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特表2025-506146哺乳動物細胞におけるヒトアナログインスリン及びその誘導体の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-03-07
(54)【発明の名称】哺乳動物細胞におけるヒトアナログインスリン及びその誘導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/02 20060101AFI20250228BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20250228BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20250228BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20250228BHJP
   C12N 1/13 20060101ALI20250228BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20250228BHJP
   A61K 38/28 20060101ALI20250228BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20250228BHJP
   C12N 15/17 20060101ALN20250228BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20250228BHJP
【FI】
C12P21/02 E ZNA
C12N15/63 Z
C12N15/867 Z
C12N5/10
C12N1/13
C12N1/19
A61K38/28
A61P3/10
C12N15/17
C12N15/09 110
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024547251
(86)(22)【出願日】2023-02-09
(85)【翻訳文提出日】2024-10-07
(86)【国際出願番号】 US2023062257
(87)【国際公開番号】W WO2023154777
(87)【国際公開日】2023-08-17
(31)【優先権主張番号】63/308,913
(32)【優先日】2022-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524296914
【氏名又は名称】アイス ベア セラピューティクス エスピーシー
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】プレーガー,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】プレーガー,アンドレアス
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C084
【Fターム(参考)】
4B064AG16
4B064CA19
4B064CE03
4B064CE10
4B064CE11
4B064DA01
4B065AA72X
4B065AA83X
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA06
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA44
4C084CA53
4C084DB34
4C084NA14
4C084NA20
4C084ZC351
4C084ZC352
(57)【要約】
本開示は、そのネイティブ・コンフォメーションを有する機能性組換えタンパク質を哺乳動物宿主細胞培養物中で生産するための方法を提供し、ここで、組換えタンパク質は、インスリンアナログ及び/又はその誘導体である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
修飾ヒトプロインスリンポリペプチドを用いて、インスリンアナログ及び/又はその誘導体を含む機能性組換えタンパク質をそのネイティブ・コンフォメーションで、コンピテント宿主細胞中に生産する方法であって:
(a)発現ベクターで前記コンピテント宿主細胞を形質転換することであって、前記発現ベクターは、前記宿主細胞での使用に適しており、前記修飾ヒトプロインスリンポリペプチドをコードする配列を有する異種核酸を含む、形質転換すること;
(b)前記形質転換された宿主細胞を増殖させて、前記インスリンアナログ及び/又はその誘導体を発現させ、増殖培地に分泌させること;及び
(c)前記分泌されたインスリンアナログ及び/又はその誘導体を前記増殖培地から採取することあって、前記分泌されたインスリンアナログ及び/又はその誘導体は、そのネイティブ・コンフォメーションの機能性インスリンアナログ及び/又はその誘導体であり、インスリン受容体ペプチドに結合することができる、採取すること
を含む、方法。
【請求項2】
前記修飾ヒトプロインスリンポリペプチドをコードする前記異種核酸を含む前記発現ベクターが、前記修飾プロインスリンポリペプチドを機能性インスリンにプロセシングするための1つ又は複数の薬剤をコードする異種核酸配列をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記修飾プロインスリンポリペプチドを機能性インスリンにプロセシングするための前記1つ又は複数の薬剤が、エンドプロテアーゼ及びカルボキシペプチダーゼから選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記修飾プロインスリンを機能性インスリンにプロセシングするための1つ又は複数の薬剤をコードする異種核酸配列を含む第2の発現ベクターで前記コンピテント宿主細胞を共形質転換することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記修飾プロインスリンを機能性インスリンにプロセシングするための前記1つ又は複数の薬剤が、エンドプロテアーゼ及びカルボキシペプチダーゼから選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記エンドプロテアーゼが、プロホルモンコンベルターゼ1/3(PC1/3)及びプロホルモンコンベルターゼ2(PC2)からなる群から選択される、請求項3又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記修飾プロインスリンを機能性インスリンにプロセシングするための1つ又は複数の薬剤をコードする前記異種核酸配列が、配列番号5の配列をコードする、請求項3又は5に記載の方法。
【請求項8】
前記修飾プロインスリンを機能性インスリンにプロセシングするための1つ又は複数の薬剤をコードする前記異種核酸配列が、配列番号6の配列をコードする、請求項3又は5に記載の方法。
【請求項9】
前記カルボキシペプチダーゼが、カルボキシペプチダーゼE(CPE)である、請求項3又は5に記載の方法。
【請求項10】
前記修飾プロインスリンを機能性インスリンにプロセシングするための1つ又は複数の薬剤をコードする前記異種核酸配列が、配列番号7又は8の配列をコードする、請求項3又は5に記載の方法。
【請求項11】
前記修飾ヒトプロインスリンポリペプチドをコードする前記異種ヌクレオチド配列が、配列番号1の配列をコードし;前記修飾ヒトプロインスリンポリペプチドを機能性インスリンにプロセシングするための1つ又は複数の薬剤が、PC1/3及びCPE並びに任意選択で、PC2を含む、請求項2又は4に記載の方法。
【請求項12】
前記修飾ヒトプロインスリンを機能性インスリンにプロセシングするための1つ又は複数の薬剤をコードする前記異種核酸配列が、配列番号5及び配列番号7又は8、並びに任意選択で配列番号6の配列をコードする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記修飾ヒトプロインスリンポリペプチドをコードする前記異種ヌクレオチド配列が、配列番号3の配列をコードし;前記修飾ヒトプロインスリンを機能性インスリンにプロセシングするための1つ又は複数の薬剤が、PC1/3及び任意選択で、PC2を含む、請求項2又は4に記載の方法。
【請求項14】
前記修飾ヒトプロインスリンを機能性インスリンにプロセシングするための1つ又は複数の薬剤をコードする前記異種核酸配列が、配列番号5及び任意選択で、配列番号6の配列をコードする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記コンピテント宿主細胞における内因性カルボキシペプチダーゼE活性をブロックするステップをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記ブロッキングステップが、前記コンピテント宿主細胞中へのCRISPRベースの相同組換えにより、配列番号9の配列の202位で内因性CPEに欠失又は変異を導入することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
配列番号9の配列の202位の前記変異が、S202P変異である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ブロッキングステップが、前記配列番号9の配列の72H、75E、147R、192H、202S、243Y、及び296Eからなる群から選択される位置に少なくとも1つの変異を有する変異CPEを前記コンピテント宿主細胞で共発現させることを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記ブロッキングステップが、ドーパミン・キニーネ、ドーパミン、ノルエピネフリン、エピネフリン、ジャガイモカルボキシペプチダーゼ阻害剤(PCI)、CPI-2KRと呼ばれる9-merペプチド、及びデコイアルギニン配列をコードするペプチドからなる群より選択されるブロッキング剤を添加することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記発現ベクターが、レンチウイルスベクター系から選択される、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記コンピテント宿主細胞が、HEK293細胞、CHO細胞、COS、及びHeLa細胞からなる群から選択される哺乳動物細胞である、請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記コンピテント宿主細胞が、藻類及び酵母からなる群から選択される、請求項1~14及び20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記コンピテント宿主細胞が、前記修飾プロインスリンを機能性インスリンにプロセシングするために、細胞質内での安定なジスルフィド結合の形成を促進するための遺伝子修飾を含む、請求項1~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記インスリンアナログ及び/又はその誘導体を採取するステップが、前記形質転換哺乳動物細胞から前記インスリンを分離することを含む、請求項1~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記インスリンアナログ及び/又はその誘導体が、連続的に生産される、請求項1~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記インスリンアナログ及び/又はその誘導体が、糖尿病、糖尿病前症、及び高血糖症の治療に有効である、請求項1~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
(i)配列番号1又は配列番号3の配列によりコードされる修飾ヒトプロインスリンポリペプチド;及び
(ii)前記修飾ヒトプロインスリンを機能性インスリンにプロセシングするための少なくとも1つの薬剤
をコードするポリヌクレオチド。
【請求項28】
前記修飾ヒトプロインスリンを機能性インスリンにプロセシングするための前記少なくとも1つの薬剤が、エンドプロテアーゼ及びカルボキシペプチダーゼからなる群から選択される、請求項27に記載のポリヌクレオチド。
【請求項29】
前記エンドプロテアーゼが、PC1/3及びPC2からなる群から選択される、請求項28に記載のポリヌクレオチド。
【請求項30】
前記PC1/3が、配列番号5の配列によりコードされる、請求項29に記載のポリヌクレオチド。
【請求項31】
前記エンドプロテアーゼが、PC2である、請求項29に記載のポリヌクレオチド。
【請求項32】
前記PC2が、配列番号6の配列によりコードされる、請求項31に記載のポリヌクレオチド。
【請求項33】
前記カルボキシペプチダーゼが、CPEである、請求項28に記載のポリヌクレオチド。
【請求項34】
前記CPEが、配列番号7又は8の配列によりコードされる、請求項33に記載のポリヌクレオチド。
【請求項35】
前記修飾ヒトプロインスリンポリペプチドが、配列番号1の配列を含み;前記修飾ヒトプロインスリンを機能性インスリンにプロセシングするための前記少なくとも1つの薬剤が、PC1/3及びCPE並びに任意選択で、PC2を含む、請求項27に記載のポリヌクレオチド。
【請求項36】
前記修飾ヒトプロインスリンを機能性インスリンにプロセシングするための前記少なくとも1つの薬剤が、配列番号5及び配列番号7又は8並びに任意選択で、配列番号6の配列によりコードされる、請求項35に記載のポリヌクレオチド。
【請求項37】
前記修飾ヒトプロインスリンポリペプチドが、配列番号3の配列を含み;前記修飾ヒトプロインスリンを機能性インスリンにプロセシングするための前記少なくとも1つの薬剤が、PC1/3及び任意選択で、PC2を含む、請求項27に記載のポリヌクレオチド。
【請求項38】
前記修飾プロインスリンを機能性インスリンにプロセシングするための前記少なくとも1つの薬剤が、配列番号5及び任意選択で、配列番号6の配列によりコードされる、請求項37に記載のポリヌクレオチド。
【請求項39】
内因性カルボキシペプチダーゼE活性をブロックするように構成されるブロッキング剤をさらにコードする、請求項37に記載のポリヌクレオチド。
【請求項40】
前記ブロッキング剤が、配列番号9の配列の72H、75E、147R、192H、202S、243Y、及び296Eからなる群から選択される位置に少なくとも1つの変異を有する変異CPEを含む、請求項39に記載のポリヌクレオチド。
【請求項41】
請求項27~40のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
【請求項42】
前記ベクターが、レンチウイルスベクター系から選択される、請求項41に記載の発現ベクター。
【請求項43】
請求項27~40のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド又は請求項41若しくは42に記載の発現ベクターを含む、修飾宿主細胞。
【請求項44】
前記宿主細胞が、哺乳動物細胞である、請求項43に記載の修飾宿主細胞。
【請求項45】
前記修飾プロインスリンを機能性インスリンにプロセシングするために、前記細胞質内での安定なジスルフィド結合の形成を促進するための遺伝子修飾を含む、請求項43又は44に記載の修飾宿主細胞。
【請求項46】
前記修飾宿主細胞が、HEK293、CHO、COS、及びHeLa細胞から選択される、請求項43~45のいずれか1項に記載の修飾宿主細胞。
【請求項47】
前記修飾宿主細胞が、藻類及び酵母から選択される、請求項43に記載の修飾宿主細胞。
【請求項48】
CRISPRベースの相同組換えにより、配列番号9に記載される配列の202位で内因性CPEに欠失又は変異をさらに含む、請求項44に記載の修飾宿主細胞。
【請求項49】
前記内因性CPEの発現及び/又は活性が低減若しくは排除される、請求項44に記載の修飾宿主細胞。
【請求項50】
前記変異CPEが、触媒として不活性である、請求項44に記載の修飾宿主細胞。
【請求項51】
前記変異CPEが、長時間作用型インスリンのB鎖のC末端伸長部に結合するが、時間作用型インスリンのB鎖のC末端伸長部を加水分解しない、請求項44に記載の修飾宿主細胞。
【請求項52】
それを必要とする被験者の糖尿病を治療する方法であって、前記方法は、請求項1に記載の方法によって得られたヒトインスリンアナログを治療有効量で前記被験者に投与することを含む、方法。
【請求項53】
それを必要とする被験者のグルコース恒常性を回復する方法であって、前記方法は、請求項1に記載の方法によって得られたヒトインスリンアナログを治療有効量で投与することを含む、方法。
【請求項54】
プロペプチドを用いて、タンパク質をそのネイティブ・コンフォメーションで宿主細胞中に生産する方法であって:
(a)前記タンパク質の成熟及び分泌を可能にするのに十分な条件下で、前記プロペプチド及びプロテアーゼを組換えにより発現する前記宿主細胞を増殖させること;並びに
(b)前記分泌したタンパク質を増殖培地から採取すること
を含む、方法。
【請求項55】
前記タンパク質が、インスリン、アミリン、ガストリン、グレリン、グルカゴン、ソマトスタチン、α-MSH、ACTH、及びβ-エンドルフィンからなる群から選択される、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記プロテアーゼが、エンドプロテアーゼ及びカルボキシペプチダーゼを含む、請求項54に記載の方法。
【請求項57】
前記エンドプロテアーゼが、PC1/3及びPC2からなる群から選択される、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記カルボキシペプチダーゼが、CPEである、請求項56に記載の方法。
【請求項59】
前記宿主細胞が、配列番号9の配列の72H、75E、147R、192H、202S、243Y、及び296Eからなる群から選択される位置に少なくとも1つの変異を有する変異CPEを含む、請求項54に記載の方法。
【請求項60】
前記CPEが、触媒として不活性であり、前記触媒として不活性なCPEタンパク質は、前記タンパク質に結合するが、前記タンパク質を加水分解しない、請求項55に記載の方法。
【請求項61】
前記タンパク質が連続的に生産される、請求項54に記載の方法。
【請求項62】
前記内因性CPEタンパク質の発現及び/又は活性が低減又は排除される、請求項58に記載の方法。
【請求項63】
修飾哺乳動物宿主細胞ゲノムが、変異CPEをコードする変異CPE遺伝子を含む、修飾哺乳動物宿主細胞。
【請求項64】
前記CPEの発現及び/又は活性が低減又は排除される、請求項62に記載の修飾哺乳動物宿主細胞。
【請求項65】
前記変異CPEが、触媒として不活性である、請求項61に記載の哺乳動物宿主細胞。
【請求項66】
前記変異CPEが、タンパク質に結合するが、タンパク質を加水分解しない、請求項61に記載の哺乳動物宿主細胞。
【請求項67】
変異CPEをコードするポリヌクレオチドであって、前記変異CPEが、触媒として不活性である、ポリヌクレオチド。
【請求項68】
前記変異CPEが、タンパク質に結合するが、タンパク質を加水分解しない、請求項67に記載のポリヌクレオチド。
【請求項69】
前記変異CPEが、配列番号9の配列の72H、75E、147R、192H、202S、243Y、及び296Eからなる群から選択される位置に少なくとも1つの変異を含む、請求項67又は68に記載のポリヌクレオチド。
【請求項70】
配列番号9の配列に由来する変異CPEであって、前記変異CPEが、触媒として不活性である、変異CPE。
【請求項71】
前記変異CPEが、タンパク質に結合するが、タンパク質を加水分解しない、請求項70に記載の変異CPE。
【請求項72】
前記変異CPEが、配列番号9の配列の72H、75E、147R、192H、202S、243Y、及び296Eからなる群から選択される位置に少なくとも1つの変異を含む、請求項70又は71に記載の変異CPE。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
相互参照
[0001] 本出願は、2022年2月10日に出願された米国仮特許出願第63/308,913号に対する優先権及びそこからの利益を主張するものであり、その内容全体が、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
電子的に提出されたXMLファイルの説明
[0002] 電子配列表(IBTS_001_01WO_SeqList_ST26.xml;サイズ:32,369バイト;及び作成日:2023年2月6日)の内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0003】
技術分野
[0003] 本開示は一般に、機能性組換えタンパク質をそのネイティブ・コンフォメーションで生産する方法に関する。本発明は、トリミング、適正なフォールディング及びグリコシル化などの翻訳後修飾に役立つタンパク質の生産に特に有用である。
