(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-03-03
(54)【発明の名称】土壌改良剤の製造方法,及びその方法により製造した土壌改良剤
(51)【国際特許分類】
C05F 17/00 20200101AFI20250221BHJP
C05F 3/00 20060101ALI20250221BHJP
C05F 1/00 20060101ALI20250221BHJP
C09K 17/14 20060101ALI20250221BHJP
C09K 17/02 20060101ALI20250221BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20250221BHJP
【FI】
C05F17/00
C05F3/00
C05F1/00
C09K17/14 H
C09K17/02 H
A01G7/00 605Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538295
(86)(22)【出願日】2022-06-20
(85)【翻訳文提出日】2024-08-09
(86)【国際出願番号】 CZ2022000028
(87)【国際公開番号】W WO2023116953
(87)【国際公開日】2023-06-29
(32)【優先日】2021-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CZ
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524236426
【氏名又は名称】アグリカーボン スポレチノスト エス ルチェニム オメゼニム
(71)【出願人】
【識別番号】524236437
【氏名又は名称】グローン スポレチノスト エス ルチェニム オメゼニム
(74)【代理人】
【識別番号】110002398
【氏名又は名称】弁理士法人小倉特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マロウシェク,ヨゼフ
(72)【発明者】
【氏名】コラーシュ,ラディスラフ
(72)【発明者】
【氏名】ストルネツキー,オタカル
(72)【発明者】
【氏名】カーニャ,ヤン
【テーマコード(参考)】
4H026
4H061
【Fターム(参考)】
4H026AA08
4H026AA10
4H026AA16
4H026AB03
4H061AA01
4H061AA02
4H061CC31
4H061CC35
4H061DD14
4H061EE63
4H061EE64
4H061EE66
4H061FF08
4H061GG19
4H061GG20
4H061GG26
4H061GG41
4H061GG48
4H061LL25
4H061LL26
(57)【要約】
バイオ炭と有機肥料との混合物をベースとする顆粒状土壌改良材の製造方法は,以下の工程から成る:‐バイオ炭と動物の排泄物とを,バイオ炭1重量部に対して排泄物乾燥物0.1~0.4重量部の比で混合し,この基材に以下の属のうち少なくとも2種に属する土壌細菌の混合物を添加する工程:根粒菌属細菌,アゾスピリルム属又はアゾトバクター属の硝化細菌,シュードモナス属細菌,及び桿菌属細菌;‐細菌含有基材に,細菌含有基材の重量の2倍以下の水を補充し,その混合物を少なくとも5日間発酵させる工程;‐過剰量の水を注ぎ,細菌基材を,水分量が20重量%以下になるように乾燥させる工程;‐トリコデルマ,アーバスキュラー菌根真菌,外生菌根真菌の群のうち少なくとも2種を含む真菌の胞子の混合物を,基材‐細菌化合物に,基材‐細菌化合物の乾燥物重量に対して0.2~1重量%に相当する総量で,添加する工程。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオ炭と有機肥料との混合物をベースとする顆粒状土壌改良剤の製造方法であって,前記改良剤に細菌,菌根真菌,及び菌類寄生真菌を付与し,以下の工程から成ることを特徴とする方法:
‐ 植物バイオマス又は動物の骨を熱還元して得られたバイオ炭と動物の排泄物とを,バイオ炭1重量部に対して排泄物乾燥物0.1~0.4重量部の重量比で混合し,この基材に以下の群のうち少なくとも2種を含む土壌細菌の化合物を混合する工程:
根粒菌(Rhizobia)属細菌,
アゾスピリルム(Azospirillum)属又はアゾトバクター(Azotobacter)属の硝化細菌,
シュードモナス(Pseudomonas)属細菌,
桿菌(Bacillus)属細菌,
これらの乾燥物重量は,コロニー形成単位(CFU)10
9の濃度で,基材中乾燥物重量の0.2~0.5%である;
‐ 細菌含有基材に,細菌含有基材の重量の2倍以下の水を補充し,その混合物を少なくとも5日間発酵させる工程;
‐ 過剰量の水を排出し,細菌を含む基材を,水分量が20重量%以下になるように乾燥させ,トリコデルマ(Trichoderma),アーバスキュラー菌根真菌(Arbuscular mycorrhizal fungi),外生菌根真菌(Ectomycorrhizal fungi)の群のうち少なくとも2種を含む真菌胞子の混合物を,基材‐細菌混合物に,基材‐細菌混合物の乾燥物重量に対して0.2~1%に相当する総量で,添加する工程;
‐ このように調製した混合物を十分に混合する工程。
【請求項2】
アゾスピリルム属又はアゾトバクター属,及び桿菌属の土壌細菌の混合物を基材に添加し,トリコデルマ属又はフハイカビ(Pythium)属などの菌類寄生真菌,及びグロムス(Glomus)属などのアーバスキュラー真菌,又はコツブタケ(Pisolithus)属,ニセショウロ(Scleroderma)属,又はショウロ(Rhizopogon)属などの外生菌根真菌,あるいはエリコイド菌根(ericoid mycorrhizae)を形成する真菌の真菌胞子の混合物を基材‐細菌混合物に添加する,ことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
土壌細菌の混合物を以下の重量比:
25%の根粒菌属細菌,
25%のアゾスピリルム属又はアゾトバクター属の硝化細菌,
25%のシュードモナス属細菌,
25%の桿菌属細菌
で基材に添加し,
細菌を含む基材に,細菌を含む基材と同じ重量の水を補充した後,発酵させ,更に,真菌胞子の混合物を,以下の重量比:50%のアーバスキュラー菌根真菌,25%の外生菌根真菌,及び25%のトリコデルマなどの菌類寄生真菌で細菌含有基材に添加する
ことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
基材に0.1~0.3重量部の鉱物肥料を添加することを特徴とする請求項1~3いずれか1項記載の方法。
【請求項5】
基材‐細菌混合物の乾燥物重量に対して4~6%の量のデンプンを沸点温度で水と混合し,このデンプン懸濁液を冷却した後に細菌含有基材と混合し,この基材‐細菌‐デンプン‐菌根真菌混合物を造粒機で造粒し,直径1~5mmの顆粒を形成することを特徴とする請求項1~4いずれか1項記載の方法。
【請求項6】
請求項1~4いずれか1項記載の方法により製造した,バイオ炭と有機肥料との混合物をベースとする土壌改良剤であって,以下の群:根粒菌,アゾスピリルム又はアゾトバクター,シュードモナス,及び桿菌のうちの少なくとも3種を含む土壌細菌の混合物を含み,更に,以下の群:アーバスキュラー菌根真菌,外生菌根真菌,菌類寄生真菌のうちの少なくとも3種を含む真菌胞子の混合物を含むことを特徴とする土壌改良剤。
【請求項7】
結合剤としてデンプンを含む顆粒の形態であることを特徴とする請求項6記載の土壌改良剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,土壌の特性を改善し,植物に肥料供給及び栄養素補給するための手段に関する。
【背景技術】
【0002】
