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  • 特表-ALS治療のための相乗的併用療法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-03-07
(54)【発明の名称】ALS治療のための相乗的併用療法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4152 20060101AFI20250228BHJP
   A61K 31/202 20060101ALI20250228BHJP
   A61K 31/201 20060101ALI20250228BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20250228BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250228BHJP
   A61K 31/231 20060101ALI20250228BHJP
【FI】
A61K31/4152
A61K31/202
A61K31/201
A61P21/00
A61P43/00 121
A61P43/00 123
A61K31/231
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024547878
(86)(22)【出願日】2023-02-14
(85)【翻訳文提出日】2024-10-10
(86)【国際出願番号】 US2023013051
(87)【国際公開番号】W WO2023158641
(87)【国際公開日】2023-08-24
(31)【優先権主張番号】63/310,541
(32)【優先日】2022-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/310,544
(32)【優先日】2022-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/684,279
(32)【優先日】2022-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524026942
【氏名又は名称】バイオジーバ リミティド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】ピーター ミルナー
(72)【発明者】
【氏名】ナディア リッターマン
(72)【発明者】
【氏名】マーク ミデイ
【テーマコード(参考)】
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC36
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA52
4C086MA66
4C086NA05
4C086NA15
4C086ZA22
4C086ZA94
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206DA04
4C206DA05
4C206DB07
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA72
4C206MA86
4C206NA05
4C206NA15
4C206ZA22
4C206ZA94
4C206ZC75
(57)【要約】
ヒトにおける筋萎縮性側索硬化症(ALS)の進行を抑制する方法が開示されている。方法は、2,4-ジヒドロ-3H-ピラゾール-3-オンと、重水素化アラキドン酸又はそのプロドラッグ、例えば11,11-D2-リノール酸又はそのエステルと、の相乗的な組み合わせを用いる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者におけるALSの疾患進行速度を減少させる方法であって、2,4-ジヒドロ-3H-ピラゾール-3-オン又はその薬学的に許容される塩の治療的有効量を、重水素化アラキドン酸又はそのプロドラッグの治療的有効量と組み合わせて前記患者に投与することを含む、方法。
【請求項2】
重水素化アラキドン酸又はそのプロドラッグの治療的有効量を用いて治療されているALS患者の機能喪失速度を減少させる方法であって、さらに2,4-ジヒドロ-3H-ピラゾール-3-オン又はその薬学的に許容される塩の治療的有効量を投与することを含む、方法。
【請求項3】
2,4-ジヒドロ-3H-ピラゾール-3-オン又はその薬学的に許容される塩の治療的有効量を用いて治療されているALS患者の機能喪失速度を減少させる方法であって、さらに重水素化アラキドン酸又はそのプロドラッグの治療的有効量を投与することを含む、方法。
【請求項4】
前記患者における機能喪失速度が、いずれかの薬物単独によって達成される総計で見出される速度よりも低い、請求項1、2、又は3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記重水素化アラキドン酸又はそのプロドラッグが、本明細書に記載される負荷量及び維持量を含む投与レジメンを用いて投与される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記重水素化アラキドン酸プロドラッグが、11,11-D2-リノール酸又はそのエステルである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記エステルが炭素数1~6のアルキルエステルである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記重水素化アラキドン酸又はそのプロドラッグが、7,7,10,10,13,13-D6-アラキドン酸のエステルである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記エステルが炭素数1~6のアルキルエステルである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記重水素化アラキドン酸が、7,7,10,10,13,13-D6-アラキドン酸又はその薬学的に許容される塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
11,11-D2-リノール酸エチルエステルが、投与レジメンの負荷期間中に約9グラム/日の用量で連日投与され、その後、投与レジメンの維持期間中に負荷量の約30%~約65%の用量で連日投与される、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
2,4-ジヒドロ-3H-ピラゾール-3-オン又はその薬学的に許容される塩が、点滴液、注射用組成物、経口組成物として、又は前記重水素化アラキドン酸もしくはそのプロドラッグと組み合わせて、投与される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記重水素化アラキドン酸又はそのプロドラッグが、7,7,10,10,13,13-D6-アラキドン酸、その薬学的に許容される塩、又はそのエステルである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記重水素化アラキドン酸プロドラッグが、7,7,10,10,13,13-D6-アラキドン酸エチルエステルである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
2,4-ジヒドロ-3H-ピラゾール-3-オン又はその薬学的に許容される塩と、重水素化アラキドン酸又はそのプロドラッグとを含む、患者による全身摂取に適した組成物。
【請求項16】
前記組成物が、経口投与、静脈内投与、又は点滴投与に適したものである、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記重水素化アラキドン酸プロドラッグが、11,11-D2-リノール酸又はそのエステルである、請求項15に記載の組成物。
【請求項18】
前記エステルがエチルエステルである、請求項16に記載の組成物。
【請求項19】
前記重水素化アラキドン酸プロドラッグが、7,7,10,10,13,13-D6-アラキドン酸エチルエステルである、請求項15に記載の組成物。
【請求項20】
前記エステルがエチルエステルである、請求項16に記載の組成物。
【請求項21】
少なくとも1日用量の2,4-ジヒドロ-3H-ピラゾール-3-オン又はその薬学的に許容される塩と、少なくとも1日用量の重水素化アラキドン酸又はそのプロドラッグとを含む、パーツキット(kit of parts)。
【請求項22】
7,7,10,10,13,13-D6-アラキドン酸又はそのエステルが、負荷期間中に約0.05-約5グラム/日の用量で連日投与され、その後、維持期間中に負荷量の約30%~約70%の用量で連日投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
7,7,10,10,13,13-D6-アラキドン酸又はそのエステルが、負荷期間中に約0.5-約5グラム/日の用量で連日投与される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
2,4-ジヒドロ-3H-ピラゾール-3-オン又はその薬学的に許容される塩が、点滴液、注射用組成物、又は経口組成物として投与される、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
2,4-ジヒドロ-3H-ピラゾール-3-オン又はその薬学的に許容される塩が、注射用組成物又は経口組成物として投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
2,4-ジヒドロ-3H-ピラゾール-3-オン又はその薬学的に許容される塩が、経口組成物として、重水素化アラキドン酸又はそのプロドラッグと組み合わせて投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記重水素化アラキドン酸又はそのプロドラッグの投与中に、前記患者の過剰な食事性多価不飽和脂肪酸の摂取を制限することをさらに含む、請求項1、2、又は3のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
相互参照
本願は、2022年2月15日に出願された米国仮出願第63/310541号、2022年2月15日に出願された米国仮出願第63/310544号、及び2022年2月23日に出願された米国仮出願第63/313190号の利益を主張するものであり、また、2022年3月1日に出願された米国特許出願第17/684279号の継続出願であって、その利益を主張する。これらはすべて、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0002】
