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特表2025-505504オレフィンメタセシス重合触媒系及びその触媒系を含む硬化性組成物
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  • 特表-オレフィンメタセシス重合触媒系及びその触媒系を含む硬化性組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-28
(54)【発明の名称】オレフィンメタセシス重合触媒系及びその触媒系を含む硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 61/06 20060101AFI20250220BHJP
   B29C 39/24 20060101ALI20250220BHJP
【FI】
C08G61/06
B29C39/24
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024539976
(86)(22)【出願日】2023-02-07
(85)【翻訳文提出日】2024-08-29
(86)【国際出願番号】 EP2023052970
(87)【国際公開番号】W WO2023152124
(87)【国際公開日】2023-08-17
(31)【優先権主張番号】22156389.3
(32)【優先日】2022-02-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517041372
【氏名又は名称】テルヌ エスアーエス
【氏名又は名称原語表記】TELENE SAS
【住所又は居所原語表記】2 rue Marie Curie, F-59910 Bondues,France
(71)【出願人】
【識別番号】503423096
【氏名又は名称】RIMTEC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ドローストザック‐マトゥシャック, レナータ アンナ
(72)【発明者】
【氏名】デーメン, アレクサンダー ピーター マリア
(72)【発明者】
【氏名】西岡 直樹
(72)【発明者】
【氏名】パパイ, イムレ
(72)【発明者】
【氏名】マダラス, アダム
(72)【発明者】
【氏名】ロベ, エマニュエル
(72)【発明者】
【氏名】グヤーシュ, ヘンリク
【テーマコード(参考)】
4F204
4J032
【Fターム(参考)】
4F204AA36
4F204AB03
4F204EA03
4F204EB01
4F204EF01
4F204EK13
4F204EK17
4J032CA22
4J032CA23
4J032CA24
4J032CA28
4J032CA34
4J032CA38
4J032CA43
4J032CA45
4J032CA46
4J032CB04
4J032CC03
4J032CD04
4J032CD09
4J032CE05
4J032CE06
(57)【要約】
オレフィンメタセシス重合触媒系が開示される。触媒系は、プレ触媒としてメタレート及び共触媒としてアルミニウム錯体を含み、アルミニウム錯体はアルコキシアルキルアルミニウムハライド錯体[(OR)(R)AlX[式中、ORは、18~30の範囲のpKaを有するアルコールから誘導可能なアルコキシ配位子であり、アルコキシは任意選択で官能化されており、さらに、nは1~3の範囲の整数であり、Rはアルキル基であり、Xはハライドである]である。触媒系を含む硬化性組成物の成形品を製造する方法が開示される。この方法は、モールド内で環状オレフィン及びオレフィンメタセシス重合触媒系を組み合わせることにより硬化性組成物を用意するステップと、密閉モールド中の環状オレフィンのオレフィンメタセシス反応を促進する条件に組成物を供するステップと、モールドから硬化した組成物を取り出して成形品を得るステップとを含む。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレ触媒としてメタレート及び共触媒としてアルミニウム錯体を含むオレフィンメタセシス重合触媒系であって、
前記アルミニウム錯体がアルコキシアルキルアルミニウムハライド錯体[(OR)(R)AlX[式中、ORは、18~30の範囲のpKa(溶媒としてジメチルスルホキシド(DMSO)を考慮して計算される)を有するアルコールHORから誘導可能なアルコキシ配位子であり、前記アルコキシは任意選択で官能化されており、さらに、nは1~3の範囲の整数であり、Rはアルキル基であり、Xはハライドであり、ベンジルアルコール及び-CHF官能基を含むアルコールから選択される、任意選択で官能化されたアルコールは除外される]である、触媒系。
【請求項2】
前記アルコールHORのpKaが、20~28、より好ましくは21~27、最も好ましくは22~26の範囲にある、請求項1に記載の触媒系。
【請求項3】
がアルキル基であり、XがClである、請求項1又は2に記載の触媒系。
【請求項4】
前記メタレートがモリブデートである、請求項1~3のいずれか一項に記載の触媒系。
【請求項5】
n=2である、請求項1~4のいずれか一項に記載の触媒系。
【請求項6】
前記アルコキシ配位子ORが第一級又は第二級アルコールHORから誘導される、請求項1~5のいずれか一項に記載の触媒系。
【請求項7】
前記アルコールHORが、「方法及び定義」の項で開示されているように、アルコキシ配位子の酸素原子を頂点とし、その外側面がアルコキシ配位子の最外原子に接触する円錐の開放角によって定義される、160~200°、より好ましくは170~190°の範囲のXCA円錐角によって規定される立体的嵩高さを有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の触媒系。
【請求項8】
ルイス塩基の官能基として与えられたヘテロ原子又は官能基を有するモデル化合物Xと、モデルルイス酸としてのAlClとの間の以下の反応:
X+AlCl→[XAlCl] ΔG(kcal/mol)=GLB
による錯体形成のギブス自由エネルギーとして定義される、アルコールHORのR中に存在するヘテロ原子又は官能基のGLB記述子(kcal/mol)が、-12以上、より好ましくは-10以上、さらにより好ましくは-8以上、最も好ましくは-6以上である、請求項1~7のいずれか一項に記載の触媒系。
【請求項9】
アルキルクロロシランSiCl[式中、RはO、O-アルキル基、アルキル基、アリール基であり、x、y、zは1~10であり得る]を、前記触媒系の合計量に対して0~3質量%の量でさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の触媒系。
【請求項10】
前記クロロシランがテトラクロロシランを含み、前記触媒系がテトラクロロシラン(SiCl)を、前記触媒系の合計量に対して最大0.15質量%、より好ましくは最大0.12質量%、さらにより好ましくは最大0.10質量%、最も好ましくは最大0.06質量%含む、請求項9に記載の触媒系。
【請求項11】
テトラクロロシランを含まない、請求項10に記載の触媒系。
【請求項12】
前記アルコキシ配位子ORがハロゲンで官能化されている、請求項1~11のいずれか一項に記載の触媒系。
【請求項13】
前記ハロゲンが塩素(Cl)又はフッ素(F)、好ましくはフッ素(F)である、請求項12に記載の触媒系。
【請求項14】
前記アルコールHORが、1,1,1-トリフルオロ-2-プロパノール、1,1-ジフルオロプロパノール、及び1-クロロ-2-プロパノールから選択される、請求項1~13のいずれか一項に記載の触媒系。
【請求項15】
前記触媒がプレ触媒としてモリブデート、及び、共触媒として[Al(1,1,1-トリフルオロ-2-プロポキシ)(Cl)(C)][式中、n=1又は2]である、請求項1~14のいずれか一項に記載の触媒系。
【請求項16】
環状オレフィン、及び、請求項1~15のいずれか一項に記載のオレフィンメタセシス重合触媒系を含む、硬化性組成物。
【請求項17】
前記環状オレフィンがジシクロペンタジエンを含む、請求項16に記載の硬化性組成物。
【請求項18】
請求項16~17のいずれか一項に記載の硬化性組成物の成形品を製造する方法であって、
a)モールド内で前記環状オレフィン及び前記オレフィンメタセシス重合触媒系を組み合わせることにより前記硬化性組成物を用意するステップと、
b)密閉モールド内の前記環状オレフィンのオレフィンメタセシス反応を促進する条件に前記組成物を供するステップと、
c)前記モールドから硬化した前記組成物を取り出して前記成形品を得るステップと、
を含む、方法。
【請求項19】
前記密閉モールドに前記組成物を注入するステップを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
ステップc)の後の成形品がモールド温度と等しいかより高いガラス転移温度Tgを有する、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】
