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特表2025-505484流体中の分散気相の割合を決定する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-28
(54)【発明の名称】流体中の分散気相の割合を決定する方法
(51)【国際特許分類】
   G01F 1/66 20220101AFI20250220BHJP
【FI】
G01F1/66 101
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024531097
(86)(22)【出願日】2023-02-06
(85)【翻訳文提出日】2024-05-23
(86)【国際出願番号】 EP2023052780
(87)【国際公開番号】W WO2023148367
(87)【国際公開日】2023-08-10
(31)【優先権主張番号】22155395.1
(32)【優先日】2022-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524008915
【氏名又は名称】レヴィトロニクス ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ボベール、マチェイ
【テーマコード(参考)】
2F035
【Fターム(参考)】
2F035DA08
2F035DA14
2F035HA03
2F035HB04
(57)【要約】
超音波を用いてパイプ内を流れ方向に流れる流体中の分散気相の割合を決定する方法は、a)パイプ(100)内の流体を通過する2つの測定信号間の通過時間差を決定するように設計された超音波測定装置(1)を提供するステップと、b)超音波測定装置(1)によって、流れ方向(A)に沿って放射される第1の測定信号(12)を放射および受信するステップと、c)超音波測定装置(1)によって流れ方向(A)に逆らって放射される第2の測定信号(21)を放射および受信するステップと、d)測定信号(12、21)を記憶・評価ユニット(20)に送信するステップと、e)第1の測定信号(12)と第2の測定信号(21)との間の通過時間差の個々の値(E)を決定するステップと、f)ステップb)~e)を繰り返すことによって通過時間差の複数の個々の値を決定するステップと、 g)通過時間差の個々の値(E)から通過時間差の平均値(MW)を決定するステップと、 h)平均値(MW)の周りの個々の値(E)のばらつきの特徴であるばらつきパラメータ(SP)を決定するステップと、i)通過時間差の平均値(MW)と分散気相の割合(DP)に応じたばらつきパラメータ(SP)の変化との間の相関関係を提供するステップと、j)ばらつきパラメータ(SP)と前述の相関関係から分散気相の割合(DP)を決定するステップとを含む。任意選択で、通過時間差の個々の値(E)またはいくつかの個々の値(E)にわたる平均値を、流体の流量の個々の値(E)または流量の平均値に変換し、ステップh)およびi)を、流量の個々の値(E)または流量の平均値を使用して実行する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を用いてパイプ内を流れ方向に流れる流体中の分散気相の割合を決定する方法であって、
a)前記パイプ(100)内の前記流体を通過する2つの測定信号間の通過時間差を決定するように設計された超音波測定装置(1)を提供するステップと、
b)前記超音波測定装置(1)によって、前記流れ方向(A)に沿って放射される第1の測定信号(12)を放射および受信するステップと、
c)前記超音波測定装置(1)によって前記流れ方向(A)に逆らって放射される第2の測定信号(21)を放射および受信するステップと、
d)前記測定信号(12、21)を記憶・評価ユニット(20)に送信するステップと、
e)前記第1の測定信号(12)と前記第2の測定信号(21)との間の前記通過時間差の個々の値(E)を決定するステップと、
f)ステップb)~e)を繰り返すことによって前記通過時間差の複数の個々の値を決定するステップと、
g)前記通過時間差の前記個々の値(E)から前記通過時間差の平均値(MW)を決定するステップと、
h)前記個々の値(E)のばらつきの特徴であるばらつきパラメータ(SP)を決定するステップと、
i)前記通過時間差の前記平均値(MW)と前記分散気相の割合(DP)に応じた前記ばらつきパラメータ(SP)の変化との間の相関関係を提供するステップと、
j)前記ばらつきパラメータ(SP)と前記相関関係から前記分散気相の割合(DP)を決定するステップと
を含み、
任意選択で、前記通過時間差の前記個々の値(E)またはいくつかの個々の値(E)にわたる平均値を、前記流体の流量の個々の値(E)または流量の平均値に変換し、ステップh)およびi)を、前記流量の前記個々の値(E)または前記流量の前記平均値を使用して実行する、方法。
【請求項2】
前記測定信号(12、21)を放射および受信するために、動作状態において前記パイプ(100)の第1の側(51)に横方向に配置された少なくとも1つの第1の超音波振動子(11)と、動作状態において前記パイプ(100)の第2の側(52)に横方向に配置された少なくとも1つの第2の超音波振動子(22)とが提供され、前記第2の側(52)は、前記第1の側(51)の反対側にあり、前記超音波振動子(11、22)は、前記第1の超音波振動子(11)が前記第2の超音波振動子(22)に向けて前記流体の前記流れ方向(A)に対して斜めに前記第1の測定信号(12)を放射することができ、前記流れ方向(A)に対して斜めに前記第2の超音波振動子(22)によって放射された前記第2の測定信号(21)を受信することができるように配置され、位置合わせされる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記パイプ(100)を通る前記流体の前記流量は、前記第1の測定信号(12)と前記第2の測定信号(21)との間の前記通過時間差から決定される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記超音波測定装置(1)は、クランプ装置として設計され、前記パイプ(100)は、前記超音波測定装置(1)内にクランプされる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記分散気相の割合(DP)の前記決定は、一定の間隔でまたは連続的に更新される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記分散気相の割合(DP)によって、前記流量の補正平均値が決定される、請求項3~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