IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エチオン テクノロジーズ リミテッドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-21
(54)【発明の名称】電気化学セル
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/485 20100101AFI20250214BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20250214BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20250214BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20250214BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20250214BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20250214BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20250214BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20250214BHJP
【FI】
H01M4/485
H01M4/131
H01M10/052
H01M4/36 E
H01M4/587
H01M4/38 Z
H01M4/525
H01M10/054
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024547494
(86)(22)【出願日】2023-02-10
(85)【翻訳文提出日】2024-09-25
(86)【国際出願番号】 GB2023050307
(87)【国際公開番号】W WO2023152505
(87)【国際公開日】2023-08-17
(31)【優先権主張番号】2201720.6
(32)【優先日】2022-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522145144
【氏名又は名称】エチオン テクノロジーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100196597
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】ゲーリー,ハリー
(72)【発明者】
【氏名】エル・ワタニ,ルブナ
(72)【発明者】
【氏名】バッバル,プリンス
(72)【発明者】
【氏名】グルームブリッジ,アレクサンダー
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ14
5H029HJ17
5H029HJ19
5H050AA02
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA29
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050DA03
5H050FA19
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA14
5H050HA17
5H050HA19
(57)【要約】
本発明は、アノード、カソード、及び該アノードとカソードとの間に配される電解質を含む電気化学セル、例えば、リチウムイオン電池を提供し、該アノードは、活アノード物質としてニオブを含む酸化物を含み、該ニオブを含む酸化物の結晶構造は、MII Nb3487、MIIINb1129、MIIINb49124、MIVNb2462、MNb25、MVINb1233、H-Nb、またはN-Nbの結晶構造に対応し、該セルは、本明細書で定義されるN/P比>1を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード、カソード、及び前記アノードと前記カソードとの間に配される電解質を含む電気化学セルであって、
前記アノードは、活アノード物質としてニオブを含む酸化物を含み、前記ニオブを含む酸化物の結晶構造は、MII Nb3487、MIIINb1129、MIIINb49124、MIVNb2462、MNb25、MVINb1233、H-Nb、またはN-Nbの結晶構造に対応し、
前記セルは、N/P比>1を有し、ここで、N/P比は、
【数1】
として定義され、
式中、
面積負荷(mgcm-2)は、集電体を考慮しない電極組成物の乾燥負荷であり、
活性分率(重量%)は、活物質である乾燥電極組成物のパーセンテージであり、
最初のリチウム化/脱リチウム化容量(mAhg-1)は、Li金属対電極を備えた同等のハーフセルで測定された、前記アノードの最初のリチウム化サイクルまたは前記カソードの最初の脱リチウム化サイクルに関する25℃でのC/10での比容量である、
前記電気化学セル。
【請求項2】
前記N/P比が、>1~2、または1.01~1.5、または1.05~1.3である、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記ニオブを含む酸化物の結晶構造が、MII Nb3487、MIIINb1129、MNb25、もしくはH-Nbの結晶構造に対応するか、またはMII Nb3487、MIIINb1129、もしくはH-Nbの結晶構造に対応するか、またはMII Nb3487の結晶構造に対応する、先行請求項のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記ニオブを含む酸化物が、前記アノードの全活アノード物質の少なくとも10重量%、50重量%、または75重量%を形成する、先行請求項のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項5】
前記アノードが、さらなる活アノード物質を含み、
任意に、前記さらなる活アノード物質が、リチウムチタン酸化物、チタンニオブ酸化物、異なるニオブを含む酸化物、グラファイト、硬質炭素、軟質炭素、ケイ素、それらのドープ型及び/または炭素被覆型、ならびにそれらの混合物から選択される、先行請求項のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項6】
前記ニオブを含む酸化物が、前記アノードの唯一の活アノード物質である、請求項1~3のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項7】
前記カソードが、活カソード物質を含み、
任意に、前記活カソード物質が、M=Co、Mn、AlであるLiNi1-xクラスのニッケルベースの層状酸化物、例えば、NMC、すなわち、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物、NCA、すなわち、リチウムコバルトアルミニウム酸化物、及びLCO、すなわち、リチウムコバルト酸化物、及びLNMO、すなわち、リチウムニッケルマンガン酸化物から選択される、先行請求項のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項8】
前記ニオブを含む酸化物が、式M1M22-aM3Nb34-b87-c-dを有し、
式中、
M1とM2は異なり、
M1は、Mg、Ca、Sr、Y、La、Ce、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、P、Sb、Bi、及びそれらの混合物から選択され、
M2は、ZnまたはCuであり、
M3は、Mg、Ca、Sr、Y、La、Ce、Ti、Zr、Hf、V、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、P、Sb、Bi、及びそれらの混合物から選択され、
Qは、F、Cl、Br、I、N、S、Se、及びそれらの混合物から選択され、
0≦a<1.0、0≦b≦3.4、-0.5≦c≦4.35、0≦d≦4.35であり、
a、b、c、及びdのうちの1つ以上は0に等しくなく、
a、b、及びdが0の場合、cは0より大きい、
請求項1~7のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項9】
前記ニオブを含む酸化物が、式M1Zn2-aM3Nb34-b87-cを有し、
式中、
M1は、Mg、Zr、V、Cr、Mo、W、Fe、Cu、Al、Ge、P、及びそれらの混合物から選択され、
M3は、Ti、Zr、V、Cr、Mo、W、Fe、Cu、Zn、Al、P、及びそれらの混合物から選択され、
0<a<1.0、0<b≦3.4、-0.5≦c≦4.35である、
請求項8に記載の電気化学セル。
【請求項10】
前記ニオブを含む酸化物が、式M1M22-aM3Nb34-b87-cを有し、
式中、
M1は、Cr、Al、Ge、及びそれらの混合物から選択され、好ましくは、M1は、Crであり、
M2は、ZnまたはCuであり、好ましくは、M2は、Znであり、
M3は、Ti、Zr、Fe、及びそれらの混合物から選択され、任意に、Tiを含み、好ましくは、M3は、Ti、Zr、及びそれらの混合物から選択され、任意に、Tiを含み、最も好ましくは、M3は、Tiであり、
0<a<1.0、好ましくは、0.01<a<1.0であり、
0<b≦1.5、好ましくは、0.01<b<1.0であり、
-0.5≦c≦4.35、好ましくは、-0.5≦c≦2、最も好ましくは、c=0である、
請求項8に記載の電気化学セル。
【請求項11】
前記ニオブを含む酸化物が、式CrZn2-aM3Nb34-b87-cを有し、
式中、
M3は、Ti、Zr、及びそれらの混合物から選択され、任意に、Tiを含み、好ましくは、M3は、Tiであり、
0.01<a<1.0、好ましくは、0.1<a<1.0であり、
0.01<b<1.0、好ましくは、0.1<b<1.0であり、
-0.5≦c≦2、好ましくは、c=0である、
請求項8に記載の電気化学セル。
【請求項12】
前記ニオブを含む酸化物が、式M4Al1-aM5Nb11-b29-c-dを有し、
式中、
M4は、Mg、Ca、Sr、Y、La、Ce、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、B、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、P、Sb、Bi、及びそれらの混合物から選択され、
M5は、Mg、Ca、Sr、Y、La、Ce、Zr、Hf、V、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、P、Sb、Bi、及びそれらの混合物から選択され、
Qは、F、Cl、Br、I、N、S、Se、及びそれらの混合物から選択され、
0≦a<0.5、0≦b≦1、-0.5≦c≦1.45、0≦d≦1.45であり、
a、b、及びdのうちの1つ以上は0に等しくない、
請求項1~7のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項13】
前記ニオブを含む酸化物が、式M4Al1-aNb1129-c-dを有し、
式中、
M4は、Mg、Zr、V、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、B、Ga、Si、Ge、P、及びそれらの混合物から選択され、
Qは、F、N、及びそれらの混合物から選択され、
0<a<0.5、0≦c≦1.45、0≦d≦1.45である、
請求項12に記載の電気化学セル。
【請求項14】
前記ニオブを含む酸化物が、式M6x-aM7Nb9-b25-c-dを有し、
式中、
M6は、Na、K、Mg、Ca、Sr、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、B、Al、Ga、Si、Ge、Sn、Bi、Sb、及びそれらの混合物から選択され、
M7は、Na、K、Mg、Ca、Sr、Y、Ti、Zr、Hf、V、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、B、Al、Ga、Si、Ge、Sn、Bi、P、Sb、及びそれらの混合物から選択され、
Qは、F、Cl、Br、I、N、S、Se、及びそれらの混合物から選択され、
0≦a≦0.5、0≦b≦2、-0.5≦c≦1.25、0≦d≦5、1≦x≦2であり、
a、b、c、及びdのうちの1つ以上は0に等しくなく、
但し、M6がNbからなり、かつM7がPからなる場合、cは、>0である、
請求項1~7のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項15】
前記ニオブを含む酸化物が、式M61-aM7Nb9-b25-c-dを有し、
式中、
M6は、Ti、Zr、Hf、Cr、Mo、W、B、Al、Ga、Ge、Bi、Sb、及びそれらの混合物から選択され、
M7は、Ti、Zr、Hf、Cr、Mo、W、V、Ta、Ga、Ge、及びそれらの混合物から選択され、
Qは、F、N、及びそれらの混合物から選択され、
0≦a≦0.2、0≦b≦1、0≦c≦1.25、0≦d≦2.5であり、
a及びbの少なくとも一方は>0である、
請求項14に記載の電気化学セル。
【請求項16】
前記ニオブを含む酸化物が、式M8M91-aM10Nb12-b33-c-dを有し、
式中、
M8とM9は異なり、
M8は、Mg、Ca、Sr、Y、La、Ce、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、P、Sb、Bi、及びそれらの混合物から選択され、
M9は、MoまたはWであり、
M10は、Mg、Ca、Sr、Y、La、Ce、Ti、Zr、Hf、V、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、P、Sb、Bi、及びそれらの混合物から選択され、
Qは、F、Cl、Br、I、N、S、Se、及びそれらの混合物から選択され、
0≦a<0.5、0≦b≦2、-0.5≦c≦1.65、0≦d≦1.65であり、
a、b、c、及びdのうちの1つ以上は0に等しくなく、
a、b、及びdが0の場合、cは0より大きい、
請求項1~7のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項17】
前記ニオブを含む酸化物が、式M8M91-aM10Nb12-b33-c-dを有し、
式中、
M8とM9は異なり、
M8は、Ti、Zr、V、Cr、Mo、W、Fe、Cu、Zn、Al、P、及びそれらの混合物から選択され、
M9は、MoまたはWであり、
M10は、Ti、Zr、V、Cr、Mo、W、Fe、Cu、Zn、Al、P、及びそれらの混合物から選択され、
Qは、F、N、及びそれらの混合物から選択され、
0<a≦0.45、0≦b≦0.2、-0.25≦c≦1.65、0≦d≦0.8である、 請求項16に記載の電気化学セル。
【請求項18】
前記ニオブを含む酸化物が、H-Nbである、
請求項1~7のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項19】
金属イオン電池、任意に、リチウムイオンまたはナトリウムイオン電池である、
先行請求項のいずれかに記載の電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活アノード物質としてニオブを含む酸化物を含む電気化学セルに関する。かかるセルは、金属イオン電池、例えば、リチウムイオン電池またはナトリウムイオン電池として注目されている。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン(Liイオン)電池は、一般的に使われている充電式電池の一種であり、世界市場は2030年には2000億ドルに成長すると予測されている。Liイオン電池は、技術的性能から環境への影響まで複数の要求がある電気自動車に最適な技術であり、環境に優しい自動車産業への実現可能な道程を授ける。
【0003】
典型的なリチウムイオン電池は、直列または並列に接続された複数のセルで構成されている。個々のセルは、通常、アノード(負極性電極)及びカソード(正極性電極)から構成されており、多孔質の電気絶縁膜(セパレータと称する)で分離され、リチウムイオンの輸送を可能にする液体(電解液と称する)に浸されている。
【0004】
ほとんどのシステムでは、電極は、活電極物質で構成されており、すなわち、これが、リチウムイオンと化学的に反応して、それらを制御された状態で可逆的に貯蔵及び放出することができるということであり、必要に応じて導電性添加剤(例えば、炭素)及び高分子結合剤と混合される。これらの成分のスラリーが集電体(通常は銅またはアルミニウムの薄箔)上に薄膜として塗布され、乾燥後に電極が形成される。活アノード物質及び活カソード物質は、広範囲のN/P比で電気化学セルを形成することができ、この比は、その最初のリチウム化における活アノード物質及びその最初の脱リチウム化における活カソード物質の個々のハーフセルの容量から計算される。N/Pは、少なくともセルの寿命及び安全性に影響を与えると考えられている。しかしながら、最適なN/P比を導き出すことは、各活物質の性質次第で複雑なプロセスである。
【0005】
既知のLiイオン電池技術においては、グラファイトアノードの電池充電時の安全性の制約が、高出力の電子機器、自動車及び産業への応用の大きな障害となっている。最近提案された様々な有望な代替物の中で、チタン酸リチウム(LTO)及びニオブを含む酸化物が、グラファイトに代わる、高出力急速充電用途に最適な活物質として有力な候補である。
【0006】
ニオブを含む酸化物は学術文献で以前から知られているが、ごく最近になってLiイオンセルでの使用に関心が高まっている。例えば、WO2021/074593、WO2021/074594、WO2021/245411、及びWO2021/245410は、ニオブを含む様々な置換及び/または酸素欠損酸化物を開示しており、これらは、活アノード物質としての使用に良好な特性を有することが判明した。しかしながら、ニオブを含む酸化物を利用する電気化学セルを最適化し、市場によるこれらの有望な活アノード物質の取り込みを支援する必要がある。
【発明の概要】
【0007】
第一の態様では、本発明は、アノード、カソード、及び該アノードとカソードとの間に配される電解質を含む電気化学セルを提供し、
該アノードは、活アノード物質としてニオブを含む酸化物を含み、該ニオブを含む酸化物の結晶構造は、MII Nb3487、MIIINb1129、MIIINb49124、MIVNb2462、MNb25、MVINb1233、H-Nb、またはN-Nbの結晶構造に対応し、
該セルは、N/P比>1を有し、ここで、N/P比は、
【数1】
として定義され、式中、
面積負荷(mgcm-2)は、集電体を考慮しない電極組成物の乾燥負荷であり、
活性分率(重量%)は、活物質である乾燥電極組成物のパーセンテージであり、
最初のリチウム化/脱リチウム化容量(mAhg-1)は、Li金属対電極を備えた同等のハーフセルで測定された、該アノードの最初のリチウム化サイクルまたは該カソードの最初の脱リチウム化サイクルに関する25℃でのC/10での比容量である。
【0008】
本発明者らは、特定の活アノード物質を含む電気化学セルについてN/P>1を有することにより、実施例が示すように、N/P<1と比較して、驚くべきことに改善された安定性及び寿命がもたらされることを発見した。この方法でセルを設計することにより、有効なカソード容量が十分に利用され、これにより、フルセル電圧制限に対する制御が可能になり、活カソード物質電位(すなわち、フルセル動作中の局所電圧)の望ましくない増加が防止され得ることが理論化される。カソード電圧が上昇すると、活物質がリチウム過剰になり、物質の分解が生じる場合があり、使用中の電解質の安定限界を超える可能性があり、カソード物質の表面でのさらなる電解質の分解反応につながり得る。さらに、N/P>1のセルを設計することにより、電解質と特定のクラスの活アノード物質との間で低電圧で起こり得る副反応を最小限にすることにより、寿命及び性能が向上すると考えられる。
【0009】
好ましくは、該電気化学セルは、金属イオン電池、例えば、リチウムイオンまたはナトリウムイオン電池であり、最も好ましくは、リチウムイオン電池である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1に関して、容量低下を1C/1Cサイクル回数の関数として示す。
図2】実施例1に関して、DCIR増大をサイクル回数の関数として示す。
図3】実施例1に関して、基準容量低下をサイクル回数の関数として示す。
図4】実施例1に関して、最初のサイクル形成データを示す。
図5】実施例1に関して、10C充電レート試験を示す。
図6】実施例1に関して、10C放電レート試験を示す。
図7】実施例2に関して、最初のサイクル形成データを示す。
図8】実施例2に関して、10C充電レート試験を示す。
図9】実施例2に関して、10C放電レート試験を示す。
図10】実施例3に関して、最初のサイクル形成データを示す。
図11】実施例3に関して、10C充電レート試験を示す。
図12】実施例3に関して、10C放電レート試験を示す。
図13】実施例4に関して、最初のサイクル形成データを示す。
図14】実施例4に関して、10C充電レート試験を示す。
図15】実施例4に関して、10C放電レート試験を示す。
図E1】サンプルE1~E4の粉末XRDを示す。
図E2】サンプルE5~E12の粉末XRDを示す。
図F1】サンプルF1~F4の粉末XRDを示す。
図F2】サンプルF5~F9の粉末XRDを示す。
図G1】サンプルG1~G9の粉末XRDを示す。
図G2】サンプルG10~G17の粉末XRDを示す。
図H1】サンプルH1、H2、H5、H10、H13、H14、及びH17の粉末XRDを示す。
図H2】サンプルH2、H13、H15、H16、及びH17の共焦点ラマンスペクトルを示す。スペクトルを収集するために、レーザー励起532nm、減衰10%及び倍率50をHoriba Xplora Plusラマン顕微鏡で使用し、サンプルを10MPaの圧力で加圧してペレットにし、スライドガラスに配した。スペクトルを、スキャンごとに平均して15秒の収集時間、3回の繰り返し、及び3つの異なるサンプル位置でスペクトル範囲0~2500cm-1で記録した。
図I1】サンプルI1、I2、I4、I5、I8、I9、I10、I11、及びI12の粉末XRDを示す。
図I2】サンプルI6及びI7の粉末XRDを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
N/Pは次のように定義される:
【数2】
面積負荷(mgcm-2)は、集電体を考慮しない、例えば、実施例で使用されるアルミニウム箔を考慮しない電極組成物の乾燥負荷である。
【0012】
活性分率(重量%)は、活物質である乾燥電極組成物のパーセンテージであり、例えば、実施例で使用されるカソードにおける91重量%のNMC622である。
【0013】
最初のリチウム化/脱リチウム化容量(mAhg-1)は、Li金属対電極を備えた同等のハーフセルで測定された、該アノードの最初のリチウム化サイクルまたは該カソードの最初の脱リチウム化サイクルに関する25℃でのC/10での比容量である。同等のハーフセルは、フルセルと同じ面積負荷及び活性分率で堆積した同じ電極組成物を利用するものと理解できる。
【0014】
セルの充電レートは、通常「Cレート」で表される。1C充電レートとは、セルが1時間で完全に充電されるような充電電流を意味し、10C充電とは、電池が1時間の1/10(6分)で完全に充電されることを意味する。Cレートは、適切な電圧制限内でセルの可逆容量から定義され得る。例えば、1.2~3.15Vの電圧制限内で1.0mAhcm-2の容量を示すセルの場合、1Cレートは、1.0mAcm-2の流された電流密度に相当する。
【0015】
最初のリチウム化/脱リチウム化容量は、同等のハーフセルで測定される。アノードについては、25℃での最初の定電流C/10リチウム化(放電、負電流)容量(vs Li/Li+)を測定する。カソードについては、25℃での最初の定電流C/10脱リチウム化(充電、正電流)容量(vs Li/Li+)を測定する。
【0016】
N/Pは、1より大きく、例えば、≧1.01である。N/Pは、>1~2、または1.01~1.5の範囲、または好ましくは1.05~1.3の範囲であり得る。
【0017】
活アノード物質及び活カソード物質は、金属イオン、好ましくは、リチウムイオンと化学的に反応し、それらを制御された状態で可逆的に貯蔵及び放出することができる。ニオブを含む酸化物は、リチウムに対して>0.8Vの高い酸化還元電圧を有するため、安全で長寿命の動作が可能になり、電池セルの急速充電に不可欠である。さらに、ニオブカチオンは、原子あたり2つの酸化還元反応を示すことができるため、例えば、LTOよりも高い理論容量をもたらす。ニオブ及び少なくとも1つの他のカチオンを含む酸化物は、混合ニオブ酸化物と呼ばれることがある。
【0018】
