(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-03-07
(54)【発明の名称】ガス貯蔵用の洞窟を備える、電力グリッドを安定化させるための設備
(51)【国際特許分類】
F17C 13/00 20060101AFI20250228BHJP
H02J 15/00 20060101ALI20250228BHJP
【FI】
F17C13/00 301Z
H02J15/00 G
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024571272
(86)(22)【出願日】2023-02-21
(85)【翻訳文提出日】2024-09-11
(86)【国際出願番号】 EP2023054286
(87)【国際公開番号】W WO2023156677
(87)【国際公開日】2023-08-24
(31)【優先権主張番号】102022104030.5
(32)【優先日】2022-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524312188
【氏名又は名称】ステイブルグリッド・エンジニアーズ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Stablegrid Engineers GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【氏名又は名称】徳山 英浩
(74)【代理人】
【識別番号】100125922
【氏名又は名称】三宅 章子
(72)【発明者】
【氏名】フェラー,オリヴァー
【テーマコード(参考)】
3E172
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA05
3E172AB01
3E172AB04
3E172BD08
3E172DA90
3E172EA02
3E172EB02
3E172KA03
(57)【要約】
本発明は、エネルギー貯蔵手段によって電力グリッド(91)を安定化させるための設備に関する。エネルギー貯蔵手段は、電力グリッドから給電される、ガス燃料、特に水素のためのガス発生器(2)と、洞窟(6)内に通じる供給ライン(4)を有する洞窟(6)と、を備える。ガス発生器(2)によって発生したガス燃料が、供給ライン(4)を介して洞窟(6)に導入されてエネルギーが貯蔵され、洞窟(6)から取り出されてエネルギーが引き出される。本発明によれば、供給ライン(4)は、洞窟(6)内に達する二方向導管(5)として設計され、それぞれのケースで注入ライン(51)と別個の取出ライン(52)とを備える。これにより、ガス燃料を洞窟(6)内に供給し、電力グリッド(91)に対して負の運転予備力を提供することが可能であり、同時に、メタン化プラント(33)によってメタンを生成するため、または再変換(31)のために、使用ユニット(3)の1つに対して別個の取出ライン(52)によってガス燃料を洞窟(6)から除去することも可能である。ラインの不便な切り替え工程が不要であるため、運転予備力を迅速に供給することができる。注入ライン(51)および取出ライン(52)は、好ましくは2本、任意で1本の穴あきシャフトで隣接して洞窟(6)に導かれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギー貯蔵手段を用いた電力グリッド(91)の安定化のための設備であって、
前記エネルギー貯蔵手段が、
前記電力グリッドから給電される、ガス燃料、特に水素のためのガス発生器(2)と、
洞窟(6)と、を備え、
前記洞窟(6)は、前記洞窟(6)内に通じる接続配管(4)を有し、
前記ガス発生器(2)によって生成された前記ガス燃料は、エネルギーを貯蔵するために、前記接続配管(4)を介して前記洞窟(6)内に導入され、エネルギーを抽出するために、前記洞窟(6)から取り出され、
前記接続配管(4)は、前記洞窟(6)内に通じ、それぞれが注入導管(51)と別個の引出導管(52)とを含む二方向導管(5)として構成されている、設備。
【請求項2】
前記注入導管(51)を備える前記二方向導管(5)が、ガスの引き出しとは独立して連続的にガスを供給するように、および/または、ガスの供給とは独立して連続的にガスを引き出すように設計されている、請求項1に記載の設備。
【請求項3】
前記洞窟(6)から引き出された前記ガス燃料のための複数の異なる使用ユニット(3)が、前記引出導管(52)に接続されている、請求項1または2に記載の設備。
【請求項4】
