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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-21
(54)【発明の名称】廃担持触媒からの金属の回収
(51)【国際特許分類】
   C22B 7/00 20060101AFI20250214BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20250214BHJP
   C22B 3/04 20060101ALI20250214BHJP
   C22B 34/34 20060101ALI20250214BHJP
   C22B 34/22 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
C22B7/00 B
C22B1/02
C22B3/04
C22B34/34
C22B34/22
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024541051
(86)(22)【出願日】2022-05-13
(85)【翻訳文提出日】2024-07-08
(86)【国際出願番号】 US2022029214
(87)【国際公開番号】W WO2023154077
(87)【国際公開日】2023-08-17
(31)【優先権主張番号】17/744,018
(32)【優先日】2022-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/310,034
(32)【優先日】2022-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503148834
【氏名又は名称】シェブロン ユー.エス.エー. インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バドゥリ、ラーフル シャンカール
(72)【発明者】
【氏名】ミロノフ、オレグ、エイ.
(72)【発明者】
【氏名】クーパーマン、アレクサンダー イー.
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA06
4K001AA07
4K001AA10
4K001AA12
4K001AA14
4K001AA17
4K001AA18
4K001AA19
4K001AA20
4K001AA24
4K001AA25
4K001AA28
4K001AA30
4K001AA41
4K001BA22
4K001CA15
4K001DB07
(57)【要約】
廃担持水素化処理触媒を含む廃担持触媒から金属を回収する改善された方法。その方法、及びその方法を含む関連プロセスは、石油産業及び化学処理産業で使用される廃担持触媒金属を回収するのに有用である。その方法は概して、乾式精錬方法及び湿式精錬方法を組み合わせたものを伴い、炭酸カリウムと合わせたVIIIB族/VIB族/VB族金属化合物(複数可)を含む廃担持触媒から炭酸カリウムカルサインを形成することと、その炭酸カリウムカルサインから、可溶性のVIB族金属化合物及び可溶性のVB族金属化合物を抽出し、回収することを含む。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱油済み廃担持触媒から金属を回収する方法であって、前記触媒が、VIB族金属、VIIIB族金属、VB族金属、及び触媒担持材料を含み、前記方法は、
VIIIB族金属、VIB族金属及びVB族金属を含む脱油済み廃担持触媒と、炭酸カリウムとを合わせて、脱油済み廃触媒/炭酸カリウム混合物を形成することと、
前記脱油済み廃担持触媒/炭酸カリウム混合物を酸化条件下で加熱して、硫黄及び炭素のレベルを低下させ、水溶性VIB族金属化合物、水溶性VB族金属化合物、及び水不溶性VIIIB族金属化合物を含む廃担持触媒/炭酸カリウムカルサインを形成することと、
前記廃担持触媒/炭酸カリウムカルサインと、水とをスラリー浸出プロセス条件下で合わせて、廃担持触媒/炭酸カリウムカルサインスラリーを形成し、前記廃担持触媒/炭酸カリウムカルサインから、前記水溶性VIB族金属化合物及び前記水溶性VB族金属化合物を浸出させることと、
前記廃担持触媒/炭酸カリウムカルサインスラリーから、ろ液及び固体残渣を分離及び除去することであって、前記ろ液は、前記水溶性VIB族金属化合物及び前記水溶性VB族金属化合物を含み、前記固体残渣は、非水溶性VIIIB族金属化合物を含む、前記分離及び除去することと、
前記廃担持触媒/炭酸カリウムカルサインスラリーの前記ろ液から、前記水溶性VIB族金属化合物及び前記水溶性VB族金属化合物を回収することと、を含む、前記方法。
【請求項2】
前記脱油済み廃担持触媒が、残渣炭化水素を実質的に含まないか、残渣炭化水素を含まないか、または残渣炭化水素を約1000ppm未満、500ppm未満もしくは100ppm未満の量で含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記脱油済み廃担持触媒が、残渣炭化水素を含み、前記プロセスが、前記触媒を、残渣炭化水素のレベルを約1000ppm未満、500ppm未満または100ppm未満の量まで低下させるのに十分な、任意に非酸化条件下で、熱分解を介して加熱することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記酸化条件が、約575℃~600℃、600~625℃または625~650℃の範囲の温度を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記触媒担持材料が、アルミナ、シリカ、チタニアもしくはこれらを組み合わせたものを含むか、またはアルミナ、シリカ、チタニアもしくはこれらを組み合わせたものを含む触媒担持材料が、前記触媒を調製するために使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記廃担持触媒が、スラリー触媒を含まない、またはスラリー触媒ではない、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記廃担持触媒が、沸騰床触媒または固定床触媒である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記酸化加熱条件が、空気、または約20vol%以下の酸素を含むガス混合物の存在下で、前記脱油済み廃担持触媒を、第1の温度で加熱することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
硫黄及び炭素のレベルを個々にまたは両方とも、CO及びSO熱酸化生成ガス分析によって測定した場合に、約1wt%未満、約0.8wt%未満、約0.5wt%未満、約0.2wt%未満または約0.1wt%未満という所定の量未満まで低下させる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記廃担持脱油済み触媒/炭酸カリウム混合物の、酸化条件下での前記加熱が、約600℃~650℃、約610℃~650℃もしくは約610℃~630℃の範囲であるか、または約600℃超、約610℃超、約620℃超、約630℃超、約640℃超もしくは約650℃超の温度である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
酸化条件下での前記加熱が、約0.5~12時間、1~8時間、または4~8時間の範囲、または約12時間未満、10時間未満または8時間未満の所定の時間加熱することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記加熱が、約600℃または550℃、または500℃または450℃未満の温度で、約0.5~4時間、または1~3時間の範囲、または約4時間未満、または2時間未満の所定の時間、不活性ガス加熱条件下で最初に加熱することを含む、請求項10または請求項11に記載の方法。
【請求項13】
酸化条件下での前記加熱が、ガスを生成し、前記熱酸化生成ガスが、少なくとも約20wt%のO、約0.25wt%未満のCO、及び約0.25wt%未満のSOを含むように実施される、請求項10~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記脱油済み廃担持触媒/炭酸カリウム混合物を酸化条件下で加熱する間の前記ガス流量条件が、空気を含み、あらゆる熱酸化生成物ガスを除去するのに十分である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記スラリー浸出プロセス条件が、約60~90℃、60~80℃もしくは70~80℃の範囲の浸出温度を含むか、または前記浸出温度が、約60℃超もしくは70℃超である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記スラリー浸出プロセス条件が、約1~5時間、約2~5時間、または約2~4時間の範囲の浸出時間を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記スラリー浸出プロセス条件が、約9.5~11、約10~11または約10~10.5の範囲の浸出pHを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記炭酸カリウムカルサインの前記スラリー浸出が、pHを変更せずに行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記ろ液が、可溶性モリブデン酸塩化合物もしくは可溶性バナジン酸塩化合物またはこれらの混合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記ろ液が、約70wt%、もしくは75wt%、もしくは80wt%、もしくは85wt%、もしくは90wt%超の前記脱油済み廃担持触媒に存在するVIB族金属、または約50wt%、もしくは60wt%、もしくは70wt%、もしくは80wt%、もしくは90wt%超の前記脱油済み廃担持触媒に存在するVB族金属、または、約70wt%、もしくは75wt%、もしくは80wt%、もしくは85wt%、もしくは90wt%超の前記脱油済み廃担持触媒に存在するVIB族金属と、約50wt%、もしくは60wt%、もしくは70wt%、もしくは80wt%、もしくは90wt%超の前記脱油済み廃担持触媒に存在するVB族金属との両方を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記固体残渣が、VB族金属及び/またはVIB族金属及び/またはVIIIB族金属の化合物固体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記ろ液が、モリブデン酸カリウム、バナジン酸カリウム、またはそれらの混合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記脱油済み廃担持触媒に存在する前記VB族金属の前記抽出率が、約80wt%超、約85wt%超、または約90wt%超である、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記脱油済み廃担持触媒に存在する前記VIB族金属の前記抽出率が、約80wt%超、約85wt%超、または約90wt%超である、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記炭酸カリウムカルサインスラリーろ液からの前記水溶性VIB族金属化合物及び前記水溶性VB族金属化合物の前記回収が、前記ろ液から前記VIB族金属化合物と前記第VB族金属化合物とを別々に回収することによって実施され、前記方法は、
前記金属化合物をアンモニウムVB族金属化合物及びアンモニウムVIB族金属化合物に転化するのに有効なメタセシス反応条件下で、前記VIB族金属化合物及び前記VB族金属化合物を含む前記ろ液と、アンモニウム塩を接触させて混合物を形成することと、
前記アンモニウムVB族金属化合物を晶析させるのに有効な条件に、前記アンモニウムVB族金属化合物を含む前記混合物を供することと、
前記晶析させたアンモニウムVB族金属化合物を飽和アンモニウムVB族金属化合物洗浄液で、所定の洗浄温度においてろ過及び洗浄し、前記アンモニウムVB族金属化合物及びアンモニウムVIB族金属化合物ろ液を別々に回収することと、
アンモニアを放出させるのに有効な条件下で、前記アンモニウムVB族金属化合物を加熱し、前記VB族金属化合物及びアンモニアを別々に回収することと、
VIB族金属酸化物化合物析出物及び無機酸のアンモニウム塩を形成するのに有効な条件下で、前記アンモニウムVIB族金属化合物ろ液と前記無機酸を接触させることと、
前記VIB族金属酸化物化合物析出物をアンモニウムVIB族金属酸化物化合物洗浄液で、所定の洗浄温度においてろ過及び洗浄し、前記VIB族金属酸化物化合物析出物を回収することと、を含む請求項1~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記VB族金属が、バナジウムを含み、及び/または前記VIB族金属が、モリブデンを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記VIB族金属化合物及び前記VB族金属化合物を含む水性混合物が、前記VIB族化合物のカリウム塩、及び前記VB族金属化合物のカリウム塩を含む、請求項25または26に記載の方法。
【請求項28】
前記VIB族金属化合物及び前記VB族金属化合物を含む前記ろ液と接触する前記アンモニウム塩が、硝酸アンモニウムを含む、請求項25~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記メタセシス反応条件が、約9未満の範囲、約8.5未満、約7~8.5の範囲もしくは約8のpH、約80℃未満、約70℃未満、約50~70℃、55~65℃もしくは約60℃の範囲の温度、及び/または約0.25~2時間、約0.25~1.5時間、約0.5~1.5時間もしくは約1~2時間の範囲の反応時間を含む、請求項25~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記メタセシス反応条件が、バナジン酸カリウムを、対応するメタバナジン酸アンモニウム化合物及びカリウム塩に転化することを含む、請求項25~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記メタセシス反応条件が、前記水性混合物のpHを約8~約9の範囲に調整し、前記アンモニウム塩を前記水性混合物に加え、アンモニウムVB族金属化合物の種を約7.5~8.5の範囲、好ましくは約8のpHで、前記水性混合物に加える順次的な工程を含む、請求項25~30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記アンモニウムVB族金属化合物の晶析条件が、0℃超~約15℃または0℃超~約10℃の範囲の温度、真空条件、及び約1時間~約6時間、約1時間~約4時間または約1時間~約3時間の晶析期間を含む、請求項25~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記晶析させたアンモニウムVB族金属化合物をろ過及び洗浄する条件が、0℃超~約15℃もしくは0℃超~約10℃の範囲の洗浄温度、または約10℃の洗浄液温度を含み、好ましくは、前記晶析させたアンモニウムVB族金属化合物及び前記洗浄液が、メタバナジン酸アンモニウムを含み、任意に、前記アンモニウムVB族金属化合物の晶析のために、前記洗浄液をリサイクルする、請求項25~32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記アンモニウムVB族金属化合物を加熱する条件が、アンモニアを、前記アンモニウムVB族金属化合物に存在する量の少なくとも約90%、95%、98%または99%の量で放出させるのに十分な時間、前記アンモニウムVB族金属化合物を約200~450℃、300~450℃、350~425℃または約375~425℃の範囲の温度で加熱することを含む、請求項25~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記アンモニウムVIB族金属化合物ろ液と無機酸を接触させる条件が、前記無機酸を約50~80℃、50~70℃または55~70℃の範囲の温度で導入して、pHを約1~3、約1~2または約1にすること、及び反応時間を、約1時間~約4時間、約1時間~約3時間、または約1時間~約2時間にすることを含み、好ましくは、前記無機酸が、硝酸もしくは硫酸を含むか、または硝酸である、請求項25~34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記VIB族金属酸化物化合物析出物をアンモニウムVIB族金属酸化物化合物洗浄液でろ過及び洗浄する条件が、0℃超~約25℃もしくは0℃超~約10℃の範囲の洗浄温度、または約10℃の洗浄液温度を含み、好ましくは、前記洗浄液が、pH1で、Moを枯渇されたヘプタモリブデン酸アンモニウムを含み、任意に、前記VIB族金属酸化物化合物のろ過及び洗浄のために、前記洗浄液をリサイクルする、請求項25~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記VIB族金属化合物及び前記VB族金属化合物を含む前記ろ液に存在するVB族金属の回収率が、約85wt%超、約90wt%超、約95wt%超、約97wt%超、約98wt%超または約99wt%超である、請求項25~36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記VIB族金属化合物及び前記VB族金属化合物を含む前記ろ液に存在するVIB族金属の回収率が、約85%超、約90wt%超、約95wt%超、約97wt%超、約98wt%超または約99wt%超である、請求項25~37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記飽和アンモニウムVB族金属化合物洗浄液が、前記晶析させたアンモニウムVB族金属化合物と同じアンモニウムVB族金属化合物を含むか、または前記洗浄液の飽和アンモニウムVB族金属化合物が、前記晶析させたアンモニウムVB族金属化合物と同じアンモニウムVB族金属化合物である、請求項25~38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
