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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-03-11
(54)【発明の名称】水電解槽のための触媒被覆膜
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/055 20210101AFI20250304BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20250304BHJP
   C25B 11/054 20210101ALI20250304BHJP
   C25B 11/065 20210101ALI20250304BHJP
   C25B 11/081 20210101ALI20250304BHJP
【FI】
C25B11/055
C25B11/052
C25B11/054
C25B11/065
C25B11/081
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024541029
(86)(22)【出願日】2023-02-03
(85)【翻訳文提出日】2024-07-08
(86)【国際出願番号】 GB2023050242
(87)【国際公開番号】W WO2023148499
(87)【国際公開日】2023-08-10
(31)【優先権主張番号】2201432.8
(32)【優先日】2022-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】2201437.7
(32)【優先日】2022-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】2201438.5
(32)【優先日】2022-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】2201434.4
(32)【優先日】2022-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】2201435.1
(32)【優先日】2022-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】512269535
【氏名又は名称】ジョンソン マッセイ ハイドロジェン テクノロジーズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Johnson Matthey Hydrogen Technologies Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】ザリティス、クリス
【テーマコード(参考)】
4K011
【Fターム(参考)】
4K011AA20
4K011AA23
4K011AA30
4K011BA03
4K011BA04
4K011DA01
(57)【要約】
水電解槽用の触媒被覆膜であって、触媒被覆膜は、第1の表面及び第2の表面を有するアイオノマー膜と、アイオノマー膜の第1の表面上にアノード触媒層と、アイオノマー膜の第2の表面上にカソード触媒層と、を含み、アイオノマー膜が少なくとも1つの補強層を含み、当該補強層がアイオノマーを含浸させた多孔質ポリマー補強材料を含み、補強層又は各補強層が、補強層中のアイオノマー及び多孔質ポリマー補強材料の総重量に対して5~20重量%の多孔質ポリマー補強材料を含む、触媒被覆膜。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水電解槽のための触媒被覆膜であって、前記触媒被覆膜は、
第1の表面及び第2の表面を有するアイオノマー膜と、
前記アイオノマー膜の前記第1の表面上のアノード触媒層と、
前記アイオノマー膜の前記第2の表面上のカソード触媒層と、を含み、
前記アイオノマー膜は、少なくとも1つの補強層を含み、前記補強層は、アイオノマーが含浸された多孔質ポリマー補強材料を含み、
前記、又は各補強層は、前記補強層中のアイオノマー及び多孔質ポリマー補強材料の総重量に対して5~20重量%の多孔質ポリマー補強材料を含む、触媒被覆膜。
【請求項2】
前記、又は各補強層は、前記補強層中のアイオノマー及び多孔質ポリマー補強材料の総重量に対して7~15重量%の前記多孔質ポリマー補強材料を含む、請求項1に記載の触媒被覆膜。
【請求項3】
前記又は各補強層が、12~24μmの範囲の厚さを有する、請求項1又は2に記載の触媒被覆膜。
