IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アスパイア バイオテック,インク.の特許一覧

特表2025-506071貯蔵寿命および製品均一性の改善につながる組織接着剤の熱滅菌のための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-03-05
(54)【発明の名称】貯蔵寿命および製品均一性の改善につながる組織接着剤の熱滅菌のための方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/04 20060101AFI20250226BHJP
【FI】
A61L2/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024569051
(86)(22)【出願日】2023-02-05
(85)【翻訳文提出日】2024-09-26
(86)【国際出願番号】 US2023012355
(87)【国際公開番号】W WO2023150323
(87)【国際公開日】2023-08-10
(31)【優先権主張番号】63/372,012
(32)【優先日】2022-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524297069
【氏名又は名称】アスパイア バイオテック,インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100113376
【弁理士】
【氏名又は名称】南条 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100179394
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬田 あや子
(74)【代理人】
【識別番号】100185384
【弁理士】
【氏名又は名称】伊波 興一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100137811
【弁理士】
【氏名又は名称】原 秀貢人
(72)【発明者】
【氏名】スノー ジョシュア トーマス
(72)【発明者】
【氏名】アスキル イアン ナイジェル
(72)【発明者】
【氏名】キャンベル ロリ アン
【テーマコード(参考)】
4C058
【Fターム(参考)】
4C058AA12
4C058AA14
4C058AA22
4C058AA25
4C058BB02
4C058CC03
4C058DD02
4C058DD04
4C058DD11
4C058EE12
(57)【要約】
組織接着剤の滅菌のための方法が提供され、前記方法は、一定量の組織接着剤を収容する容器を、180℃~230℃の間の最高温度まで、時間平均滅菌温度の熱流が前記ミリモル量の組織接着剤に対して500000C*分/mmolまでとなるように、加熱するステップを含む。前記容器は、シアノアクリレート系組織接着剤を滅菌するために冷却される。気密封止付きの容器を含む、物質組成物が得られる。一定量の滅菌済み組織接着剤が、前記容器内に提供され、標準温度および圧力で、少なくとも36か月の貯蔵安定性を有する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織接着剤の滅菌のための方法であって、
前記方法は:
一定量の前記組織接着剤を収容する容器を、180℃~230℃の間の最高温度まで、時間平均滅菌温度(Time Averaged Sterilization Temperature)の熱流が前記ミリモル量の組織接着剤に対して500000C*分/mmolまでとなるように、加熱するステップ;
および
前記容器を冷却して、前記量の前記組織接着剤を滅菌するステップ;
を含む、
方法。
【請求項2】
請求項1に記載された方法であって、
前記冷却は衝撃冷却(shock cooling)である、
方法。
【請求項3】
請求項1に記載された方法であって、
前記時間平均滅菌温度の熱流は、前記量の組織接着剤に対して250000C*分/mmolを超えてはならない、
方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載された方法であって、
前記組織接着剤は、アクリル骨セメント、マロン酸メチリデン(methylidene malonate)、またはシアノアクリレートエステルのうちの1つである、
方法。
【請求項5】
物質組成物(composition of matter)であって:
気密封止付きの容器;
前記容器内の一定量の滅菌済み組織接着剤;
を含み、
前記量の滅菌済み組織接着剤は、標準温度および圧力で、少なくとも36か月の貯蔵安定性を有する、
物質組成物。
【請求項6】
請求項5に記載された物質組成物であって、
前記貯蔵安定性が36~72か月の間である、
物質組成物。
【請求項7】
請求項5に記載された物質組成物であって、
前記容器は、ホウケイ酸ガラス、金属、セラミック、または高温耐性プラスチックから形成される、
物質組成物。
【請求項8】
請求項5に記載された組成物であって、
前記組織接着剤がシアノアクリレートである、
組成物。
【請求項9】
請求項8に記載された組成物であって、
前記シアノアクリレートは、ブチルシアノアクリレート、オクチルシアノアクリレート、またはそれらの組合せである、
物質組成物。
【請求項10】
請求項5に記載された物質組成物であって、
フリーラジカル安定剤をさらに含む、
物質組成物。
【請求項11】
請求項10に記載された物質組成物であって、