参照による援用
本明細書で言及されているすべての刊行物、特許、及び特許出願は、個々の刊行物、特許、又は特許出願が参照により援用されることが具体的かつ個別に示されている場合と同じ程度まで、参照により本明細書に援用されるものとする。
【0003】
技術分野
ヒトにおける筋萎縮性側索硬化症(ALS)の進行を抑制する方法が開示されている。この方法は、3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン(米国ミズーリ州セントルイスのMillipore Sigma社から「エダラボン(edaravone)」の名称で市販されており、ALSの治療用に市販されている)と、重水素化アラキドン酸のプロドラッグとの、相乗的な組み合わせを用いる。エダラボンとプロドラッグの併用により、疾患進行速度が有意に減少することが示されている。
【背景技術】
【0004】
ALSはヒトの衰弱性の致命的な神経変性疾患であり、研究者達の最善の努力にも関わらず、未だに治癒は不可能である。そのため、主治医はこの疾患の進行を遅らせ、患者の生活の質をできるだけ長く維持するように試みる。
【0005】
ALSは致死的な、遅発性の、進行性神経疾患であり、進行性の筋力低下、筋萎縮、及び痙縮などの対応する病理学的特徴は、すべて上部又は下部の運動ニューロンの変性及び死を反映している。一旦診断されると、ほとんどの患者は、最初はゆっくりとした速度で疾患が進行し、その後急速に進行して、典型的には3-4年以内に死に至るが、一部の患者はそれよりも早く死に至る。
【0006】
この疾患の基礎を成す特徴には、運動ニューロンにおける多価不飽和脂肪酸(PUFA)の脂質過酸化(LPO)が関与している。この酸化経路の中心は、ニューロンで多く見られるPUFAであるアラキドン酸において見いだされる、不安定なビス-アリル水素の存在である。ビス-アリル部位の同定を含むアラキドン酸の構造は以下の通りである。
【化1】
【0007】
細胞膜においてはアラキドン酸が積み重なっており、活性酸素種(ROS)が関与する酸化的プロセスがイニシエーターとして作用することで、ビス-アリル水素の抽出及びPUFA中の酸化的活性種(oxidative reactive species)の形成による、これらPUFAの自動酸化が起こる。1個目のビス-アリル部位で最初の酸化が起こると、細胞又はミトコンドリアの膜において、更なるPUFAの連続的な酸化が起こる。酸化的プロセスは、1個目のPUFA上のビス-アリル部位での水素抽出から始まり、次のPUFA、さらにその次のPUFAへと、連続的な様式で進行する。ある時点で、酸化的プロセスがニューロンの生存能力を損ない、又は破壊し、過剰量のROSの生成の原因となる病態が助長される。
【0008】
これまで、当技術分野では、抗酸化剤でありフリーラジカル捕捉剤でもあるエダラボンが、ALSに特徴的な機能喪失の速度を減少させることが開示されている。同様に、当技術分野では、ニューロンにおけるアラキドン酸の、1つ以上のビス-アリル部位での重水素化によって、ALSの進行を抑制できることが開示されている。このような酸化的プロセスに対する、重水素-炭素結合の安定性は、13位に置換された2個の重水素(それぞれの水素を重水素によって置換したもの)を有する重水素化アラキドン酸等の水素-炭素結合の安定性よりも有意に強い(より安定である)。これは、ビス-アリル部位での酸化種の生成が炭素-重水素結合によって減少し、脂質過酸化が抑制されることを意味する。その結果、この経路が阻害されることによりニューロンの生存が促され、疾患の進行が抑制される。
【0009】
本明細書の実施例に示すように、臨床試験の未発表データは、ALSと関連した急激な機能低下時期において13,13-D2-アラキドン酸のプロドラッグで治療した患者は、治療していない患者と比較して恩恵を受けたことを示している。この恩恵は、プラセボと比較して機能喪失が抑制されることによって明らかになった。この抑制は有意であったが、機能喪失速度がさらに大きいALSのための治療法が、依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0010】
エダラボンと重水素化アラキドン酸又はそのプロドラッグとの相乗的併用投与により、ALSの進行を有意に抑制する方法が開示される。そのように使用された場合、このような組み合わせで治療した患者は、どちらか一方の薬剤単独の場合よりも、機能喪失速度が実質的に減少する。実際、両薬剤で治療した患者では、治療期間中に認められた機能の喪失は最小限であった。
【0011】
したがって、一実施形態では、患者におけるALSの疾患進行速度を減少させる方法が提供され、方法は、エダラボン又はその薬学的に許容される塩の有効量を、重水素化アラキドン酸又はそのプロドラッグの有効量と組み合わせて患者に投与することを含む。そのように投与された場合、この組み合わせがもたらす機能喪失速度の減少量は、各薬物単独によって達成される相加的な減少量よりも大きい。
【0012】
一実施形態では、重水素化アラキドン酸又はそのプロドラッグの有効量を用いて治療されているALS患者の機能喪失速度を減少させる方法が提供され、方法は、さらにエダラボン又はその薬学的に許容される塩の有効量を前記患者に投与することを含む。そのように投与された場合、この組み合わせがもたらす機能喪失速度の減少量は、各薬物単独によって達成される相加的な減少量よりも大きい。
【0013】
一実施形態では、エダラボン又はその薬学的に許容される塩の有効量を用いて治療されているALS患者の機能喪失速度を減少させる方法が提供され、方法は、さらに重水素化アラキドン酸又はそのプロドラッグの有効量を前記患者に投与することを含む。そのように投与された場合、この組み合わせがもたらす機能喪失速度の減少量は、各薬物単独によって達成される相加的な減少量よりも大きい。
【0014】
一実施形態では、エダラボン又はその薬学的に許容される塩が、Radicava(登録商標)(エダラボン)の製品添付文書に従って投与される。この添付文書は、参照によりその全体が本明細書に援用されるものとする。
【0015】
一実施形態では、重水素化アラキドン酸又はそのプロドラッグが、本明細書に記載される負荷量及び維持量を含む投与レジメンを用いて投与される。
【0016】
一実施形態では、重水素化アラキドン酸のプロドラッグは、11,11-D2-リノール酸又はそのエステルである。生体内では、このプロドラッグの一部が、対応する13,13-D2-アラキドン酸に変換され、これが運動ニューロンにおける活性薬剤となる。一般に、このプロドラッグを使用して運動ニューロン内で13,13-D2-アラキドン酸の治療濃度を達成するには、数週間から数ヵ月を要する。しかし、負荷量を用いた後に維持量を用いることで、運動ニューロンへの13,13-D2-アラキドン酸(D2-AA)の取り込みが増加し、治療開始後に、より短時間でLPOに対する持続的な保護が得られる。
【0017】
一実施形態では、重水素化アラキドン酸のプロドラッグは、7,7,10,10,13,13-D6-アラキドン酸のエステルであり、これは生体内で、7,7,10,10,13,13-D6-アラキドン酸(D6-AA)に変換される。この化合物を投与することにより、11,11-D2-リノール酸が必要とするような生体内での変換の必要性が無くなり、運動ニューロンへのより迅速な取り込みが提供され、それに伴ってLPOに対する保護が強化される。
【0018】
一実施形態では、プロドラッグが11,11-D2-リノール酸エチルエステルである場合、負荷期間中は1日あたり約5.5グラム~約12グラムの間、又は1日あたり約7~約12グラムの間、例えば約9グラム/日(例えば、8.64グラム/日)の用量を連日投与し、その後、維持期間中は1日あたり3~8グラムの間、例えば約5グラム/日(例えば、4.80グラム/日)又は約6グラム/日(5.76グラム/日)の用量を連日投与するが、ただし、維持量は負荷量よりも少ない。
【0019】
一実施形態では、エダラボンは、田辺三菱製薬(日本国大阪市)からRadicava(登録商標)の名称で販売されている製剤として提供される。一実施形態では、エダラボンは、米国特許第10987341号明細書(参照によりその全体が本明細書に援用されるものとする)に従って、水組成物中の、経口送達可能な形態で提供される。
【0020】
一実施形態では、エダラボンは、重水素化アラキドン酸エチルエステルのプロドラッグと併用される。11,11-D2-リノール酸エチルエステルは室温でオイルであるため、エダラボンは好ましくはそのオイルに添加される。エダラボンの推奨用量は投与あたり60mgであり、したがって、一実施形態では、この用量を、患者が毎日服用する11,11-D2-リノール酸エチルエステルのカプセルと併用する。一実施形態では、合計8.64グラムの11,11-D2-リノール酸エチルエステル(D2-LAエチルエステル)を含む、9個の1グラム錠剤を、3回の3錠の増分(three 3 pill increments)で1日3回患者に投与する。
【0021】
一実施形態では、エダラボンをD2-LAエチルエステルの油相に添加する。例えば、D2-LAエチルエステルを含む3個の錠剤にエダラボンを添加し、これらの錠剤が一緒に服用されるように適切に表示することができる。例えば、エダラボンを含むカプセルを、含まないカプセルと異なる色に着色することができる。あるいは、60mgのエダラボンを9錠すべてに均等に分割することもできる(すなわち、1錠あたり約6.6mg)。いずれの場合も、2つの薬剤を混合して経口投与に適した配合剤とすることができる。
【0022】
一実施形態では、重水素化アラキドン酸のプロドラッグは、7,7,10,10,13,13-D6-アラキドン酸エチルエステルである。この化合物はD2-LAのように生体内での変換を必要とせず、そしてD2-LAは約10%しかD2-AAに変換されないため、治療に必要なD6-AAエチルエステルの量はD2-LAの約10%である。さらには、実施例にも示したように、炎症モデルにおいてではあるが、D6-AAはD2-AAの約2倍の活性があることが示されている。しかし、これは本明細書において活性の改善に対する良い指標になると考えられる。したがって、治療に必要なD6-AA量は1日あたり約0.05~約2グラムである。この場合、D6-AAを投与するには、1個、2個、又は3個のカプセルを使用することができる。一実施形態では、この用量のD6-AAの投与を、1個、2個、又は3個のD6-AAカプセルに60mg用量のエダラボンも含めて、あるいは、このようなカプセルを使用する際に60mg用量のエダラボンを全カプセルに均等に分割して、同時に行うことができる。
【0023】
一実施形態では、エダラボンと重水素化アラキドン酸又はそのプロドラッグとを含む組成物が提供される。この組成物は、経口投与、静脈内投与、又は点滴投与用に設計されている。
【0024】
一実施形態では、前記重水素化アラキドン酸プロドラッグは、11,11-D2-リノール酸又はそのエステルである。