農地の大部分では,土壌の健康状態への懸念を持たずに,作物収量を最大にすることを目的とした集約的な方法で耕作が行われている。鉱物肥料や植物保護製品を大量に使用することにより,土壌中の微生物やマクロ生物が大きく失われている。しかし,自然に土壌を肥沃化させる上で,微生物の役割はかけがえのない存在である。土壌中の生物が不足した結果,栽培植物は完全に人工肥料に依存している。
【0003】
鉱物肥料の散布は,圃場において農業機械を頻繁に繰り返し運転することで土壌の物理的特性に悪影響が及ぶことと関連している。土壌層は圧縮される。このことは雨水が土壌に浸み込む能力に悪影響を及ぼし,大規模な水食につながる。
【0004】
この農作業における好ましくない傾向は,土壌微生物のエネルギー源となる有機物や,土壌構造を改善する材料を土壌に供給するような優しい農法を採用することにより,逆転することが可能となる。このような材料は,集約農業で使用されている標準的な農業技術で散布可能であることが好ましい。
【0005】
微小顆粒状肥料は,20世紀後半から農業で一般的に使用されている。微小顆粒状肥料は,栄養素投与をより正確にし,土壌保護製品や他の農薬をうまく使用することで,作物の定着をより効率的にする。今日の耕作技術では,微小顆粒状肥料を,種子から実質的に任意の距離,しかも正確な距離をとって ― 苗床中に直接種子へと ― 供給することが可能である。これにより,活性物質の使用効率が高まる。種子と肥料との相互作用により,生育期の初期に「根付肥効果(starter effect)」が誘発され,将来的に作物の強固な根系が急速に発達できるようになる。これにより,作物は水源の水分(spring moisture)をうまく利用できるようになり,葉の面積を素早く増やし,競合する雑草を抑制する。顆粒状肥料により作物の収量は増加し,雑草抑制用途に掛かるコストも減少する。
【0006】
微小顆粒状肥料の製造では,再生不可能な天然資源由来の原料であるセピオライトなどの鉱物を塩基性物質として使用する。その生産はエネルギー集約的である。しかし,このような微小顆粒状肥料に含まれる栄養素が植物栄養補給に利用できるかどうかが問題である。
【0007】
バイオ炭は炭にしたタイプのバイオマスである。バイオ炭は,他のバイオマスの中でも特に,土壌の物理的特性や自然肥沃度を向上させる土壌改良剤として使用されている。バイオ炭は通常,450~800℃の温度でバイオマスを熱還元して得られる。その組成は,その原料により異なる。バイオ炭は通常,安定的な炭素を50~90重量%含有し,炭素の他に,約1重量%のリン,2重量%のカリウム,6重量%のカルシウム,1.5重量%のマグネシウムを含有する。
【0008】
バイオ炭を土壌改良剤や顆粒状肥料の一部として使用することは当技術水準で公知である。
【0009】
中国特許出願公開第105646047号明細書は,水及び蒸気を通さないバイオ炭をベースとする化合物の肥料,並びにその調製方法を開示している。この顆粒状肥料は重量部で表す以下の成分:15重量部のバイオ炭粉末,30重量部の尿素,30重量部のリン酸一アンモニウム,22重量部の硫酸カリウム,及び20~30重量部の水,並びにゼラチン状のデンプンを含む最大1重量部の結合剤から成る。この肥料の望ましい特性,即ち栄養素が土壌に徐々に浸透していく性質は,ポッティング化合物の性質を持つ結合剤により付与される。バイオ炭の含有量は比較的低く,吸収された無機栄養素をゆっくりと土壌に放出する能力は利用されていない。
【0010】
中国特許出願公開第112390691号明細書は,竹炭粉末及び有機肥料から成る土壌改良剤を開示している。ここでは竹炭粉末と有機肥料との重量比は1:2.4~1:14である。2種の主原料を組み合わせる方法や,土壌微生物については言及されていない。
【0011】
