(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-28
(54)【発明の名称】胆管細胞癌を効果的に殺傷するCAR-iNKT細胞技術
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20250220BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20250220BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20250220BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20250220BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20250220BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20250220BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20250220BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20250220BHJP
A61K 35/17 20250101ALI20250220BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20250220BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20250220BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20250220BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20250220BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
C07K16/28
C12N15/63 Z
C12N5/10
C12N15/62 Z
A61P35/00
A61P1/16
A61K35/76
A61K35/17
A61K47/68
A61K39/395 T
A61K48/00
A61P37/04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023569753
(86)(22)【出願日】2023-03-16
(85)【翻訳文提出日】2023-11-09
(86)【国際出願番号】 CN2023081894
(87)【国際公開番号】W WO2024152435
(87)【国際公開日】2024-07-25
(31)【優先権主張番号】202310087774.1
(32)【優先日】2023-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523185822
【氏名又は名称】北京基因▲啓▼明生物科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲閭▼ ▲軍▼
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ 祥▲賀▼
(72)【発明者】
【氏名】▲馮▼ ▲紀▼▲開▼
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA89X
4B065AA89Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C076AA95
4C076CC16
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE59
4C084AA13
4C084NA05
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4C085AA14
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4C085BB11
4C085BB12
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4C085CC03
4C085CC31
4C085DD62
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4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087BC83
4C087CA12
4C087CA16
4C087NA05
4C087NA13
4C087NA14
4C087ZA75
