(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-03-07
(54)【発明の名称】鋼帯及びそれの製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 26/00 20060101AFI20250228BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20250228BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20250228BHJP
C23C 22/76 20060101ALI20250228BHJP
C23C 22/82 20060101ALI20250228BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20250228BHJP
【FI】
C23C26/00 A
C22C38/00 301T
C22C38/60
C23C22/76
C23C22/82
C23C28/00 C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024541064
(86)(22)【出願日】2023-01-04
(85)【翻訳文提出日】2024-09-04
(86)【国際出願番号】 CN2023070391
(87)【国際公開番号】W WO2023138372
(87)【国際公開日】2023-07-27
(31)【優先権主張番号】202210059028.7
(32)【優先日】2022-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】302022474
【氏名又は名称】宝山鋼鉄股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲趙▼ ▲艶▼亮
(72)【発明者】
【氏名】魏 星
(72)【発明者】
【氏名】戴 毅▲剛▼
【テーマコード(参考)】
4K026
4K044
【Fターム(参考)】
4K026AA02
4K026AA22
4K026BA01
4K026BA03
4K026BA12
4K026BB04
4K026BB09
4K026CA16
4K026CA23
4K026CA38
4K026DA06
4K044AA02
4K044AB02
4K044BA17
4K044BA21
4K044BB03
4K044BB14
4K044BC01
4K044BC02
4K044CA16
4K044CA53
(57)【要約】
オイルコーティングを必要としない優れた加工性及び耐食性を有する鋼帯、並びに其れの製造方法。鋼帯は、基板と、基板上に提供されたリン酸塩処理層及びステアリン酸潤滑剤層とを含む。鋼帯の上面は、順に内から外にリン酸塩処理層及びステアリン酸潤滑剤層を含み、0.6~1.8μmの範囲の表面粗さRa及び6~16μmの範囲のRzを有し、展延プロセスの間の良好な表面潤滑性を提供する。鋼帯の下面はステアリン酸潤滑剤層を有し、0.3μm以下の表面粗さRa及び2μm以下のRzを有し、良好な潤滑性及び高い表面清浄度を提供する。本発明に従って2つの表面に分化した機能性を有して設計された鋼帯を用いることによって、高い精度の且つ大きい変形のシェルパーツを加工するために直接的にスタンピングされて、従来の鋼板から高い精度の且つ大きい変形のシェルパーツを製造するために必要とされるコーティング、オイリング、及び成形後の清浄化の従来のプロセスを排除し、パーツ製造の効率を有意に改善し得る。加えて、鋼帯は良好な耐錆性及び耐食性を有し、それの表面は保管及び輸送の間のオイルコーティング処理を必要としない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼帯であって、前記鋼帯は、基板と、前記基板上に配置されたリン酸塩処理層及びステアリン酸潤滑剤層とを含み、
前記基板の厚さ方向において、前記リン酸塩処理層及び前記ステアリン酸潤滑剤層は前記基板の上面に順に内から外に配置され、前記ステアリン酸潤滑剤層は前記基板の下面に配置され、
前記鋼帯の上面は0.6~1.8μmの表面粗さR
a及び6~16μmの表面粗さR
zを有し、
前記鋼帯の下面は0.3μm以下の表面粗さR
a及び2μm以下の表面粗さR
zを有する、
鋼帯。
【請求項2】
Fe及び不可避不純物に加えて、前記基板はさらに次の化学元素をwt%で含有し:C:0.1~0.7%、0.2%≦Si≦2%、0.2%≦Mn≦2%、Cr:0.2~1.4%、0.01%≦Al≦0.06%、及びMo:0.05~0.2%、ここで、前記不可避不純物はP≦0.04%及びS≦0.05%を含む、請求項1に記載の鋼帯。
【請求項3】
前記基板は次の化学元素をwt%で含有し:C:0.1~0.7%、0.2%≦Si≦2%、0.2%≦Mn≦2%、Cr:0.2~1.4%、0.01%≦Al≦0.06%、Mo:0.05~0.2%、残部はFe及び不可避不純物であり、ここで、前記不可避不純物はP≦0.04%及びS≦0.05%を含む、請求項1又は2に記載の鋼帯。
【請求項4】
前記基板は1.0~6.0mmの厚さを有し、好ましくは、前記リン酸塩処理層において8~20μmの結晶粒度を有し、及び/又は前記リン酸塩処理層は1~3g/m
2の重量を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の鋼帯。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の鋼帯を製造するための方法であって、
1)脱脂:
テンションローラーによってアルカリ脱脂剤を含有する脱脂槽に圧延鋼材を送り込み、30~60℃の脱脂温度において前記鋼材を脱脂するステップと、
2)第1のすすぎ:
≦10μS/cmの導電率を有する工業用純水であるすすぎ水、又は0.2~1.1wt%の腐食抑制剤との水道水の混合物によって、前記脱脂された鋼材の表面をすすぐステップと、
3)活性化及び不動態化:
0.4~1.2barのスプレー圧により、前記鋼材の移動方向と90~135°の夾角を形成するスプレー方向で、前記すすがれた鋼材の上面に表面調整剤をスプレーして、それを活性化し、前記鋼材の下面にリン酸塩処理及びバリア機能を有する不動態化処理剤をコーティングして、それを不動態化するステップと、