フラッシュ部を除去するステップをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
請求項18~21のいずれか一項に記載の方法によって得ること可能な成形品であって、
前記成形品が、任意選択で最小厚さを有し、任意選択のフラッシュ部を別にして前記成形品の任意選択の最小厚さ又は平均厚さが、0.2~4mm、より好ましくは0.2~0.5mmである、成形品。
【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、特に既存の触媒を超える改善された性質を有する、プレ触媒としてメタレート及び共触媒としてアルミニウム錯体に基づくオレフィンメタセシス重合触媒に関する。そのような触媒は、ジシクロペンタジエン(DCPD)等の環状オレフィンの開環メタセシス重合(ROMP)の用途で広く使用される。
【発明の背景】
【0002】
環状オレフィンの開環メタセシス重合(ROMP)によるポリマーの調製は、当業界でよく知られている。良い例は、単量体としてジシクロペンタジエン、並びにプレ触媒及び共触媒を含むメタセシス触媒系を使用することによるポリジシクロペンタジエンポリマー(PDCPD)の製造である。使用することができる他の単量体は、3個以上の炭素原子及び1個又は複数の二重結合を有する単環オレフィンである。ノルボルネン基を有するポリシクロオレフィンもまたROM重合に使用することができる。プレ触媒は一般に、モリブデン及びタングステン化合物から選択され、共触媒は通常有機金属化合物から選択される。そのような有機金属化合物の例は、アルキルアルミニウム(又はアルミニウムアルキル)及びアルキルアルミニウムハライドである。
【0003】
米国特許第4923936号は、環状オレフィン重合用のヘテロポリメタレートメタセシス触媒を記載している。開環による環状オレフィンの重合は、オルガノアンモニウム、オルガノホスホニウム、オルガノアルソニウム、ヘテロポリモリブデート、又はヘテロポリタングステートプレ触媒、及びメタセシス共触媒で構成されるメタセシス触媒系の存在下で達成される。重合は環状オレフィンの開環によって進行し、骨格中に不飽和を有するポリマーをもたらす。記載のプレ触媒は単量体に可溶性であり、好ましくは空気及び水分に感受性が低いことである。有機金属化合物及び他の原料から選択される共触媒は、溶液又はバルク(溶媒を含まない)重合等の重合によって環状オレフィンを重合するために、開示されたプレ触媒と共に使用される。多くの共触媒が記載され重合反応で試験されている。
【0004】
上述のプレ触媒/共触媒の組合せには不都合がある。例えば、公知の触媒系は、湿気及び水分に相当敏感であり、触媒の反応性に影響を与え、単量体変換の完結を妨げる。この理由のため、最終的な触媒分解が起こる前に比較的高い単量体変換に達することを可能にするために重合反応の開始が比較的速い共触媒を提供することが望まれる。
【0005】
公知のプレ触媒は一般に開始が遅すぎ、特に数秒から数分のオーダーの短いサイクル時間が必要な場合に、比較的低い単量体変換を結果としてもたらす。その結果、3mm未満の平均厚さを有する環状オレフィン成形品を成形することが、不可能でないにしても、困難であるように思われる。比較的遅い開始の別の帰結は、成形品のフラッシュ部(そのようなフラッシュ部は、定義上薄壁であり、場合によっては1mmの10分の1のオーダーである。)が完全には硬化されない場合があることである。これは重大な欠点であり、フラッシュ部の除去が技術的に困難になるためである。それは非常に時間浪費であり、通常は、環状オレフィンの重合に達成可能な比較的高速の硬化であるので望ましくない。
【0006】
テトラクロロシラン(SiCl)等の塩素化試剤の添加が、いくつかの触媒系の遅い開始をある程度解消するために提案されている。しかしながら、この(又は類似する)化合物は、水分に対して非常に敏感であり、腐食性化合物(HCl)等の望ましくない物質の生成を引き起こす可能性がある。これらの化合物は、触媒系を含む硬化性組成物から成形品を製造するのに使用されるモールド(型)に、また一般に健康及び環境に有害であり得る。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、ROM重合反応において、メタレート系プレ触媒及び新規の共触媒を含む改善された触媒系を提供することを目的とするものであり、この触媒システムは、従来技術のシステムの上述の欠点を少なくとも部分的に克服するものである。本発明は、環状オレフィン及び請求項に記載されたオレフィンメタセシス重合触媒系を含む改善された硬化性組成物を提供することを別の目的とする。さらに、別の目的は、改善された硬化性組成物の成形品を製造する方法を提供すること、及び、最小厚さ又は平均厚さ(任意選択のフラッシュ部を別にして)が0.2~4mmである最小厚さを有する壁の薄い成形品を提供することである。
【0008】
これら及び他の目的は、請求項1に記載のオレフィンメタセシス重合触媒系によって達成される。本発明の触媒系は、プレ触媒としてメタレート及び共触媒としてアルミニウム錯体を含み、アルミニウム錯体はアルコキシアルキルアルミニウムハライド錯体[(OR)(R)AlX[式中、ORは、18~30の範囲のpKa(溶媒としてジメチルスルホキシド(DMSO)を考慮して計算される)を有するアルコールHORから誘導可能なアルコキシ配位子であり、さらに、nは1~3の範囲の整数であり、Rはアルキル基であり、Xはハライドである]である。
【0009】
本発明の別の側面は、環状オレフィン及び請求項に記載されたオレフィンメタセシス重合触媒系を含む硬化性組成物に関する。
【0010】
本発明のさらに別の側面は、請求項に記載された硬化性組成物の成形品を製造する方法であって、
a)モールド内で環状オレフィン及びオレフィンメタセシス重合触媒系を組み合わせることにより硬化性組成物を用意するステップと、
b)密閉モールド内の環状オレフィンのオレフィンメタセシス反応を促進する条件に組成物を供するステップと、
c)モールドから硬化した組成物を取り出して成形品を得るステップと、
を含む、方法に関する。
【0011】
本発明の別の側面において、請求項に記載された方法によって得ることが可能な成形品であって、成形品が最小厚さを有し、成形品の最小厚さ又は平均厚さが、任意選択のフラッシュ部を別にして、0.2~4mm、より好ましくは0.2~3mm、さらにより好ましくは0.2~2mm、さらにより好ましくは0.2~1mm、最も好ましくは0.2~0.5mmである、成形品が提供される。
【発明の詳細な説明】
【0012】
他の方法で(例えば、pKaに関して)定義されない限り、本明細書において使用される技術及び科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の通常の当業者が一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書において本発明の記載に使用される用語は、特定の実施形態のみを記載するためにあり、本発明を限定するようには意図されない。
【0013】
本発明によれば、プレ触媒としてメタレート及び共触媒としてアルミニウム錯体を含むオレフィンメタセシス重合触媒系であって、アルミニウム錯体が、アルコキシアルキルアルミニウムハライド錯体[(OR)(R)AlX[式中、ORは、18~30の範囲のpKaを有するアルコールから誘導可能なアルコキシ配位子であり、アルコキシは任意選択で官能化されており、さらに、nは1~3の範囲の整数であり、Rはアルキル基であり、Xはハライドである]である、オレフィンメタセシス重合触媒系が提供される。
【0014】
本発明の好ましい実施形態によると、アルコキシは官能化されており、本開示の文脈においては、アルコキシの骨格が官能基で置換されていることを意味する。
【0015】
とりわけ、請求項に記載されたアルコキシアルキルアルミニウムハライド錯体は、公知の錯体よりはるかに高速の開始速度を示し、例えば、フィルム等の4mm未満の平均厚さを有する環状オレフィン生成物を製造することを可能にすることが判明した。さらに、請求項に記載されたアルコキシアルキルアルミニウムハライド錯体は可能性として、重合反応の実質的に完全な変換が達成されることを可能にし、ここで、「実質的に」とは、硬化性組成物内の触媒系の好適な条件及び相対量が与えられた場合に、好ましくは90%を超え、より好ましくは95%を超え、さらにより好ましくは98%を超え、最も好ましくはおよそ100%の変換を意味する。これは、請求項に記載された触媒系を含む環状オレフィン組成物から成形された物品の品質を非常に改善する。
【0016】
さらに、請求項に記載された触媒系を含む環状オレフィン組成物から成形された物品のフラッシュ部も実質的に硬化することが判明した。触媒系は、一般に温度上昇が高くなり過ぎたとき、これらのフラッシュ部で時期尚早に分解されると考えられているため、これは驚くべきことである。結果として、フラッシュ部の除去は、最新の系よりもはるかに容易であることが判明した。