前記アンモニウムVIB族金属酸化物化合物洗浄液が、前記析出させたアンモニウムVIB族金属酸化物化合物と同じアンモニウムVIB族金属酸化物化合物を含むか、または前記洗浄液の前記アンモニウムVIB族金属酸化物化合物が、前記析出させたアンモニウムVIB族金属化合物と同じアンモニウムVIB族金属酸化物化合物である、請求項25~39のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、「METALS RECOVERY FROM SPENT SUPPORTED CATALYST」と題する、2022年2月14日に出願された米国仮出願第63/310,034号、及び2022年5月13日に出願された米国特許出願第17/744,018号の優先権の利益を主張するものであり、これらの開示は、それらの全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、廃担持水素化処理触媒を含む廃担持触媒から金属を回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
触媒は長年、石油精製及び化学処理の産業で広く使用されている。水素処理触媒及び水素化分解触媒を含む水素化処理触媒は現在、世界中において、設備内で広く用いられている。もはや活性が不十分である(または別の理由で、交換の必要がある)、使用済み水素化処理触媒、すなわち「廃」水素化処理触媒は典型的には、モリブデン、ニッケル、コバルト、バナジウムなどのような金属成分を含む。多くのそのような触媒には、担体材料、及び広義の「担持された」触媒が含まれる。対照的に、そのような担体材料のない触媒は典型的に、非担持触媒またはバルク触媒として分類されるか、または単に担体材料の使用を指さない場合がある。
【0004】
より重質な原料油の登場により、製油会社は、その原料油から硫黄及び夾雑物を除去するために、以前よりも多い触媒を水素化処理に使用することを余儀なくされている。これらの触媒プロセスでは、価値のある金属を有するとともに、その環境意識に従って埋め立てを控えるという2つの趣旨をもたらす廃触媒が、かなりの量で生成される。
【0005】
触媒金属を廃触媒から回収する様々なプロセスは、文献に記載されている。米国特許出願公開第2007/0025899号には例えば、モリブデン及びニッケルの金属錯体を回収するための複数の工程及び装置で、モリブデン、ニッケル及びバナジウムのような金属を廃触媒から回収するプロセスが開示されている。米国特許第6,180,072号には、少なくとも金属硫化物を含む廃触媒から金属を回収するために、酸化工程及び溶媒抽出を必要とする別の複雑なプロセスが開示されている。米国特許第7,846,404号には、廃触媒の酸化加圧浸出を通じて生成されたアンモニア加圧浸出液から金属を回収するために、pH調整及び析出を使用するプロセスが開示されている。
【0006】
より最近の試みが、例えば、WO2021/005526A1に開示されており、ここでは、炭酸ナトリウムの使用は、一般に、廃スラリー(非担持)触媒からの金属の回収に記載されている。WO2021/150552A1には、さらに、廃スラリー(非担持)触媒からの金属の回収における炭酸カリウムの使用が一般的に記載されている。関心のある追加の刊行物は、付録A-刊行物に示されている。
【0007】
廃触媒から、特に廃非担持触媒からの触媒金属の回収において進歩が見られるにもかかわらず、廃触媒から、特に廃担持触媒から触媒金属(モリブデン、及びバナジウムが挙げられるが、これらに限らない)を回収するための改良及び簡潔化されたプロセスに対するニーズが引き続き存在する。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、廃触媒、特に廃担持水素化処理触媒から、触媒金属を回収する方法に対するものである。本発明の目標の1つは、金属回収において、好ましくは、向上した金属回収効率で、設備費用及び運転費用を低下させる、廃担持触媒金属回収プロセスの改良を行うことである。本発明は、担持触媒金属の回収において、革新的で費用効率のよいアプローチをもたらすと同時に、全般的な担持触媒金属回収の改良も行い、この改良は、石油及びガス産業、ならびに金属回収産業において重要な環境持続可能性のニーズに対処するものである。
【0009】
廃担持触媒から金属を回収する改良型の方法を開示する。その方法、及びその方法を含む関連プロセスは、石油産業及び化学処理産業で使用される担持触媒金属を回収するのに有用である。その方法は概して、乾式精錬及び湿式精錬の技法及び方法の両方を含む。乾式精錬法は、混合物のカルサインを形成するために炭酸カリウムと組み合わせた脱脂された廃担持触媒の混合物の酸化焙焼を含む。続いて、そのカルサインを水で浸出させて、可溶性のVB族金属化合物及びVIB族金属化合物と、VB族金属化合物、VIB族金属化合物及びVIIIB族金属化合物を含む残渣とをもたらす。VB族金属化合物及びVIB族金属化合物を含む可溶性画分をアンモニウム塩と合わせて、VB族金属及びVIB族金属をメタセシス反応条件下でそれらのアンモニウム形態に変換する。VB族金属は、後続の晶析により回収され、残りのVIB族金属は、VIB族金属の酸性化及び析出により回収される。
【0010】
一態様では、乾式精錬方法は、炭酸カリウムと組み合わせたVIB族金属、VIIIB族金属、及びVB族金属を含む脱油済み廃担持触媒の混合物を酸化条件下で加熱して、触媒中に存在する硫黄及び炭素のレベルを低減させ、水溶性VIB族金属化合物、水溶性VB族金属化合物、及び水不溶性VIIIB族金属化合物を含む廃担持触媒/炭酸カリウムカルサイン形成することと、廃担持触媒/炭酸カリウムカルサインと、水とをスラリー浸出プロセス条件下で合わせて、廃担持触媒/炭酸カリウムカルサインスラリーを形成し、廃担持触媒/炭酸カリウムカルサインから、水溶性VIB族金属化合物及び水溶性VB族金属化合物を浸出させることと、廃担持触媒/炭酸カリウムカルサインスラリーからろ液及び固体残渣を分離及び除去することであって、ろ液は、水溶性VIB族金属化合物及び水溶性VB族金属化合物を含み、固体残渣は、水不溶性VIIIB金属化合物を含む、分離及び除去することと、廃担持触媒/炭酸カリウムカルサインスラリーのろ液から、水溶性VIB族金属化合物及び水溶性VB族金属化合物を回収することと、を含む。
【0011】
さらなる態様では、湿式精錬方法は、VIB族金属化合物/VB族金属化合物をアンモニウムVB族金属化合物及びアンモニウムVIB族金属化合物に転化するのに有効なメタセシス反応条件下で、それらの金属化合物の混合物をアンモニウム塩と接触させることによって、VIB族金属化合物及びVB族金属化合物を含む溶液から、廃担持触媒から得たVIB族金属化合物及びVB族金属化合物を別々に回収することと、そのアンモニウムVB族金属化合物を晶析させるのに有効な条件に、そのアンモニウムVB族金属化合物を含む混合物を供することと、その晶析させたアンモニウムVB族金属化合物を飽和アンモニウムVB族金属化合物洗浄液で、所定の洗浄温度においてろ過及び洗浄し、そのアンモニウムVB族金属化合物及びアンモニウムVIB族金属化合物のろ液を別々に回収することと、アンモニアを放出させるのに有効な条件下で、そのアンモニウムVB族金属化合物を加熱し、そのVB族金属化合物及びアンモニアを別々に回収することと、VIB族金属酸化物化合物析出物、及び無機酸のアンモニウム塩を形成するのに有効な条件下で、そのアンモニウムVIB族金属化合物ろ液を無機酸と接触させることと、そのVIB族金属酸化物化合物析出物をアンモニウムVIB族金属酸化物化合物洗浄液で、所定の洗浄温度においてろ過及び洗浄し、そのVIB族金属酸化物化合物析出物を回収することを含む。
【0012】
本発明の範囲は、本開示に添付されているいずれの代表的な図面によっても限定されず、本願の請求項によって定義されると理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に従って、脱油済み廃担持触媒から金属を回収するための焙焼及び抽出方法の実施形態の、全般的なブロック図による略図である。
【0014】
図2】本発明に従って、脱油済み廃担持触媒から金属を回収するための水回収方法の実施形態の、全般的なブロック図による略図である。
【0015】
図3】本発明に従って、脱油済み廃担持触媒から金属を回収するための焙焼/抽出及び水回収の組み合わせたプロセスの実施形態の、全般的なブロック図による略図である。
【0016】
図4】実施例による熱及びオフガスの結果を提供する。
図5】実施例による熱及びオフガスの結果を提供する。
図6】実施例による熱及びオフガスの結果を提供する。
図7】実施例による熱及びオフガスの結果を提供する。
図8】実施例による熱及びオフガスの結果を提供する。
図9】実施例による熱及びオフガスの結果を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書には、1つ以上の態様の例示的な実施形態が示されているが、開示されるプロセスは、任意の数の方法を用いて実施することができる。本開示は、本明細書に例示及び記載されているいずれの例示的な設計及び実施形態も含め、本明細書に例示されている例示的または具体的な実施形態、図面及び技法に限定されず、均等物の全範囲とともに、添付の請求項の範囲内で改変してよい。
【0018】
特に指定のない限り、以下の用語、術語及び定義が本開示に適用可能である。ある用語が本開示で使用されるが、本明細書で具体的に定義されていない場合、IUPAC Compendium of Chemical Terminology,2nd ed(1997)からの定義が適用されてよいが、その定義が、本明細書で適用される任意のその他の開示もしくは定義と矛盾しない、またはその定義が適用される任意の請求項を不明確もしくは非許容としないことが条件である。参照により本明細書に援用されるいずれかの文献に示されるいずれかの定義または用法が、本明細書に示される定義または用法と矛盾する場合は、本明細書に示される定義または用法が適用されるものとする。
【0019】
「担持触媒」とは、一般に、予め形成済みの成形触媒担体を含む従来の触媒形態を含む「担体」材料を有する触媒組成物を指し、次いで、この触媒担体には、担持触媒を形成するために含侵すなわち被着によって金属が担持される。「担体」という用語は、特に、「担持触媒」「触媒担体」という用語で使用される場合には、触媒材料を担持する、通常、表面積の大きな固体である従来の材料を指す。担持体材料は不活性であってもよく、または触媒反応に関与してもよく、また、多孔質もしくは非多孔質であってよい。典型的な触媒担持体としては、様々な種類の炭素、アルミナ、シリカ及びシリカ-アルミナ、例えば、非晶質シリカアルミネート、ゼオライト、アルミナ-ボリア、シリカ-アルミナ-マグネシア、シリカ-アルミナ-チタニアならびに他のゼオライト及びその他の複合酸化物を添加することによって得られる材料が挙げられる。
【0020】
「スラリー触媒」は、「塊状触媒」、「無担持触媒」または「自己担持触媒」と同義的に使用してよく、その触媒組成物が、予め形成済みの成形触媒担体(後で、含侵によって金属を担持させる)を有する従来の触媒形態のもの、すなわち被着触媒ではないことを意味する。このような塊状触媒は、析出によって形成してもよいし、またはその触媒組成物に組み込まれたバインダーを有してもよい。スラリー触媒または塊状触媒は、金属化合物から、いずれのバインダーも有さない状態で形成してもよい。スラリー形態では、このような触媒は、炭化水素油のような液体混合物中に分散粒子を含み、すなわち、「スラリー触媒」である。
【0021】
「重質油」の供給原料または原料とは、重質原油及び超重質原油を指し、残油、石炭、ビチューメン、タールサンド、廃棄物の熱分解から得られる油、ポリマー、バイオマス、コークス及びオイルシェールに由来する油などが挙げられるが、これらに限らない。重質油原料は、液体、半固体及び/または固体であってよい。重質油原料の例としては、カナダのタールサンド、ブラジルのサントス及びカンポス堆積盆地、エジプトのスエズ湾、チャド、ベネズエラのズリア、マレーシア、ならびにインドネシアのスマトラの減圧残油が挙げられるが、これらに限らない。重質油原料の他の例としては、「バレルの底油」及び「残渣」(すなわち「残油」)、沸点が少なくとも650°F(343℃)である常圧塔底油、沸点が少なくとも975°F(524℃)である減圧塔底油、または沸点が975°F(524℃)以上である「残渣ピッチ」及び「減圧残渣」を含め、精製プロセスから残った残渣が挙げられる。
【0022】
「処理」、「処理された」、「アップグレーディングする」、「アップグレーディング」及び「アップグレーディングされた」とは、重質油原料と併せて使用するときには、水素化処理が施されているか、もしくは水素化処理を施した重質油原料、または得られた材料もしくは粗生成物であって、その重質油原料の分子量が低下しているか、その重質油原料の沸点範囲が縮小しているか、アスファルテンの濃度が低下しているか、炭化水素遊離基の濃度が低下しているか及び/または硫黄、窒素、酸素、ハロゲン化物及び金属のような不純物の量が減少しているものを説明するものである。
【0023】
重質油供給原料のアップグレーディングまたは処理は概して、本明細書では「水素化処理」(水素化分解または水素化転化)という。水素化処理は、水素の存在下で実施するいずれかのプロセスとして意味し、そのプロセスとしては、水素化転化、水素化分解、水素化、水素処理、水素化脱硫、水素化脱窒素、水素化脱金属、水素化脱芳香族、水素化異性化、水素化脱ろう及び水素化分解(選択的水素化分解を含む)が挙げられるが、これらに限らない。
【0024】
「水素(Hydrogen)」または「水素(hydrogen)」という用語は、水素そのもの、及び/または水素源を供給する化合物(複数可)を指す。
【0025】
「含炭化水素」、「炭化水素」及び類似の用語は、炭素原子及び水素原子のみを含む化合物を指す。炭化水素中に特定の基が存在する場合には、他の識別語を用いてその特定の基の存在を示すことができる(例えば、ハロゲン化炭化水素とは、炭化水素中の等しい数の水素原子と置き換わっているハロゲン原子が1つ以上存在することを示す)。
【0026】
「廃担持触媒」とは、水素化処理操作で使用された担持触媒であり、それにより、その活性が失われた触媒を指す。概して、触媒は、その触媒の反応速度定数が、指定温度において、新鮮な触媒と比べて、ある特定の指定値未満である場合に、「廃」触媒と称してよい。状況によっては、触媒は、その反応速度定数が、新鮮な未使用の触媒に対して、80%以下であるか、または別の実施形態では、おそらく50%以下である場合には、「廃」触媒であってよい。一実施形態では、廃触媒の金属成分は、(周期表の)VB族金属、VIB族金属及びVIIIB族金属、例えば、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)及びコバルト(Co)のうちの少なくとも1つを含む。最も一般的に見られる回収対象金属は、Moである。必ずしもこの限りではないが、その廃担持触媒は典型的には、Mo、Ni及びVの硫化物を含む。
