る。特に、ヒドロキシアパタイト粉末は:
(a01)リン酸二アンモニウムおよび硝酸カルシウムの混合物、特に水性混合物、好ましくは水性-アルコール性混合物を提供する工程と、
(a02)工程(a01)で提供された混合物を、特に室温で撹拌する工程と、
(a03)工程(a02)で撹拌した混合物を熱水処理する工程と、
(a04)工程(a03)で熱水処理した混合物を冷却する工程と、
(a05)工程(a04)の混合物を冷却した後に得られた沈殿物を分離する工程と、
(a06)工程(a05)で分離した沈殿物を凍結乾燥して、ヒドロキシアパタイト、特に結晶質ヒドロキシアパタイトを生成する工程と、を実施することにより調製され得る。
【0061】
工程(a01)は、特に、リン酸二アンモニウム、硝酸カルシウム、水、特に脱イオン水、エタノール、および任意選択でキレート化カルシウム溶液を含む、またはそれらからなる混合物を使用することによって実施され得る。有利には、混合物のpH値および/または混合物を供給するために適用される硝酸カルシウム水溶液のpH値は、10~12、好ましくは11に調整され得る。このようにして、特にナノ粒子の形態のヒドロキシアパタイトの形状およびサイズを制御することができる。さらに、工程(a02)は、撹拌下、特に穏やかな撹拌下、例えば150rpm~400rpmを適用して実施され得る。さらに、工程(a02)は、1分~12時間、特に1時間実施され得る。本発明によれば、工程(a02)は、エージング工程と称してもよい。さらに、工程(a03)は、60℃~240℃、好ましくは150℃の温度で実施され得る。さらに、工程(a03)は、1barから250bar、好ましくは20barの圧力で実施され得る。さらに、工程(a03)は、0.1時間~72時間、好ましくは24時間実施され得る。さらに、工程(a04)は、工程(a03)で熱水処理された混合物を0℃~90℃、特に25℃の温度に冷却することによって実施され得る。さらに、工程(a05)は、遠心分離および/または濾過によって実施され得る。さらに、工程(a05)で分離された沈殿物は、工程(a06)を実施する前に、特に水および/またはエタノールと水の混合物を用いて洗浄され得る。さらに、工程(a06)は、1~4日間、特に2~3日間、好ましくは3日間実施され得る。
【0062】
さらに、工程(b)は、好ましくは押出、特にロボット押出、すなわちロボット支援押出によって実施される。
【0063】
より好ましくは、工程(b)は、3D印刷または積層造形、特にロボット3D印刷または積層造形、すなわちロボット支援3D印刷または積層造形によって実施される。
【0064】
さらに、工程(b)は、-10℃~250℃、特に-5℃~100℃、好ましくは0℃~25℃の温度で実施され得る。
【0065】
さらに、工程(c)は、好ましくは700℃~1200℃、特に700℃~1150℃、好ましくは800℃~1100℃、特に1000℃の温度で実施される。
【0066】
さらに、このプロセスは、好ましくは、工程(c)と工程(d)の間に、
- 工程(c)で得られた成形体をプレスして、プレス成形体を得るさらなる工程(cd)を含む。
【0067】
特に、工程(cd)は、1MPa~1000MPa、特に100MPa~800MPa、好ましくは600MPa~700MPaの圧力で実施され得る。さらに、工程(cd)は、1~90分間、特に5~50分間、好ましくは10~30分間実施され得る。
【0068】
プレス成形体は、多角形、例えば三角形、四角形もしくは長方形、五角形、六角形、七角形、八角形、または九角形、あるいは角のない、特に円形、卵形または楕円形の断面を有し得る。さらに、プレス成形体は、例えば、0cm超から10cm、特に0cm超から5cm、好ましくは0cm超から2cmの厚さを有し得る。特に、プレス成形体は、0.1cm~10cm、特に0.1cm~5cm、好ましくは0.5cm~2cmの厚さを有し得る。
【0069】
特に、プレス成形体は円盤、板、円錐または円筒の形態であってもよい。
【0070】
有利には、工程(d)を実施することにより、工程(c)で得られた成形体または多孔質ヒドロキシアパタイトの触媒活性化が達成され得る。好ましくは、工程(d)は、工程(c)で得られた成形体を正極と負極との間に配置することによって実施され、好ましくは、工程(c)で得られた成形体は両方の電極、すなわち正極および負極と接触する。電極は、例として、ステンレス鋼板、特にステンレス鋼AISI304板の形態であってもよい。さらに、電極は0.01mm~10cm、特に0.01mm~5cm、好ましくは0.01mm~1mmの相互間隔を有し得る。
【0071】
さらに、電極は様々な形状であってもよい。電極は、多角形の断面、例えば正方形または長方形、または角のない、特に円形、卵形または楕円形の断面を有し得る。特に、電極は、例えば、0cm超から10cm、特に0cm超から5cm、好ましくは0cm超から1mmの厚さを有し得る。例えば、電極は円盤、板、または円筒の形態であってもよい。
【0072】
さらに、一定もしくは可変の直流電圧または等価電界は、上記工程(d)において、1時間~24時間、特に0.1時間~10時間、特に1時間印加され得る。
【0073】
さらに、上記工程(d)で印加される直流電圧は、好ましくは500Vであり、これは3kV/cmの定電界に相当する。
【0074】
さらに、上記工程(d)で印加される等価電界は、好ましくは3kV/cmである。
【0075】
さらに、工程(d)は、好ましくは少なくとも900℃、より好ましくは少なくとも1000℃の温度で実施される。好ましくは、工程(d)は、900℃~1200℃、特に1000℃~1200℃、特に1000℃の温度で実施される。
【0076】
さらに、工程(d)は、好ましくは0分超から24時間、または少なくとも1分間実施され得る。
【0077】
好ましくは、工程(d)は、工程(c)で得られた成形体に、1000℃で500Vの一定または可変の直流電圧を1時間印加することによって実施される。
【0078】
さらに、上記工程(e)は、工程(d)で得られた成形体を室温まで冷却することによって実施され得る。
【0079】
さらに、上記工程(e)は、1分~72時間、特に15分~5時間、好ましくは15分~2時間実施され得る。
【0080】
本発明のさらなる実施形態では、細孔形成材料は、ポリマー、特に合成ポリマー、すなわち実験室で製造されたポリマー、またはバイオポリマー、すなわち天然に存在するポリマーを含むか、またはそれらである。
【0081】
本発明のさらなる実施形態では、ポリマーは、ポロキサマー、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアルキルテレフタレート、ポリアリールテレフタレート、ポリアリールエーテルケトン、ポリヒドロキシアルカノエート、タンパク質、例えば細胞外タンパク質および/または球状タンパク質および/または酵素および/または抗体および/または血液凝固因子、多糖類、ならびに上記ポリマーの少なくとも2つの混合物からなる群から選択される。
【0082】
