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特表2025-505662GLUT1発現用アデノ随伴ウイルスベクターおよびその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-28
(54)【発明の名称】GLUT1発現用アデノ随伴ウイルスベクターおよびその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/01 20060101AFI20250220BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20250220BHJP
   C12N 15/35 20060101ALI20250220BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20250220BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20250220BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20250220BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20250220BHJP
   C07K 14/46 20060101ALN20250220BHJP
【FI】
C12N7/01
C12N15/864 100Z
C12N15/35
A61K35/76
A61K38/17
A61K48/00
A61P25/00
C07K14/46 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024547024
(86)(22)【出願日】2023-02-08
(85)【翻訳文提出日】2024-09-13
(86)【国際出願番号】 US2023062231
(87)【国際公開番号】W WO2023154763
(87)【国際公開日】2023-08-17
(31)【優先権主張番号】63/307,963
(32)【優先日】2022-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521067485
【氏名又は名称】スペースクラフト セブン リミテッド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ハーツォグ クリストファー ディーン
(72)【発明者】
【氏名】サクラメント チェスター ビッテンコート
(72)【発明者】
【氏名】プラバカール ラジ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA95X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA44
4B065CA46
4C084AA13
4C084BA01
4C084DC50
4C084MA66
4C084ZA011
4C084ZA012
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA01
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA40
4H045EA20
4H045EA50
(57)【要約】
GLUT1タンパク質またはその機能的バリアントを発現するベクターとして組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ビリオンを用いた、GLUT1欠損症候群および関連障害の遺伝子治療を本明細書において提供する。キャプシドは、AAV-BR1キャプシドまたはその機能的バリアントでありうる。他のプロモーターまたはキャプシドを用いてもよい。rAAVビリオンは、内皮特異的プロモーター、例えばFLT-1プロモーターを用いてもよい。脳内へのおよび/または静脈内へのrAAVビリオンの投与によるなどの処置の方法ならびに他の組成物および方法をさらに提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベクターゲノムおよびキャプシドを含む、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ビリオンであって、
該ベクターゲノムが、5'および3'逆位末端反復配列(ITR)によって挟まれた発現カセットを含み、
該発現カセットが、プロモーターに機能的に連結されたGLUT1またはその機能的バリアントをコードするポリヌクレオチド配列を含み、かつ
該キャプシドがBR1キャプシドまたはその機能的バリアントである、
前記rAAVビリオン。
【請求項2】
キャプシドがBR1キャプシドである、請求項1記載のrAAVビリオン。
【請求項3】
キャプシドが、各Xが任意のアミノ酸であるポリペプチド配列モチーフXDGXXWX(SEQ ID NO: 107)を含む、請求項1記載のrAAVビリオン。
【請求項4】
キャプシドが、ポリペプチド配列ADGVQWT(SEQ ID NO:108)、DDGVSWK(SEQ ID NO:109)、SDGLTWS(SEQ ID NO:110)またはSDGLAWV(SEQ ID NO:111)を含む、請求項1記載のrAAVビリオン。
【請求項5】
キャプシドが、ポリペプチド配列NRGTEWDまたはそれに対して1つ、2つ、3つもしくはそれ以上の置換を有する機能的バリアントを含む、請求項1記載のrAAVビリオン。
【請求項6】
キャプシドが、ポリペプチド配列NRGTEWD(SEQ ID NO:112)を含む、請求項1記載のrAAVビリオン。
【請求項7】
キャプシドが、SEQ ID NO 76に記載されるAAV2 VP1参照配列と比較して、GHループにおけるポリペプチド配列NRGTEWDの挿入を含む、請求項1記載のrAAVビリオン。
【請求項8】
キャプシドが、SEQ ID NO: 106に記載されるAAV-BR1 VP3ポリペプチド配列と少なくとも98%、少なくとも99%または100%の同一性を共有するVP3ポリペプチドを含む、請求項1記載のrAAVビリオン。
【請求項9】
キャプシドが、SEQ ID NO: 105に記載されるAAV-BR1 VP2ポリペプチド配列と少なくとも98%、少なくとも99%または100%の同一性を共有するVP2ポリペプチドを含む、請求項1記載のrAAVビリオン。
【請求項10】
キャプシドが、SEQ ID NO: 104に記載されるAAV-BR1 VP1ポリペプチド配列と少なくとも98%、少なくとも99%または100%の同一性を共有するVP1ポリペプチドを含む、請求項1記載のrAAVビリオン。
【請求項11】
プロモーターがFLT-1プロモーターである、請求項1~10のいずれか一項記載のrAAVビリオン。
【請求項12】
FLT-1プロモーターがヒトFLT-1(hFLT-1)プロモーターである、請求項11記載のrAAVビリオン。
【請求項13】
hFLT-1プロモーターが、SEQ ID NO: 1と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%の同一性を共有する、請求項12記載のrAAVビリオン。
【請求項14】
発現カセットが、ポリAシグナル、任意でヒト成長ホルモン(hGH)ポリAを含む、請求項1~13のいずれか一項記載のrAAVビリオン。
【請求項15】
発現カセットが、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)、任意でWPRE(x)を含む、請求項1~14のいずれか一項記載のrAAVビリオン。
【請求項16】
発現カセットが、SEQ ID NO: 4と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%の同一性を共有する配列を含む3'非翻訳領域(3' UTR)を含む、請求項1~15のいずれか一項記載のrAAVビリオン。
【請求項17】
GLUT1をコードするポリヌクレオチド配列が、SLC2A1ポリヌクレオチドである、請求項1~16のいずれか一項記載のrAAVビリオン。
【請求項18】
SLC2A1ポリヌクレオチドが、ヒトSLC2A1ポリヌクレオチドである、請求項17記載のrAAVビリオン。
【請求項19】
GLUT1をコードするポリヌクレオチド配列が、SEQ ID NO: 5と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%の同一性を共有する、請求項16~18のいずれか一項記載のrAAVビリオン。
【請求項20】
発現カセットが、5'および3'逆位末端反復配列(ITR)、任意でAAV2 ITR、任意でSEQ ID NO: 6またはSEQ ID NO: 7と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%の同一性を共有するITRによって挟まれている、請求項1~19のいずれか一項記載のrAAVビリオン。
【請求項21】
発現カセットが、SEQ ID NO: 8~16、SEQ ID NO: 97、SEQ ID NO: 99およびSEQ ID NO: 101のいずれか1つと少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%の同一性を共有する、請求項1~20のいずれか一項記載のrAAVビリオン。
【請求項22】
AAV2ビリオンではない、請求項20または請求項21記載のrAAVビリオン。
【請求項23】
その必要がある対象において疾患または障害を処置および/または予防する方法であって、該対象に請求項19~22のいずれか一項記載のrAAVビリオンを投与する段階を含む、前記方法。
【請求項24】
疾患または障害が神経学的障害である、請求項23記載の方法。
【請求項25】
疾患または障害がグルコース輸送体1欠損症候群(GLUT1 DS)またはDe Vivo疾患である、請求項23または請求項24記載の方法。
【請求項26】
rAAVビリオンが脳室内(ICV)注射により投与される、請求項23~25のいずれか一項記載の方法。
【請求項27】
rAAVビリオンが静脈内(IV)注射により投与される、請求項23~25のいずれか一項記載の方法。
【請求項28】
rAAVビリオンが、静脈内(IV)注射と組み合わせて脳室内(ICV)注射により投与される、請求項23~25のいずれか一項記載の方法。
【請求項29】
前記投与が、任意で参照rAAVビリオンと比較して増加したレベルで、脳におけるGLUT1をコードするポリヌクレオチド配列の発現をもたらす、請求項23~28のいずれか一項記載の方法。
【請求項30】
前記投与が、任意で参照rAAVビリオンと比較して増加したレベルで、脳におけるGLUT1タンパク質の発現の増加ならびに/またはCSFにおけるグルコースレベルおよび/もしくは乳酸レベルの増加をもたらし、ここで任意で該増加が少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%または100%の増加である、請求項23~29のいずれか一項記載の方法。
【請求項31】
参照rAAVビリオンがAAV2ビリオンである、請求項30記載の方法。
【請求項32】
参照rAAVビリオンがAAV9ビリオンである、請求項30記載の方法。
【請求項33】
rAAVビリオンが1×1012ベクターゲノム(vg)、1×1013 vg、1×1014 vgまたは3×1014 vgの用量で投与される、請求項23~32のいずれか一項記載の方法。
【請求項34】
内因性Glut1プロモーターまたは遍在性プロモーターを用いて実施される方法と比較して、脳微小血管内皮細胞によるグルコース取り込みの増加を引き起こす、請求項23~33のいずれか一項記載の方法。
【請求項35】
細胞を請求項23~34のいずれか一項記載のrAAVビリオンと接触させる段階を含む、細胞においてGLUT1を発現させる方法。
【請求項36】
前記細胞が内皮細胞である、請求項35記載の方法。
【請求項37】
内皮細胞が脳微小血管内皮細胞である、請求項36記載の方法。
【請求項38】
内皮細胞がインビボの内皮細胞である、請求項36または請求項37記載の方法。
【請求項39】
前記細胞がニューロンである、請求項35記載の方法。
【請求項40】
ニューロンがインビボのニューロンである、請求項39記載の方法。
【請求項41】
対象への前記rAAVビリオンのインビボ投与を含む、請求項35~40のいずれか一項記載の方法。
【請求項42】
前記rAAVビリオンが、内因性Glut1プロモーターまたは遍在性プロモーターを含むrAAVビリオンと接触された細胞と比較して、前記細胞によるグルコース取り込みの増加を引き起こす、請求項35~41のいずれか一項記載の方法。
【請求項43】
請求項23~34のいずれか一項記載のrAAVビリオンを含む、薬学的組成物。
【請求項44】