4)リン酸塩処理:
前記活性化された鋼材の上面を、リン酸塩処理剤の高圧スプレーによるリン酸塩処理の処理に付し、ここで、前記リン酸塩処理の処理は、6~12秒の時間、5~8barのスプレー圧で、前記鋼材の移動方向と90~135°、好ましくは100~120°の夾角を形成するスプレー方向で実施されるステップと、
5)第2のすすぎ:
≦10μS/cmの導電率を有する工業用純水によって前記鋼材の表面をすすぎ、それから、前記鋼材の表面を前記すすぎ後に絞り乾燥処理に付すステップと、
6)けん化:
70~90℃の温度で前記鋼材の上面及び下面にステアリン酸処理剤を適用し、それから、前記鋼材の表面を圧縮空気によるパージ及びワイピングローラーによって処理するステップと、を含む方法。
【請求項6】
ステップ2)において、前記鋼材の表面は2~4barのスプレー圧でのスプレーによってすすがれる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ステップ2)において、前記腐食抑制剤はリン酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、及びケイ酸ナトリウムの1つ以上から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
ステップ3)において、前記不動態化処理剤はジルコン酸に基づく不動態化処理剤又はクロム酸に基づく不動態化処理剤であり、好ましくは、前記不動態化処理剤はスプレー、ローラーコーティング、及びブラシコーティングの1つ以上によって適用される、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
ステップ5)において、前記鋼材の移動方向に対して90~120°のスプレー角度で前記鋼材の表面は1~4barのスプレー圧でのスプレーによってすすがれる、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
ステップ6)において、前記ステアリン酸処理剤はスプレーによって適用される、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
ステップ6)において、前記ステアリン酸処理剤に含有されるステアリン酸はC18又はC16ステアリン酸であり、好ましくは、前記ステアリン酸処理剤はステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、及びステアリン酸亜鉛の1つ以上を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項12】
ステップ3)及び/又はステップ4)において、前記鋼材の幅方向において、可動バッフルは、それぞれ前記鋼材の両側の縁から2~6cm、好ましくは3~5cmの距離で提供される、請求項5に記載の方法。
【請求項13】
ステップ3)及び/又はステップ4)において、前記鋼材は40~80m/minの速度で移動する、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料加工の分野に、具体的には、オイルコーティングを必要としない優れた加工性及び耐食性を有する鋼帯、並びにそれの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料加工の分野では、高い精度、高い複雑性、及び環境保護要件を特徴とする連続的且つ効率的な加工技術が、自動車及び機械パーツの加工に広く用いられる。科学実験研究及び出願実施調査の大規模な理論的分析に従うと、高い精度及び大きい変形を有するシェルパーツのスタンピングプロセスの間に、雌型(母型)と接触している鋼板の表面は主な変形摩擦力に耐え、雄型(パンチ)と接触している鋼板の表面は比較的小さい変形摩擦力に耐えて、主に内面の寸法精度を保証するということが見出される。よって、雌型と接触している鋼板の表面は、変形プロセスの間の十分な潤滑を提供することを必要とする。むしろ、雄型と接触している鋼板の表面は高い潤滑性能を必要としないが、極めて高い表面清浄度を必要とする。高い寸法精度/高い表面品質を有するシェルパーツを得るためには、2つの表面は異なる潤滑機能を有するということが必要とされる。
【0003】
材料のサプライヤー、例えばJFE、日本製鉄、及びポスコは、主に、優れた機械特性を有する製品の開発にフォーカスしている。スタンピング材料の開発研究の分野では、特許文献1、特許文献2、及び特許文献3に記載される通り、主なフォーカスは鋼帯の両側コーティング処理(例えば、潤滑層によるコーティング)である。
【0004】
鋼帯表面の両側コーティング処理に関して、主なプロセスのタイプは以下を包含する:(1)特許文献4、特許文献5、及び特許文献6に記載される通り、連続製造プロセスにおいて、ロールコーティング及びベーキング硬化によって鋼板の表面にミクロン又はサブミクロン有機コーティングを形成すること、(2)特許文献7に記載される通り、連続製造プロセスにおいて、スプレー法によって鋼板の表面にリン酸塩処理層/不動態化層を形成すること。
【0005】
特許文献5は「自己潤滑不動態化溶液及びそれによってコーティングされた溶融亜鉛めっき自己潤滑鋼板」を開示し、主として、コーティングの固体潤滑を達成するために処理剤中のナノMoS2及び修飾ナノポリテトラフルオロエチレン粒子の添加を用いている。800~1200mg/m2の固着量を有する潤滑コーティングが、ロールコーティング及びベーキング硬化によって鋼板の表面に形成される。発明の製品は、主に、家電及びマイクロモーターシェル材料のスタンピング要件にとっては好適であるが、自動車及び機械分野における高い精度のコンポーネントの大きい変形のスタンピング要件を満たさず、普通の冷間圧延板の表面処理にとって好適ではない。
【0006】
特許文献7は「コーティング適合性のリン酸塩前処理電気亜鉛めっき自動車アウターパネル、及びそれの調製方法」を開示している。発明では、Nb含有超低炭素鋼板が設計される。連続的なめっき層が重力電気めっきによって鋼板の表面に形成された後に、1.0~2.0g/m2のリン酸塩前処理層が50~60℃のリン酸塩処理温度で両側スプレー法によって形成され、オイルコーティング処理に付されて、自動車ボディ材料のスタンピング潤滑及び耐食性要件を満たす製品を得る。得られる製品は自動車ボディ生産ラインにおいて良好に適用され得るが、自動車及び機械分野における高い精度のコンポーネントの大きい変形のスタンピング要件を満たし得ず、差異のある両側潤滑機能についての製造要件を実現し得ない。