記補正平均値は、前記分散気相を含まない前記流体の流量を示す、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ばらつきパラメータ(SP)は、前記平均値(MW)に対する前記個々の値(E)の分散である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記通過時間差の一定の平均値(MW)での前記分散気相の割合(DP)に応じた前記ばらつきパラメータ(SP)の変化が、線形決定関数(F)によって記述される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記線形決定関数(F)は、2つの線形係数(m、t)によって定義され、各々の線形係数(m、t)は、前記通過時間差の前記平均値(MW)を変数とする多項式関数から決定される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記通過時間差の一定の平均値(MW)での前記分散気相の割合(DP)に応じた前記ばらつきパラメータ(SP)の前記変化は、前記記憶・評価ユニット内のルックアップテーブル(20)に保存される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
最初に前記分散気相の割合(DP)が決定され、これから平滑化係数(G)を適用することによって前記分散気相の修正された割合(DM)が決定される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記平滑化係数(G)は、前記通過時間差の前記平均値(MW)を変数とする多項式関数を用いて計算される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記分散気相は気泡からなり、前記分散気相の割合(DP)は、液体中の気泡の体積割合である、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
各々の通過時間差は、前記パイプ(100)を通る前記流体の前記流量の値に変換され、前記分散気相の割合(DP)は、前記流量の前記値によって決定される、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を用いてパイプ内を流れ方向に流れる流体中の分散気相の割合を決定する方法であって、パイプ内の流体を通過する2つの測定信号間の通過時間差が、超音波測定装置によって測定される方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プロセスエンジニアリングでは、非侵襲的な方法が、流体の検査またはパイプ(例えば、可撓性プラスチックチューブ)内を流れる流体の測定に使用される。これは特に、このような高純度または非常に敏感な流体の場合に当てはまり、例えば流体が汚染されないように、流体と測定装置との間の接触は、可能な限り避けるべきである。ここでは例として製薬産業とバイオテクノロジー産業を挙げる。ここでは、溶液および懸濁液が頻繁に製造および輸送され、流体の純度および/または完全性に対して非常に高い要求が課される。多くの場合、そのような流体は、滅菌条件下でも処理する必要がある。
【0003】
特に超音波測定技術は、パイプ内を流れる流体を非侵襲的に測定する方法としてその価値を証明している。パイプ内を流れる流体を測定するための超音波測定装置は、例えばパイプを通る流体の流量を決定するために使用される。これにより、測定装置を可撓性パイプ上にクランプできるように、またはパイプが測定装置によってクランプされるように、測定装置をクランプ装置として設計することが知られている。その後、流体が内部を流れるパイプに超音波信号が加えられる。パイプおよび流体を通過した後、超音波信号は、超音波振動子によって受信され、受信信号が評価される。
【0004】
超音波測定装置が、動作状態においてパイプの両側に横方向に配置される少なくとも2つの超音波振動子を備えることは、流量を決定するための既知の手段である。2つの超音波振動子は、流体の流れ方向に関して互いにオフセットして配置され、それにより、第1の超音波振動子が第2の超音波振動子から放射される信号を受信でき、第2の超音波振動子が第1の超音波振動子から放射される信号を受信できるように位置合わせされる。互いのオフセットにより、2つの超音波振動子はそれぞれ、流体の流れ方向に対して斜めに超音波信号を放射するように位置合わせされ、これにより、一方の超音波振動子は、流れの方向に対して斜めに信号を放射し、他方の超音波振動子は、流れ方向に逆らって斜めに信号を放射する。ここで、測定信号が第1の超音波振動子によって放射され、第2の超音波振動子によって受信され、次に測定信号が第2の超音波振動子によって放射され、第1の超音波振動子によって放射される。
【0005】
流れ方向に斜めに放射された測定信号は、流れの中で加速され、流れ方向に逆らって斜めに放射された測定信号は、流れによって減速される。2つの測定信号の通過時間差は、流体の流速に比例するため、可撓性パイプを通る流量は、この通過時間差から決定できる。
【0006】
通過時間または通過時間差の測定に基づくこのような超音波方法に加えて、超音波信号の振幅または周波数または減衰を決定する方法も知られている。これらのパラメータ、特に通過時間および減衰などのこれらのパラメータの組み合わせからのパラメータによって、流量だけでなく、粘度または光学密度などの流体の他の特性も決定できる。
【0007】
しかしながら、流体は、単相流体ではなく、分散液などの多相系であることがよくある。分散液は、別の媒体、いわゆる分散媒に非溶解成分が存在することを特徴とする。これらの非溶解成分は、分散相として指定される。通常、非溶解成分は、分散媒中に統計的に分布する。
【0008】
このような多相系の重要な一例は、分散相として非溶解気泡を含む流体、特に液体である。多くの場合、パイプ内を流れる流体に気泡が存在するかどうかを検査する必要がある。例えば、人工心肺を使用するなどの手術中、患者の血液がパイプを通してポンプで送られる場合、パイプ内を流れる血液に気泡(例えば、空気の泡)が存在していないか検査することが非常に重要であり、生命を脅かす可能性があるためである。
【0009】
超音波流量測定の範囲内で気泡を検出するために、超音波信号の通過時間に加えて流体通過後の振幅も決定することが特許文献1で提案されている。振幅の大幅な減少または崩壊は、流体内に気泡が存在する指標として使用される。しかしながら、この振幅ベースの測定では、流体中に気泡が存在するという定性的な記述のみが可能であり、流体中の気泡の割合について定量的な記述は実際には不可能である。例えば、これは、多数の小さな気泡が1つの大きな気泡と同じ振幅低下を引き起こす可能性があるという事実、または小さな気泡が大きな気泡の音響シャドウ内を流れるため、振幅低下にまったく寄与しないという事実によるものである。受信した超音波信号の振幅は、媒体の温度、超音波振動子の特性、またはパイプまたはチューブの特性など、他の多くの要因にも依存する。このため、現在では、流体中に空気の泡または気泡が存在するかどうかの定性的な記述のために、受信した超音波信号の振幅のみを使用することが一般的である。
