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特表2025-505279車両のキャビンエアフィルタシステムの運転方法、フィルタ要素の使用、電子制御ユニット、及びキャビンエアフィルタシステム
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  • 特表-車両のキャビンエアフィルタシステムの運転方法、フィルタ要素の使用、電子制御ユニット、及びキャビンエアフィルタシステム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-21
(54)【発明の名称】車両のキャビンエアフィルタシステムの運転方法、フィルタ要素の使用、電子制御ユニット、及びキャビンエアフィルタシステム
(51)【国際特許分類】
   B60H 3/06 20060101AFI20250214BHJP
   B01D 46/44 20060101ALI20250214BHJP
   B60H 1/00 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
B60H3/06 D
B01D46/44
B60H1/00 103S
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024547882
(86)(22)【出願日】2023-02-08
(85)【翻訳文提出日】2024-08-14
(86)【国際出願番号】 EP2023053029
(87)【国際公開番号】W WO2023156260
(87)【国際公開日】2023-08-24
(31)【優先権主張番号】22157253.0
(32)【優先日】2022-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505229863
【氏名又は名称】マン ウント フンメル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】バウアー、ベルント
(72)【発明者】
【氏名】バオホ、マクシミリアン
(72)【発明者】
【氏名】プフルガー、フランク
【テーマコード(参考)】
3L211
4D058
【Fターム(参考)】
3L211BA09
3L211BA12
3L211DA75
3L211EA17
3L211EA26
3L211EA35
3L211EA59
3L211EA72
3L211FA56
3L211FA57
3L211GA04
3L211GA81
4D058KB11
4D058NA01
4D058NA02
4D058NA05
4D058SA20
(57)【要約】
エアフィルタ装置(20)を備えるキャビンエアフィルタシステム(12)の運転方法であって、該装置は、記憶手段(48)を有するフィルタ要素(42、44、46)を備え、本方法は、A)記憶手段から、フィルタ要素を特徴付ける情報を含むデータを取得するステップと、B)ステップA)で取得された情報によって識別された、濾過効率に関する情報を含むフィルタ要素の特性と、装置を通る空気流の大きさと、装置を通る空気流の新鮮空気と再循環空気の再循環比率と、車室内及び/又は車室外空気特性データと、車室内空気質の空気質情報とを関連付けたシステム情報を提供するステップと、C)現在の車室内及び/又は車室外空気特性データを取得するステップと、D)現在の空気流の大きさ、現在の再循環比率、及び空気特性データに対して、システム情報から、車室内の空気質を特徴付ける空気質情報を決定するステップと、を含む。

【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(10)のキャビンエアフィルタシステム(12)の運転方法であって、
前記キャビンエアフィルタシステム(12)は、車室(14)内に流入する、前記車室(14)の外部からの新鮮空気と内部からの再循環空気とからなる空気流(38)を濾過するためのエアフィルタ装置(20)を備え、
前記エアフィルタ装置(20)を通る前記空気流(38)の大きさは調整可能であり、
前記エアフィルタ装置(20)を通る前記空気流(38)の新鮮空気と再循環空気の比率は調整可能であり、
前記エアフィルタ装置(20)は、記憶手段(48)を有する少なくとも1つのフィルタ要素(42、44、46)を備え、前記方法は、
A)前記フィルタ要素(42、44、48)の前記記憶手段(48)から、前記フィルタ要素(42、44、48)を特徴付ける情報を含むデータを取得する(102)ステップと、
B)ステップA)で取得された前記情報によって識別された前記フィルタ要素(42、44、48)について、
前記フィルタ要素(42、44、48)の濾過効率に関する情報を含む、前記フィルタ要素(42、44、48)の少なくとも1つの特性と、
前記エアフィルタ装置(20)を通る前記空気流(38)の大きさと、
前記新鮮空気と再循環空気の再循環比率と、
前記車室(14)の内部及び/又は外部の空気特性を示す空気特性データと、
前記車室(14)内の空気質を特徴付ける空気質情報と、を関連付けたシステム情報を提供するステップと、
C)前記車室(14)の内部及び/又は外部の空気特性を示す現在の空気特性データを取得する(112)ステップと、
D)現在の前記空気流の大きさ、現在の前記新鮮空気と再循環空気の再循環比率、及び現在の前記空気特性データに対して、前記システム情報から、前記車室(14)内の空気質を特徴付ける空気質情報を決定する(116)ステップと、を含む方法。
【請求項2】
ステップB)において、前記システム情報は、前記記憶手段から取得される(110a)請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップB)において、前記システム情報は、前記キャビンエアフィルタシステム(12)の電子制御ユニットの内部記憶装置又は外部データベースから取得される(110b)請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記車室(14)内の空気質に関する情報、特に前記車室(14)内の空気質に関する情報と所定の目標値との比較結果を、前記車両(10)のユーザ(16、18)に通知するためのユーザインタフェースに出力する請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記車室(14)内の空気質に関する情報を、目標値、好ましくは汚染物質ごとに異なる目標値、特に異なるサイズ範囲の粒子及び/又は有害ガスごとに異なる目標値と比較する(120)請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記比較の結果に基づいて、前記新鮮空気と再循環空気の再循環比率を調整することをさらに含む請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記エアフィルタ装置(20)は、
