(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-03-05
(54)【発明の名称】シータディフェンシンの予防的使用
(51)【国際特許分類】
A61K 38/10 20060101AFI20250226BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20250226BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20250226BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20250226BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20250226BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20250226BHJP
A61P 33/00 20060101ALI20250226BHJP
C07K 11/02 20060101ALN20250226BHJP
C07K 7/08 20060101ALN20250226BHJP
【FI】
A61K38/10 ZNA
A61K38/16
A61P31/12
A61P31/14
A61P31/04
A61P31/10
A61P33/00
C07K11/02
C07K7/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024545856
(86)(22)【出願日】2022-11-01
(85)【翻訳文提出日】2024-07-31
(86)【国際出願番号】 US2022048569
(87)【国際公開番号】W WO2023081149
(87)【国際公開日】2023-05-11
(32)【優先日】2021-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522188026
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティ オブ サザン カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF SOUTHERN CALIFORNIA
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】セルステッド、マイケル イー.
(72)【発明者】
【氏名】シャール、ジャスティン ビー.
(72)【発明者】
【氏名】トラン、パティ
(72)【発明者】
【氏名】トラン、ダット キュー.
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA18
4C084BA19
4C084BA20
4C084BA23
4C084BA44
4C084CA17
4C084DA43
4C084MA65
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZB33
4C084ZB35
4C084ZB37
4H045BA17
4H045CA40
4H045EA20
(57)【要約】
広範な微生物病原体の安全かつ有効な予防的処置を提供する組成物及び方法を記載する。このような組成物及び方法には、θディフェンシン及びθディフェンシンのアナログが組み込まれ、これらは広範な抗菌効果を有し、長期間にわたって血流中で有効濃度を維持することが見出されており、そして高用量で投与するのに安全である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物による感染に対する予防的処置を提供する方法であって、
当該微生物感染に対する予防的処置を必要とする個体を識別することと、
処置を必要とする前記個体に有効量の有効なθ-ディフェンシン又は有効なθ-ディフェンシンアナログを投与することとを含み、前記有効量は、前記有効なθ-ディフェンシン又は前記有効なθ-ディフェンシンアナログのピーク血漿濃度の少なくとも50%で前記微生物に対する抗菌活性を提供する、方法。
【請求項2】
投与後少なくとも4時間、有効なθ-ディフェンシン又は有効なθ-ディフェンシンアナログのピーク血漿濃度の少なくとも50%を維持する有効なθ-ディフェンシン又は有効なθ-ディフェンシンアナログを同定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記有効なθ-ディフェンシンは、RTD-1(配列番号1)、RTD-2(配列番号2)、RTD-3(配列番号3)、RTD-4(配列番号4)、RTD-5(配列番号5)、RTD-6(配列番号6)、BTD-1(配列番号7)、BTD-2(配列番号8)、BTD-3(配列番号9)、BTD-4(配列番号10)、BTD-5(配列番号11)、BTD-6(配列番号12)、BTD-7(配列番号13)、BTD-8(配列番号14)、BTD-9(配列番号15)、及び/又はBTD-10(配列番号16)、及びHTDpに由来するペプチド(配列番号17)からなる群から選択される、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記有効なθ-ディフェンシンアナログは、ペプチド1(配列番号18)、ペプチド2(配列番号19)、ペプチド3(配列番号20)、ペプチド4(配列番号21)、ペプチド5(配列番号22)、ペプチド6(配列番号23)、ペプチド7(配列番号24)、ペプチド8(配列番号25)、ペプチド9(配列番号26)、ペプチド10(配列番号27)、ペプチド11(配列番号28)、ペプチド12(配列番号29)、ペプチド13(配列番号30)、ペプチド14(配列番号31)、及びペプチド15(配列番号32)からなる群から選択される、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記個体は、高リスク個体としてさらに識別される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記高リスク個体は、新生児、未熟児、免疫系が未発達又は部分的に発達した小児、高齢の個体、手術から回復中の個体、事故による傷害から回復中の個体、癌を有する個体、免疫不全の個体、臓器、骨髄、もしくは幹細胞移植を受けた個体、化学療法を受けているか、又は化学療法から回復中の個体、放射線療法を受けているか、又は放射線療法から回復中の個体、免疫療法を受けているか、又は免疫療法から回復中の個体、免疫抑制療法を受けているか、又は免疫抑制療法から回復中の個体、基礎心疾患及び/又は心損傷を有する個体、基礎腎疾患及び/又は腎損傷を有する個体、基礎肝疾患及び/又は肝損傷を有する個体、基礎肺疾患及び/又は肺損傷を有する個体、肥満を有する個体等として識別される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記高リスク個体は、前記微生物が伝播する可能性のある距離内にいる他者への曝露に基づいて識別される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記微生物はウイルスである、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ウイルスはSARS-CoV-2である、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記微生物は細菌である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記微生物は真菌である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記微生物は原生動物である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記有効なθ-ディフェンシンはRTD-1(配列番号1)である、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記有効なθ-ディフェンシン又は前記有効なθ-ディフェンシンアナログは最大15mg/kgで投与される、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
投与は、前記有効なθ-ディフェンシン又は前記有効なθ-ディフェンシンアナログの単回投与を含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記単回投与は、処置を必要とする前記個体に0.1mg/kg~15mg/kgを提供するための量の前記有効なθ-ディフェンシン又は前記有効なθ-ディフェンシンアナログを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
投与は、前記有効なθ-ディフェンシン又は前記有効なθ-ディフェンシンアナログの反復投与を含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
プロトコルは、12時間毎に1回から48時間毎に1回の投与頻度を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
各投与は、処置を必要とする前記個体に0.1mg/kg~15mg/kgを提供するのに十分な量の前記有効なθ-ディフェンシン又は前記有効なθ-ディフェンシンアナログを含む、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
前記反復投与は、第1の量の前記有効なθ-ディフェンシン又は前記有効なθ-ディフェンシンアナログの投与及び第2の量の前記有効なθ-ディフェンシン又は前記有効なθ-ディフェンシンアナログの投与を含む、請求項17から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
微生物による感染に対する予防的処置のためのθ-ディフェンシン又はθ-ディフェンシンアナログを含む製剤の使用であって、前記製剤は、投与後少なくとも4時間、有効なθ-ディフェンシン又は有効なθ-ディフェンシンアナログのピーク血漿濃度の少なくとも50%を維持するものとして同定された有効なθ-ディフェンシン又は有効なθ-ディフェンシンアナログを含み、前記製剤は、少なくとも4時間、抗菌効果を提供するのに十分な量の前記有効なθ-ディフェンシン又は有効なθ-ディフェンシンアナログを提供する、使用。
【請求項22】
前記有効なθ-ディフェンシンは、RTD-1(配列番号1)、RTD-2(配列番号2)、RTD-3(配列番号3)、RTD-4(配列番号4)、RTD-5(配列番号5)、RTD-6(配列番号6)、BTD-1(配列番号7)、BTD-2(配列番号8)、BTD-3(配列番号9)、BTD-4(配列番号10)、BTD-5(配列番号11)、BTD-6(配列番号12)、BTD-7(配列番号13)、BTD-8(配列番号14)、BTD-9(配列番号15)、及び/又はBTD-10(配列番号16)、及びHTDpに由来するペプチド(配列番号17)からなる群から選択される、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
前記有効なθ-ディフェンシンアナログは、ペプチド1(配列番号18)、ペプチド2(配列番号19)、ペプチド3(配列番号20)、ペプチド4(配列番号21)、ペプチド5(配列番号22)、ペプチド6(配列番号23)、ペプチド7(配列番号24)、ペプチド8(配列番号25)、ペプチド9(配列番号26)、ペプチド10(配列番号27)、ペプチド11(配列番号28)、ペプチド12(配列番号29)、ペプチド13(配列番号30)、ペプチド14(配列番号31)、及びペプチド15(配列番号32)からなる群から選択される、請求項21に記載の使用。
【請求項24】
前記微生物はウイルスである、請求項21から23のいずれか一項に記載の使用。
【請求項25】
