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特表2025-505295摺動式等速ボールジョイント、及び自動車
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-21
(54)【発明の名称】摺動式等速ボールジョイント、及び自動車
(51)【国際特許分類】
   F16D 3/227 20060101AFI20250214BHJP
【FI】
F16D3/227 E
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024548483
(86)(22)【出願日】2022-02-17
(85)【翻訳文提出日】2024-10-10
(86)【国際出願番号】 EP2022053986
(87)【国際公開番号】W WO2023155994
(87)【国際公開日】2023-08-24
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509318044
【氏名又は名称】ゲーカーエン ドライブライン ドイチュラント ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】GKN DRIVELINE DEUTSCHLAND GMBH
【住所又は居所原語表記】Carl-Legien-Strasse 10,63073 Offenbach Am Main(DE)
(71)【出願人】
【識別番号】507334967
【氏名又は名称】ゲーカーエン ドライブライン インターナショナル ゲゼルシャフト ミト ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】GKN DRIVELINE INTERNATIONAL GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エリュルマズ,オルカン
(72)【発明者】
【氏名】パンヒルシュ,ベンジャミン
(57)【要約】
摺動式等速ボールジョイント(1)は、回転軸(3)を有し且つ複数の外側ボールトラック(4)と複数の外側中心線(5)とを有する、外側ジョイント部分(2)と、複数の内側ボールトラック(7)と複数の内側中心線(8)とを有する内側ジョイント部分(6)と、複数のトルク伝達ボール(9)であって、互いに割り当てられており且つトラック対(10)を形成する複数の外側ボールトラック(4)及び複数の内側ボールトラック(7)について、該トルク伝達ボール(9)はそれぞれ、外側ボールトラック(4)及び内側ボールトラック(7)の中を案内される、複数のトルク伝達ボール(9)と、複数のケージ窓(12)を有するケージ(11)であって、複数のケージ窓(12)はそれぞれボール(9)のうちの1つ又は複数を収容するケージ(11)と、を少なくとも備える。ケージ(11)は、周方向(13)に沿ってケージ窓(12)同士の間にウェブ(14)を有しており、ウェブは、少なくとも外側ジョイント部分(2)及び内側ジョイント部分(6)の少なくとも一方の上で、それぞれの球状の接触面(15)を介して案内される。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動式等速ボールジョイント(1)であって、
回転軸(3)を有し且つ複数の外側ボールトラック(4)と複数の外側中心線(5)とを有する外側ジョイント部分(2)と、
複数の内側ボールトラック(7)と複数の内側中心線(8)とを有する内側ジョイント部分(6)と、
複数のトルク伝達ボール(9)であって、
互いに割り当てられており且つトラック対(10)を形成する複数の外側ボールトラック(4)及び複数の内側ボールトラック(7)について、該トルク伝達ボール(9)はそれぞれ、前記複数の外側ボールトラック(4)及び前記複数の内側ボールトラック(7)の中を案内される、複数のトルク伝達ボール(9)と、
複数のケージ窓(12)を有するケージ(11)であって、前記複数のケージ窓(12)はそれぞれ前記ボール(9)のうちの1つ又は複数を収容するケージ(11)と、
を少なくとも備え、
前記ケージ(11)は、周方向(13)に沿って前記ケージ窓(12)同士の間にそれぞれウェブ(14)を有しており、
前記ウェブ(14)は、前記外側ジョイント部分(2)及び前記内側ジョイント部分(6)の少なくとも一方の上で、それぞれ球状の接触面(15)を介して案内され、
前記中心線(5、8)はそれぞれ、前記ボールトラック(4、7)に沿って、第1の端部領域(16)から、中間領域(17)を通って、第2の端部領域(18)まで延在しており、
少なくとも一部の前記トラック対(10)の前記中心線(5、8)はそれぞれ、前記周方向(13)に傾斜して延在し、即ち、前記回転軸(3)に平行である軸方向(19)に対して勾配(20)を有し、
1つのトラック対(10)の各中心線(5、8)は、反対の方向に傾斜しており、
a)少なくとも1つの前記トラック対(10)の前記中心線(5、8)の前記勾配(20)の量は、少なくとも端部領域(16、18)において徐々に減少しており、前記中間領域(5、8)のところから減少している、及び
b)2つのボール(9)は、1つのケージ窓(12)内に配置されており、割り当てられる前記トラック対(10)同士は、前記周方向(13)に沿って互いに対してあるピッチ(21)で配置されており、
前記ピッチ(21)は、割り当てられる前記トラック対(10)同士のうち一方と、該トラック対(10)の前記周方向(13)に隣接するトラック対(10)とのピッチよりも小さい、
上記a)及びb)のうち少なくとも一方である、
摺動式等速ボールジョイント(1)。
【請求項2】
請求項1に記載の摺動式等速ボールジョイント(1)であって、
前記勾配(20)は、少なくとも前記中間領域(17)において一定である、
摺動式等速ボールジョイント(1)。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の摺動式等速ボールジョイント(1)であって、
少なくとも2つの前記トラック対(10)において、前記ボール(9)は同じケージ窓(12)内に配置され、それぞれ固有の一定の勾配(20)を有する中心線(5、8)を有する、
