(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-19
(54)【発明の名称】マルチビーム荷電粒子顕微鏡で結像された像中のフィーチャの歪み補正位置を決定するための方法、対応するコンピュータプログラム製品、およびマルチビーム荷電粒子顕微鏡
(51)【国際特許分類】
H01J 37/22 20060101AFI20250212BHJP
【FI】
H01J37/22 502H
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024546292
(86)(22)【出願日】2023-01-20
(85)【翻訳文提出日】2024-10-07
(86)【国際出願番号】 EP2023025023
(87)【国際公開番号】W WO2023147941
(87)【国際公開日】2023-08-10
(31)【優先権主張番号】102022102548.9
(32)【優先日】2022-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521126944
【氏名又は名称】カール ツァイス マルティセム ゲゼルシヤフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【氏名又は名称】那須 威夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141553
【氏名又は名称】鈴木 信彦
(74)【代理人】
【識別番号】100196612
【氏名又は名称】鎌田 慎也
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイス ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】カウフマン ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】ザイドラー ディルク
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA03
5C101AA32
5C101BB03
5C101BB09
5C101DD33
5C101EE03
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5C101EE14
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5C101EE33
5C101EE48
5C101EE49
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5C101EE69
5C101FF02
5C101GG19
5C101GG32
5C101GG37
5C101HH17
5C101HH22
5C101HH24
5C101HH27
5C101HH33
5C101HH44
5C101HH61
(57)【要約】
複数のJ個の像副視野(31.mn)にわたって複数のJ個の一次荷電粒子ビームレット(3)を一括走査するための少なくとも第1の一括ラスター走査子(110)と、J個の像副視野(31.mn)のうちの1つにそれぞれ対応する複数のJ個の二次電子ビームレット(9)を検出するための検出器を備える検出ユニット(200)と、第1の一括ラスター走査子(110)に接続され、使用時、第1の一括ラスター走査子(110)による複数のJ個の一次荷電粒子ビームレット(3)のラスター走査動作を制御するように構成されている走査制御ユニット(930)と、使用時、像副視野(31.mn)の空間変動歪み補正用の空間変動フィルタカーネル(910)を生成するように構成されているカーネル生成ユニット(812)と、検出器、走査制御ユニット(930)、およびカーネル生成ユニットと動作が同期している像データ取得ユニット(810)であり、J個の像副視野ごとに、使用時、検出器から受信されたアナログデータストリームを、像副視野(31.mn)を表すデジタルデータストリームに変換するためのアナログ-デジタル変換器(811)と、デジタルデータストリームを受信するように構成されるとともに、使用時、像副視野(31.mn)のセグメント(32)の空間変動フィルタカーネル(910)とのコンボリューションを実行することにより、歪み補正データストリームを生成するように構成されているハードウェアフィルタユニット(813)と、歪み補正データストリームを像副視野(31.mn)の2D表現として格納するように構成されている像メモリ(814)と、を備える、像データ取得ユニット(110)と、を備えるコントローラ(800、820)と、を備えるマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のJ個の像副視野(31.mn)にわたって複数のJ個の一次荷電粒子ビームレット(3)を一括走査するための少なくとも第1の一括ラスター走査子(110)と、
前記J個の像副視野(31.mn)のうちの1つにそれぞれ対応する複数のJ個の二次電子ビームレット(9)を検出するための検出器を備える検出ユニット(200)と、
前記第1の一括ラスター走査子(110)に接続され、使用時、前記第1の一括ラスター走査子(110)による前記複数のJ個の一次荷電粒子ビームレット(3)のラスター走査動作を制御するように構成されている走査制御ユニット(930)と、
使用時、前記像副視野(31.mn)の空間変動歪み補正用の空間変動フィルタカーネル(910)を生成するように構成されているカーネル生成ユニット(812)と、
前記検出器、前記走査制御ユニット(930)、および前記カーネル生成ユニットと動作が同期している像データ取得ユニット(810)であり、前記J個の像副視野ごとに、
使用時、前記検出器から受信されたアナログデータストリームを、前記像副視野(31.mn)を表すデジタルデータストリームに変換するためのアナログ-デジタル変換器(811)と、
前記デジタルデータストリームを受信するように構成されるとともに、使用時、前記像副視野(31.mn)のセグメント(32)の前記空間変動フィルタカーネル(910)とのコンボリューションを実行することにより、歪み補正データストリームを生成するように構成されているハードウェアフィルタユニット(813)と、
前記歪み補正データストリームを前記像副視野(31.mn)の2D表現として格納するように構成されている像メモリ(814)と、
を備える、像データ取得ユニット(810)と、
を備えるコントローラ(800、820)と、
を備えるマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項2】
前記ハードウェアフィルタユニット(813)が、
画素値を一時的に格納する第1のレジスタ(902)と、前記カーネル生成ユニット(812)により生成された係数を一時的に格納する第2のレジスタ(903)と、をそれぞれ備えるフィルタ要素(901)の格子配列(900)であり、前記第1のレジスタ(902)に格納されている前記画素値が、前記像副視野(31.mn)のセグメントを表す、フィルタ要素(901)の格子配列(900)と、
前記第1のレジスタ(902)に格納されている画素値に、前記第2のレジスタ(903)に格納されている前記対応する係数を乗じるように構成されている複数の乗算ブロック(904)と、
前記乗算の結果を合計するように構成されている複数の総和ブロック(905)と、
を備える、請求項1に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項3】
前記ハードウェアフィルタユニット(813)が、前記フィルタ要素(901)の格子配列(900)を実現するとともに、前記ハードウェアフィルタユニット(813)を通過する際の前記データストリーム中のデータの順序を維持するように構成されている複数のシフトレジスタ(906)を備える、請求項1または2に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項4】
前記像データ取得ユニット(810)が、使用時、フィルタリングされている像副視野(31.mn)内の画素の局所座標(p、q)を示すように構成されているカウンタ(816)をさらに備える、請求項1~3のいずれか1項に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項5】
前記フィルタ要素(901)の格子配列(900)のサイズが、前記像副視野(31.mn)の画素サイズの少なくとも10倍の歪みを補正するように構成されている、請求項2~4のいずれか1項に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項6】
前記フィルタ要素(901)の格子配列(900)のサイズが、少なくとも21×21個のフィルタ要素(901)である、請求項2~5のいずれか1項に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項7】
所定のカーネルウィンドウ(907)のサイズが、前記フィルタ要素(901)の格子配列(900)のサイズ以下である、請求項2~6のいずれか1項に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項8】
前記カーネル生成ユニット(812)が、使用時、前記フィルタ要素(901)の格子配列(900)に対する前記カーネルウィンドウ(907)の位置を決定するように構成されている、請求項7に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項9】
前記ハードウェアフィルタユニット(813)が、使用時、前記カーネルウィンドウ(907)の前記位置に基づいて、フィルタ要素(901)のエントリを乗算ブロック(904)で論理的に組み合わせるように構成されている複数のスイッチング手段をさらに備える、請求項8に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項10】
前記カーネル生成ユニット(812)が、像副視野(31.mn)における前記空間変動歪みを特性化するベクトル歪みマップ(730)に基づいて、前記空間変動フィルタカーネルを決定するように構成されている、請求項1~9のいずれか1項に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項11】
前記ベクトル歪みマップ(730)が、ベクトル多項式における多項式展開により表される、請求項10に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項12】
前記ベクトル歪みマップ(730)が、多次元ルックアップテーブルにより表される、請求項1~10のいずれか1項に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項13】
前記カーネル生成ユニット(812)が、画素を代表的に表す関数fに基づいて、前記フィルタカーネル(910)を決定するように構成されている、請求項1~12のいずれか1項に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項14】
前記関数fが、異なる走査方向に対して同一である、または、異なる走査方向に対して相違する、請求項13に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項15】
前記像データ取得ユニット(810)が、前記アナログ-デジタル変換器(811)の後かつ前記ハードウェアフィルタユニット(813)の前で、前記データストリームの方向に実現されている平均化ユニット(815)をさらに備える、請求項1~14のいずれか1項に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項16】
前記像データ取得ユニット(810)が、使用時、別のフィルタリング動作、特に、低域通過フィルタリング、モルフォロジー演算、および/または点拡がり関数とのデコンボリューションを実行するように構成されている別のハードウェアフィルタユニットをさらに備える、請求項1~15のいずれか1項に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項17】
前記ハードウェアフィルタユニット(813)が、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)または特定用途向け集積回路(ASIC)を備える、請求項1~16のいずれか1項に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項18】
前記ハードウェアフィルタユニット(813)が、一連のFIFO(906)を備える、請求項1~17のいずれか1項に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項19】
前記FIFO(906)が、BlockRAM、LUT、または外部接続されたSRAMもしくはDRAMとして実現されている、請求項18に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか1項に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)と、
像データの歪み補正を実行するように構成されている像後処理ユニットと、
を備えるシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチビーム荷電粒子顕微鏡の分野および関連する検査タスクに関する。より詳細に、本発明は、マルチビーム荷電粒子顕微鏡の関連するビームレットでそれぞれ結像(image)された複数の像副視野でそれぞれ構成されている1つまたは複数の像パッチで構成されている像中のフィーチャ(feature)の歪み補正位置(distortion-corrected position)を決定するための方法と関連する。さらに、本発明は、対応するコンピュータプログラム製品および対応するマルチビーム荷電粒子顕微鏡と関連する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置等の微細構造体の小型化および高機能化の開発継続に伴い、微細構造体の微小寸法の加工および検査のための平面加工技術および検査システムのさらなる開発および最適化が求められている。半導体装置の開発および加工には、たとえばテストウェーハの設計検証が必要であり、平面加工技術には、信頼性のある高スループットの加工のためのプロセス最適化を伴う。また近年、半導体装置のリバースエンジニアリングおよび個別のカスタマイズ構成のため、半導体ウェハの解析が必要となっている。したがって、ウェハ上の微細構造体を高精度に調べる高スループット検査ツールが求められている。
【0003】
半導体装置の製造に用いられる通常のシリコンウェハは、直径が最大12インチ(300mm)である。各ウェハは、最大およそ800平方mmサイズの30~60個の繰り返しエリア(「ダイ」)に分割される。半導体装置は、平面集積技術によってウェハの表面に層状に加工された複数の半導体構造を含む。半導体ウェハは、それに関連する加工プロセスのため、通常は平らな表面を有する。集積半導体構造のフィーチャサイズは、数μmから5nmの限界寸法(CD)まで縮まっており、近い将来には、たとえば、3nm未満(たとえば、2nm)あるいは1nm未満のフィーチャサイズまたは限界寸法(CD)までさらに小さくなる。前述の小さな構造サイズでは、(構造サイズに対して)非常に広い面積で短時間に限界寸法のサイズの欠陥を識別する必要がある。いくつかの用途の場合、検査装置が提供する測定の精度に対する仕様要件はさらに高く、たとえば、2倍または1桁分である。たとえば、半導体フィーチャの幅は、1nm未満(たとえば、0.3nm以下)の精度で測定する必要があり、半導体構造の相対位置は、1nm未満(たとえば、0.3nm以下)の重ね合わせ精度で決定する必要がある。
【0004】
したがって、本発明の目的は、1nm未満、0.3nmあるいは0.1nm未満の精度での半導体フィーチャの高精度な測定を可能にする荷電粒子システムおよび荷電粒子システムを高スループットで動作させる方法を提供することである。
【0005】
荷電粒子顕微鏡(CPM)の分野で最近開発されたのがマルチビーム荷電粒子顕微鏡(MSEM)である。マルチビーム走査型電子顕微鏡は、たとえば米国特許第7244949号および米国特許出願公開第2019/0355544号に開示されている。マルチビーム電子顕微鏡においては、たとえば一次放射として4~10000本の電子ビームを含むことから各電子ビームが隣接する電子ビームから1~200マイクロメートルの距離だけ分離された電子ビームレットのアレイによってサンプルが照射される。たとえば、マルチビーム荷電粒子顕微鏡では、およそ100本の分離された電子ビームすなわちビームレットが六角形のアレイ状に配置され、およそ10μmの距離だけ分離されている。複数の一次荷電粒子ビームレットは、共通の対物レンズによって、調査対象サンプル(たとえば、可動ステージに備え付けられたウェハチャックに固定された半導体ウェハ)の表面に集束される。一次荷電粒子ビームレットによるウェハ表面の照射中は、一次荷電粒子ビームレットの焦点により形成された複数の交差点から相互作用生成物(たとえば、二次電子)が生じる一方、相互作用生成物の量およびエネルギーは、ウェハ表面の材料組成およびトポグラフィによって決まる。相互作用生成物が複数の二次荷電粒子ビームレットを形成し、これが共通の対物レンズによって収集され、マルチビーム検査システムの投射結像系によって、検出器平面に配置されている検出器上へとガイドされる。検出器は、それぞれが複数の検出画素を備える複数の検出エリアを含み、複数の二次荷電粒子ビームレットそれぞれの強度分布を検出するため、たとえば100μm×100μmの像パッチが得られる。従来技術のマルチビーム荷電粒子顕微鏡は、一連の静電・磁気素子を備える。静電・磁気素子の少なくとも一部を調整することによって、複数本の二次荷電粒子ビームの焦点位置およびスティグマを調整可能である。従来技術のマルチビーム荷電粒子顕微鏡は、一次または二次荷電粒子の少なくとも1つのクロスオーバ面を備える。従来技術のマルチビーム荷電粒子顕微鏡は、調整を容易化する検出システムを備える。従来技術のマルチビーム荷電粒子顕微鏡は、サンプル表面のエリア全体にわたって複数の一次荷電粒子ビームレットを一括走査することによりサンプル表面の像パッチを得るための少なくとも1つの偏向走査子を備える。マルチビーム荷電粒子顕微鏡およびマルチビーム荷電粒子顕微鏡を動作させる方法のより詳細については、2021年4月29日に出願されたPCT/EP2021/061216に記載されており、これを本明細書に援用する。
【0006】