【0025】
一実施形態では、前記重水素化アラキドン酸プロドラッグは、7,7,10,10,13,13-D6-アラキドン酸エステルである。
【0026】
一実施形態では、前記エステルはエチルエステルである。
【0027】
一実施形態では、本開示は、少なくとも1日用量の2,4-ジヒドロ-3H-ピラゾール-3-オン又はその薬学的に許容される塩と、少なくとも1日用量の重水素化アラキドン酸又はそのプロドラッグとを含む、パーツキット(kit of parts)を提供する。
【0028】
一実施形態では、前記7,7,10,10,13,13-D6-アラキドン酸又はそのエステルを、負荷期間中に約0.05-約5グラム/日の用量で連日投与し、その後、維持期間中に負荷量の約30%~約70%の用量で連日投与する。
【0029】
一実施形態では、前記7,7,10,10,13,13-D6-アラキドン酸又はそのエステルを、負荷期間中に約0.5-約5グラム/日の用量で連日投与する。
【0030】
一実施形態では、前記2,4-ジヒドロ-3H-ピラゾール-3-オン又はその薬学的に許容される塩を、点滴液、注射用組成物、又は経口組成物として投与する。
【0031】
一実施形態では、前記2,4-ジヒドロ-3H-ピラゾール-3-オン又はその薬学的に許容される塩を、注射用組成物又は経口組成物として投与する。
【0032】
一実施形態では、前記2,4-ジヒドロ-3H-ピラゾール-3-オン又はその薬学的に許容される塩を、重水素化アラキドン酸又はそのプロドラッグと組み合わせた経口組成物として投与する。
【0033】
一実施形態では、本明細書に記載の方法は、前記重水素化アラキドン酸又はそのプロドラッグの投与中に、患者の過剰な食事性多価不飽和脂肪酸の摂取を制限することをさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0034】
本開示の新規な特徴が、添付の特許請求の範囲に具体的に記載されている。本開示の原理を利用した好ましい実施形態を示す以下の詳細な説明、及び添付の図面を参照することにより、本開示の特徴及び利点のより良い理解が得られるであろう。
【0035】
図1図1は、対応する機能喪失を伴うALSの自然経過と、6ヵ月間の治療を行ったエダラボン投与患者の機能喪失とを比較したものである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下の詳細な説明では、本明細書の一部を構成する添付図面を参照する。図面中、文脈上そうでない場合を除き、類似の記号は通常、類似の構成要素を示す。詳細な説明、図面、及び特許請求の範囲に記載された好ましい実施形態は、限定を意味するものではない。本明細書に提示された主題の範囲から逸脱することなく、他の実施形態を利用してもよく、他の変更を加えてもよい。本開示の態様は、本明細書で一般的に説明され、また図面に示されるように、多種多様な異なる構成で配置、置換、組み合わせ、分離、及び設計することができ、それらのすべてが本明細書で明示的に企図されることが容易に理解されるであろう。
【0037】
以下に特定の実施形態及び実施例を開示するが、発明の主題は、具体的に開示された実施形態を超えて、他の代替的な実施形態及び/又は使用、並びにそれらの改変及び等価物にも及ぶ。したがって、本明細書に添付される特許請求の範囲は、以下に記載される特定の実施形態のいずれによっても限定されるものではない。例えば、本明細書に開示されたいずれの方法又はプロセスにおいても、方法又はプロセスの行為又は操作を任意の適切な順序で実行してもよく、それらは必ずしも開示された特定の順序に限定されない。特定の実施形態の理解に役立つであろう様式で、様々な操作を複数の別個の操作として順番に説明することがあるが、説明の順番は、これらの操作が順番に依存することを意味すると解釈されるべきではない。さらに、本明細書に記載される構造、システム、及び/又は装置は、一体化された構成要素としても、あるいは別個の構成要素としても、具現化されてもよい。
【0038】
様々な実施形態を比較する目的で、これらの実施形態の特定の態様及び利点を説明する。このような態様又は利点のすべてが、任意の特定の実施形態によって達成されるとは限らない。したがって、例えば、各種実施形態を、本明細書において教示又は示唆され得る他の態様又は利点を必ずしも達成することなく、本明細書において教示される1つ又は一群の利点を達成又は最適化する様式で、実施してもよい。
【0039】
ヒトにおける筋萎縮性側索硬化症(ALS)の進行を抑制する方法が開示されている。この方法は、2,4-ジヒドロ-3H-ピラゾール-3-オン(Radicava(登録商標)の商標で市販されており、ALSの治療用に販売されている)と、重水素化アラキドン酸のプロドラッグとの、相乗的な組み合わせを用いる。
【0040】
本発明をより詳細に論じる前に、まず以下の用語を定義する。定義されない用語については、文脈における定義を与えるか、又は医学的に許容される定義を与えるものとする。
【0041】
本明細書で使用されている用語は、特定の実施形態を説明する目的でのみ使用されており、本発明の範囲を制限することを意図したものではない。本明細書において、単数形の「a」、「an」、及び「the」は、文脈からそうではないことが明らかな場合を除き、複数形も含むことを意図している。
【0042】
本明細書において、「任意の」又は「任意に」という用語は、その後に記載された事象又は状況が発生する又はしない可能性があることを意味し、その事象又は状況が発生する場合と発生しない場合とが記載に含まれるということを意味する。
【0043】
本明細書において、「約」という用語が、温度、時間、量、及び濃度など(それらの範囲も含む)の数字表示の前に使用される場合、それは、(+)又は(-)15%、10%、5%、もしくは1%相違し得る近似値、又はその間の任意のサブ範囲もしくはサブ値のことを示す。好ましくは、「約」という用語は、投与量などの量又は他の特徴に言及する場合、その量が±10%変動し得ることを意味する。
【0044】
本明細書で使用される「含む(comprising)」又は「含む(comprises)」という用語は、組成物及び方法が言及された要素を含み、他の要素も除外しないということを意図する。
【0045】
本明細書において、「~から本質的になる」という用語が組成物及び方法を定義するために使用される場合、記載された目的のための組み合わせに対して本質的に意味のある他の要素をいずれも除外することを意味する。したがって、本明細書に定義される要素から本質的になる組成物は、請求された発明の基本的かつ新規の特徴に実質的に影響を及ぼさない他の材料又は工程を除外しない。
【0046】
本明細書において使用される「~からなる」という用語は、痕跡を超える要素である他の成分及び実質的な方法工程を除外することを意味する。これらの各移行語で定義される実施形態は、本発明の範囲内である。
【0047】
本明細書で使用される「エダラボン」という用語は、以下の式で表すことができる3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン又はその塩のことを指す。
【化2】
【0048】
本明細書で使用される「重水素化アラキドン酸」という用語は、文脈上そうでない場合を除き、少なくとも13位の両方の水素原子が2個の重水素原子で置換されているアラキドン酸、及びその薬学的に許容される塩のことを指す。このような重水素化アラキドン酸としては、13,13-D2-アラキドン酸、10,10-13,13-D4-アラキドン酸、及び7,7,10,10,13,13-D6-アラキドン酸、並びにそれらの塩が挙げられるが、これらに限定されるものではない。7,7,10,10,13,13-D6-アラキドン酸に関して、このような化合物は、米国特許第10730821号明細書(参照によりその全体が本明細書に援用されるものとする)に記載されているように、この重水素化化合物の触媒合成から生じる、モノ-アリル部位(すなわち、4位及び16位)での適度な重水素化をさらに有し得る。一般に、これらのモノ-アリル位の水素原子の総量の約40%以下が重水素で置換されており、典型的には4位よりも16位で重水素が多く見られる。
【0049】
重水素化アラキドン酸(「薬物」)と関連して本明細書で使用される「プロドラッグ」という用語は、文脈上そうでない場合を除き、生体内でこの薬物を提供する化合物のことを指す。一実施形態では、プロドラッグは、重水素化アラキドン酸のエステルである。このような重水素化アラキドン酸としては、13,13-D2-アラキドン酸、10,10-13,13-D4-アラキドン酸、及び7,7,10,10,13,13-D6-アラキドン酸が挙げられる。
【0050】
一実施形態では、プロドラッグは、11,11-D2-リノール酸又はそのエステルを含み得る。生体内では、エステル基が除去されることで11,11-D2-リノール酸が提供され、その化合物の一部が酵素的に13,13-D2-アラキドン酸に変換される。その化合物の非変換部分は体内に吸収され、その後、エネルギー源として利用される。
【0051】
一実施形態では、プロドラッグは、8,8,11,11-D4-リノール酸又はそのエステルを含み得る。生体内では、エステル基が除去されることで8,8,11,11-D4-リノール酸が提供され、その化合物の一部が酵素的に10,10,13,13-D4-アラキドン酸に変換される。その化合物の非変換部分は体内に吸収され、その後、エネルギー源として利用される。
【0052】
一実施形態では、プロドラッグは、重水素化アラキドン酸のエステルである。このようなエステルとしては、13,13-D2-アラキドン酸、10,10-13,13-D4-アラキドン酸、及び7,7,10,10,13,13-D6-アラキドン酸のエステルなどの、重水素化アラキドン酸が挙げられる。7,7,10,10,13,13-D6-アラキドン酸に関して、このような化合物は、上記のように、この化合物の触媒合成から生じる、モノ-アリル部位(すなわち、4位及び16位)での適度な重水素化をさらに有し得る。
【0053】
本明細書で使用される、「リノール酸」という用語は、以下に提供される式を有し、各水素原子に天然存在度で重水素を(すなわち、天然の重水素を約0.0156%)有する化合物、及びその薬学的に許容される塩のことを指す。
【化3】
【0054】
リノール酸又はアラキドン酸のエステルは、当該技術分野で周知の方法で-OH基を-OR基に置換することによって形成される。このようなエステルは、本明細書において以下に定義される通りである。
【0055】
本明細書で使用される、「重水素化リノール酸又はそのエステル」という用語は、文脈上そうでない場合を除き、11,11-D2-リノール酸又は炭素数1~6のアルキルエステル、グリセロールエステル(モノグリセリド、ジグリセリド、及びトリグリセリドを含む)、ショ糖エステル、リン酸エステル(例えば、リン脂質)、及び同種のものを指す。使用する具体的なエステル基は、そのエステル基が薬学的に許容される(非毒性かつ生体適合性の)ものであれば、重要ではない。