本発明のさらなる実施形態では、ポリマーはポロキサマーである。ポロキサマーは、ポリオキシエチレン(ポリ(エチレンオキシド))の2つの親水性鎖に挟まれたポリオキシプロピレン(ポリ(プロピレンオキシド))の中心疎水性鎖を含む、またはそれからなる非イオン性トリブロックコポリマーである。ポロキサマーはPluronic、Kolliphor(製薬グレード)、およびSynperonicの商標名でも知られている。ポロキサマーという総称について、これらのコポリマーは一般的に(ポロキサマーの)Pという文字の後に3桁の数字で名付けられ:最初の2桁に100を乗じると、ポリオキシプロピレンコア、すなわちポリオキシプロピレンの中心疎水性鎖の分子量またはおおよその分子量が分かり、最後の桁に10を乗じると、ポリオキシエチレン含有率が分かる(例えば、P407=ポリオキシプロピレン分子量4000g/mol、およびポリオキシエチレン含有率70%のポロキサマー)。PluronicおよびSynperonicの商標では、これらのコポリマーのコーディングは、室温におけるその物理的形状を定義する文字(L=液体、P=ペースト、F=フレーク(固体))で始まり、2桁または3桁の数字が続く。数字表記の最初の桁(3桁の場合は2桁)に300を乗じたものはポリオキシプロピレンコアのおおよその分子量を示し、最後の桁に10を乗じたものがポリオキシエチレン含有率を示す(例えば、L61はポリオキシプロピレンの分子量1,800g/mol、ポリオキシエチレン含有率10%を示す)。所与の例では、ポロキサマー181(P181)はPluronic L61およびSynperonic PE/L61に等しい。
【0083】
驚くべきことに、特にポロキサマーは、1)その結晶構造に影響を与えることなく、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトの最終的な構造および多孔度を正確に制御し、2)最終的な多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトの寸法および機械的安定性に影響を与えることなく、焼結工程(c)によって除去できることが判明した。
【0084】
本発明のさらなる実施形態では、ポロキサマーは、1g/mol~500,000(言葉では五十万)g/mol、特に1,000(言葉では一千)g/mol~30,000(言葉では三万)g/mol、好ましくは10,000(言葉では一万)g/mol~20,000(言葉では二万)g/molの分子量を有するポリオキシプロピレンコア、すなわちポリオキシプロピレンの中心疎水性鎖または中心ポリオキシプロピレン単位を含む。
【0085】
好ましくは、ポロキサマーは、1重量%~90重量%、特に10重量%~80重量%、好ましくは35重量%~65重量%のポリオキシプロピレン含有量、すなわちポリオキシプロピレンの割合を有する。
【0086】
本発明のさらなる実施形態では、ポロキサマーは、1重量%~90重量%、特に10重量%~80重量%、好ましくは35重量%~65重量%のポリオキシエチレン含有量、すなわちポリオキシエチレンの割合を有する。
【0087】
本発明のさらなる実施形態では、ポリマーは、細孔形成材料の総重量に基づいて、1重量%~90重量%、特に10重量%~80重量%、好ましくは20重量%~80重量%、より好ましくは35重量%~65重量%の割合を有する。例えば、ポリマーは、細孔形成材料の総重量に基づいて、50重量%、60重量%、73重量%または78重量%の割合を有し得る。
【0088】
特に、ポリマーは、細孔形成材料の総重量に基づいて、50重量%以下、特に20重量%~50重量%、好ましくは35重量%~50重量%の割合を有し得る。驚くべきことに、本段落に開示されているポリマーの割合は、ナノメートル細孔およびサブマイクロメートル細孔の形成、特にナノメートル細孔およびサブマイクロメートル細孔のみの形成、好ましくはナノメートル細孔のみの形成をもたらすことが判明した。したがって、ポリマーの割合を調整することによって、サブマイクロメートル細孔および/またはマイクロメートル細孔の形成を回避し得る。
【0089】
あるいは、ポリマーは特に、細孔形成材料の総重量に基づいて、50重量%以上、特に50重量%超、好ましくは60重量%~90重量%、より好ましくは60重量%~80重量%の割合を有し得る。驚くべきことに、本段落に開示されているポリマーの割合は、ナノメートル細孔およびサブマイクロメートル細孔の形成のみならず、マイクロメートル細孔の形成ももたらすことが判明した。したがって、触媒面積が有利なことに増大し得る。さらに、サブマイクロメートル細孔およびマイクロメートル細孔のさらなる形成は、物質移動の改善によって連続プロセスを促進し得る。
【0090】
さらに、先の段落に開示されているポリマーの割合は、工程(c)で得られる成形体が、特に、観察可能な亀裂または収縮を示すことなく、所望の形状を維持し、良好な構造安定性を有するという(追加の)利点を有する。
【0091】
さらに、細孔形成材料は、好ましくは液体、特に水を含んでいてもよい。より具体的には、液体、特に水は、好ましくは、細孔形成材料の総重量に基づいて、10重量%~90重量%、特に20重量%~80重量%、好ましくは40重量%~60重量%の割合を有し得る。
【0092】
本発明のさらなる実施形態では、細孔形成材料はゲル、好ましくはヒドロゲル、すなわち水含有ゲルの形態である。
【0093】
第3の態様によれば、本発明は、本発明の第2の態様によるプロセスによって得られる、または得ることができる多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトに関する。
【0094】
多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトおよび多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトを得るためのプロセスのさらなる特徴および利点に関しては、全体として先の説明、すなわち本発明の第1の態様および第2の態様の下で与えられる開示を参照されたい。多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトおよび多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトを得るためのプロセスに関して先の説明で述べた特徴および利点は、本発明の第3の態様による多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトに関しても準用される。
【0095】
第4の態様によれば、本発明は、本発明の第1の態様または第3の態様による多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトを含むか、またはそれからなる組成物または材料に関する。
【0096】
好ましくは、組成物または材料は触媒、特にセラミック触媒、好ましくはバイオセラミック触媒の形態である。
【0097】
さらに、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトは、組成物または材料の総重量に基づいて、1重量%~99.9重量%、特に10重量%~90重量%、好ましくは20重量%~65重量%の割合を有し得る。
【0098】
組成物または材料は、有効成分をさらに含んでいてもよい。有効成分は、特に生物学的または薬学的な有効成分であってよい。有効成分は、特に、抗菌成分、より詳細には抗生物質成分、創傷治癒促進成分、殺菌成分、抗炎症成分、血液凝固促進成分、成長因子、細胞分化因子、細胞接着因子、細胞リクルート因子、細胞受容体、細胞結合因子、サイトカイン、ペプチド、構造タンパク質、細胞外タンパク質、例えばコラーゲン、血清タンパク質、例えばアルブミン、多糖類、例えばヒアルロン酸、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、DNA、RNA、それらの塩、それらの立体異性体、より詳細にはジアステレオマー、およびそれらの混合物からなる群から選択され得る。
