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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-28
(54)【発明の名称】細胞及び方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0786 20100101AFI20250220BHJP
   A61K 35/15 20250101ALI20250220BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20250220BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20250220BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250220BHJP
【FI】
C12N5/0786
A61K35/15
A61P9/00
A61P9/10
A61P43/00 105
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024547483
(86)(22)【出願日】2023-02-09
(85)【翻訳文提出日】2024-10-02
(86)【国際出願番号】 GB2023050299
(87)【国際公開番号】W WO2023156763
(87)【国際公開日】2023-08-24
(31)【優先権主張番号】2201997.0
(32)【優先日】2022-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500532757
【氏名又は名称】キングス カレッジ ロンドン
【氏名又は名称原語表記】KINGS COLLEGE LONDON
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】パテル アシッシュ サティッシュ
(72)【発明者】
【氏名】モダライ ビジャン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA22
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087CA04
4C087NA14
4C087ZA36
4C087ZB21
(57)【要約】
本発明は、細胞の集団であって、前記細胞の集団は少なくとも50%のマクロファージ又は単球細胞を含み、前記マクロファージ又は単球細胞のうちの少なくとも50%がマーカー:MRC1;TIE2;及びCD163のそれぞれを発現することを特徴とする、細胞の集団に関する。本発明はまた、それらの細胞の使用、それらを作製する方法、及びそれらを投与することによって対象を治療する方法にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の集団であって、
少なくとも50%の骨髄細胞、例えばマクロファージ又は単球細胞を含み、
前記骨髄細胞、例えばマクロファージ又は単球細胞のうちの少なくとも50%が、マーカー:
・MRC1;
・TIE2;及び
・CD163
のそれぞれを発現することを特徴とする、前記細胞の集団。
【請求項2】
少なくとも70%の骨髄細胞、例えばマクロファージ又は単球細胞を含む、請求項1に記載の細胞の集団。
【請求項3】
少なくとも80%の骨髄細胞、例えばマクロファージ又は単球細胞を含む、請求項1又は2に記載の細胞の集団。
【請求項4】
骨髄細胞、例えばマクロファージ又は単球細胞のうちの少なくとも60%が、マーカー:
・MRC1;
・TIE2;及び
・CD163
のそれぞれを発現する、請求項1~3のいずれかに記載の細胞の集団。
【請求項5】
骨髄細胞、例えばマクロファージ又は単球細胞が、CD14及び/又はCD45を発現する、請求項1~4のいずれかに記載の細胞の集団。
【請求項6】
骨髄細胞、例えばマクロファージ又は単球細胞が、TNFアルファ(TNFa)及び/又はIL-12を発現する、請求項1~5のいずれかに記載の細胞の集団。
【請求項7】
3:1の比の骨髄細胞、例えば単球/マクロファージ細胞:MSCを含む、請求項1~6のいずれかに記載の細胞の集団。
【請求項8】
(a)対象由来の単球を提供するステップ
(b)MSCを提供するステップ
(c)前記MSCとともに前記単球を培養するステップ
を含む方法であって、
ステップ(c)が、前記単球を前記MSCと接触させて細胞混合物を産生することと、前記細胞混合物を培養することとを含む、前記方法。
【請求項9】
ステップ(c)において単球:MSCの比が3:1である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
細胞が約3~7日間、好ましくは約3~5日間培養される、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
細胞が約3日間培養される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
細胞が培地中で培養され、前記培地が5日ごとに交換される、請求項8~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
末梢血管疾患、適切には包括的高度慢性下肢虚血の治療における使用のための、請求項1~7のいずれかに記載の細胞の集団。
【請求項14】
線維症の治療における使用のための、請求項1~7のいずれかに記載の細胞の集団。
【請求項15】
虚血性脳卒中の治療における使用のための、請求項1~7のいずれかに記載の細胞の集団。
【請求項16】
請求項1~7のいずれかに記載の細胞の集団を、哺乳動物対象に投与するステップを含む、前記対象を治療する方法。
【請求項17】
1億~2億個の細胞の用量を投与するステップを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
哺乳動物において血管新生を誘導するための、請求項1~7のいずれかに記載の細胞の集団の使用。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
末梢動脈疾患は、75歳を超える個体のうちの20%が罹患している。末梢動脈疾患は、難治性疼痛、潰瘍及び壊疽として現れる重症下肢虚血(CLI,critical limb ischaemia)にいたるおそれがある。CLIの患者の生活の質は、末期がんの患者のものと同等である。毎年英国では、40,000~60,000人の患者が、CLIと診断されている。これらの患者のうちの1/3は、バイパス手術/ステント留置などの従来の治療によって血行再建することができず、切断が必要である。世界中のCLI患者の推定総数はおよそ2億3,700万人である。
【0002】
治療用細胞ベースの新生血管形成は、虚血組織内の新たな血管の成長を刺激することを目標とする、重症虚血性四肢の救助のための有望な治療法として注目されてきた。しかし、細胞療法に関する多数の治験によればこれまでのところわずかな効果しか報告されていない。なぜなら、骨髄又は末梢血からの定義が曖昧で不均一な細胞の集団(単核細胞)が、それらの活性に関してほとんど理解されないまま使用されていたからである(Fadini et al. "Autologous stem cell therapy for peripheral arterial disease meta-analysis and systematic review of the literature." Atherosclerosis 2010 March 209(1);Qadura et al. 2018 Stem Cells Feb 36(2) "Cell Therapy for Critical Limb Ischemia: An Integrated Review of Preclinical and Clinical Studies.")。
【0003】
効果的な療法には、確実に十分な数で分離することができる、より特異的で強力な細胞型が必要である可能性が高いことは広く認められている。このようなことは、当技術分野における問題である。
【0004】
単核細胞の小さく特定の亜集団である単球/マクロファージ(Mo/MΦ)について調査がなされてきたが、マーカーTIE2を発現するものが虚血後の血行再建を調節する可能性があることが示されている(Patel et al. 2013 "TIE2-expressing monocytes/macrophages regulate revascularization of the ischemic limb." EMBO Mol Med 2013 May 7)。残念なことに、血液から分離することができるこれらの細胞の数(単球集団全体のうちの約3%)は、効果的な治療を行うには少なすぎる。
【0005】
Rybalko et al. 2017(Regen. Med. Volume 12, number 2, pages 153-167)は、虚血性骨格筋修復に対する脂肪組織由来幹細胞及びマクロファージの治療可能性について記載している。Rybalko et al.では、彼らの細胞を操作する際にトランスウェルアプローチを使用する。Rybalko et al.では、彼らの細胞を産生するのに14日以上かかる。Rybalko et al.では三重陽性MRC1/TIE2/CD163陽性細胞に関する開示はない。
【0006】
Kim and Hematti 2009("Mesenchymal stem cell-educated macrophages: a novel type of alternatively activated macrophages." Exp Hematol December;37(12):1445-53(Hematti and Kimによる公開された米国特許出願第US2011/0045071号に相当する))では、サイトカインなしで7日間培養することによって初代単球をマクロファージへと最初に変化させるステップ(1446ページ - 左欄 - 「細胞培養」の最後の段落を参照されたい)、次いで、MSCとともにそれらのマクロファージを培養するステップを含む方法が開示されている。Kim and Hematti.は、彼らの細胞を産生するのに10日以上かかっている。Kim and Hemattiでは三重陽性MRC1/TIE2/CD163陽性細胞に関する開示はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願第US2011/0045071号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Fadini et al. "Autologous stem cell therapy for peripheral arterial disease meta-analysis and systematic review of the literature." Atherosclerosis 2010 March 209(1)
【非特許文献2】Qadura et al. 2018 Stem Cells Feb 36(2) "Cell Therapy for Critical Limb Ischemia: An Integrated Review of Preclinical and Clinical Studies."
【非特許文献3】Patel et al. 2013 "TIE2-expressing monocytes/macrophages regulate revascularization of the ischemic limb." EMBO Mol Med 2013 May 7
【非特許文献4】Rybalko et al. 2017(Regen. Med. Volume 12, number 2, pages 153-167)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、先行技術に関連する問題を克服しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、「教育された」又は「プライミングされた」、又はその他の方法でキーマーカーMRC1、TIE2及びCD163を発現するように駆動されている細胞に関する。本発明の細胞は、例えば血行再建において有利な機能特性を呈する。したがって、本発明の細胞は、例えば、末梢血管疾患(重症下肢虚血(CLIなどの))において血行再建が必要とされる臨床現場において、直接の産業上の用途を有する。最も適切には、「教育する」又は「プライミングする」とは、間葉系幹細胞/間質細胞(MSC,mesenchymal stem/stromal cell)、より適切には間葉系幹細胞との、出発細胞(単球/マクロファージ)の共培養を指す。適切には、細胞はヒト細胞である。適切には、細胞は、インビトロ又はエクスビボでのヒト細胞である。適切には、細胞は人体の一部ではない。適切には、細胞は生殖系列細胞ではない。適切には、細胞は本質的に生物学的なプロセスによって得られるのではなく、むしろインビトロ操作を伴って得られる。適切には、細胞はヒト胚由来ではなく、適切にはヒト胚に由来しない。適切には、細胞は全能性細胞ではない。
【0011】
簡潔に、そういった新たな細胞は、対象由来の単球/マクロファージから始め、慎重に設計された方法を使用してインビトロでそれらを操作することによって産生される。本発明の方法における重要なステップとしては、共培養ステップにおける単球/マクロファージと幹細胞の比、及び/又は培養ステップの時間の長さ、及び/又はこの培養期間過程で使用される培地交換の回数を挙げることができる。本発明者らは、根拠のしっかりとした研究及び知的熟考に思慮深く基づいて、本発明の方法を設計した。本発明者らは、マーカー発現(したがって細胞機能)を刺激することが可能である過程での驚くべき最適なウィンドウを発見した。このような進展の格段に驚くべき特質は、より長い期間にわたる継続的な培養によって上記マーカーの喪失がもたらされるという事実によって実証されている。したがって、本発明は、新たな表現型特徴を備えかつ治療上有益な機能を備える細胞の産生を可能にし、当技術に新たな驚くべき貢献をなす。
【0012】
本発明は、こういった驚くべき進展に基づいている。
【0013】
したがって、一実施形態では、本発明は細胞の集団を提供し、
前記細胞の集団は少なくとも50%の骨髄細胞、例えばマクロファージ又は単球細胞を含み、
前記骨髄細胞、例えばマクロファージ又は単球細胞のうちの少なくとも50%は、マーカー:
・MRC1;
・TIE2;及び
・CD163
のそれぞれを発現することを特徴とする。
【0014】
適切には、前記細胞の集団は、少なくとも70%の骨髄細胞、例えばマクロファージ又は単球細胞を含む。
【0015】
適切には、前記細胞の集団は、少なくとも80%の骨髄細胞、例えば、マクロファージ又は単球細胞を含む。
【0016】
別の実施形態では、本発明は上に記載される細胞の集団に関し、
前記骨髄細胞、例えばマクロファージ又は単球細胞のうちの少なくとも60%が、マーカー:
・MRC1;
・TIE2;及び
・CD163
のそれぞれを発現する。
【0017】
別の実施形態では、本発明は上に記載される細胞の集団に関し、前記マクロファージ又は単球細胞がCD14及び/又はCD45を発現する。
【0018】
別の態様では、本発明は細胞の集団を提供し、
前記細胞の集団は少なくとも50%のCD14+及び/又はCD45+細胞を含み、前記CD14+及び/又はCD45+細胞のうちの少なくとも50%がマーカー:
・MRC1;
・TIE2;及び
・CD163
のそれぞれを発現することを特徴とする。
【0019】
適切には、前記細胞の集団は、少なくとも70%のCD14+及び/又はCD45+細胞を含む。
適切には、前記細胞の集団は、少なくとも80%のCD14+及び/又はCD45+細胞を含む。
【0020】
別の実施形態では、本発明は上に記載される細胞の集団に関し、
前記CD14+及び/又はCD45+細胞のうちの少なくとも60%がマーカー:
・MRC1;
・TIE2;及び
・CD163
のそれぞれを発現する。
【0021】
別の実施形態では、本発明は上に記載される細胞の集団に関し、前記CD14+及び/又はCD45+細胞が骨髄細胞であるか、又は骨髄細胞に由来する。別の実施形態では、本発明は上に記載される細胞の集団に関し、前記CD14+及び/又はCD45+細胞が循環白血球であるか、又は循環白血球に由来する。
【0022】
一実施形態では、適切には、細胞は、インビトロでの細胞であるか又はエクスビボでの細胞である。
【0023】
適切には、上に記載される細胞の集団は、3:1の比の単球/マクロファージ細胞(又はCD14+及び/又はCD45+細胞):MSCを含む。
【0024】
適切には、上に記載される細胞の集団は、3:1の比の三重陽性単球/マクロファージ細胞(又は三重陽性CD14+及び/又はCD45+細胞):MSCを含む。
【0025】
適切には、上に記載される細胞の集団は、TNFアルファ(TNFa)及び/又はIL-12を発現するマクロファージ又は単球細胞を含む。適切には、前記CD14+及び/又はCD45+細胞のうちの少なくとも60%、より適切には少なくとも80%、より適切には少なくとも90%が、IL-12をさらに発現する。適切には、前記CD14+及び/又はCD45+細胞のうちの少なくとも4%、より適切には少なくとも5%、より適切には5%超が、TNFアルファ(TNFa)をさらに発現する。
【0026】
適切には、上に記載される細胞の集団は、細胞がカプセル化されている前記細胞を含む。
【0027】
別の実施形態では、本発明は、
(a)対象由来のマクロファージ又は単球(又はCD14+及び/又はCD45+細胞)を提供するステップ
(b)MSCを提供するステップ
(c)前記MSCとともに前記マクロファージ又は単球(又はCD14+及び/又はCD45+細胞)を培養するステップ
を含む方法に関する。
【0028】
適切には、方法は、マクロファージ又は単球(又はCD14+及び/又はCD45+細胞)においてMRC1、TIE2及びCD163の発現を誘導する方法である。
【0029】
適切には、方法は、三重陽性マクロファージ又は単球(又は三重陽性CD14+及び/又はCD45+細胞)を産生する方法である。
【0030】
適切には、ステップ(c)は、前記マクロファージ又は単球(又はCD14+及び/又はCD45+細胞)を前記MSCと接触させて細胞混合物を産生するステップと、前記細胞混合物を培養するステップとを含む。
【0031】
したがって適切には、本発明は、
(a)対象由来の単球を提供するステップ
(b)MSCを提供するステップ
(c)前記単球を前記MSCとともに培養するステップ
を含む方法に関し、
ステップ(c)は、前記単球を前記MSCと接触させて細胞混合物を産生するステップと、前記細胞混合物を培養するステップとを含む。
【0032】
適切には、ステップ(c)における(マクロファージ又は単球)又は(CD14+及び/又はCD45+細胞):(MSC)の比は、3:1である。
【0033】
適切には、細胞は約3~7日間培養される。
【0034】
適切には、細胞は約3~5日間培養される。
【0035】
適切には、細胞は約3日間培養される。
【0036】
細胞は、三重陽性マーカー発現を効果的に誘導する間隔で培養されるのが適切である。
【0037】
一実施形態では、細胞は約3~7日間培養してもよい。
【0038】
より適切な実施形態では、より適切には、細胞は約3~5日間培養してもよく、このことは、7日間培養よりも多くの三重陽性細胞を産生するという利点を有する。