本発明で利用されるニオブを含む酸化物の結晶構造は、Wadsley-Roth結晶構造として分類され得る。これらは、結晶学的せん断を含むMO(ReO)の結晶構造の結晶学的オフストイキオメトリであると考えられており、式MO3-xで簡略化される。結果として、これらの構造は通常、[MO]の八面体サブユニットを含む。これらの構造を有する物質は、例えば、リチウムイオン電池において活電極物質として使用するのに有利な特性を有すると考えられている。例えば、これらの物質の開いたトンネル様のMO結晶構造により、それらは、高容量のLiイオン貯蔵及び高レートのインターカレーション/デインターカレーションを有するための理想的な候補になる。
【0019】
物質の結晶構造は、広く知られているように、X線回折(XRD)パターンの分析によって特定され得る。例えば、所与の物質から得られたXRDのパターンを、例えば、ICDD結晶学データベース等の公開データベースを介して、既知のXRDのパターンと比較して結晶構造を確認することができる。リートベルト解析及びポーリー解析もまた、物質の結晶構造を、特に、単位格子パラメータに関して特定するために使用され得る。したがって、ニオブを含む酸化物は、X線回折によって特定される、特定の結晶構造に対応する結晶構造を有し得る。「対応する」という用語は、X線回折パターンにおけるピークが、当該結晶構造に対するリファレンスパターンのX線回折パターンにおける対応するピークから、0.5度以下だけシフトしてよい(好ましくは、0.25度以下だけシフトしてよく、より好ましくは、0.1度以下だけシフトしてよい)ということを反映すると理解され得る。
【0020】
本発明で利用される結晶構造のリファレンスパターンは、以下で入手可能である。
II Nb3487:例えば、ZnNb3487、ICDD結晶学データベースエントリJCPDS 28-1478
IIINb1129:例えば、AlNb1129、ICDD結晶学データベースエントリJCPDS 22-009
IIINb49124:例えば、FeNb49124、ICDD結晶学データベースエントリJCPDS 22-0351
IVNb2462:例えば、ZrNb2462、ICDD結晶学データベースエントリJCPDS 01-072-1655
Nb25:例えば、PNb25、ICDD結晶学データベースエントリJCPDS 81-1304
VINb1233:例えば、WNb1233、ICDD結晶学データベースエントリJCPDS 73-1322
H-Nb:ICDD結晶学データベースエントリJCPDS 37-1468
N-Nb:Andersson,S.,Zeitschrift fur anorganische und allgemeine Chemie 1967 Vol.351;Iss.1-2;The Crystal Structure of N-Nb,prepared in the presence of small amounts of LiF
【0021】
該ニオブを含む酸化物の結晶構造は、任意に、MII Nb3487、MIIINb1129、MNb25、もしくはH-Nbに対応するか、またはMII Nb3487、MIIINb1129、もしくはH-Nbの結晶構造に対応する。最も好ましくは、該ニオブを含む酸化物の結晶構造は、MII Nb3487の結晶構造、例えば、ZnNb3487の結晶構造に対応する。
【0022】
該ニオブを含む酸化物は、好ましくは、微粒子型である。該ニオブを含む酸化物は、0.1~100μm、または0.5~50μm、または1~20μmに及ぶD50粒子径を有し得る。これらの粒度が、電極への加工及び製造が容易であるため有利である。さらに、これらの粒度により、ナノサイズの粒子をもたらすための複雑な方法、及び/または高額な方法を使用する必要性がなくなる。ナノサイズの粒子(例えば、100nm以下のD50粒子径を有する粒子)は、通常、合成がより複雑であり、さらに安全性を考慮する必要がある。
【0023】
該ニオブを含む酸化物は、少なくとも0.05μm、または少なくとも0.1μm、または少なくとも0.5μm、または少なくとも1μmのD10粒子径を有し得る。D10粒子径をこれらの範囲内に維持することにより、Liイオンセルにおける寄生反応の可能性が、縮小された表面積を有することから低減され、電極スラリー中、少ない結合剤での加工が容易になる。
【0024】
該ニオブを含む酸化物は、200μm以下、100μm以下、50μm以下、または20μm以下のD90粒子径を有し得る。D90粒子径をこれらの範囲に維持することによって、大きな粒度の粒度分布の割合が最小化され、物質を均質な電極に製造することがより容易になる。
【0025】
「粒子径」という用語は、球相当径(esd)、すなわち、所与の粒子と同じ体積を有する球の直径を指し、その粒子体積は、任意の粒子内空孔の体積を含むと理解される。「D」及び「D粒子径」という用語は、それ未満で、当該粒子集団のn体積%が見出される直径を指し、すなわち、「D50」及び「D50粒子径」は、それ未満で、当該粒子集団の50体積%が見出される体積基準のメジアン粒子径を指す。物質が二次粒子に凝集した一次結晶子を含む場合、該粒子径は、該二次粒子の直径を指すことが理解される。粒子径は、レーザー回折によって測定され得る。粒子径は、ISO13320:2009に準拠して測定可能であり、例えば、Mie理論を使用する。
【0026】
該ニオブを含む酸化物は、0.1~100m/g、または0.2~50m/g、または0.5~20m/gに及ぶBET表面積を有し得る。一般に、該ニオブを含む酸化物と該電解質との反応を最小限に抑えるために、例えば、該物質を含む電極の最初の充放電サイクル中の固体電解質界面(SEI)層の形成を最小限に抑えるために、低いBET表面積が好ましい。しかしながら、低すぎるBET表面積により、該ニオブを含む酸化物の大部分が周囲の電解質中の金属イオンに接近できないため、許容できないほど低い充電レート及び容量となる。
【0027】
「BET表面積」という用語は、ブルナウアー・エメット・テラー理論を使用して、固体表面でのガス分子の物理的吸着の測定から計算された、単位質量あたりの表面積を指す。例えば、BET表面積は、ISO9277:2010に準拠して求めることができる。
【0028】
該ニオブを含む酸化物を炭素で被覆して、例えば、表面の電子伝導率を向上させ、及び/または電解質との反応を防止してもよい。
【0029】
該ニオブを含む酸化物は、保護被膜を有してもよく、任意に、該保護被膜は、ニオブ酸化物、アルミニウム酸化物、ジルコニウム酸化物、有機または無機フッ化物、有機または無機ホスフェート、チタン酸化物、それらのリチウム化型、及びそれらの混合物を含む。
【0030】
該アノード及びカソードは一般に、集電体と電気的に接続する電極組成物(すなわち、アノード組成物またはカソード組成物)の形態である。集電体は、通常、金属箔、例えば、銅箔またはアルミニウム箔である。
【0031】
任意に、該ニオブを含む酸化物は、該アノードの全活アノード物質の少なくとも5重量%、10重量%、50重量%、または75重量%を形成する。該ニオブを含む酸化物は、該アノードの唯一の活アノード物質を形成し得る。
【0032】
該電極組成物はさらに、結合剤、導電性添加剤、異なる活電極物質、及びそれらの混合物から選択される少なくとも1つの他の成分を含んでもよい。例えば、あるアノード組成物は、該アノード組成物の全乾燥重量に基づいて、ニオブを含む酸化物約92重量%、導電性添加剤(例えば、カーボンブラック)約5重量%、及び結合剤(例えば、ポリ(二フッ化ビニル)(polyvinyldifluoride))約3重量%を含む。
【0033】
適切な結合剤の例としては、ポリフッ化ビニリデン及びその共重合体(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びその共重合体、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリ(メチル)メタクリレートまたはポリ(ブチル)メタクリレート、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリビニルホルマール、ポリエーテルアミド、ポリメタクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリイタコン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸(PAA)及びそのアルカリ金属塩、変性ポリアクリル酸(mPAA)及びそのアルカリ金属塩、セルロース系ポリマー、カルボキシメチルセルロース(CMC)、変性カルボキシメチルセルロース(mCMC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(Na-CMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、アルギネート及びそのアルカリ金属塩、ブタジエンアクリロニトリルゴム(NBR)、NBRの水素化形態(HNBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、及びポリイミドが挙げられる。該結合剤は、該電極組成物の全乾燥重量に基づいて、該電極組成物に0~30重量%、または0.1~10重量%、または0.1~5重量%含まれ得る。
【0034】
導電性添加剤は、好ましくは、活電極物質間、及び活電極物質と集電体との間の電気伝導性を改善するために含まれる非活物質である。該導電性添加剤は、グラファイト、カーボンブラック、炭素繊維、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ、グラフェン、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、金属繊維、金属粉末、及び導電性金属酸化物から適宜選択され得る。好ましい導電性添加剤としては、カーボンブラック及びカーボンナノチューブが挙げられる。導電性添加剤は、該電極組成物の全乾燥重量に基づいて、該電極組成物に0~20重量%、0.1~10重量%、または0.1~5重量%含まれ得る。
【0035】
該活電極物質は、該電極組成物の全乾燥重量に基づいて、該電極組成物に100~50重量%、99.8~80重量%、または99.8~90重量%含まれ得る。該活電極物質が該電極組成物の100重量%で含まれる場合、それは固体電極を形成し得る。
【0036】
該ニオブを含む酸化物に加えて異なる活アノード物質が含まれる場合、それは、リチウムチタン酸化物、チタンニオブ酸化物、異なる混合ニオブ酸化物、グラファイト、硬質炭素、軟質炭素、ケイ素、それらのドープ型、及びそれらの混合物から選択され得る。
【0037】
該ニオブを含む酸化物は、従来のセラミック技術によって合成され得る。例えば、それは、固相合成またはゾルゲル合成のうちの1つ以上によって作製され得る。ニオブを含む酸化物はさらに、一般に使用される代替技術、例えば、水熱合成またはマイクロ波水熱合成、溶媒熱合成またはマイクロ波溶媒熱合成、共沈合成、スパークプラズマ合成またはマイクロ波プラズマ合成、燃焼合成、エレクトロスピニング、噴霧熱分解、化学気相成長、原子層堆積、及びメカニカルアロイングのうちの1つ以上によって合成され得る。
【0038】
該ニオブを含む酸化物は、1つ以上の前駆体物質を得るステップ、該前駆体物質を混合して、前駆体物質混合物を形成するステップ、及び該前駆体物質混合物を400℃~1350℃または800~1250℃の温度範囲で熱処理することにより該ニオブを含む酸化物を得るステップを含む方法によって提供され得る。
【0039】
ニオブ、及び酸素以外のさらなる電気陰性アニオンを含む酸化物を提供するため、該方法はさらに、該ニオブを含む酸化物を、さらなる電気陰性アニオンを含む前駆体と混合し、さらなる前駆体物質混合物を得るステップ、及び該さらなる前駆体物質混合物を300~1200℃または800~1100℃の温度範囲で、任意に還元条件下で熱処理することにより、該ニオブ及びさらなる電気陰性アニオンを含む酸化物を得るステップを含み得る。
【0040】
例えば、ニオブ及びNを含む酸化物を提供するため、該方法はさらに、該ニオブを含む酸化物を、Nを含む前駆体(例えば、メラミンまたは尿素)と混合し、さらなる前駆体物質混合物を得るステップ、及び該さらなる前駆体物質混合物を300~1200℃の温度範囲で、還元条件下(例えば、N下)で熱処理することにより、該ニオブ及びNを含む酸化物を得るステップを含み得る。
【0041】
例えば、ニオブ及びFを含む酸化物を提供するため、該方法はさらに、該ニオブを含む酸化物を、Fを含む前駆体(例えば、ポリフッ化ビニリデンまたはNHF)と混合し、さらなる前駆体物質混合物を得るステップ、及び該さらなる前駆体物質混合物を300~1200℃の温度範囲で、酸化条件下(例えば、空気中)で熱処理することにより、該ニオブ及びFを含む酸化物を得るステップを含み得る。
【0042】
該方法は、該ニオブを含む酸化物を、400~1350℃または800~1250℃の温度範囲で、還元条件下で熱処理することにより、該ニオブを含む酸化物に酸素空孔を誘起するさらなるステップを含み得る。
【0043】
該ニオブを含む酸化物を作製するための前駆体物質は、1つ以上の金属酸化物、金属水酸化物、金属塩、またはアンモニウム塩を含み得る。例えば、該前駆体物質は、異なる酸化状態及び/または異なる結晶構造の1つ以上の金属酸化物または金属塩を含み得る。適切な前駆体物質の例としては、Nb、Nb(OH)、ニオブ酸、NbO、ニオブ酸シュウ酸アンモニウム、NHPO、(NHPO、(NHPO、P、HPO、Ta、WO、ZrO、TiO、MoO、V、ZrO、CuO、ZnO、Al、KO、KOH、CaO、GeO、Ga、SnO、CoO、Co、Fe、Fe、MnO、MnO、NiO、Ni、HBO、ZnO、LiCO、NaCO、HBO、NiO、Mg(CO(OH).5HO、及びMgOが挙げられるがこれらに限定されない。該前駆体物質は、金属酸化物を含まなくてもよく、酸化物以外のイオン源を含んでもよい。例えば、該前駆体物質は、金属塩(例えば、NO 、SO )を含んでも他の化合物(例えば、オキサレート、カーボネート)を含んでもよい。酸素アニオンを他の電気陰性アニオンで置換する場合、該前駆体は、1つ以上の有機化合物、ポリマー、無機塩、有機塩、ガス、またはアンモニウム塩を含んでもよく、例としては、メラミン、NHHCO、NH、NHF、PVDF、PTFE、NHCl、NHBr、NHI、Br、Cl、I、アンモニウムオキシクロリドアミド、及びヘキサメチレンテトラミンが挙げられるがこれらに限定されない。
【0044】
該前駆体物質の一部またはすべては、微粒子物質であってもよい。それらが微粒子物質である場合、好ましくは、それらは、直径20μm未満、例えば10nm~20μmのD50粒子径を有する。かかる粒子径を有する微粒子物質を提供することは、前駆体物質のより密接な混合の促進に役立ち、それにより、該熱処理ステップ中に、より効率的な固相反応がもたらされ得る。しかしながら、該1つ以上の前駆体物質の粒子径は、該前駆体物質を混合して前駆体物質混合物を形成するステップの間に機械的に縮小される可能性があるため、該前駆体物質は、直径<20μmの初期粒子径を有することは必須ではない。
【0045】
該前駆体物質を混合して前駆体物質混合物及び/またはさらなる前駆体物質混合物を形成するステップは、乾式または湿式/溶媒和プラネタリーボールミリング、ローリングボールミリング、高エネルギーボールミリング、ビーズミリング、ピンミリング、分級ステップ、高せん断ミリング、エアジェットミリング、スチームジェットミリング、プラネタリーミキシング、粉の投入、及び/または衝撃ミリングから選択されるプロセスによって行われ得る。混合/ミリングに使用される力は、該前駆体物質のモルホロジーに依存し得る。例えば、該前駆体物質の一部またはすべてが、より大きな粒度(例えば、20μmを超えるD50粒子径)を有する場合、該ミリング力は、該前駆体物質混合物の粒子径が直径20μm以下に縮小されるように、該前駆体物質の粒子径を縮小するように選択され得る。該前駆体物質混合物における粒子の粒子径が20μm以下の場合、該熱処理ステップの間に、該前駆体物質混合物中での該前駆体物質の固相反応が、より効率的に促進され得る。該固相合成は、該前駆体粉末から高圧(>10MPa)で形成されたペレットで行ってもよい。
【0046】
該前駆体物質混合物及び/または該さらなる前駆体物質混合物を熱処理するステップは、1時間~24時間、より好ましくは、3時間~18時間の間行われ得る。例えば、該熱処理ステップを、1時間以上、2時間以上、3時間以上、6時間以上、または12時間以上行ってもよい。該熱処理ステップは、24時間以下、18時間以下、16時間以下、または12時間以下行われ得る。
【0047】
該前駆体物質混合物を熱処理するステップは、気体雰囲気、好ましくは、空気中で行われ得る。適切な気体雰囲気としては、空気、N、Ar、He、CO、CO、O、H、NH、及びそれらの混合物が挙げられる。該気体雰囲気は、還元性雰囲気であり得る。酸素欠損物質を作製することが望まれる場合、好ましくは、該前駆体物質混合物を熱処理するステップは、不活性雰囲気または還元性雰囲気で行われる。
【0048】
該さらなる前駆体物質混合物を熱処理するステップは、還元条件下で行われ得る。還元条件としては、不活性ガス、例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン下、または不活性ガスと水素の混合下、または真空下が挙げられる。好ましくは、該さらなる前駆体物質混合物を熱処理するステップは、不活性ガス下で加熱することを含む。
【0049】
該ニオブを含む酸化物、及び/または該ニオブを含む酸化物とさらなる電気陰性アニオンを任意に還元条件下で熱処理するさらなるステップは、0.5時間~24時間、より好ましくは、2時間~18時間の間行われ得る。例えば、該熱処理ステップを、0.5時間以上、1時間以上、3時間以上、6時間以上、または12時間以上行ってもよい。該さらなるステップの熱処理は、24時間以下、18時間以下、16時間以下、または12時間以下行われ得る。還元条件としては、不活性ガス、例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン下、または不活性ガスと水素の混合下、または真空下が挙げられる。好ましくは、還元条件下での加熱は、不活性ガス下での加熱を含む。
【0050】
いくつかの方法では、2ステップの熱処理を行うことが有益であり得る。例えば、該前駆体物質混合物及び/または該さらなる前駆体物質混合物は、第一の温度で第一の時間加熱され、続いて第二の温度で第二の時間加熱され得る。好ましくは、該第二の温度は、該第一の温度よりも高い。かかる2ステップの熱処理を行うことにより、所望の結晶構造を形成するための固相反応が支援され得る。これは、連続して行ってもよいし、中間の再粉砕ステップを挟んで行ってもよい。
【0051】
該方法は、該ニオブを含む酸化物の形成後に1つ以上の後処理ステップを含んでもよい。場合によっては、該方法は、該ニオブを含む酸化物を熱処理する「アニーリング」と呼ばれることもある後処理ステップを含んでもよい。この後処理の熱処理ステップは、該ニオブを含む酸化物を形成するための該前駆体物質混合物を熱処理するステップとは異なる気体雰囲気にて行われ得る。該後処理の熱処理ステップは、不活性気体雰囲気または還元気体雰囲気で行われ得る。かかる後処理の熱処理ステップは、500℃を超える温度、例えば、約900℃で行われ得る。後処理の熱処理ステップを含むことは、例えば、該ニオブを含む酸化物に、例えば、酸素欠損を誘起する上で、または形成されるニオブを含む酸化物にアニオン交換を行うため、例えば、OアニオンをNで交換するための欠損または欠陥を形成する上で有益であり得る。
【0052】
該方法は、該ニオブを含む酸化物をミリング及び/または分級して(例えば、衝撃ミリング、ジェットミリング、スチームジェットミリング、高エネルギーミリング、高せん断ミリング、ピンミリング、空気分級、ホイール分級、ふるい分け、サイクロン分離、ビーズミリング)、上記の粒度パラメータのいずれかを有する物質を得るステップを含み得る。
【0053】
該カソードは、M=Co、Mn、AlであるLiNi1-xクラスのニッケルベースの層状酸化物、例えば、NMC、すなわち、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物、NCA、すなわち、リチウムコバルトアルミニウム酸化物、及びLCO、すなわち、リチウムコバルト酸化物、及びLNMO、すなわち、リチウムニッケルマンガン酸化物(例えば、LiNi0.5Mn1.5)から選択され得る活カソード物質を含む。例えば、該活カソード物質はリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物であり得る。NCA(リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物)は、好ましい活カソード物質である。活カソード物質は、商業的供給業者から広く入手可能である。活カソード物質には、さらなるカチオン及び/またはアニオンがドープされ得る。
【0054】
該活電極物質の選択は、最初のリチウム化/脱リチウム化容量の特定用等の適切な電圧範囲に影響を与え得る。例えば、適切な電圧範囲は、LNMO:5.2~3V、上限カットオフ5.2V、NCA、NMC、及びLCO:4.5~2.7V、上限カットオフ4.5V、ニオブを含む酸化物:3~0V、下限カットオフ0Vであり得る。さらに狭い範囲は、LNMO:5~3V、上限カットオフ5V、NCA、NMC、及びLCO:4.3~2.7V、上限カットオフ4.3V、ニオブを含む酸化物:3V~1.0V、下限カットオフ1.0Vであり得る。
【0055】
適切な電圧範囲は実験的に特定され得る。例えば、電圧プロファイルは、電子及びイオンの除去または挿入に関連するアノード及びカソード物質のエネルギー状態の変化と相関する。該セルのカットオフ電圧は、一方または両方の電極のエネルギー状態が臨界レベルを超えて上昇し、これにより、該結晶構造がセルの性能に著しく有害なレートでより低いエネルギー構造へと崩壊することに対応する、電圧プロファイルの特定の変曲点の前に収まるように選択され得る。これが起こる絶対電圧は、両方の電極の電極電位の関数であるが、共通のリファレンス電極を使用して計算することができ、信頼性の高い標準的な電気化学的挙動を有する確立された物質のファミリーについては、実験的に特定する必要はない。
【0056】
該カソード活物質は、好ましくは、微粒子型であり、例えば、0.1~100μm、または0.5~50μm、または1~20μmの範囲のD50粒子径を有する。
【0057】
該電解質としては、金属イオン電池の動作、好ましくは、リチウムイオン電池の動作に適した任意の物質が挙げられ得る。例えば、該電解質は、非水溶液(例えば、有機電解液)でもよい。該電解質は、1つ以上の非水溶媒、及び該溶媒に少なくとも部分的に溶解する塩を含み得る。例えば、該溶媒としては、有機溶媒、例えば、エチレンカーボネート(EC)及び/または他のカーボネート系溶媒、またはブチレート、またはアセテート、またはそれらの混合物が挙げられ得る。該溶媒は、非プロトン性溶媒混合物、例えば、重量基準で1:1のエチレンカーボネートと他のカーボネート系溶媒またはブチレートまたはアセテートの混合物に溶解した1MのLiPFを含み得る。
【0058】
本発明での使用に適した塩としては、LiPF、LiSbF、LiBF、LiTFSI、LiFSI、LiAlCl、LiAsF、LiClO、LiGaCl、LiC(SOCF、LiN(CFSO、Li(CFSO)、LiB(C、LiBOB(リチウムビス(オキサレート)ボレート)、及びLiDFOB(リチウムジフルオロ(オキサレート)ボレート)が挙げられる。該電解液に使用するのに適した低粘度溶媒(例えば、有機溶媒)としては、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジオキソラン(DOL)、エチルアセテート(EA)、プロピレンアセテート(PA)、ブチルアセテート(BA)、メチルブチレート(MB)、エチルブチレート(EB)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、1,2-ジメトキシエタン(DME)、テトラヒドロフラン(THF)、メチルアセテート(MA)、ジグライム(DGL)、トリグライム、テトラグライム、環状カーボネート、環状エステル、環状アミド、プロピレンカーボネート(PC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMS)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ガンマ-ブチロラクトン(GBL)、及びN-メチルピロリジノン(NMP)、ならびにそれらの様々な混合物または組み合わせが挙げられ得るがこれらに限定されない。
【0059】
電極は、該活電極物質及び溶媒のスラリーを形成することによって作製され得る。該スラリーは、結合剤、導電性添加剤、異なる活電極物質、及びそれらの混合物から選択される少なくとも1つの他の成分を含み得る。該スラリーを集電体上に堆積させ、溶媒を除去することにより、該集電体に電極組成物が形成され得る。必要に応じて、任意の結合剤を硬化させるための熱処理、及び/または該電極層のカレンダー加工等のさらなるステップを行ってもよい。例えば、該溶媒は、例えば、30~100℃の温度で乾燥することによって除去され得る。該電極は、密度2~3.5または2.6~2.9gcm-3にカレンダー加工され得る。該電極層は、膜厚5μm~2mm、好ましくは、5μm~1mm、好ましくは、5μm~500μm、好ましくは、5μm~200μm、好ましくは、5μm~100μm、好ましくは、5μm~50μmの範囲を有し得る。
