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特表2025-505673COVID感染症を処置するための方法および組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-28
(54)【発明の名称】COVID感染症を処置するための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/165 20060101AFI20250220BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20250220BHJP
   A61K 47/65 20170101ALI20250220BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20250220BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20250220BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20250220BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20250220BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250220BHJP
【FI】
C07K14/165 ZNA
A61K47/64
A61K47/65
A61K45/00
A61K9/72
A61P31/12
A61P31/14
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024547086
(86)(22)【出願日】2023-02-07
(85)【翻訳文提出日】2024-09-30
(86)【国際出願番号】 US2023012488
(87)【国際公開番号】W WO2023150375
(87)【国際公開日】2023-08-10
(31)【優先権主張番号】17/870,158
(32)【優先日】2022-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/870,174
(32)【優先日】2022-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/307,371
(32)【優先日】2022-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524295722
【氏名又は名称】デコイ セラピューティクス、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ペンテルート、ブラッドリー
(72)【発明者】
【氏名】ヒブナー、バーバラ、エル.
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA93
4C076AA95
4C076BB25
4C076CC35
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF68
4C084AA19
4C084MA02
4C084MA59
4C084NA05
4C084NA10
4C084NA13
4C084ZB332
4C084ZC751
4C084ZC752
4H045BA19
4H045BA55
4H045BA71
4H045CA01
4H045EA29
4H045FA51
(57)【要約】
本発明は、式:(ペプチド-リンカー)-B-疎水性部分[式中、各ペプチドは独立してHRCペプチドまたは標的化ペプチドであり、ただし、少なくとも1つのペプチドはHRCペプチドであるものとし、各リンカーは独立して二価の連結部分であり、Bは、システイン、X、および任意選択的にY、および/または任意選択的にZを含む多価部分であり、ここで、X、YおよびZは本明細書において定義され、nは1、2、3またはそれ以上から選択される整数である]を有する化合物、およびそれを使って、ウイル感染症の処置または防止を必要としている対象におけるウイルス感染症を処置または防止する方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:
(ペプチド-リンカー)-B-疎水性部分
[式中、各ペプチドは独立してHRCペプチドまたは標的化ペプチドであり、ただし、少なくとも1つのペプチドはHRCペプチドであり、各リンカーは独立して二価の連結部分であり、Bは、システイン、X、および任意選択的にY、および/または任意選択的にZを含む多価部分であり、ここで、X、YおよびZは本明細書において定義され、nは1、2、3またはそれ以上から選択される整数である]
を有する化合物。
【請求項2】
標的化ペプチドと1つまたは複数のHRCペプチドとを含む、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記標的化ペプチドがACE2標的化ペプチドまたは受容体結合ドメインペプチドである、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
前記疎水性部分がコレステロールである、請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
前記Zが式(I):
【化1】

の構造を含まない、請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
以下の構造
【化2】

[式中、ペプチド-リンカーは、DISGINASVVNIQKEIDRLNEVAKNLNESLIDLQEL-GSGSG-である]
を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項7】
以下の構造
【化3】

[式中、ペプチド-リンカーは、DISGINASVVNIQKEIDRLNEVAKNLNESLIDLQEL-GSGSG-である]
を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の化合物と、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
【請求項9】
SAR-Cov-2変異株に関連する呼吸器感染症の処置を必要とする対象において同呼吸器感染症を処置する方法であって、有効量の式:
(ペプチド-リンカー)-B-疎水性部分
[式中、各ペプチドは独立してHRCペプチドまたは標的化ペプチドであり、ただし、少なくとも1つのペプチドはHRCペプチドであり、各リンカーは独立して二価の連結部分であり、Bは、システイン、およびX、および任意選択的にY、および/または任意選択的にZを含む多価部分であり、ここで、X、YおよびZは本明細書において定義され、nは1、2、3またはそれ以上から選択される整数である]
を有する化合物を前記対象に投与することを含み、
ここで、前記変異株は少なくとも5つの変異を含み、前記少なくとも5つの変異は、独立して、スパイクタンパク質S1サブユニットもしくはS2サブユニットまたはそれらの組合せ中にある、
方法。
【請求項10】
前記化合物が標的化ペプチドと1つまたは複数のHRCペプチドとを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記標的化ペプチドがACE2標的化ペプチドまたは受容体結合ドメインペプチドである、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記疎水性部分がコレステロールである、請求項9~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも5つの変異が、独立して、N末端ドメイン(NTD)、受容体結合ドメイン(RBD)、融合ペプチド(FP)ドメイン、ヘプタドリピート1(HR1)ドメイン、またはそれらの組合せの中にある、請求項9~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも5つの変異が、図4に列挙した変異から独立して選択される、請求項9~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも5つの変異が、
(i)SAR-Cov-2アルファ変異株由来の少なくとも5つの変異、
(ii)SAR-Cov-2ベータ変異株由来の少なくとも5つの変異、
(iii)SAR-Cov-2デルタ変異株由来の少なくとも5つの変異、および
(iv)SAR-Cov-2オミクロン変異株由来の少なくとも5つの変異
からなる群より独立して選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記変異株が少なくとも10個の変異を含む、請求項13~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記変異株が少なくとも15個の変異を含む、請求項13~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記変異株が少なくとも20個の変異を含む、請求項13~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記SARS-CoV-2が、B.1.1.7(アルファ)、B.1.351(ベータ)、P.1(ガンマ)、B.1.617.2(デルタ)、B.1.429/B.1.427(イプシロン)、B.1.617.1(カッパ)、B.1.525(イータ)、B.1.526(イオタ)、P.3(シータ)、P.2(ゼータ)、およびB.1.1.529(オミクロン)から選択される少なくとも1つの変異株を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項20】
前記SARS-CoV-2が、A.1~A.6、B.3~B.7、B.9、B.10、B.13~B.16、B.2、B.1系統、P.1、P.2、P.3、およびR.1から選択される少なくとも1つの変異株を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記B.1系統が、限定するわけではないが、B.1、B.1.1、B.1.1.7、E484Kを持つB.1.1.7、B.1.2、B.1.5~B.1.72、B.1.9、B.1.13、B.1.22、B.1.26、B.1.37、B.1.3~B.1.66、B.1.177、B.1.243、B.1.313、B.1.351、B.1.427、B.1.429、B.1.525、B.1.526、B.1.526.1、B.1.526.2、B.1.617、B.1.617.1、B.1.617.2、B.1.617.3、B.1.619、B.1.620、およびB.1.621のうちの少なくとも1つを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記投与が、鼻腔内スプレー、吸入器またはネブライザーを使って達成される、請求項9~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記化合物が少なくとも1つの他の抗ウイルス活性剤または抗ウイルス治療と組み合わせて投与される、請求項9~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記化合物が、以下の構造
【化4】

[式中、ペプチド-リンカーは、DISGINASVVNIQKEIDRLNEVAKNLNESLIDLQEL-GSGSG-である]
を有する、請求項9~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記化合物が、以下の構造
【化5】

[式中、ペプチド-リンカーは、DISGINASVVNIQKEIDRLNEVAKNLNESLIDLQEL-GSGSG-である]
を有する、請求項9~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記化合物が、以下の構造
【化6】

[式中、ペプチド-リンカーは、DISGINASVVNIQKEIDRLNEVAKNLNESLIDLQEL-GSGSG-である]
を有する、請求項9~23のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国特許出願第17/870,158号および米国特許出願第17/870,174号(どちらも2022年7月21日に出願された)の一部継続出願である。本出願は、2022年2月7日に出願された米国仮出願第63/307,371号に基づく優先権も主張する。上記出願の全教示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
様々なウイルスがヒトにおいて呼吸器感染症を引き起こすことが知られており、その結果、典型的にはそれぞれの臨床像に応じて分類される、例えば普通感冒、インフルエンザ、細気管支炎、クループまたは肺炎などの疾病が生じる。そのような感染症は一般的には自然治癒するが、一定の患者、特に高齢者、乳幼児、および免疫系が損なわれている人々では、肺炎を含む、より重篤で生命にかかわりかねない疾患につながる場合もある。これらの疾患に処方される薬物治療の大半は症状の軽減を与えるにすぎず、これらの疾患のいずれについても、その経過を改変する薬物は、利用可能なものがほとんどない。さらに、2002年に同定された重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、2012年に同定された中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、そして直近では、2019年12月に初めて記載されたウイルスであって、COVID-19と呼ばれる疾患を引き起こす、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(SARS-CoV-2)など、近年、人畜共通感染症ウイルスが引き起こす新しい呼吸器疾患が出現している。SARS-CoV-2ウイルスは依然として世界的脅威である。SARS-CoVとMERS-CoVは、現在のところヒト集団にとっての脅威ではないが、病原体保有動物に存在し得るので、将来的にはヒトを脅かす可能性がある。
【0003】
さらに、コロナウイルスは急速に変異しているので、既存の治療を回避することができる新型のウイルスが生じて、新しい治療薬を急いで開発することが必要になるという懸念が高まっている。
【0004】