前記フリーラジカル安定剤は、BHA、BHT、4-メトキシフェノール、ヒドロキノン、4-エトキシフェノール、3-メトキシフェノール、カテコール、またはそれらの組合せである、
物質組成物。
【請求項12】
請求項5に記載された物質組成物であって、
防腐剤をさらに含む、
物質組成物。
【請求項13】
請求項12に記載された物質組成物であって、
前記防腐剤は、SO、三フッ化ホウ素、または、過塩素酸、硫酸、塩酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、リン酸、またはそれらの組合せのうちの少なくとも1つの強酸である、
物質組成物。
【請求項14】
請求項5に記載された物質組成物であって、
増粘剤をさらに含む、
物質組成物。
【請求項15】
請求項14に記載された物質組成物であって、
前記増粘剤は、PMMA、ポリ酢酸ビニル、ポリシアノアクリレートポリマーおよびコポリマー、またはそれらの組合せである、
物質組成物。
【請求項16】
請求項5~15のいずれか一項に記載された物質組成物であって、
可塑剤、クエン酸塩、セバシン酸塩、着色剤、促進剤、またはそれらの組合せのうちの少なくとも1つをさらに含む、
物質組成物。
【請求項17】
請求項5~15のいずれか一項に記載された物質組成物であって、
請求項1に記載された方法によって形成される、
物質組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
本出願は、2022年2月7日に出願された米国仮出願番号63/372,012の優先権利益を主張し;その内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
[技術分野]
本発明は一般的に、組織接着剤に関連し、具体的には、貯蔵寿命および製品均一性の改善につながる組織接着剤の滅菌のための方法に関連する。
【背景技術】
【0003】
医療用の糊、シーラント、および接着剤(以下、組織接着剤と称する)は、外科的および外傷性の傷に対して、迅速で、見た目良く、かつ費用効果の高い閉鎖を促進するために、最も一般的に使用される。それらはまた、皮膚を強化または保護するため、静脈瘤の治療のため、または手術用ドレープの代替としてなどにも、使用される。局所的組織接着剤は、感染を防ぎ、液体損失を防ぎ、出血を制御し、または傷の縁を接近させるために、傷を封止する。様々な医療ニーズに対応し、対象の体内で生体組織を置換、修復、閉鎖、および保護するのに必要な臨床的特性を開発するために、組織接着剤の特性は、特定の用途のために慎重に設計され、最適化される。
【0004】
組織接着剤は、無菌かつ一般に非毒性でなければならず、湿気、出血、柔軟性、および強度要件など、適用部位での様々な変化または厳しい条件下で、効果的な性能を提供しなければならない。組織接着剤はまた、適用が容易で、かつ速乾性であるべきである。皮膚閉鎖のための組織接着剤は、メッシュ、縫合糸、およびステープルと併用されるか、または単独で使用されてもよく、組織を1つにまとめ、感染性因子の侵入または体液の損失に対するバリアとしての役割を果たす。
【0005】
文献および規制申請書類は、臨床使用のための無菌組織接着剤を提供するために使用される、いくつかの方法を記載する。ガンマ線照射は、McDonnellによって5,530,037に;加熱は、Kotzevによって5,874,044に;電子ビーム照射は、Hickeyによって6,143,805に、およびGreffによって6,248,800に;およびX線は、Zhangによって8,652,510に記載された。「無菌」と主張するために規制当局により要求される滅菌放射線または処理の曝露量は、滅菌前の装置内の微生物汚染の量(通常はコロニー形成単位(CFU)で測定される)に関連する。そのため、一部の製造業者は、滅菌処理がそれほど過酷ではなく、従って製品へのダメージが少なくなるように、装置の汚染を減少させるために大きな努力を払うことがある。極端な場合、一部の製品は、あらゆる微生物汚染を除去することを意図した0.2ミクロンフィルターを用いて濾過され、その後無菌条件下で予め滅菌された容器内に包装される。そのような製品の1つであるHistoacrylは、2007年2月16日にPMA P050013によって、組織接着剤としてFDAの承認を受けた。しかしながら、この処理方法には大きなリスクとコストが伴い、「最終滅菌」されていないごく少数の医療機器の1つである。
【0006】
合成組織接着剤の特定のクラスとして、外部組織修復のために一般に使用されるシアノアクリレート由来の接着剤がある。シアノアクリレート由来の接着剤は、迅速に作用し、強力な結合を提供し、典型的には防水性があり、ある程度柔軟であり、かつ二次的な被覆材を必要としない。いくつかの低位同族体のシアノアクリレート接着剤には、毒性および組織炎症の可能性がある一方、ブチルシアノアクリレートおよび2-オクチルシアノアクリレートなどの長鎖誘導体は、毒性がより低く、米国食品医薬品局(FDA)によって承認されている。シアノアクリレート接着剤は、速乾性で、効果的に出血を止め、汚れおよび空気を防ぎ、かつ典型的には傷ついた部位が治癒するまでその場に留まる。しかしながら、シアノアクリレート接着剤自体は、深い傷またはギザギザの傷、または関節などの可動性の高い部位および屈曲部位への使用について元々は推奨されなかったが、現在ではこれらの適応症において、メッシュと併用して使用される。組織接着剤としての適応に加えて、シアノアクリレート接着剤はまた、一般的な細菌微生物に対するバリアとしても、FDAの認可を受けている。長鎖シアノアクリレート製品は、しばしば局所的に組織閉鎖を強化するために使用され、小さな裂傷に使用される。さらに、シアノアクリレート組織接着剤は、静脈瘤の治療用および脳「AVM(動静脈奇形)」の液体塞栓治療システムとしても承認されており、一部の国ではヘルニアメッシュを固定するために使用される。