4C087ZB02
4C087ZB09
4C087ZB26
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA50
4H045FA74
(57)【要約】
本願は、MSLNを含むキメラ抗原受容体、該キメラ抗原受容体が形質導入されたiNKT細胞、及び肝癌、特に胆管細胞癌の作製におけるそれらの使用を提供する。本願では、iNKT細胞が肝臓にホーミング・定着できるという特性を利用して、適切なMSLN抗体配列を選択することで、高い腫瘍殺傷効率及び速いCAR-iNKT細胞増殖速度を実現し、Anti-MSLN CAR-iNKT細胞は、肝臓腫瘍の部位まで効果的に浸潤することができ、治療効果を極めて高くし、再発を減少し、毒性・副作用を軽減する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
順次連結されている、MSLN一本鎖抗体、スペーサードメイン又はヒンジ領域、膜貫通領域、細胞内共刺激ドメイン、シグナル領域を含むことを特徴とするキメラ抗原受容体。
【請求項2】
順次連結されている、CD8αシグナルペプチド、MSLN一本鎖抗体、CD8αヒンジ領域、CD28膜貫通領域、CD28共刺激ドメイン、及びCD3ζシグナル領域を含む、請求項1に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項3】
前記MSLN一本鎖抗体のアミノ酸配列がSEQ ID NO.8、10、12から選択される、請求項1又は2に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項4】
前記MSLN一本鎖抗体のヌクレオチド配列がSEQ ID NO.9、11、13から選択される、請求項3に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項5】
前記MSLN一本鎖抗体のアミノ酸配列がSEQ ID NO.8である、請求項3又は4に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項6】
前記CD8αシグナルペプチドのアミノ酸配列がSEQ ID NO.2であり、CD8αヒンジ領域のアミノ酸配列がSEQ ID NO.14であり、CD28膜貫通領域のアミノ酸配列がSEQ ID NO.4であり、CD28共刺激ドメインのアミノ酸配列がSEQ ID NO.6であり、CD3ζシグナル領域のアミノ酸配列がSEQ ID NO.16である、請求項1~5のいずれか1項に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項7】
前記CD8αシグナルペプチドのヌクレオチド配列がSEQ ID NO.3であり、CD8αヒンジ領域のヌクレオチド配列がSEQ ID NO.15であり、CD28膜貫通領域のヌクレオチド配列がSEQ ID NO.5であり、CD28共刺激ドメインのヌクレオチド配列がSEQ ID NO.7であり、CD3ζシグナル領域のヌクレオチド配列がSEQ ID NO.17である、請求項6に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項8】
前記キメラ抗原受容体のアミノ酸配列がSEQ ID NO.18、20、22から選択される、請求項1~7のいずれか1項に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項9】
前記キメラ抗原受容体のヌクレオチド配列が、SEQ ID NO.19、21、23から選択される、請求項8に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載のキメラ抗原受容体を担持するベクター。
【請求項11】
前記ベクターはpLV300であり、そのヌクレオチド配列がSEQ ID NO.24である、請求項10に記載のベクター。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか1項に記載のキメラ抗原受容体を形質導入した免疫細胞。
【請求項13】
前記免疫細胞は、T細胞、NK細胞又はiNKT細胞である、請求項12に記載の免疫細胞。
【請求項14】
前記免疫細胞はiNKT細胞である、請求項12に記載の免疫細胞。
【請求項15】
癌治療薬の製造における請求項1~14のいずれか1項に記載のキメラ抗原受容体、ベクター又は免疫細胞の使用。
【請求項16】
請求項1~14のいずれか1項に記載のキメラ抗原受容体、ベクター又は免疫細胞を用いることを特徴とする癌治療方法。
【請求項17】
前記癌は、MSLN過剰発現癌である、請求項15に記載の使用又は請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記癌は肝臓癌である、請求項17に記載の使用又は方法。