【0017】
実施形態によるさらに改善された触媒系は、アルコールのpKaが20~28、より好ましくは21~27、最も好ましくは22~26の範囲となるように用意される。アルコールのこの好ましい酸性度範囲は、触媒系を含む環状オレフィン組成物を用いて成形された物品の所望の性質をさらに高める。
【0018】
本出願において、範囲が示されている場合、それらは範囲に与えられる終端値も含まれるものとする。
【0019】
請求項に記載されたアルコキシアルキルアルミニウムハライド錯体は、対応するジアルキルアルミニウムハライドにアルコキシ基を導入することによって得られてもよい。これはアルコールを用いて、又は、他の方法のいずれかで達成することができる。本発明は、18~30の範囲のpKaを有するアルコールHORを使用する。ジアルキルアルミニウムハライドは、系にそれを添加する前にアルコールを用いて処理して[(OR)(R)AlXを形成することができる。ジアルキルアルミニウムハライド(RAlXのアルコールHORとの反応は、好ましくは水のない状態で窒素の雰囲気を用意し、二つの成分を混合して単離された単量体、二量体、若しくは三量体、又はそれらの混合物を得ることによって行われる。しかし、別の実施形態は、アルミニウム錯体が、環状オレフィンを含む反応混合物中で、ジアルキルアルミニウムハライド(RAlXをアルコールHORとin situで反応させることによって得られる触媒系に関する。好ましいアルコールは、環状オレフィン単量体に可溶性のアルコキシアルキルアルミニウムハライド錯体を与える。このような実施形態において、環状オレフィン及び請求項に記載されたオレフィンメタセシス重合触媒系を含む硬化性組成物のバルク重合が可能になり、追加の溶媒を使用する必要性がない。
【0020】
本発明によると、アルコキシ配位子は、18~30の範囲のpKaを有するアルコールHORから誘導可能であることは注目されなければならない。好ましくは、アルコキシ配位子はアルコールから誘導される。しかし、アルコキシ配位子は、アルデヒド及び/又はケトンからも誘導され、結果として請求項に記載された同様か同じ構造のアルコキシアルキルアルミニウムハライド錯体が得られることもある。
【0021】
さらに、その二量体又は三量体形態のアルミニウム錯体共触媒が、cis及びtrans立体異性体からなっていてもよく、これらの立体異性体の混合物として使用されてもよいことは注目されるべきである。さらに、キラルアルコールの場合、エナンチオマー及びそれらのラセミ混合物の両方が、アルミニウム錯体共触媒を形成するために使用されてもよい。キラルアルコールのラセミ混合物の使用は、アルミニウム錯体共触媒の追加の立体異性体の形成を引き起こし、それらのすべてが、改善された性質を有する触媒系を生成するのに効果的である。キラルアルコールは2個以上の立体要素を有していてもよく、例えば、ジアステレオマーを含んでいてもよい。
【0022】
共触媒中のアルコキシ基は、アルミニウム上のアルキル基のいくつかを置き換えることによって対応するジアルキルアルミニウムハライド共触媒の還元力の抑制に機能するようである。アルコキシアルキルアルミニウムハライド共触媒の低下した還元力は、ポットライフの延長がもたらされ、重合反応及び後続の重合を開始させる前に室温で様々な原料を便利に混合することが可能となる。
【0023】
得られたアルコキシアルキルアルミニウムハライドは、式[(OR)(R)AlXによって表されてもよい。本明細書において、Rは約1~18個の炭素原子を有するアルキル基であり、Rも1~18個の炭素原子を有するアルキル基である。Xは塩素、ヨウ素、臭素、及びフッ素から選択されるハロゲンを表し、その中でも塩素が好ましい。
【0024】
本発明の別の実施形態において、Rがアルキル基であり、Xが塩素(Cl)である触媒系が提供される。
【0025】
なお別の実施形態において、触媒系は、n=2であることを特徴とする。
【0026】
他の実施形態において、触媒系中のアルコキシ配位子ORは、アルコキシ配位子が第一級又は第二級アルコールHORから誘導されるアルコール誘導体である。また、アリールオキシアルキルアルミニウムハライドを請求項に記載された触媒系に添加してもよい。アリールオキシ基は、例えば、(立体障害のない)フェノール及びレゾルシノールから誘導されていてもよい。しかしながら、別の有用な実施形態において、アルコールHORが脂肪族アルコールであり、アルミニウム錯体がアリールオキシ配位子を含まないような触媒系が提供される。この実施形態において、アルコキシはまた官能化されていてもよい。
【0027】
本発明者らは、アルコールHORの立体的嵩高さは触媒系の性能において不可欠な役割を果たすことがあり、本発明の目的に応じてそれを改善するために使用することができることを発見した。したがって、本発明の好ましい実施形態は、アルコールHORが160~200°、より好ましくは170~190°の範囲のXCA円錐角によって規定される立体的嵩高さを有する触媒系を提供する。
【0028】
本発明者らは、さらにアルコールHORのR中に存在する任意選択のヘテロ原子及び官能基のルイス塩基度がまた所望の性質に効果を有し得ることを発見した。本発明者らは、そのような任意選択のヘテロ原子及び官能基のルイス塩基度を特徴付けるために、そのような任意選択のヘテロ原子及び官能基の好適なモデル化合物の、モデルルイス酸としてAlClへの会合のギブス自由エネルギー(kcal/mol)であるGLB記述子を導入した。GLBは以下に全詳細が定義される。したがって、別の好ましい実施形態は、アルコールOR中に存在するヘテロ原子及び/又は官能基が、-12を超え、より好ましくは-10を超え、さらにより好ましくは-8を超え、最も好ましくは-6以上のGLB記述子を有する触媒系を提供する。
【0029】
アルコール中のいくつかの官能基の存在は共触媒の分解を促進することがあり、例えば、分解の速度によってはあまり望ましくない。そのようなアルコールは、所望のROMP反応の促進を妨げ得ることさえあり得る。あまり望ましくなく、したがってそれほど好ましくなく、又はさらにより好ましくは排除される官能化アルコールには、ベンジルアルコール及び/又は-CHF官能基を含むアルコールが含まれる。
【0030】
共触媒に加えて、本発明のメタセシス重合触媒系は、環状オレフィン単量体単位のメタセシス開環重合の能力のあるプレ触媒としてメタレートを含む。そのようなプレ触媒は、中心原子として遷移金属原子を有し、それに結合した複数のイオン、原子、及び/又は化合物を含む錯体を含んでいてもよい。遷移金属原子は有利に使用することができ、その中でも、タンタル、モリブデン、タングステン、ルテニウム、バナジウム、及びオスミウムが挙げられる。
【0031】
非常に適切な触媒は、メタレートが、モリブデート、タングステート、又はそれらの混合物、好ましくはモリブデートである。モリブデート及びタングステートは下記式:
[R N][R NH](2y-6x-z)
[式中、Mは、モリブデン又はタングステンのいずれかを表し、x及びyは、モリブデン+6、タングステン+6、及び酸素-2の酸化状態に基づいて、分子中のM及びOの原子数を表し;R及びR部分は、同じでも異なっていてもよく、水素原子、1~20個の炭素原子を有するアルキル基及びアルキレン基、並びに5~16個の炭素原子を有する脂環式基から選択される]
によって定義されてもよい。上述の式は、任意の第四級:第三級アンモニウム比を包含する。
【0032】
第四級アンモニウムは、以下のように定式化された化合物を含んでいてもよい。
[R3a3b3c3dN]
【0033】
第三級アンモニウムは、以下のように定式化された化合物を含んでいてもよい。
[R4a4b4cHN]
【0034】
メタレートが、炭化水素反応溶媒及び/又は環状オレフィン単量体に溶解する場合、R部分のサイズは小さ過ぎない方がよい。R部分がすべて同じである場合、それぞれは、好ましくは5~18個の炭素原子を有する。R部分がすべて異なる場合、それぞれは、好ましくは4~18個の炭素原子を有する。
【0035】
モリブデート及びタングステート等の適切なメタレートの具体的な例としては、モリブデン酸トリドデシルアンモニウム及びタングステン酸トリドデシルアンモニウム、モリブデン酸メチルトリカプリルアンモニウム及びタングステン酸メチルトリカプリルアンモニウム、モリブデン酸トリ(トリデシル)アンモニウム及びタングステン酸トリ(トリデシル)アンモニウム、並びにモリブデン酸トリオクチルアンモニウム及びタングステン酸トリオクチルアンモニウムが含まれる。
【0036】
本発明の実施形態は、ハロゲン化合物M[式中、Mは、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、又はシリコン(Si)、好ましくはSiであり、Xは、フルオリド(F)、クロリド(Cl)、ブロミド(Br)、又はヨージド(I)、好ましくはClであり、Rは、O、O-アルキル基、O-フェニル基、アルキル基、フェニル基であり、x、y、zは1~10であり得る]をさらに含む触媒系を提供してもよい。この実施形態による触媒系は、好ましくは、ハロゲン化合物が、シリコンアルキルクロリドSiCl[式中、RはO、O-アルキル基、アルキル基であり、x、y、zは1~10であり得る]であり、触媒系の合計量に対して0~3質量%の範囲で含むことを特徴とする。