前記ウイルスはSARS-CoV-2である、請求項24に記載の使用。
【請求項26】
前記微生物は細菌である、請求項21から23のいずれか一項に記載の使用。
【請求項27】
前記微生物は真菌である、請求項21から23のいずれか一項に記載の使用。
【請求項28】
前記微生物は原生動物である、請求項21から23のいずれか一項に記載の使用。
【請求項29】
前記有効なθ-ディフェンシンはRTD-1(配列番号1)である、請求項21から28のいずれか一項に記載の使用。
【請求項30】
前記製剤は、最大15mg/kgで前記有効なθ-ディフェンシン又は前記有効なθ-ディフェンシンアナログを提供する、請求項21から29のいずれか一項に記載の使用。
【請求項31】
前記製剤は、前記有効なθ-ディフェンシン又は前記有効なθ-ディフェンシンアナログの単回投与後に予防を提供するように製剤化されている、請求項21から30のいずれか一項に記載の使用。
【請求項32】
前記製剤は、前記有効なθ-ディフェンシン又は前記有効なθ-ディフェンシンアナログの反復投与後に予防を提供するように製剤化されている、請求項21から30のいずれか一項に記載の使用。
【請求項33】
前記製剤は、前記反復投与の各々において、0.1mg/kg~15mg/kgを提供するのに十分な量の前記有効なθ-ディフェンシン又は前記有効なθ-ディフェンシンアナログを提供するように製剤化されている、請求項32に記載の使用。
【請求項34】
微生物による感染に対する予防的処置のためのθ-ディフェンシン又はθ-ディフェンシンアナログを含む、微生物による感染の予防的処置を提供するための製剤であって、前記製剤は、投与後少なくとも4時間、有効なθ-ディフェンシン又は有効なθ-ディフェンシンアナログのピーク血漿濃度の少なくとも50%を維持するものとして同定された有効なθ-ディフェンシン又は有効なθ-ディフェンシンアナログを含み、前記製剤は、少なくとも4時間、抗菌効果を提供するのに十分な量の前記有効なθ-ディフェンシン又は有効なθ-ディフェンシンアナログを提供する、製剤。
【請求項35】
前記有効なθ-ディフェンシンは、RTD-1(配列番号1)、RTD-2(配列番号2)、RTD-3(配列番号3)、RTD-4(配列番号4)、RTD-5(配列番号5)、RTD-6(配列番号6)、BTD-1(配列番号7)、BTD-2(配列番号8)、BTD-3(配列番号9)、BTD-4(配列番号10)、BTD-5(配列番号11)、BTD-6(配列番号12)、BTD-7(配列番号13)、BTD-8(配列番号14)、BTD-9(配列番号15)、及び/又はBTD-10(配列番号16)、及びHTDpに由来するペプチド(配列番号17)からなる群から選択される、請求項34に記載の製剤。
【請求項36】
前記有効なθ-ディフェンシンアナログは、ペプチド1(配列番号18)、ペプチド2(配列番号19)、ペプチド3(配列番号20)、ペプチド4(配列番号34)、ペプチド5(配列番号22)、ペプチド6(配列番号23)、ペプチド7(配列番号24)、ペプチド8(配列番号25)、ペプチド9(配列番号26)、ペプチド10(配列番号27)、ペプチド11(配列番号28)、ペプチド12(配列番号29)、ペプチド13(配列番号30)、ペプチド14(配列番号31)、及びペプチド15(配列番号32)からなる群から選択される、請求項34に記載の製剤使用。
【請求項37】
前記微生物はウイルスである、請求項34から36のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項38】
前記ウイルスはSARS-CoV-2である、請求項37に記載の製剤。
【請求項39】
前記微生物は細菌である、請求項34から36のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項40】
前記微生物は真菌である、請求項34から36のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項41】
前記微生物は原生動物である、請求項34から36のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項42】
前記有効なθ-ディフェンシンはRTD-1(配列番号1)である、請求項34から41のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項43】
前記製剤は、前記有効なθ-ディフェンシン又は前記有効なθ-ディフェンシンアナログを最大15mg/kgで提供するように製剤化されている、請求項34から42のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項44】
前記製剤は、前記有効なθ-ディフェンシン又は前記有効なθ-ディフェンシンアナログの単回投与後に予防を提供するように製剤化されている、請求項34から43のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項45】
前記製剤は、前記有効なθ-ディフェンシン又は前記有効なθ-ディフェンシンアナログの反復投与後に予防のために製剤化されている、請求項34から43のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項46】
前記製剤は、前記反復投与の各々において、0.1mg/kg~15mg/kgを提供するのに十分な量の前記有効なθ-ディフェンシン又は前記有効なθ-ディフェンシンアナログを提供するように製剤化されている、請求項45に記載の製剤。
【請求項47】
微生物による感染に対する予防的処置のためのθ-ディフェンシン又はθ-ディフェンシンアナログを含む、微生物による感染の予防的処置を提供するための製剤の調製におけるθ-ディフェンシン又はθ-ディフェンシンアナログの使用であって、前記製剤は、投与後少なくとも4時間、有効なθ-ディフェンシン又は有効なθ-ディフェンシンアナログのピーク血漿濃度の少なくとも50%を維持するものとして同定された有効なθ-ディフェンシン又は有効なθ-ディフェンシンアナログを含み、前記製剤は、少なくとも4時間、抗菌効果を提供するのに十分な量の前記有効なθ-ディフェンシン又は有効なθ-ディフェンシンアナログを提供する、使用。
【請求項48】
前記有効なθ-ディフェンシンは、RTD-1(配列番号1)、RTD-2(配列番号2)、RTD-3(配列番号3)、RTD-4(配列番号4)、RTD-5(配列番号5)、RTD-6(配列番号6)、BTD-1(配列番号7)、BTD-2(配列番号8)、BTD-3(配列番号9)、BTD-4(配列番号10)、BTD-5(配列番号11)、BTD-6(配列番号12)、BTD-7(配列番号13)、BTD-8(配列番号14)、BTD-9(配列番号15)、及び/又はBTD-10(配列番号16)、及びHTDpに由来するペプチド(配列番号17)からなる群から選択される、請求項47に記載の使用。
【請求項49】
前記有効なθ-ディフェンシンアナログは、ペプチド1(配列番号18)、ペプチド2(配列番号19)、ペプチド3(配列番号20)、ペプチド4(配列番号47)、ペプチド5(配列番号22)、ペプチド6(配列番号23)、ペプチド7(配列番号24)、ペプチド8(配列番号25)、ペプチド9(配列番号26)、ペプチド10(配列番号27)、ペプチド11(配列番号28)、ペプチド12(配列番号29)、ペプチド13(配列番号30)、ペプチド14(配列番号31)、及びペプチド15(配列番号32)からなる群から選択される、請求項47に記載の使用。
【請求項50】
前記微生物はウイルスである、請求項47から49のいずれか一項に記載の使用。
【請求項51】
前記ウイルスはSARS-CoV-2である、請求項50に記載の使用。
【請求項52】
前記微生物は細菌である、請求項47から49のいずれか一項に記載の使用。
【請求項53】
前記微生物は真菌である、請求項47から49のいずれか一項に記載の使用。
【請求項54】
前記微生物は原生動物である、請求項47から49のいずれか一項に記載の使用。
【請求項55】
前記有効なθ-ディフェンシンはRTD-1(配列番号1)である、請求項47から54のいずれか一項に記載の使用。
【請求項56】
前記製剤は、前記有効なθ-ディフェンシン又は前記有効なθ-ディフェンシンアナログを最大15mg/kgで提供するように製剤化されている、請求項47から55のいずれか一項に記載の使用。
【請求項57】
前記製剤は、前記有効なθ-ディフェンシン又は前記有効なθ-ディフェンシンアナログの単回投与後に予防を提供するように製剤化されている、請求項46から56のいずれか一項に記載の使用。
【請求項58】
前記製剤は、前記有効なθ-ディフェンシン又は前記有効なθ-ディフェンシンアナログの反復投与後に予防を提供するように製剤化されている、請求項47から56のいずれか一項に記載の使用。
【請求項59】
前記製剤は、前記反復投与の各々において、0.1mg/kg~15mg/kgを提供するのに十分な量の前記有効なθ-ディフェンシン又は前記有効なθ-ディフェンシンアナログを提供するように製剤化されている、請求項58に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の技術分野は、微生物感染の予防的処置である。
【背景技術】
【0002】
背景技術欄には、本発明を理解するのに有用であり得る情報が含まれる。背景技術欄に提供される情報が現請求項に係る発明にとっての先行技術や関連技術であると自認するものでも、具体的に又は暗黙的に刊行物が先行技術であることを自認するものでもない。
【0003】
感染症の予防のための予防的処置は、公衆衛生政策の根幹部分である。このような処置は、進行中の疾患の非存在下で提供される。したがって、予防における考慮事項には、予防的処置による副作用のリスクが、予防しようとしている疾患に罹患し、それによって悪影響を受けるリスクを上回ることが含まれる。したがって、予防的処置が有用であるためには、有効であると同時に、進行中の症候性疾患に対処するために使用される処置の有効用量を上回る有効用量で安全マージン(a margin of safety)を提供するべきである。
【0004】
ワクチンは、予防的療法の周知の例である。適切なワクチンを用いた予防接種により、ワクチン接種された個体において特定の病原体に対する抗体応答を誘発する。現在のワクチン製剤は、非常に有効であり、リスクが非常に低い。例えば、現在、COVID-19の原因物質(SARS-CoV-2)を標的とするワクチンが米国において4億回を超えて接種されており、このワクチンは、感染を低減させることにおいて非常に有効であり(mRNAベースの製剤では約94%)、そして稀に発生するブレイクスルー感染における重篤な疾患を予防するようである。しかし、Vaccine Adverse Event Reporting Systemによる綿密なモニタリングの報告では、予防接種後の全死因による死亡率は、僅か約0.0021%である。
【0005】
しかし、このような予防ワクチンは、一般的に特異性が高い。結果として、新しい病原体を認識できてから、それを標的とする安全かつ有効なワクチンの開発、試験、製造、及び配布するまでには、どうしても時間差がある。mRNAワクチンの使用などのより新しいアプローチにより、この時間差の期間は短縮されてきているが、それは依然として相当なものである。さらに、免疫応答の乏しい個体は、予防接種後の感染を予防し又はその重篤度を低減するに足る抗体応答を起こす可能性が低い。このようなリスクのある個体は、さらなる回数の予防接種を必要とするか又は防御抗体応答を全く起こさない可能性がある。
【0006】
したがって、広範囲の病原体に対して有効な防御を提供し、免疫不全の個体において有効である安全な予防的組成物及び方法が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
本発明の主題は、広範な抗菌活性を有し、投与後に体内に残存し、高用量で安全であることが見出されているθ-ディフェンシン及びθ-ディフェンシンの機能的アナログを微生物病原体に対する予防的保護のために用いた組成物及び方法を提供する。