摺動式等速ボールジョイント(1)。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の摺動式等速ボールジョイント(1)であって、
少なくとも2つの前記トラック対(10)において、前記ボール(9)は同じケージ窓(12)内に配置され、勾配(20)を有する中心線(5、8)を有し、
前記勾配(20)の量は、少なくとも端部領域(16、18)において徐々に減少しており、前記中間領域(17)のところから減少している、
摺動式等速ボールジョイント(1)。
【請求項5】
請求項1~4の1項に記載の摺動式等速ボールジョイント(1)であって、
摺動式等速ボールジョイント(1)は、少なくとも6+2n個のボール(9)(n=0、1、2、...)を備え、
前記トラック対(10)は、それぞれ固有の一定の勾配(20)を有する中心線(5、8)と、前記中間領域(17)から、少なくとも端部領域(16、18)において徐々に減少する勾配(20)を有する中心線(5、8)とを、前記周方向(13)に沿って交互に有する、
摺動式等速ボールジョイント(1)。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の摺動式等速ボールジョイント(1)であって、
前記勾配(20)は、前記軸方向(19)に対する前記中心線(5、8)の傾斜角(22)に対応し、
前記傾斜角(22)は、小さくとも16度の角度である、
摺動式等速ボールジョイント(1)。
【請求項7】
請求項6に記載の摺動式等速ボールジョイント(1)であって、
前記傾斜角(22)は、2度から16度の間の値である、
摺動式等速ボールジョイント(1)。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の摺動式等速ボールジョイント(1)であって、
摺動式等速ボールジョイント(1)が真っ直ぐな配置にあるとき、少なくとも一部の前記トラック対(10)の前記中心線(5、8)は、前記回転軸(3)から略一定の距離(23)に延在する、
摺動式等速ボールジョイント(1)。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の摺動式等速ボールジョイント(1)であって、
前記外側ボールトラック(4)及び前記内側ボールトラック(7)は、径方向(24)において、前記軸方向(3)に対してそれぞれのチルト角(25)で傾斜する、
摺動式等速ボールジョイント(1)。
【請求項10】
請求項9に記載の摺動式等速ボールジョイント(1)であって、
前記チルト角(25)は、2度から16度の間の値である、
摺動式等速ボールジョイント(1)。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の摺動式等速ボールジョイント(1)であって、
前記周方向(13)において、前記外側ボールトラック(4)のうち隣接して配置されたものはそれぞれ異なる方向に傾斜し、前記内側ボールトラック(7)のうち隣接して配置されたものはそれぞれ異なる方向に傾斜する、
摺動式等速ボールジョイント(1)。
【請求項12】
請求項9~11のいずれか1項に記載の摺動式等速ボールジョイント(1)であって、
前記勾配(20)は、前記軸方向(19)に対する前記中心線(5、8)の傾斜角(22)に対応し、
少なくとも一部の前記トラック対(10)は、
外側ボールトラック(4)及び内側ボールトラック(7)であって、その中心線(5、8)のそれぞれの傾斜角(22)がゼロ度である、外側ボールトラック(4)及び内側ボールトラック(7)を有する、
摺動式等速ボールジョイント(1)。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の摺動式等速ボールジョイント(1)であって、
摺動式等速ボールジョイント(1)は、それぞれ直径(26)が異なるボール(9)を有する、
摺動式等速ボールジョイント(1)。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の摺動式等速ボールジョイント(1)であって、
前記内側ジョイント部分(6)は、前記外側ジョイント部分(2)に対して、前記軸方向(19)に少なくとも5ミリメートル変位可能である、
摺動式等速ボールジョイント(1)。
【請求項15】
駆動ユニット(28)と各ホイール(29)とを備える自動車(27)であって、
前記駆動ユニット(28)から前記ホイール(29)にトルクを伝達するように設計された、請求項1から14のいずれか1項に記載の摺動式等速ボールジョイント(1)を少なくとも1つ備える、
自動車(27)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動式等速ボールジョイントに関し、本摺動式等速ボールジョイント(本明細書で以下にジョイントとも称される)は、特に、自動車の側方シャフト機構又は前後方向シャフト機構に取付け可能である。特に、摺動式等速ボールジョイントは、フローティングジョイントシャフト機構に使用され、ここでは、摺動式等速ボールジョイントがトルク伝達シャフトの各端部に配置されている。特に、このようなジョイントシャフト機構は、後輪駆動自動車の後方車軸の領域で使用可能である。
【0002】
摺動式等速ボールジョイントでは、内側ジョイント部分が、外側ジョイント部分に対して、軸方向に移動可能である。摺動式ジョイントの場合、総変位距離(即ち、内側ジョイント部分が外側ジョイント部分に対して変位可能な最大距離)は、特に、少なくとも5ミリメートルである。
【0003】
複数の外側ボールトラックの少なくとも一部及び複数の内側ボールトラックの少なくとも一部は、回転軸に対する(任意の向きの)トラック傾斜角(傾斜角)を有することができ、又は、トラック傾斜角を持たないこともでき、即ち軸方向又は回転軸と平行に延在することができる。ジョイントが真っ直ぐな(gestreckten)位置又は配置にあるとき(即ち、内側ジョイント部分が外側ジョイント部分に対して曲がって(Abbeugung)いないとき)、内側ジョイント部分は、外側ジョイント部分に対して、共通の回転軸に沿って変位することが可能であり、これにより、これらの回転軸が互いに同軸に配置された状態を維持する。
【0004】