【0060】
別の方法として、該スラリーは、例えば、適切な注型鋳型にスラリーを注型し、溶媒を除去し、次いで該注型鋳型を除去することによって、該活電極物質を含む自立型フィルムまたはマットに形成され得る。得られたフィルムまたはマットは、凝集性がある自立した塊の形をしており、その後、既知の方法によって集電体に結合され得る。
【0061】
本発明の変更形態では、該アノードが、本明細書に開示するニオブを含む酸化物のいずれかを含む場合、N/P比は、≦1、例えば、0.7~0.95であり得る。
【0062】
式1
好ましい態様では、該ニオブを含む酸化物は、式M1M22-aM3Nb34-b87-c-d(式1)を有し、式中、
M1とM2は異なり、
M1は、Mg、Ca、Sr、Y、La、Ce、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、P、Sb、Bi、及びそれらの混合物から選択され、
M2は、ZnまたはCuであり、
M3は、Mg、Ca、Sr、Y、La、Ce、Ti、Zr、Hf、V、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、P、Sb、Bi、及びそれらの混合物から選択され、
Qは、F、Cl、Br、I、N、S、Se、及びそれらの混合物から選択され、
0≦a<1.0、0≦b≦3.4、-0.5≦c≦4.35、0≦d≦4.35であり、
a、b、c、及びdのうちの1つ以上は0に等しくなく、
a、b、及びdが0の場合、cは0より大きい。
【0063】
式1は、MII Nb3487の結晶構造に対応する結晶構造を有するニオブを含む酸化物の例を表す。したがって、この式及び下記の他の式を用いて、結晶構造を定義する必要なく、本発明で使用される活アノード物質が定義され得る。
【0064】
式1は、化学量論的なZnNb3487またはCuNb3487に対応していないことが理解されよう。さらなるカチオン(M1及び/またはM3)を組み込むことによって、及び/または誘起された酸素欠損もしくは過剰を創出することによって、及び/または混合アニオン物質(O及びQを含む)を形成することによって、ZnNb3487またはCuNb3487を改変することで、得られる物質は、電気化学的特性が改善され、特に、アノード物質として使用された場合の電気化学的特性が改善されることが判明した。a>0の場合、式1は、M2(ZnまたはCu)のM1による部分的置換によって改変される。b>0の場合、式1は、NbのM3による部分的置換によって改変される。c≠0の場合、式1は、酸素の欠損または過剰により改変される。d>0の場合、式1は、OのQによる部分的置換によって改変される。本発明者らは、本実施例に示される通り、式1に記載の物質が、未改変の「ベース」ZnNb3487と比較して、電子伝導率が改善され、クーロン効率が改善され、高Cレートでの脱リチウム化電圧が改善されるということを発見した。
【0065】
ZnNb3487またはCuNb3487は、ReO由来のMO3-x結晶構造、例えば、Wadsley-Roth結晶構造を有すると見なされ得る。Wadsley-Roth結晶構造は、結晶学的せん断を含むMO(ReO)結晶構造の結晶学的オフストイキオメトリであると考えられており、式MO3-xで簡略化される。結果として、これらの構造は通常、結晶構造に[MO]の八面体サブユニットを含む。これらの構造を有する物質は、例えば、リチウムイオン電池において活電極物質として使用するのに有利な特性を有すると考えられている。
【0066】
また、これらの物質の開いたトンネル様のMO結晶構造により、それらは、高容量のLiイオン貯蔵及び高レートのインターカレーション/デインターカレーションを有するための理想的な候補になる。結晶構造に存在する結晶学的オフストイキオメトリは、Wadsley-Rothの結晶学的超構造を引き起こす。これらの超構造は、ヤーン・テラー効果や、複数の混合カチオンを利用することによりいっそう結晶学的に無秩序になること等の他の特性によって複合され、結晶を安定させ、インターカレーション中にトンネルを開いて安定性を保ち、高いLiイオン拡散レート(約10-13cm-1と報告)による非常に高いレートの性能を可能にする。
【0067】
ZnNb3487またはCuNb3487の結晶式は[MO]八面体で構成される3x4x∞の結晶学的ブロック構造を有すると説明でき、ここで、Mは、Cu、Zn、またはNbである。該Cu及びZnの八面体は、該構造内にランダムに分布している場合もあれば、該ブロックのエッジやコーナー等の特定の場所を好む場合もある。これは、ブロックごとに1つのZnまたはCuカチオンの2/3に等しい。ZnNb3487の結晶式は、CuNb3487との等構造相として説明できるが、一部の結合の長さ及び結合エンタルピーにわずかな違いがある。
【0068】
好ましくは、X線回折によって特定される式1の酸化物の結晶構造は、ZnNb3487またはCuNb3487、最も好ましくは、ZnNb3487の結晶構造に対応する。このように、「ベース」物質は、活アノード物質として使用するために有利な特性を有すると考えられるその結晶構造に大きな影響を与えることなく改変されたことが確認され得る。ZnNb3487の結晶構造は、ICDD結晶学データベースエントリJCPDS 28-1478に見出され得る。
【0069】
カチオン/アニオン交換した式1の酸化物は、単位格子パラメータa、b、及びcを有する可能性があり、aは、15.52~15.58Å、好ましくは、15.53~15.57Åであり、bは、3.79~3.84Å、好ましくは、3.80~3.83Åであり、及びc=20.53~20.66Å、好ましくは、20.54~20.65Åである。式1の酸化物は、単位格子パラメータα及びγを有する可能性があり、各々が約90°であり、好ましくは、α=γ=90°であり、一方βは、113.05~113.75、好ましくは、113.08~113.69であり、単位格子体積は、1115~1135Å、好ましくは、1117~1133Åである。単位格子パラメータは、X線回折によって特定され得る。式1の酸化物は、シェラーの式に従って特定される結晶子サイズ5~150nm、好ましくは、30~60nmを有し得る。
【0070】
「及びそれらの混合物」とは、M1、M3、及びQが各々、それぞれのリストからの2つ以上の元素を表し得ることを意図している。かかる物質の例は、Mg0.1Ge0.1Zn1.8Nb3487.1である。ここでは、M1がMga’Gea’’(a’+a’’=a)であり、M2がZnであり、a=0.2、b=0、c=-0.1、d=0である。ここでは、cは、各カチオンがその通常の酸化状態、すなわち、Mg2+、Ge4+、Zn2+、及びNb5+を採用することを仮定して計算されている。
【0071】
定義された範囲内のa、b、c、dの正確な値は、電荷バランスされた、または実質的に電荷バランスされた結晶構造を提供するように選択され得る。さらに、または代替的に、定義された範囲内のa、b、c、dの正確な値は、熱力学的に安定な、または熱力学的に準安定な結晶構造を提供するように選択され得る。
【0072】
該構造内のカチオンまたはアニオン(すなわち、Zn、Cu、Nb、O)の交換が、最初の原子価を保持せずに行われた場合、これは、酸素の欠損と過剰の両方を生じさせる可能性がある。例えば、ある程度Zn2+をGe4+で置換する物質は、わずかな酸素過剰(すなわち、ZnO対GeO)を示し、一方でNb5+のAl3+での置換は、わずかな酸素欠損(すなわち、Nb対Al)を示す。酸素欠損はまた、不活性または還元条件での熱処理によっても誘起される可能性があり、その結果、当該構造内に酸素空孔欠陥が誘起される。
【0073】
初期の原子価を保持しない、交換を補償する部分的な酸化または部分的な還元があってもよい。例えば、Zn2+のGe4+による置換は、一部のNb5+からNb4+への還元により、少なくとも部分的に補償され得る。
【0074】
M2は、ZnまたはCuである。好ましくは、M2は、Znであり、この場合、該物質は、ZnNb3487に基づく。
【0075】
M1は、該結晶構造においてM2を置換するカチオンである。M1は、Mg、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、B、Al、Ga、Si、Ge、Sn、P、及びそれらの混合物、好ましくは、Mg、Ti、Zr、V、Nb、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、B、Al、Si、Ge、P、及びそれらの混合物、最も好ましくは、Mg、Zr、V、Cr、Mo、W、Fe、Cu、Zn、Al、Ge、P、及びそれらの混合物から選択され得る。M1は、M22+とは異なる原子価を有し得る。これにより、酸素の欠損または過剰が生じる。任意に、M1は、M22+と同等またはそれより高い原子価、好ましくは、それより高い原子価を有する。
【0076】
M1はまた、参考例においてそれ自体で使用される特定の元素のそれぞれから選択され得る。
【0077】
複数の元素がM1またはM3として存在する場合、その原子価は、M1またはM3を全体として指すことが理解されよう。例えば、25原子%のM1がTiであり、75原子%のM1がWである場合、M1の原子価は、0.25×4(Tiからの寄与)+0.75×6(Wからの寄与)である。
【0078】
M1は、好ましくは、M22+とは異なるイオン半径、最も好ましくは、より小さいイオン半径を有する。これにより、単位格子サイズに変化が起こり、結晶構造に局所的な歪みが生じ、本明細書に論じる利点がもたらされる。本明細書で言及するイオン半径は、該イオンが該ニオブを含む酸化物の結晶構造に採用することが予想される配位及び原子価でのShannonのイオン半径(R.D.Shannon,Acta Cryst.,A32,1976,751-767で入手可能)である。例えば、ZnNb3487の結晶構造は、Nb5+八面体及びZn2+八面体を含む。したがって、M3がZrの場合、該イオン半径は、6配位のZr4+のイオン半径と見なされる。これは、これがZnNb3487におけるNbを置換する場合のZrの通常の原子価及び配位であるためである。
【0079】
M1の量は、aによって定められ、基準0≦a<1.0を満たす。aは、0≦a≦0.6、好ましくは、0≦a≦0.2であり得る。最も好ましくは、a>0、例えば、a≧0.01である。M1がM2と同じ原子価を有する場合、より高い値のaがより容易に達成され得る。M1が2+の原子価のカチオン(例えば、Mg)を含む場合、aは、0≦a<1.0であり得る。M1が2+の原子価のカチオンを含まない場合、aは、0≦a≦0.15であり得る。
【0080】
M3は、該結晶構造においてNbを置換するカチオンである。M3は、Mg、Ti、Zr、Hf、V、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、B、Al、Ga、Si、Sn、P、及びそれらの混合物、好ましくは、Mg、Ti、Zr、V、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、B、Al、Si、P、及びそれらの混合物、最も好ましくは、Ti、Zr、V、Cr、Mo、W、Fe、Cu、Zn、Al、P、及びそれらの混合物から選択され得る。M3は、Nb5+とは異なる原子価を有し得る。これにより、酸素の欠損または過剰が生じる。好ましくは、M3は、Nb5+より低い原子価を有する。これは、酸素欠損、すなわち、本明細書で論じる利点をもたらす酸素空孔の存在を引き起こす。
【0081】
M3はまた、参考例においてそれ自体で使用される特定の元素のそれぞれから選択され得る。
【0082】
M3は、好ましくは、Nb5+とは異なるイオン半径、最も好ましくは、より大きいイオン半径を有する。これにより、単位格子サイズに変化が起こり、結晶構造に局所的な歪みが生じ、本明細書に論じる利点がもたらされる。
【0083】
任意に、M1は、Nbを含まず、M3は、Zn及び/またはCuを含まない。
【0084】
M3の量は、bによって定められ、基準0≦b≦3.4を満たす。bは、0≦b≦1.5、好ましくは、0≦b≦0.3であり得る。これらの場合の各々において、bは、>0、例えば、b≧0.01であり得る。M3がNb5+と同じ原子価を有する場合、より高い値のbがより容易に達成され得る。M3が、5+の原子価のカチオン(例えば、Ta)を含む場合、bは、0≦b≦3.4であり得る。M3が、5+の原子価のカチオンを含まない場合、bは、0≦b≦0.2であり得る。
【0085】
驚くべきことに、式1に従うカチオン置換アプローチは、未改変の「ベース」物質よりも経済的に合成されるニオブを含む酸化物をもたらし得ることが判明した。好ましくは、aとbの両方が>0である。aとbの両方が>0である場合、該「ベース」物質は、M2位置及びNb位置の両方で置換されている。
【0086】
cは、該ニオブを含む酸化物の酸素含有量を反映している。cが0より大きい場合、それは酸素欠損物質を形成する、すなわち、該物質は、酸素空孔を有する。かかる物質は、カチオンの酸素状態を変化させずに正確な電荷バランスを有しているのではないが、上述のように「実質的に電荷バランスされた」と考えられる。代替的に、cは、0に等しくてもよく、その場合、それは酸素欠損物質ではない。cは、0未満でもよく、これは、酸素過剰の物質である。cは、-0.25≦c≦4.35であり得る。
【0087】
cが4.35の場合、酸素空孔の数は、該結晶構造における全酸素の5%に相当する。cは、0.0435超、0.087超、0.174超、または0.435超であり得る。cは、0~2、0~0.75、0~0.5、または0~0.25であり得る。例えば、cは、0.01≦c≦4.35を満たし得る。該物質が酸素欠損である、例えば、誘起された酸素欠損を有する場合、該物質の電気化学的特性が改善される可能性があり、例えば、抵抗測定値により、同等の非酸素欠損物質と比較して、導電性の改善が示される可能性がある。理解されるように、本明細書で表されるパーセンテージの値は原子パーセントである。
【0088】
本発明は、酸素空孔を含み得るニオブを含む酸化物(ニオブを含む酸素欠損酸化物)、または酸素過剰を有し得るニオブを含む酸化物に関する。酸素空孔は、上述のようにベース物質のサブバレント(sub-valent)置換により、ニオブを含む酸化物に形成される可能性があり、酸素過剰は、原子価増加の置換により、ニオブを含む酸化物に生じる可能性がある。酸素空孔は、ニオブを含む酸化物を還元条件下で加熱することによっても形成される可能性があり、これは、誘起された酸素欠損の形成と呼ばれる場合がある。酸素空孔及び過剰の量は、ベース物質における酸素の総量、すなわち、非置換物質(例えば、ZnNb3487)における酸素の量に対して表され得る。
【0089】
酸素欠損、例えば、酸素空孔が物質に存在するかどうかを判断するためにいくつかの方法が存在する。例えば、熱重量分析(TGA)を行い、空気雰囲気で加熱された場合の物質の質量変化を測定してもよい。酸素空孔を含む物質は、空気中で加熱されると、物質が「再酸化」し、酸素空孔が酸化物アニオンで満たされるため、質量が増加する可能性がある。該質量増加の大きさは、該質量増加がすべて、充填される酸素空孔に起因して生じるという仮定で、該物質に含まれる酸素空孔の濃度を定量化するために使用され得る。酸素空孔を含む物質は、酸素空孔が充填されるにつれて初期の質量増加を示し、その後、より高い温度で該物質が熱分解を受けた場合に、質量が減少し得ることに留意されたい。さらに、質量損失プロセスと質量増加プロセスが重複する場合があり、すなわち、酸素空孔を含む一部の物質は、TGA分析中に質量増加を示さない(また、場合によっては質量損失も質量増加も示さない)場合がある。
【0090】
酸素欠損、例えば、酸素空孔が存在するかどうかを判断する他の方法としては、ラマン分光法、電子常磁性共鳴(EPR)、X線光電子分光法(XPS、例えば、酸素1sのXPS及び/または及び混合酸化物のカチオンのXPS)、X線吸収端近傍構造(XANES、例えば、混合金属酸化物のカチオンのXANES)、及びTEM(例えば、高角環状暗視野(HAADF)及び環状明視野(ABF)検出器を備えた走査型TEM(STEM))が挙げられる。酸素欠損の存在は、同じ物質の非酸素欠損サンプルと比較して、光との相互作用を介してその電子帯構造の変化を示す物質の色を評価することによって定性的に判断することができる。例えば、非酸素欠損化学量論的ZnNb3487は、白色を有する。誘起された酸素欠損を有するZnNb34<87は、灰色/黒を有する。空孔の存在はまた、酸素欠損物質の特性と比較した化学量論的物質の特性、例えば、電気伝導性から推論され得る。
【0091】
d>0の場合、さらなるアニオンQが、該ニオブを含む酸化物に導入される。それらの異なる電子構造(すなわち、F対O2-)、及び異なるイオン半径(6配位O2-=1.40Å、6配位F=1.33Å)に起因して、それらは、当該活物質の電気化学的性能を向上させ得る。これは、異なるイオン半径で単位格子の特性を変更することに起因し、Liイオン容量の改善、または可逆性の改善によるクーロン効率の改善を可能にする。それらはさらに、酸素空孔欠陥、またはサブバレントカチオン置換に関しては、当該結晶の電子構造を変更することによって、電気伝導性を改善し得る(すなわち、ドーピング効果)。dは、0≦d≦3.0、または0≦d≦2.17であり得る。これらの場合の各々において、dは、>0であり得る。Qは、F、Cl、N、S、及びそれらの混合物、もしくはF、N、及びそれらの混合物から選択され得るか、または、QはFである。
【0092】
任意に、d=0であり、この場合、式1は、M1M22-aM3Nb34-b87-cであり、式中、M1、M2、M3、a、b、及びcは、本明細書で定義される通りである。有利にも、d=0の物質は、アニオンQを含まず、合成が容易であり得る。
【0093】
a>0かつb=d=0の場合、式1は、M1M22-aNb3487-cであり、式中、M1、M2、a、及びcは、本明細書で定義される通りであり、例えば、0≦c≦4.35である。これは、M2の位置で改変され、任意に、誘起された酸素欠損で改変された物質を表す。かかる物質は、該「ベース」酸化物M2Nb3487の特性を、単純な合成手段によって改善するための特に効果的な方法を表す。ここでは、M1は、Ti、Mg、V、Cr、W、Zr、Mo、Cu、Ga、Ge、Ni、Al、Hf、Ta、Zn、及びそれらの混合物、好ましくは、Ti、Mg、V、Cr、W、Zr、Mo、Ga、Ge、Al、Zn、及びそれらの混合物を表し得る。
【0094】
a=b=d=0かつc>0の場合、式1は、組成M2Nb3487-cを有し、式中、M2及びcは、本明細書で定義される通りである。これは、酸素欠損を誘起することによってのみ改変された物質を表し、実施例に示されるように改善された特性をもたらす。例えば、a=b=d=0かつc>0である物質は、驚くべきことに改善された電子伝導性を有することが判明した。
【0095】
式1の可変要素(M1、M2、M3、Q、a、b、c、及びd)の詳解は、組み合わせて解釈されるように意図されることが理解されよう。例えば、好ましくは、M1は、Mg、Ti、Zr、V、Nb、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、B、Al、Si、Ge、P、及びそれらの混合物から選択され、M3は、Mg、Ti、Zr、V、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、B、Al、Si、P、及びそれらの混合物から選択され、Qは、F、Cl、N、S、及びそれらの混合物から選択される。好ましくは、0≦a≦0.6、0≦b≦1.5、0≦c≦4.35、及び0≦d≦3.0である。
【0096】
例えば、式1は、M1M22-aM3Nb34-b87-c-dでよく、式中、
M1とM2は異なり、
M1は、Mg、Ti、Zr、V、Nb、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、B、Al、Si、Ge、P、及びそれらの混合物から選択され、
M2は、ZnまたはCuであり、
M3は、Mg、Ti、Zr、V、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、B、Al、Si、P、及びそれらの混合物から選択され、
Qは、F、N、及びそれらの混合物から選択され、
0≦a≦0.6、0≦b≦1.5、-0.5≦c≦4.35、0≦d≦4.35であり、
a、b、c、及びdのうちの1つ以上は0に等しくなく、
a、b、及びdが0の場合、cは0より大きい。
【0097】
M1、M3、及びQはまた、実施例においてこれらのドーパントとして使用される特定の元素の各々から選択され得る。
【0098】
任意に、式1の酸化物は、チタンを含まない。
【0099】
特に好ましい態様では、式1は、M1Zn2-aM3Nb34-b87-cでよく、式中、
M1は、Mg、Zr、V、Cr、Mo、W、Fe、Cu、Al、Ge、P、及びそれらの混合物から選択され、
M3は、Ti、Zr、V、Cr、Mo、W、Fe、Cu、Zn、Al、P、及びそれらの混合物から選択され、
0<a<1.0、0<b≦3.4、-0.5≦c≦4.35である。
【0100】
式1は、M1M22-aM3Nb34-b87-cでよく、式中、
M1は、Cr、Al、Ge、及びそれらの混合物から選択され、好ましくは、M1は、Crであり、
M2は、ZnまたはCuであり、好ましくは、M2は、Znであり、
M3は、Ti、Zr、Fe、及びそれらの混合物から選択され、任意に、Tiを含み、好ましくは、M3は、Ti、Zr、及びそれらの混合物から選択され、任意に、Tiを含み、最も好ましくは、M3は、Tiであり、
0<a<1.0、好ましくは、0.01<a<1.0であり、
0<b≦1.5、好ましくは、0.01<b<1.0であり、
-0.5≦c≦4.35、好ましくは、-0.5≦c≦2、最も好ましくは、c=0である。
【0101】
式1は、CrZn2-aM3Nb34-b87-cでよく、式中、
M3は、Ti、Zr、及びそれらの混合物から選択され、任意に、Tiを含み、好ましくは、M3は、Tiであり、
0.01<a<1.0、好ましくは、0.1<a<1.0であり、
0.01<b<1.0、好ましくは、0.1<b<1.0であり、
-0.5≦c≦2、好ましくは、c=0である。
【0102】
式1の酸化物はさらに、Li及び/またはNaを含み得る。例えば、Li及び/またはNaは、該ニオブを含む酸化物が金属イオン電池の電極に使用された場合、当該結晶構造に入り得る。
【0103】
式2
該ニオブを含む酸化物は、式M4Al1-aM5Nb11-b29-c-d(式2)を有してよく、式中、
M4は、Mg、Ca、Sr、Y、La、Ce、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、B、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、P、Sb、Bi、及びそれらの混合物から選択され、
M5は、Mg、Ca、Sr、Y、La、Ce、Zr、Hf、V、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、P、Sb、Bi、及びそれらの混合物から選択され、
Qは、F、Cl、Br、I、N、S、Se、及びそれらの混合物から選択され、
0≦a<0.5、0≦b≦1、-0.5≦c≦1.45、0≦d≦1.45であり、
a、b、及びdのうちの1つ以上は0に等しくない。
【0104】
式2は、MIIINb1129の結晶構造に対応する結晶構造を有するニオブを含む酸化物の例を表す。
【0105】
式2は、化学量論的なAlNb1129に対応していないことが理解されよう。本発明者らは、さらなるカチオン(M4及び/またはM5)を組み込むことによって、及び/または混合アニオン物質(O及びQを含む)を形成することによって、及び任意に、誘起された酸素欠損もしくは過剰を創出することによって、AlNb1129を改変することで、得られる物質は、電気化学的特性が改善され、特に、アノード物質として使用された場合の電気化学的特性が改善されることを発見した。a>0の場合、式2は、AlのM4による部分的置換によって改変される。b>0の場合、式2は、NbのM5による部分的置換によって改変される。c≠0の場合、式2は、酸素の欠損または過剰により改変される。d>0の場合、式2は、OのQによる部分的置換によって改変される。本発明者らは、本実施例に示される通り、式2に記載の物質が、未改変の「ベース」AlNb1129と比較して、比容量が改善され、高Cレートでの容量維持率が改善されるということを発見した。これらは、高速充電/放電用に設計された高出力電池で使用する際の該物質の利点を実証する上で重要な結果である。さらに、0≦a<0.5であるため、Alが式2における主要な非Nbカチオンである。Al3+は酸化還元活性がないため、式2が、本実施例によって示される活電極物質としての使用に優れた特性を有することは驚くべきことである。典型的な従来のアプローチは、主要な非Nbカチオンとして酸化還元活性のあるカチオン、例えば、Cr及びFe等の遷移金属に焦点を当ててきた。
【0106】
AlNb1129は、ReO由来のMO3-x結晶構造、例えば、Wadsley-Roth結晶構造を有すると見なされ得る。AlNb1129の結晶構造は[MO]八面体で構成される3x4x∞の結晶学的ブロック構造を有すると説明でき、ここで、Mは、Al、またはNbである。該Alの八面体は、該構造内にランダムに分布している場合もあれば、該ブロックのエッジやコーナー等の特定の場所を好む場合もある。これは、ブロックごとに1つのAlカチオンに等しい。