【0037】
本発明の触媒系の重要な利点は、それがさらなるハロゲン化合物Mの添加を必要とせず、又は、わずかな量の添加しか必要としないかということである。特に好ましい実施形態は、アルキルクロロシランがテトラクロロシランを含み、触媒系が、触媒系の合計量に対して最大0.15質量%、より好ましくは最大0.12質量%、さらにより好ましくは最大0.10質量%、最も好ましくは最大0.06質量%のテトラクロロシラン(SiCl)を含む触媒系を提供する。
【0038】
さらにより好ましくは、触媒系はテトラクロロシランを含まない。0.06質量%以下のさらなるハロゲン化合物、特にSiClを含む実施形態は、水分に対する感度が低下する。さらに、HCl等の腐食性化合物の放出が、減少するか又は完全に阻止さえされる。
【0039】
さらに別の有用な実施形態において、触媒系は、アルコキシ配位子ORがハロゲンで官能化されていることを特徴とする。ハロゲンは、例えば、塩素(Cl)又はフッ素(F)、好ましくはフッ素(F)である。いくつかの共触媒がポリマーの成形作業の間にわずかな分解を起こすことがあり、湿気との反応で化合物を放出し得るので、後者の実施形態が好ましい。この実施形態において放出される化合物は非発癌性であるが、他の実施形態におけるこれらの化合物のうちのいくつかは発癌性として分類され、大気へのこれらの物質の放出は特に問題である。
【0040】
本発明の実施形態によるさらに別の触媒系において、アルコキシ配位子ORは、1,1,1-トリフルオロ-2-プロパノール、1,1-ジフルオロ-2-プロパノール、及び1-クロロ-2-プロパノールから選択されるアルコールHORの誘導体である。
【0041】
本発明による特に好ましい触媒系は、プレ触媒としてモリブデート及び共触媒として[Al(1,1,1-トリフルオロ-2-プロポキシ)](Cl)(C[n=1又は2]を含む。
【0042】
本発明の別の側面は、環状オレフィン及び請求項に記載されたオレフィンメタセシス重合触媒系を含む硬化性組成物に関する。
【0043】
本発明中で使用される環状オレフィンは、環状オレフィン単量体単位の重合により得られる環状オレフィンポリマーを形成するように調整されることができる環状オレフィン単量体単位を含む。当業界で知られている環状オレフィン単量体単位の任意のポリマーは原則として、本発明において使用されてもよい。環状オレフィンポリマーは、飽和環状炭化水素(シクロアルカン)構造及び/又は不飽和環状炭化水素(シクロアルケン)構造の環状単量体単位を含む。単量体単位中の環状構造を形成する炭素原子数は、特に限定されないが、好ましい実施形態において、4~30個、より好ましくは5~20個、最も好ましくは5~15個の範囲である。
【0044】
環状オレフィンポリマー中の環状オレフィン単量体単位の量は、広範囲内で選択されてもよいが、しかし、組成物中のいずれの充填剤も除外して、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、最も好ましくは90質量%以上である。異なる環状単量体の組合せもまた使用されてもよい。組成物の環状オレフィンポリマーは、任意選択で、別のオレフィン単量体と共重合した環状オレフィン単量体単位の付加ポリマーを含んでもよく、及び/又は環状オレフィン単量体単位の開環ポリマーを含んでいてもよく、後者が好ましい。
【0045】
環状オレフィン単量体単位は、炭素原子及び炭素-炭素二重結合の環状構造を形成し、例として、ノルボルネン系単量体単位及び単環式単量体単位が挙げられるがこれに限定されない。環状オレフィン単量体単位は、ノルボルネン系単量体単位が好ましい。ノルボルネン系単量体単位としては、ノルボルネン環を有し、例えば、2-ノルボルネン、ノルボルナジエン及び他の二環式化合物;ジシクロペンタジエン(DCPD)、ジヒドロジシクロペンタジエン及び他の三環式化合物;テトラシクロドデセン、エチリデンテトラシクロドデケン、フェニルテトラシクロドデケン及び他の四環式化合物;トリシクロペンタジエン及び他の五環式化合物;テトラシクロペンタジエン及び他の七環式化合物;アルキル置換化合物、例えば、メチル、エチル、プロピル及びブチル置換化合物、アルキリデン置換化合物、例えば、エチリデン置換化合物、アリール置換化合物、例えば、フェニル及びトリル置換化合物;並びに、例えば、エポキシ基、メタクリル基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、シアノ基、ハロゲン原子、他を有するそれらの誘導体が含まれる。環状オレフィンは好ましくはジシクロペンタジエン単位を含む。
【0046】
単環式環状オレフィン単量体単位もまた用いられてもよく、その適切な例としては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロオクテン、シクロドデケン、1,5-シクロオクタジエン及び他の単環式環状オレフィン、並びにノルボルネン系単量体単位の例として挙げたような極性基を有する置換化合物及び誘導体が含まれる。そのような環状オレフィン単量体は、単独で又は別の又は複数の種類と組み合わせて使用されてもよい。上述の環状オレフィン単量体単位と付加重合を介して重合されてもよい適切な直鎖オレフィン単量体単位には、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、2-ペンテン、及び1,4-ヘキサジエンが含まれるがこれに制限されない。使用される直鎖オレフィン単量体単位の量は、環状オレフィン及び直鎖オレフィン単量体単位の合計量に対して、好ましくは50質量%未満、より好ましくは20質量%未満、より好ましくは10質量%未満である。
【0047】
環状オレフィン単量体単位に加えて、硬化性組成物は、請求項に記載された環状オレフィンメタセシス重合触媒系をさらに含み、好ましくは組成物の合計質量に対して好ましくは30~1000ppmの量である。これは、合計単量体1モル当たり約0.01~100ミリモルのメタレート、好ましくは合計単量体1モル当たり0.1~10ミリモルのメタレートの好ましい量に相当する。アルコキシ又はアリールオキシアルキルアルミニウムハライドとメタレートとのモル比は、特に重要でなく、アルコキシ又はアリールオキシアルキルアルミニウムハライドとメタレートとに対して、約1:10~約200:1、好ましくは2:1~40:1の範囲で選択されてもよい。
【0048】
オレフィンメタセシス重合触媒系は、それが溶媒に溶解又は懸濁される形態を含む、何らかの適切な形態で使用されてもよい。適切な溶媒としては、直鎖脂肪族炭化水素、例えば、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、又は液体パラフィン、並びに脂環式炭化水素、例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン、アルキル置換シクロヘキサン、ジ-及びトリシクロヘプタン、及びシクロオクタンが含まれ、少し例を挙げると、芳香族炭化水素、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン他;窒素含有溶媒、例えば、ニトロメタン、ニトロベンゼン及びアセトニトリル、並びに酸素含有溶媒、例えば、ジエチルエーテル及びテトラヒドロフランが含まれる。既に上述したように、オレフィンメタセシス重合触媒系は環状オレフィン単量体に溶解することが好ましい。
【0049】
硬化性組成物はまた好ましくは、硬化が始まる前に保存寿命を延長する能力のある触媒遅延剤を含んでいてもよい。重合反応遅延剤は当業界でよく知られ、ホスファイト化合物を含んでいてもよいが、これに限定されない。
【0050】
組成物はまた、連鎖移動剤、例えば、置換基を有する直鎖オレフィンを含んでいてもよい。適切な連鎖移動剤には、ビニルノルボルネン、1-ヘキセン、2-ヘキセン及び他の脂肪族オレフィン;スチレン、ジビニルベンゼン、及び他のビニル芳香族オレフィン;ビニルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素基を有するオレフィン;ビニルエーテル;メチルビニルケトン、並びに置換(メタ)アクリル酸及びそれらの塩、例えば、(メタ)アクリル酸ビニル、(メタ)アクリル酸アリル、及びアリルトリビニルシラン;アリルメチルジビニルシラン、アリルジメチルビニルシラン、及び4-ビニルアニリン等の化合物が含まれる。そのような連鎖移動剤は、単独で又は組み合わせて使用されてもよく、一般に環状オレフィン単量体単位の100質量部に対して0.01~10pbw質量部、好ましくは0.1~5質量部の範囲の量で添加される。
【0051】