ただし、ウェハ検査用の荷電粒子顕微鏡においては、高信頼性かつ高再現性の結像が実行され得るように、結像条件を安定に保つことが望まれる。スループットは、複数のパラメータ(たとえば、ステージおよび新たな測定部位での再位置合わせの速度)のほか、取得時間当たりの測定面積自体によって決まる。後者は、ビームレットの滞留時間、分解能、および数によって決まる。また、マルチビーム荷電粒子顕微鏡の場合は、時間のかかる像の後処理が必要となる。たとえば、複数の像副視野からの像パッチの一体的なステッチングの前に、マルチビーム荷電粒子顕微鏡の検出システムにより生成された信号をデジタル的に補正する必要がある。
【0007】
複数の一次荷電粒子ビームレットは、ラスター構成(たとえば、六角形ラスター構成)内の通常のラスター位置から逸脱する可能性がある。また、複数の一次荷電粒子ビームレットは、平面エリアセグメント内のラスター走査動作の通常のラスター位置から逸脱する可能性があり、マルチビーム荷電粒子検査システムの分解能は、複数の一次荷電粒子ビームレットの個々のビームレットの個々の走査位置ごとに異なり、個々の走査位置によって決まり得る。複数の一次荷電粒子ビームレットについて、各ビームレットは、共通の走査偏向器の交差ボリュームに異なる角度で入射し、異なる出射角に偏向され、共通の走査偏向器の交差ボリュームを異なる経路で横断する。したがって、各ビームレットは、走査動作において、異なる歪みパターンとなる。従来技術のシングルビーム動的補正器は、複数の一次ビームレットの任意の走査誘起歪みの緩和に適さない。米国特許出願公開第2009/0001267号は、5つの一次荷電粒子ビームレットを含むマルチビーム荷電粒子システムの一次ビームレイアウトまたは静的ラスターパターン構成の校正を示している。ラスターパターンの異状について、一次ビームレイアウトの回転、一次ビームレイアウトのスケールアップまたはスケールダウン、一次ビームレイアウト全体のシフトという3つの原因が示されている。したがって、米国特許出願公開第2009/0001267号では、複数の一次ビームレットの静的焦点により形成された静的一次ビームラスターパターンの基本1次歪み(回転、拡大、グローバルシフト、または変位)を考慮している。また、米国特許出願公開第2009/0001267号には、一括ラスター走査子の1次特性(複数の一次ビームレットを一括ラスター走査するための偏向幅および偏向方向)の校正を含む。そして、これら一次ビームレイアウトの基本誤差の補償のための手段が論じられているが、静的ラスターパターンの高次歪み(たとえば、3次歪み)に対しては解決手段が提供されていない。一次ビームレイアウトおよび任意選択として二次電子ビーム経路の校正後であっても、個々の一次ビームレットそれぞれの走査中は走査歪みが導入されるが、複数の一次ビームレットの静的ラスターパターンの校正では対処できない。
【0008】
通常、今日の先端技術のマルチビーム荷電粒子顕微鏡においては、基本1次像歪み(回転、拡大、ならびにグローバルシフトもしくは変位)が補正される。ただし、計測学におけるMSEMによる測定の精度向上の需要増大に伴って、走査プロセスに由来する高次歪みがより重要となっており、適当に考慮する必要がある。
【0009】
2021年6月16日に出願された非開示の国際特許出願PCT/EP2021/066255は、複数の一次荷電粒子ビームレット間の走査誘起歪み差の最小化を扱っており、当該特許出願のすべての開示内容を本特許出願に援用する。前記国際特許出願は、ラスター走査子の構成自体を改善することにより走査誘起歪みを最小化する手法を採用している。ただし、このようなラスター走査構成の改善は通常、新たに構築されたマルチビーム荷電粒子顕微鏡でしか実現されない。これに対して、既存の顕微鏡で作業を行う場合、特に定量的計測の検査タスクを扱う場合(たとえば、集積半導体構造のフィーチャサイズを決定する場合)には、より高い精度に対する需要も存在する。
【0010】
国際特許出願公開第WO2021/239380号(前述のPCT/EP2021/061216に対応)は、高スループット、高分解能、および高信頼性のウェハ検査用のマルチビーム荷電粒子検査システムおよびマルチビーム荷電粒子検査システムを動作させる方法を開示している。この方法およびマルチビーム荷電粒子線検査システムは、複数のセンサデータから、一組の制御信号を抽出して、マルチビーム荷電粒子線検査システムを制御することにより、ウェハ検査タスク中のウェハステージの移動を含む結像仕様を維持するように構成されている。ただし、国際特許出願公開第WO2021/139380号は、時間の掛かる像の後処理の問題を解決しない。さらに、国際特許出願公開第WO2021/139380号は、走査誘起歪みを扱うこともなければ、走査誘起歪みにより発生する具体的な問題を扱うこともない。
【発明の概要】
【0011】
したがって、本発明の目的は、マルチビーム荷電粒子顕微鏡で取得された像中の走査誘起歪みを補正するための代替的な解決手段を提供することである。特に、この解決手段は、集積半導体構造のフィーチャサイズの正確な決定に適したものとする。
【0012】
上記目的は、独立請求項により解決される。従属請求項は、有利な実施形態を対象とする。
【0013】
本特許出願は、2022年2月3日に出願された独国特許出願第102022102548.9号の優先権を主張するものであり、その開示の全範囲を本特許出願に援用する。
【0014】
PCT/EP2021/066255で採用されているハードウェア/物理的手法とは対照的に、本発明は、アルゴリズム的手法を採用する。本発明の第1の実施形態によれば、走査誘起歪みは、像後処理中に補正される。歪み補正は、たとえばPCにより、既存の走査歪み像に基づいて実行される。前記補正は依然として、時間もエネルギーも掛からず、その一方で、特定の検査タスクに対する洗練された解決手段を提供する。本発明の第2の実施形態によれば、歪み補正は、像前処理中に実行される。これは、MSEMの特別に構成またはプログラムされたハードウェアコンポーネントにより実行される。したがって、このMSEMは、歪み補正が組み込まれたMSEMである。さらに、第1および第2の実施形態は、相互に組み合わせ可能である。
【0015】
第1の態様によれば、本発明は、マルチビーム荷電粒子顕微鏡の関連するビームレットでそれぞれ結像された複数の像副視野(image subfields)でそれぞれ構成されている1つまたは複数の像パッチで構成されている像中のフィーチャの歪み補正位置を決定するための方法であって、
a)像副視野ごとに、関連する像副視野の画素ごとの位置依存歪みをそれぞれ特性化する複数のベクトル歪みマップを用意するステップと、
b)像中の関心フィーチャを識別するステップと、
c)フィーチャの幾何学的特性を抽出するステップと、
d)フィーチャの抽出した幾何学的特性を含む対応する像副視野を決定するステップと、
e)決定した対応する像副視野におけるフィーチャの抽出した幾何学的特性の1つまたは複数の位置を決定するステップと、
f)対応する像副視野のベクトル歪みマップに基づいて、像中の抽出した幾何学的特性の1つまたは複数の位置を補正することにより、歪み補正像データを生成するステップと、
を含む、方法を対象とする。
【0016】
像は通常、複数の像パッチを含む。ただし、この方法は、像が1つしか像「パッチ」を含まない場合にも作用する。いずれの場合も、像パッチは複数の像副視野を含み、各像副視野は、マルチビーム粒子顕微鏡の関連するビームレットで結像される(または、結像されている)。
【0017】
この方法は、走査誘起歪みの補正に特に適しており、これは、高精度の補正である。本発明の重要な一態様として、ベクトル歪みマップは、像副視野ごとに個別に用意される。走査誘起歪みは通常、副視野ごとに異なるためであり、これは、通常の一括ラスター走査子ではすべてのビームレットに対して同時に走査誘起歪みが補償され得ないという事実の理由でもある(上記参照)。ベクトル歪みマップは、必ずしも「マップ」として用意されるわけではない。用語「マップ(map)」は、歪みがベクトルであり、このベクトルが位置によって決まることのみを示すものとする。結果的に、ベクトル歪みマップは原理上、ベクトル場である。
【0018】
像副視野における歪みベクトルの位置を表すには、像副視野の内部座標が用いられる(本特許出願においては通常、p、qと称する)。さらに、内部座標は、グローバル座標系(本特許出願においては通常、x、yと称する)に接続されている必要がある。添え字nmで標識された各副視野のグローバル座標系に対する位置としては、たとえばグローバル座標系(xnm,ynm)における各副視野の中心点(p0,q0)の位置が可能である。
【0019】
ベクトル歪みマップは、各副視野ひいては各ビームレットに対して事前に決定され得る。その決定については、以下により詳しく説明する。通常、ベクトル歪みマップは、複数の結像手順に対して有効性を維持することになる。したがって、国際特許出願公開第WO2021/239380号とは対照的に、本発明は、規則的または定常的に発生する歪み、特に、規則的に発生する走査誘起歪みの補正に特に適する。ただし、本発明に係るベクトル歪みマップもまた、規則的に更新され得る。これは、像後処理中のより不測または不規則な歪みの補正も可能にする。
【0020】
方法ステップのb)像中の関心フィーチャを識別するステップおよびc)フィーチャの幾何学的特性を抽出するステップは、別個に実行することも可能であるし、相互に組み合わせることも可能である。原理上、関心フィーチャとしては、如何なる種類および如何なる形状のフィーチャも可能である。半導体構造を調べる場合、関心フィーチャの例は、HAR構造体(高アスペクト比の構造体であって、ピラーもしくはホール、またはコンタクトチャネルとも称する)等のフィーチャである。
【0021】
フィーチャの幾何学的特性としては、たとえばフィーチャの輪郭が可能である。あるいは、前記輪郭の一部のみ(たとえば、縁部または角部)も可能である。原理上は、画素自体がフィーチャを表すことも可能である。一実施形態によれば、フィーチャの幾何学的特性は、輪郭、縁部、角部、点、線、円、楕円、中心、直径、半径、距離のうちの少なくとも1つである。
【0022】
像データは通常、測定対象の関心データ(たとえば、関心物体の中心もしくは縁部の位置、寸法、面積、または体積、あるいは複数の関心物体間の距離または間隙)である。さらに、像データは、ラインエッジ粗さ、2本のライン間の角度、半径等の特性も含み得る。
【0023】
フィーチャの抽出自体は、像処理においてよく知られている。輪郭抽出の例は、Li Huanliang, 4th National Conference on Electrical, Electronics and Computer Engineering (NCEECE 2015), 1185 - 1189 (2016)のコンピュータ技術に基づく像輪郭抽出法に見られる。
【0024】
一実施形態によれば、幾何学的特性を抽出するステップは、2値画像の生成を含む。マルチビーム粒子顕微鏡で得られる画像は通常、検出された二次粒子の強度を示すグレースケール画像である。このような画像のデータサイズは、非常に大きい。これとは対照的に、たとえば輪郭のみを示す2値画像のデータサイズは、比較的小さい。
【0025】
本発明によれば、歪み補正は、像全体の一部、より厳密には、フィーチャの抽出された幾何学的特性(たとえば、抽出された輪郭)に対してのみ実行される。これにより、歪み補正は、グレースケール画像のすべての画素に対して実行される最新技術に係る従来の歪み補正と比較して、はるかに高速となる。さらに、本発明に係る歪み補正では、エネルギーに関して必要なリソースが抑えられる。
【0026】
歪み補正自体は、d)フィーチャの抽出した幾何学的特性を含む対応する像副視野を決定するステップと、e)決定した対応する像副視野におけるフィーチャの抽出した幾何学的特性の1つまたは複数の位置を決定するステップと、f)対応する像副視野のベクトル歪みマップに基づいて、像中の抽出した幾何学的特性の1つまたは複数の位置を補正することにより、歪み補正像データを生成するステップと、を含む。
【0027】
対応する像副視野の決定は、抽出した幾何学的特性を関連する像歪みマップで補正するのに必要である。対応する像副視野は、たとえば像のメタデータにおいて示すことも可能であるし、メモリまたは像データファイル中のデータの位置に基づいて決定することも可能である。
【0028】
決定した対応する像副視野におけるフィーチャの抽出した幾何学的特性の1つまたは複数の位置を決定するステップが必要なのは、歪み補正が前記1つまたは複数の位置に依存するためである。
【0029】
一実施形態によれば、対応する像副視野のベクトル歪みマップに基づいて、像中の抽出した幾何学的特性の1つまたは複数の位置を補正するステップは、抽出した幾何学的特性の少なくとも1つの位置に関する歪みベクトルを決定することを含む。たとえばフィーチャの中心(フィーチャの位置)が前記フィーチャの幾何学的特性である場合は、この中心位置に関して歪みベクトルを1つだけ決定すれば十分となり得る。たとえば幾何学的特性が縁部または線である場合、この縁部または線は、複数の位置により表されるため、複数の位置それぞれについて、複数の歪みベクトルをそれぞれ決定する必要がある。他の形状の幾何学的特性についても同様の考察が成り立つ。
【0030】
一実施形態によれば、複数のベクトル歪みマップはそれぞれ、ベクトル多項式における多項式展開により表される。したがって、原理上は、像副視野における任意の位置または画素に対して、関連する歪みベクトルを計算することができる。あるいは、複数のベクトル歪みマップはそれぞれ、2次元ルックアップテーブルにより表され得る。原理上は、ベクトル歪み「マップ」の他の表現も可能である。
【0031】
ベクトル多項式は、たとえば以下のように計算され得る。
【数1】
ここで、(dp,dq)が歪みベクトルを表す。一例によれば、合計は、低次の項についてのみ(たとえば、3次まで)計算される。たとえば、合計のいくつかの項は、縮尺、回転、剪断、キーストーン、アナモルフィズム等、特定の種類の補正と関連し得る。
【0032】
一実施形態によれば、方法ステップb)~f)は、複数のフィーチャに対して繰り返し実行される。なお、方法ステップa)は、必ずしも繰り返されない。
【0033】
一実施形態によれば、関心フィーチャを含まない像中の他のエリアは、歪み補正されない。これにより、演算量が大幅に削減され、リソースが節約される。
【0034】
一実施形態によれば、関心フィーチャの幾何学的特性を抽出するステップは、像全体に実行される。一例において、フィーチャの抽出の結果、比較的小さなデータサイズの2値画像が得られる。別の例によれば、フィーチャの抽出の結果、少なくとも幾何学的特性(たとえば、中心、点、縁部、輪郭、または線)の位置が決定される。
【0035】
一実施形態によれば、対応する像副視野のベクトル歪みマップに基づいて、像中の抽出した幾何学的特性の1つまたは複数の位置を補正するステップは、歪みベクトルに基づいて、像の画素を歪み補正像の少なくとも1つの画素に変換することを含む。これは、歪み補正によって、画素全体の位置が必ずしもシフトするわけではないという事実による。これとは対照的に、たとえば、1つの画素を2つ、3つ、または4つの画素にシフト配分することができる(補間)。
【0036】
一実施形態によれば、対応する像副視野のベクトル歪みに基づいて、像中の抽出した幾何学的特性の1つまたは複数の位置を補正するステップは、歪みベクトル多項式に基づいて、像の位置を歪み補正位置に変換することを含む。ベクトル歪み多項式は、副視野座標(p,q)、グローバル座標(x,y)、または両座標セットにおける副視野のベクトル歪みマップのベクトル多項式展開により表される。
【0037】
一実施形態によれば、フィーチャの抽出した幾何学的特性は、複数の像副視野にわたって延びるため、複数の部分にそれぞれ分割されている。この場合、抽出した幾何学的特性の各部の1つまたは複数の位置は、それぞれの部分の対応ずる像副視野の関連する個々のベクトル歪みマップに基づいて個別に補正される。この場合も、原理的に、幾何学的特性の各部は、当該部分が属する像副視野のベクトル歪みマップに対して歪み補正される。このように、フィーチャの各部への分割および部分ごとの歪み補正によって、より高精度の計測用途が可能になる。
【0038】
一実施形態によれば、この方法は、
歪み補正像データ中の半導体装置の構造の寸法を決定するステップ、
歪み補正像データ中の半導体装置の構造の面積を決定するステップ、
歪み補正像データ中の半導体装置中の複数の規則的物体、特に、HAR構造体の位置を決定するステップ、
歪み補正像データ中のラインエッジ粗さを決定するステップ、および/または
歪み補正像データ中の半導体装置中の異なるフィーチャ間の重ね合わせ誤差を決定するステップ、
のうちの少なくとも1つをさらに含む。
【0039】
それぞれの場合、決定/測定は、たとえば一組の位置データまたは2値画像として表され得る歪み補正像データに基づいて実行される。これにより、決定または測定の精度が向上する。
【0040】
一実施形態によれば、この方法は、
目標格子を規定する正確に把握されたパターン、特に、繰り返しパターンを有するテストサンプルを用意するステップと、
マルチビーム荷電粒子顕微鏡でテストサンプルを結像し、得られた像を解析し、前記解析に基づいて実際の格子を決定するステップと、
実際の格子と目標格子との間の位置偏差を決定するステップと、
前記位置偏差に基づいて、像副視野ごとにベクトル歪みマップを取得するステップと、
をさらに含む。上述のベクトル歪みマップまたはベクトル歪み場の決定は、原理上、校正されたテストサンプルの結像から、当技術分野において知られている。得られるベクトル歪みマップの精度は、テストサンプル上のパターンの製造精度およびテストサンプルを分析する際の測定精度に強く依存する。
【0041】
一実施形態によれば、この方法は、マルチビーム荷電粒子顕微鏡に対して第1の位置から第2の位置にテストサンプルをシフトし、第1の位置および第2の位置においてテストサンプルを結像するステップをさらに含む。ステージは、たとえば像副視野の約半分のシフトのため移動するのが好ましい。この方法ステップは、サンプル全体で統計的に分布する高周波構造/パターンが結像される場合の精度の向上に特に寄与する。
【0042】
一実施形態によれば、実際の格子と目標格子との間の位置偏差を決定するステップは、2段階決定を含み、第1の段階においては、各像副視野のシフト、各像副視野の回転、および各像副視野の拡大が補償され、第2の段階においては、その他、特に、より高次の歪みが決定される。後者としては、走査誘起歪みが可能である。したがって、走査誘起歪みと他の歪みとの間の明確な区別がなされ得る。
【0043】
一実施形態によれば、この方法は、ベクトル歪みマップを更新するステップをさらに含む。更新は、たとえば一定の時間間隔で実行することも可能であるし、ユーザによる要求に応じて実行することも可能であるし、マルチビーム荷電粒子顕微鏡の構成または動作パラメータが変更となるたびに実行することも可能である。
【0044】
本発明の第2の態様によれば、本発明は、マルチビーム荷電粒子顕微鏡の関連するビームレットでそれぞれ結像された複数の像副視野でそれぞれ構成されている1つまたは複数の像パッチで構成されている像中の歪みを補正するための方法であって、
