(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-19
(54)【発明の名称】活性化可能な二重特異的抗CD47および抗PD-L1タンパク質ならびにその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20250212BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20250212BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20250212BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20250212BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20250212BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20250212BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20250212BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20250212BHJP
C07K 1/14 20060101ALI20250212BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20250212BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20250212BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20250212BHJP
A61K 51/10 20060101ALI20250212BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20250212BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20250212BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20250212BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20250212BHJP
A61K 38/43 20060101ALI20250212BHJP
A61P 43/00 20060101ALN20250212BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
C07K1/14
C07K19/00
A61K39/395 T
A61K47/68
A61K39/395 L
A61K51/10 100
A61K48/00
A61K45/00
A61P37/04
A61P35/00
A61K38/43
A61P43/00 123
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024544969
(86)(22)【出願日】2023-01-31
(85)【翻訳文提出日】2024-09-20
(86)【国際出願番号】 EP2023052366
(87)【国際公開番号】W WO2023144423
(87)【国際公開日】2023-08-03
(32)【優先日】2022-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】523473165
【氏名又は名称】センテッサ ファーマシューティカルズ (ユーケー) リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】フィンレー, ウィリアム ジェイムズ ジョナサン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064BH09
4B064CA02
4B064CA05
4B064CA06
4B064CA08
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE12
4B064CE14
4B064DA01
4B064DA13
4B065AA01X
4B065AA01Y
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4B065AA72X
4B065AA72Y
4B065AA83X
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4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
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4B065BA02
4B065CA25
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4C076AA95
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4C084AA12
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4C084AA17
4C084DC01
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4C084ZB091
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4C085AA26
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4C085BB31
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4C085BB35
4C085BB36
4C085BB37
4C085CC05
4C085CC31
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA09
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
4H045GA26
4H045GA31
(57)【要約】
PD-L1を特異的に結合しかつ病変組織において活性化可能な特異的CD47結合を示すタンパク質分子が、本明細書で提供される。がんを処置するためにこのようなタンパク質分子を使用することがさらに、本明細書で提供される。重鎖および軽鎖を含むタンパク質であって、ここで重鎖は、N末端からC末端の順に、抗PD-L1重鎖VHドメイン、CHドメイン、第1のリンカー、抗CD47 VHドメイン、および免疫グロブリン重鎖定常領域を含み;ここで軽鎖は、N末端からC末端の順に、抗PD-L1 VLドメイン、第1の免疫グロブリン軽鎖定常領域、第2のリンカー、抗CD47 VLドメイン、および第2の免疫グロブリン軽鎖定常領域を含む、タンパク質が本明細書に提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重鎖および軽鎖を含むタンパク質であって、
ここで前記重鎖は、N末端からC末端の順に、抗PD-L1重鎖可変(VH)ドメイン、CHドメイン、第1のリンカー、抗CD47 VHドメイン、および免疫グロブリン重鎖定常領域を含み;
ここで前記軽鎖は、N末端からC末端の順に、抗PD-L1軽鎖可変(VL)ドメイン、第1の免疫グロブリン軽鎖定常領域、第2のリンカー、抗CD47 VLドメイン、および第2の免疫グロブリン軽鎖定常領域を含み;
ここで前記抗PD-L1 VHドメインは、配列番号1のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号2のアミノ酸配列を含むHCDR2、および配列番号3のアミノ酸配列を含むHCDR3を含み;
ここで前記抗PD-L1 VLドメインは、配列番号4のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号5のアミノ酸配列を含むLCDR2、および配列番号6のアミノ酸配列を含むLCDR3を含み;
ここで前記抗CD47 VHドメインは、配列番号7のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号8のアミノ酸配列を含むHCDR2、および配列番号9のアミノ酸配列を含むHCDR3を含み;
ここで前記抗CD47 VLドメインは、配列番号10のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号11のアミノ酸配列を含むLCDR2、および配列番号12のアミノ酸配列を含むLCDR3を含み;
ここで前記第1のリンカーは、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、および配列番号20からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;
ここで前記第2のリンカーは、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、および配列番号20からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、
タンパク質。
【請求項2】
前記抗PD-L1 VHドメインは、配列番号21のアミノ酸配列を含み、前記抗PD-L1 VLドメインは、配列番号22のアミノ酸配列を含み;
前記抗CD47 VHドメインは、配列番号23のアミノ酸配列を含み、前記抗CD47 VLドメインは、配列番号24のアミノ酸配列を含む、
請求項1に記載のタンパク質。
【請求項3】
前記重鎖は、配列番号25のアミノ酸配列を含み;
前記軽鎖は、配列番号26のアミノ酸配列を含む、
請求項1または2に記載のタンパク質。
【請求項4】
前記免疫グロブリン重鎖定常領域は、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA、またはIgYの定常領域である、請求項1または2に記載のタンパク質。
【請求項5】
前記免疫グロブリン重鎖定常領域は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1またはIgA2の定常領域である、請求項1または2に記載のタンパク質。
【請求項6】
前記免疫グロブリン重鎖定常領域は、免疫学的に不活性である、請求項1または2に記載のタンパク質。
【請求項7】
前記免疫グロブリン重鎖定常領域は、野生型ヒトIgG1定常領域、アミノ酸置換L234A、L235AおよびG237Aを含むヒトIgG1定常領域、野生型ヒトIgG2定常領域、野生型ヒトIgG4定常領域、またはアミノ酸置換S228Pを含むヒトIgG4定常領域であり、ここで番号付けは、KabatにあるとおりのEUインデックスに従う、請求項1または2に記載のタンパク質。
【請求項8】
前記第1のリンカーは、配列番号13のアミノ酸配列を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載のタンパク質。
【請求項9】
前記第2のリンカーは、配列番号14のアミノ酸配列を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のタンパク質。
【請求項10】
2つの同一タンパク質のダイマーであるマルチマータンパク質であって、ここで各タンパク質は、請求項1~9のいずれか1項に記載のタンパク質である、マルチマータンパク質。
【請求項11】
治療剤に連結された請求項1~9のいずれか1項に記載のタンパク質を含む免疫結合体。
【請求項12】
前記治療剤は、細胞毒、放射性同位体、化学療法剤、免疫調節剤、細胞増殖抑制酵素、細胞溶解酵素、治療用核酸、抗血管新生薬剤、抗増殖薬剤、またはアポトーシス促進薬剤である、請求項11に記載の免疫結合体。
【請求項13】
請求項1~9のいずれか1項に記載のタンパク質、請求項10に記載のマルチマータンパク質、または請求項11もしくは12に記載の免疫結合体、および薬学的に受容可能なキャリア、希釈剤もしくは賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項14】
請求項1~9のいずれか1項に記載のタンパク質の
(a)前記重鎖アミノ酸配列;
(b)前記軽鎖アミノ酸配列;または
(c)前記重鎖および前記軽鎖両方のアミノ酸配列、
をコードする核酸分子。
【請求項15】
前記核酸分子は、配列番号27のヌクレオチド配列、配列番号28のヌクレオチド配列、または配列番号27および配列番号28両方のヌクレオチド配列を含む、請求項14に記載の核酸分子。
【請求項16】
請求項15に記載の核酸分子を含む発現ベクター。
【請求項17】
請求項15に記載の核酸分子または請求項16に記載の発現ベクターを含む組換え宿主細胞。
【請求項18】
タンパク質を生成する方法であって、前記方法は、
請求項16に記載の発現ベクターを含む組換え宿主細胞を、核酸分子が発現される条件下で培養し、それによって、前記タンパク質を生成すること;および
前記タンパク質を前記宿主細胞または培養物から単離すること、
を包含する方法。
【請求項19】
被験体において抗がん免疫応答を増強するための方法であって、前記方法は、前記被験体に、治療上有効な量の、請求項1~9のいずれか1項に記載のタンパク質、請求項10に記載のマルチマータンパク質、請求項11もしくは12に記載の免疫結合体、または請求項13に記載の医薬組成物を投与することを包含する方法。
【請求項20】
被験体においてがんを処置するための方法であって、前記方法は、前記被験体に、治療上有効な量の、請求項1~9のいずれか1項に記載のタンパク質、請求項10に記載のマルチマータンパク質、請求項11もしくは12に記載の免疫結合体、または請求項13に記載の医薬組成物を投与することを包含する方法。
【請求項21】
被験体においてがんの症状を改善するための方法であって、前記方法は、前記被験体に、治療上有効な量の、請求項1~9のいずれか1項に記載のタンパク質、請求項10に記載のマルチマータンパク質、請求項11もしくは12に記載の免疫結合体、または請求項13に記載の医薬組成物を投与することを包含する方法。
【請求項22】
前記がんは、消化管間質がん(GIST)、膵臓がん、皮膚がん、黒色腫、乳がん、肺がん、気管支がん、結腸直腸がん、前立腺がん、胃がん、卵巣がん、膀胱がん、脳のがん、中枢神経系のがん、末梢神経系のがん、食道がん、子宮頚がん、子宮がん、子宮内膜がん、口腔もしくは咽頭のがん、肝臓がん、腎臓がん、腎細胞癌、精巣がん、胆道がん、小腸がん、虫垂がん、唾液腺がん、甲状腺がん、副腎がん、骨肉腫、軟骨肉腫、または血液組織のがんである、請求項19~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
被験体において腫瘍のサイズを低減するための方法であって、前記方法は、前記被験体に、治療上有効な量の、請求項1~9のいずれか1項に記載のタンパク質、請求項10に記載のマルチマータンパク質、請求項11もしくは12に記載の免疫結合体、または請求項13に記載の医薬組成物を投与することを包含する方法。
【請求項24】
被験体において腫瘍の成長を阻害するための方法であって、前記方法は、前記被験体に、治療上有効な量の、請求項1~9のいずれか1項に記載のタンパク質、請求項10に記載のマルチマータンパク質、請求項11もしくは12に記載の免疫結合体、または請求項13に記載の医薬組成物を投与することを包含する方法。
【請求項25】
被験体において抗がん免疫応答を増強することにおける使用のための、請求項1~9のいずれか1項に記載のタンパク質、請求項10に記載のマルチマータンパク質、請求項11もしくは12に記載の免疫結合体、または請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項26】
被験体においてがんを処置することにおける使用のための、請求項1~9のいずれか1項に記載のタンパク質、請求項10に記載のマルチマータンパク質、請求項11もしくは12に記載の免疫結合体、または請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項27】
被験体においてがんの症状を改善することにおける使用のための、請求項1~9のいずれか1項に記載のタンパク質、請求項10に記載のマルチマータンパク質、請求項11もしくは12に記載の免疫結合体、または請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項28】
前記がんは、消化管間質がん(GIST)、膵臓がん、皮膚がん、黒色腫、乳がん、肺がん、気管支がん、結腸直腸がん、前立腺がん、胃がん、卵巣がん、膀胱がん、脳のがん、中枢神経系のがん、末梢神経系のがん、食道がん、子宮頚がん、子宮がん、子宮内膜がん、口腔もしくは咽頭のがん、肝臓がん、腎臓がん、腎細胞癌、精巣がん、胆道がん、小腸がん、虫垂がん、唾液腺がん、甲状腺がん、副腎がん、骨肉腫、軟骨肉腫、または血液組織のがんである、使用のための請求項25~26のいずれか1項に記載のタンパク質、マルチマータンパク質、免疫結合体、または医薬組成物。
【請求項29】
被験体において腫瘍のサイズを低減することにおける使用のための、請求項1~9のいずれか1項に記載のタンパク質、請求項10に記載のマルチマータンパク質、請求項11もしくは12に記載の免疫結合体、または請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項30】
被験体において腫瘍の成長を阻害することにおける使用のための、請求項1~9のいずれか1項に記載のタンパク質、請求項10に記載のマルチマータンパク質、請求項11もしくは12に記載の免疫結合体、または請求項13に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2022年6月3日出願の米国仮特許出願第63/348,842号、2022年5月16日出願の米国仮特許出願第63/342,283号、2022年2月14日出願の米国仮特許出願第63/309,759号、および2022年1月31日出願の米国仮特許出願第63/305,003号(これらの各々の内容は、それらの全体において本明細書により参考として援用される)の優先権の利益を主張する。
【0002】
電子的配列表の参照
電子的配列表(ULSL_003_04WO_SeqList_ST26.xml; サイズ: 38,176バイト;および作成日: 2023年1月29日)の内容は、それらの全体において本明細書に参考として援用される。
【0003】
技術分野
本開示は、活性化可能な二重特異的タンパク質およびがんに対する処置に関する。
【背景技術】
【0004】
背景
免疫腫瘍治療(immune oncology therapy)では、重要な薬物標的のうちのほとんどが、病変組織において専ら発現されてはおらず、主要なものはまた、非病変組織において発現される。さらに、がん処置において使用される多くの薬物は、非常に強力な細胞殺滅作用機序、例えば、抗体依存性細胞傷害(ADCC)および抗体依存性細胞貪食作用(ADCP)を用いている。結果として、非病変組織における薬物による標的の結合はしばしば、望ましくない副作用を引き起こす。