【0008】
本発明の技術的思想の実施形態には、微生物感染に対する予防的処置を必要とする個体を識別し、投与後少なくとも4時間θ-ディフェンシン又はθ-ディフェンシンアナログのピーク血漿濃度の少なくとも50%を維持するプロトコルを使用して、θ-ディフェンシン(例えば、RTD-1(配列番号1))又はθ-ディフェンシンアナログを個体に投与することによって、微生物感染に対する予防的処置を提供する方法が含まれる。最初に、投与後少なくとも4時間、ピーク血漿濃度の少なくとも50%を維持する有効なθ-ディフェンシン又はθ-ディフェンシンアナログを同定する。予防的処置を必要とする個体の識別後、有効なθ-ディフェンシン又はθ-ディフェンシンアナログを、ピーク血漿濃度の少なくとも50%が、予防が所望される微生物に対して抗菌作用を発揮するのに十分であるように、十分な量で個体に投与する。いくつかの実施形態では、そのような個体は、新生児、未熟児、免疫系が未発達又は部分的に発達した小児、高齢の個体、手術から回復中の個体、事故による傷害から回復中の個体、癌を有する個体、免疫不全の個体、臓器、骨髄、もしくは幹細胞移植を受けた個体、化学療法を受けているか、又は化学療法から回復中の個体、放射線療法を受けているか、又は放射線療法から回復中の個体、免疫療法を受けているか、又は免疫療法から回復中の個体、免疫抑制療法を受けているか、又は免疫抑制療法から回復中の個体、基礎心疾患及び/又は心損傷を有する個体、基礎腎疾患及び/又は腎損傷を有する個体、基礎肝疾患及び/又は肝損傷を有する個体、基礎肺疾患及び/又は肺損傷を有する個体、肥満を有する個体等の高リスク個体として識別され、及び/又は微生物が感染する可能性のある距離内にいる他者への曝露に基づいて識別される。このような方法が対象とする微生物は、ウイルス(例えば、SARS-CoV-2)、細菌、真菌、又は原生動物であり得る。このような方法において、θ-ディフェンシン又はθ-ディフェンシンアナログを、最大15mg/kgで投与する。θ-ディフェンシン又はθ-ディフェンシンアナログを、処置を必要とする個体に0.1mg/kg~15mg/kgのθ-ディフェンシン又はθ-ディフェンシンアナログを提供するのに十分な用量などの単回用量として投与することができる。代わりに、θ-ディフェンシン又はθ-ディフェンシンアナログを、2回以上の用量(例えば、12時間毎に1回~48時間毎に1回の頻度)として投与することができ、ここで、各個別の用量は、処置を必要とする個体に0.1mg/kg~15mg/kgのθ-ディフェンシン又はθ-ディフェンシンアナログを提供するのに十分である。
【0009】
実施形態には、1つ以上の有効なθ-ディフェンシン及び/又は有効なθ-ディフェンシンアナログを含む、微生物感染の予防的処置を提供するための製剤、ならびにこのような製剤の調製における1つ以上の有効なθ-ディフェンシン及び/又は有効なθ-ディフェンシンアナログの使用が含まれる。
【0010】
本発明の主題の様々な目的、特徴、態様、及び利点は、同様の数字が同様の構成要素を表す添付の図面とともに、好適な実施形態の以下の詳細な説明からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】
図1A~1Dは、異なる種における血漿濃度対時間の試験の典型的な結果を示す。マウス(n=4/時点)におけるRTD-1(配列番号1)の典型的な平均(SD)血漿濃度-時間プロファイルを示す。
【
図1B】
図1A~1Dは、異なる種における血漿濃度対時間の試験の典型的な結果を示す。ラット(n=6/時点)におけるRTD-1(配列番号1)の典型的な平均(SD)血漿濃度-時間プロファイルを示す。
【
図1C】
図1A~1Dは、異なる種における血漿濃度対時間の試験の典型的な結果を示す。カニクイザル(n=2~12/投与群)におけるRTD-1(配列番号1)の典型的な平均(SD)血漿濃度-時間プロファイルを示す。
【
図1D】
図1A~1Dは、異なる種における血漿濃度対時間の試験の典型的な結果を示す。単回用量のIV投与後のベルベットモンキー(n=1)におけるRTD-1(配列番号1)の典型的な平均(SD)血漿濃度-時間プロファイルを示す。
【
図2A】5mg/kg/日の1日1回のi.v.投与を7日間繰り返した後のラットにおける典型的な平均(SD)血漿濃度対時間プロファイルを示す。
【
図2B】10mg/kg/日の1日1回のi.v.投与を7日間繰り返した後のラットにおける典型的な平均(SD)血漿濃度対時間プロファイルを示す。
【
図3A】回復群(n=4)における5mg/kg/日でのRTD-1(配列番号1)の反復i.v.投与後のカニクイザルにおける典型的な平均(SD)血漿濃度対時間プロファイルを示す。
【
図3B】回復群(n=4)における10mg/kg/日でのRTD-1(配列番号1)の反復i.v.投与後のカニクイザルにおける典型的な平均(SD)血漿濃度対時間プロファイルを示す。
【
図3C】回復群(n=4)における15mg/kg/日でのRTD-1(配列番号1)の反復i.v.投与後のカニクイザルにおける典型的な平均(SD)血漿濃度対時間プロファイルを示す。
【
図3D】回復群(n=4)における15mg/kgでのRTD-1(配列番号1)の反復i.v.投与後のカニクイザルにおける典型的な平均(SD)血漿濃度対時間プロファイルを示す。
【
図4A】RTD-1(配列番号1)(0.3、1、3、10、又は15mg/kg)の単回用量投与後のカニクイザルにおけるCmaxの用量比例性の評価の典型的な結果を示す。
【
図4B】RTD-1(配列番号1)(0.3、1、3、10、又は15mg/kg)の単回用量投与後のカニクイザルにおけるAUC
0-∞の用量比例性の評価の典型的な結果を示す。
【
図5A】種間アロメトリック(allometric)相関試験の典型的な結果を示す。プロットを、RTD-1(配列番号1)単回投与PK試験の結果に基づいて作成した。破線は、70kgの成人のCL(6.44L/h)の予測値を表す。
【
図5B】種間アロメトリック相関試験の典型的な結果を示す。プロットを、RTD-1(配列番号1)単回投与PK試験の結果に基づいて作成した。破線は、70kgの成人のVss(28.0L)の予測値を表す。
【
図6】雌ラットに静脈内投与した1時間後及び24時間後の組織及び臓器における
14C-RTD-1(配列番号1)の典型的な平均(SD)密度及び分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の主題は、広範な微生物病原体の安全かつ有効な予防的処置を提供する組成物及び方法を提供する。本発明者らは、シータディフェンシンが、長期間にわたって血流中で有効濃度を維持することができ、高用量で投与するのに安全であることを見出した。
【0013】
開示される技術は、生物特異的製剤の開発を必要とせずに、高リスク集団における微生物感染の安全かつ有効な予防の提供を含む、多くの有利な技術的効果をもたらすことが理解されるべきである。
【0014】
以下の説明は、本発明を理解するのに有用であり得る情報を含む。本明細書に提供される情報が現請求項に係る発明にとっての先行技術や関連技術であると自認するものでも、具体的に又は暗黙的に刊行物が先行技術であることを自認するものでもない。
【0015】
本明細書の全ての刊行物は、各々の個々の刊行物又は特許出願が参照により組み込まれていることが明確かつ個々に示されている場合と同じ程度に、参照により組み込まれる。組み込まれた参考文献における用語の定義又は使用が、本明細書に提供されるその用語の定義と一致しないか、又はそれに反する場合、本明細書に提供されるその用語の定義が適用され、参考文献におけるその用語の定義は適用されない。
【0016】
いくつかの実施形態において、本発明の特定の実施形態を記載及び特許請求するために使用される、成分の量、濃度等の特性、反応条件などを表す数は、いくつかの場合において、用語「約」によって修飾されると理解されるべきである。したがって、いくつかの実施形態において、記載された説明及び添付の特許請求の範囲に記載される数値パラメータは、特定の実施形態によって得ようとする所望の特性に応じて変動し得る近似値である。いくつかの実施形態では、数値パラメータは、報告された有効数字の数を考慮して、通常の丸め技法を適用することによって解釈されるべきである。本発明のいくつかの実施形態の広い範囲を示す数値範囲及びパラメータが近似値であるにもかかわらず、特定の実施例に示される数値は、実行可能な限り正確に報告される。本発明のいくつかの実施形態において提示される数値は、それらのそれぞれの試験測定において見出される標準偏差から必然的に生じる特定の誤差を含み得る。
【0017】
本明細書の説明及び以下の特許請求の範囲全体を通して使用される場合、「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」の意味は、文脈が別途明確に指示しない限り、複数の指示対象を含む。また、本明細書の説明で使用されるように、「in」の意味は、文脈が別途明確に指示しない限り、「in」及び「on」を含む。
【0018】
本明細書における値の範囲の列挙は、単に、その範囲内に含まれるそれぞれの別個の値を個々に参照する省略法としての役割を果たすことを意図している。本明細書に別段の指示がない限り、各個別の値は、本明細書に個別に列挙されているかのように、本明細書に組み込まれる。本明細書中に記載される全ての方法は、本明細書に別段の指示がない限り、又は文脈上明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実施され得る。本明細書中の特定の実施形態に関して提供される任意の及び全ての例、又は例示的な言語(例えば、「such as」)の使用は、単に、本発明をより良く明らかにすることが意図され、他に特許請求される本発明の範囲を限定するものではない。本明細書中のいかなる言語も、本発明の実施に必須の特許請求されていない要素を示すものとして解釈されるべきではない。
【0019】
本明細書に開示される本発明の代替的な要素又は実施形態のグループ分けは、限定として解釈されるべきではない。各群のメンバーは、個別に、又は群の他のメンバーもしくは本明細書に見出される他の要素との任意の組み合わせで参照され、特許請求され得る。群の1つ以上のメンバーは、利便性及び/又は特許性の理由で、群に含まれ得るか、又は群から削除され得る。そのような包含又は削除が生じるとき、本明細書は、本明細書において、修正されたグループを含み、それにより、添付の特許請求の範囲において使用されるすべてのMarkush群の記載された説明を満たすものとみなされる。
【0020】
以下の説明は、本発明の主題の多くの例示的な実施形態を提供する。各実施形態は、本発明の要素の単一の組み合わせを表すが、本発明の主題は、開示された要素の全ての可能な組み合わせを含むものと考えられる。したがって、一実施形態が要素A、B、及びCを含み、第2の実施形態が要素B及びDを含む場合、本発明の主題は、明示的に開示されていない場合であっても、A、B、C、又はDの他の残りの組み合わせを含むものとも考えられる。
【0021】
本発明者らは、シータディフェンシン(例えば、RTD-1(配列番号1))は、非常に良好な忍容性を示し、迅速な分布及び予防的処置において有用な長期的効果を示すものである投与後の有効濃度の長期(例えば、2、3、4、5、6、8、12、23、36、48時間以上)の保持を伴う良好な薬物動態を示すことを見出した。同様に、試験では、大量(例えば、最大で15mg/kg又は15mg/kgより多い)のシータディフェンシンの投与が十分に許容され、特に脆弱かつ高リスクの個体における予防的使用に適した安全性を示した。
【0022】
