(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-28
(54)【発明の名称】診断又は治療のための蛍光分子イメージング剤を使用したがん性組織の局在化のための方法
(51)【国際特許分類】
A61B 10/00 20060101AFI20250220BHJP
A61B 10/02 20060101ALI20250220BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20250220BHJP
A61B 34/20 20160101ALI20250220BHJP
A61B 18/00 20060101ALI20250220BHJP
【FI】
A61B10/00 E
A61B10/02 300D
G01N21/64 F
A61B34/20
A61B18/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024543381
(86)(22)【出願日】2023-02-02
(85)【翻訳文提出日】2024-07-19
(86)【国際出願番号】 US2023012210
(87)【国際公開番号】W WO2023150222
(87)【国際公開日】2023-08-10
(32)【優先日】2022-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524273661
【氏名又は名称】バージェント バイオサイエンス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】サンティーニ,ジョン ティー.,ジュニア
(72)【発明者】
【氏名】ベンセン,エリック スコット
(72)【発明者】
【氏名】シンプソン,アンドレア マリー
【テーマコード(参考)】
2G043
4C160
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043BA16
2G043DA02
2G043EA01
2G043FA01
2G043KA01
2G043LA03
4C160JJ12
4C160KK03
4C160KK06
4C160MM08
4C160MM32
4C160MM43
(57)【要約】
低侵襲経路(例えば、管腔内処置)を介して、分子イメージング剤が静脈内投与されている患者に器具をナビゲートして、器具を組織異常の領域に位置付けることと、器具を介して、近赤外線(NIR)光の下で領域内の組織を視覚化することと、を含む、方法が提供され、分子イメージング剤は、投与されていると、領域内の異常組織をNIR光の下で蛍光発光させ、蛍光発光する異常組織を領域内に局在化させることを可能にする。本方法は、蛍光発光する異常組織を診断及び/又は治療することを更に含み得る。
【選択図】
図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
方法であって、
低侵襲経路を介して、分子イメージング剤が静脈内投与されている患者に器具をナビゲートして、前記器具を組織異常の領域に位置付けることと、
前記器具を介して、近赤外線(NIR)光の下で前記領域内の組織を視覚化することであって、前記分子イメージング剤が、投与されていると、前記領域内の異常組織を前記NIR光の下で蛍光発光させ、蛍光発光する前記異常組織を前記領域内に局在化させることを可能にする、視覚化することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記蛍光発光する異常組織を診断及び/又は治療することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記低侵襲経路を介してナビゲートすることが、管腔内処置である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記組織異常の前記領域が、1つ以上の術前スキャンから特定される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記器具が、生検針又は他の生検ツールを含み、
前記診断及び/又は治療することが、前記蛍光発光する異常組織から1つ以上の生検試料を収集することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記診断及び/又は治療することが、前記蛍光発光する異常組織の切除又は破壊を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記蛍光発光する異常組織の前記破壊が、(i)アブレーション、及び/又は(ii)前記蛍光発光する異常組織への薬物の局所投与を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記組織異常が、辺縁の定義が不十分な腫瘍を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記蛍光発光する異常組織が、前記患者の肺内にある、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記蛍光発光する異常組織が、気管支の外部の結節を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記器具が、軟性気管支鏡を含み、
前記ナビゲートすることが、前記軟性気管支鏡を前記患者の気道を通して誘導することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記蛍光発光する異常組織が、前記患者の結腸内にある、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記蛍光発光する異常組織が、平坦病変又は陥没病変を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記器具が、内視鏡を含み、
前記ナビゲートすることが、前記内視鏡を前記患者の結腸を通して誘導することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
NIR対応共焦点顕微鏡が、前記蛍光発光する組織内に挿入されて、前記組織異常内の生細胞及びそれらの組織化を直接視覚化する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
術前マーキング処置なしで行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記分子イメージング剤が、前記ナビゲートの2時間~4日前に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記分子イメージング剤が、前記ナビゲートの12時間~36時間前に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記分子イメージング剤が、0.01mg/kg~0.7mg/kgの用量で前記患者に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記用量が、0.015mg/kg~0.65mg/kgである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記用量が、0.1mg/kg~0.4mg/kgである、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記分子イメージング剤が、正常な組織内よりも多い量で固形腫瘍内に存在する標的分子に共有結合するように構成されている、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記分子イメージング剤が、カテプシンに結合するように構成されている、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記分子イメージング剤が、VGT-309又はその薬学的に許容される塩を含む、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
方法であって、
管腔内経路を介して、VGT-309が静脈内投与されている患者に器具をナビゲートして、前記器具を標的領域に位置付けることと、
前記器具を介して、近赤外線(NIR)光の下で前記標的領域を視覚化することと、
前記標的領域内の任意の異常又はがん性組織の位置を、前記NIR光の下で前記VGT-309によって引き起こされる前記異常又はがん性組織の蛍光によってリアルタイムで特定することと、を含む、方法。
【請求項26】
前記VGT-309が、前記ナビゲートの2時間~4日前に投与される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記VGT-309が、前記ナビゲートの12時間~36時間前に投与される、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記VGT-309が、0.01mg/kg~0.7mg/kgの用量で前記患者に投与される、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
生検を実施する方法であって、
患者の術前スキャンで組織異常を特定することと、
分子イメージング剤を前記患者に静脈内投与することと、
生検針を前記組織異常の位置までナビゲートすることと、
近赤外線(NIR)光の下で前記組織を視覚化することであって、前記分子イメージング剤が、前記位置の組織を前記NIR光の下で蛍光発光させるのに有効である、視覚化することと、