【背景技術】
【0004】
関連分野の説明
[0004] インスリンは、ランゲルハンス島の膵β細胞によって産生される重要なポリペプチドホルモンであり、ヒトを含む哺乳動物、及び他の脊椎動物において、血糖の恒常性を維持するために必要である。健康な個体では、血糖値が上昇すると、膵臓のβ細胞を刺激してインスリンを分泌させる。続いて、インスリンポリペプチドは、筋肉、肝臓、脂肪組織中の特定の受容体に結合し、これらの標的組織によるグルコース取込みの増加、代謝の増加、及び肝グルコース産生の減少をもたらす。これらの反応の累積効果は、血中グルコース濃度を一定レベルに保つ役割を果たしている。
【0005】
[0005] 世界中で約1億7700万人が糖尿病に罹患している。それには、約1700万人のI型糖尿病患者が含まれ、そうした患者にとって、不足する内分泌インスリンの補充が現在のところ唯一可能な治療法であり、それがない場合、ケトアシドーシス、昏睡などの合併症、さらには数週間以内の死亡が起こり得る。最適以下用量のインスリンで処置を受けたI型糖尿病患者は、ケトアシドーシス、失明、心臓発作、及び腎不全などの二次疾患を発症する。移植及び細胞療法が飛躍的に進歩したにもかかわらず、1型糖尿病の治療法はまだ見つかっていない。II型糖尿病は、I型糖尿病とは対照的に、インスリンの絶対的な欠乏ではなく、相対的な欠乏を有するが、多数の症例、特に進行期では、インスリン療法による治療は不可避であり、それが最も好ましい治療法である。さらに、推計によれば、糖尿病と診断される個体数は、今後25年間で2倍の約3億人になるとされている(Kjeldsen, T. et al., 2001, Biotechnol. Gen. Eng. Rev. 18:89-121)。しかしながら、インスリン治療を利用することは、米国におけるインスリンの平均コストが年々上昇しているため、高いコストを伴う。従って、予想される世界のインスリン需要の増加を満足させる量のヒトインスリンを費用効率的に製造できるようになることが極めて望ましい。
【0006】
[0006] 組換えDNA技術の開発以来、遺伝子組換え宿主細胞でインスリン、前駆体、及びそのアナログを生産する多くの方法が記載されてきた。組換えタンパク質の生産系は、細菌、酵母、及び昆虫細胞から植物細胞及び哺乳動物細胞まで、数多く利用できるようになった。しかし、組換えインスリン生産のための既存の生産系及び方法は、様々な問題を抱えている。インスリンアナログの組換え生産に日常的に使用されている原核生物生産系、例えば、大腸菌(Escherichia coli)(Frank et al., 1981, in Peptides: Proceedings of the 7th American Peptide Chemistry Symposium (Rich & Gross, eds.), Pierce Chemical Co., Rockford. Ill pp 729-739; Chan et al., 1981, Proc Natl. Acad. Sci. USA 78: 5401-5404)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)(Thim et al., 1986, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83: 6766-6770)などは、発現されたポリペプチドの正しいフォールディングを賦与することができないか、又は成熟インスリン中でA鎖とB鎖をつなぐジスルフィド結合を形成することができない。真核生物系は、改善をもたらすものの、依然としていくつかの欠点がある。例えば、酵母株でのハイパーマンノシル化は、酵母が糖タンパク質を適正に発現する能力に影響を与える。さらに、このように調製された治療用タンパク質を患者に投与すると、ハイパーマンノシル化は、往々にして免疫反応を引き起こすことさえある。さらに、酵母の分泌シグナルは、哺乳動物のシグナルとは異なるため、ヒトポリペプチドなどの哺乳動物タンパク質の細胞外への輸送がより困難になり、その結果、連続生産及び/又は単離に問題が生じる。
【0007】
[0007] Wang et al.(Biotechnol. Bioeng., 2001, 73:74-79)は、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)などの酵母がインスリン生産に適していることを示している。しかし、この系の主な欠点の1つは、得られるタンパク質の翻訳後修飾であり、これは、後に最終生成物中に不純物として存在し、精製するのが困難である。加えて、既存の生産システムで利用されている酵素ステップは、時間がかかり、高コストである上に、さらなる不純物を混入させることから、高価なクロマトグラフィーステップなど、さらに下流の処理ステップでそれを除去しなければならない。
【0008】
[0008] 哺乳動物細胞は、広範囲にわたる翻訳後修飾を行うことができるため、タンパク質の生産に広く用いられている。しかし、哺乳動物細胞において少なくとも2つの(異なる)サブユニットを含む糖タンパク質又はタンパク質の組換え生産は、依然として難題である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
[0009] 複雑な方法、即ち、生物学的に活性なインスリン及び/又はインスリンアナログの組換え生産及び精製の既存の生産系並びに方法の高コストで、しかも低収率を考慮すると、ネイティブ・コンフォメーションを有する機能性インスリン及び/又はインスリンアナログの組換え発現のための代替方法が必要とされている。ここに開示される実施形態は、これらのニーズに対処し、他の関連する利点を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
概要
[0010] 本明細書には、宿主細胞培養物において、機能性組換えタンパク質をそのネイティブ・コンフォメーションで生産するための方法及び組成物が提供される。本開示の方法は、少なくとも1つの発現ベクターで宿主細胞を形質転換して、タンパク質前駆体(即ち、プロタンパク質又はプロペプチド)と、タンパク質前駆体を翻訳後修飾(例えば、酵素的切断)によって機能性タンパク質にプロセシングするための少なくとも1つの薬剤(例えば、プロテアーゼ)とを共発現させることを含む。本開示の方法によって生産することができるタンパク質の非限定的な例としては、インスリン、アミリン、ガストリン、グレリン、グルカゴン、ソマトスタチン、α-MSH、ACTH、β-エンドルフィン、又は他のペプチドホルモンが挙げられる。いくつかの態様では、宿主細胞は、HEK293細胞、CHO細胞、COS、及びHeLa細胞からなる群から選択される哺乳動物細胞である。他の態様では、宿主細胞は、藻類及び酵母からなる群から選択される。
【0011】
[0011] 本開示によれば、組換えタンパク質は、成熟インスリン又はインスリンアナログを含む。特に、本開示の新規及び改善された方法は、少なくとも1つのインスリンアナログ及び/又はインスリン誘導体を調製するプロセスに関し、これは、少なくとも1つのインスリンアナログ及び/又はインスリン誘導体を取得するために必要なステップ数を減らすと同時に、所望の生成物の高収率及び高純度を高めるという利点を提供する。本明細書に開示される方法は、組換えヒトインスリンアナログ及び/又はその誘導体の生産のための非常に効率的なプロセスに関し、これは、望ましくない切断副産物の存在を低減及び/又は排除すると共に、時間を要し、且つ高価な複数の精製ステップを排除するという利点もさらに提供する。
【0012】
[0012] いくつかの態様では、本開示は、インスリンアナログ又はその誘導体の生産のための改善された方法を提供する。特定の態様では、本開示は、哺乳動物宿主細胞におけるインスリンアナログ又はその誘導体の生産のための方法を提供する。有利には、本開示による方法及び組成物は、哺乳動物細胞宿主機構が、発現された組換えインスリンアナログをインビボで読み取り、折り畳み、及び切断する、より進化した能力を利用することができる。さらに、本開示の方法及び組成物は、組換えインスリンアナログのインビボでのプロセシングを可能にする薬剤で、哺乳動物細胞宿主に外性的に導入された薬剤を使用し、それによって消化、プロセシング、及び精製の追加的ステップなしに、成熟インスリンアナログの生産を可能にすることにより、機能性インスリン及び/又はインスリンアナログを生産するためのプロセスを最適化及び単純化する。本開示の最適化された方法及び組成物は、材料、装置、及び時間に関するコストの節約、並びに現行/既存の生産方法と比較してタンパク質損失の低減による収率の改善をもたらす。
【0013】
[0013] 従って、本開示は、哺乳動物宿主細胞において、インスリンアナログ及び/又はその誘導体を含む、そのネイティブ・コンフォメーションの機能性組換えタンパク質を生産する方法を提供する。特定の態様では、本方法は、コンピテント哺乳動物宿主細胞を提供することを含む。本開示によれば、本方法は、哺乳動物宿主細胞における発現に適した発現ベクターでコンピテント哺乳動物宿主細胞を形質転換することを含む。発現ベクターは、少なくとも1つのヒトインスリンアナログ若しくはその誘導体の前駆体ペプチド及び/又は修飾ヒトプロインスリンペプチドをコードする異種核酸配列を含む。特定の態様では、本方法は、形質転換された哺乳動物宿主細胞のコロニーを、少なくとも1つのヒトインスリンアナログ若しくはその誘導体の前駆体ペプチド及び/又は修飾ヒトプロインスリンペプチドの発現及び分泌に適した条件下で、好適な増殖培地中で培養すること;並びに分泌されたインスリンアナログ及び/又はその誘導体を採取又は回収することを含む。特定の態様では、分泌ペプチドの回収は、プロセシングされた成熟ペプチドを増殖培地から回収することを含む。本明細書に開示される態様のいずれかにおいて、分泌されたインスリンアナログ及び/又はその誘導体は、そのネイティブ・コンフォメーションの機能性インスリンアナログ及び/又はその誘導体であり、これは、インスリン受容体ペプチドと結合することができる。
【0014】
[0014] 本開示は、作動可能に連結された構成要素として、転写の5’から3’方向に:(i)哺乳動物宿主細胞における発現を制御することができる核酸配列;(ii)インスリンアナログ又はその誘導体の効率的分泌のためのシグナルペプチドをコードする核酸配列;(iii)任意選択で、N末端融合パートナーをコードする核酸配列;(iv)修飾プロインスリンポリペプチドをコードする核酸配列;及び(v)修飾プロインスリンを機能性インスリンアナログ又はその誘導体にプロセシングするための1つ若しくは複数の薬剤をコードする核酸配列を含む発現ベクターを提供する。修飾プロインスリンを機能性インスリンアナログ又はその誘導体にプロセシングするための薬剤は、プロホルモンコンベルターゼ1/3(PC1/3)、PC2及びカルボキシペプチダーゼE(CPE)からなる群から選択される。いくつかの態様では、修飾プロインスリンを機能性インスリンリスプロ(lispro)又はその誘導体にプロセシングするための薬剤は、PC1/3、CPE、及び任意選択でPC2を含む。別の態様では、修飾プロインスリンを機能性インスリングラルギン(glargine)又はその誘導体にプロセシングするための薬剤は、PC1/3及び任意選択でPC2を含む。
【0015】
[0015] 本開示は、第1及び第2の発現ベクターを提供する。いくつかの態様では、第1の発現ベクターは、作動可能に連結された構成要素として、転写の5’から3’方向に:(i)哺乳動物細胞における発現を制御することができる核酸配列;(ii)インスリンアナログ又はその誘導体の効率的分泌のためのシグナルペプチドをコードする核酸配列;(iii)任意選択で、N末端融合パートナーをコードする核酸配列;及び(iv)修飾プロインスリンポリペプチドをコードする核酸配列、を含む。別の態様では、第2の発現ベクターは、作動可能に連結された構成要素として、転写の5’から3’方向に:(i)哺乳動物細胞における発現を制御することができる核酸配列;及び(ii)修飾プロインスリンを機能性インスリンアナログ又はその誘導体にプロセシングするための1つ若しくは複数の薬剤をコードする核酸配列を含む。修飾プロインスリンを機能性インスリンアナログ又はその誘導体にプロセシングするための薬剤は、PC1/3、PC2及びCPEからなる群から選択される。いくつかの態様では、修飾プロインスリン及び/又はプロインスリンアナログを機能性インスリンリスプロ又はその誘導体にプロセシングするための薬剤は、PC1/3、CPE、及び任意選択でPC2を含む。別の態様では、修飾プロインスリンを機能性インスリングラルギン又はその誘導体にプロセシングするための薬剤は、PC1/3、及び任意選択でPC2を含む。
【0016】
[0016] 本開示は、少なくとも1つのヒトインスリンアナログの前駆体ペプチド及び/又は修飾プロインスリンペプチドをコードする異種核酸配列を提供し、ここで、異種核酸配列は、ネイティブヒトプロインスリン遺伝子の適切な部位でのコドンの置換によりプロインスリン遺伝子を改変することによって調製される。特定の態様では、コドンの置換は、所望のアミノ酸残基置換物をコードする。所望のアミノ酸置換の非限定的な代表例は、B28Lys、B29Proヒトインスリン、B28Aspヒトインスリン、A21Glyヒトインスリン、B31Arg、B32Argヒトインスリン、B31Leu、B32Alaヒトインスリン;B31Leu、B32Ala、desB30ヒトインスリン、B31Phe、B32Leuヒトインスリン及びB31Phe、B32Leu、desB30ヒトインスリンである。)。本開示によれば、異種核酸は、少なくとも1つのヒトインスリンアナログをコードする全DNA配列を合成することによって調製される。
【0017】
[0017] 特定の態様では、少なくとも1つのヒトインスリンアナログ若しくはその誘導体の修飾プロインスリンペプチド及び/又は前駆体ペプチドをコードする異種核酸は、ヒトインスリン又はそのアナログのB鎖、ヒトインスリン又はそのアナログのA鎖、及びB鎖とA鎖を連結するCペプチドをコードする。
【0018】
[0018] 本開示によれば、少なくとも1つのヒトインスリンアナログ又はその誘導体の前駆体ペプチドをコードする異種核酸配列は、修飾プロインスリンを機能性インスリンアナログ又はその誘導体にプロセシングするための1つ若しくは複数の薬剤をコードする核酸配列をさらに含む。特定の態様では、修飾プロインスリンを機能性インスリンアナログ又はその誘導体にプロセシングするための1つ若しくは複数の薬剤は、PC1/3、PC2、CPE、並びに内因性CPE活性をブロックするのに有効なブロッキング剤を含む。特定の態様では、哺乳動物宿主細胞は、修飾プロインスリンを機能性インスリンアナログ又はその誘導体にプロセシングするための1つ若しくは複数の薬剤を発現するように修飾される。
【0019】
[0019] 本開示は、少なくとも1つのヒトインスリンアナログ若しくはその誘導体の前駆体ペプチド及び/又は修飾ヒトプロインスリンペプチドをコードする異種核酸配列を含む第1の発現ベクター、並びに修飾プロインスリンを機能性インスリンにプロセシングするための1つ若しくは複数の薬剤をコードする異種核酸配列を含む第2の発現ベクターで、コンピテント哺乳動物宿主細胞を形質転換することを含む方法を提供する。特定の態様では、修飾プロインスリンを機能性インスリンにプロセシングするための1つ若しくは複数の薬剤は、エンドプロテアーゼ、カルボキシペプチダーゼE、並びに内因性カルボキシペプチダーゼE活性をブロックするのに有効なブロッキング剤を含む。一態様では、エンドプロテアーゼは、PC1/3及びPC2を含む。特定の態様では、哺乳動物宿主細胞は、修飾プロインスリンを機能性インスリンアナログ又はその誘導体にプロセシングするための1つ若しくは複数の薬剤を発現するように修飾される。
【0020】
[0020] 特定の態様では、異種核酸配列は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、及び配列番号4に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも約85%(即ち、少なくとも約85%、86%、87%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれ以上)の同一性を有するペプチドをコードする。
【0021】
[0021] 特定の態様では、異種核酸配列は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、及び配列番号4に記載されるアミノ酸配列を有するペプチドをコードする。
【0022】
[0022] 本開示によれば、異種核酸は、修飾プロインスリンを機能性インスリンにプロセシングするための1つ若しくは複数の薬剤をさらにコードする。いくつかの態様では、1つ若しくは複数の薬剤は、配列番号5、配列番号6、配列番号7、及び配列番号8に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも約85%(即ち、少なくとも約85%、86%、87%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれ以上)の同一性を有する。特定の態様では、1つ若しくは複数の薬剤は、配列番号5、配列番号6、配列番号7、及び配列番号8に記載されるアミノ酸配列を有する。
【0023】
[0023] 少なくとも1つのインスリンアナログ又はその誘導体をコードする異種核酸配列は、好適な発現ベクターに挿入され、このベクターが、好適な宿主生物に移入されると、所望の産物を発現する。発現された産物は宿主細胞から分泌され、培養ブロスから回収される。
【0024】
[0024] 特定の態様では、本開示は、修飾ヒトプロインスリン又はヒトプロインスリンアナログ若しくはその誘導体を含むペプチドをコードするポリヌクレオチド;並びに修飾プロインスリンを機能性インスリンにプロセシングするための1つ若しくは複数の薬剤を提供する。特定の態様では、修飾ヒトプロインスリン又はヒトプロインスリンアナログ若しくはその誘導体を含むペプチドをコードする異種核酸配列は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、及び配列番号4に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも約85%(即ち、少なくとも約85%、86%、87%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれ以上)の同一性を有する。いくつかの態様では、上記ペプチドによりコードされる修飾ヒトプロインスリン又はヒトプロインスリンアナログ若しくはその誘導体は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、及び配列番号4に記載されるアミノ酸配列を有する。特定の態様では、上記ポリヌクレオチドは、修飾プロインスリンを機能性インスリンにプロセシングするための1つ若しくは複数の薬剤をコードする異種核酸配列をさらに含む。特定の態様では、上記ポリヌクレオチドは、内因性カルボキシペプチダーゼE活性をブロックするのに有効なブロッキング剤をコードする異種核酸配列をさらに含む。修飾プロインスリンを機能性インスリンにプロセシングするための1つ又は複数の薬剤は、1つ又は複数のエンドプロテアーゼ及びカルボキシペプチダーゼEを含む。1つ又は複数のエンドプロテアーゼは、PC1/3、PC2から選択される。いくつかの態様では、1つ若しくは複数の薬剤は、配列番号5、配列番号6、配列番号7、及び配列番号8に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも約85%(即ち、少なくとも約85%、86%、87%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれ以上)の同一性を有する。特定の態様では、1つ又は複数の薬剤は、配列番号5、配列番号6、配列番号7、及び配列番号8に記載されるアミノ酸配列を有する。
【0025】
[0025] 本開示はまた、修飾ヒトプロインスリン又はヒトプロインスリンアナログ若しくはその誘導体を含むペプチドをコードするポリヌクレオチドと、修飾プロインスリンを機能性インスリンにプロセシングするための少なくとも1つの薬剤と、を含む発現ベクター及び修飾哺乳動物宿主細胞にも関する。いくつかの態様では、哺乳動物宿主細胞は、修飾プロインスリンを機能性インスリンにプロセシングするために、細胞質内での安定なジスルフィド結合の形成を促進するための遺伝子修飾を含む。特定の態様では、本開示はまた、修飾ヒトプロインスリン又はヒトインスリンアナログ若しくはその誘導体を含むペプチドをコードする発現ベクターを含むヒト細胞も提供する。特定の態様では、本開示はまた、修飾ヒトプロインスリン又はヒトプロインスリンアナログ若しくはその誘導体を含むペプチドをコードする発現ベクターと、修飾プロインスリンを機能性インスリンにプロセシングするための少なくとも1つの薬剤と、を含むヒト細胞を提供する。