様々な使用ユニット(3)が、少なくとも1つの切替可能なガスマニホールド(30)を介して前記引出導管(52)に接続され、引き出された前記ガス燃料が、前記ガスマニホールド(30)の切替状態に応じて、異なる前記使用ユニット(3)の1つに流れる、請求項3に記載の設備。
【請求項5】
前記ガスマニホールド(30)は、分流を切替のためにも設計されている、請求項4に記載の設備。
【請求項6】
前記ガスマニホールド(30)は、前記ガス燃料が連続的に引き出されている場合でも切替可能である、請求項4または5に記載の設備。
【請求項7】
前記使用ユニット(3)の1つは、ガスを電力に再変換する装置、特に、電力を発生して前記電力グリッド(91)または消費者に接続するための出力導管に放出する燃料電池または熱電併給プラント(31)である、請求項4から6のいずれか1つに記載の設備。
【請求項8】
前記使用ユニット(3)の1つは、水素によってメタンを合成するように設計されたメタン化プラント(33)である、請求項4から7のいずれか1つに記載の設備。
【請求項9】
前記使用ユニット(3)の1つが、ガスグリッド(93)、特に天然ガスグリッドへの移送ポイント(35)であり、取り出された前記ガス燃料を前記ガスグリッド(93)に放出するためのものである、請求項4から8のいずれか1つに記載の設備。
【請求項10】
調整力のための制御器(8)が設けられており、前記制御器(8)は、
調整力、特に負の調整力用の信号のための入力部(80)を有し、
調整力、特に負の調整力に対応する電力を前記電力グリッド(91)から取り出して、前記洞窟(6)内に導入される前記ガス燃料を製造するように、前記ガス発生器(2)を作動させるように設計されている、請求項1から9のいずれか1つに記載の設備。
【請求項11】
調整力のための前記制御器(8)は、前記電力グリッド(91)に正の調整力として追加の電力を供給するために、電力に再変換する装置(31)にも作用する、請求項10に記載の設備。
【請求項12】
切替可能なバイパス導管(7)が設けられており、
前記バイパス導管(7)は、前記ガス発生器(2)と前記洞窟(6)との間の前記注入導管(51)に接続され、これらを前記引出導管(52)に接続する、請求項1から11のいずれか1つに記載の設備。
【請求項13】
バッファアキュムレータ(15)が設けられており、
前記バッファアキュムレータ(15)は、前記ガス発生器(2)に接続された前記電力グリッド(91)から給電され、特に急速な供給、電力放出、および/または電力取り込みのために設計されている、請求項1から12のいずれか1つに記載の設備。
【請求項14】
前記注入導管(51)と前記引出導管(52)とが、互いに間隔をおいて前記洞窟(6)内へと延在している、請求項1から13のいずれか1つに記載の設備。
【請求項15】
前記注入導管(51)と前記引出導管(52)とが互いに隣接して配置されている、請求項1から14のいずれか1つに記載の設備。
【請求項16】
前記注入導管(51)と前記引出導管(52)との間の距離が、その幅、特に直径の3倍、特に少なくとも10倍と、30倍、特に多くとも20倍との間である、請求項1から15のいずれか1つに記載の設備。
【請求項17】
前記注入導管(51)と前記引出導管(52)とが、共通のドリルシャフト(40)内で前記洞窟(6)内まで延在している、請求項1から16のいずれか1つに記載の設備。
【請求項18】
前記注入導管(51)および前記引出導管(52)が、それぞれの開口部(53、54)によって、前記洞窟(6)内に異なる深さまで達しており、前記注入導管(51)が好ましくはより深くに達している、請求項1から17のいずれか1つに記載の設備。
【請求項19】
前記洞窟(6)が塩ドーム(90)内に形成され、および/または、少なくとも40バール、好ましくは200バールまでの運転圧力に対応するように設計されている、請求項1から18のいずれか1つに記載の設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力グリッドを安定化させるための設備(arrangement、システム)に関する。この設備は、ガス貯蔵用の洞窟の形態のガス貯蔵手段を備えている。電力グリッドから給電されるガス発生器は、ガス、特に水素を発生させる。このガスは、エネルギーの貯蔵用ガスとして洞窟に導入され、これにより、エネルギーの放出に必要なときに導入したガスを再び引き出すことができる。
【発明の概要】
【0002】