他の添加剤、例えば、難燃剤、光安定剤、顔料、染料、顔料及び他の色素、並びに、例えば、発泡剤が、組成物に添加されてもよい。適切な難燃剤には、リン、窒素及びハロゲン含有難燃剤、例えば、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物、及び三酸化アンチモン等のアンチモン化合物が含まれるが、これに限定されない。
【0052】
好ましい実施形態において、充填剤が本発明の組成物に添加されてもよい。無機及び有機充填剤の両方が制限なく使用されてもよいが、無機充填剤が好ましい。適切な無機充填剤には、例えば、鉄、銅、ニッケル、金、銀、アルミニウム、鉛及びタングステンの金属粒子;カーボン粒子、例えば、カーボンブラック、黒鉛、活性炭、カーボンマイクロバルーン等;無機酸化物粒子、例えば、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム等;無機炭酸塩粒子、例えば、炭酸カルシウム及び炭酸マグネシウム;硫酸カルシウム;無機ケイ酸塩粒子、例えば、タルク、粘土、雲母、カオリン、フライアッシュ、モンモリロナイト、ケイ酸カルシウム及びガラス微粒子;並びにチタネート、窒化アルミニウム及び炭化ケイ素の粒子が含まれる。
【0053】
適切な有機充填剤には、例えば、木材、デンプン、リグニン、有機顔料、並びにポリマー粒子、例えば、ポリスチレン、ポリアミド、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン及びポリプロピレン)、ポリ塩化ビニル、エラストマー及び/又は廃棄ポリマーの粒子が含まれる。また、機能性充填剤として、例えば、圧電性セラミックス、静的/伝導性の性質を変化させる充填剤(例えば、カーボンナノチューブ)、及びレオロジー改質剤を添加することも可能である。充填剤には、サイズ処理が施される場合がある。
【0054】
組成物はまた補強繊維を含んでいてもよい。使用される適切な補強繊維は広い範囲内で選ぶことができる。例えば、ガラス繊維、炭素繊維及び黒鉛繊維、アルミナ繊維、タングステン繊維、モリブデン繊維、チタン繊維、鋼鉄繊維、ボロン繊維、炭化ケイ素繊維、及びシリカ繊維の無機繊維などを使用することが可能である。他の適切な繊維には、例えば、アラミド繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、液晶性及び他のポリエステル繊維等の有機繊維、並びに天然繊維及び補強材が含まれる。好ましい補強繊維は、ガラス繊維及び炭素繊維を含み、そのうちEガラス、Rガラス、Sガラス、及びS2ガラス繊維が最も好ましく使用される。
【0055】
補強繊維は、任意の物理的形態、すなわち、モノ及びマルチフィラメントとして、ストランド及びヤーンの形態で、織布として又は他の布地構造に従って、短繊維若しくは連続繊維として、又は予備含浸シート(「プレプレグ」)の形態で適用することができる。また、異なる種類の繊維の任意の組合せも可能である。補強繊維の量は広い範囲内で選ばれてもよいが、適切な量は一般に30~70体積%の範囲である。
【0056】
本発明のさらに別の側面において、請求項に記載された硬化性組成物の成形品を製造する方法であって、
a)モールド内で環状オレフィン及びオレフィンメタセシス重合触媒系を組み合わせることにより硬化性組成物を用意するステップと、
b)密閉モールド内の環状オレフィンのオレフィンメタセシス反応を促進する条件に組成物を供するステップと、
c)モールドから硬化した組成物を取り出して成形品を得るステップと、
を含む、方法が提供される。
【0057】
成形品を製造する方法としては、例えば、キャスティング、遠心キャスティング、引抜成形、射出引抜成形、回転成形、及び開放成形等の最新の製造技法によって形成されるものが含まれるが、これらに限定されるものではない。本発明の実施形態において、密閉モールド内に組成物を注入するステップを含む方法であって、組成物の注入前に補強繊維がモールドに用意されてもよい、方法が提供される。他の適切な技法には、反応射出成形(RIM)、樹脂トランスファー成形(RTM)、真空支援樹脂注入(VARI)、Seeman複合材料樹脂注入成形法(SCRIMP)強化反応射出成形法(RRIM)、構造的反応射出成形(SRIM)、熱膨張トランスファー成形(TERM)、樹脂射出再循環成形(RICM)、空気圧制御式樹脂注入(CAPRI)等が含まれる。
【0058】
環状オレフィンのオレフィンメタセシス反応を促進する条件に組成物をかけるステップは、適切な時間間隔の間、適切な硬化温度に、任意選択で0.1MPaを超える圧力でモールド及び組成物を加熱することを伴っている。方法の実施形態において、加熱温度は、室温(RT)から200℃、より好ましくは30℃~100℃、さらにより好ましくは60℃~80℃の範囲にある。加熱時間は、好ましくは1~60分、より好ましくは2~30分、さらにより好ましくは5~10分の範囲にある。成形中に印加される圧力は、使用される製造方法に従って選択されてもよく、例えば、RTMを使用する場合、0.1~0.5MPaほど低くてもよい。真空又は減圧も使用されてもよい。
【0059】
成形品は、航空宇宙部品、海洋部品、自動車部品、スポーツ用品、電気部品、医療部品及び軍事部品を含み、これらに限定されない様々な用途に使用されてもよい。特に好ましい用途は、フィルムの形態の成形品を含む。ポリマーフィルムは、通常10μmから最大4mmの比較的薄い厚さを有する薄い連続材料として定義される。それらは通常、ロール状で提供される。
【0060】
特に有用な実施形態は、ステップc)の後の成形品がモールド温度と等しいか又はより高い、好ましくは60℃を超え、より好ましくは80℃を超え、さらにより好ましくは100℃を超え、最も好ましくは120℃を超えるガラス転移温度Tgを有する方法を提供する。本発明者らは、驚いたことに、請求項に記載された性質を有する環状オレフィンの物品を製造することが可能であることを見出した。本発明の触媒系はまた、比較的高いTgを有するフラッシュ部を含む部品を製造することを可能にすることが判明した。この実施形態は、フラッシュ部を除去するステップをさらに含む方法の好ましい実施形態において追加のステップであるフラッシュ部の除去を非常に容易にする。
【0061】
本発明の方法及び請求項に記載された触媒系は、改善された成形品を製造するために使用されてもよい。一実施形態において、成形品は、本方法によって得ることが可能であり、任意選択のフラッシュ部は別にして、成形品の最小又は平均の厚さは、0.2~4mm、より好ましくは0.2~2mm、さらにより好ましくは0.2~1mm、最も好ましくは0.2~0.5mmにあることを特徴とする。そのような成形品の一例は、フィルムを含む。別の実施形態において、成形品は本方法によって得ることが可能であり、フラッシュ部を含み、そのガラス転移温度Tgは60℃を超え、より好ましくは80℃を超え、さらにより好ましくは100℃を超え、最も好ましくは120℃を超える。
【実施例
【0062】
本発明は、実施例及び比較実験を参照してより具体的に説明されるが、これらの実施例に限定されるものではない。実施例及び比較実験において、「部」及び「%」は、特に明記されなければ質量基準に基づくことは注目されるべきである。本発明は、以下の図によってさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0063】
図1図1は、遷移金属錯体及び典型金属錯体の両方においてアルコキシド配位子の立体的嵩高さを特徴付けるために、本発明の実施形態に従って導入された立体パラメータとしてXiMo円錐角のグラフである。
図2図2は、25℃([Mo]/[Al]/[DCPD]=0.00025、0.001、0.033mol/L)でD8トルエン中、pMo/[(ClCHCHOAlEtCl]の系によって触媒されたDCPD ROMPの時間の関数としてポリジシクロペンタジエン収率を示すグラフである。
図3図3は、25℃([Mo]/[Al]/[DCPD]=0.00025、0.001、0.033mol/L)でD8トルエン中、pMo/[(rac)-(CF)MeCHOAlEtCl]の系によって触媒されたDCPD ROMPの時間の関数としてポリジシクロペンタジエン収率を示すグラフである。
図4図4は、比較のため1枚のグラフにまとめられた図2及び図3の反応速度曲線を示すグラフである。
【0064】
<方法及び定義>
XiMo円錐角(XCA;度)
XiMo円錐角は、d-ブロック及びp-ブロック金属錯体におけるアルコキシド配位子の立体パラメータであり、遷移金属錯体及び典型金属錯体両方の、特に請求項に記載されたアルコキシド配位子のアルミニウム錯体のアルコキシド配位子の立体的嵩高さを特徴付けるために、本発明者らによって導入されたものである。XCAは、遷移金属に配位した第三級ホスフィンに広く使用される立体パラメータであるTolman円錐角(C.A.Tolman J.Am.Chem.Soc.、1970年、92巻、2956~2965頁)の概念から採用されたものである。ただし、XCAの場合には、σ-供与の対称性がリン供与体原子と比較して、酸素供与体原子の場合には異なることを考慮して元の定義が変更されている。
