(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-28
(54)【発明の名称】多層厚膜誘電体膜の製造システムおよび製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/35 20060101AFI20250220BHJP
【FI】
C23C14/35 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024548356
(86)(22)【出願日】2023-02-15
(85)【翻訳文提出日】2024-10-10
(86)【国際出願番号】 US2023013172
(87)【国際公開番号】W WO2023158712
(87)【国際公開日】2023-08-24
(32)【優先日】2022-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507310307
【氏名又は名称】インテヴァック インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100179648
【氏名又は名称】田中 咲江
(74)【代理人】
【識別番号】100222885
【氏名又は名称】早川 康
(74)【代理人】
【識別番号】100140338
【氏名又は名称】竹内 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100227695
【氏名又は名称】有川 智章
(74)【代理人】
【識別番号】100170896
【氏名又は名称】寺薗 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100219313
【氏名又は名称】米口 麻子
(74)【代理人】
【識別番号】100161610
【氏名又は名称】藤野 香子
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】ブラック,テリー
(72)【発明者】
【氏名】ハークネス,ザ フォース,サミュエル ディー.
(72)【発明者】
【氏名】ノーラン,トム
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029CA05
4K029DC39
(57)【要約】
リニア処理システムであって、搬入側ロードロックと、搬入側ロードロックと連結された第1マルチパス処理チャンバであって、スパッタリングマグネトロン配置を有し、マルチパス処理を実行するために、単一の基板キャリアを収容するように構成されている第1マルチパス処理チャンバと、第1マルチパス処理チャンバと連結されていて、複数のマグネトロン配置を有するシングルパスチャンバであって、直列に並べて配置された複数のキャリアを収容するように構成されていて、シングルパス処理用に構成されているシングルパスチャンバと、シングルパス処理チャンバと連結された第2マルチパス処理チャンバであって、スパッタリングマグネトロン配置を有し、マルチパス処理を実行するために、単一の基板キャリアを収容するように構成されている第2マルチパス処理チャンバと、第2マルチパス処理チャンバと連結された搬出側ロードロックチャンバとを有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタリングシステムであって、
搬入側ロードロックチャンバおよび搬出側ロードロックチャンバと、
連続処理中に、キャリアが前記搬入側ロードロックチャンバから前記搬出側ロードロックチャンバに通過することを可能とするインライン処理チャンバであって、前記搬入側ロードロックチャンバと前記搬出側ロードロックチャンバとの間に配置された少なくとも1つのシングルパス処理セクションと、前記搬入側ロードロックチャンバと前記搬出側ロードロックチャンバとの間に配置された少なくとも1つのマルチパス処理セクションとを備えるインライン処理チャンバと、;
複数の基板キャリアと、;
前記基板キャリアを、異なるセクションおよびチャンバで個別に制御される複数の速度で、前記搬入側ロードロックチャンバ、前記少なくとも1つのシングルパス処理セクション、前記少なくとも1つのマルチパス処理セクション、および前記搬出側ロードロックチャンバを通して搬送する搬送システムとを備え、;
前記少なくとも1つのマルチパス処理セクションは、スパッタリングマグネトロン配置を備え、マルチパス処理を実行するために、単一の基板キャリアを収容する前部および後部バッファ領域を含むように構成されており、
前記少なくとも1つのシングルパスチャンバは、キャリア移動方向に沿って配置された1つ以上のマグネトロン配置を備え、
前記シングルパスチャンバは、前記シングルパス処理セクションを出入りするキャリアを収容し、および連続処理のシングルパスのために、直列に並べて配置された複数のキャリアを収容するためのバッファ領域を含むように構成されている、スパッタリングシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のシステムにおいて、
前記スパッタリングマグネトロン配置は、隣接するスパッタリングコーンを形成するマグネトロン対を備え、前記1つ以上のスパッタリングマグネトロン配置は、少なくとも1つのマグネトロン対を備える、システム。
【請求項3】
請求項2に記載のシステムにおいて、
前記マグネトロン対のそれぞれが、当該対をなすマグネトロン間に配置されたガスインジェクタを備える、システム。
【請求項4】
請求項1に記載のシステムにおいて、
1つのマルチパス処理セクションは、前記搬入側ロードロックと前記シングルパス処理セクションとの間に配置されており、第2のマルチパス処理セクションは、前記シングルパス処理セクションと前記搬出側ロードロックとの間に配置されている、システム。
【請求項5】
請求項4に記載のシステムにおいて、
ゲートバルブが設けられていない開口スリットが、前記マルチパス処理セクションおよび前記シングルパス処理セクションの各間に設けられている、システム。
【請求項6】
請求項1に記載のシステムにおいて、
前記搬送システムは、前記シングルパスセクション内で前記複数の基板キャリアを第1搬送速度で一体的に搬送し、前記マルチパスセクション内で前記単一のキャリアを前記第1速度よりも速い第2速度で往復動作で搬送する、システム。
【請求項7】
請求項6に記載のシステムにおいて、