【0027】
「脱油済み廃担持触媒」とは概して、上で説明したような「廃担持触媒」のうち、脱油プロセスを行ったものを指す。概して、脱油済み廃担持触媒は、未転化油及び/または水素化処理生成物のようないくらかの残油炭化水素、ならびにその他の化学化合物及び材料を含む。例えば、脱油済み廃担持触媒は典型的には、残渣炭化水素を15wt%以上含むことがあり、またはこのような炭化水素を除去するために処理した場合には、量が低減されていることがある(1wt%以下または1000ppm以下など)。このような追加成分の指定含有量は、一般的な用語か、具体的な用語に関わらず、適宜、本明細書に指定されている。
【0028】
「金属」とは、その元素形態、化合物形態またはイオン形態の金属を指す。「金属前駆体」とは、方法において、またはプロセスに供される金属化合物を指す。単数形の「金属」、「金属前駆体」または「金属化合物」という用語は、単一の金属、金属前駆体または金属化合物、例えば、VIB族金属、VIII族金属またはV族金属に限定されず、金属の混合物における複数の言及物も含む。「可溶性」及び「不溶性」という用語は、VIB族金属、VIII族金属もしくはV族金属、または金属化合物に関しては、別段の記載のない限り、金属成分が、プロトン性液体形状であること、またはその金属もしくは金属化合物が、指定の工程もしくは溶媒において可溶性もしくは不溶性であることを意味する。
【0029】
「IIB族」または「IIB族金属」とは、元素形態、化合物形態またはイオン形態のいずれかである亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、水銀(Hg)及びこれらを組み合わせたものを指す。
【0030】
「IVA族」または「IVA族金属」とは、元素形態、化合物形態、またはイオン形態のいずれかであるゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、または鉛(Pb)及びこれらを組み合わせたものを指す。
【0031】
「VB族金属」とは、元素形態、化合物形態、またはイオン形態であるバナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、及びこれらを組み合わせたものを指す。
【0032】
「VIB族」または「VIB族金属」とは、元素形態、化合物形態またはイオン形態のいずれかであるクロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)及びこれらを組み合わせたものを指す。
【0033】
「VIIIB族」または「VIIIB族金属」とは、元素形態、化合物形態またはイオン形態のいずれかである鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ルテニウム(Ru)、レニウム(Rh)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)及びこれらを組み合わせたものを指す。
【0034】
Moまたは「モリブデン」への言及は、VIB族金属として例示するためのものに過ぎず、他のVIB族金属/化合物、及びVIB族金属/化合物の混合物を排除するようには意図されていない。同様に、Niまたは「ニッケル」への言及は、例示のためのものに過ぎず、水素化処理触媒で使用できる他のVIIIB族非貴金属成分、VIIIB族金属、VIB族金属、IVB族金属、IIB族金属及びこれらの混合物を排除するようには意図されていない。同様に、Vまたは「バナジウム」への言及は、廃担持触媒に存在し得るいずれかのVB族金属成分について例示するためのものに過ぎず、金属回収に使用する廃担持触媒に存在し得る他のVB族金属/化合物及び混合物を排除するようには意図されていない。
【0035】
存在し得る金属化合物を説明するために、「VIIIB族/VIB族/VB族」という用語の使用によって表される、金属化合物の組み合わせの記載は、VIIIB族金属化合物、VIB族金属化合物またはVB族金属化合物、及びそれらをいずれかに組み合わせたものが存在し得ることを意味するように意図されている。例えば、その廃触媒が、酸素及び/または硫黄含有化合物として、Mo、V、Ni及びFeの金属化合物を含む場合には、「VIIIB族/VIB族/VB族」という用語には、単一の金属化合物、及び混合された金属化合物、すなわち、VIIIB族金属、VIB族金属、VB族金属またはこれらを組み合わせたものを含む金属化合物が含まれると理解すべきである。代表的な化合物としては例えば、MoS、V、NiS、FeS、MoO、V、NiO、V、Fe、NiMoO、FeVO、Ni(VOなどが挙げられる。同様に、「VB族/VIB族」金属(複数可)及び金属酸化物(複数可)という用語は、VB族金属、VIB族金属またはこれらの組み合わせたものを含む金属または金属酸化物化合物を指す。
【0036】
「モレキュラーシーブ」は、フレームワーク構造内の分子寸法の均一な細孔を有する材料を指し、モレキュラーシーブの種類に応じて、ある特定の分子のみがモレキュラーシーブの細孔構造にアクセスすることができ、他の分子は、例えば、分子サイズ及び/または反応性に起因して除外される。ゼオライト、結晶性アルミノフォスフェート及び結晶性シリコアルミノフォスフェートが、モレキュラーシーブの代表的な例である。
【0037】
本開示では、組成物、及び方法またはプロセスが、各種の成分または工程を「含む」という観点で説明されている場合が多いが、その組成物及び方法は、別段の記載のない限り、その各種の成分もしくは工程「から本質的になっても」よいし、またはその各種の成分もしくは工程「からなっても」よい。
【0038】
「a」、「an」及び「the」という用語は、複数の選択肢、例えば、少なくとも1つを含むことを意図している。例えば、「遷移金属」または「アルカリ金属」の開示は、特に断らない限り、1種の遷移金属またはアルカリ金属、または複数種の遷移金属またはアルカリ金属の混合物または組み合わせを包含することを意味する。
【0039】
本明細書における詳細な説明及び請求項内のいずれの数値も、示されている値が「約」または「およそ」によって修飾されており、当業者であれば予測されるであろう実験的誤差及び変動を考慮している。
【0040】
本発明は、脱油済み廃触媒から金属を回収する方法であり、廃触媒は、VIB族金属、VIIIB族金属及びVB族金属を含む。一態様では、その方法は、
VIIIB族金属、VIB族金属及びVB族金属を含む脱油済み廃担持触媒と、炭酸カリウムとを合わせて、脱油済み廃触媒/炭酸カリウム混合物を形成することと、
脱油済み廃担持触媒/炭酸カリウム混合物を酸化条件下で加熱して、硫黄及び炭素のレベルを低下させ、水溶性VIB族金属化合物、水溶性VB族金属化合物、及び水不溶性VIIIB族金属化合物を含む廃担持触媒/炭酸カリウムカルサインを形成することと、
廃担持触媒/炭酸カリウムカルサインと、水とをスラリー浸出プロセス条件下で合わせて、廃担持触媒/炭酸カリウムカルサインスラリーを形成し、廃担持触媒/炭酸カリウムカルサインから、水溶性VIB族金属化合物及び水溶性VB族金属化合物を浸出させることと、
廃担持触媒/炭酸カリウムカルサインスラリーから、ろ液及び固体残渣を分離及び除去することであって、ろ液は、水溶性VIB族金属化合物及び水溶性VB族金属化合物を含み、固体残渣は、非水溶性VIIIB族金属化合物を含む、分離及び除去することと、
【0041】
廃担持触媒/炭酸カリウムカルサインスラリーから得たろ液から、水溶性VIB族金属化合物及び水溶性VB族金属化合物を回収することと、を含む。
【0042】
この方法は、改善された廃担持触媒金属の回収と、廃担持触媒からの金属の回収における簡潔化された費用効率のよいアプローチを提供する。この方法は、浸出抽出段階、すなわち、脱油済み廃担持触媒/炭酸カリウム混合物を酸化条件下で加熱することから形成された廃担持触媒/炭酸カリウムカルサインの水浸出抽出を利用する。この方法は、1段階の浸出抽出が用いられており、その浸出抽出は、か焼済み廃担持触媒を炭酸カリウムと合わせたものから形成された炭酸カリウムカルサインの水浸出抽出を含む。この方法は、他の溶媒(例えば、可溶性金属の抽出のための三級アミン)を追加するなど、(その方法内での)追加の抽出段階の使用、または炭酸カリウムの使用と組み合わせた有機化合物の(例えば、活性炭、ベントナイトを用いた)追加処理を必要としない。
【0043】
この廃担持触媒は概して、V、NbのようなVB族金属、Ni、CoのようなVIIIB族金属、FeのようなVIIIB族金属、TiのようなIVB族金属、ZnのようなIIB族金属、及びこれらを組み合わせたものから選択した金属を任意に含む担持VIB族金属硫化物触媒から生じるものである。ある特定の追加の金属を担持触媒配合物に加えて、所定の特性を改良するか、あるいは触媒の活性及び/または選択性を改変してよい。好適な担持触媒には、様々な反応器タイプ、例えば、固定床または沸騰床反応器で有用な触媒が含まれる。
【0044】
この方法における廃担持触媒としての使用に好適な触媒は、米国特許第11,001,502号、同第10,913,054号、同第10,213,772号、同第9,920,260号、同第9,206,361号、同第7,803,266号、同第7,185,870号、同第7,449,103号、同第8,024,232号、同第7,618,530号、同第6,589,908号、同第6,667,271号、同第7,642,212号、同第7,560,407号、同第6,030,915号、米国特許第5,980,730号、米国特許第5,968,348号、米国特許第5,498,586号、及び米国特許公開第2011/0226667号、同第2009/0310435号、同第2011/0306490号を含む相当数の刊行物に記載されている。
【0045】
金属の回収前、廃担持触媒を処理して、油、析出アスファルテン、その他の油残渣などのような残渣炭化水素を除去してよい。(脱油前の)廃担持触媒は典型的には、未転化の残渣炭化水素油中に、炭素細粒、金属細粒及び廃担持触媒を含み、その固形分は、5~50wt%の範囲である。その脱油プロセス処理は、油の除去のために溶媒を使用すること、及び脱油済み廃触媒の回収のために、その後に液体/固体を分離する工程を含んでよい。その処理プロセスは、その廃担持触媒から炭化水素を除去するために、熱処理工程、例えば、乾燥及び/または熱分解をさらに含んでよい。別の態様では、その脱油は、その廃担持触媒から油を排除/除去するために、任意に界面活性剤及び添加剤とともに、亜臨界高圧ガスを使用することを含んでよい。
【0046】
脱油後の廃担持触媒は典型的には、未転化残渣としての炭化水素を5wt%未満、またはさらに具体的には、炭化水素を2wt%未満、もしくは炭化水素を1wt%未満含む。いくつかの場合では、脱油済み廃担持触媒は、残渣炭化水素を実質的に含まないか、残渣炭化水素を含まないか、または残渣炭化水素を約1000ppm未満、500ppm未満もしくは100ppm未満の量で含む。その脱油済み廃担持触媒から回収する金属の量は概して、水素化処理で使用するその触媒、例えば、VIB族金属硫化物触媒、VIB族金属及びVIIIB族金属を含む二元金属系触媒、または少なくともVIB族及びその他の(例えば促進剤)金属(複数可)を含む多金属系触媒の組成構成によって決まる。油の除去処理プロセスの後、回収のための金属を含む廃担持触媒は、コークス様物質の形態であってもよく、その物質は、それに応じて、必要に応じて、その後の金属回収プロセスに備えて粉砕できる。
【0047】
廃触媒からの炭化水素の脱油または除去は、US7790646、US7737068、WO20060117101、WO2010142397、US20090159505A1、US20100167912A1、US20100167910A1、US20100163499A1、US20100163459A1、US20090163347A1、US20090163348A1及びUS20060135631A1を含む相当数の刊行物に開示されている。
【0048】
本発明の実施形態による焙焼及び抽出方法またはプロセスの実例が、図1に概略的に示されている。脱油済み廃担持触媒(11)、例えば、本明細書に記載されているように、残渣炭化水素を含まないかまたは実質的に含まない触媒を、炭酸カリウム(12)と混合(10)し、混合物(13)を、加熱または焙焼段階(20)に供給して、その担持触媒に存在する硫黄及び/または炭素の含有量を所定の量未満まで低減し、その後(23)、加熱/焙焼工程、か焼段階(20)から廃担持触媒/炭酸カリウムカルサインを形成する。加熱/焙焼は、同じ設備または異なる設備で、個別のバッチプロセス工程または連続プロセス工程として行ってよい。上記したように、触媒からの硫黄及び炭素の熱酸化生成物を利用して、か焼(またはそのか焼工程の完了)に必要な時間の量を確立してよい。廃担持触媒カルサインを、その後、水(31)と混合し(30)、廃担持触媒/炭酸カリウムカルサインスラリー33を形成し、廃担持触媒/炭酸カリウムカルサインから、水溶性VIB族金属化合物及び水溶性VB族金属化合物を浸出させる。廃担持触媒/炭酸カリウムカルサインスラリー(33)を、ろ液(43)及び残渣(44)に分離する(40)。残渣(44)のpH約10の脱イオン水洗浄(42)を適用してもよい。ろ液は、可溶性VIB族金属及びVB族金属を含み、例えば、バナジウム及びモリブデンの場合、V及びMoOとして、VB族金属化合物及びVIB族金属化合物を後続の回収のために分離させる。不溶性化合物(例えば、Ni、Fe、残渣Mo、V、及び他の金属化合物など)を含む残渣(44)も、可能な金属の回収のためにさらに処理されてもよく、または製糖器に送られてもよい。
【0049】
加熱/焙焼段階(図1の20)は、残渣炭化水素を除去するための第1の加熱工程と、それに続く廃担持触媒/炭酸カリウム混合物のカルサインを形成するための焙焼工程とを含む。加熱工程は、不活性条件下、例えば、500℃で1~2時間行われる。しかし、事前に処理した担持触媒で得られるような場合のように、残渣炭化水素の含有率が低い、例えば約1000ppm未満である脱油済み廃担持触媒では、残渣炭化水素を除去するための不活性条件下での最初の加熱工程は、不要であることがある。この限りではないが、その加熱は、例えば、初期温度、例えば350~500℃の範囲の温度まで、アルゴンのような不活性ガス下で、熱分解による残渣炭化水素を除去するのに適切な期間(例えば1~2時間)、ゆっくり昇温することを含んでよい。加熱工程に続いて、炭素及び硫黄を除去し、廃触媒/炭酸カリウムカルサインを形成するために、後続の焙焼工程が酸化条件下で行われる。図1では1つの段階として示されているが、加熱工程及び焙焼工程は、別々の連続段階として行われてもよい。
【0050】
炭酸カリウム/廃担持触媒混合物のか焼は、段階(20)にて、典型的には、温度を適切なか焼温度、例えば、600℃~650℃、もしくは約610℃~650℃、もしくは約610℃~630℃の範囲、または約600℃、もしくは約610℃、もしくは約620℃、もしくは約630℃、もしくは約640℃、もしくは約650℃より高い温度に上昇させることによって、酸化条件下で、か焼済み廃担持触媒を形成するのに好適な期間(例えば、典型的には、1~2時間超かつ約24時間未満、またはより具体的には、0.5~12時間、もしくは1~8時間、もしくは4~8時間、または約12時間、もしくは10時間、もしくは8時間未満)実施される。加熱工程はまた、約600℃または550℃、または500℃または450℃未満の温度で、約0.5~4時間、または1~3時間の範囲、または約4時間未満、または2時間未満の所定の時間、不活性ガス加熱条件下で最初に加熱することを含んでもよい。概して、か焼済み廃担持触媒の酸化の程度もまた、か焼中のCO及びSOの熱酸化生成物の分析によってモニタリングし、か焼の好適な終点を確立してもよい。例えば、終点は、約1wt%未満、約0.8wt%未満、約0.5wt%未満、約0.2wt%未満または約0.1wt%未満というCO及びSOのレベルと関連付けてよい。熱酸化生成ガスもまた、少なくとも約20wt%のO、約0.25wt%未満のCO、及び約0.25wt%未満のSOを対象とする赤外線検出によってモニタリングしてもよい。
【0051】
廃担持触媒/炭酸カリウム混合物か焼工程(図1の20)中、酸化的加熱条件は、一般に、空気、または酸化条件を維持するのに十分な酸素と空気を含むガス混合物の存在下で加熱することを含んでもよい。必要に応じて、酸化条件の変更を用いてもよく、例えば、約20vol%以下の酸素を含む初期ガス環境の後に、最大80vol%の酸素を含むガス条件を用いてもよい。
【0052】