【0065】
XCAは、その頂点はアルコキシド配位子の酸素原子であり、その外側面がアルコキシ配位子の最外原子に接触する円錐の開放角である。アルコキシド配位子がC3v対称性(RCO)を有する場合、1つの単一円錐の開放角が立体パラメータとして使用される。非対称的アルコキシド(RR’R”CO)の場合には、対応するC3vの対称的アルコキシド(RCO、R’CO、R”CO)の円錐角の平均が、配位子の立体的嵩高さを定義する。
【0066】
分子モデリングを用いた立体パラメータの段階的な決定を以下に開示する。分子モデリングは、the Institute of Organic Chemistry of the Hungarian Academy of SciencesのDr.Adam Madarasz及びProf.Imre Papaiによって実行された。重要なことには、Tolman円錐角の場合と違って、XiMo円錐角の計算は、アルコキシドが配位する金属が直接関与しないことである。しかし、計算に使用したアルコキシドの立体配座は、所望の金属錯体の最適化された構造に由来するので、金属及び他の配位子は計算された円錐角に間接的に影響を及ぼす。
【0067】
図1を参照すると、ステップは以下のとおりである:
1.所望の錯体においてアルコキシド配位子の最も安定な立体配座を求める。
2.構造からβ角を決定する。βは、結合O-Cと線分O-Aとの間の角度であり、ここで、AはC-Oに結合した基の最外原子である(β角を求めるには、O、C-O、及びA原子の中心を考慮する。)。
3.距離O-A及びAのファンデルワールス半径rからγ-sを計算する。sinγ=r/A。
4.アルコキシドのC-O原子に結合した3つの部分が同じである場合、アルコキシドはC3v対称性を有し、直円錐が配位子を覆うことになる。この場合、α=2(β+γ)である。3つの異なる部分がC-O原子に結合している場合、立体パラメータは、各部分由来のC3v対称性アルコキシドの円錐角の平均として定義される。技術的には、3つのβ+γの半角の平均を取り、半角の平均に2を掛ける。
【0068】
アルコールのブレンステッド酸性度(pKa)
本発明に結びつく検討において、金属(とりわけAl)に向かうアルコキシド配位子の電子的な性質(電子供与体能力)は、対応するアルコールのブレンステッド酸性度によって特徴付けられる。本発明者らは金属(とりわけAl)に向かうアルコキシド酸素の電子供与はO-M結合(式中、M=金属)の極性と相関し、対応するアルコール中のO-H結合の極性と、すなわちアルコールのブレンステッド酸性度と相関すると仮定した。pKa値は、溶媒としてジメチルスルホキシド(DMSO)を考慮して計算した。
【0069】
GLB、アルコキシド骨格中の官能基のルイス塩基度の記述子(kcal/mol)
本発明者らは、アルコキシド配位子の骨格中に存在するある種のヘテロ原子又は官能基のルイス塩基度が、触媒系の触媒性能にかなりの影響を有することを観察した。本発明者らは、そのようなヘテロ原子又は官能基のルイス塩基度を特徴付けるためにGLB記述子を導入した。前記ヘテロ原子又は官能基のGLBは、以下の反応:
X+AlCl→[XAlCl] ΔG(kcal/mol)=GLB
に従ってルイス塩基の官能基として与えられたヘテロ原子又は官能基を有するモデル化合物Xとモデルルイス酸としてのAlClとの間の錯体形成のギブス自由エネルギーとして定義されている。
【0070】
モデル化合物Xは、所与のヘテロ原子又は官能基のすべての自由原子価がメチル基と結合している所与のヘテロ原子又は官能基に由来する化合物として定義され、モデルルイス酸-塩基反応の計算されたΔG-s(GLB-s)と一緒に表1に列挙されている。
【0071】
【表1】
【0072】
実施例1:ジシクロペンタジエン(DCPD)の開環メタセシス重合のためのMo系触媒系のAl系共触媒の合成及び特性評価
<方法A>
塩化ジエチルアルミニウム(DEAC)は二量体[AlEtCl]として物理的に存在するが、化学量論の観点では、分子を単量体AlEtClとして考量されることに留意されたい。
【0073】
DEAC(125μL、121mg、1mmol)を、磁気撹拌子を備えた30mLバイアル中のペンタン(5mL)に溶解した。セプタムでバイアルを封止したが、反応中、バイアル内の可能性のある圧力上昇を回避するためにセプタムに針を刺した。室温で、ペンタン(5mL)に溶解したROHアルコール(1mmol)を、シリンジを用いてセプタムを通して約15分間かけてゆっくり滴下した。多くの場合において、視覚的にはEtHの発生を観察することができないことに注意されたい。反応混合物を室温で終夜撹拌した。揮発分はすべて減圧で蒸発させ、典型的には無色の油状物又は白色固形物として粗生成物を与えた。それ以上、精製を試みなかっので、収率は示されていない。それにもかかわらず、通常、物質収支は点検し、単離した材料の質量は、所定の目標の理論収量の±10%の範囲内にあることが見出された。1D及び2D NMR技法によって粗生成物を分析し、それらは典型的にはcis,trans-[Al(OR)EtCl]であるとわかった。それらはH、13C{H}、及び19F{H}(適用可能な場合)NMRによって特徴付けられた。
【0074】
DEACへのアルコールの迅速な添加によって、共触媒の組成が変化しなかったことに注意されたい。
【0075】
さらに、ラセミキラルアルコールの場合には、[Al(OR)EtCl]の立体異性体の数は増加し、ほとんどの場合、それらはNMRによっては個々に特徴付けられていないことに注意されたい。また、アルコール中のある種の官能基が存在すると、共触媒分解が促進されることに注意されたい。分解の速度に応じて、分解する共触媒は、NMRによって特徴付けることができ、またはできず、所望のROMP反応を促進するために使用することができ、またはできなかった。そのような構造的特徴は、ベンジルアルコール、又は-CHF官能基の存在であった。(実施例1.2、1.7)。
【0076】
<方法B>
方法Aと類似しているが、しかしベンゼンをアルコールの溶媒として使用した。
【0077】
<実施例1.1~1.10>
実施例1.1.1,3-ジクロロ-2-プロパノール(1,3-DCP)とジエチルアルミニウムクロリドとの1:1化学量論での反応:
方法Aに従って反応を行ったところ、白色固形物が得られた。主生成物はcis,trans-{Al[OCH(CHCl)]EtCl}(cis:trans=45:55)であった。未確認の副生物は約10%の量で存在した。
【0078】
NMR特性は以下のとおりであった。
cis-二量体 H NMR(400MHz,300K,C):(ppm)3.91(m,2H,OCH(CHCl)),3.35(dd,3J=3.4Hz,2J=11.8Hz,4H,OCH(CHHCl)),3.2(dd,3J=6.5Hz,2J=11.8Hz,4H,OCH(CHHCl)),-0.41(s,6H,Al-CH);13C NMR(75MHz,298K,C):(ppm)74.3(OCH(CHCl)),43.4(OCH(CHCl)),-9.45(Al-CH);27Al NMR(104MHz,300K,C):(ppm)119(Δ1/2=3.2kHz)
trans-二量体 H NMR(400MHz,300K,C):(ppm)3.84(m,2H,OCH(CHCl)),3.55(dd,3J=3.8Hz,2J=11.5Hz,2H,OCH(CHHCl)),3.34(m,4H,OCH(CHHCl)),3.28(dd,3J=6.0Hz,2J=12.1Hz,2H,OCH(CHCl)),-0.36(s,6H,Al-CH);13C NMR(75MHz,298K,C):(ppm)74.1(OCH(CHCl)),43.8(OCH(CHCl)),-9.65(Al-CH);27Al NMR(104MHz,300K,C):(ppm)119(Δ1/2=3.2kHz)
【0079】
実施例1.2.rac-1-フェニルエタノールとジエチルアルミニウムクロリドとの1:1化学量論での反応:
方法Bに従って反応を実行した。無色の油状物が得られ、放置すると黄色になった。主生成物は、{Al[OCH(CHOMe)]EtCl}の立体異性体であった。いくつかの異性体が存在したが、個々には特徴付けられなかった。
【0080】
実施例1.3.2,4-ジメチル-3-ペンタノールとジエチルアルミニウムクロリドとの1:1化学量論での反応:
方法Bに従って反応を行ったところ、無色の油状物が得られた。主生成物はcis,trans-[Al(OCHEt]EtCl](cis:trans=33:67)であった。未確認の副生物は約27%の量で存在した。cis異性体は約33%の量で存在した。
【0081】
NMRの結果は以下のとおりであった。
H-NMR(C,300MHz):d 0.26(q,4H,CH Et),0.85(d,12H,CHアルコキシド),0.98(d,12H,CHアルコキシド),1.34(t,6H,CH Et),3.43ppm(t,2H,OCH).
