(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-28
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池、電池と電力消費装置
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20250220BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20250220BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20250220BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20250220BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20250220BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20250220BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20250220BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20250220BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20250220BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20250220BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0568
H01M4/525
H01M4/505
H01M10/0567
H01M10/0569
H01M4/587
H01M4/38 Z
H01M4/36 E
H01M4/13
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024543966
(86)(22)【出願日】2024-02-05
(85)【翻訳文提出日】2024-07-24
(86)【国際出願番号】 CN2024075983
(87)【国際公開番号】W WO2024153255
(87)【国際公開日】2024-07-25
(31)【優先権主張番号】202311422403.0
(32)【優先日】2023-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513196256
【氏名又は名称】寧徳時代新能源科技股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Contemporary Amperex Technology Co., Limited
【住所又は居所原語表記】No.2,Xingang Road,Zhangwan Town,Jiaocheng District,Ningde City,Fujian Province,P.R.China 352100
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲呉▼ ▲則▼利
(72)【発明者】
【氏名】▲韓▼ 昌隆
(72)【発明者】
【氏名】姜 彬
(72)【発明者】
【氏名】郭 ▲潔▼
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL11
5H029AM03
5H029AM07
5H029DJ17
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ03
5H029HJ08
5H029HJ12
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA08
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB29
5H050EA10
5H050EA23
5H050EA24
5H050EA28
5H050FA19
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA03
5H050HA08
5H050HA12
(57)【要約】
本出願は、リチウムイオン電池、電池と電力消費装置に関し、前記リチウムイオン電池は、電解液及び正極極板を含み、電解液は、リチウム塩を含み、リチウム塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウムを含み、ヘキサフルオロリン酸リチウムの、電解液の総質量に対する質量含有量は、15%から20%であり、正極極板は、正極集電体と正極集電体の少なくとも一方側に設けられ且つ正極活物質を含有する正極膜層とを含み、正極活物質は、分子式がLidNiaCobMncM(1-a-b-c)Qzである化合物を含み、ここで、0<d≦2.1、0.6<a<1、0<b<1、0<c<1、且つ0.6<a+b+c<1であり、1.8≦z≦3.5であり、M元素は、B、Mg、Al、Si、P、S、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Cd、Sn、Sb、Te、Ba、Ta、W、Yb、La、Ceのうちの少なくとも一つの元素を含み、Q元素は、O、Fのうちの少なくとも一つの元素を含む。本出願は、リチウムイオン電池のサイクル性能を改善することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池であって、
電解液であって、リチウム塩を含み、前記リチウム塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウムを含み、前記ヘキサフルオロリン酸リチウムの、前記電解液の総質量に対する質量含有量は、15%から20%である電解液と、
正極極板であって、正極集電体及び前記正極集電体の少なくとも一方側に設けられ且つ正極活物質を含有する正極膜層を含み、前記正極活物質は、分子式がLi
dNi
aCo
bMn
cM
(1-a-b-c)Q
zである化合物を含み、ここで、0<d≦2.1、0.6<a<1、0<b<1、0<c<1、且つ0.6<a+b+c<1、1.8≦z≦3.5であり、M元素は、B、Mg、Al、Si、P、S、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Cd、Sn、Sb、Te、Ba、Ta、W、Yb、La、Ceのうちの少なくとも一つの元素を含み、Q元素は、O、Fのうちの少なくとも一つの元素を含む正極極板とを含む、リチウムイオン電池。
【請求項2】
M元素は、Ti及びZrのうちの少なくとも一つの元素を含み、
前記電解液は、第一の添加剤を含み、前記第一の添加剤は、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウムLiDFOB及びテトラフルオロホウ酸リチウムLiBF
4のうちの少なくとも一つを含む、請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項3】
M元素は、Ti及びZr元素を含む、請求項2に記載のリチウムイオン電池。
【請求項4】
前記電解液の総質量を基準として、前記第一の添加剤の質量含有量は、30ppmから1200ppmであり、
前記正極活物質の総質量を基準として、Ti元素の質量含有量は、100ppmから600ppmであり、及び/又は
前記正極活物質の総質量を基準として、Zr元素の質量含有量は、500ppmから2550ppmである、請求項2又は3に記載のリチウムイオン電池。
【請求項5】
前記正極活物質は、単結晶粒子を含み、前記単結晶粒子は、内領域及び外領域を含み、前記外領域は、前記単結晶粒子の外面におけるいずれか点から前記単結晶粒子の内部に直接向かって500nm延伸する領域であり、
M元素は、少なくとも前記外領域に分布しているAl元素を含む、請求項1から4のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項6】
前記電解液は、第二の添加剤を含み、前記第二の添加剤は、ジフルオロリン酸リチウムを含む、請求項5に記載のリチウムイオン電池。
【請求項7】
前記正極活物質の総質量を基準として、Al元素の質量含有量は、500ppmから3000ppmであり、
前記電解液の総質量を基準として、前記第二の添加剤の質量含有量は、100ppmから3000ppmである、請求項6に記載のリチウムイオン電池。
【請求項8】
M元素は、P、S及びBのうちの少なくとも一つの元素をさらに含み、ここで、P、S及びB元素のうちの少なくとも一つは、前記外領域に分布し、
前記電解液は、第三の添加剤を含み、前記第三の添加剤は、フルオロスルホン酸リチウムを含む、請求項5から7のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項9】
前記正極活物質の総質量を基準として、P、S及びB元素の総質量含有量は10ppmから800ppmであり、
前記電解液の総質量を基準として、前記第三の添加剤の質量含有量は、50ppmから200ppmである、請求項8に記載のリチウムイオン電池。
【請求項10】
前記電解液は、環状カーボネートを含み、前記電解液の総質量を基準として、前記環状カーボネートの質量含有量と前記ヘキサフルオロリン酸リチウムの質量含有量との比は(0.60から2.50):1である、請求項1から9のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項11】
前記電解液の総質量を基準として、前記環状カーボネートの質量含有量と前記ヘキサフルオロリン酸リチウムの質量含有量との比は、(1.00から1.65):1である、請求項10に記載のリチウムイオン電池。
【請求項12】
前記電解液の総質量を基準として、前記環状カーボネートの質量含有量は、20%から30%であり、及び/又は
前記環状カーボネートは、エチレンカーボネートEC、プロピレンカーボネートPC、ブチレンカーボネートBCのうちの少なくとも一つを含む、請求項10又は11に記載のリチウムイオン電池。
【請求項13】
前記リチウムイオン電池は、負極極板をさらに含み、前記負極極板は、負極集電体及び前記負極集電体の少なくとも一方側に設けられ且つ負極活物質を含有する負極膜層を含み、前記負極活物質は、炭素元素及びケイ素元素を含み、前記負極活物質の総質量を基準として、前記ケイ素元素の質量含有量と前記炭素元素の質量含有量との比は、(0.3:99.7)から(3:97)である、請求項1から12のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項14】
前記電解液は、フッ素化環状カーボネートを含み、前記フッ素化環状カーボネートの、前記電解液の総質量に対する質量含有量と、前記ケイ素元素の質量含有量との比は、(0.5から9.5):1である、請求項13に記載のリチウムイオン電池。
【請求項15】
前記フッ素化環状カーボネートの、前記電解液の総質量に対する質量含有量と、前記ケイ素元素の質量含有量との比は、(1から2):1である、請求項14に記載のリチウムイオン電池。
【請求項16】
前記電解液の総質量を基準として、前記フッ素化環状カーボネートの質量含有量は、0.95%から5.8%であり、及び/又は
前記フッ素化環状カーボネートは、モノフルオロエチレンカーボネートFEC、ビスフルオロエチレンカーボネートDFEC、トリフルオロプロピレンカーボネートTFPCとのうちの少なくとも一つを含む、請求項14又は15に記載のリチウムイオン電池。
【請求項17】
前記電解液の総質量を基準として、前記フッ素化環状カーボネートの質量含有量は、1.5%から3%であり、及び/又は
前記フッ素化環状カーボネートは、モノフルオロエチレンカーボネートFECを含む、請求項16に記載のリチウムイオン電池。
【請求項18】
前記正極膜層の圧密密度と前記負極膜層の圧密密度との比は、(2から2.5):1である、請求項13から17のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項19】
前記電解液は、第四の添加剤をさらに含み、前記第四の添加剤は、1,3-プロパンスルトンPS、ビニレンカーボネートVCとフルオロスルホン酸リチウムLiSO
3Fのうちの少なくとも一つを含む、請求項1から18のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項20】
前記電解液の総質量を基準として、前記1,3-プロパンスルトンPSの質量含有量は、0.1%から1%であり、及び/又は
前記電解液の総質量を基準として、前記ビニレンカーボネートVCの質量含有量は、0.1%から1%である、請求項19に記載のリチウムイオン電池。
【請求項21】
請求項1から20のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池を含む、電池。
【請求項22】
請求項21に記載の電池を含む、電力消費装置。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2023年10月30日に提出された、名称が「リチウムイオン電池、電池と電力消費装置」である中国特許出願202311422403.0の優先権を主張しており、同出願の内容の全ては、ここに参照として取り込まれる。
【技術分野】
【0002】
本出願は、リチウムイオン電池、電池と電力消費装置に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン電池は、容量が高く、寿命が長いなどの特性を有するため、電子機器、例えば携帯電話、ノートパソコン、バッテリ車、電気自動車、電気飛行機、電気汽船、電動玩具自動車、電動玩具汽船、電動玩具飛行機と電動工具などに広く応用されている。リチウムイオン電池は、大きな進展を遂げているため、リチウムイオン電池の性能に対してより高い要求が提起されている。
【0004】
しかしながら、現在リチウムイオン電池のサイクル性能は、依然として低い。
【発明の概要】
【0005】
本出願は、リチウムイオン電池、電池と電力消費装置を提供し、本出願に記載のリチウムイオン電池のサイクル性能は、比較的低い。
【0006】
第一の態様によれば、本出願の実施形態は、リチウムイオン電池を提供し、前記リチウムイオン電池は、電解液及び正極極板を含み、電解液は、リチウム塩を含み、リチウム塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウムを含み、ヘキサフルオロリン酸リチウムの、電解液の総質量に対する質量含有量は、15%から20%であり、正極極板は、正極集電体と正極集電体の少なくとも一方側に設けられ且つ正極活物質を含有する正極膜層とを含有し、正極活物質は、分子式がLidNiaCobMncM(1-a-b-c)Qzである化合物を含み、ここで、0<d≦2.1、0.6<a<1、0<b<1、0<c<1、且つ0.6<a+b+c<1、1.8≦z≦3.5であり、M元素は、B、Mg、Al、Si、P、S、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Cd、Sn、Sb、Te、Ba、Ta、W、Yb、La、Ceのうちの少なくとも一つの元素を含み、Q元素は、O、Fのうちの少なくとも一つの元素を含む。
【0007】
これにより、本出願の実施形態における正極活物質のニッケル元素含有量は、比較的高く、正極活物質構造の安定性を向上させるために、本出願の実施形態の正極活物質は、M元素をさらに含み、M元素の導入は、正極活物質結晶構造の安定性を向上させ、リチウムイオン電池のサイクル性能を向上させることができ、しかしサイクルの進行に伴い、正極活物質における金属元素及び非金属元素は、いずれも溶出するリスクがあり、溶出した金属元素及び非金属元素は、電解液を介して負極極板の表面に移動することができ、負極極板の表面の固体電解質界面(Solid Electrolyte Interphase、SEI)膜を破壊し、且つ負極極板の表面に金属単体として析出する可能性があり、それによりサイクル性能を悪化させ、本出願の実施形態は、さらに高含有量のヘキサフルオロリン酸リチウムを組み合わせ、ヘキサフルオロリン酸リチウムLiPF6の、電解液の総質量に対する質量含有量は、15%から20%であり、高含有量のヘキサフルオロリン酸リチウムは、正極活物質の表面にフッ化リチウムLiFを主な膜成分とする保護層を形成することができ、それにより金属元素及び非金属元素の溶出をある程度緩和し、リチウムイオン電池のサイクル性能をさらに改善することができる。
【0008】
いくつかの実施形態では、M元素は、Ti及びZrのうちの少なくとも一つの元素を含み、電解液は、第一の添加剤を含み、第一の添加剤は、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウムLiDFOB及びテトラフルオロホウ酸リチウムLiBF4のうちの少なくとも一つを含む。