【0039】
最も適切な実施形態では、最も適切には、細胞は約3日間培養してもよく、このことは、三重陽性細胞の最大の割合を産生するという利点を有する。
【0040】
一実施形態では、細胞は約72~168時間培養してもよい。
【0041】
より適切な実施形態では、より適切には、細胞は約72~120時間培養してもよく、このことは、168時間培養よりも多くの三重陽性細胞を産生するという利点を有する。
【0042】
最も適切な実施形態では、最も適切には、細胞は約3日間(約72時間)培養してもよく、このことは、三重陽性細胞の最大の割合を産生するという利点を有する。
【0043】
適切には、細胞は培地中で培養され、前記培地は、3~5日ごとに交換されてもよい。
【0044】
一実施形態では、適切には、前記培地は3日ごとに交換される。
【0045】
一実施形態では、適切には、前記培地は4日ごとに交換される。
【0046】
特に適切な実施形態では、適切には、前記培地は5日ごとに交換される。
【0047】
一実施形態では、適切には、前記培地は7日ごとに交換される。
【0048】
最も適切には、細胞が5日を超えて培養される場合、培地は遅くとも5日目までには交換される。
【0049】
本発明の利点とは、三重マーカー発現の誘導が効率的であり、その結果、5日目を超える細胞の培養をほとんど必要としないことである - したがって、有利には、培地交換もそれに応じてほとんど必要とされず、その結果、コストと労力が節約され、培地交換時の汚染のリスクが回避される。
【0050】
本発明の方法によれば、最大/最適な三重陽性マーカー発現が培養の3日目に得られる。本発明のさらなる利点とは、この最適な三重陽性マーカー発現が4日目に維持され、5日目に維持されることである。
【0051】
同様に首尾よく観察されることとは、三重陽性マーカー発現が6日目にも続く場合があり、7日目に続く場合があることである。
【0052】
留意すべきこととは、三重陽性マーカー発現が7日目から減退するので、7日目まで培養した細胞は有用であるが、おそらく、かかる細胞のより高い用量が患者に送達されて有効性を維持する可能性がある。
【0053】
適切には、細胞は8日目又はさらなる日にわたって培養されない。適切には、細胞は、8日目又はさらなる日にわたって培養されていた場合、使用されない。
【0054】
適切には、細胞は少なくとも3日目まで培養される。適切には、細胞は少なくとも3日目まで培養されて初めて使用される。
【0055】
本発明はまた、上に記載される方法によって入手可能な細胞の集団にも関する。
【0056】
本発明はまた、上に記載される方法によって入手される細胞の集団にも関する。
【0057】
別の実施形態では、本発明は、末梢血管疾患、より適切には重症下肢虚血(CLI)、より適切には包括的高度慢性下肢虚血(CLTI,chronic limb threatening ischaemia)の治療における使用のための上に記載される細胞の集団に関する。
【0058】
別の実施形態では、本発明は、線維症の治療における使用のための上に記載される細胞の集団に関する。
【0059】
別の実施形態では、本発明は、虚血性脳卒中の治療における使用のための上に記載される細胞の集団に関する。
【0060】
適切には、治療は、対象への細胞の集団の投与を含む。適切には、治療は、対象に約10~10個の前記細胞の用量を投与するステップを含む。適切には、治療は前記細胞を注射により投与するステップを含む。
【0061】
別の実施形態では、本発明は、上に記載される細胞の集団を哺乳動物対象に投与するステップを含む、前記対象を治療する方法に関する。
【0062】
適切には、前記方法は、約10~10個の前記細胞の用量を投与するステップを含む。
【0063】
別の実施形態では、本発明は、哺乳動物において血管新生を誘導するための上に記載される細胞の集団の使用に関する。
【0064】
また記載されるのは、上に記載される細胞の集団を含む組成物でもある。
【0065】
適切には、前記組成物は医薬組成物である。
【0066】
また記載されるのは、医学における上に記載される組成物の使用でもある。
【発明を実施するための形態】
【0067】
本発明者らが遂げた進展の1つとは、虚血性脚部への送達に向けた、新たな血管の成長を刺激することができるマーカーTIE2を発現する多数の単球/マクロファージ(Mo/MΦ)の特定の集団を生成するためのエクスビボ法を創り出すことである。
【0068】
これを行うために、本発明者らは、間葉系幹細胞/間質細胞(MSC)の免疫調節性の効果を利用する。MSCは、骨髄(BM,bone marrow)又は脂肪組織のいずれからも入手することができる。MSCは、Mo/MΦを含めて、それらの近傍内の細胞の特性を、炎症性表現型から抗炎症性表現型にそれらの分極をシフトさせることによってモジュレートする(Kim and Hematti 2009 "Mesenchymal stem cell-educated macrophages: a novel type of alternatively activated macrophages." Exp Hematol December;37(12):1445-53 (Hematti and Kimによる公開された米国特許出願第US2011/0045071号に相当する);Maggini et al. 2010 "Mouse bone marrow-derived mesenchymal stromal cells turn activated macrophages into a regulatory-like profile." PLoS One 5(2):e9252.)。
【0069】
Kim and Hematti 2009では、彼らは、サイトカインなしで7日間培養することによって初代単球をマクロファージへと最初に変化させる(1446ページ - 左欄 - 「細胞培養」の最後の段落を参照されたい)。そうして初めて、生成するマクロファージがMSCに曝露される。対照的に、本発明の方法では、0日目には初代単球を直接MSCとともに培養する/それと接触させる。したがって、本発明によれば、骨髄細胞、例えば一時単球を、分離後即座に培養へと置く - 開始時間は、骨髄細胞が培養に置かれる時間である。本発明では、初代単球をMSCとともに培養へと置き、したがって、この時点では混合物中に分化前のマクロファージは存在しない。先行技術の方法では、最初に、マクロファージが生成され、次いで(続いて)こういったマクロファージをMSCと接触させる。本明細書の本発明とは異なる一方法では、Kim and Hematti 2009は、最初に、それらの単球を7日間培養に置いてマクロファージへと単球を分化させ、次いで、MSCに曝露されるのはそういったマクロファージ細胞(すなわち、分化前のマクロファージ)である。
【0070】
本発明者らは、Kim & Hematti 2009の細胞は本明細書に記載される細胞ではない、すなわち、MRC1(CD206)、TIES2(CD202B)及びCD163の三重発現体ではない、と考えている。このことの理由は、第一に、本発明の細胞が発現マーカーにおいて差異を示していることである。これは、なぜなら、Kim & Hemattiの細胞の小さい割合のみがマーカーのうちの1つ(CD206)を発現するとしても発現しているからであり、これは低CD206発現体として典型的である。例えば、Kim & Hematti(図3 - A/C/E)では11.81%~75.89%の広範囲のCD206発現があり、このことは、CD206発現が信頼できないこと及び平均CD206発現が低いことを指示する。(平均量は46.1%である。)対照的に、本発明者らのデータが示すところは、本発明の細胞は、平均CD206発現92%(+/- SEM 14%)をもって一貫性のある(信頼することができる)高CD206発現体であることである(Re:92% - 本発明者らは図2B及び図11Bを参照する)。本発明者らはまた、本発明者らの方法は、異なる技師(熟練の技術者)でも再現性がありなおも90%を超える発現をもたらすこと、も示す(図4を参照されたい)。
【0071】
本発明の利点とは、CD206を発現する本明細書に記載される単球/マクロファージは、組織リモデリング表現型を有し、新たな血管の形成(血管新生と動脈新生の両方)において重要な役割を果たすことである。本発明の細胞はまた、重要な抗線維化機能も有する。このことは実施例のセクションで実証される。
【0072】
第二に、本発明の細胞は異なる特性を示す。例えば、本明細書に記載される細胞は高いTNFa(TNFアルファ)レベルを示すが、一方、Kim and Hematti 2009(US2011/0045071)のTNFa(TNFアルファ)レベルは低い。TNFaは組織リモデリングにおいて重要である。TNFaは病的な血管新生及び動脈新生において役割を有する。TNFaは虚血後の組織における側副血管の成長を刺激する。TNFaはまた、顕著な抗線維化機能を有することが示されてきたが、線維化の消散期を調節する。
【0073】
Kim and Hemattiの細胞はTNFaを下方調節した;Kim and Hemattiは、上記細胞は対照細胞と比較して3分の1だけ下方調節されることを開示している。実際、彼らのデータ(Kim and Hematti図3E及び図3F)は、彼らの細胞のうちの3%のみがTNFaを発現することを示す。TNFa発現細胞のレベルは対照細胞よりも低めに降下するが、一方、本発明の細胞は一定又は上昇したレベルのTNFa発現を示し、したがって、本発明の細胞は、Kim and Hemattiにおけるように、TNFaを明らかに下方調節しない。
【0074】
本発明者らは発現量を定量化した。対照細胞は中央値42pg/mLを発現するが、一方、本発明者らのMSC-プライミングの細胞(本発明の細胞)は高レベル - 中央値251pg/mL - を発現する、したがって、本発明者らは、本発明の細胞はTNFaレベルを6倍だけ上方調節することを示す。
【0075】
IL-12は、組織のリモデリングを誘導する別の強力なサイトカインである。Kim and Hemattiの細胞はIL-12の発現を喪失するが、一方、本発明者らの細胞ではIL-12レベルはなおも高い。本発明者らは図27を参照する:3日目:IL-12発現に差異はない(IL-12は、共培養後に本発明者らの細胞では依然として高度に発現するが、一方、Kim & Hemattiの細胞はIL-12を発現しない);7日目:IL-12発現に差異はない(IL-12は、共培養後に本発明者らの細胞では依然として高度に発現するが、一方、Kim & Hemattiの細胞はIL-12を発現しない(例えば、Kim and Hemattiの細胞のうちのおよそ1.5%のみがIL-12を発現する))。
【0076】
これらの2つのサイトカインの差異だけでも、本発明の細胞がKim & Hemattiなどの先行技術の細胞とはかなり異なる特性を有することを示す。このことはとりわけ当てはまる、なぜなら、TNFa及びIL-12が炎症性サイトカインであり、それの発現は予想されていないからである。
【0077】
文脈から明白でない限り、発現を記載するために使用される高い及び低いという語句は、発現の絶対レベルではなく、発現している細胞の割合 - 例えば、FACS解析又は同様の二進カウント法によって発現していると見なされる細胞の割合を指すことに留意されたい。このことは熟練の技術者であれば明らかであり、なぜなら、TNFa/IL-12などのポリペプチドは分泌され、したがって、発現のレベルを評価することは様々な細胞間で比較するには難しい課題であり得るからであり、例えば、細胞が大容量の培地中で増殖される場合、それなら1細胞当たりの発現タンパク質の見かけ上の濃度はより低いもの(逆もまた同様)と測定されることになり、したがって、発現レベルは、特に言及しない限り、発現している細胞の割合としてほとんどの場合は評価される。
【0078】
本発明者らは、単球をプライミングする(単球を「教育する」)ために、すなわち、血管新生促進性/動脈新生促進性の単球/マクロファージ(Mo/MΦ)の異なる表現型に向けて単球を切り替えるために、MSCとともに単球を培養するための技法を開示する。
【0079】
一実施形態では、「プライミングされた」又は「教育された」単球/マクロファージとは、MSCと共培養した単球/マクロファージ、適切には、インビトロでMSCと共培養した単球/マクロファージを意味する。
【0080】
加えて、本発明者らは、マーカー
・MRC1、及び
・TIE2、及び
・CD163
のそれぞれを発現する「三重陽性」単球/マクロファージ(Mo/MΦ)が、本明細書に記載されるように極めて臨床上有用であることを初めて開示する。
【0081】
開示されるのは、三重陽性細胞の最も高い割合が出発細胞から入手されることを可能にする条件である。
【0082】
実証されることとは、三重陽性マクロファージを使用して、新たな血管の産生(血行再建)を刺激することができることである。
【0083】
本発明者らは、マクロファージ上で3つのキーマーカーの三重発現を産生する方法を開示する。
【0084】
開示されることとは、患者の血液から採取した単核細胞由来の三重発現マクロファージを生成する方法である。
【0085】
本発明者らは、新たな血管を刺激する機能的利点への本明細書に開示される3つのマーカーを発現する細胞の明確な関連を、実証する。
【0086】
本明細書で記載される細胞は、三重マーカーの組合せを発現することを根拠にして新たなものである。
【0087】
キーマーカーの配列は、下の表に示すように公的に開示されているので、熟練の技術者であれば入手可能である:
【表1】
【0088】
発現の閾値:
適切には、マーカーを「発現する」とは、タンパク質が、抗体染色、例えばフローサイトメトリーなどの免疫染色によって検出することができることを意味する。
【0089】
明白ではない限り、発現とは、完全長タンパク質の発現を、又は生物学的に重要な部分、例えば生物学的に活性な部分の発現を指す。一実施形態では、発現とは細胞表面でのマーカーの発現を指す。一実施形態では、マーカーが外部/細胞表面のタンパク質である場合、発現とは、外部細胞表面での検出を可能にするのに十分なマーカーの発現を指す。
【0090】
なんらかのさらなる指針が必要な場合、通常のマクロファージ又は単球は、CD14及び/又はCD45などのタンパク質を産生する;細胞は、以下の場合に単球又はマクロファージとされる:抗CD14試薬及び/又は抗CD45試薬、例えば抗CD14抗体及び/若しくは抗CD45抗体又は抗CD14 affimer及び/若しくは抗CD45 affimerを使用してFACSによって検出されるCD14及び/又はCD45を「発現する」場合。CD14又はCD45を発現する細胞は、当技術分野で慣例であるように、CD14+又はCD45+と指定される。CD14/CD45のうちの一方のみが使用される場合、適切には、技術上の性能/容易さが優れているという利点を有するCD45のみが使用される。
【0091】
マクロファージ又は単球上では通常には発現されないマーカーの場合、本発明によってこれらの発現は誘導されるのであるが(例えばMRC1、TIE2、CD163)、これらのマーカーを発現しない同じ細胞(すなわち、陰性対照)と比べてより高い閾値量の蛍光をフローサイトメーターが検出する場合、細胞は本発明に従ってマーカーを「発現」するとされる(すなわち、マーカーについて陽性とされる)。適当な蛍光閾値を選択することは当業者であればルーチンである。
【0092】
なんらかのさらなる指針が必要な場合、適切な陰性対照は、本明細書で教示されるMSC(間葉系幹細胞/間質細胞)と共培養されていないマクロファージ又は単球の試料であると思われる。例えば、陰性対照は、末梢血から分離されたプライミングされていない/未処理のマクロファージ又は単球の集団であり得る。
【0093】
より適切には、陰性対照は、末梢血から分離された初代単球の集団であり得る。適切には、陰性対照細胞は、MSCとともに培養されてはいない。適切には、陰性対照細胞は、インビトロで全く培養されてはいない(初代単球)。血液から分離された単球は、本発明のマーカーを三重に発現しないので、非常に有用な陰性対照である。
【0094】
これら3つのマーカーを組合せで発現するマクロファージは、発明者らの知る限りでは、これまで記載されたことは決してない。
【0095】
適切には、数値に適用される「約」という用語は、記載された値の+/-1%を意味する。
【0096】
適切には、間葉系幹細胞という用語は、当技術分野におけるその自然な意味を有する。「MSC」という略語は、間葉系幹細胞/間質細胞(MSC)を意味し、より適切には、間葉系幹細胞を意味する。
【0097】
単球(Mo)及びマクロファージ(MΦ)
単球(Mo)は、ヒトにおいてCD11b及びCD14(LPS受容体サブユニット)を発現する豆状核を有する血液単核細胞として定義される。非古典的単球はより低レベルのCD14に加えてCD16を発現する場合があり、中間の単球はCD14及びCD16を発現する。単球(Mo)はマクロファージ(MΦ)へと分化する。
【0098】
CD14は単球(Mo)の固有のマーカーとされる、すなわち、CD14が循環細胞に見い出される場合、それは単球(Mo)とされる。単球(Mo)はまた、CD45、CD11b(又は両方)などの他のマーカーも提示する。
【0099】
マクロファージは、貪食を通して病原体を排除するとして知られる白血球の多様なグループである。ヒトのマクロファージは通常には、CD14、CD40、CD11b、CD64、EMR1、リゾチームM、MAC-1/MAC-3、25F9及びCD68を発現する。
【0100】
本発明の細胞はまた、HLA-DR及びCD38を始めとする他のマーカーも発現する(図7を参照されたい)。
【0101】
従来から、マクロファージは、これが発見された臓器(例えば、肝臓のクッファー細胞、皮膚のランゲルハンス細胞等)に従って分類されてきた。しかし、現行の命名法は、マクロファージの臓器特異的命名から、「M1」マクロファージ及び「M2」マクロファージへと転換してきた。この分類は、マクロファージの位置ではなくマクロファージの分極化に基づいている。
【0102】
M1マクロファージは、通常にはIFN-γ又はリポ多糖(LPS,lipopolysaccharide)によって古典的には活性化され、炎症誘導性サイトカインを産生し、微生物を貪食し、免疫応答を開始する。M1マクロファージは、細菌及びウイルスから保護するために、一酸化窒素(NO,nitric oxide)又は活性酸素中間体(ROI,reactive oxygen intermediate)を産生する。
【0103】
M2マクロファージは、IL-4、IL-10又はIL-13などのある特定のサイトカインへの曝露によって選択的に活性化される。M2マクロファージは、増殖を誘導するポリアミン、又はコラーゲン産生をモジュレートするプロリンのいずれかを産生することになる。こういったマクロファージは、創傷治癒及び組織修復に関連している。M2マクロファージの3つの型:M2a、M2b及びM2cがある。M2マクロファージはまた、細胞外マトリクスの形成に寄与し、一酸化窒素を産生しないか又はT細胞に抗原を提示しない。腫瘍浸潤マクロファージはM2として通常には分類されるが、一部の人は、腫瘍浸潤マクロファージを骨髄由来抑制性細胞(MDSC,myeloid-derived suppressor cell)として分類する。
【0104】