【0005】
PD-L1は、免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーでありかつ非病変組織において骨髄系細胞および調節性T(Treg)細胞で主に発現される細胞表面レセプターである。しかし、PD-L1は、いくらかのがん細胞上で高度に発現されることも観察されている。PD-L1は、膜タンパク質PD1に結合する。T細胞上でのPD-L1とPD1との相互作用は、T細胞炎症活性をダウンレギュレートし、これは、免疫自己寛容を促進する。従って、PD-L1は、免疫チェックポイントとして記載される。よって、PD1との相互作用を遮断する拮抗性抗PD-L1モノクローナル抗体は、自然免疫の制限からT細胞応答を「解放する」ことによって、がんのような疾患環境において十分に耐容性のある免疫治療剤として作用する潜在的能力を明らかに示した。よって、PD-L1は、適応免疫系の抗がん効果を増幅するために使用される薬物標的である。
【0006】
CD47はまた、免疫チェックポイントとして作用する細胞表面レセプターであるが、その効果は、主に、自然免疫系の活性を、特に、単球、マクロファージ、ナチュラルキラー(NK)細胞および好中球の場合に、制限することである。自然免疫細胞活性を最小化するこの能力は、多因子性であるが、主に、CD47によって結合される場合にSIRPαレセプターの活性化が関わる。SIRPαレセプターの活性化は、自然免疫細胞によるADCCおよびADCPを最小化する。強いFcエフェクター機能をも提供するCD47遮断剤は、FcγR媒介性細胞殺滅を促進しながらCD47作用を同時に遮断することによって、自然免疫系の治療潜在性を最大化し得る。
【0007】
抗PD-L1抗体は、CD47をも遮断しかつFcγレセプターを(例えば、IgG1 Fcを有する二重特異的抗体形式において)強く結合する能力を獲得することによって、より強力な治療剤にされ得る。これにより、自然免疫系および適応免疫系の両方を相乗効果的に刺激し得る2つの重要なチェックポイントインヒビター機能が組み合わされる。しかし、この組み合わせを単一の治療剤構造において機能させる能力は、多くの細胞型(例えば、赤血球と白血球、および内皮細胞)、ならびにその他の細胞におけるCD47の極めて広い発現によって、ひどく制限されている。CD47に関するこの広い発現プロフィールは、活性なエフェクター機能を有するCD47結合剤の用量制限毒性をもたらすのみならず、このような薬剤がその合わさった機序を利用するために、病変組織において十分高い露出を達成する能力を制限する顕著な末梢シンク(peripheral sink)/生体分布問題をももたらす。従って、病変組織環境に特異的に標的化される活性を有する二重特異的結合タンパク質の操作された形態が必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
要旨
重鎖および軽鎖を含むタンパク質であって、ここで重鎖は、N末端からC末端の順に、抗PD-L1重鎖VHドメイン、CHドメイン、第1のリンカー、抗CD47 VHドメイン、および免疫グロブリン重鎖定常領域を含み;ここで軽鎖は、N末端からC末端の順に、抗PD-L1 VLドメイン、第1の免疫グロブリン軽鎖定常領域、第2のリンカー、抗CD47 VLドメイン、および第2の免疫グロブリン軽鎖定常領域を含み;ここで抗PD-L1 VHドメインは、配列番号1のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号2のアミノ酸配列を含むHCDR2、および配列番号3のアミノ酸配列を含むHCDR3を含み;ここで抗PD-L1 VLドメインは、配列番号4のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号5のアミノ酸配列を含むLCDR2、および配列番号6のアミノ酸配列を含むLCDR3を含み;ここで抗CD47 VHドメインは、配列番号7のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号8のアミノ酸配列を含むHCDR2、および配列番号9のアミノ酸配列を含むHCDR3を含み;ここで抗CD47 VLドメインは、配列番号10のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号11のアミノ酸配列を含むLCDR2、および配列番号12のアミノ酸配列を含むLCDR3を含み;ここで第1のリンカーは、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、および配列番号20からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;ここで第2のリンカーは、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、および配列番号20からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、タンパク質が本明細書に提供される。
【0009】
重鎖および軽鎖を含むタンパク質であって、ここで重鎖は、N末端からC末端の順に、抗PD-L1重鎖VHドメイン、CHドメイン、第1のリンカー、抗CD47 VHドメイン、および免疫グロブリン重鎖定常領域を含み;ここで軽鎖は、N末端からC末端の順に、抗PD-L1 VLドメイン、第1の免疫グロブリン軽鎖定常領域、第2のリンカー、抗CD47 VLドメイン、および第2の免疫グロブリン軽鎖定常領域を含み;ここで抗PD-L1 VHドメインは、配列番号21のアミノ酸配列を含み、抗PD-L1 VLドメインは、配列番号22のアミノ酸配列を含み;ここで抗CD47 VHドメインは、配列番号23のアミノ酸配列を含み、抗CD47 VLドメインは、配列番号24のアミノ酸配列を含むタンパク質が、本明細書で提供される。
【0010】
重鎖および軽鎖を含むタンパク質であって、ここで重鎖は、配列番号25のアミノ酸配列を含み;ここで軽鎖は、配列番号26のアミノ酸配列を含むタンパク質が、本明細書で提供される。
【0011】
いくつかの実施形態において、第1のリンカーは、配列番号13のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、第2のリンカーは、配列番号14のアミノ酸配列を含む。
【0012】
いくつかの実施形態において、本明細書で提供されるタンパク質の免疫グロブリン重鎖定常領域は、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA、またはIgYの定常領域である。いくつかの実施形態において、本明細書で提供されるタンパク質の免疫グロブリン重鎖定常領域は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1またはIgA2の定常領域である。いくつかの実施形態において、本明細書で提供されるタンパク質の免疫グロブリン重鎖定常領域は、免疫学的に不活性である。いくつかの実施形態において、本明細書で提供されるタンパク質の免疫グロブリン重鎖定常領域は、野生型ヒトIgG1定常領域、アミノ酸置換L234A、L235AおよびG237Aを含むヒトIgG1定常領域、野生型ヒトIgG2定常領域、野生型ヒトIgG4定常領域、またはアミノ酸置換S228Pを含むヒトIgG4定常領域であり、ここで番号付けは、KabatにあるとおりのEUインデックスに従う。
【0013】
2つの同一タンパク質のダイマーであるマルチマータンパク質であって、ここで各タンパク質は、本明細書に開示されるタンパク質である、マルチマータンパク質が本明細書で提供される。
【0014】
治療剤に連結された本明細書に開示されるタンパク質を含む免疫結合体が本明細書で提供される。いくつかの実施形態において、治療剤は、細胞毒、放射性同位体、化学療法剤、免疫調節剤、細胞増殖抑制酵素、細胞溶解酵素、治療用核酸、抗血管新生薬剤、抗増殖薬剤、またはアポトーシス促進薬剤である。
【0015】
本明細書に開示されるタンパク質、マルチマータンパク質、または免疫結合体、および薬学的に受容可能なキャリア、希釈剤もしくは賦形剤を含む医薬組成物が本明細書で提供される。
【0016】
本明細書に開示されるタンパク質の(a)重鎖アミノ酸配列;(b)軽鎖アミノ酸配列;または(c)重鎖および軽鎖両方のアミノ酸配列をコードする核酸分子が本明細書で提供される。いくつかの実施形態において、核酸分子は、配列番号27のヌクレオチド配列、配列番号28のヌクレオチド配列、または配列番号27および配列番号28両方のヌクレオチド配列を含む。
【0017】
本明細書に開示される核酸分子を含む発現ベクターが本明細書で提供される。本明細書に開示される核酸分子または本明細書に開示される発現ベクターを含む組換え宿主細胞が本明細書で提供される。
【0018】
タンパク質を生成する方法であって、方法は、本明細書に開示される発現ベクターを含む組換え宿主細胞を、核酸分子が発現される条件下で培養し、それによって、タンパク質を生成すること;およびタンパク質を宿主細胞または培養物から単離すること、を包含する方法が本明細書で提供される。
【0019】
被験体において抗がん免疫応答を増強するための方法であって、方法は、被験体に、治療上有効な量の、本明細書に開示されるタンパク質、マルチマータンパク質、免疫結合体、または医薬組成物を投与することを包含する方法が本明細書で提供される。
【0020】
被験体においてがんを処置するための方法であって、方法は、被験体に、治療上有効な量の、本明細書に開示されるタンパク質、マルチマータンパク質、免疫結合体、または医薬組成物を投与することを包含する方法が本明細書で提供される。
【0021】
被験体においてがんの症状を改善するための方法であって、方法は、被験体に、治療上有効な量の本明細書に開示されるタンパク質、マルチマータンパク質、免疫結合体、または医薬組成物を投与することを包含する方法が本明細書で提供される。
【0022】
被験体においてがんの症状を改善するための方法であって、方法は、被験体に、治療上有効な量の本明細書に開示されるタンパク質、マルチマータンパク質、免疫結合体、または医薬組成物を投与することを包含し、がんは、消化管間質がん(GIST)、膵臓がん、皮膚がん、黒色腫、乳がん、肺がん、気管支がん、結腸直腸がん、前立腺がん、胃がん、卵巣がん、膀胱がん、脳のがん、中枢神経系のがん、末梢神経系のがん、食道がん、子宮頚がん、子宮がん、子宮内膜がん、口腔もしくは咽頭のがん、肝臓がん、腎臓がん、腎細胞癌、精巣がん、胆道がん、小腸がん、虫垂がん、唾液腺がん、甲状腺がん、副腎がん、骨肉腫、軟骨肉腫、または血液組織のがんである、方法が本明細書で提供される。
【0023】
被験体において腫瘍のサイズを低減するための方法であって、方法は、被験体に、治療上有効な量の本明細書に開示されるタンパク質、マルチマータンパク質、免疫結合体、または医薬組成物を投与することを包含する方法が本明細書で提供される。
【0024】
被験体において腫瘍の成長を阻害するための方法であって、方法は、被験体に、治療上有効な量の本明細書に開示されるタンパク質、マルチマータンパク質、免疫結合体、または医薬組成物を投与することを包含する方法が本明細書で提供される。
【0025】
被験体において抗がん免疫応答を増強することにおける使用のための、本明細書に開示されるタンパク質、マルチマータンパク質、免疫結合体、または医薬組成物が本明細書で提供される。
【0026】
被験体においてがんを処置することにおける使用のための、本明細書に開示されるタンパク質、マルチマータンパク質、免疫結合体、または医薬組成物が本明細書で提供される。
【0027】
被験体においてがんの症状を改善することにおける使用のための、本明細書に開示されるタンパク質、マルチマータンパク質、免疫結合体、または医薬組成物が本明細書で提供される。
【0028】
がんが、消化管間質がん(GIST)、膵臓がん、皮膚がん、黒色腫、乳がん、肺がん、気管支がん、結腸直腸がん、前立腺がん、胃がん、卵巣がん、膀胱がん、脳のがん、中枢神経系のがん、末梢神経系のがん、食道がん、子宮頚がん、子宮がん、子宮内膜がん、口腔もしくは咽頭のがん、肝臓がん、腎臓がん、腎細胞癌、精巣がん、胆道がん、小腸がん、虫垂がん、唾液腺がん、甲状腺がん、副腎がん、骨肉腫、軟骨肉腫、または血液組織のがんである、被験体においてがんの症状を改善することにおける使用のための、本明細書に開示されるタンパク質、マルチマータンパク質、免疫結合体、または医薬組成物が本明細書で提供される。
【0029】
被験体において腫瘍のサイズを低減することにおける使用のための、本明細書に開示されるタンパク質、マルチマータンパク質、免疫結合体、または医薬組成物が本明細書で提供される。
【0030】
被験体において腫瘍の成長を阻害することにおける使用のための、本明細書に開示されるタンパク質、マルチマータンパク質、免疫結合体、または医薬組成物が本明細書で提供される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、インタクトな(左)およびプロテアーゼで切断された(右)コンホメーションにある本明細書で開示されるタンパク質分子(LB101)の略図を示す。インタクトなコンホメーションでは、PD-L1結合ドメインのみが露出され、それらの同族標的を結合し得る。この設計にある重鎖および軽鎖両方におけるリンカーは、タンパク質分解により切断可能であり、マトリクスメタロプロテアーゼ(MMPs)および/またはカテプシンによって順次切断され得る。最初の「速い」切断によって、インタクトな構造をとり、中間のプロテアーゼで切断された活性状態を作り出し、これは、単一のタンパク質構築物に由来するPD-L1 FabおよびCD47 Fabの両方がそれらの同族標的を結合することを可能にする。
【0032】
【
図2】
図2は、本明細書で提供される活性化可能な二重特異的タンパク質分子(例えば、LB101(「CD47ロックボディー(LockBody)」と表示される))の活性機序の略図を示す。
【0033】
【
図3A】
図3Aは、精製LB101タンパク質のSDS-PAGE分析を示す。レーン1 - 分子量標準。レーン2 - LB101(還元条件)。レーン3 - ブランク。レーン4 - LB101(非還元条件)。
【0034】
【
図3B】
図3Bは、構造均一性を明らかに示す、精製LB101タンパク質のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)分析を示す。
【0035】
【
図4】
図4は、固定ヒトPD-L1または固定ヒトCD47へのLB101の結合のELISA分析を示す。時間経過分析を、0~24時間、ヒトMMP12ありまたはなしでのヒンジリンカー切断に関して行った。
【0036】
【
図5A】
図5Aは、IgG1アイソタイプおよびビヒクル(貪食作用なし)、MMP12処理なしのLB101(弱い貪食作用)、LB101 MMP12処理(強い貪食作用)およびCD47 IgG4(強い貪食作用)による、ヒトCD11b+ 細胞によるA549がん細胞の貪食作用を示す。
【0037】
【
図5B】
図5Bは、IgG1 アイソタイプおよびビヒクル(貪食作用なし)、MMP12処理なしのLB101(弱い貪食作用)、LB101 MMP12処理(強い貪食作用)およびCD47 IgG4(強い貪食作用)による、ヒトCD11b+ 細胞によるHELがん細胞の貪食作用を示す。
【0038】
【
図6A】
図6Aは、トランスジェニックhPD-L1/hPD1 C57B6マウスにおけるhPD-L1+ MC38腫瘍成長を示す。マウスを、IgG1アイソタイプ(5mg/kg)、アテゾリズマブ(抗PD-L1抗体)(5mg/kg)またはLB101(8.5mg/kg、IgG15mg/kgに相当するモル当量)のいずれかで処置した。
【0039】
【
図6B】
図6Bは、トランスジェニックhPD-L1/hPD1 C57B6マウスにおけるhPD-L1+ MC38腫瘍成長に関するカプラン-マイアー生存プロットを示す。合計5群を、IgG1アイソタイプ(5mg/kg)、アテゾリズマブ(抗PD-L1抗体)(5mg/kgもしくは10mg/kg)、またはLB101(8.5mg/kgもしくは17mg/kg、IgG1の5mg/kgもしくは10mg/kgに相当するモル当量)のいずれかで処置した。
【0040】
【
図6C】
図6Cは、トランスジェニックhPD-L1/hPD1 C57B6マウスにおけるhPD-L1+ MC38腫瘍成長を示す。マウスを、IgG1アイソタイプ(5mg/kg)、アテゾリズマブ(抗PD-L1抗体)(10mg/kg)またはLB101(17mg/kg、IgG1の10mg/kgに相当するモル当量)のいずれかで処置した。
【0041】
【
図6D】
図6Dは、個々のトランスジェニックhPD-L1/hPD1 C57B6マウスにおけるhPD-L1+ MC38腫瘍成長を示す。マウスを、アテゾリズマブ(抗PD-L1抗体)(5mg/kg)またはLB101(8.5mg/kg、IgG15mg/kgに相当するモル当量)のいずれかで処置した。
【0042】
【
図6E】
図6Eは、トランスジェニックhPD-L1/hPD1 C57B6マウスにおけるhPD-L1+ MC38腫瘍成長を示す。マウスをIgG1アイソタイプコントロール(5mg/kg)、またはLB101の用量滴定(0.3mg/kg、1.5mg/kg、4.5mg/kg、および8.5mg/kg)のいずれかで処置した。
【0043】
【
図7】
図7は、薬剤がhPD-L1/hPD1シグナル伝達を中断する能力を測定する細胞ベースのアッセイ(活性化倍率で測定される)においてIgG1アイソタイプ、アテゾリズマブ(抗PD-L1抗体)またはLB101の活性(1時間または2時間にわたるMMP12での処理の前または後)を示す。
【0044】
【
図8】
図8は、トランスジェニックhPD-L1/hPD1 C57B6マウスにおける「再チャレンジ」実験中のhPD-L1+ MC38腫瘍成長を示す。ナイーブマウス(n=10)およびLB101(8.5mg/kg, n=13)またはLB101(17 mg/kg, n=9)で処置した場合に以前に完全腫瘍退縮を示した非ナイーブマウスを、試験した。
【0045】
【
図9】
図9は、30日間にわたる、トランスジェニックhPD-L1/hPD1 C57B6マウスにおける「再チャレンジ」実験中のhPD-L1+ MC38腫瘍成長を示す。ナイーブマウス(n=10)、およびLB101(8.5mg/kg, n=13)またはLB101(17mg/kg, n=9)で処置した場合に以前に完全腫瘍退縮を示した非ナイーブマウスを試験した。
【0046】
【
図10】
図10は、フローサイトメトリーによって測定される場合、hPD-L1+ MC38腫瘍における免疫細胞浸潤を示す。腫瘍(n=8/群)を、ヒトIgG1アイソタイプ、アテゾリズマブ(抗PD-L1抗体)またはLB101で処置したマウスから単離した。各分析における数字は、全腫瘍CD45+(免疫)細胞のうちの%として報告する。群間差異に関する有意な値(p <0.05)を計算し、線およびアスタリスクとして示す。
【0047】
【
図11-1】
図11A~