前記新鮮空気及び/又は前記再循環空気を濾過するための少なくとも1つの基本フィルタ要素(42)と、
前記新鮮空気を濾過するための少なくとも1つのHEPAフィルタ要素(44)及び/又は周囲空気フィルタ要素(46)と、を備える請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記エアフィルタ装置(20)は、
前記新鮮空気及び/又は前記再循環空気を濾過するための少なくとも1つの基本フィルタ要素(42)と、
前記新鮮空気を濾過するための少なくとも1つのHEPAフィルタ要素(44)及び/又は周囲空気フィルタ要素(46)と、を備え、
前記比較の結果に応じて、外部からの新鮮空気流は、前記HEPAフィルタ要素(44)及び/又は前記周囲空気フィルタ要素(46)を通過又はバイパスする請求項5又は6に記載の方法。
【請求項9】
ステップC)において、前記空気特性データは、前記キャビンエアフィルタシステム(12)の少なくとも1つの空気特性センサ(56、58)から取得される請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ステップC)において、前記空気特性データは、環境汚染測定サービスから取得される請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記フィルタ要素(42、44、46)の前記少なくとも1つの特性は、
前記フィルタ要素(42、44、46)の濾材の効率曲線、
前記濾材の種類、
前記エアフィルタ装置(20)を通る前記空気流(38)の大きさに応じた前記フィルタ要素(42、44、46)の圧力損失、及び/又は、
前記フィルタ要素(42、44、46)の汚染物質蓄積容量、特に粉塵蓄積容量に関する情報をさらに含む請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記システム情報は、前記空気質情報を出力値とする多次元データ配列を含む請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記フィルタ要素(42、44、46)の残存寿命を求めることをさらに含む請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ステップB)において提供される前記システム情報は、前記空気質情報に車速をさらに関連付けており、前記車室(14)内の空気質に関する情報を決定するため、ステップD)において現在の車速が考慮される請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記車両(10)が始動されるたびにステップA)が繰り返され、少なくとも、繰り返されたステップA)で取得された前記情報が、前回のステップA)で取得された前記情報と異なる場合に、ステップB)が繰り返される請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
ステップA)の後、前記フィルタ要素(42、44、46)が前記キャビンエアフィルタシステム(12)に適しているか否かを確認し、特に、
前記フィルタ要素(42、44、46)が適している場合、ステップB)~D)を実行し、及び/又は、
前記フィルタ要素(42、44、46)が適していない場合、前記キャビンエアフィルタシステム(12)を緊急モードで運転し、及び/又は、前記フィルタ要素(42、44、46)が適していないことを前記車両(10)のユーザ(16、18)に通知する請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
車両(10)のキャビンエアフィルタシステム(12)用の電子制御ユニット(52)であって、
前記キャビンエアフィルタシステム(12)は、車室(14)内に流入する、前記車室(14)の外部からの新鮮空気と内部からの再循環空気とからなる空気流(38)を濾過するためのエアフィルタ装置(20)を備え、
前記エアフィルタ装置(20)を通る前記空気流(38)の大きさは調整可能であり、
前記エアフィルタ装置(20)を通る前記空気流(38)の新鮮空気と再循環空気の比率は調整可能であり、
前記エアフィルタ装置(20)は、記憶手段(48)を有する少なくとも1つのフィルタ要素(42、44、46)を備え、
前記電子制御ユニット(52)は、前記車室(14)の内部及び/又は外部の空気特性を示す現在の空気特性データを取得するように構成され、
前記電子制御ユニット(52)は、現在の前記空気流(38)の大きさ、現在の前記新鮮空気と再循環空気の再循環比率、及び現在の前記空気特性データに対して、システム情報から、前記車室(14)内の空気質に関する情報を決定するように構成され、前記システム情報は、
前記フィルタ要素(42、44、46)の濾過効率に関する情報を含む、前記フィルタ要素(42、44、46)の少なくとも1つの特性と、
前記エアフィルタ装置(20)を通る前記空気流(38)の大きさと、
前記新鮮空気と再循環空気の再循環比率と、
前記車室(14)の内部及び/又は外部の空気特性を示す空気特性データと、
前記車室(14)内の空気質を特徴付ける空気質情報と、を関連付けたものである電子制御ユニット(52)。
【請求項18】
前記電子制御ユニット(52)は、前記記憶手段(48)又は外部データベースから前記システム情報を取得するようにさらに構成される請求項17に記載の電子制御ユニット(52)。
【請求項19】
前記電子制御ユニット(52)は、前記システム情報を有する請求項18に記載の電子制御ユニット(52)。
【請求項20】
キャビンエアフィルタシステム(12)であって、
車両(10)の車室(14)内に流入する、前記車室(14)の外部からの新鮮空気と内部からの再循環空気とからなる空気流を濾過するエアフィルタ装置(20)と、
前記エアフィルタ装置(20)を通る前記空気流(38)の大きさを調整するための送風装置(40)と、
前記エアフィルタ装置(20)を通る前記空気流(38)の新鮮空気と再循環空気の比率を調整する流量比調整装置(32)と、
フィルタ要素(42、44、46)を特徴付ける情報を記憶する記憶手段(48)を有するフィルタ要素(42、44、46)と、
請求項17~19のいずれか一項に記載の電子制御ユニット(52)と、を備えるキャビンエアフィルタシステム(12)。
【請求項21】
前記記憶手段(48)用の読取装置(50)を備え、前記読取装置(50)は、前記エアフィルタ装置(20)内に設置された読取装置及び携帯可能な読取装置からなる群から選択される請求項20に記載のキャビンエアフィルタシステム(12)。
【請求項22】