中国特許出願公開第107573163号明細書には,植物栄養素補給用の酸性土壌改良剤が記載されている。この改良剤は,基材と補助材との混合物から成り,基材は,45~65重量部の醸造麦芽,40~60重量部の泥炭土,40~50重量部の漢方薬残渣,35~45重量部の大豆粕粉末,30~40重量部の麦わら粉末,25~35重量部の食用真菌残渣(edible fungi residues),24~36重量部のパイナップルペースト,20~30重量部のリンゴペースト,15~25重量部のカイコ排泄物,10~16重量部のタンパク質分解酵素,4~8重量部のアゾトバクター(azotobacter),5~9重量部の根粒菌,4~6重量部のカリウム分解細菌,6~8重量部のセルロース分解細菌,4~6重量部の抗生物質生成細菌,及び前記の成分を混合して発酵させるための60~80重量部の水から成る。前記発酵のプロセスは定義されていない。次いで,補助材料,即ち40~60重量部のミミズ排泄物,25~35重量部のバイオ炭残渣,20~30重量部の尿素,18~28重量部の植物灰,10~20重量部の石灰粉末,10~20重量部の尿素‐鉄錯体,及び10~20重量部のキレート化亜鉛を添加する。上記錯体には,定義した種類の有機物及び細菌が大量に含まれており,これらは共発酵している。
【0012】
この混合物は,細菌は別として,不安定な有機物しか含まないので,発酵の間,栄養素もコロニー形成細菌も,栄養素と細菌が結合したり根系にコロニー形成したりできるような固定構造へと固定することは不可能である。また,少なくともいくつかの例では,使用の成分は一般的に入手が困難であるか,又は多大なエネルギー投入を必要とする。また,バイオマスからの炭素の寄与はわずかであるため,この改良剤の散布による土壌構造の改善は期待できない。
【0013】
本発明の目的は,ゆっくり放出されながら植物発生の初期段階から有機栄養素の生物学的利用能を確保する微小顆粒の形態で,生物をベースとする有機肥料を製造する方法を提供することである。その目的は,植生の初期段階での成長を促進するだけでなく,微小顆粒肥料が塩基性肥料供給に大きく取って代わるようにすることである。
【0014】
発明の開示
本課題は,バイオ炭と有機肥料との混合物をベースとする顆粒状土壌改良剤を製造する方法を対象とし,この方法では,改良剤に細菌,菌根真菌(mycorrhizal fungi),及び菌類寄生真菌(myco-parasitic fungus)を付与する。この方法は以下の工程から成る:
‐ 植物バイオマス又は動物の骨を熱還元して得られたバイオ炭と動物の排泄物とを,バイオ炭1重量部に対して排泄物乾燥物0.1~0.4重量部の重量比で混合し,この基材に以下の属のうち少なくとも2種を含む土壌細菌の混合物を添加する工程:
根粒菌(Rhizobia)属細菌,
アゾスピリルム(Azospirillum)属又はアゾトバクター(Azotobacter)属の硝化細菌,
シュードモナス(Pseudomonas)属細菌,
桿菌(Bacillus)属細菌,
これらの乾燥物重量は,コロニー形成単位(CFU)109の濃度で,基材中の乾燥物重量の0.2~0.5%である;
‐ 細菌含有基材に,細菌含有基材の重量の2倍以下の水を補充し,その混合物を少なくとも5日間発酵させる工程;
‐ その後過剰量の水を排出し,細菌を含む基材を,水分量が20重量%以下に減少するまで乾燥させ,その後,トリコデルマ(Trichoderma),アーバスキュラー菌根真菌(Arbuscular mycorrhizal fungi),外生菌根真菌(Ectomycorrhizal fungi)の群のうち少なくとも2種の代表種に属する真菌の胞子の混合物を,細菌を含む基材混合物に,細菌を含む基材混合物の乾燥物重量に対して0.2~1重量%に相当する総量で,添加する工程;
‐ このように調製した化合物を十分に混合する工程。
【0015】
好ましくは,アゾスピリルム属又はアゾトバクター属,及び桿菌属の土壌細菌の混合物を基剤に添加してもよく,ここではトリコデルマ属又はフハイカビ(Pythium)属などの菌類寄生真菌,及びグロムス(Glomus)属などのアーバスキュラー真菌,又はコツブタケ(Pisolithus)属,ニセショウロ(Scleroderma)属,又はショウロ(Rhizopogon)属などの外生菌根真菌の胞子の混合物を基材‐細菌混合物に添加する。あるいは,ギョリュウモドキ植物(heather plants)でエリコイド菌根(ericoid mycorrhizae)を形成する真菌を添加する。