再生可能エネルギーへのエネルギー転換の過程で、風力タービンや太陽光発電システムのような再生可能エネルギーで運転される発電所に典型的に見られるように、不安定で分散型の発電の割合が増えている。負荷側での常時変動に加え、発電側でもますます動的な変動が発生するようになっている。また、発電量が一時的に過剰になることもあり、その結果、発電所の出力抑制(downregulation)などの供給管理措置(feed-in management measures)が必要になる。このような状況は、風力タービンで多く生じる。風力タービンは、従来の発電所とは異なり、高い出力勾配を持つため、迅速に出力を抑制することができるからである。これは、電力グリッドの安定性の観点からだけでなく、風力タービンの出力抑制に伴う再生可能エネルギーの損失の観点からも、重要視されるべきである。このように、本来は最も望ましいエネルギー源である風力タービンが、十分に利用されることなく、むしろ制限されてしまい、その結果、風力タービンの強制停止によって、再生可能エネルギーを生成する可能性が損なわれてしまうことには納得がいかない。
【0003】
このため、再生可能エネルギーからの変動性の電気エネルギーの供給を、需要によりよく適合させ、出力抑制を必要最小限にするために、電力グリッドのための貯蔵手段が必要とされている。一般に少量のエネルギーしか貯蔵できないバッテリー貯蔵手段や、多くのスペースを必要とし、その建設が景観を大きく侵し、自然保護に関して大きな問題を引き起こす揚水発電所と同様に、ガス貯蔵手段も重要である。電力が過剰になると、ガスを発生させ、例えば電気分解によって水素ガスを発生させ、ガス貯蔵手段に貯蔵することができる。このようにして、電力の生産が不足した場合や電力需要が高い場合に、必要に応じて取り出すことができる予備電力が生み出される。
【0004】
このようなガス貯蔵手段は、必ずしも1種類のガスに限定されるものではない。好適なガスは、すでに述べたように、特に水素、および、余剰電力から(メタン化によって生成された)天然ガスである。水素の場合、例えば電解槽を使って余剰電力から水素を発生させ、その水素を洞窟に貯蔵する。洞窟は、適切な地層に存在し、気密性のある大きな地下洞窟である。洞窟は、自然由来のものでもよいし、EP2855306A1などに記載されているように人工的に作られたものでもよい。ガス(特に水素)は、通常40~200バールの高圧下で、接続配管を介してこのような洞窟に貯蔵される。ガス(特に水素)は、不定期間にわたって貯蔵され、必要に応じて接続配管によって再び引き出される。このコンセプトにより、大容量のガスの貯蔵が可能になり、それに応じて大容量のエネルギーの貯蔵も可能になる。このコンセプトは、特に比較的長い貯蔵・放出サイクルを持つガスグリッドの運転に有用であることが分かっている。しかし、これは、変動しやすい再生可能エネルギーによって供給される電力グリッドをサポートしたり、それに伴う調整エネルギーおよび調整力(調整電力)を迅速に供給するというダイナミック応答(dynamic response)への高い要求を満たしたりするには不十分である。
【0005】
本発明の目的は、ダイナミック応答の点で改善され、特に風力パークや風力タービンなどの再生可能エネルギーで運転される発電所の出力抑制や停止を回避または低減する、電力グリッドの安定化のための設備を提供することである。
【0006】
本発明の解決策は独立請求項の特徴に記載されている。有利な改良点は従属請求項の主題である。
【0007】
エネルギー貯蔵手段を使用する電力グリッドの安定化のための設備(arrangement)において、エネルギー貯蔵手段は、ガス燃料、特に水素のためのガス発生器と、洞窟と、を備える。ガス発生器は、電力グリッドから給電される。洞窟は、洞窟内に通じる接続配管を有する。ガス発生器によって生成されたガス燃料は、エネルギーを貯蔵するために、接続配管を介して洞窟内に導入され、エネルギーを抽出するために、洞窟から引き出される。本発明によると、接続配管が洞窟内に通じる二方向導管として構成され、それぞれの場合において注入導管(filling conduit)と別個の引出導管(withdrawal conduit)とを含むことが想定される。
【0008】
本発明は、注入用および引き出し用に別々の導管を用いることで、導管の手間のかかる切替作業を行う必要なく、特に導管内の流れ方向を逆にすることなく、ガスの貯蔵および貯蔵からの取り出しをパラレルに、かつ連続的に行うことを可能にするという概念に基づいている。ここでいう「パラレル」とは、貯蔵と貯蔵からの取り出しが時間的に重なることである。従って、ガス(ガス燃料)の洞窟への貯蔵と、洞窟からの引き出し(排出)とを、より迅速に切り替えることができる。このように、安定化のための本発明の設備は、特に再生可能エネルギーによる変動性の発電の割合が高い電力グリッドに求められるような、ダイナミック応答に対する高い要求をも満たすものである。
【0009】
本発明の設備によると、従来技術では不可能であった、貯蔵運転と貯蔵からの取り出し運転とを同時に行うことが可能である。本発明はまた、ガスの注入中にいつでもガスを引き出すことができる。従って、ガスを引き出しているときでも、連続的で、バッファのない(一時的に貯蔵することなく)ガスの注入が可能である。