13C{H}-NMR(C,75MHz):d 2(br,CH Et),8.9(CH Et),18.6(CHアルコキシド),19.4(CHアルコキシド),31.5(CH),89.31 ppm(OCH),trans異性体(約67%).
H-NMR(C,300MHz):d 0.40(q,4H,CH Et),0.73(d,12H,CHアルコキシド),0.87(d,12H,CHアルコキシド),1.00(d,12H,CHアルコキシド),1.07(d,12H,CHアルコキシド),1.36(t,6H,CH Et),3.49ppm(dd,2H,OCH).
13C{H}-NMR(C,75MHz):d 2(br,CHEt),8.8(CHEt),17.7(CHアルコキシド),19.2(CHアルコキシド),19.4(CHアルコキシド),20.0(CHアルコキシド),31.2(CH),31.9(CH),89.26ppm(OCH).
【0082】
実施例1.4.(rac)-trans-2-クロロ-シクロヘキサノールとジエチルアルミニウムクロリドとの1:1化学量論での反応:
方法Bに従って反応を行ったところ、白色固形物が得られた。主生成物は[Al(OR)]EtCl}(R=2-クロロ-シクロヘキシル)の立体異性体であった。いくつかの立体異性体は、個々には特徴付けられなかった。
【0083】
実施例1.5.(R)-1-クロロ-2-プロパノールのジエチルアルミニウムクロリドとの1:1化学量論で反応:
方法Aに従って反応を行ったところ、白色固形物が得られた。主生成物はcis,trans-{Al[OCH(CHCl)Me]EtCl}(cis:trans=40:60)であった。未確認の副生物は<5%であり、cis異性体は約40%の量で存在した。
【0084】
NMRの結果は以下のとおりであった。
H-NMR(C,300MHz):d 0.26(q, H,CH Et),1.07(d,6H,CH),1.17(t,6H,CH Et),2.92&3.15(m,4H,CHCl),3.92ppm(m,2H,CH).
13C{H}-NMR(C,75MHz):d 約0.9 br(CH Et),8.47(CH Et),20.02(CH),49.34(CHCl),72.14 ppm(CH),trans異性体(約60%)
H-NMR(C,300MHz):d 0.31(q,4H,CH Et),1.07(d,6H,CH),1.23(t,6H,CH Et),2.92&3.15(m,4H,CHCl),3.86ppm(m,2H,CH).
13C{H}-NMR(C,75MHz):d 約0.9 br(CH Et),8.43(CH Et),19.94(CH),19.98(CH),49.28(CHCl),49.32(CHCl),71.98(CH),72.17ppm(CH).
【0085】
実施例1.6.1,3-ジメトキシ-2-プロパノールとジエチルアルミニウムクロリドとの1:1化学量論での反応:
方法Bに従って反応を行ったところ、白色固形物が得られた。主生成物はcis,trans-{Al[OCH(CHOMe)]EtCl}(cis:trans=45:55)であった。未確認の副生物は約18%であり、cis異性体は約45%の量で存在した。
【0086】
NMR結果は以下のとおりであった。
H-NMR(C,300MHz):d 0.20(q,4H,CH Et),1.32(t,6H,CH Et),3.02(s,12H,OCH),3.35&3.40(ABqd,8H,OCH),4.43ppm(五重線,2H,CH).
13C{H}-NMR(C,75MHz):d 約0.5 br(CH Et),9.9(CH Et),58.7(OCH),67.2(CH),72.1ppm(OCH),trans異性体(約55%)
H-NMR(C,300MHz):d 0.23(q,4H,CH Et),1.37(t,6H,CH Et),3.02(s,12H,OCH),3.33&3.78(ABqd,4H,OCH),3.47&3.52(ABqd,4H,OCH),3.78ppm(dddd,2H,CH).
13C{H}-NMR(C,75MHz):d 約0.5 br(CH Et),9.8(CH Et),58.64(OCH),58.66(OCH),67.6(CH),71.7(OCH),72.1ppm(OCH).
【0087】
実施例1.7.1,3-ジフルオロ-2-プロパノールとジエチルアルミニウムクロリドとの1:1化学量論での反応:
方法Bに従って反応を行ったところ、無色の油状物が得られ、冷凍装置中で結晶化し始めた。放置すると部分的な分解が認められた。主生成物はcis,trans-{Al[OCH(CHF)]EtCl}(cis:trans=50:50)であった。未確認の副生物は約10%であり、cis異性体(約50%)であった。
【0088】
NMRの結果は以下のとおりであった。
H-NMR(C,300MHz):d 0.28(q,4H,CH Et),1.20(t,6H,CH Et),3.93(ABqdd,HF=47Hz,JHH=9.9,4.9Hz,8H,CHF),3.78ppm(t五重線,HF=20Hz,2H,CH).
13C{H}-NMR(C,75MHz):d 8.2(CH Et),71.5(t,CH),81.3 ppm(dd,JCF=170,6.5Hz,CHF).
trans異性体(約50%)
H-NMR(C,300MHz):d 0.31(q,4H,CH Et),1.24(t,6H,CH Et),4.02&4.09(ABqdd,HF=47Hz,JHH=10.5,10.2,5.3,4.3Hz,8H,CHF),3.65ppm(m,2H,CH).
13C{H}-NMR(C,75MHz):d 8.2(CH Et),71.4(dd,CH),81.0ppm(dd,JCF=170,6.0Hz,CHF).
【0089】
実施例1.8.t-ブタノールとジエチルアルミニウムクロリドとの1:1化学量論での反応:
方法Bに従って反応を行ったところ、無色の結晶が得られた。主生成物をcis,trans-[Al(OCMe)EtCl](cis:trans=30:70)であった。未確認の副生物は約10%であった。主生成物はそれらのHNMR共鳴によって特性評価した。
【0090】
cis異性体(約30%)
NMR結果は以下のとおりであった。
H-NMR(C,300MHz):d 0.22(q,CH-Al),1.18(t,C*HCHAl)ppm,1.24ppm(s,CH-C).
trans異性体(約70%)
H-NMR(C,300MHz):d 0.29(q,CH-Al),1.28(t,C*HCHAl),1.23ppm(s,CH-C).
【0091】
実施例1.9.2-トリフルオロメチル-2-プロパノールとジエチルアルミニウムクロリドとの1:1化学量論での反応:
方法Bに従って反応を行ったところ、白色固形物が得られた。主生成物はcis,trans-[Al(OCMeCF)EtCl](cis:trans=30:70)であった。未確認の副生物は約12%であった。
【0092】
cis異性体(約30%)。
NMR結果は以下のとおりであった。
H-NMR(C,300MHz):d 0.29(q,4H,CH Et),1.14(t,6H,CH Et),1.38ppm(q,HF=1.1Hz,12H,OC(CH).
19F-NMR(C,300MHz):d -81.6(七重線,HF=1.1Hz,6F)
13C{H}-NMR(C,75MHz):d 1.6(br,CH Et),7.7(CH Et),22.81(q,CF=1.3Hz),79.5(q,CF=30.6Hz,OC), 25.3ppm(q,CF=284Hz,CF).
trans異性体(約70%)
H-NMR(C,300MHz):d 0.26(q,4H,CH Et),1.18(t,6H,CH Et),1.28(br,6H,OC(CH),1.31(br,6H,OC(CH).
19F-NMR(C,300MHz):d-81.1(br,6F)
13C{H}-NMR(C,75MHz):d 1.6(br,CH Et),7.7(CHEt),22.79(q,CF=1.3Hz),22.84(q,CF=1.3Hz),79.1(q,CF=30.6Hz,OC),125.2ppm(q,CF=284Hz,CF).
【0093】
実施例1.10.1,1,1-トリフルオロ-2-プロパノールとジエチルアルミニウムクロリドとの1:1化学量論での反応:
方法Bに従って反応を行ったところ、白色固形物が得られた。主生成物はcis及びtrans-[Al(OCHMeCF)EtCl](cis:trans=53:47)であった。ラセミアルコールから、2つのエナンチオマー対を含む7つの立体異性体が形成されたことに注意されたい。未確認の副生物は約10%であった。NMR特性評価は化学シフト範囲を示す。
【0094】
H-NMR(C,300MHz):d 0.22(4H,CH Et),1.02-1.21(12H,CH Et及びCHアルコキシド),3.71-4.00ppm(2H,CH).