前記第2速度は、前記第1処理速度で移動する、前記シングルパスセクションにおけるキャリアが1つのパスを実行する間に、前記第2処理速度で移動する、前記マルチパスセクションにおける前記単一のキャリアが少なくとも2つの往路パスおよび1つの復路パスを実行することができるように、構成されている、システム。
【請求項8】
請求項1に記載のシステムにおいて、
前記マルチパスチャンバと連結された少なくとも1つのバッファセクションをさらに備える、システム。
【請求項9】
リニア処理システムであって、
搬入側ロードロックと、;
前記搬入側ロードロックと連結された第1マルチパス処理チャンバであって、スパッタリングマグネトロン配置を有し、マルチパス処理を実行するために、単一の基板キャリアを収容するように構成されている第1マルチパス処理チャンバと、;
前記第1マルチパス処理チャンバと連結されていて、キャリア移動方向に沿って配置されたスパッタリングマグネトロン配置を有するシングルパスチャンバであって、直列に並べて配置された複数のキャリアを収容するように構成されていて、シングルパス処理用に構成されているシングルパスチャンバと、;
前記シングルパス処理チャンバと連結された第2マルチパス処理チャンバであって、スパッタリングマグネトロン配置を有し、マルチパス処理を実行するために、単一の基板キャリアを収容するように構成されている第2マルチパス処理チャンバと、;
前記第2マルチパス処理チャンバと連結された搬出側ロードロックチャンバとを備える、リニア処理システム。
【請求項10】
請求項9に記載のシステムにおいて、
前記マグネトロン配置のそれぞれは、マグネトロン対を備え、
各マグネトロン対は、移動キャリアが、当該マグネトロン対の第1マグネトロンを通過した後に第2マグネトロンを通過して移動するように、処理方向に直列に配置されている、システム。
【請求項11】
請求項9に記載のシステムにおいて、
前記シングルパスチャンバの前記スパッタリングマグネトロン配置は、複数のマグネトロン対を備え、各マグネトロン対は、移動キャリアが、当該マグネトロン対のそれぞれの第1マグネトロンを通過した後に第2マグネトロンを通過して移動するように、処理方向に直列に配置されている、システム。
【請求項12】
請求項10に記載のシステムにおいて、
前記マグネトロン対の前記第1マグネトロンおよび前記第2マグネトロンは、同じ材料で構成されたターゲットを備える、システム。
【請求項13】
請求項11に記載のシステムにおいて、
前記マグネトロン対の前記第1マグネトロンおよび前記第2マグネトロンは、同じ材料で構成されたターゲットを備える、システム。
【請求項14】
請求項9に記載のシステムにおいて、
前記第1および第2マルチパスチャンバにおけるキャリアを互いに独立に移動させる一方で前記シングルパスチャンバにおけるキャリアを一体的に移動させる搬送機構をさらに備える、システム。
【請求項15】
請求項9に記載のシステムにおいて、
前記シングルパスチャンバは、当該シングルパスチャンバ内に配置されたキャリアが、当該シングルパスチャンバ内のマグネトロンの堆積コーンの外に存在することができないように、構成されている、システム。
【請求項16】
請求項15に記載のシステムにおいて、
前記第1および第2マルチパスチャンバのそれぞれは、当該マルチパスチャンバ内に配置されたキャリアを当該マルチパスチャンバ内のマグネトロンの堆積コーンの外に配置することができるように構成されている、システム。
【請求項17】
スパッタリングシステムであって、
単一の基板キャリアを収容するように構成された少なくとも1つのマルチパスチャンバと、;
前記マルチパスチャンバと連結された少なくとも1つのシングルパスチャンバと、;
前記シングルパスチャンバ内で前記複数の基板キャリアを第1搬送速度で一体的に搬送し、前記マルチパスチャンバ内で前記単一のキャリアを前記第1速度よりも速い第2速度で往復動作で搬送する搬送機構とを備える、スパッタリングシステム。
【請求項18】
請求項17に記載のシステムにおいて、
前記第2速度は、前記第1処理速度で移動する、前記シングルパスチャンバにおけるキャリアが1つのパスを実行する間に、前記第2処理速度で移動する、前記マルチパスチャンバにおける前記単一のキャリアが少なくとも2つの往路パスおよび1つの復路パスを実行することができるように、構成されている、システム。
【請求項19】
スパッタリングチャンバであって、
基板キャリアの搬送を可能とする搬入側スリットおよび搬出側スリットを有する真空チャンバと、;
前記真空チャンバに設けられた少なくとも1つのマグネトロン配置であって、前記基板キャリアの移動方向に直列に配置された2つのマグネトロンを備えるマグネトロン配置と、;
前記2つのマグネトロン間に反応性ガスを注入するために配置されたガスインジェクタとを備え、;
前記搬入側スリットおよび前記搬出側スリットには、ゲートバルブが設けられていない、スパッタリングチャンバ。
【請求項20】
請求項1に記載のチャンバにおいて、
前記2つのマグネトロンのそれぞれは、他方のマグネトロンのターゲットと同じ材料で構成されたターゲットを備える、チャンバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2022年2月15日に出願された米国仮特許出願第63/310,548号からの優先権の利益を主張するものであり、その開示内容は、参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
本開示は、真空チャンバを用いて基板上に薄層を形成するシステムに関する。
【0003】
基板上に薄膜を形成する従来のシステムは、複数の基板が真空チャンバ内に配置されていて、同じ薄膜がすべての基板上に同時に堆積される一般的なバッチ処理アーキテクチャを採用していた。しかし、堆積される膜の特性の要件がますます厳しくなるにつれて、当業者は、単一の基板が1つの真空チャンバで処理され、これにより膜の形成に対する制御が強化されたアーキテクチャに注目するようになった。もちろん、基板を1つずつ処理することは、製造ラインのペースを落とすことにつながり、これによりコストが増大する。
【0004】