広範な微生物(例えば、ウイルス、細菌、真菌、原生動物)感染に対するシータディフェンシンの活性を考慮して、本発明者らは、そのようなシータディフェンシンがそのような微生物感染の予防的処置において有用であり得ると考える。観察された高度な忍容性を考慮して、本発明者らは、このような予防的処置は、このような感染に対して特に感受性のある高リスク集団において特に有用であると考える。そのような高リスク集団には、限定されないが、新生児、未熟児、免疫系が未発達又は部分的に発達した小児、高齢の個体、手術から回復中の個体、事故による傷害から回復中の個体、癌を有する個体、免疫不全の個体、臓器、骨髄、又は幹細胞移植を受けた個体、化学療法を受けているか、又は化学療法から回復中の個体、放射線療法を受けているか、又は放射線療法から回復中の個体、免疫療法を受けているか、又は免疫療法から回復中の個体、基礎心疾患及び/又は心損傷を有する個体、基礎腎疾患及び/又は腎損傷を有する個体、基礎肝疾患及び/又は肝損傷を有する個体、基礎肺疾患及び/又は肺損傷を有する個体、ならびに肥満の個体が含まれる。
【0023】
他の実施形態において、高リスク個体は、例えば、微生物が伝播する可能性のある感染源(例えば、症候性又は無症候性の感染者)から一定の距離内にいることによって、微生物病原体に曝露されるリスクが特に高い人であり得る。この距離は、微生物及びその感染様式によって変動し得る。例えば、このような距離は、病原体の発生源からの直接又は密接な接触から約2メートル以上(エアロゾル感染の場合)までの範囲であり得る。そのような高リスクの個体は、例えば、感染する可能性のある個体と接触したり、その個体に近接したりする必要のある職業(例えば、ヘルスケア提供者、教師、緊急応答者、法執行機関など)の個体であり得る。あるいは、高リスク個体は、感染者と接触したり、感染者に曝露したりする可能性のある社会的相互作用を予期する個体であり得る。
【0024】
本明細書では、シータディフェンシンRTD-1(配列番号1)を引用しているが、本発明者らは、他のシータディフェンシンが本発明の技術的思想の方法において有効であり得ることを企図する。本出願の文脈内で、有効なθ-ディフェンシンは、経口投与、注射、注入、吸入、及び/又は眼もしくは粘膜への適用による投与後に、ヒトにおいて到達可能な濃度で殺菌及び/又は微生物静止(microbistatic)(すなわち、微生物の繁殖を停止させる)効果を示すものである。このような効果は、ウイルス、細菌、真菌、及び/又は原生動物病原体に対して実証され得る。同様に、本発明の技術的思想の方法では、有効量の有効なθ-ディフェンシンを利用することができる。本出願の文脈内で、有効量は、有効量の有効なθ-ディフェンシンを投与した個体において、投与後4時間、8時間、12時間、24時間、48時間、3日間、1週間、10日間、2週間、3週間、1ヶ月、又は1ヶ月超の期間にわたって殺菌効果及び/又は微生物静止効果を維持するのに十分な有効なθ-ディフェンシンの量である。いくつかの実施形態において、有効なθ-ディフェンシン又は有効なθ-ディフェンシンアナログの有効量は、投与後のピーク血清濃度の10%、20%、30%、40%、50%、又はそれ以上でありうる。
【0025】
好適なθ-ディフェンシンの例としては、RTD-1(配列番号1)、RTD-2(配列番号2)、RTD-3(配列番号3)、RTD-4(配列番号4)、RTD-5(配列番号5)、RTD-6(配列番号6)、BTD-1(配列番号7)、BTD-2(配列番号8)、BTD-3(配列番号9)、BTD-4(配列番号10)、BTD-5(配列番号11)、BTD-6(配列番号12)、BTD-7(配列番号13)、BTD-8(配列番号14)、BTD-9(配列番号15)、及び/又はBTD-10(配列番号16)が挙げられる。天然では転写されるが翻訳されない、ヒトプロトディフェンシンHTDpの選択的スプライシングに由来するペプチド(配列番号17)も考慮される。いくつかの実施形態において、2つ以上のθ-ディフェンシンを、本発明の技術的思想の方法に使用することができる。
【0026】
天然に存在するθ-ディフェンシンの代わりに、又はそれに加えて、本発明の技術的思想の実施形態は、1つ以上の有効なθ-ディフェンシンアナログを使用することができる。θ-ディフェンシンアナログという用語は、天然のθ-ディフェンシンペプチド配列と約40%、50%、60%、70%、80%、90%又はそれ以上の配列同一性を有する環状ペプチドを指す。θ-ディフェンシンアナログは、天然のθ-ディフェンシンの1つ、2つ、3つ、又はそれ以上の核となる特徴を組み込むことができる。例示的な核となる特徴としては、環状構造、ペプチド内(例えば、アナログのシステインの対の間)の1つ、2つ、3つ、又はそれ以上のジスルフィド結合の存在、生理学的条件下で溶液中にある場合に正電荷を有すること、及びβプリーツシート二次構造の存在が挙げられる。そのようなθ-ディフェンシンアナログは、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、又は20を超えるアミノ酸を含むことができ、いくつかの実施形態において、天然に存在しないアミノ酸を組み込むことができる。θ-ディフェンシンのアナログは、1つ以上のL-アミノ酸、1つ以上のD-アミノ酸、及び/又はL-アミノ酸とD-アミノ酸との混合物を含み得る。いくつかの実施形態において、θ-ディフェンシンアナログの隣接するアミノ酸残基間に非ペプチド結合を利用することができる。θ-ディフェンシンアナログは、天然のθ-ディフェンシン配列のアミノ酸の1つ以上の欠失又は置換を表すことができる。そのような置換は、保存的であり得る(例えば、置換されたアミノ酸が、天然アミノ酸の電荷、疎水性、親水性、及び/又は立体的特性を保持する)。いくつかの実施形態において、θ-ディフェンシンアナログは、非ペプチド部分(例えば、ポリエチレングリコール及び/もしくは他の親水性ポリマー、細胞受容体標的化部分、ならびに/又はプロセシング/精製を補助する部分)のグラフティング(grafting)又はコンジュゲーション(conjugation)を含むことができる。
【0027】
本出願の文脈内で、有効なθ-ディフェンシンアナログは、経口投与、注射、注入、吸入、及び/又は眼もしくは粘膜への適用による投与後に、ヒトにおいて到達可能な濃度で殺菌及び/又は微生物静止(すなわち、微生物の繁殖を停止させる)効果を示すものである。このような効果は、ウイルス、細菌、真菌、及び/又は原生動物病原体に対して実証され得る。同様に、本発明の技術的思想の方法は、有効量の有効なθ-ディフェンシンアナログを利用することができる。本出願の文脈内で、有効量は、有効量の有効なθ-ディフェンシンを投与した個体において、投与後12時間、24時間、48時間、3日間、1週間、10日間、2週間、3週間、1ヶ月、又は1ヶ月超の期間にわたって殺菌効果及び/又は微生物静止効果を維持するのに十分な有効なθ-ディフェンシンアナログの量である。
【0028】
適切なθ-ディフェンシンアナログの例としては、ペプチド1(配列番号18)、ペプチド2(配列番号19)、ペプチド3(配列番号20)、ペプチド4(配列番号21)、ペプチド5(配列番号22)、ペプチド6(配列番号23)、ペプチド7(配列番号24)、ペプチド8(配列番号25)、ペプチド9(配列番号26)、ペプチド10(配列番号27)、ペプチド11(配列番号28)、ペプチド12(配列番号29)、ペプチド13(配列番号30)、ペプチド14(配列番号31)、及びペプチド15(配列番号32)が挙げられる。いくつかの実施形態において、2つ以上の有効なθ-ディフェンシンアナログを本発明の技術的思想の方法で使用することができる。いくつかの実施形態において、1つ以上の有効なθ-ディフェンシン及び1つ以上の有効なθ-ディフェンシンアナログの組み合わせを用いることができる。
【0029】
複数のθ-ディフェンシンは、サイズ、二次構造及び三次構造、電荷、疎水性の程度、ならびにタンパク質分解に対する耐性が非常に類似していることが理解されるべきである。したがって、複数のθ-ディフェンシンが投与後に同様の分解及び排泄経路をたどると予想することは妥当である。同様に、本明細書に記載の複数のθ-ディフェンシンアナログは、天然に存在する複数のθ-ディフェンシンと構造、電荷、及び疎水性の程度が本質的に同様であり、同様の分解及び排泄経路が利用されると予想することは妥当である。したがって、RTD-1(配列番号1)と同等又はそれより良好な薬物動態特性を提供するのに有効である適切な複数のθ-ディフェンシン及び/又は複数のθ-ディフェンシンアナログは、例えば、以下に記載されるような動物試験を通して及び/又は参照により、容易に同定可能である。同様に、RTD-1(配列番号1)と同等又はそれより良好な抗菌効果を発揮する適切な複数のθ-ディフェンシン及び/又は複数のθ-ディフェンシンアナログは、例えば、微生物疾患の動物モデルを通して及び/又は参照により、容易に同定可能である。いくつかの実施形態において、有効なθ-ディフェンシン及び/又はθ-ディフェンシンアナログは、RTD-1(配列番号1)と比較して同等の又は改善された薬物動態特性及び安全性プロファイルを有することができ、したがって、微生物感染の予防的処置に使用することができる。同様に、静脈内投与が本明細書に記載されているが、他の投与経路もまた適切であり得る。投与のための適切な代替経路としては、皮下注射、腹腔内注射、脳脊髄液への注入、局所投与、吸入、及び/又は経口投与が挙げられる。
【0030】
予防的処置の典型的な方法では、少なくとも4時間持続する血漿濃度で抗菌活性を提供するのに有効であるθ-ディフェンシン及び/又はθ-ディフェンシンアナログ(すなわち、有効なθ-ディフェンシン及び/又は有効なθ-ディフェンシンアナログ)が同定される。これは、実験(例えば、微生物感染の動物モデル及び/又は薬物動態試験を使用する)によって達成され得るか、又は過去のデータから決定され得る。同様に、予防的療法を必要とする個体が識別され、そして有効なθ-ディフェンシン及び/又は有効なθ-ディフェンシンアナログが投与される。そのような有効用量は、少なくとも4時間、8時間、12時間、24時間、36時間、48時間、3日、1週間、2週間、3週間、1ヶ月、2ヶ月、又はそれ以上の間、殺菌効果及び/又は微生物静止効果を発揮するのに十分である有効なθ-ディフェンシン及び/又は有効なθ-ディフェンシンアナログの血漿濃度を提供することができる。そのような方法は、例えば、微生物感染を予防するための予防的処置を必要とすることが識別された人への投与後少なくとも4時間にわたって、ピーク血漿濃度の少なくとも50%を維持する有効なθ-ディフェンシン及び/又は有効なθ-ディフェンシンアナログを提供することができ、ここで、有効なθ-ディフェンシン及び/又は有効なθ-ディフェンシンアナログのピーク血漿濃度の50%は、標的微生物に対して抗菌効果を発揮するのに十分な用量である。適切な投与経路には、注射(例えば、皮下、筋肉内、又は腹膜注射)、吸入、及び/又は局所(例えば、粘膜への)投与が含まれる。
【0031】
予防的療法に有用な化合物は、使用するのに非常に安全であると考えるべきである。原型のθ-ディフェンシンであると考えられ得るRTD-1(配列番号1)の安全性及び薬物動態パラメータを以下に示す。ラット及びカニクイザルにおいて行われた単回投与及び反復投与試験は、RTD-1(配列番号1)の静脈内投与による優れた安全性プロファイルを実証した。RTD-1(配列番号1)の反復投与は、最大10mg/kgの用量でラットにおいて十分に許容され、したがって、ラットにおけるNOAELを、10mg/kg/日に設定した。20mg/kgで処置したラットにおいて、処置に関連する死亡及び有害な臨床徴候(触ると冷たいこと、異常な体色、歩行できなくなること、極度の脱水、及び振戦を含む)を観察した。カニクイザルにおいて、RTD-1(配列番号1)の単回投与及び1日1回の反復用量投与は、15mg/kg/日まで許容され、処置に関連する主要な有害所見又は毒性を示さなかった。有害所見がないことを考慮して、NOAELをカニクイザルにおいて15mg/kg/日で設定した。カニクイザルにおけるNOAELを、ラットと比較してより高い用量で設定し、RTD-1(配列番号1)がカニクイザルにおいてより良好な忍容性を示すことを実証した。ラット及びカニクイザルの両方における血液学的パラメータ、血清化学的パラメータ、及び凝固パラメータにおいて認められたほとんどの変化を、それらの大きさが小さいこと、2つの種間の一貫性がないこと、用量依存性がないこと、及び/又は回復期間の終了時までに可逆的であることに起因して、有害ではないと決定した。したがって、これらのデータは、ラットにおいて最大10mg/kg/日、及びカニクイザルにおいて最大15mg/kg/日の用量でのRTD-1(配列番号1)の静脈内投与の安全性を実証する。