【0056】
本明細書で使用される、「重水素化アラキドン酸エステル」という用語は、文脈上そうでない場合を除き、炭素数1~6のアルキルエステル、グリセロールエステル(モノグリセリド、ジグリセリド、及びトリグリセリドを含む)、ショ糖エステル、リン酸エステル(例えば、リン脂質)、及び同種のものを有する、このような重水素化アラキドン酸のことを指す。使用する具体的なエステル基は、そのエステル基が薬学的に許容される(非毒性かつ生体適合性の)ものであれば、重要ではない。
【0057】
本明細書で使用される、「リン脂質」という用語は、細胞膜の構成成分である、あらゆるリン脂質のことを指す。この用語には、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、及びスフィンゴミエリンが含まれる。運動ニューロンでは、細胞膜は、アラキドン酸を含むリン脂質に富む。
【0058】
本明細書で使用される、「疾患の病理」という用語は、その疾患と関連する、原因、発症、構造的/機能的変化、及び自然経過(natural history)のことを指す。「自然経過」という用語は、本明細書に記載の方法による治療を行わない場合の疾患の進行のことを意味する。
【0059】
本明細書で使用される、「疾患進行速度の減少」という用語は、患者の自然経過と比較して、治療開始後の疾患進行速度が減少していることを意味する。一例において、本明細書に記載の方法を用いた疾患進行の減少率は、患者の自然経過と比較した場合、治療開始後のある時点、例えば3ヵ月~24ヵ月の時点、例えば6ヵ月又は1年の時点において、少なくとも35%の減少又は少なくとも50%の減少という減少率である。ALSにおいては、疾患進行速度は、www.mdcalc.com/revised-amyotrophic-lateral-sclerosis-functional-rating-scale-alsfrs-rに掲載の改訂ALS機能評価尺度(ALSFRS-R)(参照によりその全体が本明細書に援用されるものとする)の連続測定値を用いて評価される。この評価尺度は、12個の異なる構成要素を0(より悪い)~4(最良)の尺度で評価するものであり、その構成要素とは、発話、唾液分泌、嚥下、筆記、歩行、食物の取り扱い(food handling)、服装及び衛生、寝返り、歩行、階段を上ること、呼吸困難、起座呼吸、並びに呼吸不全である。
【0060】
疾患進行速度の減少は、患者の自然経過でみられる下降勾配と比較した際に、治療中の患者の相対的機能性のALSFRS-Rにおける下降勾配が減少する(曲線が平坦になる)ことによって確認される。典型的には、治療前に測定された下降勾配と、治療開始から少なくとも90日後に測定された勾配との差は、少なくとも約30%の平坦化度(flattening level)を有する。7.5度の変化はそれに当たる(例えば、自然経過中の25度の下降勾配が17.5度の下降勾配へと減少することにより、勾配は40%の減少となる)。いずれにせよ、下降勾配が減少していることは、治療によって患者の疾患進行速度が減少していることを示す。
【0061】
本明細書で使用される、「患者」という用語は、重水素化アラキドン酸又はそのプロドラッグの投与により治療可能な神経変性疾患に罹患した、ヒト患者、又はヒト患者のコホートのことを指す。
【0062】
本明細書で使用される、「負荷量又はプライマー量」という用語は、投与開始後少なくとも約45日以内、好ましくは約30日以内に疾患進行速度の減少をもたらすのに充分な重水素化リノール酸又はそのエステルの量のことを指す。
【0063】
一実施形態では、11,11-D2-リノール酸又はそのエステルは、治療濃度域が広く、患者における忍容性が高いことが判明している。負荷量が用いられる場合、赤血球中の13,13-D2-アラキドン酸の定常状態濃度は、重水素化アラキドン酸を含めたアラキドン酸の赤血球中での総量を基準として、少なくとも約12%に、好ましくは少なくとも約15%に、より好ましくは少なくとも約20%に、より速やかに到達する。許可された米国特許出願第17/169271号明細書を参照のこと(この出願は参照によりその全体が本明細書に援用されたものとする)。他の重水素化アラキドン酸プロドラッグも生体内において良好な忍容性を示す。
【0064】
本明細書で使用される、「維持量」という用語は、プライマー量より少ない11,11-D2-リノール酸の用量であって、赤血球の細胞膜、ひいては運動ニューロンの細胞膜における13,13-D2-アラキドン酸の治療濃度を維持し、安定な疾患進行速度を維持するのに充分な用量のことを指す。
【0065】
本明細書で使用される、「定期的投与」という用語は、本明細書に記載される投与に実質的に適合する投与計画のことを指す。換言すれば、定期的投与には、30日間にわたる期間のうち少なくとも75%治療遵守する、好ましくは少なくとも80%治療遵守する、患者が包含される。いくつかの実施形態では、投与計画には、計画的な投与休止が含まれる。例えば、週6日の投与を提供する投与計画は、定期的投与の1つの形態である。他の一例では、患者は、少なくとも75%治療遵守していることを条件に、個人的な理由などで約3日間もしくは7日間、又はそれ以上、投与を休止することができる。
【0066】
「コホート」という用語は、少なくとも2名の、結果を平均化する対象となる患者のグループのことを指す。
【0067】
本明細書で使用される、本明細書に開示の化合物の「薬学的に許容される塩」という用語は、本明細書に記載の方法の範囲内であって、所望の薬理学的活性を保持しており、かつ生物学的に望ましくないものではない酸又は塩基付加塩(例えば、塩が過度に毒性、アレルギー性、又は刺激性ではなく、かつ生物学的に利用可能であるもの)を含む。化合物がアミノ基などの塩基性基を有する場合、薬学的に許容される塩は、無機酸(塩酸、ヒドロホウ酸(hydroboric acid)、硝酸、硫酸、及びリン酸など)、有機酸(例えば、アルギン酸塩、ギ酸、酢酸、安息香酸、グルコン酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、乳酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、及びp-トルエンスルホン酸など)、又は酸性アミノ酸(アスパラギン酸及びグルタミン酸など)と形成することができる。化合物がカルボン酸基などの酸性基を有する場合、それは、金属、例えばアルカリ金属及びアルカリ土類金属(Na、Li、K、Ca2+、Mg2+、Zn2+など);アンモニアもしくは有機アミン(ジシクロヘキシルアミン、トリメチルアミン、トリメチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなど);又は、塩基性アミノ酸(アルギニン、リジン、オルニチンなど);と塩を形成することができる。このような塩は、化合物の単離及び精製中にin situで調製することもできるし、あるいは、精製した化合物を、遊離塩基又は遊離酸の形態で、それぞれ適当な酸又は塩基と反応させ、それにより生成された塩を単離することによって調製することもできる。
【0068】
「過剰量のPUFA」、「過剰なPUFA摂取量」、及び同種の語句は、総PUFA摂取量(例えば、1日あたりの総PUFA摂取量)に関して、11,11-D2-リノール酸から13,13-D2-アラキドン酸への変換が、より少ない総PUFA摂取量の食事と比べて減少するような総PUFA摂取量のことを指す。いくつかの実施形態では、患者は、リノール酸、アラキドン酸、及び/又は他のPUFA化合物の摂取を制限する食事療法を受けている。患者が摂取できるPUFAsの量は、患者の健康状態、体重、年齢、服用している他の薬物、肝機能、代謝、及び同種のもの等の多くの要因に依存する。
【0069】
一般に、1日2000カロリーの食事をしている患者は、最大約22グラムの多価不飽和脂肪酸を摂取しており(news.christianacare.org/2013/04/nutrition-numbers-revealed-fat-intake/)、男女平均すると、そのうち約14グラムがリノール酸である(www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3650500/)。さらに、リノール酸の平均摂取量のうち、肝臓でアラキドン酸に変換されるのはわずか10%程度である。すなわち、1日あたり平均で約1.4グラムのアラキドン酸が生成されている。患者がリノール酸などのPUFAを過剰に摂取すると、その過剰分によって11,11-D2-リノール酸の有効濃度が希釈される。その結果、これは、他のすべての因子を一定とした場合、肝臓で生成される13,13-D2-アラキドン酸の量に影響する。
【0070】
総PUFA摂取量に関して、酵素的に生成される13,13-D2-アラキドン酸の量が、平均なPUFA摂取量である場合に生成される量と比べて1日あたり約70%未満となるような摂取量である場合、患者はリノール酸の摂取が過剰であると考えられる。
【0071】
病理
いくつかのアルデヒドがスルフヒドリル基と容易に反応し、生命維持に必要な代謝プロセスを阻害するという発見により、多価不飽和脂肪酸の過酸化が多くの神経変性疾患の病理の構成要素として関連づけられるようになった(Schauenstein, E.; Esterbauer, H. Formation and properties of reactive aldehydes. Ciba Found. Symp. (67):225-244; 1978)。このような脂質過酸化は、それが疾患の主な原因であっても、あるいは二次的な結果であっても、酸化ストレスに起因するものであり、ニューロン死をもたらしてALSの進行に関与する。
【0072】
このような過酸化の原因となる酸化ストレスは、活性酸素種(「ROS」)の日常的な産生と解毒のアンバランスによるものであり、それによって細胞の脂質膜への酸化攻撃が引き起こされる。運動ニューロンの脂質膜並びに小胞体及びミトコンドリアは、アラキドン酸(4部位でシス不飽和を有する炭素数20の多価不飽和脂肪酸(「PUFA」)に非常に富んでいる。これら4部位のそれぞれは、3個のビス-アリルメチレン基によって隔てられている。これらの基は、アリルメチレン基及びメチレン基に比べて、ROSによる酸化的損傷の影響、並びにシクロオキシゲナーゼ、シトクロム、及びリポキシゲナーゼなどの酵素の影響を、特に受けやすい。
【0073】
さらには、1個のアラキドン酸中のビス-アリルメチレン基がROSによってひとたび酸化されると、脂質膜中の他のアラキドン酸基のさらなる酸化のカスケードが生ずる。これは、単一のROSがフリーラジカル機構によって1個目のアラキドン酸成分の酸化を生じさせ、これによって、同じフリーラジカル機構により、隣接するアラキドン酸の酸化が可能になり、これによって、さらに別の隣接するアラキドン酸の酸化が可能になるという、脂質鎖自動酸化と呼ばれるプロセスのためである。その結果生ずる損傷により、細胞膜中には酸化したアラキドン酸成分が多く含まれるようになる。