本出願人は、これまで、様々な独自のアーキテクチャを用いて基板上に個別に薄層を形成するシステムを含む、基板を処理する様々なシステムを開示してきた。一例は、米国特許第6,919,001号に開示されたシステムであり、その開示内容は、参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。開示されたシステムは、単一の基板が各ステーションで静的モード(つまり、膜が堆積される間、基板が静止している)で処理される、「ダブルデッカー」インラインアーキテクチャを採用している。各処理時間の終了時に、各基板がシステムにおける真空チャンバのそれぞれによって処理されるまで基板が個々のキャリア上で「立て続けに(back-to-back)」移動されるように、すべての基板が次のステーションに移動される。このシステムは、長年にわたって商業的な成功を収めていて、200LEAN(登録商標)という商品名で販売されている。
【0005】
本出願人によって開示された他のアーキテクチャは、米国特許第9,914,994号に記載されており、その開示内容は、参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。開示されたアーキテクチャは、静的およびパスバイ処理をともに組み合わせることを可能とする。静的処理は、上記で引用した‘001号特許に開示された処理と同様である一方で、パスバイ処理では、薄膜が基板上に前端縁から後端縁まで形成されるように、堆積処理中に基板がソースの前で移動される。
【0006】
技術が進歩し、様々な堆積層の要件が変化するにつれて、時には所望の処理パラメータが既存のアーキテクチャの使用にあまり適さないことがある。例えば、基板を立て続けに処理する場合、各チャンバが同時に処理を開始および終了し、基板が次のステーションに移動して再び処理を開始することが可能となるように、すべてのステーションで処理時間、つまりタクトタイムが同じであることが望ましい。しかし、時には異なる材料、異なる厚さ等の複数の層が基板上に堆積されることが求められる。例えば、耐久性を有し傷がつきにくい光学膜を作るためには、例えば250nm未満の複数の薄層、および例えば500nmよりも厚い少なくとも1つの厚層が求められる。複数の薄層は、反射率を低減するなど、光学特性を変更し、またはヤング率などの機械特性を変更するために用いられる。このような要件は、タクトタイムを複雑化し得、または処理チャンバの数の増加を要し得、これが製造コストを増大し、システムの内部に大量のWIP(仕掛品)をもたらすこととなる。
【0007】
従来のドラムコータは、安価であり、複数の層を堆積することができるが、いくつかの制限がある。従来のドラムコータは、堆積源を横切ってアークをスイングさせることから、基板サイズが均一性の問題によって制限される。また、従来のドラムコータは、異なる特性を有する複数の層を同時に堆積することができない。例えば、1.65の屈折率を有するSiON膜をドラムコータで堆積しつつも、1.90の屈折率を有するSiON膜をも堆積することができない。反応性ガスの混合が十分に制御されていないことに加えて、ソース間での流体連通が多すぎる。さらに、ドラムコータがバッチ間で処理チャンバを排気することから、水蒸気の取り込みによって粒子および処理のばらつきが発生する可能性がある。
【発明の概要】
【0008】
以下の本発明の概要は、本発明のいくつかの態様および特徴の基本的な理解を提供するために、含まれる。この概要は、本発明の広範な概要ではなく、本発明の主要なまたは重要な要素を特に特定したり、本発明の範囲を画定したりすることを意図したものではない。その唯一の目的は、以下に提示されるより詳細な説明の前置きとして、本発明のいくつかの概念を簡略化した形態で提示することにある。
【0009】
開示される実施形態は、異なる特性および異なる厚さの複数の薄層の堆積を可能としつつも、製造中にシステムで拘束されるWIPを低減するシステムアーキテクチャを提供する。開示される実施形態は、基板が一方側から入り、様々な層を形成するシステムを横断し、他方側から出る、リニア処理システムを提供する。システムは、複数の真空チャンバを含み、そのうちのいくつかが「一方向」パスバイ処理用に構成されている一方で、他が「往復方向」パスバイ処理用に構成されている。
【0010】
関連する態様では、開示される実施形態は、運転ユニットに区分またはセクション化された真空処理チャンバを提供する。運転ユニットのうちいくつかは、「一方向」パスバイ処理用に構成されている一方で、他は、「往復方向」パスバイ処理用に構成されている。各セクションは、一般的に、異なる処理モードを可能とするのに、および各後続の処理ステップのためのセクション間でキャリアを移動させるのに必要な、個別にアクセス可能な搬送制御を備える。シングルパスセクションは、一般的に、キャリアが前の処理セクションから順に到着する際に、当該キャリアを「隅から隅まで(head-to-toe)」まとめて最適に配置するために、1つのセクション内であっても独立した速度制御を必要とする。
【0011】
搬送制御システムは、少なくとも3つの異なる動作速度を同時に採用する:ロードロックを通ってインラインシステム/チャンバへだけでなく、インライン処理セクション間でも、キャリアを搬送する少なくとも1つの搬送速度、「一方向」パスバイ処理用に調整された少なくとも1つの第1処理速度、および「往復方向」パスバイ処理用に構成された少なくとも1つの第2処理速度。一般的に、往復方向パスバイ処理セクションに求められる第2処理速度は、ワンパスセクションに求められる第1処理速度よりも格段に速い。
【0012】
開示されるリニア処理システムの一実施形態は、以下を備える:搬入側ロードロックチャンバ;搬入側ロードロックセクションと連結された第1マルチパス処理チャンバまたはセクションであって、第1マルチパス処理チャンバまたはセクションは、スパッタリングマグネトロン配置を有し、マルチパス処理を実行するために、単一の基板キャリアを収容するように構成されている;第1マルチパス処理チャンバまたはセクションと連結されていて、キャリア移動方向に沿って配置された1つ以上のマグネトロン配置を有するシングルパスチャンバまたはセクションであって、シングルパスチャンバまたはセクションは、直列に並べて配置された複数のキャリアを収容するように構成されていて、シングルパス処理用に構成されている;シングルパス処理チャンバと連結された第2マルチパス処理チャンバまたはセクションであって、第2マルチパス処理チャンバまたはセクションは、スパッタリングマグネトロン配置を有し、マルチパス処理を実行するために、単一の基板キャリアを収容するように構成されている;および、第2マルチパス処理チャンバまたはセクションと連結された搬出側ロードロックチャンバ。
【0013】