蛍光発光する前記組織から1つ以上の生検試料を収集することと、を含み、
前記生検針が、低侵襲経路を介して前記位置にナビゲートされ、蛍光組織が、(i)前記生検針の前記ナビゲート、及び/又は(ii)前記1つ以上の生検試料の前記収集を誘導する、方法。
【請求項30】
患者の腫瘍を除去又は破壊する方法であって、前記方法が、
分子イメージング剤を前記患者に静脈内投与することと、
術前スキャン及び/又は生検によって示されるように、外科用器具を前記腫瘍の位置にナビゲートすることと、
近赤外線(NIR)光の下で前記位置の組織を視覚化することであって、前記分子イメージング剤が、前記位置の前記腫瘍内の組織を前記NIR光の下で蛍光発光させるのに有効である、視覚化することと、
前記外科用器具を使用して、前記腫瘍の前記蛍光発光する組織を切除又は破壊することと、を含み、
前記外科用器具が、低侵襲経路を介して前記位置にナビゲートされ、蛍光組織が、(i)前記外科用器具の前記ナビゲート、及び/又は(ii)前記切除又は破壊を誘導する、方法。
【請求項31】
前記分子イメージング剤が、前記ナビゲートの2時間~4日前に投与される、請求項29又は30に記載の方法。
【請求項32】
前記分子イメージング剤が、前記ナビゲートの12時間~36時間前に投与される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記分子イメージング剤が、0.01mg/kg~0.7mg/kgの用量で前記患者に投与される、請求項29又は30に記載の方法。
【請求項34】
前記分子イメージング剤が、正常な組織内よりも多い量で固形腫瘍内に存在する標的分子に共有結合するように構成されている、請求項29又は30に記載の方法。
【請求項35】
前記分子イメージング剤が、カテプシンに結合するように構成されている、請求項29又は30に記載の方法。
【請求項36】
前記分子イメージング剤が、VGT-309を含む、請求項35に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2022年2月2日に出願された米国仮特許出願第63/306,019号の優先権を主張し、これは、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
肺がんは、がんによる死亡の主な原因であり、米国及び世界で2番目に多く診断されているがんである。肺がんの診断は、アメリカ合衆国予防医学専門委員会(U.S.Preventative Services Task Force)が2021年初頭に肺がんスクリーニングガイドラインを改訂し、それにより肺がんの定期的なスクリーニングを受けるように勧められた人々の数がほぼ倍増したため、増加すると予想される。今日、ほとんどの肺がんは治療選択肢が限られている後期段階で発見されているが、肺がん技術及び臨床実践の進歩は、疾患に対する認識を高めており、肺がんのステージシフトを促進すると予想されている。早期に発見された場合、肺がんは外科的に治療可能であるため、ステージシフトは肺がんの転帰に劇的かつ肯定的な影響を及ぼし、外科的に適格な患者の数も増加すると予想される。
【0003】
歴史的に、肺生検及び切除は開胸術を使用して実施されてきたが、これらの処置はあまり一般的ではなくなってきている。生検及び切除の両方に対する低侵襲アプローチが、全ての外科分野にわたって標準的なケアになりつつあり、低侵襲手術(MIS)は、患者の身体への合併症及び外傷のリスクを低減し、それによって回復時間を短縮させる。ビデオ補助胸腔鏡下手術(VATS)、ロボット手術、又はロボット補助胸腔鏡下手術(RATS)を含むこれらのMIS処置を実施する場合、これらの低侵襲処置に使用される孔が、外科医が患者の身体内に手又は指を容易に入れるのに十分な大きさではない可能性があるため、外科医は腫瘍性肺組織の特定を補助するために触診に頼ることができない場合がある。代わりに、外科医は、胸腔又は気管支通路に配置された小型カメラを使用して腫瘍を見つけようとしている間、術前スキャンから収集された情報により大きく依存する必要があり得る。
【0004】
胸部CT(コンピュータ断層撮影)及びX線などの肺のイメージングは、肺結節を特定することができ、他の患者情報と併せて、適切なフォローアップステップを決定するために使用される。処置が必要な結節について、医師は、結節が悪性であるか良性であるかを確認するためにいくつかの技術を利用する。肺がんを診断するとき、医師は、とりわけ、CT、陽電子放出断層撮影(PET)/CT、コーンビームCT、磁気共鳴画像診断(MRI)、X線、蛍光透視法、及び超音波などの従来のスクリーニング及びイメージング技術によって、潜在的にがん性の腫瘍を特定する。これらの非侵襲的イメージング技術は、近年著しく改善されているが、良性であろうと悪性であろうと、全ての潜在的な病変、結節、腫瘍、又は腫瘤を特定し、位置決めするのに、依然として完全に有効ではない。更に、これらのスキャンは、せいぜい、患者が結節又は腫瘍を有するかどうかを特定することしかできないが、腫瘍ががん性であるかどうかの情報を提供することはできない。腫瘍ががん性であることを確認するには、生検が必要である。病変が良性である可能性はあるが、病変の生検及びリンパ節の病期分類の両方を通じて確定診断を得ることが依然として重要である。肺がん治療は、早期に発見され治療されるとより成功するため、フォローアップが必要な病変を迅速かつ正確に評価することが重要である。
【0005】
本明細書で使用される「病変」という用語は、これらのうちの特定の1つが明示的に示されない限り、医師が局在化したい場合がある、良性又は悪性のいずれかの病変、結節、腫瘍、又は腫瘤などを広く指すための略語として使用される。したがって、「病変」、「結節」、及び「腫瘍」という用語は、特定の用語が意図されていることを文脈が伝達しない限り、互換的に使用され得る。
【0006】
生検は、通常、介入呼吸器科医、胸部外科医、又は介入放射線科医によって内視鏡的若しくは経胸郭的に実施される。外科的楔状切除は、肺がんの可能性が非常に高い場合、及び/又は他の方法では決定的な診断に到達できなかったが、病変ががんの疑いが非常に高い場合にも、胸部外科医によって行われる。肺がんリンパ節病期分類は、典型的には、線形気管支超音波断層法(EBUS)を使用して介入呼吸器科医によって実施されるが、外科的縦隔鏡検査を行う胸部外科医によっても実施されてもよい。EBUSは病期分類に広く採用されており、臨床ガイドラインのトップの地位を占めているが、多くの患者が臨床医のミス、適切な組織の欠如、又は単に処置から手術までの時間が長すぎるために病期分類が間違っているという証拠が増えている。
【0007】
生検並びに技術から血液バイオマーカー検査及び病理学技法までの病期分類の多くの進歩にもかかわらず、異常発見又は最初の症状から肺がんの治療までの平均時間は、米国及び世界で3~6ヶ月の範囲である。患者ケアの継続における課題は、多くの病院で最重要分野であるが、確実に診断を下すことには、臨床医にとって困難であり続けている。Medtronic superDimension(商標)System及びILLUMISITE(商標)Platform、Olympus Veran SPiN System(商標)、Bodyvision Lung Vision、Intuitive Ion(商標)、Johnson and Johnson Auris Monarch(商標)Platform、Noah Medical Galaxy System(商標)、並びにBronchus Archimedes(商標)Systemsなどの高度な気管支鏡検査システムは全て、肺の全ての部分に低侵襲でアクセスして組織を収集できるようにすることで、生検を改善しようとしている。
【0008】
これらのシステムは大きな進歩をもたらすが、生検には依然として課題がある。これらのアプローチを用いた、又は蛍光透視法、コーンビームコンピュータ断層撮影システム(CBCT)、ラジアル走査型気管支超音波断層法(REBUS)及び/又は共焦点レーザー内視鏡検査などの可能性のある技術と組み合わせた結節の局在化は、困難である。多くの技術は、処置前CT及び仮想病変位置決めを使用し、リアルタイムの確認及び局在化を困難にする。ワーキングチャネルは小さい場合もあり、それにより、生検ツールは、従来の病理学的要件及びアプローチを困難にする組織の小さな部分しか取らない場合がある。
【0009】
更に、結節が確実に見つけられる場合でも、結節の一部のみが悪性である可能性がある。その結果、医師は、決定的な回答を得る可能性を最大化するために、関心領域の周りからできるだけ多くの組織を採取するために、複数の技術及び生検ツールを使用する。一部の医師は、迅速オンサイト細胞診(ROSE)を通じて組織の妥当性を更に評価するために、細胞検査技師を手術室に連れて行く。他の医師は、診断率を向上させ、手術時間を短縮することを目的として、ベッドサイドで使用されるデジタルパソロジーシステムに投資している。高度な気管支鏡検査からの診断率は改善され続けているが、処置内での病変の特定、局在化、及び診断の確認における重要なニーズは満たされていない。
【0010】
肺がんの診断及び病期分類には、患者ががんを有することが確認され、疾患の病期及び患者状態によって決定される外科的に適格である場合に、外科的切除が続く。術前のスキャンは、外科医に肺内の結節の相対位置を提供することができるが、これらの画像は、外科医が実際の処置中に見るものに十分に変換されていない。例えば、術前スキャンは、患者の肺が完全に膨らんでいる間に行われるが、手術では肺がしぼんでいる。その結果、最も経験豊富な外科医でさえ、多くの手術可能な肺結節の比較的小さいサイズ(2cm未満)、肺組織の連続的な動き及び柔軟性、並びに腫瘍及び健康な肺組織の外観のばらつきによって引き起こされる、これらの手術中に疑わしい腫瘍を発見することが困難になる可能性がある。