【0026】
[0026] いくつかの態様では、本開示は、インスリンを発現し、分泌する哺乳動物宿主細胞を生産することを含む、インスリンアナログ及び/又はその誘導体の製造方法を提供し、これは、修飾プロインスリンポリペプチドと、修飾プロインスリンを機能性インスリンアナログ又はその誘導体にプロセシングするための1つ若しくは複数の薬剤を共発現する発現ベクターで哺乳動物宿主細胞を形質転換することを含む。別の態様では、本開示は、インスリンを作製し、分泌するコンピテント哺乳動物宿主細胞を生産することを含む、インスリンアナログ及び/又はその誘導体の製造方法を提供し、これは、プロインスリンポリペプチドを発現する第1の発現ベクターと、プロインスリン及び/又はプロインスリンアナログを機能性インスリンアナログ若しくはその誘導体にプロセシングするための1つ若しくは複数の薬剤を発現する第2の発現ベクターで宿主細胞を形質転換することを含む。
【0027】
[0027] いくつかの態様では、本開示は、超速効型インスリンアナログ及び/又はその誘導体を製造する方法を提供し、この方法は:(i)哺乳動物宿主細胞における発現を制御することができる核酸配列;(ii)インスリンアナログ又はその誘導体の効率的分泌のためのシグナルペプチドをコードする核酸配列;(iii)任意選択で、N末端融合パートナーをコードする核酸配列;(iv)修飾プロインスリンポリペプチドをコードする核酸配列;(v)PC1/3をコードする核酸配列;(vi)CPEをコードする核酸配列;及び(vii)任意選択で、PC2をコードする核酸配列を含む組換え発現ベクターで、哺乳動物宿主細胞を形質転換することを含む。いくつかの態様では、超速効型インスリンアナログは、インスリンリスプロである。
【0028】
[0028] いくつかの態様では、本開示は、長時間作用型インスリンアナログ及び/又はその誘導体を製造する方法を提供し、この方法は:(i)哺乳動物宿主細胞における発現を制御することができる核酸配列;(ii)インスリンアナログ又はその誘導体の効率的分泌のためのシグナルペプチドをコードする核酸配列;(iii)任意選択で、N末端融合パートナーをコードする核酸配列;(iv)修飾プロインスリンポリペプチドをコードする核酸配列;(v)PC1/3をコードする核酸配列;及び(vi)任意選択で、PC2をコードする核酸配列を含む組換え発現ベクターで哺乳動物宿主細胞を形質転換することを含む。いくつかの態様では、長時間作用型インスリンアナログは、インスリングラルギンである。
【0029】
[0029] いくつかの態様では、長時間作用型インスリンアナログ及び/又はその誘導体の製造方法は、内因性カルボキシペプチダーゼE(CPE)活性をブロックする任意のステップをさらに含む。いくつかの態様では、内因性カルボキシペプチダーゼE活性をブロックするステップは、内因性CPEに欠失若しくは変異を導入し、その結果、発現又は活性の低減若しくは排除をもたらすことを含む。いくつかの態様では、宿主細胞は、CPE活性が低減又は排除されたCRISPR修飾宿主細胞であってもよい。このような宿主細胞は、例えば、CRISPRを用いてCPEの発現を低減若しくは排除することによって、又は触媒として不活性なCPEの発現を可能にすることによって生産することができる。例えば、配列番号9に記載される配列の202位のセリンは、例えば、プロリンに変異させてもよい。いくつかの態様では、CPE活性の低減又は排除は、条件的又は誘導性であってもよい(例えば、Cre依存性構築物の形態で)。いくつかの態様では、内因性カルボキシペプチダーゼE活性をブロックするステップは、配列番号9に記載される配列の72H、75E、147R、192H、202S、243Y、及び296Eからなる群より選択される位置に少なくとも1つの変異を有する変異CPEを哺乳動物宿主細胞において共発現させることを含む。いくつかの態様では、変異CPEをコードする核酸配列は、修飾プロインスリンポリペプチドを共発現する発現ベクターに含まれる。別の態様では、変異CPEをコードする核酸配列は、個別の発現ベクターに含まれる。いくつかの態様では、本開示は、触媒として不活性なCPEを発現する宿主細胞を提供し、ここで、CPEは、基質と結合するが、ペプチド結合を切断せず、その際、触媒として不活性なCPEは、配列番号9に記載される配列の72H、75E、147R、192H、202S、243Y、及び296Eからなる群から選択される位置に少なくとも1つの変異を有する。いくつかの態様では、内因性CPE活性をブロックするステップは、ドーパミン・キニーネ、ドーパミン、ノルエピネフリン、エピネフリン、ジャガイモカルボキシペプチダーゼ阻害剤(PCI)、CPI-2KRと呼ばれる9-merペプチド、及びデコイアルギニン配列をコードするペプチドからなる群より選択されるブロッキング剤を添加することを含む。本開示のデコイアルギニンペプチドは、3アミノ酸長で、長時間作用型インスリンのB鎖のC末端伸長部に対して少なくとも70%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列、例えば、配列番号15に記載の配列を有するポリマーを含む。デコイアルギニンペプチドは、長時間作用型インスリンのB鎖のC末端伸長を模倣して、内因性CPEと結合し、それによって内因性CPEがB鎖のC末端伸長を除去するのを阻止するように構成される。
【0030】
[0030] いくつかの態様では、本開示は、哺乳動物発現系に発現される、精製された生物学的に活性な異種組換えタンパク質を取得する方法に関する。特定の態様では、この方法は、配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号4に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも約85%(即ち、少なくとも約85%、86%、87%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくはそれ以上)の同一性を有するペプチドをコードする異種核酸配列を含む少なくとも1つのベクターによって形質転換された宿主細胞を、組換えタンパク質の発現に適した増殖培地及び条件下で培養することを含む。特定の態様では、この方法は、配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号4に記載されるアミノ酸配列を有するペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む少なくとも1つのベクターによって形質転換された宿主細胞を培養することを含む。特定の態様では、ペプチドをコードする異種核酸を含むベクターは、異種タンパク質を成熟機能性タンパク質にプロセシングするための1つ若しくは複数の薬剤をさらにコードする。いくつかの態様では、1つ若しくは複数の薬剤は、配列番号5、配列番号6、配列番号7、又は配列番号8に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも約85%(即ち、少なくとも約85%、86%、87%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%若しくはそれ以上)の同一性を有する。特定の態様では、1つ又は複数の薬剤は、配列番号5、配列番号6、配列番号7、又は配列番号8に記載されるアミノ酸配列を有する。
【0031】
[0031] 特定の態様では、本方法は、発現された組換えタンパク質を回収又は採取することを含み、ここで、組換えタンパク質を回収するステップは、培養培地からタンパク質を分離して、回収された組換えタンパク質調製物を生産することを含む。いくつかの態様では、本方法は、回収された組換えタンパク質調製物をクロマトグラフィーマトリックスと接触させることにより、回収された組換えタンパク質調製物を精製して、少なくとも1つの関連不純物を除去することをさらに含む。精製は、有機酸緩衝液を含む水相中に極性有機緩衝液溶媒を適用し、溶出したタンパク質を沈殿させることによって実施される。本明細書に開示される態様のいずれかにおいて、成熟機能性組換えタンパク質は、ヒトインスリンアナログ及び/又はその誘導体である。本明細書に開示される態様のいずれかにおいて、組換えヒトインスリンは、配列番号10に記載されるアミノ酸配列を有するA鎖と、配列番号11に記載されるアミノ酸配列を有するB鎖を含む。別の態様では、組換えヒトインスリンは、配列番号12に記載されるアミノ酸配列を有するA鎖と、配列番号13に記載されるアミノ酸配列を有するB鎖を含む。さらに別の態様では、組換えヒトインスリンは、配列番号14に記載されるアミノ酸配列を有するA鎖と、配列番号14に記載されるアミノ酸配列を有するB鎖を含む。特定の態様では、組換えヒトインスリンは、配列番号10に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも約85%(即ち、少なくとも約85%、86%、87%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくはそれ以上)の同一性のアミノ酸配列を有するA鎖と、配列番号11に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも約85%(即ち、少なくとも約85%、86%、87%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくはそれ以上)の同一性のアミノ酸配列を有するB鎖を含む。特定の態様では、組換えヒトインスリンは、配列番号12に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも約85%(即ち、少なくとも約85%、86%、87%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%若しくはそれ以上)の同一性のアミノ酸配列を有するA鎖と、配列番号13に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも約85%(即ち、少なくとも約85%、86%、87%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%若しくはそれ以上)の同一性のアミノ酸配列を有するB鎖を含む。特定の態様では、組換えヒトインスリンは、配列番号14に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも約85%(即ち、少なくとも約85%、86%、87%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくはそれ以上)の同一性のアミノ酸配列を有するA鎖と、配列番号15に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも約85%(即ち、少なくとも約85%、86%、87%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくはそれ以上)の同一性のアミノ酸配列を有するB鎖を含む。
【0032】
[0032] 本開示によれば、精製されたインスリンアナログ及び/又はその誘導体の収率は、75%~100%である。本開示の別の態様によれば、精製されたインスリンアナログ及び/又はその誘導体の収率は、75%~80%、80%~85%、85%~90%、90%~95%、又は95%~100%である。
【0033】
[0033] 本開示は、組換えヒトインスリンアナログ及び/又はその誘導体を製造するための統合的且つ連続的なプロセスを提供し、このプロセスは:(i)組換えヒトインスリンアナログ分泌哺乳動物細胞を、細胞が組換えインスリンアナログ及び/又はその誘導体を培地中に分泌することを可能にする条件下で、液体培地を含む灌流バイオリアクター中で培養することであって、実質的に細胞を含まない体積の培地が、灌流バイオリアクターから連続的若しくは周期的に除去されて、第1の周期的向流クロマトグラフィーシステム(PCCS1)に供給されることと;(ii)PCCS1を用いて培地から組換えインスリンアナログ及び/又はその誘導体を捕捉することであって、組換えインスリンアナログ及び/又はその誘導体を含むPCCS1の溶出液が、第2の周期的向流クロマトグラフィーシステム(PCCS2)に連続的に供給されることと;(iii)PCCS2を用いて組換えインスリンアナログ及び/又はその誘導体を精製することであって、研磨を実施するために用いられるPCCS2の樹脂と比較して化学構造が異なるPCCS2の樹脂を用いて、精製が実施され、ここで、PCCS2からの溶出液は、インスリンアナログ及び/又はその誘導体であることと、を含み;上記プロセスは、統合され、培養ステップからインスリンアナログ及び/又はその誘導体であるPCCS2からの溶出液まで連続的に実行される。特定の態様では、組換えヒトインスリンアナログ-分泌哺乳動物細胞は、配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号4に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも約85%(即ち、少なくとも約85%、86%、87%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくはそれ以上)の同一性を有するペプチドをコードする異種核酸配列を含む少なくとも1つのベクターによって形質転換される。特定の態様では、組換えヒトインスリンアナログ-分泌哺乳動物細胞は、配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号4に記載されるアミノ酸配列を含むペプチドをコードする異種核酸配列を含む少なくとも1つのベクターによって形質転換される。
【0034】
[0034] 本開示によるヒトインスリンアナログ及びその誘導体は、インスリンに対して感受性である病態の治療に有用である。従って、ヒトインスリンアナログ及びその誘導体は、1型糖尿病、2型糖尿病、並びに例えば、重傷者及び大手術を受けた人に時として認められるような高血糖症の治療に使用され得る。
【0035】
[0035] 別の態様では、本開示は、ヒトインスリンアナログを、安定化、保存又は等張に適した1つ若しくは複数の薬剤などの好適な薬学的に許容されるアジュバント及び添加剤と組み合わせて含む医薬製剤に関する。
【0036】
[0036] 従って、さらに別の態様では、本開示は、それを必要とする被験者の糖尿病を治療する方法を提供し、前記方法は、本明細書に開示される方法によって得られるヒトインスリンアナログを治療有効量で前記被験者に投与することを含む。
【0037】
[0037] 本開示の他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明から容易に明らかになるであろう。しかし、本開示の趣旨及び範囲内での様々な変更及び修正は、この詳細な説明から当業者には容易に明らかになることから、好ましい態様を示しながら、詳細な説明及び具体的な実施例が、あくまで例示として提供されていることを理解すべきである。
【0038】
図面の簡単な説明
[0038] 本明細書で開示される実施形態は、添付の図面と併せて考慮される以下の説明及び添付の特許請求の範囲からより詳細に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】[0039]インスリン生産の歴史を描き、さらに本開示の方法によるインスリンアナログの合成戦略の概略図を提示する。手順の詳細は、実施例1~3に記載されている。
図2A】[0040]哺乳動物細胞における成熟インスリンアナログ生産のためのプロセシング部位を示している。
図2B】[0040]哺乳動物細胞における成熟インスリンアナログ生産のためのプロセシング部位を示している。
図3】[0041]膵β細胞におけるインスリン合成について説明する。
図4】[0042]それぞれのインスリンアナログと、組換えタンパク質を成熟した機能性インスリンアナログにプロセシングするのに必要な薬剤(フーリン(Furin))をコードする異種核酸配列を含むベクターで形質転換したHEK細胞の20×濃縮上清から採取されたリスプロ及びグラルギンの小規模生産(50ml)を示す。
図5】[0043]リスプロインスリンアナログの製造の場合、組換えインスリンのα、β、及びc鎖を切断して、成熟インスリンを生成するのに、フーリンと比較して、人体により利用される薬剤(PC1/3、PC2、カルボキシペプチダーゼE)が優れていることを示している。
図6】[0044]グラルギンインスリンアナログの製造の場合、組換えインスリンのα、β、及びc鎖を切断して成熟インスリンを生産するのに、フーリンと比較して、人体により利用される薬剤(PC1/3、PC2、及び変異カルボキシペプチダーゼE)が優れていることを示している。
図7A】[0045]PC1及びCPE(非還元)を用いて生産されたインスリンアナログリスプロ(Scn-lispro)の質量分析を示す。
図7B】[0045]PC1及びCPE(還元)を用いて生産されたインスリンアナログリスプロ(Scn-lispro)の質量分析を示す。
図7C】[0045]PC1(非還元)を用いて生産されたインスリンアナログリスプロ(Scn-lispro)の質量分析を示す。
図7D】[0045]PC1(還元)を用いて生産されたインスリンアナログリスプロ(Scn-lispro)の質量分析を示す。
図8A】[0046]PC1及び変異体CPE(非還元)を用いて本開示の方法により生産されたインスリンアナロググラルギンの質量分析を示す。
図8B】[0046]PC1及び変異体CPE(還元)を用いて本開示の方法により生産されたインスリンアナロググラルギンの質量分析を示す。
図8C】[0046]PC1(非還元)を用いて本開示の方法により生産されたインスリンアナロググラルギンの質量分析を示す。
図8D】[0046]PC1(還元)を用いて本開示の方法により生産されたインスリンアナロググラルギンの質量分析を示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
詳細な説明
[0047] 本明細書で全般的に説明される実施形態は、例示的なものであることが容易に理解されるであろう。以下の様々な実施形態の説明は、本開示の範囲を限定することを意図するものではなく、様々な実施形態を代表するものであるに過ぎない。さらに、当業者は、本開示の範囲から逸脱することなく、本明細書に開示される特定の方法のステップ又は動作の順序を変更することができる。換言すれば、実施形態の適切な動作のために、ステップ又は動作の特定の順序が必要とされない限り、特定のステップ若しくは動作の順序又は使用を変更してもよい。
【0041】
[0048] 本開示をより詳細に説明する前に、本明細書で使用される特定の用語の定義を提示することが、本開示の理解に役立つと考えられる。追加の定義は、本開示全体を通して記載されている。
【0042】
[0049] 他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有するものとする。可能である場合には、本開示で言及されるGenBank、SwissPro及び他のデータベースからの核酸及びポリペプチド配列を含め、全ての特許、出願、公開された出願、並びに他の刊行物は、参照によりその全体が組み込まれる。
【0043】
[0050] 本開示において、別途指示のない限り、任意の濃度範囲、パーセンテージ範囲、比率範囲、又は整数範囲は、記載された範囲内の任意の整数、及び適切であれば、その分数(整数の10分の1及び100分の1など)の値を含むものと理解される。また、ポリマーサブユニット、サイズ又は厚さなどの物理的特徴に関する本明細書に記載の数値範囲は、特に断りのない限り、記載される範囲内の任意の整数を含むものと理解されたい。
【0044】
[0051] 本明細書で使用される「約」という用語は、記載される値又は値の範囲より10%大きいか、若しくは小さいことを意味するが、この広義の定義にのみ値又は値の範囲を指定することを意図するものではない。「約」という用語が前に置かれる各値又は値の範囲は、記載された絶対値又は値の範囲の実施形態を包含することも意図される。
【0045】
[0052] 本明細書で使用される用語「1つの(a)」及び「1つの(an)」は、列挙される構成要素の「1つ又は複数」を意味すると理解すべきである。代替用語(例えば、「又は」)の使用は、いずれか一方、両方、又は任意の組合せを意味すると理解すべきである。本明細書で使用される場合、用語「含む(include)」、「有する(have)」、及び「含む(comprise)」は、同義的に使用され、これらの用語及びその変形は、非限定的なものとして解釈されることが意図される。
【0046】
[0053] 「任意の」又は「任意に(任意選択で)」とは、その後に記載される要素、構成要素、事象、若しくは状況が存在し得る、又存在しない場合もあること、並びにその記載内容には、当該要素、構成要素、事象、又は状況が存在する事例と、存在しない事例が含まれることを意味する。
【0047】