【0099】
例えば、有効成分は、ビグアニド、ポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)、トリクロサン、クロルヘキシジン、ゲンタマイシン、ビタミン、銅、亜鉛、銀、金、およびそれらの混合物からなる群から選択され得る。
【0100】
組成物または材料は、ポリマー、セラミック、シリケート、有機金属化合物、およびそれらの混合物からなる群から選択される材料をさらに含んでもよい。
【0101】
ポリマーは、生分解性ポリマー、すなわち生体内、すなわちヒトもしくは動物の体内で分解するポリマー、または非生分解性ポリマーであってもよい。さらに、ポリマーは、バイオポリマー、すなわち天然に存在するポリマー、または合成ポリマー、すなわちテクニカルもしくは天然に存在しないポリマーであってもよい。さらに、ポリマーは、ホモポリマーまたはコポリマー、すなわち、少なくとも2つ、特に2つのみ、またはそれ以上の異なるモノマー単位を含むポリマーであってもよい。
【0102】
ポリマーは、特に、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアルキルテレフタレート、ポリアリールテレフタレート、ポリアリールエーテルケトン、ポリヒドロキシアルカノエート、タンパク質、例えば細胞外タンパク質および/または球状タンパク質および/または酵素および/または抗体および/または血液凝固因子、多糖類、ならびにそれらの混合物からなる群から選択され得る。
【0103】
特に、ポリマーは、ポリエチレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、高分子量ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド6、ポリアミド6、ポリアミド6-6、ポリアミド6-12、ポリアミド12、レーヨン、シルク、特にスパイダーシルク、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ二塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロプロピレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリグリコリド、ポリラクチド、ポリジオキサノン、ポリヒドロキシブチレート、ポリ-3-ヒドロキシブチレート、ポリ-4-ヒドロキシブチレート、ポリトリメチレンカーボネート、ポリ-ε-カプロラクトン、コラーゲン、ゼラチン、エラスチン、レチクリン、フィブロネクチン、ラミニン、フィブリン、フィブリノーゲン、アルブミン、デンプン、アミロース、アミロペクチン、デキストラン、デキストリン、セルロース、セルロース誘導体、例えばアルキルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシアルキルセルロース、カルボキシメチルセルロース、キチン、キトサン、ヒアルロン酸、硫酸デキストラン、ヘパリン、硫酸ヘパラン、硫酸コンドロイチン、硫酸デルマタン、DNA、RNA、それらの塩、それらの立体異性体、それらのコポリマー、およびそれらの混合物からなる群から選択され得る。
【0104】
組成物または材料は、無機触媒、特に無機光触媒をさらに含んでもよい。より具体的には、組成物または材料は、少なくとも部分的に、特に部分的にのみ、または完全に、無機触媒、特に光触媒でコーティングされていてもよい。無機触媒は、TiO2、MgO2、MnO2またはそれらの組み合わせのような触媒であってもよい。
【0105】
さらに、組成物または材料は、好ましくはコーティングを含まない、すなわち、組成物または材料は、好ましくはいかなるコーティングも含まない。
【0106】
あるいは、組成物または材料は、コーティングを有するか、またはコーティングを含んでいてもよい。特に、組成物または材料は、アミノトリス(メチレンホスホン酸)および/またはオキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl2)および/またはジルコニア(ZrO2)で少なくとも部分的に、特に部分的にのみ、または完全にコーティングされてもよい。より具体的には、組成物または材料は、3層コーティングを有していてもよく、特に、3層コーティングは、アミノトリス(メチレンホスホン酸)の2つの層と、オキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl2)またはジルコニア(ZrO2)の層とから構成されていてもよく、好ましくは、オキシ塩化ジルコニウムの層は、アミノトリス(メチレンホスホン酸)の2つの層間に配置または挟まれている。
【0107】
さらに、組成物または材料は、好ましくは医療用、特に医薬組成物または医薬材料であり得る。
【0108】
さらに、組成物または材料は、好ましくは医療デバイス、特にインプラント、例えば骨インプラントまたはプロテーゼ、特に膝プロテーゼまたは股関節プロテーゼであってもよい。
【0109】
組成物または材料のさらなる特徴および利点に関しては、全体として先の説明、すなわち本発明の第1の態様、第2の態様および第3の態様の下で与えられる開示を参照されたい。特に多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトに関して先の説明で記載された特徴および利点は、本発明の第4の態様による組成物または材料に関しても準用される。
【0110】
第5の態様によれば、本発明は、本発明の第1の態様または第3の態様による多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトの使用、あるいは本発明の第4の態様による組成物または材料の触媒としての、特に有機分子、好ましくはエタノールの合成もしくは調製のための反応における、または無機分子、好ましくはアンモニアの合成もしくは調製のための反応における使用に関する。
【0111】
特に好ましくは、本発明の第1の態様もしくは第3の態様による多孔質永久分極ヒドロキシアパタイト、または本発明の第4の態様による組成物もしくは材料は、エタノールまたはアンモニアの合成または調製のための触媒として使用される。
【0112】
使用のさらなる特徴および利点に関しては、全体として先の説明、すなわち本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様および第4の態様の下で与えられる開示を参照されたい。多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトに関して先の説明で記載された特徴および利点は、本発明の第5の態様による使用に関しても準用される。
【0113】
第6の態様によれば、本発明は、特に本発明の第1の態様または第3の態様による多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトを得る、または調製するための組成物、特にペースト状またはインク組成物、好ましくは3D印刷用インクに関する。この組成物は、ヒドロキシアパタイト粉末および細孔形成材料を含む、またはそれらからなる。