【0007】
特許文献8は、小さいパーツを加工するためのドラム型の連続的なリン酸塩処理/けん化プロセスが関わる「リン酸塩処理-けん化生産プロセス」を開示している。プロセスは主に次のプロセスを包含する:ドラムに入る→脱脂→第1のすすぎ→リン酸塩処理→第2のすすぎ→表面調整→けん化→ドラムから出る。ここで、リン酸塩処理温度は60~85℃であり、ディップ時間は3~10分であり、けん化温度は55~80℃であり、ディップ時間は0.5~5分である。このプロセスは高温のリン酸塩処理の処理及びけん化処理によって完成パーツの表面潤滑機能を実装するが、これは鋼帯の連続製造にとって好適ではない。
【0008】
特許文献9は「27SiMn鋼材のためのリン酸塩処理-けん化処理プロセス」を開示し、以下を含む高い精度の冷間絞り鋼管にとって好適な表面潤滑処理方法を提供する:27SiMn鋼材パーツについて、酸洗い→高温リン酸塩処理(70℃)→けん化処理。類似に、この出願は両側の非分化処理を採用し、鋼帯の連続製造にとって好適ではない。
【0009】
上記から、高い精度及び大きい変形を有するシェルパーツは材料の2つの表面に異なる潤滑機能を有することを必要とすることが分かる。従来のプロセスは、スタンピングの間に雄型と接触している表面に皮膜(プラスチック潤滑皮膜)又は潤滑油を適用することによって、鋼板の差異ある潤滑を達成する。しかしながら、このアプローチは高い効率及び環境保護の要件を満たさない。現行の技術は、主に、スタンピングプロセスのための潤滑装置、潤滑油適用方法、及び精密スタンピング潤滑剤組成物にフォーカスしている。高い精度の大きい変形のシェルパーツの需要の増大によって、よりコスト効果が高く競争力ある製品を生産するために加工及び生産プロセスを単純化することが、工業の要件になるであろう。よって、優れた性能(例えば加工性及び耐食性)、高い効率、及び環境適合性(例えば、オイルコーティング不使用の)を有する鋼帯、並びにそれの生産方法を提供することが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第5076347号明細書
【特許文献2】特公平8-295985号公報
【特許文献3】韓国登録特許第376927号明細書
【特許文献4】中国特許第104451638号明細書
【特許文献5】中国特許第103289569号明細書
【特許文献6】中国特許第105463436号明細書
【特許文献7】中国特許出願公開第111349867号明細書
【特許文献8】中国特許出願公開第105018920号明細書
【特許文献9】中国特許出願公開第105296997号明細書
【発明の概要】
【0011】
本発明の目的は、優れた加工性及び耐食性を有するオイルコーティング不使用の鋼帯、並びにそれの製造方法を提供することである。鋼帯の2つの表面は厚さ方向において分化した機能を有する。上面(すなわち、リン酸塩処理層及びステアリン酸潤滑剤層を有する表面)は0.6~1.8μmの表面粗さRa及び6~16μmの表面粗さRzを有し、展延プロセスの間の良好な表面潤滑性を提供する。下面(すなわち、ステアリン酸潤滑剤層のみを有する表面)は0.3μm以下の表面粗さRa及び2μm以下の表面粗さRzを有し、良好な潤滑性及び高い表面清浄度を提供する。そのために、本発明によって提供される鋼帯は、高い精度の大きい変形のシェルパーツのための連続的な高い効率のスタンピングプロセスの要件を満たし、従来の鋼板を用いることによって高い精度及び大きい変形を有するシェルパーツを製造するスタンピングプロセスの間のコーティング、オイリング、及び成形後の清浄化の必要を排除し得る。得られたパーツは直接的に梱包及び引き渡しされ得、その結果、パーツ製造の効率は多大に改善され得る。その上、鋼帯は良好な耐錆性及び耐食性を有し、得られたパーツは保管及び輸送の間の防錆オイルコーティングを必要としない。
【0012】
1つの態様では、本発明は鋼帯を提供し、鋼帯は、基板と、基板上に配置されたリン酸塩処理層及びステアリン酸潤滑剤層とを含み、基板の厚さ方向において、リン酸塩処理層及びステアリン酸潤滑剤層は基板の上面に順に内から外に配置され、ステアリン酸潤滑剤層は基板の下面に配置され、鋼帯の上面は0.6~1.8μmの表面粗さRa及び6~16μmの表面粗さRzを有し、鋼帯の下面は0.3μm以下の表面粗さRa及び2μm以下の表面粗さRzを有する。
【0013】
好ましくは、Fe及び不可避不純物に加えて、基板は次の化学元素をwt%で含有する:C:0.1~0.7%、0.2%≦Si≦2%、0.2%≦Mn≦2%、Cr:0.2~1.4%、0.01%≦Al≦0.06%、及びMo:0.05~0.2%。ここで、不可避不純物はP≦0.04%及びS≦0.05%を含む。
【0014】
本発明をより明瞭に記載するために、「上面」及び「下面」(又は「上側」及び「下側」)が、厚さ方向において基板又は鋼帯の2つの表面(又は側)を見分けるために用いられるということは注意されるべきである。具体的には、本明細書において、リン酸塩処理層及びステアリン酸潤滑剤層を有する表面又は側は「上面」又は「上側」と言われ、ステアリン酸潤滑剤層のみを有する表面又は側は「下面」又は「下側」と言われる。しかしながら、当業者は用語の「上」及び「下」は製品の向きに依存して変化する相対的な記載であるということを理解するので、かかる記載は本発明を過度に限定することを意図されない。
【0015】
本明細書において、基板の上面のリン酸塩処理層及びステアリン酸潤滑剤層の相対的な位置を記載するときには、「内から外に」は基板に近い側から基板から遠い側への方向を言う。例えば、
図1では、「内から外に」は底部から頂部への方向を言う。
【0016】
好ましくは、基板は次の化学元素をwt%で含有し:C:0.1~0.7%、0.2%≦Si≦2%、0.2%≦Mn≦2%、Cr:0.2~1.4%、0.01%≦Al≦0.06%、Mo:0.05~0.2%、残部はFe及び不可避不純物であり、ここで、不可避不純物はP≦0.04%、S≦0.05%を含む。
【0017】
本発明に従う鋼帯の基板では、各元素の含量の設計原理は次の通りである。
【0018】