また、以下を備えるスパッタリングチャンバが開示される:基板キャリアの搬送を可能とする搬入側スリットおよび搬出側スリットを有する真空チャンバ;真空チャンバに設けられた少なくとも1つのマグネトロン配置であって、マグネトロン配置は、基板キャリアの移動方向に直列に配置された2つのマグネトロンを備える;2つのマグネトロン間に反応性ガスを注入するために配置されたガスインジェクタ;搬入側スリットおよび搬出側スリットには、ゲートバルブが設けられていない。
【0014】
さらに、以下を備えるスパッタリングシステムが提供される:単一の基板キャリアを収容するように構成された少なくとも1つのマルチパスチャンバ;複数の基板キャリアを収容するように構成されていて、マルチパスチャンバと連結された少なくとも1つのシングルパスチャンバ;シングルパスチャンバ内で複数の基板キャリアを第1搬送速度で一体的に搬送し、マルチパスチャンバ内で単一のキャリアを往復動作で第1速度よりも速い第2速度で搬送する搬送機構。
【0015】
本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成する添付の図面は、本発明の実施形態を例示するものであり、本明細書とともに、本発明の原理を説明し、例示する役割を持つ。図面は、例示的な実施形態の主要な特徴を図式的に例示することを意図したものである。図面は、実際の実施形態のすべての特徴や、描かれた要素の相対的な寸法を描写することを意図したものではなく、縮尺通りに描かれていない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、開示される実施形態に従うシステムの全体概略図である。
【
図2A】
図2Aは、オプションのバッファチャンバまたはセクションを使用する、変更された実施形態を示す図である。
【
図2B】
図2Bは、モジュラーセクションで構成された実施形態を示す図である。
【
図3A】
図3Aは、単一のマルチパスチャンバまたはセクションを有する実施形態を示す図である。
【
図3B】
図3Bは、複数のマルチパスチャンバまたはセクションを有する実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のスパッタリングシステムの実施形態を、図面を参照して説明する。異なる実施形態を、異なる基板を処理するため、またはスループット、膜の均一性、ターゲットの稼働率等といった異なる利点を達成するために使用し得る。達成しようとする結果に応じて、利点と要件および制約とのバランスを取りつつ、本明細書に開示される異なる特徴を部分的にまたは最大限に、単独でまたは他の特徴と組み合わせて使用し得る。したがって、特定の特徴および利点が異なる実施形態を参照して強調されるが、開示される実施形態に限定されるものではなく、特徴は、他の実施形態に、または他の組み合わせで組み込まれ得る。
【0018】
本出願人は、以前に、基板キャリアが1つのチャンバまたはセクションから次に直接的に移動するように、システムのチャンバおよびセクションが直線的に配置されているリニアシステムのアーキテクチャを開示した。米国特許第9,502,276号を参照し、その開示内容は、参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。当該‘276号特許の開示内容は、チャンバを直線的に配置する様々な態様、基板を搬送するためのキャリアの使用、およびシステムからの基板のロードおよびアンロードについての詳細を提供する。したがって、このような説明は、本明細書では繰り返されず、このような詳細については当該‘276号特許の開示内容を参照されたい。
【0019】
以下の開示内容は、単一のインラインシステムで2種類の処理動作を組み合わせる独自のシステムアーキテクチャの実施形態を含む。開示される特徴は、処理チャンバまたはセクション間の反応ガスの制御の改善、異なる種類および異なる厚さの層を形成する性能、システムWIPの低減、システム設置面積の小型化などを含む。開示される例では、マグネトロンは対で用いられ、厚い個々の層には複数の対が用いられ、一方で薄層には単一の対が用いられる。薄層を堆積するために、基板は、単一のソース対を通過して複数回往復でパスする。各パスは、異なる層を堆積することができ、例えば、パス1が、1.6の屈折率を有する膜を堆積することができ、パス2が、1.9の屈折率を有する膜を堆積することができる、などである。逆に、各パスで厚さが増大するように、各パスが同じ種類の膜を堆積することができる。厚層を堆積するために、複数のソース対を用いることができる。基板は、基板またはキャリアが隅から隅まで配置された状態で、より低速な速度で往路動作でこれらのソースを通過して移動する。開示される実施形態では、「インラインフォワード」のワンパス堆積チャンバまたはセクションでは、キャリアが隅から隅まで配置される一方で、「往復方向」チャンバのそれぞれでは、1つのキャリアのみが存在する。この配置は、システムスループットを制限することなくWIPを大幅に低減する。
【0020】
このアーキテクチャは、バッチシステムの最大の利点である、1または複数のソースを通過する複数のパスと、ロードロックを有するインラインシステムの最大の利点である、良好な均一性および高い生産性とをもたらす。これは、異なる種類の処理が単一のインライン処理フローで実行されることにより達成される。開示されるインライン処理フローを、単一のユニットチャンバによって組み立てることができ、またはセクションを相互接続することにより組み立てることができる。したがって、この意味では、ライン全体を、複数のチャンバで構成されたシステム、または異なるセクションで構成された単一の処理チャンバとして概念的に考えることができ、各セクションを、別々に組み立て、その後、完全なチャンバを形成するために他のセクションと接続し得る。したがって、本明細書では、チャンバおよびセクションへの参照は、置き換えられ得る。
【0021】
