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特表2025-505874角膜内皮を代替するための網膜色素上皮細胞の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-28
(54)【発明の名称】角膜内皮を代替するための網膜色素上皮細胞の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/30 20150101AFI20250220BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20250220BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALI20250220BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20250220BHJP
   A61K 35/545 20150101ALN20250220BHJP
【FI】
A61K35/30
C12N5/10
C12N5/0735
A61P27/02
A61K35/545
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024550876
(86)(22)【出願日】2022-07-13
(85)【翻訳文提出日】2024-08-23
(86)【国際出願番号】 CN2022105465
(87)【国際公開番号】W WO2024011449
(87)【国際公開日】2024-01-18
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524317806
【氏名又は名称】山東第一医科大学附属眼科研究所(山東省眼科研究所、山東第一医科大学附属青島眼科医院)
【氏名又は名称原語表記】EYE INSTITUTE OF SHANDONG FIRST MEDICAL UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】史 偉 云
(72)【発明者】
【氏名】周 慶 軍
(72)【発明者】
【氏名】李 宗 義
(72)【発明者】
【氏名】董 春 曉
(72)【発明者】
【氏名】段 豪 云
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065BA01
4B065BB16
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB56
4C087BB63
4C087BB65
4C087MA23
4C087MA58
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA33
(57)【要約】
本発明は、角膜内皮細胞を代替し、角膜内皮代償不全などの疾患又は症状を予防及び治療するための網膜色素上皮細胞の使用を開示する。本発明で提供される網膜色素上皮細胞懸濁液は、角膜の透明性を回復し、角膜の厚みを低減し、角膜内皮バリア機能を再構築することができ、角膜内皮代償不全を効果的に治療することができ、角膜の損傷による視力障害者の治療又は回復に広範な応用価値及び積極的な社会的効果がある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
角膜内皮代替細胞としての網膜色素上皮細胞の使用。
【請求項2】
角膜内皮損傷、角膜内皮病変、角膜内皮細胞機能障害、角膜内皮代償不全を軽減又は治療するための医薬組成物の調製における網膜色素上皮細胞の使用。
【請求項3】
角膜内皮代償不全を罹患している患者における角膜厚の異常、角膜の透明性低下、角膜浮腫、視力の低下又は喪失、目の乾き、痛みを軽減又は治療するための医薬組成物の調製における網膜色素上皮細胞の使用。
【請求項4】
前記網膜色素上皮細胞は、患者の眼球の前房に投与され、前記医薬組成物は、網膜色素上皮細胞とDMEM低グルコース培地とを含み、網膜色素上皮細胞とDMEM低グルコース培地との配合比は、(3×10~1.2×10個):(200~300μL)である、ことを特徴とする請求項2~3に記載の使用。
【請求項5】
前記網膜色素上皮細胞とDMEM低グルコース培地との配合比は、(5×10~1×10個):(200~300μL)である、ことを特徴とする請求項4に記載の使用。
【請求項6】
前記細胞懸濁液は、1種又は複数種の特異的阻害剤をさらに含み、前記特異的阻害剤は、Y27632、ニコチンアミド及び/又はTGF-β阻害剤SB431542を含む、ことを特徴とする請求項4に記載の使用。
【請求項7】
前記網膜色素上皮細胞は、ヒト胚性幹細胞又はヒト誘導多能性幹細胞から分化して得られる、ことを特徴とする請求項2~3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記ヒト胚性幹細胞又はヒト誘導多能性幹細胞は、色素産生遺伝子であるチロシナーゼをノックアウトしたものである、ことを特徴とする請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記医薬組成物の剤形は、注射剤、細胞シート又はキットである、ことを特徴とする請求項2~3のいずれか一項に記載の用途。