請求項23~34のいずれか一項記載のrAAVビリオンまたは請求項43記載の薬学的組成物、および任意で使用説明書を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2022年2月8日付で出願された米国仮特許出願第63/307,963号の優先権の恩典を主張するものであり、その開示は、あらゆる目的のために参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0002】
配列表に関する陳述
本出願に関連する配列表XMLは、XMLファイル形式で提供され、参照により本明細書に組み入れられる。配列表XMLを含むXMLファイルの名前は、ROPA_027_01WO_ST26.xmlである。XMLファイルは223m012バイトで、2023年2月8日に作成され、USPTO特許センター経由で電子的に提出されている。
【背景技術】
【0003】
背景
グルコース輸送体1(GLUT1)をコードするSLC2A1遺伝子の変異は、GLUT1欠損症候群(GLUT1 DS)と称される神経発達障害と関連している。GLUT1 DSは常染色体優性障害であり、多くの場合、デノボ変異がハプロ不全を生じ、症候性のヘテロ接合性をもたらす散発性疾患として現れる。
【0004】
GLUT1はインスリン非依存性グルコース輸送体である。De Vivo疾患としても知られる、典型的なGLUT1 DSを有する患者は、低い脳内グルコースレベルに苦しみ、早発型発作(中央値12ヶ月)、発達遅延、後天性小頭症(頭部成長の減速)、複雑運動障害(痙縮、運動失調、ジストニア); 発作性眼球・頭部運動; および髄液糖減少症、つまり脳脊髄液(CSF)中の低グルコース濃度によって特徴付けられる表現型を示す。この疾患の臨床経過は、早期処置の重要性を明らかにしている。Alter et al. J. Child Neurol. 30(2):160-169 (2015)(非特許文献1)。GLUT1は、血液脳関門(BBB)前後のグルコースの輸送、血管新生、およびBBBの維持を含めて、内皮細胞の機能に関与している。しかしながら、ハプロ不全マウスモデルでの研究では、BBB の物理的完全性を維持する上での GLUT1 の役割に関して矛盾する証拠が得られている。GLUT1の内皮細胞系列特異的ノックアウトは、内皮のエネルギー利用能を低減させ、遊走に影響を与えることなく増殖を低減させ、それによって発生的血管新生を遅延させるが(Veys et al., Circ. Res. 2020; 127:466-482(非特許文献2))、内皮細胞において特異的にGLUT1の発現を回復させる効果は試験されていない。
【0005】
この疾患の治療戦略は、Tang et al. Ann. Clin. Trans. Neurol. 2019; 6(9):1923-1932(非特許文献3)に概説されている。現在の標準治療はケトン食療法であり、血液中のグルコースの代わりとなるケトン体のレベルを上昇させて、それらを脳が利用できるようにする。ケトン食療法の代替として、トリグリセリドであるトリヘプタノインによる処置が提案されている。アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子治療も試みられている。ニューロンのGLUT1欠損を標的として、ニューロン特異的プロモーター(例えば、シナプシン)の制御下にあるGLUT1をコードするAAV9ベクターが、出生後の幼若マウスモデルにおいて試験されている。他の研究では、構成的プロモーター(例えば、CMVプロモーター)または内因性GLUT1遺伝子のプロモーターが利用されている。抗けいれん薬である炭酸脱水酵素阻害剤アセタゾラミドなどを含めて、さまざまな低分子も試験されている。
【0006】
GLUT1のハプロ不全は脳血管新生を停止させ、その結果、相対的に小さい脳微小血管系をもたらし、これは内皮端細胞のグルコース依存性に関連している可能性があるが、Tangらは、内皮細胞における低いGLUT1がこの病態を引き起こすかどうかはまだ調査されていないと観察している。GLUT1タンパク質は、オリゴデンドロサイト、ミクログリアおよび上衣細胞を含むさらなる脳細胞において発現している。
【0007】
GLUT1欠損症候群の治療に対する必要性は満たされていない。本明細書において提供される遺伝子治療は、この必要性に応えるものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Alter et al. J. Child Neurol. 30(2):160-169 (2015)
【非特許文献2】Veys et al., Circ. Res. 2020; 127:466-482
【非特許文献3】Tang et al. Ann. Clin. Trans. Neurol. 2019; 6(9):1923-1932
【発明の概要】
【0009】
概要
本発明は全体として、GLUT1またはその機能的バリアントをコードするポリヌクレオチドのアデノ随伴ウイルス(AAV)に基づく送達を用いた神経学的疾患または障害の遺伝子治療に関する。
【0010】
GLUT1欠損症候群(DS)は、適切な神経機能の欠如に根ざした臨床症状を有する神経発達障害であるが、本発明の遺伝子治療は、理論によって束縛されるわけではないが、中枢神経系(CNS)における血管新生と血管系の発達を導く役割を担う内皮細胞を標的としうる。静脈内、脳室内系への直接送達を介して、または両方の経路の組み合わせによってAAVを発達中の中枢神経系CNS血管に送達し、その後、内皮端細胞でGLUT1タンパク質を発現させることで、血管新生および神経発達の重要な時期にCNS全体の血管の成長および形成を促進することができる。さらに、AAVをCNS血管系に送達し、その後、成熟した内皮細胞でGLUT1タンパク質を発現させ、血液脳関門を通過するグルコースの輸送を増加させることにより、ニューロンへのグルコースの利用可能性の増大を促進させることができる。
【0011】
1つの局面において、本開示は、ベクターゲノムが、5'および3'逆位末端反復配列(ITR)によって挟まれた発現カセットを含み、発現カセットが、プロモーターに機能的に連結されたGLUT1またはその機能的バリアントをコードするポリヌクレオチド配列を含み、かつキャプシドがBR1キャプシドまたはその機能的バリアントである、ベクターゲノムおよびキャプシドを含む、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ビリオンを提供する。
【0012】
いくつかの態様において、キャプシドはBR1キャプシドである。
【0013】
いくつかの態様において、キャプシドは、各Xが任意のアミノ酸であるポリペプチド配列モチーフXDGXXWX(SEQ ID NO: 107)を含む。
【0014】
いくつかの態様において、キャプシドは、ポリペプチド配列ADGVQWT(SEQ ID NO:108)、DDGVSWK(SEQ ID NO:109)、SDGLTWS(SEQ ID NO:110)またはSDGLAWV(SEQ ID NO:111)を含む。
【0015】
いくつかの態様において、キャプシドは、ポリペプチド配列NRGTEWDまたはそれに対して1つ、2つ、3つもしくはそれ以上の置換を有する機能的バリアントを含む。
【0016】
いくつかの態様において、キャプシドは、ポリペプチド配列NRGTEWD(SEQ ID NO:112)を含む。
【0017】
いくつかの態様において、キャプシドは、SEQ ID NO 76に記載されるAAV2 VP1参照配列と比較して、GHループにおけるポリペプチド配列NRGTEWDの挿入を含む。
【0018】
いくつかの態様において、キャプシドは、SEQ ID NO: 106に記載されるAAV2 VP3ポリペプチド配列と少なくとも98%、少なくとも99%または100%の同一性を共有するVP3ポリペプチドを含む。
【0019】
いくつかの態様において、キャプシドは、SEQ ID NO: 105に記載されるAAV2 VP2ポリペプチド配列と少なくとも98%、少なくとも99%または100%の同一性を共有するVP2ポリペプチドを含む。
【0020】
いくつかの態様において、キャプシドは、SEQ ID NO: 104に記載されるAAV2 VP1ポリペプチド配列と少なくとも98%、少なくとも99%または100%の同一性を共有するVP1ポリペプチドを含む。
【0021】
いくつかの態様において、プロモーターはFLT-1プロモーターである。
【0022】
いくつかの態様において、FLT-1プロモーターはヒトFLT-1(hFLT-1)プロモーターである。
【0023】
いくつかの態様において、hFLT-1プロモーターは、SEQ ID NO: 1と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%の同一性を共有する。
【0024】
いくつかの態様において、発現カセットはポリAシグナル、任意でヒト成長ホルモン(hGH)ポリAを含む。
【0025】
いくつかの態様において、発現カセットはウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)、任意でWPRE(x)を含む。
【0026】
いくつかの態様において、発現カセットは、SEQ ID NO: 4と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%の同一性を共有する配列を含む3'非翻訳領域(3' UTR)を含む。
【0027】
いくつかの態様において、GLUT1をコードするポリヌクレオチド配列は、SLC2A1ポリヌクレオチドである。
【0028】
いくつかの態様において、SLC2A1ポリヌクレオチドは、ヒトSLC2A1ポリヌクレオチドである。
【0029】
いくつかの態様において、GLUT1をコードするポリヌクレオチド配列は、SEQ ID NO: 5と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%の同一性を共有する。
【0030】
いくつかの態様において、発現カセットは、5'および3'逆位末端反復配列(ITR)、任意でAAV2 ITR、任意でSEQ ID NO: 6またはSEQ ID NO: 7と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%の同一性を共有するITRによって挟まれている。
【0031】
いくつかの態様において、発現カセットは、SEQ ID NO: 8~16、SEQ ID NO: 97、SEQ ID NO: 99およびSEQ ID NO: 101のいずれか1つと少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%の同一性を共有する。
【0032】
いくつかの態様において、rAAVビリオンはAAV2ビリオンではない。
【0033】
いくつかの態様において、本開示は、その必要がある対象において疾患または障害を処置および/または予防する方法であって、対象にrAAVビリオンを投与する段階を含む方法を提供する。
【0034】
いくつかの態様において、疾患または障害は神経学的障害である。
【0035】
いくつかの態様において、疾患または障害はグルコース輸送体1欠損症候群(GLUT1 DS)またはDe Vivo疾患である。
【0036】
いくつかの態様において、rAAVビリオンは脳室内(ICV)注射により投与される。
【0037】
いくつかの態様において、rAAVビリオンは静脈内(IV)注射により投与される。
【0038】
いくつかの態様において、rAAVビリオンは、IV注射と組み合わせてICV注射により投与される。
【0039】
いくつかの態様において、投与は、任意で参照rAAVビリオンと比較して増加したレベルで、脳におけるGLUT1をコードするポリヌクレオチド配列の発現をもたらす。
【0040】
いくつかの態様において、投与は、任意で参照rAAVビリオンと比較して増加したレベルで、脳におけるGLUT1タンパク質の発現の増加ならびに/またはCSFにおけるグルコースレベルおよび/もしくは乳酸レベルの増加をもたらし、ここで任意で増加は少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%または100%の増加である。
【0041】
いくつかの態様において、参照rAAVビリオンはAAV2ビリオンのバリアントである。
【0042】
いくつかの態様において、参照rAAVビリオンはAAV-BR1ビリオンである。
【0043】
いくつかの態様において、rAAVビリオンは1×1012ベクターゲノム(vg)、1×1013 vg、1×1014 vgまたは3×1014 vgの用量で投与される。
【0044】
いくつかの態様において、本方法は、内因性Glut1プロモーターまたは遍在性プロモーターを用いて実施される方法と比較して、脳微小血管内皮細胞によるグルコース取り込みの増加を引き起こす。
【0045】
いくつかの態様において、本開示は、細胞をrAAVビリオンと接触させる段階を含む、細胞においてGLUT1を発現させる方法を提供する。
【0046】
いくつかの態様において、細胞は内皮細胞である。
【0047】
いくつかの態様において、内皮細胞は脳微小血管内皮細胞である。
【0048】
