(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-26
(54)【発明の名称】シリコンナノワイヤ及び銅を含有する材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/027 20060101AFI20250218BHJP
C01B 33/029 20060101ALI20250218BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20250218BHJP
H01M 4/1395 20100101ALI20250218BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20250218BHJP
【FI】
C01B33/027
C01B33/029
H01M4/38 Z
H01M4/1395
H01M4/36 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024543087
(86)(22)【出願日】2023-01-18
(85)【翻訳文提出日】2024-09-18
(86)【国際出願番号】 EP2023051089
(87)【国際公開番号】W WO2023139100
(87)【国際公開日】2023-07-27
(32)【優先日】2022-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523446561
【氏名又は名称】アンワイヤー
【氏名又は名称原語表記】ENWIRES
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【氏名又は名称】中尾 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100220489
【氏名又は名称】笹沼 崇
(74)【代理人】
【識別番号】100225026
【氏名又は名称】古後 亜紀
(74)【代理人】
【識別番号】100230248
【氏名又は名称】杉本 圭二
(72)【発明者】
【氏名】ダクリシオ・フローリアン
(72)【発明者】
【氏名】レイ・ナデージュ
【テーマコード(参考)】
4G072
5H050
【Fターム(参考)】
4G072AA01
4G072BB04
4G072GG02
4G072GG03
4G072HH03
4G072HH04
4G072HH28
4G072JJ02
4G072JJ28
4G072KK07
4G072LL02
4G072LL03
4G072NN13
4G072RR01
4G072RR11
4G072UU30
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA03
5H050FA16
5H050FA17
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA22
5H050GA29
5H050HA02
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】前処理なしで且つ溶剤なしで実施可能な、少なくともシリコンナノワイヤ及び銅を含有する複合材料の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る複合材料の製造方法は、(A)反応器のチャンバ内に、少なくとも:ハロゲン化銅(CuXn)(式中、XはF、Cl、Br、Iから選択され、nは1または2から選択される整数である。);および粉末状の成長担体;の固体/固体混合物を導入するステップと、(B)前記反応器のチャンバ内で、シラン化合物またはシラン化合物の混合物から選択される、前記シリコンナノワイヤの少なくとも1種の前駆体化合物から、シリコンナノワイヤを成長させるステップと、(C)生成物を回収するステップと、を少なくとも備える。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともシリコンナノワイヤ及び銅を含有する複合材料の製造方法であって、
(A)反応器のチャンバ内に、少なくとも:
ハロゲン化銅(CuX
n)(式中、XはF、Cl、Br、Iから選択され、nは1または2から選択される整数である。)と、
粉末状の成長担体との
固体/固体混合物を導入するステップと、
(B)前記反応器のチャンバ内で、シラン化合物またはシラン化合物混合物から選択される、少なくとも1種のシリコンナノワイヤの前駆体化合物から、シリコンナノワイヤを成長させるステップと、
(C)生成物を回収するステップと、
を少なくとも備える、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、ステップ(A)が、
(1)少なくとも
ハロゲン化銅(CuX
n)(式中、XはF、Cl、Br、Iから選択され、nは1または2から選択される整数である。)と、
粉末状の成長担体とを、
固体同士混合するステップ、ならびに
(2)反応器のチャンバ内に、ステップ(1)で得られた混合物を投入するステップ、
を含むか、あるいは、
(1’)少なくとも
ハロゲン化銅(CuX
n)(式中、XはF、Cl、Br、Iから選択され、nは1または2から選択される整数である。)、および
粉末状の成長担体
を反応器のチャンバ内に投入するステップ、ならびに
(2’)前記反応器のチャンバ内で、前記ハロゲン化銅および前記成長担体を固体同士で混合するステップ、
を含む、方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法において、ステップ(B)が、
(3)前記反応器のチャンバ内に、シラン化合物またはシラン化合物の混合物から選択される、前記シリコンナノワイヤの少なくとも1種の前駆体化合物を導入するステップ、
(4)前記反応器のチャンバ内の酸素分子含有量を減少させるステップ、および
(5)200℃~900℃の範囲内の温度で熱処理を施すステップ、
を含む方法。
但し、ステップ(3)~(5)は、上記の順序で行ってもよく、他の順序で行ってもよい。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の方法において、当該方法を、固定床反応器、回転及び/又は混合用の機構によって動かされるタンブラ型反応器の管状チャンバ、あるいは、垂直流動床反応器で実施する、方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の方法において、前記成長担体を、カーボン系材料および炭素質ポリマーから選択する、方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法において、前記カーボン系材料を、カーボンブラックナノ粒子、炭素質ポリマー繊維、カーボンナノチューブ、グラフェンおよび黒鉛から選択する、方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の方法において、前記ハロゲン化銅を、塩化銅(I)(CuCl)、塩化銅(II)(CuCl
2)およびこれらの混合物から選択する、方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の方法において、前記シリコンナノワイヤの前記前駆体化合物が、シラン(SiH
4)またはジフェニルシラン(Si(C
6H
5)
2H
2)である、方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の方法において、前記熱処理を、300℃~700℃、好ましくは300℃~650℃の範囲内の温度で行う、方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の方法において、前記熱処理を、1分~10時間かけて実施する、方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法において、さらに、
前記シリコンナノワイヤの前記前駆体化合物に由来する有機物をカーボン材料に変換するための後処理ステップ、
を備える、方法。
【請求項12】
集電体を含む電極の製造方法であって、
(i)請求項1から11のいずれか一項に記載の方法を実施して複合材料を調製するステップと、
(ii)前記集電体の少なくとも一方の表面を、シリコン-銅の前記複合材料を電極活物質として含む組成物で被覆するステップと、
を備える、電極の製造方法。
【請求項13】
正極、負極、および前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータを含む、リチウム二次電池などのエネルギー貯蔵素子の製造方法であって、
請求項12に記載の方法を実施することにより、少なくとも一方の電極、好ましくは前記負極を作製するステップ、
を備える、エネルギー貯蔵素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属シード前駆体としてハロゲン化銅を用いるシリコンナノワイヤの育成方法に関する。同方法は、安価で着実であり、ハロゲン化銅を、Siナノワイヤの成長に有利なシリサイド類(CuxSiy)へとin-situで変換させることにより、シリコンナノワイヤの成長を可能にする。本発明に係る方法によって調製されたシリコンナノワイヤ系複合材料は、ナノエレクトロニクス、マイクロエレクトロニクス、スピントロニクス、エネルギー変換やエネルギー回収、センサ、リチウムイオン電池の負極物質などの様々な用途に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
シリコンは、地球上での存在度が高く類例のない性質を持つ元素であり、数多くの用途の中心的存在の一つとなっている。実際に、シリコンは、太陽電池技術(非特許文献1および非特許文献2)やマイクロエレクトロニクス(非特許文献3)内の主要なコンポーネントの一つである。シリコンは、放電電位が低く、理論充電容量も極めて高い(3579mAh/g)(非特許文献4)ため、Liイオン電池の用途でも極めて強い関心を集めている。シリコンのその他の利点は、ナノ構造化によってその形態を変えられるという点である。実際に、シリコンの形態としては、ナノ粒子やナノワイヤやナノシートの形態が主に見られる。シリコンのナノ構造化は、リチウム挿入/リチウム脱離過程で生じる機械的歪みに対する耐性を向上させることが分かっている(非特許文献5)。
【0003】
これらの形態の中でも、シリコンナノワイヤ(SiNW)は、その極めて高いアスペクト比から電荷輸送が効率的に行われ易く、Liイオン電池の負極の用途に極めて有利であるため、高い注目を浴びている(非特許文献6)。
【0004】
しかも、その導電率はドーパントで簡単に上げることができ、スーパーキャパシタ(非特許文献7および非特許文献8)や熱電材料(非特許文献9)にも用途を拡張できる。
【0005】
SiNWの合成は、主にVLS(vapor-liquid-solid)機構によるボトムアップ法で説明されている。この機構は、通常、触媒(つまり、成長シード)を基にして進行する。より正確には、VLS法では、シリコンウェハ(2次元基材)や、シリコンナノ粒子又はカーボンナノ粒子(0次元基材)などの基材と、通常金属薄膜やナノ粒子の形をとる金属シードとの組み合わせに主眼が置かれている。
【0006】
金は、その化学的安定性と、シリコンとの高い再結合性から、最も効率的な成長シードの一つとなっている。金は、それによって成長過程中のSiNWの直径の制御が可能となることから、通常、薄膜やナノ粒子として使用される。金ナノ粒子(AuNP)は、SiNW成長の最も優れたシードの一つとして知られている。実際に、Au-Si二元系状態図は、363℃に第一共晶点を有する。このように共晶点が低いことから、(金の融点:1100℃前後に対して)比較的低温で反応が進むため、反応の大半をシラン前駆体の分解温度で進行させることができる。
【0007】
金は、シランやジフェニルシランのような汎用性の高いシリコン前駆体と共に使用することができるが、AuNPの合成は、SiNWの量が限られることから、大部分実験室規模で行われている。AuNPの「自家的」調製には時間とコストがかかり、規模の拡大も困難と予測される。この戦略物質は、SiNWの経済的な大量生産を可能とするには高価過ぎる。
【0008】
錫、ガリウム、亜鉛、カドミウムなど、シリコンとの共晶点が低い他の材料も、同様のVLS機構を進めることができる。しかし、これらの金属の大半は、500℃超(SiNW作製の典型的な温度)で高い蒸気圧を示すため、工業的規模での応用が難しい。しかも、これらの金属には、SiNWを工業的規模で大量生産するという課題が残っている。したがって、VSS機構を進めることのできる別の種類の成長シードが求められている。
【0009】
VSS機構では、SiNWの成長はシリサイド相の形成によ駆動される。例えば、銅、チタン、白金、ニッケルなどの金属が、シリサイド化合物を形成することができる(非特許文献10)。特に、銅は、467℃、558℃、802℃の3つの共晶点を持つ極めて興味深い状態図を示す。このような共晶点により、シリコン前駆体についての選択肢や、SiNW製造時に用いるシード前駆体の形態を、多様化させることができる。
【0010】
Hashimi等(非特許文献11)は、アルキルアミンを媒介とした手法によるCuNWのマイクロ波合成を報告している。塩化銅(II)とオクタデシルアミンを、65℃の脱イオン水中で1時間混合する。次に、この溶液をグルコース系溶液と混合した後、マイクロ波によって2~6時間のあいだ80~120℃で反応させることにより、CuNWが形成される。
【0011】
Korte等(非特許文献12)は、塩化銅(I)又は塩化銅(II)を触媒とした硝酸銀のポリオール還元によるAgNWの合成を提示している。塩化銅をエチレングリコール、PVP/エチレングリコール溶液およびAgNO3/エチレングリコール溶液と続けざまに150℃で1時間かけて混合することにより、AgNWが形成される。
【0012】
これら各先行技術文献では、塩化銅が、それぞれ銅ナノワイヤ(CuNW)、銀ナノワイヤ(AgNW)の合成に使用されているのであって、SiNWの合成には使用されていない。
【0013】
Wen等(非特許文献13)は、η3-Cu3Si相の形成を研究する目的で、銅をシードとしたジシランの化学気相成長(CVD)によるSiNWの成長を報告している。熱蒸着により、Cu(0)薄膜を、Si(111)薄膜上にin-situで蒸着させる。ヘリウム/ジシランガス流を470℃~550℃の範囲内の温度で3時間低圧で導入することにより、SiNWの成長制御が行われる。
【0014】
Tuan等(非特許文献14)は、SiNW合成の触媒としてCuSナノ結晶を使用することを記載している。その反応は、2段階のin-situ反応であるあり、まずCuSがCu金属にin-situで変換されることで反応が開始され、Cuがモノフェニルシランと500℃および10.3MPaの圧力で10分間反応することによってシリサイド相が形成され、SiNWが成長する。
【0015】
米国特許第10243207号明細書(特許文献1)では、多孔質基材上に堆積した銅系コロイド状ナノ粒子を用いて成長ベースを形成し、シリコンナノワイヤを製造することが報告されている。具体的には、Cuナノ粒子のコロイド合成後、これが蒸着や銅イオン又は銅錯体の吸着や基材上への無電解析出を経ることによって成長シードが生じる。一例では、この成長ベースがシリコン前駆体と460℃で45分間低圧で反応することでSiNW系複合材料が形成され得る。
【0016】
米国特許出願公開第2007/166899号明細書(特許文献2)には、半導体産業に有用なシリコンナノワイヤの成長方法が開示されている。同方法は、シリコン、二酸化ケイ素、石英、ガラスなどの非金属物質からなる2次元基材の上面に銅触媒粒子層を形成するステップと、その表面にナノワイヤを成長させるステップと、を備える。同文献に開示された方法では、通常、基材(Siウェハ)1平方インチ当たり10μgのシリコンを析出させることができる。しかし、Liイオン電池用のナノワイヤの製造には、それを何桁も超える規模の収量が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第10243207号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/166899号明細書
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】D. Wolf et al., Energy Environ. Sci.,2 016, 9, 1552-1576.