【0010】
ガスの注入と引き出しとが同時に行われるため、エネルギーの取り込みおよび/または放出に対するさまざまな要求に対して、高度にダイナミックに反応することが可能である。本発明の設備は、ダイナミックなエネルギー貯蔵手段としてだけでなく、電力グリッドからの取り込みと電力グリッドへの放出(負および正の調整力)の両方による迅速な調整力の提供にも適している。従って、本発明の設備は、一次調整力(primary control power)の供給に適しており、洞窟のガス貯蔵量が大きいことで、二次調整力の長時間供給またはミニット調整力(minute control power)の長時間供給にも適している。洞窟は、適切な地層に効率的に形成され得、あるいは、何れにしても天然ガス田の先行開発の結果としてすでに利用可能である。このため、本発明は、バッファバッテリーや揚水発電所のような従来の既知の貯蔵技術の場合よりも、複雑さを大幅に低減しながら、上述したすべての利点を得ることができる。
【0011】
適切には、注入導管を備えた二方向導管は、引き出しとは独立して連続的にガスを供給するように、および/または、供給とは独立して連続的にガスを引き出すように設計されている。この独立性には多くの利点がある。第一に、電力グリッドから電力を持続的に取り出すことができるので、電力グリッドに余剰電力がある場合でも風力タービンの出力抑制を回避することができる。第二に、ガスの連続注入が可能であるため、貯蔵媒体が空になることを防ぐことができる。第三に、ガスを常時引き出すことができる。洞窟はこのように、予備エネルギーのための大規模な貯蔵手段として利用可能であり、洞窟から必要に応じていつでも電力を供給し、放出することができる。
【0012】
以下、使用されている用語のいくつかを最初に説明する。
【0013】
電力グリッドは、特に送電グリッドおよび配電グリッドであってもよく、通常、どの国でも1つ以上のネットワーク運営者によって運営されている。この用語には、建物内のネットワークは含まれない。
【0014】
ガス発生器は、電気によってガス状の燃料を生成する装置である。燃料とは、当技術分野で慣用的に理解されているように、燃焼によって蓄積エネルギーを利用可能なエネルギーに変換することができる化学物質を意味する。例えば、この用語は、特にメタンのような化学燃料や、燃料電池で発電するための水素のような電気化学燃料を包含する。
【0015】
洞窟は地下の洞窟である。洞窟は高い気密性を有し、自然由来であってもよいし、人工的に作られたものでもよい。一般的に、洞窟は、特定の適切な地層に存在する。
【0016】
洞窟から引き出されるガスとは、本発明に従ってガス発生器によって生成され、洞窟に貯蔵されたガス(ガス燃料)を意味する。
【0017】
「一次調整力」、「二次調整力」、「ミニット調整力」という用語は、ネットワーク運営者、特に送電グリッドで使用される専門用語である。これらの用語は、それぞれの送電グリッドに適用される規則で当業者向けに定義されている。これは国によって、あるいは調整区域によって異なる場合があるため、それぞれの基準を特定することに意味はない。それぞれの基準は、当業者には対応する関連規則から明らかであろう。
【0018】
洞窟から引き出されるガスのための複数の異なる使用ユニットが、引出導管に接続されていると有利である。このようにして、洞窟から引き出されるガスは、任意に異なる方法で利用可能である。使用ユニットは、ガスを電力に再変換する装置(特に燃料電池または熱電併給プラント(CHPプラント))とは別に、特に、洞窟から取り出されたガス燃料(特に水素ガス)によってメタンを合成するように設計されたメタン化プラント、および/または、取り出されたガスがガスグリッドに直接供給されるガスグリッドへの移送ポインであってもよい。ガスグリッドは、特に天然ガスグリッドである。しかし、ガスグリッドが別のガス、特に水素ガス用である可能性も排除されるべきではない。
【0019】
異なる使用ユニット中から選択できるようにするために、少なくとも1つの切替可能なガスマニホールドが引出導管に適切に接続されている。ガスマニホールドの切替状態に応じて、引き出されたガス(ガス燃料)が異なる使用ユニットの1つに流れる。ここで、ガスマニホールドが部分的な流れ(分流)を切り替えるためにも設計されていると有利である。このようにすると、引き出されたガスの一部を例えば電力に再変換するために使用しながら、ガスの別の一部を使用ユニット3の別のもの、例えばメタン化プラントに供給することが可能になる。ガスマニホールドは、好ましくは、連続的に引き出しているときでも切り替えることができるように設計されている。これにより、洞窟からのガスの引き出しを停止することなく、切り替えを行うことができる。