【0007】
別のクラスの組織接着剤として、FDAによって局所使用が承認されているのは、マロン酸メチリデン(methylidene malonate)の一連の反応性モノマー群である。
【0008】
これら両方のクラスの接着剤の迅速な作用特性は、非常に反応性の高いモノマー種に由来し、これらはフリーラジカルおよびイオンの両方によって重合が引き起こされる。それらの高い反応性により、貯蔵寿命が限られているが、湿気、熱、光、または他の形のエネルギーへの過剰な曝露によって、さらに短縮される。これにより滅菌が複雑になるのは、大多数の最終滅菌法が、微生物を殺すために、高エネルギー、または湿気と熱を使用するからである。
【0009】
これら反応性モノマー組織接着剤を滅菌する際の課題は、モノマーが滅菌の「エネルギーショック」を生き残るようにし、かつ商業的に成立する貯蔵寿命を保つことである。しばしば、大量の潜在的に有毒な安定剤が、滅菌中にモノマーが重合するのを防ぐために加えられるが、それでも貯蔵寿命は限られる。シアノアクリレート組織接着剤の滅菌されていない試料は、20年間持ちうることが観察されているが、滅菌されているシアノアクリレート系接着剤は、室温での貯蔵寿命が2年以下であることが観察されている。重合は必然的に粘度の上昇に現れ、滅菌済みシアノアクリレート系接着剤は、使用前に固化し、または粘度が高くなりすぎて外に出せなくなる。このように粘度は、組織接着剤の貯蔵寿命を通常は制限する経時変化(aging)パラメータであり、経時変化を最も一般的に監視するパラメータである。
【0010】
現在の滅菌方法のさらなる複雑さは、ある程度規模の経済性をバッチ処理で維持せねばならない場合に、滅菌される全てのユニットに均一な曝露量を供給することの難しさにある。これは、全てのユニットが最低限必要な曝露量を受けることを保証するために、一部のユニットが他のユニットよりも多くのエネルギーを受けることに、必然的につながる。このことは製品の性能特性に即座に影響を及ぼし、バッチ間のばらつきが容易に見られる。加えて、より多くのエネルギーを受けたユニットは、より早く「経時変化」し、これにより製品が経時変化するにつれて、さらに大きな差異につながる。これにより、顧客が製品のユニット間の性能のばらつきを認識することにつながり、性能のばらつきが原因で、製品への苦情および製品採用の遅れにさえつながる。
【0011】
最も一般的な商業用組織接着剤は、2段階でバッチ滅菌される。最初に、接着剤成分が、ガラスバイアルまたは金属チューブ内で、加熱によりバッチ滅菌される。これらがその後、臨床使用を容易にするために、アプリケーター内にまたはアプリケーターと共に配置され、無菌領域への無菌「滴下」を可能にするために、これもまたオーバーパック内に包装される。これらのアセンブリはその後、気体、通常はエチレンオキシドガスによって(二酸化塩素も代替手段であるが)、再度バッチ滅菌される。この第2の気体バッチ滅菌サイクルは、より低温であり、組織接着剤の反応性モノマー成分に、ほとんどまたは全く、さらなるストレスを与えない。第1段階で使用される典型的なバッチ熱滅菌サイクルは、160℃で2時間、または170℃で1時間である。もちろん、これらの商業的処理の各々には、商業的に成立する処理にするために処理されねばならない大型オーブンおよび大量の製品に伴って、加熱と冷却に多大な時間が掛かるため、製品への熱負荷が増加する。さらに、バッチ内の個々のユニットが、大型商業用オーブン内での配置場所によって異なる加熱と冷却を経験し、これがバッチ間での大きな性能のばらつきにつながる。滅菌後に見られる性能のばらつきは、経時変化につれてさらに増幅され、ユニット間の差異を悪化させるということが広く認識されている。
【0012】
幸いにも、化学反応は、典型的には温度が10℃上昇するごとに約2倍加速するアレニウスの法則に従う一方、感染性微生物因子の死滅にはこれが当てはまらず、温度が上昇して200℃に近づくにつれて、はるかに速い速度で死滅する。従って本発明は、滅菌が高温では一般的な反応速度論に依存しないという判断、およびより高い温度でのより短い滅菌時間のより低い熱負荷を利用して、滅菌される必要がありかつ熱による劣化に敏感なある材料の性能を、改善するために使用されうる。
【0013】
ガラスアンプル内のシアノアクリレート組織接着剤に対して現在行われる熱滅菌方法は、温度が10℃上昇するごとに反応速度(すなわち、この場合は「殺菌速度」)が2倍になる「アレニウス様」の反応速度論を大前提としている。従って、処理は典型的には160℃で120分間、または170℃で60分間であり、必要な「オーバーキル」レベルの滅菌を達成する。加熱および冷却時間を除くと、これは時間平均滅菌温度(Time Averaged Sterilization Temperature)(TAST)の熱流が、2231947C*分/mmol(環境=25℃と仮定)に相当する。
【0014】
加熱および冷却時間を含めると、TASTの熱流は、非常に大きな4408289C*分/mmolになる。このような高い熱負荷とそれらの間の差異とが、滅菌の有害な影響とバッチ間のばらつきとの両方を説明する。
【0015】
従って、組織接着剤の粘度に対する影響が最小限である滅菌方法を開発する必要がある。また、既存の滅菌済みシアノアクリレート系接着剤に比べて、貯蔵寿命がより長く均一性がより高い、滅菌済みシアノアクリレート系接着剤の必要性もある。