いくつかの態様において、内皮細胞はインビボの内皮細胞である。
【0049】
いくつかの態様において、細胞はニューロンである。
【0050】
いくつかの態様において、ニューロンはインビボのニューロンである。
【0051】
いくつかの態様において、本方法は、対象へのrAAVビリオンのインビボ投与を含む。
【0052】
いくつかの態様において、rAAVビリオンは、内因性Glut1プロモーターまたは遍在性プロモーターを含むrAAVビリオンと接触された細胞と比較して、細胞によるグルコース取り込みの増加を引き起こす。
【0053】
いくつかの態様において、本開示は、rAAVビリオンを含む薬学的組成物を提供する。
【0054】
いくつかの態様において、本開示は、rAAVビリオンまたは薬学的組成物、および任意で使用説明書を含む、キットを提供する。
【0055】
さらなる局面において、本開示はポリヌクレオチド(例えば、ベクターゲノム)、薬学的組成物、キット、ならびに他の組成物および方法を提供する。
【0056】
さまざまな他の局面および態様が、以下の詳細な説明に開示されている。本発明は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1-1】図1は、ベクターゲノムのさまざまな非限定的な例のベクター図を示す。
図1-2】図1-1の説明を参照のこと。
図2-1】図2は、ベクターゲノムの非限定的な例のベクター図を示す。ベクターゲノムの完全なポリヌクレオチド配列はSEQ ID NO: 17である。大文字部分は発現カセット(SEQ ID NO: 8)である。
図2-2】図2-1の説明を参照のこと。
図3-1】図3は、ベクターゲノムの非限定的な例のベクター図を示す。ベクターゲノムの完全なポリヌクレオチド配列はSEQ ID NO: 19である。大文字部分は発現カセット(SEQ ID NO: 10)である。
図3-2】図3-1の説明を参照のこと。
図4-1】図4は、ベクターゲノムの非限定的な例のベクター図を示す。ベクターゲノムの完全なポリヌクレオチド配列はSEQ ID NO: 21である。大文字部分は発現カセット(SEQ ID NO: 12)である。
図4-2】図4-1の説明を参照のこと。
図5-1】図5は、ベクターゲノムの非限定的な例のベクター図を示す。ベクターゲノムの完全なポリヌクレオチド配列はSEQ ID NO: 96である。大文字部分は発現カセット(SEQ ID NO: 97)である。ベクターゲノムの完全なポリヌクレオチド配列の代替は、SEQ ID NO: 23である。発現カセットの代替はSEQ ID NO: 14である。
図5-2】図5-1の説明を参照のこと。
図6-1】図6は、ベクターゲノムの非限定的な例のベクター図を示す。ベクターゲノムの完全なポリヌクレオチド配列はSEQ ID NO: 25である。大文字部分は発現カセット(SEQ ID NO: 16)である。
図6-2】図6-1の説明を参照のこと。
図7-1】図7は、ベクターゲノムの非限定的な例のベクター図を示す。ベクターゲノムの完全なポリヌクレオチド配列はSEQ ID NO: 98である。大文字部分は発現カセット(SEQ ID NO: 99)である。
図7-2】図7-1の説明を参照のこと。
図8-1】図8は、ベクターゲノムの非限定的な例のベクター図を示す。ベクターゲノムの完全なポリヌクレオチド配列はSEQ ID NO: 100である。大文字部分は発現カセット(SEQ ID NO: 101)である。
図8-2】図8-1の説明を参照のこと。
図9】CHO-Lec2細胞におけるAAV9を介したhGlut1タンパク質の発現。いくつかの内皮特異的プロモーター(すなわち、hFLT1、mTie1もしくはhGlut1)のうちの1つにより、または遍在性CMVプロモーターにより駆動されるhGlut1導入遺伝子タンパク質を発現するAAV9ベクターを、CHO-Lec2細胞に形質導入した。[SLC2A1 = GLUT1遺伝子]。
図10図10A~10C: ヒト脳微小血管内皮細胞(hCMEC/d3)へのトランスフェクション後の導入遺伝子タンパク質(Glut1-GFP)の発現。図10A: Glut1-GFP導入遺伝子の発現を駆動するいくつかの内皮細胞プロモーターのうちの1つを含むコンストラクトでのトランスフェクション72時間後のGFP蛍光。図10B: 2つの遍在性プロモーター(CMVもしくはCAG)のうちの1つを含むコンストラクト、Glut1を含まない対照ベクター(CMV-GFP)によるトランスフェクション、またはトランスフェクションなし(NFXなし)から72時間後のGFP蛍光。Operetta CLS(商標)(PerkinElmer(登録商標))を用いて得られた画像。図10C: AAV2逆位末端反復配列(ITR)によって挟まれた関心対象のプロモーター(hFLT1、mTie、hTieまたはhGlut1)およびGLUT1(SLC2A1)遺伝子(T2A連結-GFP)および調節エレメントを含む発現カセットの略図。
図11図11A~11C: ヒトGLUT1(SLC2A1)発現後のhCMEC/d3細胞における2-デオキシ-D-グルコース(グルコース)取り込み。ヒト脳微小血管内皮細胞(hCMEC/d3)に、CAG-GFP(陰性対照)、またはいくつかの内皮特異的プロモーター(すなわち、hFLT1、mTie1もしくはhGlut1)のうちの1つによりもしくは遍在性CMVプロモーターにより駆動されるhGLUT1-t2A-eGFP導入遺伝子のいずれかを発現するプラスミドをトランスフェクションした。発光に基づくキット(Promega(登録商標))を培地中0.5 mMの2-デオキシ-D-グルコース(2-DG)とともに用いて、グルコースの取り込みを測定した。位相差画像法を用いて全細胞数(Total Cell)によりグルコース取り込みを正規化した[エラーバーはS.E.Mを表す; 条件ごとにn=6回の反復]。図11A: 1回目の実験においてはトランスフェクション72時間後にグルコース(2-DG)取り込みを測定した。図11B: 2回目の実験においてはトランスフェクション72時間後にグルコース(2-DG)取り込みを測定した。図11C: トランスフェクション96時間後にグルコース(2-DG)取り込みを測定した。
図12図12A~12B: ヒトGLUT1(SLC2A1)発現後のhCMEC/d3細胞における2-デオキシ-D-グルコース(グルコース)取り込み。ヒト脳微小血管内皮細胞(hCMEC/d3)に、いくつかの内皮特異的プロモーター(すなわち、hFLT1、mTie1もしくはhGlut1)のうちの1つによりまたは遍在性CMVプロモーターにより駆動されるhGLUT1-t2A-eGFP導入遺伝子を発現するプラスミドをトランスフェクションした。非トランスフェクションhCMEC/d3を対照(CON)とした。発光に基づくキット(Promega(登録商標))を培地中2-デオキシ-D-グルコースのさまざまな濃度(0 mM、0.1 mM、0.5 mMまたは1.0 mM)とともに用いて、グルコースの取り込みを測定した。グルコースの取り込みを、製造元の推奨にしたがって実施した、RealTime-Glo MT Cell Viability Assay(Promega(登録商標))での多重化を通じて細胞当たりに正規化した。図12A: 72時間時点でのヒトGlut1(SLC2A1)発現後のhCMEC/d3細胞におけるグルコース取り込みを示す。図12B: 96時間時点でのヒトGlut1(SLC2A1)発現後のhCMEC/d3細胞におけるグルコース取り込みを示す。
図13】hCMEC/d3細胞におけるAAV9を介したhGLUT1(SLC2A1)発現後の2-デオキシ-D-グルコース(グルコース)取り込み。ヒト脳微小血管内皮細胞(hCMEC/d3)に、CAG-GFP(陰性対照)あるいはいくつかの内皮特異的プロモーター(すなわち、hFLT1、mTie1もしくはhGlut1)のうちの1つによりまたは遍在性CMVプロモーターにより駆動されるhGLUT1導入遺伝子のいずれかを発現するAAV9ベクター(3×105ベクターゲノム/細胞)を形質導入した。グルコース(2-DG)取り込みを、発光に基づくGlucose Uptake-Gloキット(Promega(登録商標))を用いて形質導入72時間後に測定し、RealTime-Glo MT Cell Viability Assay(Promega(登録商標))を用いて細胞当たりに正規化した[エラーバーはS.E.Mを表す; 条件ごとにn=4回の反復]。
【発明を実施するための形態】
【0058】
発明の詳細な説明
本開示は、GLUT1またはその機能的バリアントをコードするポリヌクレオチドを、AAV-BR1などの、内皮細胞に対するトロピズムを有するAAVビリオンで送達するGLUT1の遺伝子治療ベクターを、使用方法、ならびに他の組成物および方法とともに提供する。いくつかの態様において、AAVベクターゲノムはFLT-1プロモーターなどの、内皮細胞特異的プロモーターを含む。
【0059】
本開示はさらに、本開示の遺伝子治療ベクターを投与することにより対象における疾患または障害を処置する方法を提供する。いくつかの態様において、疾患または障害はグルコース輸送体1欠損症候群(GLUT1 DS)またはDe Vivo疾患である。
【0060】
本発明により、GLUT1またはその機能的バリアントをコードするポリヌクレオチドは、遺伝子治療ベクターの作製において利用されうる。結果的に得られるベクターは、疾患または障害、例えばグルコース輸送体1欠損症候群(GLUT1 DS)、De Vivo疾患などの処置において利用されうる。
【0061】
定義
節の見出しは構成上の目的のみであり、記述されている主題を特定の局面または態様に限定するものと解釈されるべきではない。
【0062】
別途定義されない限り、本明細書において用いられる全ての技術用語および科学用語は、本発明が関連する当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書において記述されるものと類似または同等の方法および材料を本発明の実践において使用することができるが、適当な方法および材料を以下に記述する。本明細書において言及される全ての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、参照によりその全体が明示的に組み入れられる。矛盾する場合は、定義を含めて本明細書が優先される。さらに、本明細書において記述される材料、方法および実施例は、例示に過ぎず、限定することを意図するものではない。
【0063】
本明細書において言及される全ての刊行物および特許は、各個々の刊行物または特許が、参照により組み入れられることが具体的かつ個別的に示されているかのように、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。矛盾する場合は、本明細書の任意の定義を含めて本出願が優先される。しかしながら、本明細書において引用される任意の参照文献、記事、刊行物、特許、特許公開および特許出願の言及は、有効な先行技術を構成するか、または世界の任意の国で共通の一般知識の一部を形成するという承認または任意の形態の提案とされるものではなく、またそのように解釈されるべきではない。
【0064】
本記述において、別段の示唆がない限り、任意の濃度範囲、パーセンテージ範囲、比範囲、または整数範囲は、列挙された範囲内の任意の整数の値、および適切な場合にはその分数(例えば、整数の10分の1および100分の1など)を含むと理解されるべきである。「約」という用語は、数字または数の直前にある場合、その数字または数がプラスまたはマイナス10%の範囲であることを意味する。本明細書において用いられる場合、「1つの(a)」および「1つの(an)」という用語は、別段の示唆がない限り、列挙された構成要素のうちの「1つまたは複数」をいうことが理解されるべきである。代替物(例えば「または」)の使用は、代替物のいずれか一方、両方、またはそれらの任意の組み合わせのいずれかを意味すると理解されるべきである。「および/または」という用語は、選択肢の一方または両方を意味すると理解されるべきである。本明細書において用いられる場合、「含む(include)」および「含む(comprise)」という用語は同義的に用いられる。
【0065】
「配列同一性」という用語は、参照配列に対しての関心対象の配列の最適なアライメントにおける完全な一致数の100倍を参照配列の全長(ギャップを含む)で割ったものとして計算される、参照配列に対しての関心対象のポリペプチドまたはポリヌクレオチド配列の同一性の割合をいう。配列の最適なアラインメントは、Maderia et al. Nucleic Acids Res. 47(W1): W636-W641(2019)に記述されている通り、www.ebi.ac.ukで入手可能な European Molecular Biology Open Software Suite(EMBOSS)ニードルプログラムを用いて作製されうる。DNA配列とRNA配列を比較する場合、チミン(T)とウラシル(U)は一致としてカウントされる。
【0066】