【非特許文献2】X. Ou et al., ACS Appl. Mater. Interfaces, 2017, 9, 34527-34543.
【非特許文献3】Y. Bando et al., Small, 2017, 13, 1701713.
【非特許文献4】R. A. Huggins et al., J. Electrochem. Soc., 1981, 128, 725-729.
【非特許文献5】L. L. Shaw et al., Nanoscale, 2016, 8, 74-103.
【非特許文献6】Y. Cui et al., Nat. Nanotechnol., 2008, 3, 31-35.
【非特許文献7】S.-T. Lee et al., Nano Today, 2013, 8, 75-97.
【非特許文献8】S. Sadki et al., Nanoscale Res. Lett., 2013, 8, 1-5.
【非特許文献9】P. Yang et al. Nature, 2008, 451, 163-167.
【非特許文献10】V. Schmidt et al., Chem. Rev. 2010, 110, 361-388.
【非特許文献11】A. S. Hashimi et al., Current Applied Physics2020, 20, 205-211.
【非特許文献12】K. E. Korte et al., J. Mater. Chem. 2008, 18, 437-441.
【非特許文献13】C.-Y. Wen et al., Nano Lett. 2010, 10, 514-519.
【非特許文献14】H.-Y. Tuan et al., Chem. Mater. 2008, 20, 2306-2313.
【非特許文献15】Dusanes et al., J Nanopart Res, 2020, 22,363.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
これらの例により、銅がSiNWの成長シードとして関心深い候補であることは証明されたにしても、それらの製法は依然として高価であるし処理にも時間がかかり、未だ、SiNWの大量生産を実現し得るものではない。
【0020】
また、上記の先行技術文献から、銅系化合物がほとんどの場合溶液で使用されることを示しており、NW成長を行う前、に基材への堆積などの前処理が必要となる。
【0021】
したがって、SiNWという唯一無二で関心も集まっている材料をリチウムイオン電池の製造を始めとする幾つもの工業的用途で利用できるようにするため、SiNWを大量生産するための着実で安全かつ経済的な技術が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明では、成長シードとしてハロゲン化銅、好ましくは塩化銅を用いるシリコンナノワイヤの育成方法について説明する。本方法には、アニールや熱処理などの前処理なしで且つ溶剤なしで実施できるという利点がある。本方法は、簡単かつ経済的であり、着実でもある。本方法は、ハロゲン化銅、好ましくは塩化銅の、適度な温度での銅成分へのinsitu変換を利用する。
【0023】
本発明に係る方法は、出発材料を特定のものすることにより、具体的には、触媒と成長担体の形態と種類を特定のものにすることにより、大量のナノワイヤをワンポット法で且つ規模の拡大が可能な様式で製造することを可能とする。そのような出発材料は、安価な材料であり、さらなる処理を必要としないため、製法が簡単かつ経済的になる。
【0024】
本発明の第1の構成は、少なくともシリコンナノワイヤ及び銅を含有する複合材料の製造方法にある。この方法は、
(A)反応器のチャンバ内に、少なくとも:
ハロゲン化銅(CuXn)(式中、XはF、Cl、Br、Iから選択され、nは1または2から選択される整数である。);および
粉末状の成長担体;
との固体/固体混合物を導入するステップと、
(B)前記反応器のチャンバ内で、シラン化合物またはシラン化合物の混合物から選択される、前記シリコンナノワイヤの少なくとも1種の前駆体化合物から、シリコンナノワイヤを成長させるステップと、
(C)生成物を回収するステップと、
を少なくとも備える方法である。
【0025】
有利には、本発明に係る方法のステップ(A)は、
(1)少なくとも:
ハロゲン化銅(CuXn)(式中、XはF、Cl、Br、Iから選択され、nは1または2から選択される整数である。);および
粉末状の成長担体;
を固体同士混合するステップ、ならびに
(2)反応器のチャンバ内に、(1)のステップで得られた混合物を投入するステップ、
を含むか、あるいは、
(1’)反応器のチャンバ内に、少なくとも:
ハロゲン化銅(CuXn)(式中、XはF、Cl、Br、Iから選択され、nは1または2から選択される整数である。);および
粉末状の成長担体;
を投入するステップ、ならびに
(2’)前記反応器のチャンバ内で、前記ハロゲン化銅および前記成長担体を固体同士混合するステップ、
を含む。
【0026】
有利には、本発明に係る方法のステップ(B)は、
(3)前記反応器のチャンバ内に、シラン化合物またはシラン化合物の混合物から選択される、前記シリコンナノワイヤの少なくとも1種の前駆体化合物を導入するステップ、
(4)前記反応器のチャンバ内の酸素分子含有量を減少させるステップ、および
(5)200℃~900℃の範囲内の温度で熱処理を施すステップ、
を含む。但し、ステップ(3)~(5)の順序は、上記の順序であっても別の順序であってもよい。
【0027】
好適な一実施形態において、本発明に係る方法は、
(1)少なくとも:
ハロゲン化銅(CuXn)(式中、XはF、Cl、Br、Iから選択され、nは1または2から選択される整数である。);および
粉末状の成長担体;
を固体同士混合するステップ、ならびに
(2)反応器のチャンバ内に、ステップ(1)で得られた混合物を投入するステップ、
を備えるか、あるいは、
(1’)反応器のチャンバ内に、少なくとも:
ハロゲン化銅(CuXn)(式中、XはF、Cl、Br、Iから選択され、nは1または2から選択される整数である。);および
粉末状の成長担体;
を投入するステップ、ならびに
(2’)前記反応器のチャンバ内で、前記ハロゲン化銅および前記成長担体を固体同士混合するステップ、
を備え、さらに、
(3)前記反応器のチャンバ内に、シラン化合物またはシラン化合物の混合物から選択される、前記シリコンナノワイヤの少なくとも1種の前駆体化合物を導入するステップと、
(4)前記反応器のチャンバ内の酸素分子含有量を減少させるステップと、
(5)200℃~900℃の範囲内の温度で熱処理を施すステップと、
(C)生成物を回収するステップと、
を備える。但し、ステップ(1)~(5)またはステップ(1’)~(5)の順序は、上記の順序であっても別の順序であってもよい。
【0028】
これらの実施形態では、ステップ(2)がステップ(1)の後に、ステップ(2’)がステップ(1’)の後に実施される。
【0029】
本発明は、さらに、集電体を含む電極の製造方法に関する。この方法は、
(i)上記の方法を実施して複合材料を調製するステップと、
(ii)前記集電体の少なくとも一方の表面を、前記複合材料を電極活物質として含む組成物で被覆するステップと、
を備える。
【0030】
本発明は、さらに、正極、負極、および前記正極と前記負極との間に配置されるセパレータを含む、リチウム二次電池などのエネルギー貯蔵素子の製造方法に関する。この方法は、
上記の方法を実施することにより、これらの電極の少なくとも一方、好ましくは前記負極を作製するステップ、
を備える。
【0031】
第1の例において、前記複合材料の製造方法は、固定床反応器で実施される。
【0032】
第2の例において、前記複合材料の製造方法は、回転及び/又は混合用の機構によって動かされるタンブラ型反応器の管状チャンバで実施される。
【0033】
第3の例において、前記複合材料の製造方法は、垂直流動床反応器で実施される。
【0034】
好適な一実施形態において、前記ハロゲン化銅は、塩化銅(I)(CuCl)、塩化銅(II)(CuCl2)およびこれらの混合物から選択される。
【0035】
好適な一実施形態において、前記成長担体は、カーボン系材料および炭素質ポリマーから選択される。
【0036】
好ましくは、前記カーボン系材料は、カーボンブラックナノ粒子、炭素質ポリマー繊維、カーボンナノチューブ、グラフェン、黒鉛から、好ましくは黒鉛粉末、グラフェン粉末およびカーボン粉末から選択される。
【0037】
このような粉末の平均粒度は、有利には0.01μm~100μm、好ましくは0.01μm~50μm、より好ましくは0.05μm~50μmである。
【0038】
他の実施形態において、前記成長担体は、シリコンナノ粒子またはシリコンマイクロ粒子から選択される。
【0039】
好適な一実施形態において、前記シリコンナノワイヤの前記前駆体化合物は、シラン(SiH4)またはジフェニルシラン((Si(C6H5)2H2)である。
【0040】
好適な一実施形態において、前記熱処理は、300℃~700℃、好ましくは300℃~650℃の範囲内の温度で行われる。
好適な一実施形態において、前記熱処理は、1分~10時間かけて施される。
【0041】
好適な一実施形態において、前記複合材料の製造方法は、さらに、
前記シリコンナノワイヤの前記前駆体化合物に由来する有機物をカーボン物質に変換するための後処理ステップ、
を備える。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】Siナノワイヤ/銅(CuCl
2)/KS4黒鉛の複合材料(実施例1)の、走査型電子顕微鏡法(SEM)により得られた低倍率写真である。
【
図2】Siナノワイヤ/銅(CuCl
2)/KS4黒鉛の複合材料(実施例1)の、走査型電子顕微鏡法(SEM)により得られた高倍率写真である。
【
図3】Siナノワイヤ/銅(CuCl
2)/KS4黒鉛の複合材料(実施例1)から作製した電池の電位プロファイルを示すグラフ(X軸:電池の容量(mAh)、Y軸:電池の電位(V))である。