【請求項10】
分化誘導:分化培地を用いてhESC/hiPSC由来の網膜色素上皮細胞を得るステップ1と、
酵素分解処理:ステップ1におけるhESC/hiPSC由来の網膜色素上皮細胞を細胞消化酵素で処理し、完全培地により酵素反応を停止させるステップ2と、
単細胞の回収:ピペットを用いてステップ2における細胞をゆっくりとピペッティングして単細胞にし、遠沈管に回収し、遠心後に上清を捨て、細胞沈殿を保持するステップ3と、
細胞懸濁液の調製:DMEM基礎培地でステップ3における細胞を再懸濁し、DMEM基礎培地200~300μl当たり3×10~1.2×10個の細胞を溶解して、細胞懸濁液を得るステップ4と、
を含むことを特徴とする網膜色素上皮細胞懸濁液の調整方法。
【請求項11】
ステップ1における前記分化培地は、分化培地1と分化培地2とを含み、分化培地1は、DMEM/F12培地、Neuralbasal medium培地、グルタミン、非必須アミノ酸、β-メルカプトエタノール、N2添加物を含み、分化培地2は、DMEM/F12培地、血清代替物、グルタミン、非必須アミノ酸、β-メルカプトエタノールを含み、前記分化培地1における前記DMEM/F12培地と前記Neuralbasal medium培地とを1:1の割合で混合する、ことを特徴とする請求項10に記載の調製方法。
【請求項12】
ステップ1は、2%マトリゲルを混合した細胞分化培地1にて2日間培養し、マトリゲルなし培地に交換して5日間培養し、また、分化培地2に交換して3週間培養し、網膜色素上皮細胞を機械的に分離して増幅するように行われ、前記分化培地1は、1:1の割合で混合したDMEM/F12とNeuralbasal medium、2mMのグルタミン、0.1mMの非必須アミノ酸、0.1mMのβ-メルカプトエタノール、及び1%N2添加物を含み、分化培地2は、DMEM/F12培地、10%血清代替物、2mMのグルタミン、0.1mMの非必須アミノ酸、0.1mMのβ-メルカプトエタノールを含む、ことを特徴とする請求項10に記載の調製方法。
【請求項13】
前記ステップ2における前記細胞消化酵素は、アクターゼ酵素であり、処理温度は37℃であり、また、前記ステップ4における前記細胞懸濁液は、5~15μmのY27632をさらに含む、ことを特徴とする請求項10~12のいずれか一項に記載の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬の分野に属し、角膜内皮代償不全を軽減又は治療するための網膜色素上皮細胞の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
角膜は、眼球の前壁にある透明な膜で、5層に分けられ、表から裏へ上皮細胞層、ボーマン膜、実質層、デスメ層、内皮細胞層の順でできている。角膜の高い透明性と光学性は、正常に生理機能を発揮するための必要条件の一つであり、角膜内皮細胞は、角膜の正常な生理機能を維持する上で重要な役割を果たしている。角膜内皮細胞は、角膜の内層にある単層細胞であり、デスメ層と房水の間の物理的バリアを構成し、イオン「ポンプ」機能を通じて角膜中のイオン濃度及び水分を調整し、角膜の半脱水状態を維持し、角膜の正常な厚み及び透明性を保証する。角膜内皮細胞機能障害が出ると、角膜浮腫を引き起こす傾向にあり、部分的又は完全な角膜失明につながる。
【0003】
正常なヒト角膜内皮細胞は、in vivo増殖能力が非常に限られている。外傷、炎症、白内障手術などによる内皮細胞の損傷及び損失は、周囲の細胞の拡大及び移動によってのみ埋めることができる。ヒト角膜内皮細胞の密度がその生理的限界値(約400~500個/mm)まで低下すると、角膜浮腫が生じ、重症の場合は視力喪失が発生する。現在、全国には角膜失明患者が約400万人おり、そのうち100万人近くが内皮失明患者である。角膜移植は、臨床で角膜内皮代償不全を治療する唯一の手段である。我が国ではドナーからの角膜が不足しているため、角膜移植手術によって視力を回復する患者は毎年1万人未満であり、臨床上のニーズを満たすには程遠い。ドナーからの角膜が不足している難題を解決するために、角膜内皮代替用種細胞の現在の主な研究策略は、培養ヒト角膜内皮細胞、皮膚始原細胞などの成体幹細胞及びヒト胚性幹細胞(Human embryonic stem cells、hESC)とヒト誘導多能性幹細胞(Human induced pluripotent stem cells、hiPSC)由来の角膜内皮様細胞を含む。
【0004】