請求項20又は21に記載の車両(10)のキャビンエアフィルタシステム(12)におけるフィルタ要素(42、44、46)の使用であって、
前記フィルタ要素(42、44、46)は記憶手段(48)を有し、前記記憶手段(48)は前記フィルタ要素(42、44、46)のシステム情報を含み、前記システム情報は、
前記フィルタ要素(42、44、46)の濾過効率に関する情報を含む、前記フィルタ要素(42、44、46)の少なくとも1つの特性と、
前記エアフィルタ装置(20)を通る前記空気流(38)の大きさと、
前記新鮮空気と再循環空気の再循環比率と、
前記車室(14)の内部及び/又は外部の空気特性を示す空気特性データと、
前記車室(14)内の空気質を特徴付ける空気質情報と、を関連付けたものであるフィルタ要素(42、44、46)の使用。
【請求項23】
前記フィルタ要素(42、44、46)の前記少なくとも1つの特性は、
前記フィルタ要素(42、44、46)の濾材の効率曲線、
前記濾材の種類、
前記エアフィルタ装置(20)を通る前記空気流(38)の大きさに応じた前記フィルタ要素(42、44、46)の圧力損失、及び/又は、
前記フィルタ要素(42、44、46)の汚染物質蓄積容量、特に粉塵蓄積容量に関する情報をさらに含む請求項22に記載のフィルタ要素(42、44、46)の使用。
【請求項24】
前記記憶手段(48)は、RFIDタグ、NFCタグ、又はグラフィックコード、特にバーコード又はQRコード(登録商標)である請求項22又は23に記載のフィルタ要素(42、44、46)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のキャビンエアフィルタシステムの運転方法であって、キャビンエアフィルタシステムは、車室内に流入する、車室の外部からの新鮮空気と内部からの再循環空気とからなる空気流を濾過するためのエアフィルタ装置を備え、エアフィルタ装置を通る空気流の大きさは調節可能であり、エアフィルタ装置を通る空気流の新鮮空気と再循環空気の比率は調節可能であるキャビンエアフィルタシステムの運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
このようなキャビンエアフィルタシステムは、国際公開第2018/224299号から知られている。国際公開第2018/224299号によるシステムは、3つのフィルタ要素を備え、その一部を選択的にバイパスさせることができる。さらに、新鮮空気と再循環空気の比率が調整可能である。
【0003】
一般的に、複数のフィルタ要素を使用することで、特に汚染度の高い環境において、車室内の空気質を大幅に向上させることができる。より多量の再循環空気を使用することで、車室内の空気質を高めることができる。さらに、特に汚染度の低い環境では、フィルタ要素の一部を選択的にバイパスさせることで、フィルタ要素の寿命を延ばすことができる。また、フィルタ要素の一部をバイパスさせることで、キャビンエアフィルタシステムのエネルギー消費を削減することができる。
【0004】
欧州特許出願公開第1985351号明細書から、フィルタハウジングと、フィルタフレーム及びフィルタ要素を有するフィルタインサートとを含むフィルタユニットを備えたエアフィルタ装置が知られている。フィルタ要素にはトランスポンダが設けられ、トランスポンダを読み取るための読取装置がフィルタユニット内又はフィルタユニットの外部に配置されている。データは、フィルタユニットの種類、性能データ、又は技術データに関するものであり得る。
国際公開第2018/031403号や独国実用新案第202015001147号明細書からは、RFIDリーダと、RFIDタグを有するエアフィルタとを備える同様のシステムが知られている。RFIDタグから取得される情報を用いて、エアフィルタの残存寿命を求めることができる。
【0005】
米国特許出願公開第2004/0065204号明細書には、人に有毒又は有害な可能性のある物質で作物を処理するための散布器具を牽引又は運搬するために使用される農業用トラクタの密閉された運転室の空気質監視装置について記載されている。汚染物質センサからの信号が制御装置に送られ、制御装置は、経時的に感知された運転室内の空気汚染度を、運転室の空気循環システムの通常時性能から予想される性能を表す性能マップの値と比較する。感知された汚染度が性能マップの値より高い場合、運転手に故障の警告が出される。空気循環システムの送風機は、運転室内を加圧するようにその回転数を上げることで、運転室のシールなどの小さな開口部から汚染空気が侵入するのを防ぐことができる。使用されるエアフィルタはコード化され、制御装置によって認識される。制御装置は、フィルタの使用時間を記録し、使用時間が特定のフィルタに関連して記憶された時間値を超えると、運転手に警告を発する。
【0006】
本発明の目的は、キャビンエアフィルタシステムの空気質に焦点を当てた動作を改善することである。
【0007】
これは、請求項1による車両のキャビンエアフィルタシステムの運転方法、請求項17による車両のキャビンエアフィルタシステム用の電子制御ユニット、請求項20によるキャビンエアフィルタシステム、請求項22によるフィルタ要素の使用によって達成される。有利な実施形態は、従属請求項及び明細書に記載される。
【発明の概要】
【0008】
本発明によれば、車両のキャビンエアフィルタシステムの運転方法が提供される。例えば、車両は乗用車、バン又はバスである。
【0009】
キャビンエアフィルタシステムは、車室内に流入する空気流を濾過するエアフィルタ装置を備える。エアフィルタ装置を通過する空気流は、車室の外部からの新鮮空気と内部からの再循環空気とから構成される。換言すると、車室の外部からの新鮮空気と内部からの再循環空気が、エアフィルタ装置で濾過され、車室内に吹き出される(戻される)。エアフィルタ装置は、少なくとも1つのエアフィルタ要素を備える。
【0010】
エアフィルタ装置を通る空気流の大きさは調整可能である。この目的のため、送風装置を採用することができる。空気流の大きさとは、エアフィルタ装置で濾過される新鮮空気と再循環空気の量を表し、時間当たりの体積又は質量として測定することができる。
【0011】
エアフィルタ装置を通る空気流の新鮮空気と再循環空気の比率は調整可能である。上述したように、エアフィルタ装置を通る空気流は新鮮空気と再循環空気で構成される。これら2つの構成要素の割合は、新鮮空気のみ、再循環空気のみ、又はその間の比率に調整することができる。新鮮空気と再循環空気の再循環比率の調整は、連続的に行うことができる。この目的のため、流量比調整装置を採用することができる。
【0012】
エアフィルタ装置は、少なくとも1つのフィルタ要素を備える。エアフィルタ装置を通る空気流は、粒子などの汚染物質を除去するために、フィルタ要素又は複数のフィルタ要素の少なくとも1つを通って導入される。フィルタ要素は記憶手段を有する。記憶手段は、フィルタ要素の濾材、エンドプレート、又はフレームに取り付けることができる。記憶手段には、フィルタ要素を特徴付ける情報を含むデータが格納されている。