【0009】
これにより、リチウムイオン電池のサイクル後期において、正極活物質における金属イオン例えばTi及びZrイオンは、電解液に溶出し且つ負極極板の表面に移動するリスクを有し、第一の添加剤は、フッ素イオン及びホウ素イオンを含み、フッ素イオン及びホウ素イオンは、上記金属イオンと比較的強い結合能力を有し、金属イオンが負極極板の表面に移動するリスクを低減させ、リチウムイオン電池のサイクル性能を向上させることができ、且つTi及びZrイオンは、材料の構造安定性を向上させることができるが、リチウムイオンの結晶格子内における伝導に悪影響を与えてパワーの劣化を引き起こす可能性があり、第一の添加剤は、さらにTi及びZrイオンによるパワーの劣化を補うことができる。
【0010】
いくつかの実施形態では、M元素は、Ti及びZr元素を含む。MがTi及びZr元素を同時に含む場合、二種類の元素を併用し、材料構造をさらに安定させ、サイクル性能を向上させることができる。
【0011】
いくつかの実施形態では、正極活物質の総質量を基準として、Ti元素の質量含有量は、100ppmから600ppmであり、及び/又は正極活物質の総質量を基準として、Zr元素の質量含有量は、500ppmから2550ppmであり、電解液の総質量を基準として、第一の添加剤の質量含有量は、30ppmから1200ppmであり、選択的に100ppmから400ppmである。
【0012】
いくつかの実施形態では、正極活物質は、単結晶粒子を含み、単結晶粒子は、内領域及び外領域を含み、外領域は、単結晶粒子の外面におけるいずれか点から単結晶粒子の内部に直接向かって500nm延伸する領域であり、M元素は、Al元素を含み、Al元素は、少なくとも外領域に分布している。アルミニウムAl元素は、少なくとも外領域に分布し、正極活物質に酸化アルミニウムAl2O3を形成することに役立ち、正極活物質と電解液との間の副反応を不動態化し、正極活物質構造の安定性をさらに向上させ、リチウムイオン電池のサイクル性能を向上させることができる。
【0013】
いくつかの実施形態では、電解液は、第二の添加剤を含み、第二の添加剤は、ジフルオロリン酸リチウムを含む。ジフルオロリン酸リチウムLiPO2F2は、正極活物質におけるAl元素と組み合わせ、正極活物質の表面のDCRを改善し、界面パワーを向上させることができる。
【0014】
いくつかの実施形態では、正極活物質の総質量を基準として、Al元素の質量含有量は、500ppmから3000ppmであり、電解液の総質量を基準として、第二の添加剤の質量含有量は、100ppmから3000ppmである。
【0015】
いくつかの実施形態では、M元素は、P、S及びBのうちの少なくとも一つの元素をさらに含み、ここで、P、S及びB元素のうちの少なくとも一つは、外領域に分布し、電解液は、第三の添加剤を含み、第三の添加剤は、フルオロスルホン酸リチウムを含む。リンP、硫黄S及びホウ素B元素は、酸素層に吸蔵し、リチウムを安定させる作用を果たし、これにより正極活物質構造の安定性を向上させ、リチウムイオン電池のサイクル性能を向上させることができる。
【0016】
いくつかの実施形態では、正極活物質の総質量を基準として、P、S及びB元素の総質量含有量は、10ppmから800ppmであり、電解液の総質量を基準として、第三の添加剤の質量含有量は、50ppmから200ppmである。第三の添加剤は、正極活物質におけるリンP、硫黄S及びホウ素B元素と組み合わせ、正極活物質の表面のDCRを低下させ、界面パワーを向上させることができる。
【0017】
いくつかの実施形態では、電解液は、環状カーボネートを含み、電解液の総質量を基準として、環状カーボネートの質量含有量とヘキサフルオロリン酸リチウムの質量含有量との比は、(0.60から2.50):1であり、選択的に(1.00から1.65):1である。環状カーボネートの質量含有量とヘキサフルオロリン酸リチウムの質量含有量との比が上記範囲にある場合、ヘキサフルオロリン酸リチウムからより多くのリチウムイオンを十分に解離させることに有利であり、それにより低SOCの放電末期においても、電解液系により多くのリチウムイオンを含有させることができ、且つリチウムイオンを電池反応の進行に伴って連続的に解離させることができ、電池のパワー性能を改善する。
【0018】
いくつかの実施形態では、前記電解液の総質量を基準として、環状カーボネートの質量含有量は、20%から30%であり、及び/又は環状カーボネートは、エチレンカーボネートEC、プロピレンカーボネートPC、ブチレンカーボネートBCのうちの少なくとも一つを含む。環状カーボネートは、誘電率が高く、イオン伝導率が高く、負極活物質の表面に安定したSEI膜を形成することができる。
【0019】
いくつかの実施形態では、リチウムイオン電池は、負極極板をさらに含み、負極極板は、負極集電体及び負極集電体の少なくとも一方側に設けられ且つ負極活物質を含有する負極膜層を含有し、負極活物質は、炭素元素及びケイ素元素を含み、負極活物質の総質量を基準として、ケイ素元素の質量含有量と炭素元素の質量含有量との比は、(0.3:99.7)から(3:97)である。
【0020】
これにより、負極活物質は、同時に炭素系材料及びシリコン系材料を含み、炭素系材料に比べて、シリコン系材料のリチウム放出電圧プラトーが比較的高いため、そのため低SOC下(例えばSOC≦10%)でもシリコン系材料は、依然として放電に関与し続けることができ、炭素系材料が低SOCで放電しにくい/放電し続けることができないという不足を補い、電池の放電過程における直流内部抵抗DCRを改善し、さらに電池の放電過程におけるパワー性能を改善する。本出願の実施形態の電解液は、さらに15%から20%のヘキサフルオロリン酸リチウムを組み合わせて使用し、電解液と負極との協同作用により、電池の放電末期のパワー性能を向上させる。
【0021】
いくつかの実施形態では、電解液は、フッ素化環状カーボネートを含み、フッ素化環状カーボネートの、電解液の総質量に対する質量含有量と、ケイ素元素の質量含有量との比は、(0.5から9.5):1であり、選択的に(1から2):1である。
【0022】
これにより、フッ素化環状カーボネートは、負極活物質の表面にSEI膜の形成に関与することができ、膜成分と特性を改善し、負極活物質を効果的に保護することができ、特に負極がケイ素を含有する場合、ケイ素が膨張する特性のため、SEI膜形成の膜組成をより最適化する必要があり、膜組成の最適化は、電解液における膜形成添加剤の相対比率を調節することによって調節し、フッ素化環状カーボネートが形成する膜に関与してSEI膜の柔軟性を向上させることができ、放電末期にケイ素が短時間で大量のリチウムイオンを放出することによる構造崩壊を改善することができ、且つフッ素化環状カーボネートは、一定の脱溶媒能力を有し、リチウムイオンの移動に有利であり、低SOCでのDCRを改善し、放電パワーを向上させることができる。
【0023】
いくつかの実施形態では、前記電解液の総質量を基準として、フッ素化環状カーボネートの質量含有量は、0.95%から5.8%であり、選択的に1.5%から3%であり、及び/又はフッ素化環状カーボネートは、モノフルオロエチレンカーボネートFEC、ビスフルオロエチレンカーボネートDFEC、トリフルオロプロピレンカーボネートTFPCのうちの少なくとも一つを含み、選択的に、フッ素化環状カーボネートは、モノフルオロエチレンカーボネートFECを含む。
【0024】
いくつかの実施形態では、正極膜層の圧密密度と負極膜層の圧密密度との比は、(2から2.5):1である。選択的に、正極膜層の圧密密度が3.0g/cm3から3.5g/cm3であり、負極膜層の圧密密度が1.3g/cm3から1.7g/cm3である。
【0025】
いくつかの実施形態では、電解液は、第四の添加剤をさらに含み、第四の添加剤は、1,3-プロパンスルトンPS、ビニレンカーボネートVCとフルオロスルホン酸リチウムLiSO3Fのうちの少なくとも一つを含む。上記成分は、基本的に負極活物質の表面にSEI膜の形成に関与することができ、SEI膜は、シリコン系材料の膨張を効果的に緩和することができる。
【0026】
いくつかの実施形態では、前記電解液の総質量を基準として、1,3-プロパンスルトンPSの質量含有量は、0.1%から1%であり、及び/又は前記電解液の総質量を基準として、ビニレンカーボネートVCの質量含有量は、0.1%から1%であり、及び/又は前記電解液の総質量を基準として、フルオロスルホン酸リチウムLiSO3Fの質量含有量は、0.1%から1%である。
【0027】
第二の態様によれば、本出願は、本出願の第一の態様のいずれかの実施形態に記載のリチウムイオン電池を含む電池をさらに提供する。
【0028】
第三の態様によれば、本出願は、電力消費装置をさらに提供し、この電力消費装置は、本出願の第二の態様のいずれか一つの実施形態に記載の電池を含む。
【図面の簡単な説明】
【0029】
本出願の実施例の技術案をより明瞭に説明するために、以下は、本出願の実施例において使用される必要のある図面を簡単に紹介し、自明なことに、以下の記述における図面は、ただ本出願のいくつかの実施例に過ぎず、当業者にとって、創造的な労力を払わない前提で、図面に基づいて他の図面を得ることもできる。
【
図1】本出願のリチウムイオン電池の一実施形態の概略図である。
【
図2】
図1のリチウムイオン電池の実施形態の分解概略図である。
【
図3】本出願の電池モジュールの一実施形態の概略図である。
【
図4】本出願の電池パックの一実施形態の概略図である。
【
図5】
図4に示す電池パックの実施形態の分解概略図である。
【
図6】本出願のリチウムイオン電池を電源とする電力消費装置を含む一実施形態の概略図である。 図面は必ずしも実際の縮尺で描かれていない。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を適当に参照しながら、本出願のリチウムイオン電池、電池と電力消費装置を具体的に開示した実施形態を詳細に説明する。しかしながら、必要のない詳細な説明を省略する場合がある。例えば、周知の事項に対する詳細な説明、実際に同じである構造に対する繰り返し説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になることを回避し、当業者に容易に理解させるためである。なお、図面及び以下の説明は、当業者に本出願を十分に理解させるために提供されるものであり、特許請求の範囲に記載されたテーマを限定することを意図するものではない。
【0031】
本出願に開示された「範囲」は、下限と上限の形式で限定され、与えられた範囲は、一つの下限と一つの上限を選定することで限定されるものであり、選定された下限と上限は、特定の範囲の境界を限定した。このように限定される範囲は、限度値を含むものか又は含まないものであってもよく、且つ任意の組み合わせが可能であり、即ち任意の下限は、任意の上限と組み合わせて、一つの範囲を形成してもよい。例えば、特定のパラメータに対して60から120と80から110の範囲がリストアップされている場合、60から110と80から120の範囲も想定できると理解される。なお、最小範囲値として1と2がリストアップされており、最大範囲値として3、4及び5がリストアップされている場合、1から3、1から4、1から5、2から3、2から4と2から5というような範囲がすべて想定できる。本出願では、特に断りのない限り、数値範囲「aからb」は、aからbの間のいずれかの実数の組み合わせの短縮表現を表し、ここで、aとbはいずれも実数である。例えば、数値範囲「0から5」は、本明細書においてすでに「0から5」の間のすべての実数をリストアップしたことを表し、「0から5」は、これらの数値の組み合わせの短縮表現だけである。また、あるパラメータを≧2の整数として表現すると、このパラメータが例えば整数2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12などであることを開示していることに相当する。
【0032】
特に説明しない場合、本出願のすべての実施形態及び選択的な実施形態は、互いに組み合わせて新たな技術案を形成することができる。
【0033】
特に説明しない場合、本出願のすべての技術的特徴及び選択的な技術的特徴は、互いに組み合わせて新たな技術案を形成することができる。
【0034】
特に説明しない場合、本出願のすべてのステップは、順番に行われてもよく、ランダムに行われてもよく、好ましくは、順番に行われる。例えば、前記方法がステップ(a)と(b)とを含むことは、前記方法が、順番に行われるステップ(a)と(b)とを含んでもよく、順番に行われるステップ(b)と(a)とを含んでもよいことを表す。例えば、以上に言及された前記方法がステップ(c)をさらに含んでもよいことは、ステップ(c)が任意の順序で前記方法に追加されてもよいことを表し、例えば前記方法は、ステップ(a)、(b)及び(c)を含んでもよく、ステップ(a)、(c)及び(b)を含んでもよく、ステップ(c)、(a)及び(b)などを含んでもよい。
【0035】
充放電電池は、一般的にイオン型電池及び金属型電池を含み、金属型電池は、例えばリチウム金属電池及びナトリウム金属電池の場合、その負極の活性性が比較的高く、デンドライトを生成するリスクが比較的高くて、電池の使用信頼性が比較的低くなる。イオン型電池は、比較的高い使用信頼性を有するため広く応用されている。
【0036】
リチウムイオン電池は、一般的に電極アセンブリ及び電解液を含み、電極アセンブリは、正極極板、負極極板及びセパレータを含み、セパレータは、正極極板と負極極板との間に設けられて正極極板と負極極板を隔離し、正極極板は、正極活物質を含有する正極膜層を含み、正極活物質は、リチウムイオン電池がリチウムイオンを提供する供与体であり、負極極板は、負極活物質を含有する負極膜層を含み、負極活物質は、リチウムイオンの受容体とすることができ、電解液は、リチウムイオンの正極極板と負極極板との間の移動経路を提供する。
【0037】
リチウムイオン電池のエネルギー密度を向上させるために、一般的に容量が比較的高い正極活物質を用い、例えば正極活物質におけるニッケル元素含有量を向上させるが、ニッケル元素含有量の増加に伴い、正極活物質は、サイクル過程において構造が微小亀裂を生成しやすく、正極活物質構造の破壊ひいては崩壊を引き起こし、特にサイクル後期では、正極活物質の累積破壊度が増大して、サイクル性能が悪くなる。
【0038】
上記問題に鑑み、本出願の実施形態は、リチウムイオン電池を提供し、このリチウムイオン電池の正極活物質は、分子式がLidNiaCobMncM(1-a-b-c)Yzである化合物を含み、ここで、0<d≦2.1、0.6<a<1、0<b<1、0<c<1、且つ0.6<a+b+c≦1、1.8≦z≦3.5であり、M元素は、B、Mg、Al、Si、P、S、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Cd、Sn、Sb、Te、Ba、Ta、W、Yb、La、Ceのうちの少なくとも一つの元素を含み、Y元素は、O、Fのうちの少なくとも一つの元素を含み、この正極活物質のニッケル元素含有量が比較的高く、正極活物質構造の安定性を向上させるために、本出願の実施形態の正極活物質は、M元素をさらに含み、M元素の導入は、正極活物質結晶構造の安定性を向上させ、リチウムイオン電池のサイクル性能を向上させることができ、しかしサイクルの進行に伴い、正極活物質における金属元素及び非金属元素は、いずれも溶出するリスクがあり、溶出した金属元素及び非金属元素は、電解液を介して負極極板の表面に移動してサイクル寿命を劣化させることができ、本出願の実施形態は、さらに高含有量のヘキサフルオロリン酸リチウムを組み合わせ、ヘキサフルオロリン酸リチウムLiPF6の、電解液の総質量に対する質量含有量は、15%から20%であり、高含有量のヘキサフルオロリン酸リチウムは、正極活物質の表面にフッ化リチウムLiFを主な膜成分とする保護層を形成することができ、それにより金属元素及び非金属元素の溶出をある程度緩和し、リチウムイオン電池のサイクル性能をさらに改善することができる。次に本出願の技術案について詳細に説明する。
【0039】
リチウムイオン電池
第一の態様によれば、本出願の実施形態は、リチウムイオン電池を提供し、リチウムイオン電池は、電解液及び正極極板を含み、電解液は、リチウム塩を含み、リチウム塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウムを含み、ヘキサフルオロリン酸リチウムの、電解液の総質量に対する質量含有量は、15%から20%であり、正極極板は、正極集電体と正極集電体の少なくとも一方側に設けられ且つ正極活物質を含有する正極膜層とを含有し、正極活物質は、分子式がLidNiaCobMncM(1-a-b-c)Qzである化合物を含み、ここで、0<d≦2.1、0.6<a<1、0<b<1、0<c<1、且つ0.6<a+b+c<1、1.8≦z≦3.5であり、M元素は、B、Mg、Al、Si、P、S、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Cd、Sn、Sb、Te、Ba、Ta、W、Yb、La、Ceのうちの少なくとも一つの元素を含み、Q元素は、O、Fのうちの少なくとも一つの元素を含む。