【0032】
複数の種における単回及び反復用量漸増投与後のRTD-1(配列番号1)の静脈内PKは、広範な組織分布及び長期的な消失によって特徴づけられる。5mg/kgのRTD-1(配列番号1)を投与した動物の体重に対して正規化した分布容積(Vss)は、マウス、ラット、及びカニクイザルにおいて、それぞれ1,048、1,461、550mL/kgと、種によって変動した。比較的大きなVssは、RTD-1(配列番号1)が組織に広範に分布することを示す。生体内分布試験により、特に肝臓における広範な組織分布を確認した。回復群のカニクイザルで観察された長い消失半減期(47.2時間)は、組織再分布を示唆している。
【0033】
ラット及びサルにおける単回及び反復用量漸増投与試験の分析では、AUC0-∞及びCmaxが用量比よりも大きい増加を示し、非線形PKを示唆する。いくつかの治療用タンパク質は、異なるメカニズムによって媒介される非線形PKを示す。例えば、エキセナチド及び組換えヒトインターフェロン(IFN)(例えば、IFN-β1a)は、標的媒介性薬物体内動態(target-mediated drug disposition)(TMDD)などの消失経路が飽和することに起因して非線形動態を示す(24、25)。あるいは、シクロスポリンA及びエリスロポエチンの非線形PKは、それぞれ、標的組織における組織結合及び受容体が飽和することに起因した(26、27)。生体内分布試験でのラットにおける14C-RTD-1(配列番号1)の広範な分布は、前臨床PK試験において推定された大きなVssを説明することができ、これらの組織内のペプチドの飽和が非線形性の潜在的な原因の1つであり得ることを示唆している。RTD-1(配列番号1)の最大の蓄積は肝臓及び腎臓で起こったので、ラット及びカニクイザルで観察されたCLの用量依存的減少も非線形性を説明することができる。糸球体濾過によって主に除去される他の小ペプチド(10kDa未満)からのデータと一致して、かなりの量の14C-RTD-1(配列番号1)が尿から回収された(24時間で7%を占める)。さらに、比較的有意な割合が糞便中に回収され(24時間で4%を占める)、このことは、RTD-1(配列番号1)の消失が腎臓及び胆汁排泄を介して起こることを示している(28、29)。したがって、RTD-1(配列番号1)の非線形PKは、肝臓又は腎臓に存在する取り込み及び/又は排泄トランスポーターが飽和することに起因し得る。しかしながら、RTD-1(配列番号1)の分布及び消失における肝臓/腎臓トランスポーターの決定的な役割には、さらなる研究を必要とする。
【0034】
種間アロメトリックスケーリングは、前臨床種からヒトへのPKデータを外挿するための方法を提供し、FIH臨床試験のための適切な投与量を予測するために一般に使用される。カニクイザルにおける低用量(0.3~3mg/kg)でのAUC0-∞の用量比例的増加によって証明されるように、RTD-1(配列番号1)は、有効性についてHEDでの線形PKに従うと考えられるので、本発明者らは、ヒトPKを予測するために単純なアロメトリを使用して種間アロメトリックスケーリングを実施した。腎臓で排泄される高分子について、ヒトCLを、単純なアロメトリック方程式を使用して適切に予測することができる(30)。3以上の前臨床種が、典型的には、パラメータをヒトに対して確実にスケーリングするために必要とされるので、マウス及びベルベットモンキーからの利用可能な単回投与データが、分析に含まれた(31)。CL及びVssの推定されるアロメトリックスケーリング指数はそれぞれ0.829と0.866であり、CLについて0.65~0.84及びVssについて0.84~1.02である他の治療用タンパク質で報告された値と一致する(32)。標的AUCは、LPS誘発ALIのマウスモデルにおいて以前に確立されており、5mg/kg又は25mg/kgのRTD-1(配列番号1)の単回皮下注射により、平均AUC0-∞が、それぞれ3,869ng*h/mL及び9,001ng*h/mLとなり、死亡することなく気道好中球負荷及び炎症性サイトカイン/ケモカインの有意な減少をもたらした(3)。1日0.3mg/kgのHEDを、種間アロメトリックスケーリングからの予測ヒトCL(6.44L/h)及び有効性についての標的AUC(エンドトキシン誘発ALIのマウスモデルから)を使用して決定した。FDAが推奨する10倍の安全係数に基づくと、臨床試験において予測されるファーストインヒューマン(FIH)用量は、成人についておよそ0.03mg/kgである(33、34)。FIH試験のための用量のこの近似値は、前臨床動物によって確立されたNOAELを十分に下回ると予測され、したがって、ヒトにおいて安全であると予測される。15.9mg/kgのカニクイザルにおけるNOAELに相当するHEDは、ラットにおけるNOAEL及びLOAELに相当するHED(それぞれ、3.1及び11.7mg/kg)の両方よりも高かった。カニクイザルはラットよりもヒトに生理学的に類似しているので、最大15.9mg/kgの用量がヒトにおいて許容され得る。さらに、これは、有効性に必要とされるHED(0.36~0.83mg/kg)が、カニクイザルにおけるNOAELに基づいて計算されたHEDよりも約19~45倍低く、ヒトにおける安全性をさらに確実にすることを示す。
【0035】
単純なアロメトリは、用量依存性(非線形)プロセスを説明しない場合があることを理解されたい。しかし、非線形性はより高い用量範囲でより明らかであったので、本出願人らは、FIH臨床試験のために選択された用量では、RTD-1(配列番号1)は線形PKを示すことが予測されると考える。FIH用量を決定するために使用される標的AUC0-∞は、LPS誘発ALIのマウスモデルにおいて確立されたものであり、したがって、ヒトにおける有効性に必要とされる実際の標的AUCを反映していない可能性があることも理解されるべきである。しかし、本発明者らは、これが、広範な微生物感染の予防的処置における有効性についての標的AUCを導き出すための適切な動物モデルであると考えている。
【0036】
薬物動態
マウス試験:マウスにおけるRTD-1(配列番号1)の単回投与後の平均血漿濃度-時間プロファイルを
図1Aに示し、ノンコンパートメント解析(NCA)によって計算した対応する薬物動態(PK)パラメータを表1に列挙する。各マウスからの終末採血により、プールされたPK結果を生成した。単回i.v.ボーラス投与後、RTD-1(配列番号1)は、比較的短い分布相と、それに続く6.05時間の半減期を有するより長い消失相とを有する二相性プロファイルを示した。
【0037】
【0038】
ラット試験:RTD-1(配列番号1)の単回(5、10、又は20mg/kg)又は反復(5mg/kg/日又は10mg/kg/日)投与後のラットにおける平均血漿濃度-時間プロファイルをそれぞれ
図1B及び
図2に示し、対応するPKパラメータを表2にまとめる。36匹のラットからの合計180回の注入のうち、5回の注入が、意図した20分間の注入から10%を超えて逸脱した。しかし、これらの逸脱は、血液PKサンプリング日には生じず、したがって、PK分析に影響を及ぼさなかった。ラット1匹あたりのデータがまばらにサンプリングされたため、プールされたPK結果を、WinNonlinで生成した。RTD-1(配列番号1)の血漿レベルは、12.5ng/mLの濃度で10mg/kgを投与した1匹の雌ラットを除いて、全てのラットにおいて回復期間(25日目)中に検出不能であった。20mg/kg群におけるラットの早期死亡は、この用量レベルでの反復投与によるPK分析を不可能にした。Cmaxは、雄ラットと比較して雌でわずかに高かったが、その差は統計的有意性に達しなかった。Cmax及びAUC
0-∞の両方は、1を含む傾きの95%信頼区間(CI)に基づいて、用量に比例して増加するように見えるが(Cmax,Y=1.110*X+8.936[傾き95%CI:0.7066~1.513]、R2=0.6803;AUC0-∞,Y=1.543*X+9.448[傾き95%CI:0.4460~2.639]、R2=0.9969)、ラットにおける用量比例性の包括的な分析は、各用量レベルでのAUC0-∞のプールされた計算、及び試験された用量の範囲が比較的狭いために制限された。7日目のAUCτは、1日目のそれらのAUC0-∞と比較した場合、わずかに低く(5mg/kg及び10mg/kg群について、それぞれ22%及び19%)、有意な薬物蓄積がないことを示した。
【0039】
【0040】
カニクイザル試験:RTD-1(配列番号1)の単回又は反復用量投与後のカニクイザルにおける平均血漿濃度-時間プロファイルを、それぞれ
図1C及び
図3に示す。NCAによって計算された対応するPKパラメータを表3に概説する。24匹のカニクイザルからの合計233回の注入のうち、4回の注入が、意図した1時間の注入から10%を超えて逸脱した。しかし、これらの逸脱は、血液PKサンプリング日には生じず、したがって、PK分析に影響を及ぼさなかった。カニクイザルにおける単回投与及び反復投与を含む2つの別個の試験からのデータを、この分析において組み合わせた。全体として、濃度-時間プロファイルは、より高い用量で長期の消失相を有する二相性パターンを示した。0.3mg/kg又は1mg/kgの単回投与後のRTD-1(配列番号1)の血漿濃度は、注入の終了後最大で12時間検出可能であった。GLPに準拠した10日間のTK試験では、静脈アクセスの問題のために合計9回の投与を受けた15mg/kgの1匹の雌のサルを除いて、全ての動物が10回のi.v.投与を受けた。回復群(15mg/kg)に割り当てられたカニクイザルを用いた長期サンプリングにより、RTD-1(配列番号1)の血漿レベルが12日目(537ng/mL)及び24日目(12.5ng/mL)に定量可能であることを明らかにし、RTD-1(配列番号1)が長い終末相半減期を示すことを示した(
図3D)。回復動物における平均終末相半減期は47.2時間であったのに対し、サンプリング期間がより短い主要群では9.53時間であった。Cmax及びAUC0-∞は、雌と比較して雄においてわずかに高かったが、その差は統計的有意性に達しなかった。0.3mg/kg~15mg/kgの範囲の用量を単回i.v.投与したカニクイザルにおける用量比例性の詳細な評価は、Cmax及びAUC0-∞の両方が用量比例よりも大きく増加したことを明らかにした(
図4)。具体的には、AUC
0-∞は、より低い用量(0.3mg/kg~3mg/kg)では用量比例的であったが、より高い用量(5mg/kg以上)では用量比例性から逸脱し始めた(データは示さず)。定常状態での用量比例性評価は、Cmaxは用量に比例して増加したが(Cmax、Y=0.9553*X+6.805[勾配95% CI:0.5573~1.353、R2=0.5705])、AUCτは用量に比例するよりも大きく増加した(AUCτ、Y=1.422*X+6.745[勾配95% CI:1.072~1.772、R
2=0.7916])ことを証明した。しかし、これらの結果は、試験した用量の範囲が狭いために制限された。単回投与(1日目)及び反復用量投与(10日目)後のAUCを比較すると、5mg/kg及び10mg/kgで統計的に有意な蓄積を明らかにし、5mg/kg及び10mg/kgの1日目の平均AUC0-∞と比較して、平均AUCτはそれぞれ約1.4倍及び1.5倍高かった[5mg/kg(p=0.0229)及び10mg/kg(p=0.0103)]。定常状態(10日目)で15mg/kgのRTD-1(配列番号1)蓄積の傾向があったが、その差は統計的有意性に達しなかった(p=0.1879)。15mg/kg群では、動物の数が少なかったため(n=2)、4日目及び7日目に計算されたPKパラメータを用いた統計分析を行わなかった。