【0013】
記憶手段は、RFIDタグ、NFCタグ、又はバーコードやQRコード(登録商標)のようなグラフィックコードであってもよい。キャビンエアフィルタシステムのフィルタハウジングは、記憶手段のための読取装置を備えていてもよい。
【0014】
本方法のステップA)では、フィルタ要素を特徴付ける情報を含むデータがフィルタ要素から取得される。この情報により、フィルタ要素の種類を特定することができる。この目的のため、情報は、特定の種類又は複数の類似した種類のフィルタ要素に対応する識別子を含んでもよい。情報は、シリアル番号を含んでもよい。
【0015】
本方法のステップB)では、ステップA)で取得された情報によって特定されるフィルタ要素について、
フィルタ要素の濾過効率に関する情報を含む、フィルタ要素の少なくとも1つの特性と、
エアフィルタ装置を通る空気流の大きさと、
新鮮空気と再循環空気の再循環比率と、
車室の内部及び/又は外部の空気特性を示す空気特性データと、
車室内の空気質を特徴付ける空気質情報と、を関連付けたシステム情報が提供される。
【0016】
システム情報は、実験及び/又はシミュレーションから得ることができる。システム情報は、汚染物質ごとに提供されてもよい。すなわち、異なるサイズ範囲の粒子及び/又は有害ガスなど、異なる汚染物質ごとに、前述の値のそれぞれの関係がシステム情報に含まれてもよい。システム情報には、特に関連するキャビンエアフィルタシステムの機能的相互依存関係が記述される。特に、濾過効率は、キャビンエアフィルタシステムの所与の運転状態においてフィルタ要素に保持される、すなわちエアフィルタ装置を通る空気流から除去される、特定の汚染物質の量を表し得る。システム情報で提供される空気質情報は、変数であるエアフィルタ装置を通る空気流の大きさ、新鮮空気と再循環空気の再循環比率、及び空気特性データに依存する。空気質に関する情報は、車室内の空気中の1つ以上の汚染物質の濃度であってもよい。空気質に関する情報は、集約された空気質指標であってもよい。空気質指標は通常、例えばPM1、PM2.5、PM10、NO、O、微粒子及び超微粒子の数など、異なる汚染物質の量を組み合わせた計算式を用いて算出される。空気質指標は、例えばUS-EPA2016基準に基づく。
【0017】
ステップB)において、システム情報は、記憶手段から取得されてもよい。つまり、フィルタ要素の記憶手段がシステム情報を提供する。これにより、フィルタ要素に適したシステム情報を確実に使用することができる。この場合、フィルタ要素を特徴付ける情報は、システム情報であってもよく、すなわち、フィルタ要素は、その記憶手段に提供されたシステム情報によって特徴付けられてもよい。
【0018】
あるいは、ステップB)において、システム情報は、キャビンエアフィルタシステムの電子制御ユニットの内部記憶装置又は外部データベースから取得されてもよい。これにより、記憶容量が制限された記憶手段の使用が可能となる。電子制御ユニットの内部記憶装置では、システム情報は、インターネット接続等から独立して提供されてもよい。クラウドストレージなどの外部データベースからシステム情報を取得することで、システム情報の更新が容易になる。
【0019】
本方法のステップC)では、車室の内部及び/又は外部の空気特性を示す現在の空気特性データが取得される。現在の空気特性データは、ステップD)においてシステム情報を評価するための入力値として使用される。
【0020】
空気特性データは、キャビンエアフィルタシステムの少なくとも1つの空気特性センサから取得することができる。特に、キャビンエアフィルタシステムは、内部空気特性センサ及び/又は外部空気特性センサを備えていてもよい。これにより、特に正確な空気特性データを得ることができる。
【0021】
これに代わって又はこれに加えて、(外部)空気特性データを環境汚染測定サービスから取得してもよい。この変形例により、キャビンエアフィルタシステムを搭載した車両のハードウェアコストを削減することができる。
【0022】
本方法のステップD)では、現在の空気流の大きさ、現在の新鮮空気と再循環空気の再循環比率、及び現在の空気特性データに対して、システム情報から、車室内の空気質を特徴付ける空気質情報が決定される。車室内の空気質に関する情報は、キャビンエアフィルタシステムの運転を制御するために使用することができる。決定される車室内の空気質を特徴付ける空気質情報は、特に、車室内の現在の又は瞬間的な空気質を特徴付ける現在の空気質情報である。
【0023】
本明細書において、関連付けられたデータとは、機能的に関連するデータを指し得る。例えば、エアフィルタ装置の少なくとも1つの特性(例えば、空気質情報のデータポイント)は、特定の空気流の大きさ、新鮮空気と再循環空気の比率、及び空気特性データと相関し得る。このような複数のデータポイントは、例えば、データベース、行列、多次元配列、マップ、グラフ、又はそれらの組み合わせで関連付けることができる。
【0024】
提供、取得、及び/又は決定は、それぞれ、演算システム、例えば、プロセッサ、サーバ、及び/又はクラウドを含む電子制御回路によって実行することができる。
【0025】
これに代わって又はこれに加えて、車室内の空気質に関する情報、特に車室内の空気質に関する情報と所定の目標値との比較結果を、車両のユーザに通知してもよい。これにより、ユーザは、キャビンエアフィルタシステムの現在の有効性を認識することができる。目標値は、ユーザの個人的な好みに応じて設定することができる。
【0026】
車室内の空気質に関する情報を、目標値、例えば、汚染物質ごとに異なる目標値、特に様々なサイズ範囲の粒子及び/又は有害ガスごとに異なる目標値と比較してもよい。目標値は、車両の地理的位置及び/又はユーザ入力に応じたものであってもよい。比較結果は、例えば、キャビンエアフィルタシステムのエネルギー消費を最小限に抑えながら、目標値を遵守するように、キャビンエアフィルタシステムの動作を制御するために使用することができる。
【0027】
特に、新鮮空気と再循環空気の再循環比率は、比較結果に基づいて調整することができる。具体的には、所定の時間間隔で比較を行い、それに応じて新鮮空気と再循環空気の再循環比率を調整することができる。これにより、キャビンエアフィルタシステムの運転が常に最適に近い状態に保たれる。時間間隔は、連続する2つの評価間で関連する入力パラメータが通常過度に変化しないように選択される。例えば、時間間隔は0.5秒以上及び/又は10秒以下であってよい。特に、時間間隔は1秒である。
【0028】