当技術分野ではウイルス呼吸器感染症を処置または防止する方法が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、クリックケミストリーを使ってコロナウイルススパイクタンパク質および他の競合リガンドを脂質分子、例えばコレステロールまたはトコフェロールにコンジュゲートすることによって、新しい抗ウイルスコンジュゲートをオンデマンド合成することができるという発見に基づいている。本方法は、強力な抗ウイルス材料をオンデマンド合成するためのプログラム可能な迅速応答プラットフォームを提供する。本プラットフォームは、ウイルス融合ペプチド阻害物質、膜固定ユニット(脂質分子など)、ACE2標的化ペプチド、およびスパイク結合ペプチドという、4つのモジュールを含む。少なくとも1つのモジュールとの共有結合による組合せには、もう一つのモジュールにコンジュゲートされて有効な抗コロナウイルス材料をもたらす融合ペプチド阻害物質が含まれる。モジュールは、少なくとも1つの硫黄または窒素アリール連結部からなる共有結合フレームワークを介して接続することができる。他のモジュールは、トリアゾール、アミド、または硫黄-sp3炭素結合で構成される接続部からなる。これらの接続部はクリックケミストリーを使って迅速に作成することができる。
【0006】
本発明は、感染症を処置または防止するための化合物、組成物およびそれらの使用方法、例えば前記プラットフォームによって特定される化合物も提供する。
【0007】
一実施形態において、本発明は、任意選択のリンカーを介して膜固定部分(疎水性部分など)にコンジュゲートされたウイルススパイクペプチド(融合ペプチドとも呼ばれる)のHRC配列を1つ、2つ、3つまたはそれ以上含む化合物を提供する。疎水性部分は、コレステロール、スフィンゴ脂質、糖脂質、グリセロリン脂質などの、膜統合性リガンドであることができる。ウイルススパイクペプチドは好ましくはコロナウイルススパイクタンパク質である。本発明のペプチドはウイルスの融合を阻害する。
【0008】
本発明には、本発明化合物の送達、例えば肺送達または経鼻送達のための組成物が含まれる。本発明は、例えばSARS-CoV-2(COVID-19)感染症をはじめとするウイルス感染症の処置または防止を必要とする対象における前記ウイルス感染症を処置または防止する方法であって、有効量の本発明化合物を投与することを含む方法を提供する。本発明は、本発明の組成物を製造する方法を、さらに提供する。
【0009】
複数の実施形態において、コロナウイルスを処置するのに役立つ抗ウイルス化合物には、図1G図1Hまたは図1Iに示す式を有する本発明の化合物が含まれる。
【0010】
本発明は、分子ライブラリーの効率のよい作製を提供することも意図している。作製することができるプラットフォームおよびライブラリーにより、変異株を調べることで、SARS-CoV2およびその変異、例えば限定するわけではないがアルファ、ベータ、ガンマ、デルタおよびオミクロン変異株に対して改良された抗ウイルス活性を持つリンカー、スペーサー、配列、および標的化部分を、特定することが可能になる。
【0011】
本特許ファイルまたは出願ファイルはカラーで作成された図を少なくとも1つは含んでいる。カラー図面付きのこの特許または特許出願公報の写しは、必要な手数料が支払われた場合に、請求に応じて、米国特許商標庁により提供される。
【0012】
本発明の前述の、そして他の目的、特徴および利点は、添付の図面に図解される本発明の好ましい実施形態に関する、以下のより詳細な説明から明らかになるだろう。添付の図面では、図が異なっても、同様の参照符号は同じ部分を指す。図面は必ずしも縮尺通りではなく、その代わりに、本発明の原理を図解することに重点が置かれている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】本発明の例示的な化合物を表す図である。
図1B】本発明の例示的な化合物を表す図である。
図1C】本発明の例示的な化合物を表す図である。
図1D】本発明の例示的な化合物を表す図である。
図1E】本発明の例示的な化合物を表す図である。
図1F】本発明の例示的な化合物を表す図である。
図1G】本発明の例示的な化合物を表す図である。
図1H】本発明の例示的な化合物を表す図である。
図2】シュードタイプ化ウイルス中和アッセイの概略を表す図である。
図3】様々なSARS-CoV2変異株と、それらの変異を見いだすことができる領域を示す図である。
図4】Duquerroy et al,Virology(2005)335:276-285に記載のコロナウイルス由来のHRCペプチドのモデルである。
図5】Sタンパク質三量体の断面図である。
図6】アミノ酸側鎖中の様々な原子の原子順位を図解する図である。
図7】例2の試験計画の概略図である。
図8】平均体重変化百分率(y軸)を表す図であり、x軸は-1および-2(ベースライン)から7日目までの期間に対応する。
図9】体重変化百分率(y軸)を表す図であり、x軸は処置群に対応する。通常の一元配置ANOVAと対照群1に対する多重比較。有意差が存在する場合はアスタリスクで示されている。P>0.05 * P≦0.05 ** P≦0.01 *** P≦0.001 **** P≦0.0001。
図10】1日目から7日目まで(x軸)のRT-qPCRによるゲノムコピー数による口腔スワブウイルス量の推定(y軸はLog10で正規化されている)を表す図である。1日目から2日目までのG1は、偶発的死亡により、n=6だった。G2からG5までの群はいずれも、この期間中は、n=8だった。3日目から7日目までは、G1はn=3であり、一方、G2~G5はn=4匹だった。
図11】1日ごとのRT-qPCRによる中咽頭スワブ中のゲノムコピー数によるウイルス量の推定(y軸はLog10で正規化されている)を表す図であり、x軸は処置群に対応する。通常の一元配置ANOVAと対照群1に対する多重比較。有意差が存在する場合はアスタリスクで示されている。ns P>0.05 * P≦0.05 ** P≦0.01 *** P≦0.001 **** P≦0.0001。
図12】2日目(n=4)および7日目(n=4)に収集された肺におけるRT-qPCRによるゲノムコピー数によるウイルス量の推定(y軸はLog10で正規化されている)を表す図であり、x軸は処置群に対応する。通常の一元配置ANOVAと対照群1に対する多重比較。有意差が存在する場合はアスタリスクで示されている。ns P>0.05、* P≦0.05、** P≦0.01、*** P≦0.001、または**** P≦0.0001。
図13】試験2日目および7日目の肺における生SARS-CoV-2タイトレーションアッセイを表す図である。y軸上のTCID50/mg肺組織はLog10を使って正規化した。グラフは、群(x軸)ごとに、すべての動物個体の肺力価と平均とを示している。TCID50によって対照群1と比較した場合、群(2、3、4および5)では、2日目に、ウイルス量が有意に低減していた。 (**、P<0.01、または有意でない場合は表示なし)。
図14】2日目および7日目の鼻甲介における生SARS-CoV-2タイトレーションアッセイを表す図である。TCID50/mg鼻甲介組織をy軸に示す。グラフは、群(x軸)ごとに、すべての動物個体の肺力価と平均とを示している。TCID50によって対照群1と比較した場合、群(2、3、4および5)では、2日目に、ウイルス量が有意に低減していた(**、P<0.01、または有意でない場合は表示なし)。
図15】例3の試験計画の概略図である。
図16】平均体重変化百分率(y軸)を表す図であり、x軸は試験の-1および-2日目(ベースライン)から7日目までに対応する。
図17】体重変化百分率(y軸)を表す図であり、x軸は処置群に対応する。通常の一元配置ANOVAと対照群1に対する多重比較。有意差が存在する場合はアスタリスクで示されている。P>0.05 * P≦0.05 ** P≦0.01 *** P≦0.001 **** P≦0.0001。
図18】1日目から7日目まで(x軸)のRT-qPCRによるゲノムコピー数による口腔スワブウイルス量の推定(y軸はLog10で正規化されている)を表す図である。
図19】1日ごとのRT-qPCRによる中咽頭スワブ中のゲノムコピー数によるウイルス量の推定(y軸はLog10で正規化されている)を表す図であり、x軸は処置群に対応する。通常の一元配置ANOVAと対照群1に対する多重比較。有意差が存在する場合はアスタリスクで示されている。ns P>0.05 * P≦0.05 ** P≦0.01 *** P≦0.001 **** P≦0.0001。
図20】2日目(n=6)および7日目(n=6)に収集された肺におけるRT-qPCRによるゲノムコピー数によるウイルス量の推定(y軸はLog10で正規化されている)を表す図であり、x軸は処置群に対応する。通常の一元配置ANOVAと対照群1に対する多重比較。有意差が存在する場合はアスタリスクで示されている。ns P>0.05、* P≦0.05、** P≦0.01、*** P≦0.001、または**** P≦0.0001。
図21】2日目(n=6)および7日目(n=6)に収集された肺におけるTCID50によるウイルス量の推定(y軸はLog10で正規化されている)を表す図であり、x軸は処置群に対応する。通常の一元配置ANOVAと対照群1に対する多重比較。有意差が存在する場合はアスタリスクで示されている。n.s.は有意差なしである。P>0.05、* P≦0.05、** P≦0.01、*** P≦0.001、または**** P≦0.0001。
図22】WA1株に対する本発明の抗ウイルス治療化合物の効力を示す図である。
図23】デルタ株に対する本発明の抗ウイルス治療化合物の効力を示す図である。
図24】オミクロン株に対する本発明の抗ウイルス治療化合物の効力を示す図である。
図25】P1株に対する本発明の抗ウイルス治療化合物の効力を示す図である。
図26】SARS-CoV-1株に対する本発明の抗ウイルス治療化合物の効力を示す図である。
図27】MERS-CoV株に対する本発明の抗ウイルス治療化合物の効力を示す図である。
図28】OC43株に対する本発明の抗ウイルス治療化合物の効力を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
コロナウイルスは、宿主細胞上のヒトアンジオテンシン変換酵素2(hACE2)受容体に付着するスパイクタンパク質結合ドメイン(RBD)を介して、ヒト細胞を標的とする。コロナウイルススパイク(S)糖タンパク質は、ビリオンの外層膜上のクラスIウイルス融合タンパク質であり、宿主細胞受容体を認識し、ウイルス膜と細胞膜の融合を媒介することによって、ウイルス感染において決定的な役割を果たす。宿主細胞へのコロナウイルスの侵入は、ウイルス表面から突き出したホモ三量体を形成する膜貫通スパイク(S)糖タンパク質によって媒介される。Sは、宿主細胞受容体への結合(S1サブユニット)およびウイルス膜と細胞膜との融合(S2サブユニット)を担う2つの機能的サブユニットを含む。
【0015】
S1は受容体結合という機能を果たし、N末端のシグナルペプチド(SP)、N末端ドメイン(NTD)および受容体結合ドメイン(RBD)を含む。S2は、膜融合において機能して細胞への進入を容易にし、融合ペプチド(FP)ドメイン、内部融合ペプチド(IFP)、2つのヘプタドリピートドメイン(HR1およびHR2)、膜貫通ドメイン、およびC末端ドメインを含んでいる。
【0016】
結合後、スパイクタンパク質は、宿主細胞の膜貫通プロテアーゼ/セリンサブファミリーメンバー2(TMPRSS2)によって活性化され、その結果として、ウイルスは、細胞への進入のためにエンドソーム膜との融合を起こす。コロナウイルス中のスパイクタンパク質の膜融合ドメインは高度に保存されているので、膜融合を標的にすれば、耐久性のある持続的な治療薬がもたらされ得る。
【0017】
本発明は、強力な抗コロナウイルス材料をオンデマンド合成するためのプログラム可能な迅速応答プラットフォームを提供する。本プラットフォームは、好ましくは、コロナウイルス融合ペプチド阻害物質、膜固定部分、および前記ペプチドを前記膜固定部分に共有結合で連結する多量体コア(B)を含む。本プラットフォームはスパイク結合ペプチドをさらに含んでもよい。本プラットフォームは、ACE2標的化ペプチドまたは受容体結合ドメイン標的化ペプチドなどの標的化ペプチドをさらに含んでもよい。
【0018】
本発明の化合物は以下の一般式:
(ペプチド-リンカー)-B-疎水性部分
[式中、リンカーは任意選択であり、Bは、各ペプチド部分を疎水性部分に共有結合で連結する多量体コアであって、システイン、X、および任意選択的にY、および/または任意選択的にZを含み、X、YおよびZは本明細書において定義され、nは1、2、3またはそれ以上から選択される整数である]
によって特徴づけることができる。好ましい実施形態において、化合物は、各モジュールを別々のビルディングブロックとして化学的にコンジュゲートすることによって製造される。コンジュゲーションにはクリックケミストリーが好ましく使用される。
【0019】
各ペプチドは、独立して、コロナウイルススパイクタンパク質由来のHRCペプチドおよび/または標的化ペプチドである。ただし、コロナウイルススパイクタンパク質由来のHRCペプチドが少なくとも1つは存在するものとする。本発明の好ましい実施形態では天然ペプチドまたは野生型ペプチドを利用するが、非天然ペプチドも同様に使用することができる。1つまたは複数の変異(例えばオミクロン変異)中に見いだされるアミノ酸を、他のウイルス(例えばデルタウイルス)の天然配列と組み合わせることができる。コロナウイルススパイクタンパク質のいわゆるHRCペプチドまたはHRC領域は好ましい。HRCペプチドは、感染過程における重要な初期段階であるウイルス融合を阻害する。野生型HRCペプチドは、コロナウイルス全体にわたる、スパイクタンパク質、すなわちSタンパク質の保存された領域である。クラスIエンベロープウイルスの融合領域(HRC/HRN)および融合機序は保存された性質を持つので、これは、汎コロナウイルス阻害物質を開発するための理想的標的になる。
【0020】
好ましい野生型HRCペプチドは、
Ac-DISGINASVVNIQKEIDRLNEVAKNLNESLIDLQEL(配列番号1)
[ここで、nは0または1である]
という配列およびその結合フラグメントを含む。
【0021】
配列番号1中のHRCペプチドに関して、従来のアミノ酸ナンバリングは、Dの1150で始まる。1151I、1154Iおよび1158Vは融合前の疎水性界面にあり、1159Vは露出している。これらのアミノ酸はヘリックスを安定化する。コンフォメーション変化(例えばプロテアーゼクリッピングによるFPの遊離)が起こると、1158Vは露出し、1159VはHRN三量体と相互作用する疎水性表面中に存在することになる。1155Nと1176Nは、コロナウイルスにおいて保存されているN結合型グリコシル化に関係づけられている。最初の7アミノ酸はHRN結合に関係づけられている。「N-キャップ」領域は1159Vと1171Vにまたがる。1171Vはコロナウイルスにおいて保存された疎水性残基であり、HRCハイドロコア(hydro-core)を安定化し、HRN相互作用に関与する。