[0054] 本明細書で使用される場合、「プロドラッグ」及び/又は「プロインスリン」及び/又は「前駆体ペプチド」という用語は、その薬理効果を発揮する前に化学修飾を受ける任意の化合物として定義される。
【0048】
[0055] 本明細書で使用される場合、「アミノ酸」は、天然に存在するアミノ酸及び合成アミノ酸、並びに天然に存在するアミノ酸と類似の様式で機能するアミノ酸アナログ及びアミノ酸模倣物を指す。天然に存在するアミノ酸とは、例えば、ヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタミン酸、及びO-ホスホセリンなど、後に修飾されるアミノ酸と同様に、遺伝子コードによってコードされるアミノ酸である。アミノ酸アナログは、天然に存在するアミノ酸と同じ基本的化学構造、即ち、水素、カルボキシル基、アミノ基、及びR基に結合したα-炭素を有する化合物、例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムを指す。このようなアナログは、修飾されたR基(例えば、ノルロイシン)又は修飾されたペプチド骨格を有するが、天然に存在するアミノ酸と同じ基本的化学構造を保持している。アミノ酸模倣物は、アミノ酸の一般的化学構造とは異なる構造を備えるが、天然に存在するアミノ酸と類似の様式で機能する化合物を指す。
【0049】
[0056] さらに、「アミノ酸」は、アミノ官能基とカルボキシル官能基の両方を含む分子を包含し、ここで、アミノ基とカルボキシレート基は同じ炭素(α炭素)に結合している。α炭素は、任意に、さらに1つ又は2つの有機置換基を有していてもよい。本開示の目的のために、立体化学を特定せずにアミノ酸を指定する場合、アミノ酸のL型若しくはD型、又はラセミ混合物のいずれかを包含することが意図される。しかし、アミノ酸がその3文字コードによって指定され、且つ上付き数字を含む場合、アミノ酸のD型は、3文字コード及び上付き数字の前に小文字のdを含むことによって指定され(例えば、dLys-1)、ここで、小文字のdがない名称(例えば、Lys-1)は、アミノ酸のネイティブL型を指定することが意図される。この命名法において、上付き数字の包含は、インスリンアナログ配列におけるアミノ酸の位置を示し、その場合、インスリンアナログ配列内に位置するアミノ酸は、N末端から連続的に番号付けられる正の上付き数字により示される。N末端で、又は側鎖を介したいずれかでインスリンアナログペプチドに連結された追加のアミノ酸は、0から始まり、インスリンアナログ配列から離れるにつれて負の整数値が増加する番号で示される。例えば、インスリンアナログのN末端に連結したジペプチドプロドラッグ内のアミノ酸の位置は、aa-1-aa-インスリンアナログと命名され、ここで、aaは、ジペプチドのカルボキシル末端アミノ酸を表し、aa-1は、ジペプチドのアミノ末端アミノ酸を表す。
【0050】
[0057] 本明細書で使用される場合、「タンパク質」、「ポリペプチド」、又は「ペプチド」は、アミノ酸残基のポリマーを指す。タンパク質は、天然に存在するアミノ酸ポリマー、さらには1つ又は複数のアミノ酸残基が、対応する天然に存在するアミノ酸の人工の化学的模倣物であるアミノ酸ポリマー、並びに天然に存在しないアミノ酸ポリマーに適用される。
【0051】
[0058] 本明細書で使用される場合、インスリンアナログの「有効」量又は「治療有効量」とは、無毒性であるが、所望の効果を提供するのに十分な量のインスリンアナログを指す。例えば、所望の効果の1つは、高血糖症の予防又は治療であろう。「有効」な量は、個体の年齢や全身状態、投与方法などに応じて、被験者によって異なる。従って、厳密な「有効量」を指定することは常に可能というわけではない。しかし、任意の個別の症例における適切な「有効」量は、当業者であれば、常用の実験を用いて決定することができる。
【0052】
[0059] 本明細書で使用する「核酸配列」という用語は、天然に存在する塩基、糖及び糖間(骨格)結合から構成されるヌクレオシド又はヌクレオチドモノマーの配列を指す。この用語はまた、天然に存在しないモノマー若しくはその一部を含む修飾又は置換された配列も含む。本開示の核酸配列は、デオキシリボ核酸配列(DNA)又はリボ核酸配列(RNA)であってもよく、アデニン、グアニン、シトシン、チミジン及びウラシルを含む天然に存在する塩基を含んでもよい。配列はまた、修飾塩基を含有してもよい。このような修飾塩基の例としては、アザ及びデアザアデニン、グアニン、シトシン、チミジン及びウラシル;並びにキサンチン及びヒポキサンチンが挙げられる。
【0053】
[0060] 本明細書で使用される場合、特に他に指示のない限り、「少なくとも約」が前に置かれた表示パーセンテージの配列同一性には、表示パーセンテージ±その20%、並びに具体的なパーセンテージを超える全ての整数及び非整数のパーセンテージが含まれる。従って、基準となる配列(例えば、配列番号1~4のいずれか1つ)に対する「少なくとも約85%」の同一性には、基準配列に対する約85%、86%、87%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の同一性が含まれ、また、2つの整数パーセンテージの間のあらゆる非整数パーセンテージ(例えば、92.5%、99.1%など)も含まれる。
【0054】
[0061] 用語「インスリンをコードする核酸配列」及び「インスリンアナログをコードする核酸配列」又は「インスリンポリペプチド又は修飾インスリンペプチドをコードする核酸配列」又は「プロインスリン」は、本明細書において互換的に使用され得るが、インスリンポリペプチド、例えば、限定されないが、表2に列挙されるプロインスリンポリペプチド(配列番号1、配列番号2、配列番号3、及び配列番号4)、さらには任意の哺乳動物インスリンポリペプチドをコードするあらゆる核酸配列、並びにプロインスリン、プレプロインスリンペプチド、及びそれらのアナログ及び/又はそれらの誘導体をコードする任意の核酸配列を指す。「プロセシングのための薬剤」という用語は、プロインスリンを成熟機能性インスリンにプロセシングするために必要な薬剤、限定されないが、表3に列挙したポリペプチド(配列番号5、配列番号6、配列番号7、及び配列番号8)をコードするあらゆる核酸配列を指す。
【0055】
[0062] インビボで、ヒトインスリンポリペプチドは、110アミノ酸の単一ポリペプチド鎖前駆体、即ち、プレプロインスリンとして産生され、N末端に位置する24アミノ酸のプレ配列を含み、これは、鎖の生合成の完了直後に切断されて、プロインスリンが得られる(Steiner, D. F. 2000. J. Ped. Endocrinol. Metab. 13:229-239)。プロインスリンは、構造B-C-Aを有し、C-ペプチド鎖がB鎖のC末端アミノ酸とA鎖のN末端アミノ酸残基をつないでいる。分泌のためにホルモンがパッケージングされる際、C-ペプチドは、プロホルモンコンベルターゼであるPC2とPC1/PC3によって切断され、除去されて(Steiner, D. F. 2000. J. Ped. Endocrinol. Metab. 13:229-239)、成熟又は活性型ヒトインスリン、即ち、2本の鎖間ジスルフィド結合で連結された2本のポリペプチド鎖、A(21アミノ酸長)とB(30アミノ酸長)から成る51アミノ酸のタンパク質が得られる。A鎖及びB鎖は、それぞれA7及びB7並びにA20及びB19シス残基間の2つのジスルフィド架橋によって結合されている。さらに、生物学的に活性なインスリン分子は、位置A6及びAl1にあるCys残基の間に分子内(鎖内)ジスルフィド架橋を有する。
【0056】
[0063] インスリンポリペプチド又はペプチドをコードする核酸配列は、さらに、(i)本明細書に記載されるインスリンポリペプチド配列と実質的に同一であるポリペプチドをコードするか;又は(ii)少なくとも中程度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で本明細書に記載される任意の核酸配列とハイブリダイズするか、若しくは同義コドンの使用を除いて、少なくとも中程度にストリンジェントな条件下でそれとハイブリダイし得る、あらゆる核酸配列を含む。
【0057】
[0064] 本明細書で使用される「プロインスリン」という用語は、Aが、インスリンのA鎖又はその機能性誘導体であり;Bが、.ε.-アミノ基を有するインスリンのB鎖又はその機能性誘導体であり;Cが、プロインスリンの連結ペプチドである式のタンパク質である。好ましくは、プロインスリンは、ヒトインスリンのA鎖であり、ヒトインスリンのB鎖であり、Cは天然の連結ペプチドである。プロインスリンが天然配列である場合、プロインスリンは、3つの遊離アミノ基:フェニルアラニン(1)(α.-アミノ基)、リジン(29)(.ε.-アミノ基)及びリジン(64)(ε.-アミノ基)を有する。本明細書で使用される場合、「プロインスリン」とは、インスリンポリペプチドを指し、B及びAインスリンポリペプチド鎖をつなぐ連結ペプチド又は「Cペプチド」を含む。ネイティブヒトインスリンでは、Cペプチドは、残基B30と残基A1をつなぐ31アミノ酸残基のポリペプチド鎖である。用語「プレプロインスリン」は、ERリボソーム上で翻訳が起こるように指示するN末端シグナル配列を付加的に含むプロインスリン分子を指す。
【0058】
[0065] 本明細書で使用される「インスリンアナログ」という用語は、式ABのインスリン活性を示すタンパク質である:Aは、インスリン鎖A(α)又はインスリン鎖Aの機能性誘導体であり;Bは、インスリン鎖B(β)又は.ε-アミノ基を有するインスリン鎖Bの機能性誘導体であり、A又はBの少なくとも一方は天然配列のアミノ酸修飾を含む。表1は、例示的なインスリンアナログのA鎖及びB鎖の配列を示す。
【0059】
[0066] 本開示では、インスリンという用語が複数形又は一般的な意味で使用される場合は常に、天然に存在するインスリン、並びにインスリンアナログ及びその誘導体の両方を包含することが意図される。
【0060】
[0067] 本明細書で使用される「インスリンポリペプチド」とは、Cys.sup.A7とCys.sup.B7の間、及びCys.sup.A20とCys.sup.B19の間のジスルフィド架橋、並びにCys.sup.A6とCys.sup.A11の間の分子内ジスルフィド架橋を含む、ヒトインスリンのそれと類似の分子構造を備え、且つ、インスリン活性を有する化合物を意味する。
【0061】
[0068] インスリンペプチドとしては、限定されないが、インスリン、ヒト;インスリン、ブタ;IGF-1、ヒト;インスリン様成長因子II(69~84);プロインスリン様成長因子II(68~102)、ヒト;インスリン様成長因子II(105~128)、ヒト;[AspB28]インスリン、ヒト;[LysB28]インスリン、ヒト;[LeuB28]インスリン、ヒト;[Va1B28]インスリン、ヒト;[AlaB28]インスリン、ヒト;[AspB28、ProB29]インスリン、ヒト;[LysB28、ProB29]インスリン、ヒト;[LeuB28、ProB29]インスリン、ヒト;[Va1B28、ProB29]インスリン、ヒト;[AlaB28、ProB29]インスリン、ヒト;[GlyA21]インスリン、ヒト;[GlyA21 GlnB3]インスリン、ヒト;[AlaA21]インスリン、ヒト;[AlaA2l Gln.sup.B3]インスリン、ヒト;[GlnB3]インスリン、ヒト;[GlnB30]インスリン、ヒト;[GIyA21 GIuB30]インスリン、ヒト;[GlyA21 GlnB3 GluB30]インスリン、ヒト;[G1nB3 GIuB30]インスリン、ヒト;B22B30インスリン、ヒト;B23B30インスリン、ヒト;B25B30インスリン、ヒト;B26B30インスリン、ヒト;B27B30インスリン、ヒト;B29B30インスリン、ヒト;ヒトインスリンのA鎖、及びヒトインスリンのB鎖が挙げられる。
【0062】
[0069] 本明細書で使用される場合、「ヒトインスリンアナログの前駆体ペプチド」及び「修飾プロインスリンポリペプチド」という用語は、本明細書で互換的に使され得るが、あらゆるインスリンポリペプチドの前駆体ペプチドを指し、こうしたものとして、表1に列挙されるインスリンポリペプチド及び/又はペプチド、並びに:(i)本明細書に記載される任意のインスリンポリペプチド及び/又はインスリンペプチドを構成するアミノ酸配列と実質的に同一であるか、或いは(ii)本明細書に記載されるインスリンをコードする任意の核酸配列と少なくとも中程度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるか、又は同義コドンの使用を除いて、本明細書に記載されるインスリンをコードする任意の核酸配列と少なくとも中程度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる核酸配列によってコードされる、アミノ酸残基の配列を含むポリペプチド分子が挙げられる。インスリン及びインスリンポリペプチドという用語は、プロインスリンポリペプチド及びミニインスリンポリペプチド、そのアナログ及び誘導体を含む。 インスリンアナログポリペプチドは、好ましくはヒト由来である。
【0063】
[0070] 本開示は、インスリンアナログの特定の誘導体又はさらなる置換を企図する。従って、アミノ酸残基の官能基の1つ又は複数を誘導体化することが可能である。そのような誘導体の例としては、インスリン分子中の酸性基のエステル基又はアミド基へのそれ自体既知の変換、アルコール基のアルコキシ基への変換又はその逆、及び選択的脱アミド化がある。一例として、A21Asnは、酸性媒体中の加水分解によりA21Aspに脱アミド化することができ、又はB3Asnは、中性媒体中でB3Aspに脱アミド化することができる。
【0064】
[0071] さらに、N末端又はC末端のアミノ酸残基を付加又は除去することにより、本発明のインスリンアナログを修飾することも可能である。本開示のインスリンアナログは、インスリンアナログの特性全体に有意な影響を与えることなく、B鎖のN末端で最大4つのアミノ酸残基、及びB鎖のC末端で最大5つのアミノ酸残基を欠失し得る。このような修飾インスリンアナログの例は、B1Phe又はB30Thrアミノ酸残基を欠失したインスリンアナログである。
【0065】
[0072] また、インスリンの全体的な特性及び効果に有意な影響を与えないという条件で、天然に存在するアミノ酸残基をポリペプチド鎖の1つ又は複数の末端に付加することもできる。
【0066】
[0073] 本発明のインスリンアナログのポリペプチド鎖の末端におけるこのような欠失又は付加は、本開示によるアミノ酸置換を有するインスリンアナログに対してインビトロで実施され得る。或いは、本開示によるインスリンアナログの遺伝子は、ポリペプチド鎖末端における追加のアミノ酸残基又は欠失したアミノ酸残基に対応するコドンをそれぞれ付加又は除去することによって改変され得る。
【0067】
[0074] 本明細書において「修飾ポリヌクレオチド」という用語は、「修飾」タンパク質をコードするために少なくとも1つの変異を含むように改変されたポリヌクレオチド配列を指す。いくつかの事例では、「ポリヌクレオチド」という用語は、「修飾(された)」を伴わずに使用されるが、これは、修飾されたポリヌクレオチドの実施形態を排除するものではない。
【0068】
[0075] 本明細書で使用される場合、「プロテアーゼ」及び「タンパク質分解活性」という用語は、ペプチド、又はペプチド結合を有する基質を加水分解する能力を示すタンパク質又はペプチドを指す。
【0069】
[0076] 「オリゴヌクレオチド」という用語は、長さが100ヌクレオチド未満の核酸分子、DNA(又はRNA)に対して用いられる。
【0070】
[0077] 「形質転換」とは、DNAを生物、即ち、宿主生物に導入し、それにより、染色体外エレメントとして、又は染色体への組込みによるいずれかで、DNAを複製可能にすることを意味する。
【0071】
[0078] 使用される宿主細胞に応じて、形質転換は、そのような細胞に適した標準的な技術を用いて行われる。哺乳動物細胞宿主系形質転換の一般的な態様は、1983年8月16日発行の米国特許第4,399,216号にAxelにより記載されている。
【0072】
[0079] 「細胞」又は「細胞培養物」又は「組換え宿主細胞」又は「宿主細胞」は、文脈から明らかになるように、互換的に使用されることが多い。これらの用語は、本発明の所望のタンパク質を発現する直接の対象細胞と、勿論その子孫を含む。偶発的なの変異(chance mutations)又は環境の相違により、全ての子孫が親細胞と完全に同一であるわけではないことは理解される。しかし、そのような改変された子孫も、その子孫が最初に形質転換された細胞に付与された特性に関連する特性を保持する限り、これらの用語に含まれる。
【0073】
[0080] 用語「発現」及び動詞「発現する」は、DNA配列の転写及び/又は転写されたmRNAの宿主生物における翻訳(それにより、プレタンパク質を産生する)を意味し、従って、翻訳後プロセスは含まない。
【0074】
[0081] 本明細書で使用される場合、「ベクター」という用語は、それが連結された別の核酸を輸送することができる核酸分子を指す。「発現ベクター」という用語は、ベクターにより担持されるそれぞれの組換え遺伝子によってコードされる対象タンパク質を合成することができるプラスミド、コスミド又はファージを含む。好ましいベクターは、それらが連結された核酸の自律複製及び/発現が可能であるものである。本明細書において、「プラスミド」及び「ベクター」は、プラスミドがベクターの最も一般的に使用される形態であるため、互換的に使用される。さらに、本発明は、同等の機能を果たし、後に当技術分野で公知となる他の形態の発現ベクターを含むことも意図される。
【0075】
[0082] 「プロモーター」とは、転写を刺激する調節ヌクレオチド配列である。これらの用語は、遺伝子工学の当業者には理解されている。プロモーターと同様に、「プロモーターエレメント」は、転写を刺激するが、より大きなプロモーター配列の細断片を構成する。
【0076】
[0083] 「作動可能に連結された」という用語は、1つのベクター上の2つ以上の核酸断片が、一方の機能が他方の機能によって影響を受けるように結合されていることを指す。例えば、プロモーターが、コード配列、即ち、タンパク質又はプレタンパク質をコードするヌクレオチド配列と作動可能に連結しているのは、上記コード配列の発現に影響を与えることができる場合、即ち、コード配列がプロモーターの転写制御下にあるときである。
【0077】
[0084] 「翻訳後プロセシング」又は「翻訳後修飾」という用語は、細胞内又は細胞外コンパートメント内で成熟タンパク質を得るために、プレタンパク質又はプレプロタンパク質が供される修飾ステップを示す。
【0078】
[0085] 「シグナルペプチド」とは、分泌可能なタンパク質のプレタンパク質又はプレプロタンパク質形態で存在する、アミノ酸の切断可能なシグナル配列のことである。細胞膜を介して輸送される、即ち、「分泌される」タンパク質は、一般に、疎水性アミノ酸が豊富な、典型的には約15~30アミノ酸長のN末端配列を有する。場合によっては膜を通過する過程で、シグナル配列はシグナルペプチダーゼによって切断される(Alberts, B., Johnson, A., Lewis, J., Raff, M., Roberts, K., Walter, P. (eds), Molecular Biology of the Cell, fourth edition, 2002, Garland Science Publishing)。シグナルペプチドの多くの供給源は当業者に周知であり、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来のα-因子シグナルペプチドのアミノ酸配列などを挙げることができる。一般に、本質的に任意の分泌タンパク質から成るプレタンパク質N末端は、本開示での使用に適したシグナルペプチドの潜在的供給源である。シグナルペプチドはまた、プレタンパク質を第1及び第2の細胞コンパートメントに誘導する2つのシグナルペプチドを含む二部構成であってもよい。二部シグナルペプチドは、分泌経路の過程で段階的に切断される。
【0079】
[0086] N末端シグナルペプチドを有するプレタンパク質は、「分泌経路」に進入するように誘導される。分泌経路は、翻訳後プロセシングの工程を含み、最終的にタンパク質の分泌をもたらす。グリコシル化及びジスルフィド結合の形成は、分泌の前の分泌経路の一部をなす工程である。
【0080】