【0016】
土壌細菌の混合物を以下の重量比で基材に添加する方法が特に好ましい:
25%の根粒菌属細菌,
25%のアゾスピリルム属又はアゾトバクター属の硝化細菌,
25%のシュードモナス属細菌,
25%の桿菌属細菌。
ここに,細菌を含む基材を補充した後,細菌を含む基材と同じ重量の水で発酵させ,真菌胞子の混合物を,以下の重量比:50%のアーバスキュラー菌根真菌,25%の外生菌根真菌,及び25%のトリコデルマなどの菌類寄生真菌:で細菌含有基材の混合物に添加する。
【0017】
好ましくは,0.1~0.3重量部の鉱物肥料を基材に補充してもよい。
【0018】
顆粒状改良剤の製造では,基材‐細菌混合物の乾燥物重量に対して4~6%の量のデンプンを沸点温度で水と混合し,このデンプン懸濁液を冷却した後に基材‐細菌混合物に添加し,この混合物を造粒機で造粒し,直径1~5mmの顆粒を形成する。
【0019】
前記課題は,上記のいずれかの方法により製造したバイオ炭と有機肥料の混合物をベースとする土壌改良剤によっても達成される。前記土壌改良剤は,以下の群:根粒菌,アゾスピリルム又はアゾトバクター,シュードモナス,及び桿菌のうちの少なくとも3種に属する土壌細菌の混合物から成り,更に,以下の群:アーバスキュラー菌根真菌,外生菌根真菌,菌類寄生真菌のうちの少なくとも3種に属する真菌胞子の混合物を含む。
【0020】
好ましい実施形態では,改良剤は,結合剤としてデンプンを含む顆粒の形態をとる。
【0021】
バイオ炭の存在により,改良剤は,水と空気の管理及び土壌構造の改善に寄与する土壌改良剤として機能する。改良剤の重要な成分は,空気中窒素を固定し,有機栄養素を植物へ利用可能にし,害虫やストレスから植物を保護するいくつかの系統に属する根圏細菌(rhizobacteria)の形態をした土壌生物相である。細菌に加え,改良剤には植物の根と共生する菌根真菌の胞子も含まれる。菌根真菌の胞子は植物の根から炭素を抽出し,その代わりに栄養素を最適に利用可能な形態で供給する。土壌生物相のこれらの成分はいずれも,自然の土壌肥沃度を確実に回復させ,人工肥料での肥料供給の追加を低減するか,又は完全に追加しないことを効果的に可能にする。改良剤はバイオ炭の利用により炭素隔離に相乗的に貢献するため,いわゆる「発熱性炭素回収・貯留(Pyrogenic Carbon Capture and Storage)」のツールとなる。バイオ炭に含まれる炭素はもともと空気中のCO2分子の一部であったため,光合成の過程で分解された後,植物の体内に貯蔵され,この植物のバイオマスからバイオ炭が得られていた。
【0022】
本発明の方法に従って製造した改良剤を散布した結果を図面に示す。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】以下の実施例に記載した方法に従って製造した改良剤の試料を用いて行ったインキュベーション容器実験の結果を示すグラフ。
【
図2】これらの試料を散布した場合のコムギ根系(wheat root systems)における菌根の発達を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0024】
実施例1
針葉樹を550℃で熱還元して得られたバイオ炭を粉砕し,粒径1~15mmの粒子を得た。
肥料の製造では,以下の重量組成の混合物を上記のように調製した:
‐ 1重量部のバイオ炭
‐ 0.2重量部のミミズ堆肥溶出液濃縮物(Vermi-tea)
‐ 0.02重量部の,それぞれ等しい重量部の根粒菌属,アゾトバクター属,シュードモナス属,及び桿菌属の細菌の混合物
‐ 0.05重量部のグロムス種の胞子(50%)及びトリコデルマ種の胞子(50%)。
バイオ炭,ミミズ堆肥(ミミズの排泄物),及び細菌の混合物に,1:1.5の重量比で水を補充し,7日間発酵させた。その後,過剰分の水を排出し,冷却した後,1:1の重量比で沸騰水と混合したデンプン0.1重量部の懸濁液及び菌根真菌胞子を添加した。十分に混合した後,混合物を造粒プレス機で造粒し,直径3mmの顆粒を得た。試料に「MicroCHAR+Vermitea」というラベルを付けた。