マクロファージのどのサブセットが最も効果的であるかに関しては、当技術分野では対立する意見がある。対照的に、発明者らのアプローチは、「単球」又は「M1」マクロファージ又は「M2」マクロファージのカテゴリのいずれかのうちに当てはまる特定のサブセットを生成することではなく、3つの特定のマーカー(TIE2及びCD163及びMRC1)を発現するマクロファージを産生することである。したがって、本発明の細胞に関する本文書における論述では、「単球」と「マクロファージ」に一緒に言及する場合が多い(例えば「Mo/MΦ」)。
【0105】
厳密な分類では、本明細書に記載される、分離され次いでMSCと共培養される循環白血球は、循環しているので純粋な単球と見ることができるが、一方、マクロファージは普通には組織細胞とされる。しかし、本発明は、(例えば)出発細胞が培養中にマクロファージへと分化していたかどうかなどの理論的な疑問とは関係ない。出発細胞は、分化し始めているが、依然として単球特性(CD14発現)をなおも有することを観察することができる。実際、MMP-9(単球がマクロファージへと分化を開始すると増加するマトリクスメタロプロテアーゼである)の発現の減少が、単独で培養される単球と比較して分かる(図18)。理論に縛られることを望むものではないが、それらは「骨髄」細胞であると言えるが、これがMo/MΦの両方を包含するからである。本発明の目的のために、出発細胞(すなわち、血液単核細胞)は、単球若しくはマクロファージ又は単球とマクロファージの混合物を含むことができる。
【0106】
より適切には、出発細胞(すなわち血液単核細胞)は、初代単球などの単球を含むことができる。
【0107】
初代単球とは、血液から分離されたところで、まだ培養に置かれてはいない(すなわち、まだ懸濁液中にある)CD14発現単球として定義される。単球は、培養皿に置かれるとすぐに、固着する(接着する)ことになり、ゆっくりとマクロファージへと分化を開始するのでもはや初代単球ではない。インビトロでインキュベートされた単球は、培養前は初代単球であった。
【0108】
適切には、本発明の細胞は、これの培養時間の100%にわたってMSCと共培養される、すなわち、出発細胞(懸濁液中の初代単球などの単球)は、MSCと混合され、0日目に培養へと置かれ、培養にあるそれの全時間にわたってMSCと共培養される。先行技術の方法では、通常には、初代単球などの単球を7日間培養することによってマクロファージを最初に調製し、そうして初めて、そのマクロファージをMSCと接触させる。適切には、本発明の細胞は、これの培養時間の100%にわたってMSCと共培養されるか又は共培養されてある。Kim & Hemattiなどの先行技術の方法では、培養の総日数10~11日のうちわずか3~4日間わたって、彼らのマクロファージをMSCと共培養する。したがって、最大で、Kim & Hemattiでは、総培養時間の約30%(3/10日)~36%(4/11日)にわたって、彼らのマクロファージをMSCと共培養する。
【0109】
さらなる指針が万が一必要な場合、適切には、本発明の細胞は循環白血球に由来する。
【0110】
適切には、本発明の細胞は骨髄細胞である。
【0111】
適切には、本発明の細胞はCD14+である。
【0112】
適切には、本発明の細胞はCD45+である。
【0113】
最も適切には、本発明の細胞はCD14+及びCD45+である。
【0114】
最も重要なことに、本発明の細胞は、天然には存在しない「三重陽性」細胞である。こういった細胞は、天然に存在しないので「単球」又は「マクロファージ」としてその細胞を分類することはいつも有用であるとは限らず、したがって、総称して「Mo/MΦ」と通常には呼ばれる。一実施形態では、本発明の細胞は三重陽性単球である。一実施形態では、本発明の細胞は三重陽性マクロファージである。
【0115】
組織修復/リモデリングのためのマクロファージ「分極化」については、先行技術で言及されてきた。しかし、先行技術で報告されたマクロファージは、1又は2以上の「M2」マーカーを発現する。適切には、本発明の細胞は、排他的にM2マーカーを発現するというわけではない。適切には、本発明の細胞は排他的にM1マクロファージということではない。適切には、本発明の細胞は排他的にM2マクロファージということではない。適切には、本発明の細胞は排他的にM2aマクロファージということではない。適切には、本発明の細胞は排他的にM2bマクロファージということではない。適切には、本発明の細胞は排他的にM2cマクロファージということではない。
【0116】
適切には、本発明の細胞は、血液単核細胞である、又は血液単核細胞に由来する。
【0117】
適切には、本発明の細胞はヒト細胞である。
【0118】
適切には、本発明の細胞はCD45+である(すなわち、適切には、本発明の細胞はCD45マーカーを発現する)。
【0119】
最も適切には、本発明の細胞はCD14+である(すなわち、適切には、本発明の細胞はCD14マーカーを発現する)。
【0120】
適切には、本発明の細胞は骨髄細胞である。
【0121】
適切には、本発明の細胞は単球又はマクロファージである。
【0122】
適切には、本発明の細胞は単球である。
【0123】
適切には、本発明の細胞はマクロファージである。
【0124】
本発明者らは、TIE2、MRC1及びCD163を組合せで発現するCD45+ Mo/MΦを生成する方法を、教示する。本発明の細胞は、虚血組織内の血管の成長を堅牢に促進することができる。本発明の細胞は循環中では非常にまれであり(単球の1%未満)、したがって、本発明は、MSCを用いて全単球集団を教育することによって、白血球アフェレーシスからのMo/MΦの単一サイクルにおいて/単一開始プールから最大10億~20億個のそういった細胞の産生を可能にするという利点を有する。本アプローチのさらなる利点とは、患者が、数週間/数カ月のコースにわたって複数回の注射による自家療法の長期コースを有することができるように、そういった細胞を産生し次いで凍結保存(例えばバッチで)することができる、ことである。このようなことは、自然に生じる場合もある限られた数のCD45+ Mo/MΦでは不可能である。本療法の自家性の性質により、有害な免疫反応に関する患者のリスクが軽減又は排除される。
【0125】
「M2」マクロファージの生成について開示されてあるが、既知の方法では、増殖因子の組合せを使用する長期培養が必要であり、このことは当技術分野における問題である。対照的に、本発明は、増殖因子の必要性を回避し、本発明の特定の表現型及び機能を備える本発明の細胞をわずか5日以内に生成する能力を提供する。このことによって、慢性疾患の急性増悪である緊急事態として提示することが多い患者の迅速な治療が可能になる。
【0126】
したがって、虚血性マウス四肢において血管新生を刺激するためのマウス脂肪組織由来幹細胞とマクロファージの共送達などの先行技術のアプローチとは対照的に、本発明者らのアプローチでは、単球をプライミングする方法としてMSCを使用する。MSCは、「三重陽性」単球/マクロファージを創り出すプロセスにおいてのみ使用され、最終的な治療製品の一部ではない。一実施形態では、適切には、一部の残留MSCが、投与される細胞の集団に残存している場合がある。より適切には、投与される細胞が三重陽性マクロファージ細胞及び/又は三重陽性単球細胞から本質的になるか、又はそれらからなるように、MSCは除去される。
【0127】
共培養
発明者らの知る限りでは、本発明の「三重発現」(TIE2、MRC1及びCD163)単球をMSCを使用して共培養によって生成することができるという、既知の先行開示は全くない。さらに、発明者らはまた、細胞の本発明の強力な集団を生成するための最適条件も決定したが、これを本明細書に開示する。
【0128】
本発明者らの知る限りでは、本発明の細胞を全単球集団から生成することができる方法に関して、又はそれらの生成が可能であるということさえ、データは文献中に全く存在しない。
【0129】
本発明者らは、一連の異なる4つの時点並びに一連の異なる4つの比の単球:MSCを試験して、本発明の細胞を生成するために好結果である条件を決定した(実施例5を参照されたい)。
【0130】
本発明以前は、末梢動脈疾患(CLIなどの)の患者由来の単球をこの方法でプライミングすることができるかどうかさえも、同様に不明であった。
【0131】
本明細書の教示及び実験データが指示するところは、MSCによって発揮される免疫原性特性は、健康な成人由来の単球を教育することだけに限定されないことである。さらに実証されていることとは、複数の併存疾患を有する高齢患者由来の単球を使用して、自家細胞療法に向けて本発明の細胞/細胞の集団を生成することが可能であることである。
【0132】
共培養条件
適切には、分離された単球/マクロファージ、及び/又は単球/マクロファージとMSCの細胞混合物を、単球培地で培養する。
【0133】
例示的な単球培地は:10%ウシ胎児血清(FCS,foetal calf serum)を補充された及び1%抗生物質/抗真菌剤を補充されていてもよいRPMI-1640(ロズウェルパーク記念研究所培地、'Roswell Park Memorial Institute'-1640)を含む。
【0134】
適切には、細胞は加湿インキュベーターで培養される。
【0135】
適切には、細胞は37℃で培養される。
【0136】
適切には、細胞は5%COで培養される。
【0137】
適切には、RPMI-1640は、ThermoFisher Scientific社(Fisher Scientific - UK Ltd社、Bishop Meadow Road Loughborough、英国、LE11 5RG)製、カタログ番号:11875101などの任意のソースからのものであり得る。
【0138】
臨床グレードの材料(例えば、ヒト又は動物の対象、適切にはヒトの対象への投与の対象となる製品)の産生を対象とする実施形態では、適切には、RPMI培地の代わりに、L-グルタミン、ゲンタマイシン及びフェノールレッドを含み、ゼノフリーである無血清造血細胞培地、X-VIVO(商標)-10が使用される。適切には、X-VIVO(商標)-10は、Lonza Group Ltd社製、Muenchensteinerstrasse 38、CH-4002 Basel、スイス、カタログ#: BE04-380Qである。
【0139】
X-VIVO(商標)-10培地の代替品には、GMPグレードの5%ヒト血清アルブミン(カタログ番号623160054 Biotest U.K. Ltd社製、17 High Street、Longbridge、Birmingham、B31 2UQ、英国)又は5%ヒト血清アルブミン(Albunorm(商標)カタログ番号P/L 10673/0031、Octapharma Ltd社製、The Zenith Building、26 Spring Gardens、Manchester M2 1AB、英国)のいずれかで補充されることを必要とする、TexMACS緩衝液が含まれる。
【0140】
さらなる詳細は実施例のセクションに見い出すことができる。
【0141】
本発明の細胞は自然に生じるものではない。細胞は、本明細書に記載される方法を使用してヒトの介入によってのみ産生される。
【0142】
ごくささいな/無視することができる数の三重陽性細胞が血中に、しかし非常に低い(1%未満)数で存在するかもしれない可能性があるが、この場合、そのような細胞はほとんど検出不能である。かかる細胞は、存在すると示される場合もあり得るが、適切には本発明の細胞が発現する25F9マーカーを発現しないことに留意されたい。
【0143】
適切には、本発明の細胞はエクスビボである。
【0144】
適切には、本発明の細胞はインビトロである。
【0145】
適切には、本発明の細胞は分離されている。適切には、分離されるとは、細胞の自然環境の少なくとも1つの要素から取り出されている又は隔てられていることを意味する。例えば、分離されるとは、人体又は動物の体から取り出されることを意味する場合がある。例えば、分離されているとは、赤血球(red blood cell)(赤血球(erythrocyte))から隔てられることを意味する場合がある。
【0146】
適切には、本発明の細胞は細胞の集団で存在する。
【0147】
適切には、本発明は細胞の集団を提供する。
【0148】
適切には、前記細胞の集団は、70%以上の割合のマクロファージ又は単球を含む。
【0149】
適切には、前記細胞の集団は、0%割合の赤血球を含む。
【0150】
適切には、前記細胞の集団は、30%以下の割合のMSCを含む。
【0151】
これらは、治験中にある最終製品のリリース基準である。
【0152】
本明細書に開示される三重マーカーのうちの1つに対して別々に陽性である細胞は、先行技術で観察されてきた可能性がある。しかし、三重陽性マーカーの組合せは、マクロファージなどの細胞上でこれまで観察されたことは決してない。本発明者らは、本明細書に記載される方法を使用して、本発明の特定の表現型を細胞に強制する。
【0153】
理論に縛られることを望むものではないが、MRC1/TIE2二重陽性細胞は、本明細書に記載されるように患者を治療する上で有用であり得る。それゆえ、特定の一実施形態では、マーカーMRC1及びTIE2のそれぞれを発現するマクロファージ又は単球について記載する。それゆえ、特定の一実施形態では、前記二重陽性細胞を使用する患者の治療について記載する。それゆえ、特定の一実施形態では、本明細書に開示される疾患、例えばCLIの治療における使用のための前記二重陽性細胞について記載する。しかし、最も適切には、本発明で使用される細胞は、MRC1、TIE2及びCD163に対して三重陽性である。
【0154】
Rybalko et al. 2017(Regen. Med. Volume 12, number 2, pages 153-167)は、虚血性骨格筋修復のための脂肪組織由来幹細胞及びマクロファージの治療可能性について記載している。Rybalko et al.で使用された方法では、MRC1、TIE2及びCD163の三重発現は産生されないであろう、又は、少なくとも臨床上有用な任意の量でのMRC1、TIE2及びCD163の三重発現は産生されないであろう。Rybalko et al.では、彼らの細胞を操作する際にトランスウェルアプローチを使用する。本発明者らは、そのようなアプローチでは本発明に従った細胞は産生されないと、断定する。Rybalko et al.では、細胞を産生するのに14日以上かかっている。Rybalko et al.では、三重陽性MRC1/TIE2/CD163陽性細胞についての開示は全くない。
【0155】
より詳細には、Rybalko et al.では、本発明の細胞組成/細胞の集団は全く開示されていない。本明細書に記載される三重陽性細胞のごくわずかな数/ごくわずかな割合が、Rybalko et al.の教示に従うことによって作り出された細胞の集団の中に、存在する可能性がある。しかし、第一に、三重陽性細胞は、Rybalko et al.の細胞の集団に存在するとしても、「ごくささいな」レベルで存在するだけである。例えば、発明者らは、Rybalko et al.の細胞のうちのおよそ0.3%以下が三重陽性のはずであると断定する。三重陽性細胞は臨床上有用であるという本発明の知見をもって、Rybalko et al.の方法を実施することによっても、この後知恵を使用してRybalko法から入手可能な三重陽性細胞の数を最大化しようと試みても、得ることができる最良は、Rybalko et al.の細胞の集団のうちでおよそ2%の三重陽性細胞である。対照的に、本発明者らは、少なくとも約50%の三重陽性細胞を有する細胞の集団を生成するための方法を教示する。Rybalko et al.で生成された三重陽性細胞の最大割合はおよそ1~2%であり、このことは、処理が適用されていなかった場合、例えば細胞が単に培養した場合に生成されるはずである三重陽性細胞の数と同等である。適切には、本発明の細胞組成物は、少なくとも約50%の三重陽性細胞を含む。さらなるなんらかの証拠が必要な場合は、本発明者らは、比較データを提示する実施例のセクションを参照する。
【0156】
用量
適切には、本発明は、細胞の用量を提供する。
【0157】
一実施形態では、適切には、細胞の用量はおよそ10e6~10e9個の細胞(すなわち、10~10個の細胞、10^6~10^9個の細胞と表記する場合もある)を含む。より適切には、用量は10~10個の単球を含む。一実施形態では、用量は10~10個の単球からなる。一実施形態では、適切には、細胞の用量はおよそ10~10個の細胞を含み、それらの細胞のうち少なくとも50%が単球/マクロファージであり、より適切には、少なくとも60%が単球/マクロファージである。一実施形態では、細胞の用量はおよそ10~10個の細胞を含み、それらの中で、存在する単球/マクロファージのうちの少なくとも50%が三重陽性単球/マクロファージである。
【0158】
本発明による適切な用量は、1回の注射当たり約1億個の単球/マクロファージを含む。
【0159】
一実施形態では、適切には、1回用量が各週対象に投与される。
【0160】
一実施形態では、適切には、治療のコースは10週間、すなわち1週間当たりに1回用量で10回用量である。
【0161】
最も適切には、一実施形態では、適切には、細胞の用量は、およそ1×10e8~2×10e8個の細胞(すなわち、1×10~2×10個の細胞、1×10^8~2×10^8個の細胞と表記する場合もある)、すなわち用量当たり1億~2億個の細胞である。より適切には、用量は、本発明の単球/マクロファージ1億~2億個を含む。一実施形態では、用量は、本発明の単球/マクロファージ1億~2億個からなる。一実施形態では、適切には、細胞の用量は、およそ1億~2億個の細胞を含み、それらの細胞のうち少なくとも50%が単球/マクロファージであり、より適切には少なくとも60%が単球/マクロファージである。一実施形態では、細胞の用量は、およそ1億~2億個の細胞を含み、それらの中で、存在する単球/マクロファージのうちの少なくとも50%が三重陽性単球/マクロファージである。
【0162】
一実施形態では、適切には、1回用量が6~12週間ごとに、最も適切には12週間又は3カ月ごとに、対象に投与される。
【0163】
一実施形態では、適切には、治療のコースは3~6回用量である。
【0164】
一実施形態では、適切には、治療のコースは5回用量又は用量当たり2億個の細胞である。
【0165】
一実施形態では、適切には、用量は、対象の体重1kg当たり200万~300万個の細胞である。したがって、体重75kgの成人男性の場合、用量は、1億5000万~2億2500万個の細胞、より適切には1億5000万~2億個の細胞であるのが適切である。臨床医であれば、この情報に基づいて、他の体重又は性別に対する用量を算定するのがルーチンである。
【0166】
用量は、1億個超の細胞を含む場合があり、例えば、投与される予定の用量中に本発明のマクロファージの共培養由来の幹細胞が低レベルで存在する可能性がある。例えば、用量は、当該用量に含有される本発明のマクロファージの数の最大でおよそ10%のさらなる細胞を含んでもよい。例えば、用量が本発明のマクロファージ1億個を含む場合、当該用量中の細胞の総数は、例えば1億1000万個に達する場合がある - 本発明によるマクロファージ1億個に加えて、さらなる1000万個の「その他の」細胞、例えば、本発明のマクロファージの産生における共培養ステップに由来する幹細胞。本例では、用量は本発明のマクロファージ90.9%を含む(本発明のマクロファージ100m個/総細胞110m個=90.9%)。
【0167】