【0114】
好ましくは、ヒドロキシアパタイト粉末は、特に電子顕微鏡(EM)または電子顕微鏡(EM)技術によって決定される、10nm~5,000(言葉では五千)nm、特に50nm~1,000(言葉では一千)nm、好ましくは100nm~1,000(言葉では一千)nm、より好ましくは100nm~300nmの平均粒径を有する。
【0115】
さらに、ヒドロキシアパタイト粉末は、好ましくは、組成物の総重量に基づいて、1重量%~99.9重量%、特に10重量%~90重量%、好ましくは20重量%~65重量%の割合を有する。
【0116】
さらに、細孔形成材料は、好ましくは、組成物の総重量に基づいて、1重量%~90重量%、特に10重量%~80重量%、好ましくは35重量%~65重量%の割合を有する。
【0117】
さらに、組成物は、好ましくは液体、特に水を含む。液体、特に水は、特に、組成物の総重量に基づいて、10重量%~90重量%、特に20重量%~80重量%、好ましくは40重量%~60重量%の割合を有し得る。
【0118】
組成物のさらなる特徴および利点に関しては、全体として先の説明、すなわち本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様、第4の態様および第5の態様の下で与えられる開示を参照されたい。特に多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトおよび細孔形成材料に関して先の説明で記載された特徴および利点は、本発明の第6の態様による組成物に関しても準用される。
【0119】
本発明のさらなる特徴および利点は、従属請求項の主題と併せて、以下の図面、その説明および実施例から明らかになるであろう。個々の特徴は、本発明の一実施形態において、単独で、または複数を組み合わせて実現することができる。好ましい実施形態は、単に本発明を例示し、より良く理解するためのものであり、いかなる意味においても本発明を限定するものとして理解されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【
図1】調製済みのHAp、s-HApおよびs/50-HAp試料の構造的特性評価:(a)WAXDスペクトル、(b)4つの特徴的な振動モード(ν
1~ν
4)の領域のラマンスペクトル、(c)ν(O-H)振動モードに対応する3550~3600cm
-1の領域における試料の積層ラマンスペクトル。
【
図2】異なるプルロニックヒドロゲル質量百分率を用いて得られたs-HApおよびs/x-HAp試料のSEM顕微鏡写真。ヒドロゲルがブレンドに導入されると、多孔度がはっきりと観察された。
【
図3】s/x-HAp試料の(a)孔径および(b)多孔度のプルロニックヒドロゲル重量%依存率。
【
図4】(a)シリンジで押出された60重量%のプルロニックヒドロゲルを担持したHApインク。(b)異なる形状でモデル化した同じHApインクの構造に対する焼結の影響。(c)HApインクの外面(c1)および内部(c2)の多孔度のSEM検査。
【
図5】(a)60-HAp/c立方体および(b)HAp/c円盤の幾何学的比較。
【
図6】(a)HAp/cおよび60-HAp/cにより触媒されたCO
2およびCH
4固定化反応から得られたエタノール収率の比較。反応は、初期CO
2:CH
4混合物(各3bar)、水1mLを用い、UV照射なしの140℃で48時間行った。(b)初期含水量の関数としてのエタノール生成量の変化(μmol/g
catの代わりにmmol/g
catで表示)。残りの反応条件は(a)と同一であった。
【
図7】(a)HAp/cおよび60-HAp/cにより触媒されたN
2固定化反応から得られたアンモニウム収率の比較。反応は、初期N
2圧力(6bar)、水20mLを用い、120℃、UV照射して24時間行った。
【
図8】s/x-HAp試料の孔径分布ヒストグラム。
【発明を実施するための形態】
【0121】
実験セクション
1.材料
硝酸カルシウムCa(NO3)2、リン酸水素二アンモニウム[(NH4)2HPO4;純度99.0%超]、水酸化アンモニウム水溶液30%[NH4OH;純度:28~30%w/w]、塩化ジルコニル(ZrOCl2・8H2O;ZC)、アミノトリス(メチレンホスホン酸)(ATMP)および初期Pluronic(登録商標)F-127ポリマー(C3H6O・C2H4O)x、BioReagent粉末)はSigma Aldrichから購入した。エタノール(純度99.5%超)はScharlabから購入した。純度99.995%超のN2、CH4およびCO2ガスはMesserから購入した。実験はすべてミリQ水で行った。
【0122】
2.ヒドロキシアパタイト(HAp)の合成
脱イオン水中の0.5Mの(NH4)2HPO4 15mLを、水酸化アンモニウム溶液を用いて予めpHを11に調整したエタノール中の0.5MのCa(NO3)2溶液25mLに、2mL/minの速度で添加した。混合物を室温で穏やかに撹拌(150rpm)しながら1時間エージングした。オートクレーブDigestec DAB-2を用いて、150℃の熱水処理を24時間施した。オートクレーブを開ける前に冷却させた。沈殿物を遠心分離で分離し、水とエタノール/水の60/40v/v混合液で洗浄した(2回)。3日間凍結乾燥した後、白色粉末を得た。
【0123】
3.プルロニックヒドロゲルの合成
蒸留水25gを、FlackTek SpeedMixerを用いてPluronic(登録商標)F-127ポリマー25gと3500rpmで5分間混合した。その後、50gのPluronic(登録商標)ポリマーを加え、同じ条件で激しく撹拌した。得られたヒドロゲルは4℃で保存した。
【0124】
4.多孔質HApインクの合成
HAp粉末(以下、調製済みのHApと記す)は熱水ルートから得られ、水分を除去するために72時間凍結乾燥した。プルロニックヒドロゲルは水とPluronic(登録商標)F-127の混合物から調製した。
【0125】
所望の重量百分率のプルロニックヒドロゲルを含むHApインクは、HAp粉末に秤量したプルロニックヒドロゲルの半分をゆっくりと加え、次にFisherbrand(商標) Digital Vortex Mixerを用い、2500rpmで2分間激しく撹拌して得られた。このプロセスを再度繰り返し、残りのヒドロゲルを加えて均一な混合物を得た。すべての手順は低温(すなわち4℃未満の低温室)で行った。得られた白色ペーストは4℃で24時間エージングさせ、確実にプルロニックヒドロゲルが均一に分散するようにした。最後に、HApインクを低温でモデル化し、所望の3D HApスキャフォールドを得、マッフルCarbolite ELF11/6B/301を用いて1000℃で2時間焼結した。以下、この生成物をs/x-HApと表記するが、ここでsは焼結を意味し、xはプルロニックヒドロゲルの質量百分率(%)に対応する。完成度の観点から、調製済みのHAp粉末をベースにした粒も同じ温度および時間の条件で調製した(s-HAp)。
【0126】
5.触媒活性化
150mgのs-HAp粉末を620MPaで10分間プレスして得られたs-HAp円盤と、s/x-HAp立方体とは、試料を2枚のステンレス板(AISI 304)の間に置き、温度を1000℃に保ったまま、GAMMA粉末を供給しながら500Vの一定直流電圧を1時間印加することにより触媒的に活性化した。試料は、印加した電位を30分間維持したまま冷却させ、最後にすべてのシステムの電源を切り、一晩放置して冷却した。以下、s-HApおよびs/x-HApから得られる触媒をHAp/cおよびx-HAp/cと表記した。