廃担持触媒/炭酸カリウム混合物のか焼の際、例えば、その担持触媒が、Mo、Ni、V、Fe、C及びSを含むときには、下記の化合物及び熱酸化生成ガスを形成するには、下記の代表的な反応が考えられる。
MoS+3KCO+9/2O=KMoO+2KSO+3CO (1)
+4KCO+7O=2KVO+3KSO+4CO (2)
NiS+KCO+2O=NiO+KSO+CO (3)
2FeS+2KCO+9/2O=Fe+2KSO+2CO (4)
C+O=CO (5)
S+O=SO (6)
CO+SO+1/2O=KSO+CO (7)
NiMoO+KCO=KMoO+NiO+CO (8)
Ni(VO+KCO=2KVO+3NiO+CO (9)
【0053】
例えば、担持触媒が、Mo、Ni、V、Fe、C、及びSを含む場合、空気の存在下での廃触媒燃焼反応は、以下の化合物及び熱酸化生成ガスも形成する可能性がある。
+11/2O=V+3SO (10)
MoS+7/2O=MoO+2SO (11)
2FeS+7/2O=Fe+2SO (12)
NiS+3/2O=NiO+SO (13)
C+O=CO (14)
S+O=SO (15)
+3NiS+10O=Ni(VO+6SO (16)
MoO+NiO=NiMoO(17)
【0054】
いくつかの条件下、例えば、500~600℃温度では、ニッケル及びバナジウムを含む特定の反応が優先的に生じる場合があり、バナジン酸ニッケルの形成につながる場合がある。例えば、反応(16)は、反応(13)より優位であり得る。スピネル相、例えば、NiMoOの形成も起こり得る(反応17)。スピネル相は、約250℃または完全なS及びC酸化が完全に実現され得る前の温度で形成が始まるため、不可避である。
【0055】
か焼に続いて、廃担持触媒/炭酸カリウムカルサインを水と接触させて、炭酸カリウムカルサインのスラリーを形成する。水中での浸出を行って、可溶性の金属化合物を抽出させて、ろ液と、不溶性のVIIIB族/VIB族/VB族金属化合物(複数可)を含む不溶性の金属化合物(複数可)残渣とを形成する。そのろ液は典型的には、可溶性のモリブデン酸塩化合物及び/またはバナジン酸塩化合物を含み、その一方で、その不溶性化合物は典型的には、特定の金属及び混合金属化合物を含む。前述の代表的な反応(1)~(9)の場合、そのような不溶性の金属化合物は、酸化ニッケル、モリブデン酸ニッケル、及びバナジン酸ニッケルの混合金属化合物を含むと考えられる。
【0056】
ある特定の不溶性のVB族金属化合物及びVIB族金属化合物(「スピネル」と称される)と炭酸カリウムとの反応には、Mo及びVの金属化合物の場合では、反応(8)及び(9)を含む場合がある。
NiMoO+KCO→KMoO+NiO+CO (8)
Ni(VO+KCO=2KVO+3NiO+CO (9)
例えば、MoO及びNiO(反応17)から形成された難分解性かつ非浸出性NiMoOはいずれも、アルカリの存在下で、少なくとも部分的に水溶性モリブデートに改質することができる(反応8)。同様に、例えば、V及びNiスルフィド(反応16)から形成された難分解性かつ非浸出性Ni(VOは、アルカリの存在下で、少なくとも部分的に水溶性バナジン酸塩に改質することができる(反応9)。
【0057】
必ずしもこの限りではないが、典型的な浸出条件は、約60~90℃、60~80℃もしくは70~80℃の範囲、または約60℃超もしくは70℃超の浸出温度、約1~5時間、約2~5時間または約2~4時間の範囲の浸出時間、及び約9.5~11、約10~11または約10~10.5の範囲の浸出pHを含む。廃担持触媒/炭酸カリウムカルサインのスラリー浸出は、カルサインスラリーのpHが9.5超である限り、pH改変の有無を問わず実施することができる。
【0058】
一般に、廃担持触媒から溶液相へのVIB族(例えば、Mo)及びVB族(例えば、V)の両方の金属の最大約95%の抽出が可能である。ろ液は、一般に、約70wt%、もしくは75wt%、もしくは80wt%、もしくは85wt%、もしくは90wt%、もしくは95wt%超のVIB族金属、または約50wt%、もしくは60wt%、もしくは70wt%、もしくは80wt%、もしくは90wt%、もしくは95wt%超の脱油済み廃担持触媒に元々存在するVB族金属、または、約70wt%、もしくは75wt%、もしくは80wt%、もしくは85wt%、もしくは90wt%、もしくは95wt%超のVIB族金属と、約50wt%、もしくは60wt%、もしくは70wt%、もしくは80wt%、もしくは90wt%、もしくは95wt%超の脱油済み廃担持触媒に元々存在するVB族金属との両方を含む。場合によっては、ろ液は、モリブデン酸カリウム、バナジン酸カリウム、またはそれらの混合物を含む。
【0059】
水浸出/抽出段階からの残渣は、典型的に、VB族及び/またはVIB族及び/またはVIIIB族の金属酸化物固体を含む。その後、残渣をろ液から分離し、好適な条件下で乾燥させる。
【0060】
本発明の実施形態による水回収方法または水回収プロセスの実例が、図2に概略的に示されている。例えば、図1に示される方法から得られたVIB族金属化合物及びVB族金属化合物の水性混合物を含む廃担持触媒ろ液流(43)など、1つ以上の供給源から得られるろ液(43)は、アンモニウム塩(52)と、メタセシス反応条件下で混合され(50)、その金属化合物をアンモニウムVB族金属化合物及びアンモニウムVIB族金属化合物に転化する。その後に、そのアンモニウムVB族金属化合物を晶析させるのに有効な晶析条件に、そのメタセシス反応混合物を供する(60)。その後に、その晶析させたアンモニウムVB族金属化合物を分離(70)のために送り(63)、そのアンモニウムVB族金属化合物及びアンモニウムVIB族金属化合物ろ液(73)を回収する。必要に応じて、そのアンモニウムVB族金属化合物の結晶をろ過及び洗浄するために、所定の洗浄温度の飽和アンモニウムVB族金属化合物洗浄液(72)を用いてよい。その後に、そのアンモニウムVB族金属化合物は、アンモニアを放出させるのに有効な条件下での加熱(80)に向けられ(74)、アンモニアを除去するとともに、そのVB族金属化合物(83)及びアンモニア(84)を別々に回収する。その後に、分離工程(70)から得られたアンモニウムVIB族金属化合物ろ液(73)は送られ、VIB族金属酸化物化合物析出物とその無機酸のアンモニウム塩との混合物を形成するのに有効な条件下で、無機酸(92)と混合する(90)。その後に、その析出物及び塩の混合物は運ばれ(93)、そのVIB族金属酸化物化合物析出物(101)を分離し(100)、回収する。必要に応じて、そのVIB族金属酸化物化合物析出物(101)をろ過及び洗浄するために、所定の洗浄温度のアンモニウムVIB族金属酸化物化合物洗浄液(102)を用いてよい。分離(100)から得られたろ液(103)は、典型的には、<1,000mg/LのMo、<100mg/LのV、最大40,000mg/LのKイオン、及び最大15,000mg/LのNH イオンを含有し、残留金属(Mo及びV)の除去のために鉄析出に供することができる。その後、遷移金属欠乏溶液は、真空下での冷却晶析に供され、任意選択で、農業グレードのKNO及びNHNOの肥料化学製品のブレンドを製造することができる。
【0061】
そのろ液(図2の43)をアンモニウム塩(図2の52)と混合(図2の50)することは、典型的には、VIB族金属化合物及びVB族金属化合物をアンモニウムVB族金属化合物及びアンモニウムVIB族金属化合物に転化するのに有効である条件下で行われる。メタバナジン酸アンモニウム(AMV)のような種結晶を、典型的には約2000~8000ppm、約4000~6000ppmまたは約5000ppmの濃度で用いてよい。AMV種を導入するときには、典型的には、そのpH範囲は約8未満である。当業者はメタセシス反応を行うための適切な方法を容易に決定することができるが、1つの有用な手順は、最初に無機酸、例えば、硝酸を使用してpHを約9に低下させ、続いて、約8未満、好ましくは8以下、または7.5~8.5、もしくは7.5~8の範囲、もしくは8のpHで硝酸アンモニウムを導入し、AMVシードを導入することである。メタセシス反応条件はまた、約80℃未満、または約70℃未満、または約50~70℃、または55~65℃、または約60℃の範囲の温度、及び/または約0.25~2時間、または約0.25~1.5時間、または約0.5~1.5時間、または約1~2時間の範囲の反応時間を含むことができる。いくつかの場合では、そのメタセシス反応条件は、水性混合物のpHを約8~約9の範囲に調整し、アンモニウム塩を水性混合物に加え、アンモニウムVB族金属化合物の種を約7.5~8.5の範囲、好ましくは約8のpHで、水性混合物に加える順次的な工程を含む。
【0062】
ろ液の混合及びそのメタセシス反応が起こっている最中には、例えば、例えばMo、Ni、V、Fe、C及びSを含む廃担持触媒から、そのろ液を取り出すときには、以下の代表的な反応が、高温で可溶性(Mo)金属化合物及び(V)金属化合物を形成すると考えられる。
NHNO+KVO→NHVO3↓+KNO(18)
2NHNO+KMoO→(NHMoO+2KNO(19)
【0063】
その晶析条件は、例えば、メタバナジン酸アンモニウム(AMV)結晶を生成させるときには、典型的には、低下させた温度及び圧力、例えば、約10℃の温度、約21in.Hgの真空下を用いてよい。AMV溶解度は温度とともに減少するため、様々な温度及び圧力(真空)条件、ならびに晶析時間を用いてよいことは、当業者には明らかであろう。概して、0℃超~約15℃または0℃超~約10℃の範囲の温度、真空条件、及び約1時間~約6時間、約1時間~約4時間または約1時間~約3時間の晶析期間が有用である。その結晶をろ過し、低温で、洗浄液、例えば、約10℃での約5000ppmのVのAMV洗浄液で洗浄することを用いてよい。洗浄液をその晶析工程にリサイクルしながら、約2~5回または約3回という複数回の洗浄も用いてよい。典型的には、0℃超~約15℃もしくは0℃超~約10℃の範囲の洗浄温度、または約10℃の洗浄液温度が適切であることが分かっており、好ましくは、その晶析させたアンモニウムVB族金属化合物及びその洗浄液が、メタバナジン酸アンモニウムを含み、任意に、その洗浄液は、そのアンモニウムVB族金属化合物の晶析のためにリサイクルする。概して、アンモニウムVB族金属化合物洗浄液は、晶析させたアンモニウムVB族金属化合物と同じアンモニウムVB族金属化合物を含むか、または洗浄液のアンモニウムVB族金属化合物は、晶析させたアンモニウムVB族金属化合物と同じアンモニウムVB族金属化合物である。
【0064】
アンモニウムVB族金属化合物は、その後に、例えば、アンモニアを、アンモニウムVB族金属化合物に存在する量の少なくとも約90%、約95%、約98%または約99%の量で放出させるのに十分な時間、約200~450℃、約300~450℃、約350~425℃または約375~425℃の範囲の温度で加熱する標準的な手順に従って処理してもよい。その後に、そのVB族金属化合物をさらに処理し、例えば、溶解炉で溶融し、その溶融物をフレーカーホイールに排出して、VB族金属化合物フレークを生成する。VIB族金属化合物及びVB族金属化合物を含む脱油済み廃担持触媒に存在するVB族金属の全回収率は、約85wt%超、約90wt%超、または約95wt%超であってよい。
【0065】
そのアンモニウムVIB族金属化合物ろ液を無機酸と接触させる際の酸性化条件は、その無機酸を約50~80℃、約50~70℃または約55~70℃の範囲の温度で導入して、pHを約1~3、約1~2または約1にすること、及び反応時間を、約1時間~約4時間、または約1時間~約3時間、または約1時間~約2時間にすることを含み、好ましくは、その無機酸は、硝酸もしくは硫酸を含むか、または硝酸である。
【0066】
酸性化反応の際に、例えば、例えばMo、Ni、V、Fe、C及びSを含む廃担持触媒から、そのろ液を取り出すときには、以下の代表的な反応が、不溶性(Mo)金属化合物を形成すると考えられる。
(NHMoO+2HNO+HO→MoO・2H+2NHNO(20)
【0067】
その酸性化反応後に、スラリーを冷却し、ろ過を用いて、その液体及び固体の分離を行ってよい。そのVIB族金属酸化物化合物析出物を洗浄する際の条件は、そのろ過ケーキを、アンモニウムVIB族金属化合物洗浄液によって、0℃超~約15℃もしくは0℃超~約10℃の範囲の洗浄温度、または約10℃の洗浄液温度で、pH約1.0において、15分、固形分25wt%で再スラリー化することによって行ってよい。典型的には、廃触媒がVIB族金属としてMoを含む場合、洗浄溶液は、モリブデンが欠乏したpH1.0のヘプタモリブデン酸アンモニウム(AHM)を含む。スラリーを再ろ過した後、ケーキを新鮮なpH1.0のヘプタモリブデン酸アンモニウム溶液で更に2回再スラリー化して、MoOケーキ中のK含有量を0.5wt%未満に低下させてもよい。すべての洗浄工程と同様に、その洗浄液は任意に、例えばVIB族金属酸化物化合物の洗浄のために、リサイクルしてよい。概して、アンモニウムVIB族金属酸化物化合物洗浄液が、析出させたアンモニウムVIB族金属酸化物化合物と同じアンモニウムVIB族金属酸化物化合物を含むか、または洗浄液のアンモニウムVIB族金属酸化物化合物が、析出させたアンモニウムVIB族金属化合物と同じアンモニウムVIB族金属酸化物化合物である。
【0068】
VIB族金属化合物及びVB族金属化合物を含む脱油済み廃担持触媒に存在するVIB族金属の全回収率は、約85wt%超、約90wt%超、または約95wt%超であってよい。図3は、図1に示す焙焼方法及び抽出方法を、図2に示す水回収方法と組み合わせたプロセス概略図を示す。図1及び図2のそれぞれについての前述の説明が、図3に示す組み合わせたプロセス概略図に直接適用可能である。
【実施例
【0069】
下記の実施例には、特許請求されている本発明に従って、廃担持触媒から金属を回収した結果が示されている。本発明の実施形態に従って、炭酸カリウム(カリ)を用いて金属を回収した結果が、炭酸カリウムを使用しない比較結果とともに示されている。炭酸カリウムの代わりに炭酸ナトリウムを使用した比較結果も提示する。
【0070】
参照(比較)実施例1A及び1Bは、そのままの廃担持触媒の焙焼、それに続いて、カルサインの水酸化カリウム(苛性カリウム)浸出の結果を提供する。固定床(FB)及び沸騰床(EB)の両方の担持触媒を実施例1A及び1Bでは使用した。
【0071】
実施例2A及び2Bは、廃担持EB及びFB触媒-炭酸ナトリウム混合物の焙焼ならびに担持触媒-炭酸ナトリウムカルサインの熱水浸出の結果を提供する。
【0072】
比較実施例3A及び3Bは、使用済みの担持EB及びFB触媒-炭酸カリウム混合物の焙焼ならびに担持触媒-炭酸カリウムカルサインの熱水浸出の結果を提供する。
【0073】
実施例4Aは、VB族金属の回収のためのメタセシス反応完了後の実施例1B、2B、及び3Bからの浸出ろ液の各々の晶析結果を提供する。実施例4Bは、金属析出後のVIB属金属の回収率、及び実施例4Aの残りのVB族金属貧液の各々からの回収率の結果を提供する。
【0074】
回転式石英管状炉を、脱油済み廃触媒試料の制御されたバッチ酸化のために使用した。管状炉は、3つのゾーンを含み、炉ゾーン1、2、及び3は、管状炉の長さに沿って位置しており、ゾーン1は炉の左3分の1の供給入口、ゾーン2は炉の中央セクション中央3分の1、ゾーン3は管状炉の右3分の1の出口である。図4図9は、実施例に記載されるような熱及びオフガスの結果を提供する。図4図9のそれぞれにおいて、数字及び文字の識別子は次のように記述される。
【表0】
【0075】
実施例1A-廃担持沸騰床(EB)及び固定床(FB)触媒(そのまま)の焙焼:
600℃~625℃の温度、4インチ直径×14インチ動作長さの回転式石英管状炉内で、毎分3~5標準リットルの空気流下において、最大260gの脱油済み廃触媒に対して、制御されたバッチ式酸化を行い、最長で8時間の滞留時間で、複数の炉床炉条件をシミュレートすることで、0.1wt%未満のC及び0.7wt%未満のSをそれぞれ含むカルサインを得た。
【0076】
その作業は、廃触媒中の残渣炭化水素を除去するために、500℃まで、アルゴンガス流下で迅速に昇温させることから開始した。これに続き、620℃の稼働床温まで、3slpm空気流下でゆっくり昇温し、CO及びSOの排出測定を行いながら4slpm空気下で保持時間を延長し、その後、反応の停止中に、過剰空気流下でゆっくり冷却し、その段階的な温度制御は、Moの喪失及び固体の焼結を起こすことになる大幅な放熱を回避するために必須であった。
【0077】
EB及びFB廃触媒カルサインにおいて、最大26%の重量減少(表7及び8)が観察され、これは、金属硫化物の金属酸化物への転化と併せて、ほぼ完全にS(0.7wt%未満)及びC(0.06wt%未満)が除去されことに相当する。
【0078】
表1及び2には、焙焼炉廃担持触媒供給原料、及び生成されたカルサインに対する金属分析試験結果が提供されている。
【表1】