【0010】
しかしながら、多くの用途では、流体中の気泡の割合、より一般的には分散相の割合を決定できること、すなわち、分散相について信頼性の高い定量的な記述もできることが望ましい。
【0011】
ここでは一例として、自動充填プロセスについて説明する。このような充填プロセスでは、通常、重量が基準として使用され、すなわち、充填される容器が予め決定可能な重量に達するとすぐに充填が終了する。例えば、特に充填プロセスの終わりに向けて、充填される容器に流入する液体が、より多くの割合の気泡(例えば、空気の泡)を含む場合、結果として所定の重量に属する体積が増加する。容器の上部に空気の泡が溜まりやすくなる。気泡を内部に含む液体の平均密度は、減少する。その結果、所定の重量に属する体積が容器内に収まらないため、充填される容器が溢れる危険性がある。したがって、充填プロセスの終了が遅れて容器に損傷を与え、最悪の場合には容器の破壊に至る可能性がある。これは、作業員と機械にとって危険を意味する。さらに、経済的損失が生じる可能性もある。このような結果を防ぐために、多くの場合、プロセスが途中で停止または中断されるように、非常に高い安全マージンが設けられている。分散気相(この場合は空気の泡)の割合を確実に決定できれば、これらの安全マージンを減らすことができ、したがって、プロセスをより効率的かつ経済的に実行できるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】欧州特許出願公開第2717026号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、この問題に特化したものである。
【0014】
したがって、この最新技術から出発して、パイプを通って流れる流体中の分散気相の割合を確実に決定できる方法を提案することが本発明の目的である。この方法は、超音波測定装置によって実現可能である。したがって、この方法では、超音波測定に基づいて、流動流体中の分散気相についての定量的な記述が可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的を満たす本発明の主題は、独立特許請求項の構成によって特徴付けられる。
【0016】
したがって、本発明によれば、超音波を用いてパイプ内を流れ方向に流れる流体中の分散気相の割合を決定する方法であって、
a)パイプ内の流体を通過する2つの測定信号間の通過時間差を決定するように設計された超音波測定装置を提供するステップと、
b)超音波測定装置によって、流れ方向に沿って放射される第1の測定信号を放射および受信するステップと、
c)超音波測定装置によって流れ方向に逆らって放射される第2の測定信号を放射および受信するステップと、
d)測定信号を記憶・評価ユニットに送信するステップと、
e)第1の測定信号と第2の測定信号との間の通過時間差の個々の値を決定するステップと、
f)ステップb)~e)を繰り返すことによって通過時間差の複数の個々の値を決定するステップと、
g)通過時間差の個々の値から通過時間差の平均値を決定するステップと、
h)個々の値のばらつきの特徴であるばらつきパラメータを決定するステップと、
i)通過時間差の平均値と分散気相の割合に応じたばらつきパラメータの変化との間の相関関係を提供するステップと、
j)ばらつきパラメータと前述の相関関係から分散気相の割合を決定するステップと
を含み、
任意選択で、通過時間差の個々の値(E)またはいくつかの個々の値(E)にわたる平均値を、流体の流量の個々の値(E)または流量の平均値に変換して、ステップh)およびi)を、流量の個々の値(E)または流量の平均値を使用して実行する、方法が提案される。
【0017】
したがって、通過時間差(または流量)の平均値が一定である場合の通過時間差の平均値(またはそこから決定される流量の平均値)についての通過時間差(またはそこから決定される流量の値)の変動が、流体中の分散相の割合に非常に再現性よく依存するという認識は、本発明にとって不可欠である。したがって、通過時間差(またはそこから決定される流量の値)の統計的変動、すなわち、通過時間差の平均値(またはそれから決定される流量の値)の周りの通過時間差(またはそれから決定される流量の値)の準「ノイズ」は、流体中の分散気相の割合(例えば、気泡の割合)を信頼性高く決定するために使用することができる。
【0018】
そうすることで、超音波流量測定に基づいて流体中の分散気相に関する定量的な記述を得ることができる。
【0019】
ここで、本発明に係る方法の特別な利点は、超音波による通過時間測定に基づいていることである。このような通過時間の測定は、少なくとも非常に良好な近似までは、それぞれの受信した超音波測定信号の振幅とは無関係であり、したがって、例えば、受信した超音波測定信号の振幅の測定よりもかなり少ない要因によって影響される。
【0020】
また、測定信号の通過時間差に基づいて分散気相の割合を決定すると、例えば超音波信号の振幅を評価し、その後、振幅値の統計的変動から分散気相の割合を推定することによって分散気相の割合が決定される場合に比べて、はるかに正確で再現性の高い結果が得られることも示されている。
【0021】
測定信号の通過時間差の所定の平均値について、分散気相の割合は、この平均値付近の通過時間差の統計的変動から確実に決定できる。
【0022】
原理的には、すべての超音波測定装置が本発明に係る方法に適しており、これを用いてパイプ内を流れる流体を通過する2つの測定信号間の通過時間差を決定することができる。
【0023】
好ましくは、測定信号を放射および受信するために、動作状態においてパイプの第1の側に横方向に配置された少なくとも1つの第1の超音波振動子と、動作状態においてパイプの第2の側に横方向に配置された少なくとも1つの第2の超音波振動子とを備え、第2の側は、第1の側の反対側にある。超音波振動子は、第1の超音波振動子が第2の超音波振動子に向けて流体の流れ方向に対して斜めに第1の測定信号を放射することができ、流れ方向に対して斜めに第2の超音波振動子によって放射された第2の測定信号を受信することができるように配置され、位置合わせされる。
【0024】
さらに、パイプを通る流体の流量は、第1の測定信号と第2の測定信号との間の通過時間差から決定されることが好ましい。
【0025】