【0020】
本発明の特に有利な態様では、調整力のための制御器が提供される。制御器は、調整力、特に負の調整力の信号用の入力部を有する。制御器は、調整力、特に負の調整力に対応する電力を電力グリッドから取り出して、洞窟に導入されるガスを製造するように、ガス発生器を作動させるように設計されている。このようにして、洞窟を備えた本発明の設備は、調整力の供給に寄与することができる。ネットワーク運営者(またはネットワーク内の別の上位機関)は、調整力の要求信号を送信する。これは、多くの場合、負の調整力の要求である。つまり、特に風力タービンによって電力が過剰に生産された場合、過剰な電力をグリッドから取り出す必要がある。このために、ネットワーク運営者は、負の調整力の制御信号を発する。この信号が本発明の設備の制御器に送られると、制御器は、要求された調整力に応じて、グリッドから対応する電力を取り出し、その電力からガスを発生させ、洞窟に貯蔵する。こうして、特にガス発生器として電解槽を使用する場合、グリッドにおいて電力が過剰になった場合に数秒以内に迅速に対応することが可能になる。さらに、洞窟の容積が大きいため、比較的長い時間、通常は60分間、場合によってはさらに長い数時間にわたって、調整力を提供することが可能である。
【0021】
さらに有利なことに、調整力のための制御器は、電力グリッドに正の調整力として追加電力を供給するために、電力に再変換する装置にも作用する。これは基本的に、上述の動作の逆である。グリッドに追加電力の需要が生じ、グリッド運用者が追加電力(正の調整力)を供給するための目標信号を出す。制御器は、それに応じて、電力に再変換する装置に作用し、(同時にガスが貯蔵されているかどうかは関係なく、)その装置のためにガスを洞窟から引き出す。電力に再変換する装置はさらに、例えば燃料電池や熱電併給装置(CHPプラント)によってガスから電力を生成し、グリッドに供給する(または消費者に放出する)。これも、第一に非常にダイナミックな方法で、第二に洞窟の貯蔵量が多いため長期間にわたって実行することができる。CHPプラントは、例えば、発電機を駆動する水素作動ガスタービンであってもよい。
【0022】
好適には、切替可能なバイパス導管が設けられる。バイパス導管は、ガス発生器と洞窟との間の注入導管に接続され、これらを引出導管に接続する。これは、ガス発生器によって生成されたガスを、必要に応じて、洞窟内にガスを事前に導入することなく、使用ユニット(または使用ユニットの1つ)に直接導くために使用され得る。このようにして、使用ユニットの1つからのガス需要の変化に迅速に対応することができる。こうして、プラントのダイナミック応答性をさらに高め、効率を向上させることができる。
【0023】
洞窟は、基本的に、電気を貯蔵するための大きなバッファとなる。それにもかかわらず、オプションとしてバッファアキュムレータを追加的に設けることが適切な場合がある。これは、ガス発生器に接続された電力グリッドによって給電され、特に急速な電力放出および/または電力取り込みのためにも設計されている。したがって、ガス供給に関するバイパス導管と同様に、必要に応じて電気エネルギーを特に迅速に供給することが可能であり、これにより電気エネルギーの供給に関するダイナミック応答性を向上させることが可能である。さらに、バッファアキュムレータは、ガス発生器、特に電解槽への電気供給を安定化し、平滑化することが可能である。
【0024】
有利には、注入導管と引出導管とは、互いに距離をあけて洞窟内に延在している。これらの導管は、少なくとも5メートル離隔していることが適当である。この距離は、注入導管および引出導管の寸法(特に直径)に依存してもよい。注入導管と引出導管とは、好ましくは隣接して配置される。隣接して配置されることは、直径に対する距離が、直径の3倍から30倍の間、特に直径の少なくとも10倍、さらに好ましくは直径の20倍以下であることを意味する。これには、平均直径を使用するのが有利であり得る。平均直径は、注入導管または引出導管の平均直径を意味する。平均化の方法は当業者によって選択されるべきであり、特に算術平均、幾何平均または他のタイプの平均であってもよい。(平均)直径の代わりに、それぞれの導管の(平均)幅を基準としてもよい。これは、例えば、注入導管及び/又は引出導管が非円形の断面を有する場合に特に好適である。このように導管を離隔する目的は、流入ガスからガスの取出しに有害な流れの影響が生じないようにする(その逆も同様である)ためである。これにより、注入導管と引出導管とがより適切に分離され、したがって注入導管と引出導管とが互いに影響し合うリスクを最小限に抑えることができる。また、特に、これらの導管を隣接して配置する場合、注入導管と引出導管とに別々のドリルシャフトを設けることが適切である。