[0087] 「実質的に同一」という用語は、2つのポリペプチド配列が好ましくは少なくとも75%同一であり、より好ましくは少なくとも85%同一であり、最も好ましくは少なくとも95%同一であり、例えば、96%、97%、98%又は99%同一であることを意味する。2つのポリペプチド配列間の同一性のパーセンテージを決定するために、該当する2つの配列のアミノ酸配列を、好ましくは、Clustal Wアルゴリズム(Thompson, J D, Higgins D G, Gibson T J, 1994, Nucleic Adds Res. 22 (22): 4673-4680を、BLOSUM 62スコアリングマトリックス(Henikoff S. and Henikoff J. G., 1992, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 10915-10919)と併用し、2つの配列間で最高レベルの一致が得られるように、ギャップオープニングペナルティ10及びギャップ伸長ペナルティ0.1を用いてアラインメントし、その際、両配列の一方の全長の少なくとも50%がアラインメントに関与する。配列のアラインメントに使用され得る他の方法は、2つの配列間で最高次の一致が得られ、2つの配列間で同一アミノ酸の数が決定されるように、Smith及びWaterman(Adv. Appl. Math., 1981, 2: 482)によって改訂された、Needleman及びWunsch(J. Mol. Biol., 1970, 48: 443)のアラインメント法である。2つのアミノ酸配列間の同一性のパーセンテージを計算する他の方法は、一般に公知であり、そうした方法として、例えば、Carillo及びLipton(SIAM J. Applied Math., 1988, 48:1073)によって記載されているもの、並びにComputational Molecular Biology, Lesk, e.d. Oxford University Press, New York, 1988, Biocomputing:Informatics and Genomics Projectsに記載されているものが挙げられる。一般に、このような計算にはコンピュータープログラムが使用されることになる。これに関して使用され得るコンピュータープログラムとして、限定されないが、GCG(Devereux et al., Nucleic Adds Res., 1984, 12:387)、BLASTP, BLASTN及びFASTA(Altschul et al., J. Molec. Biol., 1990:215:403)が挙げられる。
【0081】
[0088] 「少なくとも中程度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」とは、溶液中で2つの相補的核酸分子同士の選択的ハイブリダイゼーションを促進する条件が選択されることを意味する。ハイブリダイゼーションは、核酸配列分子の全部又は一部に対して起こり得る。ハイブリダイゼーション部分は、典型的に、少なくとも15(例えば、20、25、30、40又は50)ヌクレオチド長である。当業者であれば、核酸デュプレックス、又はハイブリッドの安定性は、Tmによって決定され、Tmは、ナトリウム含有緩衝液中で、ナトリウムイオン濃度と温度の関数である(Tm=81.5℃-16.6(Log10[Na+])+0.41(%(G+C)-600/1)、又は類似の式)ことが認識されよう。従って、ハイブリッドの安定性を決定する洗浄条件のパラメーターは、ナトリウムイオン濃度と温度である。ハイブリダイゼーション条件に関するさらなるガイダンスについては、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, N.Y., 1989, 6.3.1.-6.3.6 and in: Sambrook et al., Molecular Cloning, a Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989, Vol. 3を参照されたい。
【0082】
【表1】
【0083】
[0089] 本明細書で核酸配列に関して使用される「キメラ」という用語は、天然では連結していない少なくとも2つの連結した核酸配列を指す。キメラ核酸配列は、異なる天然起源の連結した核酸配列を含む。キメラ核酸配列はまた、天然では連結していないことを条件として、同じ天然起源の核酸配列を含んでいてもよい。例えば、特定の細胞型から得られたプロモーターを構成する核酸配列は、その同じ細胞型から得られたポリペプチドをコードする核酸配列と連結されていてもよいが、通常、プロモーターを構成する核酸配列とは連結していない。キメラ核酸配列には、任意の非天然核酸配列に連結した任意の天然核酸配列を含む核酸配列も含まれる。
【0084】
[0090] 本明細書には、哺乳動物細胞におけるインスリン及び/又はインスリンアナログ又はその誘導体の組換え生産のための新規な方法が開示される。本明細書に記載の方法は、宿主細胞において可溶性タンパク質としての組換えインスリン及び/又はインスリンアナログ発現の増加をもたらすと共に、封入体からの抽出又はインビトロでのリフォールディング若しくはジスルフィドシャッフリングステップを必要としない、条件及び試薬の具体的な組合せを記載する。本明細書に開示される方法によってもたらされる1つの利点は、宿主細胞の可溶性画分中で適正に折り畳まれ、プロセシングされたインスリン及び/又はインスリンアナログタンパク質の産生が増加するため、短時間、且つ簡略化されたタンパク質抽出及び精製スキームを使用できることである。
【0085】
[0091] 図1は、インスリン生産の歴史を描いており、さらに本開示の方法によるインスリンアナログの4ステップ合成戦略の概略も示している。組換えヒトインスリンは、1980年に初めてヒトでの臨床試験に入った。当時、インスリン分子のA鎖及びB鎖は大腸菌(Escherichia coli)において個別に生産された後、化学的技法により結合された(Frank et al ., 1981)。1986年以降、別の組み換え法が使用されている。A鎖とB鎖を含むプロインスリンをコードするヒトの遺伝子を、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)(Thim et al ., 1986)又はピキア・パストリス(Pichia pastoris)(Wang et al, 2001)に挿入する。連結ペプチドをプロインスリンから酵素により切断すると、ヒトインスリンが形成される。しかし、これらの手順は全て、所望されるより収率が低く、しかもコストが高いという問題を抱えている。本開示は、哺乳動物細胞におけるインスリンの生産のための改良された手順に関する。本開示によれば、A鎖、B鎖及びCペプチドを哺乳動物細胞においてベクター中で共発現させて、適正なフォールディング及び細胞からのインスリンの分泌を可能にする。A鎖とB鎖はインスリン分子を構成し、Cペプチドは、2つの鎖をつなぎ合わせる連結ペプチドである。ベクター発現系にプロインスリンのCペプチドを含有させることにより、アミノ酸配列の効率的且つ迅速な読取り及び翻訳、インスリン分子の適正なフォールディング及び安定性、タンパク質損失の低減、並びにインスリン生産量の改善を確実にすることができる。プロインスリンがプロテアーゼによって切断されると、A鎖及びB鎖がCペプチドから分離され、インスリンの形成及び放出を可能にする。同じベクター又は別のベクターにおける共発現によりPC1/3、PC2及び/又はCPEなどのプロテアーゼを細胞に付加することによって、好適な切断及び/又はトリミンを確実にして、十分に機能性のインスリンを産生させる。いくつかの態様では、A鎖及びB鎖とCペプチドを含むプロインスリン、並びにプロインスリンを機能性インスリンに修飾する1つ又は複数の薬剤をコードするベクターが哺乳動物細胞株に導入される。別の態様では、2つのベクター(一方は、A鎖及びB鎖並びにCペプチドを含むプロインスリンをコードし、他方は、プロインスリンを機能性インスリンに修飾する1つ又は複数の薬剤をコードする)を哺乳動物細胞株に共導入する。十分に機能性のインスリンが細胞から分泌され、細胞を溶解することなく、それを採取する。
【0086】
[0092] 本出願の方法は、先行技術に対して重要な利点を有する。本開示のインスリン産生細胞は、機能性インスリンを連続的に分泌することができる。十分に機能性のインスリンの連続的分泌により即座の捕捉と精製が可能になり、工程を完全自動化する閉ループシステムを可能にする。1つの例示的な非限定的実施形態によれば、インスリン産生細胞を維持し、分泌されたインスリンを捕捉するために、灌流バイオリアクターとマルチカラムクロマトグラフィーとを含み、全体を通して材料の連続フローを備える統合ユニットが提供される。バイオリアクターは、設定速度で灌流され、その廃液は精製トレインに直接供給されるため、生成物の需要を満たすように、同様の、又は延長された時間枠にわたって、周期的若しくは連続的なインスリン収集を達成する。連続製造プロセスの詳細は、Chiang, et al, Biotechnology and Bioengineering. 2019 and Lute et al, Biotechnol Progress. 2020に記載されており、これら各々の内容は、あらゆる目的のために参照により明示的に本明細書に組み込まれる。本開示のインスリン生産手順は、現行技術の断続的な生産プロセスとは対照的に、連続プロセスである。連続製造は、プロセシング時間の短縮、手作業による介入の軽減、需要に応じた生産量の単純且つ迅速な調整、並びにより小型又は少数のタンク、バイオリアクター、及びカラムの使用による設備サイズの縮小を可能にする。例えば、施設のサイズは、複数のタンクの代わりに1つのタンクを使用することにより、巨大な工場のホールとは対照的に、居間の大きさまで縮小することができる。本発明の技術により、インスリンの生産期間は数ヶ月から1~4週間へと大幅に短縮される。
【0087】
[0093] 特定の態様では、本開示は、インスリンアナログをコードする組換え核酸、インスリンアナログを含む発現ベクター、変異体核酸及び/又は発現ベクターを含む宿主細胞、並びに変異体タンパク質を産生する方法を提供する。
【0088】
[0094] 従って、本開示は、インスリン及び/又はインスリンアナログを哺乳動物宿主細胞で生産するプロセス又は方法に関し、これは、より高収率のインスリン及び/又はインスリンアナログを提供するために、高価で時間のかかる下流の精製及びプロセシングステップを回避し、それにより、コストを削減して、インスリン、インスリンアナログ及び/又はその誘導体をより手頃な価格にする。
【0089】
[0095] その前駆体であるプレプロインスリン及びプロインスリンを介したインスリンの生合成は、膵β細胞における十分な量のインスリンの産生を確実にする重要なプロセスの1つである。Steiner D., Chan, S. & Rubenstein, A. (2000) in Handbook of Physiology, The Endocrine System, eds.Jefferson, L. & Cherrington, A. (Oxford Univ. Press, New York), Vol. II, pp. 49-77, Goodge K. A. & Hutton, J. C. (2000) Semin.Cell.Dev.Biol.11, 235-242を参照されたい。プロインスリンからインスリンへの効率的な変換には、B鎖とA鎖をつなぐ連結セグメントを両接合部で切断して、インスリンとC-ペプチドを放出する必要がある。これらの産物は通常、成熟分泌顆粒(インスリン関連物質全体の>95%)内に貯蔵され、グルコース及びその他の刺激に反応して起こる分泌を待っている。図2Aに示すように、最初のプロセシング切断は、B鎖とA鎖の接合部において、それぞれ残基32と33(R↓E)及び残基65と66(R↓G)の間で起こる。神経内分泌転換酵素PC1/3(SPC3)及びPC2(SPC2)によるこれらの部位の各々の認識(Seidah N. G. & Chretien, M. (1999) Brain Res.848, 45-62, Zhou A., Webb, G., Zhu, X. & Steiner, D. F. (1999) J. Biol.Chem.274, 20745-20748)は、上流の4~6残基と、下流の少なくとも2残基との、つまり、ヒトのプロインスリンでは、これら2つの部位を囲んで、残基27~34と60~67の相互作用を必要とする。R31-R32によってB鎖C末端で伸長されたインスリンと、K64-R65によってC末端で伸長されたCペプチドと、から成る最初の切断産物は、次に、カルボキシペプチダーゼE(CPE)によるこれらの塩基性残基の除去によってトリミングされて(L. Fricker L. (1988) Annu.Rev.Physiol.50,309-321.pmid:2897826)、成熟β細胞分泌産物が得られる。これらのコンバーターゼとCPEは、主に、制御された分泌経路の成熟有芯顆粒内で作用する。
【0090】
[0096] 図2Bは、いくつかのインスリンアナログの構造を例示する。インスリンリスプロ及びインスリンアスパルト(aspart)は、タンパク質工学の結果として自己会合を減少させた超速効型アナログである。インスリンリスプロでは、インスリンB鎖末端のリジン-プロリン(Lys-Pro)配列が逆転し、それにより立体障害、及び自己会合能の低下が起こる。インスリンアスパルトは、アミノ酸の変化(Pro B28からアスパラギン酸Aspへ)を組み入れ、これも、B鎖のカルボキシル末端の局所的な構造変化により、電荷反発及び立体障害を生成する。インスリングラルギンは、等電点を改変するように、B鎖の末端に2つの追加アルギニン分子(Arg B31とArg B32)を含む長時間作用型インスリンである。分子を安定化するために、A21(A鎖)のグリシン置換が実施された。インスリンデテミル(detemir)は、Lys B29のε-アミノ基のアシル化を含むもう1つの長時間作用型インスリンである。アシル化は、インスリンとアルブミンとの可逆的結合を促進し、それにより、皮下組織からのその吸収及び骨格筋の毛細血管内皮を介した輸送を遅延させる。
【0091】
[0097] 以前のインスリン製造法では、A鎖及びB鎖を個別にコードするベクターを適切な宿主細胞にトランスフェクトすることにより、A鎖とB鎖を生産した。次に、2つの鎖を精製した後、混合し、還元-酸化反応を介したジスルフィド結合により連結させてから、精製に付す。精製ステップは、クロマトグラフィー、又は分離、即ち、分子の電荷、サイズ、及び水に対する親和性の差を利用する技術によって達成される。用いられる手順としては、イオン交換カラム、逆相高速液体クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィーカラムが挙げられる。或いは、生合成ヒトインスリンとそのアナログを、一本鎖融合タンパク質の形質転換によって生産する。これらの薬剤を生産する方法は、多くの特許明細書及び科学刊行物に一般に記載されており、プレプロインスリン、即ち、リーダータンパク質及びプロインスリン、つまり、インスリンB鎖(又はその誘導体)、リンカーペプチド及びインスリンA鎖(又はその誘導体)から成るハイブリッドポリペプチドをコードする遺伝子の過剰発現に基づいている。融合タンパク質が単離されると、次の製造ステップは、リーダータンパク質とリンカーペプチドの除去、続いて、純粋なホルモンの単離である。
【0092】
[0098] 特定の態様では、本開示は、ヒトインスリンアナログ及び/又はその誘導体の前駆体ペプチド又は修飾プロインスリンペプチドをコードする異種核酸配列を含む宿主細胞を培養することによる、組換え機能性ヒトインスリンアナログ又はその誘導体の生産方法を提供する。いくつかの態様では、ヒトインスリンアナログ又はその誘導体の前駆体ペプチドをコードする核酸配列は、修飾プロインスリン又はその誘導体を機能性インスリンアナログ又はその誘導体にプロセシングするための1つ若しくは複数の薬剤をさらにコードする。いくつかの態様では、ヒトインスリンアナログ又はその誘導体の前駆体は、ヒトインスリン又はそのアナログのB鎖、ヒトインスリン又はそのアナログのA鎖、及びB鎖とA鎖を連結するCペプチドを含む。
【0093】
[0099] 好ましい異種核酸は、プロインスリンポリペプチドをコードする。特定の態様では、異種核酸配列は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、及び配列番号4(表2)に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも約85%(即ち、少なくとも約85%、86%、87%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれ以上)の同一性を有する修飾プロインスリンポリペプチドをコードする。いくつかの態様では、異種核酸配列は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、及び配列番号4に記載されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする。いくつかの態様では、修飾プロインスリンポリペプチドは、インスリンA鎖、インスリンB鎖、及びA鎖とB鎖を連結するCペプチドを含む。いくつかの態様では、インスリンA鎖は、配列番号9、11又は13に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも約85%(即ち、少なくとも約85%、86%、87%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくはそれ以上)の同一性を有する配列を含む。いくつかの態様では、インスリンB鎖は、配列番号11、13又は15に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも約85%(即ち、少なくとも約85%、86%、87%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくはそれ以上)の同一性を有する配列を含む。
【0094】
【表2】
【0095】
[00100] 特定の態様では、修飾プロインスリンを機能性インスリンアナログ又はその誘導体にプロセシングするための1つ若しくは複数の薬剤は、1つ若しくは複数のエンドプロテアーゼ及びカルボキシペプチダーゼEを含む。いくつかの態様では、エンドプロテアーゼは、プロホルモンコンベルターゼ1/3(PC1/3)及びプロホルモンコンベルターゼ2(PC2)を含む。カルボキシペプチダーゼ酵素は、B鎖のC末端伸長を効率的に除去することができる任意のカルボキシペプチダーゼ酵素であってもよい。好適な酵素は、カルボキシペプチダーゼY酵素(CPY)又はその変異体である。特定の態様では、哺乳動物宿主細胞は、修飾プロインスリンを機能性インスリンアナログ又はその誘導体にプロセシングするための1つ若しくは複数の薬剤を発現するように修飾される。いくつかの態様では、1つ若しくは複数の薬剤は、配列番号5、配列番号6、配列番号7、及び配列番号8に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも約85%(即ち、少なくとも約85%、86%、87%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれ以上)の同一性を有する。特定の態様では、1つ又は複数の薬剤は、配列番号5、配列番号6、配列番号7、及び配列番号8に記載されるアミノ酸配列を有する。
【0096】
【表3】
【0097】
【表4】
【0098】
[00101] 本開示によれば、目的のインスリンアナログをコードする核酸は、単離され、クローン化され、多くの場合、組換え法を用いて改変される。このような態様は、限定されないが、タンパク質発現の目的で、又はインスリンポリペプチドに由来する変異体、誘導体、発現カセット、若しくはその他の配列の生成工程中に使用される。
【0099】
[00102] いくつかの態様では、本発明のポリペプチドをコードする配列は、異種プロモーター、例えば、強力な構成性プロモーターに作動可能に連結されている。多くの哺乳動物細胞型における発現を駆動する強力な構成性プロモーターとして、限定されないが、アデノウイルス主要後期プロモーター、ヒトサイトメガロウイルス最初期プロモーター、SV40及びラウス肉腫ウイルスプロモーター、並びにマウス3-ホスホグリセレートキナーゼプロモーターのEF1αが挙げられる。
【0100】