【0127】
6.特性評価
広角X線回折(WAXD)、ラマン顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)、およびエネルギー分散型X線(EDX)解析を用いて構造解析を行った。吸水能は、接触角測定機器により取得した。
【0128】
より詳細には、構造解析は、Renishaw Centrus 2957T2検出器および532nmレーザを装備したinVia Qontor共焦点ラマン顕微鏡(Renishaw)を用いて行った。代表的なデータを得るために、32のシングルポイントスペクトルを平均した。
【0129】
広角X線散乱(WAXS)研究は、Brucker D8 Advanceモデル、Bragg-Brentano 2θ構成、Cu Kα放射線(λ=0.1542nm)を用いて実施した。測定は、一次元Lynx Eye検出器を使用して、0.02°刻みの20°~60°の2θ範囲、2秒のスキャン速度で行った。結晶化度(χc)は以下の式で求めた:
【0130】
【0131】
式中、I300は(300)反射の強度であり、V112/300は(112)反射と(300)反射の間のくぼみの強度であり、これは非結晶試料では消失する。結晶サイズLhklは、デバイシェラーの式を用いて算出した。
【0132】
【0133】
式中、λは単色X線ビームの波長、Bは最大強度のピークの半値全幅、θhklは(hkl)平面のブラッグの法則を満たすピーク回折角である。
【0134】
SEM調査は、EDX(20kV)分光システムを装備した5kVで作動する集束イオンビームZeiss Neon40顕微鏡を使用して実施した。後者の技術は、ATMP/ZC/ATMPコーティングの分布組成を推定するために使用した。
【0135】
吸水能は、接触角測定機器OCA 15EC(Data-Physics Instruments)を用いて算出した。水滴の吐出のために500μLのDS500/GTガラスシリンジおよび針SNS 021/011を使用した。吸収流量は、30fpsのカメラで記録しながら、1.5μLの水滴を試料表面に滴下することによって算出した。その後、フォトグラムを解析した。
【0136】
7.構造的特性評価
最適な触媒活性を達成するために、調製済みのHAp粉末を1000℃で焼成し、脱水プロセスにより結晶化度を高め、表面電荷を蓄積させ、OH-空孔を増やした。さらに、このような高温でのHApインクの暴露は、機械的安定性を付与し、プルロニックヒドロゲル(触媒性能を阻害し、触媒活性をマスクし得る)を除去するためにも必要である。このセクションでは、s-HApおよびs/x-HApの構造および結晶化度を、調製済みのHApの元のものと比較する。
【0137】
調製済みのHAp、s-HApおよびs/50-HAp試料のWAXDスペクトルを
図1(a)に示す。すべての試料は、2θ=25.9°、31.7°、32.1°、32.8°、34.0°、および39.8°にHApの特徴的なピークを示し、これらはそれぞれ(002)、(211)、(112)、(300)、(202)、および(310)反射に対応している(JCPDSカード番号9-0077)。代表的な結晶学的パラメータ(下表1参照)を取得し、プルロニックヒドロゲルの抑制が脱水プロセスに影響するかどうかを判定した。
【0138】
【表1】
表1 調製済みのHAp、s-HApおよびs/50-HAp試料について得られた代表的な結晶学的パラメータ。
【0139】
高温で処理された2つの試料では、期待された結晶の微細化が観察され、結晶化度(χc;式S1)がHApの0.78±0.01からs/50-HApの0.84±0.02、およびs-HApの0.81±0.02へとわずかに増加した。それにもかかわらず、(211)主反射の結晶サイズ(L211)を分析すると(式S2)、いくつかの構造上の違いが生じた。s/50-HApでは約4nmの減少が観察され、ヒドロゲルの存在が結晶の微細化プロセスで結晶成長を制限したことが示唆された。したがって、この観察は、結晶化度がs-HApよりもs/50-HApの方が高いという事実とともに、多孔性が結晶化核の形成を促進し、したがって、結晶はs/50-HApの方がs-HApよりも多いが、わずかに小さいことを示している。一方、(211)主反射の強度により正規化した(002)反射および(112)反射の強度(それぞれI002およびI112)は、s/50-HApではかなり低く、このような仮説を裏付ける。I002は、HAp結晶格子のc軸を通る成長異方性を調査するために一般的に使用され、HAp粒の焼結によっても影響を受ける(I002
HAp>I002
s-HAp>I002
s/50-HAp)。これらの結果から、プルロニックヒドロゲルはテンプレートとして働き、HAp粒の形状および大きさを方向づけ、その結果多孔性が生まれると結論できる。
【0140】
β-リン酸三カルシウム(β-TCP)のような他のリン酸カルシウム相の生成は、脱水プロセス中に容易に生じる可能性がある。β-TCP(JCPDSカード番号9-0432)の2θ=31.5°における特徴的な反射(021)はWAXDスペクトルでは観察されなかったが、他の塩の反射のほとんどがHApとピーク位置を共有しているため、他の塩の生成は完全には否定されなかった。さらに、焼結試料の相分布に関するより詳細な情報を得るために、ラマン顕微鏡測定を行った。
【0141】
図1(b)に示すラマンスペクトルは、HApの特徴的な振動フィンガープリント(PO
4
3-内部モードに対応)を示し、プルロニックヒドロゲル残基(プルロニック同一性に関連するピークが検出されなかったため)および他のリン酸カルシウム塩の存在を除外することができる。したがって、P-O対称伸縮モードに対応するν
1=962cm
-1のメインピークが、特徴的に分裂またはシフトすることにより、リン酸カルシウム塩が明確に同定された。さらに、このようなピークは焼結後にシャープになり、よりはっきりとするため、結晶化度が増加していることを示す。さらに、O-H伸縮モードに関連し、ν
1(A
3574)の面積で正規化された3574cm
-1のピーク面積を評価し、脱水プロセス中のOH
-空孔の適切な発生を制御した(
図1(c))。得られた結果は、s-HApについてはA
3574=0.160±0.003、およびs/50-HApについてはA
3574=0.167±0.002が、調製済みのHApで得られた値よりほぼ33%低い限り、プルロニックヒドロゲルの存在は最終的に生じる空孔の量に影響しないことを明確に示している。したがって、焼結プロセスは、最終的な鉱物の組成に影響することなく、HApスキャフォールドからのヒドロゲルを抑制することに成功したと結論付けることができる。
【0142】
8.最終HApスキャフォールドへのプルロニックヒドロゲルの影響
図2は、s-HApおよびs/x-HApのSEM顕微鏡写真を比較したもので、これは異なるプルロニックヒドロゲル質量%(すなわち50%、60%、73%、および78%)を用いて得られたものである。すべてのs/x-HAp試料において、球状のナノおよびサブマイクロメートル細孔(120±73~400±122nm)の生成がはっきりと観察された。ナノおよびサブマイクロメートル細孔は、プルロニックヒドロゲルの質量百分率が50%から、73重量%および78重量%に増加したときに新たなマイクロメートル単位のキャビティ群が出現しても(