初代培養ヒト角膜内皮細胞、成体幹細胞又は多能性幹細胞由来の角膜内皮様細胞を用いて角膜内皮機能を改善することはできるが、その効果が限られている。これまで、長期間にわたって角膜の透明性を維持し、かつ臨床的に広く応用される理想的な角膜内皮代替用種細胞は存在しなかった。日本の科学者であるKinoshita教授のチームは、前房内注射により培養ヒト角膜内皮細胞を移植することで角膜内皮ジストロフィー患者11人に対して臨床治療を行い、角膜の透明性を回復させたが、5年間の追跡調査の結果、一部の患者の角膜内皮に再び病的な「ダークスポット」構造が現れたことが示された。培養ヒト角膜内皮細胞は依然として高品質のドナー角膜に依存しており、しかも成人の角膜内皮種細胞はin vitroで大量に増幅されることができないため、細胞の供給源及び数は限られている。また、成体幹細胞由来の代替細胞、例えば皮膚始原細胞由来の角膜内皮様細胞は、純度が悪く、工業的調製が困難であり、治療効果が限られている。hESC/hiPSCは、無制限に増殖する能力と多方向へと分化する潜在能力を持っており、hESC/hiPSCを神経堤、角膜内皮前駆及び成熟角膜内皮様細胞に分化させることが報告されており、一部の実験では角膜内皮前駆細胞と成熟角膜内皮様細胞を動物モデルに応用して角膜の透明性を回復できることが証明されているが、しかし、現在、hESC/hiPSCを角膜内皮様細胞へと指向的に分化させるための標準化された方法はなく、hESC/hiPSC由来の角膜内皮様細胞のin vivo治療への応用の長期的な有効性及び安全性はまだ研究されていない。そのため、理想的な角膜内皮細胞代替用種細胞を探すことは、依然として角膜内皮治療分野において急務である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、多くの研究を経て、網膜色素上皮細胞が、組織分化の由来、解剖学的位置、体の組織における細胞機能の点で角膜内皮細胞と大きく異なるものの、規則的な六角形の形態を有し、タイトジャンクションタンパク質を発現しており、網膜色素上皮細胞が角膜内皮細胞に代わってバリア機能を提供し、角膜内皮代償不全を治療する可能性を示唆していることを発見した。従来技術の欠点を解決するために、本発明は、角膜内皮代替細胞を提供することを目的とする。さらに、hESC/hiPSC由来の網膜色素上皮細胞を種細胞として選択し、無制限に供給できかつ臨床的に安全に応用できる種細胞の供給源を提供することを目的とする。さらに、移植細胞の機能を高め、細胞懸濁液の調製過程を最適化し、移植細胞の正常な機能を保障することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、網膜色素上皮細胞とDMEM低グルコース培地とを含む網膜色素上皮細胞懸濁液であって、網膜色素上皮細胞とDMEM低グルコース培地との配合比は、3×10~1.2×10個:200~300μLである網膜色素上皮細胞懸濁液を提供する。好ましくは、網膜色素上皮細胞とDMEM低グルコース培地との配合比は、5×10~1×10個:200~300μLである。
【0007】
本発明の1つの好ましい実施形態において、前記網膜色素上皮細胞は、ヒト胚性幹細胞又はヒト誘導多能性幹細胞から分化して得られる。
【0008】
本発明の1つの好ましい実施形態において、前記ヒト胚性幹細胞又はヒト誘導多能性幹細胞は、色素産生遺伝子であるチロシナーゼをノックアウトしたものである。
【0009】
本発明の1つの好ましい実施形態において、前記細胞懸濁液は、1種又は複数種の特異的阻害剤をさらに含み、前記特異的阻害剤は、Y27632、ニコチンアミド及び/又はTGF-β阻害剤SB431542を含む。
【0010】
本発明は、
分化誘導:分化培地を用いてhESC/hiPSC由来の網膜色素上皮細胞を得るステップ1と、
酵素分解処理:ステップ1におけるhESC/hiPSC由来の網膜色素上皮細胞を細胞消化酵素で処理し、完全培地により酵素反応を停止させるステップ2と、
単細胞の回収:ピペットを用いてステップ2における細胞をゆっくりとピペッティングして単細胞にし、遠沈管に回収し、遠心後に上清を捨て、細胞沈殿を保持するステップ3と、
細胞懸濁液の調製:DMEM基礎培地でステップ3における細胞を再懸濁し、DMEM基礎培地200~300μl当たり3×10~1.2×10個の細胞を溶解して、細胞懸濁液を得るステップ4と、
を含む網膜色素上皮細胞懸濁液の調製方法をさらに提供する。
【0011】
本発明の1つの好ましい実施形態において、ステップ1における前記分化培地は、1:1の割合のDMEM/F12とNeuralbasal medium、1~4mMのグルタミン、0.1~1.3mMの非必須アミノ酸、0.1~1.3mMのβ-メルカプトエタノール、及び1%N2添加剤を含む。
【0012】
本発明の1つの好ましい実施形態において、ステップ1における前記分化培地は、DMEM/F12培地、5%~15%血清代替物、1~4mMのグルタミン、0.1~1.3mMの非必須アミノ酸、0.1~1.3mMのβ-メルカプトエタノールを含む。
【0013】
本発明のより好ましい実施形態において、ステップ1における前記分化培地は、分化培地1と分化培地2とを含み、分化培地1は、DMEM/F12とNeuralbasal medium(1:1)、2mMのグルタミン、0.1mMの非必須アミノ酸、0.1mMのβ-メルカプトエタノール及び1%N2添加物を含み、分化培地2は、DMEM/F12培地、10%血清代替物、2mMのグルタミン、0.1mMの非必須アミノ酸、0.1mMのβ-メルカプトエタノールを含む。すなわち、分化誘導方法は、2%マトリゲルを混合した細胞分化培地1(DMEM/F12とNeuralbasal medium(1:1)、2mMのグルタミン、0.1mMの非必須アミノ酸、0.1mMのβ-メルカプトエタノール及び1%N2添加物)にて2日間培養し、マトリゲルなし培地に交換して5日間培養し、また、分化培地2(DMEM/F12培地、10%血清代替物、2mMのグルタミン、0.1mMの非必須アミノ酸、0.1mMのβ-メルカプトエタノール)に交換して3週間培養し、さらに、網膜色素上皮細胞を機械的に分離して増幅するように行われる。