【0040】
正極活物質のニッケル元素含有量が比較的高く、正極活物質構造の安定性を向上させ又は正極活物質の電気性能に有利な他の特性を改善するために、本出願の実施形態の正極活物質は、M元素をさらに含み、M元素の導入は、正極活物質結晶構造の安定性を向上させ、リチウムイオン電池のサイクル性能を向上させることができ、しかしサイクルの進行に伴い、正極活物質における金属元素及び非金属元素は、いずれも溶出するリスクがあり、溶出した金属元素及び非金属元素は、電解液を介して負極極板の表面に移動することができ、負極極板の表面の固体電解質界面(Solid Electrolyte Interphase、SEI)膜を破壊し、且つ負極極板の表面に金属単体として析出する可能性があり、それによりサイクル性能を悪化させ、本出願の実施形態は、さらに高含有量のヘキサフルオロリン酸リチウムを組み合わせ、ヘキサフルオロリン酸リチウムLiPF6の、電解液の総質量に対する質量含有量は、15%から20%であり、高含有量のヘキサフルオロリン酸リチウムは、正極活物質の表面にフッ化リチウムLiFを主な膜成分とする保護層を形成することができ、それにより金属元素及び非金属元素の溶出をある程度緩和し、リチウムイオン電池のサイクル性能をさらに改善することができる。
【0041】
ヘキサフルオロリン酸リチウムの質量含有量が15%よりも小さい場合、正極活物質の表面に対する保護性能が弱まり、そのため、ヘキサフルオロリン酸リチウムの質量含有量を15%以上に調節する必要があり、ヘキサフルオロリン酸リチウムの質量含有量が20%よりも大きい場合、電解液の粘度を顕著に向上させ、負極活物質のバルク内部から表面へのリチウムイオンの移動に不利であり、負極表面から正極表面へのリチウムイオンの移動速度を遅らせ、負極活物質の表面から負極活物質バルクへのリチウムイオンの移動に不利であり、サイクル性能の向上に不利であり、そのため、ヘキサフルオロリン酸リチウムの質量含有量を20%以下に調節する必要があり、例示的に、ヘキサフルオロリン酸リチウムの、電解液の総質量に対する質量含有量は、15%、15.5%、16%、16.5%、17%、17.5%、18%、18.5%、19%、19.5%、20%又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0042】
[正極極板]
いくつかの実施形態では、正極極板は、正極集電体及び正極集電体の少なくとも一方側に設置され且つ正極活物質を含む正極膜層を含む。例えば、正極集電体は、自体の厚さ方向において対向する二つの表面を有し、正極膜層は、正極集電体の二つの対向する表面のうちのいずれか一方又は両方に設置される。
【0043】
正極活物質は、分子式がLidNiaCobMncM(1-a-b-c)Qzである化合物を含み、ここで、0<d≦2.1、0.6<a<1、0<b<1、0<c<1、且つ0.6<a+b+c<1、1.8≦z≦3.5であり、M元素は、B、Mg、Al、Si、P、S、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Cd、Sn、Sb、Te、Ba、Ta、W、Yb、La、Ceのうちの少なくとも一つの元素を含み、Q元素は、O、Fのうちの少なくとも一つの元素を含む。
【0044】
正極活物質は、リチウム元素を含む以外に、ニッケル元素、コバルト元素、マンガン元素及びM元素をさらに含み、ニッケル元素は、正極活物質のグラム容量を向上させることができ、コバルト元素は、正極活物質の結晶構造を安定させる作用を果たすことができ、マンガン元素は、正極活物質全体の構造安定性を向上させることができ、M元素は、正極活物質結晶構造の安定性を改善することができる。
【0045】
いくつかの実施形態では、dは、0.01、0.02、0.05、0.08、0.10、0.12、0.15、0.18、0.20、0.22、0.25、0.28、0.30、0.32、0.35、0.38、0.40、0.42、0.45、0.48、0.50、0.52、0.55、0.58、0.60、0.61、0.62、0.63、0.64、0.65、0.66、0.67、0.68、0.69、0.70、0.71、0.72、0.73、0.74、0.75、0.76、0.77、0.78、0.79、0.80、0.81、0.82、0.83、0.84、0.85、0.86、0.87、0.88、0.89、0.90、0.91、0.92、0.93、0.94、0.95、0.96、0.97、0.98、0.99、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0046】
いくつかの実施形態では、aは、0.61、0.62、0.63、0.64、0.65、0.66、0.67、0.68、0.69、0.70、0.71、0.72、0.73、0.74、0.75、0.76、0.77、0.78、0.79、0.80、0.81、0.82、0.83、0.84、0.85、0.86、0.87、0.88、0.89、0.90、0.91、0.92、0.93、0.94、0.95、0.96、0.97、0.98、0.99又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0047】
いくつかの実施形態では、bは、0.01、0.02、0.05、0.08、0.10、0.12、0.15、0.18、0.20、0.22、0.25、0.28、0.30、0.32、0.35、0.38、0.40、0.42、0.45、0.48、0.50、0.52、0.55、0.58、0.60、0.61、0.62、0.63、0.64、0.65、0.66、0.67、0.68、0.69、0.70、0.71、0.72、0.73、0.74、0.75、0.76、0.77、0.78、0.79、0.80、0.81、0.82、0.83、0.84、0.85、0.86、0.87、0.88、0.89、0.90、0.91、0.92、0.93、0.94、0.95、0.96、0.97、0.98、0.99又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0048】
いくつかの実施形態では、cは、0.01、0.02、0.05、0.08、0.10、0.12、0.15、0.18、0.20、0.22、0.25、0.28、0.30、0.32、0.35、0.38、0.40、0.42、0.45、0.48、0.50、0.52、0.55、0.58、0.60、0.61、0.62、0.63、0.64、0.65、0.66、0.67、0.68、0.69、0.70、0.71、0.72、0.73、0.74、0.75、0.76、0.77、0.78、0.79、0.80、0.81、0.82、0.83、0.84、0.85、0.86、0.87、0.88、0.89、0.90、0.91、0.92、0.93、0.94、0.95、0.96、0.97、0.98、0.99又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0049】
いくつかの実施形態では、a+b+cは、0.61、0.62、0.63、0.64、0.65、0.66、0.67、0.68、0.69、0.70、0.71、0.72、0.73、0.74、0.75、0.76、0.77、0.78、0.79、0.80、0.81、0.82、0.83、0.84、0.85、0.86、0.87、0.88、0.89、0.90、0.91、0.92、0.93、0.94、0.95、0.96、0.97、0.98、0.99又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0050】
いくつかの実施形態では、zは、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0051】
リチウムイオン電池は、充放電過程において活性イオン例えばLiの放出及び消耗を伴い、リチウムイオン電池は、異なる状態まで放電する時にLiのモル含有量が異なる。本出願の実施形態における正極活物質に関する列挙において、Liのモル含有量は、材料の初期状態であり、即ち投入前の状態であり、正極活物質は、電池システムに応用され、充放電サイクルを経て、Liのモル含有量が変化する可能性がある。
【0052】
本出願の実施形態における正極活物質に関する列挙において、酸素Oのモル含有量は、理論状態値のみであり、結晶格子酸素放出は、酸素Oのモル含有量の変化を引き起こし、実際には、酸素Oのモル含有量に浮動が発生する。
【0053】
いくつかの実施形態では、M元素は、チタンTi及びジルコニウムZrのうちの少なくとも一つの元素を含み、選択的にMは、Ti及びZr元素を含む。TiとZrは、いずれも正極活物質の構造を安定させる作用を果たすことができ、それによりサイクル性能を向上させることができ、特にMがTiとZr元素を同時に含む場合、二種類の元素を併用し、材料構造をさらに安定させ、サイクル性能を向上させることができる。
【0054】
いくつかの実施形態では、正極活物質の総質量を基準として、TiとZr元素の総質量含有量は、1600ppmから3150ppmである。Ti及びZr元素の添加量が上記範囲である場合、正極活物質の結晶構造性をより向上させることができ、サイクル性能を向上させることができる。
【0055】
Ti及びZr元素の総質量含有量とは、Ti及びZr元素の総質量と正極活物質の総質量との比である。
【0056】
例示的に、TiとZr元素の総質量含有量は、1600ppm、1700ppm、1800ppm、1900ppm、2000ppm、2100ppm、2200ppm、2300ppm、2400ppm、2500ppm、2600ppm、2700ppm、2800ppm、2900ppm、3000ppm、3100ppm、3150ppm又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0057】
いくつかの実施形態では、正極活物質の総質量を基準として、Ti元素の質量含有量は、100ppmから600ppmであり、例えば、100ppm、200ppm、300ppm、400ppm、450ppm、500ppm、600ppm又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0058】
いくつかの実施形態では、正極活物質の総質量を基準として、Zr元素の質量含有量は、500ppmから2550ppmであり、選択的に1500ppmから2550ppmであり、例えば、500ppm、600ppm、700ppm、800ppm、900ppm、1000ppm、1100ppm、1200ppm、1300ppm、1400ppm、1500ppm、1600ppm、1700ppm、1800ppm、1900ppm、2000ppm、2100ppm、2200ppm、2300ppm、2400ppm、2500ppm、2550ppm又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0059】
いくつかの実施形態では、電解液は、第一の添加剤を含み、第一の添加剤は、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウムLiDFOB及びテトラフルオロホウ酸リチウムLiBF4のうちの少なくとも一つを含む。リチウムイオン電池のサイクル後期において、正極活物質における金属イオン例えばTi及びZrイオンは、電解液に溶出し且つ負極極板の表面に移動するリスクを有し、第一の添加剤は、フッ素イオン及びホウ素イオンを含み、フッ素イオン及びホウ素イオンは、上記金属イオンと比較的強い結合能力を有し、金属イオンが負極極板の表面に移動するリスクを低減させ、リチウムイオン電池のサイクル性能を向上させることができ、且つTi及びZrイオンは、材料構造の安定性を向上させることができるが、リチウムイオンの結晶格子内における伝導に悪影響を与えてパワーの劣化を引き起こす可能性があり、第一の添加剤は、さらにTi及びZrイオンによるパワーの劣化を補うことができる。
【0060】
いくつかの実施形態では、正極活物質は、単結晶粒子を含み、単結晶粒子は、内領域及び外領域を含み、外領域は、単結晶粒子の外面におけるいずれか点から単結晶粒子の内部に直接向かって500nm延伸する領域であり、M元素は、アルミニウムAl元素を含み、アルミニウムAl元素は、少なくとも外領域に分布している。
【0061】
単結晶粒子の内領域は、単結晶粒子の核と理解されてもよく、外領域は、内領域の外を被覆し、外領域と内領域との間に明らかな境界がない可能性があり、外領域と内領域は、人為的に定義された二つの領域と考えられてもよく、外領域は、単結晶粒子の外面におけるいずれか点が単結晶粒子の内部に向かって500nm延伸する領域であり、且つ延伸経路は、直線経路であり、外領域は、環状構造と理解されてもよく、環状構造の径方向の間隔は、500nm以下である。
【0062】
アルミニウムAl元素は、少なくとも外領域に分布し、正極活物質に酸化アルミニウムAl2O3を形成することに役立ち、正極活物質と電解液との間の副反応を不動態化し、正極活物質構造の安定性をさらに向上させ、リチウムイオン電池のサイクル性能を向上させることができる。無論、Al元素は、外領域に分布していることに加えて、Al元素は、内領域にさらに分布していてもよい。
【0063】
いくつかの実施形態では、正極活物質の総質量を基準として、Al元素の質量含有量は、500ppmから3000ppmであり、選択的に1000ppmから2000ppmである。
【0064】
例示的に、Al元素の質量含有量は、500ppm、600ppm、700ppm、800ppm、900ppm、1000ppm、1100ppm、1200ppm、1300ppm、1400ppm、1500ppm、1600ppm、1700ppm、1800ppm、1900ppm、2000ppm又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0065】
いくつかの実施形態では、電解液は、第二の添加剤を含み、第二の添加剤は、ジフルオロリン酸リチウムLiPO2F2を含む。ジフルオロリン酸リチウムLiPO2F2は、正極活物質におけるAl元素と組み合わせ、正極活物質の表面のDCRを改善し、界面パワーを向上させることができる。
【0066】
いくつかの実施形態では、M元素は、リンP、硫黄S及びホウ素B元素のうちの少なくとも一つの元素をさらに含み、ここで、B、P、S元素のうちの少なくとも一つは、外領域に分布している。
【0067】
選択的に、M元素は、リンP、硫黄S及びホウ素B元素を含む。リンP、硫黄S及びホウ素B元素は、酸素層に吸蔵し、リチウムを安定させる作用を果たし、これにより正極活物質構造の安定性を向上させ、リチウムイオン電池のサイクル性能を向上させることができる。
【0068】
いくつかの実施形態では、正極活物質の総質量を基準として、P、S及びB元素の総質量含有量は、0から800ppmであり、選択的に10ppmから500ppmであり、例えば0、10ppm、20ppm、30ppm、40ppm、50ppm、60ppm、80ppm、100ppm、150ppm、200ppm、250ppm、300ppm、350ppm、400ppm、450ppm、500ppm、600ppm、700ppm、800ppm又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。P、S及びB元素の総質量含有量が0の場合は、このような元素を添加しないことを意味する。
【0069】
いくつかの実施形態では、正極活物質の総質量を基準として、P元素の総質量含有量は、10ppmから500ppmであり、例えば、10ppm、20ppm、30ppm、40ppm、50ppm、60ppm、80ppm、100ppm、150ppm、200ppm、250ppm、300ppm、350ppm、400ppm、450ppm、500ppm、600ppm、700ppm、800ppm又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0070】
いくつかの実施形態では、正極活物質の総質量を基準として、S元素の総質量含有量は、10ppmから500ppmであり、例えば、10ppm、20ppm、30ppm、40ppm、50ppm、60ppm、80ppm、100ppm、150ppm、200ppm、250ppm、300ppm、350ppm、400ppm、450ppm、500ppm、600ppm、700ppm、800ppm又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0071】