図2)、すべての試料で一貫して正常な分布を示した(
図8)。この現象は、HAp粉末中に適切に分散されなかった残留ヒドロゲルの影響であると考えられている。そのサイズはプルロニックヒドロゲルの質量百分率への依存性が低いため(s/73-HApでは6.2±2.0μm、s/78-HApでは5.4±2.8μm)、両タイプの細孔は独立して共存していた。
【0143】
ナノおよびサブマイクロメートル細孔(すなわちマイクロメートル単位のキャビティは除く)に関連する試料の多孔度は、SEM画像で観察された空隙空間の割合を考慮して求められ、6%~14%の範囲であった。s/60-HApに関して
図2に示されているように、高倍率画像により、どのようにしてプルロニックヒドロゲル液滴が得られる細孔の前駆体であったかを識別することが可能であり、その周囲でのHAp焼結粒の配置に有利に働く。
図3は、s/x-HApの孔径および多孔度がヒドロゲル液滴のサイズおよび数に依存することを示しており、s/x-HApは初期混合物に添加されるヒドロゲルの質量百分率を通じて制御できることを示している。
【0144】
3D印刷されたHApスキャフォールドは、プルロニックヒドロゲル-HAp混合物を押出することにより実現され、低温(4℃未満)に保たれるとヒドロゲルがHAp粉末と結合するため、良好なレオロジー状態を示した。3D印刷に最適なペースト特性を得るために、ヒドロゲルの質量百分率を変化させて、異なるHApインクを予備的に検討した。最終的に、その最適な印刷特性、良好な機械的安定性、ならびに孔径および多孔度の制御(下記参照)故に、さらなる検討のために約60%のプルロニックヒドロゲルの質量百分率を考慮した。
図4(a)~
図4(b)は、このようなHApインクがシリンジに導入するのに十分な粘性があったが、プルロニックヒドロゲルがまだ液体であった低温でも所望の形状を維持するのに十分乾燥していたことを示す。さらに、焼結した試料は、観察可能な亀裂または収縮を示すことなく所望の形状を維持し、フィラメント間の結合も良好で構造的安定性も良好であった(
図4(b))。
【0145】
押出されたフィラメントから得られたSEM画像から、露出表面における多孔度が4%まで減少していることが明らかになった(
図4c1)が、これは壁との摩擦に起因するもので、このような挙動が欠点になる可能性を示唆している。しかし、ロッドの、内部(またはキャビティ)が観察できる破断領域に注目すると、多孔度は標準値である12%を回復し(
図4c2)、これはs/60-HAp試料(
図3(b))で認められたものと一致する。表面多孔度は、温度を正確に制御するとともにコーティングされたシリンジおよび/またはより粘性の高いHApインクを使用することによって向上させることができるにもかかわらず、本発明者らの結果は、シリンジの利用が取り扱い上大きな利点をもたらすことを示している。
【0146】
さらに、s-HApおよびs/60-HApスキャフォールドを比較した吸水能の調査を行った。多孔度を高めるために、s/60-HApスキャフォールドは立方体の形状にした(
図4(b))のに対し、s-HApはHAp粉末を圧縮して作成した円盤からなる。下の表2は、s/60-HApの方がs-HApよりも水流吸収量がほぼ4倍多かったことを示しており、これは主にs/60-HApの細孔に起因している。
【0147】
【表2】
表2 触媒活性化前(s-HApおよびs/60-HAp)および活性化後(HAp/cおよび60-HAp/c)の異なる試料の吸水能
【0148】
TSPプロセスの適用によるHAp/c触媒および60-HAp/c触媒を生成したs-HApおよびs/60-HApの触媒活性化後、同じ調査を行った。同じ実験条件(方法セクション)を両方の試料に適用した。分極プロセスは、表面電荷誘導効果により試料の親水性に影響を与えることが知られているが(Rivas,M.;del Valle,L.J.;Armelin,E.;Bertran,O.;Turon,P.;Puiggali,J.;Aleman,C.Hydroxyapatite with Permanent Electrical Polarization: Preparation,Characterization,and Response against Inorganic Adsorbates.ChemPhysChem 2018,19,1746-1755)、吸水能の向上はHAp/cでのみ観察され、これは粗さの増大による無視できない影響に起因している。このことにもかかわらず、60-HAp/cはHAp/cよりもはるかに優れた吸水能(すなわち1.5倍)を示し、これは炭素および窒素固定化反応の最終的な触媒活性を促進すると期待される。
【0149】
9.60-HAp/cの触媒活性
HApベースの触媒の触媒活性に対する多孔度の影響を明らかにするために、60-HAp/c立方体を調製し、HAp/c円盤と比較した(
図5)。この目的のため、s/60-HAp立方体およびs-HAp円盤とを同一の実験条件を用いて分極した。多孔度は、先のセクションで粒のSEM画像を検討し、異なるプルロニックヒドロゲル担持量を比較して計算した。しかし、粒の代わりに、
図5で定義する特定の幾何学的パラメータを利用することにより、重量測定によって測定された相対多孔度(Π
rel)という別の表現が可能になり、これは触媒の観点から両試料を比較するためにより適切であると思われる。したがって:
Π
rel=1-ρ
60-HAp/c/ρ
HAp/c (1)
式中、ρ
60-HAp/cは60-HAp/c立方体の、ρ
HAp/cはHAp/c円盤の密度であり、これらは下表3に記載のパラメータを用いて求めた。その結果得られた値、Π
rel=0.7±0.03は、材料の多孔度の差がSEM検査で求めたものよりも大きいことを示す。実際、Π
relは、バルクにおける良好な細孔相互連結性とともにより高い多孔度を示唆しており、HApインクの外部取り扱いによって、摩耗による表面的な多孔度の減少が生じるという事実を裏付けている。
【0150】
【表3】
表3 60-HAp/c触媒およびHAp/c触媒の巨視的パラメータ(
図5)。露出面積は、反応において露出される幾何学的形状の面のみを考慮する。
【0151】
60-HAp/cおよびHAp/cの触媒性能を、窒素固定化および炭素固定化に基づく2つの異なる反応について比較した:i)CO2とCH4の混合物を用いたエタノールの生成(Sans,J.;Revilla-Lopez,G.;Sanz,V.;Puiggali,J.;Turon,P.;Aleman,C.Permanently Polarized Hydroxyapatite for Selective Electrothermal Catalytic Conversion of Carbon Dioxide into Ethanol.Chem.Commun.2021,57,5163-5166;およびii)N2からアンモニアへの変換。下記に記述されるように、HAp/cと比較して、CO2およびCH4のエタノールへの転化率は約3000%、N2のアンモニアへの転化率は約2000%向上する。
【0152】
10.炭素および二窒素の固定化反応
触媒を不活性反応器に導入し、報告されている2つの電熱触媒反応を試験した:1)CO2およびCH4からのエタノールの合成;ならびに2)N2からアンモニアへの変換。反応収率の定量は、1H-NMR分光法を用いて行った。具体的な詳細は以下に示す。
【0153】