適切には、用量は、本発明の細胞少なくとも50%を含み;本発明による細胞の、より適切には少なくとも60%;より適切には少なくとも65%;より適切には少なくとも69%;より適切には少なくとも70%;より適切には少なくとも80%;より適切には少なくとも85%;より適切には少なくとも90%;より適切には少なくとも95%;より適切には少なくとも96%;より適切には少なくとも97%;より適切には少なくとも98%;最も適切には99%又はそれ超を含む。好ましい実施形態では、適切には、用量は、MRC1、TIE2及びCD163を発現する三重陽性マクロファージなどの本発明による細胞の、少なくとも98%、又は少なくとも99%又はそれ超を含む。
【0168】
一実施形態では、本明細書で論述される用量の細胞数とは、本発明の三重陽性単球/マクロファージ細胞の数を指す。
【0169】
用量製造用の細胞調製物に関して、本発明の典型的な方法では、20億個の全単球集団が白血球アフェレーシスから入手され、本発明の方法の出発細胞として使用されるが、このことは、共培養の終了時に最大約10~14億個が三重陽性となることを意味する。このことによって、10億個を超える細胞の1回又は2回の特大用量が可能になり、又はより適切には、100万~2億個の細胞/1回用量までの複数回用量(例えば、6回用量)が可能になる。
【0170】
理論に縛られることを望むものではないが、CLIの患者についての発明者らの3%の三重陽性の知見に基づくと、7日目を使用する本明細書に記述される先行技術のいずれもが6000万個の細胞を生成することになるが - 単回用量にでさえ有用ではない。
【0171】
細胞数
細胞型に関連して細胞の割合は、指定された細胞型である細胞の集団全体の割合であるのが適切である。したがって、「少なくとも25%のマクロファージ又は単球細胞」という数字は、細胞の集団全体において細胞のうちの25%がマクロファージ又は単球細胞であることを意味するのが適切である。例えば、試料中に1000個の細胞がある場合、「25%のマクロファージ又は単球細胞」とは、1000個の細胞の集団全体内で細胞のうちの25%がマクロファージ又は単球細胞である(すなわち、250/1000がマクロファージ又は単球細胞である)ことを意味する。
【0172】
マーカー発現に関連する細胞の割合は、引用されたマーカーを発現する単球細胞の集団の割合であるのが適切である。したがって、50%の「三重陽性細胞」という数字は、細胞の集団において単球のうちの50%が三重陽性であることを意味するのが適切である。例えば、試料中に1000個の細胞がある場合、50%の「三重陽性細胞」とは、1000個の細胞内で単球のうちの50%が三重陽性であることを意味する。したがって、細胞の総数1000個内に単球100個がある場合、50%の「三重陽性細胞」とは、全体の細胞カウント1000個のうち三重陽性単球50個(50/100個の単球が三重陽性)を意味する。適切には、本発明の細胞は、少なくとも50%の「三重陽性細胞」、すなわち適切には50%、より適切には50%超の三重陽性細胞(単球)を含む。留意すべきこととは、ここでの「単球」への言及は、「単球/マクロファージ」又は「Mo/MΦ」又は「CD14+及び/若しくはCD45+細胞」、例えば「CD14+骨髄及び/若しくはCD45+骨髄細胞」又は「対象の血液から採取された単核細胞」への言及で置き換えることができるが、このことは、本文書の残りの部分から明らかである。単球に関する論述は、理解を助けるために簡潔にした表現であり、記述されているその他の細胞型を除外又は省略するものではない。
【0173】
適切には、「単球/マクロファージ」(又は「Mo/MΦ」又は「CD14+及び/若しくはCD45+細胞」、例えば「CD14+骨髄及び/若しくはCD45+骨髄細胞」又は「対象の血液から採取された単核細胞」)である、本発明の方法に従って産生される細胞の集団の割合は、本発明による細胞の、少なくとも50%、より適切には少なくとも60%、より適切には少なくとも70%、より適切には少なくとも80%;より適切には少なくとも90%;より適切には少なくとも95%;より適切には少なくとも96%;より適切には少なくとも97%;より適切には少なくとも98%;最も適切には99%又はそれ超である。換言すると、本方法が、MSCと共培養した、対象の血液から採取された単核細胞の集団を産生する場合、次いで共培養が完了した後(及び、所望であれば、共培養後の単核細胞に関し行われてもよい精製/強化の後)、適切には、集団に存在する細胞のうちの少なくとも50%が「単球/マクロファージ」(又は「Mo/MΦ」又は「CD14+及び/若しくはCD45+細胞」、例えば「CD14+骨髄及び/若しくはCD45+骨髄細胞」又は「対象の血液から採取された単核細胞」)である。
【0174】
適切には、三重陽性マーカーを発現する、本発明の方法に従って産生される細胞の割合は、本発明による細胞の、少なくとも30%、より適切には少なくとも40%、より適切には少なくとも50%、より適切には少なくとも60%;より適切には少なくとも65%;より適切には少なくとも69%;より適切には少なくとも70%;より適切には少なくとも80%、より適切には少なくとも85%;より適切には少なくとも90%;より適切には少なくとも95%;より適切には少なくとも96%;より適切には少なくとも97%;より適切には少なくとも98%;最も適切には少なくとも99%又はそれ超である。換言すると、本方法が、対象の血液から採取された10億個の単核細胞の入力で開始される場合、最も適切には、本発明の方法は、当該単核細胞のうちの少なくとも(例えば)およそ80%を三重発現単核細胞に変換する、すなわち、10億個の単核細胞の入力から8億個の三重発現細胞。
【0175】
適切には、前記単核細胞は、マクロファージ又は単球を含む。
【0176】
一実施形態では、適切には、前記単核細胞は単球を含む。
【0177】
より適切には、一実施形態では、前記単核細胞はマクロファージを含む。
【0178】
最も適切な実施形態では、本発明は、少なくとも70%のマクロファージ又は単球細胞(又は「Mo/MΦ」又は「CD14+及び/若しくはCD45+細胞」、例えば「CD14+骨髄及び/若しくはCD45+骨髄細胞」又は「対象の血液から採取された単核細胞」)を含む細胞集団に関し、かつ、前記マクロファージ又は単球細胞のうちの少なくとも50%が、マーカー:
・MRC1;
・TIE2;及び
・CD163
のそれぞれを発現する。
【0179】
三重陽性
適切には、細胞は、例えば発現をアッセイするための免疫検出を使用して前記マーカーが検出可能である場合に、本明細書で論述されるマーカーを発現するとされる。
【0180】
適切には、細胞が「三重陽性」と記載されている場合、このことは、当該細胞がMRC1、TIE2及びCD163について陽性であることを意味する。
【0181】
細胞は、それらのマーカーのそれぞれが上に記載されるように検出可能である場合に「三重陽性」とされる。
【0182】
三重陽性細胞が臨床上有用であることが、本発明が教示する進展である。先行技術の細胞の集団のごくわずかな一部が、本明細書に記載される三重陽性細胞を含むかもしれない可能性があるが、そういった三重陽性細胞が臨床上有用であるという教示は、当技術分野においてなんらなかった。したがって、一実施形態では、本発明は、医学における本明細書に記載される三重陽性細胞の使用に関する。
【0183】
さらなるマーカー - 25F9
適切には、本発明の細胞は、循環する単球上には存在しないマーカーであるヒト25f9を発現する。25F9とは、単球がマクロファージへと成熟していることを示すマーカーである。
【0184】
細胞は、上に記載される培養において25F9を発現し始める。
【0185】
細胞は、上に記載される培養において3日目に25F9を発現する。このことは、本発明の細胞がMSCの存在下で非常に急速に成熟することを示す。
【0186】
本発明の細胞(25F9も発現する三重陽性細胞)は、血中で自然には循環していない。この有利な発現パターンは、本明細書に教示される操作、例えばMSCとの共培養などのエクスビボ操作によってのみ産生される。
【0187】
25F9は、当技術分野で既知の適切な任意の方法によって検出することができる。
【0188】
最も適切には、25F9の検出は、細胞表面で25F9タンパク質を特異的に結合して細胞発現について検出することができる抗体(抗25F9抗体)などの親和性試薬の使用によるものである。適切には、抗25F9抗体は任意のソース由来のものであり得る。
【0189】
最も適切には、25F9の検出は、以下の抗体の使用によるものである:(Mature Macrophage Marker Monoclonal Antibody(eBio25F9(25F9))、eFluor 660、eBioscience社):カタログ番号50-0115-42、Thermo Fisher社(Fisher Scientific - UK Ltd社、Bishop Meadow Road Loughborough、英国、LE11 5RG)製。適切には、検出は製造元の使用説明書に従って実行される。
【0190】
適切には、前記抗体は、マウス/IgG1、カッパである。推奨アイソタイプ対照は、Mouse IgG1 kappa Isotype Control(P3.6.2.8.1)、eFluor 660、eBioscience社である。適切には、抗体は、0.1%ゼラチン、0.2%BSAを含むPBS、pH7.2中で保管する。含まれてもよい0.09%アジ化ナトリウム。凍結しない。暗所で4℃で保管する。
【0191】
モノクローナル抗体25F9は、細胞表面上と細胞内小胞構造内の両方で成熟マクロファージに関するタンパク質を認識する。未成熟マクロファージ又は単球又はその他の任意の造血細胞上では発現が見い出されない。報告された用途:このeBio25F9(25F9)抗体は、フローサイトメトリー解析での使用について報告されてきた。試験された用途:このeBio25F9(25F9)抗体は、単球由来の培養したヒトマクロファージのフローサイトメトリー解析によって事前に力価決定及び試験されてきた。これは、1試験当たり5μL(0.25μg)で使用することができる。試験は、最終容量100μLの細胞試料を染色することになる抗体の量(μg)として定義される。細胞数は経験的に決定する必要があるが、10^5~10^8個の細胞/1試験の範囲であり得る。eFluor(登録商標)660は、Alexa Fluor(登録商標)647の代替品である。eFluor(登録商標)660は659nmで発光し、赤色レーザー(633nm)で励起される。ご使用の機器がこの蛍光色素を検出することができることを確認していただきたい。励起:633~647nm;発光:668nm;レーザー:赤色レーザー。フィルトレーション:製造後フィルター0.2μm。
【0192】
適切には、本発明の単球/マクロファージ細胞のうちの少なくとも50%が三重陽性でありかつ25F9を発現する。本発明者らは、典型的には、本発明の細胞のうちの少なくとも80%が25F9を発現することを観察する。したがって、図11Bを参照すると、69.96%の三重陽性細胞のうちの80%=当該調製物中の細胞のうちの55.968%(三重陽性+25F9)が(三重陽性+25F9)である。本発明者らは、図24を参照するが、これに示すところは、単独で培養した単球と比較して、MSC-プライミングの単球では25F9の発現に著しい向上があることである。
【0193】
医療適応
本発明は末梢血管疾患において適用を見い出す。
【0194】
本発明は末梢動脈疾患において適用を見い出す。
【0195】
本発明は重症下肢虚血において適用を見い出す。
【0196】
本発明は線維症において適用を見い出す。
【0197】
一実施形態では、本発明は、肺線維症などの線維症の治療において適用を見い出す。一実施形態では、適切には、対象は、COVID-19であるか、又は以前にCOVID-19であった。このことはとりわけ有益である、なぜなら、COVID-19患者は長期の肺の問題を抱える場合があるからである。
【0198】
本発明は虚血性脳卒中において適用を見い出す。
【0199】
一実施形態では、適切には、対象は、無症候性の末梢動脈疾患(PAD,Peripheral Arterial Disease)である。したがって、本発明は、末梢動脈疾患(PAD)の治療における使用のためのものであり得る。一実施形態では、本発明は、本発明の細胞及び/又は組成物を対象に投与するステップを含む、末梢動脈疾患(PAD)の治療方法を提供する。
【0200】
一実施形態では、適切には、対象は間欠性跛行である。したがって、本発明は、間欠性跛行の治療における使用のためのものであり得る。一実施形態では、本発明は、本発明の細胞及び/又は組成物を対象に投与するステップを含む、間欠性跛行の治療方法を提供する。
【0201】
一実施形態では、適切には、対象は悪化性跛行である。したがって、本発明は、悪化性跛行の治療における使用のためのものであり得る。一実施形態では、本発明は、本発明の細胞及び/又は組成物を対象に投与するステップを含む、悪化性跛行の治療方法を提供する。
【0202】
本発明の細胞及び/又は組成物は、重症下肢虚血又は包括的高度慢性下肢虚血(CLTI)の治療における使用のためのものであり得る。一実施形態では、本発明は、本発明の細胞及び/又は組成物を対象に投与するステップを含む、重症下肢虚血又は包括的高度慢性下肢虚血(CLTI)の治療方法を提供する。
【0203】
本発明の細胞及び/又は組成物は、線維症の治療における使用のためのものであり得る。本発明の細胞及び/又は組成物は、肺線維症などの線維症の治療における使用のためのものであり得る。一実施形態では、本発明は、本発明の細胞及び/又は組成物を対象に投与するステップを含む、線維症の治療方法を提供する。一実施形態では、本発明は、本発明の細胞及び/又は組成物を、COVID-19であるか、又は以前にCOVID-19であった対象に、例えば、COVID-19誘導性肺線維症の治療において使用するために投与するステップを含む、線維症の治療方法を提供する。
【0204】
本発明の細胞及び/又は組成物は、特発性肺線維症などの他の形態の間質性肺疾患の治療における使用のためのものであり得る。
【0205】
本発明の細胞及び/又は組成物は、脳卒中、適切には虚血性脳卒中の治療における使用のためのものであり得る。一実施形態では、本発明は、本発明の細胞及び/又は組成物を対象に投与するステップを含む脳卒中の治療の方法を提供する。
【0206】
本発明の細胞及び/又は組成物は、虚血後血行再建における使用のためのものであり得る。より適切には、心臓、脳又は脚の虚血後血行再建である。一実施形態では、本発明は、本発明の細胞及び/又は組成物を対象に投与するステップを含む虚血後血行再建の誘導の方法を提供する。
【0207】
本発明の細胞及び/又は組成物は、血管の成長、例えば血管新生及び/又は動脈新生の誘導における使用のためのものであり得る。一実施形態では、本発明は、本発明の細胞及び/又は組成物を対象に投与するステップを含む、血管新生及び/又は動脈新生の誘導の方法を提供する。
【0208】
本発明の細胞及び/又は組成物は、哺乳動物において新たな血管の産生を刺激する上での使用のためのものであり得る。
【0209】
本発明の細胞及び/又は組成物は、血管を安定化する上での使用のためのものであり得る。一実施形態では、本発明は、本発明の細胞及び/又は組成物を対象に投与するステップを含む、血管を安定化する方法を提供する。
【0210】
本明細書に記載される細胞及び/又は組成物は、線維症を治療する上で有用である。したがって、本発明の組成物は線維症を治療するために使用することができる。
【0211】
線維症は、腎臓の線維症、肝臓の線維症、心臓の線維症及び/又は肺の線維症であり得る。
【0212】
本発明者らが開示するところは、本明細書に記載される三重陽性細胞は肝細胞増殖因子(HGF)及び/又はIL-10及びTNFαを産生することである。これらは抗線維化タンパク質である。このことは本発明の細胞組成物のさらなる利点である。本発明の細胞はまた、リポ多糖(LPS)による炎症刺激に応答して、より高レベルのIL-10及びTNFαを産生するが、HGFは産生しない。本発明者らは、図を参照する。
【0213】
適切には、投与は、例えば、末梢動脈疾患(例えばCLI)などの末梢血管疾患の患者の虚血肢へと、筋肉内である。
【0214】
本発明は、それの近位流入血管の血行再建術を有する対象における補助治療として使用することができる。
【0215】
本発明は、外科手術の候補としては貧弱である対象へのスタンドアロンの治療として使用することができる。
【0216】
本発明はまた、血管内血行再建術を有する患者において手術中に使用することもできるが、この場合、プライミングされた細胞は、既知の血管閉塞の部位で末端細動脈へと直接送達することも可能である。
【0217】
本発明はまた、虚血性心疾患、心不全の患者及び/又は脳血管疾患(例えば脳卒中)の患者を含めて、組織虚血が存在する他の心血管疾患の治療のためにも使用することができる。
【0218】
細胞産生
一実施形態では、本発明の細胞/細胞の集団は、患者から分離された全単球集団を提供することによって産生することができる(適切には、事前に分離されている、すなわち、一実施形態では、適切には、単球の集団を提供するステップは、単球のインビトロ集団を提供するステップを含む)。
【0219】
適切には、単球は白血球アフェレーシスによって得られる。これは、高い細胞数を提供するという利点を有する。
【0220】
適切には、単球は、単回の献血(例えば、最大485ml)によって得られる。これは、白血球アフェレーシス装置を必要としないという利点を有する。
【0221】
適切には、単球/マクロファージはヒト単球/マクロファージである。
【0222】
単球/マクロファージを分離する方法
単球/マクロファージは、これらのCD14の発現に従って分離することができる。これらの細胞は、
- 免疫磁性抗CD14ビーズで標識し、当該細胞を磁気カラムに通流させることによって分離することができるか、又は
- CD14で蛍光的に染色し、次いで蛍光活性化細胞ソーティングを使用して取り出すことができる。
【0223】
適切には、単球をMSCで次いでプライミングする。
【0224】
適切には、MSCはヒトMSCである。
【0225】
MSCは、適切な任意のソース由来、例えば、骨髄由来又は脂肪組織由来のいずれかであり得る(適切には、事前に分離されている、すなわち、一実施形態では、適切には、MSCを提供するステップは、MSCのインビトロ集団を提供するステップを含む)。
【0226】
一連のソース由来のMSCを本発明において使用することができ、例えば、市販のMSC及び/又はGMP対応MSCを本発明において使用することができる。
【0227】
MSCバンクは、既知の方法を使用して、健康なヒト対象の脂肪組織又は骨髄から生成することができる。
【0228】
種々のソース由来のMSCを使用することができる。適切には、MSCは、RoosterBio Inc.社(5295 Westview Drive、Suite 275、Frederick、MD 21703、米国)製であり、RoosterBio Inc.社の培地(RoosterNourish-MSC-CC、KT-021)で培養され、MSCの培養に関する製造元のプロトコルに従う。その他の市販のMSC及び/又は培地も使用することができる、例えば、NHSBT社(NHS Blood and Transplant社、500 North Bristol Park、Filton、Bristol、BS34 7QH、英国)製のMSC、及び/又はMiltenyi Biotec社(MSC-Brew、170-076-325、Miltenyi Biotec Ltd.社、Almac House、Church Lane、Bisley、Surrey GU24 9DR、英国)製及び/又はSartorius社(MSC NutriStem XF Medium、05-200-1A - Sartorius社、Otto-Brenner-Strasse 20、37079 Goettingen、ドイツ)製の培地である。