【0025】
実施例2
針葉樹を550℃で熱還元して得られたバイオ炭を粉砕し,粒径1~15mmの粒子を得た。
肥料の製造では,以下の重量組成の混合物を上記のように調製した:
‐ 1重量部のバイオ炭
‐ 0.4重量部の家禽排泄物乾燥物
‐ 0.02重量部の,それぞれ等しい重量部の根粒菌属,アゾトバクター属,シュードモナス属,及び桿菌属の細菌の混合物
‐ 0.05重量部のグロムス種の胞子(50%)及びトリコデルマ種の胞子(50%)。
バイオ炭,家禽排泄物,及び細菌の混合物に,1:1.5の重量比で水を補充し,7日間発酵させた。その後,過剰分の水を排出し,冷却した後,1:1の重量比で沸騰水と混合したデンプン0.1重量部の懸濁液及び菌根真菌胞子を添加した。十分に混合した後,混合物を造粒プレス機で造粒し,直径3mmの顆粒を得た。試料に「MicroCHAR Organic」というラベルを付けた。
【0026】
実施例3
針葉樹を550℃で熱還元して得られたバイオ炭を粉砕し,粒径1~15mmの粒子を得た。
肥料の製造では,以下の重量組成の混合物を上記のように調製した:
‐ 1重量部のバイオ炭
‐ 0.2重量部の家禽排泄物乾燥物
‐ 0.2重量部のリン酸アンモニウム((NH4)3PO4)
‐ 0.02重量部の,それぞれ等しい重量部の根粒菌属,アゾトバクター属,シュードモナス属,及び桿菌属の細菌の混合物
‐ 0.05重量部のグロムス種の胞子(50%)及びトリコデルマ種の胞子(50%)
バイオ炭,家禽排泄物,及び細菌の混合物に,1:1.5の重量比で水を補充し,7日間発酵させた。その後,過剰分の水を排出し,0.2重量部のリン酸アンモニウムを添加した。冷却した後,1:1の重量比で沸騰水と混合したデンプン0.1重量部の懸濁液及び菌根真菌胞子を添加した。十分に混合した後,混合物を造粒プレス機で造粒し,直径3mmの顆粒を得た。試料に「MicroCHAR Mineral」というラベルを付けた。
【0027】
改良剤におけるバイオ炭単独の効果を評価するために,以下の方法で土壌改良剤を調製した:
針葉樹を550℃で熱還元して得られたバイオ炭を粉砕し,粒度1~15mmの粒子を得た。
肥料の製造では,以下の重量組成の混合物を上記のように調製した:
‐ 1重量部のバイオ炭
‐ 0.02重量部の,それぞれ等しい重量部の根粒菌属,アゾトバクター属,シュードモナス属,及び桿菌属の細菌の混合物
‐ 0.05重量部のアーバスキュラー菌根真菌胞子(50%)及びトリコデルマの胞子(50%)。
冷却した後,1:1.5の重量比で沸騰水と混合したデンプン0.2重量部の懸濁液及び菌根真菌胞子を添加した。次いで,得られた混合物を造粒プレス機で造粒し,直径3mmの顆粒を得た。試料に「MicroCHAR」というラベルを付けた。
【0028】
次いで,栄養素利用能を判定するために,上述の方法により製造した改良剤試料を,メーリッヒIII認定法とインキュベーション容器実験との両方により実験室で試験した。メーリッヒIII法は,法令集命令第275/1998号の附属書2に従って,土壌中の物質含有量をサンプリングするための認定された方法である。
【0029】
メーリッヒIII法による試験では,表1及び表2に示す結果が得られた:
【0030】
【0031】
【0032】
その後,実施例1に従って調製した改良剤を問題のある2種の土壌と共に試験容器に投入するインキュベーション実験を行った。
図1のグラフを参照されたい。各グラフは,2種の土壌からの各栄養素の摂取を示す図である。この図は,改良剤を投入した試料と,対照土壌試料の結果を比較している。有機物が不足しているため保持力が低く,栄養素含有量が低下している問題のある2種の土壌を使用した。これらの土壌は,それぞれ,レゴ(Rego)土壌(砂分含有量が2mm超≒85%)と呼ばれるポラビ(Polabi)地方の農業用土壌と,イェヴァニ(Jevany)地方自治体周辺で得られた森林土壌(鉱物層位)である。