いくつかの実施形態では、正極活物質の総質量を基準として、B元素の総質量含有量は、10ppmから500ppmであり、例えば、10ppm、20ppm、30ppm、40ppm、50ppm、60ppm、80ppm、100ppm、150ppm、200ppm、250ppm、300ppm、350ppm、400ppm、450ppm、500ppm、600ppm、700ppm、800ppm又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0072】
いくつかの実施形態では、電解液は、第三の添加剤を含み、第三の添加剤は、フルオロスルホン酸リチウムを含み、正極活物質の表面に低抵抗の膜成分を形成することができ、第三の添加剤は、正極活物質におけるリンP、硫黄S及びホウ素B元素と組み合わせ、正極活物質の表面のDCRを低下させ、界面パワーを向上させることができる。
【0073】
本出願の実施形態では、正極活物質における元素の含有量は、当分野において公知の意味であり、当分野において公知の機器及び方法を用いて検出することができ、例えば、EPA 6010D-2014を参照すると、誘導結合プラズマ原子発光分光法により試験し、プラズマ原子発光(ICP-OES、計器型番:Thermo ICAP7400)を用いて測定する。まず正極活物質0.4gを秤量し、これに王水10ml(50%濃度)を加えた。次いで180°Cのプレート上に30分間置いた。プレート上で分解した後、体積を100mLに定容し、標準曲線法を用いて定量試験を行う。
【0074】
いくつかの実施形態では、正極膜層は、さらに選択的に正極導電剤を含む。本出願の実施形態は、正極導電剤の種類に対して特に限定せず、例として、正極導電剤は、超伝導カーボン、導電黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンドット、カーボンナノチューブ、グラフェンとカーボンナノファイバーのうちの少なくとも一つを含む。いくつかの実施形態では、正極膜層の総質量を基準として、正極導電剤の質量含有量は、≦5%である。
【0075】
いくつかの実施形態では、正極膜層は、さらに選択的に正極接着剤を含む。本出願の実施形態は、正極接着剤の種類に対して特に限定せず、例として、正極接着剤は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-プロピレン三元共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン三元共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体とフッ素含有アクリレート系樹脂のうちの少なくとも一つを含んでもよい。いくつかの実施形態では、正極膜層の総質量を基準として、正極接着剤の質量含有量は、≦5%である。
【0076】
いくつかの実施形態では、正極膜層の圧密密度と負極膜層の圧密密度との比は、(2から2.5):1である。例えば、2:1、2.1:1、2.2:1、2.3:1、2.4:1、2.5:1又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0077】
いくつかの実施形態では、正極膜層の圧密密度PDは、3.0g/cm3から3.5g/cm3である。選択的に3.2g/cm3から3.5g/cm3であり、例えば、3g/cm3、3.1g/cm3、3.2g/cm3、3.3g/cm3、3.35g/cm3、3.4g/cm3、3.5g/cm3又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0078】
本出願の実施形態では、正極活物質層の圧密密度は、当分野で公知の意味であり、本分野で既知の方法を用いて試験することができる。例えば片面が塗布され且つ冷間プレスされた後の正極極板(両面に塗布された正極極板である場合、まずそのうちの一面の正極膜を拭き取ってもよい)を取り、面積がS1の小さな円板に打ち抜き、その重量を秤量し、M1と記録する。次に上記秤量後の正極極板の正極膜を拭き取り、正極集電体の重量を秤量し、M0と記録し、正極活物質層の面密度=(正極極板の重量M1-正極集電体の重量M0)/S1であり、正極活物質層の圧密密度=正極活物質層の面密度/正極活物質層の厚さである。
【0079】
いくつかの実施形態では、正極集電体は、金属箔シート又は複合集電体を採用してもよい。金属箔シートの例として、アルミニウム箔を採用することができる。複合集電体は、高分子材料ベース層及び高分子材料ベース層の少なくとも一つの表面上に形成される金属材料層を含んでもよい。例として、金属材料層の金属材料は、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金、銀と銀合金のうちの少なくとも一つを含んでもよい。例として、高分子材料ベース層は、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリスチレン(PS)とポリエチレン(PE)のうちの少なくとも一つを含んでもよい。
【0080】
いくつかの実施形態では、正極集電体の厚さは、10μm以下であり、選択的に8μmから10μmである。
【0081】
正極集電体の厚さが相対的に薄く、リチウムイオン電池の放熱経路を弱めることができ、低SOC放電状態で、リチウムイオン電池内に一部の熱量を保持することができ、低SOCでのDCRを改善することに有利であり、それにより低SOCでの放電パワーを改善する。
【0082】
例示的に、正極集電体の厚さは、8μm、8.2μm、8.5μm、8.8μm、9.0μm、9.2μm、9.5μm、9.6μm、9.8μm、10μm又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0083】
本出願の実施形態では、正極集電体の厚さは、当分野において公知の意味であり、当分野において公知の機器及び方法を用いて検出することができ、例えば正極極板をサンプルとし、次にアルコールなどの有機溶媒で正極極板表面の正極膜層を洗浄し、マイクロメータで正極集電体の厚さを測定する。
【0084】
正極膜層は、一般的には正極スラリーを正極集電体上に塗布し、乾燥、冷間プレスを経て得られたものである。正極スラリーは、一般的には正極活物質、選択的な導電剤、選択的な接着剤及び任意の他の成分を溶媒に分散させて均一に攪拌して形成されたものである。溶媒は、N-メチルピロリドン(NMP)であってもよいが、これらに限らない。
【0085】
[電解液]
有機溶媒
いくつかの実施形態では、電解液は、有機溶媒をさらに含む。
【0086】
いくつかの実施形態では、有機溶媒は、環状カーボネートを含んでもよく、電解液の総質量を基準として、環状カーボネートの質量含有量とヘキサフルオロリン酸リチウムの質量含有量との比は、(0.60から2.50):1であり、選択的に(1.00から1.65):1である。
【0087】
推定される有益な効果は、以下のとおりである。環状カーボネートの質量含有量とヘキサフルオロリン酸リチウムの質量含有量との比が上記範囲にある場合、ヘキサフルオロリン酸リチウムからより多くのリチウムイオンを十分に解離させることに有利であり、それにより低SOCの放電末期においても、電解液系により多くのリチウムイオンを含有させることができ、且つリチウムイオンを電池反応の進行に伴って連続的に解離させることができ、電池のパワー性能を改善する。
【0088】
例示的に、前記電解液の総質量を基準として、環状カーボネートの質量含有量とヘキサフルオロリン酸リチウムの質量含有量との比は、0.6:1、0.7:1、0.8:1、0.9:1、1.0:1、1.1:1、1.15:1、1.2:1、1.25:1、1.3:1、1.35:1、1.37:1、1.4:1、1.5:1、1.6:1、1.65:1、1.67:1、1.7:1、1.8:1、1.9:1、2:1、2.1:1、2.2:1又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0089】
いくつかの実施形態では、前記電解液の総質量を基準として、環状カーボネートの質量含有量は、10%から45%であり、さらに選択的に20%から30%である。環状カーボネートは、誘電率が高く、イオン伝導率が高く、負極活物質の表面に安定したSEI膜を形成することができる。
【0090】
例示的に、前記電解液の総質量を基準として、環状カーボネートの質量含有量は、10%、10.92%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、20.93%、21%、22%、23%、23.66%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、29.12%、30%、30.03%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、36.4%、37%、38%、39%、40%、40.4%、41%、42%、43%、44%、45%又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0091】
いくつかの実施形態では、環状カーボネートは、エチレンカーボネートEC、プロピレンカーボネートPC及びブチレンカーボネートBCのうちの少なくとも一つを含んでもよい。
【0092】
いくつかの実施形態では、有機溶媒は、線状カーボネートを含んでもよく、電解液の総質量を基準として、線状カーボネートの質量含有量と環状カーボネートの質量含有量との比は、(0.9から6):1であり、選択的に(1.5から2.65):1である。線状カーボネートと環状カーボネートの質量含有量との比が上記範囲を満たす場合、電解液の粘度とイオン伝導率の改善を両立し、リチウムイオンの動力学性能を向上させることができる。
【0093】
例示的に、環状カーボネートの質量含有量と線状カーボネートの質量含有量との比は、0.9:1、1.0:1、1.1:1、1.2:1、1.3:1、1.37:1、1.4:1、1.5:1、1.6:1、1.65:1、1.67:1、1.7:1、1.8、1、1.9:1、2.0:1、2.1:1、2.2:1、2.3:1、2.4:1、2.5:1、2.6:1、2.7:1、2.8:1、2.9:1、3.0:1、3.1:1、3.2:1、3.3:1、3.4:1、3.5:1、3.6:1、3.7:1、3.8:1、3.9:1、4.0:1、4.1:1、4.2:1、4.3:1、4.4:1、4.5:1、4.6:1、4.7:1、4.8:1、4.9:1、5.0:1、5.1:1、5.2:1、5.3:1、5.4:1、5.5:1、5.6:1、5.7:1、5.8:1、5.9:1、5.95:1、6:1又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0094】
いくつかの実施形態では、前記電解液の総質量を基準として、線状カーボネートの質量含有量は、35%から75%であり、さらに選択的に50%から75%である。鎖状カーボネートの粘度は、相対的に低く、リチウムイオンの迅速な移動に有利であり、電気化学的安定性がより高く、電解液の低温性能を向上させることができる。
【0095】
例示的に、前記電解液の総質量を基準として、線状カーボネートの質量含有量は、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、50.4%、51%、52%、52.5%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、68%、70%、71%、72%、73%、74%、75%又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0096】
いくつかの実施形態では、線状カーボネートは、エチルメチルカーボネートEMC、ジエチルカーボネートDEC及びジメチルカーボネートDMCのうちの少なくとも一つを含む。
【0097】
添加剤
いくつかの実施形態では、電解液は、添加剤をさらに含んでもよい。
【0098】
いくつかの実施形態では、添加剤は、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウムLiDFOB及びテトラフルオロホウ酸リチウムLiBF4のうちの少なくとも一つを含む第一の添加剤を含む。リチウムイオン電池のサイクル後期において、正極活物質における金属イオン例えばTi及びZrイオンは、電解液に溶出し且つ負極極板の表面に移動するリスクを有し、第一の添加剤は、フッ素イオン及びホウ素イオンを含み、フッ素イオン及びホウ素イオンは、上記金属イオンと比較的強い結合能力を有し、金属イオンが負極極板の表面に移動するリスクを低減させ、リチウムイオン電池のサイクル性能を向上させることができ、またTiとZrイオンによるパワーの劣化も補うことができる。
【0099】
いくつかの実施形態では、電解液の総質量を基準として、第一の添加剤の質量含有量は、30ppmから1200ppmであり、選択的に100ppmから400ppmであり、組み合わせられるTiの質量含有量は、100ppmから600ppmであり、Zr元素の質量含有量は、500ppmから2550ppmであり、第一の添加剤は、TiとZrイオンに対する結合能力を向上させ、リチウムイオン電池のサイクル性能をさらに向上させることができる。
【0100】
例示的に、第一の添加剤の質量含有量は、30ppm、35ppm、40ppm、45ppm、50ppm、60ppm、70ppm、80ppm、90ppm、100ppm、110ppm、120ppm、130ppm、140ppm、150ppm、160ppm、170ppm、180ppm、190ppm、200ppm、210ppm、220ppm、230ppm、240ppm、250ppm、260ppm、270ppm、280ppm、290ppm、300ppm、310ppm、320ppm、330ppm、340ppm、350ppm、360ppm、370ppm、380ppm、390ppm、400ppm、410ppm、420ppm、430ppm、440ppm、450ppm、460ppm、470ppm、480ppm、490ppm、500ppm、600ppm、700ppm、800ppm、900ppm、1000ppm、1100ppm、1200ppm又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0101】
いくつかの実施形態では、添加剤は、ジフルオロリン酸リチウムLiPO2F2を含む第二の添加剤を含む。ジフルオロリン酸リチウムLiPO2F2は、正極活物質の表面に無機成分に富む膜層を形成することができ、膜層のイオン伝導及び電子伝導性能の向上に有利であり、且つ形成された膜層の界面イオン抵抗が比較的低く、リチウムイオンの輸送に有利であり、低SOCでのDCRを改善することができ、特にジフルオロリン酸リチウムは、正極活物質におけるAl元素と組み合わせ、正極活物質の表面のDCRを改善し、界面パワーを向上させることができる。
【0102】
いくつかの実施形態では、電解液の総質量を基準として、第二の添加剤の質量含有量は、100ppmから3000ppmであり、選択的に1000ppmから2000ppmである。上記質量含有量の第二の添加剤は、500ppmから3000ppmのAl元素と組み合わせることができ、正極活物質の表面のDCRをより良好に改善し、界面パワーを向上させることができる。
【0103】
例示的に、第二の添加剤の質量含有量は、100ppm、150ppm、200ppm、250ppm、300ppm、350ppm、400ppm、450ppm、500ppm、600ppm、700ppm、800ppm、900ppm、1000ppm、1100ppm、1200ppm、1300ppm、1400ppm、1500ppm、1600ppm、1700ppm、1800ppm、1900ppm、2000ppm、2100ppm、2200ppm、2300ppm、2400ppm、2500ppm、2600ppm、2700ppm、2800ppm、2900ppm、3000ppm又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0104】
いくつかの実施形態では、添加剤は、第三の添加剤を含み、第三の添加剤は、フルオロスルホン酸リチウムを含み、第三の添加剤は、正極活物質の表面に無機成分に富む膜層を形成することができ、膜層のイオン伝導及び電子伝導性能の向上に有利であり、且つ形成された膜層の界面イオン抵抗が比較的低く、リチウムイオンの輸送に有利であり、低SOCでのDCRを改善することができ、特にジフルオロリン酸リチウムは、正極活物質におけるリンP、硫黄S及びホウ素B元素と組み合わせ、正極活物質の表面のDCRを改善し、界面パワーを向上させることができる。
【0105】
例示的に、フルオロスルホン酸リチウムは、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、パーフルオロヘキサンスルホン酸リチウムのうちの少なくとも一つを含んでもよい。
【0106】