【0022】
疎水性コアは1161Iと1175Lにまたがり、融合前も融合後もヘリックスである。これらのイソロイシン、ロイシンおよびアラニンはコイルドコイルの折り畳みと安定性に重要である。C-キャップ領域は1176Nと1185Lにまたがる。1179L、1182Lおよび1185Lは、融合前の疎水性界面にあり、1180Iは露出している。これらのアミノ酸は前記ヘリックスを安定化する。1185Yは、三量体コイルドコイル中の3つのポリペプチド鎖間の疎水性パッキングに関係づけられ得る。コンフォメーション変化(例えばプロテアーゼクリッピングによるFPの遊離)が起こると、1179Lは露出し、1180IはHRN三量体と相互作用する疎水性表面中に存在することになる。1164Eと1184EはHRCとHRNの間に塩橋を形成する。さらに、1159V、1160N、1171Vおよび1180Iは、結晶構造においてHRNと相互作用することが示されている。図5にSタンパク質三量体の断面図を示す。
【0023】
一定の実施形態において、ペプチドは、
Ac-DISGINASVVNIQKEIDRLNEVAKNLNESLIDLQEL(配列番号1)
[ここで、nは0または1である]
という配列およびその結合フラグメントを含む野生型HRCペプチドの変異株から選択される。
【0024】
タンパク質変異株との関連において、「変異株」という用語は、野生型配列、例えば配列番号1または本明細書記載の他の天然配列と比較して、少なくとも1つのアミノ酸の欠失、付加または置換を有するペプチドと定義される。変異株は好ましくは野生型配列のコグネイトリガンドに結合する。例えば、配列番号1のうちの1、2、3、4または5つのアミノ酸が置換されているペプチドを使用することができる。そのような置換アミノ酸は、好ましくは、上に示したような配列アラインメントによって異なるコロナウイルス株において特定される1つまたは複数の対応するアミノ酸から選択することができる。例えば、前掲のアラインメントに記載するように、下線付きのイソロイシンの一方または両方を、ロイシンおよび/またはメチオニンで置換することができる。下線付きのアラニンを、バリン、ロイシンまたはイソロイシンで置換することができる。下線付きのロイシンの一方または両方を、独立して、イソロイシン、チロシン、アラニンまたはバリンで置換することができる。他の保存的または非保存的置換(リジンとグルタミンまたはアスパラギン酸とグルタミン酸)も、例えば上記の配列アラインメントに示されるように、同様に選択することができる。複数の実施形態において、2、3、4、5またはそれ以上のコロナウイルス(例えばコウモリから分離されたコロナウイルスまたはSARS-CoV2の変異体もしくは変異株)の間で保存されているアミノ酸は、非天然HRCペプチドでも保存されたままである。
【0025】
例えば、野生型HRC配列は、Sタンパク質にとって天然である1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個またはそれ以上の追加アミノ酸を、N末端および/またはC末端に含むことができる。例えばN末端にグリシンを付加することができる。さらに、野生型HRCペプチドフラグメントは、N末端および/またはC末端の1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個のアミノ酸が欠失していても、感染を阻害することができる。典型的には、全体として、合計10個以下のアミノ酸を欠失させる。例えば、C末端のそれら10個のアミノ酸を欠失させても、阻害活性は保持されると予想することができる。
【0026】
一定の実施形態では、野生型配列への改変が望ましい。例えば1つまたは複数のDアミノ酸が、ペプチドの薬物動態および半減期を改良する場合がある。したがって一定の実施形態において、本発明は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個またはそれ以上のD-アミノ酸を特徴とするペプチドを包含する。D-アミノ酸は好ましくは野生型配列の対応するL-アミノ酸であることができる。一定の実施形態において、D-アミノ酸は、プロテアーゼ分解部位またはその近く(例えば1、2または3アミノ酸以内)に位置するアミノ酸である。一定の実施形態において、D-アミノ酸は、HRNペプチドとの結合に、好ましくは対応する野生型配列よりも高い親和性で、参加する疎水性アミノ酸である。上記に代えて、または上記に加えて、D-アミノ酸は親水性アミノ酸、例えばリジン、アスパラギン酸、グルタミン酸またはアルギニンである。上記に代えて、または上記に加えて、D-アミノ酸は、配列番号1のN末端にある7つのアミノ酸から選択することができる。D-アミノ酸を組み込むことによって改良されたペプチドは、2021年1月22日に出願された米国特許出願第63/140,387号に記載されており、この特許出願は、参照により、その全体が本明細書に組み込まれる。
【0027】
しかし、1つまたは複数のD-アミノ酸を対応するL-アミノ酸と取り換えると、ペプチドのトポロジーが変化して、機能に影響が及ぶ場合がある。したがって、好ましい非天然HRCペプチドは、レトロインバージョンHRCペプチド、すなわち「RI HRCペプチド」である。レトロインバージョンHRCペプチドは、好ましくは、そのコグネイトリガンドに対して標準的結合アッセイにおいて野生型HRCペプチドの少なくとも約50%である結合親和性と、哺乳動物プロテアーゼ分解に対する感受性の減少とを特徴とする。レトロインバージョンとは、ヘリカルペプチドのD-ペプチド配列を逆にし、すなわち両端を「反転」(flip)させ、それによって、結合リガンドまたは標的への側鎖の提示を回復させることと定義される。Kim et al,Method to generate highly stable D-amino acid analogs of bioactive helical peptides using a mirror image of the entire PBS,PNAS,February 13,2018,115(7)1505-1510を参照されたい。この文献は、参照により、その全体が本明細書に組み込まれる。したがって、本発明の非天然ペプチドは、アミノ酸、例えばある領域内のアミノ酸が、N末端がC末端になるように反転させたD-アミノ酸である、配列番号1の配列を有するペプチドを含むことができる。例えば、配列番号2に示すようにN末端をレトロインバージョンに付すことができ、配列番号2では各Dアミノ酸の前に「d」が付されている:
dIdGdSdIdD NASVVNQKEDRLNEVKNNESIDLQEL(配列番号2)。
【0028】
この例は5アミノ酸の単一RI領域を与える。しかし、アミノ酸を2つだけ選択することもできる(例えば2つのN末端アミノ酸)。例えばRI領域は、疎水性コア、1160N~1176N、またはC-キャップ領域もしくはその一部分にまたがり得る。あるいは、ペプチド全体がRIペプチドであることもできる。さらに、2つ、3つまたはそれ以上のRI領域を含めることもできる。例えば、L-アミノ酸による疎水性コアを保ったまま、N末端領域とC-キャップ領域の両方をRI領域とすることができる。
【0029】
例えば、鏡像ファージディスプレイを使ってHRC変異株のスクリーニングを行う場合、第1のD-ペプチドは、HRNコロナウイルスペプチド、または第1のL-ペプチドから合成することができる。第1のLペプチドは天然に存在するL-ペプチドであるか、またはペプチドのキメラであることができる。本方法は、第1のD-ペプチドに特異的に結合するHRCペプチドまたは第2のL-ペプチドのスクリーニングを行うことをさらに含むことができ、次に、第2のL-ペプチドの鏡像である第2のD-ペプチドを合成することができる。本明細書に記載のD-ペプチドスクリーニング法の一態様では、N-三量体標的をまずD-アミノ酸で合成して、天然のL-N-三量体標的の鏡像を作り出すことができる。D-N-三量体標的は、D-N-三量体に結合するL-ペプチドを同定するための標準的なペプチドベースのスクリーニング、例えばファージディスプレイ、リボソームディスプレイ、および/またはCISディスプレイにおいて使用することができる。次に、特定されたL-ペプチドをD-アミノ酸で合成することができる。対称性の法則により、その結果得られるD-ペプチドは天然のL-N-三量体に結合し、したがってコロナウイルスHRN中間体のN-三量体領域を標的とし、それによって感染を阻害することになるだろう。このスクリーニング方法は、Schumacher,et al.,Identification of D-peptide ligands through mirror-image phage display,Science,1996 Mar 29;271(5257):1854-7にも記載されており、この文献は、この参照により、その全体が本明細書に組み込まれる。
【0030】
HRCペプチドのホットスポット残基は、HRCペプチドの結晶構造またはNMR溶液構造によって特定することができる。例えば、1150D、1151I、1154I、1155N、1158V、1159V、1161I、1164E、1171V、1175L、1176L、1179L、1180I、1182L、1184Eおよび/または1185Yから選択される1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個またはそれ以上のアミノ酸、例えば配列番号1の1159V、1160N、1163E、1171V、1180I、1184Eおよび/または1185Lから選択される1つまたは複数のアミノ酸を、ホットスポット残基と指定することができる。
【0031】
複数の実施形態において、ペプチドは細胞標的化ペプチドを含む。複数の実施形態において、標的化ペプチドは、限定するわけではないがACE2標的化ペプチドまたは受容体結合ドメイン標的化ペプチドから選択される。複数の実施形態において、標的化ペプチドはACE2標的化ペプチドである。複数の実施形態において、標的化ペプチドは受容体結合ドメイン標的化ペプチドである。
【0032】
化合物がペプチドを1つだけ含む実施形態では、ペプチドはコロナウイルススパイクタンパク質由来のHRCペプチドである。化合物が2つ以上のペプチドを含む実施形態において、各ペプチドはコロナウイルススパイクタンパク質由来のHRCペプチドであることができる。化合物が2つ以上のペプチドを含む実施形態では、ペプチドを、コロナウイルススパイクタンパク質由来のHRCペプチドおよび/または標的化ペプチドから選択することができる。ただし、コロナウイルススパイクタンパク質由来のHRCペプチドは、少なくとも1つは存在するものとする。好ましくは、ペプチドのうちの1つだけが標的化ペプチドであり、他の1つまたは複数のペプチドはコロナウイルススパイクタンパク質由来のHRCペプチドである。
【0033】
一定の実施形態において、任意選択の「リンカー」は、ペプチドに(好ましくはそのC末端またはN末端で)共有結合すると共に、Bにも共有結合する、二価の部分または二価の基と定義される。複数の実施形態において、リンカーは、1、2、3、4、5個またはそれ以上のサブユニットまたはセグメントを有することができる。複数の実施形態において、リンカーは、1つまたは複数のアミノ酸によるサブユニットを含む。アミノ酸は、天然に存在するものであっても、合成物であってもよい。したがってリンカーは、(Gly)n+1、(GlySerGly)または(Gly-Pro)(ここで、nは1以上、例えば1~12、1~6または1~4である)を含み得る。GlySerGlyは、リンカーまたはリンカーの一部を形成し得るアミノ酸の配列の一例である。
【0034】
一定の実施形態において、リンカーは非アミノ酸サブユニットを含み得る。いくつかの実施形態において、リンカーの非アミノ酸サブユニットの例は-(OCHCH-であり、ここで、mは1~15、例えば2~10、2~6または4である。(ポリ)エチレングリコール基の導入は水性媒質における溶解性を助ける。いくつかの実施形態において、リンカーの非アミノ酸部分の例は-CHC(O)-および-CHC(O)NHCHCH(OCHCHC(O)-である。
【0035】
例えば3つのサブユニットを持つリンカーを使用することが有利な場合がある。第1の任意選択のサブユニットは、フレキシブルなペプチド、例えば-(G)-または-(GS)G-を含み、ここで、mは1、2、3、4、5またはそれ以上の整数、例えば2である。第2のサブユニットは、化学反応(クリックケミストリー反応など)の残基、例えば第1のサブユニットのN末端、C末端または側鎖が関与するペプチド結合、エステル、エーテルまたはチオエーテルであることができる。残基は、カルボジイミドまたはスルフヒドリルマレイミドで形成されたものなど、切断不可能であることができる。第3の任意選択のサブユニットは親水性スペーサー、例えばポリエチレングリコール、ポリエチレンアミン、ポリアセタールポリマー、ポリ(1-ヒドロキシメチルエチレンヒドロキシメチル-ホルマール)(PHF)または炭水化物であることができる。親水性スペーサーは、一般に、ポリマーであって、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個またはそれ以上のモノマーを含むことができる。4つのモノマーによるポリエチレングリコール(PEG4)で十分である。親水性スペーサーの長さは、HRNドメインに結合するためのペプチドの配向が容易になるように、Sタンパク質ギャップの全長に対応することができる。PEGは、凝集を低減し、溶解性を改良することもできる。もう一つのサブユニットは、Bとリンカーまたはそのサブユニットとの間の化学反応(クリックケミストリー反応など)の残基であることができる。
【0036】
Bは、1つまたは複数のペプチド-リンカー部分を疎水性部分に共有結合で連結するフレームワークを提供する多量体コアであることができる。Bは、1つまたは複数のシステイン、1つまたは複数のX、および任意選択的にY、および/または任意選択的にZを含むことができ、X、YおよびZは本明細書において定義される。複数の実施形態において、前記1つまたは複数のシステインは、1つまたは複数のペプチド-リンカー部分をBの他の構成要素に結合する。
【0037】
細胞にとって無毒性であり、生物学的条件下では速い速度で起こることができる、微調整可能かつ単純な化学反応を使って、ペプチドをBに共有結合で連結することができる必要がある。本発明はこの必要に対処する。広い態様において、本開示は、クリックケミストリーによって反応する、「クリックケミストリーハンドル」とも呼ばれるクリックケミストリー適合性官能基を提供する。
【0038】