【0011】
したがって、これらの処置は、外科医に固有の一連の課題を提示し、特に、特に小さいか、又は見つけることが困難な腫瘍を手術する場合に顕著である。その結果、外科医は、腫瘍の全体を確実に見つけて除去できるようにするために、より複雑で積極的な開胸処置に変換するか、又はそれから始める場合がある。これらの処置は大幅に高価であり、しばしば回復時間を増加させる。しかしながら、これらの欠点は、外科医が腫瘍を発見又は完全に除去することができない「無益な」又は不成功の手術よりもはるかに好ましい。
【0012】
特に早期病変の場合、多くの外科医は、肺機能を維持し、同時性病変又は異時性病変を有する患者において可能な反復切除を可能にするために、組織温存切除を好む。肺温存手術はまた、特に限られた肺予備能を有する患者において、多巣性肺がんの治療の中心である。VATS中の肺結節の局在化に失敗することは、完全な開胸への変換の最も一般的な理由である。結節が10mm未満である場合、又は胸膜表面から5mm以上離れて位置する場合、切除の対象となる結節を特定することができないことが著しく増加する。更に、ロボット支援手術中は、直接触診を可能にするための切開は行われない。VATS及びロボット支援手術中の術中結節の特定を支援するために、様々な術前局在化技術が開発されている。これらの局在化技術は、切除の指導のために結節をマークし、切除後の腫瘍辺縁のいくつかの証拠を提供することを意図している。
【0013】
一部の外科医は、腫瘍を見つけることが困難であると考えている場合、又は腫瘍が必ずしも予測可能な肺の領域に限定されていない場合、複雑な術前マーキング処置を選択するであろう。この術前マーキング処置は、介入呼吸器科医によって気管支鏡的に、又は介入放射線科医によって経皮的に、腫瘍の部位の近くに(小さな金属コイル又は同様の物体のように)基準マーカーを配置すること、又は放射性染料(99mTcなど)を注射することを含む。別のアプローチは、介入的放射線科医による経胸郭フックワイヤーの配置である。いくつかの場合では、外科医は、術前のマーキング及び外科的処置全体を実施し得る。これらの方法のうち、経皮注射はより正確な結果を提供するように思われるが、手術前にCTスキャナを備えたハイブリッド手術室又は別の介入放射線手術を必要とする。
【0014】
更に別の代替処置では、外科医は、術前スキャンを胸部解剖学的構造にマッピングし、腫瘍の近くをインドシアニングリーン(ICG)、メチレンブルー、又はオムニパークで気管支鏡的にマークすることができる。この処置は、Medtronic superDimension(商標)System及びILLUMISITE(商標)Platform、Olympus Veran SPiN System(商標)、Bodyvision Lung Vision、Intuitive Ion(商標)、Johnson and Johnson Auris Monarch(商標)Platform、Noah Medical Galaxy System(商標)、Bronchus Archimedes(商標)などの高度な気管支鏡検査システムで、又は従来型若しくは薄型の気管支鏡で実行することができる。これらの処置は、外科医に強力な視覚的ガイダンスを提供することができるが、任意の染料が結節に正確に配置されない、又は染料が処置の目的を損なう患者の組織全体に広がるリスクもある。
【0015】
染料配置の精度を向上させるために、外科医はまた、Philips、Siemens、GE、及びZiehmによって製造されるものなどの固定又は移動式CBCTイメージングシステムを利用してもよく、これは、結節の位置に関して内視鏡の頭部を追跡するためにCT画像を撮ることによってリアルタイムのナビゲーションガイダンスを提供することを試みる。これらのシステムは、CBCTシステムが非常に高価であり、処置を実施するために特別なハイブリッド手術室を必要とするという事実に加えて、患者、医師、及び処置スタッフが繰り返し放射線に曝されるため、特に不利である。更に、CBCTの使用は、多くの場合、処置時間を大幅に延長し、結果として、より長い麻酔時間及びより高い処置コストをもたらす。例えば、これらのシステムのほとんどは、CBCTスピン中にスタッフが処置室を離れる必要があり、ワークフロー及び処置上の問題が発生する可能性がある。CBCTが切除と同じ設定で行われるか、別々に行われるかにかかわらず、CBCTは、処置に複雑さ、時間、及びコストを付加することを犠牲にして、術前マーキングの精度を高め得る。
【0016】
ほとんどの術前マーキング処置では、患者は、インターベンショナルラジオロジー又は内視鏡検査室と手術室との間の移送を必要とする。他の場合には、これらは、手術室に適切なスタッフ及び技術がある場合には、一回の処置で行われ得る。いずれにしても、術前マーキングのタイミング及び調整は複雑で、追加の計画、機器、処置スタッフ、及び時間が必要である。術前マーキングを実施する場合、外科医が依然として腫瘍を見つけてMIS切除を実施することができない場合、外科医は後に従来の開胸術に変換することができる。
【0017】
手術は早期手術可能な患者のためのゴールドスタンダードであるが、手術を受けることができない人々の満たされていない臨床的ニーズに対処することを目的とした管腔内療法には大きな発展がある。管腔内療法には、病変を局所的に治療するために送達されるエネルギー(マイクロ波、高周波、凍結療法、蒸気、パルス電界、及び光線力学的療法)及び薬物(化学療法、ウイルス、又は免疫療法)が含まれる。局所療法は、例えば、気管支鏡又は拡張されたワーキングチャネルを介して、介入呼吸器科医又は胸部外科医によって、又は経皮的に介入放射線科医によって、内視鏡的に送達され得る。高度な気管支鏡検査システムは全て、将来的に呼吸器科医及び胸部外科医による局所療法の提供を広く可能にすると予想されている。介入放射線科医は、これらの非外科的療法のうちのいくつかを提供し得るが、多くは、経胸郭肺治療及び関連する気道確保に関連する合併症のリスクを負うことを望まない。
【0018】
更に、地元の地域病院などの一部の外科医は、これらの高度なマーキング処置を実施するために必要な技術又は熟練した人員を確保できない。したがって、これらの外科医は、腫瘍の位置又は境界を特定できない場合、より積極的な切除を実施するか、開胸術に変換する。積極的な切除は、過剰な量の健康な組織の除去をもたらす可能性があり、理想的ではないため、開胸術に変換することが一般的に好ましいが、そのような開胸術は依然として外傷を引き起こし、患者の入院期間及び回復時間が長くなる可能性がある。
【0019】
したがって、病変の局在化、診断、及び治療には、依然として多くの課題及び満たされていない臨床的ニーズが存在する。したがって、例えば、これらの処置を実施するときに腫瘍性及び健康な肺組織を局在化及び分化させることにおいて外科医及び呼吸器科医をよりよく支援するために、より信頼性の高い、リアルタイムの術中視覚化技術の重要な必要性が存在する。
【発明の概要】
【0020】
本開示は、限定されないが、低侵襲外科的処置を使用することを含む、がんを局在化、診断、及び治療するための改善された方法を提供する。
【0021】
一態様では、低侵襲経路(例えば、管腔内処置)を介して、分子イメージング剤が静脈内投与されている患者に器具をナビゲートして、器具を組織異常の領域に位置付けることと、器具を介して、近赤外線(NIR)光の下で領域内の組織を視覚化することと、を含む方法が提供され、分子イメージング剤は、投与されていると、領域内の異常組織をNIR光の下で蛍光発光させ、蛍光発光する異常組織を領域内に局在化させることを可能にする。方法は、蛍光発光する異常組織を診断及び/又は治療することを更に含み得る。
【0022】
別の態様では、管腔内経路を介して、VGT-309(以下に定義される特定の分子イメージング剤)が静脈内投与されている患者に器具をナビゲートして、器具を標的領域に位置付けることと、器具を介して、近赤外線(NIR)光の下で標的領域を視覚化することと、標的領域内の任意のがん性組織の位置を、NIR光の下でVGT-309によって引き起こされるがん性組織の蛍光によって、リアルタイムで特定することと、を含む方法が提供される。
【0023】
これらの方法は、様々ながん及び固形腫瘍の局在化、診断、及び治療において特に有利である。例えば、この方法を使用して、肺がん、並びに結腸直腸がん、胃がん、及び食道がんを内視鏡的に局在化、診断、及び治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
詳細な説明は、添付の図面を参照して記載されている。同じ参照番号の使用は、類似又は同一の項目を示し得る。様々な実施形態は、図面に示されているもの以外の要素及び/又は構成要素を利用してもよく、いくつかの要素及び/又は構成要素は、様々な実施形態に存在してもしなくてもよい。要素及び/又は構成要素は、必ずしも一定の縮尺ではない。
【0025】
【
図1A】患者の末梢気道の外側に位置する病変(異常組織)を示す(先行技術)。
【
図1B】患者の末梢気道の外側に位置する病変(異常組織)を示す(先行技術)。
【
図1C】気道内の視点からの
図1Aの病変の位置を示し、それが気道壁を通して視覚化することができないことを示す(先行技術)。
【
図2A】本開示の一実施形態による、患者の末梢気道の外側に位置し、分子イメージング剤の投与後に「明るくなる」病変を示す。
【
図2B】本開示の一実施形態による、
図2Aの病変の拡大図である。
【
図2C】本開示の一実施形態による、気道内からの