いくつかの実施形態では、電解液の総質量を基準として、第三の添加剤の質量含有量は、50ppmから200ppmである。上記質量含有量の第三の添加剤は、10ppmから800ppmのリンP、硫黄S及びホウ素B元素と組み合わせることができ、正極活物質の表面のDCRをより良好に改善し、界面パワーを向上させることができる。
【0107】
例示的に、第三の添加剤の質量含有量は、50ppm、60ppm、70ppm、80ppm、90ppm、100ppm、200ppm又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0108】
いくつかの実施形態では、添加剤は、第四の添加剤を含み、第四の添加剤は、1,3-プロパンスルトンPS、ビニレンカーボネートVCとフルオロスルホン酸リチウムLiSO3Fのうちの少なくとも一つをさらに含んでもよい。
【0109】
いくつかの実施形態では、電解液の総質量を基準として、1,3-プロパンスルトンPSの質量含有量、ビニレンカーボネートVCの質量含有量と、フルオロスルホン酸リチウムLiSO3Fの質量含有量との比は、(0.050から0.300):(0.100から0.500):(0.001から0.300)である。添加剤中の一つの成分の質量含有量は、0であり、電解液にこの成分が添加されていないことを示す。1,3-プロパンスルトンPSの質量含有量、ビニレンカーボネートVCの質量含有量と、フルオロスルホン酸リチウムLiSO3Fの質量含有量との比が上記範囲内であると、上記成分は、基本的に負極活物質の表面にSEI膜を形成することに関与することができ、SEI膜は、シリコン系材料の膨張を効果的に緩和することができる。
【0110】
いくつかの実施形態では、前記電解液の総質量を基準として、1,3-プロパンスルトンPSの質量含有量は、0.1%から1%であり、例えば、0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1.0%又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0111】
いくつかの実施形態では、前記電解液の総質量を基準として、ビニレンカーボネートVCの質量含有量は、0.1%から1%であり、例えば、0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1.0%又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0112】
いくつかの実施形態では、前記電解液の総質量を基準として、フルオロスルホン酸リチウムLiSO3Fの質量含有量は、0.1%から1%であり、例えば、0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1.0%又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0113】
いくつかの実施形態では、添加剤は、フッ素化環状カーボネートを含んでもよい。フッ素化環状カーボネートは、負極活物質の表面にSEI膜の形成に関与することができ、負極活物質を効果的に保護することができ、且つフッ素化環状カーボネートは、一定の脱溶媒能力を有し、リチウムイオンの移動に有利であり、低SOCでのDCRを改善し、放電パワーを向上させることができる。
【0114】
いくつかの実施形態では、フッ素化環状カーボネートは、モノフルオロエチレンカーボネートFEC、ビスフルオロエチレンカーボネートDFEC、及びトリフルオロプロピレンカーボネートTFPCのうちの少なくとも一つを含み、選択的に、フッ素化環状カーボネートは、モノフルオロエチレンカーボネートFECを含む。FECに含まれるフッ素原子の数が相対的に少なく、極性がより強く、フッ素がより脱離してSEI膜の膜形成反応に関与しやすい。
【0115】
いくつかの実施形態では、フッ素化環状カーボネートの、電解液の総質量に対する質量含有量と、ケイ素元素の質量含有量との比は、(0.5から9.5):1であり、選択的に(1から2):1である。例示的に、フッ素化環状カーボネートの電解液総質量に対する質量含有量と、ケイ素元素の質量含有量との比は、0.5:1、0.6:1、0.7:1、0.8:1、0.9:1、1:1、1.05:1、1.1:1、1.2:1、1.3:1、1.35:1、1.4:1、1.5:1、1.57:1、1.6:1、1.7:1、1.8:1、1.9:1、2:1、2.1:1、2.2:1、2.3:1、2.36:1、2.5:1、3:1、3.5:1、4:1、4.5:1、4.7:1、4.71:1、4.8:1、5:1、5.5:1、5.8:1、6:1、6.5:1、7:1、7.5:1、7.8:1、8:1、8.5:1、9:1、9.1:1、9.2:1、9.3:1、9.4:1、9.43:1、9.5:1又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0116】
フッ素化環状カーボネートは、負極活物質の表面にSEI膜の形成に関与することができ、膜成分と特性を改善し、負極活物質を効果的に保護することができ、特に負極がケイ素を含有する場合、ケイ素が膨張する特性のため、SEI膜形成の膜組成をより最適化する必要があり、膜組成の最適化は、電解液における膜形成添加剤の相対比率を調節することによって調節し、フッ素化環状カーボネートが形成する膜に関与してSEI膜の柔軟性を向上させることができ、放電末期にケイ素が短時間で大量のリチウムイオンを放出することによる構造崩壊を改善することができ、且つフッ素化環状カーボネートは、一定の脱溶媒能力を有し、リチウムイオンの移動に有利であり、低SOCでのDCRを改善し、放電パワーを向上させることができる。研究を経て、負極活物質中のケイ素含有量と電解液中のFECとの含有量比が(0.5から9.5):1を満たす場合、放電末期における電池のレート性能が顕著に改善されることを発見した。
【0117】
いくつかの実施形態では、フッ素化環状カーボネートの電解液総質量に対する質量含有量は、0.95%から5.8%であってもよく、選択的に1.5%から3%であり、例えば、0.95%、0.98%、1%、1.1%、1.2%、1.3%、1.4%、1.5%、1.6%、1.7%、1.8%、1.9%、1.91、2.0%、2.1%、2.2%、2.3%、2.4%、2.5%、2.6%、2.7%、2.8%、2.9%、3%、3.1%、3.2%、3.3%、3.4%、3.5%、3.6%、3.7%、3.8%、3.82%、3.9%、4%、4.1%、4.5%、5%、5.2%、5.5%、5.7%、5.73%、5.8%又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0118】
リチウム塩
リチウム塩は、有機溶媒に溶解した後、大量の活性リチウムイオンを放出して、充放電に関与することができる。
【0119】
いくつかの実施形態では、電解液の総質量を基準として、フッ素化環状カーボネートの質量含有量と、リチウム塩の質量含有量との比は、(0.05から0.30):1であり、選択的に(0.10から0.20):1である。フッ素化環状カーボネートは、シリコン系材料の表面に有機物を形成することができ、SEI膜の柔軟性を改善し、リチウム塩は、SEI膜の形成に関与することができ、SEI膜に無機成分を含有させ、SEI膜のイオン伝導及び電子伝導性能の向上に有利であり、負極極板全体のイオン伝導及び電子伝導性能を改善することができ、フッ素化環状カーボネートの質量含有量とリチウム塩の質量含有量との比が上記範囲である場合、SEI膜の柔軟性、イオン伝導及び電子伝導性能の改善を両立した上で、DCRを小さくして、リチウムイオン電池の放電パワーを向上させることもできる。
【0120】
例示的に、フッ素化環状カーボネートの質量含有量とリチウム塩の質量含有量との比は、0.05:1、0.06:1、0.07:1、0.08:1、0.09:1、0.10:1、0.11:1、0.12:1、0.13:1、0.14:1、0.15:1、0.16:1、0.17:1、0.18:1、0.19:1、0.20:1、0.21:1、0.22:1、0.23:1、0.24:1、0.25:1、0.26:1、0.27:1、0.28:1、0.29:1、0.30:1又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0121】
いくつかの実施形態では、リチウム塩は、無機リン酸塩及び無機ホウ酸塩のうちの少なくとも一つをさらに含み、選択的に、リチウム塩は、フッ素含有無機ホウ酸塩を含む。無機リン酸塩及び無機ホウ酸塩は、SEI膜中の無機成分の形成に関与することができ、SEI膜の伝導イオン及び電子伝導性能の向上に有利であり、且つ形成されたSEI膜の界面イオン抵抗が低く、リチウムイオンの輸送に有利であり、低SOCでのDCRを改善することができる。
【0122】
いくつかの実施形態では、無機リン酸塩は、モノフルオロリン酸リチウムLi2PO3F及びジフルオロリン酸リチウムLiPO2F2のうちの少なくとも一つを含み、選択的に、無機リン酸塩は、ジフルオロリン酸リチウムLiPO2F2を含む。
【0123】
いくつかの実施形態では、ホウ酸塩は、テトラフルオロホウ酸リチウムLiBF4、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウムLiDFOB、及びビス(オキサラト)ホウ酸リチウムのうちの少なくとも一つを含む。
【0124】
いくつかの実施形態では、電解液の総質量を基準として、無機リン酸塩及び無機ホウ酸塩の総質量含有量は、0.05%以上且つ0.50%以下であり、選択的に0.10%から0.30%である。
【0125】
例示的に、無機リン酸塩と無機ホウ酸塩の総質量含有量は、0.05%、0.06%、0.08%、0.1%、0.15%、0.18%、0.2%、0.22%、0.25%、0.28%、0.3%、0.32%、0.35%、0.38%、0.4%、0.42%、0.45%、0.48%、0.5%又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0126】
例示的に、リチウム塩は、テトラフルオロホウ酸リチウムLiBF4、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウムLiDFOB、及びビス(オキサラト)ホウ酸リチウムを含む。
【0127】
選択的に、電解液の総質量を基準として、テトラフルオロホウ酸リチウムLiBF4の質量含有量は、0.01%から0.2%、例えば、0.01%、0.02%、0.05%、0.08%、0.1%、0.15%、0.2%又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0128】
選択的に、電解液の総質量を基準として、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウムLiDFOBの質量含有量は、0.01%から0.1%であり、例えば、0.01%、0.02%、0.05%、0.08%、0.1%又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0129】
選択的に、電解液の総質量を基準として、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウムの質量含有量は、0.01%から0.5%であり、例えば、0.01%、0.02%、0.05%、0.08%、0.1%、0.15%、0.2%、0.25%、0.3%、0.35%、0.4%、0.45%、0.5%又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0130】
本出願における各物質又は各元素の定性及びその定量は、当業者に既知の適切な装置及び方法を用いて検出することができ、関連する検出方法は、中国国内外の検出基準、中国国内外の企業基準などを参照することができ、且つ当業者は、検出正確性の観点からくつかの検出ステップ/計器パラメータなどを適応的に変更して、より正確な検出結果を得てもよい。一つの検出方法を用いて定性的又は定量化してもよく、複数の検出方法を組み合わせて定性的又は定量的に測定してもよい。
【0131】
本出願の実施形態では、電解液における無機成分/リチウム塩の濃度の種類及び含有量は、当分野において公知の意味であり、当分野において公知の機器及び方法を用いて検出することができ、例えば標準JY/T020-1996『イオンクロマトグラフィー分析方法通則』を参照してイオンクロマトグラフィー分析方法によって電解液における無機成分/リチウム塩の濃度を定性的又は定量的に分析することができる。本出願の実施形態において新しく製造された電解液をサンプルとし、又は既に放電された(下限カットオフ電圧まで放電して電池の帯電状態は、約0%SOCとなる)電池を逆方向に分解し、電池から取得した遊離電解液をサンプルとし、イオンクロマトグラフィー分析方法を用いて検出することができる。
【0132】
本出願の実施形態では、電解液における有機成分の種類及び含有量は、当分野において公知の意味であり、当分野において公知の機器及び方法を用いて検出することができ、例えばGB/T9722-2006『化学試薬ガスクロマトグラフィー通則』を参照してガスクロマトグラフィーによって電解液における有機成分に対して定性及び定量分析を行うことができる。本出願の実施形態において新しく製造された電解液をサンプルとし、又は既に放電された(下限カットオフ電圧まで放電して電池の帯電状態は、約0%SOCとなる)電池を逆方向に分解し、電池から取得した遊離電解液をサンプルとし、イオンクロマトグラフィー分析方法を用いて検出することができる。
【0133】
さらに例えば、液相核磁気共鳴(NMR)で電解液におけるある添加剤の成分を試験し、ジフルオロリン酸リチウム及びヘキサフルオロリン酸リチウムを検出することを例とし、窒素ガスグローブボックスにおいて、7mlのガラス瓶を1つ用意し、ガラス瓶に5mlの核磁気試薬予備混合液を加え、窒素雰囲気グローブボックスにおいて室温20~25°Cで24h静置し、極板及びセパレータにおける電解液を核磁気予備混合液に拡散させ、それにより核磁気試験サンプルを得た。核磁気予備混合液は、100mlの重水素化アセトニトリルに3mlのトリフルオロメチルベンゼンCF3phを加えたものを含み、以上の核磁気試薬予備混合液を分子篩4Aで予め乾燥させる(100mlの核磁気試薬予備混合液に15gの新たに開いた4A分子篩に加えて室温20~25°Cで、窒素ガスグローブボックス内で30日間以上乾燥させる)。19F NMRを用いて測定した(核磁気(NMR):Bruker Avance 400HD)。
【0134】
各種を識別し定量化するために、反転角度及び走査時間において、以下の設定を使用した。
【0135】
フッ素スペクトル試験パルスシーケンス:2gfhigqn.2、
遅延時間:1秒、
走査回数:16回、
F-NMRにおけるトリフルオロメチルベンゼンとLiPF6の二つの物質の信号ピーク積分強度に基づいて両者の相対含有量を計算し、計算方法:
PF6
-相対含有量=(IPF6
-×MPF6
-/6)/(ICF3ph×MCF3ph/3)、ここで、Iは、対応する核磁気ピーク面積であり、Mは、対応する相対分子質量であり、次にヘキサフルオロリン酸塩とリチウムイオンのモル配合比率関係に基づいてヘキサフルオロリン酸リチウムの電解液における含有量を計算する。
【0136】
ヘキサフルオロリン酸リチウムLiPF6の含有量に基づいて電解液の重水素化試薬における含有量を計算する。
【0137】
F-NMRにおけるトリフルオロメチルベンゼンとPO2F2
-の二つの物質の信号ピーク積分強度に基づいて両者の相対含有量を計算し、計算方法:
PO2F2
-相対含有量=(IPO2F2-×MPO2F2-/2)/(ICF3ph×MCF3ph/3)、ここで、Iは、対応する核磁気ピーク面積であり、Mは、対応する相対分子質量であり、次にジフルオロリン酸塩とリチウムイオンのモル配合比率関係に基づいてジフルオロリン酸リチウムの電解液における含有量を計算する。
【0138】
いくつかの実施形態では、リチウムイオン電池の保液係数は、1.0g/Ahから2.5g/Ahであり、選択的に1.8g/Ahから2.2g/Ahである。
【0139】
リチウムイオン電池の保液係数は、電解液の保液能力を反映することができ、リチウムイオン電池の保液係数が上記範囲にある場合、電解液は、正極極板及び負極極板に対して良好な浸潤作用を果たすことができ、且つ負極極板とセパレータとの間に一定の隙間を有し、シリコン系材料の体積膨張に膨張空間を提供することができ、電池全体が膨張するリスクを低下させる。
【0140】
いくつかの実施形態では、リチウムイオン電池の保液係数は、1.0g/Ahから2.5g/Ahであり、選択的に1.8g/Ahから2.2g/Ahである。
【0141】
いくつかの実施形態では、本出願で言及する電解液における各種の溶質又は溶媒は、電解液を製造する時に能動的に添加される物質を含むだけでなく、電解液の製造過程又は前記電解液から電池を製造する過程又は前記電解液を含む電池の貯蔵又は使用過程において、ある種/いくつかの電解液に既に存在する物質から誘導される物質も含む。
【0142】