比較結果に応じた再循環比率でのキャビンエアフィルタシステムの運転は、優先度の高い戦略、特に曇り除去、霜取り、スピード換気、又はエネルギー節約のために与えられる空気再循環比率でのキャビンエアフィルタシステムの運転期間によって中断され得る。
【0029】
様々な実施形態によれば、エアフィルタ装置は、
新鮮空気及び/又は再循環空気を濾過するための少なくとも1つの基本フィルタ要素と、
新鮮空気を濾過するための少なくとも1つのHEPAフィルタ要素及び/又は周囲空気フィルタ要素と、を備える。
【0030】
HEPAフィルタ要素により、車室内の空気質を特に高めることができる。周囲空気フィルタ要素は、HEPAフィルタ要素を大きな粒子から保護し、その寿命を延ばすことができる。外部からの新鮮空気は、HEPAフィルタ要素及び/又は周囲空気フィルタ要素を通過又はバイパスするように選択的に導入され得る。通常、周囲空気フィルタ要素は、HEPAフィルタ要素の上流に配置される。基本フィルタ要素及び/又は周囲空気フィルタ要素は、少なくとも1つの吸着剤、特に活性炭を含んでいてもよい。吸着剤により、濾過された空気から有害なガスや臭気を除去することができる。活性炭はこの点で特に効率的である。
【0031】
車室内の空気質に関する情報と少なくとも1つの目標値との比較結果に応じて、外部からの新鮮空気流がHEPAフィルタ要素及び/又は周囲空気フィルタ要素を通過又はバイパスするように構成してもよい。このように、HEPAフィルタ要素及び/又は周囲空気フィルタ要素は、空気質目標値を満たすために必要な場合にのみ使用できる。可能な限りこれらのフィルタ要素をバイパスすることで、フィルタ要素の寿命を延ばし、エネルギー消費を削減することができる。
【0032】
様々な実施形態によれば、エアフィルタ装置の少なくとも1つの特性は、
フィルタ要素の濾材の効率曲線、
濾材の種類、
エアフィルタ装置を通る空気流の大きさに応じたフィルタ要素の圧力損失、及び/又は、
フィルタ要素の汚染物質蓄積容量、特に粉塵蓄積容量に関する情報をさらに含む。
【0033】
効率曲線は、汚染物質ごとに、特に異なるサイズ範囲の粒子及び/又は異なる濃度の有害ガスごとに与えられてもよい。エアフィルタ装置が複数のフィルタ要素を備える場合、それぞれのフィルタ要素の濾材に対して効率曲線が与えられてもよい。濾材の種類では、エアフィルタ濾材がナノファイバ及び/又は活性炭などの吸着剤を含むかどうかを指定することができ、濾材のHEPAクラスを指定することもできる。圧力損失は、濾材の(予想される)粉塵負荷に応じて与えられ得る。この追加情報は、キャビンエアフィルタシステムを特に正確に制御するために使用することができる。
【0034】
システム情報は、空気質情報を出力値とする多次元データ配列を含む。データ配列の他のパラメータ(例えば、エアフィルタ装置を通る空気流の大きさ、再循環比率、空気特性データ)は、入力パラメータとして使用される。すなわち、データ配列は、これらのパラメータの現在の値に対して評価される。このように、システム情報を容易に確立し、評価することができる。通常、データ配列はキャビンエアフィルタシステムの電子制御ユニットに格納される。データ配列は、マップ又は特性図の形で表すことができる。
【0035】
様々な実施形態によれば、多次元データ配列から空気質情報を決定するために内挿法を使用することができる。これにより、入力値(例えば、空気流の大きさ、再循環比率、空気特性データ)が、データ配列が作成された値から逸脱している場合に、システム情報を効率的かつ正確に評価することができる。
【0036】
本方法の有利な変形例では、フィルタ要素の残存寿命が求められる。これにより、フィルタ要素の濾過能力を高度に利用しながら、フィルタ要素を適時に交換することが可能となる。この目的のため、フィルタ要素の汚染物質蓄積容量と以前の運転時間が考慮されてもよい。様々な実施形態によれば、残存寿命を求めるために、キャビンエアフィルタシステムの空気特性センサ、特に外部空気特性センサの測定値が考慮される。残存寿命を車両のユーザに通知してもよい。
【0037】
本方法の好ましい変形例では、ステップB)で提供されるシステム情報は、空気質情報に車速をさらに関連付け、車室内の空気質に関する情報を決定するため、ステップD)において現在の車速が考慮される。これにより、(ドアや窓などの)開口部のシール、ワイヤ、ホースなどを通して、外部から車室内に濾過されずに侵入する空気の影響を考慮することができる。
【0038】
システム情報は、車両の経年変化及び/又はエアフィルタ装置のフィルタ要素の経年変化を考慮してもよい。経年変化により、エアフィルタ装置をバイパスする外部からの漏れが増加したり、エアフィルタ装置の濾過効率が低下したりする可能性がある。このような影響を事前に把握し、システム情報に反映させることで、車両やエアフィルタ装置の劣化後においても、キャビンエアフィルタシステムの最適な運転状態を確保することができる。
【0039】
様々な実施形態によれば、ステップA)は、車両が始動されるたびに繰り返されてもよく、ステップB)は、少なくとも、繰り返されたステップA)で取得された情報が、前回のステップA)で取得された情報と異なる場合に繰り返されてもよい。特に、ステップB)は、車両が始動されるたびに繰り返されてもよい。本方法のこの変形例により、システム情報を常に最新のものにすることができる。特に、フィルタ要素が以前に設置されていたものと異なる種類のフィルタ要素に交換された場合は、対応するシステム情報を取得することで認識され、考慮される。
【0040】
本方法は、ステップA)で取得された情報が、前回のステップA)で取得された情報と異なることを判定し、ステップB)を繰り返すことを含んでもよい。
【0041】
本方法の有利な変形例では、ステップA)の後、フィルタ要素がキャビンエアフィルタシステムに適しているか否かが確認され、
フィルタ要素が適している場合、ステップB)~D)が実行され、
フィルタ要素が適していない場合、キャビンエアフィルタシステムが緊急モードで運転し、フィルタ要素が適していないことが車両のユーザに通知される。
【0042】
通知により、不適切なフィルタ要素を適切なフィルタ要素と交換するようユーザに促すことができる。通知は、車両のディスプレイにおいて、及び/又は、ユーザのスマートフォンアプリを介して行うことができる。適切なフィルタ要素をオンラインで購入するためのリンクが通知とともに提供されてもよい。
【0043】
緊急モードでは、一般に、車室内の空気質や残存寿命に関する情報は決定されない。したがって、この情報はユーザに通知され得ない。
【0044】
エアフィルタ装置が基本フィルタ要素と、HEPAフィルタ要素及び/又は周囲空気フィルタ要素などの更なるフィルタ要素とを備える場合、緊急モードでは、空気流がこれらすべてのフィルタ要素を通過するように導かれ得る。これにより、車室内の空気質が最良となる。あるいは、緊急モードでは、空気流が基本フィルタ要素のみを通過し、それ以外のフィルタ要素をすべてバイパスするようにしてもよい。これにより、エネルギー消費が削減され、高価なHEPAフィルタ要素などの他のフィルタ要素の寿命を節約することができる。