C:元素C含量が0.1%未満である場合には、強度は不十分である。元素C含量が0.7%超である場合には、材料の表面の化学的反応性は縮減され、それによって表面のリン酸塩処理及び不動態化皮膜形成に影響するであろう。材料の成形安定性は不十分であり得る。よって、元素Cの含量は0.1%~0.7%の範囲にあるように制御される。
【0019】
Si:元素Siは高強度条件における材料の成形性(モールド成形性)を有効に改善し得る。しかしながら、Siの含量が高すぎる(>2%)場合には、それは熱処理の間に選択的に酸化され、析出し、析出物は表面に濃縮され、それによって、その後のリン酸塩処理及び不動態化皮膜形成反応性能に影響するであろう。よって、元素Siの含量は0.2%~2%の範囲にあるように制御される。
【0020】
Mn:元素Mnは材料の強度及び硬度を保証する役割を果たし得る。しかしながら、Mn含量が高すぎる(>2%)場合には、それもまた熱処理プロセスの間に選択的に酸化され、析出し、析出物は表面に濃縮され、それによって、その後のリン酸塩処理及び不動態化皮膜形成反応性能に影響するであろう。よって、元素Mnの含量は0.2%~2%の範囲にあるように制御される。
【0021】
Cr、Al、及びMo:これらの元素は、主に、結晶質を微細化する機能を有する。含量が低すぎる場合には、上の効果は充分に実現され得ない。過剰な添加は製品製造にとって経済的ではない。よって、元素Cr、Al、及びMoの含量はそれぞれ0.2%~1.4%、0.01%~0.06%、及び0.05%~0.2%の範囲にあるように制御される。
【0022】
不可避不純物は元素P及びSを包含する。P及びSの含量が高すぎる場合には、それは材料の靱性に影響し、大きい変形における成形性の要件を満たし得ない。よって、不純物元素P及びSの含量は、それぞれ0.04%及び0.05%を超えないように制御される。
【0023】
好ましくは、基板は1.0~6.0mmの厚さを有する。本明細書において、「基板の厚さ」は基板の上及び下面の1つのリン酸塩処理層及び2つのステアリン酸潤滑剤層の厚さを包含しない。基板の厚さが1mm未満である場合には、パーツのシェル壁は、大きい変形及び深絞り後の耐荷重性能要件を満たすには薄すぎることが蓋然的である。基板の厚さが6mmよりも多大である場合には、冷間圧延製品を製造するための生産ラインは有効な製造を実現し得ない。1.0~6.0mmの基板の厚さでは、本発明に従う鋼帯は、高い精度及び大きい変形を有するシェルパーツを加工することにとって好適である。
【0024】
好ましくは、リン酸塩処理層は8~20μmの結晶粒度(すなわち結晶粒の最大長さ)を有する。前記リン酸塩処理層において、結晶の結晶粒は長くなり、それの結晶粒度は規格GB/T38933-2020に従って測定される。
【0025】
好ましくは、リン酸塩処理層(すなわちリン酸塩処理皮膜)は1~3g/m2の重量を有し、規格GB/T38933-2020に従って測定される。
【0026】
8~20μmのリン酸塩処理層の結晶粒度及び/又は1~3g/m2のリン酸塩処理層の重量によって、一方では、それは、その後のステアリン酸皮膜形成のための三次元空間をより良好に提供し、それによって、製品表面のステアリン酸潤滑剤の保持容量を有効に増大させ得る。他方で、それは、変形プロセスの間の潤滑剤の一様な分布をより良好に保証し、その良好な摩擦潤滑性質を利用することによってさらなる潤滑を提供し得る。本発明に従うリン酸塩処理層は、粗大結晶を有する非高密度のリン酸塩処理皮膜であり、スタンピングプロセスの間の摩耗粉の量を有効に縮減し、それによってダイの寿命を延長する。
【0027】
本発明に従う鋼帯の上面は、リン酸塩処理層及びステアリン酸潤滑剤層を順に内から外に包含する。すなわち、上面はリン酸塩処理層及びステアリン酸コーティングの構造を有して設計される。リン酸塩処理皮膜及びステアリン酸けん化皮膜の両方が潤滑機能を有し、それらの組み合わせはストレッチ変形プロセスの間の潤滑安定性を有効に改善し得る。上面は0.6~1.8μmの表面粗さRa及び6~16μmの表面粗さRzを有し、これは鋼帯の表面が展延プロセスの間の良好な表面潤滑を有するということを保証し得る。
【0028】
本発明に従う鋼帯の下面はステアリン酸潤滑層である。ステアリン酸は内部及び外部潤滑の両方を提供する加工潤滑剤である。それは、良好な熱安定性及び優れた離型性能(型の表面への固着及び蓄積を防止する)を高速の連続スタンピングプロセスの間に有し、成形されたパーツの内面の異常な研磨性の粒子汚染を回避する。それは表面の潤滑及び高い表面清浄度を保証する。下面は0.3μm以下の表面粗さRa及び2μm以下の表面粗さRzを有する。
【0029】
本発明に従う鋼帯の上及び下面は、分化した機能を有する構造設計を有し、これは、高い効率及び高い精度を要請する成形及びスタンピングプロセスの間の個別化された機能要件を提供し得る。
【0030】
成形プロセスの間に雌型と接触している本発明に従う鋼帯の表面は、リン酸塩処理層及びステアリン酸潤滑層である。表面は展延プロセスの間に良好な表面潤滑性能を有する。表面は表面粗さRa:0.6~1.8μm及び表面粗さRz:6~16μmを有する。雌型と接触している鋼帯表面の表面粗さが低すぎる、すなわちRa<0.6μm又はRz<6μmのときには、表面潤滑コンポーネントは変形及び展延プロセスの間に高速に失われ、不十分な潤滑性能及び材料表面の擦傷に至り、それゆえにダイを損傷させるであろう。表面粗さが高すぎる、すなわちRa>1.8μm又はRz>16μmのときには、変形及び展延プロセスの間の潤滑は十分であるが、過剰な摩耗粉が連続スタンピングの間に生成し、それによってダイの寿命に影響するであろう。
【0031】
成形プロセスの間に雄型と接触している本発明に従う鋼帯の表面は、ステアリン酸潤滑層である。表面は良好な潤滑及び高い表面清浄度を有する。表面は表面粗さRa≦0.3μm及び表面粗さRz≦2μmを有する。雄型と接触している帯鋼の表面は、成形されたパーツの内面である。より滑らかな表面設計は、成形されるパーツの高い寸法精度要件を満たし得る。同時に、表面は成形プロセスの間はダイと密に接触している。適当な表面潤滑コンポーネントは、成形プロセスの間の潤滑を充分に発揮するであろう。雄型と接触している鋼帯表面の表面粗さが高すぎる、すなわちRa>0.3μm又はRz>2μmのときには、成形されたパーツの内面の寸法精度及び滑らかさが不良であるというリスクが増大するであろう。