本明細書において利用される場合、「クリックケミストリー適合性」の構造、官能基、モノマー、オリゴマーなどは、クリックケミストリー反応への参加に適した1つまたは複数の化学部分を含むことを構造上の特徴とする、化合物、材料などを指すと理解すべきである。
【0039】
クリックケミストリーハンドルは、クリックケミストリー反応に加わることができる反応基を与える化学部分である。クリックケミストリー反応およびクリックケミストリー反応のための適切な化学基は当業者には周知であり、これには、末端アルキン、アジド、歪みアルキン、ジエン、ジエノフィル、アルコキシアミン、カルボニル、ホスフィン、ヒドラジド、チオール、およびアルケンが含まれるが、それらに限定されない。例えば、いくつかの実施形態では、アジドとアルキンとがクリックケミストリー反応において使用される。
【0040】
本発明のいくつかの態様は、改変されたペプチド、例えばC末端またはN末端クリックケミストリーハンドルを含むタンパク質を提供する。その場合、そのようなペプチドは、タンパク質のクリックケミストリーハンドルと反応することができる部分を含むBに、共有結合でコンジュゲートすることができる。
【0041】
銅触媒アジド-アルキン付加環化(CuAAC)が本明細書に開示される材料を官能化するために使用されるクリックケミストリーである実施形態では、「クリックケミストリー適合性」化合物は、末端アルキンおよび/または末端アジド官能基を含む。
【0042】
例示的なクリックケミストリーはCuAACであるが、本明細書に記載の発明概念の範囲から逸脱することなく、CuAACと等価であると理解されるであろう他のクリックケミストリー適合性反応を使用し得ることは、当業者には理解されるだろう。例えば様々な実施形態において、クリックケミストリー適合性反応には、CuAAC、歪み促進型アジド-アルキン環化付加(SPAAC)、歪み促進型アルキン-ニトロン環化付加(SPANC)、アルケン-アジド環化付加などの歪みアルケン反応が含まれ得る。また、本開示を読めば当業者には理解されるであろうとおり、クリックケミストリー適合性反応には、アルケン-テトラジン逆要請型ディールス-アルダー(Diers-Alder)反応、アルケン-テトラゾール光クリック反応、チオールのマイケル付加、チオールのアミンによる求核置換、ならびにBecer,et al.「Click chemistry beyond metal-catalyzed cycloaddition.」Angew.Chem.Int.Ed.2009,48:p.4900-4908によって開示されているような一定のディールス-アルダー反応およびそれらの均等物も含まれるとみなし得る。
【0043】
したがって、様々な実施形態において、クリックケミストリー適合性の基、化合物などは、前述の例示的クリックケミストリーの任意の組合せに参加する能力を伝達する1つまたは複数の適切な化学部分を含むと理解されるべきである。
【0044】
Bは、1つまたは複数のペプチド-リンカー部分を疎水性部分に共有結合で連結するフレームワークを提供する多量体コアである。Bは、1つまたは複数のシステイン、1つまたは複数のX、および任意選択的にY、および/または任意選択的にZを含み、X、YおよびZは本明細書において定義される。
【0045】
前記1つまたは複数のシステイン残基、1つまたは複数のX、任意選択のYおよび任意選択のZは、任意の順序であることができ、ここでは、最初に挙げられたBの構成要素がペプチド-リンカーに結合していて、最後に挙げられた構成要素が疎水性部分に結合している。例えばBが、順に、1つまたは複数のシステイン残基、1つまたは複数のX、およびZを含む場合、ぺプチド-リンカーは前記1つまたは複数のシステインに結合していて、Zは疎水性部分に結合している。複数の実施形態において、Bは、順に、1つまたは複数のシステインと1つまたは複数のXとを含む。複数の実施形態において、BはシステインとXとを含む。
【0046】
複数の実施形態において、Bは、1つまたは複数のシステインと、1つまたは複数のXと、Zとを含む。複数の実施形態において、BはZと、1つまたは複数のシステインと、1つまたは複数のXとを含む。
【0047】
複数の実施形態において、Bは、Yと、1つまたは複数のシステインと、1つまたは複数のXとを含む。複数の実施形態において、Bは、Yと、1つまたは複数のシステインと、1つまたは複数のXと、Zとを含む。
【0048】
複数の実施形態において、前記1つまたは複数のシステインは、前記1つまたは複数のペプチド-リンカー部分を、Bの他の構成要素に結合する。複数の実施形態において、前記1つまたは複数のシステインは、前記1つまたは複数のXに、チオエーテル結合を介して取り付けられる。複数の実施形態において、前記1つまたは複数のシステインは、以下の構造:
【化1】

[式中、RはOHまたはNHである]
を有する。
【0049】
複数の実施形態において、Xは、1つまたは複数の硫黄アリール連結部、窒素アリール連結部、または他の連結部、例えばトリアゾール、アミド、硫黄-sp3炭素結合、もしくは親水性リンカーを含む。複数の実施形態において、親水性リンカーは、例えばポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンイミン、ポリアセタールポリマー、ポリ(1-ヒドロキシメチルエチレンヒドロキシメチル-ホルマール)(PHF)または炭水化物から選択される。複数の実施形態において、親水性リンカーはポリマーであって、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個またはそれ以上のモノマーを含むことができる。複数の実施形態において、親水性リンカーはポリエチレングリコール(PEG)である。複数の実施形態において、親水性リンカーは、4つのモノマーによるポリエチレングリコール(PEG4)である。一実施形態において、Xは1つまたは複数の硫黄アリール連結部を含む。一実施形態において、Xは1つまたは複数の窒素アリール連結部を含む。一実施形態において、Xは1つまたは複数の硫黄-sp3炭素結合を含む。
【0050】
複数の実施形態において、前記1つまたは複数のXは、チオエーテル結合によって、疎水性部分に直接取り付けられる。複数の実施形態において、前記1つまたは複数のXは、Zが存在する場合には、Zに取り付けられ、次にそのZが疎水性部分に取り付けられる。
【0051】
一定の実施形態において、BはさらにYを含む。複数の実施形態において、Yが存在する場合、Yは、前記1つまたは複数のペプチド-リンカー部分と前記1つまたは複数のシステインとの間に入り、前記1つまたは複数のペプチド-リンカー部分を前記1つまたは複数のシステインに結合し、次にそのシステインがBの他の構成要素に結合する。
【0052】
複数の実施形態において、Yは1つまたは複数のアミノ酸を含む。アミノ酸は、天然に存在するものであっても、合成物であってもよい。Yは、1つまたは複数の、例えば1~12、1~6または1~4個のアミノ酸を含み得る。前記1つまたは複数のアミノ酸は段階的にリンカーに付加することができる。例えば、第1のアミノ酸をBのシステインに付加し、次に第2のアミノ酸の付加に先立って、ペプチド-リンカーを第1のアミノ酸に取り付ける。ペプチド-リンカーを第1のアミノ酸に取り付けた後、次のアミノ酸を先のアミノ酸に取り付けて、さらなるペプチド-リンカーの取り付けを可能にするなどである。いくつかの実施形態において、リンカーのアミノ酸は1つまたは複数のリジンである。
【0053】
複数の実施形態において、Zが存在する場合、ZはXと疎水性部分との間に入り、Bを疎水性部分に結合する。
【0054】
複数の実施形態において、Zが存在する場合、Zは、式(I):
【化2】

の構造を有する部分を含み、
式中、RおよびRのそれぞれは
(i)R
(ii)式(II):
【化3】

の構造、
および
(iii)式(III):
【化4】

の構造
からなる群より独立して選択され、
式中、
Wは、いずれの場合も、-H-C(O)-O-、-O-C(O)-H-、-C(O)-O-、-O-C(O)-、-(CH-、-H-C(O)-、-C(O)-H-、-H-、および-C(X)-から独立して選択され、最も好ましくはWは-C(O)-H-であり、
Vは、いずれの場合も、-(CH-、-(CH-C(X)-H-、-H-C(X)-(CH-、-(CH-H-C(O)-O-、-O-C(O)-H-(CH-、-(CH-C(O)-O-、-O-C(O)-(CH-、-H-C(X)-、-C(X)-H-、-H-C(O)-O-、-O-C(O)-H-、-C(O)-O-、および-O-C(O)-から独立して選択され、最も好ましくは
Vは-CHCH-C(O)-H-であり、
Dは、いずれの場合も、O、SまたはHのいずれかであり、
Aは、いずれの場合も、-C(O)CH-、-CHC(O)-、-HCH-、-CHH-、-HC(O)-、-C(O)H-、-H-、-CH-、-CHC(O)H-および-HC(O)CH-から独立して選択され、最も好ましくはYは-HCH-であり、
Qは、いずれの場合も、-CH-、-H-、-O-、-CHO-、-HCH-および-OCH-から独立して選択され、最も好ましくはZは-O-であり、
は、いずれの場合も、前記ポリペプチドのいずれかから独立して選択され、それらは同じであっても異なってもよく、
mは、いずれの場合も、0~5の整数、すなわち0、1、2、3、4、または5、好ましくは0~3から独立して選択され,好ましくはmはいずれの場合も同じであり、;
nは、いずれの場合も、0~40の整数、すなわち0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、または40、好ましくは3~10から独立して選択され、好ましくはnはいずれの場合も同じであり、
oは、いずれの場合も、0~5の整数、すなわち0、1、2、3、4、または5から独立して選択され、好ましくは2であり、好ましくはoはいずれの場合も同じであり、
pは、いずれの場合も、0~5の整数、すなわち0、1、2、3、4、または5、好ましくは0~3から独立して選択され、好ましくはpはいずれの場合も同じであり、
qは、いずれの場合も、0~5の整数、すなわち0、1、2、3、4、または5、好ましくは0~3から独立して選択され、好ましくはqはいずれの場合も同じであり、および/または好ましくはq<pであり、
Mは前記疎水性部分であり、
式中、*は、構造(II~III)が構造(I)に連結される場所を表す。
【0055】
複数の実施形態において、Zが存在する場合、Zは、
式(I):
【化5】

の構造を有する部分を含まない。
【0056】
複数の実施形態において、Zが存在する場合、Zは、式(IV):
【化6】

の構造を有する部分を含み、
式中、Rは、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンイミン、ポリアセタールポリマー、ポリ(1-ヒドロキシメチルエチレンヒドロキシメチル-ホルマール)(PHF)または炭水化物などから選択される親水性リンカーから選択され、
Wは、いずれの場合も、直接結合、またはポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンイミン、ポリアセタールポリマー、ポリ(1-ヒドロキシメチルエチレンヒドロキシメチル-ホルマール)(PHF)もしくは炭水化物などから選択される親水性リンカーから独立して選択される。
【0057】
複数の実施形態において、Rの親水性リンカーはポリマーであって、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個またはそれ以上のモノマーを含むことができる。複数の実施形態において、Rの親水性リンカーはポリエチレングリコール(PEG)である。複数の実施形態において、Rの親水性リンカーは、4つのモノマーによるポリエチレングリコール(PEG4)である。
【0058】
複数の実施形態において、Wの親水性リンカーは、いずれの場合も独立してポリマーであって、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個またはそれ以上のモノマーを含むことができる。複数の実施形態において、親水性リンカーはポリエチレングリコール(PEG)である。複数の実施形態において、Wの親水性リンカーは、いずれの場合も独立して、4つのモノマーによるポリエチレングリコール(PEG4)であることができる。
【0059】
疎水性部分は膜統合性脂質、例えばコレステロール、スフィンゴ脂質、スフィンゴミエリン、糖脂質、グリセロリン脂質(ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミンおよびホスファチジルセリンなど)、エルゴステロール、7-ジヒドロコレステロールおよびスチグマステロールであることができる。好ましくはコレステロールである。典型的には、Bは、コレステロールのヒドロキシル基、例えば3-OHに、直接的または間接的に連結される。疎水性部分は、細胞膜への本発明化合物の挿入を容易にし、ウイルスの進入を阻害することができる。
【0060】
Bは、疎水性部分上の任意の好都合な位置に接続され得る。いくつかの実施形態において、接続は疎水性部分のヒドロキシ基を介して行われ得る。例えば、疎水性部分がコレステロールである場合、Bは、基-C(O)-または-C1~4アルキレンC(O)-、例えば-CHC(O)-によって、コレステロールに接続され得る。
【0061】
リン脂質には、卵ホスファチジルコリン(EPC)、卵ホスファチジルグリセロール(EPG)、卵ホスファチジルイノシトール(EPI)、卵ホスファチジルセリン(EPS)、ホスファチジルエタノールアミン(EPE)、およびホスファチジン酸(EPA)などの脂質、大豆由来のそれらの脂質、大豆ホスファチジルコリン(SPC)、SPG、SPS、SPI、SPEおよびSPA、水素添加された卵由来および大豆由来のそれらの脂質(例えばHEPC、HSPC)、グリセロールの2位および3位にある炭素原子数12~26の鎖を含有する脂肪酸のエステル結合と、グリセロールの1位にあるコリン、グリセロール、イノシトール、セリン、エタノールアミンを含む様々な頭部基とで構成された、他のリン脂質、ならびに対応するホスファチジン酸が含まれる。これらの脂肪酸上の鎖は飽和鎖または不飽和鎖であることができ、リン脂質は様々な鎖長および様々な不飽和度の脂肪酸で構成され得る。特に、本製剤の組成物は、天然に存在する肺サーファクタントの主成分であるジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)を含むことができる。他の例としては、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)およびジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)ジパルミトイルホスファチドホリン(dipalmitoylphosphatideholine)(DPPQ)およびジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPQ)およびジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、ジオレイルホスファチジル-エタノールアミン(DOPE)、ならびにパルミトイルステアロイルホスファチジル-コリン(PSPC)およびパルミトイルステアロールホスファチジルグリセロール(palmitoylstearolphosphatidylglycerol)(PSPG)のような混合リン脂質、ならびにモノオレオイルホスファチジルエタノールアミン(MOPE)のような単一アシル化リン脂質が挙げられる。