反応器は、ペルフルオロ化ポリマー(120mL)でコーティングされた不活性反応チャンバを備え、その中に触媒および水(1mL)の両方が入れられた。反応器は、N2、CH4、CO2の入口用の入口バルブと、ガス状反応生成物を回収するための出口バルブとを装備していた。UVランプ(GPH265T5L/4、253.7nm)も触媒を直接照射するために反応器の中央に置き、ランプはUV透明石英管で保護した。反応媒体と反応器表面との接触を避けるために、すべての表面をペルフルオロ化ポリマーの薄膜でコーティングし、このようにして他の触媒効果を排除した。
【0154】
反応生成物は、1H NMR分光法で分析した。すべての1H NMRスペクトルは、400.1MHzで動作するBruker Avance III-400スペクトロメータを用いて取得した。化学シフトは、内部標準としてテトラメチルシランを用いて校正した。すべての場合で64回のスキャンを記録した。CO2およびCH4を含む反応から触媒に形成された生成物を除去するために、試料を100mMのHClおよび50mMのNaClを含む重水素水に溶解し、最後に重水素水を加えた。
【0155】
アンモニアを生成する二窒素固定化反応の場合、触媒(10mg)を15mLの水に溶解し、7.6mMのH2SO4を用いてpHを2.1±0.2に調整し、NH4
+でのアンモニアの転化を促し、超音波処理(5分間)および撹拌(1分間)の工程を含む4サイクルを適用した。次に、1H NMR試料調製のために、反応した触媒溶液500μLを、定量分析には望ましくない重水素化アンモニウム類似体の生成を回避するために不安定な重陽子を含む溶媒(すなわち、D2O)の代わりに100μLのDMSO-d6と混合した。同じ処理を水の上清にも適用した。
【0156】
10.1 CO2およびCH4を用いたエタノール製造
エタノール製造における60-HAp/c触媒およびHAp/c触媒の性能を比較した。反応は、CO2およびCH4雰囲気(各3bar)下、140℃で、同じ反応器を用いて行ったが、ただし48時間はUV光はなかった。最初は、CO2を用いて反応器をパージした。触媒、HAp/c円盤、またはコーティングのない60-HAp/c立方体、および1mLの脱イオン水を反応チャンバに取り込んだ(反応は触媒ごとに別々に行った)。さらに、60-HAp/c触媒のうちの1つについて、反応収率に対する初期含水量の影響を調べた。
【0157】
60-HAp/cおよびHAp/cの両方で得られたエタノール収率を
図6(a)で比較した。エタノールの生成量は、60-HAp/cの方がHAp/cよりも約4倍多く(触媒1gあたりそれぞれ55.0±4.9および13.3±0.7μmol)、これは触媒性能の卓越した増大(414%)を意味する。
【0158】
先の研究では、水がプロトン源として必要である一方、過剰な水分はHAp/c表面へのガス固定化を妨げ、反応の最終収率を低下させることを証明している(Sans,J.;Revilla-Lopez,G.;Sanz,V.;Puiggali,J.;Turon,P.;Aleman,C.Permanently Polarized Hydroxyapatite for Selective Electrothermal Catalytic Conversion of Carbon Dioxide into Ethanol.Chem.Commun.2021,57,5163-5166)。この研究では、HAp/cと比較して細孔の生成および高い吸水性の両方を特徴とする60-HAp/cにおいて、含水量が依然として制限因子であるかどうかを調べた。したがって、CO2およびCH4の圧力(各3bar)、温度(140℃)、ならびに反応時間(48時間)を維持したまま、初期含水量を1~80mLまで変化させて一連の反応を行った。
【0159】
図6(b)にプロットしたエタノールの収率は、反応器に導入する初期含水量がHAp/cの標準反応に使用する含水量(1mL)の80倍であっても、初期含水量の増加とともに漸増した。この結果は、含水量が80mLであるとき、触媒1gあたり最高434±27μmolを生成することができ、最先端のCu系触媒で報告されたものに匹敵する生成量に初めて到達したという60-HAp/cの触媒のポテンシャルの高さを説明するものである(Ma,W.;Xie,S.;Li.Xie,S.;Liu,T.;Fan,Q.;Ye,J.;Sun,F.;Jiang,Z.;Zhang,Q.;Cheng,J.;Wang,Y.Electrocatalytic Reduction of CO2 through Hydrogen-Assisted C-C Coupling through Ethylene and Ethanol over Fluorine-Modified Copper.Nat.Catal.2020,3,478-487)。さらに、Cu系触媒は電位の印加を必要とするが、60-HP/cの性能には電位は不要であることも注目に値する。一方、反応器内に残った水中のエタノールまたは他の生成物はゼロであることが判明したことにより、触媒の吸収能が際立ち、そのスケーラビリティが強調された。全体として、多孔質はエタノール製造におけるHAp/cの触媒性能を増強し、工業的スケーラビリティおよび実現可能性に十分高い収率を初めて得たと結論づけることができる。
【0160】
10.2 N2からアンモニアへの変換
60-HAp/cおよびHAp/c触媒を用いたアンモニアの製造は、120℃、UV照射下で行った。初期空気量を除去するため、反応チャンバをまずN2でパージし、その後6barの圧力に達するまでN2で満たした。20mLの量の脱イオン水を反応器に導入し、触媒の非照射面に接触させた。この反応において、水は(水分解による)アンモニア生成のためのプロトン源としてだけでなく、形成された生成物の回収を促す媒体としても作用したことは注目に値する。触媒表面で生じる生成物および24時間反応後の液体の水中で回収された生成物は、1H NMR分光法に基づく手順を適用してNH4
+と同定された(Hodgetts,R.Y.;Kiryutin,A.S.;Nichols,P.;Du,H.-.Bakker,J.M.;Macfarlane,D.R.;Simonov,A.N.Refining Universal Procedures for Ammonium Quantification via Rapid 1H NMR Analysis for Dinitrogen Reduction Studies.ACS Energy Lett.2020,5,736-741)。
【0161】
図7に示す結果は、HAp/cの存在下で生成したNH
4
+の総量が、触媒1gあたり6.2±0.9μmolであることを示した。生成したNH
4
+の約25%(すなわち触媒1gあたり1.7±0.3μmol)は触媒表面に吸着されたままであったが、反応生成物の大部分は触媒から水媒体へ移動した(すなわち触媒1gあたり4.5±0.6μmol)。NH
4
+の収率に対する多孔度および吸水能の影響は劇的であり、60-HAp/cの存在下で生成した生成物の量は、触媒1gあたり128.8±22.3μmolに増加した。さらに、HAp/cに対して2000%超の増加を示した収率の合計は、残った液体水に回収された。この特徴は、先の反応で得られた結果と完全に一致しており、60-HAp/cが反応生成物の合成を促進することを裏付けている。
【0162】