【0025】
代わりに、注入導管と別個の引出導管とを備える二方向導管が、共通のドリルシャフト内に配置されてもよい。その場合、注入用と引き出し用の2つの導管は、もはや互いに距離をあけて配置されないが、それでも、貯蔵とは独立した引き出し機能、および引き出しとは独立した貯蔵機能が確保される。この省スペース設計は、特に上部領域が比較的狭い洞窟に適している。また、1本のドリルシャフトに二方向導管を組み合わせることで、製造が簡素化され、製造の複雑さも軽減される。
【0026】
注入導管および引出導管は、それぞれの開口部によって、洞窟内に異なる深さまで達することが適切である場合がある。注入導管がより深くに達していることが好ましい。このようにして、第3の次元、すなわち洞窟の深さを利用して、注入導管と引出導管との間の分離を改善することが可能である。引出導管の開口部が洞窟のより高い位置に配置されていれば、ガスの充填度が低い場合にガスを取り出しやすくなる。
【0027】
洞窟は塩ドームの中に適切に形成されている。これらは、その地質学的特性から、特に気密貯蔵に適している。ここでの洞窟は、当業者にとって、多孔性貯蔵媒体と呼ばれるものとは区別されるべきである。洞窟は耐圧性であり、少なくとも40バール、好ましくは200バールまでの運転圧力(operating pressure)のために適切に設計されている。この圧力範囲では、特に経済的な運転技術と地質力学的安定性という点で、特に有利な洞窟の運転が可能であることが判明している。
【0028】
独立した保護に値し得るさらなる態様によれば、本発明はまた、気体燃料を貯蔵するための空洞にも拡張される。本発明によれば、接続配管は、空洞内に通じる二方向導管として設計されており、そのそれぞれは、好ましくは互いに隣接する注入導管と別個の引出導管とを含む。その他、二方向導管を備える洞窟、そのさらなる構成、および運転モードのより詳細な説明については、重複を避けるために、上記の説明も参照されたい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
以下、添付図面を参照して、本発明を有利な実施形態により例示的に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1は、本発明の第1の実施形態の例を示す。全体が参照数字1で示された電力グリッドの安定化のための設備は、主な構成要素として、ガス発生器2と、使用ユニット3と、を備え、これらは、配管接続部4を介して地下洞窟6に接続されている。洞窟6は、地下塩ドーム90内に配置されている。本発明は、ガス発生器2によってガス燃料として生成され、洞窟6に貯蔵されるガスとして、水素の例を用いて説明されるが、他のガス燃料(例えばメタン)を用いることも可能であることは明らかであろう。
【0031】
安定化のための設備1は、プラント変圧器10を介して電力グリッド91に接続されている。図示の例では、これは、ネットワーク運営者の送電グリッドである。ガス発生器2は、接続導管12を介してプラント変圧器10に接続され、プラント変圧器10によってガス発生器2に電力が供給される。ガス発生器2は、電力を用いて水素ガスを発生するように設計されている。これは、それ自体公知の方法で達成することができる。ガス発生器2は、好ましくは電解槽として設計されるが、電気で動作する他の水素発生方法も可能である。
【0032】
プラント変圧器10には、また、熱電併給プラント(CHPプラント)または燃料電池31が、さらなる接続導管13を介して接続されている。CHPプラントまたは燃料電池31は、使用ユニット3の1つである。熱電併給プラントから、例えば水素ガスタービンによって駆動される発電機や燃料電池31から、水素ガスを電力に再変換することによって生成された電力を、この接続導管13を介して、送電グリッド91に供給することが可能である。
【0033】
ガス発生器2と燃料電池31を備えた使用ユニット3とは、配管接続部4を介して洞窟6に接続されている。本発明によれば、配管接続部4は、ここでは、注入導管51と引出導管52とを含む二方向導管5として設計されている。注入導管51は、ガス発生器2に接続され、洞窟内の開口部53で終端する。注入導管51は、ガス発生器2で生成された水素ガスを洞窟6に供給する。引出導管52は、注入導管51とは別に設計されている。引出導管52は、また、洞窟6内に突出した開口部54を有し、洞窟6から燃料電池31を備えた使用ユニット3へと上方に通じている。