【0074】
酸化アラキドン酸は、運動ニューロンの細胞膜の流動性及び透過性に悪影響を及ぼす。さらには、膜タンパク質の酸化を引き起こし、また、反応性の高い多数のカルボニル化合物に変換される場合がある。後者には、アクロレイン、マロン酸ジアルデヒド(malonic dialdehyde)、グリオキサール、メチルグリオキサールなどの反応種が含まれる(Negre-Salvayre A, et al. Brit. J. Pharmacol. 2008; 153:6-20)。しかし、アラキドン酸の酸化による最も顕著な生成物は、4-ヒドロキシノン-2-エナール(4-HNE;LA又はAAのようなn-6 PUFAから生成される)などのα,β-不飽和アルデヒド類、及び対応するケトアルデヒド類である(Esterfbauer H, et al. Free Rad. Biol. Med. 1991; 11:81-128)。上述したように、これらの反応性カルボニルは、マイケル付加又はシッフ塩基形成経路を通じて(生体)分子を架橋し、疾患の基礎を成す病理を継続させる。
【0075】
疾患の進行
患者がALSと診断されると、臨床医は、本明細書に記載されたように、治療していない場合の患者の機能喪失を評価することによって、その患者の疾患進行速度を評価する。この速度は疾患の「自然経過」と呼ばれ、典型的には、設定された期間にわたって患者の機能性の程度を測定する、標準化された試験によって測定が行われる。例えばALSの場合、経時的な身体的機能性の喪失を判定するALSFRS-Rと呼ばれる標準的な試験があり、これが疾患の進行度を測るのに使用される。この試験には12個の項目があり、それぞれを0(より悪い)~4(最良)の尺度で測定する。薬物の有効性は、疾患進行速度を減少させる能力によって証明される。機能喪失速度のわずかな減少であっても、意味があるものと考えられる。
【0076】
これまでに、重水素化11,11-D2-リノール酸又はそのエステル(脂質二重層形態のものを含む)を用いたALSの治療により、多価不飽和脂肪酸がROSに対して安定化されることが示されている。そのような治療の例は、国際公開第2011/053870号パンフレット、国際公開第2012/148946号パンフレット、及び国際公開第2020/102596号パンフレットに記載されており、これらはそれぞれ参照によりその全体が本明細書に援用されたものとする。
【0077】
これらの各文書は、11,11-D2-リノール酸の一部が13,13-D2-アラキドン酸へと生体内で変換され、その後、運動ニューロンに取り込まれて、これらのニューロンを酸化的損傷から安定化させることを開示している。この、13,13-D2-アラキドン酸の生体内における蓄積は、治療濃度が達成されるまで数ヶ月間にわたって起こる。ひとたび13,13-D2-アラキドン酸の治療濃度が達成された後は、そのような治療濃度を維持するために、11,11-D2-リノール酸又はそのエステルの継続的な投与が必要となる。
【0078】
さらには、機能喪失が、疾患の末期(典型的には診断後の約2~5年の範囲)よりもかなり早い時期に、極めて急速かつ頻繁に起こるのが一般的であることを特に考慮すると、用いる投与レジメンは、治療効果の速やかな発現という患者のニーズに対処するものでなければならない。したがって、このような神経変性疾患を治療するためのいずれの治療法も、治療開始後1ヵ月以内に有意な治療効果を提供し、それによって患者の機能を可能な限り維持し、さらに疾患進行速度の実質的な減少を提供するものでなければならない。
【0079】
化合物の調製
11,11-D2-リノール酸は当該技術分野で公知であり、市販されている。さらに、11,11-D2-リノール酸及びそのエステルは、例えば米国特許第10052299号明細書に記載されている(参照によりその全体が本明細書に援用されたものとする)。重水素化アラキドン酸エステルは、米国特許第10577304号明細書及び米国特許第10730821号明細書に提供されているように、当該技術分野で公知である(参照により、それぞれの全体が本明細書に援用されたものとする)。
【0080】
方法論 - 11,11-D2-リノール酸又はそのエステル
本明細書に記載されている方法の1つでは、ALSに罹患した患者を、13,13-D2-アラキドン酸のプロドラッグである11,11-D2-リノール酸又はそのエステルで治療する。投与後、11,11-D2-リノール酸は生体内で13,13-D2-アラキドン酸へと変換される。
【0081】
一実施形態では、11,11-D2-リノール酸又はそのエステルは、エダラボンとの併用時に、生体内で相乗的濃度を生ずるのに充分な量で患者に投与される。一実施形態では、このような相乗的濃度は、いずれの重水素化アラキドン酸も含めたアラキドン酸の総濃度を基準にすると、赤血球又は血漿中の13,13-D2-アラキドン酸として少なくとも3%である。好ましい一実施形態では、赤血球又は血漿中の13,13-D2-アラキドン酸の定常状態濃度が、そこに見出される重水素化アラキドン酸を含めたアラキドン酸の総量を基準として、少なくとも約12%、好ましくは少なくとも約15%、より好ましくは少なくとも約20%に到達するのに充分な、11,11-D2-リノール酸又はそのエステルが患者に投与される。
【0082】
一実施形態では、赤血球中の重水素化AAの濃度が、そこに見出される重水素化アラキドン酸を含めたアラキドン酸の総量を基準として、少なくとも約3%、好ましくは少なくとも6%、より好ましくは少なくとも10%、最も好ましくは少なくとも15%となるのに充分な量の、重水素化LA又はそのエステルが患者に投与される。これらの濃度のいずれであっても、主治医は、見出された濃度をニューロン内の重水素化AAの治療濃度と関連付けることができる。重水素化AAを含めた赤血球中のアラキドン酸の総量に対する、重水素化AAの割合は、約0.5%~約60%の間であってもよい。一実施形態では、赤血球中の全アラキドン酸に対する重水素化AAの割合は、約5%~約50%の間、約10%~約40%の間、約15%~約30%の間、及び約15%~約25%の間であってもよい。いくつかの実施形態では、重水素化AAを含めた赤血球中のアラキドン酸の総量に対する重水素化AAの割合が目標量未満、例えば、約3%未満、約6%未満、約10%未満、約15%未満、約20%未満、約30%未満、約40%未満、約50%未満、又は約60%未満である場合に、重水素化LAの用量が変更される(例えば、増加される)。
【0083】
一実施形態では、このような投与は、2種の投与成分を含む投与レジメンの使用を含む。第1投与成分は、11,11-D2-リノール酸又はそのエステルのプライマー量を含む。第2投与成分は、11,11-D2-リノール酸又はそのエステルの維持量を含み、第2投与成分中の11,11-D2-リノール酸又はそのエステルの量は、第1投与成分中における量よりも少ない。
【0084】
プライマー量については、用いる11,11-D2-リノール酸又はそのエステルの量で、速やかに治療効果の発現が提供されるように設計される。このような治療効果は、以下に述べるように、神経変性疾患の疾患進行の抑制によって測定される。一実施形態では、プライマー量については、所与の1日に患者が摂取するPUFAの量、11,11-D2-リノール酸の13,13-D2-アラキドン酸への生体内での変換速度、及び患者のニューロンにおける脂質の一般的なターンオーバー速度(半減期)などの、様々な複雑な因子が考慮される。
【0085】
この最後の点については、ニューロンの脂質成分は静的なものではなく、むしろ時間の経過とともに交換されるものであって、体内において有限の半減期を有する。一般に、細胞内の脂質成分は、毎日ほんの一部しか入れ替わらない。ニューロンの場合、これらの細胞にはアラキドン酸が豊富に含まれている。これらの膜におけるアラキドン酸のターンオーバーは、髄液中のアラキドン酸を含む脂質の安定的なプールから起こる。そして、この安定的なプールは、患者の食事の一部として患者が新たに摂取する脂質に含まれるアラキドン酸によって、及び肝臓でリノール酸からアラキドン酸が生合成されることによって、時間の経過とともに入れ替わり、補充される。いくつかの実施形態では、11,11-D2-リノール酸の維持量は、13,13-D2-アラキドン酸への変換量が、少なくとも体内からの分泌速度に一致するように設定される。
【0086】
生体内でのアラキドン酸の合成速度は、通常、肝臓が所与の1日に生成可能なアラキドン酸の最大量までの範囲に制限される。そのため、摂取されたリノール酸のほんの一部だけがアラキドン酸に変換され、リノール酸の大部分はそのまま残る。このように、リノール酸からのアラキドン酸の合成速度が制限されている結果、重水素化リノール酸を投与した後にはこのような合成に遅延が生じ、投与レジメンのプライマー量から維持量へと切り替わった後も赤血球中の13,13-D2-アラキドン酸濃度が上昇し続ける。
【0087】
したがって、本明細書に記載の11,11-D2-リノール酸又はそのエステルの投与量の選択は、上記の各要素に対処するものであり、体内への充分な量の11,11-D2-リノール酸の蓄積と、ひいては赤血球における治療的水準の13,13-D2-アラキドン酸の生成とを可能にする投与レベルを設定するものである。これが達成された場合に疾患進行速度に有意な減少があることを、実施例におけるデータが示している。
【0088】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の投与レジメンの負荷量は、11,11-D2-リノール酸又はそのエステルが患者に吸収された際に、11,11-D2-リノール酸 13,13-D2-アラキドン酸の生体内での変換が最大化されるのに充分な量の、11,11-D2-リノール酸又はそのエステルを含む。ひとたび変換が最大化されると、生成した13,13-D2-アラキドン酸は、患者において治療濃度に達するまで体内に蓄積する。この過程で、13,13-D2-アラキドン酸は、ニューロンを含む体内の細胞に全身的に吸収されるが、このような吸収が起こる速度は、これらの運動ニューロンの細胞膜における脂質の交換速度又はターンオーバー速度に基づいたものである。
【0089】