特に、ボールトラック基部(即ち、各外側ボールトラックの場合は、各ボールトラックの、回転軸からの距離が最も大きい領域であり、各内側ボールトラックの場合は、各ボールトラックの、内側ジョイント部分の回転軸からの距離が最も小さい領域)、又は、各ボールトラックの、変位距離に沿った中心線(ボールがボールトラックに沿って移動する際のボールの中心点の経路)は、回転軸から径方向にそれぞれ(略)一定の間隔だけ離れている。一方で、ボールトラック基部又は中心線が回転軸から一定の距離だけ離れていない摺動式等速ボールジョイントの設計も公知である。ここで、回転軸からの距離は、特に、対向するボールトラック同士(のみ)では同じであるが、変位距離に亘っては又はボールトラックに沿っては、一定でない。
【0005】
内側ジョイント部分が曲がる(Abbeugung)と、真っ直ぐな(gestreckten)位置(外側ジョイント部分の回転軸と内側ジョイント部分の回転軸とが互いに同軸上に配置される)から(逸脱している)曲がった位置に枢動される。
そのときに、外側ジョイント部分の回転軸と内側ジョイント部分の回転軸とが、曲がり角(ゼロ度から逸脱する)を形成する。
【0006】
本事例で考えられる摺動式等速ボールジョイントは、回転軸を有し且つ複数の外側ボールトラックと複数の外側中心線とを有する外側ジョイント部分と、複数の内側ボールトラックと複数の内側中心線とを有する内側ジョイント部分と、互いに割り当てられ且つトラック対を形成する外側ボールトラック及び内側ボールトラックについて、これらの中をそれぞれ案内される複数のトルク伝達ボールと、複数のケージ窓を有するケージであって、複数のケージ窓はそれぞれボールのうちの1つ又は複数を収容するケージとを、少なくとも備える。ケージは、周方向に沿ってケージ窓同士の間にそれぞれウェブを有しており、ウェブは、外側ジョイント部分及び内側ジョイント部分の少なくとも一方の上で、それぞれ球状の接触面を介して公知の手法で案内される。各中心線は、ボールトラックに沿って、第1の端部領域から中間領域を通って第2の端部領域まで延在している。真っ直ぐな配置にある摺動式等速ボールジョイントにおいて、少なくとも一部のトラック対の中心線はそれぞれ、周方向に傾斜して延在している。従って、各中心線は、回転軸に平行な軸方向に対して勾配を有する。1つのトラック対の各中心線は、反対の方向に傾斜している。
【0007】
内側ジョイント部分が外側ジョイント部分に対して変位すると、ボールはボールトラック内で、トラックにより案内されて移動(例えば転動、滑動、摺動等)する。ここで、理想的には、ケージは、外側ジョイント部分に対して、内側ジョイント部分の変位距離の長さの半分だけ移動する。周方向における、内側ジョイント部分、外側ジョイント部分、ケージの相対的な回転は、生じない。従って、軸方向に対してボールトラックが傾くには、十分に広いケージ窓をケージが有することが必要であり、それにより、各ジョイント部分が軸方向に沿って相対的に変位したときに各ボールが周方向に沿って変位することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような、傾斜したボールトラックを有する摺動式等速ボールジョイントにおいて、接線方向に配向した傾斜角を有するボールトラック同士が変位距離によっては互いに交差する、という問題がある。上記のような領域では(即ち、内側ジョイント部分が回転軸に沿って外側ジョイント部分に対して大きく変位した場合)、ボール同士が互いに接触し、互いに隣接して配置されたボールトラック同士の間に力伝達面が存在しないので、摺動式等速ボールジョイントを動作させることができない。高トルクを伝達できるようにするために、摺動式等速ボールジョイントのパッケージサイズ(摺動式等速ボールジョイントの最大径)は小さくしつつボールを可能な限り大きくする場合、摺動式等速ボールジョイントのケージ窓の幅が、ケージ窓同士の間に存在するウェブの幅に影響することになる。ただし、このウェブの断面積が小さいほど、ケージが破損しやすくなる。
【0009】
従って、本発明の目的は、前述の課題を少なくとも部分的に解決することであり、特に、可能な限り安定したケージを実現できる摺動式等速ボールジョイントを提案することである。ケージのウェブはできるだけ広くする必要があるが、同時に、パッケージサイズは大きくしない方がよい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る特徴を有する摺動式等速ボールジョイントは、これらの課題の解決に寄与する。有利な発展形態は、従属請求項の主題である。特許請求の範囲に列挙する特徴は、技術的に実現可能な態様で組み合わせ可能であり、且つ、本発明の更なる実施形態を開示しているところの、本明細書の説明的な技術内容及び図の詳細により補完してもよい。
【0011】
摺動式等速ボールジョイントを提案する。
この摺動式等速ボールジョイントは、
回転軸を有し且つ複数の外側ボールトラックと複数の外側中心線とを有する、外側ジョイント部分と、
複数の内側ボールトラックと複数の内側中心線とを有する内側ジョイント部分と、
複数のトルク伝達ボールであって、
互いに割り当てられており且つトラック対を形成する複数の外側ボールトラック及び複数の内側ボールトラックについて、該トルク伝達ボールはそれぞれ、外側ボールトラック及び内側ボールトラックの中を案内される、複数のトルク伝達ボールと、
複数のケージ窓を有するケージであって、複数のケージ窓はそれぞれ前記ボールのうちの1つ又は複数を収容するケージと、
を少なくとも備え、
ケージは、周方向に沿ってケージ窓同士の間にそれぞれウェブを有しており、
ウェブは、外側ジョイント部分及び内側ジョイント部分の少なくとも一方の上で、それぞれ球状の接触面を介して案内される。
【0012】
中心線はそれぞれ、ボールトラックに沿って、第1の端部領域から、中間領域を通って、第2の端部領域まで延在している。少なくとも一部のトラック対の中心線はそれぞれ、周方向に傾斜して延在し、即ち、回転軸に平行である軸方向に対して勾配を有する。1つのトラック対の各中心線は、反対の方向に傾斜している。
【0013】
さらに、以下のa)及びb)の特徴のうち少なくとも一方を有する。
a)少なくとも1つのトラック対(特にトラック対の半分、好ましくはすべてのトラック対)の各中心線の勾配の量は、少なくとも端部領域において徐々に減少しており、中間領域のところから減少している。