19F{H}-NMR(C,300MHz):d -79.34,-79.19,-78.92,-78.87,-78.78,-78.72ppm(CF).
13C{H}-NMR(C,75MHz):d -1.7-1.2(CH Et),7.7-8.0(CH Et),15.6-16.2(CHアルコキシド),69.9-71.8(OC),124.2-124.6ppm(CF).
【0095】
実施例2:様々な共触媒系の使用によるDCPDの重合
in situ共触媒合成の一般法
グローブボックス内で、室温で1kgの液体DCPD/TCPD混合物に等モル量のジエチルアルミニウムクロリド及びアルコールを導入した。室温で24時間混合物を撹拌した。結果として生じた単量体中の共触媒溶液を表2に表した重合反応実験に使用した。ほとんどの場合、得られた共触媒溶液は、エントリー10及び14を除いて、透明で無色であった。
【0096】
単離した錯体からの調合物調製の一般法
不活性雰囲気下室温で1kgの液体DCPD/TCPD混合物に実施例1に記載された単離Alアルコキシ錯体を導入した。
【0097】
重合反応試験の一般法
上述の方法を使用して得られた100gの共触媒溶液、及びDCPD/TCPD混合物中の100gのポリモリブデート溶液を、スタティックミキサーを装備したカートリッジに導入した。30℃で30分間カートリッジをコンディショニングした。空気銃の使用により2つの溶液の注入を行った。注入直後に温度測定を開始した。
【0098】
注入の終わりから100℃までの時間として硬化時間を測定した。
【0099】
最高温度と初期温度との間の差としてΔTを計算した。温度差は、バルク条件において単量体変換の間接の指標である。先のデータは、TGA分析から判断されるように、少なくとも95%の変換に184℃を超えるΔTが対応することを示した。
【0100】
【表2】
【0101】
実施例2.1~2.13
実施例2.1~2.3(表2:エントリー1~エントリー3)
共触媒溶液は、不活性雰囲気下室温で1年間保管しても安定であった。アルコール記述子の差異は、開始速度において観察された差異を合理的に説明することができる。1,1,1-トリフルオロ-2-プロパノールは、最低のpKa及びXCA、並びにより高いGLB値を有するため、優れた単量体変換と相まって最短の硬化時間を示した。
【0102】
実施例1a、3a及び13a
単離したAl錯体と、in situ生成したものの使用によって得られた触媒試験結果は、同一である。
【0103】
実施例2.4(表2、エントリー4)
反応性データは、迅速な開始を示しているが、低い単量体変換を示す。(ΔT=149℃、したがって、目標値より35℃低い)。1-プロパノール(4)のpKa値は30を超えるため、対応する共触媒は、DCPDのROMPにおいて性能が低い。
【0104】
実施例2.5(表2、エントリー5)
反応性データは、主として高いpKa値により試験条件において開始が非常に遅いことを示す。同時に、最高重合温度は高く、ΔTは目標値(184℃)に到達した。
【0105】
実施例2.6~2.8(表2、エントリー6~エントリー8)
触媒系は、アルコール部分中のヘテロ原子(O又はN)により試験条件において触媒活性を示さない。ヘテロ原子は、それらの触媒活性を遮断する、アルミニウムに結合する強い能力を有する。
【0106】
実施例2.9~2.10(表2、エントリー9及びエントリー13)
触媒系は、2,4-ジメチルペンタン-3-オール(9)及びtert-ブタノール(12)の高いpKa値により触媒活性を示さない。
【0107】
実施例2.11(表2、エントリー10及びエントリー11)。
調製したin situ共触媒溶液は透明な淡黄色であった。新たに調製した共触媒の反応性データは、中程度の開始速度及び低い単量体変換を示す。(ΔT=150℃、したがって、目標値より34℃低い)。
【0108】
不活性雰囲気下室温で2週間の保管の後、共触媒溶液は黄色になり、反応性データはより遅い開始、より低い単量体変換を示した。
【0109】
実施例2.12(表2、エントリー14及びエントリー15)
1-フェニルエタノールを使用して得られた共触媒溶液は、アルコール添加直後に橙色になった。さらに、橙褐色の沈殿が、不活性雰囲気下室温で保管中に生じた。対応するアルミニウム錯体は、試験条件において自己分解を起こす。1か月後に反応性試験を繰り返し、重合反応によりわずかな温度上昇が測定された(表2、エントリー15)。
【0110】
実施例2.13(表2、エントリー12)
アルコール添加の24時間後、共触媒は黄橙色に変化した。アルミニウム錯体の同様の自己分解が実施例1.7で観察された。
【0111】
実施例3:硬化バルク試料のガラス転移温度(Tg)
PDCPDのTg値(表2、エントリー1-4)をDSC法(10mgのポリマー、加熱速度10℃/分)の使用により測定した。加熱サイクル中の減量を評価するために試験前後にDSCパンを秤量した。減量は単量体消失に起因し、試験サンプルを変換した。
【0112】
【表3】
【0113】
低いpKa値を有するアルコール1及び3は、最高の性能、完全な変換、及び高いTgポリマーを与える共触媒を形成した。
【0114】
より少ない酸性度で、わずかに嵩高い1-クロロ-2-プロパノール(2)は、アルコール1及び3と比較して、低下した活性を有する共触媒を形成した。
【0115】
最低酸性度のアルコール4は、性能が不充分であり、DSC分析では、単量体変換がわずか8%であり、得られたポリマーのガラス転移温度は81℃であった。
【0116】
ベンジル官能基を有するアルコール10及び13誘導体では、期待外れの結果が得られた。アルミニウムと芳香環との間の相互作用は、対応する錯体の安定性を低下させ、自己分解をもたらした。
【0117】
実施例5:SiClの存在下での薄膜のガラス転移温度(Tg)
0.1%のテトラクロロシランSiClを、実施例3に従って調製した共触媒溶液に添加した。0.3mmの平均厚さを有する薄膜を60℃で予備加熱したアルミニウムモールド内で成形した。単量体注入後180秒以内にモールドを開いた。
【0118】
Tg値は、実施例3に記載のDSC法を用いて得た。
【0119】
表5に結果を表す。
【0120】
【表4】
【0121】
SiClの添加は、アルコール1及び3の使用により得られたポリマーのガラス転移温度に影響を及ぼさなかった。4及び10の場合には、SiClの効果は肯定的であった。しかし、0.1%のSiClを用いると、目標Tg値は、試験条件において到達しなかった。
【0122】
実施例6:{モリブデンプレ触媒/[(ClCHCHOAlEtCl]}及び{モリブデンプレ触媒/[(CF)MeCHOAlEtCl]}系によって触媒されたDCPD ROMP反応の比較の反応速度論検討
アルコール添加剤の構造(すなわち、アルミニウム共触媒のアルコキシド配位子の構造)の触媒性能への影響の証拠をさらに得るために、本発明者らは、(ClCHCHOH-由来及びrac-(CF)MeCHOH-由来触媒系によって促進されたDCPD ROMP反応の反応速度論の曲線(変換率対時間)を記録した。これらの実験において、触媒系は、工業用のモリブデン系プレ触媒、それぞれ対応する(ClCHCHOH-由来及びrac-(CF)MeCHOH-由来アルミニウム共触媒(スキーム1)から生じた。NMR試験管中で反応を遂行し、それらはHNMRで追跡した。反応速度の差異を示す役目をすることができる明瞭なデータセットを得ることができるように反応条件を最適化した。選ばれた条件によって生成物の沈殿が妨げられ、結果が曖昧になるおそれがあることに注意されたい。
【0123】
スキーム1.Moプレ触媒/[(ClCHCHOAlEtCl]及びMoプレ触媒/[(CF)MeCHOAlEtCl]系によって触媒されたDCPD ROMP反応についての反応速度論の検討
【0124】
【化1】
【0125】
適用条件の下で、Moプレ触媒/[(CF)MeCHOAlEtCl]の触媒系は、工業的に使用されるMoプレ触媒/[(ClCHCHOAlEtCl]触媒系よりかなり活性であることが判明した。(ClCHCHOH由来の系が98%の変換(図2)に達するのに95分超を必要とするが、(rac)-(CF)MeCHOH改質触媒は51分で99%の変換を提供する(図3)。
【0126】
同じグラフの2つの反応速度論曲線のプロットは、2つの系の活性の差異のさらに明らかな証拠となる(図4)。
【0127】
本発明は、上述の実施形態に限定されず、以下に添付される請求項の範囲内である限りその変更を含む。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】