【0041】
【0042】
ベルベットモンキー試験:RTD-1(配列番号1)の単回i.v.ボーラス投与後のベルベットモンキーにおけるRTD-1(配列番号1)の平均血漿濃度-時間プロファイルを
図1Dに示し、PKパラメータを表4に示す。ボーラス投与後、RTD-1(配列番号1)の血漿濃度は、単一指数関数的に低下した。しかし、24時間後に収集された血漿濃度は、定量化の下限を下回り、したがって分析から除外された。
【0043】
【0044】
種間アロメトリックスケーリング:全体として、4つの前臨床種からの対数変換された体重(BW)に対する対数変換されたCL又はVssの線形回帰は、比較的高いr2によって明らかなように、妥当な適合をもたらした(
図5)。CL及びVssについてのアロメトリックスケーリング方程式は、それぞれ、Y=190.1・BW
0.8291(r2=0.7719)及びY=706.3・BW
0.8663(r2=0.8853)であり、これは、6.44L/hの予測ヒトCL及び28.0Lの定常状態での分布容積(Vss)をもたらした。エンドトキシン誘発急性肺傷害(ALI)のマウスモデルにおいて以前に確立された約3,869ng*h/mL及び9,001ng*h/mLの標的血漿AUC0-∞に基づいて、治療有効性に達するための推定ヒト等価用量(HED)は、70kgの個体について24.9mg~58.0mg、又は0.36mg/kg~0.83mg/kgである。
【0045】
生体内分布:5mg/kgと同等の
14C-RTD-1(配列番号1)を単回用量i.v.投与した後のラットにおけるRTD-1(配列番号1)の分布パターン及び可能性のある消失経路を決定するために、生体内分布試験を行った。
14C-RTD-1(配列番号1)の広範な分布が1時間で観察され、肝臓で最も高い密度が測定され、腎臓がそれに続いた(
図6)。1時間後、尿、皮膚、脚の筋肉、眼、及び脳において微量の
14Cカウントが測定された。24時間後、組織及び臓器中の
14Cカウントの密度は、尿中を除いて、1時間時点で検出されたカウントと比較して減少した。尿中の
14Cカウントは、1時間時点で微量から24時間後に8.5%まで増加した。さらに、投与した
14C-RTD-1(配列番号1)用量の約4%が24時間時点で糞便中から収集されたことから、消失の主な経路は尿であり、その後に胆汁中排泄が続くことが示唆される。
【0046】
安全性
ラット試験:RTD-1(配列番号1)投与の安全性評価の結果は、補足資料に詳細に提供される。一般に、最大10mg/kgの単回用量投与は、雄及び雌のラットにおいて十分に許容された。試験中、合計7匹のラットの死亡を観察した。具体的には、プラセボ群の18匹の雌ラットのうち1匹が6日目に死亡したことを発見し、さらに、5mg/kg用量群の16匹の雌ラットのうち1匹が試験の15日目に死亡したことを発見した。しかし、5mg/kg群の雌ラットの死亡は、死亡日までの臨床症状が最小限であること、及びその事象のタイミングにより、RTD-1(配列番号1)処置とは無関係であると判定した。さらに、20mg/kgのRTD-1(配列番号1)の単回i.v.投与は、1日目に12匹のラットのうち5匹に対して処置に関連する急性の死亡をもたらした。5匹のラットのうち、3匹の雄ラットについては死亡していることを発見し、1匹の雄ラット及び1匹の雌ラットについては瀕死状態のために安楽死させた。
【0047】
RTD-1(配列番号1)(5mg/kg/日及び10mg/kg/日)の1日1回のi.v.注入後、筋攣縮、嗜眠、鼻、顎、及び/又は頬の腫れ、前肢の腫れ、歩行及び/又は起立に対する抵抗、活動低下、運動失調、及び呼吸の増加のような、処置に関連する有害ではない臨床的徴候が、両方の用量レベルで試験全体を通して認められたが、一時的であり、回復期間中に消散した。体重の有意な減少が雄及び雌ラットの両方で記録された20mg/kg投与群を除いて、ラットの体重に有意な変化はなかった(データは示さず)。摂餌量は、あらゆる用量レベルにおいても、ラットにおける処置投与によって有意に影響されなかった。20mg/kgでの予期せぬ死亡及び処置に関連する有害な臨床的所見によって、この投与群における試験は、早期に終了され、残りのラットを、1日目又は2日目のそれらの予定された投与の前に安楽死させた。死亡に関連する有害な臨床的所見には、触ると冷たいこと、横になること、異常な体色、歩行できなくなること、極度の脱水、震え、及び努力性呼吸が含まれた。
【0048】
5mg/kgでの処置に関連した血液学的パラメータの変化は、処置終了時(8日目)に雄ラット及び雌ラットにおいて観察されなかった(表5)。RBC容積分布幅(RDW)は、5mg/kgの雌ラットにおいて回復終了時に有意に上昇し、雌Sprague Dawleyラットについてのヒストリカルコントロール範囲(HCR)の範囲外であった(データは示さず)。10mg/kgでは、10mg/kgで処置した雄ラットにおける網状赤血球の絶対数が処置終了時に有意に減少した。しかし、この値は、この年齢の雄のSprague DawleyラットについてのHCRの範囲内であり、従って、有害でないと考えられた(18)。雌ラットにおいて、コントロールと比較した場合、処置終了時に、WBC、ならびに絶対的なリンパ球及び単球の数が有意に増加した。しかし、これらの増加は、用量依存性が欠如していること、及び回復期間の終了時までに変化が可逆的であることによって、有害ではないと考えられた(データは示さず)。回復終了時に、平均細胞ヘモグロビン(MCH)及び平均細胞ヘモグロビン濃度(MCHC)は、コントロールと比較して雄ラットにおいて穏やかに増加したが、その値は、類似の年齢の雄ラットについての基準範囲内のままであった。20mg/kgでは、白血球数(WBC)、相対的及び絶対的な好中球数、相対的及び絶対的な単球数、ならびに相対的及び絶対的な大型未分類細胞(LUC)数は、雄ラットにおいて有意に上昇したが、相対的なリンパ球数、相対的及び絶対的な好酸球数、ならびに血小板数は、処置終了時のコントロールと比較して2日目に有意に減少した。相対的及び絶対的な好中球数、相対的なリンパ球数、ならびに相対的及び絶対的な単球数の値は、雄ラットのHCRの範囲外であった。雌ラットでは、処置の終了時にコントロールと比較した場合、絶対的な網状赤血球数及び単球数の有意な増加があったが、相対的及び絶対的な好酸球数の有意な減少が2日目(途中安楽死(interim euthanasia))に観察された。20mg/kg群における試験の早期終了のために、これらのパラメータにおける変化の可逆性を決定することができなかった。しかし、統計的有意性にもかかわらず、雌ラットにおけるこれらの変化は、値が雌ラットについてのHCRの範囲内であったため、有害ではないと考えられた。
【0049】
【0050】
5mg/kg/日又は10mg/kg/日を投与した雄及び雌のラットにおいて、処置終了時に血清生化学的パラメータにおける有意な処置誘発性の異常はなかった(表6)。回復終了時に、グルコースレベルは、10mg/kgで雌ラットにおいてわずかに上昇した(データは示さず)。調べた最高用量(20mg/kg)では、塩化物及びアルブミンレベルは有意に減少したが、血清尿素窒素(Urea N)レベルは、コントロールと比較して、2日目に雄ラットにおいて増加した。雌ラットにおいて、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、カルシウム、及びガンマ-グルタミルトランスフェラーゼ(GGT)レベルは、コントロールと比較して有意に上昇した。雄ラット及び雌ラットの両方において、コントロールと比較した場合、アルブミン/グロブリン比(A/G)、クレアチニン、グルコース、トリグリセリドレベルは有意に上昇したが、総タンパク質(TP)、ナトリウム(Na)、及びグロブリンレベルは有意に減少した。アルブミン、A/G、グロブリン、Urea N、TP、及びトリグリセリドレベルは、雄ラットではHCRの範囲外であり、A/G、GGT、グロブリン、グルコース、TP、及びトリグリセリドは、雌ラットではHCRの範囲外であった。残りのパラメータはHCRの範囲内であり、したがって有害ではないと考えられた。
【0051】
【0052】
処置終了時(表S3)又は回復終了時(データは示さず)に、5mg/kg群又は10mg/kg群の雄及び雌ラットにおける凝固パラメータの処置に関連した変化はなかった。しかし、コントロールと比較した場合、処置終了時に、20mg/kgでは、プロトロンビン時間(PT)及び活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)は、雄及び雌ラットの両方において有意に上昇したが、フィブリノーゲンレベルは、雄ラットにおいて減少した。これらのうち、フィブリノーゲンレベルは、雄ラットにおいてHCRの範囲外であり、PT及びAPTTの両方は、雌ラットにおいてHCRの範囲外であった。
【0053】
【0054】
5mg/kg又は10mg/kgを投与した雄及び雌ラットからの尿検査パラメータには、処置に関連した変化はなかった(データは示さず)。早期死亡のため、20mg/kg群のラットでは一晩の尿サンプルを採取せず、したがって評価することができなかった。いずれの投与群でも、曝露後の眼科評価の間に、処置に関連する異常は検出されなかった。この試験において、注射部位への処置に関連する影響は、外科的カテーテル挿入のため評価され得なかった。20mg/kg群のラットの組織病理学的評価では、腎臓、脳、及び肺における変色を示し、気管支及び気管は途中安楽死時に液体で満たされていた。途中安楽死(20mg/kg群、2日目)、終末安楽死(terminal euthanasia)(8日目)、又は回復安楽死(recovery euthanasia)(24日目)では、いずれの用量群においても、RTD-1(配列番号1)処置に関連する肉眼的所見はなかった。処置に関連した重要な顕微鏡的所見には、5mg/kg/日及び10mg/kg/日を投与した雌ラットにおいて、処置終了時に、有害でない用量依存的な最小から軽度の肝臓壊死の発生率の増加が含まれた。しかし、肝臓壊死は、回復期間の終了時に、安楽死させた雌動物(5mg/kg/日及び10mg/kg/日)には見られず、肝機能パネルに含まれるパラメータ(TP、アルブミン、総ビリルビン、及び肝酵素)の増加をもたらさなかった。したがって、これらの所見は回復可能であり、有害ではないと考えられた。20mg/kgを投与した雄ラットにおいて、局所的から多病巣性の領域までの溶解性壊死から凝固性壊死までによって定義される、最小から軽度の肝臓壊死に及ぶ処置に関連する有害な重症度が観察された。片側性から両側性の凝固性皮質から皮質髄質までの壊死を特徴とする軽度から重度までの副腎壊死が、20mg/kgを投与した雄ラット及び雌ラットの両方で観察された。
【0055】
10mg/kg用量でのパラメータにおける有害な臨床徴候又は異常の欠如に基づいて、ラットにおける10mg/kg/日での無毒性量(NOAEL)を設定した。最小毒性量(LOAEL)は、FDAが、前臨床種において試験された有害作用を有する最低用量として定義しているものであり、これは、ラットにおいて20mg/kgで設定された(19)。
【0056】
カニクイザル試験:全体として、最大15mg/kgの用量のRTD-1(配列番号1)は、雄のサル及び雌のサルにおいて良好な忍容性を示した。非GLP用量範囲発見試験において、全ての動物は、処置に関連するいかなる有害な臨床的徴候も伴わずに、試験を生き延びた。これらのデータに基づいて、最大耐量(MTD)を15mg/kgに設定した。同様に、GLPに準拠した10日間反復投与TK試験では、いずれの用量レベルでも死亡又は予定外の安楽死は起こらなかった。さらに、体重の有意な変化は、サルにおいて観察されなかった。処置に関連した摂餌量の減少が、投与期間中に、10mg/kg/日で雌において、及び15mg/kg/日で両方の性別において観察されたが、これは、動物が回復終了時までにベースラインまで回復し、摂餌量の変化が体重の変化又は有害な臨床的所見に結びつかなかったので、有害ではないと考えられた。