【0033】
各グラフ中のx軸は測定日を表し,y軸は測定と測定の間で土壌から採取した各元素N,P,Kの質量を表し,DOCは溶出炭素量である。塗り潰した丸印の線は改良剤を投入した土壌試料を示し,白抜きの丸印の線は対照試料を示す。
【0034】
各栄養素の累積抽出量の結果から,約2ヶ月のインキュベーション期間中,処理済み農業用レゴ土壌及び処理済み森林土壌で,窒素及びカリウムは約8倍以上抽出され,Nは11倍,Kは15倍多く抽出されたことが分かる。リンについては,レゴ土壌の場合は30倍,森林土壌の場合は98倍もの増加が見られた。他の多量栄養素については,2倍~12倍の増加であった。
【0035】
2021年のシーズンに圃場試験という形で改良剤を更に試験した。ハルコムギ及びトウモロコシへの散布を,各作物について各種肥料(MicroCHAR mineral,MicroCHAR organic,及びMicroCHAR)を用いて3回繰り返して試験した。改良剤は常に,播種時に1ヘクタール当たり80kgの割合で散布した。植生期間中は肥料も保護剤も散布しなかった。
【0036】
【0037】
有機栽培において,調査した全ての肥料種の植物乾物収量及び穀物収量は高収量レベルにあった。
【0038】
肥料は,重要な元素のレベルを決定する目的でも分析し,収穫後の土壌も同様に分析し,利用可能な栄養素含有量の変化を判定した。MicroCHAR mineral散布後は土壌の有機炭素含有量が顕著に増加し,土壌にはあらゆる形態の窒素が高レベルで含まれていることが判明した。次に,MicroCHAR organicタイプについて,利用可能なカリウム,カルシウム,及びマグネシウムを多量に土壌に供給した。未処理の対照と比較すると,大半の重要な栄養素の土壌供給量は生育期後も増加した。
【0039】
更に,改良剤試料の利用可能な栄養素含有量を,パーコレーション後の状態と比較して調査した。パーコレーションとは,フィルター上の試料に溶媒を連続的に流すプロセスである。
【0040】
KA2の定量分析のために,2gの肥料(MicroCHAR,MicroCHAR mineral+,MicroCHAR organic+)を濾紙上に置き,そこに10mLの溶媒(蒸留水)をゆっくり注ぐことで試料から物質を抽出し,15mL容器に注入した。
【0041】
【0042】
MicroCHAR mineral肥料の散布後,土壌中の有機炭素含有量は顕著に増加した。この肥料種はあらゆる形態の窒素を多量に含み,窒素源として適している。MicroCHAR organic 肥料種は,カリウム,カルシウム,及びマグネシウムを高割合で含む。両肥料種を組み合わせることが理想的と思われる。
【0043】
最後に観察された要素は,処理した作物の根における菌根コロニー形成の発達である。菌根コロニー形成法は,植物根の顕微鏡プレパラートにおいて菌根真菌の相対的な存在量を判定する方法である。
【0044】
改良試料で処理した土壌において生育したコムギ根を,標準的手順で調製した。顕微鏡スライド上で広げた染色根が見えるように,倍率を400倍にした。根の中に菌根形成(樹枝状体,小胞,菌根菌糸)が見える視野を陽性とした。結果を評価するために,有意性法又はp値法を利用した ―https://en.wikipedia.org/wiki/P-value― を参照。対照試料から得たコロニー形成の結果をp値0.05(5%)とした。比較した3種の肥料種全てで検出された菌根形成の量及び頻度を,数学的なR言語ソフトウェアを用いた所謂カイ二乗検定で評価した。改良剤を散布した土壌で生育したコムギの根系における菌根の発達を
図2に示す。
【0045】
3種の試料は全て,確実と言える確率レベルで根におけるコロニー形成が増加していることを示している。MicroCHAR organic肥料種の散布で最も良好な結果が得られた。しかし,試験した3種類の肥料種全てで,圃場土壌における自然菌根集団との共生形成が対照と比較して有意に増加していた。
【国際調査報告】