本明細書において用いられる場合、「AAVベクター」または「rAAVベクター」は、AAV末端反復配列(ITR)が隣接する1つまたは複数の関心対象ポリヌクレオチド(または導入遺伝子)を含む組換えベクターをいう。そのようなAAVベクターは、repおよびcap遺伝子産物をコードし発現するプラスミドでトランスフェクトされた宿主細胞中に存在する場合、複製され、感染性ウイルス粒子にパッケージングされうる。あるいは、AAVベクターは、rep遺伝子とcap遺伝子を発現するように安定的に操作された宿主細胞を用いて、感染性粒子にパッケージングされてもよい。
【0067】
本明細書において用いられる場合、「AAVビリオン」または「AAVウイルス粒子」または「AAVベクター粒子」は、少なくとも1つのAAVキャプシドタンパク質およびキャプシド化ポリヌクレオチドAAVベクターから構成されるウイルス粒子をいう。本明細書において用いられる場合、粒子が、異種ポリヌクレオチド(すなわち、哺乳動物細胞に送達される導入遺伝子などの野生型AAVゲノム以外のポリヌクレオチド)を含む場合、通常、これは、「AAVベクター粒子」または単に「AAVベクター」といわれる。したがって、AAVベクター粒子の産生は、ベクターがAAVベクター粒子内に含まれるため、必然的にAAVベクターの産生を含む。
【0068】
本明細書において用いられる場合、「GHループ」はXie et al. PNAS 99(16):10405-10410 (2002)に記述されている通り、AAVキャプシドタンパク質VP1のジェリーロールβバレルのG鎖とH鎖の間に作られるループをいう。
【0069】
本明細書において用いられる場合、「プロモーター」は、真核細胞においてポリヌクレオチドからのRNA転写の開始を促進することができるポリヌクレオチド配列をいう。
【0070】
本明細書において用いられる場合、「ベクターゲノム」は、隣接配列(AAVでは、逆位末端反復)を含む、ベクター(例えば、rAAVビリオン)によってパッケージングされたポリヌクレオチド配列をいう。「発現カセット」および「ポリヌクレオチドカセット」という用語は、隣接ITR配列間のベクターゲノムの部分をいう。「発現カセット」は、ベクターゲノムが、発現を駆動するエレメント(例えば、プロモーター)に機能的に連結された遺伝子産物をコードする少なくとも1つの遺伝子を含むことを意味する。
【0071】
本明細書において用いられる場合、「必要がある患者」または「必要がある対象」という用語は、本明細書において開示される組換え遺伝子治療ベクターまたは遺伝子編集システムを用いた治療または改善に適している疾患、障害、または状態のリスクのあるまたは罹患している患者または対象をいう。必要がある患者または対象は、例えば、中枢神経系に関連する障害と診断された患者または対象であってもよい。対象は、GLUT1タンパク質の異常な発現を引き起こす、SLC2A1遺伝子における変異、またはSLC2A1遺伝子の全部もしくは一部の欠失、または遺伝子調節配列の欠失を有しうる。「対象」および「患者」は、本明細書において互換的に用いられる。本明細書において記述される方法によって処置される対象は、成人または子供であってよい。対象の年齢はさまざまであってよい。
【0072】
本明細書において用いられる場合、「バリアント」または「機能的バリアント」という用語は、互換的に、親タンパク質の1つまたは複数の所望の活性を保持する親タンパク質と比較して1つまたは複数のアミノ酸置換、挿入または欠失を有するタンパク質をいう。
【0073】
本明細書において用いられる場合、「遺伝子破壊」とは、遺伝子における部分的もしくは完全な機能喪失または異常な活性をいう。例えば、対象は、対象の少なくとも一部の細胞(例えば、内皮細胞および/またはニューロン)において、GLUT1タンパク質の発現を減少させるか、または機能の喪失もしくは異常をもたらす、SLC2A1遺伝子における発現または機能の遺伝子破壊に罹患しうる。
【0074】
本明細書において用いられる場合、「処置する」とは、疾患または障害の1つまたは複数の症状を改善することをいう。「予防する」という用語は、疾患もしくは障害の1つもしくは複数の症状の発症を遅延もしくは中断すること、またはSLC2A1に関連する神経学的疾患もしくは障害、例えば、GLUT1不全症候群(GLUT1 DS)の進行を緩徐化させることをいう。
【0075】
GLUT1タンパク質またはポリヌクレオチド
本開示は、グルコース輸送体1(GLUT1)タンパク質に関連する組成物および使用方法を企図する。SLC2A1におけるさまざまな変異は、GLUT1 DSに関連することが知られている。遺伝性変異とデノボ変異の両方が観察されている。いくつかの場合において、ヘテロ接合性ミスセンス変異は疾患を引き起こすのに十分である。
【0076】
GLUT1のポリペプチド配列は以下の通りである:
【0077】
いくつかの態様において、GLUT1タンパク質は、SEQ ID NO: 26)と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%同一のポリペプチド配列を含む。
【0078】
いくつかの態様において、本開示は、ベクターゲノムが、プロモーターに機能的に連結された、GLUT1タンパク質またはその機能的バリアントをコードするポリヌクレオチド配列を含む、キャプシドおよびベクターゲノムを含んだ、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ビリオンを提供する。いくつかの態様において、本開示は、rAAVビリオンゲノムが、プロモーターに機能的に連結された、GLUT1タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を含む、キャプシドおよびゲノムを含んだ、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ビリオンを提供する。GLUT1タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、以下:
と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%同一のポリヌクレオチド配列を含みうる。
【0079】
いくつかの態様において、GLUT1タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列は、コドン最適化された配列である。GLUT1タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、以下:
と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%同一のポリヌクレオチド配列を含みうる。
【0080】
任意で、AAVビリオンゲノムをコードするポリヌクレオチド配列は、GCCACCATGG(SEQ ID NO: 28)を含むがこれに限定されない、Kozak配列を含んでもよい。Kozak配列は、GLUT1タンパク質またはその機能的バリアントをコードするポリヌクレオチド配列と重複してもよい。例えば、AAVビリオンゲノムは、以下:
と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%同一のポリヌクレオチド配列(Kozakに下線が引かれている)を含んでもよい。
【0081】
いくつかの態様において、Kozak配列は、以下:
のいずれか1つを含む、またはこれらのいずれか1つからなる、代替Kozak配列である。
【0082】
いくつかの態様において、AAVビリオンゲノムはKozak配列を含まない。ポリヌクレオチド配列はコドン最適化されてもよい。
【0083】
AAVビリオンゲノム
本開示のAAVビリオンは、ベクターゲノムを含む。ベクターゲノムは、発現カセット(またはポリヌクレオチド配列の発現を必要としない遺伝子編集用途のためのポリヌクレオチドカセット)を含んでもよい。任意の適当な逆位末端反復配列(ITR)が用いられてもよい。ITRは、キャプシドと同じ血清型または異なる血清型由来であってもよい(例えば、AAV2 ITRが用いられてもよい)。
【0084】
いくつかの態様において、5' ITRは、以下:
と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%同一のポリヌクレオチド配列を含む。
【0085】
いくつかの態様において、5' ITRは、以下:
と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%同一のポリヌクレオチド配列を含む。
【0086】
いくつかの態様において、5' ITRは、以下:
と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%同一のポリヌクレオチド配列を含む。
【0087】
いくつかの態様において、3' ITRは、以下:
と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%同一のポリヌクレオチド配列を含む。
【0088】
いくつかの態様において、3' ITRは、以下:
と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%同一のポリヌクレオチド配列を含む。
【0089】
いくつかの態様において、AAVビリオンゲノムは、例えば、以下:
と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%同一の、1つまたは複数のフィラー(filler)配列を含む。
【0090】
プロモーター
いくつかの態様において、GLUT1タンパク質またはその機能的バリアントをコードするポリヌクレオチド配列は、プロモーターに機能的に連結される。
【0091】
本開示はさまざまなプロモーターの使用を企図する。本開示の態様において有用なプロモーターは、非限定的に、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター、またはCMVエンハンサーならびにニワトリβ-アクチンプロモーターおよびウサギβ-グロビン遺伝子(CAG)の一部から構成されるプロモーター配列を含む。いくつかの場合において、プロモーターは合成プロモーターであってもよい。例示的な合成プロモーターは、Schlabach et al. PNAS USA. 107(6):2538-43 (2010)によって提供されている。いくつかの態様において、プロモーターは、以下:
と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%同一のポリヌクレオチド配列を含む。
【0092】
いくつかの態様において、GLUT1タンパク質またはその機能的バリアントをコードするポリヌクレオチド配列は、誘導性プロモーターに機能的に連結される。誘導性プロモーターは、作用物質の添加もしくは蓄積に応答して、または作用物質の除去、分解もしくは希釈に応答して、ポリヌクレオチド配列を転写発現させるかまたは転写発現させないように構成されうる。作用物質は薬物であってもよい。作用物質はテトラサイクリンまたはその誘導体の1つ、例えば、非限定的に、ドキシサイクリンであってもよい。いくつかの場合において、誘導性プロモーターは、tet-onプロモーター、tet-offプロモーター、化学的に調節されるプロモーター、物理的に調節されるプロモーター(すなわち、光の有無または低温もしくは高温に応答するプロモーター)である。誘導性プロモーターは、重金属イオン誘導性プロモーター(マウス乳腺腫瘍ウイルス(mMTV)プロモーターまたはさまざまな成長ホルモンプロモーターなどの)、およびT7 RNAポリメラーゼの存在下で活性となるT7ファージ由来のプロモーターを含む。この誘導性プロモーターのリストは非限定的である。
【0093】
いくつかの場合において、プロモーターは組織特異的プロモーター、例えば、内皮細胞における発現を非内皮細胞におけるよりも大きく駆動することができるプロモーターである。いくつかの態様において、組織特異的プロモーターは、内皮特異的プロモーターである。いくつかの態様において、組織特異的プロモーターは、FLT1(血管内皮増殖因子受容体1)、Tie1(免疫グロブリン様およびEGF様ドメインを有するチロシンキナーゼ1)、VE-カドヘリン(血管内皮カドヘリン)、hSYN1(ヒトシナプシン)、INA(α-インターネキシン)、NES(ネスチン)、TH(チロシンヒドロキシラーゼ)、FOXA2(フォークヘッドボックスA2)、CaMKII(カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII)およびNSE(ニューロン特異的エノラーゼ)を含むがこれらに限定されない、任意のさまざまな内皮特異的プロモーターから選択される。いくつかの場合において、プロモーターは遍在性プロモーターである。「遍在性プロモーター」とは、実験的または臨床的条件下で組織特異的ではないプロモーターをいう。いくつかの場合において、遍在性プロモーターは、CMV、CAG、UBC、PGK、EF1-α、GAPDH、SV40、HBV、ニワトリβ-アクチン、およびヒトβ-アクチンプロモーターのいずれか1つである。
【0094】