特に好ましくは、超音波測定装置は、クランプ装置として設計され、パイプは、超音波測定装置内にクランプされる。そのようなクランプ装置は、例えば欧州特許出願公開第3489634号明細書、または欧州特許出願公開第3816590号明細書にも開示されている。欧州特許出願公開第3816590号明細書に開示されている装置の特別な利点は、超音波信号がいくつかの異なる測定面で放射および受信されることである。そうすることで、例えば、測定体積の周辺領域における特に小さな気泡、および他の気泡の影に隠れて移動する気泡をより確実に検出することが可能となる。
【0026】
本発明に係る方法の好ましい一実施形態によれば、分散気相の割合の決定は、一定の間隔でまたは連続的に更新される。
【0027】
本発明に係る方法は、パイプを通る流体の流量の測定精度を高めるのにも特に適している。この目的のために、例えば、分散気相の割合を利用して、流量の補正平均値を決定することができる。この補正平均値は、流量の決定に対する分散気相の影響を考慮する。
【0028】
好ましくは、補正平均値は、分散気相を含まない流体の流量を示す。これは、分散気相の割合に基づいて、分散気相が流量の個々の値または流量の平均値にどのような影響を与えるかを決定できることを意味する。したがって、例えば、分散気相がない場合の流体の流量がどのくらい大きいかを示す、流量の補正平均値を決定することができる。したがって、「純粋な」分散媒の流量を決定することができ、流量測定の精度を大幅に向上させることができる。
【0029】
原則として、通過時間差(または流量)の平均値を中心とした通過時間差測定の個々の値(または流量の値)の変動またはばらつきの尺度である任意のパラメータがばらつきパラメータとして適している。好ましくは、ばらつきパラメータは、平均値の周囲の個々の値の統計的ノイズを記述する統計的パラメータである。例えば、ばらつきパラメータは、平均値に対する個々の値の分散または個々の値の標準偏差である。
【0030】
本発明に係る方法の好ましい一実施形態では、通過時間差(または流量)の一定の平均値での分散気相の割合に応じたばらつきパラメータの変化は、線形決定関数によって記述される。
【0031】
ここで、線形決定関数は、2つの線形係数によって定義され、各々の線形係数は、通過時間差(または流量)の平均値を変数とする多項式関数に基づいて決定されることが特に好ましい。
【0032】
通過時間差の測定から分散相の割合を決定するために、通過時間差の一定の平均値での分散気相の割合に応じたばらつきパラメータの変化が、記憶・評価ユニット内のルックアップテーブルに記憶させることも可能である。
【0033】
特に、パイプを通る流体の流速が低い場合には、分散気相の割合が最初に決定され、そこから平滑化係数を適用することによって分散気相の修正された割合を決定することが有利であり得る。
【0034】
平滑化係数は、通過時間差の平均値を変数とする多項式関数を用いて計算されることが好ましい。
【0035】
本発明に係る方法の好ましい応用例では、分散気相は、気泡からなる。
【0036】
したがって、分散気相の割合は、液体中の気泡の体積割合であることが好ましい。
【0037】
第1の測定信号と第2の測定信号との間の通過時間差は、パイプ内の流体の流速に比例するため、通過時間差の任意の値を非常に簡単な方法で流量の値に変換できる。したがって、各々の通過時間差は、パイプを通る流体の流量の値に変換され、その流量の値を用いて分散気相の割合を決定することも可能である。しかしながら、この単なる変換では、分散気相の割合の決定が通過時間差に基づいているという事実は変わらない。通過時間差が最初に流量の値に変換される場合、当然のことながら、通過時間差の平均値、ばらつきパラメータ、および通過時間差の平均値と分散気相に応じたばらつきパラメータの変化との間の関係の代わりに、流量の対応する量または対応する関係も使用されなければならない。これは、通過時間差の個々の値および/または平均値が、流量の個々の値および/または平均値に変換され、ばらつきパラメータが、流量値に応じて決定されること、および通過時間差の平均値と分散気相の割合に応じたばらつきパラメータの変化との間の関係は、流量の平均値と分散気相の割合に応じたばらつきパラメータの変化との間の関係に変換されることを意味する。
【0038】
さらに、平均化された個々の値が、所定の数の個々の値から最初に決定され、その後、統計的評価、すなわち、特にばらつきパラメータの決定が、平均化された個々の値に基づいて実行されることが可能である。これは実質的に、統計的評価前の個々の値の平滑化に相当する。
【0039】
本発明のさらに有利な手段および実施形態は、従属請求項から明らかである。
【0040】
以下、実施形態および図面に基づいて本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】パイプ内の流体を通過する2つの測定信号間の通過時間差を決定するための超音波測定装置の概略図を示す。
図2】クランプ装置として設計された、通過時間差を決定するための超音波測定装置の斜視図。
図3】本発明に係る方法の一実施形態を示す概略図。
図4】ばらつきパラメータと流体中の分散気相の割合との間の相関関係を示す図。
図5図3と同様であるが、実施形態の変形例。
【発明を実施するための形態】
【0042】
パイプ100(図1)中を流れる流体中の分散気相の割合を決定するための方法が本発明によって提案され、この方法では、パイプ100内の流体を通過する2つの測定信号間の通過時間差を決定するために超音波測定装置1が使用される。
【0043】
以下の説明では、分散気相が気泡からなるという例示的な特徴を有する応用事例について言及する。さらに、流体が液体である例について言及する。また、気泡の体積分率は、分散気相の割合の一例として考慮される。以下では、液体(例えば、水または水溶液)中の気泡の体積分率の決定を一例として考慮する。
【0044】
もちろん、本発明は、これらの例に限定されず、他の種類の分散液にも関するものである。一般的に、分散液は、非溶解の成分、量、または物体が、媒体中に存在する多相系として定義される。通常、非溶解成分は、分散相と呼ばれ、媒体は、分散媒と呼ばれる。この場合、分散相の非溶解成分は通常、分散媒中に統計的に分布している。
【0045】
本発明に係る方法において、分散媒は、流体、すなわち、例えば液体または気体である。分散相は、分散気相である、すなわち、分散相は、気体である。本発明に係る方法は、分散気相の体積が総体積(すなわち、分散気相の体積と分散媒の体積)の最大40%であるような用途に特に適している。
【0046】
「分散気相の割合」という用語は、流体中の分散気相の量、体積、または質量の定量的決定が行われること、すなわち、例えば体積百分率または質量百分率の決定が行われることを意味する。
【0047】