図1は、開示される実施形態に従うシステムの全体概略図であり、システムからの基板のロードおよびアンロードに関する詳細は、わかりやすさのために省略される。また、ローディング100およびアンローディング140がシステムの両側に示される一方で、上記‘276号特許で説明されたように、基板キャリアをアンローディング側からローディング側に移送するために、様々な機構を採用することができる。これにより、ロードおよびアンロードの両方をシステムの同じ側から実行しつつも、キャリアが依然としてシステム全体を直線的に横断することができる。ロードおよびアンロードは、大気環境で実行され、一方でキャリアは、まず搬入側ロードロックチャンバ105に入り、搬出側ロードロックチャンバ135を介してシステムを出ることにより、システム全体を真空環境で横断する。図示されるように、システムは、システムにおけるタクトタイムのマッチングを支援し、往復でのマルチパスを可能とするために、搬入側バッファチャンバ110および搬出側バッファチャンバ130を任意に含み得る。システムの「心臓部」は、マルチパス処理セクションおよびシングルパス処理セクションで構成された、接続されたインライン真空チャンバを備える。マルチパスとは、このようなセクションで処理されるキャリアが、複数の層を連続的に形成する(つまり、各パスで1つの層が形成される)ために、複数回往復で移動されることを意味する。シングルパスとは、このようなセクションで処理されるキャリアが、処理セクションを往路方向動作で1回のみ横断することを意味する。
図1に示される実施形態では、キャリアがまずマルチパスセクション115で処理され、その後シングルパスセクション120で処理され、その後マルチパスセクション125で処理され、その後搬出側バッファ130および搬出側ロードロック135を通ってシステムを出る。システムのインライン処理チャンバには、いくつかのマルチパスセクションと、1つ以上のシングルパスセクションとが含まれ得る。
【0022】
基板は、
図1の吹き出しに示されるキャリア102などのキャリア上で、システム全体を通して搬送される。キャリア102は、1または複数の基板を搭載するために構成され得る。
図1は、一例にすぎないが、3つの基板107を示している。この例では、キャリアは、基板107が2つのレール104によって挟まれて載置される本体106を有し、レール104は、真空チャンバの内部に配置された磁気ホイール(したがって、
図1では現れない)に乗っている。
【0023】
図2は、
図1におけるA-A線に沿う断面を概略的に示しており、破線矢印は、処理中のキャリアの概ねの進行方向を示している。搬入側ロードロック205は、ゲートバルブ203を介して大気環境から隔離されていて、ゲートバルブ208を介してバッファ領域/チャンバ210から隔離されている。キャリア202がロードロック205に入るとき、ゲートバルブ203は開いていて、ゲートバルブ208は閉じている。キャリア202がロードロック内に入ると、ゲートバルブ203が閉じられ、ロードロックが真空状態に排気される。その後、ゲートバルブ208が開かれ、キャリア202をバッファ領域/チャンバ210に移動させることができる。ロードロック235を介してキャリア202を解放するために、反対の処理が反対側の端部で行われる。
【0024】
とりわけ、
図2では、バッファ領域210および230が、それぞれマルチパスチャンバ215および225の一部として示されている。逆に、
図2Aでは、マルチパスチャンバをより小さく構成することを可能とするオプションのバッファチャンバ210および230が採用されている。いずれの実施形態も、以下記載される処理のために同等の効率で用いられ得る。したがって、本開示の文脈では、バッファチャンバまたはバッファ領域への参照は、置き換えられ得る。
【0025】
基板上への複数の層の製造は、以下のように進行する。マルチパスチャンバ215および225のそれぞれは、基板上に堆積される材料をスパッタリングするマグネトロン対250を含む。この実施形態では、マグネトロン対250の各マグネトロンは、同じ対の他方のマグネトロンと同じ材料をスパッタリングするが、チャンバ215の対は、チャンバ225の対とは異なる材料をスパッタリングし得る。マルチパスチャンバ215および225のそれぞれでは、キャリアが、複数回往復で、つまり、少なくとも2つの往路動作および1つの復路動作で移動することにより、マグネトロン対250の下で複数のパスを行う。往路であっても復路であっても、各動作は1つのパスとしてみなされ、各パスについて、コントローラ280は、得られる膜が異なる特性、例えば、異なる厚さ、異なる屈折率等を有し得るように、スパッタリング処理のパラメータ、例えば、マグネトロン電力、反応性ガスフロー、基板バイアス、搬送速度等を変更し得る。
【0026】
マルチパスチャンバ215および225のそれぞれは、
図2における破線吹き出しに概略的に示されるように、キャリアが基板を、先行マグネトロン252によって形成される堆積コーン253の完全に先かつ外に、また後続マグネトロン254の堆積コーン256の完全に手前かつ外に配置することを可能とするために、チャンバ内のキャリアの移動長さ(
図2の破線吹き出しに符号Lで示されている)が十分に長いという点で、マルチパス堆積処理用に構成されているといえる。この態様で、チャンバの一方側から開始して、キャリアは、基板が2つの隣接する堆積コーンによって規定される堆積ゾーンの外にある状態でチャンバ内に位置し、基板が堆積ゾーン全体を横断するように、チャンバの他方側に向かって移動し、その後堆積ゾーンを完全に出るがチャンバ内に留まることができる。本開示の文脈では、「堆積コーン」という用語は、マグネトロンのアクティブな堆積領域を概念的に指すために用いられ、必ずしもそのアクティブな堆積領域の形状を指すものではない。
【0027】
代替的に、
図2Aで概略的に示されるように、堆積ゾーンの一方側では基板を堆積ゾーンの外に配置することを可能とするためにその移動長さを延長する一方で、他方側では基板を堆積ゾーンの外に配置する役割を持つバッファチャンバ、例えばバッファチャンバ210または230を設けることにより、チャンバをマルチパス処理用に構成することができる。
【0028】
シングルパスチャンバ220は、複数のマグネトロン対250を含む。例として、
図2は、2つの対を示している。一点鎖線矢印によって示されるように、キャリアは、一般的に処理方向または往路方向と呼ばれる一方向で1つのパスのみでチャンバ220を横断する。また、マルチパスチャンバは、各チャンバで個別に移動する単一のキャリアを収容するように構成されており、一方でシングルパスチャンバ220は、前後に並べて配置されていて列車の車両のように一緒に移動する複数のキャリアを収容するように構成されている。これらの異なる動作を、コントローラ280によって、例えば、磁気ホイール209に通電することにより制御することができる。さらに、破線吹き出しに示されるように、シングルパスチャンバは、堆積コーン外のキャリアを収容するにはチャンバ内に十分なスペースがないように、構成されている。したがって、シングルパスチャンバに入るキャリアは、シングルパスチャンバを出るまで、設定された一定の速度で連続的に移動しなければならず、そうでなければ、形成される層の均一性が許容できないものとなる。