【0057】
処置終了時の処置に関連する有害でない血液学的変化には、15mg/kgでの雄サルにおける絶対的なLUC数及び雌サルにおける絶対的な単球数が、それぞれのコントロールと比較した場合に、統計的に有意であるが中程度増加していたことが含まれた(データは示さず)。しかし、絶対的なLUC数の増加は、回復終了時までに解消されたことから有害ではないと考えられ(データは示さず)、雌サルにおいて観察された絶対的な単球数の増加は、雌カニクイザルのHCRの範囲内であった(20)。血清生化学的パラメータにおける処置に関連する有害ではないが有意である最も注目すべき変化には、15mg/kg/日の雌サルにおいて処置終了時に無機リン(Phos)レベルがわずかに低下していたこと及びグルコースレベルが上昇していたことが含まれる。しかし、これらの変化は、変化の大きさが小さいため、統計的有意性にかかわらず有害ではないと考えられ、上昇した値は依然として雌カニクイザルのHCRの範囲内であった。コントロール群及びベースラインレベルと比較した場合、フィブリノーゲンレベルの増加の傾向が、全ての処置したサルにおいて示されたが、この変化は、統計的有意性に達せず、そして回復期間の終了時までにベースラインに戻った(データは示さず)。いずれの用量レベルにおいても、カニクイザルからの尿検査パラメータにおける処置に関連する変化、又は曝露後の眼科的評価もしくは心電図における異常はなかった(データは示さず)。最大15mg/kgの用量を用いた動物のいずれにおいても臨床病理学パラメータにおける有意な変化が欠如したことは、カニクイザルにおける非GLP用量範囲試験からの結果を裏付けるものであり、最大15mg/kgのRTD-1(配列番号1)静脈内処置で、死亡、臨床的所見、又は体重に対して有害作用がないことに基づいて、15mg/kgのMTDも設定した。回復期間の終了時に行われた測定が少なかったため、この時点での臨床病理学パラメータの統計分析は、実施できなかった。
【0058】
処置に関連した肉眼的所見が、15mg/kgの3匹の動物の注射部位に記録され、これには、繰り返しのカテーテル挿入によるものであると思われる擦過傷及び異常な質感が含まれる。しかし、処置又は回復終了時に処置に関連する肉眼的所見はなかった。主要群では、顕微鏡評価により、処置終了時に注射部位で処置に関連する血栓症が明らかになったが、発生率及び/又は重症度における用量傾向はなかった。回復群において、注射部位で処置に関連する血栓症、急性炎症、浮腫、出血、及び線維症が、15mg/kgを投与した動物で回復終了時に認められた。しかし、回復群のコントロール動物の注射部位にも同等の所見が認められ、これには、最小から軽度の注射部位線維症及び軽度の慢性血栓症が含まれ、これらの所見が処置に関連することを示唆した。最後に、処置した動物(10mg/kg/日以上の用量を投与した雄及び5mg/kg/日以上の用量を投与した雌)のみの肺において、最小から軽度の血管内血栓症(血栓塞栓症)が処置終了時(11日目)に観察された。肺内の血栓は、血栓内及び周囲の結合組織内の両方に様々な数の炎症細胞を含有し、肺内の血栓は、主に、2匹の動物の肺胞壁の中~小動脈(mid to small arteries)及び毛細血管に存在した。血栓塞栓症は、肺に見られる血栓の組成から、ペプチド投与に関連すると結論付けられたが、この血栓は、注射部位に形成された血栓からの塞栓である可能性が高い。これらの所見はまた、コントロール群又は15mg/kgを投与したサルにおけるいずれの肺切片においても血栓症が確認されなかったので、回復期間の終了時までに解決された。
【0059】
各々の種において決定されたNOAEL及びLOAELの概要を表8に列挙する。最大15mg/kg/日のRTD-1(配列番号1)の反復投与が両方の性別で十分に許容されたことを考慮して、カニクイザルにおいて15mg/kg/日でNOAELを設定した。GLP試験で試験した最高用量では良好な忍容性を示したので、カニクイザルにおいてLOAELを決定することができなかった。この分析に基づいて、ラットにおけるNOAEL及びLOAELと同等であるHEDは、70kgの個体について3.1mg/kg及び11.7mg/kgであり、カニクイザルにおけるNOAELと同等であるHEDは、70kgの個体について15.9mg/kgである。
【0060】
【0061】
安全性
雄及び雌のSprague Dawleyラット(n=16~21/性別)に対して、RTD-1(配列番号1)を7日間反復投与した際の、潜在的毒性及び任意の所見の可逆性について評価した。ラットを各投与群内で3つのサブグループに分けた:主(n=10/性別)、回復(n=0~5/性別)、及びトキシコキネティクス(TK)(n=3~6/性別)。
【0062】
死亡及び臨床的所見:詳細な臨床的所見を、全てのラットにおいて、試験開始の1週間前から、剖検の日を含む試験の全体にわたって毎週記録した。カニクイザルにおいて、詳細な臨床的所見を、投与前に1回、及び剖検の日を含む試験開始後毎週記録した。全ての動物を、到着時から死亡時まで、1日2回、死亡について観察/モニタリングした。
【0063】
体重及び摂餌量:個々の体重を、全てのラットにおいて投与前に1回及び投与開始後毎週記録し、カニクイザルにおいて投与前に3回及び投与開始後毎週少なくとも1回記録した。摂餌量を、ラットにおいて試験全体を通して、1日目に開始して1週間に1回、ケージごとに定量的に測定し、カニクイザルにおいて試験全体を通して1日に1回評価した。
【0064】
血液学、血液化学及び凝固:血液学、凝固及び臨床化学のための血液サンプルを、ラットの予定された日(主群、回復群及びTK群に属するラットにおいて、それぞれ、8日目、24日目及び25日目)又は予定されていない剖検時に後眼窩洞から採取した。カニクイザルでは投与前及び処置終了時(11日目)に、さらにプラセボ群(n=2/性別)及び15mg/kg群(n=2~3/性別)の雄のサル及び雌のサルの少数のサブセットでは回復終了時に、静脈穿刺によって血液サンプルを採取した。
【0065】
尿検査:一晩の尿サンプルを、ラットでは安楽死の前に、カニクイザルでは投与前、10日目及び回復終了時に採取した。
眼科学:眼底検査(間接検眼法)及び生体顕微鏡検査(細隙灯)からなる眼科検査を、ラットでは投与前及び6日目に、カニクイザルでは投与前及び8日目に実施した。
【0066】
心電図(ECG):カニクイザルにおいて、投与前、8日目の注入の終了後10分以内、及び剖検の2日前にECGを収集した。
方法
RTD-1(配列番号1)の静脈内注射(i.v.)の薬物動態及び安全性を、マウス、ラット、カニクイザル、及びベルベットモンキーで試験した。凍結乾燥したRTD-1(配列番号1)(純度>98%)を濾過滅菌した生理食塩水に溶解し、マウス及び1匹のベルベットモンキーの注射に用いた。ラット及びカニクイザルを用いるRTD-1(配列番号1)溶液は、製剤化されたRTD-1(配列番号1)(1%プロピレングリコール及び20mM酢酸ナトリウム中に12.5mg/ml(pH6.5))を濾過滅菌した生理食塩水で希釈することによって調製した。試験設計及び安全性評価のスケジュールの概要を、それぞれ表9及び表10に列挙する。試験には、単回及び反復用量範囲実験が含まれた。全てのプロトコルは、試験の開始前に地域のIACUCの認可を受けた。
【0067】
【0068】
【0069】
薬物動態
マウス試験:動物の使用を伴う全ての手順及びプロトコルは、University of Southern California(USC)IACUC(プロトコル#20538)によって審査され、承認された。手短に言えば、RTD-1(配列番号1)の5mg/kgの単回i.v.ボーラス注射を、雄(31.7g~37.7g)及び雌(25.2g~35.6g)のCD-1マウス(Charles River Laboratories)の外側尾静脈に投与した。合計24匹のマウスを6つの群(n=2/性別/群)に分け、各群をあらかじめ決められた1つの時点に割り当てた。血液サンプルを、投与の0.25時間後、1時間後、2時間後、4時間後、8時間後、及び24時間後に、終末心臓穿刺によって採取した。採取したサンプルを遠心分離して血漿を分離し、分析まで-80℃で保存した。
【0070】
ラット試験:Sprague-DawleyラットにおけるRTD-1(配列番号1)の薬物動態を、Good Lab Practice(GLP)7日間毒性試験の一部として評価した。試験プロトコルは、Citoxlab USA IACUCによって審査及び承認され、USA National Research Councilからのガイドラインに従って実施された。投与日(1日目)に、雄(229g~272g)及び雌(186g~214g)のラット(n=6/性別/群)を、i.v.注入(20分±3分)によって、1日1回、7日間、0(プラセボ)、5、10又は20mg/kgのRTD-1(配列番号1)の反復用量を受けるように割り当てた。微生物感染の予防的処置のための意図された投与経路であるので、静脈内経路を選択した。20mg/kgのMTDを設定したラットにおけるパイロット単回用量漸増試験に基づいて、用量を選択した(データは示さず)。交互の血液サンプリングスキームによりラットの2つのサブグループ(n=3/性別/群)を以下のように割り当てた。サブグループAは、注入から0時間後(投与前)、0.5時間後、6時間後、及び24時間後に採血し、サブグループBは、注入から0.083時間後、2時間後、及び12時間後に採血した。1日目の注入から24時間後のサンプルを、2日目の用量の投与前に採取した。連続血液サンプルを、1日目及び7日目の上記の時点で、ならびに25日目(回復)に1回、K2EDTAチューブに収集した。サンプルを5℃、2,700gで10分間遠心分離して、血液から血漿を分離し、分析まで-80℃で保存した。
【0071】
カニクイザル試験:非GLP用量範囲発見PK試験及びGLP 10日間毒性試験をカニクイザル(Macaca fascicularis)において実施した。試験プロトコルは、Citoxlab USA IACUCによって審査及び承認され、USA National Research Councilからのガイドラインに従って実施された。非GLP用量範囲発見試験には、単回用量漸増評価及び反復用量評価が含まれた。単回用量漸増PK試験では、雄(3.49kg~3.57kg)及び雌(2.66kg~2.79kg)のカニクイザル(n=1/性別/群)を2つの用量群のうちの一方に無作為に割り当てた。第1群には、1日目に0.3mg/kgのRTD-1(配列番号1)をi.v.注入(60分±5分)として単回投与し、3日目に3mg/kgのRTD-1(配列番号1)を単回投与するが、第2群には、1日目に1mg/kgのRTD-1(配列番号1)を単回投与し、3日目に10mg/kgのRTD-1(配列番号1)を単回投与した。この試験で使用される用量は、カニクイザルにおけるパイロット試験に基づき、これは、10mg/kg以下の単回i.v.用量の安全性を実証した(データは示さず)。血液サンプルを、以下の時点でK2EDTAチューブに収集した:投与前、1日目及び3日目の注入の終了から約0.083時間後、0.25時間後、0.5時間後、1時間後、2時間後、4時間後、8時間後、12時間後、及び24時間後。反復投与試験では、15mg/kgのRTD-1(配列番号1)を1日1回、7日間、i.v.注入(60分±5分)により反復投与した(n=1/性別)。一連の血液サンプルを、投与前、1日目、4日目、及び7日目の注入の終了から約0.083時間後、0.25時間後、0.5時間後、1時間後、2時間後、4時間後、8時間後、12時間後、及び24時間後にK2EDTA中に収集した。1日目及び4日目の注入から24時間後のサンプルを、それぞれ2日目及び5日目の用量の投与前に採取した。GLP 10日間毒性試験では、RTD-1(配列番号1)の反復用量漸増投与後にPKを評価した。雄(2.52kg~3.65kg)及び雌(2.39kg~3.18kg)のカニクイザル(n=3~5/性別/群)に、プラセボ(滅菌生理食塩水)又は5、10もしくは15mg/kgのRTD-1(配列番号1)を、1日1回10日間、i.v.注入(60分±5分)によって投与した。一連の血液サンプルを、以下の時点でK2EDTAチューブに収集した:1日目の投与前、注入から0.083時間後、0.5時間後、2時間後、6時間後、及び12時間後、10日目の投与前、注入から0.083時間後、0.5時間後、2時間後、6時間後、12時間後、及び24時間後。追加の血液サンプルを、0又は15mg/kgを投与したサル(n=2/性別/群)から12日目及び24日目に採取した。全てのサンプルを約5℃で10分間、約2700×gで遠心分離して血漿を単離し、分析まで-80℃で保存した。