【請求項19】
前記癌は胆管細胞癌である、請求項18に記載の使用又は方法。
【請求項20】
請求項10又は11に記載のベクターを含む形質導入システム。
【請求項21】
前記形質導入システムは、ウイルス形質導入システム及び非ウイルス形質導入システムである、請求項20に記載の形質導入システム。
【請求項22】
前記形質導入システムは、レンチウイルス形質導入システムである、請求項21に記載の形質導入システム。
【請求項23】
前記癌はMSLN過剰発現癌である、請求項16に記載の方法。
【請求項24】
前記癌は肝臓癌である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記癌は胆管細胞癌である、請求項24に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は、2023年1月20日に中国特許庁に提出された、出願番号202310087774.1、発明名称が「胆管細胞癌を効果的に殺傷するCAR-iNKT細胞技術」である中国特許出願の優先権を主張しており、その全ての内容は引用によって本明細書に組み込まれている。
【0002】
[技術分野]
本願は、癌免疫療法の分野に属する。具体的には、本願は、MSLNを含むキメラ抗原受容体、該キメラ抗原受容体が形質導入されたiNKT細胞、及び肝癌、特に胆管細胞癌の作製におけるそれらの使用を提供する。
【背景技術】
【0003】
WHOの統計によると、2020年に、全世界で新たに増加した肝臓癌は90万[1]、中国で新たに増加した肝臓癌の病例は41万[2]で、全世界の肝臓癌の発病数の45%を占め、2020年、全世界の肝臓癌による死亡は83万[1]、中国の肝臓癌による死亡例は39万[2]で、全世界の肝臓癌による死亡数の46%を占めた。胆管細胞癌は肝癌総数の約10%を占める[3]。
【0004】
胆管癌は、肝内や肝外の胆管上皮層で発生する腫瘍の1種である。胆管癌は、早期発見が困難で、診断後の予後が悪く、5年生存率が10%しかない[4]。診断後の胆管癌患者のうち約3分の1のみが手術治療に適している[5]。胆管癌の治療方法には、手術による腫瘍切除、肝移植、放射線治療、化学療法、局部治療、分子標的治療、免疫治療が含まれる[6]。現在の治療手段は、臨床の要求を満たすことができず、胆管細胞癌には、より安全で有効な治療手段が急務となっている。
【0005】
キメラ抗原受容体技術は、血液腫瘍の治療に顕著な治療効果が得られ、Kymriah[7]とYescarta[8]は2017年にFDAからB細胞急性リンパ白血病、びまん性大Bリンパ腫の治療に用いられることが承認された。中国でも2021年6月に血液腫瘍治療用として初めてのキメラ抗原受容体細胞製品が承認された[9]。
【0006】
Mesothelin(MSLN)は、細胞膜の表面に発現するグリコシルホスファチジルイノシトールタンパク質であり、正常な生理条件では、男性の胸膜、腹膜、心膜や鞘膜に発現し、卵巣、卵管や精巣の上皮層に低発現である[10]。ヒトMSLN遺伝子は、16番染色体に位置し、約71kDaの分子量を有する628個のアミノ酸からなる前駆体タンパク質をコードする[14]。MSLN前駆体タンパクは、Arg295でスプライシングされ、N末端可溶性タンパク質巨核球増強因子(MPF)及び細胞膜表面に結合したグリコシルホスファチジルイノシトールがアンカーするMSLNになった[20]。
【0007】
正常な場合、中皮細胞に限られて発現するのに対し、悪性中皮腫[11]、卵巣癌[12]、三陰乳癌[13]、前立腺癌[14]、肺癌[15]、胃癌[16]、子宮内膜癌[17]、子宮頸癌[18]、胆管癌[19]などを含む多種の腫瘍中で、MSLNは過剰発現されており、キメラ抗原受容体技術による標的治療に好適な標的である。
【0008】
不変ナチュラルキラーT細胞(invariant natural killer T cell、iNKT)は、胸腺由来T細胞のユニークなサブセットであり、CD1d制限性を持ち、T細胞とナチュラルキラー細胞(natural killer cell、NK)の両方の系統に特徴的な表面受容体を発現しており、T細胞とNK細胞に共通の生物学的特徴と、先天的免疫と養子免疫を橋渡しするという重要な役割を持っている。ヒトiNKT細胞において、Vα24-Jα18はTCRα鎖を形成した後、Vβ11 TCRβ鎖とTCRを形成する[21]。
【0009】