【表2】
【0079】
下記の反応(1.1)~(1.6)は、適切な燃焼反応を表している。600℃におけるギブスの自由エネルギーにより、V>Mo>Fe>Niという順序による酸化が示唆されており、CO及びSOでの600℃における自由エネルギーにより、Cが、Sよりも速い速度で燃焼することが示唆されている。
+11/2O=V+3SO (1.1) ΔG873°K=-1,585kJ/g.mol
MoS+7/2O=MoO+2SO (1.2) ΔG873°K=-879kJ/g.mol
2FeS+7/2O=Fe+2SO (1.3) ΔG873°K=-484kJ/g.mol
NiS+3/2O=NiO+SO (1.4) ΔG873°K=-375kJ/g.mol
C+O=CO (1.5) ΔG873°K=-396kJ/g.mol
S+O=SO (1.6) ΔG873°K=-298kJ/g.mol
【0080】
XRDによって検出された予想外の相は、そのままのか焼済み焙焼炉供給原料(アルカリを含まない)にバナジン酸ニッケルを含んだ。NiOの不在及びNi(VOの存在は、以下の反応(1.7)~(1.9)が反応(1.4)よりも優先され、反応自発性が温度の上昇とともにわずかに減少する空気の存在下で500℃~600℃で発生した。
+3NiS+10O=Ni(VO+6SO (1.7) ΔG773°K=-2,823kJ/g.mol
+3NiS+10O=Ni(VO+6SO (1.8) ΔG823°K=-2,789kJ/g.mol
+3NiS+10O=Ni(VO+6SO (1.9) ΔG873°K=-2,754kJ/g.mol
MoO+NiO=NiMoO(1.10) ΔG873°K=-20kJ/g.mol
【0081】
これらのS酸化反応は、EB及びFB廃担持触媒の焙焼順序の熱酸化生成物のガス組成を観察することによって裏付けられた(図4及び5)。EB廃触媒については最大3vol%、RDS廃触媒については最大6vol%の最大SO放散が酸化の最初の1時間以内に観察され、反応の進行(1.7)~(1.9)の組み合わせを示している。記載された反応におけるNi-V化学量論に存在する供給原料中の総Sの最大26%は、500℃のアルゴン下、炭化水素除去後の最初の1時間以内にSOに燃焼した可能性がある。少量のスピネル相NiMoOも回折パターンで検出され(反応1.10)、この相は、苛性カリウムまたは苛性ソーダでは非浸出性である。バナジン酸ニッケルの溶解も、アルカリ条件及び酸性条件の両方で最小である。
【0082】
実施例1B-苛性カリ(KOH)による、カルサインの浸出:
カルサインをそのまま使用し、浸出のために65-Tylerを通過する100%まで粉砕した。2つの粒度分布での実施例1AのEB及びFBカルサインの両方の苛性カリウム(KOH、15wt%溶液)浸出を、75℃、15wt%固形物、pH10.0~11.0、及び3時間の保持時間で実施した。その浸出残渣を真空ろ過し、洗浄し、乾燥して、分析のために提出した。VをMoから湿式精錬分離(実施例4A及び4Bを参照)する間近まで、その浸出溶液を静置した。
【0083】
表3は、EBカルサインの場合、粉砕した65-Tylerメッシュ材料が、ほとんど、より多くの金属(Mo及びV)の抽出をもたらしたことを示し、FBカルサインは、より微細なサイズの65-Tylerメッシュ画分では、より多くの金属抽出をもたらすとは思われなかった。
【0084】
表3の反応速度抽出と表4の浸出残渣の両方が、FBカルサインと比較して、EBカルサインは、MoとVの抽出がMoで最大5%、及びVで最大15%優れていることを示している。EBか焼廃触媒からの金属抽出物の改善は、優れた混合特性による反応器床中の触媒の流動化、及び精製設定におけるEB廃触媒の頻繁な置き換えに起因し得ると考えられる。比較すると、FB反応器内などの静的床構成では、補助的な汚染物質の蓄積、FB触媒の交換期間が長くなる、及び廃触媒材料内で同時に金属が閉じ込められることにより、その金属抽出がより困難になる可能性がある。
【0085】
表2では、カルサインV/Niのモル比は、EBカルサイン及びFBカルサインの両方について、存在する全てのNiが非浸出性バナジン酸ニッケルとしてVをタイアップし、他のカプセル化メカニズムが存在しない場合、82%以下の溶出が可能であろうことを示している。表3のデータは、この観察がそのままのEBカルサインに当てはまるように思われるのに対し、そのままのFBカルサインではVロックアップがかなり高いことを示唆する。表4はまた、モルV/Ni比に基づいて、難分解性非浸出性バナジン酸ニッケルとしてのVロックアップの程度が、EBタイプの廃触媒と比較してFBタイプの廃触媒で著しく大きいという理解を裏付ける。
【0086】
浸出残渣のXRDスキャンは、不溶物が主にAl、Ni(VO、Fe及び少量のα-NiMoOであることを確認した。Leco分析によって決定した浸出残渣中のC及びS残存は、平均して0.1wt%未満であった。
【0087】
カルサイン中に存在する総Alの最大5%の溶解が、アルカリ性カリウムpHで観察された。アルカリ条件下でも、最大30%のFeの溶解が検出された。pH>10.0で存在する多核錯体Fe(OH) -1が、鉄の溶解度に寄与したと考えられる。
【0088】
EB及びFB粉砕カルサインの両方において、EB及びFBカルサイン塊がKOH中に最大で50%溶解されたこと(表5及び6)が観察されたとともに、残留塊は、洗浄済みの浸出残渣において、不溶解物を構成していた。
【0089】
表7及び8に、EB及びFBの両方のプロトタイプの単位操作当たりの理論的な金属マスバランスを提供する。述べたように、EB Mo及びV抽出は、対応するFB Mo及びV抽出よりもそれぞれ最大5%及び15%高かった。MoとVの両方の抽出量は、そのままのカルサインに対して粉砕EBカルサインで約5%高く、そのままのFBカルサインに対して粉砕で観察された差異はごくわずかであった。その後の全ての試験では、65Tylerメッシュを100%通過するまで粉砕したカルサインを用いた。
【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【表7】