b)2つのボールは、1つのケージ窓内に配置されており、割り当てられるトラック対同士は、周方向に沿って互いに対してあるピッチで配置されており、そのピッチは、割り当てられるトラック対同士のうち一方と、周方向で該トラック対と隣接するトラック対とのピッチよりも小さい。
【0014】
a)及びb)の特徴は、どちらか一方または組み合わせることができる。
【0015】
各ボールトラックの中心線(ボールトラックに沿ってボールが動く間のボールの中心点の経路)は、第1の端部領域(ボールトラック開始位置)から第2の端部領域(ボールトラック終了位置)まで、ジョイント部分それぞれの回転軸に沿って又は軸方向に沿って延在している。公知の摺動式等速ボールジョイントにおいて、中心線はすべての領域にわたって一定の勾配、即ち一定のトラック傾斜角または傾斜角を有する。
【0016】
特に、端部領域はそれぞれ、(軸方向への投影において)同じ長さである。特に、すべての領域(端部領域および中間領域)は同じ長さである。特に、中間領域は、端部領域の約2倍の長さであり、これらの端部領域は、それぞれ同じ長さである。特に、各領域は、(それぞれ、軸方向への投影において)中心線の全長の少なくとも20%を構成する。
【0017】
摺動式等速ボールジョイントの第1実施形態は、少なくとも1つのトラック対の各中心線の勾配の量が、少なくとも端部領域において徐々に減少しており、中間領域のところから減少することを含む。特に、勾配の量は、中間領域のところから減少し、どちらの端部領域においても、同様に減少することが好ましい。
【0018】
周方向に沿って分散して配置されている各球状の各経路又は各中心線は、展開された状態で表すこともでき、即ち、空間的なイメージではなく2次元の平面画像で表すこともできる。一定の勾配を有する中心線は、直線で表される。本明細書で提案されている、徐々に減少する勾配を有する中心線は、特にS字曲線または正弦曲線で表される。
【0019】
特に、展開された状態の中心線の形状は自由に定義可能であり、接線方向への遷移によりそれぞれ部分的に接続した形状となる。特に、少なくとも1つの中心線は少なくとも部分的に湾曲した経路を有する。曲率は一定又は可変であり得る。
【0020】
中心線の勾配が中間領域から徐々に減少する結果、端部領域において、ボールトラック同士の間の周方向に沿った距離がより大きくなる、又は、ジョイント部分が軸方向に対して反対方向に移動するときのボールの周方向への変位が小さくなる。距離が大きくなることで、ボールトラック間のウェブが広くなり、それに応じてケージ窓同士の間のケージのウェブも広くなる。
【0021】
これの代わりに又はこれに加えて、個々のボール又はすべてのボールの直径を大きくすることができる。ケージの強度が十分であればボールの直径を大きくすることで、摺動式等速ボールジョイントのトルク容量または疲労強度を高めることができる。
【0022】
摺動式等速ボールジョイントの第2実施形態は、2つのボールが1つのケージ窓内に配置されており、割り当てられるトラック対同士は、周方向に沿って互いに対してあるピッチで配置されており、そのピッチは、割り当てられるトラック対同士のうち一方と、周方向で該トラック対と隣接するトラック対とのピッチよりも小さいことを含む。
【0023】
特に、ケージ窓は、2つのトラック対にわたって周方向に沿って延在し、2つのボールを収容する。このようなケージ窓においては、2つのボールの間にウェブがない。従って、外側ジョイント部分及び内側ジョイント部分の少なくとも一方との、対応する接触面が不要となる。このような状況により、これら2つのトラック対のボールトラックを周方向に可能な限り近づけて(小さいピッチ、即ち、小さい角距離で)配置でき、その結果、(別のケージ窓に配置されたボールを案内する)トラック対を可能な限り互いに離して(大きいピッチ、即ち、大きい角距離で)配置できるようになる。可能な限り互いに離して配置されたこれらのボールトラック間では、ケージにおいて、対応する幅広のウェブを周方向に設けることができる。これにより、特に、外側ジョイント部分及び内側ジョイント部分の少なくとも一方の上での、対応する接触面を大きくすることができる。
【0024】
これの代わりに又はこれに加えて、個々のボールまたはすべてのボールの直径を大きくすることができる。ケージの強度が十分であればボールの直径を大きくすることで、摺動式等速ボールジョイントのトルク容量または疲労強度を高めることができる。
【0025】
本明細書に記載のさまざまな実施形態は、摺動式等速ボールジョイントにおいて、互いに独立して、又は組み合わせて実現できる。
【0026】
特に、勾配は、少なくとも中間領域において一定である。
【0027】
特に、少なくとも2つのトラック対のボールは、同じケージ窓内に配置され(第2実施形態による摺動式等速ボールジョイント)、少なくとも2つのトラック対はそれぞれ固有の、一定の勾配の中心線を有する。
【0028】
特に、少なくとも2つのトラック対において、ボールは同じケージ窓内に配置され(第2実施形態による摺動式等速ボールジョイント)、少なくとも2つのトラック対において、それぞれの中心線の勾配の量は、少なくとも端部領域において徐々に減少しており、中間領域のところから減少している(第1実施形態による摺動式等速ボールジョイント)。
【0029】
特に、摺動式等速ボールジョイントは、6+2n個(n=0、1、2、・・・)、即ち、6、8、10、12個などのボールを有する。トラック対は、それぞれ固有の一定の勾配を有する中心線と、少なくとも端部領域において徐々に減少しており、中間領域のところから減少している勾配を有する中心線とを、周方向に沿って交互に有する。
【0030】
特に、勾配は軸方向に対する中心線の傾斜角に対応し、傾斜角は小さくとも16度の角度である。
【0031】
特に、傾斜角は2度から16度の間の値である。
【0032】
特に、摺動式等速ボールジョイントが真っ直ぐな配置にあるとき、少なくとも一部のトラック対の中心線は、回転軸から略一定の距離に延在する(即ち、チルト角が存在しない、又は、ボールトラックのチルト角がゼロ度である)。
【0033】
特に、内側ボールトラック及び外側ボールトラックは、径方向において、軸方向に対して(一定の)チルト角で傾斜する。特に、トラック対のボールトラックは、同じ方向に傾斜している。チルト角により、一対のトラックの中心線は、一方の端部領域では回転軸からの距離がより小さく配置され、他方の端部領域では回転軸からの距離がより大きく配置される。