【0107】
好ましくは、X線回折によって特定される式2の酸化物の結晶構造は、AlNb1129の結晶構造に対応する。このように、「ベース」物質は、活電極物質として使用するために有利な特性を有すると考えられるその結晶構造に大きな影響を与えることなく改変されたことが確認され得る。AlNb1129の結晶構造は、ICDD結晶学データベースエントリJCPDS 22-009に見出され得る。
【0108】
カチオン/アニオン交換した式2の酸化物は、単位格子パラメータa、b、及びcを有する可能性があり、aは、15.52~15.58Å、好ましくは、15.53~15.57Åであり、bは、3.79~3.83Å、好ましくは、3.80~3.82Åであり、及びc=20.51~20.55Å、好ましくは、20.52~20.54Åである。式2の酸化物は、単位格子パラメータα及びγを有する可能性があり、各々が約90°であり、好ましくは、α=γ=90°であり、一方βは、113.00~113.70°、好ましくは、113.05~113.68°であり、単位格子体積は、1116~1120Å、好ましくは、1117~1119Åである。単位格子パラメータは、X線回折によって特定され得る。式2の酸化物は、シェラーの式に従って特定される結晶子サイズ5~150nm、好ましくは、40~70nmを有し得る。
【0109】
「及びそれらの混合物」とは、M4、M5、及びQが各々、それぞれのリストからの2つ以上の元素を表し得ることを意図している。かかる物質の例は、Zn0.05Ga0.05Al0.9Nb1128.975である。ここでは、M4がZna’Gaa’’(a’+a’’=a)であり、a=0.1、b=0、c=0.025、d=0である。ここでは、cは、各カチオンがその通常の酸化状態、すなわち、Zn2+、Ga3+、Al3+を採用することを仮定して計算されている。
【0110】
定義された範囲内のa、b、c、dの正確な値は、電荷バランスされた、または実質的に電荷バランスされた結晶構造を提供するように選択され得る。さらに、または代替的に、定義された範囲内のa、b、c、dの正確な値は、熱力学的に安定な、または熱力学的に準安定な結晶構造を提供するように選択され得る。
【0111】
該構造内のカチオンまたはアニオン(すなわち、Al、Nb、O)の交換が、最初の原子価を保持せずに行われた場合、これは、酸素の欠損と過剰の両方を生じさせる可能性がある。例えば、ある程度Al3+をGe4+で置換する物質は、わずかな酸素過剰(すなわち、Al対GeO)を示し、一方でNb5+のAl3+での置換は、わずかな酸素欠損(すなわち、Nb対Al)を示す。酸素欠損はまた、不活性または還元条件での熱処理によっても誘起される可能性があり、その結果、当該構造内に酸素空孔欠陥が誘起される。
【0112】
初期の原子価を保持しない、交換を補償する部分的な酸化または部分的な還元があってもよい。例えば、Al3+のGe4+による置換は、一部のNb5+からNb4+への還元により、少なくとも部分的に補償され得る。
【0113】
M4は、該結晶構造においてAlを置換するカチオンである。M4は、Mg、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、B、Ga、Si、Ge、Sn、P、及びそれらの混合物、好ましくは、Mg、Zr、V、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、B、Ga、Si、Ge、P、及びそれらの混合物、最も好ましくは、Mg、Zr、Mo、W、Cu、Zn、Ga、Ge、P、及びそれらの混合物から選択され得る。M4は、Al3+とは異なる原子価を有し得る。これにより、酸素の欠損または過剰が生じる。任意に、M4は、Al3+と同等またはそれより低い原子価、好ましくは、それより低い原子価を有する。
【0114】
M4はまた、参考例においてそれ自体で使用される特定の元素のそれぞれから選択され得る。例えば、好ましくは、M4はGaである。
【0115】
複数の元素がM4またはM5として存在する場合、その原子価は、M4またはM5を全体として指すことが理解されよう。例えば、25原子%のM4がZrであり、75原子%のM4がWである場合、M4の原子価は、0.25×4(Zrからの寄与)+0.75×6(Wからの寄与)である。
【0116】
M4は、好ましくは、Al3+とは異なるイオン半径、最も好ましくは、より大きいイオン半径を有する。これにより、単位格子サイズに変化が起こり、結晶構造に局所的な歪みが生じ、本明細書に論じる利点がもたらされる。本明細書で言及するイオン半径は、該イオンが式2の結晶構造に採用することが予想される配位及び原子価でのShannonのイオン半径(R.D.Shannon,Acta Cryst.,A32,1976,751-767で入手可能)である。例えば、AlNb1129の結晶構造は、Nb5+八面体を含む。したがって、M5がZrの場合、該イオン半径は、6配位のZr4+のイオン半径と見なされる。これは、これがAlNb1129におけるNbを置換する場合のZrの通常の原子価及び配位であるためである。
【0117】
M4の量は、aによって定められ、基準0≦a<0.5を満たす。aは、0≦a≦0.4、好ましくは、0≦a≦0.2であり得る。最も好ましくは、a>0、例えば、a≧0.01である。M4がAl3+と同じ原子価を有する場合、より高い値のaがより容易に達成され得る。M4が3+の原子価のカチオン(例えば、Ga)を含む場合、aは、0≦a<0.5であり得る。M4が3+の原子価のカチオンを含まない場合、aは、0≦a≦0.1であり得る。
【0118】
M5は、該結晶構造においてNbを置換するカチオンである。M5は、Mg、Zr、Hf、V、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、B、Al、Ga、Si、Sn、P、及びそれらの混合物、好ましくは、Mg、Zr、V、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、B、Al、Si、P、及びそれらの混合物、最も好ましくは、Zr、V、Cr、Mo、W、Fe、Cu、Zn、Al、P、及びそれらの混合物から選択され得る。M5は、Nb5+とは異なる原子価を有し得る。これにより、酸素の欠損または過剰が生じる。好ましくは、M5は、Nb5+より低い原子価を有する。これは、酸素欠損、すなわち、本明細書で論じる利点をもたらす酸素空孔の存在を引き起こす。
【0119】
M5はまた、参考例においてそれ自体で使用される特定の元素のそれぞれから選択され得る。
【0120】
M5は、好ましくは、Nb5+とは異なるイオン半径、最も好ましくは、より大きいイオン半径を有する。これにより、単位格子サイズに変化が起こり、結晶構造に局所的な歪みが生じ、本明細書に論じる利点がもたらされる。
【0121】
M5の量はbによって定められ、基準0≦b≦1を満たす。bは、0≦b≦0.5、好ましくは、0≦b≦0.1であり得る。これらの場合の各々において、bは、>0、例えば、b≧0.01であり得る。M5がNb5+と同じ原子価を有する場合、より高い値のbがより容易に達成され得る。M5が5+の原子価のカチオン(例えば、Ta)を含む場合、bは、0≦b≦1であり得る。M5が5+の原子価のカチオンを含まない場合、bは、0≦b≦0.05であり得る。
【0122】
任意に、aとbの両方が>0である。aとbの両方が>0である場合、該「ベース」物質は、Al位置及びNb位置の両方で置換されている。
【0123】
cは、式2の酸素含有量を反映している。cが0より大きい場合、それは酸素欠損物質を形成する、すなわち、該物質は、酸素空孔を有する。かかる物質は、カチオンの酸素状態を変化させずに正確な電荷バランスを有しているのではないが、上述のように「実質的に電荷バランスされた」と考えられる。代替的に、cは、0に等しくてもよく、その場合、それは酸素欠損物質ではない。cは、0未満でもよく、これは、酸素過剰の物質である。cは、-0.25≦c≦1.45であり得る。
【0124】
cが1.45の場合、酸素空孔の数は、該結晶構造における全酸素の5%に相当する。cは、0.0145超、0.029超、0.0435超、または0.145超であり得る。cは、0~1、0~0.75、0~0.5、または0~0.25であり得る。例えば、cは、0.01≦c≦1.45を満たし得る。該物質が酸素欠損である、例えば、誘起された酸素欠損を有する場合、該物質の電気化学的特性が改善される可能性があり、例えば、抵抗測定値により、同等の非酸素欠損物質と比較して、導電性の改善が示される可能性がある。理解されるように、本明細書で表されるパーセンテージの値は原子パーセントである。
【0125】
d>0の場合、さらなるアニオンQが式2に導入される。それらの異なる電子構造(すなわち、F対O2-)、及び異なるイオン半径(6配位O2-=1.40Å、6配位F=1.33Å)に起因して、それらは、当該活物質の電気化学的性能を向上させ得る。これは、異なるイオン半径で単位格子の特性を変更することに起因し、Liイオン容量の改善、または可逆性の改善によるクーロン効率の改善を可能にする。それらはさらに、酸素空孔欠陥、またはサブバレントカチオン置換に関しては、当該結晶の電子構造を変更することによって、電気伝導性を改善し得る(すなわち、ドーピング効果)。dは、0≦d≦1.0、または0≦d≦0.7であり得る。これらの場合の各々において、dは、>0、例えば、≧0.01であり得る。Qは、F、Cl、N、S、及びそれらの混合物、もしくはF、N、及びそれらの混合物から選択され得るか、または、QはFである。
【0126】
任意に、d=0であり、この場合、式2は、M4Al1-aM5Nb11-b29-cであり、式中、M4、M5、a、b、及びcは、本明細書で定義される通りである。有利にも、d=0の物質は、アニオンQを含まず、合成が容易であり得る。
【0127】
a>0かつb=d=0の場合、式2は、組成M4Al1-aNb1129-cを有し、式中、M4、a、及びcは、本明細書で定義される通りであり、例えば、0≦c≦1.45である。これは、Alの位置で改変され、任意に、誘起された酸素欠損で改変された物質を表す。かかる物質は、該「ベース」酸化物AlNb1129の特性を、単純な合成手段によって改善するための特に効果的な方法を表す。ここでは、M4は、Mg、V、Cr、W、Zr、Mo、Cu、Ga、Ge、Ni、Hf、Ta、Zn、及びそれらの混合物、好ましくは、Mg、V、Cr、W、Zr、Mo、Ga、Ge、Zn、及びそれらの混合物を表し得る。
【0128】
式2の可変要素(M4、M5、Q、a、b、c、及びd)の詳解は、組み合わせて解釈されるように意図されることが理解されよう。例えば、好ましくは、M4は、Mg、Zr、V、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、B、Ga、Si、Ge、P、及びそれらの混合物から選択され、M5は、Mg、Zr、V、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、B、Al、Si、P、及びそれらの混合物から選択され、Qは、F、Cl、N、S、及びそれらの混合物から選択される。好ましくは、0≦a≦0.4、0≦b≦0.5、0≦c≦1.45、及び0≦d≦1.0である。
【0129】
例えば、式2は、M4Al1-aM5Nb11-b29-c-dでよく、式中、
M4は、Mg、Zr、V、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、B、Ga、Si、Ge、P、及びそれらの混合物から選択され、
M5は、Mg、Zr、V、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、B、Al、Si、P、及びそれらの混合物から選択され、
Qは、F、Cl、N、S、及びそれらの混合物から選択され、
0<a≦0.4、0≦b≦0.5、-0.25≦c≦1.45、0≦d≦1.45である。
【0130】
例えば、式2は、M4Al1-aNb1129-c-dでよく、式中、
M4は、Mg、Zr、V、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、B、Ga、Si、Ge、P、及びそれらの混合物から選択され、好ましくは、M4は、Zr、Cr、Zn、Ga、及びそれらの混合物から選択され、
Qは、F、N、及びそれらの混合物から選択され、好ましくは、Qは、Fであり、
0<a<0.5、0≦c≦1.45、0≦d≦1.45である。
【0131】
例えば、式2は、M4Al1-aNb1129-c-dでよく、式中、
M4は、Mg、Zr、Mo、W、Cu、Zn、Ga、Ge、P、及びそれらの混合物から選択され、好ましくは、M4は、Zr、Zn、Ga、及びそれらの混合物から選択され、
Qは、F、N、及びそれらの混合物から選択され、好ましくは、Qは、Fであり、
0<a≦0.2、0≦c≦1.45、0≦d≦1.45である。
【0132】
M4、M5、及びQはまた、実施例においてこれらのドーパントとして使用される特定の元素の各々から選択され得る。
【0133】
式2の酸化物はさらに、Li及び/またはNaを含み得る。例えば、Li及び/またはNaは、該酸化物が金属イオン電池の電極に使用された場合、当該結晶構造に入り得る。
【0134】
式3
該ニオブを含む酸化物は、式M6x-aM7Nb9-b25-c-d(式3)を有してよく、式中、
M6は、Na、K、Mg、Ca、Sr、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、B、Al、Ga、Si、Ge、Sn、Bi、Sb、及びそれらの混合物から選択され、
M7は、Na、K、Mg、Ca、Sr、Y、Ti、Zr、Hf、V、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、B、Al、Ga、Si、Ge、Sn、Bi、P、Sb、及びそれらの混合物から選択され、
Qは、F、Cl、Br、I、N、S、Se、及びそれらの混合物から選択され、
0≦a≦0.5、0≦b≦2、-0.5≦c≦1.25、0≦d≦5、1≦x≦2であり、
a、b、c、及びdのうちの1つ以上は0に等しくなく、
但し、M6がNbからなり、かつM7がPからなる場合、cは、>0である。
【0135】
式3は、MNb25の結晶構造に対応する結晶構造を有するニオブを含む酸化物の例を表す。
【0136】
式3は、化学量論的なPNb25に対応していないことが理解されよう。本発明者らは、混合カチオン活電極物質を形成するためにさらなるカチオン(M6及び/またはM7)を組み込むことによって、及び/または誘起された酸素欠損もしくは過剰を創出することによって、及び/または混合アニオン活電極物質(O及びQを含む)を形成することによって、PNb25を含む物質を改変することで、得られる物質は、電気化学的特性が改善され、特に、アノード物質として使用された場合の電気化学的特性が改善されることを発見した。例えば、本発明者らは、本実施例に示される通り、式3に記載の物質が、PNb25と比較して、高Cレートでの容量維持率が大きく改善されるということを発見した。これは、高速充電/放電用に設計された電池で使用する際の式3に記載の物質の利点を実証する上で重要な結果である。
【0137】
PNb25は、ReO由来のMO3-x結晶構造、例えば、Wadsley-Roth結晶構造を有すると見なされ得る。PNb25の結晶構造は、コーナーを共有する四面体を備えた3x3x∞の結晶学的ブロック構造を有すると説明できる。P2.5Nb1850の結晶式は、PNb25との等構造相として説明できるが、さらなるP(例えば、P-OとNb3-O2、Nb2-O2)に起因して、一部の結合の長さにわずかな違いがある。これは以前にリン酸青銅物質として報告されているが、それと、関連する理論化された構造(すなわち、P2-4Nb1850)とは、本明細書では歪んだWadsley-Roth結晶構造とみなされる。
【0138】
好ましくは、X線回折によって特定される式3の結晶構造は、PNb25、VNb25、もしくはP2.5Nb1850のうちの1つ以上、またはPNb25もしくはP2.5Nb1850のうちの1つ以上、または最も好ましくは、PNb25の結晶構造に対応する。PNb25の結晶構造は、ICDD結晶学データベースエントリJCPDS 81-1304に見出され得る。VNb25の結晶構造は、JCPDS 49-0289に見出され得る。P2.5Nb1850の結晶構造は、ICDD 01-082-0081に見出され得る。式3の酸化物は、単位格子パラメータa、b、及びcを有する可能性があり、aは、15.4~15.8Å、好ましくは、15.5~15.7Åであり、bは、15.4~15.8Å、好ましくは、15.5~15.7Åであり、及びc=3.6~4.0Å、好ましくは、3.7~3.9Åである。最も好ましくは、a=bである。式3の酸化物は、各々が約90°である単位格子パラメータα、β、及びγを有する可能性があり、好ましくは、α=β=γ=90°である。単位格子パラメータは、X線回折によって特定され得る。式3の酸化物は、シェラーの式に従って特定される結晶子サイズ10~100nm、好ましくは、30~60nmを有し得る。
【0139】
「及びそれらの混合物」とは、M6、M7、及びQが各々、それぞれのリストからの2つ以上の元素を表し得ることを意図している。かかる物質の例は、Ti0.05Mo0.050.90Nb25である。ここでは、M6がTia’Moa’’(a’+a’’=a)を表し、a=0.1、b=0、c=0、及びd=0である。かかる物質の別の例は、Al0.050.95Ti0.225Mo0.225Nb8.5524.95である。ここでは、M6がAlを表し、M7がTib’Mob’’(b’+b’’=b)を表し、a=0.05、b=0.45、c=0.05、及びd=0である。
【0140】
定義された範囲内のa、b、c、dの正確な値は、電荷バランスされた、または実質的に電荷バランスされた結晶構造を提供するように選択され得る。さらに、または代替的に、定義された範囲内のa、b、c、dの正確な値は、熱力学的に安定な、または熱力学的に準安定な結晶構造を提供するように選択され得る。
【0141】
該構造内のカチオンまたはアニオン(すなわち、P、Nb、O)の交換が、最初の原子価を保持せずに行われた場合、これは、酸素の欠損と過剰の両方を生じさせる可能性がある。例えば、ある程度P5+をMo6+に対して置換する物質は、わずかな酸素過剰(すなわち、P対MoO)を示し、一方でP5+のAl3+に対する置換は、わずかな酸素欠損(すなわち、P対Al)を示す。酸素欠損はまた、不活性または還元条件での熱処理によっても誘起される可能性があり、その結果、当該構造内に酸素空孔欠陥が誘起される。
【0142】
M6は、該結晶構造においてPを置換するカチオンである。M6は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、B、Al、Ga、Si、Ge、Sn、Bi、Sb、及びそれらの混合物、または、Ti、Zr、Hf、Cr、Mo、W、B、Al、Ga、Bi、Sb、及びそれらの混合物、またはTi、Mo、Al、B、及びそれらの混合物から選択され得る。好ましくは、M6はNbではない。好ましくは、M6はNaではない。M6は、P5+とは異なる原子価を有し得る。これにより、酸素の欠損または過剰が生じる。好ましくは、M6は、P5+より低い原子価を有する。これは、酸素欠損、すなわち、本明細書で論じる利点をもたらす酸素空孔の存在を引き起こす。M6は、好ましくは、P5+とは異なるイオン半径、最も好ましくは、より大きいイオン半径を有する。これにより、単位格子サイズに変化が起こり、結晶構造に局所的な歪みが生じ、本明細書に論じる利点がもたらされる。
【0143】
本明細書で言及するイオン半径は、該イオンが該活電極物質の結晶構造に採用することが予想される配位及び原子価でのShannonのイオン半径である。例えば、PNb25の結晶構造は、Nb5+八面体及びP5+四面体を含む。
【0144】
M6の量は、aによって定められ、基準0≦a≦0.5を満たす。aは、0≦a≦0.3、好ましくは、0≦a≦0.2であり得る。これらの場合の各々において、aは、>0、例えば、>0.01であり得る。
【0145】
M7は、該結晶構造においてNbを置換するカチオンである。M7は、Ti、Zr、Hf、V、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、B、Al、Ga、Si、Ge、Sn、Bi、P、Sb、及びそれらの混合物、または、Ti、Zr、Hf、Cr、Mo、W、V、Ta、及びそれらの混合物、またはTi、Mo、及びそれらの混合物から選択され得る。好ましくは、M7はPではない。好ましくは、M7はNaではない。M7は、Nb5+とは異なる原子価を有し得る。これにより、酸素の欠損または過剰が生じる。好ましくは、M7は、Nb5+より低い原子価を有する。これは、酸素欠損、すなわち、本明細書で論じる利点をもたらす酸素空孔の存在を引き起こす。M7は、好ましくは、Nb5+とは異なるイオン半径、最も好ましくは、より大きいイオン半径を有する。これにより、単位格子サイズに変化が起こり、結晶構造に局所的な歪みが生じ、本明細書に論じる利点がもたらされる。
【0146】
M7の量はbによって定められ、基準0≦b≦2を満たす。bは、0≦b≦1.5、好ましくは、0≦b≦1、または0≦b≦0.9であり得る。これらの場合の各々において、bは、>0、例えば、>0.01であり得る。
【0147】
好ましくは、a及びbの少なくとも一方は>0である。aとbの両方が>0であり得る。
【0148】
cは、該活電極物質の酸素含有量を反映している。cが0より大きい場合、それは酸素欠損物質を形成する、すなわち、該物質は、酸素空孔を有する。かかる物質は、カチオンの酸素状態を変化させずに正確な電荷バランスを有しているのではないが、上述のように「実質的に電荷バランスされた」と考えられる。代替的に、cは、0に等しくてもよく、その場合、それは酸素欠損物質ではない。cは、0未満でもよく、これは、酸素過剰の物質である。cは、-0.25≦c≦1.25であり得る。好ましくは、cは、0≦c≦1.25である。任意に、a=b=0の場合、c≧0であり、好ましくは、a=b=0の場合、c>0である。
【0149】
cが1.25の場合、酸素空孔の数は、該結晶構造における全酸素の5%に相当する。cは、0.0125(0.05%酸素空孔)を超えても、0.025(0.1%酸素空孔)を超えても、0.05(0.2%酸素空孔)を超えても、0.125(0.5%酸素空孔)を超えてもよい。cは、0~1(4%酸素空孔)、0~0.75(3%酸素空孔)、0~0.5(2%酸素空孔)、または0~0.25(1%酸素空孔)であり得る。例えば、cは、0.01≦c≦1.25を満たし得る。該物質が酸素欠損である場合、該物質の電気化学的特性が改善される可能性があり、例えば、抵抗測定値により、同等の非酸素欠損物質と比較して、導電性の改善が示される可能性がある。理解されるように、本明細書で表されるパーセンテージの値は原子パーセントである。
【0150】
式3は、酸素空孔を含み得るリンニオブ酸化物(酸素欠損リンニオブ酸化物)、または酸素過剰を有し得るリンニオブ酸化物に関する。酸素空孔は、上述のようにベース物質のサブバレント置換により、リンニオブ酸化物に形成される可能性があり、酸素過剰は、原子価増加の置換により、リンニオブ酸化物に生じる可能性がある。酸素空孔は、リンニオブ酸化物を還元条件下で加熱することによって、任意にカチオン置換なしでも形成される可能性がある。したがって、式3は、PNb25-c-dでもよく、式中、x、c、d、及びQは、本明細書で定義される通りである。酸素空孔及び過剰の量は、ベース物質における酸素の総量、すなわち、非置換物質(例えば、PNb25)または還元条件下での加熱前の該物質における酸素の量に対して表され得る。
【0151】
d>0の場合、さらなるアニオンQが、該リンニオブ酸化物に導入される。それらの異なる電子構造(すなわち、F対O2-)、及び異なるイオン半径(6配位O2-=1.40Å、6配位F=1.33Å)に起因して、それらは、当該活物質の電気化学的性能を向上させ得る。これは、異なるイオン半径で単位格子の特性を変更することに起因し、Liイオン容量の改善、または可逆性の改善によるクーロン効率の改善を可能にする。それらはさらに、酸素空孔欠陥、またはサブバレントカチオン置換に関しては、当該結晶の電子構造を変更することによって、電気伝導性を改善し得る(すなわち、ドーピング効果)。dは、0≦d≦2.5、または0≦d≦1であり得る。これらの場合の各々において、dは、>0であり得る。Qは、F、Cl、N、S、及びそれらの混合物、もしくはF、N、及びそれらの混合物から選択され得るか、または、QはNである。
【0152】
任意に、d=0であり、この場合、該物質は、組成M6x-aM7Nb9-b25-cを有し、式中、M6、M7、a、b、c、及びxは、本明細書で定義される通りである。有利にも、d=0の物質は、アニオンQを含まず、合成が容易であり得る。
【0153】
xは、該物質に含まれるリンの量を反映しており、基準1≦x≦2を満たす。xは、1≦x≦1.25であり得る。好ましくは、x=1である。x=1の場合、式3は、PNb25の結晶構造に基づく。
【0154】