一実施形態では、負荷量は、1日当たり約7-約12グラムの11,11-D2-リノール酸又はそのエステル、好ましくは1日当たり約8.64グラムの11,11-D2-リノール酸エチルエステル(3カプセルを1日3回投与)を含み、維持量は負荷量よりも少なく、例えば約5.84グラムの11,11-D2-リノール酸(3カプセルを1日2回投与、又は2カプセルを1日3回投与)である。いくつかの実施形態では、プライマー量での11,11-D2-リノール酸又はそのエステルの連日投与又は定期的投与は、1日あたり約5.5-約12グラムの範囲であり、約5.5g、約6g、約6.5g、約7g、約7.5g、約8g、約8.5g、約8.64g、約9g、約9.5g、約10g、約10.5g、約11g、約11.5g、及び約12gなどである。いくつかの実施形態では、プライマー量での11,11-D2-リノール酸又はそのエステルの連日投与又は定期的投与は、1日あたり約5.5-約12グラムの範囲であり、約5.5g、約6g、約6.5g、約7g、約7.5g、約8g、約8.5g、約8.64g、約9g、約9.5g、約10g、約10.5g、約11g、約11.5g、及び約12gなどである。
【0090】
一実施形態では、そして実施例において示されているように、エダラボンと11,11-D2-リノール酸又はそのエステルとを使用した相乗的な結果は、わずか約1.5グラム~約12グラムの11,11-D2-リノール酸又はそのエステルの使用によって達成することができる。しかし、治療効果の速やかな発現を達成するという目標は、上記のように負荷量及び維持量を使用することで、最もよく達成される。
【0091】
一実施形態では、プライマー量又は負荷量を少なくとも約24日間、又は少なくとも約45日間継続し、その結果、例えば、生体内で11,11-D2-リノール酸の治療濃度が速やかに達成され、それにより疾患進行速度が減少する。一実施形態では、プライマー量の投与完了後、維持量を定期的に投与する。一実施形態では、1日当たりの11,11-D2-リノール酸又はそのエステルのプライマー量の、約70%以下を投与する。D2-LAの安全性プロフィールに基づき、そのプライマー量又は負荷量を、主治医の自由選択によって、治療期間を通して使用することができる。
【0092】
方法論 - 7,7,10,10,13,13-D6-アラキドン酸又はそのエステル
前述のように、患者に投与される重水素化アラキドン酸又はそのエステルには、本明細書で用語が定義されている通りの7,7,10,10,13,13-D6-アラキドン酸又はそのエステル(「D6-AA」)が含まれる。これらの化合物上の3個のビス-アリル炭素原子は、実質的にすべての水素が重水素で置換されているため、これらの化合物は、脂質の自動酸化を低減又は除去する優れた還元を提供する。このように、これらの化合物はALSの進行速度を有意に減少させる。好ましい一実施形態では、D-6アラキドン酸又はそのエステルは、第1及び第2投与成分を含む段階的な様式で送達される。第1投与成分であるプライマー量は、連日又は定期的に、約0.05-約5グラム、又は約0.5-約5グラムのD6-AA又はそのエステルがプライマーにおいて使用されることを除き、上記のプロトコルに従う。用いる維持量は負荷量より少なく、一般に負荷量の約30%~約70%の間である。
【0093】
一実施形態では、プライマー量又は負荷量を少なくとも約24日間、又は少なくとも約45日間継続し、その結果、例えば、生体内で7,7,10,10,13,13-D6-アラキドン酸の治療濃度が速やかに達成され、それにより疾患進行速度が減少する。一実施形態では、プライマー量の投与完了後、維持量を定期的に投与する。一実施形態では、1日当たりの7,7,10,10,13,13-D6-アラキドン酸又はそのエステルのプライマー量の約70%以下を投与する。D6-AAの安全性プロフィールに基づき、そのプライマー量又は負荷量を、主治医の自由選択によって、治療期間を通して使用することができる。
【0094】
本明細書に記載の方法では、本明細書に記載の方法において使用するための治療濃度のD6-AAを蓄積させるために、D6-AA又はそのエステルを患者に投与する。
【0095】
一実施形態では、赤血球又は血漿中のD6-AAの濃度が、そこに見出される重水素化アラキドン酸を含めたアラキドン酸の総量を基準として、少なくとも約3%、好ましくは少なくとも6%、より好ましくは少なくとも10%、最も好ましくは少なくとも15%となるのに充分な量の、D6-AA又はそのエステルが患者に投与される。これらの濃度のいずれであっても、主治医は、見出された濃度をニューロン内のD6-AAの治療濃度と関連付けることができる。重水素化AAを含めた赤血球又は血漿中のアラキドン酸の総量に対する、D6-AAの割合は、約0.5%~約60%の間であってもよい。一実施形態では、赤血球又は血漿中の全アラキドン酸に対するD6-AAの割合は、約5%~約50%の間、約10%~約40%の間、約15%~約30%の間、及び約15%~約25%の間であってもよい。いくつかの実施形態では、重水素化AAを含めた赤血球中のアラキドン酸の総量に対するD6-AAの割合が目標量未満、例えば、約3%未満、約6%未満、約10%未満、約15%未満、約20%未満、約30%未満、約40%未満、約50%未満、又は約60%未満である場合に、D6-AAの用量が変更される(例えば、増加される)。
【0096】
一実施形態では、このような投与は、2種の投与成分を含む投与レジメンの使用を含む。第1投与成分は、D6-AA又はそのエステルのプライマー量を含む。第2投与成分は、D6-AA又はそのエステルの維持量を含み、第2投与成分中のD6-AA又はそのエステルの量は、第1投与成分中における量よりも少ない。
【0097】
プライマー量については、用いるD6-AA又はそのエステルの量で、速やかに治療効果の発現が提供されるように設計される。このような治療効果は、以下に述べるように、神経変性疾患の疾患進行の抑制によって測定される。一実施形態では、プライマー量については、所与の1日に患者が摂取するPUFAの量、及び患者のニューロンにおける脂質の一般的なターンオーバー速度(半減期)などの、様々な複雑な因子が考慮される。
【0098】
この最後の点については、ニューロンの脂質成分は静的なものではなく、むしろ時間の経過とともに交換されるものであって、体内において有限の半減期を有する。一般に、脂質内の脂質成分は、毎日ほんの一部しか入れ替わらない。ニューロンの場合、これらの細胞にはアラキドン酸が豊富に含まれている。これらの膜におけるアラキドン酸のターンオーバーは、髄液中のアラキドン酸を含む脂質の安定的なプールから起こる。そして、この安定的なプールは、患者の食事の一部として患者が新たに摂取する脂質に含まれるアラキドン酸によって、及び肝臓でリノール酸からアラキドン酸が生合成されることによって、時間の経過とともに入れ替わり、補充される。いくつかの実施形態では、D6-AA又はそのエステルの維持量は、投与されるD6-AAエステルの量が体内からのD6-AAの分泌速度に一致するように設定される。
【0099】
本明細書に記載された方法は、ニューロンの脂質膜がLPOに対して安定化されると、神経変性疾患の進行が実質的に抑制されるという発見にも一部基づいている。これは、アラキドン酸の水素原子が重水素原子に置き換わり、重水素化アラキドン酸が、水素原子のみのアラキドン酸と比べて、ROSに対して有意に高い安定性を有するようになったためと考えられる。上記のように、この安定性は、脂質自動酸化のカスケードが弱まり、そのため疾患進行速度が抑制されるという形で現れる。
【0100】
一実施形態では、本明細書に記載の方法は、ニューロン中の重水素化アラキドン酸の治療濃度を提供するのに充分な量のD6-AAを送達する投与レジメンを採用することによって、この課題に対処する。それを組み入れることにより、重水素化アラキドン酸は、適切な量で投与された際にLPOの度合いを低下させ、その結果ALSの進行を効果的に抑制する。
【0101】
本明細書に記載されている方法の1つでは、ALSに罹患した患者を、D6-AAのプロドラッグであるD6-AAエステルで治療する。あるいは、D6-AA(薬学的に許容されるその塩も含む)を、その活性薬剤として患者に直接投与することもできる。投与されると、D6-AAエステルはD6-AAに変換される。いずれの場合も、このD6-アラキドン酸は体内に容易に吸収される。
【0102】
方法論 - 3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン(エダラボン)又はその薬学的に許容される塩
エダラボンは、Millipore Sigma社から市販されており、この薬剤の投与方法が製品添付文書に記載されている(参照により本明細書に援用されるものとする)。一実施形態では、エダラボンは、田辺三菱製薬(日本国大阪市)から入手可能なRadicava(登録商標)の製品添付文書に記載されている点滴液などとして投与される。他の一実施形態では、エダラボンは、https://medlineplus.gov/druginfo/meds/a617027.html(参照によりその全体が本明細書に援用されたものとする)に記載の様式で静脈内投与される。他の一実施形態では、経口投与量のエダラボンを、米国特許第10987341号明細書(参照によりその全体が本明細書に援用されたものとする)に記載のように投与することができる。さらに別の一実施形態では、エダラボンを、Parikh, et al., Drug Del., 24(1):962-978 (2017)に記載されるように、脂質ベースのナノシステムに製剤化することができる。
【0103】
組み合わせ
本発明の方法は、エダラボンと、重水素化アラキドン酸もしくはそのエステル、又はそれらのプロドラッグとの相乗的な組み合わせを用いることにより、各薬物を単独で使用する場合と比較して、ALSに罹患している患者の機能低下速度を有意に減少させる。
【0104】
エダラボンは、重水素化アラキドン酸又はそのプロドラッグもしくはエステルと同時に投与してもよいし、重水素化アラキドン酸又はそのプロドラッグもしくはエステルの前に投与してもよいし、あるいは、重水素化アラキドン酸又はそのプロドラッグもしくはエステルの後に投与してもよい。重水素化アラキドン酸又はそのプロドラッグもしくはエステルは、エダラボンと同じ製剤で投与してもよいし、異なる製剤で投与してもよい。
【0105】
例えば、重水素化アラキドン酸又はそのプロドラッグもしくはエステルを、定期的に、例えば連日又は1日おきなどに、投与してもよい。エダラボンの現在の推奨用量では、60mgの投与を点滴静注(30mg/100mL)として60分間かけて行う。エダラボンは、例えば50mg/日~150mg/日の間、例として60mg/日又は105mg/日で、経口投与してもよい。いくつかの実施形態では、エダラボンは、1日用量の投与を14日間行い、その後、薬物を投与しない期間を14日間設ける初期治療サイクルで投与される。いくつかの実施形態では、エダラボンは、それに続く治療サイクルで以下のように投与される:14日間の期間のうち、1日用量の投与を10日間行い、その後、薬物を投与しない期間を14日間設ける。
【0106】
一実施形態では、エダラボンを用いて治療されているALS患者の機能喪失速度を減少させる方法が提供され、方法は、さらに重水素化アラキドン酸又はそのプロドラッグの有効量を用いて前記患者を治療することを含む。そのように投与された場合、この組み合わせがもたらす機能喪失速度の減少量は、各薬物単独によって達成される相加的な減少量よりも大きい。