【0029】
したがって、以下を備えるリニア処理システムが開示される:搬入側ロードロック;搬入側ロードロックチャンバと連結された第1マルチパス処理チャンバであって、第1マルチパス処理チャンバは、スパッタリングマグネトロン配置を有し、マルチパス処理を実行するために、単一の基板キャリアを収容するように構成されている;第1マルチパス処理チャンバと連結されていて、キャリア移動方向に沿って配置された複数のマグネトロン配置を有するシングルパスチャンバであって、シングルパスチャンバは、直列に並べて配置された複数のキャリアを収容するように構成されていて、シングルパス処理用に構成されている;シングルパス処理チャンバと連結された第2マルチパス処理チャンバであって、第2マルチパス処理チャンバは、スパッタリングマグネトロン配置を有し、マルチパス処理を実行するために、単一の基板キャリアを収容するように構成されている;および第2マルチパス処理チャンバと連結された搬出側ロードロックチャンバ。
【0030】
図2に示されるように、搬入側ロードロックチャンバ205は、ゲートバルブ203および208を用いて隔離されている。同様に、搬出側ロードロックチャンバ235は、ゲートバルブ204および207を用いて隔離されている。しかし、この実施形態の特徴は、いずれの処理チャンバまたはセクション間にもゲートバルブが設けられていないことにある。むしろ、開口スリット214がインライン処理システムのハードウェア構成要素間(つまり、2つの処理またはバッファチャンバまたはセクションの各間)に設けられ、そこを通る自由な流れを可能とする。したがって、スリット214は、ゲートバルブの開閉を待つことなく、処理およびバッファチャンバまたはセクション間のキャリアの自由な動作を可能とする。
図2Aに示されるように、バッファ領域も開口スリットを備える。この有利な特徴は、少なくとも部分的には、マグネトロン対250の独自の配置によって可能となる。
【0031】
図2Bは、単一の真空チャンバが複数のモジュラーセクションで構成されており、各セクションをバッファセクションまたは処理セクションとすることができる他の実施形態を示している。
図2Bに示されるように、システム全体が複数のセクション280で構成されていて、すべてのセクション280は、幅、高さ、長さの点で同じサイズを有し得る。すべてのセクション280は、処理システムまたは処理チャンバと呼ぶことができる1つの真空エンクロージャを形成するために、一緒に接続されている。第1セクション280は、入口に取り付けられたゲートバルブ203と、出口側に取り付けられたゲートバルブ208とを有することにより、ロードロックチャンバとされている。同じことが、搬出側ロードロック235を形成するためになされている。残りのセクションは、ゲートバルブなしに互いに接続されていて、これにより、セクション280間で共通の真空環境を有する1つの真空チャンバが形成されている。ロードロックチャンバのそれぞれは、個別に運転可能な独自の真空ポンプ(
図1を参照)を必要とするが、セクション間に隔離がないことから、主処理チャンバは、すべてのセクションを真空排気するために1つ以上の真空ポンプを使用し得る。
【0032】
図2Bに示される実施形態では、モジュラーセクションが、マグネトロン対を収容することができる。例えば、1つのセクション280は、マルチパスチャンバ215を形成するために、マグネトロン対250を備え得る。マルチパス設備を可能とするために、マグネトロンを有しない2つのモジュラーセクション280がセクション215に取り付けられ、これにより、2つのバッファセクション、1つの上流側および1つの下流側のマルチパスセクション215が形成されている。逆に、セクション280がシングルパスセクションとして機能する場合、バッファステーションは不要である。したがって、例えば、マグネトロン対をそれぞれ備える2つのモジュラーセクション280を一緒に接続して、より大きいシングルパスセクションを形成することができる。
【0033】
したがって、以下を備えるリニア処理チャンバが開示される:直線的に一緒に取り付けられた複数のセクションであって、複数のセクションは、少なくとも以下を含む:第1ゲートバルブがチャンバの第1セクションの入口に取り付けられており、第2ゲートバルブが第1セクションの出口に取り付けられている;第3ゲートバルブが最後のセクションの入口に取り付けられており、第4ゲートバルブが最後のセクションの出口に取り付けられている;第1セクションに取り付けられた第2セクションが、第1バッファステーションを形成する;第2セクションに取り付けられた第3セクションが、第1マグネトロン対を備え、マルチパスセクションを形成する;第3セクションに取り付けられた第4セクションが、第2バッファステーションを形成する;第5セクションは、マグネトロン対を備え、シングルパスセクションを形成する。
【0034】
破線および破線吹き出しに示されるように、各マグネトロン配置250は、移動キャリアが第1および第2マグネトロンを通過して移動するように、処理方向に直列に配置されたマグネトロン対、例えば、252および254を備える。各マグネトロンは、所望の層を形成するために基板上にスパッタリングされる材料で構成されたターゲット248を含む。ターゲットのスパッタリングは、マグネトロンの周りのプラズマを維持することにより行われる。酸素、窒素等の反応性ガスが、2つのマグネトロン間に戦略的に配置されたインジェクタ260を介して注入され、それによって反応性ガスがマグネトロン対の間に注入される。この独自の配置は、以下の利点をもたらす。ガスが、対をなす2つのマグネトロン間に注入されると、ガスが堆積膜によって、つまり、堆積コーンでスパッタリングされる材料の流れによって「ポンピングされる」。このポンピング作用は、ガス内の反応物を消費し、それによって、供給されるガスを効率的に使用し、他の層に到達する可能性がある、スリットを通る反応物の流出を低減する。逆に、他のマグネトロン対から到着する可能性がある反応物も同様に、堆積コーンの外縁で「ポンピングされる」。このような処理の「ポンピング」は、あるセクションにおける堆積が他のセクションにおける堆積に及ぼす影響を格段に低減する。反応性ガスの流れにおける変化と、接続されたセクションの反応性ガスの流れにおける変化による、あるセクションで堆積された対応する膜の特性とを、一般に、取るに足らないレベルに低減することができるように、接続されたセクションのアクティブな処理領域間の反応性ガスの交換は、各セクションのアクティブな領域を取り囲むバッファ領域におけるアクティブな真空ポンピングによってさらに低減される。したがって、この配置では、処理チャンバ間にバルブゲートは不要であり、流体が処理チャンバ間を自由に流れることが可能となる。