g)像副視野ごとに、関連する像副視野の画素ごとの位置依存歪みをそれぞれ特性化する複数のベクトル歪みマップを用意するステップと、
h)像中の画素ごとに、画素を含む対応する像副視野を決定するステップと、
i)像中の画素ごとに、対応する像副視野のベクトル歪みマップに基づいて、像中の画素を歪み補正像中の少なくとも1つの画素に変換するステップと、
を含む、方法を対象とする。
【0045】
上記で使用する用語の定義は、本発明の第1の態様に関して説明または定義したものと同じである。本発明の第2の態様によれば、歪み補正は、抽出されたフィーチャではなく、歪み像全体に実行される。これは、たとえばマルチビーム粒子顕微鏡による結合後、PCにより実行され得る。
【0046】
本発明の第3の態様によれば、本発明は、本発明の第1および第2の態様に関して上述した実施形態のいずれか1つに記載のような方法を実行するためのプログラムコードを含むコンピュータプログラム製品を対象とする。プログラムコードは、1つまたは複数の部分的なコードに細分され得る。たとえば、あるプログラム部分において、マルチビーム粒子顕微鏡を制御するためのコードを別個に提供する一方、別のプログラム部分には、歪み補正のルーチンを含むのが適当である。歪み補正自体は、たとえばPC上で実行され得る。
【0047】
本発明の第4の態様によれば、本発明は、種々実施形態において上述したような方法を実行するように構成されているコントローラを備えるマルチビーム荷電粒子顕微鏡を対象とする。
【0048】
本発明の第5の態様によれば、走査誘起歪みの補正は、像前処理中に実行される。これは、並列アクセスメモリとして実現され得る像メモリにデジタル化像データが書き込まれる前に補正が実行されることを意味する。たとえば、像副視野を表す画素に対して空間依存歪み補正が実行されるように、FPGA(「フィールドプログラマブルゲートアレイ」)が構成またはプログラムされる。各歪み補正を実現するため、たとえば上述のようにすべての像副視野に対して決定されたベクトル歪みマップを参照することにより像副視野内の空間変動歪みを考慮に入れる空間変動フィルタカーネルを使用する適当なハードウェア設計/プログラミングによってフィルタリング動作が実現される。フィルタカーネルの空間変動を考慮に入れるため、像副視野のセグメントごとに各フィルタカーネルを個別かつ好ましくは「オンザフライ」で計算するカーネル生成ユニットが適用される。歪み補正は、すべてのビームレットのデータストリームに対して並行に実行される必要がある一方、対象の像副視野/ビームレット(結像チャネル)に対して数値的かつ個別に適応される必要がある。
【0049】
より詳細に、本発明は、
複数のJ個の像副視野にわたって複数のJ個の一次荷電粒子ビームレットを一括走査する(collectively scanning)ための少なくとも第1の一括ラスター走査子と、
J個の像副視野のうちの1つにそれぞれ対応する複数のJ個の二次電子ビームレットを検出するための検出器を備える検出ユニットと、
第1の一括ラスター走査子に接続され、使用時、第1の一括ラスター走査子による複数のJ個の一次荷電粒子ビームレットのラスター走査動作を制御するように構成されている走査制御ユニットと、
使用時、像副視野の空間変動歪み補正用の空間変動フィルタカーネルを生成するように構成されているカーネル生成ユニットと、
検出器、走査制御ユニット、およびカーネル生成ユニットと動作が同期している像データ取得ユニットであり、J個の像副視野ごとに、
使用時、検出器から受信されたアナログデータストリームを、像副視野を表すデジタルデータストリームに変換するためのアナログ-デジタル変換器と、
デジタルデータストリームを受信するように構成されるとともに、使用時、像副視野のセグメントの空間変動フィルタカーネルとのコンボリューションを実行することにより、歪み補正データストリームを生成するように構成されているハードウェアフィルタユニットと、
歪み補正データストリームを像副視野の2D表現として格納するように構成されている像メモリと、
を備える、像データ取得ユニットと、
を備えるコントローラ(800、820)と、
を備えるマルチビーム荷電粒子顕微鏡を対象とする。
【0050】
本発明の第5の態様に係る特性化の特徴がハードウェアフィルタユニットおよびカーネル生成ユニットである。デジタルデータストリームを受信するように構成されるとともに、使用時、像副視野のセグメントの空間変動フィルタカーネルとのコンボリューションを実行することにより、歪み補正データストリームを生成するようにさらに構成されているハードウェアフィルタユニットは、ここで初めて、マルチビーム荷電粒子顕微鏡内で実現されている。像副視野内の歪み補正は、一定ではなく、像副視野内で変動するため、使用するフィルタカーネルについても同様に、空間変動の必要がある。この空間依存性を考慮に入れるため、カーネル生成ユニットの適用により、ハードウェアフィルタユニットにおいて現在フィルタリングされている像副視野のセグメントごとの空間変動フィルタカーネルの計算/決定を可能にする。
【0051】
さらに、複数のビームレットの場合は、それぞれに複数の結像チャネルが存在することも考慮に入れる必要がある。したがって、歪み補正は、結像チャネルごとに独立して実行される必要があり、言い換えると、J個の像副視野ごとに個別に実行される必要がある。したがって、像データ取得ユニットは、結像チャネルそれぞれ、ひいては、J個の像副視野それぞれについて、アナログ-デジタル変換器、ハードウェアフィルタユニット、および像メモリを備える。
【0052】
上述の通り、像後処理において実行される歪み補正は通常、膨大な演算時間のコストでしか実現されない。ただし、像副視野ごとの像歪み補正がハードウェアフィルタリングにより実行される場合は、演算コストおよび所要エネルギーが大幅に抑えられ得る。ハードウェアフィルタリング自体の効果は、データストリームが像メモリに格納される前のデータ生成中の遅延時間の短縮である。カーネル生成ユニットは、各像副視野の空間変動歪み補正用の空間変動フィルタカーネルを「オンザフライ」で計算し得るが、このフィルタカーネル生成の演算コストは、むしろ適度である。
【0053】
当然のことながら、たとえばクロック信号および計数ユニットの適用によって、マルチビーム荷電粒子顕微鏡のさまざまな部分の動作を同期させる必要がある。当業者には、実現可能性が認識される。
【0054】
本発明の一実施形態によれば、ハードウェアフィルタユニットは、
画素値を一時的に格納する第1のレジスタと、カーネル生成ユニットにより生成された係数を一時的に格納する第2のレジスタと、をそれぞれ備えるフィルタ要素の格子配列であり、第1のレジスタに格納されている画素値が、像副視野のセグメントを表す、フィルタ要素の格子配列と、
第1のレジスタに格納されている画素値に、第2のレジスタに格納されている対応する係数を乗じるように構成されている複数の乗算ブロックと、
乗算の結果を合計するように構成されている複数の総和ブロックと、
を備える。前述の通り、ハードウェアフィルタユニットは、使用時、像副視野のセグメントの空間変動フィルタカーネルとのコンボリューションを実行するように構成されている。数学的に、2つの行列間のコンボリューションは、行列内のエントリから計算された積の総和として表され得る。本発明に当てはめると、第1のレジスタは、第1の行列のエントリ(像副視野のセグメントの画素値)を格納し、第2の行列のエントリは、カーネル生成ユニットにより生成された係数に対応する。2つの行列内のエントリの相互の必要な乗算を実行するため、複数の乗算ブロックが設けられている。同様に、積の必要な総和のため、複数の総和ブロックが設けられている。
【0055】
格子配列(grid arrangement)という用語は、画素値および係数の内部関係/状況を示すものとする。格子配列は、論理的には行列表現に対応する。
【0056】
通常、フィルタリングは、隣接演算である。これは、フィルタユニットが像副視野全体ではなく、像副視野のセグメントにしか作用しないことを意味する。したがって、一実施形態によれば、ハードウェアフィルタユニットは、フィルタ要素の格子配列を実現するとともに、当該ハードウェアフィルタユニットを通過する際のデータストリーム中のデータの順序を維持するように構成されている複数のシフトレジスタを備える。これらの手段により、格子配列は、像副視野のセグメントひいては歪み補正対象の像画素の近傍に位置する像副視野内の画素の実現である。シフトレジスタは通常、所定のサイズ(たとえば、512ビット、1024ビット、2048ビット、または4096ビット)を有する。したがって、シフトレジスタは、対応する数の画素を格納することができる。ただし、フィルタ要素の格子配列のサイズは通常、はるかに小さい。通常、像セグメントは、たとえば11×11個のフィルタ要素、21×21個のフィルタ要素、または31×31個のフィルタ要素を含み得る。フィルタ要素の格子配列が一般的なサイズA×Aである場合は、複数のA個のシフトレジスタが適用され得る。シフトレジスタ中の最初のA個のエントリは、像副視野のセグメントの表現に属し、シフトレジスタ中のその他のエントリは、像副視野の行(または、列)のその他の画素で埋められる。したがって、基本的には、シフトレジスタのサイズによって、像副視野の行(または、列)内の画素の数が制限される。
【0057】
本発明の一実施形態によれば、フィルタ要素の格子配列のサイズは、像副視野の画素サイズの少なくとも10倍の歪みを補正するように構成されている。これは、フィルタ要素の格子配列のサイズが少なくとも20×20個、より厳密には21×21個のエントリであることを意味する。なお、1つの行または列内のフィルタ要素の数は通常、奇数となるように選定される。これにより、フィルタカーネルは、一意の中心を有する対称的な様態で表され得るためである。ただし、数学的には、フィルタカーネルの格子配列のサイズを偶数にすることも可能である。さらに、画素サイズは、異なる走査方向において同一にすることも可能であるが、異なる走査方向において異ならせることも可能である。
【0058】
一例として、像副視野の画素サイズとしては、2nmが可能である。そして、20×20または21×21のフィルタカーネルを適用することにより、約20nmの歪みが補正され得る。
【0059】
一般的には、フィルタ要素の格子配列のサイズによって補正可能な最大歪みが決まり、この最大歪みは、各次元または方向の画素サイズを乗じた格子配列のサイズ/寸法の略半分である。
【0060】
一実施形態によれば、格子配列のサイズは、フィルタカーネルのサイズに対応する。したがって、実行の必要がある乗算の数がフィルタ要素の数である。ただし、必要な乗算の数は、行または列内の画素の数に応じて2次的に増加する。したがって、計算量が増加し、論理ユニットの数も増加する。これは、ハードウェアフィルタユニットがハードウェアにより実現されているためである。したがって、論理ユニットの数を減らすのが好ましい。本発明の一実施形態によれば、所定のカーネルウィンドウのサイズは、フィルタ要素の格子配列のサイズ以下である。ここでは、本発明に係るフィルタリングが歪み補正を目的として実行されることを考慮する必要がある。歪み補正は、画素のシフトと理解され得る。これは、フィルタ要素の第1のレジスタに格納されている画素値とのフルサイズカーネルフィルタのフルコンボリューションが実行される場合であっても、結果に影響を及ぼさない乗算が多く存在することを意味する。言い換えると、画素のシフトの結果として、通常、たとえば他の4つの画素に当該画素が「分散」する。したがって、カーネルウィンドウがフィルタカーネルの当該部分を反映し、フィルタカーネルのエントリが結果に影響を及ぼす。理論的にはフルコンボリューションでの実行も可能なその他の乗算については、如何なる影響も及ぼさないため省略可能である。これにより論理ユニットが節約され、より厳密には、乗算ブロックおよび総和ブロックが節約される。当然のことながら、フィルタカーネル全体において、カーネルウィンドウの配置の必要がある位置を考慮する必要がある。結果的に、本発明の一実施形態によれば、カーネル生成ユニットは、使用時、フィルタ要素の格子配列に対するカーネルウィンドウの位置を決定するように構成されている。
【0061】
一実施形態によれば、ハードウェアフィルタユニットは、使用時、カーネルウィンドウの位置に基づいて、エントリおよびフィルタ要素を乗算ブロックで論理的に組み合わせるように構成されている複数のスイッチング手段をさらに備える。したがって、乗算ブロックの数および総和ブロックの数を減らすには、スイッチング手段(たとえば、マルチプレクサ)の数を増やす必要がある。こちらの方が依然として、実現は容易である。
【0062】
本発明の一実施形態によれば、カーネル生成ユニットは、像副視野における空間変動歪みを特性化するベクトル歪みマップに基づいて、空間変動フィルタカーネルを決定するように構成されている。ベクトル歪みマップを説明する詳細に関しては、本発明の第1~第4の態様に関して与えた定義および説明が参照される。
【0063】
一実施形態によれば、ベクトル歪みマップは、ベクトル多項式における多項式展開により表される。あるいは、ベクトル歪みマップは、多次元ルックアップテーブルにより表される。
【0064】
一実施形態によれば、カーネル生成ユニットは、画素を代表的に表す関数fに基づいて、フィルタカーネルを決定するように構成されている。言い換えると、歪みという主題自体とは別に、フィルタカーネルには画素の「形状」も考慮に入れる。画素を表すための考え得る関数としては、たとえば矩形画素を表すRect2D関数が可能である。これは、線形または双線形フィルタに対応する。画素は走査方向にぼやける可能性があるため、考え得る関数fとしては、異なる走査方向pおよびqにぼやけ方が異なる関数Rect(p,q)も可能である。
【0065】
あるいは、画素を表す関数fは、画素のビーム焦点の形状(たとえば、ガウス関数、異方性関数、3次関数、正弦関数、エアリーパターン等)を有することもでき、フィルタはある低レベルの値で丸められる。さらに、一例によれば、フィルタはエネルギー保存型であるものとし、したがって、高次の丸めフィルタカーネルは、重みの合計が1となるように正規化されるものとする。あるいは、この正規化は、直接フィルタ内ではなく、後段で実施され得るが、当業者には、具体的な一実施態様の利点および欠点が認識される。
【0066】
なお、像副視野の境界における画素は、使用不可能となる。ただし、この影響は、像後処理におけるフィルタリングプロセスによってよく知られている。この影響を扱うには、フィルタカーネルのサイズに応じて、カットオフが必要となる。これでも依然として、問題は一切生じない。通常、マルチビーム荷電粒子顕微鏡においては、隣接する像副視野間に重畳が実現されるためである。
【0067】
一実施形態によれば、像データ取得ユニットは、使用時、フィルタリングされている像副視野内の画素の局所座標p、qを示すように構成されているカウンタをさらに備える。これは、一方では同期の目的に関連し、他方では像副視野内の個々の空間依存走査誘起歪みの決定に関連する。
【0068】
一実施形態によれば、像データ取得ユニットは、アナログ-デジタル変換器の後かつハードウェアフィルタユニットの前で、データストリームの方向に実現されている平均化ユニットをさらに備える。平均化ユニットの適用によって、信号対雑音比を高くすることができる。考え得る実施態様が国際特許出願公開第WO2021/156198号に記載されており、そのすべての内容を本特許出願に援用する。
【0069】
一実施形態によれば、像データ取得ユニットは、使用時、別のフィルタリング動作、特に、低域通過フィルタリング、モルフォロジー演算、および/または点拡がり関数とのデコンボリューションを実行するように構成されている別のハードウェアフィルタユニットをさらに備える。当然のことながら、像データ取得ユニットは、複数の他のハードウェアフィルタユニットを同様に備えることができる。ここでは、特別に構成されたハードウェアによってもフィルタリング動作が実現され、像後処理においてフィルタリング動作を強制的に実行する必要はない、という原理が適用される。
【0070】
一実施形態によれば、ハードウェアフィルタユニットは、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)または特定用途向け集積回路(ASIC)を備える。
【0071】
一実施形態によれば、ハードウェアフィルタユニットは、一連のFIFOを備える。これらは、上記説明のようなシフトレジスタの実現によって、フィルタ要素の格子配列を実現することができる。
【0072】
一実施形態によれば、FIFOは、BlockRAMとして実現されている。別の実施形態によれば、FIFOは、LUT(ルックアップテーブル)または外部接続されたSRAM/DRAM(スタティックもしくはダイナミックランダムアクセスメモリ)として実現され得る。なお、通常は、ハードウェアをインスタンス化するため、対応するチップの製造者による既成のIPブロックが存在する。
【0073】
本発明の第5の態様の実施形態は、技術的矛盾が生じない限り、相互の部分的または全体的な組み合わせが可能である。
【0074】
当然のことながら、ハードウェアフィルタユニットは、他の実現および構成も可能である。本発明の第6の態様によれば、本発明は、多くの実施形態において上述したようなマルチビーム荷電粒子顕微鏡と、像データの歪み補正を実行するように構成されている像後処理ユニットと、を備えるシステムを対象とする。像後処理ユニットは、マルチビーム荷電粒子顕微鏡に追加で設けることができる。これには、たとえば付加的なPCを含み得る。ただし、代替として、像後処理ユニットは、マルチビーム荷電粒子顕微鏡に含めることも可能である。像後処理ユニットは、本発明の第1の態様に関して上述したような像後処理によって、歪み補正を実行するように構成され得る。重要なこととして、本発明の本実施形態によれば、2つの異なる種類の歪み補正が相互に組み合わされ得る。第1の歪み補正は、(データストリーム処理として実現される)像前処理において実行され、第2の歪み補正はその後、好ましくは関心フィーチャの抽出された幾何学的特性に対してのみ、像後処理において実行され得る。この点に関しては、本発明の第1の態様の説明が明示的に参照される。
【0075】
同様に、技術的矛盾が生じない限りは、本発明の異なる態様が相互に、全体的または部分的に組み合わされ得る。本発明のある態様に関して記載した定義は、本発明の他の態様にも有効である。
【0076】
一例によれば、第1のステップにおいて、規則的に発生する走査誘起歪みが(像前処理中に歪み補正が実行される)本発明の第2の実施形態に従って補正された後、第2のステップにおいて、別の残留歪みが(像後処理中に走査誘起歪みが補正される)本発明の第1の実施形態に従って補正され得る。
【0077】
本発明は、添付の図面を参照することによって、さらに深く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【