iNKT細胞は、胸腺において、CD4+Tヘルパー細胞のサブセットに類似した少なくとも3つのエフェクターサブセットに分化し、先天的リンパ球(ILCs)のサブセットにも類似することがある[22-24]。機能性iNKT細胞サブセットは、異なる細胞表面マーカーと特徴的な転写因子の発現によって区別される。NKT1細胞は、どちらも転写因子T-betを高発現し、活性化後にIFN-γを分泌することから、Th1細胞やILC1sに類似している。NKT1細胞もまた、他のiNKT細胞サブセットよりも大きな細胞毒性機能を示した。NKT1細胞がTh1細胞やILC1sと異なる点は、TCR活性化によりIFN-γを産生するほか、IL-4などの因子を産生し得ることにある。NKT2細胞から分泌されるサイトカインには、Th2細胞と同様にIL-4及びIL-13が含まれる。一方、NKT17細胞はサイトカイン分泌においてTh17細胞と類似している[25-27]。
【0010】
異なるiNKT細胞サブセットは異なる組織で濃縮されている。NKT1細胞は肝臓の中で高度に濃縮され、一方、NKT17細胞は主にリンパ節、皮膚や肺に位置し、脾臓にも少量の細胞がある[28]。NKT2細胞は肺や脾臓を含む複数の部位に存在するが、腸間膜リンパ節に特に豊富である[28]。周囲リンパ節において、iNKT細胞は迅速に活性化され、病原体との闘いにおいて重要な役割を果たすことができる[29]。
【0011】
NKT細胞の免疫治療についての研究を開始するのが遅く、体内のNKT細胞の含有量が低く、その特異性抗体の選択が制限されており、現在、GD2、CD19、CSPG4及びBCMAに対する抗体の設計についての研究しかなく、参考にできる特異性抗体の種類が少なく、選択も設計も困難である。
【0012】
本特許に近い豪国特許出願公開第2020264343号明細書、中国特許出願公開第112574953号明細書では、T細胞は、MSLN抗原に対するキメラ受容体を発現するように遺伝子改変されており、ここで、CARは、MSLN抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、共刺激シグナル伝達領域、およびCD3ζシグナル伝達ドメインを含み、MSLN抗原を持つ癌細胞に対して殺傷作用を示す。しかし、普通のT細胞は固形腫瘍に有効に浸潤できないことから、固形腫瘍の腫瘍微小環境では、酸素が不足しており、比較的酸性であり、CAR-T細胞の増殖や長期的な生存に非常に不利であるため、CAR-T細胞の治療効果が深刻な影響をうけてしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
以上の問題に対して、本出願者は、iNKT細胞の肝臓へのホーミングの特性及び非特異的な殺傷機能を利用して、遺伝子改変を通じてMSLN抗原と結合できるキメラ抗原受容体をiNKT細胞に持たせ、anti-MSLN-CAR-iNKT細胞がMSLN抗原を持つ胆管癌
の細胞を特異的に殺傷できるようにし、また、異なるscFvで構成されたCAR分子を比較して、癌細胞の表面のMSLN抗原と結合し、癌細胞を殺傷するのに有利なCAR分子を選別した。具体的には、下記通りである。
【0014】
キメラ抗原受容体(CAR)分子にMSLNに特異的なscFvを導入し、胆管癌の細胞に特異的に発現するMSLN抗原に特異的に結合させるとともに、CAR分子に共刺激分子CD28細胞内シグナルドメイン及びCD3ζ細胞内シグナルドメインを導入することにより、iNKT細胞が増殖して、IFN-γ、グラニュラーゼなどを分泌し、癌細胞を殺傷するようにiNKT細胞を刺激することができ、MSLN抗原を発現する癌細胞に対する異なるscFvで構成されるCAR分子の殺傷効果を比較することによって、抗癌効果のより高いCAR分子を選択した。
【0015】
本発明者らは、創造的な労力を払って、アミノ酸配列の設計及び配列の組み合わせとスクリーニングを繰り返して、約数十本のCAR分子配列に対して無作為スクリーニング試験及び標的性機能検証(例えば、ウイルスベクターを構築し、さらにiNKT細胞に感染し、改変iNKT細胞を得、得られた改変iNKT細胞の生体外の殺傷活性を測定するなどの試験)を行い、その後、複数の無作為な組み合わせの結果に基づいてアライメントし、さらに配列を調整し、最終的に、最も効果の高い配列を選別し、本願のヒトMSLNタンパク質を標的とする力価の高い抗ヒトMSLN一本鎖抗体キメラ抗原受容体の配列及びその機能性バリアントを得た。
【課題を解決するための手段】
【0016】
一態様では、本願は、順次連結されている、MSLN一本鎖抗体、スペーサードメイン又はヒンジ領域、膜貫通領域、細胞内共刺激ドメイン、シグナル領域を含むことを特徴とするキメラ抗原受容体を提供する。
【0017】
任意に、前記キメラ抗原受容体は、順次連結されている、CD8αシグナルペプチド、MSLN一本鎖抗体、CD8αヒンジ領域、CD28膜貫通領域、CD28共刺激ドメイン、及びCD3ζシグナル領域を含む。
【0018】
任意に、前記MSLN一本鎖抗体のアミノ酸配列がSEQ ID NO.8、10、12から選択される。
【0019】