【0107】
一実施形態では、エダラボンの投与形態は重要ではなく、所望の治療を提供するいずれの形態も使用することができる。これには、点滴投与、静脈内投与、経口送達、経皮送達、肺内送達、及び同種のものが含まれる。
【0108】
一実施形態では、13位に重水素化を有する、重水素化アラキドン酸もしくはそのエステル、又はそのプロドラッグが、D2-LA又はそのエステルとして投与される。生体内では、D2-LAの一部がD2-AAに生物変換され、それによって活性のある重水素化D2-AAが患者に提供される。
【0109】
一実施形態では、D2-LAエチルエステルが、負荷量及びその後の維持量を含む、段階的投与計画で投与される。負荷量は、1日あたり約7~約12グラムの経口送達D2-LAを含む。維持量は負荷量より少なく、同じく経口投与される。典型的には、維持量は負荷量の約65%以下であり、好ましくは、負荷量の約30%~約65%である。負荷量は、生体内でのD2-AAの定常状態濃度を達成するのに充分な期間継続され、これは典型的には、主治医の評価に基づいて、治療開始から少なくとも約30日間、又は45日間、又は約60日間である。負荷量から維持量への具体的な移行時期は、主治医の自由裁量による。例えば、上記の許可された米国特許出願第17/169271号明細書を参照のこと。赤血球中のD2-AA濃度を定期的に分析することで、D2-LAの吸収、及びその後のD2-LAからD2-AAへの生体内変換が適切に進行しているかどうかを評価するための基盤が提供される。例えば、米国仮出願第63/177794号明細書、国際出願PCT/US22/15368号明細書、及び国際出願PCT/US22/15366号明細書を参照のこと(参照により、それぞれの全体が本明細書に援用されたものとする)。
【0110】
一実施形態では、患者に投与されるD2-LA又はそのエステルの量は、本明細書に記載される組み合わせで達成される相乗効果を反映するように減少させることができる。好ましいものではないとしても、エダラボンとの併用時、1日あたり約3グラム又は1日あたり5グラムの量で投与を行うことで相乗効果が認められる。
【0111】
D6-AAに関しては、エステルプロドラッグとして、あるいはD6-アラキドン酸又はその薬学的に許容される塩として、投与することができる。この薬物は上記のように経口投与される。この場合も、定期的な血液検査を行うことによって、薬物の適切な吸収を評価することができる。上記のように、段階的投与レジメンが好ましい。しかし、好ましいものではないが、1日あたり0.6グラムなど、一貫した量の薬物又はプロドラッグを投与することもできる。
【0112】
一実施形態では、ALSに罹患しており、重水素化アラキドン酸又はそのプロドラッグの有効量を用いて治療されている患者の機能喪失速度を減少させる方法が提供され、方法は、エダラボンの有効量を前記患者に投与することを含む。そのように投与された場合、この組み合わせがもたらす機能喪失速度の減少量は、各薬物単独によって達成される相加的な減少量よりも大きい。上記の投与方法を用いることができる。
【0113】
一実施形態では、エダラボン、及び重水素化アラキドン酸又はそのプロドラッグを、薬剤を全身に取り込ませるために、患者に投与する製剤に配合することができる。例えば、D2-LAエチルエステル及びD6-AAエチルエステルは、いずれもエダラボンの担体として使用することができるオイルである。例えば、エダラボンをこのようなオイルのいずれかに添加し、その組み合わせをカプセルに封入するか、又はオイルとして投与することができる。後者の場合、組み合わせは、甘味料、安定剤、着色料、及び同種のものをさらに含むことができる。例えば、エダラボンを(遊離塩基として)、D2-LA又はD2-AAに有効量で添加する。この組み合わせを必要に応じて攪拌し、均質な油溶液を提供する。必要であれば、特にD2-AAについては、溶液の均質性を確保するために、少量のAAなどの共溶媒を混合することができる。
【0114】
したがって、一実施形態では、患者への投与に適した組成物が提供され、この組成物はD2-LAエステル又はD6-AAエステルを含み、また、この組成物は有効量のエダラボンをさらに含む。このような組成であれば、2種類の薬物を順次別々に投与する必要がなくなる。
【0115】
疾患の進行
ALSにおいては、改訂ALS機能評価尺度(ALSFRS-R)によって測定される公知の確立された機能低下速度を用いて、薬物療法開始後の機能低下速度を薬物療法前の機能低下速度(機能低下の自然経過)と比較することで、この疾患の進行の抑制を容易に計算することができる。機能低下速度は日常的に感じ取れるものではないため、機能低下が典型的には毎月測定され、3ヶ月ごと、6ヶ月ごと、又は毎年など、1~24ヶ月ごと等の期間にわたって評価される。
【0116】
以下の例で述べるように、機能低下速度は、治療前の疾患の自然経過について、個人又はコホートの進行を測定することが前提である。次に、治療開始後3ヵ月、6ヵ月、又は12ヵ月などの期間の時点で、機能低下の個人平均又はコホート平均を決定する。コホートの自然経過に基づく低下速度を分母として設定する。分子には、自然経過の疾患進行速度と、本発明による設定治療期間後の機能低下速度との間のデルタを設定する。得られた分数に100を掛けたものを変化率とする。以下はこの分析の例である。
【0117】
コホートAは、1年間に対する年率換算で、自然経過の平均機能低下速度が28である。本発明による治療開始から6ヵ月後、コホートAでは、年率換算の平均機能低下速度は14まで減少した。これは14度のデルタを提供する。つまり、14を分子、28を分母とし、結果を100倍すると、年率換算で50パーセント減という減少が得られる。
【0118】
一般に、本発明の方法は、コホートに対して、少なくとも30%、より好ましくは少なくとも約35%、又は少なくとも約40%、又は少なくとも約45%、又は少なくとも約50%、又は少なくとも約55%、又は少なくとも約60%という、機能性低下の平均変化率を提供する。いくつかの実施形態では、機能性低下の変化は、例えば、3ヶ月間~24ヶ月間、例えば、3ヶ月間、6ヶ月間、又は毎年などの期間にわたって測定される。機能低下速度は、3ヶ月と1年との間の任意の中間的な期間にわたって測定することができる。
【0119】
パーツキット
本明細書に記載された方法を、パーツキットを使用して実施することができる。例えば、注射剤又は点滴剤のいずれかとしてのエダラボンが、1日1回、10日間投与を行い、その後18日間投与しないように設計される。エダラボンをゲルカプセルとして経口投与する場合、パーツキットは、第1セットであるエダラボンカプセルと、第2セットである重水素化アラキドン酸又はそのプロドラッグとを含む。D2-LAエステルの場合、第2セットにはそれぞれの日に投与するための複数のカプセルが含まれる。
【0120】
一実施形態では、パーツキットには、1カプセル中に60mgの用量のエダラボンを含むカプセル、又は2カプセル中に30mgずつ含むカプセルを収容する、第1列を含めることができる。第2列には、9カプセル中に1日用量の1/9ずつD2-LAエステルを含むカプセルを収容することができる。これらのカプセルを3個ずつ3群に分け、各群を隣の群と別々にすることで、朝、昼、及び晩の3回に分けて服用することを明確にすることができる。一実施形態では、エダラボンカプセルを着色してD2-LAエステルカプセルと区別する。例えば、エダラボンカプセルを赤色に、D2-LAエステルカプセルを緑色に着色することができる。パーツキットは、容器1個あたり1日分の用量のみ、もしくは複数の日数分の用量を含んでもよく、又は容器1個あたり複数の日数分の用量を含んでもよい。これらの容器のそれぞれには、D2-LAエステル単独のいずれの投与にも先立ち、そこに含まれる用量を服用することを示す表示を付すことができる(「第1容器」)。好ましくは、いずれの28日間の投与期間においても、1つの容器内の組み合わせの最大投与回数は10日以内である。これにより、10日間の投与期間を超えてエダラボンを投与し続けることが防止される。D2-LAエステルの維持量を使用する場合、投与に必要なカプセル数を減らしてもよく、また減らさなくてもよいと理解される。カプセル数を減らさない場合には、カプセルのサイズを小さくするか、又は薬学的に許容される賦形剤をカプセルに加えることができる。
【0121】
パーツキットは、さらなる容器又は追加容器(「第2容器」)を含むことができ、各容器は、D2-LAエステルの1日分の用量又は複数の日数分の用量を含む。第2容器は、28日間の投与期間の残りの用量を含む。好ましくは、第2容器には、第1容器の用量が服用されるまでこれらの容器を使用しないことを示す表示が付される。第2容器内のD2-LAエステルの用量についても、第1容器における場合と同様に配置を行い、同様に着色することができる。
【0122】
D6-AAエステルの場合、治療に必要な薬物の量は、上述のD2-LAエステルの場合よりも少なくすることが意図される。したがって、この実施形態では、パーツキットは、D2-LAエステル用よりもD6-AAエステル用のカプセルの方が数が少ないという事実を除けば、実質的に上記と同様である。
【0123】
一実施形態では、カプセルは、エダラボンを重水素化アラキドン酸又はそのプロドラッグに混合又は可溶化した、組み合わせを含むことができる。このような場合、パーツキットは、第1セットのカプセルの容器を含み、このカプセルは、D2-LAエステルを含んだカプセルにエダラボンの1日用量を含めたものである(「第1セットのカプセル」)。一実施形態では、この第1セットのカプセルは、エダラボンの用量を、1個のカプセルに含むか、又はD2-LAエステルが必要とするカプセル数へと分割して含む。例えば、D2-LAの用量に対して9個の別々のカプセルが必要な場合、エダラボンの全用量を1個のカプセル、3個のカプセル、6個のカプセル、又は9個のカプセルに分割することができる。エダラボンを含むカプセルのサブセットはいずれも、そうでないカプセルと区別するために、適切な着色な必要である。上記のように、エダラボンに適合する現在の用量要件を満たすには、このような容器内の用量の最大数は10回分となる。あるいは、10日間の期間のそれぞれの日に対する第1セットのカプセルを、1日分の容器、複数日分の容器(例えば、5日分)、又は10日間すべて1つの容器で提供することができる。D2-LAエステルの維持量を用いる場合、カプセル数 と理解される。
【0124】
パーツキットは、治療計画の11日目から28日目まで使用するカプセルのための、さらなる容器又は追加容器を含むことができる(「第2セットのカプセル」)。一実施形態では、第2セットのカプセルの1日用量を、1日分の容器又は複数日分の容器に含めることが出来る。好ましくは、第2セットのカプセルのための容器には、第1セットのカプセルの服用後までこの容器を使用しないことを示すラベルが付される。これらの容器内のD2-LAエステルの用量についても、上述と同じ形式(3×3)で配置を行うことができる。上記のように、維持量を用いる場合は、カプセル数を減らすことができるし、あるいは1カプセルあたりの活性を減らして同じカプセル数を維持することもできる。