[00103] 本明細書に提供される方法及び組成物に従って使用され得るインスリンアナログ又はその誘導体をコードする核酸配列は、任意のプロインスリン及びプレプロインスリン及び/又はそれらそれぞれのアナログ形態などのインスリンアナログポリペプチドをコードする任意の核酸配列であってもよい。特定の態様では、核酸は、1つ若しくは複数の置換、付加、欠失、又は挿入を含み得る。遺伝暗号の冗長性のために、核酸変異体は、アミノ酸配列に影響を及ぼすこともあれば、及ぼさないこともある。インスリンアナログ、プロインスリン及びプレプロインスリン及び/又はそれら各々のアナログ形態をコードする例示的な核酸配列は、当技術分野において周知であり、一般に、ヒトを含む様々な哺乳動物供給源から容易に入手可能である(Bell, G. I. et al., 1980, Nature 284:26-32)。インスリンポリペプチドをコードする別の核酸配列を単離するための代替方法を使用してもよく、新規な配列を見出し、それを本開示に従って使用してもよい。好ましい態様では、インスリンアナログ又はその誘導体をコードする核酸配列は、ヒトインスリンである。インスリンアナログ及び/又はそのインスリン前駆体アナログ若しくは誘導体をコードする核酸配列は、ゲノム又はcDNA由来であってもよく、これは、例えば、ゲノム又はcDNAライブラリーを調製し、標準的な技術に従い、合成オリゴヌクレオチドプローブを用いたハイブリダイゼーションによりポリペプチドの全部又は一部をコードする核酸配列をスクリーニングすることによって取得することができる(例えば、Sambrook, J, Fritsch, E F and Maniatis, T, Molecular Cloning:A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, 1989を参照)。インスリンアナログ及び/又はインスリンアナログ前駆体又はその誘導体をコードする核酸配列はまた、確立された標準的方法、例えば、Beaucage and Caruthers, Tetrahedron Letters 22 (1981), 1859-1869により記載されるホスホアミダイト法、又はMatthes et al., EMBO Journal 3 (1984), 801-805により記載される方法によって、合成により調製され得る。また、例えば、米国特許第4,683,202号又はSaiki et al., Science 239 (1988), 487-491に記載されているような特異的プライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応によって核酸配列を調製することもできる。
【0101】
[00104] 非天然のコード化アミノ酸を含むインスリンアナログをコードするヌクレオチド配列は、限定されないが、配列番号1、配列番号2、配列番号3、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列を有するものを含む親ポリペプチドのアミノ酸配列に基づいて合成することができ、次に、関連するアミノ酸残基の導入(即ち、組込み若しくは置換)又は除去(即ち、欠失若しくは置換)をもたらすようにヌクレオチド配列を変更する。ヌクレオチド配列は、常用の方法に従う部位特異的変異誘発により好都合に修飾することができる。或いは、限定されないが、オリゴヌクレオチド合成装置の使用を含め、化学合成によりヌクレオチドを調製してもよく、この場合、オリゴヌクレオチドは、所望のポリペプチドのアミノ酸配列に基づいて設計され、好ましくは、組換えポリペプチドが産生されることになる宿主細胞において有利なコドンを選択する。
【0102】
[00105] 多数のインスリンアナログが先行技術に知られており(例えば、米国特許第5,461,031号;同第5,474,978号;同第5,164,366号及び同第5,008,241号を参照されたい)、それらを本開示に従って使用してもよい。本明細書において使用され得るアナログとしては、B鎖のアミノ酸残基28(B28)がその天然のプロリン残基からアスパラギン酸、リジン又はイソロイシンに変更された、ヒトインスリン分子が挙げられる。特定の態様では、B29のリジン残基はプロリンに修飾される。さらに、A21のアスパラギンは、アラニン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン又はバリンに変更され得る。本明細書において使用され得るインスリンアナログのさらに別の例としては、B30残基が欠失したヒトインスリン(「desB30」又は「B(1-29)」と呼ばれることも多い);最後の3アミノ酸残基が欠失したインスリン「B(1-27)」;B1のフェニルアラニン残基が欠失したインスリン分子;及びA鎖又はB鎖がN末端又はC末端伸長を有するアナログ(例えば、B鎖は、2つのアルギニン残基の付加によってN末端で伸長され得る)が挙げられる。本開示は、組換え遺伝学の分野における日常的な技術を利用する。本発明で使用する一般的な方法を開示している基本的なテキストには、Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual (3rd ed. 2001);Kriegler, Gene Transfer and Expression:A Laboratory Manual(1990);及びCurrent Protocols in Molecular Biology(Ausubel et al., eds., 1994))が挙げられる。
【0103】
[00106] 分子生物学的技術を説明する一般的なテキストとしては、Berger and Kimmel, Guide to Molecular Cloning Techniques, Methods in Enzymology volume 152 Academic Press, Inc, San Diego, Calif. (Berger)、Sambrook et al., Molecular Cloning A Laboratory Manual (2nd Ed.), Vol.1-3, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, N.Y.. 1989 (“Sambrook”)及びCurrent Protocols in Molecular Biology, F. M. Ausubel et al., eds., Current Protocols, a joint venture between Greene Publishing Associates, Inc. and John Wiley & Sons, Inc., (supplemented through 1999) (“Ausubel”))が挙げられる。これらのテキストには、変異誘発、ベクター、プロモーターの使用、並びに限定されないが、非天然アミノ酸、直交tRNA、直交シンテターゼ、及びそれらのペアを含むタンパク質を生産するためのセレクターコドンを含む遺伝子又はポリヌクレオチドの生成などに関連する他の多くの関連トピックが記載されている。
【0104】
[00107] 本明細書で論じられる「操作エレメント」には、少なくとも1つのプロモーター、少なくとも1つのオペレーター、少なくとも1つのリーダー配列、少なくとも1つのシャイン・ダルガーノ(Shine-Dalgarno)配列、少なくとも1つのターミネーターコドン、及びベクターDNAの適切な転写及びその後の翻訳に必要な、又は好ましい他の任意のDNA配列が含まれる。特に、このようなベクターは、少なくとも1つの選択マーカー及び合成DNA配列の転写を開始することができる少なくとも1つのプロモーター配列と一緒に、宿主微生物によって認識される少なくとも1つの複製起点を含むことが企図される。さらに、一態様では、ベクターが、調節因子として機能することができる特定のDNA配列、及び調節タンパク質をコードすることができる他のDNA配列を含むことが好ましい。これらの調節因子は、一態様では、特定の環境条件の存在下ではDNA配列の発現を阻止し、他の環境条件の存在下ではDNA配列によってコードされるタンパク質の転写及びその後の発現を可能にする役割を果たす。
【0105】
[00108] これに従って、少なくとも1つのインスリンアナログ又はその誘導体をコードする核酸配列は、哺乳動物宿主細胞におけるインスリンポリペプチドの発現を制御することができるプロモーターに連結される。或いは、インスリンアナログ又はその誘導体をコードする核酸配列、及び修飾されたプロインスリンを機能性インスリンアナログ又はその誘導体にプロセシングするための1つ若しくは複数の薬剤をさらにコードする核酸配列は、哺乳動物宿主細胞においてインスリンポリペプチドの発現を制御することができるプロモーターに連結される。
【0106】
[00109] プロモーターは、選択した宿主細胞において転写活性を示し、宿主細胞に対して同種又は異種のタンパク質をコードする遺伝子に由来する任意のDNA配列であってよく、変異型、短縮型、及びハイブリッドプロモーターが含まれる。プロモーターは、宿主細胞に対して同種又は異種の細胞外又は細胞内ポリペプチドをコードする遺伝子から取得され得る。従って、本開示はまた、哺乳動物宿主細胞における発現を制御することができるプロモーターに連結されたインスリンアナログ又はその誘導体をコードするキメラ核酸配列を提供する。本明細書で使用され得るプロモーターは、当技術分で一般に認識されるものであり、哺乳動物細胞におけるポリペプチドの発現を制御することができる任意のプロモーターを含む。本明細書では、インスリンアナログポリペプチド又はその誘導体の発現を増強することができる特定の遺伝子エレメントを使用することができる。
【0107】
[00110] 特定の態様では、インスリンアナログポリペプチド又はその誘導体をコードし、修飾プロインスリンを機能性インスリンアナログ又はその誘導体にプロセシングするための1つ若しくは複数の薬剤をコードする核酸配列に連結された、哺乳動物宿主細胞における発現を制御することができるプロモーターを含むキメラ核酸配列は、哺乳動物細胞における良好な発現を確実にする組換え発現ベクターに組み込むことができる。いくつかの態様では、プロインスリンアナログポリペプチド又はその誘導体をコードすると共に、修飾プロインスリンを機能性インスリンアナログ又はその誘導体にプロセシングするための1つ若しくは複数の薬剤をさらにコードする核酸配列に連結された、哺乳動物宿主細胞における発現を制御することができるプロモーターを含むキメラ核酸配列は、哺乳動物細胞における良好な発現を確実にする組換え発現ベクターに組み込むことができる。
【0108】
[00111] いくつかの態様では、本開示による組換え発現ベクターは、プロインスリンポリペプチドと、プロインスリンを機能性インスリンアナログ又はその誘導体にプロセシングするための薬剤を連結する切断可能なリンカーをコードする核酸配列を含む。切断可能なリンカーは、タンパク質若しくはポリペプチドの生成後に切断されるペプチド、ポリペプチド、又はポリペプチドの一部であってもよい。特に、切断可能なリンカーは、自己切断可能な、自己切断、自己切断ペプチド又はリンカーであり、これらの用語は、本明細書において互換的に使用される。一態様では、切断可能なリンカーは、2Aペプチドを含む。「2A」又は「2A様」配列は、ペプチド結合スキッピングを引き起こすことができるペプチドの大きなファミリーの一部である。特に、2Aを介した「自己切断」のメカニズムは、2AペプチドのC末端でのグリシル-プロリルペプチド結合の形成をリボソームがスキッピングすることであることが最近発見された。2A-ペプチド媒介による切断は翻訳後に始まる。スキッピング及び翻訳の再開が成功すると、2つの「切断された」タンパク質が生じる:2A上流のタンパク質は、C末端のプロリン以外は完全な2Aペプチドに結合しており、2A下流のタンパク質はN末端の1つのプロリンに結合している。いくつかの2Aペプチドがピコルナウイルス、昆虫ウイルス、及びC型ロタウイルスで同定されている。本開示による切断可能なリンカーの例としては、例えば、Kim et al.(2011) PLoS ONE及びLiu et al (2017) Sci Rep. 2017に記載されているように、限定されないが、ブタテスコウイルス-1 2A(P2A)、FMDV 2A(F2A);ウマ鼻炎Aウイルス(ERAV)2A(E2A);及びゾセア・アシグナ(Thosea asigna)ウイルス2A(T2A)、細胞質ポリヘドロシスウイルス2A(BmCPV2A)及び軟化病ウイルス(flacherie Virus)2A(BmIFV2A)、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0109】
[00112] 本明細書に開示される異種核酸配列を含み、哺乳動物宿主細胞での使用に適した発現ベクターの選択及び構築は、当技術分野で知られている。発現ベクターは通常、DNA複製のプラスミド起点、選択可能マーカー(例えば、抗生物質選択マーカー又はeGFP)、並びにマルチクローニング部位(発現カセット)と、少なくとも1つのリボソーム結合部位をコードするDNA配列とによって分離されたプロモーター及び転写ターミネーターを含む。異種核酸(目的の遺伝子、例えば、インスリンアナログポリペプチド又はその誘導体をコードする核酸配列)の転写は、通常、制御されたプロモーターによって制御され、これにより、細胞増殖を産物合成から分離することが可能になるため、タンパク質が構成的に発現される場合よりも高い収量が得られる。
【0110】
[00113] 組換え発現系は、真核生物宿主から選択される。特定の態様では、真核宿主は、哺乳動物細胞を含む。組換えタンパク質の発現に使用される哺乳動物細胞の市販品は、細胞の使用法の説明書も提供する。発現系の選択は、発現ポリペプチドに要望される特徴に依存する。
【0111】
[00114] 本明細書においてタンパク質又はポリペプチドを説明するために使用される「組換え体」という用語は、組換えポリヌクレオチドの発現によって産生されるポリペプチドを意味する。本明細書において細胞に関して使用される「組換え体」という用語は、組換えベクター又は他の移入DNAのレシピエントとして使用され得るか、又は使用された細胞を意味し、トランスフェクトされた元の細胞の子孫を含む。単一親細胞の子孫は、偶発的又は意図的な変異により、形態、又はゲノム若しくは全DNA補体が元の親細胞と完全に同一でない場合があることを理解されたい。所望のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の存在など、関連する特性によって特性決定するのに親と十分に類似している親細胞の子孫もまた子孫とみなされる。
【0112】
[00115] 従って、本開示は、作動可能に連結された構成要素として、転写の5’から3’方向に:(i)哺乳動物細胞における発現を制御することができる核酸配列と;(ii)プロインスリンポリペプチド又はその誘導体をコードする核酸配列と、を含む組換え発現ベクターであって、上記発現ベクターが、哺乳動物宿主細胞における発現に適している、組換え発現ベクターを含む。従って、本開示はまた、作動可能に連結された構成要素として、転写の5’から3’方向に:(i)哺乳動物宿主細胞における発現を制御することができる核酸配列と;(ii)少なくとも1つのプロインスリンポリペプチド又はその誘導体をコードする核酸配列と;(iii)修飾プロインスリンを機能性インスリンアナログ又はその誘導体にプロセシングするための1つ若しくは複数の薬剤をコードする核酸配列と、を含む組換え発現ベクターであって、上記発現ベクターが、哺乳動物宿主細胞における発現に適している、組換え発現ベクターを含む。
【0113】
[00116] インスリンアナログ又はその誘導体を宿主細胞の分泌経路に誘導するために、分泌シグナル配列(リーダー配列、プレプロ配列又はプレ配列としても知られている)を発現ベクターに賦与してもよい。分泌シグナル配列は、プロインスリンをコードするDNA配列と正しいリーディングフレーム内で結合される。分泌シグナル配列は、一般にペプチドをコードするDNA配列の5’に位置する。シグナルペプチドは、天然に存在するシグナルペプチド、又はその機能性部分であってもよいし、合成ペプチドであってもよい。従って、いくつかの態様では、本開示の発現ベクターは、プロインスリンポリペプチドをコードする核酸配列のN末端にシグナルペプチドをコードする核酸配列をさらに含む。本開示のシグナルペプチドは、細胞がインスリン分子を分泌することを可能にし、分泌プロセス中に成熟分子から除去される。表4は、哺乳動物細胞で発現される組換えタンパク質の効率的分泌のために一般的に使用されるシグナルペプチド配列をいくつか列挙したものである。
【0114】
【表5】
【0115】
[00117] いくつかの態様では、本開示の発現ベクターは、転写の5’から3’方向に、融合タンパク質を生成するようにポリペプチドに連結されたN末端融合パートナーをコードする核酸配列をさらに含む。特定の態様では、融合パートナーは、翻訳中には存在するが、タンパク質輸出中にフーリンなどの細胞内プロテアーゼによって切断され、それにより、目的のポリペプチドを放出する。N末端融合パートナーの非限定的な例としては、ヒトシデロカリン(SCN)、マウスシデロカリン、ニワトリEx-FABP、又はウズラQ83が挙げられる。SCN融合により、タンパク質のフォールディング増強及び迅速なタンパク質発現が促進される。SCN融合タンパク質の生産に関する詳細は、米国特許第10,156,559号に記載されており、その内容は、あらゆる目的のために、その全体が参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0116】
[00118] 従って、いくつかの態様では、本開示は、作動可能に連結された構成要素として、転写の5’から3’方向に:(i)哺乳動物宿主細胞における発現を制御することができる核酸配列;(ii)インスリンアナログ又はその誘導体の効率的分泌のためのシグナルペプチドをコードする核酸配列;(iii)任意選択で、N末端融合パートナーをコードする核酸配列;(iv)修飾プロインスリンポリペプチドをコードする核酸配列;及び(v)修飾プロインスリンを機能性インスリンアナログ又はその誘導体にプロセシングするための1つ又は複数の薬剤をコードする核酸配列、を含む発現ベクターを提供する。いくつかの態様では、修飾プロインスリンを機能性インスリンアナログ又はその誘導体にプロセシングするための薬剤は、プロホルモンコンベルターゼ1/3(PC1/3)、PC2及びカルボキシペプチダーゼE(CPE)からなる群から選択される。いくつかの態様では、修飾プロインスリンを機能性インスリンリスプロ(lispro)又はその誘導体にプロセシングするための薬剤は、PC1/3及びCPE、並びに任意選択で、PC2を含む。別の態様では、修飾プロインスリンを機能性インスリングラルギン(glargine)又はその誘導体にプロセシングするための薬剤は、PC1/3及び任意選択でPC2を含む。
【0117】
[00119] いくつかの態様では、本開示は、第1及び第2の発現ベクターを提供する。いくつかの態様では、第1の発現ベクターは、作動可能に連結された構成要素として、転写の5’から3’方向に(i)哺乳動物細胞における発現を制御することができる核酸配列;(ii)インスリンアナログ又はその誘導体の効率的分泌のためのシグナルペプチドをコードする核酸配列;(iii)任意選択で、N末端融合パートナーをコードする核酸配列;及び(iv)修飾プロインスリンポリペプチドをコードする核酸配列、を含む。別の態様では、第2の発現ベクターは、作動可能に連結された構成要素として、転写の5’から3’方向に(i)哺乳動物細胞における発現を制御することができる核酸配列;及び(ii)修飾プロインスリンを機能性インスリンアナログ又はその誘導体にプロセシングするための1つ若しくは複数の薬剤をコードする核酸配列、を含む。いくつかの態様では、修飾プロインスリンを機能性インスリンアナログ又はその誘導体にプロセシングするための薬剤は、PC1/3、PC2及びCPEからなる群から選択される。いくつかの態様では、修飾プロインスリン及び/又はプロインスリンアナログを機能性インスリンリスプロ(lispro)又はその誘導体にプロセシングするための薬剤は、PC1/3及びCPE、並びに任意選択で、PC2を含む。別の態様では、修飾プロインスリンを機能性インスリングラルギン(glargine)又はその誘導体にプロセシングするための薬剤は、PC1/3、及び任意選択でPC2を含む。
【0118】
[00120] いくつかの態様では、本開示は、インスリンアナログ及び/又はその誘導体を製造するための方法を提供し、この方法は、インスリンを発現及び分泌するコンピテント哺乳動物宿主細胞を生産すことを含み、これは、修飾プロインスリンポリペプチドと、修飾プロインスリンを機能性インスリンアナログ又はその誘導体にプロセシングするための1つ若しくは複数の薬剤を共発現する発現ベクターで宿主細胞を形質転換することを含む。別の態様では、本開示は、インスリンアナログ及び/又はその誘導体を製造するための方法を提供し、この方法は、インスリンを発現及び分泌するコンピテント哺乳動物宿主細胞を生産することを含み、これは、修飾プロインスリンポリペプチドを発現する第1の発現ベクター及び修飾プロインスリンを機能性インスリンアナログ又はその誘導体にプロセシングするための1つ若しくは複数の薬剤を発現する第2の発現ベクターで宿主細胞を形質転換することを含む。
【0119】
[00121] いくつかの態様では、本開示は、超速効型インスリンアナログ及び/又はその誘導体を製造する方法を提供し、この方法は、(i)哺乳動物宿主細胞における発現を制御することができる核酸配列;(ii)インスリンアナログ又はその誘導体の効率的分泌のためのシグナルペプチドをコードする核酸配列;(iii)任意選択で、N末端融合パートナーをコードする核酸配列;(iv)修飾プロインスリンポリペプチドをコードする核酸配列;(v)PC1/3をコードする核酸配列;(vi)CPEをコードする核酸配列;及び(vii)任意選択で、PC2をコードする核酸配列を含む発現ベクターで哺乳動物宿主細胞を形質転換することを含む。いくつかの態様では、超速効型インスリンアナログは、インスリンリスプロ(lispro)である。
【0120】