該組成の可変要素(M6、M7、Q、a、b、c、d、及び、x)の詳解は、組み合わせて解釈されるように意図されることが理解されよう。例えば、好ましくは、M6は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、B、Al、Ga、Si、Ge、Sn、Bi、Sb、及びそれらの混合物から選択され、M7は、Ti、Zr、Hf、V、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、B、Al、Ga、Si、Ge、Sn、Bi、P、Sb、及びそれらの混合物から選択される。M6は、Ti、Zr、Hf、Cr、Mo、W、B、Al、Ga、Bi、Sb、及びそれらの混合物から選択され得るとともに、M7は、Ti、Zr、Hf、Cr、Mo、W、V、Ta、及びそれらの混合物から選択され得る。M6は、Ti、Mo、Al、B、及びそれらの混合物から選択され得るとともに、M7は、Ti、Mo、及びそれらの混合物から選択され得る。M6は、好ましくはNbではなく、M7は、好ましくはPではない。M6及びM7は、好ましくはNaではない。M6とM7は異なり得る。aは、0≦a≦0.3でよく、bは、0≦b≦1.5でよい。好ましくは、0≦a≦0.2及び0≦b≦1である。これらの場合の各々において、a及び/またはbは、>0であり得る。
【0155】
例えば、式3は、M6x-aM7Nb9-b25-c-dでよく、式中、
M6は、Ti、Zr、Hf、V、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、B、Al、Ga、Si、Ge、Sn、Bi、Sb、及びそれらの混合物から選択され、
M7は、Ti、Zr、Hf、V、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、B、Al、Ga、Si、Ge、Sn、Bi、Sb、及びそれらの混合物から選択され、
Qは、F、Cl、N、S、及びそれらの混合物から選択され、
0≦a≦0.3、0≦b≦1.5、-0.25≦c≦1.25、0≦d≦2.5、1≦x≦1.25であり、
a、b、c、及びdのうちの1つ以上は0に等しくない。
【0156】
例えば、式3は、M61-aM7Nb9-b25-c-dでよく、式中、
M6は、Ti、Zr、Hf、V、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、B、Al、Ga、Si、Ge、Sn、Bi、Sb、及びそれらの混合物から選択され、
M7は、Ti、Zr、Hf、V、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、B、Al、Ga、Si、Ge、Sn、Bi、Sb、及びそれらの混合物から選択され、
Qは、F、N、及びそれらの混合物から選択され、
0≦a≦0.3、0≦b≦1.5、0≦c≦1.25、0≦d≦2.5であり、
a、b、c、及びdのうちの1つ以上は0に等しくない。
【0157】
例えば、式3は、M61-aM7Nb9-b25-c-dでよく、式中、
M6は、Ti、Zr、Hf、Cr、Mo、W、B、Al、Ga、Ge、Bi、Sb、及びそれらの混合物から選択され、
M7は、Ti、Zr、Hf、Cr、Mo、W、V、Ta、Ga、Ge、及びそれらの混合物から選択され、
Qは、F、N、及びそれらの混合物から選択され、
0≦a≦0.2、0≦b≦1、0≦c≦1.25、0≦d≦2.5であり、
a及びbの少なくとも一方は>0である。
【0158】
式4
該ニオブを含む酸化物は、式M8M91-aM10Nb12-b33-c-d(式4)を有してよく、式中、
M8とM9は異なり、
M8は、Mg、Ca、Sr、Y、La、Ce、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、P、Sb、Bi、及びそれらの混合物から選択され、
M9は、MoまたはWであり、
M10は、Mg、Ca、Sr、Y、La、Ce、Ti、Zr、Hf、V、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、P、Sb、Bi、及びそれらの混合物から選択され、
Qは、F、Cl、Br、I、N、S、Se、及びそれらの混合物から選択され、
0≦a<0.5、0≦b≦2、-0.5≦c≦1.65、0≦d≦1.65であり、
a、b、c、及びdのうちの1つ以上は0に等しくなく、
a、b、及びdが0の場合、cは0より大きい。
【0159】
式4は、MVINb1233の結晶構造に対応する結晶構造を有するニオブを含む酸化物の例を表す。
【0160】
式4は、化学量論的なWNb1233またはMoNb1233に対応していないことが理解されよう。本発明者らは、さらなるカチオン(M8及び/またはM10)を組み込むことによって、及び/または誘起された酸素欠損もしくは過剰を創出することによって、及び/または混合アニオン極物質(O及びQを含む)を形成することによって、WNb1233またはMoNb1233を改変することで、得られる物質は、電気化学的特性が改善され、特に、アノード物質として使用された場合の電気化学的特性が改善されることを発見した。a>0の場合、該酸化物は、M9(MoまたはW)のM8による部分的置換によって改変される。b>0の場合、該酸化物は、NbのM10による部分的置換によって改変される。c≠0の場合、該酸化物は、酸素の欠損または過剰により改変される。d>0の場合、該酸化物は、OのQによる部分的置換によって改変される。本発明者らは、本実施例に示される通り、該改変された酸化物が、未改変の「ベース」物質と比較して、大きく電子伝導率が改善され、クーロン効率が改善され、高Cレートでの脱リチウム化電圧が改善されるということを発見した。これは、高速充電/放電用に設計された電池で使用する際の本発明の物質の利点を実証する上で重要な結果である。
【0161】
MoNb1233及びWNb1233は、ReO由来のMO3-x結晶構造、例えば、Wadsley-Roth結晶構造を有すると見なされ得る。MoNb1233またはWNb1233の結晶構造は、コーナーを共有する四面体([WO]または[MoO])を備えた3x4x∞の結晶学的ブロック構造を有すると説明できる。WNb1233の結晶式は、MoNb1233との等構造相として説明できるが、一部の結合の長さにわずかな違いがある。
【0162】
好ましくは、X線回折によって特定される式4の酸化物の結晶構造は、WNb1233またはMoNb1233、最も好ましくは、MoNb1233の結晶構造に対応する。このように、「ベース」物質は、活電極物質として使用するために有利な特性を有すると考えられるその結晶構造に大きな影響を与えることなく改変されたことが確認され得る。WNb1233の結晶構造は、ICDD結晶学データベースエントリJCPDS 73-1322に見出され得る。
【0163】
カチオン/アニオン交換した式4の酸化物は、単位格子パラメータa、b、及びcを有する可能性があり、aは、22.23~22.43Å、好ましくは、22.27~22.38Åであり、bは、3.81~3.84Å、好ましくは、3.82~3.84Åであり、及びc=17.7~17.9Å、好ましくは、17.73~17.88Åである。式4の酸化物は、単位格子パラメータα及びγを有する可能性があり、各々が約90°であり、好ましくは、α=γ=90°であり、一方βは、123.1~123.7、好ましくは、123.2~123.65であり、単位格子体積は、1260~1280Å、好ましくは、1264~1275Åである。単位格子パラメータは、X線回折によって特定され得る。式4の酸化物は、シェラーの式に従って特定される結晶子サイズ5~150nm、好ましくは、30~60nmを有し得る。
【0164】
「及びそれらの混合物」とは、M8、M10、及びQが各々、それぞれのリストからの2つ以上の元素を表し得ることを意図している。かかる物質の例は、Ti0.050.25Mo0.70Nb11.95Al0.0532.9である。ここでは、M8がTia’a’’(a’+a’’=a)であり、M9がMoであり、M10がAlであり、a=0.3、b=0.05、c=0.1、d=0である。ここでは、cは、各カチオンがその通常の酸化状態、すなわち、Al3+、Ti4+、W6+ Mo6+、及びNb5+を採用することを仮定して計算されている。
【0165】
定義された範囲内のa、b、c、dの正確な値は、電荷バランスされた、または実質的に電荷バランスされた結晶構造を提供するように選択され得る。さらに、または代替的に、定義された範囲内のa、b、c、dの正確な値は、熱力学的に安定な、または熱力学的に準安定な結晶構造を提供するように選択され得る。
【0166】
該構造内のカチオンまたはアニオン(すなわち、Mo、W、Nb、O)の交換が、最初の原子価を保持せずに行われた場合、これは、酸素の欠損と過剰の両方を生じさせる可能性がある。例えば、ある程度Nb5+をMo6+に対して置換する物質は、わずかな酸素過剰(すなわち、Nb対MoO)を示し、一方でNb5+のAl3+に対する置換は、わずかな酸素欠損(すなわち、Nb対Al)を示す。酸素欠損はまた、不活性または還元条件での熱処理によっても誘起される可能性があり、その結果、当該構造内に酸素空孔欠陥が誘起される。
【0167】
初期の原子価を保持しない、交換を補償する部分的な酸化または部分的な還元があってもよい。例えば、Nb5+のAl3+に対する置換は、一部のNb5+からNb4+への還元により、少なくとも部分的に補償され得る。
【0168】
M9は、MoまたはWである。好ましくは、M9はMoであり、その場合、該物質は、MoNb1233に基づく。
【0169】
M8は、該結晶構造においてM9を置換するカチオンである。M8は、Mg、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、B、Al、Ga、Si、Sn、P、及びそれらの混合物、好ましくは、Mg、Ti、Zr、V、Nb、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、B、Al、Si、P、及びそれらの混合物、最も好ましくは、Ti、Zr、V、Cr、Mo、W、Fe、Cu、Zn、Al、P、及びそれらの混合物から選択され得る。M8は、M96+とは異なる原子価を有し得る。これにより、酸素の欠損または過剰が生じる。好ましくは、M8は、M96+より低い原子価を有する。これは、酸素欠損、すなわち、本明細書で論じる利点をもたらす酸素空孔の存在を引き起こす。
【0170】
M8はまた、参考例においてそれ自体で使用される特定の元素のそれぞれから選択され得る。
【0171】
複数の元素がM8またはM10として存在する場合、その原子価は、M8またはM10を全体として指すことが理解されよう。例えば、25原子%のM8がTiであり、75原子%のM8がWである場合、M8の原子価は、0.25×4(Tiからの寄与)+0.75×6(Wからの寄与)である。
【0172】
M8は、好ましくは、M96+とは異なるイオン半径、最も好ましくは、より大きいイオン半径を有する。これにより、単位格子サイズに変化が起こり、結晶構造に局所的な歪みが生じ、本明細書に論じる利点がもたらされる。本明細書で言及するイオン半径は、該イオンが式4の結晶構造に採用することが予想される配位及び原子価でのShannonのイオン半径(R.D.Shannon,Acta Cryst.,A32,1976,751-767で入手可能)である。例えば、MoNb1233の結晶構造は、Nb5+八面体及びMo6+四面体を含む。したがって、M10がZrの場合、該イオン半径は、6配位のZr4+のイオン半径と見なされる。これは、これがMoNb1233におけるNbを置換する場合のZrの通常の原子価及び配位であるためである。
【0173】
M8の量は、aによって定められ、基準0≦a<0.5を満たす。aは、0≦a≦0.45、好ましくは、0≦a≦0.3であり得る。最も好ましくは、a>0、例えば、a≧0.01である。本発明者らは、本実施例によって示されるように、M9をM8に対して部分的に置換すると、未改変の「ベース」物質と比較して著しく改善された特性を有する混合ニオブ酸化物が提供されることを発見した。M8がM9と同じ原子価を有する場合、より高い値のaがより容易に達成され得る。M8が6+の原子価のカチオン(例えば、MoまたはW)を含む場合、aは、0≦a<0.5であり得る。M8が6+の原子価のカチオンを含まない場合、aは、0≦a≦0.2であり得る。
【0174】
M10は、該結晶構造においてNbを置換するカチオンである。M10は、Mg、Ti、Zr、Hf、V、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、B、Al、Ga、Si、Sn、P、及びそれらの混合物、好ましくは、Mg、Ti、Zr、V、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、B、Al、Si、P、及びそれらの混合物、最も好ましくは、Ti、Zr、V、Cr、Mo、W、Fe、Cu、Zn、Al、P、及びそれらの混合物から選択され得る。M10は、Nb5+とは異なる原子価を有し得る。これにより、酸素の欠損または過剰が生じる。好ましくは、M10は、Nb5+より低い原子価を有する。これは、酸素欠損、すなわち、本明細書で論じる利点をもたらす酸素空孔の存在を引き起こす。
【0175】
M10はまた、参考例においてそれ自体で使用される特定の元素のそれぞれから選択され得る。
【0176】
M10は、好ましくは、Nb5+とは異なるイオン半径、最も好ましくは、より大きいイオン半径を有する。これにより、単位格子サイズに変化が起こり、結晶構造に局所的な歪みが生じ、本明細書に論じる利点がもたらされる。
【0177】
M10の量はbによって定められ、基準0≦b≦2を満たす。bは、0≦b≦1.0、好ましくは、0≦b≦0.2であり得る。これらの場合の各々において、bは、>0、例えば、b≧0.01であり得る。M10がNb5+と同じ原子価を有する場合、より高い値のbがより容易に達成され得る。M10が5+の原子価のカチオン(例えば、Ta)を含む場合、bは、0≦b≦2であり得る。M10が5+の原子価のカチオンを含まない場合、bは、0≦b≦0.15であり得る。
【0178】
cは、式4の酸素含有量を反映している。cが0より大きい場合、それは酸素欠損物質を形成する。かかる物質は、酸素空孔を有し得る。かかる物質は、カチオンの酸素状態を変化させずに正確な電荷バランスを有しているのではないが、上述のように「実質的に電荷バランスされた」と考えられる。代替的に、cは、0に等しくてもよく、その場合、それは酸素欠損物質ではない。cは、0未満でもよく、これは、酸素過剰の物質である。cは、-0.25≦c≦1.65であり得る。好ましくは、cは、0≦c≦1.65である。例えば、非酸素欠損化学量論的MoNb1233は、白、オフホワイト、または黄色を有する。誘起された酸素欠損を有するMoNb12<33は、紫色を有する。
【0179】
cが1.65の場合、酸素空孔の数は、該結晶構造における全酸素の5原子%に相当する。cは、0.0165超、0.033超、0.066超、または0.165超であり得る。cは、0~1、0~0.75、0~0.5、または0~0.25であり得る。例えば、cは、0.01≦c≦1.65を満たし得る。該物質が酸素欠損である場合、該物質の電気化学的特性が改善される可能性があり、例えば、抵抗測定値により、同等の非酸素欠損物質と比較して、導電性の改善が示される可能性がある。
【0180】
d>0の場合、さらなるアニオンQが式4に導入される。それらの異なる電子構造(すなわち、F対O2-)、及び異なるイオン半径(6配位O2-=1.40Å、6配位F=1.33Å)に起因して、それらは、当該活物質の電気化学的性能を向上させ得る。これは、異なるイオン半径で単位格子の特性を変更することに起因し、Liイオン容量の改善、または可逆性の改善によるクーロン効率の改善を可能にする。それらはさらに、酸素空孔欠陥、またはサブバレントカチオン置換に関しては、当該結晶の電子構造を変更することによって、電気伝導性を改善し得る(すなわち、ドーピング効果)。dは、0≦d≦1.0、または0≦d≦0.8であり得る。これらの場合の各々において、dは、>0、例えば、d≧0.01であり得る。Qは、F、Cl、N、S、及びそれらの混合物、もしくはF、N、及びそれらの混合物から選択され得るか、または、QはNである。
【0181】
任意に、d=0であり、この場合、式4は、M8M91-aM10Nb12-b33-cであり、式中、M8、M9、M10、a、b、及びcは、本明細書で定義される通りである。有利にも、d=0の物質は、アニオンQを含まず、合成が容易であり得る。
【0182】
該組成の可変要素(M8、M9、M10、Q、a、b、c、及びd)の詳解は、組み合わせて解釈されるように意図されることが理解されよう。例えば、好ましくは、M8は、Mg、Ti、Zr、V、Nb、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、B、Al、Si、P、及びそれらの混合物から選択され、M10は、Mg、Ti、Zr、V、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、B、Al、Si、P、及びそれらの混合物から選択され、Qは、F、N、及びそれらの混合物から選択される。最も好ましくは、M8及びM10は、Ti、Zr、V、Cr、Mo、W、Fe、Cu、Zn、Al、P、及びそれらの混合物から選択される。好ましくは、0≦a≦0.45、0≦b≦1.0、及び0≦d≦1.0である。
【0183】
例えば、式4は、M8M91-aM10Nb12-b33-c-dでよく、式中、
M8とM9は異なり、
M8は、Mg、Ti、Zr、V、Nb、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、B、Al、Si、P、及びそれらの混合物から選択され、
M9は、MoまたはWであり、
M10は、Mg、Ti、Zr、V、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、B、Al、Si、P、及びそれらの混合物から選択され、
Qは、F、N、及びそれらの混合物から選択され、
0≦a≦0.45、0≦b≦1.0、-0.5≦c≦1.65、0≦d≦1.0であり、
a、b、c、及びdのうちの1つ以上は0に等しくなく、
a、b、及びdが0の場合、cは0より大きい。
【0184】
例えば、式4は、M8M91-aM10Nb12-b33-c-dでよく、式中、
M8とM9は異なり、
M8は、Ti、Zr、V、Cr、Mo、W、Fe、Cu、Zn、Al、P、及びそれらの混合物から選択され、
M9は、MoまたはWであり、
M10は、Ti、Zr、V、Cr、Mo、W、Fe、Cu、Zn、Al、P、及びそれらの混合物から選択され、
Qは、F、N、及びそれらの混合物から選択され、
0<a≦0.45、0≦b≦0.2、-0.25≦c≦1.65、0≦d≦0.8である。
【0185】
M8、M10、及びQはまた、実施例及び参考例においてこれらのドーパントとして使用される特定の元素の各々から選択され得る。
【0186】
式4はさらに、Li及び/またはNaを含み得る。例えば、Li及び/またはNaは、該活電極物質が金属イオン電池の電極に使用された場合、当該結晶構造に入り得る。
【0187】
Nb
該ニオブを含む酸化物は、H-NbまたはN-Nb、好ましくは、H-Nbであり得る。H-Nb及びN-Nbは、さらなるカチオン及び/またはアニオンでドープされ得る。Nbの結晶構造に関するさらなる情報は、Griffith et al.,J.Am.Chem.Soc.2016,138,28,8888-8899に見出され得る。Nbは、商業的供給業者から入手してもよい。
【実施例
【0188】
実施例1
分析用のフルコインセル(CR2032サイズ)で電気化学的試験を行った。被験カソード及びアノード活物質を、N-メチルピロリドン(NMP)、導電性添加剤として作用するカーボンブラック、ポリ(二フッ化ビニル)(PVDF)結合剤、及びカーボンナノチューブ(CNT)と合わせ、実験室規模の遠心式プラネタリーミキサーを使用して混合して、スラリーを形成した。この乾燥アノードの組成は、90重量%の活物質、5重量%のカーボンブラック(Super P)、4重量%のPVdF、及び1重量%のCNTである。この乾燥カソードの組成は、91重量%の活物質、4重量%のカーボンブラック(Super P)、4重量%のPVdF、及び1重量%のCNTである。このスラリーをドクターブレードコーティングによりアルミニウム箔集電体に所望の負荷になるまで塗布し乾燥させた。次に、これらの電極を80℃で2.4~3.0gcm-3の密度にカレンダー加工して、目標の空隙率31~35%を達成した。
【0189】
これらのアノード及びカソード電極を所望の大きさに打ち抜き、次いで個別に秤量して、所望のN/P比を実現した。打ち抜いたアノード及びカソード電極を、スチール製のコインセルケーシング内で、セパレータ(Celgard多孔質PP/PE)及び電解液(1.3MのLiPFを含むEC/DEC)と合わせ、加圧下で密封した。その後、低電流レートにて(C/10)、サイクルを1.2~3.15Vでリチウム化と脱リチウム化の2回のフルサイクルで実行した。その後、電流密度を上げてこれらのセルの性能を調べた。
【0190】
レート試験中、低速充電(C/5)を行った後、放電特性試験では放電レートを増加させ、充電特性試験ではその逆を行ってセルを非対称にサイクルさせた。DCIRは、フルセルを0.2Cのレートでその充電状態(SOC)の50%まで放電し、次に5Cのパルスを10秒間流すことによって測定した。その後0.2Cのレートを再開し、0%SoCにする。DCIRは、観測された最大電圧差(dVmax)と流された電流(lapp)とから、次のように算出した。R=lapp/dVmax
【0191】
実施例1で使用される活アノード物質は、下記サンプルI11の式を有し、活物質負荷1.1~1.3mAhcm-2、2.6gcm-3、及び5.5~6.5mgcm-2で使用される。使用される活カソード物質は、NMC622(LiNi0.6Mn0.2Co0.2)、活物質負荷1.2~1.4mAhcm-2、2.8gcm-3、及び7.5~8.5mgcm-2である。
【0192】
図1は、容量低下を1C/1Cサイクル回数の関数として示す。この試験中、セルはすべて、1CのCC充電(定電流非CV)のサイクルを受けてから、1CのCC放電が行われる。このグラフは、N/P=0.9の設計と比較して、N/P=1.1のセル設計の容量低下が遅いことを示している。これは、この設計が、システムの劣化を低減し、サイクル寿命を延長する上で好ましいことを示している。サイクル寿命試験は25℃で実施した。
【0193】
図2は、DCIR増大をサイクル回数の関数として示す。DCIRは、フルセルを0.2Cのレートでその充電状態(SOC)の50%まで放電し、次に5Cのパルスを10秒間流すことによって測定した。その後0.2Cのレートを再開し、0%SoCにする。DCIRは、10秒間のパルスの間に観測された最大電圧差(dVmax)と流された電流(lapp)とから、次のように算出した:R=lapp/dVmax。この測定は、50回の1C/1Cサイクルごとに行った。すべての測定は25℃で行った。このグラフは、N/P比1.1の明確な利点を示している。200サイクル後、N/P=0.9のセルの内部抵抗は、N/P=1.1のセルの210%と比較して、360%のDCIRの増大を示している。経時的なDCIRの増大が低いほど、そのセルはより長く高い電力を供給することができる。
【0194】
図3は、基準容量低下をサイクル回数の関数として示す。この「容量低下」は、サイクル寿命試験で50回の1C/1Cサイクルごとに低Cレートの「基準」サイクルを行うことによって測定した。この基準サイクルは、3.15VまでC/5のCC充電、C/40までCV、その後、1.2VまでC/5のCC放電である。次に、ここから得られた容量を、対応するサイクル回数でグラフにプロットする。すべての測定は25℃で行った。このグラフは、N/P=0.9のセル設計と比較して、N/P=1.1のセル設計の容量低下が遅いことを示している。容量低下が遅いほど、アノード及びカソード物質の安定性がよいことを示す。
【0195】
図4は、最初のサイクル形成データを示す。この形成は、C/5のCC CV(C/40まで)充電、その後C/5のCC放電である。N/P=1.1は、同じ最初のサイクルの損失を維持しながら、N/P=0.9よりも高い容量を示す。より高いSoCでは、N/P=1.1のセル設計は、より低い分極(充電と放電の間のデルタV)も示し、これは、内部抵抗がより低いことを示している。形成は25℃で行った。
【0196】
図5は、10C充電レート試験を示す。この試験は、C/5のCC放電、その後の10CのCC充電で構成した。これは、各システムの急速充電能力を評価するために行った。このグラフは、N/P=1.1のセル設計が、N/P=0.9のセル設計の40%と比較して、73%の容量維持率を達成することを示している。
【0197】
図6は、10C放電レート試験を示す。この試験は、C/5のCC CV(C/40まで)充電、その後の10CのCC放電で構成した。これは、各システムの放電レート能力を評価するために行った。
【0198】
このグラフは、N/P=1.1のセル設計が、N/P=0.9のセル設計の48%と比較して、77%の容量維持率を達成することを示している。
【0199】
実施例2