【0034】
特に、チルト角は2度から16度の間の値である。
【0035】
特に、周方向において、外側ボールトラックのうち隣接して配置されたものはそれぞれ異なる方向に傾斜し、内側ボールトラックのうち隣接して配置されたものはそれぞれ異なる方向に傾斜する。
【0036】
特に、勾配は、軸方向に対する中心線の傾斜角に対応する。特に、少なくとも一部のトラック対(ゼロ度より大きいチルト角を有する)は、外側ボールトラック及び内側ボールトラックであって、その中心線のそれぞれの傾斜角がゼロ度である、外側ボールトラック及び内側ボールトラックを有する。
【0037】
特に、摺動式等速ボールジョイントは、それぞれ直径が異なるボールを有する。特に、対向するトラック対は、直径が同じボールを有する。
【0038】
特に、内側ジョイント部分は、外側ジョイント部分に対して、軸方向に少なくとも5ミリメートル変位可能である。
【0039】
さらに、本明細書で提案される少なくとも1つの摺動式等速ボールジョイントを有する自動車を提案する。特に、乗用車への適用を目的とした摺動式等速ボールジョイントを提案する。
【0040】
さらに、自動車は、駆動ユニットと各ホイールとを備え、駆動ユニットから各ホイールにトルクを伝達するように設計された摺動式等速ボールジョイントなどの、少なくとも1つの摺動式等速ボールジョイントを備える。
【0041】
摺動式等速ボールジョイントに関する記載は、自動車に特に適用可能であり、その逆も同様である。
【0042】
特に、請求項及びこれらの請求項を再掲する記載において、不定冠詞(「ein」、「eine」、「einer」、「eines」)は、数詞として使用したものではなく、そのまま理解すべきであることを意図している。従って、これに対応して導入される用語や構成要素は、少なくとも一回は存在しているが、特に、数回存在することもありうると理解すべきことを意図している。
【0043】
疑義を回避するために言えば、本明細書において使用する序数詞(「第1」、「第2」、等)は、主として、幾つかの同じような対象物、数値、工程を区別するため(のみ)に供されるものであり、即ち、特に、これらの序数詞が、これら対象物、数値、工程の、互いに対する任意の依存関係や順序を必ずしも定めるものでない。依存関係や順序が必要である場合には、このことは本明細書に明記されるか、或いは、実際に記載されている構成を精査することにより、当業者にとって明らかになる。構成要素が1回以上(「少なくとも1つ」)生じ得る場合は、それらの構成要素の1つに関する記載は、これらの複数の構成要素の全て又は幾つかに等しく当てはまり得るが、必ずそのようであるわけではない。
【0044】
以下で、添付の図を参照して、本発明及び技術的背景をより詳細に説明する。詳述する実施形態により本発明が限定されることを意図したものではないことに留意すべきである。特段の記載のない限り、特に、図で説明する技術内容の部分的特長を抽出し、それらを他の構成要素及び本明細書の知見と組み合わせることも可能である。特に、図及び特に図示された比率は、単に概略的なものにすぎないことに留意すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】自動車を平面図で示したものである。
図2】軸方向から見た、摺動式等速ボールジョイントの正面図である。
図3図2における摺動式等速ボールジョイントの縦断面図である。
図4】ジョイントのボールトラックが展開された状態である。
図5図4における異なるボールトラックの比較図である。
図6】公知のジョイントのボールトラックが展開された状態である。
図7】第1変形例のジョイントのボールトラックが展開された状態である。
図8】第2変形例のジョイントのボールトラックが展開された状態である。
図9】第3変形例のジョイントのボールトラックが展開された状態である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
図1は、自動車27の概略上面図である。自動車27は、駆動ユニット28(エンジン)及びギアボックス30を備える。トルクは、駆動ユニット28からギアボックス30を介していくつかの連結機構31、32に伝達される。前方車軸の領域(ここでは図の上部)には、2つの側方シャフト機構31が示されている。一方の側方シャフト機構31(図1の右)は、差動装置33を介してギアボックス30に連結されている。
【0047】
トルクは、差動装置33を介して、又は、外側ジョイント部分2とボール9と内側ジョイント部分6とを有する他方の側方シャフト機構31(図1の左)の摺動式等速ボールジョイント1を介して、ギアボックス30から各シャフト34に伝達され、そこから、ホイール29に連結された、別の摺動式等速ボールジョイント1か又は等速(固定)ジョイントに伝達される。
【0048】
さらに、これの代わりに又はこれに加えて、トルクは、ギアボックス30から摺動式等速ボールジョイント1を介して前後方向シャフト機構32に伝達することができる。トルクは、その前後方向シャフト機構32を介して(後方車軸の)差動装置33に伝達される。トルクは、(後方車軸の)差動装置33を介してそれぞれの側方シャフト機構31に伝達される。各側方シャフト機構31はそれぞれ、2つの等速ボールジョイント1を備えており、これらの等速ボールジョイント1は、各シャフト34によって互いに連結されている。
【0049】
図2は、軸方向19から見た、摺動式等速ボールジョイント1の正面図である。図3は、摺動式等速ボールジョイント1の縦断面図である(図2のIII-III線)。図2及び図3を以下でまとめて説明する。
【0050】
摺動式等速ボールジョイント1は、回転軸3を有し且つ外側ボールトラック4と外側中心線5とを有する外側ジョイント部分2と、内側ボールトラック7と内側中心線8とを有する内側ジョイント部分6と、トラック対10を形成し且つ割り当てられた外側ボールトラック4と内側ボールトラック7について、これらの中を案内される、複数のトルク伝達ボール9と、これらのボール9のうちの1つ又は複数を収容する複数のケージ窓12を有するケージ11とを備え、ケージ11は、周方向13に沿ってケージ窓12同士の間にウェブ14を有し、ウェブ14は、外側ジョイント部分2の上で、それぞれ球状の接触面15を介してそれぞれ案内される。