[00122] いくつかの態様では、本開示は、長時間作用型インスリンアナログ及び/又はその誘導体を製造する方法を提供し、この方法は、(i)哺乳動物宿主細胞における発現を制御することができる核酸配列;(ii)インスリンアナログ又はその誘導体の効率的分泌のためのシグナルペプチドをコードする核酸配列;(iii)任意選択で、N末端融合パートナーをコードする核酸配列;(iv)修飾プロインスリンポリペプチドをコードする核酸配列;(v)PC1/3をコードする核酸配列;及び(vi)任意選択で、PC2をコードする核酸配列を含む組換え発現ベクターで哺乳動物宿主細胞を形質転換することを含む。いくつかの態様では、長時間作用型インスリンアナログはインスリングラルギン(glargine)である。
【0121】
[00123] B鎖の末端に2つの追加アルギニン分子(Arg B31とArg B32)を含むインスリングラルギン(glargine)のような長時間作用型インスリンの生産には、内因性カルボキシペプチダーゼE活性をブロックして、2つの末端アルギニンを維持することが必要となり得る。従って、本開示は、内因性カルボキシペプチダーゼE(CPE)活性をブロックする任意のステップをさらに含む、長時間作用型インスリンアナログ及び/又はその誘導体の製造方法を提供する。いくつかの態様では、内因性カルボキシペプチダーゼE活性をブロックするステップは、発現又は活性の低減若しくは排除をもたらす欠失若しくは変異を内因性CPEに導入することを含む。いくつかの態様では、宿主細胞は、低減又は排除したCPE活性を有するCRISPR修飾宿主細胞であってもよい。このような宿主細胞は、例えば、CRISPRを用いてCPEの発現を低減若しくは排除することによって、又は触媒として不活性なCPEの発現を可能にすることによって生産することができる。例えば、配列番号9に記載される配列の202位のセリンを、例えば、プロリンに変異させてもよい。いくつかの態様では、CPE活性の低減又は排除は、条件的又は誘導性であってもよい(例えば、Cre依存性構築物の形態で)。いくつかの態様では、内因性カルボキシペプチダーゼE活性をブロックするステップは、配列番号9に記載される配列の72H、75E、147R、192H、202S、243Y、及び296Eからなる群より選択される位置に少なくとも1つの変異を有する変異CPEを哺乳動物宿主細胞において共発現させることを含む。いくつかの態様では、変異CPEをコードする核酸配列は、修飾プロインスリンポリペプチドを共発現する発現ベクターに含まれる。別の態様では、変異CPEをコードする核酸配列は、個別の発現ベクターに含まれる。いくつかの態様では、本開示は、触媒として不活性なCPEを発現する宿主細胞を提供し、ここで、CPEは、基質と結合するが、ペプチド結合を切断せず、その際、触媒として不活性なCPEは、配列番号9に記載される配列の72H、及び75E、147R、192H、202S、243Y、及び296Eからなる群から選択される位置に少なくとも1つの変異を有する。いくつかの態様では、内因性CPE活性をブロックするステップは、ドーパミン・キニーネ、ドーパミン、ノルエピネフリン、エピネフリン、ジャガイモカルボキシペプチダーゼ阻害剤(PCI)、CPI-2KRと呼ばれる9-merペプチド、及びデコイアルギニン配列をコードするペプチドからなる群より選択されるブロッキング剤を添加することを含む。本開示のデコイアルギニンペプチドは、3アミノ酸長で、長時間作用型インスリンのB鎖のC末端伸長部に対して少なくとも70%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列、例えば、配列番号15に記載の配列を有するポリマーを含む。デコイアルギニンペプチドは、長時間作用型インスリンのB鎖のC末端伸長を模倣して、内因性CPEと結合し、それにより内因性CPEがB鎖のC末端伸長を除去するのを阻止するように構成される。
【0122】
[00124] いくつかの態様では、本開示は、変異CPE又は変異CPEをコードするポリヌクレオチドを提供し、ここで、変異CPEは、触媒として不活性である。いくつかの態様では、変異CPEは、タンパク質に結合するが、タンパク質を加水分解しない。いくつかの態様では、変異CPEは、配列番号9に記載される配列の72H、75E、147R、192H、202S、243Y、及び296Eからなる群より選択される位置に少なくとも1つの変異を有する。
【0123】
[00125] 「哺乳動物宿主細胞での発現に適した」という用語は、組換え発現ベクターが、哺乳動物細胞での発現を達成するのに必要な遺伝要素に連結された本開示のキメラ核酸配列を含むことを意味する。組換えタンパク質の発現は、本来の宿主の外部では困難であることが多い。例えば、コドン使用頻度の偏りには、異なる種の細菌間でばらつきが観察されている(Sharp et al., 2005, Nucl.Acids.Res.33:1141-1153)。組換えタンパク質の過剰発現は、本来の宿主内でも困難な場合がある。本発明の特定の態様では、宿主細胞に導入される核酸は、タンパク質発現を増強するためにコドン最適化され得る。コドン最適化とは、DNAがコードするポリペプチドを変化させることなく、宿主生物の典型的なコドン使用頻度を反映するような、生物の形質転換のために核酸の遺伝子又はコード領域のコドンの改変を指す。
【0124】
[00126] この点で発現ベクターに含まれ得る遺伝子エレメントには、転写終結領域、ポリアデニル化シグナル、及び翻訳エンハンサー配列、マーカー遺伝子をコードする1つ又は複数の核酸配列、1つ又は複数の複製起点などが含まれる。特定の態様では、組換え発現ベクターは、ベクターが哺乳動物宿主細胞内で複製することを可能にするDNA配列をさらに含み得る。いくつかの態様では、発現ベクターは、ベクター又はその一部を哺乳動物宿主細胞の核ゲノムに組み込むために必要な遺伝子エレメントをさらに含む。
【0125】
[00127] 組換えベクターは、自己複製するベクター、即ち、染色体外実体として存在し、その複製が染色体の複製から独立しているベクター、例えば、プラスミド、染色体外エレメント、ミニ染色体、又は人工染色体であってもよい。ベクターは、自己複製を確実にする任意の手段を含んでいてもよい。或いは、ベクターは、宿主細胞に導入されるとゲノムに組み込まれ、それが組み込まれた染色体と一緒に複製されるものであってもよい。さらに、単一のベクター若しくはプラスミド、或いは宿主細胞のゲノムに導入される全DNAを一緒に含有する2つ以上のベクター若しくはプラスミド、又はトランスポゾンを使用することができる。ベクターは、直線状プラスミド又は閉環状プラスミドであってもよく、好ましくは、宿主細胞のゲノムへのベクターの安定な組込み、又はゲノムから独立した細胞内でのベクターの自律的複製を可能にするエレメントを含む。特定の態様では、組換え発現ベクターは、哺乳動物宿主細胞において複製することができる。宿主細胞への核酸配列の導入に適した組換えベクターとしては、哺乳動物発現系、例えば、レンチウイルスベースのベクター、pHEK293 Ultra発現ベクター、及びpEF1α-IRESが挙げられる。
【0126】
[00128] 宿主細胞は、本開示のポリヌクレオチド又は本開示のポリヌクレオチドを含む構築物(限定されないが、クローニングベクター又は発現ベクターであり得る本開示のベクターなど)で遺伝子操作される(限定されないが、形質転換、形質導入又はトランスフェクションを含む)。例えば、直交tRNA、直交tRNA合成酵素、及び誘導体化しようとするタンパク質のコード領域は、所望の宿主細胞において機能性の遺伝子発現制御エレメントに作動可能に連結される。ベクターは、例えば、プラスミド、コスミド、ファージ、細菌、ウイルス、ネイキッドポリヌクレオチド、又はコンジュゲートポリヌクレオチドの形態であってよい。ベクターは、標準的な方法によって細胞及び/又は微生物に導入されるが、そうした方法として、エレクトロポレーション(Fromm et al., Proc.Natl. Acad.Sci. USA 82, 5824 (1985))、ウイルスベクターによる感染、小ビーズ若しくは粒子のマトリックス内、又は表面上のいずれかに核酸を有する小粒子による高速弾道貫通(Klein et al., Nature 327, 70-73 (1987))などが挙げられる。インビトロでの細胞への核酸導入に適した技術としては、リポソームの使用、マイクロインジェクション、細胞融合、DEAE-デキストラン、リン酸カルシウム沈殿法などが挙げられる。インビボでの遺伝子導入技術としては、限定されないが、ウイルス(典型的にはレトロウイルス)ベクターによるトランスフェクション、ウイルスコートタンパク質-リポソーム媒介トランスフェクション[Dzau et al., Trends in Biotechnology 11:205-210(1993)]が挙げられる。状況によっては、核酸供給源に、細胞表面膜タンパク質又は標的細胞に特異的な抗体、標的細胞上の受容体に対するリガンドなど、標的細胞をターゲティングする薬剤を賦与することが望ましい場合もある。リポソームが使用される場合、エンドサイトーシスと関連する細胞表面膜タンパク質に結合するタンパク質を、ターゲティングのために、及び/又は取込みを促進するために使用してもよく、こうしたタンパク質として、例えば、特定の細胞型に向性のカプシドタンパク質若しくはその断片、循環中に内在化を経るタンパク質に対する抗体、細胞内局在化をターゲティングし、細胞内半減期を高めるタンパク質がある。
【0127】
[00129] 特定の態様では、本明細書に開示される方法に提供される宿主細胞は、哺乳動物宿主細胞である。核酸配列及び/又は組換え発現ベクターが導入される哺乳動物宿主細胞は、インスリン前駆体及び/又はインスリンアナログを発現することができる任意の哺乳動物細胞であってよく、そうした細胞として、限定されないが、HEK293、CHO、COS及びHeLa細胞が挙げられる。本開示はまた、藻類及び酵母から選択される宿主細胞を提供する。本明細書に開示される方法に提供される宿主細胞は、細胞質内での安定なジスルフィド結合の形成を可能にする遺伝子修飾を含んでいてもよい。
【0128】
[00130] 本開示の組換え発現ベクター、核酸配列及びキメラ核酸配列は、分子生物学の当業者に周知の方法に従って調製することができる。インスリン産物をコードするDNA配列、任意選択で、修飾プロインスリンを機能性インスリンアナログ又はその誘導体にプロセシングするための1つ若しくは複数の薬剤をコードする配列、プロモーター、及び任意選択でターミネーター及び/又は分泌シグナル配列をそれぞれ連結し、複製に必要な情報を含む適切なベクターに挿入するために使用される手順は、当業者に周知である(例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989を参照されたい)。このような調製には、典型的に、中間クローニング宿主として、限定されないが、細菌種:大腸菌(Escherichia coli)を必要とする。大腸菌(E. coli)ベクター並びに哺乳動物形質転換ベクターの調製は、制限消化、ライゲーション、ゲル電気泳動、DNA配列決定、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)及び他の方法など公知の技術を用いて達成され得る。これらの方法は、本開示が関連する核酸配列及びポリペプチドの連結を可能にする。組換え発現ベクターを調製するのに必要なステップを実施するために、多種多様なクローニングベクターが利用可能である。特定の態様では、上記の方法は、In-Fusionクローニングを含む。In-Fusionクローニングは、クローニングインサートと直線化クローニング用ベクターの相補的末端のアニーリングに基づく、非常に効率的な、ライゲーション非依存的クローニング法である。この方法は、任意の遺伝子座の任意のベクターに、目的の任意の遺伝子をシングルステップで容易に定方向クローニングすることを確実にする。In-Fusion構築物はシームレスであり、干渉する「スカー(scar)」配列なしに翻訳リーディングフレームの連続性を可能にする。
【0129】
[00131] 典型的には、これらのクローニングベクターは、形質転換細胞の選択を可能にするマーカーを含んでいる。核酸配列は、これらのベクターに導入することができ、ベクターは適切な培地で増殖させた大腸菌(E. coli)に導入することができる。組換え発現ベクターは、細胞の採取及び溶解時に、細胞から容易に回収することができる。さらに、組換えベクターの調製に関する一般的なガイダンスは、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning, a Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989, Vol. 3に見出すことができる。
【0130】
[00132] 本開示に従って使用され得るマーカー遺伝子には、形質転換細胞を非形質転換細胞から識別するのを可能にする全ての遺伝子が含まれ、これは、全ての選択可能マーカー遺伝子及びスクリーニング可能マーカー遺伝子を含む。マーカー遺伝子は、例えば、化学的手段による形質の選択を可能にするカナマイシン、アンピシリン、G418、ブレオマイシン、ハイグロマイシンに対する抗生物質耐性マーカー、又は化学薬剤に対する耐性若しくは抵抗性マーカーなどの耐性マーカーであり得る。耐性マーカーは、インスリンポリペプチドをコードする核酸配列に極めて接近して連結された場合、インスリンアナログポリペプチド又はその誘導体をコードする核酸配列を失っていない植物細胞又は植物の集団に対する選択圧を維持するために使用され得る。目視検査によって形質転換体を同定するために採用され得るスクリーニング可能なマーカーとしては、3-グルクロニダーゼ(GUS)及び緑色蛍光タンパク質(GFP及びeGFP)が挙げられる。
【0131】
[00133] ベクターは、本開示のインスリン前駆体、任意選択で修飾プロインスリンを機能性インスリンアナログ又はその誘導体にプロセシングするための1つ若しくは複数の薬剤をコードする全DNA配列を含むDNA構築物を最初に調製し;続いて、この断片を好適な発現ベクターに挿入するか、又は個々の要素(例えば、シグナル、プロペプチド、修飾Cペプチド、A鎖及びB鎖、任意選択で、プロインスリンを機能性インスリンアナログ若しくはその誘導体にプロセシングするための薬剤など)の遺伝情報を含むDNA断片を順次挿入し、その後ライゲーションすることによって構築することができることは理解されよう。
【0132】
[00134] 宿主生物を選択した後、当業者に周知の方法を用いて、ベクターを宿主生物に移入する。このような方法の例は、R. W. Davis et. al., Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, N.Y., (1980)によりAdvanced Bacterial Geneticsに記載されており、これは、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。一態様では、形質転換は低温で行われることが好ましく、温度調節は、規定されるような操作エレメントの使用を通して遺伝子発現を調節する手段として企図される。
【0133】
[00135] 操作宿主細胞は、例えば、スクリーニングステップ、プロモーターの活性化又は形質転換体の選択などの作業のために適宜修飾された通常の栄養培地で培養することができる。これらの細胞は、任意にトランスジェニック生物に培養することができる。細胞の単離及び培養(例えば、その後の核酸単離)について、他の有用な参照物には、限定されないが、Freshney (1994) Culture of Animal Cells, a Manual of Basic Technique, third edition, Wiley-Liss, New York及びそこに引用される参照文献;Payne et al. (1992) Plant Cell and Tissue Culture in Liquid Systems John Wiley & Sons, Inc. New York, N.Y.; Gamborg and Phillips (eds.) (1995) Plant Cell, Tissue and Organ Culture; Fundamental Methods Springer Lab Manual, Springer-Verlag (Berlin Heidelberg New York) and Atlas and Parks (eds.) The Handbook of Microbiological Media (1993) CRC Press, Boca Raton, Flaが含まれる。哺乳動物宿主細胞は、組換えインスリンアナログ及び/又はその誘導体の発現に適切な条件下で培養される。これらの条件は概して、宿主生物に特異的であり、そのような生物の増殖条件に関する公開文献、例えば、Bergey’s Manual of Determinative Bacteriology, 8th Ed., Williams & Wilkins Company, Baltimore, Md.(これらは、参照により本明細書に明示的に組み込まれる)に照らして、当業者により容易に決定される。
【0134】
[00136] 好適な哺乳動物宿主細胞の例は、当業者に公知である。このような宿主細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、(例えば、CHO-K1;ATCC CCL-61)、ミドリザル(Green Monkey)細胞(COS)(例えば、COS 1(ATCC CRL-1650)、COS 7(ATCC CRL-1651));マウス細胞(例えば、NS/O)、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞株(例えば、ATCC CRL-1632又はATCC CRL-10)、及びヒト細胞(例えば、HEK 293(ATCC CRL-1573))であり得る。これらの細胞株及び他の細胞株は、American Type Culture Collection, Rockville, Md.などの公的寄託機関から入手可能である。インスリンポリペプチドのグリコシル化を改善するために、哺乳動物宿主細胞を、例えば、米国特許第5,047,335号(参照により本明細書に組み込まれる)に記載の通り、シアリルトランスフェラーゼ、例えば、2,6-シアリルトランスフェラーゼを発現するように修飾してもよい。
【0135】
[00137] 特定の態様では、本開示は、所望のインスリンアナログ及び又はその誘導体をコードするポリヌクレオチド配列を含む、組換え哺乳動物細胞を提供する。特定の態様では、ポリヌクレオチド配列は、修飾プロインスリンを機能性インスリンにプロセシングするための少なくとも1つの薬剤をさらにコードする。このようなポリヌクレオチド配列を含む発現ベクターは、ベクターが染色体組換え又は自己複製染色体外ベクターとして維持されるように宿主細胞に導入される。
【0136】
[00138] 特定の態様では、本方法は、トランスフェクトされた組換えベクターの発現に適した条件下で、本開示の組換えベクターで形質転換された哺乳動物宿主細胞を培養することをさらに含む。次に、発現された組換え産物を単離し、精製するか、又は培養ブロスから回収する。特定の態様では、本明細書に開示される方法は、回収された発現産物を培養ブロスから精製することをさらに含む。
【0137】
[00139] いくつかの態様では、回収された発現産物を精製するステップは、回収された発現産物を逆相HPLCカラムに供し、化合物が樹脂に結合するのを可能にする条件下で、有機溶媒を用いて、インスリンアナログ及び/又はその誘導体を含むサンプルを溶出し、樹脂から有機溶媒を水性バッファーで洗浄することを含む。本発明の効果的な実施には、使用するクロマトグラフィーマトリックス、pH値、及び効率的な精製のためのバッファーのイオン強度の適切な組合せを個別化することが必要である。
【0138】
[00140] 哺乳動物細胞内での多量の成熟インスリン又はインスリンアナログの生産により、製薬のために十分高い純度のインスリン又はインスリンアナログ製品を生産するのに必要な下流の精製ステップの数を大幅に減らすことができる。米国特許第4,916,212号は、酵母細胞においてインスリンを製造する方法を開示し、ここで、インスリン前駆体を2つのステップ、即ち、一本鎖インスリン前駆体B(1-29)-Ala-Ala-Lys-A(1-21)をヒトインスリンのエステルに変換するトランスペプチド化と、次に、インスリンエステルのヒトインスリンへの加水分解で、ヒトインスリンに変換する。各転換ステップには、最初の分離ステップとそれに続く少なくとも1つの精製ステップが必要となる。従って、少なくとも1つの酵素的変換を含む成熟インスリンを製造するためには、少なくとも6つの追加のステップが必要である。
【0139】
[00141] いずれの酵素的切断も、100%の切断までは実行されず、非切断又は部分的に切断された不純物が残り、医薬品の場合にはそれらを効率的に除去しなければならない。従って、各々の切断ステップの後に、少なくとも1つの単離又は精製ステップ、典型的には交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどによるクロマトグラフィー精製が実施される。