リチウムイオン電池の保液係数は、電解液の保液能力を反映することができ、リチウムイオン電池の保液係数が上記範囲にある場合、電解液は、正極極板及び負極極板に対して良好な浸潤作用を果たすことができ、且つ負極極板とセパレータとの間に一定の隙間を有し、シリコン系材料の体積膨張に膨張空間を提供することができ、リチウムイオン電池全体が膨張するリスクを低下させる。
【0143】
例示的に、リチウムイオン電池の保液係数は、1.0g/Ah、1.1g/Ah、1.2g/Ah、1.3g/Ah、1.4g/Ah、1.5g/Ah、1.6g/Ah、1.7g/Ah、1.8g/Ah、1.9g/Ah、2.0g/Ah、2.1g/Ah、2.2g/Ah、2.3g/Ah、2.4g/Ah、2.5g/Ah又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0144】
本出願の実施形態では、リチウムイオン電池の保液係数は、当分野において公知の意味であり、当分野において公知の機器及び方法を用いて検出することができ、例えばGB/T 31486-2015『電気自動車用動力蓄電池の電気性能要件及び試験方法』に従って、25°Cで、リチウムイオン電池を1Cで4.35Vまで充電し、次に1Cで2.8Vまで放電し、放出された容量Cを得て分母とし、リチウムイオン電池を秤量してM0とし、次に正極極板、負極極板、セパレータ及び電解液を分解し、ここで遊離電解液は、ハウジング/袋内に存在し、上記全ての固体アセンブリを60°Cのオーブンに入れて4時間以上焼成し(正極極板、負極極板、セパレータを含むがこれらに限定せず、さらに分解されたリチウムイオン電池の他のM0寄与の機械部品を含む)、次にリチウムイオン電池の全てのアセンブリを秤量してM1とし、ここでM0とM1との重量差を分子とする。保液係数は、容量CをM0とM1の重量差で除した値に等しい。
【0145】
[負極極板]
いくつかの実施形態では、リチウムイオン電池は、負極極板をさらに含む。
【0146】
負極極板は、負極集電体及び負極集電体の少なくとも一つの表面に設置され且つ負極活物質を含む負極膜層を含む。例えば、負極集電体は、自体の厚さ方向において対向する二つの表面を有し、負極膜層は、負極集電体の二つの対向する表面のうちのいずれか一方又は両方に設置される。
【0147】
いくつかの実施形態では、負極膜層は、炭素元素及びケイ素元素を含む負極活物質を含み、負極活物質の総質量を基準として、ケイ素元素の質量含有量と炭素元素の質量含有量との比は、(0.3:99.7)から(3:97)である。
【0148】
リチウムイオン電池の負極活物質は、炭素元素を提供する炭素系材料及びケイ素元素を提供するシリコン系材料を含み、炭素元素を提供する炭素系材料は、炭素元素を含有してもよく、ケイ素元素を同時に含有してもよく、無論、炭素元素のみを含んでもよく、ケイ素元素を供給するシリコン系材料は、ケイ素元素を含有してもよく、炭素元素を同時に含有してもよく、無論、ケイ素元素のみを含んでいてもよい。負極活物質は、同時に炭素系材料及びシリコン系材料を含み、炭素系材料に比べて、シリコン系材料のリチウム放出電圧プラトーが比較的高いため、低SOC(例えばSOC≦10%)でもシリコン系材料は、依然として放電に関与し続けることができ、炭素系材料が低SOCで放電しにくい/放電し続けることができないという不足を補い、電池の放電過程における直流内部抵抗DCRを改善し、さらに電池の放電過程におけるパワー性能を改善する。
【0149】
ケイ素元素の質量含有量をより小さい含有量に調節し、原因は、以下のとおりである。シリコン系材料のリチウム放出電位は、炭素系材料より高いが、充放電過程において体積膨張又は収縮程度が比較的大きく、負極活物質の構造崩壊、破裂粉化などの不良問題を引き起こす可能性があり、さらに電池内部の望ましくない副反応を引き起こす。また、シリコン系材料自体の導電性が比較的悪く、高すぎる含有量がDCRの改善に不利であるため、他の条件が一致する場合、含有量が高すぎるケイ素含有量を含む負極活物質に対応する電池のパワー性能は、逆にケイ素含有量がより低い電池よりも劣る。
【0150】
本出願の実施形態の電解液は、さらに15%から20%のヘキサフルオロリン酸リチウムを組み合わせて使用し、電解液と負極との協同作用により、電池の放電末期のパワー性能を向上させる。
【0151】
ヘキサフルオロリン酸リチウムは、負極活物質の表面の固体電解質界面(Solid Electrolyte Interphase、SEI)膜成分の形成に関与することができ、高フッ素原子比率のヘキサフルオロリン酸リチウムは、SEI膜成分を最適化することができ、且つ高質量含有量のヘキサフルオロリン酸リチウムのSEI膜成分に対する改善作用がより顕著であり、SEI膜におけるフッ化リチウム化物(例えばフッ化リチウム)の比率を向上させる。このようなフッ化リチウム化物比率が比較的高いSEI膜は、一方ではシリコン系材料の破裂粉化の問題を緩和し、負極活物質全体の構造安定性を向上させることができ、他方では電解液と負極活物質の表面との副反応を遅らせることができ、それによりシリコン系材料の放電後期の放電安定性を向上させ、電池のパワー性能をさらに向上させる。
【0152】
また、リチウムイオン電池の低SOCでの放電末期において、負極活物質におけるリチウムイオンの濃度が比較的低く、リチウムイオンの負極活物質からの脱離は、相対的に困難であり、電解液系におけるリチウム塩の濃度差を低下させ、リチウムイオン電池の内部抵抗を向上させ、放電パワーをさらに低下させる。本出願の実施形態における電解液は、高含有量のヘキサフルオロリン酸リチウムを含むため、電池システムにより多くのリチウムイオンを貢献することができ、電解液中のリチウムイオンの濃度を向上させ、リチウム塩の濃度分極を効果的に減少させ、リチウムイオンの負極極板から正極極板への移動を促進し、リチウムイオン電池のパワー性能をさらに向上させることができる。
【0153】
炭素元素の負極活物質の総質量に対する質量含有量は、97%以且つ上99.7%以下であり、例えば、97%、97.2%、97.5%、97.6%、97.8%、98%、98.2%、98.5%、98.6%、98.8%、99%、99.5%、99.7%又は上記いずれか二つの数値からなる範囲である。
【0154】
ケイ素元素の負極活物質総質量に対する質量含有量は、0.3から3.0%であり、例えば、0.3%、0.32%、0.4%、0.5%、0.6%、0.64%、0.7%、0.8%、0.9%、1.0%、1.1%、1.2%、1.27%、1.3%、1.4%、1.5%、1.6%、1.7%、1.8%、1.9%、1.91%、2.0%、2.1%、2.2%、2.23%、2.3%、2.4%、2.5%、2.6%、2.7%、2.8%、2.86%、2.9%、3%又は上記いずれか二つの数値からなる範囲である。
【0155】
前述のように、ケイ素元素は、シリコン系材料に由来してもよく、シリコン系材料は、負極膜層を構成する原料であってもよい。いくつかの実施形態では、負極活物質に含まれるケイ素元素は、シリコン単体、シリコン炭素複合体、シリコン酸化物SiOx(0<x≦2)のうちの少なくとも一つの形態で負極膜層に存在する。ここでのシリコン単体、シリコン炭素複合体、シリコン酸化物SiOx(0<x≦2)は、シリコン系材料を指してもよく、化成後の電池における負極極板中のケイ素元素の存在形態を指してもよい。ここでのシリコン酸化物SiOxについて、0<x≦2であるのは、負極膜層におけるケイ素原子と酸素原子との結合方式が多様であるためであり、SiO、SiO1.2、又はSiO2及び他の可能なシリコン酸化物のうちの少なくとも一つであってもよい。ここでのシリコン炭素複合体は、ケイ素元素と炭素元素がリチウムイオン電池内で特定の化学反応を経て生成されたシリコン炭素複合体であってもよい。上記シリコン酸化物自体の電圧プラトーは高く、低SOCでリチウムイオンを放出することに有利であり、容量に貢献して放電に関与し、リチウムイオン電池のパワー性能を向上させる。
【0156】
炭素元素は、主に炭素系材料の構成元素であり、いくつかの実施形態では、炭素系材料は、人造黒鉛及び天然黒鉛のうちの少なくとも一つを含んでもよく、選択的に、炭素系材料は、天然黒鉛を含んでもよく、天然黒鉛は、一般的に粒径がさらに小さく、リチウムイオンの放出がより速く、天然黒鉛の表面は、一般的に非晶質炭素を含有し、非晶質炭素の存在は、DCRを低下させ、パワーを向上させることができる。
【0157】
本出願における各物質又は各元素の定性及びその定量は、当業者に既知の適切な装置及び方法を用いて検出することができ、関連する検出方法は、中国国内外の検出基準、中国国内外の企業基準などを参照することができ、且つ当業者は、検出正確性の観点からくつかの検出ステップ/計器パラメータなどを適応的に変更して、より正確な検出結果を得てもよい。一つの検出方法を用いて定性的又は定量化してもよく、複数の検出方法を組み合わせて定性的又は定量的に測定してもよい。
【0158】
例えば、負極活物質中のケイ素元素を検出することを例として、JY/T015-1996『誘導結合プラズマ原子発光分光分析方法通則』を参照して定性及び定量分析を行ってもよく、さらにGB-T17359-2012標準を参照して、負極極板の表面元素又はイオン研磨後の断面元素に対して分析を行ってもよい。
【0159】
例えば、本出願における黒鉛材料は、JIS/K0131-1996 X線回折分析法通則と結合して、負極極板又は負極活物質に対してX線粉末回折試験及び定性分析を行うことができる。本出願におけるシリコン単体、シリコン炭素複合体、シリコン酸化物SiOx(0<x≦2)も上記X線粉末回折試験及び定性分析を用いることができる。
【0160】
いくつかの実施形態では、負極活物質の総質量を基準として、シリコン酸化物SiOx(x=1)の質量含有量と人造黒鉛の質量含有量との比は、(0.5:99.5から(5:95)である。負極活物質が上記含有量範囲を満たす場合、低SOCでの放電パワーをさらに改善することができる。
【0161】
例示的に、シリコン酸化物SiOの質量含有量と人造黒鉛の質量含有量との比は、0.5:99.5、1:99、1.5:98.5、2:98、2.5:97.5、3:97、3.5:96.5、4:96、4.5:95.5、5:95又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0162】
いくつかの実施形態では、シリコン酸化物SiOの質量含有量は、0.5%から5%であってもよ、選択的に2%から3.5%であり、例えば、0.5%、1.0%、1.1%、1.2%、1.3%、1.4%、1.5%、1.6%、1.7%、1.8%、1.9%、2.0%、2.1%、2.2%、2.3%、2.4%、2.5%、2.6%、2.7%、2.8%、2.9%、3%、3.1%、3.2%、3.3%、3.4%、3.5%、3.6%、3.7%、3.8%、3.9%、4.0%、4.1%、4.2%、4.3%、4.4%、4.5%、4.6%、4.7%、4.8%、4.9%、5.0%又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。シリコン酸化物SiOの質量含有量が上記含有量範囲を満たす場合、低SOCでの放電パワーをさらに改善することができる。
【0163】
いくつかの実施形態では、人造黒鉛の質量含有量は、95%から99.5%であってもよく、選択的に96.5%から98%であり、例えば、95%、95.1%、95.2%、95.3%、95.4%、95.5%、95.6%、95.7%、95.8%、95.9%、96%、96.1%、96.2%、96.3%、96.4%、96.5%、96.6%、96.7%、96.8%、96.9%、97%、97.1%、97.2%、97.3%、97.4%、97.5%、97.6%、97.7%、97.8%、97.9%、98%、98.1%、98.2%、98.3%、98.4%、98.5%、98.6%、98.7%、98.8%、98.9%、99%、99.5%又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。人造黒鉛の質量含有量が上記含有量範囲を満たす場合、電池のサイクル性能を改善することができる。
【0164】
いくつかの実施形態では、負極膜層の総質量を基準として、負極活物質の質量含有量は、85%以上100%未満である。例えば、負極活物質の質量含有量は、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0165】
いくつかの実施形態では、片面負極膜層の厚さは、65μmから90μmである。負極膜層の厚さは、片面負極膜層の厚さであり、例えば負極集電体の両側にいずれも負極膜層が設けられ、負極集電体の一方側の負極膜層の厚さは、負極膜層の片面の厚さであり、又は負極集電体の両側のうちの一方側に負極膜層が設けられる場合、この側の負極膜層の厚さは、片面負極膜層の厚さである。負極膜層の厚さが上記範囲にある場合、リチウムイオンの、負極極板における輸送速度とセパレータにおける輸送速度とをほぼ一致させることができ、濃度分極を悪化させるリスクを低減させ、放電性能の改善に有利である。
【0166】
例示的に、負極膜層の厚さは、65μm、66μm、67μm、68μm、69μm、70μm、71μm、72μm、73μm、74μm、75μm、76μm、77μm、78μm、79μm、80μm、81μm、82μm、83μm、84μm、85μm、86μm、87μm、88μm、89μm、90μm又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0167】
本出願の実施形態では、負極膜層の厚さは、当分野において公知の意味であり、当分野において公知の機器及び方法を用いて検出することができ、関連する検出方法は、中国国内外の検出標準、中国国内外の企業標準などを参照することができ、且つ当業者は、検出正確性の観点からくつかの検出ステップ/計器パラメータなどを適応的に変更して、より正確な検出結果を得てもよい。一つの検出方法を用いて定性的又は定量化してもよく、複数の検出方法を組み合わせて定性的又は定量的に測定してもよい。例えば、GB/T 17359-2012『マイクロビーム分析分光法定量分析』に基づき、電解液を含有しない負極極板をサンプルとしてイオン研磨断面元素分析を行い、負極膜層の厚さを得ることができる。さらに例えば、千分尺で複数回測定して平均値を取り、電解液を含有しない負極極板(両面に負極膜層が塗布された負極極板)を取り、まず千分尺を使用して負極極板の任意の5つの部位の厚さを測定し、平均値H1を得て、負極膜層をきれいに拭き取った後に残りの集電体の任意の5つの部位の厚さを測定し、平均値H2を得て、単層負極膜層の厚さは、(H2-H1)/2である。
【0168】
いくつかの実施形態では、負極膜層の圧密密度PDは、1.3g/cm3から1.7g/cm3である。負極膜層の圧密密度は、この範囲内にあり、負極極板は、良好な動力学性能及びサイクル性能を有する。
【0169】
例示的に、負極膜層の圧密密度PDは、1.3g/cm3、1.35g/cm3、1.4g/cm3、1.45g/cm3、1.5g/cm3、1.55g/cm3、1.6g/cm3、1.65g/cm3、1.7g/cm3又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0170】
面密度=片面負極膜層重量/片面負極膜層面積であり、ここで、負極集電体の両面にいずれも負極膜層を有するため、片面負極膜層重量=(極板の平均重量-集電体の平均重量)/2である。圧密密度=面密度/負極膜層の平均厚さであり、ここで、負極集電体の両面にいずれも負極膜層を有するため、負極膜層の平均厚さ=(極板の平均厚さ-集電体の平均厚さ)/2である。
【0171】
ここでの「平均」とは、平行して5回試験した後の平均値であってもよい。
【0172】
いくつかの実施形態では、負極膜層は、さらに選択的に負極導電剤を含む。本出願の実施形態は、負極導電剤の種類に対して特に限定せず、例として、負極導電剤は、超伝導カーボン、導電黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンドット、カーボンナノチューブ、グラフェンとカーボンナノファイバーのうちの少なくとも一つを含んでもよい。いくつかの実施形態では、負極膜層の総質量を基準として、負極導電剤の質量含有量は、≦5%である。
【0173】
いくつかの実施形態では、負極膜層は、さらに選択的に負極接着剤を含む。本出願の実施形態は、負極接着剤の種類に対して特に限定せず、例として、負極接着剤は、スチレンブタジエンゴムSBR、水溶性不飽和樹脂SR-1B、水性アクリル酸系樹脂(例えば、ポリアクリル酸PAA、ポリメタクリル酸PMAA、ポリアクリル酸ナトリウムPAAS、ポリアクリルアミドPAM、ポリビニルアルコールPVA、アルギン酸ナトリウムSAとカルボキシメチルキトサンCMCSのうちの少なくとも一つを含んでもよい。いくつかの実施形態では、負極膜層の総質量を基準として、負極接着剤の質量含有量は、≦5%である。
【0174】