【0229】
本発明者らは、なんらかのさらなる指針が必要である場合は、実施例10を参照する。
【0230】
本発明のプライミングステップ(「教育」ステップと呼ばれる場合もある)は、単球とMSCを共培養するステップを含むのが適切である。
【0231】
生成するプライミングされた単球細胞は、次いで、その表現型の首尾よい形質転換を確認するために解析される。次いで、細胞を保管してもよい。これらの細胞は、次いで、治療のコースとして数週間にわたって対象に投与するために、及び/又は一度限りの投与例えば注射として、使用することができる。
【0232】
利点
機能性細胞を分離するための先行技術の試みは、「超選択」、すなわち、出発集団中に非常に低い頻度で存在する細胞を選択するように設計された手順を伴っていた。しかし、そのような「超選択」法から入手される細胞の数は非常に低く、このことは、出発集団中でのそれら細胞の発現頻度が極端に低いという事実に起因するとしてもよい。このことは、当技術分野における問題である。本発明の利点とは、出発細胞から本発明の機能的三重陽性細胞へと極めて高度の効率の変換が達成されることである。こういった効率的な変換の利点とは、非常に高い割合の本発明の細胞が出発集団から産生されることである。さらなる利点とは、当技術分野で既知である不確かな「超選択」法を使用することによるよりも、非常に高い絶対数の細胞を容易に産生することができることである。
【0233】
したがって、一態様では、本発明は、細胞の混合物、MRC1、TIE2及びCD163を発現する、少なくとも50%、より適切には少なくとも80%のマクロファージを含む前記混合物に関する。
【0234】
方法のステップ
適切には、出発細胞は、マクロファージ又は単球を含むか、又はそれらからなる。最も適切には、出発細胞は、単球を含むか、又はそれからなる。
【0235】
出発細胞が、細胞の集団、例えば、血液試料からあらかじめ得られた単核細胞の集団の一部である場合、適切には、前記細胞の集団は、少なくとも20%のマクロファージ又は単球、最も適切には単球を含む。
【0236】
適切には、前記出発細胞は、PBMCを含むか又はそれからなる。
【0237】
適切には、前記マクロファージ又は単球はPBMCに由来する。
【0238】
マクロファージ又は単球は、適切には抗CD14又は抗CD45、より適切には抗CD14を使用して、免疫磁気ビーズ分離又は蛍光活性化細胞ソーティングなどの当技術分野で既知の適切な任意の方法によってPBMCから分離することができる。
【0239】
細胞の集団は、適切には抗CD14又は抗CD45、より適切には抗CD14を使用して、免疫磁気ビーズ分離又は蛍光活性化細胞ソーティングなどの当技術分野で既知の適切な任意の方法によって、マクロファージ又は単球について強化することができる。
【0240】
培養時間
本発明の方法では、出発細胞は初代単球などの単球である。
【0241】
本発明は、マクロファージ(技術的には血液由来であった可能性があるが、実際には、それをマクロファージへと分化させるためにある持続期間にわたってインビトロで既に培養されてある)から始める方法をなんら含まない。
【0242】
初代単球とは、血液から分離されたところで、まだ培養に置かれていない(すなわち、まだ懸濁液中にある)CD14発現単球として定義される。単球は、培養皿に置かれるとすぐに、固着する(接着する)ことになり、ゆっくりとマクロファージへと分化を始めるのでもはや初代単球ではない。インビトロでインキュベートされる単球は、培養前は初代単球であった。
【0243】
本発明の方法は、0日目に初代単球を直接MSCに曝露させる、すなわち、0日目に直接、MSCとともに初代単球を培養する/MSCと初代単球を接触させる。
【0244】
培養時間/培養日数は、初代単球を培養へと置く時点からカウントされる。
【0245】
発明者らの細胞は分離後即座に培養へと置かれる - 開始時間は、細胞が培養に置かれる時間である。例えば、細胞が月曜日のAMに分離され、次いで11amに培養に置かれる場合、それなら、火曜日の11amが培養の24時間(1日/1日目)となる。
【0246】
細胞は採取され、極低温の状態で(凍結により)保管することができる。細胞は解凍した場合、依然として生存能力がある。
【0247】
リリース基準
異なる患者由来の細胞は異なるレベルの可塑性及び/又は異なる変化速度を呈することに留意されたい。したがって、所望のマーカーを誘導するために培養に要する時間の量は、高齢である患者又はその単核血球の発現の変化速度に影響を与える他の特徴を呈する患者については、より長い可能性がある。したがって、一実施形態では、適切には、本発明の方法は「リリース」ステップを伴う。本実施形態では、細胞は、特定の所定の基準が満たされる場合にのみ採取(「リリース」)される。例えば、細胞を培養中に維持することができ、それらの細胞の試料を取り(又は、同じ割合でより小さな「兄弟」培養で別々に培養されている試料を取ることができる)、試験することができ、当該細胞は、三重マーカーMRC1、TIE2及びCD163を発現する細胞の割合などの所定の値を満足する場合に限り、方法の次のステップにリリースすることができる。治験データでは、3つ未満のマーカーがアッセイされる場合がある、例えば、MRC1とCD163のみがアッセイされる場合があることに留意すべきであろう。これが「リリースアッセイ」である。このことは、臨床現場でのリリース基準に向けて速度及び再現性を確保するために使用される短縮されたアッセイである(MHRA承認のリリースアッセイ)。本リリースアッセイは、細胞が3つの指定マーカーのうち2つのみについて陽性であることを意味するものではない - 実際、本発明者らが記載する細胞は、特許請求されている3つのマーカーすべてについて陽性である - このようなことは単に、臨床製品を試験するために加えてリリースするために使用することができる効率的かつ迅速な「リリースアッセイ」を作り出すためにMHRAによって推奨/承認されている、本分野において受け入れられている慣行にすぎない - このことは、本文書全体を通して示されている3つのマーカーすべての発現を示す科学的に精密な試験を行うこととは区別されるべきである。リリースアッセイとは、製品(本発明の細胞)が臨床リリース向けの状態にあることを確認する簡略版である - このことは、本発明の細胞について依然として当てはまる3つのマーカーすべての発現に関する科学的実証とは異なる基準である。
【0248】
これにもかかわらず、適切には、本発明ではわずか7日以内の間の培養、より適切にはわずか5日以内の間の培養を必要とする。
【0249】
本発明の利点とは、自家細胞製品が提供されることである。
【0250】
マクロファージ/単球は、実際には培養中では増殖しないことに留意されるであろう。したがって、一態様では、本発明の方法は以下を含む可能性がある:
・白血球アフェレーシス又は全血献血によるマクロファージ細胞の収集
・およそ20億個の単球/マクロファージ細胞(白血球アフェレーシス)又は最大でおよそ5億個の単球/マクロファージ細胞(全血献血)とともに培養を始める
・間葉系幹細胞とマクロファージ細胞を共培養する
・表現型の変化を評価し、マクロファージ細胞のうちの少なくとも50%、より適切には少なくとも80%がMRC1及びTIE2及びCD163を発現する場合に採取する。
【0251】
医療の方法
一実施形態では、適切には、本方法は、マクロファージと共培養した間葉系幹細胞からマクロファージを分離するステップを含む。
【0252】
適切には、マクロファージは、それを必要とする対象に投与される。
【0253】
フリーセル及びカプセル封入
一実施形態では、本発明の三重陽性細胞は患者へと注射される。これは「フリーセル」と呼ぶことができる。
【0254】
一実施形態では、本発明の三重陽性細胞は、カプセル化され、カプセル化された状態で患者へと注射される。
【0255】
適切には、本発明の組成物はカプセル化される。このことは、保持率を改善する及び/又は細胞が経時的に注射部位から失われる「ウォッシュアウト」を克服する、という利点を有する。
【0256】
適切には、細胞は、当技術分野で既知の適切な任意の方法を使用してカプセル化することができる。
【0257】
本発明の利点とは、カプセル化される場合に所望の細胞がその三重陽性特徴を保持することである。このことは実施例4で実証される。
【0258】
一実施形態では、細胞は3~7日間、より適切には3日間培養され、次いで、患者へと再び導入される。
【0259】
一実施形態では、細胞は即座にカプセル化され、カプセル化された細胞は、例えば3~7日間、より適切には3日間培養され、次いで、カプセル化された細胞は患者に再導入される。
【0260】
本実施形態では、三重陽性発現を誘導するためにそれらの細胞と共培養されるMSCから、三重陽性細胞が分離されていなくてもよい。したがって、一実施形態では、単球/マクロファージとMSCを共カプセル化してもよい。より適切には、単球/マクロファージとMSCを3:1の比で共カプセル化する。本発明者らの知る限りでは、このことは、単球/マクロファージとMSCを単一のカプセル封入に一緒にカプセル化することに関して最初の開示である。
【0261】
一実施形態では、適切には、単球/マクロファージをカプセル化する。一実施形態では、本発明は、その中に三重陽性単球/マクロファージ細胞が含有されるカプセル封入を提供する。一実施形態では、前記カプセル封入はMSCをさらに含む。カプセル封入が三重陽性単球/マクロファージ細胞とMSCの両方を含む場合、適切には、それらは単球/マクロファージ細胞:MSCの比3:1で存在する。最も適切には、それらは三重陽性単球/マクロファージ細胞:MSCの比3:1で存在する。
【0262】
陰性マーカー
適切には、本発明の方法に従って産生される細胞によって、以下のマーカー:
・MMP-9(受託:P14780)
・NRP1(受託:014786 - CD304としても知られる)
・HB-EGF(受託:P01133)
の発現が下方調節されている(すなわち、単独で培養した初代単球と比較して及び/又は培養されていない初代単球と比較して、より低い発現)。
【0263】
MMP-9に関しては、このマーカーは、MSCと共培養すると、下方調節されるが、MSCなしで単球を培養すると、はまた上方調節もされる。
【0264】
一実施形態では、特定のマーカーが未検出である場合、細胞は前記マーカーを発現しないとされる。
【0265】
下方調節の検出/評価は、平均蛍光強度、すなわち発現されるタンパク質の量を使用して評価されるのが適切である。適切には、これは、初代単球、すなわち、インビトロ/エクスビボで培養されてはいなかった、末梢血から分離された単球に関して測定されたレベルに対する割合として表される。タンパク質は、初代単球に対するレベルよりも低いレベルで発現(検出)された場合、下方調節されたとみなされる。
【0266】
適切には、タンパク質は、初代単球に対するレベルよりも統計学的に有意なレベルで低く発現(検出)される場合に、下方調節されると考慮される。MMP-9の場合、適切には、単球がMSCでプライミングされる場合に発現において中央値の60%減少がある。本発明者らは、さらなる統計学的解析を行って、MSCと共培養する場合に細胞のうちの50%が少なくともこの60%の値だけMMP-9を下方調節することになること、示してきた。HB-EGFの場合、適切には、本発明者らが単球をMSCと共培養する場合にこのタンパク質の発現において30%減少がある。適切には、毎回、細胞のうちの15%がHB-EGFについて少なくとも30%下方調節されることになる。
【0267】
配列同一性
本明細書に記載されるマーカーの発現を評価する場合、正確な配列が特定されている場合に、又は所望の遺伝子/タンパク質が実際に発現しているとされる場合に、マーカーの検出を見い出すことができる。例えば、種内の個体間の対立遺伝子バリアント又は通常の遺伝的変異はよく知られた現象であり、(例えば)対象のマーカーと評価されている参照配列との間のマイナーな又は無視することができる配列の差異は、当該マーカーが試料内/細胞内で発現しているか発現していないかどうかの評価に影響を与えることはないであろう。
【0268】
配列の関係を配列同一性の観点から考慮することが望ましいとしてもよい。
【0269】
配列の比較は目視によって行うことができるが、より一般的には、容易に入手可能な配列比較プログラムの助けを借りて行うことができる。こういった公的に入手可能な及び市販のコンピュータプログラムによって、2又は3以上の配列間の相同性パーセント(同一性パーセントなどの)を算出することができる。
【0270】
同一性パーセントは、連続する配列にわたり算出することができる、すなわち、一方の配列は、他方の配列とアライメントされ、一方の配列におけるそれぞれのアミノ酸が、他方の配列における対応するアミノ酸と、同時に1つの残基であるが、直接比較される。これは、「ギャップなしの」アライメントと呼ばれる。通常には、そのようなギャップなしアライメントは、比較的短い数の残基(例えば50未満の連続するアミノ酸)にわたってのみ実行される。
【0271】
これは、非常に単純で一貫性のある方法であるが、例えば、他の点では同一の配列ペアにおいて、1つの挿入又は欠失によって、後続のアミノ酸残基をアライメントすることできないことが引き起こされることになり、したがって、グローバルアライメント(全配列にわたるアライメント)が実行される場合、相同性パーセント(同一性パーセント)における大きな低下をもたらされる可能性があるということを、くみ取ることができない。その結果、ほとんどの配列比較法は、全体的な相同性(同一性)スコアに過度にペナルティを科すことなく、可能性のある挿入及び欠失をくみ取る最適なアライメントを作成するように設計される。これは、配列アライメントの際に局所的な相同性/同一性を最大にするように「ギャップ」を挿入することによって実現される。
【0272】
これらのより複雑な方法は、「ギャップペナルティ」をそのアラインメント内に存在する各ギャップに割り当て、その結果、同一のアミノ酸の同じ番号について、可能な限り少ないギャップでの配列アラインメント - 2つの比較される配列間のより高い関連性を反映して ― によって、多くのギャップを伴う1より高いスコアが得られることになる。ギャップの存在に比較的高いコストを科し、ギャップ内の後続の残基それぞれにより小さいペナルティを科す、「アファインギャップコスト」が通常には使用される。これは、最も一般的に使用されているギャップスコアリングシステムである。高いギャップペナルティは、もちろん、ギャップがより少ない最適化アラインメントを作成することになる。ほとんどのアラインメントプログラムにより、ギャップペナルティを改変することが可能である。しかし、そのようなソフトウェアを配列比較に使用する場合にはデフォルト値を使用することが好ましい。例えば、GCG Wisconsin Bestfitパッケージ(下を参照されたい)を使用する場合、アミノ酸配列についてのデフォルトギャップペナルティは、ギャップについて-12、及び各伸長部について-4である。
【0273】
したがって、最大相同性パーセントの算出には、ギャップペナルティを汲み入れる最適なアラインメントの作成が第一に求められる。そのようなアラインメントを実行するのに適したコンピュータプログラムが、GCG Wisconsin Bestfitパッケージ(University of Wisconsin、米国;Devereux et al., 1984, Nucleic Acids Research 12:387)である。配列比較を行うことができる他のソフトウェアの例としては、それらに限定されないが、BLASTパッケージ、FASTA(Altschul et al., 1990, J. Mol. Biol. 215:403-410)及びGENEWORKSスイートの比較ツールが挙げられる。
【0274】
最終相同性パーセントを同一性の観点から測定することができるが、アラインメントプロセス自体は、オールオアナッシングのペア比較に通常は基づかない。その代わりに、化学的類似性又は進化距離に基づいて各ペアワイズ比較にスコアを割り当てる、尺度化された類似性スコアのマトリクスが一般に使用される。普通に使用されるそのようなマトリクスの例は、BLOSUM62マトリクス - BLASTスイートのプログラム用のデフォルトマトリクスである。GCG Wisconsinプログラムは、一般に、公開デフォルト値又は供給されている場合にはカスタムシンボル比較表のどちらかを使用する。GCGパッケージについては公開デフォルト値を、又は他のソフトウェアの場合はBLOSUM62などのデフォルトマトリクスを、使用することが好ましい。ソフトウェアが最適なアラインメントを作成してしまえば、相同性パーセント、好ましくは配列同一性パーセントを算出することが可能である。ソフトウェアは通常には、これを配列比較の一部として行い、数値の結果を生成する。
【0275】
参照配列/データベースリリース
データベースに寄託された配列は、時間とともに変化する場合がある。適切には、配列データベース(複数可)の現行バージョンに依拠する。代替的に、出願の日付にて効力のあるリリースに依拠する。
【0276】
当業者であれば知っているように、受託番号は、バージョン/日付受託番号であるとしてもよい。現行データベース登録のための引用可能な受託番号は本明細書と同じであるが、小数点及びそれに続く任意の数字を省略する。
【0277】
GenBankは、NIH遺伝子配列データベースであり、公的に入手可能なすべてのDNA配列の注釈付きコレクションであり(National Center for Biotechnology Information、U.S. National Library of Medicine 8600 Rockville Pike、Bethesda MD、20894米国;Nucleic Acids Research, 2013 Jan;41(D1):D36-42)、提供する受託番号は、明白でない限りこれに関連する。適切には、現行リリースに依拠する。より適切には、有効な出願日付にての入手可能なリリースに依拠する。最も適切には、参照されるGenBankデータベースリリースは、NCBI-GenBank Release 241:2020年12月15日である。
【0278】
適切には、配列データベースの現行バージョンに依拠する。代替的に、出願の日付にて効力のあるリリースに依拠する。疑義を避けるために、2021年2月10日公開の、the UniProt consortium European Bioinformatics Institute (EBI), SIB Swiss Institute of Bioinformatics and Protein Information Resource (PIR)'s UniProt Knowledgebase (UniProtKB) Release 2021_01、に依拠する。UniProt(Universal Protein Resource)は、タンパク質に関する情報の包括的なカタログである("UniProt: the universal protein knowledgebase" Nucleic Acids Res. 45: D158-D169 (2017))。
【0279】
さらなる適用