分析用のフルコインセル(CR2032サイズ)で電気化学的試験を行った。被験カソード及びアノード活物質を、N-メチルピロリドン(NMP)、導電性添加剤として作用するカーボンブラック、及びポリ(二フッ化ビニル)(PVDF)結合剤と合わせ、実験室規模の遠心式プラネタリーミキサーを使用して混合して、スラリーを形成した。この乾燥アノードの組成は、92重量%の活物質、5重量%のカーボンブラック(Super P)、及び3重量%のPVdFである。この乾燥カソードの組成は、92重量%の活物質、5重量%のカーボンブラック(Super P)、及び3重量%のPVdFである。このスラリーをドクターブレードコーティングによりアルミニウム箔集電体に所望の負荷になるまで塗布し乾燥させた。次に、これらの電極を80℃で2.4~3.0gcm-3の密度にカレンダー加工して、目標の空隙率31~35%を達成した。
【0200】
これらのアノード及びカソード電極を所望の大きさに打ち抜き、次いで個別に秤量して、所望のN/P比を実現した。打ち抜いたアノード及びカソード電極を、スチール製のコインセルケーシング内で、セパレータ(Celgard多孔質PP/PE)及び電解液(1.3MのLiPFを含むEC/EMC)と合わせ、加圧下で密封した。その後、低電流レートにて(C/5)、サイクルを1.0~3.05Vで充電及び放電の2回のフルサイクルで実行した。その後、電流密度を上げてこれらのセルの性能を調べた。レート試験中、低速充電(C/5)を行った後、放電特性試験では放電レートを増加させ、充電特性試験ではその逆を行ってセルを非対称にサイクルさせた。
【0201】
実施例2で使用される活アノード物質は、ほぼ下記サンプルE6の式を有し、活物質負荷6.5~7.5mgcm-2で使用される。使用される活カソード物質は、NCA(LiNi0.xCo0.yAl1-0.x-0.y)、活物質負荷6.5~9.0mgcm-2である。
【0202】
図7は、最初のサイクル形成データを示す。この形成は、C/5のCC CV(C/40まで)充電、その後C/5のCC放電である。N/P=0.9は、N/P=1.1よりも最初のサイクル損失が大きいことを示す。より高いSoCでは、N/P=1.1のセル設計は、より低い分極(充電と放電の間のデルタV)も示し、これは、内部抵抗がより低いことを示している。形成は25℃で行った。
【0203】
図8は、10C充電レート試験を示す。この試験は、C/5のCC放電、その後の10CのCC充電で構成した。これは、各システムの急速充電能力を評価するために行った。このグラフは、N/P=1.1のセル設計が、N/P=0.9のセル設計の76%と比較して、88%の容量維持率を達成することを示している。
【0204】
図9は、10C放電レート試験を示す。この試験は、C/5のCC CV(C/40まで)充電、その後の10CのCC放電で構成した。これは、各システムの放電レート能力を評価するために行った。このグラフは、N/P=1.1のセル設計が、N/P=0.9のセル設計の85%と比較して、86%の容量維持率を達成することを示している。
【0205】
実施例3
分析用のフルコインセル(CR2032サイズ)で電気化学的試験を行った。被験カソード及びアノード活物質を、N-メチルピロリドン(NMP)、導電性添加剤として作用するカーボンブラック、及びポリ(二フッ化ビニル)(PVDF)結合剤と合わせ、実験室規模の遠心式プラネタリーミキサーを使用して混合して、スラリーを形成した。この乾燥アノードの組成は、92重量%の活物質、5重量%のカーボンブラック(Super P)、及び3重量%のPVdFである。この乾燥カソードの組成は、92重量%の活物質、5重量%のカーボンブラック(Super P)、及び3重量%のPVdFである。このスラリーをドクターブレードコーティングによりアルミニウム箔集電体に所望の負荷になるまで塗布し乾燥させた。次に、これらの電極を80℃で2.4~3.0gcm-3の密度にカレンダー加工して、目標の空隙率31~35%を達成した。
【0206】
これらのアノード及びカソード電極を所望の大きさに打ち抜き、次いで個別に秤量して、所望のN/P比を実現した。打ち抜いたアノード及びカソード電極を、スチール製のコインセルケーシング内で、セパレータ(Celgard多孔質PP/PE)及び電解液(1.3MのLiPFを含むEC/DEC)と合わせ、加圧下で密封した。その後、低電流レートにて(C/5)、サイクルを1.0~3.05Vで充電及び放電の2回のフルサイクルで実行した。その後、電流密度を上げてこれらのセルの性能を調べた。レート試験中、低速充電(C/5)を行った後、放電特性試験では放電レートを増加させ、充電特性試験ではその逆を行ってセルを非対称にサイクルさせた。
【0207】
実施例3で使用される活アノード物質は、下記サンプルG16の式を有し、活物質負荷6.5~7.5mgcm-2で使用される。使用される活カソード物質は、NCA(LiNi0.xCo0.yAl1-0.x-0.y)、活物質負荷6.5~9.0mgcm-2である。
【0208】
図10は、最初のサイクル形成データを示す。この形成は、C/5のCC CV(C/40まで)充電、その後C/5のCC放電である。N/P=0.9は、N/P=1.1よりも最初のサイクル損失が大きいことを示す。より高いSoCでは、N/P=1.1のセル設計は、より低い分極(充電と放電の間のデルタV)も示し、これは、内部抵抗がより低いことを示している。形成は25℃で行った。
【0209】
図11は、10C充電レート試験を示す。この試験は、C/5のCC放電、その後の10CのCC充電で構成した。これは、各システムの急速充電能力を評価するために行った。このグラフは、N/P=1.1のセル設計が、N/P=0.9のセル設計の57%と比較して、76%の容量維持率を達成することを示している。
【0210】
図12は、10C放電レート試験を示す。この試験は、C/5のCC CV(C/40まで)充電、その後の10CのCC放電で構成した。これは、各システムの放電レート能力を評価するために行った。このグラフは、N/P=1.1のセル設計が、N/P=0.9のセル設計の65%と比較して、74%の容量維持率を達成することを示している。
【0211】
実施例4
分析用のフルコインセル(CR2032サイズ)で電気化学的試験を行った。被験カソード及びアノード活物質を、N-メチルピロリドン(NMP)、導電性添加剤として作用するカーボンブラック、及びポリ(二フッ化ビニル)(PVDF)結合剤と合わせ、実験室規模の遠心式プラネタリーミキサーを使用して混合して、スラリーを形成した。この乾燥アノードの組成は、92重量%の活物質、5重量%のカーボンブラック(Super P)、及び3重量%のPVdFである。この乾燥カソードの組成は、92重量%の活物質、5重量%のカーボンブラック(Super P)、及び3重量%のPVdFである。このスラリーをドクターブレードコーティングによりアルミニウム箔集電体に所望の負荷になるまで塗布し乾燥させた。次に、これらの電極を80℃で2.7~3.0gcm-3の密度にカレンダー加工して、目標の空隙率27~33%を達成した。
【0212】
これらのアノード及びカソード電極を所望の大きさに打ち抜き、次いで個別に秤量して、所望のN/P比を実現した。打ち抜いたアノード及びカソード電極を、スチール製のコインセルケーシング内で、セパレータ(Celgard多孔質PP/PE)及び電解液(1MのLiPFを含むEC/EMC)と合わせ、加圧下で密封した。その後、低電流レートにて(C/10)、サイクルを1.0~3.05Vで充電及び放電の2回のフルサイクルで実行した。その後、電流密度を上げてこれらのセルの性能を調べた。レート試験中、低速充電(C/5)を行った後、放電特性試験では放電レートを増加させ、充電特性試験ではその逆を行ってセルを非対称にサイクルさせた。
【0213】
実施例4で使用される活アノード物質は、下記サンプルE8の式を有し、活物質負荷6.5~7.5mgcm-2で使用される。使用される活カソード物質は、NCA(LiNi0.xCo0.yAl1-0.x-0.y)、活物質負荷6.5~8.4mgcm-2である。
【0214】
図13は、正規化した容量に対する電圧の関数としての最初のサイクル形成データを示す。この形成は、C/10のCC充電、その後C/10のCC放電である。より高いSoC(>50%)では、N/P=1.1のセル設計は、より低い分極(充電と放電の間のデルタV)を示し、これは、内部抵抗がより低いことを示している。形成は25℃で行った。
【0215】
図14は、10C充電レート試験を示す。この試験は、C/5のCC放電、その後の10CのCC充電で構成した。これは、各システムの急速充電能力を評価するために行った。このグラフは、N/P=1.1のセル設計が、N/P=0.9のセル設計の82%と比較して、89%の容量維持率を達成することを示している。
【0216】
図15は、10C放電レート試験を示す。この試験は、C/5のCC CV(C/40まで)充電、その後の10CのCC放電で構成した。これは、各システムの放電レート能力を評価するために行った。このグラフは、N/P=1.1のセル設計が、N/P=0.9のセル設計の85%と比較して、86%の容量維持率を達成することを示している。
【0217】
参考例
以下の参考例は、本発明に従って使用するための活アノード物質としてのニオブを含む酸化物の合成方法を示す。この参考例は、ハーフセルとして試験した場合のこれらの物質の電気化学的性能を示す。観察された有益な特性は、これらの物質が本発明に従って適切なN/P比でフルセルに利用された場合にも存在することが予想される。
【0218】
式1に関連する参考例
混合ニオブ酸化物を、固相経路によって合成した。最初のステップで、前駆体物質(Nb、GeO、ZnO、TiO、Cr、Al、Fe、ZrO、及びCuO)を、20μm未満のD50(v/v)の粒度までミルに供した。これらの物質を化学量論比で混合し(合計50g)、衝撃式ミルにより20,000rpmで均一な粉末混合物状に合わせた。得られた粉末を、マッフル炉内のアルミナ製るつぼで、空気中、T=600~1350℃にて0.5~24時間熱処理し、所望のWadsley-Roth相を得た。選択されたサンプル(E9~E11)を、熱処理後に炉から取り出し、衝撃式ミルにて20,000rpmで粉砕した後、同様の条件下で熱処理を繰り返した。具体的には、前駆体混合物をランプレート5°/分にて800℃以下の温度まで、その後ランプレート1°/分にて最高温度まで保留時間にわたって加熱した。場合によっては、さらなる熱処理ステップも、N雰囲気下、T=600~1350℃にて0.5~12時間適用した。アニオンを含めるため、前駆体をさらにミリング/混合するステップ(親物質に対して、Fに関しては、PVDFが1:10の質量比で、Nが必要な場合は、Cが1:3の質量比で使用され得る)を行った後、Nまたは空気雰囲気で、1ステップまたは2ステップにて、T2a/T2b=300~1200℃で0.5~12時間熱処理した。
【0219】
必要に応じて、衝撃ミリングまたはジェットミリングによる最終的なデアグロメレーションステップを利用して、所望の粒度分布に調整した。具体的には、物質を、20,000RPMで10秒間の衝撃ミリングによってデアグロメレートした。粒度分布は、Horiba乾燥粉末用レーザー回折式粒子分析器で取得した。空気圧を0.3MPaに保った。これらの結果を表E1に示す。
【表1】
【0220】
物質の特性評価
サンプルの相純度を、Rigaku Miniflex粉末X線回折計を用いて、2θの範囲(10~70°)で走査速度1°/分にて分析した。
【0221】
図E1は、測定されたXRD回折パターンをサンプルE1~E4に関して、図E2はサンプルE5~E12に関して示す。回折パターンは同じ位置にピークを有し(結晶の改変による多少のシフトを最大で約0.2°含む)、結晶学データベースエントリJCPDS 28-1478と一致する。ある特定のサンプルは、同じWadsley-Rothブロック構造(ZnNb3487)の単斜晶系(JCPDS 28-1478、リファレンスa)及び斜方晶系(PDFカード、04-021-7859、リファレンスb)の結晶構造の相混合であることが見出され、この混合物に精製されている。非晶質のバックグラウンドノイズはなく、ピークは鋭く強い。これは、すべてのサンプルが結晶質であり、シェラーの式による結晶子サイズが45~55nmであり、結晶構造がZnNb3487に一致することを意味する。これにより、Wadsley-Roth結晶構造の存在が確認される。
【表2】
【0222】
電気化学的特性評価
分析用のハーフコインセル(CR2032サイズ)で電気化学的試験を行った。ハーフコイン試験では、活物質をLi金属電極に対する電極で試験して、その基礎性能を評価する。以下の参考例では、被験活物質組成物を、N-メチルピロリドン(NMP)、導電性添加剤として作用するカーボンブラック(Super P)、及びポリ(二フッ化ビニル)(PVDF)結合剤と合わせ、実験室規模の遠心式プラネタリーミキサーを使用して混合して、スラリーを形成した。これらのスラリーの非NMP組成は、92重量%の活物質、3重量%の導電性添加剤、5重量%の結合剤であった。このスラリーをドクターブレードコーティングによりAl箔集電体に所望の負荷である69~75gm-2になるまで塗布し、加熱乾燥させた。次に、これらの電極を80℃で2.6~2.9gcm-3の密度にカレンダー加工して、目標の空隙率35~40%を達成した。電極を所望の大きさに打ち抜き、スチール製のコインセルケーシング内で、セパレータ(Celgard多孔質PP/PE)、Li金属、及び電解液(1.3MのLiPFを含むEC/DEC)と合わせ、加圧下で密封した。その後、23℃で、低電流レートにて(C/10)、サイクルを1.1~3.0Vでリチウム化及び脱リチウム化の2回のフルサイクルで実行した。その後、電流密度を上げてこれらのセルの性能を調べた。これらの試験中、低速リチウム化(C/5)を行った後、脱リチウム化レートを増加させて(例えば、1C、5C、10C)、セルを23℃で非対称にサイクルさせ、容量維持率、及び5Cでの公称電圧を得た。公称電圧vs Li/Li+は、脱リチウム化の間の5Cでの総容量で割ったV/Q曲線の積分から計算している。定電圧ステップは使用しなかった。データは、同じ電極組成物から調製された5つのセルから平均されており、誤差は標準偏差から示されている。したがって、これらのデータは、従来の物質と比較して、本発明による物質によって達成された改善を示すロバストな試験を表す。これらのデータを表E4及びE5に示す。
【0223】
セルの抵抗は、ハーフコインセルの直流内部抵抗(DCIR)から計算されている。通常の測定では、セルを100%の充電状態(SOC)までリチウム化し、次にC/10のレートで50%のSOCまで脱リチウム化し、次いで0.5時間の静置の後、5Cの脱リチウム化パルスを10秒間流した後、さらに0.5時間静置する。その後、パルスからのピーク直前の電圧、及びパルスの間に測定された最大電圧を使用し、DCIRをV=IRから計算する。
【0224】
電極組成物の電気抵抗率を、23℃でOssila機器(T2001A3-UK)を使用した4点プローブ法によって個別に評価した。スラリーを形成した(被験活物質組成物をN-メチルピロリドン(NMP)、導電性添加剤として作用するカーボンブラック、及びポリ(二フッ化ビニル)(PVDF)結合剤と合わせ、実験室規模の遠心式プラネタリーミキサーを使用して混合して、スラリーを形成した。これらのスラリーの非NMP組成は、80重量%の活物質、10重量%の導電性添加剤、10重量%の結合剤であった)。次に、このスラリーを、誘電体マイラーフィルムに1mg/cmの負荷で塗布した。その後、電極サイズのディスクを打ち抜き、4点プローブを用いてこの被覆フィルムの抵抗を測定した。シート抵抗(Ω/スクエア)の結果を表E3に略記する。誤差は、3回の測定の標準偏差に基づいている。
【0225】
また、CuとAlの両集電体箔上の、均質で平滑な目に見える欠陥も凝集物もない皮膜をこれらのサンプルについて、上記の通りに、遠心式プラネタリーミキサーで、最大94重量%の活物質、4重量%の導電性添加剤、2重量%の結合剤の組成に調製してもよい。これらは、PVDF(すなわち、NMPベース)及びCMC:SBRベース(すなわち、水性)の両結合剤系で調製することができる。これらの被膜は、PVDFについては80℃にて、CMC:SBRについては50℃にてカレンダー加工し、1.0~5.0mAhcm-2の負荷にて空隙率35~40%にすることができる。これは、活物質含有量が高く、高エネルギー及び高出力の両用途でこれらの物質の実行可能性を実証するために重要である。
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【0226】
考察
混合ニオブ酸化物サンプルE1は、Ge4+で置換されたZn2+カチオンに焦点を当てたサンプルE3におけるカチオン置換アプローチによって改変されている。サンプルE5~E8では、可変要素a及びbの広範囲にわたって、Zn2+カチオンがCr3+カチオンで置換され、Nb5+カチオンがTi4+カチオンで置換されている。サンプルE10は、Nb5+をFe3+で置換している。サンプルE11は、Zn2+をAl3+で置換している。サンプルE12は、CuNb3487に基づいており、Cu2+カチオンがCr3+カチオンで置換され、Nb5+カチオンがTi4+カチオンで置換されている。原子価の増加は、部分的な酸素過剰(すなわち、c<0)及び/またはNb5+の部分的な還元によって補償され得る。空孔の減少は、酸素空孔の形成(すなわち、c>0)によって補償され得る。これらの改変は、(a)変更されたイオン半径、(b)変更された原子価、及び(c)変更された電圧の組み合わせによって、サンプルE1のベースの結晶構造に対して利点をもたらすと予想される。変更されたイオン半径は、単位格子サイズの変更及び結晶構造の局所的な歪みにより、電気化学的性能に有益な変化をもたらす可能性があり、利用可能なリチウム化部位またはリチウム化経路を変更し、クーロン効率、容量、高レートでの性能、及び寿命を改善する可能性がある。変更された原子価は、電荷キャリアに利用可能な中間エネルギーレベルを与えるため、該物質の電気伝導性を大幅に改善する。これらの効果は、表E3において観察された、改変されたサンプルの抵抗率のサンプルE1に対する低下によって、及び表E4~E6で観察された、比容量、クーロン効率、5Cでの脱リチウム化電圧、及び1C、5C、及び10Cでの容量維持率の改善によって示される。これらは、高速充電/放電用に設計された高出力のLiイオンセルで使用するための、本発明による改変された混合ニオブ酸化物の有用性を実証する重要な結果である。
【0227】
表E2は、カチオン交換後に観察された、すなわち、これらの物質のイオン半径及び電子構造の変化に起因して観察された、単位格子パラメータの変化を示している。
【0228】
Liイオンセルで使用するための、この物質に関する本記載のカチオン交換アプローチにより、同様の利点が観察されることが予想される。
【0229】
混合ニオブ酸化物サンプルE1を、不活性または還元性雰囲気中での熱処理による、誘起された酸素欠損の導入を介して改変し、サンプルE2が得られている。「ベース」酸化物を不活性または還元性雰囲気中、高温で処理することにより、それが部分的に還元され、室温に戻して空気雰囲気に曝露された後もこれが維持され得る。これには明らかな色の変化が伴い、例えば、サンプルE2は灰色/黒色であるのに対し、サンプルE1では白である。この色の変化は、バンドギャップの減少に起因して、その物質が異なるエネルギー(すなわち、波長)の可視光と相互作用することを可能にするその物質の電子構造の大幅な変化を示す。これは、5Cのレートでの脱リチウム化電圧の改善を示したサンプルE2に反映されており、これは、セルの分極レベルの低下に対応する。
【0230】
誘起された酸素欠損は、結晶構造に欠陥をもたらし、例えば、酸素アニオンが除去され、次にカチオンの全体的な酸化還元状態が還元される。これにより、物質の電気伝導性を大幅に改善するさらなるエネルギー状態が得られ、色の変化によって示されるようにバンドギャップエネルギーが変化する。これは、サンプルE2に関して表E3において観察された、抵抗率のサンプルE1に対する低下によって示される。誘起された酸素欠損が5原子%を超えて存在する場合(すなわち、c>4.35)、結晶構造の安定性が低下する可能性がある。
【0231】
混合ニオブ酸化物サンプルE1は、アニオン置換(FによるO2-の置換)によって改変され、サンプルE4を与える。比容量の改善が観察された(表E4及びE5)。
【0232】
本記載の限定内で、Liイオンセルで使用するためのM1、M2、M3、Q、a、b、c、及びdの任意の組み合わせを使用する本記載の混合ニオブ酸化物のいずれかにおいて、同様の利点が観察されることが予想される。
【0233】
式2に関連する参考例
混合ニオブ酸化物を、固相経路によって合成した。最初のステップで、前駆体物質(Nb、Ga、ZnO、ZrO、Cr、CeO、及びAl)を、20μm未満のD50(v/v)の粒度までミルに供した。これらの物質を化学量論比で混合し(合計50g)、衝撃式ミルにより20,000rpmで均一な粉末混合物状に合わせた。得られた粉末を、マッフル炉内のアルミナ製るつぼで、空気中、T=600~1350℃にて0.5~24時間熱処理し、所望のWadsley-Roth相を得た。具体的には、前駆体混合物をランプレート5°/分にて800℃以下の温度まで、その後ランプレート1°/分にて最高温度まで保留時間にわたって加熱した。場合によっては、さらなる熱処理ステップも、N雰囲気下、T=600~1350℃にて0.5~12時間適用した。アニオンを含めるため、前駆体をさらにミリング/混合するステップ(親物質に対して、Fに関しては、PVDFが1:10の質量比で、Nが必要な場合は、Cが1:3の質量比で使用され得る)を行った後、Nまたは空気雰囲気で、1ステップまたは2ステップにて、T2a/T2b=300~1300℃で0.5~24時間熱処理した。
【0234】
必要に応じて、衝撃ミリングまたはジェットミリングによる最終的なデアグロメレーションステップを利用して、所望の粒度分布に調整した。具体的には、物質を、20,000RPMで10秒間の衝撃ミリングによってデアグロメレートした。粒度分布は、Horiba乾燥粉末用レーザー回折式粒子分析器で取得した。空気圧を0.3MPaに保った。これらの結果を表F1に示す。
【表7】
【0235】
物質の特性評価
サンプルの相純度を、Rigaku Miniflex粉末X線回折計を用いて、2θの範囲(10~70°)で走査速度1°/分にて分析した。
【0236】
図F1は、測定されたXRD回折パターンをサンプルF1~F4に関して示し、図F2はパターンをサンプルF5~F9に関して示す。回折パターンは同じ位置にピークを有し(結晶の改変による多少のシフトを最大で約0.2°含む)、結晶学データベースエントリJCPDS 22-009と一致する。非晶質のバックグラウンドノイズはなく、ピークは鋭く強い。これは、すべてのサンプルが結晶質であり、シェラーの式による結晶子サイズが40~60nmであり、結晶構造がAlNb1129に一致することを意味する。これにより、Wadsley-Roth結晶構造の存在が確認される。
【表8】
【0237】
電気化学的特性評価
分析用のハーフコインセル(CR2032サイズ)で電気化学的試験を行った。ハーフコイン試験では、活物質をLi金属電極に対する電極で試験して、その基礎性能を評価する。以下の参考例では、被験活物質組成物を、N-メチルピロリドン(NMP)、導電性添加剤として作用するカーボンブラック(Super P)、及びポリ(二フッ化ビニル)(PVDF)結合剤と合わせ、実験室規模の遠心式プラネタリーミキサーを使用して混合して、スラリーを形成した。これらのスラリーの非NMP組成は、92重量%の活物質、3重量%の導電性添加剤、5重量%の結合剤であった。このスラリーをドクターブレードコーティングによりAl箔集電体に所望の負荷である69~75gm-2になるまで塗布し、加熱乾燥した。次に、これらの電極を80℃で2.6~2.9gcm-3の密度にカレンダー加工して、目標の空隙率35~40%を達成した。電極を所望の大きさに打ち抜き、スチール製のコインセルケーシング内で、セパレータ(Celgard多孔質PP/PE)、Li金属、及び電解液(1.3MのLiPFを含むEC/DEC)と合わせ、加圧下で密封した。その後、23℃で、低電流レートにて(C/10)、サイクルを1.1~3.0Vでリチウム化及び脱リチウム化の2回のフルサイクルで実行した。その後、電流密度を上げてこれらのセルの性能を調べた。これらの試験中、低速リチウム化(C/5)を行った後、脱リチウム化レートを増加させて(例えば、1C、5C、10C)、セルを23℃で非対称にサイクルさせ、容量維持率、及び5Cでの公称電圧を得た。公称電圧vs Li/Li+は、脱リチウム化の間のC/10、及び5Cでの総容量で割ったV/Q曲線の積分から計算している。定電圧ステップは使用しなかった。
【0238】
セルの抵抗は、ハーフコインセルの直流内部抵抗(DCIR)から計算されている。通常の測定では、セルを100%のSOCまでリチウム化し、次にC/10のレートで50%のSOCまで脱リチウム化し、次いで0.5時間の静置の後、5Cの脱リチウム化パルスを10秒間流した後、さらに0.5時間静置する。その後、ピーク直前の電圧、及びパルスの間に測定された最大電圧を使用し、DCIRをV=IRから計算する。
【0239】
データは、同じ電極組成物から調製された5つのセルから平均されており、誤差は標準偏差から示されている。したがって、これらのデータは、従来の物質と比較して、本発明による物質によって達成された改善を示すロバストな試験を表す。
【0240】