図11Fは、カニクイザルにおけるLB101の用量範囲設定(DRF)試験からの結果を示す。雄性(m)および雌性(f)サルに、7日ごとに1回、5mg/kg、20mg/kgまたは50mg/kgのLB101を4回投与した。血液サンプルを採取し、LB101薬物動態(
図11A)、体重(
図11B)、赤血球レベル(RBC、
図11C)、ヘモグロビンレベル(HBG、
図11D)、血小板レベル(
図11E)および好中球レベル(
図11F)の測定を行った。正常レベルの範囲を、灰色のボックスとして示す。
【発明を実施するための形態】
【0048】
詳細な説明
病変ヒト組織において条件付きで活性なタンパク質が、本明細書で提供される。本開示のタンパク質は、身体全体でPD-L1を特異的に結合しそれを遮断するにあたって十分に活性であり;健常組織ではCD47の最小化した結合を示し;いったん病変組織環境に入るとCD47の結合および遮断が高度に活性化される。本開示のタンパク質は、非病変組織ではPD-L1結合ドメインによってマスクされるCD47結合ドメインを含む。上記タンパク質はまた、病変組織(例えば、腫瘍)において発現される1またはこれより多くのプロテアーゼによって切断される2つのペプチドリンカーを含む。上記リンカー切断は、病変組織においてCD47結合ドメインをアンマスクし、従って、上記タンパク質の結合および/または機能を上記病変組織において選択的に可能にする。
【0049】
タンパク質分子
重鎖および軽鎖を含むタンパク質であって、ここで上記重鎖は、N末端からC末端の順に、抗PD-L1重鎖可変(VH)ドメイン、CHドメイン、第1のリンカー、抗CD47 VHドメイン、および免疫グロブリン重鎖定常領域を含み;ここで上記軽鎖は、N末端からC末端の順に、抗PD-L1軽鎖可変(VL)ドメイン、第1の免疫グロブリン軽鎖定常領域、第2のリンカー、抗CD47 VLドメイン、および第2の免疫グロブリン軽鎖定常領域を含むタンパク質が、本明細書で提供される。上記第1のリンカーおよび上記第2のリンカーは、病変組織(例えば、腫瘍)において見出されるマトリクスメタロプロテアーゼ(MMPs)および/またはカテプシンによって切断可能である。いくつかの実施形態において、上記免疫グロブリン重鎖定常領域は、N末端からC末端の順に、CH1ドメイン、ヒンジ、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含む。ドメインが表示された本開示のタンパク質の略図は、
図1に示される。
【0050】
図1に示される抗PD-L1/抗CD47タンパク質構造は、病変組織の外側のCD47への結合を最小化する。この効果は、CD47結合ドメインの上(N末端側)にPD-L1およびリンカーを付加することによって達成される。適切な上側のドメイン/リンカー組み合わせの使用は、下側のCD47結合ドメインにおいて結合活性を完全に遮断する構成をもたらす。次いで、上記PD-L1ドメインは、PD-L1富化腫瘍微少環境において高濃度化を推進する。上記タンパク質構築物リンカーシステムは、固形腫瘍において一般的である上昇したMMPおよびカテプシン活性を利用して、上記リンカーペプチドを切断し、CD47結合ドメインを露出させ、それによって、周辺よりむしろ腫瘍においてCD47結合活性を条件付きで活性化する。本明細書で提供されるタンパク質の組み合わされた生物学的機能は、それによって、上記分子に、
図2において概説されるように、がん細胞に対して自然免疫応答および適応免疫応答両方を増強する潜在性を与える。
【0051】
本明細書で開示されるタンパク質設計は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgE、IgM、またはIgAに由来する配列に基づいていてもよく、エフェクター機能能力を有しても有さなくてもよい。
図1に示される構築物では、4本のポリペプチド鎖が4つのFabドメイン(2×Fab A、2×Fab B)、4つのリンカー配列をコードし、免疫グロブリンヒンジ領域およびFcドメインを有しても有さなくてもよい。上記タンパク質設計における上記リンカーは、タンパク質分解により切断可能であり、順次切断され得る。最初の「速い」切断によって、インタクトな構造をとり、中間の活性状態を作り出し、これは、単一のタンパク質構築物に由来するFab AおよびFab Bが、それらの同族標的を結合することを可能にする。免疫グロブリンヒンジ配列に由来する切断されたリンカーはまた、内因性抗ヒンジ抗体を介して、細胞膜において増大した免疫エフェクター機能(ADCC、CDCおよび/またはADCP)を動員し得る。
【0052】
本明細書で開示されるタンパク質は、抗体分子のドメインおよび領域を含む。用語「抗体」とは、一般には、4本のポリペプチド鎖、2本の重(H)鎖および2本の軽(L)鎖、またはIg分子の本質的な標的結合特徴を保持するその任意の機能的フラグメント、変異体、バリアントもしくは誘導体を含む免疫グロブリン(Ig)分子に広く言及する。このような変異体、バリアント、または誘導体の抗体形式は、当該分野で公知である。
【0053】
全長抗体では、各重鎖は、重鎖可変ドメイン(本明細書ではVHドメインと略される)および重鎖定常領域を含む。上記重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2およびCH3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変ドメイン(本明細書ではVLドメインと略される)および軽鎖定常領域を含む。上記軽鎖定常領域は、1つのドメイン、CLを含む。上記VHドメインおよびVLドメインは、フレームワーク領域(FR)と称されるより保存された領域が散在する相補性決定領域(CDR)と称される超可変領域へとさらに細分され得る。各VHドメインおよびVLドメインは、3つのCDRおよび4つのFRから構成され、アミノ末端からカルボキシル末端へと、以下の順に配置されている: FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。
【0054】
用語「Fc領域」とは、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。「Fc領域」は、天然配列のFc領域またはバリアントFc領域であり得る。免疫グロブリン重鎖のFc領域の境界は変動し得るが、上記ヒトIgG重鎖Fc領域は、通常、位置Cys226におけるアミノ酸残基から、またはPro230から、そのカルボキシル末端まで伸びるとして定義される。Fc領域における残基の番号付けは、KabatにあるとおりのEUインデックスに従う。免疫グロブリンのFc領域は、一般に、2つの定常ドメイン、CH2およびCH3を含む。Fc領域は、ダイマーまたはモノマー形態で存在し得る。上記Fc領域は、種々の細胞レセプター(例えば、Fcレセプター)および他の免疫分子(例えば、補体タンパク質)に結合する。
【0055】
免疫グロブリン分子は、任意のタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgAもしくはIgY)およびクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1もしくはIgA2)またはサブクラスのものであり得る。IgG、IgD、およびIgE抗体は、一般に、2つの同一の重鎖および2つの同一の軽鎖ならびに2つの抗原結合ドメインを含み、各々、VHおよびVLから構成される。一般に、IgA抗体は、2つのモノマーから構成され、各モノマーは、2つの重鎖および2つの軽鎖から構成される(IgG、IgD、およびIgE抗体に関して);このようにして、IgA分子は4つの抗原結合ドメインを有し、各々は、これもまた、VHおよびVLから構成される。ある特定のIgA抗体は、それらが2つの重鎖および2つの軽鎖から構成されるという点で単量体の抗体である。分泌型IgM抗体は、一般に、5つのモノマーから構成され、各モノマーは、2つの重鎖および2つの軽鎖から構成される(IgGおよびIgE抗体に関して)。従って、上記IgM分子は、10の抗原結合ドメインを有し、各々は、これもまた、VHおよびVLから構成される。IgMの細胞表面形態は、IgG、IgDおよびIgE抗体に類似の2つの重鎖/2つの軽鎖構造を有する。
【0056】
本明細書で使用される場合、用語「免疫学的結合」および「免疫学的結合特性とは、免疫グロブリン分子(例えば、抗体もしくはその抗原結合部分)、または免疫グロブリン由来の結合ドメイン(複数可)を含むタンパク質と、免疫グロブリンもしくはタンパク質が特異的である抗原との間で起こるタイプの非共有結合的な相互作用に言及する。免疫学的結合相互作用の強さ、または親和性は、上記相互作用の解離定数(Kd)に関して表現され得、ここでKdが小さいほど、より大きな親和性を表す。選択されたポリペプチドの免疫学的結合特性は、当該分野で周知の方法を使用して定量され得る。1つのこのような方法は、抗原結合部位/抗原複合体形成および解離の速度を測定することを包含し、ここでそれら速度は、複合体パートナーの濃度、相互作用の親和性、および両方向において速度に等しく影響する幾何的パラメーターに依存する。従って、「オン速度定数(on rate constant)」(Kon)および「オフ速度定数(off rate constant)」(Koff)はともに、濃度ならびに会合および解離の実際の速度の計算によって決定され得る(Malmqvist, Nature 361:186-187 (1993)を参照のこと)。Koff /Konの比は、親和性に関連しない全てのパラメーターの解除を可能にし、それは解離定数Kdに等しい(Daviesら (1990) Annual Rev Biochem 59:439-473を参照のこと)。本明細書で提供される抗体または抗原結合部分は、放射性リガンド結合アッセイまたは当業者に公知の類似アッセイのようなアッセイによって測定される場合、平衡結合定数(Kd)が≦10μM、好ましくは≦10nM、より好ましくは≦10nM、および最も好ましくは≦100pM~約1pMである場合にPD-L1またはCD47を特異的に結合するといわれる。抗体のKdを決定するための1つの方法は、表面プラズモン共鳴(SPR)を使用することによる、代表的には、Biacore(登録商標)システムのようなバイオセンサーシステムを使用することによるものである。
【0057】
機能的には、本明細書で提供されるタンパク質の結合親和性は、10-5M~10-12Mの範囲内にあり得る。例えば、本明細書で提供されるタンパク質の結合親和性は、10-6M~10-12M、10-7M~10-12M、10-8M~10-12M、10-9M~10-12M、10-5M~10-11M、10-6M~10-11M、10-7M~10-11M、10-8M~10-11M、10-9M~10-11M、10-10M~10-11M、10-5M~10-10M、10-6M~10-10M、10-7M~10-10M、10-8M~10-10M、10-9M~10-10M、10-5M~10-9M、10-6M~10-9M、10-7M~10-9M、10-8M~10-9M、10-5M~10-8M、10-6M~10-8M、10-7M~10-8M、10-5M~10-7M、10-6M~10-7Mまたは10-5M~10-6Mである。
【0058】
重鎖および軽鎖を含むタンパク質であって、ここで重鎖は、N末端からC末端の順に、抗PD-L1重鎖VHドメイン、CHドメイン、第1のリンカー、抗CD47 VHドメイン、および免疫グロブリン重鎖定常領域を含み;ここで軽鎖は、N末端からC末端の順に、抗PD-L1 VLドメイン、第1の免疫グロブリン軽鎖定常領域、第2のリンカー、抗CD47 VLドメイン、および第2の免疫グロブリン軽鎖定常領域を含む、タンパク質が本明細書に提供される。いくつかの実施形態において、上記第1のリンカーは、上記第2のリンカーと同じである。いくつかの実施形態において、上記第1のリンカーは、上記第2のリンカーと同じではない。いくつかの実施形態において、上記第1のリンカーは、配列番号13~20のうちのいずれか1つから選択されるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、上記第2のリンカーは、配列番号13~20のうちのいずれか1つから選択されるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、上記第1のリンカーは、配列番号13のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、上記第2のリンカーは、配列番号14のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、上記第1のリンカーは、配列番号13のアミノ酸配列を含み;上記第2のリンカーは、配列番号14のアミノ酸配列を含む。
【0059】
重鎖および軽鎖を含むタンパク質であって、ここで重鎖は、N末端からC末端の順に、抗PD-L1重鎖VHドメイン、CHドメイン、第1のリンカー、抗CD47 VHドメイン、および免疫グロブリン重鎖定常領域を含み;ここで軽鎖は、N末端からC末端の順に、抗PD-L1 VLドメイン、第1の免疫グロブリン軽鎖定常領域、第2のリンカー、抗CD47 VLドメイン、および第2の免疫グロブリン軽鎖定常領域を含み;ここで抗PD-L1 VHドメインは、配列番号1のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号2のアミノ酸配列を含むHCDR2、および配列番号3のアミノ酸配列を含むHCDR3を含み;ここで抗PD-L1 VLドメインは、配列番号4のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号5のアミノ酸配列を含むLCDR2、および配列番号6のアミノ酸配列を含むLCDR3を含み;ここで第1のリンカーは、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、および配列番号20からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;ここで第2のリンカーは、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、および配列番号20からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、タンパク質が本明細書に提供される。
【0060】
重鎖および軽鎖を含むタンパク質であって、ここで重鎖は、N末端からC末端の順に、抗PD-L1重鎖VHドメイン、CHドメイン、第1のリンカー、抗CD47 VHドメイン、および免疫グロブリン重鎖定常領域を含み;ここで軽鎖は、N末端からC末端の順に、抗PD-L1 VLドメイン、第1の免疫グロブリン軽鎖定常領域、第2のリンカー、抗CD47 VLドメイン、および第2の免疫グロブリン軽鎖定常領域を含み;ここで抗PD-L1 VHドメインは、配列番号1のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号2のアミノ酸配列を含むHCDR2、および配列番号3のアミノ酸配列を含むHCDR3から選択される少なくとも1つのHCDR配列を含み;ここで第1のリンカーは、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、および配列番号20からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;ここで第2のリンカーは、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、および配列番号20からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、タンパク質が本明細書に提供される。
【0061】
重鎖および軽鎖を含むタンパク質であって、ここで重鎖は、N末端からC末端の順に、抗PD-L1重鎖VHドメイン、CHドメイン、第1のリンカー、抗CD47 VHドメイン、および免疫グロブリン重鎖定常領域を含み;ここで軽鎖は、N末端からC末端の順に、抗PD-L1 VLドメイン、第1の免疫グロブリン軽鎖定常領域、第2のリンカー、抗CD47 VLドメイン、および第2の免疫グロブリン軽鎖定常領域を含み;ここで抗PD-L1 VHドメインは、配列番号1のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号2のアミノ酸配列を含むHCDR2、および配列番号3のアミノ酸配列を含むHCDR3を含み;ここで第1のリンカーは、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、および配列番号20からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;ここで第2のリンカーは、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、および配列番号20からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、タンパク質が本明細書に提供される。
【0062】
重鎖および軽鎖を含むタンパク質であって、ここで重鎖は、N末端からC末端の順に、抗PD-L1重鎖VHドメイン、CHドメイン、第1のリンカー、抗CD47 VHドメイン、および免疫グロブリン重鎖定常領域を含み;ここで軽鎖は、N末端からC末端の順に、抗PD-L1 VLドメイン、第1の免疫グロブリン軽鎖定常領域、第2のリンカー、抗CD47 VLドメイン、および第2の免疫グロブリン軽鎖定常領域を含み;ここで抗PD-L1 VLドメインは、配列番号4のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号5のアミノ酸配列を含むLCDR2、および配列番号6のアミノ酸配列を含むLCDR3から選択される少なくとも1つのLCDR配列を含み;ここで第1のリンカーは、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、および配列番号20からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;ここで第2のリンカーは、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、および配列番号20からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、タンパク質が本明細書に提供される。
【0063】
重鎖および軽鎖を含むタンパク質であって、ここで重鎖は、N末端からC末端の順に、抗PD-L1重鎖VHドメイン、CHドメイン、第1のリンカー、抗CD47 VHドメイン、および免疫グロブリン重鎖定常領域を含み;ここで軽鎖は、N末端からC末端の順に、抗PD-L1 VLドメイン、第1の免疫グロブリン軽鎖定常領域、第2のリンカー、抗CD47 VLドメイン、および第2の免疫グロブリン軽鎖定常領域を含み;ここで抗PD-L1 VLドメインは、配列番号4のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号5のアミノ酸配列を含むLCDR2、および配列番号6のアミノ酸配列を含むLCDR3を含み;ここで第1のリンカーは、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、および配列番号20からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;ここで第2のリンカーは、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、および配列番号20からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、タンパク質が本明細書に提供される。