【発明の概要】
【0016】
シアノアクリレート系組織接着剤の滅菌のための方法が提供され、前記方法は、一定量の組織接着剤を含む容器を、180℃~230℃の間の最高温度まで、時間平均滅菌温度の熱流が前記量の組織接着剤に対して500000C*分/mmol未満(加熱および冷却時間を除く)となるように、加熱するステップを含む。前記容器は、前記組織接着剤を滅菌した後、冷却される。
【0017】
気密封止付きの容器を含む、物質組成物(composition of matter)が得られる。一定量の滅菌済み組織接着剤が、前記容器内に提供され、標準温度および圧力で、少なくとも36か月の貯蔵安定性を有する。
【0018】
[図面の簡単な説明]
本発明は、以下の非限定的な図面に関して、さらに詳述される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】170℃で1時間を使用する、標準的な現在のバッチ滅菌方法と、本発明の高温短時間方法との比較であり、温度対時間のプロットとして示される;
図2A-2C】シアノアクリレート系接着剤のための本発明の滅菌プロファイルの、時間の関数としての温度プロットであり、本発明の実施形態に従って温度対時間として示される;
図3A】第1の本発明システムの模式図である;
図3B】コンベアを含む第2の本発明システムの模式図である;
図4A】100%ブチルシアノアクリレート組織接着剤製剤の試料のセットについての、粘度対時間(経時変化)のグラフであり、以下の群に分けられる:非滅菌対照群、標準的熱プロファイルでバッチ滅菌された群、および本発明の実施形態に従って本発明の滅菌熱プロファイルを用いて処理された試料群;
図4B図4Aに示された非滅菌対照群からの差分の百分率の、標準的熱プロファイルでバッチ滅菌された群、および本発明の実施形態に従って本発明の滅菌熱プロファイルを用いて処理された試料群についての、粘度対時間(経時変化)のグラフである;
図5A】80%ブチル/20%オクチルシアノアクリレート組織接着剤製剤の混合物の試料のセットについての、粘度対時間(経時変化)のグラフであり、以下の群に分けられる:非滅菌対照群、標準的熱プロファイルでバッチ滅菌された群、および本発明の実施形態に従って本発明の滅菌熱プロファイルを用いて処理された試料群;
図5B図5Aに示された非滅菌対照群からの差分の百分率の、標準的熱プロファイルでバッチ滅菌された群、および本発明の実施形態に従って本発明の滅菌熱プロファイルを用いて処理された試料群についての、粘度対時間(経時変化)のグラフである;
図6A】100%オクチルシアノアクリレート組織接着剤製剤の試料のセットについての、粘度対時間(経時変化)のグラフであり、以下の群に分けられる:非滅菌対照群、標準的熱プロファイルでバッチ滅菌された群、および本発明の実施形態に従って本発明の滅菌熱プロファイルを用いて処理された試料群;
図6B図6Aに示された非滅菌対照群からの差分の百分率の、標準的熱プロファイルでバッチ滅菌された群、および本発明の実施形態に従って本発明の滅菌熱プロファイルを用いて処理された試料群についての、粘度対時間(経時変化)のグラフである;および
図7】ある実施形態における本発明の温度および時間の限界を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、シアノアクリレート系組織接着剤の滅菌のための改善された方法として有用であり、非滅菌シアノアクリレート系接着剤と同様の貯蔵寿命を有する、貯蔵安定性のある製品が得られる。本発明の滅菌方法の実施形態は、高熱を短時間与えることで、全体としての時間平均滅菌温度(TAST)が低減される。具体的な本発明の実施形態において、185℃のピーク温度が1分間適用される。本発明の加熱プロファイルの実施形態は、従来の滅菌温度プロファイルよりも高いピーク温度を有するが、加熱の領域を減らすため、より短時間である。本発明は、400C*分/mmol~500000C*分/mmolの範囲の熱流値を提供し、その早すぎる硬化反応を誘発することなく、組織接着剤を滅菌することができる。早すぎる硬化反応の欠如は、標準温度および圧力で、少なくとも36か月の、具体的な実施形態において36~72か月の間の、貯蔵安定性として現れる。この範囲の熱流は、理想化されたものであり、事前の加熱および事後の冷却の各事象は、瞬時に行われると仮定している。これらの計算の目的のため、モル量は、純粋なブチルシアノアクリレートの量に関連し、ブチルシアノアクリレートが収容される容器は、瞬時かつ無限の熱伝導性を有すると仮定される。
【0021】
具体的な本発明の実施形態において、滅菌済みシアノアクリレート系組織接着剤製剤の貯蔵寿命は、現在の滅菌済みシアノアクリレート系組織接着剤製品の少なくとも2倍が達成され、潜在的に有毒な安定剤のレベルが低減される。選択された安定剤によっては、60か月、さらには72か月の貯蔵寿命が達成される。
【0022】
本明細書において引用される数値範囲は、そのような範囲の端値だけでなく、範囲内に包含される個々の値および最後の有効桁での1単位ごとの変動も含むことを意図している。例として、本発明による任意単位での0.1~1.0の範囲はまた、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、および0.9をも包含し;各々独立して、その範囲の下限値および上限値となる。
【0023】
本発明の様々な実施形態の以下の説明は、本発明をこれらの具体的な実施形態に限定することを意図するものではなく、むしろ当業者であれば本発明を、その例示的な態様を通じて、製作および使用できるようにすることを意図している。