図1に示す第1実施形態では、二方向導管5の2つの導管である注入導管51および引出導管52は、互いに間隔を空けているが、互いに隣接して、洞窟6内へと延在している。これにより、注入導管51の開口部53で発生する流動渦などの影響が、洞窟から引出導管52の開口部54に流れ出る水素ガスの流動特性に影響を与えないという効果が得られる。注入導管51を引出導管52から分離して設計することにより、注入と引き出し(排出)とを独立して行うことが可能になる。このようにして、水素ガスが別個の引出導管52を介して引き出されているか否かにかかわらず、注入導管51を介して水素ガスを洞窟6に供給し続けることが可能になる。その逆もまた可能である。水素ガスが注入導管51を介して洞窟6に同時に導入されているか否かにかかわらず、水素ガスを別個の引出導管52を介して引き出し、使用ユニット3に供給することが可能である。
【0034】
燃料電池31とは別に、使用ユニット3は、水素ガスを使用するためのさらなるユニットを備えてもよい。例えば、供給された水素ガスに二酸化炭素(特にCO2として空気中から取り出されてもよい)を添加してメタンガスを合成するメタン化プラント33をさらに設けてもよい。メタンガスは、それ自体公知の方法で、天然ガスグリッド93(単に模式的に示す)に供給され得る。また、さらなる使用ユニットとして、引出導管52を介して洞窟6から取出された水素ガスを、移送ポイント35を介して、ガスグリッド(天然ガスグリッドまたは水素ガスグリッド(図示せず)であってもよい)に供給されるようにしてもよい。このようにして、貯蔵された水素を直接利用することも可能になる。
【0035】
設備の運営者が異なる使用モードを選択できるように、ガスマニホールド30が引出導管52に設けられている。ガスマニホールド30は、使用ユニット3の上流に接続され、引出導管52によって洞窟6から引き出された水素ガスを、使用ユニット3のいずれに供給するか、すなわち燃料電池31、メタン化プラント33、または直接供給のための移送ポイント35のいずれに供給するかを決定する。ガスマニホールド30は、オプションとして、分流(サブストリーム)にも対応することができる。つまり、引出導管52からの水素ガス流を分割して、複数の使用ユニット3に水素ガスを供給することができる。例えば、燃料電池31とメタン化プラント33とが引き出された水素ガスを受け取るようにすることができる。
【0036】
また、設備の制御器8が設けられており、制御器8は、特に電力グリッド91に調整力を提供するように設計されている。この目的のために、目標値入力部80が設けられており、この目標値入力部80に、電力グリッド91の運営者または他の上位インスタンス(図示せず)が、必要な調整力の信号を入力することができる。制御器8は、さらに、第1の信号線(signal conduit)81を介して燃料電池31に接続され、第2の信号線82を介してガス発生器2に接続され、これらの運転(動作)に影響を与える。例えば、ネットワーク運営者が正の調整力を必要とする場合、制御器8は、信号線81を介して燃料電池31を作動させ、燃料電池31がより多くの電力を生成し、それに対応して、引出導管52を介して洞窟6からより多くの水素ガスを引き出すようにする。これは、二方向導管5を用いているので、ガス発生器2が同時に注入導管51を介して水素ガスを洞窟6に供給しているか否かにまったく関係なく、いつでも可能である。そのため、調整力の需要に数秒以内で非常に迅速に反応することができる。ガス接続を切り替えたり、洞窟への(おそらく長い)接続配管の方向を変えたりする必要はない。
【0037】
逆の場合、つまり目標値入力部80を介して負の調整力が要求される場合も同様である。この目的のため、制御器8は、信号線82を介して、ガス発生器2を作動させ、ガス発生器2が電力グリッド91からより多くの電力を取り出し、電解槽によってより多くの水素ガスを発生させるようにする。この水素ガスは、注入導管51を介して洞窟6に導かれ、そこに一時的に貯蔵される。これは、その時点で水素ガスが引出導管52を介して引き出されているか否かに関係なく行うことができる。したがって、電力グリッド91に余剰電力が存在するという実用上特に重要な場合に、本発明の設備によって、電力グリッド91から余剰電力を迅速かつ効果的に取り出し、水素ガスとして洞窟6に貯蔵することが可能である。このエネルギーは、例えば燃料電池31によって再び電力に変換することによって、あるいは、他の方法で使用することによって、例えばメタン化プラント33によって(あるいは、移送ポイント35を介してガスグリッドに直接供給することによって)、本設備でいつでも再び利用することができる。
【0038】