いくつかの態様において、プロモーター配列は表3から選択される。いくつかの態様において、プロモーターは、SEQ ID NO 1~3および39~51のいずれか1つと少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%同一のポリヌクレオチド配列を含む。
【0095】
【表3】
【0096】
いくつかの態様において、AAVビリオンゲノムは、SEQ ID NO: 1と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%同一のポリヌクレオチド配列を含む。いくつかの態様において、AAVビリオンゲノムは、SEQ ID NO: 2と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%同一のポリヌクレオチド配列を含む。いくつかの態様において、AAVビリオンゲノムは、SEQ ID NO: 3と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%同一のポリヌクレオチド配列を含む。
【0097】
プロモーターのさらなる例示的な例は、シミアンウイルス40由来のSV40後期プロモーター、バキュロウイルス多面体エンハンサー/プロモーターエレメント、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV tk)、サイトメガロウイルス(CMV)由来の最初期プロモーターおよびLTRエレメントを含むさまざまなレトロウイルスプロモーターである。多種多様な他のプロモーターが当技術分野において公知であり、一般に入手可能であり、多くのそのようなプロモーターの配列はGenBankデータベースなどの配列データベースにおいて入手可能である。
【0098】
他の調節エレメント
いくつかの場合において、本開示のAAVビリオンはエンハンサー、イントロン、ポリAシグナル、2Aペプチドコード配列、WPRE(ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント)、およびHPRE(B型肝炎ウイルス転写後調節エレメント)からなる群より選択される1つまたは複数の調節エレメントをさらに含む。
【0099】
いくつかの態様において、rAAVビリオンゲノムはCMVエンハンサーを含む。
【0100】
ある種の態様において、rAAVビリオンゲノムは1つまたは複数のエンハンサーを含む。特定の態様において、エンハンサーは、CMVエンハンサー配列、GAPDHエンハンサー配列、β-アクチンエンハンサー配列またはEF1-αエンハンサー配列である。前記の配列は当技術分野において公知である。例えば、CMV最初期(IE)エンハンサーの配列は、以下:
である。
【0101】
ある種の態様において、rAAVビリオンゲノムは1つまたは複数のイントロンを含む。特定の態様において、イントロンはウサギグロビンイントロン配列、ニワトリβ-アクチンイントロン配列、合成イントロン配列、またはEF1-αイントロン配列である。
【0102】
ある種の態様において、rAAVビリオンゲノムはポリA配列を含む。特定の態様において、ポリA配列はウサギグロビンポリA配列、ヒト成長ホルモンポリA配列、ウシ成長ホルモンポリA配列、PGKポリA配列、SV40ポリA配列、またはTKポリA配列である。いくつかの態様において、ポリAシグナルは、ウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナル(bGHpA)でありうる。
【0103】
ある種の態様において、rAAVビリオンゲノムは1つまたは複数の転写産物安定化エレメントを含む。特定の態様において、転写産物安定化エレメントはWPRE配列、HPRE配列、スキャフォールド付着領域、3' UTRまたは5' UTRである。特定の態様において、rAAVビリオンゲノムは5' UTRおよび3' UTRの両方を含む。
【0104】
いくつかの態様において、rAAVビリオンゲノムは、表4から選択される5'非翻訳領域(UTR)を含む。いくつかの態様において、rAAVビリオンゲノムは、SEQ ID NO 53~61のいずれか1つと少なくとも75%、80%、85%、90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一のポリヌクレオチド配列を含む。
【0105】
【表4】
【0106】
いくつかの態様において、rAAVビリオンゲノムは、表5から選択される3'非翻訳領域を含む。いくつかの態様において、rAAVビリオンゲノムは、SEQ ID NO 62~70のいずれか1つと少なくとも75%、80%、85%、90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一のポリヌクレオチド配列を含む。
【0107】
【表5】
【0108】
いくつかの態様において、rAAVビリオンゲノムは、表6から選択されるポリアデニル化(ポリA)シグナルを含む。いくつかの態様において、ポリAシグナルは、SEQ ID NO 71~75のいずれか1つと少なくとも75%、80%、85%、90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一のポリヌクレオチド配列を含む。
【0109】
【表6】
【0110】
例示的なrAAVビリオンゲノムは図2~8に描かれ、SEQ ID NO: 17~25として提供される。各配列の大文字部分は発現カセットである(SEQ ID NO: 8~16、SEQ ID NO: 97、SEQ ID NO: 99およびSEQ ID NO: 101)。いくつかの態様において、rAAVビリオンゲノムは、小文字のITR配列を任意で有していてもよいもしくは有していなくてもよい、SEQ ID NO: 8~16、SEQ ID NO: 97、SEQ ID NO: 99およびSEQ ID NO: 101のいずれか1つと少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%もしくは100%の同一性を共有するポリヌクレオチド配列を含むか、小文字のITR配列を任意で有していてもよいもしくは有していなくてもよい、SEQ ID NO: 8~16、SEQ ID NO: 97、SEQ ID NO: 99およびSEQ ID NO: 101のいずれか1つと少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%もしくは100%の同一性を共有するポリヌクレオチド配列から本質的になるか、または小文字のITR配列を任意で有していてもよいもしくは有していなくてもよい、SEQ ID NO: 8~16、SEQ ID NO: 97、SEQ ID NO: 99およびSEQ ID NO: 101のいずれか1つと少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%もしくは100%の同一性を共有するポリヌクレオチド配列からなる。コード配列には下線が引かれている。発現カセットは大文字で書かれている。
【0111】
アデノ随伴ウイルスゲノム
アデノ随伴ウイルス(AAV)は複製欠損パルボウイルスであり、その一本鎖DNAゲノムは約4.7 kbの長さであり、2つの約145ヌクレオチド逆位末端反復配列(ITR)を含む。AAVには複数の公知のバリアントがあり、抗原エピトープによって分類されると血清型と呼ばれることもある。AAV血清型のゲノムのヌクレオチド配列は公知である。例えば、AAV-1の完全ゲノムはGenBankアクセッション番号NC_002077において提供されており、AAV-2の完全ゲノムはGenBankアクセッション番号NC_001401およびSrivastava et al., J. Virol., 45: 555-564 (1983)において提供されており、AAV-3の完全ゲノムはGenBankアクセッション番号NC_1829において提供されており、AAV-4の完全ゲノムはGenBankアクセッション番号NC_001829において提供されており、AAV-5ゲノムはGenBankアクセッション番号AF085716において提供されており、AAV-6の完全ゲノムはGenBankアクセッション番号NC_00 1862において提供されており、AAV-7およびAAV-8ゲノムの少なくとも一部は、それぞれGenBankアクセッション番号AX753246およびAX753249において提供されており、AAV-9ゲノムはGao et al., J. Virol., 78: 6381-6388 (2004)において提供されており、AAV-10ゲノムはMol. Ther., 13(1): 67-76 (2006)において提供されており、ならびにAAV-11ゲノムはVirology, 330(2): 375-383 (2004)において提供されている。AAVrh.74ゲノムの配列は、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第9,434,928号において提供されている。ウイルスDNA複製(rep)、キャプシド形成/パッケージングおよび宿主細胞染色体組込みを指令するシス作用配列は、AAV ITR内に含まれる。3つのAAVプロモーター(それらの相対的マップ位置についてp5、p19およびp40と命名)は、repおよびcap遺伝子をコードする2つのAAV内部読み取り枠の発現を駆動する。2つのrepプロモーター(p5およびp19)は、(ヌクレオチド番号2107および2227の位置での)単一AAVイントロンの差次的スプライシングと相まって、rep遺伝子から4つのrepタンパク質(rep78、rep68、rep52およびrep40)の産生をもたらす。Repタンパク質は、ウイルスゲノムの複製を最終的に担う複数の酵素特性を保有する。cap遺伝子はp40プロモーターから発現され、3つのキャプシドタンパク質VP1、VP2およびVP3をコードする。選択的スプライシングおよび非コンセンサス翻訳開始部位が、関連する3つのキャプシドタンパク質の産生を担っている。単一のコンセンサスポリアデニル化部位はAAVゲノムのマップ位置番号95に位置している。AAVのライフサイクルおよび遺伝学はMuzyczka, Current Topics in Microbiology and Immunology, 158: 97-129 (1992)に概説されている。
【0112】
AAVは、例えば遺伝子治療などで外来DNAを細胞に送達するためのビヒクルとして魅力的な独自の特徴を保有している。培養中の細胞のAAV感染は非細胞変性であり、ヒトおよび他の動物の自然感染は無症状および無症候性である。さらに、AAVは多くの哺乳動物細胞に感染し、インビボで多くの異なる組織を標的とする可能性を許容する。さらに、AAVはゆっくりと分裂する細胞と分裂しない細胞に形質導入し、転写的に活性な核エピソーム(染色体外エレメント)として、これらの細胞の生存期間に本質的に存続することができる。AAVプロウイルスゲノムは、プラスミド内にクローン化DNAとして挿入され、これにより組換えゲノムの構築が実現可能となる。さらに、AAV複製およびゲノムのキャプシド化を指令するシグナルは、AAVゲノムのITR内に含まれているため、ゲノムの内部約4.3 kbの一部または全部(複製および構造キャプシドタンパク質、rep-capをコードする)は、外来DNAで置換されてもよい。AAVベクターゲノムを作製するために、repタンパク質およびcapタンパク質をトランスで提供してもよい。AAVのもう一つの重要な特徴は、AAVが非常に安定した強力なウイルスであることである。アデノウイルスの不活化に使用される条件(56℃~65℃で数時間)に容易に耐え、AAVの低温保存の重要性を軽減する。AAVは凍結乾燥することもできる。最後に、AAV感染細胞は重複感染に耐性がない。
【0113】
本発明の実践において有用な組換えAAVビリオンは、分子生物学の技術分野において周知の方法論を利用して構築されうる。典型的には、導入遺伝子を担持するウイルスベクターは、導入遺伝子、適切な調節因子、およびウイルスタンパク質の産生に必要なエレメントをコードするポリヌクレオチドから構築され、これは細胞形質導入を媒介する。そのようなrAAVビリオンは、当技術分野において周知の技法により、例えば、パッケージング細胞をトランスフェクトすることにより、またはヘルパープラスミドもしくはウイルスによる一過性トランスフェクションにより作製されうる。ウイルスパッケージング細胞の典型的な例としては、HeLa細胞、SF9細胞(任意選択的にバキュロウイルスヘルパーベクターを有する)、293細胞などが挙げられるが、これらに限定されることはない。US2017/0218395A1に記述されるように、ヘルペスウイルス系システムを使用してAAVベクターを産生することができる。そのような複製欠損組換えウイルスを産生するための詳細なプロトコルは、例えば、W095/14785、W096/22378、米国特許第5,882,877号、米国特許第6,013,516号、米国特許第4,861,719号、米国特許第5,278,056号およびW094/19478において見出すことができ、それらの各々の全内容が参照により本明細書に組み入れられる。