図2Aの病変の視覚化を示す。
【
図2D】本開示の一実施形態による、分子イメージング剤の投与後に病変の一部のみが「明るくなる」患者の末梢気道の外側の病変の気道内からの視覚化を示す。
【
図3A】本開示の一実施形態による、病変を明るくするための分子イメージング剤の投与後の、患者の末梢気道の外側に位置する病変(異常組織)の生検方法を示す。
【
図3B】本開示の一実施形態による、気道内から見た、
図3Aの方法を示す。
【
図3C】本開示の一実施形態による、患者の末梢気道の外側に位置し、気道内から見て、患者に分子イメージング剤を投与した後、病変の一部のみが「明るくなる」病変の視覚化及び生検の方法を示す。
【
図4A】本開示の一実施形態による、分子イメージング剤の投与後の、患者の末梢気道の外側に位置する病変の視覚化及び治療方法を示し、病変は、治療器具を病変内/病変を通して誘導するために「明るく」される。
【
図4B】本開示の一実施形態による、気道内から見た、
図4Aの方法を示す。
【
図4C】患者の末梢気道の外側に位置し、気道内から見て、患者への分子イメージング剤の投与後に病変の一部のみが「明るくなる」、病変の視覚化及び治療の方法を示し、ここで、治療器具は、本開示の一実施形態による、病変の「明るくされた」部分に誘導されるか、又はそれを通る。
【
図5A】一般的に結腸直腸がんに起因する組織異常の図である。
【
図5B】一般的に結腸直腸がんに起因する組織異常の図である。
【
図5C】一般的に結腸直腸がんに起因する組織異常の図である。
【
図5D】一般的に結腸直腸がんに起因する組織異常の図である。
【0026】
図全体で使用されるように、シェーディングは、本明細書に記載のように、分子イメージング剤が患者に投与された後、近赤外線(NIR)光の下で見たときに蛍光発光する組織を表す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
蛍光分子イメージング剤、特に近赤外線(NIR)蛍光イメージング剤を使用して、診断及び/又は治療のために、特に低侵襲処置、例えば、内視鏡処置などの医療処置中にリアルタイムで、患者の組織異常を局在化するための方法が記載されている。診断及び/又は治療としては、局在化された腫瘍の生検、切除若しくはアブレーション、又は局在化腫瘍への薬物送達が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
いくつかの特定の実施形態では、局在化方法は、(i)管腔内経路又は他の低侵襲経路を介して、VGT-309(以下で定義される)などの分子イメージング剤が静脈内投与されている患者に器具をナビゲートして、器具を標的領域、例えば、組織異常が位置すると考えられる領域に位置付けることと、(ii)器具を介して、近赤外線(NIR)光の下で標的領域を視覚化することと、(iii)NIR光の下で分子イメージング剤によって引き起こされる異常組織の蛍光によって、標的領域内の異常組織の位置をリアルタイムで特定することと、を含む。方法は、典型的には、局所化された組織を診断及び/又は治療することを更に含み、これは、生検を受けるか、又は療法を送達するために、明るくした部分の内部(又は十分であれば、その近く)に器具の一部を更に位置付けることを伴い得る。有利には、蛍光発光する組織は、特に器具の遠位端が、器具の遠位端から見た組織のランドスケープ(例えば、ナビゲーションソフトウェアによって使用される仮想基準点とは対照的に)に少なくとも部分的に基づいて前進/操縦される管腔内処置において、器具の誘導のための固定された視覚基準点(北極星のような)を提供する。
【0029】
この方法で使用される器具には、カメラ及び光源を含む従来のスコープ(例えば、内視鏡、気管支鏡、胸腔鏡、腹腔鏡など)、並びにカテーテル、生検針、及び組織採取又は診断のための他の従来のツール、並びに当技術分野において既知の任意の手段によるアブレーション又は局所治療のための治療薬及びツールの送達が挙げられる。
【0030】
NIR光は、一般に、当該技術分野では、700~900nmの範囲の波長を有するものと理解されている。本明細書で使用される場合、「近赤外線(NIR)光の下で」組織を「視覚化」し、組織を「NIR光の下で蛍光発光させる」ことへの言及は、組織にNIR光(例えば、770~810nmの範囲内の波長を有する)を向け、応答して生成されたNIR放射(例えば、790~850nmの範囲内の波長を有する)を受信/感知するプロセスを指す。受信された放出は、当該技術分野において既知のように操作され、医師が組織の近くに展開されたスコープを通して組織の蛍光発光を見ることを可能にする。NIR光を使用する利点は、(i)有効な組織透過性(例えば、少なくとも5~10mm)を有することと、(ii)血液が650nm未満で吸収され、水/脂質が900nmを超えて吸収されるため、生体組織による干渉が制限されることと、(iii)有意な自己蛍光を生成しないこととを含む。説明される方法の好ましい実施形態では、NIR光波長は、ICG又はICG含有分子イメージング剤を使用する最適なイメージングのために選択される。
【0031】
これらの方法は、管腔内アプローチを介して行われる従来の生検及び療法において、結節をスタンドアロン又は併用モダリティとして局在化するために使用され得る。これらの方法は、病変のホットスポット、すなわち、全ての病変が全ての場合にがん性であるとは限らないため、病変の部分ががん性であることを特定し、局在化するために使用され得る。これらの方法は、例えば、別の診断処置と併せて確認するように、例えば、気管支超音波断層法気管支鏡検査の前に、リンパ節の特定に使用することができる。これらの方法は、組織採取なしでリンパ節の評価又は査定に使用することができる。これらの方法を使用して、生検、病期分類、及び単一の処置内のがん性組織の適切な局所治療を促進してもよい。これらの局在化方法は、局所療法送達のための病変部への迅速かつ正確なカテーテル配置を容易にし、アブレーション治療ゾーン/結節破壊の理解を高めるために使用され得る。様々な実施形態では、これらの局在化方法は、白色光、蛍光透視法、CBCT、ラジアル走査型気管支超音波断層法(rEBUS)を含むがこれらに限定されない、がん細胞の存在を確認するための従来のアプローチを置き換えてもよく、又は増強してもよい。
【0032】
本発明の方法の1つの利点は、医師が結節の蛍光発光する部分から組織を取得しているという確実性を高めるため、生検結果に対する信頼性を高めることができることである。医師は、この追加のエビデンスを患者及び腫瘍ボードと共有して、診断結果に対するより大きな信頼を生み出すことができ、これにより、治療時間が短縮され、かつ/又は不必要な追加の処置を削減することができる。
【0033】
本明細書に記載される診断方法は、凍結切片病理学又は迅速オンサイト細胞診(ROSE)などの従来の迅速な診断方法への外科医の依存の必要性を低減し得る。
【0034】
本明細書で使用する場合、「患者」という用語は一般にヒトを指すが、本明細書に記載の方法は、例えば、前臨床動物モデル又は獣医学的用途において、他の哺乳動物に適用することができる。
【0035】
分子イメージング剤は、固形腫瘍、腫瘍随伴マクロファージ(TAM)、及び腫瘍微小環境に増加したレベルで存在する標的分子(プロテアーゼの一種であるカテプシンなど)に共有結合するものである。特定の実施形態では、分子イメージング剤は、NIR染料としてインドシアニングリーン(ICG)を含み、様々な従来の、市販のイメージングシステムとともに使用することができる。いくつかの実施形態では、分子イメージング剤は、参照により本明細書に組み込まれるBogyoらの米国特許第10,100,037号に記載されるような、共有結合性の活性化可能なプロテアーゼ標的化イメージング分子である。いくつかの実施形態では、分子イメージング剤は、参照により本明細書に組み込まれるBogyoらの米国特許第10,869,936号に記載されるようなフルオロフォアとしてICGを含むものである。
【0036】
本明細書に記載の方法の好ましい実施形態では、分子イメージング剤は、本明細書において「VGT-309」と称され、これは、下記を含み、
【化1】
薬学的に許容される塩又はその製剤バリアントを含む。VGT-309は、好都合には、その標的に共有結合し、多種多様な腫瘍型において標的部位に留まる。
【0037】
本明細書に記載の方法の好ましい実施形態では、分子イメージング剤は、VGT-309のナトリウム塩形態である。
【0038】
ある特定の実施形態では、これらの方法は、診断処置並びに外科的腫瘍切除及び除去の有効性を改善する。本開示は、肺がんの局在化、診断、及び治療における応用を説明するが、当業者は、これらの教示が、他の形態のがんの診断及び治療に適用することができることを認識するであろう。例えば、本明細書の開示は、他のがん、特に、結腸直腸がん、胃がん、及び食道がんに適用され得る。
【0039】
特に、VGT-309は、正常組織よりも固形腫瘍中に多く存在するカテプシンを標的とする。VGT-309は、脳、乳、結腸直腸、食道、胃、肝、肺、黒色腫、卵巣、膵臓、前立腺、及び甲状腺を含む様々ながんで使用することができ、ここで、固形腫瘍は、正常組織よりも増加したレベルで存在するカテプシンを有することが示されている。したがって、本方法を適用して、患者の身体の様々な位置に異常組織を局在化させることができる。
【0040】