【0051】
内側ジョイント部分6は、外側ジョイント部分2の中に配置されている。トルクは、内側ジョイント部分6と外側ジョイント部分2の間で、ボール9を介して外側ジョイント部分2に伝達される。6個のボール9は、内側ボールトラック7と外側ボールトラック4とによって形成された別個のトラック対10内をそれぞれ走行する。ケージ11は、6つのケージ窓12を備え、ケージ窓12にはそれぞれボール9が配置される。ウェブ14は、ケージ窓12同士の間に延在し、これらのウェブ14を介して外側ジョイント部分2の接触面15上でケージ11が支持されている。摺動式等速ボールジョイント1が曲がった状態においては(ここでは真っ直ぐな配置が示されている)、ケージ11は、共通の角二等分平面にボール9を案内する。内側ジョイント部分6は、シャフト34に回転可能に固定接続するためのスプラインを有する(ここでは図示せず)。
【0052】
外側ジョイント部分2は、開口側(ここを介して内側ジョイント部分6を軸方向に沿って外側ジョイント部分2内に押し込むことができる)と、閉じられた接続側とを有する。内側ジョイント部分6、ケージ11及びボール9は、開口側を介して、外側ジョイント部分2の中に配置されている。ケージ11は、軸方向19と少なくとも部分的に平行な接触面15を介して案内され、軸方向に変位して移動することによって外側ジョイント部分2に対して変位する。
【0053】
摺動式等速ボールジョイント1が真っ直ぐな状態においては、トラック対10の中心線5、8は、回転軸3から実質的に一定の距離23で延在する(従って、チルト角25が存在しない、又はボールトラック4、7のチルト角25がゼロ度である)。
【0054】
特に、外側ボールトラック4及び内側ボールトラック7は、軸方向19に対して、径方向24に(一定の)チルト角25で傾斜する(図3にのみ図示)。トラック対10のボールトラック4、7は、同じ方向に傾斜している。チルト角25により、トラック対10の中心線5、8は、第1の端部領域16では回転軸3から距離23がより小さく配置され、第2の端部領域18では回転軸3からの距離23がより大きく配置される。
【0055】
図4は、摺動式等速ボールジョイント1のボールトラック4、7を展開した状態である。図5は、図4における異なるボールトラック4、7の比較図である。図4及び図5を以下でまとめて説明する。図2及び図3の説明を参照する。
【0056】
周方向13に沿って分散して配置されている各ボールトラック4、7及び各中心線5、8は、展開された状態、即ち空間的ではなく2次元の平面画像で表すこともできる。勾配20が一定である中心線5、8は、直線で示される(図4の左側の3つのトラック対10を参照)。勾配20が徐々に減少する中心線5、8は、S字曲線または正弦曲線として示される(図4の右側のトラック対10を参照)。
【0057】
ボールトラック4、7のそれぞれの中心線5、8(ボール9がボールトラック4、7に沿って移動する際のボールの中心点の経路)は、各ジョイント部分2、6の回転軸3に沿って、又は軸方向19に沿って、第1の端部領域16(ボールトラック4、7の開始場所)から、中間領域17を通って、第2の端部領域18(ボールトラック4、7の終了場所)まで延在している。公知の摺動式等速ボールジョイント1では、中心線5、8は一定の勾配20を有する。即ち、全ての領域16、17、18にわたって、一定のトラック傾斜角又は傾斜角22を有する。
【0058】
トラック対10の中心線5、8は、周方向13に傾斜している。即ち、回転軸3に平行な軸方向19に対して勾配20を有する。よって、トラック対10の各中心線5、8は、反対の方向に傾斜している。図4の右側のトラック対10では、中心線5、8の勾配20の量は、どちらの端部領域16、18においても徐々に減少しており、中間領域17のところから減少している。
【0059】
図4では、ボール9はそれぞれ、中間領域17の中間地点に配置されている。図5では、ジョイント部分2、6は軸方向19に沿って互いに変位して配置され、ボール9はそれぞれのボールトラック4、7の端部領域16、18に配置されている。
【0060】
図5では、異なるトラック対10が対向して示されている。周方向13に沿って互いに隣接して配置された2つのトラック対10はそれぞれ、展開された状態で、即ち、空間的なイメージではなく2次元の平面図で、ボールトラック4、7又は中心線5、8とともに示されている。図5の上部には、公知の摺動式等速ボールジョイント1の2つのトラック対10が示されている。図5の下部には、第1実施形態による上記摺動式等速ボールジョイント1の2つのトラック対10が示されている。
【0061】
中間領域17は、同じ長さを有する端部領域16、18の約2倍の長さである。
【0062】
摺動式等速ボールジョイント1の第1実施形態は、トラック対10の中心線5、8の勾配20の量が、どちらの端部領域16、18においても徐々に減少しており、中間領域17のところから減少することを含む。中間領域17における勾配20は一定である。
【0063】
中心線5、8の勾配20が中間領域17から徐々に減少する結果として、端部領域16、18において、ボールトラック4、7同士の間の周方向13に沿った距離がより大きくなる。もしくは、ジョイント部分2、6が軸方向19に対して変位したときの、ボール9の周方向13への変位が小さくなる。このように距離が大きくなることで、ボールトラック4、7同士の間にあるウェブ14が広くなり、それに応じてケージ窓12同士の間のケージ11のウェブ14も広くなる。
【0064】
図6は、公知のジョイント1のボールトラック4、7が展開された状態を示す。図2図5の説明を参照する。
【0065】
図6の上部では、ボール9はそれぞれ、中間領域17の中間地点に配置されている。図6の下部では、ジョイント部分2、6は軸方向19に沿って互いに変位して配置され、ボール9はそれぞれのボールトラック4、7の端部領域16、18に配置されている。
【0066】
トラック対10は、周方向13に沿って同じピッチ21(同じ角距離)で配置されている。トラック対10の中心線5、8は、周方向13に傾斜している。即ち、各中心線5、8は、回転軸3に平行な軸方向19に対して一定の勾配20を有する。よって、1つのトラック対10の各中心線5、8は、反対の方向に傾斜する。ウェブ14は、ケージ窓12同士の間にそれぞれ配置される。