【0114】
本発明の実践において有用なAAVベクターは、アデノウイルスベースおよびヘルパーフリーシステムを含むさまざまなシステムを用いて、AAVビリオン(ウイルス粒子)にパッケージングすることができる。AAV生物学における標準的な方法には、Kwon and Schaffer. Pharm Res. 25(3):489-99 (2008); Wu et al. Mol. Ther. 14(3):316-27 (2006); Burger et al. Mol. Ther. 10(2):302-17 (2004); Grimm et al. Curr Gene Ther. 3(4):281-304 (2003); Deyle DR, Russell DW. Curr Opin Mol Ther. 11(4):442-447 (2009); McCarty et al. Gene Ther. 8(16):1248-54 (2001); およびDuan et al. Mol Ther. 4(4):383-91 (2001)に記述されているものが含まれる。ヘルパーフリーシステムには、米国特許第6,004,797号; 同第7,588,772号; および同第US 7,094,604号に記述されているものが含まれる;
【0115】
rAAVベクターゲノム中のAAV DNAは、AAVバリアントまたは血清型AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、およびAAV13を含むが、これらに限定されない、組換えウイルスが誘導されうる任意のAAVバリアントまたは血清型由来であってよい。偽型rAAVの産生は、例えば、WO 01/83692に開示されている。他のタイプのrAAVバリアント、例えばキャプシド変異を有するrAAVも企図される。例えば、Marsic et al., Molecular Therapy, 22(11): 1900-1909 (2014)を参照されたい。さまざまなAAV血清型のゲノムのヌクレオチド配列が当技術分野において公知である。
【0116】
いくつかの場合において、rAAVは自己相補性ゲノムを含む。本明細書において定義される場合、「自己相補性」または「二本鎖」ゲノムを含むrAAVは、McCarty et al. Self-complementary recombinant adeno-associated virus (scAAV) vectors promote efficient transduction independently of DNA synthesis. Gene Therapy. 8 (16): 1248-54 (2001)に記述されているように、rAAVのコード領域が分子内二本鎖DNA鋳型を構成するように操作されたrAAVをいう。本開示は、感染(形質導入のような)時に、rAAVベクターゲノムの第2鎖の細胞媒介合成を待つのではなく、scAAVの2つの相補的な半分が会合して1つの二本鎖DNA(dsDNA)ユニットを形成し、即座に複製および転写の準備が整うので、いくつかの場合において、自己相補性ゲノムを含むrAAVの使用を企図する。rAAVに見られる完全なコーディング能力(4.7~6 kb)の代わりに、自己相補性ゲノムを含むrAAVは、その量の約半分(およそ2.4 kb)しか保持できないことが理解されよう。
【0117】
他の場合において、rAAVベクターゲノムは一本鎖ゲノムである。本明細書において定義される場合、「一本鎖」ゲノムは、自己相補性ではないゲノムをいう。ほとんどの場合、非組換えAAVは一本鎖DNAゲノムを有する。細胞の効率的な形質導入を達成するためにはrAAVはscAAVであるべきという指摘もある。しかしながら、本開示は、標的細胞において最適な遺伝子転写を得るためにはrAAVベクターゲノムの他の遺伝子改変も有益でありうることを理解した上で、rAAVベクターゲノムが自己相補性ゲノムではなく一本鎖ゲノムを有しうることを企図する。いくつかの場合において、本開示は、マウス眼球の前部への効率的な遺伝子移入を達成することができる一本鎖rAAVベクターゲノムに関する。Wang et al. Single stranded adeno-associated virus achieves efficient gene transfer to anterior segment in the mouse eye. PLoS ONE 12(8): e0182473 (2017)を参照されたい。
【0118】
好ましい態様において、AAVは、AAV2バリアントBR1などの、内皮細胞に対して高度のトロピズムを有するAAVバリアントである。偽型rAAVの産生は、例えば、WO 01/83692に開示されている。他のタイプのrAAVバリアント、例えばキャプシド変異を有するrAAVも企図される。例えば、Marsic et al., Molecular Therapy, 22(11): 1900-1909 (2014)を参照されたい。いくつかの態様において、rAAVベクターゲノムは血清型AAV-BR1のものであり、一本鎖ゲノムを含む。いくつかの態様において、rAAVベクターゲノムはAAV2の逆位末端反復(ITR)配列を含む。いくつかの態様において、rAAVベクターゲノムはAAV2ゲノムを含む。
【0119】
AAVゲノムは野生型AAV配列を含んでもよく、または野生型AAV配列に対する1つもしくは複数の改変を含んでもよい。ある種の態様において、AAVゲノムは、キャプシドタンパク質、例えば、VP1、VP2および/またはVP3内の1つまたは複数のアミノ酸改変、例えば、置換、欠失または挿入を含む。特定の態様において、改変は、AAVゲノムが対象に提供される場合に免疫原性の低減を提供する。
【0120】
rAAVのキャプシドタンパク質は、rAAVが内皮細胞および/または内皮端細胞などの関心対象の特定の標的組織を標的とするように、改変されてもよい。いくつかの態様において、rAAVは脳室内腔に直接注射されるか、静脈内にまたは脳室内および静脈内送達の組み合わせにより対象に注射される。
【0121】
いくつかの態様において、rAAVビリオンはAAV2 rAAVビリオンのバリアントである。キャプシドはAAV2キャプシドまたはその機能的バリアントでありうる。AAV2 VP1のポリペプチド配列はSEQ ID NO: 76として提供される。いくつかの態様において、AAV2キャプシドは参照AAV2キャプシド、例えば、
と少なくとも95%を共有する。
【0122】
いくつかの態様において、キャプシドタンパク質は、トランスファープラスミドに、トランスでプラスミド上に供給されるポリヌクレオチドによってコードされる。いくつかの態様において、AAV-BR1キャプシド(cap)のポリヌクレオチド配列はSEQ ID NO: 103:
と少なくとも98%、少なくとも99%または100%の同一性を共有する。
【0123】
いくつかの態様において、本開示はさらに、AAV-BR1 VP1およびその機能的バリアントのタンパク質配列を提供する。AAV-BR1 VP1ポリペプチドの配列はSEQ ID NO: 104として提供される。いくつかの態様において、AAV VP1の配列はSEQ ID NO: 104:
と少なくとも98%、少なくとも99%または100%の同一性を共有する。
【0124】
いくつかの態様において、本開示はさらに、AAV-BR1 VP2およびその機能的バリアントのタンパク質配列を提供する。AAV-BR1 VP1ポリペプチドの配列はSEQ ID NO: 105として提供される。いくつかの態様において、AAV VP2の配列はSEQ ID NO: 105:
と少なくとも98%、少なくとも99%または100%の同一性を共有する。
【0125】
いくつかの態様において、本開示はさらに、AAV-BR1 VP3およびその機能的バリアントのタンパク質配列を提供する。AAV-BR1 VP1ポリペプチドの配列はSEQ ID NO: 106として提供される。いくつかの態様において、AAV VP3の配列はSEQ ID NO: 106:
と少なくとも98%、少なくとも99%または100%の同一性を共有する。
【0126】
いくつかの態様において、キャプシドは、SEQ ID NO 76に記載されるAAV2 VP1参照配列における、およそアミノ酸残基番号588と残基番号589との間にある、GHループ中の挿入を含む。いくつかの態様において、挿入配列はSEQ ID NO: 107:
XDGXXWX(ここで各Xは任意のアミノ酸である)
(SEQ ID NO: 107)
と少なくとも98%、少なくとも99%または100%の同一性を共有する。
【0127】
いくつかの態様において、キャプシドは、SEQ ID NO 76に記載されるVP1参照配列と比較して、アミノ酸番号588と589との間のGHループ中の挿入を含む。いくつかの態様において、挿入配列はSEQ ID NO: 108:
ADGVQWT
(SEQ ID NO: 108)
と少なくとも98%、少なくとも99%または100%の同一性を共有する。
【0128】
いくつかの態様において、キャプシドは、SEQ ID NO 76に記載されるVP1参照配列と比較して、アミノ酸番号588と589との間のGHループ中の挿入を含む。いくつかの態様において、挿入配列はSEQ ID NO: 109:
DDGVSWK
(SEQ ID NO: 109)
と少なくとも98%、少なくとも99%または100%の同一性を共有する。
【0129】
いくつかの態様において、キャプシドは、SEQ ID NO 76に記載されるVP1参照配列と比較して、アミノ酸番号588と589との間のGHループ中の挿入を含む。いくつかの態様において、挿入配列はSEQ ID NO: 110:
SDGLTWS
(SEQ ID NO: 110)
と少なくとも98%、少なくとも99%または100%の同一性を共有する。
【0130】
いくつかの態様において、キャプシドは、SEQ ID NO 76に記載されるVP1参照配列と比較して、アミノ酸番号588と589との間のGHループ中の挿入を含む。いくつかの態様において、挿入配列はSEQ ID NO: 111:
SDGLAWV
(SEQ ID NO: 111)
と少なくとも98%、少なくとも99%または100%の同一性を共有する。
【0131】
いくつかの態様において、キャプシドは、SEQ ID NO 76に記載されるVP1参照配列と比較して、アミノ酸番号588と589との間のGHループ中の挿入を含む。いくつかの態様において、挿入配列はSEQ ID NO: 112:
NRGTEWD
(SEQ ID NO: 112)
と少なくとも98%、少なくとも99%または100%の同一性を共有する。
【0132】
本開示のrAAVビリオンにおいて用いられるさらなるAAVキャプシドは、特許公開番号WO 2009/012176 A2およびWO 2015/168666 A2に開示されるものを含む。
【0133】
AAV-BR1を用いると、Glut1導入遺伝子の内皮細胞特異的発現が起こり、したがって、導入遺伝子の有効性が高まる可能性がある。
【0134】
いくつかの態様において、rAAVベクターゲノムはAAV2ゲノムではない。理論によって束縛されるわけではないが、AAV2ゲノムの使用は、内皮細胞に加えてまたは内皮細胞の代わりに神経細胞の形質導入をもたらす。理論によって束縛されるわけではないが、CNSおよび関連する脳血管系内でのAAV2ゲノムの拡散は、ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)受容体とのその相互作用によって制限される。
【0135】
薬学的組成物およびキット
1つの局面において、本開示は、本開示のrAAVビリオンおよび1つまたは複数の薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤を含む、薬学的組成物を提供する。
【0136】
例えば注射による投与などの投与の目的のために、滅菌水溶液などのさまざまな溶液を利用することができる。そのような水溶液は、所望により、緩衝化することができ、液体希釈剤は生理食塩水またはグルコースで最初に等張にすることができる。遊離酸(DNAは酸性リン酸基を含む)または薬理学的に許容される塩としてのrAAVの溶液は、例えば少なくとも0.001%または0.01%で、ポロキサマー188などの界面活性剤と適当に混合された水の中で調製することができる。rAAVの分散液は、グリセロール、液体ポリエチレングリコールおよびそれらの混合物中で、ならびに油中で調製することもできる。貯蔵および使用の通常の条件下では、これらの調製物は、微生物の増殖を防ぐための保存料を含有する。これに関連して、利用される滅菌水性媒体は全て、当業者に周知の標準技法により容易に入手可能である。
【0137】