【
図4】SiH
4を用いた550℃での処理で得られたSiナノワイヤ/銅(CuCl
2)/SFG75黒鉛の複合材料(実施例2)の、走査型電子顕微鏡法(SEM)により得られた低倍率写真である。
【
図5】SiH
4を用いた550℃での処理で得られたSiナノワイヤ/銅(CuCl
2)/SFG75黒鉛の複合材料(実施例2)の、走査型電子顕微鏡法(SEM)により得られた高倍率写真である。
【
図6】SiH
4を用いた550℃での処理で得られたSiナノワイヤ/銅(CuCl
2)/SFG75黒鉛の複合材料(実施例2)から作製した電池の電位プロファイルを示すグラフ(X軸:電池の容量(mA.h)、Y軸:電池の電位(V))である。
【
図7】SiH
4を用いた500℃での処理で得られたSiナノワイヤ/銅(CuCl
2)/SFG75黒鉛の複合材料(実施例3)の、走査型電子顕微鏡法(SEM)により得られた低倍率写真である。
【
図8】SiH
4を用いた500℃での処理で得られたSiナノワイヤ/銅(CuCl
2)/SFG75黒鉛の複合材料(実施例3)の、走査型電子顕微鏡法(SEM)により得られた高倍率写真である。
【
図9】SiH
4を用いた500℃での処理で得られたSiナノワイヤ/銅(CuCl
2)/SFG75黒鉛の複合材料(実施例3)から作製した電池の電位プロファイルを示すグラフ(X軸:電池の容量(mA.h)、Y軸:電池の電位(V))である。
【
図10】SiH
4を用いた550℃での処理で得られたSiナノワイヤ/銅(CuCl
2)/SLP50黒鉛の複合材料(実施例4)の、走査型電子顕微鏡法(SEM)により得られた低倍率写真である。
【
図11】SiH
4を用いた550℃での処理で得られたSiナノワイヤ/銅(CuCl
2)/SLP50黒鉛の複合材料(実施例4)の、走査型電子顕微鏡法(SEM)により得られた高倍率写真である。
【
図12】SiH
4を用いた550℃での処理で得られたSiナノワイヤ/銅(CuCl
2)/SLP50黒鉛の複合材料(実施例4)から作製した電池の電位プロファイルを示すグラフ(X軸:電池の容量(mA.h)、Y軸:電池の電位(V))である。
【
図13】SiH
4を用いた500℃での処理で得られたSiナノワイヤ/銅(CuCl
2)/SLP50黒鉛の複合材料(実施例5)の、走査型電子顕微鏡法(SEM)により得られた低倍率写真である。
【
図14】SiH
4を用いた500℃での処理で得られたSiナノワイヤ/銅(CuCl
2)/SLP50黒鉛の複合材料(実施例5)の、走査型電子顕微鏡法(SEM)により得られた高倍率写真である。
【
図15】SiH
4を用いた500℃での処理で得られたSiナノワイヤ/銅(CuCl
2)/SLP50黒鉛の複合材料(実施例5)から作製した電池の電位プロファイルを示すグラフ(X軸:電池の容量(mA.h)、Y軸:電池の電位(V))である。
【
図16】SiH
4を用いた550℃での処理で得られたSiナノワイヤ/銅(CuCl
2)/KS4黒鉛の複合材料(実施例6)の、走査型電子顕微鏡法(SEM)により得られた低倍率写真である。
【
図17】SiH
4を用いた550℃での処理で得られたSiナノワイヤ/銅(CuCl
2)/KS4黒鉛の複合材料(実施例6)の、走査型電子顕微鏡法(SEM)により得られた高倍率写真である。
【
図18】SiH
4を用いた550℃での処理で得られたSiナノワイヤ/銅(CuCl
2)/KS4黒鉛の複合材料(実施例6)から作製した電池の電位プロファイルを示すグラフ(X軸:電池の容量(mA.h)、Y軸:電池の電位(V))である。
【
図19】SiH
4を用いた550℃での処理で得られたSiナノワイヤ/銅(CuCl)/SFG75黒鉛の複合材料(実施例7)の、走査型電子顕微鏡法(SEM)により得られた低倍率写真である。
【
図20】SiH
4を用いた550℃での処理で得られたSiナノワイヤ/銅(CuCl)/SFG75黒鉛の複合材料(実施例7)の、走査型電子顕微鏡法(SEM)により得られた高倍率写真である。
【
図21】SiH
4を用いた550℃での処理で得られたSiナノワイヤ/銅(CuCl)/SFG75黒鉛の複合材料(実施例7)から作製した電池の電位プロファイルを示すグラフ(X軸:電池の容量(mA.h)、Y軸:電池の電位(V))である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
「本質的に…からなる」という表現は、明記されている構成要素(成分)やステップ以外に、本発明の特性や性質に大きな影響を与えない1つ/1種以上の構成要素(成分)やステップが、本発明の方法や物質(材料)に含まれていてもよいということを意味する。
【0044】
「X~Y」という表現は、特に断りがない限り、境界値を含むものとする。この表現は、対象範囲がXとYの値、さらには、XからYまでの全ての値を含むことを意味する。
【0045】
本発明の第一の構成は、シリコンナノワイヤを含有する複合材料の、化学気相成長法(CVD)に基づく過程による製造方法にある。同複合材料は、リチウムイオン電池の負極活物質としての用途に適したものであるが、それ以外の用途も考えられる。
【0046】
この方法で得られたSiNW複合材料は、製造後そのまま使用してもよいし、製造してから何らかの処理に供してもよい。
【0047】
本発明は、シリコン系材料の製造方法に関する。本発明は、少なくともナノ構造シリコン材料及び銅を含有するシリコン系複合材料を、反応性シリコン含有ガス種の化学分解によって得る製造方法に関する。同方法は、化学気相成長法(CVD)の原理に基づくものである。「複合材料」とは、物理的特性または化学的特性が大きく異なる2種以上の構成物質からなる材料のことを指す。
【0048】
粒子の外形寸法は、任意の既知の方法、特には、走査型電子顕微鏡法(SEM)によって得られた本発明に係る複合材料の写真の分析によって測定が行うことができる。
【0049】
(複合材料の製造方法)
本発明は、少なくとも銅及びSiNWを含有する複合材料の製造方法に関する。この方法は少なくとも、
(A)反応器のチャンバ内に、少なくともハロゲン化銅(CuXn)(式中、XはF、Cl、Br、Iから選択され、nは1または2から選択される整数である。)、および粉末状の成長担体の固体/固体混合物を導入するステップと、
(B)前記反応器のチャンバ内で、シラン化合物またはシラン化合物の混合物から選択される、前記シリコンナノワイヤの少なくとも1種の前駆体化合物から、シリコンナノワイヤを成長させるステップと、
(C)生成物を回収するステップと、
を備える。
【0050】
有利には、ステップ(A)は、本明細書で定めるサブステップ(1)~(2)またはサブステップ(1’)~(2’)を含む。有利には、ステップ(B)は、本明細書で定めるサブステップ(3)~(5)を含む。
【0051】
具体的には、本発明に係る方法は、
(1)少なくとも:
ハロゲン化銅(CuXn)(式中、XはF、Cl、Br、Iから選択され、nは1または2から選択される整数である。);および
粉末状の成長担体;
を固体同士混合するステップ、ならびに
(2)反応器のチャンバ内に、(1)のステップで得られた混合物を投入するステップ、
を備えるか、あるいは、
(1’)反応器のチャンバ内に、少なくとも:
ハロゲン化銅(CuXn)(式中、XはF、Cl、Br、Iから選択され、nは1または2から選択される整数である。);および
粉末状の成長担体;
を投入するステップ、ならびに
(2’)前記反応器のチャンバ内で、前記ハロゲン化銅および前記成長担体を固体同士混合するステップ、
を備え、さらに、
(3)前記反応器のチャンバ内に、シラン化合物またはシラン化合物の混合物から選択される、前記シリコンナノワイヤの少なくとも1種の前駆体化合物を導入するステップと、
(4)前記反応器のチャンバ内の酸素分子含有量を減少させるステップと、
(5)200℃~900℃の範囲内の温度で熱処理を施すステップと、
(C)生成物を回収するステップと、
を備える。
【0052】
ステップ(1)~(5)またはステップ(1’)~(5)の順序は、実質的に、前記方法を実施する反応器の特性、酸素分子含有量を減少させる方法、およびシリコンナノワイヤの前駆体化合物を反応器に導入する際の状態(液体または気体)などに応じて、上記の順序であってもよく、別の順序であってもよい。
【0053】
例えば、ステップ(3)及び/又はステップ(4)及び/又はステップ(5)を、ステップ(1)及びステップ(2)、あるいは、ステップ(1’)及びステップ(2’)よりも先に実施してもよい。ステップ(1)及びステップ(2)、あるいは、ステップ(1’)及びステップ(2’)は、常にこの順序である。例えば、本発明に係る方法は、ステップ(3)-(1)-(2)-(4)-(5)-(C)、あるいは、ステップ(4)-(3)-(1’)-(2’)-(5)-(C)、あるいは、ステップ(1)-(2)-(4)-(3)-(5)-(C)の順序で実施してもよい。
【0054】
第1の例において、前記方法は、固定床反応器で実施される。
第2の例において、前記方法は、回転及び/又は混合用の機構を具備したタンブラ型反応器の管状チャンバで実施される。
第3の例において、前記方法は、(垂直)流動床反応器で実施される。
【0055】
第1の実施形態では、前記方法のあいだ、反応器が閉止されている。
第2の実施形態では、前記方法のあいだ、反応器が開放されている。
【0056】
開放式反応器とは、前記方法の実施中、特に、熱処理ステップのあいだ、ガスの流れが開放された状態に維持される反応器のことを意味する。閉止式反応器とは、前記方法の始めにガス種が導入された後、熱処理ステップのあいだ、ガスの流れが閉止される反応器のことを意味する。
【0057】
プロセスパラメータ
以下で述べるプロセスパラメータは、前記方法の全ての例(固定床反応器、回転及び/又は混合用の機構を具備したタンブラ型反応器、流動床反応器)に共通するプロセスパラメータである。
【0058】
本発明に係る方法は、先に定義したとおりの且つ後で詳述するとおりのハロゲン化銅触媒と、成長担体物質とを固体同士混合するステップを備えている。
【0059】