【0067】
図7は、第1変形例(第2実施形態)によるジョイント1のボールトラック4、7を展開した状態を示す。図2図6の説明を参照する。
【0068】
図7の上部では、ボール9はそれぞれ、中間領域17の中間地点に配置されている。図7の下部では、ジョイント部分2、6は軸方向19に沿って互いにずれて(変位して)配置され、ボール9はそれぞれのボールトラック4、7の端部領域16、18に配置されている。
【0069】
トラック対10は、異なるピッチ21(異なる角距離)で周方向13に沿って配置されている。トラック対10の各中心線5、8は、周方向13に傾斜しており、回転軸3に平行な軸方向19に対して一定の勾配20を有する。よって、1つのトラック対10の中心線5、8は、反対の方向に傾斜している。摺動式等速ボールジョイント1の第2実施形態は、2つのボール9が1つのケージ窓12内に配置されており、割り当てられるトラック対10同士は、周方向13に沿って互いに対してあるピッチ21で配置されており、そのピッチ21は、割り当てられるトラック対10同士のうち一方と、そのトラック対10と周方向13に隣接するトラック対10とのピッチよりも小さい。
【0070】
ウェブ14は、ケージ窓12同士の間にそれぞれ配置される。図6に示されるジョイント1の設計と比較すると、各ケージ窓12内に2つのボール9がある。図6のウェブ14と比較すると、ここでのウェブ14は広がっている。
【0071】
ケージ窓12は、周方向13に沿って2つのトラック対10にわたって延在しており、2つのボール9を収容している。ケージ窓12内の2つのボール9の間にはウェブ14がない。従って、外側ジョイント部分2及び内側ジョイント部分6の少なくとも一方との、対応する接触面15が不要となる。このような状況により、2つのトラック対10のボールトラック4、7は、周方向13において可能な限り互いに近くに(小さいピッチ21、即ち、小さい角距離で)配置される。これにより、(別のケージ窓12内に配置されるボール9を案内する)トラック対10は、可能な限り遠くに(大きなピッチ21、即ち、大きな角距離で)配置することができる。従って、可能な限り遠くに配置されるボールトラック対10同士の間に、ケージ11のウェブ14を周方向13において広く設けることができる。これに応じて、特に、外側ジョイント部分2及び内側ジョイント部分6の少なくとも一方との、対応する接触面15を大きくすることができる。
【0072】
図8は、第2変形例によるジョイント1のボールトラック4、7を展開した状態を示す。図2図7の説明を参照する。
【0073】
図8の上部では、ボール9はそれぞれ、中間領域17の中間地点に配置されている。図8の下部では、ジョイント部分2、6は軸方向19に沿って互いに変位して配置され、ボール9はそれぞれのボールトラック4、7の端部領域16、18に配置されている。
【0074】
上述のさまざまな実施例は、摺動式等速ボールジョイント1において組み合わせて実現されるものである。
【0075】
2つのボール9は、1つのケージ窓12内に配置されており、割り当てられるトラック対10同士は、周方向13に沿って互いに対してあるピッチ21で配置されており、そのピッチ21は、割り当てられるトラック対10同士のうち一方と、そのトラック対10と周方向13に隣接するトラック対10とのピッチよりも小さい(第2実施形態)。トラック対10の中心線5、8は、周方向13に傾斜して延在し、且つ、回転軸3に平行である軸方向19に対する勾配20を有する。中心線5、8の勾配20は、端部領域16、18において徐々に減少しており、中間領域17のところから減少している(第1実施形態)。1つのトラック対10の各中心線5、8は、反対の方向に傾斜する。
【0076】
図9は、第3変形例によるジョイント1のボールトラック4、7を展開した状態を示す。図8の説明を参照する。
【0077】
図8と比較すると、ここでは全てのボール9の直径26が大きくなっている。その結果、ケージ11が十分な強度であれば、ボール9の直径26を大きくすることにより摺動式等速ボールジョイント1のトルク容量や耐久性を高めることができる。
【符号の説明】
【0078】
1 摺動式等速ボールジョイント
2 外側ジョイント部分
3 回転軸
4 外側ボールトラック
5 外側中心線
6 内側ジョイント部分
7 内側ボールトラック
8 内側中心線
9 ボール
10 トラック対
11 ケージ
12 ケージ窓
13 周方向
14 ウェブ
15 接触面
16 第1の端部領域
17 中間領域
18 第2の端部領域
19 軸方向
20 勾配
21 ピッチ
22 傾斜角
23 距離
24 径方向
25 チルト角
26 距離
27 自動車
28 駆動ユニット
29 ホイール
30 ギアボックス
31 側方シャフト機構
32 前後方向シャフト機構
33 差動装置
34 シャフト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2024-10-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動式等速ボールジョイント(1)であって、
回転軸(3)を有し且つ複数の外側ボールトラック(4)と複数の外側中心線(5)とを有する外側ジョイント部分(2)と、
複数の内側ボールトラック(7)と複数の内側中心線(8)とを有する内側ジョイント部分(6)と、
複数のトルク伝達ボール(9)であって、
互いに割り当てられており且つトラック対(10)を形成する複数の外側ボールトラック(4)及び複数の内側ボールトラック(7)について、該トルク伝達ボール(9)はそれぞれ、前記複数の外側ボールトラック(4)及び前記複数の内側ボールトラック(7)の中を案内される、複数のトルク伝達ボール(9)と、
複数のケージ窓(12)を有するケージ(11)であって、前記複数のケージ窓(12)はそれぞれ前記ボール(9)のうちの1つ又は複数を収容するケージ(11)と、
を少なくとも備え、
前記ケージ(11)は、周方向(13)に沿って前記ケージ窓(12)同士の間にそれぞれウェブ(14)を有しており、
前記ウェブ(14)は、前記外側ジョイント部分(2)及び前記内側ジョイント部分(6)の少なくとも一方の上で、それぞれ球状の接触面(15)を介して案内され、