図1】一実施形態に係る、マルチビーム荷電粒子顕微鏡システムを示す図である。
【
図2】第1および第2の像パッチを含む第1の検査部位ならびに第2の検査部位の座標を示す図である。
【
図3】複数の一次荷電粒子ビームレット(3)の静的歪みオフセットを示す図である。
【
図4a】軸方向ビームレットに対して、走査偏向器における走査偏向を示す図である。
【
図4b】伝搬角βの軸外ビームレットの場合の走査誘起歪みに対して、走査偏向器における走査偏向を示す図である。
【
図5】伝搬角βの軸外ビームレットの場合の走査誘起偏心収差を示す図である。
【
図6】像副視野座標(p,q)を伴う像副視野の全体にわたる走査時の単一ビームレットの通常の走査誘起歪みを示す図である。
【
図7】一般的な像処理における歪み補正を示す図である。
【
図8】グレースケール画像における歪み補正および後続のフィーチャ抽出を示す図である。
【
図9】本発明に係る、フィーチャ抽出および後続の歪み補正を示す図である。
【
図10】本発明に係る、フィーチャの歪み補正位置を決定するための方法のフローチャートである。
【
図11】目標格子に基づくベクトル歪みマップの決定を示す図である。
【
図14】歪み補正像データに基づく寸法測定を示す図である。
【
図15】歪み補正像データに基づく規則的物体の位置の統計的評価を示す図である。
【
図16】像データ取得ユニットならびに関連するユニットもしくはモジュールを示す図である。
【
図17】ハードウェアフィルタユニットを示す図である。
【
図18】像副視野のセグメントのフィルタカーネルとのコンボリューションを示す図である。
【
図19】フィルタ要素および関連する要素の一部を示す図である。
【
図20】3×3のフィルタカーネルウィンドウを有するハードウェアフィルタユニットを示す図である。
【
図21】2×2のフィルタカーネルウィンドウを有するハードウェアフィルタユニットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0079】
後述の例示的な実施形態において、機能および構造が類似する構成要素は、可能な限り、同様または同一の参照番号で示す。
【0080】
図1の模式的表現は、本発明のいくつかの実施形態に係るマルチビーム荷電粒子顕微鏡システム1の基本的な特徴および機能を示している。図中で使用する記号は、図示の構成要素の物理的構成を表すのではなく、それぞれの各機能を記号で表すために選定したものであることに留意されたい。図示のようなシステムは、対物レンズ102の物体面101に上面25が配置されているウェハ等の物体7の表面に複数の一次荷電粒子ビームスポット5を生成するための複数の一次電子ビームレット3を用いたマルチビーム走査型電子顕微鏡(MSEMまたはマルチSEM)のものである。簡素化のため、5つの一次荷電粒子ビームレット3および5つの一次荷電粒子ビームスポット5のみを示している。マルチビームレット荷電粒子顕微鏡システム1の特徴および機能は、電子またはイオン(特に、ヘリウムイオン)等の他種の一次荷電粒子を使用することにより実施可能である。
【0081】
顕微鏡システム1は、物体照射ユニット100、検出ユニット200、および一次荷電粒子ビーム経路13から二次荷電粒子ビーム経路11を分離するビームスプリッタユニット400を備える。物体照射ユニット100は、複数の一次荷電粒子ビームレット3を生成するための荷電粒子マルチビーム生成器300を備え、サンプルステージ500によってウェハ7の表面25が配置される物体面101に複数の一次荷電粒子ビームレット3を集束させるように構成されている。
【0082】
一次ビーム生成器300は、物体照射ユニット100の視野曲率を補償するために通常は球状の湾曲面である中間像面321において、複数の一次荷電粒子ビームレットスポット311を生成する。一次ビームレット生成器300は、一次荷電粒子(たとえば、電子)源301を備える。一次荷電粒子源301は、少なくとも1つのコリメータレンズ303により平行化されて平行ビームを構成する発散一次荷電粒子ビーム309を放出する。コリメータレンズ303は通例、1つまたは複数の静電または磁気レンズ、あるいは静電レンズおよび磁気レンズの組み合わせから成る。平行化された一次荷電粒子ビームは、一次マルチビーム構成ユニット305に入射する。マルチビーム構成ユニット305は基本的に、一次荷電粒子ビーム309により照射される第1のマルチアパーチャプレート306.1を備える。第1のマルチアパーチャプレート306.1は、平行化一次荷電粒子ビーム309の透過によって複数の一次荷電粒子ビームレット3を生成するためのラスター構成の複数のアパーチャを備える。マルチビームレット構成ユニット305は、ビーム309の電子の移動方向に対して、第1のマルチアパーチャプレート306.1の下流に配置されている少なくとも他のマルチアパーチャプレート306.2および306.3を備える。たとえば、第2のマルチアパーチャプレート306.2は、マイクロレンズアレイの機能を有し、中間像面321において複数の一次ビームレット3の焦点位置が調整されるように、規定の電位に設定されるのが好ましい。第3のマルチアパーチャアクティブプレート構成306.3(図示せず)は、複数のアパーチャごとに個々の静電素子を備えることにより、複数のビームレットそれぞれに個別の影響を及ぼす。マルチアパーチャアクティブプレート構成306.3は、静的偏向器アレイ、マイクロレンズアレイ、または非点収差補正器アレイを構成するマイクロレンズ用の円形電極、多極電極、または一連の多極電極等の静電素子を備える1つまたは複数のマルチアパーチャプレートから成る。マルチビームレット構成ユニット305には、隣り合う第1の静電視野レンズ307が構成されており、第2の視野レンズ308および第2のマルチアパーチャプレート306.2と併せて、複数の一次荷電粒子ビームレット3が中間像面321またはその近傍に集束される。
【0083】
中間像面321またはその近傍においては、複数の荷電粒子ビームレット3それぞれを個別に操作する静電素子(たとえば、偏向器)を備える複数のアパーチャを含む静的ビームステアリングマルチアパーチャプレート390が配置されている。ビームステアリングマルチアパーチャプレート390のアパーチャには、複数の一次荷電粒子ビームレット3の焦点スポットが中間像面またはそれぞれの横方向設計位置からずれている場合であっても、一次荷電粒子ビームレット3の通過を可能にする大きな直径が設定されている。一例においては、ビームステアリングマルチアパーチャプレート390を単一のマルチアパーチャ素子として構成することも可能である。
【0084】
中間像面321を通過する一次荷電粒子ビームレット3の複数の焦点は、視野レンズ群103と、物体7の調査面25が配置される物体面101の対物レンズ102と、によって結像される。物体照射システム100は、第1のビームクロスオーバ108に近接して、ビーム伝搬方向または対物レンズ102の光軸105と垂直な方向に複数の荷電粒子ビームレット3を偏向可能な一括マルチビームラスター走査子110をさらに備える。
図1の例において、光軸105は、z方向と平行である。対物レンズ102および一括マルチビームラスター走査子110は、ウェハ表面25と垂直なマルチビームレット荷電粒子顕微鏡システム1の光軸105を中心とする。そして、像面101に配置されているウェハ表面25が一括マルチビームラスター走査子110によってラスター走査される。これにより、ラスター構成に配置されている複数のビームスポット5を構成する複数の一次荷電粒子ビームレット3がウェハ表面101上で同期して走査される。一例において、複数の一次荷電粒子ビームレット3の焦点スポット5のラスター構成は、およそ100本以上の一次荷電粒子ビームレット3の六角形ラスターである。一次ビームスポット5は、距離がおよそ6μm~15μmで、直径が5nm未満(たとえば、3nm、2nm、あるいはそれ以下)である。一例においては、ビームスポットサイズがおよそ2nmであり、2つの隣り合うビームスポット間の距離が8μmである。複数の一次ビームスポット5それぞれの各走査位置においては、複数の二次電子が生成され、一次ビームスポット5と同じラスター構成の複数の二次電子ビームレット9を構成する。各ビームスポット5で生成される二次荷電粒子ビームレットの強度は、対応するスポットを照らす衝突一次荷電粒子ビームレット3の強度、ビームスポット5下の物体7の材料組成およびトポグラフィによって決まる。サンプル帯電ユニット503により生成された静電界によって二次荷電粒子ビームレット9が加速され、対物レンズ102により収集され、ビームスプリッタ400によって検出ユニット200へと案内される。検出ユニット200は、二次電子ビームレット9を像センサ207上に結像して、複数の二次荷電粒子像スポット15を形成する。検出器は、複数の検出器画素または個々の検出器を含む。複数の二次荷電粒子ビームスポット15それぞれについて強度が別々に検出され、ウェハ表面25の材料組成が高分解能で検出されて、高スループットの大きな像パッチが実現される。たとえば、8μmピッチの10×10ビームレットのラスターによって、一括マルチビームラスター走査子110による1回の像走査で約88μm×88μmの像パッチが生成され、像分解能は、たとえば2nm以下である。たとえば、像パッチは、ビームスポットサイズの半分でサンプリングされるため、各ビームレットの像ラインあたりの画素数が8000画素となり、100個のビームレットにより生成される像パッチを表すデジタルデータセットは、64億画素を含む。像データは、制御ユニット800により収集される。たとえば並列処理を用いた像データの収集および処理の詳細については、独国特許出願第102019000470.1号および米国特許第9536702号に記載されており、これらを本明細書に援用する。
【0085】
複数の二次電子ビームレット9は、第1の一括マルチビームラスター走査子110を通過する際に走査偏向され、ビームスプリッタユニット400によって、検出ユニット200の二次ビーム経路11をたどるようにガイドされる。複数の二次電子ビームレット9は、一次荷電粒子ビームレット3と反対方向に推移し、ビームスプリッタユニット400は、通例は磁界または磁界および静電界の組み合わせによって、一次ビーム経路13から二次ビーム経路11を分離するように構成されている。任意選択としては、一次または二次ビーム経路にも付加的な磁気補正素子420が存在する。投射系205は、投射系制御ユニット820、より一般的には、結像制御モジュール820に接続されている少なくとも第2の一括ラスター走査子222をさらに備える。制御ユニット800は、複数の二次電子焦点スポット15の位置が像センサ207で一定に保たれるように、複数の二次電子ビームレット9の複数の焦点15の位置の残差を補償するように構成されている。
【0086】
検出ユニット200の投射系205は、他の静電または磁気レンズ208、209、210と、アパーチャ214が配置されている複数の二次電子ビームレット9の第2のクロスオーバ212を含む。一例において、アパーチャ214は、投射系制御ユニット820に接続されている検出器(図示せず)をさらに備える。投射系制御ユニット820は、少なくとも1つの静電レンズ206および第3の偏向ユニット218にさらに接続されている。投射系205は、複数の二次電子ビームレット9それぞれに個別の影響を及ぼすアパーチャおよび電極を備える少なくとも第1のマルチアパーチャ補正器220と、任意選択としての別の能動素子216(たとえば、制御ユニット800に接続されている多極素子)と、をさらに備える。
【0087】
像センサ207は、投射レンズ205によって像センサ207上に集束された二次電子ビームレット9のラスター構成に適合したパターンの検知エリアのアレイにより構成されている。これにより、像センサ207に入射するその他の二次電子ビームレット9から独立して、個々の二次電子ビームレット9を検出可能となる。複数の電気信号が生成され、デジタル像データに変換されて、制御ユニット800において処理される。像走査中、制御ユニット800は、像センサ207のトリガによって、複数の二次電子ビームレット9からの複数の時間分解強度信号を所定の時間区間において検出するように構成されており、複数の一次荷電粒子ビームレット3のすべての走査位置から、像パッチのデジタル像が蓄積され、一体的にステッチングされる。
【0088】
図1に示す像センサ207としては、CMOSまたはCCDセンサ等の電子感受性検出器アレイが可能である。このような電子感受性検出器アレイは、シンチレータ素子またはシンチレータ素子のアレイ等の電子-光子変換ユニットを備え得る。一例において、像センサ207は、複数の二次電子粒子像スポット15の焦点面に配置されている電子-光子変換ユニットまたはシンチレータプレートとして構成可能である。本例において、像センサ207は、複数の光電子増倍管またはアバランシェフォトダイオード(図示せず)等の専用光子検出素子において、二次荷電粒子像スポット15で電子-光子変換ユニットにより生成された光子を結像してガイドする中継光学系をさらに備え得る。このような像センサは、上記引用の米国特許第9536702号に開示されている。一例において、中継光学系は、光を分割して第1の低速光検出器および第2の高速光検出器にガイドするビームスプリッタをさらに備える。第2の高速光検出器は、たとえばアバランシェフォトダイオード等のフォトダイオードアレイによって構成されており、複数の一次荷電粒子ビームレット3の走査速度に応じて複数の二次電子ビームレット9の像信号を分解するのに十分高速である。第1の低速光検出器は、CMOSまたはCCDセンサであるのが好ましく、複数の二次電子ビームレット9または焦点スポット15をモニタリングするとともに、マルチビーム荷電粒子顕微鏡の動作を制御するための高分解能センサデータ信号を提供する。
【0089】
本例において、一次荷電粒子源は、エミッタチップおよび抽出電極を特徴とする電子源301の形態で実施されている。たとえばヘリウムイオンのように、電子以外の一次荷電粒子を使用する場合は、一次荷電粒子源301の構成を図示のものと異ならせることができる。一次荷電粒子源301、アクティブマルチアパーチャアクティブプレート構成306.1・・・306.3、およびビームステアリングマルチアパーチャプレート390は、制御ユニット800に接続されている一次ビームレット制御モジュール830によって制御される。
【0090】
ステージ500は、複数の一次荷電粒子ビームレット3の走査による像パッチの取得時には移動せず、像パッチの取得後、次に取得する像パッチまで移動するのが好ましい。代替的な一実施態様において、ステージ500は、一括マルチビームラスター走査子110による複数の一次荷電粒子ビームレット3の第1の方向の走査によって像が取得されている間、第2の方向に連続移動する。ステージの移動およびステージの位置は、レーザ干渉計、格子干渉計、共焦点マイクロレンズアレイ等、当技術分野において知られているセンサによりモニタリングおよび制御される。
【0091】
像パッチの取得によるウェハ検査の方法を
図2においてより詳しく説明する。ウェハは、第1の像パッチ17.1の中心21.1で、そのウェハ表面25を複数の一次荷電粒子ビームレット3の焦点面内として配置されている。像パッチ17.1・・・kの所定の位置は、半導体フィーチャの検査のためのウェハの検査部位に対応する。用途は、ウェハ表面25に限定されず、たとえば半導体加工に用いられるリソグラフィマスクにも適用可能である。したがって、単語「ウェハ(wafer)」は、半導体ウェハに限定されず、半導体加工時に使用または加工される一般的な物体を含むものとする。
【0092】
第1の検査部位33および第2の検査部位35の所定の位置は、標準的なファイルフォーマットの検査ファイルからロードされる。所定の第1の検査部位33は、複数の像パッチ(たとえば、第1の像パッチ17.1および第2の像パッチ17.2)に分割されており、第1の像パッチ17.1の第1の中心位置21.1は、検査タスクの第1の像取得ステップのため、マルチビーム荷電粒子顕微鏡システム1の光軸105下に位置合わせされる。第1の像パッチの第1の中心21.1は、第1の像パッチ17.1の取得のための第1のローカルウェハ座標系の原点として選択される。当技術分野においては、ウェハ表面25が位置決めされ、ウェハ座標の局所座標系が生成されるようにウェハ7を位置合わせする方法がよく知られている。
【0093】
複数の一次ビームレット3は、各像パッチ17.1・・・kにおいて、略規則的なラスター構成にて分布しており、ラスター走査機構による走査によって、像パッチのデジタル像が生成される。本例において、複数の一次荷電粒子ビームレット3は、N個の一次ビームスポット5.11、5.12~5.1NがN個のビームスポットとして第1のラインに存在し、M本のラインでビームスポット5.11~5.MNを含む矩形のラスター構成に配置されている。簡素化のため、M=5×N=5個のビームスポットを図示しているが、ビームスポットの数J=M×Nは、これより大きくすることも可能であり(たとえば、J=61ビームレットまたは約100ビームレット以上)、複数のビームスポット5.11~5.MNは、六角形または円形等のさまざまなラスター構成を有し得る。
【0094】
一次荷電粒子ビームレットはそれぞれ、ウェハ表面25上で走査され、図示のように、ビームスポット5.11および5.MNを含む一次荷電粒子ビームレットの例では、走査経路27.11および27.MNが存在する。複数の一次荷電粒子それぞれの走査は、たとえば走査経路27.11・・・27.MNによる前後移動にて実行されるが、各一次荷電粒子ビームレットの各焦点5.11・・・5.MNは、たとえば本例における像副視野31.mnの最も左側の像点である像副視野ラインの開始位置からのx方向の一括マルチビーム走査偏向系110の走査によって移動する。そして、右側位置への一次荷電粒子ビームレット3の一括走査により各焦点5.11・・・5.MNが一括走査された後、一括マルチビームラスター走査子110は、各副視野31.11・・・31.MNにおける次のラインのライン開始位置へと複数の荷電粒子ビームレットそれぞれを並行して移動させる。後続の走査ラインのライン開始位置に戻す移動は、フライバックと称する。複数の一次荷電粒子ビームレット3は、走査経路27.11~27.MNを略並行にたどるため、副視野31.11~31.MNそれぞれの複数の走査像が並行して得られる。像取得に関しては、上述の通り、焦点5.11~5.MNで複数の二次電子が放出され、複数の二次電子ビームレット9が生成される。複数の二次電子ビームレット9は、対物レンズ102により収集され、第1の一括マルチビームラスター走査子110を通過し、検出ユニット200にガイドされて、像センサ207により検出される。複数の二次電子ビームレット9それぞれのデータの連続ストリームが走査経路27.11・・・27.MNと同期して複数の二次元データセットに変換され、各像副視野のデジタル像データを構成する。複数の像副視野の複数のデジタル像は最終的に、像ステッチングユニットによる一体的なステッチングによって、第1の像パッチ17.1のデジタル像を構成する。各像副視野には、副視野31.mnおよび副視野31.m(n+1)の重畳エリア39によって示すように、隣り合う像副視野との小さな重畳エリアが設定されている。