いくつかの実施形態では、負極膜層は、さらに選択的に他の助剤を含む。例として、他の助剤は、増粘剤、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウムCMC-Na、PTCサーミスタ材料などを含んでもよい。いくつかの実施形態では、負極膜層の総質量を基準として、他の助剤の質量含有量は、≦2%である。
【0175】
いくつかの実施形態では、負極集電体は、金属箔シート又は複合集電体を採用してもよい。金属箔シートの例として、銅箔を採用することができる。複合集電体は、高分子材料ベース層及び高分子材料ベース層の少なくとも一つの表面上に形成される金属材料層を含んでもよい。例として、金属材料は、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金、銀と銀合金のうちの少なくとも一つを含んでもよい。例として、高分子材料ベース層は、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスチレンとポリエチレンのうちの少なくとも一つを含んでもよい。
【0176】
いくつかの実施形態では、負極集電体の厚さは、6μm以下であり、選択的に4.5μmから6μmの薄い集電体である。
【0177】
本出願のリチウムイオン電池の負極集電体は、選択的に4.5μmから6μmの薄い集電体であり、リチウムイオン電池の放熱経路を弱め、低SOC放電状態で、電池内に一部の熱量を保持することができ、低シリコン負極極板を高含有量のヘキサフルオロリン酸リチウム電解液系と組み合わせて放電末期(低SOC下)のDCR成長の低減に対する有益な効果をさらに向上させ、それにより低SOCでの放電パワーを改善する。
【0178】
例示的に、負極集電体の厚さは、4.0μm、4.1μm、4.2μm、4.3μm、4.4μm、4.5μm、4.6μm、4.7μm、4.8μm、4.9μm、5.0μm、5.1μm、5.2μm、5.3μm、5.4μm、5.5μm、5.6μm、5.7μm、5.8μm、5.9μm、6μm又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0179】
本出願の実施形態では、負極集電体の厚さは、当分野において公知の意味であり、当分野において公知の機器及び方法を用いて検出することができ、例えば負極極板をサンプルとし、次にアルコールなどの有機溶媒で負極極板の表面の負極膜層を洗浄し、マイクロメータで負極集電体の厚さを測定した。
【0180】
負極膜層は、一般的には負極スラリーを負極集電体上に塗布し、乾燥、冷間プレスを経て得られたものである。負極スラリーは、一般的には負極活物質、選択的な導電剤、選択的な接着剤、他の選択的な助剤を溶媒に分散させて均一に攪拌して形成されたものである。溶媒は、N-メチルピロリドン(NMP)又は脱イオン水であってもよいが、これらに限らない。
【0181】
負極極板は、負極膜層以外の他の付加機能層を排除しない。例えば、いくつかの実施例では、本出願の実施形態の負極極板は、負極集電体と負極膜層との間に挟み込まれ、負極集電体表面に設置される導電アンダーコーティング(例えば導電剤と接着剤とにより構成される)をさらに含む。別のいくつかの実施例では、本出願の実施形態の負極極板は、負極膜層の表面を覆う保護層をさらに含む。
【0182】
[セパレータ]
いくつかの実施形態では、リチウムイオン電池は、セパレータをさらに含み、セパレータの空隙率は、30%から45%である。
【0183】
ヘキサフルオロリン酸リチウムの添加量が相対的に高いため、電解液全体の粘度が相対的に大きく、セパレータの空隙率は、相対的に高く、粘度が比較的大きい電解液がセパレータを透過することに有利であり、リチウムイオンをスムーズに移動させることができる。
【0184】
例示的に、セパレータの空隙率は、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0185】
本出願の実施形態では、空隙率は、セパレータ内の孔体積がセパレータの総体積を占める百分率を指す。空隙率は、標準GB/T 36363-2018『リチウムイオン電池用ポリオレフィンセパレータ」』従って試験することができる。
【0186】
いくつかの実施形態では、セパレータは、有機基材及び有機基材の少なくとも一方側に設けられるコーティングを含み、コーティングは、セラミック層及び/又はポリアクリレート層を含む。コーティングは、セラミック層のみ、又はポリアクリレート層のみ、又はセラミック層及びポリアクリレート層を含んでもよい。
【0187】
選択的に、コーティングがセラミック層及びポリプロピレン層を含む場合、ポリプロピレン層は、有機基材の少なくとも一つの表面に設けられてもよく、セラミック層は、ポリプロピレン層の有機基材から離反する表面に設けられ、又は、セラミック層は、有機基材の少なくとも一方の表面に設けられ、ポリプロピレン層は、セラミック層の有機基材から離反する表面に設けられてもよい。
【0188】
セパレータは、ポリアクリレート層をセパレータの外面に設け、セパレータの外面に一定の柔軟性を持たせ、シリコン系材料の体積膨張又は収縮を効果的に緩和し、電極アセンブリ全体の構造安定性を向上させることができる。
【0189】
有機基材の材質を特に制限せず、いずれか公知の良好な化学的安定性及び機械的安定性を有するベースフィルムを選択することができ、例えば、有機基材は、多孔質ポリオレフィン系樹脂フィルム(例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデンのうちの少なくとも一つ)、多孔質ガラス繊維及び多孔質不織布のうちの少なくとも一つを含む。有機基材は、単層フィルムから選択されてもよく、多層複合フィルムであってもよい。有機基材が多層複合フィルムである場合、各層の材料は、同じでもよく、異なってもよい。
【0190】
いくつかの実施形態では、有機基材の厚さは、6.6μmから7.6μmである。
【0191】
有機基材の厚さが上記範囲にある場合、リチウムイオンの、負極極板における輸送速度とセパレータにおける輸送速度とをほぼ一致させることができ、濃度分極を悪化させるリスクを低減させ、放電性能の改善に有利である。
【0192】
例示的に、有機基材の厚さは、6.6μm、6.7μm、6.8μm、6.9μm、7.0μm、7.1μm、7.2μm、7.3μm、7.4μm、7.5μm、7.6μm又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0193】
いくつかの実施形態では、ポリアクリレート層におけるポリアクリレートは、ポリマーモノマーを重合して形成されてもよく、ポリマーモノマーは、第一のポリマーモノマー、第二のポリマーモノマー及び第三のポリマーモノマーのうちの少なくとも一つを含む。選択的に、ポリマーモノマーは、第一のポリマーモノマー、第二のポリマーモノマー、及び第三のポリマーモノマーを含む。ポリアクリレートは、上記三種のポリマーモノマーを採用して重合してなり、セパレータが極板との適当な接着性を取得するようにすることができ、リチウムイオン電池の動力学性能を向上させる。
【0194】
第一のポリマーモノマーは、少なくとも一つのエステル結合を有し、選択的にアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec-ブチル、アクリル酸tert-ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸-2-エチルヘキシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、酢酸ビニル、メタクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸グリシジル又はトリメチロールプロパントリアクリレートのうちの一つ又は複数であり、さらに選択的にメタクリル酸メチル、アクリル酸ラウリル、メタクリル酸ラウリル又はトリメチロールプロパントリアクリレートのうちの一つ又は複数である。
【0195】
第二のポリマーモノマーは、少なくとも一つのシアン結合を有し、選択的にアクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリルのうちの一つ又は複数であり、さらに選択的にアクリロニトリル、メタクリロニトリルのうちの一つ又は複数である。
【0196】
第三のポリマーモノマーは、少なくとも一つのアミド結合を有し、選択的にアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-ブトキシメタクリルアミドのうちの一つ又は複数であり、さらに選択的にはアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミドのうちの一つ又は複数である。
【0197】
いくつかの実施形態では、上記形成されたポリアクリレートにおける第一のポリマーモノマーと、第二のポリマーモノマーと、第三のポリマーモノマーとの重量比は、(45から70):(10から25):(10から35)であり、例えば(50から70):(10から25):(10から35)、(55から70):(10から25):(10から35)、(60から70):(10から25):(10から35)、(65から70):(10から25):(10から35)、(45から70):(15から25):(10から35)、(45から70):(20から25):(10から35)、(45から70):(22から25):(10から35)、(45から70):(10から25):(15から35)、(45から70):(10から25):(20から35)、(45から70):(10から25):(25から35)、(45から70):(10から25):(30から35)、(45から70):(10から25):(32から35)などである。
【0198】
いくつかの実施形態では、セラミック層は、耐熱性能を有する無機粒子を含み、無機粒子は、誘電率が5以上の無機粒子、活性イオンを輸送する能力を有する無機粒子、電気化学的酸化及び還元が起こり得る無機粒子のうちの少なくとも一つを含んでもよい。
【0199】
いくつかの実施形態では、誘電率が5以上の無機粒子は、ベーマイト(γ-AlOOH)、酸化アルミニウム(Al2O3)、硫酸バリウム(BaSO4)、酸化マグネシウム(MgO)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、シリコン酸化物SiOx(0<x≦2)、二酸化スズ(SnO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化カルシウム(CaO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化ニッケル(NiO)、二酸化ハフニウム(HfO2)、酸化セリウム(CeO2)、チタン酸ジルコニウム(ZrTiO3)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、フッ化マグネシウム(MgF2)、Pb(Zr、Ti)O3(PZTと略記)、Pb1-mLamZr1-nTinO3(PLZTと略記し、0<m<1、0<n<1)及びPb(Mg3Nb2/3)O3-PbTiO3(PMN-PTと略記)のうちの少なくとも一つを含む。
【0200】
いくつかの実施形態では、活性イオンを輸送する能力を有する無機粒子は、リン酸リチウム(Li3PO4)、リン酸チタンリチウム(LixTiy(PO4)3、0<x<2、0<y<3)、リン酸チタンアルミニウムリチウム(LixAlyTiz(PO4)3、0<x<2、0<y<1、0<z<3)、(LiAlTiP)xOy系ガラス(0<x<4、0<y<13)、チタン酸ランタンリチウム(LixLayTiO3、0<x<2、0<y<3)、リチウムチオリン酸ゲルマニウム(LixGeyPzSw、0<x<4、0<y<1、0<z<1、0<w<5)、窒化リチウム(LixNy、0<x<4、0<y<2)、SiS2系ガラス(LixSiySz、0<x<3、0<y<2、0<z<4)及びP2S5系ガラス(LixPySz、0<x<3、0<y<3、0<z<7)のうちの少なくとも一つ。
【0201】
いくつかの実施形態では、電気化学的酸化及び還元が発生可能な無機粒子は、リチウム含有遷移金属酸化物、オリビン構造のリチウム含有リン酸塩、炭素系材料、シリコン系材料、スズ系材料及びリチウムチタン化合物のうちの少なくとも一つを含む。
【0202】
いくつかの実施形態では、セラミック層は、接着剤をさらに含んでもよく、選択的に、接着剤は、ポリアクリレート、アクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリフッ化ビニリデン-コ-トリクロロエチレンコポリマー、ポリメタクリル酸メチル、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン-コ-酢酸ビニルコポリマー、ポリエチレンオキシド、ポリアリレート、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、シアノエチルプルランのうちの一つ又は複数を含む。
【0203】
いくつかの実施形態では、コーティングの厚さは、1.5μmから2.5μmである。
【0204】
コーティングの厚さは、片側コーティングの厚さであり、具体的にセラミック層及びポリアクリレート層の総厚さを含み、例えば有機基材の両側にいずれもコーティングが設けられ、有機基材のうちの一方側のコーティングの厚さは、コーティングの片側の厚さであり、又は有機基材の両側のうちの一方側にコーティングが設けられる場合、この側のコーティングの厚さは、片側コーティングの厚さである。コーティングの厚さが上記範囲にある場合、リチウムイオンの、負極極板における輸送速度とセパレータにおける輸送速度とをほぼ一致させることができ、濃度分極を悪化させるリスクを低減させ、放電性能の改善に有利である。
【0205】
例示的に、コーティングの厚さは、1.5μm、1.6μm、1.7μm、1.8μm、1.9μm、2.0μm、2.1μm、2.2μm、2.3μm、2.4μm、2.5μm又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0206】
いくつかの実施形態では、セラミック層の厚さとポリアクリレート層の厚さとの比は、(0.5から2.0):1であり、例えば0.5:1、0.7:1、0.8:1、0.9:1、1.0:1、1.1:1、1.2:1、1.3:1、1.4:1、1.5:1、1.6:1、1.7:1、1.8:1、1.9:1、2.0:1、又は上記いずれか二つの数値からなる範囲であってもよい。
【0207】
本出願の実施形態では、有機基材及びコーティングの厚さの意味は、当分野において公知の意味であり、当分野において公知の機器及び方法を用いて検出することができ、例えば、イオン断面研磨装置を用いて走査型電子顕微鏡と組み合わせて試験することができる。例として、以下のステップに従って操作することができる。先ずセパレータを一定サイズの試験対象サンプル(例えば6mm×6mm)に裁断し、二枚の導電性及び熱伝導性のシート(例えば銅箔)を用いて試験対象サンプルを挟み、試験対象サンプルと薄片との間を接着剤(例えば両面接着剤)で粘りついて固定し、一定の質量(例えば約400g)の平坦な鉄塊を用いて一定時間(例えば1h)で押し付けて、試験対象サンプルと銅箔との間の隙間を小さくするほどよくなり、そしてはさみでエッジが揃うように切り、導電接着剤を有するサンプル台上に粘り、サンプルがサンプル台エッジよりもやや突出すればよい。そしてサンプル台をサンプルラックに入れてロックして固定し、アルゴンイオン断面研磨計の電源を入れて真空引きし(例えば10Pa-4Paまで)、アルゴンガス流量(例えば0.15MPaに)、電圧(例えば8KVに)、及び研磨時間(例えば2時間に)を設定し、サンプル台を揺動モードに調整して研磨を開始し、研磨終了後、走査型電子顕微鏡(例えばZEISS Sigma 300)を用いて試験対象サンプルのイオン研磨断面形態(CP)画像を得、コーティングの厚さ及び有機基材の厚さを測定して得た。
【0208】
いくつかの実施形態では、正極極板、セパレータ及び負極極板は、捲回プロセス及び/又は積層プロセスによって電極アセンブリに製造でき、電極アセンブリは、捲回式電極アセンブリ、又は積層式電極アセンブリであってもよいと理解されてもよく、選択的に、電極アセンブリは、積層式電極アセンブリであり、積層式電極アセンブリは、正極極板と負極極板との間をより緊密にし、DCRをさらに改善することができる。
【0209】
いくつかの実施形態では、リチウムイオン電池は、外装体を含んでもよい。この外装体は、上記電極アセンブリ及び電解液をパッケージングするために用いられてもよい。
【0210】