【0014】
本発明のさらに好ましい実施形態において、ステップ2における前記細胞消化酵素は、アクターゼ酵素であり、処理温度は37℃であり、また、前記ステップ4では、5~15μmのY27632をさらに添加する。
【0015】
本発明は、角膜内皮代替細胞として、すなわち損傷、病変又は欠損した角膜内皮細胞を代替するための網膜色素上皮細胞の使用を提供する。
【0016】
本発明は、角膜内皮損傷、角膜内皮病変、角膜内皮細胞機能障害、角膜内皮代償不全を軽減又は治療するための医薬組成物の調製における網膜色素上皮細胞の使用をさらに提供する。
【0017】
本発明は、角膜内皮代償不全を罹患している患者における角膜厚の異常、角膜の透明性低下、角膜浮腫、視力の低下又は喪失、目の乾き、目の痛みなどの関連症状を軽減又は治療するための医薬組成物の調製における網膜色素上皮細胞の使用をさらに提供する。
【0018】
本発明で提供される網膜色素上皮細胞は、任意の便利な剤形で提供することができ、好ましい剤形は、注射剤、細胞シート又はキットを含む。網膜色素上皮細胞は、どのような剤形で提供されるかにかかわらず、患者の眼球の前房に投与される。
【0019】
また、本発明は、以下の1乃至13のいずれかに関係します。
[項1] 角膜内皮代替細胞としての網膜色素上皮細胞の使用。
[項2] 角膜内皮損傷、角膜内皮病変、角膜内皮細胞機能障害、角膜内皮代償不全を軽減又は治療するための医薬組成物の調製における網膜色素上皮細胞の使用。
[項3] 角膜内皮代償不全を罹患している患者における角膜厚の異常、角膜の透明性低下、角膜浮腫、視力の低下又は喪失、目の乾き、痛みを軽減又は治療するための医薬組成物の調製における網膜色素上皮細胞の使用。
[項4] 前記網膜色素上皮細胞は、患者の眼球の前房に投与され、前記医薬組成物は、網膜色素上皮細胞とDMEM低グルコース培地とを含み、網膜色素上皮細胞とDMEM低グルコース培地との配合比は、(3×10~1.2×10個):(200~300μL)である、ことを特徴とする項2~3に記載の使用。
[項5] 前記網膜色素上皮細胞とDMEM低グルコース培地との配合比は、(5×10~1×10個):(200~300μL)である、ことを特徴とする項4に記載の使用。
[項6] 前記細胞懸濁液は、1種又は複数種の特異的阻害剤をさらに含み、前記特異的阻害剤は、Y27632、ニコチンアミド及び/又はTGF-β阻害剤SB431542を含む、ことを特徴とする項4に記載の使用。
[項7] 前記網膜色素上皮細胞は、ヒト胚性幹細胞又はヒト誘導多能性幹細胞から分化して得られる、ことを特徴とする項2~3のいずれか一項に記載の使用。
[項8] 前記ヒト胚性幹細胞又はヒト誘導多能性幹細胞は、色素産生遺伝子であるチロシナーゼをノックアウトしたものである、ことを特徴とする項7に記載の使用。
[項9] 前記医薬組成物の剤形は、注射剤、細胞シート又はキットである、ことを特徴とする項2~3のいずれか一項に記載の用途。
[項10] 分化誘導:分化培地を用いてhESC/hiPSC由来の網膜色素上皮細胞を得るステップ1と、
酵素分解処理:ステップ1におけるhESC/hiPSC由来の網膜色素上皮細胞を細胞消化酵素で処理し、完全培地により酵素反応を停止させるステップ2と、
単細胞の回収:ピペットを用いてステップ2における細胞をゆっくりとピペッティングして単細胞にし、遠沈管に回収し、遠心後に上清を捨て、細胞沈殿を保持するステップ3と、
細胞懸濁液の調製:DMEM基礎培地でステップ3における細胞を再懸濁し、DMEM基礎培地200~300μl当たり3×10~1.2×10個の細胞を溶解して、細胞懸濁液を得るステップ4と、
を含むことを特徴とする網膜色素上皮細胞懸濁液の調整方法。
[項11] ステップ1における前記分化培地は、分化培地1と分化培地2とを含み、分化培地1は、DMEM/F12培地、Neuralbasal medium培地、グルタミン、非必須アミノ酸、β-メルカプトエタノール、N2添加物を含み、分化培地2は、DMEM/F12培地、血清代替物、グルタミン、非必須アミノ酸、β-メルカプトエタノールを含み、前記分化培地1における前記DMEM/F12培地と前記Neuralbasal medium培地とを1:1の割合で混合する、ことを特徴とする項10に記載の調製方法。
[項12] ステップ1は、2%マトリゲルを混合した細胞分化培地1にて2日間培養し、マトリゲルなし培地に交換して5日間培養し、また、分化培地2に交換して3週間培養し、網膜色素上皮細胞を機械的に分離して増幅するように行われ、前記分化培地1は、1:1の割合で混合したDMEM/F12とNeuralbasal medium、2mMのグルタミン、0.1mMの非必須アミノ酸、0.1mMのβ-メルカプトエタノール、及び1%N2添加物を含み、分化培地2は、DMEM/F12培地、10%血清代替物、2mMのグルタミン、0.1mMの非必須アミノ酸、0.1mMのβ-メルカプトエタノールを含む、ことを特徴とする項10に記載の調製方法。