【0095】
次に、ウェハ検査タスクの要件または仕様を説明する。高スループットのウェハ検査の場合は、像後処理に要する時間を含めて、各像パッチ17.1・・・kの像取得の時間を高速にする必要がある。一方、像分解能、像精度、および再現性等の像品質に関する厳しい仕様を維持する必要もある。たとえば、像分解能の要件は通常、高い再現性で2nm以下である。像精度は、像忠実度とも称する。たとえば、フィーチャのエッジ位置、一般的にはフィーチャの絶対位置精度は、高い絶対精度で決まることになる。通常、位置精度の要件は、分解能要件のおよそ50%以下である。たとえば、測定タスクでは、1nm未満、0.3nmあるいは0.1nm未満の精度にて、半導体フィーチャの寸法の絶対精度を必要とする。したがって、複数の一次荷電粒子ビームレット3の焦点スポット5それぞれの横方向位置精度は、1nm未満(たとえば、0.3nm未満あるいは0.1nm未満)にする必要がある。高い像再現性の下、同じエリアの繰り返し像取得では、第1および第2の繰り返しデジタル像が生成され、第1および第2の繰り返しデジタル像間の差が所定の閾値を下回ることが了解される。たとえば、第1および第2の繰り返しデジタル像間の像歪みの差は、1nm未満(たとえば、0.3nmあるいは好ましくは0.1nm未満)が必要であり、像コントラストの差は、10%未満が必要である。このように、結像動作の繰り返しによっても、同様の像結果が得られる。このことは、たとえば異なるウェハダイにおける類似の半導体構造の像取得および比較、あるいは、CADデータによる像シミュレーションもしくはデータベースから得られた代表像または基準像に対する取得像の比較にとって重要である。
【0096】
ウェハ検査タスクの要件または仕様のうちの1つがスループットである。取得時間当たりの測定面積は、ビームレットの滞留時間、画素サイズ、および数によって決まる。滞留時間の通常の例は、2ns~800nsである。したがって、高速像センサ207における画素レートは、1.25Mhz~500MHzの範囲であり、毎分およそ15個~20個の像パッチまたはフレームを取得することも可能である。100個のビームレットの場合、画素サイズが0.5nmの高分解能モードでのスループットの通常の例は、およそ0.045平方mm/分(平方ミリメートル/分)であり、ビームレットの増数の場合(たとえば、ビームレットが10000個で滞留時間が25nsの場合)は、7平方mm/分を超えるスループットが可能である。ただし、従来技術のシステムにおいては、デジタル像処理に対する要件がスループットを大幅に制限する。たとえば、従来技術の走査歪みのデジタル補償は、非常に時間がかかるため望ましくない。
【0097】
荷電粒子顕微鏡1の結像性能は、物体照射ユニット100の静電または磁気素子の設計および高次収差のほか、たとえば一次マルチビームレット構成ユニット305の製造公差によって制限される。結像性能は、たとえば複数の荷電粒子ビームレットの歪み、焦点収差、偏心、および非点収差等の収差によって制限される。
図3は、像面101における複数の一次荷電粒子ビームレット3の通常の静的歪み収差を一例として示している。複数の一次荷電粒子ビームレット3は、像面において集束され、ラスター構成(本例においては、六角形ラスター)の複数の一次荷電粒子ビームスポット5(3つを示す)を構成する。理想的なシステムにおいては、一括マルチビームラスター走査子110がオフに切り替えられた状態で、対応する像副視野31.mn(添え字mがライン番号、nが列番号)の中心位置29.mn(
図2参照)にビームスポット5がそれぞれ形成される。ただし、現実のシステムにおいては、
図3の静的歪みベクトルで示すような、理想的なラスター上の理想的な位置からわずかに逸脱する位置にビームスポット5が形成される。一次ビームスポット141の図示の例の場合、六角形ラスター上の理想的な位置からの逸脱は、歪みベクトル143により表される。歪みベクトルは、理想的な位置からの横方向差分[dx,dy]を与え、歪みベクトルの最大絶対値としては、数ナノメートルの範囲(たとえば、1nm超、2nmあるいは5nm超)が可能である。通常、現実のシステムの静的歪みベクトルは、マルチアパーチャアクティブプレート構成306.2のいずれか等、静的偏向素子のアレイによって測定および補償される。また、静的歪みのドリフトまたは動的変化は、2020年5月28日に出願された独国特許出願第102020206739.2に記載のように考慮および補償されるが、これを本明細書に援用する。収差の制御および補償は、モニタリングもしくは検出システム、ならびに、たとえば像走査時に複数回、補償器を駆動し得る制御ループによって実現され、これによりマルチビーム荷電粒子顕微鏡1の収差が補償される。
【0098】
ただし、荷電粒子顕微鏡の結像性能は、物体照射ユニット100の静電または磁気素子の設計収差およびドリフト収差のみならず、特に、第1の一括マルチビームラスター走査子110によっても制限される。シングルビーム顕微鏡については、偏向走査システムおよびそれぞれの特性が十分に調査されている。ただし、マルチビーム顕微鏡の場合、複数の荷電粒子ビームレットの走査偏向のための従来の偏向走査システムは、固有の特性を示す。この固有の特性については、
図4の偏向走査子を通るビーム経路にてより詳しく示している。
【0099】
図4aは、偏向電極153.1および153.2ならびに電圧源を備える従来技術の走査偏向器110を通る単一の一次荷電粒子ビームのビーム経路を示している。簡素化のため、第1の方向のラスター走査偏向用の偏向走査子電極のみを示している。使用時には、走査偏向電圧差VSp(t)が印加され、電極153.1および153.2間に等電位線155を伴って静電界が形成される。像パッチ中心29.cを伴う像パッチ31.cに対応する軸方向荷電粒子ビームレット150aは、光軸105と一致し、静電界により偏向して、現実のビーム経路151fに沿って偏向電極153.1および153.2間で交差ボリューム189を通過する。ビーム軌道は、ピボット点159に単一の仮想偏向を有する1次ビーム経路150aおよび150fにより近似可能である。経路150zに沿って進行する荷電粒子ビームレットは、対物レンズ102によって、
図4aの下部に示す物体面101に集束される。副視野座標は、副視野31.cの中心点29.cに対する相対座標(p,q)にて与えられる。
【0100】
座標pfの最大副視野点への最大偏向の場合は、最大電圧差VSpmaxが印加され、距離pzの副視野点への入射ビームレット150aの偏向の場合は、対応する電圧VSpが印加され、入射ビームレット150aは、ビーム経路150zの方向に偏向角αだけ偏向する。偏向器の非線形性は、偏向角αおよび偏向器電圧差VSpの関数依存性を決定することにより補償される。関数依存性VSp(sin(α))の校正により、単一の一次荷電粒子ビームレットの偏向走査のための単一の共通ピボット点159を伴って、単一の荷電粒子ビームレットに対するほぼ理想的な走査子が実現される。なお、像面におけるビームスポット位置の横方向変位(p,q)は、sin(α)を乗じた対物レンズ102の焦点距離fに比例することに留意されたい。帯状の視野点の例では、pz=fsin(αz)である。小さな角度αの場合、関数sin(α)は通常、αで近似される。以下により詳しく説明する通り、シングルビーム顕微鏡の場合は走査誘起歪みを最小化可能である、という事実にも関わらず、非点収差、焦点ずれ、コマ、または球面収差等の他の走査誘起収差によって、視野サイズの大きな荷電粒子顕微鏡の分解能が低下し得る。また、視野サイズが大きくなるにつれ、仮想ピボット点159からの逸脱がますます有意となる。
【0101】
マルチビームシステムにおいては、同じ偏向走査子によって、関数依存性VSp(sin(α))に応じた同じ電圧差で複数の荷電粒子ビームレットが並行して走査される。
図4bにおいて、複数の一次荷電粒子ビームレットのクロスオーバ108は、軸方向一次ビームレット150aの仮想ピボット点159と一致し、荷電粒子ビームレットはそれぞれ、異なる角度で静電界を通過する。像副視野中心29.oを伴う対応する副視野31.oと併せて、入射角βの荷電粒子ビームレット157aを示している。角度βは、対物レンズ102の焦点距離fを用いることにより、中心座標29.oから光軸105までの距離Xとsin(β)=X/fで関連付けられている。偏向走査子110がオフに切り替えられた状態で(VSp(t)=0V)、ビームレットは、経路157aを進み、対物レンズ102によって副視野31.oの中心点29.oに集束される。ただし、電圧差が印加された場合は、
図4aに示すように、偏向走査子が軸方向ビームレットに対して略理想的である、という事実にも関わらず、入射角βの視野ビームレットに対しては理想的ではない。偏向電界の有限厚さのため、静電界を通る経路長は、異なる入射角βの入射ビームレットごとに異なり、現実のビーム経路157zおよび157fは、理想的な1次ビーム経路163zおよび163fから逸脱する。これを座標p
zおよびp
fの2つの副視野点に対するビーム経路について、現実のビーム経路157zおよび157fで示す。現実のビーム経路157zおよび157fの角度は、理想的なビーム経路163zおよび163fの角度から逸脱しており、各ビームは、ビームクロスオーバ108から逸脱する異なる仮想ピボット点161zおよび161fで仮想的に偏向する。たとえば、電圧VSp(sin(α
0))が印加される場合、一次荷電粒子ビームレット157aは、角度α0の代わりに角度α1だけ偏向し、仮想偏向点161zを含むビーム経路157zをたどる。したがって、荷電粒子ビームスポットが局所歪みベクトルdpzだけ歪む。
【0102】
偏向角の逸脱は、入射角βの増大とともに大きくなり、一括マルチビームラスター走査子110によって大きな走査誘起歪みが生じる。
【0103】
偏向角αの差によって走査誘起歪みが生じ、仮想ピボット点の位置の差が走査誘起偏心収差の原因となる。
図5は、走査一括マルチビームラスター走査子110の前段のシステム171を簡易的に示しており、ここから、複数の一次荷電粒子が第1の一括マルチビームラスター走査子110に入射する。軸方向荷電粒子ビームレット3.0および軸外ビームレット3.1を含む2つのビームレットによって複数の荷電粒子ビームレットを示しているが、これらは、ラスター走査子110の交差ボリューム189を通過し、対物レンズ102により集束されて、ウェハ7の表面25上の焦点5.0および5.1で示す複数の焦点を構成する。ラスター走査子110がオフ状態で、電極153に電圧差VSpが印加されていない場合、ビームスポット5.0および5.1は、各像副視野の中心点29.0および29.1にある。電圧差VSp(sin(α
0))が印加されている場合、ビームレット3.0は、理想的な経路150をたどって、帯状の視野点Z
0に偏向する。
図5の線形表現において、ビームレット3.0は、
図4aの仮想ピボット点159に対応するビームクロスオーバ108において偏向しているように見える。したがって、ビームレット3.0は、中心位置29.0と同じ入射角でウェハ表面25を照射する。軸外ビームレット3.1は、対応する像副視野の対応する帯状の視野点Z
1へと偏向する。軸外ビームレット3.1は、ビームクロスオーバ108から逸脱する仮想偏向点161で代表的なビーム経路157に沿って偏向しているように見える。したがって、帯状の視野点Z
1に対する走査位置でのビームレット3.1の偏心角は、中心視野29.1での偏心角から逸脱しており、上述の歪みのほか、ビームレット3.1の走査誘起偏心収差に対応する。本発明の第3の実施形態においては、第2のマルチビーム走査補正システム602によって走査誘起偏心収差が抑えられる。
【0104】
複数の荷電粒子ビームレット3それぞれの走査位置における焦点位置の逸脱は、像副視野31.11~31.MNそれぞれについて、走査歪みベクトル場(ベクトル歪みマップとも称する)により表される。
図6は、像副視野31.15の例における走査歪みを示している(
図7参照)。本開示の全体を通して、各像副視野31.mnの各中心に対する像副視野座標(p,q)が使用され、走査歪みは、個々の像副視野31.mnについて、像副視野座標(p,q)の関数としてベクトル[dp,dq]により表される。各像副視野の中心位置(p,q)=(0,0)は、光軸105に対する(x,y)座標で表される。各像中心座標は、
図3に示すように、静的オフセット(dx,dy)により(x,y)座標の関数として、所定の理想的なラスター構成から歪ませることができる。静的な歪みは通常、静的マルチアパーチャプレート306.2により補償され、走査歪み[dp,dq]には考慮されない。走査歪みは、各像副視野31.11・・・31.MNにおいて異なることから、一般的には、4つの座標によって決まる走査歪みベクトル[dp,dq]=[dp,dq](p,q;x
ij,y
ij)により表される。4つの座標は、像副視野局所座標(p,q)および像副視野の離散中心座標(x
ij,y
ij)により構成される。
【0105】
図6は、像副視野31.15の全体にわたる走査歪みベクトル[dp,dq]を示している。本例において、最大走査歪みは、最大像副視野座標p=q=6μmにあり、走査歪みベクトル[dp,dq]=[2.7nm,-1.6nm]である。この像副視野における最大走査歪みベクトルの長さは、3.5nmである。像副視野における通常の最大走査歪み収差は、1nm~4nmの範囲であるが、5nmを超える場合もある。
【0106】
図7は、一般的な像処理における歪み補正を示す図である。像の歪み補正自体は、当技術分野においてよく知られている。そして、像の歪み補正は、像後処理において実行される。歪みの補正は、位置依存変位ベクトルによる画素の変位として表され得る。歪みが画素ごとに異なるためである。位置依存変位ベクトルは、行列-ベクトル乗算の結果によって数学的に表され得る。さらに、歪みは通常、画素全体では与えられないことを考慮に入れる必要がある。言い換えると、単なる変位のほか、画素値の補間の実行が必要である。これらの事実を
図7において模式的に示している。画素700が歪みにより変位しており、結果としての画素位置を参照記号700’で示している。画素700の値は、1に設定されている。変位のため、値または強度1は、歪み補正像における4つの画素にわたって分散するはずである。各画素は、強度/値l1、l2、l3、およびl4を有する。
【0107】
像処理による像全体の歪み補正の場合、これは計算上高価である。歪み像中の元の画素ごとに、n×m行列との乗算を実行する必要があり、また、補間も実行する必要がある。一例として、マルチビーム荷電粒子顕微鏡の像は、100億画素を含む。したがって、歪み補正には、画素ごとに4つの演算のほか、補間を要するため、少なくとも400億回の演算が必要であって、これは膨大な量である。
【0108】
ただし、計測において本当に重要なのは、像詳細の厳密な位置である。本発明によれば、元の歪んだままの像において像詳細の位置が決定された後、その歪みが補正される。たとえば、半導体サンプル中のHAR構造体(高アスペクト比構造)の位置を決定することが目的である場合、計算上の費用は、約10万分の1に低減することができる(100×100μm2の像視野が100億画素を含み、HAR構造体が約100ナノメートルの直径および約300ナノメートルのピッチを有するものと仮定する)。
【0109】
本発明によれば、ベクトル歪みマップ730に関して、像副視野31.mnごとに歪みが決定される。歪みは、像副視野31.mnごとに異なり、各像副視野31.mnにおいて変動するためである。ベクトル歪みマップの生成自体は既知である。各像副視野31.mnにおける歪みは、たとえばベクトル多項式における多項式展開により表され得る。これは原理上、たとえば校正された物体の測定により把握される。また、物体またはテストサンプルが第1および第2の測定間で変位可能であり、2つの測定間の差に基づいて歪みが決定され得る。また、これらの測定は、繰り返し実行され得る。したがって、歪みを決定することができる。歪み、より厳密には、ベクトル歪みマップ730および/またはベクトル多項式における多項式展開としての表現は、像副視野ごとに、メモリに格納され得る。また、所定の時間間隔で更新され得る。
【0110】
図8および
図9は、一方(
図8)が従来の像処理に係り、他方(
図9)が本発明に係る歪み補正を示している。より詳細に、
図8Aは、グレースケール画像702を示している。グレースケール画像702としては、原理上、像全体、像パッチのみ、あるいは像副視野のみが可能である。原理の説明に際して相違はない。グレースケール画像702は、3つの関心フィーチャ701a、701b、および701cを含む。原理上、これらのフィーチャ701a、701b、および701cは、歪んでいる可能性がある。ここでは、湾曲するフィーチャ701cにおいて、歪みを例示している。元のグレースケール画像702は、最新技術に従って歪み補正されており、この歪み補正は、グレースケール画像のすべての画素に実行されている。その結果を
図8Bに示す。フィーチャ801cは、もはや歪んでいない(もはや湾曲していない)。次のステップにおいては、グレースケール画像702からフィーチャ701a、701b、および701cの輪郭が抽出され、
図8Cに示す2値画像710が生成される。2値画像710における輪郭に基づいて、精密測定または計測の用途を実行可能である。なお、例示および区別を目的として、グレースケール画像702はドット状の背景を含み、2値画像710は白色の背景を含む。
【0111】
ここで
図9を参照して、この図は、本発明に係る補正プロセスを示すが、
図9Aに示す元の状況は同じである。ただし、その後はまず、すべての関心フィーチャが識別および抽出される。
図9Bは、フィーチャ701a、701b、および701cの輪郭のみを含む2値画像710を示している。これらの輪郭は、依然として歪んでいる。ただし、この2値画像中のデータの量は、最新技術に係るグレースケール画像と比較して、大幅に抑えられている。その後、次のステップにおいては、フィーチャ701a、701b、および701cの輪郭が歪み補正される。ここでは、走査誘起歪みである歪みの性質から、歪み補正が像副視野ごとに個別に実行され、各像副視野31.mnにおける各画素の歪み補正は、位置に依存ずる。
【0112】
例示の理由から、
図9は、走査誘起歪みの改良された補正の簡易手法を示している。走査誘起歪みを補正するための方法の別の例によれば、未補正のデジタル像から、少なくとも関心フィーチャ701a、701b、701cの位置が抽出され、たとえばベクトル歪みマップの多項式展開によって、関心フィーチャ701a、701b、701cの位置のみに歪み補正が適用される。したがって、歪み補正は、デジタル像の画素ラスターに制限されない。
【0113】
したがって、より一般的に、
図9Bに示す実例は代替として、グレースケール画像702からのフィーチャ抽出により得られた関心フィーチャ701a、701b、701cの一組の非整数位置または非整数座標から成る接続線分の視覚化と解釈され得る。同様に、