また、CuとAlの両集電体箔上の、均質で平滑な目に見える欠陥も凝集物もない皮膜をこれらのサンプルについて、上記の通りに、遠心式プラネタリーミキサーで、最大94重量%の活物質、4重量%の導電性添加剤、2重量%の結合剤の組成に調製してもよい。これらは、PVDF(すなわち、NMPベース)及びCMC:SBRベース(すなわち、水性)の両結合剤系で調製することができる。これらの被膜は、PVDFについては80℃にて、CMC:SBRについては50℃にてカレンダー加工し、1.0~5.0mAhcm-2の負荷にて空隙率35~40%にすることができる。これは、活物質含有量が高く、高エネルギー及び高出力の両用途でこれらの物質の実行可能性を実証するために重要である。
【表9】
【表10】
【0241】
考察
混合ニオブ酸化物サンプルF1は、Ga3+で置換されたAl3+カチオンに焦点を当てたサンプルF2におけるカチオン置換アプローチによって改変されている。サンプルF5~F9は、Al3+をさらなるカチオン(Zn2+、Zr4+、Cr3+、及びCe4+)で置換する。これは、変更されたイオン半径及び変更された電圧の組み合わせによって、サンプルF1のベースの結晶構造に対して利点をもたらすと予想される。表F2は、カチオン交換後に観察された、すなわち、これらの物質のイオン半径及び電子構造の変化に起因して観察された、単位格子パラメータの変化を示している。変更されたイオン半径は、単位格子サイズの変更及び結晶構造の局所的な歪みにより、電気化学的性能に有益な変化をもたらす可能性があり、利用可能なリチウム化部位またはリチウム化経路を変更し、容量、高レートでの性能、及び寿命を改善する可能性がある。例えば、6配位Ga3+カチオンのイオン半径は、0.62Åであるのに対して、6配位Al3+カチオンのイオン半径は、0.54Åである。これらの効果は、表F3において、サンプルF1と比較して、改変されたサンプルに関して、C/10及び5Cでの改善されたより低い脱リチウム化電圧によって示される。さらに、表F4は、5C以上のレートでの容量維持率の改善、より高い10Cのレートでのより大きな改善、すなわち、高速充電/放電用に設計された高出力Liイオンセルで使用するために本発明に従って改変された混合ニオブ酸化物の有用性を実証する上で重要な結果を示す。Liイオンセルで使用するための、この物質に関する本記載のカチオン交換アプローチにより、同様の利点が観察されることが予想される。
【0242】
該混合ニオブ酸化物を、Fアニオンの導入によって改変し、サンプルF4が得られている。カチオン交換と同様に、この交換は、O2-アニオン部位で起こる可能性があり、その場合、原子価の増加により、該物質の電子伝導率が増加し得る。これは、当該結晶構造内の格子間位置で起こる可能性もある。どちらの場合も、これにより、アニオンのイオン半径及び原子価が異なることに起因して、異なる単位格子サイズ及びそれに関連する結晶学的歪みが生じる可能性もあり、カチオン交換と同様の潜在的利点がもたらされる。Liイオンセルで使用するための本記載のMNO構造のいずれかとともに、異なる電気陰性度及び原子価のアニオンを使用して、同様の利点が観察されることが予想される。
【0243】
該混合ニオブ酸化物を、不活性または還元性雰囲気での熱処理による誘起された酸素欠損によって改変し、サンプルF3が得られている。これらの物質を不活性または還元性雰囲気中、高温で処理することにより、それが部分的に還元され、室温に戻して空気雰囲気に曝露された後もこれが維持され得る。これは、表F4において、特に5C以上でサンプルF1と比較してさらに改善された容量維持率、及びさらに改善されたセル抵抗を有するサンプルF3に反映されている。
【0244】
誘起された酸素欠損は、結晶構造における欠陥であり、例えば、酸素アニオンが除去され、次にカチオンの全体的な酸化還元状態が還元される。これにより、物質の電気伝導性を大幅に改善するさらなるエネルギー状態が得られ、バンドギャップエネルギーが変化する。誘起された酸素欠損が5原子%を超えて存在する場合(すなわち、c>1.45)、結晶構造の安定性が低下する可能性がある。
【0245】
本記載の限定内で、Liイオンセルで使用するためのM4、M5、Q、a、b、c、及びdの任意の組み合わせを使用する本記載のMNO構造のいずれかにおいて、同様の利点が観察されることが予想される。
【0246】
式3に関連する参考例
ベースのリンニオブ酸化物物質を、固相経路により合成した。最初のステップで、前駆体物質(Nb、NHPO、TiO、MoO、HBO、Al、ZrO、GeO、Ga、Cr)を、化学量論比で混合し(合計350g)、550rpmにて、ボール対粉末比10:1で3時間、ボールミルに供した。得られた粉末を、マッフル炉内のアルミナ製るつぼで、空気中、T1a=250~600℃にて1~12時間、続いてT1b=800~1350℃で4~24時間熱処理し、所望のWadsley-Roth相を得た。場合によっては、さらなる熱処理ステップも、N雰囲気下、T=800~1350℃にて1~12時間適用し、このベース結晶構造に誘起された酸素欠損(酸素空孔)をもたらした。アニオンを含めるため、前駆体をさらにミリング/混合するステップ(Nに関しては、NHHCOを1:3の質量比、Fに関しては、PVDFを1:10の質量比)を行った後、Nに関してはN雰囲気、及びFに関しては空気雰囲気で、T=400~1200℃にて1~24時間熱処理した。
【0247】
必要に応じて、衝撃ミリングまたはジェットミリングによる最終的なデアグロメレーションステップを利用して、所望の粒度分布に調整した。具体的には、物質を、20,000RPMで10秒間の衝撃ミリングによってデアグロメレートした。
【表11-1】
【表11-2】
【0248】
物質の特性評価
サンプルの相純度を、Rigaku Miniflex粉末X線回折計を用いて、2θの範囲(20~70°)で走査速度1°/分にて分析した。
【0249】
図G1は、サンプルG1~G9について測定されたXRD回折パターンを示す。図G2は、サンプルG10~G17について測定されたXRD回折パターンを示す。回折パターンは同じ位置にピークを有し(ドーピングによる多少のシフトを最大で約0.2°含む)、PNb25に対応するICDD結晶学データベースエントリJCPDS 81-1304と一致する。非晶質のバックグラウンドノイズはなく、ピークは鋭く強い。これは、すべてのサンプルが相純粋かつ結晶質であり、シェラーの式による結晶子サイズが30~60nmであり、結晶構造がPNb25に一致することを意味する。これにより、Wadsley-Roth結晶構造の存在が確認される。
【表12】
【0250】
一部のサンプルについては、Perkin Elmer Pyris 1システムを用いて、空気雰囲気中で熱重量分析(TGA)を実施した。サンプルを5℃/分で30℃から900℃に加熱し、900℃で30分間、20mL/分の空気を流して保持した。TGAをサンプルG2、及びG7に対して行い、酸化における質量変化を定量した。測定された質量増加は、存在する誘起された酸素欠損の程度に相当すると仮定した。
【表13】
【0251】
粒度分布は、Horiba乾燥粉末用レーザー回折式粒子分析器で取得した。空気圧を0.3MPaに保った。これらの結果を表G1に示す。
【0252】
電気化学的特性評価
分析用のハーフコインセル(CR2032サイズ)で電気化学的試験を行った。ハーフコイン試験では、活物質をLi金属電極に対する電極で試験して、その基礎性能を評価する。以下の参考例では、被験活物質組成物を、N-メチルピロリドン(NMP)、導電性添加剤として作用するカーボンブラック、及びポリ(二フッ化ビニル)(PVDF)結合剤と合わせ、実験室規模の遠心式プラネタリーミキサーを使用して混合して、スラリーを形成した。これらのスラリーの非NMP組成は、90重量%の活物質、6重量%の導電性添加剤、4重量%の結合剤であった。このスラリーをドクターブレードコーティングによりAl箔集電体に所望の負荷である70gm-2になるまで塗布し乾燥させた。次に、これらの電極を80℃で2.6~3.2gcm-3の密度にカレンダー加工して、目標の空隙率35~40%を達成した。電極を所望の大きさに打ち抜き、スチール製のコインセルケーシング内で、セパレータ(Celgard多孔質PP/PE)、Li金属、及び電解液(1.3MのLiPFを含むEC/DEC)と合わせ、加圧下で密封した。その後、23℃で、低電流レートにて(C/10)、サイクルをサンプルG1~G9については1.0~2.5V、及びサンプルG10~G17については1.0~3.0Vでリチウム化及び脱リチウム化の2回のフルサイクルで実行した。その後、電流密度を上げてこれらのセルの性能を調べた。レート試験中、低速充電(リチウム化、C/5)を行った後、放電特性試験では放電レートを増加させ(脱リチウム化、例えば、1C、その後2C、その後5C、その後10C)、セルを23℃で非対称にサイクルさせた(例えば、容量維持率の測定)。公称電圧vs Li/Liは、脱リチウム化の間の5Cでの総容量で割ったV/Q曲線の積分から計算している。サンプルG10~G17は、少なくとも三連で評価し、誤差を標準偏差として示している。
【0253】
電極組成物の電気抵抗率を、Ossila機器を使用した4点プローブ法によって評価した。すべてのサンプルについて、絶縁マイラーシート上に、電極組成物を質量負荷70gcm-2に調製し、カレンダー加工して空隙率35~40%にした。次に、シート抵抗を、23℃の一定温度で、直径15mmのディスクで、Ω/スクエアの単位で測定した。
【0254】
また、CuとAlの両集電体箔上の、均質で平滑な目に見える欠陥も凝集物もない皮膜を選択されたサンプルについて、上記の通りに、遠心式プラネタリーミキサーで、最大94重量%の活物質、4重量%の導電性添加剤、2重量%の結合剤の組成に調製した。これらは、PVDF及びCMC:SBRベースの両結合剤系で調製されている。これらの被膜は、PVDFについては80℃にて、CMC:SBRについては50℃にてカレンダー加工し、1.0~3.5mAhcm-2の負荷にて空隙率35~40%にした。これは、高エネルギー及び高出力の両用途で商業的に注目されている電極にこれらの物質が通用することの重要な実証である。
【表14】
【表15】
【表16】
【0255】
参考例3A-サンプルG1及びG3
比較サンプルG1は、サンプルG3において、全体的な原子価を維持してP5+カチオンによるカチオン置換を介して改変されている(すなわち、a>0の等原子価M6置換)。原子価が維持されるため、PNb25活物質への影響は、使用されるカチオンのイオン半径の差の結果としての単位格子サイズの変更及び結晶構造の局所的な歪みに起因する。例えば、4配位P5+カチオンのイオン半径は、0.17Åであるのに対して、4配位Ti4+カチオンのイオン半径は0.42Åである。これは、Liイオン部位の利用可能性を、様々な空洞サイズ(この場合は、おそらくは特にタイプVIの空洞)によって変更することによる電気化学的性能の改善、及びその結果として生じる電気化学的特性、例えば、比容量の改善、またはクーロン効率の改善を可逆的リチウム化に対するエネルギー障壁の抑制によって生じさせる可能性がある。これはまた、結晶特性の変化による電気伝導性の改善、及びLiイオンの拡散の改善による電気化学的なインピーダンス/分極の低減をもたらし得る。
【0256】
5+カチオンを、代替的な電気化学的に活性なカチオン、例えば、Ti4+またはMo6+と交換することもまた、例えば、公称電圧vs Li/Liを低下させ、フルセルのエネルギー密度を増大させることによって、またはより効率的かつ可逆的な酸化還元プロセスを介して容量及びクーロン効率を改善することによって、該物質の酸化還元特性を調整する上で役立ち得る。
【0257】
表G2は、サンプルG1とG3との間で単位格子パラメータに生じた変化を示す。特に、a及びbパラメータが0.0075Å増加する変化があり、cパラメータが0.0030Åのわずかな低下を示した。これは、イオン半径が大きい物質での等原子価置換により、a及びb方向の格子の膨張が引き起こされ得ることを実証している。これは、表G4に示す電気抵抗のわずかな改善にも及び、サンプルG1からサンプルG3では18Ω/スクエア減少する。電気化学的性能は、表G5及び表G6において大幅な改善を示し、比容量が改善され、2回目のサイクルのクーロン効率が改善され、高電圧での分極(5Cでの公称電圧で表される)が減少する。さらに、10Cの高レートで、及びおそらくは、これを超えて20C以上、または50C以上、または100C以上のレートで、比容量維持率が改善される。
【0258】
Liイオンセルで使用するための本記載のM6ドーパントにより、同様の利点が観察されることが予想される。
【0259】
参考例3B-サンプルG1、G4、及びG5
比較サンプルG1は、サンプルG4及びG5において、全体的な原子価を維持してNb5+カチオンによるカチオン置換を介して改変されている(すなわち、b>0の等原子価M7置換)。単位格子サイズ、電気的、及び電気化学的特性の変更の結果として、参考例3Aにおけるものと同様の利点を観察することができる。具体的には、サンプルG4及びG5は、表G4において、サンプルG1に対して電気抵抗の改善、及び表G6において、10Cの高レートで、及びおそらくは、これを超えて20C以上、または50C以上、または100C以上のレートで、比容量維持率の改善を示す。
【0260】
Liイオンセルで使用するための本記載のM7ドーパントにより、同様の利点が観察されることが予想される。
【0261】
参考例3C-サンプルG1、G6、G9、及びG11~G17
比較サンプルG1は、サンプルG6、G9、及びG11~G17において、全体的な原子価を維持せずにカチオン置換を介して改変されている。例えば、サンプルG6及びG9では、より低い原子価のカチオンが使用されており、サンプルG6の場合はその他が使用されている。参考例3A及び3Bに記載の通り、置換によってイオン半径を変化させることによる利点が維持される。サンプルG6及びG9については、より低い原子価により、結晶構造の変化及び電子構造の変化がもたらされる。置換が同じカチオン部位で起こる場合、例えば、P5+がAl3+を直接置換する場合、電荷バランスされた構造を維持するためにその物質のO含有量は比例的に減少する(すなわち、ベースのPNb25構造に対する酸素欠損)。これにより、その構造に欠陥及びさらなる電荷キャリア(すなわち、電子ホール)が創出され、電気伝導性が向上する。これはまた、Oアニオン及び周囲のP/Nbカチオンとの配位が変化することに起因して、結晶の歪みを誘起する可能性があり、記載のイオン半径の変更と同様の方法で、さらに電気的及び電気化学的性能を改善する。
【0262】
これは表G2で観察され、ここでは、単位格子パラメータは、a及びbパラメータの減少を示し、また、cパラメータの減少も示し、全体として、軽微な結晶構造の収縮を示している。電気抵抗測定値は、表G4において改善を示し、シート抵抗においてサンプルG1に対する大きな低下が観察された。電気化学的測定はさらに、表G5及び表G6において、サンプルG6及びG9の両方に関して、比容量、2回目のサイクルのクーロン効率、分極、及び高レートでの容量維持率において利点を示している。
【0263】
サンプルG11~G17は、P5+のM6による、またはNb5+のM7による、全体的な原子価を維持しないさらなる置換を示す。サンプルG11~G17の各々は、比較サンプルG1(表G6)と比較して、高レートでの容量維持率を大幅に改善した。
【0264】
Liイオンセルで使用するためのP5+またはNb5+に対して低いまたは高い原子価のカチオンまたはアニオン交換により、同様の利点が観察されることが予想される。
【0265】
参考例3D-サンプルG1、G2、G6、及びG7
比較サンプルG1及びサンプルG6を、不活性または還元性雰囲気中での熱処理による、誘起された酸素空孔欠陥(酸素欠損参照)の導入を介して改変し、サンプルG2及びG7が得られている。これらの物質を不活性または還元性雰囲気中、高温で処理することにより、それが部分的に還元され、室温に戻して空気雰囲気に曝露された後もこれが維持され得る。これには明らかな色の変化が伴い、例えば、サンプルG2は薄青色であるのに対し、サンプルG1では白である。この色の変化は、バンドギャップの減少に起因して、その物質が異なるエネルギー(すなわち、波長)の可視光と相互作用することを可能にするその物質の電子構造の大幅な変化を示す。
【0266】
誘起された酸素空孔は、具体的には、酸素アニオンが除去された結晶構造の欠陥である。これにより、物質の電気伝導性を大幅に改善する過剰の電子がもたらされ、色の変化によって示されるようにバンドギャップエネルギーが変化する。誘起された酸素空孔が5原子%を超えて存在する場合(すなわち、c>1.25)、安定性の低下により、結晶構造が崩壊する。これらの誘起された酸素空孔は、サンプルG7に示されるように、サブバレントのカチオン交換の使用によって引き起こされる酸素欠損に加えて存在し得る。酸素欠損の証拠は、温度上昇後の質量の増加を示す空気中でのTGA分析によってここで提供される。これは、酸化することによりサンプルG1及びG6に類似した構造が再びもたらされることから、存在する酸素欠損の程度に対応すると仮定されている。酸素欠損を定量化するために、上記のように他の多くの技術も使用され得る。
【0267】
表G2は、サンプルG2及びG7において酸素空孔を誘起した後に起こる単位格子パラメータの変化を示す。電気抵抗測定値は、表G4において、サンプルG1と比較してサンプルG2で改善を示す。サンプルG6は、そのP5+のAl3+によるサブバレント置換に起因して既に酸素欠損しているため、サンプルG6とG7の間で同様のシート抵抗が観察された。電気化学的測定はさらに、表G5及び表G6において、サンプルG7に関してG6に対して、比容量、最初及び2回目のサイクルのクーロン効率、分極、及び高レートでの容量維持率において大きな利点を示している。
【0268】
Liイオンセルで使用するための誘起された酸素欠損を有する本記載のPNO構造のいずれかにより、同様の利点が観察されることが予想される。
【0269】
参考例3E-サンプルG1、G5、G8、及びG10
サンプルG5を、N3-アニオンの導入(窒化参照)により改変し、サンプルG8が得られている。これは、固相合成経路によって行ったが、高温NHガスを利用した気体経路で、または含N物質を溶存させた溶媒を使用し、その後蒸発させ、続いて高温熱処理することによって同様に行うことができる。サンプルG8は、オフホワイト/淡黄色のサンプルG5と比較して褐色であり、参考例3Dと同様の活物質の電子構造の変化を示している。
【0270】
参考例3A~3Cと同様に、この交換は、O2-アニオン部位で起こる可能性があり、その場合、原子価の増加により、該物質の電子伝導率が増加し得る。これは、当該結晶構造内の格子間位置で起こる可能性もある。どちらの場合も、これにより、アニオンのイオン半径及び原子価が異なることに起因して、異なる単位格子サイズ及びそれに関連する結晶学的歪みが生じる可能性もあり、参考例3A~3Dと同様の潜在的利点がもたらされる。
【0271】
表G2は、サンプルG5と比較したサンプルG8に関するN3-アニオンの導入後に起こる単位格子パラメータの変化を示しており、a及びbパラメータが大きく減少し、cパラメータがわずかに増加しており、その結晶構造へのN3-の導入の証拠がもたらされる。電気化学的測定は、サンプルG8に関してG5に対して、高レートでの容量維持率の改善を示している(表G6)。リファレンスサンプルG1と比較すると、サンプルG8は高レートでの容量維持率が大幅に改善されている。
【0272】
比較サンプルG1を、Fアニオンを導入するように改変し、サンプルG10が得られている。電気化学的測定は、サンプルG10に関してG1に対して、高レートでの容量維持率の大幅な改善を示している(表G6)。
【0273】
Liイオンセルで使用するための異なる電気陰性度及び原子価のアニオンを本記載のPNO構造のいずれかとともに使用して、同様の利点が観察されることが予想される。
【0274】
考察
比較サンプルG1はまた、複数のタイプのカチオン/アニオン置換、または誘起された酸素欠損で改変され得る(すなわち、a>0及びb>0、またはa>0、d>0、またはa>0、b>0、c>0等)。サンプルG6は、a>0及びb>0を有することの効果を示し、サンプルG7は、a>0、b>0、及びc>0を有することの効果を示す。さらにd>0を有する物質は、その活物質にさらなる性能上の利点をもたらすことが予想される。複数のタイプの改変を示すこれらの物質に対して、参考例3A~3Eについて記載の改善が予想される。
【0275】
表G2は、これらの物質に行われた変更を反映する単位格子パラメータの変化を示す。表G4に示すように、サンプルG6及びG7は両方とも、サンプルG1に対して電気抵抗の大幅な改善を示す。電気化学的測定はさらに、表G5及び表G6において、サンプルG6及びG7の両方に関して、1に対して、比容量、2回目のサイクルのクーロン効率、分極(サンプルG7に関して)、及び高レートでの容量維持率において大きな利点を示している。
【0276】
結晶構造に無秩序度の増加を導入することによって(エントロピー参照)、可逆的リチウム化への大きなエネルギー障壁を軽減すること、及び部分的にリチウム化された結晶内のLiイオンの秩序化を防ぐことにより、可逆的リチウム化プロセスを支援することができる。これはまた、Liイオンのインターカレーションのためのエネルギー状態に広がりを創出することとしても定義することができ、これは、好ましくないリチウムの秩序化及びエントロピーエネルギー障壁を防ぐ。
【0277】
本記載の限定内で、Liイオンセルで使用するためのM6、M7、Q、a、b、c、及びdの任意の組み合わせを使用する本記載のPNO構造のいずれかにおいて、同様の利点が観察されることが予想される。
【0278】
式4に関連する参考例
以下の参考例は、未改変の「ベース」MoNb1233及びWNb1233の特性の改善を示す。これは、NbをM10で置換すること、及び/またはQをOで置換すること、任意にさらにM9をM8で置換すること、及び/または誘起された酸素欠損により達成される。本発明に従って、改変された混合ニオブ酸化物をニオブ酸化物と組み合わせた場合に同じ改善がみられることが予想される。
【0279】
これらの混合ニオブ酸化物を、固相経路によって合成した。最初のステップで、前駆体物質(Nb、NHPO、MoO、Al、WO、ZrO、ZnO)を、化学量論比で混合し(合計50g)、350rpmにて、ボール対粉末比10:1で1時間、ボールミルに供した。得られた粉末を、マッフル炉内のアルミナ製るつぼで、空気中、T1a=250~900℃にて1~12時間、続いてT1b=700~1350℃で2~16時間熱処理し、所望のWadsley-Roth相を得た。場合によっては、さらなる熱処理ステップも、N雰囲気下、T=800~1350℃にて1~12時間適用した。アニオンを含めるため、前駆体をさらにミリング/混合するステップ(親物質に対して、Nに関しては、Cを1:3の質量比で、Fに関しては、PVDFを1:10の質量比で)を行った後、Nまたは空気雰囲気で、T=300~1200℃にて1~24時間熱処理した。
【0280】
必要に応じて、衝撃ミリングまたはジェットミリングによる最終的なデアグロメレーションステップを利用して、所望の粒度分布に調整した。具体的には、物質を、20,000RPMで10秒間の衝撃ミリングによってデアグロメレートした。
【表17】
【0281】
物質の特性評価
サンプルの相純度を、Rigaku Miniflex粉末X線回折計を用いて、2θの範囲(10~70°)で走査速度1°/分にて分析した。
【0282】
図H1は、サンプルH1、H2、H5、H10、H13、H14、H17について測定されたXRD回折パターンを示す。回折パターンは同じ位置にピークを有し(結晶の改変による多少のシフトを最大で約0.2°含む)、ICDD結晶学データベースエントリJCPDSと一致し、これは、JCPDS 73-1322に対応する。非晶質のバックグラウンドノイズはなく、ピークは鋭く強い。これは、すべてのサンプルが結晶質であり、シェラーの式による結晶子サイズが35~42nmであり、結晶構造がMoNb1233または同形のWNb1233に一致することを意味する。これにより、Wadsley-Roth結晶構造の存在が確認される。
【表18】
【0283】
粒度分布は、Horiba乾燥粉末用レーザー回折式粒子分析器で取得した。空気圧を0.3MPaに保った。これらの結果を表H1に示す。
【0284】
共焦点ラマン分光法を選択されたサンプルで実施した。レーザー励起532nm、減衰10%及び倍率50をHoriba Xplora Plusラマン顕微鏡で使用し、サンプルを10MPaの圧力で加圧してペレットにし、スライドガラスに配した。スペクトルを、スキャンごとに平均して15秒の収集時間、3回の繰り返し、及び3つの異なるサンプル位置でスペクトル範囲0~2500cm-1で記録した。Nb種を含む構造に特有のピークは、500~700cm-1の領域に見ることができ、コーナーを共有する八面体単位により長いNb-O結合に関連するピークが760~770cm-1、O=Nb-Oに関連する歪んだ八面体種に関連するピークが890~900cm-1、及びエッジを共有する八面体等のより短いNb-O結合に関連するピークが1000cm-1に見ることができる。注目すべきことに、サンプルH2**は、約650cm-1にピークを含み、これは、サンプルH13、H15、H16、及びH17には存在しない。これは、物質中のNb-O結合の変化の証拠であり、誘起された酸素空孔及び/またはNもしくはFによるOの置換によって引き起こされる結晶構造の改変の証拠を提供すると考えられる。
【0285】
電気化学的特性評価