「固体同士混合」とは、原料である固体状のハロゲン化銅、好ましくは粉末状のハロゲン化銅と、固体で粉末状の成長担体物質とを組み合わせて且つ/或いは関連付けて且つ/或いは混ぜ合わせて、略均質な組成の材料を得ることを意味する。固体/固体の混合は、溶媒や溶剤なしで実行される。ハロゲン化銅触媒および成長担体物体の性質や特徴は、後に詳述する。
【0060】
第1の例において、ハロゲン化銅触媒と成長担体物質とを混合するステップは、それらが反応器のチャンバ内に投入される前に行われる。
【0061】
固体/固体混合は、当業者にとって既知であるミキサシステム(Turbula(登録商標)、Cyclomix(登録商標)、Nautamix)や粉砕システムなどの任意の工業混合装置で行うことができる。粉砕システムとしては、ボールミル、アトライタミル、ハンマーミル、高エネルギーミル、ピンミル、ターボミル、ファインカッティングミル、衝撃ミル、流動床ミル、コニカルスクリューミル、ローターミル、攪拌ビーズミル、ジェットミルなどのシステムを例示できる。
【0062】
第2の例において、ハロゲン化銅触媒と成長担体物質とを混合するステップは、反応器のチャンバ内で行われる。本例は、反応器が固体/固体混合に適した混合機能を具備している場合に実施が可能である。これは例えば、回転用の機構を具備したタンブラ型反応器において行われてもよい。
【0063】
反応器のチャンバ内の酸素分子含有量を減少させるステップ(4)は、様々な方法で行うことができる。
【0064】
反応器のチャンバ内の酸素分子含有量は、反応器を真空に、好ましくは10-1bar(10-2MPa)以下の圧力にすることによって減少が可能である。
【0065】
ほかにも、反応器の前記チャンバを不活性ガスで洗浄することにより、反応器のチャンバ内の酸素分子含有量を減少させることができる。
【0066】
本発明の文脈において「反応器のチャンバを不活性ガスで洗浄する」という表現は、不活性ガス流を反応器のチャンバ内に注入することにより、該反応器内に存在するガスを、注入した不活性ガスに置き換えることを意味する。
【0067】
好ましくは、前記不活性ガスは、窒素ガス(N2)、アルゴンガス(Ar)およびこれらの混合物から選択される。
【0068】
閉止式反応器である場合、反応器のチャンバは、不活性ガスで好ましくは2回以上、より好ましくは3回以上洗浄される。
【0069】
開放式反応器である場合には、不活性ガスを、方法のプロセス全体または一部のあいだ反応器のチャンバ内を流通させてもよい。
【0070】
好ましくは、ステップ(4)終了時の反応器の前記チャンバ内の酸素分子含有量は、前記反応器のチャンバの総容積を基準として1体積%以下である。
【0071】
好ましくは、前記熱処理は、200~900℃、好ましくは300℃~700℃、なおいっそう好ましくは300℃~650℃の範囲内の温度で行われる。
【0072】
本願の出願人は、驚くべきことに、反応温度を変化させることで、SiNWの直径を制御できるということに気付いた。実際、印加温度を上げると、得られるSiNWの直径が小さくなる。
【0073】
好ましくは、前記熱処理は、低圧、大気圧または0.11~30MPaの範囲内の圧力下で行われる。圧力パラメータは、どのような種類の反応器を選択するのか、さらには、該反応器が開放状態なのか閉止状態なのかによって決まる。
【0074】
本発明の実施プロセスでは、(反応器が閉止式である場合、特に)、熱処理によって反応器内の圧力が上昇する可能性がある。このような内圧は、施される熱処理に左右されるが、必ずしも制御又は監視する必要はない。
【0075】
好ましくは、前記熱処理は、特に、反応器が該処理のあいだ閉止されている場合、1分~10時間、好ましくは1分~2時間、より好ましくは1分~30分かけて施される。
【0076】
例示的な一実施形態において、本発明に係る方法は、有機物をカーボン物質に変換するための後処理ステップを、ステップ(5)とステップ(C)との間に備える。「有機物」とは、ジフェニルシランなどのシラン類のようなシリコンナノワイヤ前駆体の分解で生じた有機化学物質残渣のことを意味する。このステップを実施する際は、該ステップが実質的に熱処理で構成される。有利には、このステップは、不活性雰囲気下、例えばN2、Ar、Ar/H2の混合ガス等のようなキャリアガス雰囲気下で、500℃~700℃、好ましくは550℃~650℃の範囲内、有利には600℃前後の温度で行われる。
【0077】
本発明に係る方法は、ステップ(C)で得られた複合材料を洗浄する追加のステップ(7)を備えていてもよい。
【0078】
ステップ(C)で得られた複合材料は、有機溶剤、好ましくはクロロホルム、エタノール、トルエン、アセトン、ジクロロメタン、石油エーテルおよびこれらの混合物から選択される有機溶剤で洗浄され得る。
【0079】
変形例として、ステップ(C)で得られた複合材料は、酸溶液で洗浄されてもよい。
【0080】
好ましくは、前記方法は、ステップ(7)の後に、さらに、洗浄後の複合材料を乾燥させる追加のステップを備えていてもよい。
【0081】
例えば、前記複合材料は、好ましくは40℃以上、より好ましくは60℃以上の温度のオーブンに入れることで乾燥される。
【0082】
乾燥ステップは、好ましくは15分~12時間、より好ましくは2時間~10時間、なおいっそう好ましくは5時間~10時間のあいだ行われる。
【0083】
(シリコンナノワイヤの前駆体化合物)
本発明に係る方法では、前記反応器のチャンバ内に、シリコンナノワイヤの少なくとも1種の前駆体化合物が導入される。「シリコンナノワイヤの前駆体化合物」とは、本発明に係る方法を実施した際にシリコンナノワイヤを形成することが可能な化合物、特に、CVD処理条件下でシリコンナノワイヤを形成することが可能な化合物のことを指す。
【0084】
この化合物は、反応器のチャンバ内に、液体または気体として導入され得る。化合物が液体として反応器のチャンバ内に導入された場合、反応器の該チャンバ内の温度と圧力を制御することで、化合物が反応器の該チャンバ内で気体状態に変化する。シリコンナノワイヤの前駆体化合物が気体状態のとき、該前駆体化合物のことを「反応性シリコン含有ガス種」と称する。
【0085】
例えば、SiNWの前駆体化合物が例えばジフェニルシラン等のような液体である場合、反応器が適切な温度/圧力パラメータに等することで、液体のこの前駆体が蒸発してガス種になる。
【0086】
シリコンナノワイヤの前駆体化合物は、反応器に、キャリアガスとの混合ガスとして導入されてもよい。
【0087】
前駆体化合物が反応性シリコン含有ガス種の形をとる場合、該前駆体化合物は、キャリアガスとの混合物として反応器のチャンバ内に導入されて(反応性シリコン含有混合ガスを形成し)てもよい。例えば、常温/常圧で気体であるSiH4の場合には、それ単独で又はキャリアガスとの混合物として、反応器のチャンバ内にそのまま導入することが可能である。そのほか、ジフェニルシラン(Ph2SiH2)のような液体の前駆体化合物の場合には、前記方法の前段階で加熱して蒸気状態に変化させてから、気体として反応器のチャンバ内にそれ単独で又はキャリアガスとの混合物として導入するようにしてもよい。
【0088】
好ましくは、シリコンナノワイヤの前駆体化合物、すなわち、「反応性シリコン含有ガス種」は、シラン化合物またはシラン化合物の混合物である。
【0089】
本発明の目的上、「シラン化合物」とは、式(I):
R1-(SiR2R3)n-R4 (I)
(式中、nは、1~10の整数であり、R1、R2、R3およびR4は、互いに独立して、水素、C1~C15アルキル基、C6~C12アリール基、C7~C20アラルキル基および塩化物から選択される。)
の化合物のことを指す。
【0090】
好ましくは、本実施形態のシリコン含有ガス種は、式(I)の化合物のうち、nが1~5の整数であり、R1、R2、R3およびR4が、互いに独立して、水素、C1~C3アルキル基、フェニルおよび塩化物から選択される、化合物から選択される。
【0091】
なお好ましくは、nは1~3の整数であり、R1、R2、R3およびR4は、互いに独立して、水素、メチル、フェニルおよび塩化物から選択される。
【0092】
好ましくは、本実施形態のシリコンナノワイヤの前駆体化合物は、シラン、ジシラン、トリシラン、クロロシラン、ジクロロシラン、トリクロロシラン、ジクロロジメチルシラン、フェニルシラン、ジフェニルシラン、トリフェニルシランまたはこれらの混合物から選択される。
【0093】
好ましい一実施形態において、シリコンナノワイヤの前駆体化合物は、シラン(SiH4)またはジフェニルシラン(Si(C6H5)2H2)である。シリコンナノワイヤの前駆体化合物をどれにするかやその物理的状態は、反応器の種類や方法のその他のパラメータに応じて選択される。
【0094】
(反応性シリコン含有混合ガス)
シリコンナノワイヤの前駆体化合物は、気体として、あるいは、反応器内で気体に変化することになる液体として、反応器に導入される。反応性シリコン含有ガス種が高温で化学分解することにより、シリコンナノワイヤが得られる。該反応性シリコン含有ガス種は、キャリアガスとの混合物であってもよい。以降、このような混合物を「反応性シリコン含有混合ガス」と称する。
【0095】
「キャリアガス」とは、還元性ガス、不活性ガスまたはこれらの混合物から選択されるガスのことを指す。
好ましくは、前記還元性ガスは、水素(H2)である。
好ましくは、前記不活性ガスは、アルゴン(Ar)、窒素(N2)、ヘリウム(He)またはこれらの混合物から選択される。
【0096】
好ましい一実施形態において、前記シリコン含有混合ガスは、その1体積%以上、好ましくは10体積%以上、より好ましくは50体積%以上、さらに好ましくは100体積%がシリコン含有ガス種で構成されている。
【0097】
シリコン含有ガス種とキャリアガスの比率は、前記方法の異なるステップで、異なるレベルに調整してもよい。
【0098】
(触媒)
本発明に係る方法では、CuXn触媒(式中、Xは、F、Cl、Br及びIからなる群から選択されるハロゲン化物であり、nは、1または2から選択される整数である。)が、反応器のチャンバ内に導入される。