原理的には、パイプ100を通って流れる流体中の2つの測定信号間の通過時間差を決定できるすべての超音波測定装置1が、本発明に係る方法に適している。ここで、一方の測定信号は、流体の流れ方向に放射され、他方の測定信号は、流れ方向に逆らって放射される。また、それ自体がパイプ100またはパイプ100の一部を形成する超音波測定装置1、すなわち、例えば、いわゆるインライン測定装置(特に、商標名LEVIFLOW LFSで出願人によって市販されているようなものなど)も適している。
【0048】
図1は、パイプを通って流れる流体を通過する2つの測定信号間の通過時間差を決定するための超音波測定装置1を概略図で示している。パイプには符号100が付けられている。以下では、実際面で特に重要である、パイプ100が可撓性パイプ100、すなわち、その壁部101(図2)が変形可能なパイプ100である場合について言及する。可撓性パイプ100は、例えば、シリコーンゴムまたはPVCから作られたプラスチックチューブである。もちろん、パイプ100は、他の材料、特にプラスチックまたはゴムで作ることもできる。もちろん、本発明に係る方法は、剛性のある(すなわち、非可撓性の)パイプにも適している。
【0049】
流体は、パイプ100を通って流れ方向Aに流れる。超音波信号である測定信号12、21を放射および受信するために、少なくとも2つの超音波振動子11、22、すなわち第1の超音波振動子11および第2の超音波振動子22が設けられる。動作状態では、第1の超音波振動子11は、パイプ100の第1の側51に横方向に配置され、第2の超音波振動子22は、パイプ100の第2の側52に横方向に配置され、第2の側52は、第1の側51の反対側にある。超音波振動子11、22は、第1の超音波振動子11が、流体の流れ方向Aに対して斜めに第1の測定信号12を第2の超音波振動子22へと放射し、流れ方向Aに対して斜めに第2の超音波振動子22によって放射された第2の測定信号21を受信できるように配置され、位置合わせされる。
【0050】
図1では、測定信号12、21はそれぞれ、矢印の付いた破線の直線によって象徴的に表されている。これは、破線は、各々の場合において、対応する超音波振動子11、22によって放射される超音波信号の主伝播方向を示し、矢印は、それぞれの超音波信号が、それぞれの超音波振動子11、22に向かって移動している(すなわち、受信される)か、またはそれから離れて移動している(すなわち、放射される)かをこれは示しているように理解すべきである。主伝播方向は、通常、対応する超音波振動子11または22の圧電素子の表面に対して垂直である。主伝播方向は、流れ方向Aと角度αを成しており、この角度は0°とも90°とも異なる。
【0051】
インライン測定装置として設計された超音波測定装置1では、この角度αが0°に等しいか、または180°に等しい、すなわち、測定信号は、それらの伝搬の主方向が流れ方向Aに等しいか、流れ方向Aと正反対に向くように放射される場合が多い。例えば、これは、U字型またはZ字型の超音波測定装置で実現できる。
【0052】
例えば、図1に示される超音波測定装置1においては、通過時間差を決定するために次のような手順が使用される。第1の超音波振動子11は、第1の測定信号12を放射し、第1の測定信号12は、流れ方向Aに対して角度αで斜めに、かつ流れ方向Aに沿って放射され、これは、第1の測定信号12の主伝搬方向は、流れ方向Aの成分も有することを意味する。第2の超音波振動子22は、第2の測定信号21を放射し、第2の測定信号21は、流れ方向Aに対して角度αで斜めに、かつ流れ方向Aに逆らって放射され、これは、第2の測定信号21の主伝播方向は、流れ方向Aとは逆の成分も有することを意味する。
【0053】
第1の測定信号12は、流体を通過した後に第2の超音波振動子22によって受信され、信号線22aを介して記憶・評価ユニット20に送信される。第2の測定信号21は、流体を通過した後に第1の超音波振動子11によって受信され、信号線11aを介して記憶・評価ユニット20に送信される。
【0054】
記憶・評価ユニット20において、流れる流体によって加速された第1の測定信号12と、流れる流体によって減速された第2の測定信号21との間の通過時間差が決定される。第1の測定信号12と第2の測定信号21との間のこの通過時間差は、パイプ100内の流体の流速に直接依存する。したがって、パイプ100を通る流体の流速、ひいては流量も、例えば通過時間差から決定することができる。
【0055】
また、超音波測定装置1には、超音波信号のそれぞれの放射および受信のために、少なくとも4つの超音波振動子11、22が設けられる、すなわち、第1の側51に横方向に配置された少なくとも2つの第1の超音波振動子11と、第2の側52に横方向に配置された少なくとも2つの第2の超音波振動子22とが設けられる場合もよくある。次に、超音波振動子11、22は、各々の場合において、第1の超音波振動子11の1つが、流れ方向Aに対して斜めに、かつ流れ方向Aに沿って第1の測定信号12を、第2の超音波振動子22の1つへと放射でき、流れ方向Aに対して斜めに、かつ流れ方向Aに逆らって第2の超音波振動子22によって放射された第2の測定信号21を受信できるように配置され、位置合わせされる。例えば、4つの超音波振動子11、12は、X字状に配置される。超音波振動子11、22のこのような配置は、例えば、欧州特許出願公開第3489634号明細書に開示されている。4つの超音波振動子を備えたこの配置では、流れ方向Aと流れ方向Aに逆らう両方で2つの相互に独立した測定が行われるため、例えば流量の決定の精度と信頼性が大幅に向上するという利点がある。
【0056】
特に好ましくは、超音波測定装置1は、パイプ100を超音波測定装置1内にクランプできるようにクランプ装置として設計される。図2は、クランプ装置として設計された、2つの測定信号間の通過時間差を決定するための超音波測定装置1の一実施形態を斜視図で示している。
【0057】
超音波測定装置1は、ハウジング4を備える。超音波測定装置1は、パイプ100とのクランプ接続のためのクランプ装置として設計されており、すなわち、超音波測定装置1のハウジング4は、パイプ100がハウジング4に対して固定されるように、パイプ100上にクランプすることができる。ハウジング4を備えた超音波測定装置1の主要な設計自体は、例えば欧州特許出願公開第3489634号明細書から知られている。欧州特許出願公開第3816590号明細書には、パイプ100への取り外し可能な取り付けのためのクランプ装置として設計され、本発明に係る方法に適した超音波測定装置1も開示されている。
【0058】
ハウジング4は、開閉可能なハウジング4として設計され、ジョイント43を介して関節式に互いに接続される第1のハウジング部分41と第2のハウジング部分42とを備える。図2は、開いた状態のハウジング4を示す。ハウジング4はさらに、連続的な中央レセプタクル3を有し、中央レセプタクル3は、ハウジング4全体を通って延び、パイプ100を受け入れるように機能する。中央レセプタクル3の長手方向の延長部は、流体がパイプ100またはハウジング4を通って流れる流れ方向Aを画定する。