【0024】
明示的にまたは文脈により別段の指示がない限り、以下の用語は本明細書において以下に定めるとおりに使用される。
【0025】
本発明の明細書および添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形の「a」「an」および「the」は、文脈上そうでないことが明らかな場合を除き、複数形をも含むと意図される。
【0026】
また、本明細書において使用される場合、「and/or」は、関連する列挙項目の1または複数のあらゆる可能な組合せ、および選択的に解釈された場合(「or」)の組合せの欠如を、指しかつ包含する。
【0027】
図1は、170℃で1時間を使用する、標準的な現在のバッチ滅菌方法と、本発明の高温短時間方法との比較であり、温度対時間のプロットとして示される。従来のバッチ方法での「熱流」(加熱および冷却時間を考慮)の範囲は、4408289C*分/mmolの「熱流」値を有し;事前の加熱と事後の冷却とを除いた「熱流」値は、2231947C*分/mmolである。
【0028】
対照的に、本発明の方法では、図1に示されるように、保持温度が180℃、240秒=157549C*分/mmolであり;一方、保持温度が230℃、0.5秒=419C*分/mmolである。185℃で1分間の具体的な本発明の方法によれば、製品の加熱および冷却を含む「熱流」値が、381670C*分/mmolである。加熱および冷却を除く場合、「熱流」値は40481C*分/mmolである。
【0029】
図2A~2Cは、シアノアクリレート系接着剤のための本発明の滅菌プロファイルのプロットであり、温度対時間として示され、ピーク温度は185℃であり、ここで理論的プロファイルの積分面積は、他の組織接着剤にも同様のプロファイルが存在し、日常的な実験を具体的な製剤に適用することで、シアノアクリレート系組織接着剤の例示的な材料について、短時間でバースト的な滅菌加熱という主要な態様で、以下に示される結果を達成する。そのような他のクラスの組織接着剤には、アクリル骨セメントおよびマロン酸メチリデンを含む。図2Aは、貯蔵寿命の延長を達成しながら滅菌を達成するために、厳密に制御される。これは、図2Aに示されるように、シアノアクリレート1mmolあたりの時間平均滅菌温度の熱入力の単位で制御されたエネルギー入力に相当し、シアノアクリレートを収容する容器の熱容量は考慮されていない。この値は、実験的に容易に決定され、容器の材料、壁の厚さ、断面形状などの要因に依存する。
【0030】
温度プロファイルゾーンは、特定のゾーン用の個別の熱浴で、または別々の加熱または冷却ブロック間を動くことによって、または急速に循環する空気を用いて急速な熱伝達を保証する熱室の個別ゾーンで、達成されうる。
【0031】
本方法は、小型バイアルを容器として使用し、加熱ブロック内のキャビティで185℃まで30秒間加熱し、その後冷却することにより、まず検証された。この結果、bacillus atrophaeusの芽胞ストリップ(菌数106、D値2)が滅菌された。
【0032】
これを規制当局に受け入れられる商業的に成立する方法にするためには、耐熱性の生物学的指標の中で、全ての芽胞を死滅させるのに必要な温度に達する以上のことをする必要がある。規制当局は、「オーバーキル」、すなわちあらゆる微生物またはその芽胞が何度も完全に死滅することを保証するレベルの滅菌を、期待している。それに応じて、いくつかの実施形態において、本発明の方法は、組織接着剤の容器を、>185℃まで少なくとも1分間曝露する。
【0033】
本明細書における適切な容器には、例示的に以下を含む:ホウケイ酸ガラスまたは石英から形成されたもの;ステンレス鋼、アルミニウム、またはスズなどの、金属;アルミナまたはチタニアなどの、セラミックス;または、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリベンズイミダゾール、ポリジシクロペンタジエン、および前述のいずれかが各々単独でまたは組み合わせてコポリマーの50%を超えて構成するコポリマーなどの、高温耐性プラスチック。
【0034】
10g未満の組織接着剤を収容する小さいガラス容器では、個々の容器は、いくつかのゾーンを有する強制空気オーブンを通して、コンベアベルト上で連続的に滅菌されることができ、主要なゾーン内の熱電対を用いて非常に厳密な監視を行い、容器が適切な熱プロファイルを適切な時間だけ経験していることを確認する。シアノアクリレートを収容する容器は、185~210℃の間のピーク温度まで急速に加熱され、図2Aに示される理論的な垂直傾斜に近づくほど、加熱および冷却の傾斜が非常に急速である。本発明の方法は、いくつかの実施形態において、硬化を複雑にし製品の貯蔵寿命に影響を与えうる、化学的抗菌剤を追加せずに行われる。急速な変化速度は、いくつかの実施形態において、容器を制御された温度浴に浸す技術を通じて達成される。容器体積内の熱伝達は、浸した後または浸すと同時に、容器の回転または攪拌によって、さらに促進される。この種の衝撃処理が、従来の技術と同等に効果的でありながら、結果として得られるシアノアクリレートの貯蔵寿命を延長し、ユニットを個別に処理するため、バッチ方法よりもユニット間のばらつきが少ないことが、驚くべきことに見出された。
【0035】
本発明による方法において熱および時間が適切に配分されている場合、シアノアクリレートには根本的な変化が生じない。以下の方法は、例示的なシアノアクリレート組織接着剤の滅菌のために意図される:
【0036】