注射可能な使用に適した薬学的形態は、滅菌水溶液または分散液および滅菌注射溶液または分散液の即時調製のための滅菌粉末を含むが、これらに限定されることはない。いずれの場合も、形態は無菌であり、容易に注射可能な程度に流動的でなければならない。製造および貯蔵の条件下で安定でなければならず、細菌および真菌などの微生物の汚染作用に対して保護されなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、それらの適当な混合物、および植物油を含む溶媒または分散媒体であることができる。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用により、分散液の場合には必要な粒子径の維持により、および界面活性剤の使用により維持することができる。微生物の作用の防止は、さまざまな抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによってもたらすことができる。多くの場合には、等張剤、例えば、糖または塩化ナトリウムを含めることが好ましいであろう。注射可能な組成物の長期間の吸収は、吸収を遅延させる物質、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの使用によってもたらすことができる。
【0138】
滅菌注射液は、適切な溶媒に必要な量のrAAVを、必要に応じて、上に列挙したさまざまな他の成分とともに組み入れ、その後にろ過滅菌することによって調製されうる。一般に、分散液は、滅菌された活性成分を、基本的な分散媒体および上に列挙したものから必要とされる他の成分を含有する滅菌ビヒクルに組み入れることによって調製される。滅菌注射液の調製のための滅菌粉末の場合、調製方法は、活性成分に加えて任意のさらなる所望の成分の粉末を、予め滅菌ろ過されたその溶液からもたらす、真空乾燥および凍結乾燥技法である。
【0139】
別の局面において、本開示は、本開示のrAAVビリオンおよび使用説明書を含むキットを含む。
【0140】
使用方法
1つの局面において、本開示は、細胞を本開示のrAAVと接触させる段階を含む、細胞におけるGLUT1活性を増加させる方法を提供する。別の局面において、本開示は、対象に本開示のrAAVを投与する段階を含む、対象におけるGLUT1活性を増加させる方法を提供する。いくつかの態様において、細胞および/または対象は、SLC2A1メッセンジャーRNAもしくはGLUT1タンパク質発現レベルおよび/もしくは活性が欠損しており、ならびに/またはSLC2A1の機能喪失変異を含む。細胞は内皮細胞、例えば内皮端細胞または脳血管内皮細胞でありうる。
【0141】
いくつかの態様において、本方法は内皮端細胞の正常な機能を回復させる。いくつかの態様において、本方法は、細胞培養および/またはインビボにおいてGLUT1輸送体タンパク質発現レベルを回復させる。いくつかの態様において、本方法は細胞培養および/またはインビボにおいて、正常なグルコース輸送および代謝(例えば、解糖、乳酸産生)を回復させる。いくつかの態様において、本方法は中枢神経系(CNS)における微小血管系の正常な血管新生および/または発達を回復させる。
【0142】
いくつかの態様において、本方法は脳血管内皮細胞の正常な機能を回復させる。いくつかの態様において、本方法は、細胞培養および/またはインビボにおいてGLUT1輸送体タンパク質発現レベルを回復させる。いくつかの態様において、本方法は細胞培養および/またはインビボにおいて、正常なグルコース輸送および代謝(例えば、解糖、乳酸産生)を回復させる。いくつかの態様において、本方法は中枢神経系(CNS)における微小血管系の正常な血管新生および/または発達を回復させる。
【0143】
処置方法
別の局面において、本開示は、対象に本開示のrAAVビリオンの有効量を投与する段階を含む、その必要がある対象において疾患または障害を処置する方法を提供する。いくつかの態様において、疾患または障害は神経学的疾患または障害である。いくつかの態様において、対象はSLC2A1発現または機能の遺伝的破壊に罹患している。いくつかの態様において、疾患または障害はGLUT1欠損症候群(GLUT1 DS)である。
【0144】
CNSの血管系へのGLUT1タンパク質のAAV媒介送達は、寿命を増加させ、神経変性、早発型発作、発達遅延、後天性小頭症(頭部成長の減速)、複雑運動障害(痙縮、運動失調、ジストニア)、発作性眼球・頭部運動、ならびに/または脳脊髄液中の低いラクトースおよび/もしくはグルコース濃度(髄液糖減少症)を抑止、減弱、軽減または減衰させる可能性がある。いくつかの態様において、本方法は、例えば新生児、乳児または幼若児において、疾患経過中の初期に処置を提供する。
【0145】
いくつかの態様において、本開示の方法は、対象における野生型GLUT1タンパク質発現の増加(例えば、約5%~約10%、約10%~約20%、約20%~約30%、約30%~約40%、約40%~約50%、約50%~約70%または約70%~約100%の増加)をもたらす。ある種の態様において、本開示の方法は、対象における変異GLUT1タンパク質に対する野生型GLUT1タンパク質の比率の増加(例えば、約5%~約25%、約25%~約50%、約50%~約100%または約100%~約200%の増加)をもたらす。
【0146】
いくつかの態様において、本開示の方法は、内皮細胞における野生型GLUT1タンパク質発現の増加(例えば、約5%~約10%、約10%~約20%、約20%~約30%、約30%~約40%、約40%~約50%、約50%~約70%または約70%~約100%の増加)をもたらす。ある種の態様において、本開示の方法は、内皮細胞における変異型GLUT1タンパク質に対する野生型GLUT1タンパク質の比率の増加(例えば、約5%~約25%、約25%~約50%、約50%~約100%または約100%~約200%の増加)をもたらす。
【0147】
本明細書において開示される方法は、脳および/またはCNSの血管系における効率的な生体内分布を提供しうる。それらは、内皮細胞(例えば、内皮端細胞)の全て、またはかなりの部分において発現の持続をもたらしうる。注目すべきことに、本明細書において開示される方法は、rAAVビリオン投与後に対象の成長および加齢を通じてGLUT1タンパク質の長期にわたる発現を提供しうる。
【0148】
併用療法も本発明によって企図される。本発明の方法と標準的な医学的処置(例えば、コルチコステロイドまたは局所的減圧薬)との組み合わせは、新規治療との組み合わせと同様に、特に企図される。いくつかの場合において、本明細書において記述されるrAAVの投与に対する免疫応答を抑止または軽減するために、対象はステロイドおよび/または免疫抑制剤の組み合わせで処置されうる。
【0149】
例えば脳室内(ICV)、大槽内(ICM)注射、または静脈内(IV)注射のための、rAAVベクターゲノムの治療的有効量は脳重量で、約1×1012 vg/kg~約5×1012 vg/kg、または約1×1013 vg/kg~約5×1013 vg/kg、または約1×1014 vg/kg~約5×1014 vg/kg、または約1×1015 vg/kg~約5×1015 vg/kgに至るまでのrAAVの用量である。本発明は同様に、これらの範囲のrAAVベクターゲノムを含んだ組成物を含む。
【0150】
例えば、特定の態様において、rAAVベクターゲノムの治療的有効量は約1×1010 vg、約2×1010 vg、約3×1010 vg、約4×1010 vg、約5×1010 vg、約6×1010 vg、約7×1010 vg、約8×1010 vg、約9×1010 vg、約1×1012 vg、約2×1012 vg、約3×1012 vg、約4×1012 vg、約4×1013 vgおよび約4×1014 vgの用量である。本発明は同様に、これらの用量のrAAVベクターゲノムを含んだ組成物を含む。
【0151】
いくつかの態様において、例えばICV注射が実施される場合、rAAVベクターゲノムの治療的有効量は1×1010 vg/半球~2×1014 vg/半球、または約1×1010 vg/半球、約1×1011 vg/半球、約1×1012 vg/半球、1×1013 vg/半球、または約1×1014 vg/半球の範囲の用量である。いくつかの態様において、例えばICM注射が実施される場合、rAAVベクターゲノムの治療的有効量は2×1010 vg総計~2×1014 vg総計、または約2×1010 vg総計、約2×1011 vg総計、約2×1012 vg総計、約2×1013 vg総計、または約2×1014 vg総計の範囲の用量である。
【0152】
いくつかの態様において、治療用組成物は、注射される治療用組成物の体積当たり約1×109、1×1010または1×1011ゲノム超のrAAVベクターゲノムを含む。態様の場合において、治療用組成物は1 mL当たりおよそ1×1011、1×1012、1×1013または1×1014超のrAAVゲノムを含む。ある種の態様において、治療用組成物は1 mL当たり約1×1014、1×1013または1×1012未満のrAAVゲノムを含む。
【0153】
患者における機能的改善、臨床的利点または有効性の証拠は、以下によって評価されうる: 発作性眼球・頭部運動、発作(全身性強直間代発作および筋クローヌス性発作)頻度の低減の代替マーカー、脳脊髄液(CSF)中のラクトースおよび/またはグルコース濃度の分析、発達遅延、舞踏病、ジストニアおよび小頭症の評価。コロンビア神経学的スコア、複合知能評価、適応行動複合、言語・非言語認知スキルおよび視覚運動統合、ならびに6分間歩行試験などの、標準的な疾患評価尺度を用いた認知、運動、発話および言語機能の測定。子供の障害レベルに応じて適宜適用されるピーボディ発達運動尺度(Peabody Developmental Motor Scales)第2版(PDMS-2)およびベイリー乳児発達尺度(Bayley Scales of Infant Development), 第3版を含む認知・発達評価。粗大運動機能尺度(GFMF-88)、小児障害評価尺度(PEDI)。これらの尺度または類似の尺度、ならびに3段階尺度(平均持続時間の減少、変化なし、または増加)での発作持続時間の変化に関する介護者による全体的印象(Caregiver Global Impression of Change in Seizure Duration; CGICSD)、小児生活の質目録(Pediatric Quality of Life Inventory; PedsQL(商標))およびVineland適応行動尺度第2版(Vineland Adaptive Behavior Scales-2nd)などの患者報告による生活の質に関する結果は、疾患の構成要素の改善を実証しうる。ベースラインおよび処置後の脳磁気共鳴映像法は、年齢を適合させた患者の対照データおよびGLUT1欠損症患者の病歴データと比較して、患者の年齢に対する脳容積の改善または正常化を示しうる。
【0154】
臨床的有効性は、寿命の延長、正常な神経発達の診査事項の達成、CSF中のグルコース濃度の正常化、発作性眼球・頭部運動の頻度または大きさの減少、てんかん発作活動(筋クローヌス性、間代性、全身性強直間代性および/またはてんかん性痙攣を含む)の減少または消失、痙縮、ジストニアおよび/または運動失調などの複雑な運動障害の改善または発現の欠如、ならびにコロンビア神経学的スコアおよび/または6分間歩行試験の成績の改善または正常化として観察されうる。神経保護作用および/または神経回復作用の証拠は、先に述べた測定基準の全てで、ならびに/または全体的な脳の大きさ、小頭症および/または皮質萎縮および/または小脳萎縮の欠如を特徴付けることによる磁気共鳴映像法(MRI)で明らかになりうる。
【0155】
いくつかの態様において、本方法は、内因性Glut1プロモーターもしくは遍在性プロモーターを含むベクターと接触させた細胞、または内因性Glut1プロモーターもしくは遍在性プロモーターを含むベクターを投与された対象の細胞と比較して、細胞によるグルコース取り込みの増加を引き起こす。いくつかの場合において、増加は少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%または少なくとも50%である。いくつかの場合において、増加は少なくとも1.1倍、少なくとも1.2倍、少なくとも1.3倍、少なくとも1.4倍、少なくとも1.5倍、少なくとも1.6倍、少なくとも1.7倍または少なくとも1.8倍である。ベクターは、本明細書において開示される任意のベクターでありうる。細胞は内皮細胞または神経細胞でありうる。例えば、本方法は、インビトロまたはインビボのいずれかにおいて、ヒト脳微小血管内皮細胞によるグルコース取り込みを増加させうる。
【0156】
組成物の投与
組成物の有効用量の投与は、静脈内投与、脳内投与、髄腔内投与、大槽内投与または脳室内投与を含むがこれらに限定されない、当技術分野において標準的な経路によるものでありうる。いくつかの場合において、投与は、静脈内注射、脳内注射、髄腔内注射、大槽内注射または脳室内注射を含む。投与は、トレンデレンブルグ傾斜有りまたは無しの髄腔内注射により実施されうる。大槽内(ICM)送達は、髄腔(IT)空間でのカテーテル挿入によって達成されうる。脳室内注射は、磁気共鳴映像法(MRI)誘導による脳神経外科的ターゲティングによって達成されうる。
【0157】