【請求項4】
前記アイオノマー膜が、少なくとも1つの補強層に加えて、少なくとも1つの非補強アイオノマー層を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の触媒被覆膜。
【請求項5】
前記又は各非補強アイオノマー層が、6~12μmの範囲の厚さを有する、請求項4に記載の触媒被覆膜。
【請求項6】
前記又は各補強層が、前記又は各非補強アイオノマー層の厚さの1.5~2.5倍の厚さを有する、請求項4又は5に記載の触媒被覆膜。
【請求項7】
前記多孔質ポリマー補強材料が延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)である、請求項1~6のいずれか一項に記載の触媒被覆膜。
【請求項8】
前記アイオノマー膜が、少なくとも3つ、5つ、又は7つのアイオノマー層と、15以下、12以下、又は10以下のアイオノマー層と、又は前述の下限及び上限の任意の組み合わせによって定義される範囲内のいくつかのアイオノマー層によって形成された多層構造であり、少なくとも1つ、任意選択で少なくとも2つのアイオノマー層が、アイオノマーに加えて前記多孔質ポリマー補強材料を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の触媒被覆膜。
【請求項9】
前記アイオノマー層の1つのみが補強材料を含み、前記層が前記カソード触媒層よりも前記アノード触媒層に近い、請求項8に記載の触媒被覆膜。
【請求項10】
前記アイオノマー層のうちの2つが補強材料を含み、前記2つのアイオノマー層間の中点が、前記カソード触媒層よりも前記アノード触媒層に近い、請求項8に記載の触媒被覆膜。
【請求項11】
前記アイオノマー膜の前記第1の表面が、前記アイオノマー膜の前記第2の表面よりも少ない欠陥を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の触媒被覆膜。
【請求項12】
前記アイオノマー膜が、単一の、コヒーレントな、非積層ポリマーフィルムである、請求項1~11のいずれか一項に記載の触媒被覆膜。
【請求項13】
前記アイオノマー膜の厚さは75~85μmである、請求項1~12のいずれか一項に記載の触媒被覆膜。
【請求項14】
前記膜アイオノマーが、750 EW超かつ850 EW未満の当量を有する、請求項1~13のいずれか一項に記載の触媒被覆膜。
【請求項15】
前記アイオノマー膜が、ラジカル還元添加剤、任意選択でセリアを更に含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の触媒被覆膜。
【請求項16】
前記アノード触媒層が、イリジウム含有触媒材料、任意選択で酸化イリジウム含有触媒材料を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の触媒被覆膜。
【請求項17】
前記アノード触媒層が、アイオノマー中に配置されたイリジウム含有触媒材料を含み、前記アノード触媒層中の前記アイオノマーが、前記膜アイオノマーよりも高い当量及び/又は前記膜アイオノマーよりも長い側鎖のうちの1つ以上を有するという点で、前記膜中の前記アイオノマーと異なる、請求項1~16のいずれか一項に記載の触媒被覆膜。
【請求項18】
前記アノード触媒層が、アイオノマー中に配置されたイリジウム含有触媒材料を含み、前記アノード触媒層中の前記アイオノマーが、900 EW以上、950 EW以上、1000 EW以上、又は1050 EW以上、1300 EW以下、1200 EW以下、又は1150 EW以下、又は前述の下限及び上限の任意の組み合わせによって定義される範囲内の当量を有する、請求項1~17のいずれか一項に記載の触媒被覆膜。
【請求項19】
前記カソード触媒層が、アイオノマー中に配置された白金担持炭素触媒材料を含み、前記カソード触媒層が、前記白金担持炭素触媒材料によって提供される、1mgPtcm-2未満、例えば0.5mgPtcm-2未満及び0.01mgPtcm-2超の白金担持量を有する、請求項1~18のいずれか一項に記載の触媒被覆膜。
【請求項20】
前記カソード触媒層が、アイオノマー中に配置された白金担持炭素触媒材料を含み、前記カソード触媒層が、0.6~1.0のアイオノマー/炭素重量比を有する、請求項1~19のいずれか一項に記載の触媒被覆膜。
【請求項21】
請求項1~20のいずれか一項に記載の水電解槽用の触媒被覆膜を製造する方法であって、前記方法は、
第1の表面及び第2の表面を有するアイオノマー膜と、