【0035】
したがって、以下を備えるスパッタリングチャンバが開示される:基板キャリアの搬送を可能とする搬入側スリットおよび搬出側スリットを有する真空チャンバ;真空チャンバに設けられた少なくとも1つのマグネトロン配置であって、マグネトロン配置は、基板キャリアの移動方向に直列に配置された2つのマグネトロンを備える;2つのマグネトロン間に反応性ガスを注入するために配置されたガスインジェクタ;搬入側スリットおよび搬出側スリットには、ゲートバルブが設けられていない。
【0036】
また、以下を備えるアクティブスパッタリングモジュールが開示される:基板キャリアの搬送を可能とする一方で、モジュールを挟むバッファ領域に対するガスの出入りを部分的に制限する、搬入側スリットおよび搬出側スリット;搬送スリット間に設けられた少なくとも1つのマグネトロン配置であって、マグネトロン配置は、基板キャリアの移動方向に直列に配置された2つのマグネトロンを備える;2つのマグネトロン間に反応性ガスを注入するために配置されたガスインジェクタ;搬入側スリットおよび搬出側スリットには、ゲートバルブが設けられていない。
【0037】
開示される実施形態の他の特徴は、システムが少なくとも3つの異なる動作速度を採用することである:搬送速度、第1処理速度および第2処理速度であって、第1処理速度は、「一方向」シングルパス処理用に調整されている一方で、第2処理速度は、「往復方向」マルチパス処理用に構成されている。一般的に、第2処理速度は、第1処理速度よりも速い。すなわち、第2速度は、第1処理速度で移動する、シングルパスチャンバにおけるキャリアが1つの(往路)パスを実行する間に、第2処理速度で移動する、マルチパスチャンバにおけるキャリアが少なくとも2つの往路パスおよび1つの復路パスを実行することができるように、構成されている。パスは、キャリア上に配置された基板が堆積コーンの外にある位置から開始し、基板全体が堆積コーンを通過して堆積コーンを完全に出るまで、キャリアが堆積コーンを通って移動することであるとみなされる。パスを定義する目的で、堆積コーンは、対をなす2つのマグネトロンからスパッタリングされる材料の堆積を指す。また、開示される実施形態では、搬送機構、例えばコントローラによって通電される磁気ホイールは、マルチパスチャンバではキャリアを個別に移動させる一方で、シングルパスチャンバではキャリアを一体的に移動させるように構成されている。さらに、搬送機構は、キャリアをセクション間およびシステムの内外に搬送し配置するために採用され得る。換言すると、第2搬送速度は、マルチパスチャンバ内で移動する各キャリアに個別に適用される一方で、第1速度は、シングルパスチャンバ内に配置されたすべてのキャリアに一様に適用される。とりわけ、マルチパスチャンバ内では、各パスが異なる処理レシピを採用し得、異なる処理レシピは、異なるガス流量および異なるスパッタリング電力に加えて、異なる処理速度を含み得る。いずれにしても、第2搬送速度は、マルチパスチャンバにおける1つのパスを完了する時間が、シングルパスチャンバにおける1つのパスを完了する時間よりも短くなるように、つまり、第2速度がパス間で可変でありつつも常に第1速度よりも速いように、構成されている。
【0038】
したがって、以下を備えるスパッタリングシステムが提供される:単一の基板キャリアを収容するように構成された少なくとも1つのマルチパスチャンバ;複数の基板キャリアを収容するように構成されていて、マルチパスチャンバと連結された少なくとも1つのシングルパスチャンバ;シングルパスチャンバ内で複数の基板キャリアを第1搬送速度で一体的に搬送し、マルチパスチャンバ内で単一のキャリアを第1速度よりも速い第2速度で往復動作で搬送する搬送機構。
【0039】
他の態様では、以下を備えるリニアスパッタリングシステムが提供される:搬入側ロードロックチャンバおよび搬出側ロードロックチャンバ;処理中に、キャリアが前記搬入側ロードロックチャンバから前記搬出側ロードロックチャンバに通過することを可能とするインライン処理チャンバであって、前記インライン処理チャンバは、搬入側ロードロックチャンバと搬出側ロードロックチャンバとの間に配置された少なくとも1つのシングルパス処理セクションと、搬入側ロードロックチャンバとシングルパス処理セクションとの間、またはシングルパス処理セクションと搬出側ロードロックチャンバとの間に配置された少なくとも1つのマルチパス処理セクションとを備える複数のセクションを有する;複数の基板キャリア;基板キャリアを、異なるセクションおよびチャンバで個別に制御される複数の速度で、搬入側ロードロックチャンバ、少なくとも1つのシングルパス処理セクション、少なくとも1つのマルチパス処理セクション、および搬出側ロードロックチャンバを通して搬送する搬送システム;少なくとも1つのマルチパス処理セクションは、スパッタリングマグネトロン配置を備え、マルチパス処理を実行するために、単一の基板キャリアを収容するための前部および後部バッファ領域を含むように構成されており、少なくとも1つのシングルパスセクションは、キャリア移動方向に沿って配置された1つ以上のマグネトロン配置を備え、シングルパスセクションは、シングルパス処理セクションを出入りするキャリア、および直列に並べて配置された複数のキャリアを収容するためのバッファ領域を含むように構成されていて、連続処理のシングルパス用に構成されている。
【0040】
図2および