【0062】
コレステロール類としては、コレステロール、コレステロールのエステル、例えばコレステロールヘミコハク酸、コレステロールの塩、例えばコレステロール硫酸水素塩、エルゴステロール、エルゴステロールのエステル、例えばエルゴステロールヘミコハク酸、エルゴステロールの塩、例えばエルゴステロール硫酸水素塩およびエルゴステロール硫酸塩、ラノステロール、ラノステロールのエステル、例えばラノステロールヘミコハク酸、ラノステロールの塩、例えばラノステロール硫酸水素塩およびラノステロール硫酸塩を挙げることができる。トコフェロール類としては、トコフェロール、トコフェロールのエステル、例えばトコフェロールヘミコハク酸、トコフェロールの塩、例えばトコフェロール硫酸水素塩およびトコフェロール硫酸塩を挙げることができる。
【0063】
複数の実施形態において、本発明の化合物は図1Hに示す構造を有する(「デコイ(Decoy)101」または「DCOY101」ともいう)。
【0064】
複数の実施形態において、本発明の化合物は図1Iに示す構造を有する(「デコイ(Decoy)102」または「DCOY102」ともいう)。
【0065】
複数の実施形態において、本発明の化合物は図1Gに示す構造を有する(「デコイ(Decoy)103」または「DCOY103」ともいう)。
【0066】
DCOY102およびDCOY103のリンカーは、新しいリンカーであり、DCOY101よりも改良された安定性を与える。さらに、DCOY102およびDCOY103は、PBS緩衝液中で、以下に示すように、改良された溶解性を示す:デコイ(Decoy)101:約0.04mg/mL=0.004mM;デコイ(Decoy)102:約0.35mg/mL=0.035mM、デコイ(Decoy)103:約0.19mg/mL=0.018mM。
【0067】
本発明の組成物は、本明細書記載の化合物と薬学的に許容される担体とを含む。例えば、本組成物は全身性にまたは局所性に投与することができる。本組成物は、例えば、経口、静脈内、筋肉内、直腸、皮膚、皮下、局所、経皮、舌下、鼻腔、吸入、または膣送達のために投与することができる。したがって本組成物は、例えば錠剤、カプセル剤、丸剤、粉末剤、顆粒剤、懸濁剤、乳剤、溶液剤、ヒドロゲルを含むゲル、ペースト剤、軟膏、クリーム剤、硬膏、水薬、浸透圧送達デバイス、坐剤、浣腸剤、注射剤、植込剤、噴霧剤、またはエアロゾルなどの形態をとり得る。本組成物は、従来の製薬実務に従って製剤化され得る(例えばRemington:The Science and Practice of Pharmacy,22nd edition,2013,ed.L.V.Allen,Pharmaceutical Press,PhiladelphiaおよびEncyclopedia of Pharmaceutical Technology,4th Edition,ed.J.Swarbrick,2013,CRC Press,New Yorkを参照されたい)。
【0068】
化合物は、当技術分野において知られる様々な方法で製剤化され得る。例えば、1つまたは複数の本発明化合物と、本明細書において定義される生物学的に活性な何らかの追加作用物質が存在するのであれば、その追加作用物質とは、一緒に製剤化されても、別々に製剤化されてもよい。
【0069】
本発明の各化合物は、単独で、または本明細書記載の1つもしくは複数の活性作用物質と組み合わせて、米国特許出願公開第2003/0152637号および同第2005/0025765号に記載されているように、制御放出(例えば持続または計量)投与用に製剤化することができ、前記文献は参照により本明細書に組み込まれる。例えば、本発明の化合物は、単独で、または本明細書記載の生物学的に活性な作用物質のうちの1つもしくは複数と組み合わせて、患者に投与されるカプセル剤または錠剤に組み込むことができる。
【0070】
当技術分野において知られる制御放出製剤には、外科的に挿入するための、または植込み、挿入、注入もしくは注射用の持続放出性微粒子、例えばマイクロスフェアまたはマイクロカプセルとしての、特別なコーティングが施されたペレット、ポリマー製剤またはポリマーマトリックスが含まれ、ここでは、活性医薬の徐放が、マトリックスからの持続的な拡散もしくは制御された拡散および/または調製物のコーティングの選択的分解もしくはポリマーマトリックスの選択的分解によって、もたらされる。患者の好ましい限局的部位に作用物質を制御送達、持続的送達または即時送達するための他の製剤または媒体としては、例えば懸濁液、乳液、ゲル、リポソーム、および皮下または筋肉内投与に許容される、他の任意の適切な当技術分野で知られる他の任意の適切な送達媒体または製剤が挙げられる。
【0071】
適切な生体適合性ポリマーを制御放出材料として利用することができる。ポリマー材料は、生体適合性生分解性ポリマーを含んでよく、一定の好ましい実施形態では、好ましくは乳酸とグリコール酸とのコポリマーである。本発明の製剤に役立つ好ましい制御放出材料としては、ポリ無水物、ポリエステル、乳酸とグリコール酸とのコポリマー(この場合、乳酸とグリコール酸との重量比は好ましくは4:1以下、すなわち重量で80%以下の乳酸対20%以上のグリコール酸である)、および触媒または分解促進化合物を含有する、例えば少なくとも1重量%の無水物触媒、例えば無水マレイン酸を含有する、ポリオルトエステルが挙げられる。ポリエステルの例には、ポリ乳酸、ポリグリコール酸およびポリ乳酸-ポリグリコール酸コポリマーがある。他の有用なポリマーとしては、タンパク質ポリマー、例えばコラーゲン、ゼラチン、フィブリンおよびフィブリノゲンや、多糖、例えばヒアルロン酸が挙げられる。
【0072】
さらなる実施形態において、事実上、本発明化合物のための担体として作用する制御放出材料は、生体接着性ポリマー、例えばペクチン(ポリガラクツロン酸)、ムコ多糖(ヒアルロン酸、ムチン)または非毒性レクチンなどを、さらに含むことができ、あるいはポリマー自体が生体接着剤、例えばポリ無水物または多糖、例えばキトサンであってもよい。生分解性ポリマーがゲルを含む実施形態では、そのような有用なポリマーの一つは、熱ゲル化ポリマー、例えばポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド(PEO-PPO)ブロックコポリマー、例えばBASFワイアンドット社(BASF Wyandotte)のプルロニック(登録商標)(PLURONIC(登録商標))F127である。
【0073】
経口使用のための製剤としては、非毒性の薬学的に許容される賦形剤との混合物として1つまたは複数の活性成分を含有する錠剤が挙げられる。これらの賦形剤は、例えば不活性な希釈剤または充填剤(例えばスクロース、ソルビトール、砂糖、マンニトール、微結晶セルロース、デンプン、例えばバレイショデンプン、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、またはリン酸ナトリウム)、造粒および崩壊剤(例えばセルロース誘導体、例えば微結晶セルロース、デンプン、例えばバレイショデンプン、クロスカルメロースナトリウム、アルギナート、またはアルギン酸)、結合剤(例えばスクロース、グルコース、ソルビトール、アラビアガム、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、デンプン、アルファ化デンプン、微結晶セルロース、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、またはポリエチレングリコール)、および潤滑剤、流動促進剤、および付着防止剤(例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸、シリカ、硬化植物油、またはタルク)であり得る。薬学的に許容される賦形剤としては、他にも、着色剤、着香剤、可塑剤、保水剤、緩衝剤、矯味剤(例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース)などを挙げることができる。
【0074】
1つまたは複数の本発明化合物は、錠剤、カプセル剤または他の媒体中で一つに混合してもよいし、分配してもよい。一例では、生物学的に活性な作用物質のかなりの部分が本発明化合物の放出に先立って放出されるように、本発明の化合物は錠剤の内側に含有され、生物学的に活性な作用物質は錠剤の外側にある。
【0075】
経口使用のための製剤は、チュアブル錠として、または1つもしくは複数の活性成分が不活性な固形希釈剤(例えばバレイショデンプン、ラクトース、微結晶セルロース、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムまたはカオリン)と混合されている硬ゼラチンカプセル剤として、または活性成分が水または油媒体、例えばラッカセイ油、流動パラフィン、またはオリーブ油などと混合されている軟ゼラチンカプセル剤としても提供され得る。粉末剤、顆粒剤およびペレット剤は、錠剤およびカプセル剤の項で上に言及した成分を使用し、例えば混合機、流動床装置または噴霧乾燥設備を用いる従来の方法で、調製され得る。口への製剤は、洗口剤、口腔用スプレー、含嗽溶液、または口腔用軟膏剤、または口腔用ゲル剤としても提供され得る。
【0076】
溶解または拡散制御放出は、化合物の錠剤、カプセル剤、ペレット剤または顆粒製剤の適当なコーティングによって、または適当なマトリックス中に化合物を組み込むことによって、達成することができる。制御放出コーティングは、上で言及したコーティング物質および/または例えばシェラック、ミツロウ、グリコワックス(glycowax)、キャストール・ワックス(castor wax)、カルナウバワックス、ステアリルアルコール、モノステアリン酸グリセリン、ジステアリン酸グリセリル、グリセロールパルミトステリン酸エステル、エチルセルロース、アクリル系樹脂、dl-ポリ乳酸、酢酸酪酸セルロース、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ビニルピロリドン、ポリエチレン、ポリメタクリラート、メチルメタクリラート、2-ヒドロキシメタクリラート、メタクリラートヒドロゲルル、1,3-ブチレングリコール、エチレングリコールメタクリラート、および/またはポリエチレングリコールのうちの1つまたは複数を含み得る。制御放出マトリックス製剤では、マトリックス材料は、例えば水和メチルセルロース、カルナウバワックスおよびステアリルアルコール、カーボポール(carbopol)934、シリコーン、トリステアリン酸グリセリル、アクリル酸メチル-メタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、および/またはハロゲン化フルオロカーボンも含み得る。
【0077】
経口投与のために本発明の化合物および組成物を組み込むことができる液状の形態には、水溶液、適切に風味付けされたシロップ、水性または油性懸濁液、および綿実油、ゴマ油、ヤシ油、またはラッカセイ油などの食用油を使った風味付き乳液、ならびにエリキシル剤および同様の医薬用媒体が含まれる。
【0078】
非経口投与(例えば注射によるもの)に適した製剤としては、化合物が溶解され、懸濁され、または他の形で(例えばリポソームまたは他の微粒子に入れて)提供される、水性または非水性の等張性パイロジェンフリー滅菌液体(例えば溶液、懸濁液)が挙げられる。そのような液体は、他の薬学的に許容される成分、例えば酸化防止剤、緩衝剤、保存剤、安定化剤、静細菌剤、懸濁化剤、増稠剤、および製剤を意図したレシピエントの血液(または他の関連する体液)と等張にする溶質を、さらに含有し得る。賦形剤の例としては、例えば水、アルコール、ポリオール、グリセロール、植物油などが挙げられる。そのような製剤において使用するための適切な等張性担体の例としては、塩化ナトリウム注射液、リンゲル液または乳酸加リンゲル注射液が挙げられる。典型的には、液体中の化合物の濃度は、約1ng/ml~約10μg/ml、例えば約10ng/ml~約1μg/mlである。製剤は、単位用量型または多用量型の密閉容器、例えばアンプルおよびバイアルに入れて提示され得ると共に、使用直前に滅菌液状担体、例えば注射用水を添加するだけでよいフリーズドライ(凍結乾燥)状態で貯蔵され得る。即時注射溶液および即時注射懸濁液は、滅菌状態の粉末、顆粒および錠剤から調製され得る。
【0079】
本発明の組成物は経鼻投与に適した液状媒体を含むことができる。媒体は好ましくは水溶液である。より好ましくは、媒体は、増粘剤と、任意選択的に1つまたは複数の追加賦形剤、例えば製剤の安定性および/または投与時の快適性を改良するものとを含む、水溶液である。
【0080】
当技術分野では様々な増粘剤が知られている。増粘剤には、親水性ポリマー、例えば多糖、多糖誘導体、タンパク質および合成ポリマーが含まれる。例として、アラビアガム、トラガカントゴム、アルギン酸、カラギーナン、ローカストビーンガム、グアーガム、ゼラチン、ヒアルロン酸、ポリアクリラート、ポリアクリラート/アルキルアクリラートコポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプン、アルギン酸ポリプロピレングリコール、マルトデキストリン、ならびにセルロースエーテル誘導体、例えばメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、およびカルボキシメチルセルロースが挙げられるが、これらに限定されない。可能である場合は、上記物質のいずれかの塩型が好ましい。好ましい増粘剤としては、ヒアルロン酸、例えばヒアルロン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウムおよびカルボキシメチルセルロースカルシウム、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ならびにヒドロキシプロピルセルロースが挙げられる。
【0081】