超高温(UHT)滅菌180~230℃は、180℃で120秒から230℃で最短0.5秒までであり、その後容器および内容物が損傷しない限り、容器を急速に冷却するために、0℃まで15~120秒で急速冷却される。TAST加熱速度の50%以上と定義される冷却速度は、本明細書において衝撃冷却(shock cooling)として定義される。
【0037】
本発明の方法によって組織接着剤を最小限の損傷で滅菌するために効果的であると決定されたTAST熱流の範囲は、事前の加熱および事後の冷却を含まない場合、500000C*分/mmol未満である。185℃で60秒間の例での計算されたTAST熱流は、事前の加熱および事後の冷却を除く場合、40481C*分/mmolのTAST熱流であり、2百万C*分/mmolを超えるバッチ方法と比較される。
【0038】
上記の情報は、温度および時間が非常に重要な役割を果たし、製品固有であることを明確に示す。熱伝導のための高感度電子装置および陽圧/過圧の値(それらは非常に敏感に設定されている)が、本発明による方法および/または装置において使用される。本発明で特に重要なのは、滅菌温度で気体相において作用できる適切な量のアニオン性阻害剤の選択であり、アンプル内の液体上部の適切な「デッドボリューム」と協同して、これによりシアノアクリレートの硬化前変性が防止される。
【0039】
シアノアクリレートの容器の滅菌は、複数ゾーンのコンベアオーブンの助けを借りて、容器を急速に加熱し、必要な滅菌温度である≧185℃で1分間保持した後、取り扱い可能な温度まで冷却することを可能にすることで、達成される。冷却された容器はその後、製品の使用目的に応じて必要なアプリケーターにさらに組み立てられ、さらにオーバーパックされてもよく、組織接着剤に損傷を与えない滅菌気体または他の最終滅菌処理によって後に滅菌されてもよい。
【0040】
所与の容器およびその中のシアノアクリレートの量に対して、制御されたバッチまたは連続処理を用いる場合、熱電対、白金抵抗温度計、または熱ルミネセンス分光システムなどの熱センサが使用され、シアノアクリレートの容器が曝露される熱プロファイルを監視する。シアノアクリレート温度を示すセンサ値は、デジタルディスプレイに送信され、いくつかの実施形態においては、温度単位に変換されることで、全ての温度値が、センサと通信するグラフィカルディスプレイおよびメモリ装置を使用して、監視および保存できるようになる。比例積分微分(PID)値は、ΔTで定義される値が0.1以下であると判断されるとき、高い制御精度に適している。
【0041】
図3Aに示されるように、本発明を行うためのシステムが、10に一般的に示され、シアノアクリレートの1または複数の容器を受け入れるように適応する超高温(UHT)タンク12が、提供される。容器間の特性の均一性が、バッチ処理されるか順次処理されるかに関わらず、非常に重要であることが理解されるべきである。ロボット取り扱いシステム14は、容器を冷却タンク16へ移送する機能を有する。本発明のいくつかの実施形態において、タンク16は、その中に設置された容器に、衝撃冷却を提供する。本発明のいくつかの実施形態において、攪拌システム18は、タンク12、16の一方または両方の中で、均一な熱曝露を促進する。温度センサ20および20′は、それぞれタンク12および16内の温度を監視する。本発明のいくつかの実施形態において、センサ20および20′は、各々独立して、タンク12および16の温度をそれぞれ調節するためのフィードバック制御を提供する。
【0042】
図3Bに示されるように、本発明を行うためのコンベアベースのシステムが、30に一般的に示され、容器がコンベア32上を右から左へ動く。容器は積み込まれ、予熱加温ゾーン34に入り、その後、その中に温度センサを有する複数ゾーンオーブン36に入る。本発明のいくつかの実施形態において、温度センサは熱電対である。本発明のさらに他の実施形態において、2つ、3つ、またはそれ以上の温度センサが、オーブンゾーンごとに提供される。本発明のいくつかの実施形態において、熱電対などの温度センサは、独立してフィードバック制御を提供し、複数ゾーンオーブンの所与のゾーン内の温度を調節する。複数ゾーンオーブン36を通過した後、容器は冷却ゾーン38を通過し、その後積み下ろされる。コンベア32上で同じ横位置に配置された、単一の同じ種類の容器の、コンベアに対する均一な動きにより、容器に均一な熱曝露が容易に与えられることが理解されるべきである。
【0043】
本発明は、未硬化のシアノアクリレートを収容する容器を、液体または気体または蒸気状の媒体中で、複数のステップで加熱処理する方法を提供する。本発明の方法において、シアノアクリレートを収容する容器は、加熱処理、すなわちシアノアクリレートを収容する容器を25℃から180℃~230℃の間まで加熱し、最短0.5秒~最長240秒の間保持することによる超高温処理を受け、その後、シアノアクリレートを収容する容器は、65℃~0℃まで冷却される。
【0044】
本発明にはまた、本発明の方法を実行するための装置を含む。装置は、媒体を含む超高温ユニットおよび熱伝達のための少なくとも1つの区画を含む。
【0045】
本発明は、以下で図面に示される例示的な実施形態を参照して、より詳細に説明されるが、それにより限定されない。
【0046】
本発明は、以下の実施例に関してさらに詳細に説明されるが、これらは請求される発明の範囲を限定することを意図せず、むしろ本発明の具体的な態様を例示する。
【実施例
【0047】
[実施例1]
比較試験が行われ、シアノアクリレート組織接着剤の粘度の経時的な変化により示される、滅菌方法のシアノアクリレート組織接着剤の安定性に対する影響を決定する。シアノアクリレート系組織接着剤の3つの製剤が、比較試験において使用され、以下の表1にまとめられる:
【0048】
【0049】
3つの0.8ml試料の3セットが、表1の3つの製剤の各々のための容器としてのガラスアンプル中に、密封される:
・ 第1のセットは、3つのセットの各々からの対照試料セットと称され、別にしておき、滅菌処理は受けない。
・ 第2のセットは、表1の3つの製剤の3つの試料で、バッチ試料セットと称され、170℃のピーク温度で60分間を用いた、図1に示される従来の滅菌プロファイルを使用して滅菌される。これは、加熱および冷却を比較のために含めて、4408288C*分/mmolのTAST熱流がある。
・ 第3のセットは、表1の3つの製剤の3つの試料で、発明試料セットと称され、185℃のピーク温度で1分間を用いた、図2Aに示される本発明の滅菌プロファイルの一実施形態を使用して滅菌される。比較として、この場合のTAST熱流は、~381670C*分/mmolである。
【0050】
2つの試料セット(バッチ試料セットおよび発明試料セット)の滅菌後、3つの試料セット(対照、バッチ、発明)が、温度チャンバ内に配置され、2年間の貯蔵に相当するシミュレーションを行うための加速経時変化を受けて、3つの試料セットの製品安定性を決定する。加速経時変化は、60℃で行われ、アレニウスの式を使用して保守的なQ10係数2を用いて、24か月までの実時間(25℃)相当経時変化(RTE)を計算することで決定される。Q10係数(「10の法則」)は、加速試験において使用され、温度が10℃上昇するごとに反応速度が増加する係数である。加速率(加速劣化率、加速劣化係数、または加速係数とも呼ばれる)は、実際の寿命と試験期間との比として定義される。加速率が高くなるほど、試験の信頼性は低くなる。
【0051】
この実験の加速経時変化試験において、接着剤製剤の粘度(センチポアズ単位で測定)の変化によって、経時変化の影響が測定される。接着剤の3つの製剤(100%ブチルシアノアクリレート、80%ブチル/20%オクチルシアノアクリレート、または100%オクチルシアノアクリレート)について、以下の表およびグラフに示されるように、本発明の滅菌プロファイルを用いる場合、バッチ滅菌された製剤と比較して経時変化による粘度の上昇がなく、非滅菌対照とほぼ同一であるという驚くべき結果が得られている。
【0052】
図4Aは、100%ブチルシアノアクリレート組織接着剤製剤の試料のセットについての、粘度対時間(経時変化)のグラフであり、以下の群に分けられる:非滅菌対照群(対照)、標準的熱プロファイルでバッチ滅菌された群(バッチ)、および上記のように本発明の滅菌熱プロファイルを用いて処理された試料群(発明)。表2は、100%ブチルシアノアクリレート組織接着剤製剤についての、試料試験の結果をまとめている。
【0053】
【0054】
図4Aのグラフおよび表2からわかるように、標準的熱プロファイルを用いて滅菌されたバッチの粘度は、予想通り月単位で時間と共に着実に増加する粘度を示し、100%ブチルシアノアクリレート組織接着剤製剤の早すぎる経時変化を示す。しかしながら、標準的温度プロファイルと比較して、185℃のより高いピーク温度だがより短い時間である、本発明の滅菌プロファイルを用いて処理された試料群は、対照群とほぼ同じ経時変化プロファイルを有した。図4Bは、図4Aに示された非滅菌対照群からの差分の百分率の、標準的熱プロファイルでバッチ滅菌された群、および本発明の滅菌熱プロファイルを用いて処理された試料群についての、粘度対時間(経時変化)のグラフである。図4Bから容易にわかるように、本発明の滅菌プロファイルを用いて処理された試料の粘度は、非滅菌対照の数パーセント以内に留まる。一方、標準的熱プロファイルでバッチ滅菌された群は、試料が経時変化するにつれて粘度が増加し、最終的にはその使用前に硬化する。
【0055】
図5Aは、80%ブチル/20%オクチルシアノアクリレート組織接着剤製剤の混合物の試料のセットについての、粘度対時間(経時変化)のグラフであり、以下の群に分けられる:非滅菌対照群、標準的熱プロファイルでバッチ滅菌された群、および本発明の滅菌熱プロファイルを用いて処理された試料群。表3は、混合物についての、試料試験の結果をまとめている。
【0056】
【0057】
図5Aのグラフおよび表3からわかるように、標準的熱プロファイルを用いて滅菌されたバッチの粘度は、予想通り月単位で時間と共に着実に増加する粘度を示し、混合シアノアクリレート組織接着剤製剤の早すぎる経時変化を示す。しかしながら、標準的温度プロファイルと比較して、185℃のより高いピーク温度だがより短い時間である、本発明の滅菌プロファイルを用いて処理された試料群は、対照群とほぼ同じ経時変化プロファイルを有した。図5Bは、図5Aに示された非滅菌対照群からの差分の百分率の、標準的熱プロファイルでバッチ滅菌された群、および本発明の滅菌熱プロファイルを用いて処理された試料群についての、粘度対時間(経時変化)のグラフである。図5Bから容易にわかるように、本発明の滅菌プロファイルを用いて処理された試料の粘度は、非滅菌対照の数パーセント以内に留まる。一方、標準的熱プロファイルでバッチ滅菌された群は、試料が経時変化するにつれて粘度が増加し、最終的にはその使用前に硬化する。
【0058】
図6Aは、100%オクチルシアノアクリレート組織接着剤製剤の試料のセットについての、粘度対時間(経時変化)のグラフであり、以下の群に分けられる:非滅菌対照群、標準的熱プロファイルでバッチ滅菌された群、および本発明の滅菌熱プロファイルを用いて処理された試料群。表4は、100%オクチルシアノアクリレート組織接着剤製剤についての、試料試験の結果をまとめている。