[項13] 前記ステップ2における前記細胞消化酵素は、アクターゼ酵素であり、処理温度は37℃であり、また、前記ステップ4における前記細胞懸濁液は、5~15μmのY27632をさらに含む、ことを特徴とする項10~12のいずれか一項に記載の調製方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明の有益な技術効果は、下記のとおりである。
本発明は、初めて網膜色素上皮細胞を、角膜内皮を代替する種細胞に用いた。本発明で提供される細胞懸濁液及びその調製方法は、細胞の生存能力を確保するとともに、角膜内皮機能を効果的に代替して角膜の透明性及び角膜の厚みを回復することができる。また、本発明で提供される角膜内皮を代替する種細胞は、hES/hiPS細胞から分化誘導によって得られることができ、無制限に供給されており、臨床実験によりその応用安全性が報告されている。本発明で提供される調製方法及び移植方法は、高度に専門化された設備、試薬又は技術を必要とせず、研究者及び医療関係者が容易に操作できるため、広範な応用価値及び積極的な社会的利益を有する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例1におけるhESC由来の網膜色素上皮細胞の細胞形態図とマーカー遺伝子の染色を示す。
図2】実施例1における網膜色素上皮細胞の移植後1日目、3日目、7日目及び14日目の角膜の肉眼画像及びOCT写真であり、角膜の透明性及び厚みを示す。
図3】実施例2における網膜色素上皮細胞の移植後1日目、7日目及び14日目の角膜の肉眼画像及びOCT写真であり、角膜の透明性及び厚みを示す。
図4】実施例3における、網膜色素上皮細胞における色素産生遺伝子のノックアウト及びin vivoにおける角膜内皮修復機能の同定を示す。(A)ノックアウト前後の網膜色素上皮細胞におけるチロシナーゼ遺伝子発現を示す。iRPE:正常な誘導網膜色素上皮細胞;shtyro-iRPE:チロシナーゼ遺伝子をノックアウトした誘導網膜色素上皮細胞。(B)shtyro-iRPE移植後1日目、3日目及び7日目の角膜の肉眼画像及びOCT写真を示す。(C)正常細胞とノックアウト細胞を移植してから1ヶ月後の角膜の肉眼画像を示す。
図5】実施例4におけるウサギ初代網膜色素上皮細胞の、角膜内皮代償不全に対する修復作用を示す。(A)分離培養したニュージーランド白ウサギと灰色ウサギ由来の網膜色素上皮細胞の写真;(B)ニュージーランド白ウサギと灰色ウサギ由来の網膜色素上皮細胞移植後7日目のウサギの角膜の肉眼画像。
図6】比較例2における移植後7日目の角膜の肉眼画像を示す。
図7】比較例3における移植後7日目の角膜の肉眼画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を解釈する以下の実施例によって本発明をさらに例示するが、以下の実施例は、本発明を説明するためにのみ使用され、本発明の範囲を限定するものとみなされるべきではない。特に明記されない限り、本明細書で使用される技術的及び科学的用語は、当業者が一般的に理解するものと同じ意味を有する。実施例に具体的な条件が記載されていない場合は、従来の条件又は製造業者が提案した条件に従うものとする。使用する試薬又は機器にメーカーが明記されていないものは、いずれも市販されている従来品である。
【0023】
本発明の実施例では、hESC細胞株H1は、陰正勤教授の実験室から贈られた。hiPSC細胞株DY0100は、中国科学院の細胞バンク/幹細胞バンクから購入された。チロシナーゼ(Tyrosinase)特異的ノックアウトhESC H1細胞株については、Tyrosinase特異的ノックアウトウイルスは、上海吉凱遺伝子医学科技股フン有限公司から購入され、仕様書に従って、Tyrosinase特異的ノックアウトhESC H1細胞株を調製した。ニュージーランド白ウサギと灰色ウサギは、済南西嶺角養殖育種センターから購入された。
【実施例
【0024】
(実施例1)(hESC細胞株H1)
(1)分化誘導
先に公開された分化方法(Rapid Differentiation of Multi-Zone Ocular Cells from Human Induced Pluripotent Stem Cells and Generation of Corneal Epithelial and Endothelial Cells, Stem Cells Dev. 2019 Apr 1;28(7):454-463)を参照して、hESC細胞株H1細胞をmTeSR1培地で培養して約80%コンフルエントになるまで増殖させ、5mg/mlのIV型コラゲナーゼで15分間消化し、1%マトリゲル(Matrigel)でコーティングされた培養皿に接種し、2%マトリゲルを混合した細胞分化培地1(DMEM/F12とNeurolbasal medium(1:1)、2mMのグルタミン、0.1mMの非必須アミノ酸、0.1mMのβ-メルカプトエタノール及び1%N2添加物)にて2日間培養し、マトリゲルなし培地に交換して5日間培養した。また、分化培地2(DMEM/F12培地、10%血清代替物、2mMのグルタミン、0.1mMの非必須アミノ酸、0.1mMのβ-メルカプトエタノール)に交換して3週間培養した。色素性網膜色素上皮細胞を機械的に分離して増幅した。