図2Aでは、システム内の異なるゾーンがA、B、C、D、およびEとして識別されている。搬送機構は、基板キャリアをこれらのゾーン間で以下の態様で搬送する。搬入側ロードロック205の内部のキャリアが搬送速度でゾーンAに搬送され、搬送速度は、第1処理速度および第2処理速度よりも速い速度である。AからBへの往路処理動作中、およびBからAへの復路処理動作中に、キャリアが第2処理速度で移動され、第2処理速度は、特定のパス用の処理レシピに応じて各パスについて異なり得る。第1マルチパスチャンバにおける処理が完了し、ゾーンBにおけるキャリアの前端縁とゾーンCにおける最後のキャリアの後端縁との間にギャップが存在する場合、キャリアは、ゾーンCにおける最後のキャリアの後ろに配置されるために、搬送速度でゾーンBからゾーンCに搬送され得る。ゾーンC内で、すべてのキャリアが第1搬送速度で一体的に移動され、第1搬送速度は、搬送機構によって採用される速度のうち最も低速な速度である。ゾーンC内のキャリアの後端縁がシングルパスアクティブ堆積チャンバ220の最後の堆積コーンを出ると、キャリアは、ゾーンDに入る。キャリアは、その後、第2処理速度で往復方向に複数のパスを実行し、第2処理速度は、レシピに応じて各パスについて異なり得る。複数のパスが完了すると、キャリアは、搬送速度でゾーンEから搬出側ロードロック235に移動される。したがって、この開示される実施形態では、第1処理速度が固定である一方で、第2処理速度が可変であり、レシピに依拠する。
【0041】
開示される実施形態では、以下の例の多層製造プロセスが可能となる。第1マルチパスチャンバ215では、複数の薄層が基板上に形成される。各パスは、例えば、250nm未満の厚さの単一の薄層を形成する。各パスにおけるレシピを変更することができ、例えば、酸素、窒素などの反応性ガスの流量を変化させることにより、各層の屈折率を変化させることができる。一例では、レシピは、得られる層が、基板に適合した光学特性と、基板と後続のシングルパス厚層との間の接着性を改善する低応力接着構造との両方を提供する、屈折率適合の接着層構造を備えるように、プログラムされる。
【0042】
シングルパスチャンバでは、複数のマグネトロン対の下を移動するキャリアの低速動作によって、厚層を形成することができる。シングルパスチャンバにおけるすべてのマグネトロン対のターゲットが同じである場合、例えば、500nmよりも厚い1つの厚層を形成することができる。例えば、接着層の上に硬い保護層を形成することができる。さらに、第2マルチパスチャンバ225で、硬い保護層の上に薄層を形成することができる。一例では、レシピは、高窒素流量および高酸素流量(窒素がより高い屈折率をもたらす)の層を交互に形成することにより、得られる層が高屈折率および低屈折率を有するインターレース層となるように、プログラムされる。この例を用いて、マルチパスセクションにおける複数のパスによって、硬い保護層上に、傷に強い反射防止膜を形成することができる。他の層が、コーティングの全体的な光学および機械特性をさらに制御するために形成され得る。得られる層は、8GPaを超える硬さと、94%を超える透過率とを有する。
【0043】
酸素、窒素などの反応性ガスの注入と組み合わせて、例えば、ケイ素、アルミニウム、ケイ素およびアルミニウムの混合物等で構成されたターゲットを用いて、様々なコーティングを形成することができる。したがって、形成される層は、SiOx、SiNx、SiOxNy、AlOx、AlNx、AlOxNy、SiAlOx、SiAlNx、SiAlOxNy等を含み得る。説明を目的として酸素および窒素の使用が開示されているが、任意の酸窒化物膜を用いることができることが理解されるべきである。
【0044】
とりわけ、厚層の下にのみ複数の薄層が必要である場合、マルチパス処理チャンバ225は、省略され得る。逆に、厚層の上にのみ複数の薄層が必要である場合、マルチパス処理チャンバ215は、省略され得る。したがってこの意味では、
図3Aに例示されるように、システムは、1つのシングルパス処理チャンバと、少なくとも1つのマルチパス処理チャンバとを有し得る。逆に、
図3Bに例示されるように、システムは、シングルパスチャンバの上流側または下流側に複数のマルチパス処理チャンバを有し得る。複数の厚層および薄層が混在する非常に複雑な層スタックは、シングルパス処理用に構成された複数のセクションと、1つ以上のマルチパスセクションとを必要とし得る。
【0045】
開示される実施形態は、特定の用語で説明されるが、本発明の原理を包含する他の実施形態も可能である。さらに、オペレーションは、特定の順序で規定され得る。しかし、この順序は、オペレーションが提供され得る方法の一例にすぎない。オペレーションは、本発明の態様に準拠しつつ、任意の特定の実装で再配置され、変更され、または除去され得る。
【0046】
すべての方向参照(例えば、上部、下部、上に、下に、左、右、左に、右に、上、下、上方、下方等)は、本発明の実施形態の読者の理解を助ける識別のために用いられるにすぎず、請求項に具体的に規定されていない限り、特に本発明の位置、向き、または使用に関する制限を生じさせるものではない。結合に関する参照(例えば、取り付け、連結、接続など)は、広く解釈されるべきであり、要素間の接続、および要素間の相対的な移動に中間部材を含み得る。したがって、結合に関する参照は、2つの要素が直接的に接続され、互いに固定された関係にあることを必ずしも暗示するものではない。
【0047】
いくつかの場合、構成要素は、特定の特性を有し、および/または他の部品に接続されている、「端部」を参照して記載される。しかし、当業者は、本発明が、他の部品との接続点の先で直ちに終端する構成要素に制限されないことを認識するであろう。したがって、「端部」という用語は、特定の要素、リンク、構成要素、部材などの終端に対して、隣接する、後方の、前方の、または他の近くの領域を含む態様で、広く解釈されるべきである。上記の説明に含まれる、または添付の図面に示されるすべての事項は、例示のみとして解釈され、限定するものではないことを意図している。詳細または構造における変更は、添付の特許請求の範囲で規定される本発明の精神から逸脱することなく行われ得る。
【0048】
本明細書および添付の特許請求の範囲で用いられる単数形「a」、「an」および「the」は、文脈上そうではないと明らかに指示されていない限り、複数の参照対象を含むということに留意しなければならない。
【0049】
本開示を読めば当業者にとって明らかなように、本明細書に記載され例示される個々の実施形態のそれぞれは、本発明の範囲または精神から逸脱することなく、他のいくつかの実施形態のいずれの特徴から容易に分離され、またはこれと組み合わせられ得る個別の構成要素および特徴を有する。
【手続補正書】
【提出日】2024-10-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項20
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項20】
請求項
19に記載のチャンバにおいて、
前記2つのマグネトロンのそれぞれは、他方のマグネトロンのターゲットと同じ材料で構成されたターゲットを備える、チャンバ。
【国際調査報告】