【表8】
【0090】
前述から、EB及びFB金属抽出について以下に留意されたい:
アルカリを含まない沸騰床(EB)廃触媒の場合、最大85%のMo及び最大81%のVの乾式精錬抽出率、ならびに最大99%のMo及び最大95%のVの湿式精錬回収率;全金属回収率は、Moが84%及びVが77%と予測される。
アルカリを含まない固定床(FB)廃触媒の場合、最大80%のMo及び最大65%のVの乾式精錬抽出率、ならびに最大99%のMo及び最大95%のVの湿式精錬回収率;全金属回収率は、Moが79%及びVが62%と予測される。
【0091】
実施例2A-炭酸カリウムを用いる廃EB及びFB担持触媒の焙焼及びKCO/廃担持触媒カルサインの熱水浸出:
そのままのアルカリを含まない焙焼済み廃触媒のKOH浸出から得られる、比較的低Mo及び低Vの抽出物は、営利的な金属回収及びプロジェクトエコノミクスの観点での懸念材料であった。炭酸カリウムを焙焼炉供給原料と化学量論的にブレンドして、金属遊離メカニズムを規定した。目的は、バナジン酸ニッケル及びモリブデン酸ニッケルなどの非浸出性種を取り除くことにより、金属の抽出量を増加させることであった。
【0092】
以下の反応(2.1)~(2.9)は、KCOとの金属酸化反応を表す;600℃におけるギブスの自由エネルギーにより、V>Mo>Fe>Ni>C>Sという順序で良好な酸化が示唆されている。CO2及びSO2でのとの600℃における自由エネルギーにより、Cが、Sよりも速い速度で燃焼することが示唆されている。
MoS+3KCO+9/2O=KMoO+2KSO+3CO (2.1)ΔG873°K=-1,571kJ/g.mol
+4KCO+7O=2KVO+3KSO+4CO (2.2)ΔG873°K=-2,600kJ/g.mol
NiS+KCO+2O=NiO+KSO+CO (2.3)ΔG873°K=-655kJ/g.mol
2FeS+2KCO+9/2O=Fe+2KSO+2CO (2.4)ΔG873°K=-764kJ/g.mol
C+O=CO (2.5)ΔG873°K=-396kJ/g.mol
S+O=SO (2.6)ΔG873°K=-298kJ/g.mol
CO+SO+1/2O=KSO+CO (2.7)ΔG873°K=-280kJ/g.mol
NiMoO4+K2CO=KMoO+NiO+CO (2.8)ΔG873°K=-111kJ/g.mol
Ni(VO+KCO=2KVO+3NiO+CO (2.9)ΔG873°K=-130kJ/g.mol
【0093】
中間体MoOとNiO種との相互作用(反応1.10)を介して難分解性及び非浸出性NiMoOが形成される場合、負の自由エネルギーは、化合物がアルカリの存在下でほとんど水溶性モリブデン酸塩に変わることを示す(反応2.8)。
【0094】
理論的考察に束縛されるものではないが、反応(2.9)の負のギブス自由エネルギーは、カリウムの存在下での順反応の自発性の程度を示唆することができる。反応(1.7)~(1.9)に基づくと、反応(2.2)と比較してより高い自由エネルギーを考慮すると、非浸出性バナジン酸ニッケルの形成も500℃~600℃+で確実であるように思われる。これはさらに、アルゴン下で最初の1時間の炭化水素除去に続いて、2時間のSO放散が観察されたことによって裏付けられる(図6及び7)。さらに、アルカリ焙焼下でのSOの存在は、反応(1.7)~(1.9)が優勢であったことを意味する。反応(2.9)は、難分解性バナジン酸ニッケルの全てまたは大部分が水浸出性バナジン酸カリウム部分に変換されるであろうことを示している。
【0095】
4インチ直径×14インチ動作長さの回転式石英管状炉内で、毎分3~5標準リットルの空気流下において、KCO(Rocky Mountain Reagents、28%通過300μm)を様々な化学量論的添加とブレンドした最大260gの脱油済み廃触媒に対して、制御されたバッチ式酸化を行った。温度は、600℃~625℃に維持し、最長で8時間の滞留時間で、複数の炉床炉条件をシミュレートすることで、最小限の石油コークスを含むカルサイン及びSから可溶性硫酸塩への燃焼が生成された。
【0096】
脱油済み廃触媒(EB及びFB)の両方を、廃材料中の様々な化学量論的なMo及びV含有量レベル、すなわち、a)化学量論、b)化学量論を15%上回る、及びc)化学量論を25%上回るレベルで、無水KCOと完全にブレンドした。
【0097】
その作業は、廃触媒中の残渣炭化水素を除去するために、500℃まで、アルゴンガス流下で迅速に昇温させることから開始した。これに続き、620℃の稼働床温まで、3slpm空気流下でゆっくり昇温し、CO及びSOの排出測定を行いながら最大4slpm空気で保持時間を延長し、その後、反応の停止中に、過剰空気流下でゆっくり冷却し、その段階的な温度制御は、Moの喪失及び固体の焼結を起こすことになる大幅な放熱を回避するために必須であった。
【0098】
EB及びFB廃触媒カルサインにおいて最大78%の重量減少(表12及び13)が観察され、これは、アルカリ及びコークのCOへの転化と併せて、金属硫化物の金属酸化物への転化に相当する。二酸化硫黄のガス放散が、空気流入を開始した後2時間にわたって明らかであり、反応(1.7)~(1.9)が生じたか、または空気の存在下でバナジウム及びニッケル硫化物が難分解性バナジン酸ニッケルに転化したことを示した。その後、バナジン酸ニッケルを水浸出性のバナジン酸アルカリに転化することが反応ごとに示される(2.9)。
【0099】
アルゴン下での炭化水素除去後のこれらのS酸化及び化学量論的アルカリ固定反応は、EB及びFB廃触媒の焙焼順序中の熱酸化生成物のガス組成を観察することによって裏付けられる(図6及び7)。
【0100】
表9は、両方のタイプの廃触媒について、カリウム含有量を変えたカルサインアッセイを表し、高いC及びSレベルは、主に、反応(1)~(4)及び反応(7)~(9)による残渣KCO及びKSOの形成に起因する。これらの残渣は、カルサインにおいて質量基準でのMo、Ni、及びV含有量を低下させるが、V/Niのモル比は、表2の同様の比に近接している。
【表9】
【0101】
実施例2B-炭酸カリウムカルサインの熱水浸出:
COカルサインを75℃(pH10.5~11.0)の熱水中で、固形分15wt%で、3.0時間、その試料のpHの変更なしに浸出させた。その浸出残渣を真空ろ過し、洗浄し、乾燥して、分析のために提出した。実施例4A及び4Bに表されるように、VをMoから湿式精錬分離する間近まで、その浸出溶液を静置した。
【0102】
粉砕カルサインKCO焙焼生成物の両方において、EB及びFBカルサイン塊が熱水中に最大で78%溶解されたこと(表12及び13)が観察されたとともに、残留塊は、洗浄済みの浸出残渣において、不溶解物を構成していた。
【0103】
EBカルサイン:カリウムカルサインの熱水浸出から、Mo及びVのそれぞれ最大91%の抽出(表10)が達成され、最大77%の重量減少が明らかであった(表12)。浸出残渣の金属分析試験結果が表11に示されており、Al及びNiが、未反応の固体相の40wt%及び6.5wt%をそれぞれ構成するものとして特定されている。
【0104】
浸出残渣のXRDスキャンは、不溶性物を主にAl、NiO、いくらかのNi(VO、Fe及び少量のα-NiMoOとして確認した。Leco分析によって決定された浸出残渣中のC及びS残渣物は、平均して1wt%未満であった。
【0105】
また、データは、実験及びアッセイの不一致の範囲内で、化学量論量のカリウムが最適な金属抽出に十分であることも明らかにする。
【0106】
FBカルサイン:カリウムカルサインの熱水浸出から、Mo及びVのそれぞれ最大91%及び88%の抽出(表10)が達成され、最大78%の重量減少が明らかであった(表13)。浸出残渣の金属分析試験結果が表11に示されており、Al及びNiが、未反応の固体相の40wt%及び7.4wt%をそれぞれ構成するものとして特定されている。
【0107】
浸出残渣のXRDスキャンは、不溶性物を主にAl、NiO、いくらかのNi(VO、Fe及び少量のα-NiMoOとして確認した。Leco分析によって決定された浸出残渣中のC及びS残渣物は、平均して1wt%未満であった。
【0108】
表11はまた、モルV/Ni比に基づいて、難分解性未反応バナジン酸ニッケルとしてのVロックアップの度合いが、EBタイプのKCO焙焼廃触媒と比較してFBタイプのKCOの焙焼廃でより大きいという先に述べたことを支持する。
【0109】
また、データは、実験及びアッセイの不一致の範囲内で、化学量論量のカリウムが最適な金属抽出に十分であることも示す。
【表10】