【0032】
本発明に従う鋼帯の上及び下面は分化した機能設計を採用し、ここで、雄型と接触している鋼帯の表面は良好な潤滑及び高い表面清浄度を有し、雌型と接触している鋼帯の表面は展延の間に良好な表面潤滑性能を有する。本発明に従うと、高い精度及び大きい変形を有するシェルパーツの加工の間の連続的な且つ効率的なスタンピングプロセスの要件が満たされ得て、従来の鋼板を用いることによって高い精度及び大きい変形を有するシェルパーツを製造するスタンピングプロセスの間の皮膜コーティング又はオイルコーティングなどの工程が省かれ得る。得られた製品はそのまま梱包され、それから出荷され得て、成形後の清浄化の必要を排除し、製造効率を有意に改善する。
【0033】
同時に、鋼帯の上及び下面の両方はステアリン酸を有する。ステアリン酸が皮膜に形成された後に、それは室温において優れた腐食媒体バリア機能を有し、これは鋼帯表面の耐錆性及び耐食性を有効に改善し得る。鋼帯によって生産されるパーツは、追加の防錆オイルコーティングを必要としない。
【0034】
別の態様では、本発明は、鋼帯(例えば、上記の鋼帯)を製造するための方法を提供し、
1)脱脂:
テンションローラーによってアルカリ脱脂剤を含有する脱脂槽に圧延鋼材を送り込み、30~60℃の脱脂温度において鋼材を脱脂するステップであって、鋼材の表面の油汚れはアルカリ脱脂剤を用いることによって清浄化され得るステップと、
2)第1のすすぎ:
脱脂された鋼材の表面をすすぎ水によってすすぐステップであって、ここで、すすぎ水は≦10μS/cmの導電率を有する工業用純水であるか、又はすすぎ水は0.2~1.1wt%の腐食抑制剤との水道水の混合物であるステップと、
3)活性化及び不動態化:
0.4~1.2barのスプレー圧により、鋼材の移動方向と90~135°の夾角を形成するスプレー方向で、すすがれた鋼材の上面に表面調整剤をスプレーして、それを活性化し、鋼材の下面にリン酸塩処理及びバリア機能を有する不動態化処理剤をコーティングして、それを不動態化するステップと、
4)リン酸塩処理:
活性化された鋼材の上面をリン酸塩処理剤の高圧スプレーによるリン酸塩処理の処理に付すステップであって、ここで、リン酸塩処理の処理は、6~12秒の時間、5~8barのスプレー圧で、鋼材の移動方向と90~135°の夾角を形成するスプレー方向で実施されるステップと、
5)第2のすすぎ:
≦10μS/cmの導電率を有する工業用純水によって鋼材の表面をすすぎ、それから、鋼材の表面をすすぎ後の絞り乾燥処理表面に付すステップと、
6)けん化:
70~90℃の温度で鋼材の上面及び下面にステアリン酸処理剤を適用し、それから、鋼材の表面を圧縮空気によるパージ及びワイピングローラーによって処理するステップと、を含む。
【0035】
好ましくは、ステップ2)では、鋼材の表面はスプレー法によってすすがれ、スプレー圧は2~4barである。
【0036】
好ましくは、ステップ2)では、腐食抑制剤はリン酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、及びケイ酸ナトリウムの1つ以上から選択される。
【0037】
好ましくは、ステップ3)では、表面調整剤は、コロイドチタン塩に基づく表面調整剤、例えばパーカライジングから市販のPL-Zなどから選択される。
【0038】
好ましくは、ステップ3)では、リン酸塩処理及びバリア機能を有する不動態化処理剤は、ジルコン酸に基づく不動態化処理剤又はクロム酸に基づく不動態化処理剤である。
【0039】
好ましくは、ステップ4)では、リン酸塩処理剤は、亜鉛-マンガン-ニッケル三要素系のリン酸塩処理溶液、例えばパーカライジングから市販のPB-181などから選択される。
【0040】
好ましくは、ステップ4)では、スプレー角度は鋼材の移動方向に対して100~120°である。
【0041】
好ましくは、ステップ5)では、鋼材の表面はスプレー法によってすすがれ、スプレー圧は1~4barであり、スプレー角度は鋼材の移動方向に対して90~120°である。
【0042】
好ましくは、ステップ6)では、ステアリン酸処理剤はスプレー法によって適用される。
【0043】
好ましくは、ステップ6)では、ステアリン酸処理剤に含有されるステアリン酸はC18又はC16ステアリン酸である。
【0044】
好ましくは、ステップ6)では、ステアリン酸処理剤はステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、及びステアリン酸亜鉛の1つ以上を含む。
【0045】
好ましくは、ステップ3)及び/又はステップ4)では、鋼材の幅方向において、可動バッフルがそれぞれ鋼材の両側の縁から2~6cm、好ましくは3~5cmの距離で提供される。換言すると、可動バッフルはおよそ鋼材材料と同じ平面にあり、鋼材の長さ方向(すなわち移動方向)に対して垂直であり、可動バッフル及び鋼材の縁の間のギャップは2~6cm、好ましくは3~5cmである。
【0046】
好ましくは、ステップ3)及び/又はステップ4)において、鋼材は40~80m/minの速度で移動する。
【0047】
本発明に従う製造方法では、
脱脂の主な目的は鋼材の表面を有効に清浄化することである。脱脂剤の温度は30~60℃以内に制御される。温度が低すぎる(<30℃)場合には、清浄化能力は有意に減少し、表面清浄度を保証することを困難にするか、又は大量の清浄化添加剤を必要とし、これは環境に良くない。温度が高すぎる(>60℃)場合には、エネルギー消費が高すぎて低炭素生産要件を満たさない。
【0048】
鋼材の表面の残留脱脂剤は第1のすすぎによって洗浄及び除去され、表面水膜の連続状態によって清浄化効果を確認する。錆の問題が第1のすすぎプロセスの間に容易に生起し得る。これは主にすすぎ水の品質及び腐食抑制技術によって有効に回避され得る。水中の金属材料の腐食プロセスは主に電気化学反応であり、水の導電率は錆反応の困難に直接的に影響する。水の導電率はイオン性の不純物の数によって影響され、それは主に導電率によって特徴付けられる。新しく脱脂された金属表面は錆に弱い。すすぎプロセスは≦10μS/cmの導電率を有する工業用純水を用い、これは錆の問題を有効に制御し得る。
【0049】