従って、本発明による設備1では、電力グリッド91から余剰電力をかなりの程度、かつ、非常にダイナミックな方法で取り出し、対応するエネルギーを水素ガスの形で洞窟6に貯蔵することが可能である。したがって、このような場合にグリッド安定化のための措置として従来技術で必要とされてきた風力タービンの出力抑制は、このように不要となる。このようにして、出力抑制に伴って再生可能エネルギーが得られなくなることを防ぐことができる。
【0039】
本発明の設備は、大きな調整力を提供することができる。高度にダイナミックな応答により、これを数秒で行うことができるので、一次調整力(二次予備力)の供給さえも可能になる。ここで
図2を参照する。
図2には、対応するネットワーク運営者ガイドラインに基づく調整力の種類と、それらの経時的な関係が示されている。数字Iは一次調整力を表し、いわゆる二次予備力として、30秒以内に完全に提供されなければならない。一次調整力は、通常、最大15分間をカバーする必要がある。一次調整力に続いて、二次調整力が提供される。二次調整力は、
図2の数字IIで表され、一次調整力Iと部分的に重なってもよい。これは5分以内に完全に提供されなければならない。二次調整力に続いて、最終的に、いわゆるミニット調整力が提供される。これは、
図2の数字IIIで示され、遅くとも15分以内に完全に提供されなければならない。その後かなり時間が経ってから、現実的には1時間近く経ってから、
図2の数字IVで示されるバランシング回路による補償が最終的に開始される。
【0040】
一次調整力Iの提供には高度にダイナミックな応答が必要であり、一方、特に二次調整力IIとミニット予備力IIIの長期的な供給には、提供されるエネルギー(経時電力)に対して大きな容量が必要であることは明らかであろう。本発明の設備1ではこれらの両方が達成される。ガス発生器2とCHPプラントあるいは燃料電池31とは、いずれも迅速な制御が可能であり、洞窟6には大きな貯蔵容積があるからである。このように、本発明の設備1は、あらゆる種類の調整力I、II、IIIを提供することができる。さらに、貯蔵された水素ガスを他の用途に利用することも可能であり、例えば、メタンなどの他のエネルギーキャリアを生産したり、あるいは、天然ガスグリッドあるいは純粋な水素ガスグリッドに混合して、水素ガスを直接利用したりすることができる。
【0041】
調整力を供給する際のダイナミック応答の速度をさらに高めるために、バッファアキュムレータ15を設けることも可能である。これは、電解槽として設計されたガス発生器2と燃料電池31との両方の電気側にそれぞれ接続されている。このため、電力または電力スパイクを迅速に吸収または放出することができ、したがって、本発明の設備の迅速な応答特性がより確実になる。
【0042】
図3は、本発明の設備の第2実施形態を示す。同じ又は同じタイプであり、同じまたは同様の機能を有する構成要素には、同じの参照数字が付されている。これらの構成要素のさらなる説明については、上述した説明が参照される。第2実施形態は、注入導管51と引出導管52との間にバイパス導管7が配置されている点で、
図1に示す第1の実施形態と本質的に異なる。このバイパス導管7は、必要に応じて、ガス発生器2によって生成された水素ガスを、使用ユニット3に直接供給するために、例えば、水素ガスを使用ユニットのメタン化プラント33に供給するため、または、移送ポイント35を介して水素または天然ガスグリッドに直接供給するために、使用され得る。バイパス導管7には、バイパス導管7を遮断または開放する切替可能な遮断弁71が設けられている。この遮断弁71は、信号線(図示せず)を介して制御器8に接続されている。制御器8は、現在の状況における本発明の設備1の要求に応じて遮断弁71を作動させ、これによりバイパス導管7を開放または閉鎖する。
【0043】
図4は、本発明の設備の第3実施形態を示す。同じ又は同じタイプであり、同じまたは同様の機能を有する構成要素には、同じの参照数字が付されている。これらの構成要素のさらなる説明については、上述した説明が参照される。第3実施形態は、注入導管51と別個の引出導管52とを含む二方向導管5が、共通のパイプシャフト40内に配置されている(第1および第2実施形態のように別個のドリルシャフト内にそれぞれ配置されていない)点で第2の実施形態と本質的に異なる。本発明の設備1の基本的な利点は、洞窟6に水素ガスを供給して電力グリッド91に負の調整力を提供すると同時に、例えばメタン化プラント33によってメタンを生成するために、使用ユニット3のために別個の引出導管52によって水素を引き出すことができるということであるが、この利点は、本実施形態においても完全に保持される。しかしながら、二方向導管5を共通のパイプシャフト40に配置することにより、二方向導管5による洞窟6への配管接続の製造が明確に簡素化される。これにより、本発明の設備1をより経済的に製造することができる。
【国際調査報告】