【0059】
【0060】
図6Aのグラフおよび表4からわかるように、標準的熱プロファイルを用いて滅菌されたバッチの粘度は、予想通り月単位で時間と共に着実に増加する粘度を示し、オクチルシアノアクリレート組織接着剤製剤の早すぎる経時変化を示す。しかしながら、標準的温度プロファイルと比較して、185℃のより高いピーク温度だがより短い時間である、本発明の滅菌プロファイルを用いて処理された試料群は、対照群とほぼ同じ経時変化プロファイルを有した。図6Bは、図6Aに示された非滅菌対照群からの差分の百分率の、標準的熱プロファイルでバッチ滅菌された群、および本発明の滅菌熱プロファイルを用いて処理された試料群についての、粘度対時間(経時変化)のグラフである。図6Bから容易にわかるように、本発明の滅菌プロファイルを用いて処理された試料の粘度は、非滅菌対照の数パーセント以内に留まる。一方、標準的熱プロファイルでバッチ滅菌された群は、試料が経時変化するにつれて粘度が増加し、最終的にはその使用前に硬化する。
【0061】
シアノアクリレート系組織接着剤の3つの異なる製剤を用いた実験により、本発明の滅菌プロファイルが、接着剤製品の貯蔵寿命にほとんど影響を与えないことが決定的に示された。
【0062】
さらなる実施例では、8%ポリメチルメタクリレート(PMMA)を用いて粘度をおおよそ120cPに増粘した、エトキシエチルシアノアクリレート組織シーラントを使用することを含む。組織シーラント製剤は、高エネルギーを用いた強力な滅菌のためには設計されておらず、そのため高レベルの有毒な安定剤を含まない。この0.7ml試料が、容器として玉ねぎ皮ガラスアンプル(onion skin glass ampules)内に密封され、バッチ滅菌または本発明の条件による模擬滅菌条件に曝露される。試料は冷却され、その粘度が試験されるまで冷蔵保存される。模擬バッチ滅菌では、170℃まで加熱した後、オーブンを消してオーブンのドアを開けることにより、常温まで冷却することを含む。本発明の滅菌条件では、185℃まで急速加熱し、1分間保持した後、ファンを用いて冷却することを含む。
【0063】
以下の表は、2つの異なる滅菌方法に曝露された場合の、組織シーラントの粘度(センチポアズ単位)を示す:
【0064】
【0065】
容易にわかるように、本発明の方法による滅菌では、粘度がわずかに増加するが、試料はまだ使用可能であり、粘度は非常に均一である。対照的に、従来の滅菌方法では、広げるには粘度が高すぎる、および/または小バッチ間で非常にばらつきがある製品が得られる。これは、現在の製品は性能に非常にばらつきがあるという使用者の懸念と一致している。
【0066】
実施例に使用された4つの製剤は、本発明の方法によって滅菌されうる、多くの可能性があるシアノアクリレートまたは他の接着剤製剤のうちのごく単純な例に過ぎない。発明者が製剤に使用したシアノアクリレートには、2炭素から12炭素までの範囲の側鎖を有する同族体を含み、分岐および酸素基の有無に関わらない。発明者および他の当業者は、組織接着剤の臨床性能を調整するために使用されうる安定剤、増粘剤、可塑剤、着色剤、促進剤、および開始剤に非常に精通している。これらの多くはZhangに詳しく掲載されているが、最も一般的に使用されるフリーラジカル安定剤は、ブチルヒドロキシアニソールであり、最も一般的なアニオン性安定剤は、二酸化硫黄である。
【0067】
他の組織接着剤には、マロン酸メチリデンおよびその誘導体を含んでおり、これらは滅菌条件下でも同様に劣化しやすい。
【0068】
[引用文献]
Hawkins, Surgical Adhesive Compositions.米国特許番号3,591,676
【0069】
McDonnell, Sterilized Cyanoacrylate Adhesive Composition and a Method of Making such a composition.米国特許番号5,530,037
【0070】
Askill, Methods of Draping Surgical Incision Sites.米国特許番号5,730,994
【0071】
Kotzev, Heat Sterilization of Cyanoacrylate.米国特許番号5,874,044
【0072】
Hickey, Electron Beam Sterilization of Liquid Adhesive Compositions.米国特許番号6,143,805
【0073】
Greff, methods for Sterilizing Cyanoacrylate Compositions.米国特許番号6,248,800
【0074】
Zhang, Sterilized Liquid Compositions of Cyanoacrylate Monomer Mixtures.米国特許番号8,652,510
【0075】
本明細書において言及された特許文献および出版物は、本発明が属する技術分野の当業者の水準を示す。これらの文献および出版物は、個々の文献および出版物が参照により具体的かつ個別に本明細書に組み込まれるのと同じ程度まで、参照により本明細書に組み込まれる。
【0076】
以上の説明は、本発明の具体的な実施形態の例示であるが、その実施について制限することを意味しない。以下の特許請求の範囲は、その全ての均等物を含めて、本発明の範囲を規定することを意図する。
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
【国際調査報告】