図9Cは、歪み補正された関心フィーチャ701a、701b、701cの非整数位置または非整数座標から成る接続線分の視覚化と解釈され得る。
【0114】
図10は、マルチビーム荷電粒子顕微鏡の関連するビームレットでそれぞれ結像された複数の像副視野31.mnでそれぞれ構成されている1つまたは複数の像パッチで構成されている像中のフィーチャ701の歪み補正位置を決定するための方法のフローチャートを示している。第1の方法ステップS1においては、像副視野31.mnごとに、複数のベクトル歪みマップ730を用意する。各ベクトル歪みマップ730は、関連する像副視野31.mnの画素ごとの位置依存歪みを特性化する。さらに、本願の概要部で既に説明した通り、用語「マップ(map)」は、広い解釈が必要である。像副視野31.mnごとに、歪みベクトルを含むベクトル場が与えられていることを示すものとする。たとえば、複数のベクトル歪みマップ730はそれぞれ、ベクトル多項式における多項式展開により表され得る。そして、多項式展開から、像副視野31.mnにおける位置p、qの具体的な歪みが計算され得る。あるいは、複数のベクトル歪みマップ730はそれぞれ、2次元ルックアップテーブルにより表され得る。原理上は、他の表現も可能である。
【0115】
方法ステップS2においては、像中の関心フィーチャ701を識別する。方法ステップS3においては、フィーチャ701の幾何学的特性を抽出する。方法ステップS2およびS3は、別々に実行することも可能であるが、相互に組み合わせることも可能である。原理上、関心フィーチャ701の幾何学的特性としては、如何なる種類も、如何なる形状も可能である。フィーチャ701の幾何学的特性としては、たとえばフィーチャ701の輪郭が可能である。あるいは、前記輪郭の一部のみ(たとえば、縁部または角部)も可能である。また、関心フィーチャ701の中心も可能である。フィーチャ701の幾何学的特性の例としては、輪郭、縁部、角部、点、線、円、楕円、中心、直径、半径、距離のうちの少なくとも1つが可能である。他の幾何学的特性のほか、不規則な形状も可能である。また、幾何学的特性は、ラインエッジ粗さ、2本のライン間の角度、または面積もしくは体積等の特性も含み得る。
【0116】
次のステップS4においては、フィーチャ701の抽出した幾何学的特性を含む対応する像副視野31.mnを決定する。ステップS5においては、決定した対応する像副視野31.mnにおけるフィーチャ701の抽出した幾何学的特性の1つまたは複数の位置を決定する。決定する位置が1つであるか複数であるかに関わらず、これは、抽出した幾何学的特性の性質によって決まる。対応する像副視野31.mnを決定するとともに、各像副視野31.mnにおける画素の1つまたは複数の位置を決定することにより、方法ステップS6で実行される補正に対して、歪みベクトル715(または、複数の歪みベクトル715)を明確に割り当て可能となる。方法ステップS6によれば、対応する像副視野31.mnのベクトル歪みマップ730に基づいて、像中の抽出した幾何学的特性の1つまたは複数の位置を補正することにより、歪み補正像データを生成する。方法ステップS2~S6は、複数のフィーチャ701に対して繰り返し実行され得る。
【0117】
その後、方法S7においては、手順の終了または1つもしくは複数の計測用途もしくは測定の実行が可能である。例としては、歪み補正像中の半導体装置の構造の寸法の決定、歪み補正像中の半導体装置の構造の面積の決定、歪み補正像中の半導体装置、特に、HAR構造体中の複数の規則的物体の位置の決定、歪み補正像中のラインエッジ粗さの決定、および/または歪み補正像中の半導体装置中の異なるフィーチャ間の重ね合わせ誤差の決定がある。これらの例示的な用途については、以下により詳しく説明する。
【0118】
フィーチャの抽出した幾何学的特性701は、複数の像副視野31.mnにわたって延びるため、複数の部分にそれぞれ分割され得る。このような場合、抽出した幾何学的特性の各部の1つまたは複数の位置は、それぞれの部分の対応ずる像副視野31.mnの関連する個々のベクトル歪みマップ730に基づいて個別に歪み補正される。これにより、測定プロセスの精度が大幅に向上する。走査誘起歪みは、必ずしも副視野境界725上の滑らかな関数ではないためである。
【0119】
図11は、目標格子711に基づくベクトル歪みマップ730の決定を示す図である。
図11Aは、目標格子を規定する構造体712の正確に把握されたパターン、本例においては、繰り返しパターンを有するテストサンプルを示している。この場合、目標格子711は、複数の円を含む。たたし、他の目標格子711(たとえば、正方形または正方形および円の組み合わせを含む目標格子)も選定され得る。目標格子は理想的に、規則的なパターンで配置された複数の構造体712間に公称ピッチを有する完全な格子である。その後、マルチビーム荷電粒子顕微鏡1でテストサンプルが結像され、得られた像が解析され、前記解析に基づいて実際の格子720が決定される。目標格子711および実際の格子720は、相互に異なる。この差は、構造体712の中心713に関して表され、
図11Bの歪みベクトル715により示される。歪みベクトル715の場は、歪み補正に用いられるベクトル歪みマップ730の一例である。
【0120】
図12は、歪みベクトル715の決定を示す図である。座標p、qの内部座標系において規定されているベクトル717は、理想的な目的格子711の構造体712の中心713を指す。ただし、実際の格子を決定する場合、この中心713は、像副視野の内部座標p、qに関してベクトル716により表され得る位置714で結像される。ベクトル716からベクトル717を引くと、歪みベクトル715が得られる。なお、歪みベクトル715は、理想的な格子の中心713から実際に測定された格子の中心714を指すベクトルとして規定される。ただし、原理上は、ここに示すベクトルの逆ベクトルとして歪みベクトル715を規定することも可能である。この規定に応じて、像副視野31.mnにおける抽出した幾何学的特性の1つまたは複数の位置の補正に用いられるのは、歪みベクトル715自体またはその逆ベクトルである。
【0121】
図13は、実際の格子720における格子点の決定を示している。目標格子710は、複数の規則的かつ厳密に把握されている構造体712を含む。これらの構造体712は、理想的な輪郭を有する。図示の例において、構造体712は、円である。テストサンプルの結像の場合は、単一の輪郭の複数の位置721が決定される。この場合、点対称である構造体712の幾何学的特性によって、構造体712の両側の2つの縁部位置を接続する接続線722が規定され得る。参照記号723は、構造体中心713を含む線の中心点724の領域を示す。構造体中心713は、格子位置の規定に用いられる。これらの中心点724の平均位置は、実際の構造体中心すなわち実際の格子720に関する構造体中心として使用され得る。中心点位置724の標準偏差は、フィーチャ中心713を決定し得る精度または信頼度の尺度である。この偏差が大きすぎる場合、この構造体は、他の処理から除外され得る。
【0122】
図14は、歪み補正形状データに基づく寸法測定を示す図である。
図14Aは、対応するベクトル歪みマップ730が歪みベクトル715の場を含む2つの像副視野31.mnおよび31.m(n+1)を例示している。従来の像視野が単一のシングルビーム荷電粒子顕微鏡において、歪みは、単一の像視野上でゆっくりと変化する連続関数であり、寸法の測定に及ぼす影響は無視できるほどでしかない。ただし、たとえば副視野31.mnおよび31.m(n+1)のような複数の像副視野31.mnを伴うマルチビーム荷電粒子顕微鏡において、全体的な歪みは、副視野境界725における不連続関数である。したがって、2つの像副視野31.mnおよび31.m(n+1)にわたって延びるフィーチャ701の寸法測定は、不連続な歪み関数の大きな差によって劣化する可能性がある。本発明によれば、像副視野31.mnおよび31.m(n+1)それぞれのベクトル歪みマップ730に従って、フィーチャ701の2つの部分726および727が別々に歪み補正される。より詳細に、像から抽出されたフィーチャの幾何学的特性は、距離dv、より厳密には、2つの位置(p1;q)および(p2;q)である。qの値は同一であるため、これ以上の説明は省略する。ただし、座標(p1;q)が像副視野31.mnに関して決定される一方、座標(p2;q)は、像副視野31.m(n+1)に関して決定される。(p1;q)の位置は、像副視野31.mnのベクトル歪みマップ730に基づいて補正され、(p2;q)の位置は、像副視野31.m(n+1)のベクトル歪みマップ730に基づいて補正される。
図14Bには、各歪みベクトルvp1およびvp2も示している。結果として、距離dvは、歪み補正されて距離dとなる。
【0123】
図14は、複数の一次ビームレットの静的歪みが補償される場合の状況を示している。したがって、像副視野31.mn、31.m(n+1)それぞれの中心位置におけるベクトル歪みマップ730は、一切の歪みも歪みベクトルのオフセットも示さない。ただし、像副視野31.mn、31.m(n+1)の走査誘起歪みによるベクトル歪みマップ730はそれぞれ、マルチビーム荷電粒子システム1の静的歪みに起因する付加的な歪みベクトルオフセットを含み得る。たとえば
図3に示すように、各像副視野の各歪みベクトルオフセットは異なり得る。
【0124】
図15は、歪み補正像データに基づく規則的物体の位置の統計的評価を示す図である。
図16Aは、複数のHARフィーチャを示しており、参照記号80.1および80.2はそれぞれ、第1のHAR構造体および第2のHAR構造体を標識している。これらのHARフィーチャ80.1、80.2は、たとえば当技術分野において原理がよく知られているパターン認識によって識別され得る。パターン認識は、たとえば機械学習による補助が可能である。HARフィーチャ80.1および80.2の幾何学的特性はそれぞれ、HARフィーチャ80.1および80.2の中心位置である。各HAR構造体80の中心位置が抽出され、その位置が決定される。さらに、HAR構造体80の中心位置が属する像副視野31.mnが判定される。この場合は、HAR構造体80.1の中心が像副視野31.mnに属し、HAR構造体80.2の中心が像副視野31.m(n+1)に属する。そして、HAR構造体80.1および80.2の中心の位置は、対応する像副視野31.mnおよび31.m(n+1)それぞれの対応するベクトル歪みマップ703に基づいて補正される。その後、補正された中心位置が解析され(たとえば、複数のHAR構造体の設計中心位置96と比較され)、設計中心位置96からの偏差97が解析される。また、
図15に示す例においては、歪んだままの2値画像において、フィーチャの抽出および位置測定を最初に実行することが重要である。その後、関連する像副視野31.mn、31.m(n+1)に関して、歪み補正が位置に依存して実行される。
【0125】
図14および
図15に示す具体的な用途のほか、本発明の他の複数の用途が可能である。そのうちの1つが副視野境界725をまたぐLER決定(ラインエッジ粗さの決定)である。副視野境界725をまたぐ歪みの不連続性によって、ライン自体も不連続となり得る。本発明に係る考え得る解決手段は基本的に、最初にラインを抽出し、異なる像副視野に属する部分へとラインを分割し、歪み補正をラインの各部に適用した後、ラインエッジ粗さを決定することである。
【0126】
第1の層の第1のフィーチャ701に対する第2の層の第2のフィーチャ701’の位置の偏差を重ね合わせ誤差と称する。重ね合わせ誤差は、異なるリソグラフィステップまたは異なる層において生成されたフィーチャ701、701’において決定され得る。この場合も、本発明によれば、フィーチャ701、701’が最初に抽出される。その後、歪み補正がフィーチャ701、701’に適用される。本発明が特に重要なのは、第1のフィーチャ701および第2のフィーチャ701’が異なる像副視野31.mnに存在する場合である。
【0127】
本発明の一般的な課題は、2D像データの像後処理中の歪み補償の抑制または回避である。上述の通り、2D像データの後処理中の歪み補償には、元の像データの格納および歪み補正目標像データの演算が必要となる。上述の歪み補正の改良方法によれば、2D像データの全体ではなく、縁部または中心位置等、抑制された一組の抽出パラメータに対して歪み補正が実行される。これにより、演算量および電力消費が少なくとも1桁あるいは最大5桁も少なくなる。本発明の別の実施形態によれば、後処理に必要な演算量および電力消費がさらに抑えられる。本実施形態においては、データストリームの処理中に歪み収差が抑制または補償されるように、像センサ207から受信されたデジタル像データストリームがメモリ814に直接書き込まれる。これにより、少なくとも各副視野31.mnの歪みの大部分がストリーム処理中に補償され得る。
【0128】
図16は、像データ取得ユニット810ならびに関連するユニットもしくはモジュールを示す図である。説明を容易化するため、
図16においては、像チャネルを1つだけ示して、その他の像チャネルは示していない。この場合、像チャネルの数は、マルチビーム荷電粒子顕微鏡1による結像に適用されるJ個のビームレットの数に対応する。
【0129】
一例において、像センサ207は、複数のJ個の二次電子ビームレットに対応する複数のJ個のフォトダイオードを備える。J個のフォトダイオード(たとえば、アバランシェフォトダイオード(APD))はそれぞれ、個々のアナログ-デジタル変換器に接続されている。像センサは、たとえば独国特許第102018007455 B4号に記載のような電子-光子変換器をさらに備え得るが、そのすべての内容を本明細書に援用する。
【0130】
アナログ-デジタル変換器811は、アナログデータストリームを複数のJ個のデジタルデータストリームに変換する。デジタルデータストリームへの変換後、このデータは、平均化ユニット815に与えられる。ただし、平均化ユニット815は、省略することも可能である。原理上は、画素の平均化または線の平均化が実行され得るが、さらに詳細な情報については、国際特許出願公開第WO2021/156198号が参照され、そのすべての内容を本明細書に援用する。
【0131】
像データ取得ユニットは、J個の像副視野それぞれについて、ハードウェアフィルタユニット813を備える。このハードウェアフィルタユニット813は、デジタルデータストリームを受信するように構成されるとともに、マルチビーム荷電粒子顕微鏡1の使用時、像副視野32.mnのセグメントの空間変動フィルタカーネル910とのコンボリューションを実行することにより、歪み補正データストリームを生成するように構成されている。この歪み補正の詳細については、以下により詳しく説明する。
【0132】
像データ取得ユニット810は、歪み補正データストリームを像副視野31.mnの2D表現として格納するように構成されている像メモリ814をさらに備える。
【0133】
図示の例において、像データ取得ユニット810は、結像制御モジュール820の一部であり、これは、走査制御ユニット930も備える。本例において、走査制御ユニット930は、第1の一括ラスター走査子110のほか、第2の一括ラスター走査子220を制御するように構成されている。また、マルチビーム荷電粒子顕微鏡1においては、走査制御ユニット930の他の制御機構(
図16には示さず)も実現され得る。
【0134】
原理上、マルチビーム荷電粒子顕微鏡1の全体制御には、さまざまなユニットまたはモジュールを含む。ただし、この制御に属するさまざまなモジュールの図示の表現は、異なる選定および実現がなされる可能性もあることに留意する必要がある。したがって、
図16に示す構造は一例にすぎない。結像制御モジュール820のほか、制御ユニット800が設けられている。像メモリ814は、並行読み出しのため制御ユニット800に接続され、J個の像副視野31.11~31.mnに対応する複数のJ個のデジタル像を読み出すように構成されている。制御ユニット800の像ステッチングユニット817は、1つの像パッチ(たとえば、像パッチ17.k)に対応する1つのデジタル像ファイルへとJ個のデジタル像副視野をステッチングするように構成されている。像ステッチングユニット817は、デジタル像ファイルから情報を抽出するように構成されるとともに、デジタル像ファイルのメモリへの書き込みまたはデジタル像ファイルからディスプレイへの情報の提供を行うように構成されている像データプロセッサ・出力818に接続されている。
【0135】
なお、
図16に示すモジュールおよびプロセスは厳密に同期しているが、これは、適当なクロック信号(
図16には詳しく示さず)の提供により実現され得る。また、像副視野のセグメントの空間変動フィルタカーネル910とのコンボリューションをハードウェアフィルタユニット813が実行するように構成されていることから、制御ユニット800においては、フィルタカーネル用のデータをハードウェアフィルタユニット813に与えるカーネル生成ユニット812に対して入力を与える計数ユニット816が実現されている。この場合も、フィルタカーネル910が結像チャネルごとに計算されることを強調しておく。ただし、この複数の結像チャネルは、説明を容易化するため、
図16には詳しく示していない。
【0136】
マルチビーム荷電粒子顕微鏡1の結像制御モジュール820は、並列に配置された少なくとも第1の像データ取得ユニット810.1および第2の像データ取得ユニット810.2を含む複数のL個の像データ取得ユニット810.nを備え得る。像データ取得ユニット810.nはそれぞれ、複数のJ個の一次荷電粒子ビームレットのうちのS個のビームレットの部分集合に対応する像センサ207のセンサデータを受信し、デジタル像データ値から成る複数のJ個のストリームのうち、デジタル像データ値から成るS個のストリームの部分集合を生成するように構成され得る。L個の像データ取得ユニット81O.nそれぞれに帰属されるS個のビームレットの数としては、同一の数が可能であって、S*L=Jである。Sの数は、たとえば6~10(たとえば、S=8)である。並列の像データ取得ユニット810.nの数Lとしては、一次荷電粒子ビームレットの数Jに応じて、たとえば10~100以上が可能である。結像制御モジュール820のモジュール式の概念により、マルチビーム荷電粒子顕微鏡1における荷電粒子ビームの数Jは、並列の像データ取得ユニット810.nの追加により増やすことができる。
【0137】
図17は、ハードウェアフィルタユニット813を示す図である。
図17の矢印は、ハードウェアフィルタユニット813へのデータ入力を示す。図示の実施形態において、ハードウェアフィルタユニット813は、5×5個のフィルタ要素901を含む格子配列900を備える。フィルタ要素901の格子配列900は、像副視野31.mnのセグメントの表現を反映または表現に相当するものとする。したがって、この関係または同等性を保証するには、格子配列900内のデータの順序および配置が重要である。例示的な実施形態において、ハードウェアフィルタユニット813は、一連のFIFO906により実現される。一連のFIFO906は、ハードウェアフィルタユニット813に入るデータの順序を確実に維持する。さらに、FIFO906は、像副視野31.mnの第1の行またはラインから像副視野の第2の行またはライン等への正しいジャンプを保証する。したがって、フィルタ要素901を画素値で段階的に埋め、一連の画素値をフィルタユニット813に通過させる際には、格子配列900内の画素値のエントリが歪み補正対象の像副視野31.mnのセグメントに対応し得る。