【0025】
(2)細胞の酵素分解
hESC由来の網膜色素上皮細胞をアクターゼ(Accutase)酵素により37℃の条件下で10~20分間処理し、完全培地により酵素反応を停止させた。また、ピペットを用いて細胞をゆっくりとピペッティングして単細胞にし、15mlの遠沈管に回収し、1000rpmで3分間遠心し、上清を捨て、沈殿を保持した。
【0026】
(3)細胞懸濁液の調製
DMEM低グルコース基礎培地で細胞を再懸濁し、セルカウンターで細胞数をカウントし、分注した。DMEM基礎培地200~300μL当たり5×10~1×10個の細胞を溶解し、移植用に備えて10μMのY27632を添加した。
【0027】
(4)前房への細胞懸濁液の注射
10匹のニュージーランド白ウサギを、塩酸ケタミン(40mg/kg)及び塩酸クロルプロマジン(20mg/kg)の筋肉内注射によって麻酔した。開瞼器で右眼のまぶたを開いた後、洗眼し、10時部に角膜輪部から約2mmのサイドカットを行い、前房にカルバコール注射液を注入して瞳孔を収縮させた。サイドカットからヒアルロン酸ナトリウムを注入して前房を安定させ、眼球中心の直径7~9mmの範囲内の自家角膜内皮細胞を20ゲージシリコン針で掻き取り、前房内の掻き取った細胞の破片及び残留したヒアルロン酸ナトリウムを生理食塩水で洗い流し、前房水の漏出を防ぐために1:10のヘパリンナトリウム注射液を注入し、角膜輪部のサイドカットを10-0ナイロン糸で断続的に縫合した。
【0028】
1mlの注射器を使って角膜輪部から前房に穿刺し、細胞懸濁液を右眼の前房に注入し、トブラマイシン・デキサメタゾン眼軟膏を塗布して眼を包んだ。移植細胞の迅速な付着を促進するために、ウサギを麻酔状態下で側臥位で右眼を下にして3時間保持した。術後、10mMのY-27632を1日4回点眼し、1週間後に1mMのY-27632を1日4回点眼し、同時に、術後、トブラマイシン・デキサメタゾン点眼液を1日4回、シクロスポリン点眼液を1日2回点眼した。
【0029】
(5)機能評価
術後、角膜の透明性の回復状況を細隙灯顕微鏡で観察し、また、移植された角膜内皮細胞の形態及び密度を生体共焦点角膜顕微鏡で評価し、角膜厚の変化を超音波角膜厚測定装置で測定した。
【0030】
結果及び分析:
本実施例の態様に基づいて、hESC細胞株H1を網膜色素上皮細胞へと分化誘導することができた(図1)。hESC由来の網膜色素上皮細胞の移植後、7日以内に角膜の透明性及び角膜の厚みを回復し、14日目でも角膜は透明なままであった(図2)。この結果は、hESC由来の網膜色素上皮細胞が角膜内皮細胞の機能を代替して、角膜の透明性を迅速に回復することができることを示唆した。
【0031】
(実施例2)(hiPSC細胞株DY0100)
本実施例では、hiPSC細胞株DY0100を用いて網膜色素上皮細胞を誘導した。
(1)分化誘導
分化誘導方法は実施例1と同様に、hiPSC細胞株DY0100をmTeSR1培地で培養して約80%コンフルエントになるまで増殖させ、5mg/mlのIV型コラゲナーゼで15分間消化し、1%マトリゲルでコーティングされた培養皿に接種し、2%マトリゲルを混合した細胞分化培地1で2日間培養し、マトリゲルなし培地に交換して5日間培養した。また、分化培地2に交換して3週間培養した。色素性網膜色素上皮細胞を機械的に分離して増幅した。
【0032】
(3)細胞懸濁液の調製
DMEM低グルコース基礎培地で細胞を再懸濁し、セルカウンターで細胞数をカウントし、分注した。DMEM基礎培地200~300μL当たり8×10~1×10個の細胞を溶解し、移植用に備えて10μMのY27632及び5mMのニコチンアミドを添加した。
【0033】
(2)細胞の酵素分解、(4)前房への細胞懸濁液の注射、(5)機能評価の手順は実施例1と同様であった。
【0034】
結果及び分析:
本実施例の技術態様により、hiPSC細胞株DY0100由来の網膜色素上皮細胞を誘導することができ、hiPSC由来の網膜色素上皮細胞懸濁液を移植してから7日及び14日目に、同様に、角膜の透明性及び角膜の厚みを回復することができた(図3)。
【0035】
(実施例3)(色素産生遺伝子であるチロシナーゼ(Tyrosinase)のノックアウト)
色素の産生を減少させるために、本実施例では、色素産生遺伝子であるチロシナーゼをノックアウトし、非色素性hESC/hiPSC-RPE細胞を調製し、これも移植後に角膜の透明性を維持することができた。本実施例では、CRISPR-Cas9技術によりTyrosinase遺伝子を特異的にノックアウトし、非色素性網膜色素上皮細胞を調製した。
【0036】
いくつかの実施例では、hES細胞株H1が用いられた。他の実施例では、hiPS細胞株DY0100が用いられた。
【0037】
(1)Tyrosinaseノックアウト細胞の構築:
約80%コンフルエントになるまで増殖させたhES細胞株H1又はhiPS細胞株DY0100を消化後、1:20~1:30の割合で接種し、翌日、siRNAを混合したトランスフェクション試薬を加え、コンフルエントが50~60%程度に達するまで16~24時間培養してトランスフェクションを開始し、ウイルス添加量=(MOI×細胞数)/ウイルス力価であった。12~20時間トランスフェクションを行った後、mTeSR1完全培地に交換して72~96時間培養し、その後、蛍光強度に基づいてトランスフェクション効果を評価した。最も強い蛍光シグナルを持つグループを選択して蛍光活性化セルソーティング、培養、増幅を行い、Tyrosinaseノックアウト細胞株を確立した。