本発明のプライミングされたMo/MΦの特性は、凍結保存によって影響を受ける可能性がある。本発明者らが有するデータが示すところは、本発明のMo/MΦの生存能力は凍結保存及び保管の後に影響を受けないことである。虚血組織を血行再建する上での本発明の細胞の有効性が保管の後に変化するかどうかは、当業者であればモニタリングすることができ、必要に応じて、対象に投与される細胞の保管及び/又は用量をそれに応じて変更してもよい。
【0280】
適切には、本発明の細胞/細胞の集団は、GMP施設内で産生される。
【0281】
本発明は、末梢血管疾患及び/又は末梢動脈疾患(適切には、間欠性跛行及び/又は包括的高度慢性下肢虚血の患者)の治療において使用することができる。この状況では、本発明の細胞は、新たな血管の発芽(血管新生)を刺激するとともに既存の血管の積極的なリモデリング(動脈形成)を誘導する。
【0282】
本発明は、例えば、線維性の肺疾患、腎臓疾患、肝臓疾患及び皮膚疾患を含めて、組織線維症に関連する状態を治療するために組織リモデリング、抗線維化療法として使用することができる。
【0283】
本発明は、線維症の帰結としての虚血性心疾患又は心不全を治療するために使用することができる。虚血性心疾患の場合、本発明は、血管新生及び/又は動脈新生を刺激するために使用することができる。線維症の帰結として起こる心不全では、本発明は、積極的な組織リモデリングを誘導し、線維症を軽減し及び/又は心筋機能を改善するために使用することができる。
【0284】
本発明は、虚血性脳卒中を治療するために使用することができ、この場合、本発明は、血管新生又は動脈新生を介して新たな血管の成長を誘導する。
【0285】
本発明は、虚血性心臓組織又は虚血性脳組織などの虚血性組織を治療するために使用することができる。
【0286】
効果の実証
本発明は、末梢血管疾患、適切には末梢動脈疾患、適切にはCLI又は包括的高度慢性下肢虚血(CLTI)の治療において使用することができる。本出願のデータはこういった使用を裏付けており、例えば図15A~Dが示すところは、本発明から生成された馴化培地に細胞を曝露する場合に平滑筋細胞の増殖が著しく高まることであり、図16A、Bが示すところは、インビボでの動脈新生の証拠とともに(図16C、D)、本発明の送達後の著しく改善された血行再建である。したがって、読者は、インビトロでの平滑筋の増殖と、マウスの虚血肢への本発明の送達後の肢灌流の改善と、インビボで見られる生成するより多数の血管に関する実証から、これらの特徴により虚血組織への血液供給の向上がもたらされるので本発明が虚血に対処することになることを理解するであろう。
【0287】
本発明は、線維症の治療において使用することができる。本出願のデータはこの使用を裏付けており、例えば、図19に、本発明が、プライミングされていない単球と比較して、より高いレベルの抗線維化タンパク質HGF、IL-10及びTNFαを産生することを示す。図20に、本発明が、刺激された線維芽細胞上でのSMA及びフィブロネクチンの発現の減少を介して、インビトロで線維症を回復させることを示す。図21Aに、本発明が、小気道上皮細胞をアポトーシスが起こることから保護することを示し、図21Bに、本発明が内皮増殖を改善することを示す。図22に、本発明が損傷後の組織へと送達される場合にインビトロでの線維症の低減(コラーゲン染色)を示す。したがって、読者が、インビトロ及びインビボでの線維症の低減、並びに小気道上皮細胞及び内皮細胞の生存の改善(線維化プロセス過程で上皮及び内皮の損傷及び死滅が起こる)関する実証から理解するであろうこととは、本発明が、線維芽細胞から間葉系への移行を減少させることによって及び上皮及び内皮細胞の生存を改善することによって、線維症に対処することになることである。
【0288】
本発明は、血行再建の誘導において使用することができる。本出願のデータはこの使用を裏付けており、例えば、図16Aに、後肢虚血の誘導の後、本発明を用いて治療されるマウスにおける四肢灌流の改善を示す;また図16C及びDに、筋肉はより大きな細動脈を含有することを示すが、このことは、血管のリモデリング及び動脈新生を示唆する。本発明はまた、単独で培養した細胞よりも高いレベルのHGFを産生するが(図19)、このタンパク質は虚血組織の血行再建を刺激すると、知られている。したがって、読者が、四肢灌流及び動脈新生の改善に関する実証から理解するであろうこととは、血管新生及び/又は動脈新生が示され、こういったプロセスによってより良好な側副血行を誘導することを介して虚血組織の血行再建が直接もたらされるので、本発明が血行再建を誘導することになることである。
【0289】
本発明は、虚血性脳卒中の治療において使用することができる。本出願のデータは、この使用を支持しており、例えば、図15及び16に、それぞれインビトロ平滑筋細胞増殖及びインビボ動脈新生の向上を示す。加えて、図21Bに、血管内皮細胞の増殖(血管新生)の向上を示す。したがって、読者が、血管新生及び動脈新生の向上に関する実証から理解するであろうこととは、虚血性脳における新たな血管形成により、脳卒中からの以前の虚血性組織の再灌流が可能になるので、本発明が虚血性脳卒中に対処することになることである。
【0290】
さらなる実施形態
一実施形態では、本発明は、上に記載される細胞を哺乳動物対象に投与するステップを含む、前記対象を治療する方法を提供する。
【0291】
一実施形態では、本発明は、上に記載される細胞の集団を哺乳動物対象に投与するステップを含む、前記対象を治療する方法を提供する。
【0292】
一実施形態では、本発明は、組織リモデリングのための間葉系幹細胞-プライミングの単球を提供する。
【0293】
さらなる特定の好ましい態様を添付の独立請求項及び従属請求項に記載する。従属請求項の特徴は、請求項に明示的に記載されているもの以外の組合せで、適宜独立請求項の特徴と組み合わせることができる。
【0294】
装置の特徴が機能を提供するように作動可能であるとして記載される場合、この装置の特徴には、当該機能を提供する、又は当該機能を提供するように適合又は構成されている装置の特徴が含まれるということが理解されよう。
【0295】
次に、本発明を番号付きパラグラフを介して説明する:
パラグラフ1.細胞の集団であって、少なくとも50%のマクロファージ又は単球細胞を含み、前記マクロファージ又は単球細胞のうちの少なくとも50%が、マーカー:MRC1;TIE2;及びCD163のそれぞれを発現することを特徴とする、細胞の集団。
【0296】
パラグラフ2.少なくとも70%のマクロファージ又は単球細胞を含む、パラグラフ1に記載の細胞の集団。
【0297】
パラグラフ3.少なくとも80%のマクロファージ又は単球細胞を含む、パラグラフ1又はパラグラフ2に記載の細胞の集団。
【0298】
パラグラフ4.マクロファージ又は単球細胞のうちの少なくとも60%が、マーカー:MRC1;TIE2;及びCD163のそれぞれを発現する、パラグラフ1~3のいずれかに記載の細胞の集団。
【0299】
パラグラフ5.マクロファージ又は単球細胞がヒト25f9を発現する、パラグラフ1~4のいずれかに記載の細胞の集団。
【0300】
パラグラフ6.マクロファージ又は単球細胞が、CD14及び/又はCD45を発現する、パラグラフ1~5のいずれかに記載の細胞の集団。
【0301】
パラグラフ7.3:1の比の単球/マクロファージ細胞:MSCを含む、パラグラフ1~6のいずれかに記載の細胞の集団。
【0302】
パラグラフ8.3:1の比の三重陽性単球/マクロファージ細胞:MSCを含む、パラグラフ7に記載の細胞の集団。
【0303】
パラグラフ9.細胞がカプセル化されている、パラグラフ1~8のいずれかに記載の細胞の集団。
【0304】
パラグラフ10.(a)対象由来のマクロファージ又は単球を提供するステップ;(b)MSCを提供するステップ;(c)前記MSCとともに前記マクロファージ又は単球を培養するステップを含む方法。
【0305】
パラグラフ11.ステップ(c)が、マクロファージ又は単球をMSCと接触させて細胞混合物を産生するステップと、前記細胞混合物を培養するステップとを含む、パラグラフ10に記載の方法。
【0306】
パラグラフ12.ステップ(c)において(マクロファージ又は単球):(MSC)の比が3:1である、パラグラフ10又はパラグラフ11に記載の方法。
【0307】
パラグラフ13.細胞が約3~7日間、好ましくは約3~5日間培養される、パラグラフ10~12のいずれかに記載の方法。
【0308】
パラグラフ14.細胞が約3日間培養される、パラグラフ13に記載の方法。
【0309】
パラグラフ15.細胞が培地中で培養され、前記培地が5日ごとに交換される、パラグラフ10~13のいずれかに記載の方法。
【0310】
パラグラフ16.末梢血管疾患、適切には包括的高度慢性下肢虚血の治療における使用のための、パラグラフ1~9のいずれかに記載の細胞の集団。
【0311】
パラグラフ17.線維症の治療における使用のための、パラグラフ1~9のいずれかに記載の細胞の集団。
【0312】
パラグラフ18.虚血性脳卒中の治療における使用のための、パラグラフ1~9のいずれかに記載の細胞の集団。
【0313】
パラグラフ19.パラグラフ1~9のいずれかに記載の細胞の集団を哺乳動物対象に投与するステップを含む、前記対象を治療する方法。
【0314】
パラグラフ20.約10~10億個の細胞の用量を投与するステップを含む、パラグラフ19に記載の方法。
【0315】
パラグラフ21.哺乳動物において血管新生を誘導するための、パラグラフ1~9のいずれかに記載の細胞の集団の使用。
【図面の簡単な説明】
【0316】
次に、本発明を、添付の図面を参照してさらに説明する、ここで:
図1】比較データを示す図である:CD206の発現が向上するにもかかわらず、Rybalko et al 2017の方法を使用した場合、TIE2又はCD163の発現は向上しない。
図2】対照細胞(本発明ではない - (A)を参照されたい)と比較した、MSC-プライミングの単球(本発明による細胞/細胞の集団 - (B)を参照されたい)におけるマーカー発現のダイヤグラムを示す図である。
図3】棒グラフを示す図である。
図4】棒グラフを示す図である。
図5】プロット示す図である。
図6】プロット及びグラフを示す図である。
図7】プロット及びグラフを示す図である。
図8】表(ヒートマップ)を示す図である。
図9】棒グラフを示す図である。
図10】プロット示す図である。
図11】ベンダイヤグラムを示す図である。図11Bの数字はMo/MΦの発現率 - 69.96%の三重陽性 - n=21である。
図12】グラフを示す図である。
図13】棒グラフを示す図である。
図14】ベンダイヤグラムを示す図である。
図15】グラフ及び棒グラフを示す図である。
図16】グラフ、写真及びプロットを示す図である。
図17】プロット示す図である。
図18】グラフを示す図である。
図19】グラフを示す図である。
図20】グラフを示す図である。
図21】プロット及びグラフを示す図である。
図22】写真及びグラフを示す図である。
図23】グラフを示す図である。最上部(「100」)の直線がデータである - 100%のマウスが全時点で生存していた。
図24】棒グラフを示す図である。
図25】棒グラフを示す図である。
図26】プロットを示す図である。
図27】プロットを示す図である。本発明の細胞。n=7/群(A)3日目:IL-12発現に差なし(IL-12は共培養後も本発明者らの細胞上でなおも高度に発現)(B)7日目:IL-12発現に差なし(IL-12は共培養後も本発明者らの細胞上でなおも高度に発現)。
図28】棒グラフを示す図である。TIE2発現は共培養の3日目に最も高い。TIE2発現は、3日目に著しく向上し、7日目には低下し始める。その後、TIE2は対照細胞と同様のレベルまで低下し続ける(ポストホックダンの多重比較テキストとともにクラスカル-ウォリス検定を使用してP<0.0001、n=6試料、誤差バーはSEMである)。
図29】CD206発現が共培養の3日目に最高であることを示す図である。CD206発現は、3日目に著しく向上し、7日目には低下し始める。その後、CD206は対照細胞と同様のレベルまで低下し続ける(ポストホックダンの多重比較テキストとともにクラスカル-ウォリス検定を使用してP<0.0001、n=6試料、誤差バーはSEMである)。
図30】CD163発現が共培養の3日目に最高であることを示す図である。CD163発現は、3日目に著しく向上し、7日目には低下し始める。その後、CD163は対照細胞と同様のレベルまで低下し続ける(ポストホックダンの多重比較テキストとともにクラスカル-ウォリス検定を使用してP<0.0001、n=6試料、誤差バーはSEMである)。
図31】グラフ(i、ii、v、vi)及び写真(iii、iv)を示す図である。これらに、ヒト対象における本発明の有効性を実証するヒト研究からの結果を示す。本発明者らは、より詳細については実施例15を参照する。[実施例]
【0317】
本発明の例示的な実施形態を、添付の図面を参照して、本明細書に詳細に開示してきたが、本発明はそういった明確な実施形態に限定されない。添付の特許請求の範囲及びそれらの均等物によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく、当業者であれば、その中で様々な変更及び改変を実施することができる。
【実施例
【0318】
比較データ
Rybalko et al 2017(Regen. Med. Volume 12, number 2, pages 153-167)では、骨髄由来のMSCと共培養すると、U-937細胞上でのCD206発現の向上が示された。本発明者らは、単球をプライミングする本発明者らの方法を、彼らの方法論を倣うことによって彼らの方法と比較した。
【0319】
U-937細胞(CRL-1593.2、ATCC)を、10%FCS及び1%ペニシリン-ストレプトマイシンを補充されたRPMI-1650増殖培地で培養した。共培養実験の場合、MSCを6ウェルトランスウェルインサートに20,000個の細胞/cmで10%FCSを含有するDMEMに播種し、標準細胞培養条件下で一晩にわたり培養し、接着をもたらした。U-937細胞を100nMの12-O-テトラデカノイルホルボール-13-アセテート(TPA,12-O-tetradecanoylphorbol-13-acetate)で48時間処理し、10%FCSを含有するRPMI培地で400,000個の細胞/ウェルの濃度で6ウェルプレートに播種した。一晩培養に続いて、培地を幹細胞及びU-937細胞のそれぞれについて血清フリーDMEM又はRPMI培地/10%FCSに交換した。MSCを含有するトランスウェルインサートを、U-937細胞を含有する6ウェルプレートに移した。直接共培養実験の場合、U-937細胞を100nMのTPAで48時間処理し、RPMI/10%FBSで400,000個の細胞/ウェルの濃度で6ウェルプレートに播種した。次いで、MSCを1×10細胞/ウェルで添加した。トランスウェル及び直接培養のU-937細胞をフローサイトメトリーによって解析した。
【0320】
上記の方法により確認されたこととは、U-937細胞をMSC上に直接共培養及びトランスウェル共培養をした場合、CD206発現が、それぞれ67.6%及び69.2%に向上したことから、Rybalko et al.において開示されたデータ/方法を、本発明者らが再現したことである。
【0321】
しかし、この方法では、直接共培養及びトランスウェル共培養で、TIE2発現は、それぞれ3.1%と0.7%、CD163発現は、それぞれ18.1%と5.5%しか得られなかった(図1)。
【0322】
このことは、それぞれ、直接共培養細胞及びトランスウェル共培養細胞についてわずか1%と2%の「三重陽性」発現となった。
【0323】
したがって、これらの比較データが示すところは、Rybalko et al.に開示された方法では、本発明の細胞/細胞の集団が生成されないことである。
【実施例
【0324】
抗線維化実験
一実施形態では、本発明は、線維症の治療における本明細書に記載される細胞組成物の使用を提供する。本明細書に提示されるデータは、脚モデルにおいて優れた効果を示す。当業者であれば、このことによって、上記治療が肺の線維症において機能することが現実的で説得力のあるものとなることを期待すると思われる。実際、本文書で提供される証拠に基づいて、MHRA(英国政府のMedicines and Healthcare Products Regulatory Agency)は、肺での臨床応用を進めてきた。このことは、本明細書で提供される例示的なデータによって、一連の抗線維化臨床応用において記載される細胞組成物の使用が裏付けられることを例示する。
【0325】
MSC-プライミングの単球は、インビトロで抗線維化活性を有する。これらの細胞(馴化培地)は、TGFβによるヒト肺線維芽細胞の刺激後、SMA発現(図20A)及びフィブロネクチン(図20B)発現(線維症マーカー)の著しい抑止を刺激する。本発明の細胞はまた、シスプラチン誘導性アポトーシスから小気道上皮細胞(SAEC,small airway epithelial cell)をレスキューし(図21A)、全単球集団と比較して3倍より大きい内皮生存を刺激する(図21B)。正常な内皮の再生及び血管リモデリングは、肺損傷の後の線維症の健康な修復及び解消にとって極めて重要である。
【0326】
MSCプライミングの単球(すなわち、本発明の細胞)は、インビボで強力な抗線維化機能を有する:虚血の誘導の後のマウス後肢への本発明の細胞の送達によって、単独で培養されてある単球の送達と比較して、組織線維症の著しい軽減がもたらされる。
【実施例
【0327】
臨床安全性の研究
5人の患者に、本発明による細胞を注射する。
【0328】
患者を経過観察し、
・肺機能
・CTスキャン
・6分間歩行試験
・QoL質問票
の評価を行う。
【実施例
【0329】
カプセル封入
一実施形態では、本発明の細胞の集団をカプセル化する。本例では、本発明者らは、MSCとともに単球のカプセル封入を示す。
【0330】
ヒト単球とMSCを3:1混合物として調製し、アルギン酸溶液(0.9%w/v NaClに調製された1.5%w/v)とCaClを使用して、先に公表した本発明者らの技法(Ludwinski FE, Patel AS, Damodaran G, et al. Encapsulation of macrophages enhances their retention and angiogenic potential. NPJ Regen Med. 2019;4:6)に従って、カプセル化した。カプセルをハンクス平衡塩類溶液(HBSS,Hank's Balanced Salt Solution)を用いて70μM細胞ストレーナー(Corning社、英国)を通して2回洗浄し、RPMI/10%FCS培地2mlを含有する6ウェルプレートに3日間移した。この時間の後、細胞をトリプシン/EDTAを使用して単一細胞懸濁液へと取り出し、フローサイトメトリーを介してTIE2及びCD163及びCD206の発現について解析した。
【0331】
単球をMSCとカプセル封入すると、TIE2(31%)、CD206(97.8%)及びCD163(58.7%)の向上が認められ、このことは、共培養の必要性よりむしろ、送達のため細胞を共カプセル化するための新規な方法を示唆する(図17)。
【0332】
図17に、MSCとの初代単球のアルギン酸カプセル封入を示す。単球は、接着性共培養の必要性がなく、カプセル封入の後にTIE2、CD206及びCD163の高発現を呈する。
【0333】
本発明の利点とは、カプセル化される場合に細胞の集団がその三重陽性特徴を保持することである。このことは図17で実証される。
【実施例
【0334】
産生
単球はCLIの患者の血液から分離される。
【0335】