【0059】
ハウジング4はさらに、ハウジング4を閉じてパイプ100を中央レセプタクル3内にクランプするための閉鎖機構44を有する。閉鎖機構44は、ここでは第1のハウジング部分41上に配置されており、ブラケット46と、ブラケット46に張力を加えるための折り畳みストラップ45とを備える。パイプ100が中央レセプタクル3に挿入され、次に2つのハウジング部分41、42が共に折り畳まれる、すなわち、第1のハウジング部分41がパイプ100の上にわたって折り畳まれる。ブラケット46は、第2のハウジング部分42上の突起47と係合し、2つのハウジング部分41、42は、ストラップ45を作動させることによって共にピンと張られる。そして、ハウジング4は、閉状態となり、パイプ100が中央レセプタクル3内にクランプされ、こうしてハウジング4に対して固定される。
【0060】
したがって、ハウジング1の閉状態では、パイプ100は、中央レセプタクル3に関して互いに対向する第1の面51と第2の面52との間に固定される。
【0061】
マーキング要素(図示せず)、例えば流体が超音波測定装置1を通って流れる流れ方向を規定する矢印を、ハウジング4上に設けることもできる。
【0062】
中央リセプタクル3は、ハウジング4が閉じた状態において、実質的に長方形、特に流れ方向Aに垂直な正方形の断面を有するように設計されることが好ましい。これには、パイプ100に印加される超音波測定信号が平面(すなわち、曲面ではない)に当たるという利点があり、測定信号12、21の検出および評価が大幅に簡素化され、測定の精度が向上する。
【0063】
中央リセプタクルが、ハウジングの閉鎖状態において流れ方向Aに垂直な異なる多角形の断面(例えば、六角形の断面)を有するように設計される実施形態も知られている。さらに、この断面が円形または楕円形である実施形態も知られている。このような実施形態では、測定信号放射および/または受信するために音響レンズが使用されることが多い。
【0064】
超音波振動子11、22は、図2には示されていないが、ハウジング4内、すなわち第1の面51上と第2の面52上にそれぞれ設けられている。第1の超音波振動子(複数可)11は、第1の面51上に配置され、第2の超音波振動子(複数可)22は、第2の面52上に配置される。
【0065】
超音波振動子11、22の各々は、各々の場合において信号線11a、22a(図1)の1つを介して記憶・評価ユニット20に信号接続される。信号線11a、22aおよび記憶・評価ユニット20は、図2には示されていない。それぞれの信号線11a、22aを介して、超音波振動子11、22が作動して超音波信号を放射し、それぞれ受信した測定信号12、21を記憶・評価ユニット20に送信する。受信した測定信号12および21は、記憶・評価ユニット20内で分析され、第1の測定信号11の1つと第2の測定信号21の1つとの間の通過時間差が、各々の場合に決定される。さらに、決定された通過時間差からパイプ100を通る流体の流量を決定することが可能である。
【0066】
超音波振動子11、22は、それ自体既知の任意の方法で、特に圧電振動子として設計することができる。通常、超音波信号の周波数は、メガヘルツの範囲内、例えば1MHz~30MHzの範囲内にある。
【0067】
超音波測定装置1に関する前述の説明は、一例としてのみ理解されるべきである。流れ方向Aに沿って放射される測定信号と流れ方向Aに逆らって放射される測定信号との間の通過時間差を決定するように設計された、またはそれを決定するのに適した任意の超音波測定装置が、本発明に係る方法に適している。
【0068】
概略図において、図3は、パイプ100内を流れる流体(ここでは液体)内の分散気相(この例では気泡からなる)の割合を決定するための本発明に係る方法の一実施形態を示す。
【0069】
第1の測定信号12と第2の測定信号21との間の通過時間差に関する複数の個々の値は、各々の場合において超音波測定装置1を利用して決定される。これらの個々の値は、図3では符号Eが付いた矢印によって表される。各々の個々の値Eは、記憶・評価ユニット20の記憶モジュール25に記憶される。例えば、記憶モジュール25は、FIFOストレージ(FIFO:先入れ先出し)として設計される。記憶された個々の値Eは、記憶モジュール25に収集され、分析手順によって評価される。分析手順は、以下に詳細に説明されるように、複数の個々の値Eから流体中の分散相(この場合は気泡)の割合を決定するために統計的または確率的方法を使用することが好ましい。
【0070】
好ましくは、分散相の割合の決定は、一定の間隔でまたは連続的に更新される。ここで、「連続的に更新される」という用語は、記憶モジュールに送信される通過時間差の新しい個々の値Eごとに評価が再度実行され、分散相の割合の決定が更新されることを意味する。
【0071】
通過時間差の平均値MWは、通過時間差の個々の値Eから決定される。好ましくは、平均値MWは、統計的平均値MWまたは算術平均(すなわち、n個の個々の値Eの合計を個々の値の数nで割ったもの(nは自然数である))である。
【0072】
一定の平均値MWに対する平均値MWの周りの個々の値Eの変動が、流体中の分散気相の割合に非常に再現性よく依存することは、本発明にとって実質的な認識である。したがって、流体中の分散気相の割合を確実に決定するために、平均値MWの周りの個々の値Eの統計的変動、すなわち平均値MWの周りの通過時間差(または流量)の「ノイズ」を使用することができる。
【0073】
したがって、ばらつきパラメータSPは、流量の個々の値Eからさらに決定され、これは、平均値MWの周りの個々の値Eのばらつきに特有である。例えば、個々の値Eの分散、または平均値MWからの個々の値Eの経験的分散または標準偏差または経験的標準偏差がばらつきパラメータとして適している。通常、標準偏差は、分散の平方根である。(経験的)分散は、平均値MWからのn個の個々の値Eの偏差の二乗の合計を個々の値Eの数nで割ったもの、または自由度の数(n-1)で割ったものである。ここで、nは、個々の値Eの数を示す任意の自然数である。
【0074】
所定の数の単一値Eから平均化された単一値を決定し、その後、これらの平均化された単一値をさらなる分析のために(すなわち、特に平均値MWを決定するためにも)使用することも可能である。
【0075】
好ましい一実施形態では、次のように定義される分散SPが、ばらつきパラメータSPとして使用される。
【数1】

ここで、Eは、i番目の個々の値E(またはi番目の平均化された個々の値)を表し、nは、個々の値Eの数を表す。もちろん、分散SPの平方根も、ばらつきパラメータとして使用できる。これは通常、(経験的)標準偏差と呼ばれる。