ある特定の実施形態では、VGT-309は、0.01mg/kg~0.7mg/kg、例えば0.016mg/kg~0.64mg/kgの投与量でヒト患者に投与されてもよい。いくつかの好ましい実施形態では、投与量は、0.3~0.4mg/kg、例えば、0.32mg/kgであり、本明細書に記載の患者の組織のNIRイメージングを伴う、医療処置の2時間~36時間前に投与される。いくつかの実施形態では、投与量は、処置の12~36時間前に、0.16mg/kgである。いくつかの実施形態では、投与量は、処置の2~6時間前、又は12~36時間前に、0.32mg/kgである。いくつかの実施形態では、投与量は、処置の2時間~48時間前に0.32~0.52mg/kg、例えば0.5mg/kgであってもよい。いくつかの他の実施形態では、投与量は、例えば、処置の2~48時間前に、最大0.64mg/kgであってもよい。
【0041】
局在化
近年には、開胸術とは異なり、いくつかの小さな孔を通して実施され、したがって外科医の視野及び/又は触覚を制限する、低侵襲外科的処置への移行があった。本明細書で使用される場合、「外科医」は、心臓胸部外科医、腫瘍外科医、又は介入呼吸器科医など、本明細書に記載される処置のうちのいずれかを実施することができる医師を指す。これらの処置中、外科医は、既知の病変を発見し局在化させ、適切な切除辺縁を確保し、術前スキャンによって特定されない原発性病変、同時性及び異時性病変、並びに転移性腫瘍拡散を特定する能力に憂慮する場合が多い。
【0042】
また、生検のための侵襲性の低い高度な気管支鏡検査処置への移行もあり、これは、医師のスキル、システムの不正確さ、リアルタイムの結節の視覚化及び局在化の欠如、器具及び生検ツールの機能、並びに病理学によって制限されている。これらの処置を実施する外科医は、既知の病変を局在化させ、これらの病変を生検し、それらが良性であるか悪性であるかを自信を持って確認する能力の欠如によって課題を抱えている。
【0043】
例えば、医師には、生検中に医師を誘導するために利用可能な情報が限られている。一部の技術は、複数のCT又はMRIスキャン及びソフトウェアを使用して三次元(3D)モデル100を作成し、その例は
図1A~
図1Bに示される。医師は、そのようなモデル100を使用して、病変102が位置すると医師が考えている大体の領域に向かって曲がりくねった気道104に内視鏡を誘導することができる。これらのモデルは、生検ツールを病変102の一般的な位置にナビゲートするために医師に十分な情報を提供し得るが、特に、
図1Cに示されるように、病変102が気道104の外側又は壁内にちょうど位置していないことが多いため、気管支鏡検査を実施する医師が気道104内から見るときに(可視光を使用して)病変を見ることができない場合があるので、医師は、病変102を正確に位置決めするのに苦労し得る。例えば、医師は、組織異常を示す大体の輪郭を見ることができるが、医師が見つけようとしている特定の病変102は言うまでもなく、これが病変102でさえあることを医師が確実にする方法はない。
【0044】
しかしながら、本開示の方法は、分子イメージング剤を利用して、異常組織(結節、腫瘤、腫瘍)又はその一部(例えば、不均一な病変)を「明るくする」ことによって、医師が器具(例えば、生検針)を局在化及び位置合わせし、それをリアルタイムで見て、器具を異常組織に適用することを可能にする。明るくなる異常組織は悪性(がん性)である可能性が高いが、明るくなる異常組織は良性である可能性がある。いずれの場合も、外科医が開腹手術への転換を回避するのに役立つ可能性があるため、異常組織を明るくすること及び局在化は、外科医にとって有益な結果である。
【0045】
分子イメージング剤は、しばしばMIS処置である生検及び外科的除去処置中に使用される場合、患者の転帰を大幅に改善する可能性を有する。外科医は、これらの処置中に腫瘍を見つけて特定するために、様々な外部イメージングモダリティを用いた白色光の視覚化又は仮想ナビゲーションにのみ依存している。これは、身体の狭い空間における視野が限られており、単一の処置内で複数のモダリティを組み合わせることが複雑であることを考えると、しばしば困難になる可能性がある。術前マーキングは、外科医が結節の局在化及び辺縁評価を支援することができるが、不正確な高度な気管支鏡検査システム、染料が利用される場合の肺全体に広がる染料、並びに様々な病院環境における操作、スキル、及びスケジューリングの課題によって制限される。また、触診が結節を特定するために使用され得る開胸術中でも、外科医は、これらの結節が小さい場合、又は肺の解剖学的構造によって覆われている場合、これらの結節を見つけて特定するのに苦労する場合がある。したがって、腫瘍細胞又は周囲の細胞外マトリックスを標的とする蛍光分子が、生検及び処置の両方で術前スキャンで特定された結節を外科医が位置決めするのを助けるための重要な必要性が当該技術分野において存在する。
【0046】
現在様々な開発及び試験段階にあるいくつかの分子イメージング剤があるが、これらの剤のうちVGT-309が特に有利である。VGT-309は、カテプシン標的を標的とし、共有結合し、カテプシン標的は、正常な組織よりも固形腫瘍及び腫瘍辺縁に多く存在する。この結合が生じると、消光剤は分子から切断され、VGT-309は「活性」になり、その時点で、腫瘍は、近赤外線(NIR)光の下で蛍光発光する。更に、前臨床研究に基づいて、VGT-309が、VGT-309が投与されてから2時間~4日後にどこかでがん性組織を蛍光発光することができるように、共有結合は、広い治療窓を作成する。(動物モデル研究はまた、VGT-309が投与後7日まで組織内でシグナルを放出し続けることが可能であり得ることを示唆している。)この延長された治療窓は、生検及び切除処置を短い時間窓でスケジュールすることができないが、VGT-309の1回の投与のみが必要とされる場合に、特に有益であり得る。
【0047】
本開示は、VGT-309がどのようにMIS処置をより効率的かつ効果的にすることができるかを強調するが、VGT-309はまた、VGT-309が、外科医が原発腫瘍を迅速に発見し、切断する場所を決定するときに腫瘍の境界を定義することを助けることができ、術前スキャンを使用して、又は目及び手だけを使用して処置中に外科医によって見ることができなかった追加の小さな原発性腫瘍及び転移性腫瘍を発見することができるため、標準的な開胸外科処置に価値を付加することができる。
【0048】
VGT-309の別の利点は、特に肺手術市場に関して、腹腔鏡及びロボット近赤外線(NIR)蛍光イメージングシステムが既に病院で容易に利用可能であることである。これらのNIRイメージングシステムのいくつかには、Intuitive Surgical、Olympus、Medtronic、Johnson & Johnson、Bracco、及びStrykerによって開発されたものが含まれる。軟性手動気管支鏡検査システム(Olympus、Fujinon、Pentax、及びStorz製のもの、並びにMedtronic superDimension(商標)System及びILLUMISITE(商標)Platform、Olympus Veran SPiN System(商標)、Bodyvision Lung Vision及びBronchus Archimedes(商標)Systemなどの高度なシステム)及び軟性ロボット気管支鏡検査デバイス(Intuitive Ion(商標)、Johnson and Johnson Auris Monarch(商標)Platform、並びにNoah Medical Galaxy System(商標)など)は、肺生検を実施し、将来的には局所療法を提供するために使用されるが、まだNIR機能を備えておらず、分子イメージング剤の使用は肺手術に関して開発されるため、高度な気管支鏡検査市場がこれに続き、NIR機能がこれらのシステムに追加される可能性がある。
【0049】
使用中、VGT-309は、MIS処置中に任意の腫瘍を視覚化する外科医の能力を改善するために、手術又は非手術局所治療の前に静脈内投与されてもよい。VGT-309及びNIRをMIS処置に組み込むと、外科医による腫瘍の視覚化が改善されることが実証されている。
図1A~
図1Bに示される3Dモデルと同様に、
図2A~
図2Bは、照射された腫瘍202を強調する気道204の3Dイメージングモデル200を示す。白色光の下では、気道204の管腔壁の外側又は内側の組織は異常に見えるかもしれないが、少しでも腫瘍がある場合、腫瘍がどこにあるかは明らかではない。したがって、この場合、外科医は、いかなる異常組織202も特定及び/又は除去するための積極的な措置を取る場合があり、これには過度に積極的な切除又は開胸術を伴い得る。両方の治療過程は、より積極的であり、全てのがんが成功裏に除去される可能性を改善するが、全てのがん性組織が特定可能ではないというリスクが依然として存在する。
【0050】
対照的に、患者にVGT-309を与えた後にNIRを使用して肺組織を視覚化する場合、がん性組織202は蛍光発光し、外科医がどの組織ががん性であるかを明確かつむしろ容易に特定することを可能にする。
図2Cに示されるように、イメージングデバイスは、外科医がどの組織202が蛍光発光しているかを見るのを助けるために、目に見える色、例えば、緑色で示されるNIR蛍光を有するスクリーン上に気道204の画像を表示するように構成され得る。したがって、その領域内の全ての組織を切除するか、又は組織の一部のみを切除する代わりに、外科医は、がん性組織202のみをより正確に特定及び除去することができる。このようにして、外科医は、がん性組織202が残されないように、きれいな辺縁で腫瘍202を切除していることをより確信することができる。
【0051】
また、病変202の一部分203は、病変202の残りよりもより蛍光性であり得る。ある場合には、高蛍光部分203は、より高い濃度のカテプシンを表し得る。これは、高蛍光部分203が腫瘍「ホットスポット」(すなわち、高がん性組織)であることを外科医に示すであろう。他の場合では、