HAp粉末とプルロニックヒドロゲルを混合することによって、制御された構造を有する多孔質HApスキャフォールドの作製に成功した。この混合物の組成は、3D印刷の要求を満たすために、得られるインクの性能を調整することを可能にし、適切な機械的安定性は高温での焼結によって達成される。焼結HApスキャフォールドは、正しい脱水プロセスを反映して、高い純度および結晶化度を示す。したがって、印刷可能なインクを可能にするためのプルロニックヒドロゲルの添加、およびその後の細孔の生成は、分極HAp系触媒の調製に必要な構造に影響を与えない。
【0163】
多孔質試料の触媒活性を、様々な炭素および/または二窒素固定化反応を用いて評価した。60-HAp/c触媒は、反応収率の顕著な増加を示した。これは主に、向上した吸水能およびより大きな露出表面に起因するものである。より具体的には、触媒内部でのマイクロキャビティの存在は、エタノールおよびアンモニアの製造に使用される不均一系触媒プロセスを促進する。全体として、その触媒活性および巨大なスケーラビリティの可能性から、60-HAp/cは、他の従来の触媒に代わる、固体の安価な、環境に優しい触媒であると考えられる。
【手続補正書】
【提出日】2024-12-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトを得るためのプロセスであって、
(a)ヒドロキシアパタイト粉末および細孔形成材料を含む、またはそれらからなる混合物を提供する工程と、
(b)工程(a)で提供された前記混合物を成形して、前記ヒドロキシアパタイト粉末および前記細孔形成材料を含む、またはそれらからなる成形体を得る工程と、
(c)工程(b)で得られた前記成形体を焼結して前記細孔形成材料を除去し、多孔質ヒドロキシアパタイトを含む、またはそれからなる成形体を得る工程と、
(d)一定または可変の、特に250V~2550Vの直流電圧、もしくは特に1.49kV/cm~15kV/cmの等価電界
あるいは、
特に2500V~1500000Vの静電放電、または特に148.9kV/cm~8928kV/cmの等価電界を、
工程(c)で得られた前記成形体に印加し、多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトを含む、またはそれからなる成形体を得る工程と、
(e)工程(d)で得られた前記成形体を、工程(d)で印加された前記直流電圧または前記等価電界を維持したまま冷却する工程、
あるいは、
工程(d)で得られた前記成形体を、工程(d)で印加された前記静電放電または前記等価電界を維持したまま冷却する工程、
あるいは、
工程(d)で得られた前記成形体を、工程(d)で印加された前記直流電圧または前記等価電界を維持せずに冷却する工程、
あるいは、
工程(d)で得られた前記成形体を、工程(d)で印加された前記静電放電または前記等価電界を維持せずに冷却する工程と
、を含み、
工程(d)は、少なくとも900℃の温度で実施されることを特徴とする、プロセス。
【請求項2】
前記細孔形成材料は、ポリマー、特に、ポロキサマー、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアルキルテレフタレート、ポリアリールテレフタレート、ポリアリールエーテルケトン、ポリヒドロキシアルカノエート、タンパク質、例えば細胞外タンパク質および/または球状タンパク質および/または酵素および/または抗体および/または血液凝固因子、多糖類、ならびに前記ポリマーの少なくとも2つの混合物からなる群から選択されるポリマーを含むことを特徴とする、請求項
1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記ポリマーはポロキサマーであることを特徴とする、請求項
2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記ポロキサマーは、1g/mol~500,000g/mol、特に1,000g/mol~30,000g/mol、好ましくは10,000g/mol~20,000g/molの分子量を有するポリオキシプロピレンコアを含むことを特徴とする、請求項
2に記載のプロセス。
【請求項5】
前記ポロキサマーは、1重量%~90重量%、特に10重量%~80重量%、好ましくは35重量%~65重量%のポリオキシエチレン含有量を有することを特徴とする、請求項
2に記載のプロセス。
【請求項6】
前記ポリマーは、前記細孔形成材料の総重量に基づいて、1重量%~90重量%、好ましくは20重量%~80重量%、より好ましくは35重量%~65重量%の割合を有することを特徴とする、請求項
2に記載のプロセス。
【請求項7】
前記細孔形成材料はヒドロゲルの形態であることを特徴とする、請求項
1に記載のプロセス。
【請求項8】
請求項
1に記載のプロセスによって得られる、または得ることができる多孔質永久分極ヒドロキシアパタイト。
【請求項9】
平均細孔直径が10nm~500,000nm、特に50nm~1,000nm、好ましくは60nm~600nm、より好ましくは100nm~350nmであることを特徴とする、請求項8に記載の多孔質永久分極ヒドロキシアパタイト。
【請求項10】
前記多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトが、ナノメートル細孔およびサブマイクロメートル細孔、またはナノメートル細孔、サブマイクロメートル細孔およびマイクロメートル細孔を有することを特徴とする、請求項8に記載の多孔質永久分極ヒドロキシアパタイト。
【請求項11】
- 前記ナノメートル細孔は、1nm~100nm、特に10nm~90nm、好ましくは50nm~80nmの平均細孔直径を有し、
かつ/または
- 前記サブマイクロメートル細孔は、101nm~999nm、特に120nm~900nm、好ましくは150nm~200nmの平均細孔直径を有し、
かつ/または
- マイクロメートル細孔は1μm~500μm、特に2μm~100μm、好ましくは5μm~10μmの平均細孔直径を有することを特徴とする、請求項10に記載の多孔質永久分極ヒドロキシアパタイト。
【請求項12】
- 2θ=25.9°、31.7°、32.1°、32.8°、34.0°、および39.8°にピークを示す広角X線散乱(WAXS)パターン
および/または
- ν1=962cm
-1
、ν2=400cm
-1
~480cm
-1
、ν3=570cm
-1
~625cm
-1
、およびν4=1020cm
-1
~1095cm
-1
にピークを示し、ヒドロキシアパタイトについては3574cm
-1
にν-OH、および878cm
-1
、848cm
-1
および794cm
-1
に分極ピークを示すラマンスペクトル
および/または
- ヒドロキシアパタイトのリン酸基に対応する2.3ppm~2.9ppmの範囲にピークを有する
31
P-NMRスペクトルを有することを特徴とする、請求項8に記載の多孔質永久分極ヒドロキシアパタイト。
【請求項13】
請求項
8に記載の多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトを含む、特に触媒の形態の組成物または材料。
【請求項14】
特に有機分子、好ましくはエタノール、または無機分子、好ましくはアンモニアの合成のための反応における、触媒としての、請求項
8に記載の多孔質永久分極ヒドロキシアパタイ
トの使用。
【請求項15】
ヒドロキシアパタイト粉末および細孔形成材料を含む、請求項
8に記載の多孔質永久分極ヒドロキシアパタイトを調製するため
のペースト状またはインク組成物。
【国際調査報告】