【0099】
好ましくは、このハロゲン化銅は、塩化銅(I)(CuCl)、塩化銅(II)(CuCl2)およびこれらの混合物から選択される。
【0100】
本発明の文脈において「触媒」や「成長シード」は、同義的に使用され、式:CuXn(式中、Xは、F、Cl、Br及びIからなる群から選択されるハロゲン化物であり、nは、1または2から選択される整数である。)の化合物;から選択される化合物のことを示す。該触媒の機能は、SiNWの成長を促すことである。
【0101】
ハロゲン化銅(CuXn)触媒と成長担体との固体混合物は、反応器のチャンバ内に投入する前に調製してもよいし、反応器のチャンバ内で調製してもよい。
【0102】
好ましくは、ハロゲン化銅、特に、塩化銅が、原料、特に粉末状の原料として使用される。
【0103】
原料としてのハロゲン化銅は、極めて安定した生成物であり、他の触媒に比べて処理がし易い。実際に、金ナノ粒子系の成長媒体では固体/液体にしてから溶剤を蒸発させなければならないのに対し、ハロゲン化銅(好ましくは、塩化銅)は成長担体と固体同士混合するだけでよい。
【0104】
本発明に係る方法のこのステップは、ミキサ、ボールミル、アトライタミル、ハンマーミル、高エネルギーミル、ピンミル、ターボミル、ファインカッティングミル、衝撃ミル、流動床ミル、コニカルスクリューミル、ローターミル、攪拌ビーズミル、ジェットミルなどの、当業者にとって既知である任意の工業用混合装置により実施できる。変形例として、反応器のチャンバでこのステップを実施することも、該チャンバが対応していれば可能である。前記方法のこのステップは、30分以内の時間で済み、水性溶剤や有機溶剤なしでもきちんと行うことができる。
【0105】
触媒と成長担体物質は、好ましくは0.01~1、より好ましくは0.02~0.5、さらに好ましくは0.05~0.15の範囲内の質量比(触媒/成長担体)に従って使用される。
【0106】
このように触媒と成長担体物質とを関連付けることで、成長担体物質の表面に粒子成長箇所を複数形成できる。
【0107】
(成長担体)
本発明に係る方法は、粉末状の成長担体の存在下で実施される。例えば、成長担体は、カーボン系材料、シリコン系材料、ITO系材料、炭素質ポリマー等であってもよい。
【0108】
成長担体は、0次元、1次元、2次元または3次元の物質であってもよい。
例えば、0次元の物質は、シリコンナノ粒子、カーボンブラックナノ粒子等であってもよい。
例えば、1次元の物質は、炭素質ポリマー繊維、カーボンナノチューブ等であってもよい。
【0109】
例えば、2次元の物質は、シリコンウェハ、グラフェン、ITOガラス等であってもよい。2次元の成長担体は、実質、ナノエレクトロニクスやマイクロエレクトロニクスの用途が対象となる。例えば、3次元の物質は、シリコンマイクロ粒子、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛または膨張黒鉛)、微細化黒鉛などの粉末、ポリマー体などの炭素質物質等であってもよい。
【0110】
本発明の目的上、「粉末」とは、固体状の成長担体をばらばらにして極めて小さい粒子、具体的には1nm~100μm、好ましくは50nm~50μmの粒度の粒子にしたものを指す。本明細書で使用する「粉末」という用語は、ここで定義した粒度条件を満たすものであれば、あらゆる形態の(すなわち、繊維、凝集物、フレーク、チューブ、ロッド、フィラメントの形態であってもよい)材料を含み得る。担体の平均粒度の測定は、レーザ回折法によって行われ得る。
【0111】
好ましくは、本発明に係る方法は、0次元、1次元または3次元の物質を用いて実施される。
【0112】
シリコン系の担体であれば、シリコンナノ粒子、シリコンマイクロ粒子、シリコンウェハからなる群から、好ましくはシリコンナノ粒子およびシリコンマイクロ粒子から選択される、任意の物質としてもよい。
【0113】
シリコンナノ粒子の平均粒度は、好ましくは1~100nm、より好ましくは30~50nmである。
シリコンマイクロ粒子の平均粒度は、好ましくは0.1~30μm、有利には1~15μmである。
【0114】
シリコンウェハの平均幅寸法は、好ましくは1cm~45cm、有利には1~10cmである。ITO系の担体であれば、平均幅寸法が1cm~100cm、有利には1~10cmのITOガラスからなる群から選択される、任意の物質とされ得る。本開示の説明ではシリコンウェハについて触れているが、シリコンウェハは本請求の発明に含まれない。
【0115】
カーボン系の担体であれば、黒鉛、グラフェン、カーボン、詳細には天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン、カーボンナノチューブ又はアモルファスカーボン、カーボンナノファイバー、カーボンブラック、膨張黒鉛、グラフェンまたはこれらの2種以上の混合物からなる群から選択される、任意の物質としてもよい。これらの物質は、一般的に粉末の形で市販されている。
【0116】
成長担体がカーボン系の担体であれば、粒子、粒子凝集物、非凝集フレークまたは凝集フレークの形態としてもよい。
【0117】
本例において、カーボン系の担体であれば、ブルナウアー-エメット-テラー(BET)面積が、有利には1~100m2/gの範囲内、より好ましくは1~70m2/gの範囲内、なおいっそう好ましくは3~50m2/gの範囲内である。
【0118】
本例の好適な一実施形態において、カーボン系材料であれば、黒鉛粉末、グラフェン粉末、カーボン粉末、好ましくは平均粒度0.01~50μmの黒鉛粉末から選択される。
【0119】
他の例において、成長担体は、炭素質ポリマー体である。国際公開第2021/018598号には、ポリマーを成長担体として使用することが開示されている。
【0120】
成長担体が炭素質ポリマー体である場合、好ましくは、該ポリマー体の、熱重量分析によって求まる分解温度は、200℃以上、好ましくは300℃以上、より好ましくは400℃以上、有利には500℃以上である。
【0121】
本例において、前記ポリマー体は、有利には合成由来又は天然由来の繊維状ポリマー体から、好ましくは合成由来の繊維状ポリマー体から選択される。
【0122】
本例において、前記ポリマー体は、より有利にはポリベンゾチアゾール類、ポリアミン類、ポリイミド類、ポリウレタン類、ポリベンゾオキサゾール類、ポリアミド類、ポリベンゾイミダゾール類およびこれらの混合物、好ましくはポリアミド類から選択される。
【0123】
本例において、なおいっそう有利には、ポリマー体が、ケブラー(登録商標)としても知られるポリパラフェニレンテレフタルアミドである。
【0124】
前記成長担体がポリマー体であれば、本発明に係る方法は:
i)先に定義した方法に従い、ポリマー体及びSiNWを含有する複合材料を調製するステップと;
ii)このポリマー系複合材料のうちの前記ポリマー体を炭化するステップと;
を備える。シリコン/ポリマーの複合材料やシリコン/カーボンの複合材料の調製に適した方法パラメータの詳細については、国際公開第2021/018598号に開示されているとおりである。
【0125】
実施例の欄で記載するように、塩化銅などのハロゲン化銅(CuXn)を用いて製造されたナノワイヤの直径は、反応温度から直接的な影響を受ける。実際に、得られるSiNWの直径は、印加温度を上げると小さくなる。
【0126】
(ドーピング材料)
一実施形態において、本発明に係る方法では、少なくとも1種のドーピング材料が反応器に導入される。
【0127】
本発明の意味において「ドーピング材料」とは、シリコンの導電特性を変えることが可能な材料のことを意味するものと理解されたい。本発明の意味におけるドーピング材料は、例えばリン原子、ホウ素原子、窒素原子等を豊富に含む材料である。
【0128】
本実施形態において、好ましくは、ドーピング材料が、ジフェニルホスフィン、トリフェニルボラン、ジフェニルアミンおよびトリフェニルアミンから選択される前駆体で反応器のチャンバ内に導入される。第1の例において、この導入は、SiNW成長の開始前に実施される。
【0129】
他の例において、ドーピング材料の前駆体は、反応性シリコン含有混合ガスと同時に気体として(場合によっては、該混合ガスの一部として)導入される。
【0130】
好ましくは、ドーピング材料のモル比は、シリコンナノワイヤの前駆体化合物に対して10-4モル%~10モル%、好ましくは10-2モル%~1モル%である。
【0131】
(反応器)
第1の例において、本発明に係る方法は、固定床反応器で実施される。
第2の例において、本発明に係る方法は、回転及び/又は混合用の機構を具備したタンブラ型反応器の管状チャンバで実施される。
第3の例において、本発明に係る方法は、(垂直)流動床反応器で実施される。
【0132】
[第1の例]
第1の例において、本発明に係る方法は、固定床反応器で実施される。
●反応器の特性
固定床反応器は、開放式反応器であっても閉止式反応器であってもよい。
本発明に係る方法を実施するのに使用できる反応器は、例えば国際公開第2019/020938号等に開示されている。同文献では、「閉止式反応器」の態様で反応器が使用されている。
【0133】
代替的な一実施形態では、本発明に係る方法を実施するのに、開放式固定床反応器が使用される。このような反応器は、例えば、(回転又は混合しない)静的な態様で使用されるタンブラ型反応器の管状チャンバである。
【0134】
●パラメータ
好ましくは、この第1の例において、本発明に係る方法では:
(1)少なくとも:
ハロゲン化銅(CuXn)(式中、XはF、Cl、Br、Iから選択され、nは1または2から選択される整数である。);および
粉末状の成長担体;
を固体同士混合するステップと、
(2)反応器のチャンバ内に、(1)のステップで得られた混合物を投入するステップと、
(3)前記反応器のチャンバ内に、シラン化合物またはシラン化合物の混合物から選択される、前記シリコンナノワイヤの少なくとも1種の前駆体化合物を導入するステップと、
(4)前記反応器のチャンバ内の酸素分子含有量を減少させるステップと、
(5)200℃~900℃の範囲内の温度で熱処理を施すステップと、