図2Dに示すように、病変の一部分203のみが蛍光性であり得、これは、病変202の蛍光部分203のみが潜在的にがん性であることを示すであろう。いずれの場合も、外科医は、病変202のがん性である、又はがん性である可能性がより高い部分203をより正確に標的とすることができる。
【0052】
したがって、VGT-309は、そうでなければアクセスできない診断及び治療プロセス中に重要な情報を外科医に提供することができ、したがって、肺がんの局在化、診断、及び治療に特に役立ち得る。患者のスキャンで肺結節又は異常が特定された場合、患者の次のステップは、結節ががん性であるかどうかを確認するための生検である可能性が高い。そして、生検前にVGT-309を投与することにより、呼吸器科医及び/又は外科医は、生検結果が正確である可能性を大幅に増加させ、それによって、患者が誤って診断される可能性、又は診断を確認するために追加的若しくはより侵襲的な処置を受ける必要がある可能性を減少させる。
【0053】
本明細書に記載の局在化の方法は、従来のものであれ、将来開発されるものであれ、内部組織標的部位にアクセスするための本質的に任意の低侵襲のツール/装置とともに使用されてもよい。例えば、これらのツール/装置は、カテーテルベースのロボットなどの高度な管腔内アプローチを含み得る。
【0054】
診断
診断プロセスの詳細に目を向けると、VGT-309を従来の病理学と併せて使用して、呼吸器科医の診断に高い信頼性を提供することができる。術前スキャンは、多くの場合、腫瘍を位置決めするのに役立つが、これらのスキャンは、腫瘍ががん性であるかどうかに関する情報を提供することはできない。特に肺がんの文脈では、適切な診断及び病期分類が重要であり、それは治療の残りの経過をほぼ完全に確定する。限局性腫瘍、又は早期がんを有する患者は、がんの後期段階で転移性拡散を有する患者よりも侵襲性の低い治療コースを必要とするが、それにもかかわらず、患者が生存の可能性が最も高い可能性を有するように、がんを早期に特定して治療することが重要である。
【0055】
生検を実施するとき、外科医は、患者の術前スキャンから提供される限られた情報によって導かれる。典型的には、これらのスキャンは、せいぜい、外科医が結節の一般的な領域を決定することを可能にするが、外科医は、依然として、結節の正確な位置を特定するという困難な課題に直面しており、多くの場合、蛍光透視法、REBUS、CBCT、又は共焦点レーザー内視鏡検査などの二次イメージングシステムと組み合わせて仮想ナビゲーションを使用する。白色光カメラを使用するシステムでは、気道が非常に小さく、病変が典型的には直接気道の外側にある肺の周辺部に最小限の有用性がある。
【0056】
図1A~
図1Cに関して前述したように、外科医は、一般に、肺生検中にそれらを誘導するために利用可能なリソースが限られている。術前スキャンは、患者の気道内の内視鏡を病変の一般的な位置に誘導するための3Dモデルを生成するのに有効であり得るが、外科医は依然として、気道内から病変を正確に見つけて生検するのに苦労し得る。ただし、肺科医がVGT-309及びNIRを使用している場合、腫瘍を見つけて生検を行う際には、追加のガイダンスがある。NIR下の蛍光は、悪性結節を健康な組織から明確に区別し、生検針を術前スキャンで特定された腫瘍の一般的な位置まで正常にナビゲートした後、呼吸器科医に正確なガイドを与える。
【0057】
図3A~
図3Cは、がん性病変302を明るくするVGT-309の概念を示しており、その結果、NIRイメージング能力を有する内視鏡が使用される場合、外科医は、がんが存在するかどうかの正確な評価を与える可能性が最も高い組織を生検する場所を決定することができる。VGT-309を使用して、外科医は、気道304の近くの肺内の病変302をリアルタイムで局在化し、生検ツール又は他の器具を病変302と位置合わせし、病変302を正確に標的とし、サンプリングすることができる。すなわち、VGT-309は、可能な限り最も正確な診断を得るために生検器具を適切に位置付けできるように、気管支鏡検査処置を実施する外科医のための直接的なガイドを提供する。例えば、病変は、様々な程度に照射されてもよく、すなわち、病変のある領域は、他の領域よりも活発に照射されてもよい。これらの場合、外科医は、病変302の部分303が残りの病変と比較してがん性である可能性が最も高いため、より活発に照射される病変302の部分303を標的とし得る。既存の技術では、そのような機能は提供されない。
【0058】
図3Cに示されるように、患者が部分的にだけがん性でない結節を有する可能性もあり、これは、外科医が結節の特定のがん性部分を特定又は生検することができなかったために、患者に誤った診断が与えられる状況を引き起こし得る。VGT-309及びNIRは、少なくとも、外科医が生検を誘導するために結節のがん性部分を適切に視覚化できるという点で、結節302の一部分303のみががん性であるこれらの場合に特に有利であり得る。例えば、VGT-309が患者に投与され、次いでNIR能力を有するロボット内視鏡が使用される場合、外科医は、結節302の照明領域303を見ることができる。すなわち、結節302のがん性部分303のみがNIRの下で蛍光発光する。結節302の全体的なサイズと比較して、がん性部分303は比較的小さい可能性があり、したがって、VGT-309及びNIRがない場合、外科医は、結節の非がん性部分から生検を収集する可能性が高いであろう。すなわち、VGT-309は、生検が結節302の照射されたがん性領域303を正確に標的化することを可能にする。
【0059】
ある場合には、外科医が最初に生検ツールを誤って配置する可能性があり、その結果、生検ツールが蛍光発光する結節のがん性部分に到達しない。VGT-309及びNIRが使用されない処置では、従来のツールでは結節のどの部分ががん性であり、どの部分が良性であるかを評価することができず、患者に誤った診断を与える可能性があるため、外科医はこの非がん性部分からの生検の採取に進む場合がある。しかしながら、結節のがん性部分が蛍光発光するとき、外科医は、生検ツールの経路を修正して、診断が可能な限り正確であるように結節の正しい部分から生検が採取されることを確実にする機会を有する。
【0060】
これは、処置からの最終的な病理に対する医師の自信を高めるため、追加の処置の必要性を減らすという更なる利点を有する。VGT-309及びNIRイメージングなしでは、患者は、不正確に診断され得るか、又は複数の、追加の、及び/若しくはより侵襲的な処置を受ける必要があり得る。
【0061】
VGT-309は、気管支鏡的リンパ節評価にも役立つ。例えば、がん性リンパ節を明るくする独立した診断剤としての組織生検の必要性を排除し得る。そのようなリンパ節を明るくする能力は、単一の処置で生検、病期分類、及び治療する能力を完全に開くことができる。従来のリンパ節生検及び病期分類には、組織病理が必要であり、完了までに数日かかる。VGT-309は、一回の診断及び治療処置での病期分類を可能にすることができ、ここでは患者が一回の麻酔事象中に治癒の可能性のある手術又は非外科的な管腔内療法を受けることができる。
【0062】
医師はまた、手術又は非外科的管腔内治療中に独立した診断剤としてVGT-309を使用してもよいため、術中の病理学的な読み取り(別名凍結切片として知られている)はもはや必要ではない。これにより、呼吸器科医及び/又は外科医は、病理学的結果を待つことなく、がんが何であるか、又はがん性ではないかをリアルタイムで決定することができる。VGT-309はまた、一部の外科医が切除処置中に小結節を特定するために使用する従来の術前マーキング技術の必要性を排除することができる。
【0063】
一部の他の実施形態では、VGT-309は、診断プロセスを更に最適化するために、Mauna Kea Technologiesによって開発されている技術のような他の技術と組み合わせて使用され得る。例えば、Mauna Keaは、NIR共焦点顕微鏡を装着したカテーテルを含む一連のインビボ細胞イメージング技術を開発した。この顕微鏡は、生検を実施するように、結節に誘導され、結節に挿入されてもよく、細胞自体内の低レベルのVGT-309蛍光を検出することができる。蛍光細胞イメージングによって集められた情報を、Mauna Keaイメージングプラットフォームで既に提供されている情報と組み合わせることで、生検を実施する必要性を完全に排除することができる。
【0064】
生検で患者の結節ががん性であることが確認された後、治療の次のステップはしばしば外科的切除である。前述のように、これらの処置は、多くの場合、メス又は熱、超音波、又はレーザーカッターを使用する腹腔鏡、内視鏡、又はロボット技術を使用して実施される。手術前にVGT-309を投与すると、外科医は、腫瘍をよりよく見つけ、特定し、切除することができ、同時に周囲の組織を検査して、がんが患者の肺の他の部分に広がっていないことを確認することができる。
【0065】
治療方法
VGT-309及びNIRは、アブレーション療法、薬物送達、パルス電界(PEF)、又は光線力学的療法(PDT)のような非外科的腫瘍破壊処置において使用され得る。本明細書に記載の他の手順と同様に、アブレーション療法及び他の非外科的局所療法は、低侵襲性であるが、一般に健康な組織の保存を最大化するため、外科的切除と比較して有利である。これらの非外科的アプローチはまた、内視鏡的に送達されたときに手術不能な患者集団にとって典型的に安全であるため、及びそれらが単独で、又は他の治療様式と組み合わせて使用され得るので、治療を受けることができる患者集団を拡大するであろう。
【0066】
図4A~