【表11】

【表12】

【表13】
【0110】
前述から、EB及びFB金属抽出物について以下に留意されたい:
沸騰床(EB)廃触媒の場合、最大90%のMo及び最大92%のVの乾式精錬抽出率、ならびに最大99%のMo及び最大95%のVの湿式精錬回収率;全金属回収率は、Moが89%及びVが87%と予測される。
固定床(FB)廃触媒の場合、最大91%のMo及び最大87%のVの乾式精錬抽出率、ならびに最大99%のMo及び最大95%のVの湿式精錬回収率;全金属回収率は、Moが90%及びVが83%と予測される。
【0111】
比較実施例3A-炭酸ナトリウムを用いるEB及びFB廃担持触媒の焙焼及びNaCO/廃担持触媒カルサインの熱水浸出:
ソーダアッシュまたはNaCOは、廃触媒の焙焼中に商業的に使用されることがあり、そこでは金属回収が湿式精錬回路によって支持され、触媒及び化学製造用の様々なMo及びV化学物質が生成される。反応自発性に関する好ましい熱力学的評価に基づいて、炭酸ナトリウムを焙焼炉供給原料と化学量論的にブレンドして、金属遊離メカニズムを規定した。目的は、KCO焙焼とともに金属抽出を評価することであった。
【0112】
下記の反応(3.1)~(3.9)は、NaCOとの金属酸化反応を表している。600℃におけるギブスの自由エネルギーにより、V>Mo>Fe>Ni>C>Sという順序で良好な酸化が示唆されている。CO及びSOでの600℃における自由エネルギーにより、Cが、Sよりも速い速度で燃焼することが示唆されている。
MoS+3NaCO+9/2O=NaMoO+2NaSO+3CO (3.1)ΔG873°K=-1,504kJ/g.mol
+4NaCO+7O=2NaVO+3NaSO+4CO (3.2)ΔG873°K=-2,506kJ/g.mol
NiS+NaCO+2O=NiO+NaSO+CO (3.3)ΔG873°K=-630kJ/g.mol
2FeS+2NaCO+9/2O=Fe+2NaSO+2CO (3.4)ΔG873°K=-739kJ/g.mol
C+O=CO (3.5)ΔG873°K=-396kJ/g.mol
S+O=SO (3.6)ΔG873°K=-298kJ/g.mol
NaCO+SO+1/2O=NaSO+CO (3.7) ΔG873°K=-255kJ/g.mol
NiMoO+NaCO=NaMoO+NiO+CO (3.8)ΔG873°K=-96kJ/g.mol
Ni(VO+NaCO=2NaVO+3NiO+CO (3.9)ΔG873°K=-113kJ/g.mol
【0113】
中間体MoOとNiO種との相互作用(反応1.10)を介して難分解性及び非浸出性NiMoOが形成される場合、反応(3.8)中の負の自由エネルギーは、化合物がアルカリの存在下でほとんど水溶性モリブデン酸塩に変わることを示す。
【0114】
反応(3.9)の負のギブス自由エネルギーは、ソーダアッシュの存在下での順反応の自発性の程度を意味し、反応(1.7)~(1.9)に基づくと、反応(3.2)と比較してより高い自由エネルギーを考慮すると、非浸出性バナジン酸ニッケルの形成は500℃~600℃+で確実であるように思われる。しかしながら、これは、アルゴン下での最初の1時間の炭化水素除去に続く、熱酸化生成ガス組成物の観察中のSO放散によって明らかにされなかった(図8及び9)。ソーダアッシュ焙焼の下でのSOの存在がごく少ないことは、各反応の固相におけるガス移送中のSOの捕捉及び中和において、ソーダアッシュがカリウムよりも効果的であることを示すことができる(3.7)。反応(3.9)は、難分解性バナジン酸ニッケルの全てまたは大部分が水浸出性バナジン酸カリウム部分に変換されるであろうことを示唆している。
【0115】
4インチ直径×14インチ動作長さの回転式石英管状炉内で、毎分3~5標準リットルの空気流下において、無水NaCO(Rocky Mountain Reagents、28%通過300μm)を様々な化学量論的添加とブレンドした最大260gの脱油済み廃触媒に対して、制御されたバッチ式酸化を行った。温度は、600℃~625℃に維持し、最長で8時間の滞留時間で、複数の炉床炉条件をシミュレートすることで、最小限の石油コークスを含むカルサイン及びSから可溶性硫酸塩への燃焼が生成された。
【0116】
脱油済み廃担持触媒(EB及びFB)の両方を、廃材料中の様々な化学量論的なMo及びV含有量レベル、すなわち、a)化学量論、及びb)化学量論より25%上回るレベルで、無水NaCOと完全にブレンドした。
【0117】
その作業は、廃触媒中の残渣炭化水素を除去するために、500℃まで、アルゴンガス流下で迅速に昇温させることから開始した。これに続き、620℃の稼働床温まで、3slpm空気流下でゆっくり昇温し、CO及びSOの排出測定を行いながら最大4slpm空気で保持時間を延長し、その後、反応の停止中に、過剰空気流下でゆっくり冷却し、Moの喪失を起こす固体可融性、焼結及び大幅な放熱を回避するために順序を使用した。
【0118】
EB及びFB廃触媒カルサインにおいて最大78%の重量減少(表17及び18)が観察され、これは、アルカリ及びコークのCOへの転化と併せて、金属硫化物の金属酸化物への転化に相当する。空気流入を開始した後、最小限のSO発生が運転の全体にわたって明らかであり、ソーダアッシュの存在下で発生したSOが硫酸塩に直接変換されたことが示された。
【0119】
アルゴン下での炭化水素除去後のこれらのS酸化及び化学量論的アルカリ固定反応は、EB及びFB廃触媒の焙焼順序のための熱酸化生成物のガス組成の観察中に裏付けられた(図8及び9)。
【0120】
表14は、両方のタイプの廃担持触媒について、カリウム含有量を変えたカルサインアッセイを表す。高いC及びSレベルは、反応(3.1)~(3.4)及び反応(3.7)のそれぞれにおける残渣KCO及びKSOの形成に主に起因する。これらの残渣は、カルサインにおいて質量基準でのMo、Ni、及びV含有量を低下させるが、V/Niのモル比は、表2の同様の比に近接している。
【表14】
【0121】
実施例3B-炭酸ナトリウムカルサインの熱水浸出:
NaCOカルサインを75℃(pH10.5~11.0)の熱水中で、固形分15wt%で、3.0時間、その試料のpHの変更なしに浸出させた。その浸出残渣を真空ろ過し、洗浄し、乾燥して、分析のために提出した。実施例4A及び4Bに例示されるように、VをMoから湿式精錬分離する間近まで、その浸出溶液を静置した。
【0122】
粉砕カルサインNaCO焙焼生成物の両方において、EB及びFBカルサイン塊が熱水中に最大で78%溶解されたこと(表17及び18)が観察されたとともに、残留塊は、洗浄済みの浸出残渣において、不溶解物を構成していた。
【0123】
EBカルサイン:ソーダアッシュカルサインの熱水浸出から、Mo及びVのそれぞれ最大88%の抽出(表15)が達成され、最大78%の重量減少が明らかであった(表17)。浸出残渣の金属分析試験結果が表16に示されており、Al及びNiが、未反応の固体相の38wt%及び7wt%をそれぞれ構成するものとして特定されている。
【0124】
浸出残渣のXRDスキャンは、不溶物が主にAl、Ni(VO、Fe及び少量のα-NiMoOであることを確認した。反応(3.3)及び(3.9)の生成物であるNiO残渣は検出されなかった。Leco分析によって決定した浸出残渣中のC及びS残存は、平均して0.2wt%未満であった。
【0125】
また、データは、実験及びアッセイの不一致の範囲内で、化学量論量のソーダアッシュが最適な金属抽出に十分であることも明らかにする。
【0126】
FBカルサイン:ソーダアッシュカルサインの熱水浸出から、Mo及びVのそれぞれ最大90%及び78%の抽出(表15)が達成され、最大75%の重量減少が明らかであった(表18)。浸出残渣の金属分析試験結果が表16に示されており、Al及びNiが、未反応の固体相の35wt%及び7.2wt%をそれぞれ構成するものとして特定されている。
【0127】
浸出残渣のXRDスキャンは、不溶物が主にAl、Ni(VO、Fe及び少量のα-NiMoOであることを確認した。反応(3.3)及び(3.9)の生成物であるNiO残渣はまたしても検出されなかった。Leco分析によって決定した浸出残渣中のC及びS残存は、平均して0.2wt%未満であった。
【0128】
FB廃触媒のソーダアッシュ焙焼後の熱水中V抽出は、そのEB廃触媒と比較して著しく低い収率を示す。表11と表16(熱水浸出残渣)とのV/Niモル比を比較すると、Ni中のVのロックアップが顕著であり、ソーダアッシュ焙焼は難分解性バナジン酸ニッケルから金属を遊離できなかったことを示唆している。これは、特にFBカルサインに当てはまる。
【0129】
また、データは、実験及びアッセイの不一致の範囲内で、化学量論量のソーダアッシュが最適な金属抽出に十分であることも示す。
【表15】