本組成物は、任意選択的に、1つまたは複数の追加賦形剤、例えば投与の容易さ、対象の快適さ、または組成物の安定性を高めるものを含む。適切な追加賦形剤としては、張性調節剤、例えば塩化ナトリウムおよびデキストロース、酸化防止剤、例えばブチル化ヒドロキシアニソール、緩衝剤、例えば重炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムおよびリン酸ナトリウム、保存剤、例えば塩化ベンザルコニウム、エタノール、プロピレングリコール、ベンゾイルアルコール、フェネチルアルコール、クロロブタノールまたはメチルパラベン、pH調整剤、例えば塩酸、硫酸、水酸化ナトリウム、界面活性剤、例えばポリソルベート80、ポリソルベート20およびポリオキシル400ステアラート(polyoxyl 400 stearate)、キレート剤、例えばEDTA二ナトリウム、酸化防止剤、共溶媒、例えばエタノール、PEG400およびプロピレングリコール、浸透促進剤、例えばオレイン酸、および保水剤、例えばグリセリンが挙げられるが、これらに限定されない(S.Thorat,Sch.J.App.Med.Sci.2016,4(8D):2976-2985、D.Marx et al.,IntechOpen,DOI:10.5772/59468を参照されたい。これは、intechopen.com/books/drug-discovery-and-development-from-molecules-to-medicine/intranasal-drug-administration-an-attractive-delivery-route-for-some-drugsから入手可能である)。
【0082】
一実施形態において、媒体は、ヒアルロン酸ナトリウム、アロエベラ、アラントイン、塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、プロピレングリコール、塩化ベンザルコニウムおよびUSPグレードの精製水からなる。適切な媒体は、ニールメッド(NEILMED(商標))により、ナソジェル(NASOGEL(商標))という商標で販売されている。
【0083】
組成物中の活性作用物質の量は、例えば約0.5重量%から約25重量%まで、変動することができる。
【0084】
製剤のpHは鼻腔内で許容され、好ましくは少なくとも約8.0である。本組成物において使用することができる緩衝剤としては、リン酸塩、トリス、[トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ]プロパンスルホン酸、2-(ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ)酢酸、およびN-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン、およびアルカリ性バッファー(Alkaline Buffer)(シーケム(Seachem))が挙げられるが、これらに限定されない。
【0085】
プロピレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール、およびそれらの組合せからなる群より選択される水溶性溶媒を含む経鼻投与または肺投与に適した医薬組成物。本組成物は、多糖ガム、非イオン性界面活性剤、および保存剤のうちの1つまたは複数を、さらに含むことができる。例示的多糖ガムは菌核ガムである。例示的界面活性剤は、限定するわけではないがポロキサマー188などの、ポロキサマーである。保存剤は例えば塩化ベンザルコニウムであることができる。
【0086】
組成物は乾燥粉末であって、噴射剤に懸濁されて、乾燥粉末吸入器によって送達するか、または水性懸濁液もしくは水性溶液として、ネブライザーによって送達することができる。
【0087】
例えば活性作用物質と肺用賦形剤、例えばラクトースとの溶液または懸濁液を噴霧乾燥することで、肺または上部呼吸器系に送達するのに十分な微粒子画分を有する粒子を形成させることができる。あるいは、水性の溶液または懸濁液を超音波処理し、それによって、その溶液/懸濁液を、例えばネブライザーなどによって吸入することができる小滴サイズにエアロゾル化することができる。
【0088】
賦形剤には、炭水化物、例えば単糖、二糖および多糖が含まれる。例えば、デキストロース(無水物および一水和物)、ガラクトース、マンニトール、D-マンノース、ソルビトール、ソルボースなどの単糖、ラクトース、マルトース、スクロース、トレハロースなどの二糖、ラフィノースなどの三糖、デンプン(ヒドロキシエチルデンプン)、シクロデキストリンおよびマルトデキストリンなどの他の炭水化物。本発明での使用に適した他の賦形剤は、アミノ酸を含めて、WO95/31479、WO96/32096およびWO96/32149に開示されているものなど、当技術分野では知られている。さらに、炭水化物とアミノ酸との混合物も、本発明の範囲内である。無機(例えば塩化ナトリウムなど)、有機の酸およびそれらの塩(例えばカルボン酸とそれらの塩、例えばクエン酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、グルコン酸マグネシウム、グルコン酸ナトリウム、塩酸トロメタミンなど)と緩衝剤との両方を含めることも想定される。
【0089】
組成物は、乾燥粉末の形態でも、非水相を含む安定化分散系の形態でも使用され得る。したがって本発明の分散系または粉末は、効果的な薬物送達に備えるために、定量吸入器(MDI)、乾燥粉末吸入器(DPI)、噴霧器、ネブライザーまたは液体用量滴下注入(liquid dose instillation)(LDI)技法と一緒に使用され得る。吸入治療に関して、本発明の中空および多孔性微粒子がDPIにおいて特に有用であることは、当業者には理解されるだろう。従来のDPIは、粉末製剤と、予め決められた用量の医薬が、単独で、またはラクトース担体粒子と配合されて、乾燥粉末のエアロゾルとして、吸入のために送達されるデバイスとを含む。
【0090】
医薬は、ばらばらの粒子へと容易に分散して、粉末の空気力学的質量中央径が特徴的に約0.5~10、好ましくは約0.5~5.0ミクロンMMADの範囲になるような形で製剤化される。
【0091】
上で論じたように、本明細書に開示される安定化分散系は,エアロゾル化により、例えば定量吸入器を使って、患者の鼻腔または肺の気道に投与することもできる。MDIは当技術分野において周知であり、本願に係る分散系の投与に、過度の実験を行うことなく、容易に使用できるだろう。呼吸作動式MDIも、既に開発されたまたは今後開発される他のタイプの改良を含むものと共に、安定化分散系および本発明に適合するので、その範囲内にあると想定される。ただし、好ましい実施形態では、安定化分散系がMDIにより、例えば限定するわけではないが局所、経鼻、肺または経口などといったいくつかの異なる経路を使って、投与され得ることは、強調しておきたい。そのような経路が周知であること、そして本発明の安定化分散系のために投薬および投与手順を容易に見いだし得ることは、当業者には理解されるだろう。
【0092】
上述の実施形態と共に、本発明の安定化分散系は、それを必要とする患者の肺気道に投与し得るエアロゾル化医薬を提供するために、PCT WO99/16420に開示されているネブライザーと一緒に使用してもよく、前記国際公開の開示は、参照により、その全体が本明細書に組み込まれる。ネブライザーは当技術分野において周知であり、本願に係る分散系の投与に、過度の実験を行うことなく、容易に使用できるだろう。呼吸作動式ネブライザーも、既に開発されたまたは今後開発される他のタイプの改良を含むものと共に、安定化分散系および本発明に適合し、その範囲内にあると想定される。
【0093】
DPI、MDIおよびネブライザーと共に、本発明の安定化分散系が、例えば参照によりその全体が本明細書に組み込まれるWO99/16421に開示されている液体用量滴下注入技法、すなわちLDI技法と一緒に使用され得ることは、理解されるだろう。液体用量滴下注入では安定化分散系が肺に直接投与される。この点において、生物活性化合物の直接的肺投与は、とりわけ肺の疾患部分の血管循環不良が静脈内薬物送達の有効性を低減する障害の処置においては、特に有効である。LDIに関して、安定化分散系は、好ましくは、部分液体換気または全液体換気と併せて使用される。さらにまた、本発明は、治療上有益な量の生理学的に許容されるガス(一酸化窒素または酸素など)を、投与前、投与中または投与後に、薬学的マイクロ分散系に導入することを、さらに含み得る。
【0094】
使用方法
本発明には、感染症の処置または防止を必要とする対象において感染症を処置または防止するために本発明の組成物を使用する方法も含まれる。本方法は有効量の組成物を対象に投与する工程を含む。感染症は、消化管または上気道もしくは下気道の感染症、例えば普通感冒、インフルエンザ、呼吸器合胞体ウイルス感染症、重症急性呼吸器症候群、中東呼吸器症候群、COVID-19、または他の新興人畜共通感染症ウイルス、例えば人畜共通コロナウイルスによって引き起こされる疾患であることができる。特定の態様において、本発明の方法は、SARS-CoV-2(COVID-19)呼吸器感染症などのウイルス呼吸器感染症を処置する。
【0095】
一実施形態において、本発明は、SAR-Cov-2変異株が引き起こす呼吸器感染症の処置を必要とする対象における同感染症を処置するための方法を提供する。複数の実施形態において、本方法は、有効量の式:(ペプチド-リンカー)-B-疎水性部分[式中、各ペプチドは独立してHRCペプチドまたは標的化ペプチドであり、ただし、少なくとも1つのペプチドはHRCペプチドであるものとし、各リンカーは独立して二価の連結部分であり、Bは、システイン、X、および任意選択的にY、および/または任意選択的にZを含む多価部分であり、ここで、X、YおよびZは本明細書において定義され、nは1、2、3またはそれ以上から選択される整数である]を有する化合物を対象に投与することを含み、ここで、前記変異株は少なくとも5つの変異を含み、前記少なくとも5つの変異は、独立して、スパイクタンパク質S1サブユニットもしくはS2サブユニットまたはそれらの組合せ中にある。
【0096】
複数の実施形態において、化合物は、標的化ペプチドと1つ以上のHRCペプチドとを含む。複数の実施形態において、標的化ペプチドはACE2標的化ペプチドまたは受容体結合ドメインペプチドである。複数の実施形態において、疎水性部分はコレステロールである。
【0097】
複数の実施形態において、前記少なくとも5つの変異は、独立して、N末端ドメイン(NTD)、受容体結合ドメイン(RBD)、融合ペプチド(FP)ドメイン、7アミノ酸リピート1(HR1)ドメイン、またはそれらの組合せの中にある。複数の実施形態において、前記少なくとも5つの変異は、図3に列挙した変異から独立して選択される。
【0098】
複数の実施形態において、前記少なくとも5つの変異は、SAR-Cov-2アルファ変異株由来の少なくとも5つの変異、SAR-Cov-2ベータ変異株由来の少なくとも5つの変異、SAR-Cov-2デルタ変異株由来の少なくとも5つの変異、またはSAR-Cov-2オミクロン変異株由来の少なくとも5つの変異から独立して選択される。複数の実施形態において、前記少なくとも5つの変異は、SAR-Cov-2アルファ変異株由来の少なくとも5つの変異から独立して選択される。複数の実施形態において、前記少なくとも5つの変異は、SAR-Cov-2ベータ変異株由来の少なくとも5つの変異から独立して選択される。複数の実施形態において、前記少なくとも5つの変異は、SAR-Cov-2デルタ変異株由来の少なくとも5つの変異から独立して選択される。複数の実施形態において、前記少なくとも5つの変異は、SAR-Cov-2オミクロン変異株由来の少なくとも5つの変異から独立して選択される。
【0099】
複数の実施形態において、変異株は少なくとも10個の変異を含む。複数の実施形態において、変異株は少なくとも15個の変異を含む。複数の実施形態において、変異株は少なくとも20個の変異を含む。
【0100】
複数の実施形態において、SARS-CoV-2変異株は、B.1.1.7(アルファ)、B.1.351(ベータ)、P.1(ガンマ)、B.1.617.2(デルタ)、B.1.429/B.1.427(イプシロン)、B.1.617.1(カッパ)、B.1.525(イータ)、B.1.526(イオタ)、P.3(シータ)、P.2(ゼータ)、およびB.1.1.529(オミクロン)から選択される少なくとも1つの変異株を含む。
【0101】
複数の実施形態において、SARS-CoV-2変異株は、A.1~A.6、B.3~B.7、B.9、B.10、B.13~B.16、B.2、B.1系統、P.1、P.2、P.3、およびR.1から選択される少なくとも1つの変異株を含む。
【0102】
複数の実施形態において、B.1系統は、限定するわけではないが、例えばB.1、B.1.1、B.1.1.7、E484Kを持つB.1.1.7、B.1.2、B.1.5~B.1.72、B.1.9、B.1.13、B.1.22、B.1.26、B.1.37、B.1.3~B.1.66、B.1.177、B.1.243、B.1.313、B.1.351、B.1.427、B.1.429、B.1.525、B.1.526、B.1.526.1、B.1.526.2、B.1.617、B.1.617.1、B.1.617.2、B.1.617.3、B.1.619、B.1.620、およびB.1.621のうちの少なくとも1つを含む。
【0103】
複数の実施形態において、投与は、鼻腔内スプレー、吸入器またはネブライザーを使って達成される。
【0104】
複数の実施形態において、化合物は、少なくとも1つの他の抗ウイルス活性剤または抗ウイルス治療と組み合わせて投与される。
【0105】
対象、好ましくはヒトは、感染症と診断された個体であることができ、症候性、前症候性、もしくは無症候性のいずれかであるか、または感染症を発症するリスクがある。例えば、対象は、ウイルス(SARS-CoV-2またはその変異体)への直接的または間接的な曝露またはばく露の可能性ゆえに、例えば感染個体またはウイルス汚染媒介物へのばく露によって、ウイルス呼吸器感染症を発症するリスクがあり得る。対象は、ウイルス呼吸器感染症が特定された地域の住人または訪問者であることができ、例えば対象は感染者の家族であることができ、または対象は感染者の医療にあたる医療の場で働く人であることができる。一定の実施形態において、感染のリスクがある対象は無症候性であり、治療の開始前にウイルスの存在について陰性と判定されている。具体的実施形態において、対象には、例えば感染者の呼吸器飛沫またはエアロゾルからの、および/または汚染媒介物との接触による、SARS-CoV-2ウイルスへのばく露ゆえに、COVID-19を発症するリスクがあり得る。さらなる態様において、対象は、軽度、中等度または重度のCOVID-19を患っている対象を含めて、COVID-19を患っている。