0.2~1.1wt%の腐食抑制剤を有する水道水は、表面を入念に清浄化しながら、洗浄プロセスの間の表面の錆のリスクを有効に縮減し得る。腐食抑制剤の添加量が低すぎる(すなわち<0.2wt%)ときには、腐食抑制効果は達成され得ない。量が大すぎる(すなわち>1.1wt%)ときには、それは経済的に且つ環境的に好都合ではない。添加される腐食抑制剤はリン酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、及びケイ酸ナトリウムの1つ以上から選択される。
【0050】
活性化及び不動態化:一方で、表面調整剤が鋼材の上面にスプレーされて、リン酸塩処理の均質な核形成を促進する表面調整活性化層を形成する。他方で、リン酸塩処理及びバリア機能を有する不動態化処理剤が鋼材材料の下面に適用されて、リン酸塩処理及びバリア機能を有する耐錆性の不動態化層を形成する。活性化及び不動態化のプロセスにおいては、上及び下面の処理プロセスにおける相互干渉を有効に制御することが必要である。好ましくは、表面調整剤をスプレーするプロセスの間には、スプレー圧は0.4~1.2bar以内に制御される。圧力が低すぎる(0.4bar未満)ときには、表面調整剤のスプレー量は不十分であり、その結果、活性化は不十分である。スプレー圧が高すぎる(1.2barよりも多大な)ときには、それもまた表面調整剤の吸着量に影響し、製品のリン酸塩処理の処理が不十分であるという結果になるであろう。スプレー角度が鋼材の移動方向に対して90~135°、好ましくは100~120°である場合には、下面に対する表面調整剤の影響はより良好に回避され得る。
【0051】
鋼材材料の表面のリン酸塩処理及びバリア機能を有する不動態化処理剤の適用方法は、スプレー、ローラーコーティング、ブラシ塗工などを用い得る。スプレー法が適用された場合、鋼材の移動方向に対するスプレー角度は、スプレーの飛びはねを原因とする上及び下面の処理剤の相互干渉を縮減するように制御すべきである。
【0052】
スプレープロセスの間の2つの表面間の干渉を回避するために、可動バッフルが鋼材の各側の縁から2~6cmの距離で提供されるということが好ましい。主な目的は、スプレープロセスの間の表面処理剤の相互汚染を回避することである。鋼材及び可動バッフルの間のギャップが大きすぎる(>6cm)場合には、上及び下面の異なる処理剤がスプレープロセスの間に互いに有意に影響するであろう。鋼材及び可動バッフルの間のギャップが小さすぎる(<2cm)場合には、鋼材の縁が通常の生産の間に互いとぶつかるというより多大なリスクがある。鋼材及び可動バッフルの間のギャップは好ましくは3~5cmである。
【0053】
リン酸塩処理の主な目的は、均一に分布したリン酸塩処理結晶粒子を鋼材の1つの側に速やかに形成することであり、その結果、皮膜が高速に、一様に、且つ非高密度に形成され得る(
図1参照)。高圧でリン酸塩処理剤をスプレーすることによって、リン酸塩処理皮膜が6~12秒以内に形成される。これは非高密度のリン酸塩処理皮膜であり、8~20μmの範囲である粒子長さ及び1~3g/m
2のリン酸塩処理皮膜重量(すなわち、リン酸塩処理層の重量)を有する長い板様のリン酸塩処理結晶粒子から構成される。一方では、リン酸塩処理皮膜層は、ステアリン酸皮膜のその後の形成のための空間的容量をより良好にし、それによって製品表面のステアリン酸潤滑剤の保持量を増大させ得る。他方で、リン酸塩処理皮膜層は、変形プロセスの間の潤滑剤の一様な分布をより良好に保証し得て、その固有の良好な摩擦及び潤滑特性を用いてさらなる潤滑機能を提供し得る。粗大結晶を有する非高密度のリン酸塩処理皮膜の設計は、スタンピングプロセスの間の摩耗粉の量を有効に縮減し、それによってダイ寿命を延長し得る。
【0054】
鋼材の従来の連続リン酸塩処理の処理の時間は、一般的に15秒以上である。本発明では、有効な表面リン酸塩処理の処理は、高圧スプレーを用いること及び4~10bar以内であるようにスプレー圧を制御することによって6~12秒以内で行なわれ得る。それゆえに、リン酸塩処理効率は多大に改善され得る。スプレー圧が低すぎる(<4bar)ときには、連続製造プロセスのリン酸塩処理効率は速やかな(6~12秒)リン酸塩処理の処理の要件を満たさず、生ずるリン酸塩処理結晶のサイズは小さく(粒子長さ<8μm)、連続生産される鋼材製品の表面要件を満たすことを叶えない。スプレー圧が高すぎる(>10bar)ときには、過剰な飛びはねが起こり、下面に容易に影響し、リン酸塩処理効果の安定性及びリン酸塩処理結晶の一様な分布に悪影響を及ぼす。スプレー方向は鋼材の移動方向に対して90~135°、好ましくは100~120°の角度である。
【0055】
第2のすすぎ:これの主な目的は、表面に残留するリン酸塩処理の処理剤を有効に清浄化することである。このプロセスにおける錆のリスクは、鋼材の表面のリン酸塩処理皮膜及び不動態化皮膜の効果を原因として有意に縮減され、特別な防錆制御の必要を排除する。鋼材の両面が≦10μS/cmの導電率を有する工業用純水によってすすがれる。すすぎ水の温度は室温であり、スプレー圧は1~4barである。スプレー方向は鋼材の移動方向と90~120°の角度を形成する。高い導電率を有する水道水がそのまま用いられる場合には、電解質残留物が表面に残されるであろう。これはその後のプロセスにおいてステアリン酸潤滑剤皮膜で直接的に覆われ、それゆえに、保管及び輸送の間の製品の耐錆性に影響するであろう。すすぎ後に表面を絞り乾燥し(例えば、絞りロール又は絞り機を用いることによって)、表面の水の量は有効に縮減され得る。
【0056】
ステアリン酸処理(けん化処理):ステアリン酸の液体が70~90℃でスプレー法によって鋼材の表面に適用され、表面の皮膜層はワイピングローラーを用いることによって一様であるように処理される。好ましくは、ステアリン酸はC18又はC16ステアリン酸である。好ましくは、ステアリン酸処理剤はステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、及びステアリン酸亜鉛の1つ以上から製剤される。液体のステアリン酸が鋼材の表面にスプレーされた後に、それは圧縮空気によってブローされ、ワイピングローラーが表面皮膜の均一な処理を保証する。
【0057】
上述のステップが完了した後に、鋼材は巻取機によって巻取られ、それから引き渡しのために梱包される。上に記載された方法によって製造される鋼帯は優れた耐錆性及び耐食性を見せ、その結果、それは保管及び輸送の間の追加の錆止めオイルコーティングを必要としない。