任意に、前記MSLN一本鎖抗体のヌクレオチド配列がSEQ ID NO.9、11、13から選択される。
【0020】
任意に、前記MSLN一本鎖抗体のアミノ酸配列がSEQ ID NO.8である。
【0021】
任意に、前記CD8αシグナルペプチドのアミノ酸配列がSEQ ID NO.2であり、CD8αヒンジ領域のアミノ酸配列がSEQ ID NO.14であり、CD28膜貫通領域のアミノ酸配列がSEQ ID NO.4であり、CD28共刺激ドメインのアミノ酸配列がSEQ ID NO.6であり、CD3ζシグナル領域のアミノ酸配列がSEQ ID NO.16である。
【0022】
任意に、前記CD8αシグナルペプチドのヌクレオチド配列がSEQ ID NO.3であり、CD8αヒンジ領域のヌクレオチド配列がSEQ ID NO.15であり、CD28膜貫通領域のヌクレオチド配列がSEQ ID NO.5であり、CD28共刺激ドメインのヌクレオチド配列がSEQ ID NO.7であり、CD3ζシグナル領域のヌクレオチド配列がSEQ ID NO.17である。
【0023】
任意に、前記キメラ抗原受容体のアミノ酸配列がSEQ ID NO.18、20、22から選択される。
【0024】
任意に、前記キメラ抗原受容体のヌクレオチド配列が、SEQ ID NO.19、21、23から選択される。
【0025】
別の態様では、本願は、上記キメラ抗原受容体を担持するベクター、任意に、pLV300ベクターを提供する。
【0026】
任意に、前記pLV300ベクターは、そのヌクレオチド配列がSEQ ID NO.24である。
【0027】
別の態様では、本願は、上記キメラ抗原受容体が形質導入された免疫細胞を提供する。
【0028】
任意に、前記免疫細胞は、T細胞、NK細胞又はiNKT細胞である。
【0029】
任意に、前記免疫細胞は、iNKT細胞である。
【0030】
別の態様では、本願は、癌治療薬の製造における上記キメラ抗原受容体、ベクター又は免疫細胞の使用を提供する。
【0031】
別の態様では、本願は、上記キメラ抗原受容体、ベクター又は免疫細胞を用いることを特徴とする癌治療方法を提供する。
【0032】
任意に、前記癌はMSLN過剰発現癌である。
【0033】
任意に、前記癌は肝臓癌である。
【0034】
任意に、前記癌は胆管細胞癌である。
【0035】
別の態様では、本願は、上記の発現ベクターを含む形質導入システムを提供する。
【0036】
任意に、前記形質導入システムは、ウイルス形質導入システム及び非ウイルス形質導入システムである。
【0037】
任意に、前記形質導入システムは、レンチウイルス形質導入システムである。
【0038】
本願は、T細胞、NK細胞又はNKT細胞の表面に発現するキメラ抗原受容体タンパク質を構築するために同時に使用するための、上記の1つ又は複数の要素を含む核酸発現ベクターを含む。必要に応じて種々の市販のベクターを選択してもよいし、分子生物学分野の従来技術に基づいてベクターを構築してもよい。1つの具体的な実施形態において、本願で使用されるベクターは、レンチウイルスプラスミドベクターのpLV300ベクターである。このプラスミドは、第4世代の自己不活化レンチウイルスベクターシステムに属し、このシステムには、4つのプラスミド、すなわちGag/Polタンパク質をコードするパッケージングプラスミド、Revタンパク質をコードするパッケージングプラスミド、VSV-Gタンパク質をコードするエンベローププラスミド、及び目的の核酸配列、すなわちキメラ抗原受容体タンパク質をコードする核酸配列を組み換え導入するために使用することができる空のpLV300ベクターがある。キメラ抗原受容体タンパク質の発現は、pGK-300プロモーターによりpLV300ベクター中で調節される。
【0039】
本願は、上記ベクターを含むウイルスであって、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルスなどを含むが、これらに限定されないウイルスを含む。本願のウイルスには、パッケージングされた感染力を有するウイルスが含まれ、また、感染力を有するウイルスとしてパッケージングされるのに必要な成分を含むパッケージング対象ウイルスも含まれる。T細胞、NK細胞又はNKT細胞をトランスフェクションする本分野で知られている他のウイルス及びそれに対応するプラスミドベクターもまた、本願に使用することができる。本願の一実施形態において、前記ウイルスは、上記のpLV300-anti-GPC3 CAR組換えベクターを含むレンチウイルスである。
【0040】