【表16】

【表17】


【表18】
【0130】
実施例において記載した金属抽出率及び全金属回収率の結果(図4図9)を表19に要約する。
【表19】
【0131】
前述から、EB及びFB金属抽出について以下に留意されたい:
沸騰床(EB)廃触媒の場合、最大89%のMo及び最大88%のVの乾式精錬抽出率、ならびに最大99%のMo及び最大95%のVの湿式精錬回収率。全金属回収率は、Moが88%及びVが84%と予測される。
【0132】
固定床(FB)廃触媒の場合、最大90%のMo及び最大78%のVの乾式精錬抽出率、ならびに最大99%のMo及び最大95%のVの湿式精錬回収率。全金属回収率は、Moが89%及びVが74%と予測される。
【0133】
焙焼シナリオの一般的結論:
様々な焙焼シナリオの下での2つのタイプの廃担持触媒からの全金属回収率を表20に示す。
【0134】
実施例1、2及び3について、以下のことに注目すべきである。
a)両方のアルカリで焙焼したEBでは、Mo及びVの回収率が、なしよりもそれぞれ最大5%、最大10%増加する、
b)両方のアルカリで焙焼したFBでは、Mo及びVの回収率が、なしよりもそれぞれ最大10%及び最大20%増加する、
c)いずれかのアルカリを使用したEBタイプとFBタイプの両方からのMoの回収率は同程度であった、
d)カリウム焙焼を使用したEB廃触媒からのV回収率差は、ソーダアッシュ焙焼よりも最大3%優れていた、及び
e)ポタッシュローストを使用して使用されたFB廃触媒からのV回収率差は、ソーダアッシュ焙焼よりも最大9%多かった。
【表20】
【0135】
実施例4A-浸出溶液からのメタバナジン酸アンモニウムの晶析:
実施例1B、2B及び3Bの浸出ろ液(pH10.0以上)の撹拌溶液を60℃に加熱した。十分な70%濃HNO酸を添加してpHを約8.8に低下させた。
【0136】
100gpLのNHNO結晶を添加し、HNOまたはNHOHでpHを約7.5に調整した。
【0137】
溶液のバナジウム濃度が10gpL未満であった場合、10gpLのAMVシード/スパイクを高温の撹拌溶液に粉末形態で添加した。
【0138】
pHを7.0~8.0に維持しながら、メタセシス反応を1.5時間、60℃で継続させた。
【0139】
下記の二重置換は、反応4.1及び4.2に示されている、NH とKまたはNaの間のメタセシスまたはイオン交換を構成する。
NHNO+KVO=NHVO3↓+KNO(4.1)
2NHNO+KMoO=(NHMoO+2KNO(4.2)
【0140】
その後、溶液を真空冷却晶析装置に、穏やかな回転下で晶析を継続させながら10℃、21インチHgに3時間移した。
【0141】
AMV結晶を真空ろ過し、ろ液をMo析出のために取っておいた;結晶を、10℃に冷却した3つの細孔容積が4,800mg/Lの純粋なAMV溶液で洗浄した;洗浄溶液は、残渣Mo濃度が最大25,000ppmwまで増加するまで再使用されてもよく、その後、洗浄溶液は、メタセシス回路に再循環されてもよい。
【0142】
その黄色がかったAMV結晶を60℃~70℃で乾燥した。表21には、10℃での連続的な冷却晶析は、貧液中のV含量を低減させることが示されている。
【0143】
推定AMV純度は、最大で97wt%のNHVOを含み、その残部は、NO アニオンと合わさったMo及びKまたはNaの種としてのものである。
【0144】
その貧液またはMoろ液を、Mo回収のために、酸析出回路に移した。
【表21】
【0145】
実施例4B-三酸化モリブデンによる、AMV貧液からの析出:
V晶析回路から得た攪拌貧液を65℃まで加熱してから、70%の濃HNO酸を慎重に加えて、pHを約1.0にした。pH及び温度を十分に撹拌しながら最大4時間維持した。析出効果を反応4.3に示す。
【0146】
(NHMoO+2HNO=MoO.H+2NHNO(4.3)
表22には、その低めのpH及び温度、ならびに高めのHNO酸の投入によって、2時間で、最大99%のMoが回収されたことが示されている。
【0147】
反応の停止時に、スラリーを周囲近くまで冷却し、ろ過した。<1,000mg/LのMo、<100mg/LのV、最大40,000mg/LのKイオンまたはNaイオン、及び最大15,000mg/LのNH イオンを含有する貧液を、残渣金属を除去するために鉄析出に移した。続いて、遷移金属欠乏溶液は、真空下での冷却晶析に供され、KNO及びNHNOの混合物を生成した。
【0148】
ケーキを2細孔体積(PV)pH1周囲AHM*で洗浄し、洗浄ろ液を再循環させた。続いて、ケーキ固形物を周囲温度で、pH1 AHM中、25wt%固形物で15分間撹拌しながら再スラリー化した。
【0149】
スラリーを再ろ過し、出てきた貧液を洗浄リサイクルに向けた。ろ過ケーキを4PV pH1の周囲AHMで洗浄し、貧液をウォッシュとしてリサイクルした。固体を70℃~100℃で乾燥した。
【0150】
推定MoO純度は、最大で95wt%のMoO.HO、最大で合計0.75wt%のKまたはNa及びV、ならびに残りのNH イオン及びNO イオンを含む。
【0151】
記載されている順序の洗浄工程を用いて、そのMoO生成物において、KまたはNaイオンレベルを0.5wt%未満まで低下させた。そのアルカリ金属(複数可)は、触媒合成の際に毒物として作用するので、値を低下させるのが望ましい。そのMoOスラリーにおけるKまたはNaイオンレベルは、20%まで上昇してよく、不変の除去不能なKまたはNaイオン部分が、その層状のMoO構造において、ヒドロニウムイオンを置換する。
注:*pH1のAHMは、濃HNO酸によって、200gpLの純粋なヘプタモリブデン酸アンモニウム(AHM)溶液をpH1まで、65℃で2.5時間酸性化することによって調製した。液体と固体を分離後、そのMoO固体を最終生成物として回収してよく、そのろ液を、市販のMoOケーキの洗浄液として使用する。
【表22】
【0152】
付録A-刊行物
本開示に関連し得る特許または文献参照のリスト:
1.Marcantonio,P.J.,“Process for Metals Recovery from Spent Catalyst”,US Patent7,485,267,issued Feb.2009;

2.Bhaduri,R.S.,“Process for recovering base metals from spent hydroprocessing catalyst”,US Patent7,658,895,issued Feb.9,2010;

3.Marcantonio,P.M.,“Process for Metals Recovery from Spent Catalyst”,US Patent7,736,607,Issued June 15,2010;

4.Bhaduri,R.S.,“Process for recovering base metals from spent hydroprocessing catalyst”,US Patent7,837,960,issued Nov.23,2010;

5.Bhaduri,R.S.,“Process for recovering base metals from spent hydroprocessing catalyst”,US Patent7,846,404,issued Dec.7,2010;

6.Bhaduri,R.S.,“Systems and Methods for Producing a Crude Product」,US Patent No8,236,169,issued Aug.7,2012;

7.Bhaduri,R.S.,“Process for Recovering Metals from Coal Liquefaction Residue containing Spent Catalysts”,US Patent No8,628,735, issued Jan.14,2014;

8.Bhaduri,R.S.,“Hydroprocessing Catalysts and Methods for Making Thereof”,US Patent No8,778,828,issued Jul.15,2014;

9.Bhaduri,R.S.,“Recovery of Vanadium from Petroleum Coke slurry containing solubilized Base Metals”,US Patent No8,815,185, issued Aug.26,2014;

10.Bhaduri,R.S.,“Process for Separating and Recovering Metals”,US Patent No8,815,184, issued Aug.26,2014;

11.Bhaduri,R.S.,“Process for Separating and Recovering Metals”,US Patent No.9,809,870, issued Nov.7,2017;

12.Marafi,M.,Stanislaus,and A.,“Options and Processes for Spent Catalyst Handling and Utilization”,Journal of Hazardous Materials,B101(2003),pp.123-132;

13.Llanos,Z. R.,and Deering,W.G.,“Processes for the Recovery of Metals from Spent Hydroprocessing Catalysts”,Third International Symposium on Recycling of Metals and Engineered Materials,Edited by P.B.Queneau and R.D.Peterson,TMMS,1995,pp425;

14.Llanos,Z.R.,Lacave,J.,and Deering,W.G.,“Treatment of Spent Hydroprocessing Catalysts at Gulf Chemical and Metallurgical Corporation”,SME Annual Meeting,Mar.1986,New Orleans,Louisiana;

15.Marafi M.,Rana,M.S.,and Al-Sheeha H.,“The Recovery of Valuable Metals and Recycling of Alumina from a Waste Spent Hydroprocessing Catalyst:Extraction with Na Salts”,2014,WIT Transactions on Ecology and The Environment,Vol 180,pp15-27;

16.B.B.Kar,P.Datta,and V.N.Misra,“Spent catalyst:secondary source for molybdenum recovery”,Hydrometallurgy,72(2004)87-92,26 May 2003;

17.Furimsky E.,and Massoth F.E.,“Deactivation of hydroprocessing catalysts”,Catalysis Today,1999;52,pp.381-495;

18.C.Bartholomew,J.Birtill,and A.Hassan,“Catalyst Deactivation,Regeneration and Disposal”,The Catalyst Group Resources,Spring House,PA;

19.“Qualitative Inorganic Analysis”,Vogel,A.I.,4th Edition,1953;

20.“Analytical Chemistry”,Treadwell,F.P.,5th Edition,1919;

21.Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,Fifth Edition,Editors:Elvers,B.,Hawkins,S.,Schulz,G.,Volume A16;

22.A.Roine,HSC Chemistry(登録商標)[Software],Outotec,Pori 2018.ソフトウェアは、www.outotec.com/HSCで入手可能。

23.M.Morishita and A.Navrotsky,“Calorimetric Study of Nickel Molybdate:Heat Capacity, Enthalpy and Gibbs Energy of Formation”,
J.Am.Ceramic Society,86[11],pp1927-32,2003.
【0153】
本発明及び本開示の範囲に関するさらなる詳細は、添付の請求項から判断し得る。
【0154】
本発明の1つ以上の実施形態の上記の説明は、主に例示のためのものであり、変形形態を用いてよく、その上、その変形形態が、本発明の本質に組み込まれることは認識されている。本発明の範囲を判断する際には、下記の請求項を参照すべきである。
【0155】
米国特許の実施慣行の目的上、及び認められる場合には、その他の特許庁においては、本発明の上記の説明で引用したいずれの特許及び刊行物も、それらに含まれるいずれかの情報が、上記の開示内容と整合し及び/または上記の開示内容を補う限りにおいては、参照により、本明細書に援用される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】