【0106】
本発明方法の一定の実施形態において、対象は、感染症によって悪化し得る慢性閉塞性肺疾患(COPD)または潰瘍性大腸炎などの別の疾患または状態を患っている。
【0107】
組成物は、好ましくは、対象が症候性になる前(例えば前症候性)に、または症状の発生時に、対象に投与される。組成物は、様々な投薬スケジュールで投与することができる。例えば組成物は、1回または複数回、1日または数日にわたって投与することができる。一定の実施形態において、組成物は、1~10日にわたって、1日あたり1回または複数回投与される。一定の実施形態において、組成物は、対象が無症候性になるまで、および/またはウイルス検査が陰性になるまで、1日あたりに1回または複数回、投与される。
【0108】
組成物は、日常的な方法およびデバイスを使って、鼻道に投与することができる(D.Marx et al.,IntechOpen,DOI:10.5772/59468参照。これはhttps://www.intechopen.com/books/drug-discovery-and-development-from-molecules-to-medicine/intranasal-drug-administration-an-attractive-delivery-route-for-some-drugsから入手可能である)。例えば組成物は、均一な計量された用量を提供することができるエアロゾルボトルまたは多用量型スプレーポンプなどを使って、液滴としてまたはエアロゾルスプレーとして、鼻道に投与することができる。投薬1回あたりの体積は様々であるが、典型的には約50~約150μlである。望ましい体積は、活性作用物質の望ましい用量と、組成物における活性作用物質の濃度とに依存するだろう。
【0109】
肺系または肺への送達が望まれる場合、活性作用物質の低濃度溶液を長時間にわたって、例えば一晩、エアロゾル化することが有効であり得る。
【0110】
併用治療
本明細書記載の化合物または組成物は、他の活性作用物質および治療と同時投与することができる。
【0111】
複数の実施形態において、前記他の活性作用物質には、SARS-CoV-2に対する抗体が含まれるが、それに限定されない。適切な抗体は、例えばUS2022/0017604、US2022/0017614、US2021/0403550、US2021/0395345、US2021/0403537、US2021/0388066、US2021/0388065、US2021/0347859またはUS2021/0309733に記載されており、これらの文献は参照により本明細書に組み込まれる。複数の実施形態において、抗体は、モノクローナル抗体、例えばカシリビマブ、イムデビマブ、バムラニビマブまたはエテセビマブである。複数の実施形態において、抗体はモノクローナル抗体治療、例えばカシリビマブ+イムデビマブ、バムラニビマブ、またはバムラニビマブ+エテセビマブである。
【0112】
本発明の活性作用物質および組成物は、ウイルス感染症を持つ患者に提供される一般的医療、例えば非経口的流体(デキストロース生理食塩水および乳酸リンゲル液)および栄養、抗生物質(メトロニダゾールおよびセファロスポリン系抗生物質、例えばセフトリアキソンおよびセフロキシムを含む)ならびに/または抗ウイルス予防、解熱薬(例えばアセトアミノフェン)および鎮痛薬、制吐剤(メトクロプラミドなど)および/または止瀉薬、ビタミンおよびミネラルサプリメント(例えばビタミンKおよび硫酸亜鉛)、抗炎症剤(イブプロフェンなど)、鎮痛薬、ならびに患者集団における他の一般的疾患のための薬物治療、例えばアルテメテル、アルテスナート-ルメファントリン併用治療、キノロン系抗生物質、例えばシプロフロキサシン、マクロライド系抗生物質、例えばアジスロマイシン、セファロスポリン系抗生物質、例えばセフトリアキソン、もしくはアミノペニシリン、例えばアンピシリン、または細菌性赤痢のための薬物治療と共に使用することも意図されている。
【0113】
併用治療は同時レジメンまたは逐次的レジメンとして投与され得る。逐次的に投与される場合、その組合せは2回以上の投与で投与され得る。
【0114】
本発明の化合物と1つまたは複数の他の活性治療剤との共投与とは、一般に、治療有効量の本発明化合物と1つまたは複数の他の活性治療剤とがどちらも患者の体内に存在することになるような形での、本発明の化合物と1つまたは複数の他の活性治療剤との同時投与または逐次投与を指す。
【0115】
共投与には、単位投薬量の1つまたは複数の他の活性治療剤を投与する前または投与した後の、単位投薬量の本発明化合物の投与、例えば1つまたは複数の他の活性治療剤の投与から数秒、数分または数時間以内の、本発明化合物の投与、および/または同じ処置レジメンの一部としての、単位投薬量の本発明化合物の投与が含まれる。例えば、単位用量の本発明化合物をまず投与し、続いて、数秒または数分または数日以内に、単位用量の1つまたは複数の他の活性治療剤の投与を行うことができる。あるいは、単位用量の1つまたは複数の他の治療剤をまず投与し、続いて、数秒または数分または数日以内に、単位用量の本発明化合物の投与を行うこともできる。いくつかの例では、単位用量の本発明化合物をまず投与し、次に、数時間(例えば1~12時間)後に、単位用量の1つまたは複数の他の活性治療剤を投与することが望ましいだろう。別の例では、単位用量の1つまたは複数の他の活性治療剤をまず投与し、次に、数時間(例えば1~12時間)後に、単位用量の本発明化合物を投与することが望ましいだろう。
【0116】
併用治療は「相乗作用」または「相乗効果」を与え得る。すなわち、活性成分を一緒に使用した場合に達成される効果は、それらの化合物を別々に使用した場合に得られる効果の和よりも大きい。
【0117】
本明細書において使用される場合、「a」および「an」という単語は、別段の指定がある場合を除き、1つまたは複数を包含するものとする。例えば「作用物質」(an agent)という用語は、単一の作用物質および2つ以上の作用物質の組合せを包含する。
【0118】
本明細書において使用される「処置する」または「処置」という用語は、関心対象の疾患または状態(例えば呼吸器感染症)を有する哺乳動物、好ましくはヒトにおける前記関心対象の疾患または状態の処置に適用され、例えば、前記疾患または状態の発生が哺乳動物において起こるのを防止しまたは遅延させること、特にそのような哺乳動物が、前記疾患を発症するリスクを有するものの、まだ症候性にはなっていない場合および/またはまだその疾患を有するとは診断されていない場合;前記疾患または状態を阻害すること、すなわちその発症を停止させること;前記疾患または状態を軽減すること、すなわち前記疾患または状態の後退を引き起こすこと;および/または前記疾患または状態を安定化することが含まれる。処置には、疾患もしくは状態の症状の改善もしくは重症度の緩和、および/またはそれらの症状のさらなる進行もしくは悪化の阻害が含まれる。また、処置には、疾患または状態の時間経過および/または重症度を、その疾患の予想されるまたは過去の時間経過および/または重症度と比較して、短縮することも含まれる。
【0119】
本明細書において使用される場合、「防止する」という用語は、疾患または状態の臨床症状を発症させないことを意味し、ウイルス感染症にさらされる可能性またはウイルス感染症を起こしやすい可能性はあるが、その感染症の症状をまだ経験も呈示もしていない対象におけるウイルス感染症の発生を阻害することを含む。
【0120】
本明細書記載の化合物または組成物の「有効量」または「治療有効量」とは、特定の効果または結果を達成するのに十分な化合物の量、ならびに/または疾患もしくは状態および/もしくは症状を防止しもしくは処置し、その結果、例えばその障害もしくは状態に関連する症状を全体的もしくは部分的に緩和し、またはそれらの症状のさらなる進行もしくは悪化を止めもしくは遅くし、またはその障害もしくは状態を防止しもしくは予防を提供する化合物の量を指す。「有効量」および「治療有効量」には、具体的には、(単独での、または他の活性作用物質と組み合わされた)本発明化合物または本明細書記載の組成物の抗ウイルス量が含まれる。
【0121】
本発明は、その好ましい実施形態を参照して具体的に示され説明されてきたが、添付の特許請求の範囲によって包含される本発明の範囲から逸脱することなく、形態および詳細における様々な変更がなされ得ることは、当業者には理解されるだろう。
【0122】
本明細書において言及される特許および科学文献は、当業者に利用可能な知識を明らかにする。本明細書において引用される米国特許および公開または未公開の米国特許出願はすべて、参照により、本明細書に組み込まれる。本明細書において引用される公開された外国特許および外国特許出願はすべて、参照により、本明細書に組み込まれる。本明細書において引用される他の公開された参考文献、文書、原稿および科学文献はすべて、参照により、本明細書に組み込まれる。本明細書において引用されるすべての特許、公開された出願および参考文献の関連する教示は、参照により、その全体が本明細書に組み込まれる。
【0123】
例1
最適化されたSARS-CoV-2シュードタイプ化ウイルス中和アッセイ(PNA)を使って、化合物を試験した。このシュードタイプ化ウイルス中和アッセイは、中和抗体の力価またはSARS-CoV-2に対する分子の最大半量阻害濃度(IC50)を定量するために使用される(図2)。シュードタイプ化ウイルス粒子は、糖タンパク質Gが除去された遺伝子改変水疱性口内炎ウイルス(VSVΔG)を使って作製される。様々なSARS-CoV-2コロナウイルス株(WT(武漢)、アルファ(B.1.1.7、英国)、ベータ(B.1.351、南アフリカ)またはガンマ(P.1、ブラジル)株)のスパイク糖タンパク質であって、その細胞質テールの最後の19アミノ酸が除去されているもの(ΔCT)が前もってトランスフェクトされているHEK293T細胞に、VSVΔGウイルスが形質導入される。生成するシュード粒子(VSVΔG-スパイクΔCT)は、相対ルミネセンス単位(RLU)で定量することができるルシフェラーゼレポーターを含有する。
【0124】
293T/ACE2標的細胞における一ラウンド感染アッセイを使って、SARS-CoV-2シュードウイルスに対する中和活性を測定した。コドン最適化SARS-CoV-2完全長スパイク(614番目にGを含有するもの)をコードするプラスミド、パッケージングプラスミドpCMVΔR8.2、およびルシフェラーゼレポータープラスミドpHR’CMV-Lucの共トランスフェクションにより、293T/17細胞(ATCC)中で、シュードタイプ化ウイルス粒子を産生させた。野生型およびB.1.1.529(オミクロン)変異株のスパイクプラスミド、パッケージングプラスミドおよびルシフェラーゼプラスミドは、バーニー・グラハム(Barney Graham)博士(NIH、ワクチン研究センター)の厚意により提供された。B.1.351(ベータ)変異株およびB.1.617.2(デルタ)変異株のスパイクプラスミドは、ビン・チェン(Bing Chen)博士(チルドレンズ・ホスピタル(Children’s Hospital)、マサチューセッツ州ボストン)によって提供された。ヒトACE2細胞表面受容体タンパク質を安定に過剰発現する293T細胞株は、マイケル・ファーザン(Michael Farzan)博士およびフィフィ・マ(Huihui Ma)博士(スクリプス研究所(Scripps Research Institute))の厚意により提供された。中和アッセイのために、ペプチドの段階希釈を2連で行い、次にシュードウイルスを添加した。回復期COVID-19患者由来のプール血清試料またはPBS/10%DMSO希釈緩衝液を、それぞれ陽性対照および陰性対照として使用した。プレートを37℃で1時間インキュベートしてから、293/ACE2標的細胞(1×10/ウェル)を加えた。細胞+シュードウイルス(試料なし)を含有するウェル、または細胞だけを含有するウェルを、それぞれ陽性感染対照および陰性感染対照とした。プロメガ・ブライトグロー(Promega BrightGlo)ルシフェラーゼ試薬を使って3日目にアッセイを回収し、プロメガ・グローマックス(Promega GloMax)ルミノメーターを使ってルミネセンスを検出した。力価は、50%または80%のウイルス感染を阻害したペプチドの濃度(それぞれIC50力価およびIC80力価)として報告されている。中和実験はすべて2回繰り返し、類似する結果を得た。
【0125】
シュードタイプ化ウイルス中和アッセイを使って、4つのSARS-CoV-2株(WT、アルファ、ベータおよびガンマ)に対する本発明化合物の阻害能を評価した。化合物を5μMの出発濃度で試験し、96ウェルプレートで、3つの異なる段階希釈スキーム、すなわち10倍、5倍および3倍希釈に従って段階希釈した。化合物は最初にDMSOに再懸濁したので、アッセイに対する化合物の希釈剤効果に対処するために、DMSO溶液の3倍段階希釈(出発濃度0.052%DMSO)も、同じ株を使ったPNAで試験した。予め決定された量の各シュードタイプ化ウイルス(およそ1,200,000RLU/ウェルに相当)をプレートに適用し、希釈された化合物と共にインキュベートすることで、化合物をシュードタイプ化ウイルスに結合させた。アッセイの陽性対照も各プレートに含め、4つのスパイクシュードタイプ化ウイルス株すべてで試験した。この対照は、PNA試験において日常的に使用される、SARS-CoV-2スパイクタンパク質に対する中和抗体を含むヒト血清からなる。
【0126】
化合物/血清-シュードタイプ化ウイルス複合体のインキュベーション後に、Vero E6細胞の96ウェルプレートから培地を除去し、化合物-シュードタイプ化ウイルス複合体を細胞上に移した。試験プレートを37℃、5%COで終夜インキュベートした。インキュベーション後に、ルシフェラーゼ基質をVeroE6細胞に加え、ルミネセンスを検出するプレートリーダーを使ってプレートを読み取った。放出される光の強度は、化合物の中和能のレベルに反比例する。次に、試験した武漢株およびスパイク変異株のすべての希釈液について、標準的な4パラメータロジスティックモデルを使って、化合物IC50を計算した。10倍段階希釈液について計算された最大半量阻害濃度(IC50)および対応するR二乗値を表1に示す。WT、オミクロン、デルタ、およびベータに対するEK1陽性対照のIC50は、それぞれ0.622μM、0.241μM、0.244μM、および0.527μMだった(データ省略)。
【表1】

【表2-1】

【表2-2】
【0127】
例2-ハムスターにおけるSARS-CoV-2に対する抗ウイルス治療薬候補の効力