本願は、本願の核酸、又は該核酸を含有する前記組換えプラスミドを含む本願の上記組換えプラスミド、又は該プラスミドを含むウイルスシステムが導入された、トランスジェニックTリンパ球、NK細胞、又はiNKT細胞を含む。非ウイルス導入方法及びウイルス導入方法を含む、本分野の従来の核酸導入方法は、本願に使用することができる。非ウイルスに基づく導入方法には、エレクトロポレーション法とトランスポゾン法とが含まれる。最近、Amaxa社が研究開発したnucleofector核トランスフェクション装置は直接外来遺伝子を細胞核に導入することで、目的遺伝子の高効率な形質導入を達成させることができる。また、眠り姫トランスポゾン(Sleeping Beauty system)やPiggyBacトランスポゾンなどのトランスポゾンシステムによる形質導入効率が普通のエレクトロポレーションよりも大幅に向上しており、nucleofectorトランスフェクション装置とSBトランスポゾンシステムの併用が既に報告されており、この方法は、高い形質導入効率に加えて、目的遺伝子の特定の部位への組み込みを実現することができる。本願の一実施形態では、キメラ抗原受容体遺伝子改変iNKT細胞を実現するための形質導入方法は、レンチウイルスに基づく形質導入方法である。この方法は、形質導入効率が高く、外来遺伝子が安定的に発現でき、臨床レベルの数までiNKTリンパ球をinvitro培養するのに必要な時間を短縮できるなどの利点がある。レンチウイルストランスフェクションにより導入した核酸は、転写や翻訳によりiNKT細胞膜表面に発現する。種々の異なる培養腫瘍細胞についてinvitroでの細胞傷害性実験を行った結果、本願のキメラ抗原受容体を表面に発現させたトランスジェニックiNKT細胞には、高度に特異的な腫瘍細胞殺傷効果がある(細胞傷害性とも呼ばれる)。このため、キメラ抗原受容体タンパク質をコードする本願の核酸、該核酸を含むプラスミド、該プラスミドを含むウイルス、及び上記核酸、プラスミド又はウイルスがトランスフェクションされたトランスジェニックiNKT細胞、Tリンパ球又はNK細胞は、腫瘍の免疫療法に有効に用いられることができる。
【0041】
本願の核酸は、DNA形態又はRNA形態であってもよい。このDNA形態は、cDNA、ゲノムDNA、又は人工的に合成されたDNAを含む。DNAは一本鎖でも二本鎖でもよい。DNAは、コード鎖又は非コード鎖であってもよい。キメラ抗原受容体タンパク質のアミノ酸配列をコードする本願の核酸コドンは縮退可能であり、すなわち、同一のアミノ酸配列をコードする複数の縮退核酸配列は本願の範囲内に含まれる。対応するアミノ酸をコードする縮退核酸コドンは、本分野で公知のものである。本願はまた、本願と同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド又はポリペプチドのフラグメント、アナログ及び誘導体をコードする上記ポリヌクレオチドの変異体に関する。このポリヌクレオチドの変異体は、天然に発生する等位変異体であってもよいし、天然に発生しない変異体であってもよい。これらのヌクレオチド変異体は、置換変異体、欠失変異体、及び挿入変異体を含む。本分野で知られているように、等位変異体は、ポリヌクレオチドの置換形態であり、1又は複数のヌクレオチドの置換、欠失又は挿入であってもよいが、それがコードするポリペプチドの機能を実質的に変化させることはない。
【0042】
前記MSLN過剰発現癌には、悪性中皮腫、卵巣癌、三陰乳癌、前立腺癌、肺癌、胃癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、胆管癌などが含まれるが、これらに限定されない。
【0043】
前記MSLN過剰発現とは、分子レベル、タンパク質レベルを含むがこれに限定されない種々の検出方法で検出されたMSLN関連核酸又はタンパク質の含有量、又は他の指標が正常レベルよりも高い場合をいう。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】anti-MSLN CAR構造の構造概略図である。
【
図2】pLV300レンチウイルスベクターの構造概略図である。
【
図4】anti-MSLN CAR-iNKT細胞培養の異なる時間におけるCD8+CAR+iNKT細胞亜群の割合である。
【
図5】anti-MSLN CAR-iNKT細胞培養の異なる時間におけるCD4+CAR+iNKT細胞亜群の割合である。
【
図6】anti-MSLN CAR-iNKT細胞培養の異なる時間におけるCD4-CD8-CAR+iNKT細胞亜群の割合である。
【
図7】様々なエフェクター・ターゲット比におけるanti-MSLN CAR-iNKTの胆管癌細胞KMCHに対する殺傷効果である。
【
図8】anti-MSLN CAR-iNKT細胞と胆管癌細胞KMCHの共培養24時間後の細胞培養上清中のIFN-γ含有量である。
【
図9】anti-MSLN CAR-iNKT細胞と胆管癌細胞KMCHの共培養24時間後の細胞培養上清中のIL-2含有量である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