図4Cは、NIRイメージング能力を有する内視鏡が使用されるとき、外科医が治療デバイスを介して病変402に局所療法を正確に施すことができるように、気道404に隣接するがん性病変402を明るくするVGT-309の概念を示す。治療デバイス(例えば、アブレーションカテーテル)の腫瘍402への近接性(
図4A~4B)、又は病変402のがん性部分403(
図4C)が、処置の有効性を決定する上で重要であるため、外科医は、アブレーション及び他の局所療法処置を実施するときに非常に正確でなければならない。生検とは異なり、管腔内アブレーション及び他の局所療法は、送達デバイスが病変402を完全に横断して治療の有効性を最大化し、治療辺縁を改善することを必要とする。これらのアブレーション処置を実施する際にそのような精度が必要であるため、VGT-309及びNIRを組み込むことは特に有利であろう。
【0067】
生検処置と同様に、アブレーションカテーテルは、腫瘍402の大体の領域まで気管支鏡的にナビゲートされ得るが、腫瘍402の正確な位置を特定するときに同じ複雑性が生じる。これらの処置は臨床的に困難であり、多くの場合、固定されたCBCTシステムへのアクセスを必要とし、他のMIS処置を実施するためのもののようにまだ広く利用可能ではない。開発中のこれらの計装システムにはNIR機能は含まれていないが、NIRを組み込んでも、これらのシステムの設計又は機能が大幅に変更されることはない。
【0068】
代替用途
人工知能
更に、VGT-309及びNIRで実施された気管支鏡検査及び手術中に収集されたデータを使用して、将来の手術の有効性を改善するために使用できる人工知能(AI)アルゴリズムを訓練し得る。具体的には、VGT-309で実施された手術の画像及びビデオを使用して訓練されたAIアルゴリズムは、特に、がん性腫瘍の特定及び局在化に関連するため、これらの生検及び/又は切除処置の実施方法を改善することができる。
【0069】
非肺がん
VGT-309はまた、結腸直腸がんの診断及び治療において特に有用であり得るが、結腸直腸がんが肺がんとは異なる形で現れることは注目に値する。腫瘍として現れる肺がんとは異なり、結腸直腸がんは、
図5A~
図5Dに示されるように、様々な形態で見出され得る。これらは、隆起性病変(
図5B)、平坦病変(
図5C)、及び陥没病変(
図5D)を含む、ポリープ(
図5A)及び/又は病変を含み得る。
【0070】
VGT-309及びNIRを含む分子イメージング剤は、従来の結腸内視鏡検査処置に組み込まれて、外科医ががん性ポリープ及び/又は病変を特定するのをよりよく助けることができる。病変は、特に平坦又は陥没状態の場合、内視鏡が白色光のみによって誘導されているかどうかを外科医が特定するのは困難である。隆起したポリープは、白色光のみで識別される可能性が高いが、平坦又は陥没病変は、結腸の通常の組織と混合する可能性が高い。これらの病変のいくつかは特定するのが困難な場合があるため、外科医が患者の結腸に存在する病変及び/又はポリープのいずれか又は全てを特定しないリスクがあり、その結果、患者は診断されていない及び/又は治療されていないがんをそのまま残す可能性がある。しかしながら、定期的な結腸内視鏡検査中にVGT-309及びNIRを使用する外科医は、そうでなければ、ポリープ及び/又は病変を発見するのが困難であるものを特定する可能性が高く、したがって、必要に応じて、患者の結腸直腸がんをより正確に診断することができる。
【0071】
更に、結腸直腸がんを治療するための標準治療は、肺がんを治療するための標準治療とは大きく異なるため、VGT-309及びNIRは、切除及び除去中よりも診断プロセス中に適用される可能性がより高い。肺がんを治療するとき、外科医は、切除プロセス中に同じくらい多くの健康な組織を温存することに非常に懸念する。結腸直腸がん治療ははるかに積極的である。外科医は、結腸直腸がんを治療するときに健康な組織を温存することをあまり懸念しないため、ポリープ及び/又は大きな辺縁を有する病変を除去する。しかしながら、VGT-309及びNIRを使用して、積極的な切除であっても、患者の結腸又は近くの腹膜にがんの残存痕跡がないことを確認することができる可能性がある。
【0072】
外科医は、明白な辺縁で局在化された腫瘍を切除することに加えて、肺を取り囲む組織、特にリンパ節ががんによって浸潤されていないことを確実にすることも懸念する。これらの処置の間、外科医は、リンパ節の生検を採取し、それらの生検を凍結切片の病理に送るのにかなりの時間を費やす。各凍結切片は、患者が麻酔下にある間、15~30分のいずれかの時間を要し得る。この手順の長期化は、手術合併症の患者のリスクを増加させる一方で、手術の全体的なコストを増加させる可能性がある。しかし、外科医はまた、患者が適切に診断され、病期分類されていることを確認したいと考えている。外科医がリンパ節の広がりを特定しない場合、患者は適切な治療を受けられず、予後に悪影響を与える可能性がある。
【0073】
腫瘍が見つけられた後に切除する場合、外科医はまた、腫瘍の周囲の明白な辺縁を得ることを目的としており、これは通常、腫瘍の全方向で2cmのがんのない領域であると考えられている。腫瘍の辺縁が明確に定義されている場合は、明白な辺縁を達成することは特に困難ではない。しかしながら、腫瘍、特に縁部の周りは、明確に定義されていないか、又は周囲の正常組織に浸潤する小さながん性突起を有している可能性があり、これにより、明白な辺縁を達成することが特に困難になる。
【0074】
例えば、白色光の下で腫瘍を見ると、がん性組織が切除された腫瘍を取り囲む患者の気道に残っているにもかかわらず、外科医が腫瘍を局在化させたように見える場合がある。VGT-309を使用しなかった場合、外科医はこのがん性組織を取り残した可能性があるか、又は適切な辺縁を確保するために積極的に領域を切除しすぎた可能性がある。しかしながら、VGT-309を使用すると、外科医は、可能な限り多くの健康な組織を温存しながら、残存するがん性組織を視覚化し、病理学によって検証されたように、明白な辺縁で腫瘍全体を除去することができる。
【0075】
したがって、VGT-309及びNIRは、がんを含むリンパ節がNIR下で蛍光であるため、外科医が罹患している可能性があるリンパ節を特定するのを助けることができる。
【0076】
既存の外科的技術を使用すると、外科医はしばしば小さい腫瘍を見つけて除去するのに苦慮し、これは多くの場合、2cm未満の腫瘍であると考えられる。この腫瘍は、患者の術前スキャンで明確に特定可能であり得るが、外科医がMIS処置中に特定することは困難であり得る。例えば、通常の白色光の下で肺の表面を見ると、外科医は腫瘍を見つけることが困難になる。この処置がVGT-309及びNIRなしで実施された場合、外科医はこの領域の組織を積極的に切除するか、開胸処置に変換するよう促されることがある。
【0077】
VGT-309の使用に関して本明細書に記載される方法はまた、がん性組織をNIR光の下で蛍光発光させ、がん性組織の局在化を促進するのに有効な、正常組織よりも固形腫瘍中により多くの量で存在する標的分子に共有結合する他の蛍光分子イメージング剤を用いて実行されてもよい。
【0078】
本開示は、いくつかの例示的な用途を参照して説明されてきたが、本開示は、そのような開示された実施形態に限定されないことが当業者によって理解されるであろう。むしろ、開示された出願は、本明細書には記載されていないが、本開示の趣旨及び範囲に適合する任意の数の変形、変更、置換、又は等価配置を組み込むように変更され得る。
【実施例】
【0079】
本発明は、以下の非限定的な実施例を参照して更に理解することができる。
【0080】
実施例1.VGT-309及びNIRイメージングによる腫瘍の局在化
患者に、手術の約21時間前に、0.32mg/kgのVGT-309を投与した。外科医は、NIRイメージングを使用して視覚化を改善し、腫瘍の位置及び範囲を明確に示した。
【0081】
実施例2.VGT-309及びNIRイメージングによる不確定な腫瘍の局在化及び明白な辺縁による局在化腫瘍の切除
術前のスキャンで特定されたように、患者は局所的な腫瘍を有するように見えたが、外科医はVGT-309での切除中にリンパ節が広がっていることを特定した。患者の術前のPETスキャンは、大きく、容易に特定可能な腫瘍を示した。これらのスキャンには、肺又はリンパ節の他の領域への広がりの証拠はなかった。患者に、手術の約21時間前に、0.16mg/kgのVGT-309を投与した。手術中に原発性腫瘍をより容易に見つけるために、組織をNIR下で視覚化した。外科医はまた、視覚的に検査し、近位リンパ節を生検したが、いずれも腫瘍が広がっていたことを示唆していなかった。しかし、処置中、外科医はより遠隔のリンパ節で予期しない蛍光を観察した。したがって、外科医は、生検を実施することができ、それにより、がんが広がっていることを確認し、その結果、リアルタイムで患者を再病期分類し、根治的リンパ節摘出を実施した。処置の最後に、外科医はがんの痕跡を全て取り除いた。
【0082】
実施例3.転移性拡散の特定
患者は、原発性腫瘍の放射線治療後、腫瘍の再増殖を経験したが、患者のスキャンでは転移性拡散を示さなかった。ここでは、患者に、手術の約18.5時間前にVGT-309を0.32mg/kg投与し、外科医は以前に特定された腫瘍を迅速に特定して除去することができた。原発性腫瘍を除去することに加えて、患者には手術前にVGT-309を投与したため、外科医はまた、NIRを使用して追加の腫瘍を特定することができた。通常の白色光の下で視覚化すると、患者の肺組織はいくつかの異常の兆候を示したが、異常は必ずしもがん性組織を示すものではない。しかしながら、NIRでは、この異常な肺組織は実際にはがん性であることが確認された。
【0083】
実施例4.腫瘍除去中の臨床的意義のある事象の増加