(C)生成物を回収するステップと、
を少なくとも備える。
【0135】
この第1の例では、閉止式反応器の場合、該反応器のチャンバ内の酸素分子含有量を減少させるステップが、該反応器を真空、好ましくは10-1bar(10-2MPa)以下の圧力にすることによって行われ得る。
【0136】
変形例として、反応器のチャンバ内の酸素分子含有量を減少させるステップは、反応器の該チャンバを不活性ガスで洗浄することによって行ってもよい。
【0137】
本発明の文脈において「反応器のチャンバを不活性ガスで洗浄する」という表現は、不活性ガス流を反応器のチャンバ内に注入することにより、該反応器内に存在するガスを、注入した不活性ガスに置き換えることを意味する。
【0138】
好ましくは、不活性ガスは、窒素ガス(N2)、アルゴンガス(Ar)およびこれらの混合物から選択される。閉止式反応器の場合、該反応器のチャンバは、不活性ガスで好ましくは2回以上、より好ましくは3回以上洗浄される。開放式反応器の場合、不活性ガスを、前記方法のプロセス全体または一部のあいだ、反応器のチャンバ内を流通させてもよいい。
【0139】
好ましくは、ステップ(4)終了時の反応器のチャンバ内の酸素分子含有量は、反応器のチャンバの総容積を基準として1体積%以下である。
【0140】
本例のうち、閉止式反応器である場合の第1の実施形態では、一般的に、シリコンナノワイヤの前駆体化合物が、液体として該反応器に導入される。
【0141】
本例のうち、反応器が閉止式である場合の第1の実施形態では、ハロゲン化銅触媒、成長担体およびシリコンナノワイヤの前駆体化合物を、混合物のかたちで該反応器に投入してもよい。
【0142】
本例のうち、反応器が閉止式である場合の第1の実施形態では、好ましくは、該反応器が、シリコンナノワイヤの前駆体化合物を受け入れることが可能な第1のゾーンと、成長担体とハロゲン化銅触媒との混合物を受け入れることが可能な第2のゾーンとの、少なくとも2つの充填ゾーンを有する。
【0143】
第1の選択形態では、前記第1充填ゾーンと前記第2充填ゾーンが、反応器のチャンバ内の同じ高さのところに位置している。
【0144】
好ましい一選択形態において、前記第2の充填ゾーンは、前記第1の充填ゾーンよりも高いところに位置している。
【0145】
本例のうち、反応器が開放式である場合の第2の実施形態では、一般的に、シリコンナノワイヤの前駆体化合物が、不活性ガスとの混合ガス(「反応性シリコン含有混合ガス」)として反応器に導入される。
【0146】
[第2の例]
第2の例において、本発明に係る方法は、回転及び/又は混合用の機構を具備したタンブラ型反応器の管状チャンバで実施される。
【0147】
●反応器の特性
先述のタンブラ型反応器は、加熱炉によって加熱される管状チャンバから少なくとも構成されている。該管状チャンバには、成長担体物質とハロゲン化銅触媒を、個別の原料として充填してもよく、あるいは混合物として充填してもよい。同反応器には、回転用の機構および/または混合用の機構が組み込まれている。該管状チャンバの長手方向軸は、水平であるか、あるいは、水平軸と最大20°の角度を成すように傾斜させることが可能である。同反応器は、さらに、生成物供給系統および生成物排出系統を有しており、シリコン-銅の複合材料を半連続的に製造することが可能となっている。タンブラ型反応器は、例えば、ニードルバルブや圧力コントローラ等などの反応器圧力制御装置を具備している。
【0148】
機械タンブラ型反応器の一典型例は、管状チャンバ内の水平軸が螺旋状に回転することによって流動化が生じるレーディゲ(Lodige:oはウムラウト付き)式流動床反応器である。
【0149】
機械タンブラ型反応器の他の典型例は、長手方向軸回りに回転することによって流動化が生じる管状の回転チャンバを具備したものである。
【0150】
●パラメータ
本例は、成長担体と反応性ガス種からなるシリコンとを接触させるのに有益な流動化を反応器によって機械的に発生させるという点が極めて特徴的である。また、本例は、触媒および成長担体をそのまま導入し、反応器のチャンバ内で混合を行うことができるという点も極めて特徴的である。
【0151】
本例では、好ましくは、前記シリコンナノワイヤの前駆体化合物が、気体として該反応器に導入される。
【0152】
●同方法の各ステップ
有利には、本例において、本発明に係る方法は:
(1’A)少なくとも:
ハロゲン化銅(CuXn)(式中、XはF、Cl、Br、Iから選択され、nは1または2から選択される整数である。);および
粉末状の成長担体;
を反応器の管状チャンバ内に投入するステップと、
(2’A)前記管状チャンバを回転させ、かつ/あるいは、前記ハロゲン化銅と前記成長担体との混合機構を始動させるステップと、
(2’B)キャリアガス流下で前記管状チャンバを加熱するステップと、
(3)前記管状チャンバ内に、反応性シリコン含有混合ガスを導入するステップと、
(4)前記混合ガス流により、前記反応器のチャンバ内の圧力を制御するステップと、
(5)反応性シリコン含有混合ガス流下で、回転中および/または混合中の前記管状チャンバ内で200℃~900℃の範囲内の温度で熱処理を施すステップと、
(C)得られた生成物を回収するステップと、
を備える。
【0153】
本例では、大半のステップの順序は上記の順序でなければならないが、ステップ(2’A)の回転及び/又は混合は、ステップ(2’B)の前に開始してもよいし、ステップ(2’B)の後に開始してもよい。
【0154】
本例において、ステップ(5)の熱処理は、低圧(大気圧よりも低い圧力)、大気圧、または大気圧よりも高い圧力で施される。
【0155】
前記反応器が回転及び/又は混合用の機構を具備したタンブラ型反応器である場合、好ましくは、ステップ(5)の熱処理が大気圧で施される。
【0156】
[第3の例]
第3の例において、本発明に係る方法は、垂直流動床反応器で実施される。
●反応器の特性
垂直流動床反応器は、一般的に、鉛直円筒状のステンレス鋼製カラムで構成されている。該カラムの下部は、粉体を支持するとともに均一にガスを分布させる穴あき鋼板、およびシランの早期分解を回避するための水冷フランジとなっている。出口では、水簸された粒子を、高性能ろ過カートリッジによって回収することができる。該反応器は、2ゾーン電気加熱炉によって外部から加熱され、その壁部温度は、レギュレータに接続された少なくとも2つの熱電対によって制御される。熱電対は、さらに、該反応器沿いに複数配置されており、これにより、軸方向の温度プロファイルの監視が行われる。圧力センサにより、該反応器内の圧力の制御/監視が可能となっている。流量計により、該反応器内で粉体に対して流通させられる各種ガスの流量の制御が可能となっている。
【0157】
●パラメータ
垂直流動床反応器において、本発明に係る方法は、大気圧または大気圧よりも若干高い圧力で実施され得る。例えば、1.3×105Pa以上の圧力が好都合である。
【0158】
好ましくは、印加温度は、300℃~650℃の範囲内である。
本例では、好ましくは、前記シリコンナノワイヤの前駆体化合物が、気体として反応器に導入される。
本例において、触媒および成長担体は、いずれも粉末形態とされる。
【0159】
●プロセスステップ
(1)少なくとも:ハロゲン化銅触媒、好ましくは塩化銅触媒;および成長担体;を管状チャンバに投入するステップ、
(2)ハロゲン化銅触媒の粉末および前記成長担体の粉末を固体同士混合するステップ、
(4)窒素(1slm)を用いて反応器の密封試験を行うステップ(該密封試験は、1分後に圧力が安定していれば合格とする)、
(4’)中性ガスを用いて粉末の流動化を行うとともに、所望の流量に等するまでその流量を定期的に増加させる(例えば、所望の流量に等するまで2分ごとに0.5slmずつ流量を増加させる)ステップ、
(5)熱処理を施す(加熱炉の加熱系統および床下部のフランジの冷却系統を始動させる)ステップ、
(3)流動床が等温安定に等した後、反応性ガスを前記チャンバに導入するステップ、ならびに
(C)生成物を回収する(反応終了後、前記反応器を冷却してから、得られた生成物を回収する:例えば、前記反応器を150℃以下に冷却してから生成物を回収する)ステップ。
【0160】
大半のステップの順序は、上記の順序でなければならない。
このような方法は、例えば国際公開第2011/137446号に開示されている。
【0161】
(材料の組成)
上記で開示した方法により、シリコンナノワイヤ及び銅成分を含有する複合材料を入手できる。
【0162】
上記で開示した方法により、成長担体、シリコンナノワイヤ及び銅成分を含有し、好ましく本質的にこれらからなる複合材料を入手できる。
【0163】
他の実施形態では、上記で開示した方法により、本質的にシリコンナノワイヤ及び銅成分からなる複合材料を入手できる。
【0164】
有利には、得られた複合材料中のSi含有量は、該材料の総重量に対するケイ素の重量で5重量%超、好ましくは20重量%超である。
【0165】
本発明の意味において、本明細書で使用する「銅成分」や「銅」とは、シリコンナノワイヤの成長中にハロゲン化銅(特に、塩化銅)とシリコン前駆体(特に、シランガス)との反応によって生じる化合物、および残存する未反応のハロゲン化銅のことを意味するものと理解されたい。銅成分としては、特に、シリサイド類(CuxSiy)が挙げられ得る。好ましくは、複合材料は、その総重量に対して0.1重量%~10重量%の範囲内、好ましくは0.1重量%~5重量%の範囲内の量の銅成分を含有している。
【0166】
未反応のハロゲン化銅が残存するとは、導入したハロゲン化銅の全てが前記方法のあいだにシリコン前駆体と反応するわけではないことを指す。
【0167】
前記材料は、塩化物などのハロゲン化物を、微量成分として含有してもよい。
前記複合材料中には、塩化物などのハロゲン化物が微量成分として認められる場合がある。前記材料の総重量に対するハロゲン化物(特に、塩化物)の重量の典型的な値は、1重量%未満、好ましくは0.01重量%未満である。
【0168】