【0076】
通過時間差(または流量)の平均値MWが一定である場合、分散気相の割合に依存するばらつきパラメータSP(すなわち、この場合は分散SP)の変化は、次の形式の線形相関である線形決定関数Fによって記述される。
【数2】

ここで、DPは、流体中の分散気相の割合、すなわち、この場合は例えば流体中の気泡の体積分率を示し、mとtは、2つの線形係数であり、これにより所与の一定の平均値MWに対して、線形決定関数Fが決定される。一定の平均値MWに対する線形係数mおよびtの決定については、後で説明する。
【0077】
したがって、分散気相の割合DPは、次のように線形決定関数Fを使用して計算できる。
【数3】
【0078】
図3に表されるように、平均値MWおよびばらつきパラメータSP(この場合は、分散SP)は、記憶モジュール25に記憶されている個々の値Eから決定される。2つの線形係数mおよびtは、特定の平均値MWに対して決定される。したがって、線形決定関数Fは、この特定の平均値MW、したがって分散気相の割合DPに依存するばらつきパラメータSPの変化について知られている。分散相の割合DPは、DP=(SP-t)/mとして計算できる。
【0079】
したがって、本発明に係る方法は、流体中の分散気相についての定量的な記述を可能にする。
【0080】
予め決定可能な一定の平均値MWに対する線形決定関数Fを定義する2つの線形係数mおよびtは、例えば、異なる平均値MWに関して記憶・評価ユニット20内のルックアップテーブルに記憶させることができる。線形係数m、tを、それぞれ平均値MWを変数とする関数相関によって記述することも可能である。線形係数m、tの各々に対して、この関数相関は、各々の場合において、変数が平均値MWである多項式関数とすることができる。
【0081】
好ましくは、それぞれの超音波測定装置1の線形係数m、tは、例えば較正測定によって経験的にまたは計量学的に決定される。この目的のために、これは次のように行うことができる。
【0082】
超音波測定装置1を用いて、通過時間差の平均値MWとばらつきパラメータSP(すなわち、ここでは分散SP)が、各々の場合において、分散気相DPの異なる割合に対して較正流体上で測定される。較正流体は、予め決定可能な分散相の割合DPを有する。例えば、これは、予め決定可能な体積分率の気体(例えば、空気)が、パイプ100内を流れる流体(例えば、水)と混合されるような方法で実現することができる。通過時間差の平均値MWと分散SP(すなわち、平均値MWの周りの個々の値Eのばらつき)が、この流体(例えば、内部に気泡が含まれている水)について、超音波測定装置1によって決定される。気体の体積分率を一定に保ち、流量をいくつかのステップで、例えばゼロから毎分10リットルの値まで増加させる。各々の場合において、平均値MWと分散SPが決定される。この較正測定は、分散気相の割合DP(すなわち、ここでは気泡の割合)の様々な値に対して繰り返され、ほんの一例を挙げると、例えば、気泡の体積分率0%、0.5%、3%、および6%である。
【0083】
図4の図に例示的な特性で表されているように、これらの較正測定から一連の曲線が得られる。分散相の割合DP(すなわち、ここでは液体中の気泡の体積分率)が横軸にプロットされ、ばらつきパラメータSP(すなわち、ここでは分散)が縦軸にプロットされている。図4には3つの曲線MW1、MW2、MW3が示されている。曲線MW1、MW2、およびMW3の各々は、通過時間差の平均MWが一定値である場合に属する。曲線MW1は、通過時間差の平均MWが最小の一定値である場合に属し、曲線MW3は、通過時間差の平均MWが最大に属し、曲線MW2は、通過時間差が中間値に属する。通過時間差の平均MWが一定である場合、分散SPと分散相の割合DPとの間の相関は、非常に良好な近似では線形相関であることがよく認識され、したがって、これは次のような線形決定関数Fで説明できる。
【数4】
【0084】
実際には、図4に例として示した3つの曲線MW1、MW2、MW3よりもかなり多くの曲線を決定すること、すなわち、より多くのそれぞれの一定流量、したがって一定の通過時間差に対して、ばらつきパラメータSP(すなわち、ここでは分散SP)と分散相の割合DP(すなわち、ここでは気泡の体積分率)との間の相関関係を決定することが有利なことがよくある。例えば、この相関関係は、通過時間差または流量(これも同様である)の20個またはさらにそれ以上のそれぞれの一定の平均値MWに対して決定することができる。
【0085】
次に、2つの線形係数mおよびtの各々の値は、各々の場合において、曲線MW1、MW2、MW3の各々と、必要に応じて図4に示されていない他の曲線とから決定できる。理想的なケースでは、曲線MW1、MW2、MW3の各々が座標系のゼロ点を通過する(すなわち、ばらつきパラメータSPのゼロ値は、分散相の割合DPがゼロに属する)と予想される。しかしながら、実際には、線形係数にゼロ以外の値が許容される場合、分散相の割合DPの決定がより正確になることが示されている。
【0086】
ここで、線形係数mの全体は、通過時間差の平均値MWを変数とする多項式関数によって近似される。さらに、線形係数tの全体は、通過時間差の平均値MWを変数とする多項式関数によって近似される。もちろん、他の関数も、この近似に適している。
【0087】
ここで説明する実施形態では、線形係数m、tの各々を決定するために、各々の場合において4次多項式が使用される。したがって、線形係数m、tは、次の多項式関数に基づいて近似される。
【数5】

【数6】

ここで、展開係数a、a、a、a、aおよびb、b、b、b、bは通常、特定の超音波測定装置1またはパイプ100の幾何学的形状(例えば、その外側および/または内側)に依存する。
【0088】
もちろん、線形係数m、tは、異なる次数の多項式関数で記述することもできる。さらに、線形係数mの決定と線形係数tの決定に、次数の異なる2つの多項式を使用することも可能である。
【0089】
次に、多項式関数yおよびyを使用して、図3にも示されているように、通過時間差の平均値MWの各々の値に対して関連する線形係数m、tを決定でき、次いで、これらを用いて、各々の場合において線形決定関数Fを計算することができる。
【0090】
したがって、第1の測定信号12と第2の測定信号21との間の通過時間差の各々の平均値MWに対して、パイプ100内を流れる流体中の分散相の割合DPをばらつきパラメータSPから決定することができる。
【0091】
超音波測定装置1および流体が通って流れるパイプ100を備えたシステム全体の反応時間は、特に記憶モジュール25の設計によって影響を受ける可能性がある。例えばFIFO記憶装置として設計された記憶モジュール25のサイズまたは記憶容量は、個々の値Eが測定される測定頻度と共に、システム全体の反応時間に影響を与え、それは通常、複数の個々の値Eが、それらから平均値MWおよびばらつきパラメータSPを決定するために、まず記憶モジュール25に収集されるからである。