【0064】
重鎖および軽鎖を含むタンパク質であって、ここで重鎖は、N末端からC末端の順に、抗PD-L1重鎖VHドメイン、CHドメイン、第1のリンカー、抗CD47 VHドメイン、および免疫グロブリン重鎖定常領域を含み;ここで軽鎖は、N末端からC末端の順に、抗PD-L1 VLドメイン、第1の免疫グロブリン軽鎖定常領域、第2のリンカー、抗CD47 VLドメイン、および第2の免疫グロブリン軽鎖定常領域を含み;ここで抗CD47 VHドメインは、配列番号7のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号8のアミノ酸配列を含むHCDR2、および配列番号9のアミノ酸配列を含むHCDR3を含み;ここで抗CD47 VLドメインは、配列番号10のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号11のアミノ酸配列を含むLCDR2、および配列番号12のアミノ酸配列を含むLCDR3を含み;ここで第1のリンカーは、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、および配列番号20からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;ここで第2のリンカーは、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、および配列番号20からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、タンパク質が本明細書に提供される。
【0065】
重鎖および軽鎖を含むタンパク質であって、ここで重鎖は、N末端からC末端の順に、抗PD-L1重鎖VHドメイン、CHドメイン、第1のリンカー、抗CD47 VHドメイン、および免疫グロブリン重鎖定常領域を含み;ここで軽鎖は、N末端からC末端の順に、抗PD-L1 VLドメイン、第1の免疫グロブリン軽鎖定常領域、第2のリンカー、抗CD47 VLドメイン、および第2の免疫グロブリン軽鎖定常領域を含み;ここで抗CD47 VHドメインは、配列番号7のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号8のアミノ酸配列を含むHCDR2、および配列番号9のアミノ酸配列を含むHCDR3から選択される少なくとも1つのHCDR配列を含み;ここで第1のリンカーは、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、および配列番号20からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;ここで第2のリンカーは、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、および配列番号20からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、タンパク質が本明細書に提供される。
【0066】
重鎖および軽鎖を含むタンパク質であって、ここで重鎖は、N末端からC末端の順に、抗PD-L1重鎖VHドメイン、CHドメイン、第1のリンカー、抗CD47 VHドメイン、および免疫グロブリン重鎖定常領域を含み;ここで軽鎖は、N末端からC末端の順に、抗PD-L1 VLドメイン、第1の免疫グロブリン軽鎖定常領域、第2のリンカー、抗CD47 VLドメイン、および第2の免疫グロブリン軽鎖定常領域を含み;ここで抗CD47 VHドメインは、配列番号7のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号8のアミノ酸配列を含むHCDR2、および配列番号9のアミノ酸配列を含むHCDR3を含み;ここで第1のリンカーは、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、および配列番号20からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;ここで第2のリンカーは、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、および配列番号20からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、タンパク質が本明細書に提供される。
【0067】
重鎖および軽鎖を含むタンパク質であって、ここで重鎖は、N末端からC末端の順に、抗PD-L1重鎖VHドメイン、CHドメイン、第1のリンカー、抗CD47 VHドメイン、および免疫グロブリン重鎖定常領域を含み;ここで軽鎖は、N末端からC末端の順に、抗PD-L1 VLドメイン、第1の免疫グロブリン軽鎖定常領域、第2のリンカー、抗CD47 VLドメイン、および第2の免疫グロブリン軽鎖定常領域を含み;ここで抗CD47 VLドメインは、配列番号10のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号11のアミノ酸配列を含むLCDR2、および配列番号12のアミノ酸配列を含むLCDR3から選択される少なくとも1つのLCDR配列を含み;ここで第1のリンカーは、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、および配列番号20からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;ここで第2のリンカーは、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、および配列番号20からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、タンパク質が本明細書に提供される。
【0068】
重鎖および軽鎖を含むタンパク質であって、ここで重鎖は、N末端からC末端の順に、抗PD-L1重鎖VHドメイン、CHドメイン、第1のリンカー、抗CD47 VHドメイン、および免疫グロブリン重鎖定常領域を含み;ここで軽鎖は、N末端からC末端の順に、抗PD-L1 VLドメイン、第1の免疫グロブリン軽鎖定常領域、第2のリンカー、抗CD47 VLドメイン、および第2の免疫グロブリン軽鎖定常領域を含み;ここで抗CD47 VLドメインは、配列番号10のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号11のアミノ酸配列を含むLCDR2、および配列番号12のアミノ酸配列を含むLCDR3を含み;ここで第1のリンカーは、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、および配列番号20からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;ここで第2のリンカーは、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、および配列番号20からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、タンパク質が本明細書に提供される。
【0069】
重鎖および軽鎖を含むタンパク質であって、ここで重鎖は、N末端からC末端の順に、抗PD-L1重鎖VHドメイン、CHドメイン、第1のリンカー、抗CD47 VHドメイン、および免疫グロブリン重鎖定常領域を含み;ここで軽鎖は、N末端からC末端の順に、抗PD-L1 VLドメイン、第1の免疫グロブリン軽鎖定常領域、第2のリンカー、抗CD47 VLドメイン、および第2の免疫グロブリン軽鎖定常領域を含み;ここで抗PD-L1 VHドメインは、配列番号1のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号2のアミノ酸配列を含むHCDR2、および配列番号3のアミノ酸配列を含むHCDR3を含み;ここで抗PD-L1 VLドメインは、配列番号4のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号5のアミノ酸配列を含むLCDR2、および配列番号6のアミノ酸配列を含むLCDR3を含み;ここで抗CD47 VHドメインは、配列番号7のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号8のアミノ酸配列を含むHCDR2、および配列番号9のアミノ酸配列を含むHCDR3を含み;ここで抗CD47 VLドメインは、配列番号10のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号11のアミノ酸配列を含むLCDR2、および配列番号12のアミノ酸配列を含むLCDR3を含み;ここで第1のリンカーは、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、および配列番号20からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;ここで第2のリンカーは、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、および配列番号20からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、タンパク質が本明細書に提供される。
【0070】
重鎖および軽鎖を含むタンパク質であって、ここで重鎖は、N末端からC末端の順に、抗PD-L1重鎖VHドメイン、CHドメイン、第1のリンカー、抗CD47 VHドメイン、および免疫グロブリン重鎖定常領域を含み;ここで軽鎖は、N末端からC末端の順に、抗PD-L1 VLドメイン、第1の免疫グロブリン軽鎖定常領域、第2のリンカー、抗CD47 VLドメイン、および第2の免疫グロブリン軽鎖定常領域を含み;ここで抗PD-L1 VHドメインは、配列番号1のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号2のアミノ酸配列を含むHCDR2、および配列番号3のアミノ酸配列を含むHCDR3を含み;ここで抗PD-L1 VLドメインは、配列番号4のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号5のアミノ酸配列を含むLCDR2、および配列番号6のアミノ酸配列を含むLCDR3を含み;ここで抗CD47 VHドメインは、配列番号7のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号8のアミノ酸配列を含むHCDR2、および配列番号9のアミノ酸配列を含むHCDR3を含み;ここで抗CD47 VLドメインは、配列番号10のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号11のアミノ酸配列を含むLCDR2、および配列番号12のアミノ酸配列を含むLCDR3を含み;ここで第1のリンカーは、配列番号13のアミノ酸配列を含み;ここで第2のリンカーは、配列番号14のアミノ酸配列を含む、タンパク質が本明細書に提供される。
【0071】
重鎖および軽鎖を含むタンパク質であって、ここで重鎖は、N末端からC末端の順に、抗PD-L1重鎖VHドメイン、CHドメイン、第1のリンカー、抗CD47 VHドメイン、および免疫グロブリン重鎖定常領域を含み;ここで軽鎖は、N末端からC末端の順に、抗PD-L1 VLドメイン、第1の免疫グロブリン軽鎖定常領域、第2のリンカー、抗CD47 VLドメイン、および第2の免疫グロブリン軽鎖定常領域を含み;ここで抗PD-L1 VHドメインは、配列番号21のアミノ酸配列を含み、抗PD-L1 VLドメインは、配列番号22のアミノ酸配列を含み;ここで抗CD47 VHドメインは、配列番号23のアミノ酸配列を含み、抗CD47 VLドメインは、配列番号24のアミノ酸配列を含むタンパク質が、さらに本明細書で提供される。
【0072】
重鎖および軽鎖を含むタンパク質であって、ここで重鎖は、配列番号25のアミノ酸配列を含み;ここで軽鎖は、配列番号26のアミノ酸配列を含むタンパク質も、本明細書で提供される。これらの重鎖および軽鎖配列を含むタンパク質は、LB101またはLB-101といわれる。いくつかの実施形態において、タンパク質は、表1中に提供される1またはこれより多くのアミノ酸配列を含む。
【0073】
重鎖および軽鎖を含むタンパク質であって、ここで上記重鎖は、配列番号25のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%同一であるアミノ酸配列を含み;ここで上記軽鎖は、配列番号26のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%同一であるアミノ酸配列を含むタンパク質が、本明細書でさらに提供される。
【0074】
重鎖および軽鎖を含むタンパク質であって、ここで上記重鎖は、1個、2個もしくは3個の保存的アミノ酸置換を有する配列番号25のアミノ酸配列を含み;ここで上記軽鎖は、1個、2個もしくは3個の保存的アミノ酸置換を有する配列番号26のアミノ酸配列を含むタンパク質がまた、本明細書で提供される。いくつかの実施形態において、保存的アミノ酸置換は、FR配列中でのみ行われ、CDR配列中では行われない。いくつかの実施形態において、保存的アミノ酸置換は、第1のリンカー配列または第2のリンカー配列において行われない。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
VHおよびVLドメイン配列では、上記CDR配列に下線が付されている。重鎖および軽鎖アミノ酸配列では、抗PD-L1 VHおよびVLドメイン配列は斜体かつ下線が付されている;切断可能なリンカー配列には下線が付されており、抗CD47 VHおよびVLドメイン配列は太字にされている。
【0075】
いくつかの実施形態において、本明細書で提供されるタンパク質は、少なくとも1つのFabフラグメントを含み、これは、VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる一価の抗原結合フラグメントである。
【0076】
いくつかの実施形態において、本明細書で提供されるタンパク質は、免疫グロブリン重鎖定常領域を含む。いくつかの実施形態において、上記免疫グロブリン重鎖定常領域は、IgG、IgE、IgM、IgD、IgAまたはIgYである。いくつかの実施形態において、上記免疫グロブリン重鎖定常領域は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1またはIgA2である。いくつかの実施形態において、上記免疫グロブリン重鎖定常領域は、IgG1である。いくつかの実施形態において、上記免疫グロブリン重鎖定常領域は、免疫学的に不活性である。いくつかの実施形態において、上記免疫グロブリン重鎖定常領域は、FcγR結合、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)活性、抗体依存性細胞貪食作用(ADCP)、および/または補体依存性細胞傷害(CDC)活性を低減または防止するために1またはこれより多くの変異を含む。いくつかの実施形態において、上記免疫グロブリン重鎖定常領域は、野生型ヒトIgG1定常領域、野生型ヒトIgG2定常領域、野生型ヒトIgG4定常領域、アミノ酸置換L234A、L235AおよびG237Aを含むヒトIgG1定常領域、アミノ酸置換L234A、L235A、G237AおよびP331Sを含むヒトIgG1定常領域、またはアミノ酸置換S228Pを含むヒトIgG4定常領域であり、ここで番号付けは、KabatにあるとおりのEUインデックスに従う。いくつかの実施形態において、免疫グロブリン分子の定常領域におけるアミノ酸残基の位置は、KabatにあるとおりのEUインデックスに従う番号付されている(Wardら, 1995 Therap. Immunol. 2:77-94)。
【0077】
いくつかの実施形態において、本明細書で提供されるタンパク質は、κ軽鎖である免疫グロブリン軽鎖定常領域を含み得る。いくつかの実施形態において、κ軽鎖は、配列番号31を含む。
【0078】
いくつかの実施形態において、本明細書で提供されるタンパク質は、λ軽鎖である免疫グロブリン軽鎖定常領域を含み得る。
【0079】
いくつかの実施形態において、本明細書で提供されるタンパク質は、ヒトIgG4、ヒトIgG4(S228P)、ヒトIgG2、ヒトIgG1、ヒトIgG1エフェクターヌルのFc領域のアミノ酸配列を含む免疫グロブリン重鎖定常領域を含み得る。例えば、上記ヒトIgG4(S228P)Fc領域は、野生型ヒトIgG4 Fc領域と比較して、以下の置換: S228Pを含む。例えば、上記ヒトIgG1エフェクターヌルFc領域は、野生型ヒトIgG1 Fc領域と比較して、以下の置換: L234A、L235AおよびG237Aを含む。いくつかの実施形態において、タンパク質は、配列番号29、配列番号30、配列番号32、配列番号33、配列番号34および配列番号35のうちのいずれか1つのアミノ酸配列を含む免疫グロブリン重鎖定常領域を含み得る。
【0080】
2つの同一タンパク質のダイマーであるマルチマータンパク質であって、ここで各タンパク質は、本明細書で開示されるタンパク質であるマルチマータンパク質が、本明細書でさらに提供される。
図1は、このようなダイマーの例を示す。上記ダイマーは、2つの同一の重鎖および2つの同一の軽鎖を含む。いくつかの実施形態において、各重鎖は、配列番号25のアミノ酸配列を含み、各軽鎖は、配列番号26のアミノ酸配列を含む。
【0081】
治療剤に連結された本明細書に開示されるタンパク質を含む免疫結合体が本明細書で提供される。いくつかの実施形態において、治療剤は、細胞毒、放射性同位体、化学療法剤、免疫調節剤、細胞増殖抑制酵素、細胞溶解酵素、治療用核酸、抗血管新生薬剤、抗増殖薬剤、またはアポトーシス促進薬剤である。
【0082】
適切な治療剤の例としては、免疫調節剤、細胞毒、放射性同位体、化学療法剤、抗血管新生薬剤、抗増殖薬剤、アポトーシス促進薬剤、ならびに細胞増殖抑制および細胞溶解酵素(例えば、RNAse)が挙げられるが、これらに限定されない。さらなる治療剤としては、治療用核酸(例えば、免疫調節剤、抗血管新生薬剤、抗増殖薬剤、またはアポトーシス促進薬剤をコードする遺伝子)が挙げられる。これらの薬物記述子は、相互に排他的ではないので、治療剤は、上記の用語のうちの1またはこれより多くのものを使用して記載され得る。
【0083】