【0138】
前述の通り、ハードウェアフィルタユニット813は、像副視野31.mnのセグメント32の空間変動フィルタカーネル910とのコンボリューションを実行するように構成されている。言い換えると、フィルタカーネル910の係数の値は、フィルタリング対象の特定のセグメント32のフィルタリングプロセスに対して個別に計算される必要がある。図示の格子配列900内の各フィルタ要素901は、画素値自体およびカーネル生成ユニットにより生成された係数という2種類のエントリを含む。コンボリューションの実行には、フィルタ要素901内のエントリの乗算の実行が必要である。その後、この乗算の結果の合計が必要であり、これは、フィルタ要素901をボックス905と接続する
図17の線により示される。実行したフィルタリング動作(乗算および総和)の結果として時間遅延が生じるが、これは、像副視野31.mn全体のフィルタリングプロセス全体で一定のままである。歪みデータストリーム(データ入力)は、歪み補正データストリーム(データ出力)に変換される。
【0139】
図18は、像副視野31.mnのセグメント32のフィルタカーネル910とのコンボリューションを示す図である。像副視野32.mnのセグメント32およびフィルタカーネル910はいずれも、フィルタ要素901の格子配列として示しており、この場合、フィルタカーネル910のサイズは同一である。ここでは、5×5での実現を示している。
図18Aの左側では、未補正の画素値または強度Iを第1のレジスタ902に示している。フィルタカーネル910においては、カーネル生成ユニット812により生成された複数の係数903が第2のレジスタ903に格納されている。
【0140】
図18Bは、
図18Aに示す状況と数学的に同等で、コンボリューションが必要な2つの行列を示している。その結果は、行列エントリ相互の特定の積の二重和である。通常は、行列の異なるエントリを相互に乗じる必要があることに留意するものとする。たとえば、通常は、エントリI
11およびエントリK
11を相互に乗じる必要はない。これは、対称なフィルタカーネルの場合のみである。ただし、異なるエントリを乗じる必要がある固定のスキームは依然として存在する。このスキームは、フィルタカーネル910の各ハードウェア表現(カーネルの行および列の両者のフリッピングプロセス)によって既に実現可能である。
【0141】
図19は、フィルタ要素901および関連する要素の一部を示す図である。より詳細に、図示の実施形態によれば、各フィルタ要素901は、画素値を一時的に格納する第1のレジスタ902と、カーネル生成ユニット812により生成された係数を一時的に格納する第2のレジスタ903と、を備える。さらに、フィルタ要素901は、第1のレジスタ902に格納されている画素値に、第2のレジスタ903に格納されている対応する係数を乗じるように構成されている乗算ブロック904を備える。なお、乗算ブロック904は、必ずしもフィルタ要素901自体の一部ではなく、別々の実現することも可能である。乗算ブロック904で乗算が実行された後は、それぞれの結果が総和ブロック905に提示される。
図19は、2つのフィルタ要素901および1つの総和ブロック905を示すに過ぎないが、通常は、歪み補正の実現に成功するため、より多くのフィルタ要素901および複数の総和ブロック905が設けられることが留意される。
図19の矢印は、データフローを示している。さらに、第2のレジスタ903のエントリは、カーネル生成ユニット812(
図19には示さず)により提供される。
【0142】
より一般的な一実施形態によれば、ハードウェアフィルタユニット813は、画素値を一時的に格納する第1のレジスタ902と、カーネル生成ユニット812により生成された係数を一時的に格納する第2のレジスタ903と、をそれぞれ備えるフィルタ要素901の格子配列900であり、第1のレジスタ902に一時的に格納されている画素値が、像副視野31.mnのセグメントを表す、フィルタ要素901の格子配列900を備え得る。ハードウェアフィルタユニット813は、第1のレジスタ902に格納されている画素値に、第2のレジスタ903に格納されている対応する係数を乗じるように構成されている複数の乗算ブロック904をさらに備え得る。ハードウェアフィルタユニット813は、乗算の結果を合計するように構成されている複数の総和ブロック905をさらに備え得る。このより一般的な構成によれば、乗算ブロックの数は、必ずしもフィルタ要素901の数と同一ではなく、減らすことができる。
【0143】
後者の状況を
図20に例示する。
図20は、3×3のフィルタカーネルウィンドウを有するハードウェアフィルタユニット813を示す図である。このように、フィルタカーネルウィンドウ(3×3)は、格子配列900(5×5)よりも小さい。ここで重要なのは、本発明に係るフィルタリングプロセスが特定の目的すなわち歪み補正のために実行される点である。歪み補正は、画素のシフトと解釈され得る。これは、フィルタ要素901の第1のレジスタ902に格納されている画素値とのフルサイズカーネルフィルタ901のフルコンボリューションが実行される場合であっても、歪み補正の結果、より厳密には、生成された合計に影響を及ぼさない乗算が多く存在することを意味する。このため、コンボリューションにおいてすべてのフィルタ要素901が考慮される場合であっても、結果(総和)に違いは生じない。その代替として、計算プロセスのために関連するフィルタ要素901が選定されるのが重要である。この選定は、適当なカーネルウィンドウ907を選定することにより可能である。当然のことながら、格子900におけるフィルタウィンドウ907の厳密な配置の位置は、任意ではない。カーネルウィンドウ907の位置は、カーネル生成ユニット812によって、特に「オンザフライ」で決定され得る。この実施形態の変形例が選定された場合は、フィルタ要素901ごとに乗算ブロックを設ける必要がない。したがって、ハードウェアフィルタユニット813内の論理ユニットの数を減らすことができる。ただし、カーネルウィンドウ907の位置は、像副視野31.mnの各セグメント32に対して固定されないため、異なる乗算を実行できるように保証する必要がある。このため、使用時、カーネルウィンドウ907の位置に基づいて、エントリおよびフィルタ要素901を乗算ブロック904で論理的に組み合わせるように構成されている複数のスイッチング手段が設けられている必要がある。
【0144】
一実施形態によれば、カーネル生成ユニット812は、像副視野31.mnにおける空間変動歪みを特性化するベクトル歪みマップ730に基づいて、空間変動フィルタカーネル910を決定するように構成されている。一実施形態によれば、ベクトル歪みマップ730は、ベクトル多項式における多項式展開により表される。あるいは、ベクトル歪みマップ730は、多次元ルックアップテーブルにより表される。さらに、カーネル生成ユニット812は、画素を代表的に表す関数fに基づいて、フィルタカーネル910を決定するように構成され得る。画素を表すための考え得る関数fとしては、たとえば矩形画素を表すRect2D関数が可能である。あるいは、関数fとしては、画素のビーム焦点の形状(たとえば、ガウス関数、異方性関数、3次関数、正弦関数、エアリーパターン等)を採用することもでき、フィルタはある低レベルの値で切り捨てられる。さらに、フィルタはエネルギー保存型であるものとし、したがって、高次の丸めフィルタカーネル910は、重みの合計が1となるように正規化されるものとする。
【0145】
本特許出願の
図7に関して既に説明した通り、画素700は、歪み補正像における4つの画素700’に「分散」する。したがって、サイズが2×2のカーネルウィンドウ907が適用され得る。
【0146】
図21は、2×2のフィルタカーネルウィンドウ907を有するハードウェアフィルタユニット813を示す図である。
図21に示す実例は、本特許出願の
図7に示したシフトに対応する。
【0147】
本発明の実施形態によれば、2D像データの像後処理中の歪み補償が最小化または回避される。したがって、数十億画素を含み、大量の像メモリを必要とする巨大な2D像の画素ごとに歪み補正を行う必要はない。その代替として、たとえば、2D像データの全体ではなく、縁部または中心位置等、抑制された一組の抽出パラメータに対して歪み補正が実行される。別の例によれば、像センサ207からのデータストリームのストリーム処理中に各副視野31.mnの歪みが補償される。像センサ207からのアナログデータのストリーム処理はいずれにせよ必要であり、ストリーム処理中の付加的な歪み補償では、演算能力をわずかに追加しさえすればよく、付加的なメモリの量を減らすことができる。これにより、本発明によれば、演算量および電力消費が少なくとも1桁あるいは最大5桁も少なくなる。また、2つの方法および構成を組み合わせることもできる。一例においては、ストリーム処理によって、像副視野31.mnごとにベクトル歪み多項式の第1の部分を補償し、抑制された一組の抽出パラメータまたは幾何学的特性での歪み補正によって、ベクトル歪み多項式の第2の部分を補償するのが好都合である。たとえば、歪み多項式の線形部がストリーム処理中に補償され、抑制された一組の抽出パラメータでの歪み補正によって、より高次の歪みが補償される。これにより、ストリーム処理中に高次のベクトル多項式を演算する付加的な演算量が抑えられる。一般的に、本発明によれば、演算量およびエネルギー消費量を抑えたマルチビーム荷電粒子検査システム1の歪み補正が可能になる。これにより、本発明は、半導体加工プロセス中の検査タスクまたは計測タスクを高効率かつ低演算量および低エネルギー消費で可能にする。
【0148】
なお、図面を参照して説明した本発明の実施形態は、何ら本発明を限定するものではない。図面は、本発明の考え得る実施態様を示しているに過ぎない。
【0149】
以下、本発明の他の例を記載する。これらは、上述のような他の実施形態および例と組み合わせ可能である。
【0150】
例1.マルチビーム荷電粒子顕微鏡の関連するビームレットでそれぞれ結像された複数の像副視野でそれぞれ構成されている1つまたは複数の像パッチで構成されている像中のフィーチャの歪み補正位置を決定するための方法であって、
a)像副視野ごとに、関連する像副視野の画素ごとの位置依存歪みをそれぞれ特性化する複数のベクトル歪みマップを用意するステップと、
b)像中の関心フィーチャを識別するステップと、
c)フィーチャの幾何学的特性を抽出するステップと、
d)フィーチャの抽出した幾何学的特性を含む対応する像副視野を決定するステップと、
e)決定した対応する像副視野におけるフィーチャの抽出した幾何学的特性の1つまたは複数の位置を決定するステップと、
f)対応する像副視野のベクトル歪みマップに基づいて、像中の抽出した幾何学的特性の1つまたは複数の位置を補正することにより、歪み補正像データを生成するステップと、
を含む、方法。
【0151】
例2.方法ステップb)~f)が、複数のフィーチャに対して繰り返し実行される、例1に記載の方法。
【0152】
例3.関心フィーチャを含まない像中の他のエリアが、歪み補正されない、例1または2に記載の方法。
【0153】
例4.フィーチャの幾何学的特性が、輪郭、縁部、角部、点、線、円、楕円、中心、直径、半径、距離のうちの少なくとも1つである、例1~3のいずれか一例に記載の方法。
【0154】
例5.幾何学的特性を抽出するステップが、2値画像の生成を含む、例1~4のいずれか一例に記載の方法。
【0155】
例6.フィーチャの抽出した幾何学的特性が、複数の像副視野にわたって延びるため、複数の部分にそれぞれ分割されており、
抽出した幾何学的特性の各部の1つまたは複数の位置が、それぞれの部分の対応ずる像副視野の関連する個々のベクトル歪みマップに基づいて個別に補正される、例1~5のいずれか一例に記載の方法。
【0156】
例7.関心フィーチャの幾何学的特性を抽出するステップが、像全体に実行される、例1~6のいずれか一例に記載の方法。
【0157】
例8.対応する像副視野のベクトル歪みマップに基づいて、像中の抽出した幾何学的特性の1つまたは複数の位置を補正するステップが、抽出した幾何学的特性の少なくとも1つの位置に関する歪みベクトルを決定することを含む、例1~7のいずれか一例に記載の方法。
【0158】
例9.対応する像副視野のベクトル歪みマップに基づいて、像中の抽出した幾何学的特性の1つまたは複数の位置を補正するステップが、歪みベクトルに基づいて、像の画素を歪み補正像の少なくとも1つの画素に変換することを含む、例1~8のいずれか一例に記載の方法。
【0159】
例10.複数のベクトル歪みマップがそれぞれ、ベクトル多項式における多項式展開により表される、例1~9のいずれか一例に記載の方法。
【0160】
例11.複数のベクトル歪みマップがそれぞれ、2次元ルックアップテーブルにより表される、例1~9のいずれか一例に記載の方法。
【0161】
例12.歪み補正像データ中の半導体装置の構造の寸法を決定するステップ、
歪み補正像データ中の半導体装置の構造の面積を決定するステップ、
歪み補正像データ中の半導体装置中の複数の規則的物体、特に、HAR構造体の位置を決定するステップ、
歪み補正像データ中のラインエッジ粗さを決定するステップ、および/または
歪み補正像データ中の半導体装置中の異なるフィーチャ間の重ね合わせ誤差を決定するステップ、
のうちの少なくとも1つをさらに含む、例1~11のいずれか一例に記載の方法。
【0162】
例13.目標格子を規定する正確に把握されたパターン、特に、繰り返しパターンを有するテストサンプルを用意するステップと、
マルチビーム荷電粒子顕微鏡でテストサンプルを結像し、得られた像を解析し、前記解析に基づいて実際の格子を決定するステップと、
実際の格子と目標格子との間の位置偏差を決定するステップと、
前記位置偏差に基づいて、像副視野ごとにベクトル歪みマップを取得するステップと、
をさらに含む、例1~12のいずれか一例に記載の方法。
【0163】
例14.マルチビーム荷電粒子顕微鏡に対して第1の位置から第2の位置にテストサンプルをシフトし、第1の位置および第2の位置においてテストサンプルを結像するステップをさらに含む、例13に記載の方法。
【0164】
例15.位置偏差を決定するステップは、2段階決定を含み、第1の段階においては、各像副視野のシフト、各像副視野の回転、および各像副視野の拡大が補償され、第2の段階においては、その他のより高次の歪みが決定される、例13または14に記載の方法。
【0165】
例16.ベクトル歪みマップを更新するステップをさらに含む、例1~15のいずれか一例に記載の方法。
【0166】
例17.像前処理中のデータのストリーム処理によって像中の歪みを補正するステップをさらに含む、例1~16のいずれか一例に記載の方法。
【0167】
例18.マルチビーム荷電粒子顕微鏡の関連するビームレットでそれぞれ結像された複数の像副視野でそれぞれ構成されている1つまたは複数の像パッチで構成されている像中の歪みを補正するための方法であって、
g)像副視野ごとに、関連する像副視野の画素ごとの位置依存歪みをそれぞれ特性化する複数のベクトル歪みマップを用意するステップと、
h)像中の画素ごとに、画素を含む対応する像副視野を決定するステップと、
i)像中の画素ごとに、対応する像副視野のベクトル歪みマップに基づいて、像中の画素を歪み補正像中の少なくとも1つの画素に変換するステップと、
を含む、方法。
【0168】
例19.例1~18のいずれか一例に記載の方法を実行するためのプログラムコードを含むコンピュータプログラム製品。
【0169】
例20.例1~18のいずれか一例に記載の方法を実行するように構成されているコントローラを備えるマルチビーム荷電粒子顕微鏡。
【符号の説明】
【0170】
1 マルチビームレット荷電粒子顕微鏡システム
3 一次荷電粒子ビームレット(複数の一次荷電粒子ビームレットを構成)
5 一次荷電粒子ビームスポット
7 物体
9 二次電子ビームレット(複数の二次電子ビームレットを構成)
11 二次電子ビーム経路
13 一次ビーム経路
15 二次荷電粒子像スポット
17 像パッチ
19 像パッチの重畳エリア
21 像パッチ中心位置
25 ウェハ表面
27 一次ビームレットの走査経路
29 像副視野の中心
31 像副視野
32 像副視野のセグメント
33 第1の検査部位
35 第2の検査部位
39 副視野31の重畳エリア
80.1 HAR構造体
80.2 HAR構造体
96 HAR構造体の設計中心位置
97 HAR構造体の設計中心位置からの偏差
100 物体照射ユニット
101 物体または像面
102 対物レンズ
103 視野レンズ群
105 マルチビーム荷電粒子顕微鏡システムの光軸
108 第1のビームクロスオーバ
110 第1のマルチビームラスター走査子
112 マルチビームラスター走査子の補正素子
120 走査補正制御モジュール
141 一次ビームスポット位置の例
143 一次ビームスポットの静的変位ベクトル
150 中心ビームレット
151 現実のビームレット軌道
153 偏向電極
155 静電ポテンシャルの等電位線
157 軸外または視野ビームレット
159 仮想共通ピボット点
161 仮想ピボット点
163 1次ビーム経路
171 走査子110前段システム
189 横断ビームの交差ボリューム
200 検出ユニット
205 投射系
206 静電レンズ
207 像センサ
208 結像レンズ
209 結像レンズ
210 結像レンズ
212 第2のクロスオーバ
214 アパーチャフィルタ
216 能動素子
218 第3の偏向系
220 マルチアパーチャ補正器
222 第2の偏向系
300 荷電粒子マルチビームレット生成器
301 荷電粒子源
303 コリメータレンズ
305 一次マルチビームレット構成ユニット
306 アクティブマルチアパーチャプレート
307 第1の視野レンズ
308 第2の視野レンズ
309 電子ビーム
311 一次電子ビームレットスポット
321 中間像面
390 ビームステアリングマルチアパーチャプレート
400 ビームスプリッタユニット
420 磁気素子
500 サンプルステージ
503 サンプル電圧源
700 画素
701 フィーチャ
702 グレースケール画像
710 2値画像
711 目標格子
712 構造体
713 構造体の中心
714 実際の格子の点
715 歪みベクトル
716 ベクトル
717 ベクトル
720 実際の格子
721 単一輪郭の位置
722 構造体の両側の2つの縁部位置を接続する接続線
723 構造体中心を含む線の中心点の領域
724 線の中心点
725 副視野境界
726 フィーチャの第1の部分
727 フィーチャの第2の部分