VGT-309及びNIRの使用は、除去処置中の臨床的に有意な事象(CSE)の可能性を実質的に増加させることが示された。明確にするために、この関連におけるCSEは、イメージング剤が、手術中に意思決定をより良い方向に変える能力を有することを示すために、臨床試験において主要評価項目として使用されているという点で良好である。CSEは、VGT-309などのイメージング剤が診断及び治療プロセスに臨床的利益を追加するかどうかを測定する1つの方法である。この関連において、CSEは一般的に次の3つのカテゴリのいずれかに分類される:(1)見つけにくい腫瘍の局在化、(2)陽性切除辺縁の特定、並びに(3)既存の技術を使用して以前に検出されなかった追加の原発性及び転移性病変の特定。試験では、VGT-309は、開発中の他の同等のイメージング剤と比較してCSEを増加させることが示された。オーストラリアでのVGT-309の第II相試験では、患者の3分の1がCSEを経験し、これは、患者の約4分の1がCSEを経験した同等のイメージング剤の第II相試験からの結果よりも優れている。したがって、VGT-309はCSEの頻度を増加させており、これはVGT-309は、外科医が(1)原発性腫瘍を特定及び局在化し、(2)明白な辺縁で腫瘍を切除し、かつ(3)追加の不明の原発性及び転移性病変を特定するのを助ける上で有効であることを示す。
【0084】
本開示のいくつかの実施形態は、以下のうちの1つ以上を考慮して説明され得る。
【0085】
実施形態1.低侵襲経路を介して、分子イメージング剤が静脈内投与されている患者に器具をナビゲートして、器具を組織異常の領域に位置付けることと、器具を介して、近赤外線(NIR)光の下で領域内の組織を視覚化することであって、分子イメージング剤が、投与されていると、領域内の異常組織をNIR光の下で蛍光発光させ、蛍光発光する異常組織を領域内に局在化させることを可能にする、視覚化することと、任意選択で、次いで、局在化された蛍光発光する異常組織を診断及び/又は治療することと、を含む、方法。
【0086】
実施形態2.低侵襲経路を介してナビゲートすることが、管腔内処置である、実施形態1に記載の方法。
【0087】
実施形態3.組織異常の領域が、1つ以上の術前スキャンから特定される、実施形態1又は2に記載の方法。
【0088】
実施形態4.器具が生検針又は他の生検ツールを含み、診断及び/又は治療することが、局在化された蛍光発光する異常組織から1つ以上の生検試料を収集することを含む、実施形態1~3のいずれか1つに記載の方法。
【0089】
実施形態5.診断及び/又は治療することが、局在化された蛍光発光する異常組織(例えば、がん性組織)の切除又は破壊を含む、実施形態1~4のいずれか1つに記載の方法。
【0090】
実施形態6.局所化された蛍光発光する異常組織の破壊が、(i)局所化された蛍光発光する異常組織への(例えば、熱、マイクロ波、RF(高周波)エネルギー、レーザー、超音波、又はヒストトリプシーによる)アブレーション、及び/又は(ii)薬物(例えば、化学療法剤、抗体、免疫腫瘍剤、腫瘍溶解性ウイルス、細胞療法)の局所投与を含む、実施形態5に記載の方法。
【0091】
実施形態7.組織異常が、辺縁の定義が不十分な腫瘍を含む、実施形態1~6のいずれか1つに記載の方法。
【0092】
実施形態8.局在化された蛍光発光する異常組織が、患者の肺内にある、実施形態1~7のいずれか1つに記載の方法。
【0093】
実施形態9.局在化された蛍光発光する異常組織が、気管支の外部の結節を含む、実施形態8に記載の方法。
【0094】
実施形態10.器具が軟性気管支鏡を含み、ナビゲートすることが、軟性気管支鏡を患者の気道を通して誘導することを含む、実施形態8又は9に記載の方法。
【0095】
実施形態11.局在化された蛍光発光する異常組織が、患者の結腸内にある、実施形態1~7のいずれか1つに記載の方法。
【0096】
実施形態12.局在化された蛍光発光する異常組織が、平坦病変又は陥没病変を含む、実施形態11に記載の方法。
【0097】
実施形態13.器具が内視鏡を含み、ナビゲートすることが内視鏡を患者の結腸を通して誘導することを含む、実施形態11又は12に記載の方法。
【0098】
実施形態14.NIR対応共焦点顕微鏡が蛍光発光する組織内に挿入されて、組織異常内の生細胞及びそれらの組織化を直接視覚化する、実施形態1~13のいずれか1つに記載の方法。
【0099】
実施形態15.術前マーキング処置なしで行われる、実施形態1~14のいずれか1つに記載の方法。
【0100】
実施形態16.分子イメージング剤が、ナビゲートの2時間~7日前、又は2時間~4日前に投与される、実施形態1~15のいずれか1つに記載の方法。
【0101】
実施形態17.分子イメージング剤が、ナビゲートの12時間~36時間前に投与される、実施形態16に記載の方法。
【0102】
実施形態18.分子イメージング剤が、0.01mg/kg~0.7mg/kgの用量で患者に投与される、実施形態1~17のいずれか1つに記載の方法。
【0103】
実施形態19.用量が、0.015mg/kg~0.65mg/kg、例えば、0.15mg/kg~0.65mg/kgである、実施形態18に記載の方法。
【0104】
実施形態20.用量が、0.1mg/kg~0.6mg/kg、例えば、0.3mg/kg~0.5mg/kgである、実施形態18に記載の方法。
【0105】
実施形態21.分子イメージング剤が、固形腫瘍内で上方制御されるか、又は正常な組織内よりも多い量で固形腫瘍内に存在する標的分子に共有結合するように構成されている、実施形態1~20のいずれか1つに記載の方法。
【0106】
実施形態22.分子イメージング剤が、カテプシンに結合するように構成されている、実施形態1~21のいずれか1つに記載の方法。
【0107】
実施形態23.分子イメージング剤が、VGT-309を含む、実施形態1~22のいずれか1つに記載の方法。
【0108】
実施形態24.局在化された蛍光発光する異常組織が、悪性、又はがん性である、実施形態1~23のいずれか1つに記載の方法。
【0109】
実施形態25.方法であって、管腔内経路を介して、VGT-309が静脈内投与されている患者に器具をナビゲートして、器具を標的領域に位置付けることと、器具を介して、近赤外線(NIR)光の下で標的領域を視覚化することと、標的領域内の任意の異常組織の位置を、NIR光の下でVGT-309によって引き起こされる異常組織の蛍光によってリアルタイムで特定することと、を含む、方法。
【0110】
実施形態26.VGT-309が、ナビゲートの2時間~4日前に投与される、実施形態25に記載の方法。
【0111】
実施形態27.VGT-309が、ナビゲートの12時間~36時間前に投与される、実施形態26に記載の方法。
【0112】
実施形態28.VGT-309が、0.01mg/kg~0.7mg/kg、例えば、0.1mg/kg~0.7mg/kg、0.2mg/kg~0.6mg/kg、又は0.3mg/kg~0.5mg/kgの用量で患者に投与される、実施形態25~28のいずれか1つに記載の方法。
【0113】
実施形態29.生検を実施する方法であって、患者の術前スキャンで組織異常を特定することと、分子イメージング剤を患者に静脈内投与することと、生検針を組織異常の位置までナビゲートすることと、近赤外線(NIR)光の下で組織を視覚化することであって、分子イメージング剤が、当該位置の異常組織をNIR光の下で蛍光発光させる、視覚化することと、蛍光発光する組織から1つ以上の生検試料を収集することと、を含み、生検針が、低侵襲経路を介して当該位置にナビゲートされ、蛍光組織が、(i)生検針のナビゲート、及び/又は(ii)1つ以上の生検試料の収集を誘導する、方法。
【0114】
実施形態30.患者の腫瘍を除去又は破壊する方法であって、方法が、分子イメージング剤を患者に静脈内投与することと、術前スキャン及び/又は生検によって示されるように、外科用器具を腫瘍の位置にナビゲートすることと、近赤外線(NIR)光の下で当該位置の組織を視覚化することであって、分子イメージング剤が、当該位置の腫瘍内のがん性組織をNIR光の下で蛍光発光させるのに有効である、視覚化することと、次いで、外科用器具を使用して、腫瘍の蛍光発光する組織を切除又は破壊することと、を含み、外科用器具が、低侵襲経路を介して当該位置にナビゲートされ、蛍光組織が、(i)外科用器具のナビゲート、及び/又は(ii)切除又は破壊することを誘導する、方法。
【0115】
実施形態31.分子イメージング剤が、ナビゲートの2時間~4日前に投与される、実施形態29又は30に記載の方法。
【0116】
実施形態32.分子イメージング剤が、ナビゲートの12時間~36時間前に投与される、実施形態31に記載の方法。
【0117】
実施形態33.分子イメージング剤が、0.01mg/kg~0.7mg/kg、例えば、0.1mg/kg~0.7mg/kg、0.2mg/kg~0.6mg/kg、又は0.3mg/kg~0.5mg/kgの用量で患者に投与される、実施形態29~32のいずれか1つに記載の方法。
【0118】
実施形態34.分子イメージング剤が、固形腫瘍内で上方制御されるか、又は正常な組織内よりも多い量で固形腫瘍内に存在する標的分子に共有結合するように構成されている、実施形態29~33のいずれか1つに記載の方法。
【0119】
実施形態35.分子イメージング剤が、カテプシンに結合するように構成されている、実施形態29~34のいずれか1つに記載の方法。
【0120】
実施形態36.分子イメージング剤が、VGT-309(例えば、VGT-309の薬学的に許容される塩)を含む、実施形態29~35のいずれか1つに記載の方法。
【国際調査報告】