免疫結合体における使用のために適した治療剤の例としては、JAKキナーゼ阻害剤、タキサン、メイタンシン、CC-1065およびデュオカルマイシン、カリケアマイシンおよび他のエンジイン、ならびにオーリスタチンが挙げられるが、これらに限定されない。他の例としては、抗葉酸剤、ビンカアルカロイド、およびアントラサイクリンが挙げられる。植物毒素、他の生体活性タンパク質、酵素(すなわち、ADEPT)、放射性同位体、光増感剤がまた、免疫結合体において使用され得る。さらに、結合体は、細胞傷害性薬剤としての二次キャリア(例えば、リポソームまたはポリマー)を使用して作製され得る。適切な細胞毒としては、細胞の機能を阻害もしくは防止する、および/または細胞の破壊をもたらす薬剤が挙げられる。代表的な細胞毒としては、抗生物質、チューブリン重合の阻害剤、DNAに結合して破壊するアルキル化剤、およびタンパク質合成または必須の細胞タンパク質(例えば、プロテインキナーゼ、ホスファターゼ、トポイソメラーゼ、酵素、およびサイクリン)の機能を破壊する薬剤が挙げられる。
【0084】
代表的な細胞毒としては、ドキソルビシン、ダウノルビシン、イダルビシン、アクラルビシン、ゾルビシン、ミトキサントロン、エピルビシン、カルビシン、ノガラマイシン、メノガリル、ピラルビシン(pitarubicin)、バルルビシン、シタラビン、ゲムシタビン、トリフルリジン、アンシタビン、エノシタビン、アザシチジン、ドキシフルリジン(doxifluhdine)、ペントスタチン、ブロクスウリジン(broxuhdine)、カペシタビン、クラドリビン(cladhbine)、デシタビン、フロクスウリジン(floxuhdine)、フルダラビン、グーゲロチン(gougerotin)、ピューロマイシン、テガフール、チアゾフリン(tiazofuhn)、アドリアマイシン(adhamycin)、シスプラチン、カルボプラチン、シクロホスファミド、ダカルバジン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ミトキサントロン、ブレオマイシン、メクロレタミン、プレドニゾン、プロカルバジン、メトトレキサート、フルオロウラシル(flurouracils)、エトポシド、タキソール、タキソールアナログ、シスプラチンおよびカルボプラチンのようなプラチン、マイトマイシン、チオテパ、タキサン、ビンクリスチン、ダウノルビシン、エピルビシン、アクチノマイシン、アントラマイシン(authramycin)、アザセリン、ブレオマイシン、タモキシフェン、イダルビシン、ドラスタチン/オーリスタチン、ヘミアステリン(hemiasterlin)、エスペラミシンおよびメイタンシノイドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0085】
適切な免疫調節剤としては、腫瘍に対するホルモン作用を遮断する抗ホルモン剤およびサイトカイン生成を抑制する、自己抗原発現をダウンレギュレートする、またはMHC抗原をマスクする免疫抑制剤が挙げられる。
【0086】
医薬組成物
本明細書で提供される活性化可能なタンパク質(本明細書で「活性化合物」ともいわれる)は、投与に適した医薬組成物へと組み込まれ得る。このような組成物は、代表的には、タンパク質(または上記タンパク質を含む免疫結合体、または上記タンパク質を含むマルチマータンパク質)、および薬学的に受容可能なキャリア、希釈剤もしくは賦形剤を含む。このような物質は、非毒性であるべきであり、上記タンパク質の有効性に干渉するべきではない。上記キャリアまたは他の物質の正確な性質は、以下で考察されるように、注射、ボーラス、注入、または任意の他の適切な経路によるものであり得る投与経路に依存する。本明細書で開示されるタンパク質(または上記タンパク質を含む免疫結合体、または上記タンパク質を含むマルチマータンパク質)、および薬学的に受容可能なキャリアを含む組成物が、本明細書で提供される。
【0087】
本明細書で使用される場合、用語「薬学的に受容可能な」とは、当該分野で周知の経路を使用して投与される場合に、アレルギー反応または他の重篤な有害反応を概して生じない分子実体および組成物に言及する。米国連邦政府もしくは州政府の規制当局によって承認されているか、または米国薬局方もしくは動物、およびより詳細にはヒトにおける使用に関して他の一般に認識された薬局方に収載されている分子実体および組成物は、「薬学的に受容可能」であるとみなされる。本明細書で使用される場合、用語「薬学的に受容可能なキャリア」とは、医薬投与と適合性のありとあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗細菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などを含むことが意図される。適切なキャリアは、Remington’s Pharmaceutical Sciences(当該分野における標準的な参考文献であり、これは、本明細書に参考として援用される)の最新版に記載される。このようなキャリアまたは希釈剤のいくつかの例としては、水、塩類溶液、リンゲル溶液、デキストロース溶液、および5% ヒト血清アルブミンが挙げられるが、これらに限定されない。リポソームおよび非水性ビヒクル(例えば、不揮発性油)が使用されてもよい。薬学的に活性な物質のためのこのような媒体および作用物質(agent)の使用は、当該分野で周知である。任意の従来の媒体または作用物質が上記活性化合物と不適合である場合を除いて、上記組成物におけるその使用が企図される。補助的な活性化合物はまた、上記組成物に組みこまれ得る。薬学的に受容可能なキャリア、希釈剤もしくは賦形剤は、二次的反応を引き起こさず、例えば、上記タンパク質の投与の促進、身体中でのその寿命および/もしくはその有効性の増加、または溶液中でのその溶解度の増加を可能にする化合物あるいは化合物の組み合わせであり得る。
【0088】
本明細書で提供される医薬組成物の全ての実施形態において、上記タンパク質は、重鎖および軽鎖を含み得、ここで上記重鎖は、配列番号25のアミノ酸配列を含み;ここで上記軽鎖は、配列番号26のアミノ酸配列を含む。
【0089】
本明細書で開示される医薬組成物は、その意図した投与経路と適合性であるように製剤化され得る。投与経路の例としては、非経口(例えば、静脈内、皮内、皮下、口腔(例えば、吸入)、経皮(すなわち、局所)、経粘膜、および直腸投与)が挙げられる。非経口、皮内、または皮下適用のために使用される液剤または懸濁物は、以下の構成成分を含み得る: 無菌希釈剤(例えば、注射用水、塩類溶液、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒);抗細菌剤(例えば、ベンジルアルコールまたはメチルパラベン);抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸または硫酸水素ナトリウム);キレート剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA));バッファー(例えば、アセテート、シトレートまたはホスフェート)、および張度の調整のための剤(塩化ナトリウムまたはデキストロースなど)。そのpHは、酸または塩基(例えば、塩酸または水酸化ナトリウム)で調整され得る。非経口調製物は、ガラスまたはプラスチック製のアンプル、使い捨てシリンジまたは複数回投与バイアルの中に封入され得る。
【0090】
注射使用に適した医薬組成物としては、無菌水性液剤(水溶性の場合)または分散液剤(dispersion)および無菌注射用液剤もしくは分散液剤の即座の調製のための無菌散剤・粉剤(sterile powder)を含む。静脈内投与に関しては、適切なキャリアとしては、生理食塩水、静菌水、Cremophor EL(登録商標)(BASF, Parsippany, N.J.)またはリン酸緩衝食塩水(PBS)が挙げられる。上記組成物は、無菌であり得る;容易な通針性が存在する程度まで流動性であり得る;製造および貯蔵の条件下で安定であり得る;ならびに細菌および真菌のような微生物の汚染作用に対して保護され得る。上記キャリアは、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、およびこれらの適切な混合物を含む溶媒または分散媒であり得る。例えば、レシチンのようなコーティングの使用によって、分散液剤の場合には、必要とされる粒径の維持によって、および界面活性剤の使用によって、適切な流動性が維持され得る。微生物作用の防止は、種々の抗細菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどによって達成され得る。多くの場合、組成物中に等張剤(例えば、糖、マンニトール、ソルビトールなどの多価アルコール、塩化ナトリウム)を含めることは好ましい。注射用組成物の長期間吸収は、組成物中に吸収を遅らせる剤(例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチン)を含めることによってもたらされ得る。
【0091】
無菌注射用液剤は、必要とされる量の活性化合物を上記で列挙した成分のうちの1つまたは組み合わせを有する適切な溶媒中に組み込み、必要な場合、続いて濾過滅菌することによって調製され得る。一般に、分散液剤は、上記活性化合物を、基本的な分散媒および上記で列挙したものとは別の必要とされる成分を含む滅菌ビヒクル中に組み込むことによって調製される。無菌注射用液剤の調製のための無菌散剤・粉剤の場合には、調製方法は、活性成分プラス任意のさらなる所望の成分の粉末を、先に滅菌濾過したその溶液から得る真空乾燥および凍結乾燥である。
【0092】
経口組成物は、一般に、不活性希釈剤または食用のキャリアを含む。それらは、ゼラチンカプセル中に封入され得るかまたは錠剤へと圧縮され得る。経口治療的投与の目的に関しては、上記活性化合物は、賦形剤とともに組み込まれ得、錠剤、トローチ、またはカプセルの形態において使用され得る。経口組成物はまた、洗口液としての使用のための流体キャリアを使用して調製され得、ここで上記流体キャリア中の化合物は、経口適用され、すすいで吐き出されるかまたは嚥下される。薬学的に適合性の結合剤、および/または補助物質は、上記組成物の一部として含まれ得る。錠剤、丸剤、カプセル剤、トローチ剤などは、以下の成分、または類似の性質の化合物のうちのいずれかを含み得る: 結合剤(例えば、微結晶性セルロース、トラガカントガムまたはゼラチン);賦形剤(例えば、デンプンまたはラクトース)、崩壊剤(例えば、アルギン酸、Primojel(登録商標)、またはコーンスターチ);滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム);滑剤(例えば、コロイド性二酸化ケイ素);甘味剤(例えば、スクロースまたはサッカリン);または矯味矯臭剤(例えば、ペパーミント、サリチル酸メチル、またはオレンジ香料)。
【0093】
吸入による投与に関しては、上記化合物は、適切なプロペラント(例えば、二酸化炭素のようなガス)を含む加圧容器もしくはディスペンサー、またはネブライザからエアロゾルスプレーの形態で送達され得る。
【0094】
全身投与はまた、経粘膜的または経皮的手段によるものであり得る。経粘膜的または経皮的投与に関しては、浸透されるべきバリアに適した浸透剤が製剤中で使用され得る。このような浸透剤は、当該分野で一般に公知であり、例えば、経粘膜的投与に関しては、洗浄剤、胆汁塩、およびフシジン酸誘導体が挙げられる。経粘膜的投与は、鼻スプレーまたは坐剤の使用を介して達成され得る。経皮的投与に関しては、上記活性化合物は、当該分野で一般に公知であるとおりの軟膏剤、膏薬、ゲル剤、またはクリーム剤へと製剤化され得る。
【0095】
医薬品はまた、(例えば、従来の坐剤用基剤(例えば、カカオ脂および他のグリセリド)とともに)坐剤の形態で、または直腸送達のための停留浣腸の形態において調製され得る。
【0096】
いくつかの実施形態において、上記活性化合物は、身体からの迅速な排除に対して上記化合物を保護するキャリアとともに調製される(例えば、放出制御製剤(埋込剤(implant)およびマイクロカプセル化送達システムを含む))。生分解性、生体適合性ポリマーが使用され得る(例えば、エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸)。このような製剤を調製するための方法は、当業者に明らかである。上記物質はまた、商業的に得られ得る。リポソーム懸濁物はまた、薬学的に受容可能なキャリアとして使用され得る。
【0097】
投与の容易さおよび投与量の均一性のための投薬単位形態において経口または非経口組成物を製剤化することは、特に有利である。本明細書で使用されるとおりの投薬単位形態は、処置されるべき被験体のための単位投与量として適した物理的に別個の単位に言及する;各単位は、必要とされる医薬キャリアと共同して所望の治療効果を生じるように計算された所定の量の活性化合物を含む。本発明の投薬単位形態についての仕様は、上記活性化合物の特有の特性および達成されるべき特定の治療効果、ならびに個体の処置のためにこのような活性化合物を配合することについての当該分野で固有の制限によって規定されかつこれらに直接的に依存する。
【0098】
いくつかの実施形態において、上記タンパク質は、投与前の再構成するために凍結乾燥形態で提供され得る。例えば、凍結乾燥した抗体分子は、滅菌水中で再構成され得、個体に投与する前に塩類溶液と混合され得る。
【0099】
本明細書で提供される医薬組成物は、投与のための指示と一緒に、容器、パック、またはディスペンサーの中に含められ得る。
【0100】
核酸分子、ベクター、宿主細胞および抗体を生成する方法
本明細書で開示されるタンパク質のアミノ酸配列(またはタンパク質の(i)VHドメイン、(ii)VLドメイン、もしくは(iii)VHドメインおよびVLドメインの両方のアミノ酸配列)をコードする核酸分子(例えば、単離された核酸分子)が、本明細書で提供される。本明細書で開示されるタンパク質の(i)重鎖、(ii)軽鎖、または(iii)重鎖および軽鎖の両方をコードする核酸分子(例えば、単離された核酸分子)が、本明細書でさらに提供される。いくつかの実施形態において、VHドメイン、VLドメイン、重鎖または軽鎖をコードする核酸分子は、シグナル配列を含む(またはリーダーペプチドをコードする)。いくつかの実施形態において、VHドメイン、VLドメイン、重鎖または軽鎖をコードする核酸分子は、シグナル配列を含まない(またはリーダーペプチドをコードしない)。
【0101】
いくつかの実施形態において、上記核酸分子は、リーダーペプチドをコードする配列ありまたはなしの、配列番号27のヌクレオチド配列、配列番号28のヌクレオチド配列、または配列番号27および配列番号28両方のヌクレオチド配列を含む。
【0102】
本明細書で記載される核酸分子を含む発現ベクターがまた、本明細書で提供される。ある特定のベクターにおいて、核酸分子は、宿主細胞における核酸セグメントの発現に適した1またはこれより多くの調節配列に機能的に連結される。いくらかの場合には、発現ベクターは、複製を媒介し、1またはこれより多くの選択マーカーを含む配列を含む。本明細書で使用される場合、「ベクター」とは、宿主細胞において目的の1もしくはこれより多くの遺伝子または配列を送達し得る、好ましくは発現し得る構築物を意味する。ベクターの例としては、ウイルスベクター、裸のDNAもしくはRNA発現ベクター、プラスミド、コスミドもしくはファージベクター、カチオン性縮合剤と会合したDNAもしくはRNA発現ベクター、リポソーム中に被包されたDNAもしくはRNA発現ベクター、およびある特定の真核生物細胞(例えば、プロデューサー細胞)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0103】
本明細書で開示される発現ベクターまたは核酸分子を含む組換え宿主細胞が、本明細書で提供される。「宿主細胞」は、ポリヌクレオチド挿入物の組み込みのためのベクター(複数可)にとってのレシピエントであり得るかまたはレシピエントであった個々の細胞、細胞株または細胞培養物を含む。宿主細胞は、単一の宿主細胞の子孫を含む。上記子孫は、自然の、偶発的な、または計画的な変異に起因して元々の親の細胞に対して(形態においてまたはゲノムDNA相補体において)必ずしも完全に同一でなくてもよい。発現ベクターは、標準的技術によって宿主細胞へとトランスフェクトされ得る。非限定的な例としては、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿、DEAE-デキストラントランスフェクションなどが挙げられる。いくつかの実施形態において、組換え宿主細胞は、本明細書で開示されるタンパク質の重鎖および軽鎖の両方をコードする単一のベクターまたは単一の核酸分子を含む。いくつかの実施形態において、組換え宿主細胞は、(i)本明細書で開示されるタンパク質の重鎖をコードする第1のベクターまたは第1の核酸分子および(ii)本明細書で開示されるタンパク質の軽鎖をコードする第2のベクターまたは第2の核酸分子を含む。
【0104】
本発明の抗体分子、またはその抗原結合部分は、当該分野で周知の技術(例えば、組換え技術、ファージディスプレイ技術、合成技術、計算技術もしくはこのような技術の組み合わせ、または当該分野で容易に公知の他の技術)を使用して生成され得る。
【0105】
本明細書で開示されるタンパク質を生成するための方法であって、上記方法は、本明細書で記載される発現ベクターを含む組換え宿主細胞を、その核酸セグメントが発現される条件下で培養し、それによって、上記タンパク質を生成することを包含する方法が、本明細書でさらに提供される。次いで、上記タンパク質は、上記宿主細胞または培養物から単離され得る。タンパク質を生成する方法であって、方法は、本明細書に開示される発現ベクターを含む組換え宿主細胞を、核酸分子が発現される条件下で培養し、それによって、タンパク質を生成すること;およびタンパク質を宿主細胞または培養物から単離すること、を包含する方法が本明細書で提供される。
【0106】
本明細書で開示されるタンパク質は、当業者に公知の種々の方法のうちのいずれかによって生成され得る。ある特定の実施形態において、本明細書で開示されるタンパク質は、組換え生成され得る。例えば、配列番号25および配列番号26のうちの1またはこれより多くをコードする核酸配列、またはその一部は、細菌細胞(例えば、E.coli、B.subtilis)または真核生物細胞(例えば、S.cerevisiaeのような酵母、あるいはCHO細胞株、種々のCos細胞株、HeLa細胞、HEK293細胞、種々の骨髄腫細胞株、または形質転換されたB細胞もしくはハイブリドーマのような哺乳動物細胞)へと、またはインビトロ翻訳系へと導入され得、その翻訳されたポリペプチドが単離され得る。いくつかの実施形態において、軽鎖タンパク質および重鎖タンパク質は、本明細書で開示される成熟タンパク質の生成の際に除去されるシグナル配列とともに、細胞中で生成される。
【0107】
当業者は、所定のポリペプチド配列を含むタンパク質が、標準的方法論(例えば、ウェスタンブロット、ELISAなど)を使用してPD-L1タンパク質および/またはCD47タンパク質に結合するかどうかを決定し得る
【0108】
活性化可能なタンパク質の医療的使用
がんを有する被験体に治療上の利益を提供するための本明細書で開示される活性化可能なタンパク質、マルチマータンパク質、免疫結合体、および医薬組成物の方法および使用が、本明細書で提供される。