【0125】
D6-AAエステルの場合、治療に必要な薬物の量は、上述のD2-LAエステルの場合よりも少なくすることが意図される。したがって、この実施形態では、パーツキットは、D2-LAエステル用よりもD6-AAエステル用のカプセルの方が数が少ないという事実を除けば、実質的に上記と同様である。
【0126】
エダラボンを注射用組成物として投与する場合、パーツキットは、上記のD2-LAエステル又はD6-AAエステルの1日用量、及び注射用エダラボン組成物又は複数の1日用量を含むシリンジの両方を含むことができる。一実施形態では、パーツキットには、最大10本までの複数のシリンジと、対応する数のD2-LAエステル又はD6-AAエステルの1日用量とを収容した、一次容器を含めることができる。上記のように、一次容器はシリンジの数を10本に制限し、いずれかのエステルを含むカプセルを前述の通りに配置することができる。二次容器に、いずれかのエステルを含む残りの18日分のカプセルを含めることにより、全28日間の医薬投与レジメンを確保することができる。
【0127】
明らかなように、1日あたり60mgで10日間の前記投与レジメンを満たすのに充分な具体的な用量のエダラボンと、全28日間の投与レジメンのための、負荷量又は維持量いずれかのD2-LAエステル又はD6-AAエステルと、が提供される限りは、パーツキットの各実施形態における容器の詳細は変更可能である。複数の28日分の投与レジメンを、病院、薬局、主治医、患者の介護者、又は患者に輸送できるように、充分な容器を提供可能であることが企図される。
【0128】
使用する容器は重要ではなく、例えばカプセル用のブリスターパック;紙、プラスチック、又は金属を含む密閉箱;1つ以上のボトル;及び同種のものなどが挙げられる。容器には、適切な表示を付すか、又はそのような表示を含めることにより、介護者又は患者に両薬物の適切な投与を確実に指示できるようにする。
【実施例
【0129】
本明細書に記載の方法及び組成物は、以下の実施例を参照することによりさらに理解される。これら実施例は本発明の単なる例示であることを意図している。これらの方法及び組成物は、好ましい実施形態によって範囲が限定されるものではなく、好ましい実施形態は単なる本発明の一態様の例証を意図するものである。機能的に同等な方法及び組成物は、いずれも均等物とみなされる。本明細書に記載されたものに加えて、本発明の様々な改変が、前述の説明及び添付の図面から当業者に明らかになるであろう。このような改変は、添付の特許請求の範囲に含まれる。これらの実施例において、以下の用語が本明細書で使用され、そして以下の意味を有する。定義がない場合、略語は従来の医学的な意味を有する。
D2-AA = 13,13-D2-アラキドン酸
D6-AA = 本明細書に定義される通り
AA = アラキドン酸
ALS = 筋萎縮性側索硬化症
ALSFRS-R = 改訂ALS機能評価尺度
D2-LA = 11,11-D2-リノール酸
LA = リノール酸
LPO = 脂質過酸化
Radicava(登録商標) = 田辺三菱製薬(日本国大阪市)が販売するエダラボン点滴製剤
RBC = 赤血球
【0130】
実施例1 - D2-AAとエダラボンの併用療法の使用による相乗効果の証明
この実施例では、17名のALS患者をD2-LAで治療した拡大アクセスプログラム(expanded access program)の結果を報告する。これら7名の患者のうち、3名の患者はD2-LAによる治療前及び治療中にエダラボンで治療を行い、4名の患者は治療プロトコル中にD2-LAのみで治療を行った。現在の投与レジメンは、約8.64グラム/日の負荷量のD2-LAを約1ヵ月間用いた後、維持期間に約4.80グラム/日又は約5.76グラム/日の維持量のD2-LAを用いるものであるが、本研究の患者は全員、1日用量2.88グラム/日のLAを2週間用い、その後、5.76グラム/日の用量のD2-LAを研究の残りの期間用いて治療を行った。
【0131】
治療を開始する前に、ALSFRS-Rスコアリングシステムを用いて各患者の機能性を評価し、初期スコアを記録した。治療開始から少なくとも6ヵ月後、ALSFRS-Rスコアリングシステムを用いて各患者の機能性を再度評価し、その後、結果を外挿して共通の6ヵ月間の治療ウィンドウ(treatment window)を提供した。
【0132】
患者は以下のように2群に分けた:
1. D2-LAを用いた治療中にエダラボンを投与した患者;
2. D2-LAを用いた治療中にエダラボンを投与しなかった患者。
【0133】
その後、6ヵ月間の治療のスコアへと調整した結果に基づき、治療開始直前のALSFRS-Rスコアを2群間で比較した。下記表1に、D2-AA単独で治療した患者(12名)、並びにD2-AA及びRadicava(登録商標)で治療した患者(5名)についての、治療6ヵ月後のALSFRS-Rスコアの平均の結果を提供する。
【0134】
第2群の患者における、エダラボンによる前治療と関連した利益を評価するために、エダラボンの製造元(田辺三菱)からのデータを提供する図1を参照されたい。そのデータによれば、6ヵ月間でエダラボンは対照群と比較して2.49スコアの利益を提供している。これらの患者はD2-LAによる治療開始前にエダラボンによる前治療を受けているため、相乗効果の最小値は、前治療がD2-LA投与開始の6ヵ月前に達していないと仮定した場合の結果となる。そのように仮定した場合、エダラボン治療の利益の一部は、自然経過に対して報告された数字に計上する必要がある。それにもかかわらず、エダラボンが提供した2.49スコアユニットの利益全体を上記のD2-LA治療に帰属させるとしても、これら2つの薬物の併用によって達成される利益が存在しており、それは依然として相加的な効果よりも2.5スコアユニット超上回っている。この違いは相乗効果に起因すると考えられる。これらの患者に対するエダラボンを用いた前治療が、D2-LAを用いた治療の6ヵ月前よりも先に行われたと仮定すると、エダラボンによって達成された利益はすべて、患者の自然経過スコアに完全に計上されていることになる。したがって、これらの薬物を併用することで達成される相乗効果は、各薬物単独での相加的利益と比べて5ポイントの利益を提供したことになる。
【0135】
さらには、本研究におけるD2-LAの投与は現在の投与レジメンを利用したものではないことから、さらなる相乗効果を期待できる一層の改善が得られる可能性がある。
【0136】
あるいは、上記で示された相乗効果により、D2-LAの用量を1日8.64グラムから1日約5.76グラム以下に減量することもでき、それでも有意な相乗効果が見込まれる。
【表1】
【0137】
実施例2
この実施例では、炎症モデルにおけるLPOの相対的な減少の評価を行い、それによって、D2-AA(D2-LAの生物変換によって得られる)の相対的な活性をD6-AAと比較して評価する。
【0138】
具体的に述べると、炎症は多くの神経変性疾患において重要な役割を果たしていることがよく理解されている。この実施例においては、LPSの投与は、炎症性サイトカイン及びエイコサノイドの分泌、並びにROSの誘導など、様々なメカニズムを通じて炎症を促進することが知られている。この実施例では、LPSを用い、マウスの肺において、H-AA、D2-AA(D2-LA投与により得られる)、及びD6-AAの、ROS誘導性の酸化から生じる炎症の程度を確認した。具体的には、4群のマウスを使用した。第1群は、H-LA対照マウスで治療した対照マウスである。第2群のマウスにはD2-LAを6週間にわたり投与した。H-LA及びD2-LAの両者の一部が生体内で変換され、それぞれAA及び13,13-D2-AAが提供されることが理解される。第3群のマウスにはH-AAを6週間にわたり投与した。第4群のマウスにはD6-AAを6週間にわたり投与した。
【0139】
その後、全群にLPSを単回で経鼻投与し、急性肺炎症を誘発した。炎症反応の程度は、肺胞間中隔距離(interalveolar septa distance)に基づいており、中隔距離が大きい程、炎症の程度が高い。動物を屠殺し、肺胞間中隔距離を測定した。表2に、全群の結果における、肺胞間中隔の空間距離の平均的な大きさを提供する。
【表2】
【0140】
上記結果は、D2-AA(D2-LAプロドラッグ投与による)を用いて治療したマウスでは、H-LAを用いて治療したマウスに比べて、肺胞中隔間の空間距離が約25%減少したことを示す。しかし、D6-AAを用いて治療したマウスでは、同様な空間距離が約60%減少しており、D6-AAが炎症治療に有利であることが示された。
【0141】
上記のデータは、この炎症モデルにおいて、D6-AAがD2-AAの少なくとも2倍の利益を提供することを示唆している。このようなデータをもとに、D6-AAによってもたらされる、LPOに対する保護を、D2-AAとの比較において推定する。
【0142】
このデータを用いると、D2-LAと同様の結果を得るために必要なD6-AAの量は、8.64グラム/日の10分の1(生物変換の必要性がなくなるため)×0.5(D2-AAと比べてD6-AAの活性が約2倍であるため)、すなわち1日あたり0.43グラムと予測できる。さらに、5.76グラムのD2-LAが、エダラボンとの相乗効果を提供するのに充分なD2-AAを生物学的に生成したことを考慮すると、(相乗効果をもたらす1日あたり5.76グラム/負荷量1日あたり8.64グラム)とし、D6-AAでは1日あたり0.43グラム×(5.76/8.64)=1日あたりわずか0.29グラム、あるいは1日あたり0.05グラムで、相乗効果が得られると評価できる。
***
【0143】
本開示の好ましい実施形態が本明細書に示され、記載されてきたが、当業者にとって、そのような実施形態が例示としてのみ提供されることは明らかであろう。本開示は、本明細書内で提供される具体例によって限定されることを意図していない。本開示は、前述の明細書を参照して記載されてきたが、本明細書における実施形態の記載及び説明は、限定的な意味で解釈されることを意図するものではない。当業者であれば、本開示から逸脱することなく、数多くの変形、変更、及び置換が可能であることを理解するであろう。さらに、本開示のすべての態様は、様々な条件及び変数に依存する、本明細書に記載された特定の描写、構成、又は相対的割合に限定されないことを理解されたい。本明細書に記載される開示の実施形態に対する様々な代替物も、本開示を実施する際に採用され得ることを理解すべきである。したがって、本発明は、このような代替物、改変物、変形物、又は均等物にも及ぶことを意図している。以下の特許請求の範囲は本開示の範囲を定義するものであり、これらの特許請求の範囲内の方法及び構造、並びにそれらの均等物が、そこに包含されることを意図している。
図1
【国際調査報告】