実施例1 キメラ抗原受容体分子を含むレンチウイルスの製造
HEK-293T細胞を継代し、細胞が60%~70%コンフルエンスまで増殖した後、CAR分子を含む発現ベクターをパッケージングプラスミドと共にpEI試薬を用いてHEK-293T細胞にトランスフェクションし、トランスフェクション4時間後に新鮮な培地を交換した。トランスフェクション48~72時間後に、細胞培養上清を採取した。上清を超遠心分離することにより、パッケージング後にCAR分子を含むレンチウイルスを濃縮した。濃縮後のレンタウイルスについてウイルスの力価を測定し、使用時まで-80℃で凍結保存した。
【0046】
実施例2 anti-MSLN CAR分子による総iNKT細胞増殖及びCAR-iNKT細胞分化への影響
anti-iNKT mircrobeadsでヒト末梢血単核細胞からiNKT細胞を分離した後、24ウェルプレートに1ウェル当たり2x105細胞を接種し、1ウェル当たりX-VIVO完全培地(100IU/ml及び100ng/ml a-Galcerを含む)を加えて48時間培養した後、各ウェルから細胞を収集し、400xgで5分間遠心分離し、上清を捨てた後、新鮮なX-VIVO完全培地を加えて再懸濁させた後、24ウェルプレートに再接種し、各ウェルあたり細胞にanti-MSLN1 CAR、anti-MSLN2 CAR、anti-MSLN3 CARを含む異なるレンチウイルスをそれぞれ加えて感染させた。24時間後、各ウェルの細胞を遠心分離管に収集し、400xgで5分間遠心分離した後、カウントし、5×105cells/mlで新鮮なX-VIVO完全培地を加えて培養し、48時間ごとに液を交換した。それぞれday7、day14、day21まで培養すると、サンプリングして、それぞれカウント及びフローサイトメトリー検出を行い、それによってキメラ抗原受容体分子の発現を明らかにした。
【0047】
その結果、各anti-MSLN CAR分子はiNKT細胞の増殖と分化に影響があり、anti-MSLN1 CAR、anti-MSLN2 CARがiNKT細胞に形質導入されると、anti-MSLN3 CAR分子よりも細胞の成長に有利となり(
図3)、anti-MSLN1 CAR、anti-MSLN2 CARがiNKT細胞に形質導入されると、anti-MSLN3 CAR分子よりもCAR-iNKT細胞のCD8+CAR+iNKT細胞への分化に有利となる(
図4~6)。
【0048】
実施例3 CAR-iNKT細胞の腫瘍殺傷能力に対する各anti-MSLN CAR分子の影響
各群のCAR-iNKT細胞を21日目まで培養したときに、エフェクター細胞とターゲット細胞の比がそれぞれ1:3、1:1、3:1で、各群から0.33×10
5 CAR-iNKT細胞、1×10
5 CAR-iNKT細胞、3×10
5CAR-iNKT細胞、1×10
5KMCH細胞(KMCHは、Mesothelin発現陽性の胆管癌細胞系である。蛍光染料CFSEと均一に混合して10分間培養)をそれぞれ用いて6時間共培養した後、各群の培養上清を取り、マイクロプレートリーダーで上清中の蛍光強度(CAR-iNKT細胞の殺傷能力が強いほど、KMCH細胞内から放出されたCFSEが多く、蛍光強度が大きい)を検出し、各群のCAR-iNKT細胞の殺傷効率を計算した(
図7)。その結果、3種類のanti-MSLN CAR-iNKT細胞はすべてKMCH細胞を有効に殺傷できるが、anti-MSLN1 CAR-iNKT細胞の殺傷能力が最も強いことが分かった。
【0049】
実施例4 各anti-MSLN CAR-iNKT細胞がMSLN発現KMHC細胞と共培養した後に分泌したIFN-γ及びIL-2の比較
各群のCAR-iNKT細胞を21日目まで培養した後、エフェクター細胞とターゲット細胞の比が3:1となるように、各群のCAR-iNKT細胞(群ごとに3×10
5 CAR-iNKT細胞)をそれぞれ1×10
5 KMHC細胞とともに0.5ml X-VIVO(IL-2及びa-GalCerを含まない)で24時間共培養後、細胞を収集し、400xgで5分間遠心分離して上清を採取し、ELISA法により上清中のIFN-γ及びIL-2の含有量を検出した。その結果、anti-MSLN1 CAR-iNKT細胞は、IFN-γ及びIL-2を分泌する能力が最も強く、これは、anti-MSLN1 CAR-iNKT細胞の強い増殖能力や腫瘍に対する殺傷能力と一致した(
図8~9)。
【0050】
もちろん、本願の上記の実施例は、本願を明確に説明するための例示にすぎず、本願の実施形態を限定するものではない。当業者にとっては、上記の説明に基づいて、さらに他の様々な形態の変化や変更を行うことができる。ここでは、すべての実施形態を網羅する必要はなく、また、網羅することもできない。本願に属する思想からの明らかな変化や変更は、なお、本願の特許範囲に含まれるものとする。