【0109】
本明細書で開示される活性化可能なタンパク質、マルチマータンパク質、免疫結合体、または医薬組成物は、予防的または防止的処置(例えば、被験体に起こっている状態のリスクを低減する;その発症を遅らせる;または発症後のその重篤度を低減するための、被験体における状態の発症前の処置)を含め、ヒトまたは動物の身体の処置の方法において使用され得る。処置の方法は、上記タンパク質、マルチマータンパク質、免疫結合体、または医薬組成物を、投与することを必要とする被験体に投与することを包含し得る。
【0110】
被験体において抗がん免疫応答を増強するための方法であって、方法は、被験体に、治療上有効な量の、本明細書に開示されるタンパク質、マルチマータンパク質、免疫結合体、または医薬組成物を投与することを包含する方法が本明細書で提供される。いくつかの実施形態において、抗がん免疫応答は、T細胞応答である。いくつかの実施形態において、抗がん免疫応答は、補体応答である。
【0111】
被験体においてがんを処置するための方法であって、方法は、被験体に、治療上有効な量の、本明細書に開示されるタンパク質、マルチマータンパク質、免疫結合体、または医薬組成物を投与することを包含する方法が本明細書で提供される。被験体においてがんの症状を改善するための方法であって、方法は、被験体に、治療上有効な量の本明細書に開示されるタンパク質、マルチマータンパク質、免疫結合体、または医薬組成物を投与することを包含する方法が本明細書で提供される。
【0112】
被験体において腫瘍のサイズを減少させるための方法であって、方法は、被験体に、治療上有効な量の本明細書に開示されるタンパク質、マルチマータンパク質、免疫結合体、または医薬組成物を投与することを包含する、方法が本明細書で提供される。
【0113】
被験体において腫瘍の成長を阻害するための方法であって、上記方法は、上記被験体に、治療上有効な量の本明細書で開示されるタンパク質、マルチマータンパク質、免疫結合体、または医薬組成物を投与することを包含する方法が、本明細書で提供される。
【0114】
いくつかの実施形態において、がんは、消化管間質がん(GIST)、膵臓がん、皮膚がん、黒色腫、乳がん、肺がん、気管支がん、結腸直腸がん、前立腺がん、胃がん、卵巣がん、膀胱がん、脳のがん、中枢神経系のがん、末梢神経系のがん、食道がん、子宮頚がん、子宮がん、子宮内膜がん、口腔もしくは咽頭のがん、肝臓がん、腎臓がん、腎細胞癌、精巣がん、胆道がん、小腸がん、虫垂がん、唾液腺がん、甲状腺がん、副腎がん、骨肉腫、軟骨肉腫、または血液組織のがんである。
【0115】
いくつかの実施形態において、上記がんは、固形腫瘍である。いくつかの実施形態において、腫瘍は、消化器腫瘍、膵臓腫瘍、乳房腫瘍、肺腫瘍、気管支腫瘍、結腸直腸腫瘍、前立腺腫瘍、胃腫瘍、卵巣腫瘍、膀胱腫瘍、脳腫瘍、中枢神経系腫瘍、末梢神経系腫瘍、食道腫瘍、子宮頚部腫瘍、子宮腫瘍、子宮内膜腫瘍、口腔または咽頭の腫瘍、肝臓腫瘍、腎臓腫瘍、腎腫瘍、精巣腫瘍、胆道腫瘍、小腸腫瘍、虫垂腫瘍、唾液腺腫瘍、甲状腺腫瘍、または副腎腫瘍である。
【0116】
いくつかの実施形態において、上記がんは、血液のがんである。
【0117】
いくつかの実施形態において、血液組織のがんは、リンパ腫である。いくつかの実施形態において、上記がんは、マントル細胞リンパ腫、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ性白血病、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、急性骨髄性白血病(AML)、Bリンパ性白血病、芽球形質細胞様樹状細胞腫瘍(BPDCN)、またはヘアリー細胞白血病である。
【0118】
本明細書で提供される方法および使用の全ての実施形態において、上記タンパク質は、重鎖および軽鎖を含み得、ここで上記重鎖は、配列番号25のアミノ酸配列を含み;上記軽鎖は、配列番号26のアミノ酸配列を含む。
【0119】
本明細書で使用される場合、用語「有効量」または「治療上有効な量」とは、がんの重篤度および/もしくは継続期間、またはその1もしくはこれより多くの症状を低減または改善する、疾患の進行を防止する、疾患の退縮を引き起こす、疾患と関連する1もしくはこれより多くの症状の再発、発達、発症もしくは進行を防止する、またはがんに関する別の関連する治療(例えば、予防剤または治療剤)の予防的もしくは治療的効果(複数可)を増強もしくは改善するために十分な医薬品(例えば、本明細書で開示されるタンパク質、マルチマータンパク質、免疫結合体、または医薬組成物)の量に言及する。
【0120】
投与される実際の量、ならびに投与の速度および時間経過は、処置されているものの性質および重篤度、処置されている特定の哺乳動物、個々の患者の臨床状態、障害の原因、組成物の送達部位、投与方法、投与スケジュールおよび医療従事者に公知の他の要因に依存する。処置の処方、例えば、投与量の決定などは、一般的な実施者および他の医師の責任の範囲内であり、処置されている疾患の症状および/または進行の重篤度に依存し得る。抗体ベースのタンパク質分子の適切な用量は、当該分野で周知である(Ledermann J.A.ら, 1991, Int. J. Cancer 47: 659-664; Bagshawe K.D.ら, 1991, Antibody, Immunoconjugates and Radiopharmaceuticals 4: 915-922)。具体的な投与量は、本明細書中に、またはPhysician’s Desk Reference(2003)において示され得、投与されている医薬のタイプに関して適宜、使用され得る。治療上有効な量のまたは適切な用量の抗体ベースのタンパク質分子は、そのインビトロ活性およびインビボ活性を動物モデルにおいて比較することによって決定され得る。マウスおよび他の試験動物における有効な投与量をヒトに外挿するための方法は、公知である。正確な用量は、抗体ベースのタンパク質が防止のためであるのか、または処置のためであるのか、処置されるべき領域のサイズおよび位置、抗体ベースのタンパク質の正確な性質、ならびに抗体ベースのタンパク質に結合される任意の検出可能な標識または他の分子の性質を含め、多くの要因に依存する。
【0121】
代表的なタンパク質用量は、全身適用に関しては100μg~1g、および皮内注射に関しては1μg~1mgの範囲にある。最初のより高い負荷用量、続いて、1またはこれより多くのより低い用量が投与され得る。いくつかの実施形態において、上記タンパク質は、IgG1またはIgG4アイソタイプである。成体被験体の単回処置のための用量は、小児および乳児については、比例して調整され得る。処置は、医師の裁量で、毎日、毎週2回、毎週または毎月の間隔で反復され得る。被験体に対する処置スケジュールは、上記タンパク質組成物の薬物動態的および薬力学的特性、投与経路、および処置されている状態の性質に依存し得る。
【0122】
処置は、周期的であってもよく、投与間の期間は、約2週間またはこれより長い、例えば、約3週間またはこれより長い、約4週間またはこれより長い、約1ヶ月に1回またはこれより長い、約5週間またはこれより長い、または約6週間またはこれより長いものであってもよい。例えば、処置は、2~4週間ごとまたは4~8週間ごとであってもよい。処置は、手術の前および/もしくは後に与えられてもよい、ならびに/または手術的処置もしくは侵襲的手順の解剖学的部位に直接投与もしくは適用されてもよい。適切な製剤および投与経路は、上に記載される。
【0123】
いくつかの実施形態において、本明細書で開示されるタンパク質、マルチマータンパク質、免疫結合体、または医薬組成物は、皮下注射として投与され得る。皮下注射は、例えば、長期間の予防/処置のために、オートインジェクターを使用して投与され得る。
【0124】
いくつかの実施形態において、本明細書で開示されるタンパク質、マルチマータンパク質、免疫結合体、または医薬組成物の治療効果は、用量に依存して、数半減期(several half-lives)にわたって持続し得る。例えば、本明細書で開示されるタンパク質、マルチマータンパク質、免疫結合体、または医薬組成物の単一用量の治療効果は、1ヶ月もしくはこれより長く、2ヶ月もしくはこれより長く、3ヶ月もしくはこれより長く、4ヶ月もしくはこれより長く、5ヶ月もしくはこれより長く、または6ヶ月もしくはこれより長く、被験体において持続し得る。
【0125】
いくつかの実施形態において、被験体は、本明細書で開示されるタンパク質、マルチマータンパク質、免疫結合体、または医薬組成物、およびがんまたはがんの症状もしくは合併症を処置するために使用されるさらなる治療剤または治療で処置され得る。本明細書で開示されるタンパク質、マルチマータンパク質、免疫結合体、または医薬組成物および上記さらなる治療剤または治療は、同時にまたは順次、投与され得る。
【0126】
いくつかの実施形態において、被験体は、ヒト、非ヒト霊長類、ブタ、ウマ、ウシ、イヌ、ネコ、モルモット、マウスまたはラットである。いくつかの実施形態において、被験体は、成人である。いくつかの実施形態において、被験体は、小児である。
【0127】
医薬としての使用のための、本明細書で開示されるタンパク質、マルチマータンパク質、免疫結合体、または医薬組成物が本明細書で提供される。
【0128】
疾患または障害の処置における使用のための、本明細書で開示されるタンパク質、マルチマータンパク質、免疫結合体、または医薬組成物が、本明細書でさらに提供される。
【0129】
被験体において抗がん免疫応答を増強することにおける使用のための、本明細書に開示されるタンパク質、マルチマータンパク質、免疫結合体、または医薬組成物が本明細書で提供される。
【0130】
被験体においてがんを処置することにおける使用のための、本明細書に開示されるタンパク質、マルチマータンパク質、免疫結合体、または医薬組成物が本明細書で提供される。
【0131】
被験体においてがんの症状を改善することにおける使用のための、本明細書に開示されるタンパク質、マルチマータンパク質、免疫結合体、または医薬組成物が本明細書で提供される。
【0132】
がんが、消化管間質がん(GIST)、膵臓がん、皮膚がん、黒色腫、乳がん、肺がん、気管支がん、結腸直腸がん、前立腺がん、胃がん、卵巣がん、膀胱がん、脳のがん、中枢神経系のがん、末梢神経系のがん、食道がん、子宮頚がん、子宮がん、子宮内膜がん、口腔もしくは咽頭のがん、肝臓がん、腎臓がん、腎細胞癌、精巣がん、胆道がん、小腸がん、虫垂がん、唾液腺がん、甲状腺がん、副腎がん、骨肉腫、軟骨肉腫、または血液組織のがんである、被験体においてがんの症状を改善することにおける使用のための、本明細書に開示されるタンパク質、マルチマータンパク質、免疫結合体、または医薬組成物が本明細書で提供される。
【0133】
被験体において腫瘍のサイズを低減することにおける使用のための、本明細書に開示されるタンパク質、マルチマータンパク質、免疫結合体、または医薬組成物が本明細書で提供される。
【0134】
被験体において腫瘍の成長を阻害することにおける使用のための、本明細書に開示されるタンパク質、マルチマータンパク質、免疫結合体、または医薬組成物が本明細書で提供される。
定義
【0135】
別段注記されなければ、本明細書で使用される用語は、当該分野で通常使用されるとおりの定義を有する。いくつかの用語が以下に定義され、さらなる定義は、詳細な説明の残りの部分の中で見出され得る。
【0136】
用語「1つの、ある(a)」または「1つの、ある(an)」とは、その実体のうちの1またはこれより多くのものに言及する、すなわち、複数の指示対象に言及し得る。よって、用語「1つの、ある(a)」、「1つの、ある(an)」、「1またこれより多くの」、および「少なくとも1」は、本明細書で交換可能に使用される。さらに、不定冠詞「1つの、ある(a)」または「1つの、ある(an)」による「ある要素(an element)」への言及は、文脈が唯一の上記要素が存在することを明確に要求しなければ、1より多くの上記要素が存在する可能性を排除しない。
【0137】
別段述べられなければ、または文脈から別段明らかでなければ、用語「約」は、報告された数値の上下10%以内を意味する(このような数字が、可能な値の100%を超えるかまたは0%を下回る場合は除く)。値の範囲または一連の値とともに使用される場合、用語「約」は、別段示されなければ、その範囲の端点またはその一連の値中で列挙された値の各々に適用される。本出願において使用される場合、用語「約」および「およそ(approximately)」は、等価として使用される。
【0138】
本明細書で使用される場合、用語「配列同一性」とは、2つの最適に整列されたポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列が、残基、例えば、ヌクレオチドまたはアミノ酸のアラインメントの範囲全体を通して不変である程度に言及する。試験配列および参照配列の整列させたセグメントに関する「同一性割合(identity fraction)」は、その2つの整列させた配列によって共有される同一残基の数を、参照配列セグメント、すなわち、参照配列全体または参照配列のより小さな定義された部分における全残基数で除算したものである。「パーセント同一性」は、その同一性割合×100である。パーセンテージ同一性は、デフォルトパラメーターを使用してアラインメントプログラムClustal Omega(ebi.ac.uk/Tools/msa/clustaloで入手可能)を使用して計算され得る。Sieversら, 「Fast, scalable generation of high-quality protein multiple sequence alignments using Clustal Omega」(2011 October 11) Molecular Systems Biology 7:539を参照のこと。配列に対する同一性を計算する目的では、伸長(例えば、タグ)は、含まれない。
【0139】
本明細書で使用される場合、用語「HCDR」とは、重鎖相補性決定領域をいう。本明細書で使用される場合、用語「LCDR」とは、軽鎖相補性決定領域をいう。
【0140】
本明細書で使用される場合、用語「保存的置換」とは、あるアミノ酸を、機能的活性を顕著に有害に変化させない別のアミノ酸で置き換えることに言及する。「保存的置換」の好ましい例は、1つのアミノ酸の、以下のBLOSUM 62置換マトリクス(Henikoff & Henikoff, 1992, PNAS 89: 10915-10919を参照のこと)において≧0の値を有する別のアミノ酸での置き換えである:
【表4】
【0141】
用語「免疫結合体(immunoconjugate)」とは、細胞毒性薬剤、細胞増殖抑制剤および/または治療剤にコンジュゲートされた本開示のタンパク質に言及する。
【0142】
用語「単離された分子」(ここでその分子は、例えば、タンパク質、核酸、ポリヌクレオチド、または抗体である)は、その起源または派生物の供給源によって、(1)その天然の状態においてそれに付随する天然に関連する構成成分と会合していない、(2)同じ種に由来する他の分子を実質的に含まない、(3)異なる種に由来する細胞によって発現される、または(4)天然に存在しない分子である。従って、化学合成されるか、またはそれが天然に由来する細胞とは異なる細胞システムにおいて発現される分子は、その天然に会合した構成成分から「単離され」る。分子はまた、当該分野で周知の精製技術を使用して、単離によって、天然に会合した構成成分を実質的に含まないようにされ得る。分子純度または均一性は、当該分野で周知の多くの手段によってアッセイされ得る。例えば、ポリペプチドサンプルの純度は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動を使用し、当該分野で周知の技術を使用してそのゲルを染色してポリペプチドを可視化することでアッセイされ得る。ある特定の目的のために、HPLCまたは精製のための当該分野で周知の他の手段を使用して、より高い分離能が提供され得る。
【0143】
用語「阻害する」、「遮断する」または「中和する」とは、本明細書で開示されるタンパク質の生体活性に関して本明細書で使用される場合、上記タンパク質が、PD-1へのPD-L1の結合、またはSIRPαへのCD47の結合が挙げられるが、これらに限定されない、阻害されているものの例えば、進行、強度または重篤度を実質的に拮抗する、禁止する、抑制する、遅らせる、破壊する、排除する、停止させる、低減する、または逆行させる能力を意味する。
【0144】
本明細書で使用される場合、用語「処置する」、「処置すること(treating)」または「~の処置(treatment of)(およびその文法上のバリエーション)は、被験体の状態の重篤度が低減される、少なくとも部分的に改善される、もしくは安定化されること、および/または少なくとも1つの臨床症状のいくらかの緩和、軽減、減少もしくは安定化が達成されること、および/または疾患もしくは障害の進行において遅延が存在することを意味する。
【0145】
PD-L1はまた、プログラム細胞死リガンド1(programmed cell death ligand 1)、CD274、B7-H、B7H1、PDCD1L1、PDCD1LG1、PDL1、およびhPD-L1としても公知である。
【0146】
CD47は、インテグリン関連タンパク質、IAP、MER6、および抗原性表面決定基タンパク質(Antigenic Surface Determinant Protein) OA3としても公知である。
【0147】
本明細書で使用される場合、および別段述べられなければ、用語「ヒンジリンカー」、「リンカー」、「ヒンジ」、「第1のリンカー」および「第2のリンカー」、およびそれらの派生物は、例えば、2つのポリペプチドを、例えば、異なるFab領域のポリペプチドを連結し得、かつ本発明のタンパク質の一部であり得る免疫グロブリンヒンジ領域における任意のヒンジ配列とは別個である免疫グロブリンヒンジ領域に由来する配列に言及する。
【0148】
本明細書で使用される場合、用語「防止する」、「防止すること(preventing)」および「防止」(およびその文法上のバリエーション)とは、被験体における疾患、障害および/もしくは臨床症状(複数可)の発症の防止および/もしくは遅延、ならびに/または本明細書で記載される組成物および/もしくは方法の非存在下で起こるものに対して疾患、障害および/もしくは臨床症状(複数可)の発症の重篤度の低減に言及する。防止は、完全であり得る(例えば、その疾患、障害および/もしくは臨床症状(複数可)が完全に存在しない)。上記防止はまた、上記被験体における疾患、障害および/もしくは臨床症状(複数可)の発症、ならびに/または本明細書で記載される組成物および/もしくは方法の非存在下で起こるものより発生の重篤度が小さいように、部分的であり得る。
【0149】
本明細書で使用される場合、「治療上有効な量」とは、被験体において疾患もしくは障害を処置するために、またはその徴候もしくは症状を改善するために有効である、本明細書で提供されるタンパク質または医薬組成物の量である。「治療上有効な量」とは、例えば、疾患および/または疾患の症状、疾患および/または疾患もしくは障害の症状の重篤度、処置されるべき患者の年齢、体重、および/もしくは健康状態、ならびに処方医の判断に依存して変動し得る。