730 ベクトル歪みマップ
800 制御ユニット
810 像データ取得ユニット
811 アナログ-デジタル変換器
812 カーネル生成ユニット
813 ハードウェアフィルタユニット
814 像メモリ
815 平均化ユニット
816 計数ユニット
817 像ステッチングユニット
818 像処理・出力
820 投射系制御モジュール、結像制御モジュール
830 一次ビーム経路制御モジュール
900 格子配列
901 フィルタ要素
902 画素値を格納する第1のレジスタ
903 係数を格納する第2のレジスタ
904 乗算ブロック
905 総和ブロック
906 シフトレジスタ
907 カーネルウィンドウ
910 フィルタカーネル
930 走査制御ユニット
S1 像副視野ごとに、複数のベクトル歪みマップを用意する
S2 像中の関心フィーチャを識別する
S3 フィーチャの幾何学的特性を抽出する
S4 フィーチャの抽出した幾何学的特性を含む対応する像副視野を決定する
S5 対応する像副視野におけるフィーチャの抽出した幾何学的特性の1つまたは複数の位置を決定する
S6 対応する像副視野のベクトル歪みマップに基づいて、像中の抽出した幾何学的特性の1つまたは複数の位置を補正することにより、歪み補正像データを生成する
S7 終了または他の方法ステップ
dv 歪み像中の距離
d 歪み補正像中の距離
vp1 歪みベクトルの第1の部分
vp2 歪みベクトルの第2の部分
p 像副視野の内部座標
q 像副視野の内部座標
x グローバル座標
y グローバル座標
【手続補正書】
【提出日】2024-10-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のJ個の像副視野(31.mn)にわたって複数のJ個の一次荷電粒子ビームレット(3)を一括走査するための少なくとも第1の一括ラスター走査子(110)と、
前記J個の像副視野(31.mn)のうちの1つにそれぞれ対応する複数のJ個の二次電子ビームレット(9)を検出するための検出器を備える検出ユニット(200)と、
前記第1の一括ラスター走査子(110)に接続され、使用時、前記第1の一括ラスター走査子(110)による前記複数のJ個の一次荷電粒子ビームレット(3)のラスター走査動作を制御するように構成されている走査制御ユニット(930)と、
使用時、前記像副視野(31.mn)の空間変動歪み補正用の空間変動フィルタカーネル(910)を生成するように構成されているカーネル生成ユニット(812)と、
前記検出器、前記走査制御ユニット(930)、および前記カーネル生成ユニットと動作が同期している像データ取得ユニット(810)であり、前記J個の像副視野ごとに、
使用時、前記検出器から受信されたアナログデータストリームを、前記像副視野(31.mn)を表すデジタルデータストリームに変換するためのアナログ-デジタル変換器(811)と、
前記デジタルデータストリームを受信するように構成されるとともに、使用時、前記像副視野(31.mn)のセグメント(32)の前記空間変動フィルタカーネル(910)とのコンボリューションを実行することにより、歪み補正データストリームを生成するように構成されているハードウェアフィルタユニット(813)と、
前記歪み補正データストリームを前記像副視野(31.mn)の2D表現として格納するように構成されている像メモリ(814)と、
を備える、像データ取得ユニット(810)と、
を備えるコントローラ(800、820)と、
を備えるマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項2】
前記ハードウェアフィルタユニット(813)が、
画素値を一時的に格納する第1のレジスタ(902)と、前記カーネル生成ユニット(812)により生成された係数を一時的に格納する第2のレジスタ(903)と、をそれぞれ備えるフィルタ要素(901)の格子配列(900)であり、前記第1のレジスタ(902)に格納されている前記画素値が、前記像副視野(31.mn)のセグメントを表す、フィルタ要素(901)の格子配列(900)と、
前記第1のレジスタ(902)に格納されている画素値に、前記第2のレジスタ(903)に格納されている前記対応する係数を乗じるように構成されている複数の乗算ブロック(904)と、
前記乗算の結果を合計するように構成されている複数の総和ブロック(905)と、
を備える、請求項1に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項3】
前記ハードウェアフィルタユニット(813)が、前記フィルタ要素(901)の格子配列(900)を実現するとともに、前記ハードウェアフィルタユニット(813)を通過する際の前記データストリーム中のデータの順序を維持するように構成されている複数のシフトレジスタ(906)を備える、請求項1または2に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項4】
前記像データ取得ユニット(810)が、使用時、フィルタリングされている像副視野(31.mn)内の画素の局所座標(p、q)を示すように構成されているカウンタ(816)をさらに備える、
請求項1または2に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項5】
前記フィルタ要素(901)の格子配列(900)のサイズが、前記像副視野(31.mn)の画素サイズの少なくとも10倍の歪みを補正するように構成されている、請求項2
に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項6】
前記フィルタ要素(901)の格子配列(900)のサイズが、少なくとも21×21個のフィルタ要素(901)である、請求項2
に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項7】
所定のカーネルウィンドウ(907)のサイズが、前記フィルタ要素(901)の格子配列(900)のサイズ以下である、請求項2
に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項8】
前記カーネル生成ユニット(812)が、使用時、前記フィルタ要素(901)の格子配列(900)に対する前記カーネルウィンドウ(907)の位置を決定するように構成されている、請求項7に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項9】
前記ハードウェアフィルタユニット(813)が、使用時、前記カーネルウィンドウ(907)の前記位置に基づいて、フィルタ要素(901)のエントリを乗算ブロック(904)で論理的に組み合わせるように構成されている複数のスイッチング手段をさらに備える、請求項8に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項10】
前記カーネル生成ユニット(812)が、像副視野(31.mn)における前記空間変動歪みを特性化するベクトル歪みマップ(730)に基づいて、前記空間変動フィルタカーネルを決定するように構成されている、
請求項1または2に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項11】
前記ベクトル歪みマップ(730)が、ベクトル多項式における多項式展開により表される、請求項10に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項12】
前記ベクトル歪みマップ(730)が、多次元ルックアップテーブルにより表される、
請求項1または2に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項13】
前記カーネル生成ユニット(812)が、画素を代表的に表す関数fに基づいて、前記フィルタカーネル(910)を決定するように構成されている、
請求項1または2に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項14】
前記関数fが、異なる走査方向に対して同一である、または、異なる走査方向に対して相違する、請求項13に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項15】
前記像データ取得ユニット(810)が、前記アナログ-デジタル変換器(811)の後かつ前記ハードウェアフィルタユニット(813)の前で、前記データストリームの方向に実現されている平均化ユニット(815)をさらに備える、
請求項1または2に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項16】
前記像データ取得ユニット(810)が、使用時、別のフィルタリング動作、特に、低域通過フィルタリング、モルフォロジー演算、および/または点拡がり関数とのデコンボリューションを実行するように構成されている別のハードウェアフィルタユニットをさらに備える、
請求項1または2に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項17】
前記ハードウェアフィルタユニット(813)が、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)または特定用途向け集積回路(ASIC)を備える、
請求項1または2に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項18】
前記ハードウェアフィルタユニット(813)が、一連のFIFO(906)を備える、
請求項1または2に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項19】
前記FIFO(906)が、BlockRAM、LUT、または外部接続されたSRAMもしくはDRAMとして実現されている、請求項18に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項20】
請求項1または2に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)と、
像データの歪み補正を実行するように構成されている像後処理ユニットと、
を備えるシステム。
【手続補正書】
【提出日】2024-11-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のJ個の像副視野(31.mn)にわたって複数のJ個の一次荷電粒子ビームレット(3)を一括走査するための少なくとも第1の一括ラスター走査子(110)と、
前記J個の像副視野(31.mn)のうちの1つにそれぞれ対応する複数のJ個の二次電子ビームレット(9)を検出するための検出器を備える検出ユニット(200)と、
前記第1の一括ラスター走査子(110)に接続され、使用時、前記第1の一括ラスター走査子(110)による前記複数のJ個の一次荷電粒子ビームレット(3)のラスター走査動作を制御するように構成されている走査制御ユニット(930)と、
使用時、前記像副視野(31.mn)の空間変動歪み補正用の空間変動フィルタカーネル(910)を生成するように構成されているカーネル生成ユニット(812)と、
前記検出器、前記走査制御ユニット(930)、および前記カーネル生成ユニットと動作が同期している像データ取得ユニット(810)であり、前記J個の像副視野ごとに、
使用時、前記検出器から受信されたアナログデータストリームを、前記像副視野(31.mn)を表すデジタルデータストリームに変換するためのアナログ-デジタル変換器(811)と、
前記デジタルデータストリームを受信するように構成されるとともに、使用時、前記像副視野(31.mn)のセグメント(32)の前記空間変動フィルタカーネル(910)とのコンボリューションを実行することにより、歪み補正データストリームを生成するように構成されているハードウェアフィルタユニット(813)と、
前記歪み補正データストリームを前記像副視野(31.mn)の2D表現として格納するように構成されている像メモリ(814)と、
を備える、像データ取得ユニット(810)と、
を備えるコントローラ(800、820)と、
を備えるマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項2】
前記ハードウェアフィルタユニット(813)が、
画素値を一時的に格納する第1のレジスタ(902)と、前記カーネル生成ユニット(812)により生成された係数を一時的に格納する第2のレジスタ(903)と、をそれぞれ備えるフィルタ要素(901)の格子配列(900)であり、前記第1のレジスタ(902)に格納されている前記画素値が、前記像副視野(31.mn)のセグメントを表す、フィルタ要素(901)の格子配列(900)と、
前記第1のレジスタ(902)に格納されている画素値に、前記第2のレジスタ(903)に格納されている前記対応する係数を乗じるように構成されている複数の乗算ブロック(904)と、
前記乗算の結果を合計するように構成されている複数の総和ブロック(905)と、
を備える、請求項1に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項3】
前記ハードウェアフィルタユニット(813)が、前記フィルタ要素(901)の格子配列(900)を実現するとともに、前記ハードウェアフィルタユニット(813)を通過する際の前記データストリーム中のデータの順序を維持するように構成されている複数のシフトレジスタ(906)を備える、請求項
2に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項4】
前記像データ取得ユニット(810)が、使用時、フィルタリングされている像副視野(31.mn)内の画素の局所座標(p、q)を示すように構成されているカウンタ(816)をさらに備える、請求項1または2に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項5】
前記フィルタ要素(901)の格子配列(900)のサイズが、前記像副視野(31.mn)の画素サイズの少なくとも10倍の歪みを補正するように構成されている、請求項2
または3に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項6】
前記フィルタ要素(901)の格子配列(900)のサイズが、少なくとも21×21個のフィルタ要素(901)である、請求項2
または3に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項7】
所定のカーネルウィンドウ(907)のサイズが、前記フィルタ要素(901)の格子配列(900)のサイズ以下である、請求項2
または3に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項8】
前記カーネル生成ユニット(812)が、使用時、前記フィルタ要素(901)の格子配列(900)に対する前記カーネルウィンドウ(907)の位置を決定するように構成されている、請求項7に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項9】
前記ハードウェアフィルタユニット(813)が、使用時、前記カーネルウィンドウ(907)の前記位置に基づいて、フィルタ要素(901)のエントリを乗算ブロック(904)で論理的に組み合わせるように構成されている複数のスイッチング手段をさらに備える、請求項8に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項10】
前記カーネル生成ユニット(812)が、像副視野(31.mn)における前記空間変動歪みを特性化するベクトル歪みマップ(730)に基づいて、前記空間変動フィルタカーネルを決定するように構成されている、請求項1または2に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項11】
前記ベクトル歪みマップ(730)が、ベクトル多項式における多項式展開により表される、請求項10に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項12】
前記ベクトル歪みマップ(730)が、多次元ルックアップテーブルにより表される、請求項
10に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項13】
前記カーネル生成ユニット(812)が、画素を代表的に表す関数fに基づいて、前記フィルタカーネル(910)を決定するように構成されている、請求項1または2に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項14】
前記関数fが、異なる走査方向に対して同一である、または、異なる走査方向に対して相違する、請求項13に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項15】
前記像データ取得ユニット(810)が、前記アナログ-デジタル変換器(811)の後かつ前記ハードウェアフィルタユニット(813)の前で、前記データストリームの方向に実現されている平均化ユニット(815)をさらに備える、請求項1または2に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項16】
前記像データ取得ユニット(810)が、使用時、別のフィルタリング動作、特に、低域通過フィルタリング、モルフォロジー演算、および/または点拡がり関数とのデコンボリューションを実行するように構成されている別のハードウェアフィルタユニットをさらに備える、請求項1または2に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項17】
前記ハードウェアフィルタユニット(813)が、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)または特定用途向け集積回路(ASIC)を備える、請求項1または2に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項18】
前記ハードウェアフィルタユニット(813)が、一連のFIFO(906)を備える、請求項1または2に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項19】
前記FIFO(906)が、BlockRAM、LUT、または外部接続されたSRAMもしくはDRAMとして実現されている、請求項18に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)。
【請求項20】
請求項1または2に記載のマルチビーム荷電粒子顕微鏡(1)と、
像データの歪み補正を実行するように構成されている像後処理ユニットと、
を備えるシステム。
【国際調査報告】