患者の定常状態では、これらの単球は、本発明者らの前臨床モデルのマウスの虚血肢を救助する能力が全くない。
【0336】
これらの単球はMSCと共培養される。
【0337】
MSCは、適切な任意のソースから入手することができる。本例では、MSCは脂肪組織由来MSCの社内バンクから使用する。
【0338】
共培養を実施してこれらの単球を駆動/プライミングし、その結果、3つのマーカー:TIE2、MRC1及びCD163のそれらの発現を上方調節する。これらのマーカーの組合せが存在することで、次いで本発明の細胞は、マウスの虚血肢を救助するために新たな血管の成長を刺激する能力が付与される。
【0339】
本明細書で開示される重要なステップとは、単球:MSCの最適比と、これらのマーカー3つすべてを発現するMo/MΦの数の約20倍(最終的には単球集団全体のうちの80%超を含む)の向上を刺激するために培養に必要な時間の長さとを決定することによって、共培養条件を最適化することであった。
【0340】
図2を参照すると、本発明者らの最適条件(B)下でMSCと共培養すると、三重陽性発現単球が、MSCなしの単球の培養(A)と比較して、20倍を超える向上を示す。
【実施例
【0341】
最適化された産生
本発明者らは、CLIの患者又は対照のいずれかから分離された全単球集団から、三重発現TIE2+、MRC1+、CD163+Mo/MΦを改変するために必要な条件を最適化した。
【0342】
本発明者らは、これらの改変された細胞の機能的能力を試験し、改変された細胞が血管の成長を調節する能力を有することを示した。
【0343】
機能的インビトロアッセイが示すところは、これらのMSC-プライミングのMo/MΦ由来の馴化培地は、MSCなしで培養した単球由来の馴化培地と比較して、動脈新生(平滑筋細胞の増殖)を高めることである(図3)。馴化培地を試験するのは、MSC-プライミングの単球が産生しているタンパク質は機能的であることを示すためである。
【0344】
図3に、MSC-プライミングのMo/MΦが、MO単独と比較して、平滑筋細胞の増殖をより大きく刺激することを示す。P<0.05、n=8;SMC=平滑筋細胞。
【実施例
【0345】
本発明の細胞を使用する血行再建
本発明のMSC-プライミングのMo/MΦは、非プライミングの対照Mo/MΦと比較して、後肢虚血HLIの本発明者らのマウスモデルにおいて虚血肢を血行再建する有意により高い能力を有する(図4)。
【0346】
図16Aに、MO単独と比較して、MSC-プライミングのMOによる虚血後肢の有意により大きい血行再建を示す(P<0.001、P<0.001。**P<0.05 ポストホック検定による、n=8匹のマウス/群)。
【実施例
【0347】
方法
患者リクルートメント
下肢組織の喪失及び/又は安静時疼痛を提示したCLI(ラザフォード分類4~6)の患者と、対照者(末梢血管疾患の臨床的証拠がない同齢の)と、健常対照者とをリクルートした。静脈血はエチレンジアミン四酢酸(EDTA,ethylenediaminetetraacetic acid)チューブ(BD Vacutainer社、英国)に収集した。全血からの単球の分離は、本発明者らの部門で十分に確立された技法である。要するに、最初にPBMCをFicoll-Paque及び磁性免疫ビーズを使用して静脈血100mLから分離した。血液をRPMI-1640と1:1で最初に混合し、その後に、Ficoll-Paque試薬上に2:1(血液:Ficoll-Paque)の比で層を形成した。試料を400gで30分間遠心分離し、単核球を除去した。残りの赤血球を、BD Pharm Lyse(BD Biosciences社)を使用して溶解させた。洗浄ステップに続いて、生成した細胞懸濁液をFcRブロッキング試薬(Miltenyi Biotec社)を使用してブロッキングし、抗ヒトCD14マイクロビーズとともにインキュベートし、これに続いて、免疫磁気ポジティブセレクションを行った。分離された単球を、フローサイトメトリー(Attune、Thermo UK社)を使用する解析前に、FITC結合抗ヒトCD14(BD Biosciences社)及び死細胞染色色素(7-AAD;BD Biosciences社)で標識して、分離された細胞の純度及び生存能を決定した。
【0348】
初代細胞培養
King's College LondonのAcademic Department of Vascular Surgery内の本発明者らのチームによって既に分離され、プールされかつバンク化された初代ヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞(adMSC,adipose-derived mesenchymal stem cell)を、本研究で使用した。これらのadMSCを、10%ウシ胎児血清(FCS、ThermoFisher Scientific社)、1%抗生物質/抗真菌剤(ThermoFisher Scientific社)、表皮増殖因子(EGF,Epidermal Growth Factor)(R&D Systems社)5ng/mL、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF,basic Fibroblast Growth Factor)1ng/mL、及び形質転換増殖因子(TGFβ(Transforming Growth Factor)、Millipore社)0.25ng/mLを補充されたダルベッコ改変イーグル培地(DMEM,Dulbecco's Modified Eagle Medium)で維持した。
【0349】
分離された単球を、単球培地(10%FCS及び1%抗生物質/抗真菌剤を補充されたRPMI-1640)で培養した。すべての細胞を、37℃、5%COの加湿インキュベーターで培養した。
【0350】
adMSCとの初代単球の共培養技法
共培養実験の場合、凍結adMSCをまず解凍し、adMSCが80~90%のコンフルエントになるまでこれらの通常の培養条件で2~3日播種した。コンフルエンシーが得られたら、adMSC培地を取り除き、初代分離単球を単球培地に一連の共培養比で播種した。本発明者らの研究室からの経験が細胞のうちの約10%は固着しないことになることを指示しているので、必要とされる最終的な数よりも10~15%より多い単球を添加した(下の表を参照されたい)。培地を1日目に交換し、次いで、採取まで48時間ごとに交換した。
【表2】
【0351】
馴化培地の収集
共培養物中の単球は、抗CD45ビーズ(Miltenyi Biotec社)を使用してadMSCから磁気的に再分離した。adMSCでプライミングされてあるこれらの単球及び単独で培養されてあるものを、10%FCSを含有するRPMIのT25フラスコへと再播種した。馴化培地を48時間の培養後に含有するこれらのフラスコから収集した。培地を400gで5分間遠心分離して、死滅細胞/浮遊細胞を除去した。上清を25000gで10分間再遠心分離した。上清を瞬間凍結し、-80℃で保管した。
【0352】
細胞、例えば単球のフローサイトメトリー解析
細胞外表現型決定
フローサイトメトリー解析の場合、細胞をトリプシン-EDTA(Sigma Aldrich社)を使用して剥離させた。細胞懸濁液を400gで5分間遠心分離し、その後、洗浄緩衝液(PBS、2mM EDTA、0.5%BSA)で洗浄した。細胞懸濁液をヒトFcRブロッキング試薬で20分間ブロッキングし、これの後、蛍光結合抗体のパネル(表3)を添加し、細胞を暗所で4℃で30分間インキュベートし、その後、洗浄した。細胞をAttune(商標)NxT(ThermoFisher社)フローサイトメーターでAttune(商標)NxTソフトウェアv2.7.0を使用して解析した。補正をOneComp eBeads(ThermoFisher社)を用いて行った。すべての試料について、蛍光マイナスワン(FMO,fluorescence minus-one)対照を使用して陰性染色を判定した。ゲーティング戦略は、デブリ、ダブレット及び死滅細胞の除去、これに続いて、CD45+ve細胞をゲーティングして単球を特定することを伴った。
【表3】
【0353】
細胞内表現型決定
単球を400gで5分間遠心分離し、上清を捨て、細胞を固定のために20分間4%パラホルムアルデヒド(PFA,paraformaldehyde)に再懸濁した。固定試料を洗浄緩衝液で洗浄し、400gで5分間遠心分離し、上清を捨てた。細胞ペレットを洗浄緩衝液100μLに再懸濁し、抗ヒトCD45とともに暗所で4℃で30分間インキュベートした。試料を洗浄緩衝液で洗浄し、その後に、遠心分離し、細胞透過処理のためにperm/wash 緩衝液(BD Biosciences社)100μLに再懸濁した。試料を細胞内パネルで30分間染色した(表3)。試料をperm/wash緩衝液で洗浄し、その後に、解析用に再懸濁した。
【表4】
【0354】
平滑筋細胞増殖アッセイ
ヒト平滑筋細胞(SMC,smooth muscle cell、Lonza社、英国)を1×10個の細胞/ウェルで、96ウェルプレートに10%FCSを含有するRPMI-1640培地で24時間、播種した。次いで、細胞を馴化培地(CM,conditioned medium)とともに一晩24時間培養した。対照ウェルは、バックグラウンド減算用の培地単独を含有するウェルと一緒に、非馴化RPMI-1640培地から構成した。24時間後、XTT(1mg/ml)を各ウェルに添加し、プレートを4時間培養した。これに続いて、吸光度を、プレートリーダー(Filter Max F5、Molecular Devices社)を使用して、参照波長620nmを用いて450nmで吸光度を測定した。12時間までは2時間ごとに、次いで22時間目に、さらに14時間(合計36時間)の間2時間ごとに読み取りを行った。アッセイを、3日目と7日目のプライミングされた/非プライミングの単球の11の個別試料について2回重複で実行した。すべてのデータを盲検化し、独立して解析した。
【0355】
統計学的解析
データを、GraphPad Prismバージョン8(GraphPad Inc.社)を使用して解析した。ノンパラメトリック検定をすべての実験について使用した(対応のないデータについてはマン・ホイットニーのU検定、対応のあるデータについてはウィルコクソンの対応した符号付き順位検定)。特に明記しない限り、データを平均値±平均値の標準誤差(SEM,standard error of the mean)として提示する。
【0356】
結果
adMSC-プライミングの単球の表現型
単独で培養した単球又はadMSCと共培養した単球の表現型を、2:1の単球:adMSC比で一連の時点(3、7、14及び21日)にわたって、フローサイトメトリーを使用して調査した(一時点当たりn=6試料、染色の例については図5及び6を参照されたい)。
【0357】
3日目
上方調節されたマーカー
adMSCと共培養した単球では、3日目に単独の単球培養と比較して、「M2様」受容体CD206、TIE2及びCD163の陽性発現率が有意に向上した。また、adMSCと共培養すると、「M1様」受容体CD80の発現も有意に向上した。
【0358】
下方調節されたマーカー
単球をadMSCと共培養すると、単球単独と比較して、「M2様」受容体NRP1の発現が有意に減少した。ADMSCsと共培養すると、HLA-DRの発現が有意に減少した。
【0359】
共培養した単球は、単独で培養した単球と比較して、CD86の発現に変化はなかった。
【0360】
7日目
上方調節されたマーカー
adMSCと共培養した単球では、7日目に単独で培養した単球と比較して、それぞれCD206、TIE2及びCD163の陽性発現率が有意に向上した。また、adMSCと共培養すると、CD80発現が有意に向上した。
【0361】
単球をadMSCと共培養すると、単球単独と比較して、CD86、NRP1又はHLA-DRの発現に有意な変化はなかった。
【0362】
14日目
上方調節されたマーカー
adMSCと共培養し単球では、14日目までに単独で培養した単球と比較して、CD206、TIE2及びCD163の陽性発現率が有意に向上した。ADMSCsと共培養すると、CD80の発現が有意に向上した。HLA-DRの発現も、有意に向上した。
【0363】
下方調節されたマーカー
単球をadMSCと共培養すると、単球単独と比較して、NRP1発現が有意に減少した。14日目までにADMSCsと共培養すると、CD86の発現が有意に減少した。
【0364】
21日目
上方調節されたマーカー
adMSCと共培養した単球では、21日目に単独で培養した単球と比較して、それぞれCD206、TIE2及びCD163の発現が有意に向上した。adMSCと共培養すると、HLA-DR及びNRP1の発現に差はなかった。CD80も有意に向上した。
【0365】
単球をadMSCと共培養すると、単球単独と比較して、CD86発現に変化はなかった。
【0366】
炎症誘導性CD38の発現の発現がMSC-プライミングの単球において上方調節されている
本発明者らは、主要な「M1様」炎症誘導性マーカーであるCD38及びCD80を評価した。CD38発現の単球細胞の割合は、adMSCのプライミング後、3日目(62.2±7.1% 対 91.7±2.6%、P<0.001、n=9、図7)と7日目(54.7±6.4% 対 85.0±4.4、P<0.01、n=8)の両方で有意に向上する。CD80発現も、adMSCプライミングの3日目に共培養で有意に向上した。
【0367】
図5は、単球のフローサイトメトリーによる特定を示す。培養中の単独の単球(A)又はadMSCと培養した単球(B)は、ダブレット及び死滅細胞除外の後のCD45発現に従って特定される。
【0368】
図6は、単球をadMSCと共培養した後のCD206、TIE2及びCD163及びCD86の向上に関するフローサイトメトリードットプロット及びヒストグラムの例を示す。
【0369】
図7は、adMSCによる単球のプライミング後のCD38発現の向上を示す。(A)adMSCによる単球のプライミング後、3日目におけるCD38発現の向上に関するフローサイトメトリードットプロットの例。(B)全体として、adMSCで単球をプライミングした後、CD38発現が有意に向上する、P<0.05

【0370】
【表5】
【0371】
adMSCでの単球プライミングのための細胞比の最適化
最適な単球プライミングに関する単球:adMSC比の重要性について調査した(n=5試料/比/時点、図8)。TIE2の上方調節は3:1の比で最大であった(7.6±3.3% 対 84.2±12.2%)。CD206発現の向上は2:1及び3:1の比でより高く(それぞれ12.2±2.7% 対 92.3%±18.7%及び6.5±3.2% 対 79±18.6%)、CD163発現は5:1で最も高まった(13.9%±5.4 対 88.8%±12.9%)。
【0372】
7日目までに、ADMSCと共培養した3つの「M2様」マーカーの発現は、5:1の比で有意に高まったが(しかし、3日目よりはまだ低い)(TIE2:13.46%±1.14 対 76.8%±14.18、CD206:9.09%±0.89 対 74.4%±9.89、CD163:13.45%±2.34 対 94.2%±18.7)、これは、それぞれ4.2倍、11.0倍及び10.8倍の向上を示した(クラスカル-ウォリス検定によりP<0.0001)。
【0373】
図8は、単球細胞表面発現の倍率変化上昇の全体的な最適化を示すヒートマップを示す(当該時点ごとに1:1の比と比較)。
【0374】
最適化された単球プライミングの実験の検証
実験の第1のセットが示唆したところは、adMSCと共培養した場合に単球の偏りは、3:1の比で3日目~7日目に最適であることであった。さらなる実験を、最適な単球表現型を産生する時点を確認及び検証するために、行った(n=21試料)。共培養における単球の偏りは、5日目及び7日目と比較して3日目でより大きかった(それぞれ、CD206:89.2% 対 62.1% 対 42.4%;TIE2:75.3% 対 50.4% 対 32.3%;CD163:78.3% 対 72.4% 対 28.9%)。3つのマーカーそれぞれの発現の倍率変化上昇は、5日目と7日目と比較して培養3日後に最も高かった(それぞれ、CD206:13.3倍 対 4.1倍 対 2.8倍;TIE2:16.8倍 対 7.8倍 対 4.3倍;CD163:7.0倍 対 4.7倍 対 2.8倍)。
【0375】
【表6】
【0376】
図9に、adMSCでの単球のプライミングの3日後に、CD206、TIE2及びCD163において倍率変化の上昇が最大であることを示す。
【0377】
シーケンシャルフローサイトメトリーゲーティングにより、3日目が「三重陽性」単球の改変(「教育」又は「プライミング」又は「産生」)にとって最適な時点であることを確認する
ゲーティング戦略を使用して、マーカーCD206、TIE2及びCD163について単一、二重及び三重陽性である細胞の割合を決定した(図10)。adMSCによるプライミングの3日後、単独で培養した単球と比較して、単一の受容体の発現(CD206:11.2±8.7% 対 91.6±13.8%;CD163:18.4±11.8% 対 82.4±10.7%;TIE2:9.1±7.1% 対 82.6±9.1%)及び二重の受容体の発現(CD206+/CD163+:4.9±4.1% 対 80.7±13.6%;CD163+/TIE2+:5.8±5.3% 対 73±9.5%;TIE2+/CD206+:5.4±4.5% 対 78.1±12.9%)は、有意に向上した(ウィルコクソン検定によるP<0.0001、n=21試料)。adMSC-プライミングの単球の三重陽性受容体発現(70.0±14.7%)は、単独で培養した単球(3.2±3.5%、P<0.0001、図11)よりも有意に高かった。
【0378】
adMSCによるプライミングの7日後、単独で培養した単球と比較して、adMSC-プライミングの単球において、単一受容体(CD206:14.2±8.3% 対 35.3±17.5%;CD163:10.0±15.8% 対 25.1±27.2%;TIE2:11.5±11.9% 対 31%±24.7)及び二重受容体(CD206+/CD163+:0.5±0.5% 対 22.9±17%;CD163+/TIE2+:0.4±0.5% 対 24.8±22.2%;TIE2+/CD206+:1.5±2.8% 対 22.2±16.2%)は向上した(ウィルコクソン検定によるP<0.0001、n=21)。adMSC-プライミングの単球の三重陽性受容体発現(16.3±15.3%)は、単独で培養した単球(0.09±0.1%、P<0.05、図11)よりも有意に高かった。しかし、adMSCプライミングの3日目の時点では、7日目(3.2±3.5%)と比較して、三重陽性細胞(70±14.7%)ははるかにより大きいという結果であった。
【0379】
図10に、単球マーカーのシーケンシャルゲーティング戦略を示す。CD45+単球を、FMO対照に基づいて、CD206、CD163及びTIE2のそれら単球の単一陽性発現に対してゲーティングする。次いで、二重陽性を、この集団(R1)をその他の2つのマーカー(R2及びR3)についてゲーティングすることによって、特定する。次いで、R2及びR3二重陽性集団を第3のマーカーについてゲーティングし、三重陽性細胞の割合を決定する。
【0380】
図11に、MSCの有無で、3日及び7日の培養の後の単球のCD206、CD163及びTIE2の発現に関する単一、二重及び三重陽性率のベンダイヤグラムを示す。単一、二重及び三重陽性の染色は、7日と比較して、ad-MSCプライミングの3日後に有意に高い(n=21試料、ウィルコクソン検定によりP<0.0001)。
【0381】
MSCと共培養した患者単球のプロテオームプロファイル