【0038】
(2)分化誘導、(3)細胞の酵素分解、(4)細胞懸濁液の調製、(5)前房への細胞懸濁液の注射、(6)機能評価の手順は実施例1と同様であった。
【0039】
結果及び分析:
本実施例に記載の方法により、hESC/hiPSC由来の網膜色素上皮細胞の色素産生関連遺伝子であるチロシナーゼのノックアウトを実現した(図4A)。移植後、遺伝子改変された網膜色素上皮細胞は、角膜の透明性を迅速に回復し、角膜の厚みを低減することができた(図4B)。遺伝子改変された細胞は、移植後1ヶ月でも角膜の透明性及び角膜の厚みを維持し、色素産生を示さなかった(図4C)。
【0040】
(実施例4)(分離培養したニュージーランド白ウサギと灰色ウサギ由来の初代網膜色素上皮細胞)
いくつかの実施例では、in vitroで培養したニュージーランド白ウサギの初代非色素性網膜色素上皮細胞が用いられた。他の実施例では、in vitroで培養した灰色ウサギ由来の色素性網膜色素上皮細胞が用いられた。
【0041】
(1)分離培養
2~4週齢のニュージーランド白ウサギと灰色ウサギを用意し、空気塞栓で屠殺した後、無菌条件下で眼球を取り出し、ゲンタマイシンを含有する食塩水1000uにて4℃の条件下で30分間浸漬した後、生理食塩水を3時間放置した。解剖顕微鏡下で前眼部と神経網膜上皮を切り取り、後ろ側の眼杯を12ウェルプレート培養皿に入れ、0.25%トリプシンを眼杯の約3/4加え、37℃インキュベーターに入れて30分間消化した後、停止液を加えて消化を停止させ、ゆっくりとピペッティングしてRPE細胞を剥離し、回収して遠心し、接種した。10%ウシ胎児血清を含むDMEM/F12培地で培養し、2日ごとに培地を交換し、約2週間培養し、形態、PCR及び染色により同定した。
【0042】
(3)細胞懸濁液の調製
DMEM低グルコース基礎培地で細胞を再懸濁し、セルカウンターで細胞数をカウントし、分注した。DMEM基礎培地200~300μL当たり5×10~8×10個の細胞を溶解し、移植用に備えて10μMのY27632を添加した。
【0043】
(2)細胞の酵素分解、(4)前房への細胞懸濁液の注射、(5)機能評価の手順は実施例1と同様であった。
【0044】
結果及び分析:
本実施例で説明した方法により、ニュージーランド白ウサギと灰色ウサギの初代網膜色素上皮細胞の調製を実現し、規則的な細胞形態を示した(図5A)。細胞移植後7日目に角膜の透明性を迅速に回復することができた(図5B)。
【0045】
(比較例1)(トリプシン/コラゲナーゼ)
(1)分化誘導:その手順は実施例1と同様であった。
【0046】
(2)細胞の酵素分解
0.25%トランプシンを用いてhESC由来の網膜色素上皮細胞を37℃の条件下で3~10分間処理するか、又は、5mg/mlのIV型コラゲナーゼを用いてhESC由来の網膜色素上皮細胞を37℃の条件下で5~15分間処理し、完全培地により酵素反応を停止させた。また、ピペットを用いて細胞をゆっくりとピッピングして単細胞にし、15mlの遠沈管に回収し、1000rpmで3分間遠心し、上清を捨て、沈殿を保持した。
【0047】
(3)細胞の生存能力及び大きさの検出
トリパンブルー染色を行い、サイトメーター技術を使って細胞の生存能力、大きさなどを統計した。
【0048】
結果及び分析:
トリプシンにより消化して得られた細胞は死亡率が高く、また、コラゲナーゼを用いると単細胞を解離により得ることが困難であり、かつ消化時間が長すぎるため、トリプシン、コラゲナーゼを細胞の酵素分解に用いることはできるが、アクターゼを用いることが好ましい。
【0049】
(比較例2)(DMEM高グルコース培地)
本実施例では、DMEM高グルコース培地(4.5g/mlのグルコースを含む)を用いて細胞懸濁液を調製した。
【0050】
(1)分化誘導、(2)細胞の酵素分解、(4)前房への細胞懸濁液の注射、(5)機能評価の手順は実施例1と同様であった。
【0051】
(3)細胞懸濁液の調製
DMEM高グルコース基礎培地(4.5g/mlのグルコースを含む)で細胞を再懸濁し、セルカウンターで細胞数をカウントし、分注した。DMEM高グルコース基礎培地200~300μl当たり5×10~1×10個の細胞を、移植用に備えて溶解した。
【0052】
結果及び分析:
DMEM高グルコース培地を溶媒として再懸濁した細胞懸濁液は、移植後、前房水の漏出が深刻になり、角膜に浮腫が持続し、角膜の透明性を回復することができなかった(図6)。
【0053】
(比較例3)
本実施例では、異なる細胞量で細胞懸濁液を調製した。
(1)分化誘導、(2)細胞の酵素分解、(4)前房への細胞懸濁液の注射、(5)機能評価の手順は実施例1と同様であった。
【0054】
(3)細胞懸濁液の調製
DMEM低グルコース基礎培地で細胞を再懸濁し、セルカウンターで細胞数をカウントし、分注した。DMEM低グルコース基礎培地200~300μL当たり、それぞれ1.5×10~1×10、1×10~5×10、5×10~1×10個の細胞を、移植用に備えて溶解した。