【0051】
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2023-11-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
順次連結されている、MSLN一本鎖抗体、スペーサードメイン又はヒンジ領域、膜貫通領域、細胞内共刺激ドメイン、シグナル領域を含むことを特徴とするキメラ抗原受容体。
【請求項2】
順次連結されている、CD8αシグナルペプチド、MSLN一本鎖抗体、CD8αヒンジ領域、CD28膜貫通領域、CD28共刺激ドメイン、及びCD3ζシグナル領域を含む、請求項1に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項3】
前記MSLN一本鎖抗体のアミノ酸配列がSEQ ID NO.8、10、12から選択される、請求項1又は2に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項4】
前記MSLN一本鎖抗体のヌクレオチド配列がSEQ ID NO.9、11、13から選択される、請求項3に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項5】
前記MSLN一本鎖抗体のアミノ酸配列がSEQ ID NO.8である、請求項
3に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項6】
前記CD8αシグナルペプチドのアミノ酸配列がSEQ ID NO.2であり、CD8αヒンジ領域のアミノ酸配列がSEQ ID NO.14であり、CD28膜貫通領域のアミノ酸配列がSEQ ID NO.4であり、CD28共刺激ドメインのアミノ酸配列がSEQ ID NO.6であり、CD3ζシグナル領域のアミノ酸配列がSEQ ID NO.16である、請求項1
又は2に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項7】
前記CD8αシグナルペプチドのヌクレオチド配列がSEQ ID NO.3であり、CD8αヒンジ領域のヌクレオチド配列がSEQ ID NO.15であり、CD28膜貫通領域のヌクレオチド配列がSEQ ID NO.5であり、CD28共刺激ドメインのヌクレオチド配列がSEQ ID NO.7であり、CD3ζシグナル領域のヌクレオチド配列がSEQ ID NO.17である、請求項6に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項8】
前記キメラ抗原受容体のアミノ酸配列がSEQ ID NO.18、20、22から選択される、請求項1
又は2に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項9】
前記キメラ抗原受容体のヌクレオチド配列が、SEQ ID NO.19、21、23から選択される、請求項8に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項10】
請求項1
又は2に記載のキメラ抗原受容体を担持するベクター。
【請求項11】
前記ベクターはpLV300であり、そのヌクレオチド配列がSEQ ID NO.24である、請求項10に記載のベクター。
【請求項12】
請求項1
又は2に記載のキメラ抗原受容体を形質導入した免疫細胞。
【請求項13】
前記免疫細胞は、T細胞、NK細胞又はiNKT細胞である、請求項12に記載の免疫細胞。
【請求項14】
前記免疫細胞はiNKT細胞である、請求項12に記載の免疫細胞。
【請求項15】
癌治療薬の製造における請求項1
又は2に記載のキメラ抗原受容
体の使用。
【請求項16】
癌治療薬の製造における請求項10に記載のベクターの使用。
【請求項17】
癌治療薬の製造における請求項12に記載の免疫細胞の使用。
【請求項18】
前記癌は、MSLN過剰発現癌である、請求項15に記載の使
用。
【請求項19】
前記癌は肝臓癌である、請求項
18に記載の使
用。
【請求項20】
前記癌は胆管細胞癌である、請求項
19に記載の使
用。
【請求項21】
請求項
10に記載のベクターを含む形質導入システム。
【請求項22】
前記形質導入システムは、ウイルス形質導入システム及び非ウイルス形質導入システムである、請求項
21に記載の形質導入システム。
【請求項23】
前記形質導入システムは、レンチウイルス形質導入システムである、請求項21に記載の形質導入システム。
【請求項24】
請求項1に記載のキメラ抗原受容体をコードする核酸であって、
前記核酸のヌクレオチド配列が、SEQ ID NO.19、SEQ ID NO. 21、又はSEQ ID NO.23から選択される、核酸。
【国際調査報告】