有利なことに、シリコンナノワイヤの前駆体化合物の化学気相分解によって得られるシリコン材料は、ワイヤの形をとる。ワーム、ロッド、フィラメントなどの他の形態も存在し得る。好ましい一実施形態において、シリコン材料、特に上記のようなシリコン含有ガス種の化学気相分解などで得られるシリコン材料は、ナノワイヤとナノ粒子との混合物である。このような実施形態は、例えば、SiH4をSiNWの前駆体化合物として用いた場合に相当する。
【0169】
本発明の意味において「ナノワイヤ」とは、ワイヤに類似する形状をとり、直径がナノメートルサイズの細長い物体のことを意味するものと理解されたい。
【0170】
シリコンナノワイヤの直径は、好ましくは1nm~250nmの範囲内、より好ましくは10nm~200nmの範囲内、さらに好ましくは30nm~180nmの範囲内である。
【0171】
シリコン材料のサイズは、例えば、カーボン-シリコンの複合材料の1つ以上の試料から走査型電子顕微鏡法(SEM)で得られた写真を分析する等の、当業者にとって周知な幾つかの手法で測定できる。
【0172】
シリコン(好ましくは、シリコンナノワイヤ)は、前記シリコン系複合材料の重量の、有利には1重量%~70重量%、好ましくは10重量%~70重量%、より好ましくは20重量%~70重量%、なお好ましくは30重量%~70重量%、より有利には50重量%~70重量%を占める。
【0173】
有利には、前記シリコン系複合材料は、好ましくは粉末の形で得られる。
【0174】
(カーボン-シリコンの複合材料の用途)
本発明に係るシリコン複合材料は、負極活物質として使用でき、また、リチウムイオン電池の製造に使用できる。
【0175】
集電体を含む電極は、当該技術分野で古典的に用いられる製造方法によって製造される。例えば、本発明のシリコン複合材料からなる負極活物質が、バインダ、溶剤および導電剤と混合される。必要に応じて、分散剤が添加され得る。該混合物を攪拌することにより、スラリーが調製される。次に、集電体にスラリーを塗布してプレス成形することにより、負極が製造される。
【0176】
ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF-co-HEP)、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチルなどの様々な種類のバインダポリマーを、本発明のバインダとして使用できる。
【0177】
前記電極は、当該技術分野で一般的に利用されて正極と負極との間に配置されるセパレータ及び電解液を含んでなる、リチウム二次電池を製造するために使用できる。
【実施例】
【0178】
(実施例)
以下の実施例では、特に断りのない場合、含有量および百分率を質量で与える。
【0179】
(材質)
反応器(固定床):ステンレス鋼製反応器(内部容積=1L、直径=100mm、高さ=125mm)、
ボールミル装置:レッチェ(Retsch)社から上市されている型番PM100、
Turbula(登録商標)装置:Wab社から上市されている型番T2F、
シリコン前駆体:シグマアルドリッチ(Sigma-Aldrich)社から上市されているジフェニルシラン(Si(C6H5)2H2)(CAS番号:775-12-2)、メッサー(Messer)社から上市されているSiH4、
触媒:アルファ・エイサー(Alfa Aesar)社から上市されているCuClおよびCuCl2、
黒鉛成長担体:イメリス(Imerys)社から上市されているSFG75黒鉛(SSA=3.5m2/g)、KS4黒鉛(SSA=24.48m2/g)およびSLP50黒鉛(SSA=4.97m2/g)、
導電性フィラー:イメリス(Imerys)社から商品名C-NERGY(登録商標)Actilion GHDR-15-4およびC-NERGY(登録商標)SFG15Lで上市されている黒鉛粉末、
カーボンブラック:イメリス(Imerys)社から上市されている商品記号Timcal C-NERGY C65(CAS番号:1333-86-4)、
アルファ・エイサー(Alfa-Aesar)社から上市されているカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)(CAS番号:9004-32-4)、
MTI社から上市されているスチレンブタジエンゴム(SBR)(CAS番号:9003-55-8)、
ソルビオニック(Solvionic)社から上市されている、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との混合物(体積1:1)にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)(1M)が溶解し、かつ、フルオロエチレンカーボネート(FEC)(10重量%)およびビニレンカーボネート(添加剤)(2重量%)を含有してなる電解液。
【0180】
(実施例1:KS4黒鉛/銅(CuCl2)/SiNWの複合材料(M1)の合成)
a)KS4黒鉛及びCuCl
2
の、プレ触媒材料としての混合
3gのKS4黒鉛を0.355gのCuCl2と組み合わせて、ボールミル装置の鋼製容器に投入する。次に、3mmの鋼製のボール(40g)を該容器に入れた後、該容器を堅く閉じる。これらの粉末を、400rpmで10分30秒かけて混合する。
ふるいで前記ボールを取り出して、プレ触媒材料を回収する。
【0181】
b)シリコンナノワイヤの成長(過程1)
ステップa)で得られた材料を、固定床反応器内のガラスカップに載せる。次に、50mLのジフェニルシラン(Ph2SiH2,)を該反応器の底に注ぐ。
【0182】
反応器を密閉した後、ガスラインと昇温体を該反応器に接続する。次に、該反応器を真空にするとともに、N2によるパージを数回行って酸素レベルを下げる。その後、該反応器の外表面と接触させた電気抵抗によって該反応器を加熱する。加熱サイクルは次のとおりである:20℃から430℃まで30分かけて昇温させ、430℃を60分間維持し、加熱を中断した後、該反応器を室温まで冷却する。最後に、該反応器を開いて複合材料を回収する。
【0183】
c)黒鉛/銅/シリコンの複合材料の後処理(過程2)
Ph2SiH2の分解によって生じた有機物を、熱処理で炭化させる。
過程1で得られた複合材料を、坩堝に入れた後、石英製の水平チューブ加熱炉に装入する。加熱炉の入口にはアルゴン(Ar)と水素ガス(H2)のガスラインが接続されており、これらを、97.5:2.5(v/v)の比率に制御された量で前記材料に対して途切れなく流通させる。熱処理は、600℃まで6℃/分の昇温量で且つ2時間実行し、その後、自然冷却させる。最後に、加熱炉を開いて複合材料M1を回収する。
【0184】
図1および
図2は、Siナノワイヤ/銅(CuCl
2)/KS4黒鉛の複合材料M1のSEM顕微鏡写真である。
図1では、KS4黒鉛102の表面上に、平均直径190nmのSiNW101が存在している。
図2では、KS4黒鉛202の表面上に、捻じれ縮んだ大きなSINW201が存在している。
【0185】
(実施例2:SFG75黒鉛/銅(CuCl2)/SiNWの複合材料(M2)の合成)
a)SFG75黒鉛及びCuCl
2
の、プレ触媒材料としての混合
12.5gのSFG75黒鉛を1.48gのCuCl2と組み合わせて、Turbula(登録商標)T2Fミキサに15分間導入する。
b)シリコンナノワイヤの成長(過程1)
ステップa)で得られたプレ触媒材料を、固定床反応器内のムライトチューブに均一に入れる。
【0186】
ガスラインを該反応器に接続して加熱チャンバを閉じた後、この石英チューブ内にN2(5slm)を数分間流通させることで酸素レベルを下げる。その後、該石英チューブの外表面と接触させた加熱装置によって該反応器を加熱する。加熱・ガス注入サイクルは次のとおりである:20℃から650℃までAr/H22.5%ガス流(流量5slm)下で1時間かけて昇温させ、N2/SiH40.9%(5slm)(L/分)下で550℃を2.15時間維持し、加熱を中断した後、該反応器をN2ガス流(流量5slm)下で室温まで冷却する。最後に、該反応器を開いて複合材料を回収する。
【0187】
図4および
図5は、Siナノワイヤ/銅(CuCl
2)/SFG75黒鉛の複合材料M2のSEM顕微鏡写真である。各図では、SFG75黒鉛401,501の表面上に、平均直径40nmの長くて真っ直ぐなSiNW(402,502)およびSiナノ粒子(503)が存在している。
【0188】
(実施例3:SFG75黒鉛/銅(CuCl2)/SiNWの複合材料(M3)の合成(500℃))
a)SFG75黒鉛及びCuCl
2
の、プレ触媒材料としての混合
12.5gのSFG75黒鉛を1.48gのCuCl2と組み合わせて、Turbula(登録商標)T2Fミキサに15分間導入する。
b)シリコンナノワイヤの成長(過程1)
ステップa)で得られたプレ触媒材料を、固定床反応器内のムライトチューブに均一に入れる。
【0189】
ガスラインを該反応器に接続して加熱チャンバを閉じた後、この石英チューブ内にN2(5slm)を数分間流通させることで酸素レベルを下げる。その後、該石英チューブの外表面と接触させた加熱装置によって該反応器を加熱する。加熱・ガス注入サイクルは次のとおりである:20℃から650℃までAr/H22.5%ガス流(流量5slm)下で1時間かけて昇温させ、N2/SiH40.9%(5slm)(L/分)下で500℃を2.15時間維持し、加熱を中断した後、該反応器をN2ガス流(流量5slm)下で室温まで冷却する。最後に、該反応器を開いて複合材料を回収する。
【0190】
図7および
図8は、得られたSiナノワイヤ/銅(CuCl
2)/SFG75黒鉛の複合材料M3のSEM顕微鏡写真である。SFG75黒鉛701,801の表面上に、平均直径176nmの捻じれた短めのSiNW(702,802)が得られる。
【0191】
(実施例4:SLP50黒鉛/銅(CuCl2)/SiNWの複合材料(M4)の合成(550℃))
a)SLP50黒鉛及びCuCl
2
の、プレ触媒材料としての混合
12.5gのSLP50黒鉛を1.48gのCuCl2と組み合わせて、Turbula(登録商標)T2Fミキサに15分間導入する。
【0192】