【0150】
本明細書で使用される節の見出しは、構成上の目的に過ぎず、記載される主題を限定するとして解釈されるべきではない。
【0151】
本開示は、以下の実施例によってさらに明確にされ、実施例は、本開示の単に例示であって限定であるとは決して意図されない。
【実施例】
【0152】
実施例
最適化された条件付きで活性な治療用抗体の生成
緒言
この実施例において、本発明者らは、最適化された条件付きで活性な抗体(LB101; 表1に提供される配列)を成功裡に生成し、その有用性を証明した。この条件付きで活性な抗体は、十分に発現され、生物物理学的に安定で、高度に可溶性であり、抗PD-L1 IgG形式抗体と比較して、改善された生物学的効力を示した。
【0153】
材料および方法
タンパク質のクローニング、一過性発現、精製、および特徴づけ
抗体をコードするDNA配列を、別個のプラスミドベクター中の別個のヒトIgG1重鎖および軽鎖定常領域をコードする発現カセットへと制限-ライゲーションクローニングを介してクローニングして、発現のための活性化可能な構築物を作製した。生成した抗体を、AKTA Pure 150 L FPLCシステム上のHiTrap MabSelect Sure Protein A 5mLカラムを使用して、清澄にした上清から捕捉した。溶離したタンパク質ピークを、その溶離したプロテインAピーク画分をHiPrep 26/10脱塩カラム上に直接載せることによって、1×PBS(pH 7.4)へと直ぐに緩衝液交換した。タンパク質濃度を、280nmでの吸光度を測定することによって決定し、各精製タンパク質のうちの1μgを、4-20% TGXポリアクリルアミド勾配ゲル(BioRad, Cat. nr. 456-1093)と1×Tris/グリシン/SDS緩衝液とを使用して、還元条件および/または非還元条件下で1時間にわたって120V電界で分離されるSDS-PAGEによって分析した。非共有結合的に結合した凝集物の存在に関して試験し、SDS PAGE分析を補足するために、分析用のサイズ排除クロマトグラフィーを行った。選択したクローンのアリコートを、Superdex 200 Increase 10/300 SECカラムおよび泳動緩衝液として1×PBS(pH 7.4)をイソクラティックモードで使用する分析用のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって分析した。選択したタンパク質を、分取用SECを使用してさらに精製した。1mlまでの抗体サンプルを、1×PBS(pH 7.4)で平衡化したSuperdex 200 Increase 10/300 SECカラムまたはHiLoad 26/600 Superdex 200pgカラムに載せた。目的のピークの1ml画分を集め、主要ピーク画分をプールした。サイズ排除クロマトグラフィーの後に、そのサンプルを再び、上記のように、SDS-PAGEによって分析した。
【0154】
メタロプロテアーゼ消化
タンパク質構築物を、0~24時間にわたって、37℃において、ヒトマトリクスメタロプロテアーゼ(MMP)酵素MMP12とともに、タンパク質構築物に対する1%の総MMPの比(wt/wt)で、5mM CaCl2を含むTris緩衝塩類溶液(pH7.4)中でインキュベートした。その反応を、20mM EDTAの添加によって停止させ、次いで、サンプルを、記載されるように結合または機能的活性に関して試験した。
【0155】
IgG滴定結合ELISA
ELISAプレートをコーティングするために、標的タンパク質を、PBS(pH7.4)中で1μg/mlへと希釈し、4℃で一晩、100μl/ウェル添加した。コーティングしたプレートを、PBS(pH7.4)で3回洗浄し、PBS中4% スキムミルクタンパク質で、1時間室温(RT)においてブロッキングし(380μl/ウェル)、次いで、PBS-Tween 20(PBST)で5回洗浄した。次いで、抗体(100μl/ウェル;PBST中で希釈)を添加し、次いで、1時間、RTでインキュベートした。次いで、プレートをPBSで3回洗浄し、RTで1時間、ヤギ抗ヒトIgG-HRPを添加した(100μl/ウェル)。次いで、プレートを、PBSTで3回、PBSで2回洗浄し、その後、100μl TMB/ウェルを添加した。反応を、100μl 2M H2SO4/ウェルを添加することによって停止させ、450nmにおいてプレートリーダーでODを読み取った。
【0156】
貪食作用効力アッセイ
末梢血単核細胞(PBMC)を、密度勾配遠心分離によって全血から単離した。CD14陽性PBMCを、引き続いて、CD14マイクロビーズを使用する磁性細胞単離を介して単離した。並行して、がん細胞を、緑色CFSE(カルボキシ-フルオレセインジアセテート,スクシンイミジルエステル)細胞追跡色素を使用して標識した。合計で6.25×105 標識Jurkat細胞を、1時間、37℃において、5% CO2を含む加湿雰囲気中、96ウェルプレートにおいてUH2抗体の存在下でプレインキュベートした。インキュベーション後、2.5×105 CD14陽性細胞を各ウェルに添加し、さらに1時間、同じ培養条件下でインキュベートした。細胞を激しくピペット操作することによって採取し、生存率色素で染色し、10分間、氷冷4%パラホルムアルデヒドを使用して固定した。固定後、細胞を、Fcレセプター結合インヒビターモノクローナル抗体(Fc receptor binding inhibitor monoclonal antibody)で10分間ブロックし、次いで、Alexa Fluor 647(AF647)結合体化抗ヒトCD11b抗体とともに室温において30分間インキュベートし、さらに、4% パラホルムアルデヒド中、5分間固定した。細胞を、CFSEおよびAF647蛍光強度データとともに、側方散乱特性および前方散乱特性を記録するBD Fortessaフローサイトメーターで分析した。簡潔には、細胞デブリを、散乱特性(SSC-面積×FSC-面積)によってゲートアウトした。単一細胞をまた、SSC-面積×SSC-高さによって、次いで、FSC-面積×FSC-高さによってゲートした。残りの単一細胞集団から、CFSEおよびCD11b二重陽性細胞を、ビヒクル処理試験においてCD11b陽性細胞の集団に基づいて配置された象限ゲートを使用してゲートした。CD11b陽性集団からのCFSE陽性細胞のパーセンテージを計算し、プロットした。
【0157】
hPD-L1+ MC38同系腫瘍を有するC57B6/hPD-L1/hPD1マウスにおけるインビボ有効性分析
インビボ複数回投与有効性試験において、IgG1アイソタイプであるアテゾリズマブ、およびLB101を各々、マウスがん細胞株MC38(ヒトPD-L1で安定してトランスフェクトされた)を皮下接種することによって生成した腫瘍を有する、ヒトPD-L1およびPD1に関してトランスジェニックのC57B6マウスにおいて6回(0日目、3日目、6日目、9日目、12日目、15日目に)投与した。腫瘍がいったん>100mm2を確立した後に、投与を開始した。腫瘍容積を、ノギスでの測定によって測定した。次いで、この試験の反復を、LB101の全用量滴定(0.3mg/kg、1.5mg/kg、4.5mg/kgおよび8.5mg/kg)を用いて上記のように行った。
【0158】
PD1/PD-L1細胞ベースの拮抗作用アッセイ
PD1/PD-L1遮断細胞ベースのバイオアッセイ(Promega)を使用して、PD1/PD-L1相互作用の遮断における抗体の効力を測定した。そのアッセイの前日に、PD-L1 aAPC/CHO-K1細胞を融解し、細胞回収培地(90% Ham’s F12/10% FBS)へと移した。その細胞懸濁物を、2枚の96ウェル白色平底アッセイプレートの内側の60ウェルの各々に、100μl/ウェルで分注した。細胞回収培地を、その外側のウェルの各々およびそのアッセイプレートに添加し、37℃/5% CO2で一晩インキュベートした。アッセイの当日に、サンプルIgGを、アッセイ緩衝液(99% RPMI 1640/1% FBS)中で、100nMから0.01nMへと4倍希釈し、希釈あたり40μlを、PD-L1 aAPC/CHO-K1細胞を含むアッセイプレートへと添加した。そうすると、陽性阻害コントロールは、アテゾリズマブ 抗PD-L1抗体であった。陰性阻害コントロールとして、IgG1アイソタイプを含めた。次いで、PD1エフェクター細胞を、アッセイ緩衝液(99% RPMI 1640/1% FBS)中で融解し、細胞懸濁物を、PD-L1 aAPC/CHO-K1細胞およびIgG滴定サンプルを含むアッセイプレートのウェルに添加した。そのアッセイプレートを、6時間、37℃/5% CO2インキュベーター中でインキュベートし、5~10分間、周囲温度へと平衡化させ、次いで、80μlのBio-GloTM Reagent(Promega)を添加した。アッセイプレートを周囲温度でさらに5~30分間インキュベートし、引き続いて、発光シグナルを10分、20分および30分で測定した。
【0159】
ヒトFcγレセプターへのLB101の結合の評価
高親和性および低親和性ヒトFcγレセプターへの試験抗体の結合を、流速30μl/分で泳動するBiacore(登録商標) T200を使用する単一サイクル分析によって評価した。ヒトFcレセプター、FcγRI、FcγRIIA(ともに、167Rおよび167H多形)、FcγRIIB、FcγRIIIA(ともに176Fおよび176V多形)およびFcγRIIIBを、標準的なアミン化学反応を使用するHis捕捉キットを使用して先に結合させたCM5センサーチップ上に捕捉した。各濃度間で再生なしの試験抗体(分析物)の5点3倍希釈範囲を、試験した各レセプターに対して使用した。全ての場合に、試験抗体を、30μl/分において漸増濃度でチップ上を通過させ、続いて、1回の解離ステップを行った。解離後、そのチップをグリシン(pH 1.5)の注入で再生した。参照チャネルFc1(ブランク)からのシグナルを、参照表面への非特異的結合における差異を補正するために、レセプターを負荷したFcのシグナルから差し引いた。センサーグラムを、高親和性FcγレセプターhFcγRIに関しては1:1キネティクスで、および低親和性Fcγレセプターに関しては定常状態結合によって分析した。
【0160】
ヒトおよびマウスCD47へのLB101の結合に関する親和性分析
ヒトおよびマウスCD47へのLB101、16時間MMP12消化後のLB101、および陽性コントロール抗CD47 Fab(LB101において使用される可変ドメイン配列を使用する組換えFab)の結合を評価するために、マルチサイクル動態分析を、25℃においてBiacore(登録商標) T200で行った。0.1% BSAを補充したHBS-P+を、泳動緩衝液として、ならびにリガンドおよび分析物希釈のために使用した。LB101抗体およびコントロール抗CD47 Fabサンプルを、泳動緩衝液中で1.0μg/mLへと希釈し、各サイクルの開始時に、標準的なアミン化学反応を使用して抗ヒトFab捕捉抗体を先に結合させたシリーズS CM5チップのFc2、Fc3およびFc4に載せた。リガンドを流速10μl/分で捕捉して、約60 RUの固定化レベル(RL)がもたらされた。次いで、その表面を安定化させた。マルチサイクル動態データを、流速30μl/分で分析物を注入した場合にヒトまたはマウスCD47のいずれかを使用して得た。ヒトCD47に関して50.0nM~0.39nMの8点2倍希釈範囲を、およびマウスCD47に関して500.0nM~3.9nMを、泳動緩衝液中に調製した。各濃度に関して、会合相を180秒間モニターし、解離相を300秒間測定した。センサーチップ表面の再生を、10mM グリシン(pH 2.1)を使用してサイクル間に行った。参照チャネルFc1(リガンドは捕捉されない)からのシグナルを、バルク効果および参照表面への非特異的結合における差異を補正するために、Fc2-4のシグナルから差し引いた。各CD47ブランク実行からのシグナル(リガンドは捕捉されるが、抗原は捕捉されない)を、表面安定性における差異について補正するために差し引いた。ヒトCD47結合を、抗体と抗原との間の高親和性相互作用に起因して、1:1結合分析を使用して分析した。マウスCD47結合を、定常状態分析を使用して分析した。
【0161】
結果および考察
タンパク質構築物設計原理
CD47標的化薬物における有効性を制限する重要な問題は、このタンパク質が身体において多くの異なる細胞クラスで発現されることである(例えば、赤血球、血小板、および内皮細胞(とりわけ))。このオフ腫瘍標的発現はしばしば、用量制限副作用リスクおよび抗原「シンク」効果をもたらす。CD47「シンク」は、(大用量のIgGが与えられる場合ですら)腫瘍に浸透する薬物の量を最小化する。抗CD47による血球の結合はまた、重大な毒性リスクであり、患者において複数の形態の血球減少症およびさらには血球凝集を潜在的に引き起こす。これらの要因は、抗CD47抗体の潜在的な安全性および有効性を最小化する。
【0162】
LB101 抗PD-L1/CD47タンパク質構築物(
図1)は、病変組織の外側のCD47の結合を最小化することによって、末梢シンクおよび毒性問題を克服することを目的とする。この効果は、CD47結合ドメインの上(n末端側)にPD-L1およびリンカーを付加することによって達成される。適切な上側のドメイン/リンカー組み合わせの使用は、下側のCD47ドメインにおいて結合活性を完全に遮断する構成をもたらす。次いで、PD-L1ドメインは、PD-L1富化腫瘍微少環境において高濃度化を推進し、上記タンパク質構築物リンカーシステムは、固形腫瘍において一般的である上昇したMMPおよびカテプシン活性を利用して、リンカーペプチドを切断し、CD47結合ドメインを露出させ、それによって、末梢ではなく腫瘍においてCD47結合活性を条件付きで活性化する。LB101の上記組み合わせた生物学的機能は、それによって、
図2に概説されるように、上記分子に、がん細胞に対する自然免疫および適応免疫両方の応答を増強する潜在性をもたらす。
【0163】
LB101設計は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgE、IgM、またはIgAに由来する配列に基づいてもよく、エフェクター機能能力を有してもよいし、有しなくてもよい。この構築物において、4本のポリペプチド鎖が、4つのFabドメイン(2×Fab A、2×Fab B)、4つのリンカー配列をコードし、免疫グロブリンヒンジ領域およびFcドメインを有してもよいし、有しなくてもよい。LB101設計におけるリンカーは、タンパク質分解的に切断可能であり、かつ順次切断され得る。最初の「速い」切断によって、インタクトな構造をとり、中間の活性状態を作り出し、これは、単一のタンパク質構築物に由来するFab AおよびFab Bが、それらの同族標的を結合することを可能にする。免疫グロブリンヒンジ配列に由来する切断されたリンカーはまた、内因性抗ヒンジ抗体を介して、細胞膜において増大した免疫エフェクター機能(ADCC、CDCおよびADCP)を動員し得る。これは、根底にある自己反応性疾患を有する(およびさらには有しない)ヒト患者において既知の現象である。
【0164】
タンパク質構築物クローニング、発現、および特徴づけ
LB101を生成するために、各構築物タイプ(表1)のDNAカセットを合成し、ヒトIgG1重鎖および軽鎖をコードする発現ベクターへとクローニングした。本明細書で開示されるタンパク質構築物において使用される抗PD-L1可変ドメイン配列は、米国特許第7,943,743 B2号に提供される可変ドメイン配列である。本明細書で開示されるタンパク質構築物において使用される抗CD47可変ドメイン配列は、米国特許第10,683,350 B2号において提供される。上記タンパク質を、CHO細胞の一過性のトランスフェクションによって生成し、次いで、プロテインA親和性およびサイズ排除クロマトグラフィーによって精製した。その精製したタンパク質は、SDS-PAGE(
図3A)および分析用サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)(
図3B)によって高純度および均一性を明らかに示し、LB101構築物が、単一のプロセスにおいてインタクトな安定な生成物として発現および精製され得ることを明らかに示した。
【0165】
LB101インビトロ機能的特徴づけ
精製LB101タンパク質を、ヒトMMP12酵素の存在下または非存在下で37℃において0時間、2時間、4時間、8時間、または24時間インキュベートし、次いで、ELISAによって、ヒトPD-L1およびヒトCD47のその結合シグナルに関して試験した(
図4)。全てのサンプルは、ヒトPD-L1に対して高い結合シグナルを示し、PD-L1を結合するLB101ドメインが完全に活性であることを明らかに示した。MMP12が付加されなかったサンプルは、CD47に関するいかなる結合シグナルをも示さなかった。MMP12との2時間、4時間、8時間および24時間のインキュベーションは、CD47結合の増加を明らかに示し、これは、この結合シグナルが、PD-L1とCD47ドメインとの間のリンカーの切断によって誘導されることを示唆していた。
【0166】
MMP12活性化LB101によるCD47結合および遮断の影響を調べるために、CFSE標識A549細胞(これは、PD-L1およびCD47を発現する)を、滴定したIgG1アイソタイプ、CD47 IgG4、MMP12処理なしのLB101、4時間にわたるMMP12処理ありのLB101、およびビヒクルの存在下で、新鮮に単離したヒトCD14+ 細胞と混合した。貪食作用を受けている骨髄系細胞を、フローサイトメトリーにおいてCD11b/CFSE染色によって観察した(
図5A)。この分析は、全てのサンプルがCD47 IgG4陽性コントロールおよびMMP12処理ありのLB101以外に弱い貪食作用引き起こしたかまたは引き起こさないことを示し、LB101の貪食作用促進能力が酵素活性化に依拠することを明らかに示した。次いで、この貪食作用アッセイを、標的細胞としてPD-L1+/CD47+ 骨髄系細胞株HELを使用して反復した。これもまた、全てのサンプルが、CD47 IgG4陽性コントロールおよびMMP12処理ありのLB101以外に弱い貪食作用を引き起こしたかまたは引き起こさず、LB101の貪食作用促進能力が酵素活性化に依拠すること、およびLB101のPD-L1結合活性が、単独では、強い貪食活性を駆動するために不十分であることをさらに明らかに示した。
【0167】
MC38同系腫瘍環境におけるインビトロ有効性分析
インビトロ複数回投与有効性試験において、等モル用量のアイソタイプコントロールIgG1(5mg/kg)、LB101(8.5mg/kg)およびアテゾリズマブ(5mg/kg)を各々、マウスがん細胞株MC38(ヒトPD-L1で安定してトランスフェクトされた)を皮下接種することによって生成した腫瘍を有する、ヒトPD-L1およびPD1に対してトランスジェニックなC57B6マウスにおいて6回(3日ごとに)投与した。腫瘍がいったん>100mm
2を確立した後に、投与を開始し、動物を、3000mm
2のカットオフで試験から外した。腫瘍容積を、ノギスでの測定によって測定した(