【0072】
ベルベットモンキー試験:パイロット安全性試験として、3mg/kgのRTD-1(配列番号1)の単回投与を、i.v.ボーラスによって成体雄性ベルベット/アフリカミドリザル(Chlorocebus aethiops sabaeus)に投与した。投与から0.5時間後、1時間後、4時間後、8時間後、24時間後、48時間後、72時間後、96時間後、120時間後、及び192時間後の時点で一連の血液サンプルを採取した。
【0073】
生物学的分析:マウスからの清澄化血漿サンプルを、5%ギ酸/5%アセトニトリル中に直接希釈した。MassLynx V4.1(Waters)を実行するXevo TQ-Sタンデムエレクトロスプレー質量分析に連結されたAcquity H-Class UPLC(Waters)での逆相液体クロマトグラフィ(XBridge BEHフェニル 3.5μm 3×100mmカラム、Waters#186003328)を用いたLC-MS/MSによって、RTD-1(配列番号1)の定量分析を実施した。TargetLynx(Waters)によって決定された曲線下面積を用いて、多重反応モニタリングトランジション417.32>517.21によって定量的質量分析を実施した。合成シータディフェンシン様ペプチドを内部標準(IS)として使用した。アッセイの定量下限(LLOQ)は、1ng/mLであった。アッセイ内及びアッセイ間の精度(変動係数パーセント[CV])は3%以下であり、アッセイ内及びアッセイ間の正確度(相対誤差%)は5%以下であった。ラット及びカニクイザルの血漿RTD-1(配列番号1)濃度分析を、Mac-Mod Analytical ACE C4カラムを用いてHPLCによりMicroConstants(サンディエゴ、カリフォルニア州)で実施した。エレクトロスプレー陽イオン化モードに設定したZ-Sprayソース/インターフェースで加熱窒素を用いて移動相を噴霧し、MS/MSを用いて化合物を検出した(LLOQ=10.0ng/mL)。この方法の詳細は、MicroConstants法第MN20038番に要約されている。連続的にサンプリングしたベルベットモンキーからの清澄化血漿サンプルを、超高パフォーマンス液体クロマトグラフィ Waters Acquity H-Class UPLCによって定量化した。血漿サンプルを5%ギ酸/5%アセトニトリル中に直接希釈し(1:10)、Empowerソフトウェアを実行する(C18 XBridge BEH 2.5μm 2.1×150mm Waters#186006709)を使用してフォトダイオードアレイ(210nmのPDA AUC)によって定量化した。RTD-1(配列番号1)のピーク及び質量の確認を、MassLynx 4.1(Waters)を備えたMicromass Quattro Ultima質量分析計を使用して、PDA後の溶出液について実施した。定量下限(LLOQ)は、10~30ng/mL(サンプルバックグラウンドによって決定)から上限50ug/mLまでの範囲であった。RTD-2(10ug/mL)を内部標準として使用した。アッセイ内及びアッセイ間の精度(変動係数%[CV])は3%以下であり、アッセイ内及びアッセイ間の正確度(相対誤差%)は5%以下であった。
【0074】
薬物動態分析:Phoenix(登録商標)WinNonlin(バージョン8.3.1、Certara USA,Inc.;プリンストン、ニュージャージー州)を使用してノンコンパートメント解析(NCA)を実施して、マウス、ラット、カニクイザル、及びベルベットモンキーにおけるPKパラメータを決定した。公称サンプリング時間を分析に使用し、アッセイの定量の下限未満のデータを分析から除外した。最大血漿濃度(Cmax)は、データの目視検査から決定した。加えて、以下のパラメータを計算した:終末相消失速度定数(λz)、無限時間まで外挿した曲線下面積(AUC0-∞)、投与間隔までの曲線下面積(AUCτ)、平均滞留時間(MRT)、クリアランス(CL)、及び定常状態での分布容積(Vss)。AUCは、リニアアップ・ログダウン法(linear up, log down method)を使用して計算し、λzは、濃度-時間プロファイルの対数線形終末相の最後の4つのデータ点までを使用して計算した。マウス及びラットにおいてデータがまばらにサンプリングされたため、Phoenix WinNonlinのスパースサンプリング計算方法を使用し、これは、Cmaxを除く全てのパラメータに対して標準誤差を伴わない単一の推定値を生成した。ラット及びカニクイザルについて、全てのパラメータを、i.v.注入の開始からのサンプリング時間を使用して計算した。
【0075】
用量比例性:Cmax及びAUC0-∞の用量比例性を、自然対数変換されたパワーモデルを使用して、0.3~15mg/kgの範囲のRTD-1(配列番号1)の単回i.v.用量を投与したカニクイザルにおいて評価した(37)。線形回帰の勾配及び対応する95%信頼区間が含まれる場合、用量比例性が結論付けられた。
【0076】
種間アロメトリックスケーリング:マウス、ラット、カニクイザル、及びベルベットモンキーからの単回投与PKデータを使用して、単純なアロメトリを用いてヒトPKパラメータを予測した。NCAから得られたCL又はVssと体重との間の関係を、以下の式を用いて記載した。Y=a・BWb、式中、YはPKパラメータ(例えば、CL又はVss)であり、BWは種の体重であり、aはアロメトリック係数であり、bはアロメトリック指数である(34、38)。対数変換データに対して線形回帰を実施した。予測されるヒト等価用量を、以下の式を使用して、アロメトリックにスケーリングされたクリアランスに基づいて計算した。用量=CL*AUC0-∞。NOAEL及びLOAELでの対応する平均AUCτ及びAUC0-∞をそれぞれ使用して、前臨床動物におけるNOAEL及びLOAELでの用量をHEDに変換した。
【0077】
雌ラットにおける[14C]-放射性標識RTD-1(配列番号1)の生体内分布。頸静脈カテーテル(JVC)を装着した5匹のSDラット(体重195g及び200g)にそれぞれ、約400万 CPMの[14C]-RTD-1(配列番号1)を含有する生理食塩水中の5mg/mLのRTD-1(配列番号1)を200μL注射した。14C-RTD-1(配列番号1)を、環状ペプチドの1位の天然グリシン残基を14C標識グリシンで置換することによって作製した。JVCラインを70%イソプロピルアルコールで洗浄し、ラインプラグを除去した。注射溶液を含有する1mLシリンジを備えた新しい25G鈍針を各注射に使用した。JVCラインを最初に100μLの生理食塩水で、続いてRTD-1(配列番号1)溶液で洗浄し、次いで追加の100μLの生理食塩水で洗浄した。組織及び臓器を別々のバイアルに収集し、秤量した。リンパ節、腎臓、及び心臓/肺などの小さな臓器を丸ごと処理した。大きな臓器(例えば、肝臓、筋肉、皮下の脂肪体)を、代表的な領域又は目的の領域(例えば、注射部位の皮下組織)からサンプリングした。次いで、最大1gの組織に対して、臓器を2mLのSOLVABLE(Perkin Elmer 6NE9100)に溶解した。皮膚及び他の臓器の大部分については、4mL又は6mLを添加した。バイアルを60℃の水浴中で18~22時間インキュベートし、次いで取り出し、室温まで冷却した。2mLの溶解した組織を、100μLの0.1M EDTA及び2×100μLの30%過酸化水素と共に、色補正のために新しいシンチレーションチューブに添加した。サンプルを室温で1時間静置し、37℃のインキュベーター中で1時間インキュベートし、次いで60℃の水浴中で1時間インキュベートした。沸騰を防ぐ必要がある場合には、作業を継続する前にサンプルを熱源から一時的に取り出した。サンプルを冷却した後、10mLのUltima Gold(Perkin Elmer 6013321)を各バイアルに添加し、次いで内容物を混合し、暗所に22℃で1時間静置した。シンチレーションカウントは、Packard TRI-CARD 2100 TRシンチレーションカウンタを使用して1分間に2回カウントした平均であった。i.v.注入後1時間又は24時間にわたって尿を集め、500μLを、シンチレーションカウントのために上記のように処理したシンチレーションバイアルに添加した。胃及びその内容物を6mLのSOLVABLEで溶解し、他の組織と同様に処理した。十二指腸、空腸、及び回腸を生理食塩水で洗い流して管腔内容物を除去し、次いで組織を上記のようにSOLVABLEで処理した。大腸を長さ方向に開いて糞便内容物を除去し、生理食塩水ですすいで残りの管腔内容物を除去し、次いで上記のように処理した。糞便を収集し、500mLプラスチックカップに移し、50mLの7%次亜塩素酸ナトリウムで処理し、22℃で1時間、続いて60℃の水浴中で1時間反応させた。2mLの得られた懸濁液をシンチレーションバイアルに移し、10mLのシンチレーション液と混合した。内容物を混合し、シンチレーションカウントの前に1時間静置した。
【0078】
安全性
ラット及びカニクイザルにおける安全性の評価は、臨床的所見、生存、体重、摂餌量、臨床病理学(血液学、臨床化学、及び凝固)、尿検査、眼科学、剖検時の肉眼的所見、及び顕微鏡的組織病理学に基づく。これらの試験の評価スケジュールを表2に要約する。
【0079】
統計分析
PKデータの統計分析は、GraphPad Prismバージョン9.1.2(GraphPad Software,Inc.,サンディエゴ,カリフォルニア州)を用いて行った。正規性をチェックするためにShapiro-Wilk検定を用いた。ボンフェローニの多重比較検定を伴う一元配置分散分析を実施して、ラットにおける用量(5、10及び20mg/kg)間のCmax、ならびにカニクイザルにおける用量(5、10及び15mg/kg)間のλz、AUC、Cmax、CL及びVssを比較した。対応のないt検定を使用して、各投与群内の異なる日(1日目対10日目)間及び性別間のPKパラメータ(λz、AUC、Cmax、CL、及びVss)を比較した。95%の統計的有意性を考慮して、SAS 9.4を使用して安全性データの統計分析を行った。Kruskal WallisとDunnの多重比較検定を用いて、体重、体重変化、及び臨床病理学(血液学、血清化学、凝固)の差を各用量群間で比較した。データ解析は、性別ごとに独立して行った。
【0080】
当業者には、本明細書の発明の技術的思想から逸脱することなく、既に記載されたものに加えて、より多くの変更が可能であることが明らかであろう。したがって、本発明の主題は、添付の特許請求の範囲の技術的思想を除いて限定されるべきではない。さらに、本明細書及び特許請求の範囲の両方を解釈する際に、全ての用語は、文脈と一致する最も広い可能な様式で解釈されるべきである。特に、「含む(comprises)」及び「含んでいる(comprising)」という用語は、要素、構成要素、又はステップを非排他的様式に指すものとして解釈されるべきであり、参照された要素、構成要素、又はステップが、明示的に参照されていない他の要素、構成要素、又はステップとともに存在し得るか、又は利用され得るか、又は組み合わせられ得ることを示す。本明細書の特許請求の範囲が、A、B、C…Nからなる群から選択される何かのうちの少なくとも1つを参照する場合、本文は、A+N、又はB+N等ではなく、その群からの1つの要素のみを要求するものとして解釈されるべきである。
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【国際調査報告】