【0092】
用途において短い反応時間が望まれる場合、記憶モジュール25を小さい容量で設計することが有利である。しかしながら、用途において決定のより大きな安定性が重要である場合には、より大きな容量を有する記憶モジュール25を設計することが有利である。
【0093】
図5は、図3に類似した表現で上記の実施形態の変形例を示す。以下では、図3に係る実施形態と比較した変形例の相違点のみを説明する。実施形態と同一の構成要素または同等の機能を有する構成には、同一の符号が付されている。これまでの説明はすべて、図5に係る変形例にも同じくまたは同様に適用されることが理解される。
【0094】
図5に示される変形例では、例えば上述のように、分散相の割合DPが最初に決定される。次に、平滑化係数Gを適用することにより、この分散相の割合DPから、分散相の修正された割合DMが決定される。
【0095】
実際には、いくつかの用途に対しては、特に、通過時間差の平均値MWの値が小さい場合、したがってパイプ100を通る流量の値が小さい場合、分散相の割合DPの決定された値に平滑化係数Gを適用することによって、分散相の割合DPの決定を改善できることが示されている。好ましくは、分散相の修正された割合DMは、分散相の割合DPに平滑化係数Gを乗算することによって得られる。したがって、次のようになる。
【数7】
【0096】
例えば、平滑化係数Gによって、弱い流れの場合(すなわち、通過時間差または流量の平均値MWが小さい場合)、分散相としての気泡の分布の統計的性質は、例えば浮力または流れの状態によって、少なくとも部分的に失われる。実際には、平滑化係数Gの適用は、特にパイプ100を通る流れが臨界レイノルズ数の5倍未満である場合に有利であることが示されている。
【0097】
平滑化係数Gの決定も、図4に示されるような曲線MW1、MW2、MW3に基づいて実行され、したがって、これらは、通過時間差の平均値MWが一定である各々の場合において、分散気相の割合DPに依存した、ばらつきパラメータSP(ここでは分散SP)の変化を示している。平滑化係数Gの計算には、例えば多項式関数(例えば、次式の6次の多項式関数y)を使用することができる。
【数8】

ここで、展開係数c、c、c、c、c、c、cは通常、特定の超音波測定装置1またはパイプ100の幾何学的形状(例えば、その外径および/または内径)に依存する。
【0098】
展開係数c~cが決定された後、通過時間差の特定の平均値MWに対する平滑化係数Gは、この点MWにおける関数yを計算することによって得られる。したがって、次のようになる。
【数9】
【0099】
特定の用途に応じて、他の関数タイプ(例えば、以下の形式の双曲線)も平滑化係数の計算用の多項式関数として使用できる。
【数10】

ここで、係数dは、図4に示されるような曲線に基づいて決定される。
【0100】
図5に示される変形例では、平滑化係数Gがこうして追加で決定され、計算された分散気相の割合DP(この場合は気泡の割合)に平滑化係数Gが乗算されて、このようにして分散相DMの修正された割合が得られ、これは、流体のどれだけが分散相で構成されているかを示す定量的な尺度であり、この場合は液体中の気泡の体積分率がどの程度かを示す。
【0101】
したがって、本発明に係る方法を使用すると、分散相の割合DP、DM(すなわち、例えば液体などの流体中の気体の割合)について、正確な定量的情報を決定することができる。この情報は、プロセスを拡張または改善するために使用できる。精度の向上と同様に、自動化の新たな可能性が広がる。ここで例を示す。
【0102】
例えば、液体などの流体媒体のデカントプロセス中に、気相(すなわち、気泡など)は避けられないが、デカントされた媒体の量が役割を果たす場合、定量的な気体の割合をデカントされた体積から計算できる。
【0103】
最先端技術としてそれ自体知られている流量計は、いわゆる体積カウンターも提供することが多い。ここで、搬送された体積は、時間と流量に基づいて計算される。エラーが発生した場合、例えば測定中に気泡の存在が検出された場合、せいぜい、測定中に気泡が検出されたことを示すメッセージが表示される。これらの流量計では、体積カウンターによって決定された体積が実際の体積からどの程度逸脱しているか、またはどれくらいの数の気泡が検出されたかについては不明のままである。
【0104】
本発明に係る方法を用いると、流量計自体を含むシステムが、実際の体積(すなわち、気泡の割合を除いた体積)を決定するために、気体の割合の定量的決定がここで可能になったことによる補正を実行することが実現できる。
【0105】
この目的のために、例えば、分散相(すなわち、この場合は気泡)の割合を利用して、パイプ100を通る流体の流量の補正平均値を決定することができる。この補正平均値は、分散相(すなわち、この場合は気泡)が流量の決定に与える影響を考慮する。この流量の補正平均値から、純粋な液体の体積(すなわち、気泡の体積を除いた液体の体積)を決定することができる。
【0106】
例えば、媒体の予め決定可能な目標体積に到達することがプロセスにおいて必要な場合、もちろん所定の目標体積に寄与すべきではない分散相(例えば、気泡)の割合を、本発明に係る方法を用いて定量的に決定することができる。適切な修正(例えば、ポンプまたはバルブまたは制御ユニットおよび開ループ制御ユニットへのフィードバック)によって、プロセスは、予め決定可能な目標体積に実際に到達するまで実行を続けることができる。
【0107】
すでに述べたように、本発明に係る方法は、流体の流量を決定するのに適したすべての超音波測定装置1を用いて実行することができる。
【0108】
本発明に係る方法は、流体中の分散相に関する定量的情報を決定することを可能にするので、例えば、閾値スイッチ、リミットスイッチ、または検出器にも使用することができ、特に既存の測定または分析技術と組み合わせて使用することもできる。
【0109】
非網羅的なリストにおいて、本発明に係る方法が特に適しているいくつかの用途が挙げられる。
・製薬産業における液体または気体の最終製品または医薬品の純度の監視用。
・半導体産業などでのクリーンルームへの空気供給の監視用。
・食品産業またはバイオテクノロジー産業などでの最終製品の充填プロセス中の制御用。
・塞栓症を防ぐために患者に血液を戻すとき、例えば人工心肺を使用するときなど、医療技術における監視用。
・自動車産業では、例えば、燃料の監視またはブレーキ液の監視用。
・ポンプ技術ではキャビテーションの程度の監視または測定用。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】