【0045】
本発明は、本発明による車両のキャビンエアフィルタシステムにおけるフィルタ要素の使用であって、キャビンエアフィルタシステムは、車室内に流入する、車室の外部からの新鮮空気と内部からの再循環空気とからなる空気流を濾過するためのエアフィルタ装置を備え、エアフィルタ装置を通る空気流の大きさは調節可能であり、エアフィルタ装置を通る空気流の新鮮空気と再循環空気の比率は調節可能であるフィルタ要素の使用にさらに関する。本発明によると、フィルタ要素は記憶手段を有し、記憶手段はフィルタ要素のシステム情報を含み、システム情報は、
フィルタ要素の濾過効率に関する情報を含む、フィルタ要素の少なくとも1つの特性と、
エアフィルタ装置を通る空気流の大きさと、
新鮮空気と再循環空気の再循環比率と、
車室の内部及び/又は外部の空気特性を示す空気特性データと、
車室内の空気質を特徴付ける空気質情報と、を関連付けたものである。
【0046】
換言すると、本発明による上述の方法において使用されるシステム情報は、フィルタ要素により提供される。システム情報がフィルタ要素の記憶手段に格納されていることで、本方法の実行が容易になる。特に、フィルタ要素により、本方法のステップB)において記憶手段からシステム情報を取得することが可能となる。これにより、フィルタ要素に適したシステム情報を確実に使用することができる。
【0047】
様々な実施形態によれば、エアフィルタ要素の少なくとも1つの特性は、
フィルタ要素の濾材の効率曲線、
濾材の種類、
エアフィルタ装置を通る空気流の大きさに応じたフィルタ要素の圧力損失、及び/又は、
フィルタ要素の汚染物質蓄積容量、特に粉塵蓄積容量に関する情報をさらに含む。
【0048】
効率曲線は、汚染物質ごとに、特に異なるサイズ範囲の粒子及び/又は異なる濃度の有害ガスごとに与えられてもよい。エアフィルタ装置が複数のフィルタ要素を備える場合、それぞれのフィルタ要素の濾材に対して効率曲線が与えられてもよい。濾材の種類では、エアフィルタ濾材がナノファイバ及び/又は活性炭などの吸着剤を含むかどうかを指定することができ、濾材のHEPAクラスを指定することもできる。圧力損失は、濾材の(予想される)粉塵負荷に応じて与えられ得る。この追加情報は、キャビンエアフィルタシステムを特に正確に制御するために使用することができる。
【0049】
記憶手段は、RFIDタグ、NFCタグ、又はグラフィックコード、特にバーコードやQRコード(登録商標)であってもよい。このような記憶手段は、安価で読み取りが容易である。
【0050】
さらに、本発明は、車両のキャビンエアフィルタシステム用の電子制御ユニットであって、キャビンエアフィルタシステムは、車室内に流入する、車室の外部からの新鮮空気と内部からの再循環空気とからなる空気流を濾過するためのエアフィルタ装置を備え、エアフィルタ装置を通る空気流の大きさは調節可能であり、エアフィルタ装置を通る空気流の新鮮空気と再循環空気の比率は調節可能であり、エアフィルタ装置は、記憶手段を有する少なくとも1つのフィルタ要素を備える電子制御ユニットに関する。
【0051】
電子制御ユニットは、車室の内部及び/又は外部の空気特性を示す現在の空気特性データを取得するように構成される。さらに、電子制御ユニットは、現在の空気流の大きさ、現在の新鮮空気と再循環空気の再循環比率、及び現在の空気特性データに対して、システム情報から、車室内の空気質に関する情報を決定するように構成される。システム情報は、
フィルタ要素の濾過効率に関する情報を含む、フィルタ要素の少なくとも1つの特性と、
エアフィルタ装置を通る空気流の大きさと、
新鮮空気と再循環空気の再循環比率と、
車室の内部及び/又は外部の空気特性を示す空気特性データと、
車室内の空気質を特徴付ける空気質情報と、を関連付けたものである。
【0052】
換言すると、電子制御ユニットは、本発明による上述の方法のステップC)及びD)を実行するように構成される。制御ユニットにより、便利かつ効率的に本発明の方法を実行することができる。
【0053】
第1の実施形態では、電子制御ユニットは、システム情報を取得するように構成される。例えば、電子制御ユニットは、特にフィルタ要素が本発明による上述のフィルタ要素である場合、フィルタ要素の記憶手段からシステム情報を取得するように構成され得る。あるいは、電子制御ユニットは、クラウドストレージなどの外部データベースからシステム情報を取得するように構成されてもよい。
【0054】
第2の実施形態では、電子制御ユニットは、システム情報を有している。特に、システム情報は、電子制御ユニットの内部記憶装置に格納されていてもよい。異なる適切なフィルタ要素に対して、異なるセットのシステム情報が内部記憶装置に提供されてもよい。
【0055】
また、本発明は、キャビンエアフィルタシステムであって、
車両の車室内に流入する、車室の外部からの新鮮空気と内部からの再循環空気とからなる空気流を濾過するエアフィルタ装置と、
エアフィルタ装置を通る空気流の大きさを調整するための送風装置と、
エアフィルタ装置を通る空気流の新鮮空気と再循環空気の比率を調整する流量比調整装置と、
フィルタ要素を特徴付ける情報を記憶する記憶手段を有するフィルタ要素と、
記憶手段用の読取装置と、
本発明による上述の電子制御ユニットと、を備えるキャビンエアフィルタシステムに関する。
【0056】
このキャビンエアフィルタは、本発明による方法を実行するために使用することができる。
【0057】
記憶手段は、RFIDタグ、NFCタグ、又はバーコードやQRコード(登録商標)のようなグラフィックコードであってもよい。読取装置は、RFIDリーダ、NFCリーダ、又はグラフィックコードリーダ、特にバーコードリーダやQRコード(登録商標)リーダであってもよい。
一般に、フィルタ要素は、エアフィルタ装置のフィルタハウジングに取り付けられる。読取装置はフィルタハウジングに取り付けられていてもよい。
好ましくは、フィルタ要素は、本発明による上述のフィルタ要素である。すなわち、システム情報が記憶手段に含まれ得る。
【0058】
本発明の他の利点及び特徴は、重要な詳細を示す図面を参照した本発明の実施形態の以下の説明、及び特許請求の範囲から理解されるであろう。上述又は以下に説明するような個々の特徴は、それぞれ個別に実施されてもよいし、本発明の変形例において任意の有用な組み合わせで組み合わせて実施されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1】それぞれのフィルタ要素に関する情報を格納する記憶手段を有する、基本フィルタ要素、HEPAフィルタ要素、及び周囲空気フィルタ要素を備えたキャビンエアフィルタシステムを有する車両を示す概略図である。本発明によると、設置されたフィルタ要素に関するシステム情報が車室内の空気質に関する情報を決定するために使用される。