b)シリコンナノワイヤの成長(過程1)
ステップa)で得られたプレ触媒材料を、固定床反応器内のムライトチューブに均一に入れる。
ガスラインを該反応器に接続して加熱チャンバを閉じた後、この石英チューブ内にN2(5slm)を数分間流通させることで酸素レベルを下げる。その後、該石英チューブの外表面と接触させた加熱装置によって該反応器を加熱する。加熱・ガス注入サイクルは次のとおりである:20℃から650℃までAr/H22.5%ガス流(流量5slm)下で1時間かけて昇温させ、N2/SiH40.9%(5slm)(L/分)下で550℃を2.15時間維持し、加熱を中断した後、該反応器をN2ガス流(流量5slm)下で室温まで冷却する。最後に、該反応器を開いて複合材料を回収する。
【0193】
図10および
図11は、得られたSiナノワイヤ/銅(CuCl
2)/SLP50黒鉛の複合材料M4のSEM顕微鏡写真である。SLP50黒鉛1001,1101の表面上に、平均直径68nmの捻じれた短めのSiNW1103と長くて真っ直ぐなSiNW1002との混合物が得られる。
【0194】
(実施例5:SLP50黒鉛/銅(CuCl2)/SiNWの複合材料(M5)の合成(500℃))
a)SLP50黒鉛及びCuCl
2
の、プレ触媒材料としての混合
12.5gのSLP50黒鉛を1.48gのCuCl2と組み合わせて、Turbula(登録商標)T2Fミキサに15分間導入する。
b)シリコンナノワイヤの成長(過程1)
ステップa)で得られたプレ触媒材料を、固定床反応器内のムライトチューブに均一に入れる。
ガスラインを該反応器に接続して加熱チャンバを閉じた後、この石英チューブ内にN2(5slm)を数分間流通させることで酸素レベルを下げる。その後、該石英チューブの外表面と接触させた加熱装置によって該反応器を加熱する。加熱・ガス注入サイクルは次のとおりである:20℃から650℃までAr/H22.5%ガス流(流量5slm)下で1時間かけて昇温させ、N2/SiH40.9%(5slm)(L/分)下で500℃を2.15時間維持し、加熱を中断した後、該反応器をN2ガス流(流量5slm)下で室温まで冷却する。最後に、該反応器を開いて複合材料を回収する。
【0195】
図13および
図14は、Siナノワイヤ/銅(CuCl
2)/SLP50黒鉛の複合材料M5のSEM顕微鏡写真である。SLP50黒鉛1301,1401の表面上に、平均直径176nmの捻じれた短めのSiNW1302,1402が得られる。
【0196】
(実施例6:KS4黒鉛/銅(CuCl2)/SiNWの複合材料(M6)の合成(550℃))
a)KS4黒鉛及びCuCl
2
の、プレ触媒材料としての混合
12.5gのKS4黒鉛を1.48gのCuCl2と組み合わせて、Turbula(登録商標)T2Fミキサに15分間導入する。
b)シリコンナノワイヤの成長(過程1)
ステップa)で得られたプレ触媒材料を、固定床反応器内のムライトチューブに均一に入れる。
ガスラインを該反応器に接続して加熱チャンバを閉じた後、この石英チューブ内にN2(5slm)を数分間流通させることで酸素レベルを下げる。その後、該石英チューブの外表面と接触させた加熱装置によって該反応器を加熱する。加熱・ガス注入サイクルは次のとおりである:20℃から650℃までAr/H22.5%ガス流(流量5slm)下で1時間かけて昇温させ、N2/SiH40.9%(5slm)(L/分)下で550℃を2.15時間維持し、加熱を中断した後、該反応器をN2ガス流(流量5slm)下で室温まで冷却する。最後に、該反応器を開いて複合材料を回収する。
【0197】
図16および
図17は、得られたSiナノワイヤ(KS4上の平均直径20nm)/銅(CuCl
2)/KS4黒鉛の複合材料M6のSEM顕微鏡写真である。
【0198】
各図では、KS4黒鉛1601,1701の表面上に、長くて真っ直ぐなSiNW1602,1702およびナノ粒子の凝集物1603,1703が捕われている。
【0199】
(実施例7:SFG75黒鉛/銅(CuCl)/SiNWの複合材料(M7)の合成(550℃))
a)SFG75黒鉛及びCuClの、プレ触媒材料としての混合
12.5gのSFG75黒鉛を1.09gのCuClと組み合わせて、Turbula(登録商標)T2Fミキサに15分間導入する。
b)シリコンナノワイヤの成長(過程1)
ステップa)で得られたプレ触媒材料を、固定床反応器内のムライトチューブに均一に入れる。
ガスラインを該反応器に接続して加熱チャンバを閉じた後、この石英チューブ内にN2(5slm)を数分間流通させることで酸素レベルを下げる。その後、該石英チューブの外表面と接触させた加熱装置によって該反応器を加熱する。加熱・ガス注入サイクルは次のとおりである:20℃から650℃までAr/H22.5%ガス流(流量5slm)下で1時間かけて昇温させ、N2/SiH40.9%(5slm)(L/分)下で550℃を2.15時間維持し、加熱を中断した後、該反応器をN2ガス流(流量5slm)下で室温まで冷却する。最後に、該反応器を開いて複合材料を回収する。
【0200】
図19および
図20は、Siナノワイヤ/銅(CuCl)/SFG75黒鉛の複合材料M7のSEM顕微鏡写真である。各図では、SFG75黒鉛1901,2001の表面上に、平均直径69nmの長くて真っ直ぐなSiNW1902,2002が存在している。
【0201】
(実施例8:リチウムイオン電池の電極の作製)
調製した材料M1,M2,M3,M2,M5,M4,M5,M6,M7のそれぞれを負極活物質としたコイン電池を作製して、該材料の電気化学的特性を評価した。
a)導電性フィラーとの混合
本発明に係る複合材料M1,M2,M3,M2,M5,M4,M5,M6,M7を、IKA(登録商標)社のUltra-TurraxTubedrive分散機で、直径3mmのYSZ製粉砕ボールを用いて黒鉛粉末と混合した。
前記分散機には、複合材料および黒鉛を38:62の重量比で投入した。
10分間、回転数7で混合を行った。
最後に、混合した材料を回収し、さらなる処理又は特性評価に供した。
【0202】
b)コイン電池の作製
合成した各材料と黒鉛粉末(Actilion GHDR-15-4およびSFG15L)を、およそ38:62の比率で混合させた。黒鉛のみを活物質としてなる参考黒鉛電極も作製し、その重量容量を求めた。どちらの系に対しても、カーボンブラックC-NERGYC65を導電剤として添加し、カルボキシメチルセルロースナトリウム(Na-CMC)とスチレンブタジエンゴム(SBR)とをバインダとして適用し、脱イオン水を溶剤として使った。活物質:C65:バインダの重量比は、95:1:4とする。水を加えて、電極加工が可能な粘度(乾燥分:約40重量%)にした。30分間、回転数5で湿式混合を行った。20μm銅箔上に、各電極インキを投下した。電極を空気乾燥させた後、該電極を65℃のオーブンで2時間さらに乾燥させた。その後、電極を直径14mmの円盤状に切断し、およそ0.6t/cm2でカレンダー加工して秤量し、最後に110℃の真空中で一晩乾燥させた。
【0203】
Arグローブボックス内で、金属Liを対極及び参照電極に使用してなるハーフコイン電池(株式会社兼松KGK(登録商標):ステンレス鋼316L)を、Whatmanガラス繊維の層、Celgard2325セパレータの層、および任意の電極を用いて作製した。前記電極及びセパレータの素材には、10重量%FEC(フルオロエチレンカーボネート)及び2重量%VC(ビニレンカーボネート)を添加したEC:DEC(v/v=1/1)にLiPF6(1M)を溶解してなる電解液を含浸させた。その後、自動プレス機で前記電池を封止し、Arグローブボックスから取り出して電池充放電評価装置で測定した。5回のフォーメーションサイクルの後に、1Cレートによる通常の充放電サイクルを実施した。該フォーメーションサイクルは、定電流定電圧放電(リチウム挿入)・定電流充電(リチウム脱離)による、C/7の2サイクルおよびC/5の3サイクルからなる。
【0204】
c)電気化学的性能の測定
各自2つの異なる電極からなる8種類の方式が可能なBiologic社製BCS-805充放電測定システムを用いた定電流充放電サイクルにより、電池の性能を測定する。
1.電位プロファイル
C/7の充放電サイクル時に、電池容量との関係で電池電位を測定することで電池C1,C2,C3,C4,C5,C6,C7の電位プロファイルを求めた。
【0205】
【0206】
図3、
図6、
図9、
図12、
図15、
図18および
図21の、複合材料M1,M2,M3,M2,M5,M4,M5,M6,M7から得られた各電池の電位プロファイルから、黒鉛物質の電気化学的活性(0.2V未満)とシリコン物質の電気化学的活性が互いに合わさることで、これらの複合材料が電気的・電気化学的に活性を示していることが分かる。リチウムイオンによるシリコンの電気化学的な活性は、充電(リチウム脱離)時の0.45V付近の変曲部/擬似プラトーで特に明確に表れている。
【0207】
2.初期可逆容量
表2に、最初のサイクル(C/7)で測定される電池の初期可逆容量を示す。
【0208】
【0209】
複合材料M4から作製した電池C4と複合材料M7から作製した電池C7は、初期可逆容量が類似している。つまり、複合材料M4と複合材料M7は、同様の活性シリコン含量(およそ12~13%)を有する。
【0210】
さらに、電池C1,C2,C3,C4,C5,C6,C7を比較すると、活性シリコン含量が高ければ高くなるほど初期容量が上がることが分かる。
【0211】
まとめると、以上の結果から、成長担体の比表面積や形態により、SiNWの形状ファクタを調節できるほか、複合材料の電気的性能や電気化学的性能を制御できることが分かる。
【符号の説明】
【0212】
101,201,402,502,702,802,1002,1102,1103,1302,1302,1402,1602,1702,1902 SiNW
503 Siナノ粒子
1603,1703 ナノ粒子凝集体
102,202,1601,1701 KS4黒鉛
401,501,701,801,1901,2001 SFG75黒鉛
1001,1101,1301,1401 SLP50黒鉛
【国際調査報告】