【0055】
結果及び分析:
術後の評価により、1.2×10個を超えた細胞の場合、移植後に前房水の漏出が深刻になり、角膜に浮腫が持続し、また、3×10個未満の細胞の場合、移植後に角膜に浮腫が持続し、透明性を回復できなかったことが見出された(図7)。
【0056】
本発明の具体的な実施形態を詳細に説明してきたが、開示されたすべての教示に基づいて、これらの詳細及び使用量に様々な変更及び置換が可能であり、これらの変更はすべて本発明の保護範囲内であることを当業者が理解するであろう。本発明の全体的な範囲は、添付する特許請求の範囲及びその等価物に基づく。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2024-08-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
角膜内皮損傷、角膜内皮病変、角膜内皮細胞機能障害、角膜内皮代償不全を軽減又は治療するための医薬組成物の調製における網膜色素上皮細胞の使用。
【請求項2】
角膜内皮代償不全を罹患している患者における角膜厚の異常、角膜の透明性低下、角膜浮腫、視力の低下又は喪失、目の乾き、痛みを軽減又は治療するための医薬組成物の調製における網膜色素上皮細胞の使用。
【請求項3】
前記網膜色素上皮細胞は、患者の眼球の前房に投与され、前記医薬組成物は、網膜色素上皮細胞とDMEM低グルコース培地とを含み、網膜色素上皮細胞とDMEM低グルコース培地との配合比は、(3×10~1.2×10個):(200~300μL)である、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記網膜色素上皮細胞とDMEM低グルコース培地との配合比は、(5×10~1×10個):(200~300μL)である、ことを特徴とする請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記細胞懸濁液は、1種又は複数種の特異的阻害剤をさらに含み、前記特異的阻害剤は、Y27632、ニコチンアミド及び/又はTGF-β阻害剤SB431542を含む、ことを特徴とする請求項3に記載の使用。
【請求項6】
前記網膜色素上皮細胞は、ヒト胚性幹細胞又はヒト誘導多能性幹細胞から分化して得られる、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の使用。
【請求項7】
前記ヒト胚性幹細胞又はヒト誘導多能性幹細胞は、色素産生遺伝子であるチロシナーゼをノックアウトしたものである、ことを特徴とする請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記医薬組成物の剤形は、注射剤、細胞シート又はキットである、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の用途。
【請求項9】
分化誘導:分化培地を用いてhESC/hiPSC由来の網膜色素上皮細胞を得るステップ1と、
酵素分解処理:ステップ1におけるhESC/hiPSC由来の網膜色素上皮細胞を細胞消化酵素で処理し、完全培地により酵素反応を停止させるステップ2と、
単細胞の回収:ピペットを用いてステップ2における細胞をゆっくりとピペッティングして単細胞にし、遠沈管に回収し、遠心後に上清を捨て、細胞沈殿を保持するステップ3と、
細胞懸濁液の調製:DMEM基礎培地でステップ3における細胞を再懸濁し、DMEM基礎培地200~300μl当たり3×10~1.2×10個の細胞を溶解して、細胞懸濁液を得るステップ4と、
を含むことを特徴とする網膜色素上皮細胞懸濁液の調整方法。
【請求項10】
ステップ1における前記分化培地は、分化培地1と分化培地2とを含み、分化培地1は、DMEM/F12培地、Neuralbasal medium培地、グルタミン、非必須アミノ酸、β-メルカプトエタノール、N2添加物を含み、分化培地2は、DMEM/F12培地、血清代替物、グルタミン、非必須アミノ酸、β-メルカプトエタノールを含み、前記分化培地1における前記DMEM/F12培地と前記Neuralbasal medium培地とを1:1の割合で混合する、ことを特徴とする請求項9に記載の調製方法。
【請求項11】
ステップ1は、2%マトリゲルを混合した細胞分化培地1にて2日間培養し、マトリゲルなし培地に交換して5日間培養し、また、分化培地2に交換して3週間培養し、網膜色素上皮細胞を機械的に分離して増幅するように行われ、前記分化培地1は、1:1の割合で混合したDMEM/F12とNeuralbasal medium、2mMのグルタミン、0.1mMの非必須アミノ酸、0.1mMのβ-メルカプトエタノール、及び1%N2添加物を含み、分化培地2は、DMEM/F12培地、10%血清代替物、2mMのグルタミン、0.1mMの非必須アミノ酸、0.1mMのβ-メルカプトエタノールを含む、ことを特徴とする請求項9に記載の調製方法。
【請求項12】
前記ステップ2における前記細胞消化酵素は、アクターゼ酵素であり、処理温度は37℃であり、また、前記ステップ4における前記細胞懸濁液は、5~15μmのY27632をさらに含む、ことを特徴とする請求項9~11のいずれか一項に記載の調製方法。
【国際調査報告】