分析用のハーフコインセル(CR2032サイズ)で電気化学的試験を行った。ハーフコイン試験では、活物質をLi金属電極に対する電極で試験して、その基礎性能を評価する。以下の参考例では、被験活物質組成物を、N-メチルピロリドン(NMP)、導電性添加剤として作用するカーボンブラック(Super P)、及びポリ(二フッ化ビニル)(PVDF)結合剤と合わせ、実験室規模の遠心式プラネタリーミキサーを使用して混合して、スラリーを形成した。これらのスラリーの非NMP組成は、92重量%の活物質、3重量%の導電性添加剤、5重量%の結合剤であった。このスラリーをドクターブレードコーティングによりAl箔集電体に所望の負荷である69~75gm-2になるまで塗布し、加熱乾燥させた。次に、これらの電極を80℃で2.6~3.2gcm-3の密度にカレンダー加工して、目標の空隙率35~40%を達成した。電極を所望の大きさに打ち抜き、スチール製のコインセルケーシング内で、セパレータ(Celgard多孔質PP/PE)、Li金属、及び電解液(1.3MのLiPFを含むEC/DEC)と合わせ、加圧下で密封した。その後、23℃で、低電流レートにて(C/10)、サイクルを1.1~3.0Vでリチウム化及び脱リチウム化の2回のフルサイクルで実行した。その後、電流密度を上げてこれらのセルの性能を調べた。これらの試験中、低速リチウム化(C/5)を行った後、脱リチウム化レートを増加させて(例えば、5C)、セルを23℃で非対称にサイクルさせ、5Cでの公称電圧を得た。公称電圧vs Li/Li+は、脱リチウム化の間の5Cでの総容量で割ったV/Q曲線の積分から計算している。定電圧ステップは使用しなかった。データは、同じ電極組成物から調製された5つのセルから平均されており、誤差は標準偏差から示されている。したがって、これらのデータは、従来の物質と比較して、改変された混合ニオブ酸化物によって達成された改善を示すロバストな試験を表す。
【0286】
電極組成物の電気抵抗率を、Ossila機器を使用した4点プローブ法によって個別に評価した。すべてのサンプルについて、絶縁マイラーシート上に、電極組成物を質量負荷69~75gcm-2に調製し、カレンダー加工して空隙率35~40%にした。次に、シート抵抗を、23℃の一定温度で、直径14mmのディスクで、Ω/スクエアの単位で測定した。
【0287】
また、CuとAlの両集電体箔上の、均質で平滑な目に見える欠陥も凝集物もない皮膜をこれらのサンプルについて、上記の通りに、遠心式プラネタリーミキサーで、最大94重量%の活物質、4重量%の導電性添加剤、2重量%の結合剤の組成に調製してもよい。これらは、PVDF(すなわち、NMPベース)及びCMC:SBRベース(すなわち、水性)の両結合剤系で調製することができる。これらの被膜は、PVDFについては80℃にて、CMC:SBRについては50℃にてカレンダー加工し、1.0~5.0mAhcm-2の負荷にて空隙率35~40%にすることができる。これは、活物質含有量が高く、高エネルギー及び高出力の両用途でこれらの物質の実行可能性を実証するために重要である。
【表19】
【表20】
【0288】
参考例4A-カチオン交換
サンプルH3~H9では、NbO八面体の3x4ブロック内のNb5+カチオンに焦点を当て、混合ニオブ酸化物をカチオン置換アプローチによって改変している。サンプルH3~H6の場合、交換は、原子価が減少したカチオンで行われている。サンプルH7~H8は原子価の増加を示し、サンプルH9は等原子価交換を示す。これは、(a)変更されたイオン半径、(b)変更された原子価、及び(c)変更された電圧の組み合わせによって、サンプルH1のベースの結晶構造に対して利点をもたらすと予想される。変更されたイオン半径は、単位格子サイズの変更及び結晶構造の局所的な歪みにより、電気化学的性能に有益な変化をもたらす可能性があり、利用可能なリチウム化部位またはリチウム化経路を変更し、クーロン効率、容量、高レートでの性能、及び寿命を改善する可能性がある。例えば、サンプルH5では、6配位Nb5+カチオンのイオン半径が0.64Åであるのに対し、6配位Al3+カチオンのイオン半径は0.54Åである。カチオン交換は、表H3に示されるように、未改変のサンプルHと比較して、該物質の電気伝導性を大幅に改善し、これは、電荷キャリアに利用可能な中間エネルギーレベルを与えることに起因すると考えられる。これはさらに、セル内の分極が低いことに起因して、高充電レート及び放電レートでの性能の向上、及び高レートでの公称電圧の低下をもたらすと考えられる。同じカチオン位置で置換が行われる場合、電荷バランスされた構造を維持するためにその物質のO含有量は比例的に減少する(すなわち、ベースのMoNb1233構造に対する酸素欠損)。異なる電気化学的酸化還元電位を有するカチオンを導入することで電圧をさらに修正することができ、より低い公称電圧を与える物質の設計が可能になる。
【0289】
表H2は、カチオン交換後に観察された、すなわち、これらの物質のイオン半径及び電子構造の変化に起因して観察された、単位格子パラメータの変化を示している。
【0290】
Liイオンセルで使用するための、この物質に関する本記載のカチオン交換アプローチにより、同様の利点が観察されることが予想される。
【0291】
参考例4B-アニオン交換
該混合ニオブ酸化物を、N3-アニオンの導入(窒化参照)によって改変し、サンプルH10が得られている。これは、固相合成経路によって行ったが、高温NHガスを利用した気体経路で、または含N物質を溶存させた溶媒を使用し、その後蒸発させ、続いて高温熱処理することによって同様に行うことができる。サンプルH10は、オフホワイトのサンプルH2**と比較して灰色/青であり、参考例4Aと同様の活物質の電子構造の変化を示している。
【0292】
カチオン交換した参考例4Aと同様に、この交換は、O2-アニオン部位で起こる可能性があり、その場合、原子価の増加により、該物質の電子伝導率が増加し得る。これは、当該結晶構造内の格子間位置で起こる可能性もある。どちらの場合も、これにより、アニオンのイオン半径及び原子価が異なることに起因して、異なる単位格子サイズ及びそれに関連する結晶学的歪みが生じる可能性もあり、参考例4Aと同様の潜在的利点がもたらされる。
【0293】
同様に、Fアニオンの導入によって混合ニオブ酸化物を改変し、サンプルH12及びH13を得ることができ、リファレンスサンプルH1及びH2に対してクーロン効率における利点がもたらされる。
【0294】
表H2は、N3-アニオンまたはFアニオンの導入後に起こる単位格子パラメータの変化を示し、結晶構造内のアニオンの組み込みのさらなる証拠を提供している。
【0295】
図H2はさらに、ラマンスペクトルにおいて、500~700cm-1でのNb-O結合に対応する特有のピークの変化によって、NまたはFの取り込みの証拠を示している。
【0296】
Liイオンセルで使用するための、本記載のMNO構造のいずれかとともに、異なる電気陰性度及び原子価のアニオンを使用して、同様の利点が観察されることが予想される。
【0297】
参考例4C-誘起された酸素空孔欠陥
サンプルH5、H7、及びH10を、不活性または還元性雰囲気中での熱処理による、誘起された酸素空孔欠陥(酸素欠損参照)の導入を介して改変し、サンプルH14、H15、及びH17が得られている。これらの物質を不活性または還元性雰囲気中、高温で処理することにより、それらが部分的に還元され、室温に戻して空気雰囲気に曝露された後もこれが維持され得る。これには明らかな色の変化が伴い、例えば、サンプルH15は紫/青色であるのに対し、サンプルH7では白である。この色の変化は、バンドギャップの減少に起因して、その物質が異なるエネルギー(すなわち、波長)の可視光と相互作用することを可能にするその物質の電子構造の大幅な変化を示す。これは、5Cのレートでの公称電圧の低下を示したサンプルH14に反映されており、これは、セルの分極レベルの低下に対応する。
【0298】
誘起された酸素空孔は、具体的には、酸素アニオンが除去された結晶構造の欠陥であり、次にカチオンの全体的な酸化還元状態が還元される。これにより、物質の電気伝導性を大幅に改善するさらなるエネルギー状態が得られ、色の変化によって示されるようにバンドギャップエネルギーが変化する。誘起された酸素空孔が5原子%を超えて存在する場合(すなわち、c>1.65)、結晶構造の安定性が低下する可能性がある。これらの誘起された酸素空孔は、サンプルH14に示されるように、サブバレントのカチオン交換の使用によって引き起こされる酸素欠損に加えて存在し得る。
【0299】
酸素欠損の証拠は、参考例4Bと同様に、図H2のラマンスペクトルによってここに提供される。酸素欠損を定量化するために、上記のように他の多くの技術も使用され得る。
【0300】
Liイオンセルで使用するための、この物質に関する本記載の酸素空孔欠陥を誘起するアプローチにより、同様の利点が観察されることが予想される。
【0301】
考察
比較サンプルH1またはH2**はまた、複数のタイプのカチオン/アニオン置換、または誘起された酸素欠損で改変され得る(すなわち、a>0及びb>0、またはa>0、d>0、またはa>0、b>0、c>0等)。サンプルH3~H9は、a>0及びb>0を有することの効果を示し、サンプルH16は、a>0、b>0、及びc>0、及びd>0を有することの効果を示す。複数のタイプの改変を示すこれらの物質に対して、参考例4A~4Cについて記載の改善が予想される。
【0302】
表H2は、これらの物質に結晶レベルで行われた変更を反映する改変された物質に関する単位格子パラメータの変化を示す。表H3に示すように、すべてのサンプルは、サンプルH1に対して電気抵抗の大幅な改善を示す。電気化学的測定はさらに、表H4において見られるように、改変されたサンプルに関して、サンプルH1に対して、最初及び2回目のサイクルのクーロン効率、及び5Cの脱リチウム化レートでの公称電圧において大きな利点を示している。さらに、Nb部位及び/またはO部位に置換を含めてサンプルH2**を改変することによって、比容量が改善され、改変された物質を活電極物質として使用するための有用性を実証する重要な結果がもたらされる。
【0303】
結晶構造に無秩序度の増加を導入することによって(エントロピー参照)「ベース」物質を改変することは、可逆的リチウム化への大きなエネルギー障壁を軽減すること、及び部分的にリチウム化された結晶内のLiイオンの秩序化を防ぐことにより、可逆的リチウム化プロセスを支援することができる。これはまた、Liイオンのインターカレーションのためのエネルギー状態に広がりを創出することとしても定義することができ、これは、好ましくないリチウムの秩序化及びエントロピーエネルギー障壁を防ぐ。これは、dQ/dVを調べることまたはサイクリック・ボルタンメトリープロットから推測することができる。
【0304】
本記載の限定内で、Liイオンセルで使用するためのM8、M9、M10、Q、a、b、c、及びdの任意の組み合わせを使用する本記載のMNO構造のいずれかにおいて、同様の利点が観察されることが予想される。
【0305】
式4に関連するさらなる参考例
以下の参考例は、未改変の「ベース」MoNb1233及びWNb1233の特性の改善を示す。これは、M8をM9で置換すること、及び/または誘起された酸素欠損により達成される。本発明に従って、改変された混合ニオブ酸化物をニオブ酸化物と組み合わせた場合に同じ改善がみられることが予想される。
【0306】
以下の表I1に要約されるように、多くの異なる物質を調製し、特性評価した。これらのサンプルはいくつかのグループに大きく分けることができる。サンプルI1、I2、I3、I4、I5、I8、I9、I10、I11、及びI12は、MoNb1233(M6+Nb1233、各ブロックのコーナーに四面体を備えた3x4ブロックの八面体)に基づくWadsley-Roth相の同族に属する。これらのブロックは、NbO八面体間のエッジの共有、及びM6+四面体とNbO八面体との間のコーナーの共有によって、互いに連結している。サンプルI1はベースの結晶構造であり、サンプルI2~I4では1つまたは複数のカチオンを交換することにより混合金属カチオン構造に改変され、及び/またはサンプルI8、I9、I10、I11、及びI12では混合結晶配置(同形のWNb1233との混合)に改変される。サンプルR5のベース結晶及び混合金属カチオン構造I11には酸素欠損が創出される。サンプルI3は、サンプルI2で作製された結晶の噴霧乾燥及び炭素被覆型であり、サンプルI12は、サンプルI10で作製された結晶の噴霧乾燥及び炭素被覆型である。サンプルI6、I7、及びI13は、WNb1233(M6+Nb1233、各ブロックのコーナーに四面体を備えた3x4のNbO八面体ブロック)に基づくWadsley-Roth相の同族に属する。
【表21】
【0307】
物質合成
表I1に列記したサンプルを、固相経路を用いて合成した。最初のステップで、金属酸化物前駆体の市販の粉末(Nb、NbO、MoO、ZrO、TiO、WO、V、ZrO、KO、CoO、ZnO、及び/またはMgO)を、化学量論比で混合し、550rpmにて3時間、ジルコニアジャー及びミリング媒体中、ボール対粉末比10:1で、プラネタリーボールミルに供した。得られた粉末をその後静的マッフル炉内で空気中で加熱し、所望の結晶相を形成した。サンプルI1~I5及びI8~I12を900℃で12時間熱処理し、サンプルI6~I7を1200℃で12時間熱処理した。サンプルI3及びI12をさらに、炭水化物前駆体(例えば、スクロース、マルトデキストリン、または他の水溶性炭水化物)と混合し、イオン性界面活性剤とともに5、10、15、または20w/w%の濃度で水性スラリーに分散させ、実験室規模の噴霧乾燥機(入口温度220℃、出口温度95℃、サンプル導入速度500mL/時間)で噴霧乾燥した。得られた粉末を窒素中600℃で5時間熱分解した。サンプルI5及びI11をさらに窒素中900℃で4時間アニールした。
【0308】
サンプルI13を、上記のボールミル、及び必要に応じて20,000rpmでの衝撃式ミルにより、D90<20μmの粒度分布に調製し、マッフル炉等で空気中、1200℃にて12時間熱処理し、その後さらに窒素中1000℃で4時間アニールした。
【0309】
サンプルのXRD特性評価
いくつかのサンプルの相純度を、Rigaku Miniflex粉末X線回折計を用いて、2θの範囲(10~70°)で走査速度1°/分にて分析した。
【0310】
図I1は、比較試験Aに関連するサンプルI1、I4、I8、I2、I5、I9、I10、I11、I12について測定されたXRD回折パターンを示す。すべての回折パターンは同じ位置にピークを有し(0.1°の器差内)、JCPDS結晶学データベースエントリJCPDS 73-1322と一致する。非晶質のバックグラウンドノイズはなく、ピークは鋭く強い。これは、すべてのサンプルが相純粋かつ結晶質であり、シェラーの式による結晶子サイズが約200nmであり、結晶構造がMoNb1233に一致することを意味する。
【0311】
図I2は、サンプルI6及びI7について測定されたXRD回折パターンを示す。すべての回折パターンは同じ位置にピークを有し(0.1°の器差内)、JCPDS結晶学データベースエントリJCPDS 73-1322と一致する。非晶質のバックグラウンドノイズはなく、ピークは鋭く強い。これは、すべてのサンプルが相純粋かつ結晶質であり、シェラーの式による結晶子サイズが約200nmであり、結晶構造がWNb1233に一致することを意味する。
【0312】
酸素欠損の定性的評価
上で論じた通り、サンプルI5及びI11を900℃で12時間熱処理して活電極物質を形成し、次いでさらに後処理の熱処理ステップにて、窒素(還元性雰囲気)中900℃でアニールした。窒素中での後処理の熱処理後に、白から濃紫への色の変化が観察され、このサンプルの酸素欠損の結果として、この物質の酸化状態及びバンド構造の変化が示された。
【0313】
サンプルI13をさらに窒素中1000℃で4時間アニールした。サンプルI6は、I13でオフホワイトから薄青色に遷移する。
【0314】
サンプルの電気化学的試験
初期段階の分析用のハーフコインセル(CR2032サイズ)で電気化学的試験を行った。ハーフコイン試験では、物質をLi金属電極に対する電極で試験して、その基礎性能を評価する。以下の参考例では、被験活物質組成物を、N-メチルピロリドン(NMP)、導電性添加剤として作用するカーボンブラック、及びポリ(二フッ化ビニル)(PVDF)結合剤と合わせ、実験室規模の遠心式プラネタリーミキサーを使用して混合して、スラリーを形成した(NMPではなく水を使用して、水性スラリーを形成することも可能である)。これらのスラリーの非NMP組成は、80重量%の活物質、10重量%の導電性添加剤、10重量%の結合剤であった。このスラリーを次にドクターブレードコーティングによりAl箔集電体に所望の負荷である1mg/cmになるまで塗布し、真空オーブン内で12時間乾燥させた。電極を所望の大きさに打ち抜き、スチール製のコインセルケーシング内で、セパレータ(Celgard多孔質PP/PE)、Li金属、及び電解液(1MのLiPFを含むEC/DEC)と合わせ、加圧下で密封した。その後、低電流レートにて(C/20)、形成サイクルを2回のフル充電と放電のサイクルで実行した。形成後、必要に応じて固定または変化させた電流密度でさらなるサイクルを行うことができる。これらの試験は、今後の参照のために「ハーフセル定電流サイクリング」と呼んでいる。また、集電体箔上に均質で平滑な目に見える欠陥のない皮膜を、上記の通りに遠心式プラネタリーミキサーを使用して、94重量%の活物質、4重量%の導電性添加剤、2重量%の結合剤の組成に調製した。これらの被膜を、C/20で電圧範囲0.7~3.0Vにて可能体積容量>700mAh/cm、及びC/5で電圧範囲1.1~3.0Vにて>640mAh/cmを示すために、80℃にて1.3~1.7mAh/cmの負荷にて密度最大3.0g/cmまでカレンダー加工した。これは、カレンダー加工後に性能を高電極密度に維持することで、高体積容量が可能になる、商業的に注目されている電極の動力セル配合にこれらの物質が通用することの重要な実証である。1.0、1.5、2.0、2.5、または3.0mAh/cmを含むそれ以下の負荷は、電力性能を重視したLiイオンセルに有用である可能性があり、3.0、4.0、または5.0mAh/cmを超える負荷は、Liイオンセルにおいてエネルギーを重視した性能に有用である。これらの物質のカレンダー加工は、各電極成分のw/w%に調整された真の密度の平均値で割った電極密度の測定値として定義される電極多孔率値が35%に至るまで、通常は35~40%の範囲で実証された。式4に関連するさらなる参考例で得られたデータの一部は、参考例で得られたデータと同一の条件下で得られたものではない可能性がある。したがって、参考例及びさらなる参考例で得られた絶対値は、直接比較できない可能性がある。
【0315】
表I1に列記したサンプルで作製された電極の電気伝導性を、4点プローブ薄膜抵抗測定装置を使用して測定した。上記の手順に従ってスラリーを調合し、1mg/cmの負荷にて誘電性マイラーフィルム上に塗布した。その後、電極サイズのディスクを打ち抜き、4点プローブを用いてこの被覆フィルムの抵抗を測定した。バルク抵抗率は、測定した抵抗から次の式を用いて計算することができる。
(3)バルク抵抗率(ρ)=2πs(V/I);R=V/I、s=0.1cm
=2πx0.1xR(Ω)
【0316】
この試験の結果を以下の表I2に示す。
【表22】
【0317】
この試験の結果を以下の表I3に示す。
【表23】
【0318】
また、いくつかのサンプルについて、可逆比容量C/20、初期クーロン効率、C/20での公称リチウム化電圧vs Li/Li、5C/0.5C容量維持率、及び10C/0.5C容量維持率も調べ、これらの結果が以下の表I4に示されている。公称リチウム化電圧vs Li/Li+は、2回目のサイクルのC/20のリチウム化での総容量で割ったV/Q曲線の積分から計算している。10C及び5Cでの容量維持率は、10Cまたは5Cでの比容量を取得し、それを0.5Cでの比容量で割ることによって計算している。容量維持率については、リチウム化時と脱リチウム化時とでCレートが等しい、対称サイクル試験により調べたことに留意されたい。非対称サイクルプログラムによる試験では、89%を超える10C/0.5Cの容量維持率が通常観察される。
【表24】
【0319】
上記のMoNb1233及びWNb1233の改変により、カチオン置換の適用可能性が、Liイオンセルにおける活物質の性能を改善することが実証される。記載の通りに非Nbカチオンを置換して混合カチオン構造を形成することによって、エントロピー(無秩序参照)がその結晶構造において増加し、軽微な欠陥の導入を介してLiイオン拡散に対するポテンシャルエネルギー障壁を低減することができる(例えば、I10)。全体の酸化状態を維持したまま混合カチオン構造を創出することによる改変では、イオン半径を変更することによる改善の可能性を実証しており、例えば、サンプルI8におけるMo6+カチオンのW6+による置換により、結晶パラメータにおける軽微な変化及びLiイオンの空洞(例えば、Wadsley-Roth構造におけるタイプVIの空洞の可逆性の調整)が生じる可能性があり、これにより、比容量、Liイオンの拡散を改善すること、及びLiイオントラッピングの減少によるサイクルのクーロン効率を増加させることが可能である。酸化状態の増加をもたらす混合カチオン構造を創出することによる改変は、電気伝導性を支援するためのさらなる電子ホールを構造に導入することと組み合わせて、容量及び効率に関連するイオン半径の変更による同様の潜在的利点を実証することが予想される。酸化状態の減少をもたらす混合カチオン構造を創出することによる改変(例えば、サンプルI2におけるMo6+を置換するTi4+)は、電気伝導性を支援するための酸素空孔及びさらなる電子を構造に導入することと組み合わせて、容量及び効率に関連するイオン半径の変更による同様の潜在的利点を実証する。不活性または還元条件での高温処理から酸素欠損を誘起することによる改変は、電気伝導率が大幅に改善され(例えば、サンプルI5)かつ電気化学的特性、例えば、高Cレートでの容量維持率が改善された(例えば、サンプルI5)還元構造をもたらす、その構造からのごく一部の酸素の損失を実証する。混合カチオン構造と誘起された酸素欠損の組み合わせにより、複数の有益な効果(例えば、比容量の増加、電気抵抗の減少)を複合することができる(例えば、サンプルI11)。
【0320】
複合金属酸化物サンプルI10は、その未改変の結晶サンプルI1と比較して、比容量の改善を実証する。これは、複合体構造に含まれるカチオンが、イオン半径及び酸化状態が異なることによってLiイオンが適合し得る結晶内の部位の数を増加させ、それによって容量を増加させることに起因する。サンプルI1とI10の間でICEの増加が観察された。これはさらに、Liイオン部位がそれらのデインターカレーションを可能にするように改変されるにつれて、改変された結晶構造にインターカレートされたLiイオンが、より効率的に脱リチウム化され得ることを実証する。
【0321】
調べたすべての物質にわたって、各改変された物質は、未改変の「ベース」結晶構造に対して改善を示している。これは、2つの異なる方法による抵抗率/インピーダンスの測定、及び同様にリチウムイオンハーフコインセルで行った電気化学試験、特に、高電流密度(レート参照、表I4)での容量維持率から推測される。理論に拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、これが、欠陥が導入されるにつれて、または様々なイオン半径による結晶格子に対する変更によって、また、物質の改変後に抵抗またはインピーダンスの減少を示すためのDCIR/ASI(表I3)測定によっても証明された、物質のイオン及び電子伝導率が増加した結果であることを示唆する。Liイオンの拡散レートもまた、未改変の「ベース」物質と比較して、改変された物質において増加する可能性がある。異なるサイズの金属イオンによるドーピング/交換により、結晶格子を膨張または収縮させることができ、未改変の構造で可能であるよりも多くのLiイオンのインターカレーションまたは多くのインターカレーションの可逆性が可能になることから、表I4に示すように、場合によっては、比容量自体も増加する可能性がある。
【0322】
表I2のデータは、サンプルI1(比較)とサンプルI2、I4、I5、I8、I9、I10、I11、I12の間で抵抗率の大きな減少を示しており、カチオン交換、酸素欠損、及び炭素被覆のいずれもを通じて、結晶構造の電気伝導率を改善する改変の効果を実証する。
【0323】
表I3のデータは、表I2に示した傾向を反映して、サンプルI1(比較)からサンプルI2、I4、I8、I10、I11及びI12にかけて、DCIR/ASIが大きく減少することを示す。
【0324】
表I4では、ほとんどのサンプルにわたって、比較「ベース」物質(例えば、サンプルI1、I8)に対して、改変された物質で比容量、初期クーロン効率(ICE)、公称リチウム化電圧vs Li/Li、ならびに0.5Cに対する5C及び10Cでの容量維持率が改善される傾向がある。例えば、サンプルI2、I3、I4、I5、I8、I9、I10、I11、I12はすべて、サンプルI1に対してこれらのパラメータのうちの1つ以上の改善を示す。これは、ICE及び容量維持率が改善されたサンプルI6に対するI7の場合にも該当する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図E1
図E2
図F1
図F2
図G1
図G2
図H1
図H2
図I1
図I2
【国際調査報告】