図2図1の車両の概略図であり、新鮮空気が周囲空気フィルタ要素と基本フィルタ要素を通過し、HEPAフィルタ要素をバイパスする様子が示されている。
図3】本発明によるキャビンエアフィルタシステムの運転方法の概略フローチャートであり、システム情報はフィルタ要素の記憶手段から取得される。
図4】本発明によるキャビンエアフィルタシステムの運転方法の概略フローチャートであり、システム情報は外部データベースから取得される。
【発明を実施するための形態】
【0060】
図1は車両10を示している。この車両はキャビンエアフィルタシステム12を備える。車両10の内部には、車室14が形成されている。車両10のユーザ16、18は車室14に着座する。
【0061】
キャビンエアフィルタシステム12は、エアフィルタ装置20を有する。外部環境24からの新鮮空気の全流入22は、エアフィルタ装置20を通過する濾過流入26と、エアフィルタ装置20をバイパスする無濾過流入28として、車室内に流入する。無濾過流入の大きさは、特に車速に依存する。
【0062】
車室14内からの空気は、エアフィルタ装置20を通って再循環空気流30で再循環される。流量比調整装置32は、再循環空気流30と濾過流入26の比率を調整するために設けられる。流量比調整装置32は、ここでは可動フラップ34、36とともに概略的に図示されている。
【0063】
濾過流入26と再循環空気流30はともに、エアフィルタ装置20を通過する濾過空気流38を構成する。送風装置40は、エアフィルタ装置20を通過する空気流38の大きさを調整するために設けられる。この大きさは、例えば、時間当たりの空気の体積又は質量として与えられる。空気流38の大きさは、流量計(不図示)によって測定することができる。
【0064】
あるいは、空気流の大きさを推定することもできる。このために、送風装置40に印加される電圧と電流を測定してもよい。さらに、外部環境24の空気の温度を測定してもよい。外部空気の密度を測定してもよく、温度から計算してもよい。同様に、車室14内の空気の温度と密度を測定及び/又は計算してもよい。このデータセットを用いて、送風装置40を通る体積流量及び/又は質量流量を求めることができる。
【0065】
車室14内からの空気は、1つ又は複数の減圧流出口41で車室から流出させることができる。これにより、特に高速走行時に、車室14内の圧力が過度に上昇することを防止することができる。さらに、車室14を減圧することで、十分な量の新鮮空気を車室14内に吹き込むための送風装置40のエネルギー消費を削減することができる。
【0066】
図示された実施形態では、エアフィルタ装置20は、基本フィルタ要素42、HEPAフィルタ要素44、及び周囲空気フィルタ要素46を備える。基本フィルタ要素42及び周囲空気フィルタ要素46は、活性炭などの吸着剤を含んでいてもよい。ここで、再循環空気流30は、基本フィルタ要素42のみを通過する。濾過流入26は、周囲空気フィルタ要素46、HEPAフィルタ要素44、及び基本フィルタ要素42を連続して通過することができる。
【0067】
周囲空気フィルタ要素46又はHEPAフィルタ要素44に関して、外部からの濾過流入26のバイパス機能を設けることもできる。図2に概略的に示されるように、濾過流入は、例えば、HEPAフィルタ要素44をバイパスし、周囲空気フィルタ要素46と基本フィルタ要素42を通過してもよい。
【0068】
フィルタ要素の少なくとも1つ、一般的には基本フィルタ要素42と、好ましくはHEPAフィルタ要素44及び周囲空気フィルタ要素46とは、(それぞれ)記憶手段48を備える。記憶手段48は、それぞれのフィルタ要素42、44、46のフレームに取り付けられたRFIDチップであってもよい。
【0069】
エアフィルタ装置20は、フィルタ要素42、44、46の記憶手段48に格納された情報を読み取るための少なくとも1つの読取装置50を備える。ここでは、フィルタ要素42、44、46の各々に対して別々の読取装置50がエアフィルタ装置20のハウジングに取り付けられている。図示された実施形態では、読取装置50はそれぞれRFIDリーダである。
【0070】
キャビンエアフィルタシステム12は、電子制御ユニット52を備える。電子制御ユニット52は、本発明によるキャビンエアフィルタシステム12を動作させるように構成される。電子制御ユニット52は、読取装置50によって記憶手段48から読み取られた情報を評価する。さらに、電子制御ユニット52は、エアフィルタ装置20を通る空気流38の大きさと、再循環比率、すなわち、再循環空気流30の大きさ/濾過流入26の大きさを制御するよう構成される。
【0071】
図3には、本発明によるキャビンエアフィルタシステム12の運転方法のフローチャートが示されている。
【0072】
ステップ102では、フィルタ要素又は複数のフィルタ要素42、44、46をそれぞれ特徴付ける情報を含むデータが取得される。このために、記憶手段48の内容が読取装置50によって読み取られる。ステップ102は、車両10が始動するたびに実行することができる。
【0073】
ステップ104では、設置されたフィルタ要素42、44、46がキャビンエアフィルタシステム12に適しているか否かが確認される。これは、記憶手段48から読み出されるシリアル番号や部品番号に基づいて判断することができる。
【0074】
フィルタ要素又は複数のフィルタ要素42、44、46の少なくとも1つが適していない場合、電子制御ユニット52は、ステップ106において、例えばタッチスクリーンなどの入出力装置54を介して、運転者16に通知することができる。さらに、電子制御ユニット52は、ステップ108において、緊急モードに切り替えることができる。緊急モードの第1の変形例では、車室14内の空気質を最良に保つため、HEPAフィルタ要素44は常に作動する。緊急モードの別の変形例では、エネルギー消費を低減し、HEPAフィルタ要素44の寿命を延ばすため、HEPAフィルタ要素44は常にバイパスされる。
【0075】
フィルタ要素42、44、46が適している場合、設置されたフィルタ要素42、44、46を有するキャビンエアフィルタシステム12について、システム情報が考慮される。図3に示されるように、システム情報は、ステップ110aにおいて、読取装置50を介して記憶手段48から取得されてもよい。
【0076】
図4に示された実施形態によれば、システム情報は、ステップ110bにおいて、クラウドストレージなどの外部データベースから取得されてもよい。ステップ102で取得された情報は、設置されたフィルタ要素42、44、46を識別し、対応するシステム情報を取得するために使用される。あるいは、ステップ102で取得された情報を使用して、電子制御ユニット52の内部記憶装置からシステム情報を取得してもよい。