図6A)。この試験は、IgG1アイソタイプコントロールがMC38腫瘍の迅速かつ均一な伸長(outgrowth)を可能にし、この群において0/16の動物が腫瘍退縮を示すことを明らかに示した。アテゾリズマブ群に関しては、腫瘍成長はその群で遅くなったが、その群において1/16のみが、腫瘍退縮を示した。LB101群では、対照的に、腫瘍成長がその群で強く阻害され、14/16が腫瘍退縮を示した。この効力差異は、より高用量のアテゾリズマブ(10mg/kg)およびLB101(17mg/kg)においても繰り返され、生存率は上記で概説した5mg/kg群および8.5mg/kg群の生存率に類似していた(
図6B、
図6C)。これは、高用量のアテゾリズマブすら、LB101に関して観察された効力を達成できないことを示した。従って、8.5mg/kgという中用量でのLB101の高い効力は、
図2に概説されるように、MC38腫瘍微少環境においてプロテアーゼ活性化によって駆動され、PD-L1およびCD47遮断がもたらされ、ならびに適応免疫および自然免疫の両方の関与が刺激される可能性が最も高い。この解釈は、5mg/kg群および8.5mg/kg群における個々のマウスの腫瘍成長曲線の分析によってさらに裏付けられた(
図6D)。ここで例えば、15日目(投与終了したとき)後から10日間、いくらかの腫瘍が退縮し続けることが観察された。
【0168】
次いで、この試験の繰り返しを、上記のように、しかしLB101の全用量滴定を用いて行った。LB101 対 アイソタイプコントロールIgGの用量滴定分析において、0.3mg/kg用量および1.5mg/kg用量はともに、有効性がそれほどではないことが見出されたが、4.5mg/kgで強い腫瘍成長阻害が、8.5mg/kgでは最も強い活性が観察された(
図6E)。
【0169】
LB101のPD-L1生体活性
アイソタイプコントロール、アテゾリズマブおよびLB101 IgGを、Promega PD1細胞シグナル伝達バイオアッセイにおいてPD-L1/PD1シグナル伝達を拮抗する能力に関して試験した(
図7)。この分析において、IgG1アイソタイプは、PD-L1/PD1結合を遮断しなかったが、アテゾリズマブおよびLB101(1時間または2時間のMMP12処理ありまたはなし)は、同様に強力なシグナル伝達阻害を示した。
【0170】
MC38同系腫瘍環境における「再チャレンジ」分析
「再チャレンジ」実験を行うために、ナイーブトランスジェニックhPD-L1/hPD1 C57B6マウス(コントロール群, n=10)、およびLB101(8.5mg/kg, n=13)またはLB101(17mg/kg, n=9)で処置した場合に完全なhPD-L1+ MC38腫瘍退縮を以前に示した非ナイーブマウス(
図6A、
図6B)に、hPD-L1+ MC38細胞を再移植し、腫瘍成長を18日間にわたって測定した(
図8)。この分析は、LB101処置動物が腫瘍を成長させないことを明らかに示した。対照的に、全てのコントロール動物(10/10)は、18日目までに330~1100mm
3の範囲のサイズを有する腫瘍を確立した。28日目までに、全てのコントロール動物(10/10)は、およそ3000mm
3の平均サイズを有する腫瘍を確立したが、全てのLB101動物は、腫瘍がないままであった(
図9)。
【0171】
MC38同系腫瘍環境におけるLB101免疫調節効果の分析
コントロールと比較して腫瘍におけるLB101の免疫調節効果を調べるために、等モル用量のアイソタイプコントロール IgG1(5mg/kg)、LB101(8.5mg/kg)およびアテゾリズマブ(5mg/kg)を各々、マウスがん細胞株MC38(ヒトPD-L1で安定してトランスフェクトされた)を皮下接種することによって生成した腫瘍を有する、ヒトPD-L1およびPD1に関してトランスジェニックのC57B6マウス(n=8マウス/群)において4回(3日ごとに)投与した。腫瘍がいったん>100mm
2を確立した後に、投与を開始した。4回投与の後に、全てのマウスからの腫瘍サンプルを抽出し、免疫細胞浸潤レベルをフローサイトメトリーによって測定した。LB101は、腫瘍においてIgGアイソタイプと比較して、CD4+ およびCD8+ T細胞ならびにナチュラルキラー(NK)細胞の有意な(p<0.05)増加を、ならびに免疫抑制性骨髄系由来サプレッサー細胞およびマクロファージの低減を誘導した(
図10)。重要なことには、LB101はまた、腫瘍においてアテゾリズマブと比較して、CD8+ T細胞の有意な(p<0.05)増加を、および免疫抑制性m-MDSCおよびM2マクロファージの低減を誘導した。これは、標準的な抗PD-L1 IgGと比較して、LB101によって測定される免疫調節の効力の差別化を図示する(
図10)。
【0172】
カニクイザルにおけるLB101薬物動態および安全性の分析
カニクイザルにおけるLB101の用量範囲設定(DRF)試験を、薬物動態および安全性パラメーターを確立するために行った。雄性および雌性のサルに、5mg/kg、20mg/kgまたは50mg/kgのLB101において、7日ごとに1回、4回投与した。血液サンプルを採取し、LB101薬物動態の測定を行った(
図11A)。これは、LB101が投与後7日間にわたって線形的な用量依存性濃度を示すことを明らかに示した。体重測定(
図11B)は、いかなる動物においてもいかなる体重減少をも示さなかった。最も重要なことには、赤血球レベル(RBC、
図11C)、ヘモグロビンレベル(HBG、
図11D)、血小板レベル(
図11E)および好中球レベル(
図11F)のような、CD47遮断に起因して変化のリスクがあることが公知の因子は、全投与スキームにおいて全て変化しないままであり、正常レベルの範囲内であった。これらの所見は、LB101のCD47結合能力が、実際に末梢において完全に制限され、LB101の活性化レベルが極めて低いことを明らかに示した。なぜならCD47遮断IgGは、非線形的なPK、および1mg/kgを上回る用量において重篤な貧血と関連するからである。
【0173】
ヒトFcγレセプターへのLB101の結合の評価
コントロール抗体、LB101、およびMMP12で消化したLB101の高親和性および低親和性ヒトFcγレセプターへの結合を、Biacore(登録商標)バイオセンサー技術を使用して調べた(表2)。陽性コントロールヒトIgG1であるトラスツズマブの有意な結合が、高親和性および低親和性両方のヒトFcγレセプターに対して観察された。LB101は、全てのレセプターに関して、トラスツズマブに類似の親和性で結合することが見出された。全体的に、MMP12で2時間消化したLB101は、たとえMMP12消化したLB101が、hFcγRIIA167およびhFcγRIIBに対してわずかに低減した親和性(KD>3倍)を示したとしても、LB101に類似の親和性で全てのFcγレセプターに結合する能力を保持した(表2)。
【表2】
【0174】
ヒトおよびマウスCD47へのLB101の結合に関する親和性分析
表3は、ヒトおよびマウスCD47へのLB101、16時間 MMP12消化後のLB101、および陽性コントロール抗CD47 Fabに関するデータをまとめる。LB101サンプルは、ヒトまたはマウスCD47のいずれへの結合も明らかに示さなかった。ロックを解除したLB101(16時間消化)は、ヒトおよびマウス両方のCD47に結合した。マウスCD47に対する親和性は、ヒトCD47に対する親和性より低いことが見出されたことから、定常状態分析法を使用してK
D値を得た。
【表3】
NB = 結合は観察されなかった
NA = 適用可能でない(定常状態結合法)
【0175】
本発明は、その好ましい具体的な実施形態とともに記載されてきたが、前述の説明および続く実施例は、本発明の範囲の例証であって限定ではないことが意図されることが理解されるべきである。種々の変更が行われ得ること、および等価物が本発明の範囲から逸脱することなく置換され得ること、およびさらには、他の局面、利点および改変が、本発明が属する分野の当業者に明らかであることは、当業者によって理解される。本明細書で記載される実施形態に加えて、本発明は、本明細書で引用される発明の特徴および本発明の特徴を補完する引用された先行技術参考文献の特徴の組み合わせから生じるそれら発明を企図し、特許請求する。同様に、任意の記載される材料、特徴、または物品が、任意の他の材料、特徴、または物品と組み合わせて使用され得ること、およびこのような組み合わせが、本発明の範囲内であると見做されることは、認識される。本文書中で引用または記載される各特許、特許出願、および刊行物の開示は、各々、それらの全体において、全ての目的のために本明細書に参考として援用される。
【0176】
番号付けされた実施形態
添付の特許請求の範囲にもかかわらず、本開示は、以下の番号付けされた実施形態を示す:
【0177】
実施形態1. 重鎖および軽鎖を含むタンパク質であって、
ここで前記重鎖は、N末端からC末端の順に、抗PD-L1重鎖可変(VH)ドメイン、CHドメイン、第1のリンカー、抗CD47 VHドメイン、および免疫グロブリン重鎖定常領域を含み;
ここで前記軽鎖は、N末端からC末端の順に、抗PD-L1軽鎖可変(VL)ドメイン、第1の免疫グロブリン軽鎖定常領域、第2のリンカー、抗CD47 VLドメイン、および第2の免疫グロブリン軽鎖定常領域を含み;
ここで前記抗PD-L1 VHドメインは、配列番号1のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号2のアミノ酸配列を含むHCDR2、および配列番号3のアミノ酸配列を含むHCDR3を含み;
ここで前記抗PD-L1 VLドメインは、配列番号4のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号5のアミノ酸配列を含むLCDR2、および配列番号6のアミノ酸配列を含むLCDR3を含み;
ここで前記抗CD47 VHドメインは、配列番号7のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号8のアミノ酸配列を含むHCDR2、および配列番号9のアミノ酸配列を含むHCDR3を含み;
ここで前記抗CD47 VLドメインは、配列番号10のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号11のアミノ酸配列を含むLCDR2、および配列番号12のアミノ酸配列を含むLCDR3を含み;
ここで前記第1のリンカーは、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、および配列番号20からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;
ここで前記第2のリンカーは、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、および配列番号20からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、
タンパク質。
【0178】
実施形態2. 前記抗PD-L1 VHドメインは、配列番号21のアミノ酸配列を含み、前記抗PD-L1 VLドメインは、配列番号22のアミノ酸配列を含み;
前記抗CD47 VHドメインは、配列番号23のアミノ酸配列を含み、前記抗CD47 VLドメインは、配列番号24のアミノ酸配列を含む、
実施形態1に記載のタンパク質。
【0179】
実施形態3. 前記重鎖は、配列番号25のアミノ酸配列を含み;
前記軽鎖は、配列番号26のアミノ酸配列を含む、
実施形態1または2に記載のタンパク質。
【0180】
実施形態4. 前記免疫グロブリン重鎖定常領域は、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA、またはIgYの定常領域である、実施形態1または2に記載のタンパク質。
【0181】
実施形態5. 前記免疫グロブリン重鎖定常領域は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1またはIgA2の定常領域である、実施形態1または2に記載のタンパク質。
【0182】
実施形態6. 前記免疫グロブリン重鎖定常領域は、免疫学的に不活性である、実施形態1または2に記載のタンパク質。
【0183】
実施形態7. 前記免疫グロブリン重鎖定常領域は、野生型ヒトIgG1定常領域、アミノ酸置換L234A、L235AおよびG237Aを含むヒトIgG1定常領域、野生型ヒトIgG2定常領域、野生型ヒトIgG4定常領域、またはアミノ酸置換S228Pを含むヒトIgG4定常領域であり、ここで番号付けは、KabatにあるとおりのEUインデックスに従う、実施形態1または2に記載のタンパク質。
【0184】
実施形態8. 前記第1のリンカーは、配列番号13のアミノ酸配列を含む、実施形態1~7のいずれか1項に記載のタンパク質。
【0185】
実施形態9. 前記第2のリンカーは、配列番号14のアミノ酸配列を含む、実施形態1~8のいずれか1項に記載のタンパク質。
【0186】
実施形態10. 2つの同一タンパク質のダイマーであるマルチマータンパク質であって、ここで各タンパク質は、実施形態1~9のいずれか1項に記載のタンパク質である、マルチマータンパク質。
【0187】
実施形態11. 治療剤に連結された実施形態1~9のいずれか1項に記載のタンパク質を含む免疫結合体。
【0188】
実施形態12. 前記治療剤は、細胞毒、放射性同位体、化学療法剤、免疫調節剤、細胞増殖抑制酵素、細胞溶解酵素、治療用核酸、抗血管新生薬剤、抗増殖薬剤、またはアポトーシス促進薬剤である、実施形態11に記載の免疫結合体。
【0189】
実施形態13. 実施形態1~9のいずれか1項に記載のタンパク質,実施形態10に記載のマルチマータンパク質、または実施形態11もしくは12に記載の免疫結合体、および薬学的に受容可能なキャリア、希釈剤もしくは賦形剤を含む医薬組成物。
【0190】
実施形態14. 実施形態1~9のいずれか1項に記載のタンパク質の
(a)前記重鎖アミノ酸配列;
(b)前記軽鎖アミノ酸配列;または
(c)前記重鎖および前記軽鎖両方のアミノ酸配列、
をコードする核酸分子。
【0191】
実施形態15. 前記核酸分子は、配列番号27のヌクレオチド配列、配列番号28のヌクレオチド配列、または配列番号27および配列番号28両方のヌクレオチド配列を含む、実施形態14に記載の核酸分子。
【0192】
実施形態16. 実施形態15に記載の核酸分子を含む発現ベクター。
【0193】
実施形態17. 実施形態15に記載の核酸分子または実施形態16に記載の発現ベクターを含む組換え宿主細胞。
【0194】
実施形態18. タンパク質を生成する方法であって、前記方法は、実施形態16に記載の発現ベクターを含む組換え宿主細胞を、核酸分子が発現される条件下で培養し、それによって、前記タンパク質を生成すること;および前記タンパク質を前記宿主細胞または培養物から単離すること、を包含する方法。
【0195】
実施形態19. 被験体において抗がん免疫応答を増強するための方法であって、前記方法は、前記被験体に、治療上有効な量の、実施形態1~9のいずれか1項に記載のタンパク質、実施形態10に記載のマルチマータンパク質、実施形態11もしくは12に記載の免疫結合体、または実施形態13に記載の医薬組成物を投与することを包含する方法。
【0196】
実施形態20. 被験体においてがんを処置するための方法であって、前記方法は、前記被験体に、治療上有効な量の、実施形態1~9のいずれか1項に記載のタンパク質、実施形態10に記載のマルチマータンパク質、実施形態11もしくは12に記載の免疫結合体、または実施形態13に記載の医薬組成物を投与することを包含する方法。
【0197】
実施形態21. 被験体においてがんの症状を改善するための方法であって、前記方法は、前記被験体に、治療上有効な量の、実施形態1~9のいずれか1項に記載のタンパク質、実施形態10に記載のマルチマータンパク質、実施形態11もしくは12に記載の免疫結合体、または実施形態13に記載の医薬組成物を投与することを包含する方法。
【0198】
実施形態22. 前記がんは、消化管間質がん(GIST)、膵臓がん、皮膚がん、黒色腫、乳がん、肺がん、気管支がん、結腸直腸がん、前立腺がん、胃がん、卵巣がん、膀胱がん、脳のがん、中枢神経系のがん、末梢神経系のがん、食道がん、子宮頚がん、子宮がん、子宮内膜がん、口腔もしくは咽頭のがん、肝臓がん、腎臓がん、腎細胞癌、精巣がん、胆道がん、小腸がん、虫垂がん、唾液腺がん、甲状腺がん、副腎がん、骨肉腫、軟骨肉腫、または血液組織のがんである、実施形態19~21のいずれか1項に記載の方法。
【0199】
実施形態23. 被験体において腫瘍のサイズを低減するための方法であって、前記方法は、前記被験体に、治療上有効な量の、実施形態1~9のいずれか1項に記載のタンパク質、実施形態10に記載のマルチマータンパク質、実施形態11もしくは12に記載の免疫結合体、または実施形態13に記載の医薬組成物を投与することを包含する方法。
【0200】
実施形態24. 被験体において腫瘍の成長を阻害するための方法であって、前記方法は、前記被験体に、治療上有効な量の、実施形態1~9のいずれか1項に記載のタンパク質、実施形態10に記載のマルチマータンパク質、実施形態11もしくは12に記載の免疫結合体、または実施形態13に記載の医薬組成物を投与することを包含する方法。
【0201】
実施形態25. 被験体において抗がん免疫応答を増強することにおける使用のための、実施形態1~9のいずれか1項に記載のタンパク質、実施形態10に記載のマルチマータンパク質、実施形態11もしくは12に記載の免疫結合体、または実施形態13に記載の医薬組成物。
【0202】
実施形態26. 被験体においてがんを処置することにおける使用のための、実施形態1~9のいずれか1項に記載のタンパク質、実施形態10に記載のマルチマータンパク質、実施形態11もしくは12に記載の免疫結合体、または実施形態13に記載の医薬組成物。
【0203】
実施形態27. 被験体においてがんの症状を改善することにおける使用のための、実施形態1~9のいずれか1項に記載のタンパク質、実施形態10に記載のマルチマータンパク質、実施形態11もしくは12に記載の免疫結合体、または実施形態13に記載の医薬組成物。
【0204】
実施形態28. 前記がんは、消化管間質がん(GIST)、膵臓がん、皮膚がん、黒色腫、乳がん、肺がん、気管支がん、結腸直腸がん、前立腺がん、胃がん、卵巣がん、膀胱がん、脳のがん、中枢神経系のがん、末梢神経系のがん、食道がん、子宮頚がん、子宮がん、子宮内膜がん、口腔もしくは咽頭のがん、肝臓がん、腎臓がん、腎細胞癌、精巣がん、胆道がん、小腸がん、虫垂がん、唾液腺がん、甲状腺がん、副腎がん、骨肉腫、軟骨肉腫、または血液組織のがんである、使用のための実施形態25~26のいずれか1項に記載のタンパク質、マルチマータンパク質、免疫結合体、または医薬組成物。
【0205】
実施形態29. 被験体において腫瘍のサイズを低減することにおける使用のための、実施形態1~9のいずれか1項に記載のタンパク質、実施形態10に記載のマルチマータンパク質、実施形態11もしくは12に記載の免疫結合体、または実施形態13に記載の医薬組成物。
【0206】
実施形態30. 被験体において腫瘍の成長を阻害することにおける使用のための、実施形態1~9のいずれか1項に記載のタンパク質、実施形態10に記載のマルチマータンパク質、実施形態11もしくは12に記載の免疫結合体、または実施形態13に記載の医薬組成物。
【配列表】
【国際調査報告】