本発明者らの最適化技法使用してadMSCと共培養した単球は、特定の既知の「M1」又は「M2」の表現型を示さない。本発明者らは、これらの細胞の馴化培地中のタンパク質を測定することによって、共培養の機能的効果を決定した。共培養3日後、HB-EGF及びTGFβは有意に減少し(両方ともP<0.005、図12)、IL-12は有意に高かった(P<0.05)。7日目までには、adMSCと共培養した単球と単独で培養した単球の間でTGFβ又はIL-12に差はなかったが、一方、HB-EGFは依然として有意に減少していた(P<0.05)。
【0382】
図12:adMSCによるプライミング後の単球セクレトームの変化。IL12、TGFβ及びHB-EGFの変化は時間依存性である。
【0383】
重症下肢虚血の患者由来の単球のプライミング(「教育」)
本発明の細胞/細胞の集団は、自家細胞療法として使用することができる。したがって、本発明者らが目的としたところは、本発明者らの最適化方法を使用して、重症下肢虚血の患者から分離された単球をプライミングすることができることを確実にすることであった。本発明者らの最適化方法では、TIE2(それぞれ16.1±5.3% 対 2.2±0.4%、P<0.05)、CD206(7.2±2.6% 対 1.4±0.1%、P<0.005)について及びCD163(5.3±1.3% 対 1.4±0.3%、P<0.05、図13)について、7日目と対比して3日目にての倍率変化が有意により高いという結果である。
【0384】
図13:CLIの患者由来の単球のプライミング。3日間のプライミングの後、7日間と比較して、TIE2、CD206及びCD163の3つのマーカーすべての発現において倍率変化が有意により高い。
【0385】
対照ドナー由来の単球の培養と同様に、CLIの患者由来の単球の三重陽性受容体発現は、3日後にadMSCでプライミングされた単球よりも有意に高かったが(adMSCプライミング:55.6±10.3% 対 単独で培養:0.3±0.1%)、7日後では高くなかった(0.3.6±0.2% 対 3.5±3.4%、図14)。
【0386】
図14:MSCの有無で、3日及び7日の培養の後の、CLI患者由来の単球のCD206、CD163及びTIE2発現に関する単一、二重及び三重陽性率のベンダイヤグラム。単一、二重及び三重陽性の染色は、adMSC-プライミングの3日後より大きいが、7日ではより大きくない(n=CLIの3試料)。
【0387】
adMSCでプライミングされた単球のインビトロ及びインビボ機能
MSC-プライミングの単球は平滑筋細胞の増殖を誘導する
本発明者らは、インビトロ機能について、本発明者らの最適化比(3:1)を使用して、3日及び7日の培養後の、本発明者らのadMSC-プライミングの単球を非プライミングの単球と比較した。単独で播種した単球と対照培地の両方と比較して、adMSCでの3日間プライミングの単球由来の馴化培地を使用して、SMC増殖は有意に向上した(2元配置反復測定ANOVA、P<0.001、図15)。他方、7日の培養後、プライミングの単球と非プライミングの単球の間にインビトロのものに有意差はなかった。
【0388】
MSC-プライミングの単球は虚血後新血管形成をインビボで調節する
本発明者らは、それらの細胞を虚血マウス後肢へと送達することによって、インビボ機能について、本発明者らの最適化比(3:1)及び時点(プライミングの3日)を使用して、本発明者らのadMSC-プライミングの単球を非プライミングの単球と比較した。
【0389】
適切には、1×10^6個の細胞が送達される。適切には、前記1×10^6個の細胞は、マクロファージ又は単球細胞を含み、前記マクロファージ又は単球細胞のうちの少なくとも50%は、マーカー:MRC1;TIE2;及びCD163のそれぞれを発現することを特徴とする。適切には、前記細胞は生理食塩水緩衝液で送達される。適切には、前記細胞は筋肉内注射によって送達される。適切には、細胞の単回用量が投与される。
【0390】
本発明者らは、adMSC-プライミングの単球を送達すると、単球単独と比較して、虚血肢のレーザードップラーイメージングで見られる血行再建の有意な向上を見い出した(反復測定二元配置ANOVAによるP<0.01、図16)。注射された筋肉の免疫組織化学解析が示したところは、これらのadMSC-プライミングの単球による血行再建の向上のメカニズムは、細動脈の数の増加及び直径の拡大を介する標的組織内のより大きな動脈新生の結果であることであった。
【0391】
図15:adMSC-プライミングの単球及び単独の単球培養の平滑筋細胞増殖能。3日の後(A)、非プライミングの単球と比較して、adMSC-プライミングの単球由来の馴化培地(CM)で培養した後の平滑筋細胞(SMC)の増殖がより大きいが、プライミングの7日(B)ではより大きくないことを示すXTT測定のグラフの例。(c)全体として、3日目以後、単独で培養した単球由来のCMと比較して、adMSC-プライミングの単球由来らのCMに応答したSMC増殖に有意な向上がある。このようなことは培養の7日後には見られず、この場合、単球単独(D)と比較して、adMSC-プライミングの単球のSMC増殖に差異はない(n=11の別々の単球試料、それぞれ2回重複で実施)。
【0392】
図16に、虚血後肢に送達された、adMSCでプライミングした単球と、単独の単球培養の血行再建を示す。(A)虚血後肢へのadMSC-プライミングの単球の送達によって、21日目及び28日目までに単独で培養した単球と比較して、有意により大きい血行再建がもたらされる(2元配置反復測定ANOVAによりP<0.01、ポストホックボンフェローニ検定により*P<0.05、**P<0.01、n=5匹のマウス/群)。(B)adMSC-プライミングの単球と比較した、単独で培養した単球で治療されたマウスのレーザードップラー画像の例、21日目及び28日目までに足の灌流がより大きいことを示す。(C)単独で培養した単球と比較した、adMSC-プライミングの単球での治療後のマウスからの筋肉では細動脈(SMA染色、赤色)のサイズがより大きいことを示す免疫組織化学の例。(D)全体として、adMSC-プライミングの単球で四肢を治療すると、単独で培養した単球と比較して、動脈新生(細動脈の数)が有意に増加する(n=9匹のマウス/群)。
【0393】
図17に、MSCとの共カプセル封入の後の単球の表現型を示す。これらの単球は、TIE2、MRC1及びCD163に関するそれらの発現を上方調節する。
【0394】
図18に、MSC-プライミングの単球は、単独で培養した単球と比較して、MMP-9の有意に下方調節された発現を呈することを示す。
【0395】
図19に、MSC-プライミングの単球は、HGF、IL-10及びTNF-αの有意により高いレベルを発現することを示す。これらのタンパク質は、顕著な血管新生促進性/動脈新生促進性の活性及び抗線維化活性を有することが知られている。このような細胞は、リポ多糖(LPS)などの炎症性刺激に曝露される場合、IL-10及びTNF-αの発現をさらに上方調節することもできる。さらに、そのような細胞のプライミングの状態は、HGFに関するそれら細胞の発現が減少していないので、LPSへの曝露によって回復されない。
【0396】
図21に、単独で培養した単球(上)及びMSC-プライミングの単球の送達を後のマウス内転筋のピクロシリウスレッド染色を示す。製品は、組織損傷及び虚血後の線維症を防ぐ。各群の8匹のマウスから偏光顕微鏡法を使用して撮影した代表的な画像。白色矢印は、MSC-プライミングの単球で治療したマウスでは減少しているコラーゲン沈着(緑色及び橙色/黄色の線維)の領域を示す。全体として、MSC-プライミングの単球を用いた治療では、全単球集団と比較して、線維症に有意な低減がある(平均58%±4SEM;*P<0.005)。
【実施例
【0397】
安全性プロファイル
ここでは、本発明者らは、哺乳動物(マウス)の安全性評価データを提示する。
【0398】
本実験では、6匹のマウスに、1×10個のMSC-プライミングの単球(本発明の細胞)をヌード胸腺欠損マウス(n=6)へと尾静脈を介して静脈内注射した。
【0399】
生存率は6週目で100%であった。
【0400】
本発明者らは、図23を参照する。
【0401】
これは、ヒト使用に対する本発明の細胞の予想される安全性を実証する。
【実施例
【0402】
細胞の臨床的製造
最初のドナー産物(出発細胞)は、全血又は白血球アフェレーシス産物のいずれであってもよい。全血の場合、Lovo(商標)Medデバイス(Fresenius Kabi社、Three Corporate Drive Lake Zurich、IL 60047、米国)での「WB Step 1」細胞洗浄プログラムを使用する赤血球量減少が最初に必要であり、その後に、単球標識に進むが、一方、白血球アフェレーシス産物の場合、これは必要ではない。次いで、抗CD14磁気ビーズで細胞懸濁液を標識し、磁気カラムCliniMACS Plus細胞プロセッサ(カタログ番号151-01 Miltenyi Biotec社、住所同上)にそれを通してCD14+細胞に対して強化することによって、単球/マクロファージを分離する。
【0403】
「プライミング」(MSCとの共培養)
第1のステップは、各臨床バッチの製造のために、その後に解凍することができるMSCバイアルのバンクを生成することである。MSCは、RoosterBio Inc製、5295 Westview Drive、Suite 275、Frederick、MD 21703 (RoosterVial(商標)-hBM-20M-XF、MSC-CC040)をソースとし、保管前に製造元のガイドラインに従って製造し及び増殖させる(10個又は10個の細胞いずれかを含有するバイアル中、その結果、確保する共培養製造の規模に応じて様々な量で両形式が利用可能である)。
【0404】
次のステップは、これらの単球/マクロファージ細胞をMSCのコンフルエント層で通常には最大7日の期間、より適切には最大5日の期間培養することである。
【0405】
このコンフルエント層を生成するために、CellSTACK、Corning社Cat.No.3330当たり10個のMSCのバイアル1つが必要である。したがって、CellSTACK 10(Corning社Cat.No.3312)を大規模製造に使用する場合、10個のMSCバイアルが解凍されている必要がある。MSCを、単球/マクロファージとの共培養の72時間前に解凍し、適当なサイズのCellSTACK中でRoosterNourish培地とともに72時間培養する。こうして、CellSTACK内でMSCのコンフルエント(80%超)層がもたらされる。72時間後、単球/マクロファージをMSCに添加し、その時点で培地をX-vivo 10培地(Lonza社)に変更する。
【0406】
培地交換は必要ない。しかし、TIE2レベルが培養の5日後に向上していない場合には、培養期間を7日(5日目に培地を交換を含めて)まで延長してもよい。
【0407】
ここで「向上された」とは、出発細胞よりも高いレベルに高められた発現を意味する。
【0408】
適切には「向上された」とは、存在する単球/マクロファージのうちの少なくとも50%において、出発細胞よりも高いレベルに高められた発現を意味する。
【0409】
次いで、共培養した細胞を剥離させ、抗CD14ビーズとともに再インキュベートし、マグネットに再び通して処理して、単球/マクロファージをMSCから分離する。細胞に関し生成する単球強化集団を、MSCはそのマーカーを発現しないので、CD45発現を介して純度について解析することができる。
【0410】
次いで、細胞を、5%v/vヒト血清アルブミン及び10%v/vDMSOを補充されたPlasma-Lyte 148で製剤化し、速度制御フリーザーで凍結してもよい。
【実施例
【0411】
製造の例示的方法
ステップ1
最初のドナー産物は、全血又は白血球アフェレーシス産物のいずれであってもよい。全血の場合、血液350~485mLの血液を収集し、Lovo(商標)Medデバイス(Fresenius Kabi社)上で「WB Step 1」細胞洗浄プログラムを使用して、容量をおよそ150mLに減少させる。生成する赤血球減少懸濁液を、移送バッグへと収集する。白血球アフェレーシス産物の場合、細胞懸濁液は容量減少を必要としない。
【0412】
ステップ2:CD14+単球の強化
最初のドナー産物が全血の場合、赤血球減少量の1/100(およそ1.4~1.5ml)のCliniMACS CD14試薬(Miltenyti Biotec社、170-076-705)を、容量減少細胞懸濁液へと移す。最初の産物が白血球アフェレーシスの場合、CD14試薬5mLを移す。試薬を、2~10℃で20分間、連続的に穏やかに撹拌しながらインキュベートする。インキュベーションに続いて、細胞を、製造元の書面による使用説明書に従い、強化用のプリセットプログラム(Enrichment 3.2)を使用してCliniMACS Plus細胞プロセッサ(Miltenyi Biotec社)を通して処理する。CD14+標的細胞を細胞収集チューブに収集する。自動プログラムが完了次第、CD14+強化単球を含有する収集チューブを750×gで10分間遠心分離する。次いで、細胞をX-Vivo 10培地(Lonza社)40mLに再懸濁する。
【0413】
ステップ3:共培養
全血の最初のドナーの場合:細胞数が総単球1×10個未満の場合、細胞を1つのCellSTACK(Corning社、3330)へと播種する。1×10個超の単球が患者の血液から分離される場合、次いで、単球を2つのCellSTACK(Corning社.3310)に播種する。
【0414】
白血球アフェレーシスドナーの場合:最大1×10個の単球をCellSTACK-10(Corning社、3312)上へと播種する。細胞を、MSC(RoosterBio社)のコンフルエントな(80~90%コンフルエンス)層上で通常には最大5日の期間培養する。培地交換を必要としない。
【0415】
培養の5日後にTIE2を発現している単球の割合が50%以下である場合、培養期間を7日間(5日目に培地交換を含めて)まで延長してもよい。
【0416】
ステップ4:産物採取
CellSTACKから接着性細胞を剥離させるには、培地を除去し、予熱したTrypLE(ThermoFisher社、A1285901)20mLを、3~4分ごとに撹拌しながら、37℃のインキュベーター中で12分間各CellSTACK層に添加する。TrypeLEを、CliniMACS PBS/EDTA緩衝液+0.5%HASでクエンチする。最終容量を180mlにする(当初のドナー産物が白血球アフェレーシスであった場合は、上記の容量減少用のLovoを使用して)。単球-MSC懸濁液をCliniMACS CD14試薬(1/100)1.8mlとともに再インキュベートする。次いで、CliniMACS Plus強化プログラム又は磁気分離LSカラムのいずれか及びQuadroMACS Separator(Miltenyi Biotec社)を使用して、MSCから単球を分離することができる。その細胞数がより低く、この状況ではCliniMACS Plusは高収量及び高純度を確保するのに十分ではないので、最初の産物が全血である場合はLSカラムが必要である。保持細胞を、PlasmaLyte-148+10%HSAの総容量55mLに再懸濁する。細胞に関し生成する単球強化集団を、MSCはそのマーカーを発現しないので、CD45発現を発現する細胞の割合を決定することによって純度について解析することができる。細胞を、5%v/vヒト血清アルブミン及び10%v/vDMSOを補充されたPlasma-Lyte 148で製剤化し、速度制御フリーザーで凍結する。
【実施例
【0417】
製造の再現性
本発明者らは、方法(製造)の再現性を示すデータを提示する。
【0418】
本発明者らは図4を参照するが、この図に、上記の例におけるように、本発明の細胞(MSC-プライミングの単球)を生成する3人の別々の技師によるCD206、CD163及びTIE2の発現の再現性データを実証する棒グラフを示す。技師A:n=10試料、B:n=6試料、C:n=5試料。
【0419】
3つのマーカーすべてについて技師間で有意差は見られなかった。したがって、開示された方法は再現性がある。
【実施例
【0420】
25F9
本発明者らは、図25を参照する。
【0421】
単独で培養した単球と比較してあらゆる時点で、MSC-プライミングの単球において25F9の発現のより高い発現がある。単独で培養し単球は、7日目までは25F9の発現が向上しないのに対して、MSC-プライミングの単球では、培養条件に応じて25F9の発現レベルが向上する。
【0422】
本発明者らは、図26を参照する。
【0423】
血中の循環単球のシーケンシャルゲーティングを示すフローサイトメトリードットプロット。本例では、この血液試料で10,365個の単球を解析したが、そのうち8/10,365個の細胞が三重陽性(0.08%)である。
【0424】
血液単球(初代単球)はマーカー25F9を発現しないが、一方、MSC-プライミング細胞(本発明の細胞)は3日目までにこのマーカーを著しく上方調節する。
【実施例
【0425】
誘導の持続的発現/効果的なタイミング
種々のマーカーの先行技術の発現レベルは、本発明の細胞よりも顕著に低く、臨床上有用ではない。
【0426】
本発明者らはまた、これらのレベルは培養期間が長くなるとさらに降下することも実証しているが、このことは、本明細書に開示される方法におけるタイミングの価値ある貢献を強調している。
【0427】
留意すべきこととは、先行技術の方法では、単球を最初に数日間単独で培養し(マクロファージへの分化を産生する)これの後にMSCと共培養するので、ほとんどの細胞又はすべての細胞が7日超にわたって培養されることである。対照的に、本発明は、0日目からMSCとの単球(初代単球)の直接共培養を教示する。
【0428】
このことを示す、図28図29及び図30を本発明者らは参照するが、すなわち、これらの図が示すところは、3つのキーマーカーCD202B(TIE2)、CD163及びCD206(MRC1)のレベルが7日目を過ぎると降下すること、すなわち、本明細書で教示されるタイミング内ではレベルが卓越しており、本明細書で教示されるタイミングの外側で培養される場合にレベルが降下することである。
【実施例
【0429】
ヒトにおける実証
MONACO細胞療法研究:COVID-19後の抗線維化治療としての単球(NCT0480508)は、COVID-19感染の後の線維性肺疾患の患者における本発明者らの産物(すなわち、本発明の細胞)(すなわち、MSC-プライミングの単球)の単回静脈内用量の安全性及び忍容性を評価する第1相非盲検治験である。5人の患者を本研究にリクルートした。
【0430】
本発明者らは、12週目と24週目のFVCの絶対値の中央値が、ベースラインと比較して、それぞれ有意に向上することを見い出した(図31(i)、*P<0.05)。また、24週目に、歩行距離の有意な向上(図31(ii)、*P<0.05)、息切れ及びK-BILDスコアの改善(図31(v)及び図31(vi))も認められた。
【0431】
図31(iii)及び図31(iv)は、MSC-プライミングの単球の注入後に肺線維症の領域(矢印を参照されたい)(ファイルの赤色矢印)に改善を有する患者を示す。
【0432】
このようにして、本発明の有益な技術的効果がヒト対象で実証されている。
図1
図2
図3
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図6
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【国際調査報告】