【0077】
システム情報の取得手順以外は、図3図4に示した運転方法に違いはない。
【0078】
システム情報は、
・フィルタ要素42、44、46の濾過効率に関する情報を含む、フィルタ要素42、44、46の少なくとも1つの特性と、
・エアフィルタ装置20を通る空気流38の大きさと、
・新鮮空気と再循環空気の再循環比率と、
・車室14の内部及び/又は外部の空気特性を示す空気特性データと、
・車室14内の空気質を特徴付ける空気質情報と、を関連付けたものである。
フィルタ要素42、44、46の少なくとも1つの特性は、
・フィルタ要素42、44、46の濾材の効率曲線と、
・それぞれのフィルタ要素42、44、46の濾材の種類と、
・エアフィルタ装置20を通る空気流38の大きさに応じたフィルタ要素42、44、46の圧力損失と、
・例えば、基本フィルタ要素、HEPAフィルタ要素、及び周囲空気フィルタ要素42、44、46の各々の汚染物質蓄積容量、特に粉塵蓄積容量と、に関する情報をさらに含む。
【0079】
なお、システム情報において、開いている窓やサンルーフの影響が考慮されてもよい。
【0080】
ステップ112では、車室14の内部及び/又は外部の空気特性を示す現在の空気特性データが取得される。空気特性データは、キャビンエアフィルタシステム12の外部空気特性センサ56又は車室空気特性センサ58から取得することができる。外部空気特性データは、車両10の地理的位置情報に基づいて、公共の汚染測定サービスから取得することもできる。車両10の地理的位置を確立するために、GPSアンテナ60を使用することができる。
【0081】
ステップ114では、車両10、特にキャビンエアフィルタシステム12の現在の運転状態を示すデータが電子制御ユニット52に提供される。このデータは、ステップ112で取得された内部及び/又は外部の空気質に関する情報、エアフィルタ装置20を通る空気流38の大きさ、新鮮空気(濾過流入26)と再循環空気(再循環空気流30)の再循環比率を含み、任意に車速を含む。
【0082】
ステップ114で提供されたデータと、ステップ110a又は110bでそれぞれ取得されたシステム情報とに基づいて、電子制御ユニット52は、ステップ116において、車室14内の空気質に関する情報を決定する。換言すると、現在の運転状態に対して、システム情報に記述されるキャビンエアフィルタシステム12の性能が評価され、現在設定されているパラメータでキャビンエアフィルタシステム12の運転を続けた場合に車室14内で達成される空気質の推定値が求められる。
【0083】
車室14内の空気質に関する情報は、集約された空気質指標として与えられてもよい。ステップ118において、車室14内の空気質に関する情報は、例えば入出力装置54を介して、車両10のユーザ16、18に通知することができる。
【0084】
空気質の目標値は、車両10のユーザ16、18によって、例えば入出力装置54を介して、予め定義又は設定することができる。例えば、現地の法律を遵守するため、又は現地のユーザの要求を満たすために、地域ごとに異なる目標値を予め定義することができる。
【0085】
ステップ120では、ステップ116で決定された車室14内の空気質に関する情報が目標値と比較される。比較結果は、ステップ118のように、ユーザ16、18に通知することができる。
【0086】
ステップ122では、比較結果に基づいて、キャビンエアフィルタシステム12の少なくとも1つの運転パラメータを調整することができる。例えば、特に目標値を満たさない場合、新鮮空気と再循環空気の比率を変更してもよい。目標値を満たす場合、HEPAフィルタ要素44をバイパスするように決定してもよい。目標値を満たさない場合、HEPAフィルタ要素44が利用されてもよい。
【0087】
電子制御ユニット52は、設置されたフィルタ要素42、44、46の使用期間を監視することができる。電子制御ユニット52は、運転条件(特に(外部)空気質、濾過空気流38の大きさ、再循環比率)及びシステム情報(特にフィルタ要素42、44、46の汚染物質蓄積容量)に基づいて、ステップ124においてフィルタ要素42、44、46の残存寿命を決定することができる。これを車両10のユーザ16、18に通知してもよい。
【0088】
要約すると、本発明は、車室(14)に流入する空気流(38)を濾過するためのエアフィルタ装置(20)を備えたキャビンエアフィルタシステム(12)を運転する方法に関する。エアフィルタ装置は、記憶手段(48)を有する少なくとも1つのフィルタ要素(42、44、46)を備える。
【0089】
本方法は、以下の工程を含む。
A)フィルタ要素の記憶手段から、フィルタ要素を特徴付ける情報を含むデータを取得するステップと、
B)ステップA)で取得された情報によって識別されたフィルタ要素について、
フィルタ要素の濾過効率に関する情報を含む、フィルタ要素の少なくとも1つの特性と、
エアフィルタ装置を通る空気流の大きさと、
エアフィルタ装置を通る空気流の新鮮空気と再循環空気の再循環比率と、
車室の内部及び/又は外部の空気特性を示す空気特性データと、
車室内の空気質を特徴付ける空気質情報と、を関連付けたシステム情報を提供するステップと、
C)車室の内部及び/又は外部の空気特性を示す現在の空気特性データを取得するステップと、
D)現在の空気流の大きさ、現在の新鮮空気と再循環空気の再循環比率、及び現在の空気特性データに対して、システム情報から、車室内の空気質に関する情報を決定するステップと、を含む。
【符号の説明】
【0090】
車両10
キャビンエアフィルタシステム12
車室14
ユーザ16、18
エアフィルタ装置20
外部環境24からの新鮮空気の総流入22
濾過流入26
無濾過浸透流入28
再循環空気流30
流量比調整装置32
フラップ34、36
濾過空気流38
送風装置40
減圧流出口41
基本フィルタ要素42
HEPAフィルタ要素44
周囲空気フィルタ要素46
記憶手段48
読取装置50
電子制御ユニット52
入出力装置54
外部空気特性センサ56
車室空気特性センサ58
GPSアンテナ60
フィルタ要素を特徴付ける情報を取得102
フィルタ要素が適しているか確認104
不適切なフィルタ要素を通知106
緊急モードを起動108
記憶手段からシステム情報を取得110a
外部データベースからシステム情報を取得110b
現在の空気特性データを取得112
現在の運転データを提供114
車室内の空気質に関する情報を決定116
空気質情報をユーザに通知118
空気質情報を目標値と比較120
運転パラメータを調整122
フィルタ要素の残存寿命を求める124
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】