この試験の目的は、ハムスターモデルにおいてCOVID-19の原因病原体であるSARS-CoV-2に対する抗ウイルス治療薬候補としてのDCOY101のインビボ効力を試験することであった。被験物質(TA)、すなわちDCOY101、溶液および投薬を表3に規定する。バルク被験物質は、使用するまで、およそ-20±5℃で保存し、光から保護した。被験物の投薬用製剤は投薬の開始時に調製し、小分けし、-20±5℃で保存した。
【表3】
【0128】
実験計画(図7)に従い、表2に詳述するように、媒体または被験物質の投薬用製剤を、9日間(試験-2日目から6日目まで)にわたって、1日1回(Q.d.)、ハムスターに鼻腔内投与した。試験0日目には、以下の実験計画(図7)に従い、表2に詳述するように、SARS-CoV-2のB.1.617.2を、5×10TCID50/匹を目標として、ハムスターに鼻腔内投与し、4±2時間後に、TAで処置した。
【表4】
【0129】
実験エンドポイントは、瀕死/死亡の観察、体重および体重変化、臨床兆候の決定、肉眼的剖検、RT-qPCRによる口腔スワブでのウイルス排出、TCID50ウイルス力価による肺組織および鼻甲介におけるウイルス負荷、およびRT-qPCRによる肺におけるウイルスゲノムコピー数、および肺の組織病理分析からなった。
【0130】
いずれの死亡例もSARS-CoV-2疾患関連ではなかった。しかし、対照群の動物2匹が、投薬中に偶発的に死亡した。
【0131】
媒体に指定された対照群1の動物が平均-10.5%の体重減少を呈したのに対して、処置群はすべて、試験の間は、最大でも群3で-1.1%であり、群2では+3.4%の体重増加さえあった。図8。具体的には、-2日目には、どの群間にも差は認められなかった。-1日目に、10mg/kgという高用量の群2は、媒体対照群1と比較して、有意な(P≦0.0187、*)体重減少を呈する(図9)。0日目に、DCOYの用量が2番目に高い5mg/kgである群3は、媒体対照群1と比較して、有意な(P≦0.0315、*)体重減少を呈する(図9)。1日目は、高用量でのTAの投与に対して、どの群でも有意差は観察されなかった。2日目から4日目までの期間中は、低用量の群、G4-DCOY-2.5mg/kgとG5-DCOY-1mg/kgにおいて、わずかな差(*)が一貫して示された。試験5日目~7日目の間は、従来にない薬物応答濃度において、強い有意差が観察された。媒体対照群1(平均体重変化は-10.5%だった)と比較すると、高用量DCOY10mg/kgの群2(平均体重変化は+3.4%だった)と低用量群DCOY1mg/kg(平均体重変化は+0.9%だった)とが、最大の体重増加(***、**)を有する(図9)。
【0132】
1日目から7日目まで、RT-qPCRによって分析したウイルスゲノムコピー数として、口腔スワブへのウイルス排出を推定した。排出プロファイルの要約を図10に示す。1、4、5、6または7日目にはどの群にも統計学的差異がない。しかし2日目と3日目には有意な低減がある。対照群1と比較した場合、2日目に、群2は*** P≦0.001、群3は**** P≦0.0001、群4は*** P≦0.001および群5は**** P≦0.0001の低減を示した。3日目では、群3、群4および群5では低減は顕著でなかったが、群2は*** P≦0.001のままだった。(図11)。
【0133】
肺試料からのRT-qPCR力価は各群内で広く一貫した結果を示し、体重変化との逆相関に従う。左肺組織試料および口腔スワブから単離されたRNAを使ってワンステップRT-qPCRを行うことで、ウイルスコピー数を推定した。簡単に述べると、Quick-RNAウイルスキット(Zymo Research)を使って肺組織試料または口腔スワブ上清からRNAを抽出し、RNA/DNAシールド(RNA/DNA Shield)中で保存した。製造者のプロトコールに従い、BlazeTaq Probe One-Step RT-qPCRキット(GeneCopoeia、メリーランド州ロックビル)を使用し、単離されたRNAをテンプレートとして、RT-qPCR分析を行った。以下のRT-qPCRサイクル条件を使用した:50℃で15分(RT)、95℃で2分(変性)、次に、95℃で10秒に続いて62℃で45秒(伸長)を40サイクル。SARS-CoV-2の検出には以下のプライマーおよびプローブを使用した。
【表5】
【0134】
ウイルスコピー数を推定するために、試料を合成RNAによる標準曲線と比較した。7日目より2日目の方がウイルス量にばらつきがある。しかし図12に示すように、収集した肺組織では、媒体対照群1と比較して、2日目と7日目はどちらにおいても、群2、3、4および5に有意差を伴う減少がある(ns P>0.05、* P≦0.05、** P≦0.01、*** P≦0.001)。
【0135】
2日目および7日目に、TCID50アッセイによって、肺におけるウイルス量を推定した。2日目に、群2、3、4および5の動物は、群1(媒体対照)と比較した場合に、肺におけるウイルス量の蓄積に有意な低減を示したが(** P≦0.01)、明らかな用量応答は示さなかった。これらの結果はRT-qPCRによって読み出された情報と合致する(図13)。7日目には、群1、2、3、4または5のいずれにおいても、TCID50アッセイでは感染性ウイルスはもはや検出されなかったが、RT-qPCRでは残存ウイルスゲノムが少量ながら依然として検出されている。
【0136】
上気道の鼻甲介におけるウイルス量はTCID50によって評価した。この分析の結果は、2日目の力価が媒体対照群1では群2、3、4または5よりも高いことを示したが、この差は統計学的に有意ではなかった。7日目には、群1、2、3、4または5のいずれにおいても、TCID50アッセイでは、感染性ウイルスが検出されなかった(図14)。
【0137】
利用した用量とは無関係にDC101で処置された動物の肺におけるウイルス量の顕著な低減と合致する体重減少の低減があったことに基づいて、この試験に関するデータは、DCOY101が、試験した条件下でハムスターモデルにおいて、SARS-CoV-2関連表現型を低減し、疾患のピーク時に肺におけるウイルス力価を低減し、排出されるウイルス量を低減することを示唆している。
【0138】
例3-シリアンハムスターモデルにおけるSARS-CoV-2に対するDCOY101のばく露前予防(PrEP)効力とばく露後予防(PeP)効力
この試験の目的は、ハムスターモデルにおいて、感染前または感染後の様々な時点において処置を開始した場合の、COVID-19の原因病原体であるSARS-CoV-2に対する、DCOY101の効力を試験することであった。被験物質(TA)、すなわちDCOY101、溶液および投薬を表6に規定する。バルク被験物質はスポンサーによって供給され、使用するまで、およそ-20±5℃で保存され、光から保護された。被験物の投薬用製剤は投薬の開始時に調製し、小分けし、-20±5℃で保存した。
【表6】
【0139】
実験計画(図15)に従い、表5に詳述するように、媒体または被験物質の投薬用製剤を、9日間にわたって、1日1回(Q.d.)、ハムスターに鼻腔内投与した。試験0日目には、以下の実験計画(図15)に従い、表5に詳述するように、SARS-CoV-2のB.1.617.2を、5×10TCID50/匹を目標として、ハムスターに鼻腔内投与し、4±2時間後に、TAで処置した。
【表7】
【0140】
実験エンドポイントは、瀕死/死亡の観察、体重および体重変化、臨床兆候の決定、肉眼的剖検、RT-qPCRによる口腔スワブでのウイルス排出、TCID50ウイルス力価による肺組織におけるウイルス負荷、およびRT-qPCRによる肺におけるウイルスゲノムコピー数、および肺の組織病理分析からなった。
【0141】
いずれの死亡例もSARS-CoV-2疾患関連ではなかった。
【0142】
媒体に指定された対照群1の動物が平均-10.84%の体重減少を呈したのに対して、処置群はすべて、最大でも群6に見られた-1.39%のBWLだった。群2(+3.31%)、3(+2.09%)および4(+1.02%)はいずれも試験の間に体重が増加した(図16)。-2日目および-1日目は、どの群間でも差を示さなかった。1日目に、群2(P≦0.0272、*)3(P≦0.0038、**)、4(P≦0.0076、**)、および6(P≦0.0015、**)はいずれも、媒体対照群1と比較して有意な体重減少を呈した(図17)。2日目から4日目までは、5mg/kgのDCOY101をチャレンジの48時間前に開始して6日目まで鼻腔内予防的抗ウイルス薬として投与した群2には、有意差(P≦0.0029、**;P≦0.0003、***;P<0.0001 ****)が一貫して示された。試験5日目~7日目の間は、ばく露後群(群3~6)において、規範的な時間-応答曲線と合致する強い有意差が観察された。簡単に述べると、群2(前処置-48時間)の平均体重増加は+3.31%だったのに対し、群6(後処置+36時間)の平均体重変化は-1.39%だった。
【0143】
1日目から6日目まで、RT-qPCRによって分析したウイルスゲノムコピー数として、口腔スワブへのウイルス排出を推定した。7日目のデータは、信頼性の欠如ゆえに、分析から除外した。排出プロファイルの要約を図18に示す。対照群1については、とりわけ3日目に、多少の数値差はあるものの、1、2、3、4または6日目は、どの群にも統計学的差異は見いだされなかった。ただし、5日目は例外であり、この日は群4(ばく露前+36時間)が、対照群1と比較した場合に、有意な増加を示した(** P≦0.0030)。1日ごとのRT-qPCRによる口腔スワブに関する詳しい情報を図19に示す。
【0144】
簡単に述べると、肺試料からのRT-qPCR(上記表4のプライマーを使用)力価は、とりわけばく露前処置(PrEP)では、多少の数値差を示したが、ここでも、有意差は見られなかった。ただし、図20に示すように、7日目には、収集された肺組織に、媒体対照群1と比較して、群2(PrEP)、3(PEP+2)および5(PEP+24)において、有意差を伴う減少がある(P≦0.0028、**;P≦0.0017、**およびP≦0.0019、**)。
【0145】
2日目および7日目に、TCID50アッセイによって、肺におけるウイルス量を推定した。2日目には、多少の数値差があり、群2(PrEP)の動物の大部分(n=5/6)は検出限界未満の力価を示すが、1匹が他の値から異常な距離を有することで、群1(媒体対照)と比較した場合に、肺におけるウイルス量の蓄積に全体として有意でない低減をもたらした(図21)。群4、5および6では、同じ現象が観察されて、6匹中2匹は、抗ウイルス効力と合致する低い力価を呈したが、すべての動物が同じ一貫性に従うわけではない。これらの結果はRT-qPCRによって読み出された情報と合致する。7日目には、どの群においても、TCID50アッセイでは感染性ウイルスは検出されなかったが(図21)、RT-qPCRでは少量の残存RNAウイルスゲノムまたは断片が依然として検出されている(図20)。
【0146】
体重減少の顕著な低減に基づいて、この試験におけるデータは、ばく露前またはチャレンジ後36時間までのばく露後に、5mg/kgで、50μlのDCOY101を、6日間にわたって1日1回、ハムスターに鼻腔内投与することにより、媒体対照群G7と比較した場合の、2日目におけるTCID50による肺でのウイルス負荷の低減および7日目の肺におけるウイルスゲノムコピー数の低減によって示されるように、またそれほどではないが、3日目の口腔スワブ中のウイルスコピー数の低さによって示されるように、SARS-CoV-2のB.1.617.2変異株に対する部分的保護が付与されたことを示唆している。
【0147】
DCOY101は、SARS-CoV-2疾患の病理発生を低減するようであるが、試験した条件下では、ハムスターモデルにおいて、肺中のウイルス量に影響を及ぼすことも、ウイルス排出を低減することもないようである。
【0148】
例4-ベータココロナウイルス属(Betacoronavirus)に対する抗ウイルス化合物候補のインビトロでの効力
この試験の目的は、β-CoVであるSARS-CoV-1、MERS-CoV、WA1、SARS-CoV-2のデルタおよびオミクロン変異株に対する、抗ウイルス治療薬候補としてのDCOY101のインビトロ効力を試験することである。
【0149】
表7において被験物(TA)を識別する。
【表8】
【0150】
被験物を凍結乾燥粉末として用意し、表8のスキームに従って、DMSO中の10mg/ml(または967.49μM)保存濃度で希釈した。希釈後の被験物は1×培地(2%FBSを含む1×DEME)に入れる。
【表9】
【0151】
用量依存的抗ウイルス効果を0.005TCID50/細胞の標的MOIで試験した。表9に列挙するように、アフリカミドリザル腎臓(Vero E6)細胞、ヒト上皮細胞(Calu-3)、ヒト線維芽細胞(MRC-5)、マカカ・ムラッタ(Macaca mulatta)アカゲザル腎臓細胞(LLC-MK2)、または結腸直腸上皮腺癌ヒト細胞(Caco-2)において、ウイルスを成長させ、力価を測定した。細胞は、10%ウシ胎児血清と抗生物質とを含むダルベッコ最小必須培地中で維持した。効力アッセイでは、FBSを2%に低減させた。
【表10】
【0152】
各被験物について、前後処置レジメンを使って、抗ウイルス活性を決定した。コンフルエントなVero E6細胞の単層に三連で加える前に、TAをウイルスと混合して、60±10分間インキュベートした。次に、TA:ウイルスを前記細胞単層に加えて、60~90分間、ウイルスを吸着させた。この吸着に続いて、細胞を1×PBSまたは培地で洗浄し、TAを含む1×培地で細胞の上を置き換えた。陽性対照化合物としてレムデシビル遊離塩基を並行して評価した。陰性対照としてDMSOを加えた細胞を並行して評価した。結果を図22~28に示す。
【0153】
本発明は、その好ましい実施形態を参照して具体的に示され説明されてきたが、添付の特許請求の範囲によって包含される本発明の範囲から逸脱することなく、形態および詳細における様々な変更がなされ得ることは、当業者には理解されるだろう。
【0154】
本明細書において言及される特許および科学文献は、当業者に利用可能な知識を明らかにする。本明細書において引用される米国特許および公開または未公開の米国特許出願はすべて、参照により、本明細書に組み込まれる。本明細書において引用される公開された外国特許および外国特許出願はすべて、参照により、本明細書に組み込まれる。本明細書において引用される他の公開された参考文献、文書、原稿および科学文献はすべて、参照により、本明細書に組み込まれる。本明細書において引用されるすべての特許、公開された出願および参考文献の関連する教示は、参照により、その全体が本明細書に組み込まれる。
図1A
図1B
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図1D
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【国際調査報告】