いくつかの実施形態では、リチウムイオン電池の外装体は、硬質ケース、例えば硬質プラスチックケース、アルミニウムケース、鋼製ケースなどであってもよい。リチウムイオン電池の外装体は、パウチ、例えば袋状パウチであってもよい。パウチの材質は、プラスチック、例えばポリプロピレン(PP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)とポリブチレンサクシネート(PBS)のうちの少なくとも一つであってもよい。
【0211】
本出願の実施形態は、リチウムイオン電池の形状に対して特に限定せず、それは、円筒型、四角形又は他の任意の形状であってもよい。例えば、
図1は、一例としての四角形構造のリチウムイオン電池5である。
【0212】
いくつかの実施形態では、
図2に示すように、外装体は、ケース51とカバープレート53を含んでもよい。ケース51は、底板と底板上に接続された側板を含んでもよく、底板と側板は、囲んで収容キャビティを形成する。ケース51は、収容キャビティと連通する開口を有し、カバープレート53は、開口を覆って、収容キャビティを密閉するために用いられる。正極極板、負極極板とセパレータは、捲回プロセス及び/又は積層プロセスによって電極アセンブリ52を形成することができる。電極アセンブリ52は、収容キャビティにパッケージングされる。電解液は、電極アセンブリ52内に浸潤される。リチウムイオン電池5に含まれる電極アセンブリ52の数は、一つ又は複数であってもよく、需要に応じて調節することができる。
【0213】
本出願の実施形態のリチウムイオン電池の製造方法は、公知のものである。いくつかの実施形態では、正極極板、セパレータ、負極極板と電解液を組み立ててリチウムイオン電池を形成してもよい。例として、正極極板、セパレータ、負極極板を捲回プロセス及び/又は積層プロセスを経て電極アセンブリに形成することができ、電極アセンブリを外装体内に置き、乾燥した後に電解液を注入し、真空パッケージング、静置、化成、整形などの工程を経、リチウムイオン電池を得た。
【0214】
本出願の実施形態のいくつかの実施例では、本出願の実施形態によるリチウムイオン電池は、電池モジュールに組み立てることができ、電池モジュールに含まれるリチウムイオン電池の数は、複数であってもよく、具体的な数は、電池モジュールの応用と容量に応じて調節することができる。
【0215】
図3は、一例とする電池モジュール4の概略図である。
図3に示すように、電池モジュール4において、複数のリチウムイオン電池5は、電池モジュール4の長手方向に沿って順に並べられて設置されてもよい。無論、他の任意の方式で配列してもよい。さらに締結具によりこれらの複数のリチウムイオン電池5を固定してもよい。
【0216】
選択的に、電池モジュール4は、収容空間を有するハウジングをさらに含んでもよく、複数のリチウムイオン電池5は、この収容空間に収容される。
【0217】
いくつかの実施形態では、上記電池モジュールは、さらに電池パックに組み立てられてもよく、電池パックに含まれる電池モジュールの数は、電池パックの応用と容量に応じて調節することができる。
【0218】
図4と
図5は、一例とする電池パック1の概略図である。
図4と
図5に示すように、電池パック1には電池ボックスと電池ボックス内に設置された複数の電池モジュール4が含まれてもよい。電池ボックスは、上部筐体2と下部筐体3とを含み、上部筐体2は、下部筐体3を覆設し、且つ電池モジュール4を収容するための密閉空間を形成するために用いられる。複数の電池モジュール4は、任意の方式で電池ボックスに配列されてもよい。
【0219】
電力消費装置
本出願の実施形態の第三の態様は、電力消費装置を提供し、電力消費装置は、本出願の実施形態のリチウムイオン電池、電池モジュール又は電池パックのうちの少なくとも一つを含む。リチウムイオン電池、電池モジュール又は電池パックは、電力消費装置の電源として使用されてもよく、電力消費装置のエネルギー貯蔵ユニットとして使用されてもよい。電力消費装置は、移動体機器(例えば携帯電話、ノートパソコンなど)、電動車両(例えば純電気自動車、ハイブリッド電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車、電動自転車、電動スクータ、電動ゴルフカート、電動トラックなど)、電気列車、船舶及び衛星、エネルギー貯蔵システムなどであってもよいが、それらに限らない。
【0220】
電力消費装置は、その使用需要に応じてリチウムイオン電池、電池モジュール又は電池パックを選択することができる。
【0221】
図6は、一例としての電力消費装置6の概略図である。この電力消費装置6は、純電気自動車、ハイブリッド電気自動車、又はプラグインハイブリッド電気自動車などである。この電力消費装置6の高出力と高エネルギー密度に対する需要を満たすために、電池パック又は電池モジュールを採用してもよい。
【0222】
別の例の電力消費装置として、携帯電話、タブレットパソコン、ノートパソコンなどであってもよい。この電力消費装置は、一般的には薄型化を要求し、リチウムイオン電池を電源として採用することができる。
【0223】
実施例
下記実施例は、本出願の実施形態に開示された内容をより具体的に記述し、これらの実施例は、ただ論述して説明するためのものに過ぎず、本出願の実施形態に開示された内容の範囲内において様々な修正と変化を行うのは、当業者にとって明らかなことであるからである。別段の宣言がない限り、以下の実施例で報告されるすべての部、百分率と比は、いずれも質量を基準とし、そして実施例に使用されるすべての試薬は、市販から取得されるか又は通常の方法に従って合成して取得されることができるとともに、さらに処理することなく直接使用することができ、及び実施例に使用される計器は、いずれも市販から取得されることができる。
【0224】
実施例1
1、正極極板の製造
正極極板は、正極集電体及び正極膜層を含み、正極集電体は、厚さが10μmのアルミニウム箔であり、正極膜層は、正極スラリー(溶媒は、N-メチルピロリドンNMPである)で正極集電体のアルミニウム箔の表面に均一に塗布され、乾燥、冷間プレスを経て形成された膜層を含み、正極膜層は、重量比が97.5:1.4:1.1である正極活物質、導電剤カーボンブラック、接着剤ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含む。正極膜層の圧密密度は、3.35g/cm3であった。
【0225】
正極活物質は、単結晶構造でありそれは、分子式がLidNiaCobMncM(1-a-b-c)Ozである化合物を含み、ここで、正極活物質中のニッケルコバルトマンガン酸化物基体は、分子式がLiNi0.70Co0.10Mn0.20O2である化合物を含む。
【0226】
M元素は、450ppmのTi元素、1700ppmのZr元素、1600ppmのAl元素、及び120ppmの(B、S及びP)元素を含む。
【0227】
2、負極極板の製造
負極極板は、負極集電体及び負極膜層を含み、負極集電体は、厚さ4.5μmの銅箔であり、負極膜層は、負極スラリー(溶媒は、脱イオン水である)で負極集電体銅箔の表面に均一に塗布され、乾燥、冷間プレスを経て形成された膜層を含み、負極膜層は、重量比が96.2:1.8:1.2:0.8の負極活物質、接着剤スチレンブタジエンゴム(SBR)、増粘剤カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)、導電剤カーボンブラック(Super P)を含む。
【0228】
負極活物質は、97%の人造黒鉛と3%のシリコン酸化物SiOを含み、負極活物質の総質量に対するケイ素元素の質量含有量は、1.91%であった。負極膜層の圧密密度は、1.4g/cm3であった。
【0229】
3、セパレータ
セパレータは、セパレータの供給業者から直接購入することができる。セパレータの空隙率は、30%であり、セパレータは、有機基材(多孔質ポリプロピレンPP(7μm))及びコーティングを含み、コーティングは、セラミック層(1μm)及びポリアクリレート層(1μm)を含み、セラミック層は、有機基材の二つの表面に設けられ、セラミック層は、接着剤及び無機酸化アルミニウムをN-メチルピロリドンNMPに溶解して有機基材に塗布して形成された膜層を含み、ポリアクリレート層は、セラミック層の有機基材から離反する表面に設けられ、ポリアクリレート層は、ポリアクリレート類を含有する物質をセラミック層の表面に塗布して形成された膜層である。
【0230】
4、電解液の製造
電解液は、有機溶媒、リチウム塩及び添加剤を含み、有機溶媒は、環状カーボネート(EC、PC及びBC、各成分の質量比は、1:1:1である)及び線状カーボネート(EMC、DMC及びDEC、各成分の質量比は、1:1:1である)を含む。
【0231】
5、電池の製造
上記正極極板、セパレータ、負極極板を順番に積層し、セパレータが正極極板と負極極板との間に位置して隔離の役割を果たすようにし、そして捲回して電極アセンブリを得、電極アセンブリを外装体に置き、乾燥後に電解液を注入し、真空パッケージング、静置、化成、整形などの工程を経て、リチウムイオン電池を得て、リチウムイオン電池の保液係数は、2.0g/Ahであった。
【0232】
比較例1
実施例1と類似の方法でリチウムイオン電池を製造し、実施例1と異なるのは、比較例1の正極活物質が異なり、正極活物質がM元素を含まないことである。
【0233】
比較例2と比較例3
実施例1と類似の方法でリチウムイオン電池を製造し、実施例1と異なるのは、比較例2及び比較例3で電解液の成分、特にヘキサフルオロリン酸リチウムの含有量を調整したことである。
【0234】
実施例2
実施例1と類似の方法でリチウムイオン電池を製造し、実施例1と異なるのは、実施例2の正極活物質の態様が異なり、実施例2における正極活物質が多結晶粒子を用いることである。
【0235】
実施例3-1と実施例3-2
実施例1と類似の方法でリチウムイオン電池を製造し、実施例1と異なるのは、実施例3-1から実施例3-2で電解液の成分、特にヘキサフルオロリン酸リチウムの含有量を調整したことである。
【0236】
実施例4-1から実施例4-4
実施例1と類似の方法でリチウムイオン電池を製造し、実施例1と異なるのは、実施例4-1から実施例4-4の正極活物質が異なり、正極活物質がM元素におけるTi及びZrのうちの少なくとも一つの含有量を調整したことである。
【0237】
実施例4-5から実施例4-7
実施例1と類似の方法でリチウムイオン電池を製造し、実施例1と異なるのは、実施例4-5から実施例4-7の電解液が異なり、電解液が第一の添加剤の含有量を調整したことである。
【0238】
実施例5-1と実施例5-2
実施例1と類似の方法でリチウムイオン電池を製造し、実施例1と異なるのは、実施例5-1及び実施例5-2の正極活物質が異なり、正極活物質がM元素におけるAlの含有量を調整したことである。
【0239】
実施例5-3から実施例5-4
実施例1と類似の方法でリチウムイオン電池を製造し、実施例1と異なるのは、実施例5-3から実施例5-4の電解液が異なり、電解液が第二の添加剤の含有量を調整したことである。
【0240】
実施例6-1から実施例6-3
実施例1と類似の方法でリチウムイオン電池を製造し、実施例1と異なるのは、実施例6-1から実施例6-3の正極活物質及び電解液が異なり、正極活物質がM元素におけるP、B及びSの総含有量を調整し、電解液が第三の添加剤の含有量を調整したことである。
【0241】
実施例7-1と実施例7-2
実施例1と類似の方法でリチウムイオン電池を製造し、実施例1と異なるのは、実施例7-1と実施例7-2の電解液が異なり、電解液にフッ素化環状カーボネートを添加したことである。
【0242】
実施例8
実施例1と類似の方法でリチウムイオン電池を製造し、実施例1と異なるのは、実施例8の電解液が異なり、電解液に第四の添加剤を添加したことである。
【0243】
実施例及び比較例のパラメータは、表1から表3に示すようにである。
【0244】
性能試験
1、リチウムイオンのサイクル性能試験
25°Cで、実施例及び比較例で製造して得たリチウムイオン電池を1Cのレートで4.35Vまで充電し、1Cのレートで2.8Vまで放電して500サイクル循環させ、リチウムイオン電池の残容量が初期容量に占める百分率を記録した。
【0245】
試験結果
試験結果は、表1から表3に示す通りである。
【0246】
【0247】
表1において、実施例1の正極活物質は、単結晶構造であり、それは、分子式がLiNiaCobMncM(1-a-b-c)O2である化合物を含み、ここで、正極活物質中のニッケルコバルトマンガン酸化物基体は、分子式がLiNi0.70Co0.10Mn0.20O2である化合物を含む。M元素は、450ppmのTi元素、1700ppmのZr元素、1600ppmのAl元素、及び120ppmの(B、S及びP)元素を含む。実施例2、実施例3-1及び実施例3-2の正極活物質の分子式は、実施例1と同じであり、実施例2は、多結晶構造を用い、実施例3-1及び実施例3-2は、単結晶粒子を用いた。
【0248】
比較例1の正極活物質は、分子式がLiNi0.70Co0.10Mn0.20O2である化合物を含み、単結晶粒子を用いた。
【0249】
表1から分かるように、
比較例1におけるヘキサフルオロリン酸リチウムの含有量は、比較的高いが、比較例1の正極活物質は、LiNi0.70Co0.10Mn0.20O2であり、その構造安定性は、相対的に低く、それによりリチウムイオン電池のサイクル性能は、依然として低い。
【0250】
比較例2及び比較例3は、いずれも適切な正極活物質系を用い、正極活物質は、M元素を含み、M元素は、Ti、Zr、Al、B、S、Pなどを含み、正極活物質系の結晶格子安定性を向上させることに有利であり、しかし比較例2は、相対的に低い含有量のヘキサフルオロリン酸リチウム(12%)を用い、比較的低い含有量のヘキサフルオロリン酸リチウムが正極活物質の表面に生成するフッ化リチウム化物は、相対的に少なく、正極活物質に対して十分に保護作用を果たすことができず、正極活物質における遷移金属イオンが依然として電解液に溶出するリスクがあり、それにより電池サイクル性能を悪化させる。比較例3は、相対的に高い含有量のヘキサフルオロリン酸リチウム(23%)を用い、比較的高い含有量のヘキサフルオロリン酸リチウムは、電解液系の粘度が高すぎ、リチウムイオンの移動に不利であり、電池の動力学性能が比較的悪くなる。
【0251】
実施例1の正極活物質は、M元素をさらに含み、M元素の導入は、正極活物質結晶構造の安定性を向上させることができ、さらにヘキサフルオロリン酸リチウムを組み合わせ、ヘキサフルオロリン酸リチウムLiPF6の電解液の総質量に対する質量含有量は、15%から20%であり、ヘキサフルオロリン酸リチウムは、正極活物質の表面にフッ化リチウムLiFを主な膜成分とする保護層を形成することができ、それにより金属元素及び非金属元素の溶出をある程度緩和し、リチウムイオン電池のサイクル性能を改善することができる。実施例2における正極活物質は、多結晶粒子を用いることに比べて、実施例1は、単結晶粒子を用い、単結晶粒子と電解液との接触界面が相対的に少なく、副反応が発生するリスクがより低く、サイクル性能の向上により有利である。
【0252】
【0253】
表2から分かるように、
実施例4-1から実施例4-7における第一の添加剤と正極活物質におけるTi及びZrとを組み合わせて使用し、Ti及びZrは、正極活物質構造の安定性を向上させることができ、第一の添加剤は、TiとZrイオンによるパワーの劣化を補うことができ、それによりリチウムイオン電池のサイクル性能を向上させる。
【0254】
実施例5-1から実施例5-4における第二の添加剤と正極活物質中のAlとを組み合わせて使用し、特にジフルオロリン酸リチウムと正極活物質中のAl元素を組み合わせることにより、正極活物質の表面のDCRを改善し、界面パワーを向上させることができる。
【0255】
【0256】
表3から分かるように、
実施例6-1から実施例6-3における第三の添加剤及び正極活物質におけるリンP、硫黄S及びホウ素B元素のうちの少なくとも一つの元素を組み合わせることにより、正極活物質の表面のDCRを改善し、界面パワーを向上させることができる。
【0257】
実施例7-1及び実施例7-2は、電解液にフッ素化環状カーボネートをさらに添加し、フッ素化環状カーボネートは、負極活物質の表面にSEI膜の形成に関与することができ、負極活物質を効果的に保護することができ、それによりリチウムイオン電池のサイクル性能を向上させる。
【0258】
実施例8は、電解液に第四の添加剤をさらに添加し、第四の添加剤は、負極活物質の表面にSEI膜の形成に関与することができ、負極活物質を効果的に保護することができ、それによりリチウムイオン電池のサイクル性能を向上させる。
【0259】
例示的な実施例を示して説明してきたが、当業者は、上述の実施例が本出願に対する制限として解釈されるべきではなく、且つ本出願の精神、原理、及び範囲から逸脱することなく、実施例に変更、代替、及び修正を加えることができることを理解すべきである。
【符号の説明】
【0260】
1:電池パック、2:上部筐体、3:下部筐体、4:電池モジュール、
5:リチウムイオン電池、51:ケース、52:電極アセンブリ、
53、カバープレート、
6:電力消費装置。
【国際調査報告】