【0058】
本発明の有益な効果は以下である。
1. 本発明に従うと、その2つの表面が分化した機能を有する鋼帯が得られ得、ここで、ステアリン酸潤滑剤層のみを有する表面は良好な潤滑性及び高い表面清浄度を有し、リン酸塩処理層及びステアリン酸潤滑剤層を有する表面は展延プロセスの間の良好な表面潤滑性を有する。これは、高い精度及び大きい変形を有するシェルパーツのプロセスの間の連続的で効率的なスタンピングプロセスの要件を満たす。しかしながら、従来の鋼板を用いる場合では、高い精度及び大きい変形を有するシェルパーツを製造するスタンピングプロセスの間の皮膜コーティング及びオイルコーティングを行なうことが必要であり、パーツはそれがパーツに加工した後に清浄化することを必要とする。むしろ、本発明に従う鋼帯を用いる場合では、高い精度及び大きい変形を有するシェルパーツが直接的にスタンピング及び加工され得る。従来の鋼板と比較して、皮膜コーティング、オイルコーティング、又は成形後の清浄化などの工程を省かれ得て、得られたパーツは直接的に梱包及び引き渡し得る。その結果、パーツ製造の効率は多大に改善し得る。その上、ステアリン酸は鋼帯の両面に適用される。ステアリン酸を皮膜に形成した後に、鋼帯の表面の耐錆性及び耐食性は有効に改善し得て、鋼帯は保管及び輸送の間に錆止め油によってコーティングすることを必要としない。
2. 本発明によって提供される製造方法では、基板が脱脂されすすがれた後に、基板の2つの表面がそれぞれ活性化及び不動態化され、プロセスのパラメータは、2つの表面の処理の間の干渉を防止するように制御され、両側けん化プロセスと組み合わせられた片側リン酸塩処理スプレープロセスを用いて、2つの表面に分化した機能を有する鋼帯の連続製造を実現する。
3. 本発明の高圧スプレーリン酸塩処理プロセスは、適当な機械長さ条件において有効処理時間を有意に縮減する。鋼帯の総体的な送り速度は、40~80m/min以内に制御され得て、従来の鋼帯の高度に効率的な製造の要件が満たされ得、その結果、方法は、冷間圧延鋼帯の既存の連続的なアニーリング及びレベリングプロセスに直接的に接続され得て、2つの表面に分化した機能を有する鋼帯の連続製造を実現するための独立した表面処理様式としてもまた用いられ得る。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【
図1】
図1は本発明に従う鋼帯の概略構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
以下では、本発明を図、例、及び比較例に基づいて具体的に記載する。しかしながら、本発明は次の例に限定されない。
【0061】
本発明の実施形態によって提供される鋼帯の構造を示す
図1を参照する。基板の表面Aは、順に内から外にリン酸塩処理層1及びステアリン酸潤滑剤層2を含み、基板の表面Bはステアリン酸潤滑剤層2である。
【実施例】
【0062】
本発明の例及び比較例の基板組成は表1を参照した。ここで、残部はFeと、P及びS以外の不可避不純物である。本発明の例及び比較例の製造プロセスパラメータを表2に示す。本発明の例及び比較例におけるプロセスの実装効果の評価結果を表3に示す。
【0063】
鋼帯の2種類の表面粗さパラメータRa(「算術平均偏差」)及びRz(「微小凹凸の十点平均」)は、ドイツのマールからのマールMARSURF-PS10ポータブル粗さ測定機を用いることによって測定される(測定は規格GB/T1031を参照して行なわれる)。
【0064】
本発明に従うプロセスの実装効果を、次の評価基準に従って評価した。
【0065】
(1)プロセス--脱脂効果の評価
鋼帯の表面に対する脱脂及び清浄化効果を、脱脂後の水洗浄プロセス間の表面の水膜の連続状態によって評価した。脱脂後の洗浄された表面の水膜の状態を目視観察した:
◎:表面の水膜は一様且つ連続的であり、100%の被覆率を有する。
×:表面の水膜は明らかに不連続的であり、100%未満の被覆率を有した。
【0066】
(2)プロセス--すすぎ1後の錆現象
活性化及び不動態化前で第1のすすぎ後の鋼帯の表面上の錆の状態を目視観察した:
◎:表面は錆を有さず、錆/領域は0%であった。
×:表面には錆のスポットがあり、錆領域は0%よりも多大であった。
【0067】
(3)プロセス--リン酸塩処理効果
リン酸塩処理後にサンプルを取った。リン酸塩処理された鋼帯の上面のリン酸塩処理結晶のサイズをSEMによって観察した:
◎:上面のリン酸塩処理結晶のサイズは8~20μmであり、結晶は均一に分布した。1g/m2≦リン酸塩処理皮膜の重量≦3g/m2。
○:上面のリン酸塩処理結晶のサイズは8~20μmであった。しかしながら、結晶は部分的に不均一に分布した。1g/m2≦リン酸塩処理皮膜の重量≦3g/m2。
△:上面のリン酸塩処理結晶のサイズは<8μm又は>20μmであり、リン酸塩処理皮膜の重量は<1g/m2又は>3g/m2であった。
×:上面に有意なリン酸塩処理結晶なし。
【0068】
(4)プロセス--清浄化効果
リン酸塩処理後にサンプルを取った。リン酸塩処理の処理なしの鋼帯の下面をSEMによって観察した:
◎:リン酸塩処理結晶は観察されなかった。
○:軽微なリン酸化が局所領域に観察されたが、有意なリン酸塩処理結晶は観察されなかった。
△:軽微なリン酸塩処理結晶が表面に観察された。
×:有意なリン酸塩処理結晶が表面に観察された。
【0069】
表3に示される通り、例1~6を本発明に記載されるプロセスに従って加工したが、得られた鋼帯の全てのプロセス効果は優れていた。鋼帯の下面はステアリン酸潤滑剤層であり、0.3μm以下の表面粗さRa及び2μm以下の表面粗さRzを有し、それゆえに、下面は良好な潤滑性及び高い表面清浄度を有した。鋼帯の上面は、順に内から外にリン酸塩処理層及びステアリン酸潤滑剤層を含み、それの上面は0.6~1.8μmの範囲の表面粗さRa及び6~16μmの範囲の表面粗さRzを有し、それゆえに、上面は展延プロセスの間の良好な表面潤滑性を有した。
【0070】
比較例1では、リン酸塩処理及びバリア処理の欠如は、部分的なリン酸塩処理効果を原因として下面に形成する有意なリン酸塩処理結晶をもたらした。比較例2では、室温に近い脱脂温度は有効な表面清浄化を達成することを叶えず、低いスプレー圧と組み合わせた短いリン酸塩処理時間は、有意なリン酸塩処理結晶を上面にもたらさなかった。比較例3では、すすぎ水1としての高導電率の水道水の使用は、脱脂後の水洗浄プロセスの間に明らかな錆を引き起こし、その後のリン酸塩処理に悪影響を与えた。