いくつかの態様において、本開示は、本発明のrAAVおよび組成物の有効用量の全身投与を提供する。例えば、全身投与は、全身が影響を受けるように循環系への投与でありうる。全身投与は、注射または点滴による静脈内投与を含む。
【0158】
いくつかの態様において、本発明のrAAVの投与は、動物の標的組織にrAAV組換えベクターを輸送する任意の物理的方法を用いることにより達成されうる。投与は、中枢神経系(CNS)もしくは脳脊髄液(CSF)への注射および/または静脈内注射を含むが、これらに限定されることはない。
【0159】
いくつかの態様において、本開示の方法は、脳室内、大槽内、髄腔内または脳実質内送達を含む。注入は、注入ポンプを使い特殊なカニューレ、カテーテル、注射器/針を用いて実施されうる。任意で、注射部位のターゲティングは、MRI誘導映像法で達成されてもよい。投与はCNSへの、有効量のrAAVビリオン、またはrAAVビリオンを含む薬学的組成物の送達を含みうる。これらは、例えば、片側脳室内注射、両側脳室内注射、トレンデレンブルグ傾斜手順を伴う大槽内注入またはトレンデレンブルグ傾斜手順を伴わない大槽内注入、トレンデレンブルグ傾斜手順を伴う髄腔内注入またはトレンデレンブルグ傾斜手順を伴わない髄腔内注入によって達成されうる。本開示の組成物はさらに、静脈内投与されうる。
【0160】
いくつかの態様において、本開示の方法は、静脈内(IV)注射によるrAAVの投与を含む。いくつかの態様において、本開示の方法は、脳室内(ICV)注射によるrAAVの投与を含む。いくつかの態様において、本開示の方法は、ICV注射と組み合わせたIV注射によるrAAVの投与を含む。
【0161】
CNSへの直接送達は、片側もしくは両側の脳室内腔、特定のニューロン領域、またはニューロン標的を含むより一般的な脳領域のターゲティングを伴いうる。個々の患者の脳室内腔、脳領域、および/またはニューロン標的の選択と、それに続くAAVの術中送達は、いくつかの映像技法(MRI、CT、MRIと合体したCT)を使用して、任意の数のソフトウェア計画プログラム(例えば、Stealth System、Clearpoint Neuronavigation System、Brainlab、Neuroinspireなど)を利用して達成されうる。脳室内腔または脳領域へのターゲティングおよび送達は、標準的な定位フレーム(Leksell, CRW)の使用、または術中MRI有りもしくは無しのフレームレス手法の使用を伴いうる。AAVの実際の送達は、rAAVの吸着を防ぐための材料で裏打ちされた内腔有りまたは無しの注射針またはカニューレ(例えばSmartflowカニューレ、MRI介入カニューレ)を通した注射によるものでありうる。送達装置は注射器と、注入速度および注入量が予めプログラムされた自動注入ポンプまたは微量注入ポンプとからなる。注射器/針の組み合わせ、または注射針用のガイドカニューレのみが定位フレームに直接接続されうる。注入は一定流速または対流増強送達による可変流量を含みうる。
【実施例
【0162】
実施例1: 前臨床生物活性および有効性
図2~8に開示されるベクターゲノムを用いて、AAV-BR1キャプシドを有する組換えAAVビリオンを産生する。これらを、GLUT1欠損疾患の結果としての疾患のマウスモデルにおいて評価する。1つのモデルでは、構成的プロモーターまたは内皮特異的プロモーター(例えば、Tie-2)からCre/loxを発現するトランスジェニック動物と交配されたflox化GLUT1遺伝子を利用する。結果として得られるマウスは、GLUT1遺伝子座でヘテロ接合性ヌルであり、ヒト疾患を模倣する発達表現型を示す。第2のGLUT1 DSマウスモデルは、マウスGLUT-1遺伝子のプロモーターおよびエクソン1領域の標的破壊によって作製されたヘテロ接合性ハプロ不全マウス(GLUT-1+/- マウス)である。追加の動物モデルは、GLUT1遺伝子がS324P点突然変異を有するGLUT1 DSモデルを含みうる。
【0163】
遺伝子発現および用量応答を、インビトロ(内皮細胞株および神経細胞株を使用)ならびにインビボ(野生型マウスおよびGLUT1 DSモデルマウスを使用)で評価する。SLC2A1発現ベクターでトランスフェクションされた培養細胞(ヒト胚性腎細胞293、HEK293; ヒト臍帯静脈内皮細胞、HUVEC; ヒト脳由来内皮細胞、bEND3; ヒト脳微小血管内皮細胞、HBEC-5i; ヒト脳微小血管内皮細胞株、hCMEC/D3(血液脳関門モデル); ヒトグリアオリゴデンドロサイトハイブリッド細胞、MO3.13; ヒト神経芽細胞腫、SH-SY5Y)は、定量的リアルタイムPCR分析によって形質導入効率を明らかにし、ELISAおよび/またはウエスタンブロットによってGLUT1レベルを明らかにする。AAVベクターコンストラクトの概念および有効性の証明は、GLUT1 DSマウスを用いインビボで、免疫標識によるCNSおよびCNS血管系での導入遺伝子(GLUT1タンパク質)の発現、脳毛細血管密度の増強、ならびに/あるいはCNSにおける血管サイズの増加、陽電子放出断層撮影(PET)を用いた脳グルコース取り込みの増加、CSFグルコースレベルもしくは乳酸レベルの増加および/またはCSF/血糖比の増加、CSF乳酸レベルの増加、ロータロッドおよび/または垂直支柱アッセイなどの標準的アッセイを用いた運動能力の改善により、GLUT1 DS変異マウス対照と比べて明らかにされる。GLUT1 DSマウスモデルを用いたインビボでの遺伝子発現および有効性は、静脈内注射または脳室内腔への直接注射によるAAVベクターコンストラクトの送達後に、これらの投与経路を単独および/または組み合わせのいずれかで利用しながら、明らかになる。
【0164】
実施例2: 内皮プロモーターを用いたGlut1発現のインビトロ評価
ヒト脳微小血管内皮細胞(hCMEC/D3)を用いインビトロで遺伝子発現を評価した。hFLT1プロモーター、mTIE1プロモーター、hGlut1プロモーターまたはCMVプロモーターの制御下にあるSLC2A1をコードするAAV9ベクター(図10Cに図解した)を用いてトランスフェクションしたhCMEC/D3細胞によるGlut1の発現を評価した(図9)。内皮プロモーター(hFLT1およびmTIE1)からの発現は、Glut1プロモーターからの発現に匹敵し、CMVプロモーターからの発現よりはるかに低かった。これらのコンストラクト間の発現レベルの類似したパターンが免疫蛍光顕微鏡検査によって観察された(図10Aおよび図10B)。
【0165】
驚くべきことに、内皮プロモーターの制御下にある遺伝子をトランスフェクションまたは形質導入したヒト脳微小血管内皮細胞による2-デオキシ-D-グルコース(2-DG)の取り込みは、対照Glut1プロモーターよりも大きく、hFLT-1プロモーターが最も高いレベルの2-DG(グルコース)取り込みを示した(図11A~11C、図12および図13)。hFLT-1プロモーターコンストラクトによる2-DG(グルコース)取り込みがより大きいというこの所見は、ある範囲の2-DG濃度(図12A; 0、0.1、0.5および1 mM)およびトランスフェクション後のさまざまな時点(図12B)にわたっても観察され、いくつかの場合にはCMVプロモーターで観察されたものと同等か、またはわずかに大きいことが分かった(図11A~11C; 図12A、12B; 図13)。
【0166】
図9: ヒト脳微小血管内皮細胞(hCMEC/d3)へのトランスフェクション後の導入遺伝子タンパク質(Glut1-GFP)の発現。
【0167】
図10A: Glut1-GFP導入遺伝子の発現を駆動するいくつかの内皮細胞プロモーターのうちの1つを含むコンストラクトでのトランスフェクション72時間後のGFP蛍光。
【0168】
図10B: 2つの遍在性プロモーター(CMVもしくはCAG)のうちの1つを含むコンストラクト、Glut1を含まない対照ベクター(CMV-GFP)によるトランスフェクション、またはトランスフェクションなし(NFXなし)から72時間後のGFP蛍光。Operetta CLS(商標)(PerkinElmer(登録商標))を用いて得られた画像。
【0169】
図10C: AAV2逆位末端反復配列(ITR)によって挟まれた関心対象のプロモーター(hFLT1、mTie、hTieまたはhGlut1)およびGLUT1(SLC2A1)遺伝子(T2A連結-GFP)および調節エレメントを含む発現カセットの略図。
【0170】
図11A~11C: ヒトGLUT1(SLC2A1)発現後のhCMEC/d3細胞における2-デオキシ-D-グルコース(グルコース)取り込み。ヒト脳微小血管内皮細胞(hCMEC/d3)に、CAG-GFP(CON; 陰性対照)、あるいはいくつかの内皮特異的プロモーター(すなわち、hFLT1、mTie、hTieもしくはhGlut1)のうちの1つによりまたは遍在性CMVもしくはCAGプロモーターにより駆動されるhGLUT1-t2A-eGFP導入遺伝子のいずれかを発現するプラスミドをトランスフェクションした。発光に基づくキット(Promega(登録商標))を培地中0.5 mMの2-デオキシグルコース(2-DG)とともに用いて、グルコースの取り込みを測定した。位相差画像法を用いて全細胞数(Total Cell)によりグルコース(2-DG)取り込みを正規化した[エラーバーはS.E.Mを表す; 条件ごとにn=6回の反復]。
【0171】
図11A: 1回目の実験においてはトランスフェクション72時間後にグルコース(2-DG)取り込みを測定した。
【0172】
図11B: 2回目の実験においてはトランスフェクション72時間後にグルコース(2-DG)取り込みを測定した。
【0173】
図11C: トランスフェクション96時間後にグルコース(2-DG)取り込みを測定した。
【0174】
図12A: 72時間時点でのヒトGlut1(SLC2A1)発現後のhCMEC/D3細胞におけるグルコース(2-DG)取り込みを示す。
【0175】
図12B: 96時間時点でのヒトGlut1(SLC2A1)発現後のhCMEC/D3細胞におけるグルコース(2-DG)取り込みを示す。
【0176】
図13: hCMEC/D3細胞におけるAAV9を介したhGLUT1(SLC2A1)発現後の2-デオキシ-D-グルコース(グルコース)取り込み。ヒト脳微小血管内皮細胞(hCMEC/d3)に、CAG-GFP(陰性対照)あるいはいくつかの内皮特異的プロモーター(すなわち、hFLT1、mTie1もしくはhGlut1)のうちの1つによりまたは遍在性CMVプロモーターにより駆動されるhGLUT1導入遺伝子のいずれかを発現するAAV9ベクター(3×105ベクターゲノム/細胞)を形質導入した。グルコース(2-DG)取り込みを、発光に基づくGlucose Uptake-Gloキット(Promega(登録商標))を用いて形質導入72時間後に測定し、RealTime-Glo MT Cell Viability Assay (Promega(登録商標))を用いて細胞当たりに正規化した[エラーバーはS.E.Mを表す; 条件ごとにn=4回の反復]。
【0177】
実施例3: GLUT1欠損動物モデルにおける内皮プロモーターを用いたAAV-BR1キャプシド媒介Glut1発現のインビボ評価
GLUT1欠損症候群(DS)のマウスモデルにおけるAAV-BR1キャプシド媒介Glut1輸送体タンパク質発現のインビボ効果を評価する一連の実験を実施する。このモデルでは、マウスGLUT-1遺伝子のプロモーターおよびエクソン1領域の標的破壊によりヘテロ接合性ハプロ不全であるマウス(GLUT-1+/- マウス)を利用し、発作活動、髄液糖減少症、小脳髄症、および運動機能の障害などのヒトGLUT DSの特徴的な特性が呈される(Wang et al, Hum Mol Gen, 2006; Tang et al., Nat Comm, 2016)。AAV-BR1ビリオンを、遍在性プロモーター(CMV)またはいくつかの内皮細胞プロモーター(例えば、hFLT-1)のうちの1つのいずれかによって駆動されるGLUT1導入遺伝子の発現を用いて、異なる用量および異なる投与経路(静脈内または脳室内)で評価する。AAV-BR1ビリオンを用いた送達後の内皮細胞プロモーターを介したGLUT1導入遺伝子発現が、このマウスモデルにおける機能的および病理学的障害をどの程度予防または軽減できるかを評価する。ヘテロ接合性ハプロ不全マウスに投与した場合のAAV-BR1を介したGlut1タンパク質発現の潜在的な有益効果は、未処置GLUT-1+/- 対照マウスとの比較により明らかにされ、改善または正常化された体重増加、運動試験(例えばロータロッド、垂直支柱アッセイ)に関しての行動遂行、CSFグルコースレベル、脳重量、ならびに脳微小血管系の完全性およびサイズ(例えば脳毛細血管密度、血管サイズ、血管分岐点の数)からなる。
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図3-1】
図3-2】
図4-1】
図4-2】
図5-1】
図5-2】
図6-1】
図6-2】
図7-1】
図7-2】
図8-1】
図8-2】
図9
図10
図11
図12
図13
【配列表】
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【国際調査報告】