【0140】
[00142] 小規模又は大規模発酵のための方法もまた、タンパク質発現に使用することができ、こうした方法として、限定されないが、発酵槽、シェイクフラスコ、流動床バイオリアクター、中空糸バイオリアクター、ローラーボトル培養システム、及び攪拌槽バイオリアクターシステムが挙げられる。これらの方法は各々、バッチ、フェッドバッチ、又は連続モード工程で実施することができる。
【0141】
[00143] 本発明のヒトインスリンポリペプチドは、一般に当技術分野で標準的な方法を用いて回収することができる。例えば、培養液を遠心分離及び/又は濾過して、細胞残屑を除去することができる。上清を濃縮するか、若しくは所望の量に希釈するか、又は好適なバッファーに透析濾過して、さらなる精製のために調製物を順化することができる。本発明のインスリンポリペプチドのさらなる精製は、インスリンポリペプチド変異体の脱アミド化形態及び短縮(clipped)形態をインタクトな形態から分離することを含む。
【0142】
[00144] 本発明のインスリンポリペプチドの精製のために、以下の例示的手順:アフィニティークロマトグラフィー;陰イオン又は陽イオン交換クロマトグラフィー(限定されないが、DEAE SEPHAROSEを用いて);シリカでのクロマトグラフィー;高速液体クロマトグラフィー(HPLC);逆相HPLC;ゲル濾過(限定されないが、SEPHADEX G-75を用いて);疎水性相互作用クロマトグラフィー;サイズ排除クロマトグラフィー;金属キレートクロマトグラフィー;限外濾過/透析濾過;エタノール沈殿;硫酸アンモニウム沈殿;クロマトフォーカシング;置換クロマトグラフィー;電気泳動法(限定されないが、分取等電気泳動法など)、示差溶解度(限定されないが、硫酸アンモニウム沈殿など)、SDS-PAGE、又は抽出のいずれかを使用することができる。
【0143】
[00145] 商業規模で使用されるクロマトグラフィーカラム材料は非常に高価であるため、このようなクロマトグラフィーステップの数を減らすことは、生産経済性に大きな影響を与える。加えて、下流での変換及び精製ステップが減少すれば、プロセスに費やされる労働作業量及び時間量が減少することから、生産経済性をさらに改善する。有利なことに、本開示の方法及び組成物は、培養ブロスから直接、高収率で成熟機能性インスリン又はそのアナログを生産、回収、及び精製する能力を提供し、それにより、医薬用途に十分な純度の生成物を生産するのに必要な下流のプロセスステップが少なくなる。
【0144】
[00146] いくつかの態様では、本開示は、哺乳動物発現系で発現された精製済の生物学的に活性な異種組換えタンパク質を取得するための方法に関する。特定の態様では、本方法は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、及び配列番号4に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも約85%(即ち、少なくとも約85%、86%、87%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれ以上)の同一性を有するペプチドをコードする異種核酸配列を含む少なくとも1つのベクターにより形質転換された宿主細胞を培養することを含む。特定の態様では、本方法は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、及び配列番号4に記載されるアミノ酸配列を有するペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む少なくとも1つのベクターにより形質転換された宿主細胞を培養することを含む。特定の態様では、ペプチドをコードする異種核酸を含むベクターは、異種タンパク質を成熟機能性タンパク質にプロセシングするための薬剤をさらにコードする。
【0145】
[00147] 特定の態様では、この方法は、発現された異種タンパク質を回収することをさらに含み、ここで、タンパク質を回収するステップは、宿主細胞からタンパク質を分離して、回収タンパク質調製物を生産することを含む。いくつかの態様では、本方法は、回収タンパク質調製物をクロマトグラフィーマトリックスと接触させることにより、回収タンパク質調製物を精製して、少なくとも1つの関連不純物を除去することをさらに含む。精製は、有機酸バッファーを含む水相中に極性有機バッファー溶媒を適用し、溶出したタンパク質を沈殿させることによって実施される。ここに開示されている態様のいずれかにおいて、成熟機能性タンパク質は、ヒトインスリンアナログ及び/又はその誘導体である。
【0146】
[00148] 本開示の一態様によれば、精製されたインスリンアナログ及び/又はその誘導体の収率は、75%~100%である。本開示の別の態様によれば、精製されたインスリンアナログ及び/又はその誘導体の収率は、75%~80%、80%~85%、85%~90%、90%~95%、又は95%~100%である。
【0147】
[00149] 特定の態様では、本開示は、組換えヒトインスリンアナログ及び/又はその誘導体を製造するための統合的且つ連続的なプロセスを提供し、このプロセスは:(i)組換えヒトインスリンアナログ分泌哺乳動物細胞を、細胞が組換えインスリンアナログ及び/又はその誘導体を培地中に分泌することを可能にする条件下で、液体培地を含む灌流バイオリアクター中で培養することであって、実質的に細胞を含まない体積の培地が、灌流バイオリアクターから連続的若しくは周期的に除去され、第1の周期的向流クロマトグラフィーシステム(PCCS1)に供給されることと;(ii)PCCS1を用いて培地から組換えインスリンアナログ及び/又はその誘導体を捕捉することであって、組換えインスリンアナログ及び/又はその誘導体を含むPCCS1の溶出液が、第2の周期的向流クロマトグラフィーシステム(PCCS2)に連続的に供給されることと;(iii)PCCS2を用いて組換えインスリンアナログ及び/又はその誘導体を精製ことであって研磨を実施するために用いられるPCCS2の樹脂と比較して化学構造が異なるPCCS2の樹脂を用いて、精製が実施され、ここで、PCCS2からの溶出液は、インスリンアナログ及び/又はその誘導体である、ことと、を含み;上記プロセスは、統合され、培養ステップからインスリンアナログ及び/又はその誘導体であるPCCS2からの溶出液まで連続的に実行される。特定の態様では、組換えヒトインスリンアナログ-分泌哺乳動物細胞は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、及び配列番号4に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも約85%(即ち、少なくとも約85%、86%、87%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくはそれ以上)の同一性を有するペプチドをコードする異種核酸配列を含む少なくとも1つのベクターによって形質転換される。特定の態様では、組換えヒトインスリンアナログ-分泌哺乳動物細胞は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、及び配列番号4に記載されるアミノ酸配列を含むペプチドをコードする異種核酸配列を含む少なくとも1つのベクターによって形質転換される。特定の態様では、異種核酸配列を含む少なくとも1つのベクターは、修飾プロインスリンを機能性インスリンにプロセシングするための少なくとも1つの薬剤をさらにコードする。代替的態様では、組換えヒトインスリンアナログ-分泌哺乳動物細胞は、修飾プロインスリンを機能性インスリンにプロセシングするための少なくとも1つの薬剤をコードする異種核酸配列を含む第2のベクターによってさらに形質転換される。いくつかの態様では、異種核酸配列によってコードされる少なくとも1つの薬剤は、配列番号5、配列番号6、配列番号7、及び配列番号8に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも約85%(即ち、少なくとも約85%、86%、87%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれ以上)の同一性を有する。特定の態様では、異種核酸配列によってコードされる少なくとも1つの薬剤は、配列番号5、配列番号6、配列番号7、及び配列番号8に記載されるアミノ酸配列を有する。
【0148】
[00150] 医薬インスリン製剤は、精製インスリン及び/又は精製インスリンアナログから調製することができ、そのような製剤を用いて、糖尿病を治療することができる。一般に、精製インスリンは、治療対象の患者に望ましくない副作用がなく、治療に有用な効果を発揮するのに十分な量の薬学的に許容される担体又は希釈剤と混和する。インスリン組成物を製剤化するために、インスリンの重量分率を、治療対象の状態が改善されるような有効濃度で、選択した担体若しくは希釈剤に溶解、懸濁、分散させるか、又は他の方法で混合する。医薬インスリン製剤は、好ましくは単回投与用に製剤化される。ヒトインスリンの非経口投与のための治療有効用量は、当業者に周知である。インスリンアナログが使用されるか、又は他の送達様式が使用される場合には、治療有効用量は公知の試験プロトコルを用いて、又はインビボ若しくはインビトロ試験データの外挿によって、当業者により容易に経験的に決定され得る。しかし、濃度及び投与量は、緩和しようとする状態の重症度に応じて変動し得ることが理解される。さらに、いずれか特定の被験者に対して、特定の用量レジメンは、製剤の投与を実施又は監督する者の個々の判断に従って、経時的に調節され得ることが理解される。
【0149】
[00151] 医薬溶液若しくは懸濁液は、例えば、水、ラクトース、スクロース、リン酸二カルシウム、又はカルボキシメチルセルロースなどの無菌希釈剤を含有してもよい。溶液又は懸濁液を形成するのに使用され得る担体としては、水、生理食塩水、水デキストロース、グリセロール、グリコール、及びエタノールなどが挙げられる。必要に応じて、医薬組成物は、湿潤剤;乳化剤;可溶化剤;ベンジルアルコール及びメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸及び重亜硫酸ナトリウムなどの抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、亜鉛イオンなどのキレート剤;水酸化ナトリウム、塩酸、酢酸塩、クエン酸塩又はリン酸塩緩衝液などのpH緩衝剤;並びにそれらの組合せなどの無毒性補助物質を含有することもできる。
【0150】
[00152] インスリン調製物の最終製剤は、一般に、インスリン送達様式に依存することになる。本開示に従って調製されたインスリンは、任意の所望の様式で送達され得るが;非経口の送達形態が、最も使用される可能性の高い送達様式であると考えられる。本開示による方法によって生産されるインスリンアナログは、インスリンに対して感受性である病態の治療に使用され得る。従って1型糖尿病、2型糖尿病、並びに例えば、重傷者及び大手術を受けた人に時として認められるような高血糖の治療にインスリンアナログを使用することができる。好都合であれば、インスリンアナログは、他のタイプのインスリン、例えば、より迅速な作用の発現を有するインスリンアナログと混合して使用することができる。このようなインスリンアナログの例は、例えば、公開番号EP214826、EP375437及びEP383472を有する欧州特許出願に記載されている。
【0151】
[00153] 本開示のインスリンアナログを含む医薬組成物は、インスリンに対して感受性である病態の治療に使用することができる。従って、1型糖尿病、2型糖尿病、並びに例えば、重傷者及び大手術を受けた人に時として認められるような高血糖の治療にインスリンアナログを使用することができる。任意の患者に最適な用量レベルは、使用するインスリンアナログの有効性、患者の年齢、体重、身体活動、及び食事、他の薬剤との可能な併用、並びに治療しようとする病態の重症度を含め、様々な要因に左右され得る。インスリン誘導体の1日投与量は、既知のインスリン組成物と同様の方法で、当業者が個々の患者に対して決定することが推奨される。
【実施例
【0152】
実施例
実施例1:HEK293細胞のトランスフェクション又は形質導入
[00154] 組換え発現ベクターを哺乳動物宿主細胞(例えば、HEK293)に導入する手順は、当技術分野で周知である。宿主細胞の形質転換は、非ウイルス法又はウイルスベクターを介する方法など、当業者には周知の多数の手順によって実施することができる。
【0153】
[00155] 非ウイルス性トランスフェクションの場合、トランスフェクションの12~24時間前に、0.5mlの完全増殖培地中で、24ウェルプレートの1ウェル当たり10,000~15,000個のHEK293細胞をプレーティングした。細胞をPBS 1×で洗浄し、0.5mlの新鮮な増殖培地を各ウェルに添加した。トランスフェクション複合体は、40μlの無血清培地、4.5μlのトランスフェクション試薬、及び(増殖培地を含む最終体積を参照して)、500ngの発現ベクターを混合して調製した。トランスフェクション複合体を室温(RT)で15~30分間インキュベートした。2μlの複合体縮合試薬を添加した。複合体縮合試薬は、トランスフェクション複合体のサイズを縮小することによってトランスフェクション効率を高めるが;そのために細胞毒性を高める可能性がある。インキュベーション後、調製したトランスフェクション複合体を、洗浄したHEK293細胞のウェル当たり0.5mlの完全増殖培地に添加した。加湿したCOインキュベーターにおいて37℃でトランスフェクション複合体と一緒に細胞をインキュベートした。好適にトランスフェクトされた細胞を、適切なマーカーを用いて、例えば蛍光マーカーを用いる場合はセルソーティングによって、又は抗生物質耐性マーカー若しくは培養を用いて選択した。好適にトランスフェクトされた細胞の画分を、トランスフェクションから48~72時間後に標的遺伝子の発現についてアッセイした。
【0154】
[00156] ウイルス導入のために、4.5×10個の293T細胞をトランスフェクションの前日に10cm皿(9ml)に分割した。トランスフェクション当日、500ul中の全プラスミドDNA(ug)を希釈した。トランスファーベクターは、ウイルスパッケージング(psPAX2):ウイルスエンベロープ(pMD2G)を4:2:1の比で含む(それぞれ、6:3:1.5ug)。42ulのPEI(1ug/uL)を希釈DNAに添加し、上下ピペッティング/ボルテックスにより直ちに混合した。使用したPEIの量は、4:1比のPEI(ug):全DNA(ug)に基づく。DNA/PEI混合液をRTで10~15分間インキュベートした後、500ulのDNA/PEI混合液を各プレートに添加し、一晩インキュベートした。培地を吸引し、予熱した8mlのPBSで細胞を1回洗浄した。続いて、予熱した9~10mlのトランスフェクション培地(3~4%FBSとグルタミンで補充した、フェノールレッド無添加DMEM)で細胞を覆い、18~24時間インキュベートした。次に、ウイルス上清を回収し、0.22μmを用いて濾過し、4℃で保存した。任意選択で、ウイルス上清を50mlコニカルチューブに等分し、4℃にて一晩8500gでスピンし、培地を注意深く吸引し(ペレットは緩くてもよい)、HBSS中に100×で再懸濁した。ウイルスは、等分し、-80℃で無期限に保存することができる。HEK293細胞をプレーティングし、50~80%コンフルエントで感染させた。ウイルスを水浴中で融解した。ポリブレンを最終濃度6ug/mlでウイルス上清に添加し、ウイルス上清/ポリブレンミックスを0.45uMシリンジフィルターで濾過した。2mlの新鮮なDMEM完全培地で細胞を洗浄し、2mlのウイルス上清/ポリブレンミックスを添加した。細胞を1800rpm(750×g)で1時間スピンしてから、37度で一晩インキュベートした。続いて、全ての培地をウェルから吸引し、細胞を1×PBSで洗浄した。2mlの新鮮なDMEM完全培地を細胞に添加した。細胞をさらに24時間培養した後、トリプシン処理し、FACSで分析した。
【0155】
実施例2-シェーカーでのヒトアナログインスリン50/500mlの製造
[00157] インスリンアナログ構築物で好適にトランスフェクトされたHEK293細胞を、適切な増殖培地及び培養条件を用いて培養し、500mlの培地中で0.5×10個/mLまで増殖させた。必要に応じて3~4日毎に新鮮な培地を添加した。増殖培地に分泌された発現インスリンアナログを1~4週間後に回収した。簡単に説明すると、培地を収集し、0.22umフィルターで濾過した。十分なタンパク質産生を確認するためのSDS Pageゲル。
【0156】
実施例3-精製
[00158] インスリンアナログを以下の方法で増殖培地から沈殿させた:塩化亜鉛溶液(18%)を最終濃度0.1%までグラルギンインスリンに添加した。グラルギンを含む培地はpH6.1に、また、リスプロを含む培地はpH12.1に調節して、4℃で16時間インキュベートした後、20,000×gで30分間遠心分離した。上清を除去し、インスリンを含む沈殿物を回収した。グラルギンを含むペレットをサンプルバッファー(7M尿素、0.25M酢酸、pH2.5)及びリスプロ(7M尿素、0.25M酢酸、pH5.5)でイオン交換クロマトグラフィーのために分解した。
【0157】
[00159] AKTA avant(GE Healthcare Bio-Sciences)上でXK 16 カラム(GE Healthcare Bio-Sciences, USA)にSp Sepharose Fast Flow樹脂(GE Healthcare Bio-Sciences, USA)を充填した陽イオンカラムを用いて、サンプルバッファーからインスリンを精製した。10CV(カラム容量)の平衡化バッファー(7M尿素、0.25M酢酸、pH2.5/5.5)を用いて5ml/分の流量で平衡化した50mlのSP Sepharoseカラムに、インスリン含有バッファーを1ml/分の流量でロードした。10CV溶出バッファーA(7M尿素及び0.25M酢酸、pH2.5/5.5)を用い、5ml/分の流量でカラムを洗浄した後、結合したインスリンを6CV溶出バッファーA及びB(7M尿素、0.25M酢酸、1M塩化ナトリウム、pH2.5/5.5)を用い、5ml/分の流量で線形勾配(0~1M NaCl)の適用により溶出した。溶離液を280nmでモニターし、各ピークを画分チューブに収集した。収集した画分は、Protein & Peptide C4分析カラムを用いたHPLCで分析した。
【0158】
実施例4-分取高速液体クロマトグラフィー(Prep-HPLC):
[00160] 陽イオン交換クロマトグラフィーにより回収した画分のうち、インスリンの純度が60%を超えるものをHPLC分析の純度に基づいてプールした。Prep-HPLCは、C8 prep HTカラム(21.2mm×150mm、粒子径5μm)(Agilent Technologies, USA)を装着したAgilent 1200システム(USA)で実施した。溶媒Aは、0.25M酢酸と15%アセトニトリル(ACN)を用いて、また、溶媒Bは、0.25M酢酸と45%ACNを用いて調製した。流量3ml/分の10CVの溶媒Aでカラムを平衡化し、回収したタンパク質を流量1ml/分でカラムにロードした。流量3ml/分の10CV溶媒で洗浄した後、流量3ml/分の6CV溶媒A及びBで、線形勾配(0%~70%溶液B)の適用により、結合タンパク質を溶出した。溶離液を280nmでモニターし、各ピークを収集した。
【0159】
[00161] 上述した様々な実施形態を組み合わせて、さらなる実施形態を提供することができる。本明細書において参照される、及び/又は出願データシートに記載される、米国特許、米国特許出願公開公報、米国特許出願、外国特許、外国特許出願、及び非特許文献は全て、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。実施形態の態様は、必要に応じて、様々な特許、出願及び刊行物の概念を採用して、さらに別の実施形態を提供するように変更することができる。
【0160】
[00162] これらの、及び他の変更は、上記の詳細な説明に照らして実施形態に実施することができる。一般に、以下の特許請求の範囲において、使用される用語は、特許請求の範囲を明細書及び特許請求の範囲に開示された特定の実施形態に限定するように解釈されるべきではなく、そのような特許請求の範囲が権利を有する同等物の全範囲と共に、考えられるあらゆる実施形態を包含すると解釈されるべきである。従って、特許請求の範囲は、本開示によって限定されるものではない。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B
図8C
図8D
【配列表】
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【国際調査報告】