【0071】
本発明の例で得られる帯鋼に関して、鋼帯の表面を規格ASTM-B117に従う中性塩スプレー試験に付した。24時間では鋼帯の表面に錆は観察されなかった。帯鋼の耐食性は従来のオイルコーティング鋼板(これは中性塩スプレー試験において約12時間後に錆を見せる)よりも明らかに良好であった。これは、本発明によって得られる鋼帯が良好な耐錆性及び耐食性を有し、表面の錆なしに4ヶ月の保管及び輸送の耐食性要件を満たすということを示している。
【0072】
【0073】
【0074】
【符号の説明】
【0075】
1 リン酸塩処理層
2 ステアリン酸潤滑剤層
【手続補正書】
【提出日】2024-09-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼帯であって、前記鋼帯は、基板と、前記基板上に配置されたリン酸塩処理層及びステアリン酸潤滑剤層とを含み、
前記基板の厚さ方向において、前記リン酸塩処理層及び前記ステアリン酸潤滑剤層は前記基板の上面に順に内から外に配置され、前記ステアリン酸潤滑剤層は前記基板の下面に配置され、
前記鋼帯の上面は0.6~1.8μmの表面粗さR
a及び6~16μmの表面粗さR
zを有し、
前記鋼帯の下面は0.3μm以下の表面粗さR
a及び2μm以下の表面粗さR
zを有する、
鋼帯。
【請求項2】
Fe及び不可避不純物に加えて、前記基板はさらに次の化学元素をwt%で含有し:C:0.1~0.7%、0.2%≦Si≦2%、0.2%≦Mn≦2%、Cr:0.2~1.4%、0.01%≦Al≦0.06%、及びMo:0.05~0.2%、ここで、前記不可避不純物はP≦0.04%及びS≦0.05%を含む、請求項1に記載の鋼帯。
【請求項3】
前記基板は次の化学元素をwt%で含有し:C:0.1~0.7%、0.2%≦Si≦2%、0.2%≦Mn≦2%、Cr:0.2~1.4%、0.01%≦Al≦0.06%、Mo:0.05~0.2%、残部はFe及び不可避不純物であり、ここで、前記不可避不純物はP≦0.04%及びS≦0.05%を含む、請求項1
に記載の鋼帯。
【請求項4】
前記基板は1.0~6.0mmの厚さを有し、好ましくは、前記リン酸塩処理層において8~20μmの結晶粒度を有し、及び/又は前記リン酸塩処理層は1~3g/m
2の重量を有する、請求項1
に記載の鋼帯。
【請求項5】
請求項1
に記載の鋼帯を製造するための方法であって、
1)脱脂:
テンションローラーによってアルカリ脱脂剤を含有する脱脂槽に圧延鋼材を送り込み、30~60℃の脱脂温度において前記鋼材を脱脂するステップと、
2)第1のすすぎ:
≦10μS/cmの導電率を有する工業用純水であるすすぎ水、又は0.2~1.1wt%の腐食抑制剤との水道水の混合物によって、前記脱脂された鋼材の表面をすすぐステップと、
3)活性化及び不動態化:
0.4~1.2barのスプレー圧により、前記鋼材の移動方向と90~135°の夾角を形成するスプレー方向で、前記すすがれた鋼材の上面に表面調整剤をスプレーして、それを活性化し、前記鋼材の下面にリン酸塩処理及びバリア機能を有する不動態化処理剤をコーティングして、それを不動態化するステップと、
4)リン酸塩処理:
前記活性化された鋼材の上面を、リン酸塩処理剤の高圧スプレーによるリン酸塩処理の処理に付し、ここで、前記リン酸塩処理の処理は、6~12秒の時間、5~8barのスプレー圧で、前記鋼材の移動方向と90~135°、好ましくは100~120°の夾角を形成するスプレー方向で実施されるステップと、
5)第2のすすぎ:
≦10μS/cmの導電率を有する工業用純水によって前記鋼材の表面をすすぎ、それから、前記鋼材の表面を前記すすぎ後に絞り乾燥処理に付すステップと、
6)けん化:
70~90℃の温度で前記鋼材の上面及び下面にステアリン酸処理剤を適用し、それから、前記鋼材の表面を圧縮空気によるパージ及びワイピングローラーによって処理するステップと、を含む方法。
【請求項6】
ステップ2)において、前記鋼材の表面は2~4barのスプレー圧でのスプレーによってすすがれる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ステップ2)において、前記腐食抑制剤はリン酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、及びケイ酸ナトリウムの1つ以上から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
ステップ3)において、前記不動態化処理剤はジルコン酸に基づく不動態化処理剤又はクロム酸に基づく不動態化処理剤であり、好ましくは、前記不動態化処理剤はスプレー、ローラーコーティング、及びブラシコーティングの1つ以上によって適用される、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
ステップ5)において、前記鋼材の移動方向に対して90~120°のスプレー角度で前記鋼材の表面は1~4barのスプレー圧でのスプレーによってすすがれる、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
ステップ6)において、前記ステアリン酸処理剤はスプレーによって適用される、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
ステップ6)において、前記ステアリン酸処理剤に含有されるステアリン酸はC18又はC16ステアリン酸であり、好ましくは、前記ステアリン酸処理剤はステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、及びステアリン酸亜鉛の1つ以上を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項12】
ステップ3)及び/又はステップ4)において、前記鋼材の幅方向において、可動バッフルは、それぞれ前記鋼材の両側の縁から2~6cm、好ましくは3~5cmの距離で提供される、請求項5に記載の方法。
【請求項13】
ステップ3)及び/又はステップ4)において、前記鋼材は40~80m/minの速度で移動する、請求項5に記載の方法。
【国際調査報告】