前記中心線(5、8)はそれぞれ、前記ボールトラック(4、7)に沿って、第1の端部領域(16)から、中間領域(17)を通って、第2の端部領域(18)まで延在しており、
少なくとも一部の前記トラック対(10)の前記中心線(5、8)はそれぞれ、前記周方向(13)に傾斜して延在し、即ち、前記回転軸(3)に平行である軸方向(19)に対して勾配(20)を有し、
1つのトラック対(10)の各中心線(5、8)は、反対の方向に傾斜しており、
a)少なくとも1つの前記トラック対(10)の前記中心線(5、8)の前記勾配(20)の量は、少なくとも端部領域(16、18)において徐々に減少しており、前記中間領域(5、8)のところから減少している、及び
b)2つのボール(9)は、1つのケージ窓(12)内に配置されており、割り当てられる前記トラック対(10)同士は、前記周方向(13)に沿って互いに対してあるピッチ(21)で配置されており、
前記ピッチ(21)は、割り当てられる前記トラック対(10)同士のうち一方と、該トラック対(10)の前記周方向(13)に隣接するトラック対(10)とのピッチよりも小さい、
上記a)及びb)のうち少なくとも一方である、
摺動式等速ボールジョイント(1)。
【請求項2】
請求項1に記載の摺動式等速ボールジョイント(1)であって、
前記勾配(20)は、少なくとも前記中間領域(17)において一定である、
摺動式等速ボールジョイント(1)。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の摺動式等速ボールジョイント(1)であって、
少なくとも2つの前記トラック対(10)において、前記ボール(9)は同じケージ窓(12)内に配置され、それぞれ固有の一定の勾配(20)を有する中心線(5、8)を有する、
摺動式等速ボールジョイント(1)。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の摺動式等速ボールジョイント(1)であって、
少なくとも2つの前記トラック対(10)において、前記ボール(9)は同じケージ窓(12)内に配置され、勾配(20)を有する中心線(5、8)を有し、
前記勾配(20)の量は、少なくとも端部領域(16、18)において徐々に減少しており、前記中間領域(17)のところから減少している、
摺動式等速ボールジョイント(1)。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の摺動式等速ボールジョイント(1)であって、
摺動式等速ボールジョイント(1)は、少なくとも6+2n個のボール(9)(n=0、1、2、...)を備え、
前記トラック対(10)は、それぞれ固有の一定の勾配(20)を有する中心線(5、8)と、前記中間領域(17)から、少なくとも端部領域(16、18)において徐々に減少する勾配(20)を有する中心線(5、8)とを、前記周方向(13)に沿って交互に有する、
摺動式等速ボールジョイント(1)。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の摺動式等速ボールジョイント(1)であって、
前記勾配(20)は、前記軸方向(19)に対する前記中心線(5、8)の傾斜角(22)に対応し、
前記傾斜角(22)は、小さくとも16度の角度である、
摺動式等速ボールジョイント(1)。
【請求項7】
請求項6に記載の摺動式等速ボールジョイント(1)であって、
前記傾斜角(22)は、2度から16度の間の値である、
摺動式等速ボールジョイント(1)。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の摺動式等速ボールジョイント(1)であって、
摺動式等速ボールジョイント(1)が真っ直ぐな配置にあるとき、少なくとも一部の前記トラック対(10)の前記中心線(5、8)は、前記回転軸(3)から略一定の距離(23)に延在する、
摺動式等速ボールジョイント(1)。
【請求項9】
請求項に記載の摺動式等速ボールジョイント(1)であって、
前記外側ボールトラック(4)及び前記内側ボールトラック(7)は、径方向(24)において、前記軸方向(3)に対してそれぞれのチルト角(25)で傾斜する、
摺動式等速ボールジョイント(1)。
【請求項10】
請求項9に記載の摺動式等速ボールジョイント(1)であって、
前記チルト角(25)は、2度から16度の間の値である、
摺動式等速ボールジョイント(1)。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の摺動式等速ボールジョイント(1)であって、
前記周方向(13)において、前記外側ボールトラック(4)のうち隣接して配置されたものはそれぞれ異なる方向に傾斜し、前記内側ボールトラック(7)のうち隣接して配置されたものはそれぞれ異なる方向に傾斜する、
摺動式等速ボールジョイント(1)。
【請求項12】
請求項9又は10に記載の摺動式等速ボールジョイント(1)であって、
前記勾配(20)は、前記軸方向(19)に対する前記中心線(5、8)の傾斜角(22)に対応し、
少なくとも一部の前記トラック対(10)は、
外側ボールトラック(4)及び内側ボールトラック(7)であって、その中心線(5、8)のそれぞれの傾斜角(22)がゼロ度である、外側ボールトラック(4)及び内側ボールトラック(7)を有する、
摺動式等速ボールジョイント(1)。
【請求項13】
請求項1又は2に記載の摺動式等速ボールジョイント(1)であって、
摺動式等速ボールジョイント(1)は、それぞれ直径(26)が異なるボール(9)を有する、
摺動式等速ボールジョイント(1)。
【請求項14】
請求項1又は2に記載の摺動式等速ボールジョイント(1)であって、
前記内側ジョイント部分(6)は、前記外側ジョイント部分(2)に対して、前記軸方向(19)に少なくとも5ミリメートル変位可能である、
摺動式等速ボールジョイント(1)。
【請求項15】
駆動ユニット(28)と各ホイール(29)とを備える自動車(27)であって、
前記駆動ユニット(28)から前記ホイール(29)にトルクを伝達するように設計された、請求項1又は2に記載の摺動式等速ボールジョイント(1)を少なくとも1つ備える、
自動車(27)。
【国際調査報告】