前記アイオノマー膜の前記第1の表面上にアノード触媒層を形成することと、
前記アイオノマー膜の前記第2の表面上にカソード触媒層を形成することと、を含み、
前記アイオノマー膜は、少なくとも1つの補強層を含み、前記補強層は、アイオノマーが含浸された多孔質ポリマー補強材料を含み、
前記、又は各補強層は、前記補強層中のアイオノマー及び多孔質ポリマー補強材料の総重量に対して5~20重量%の多孔質ポリマー補強材料を含む、方法。
【請求項22】
前記アイオノマー膜が、液体キャリア中のアイオノマーの分散液を固体バッキング層上に堆積させ、少なくとも部分的に乾燥させて第1のアイオノマー層を形成することと、
液体キャリア中のアイオノマーの分散液を前記第1のアイオノマー層上に堆積させ、少なくとも部分的に乾燥させて、前記第1のアイオノマー層の上に第2のアイオノマー層を形成することと、
任意選択で、前記第1及び第2のアイオノマー層の上に1つ以上の更なるアイオノマー層を順次堆積及び乾燥させて、前記固体バッキング層上に前記アイオノマー膜構造を構築することと、によって形成され、
前記アイオノマー層のうちの少なくとも1つは、前記補強材料を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記又は各補強層が、液体キャリア中のアイオノマーの分散液を堆積させてアイオノマー分散液の湿潤層を形成し、前記多孔質ポリマー補強材料のシートに張力を加え、張力を維持しながら前記多孔質ポリマー補強材料の前記シートをアイオノマー分散液の前記湿潤層中に移動させ、次いで前記層を乾燥させて前記補強層を形成することによって形成される、請求項21又は22に記載の方法。
【請求項24】
請求項1~20のいずれか一項に記載の触媒被覆膜を含む水電解槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、その構成要素を含む水素生成水電解槽のための触媒被覆プロトン交換膜及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水の電気分解中に、水素が電気化学セルのカソードで生成され、酸素がアノードで生成される。電気化学セルが再生可能な電力供給によって電力供給される場合、このようにして生成された水素は、緑色水素として知られている。
【0003】
実際には、緑色水素を生成するために使用することができるいくつかの異なるタイプの電解槽構成がある。高純度の水素及び酸素を生成するための水の電気分解は、アルカリ性電解質系及び酸性電解質系の両方で行うことができ、両方のタイプの電解質系を使用する実際の装置は、市販製品として存在する。酸性電解質ベースの電解槽は、典型的には、固体プロトン伝導性高分子電解質膜又はプロトン交換膜(PEM)を使用し、高分子電解質膜水電解槽又はプロトン交換膜水電解槽(PEMWE)として知られている。触媒被覆膜(CCM)は、一方の側が水素発生反応を触媒するためのカソード触媒によって被覆され、他方の側が酸素発生反応を触媒するためのアノード触媒によって被覆されたプロトン交換膜を含むPEMWEのセル内で使用することができる。典型的には、PEMWEの場合、カソード触媒材料は白金を含む。アノード触媒は、典型的には、イリジウム若しくは酸化イリジウム(IrOx)材料、又はイリジウム及びルテニウムの両方を含有する酸化物を含む。
【0004】
膜電極アセンブリ(MEA)と呼ばれることもあるアセンブリを作製するために、追加の層がCCMの両側に加えられる。これらの追加の層は、CCMのアノード側の多孔質輸送層(PTL)及びカソード側のガス拡散層(GDL)を含むことができる。これらの層は、CCMに直接取り付けられていても、取り付けられていなくてもよい。他の構成要素は、バイポーラプレート及び電流コレクタプレートを含んでもよい。そのようなアセンブリのスタックは、電力及び制御システムを含むPEMWEシステムを構成する。セルフレーム、シール、及び圧縮プレートを含むスタックを作製するために、更なるハードウェアが必要とされる。複数のスタックは、熱及び流体管理、システム制御、電源、及び水素調整システムも含むPEMWEシステムを構成する。
【0005】
電極にはPtやIrなどの貴金属が必要であり、これらの金属を用いて電極触媒を作製する。触媒を構成する金属及び任意の担体材料の化学的及び物理的形態は、必要とされる貴金属の量及び水電解槽用途における触媒の性能特性に影響を及ぼし得る。アイオノマーから形成されたプロトン交換膜は、触媒層で被覆されて、触媒被覆膜(CCM)を形成する。触媒をインク中に配合し、膜上に堆積させてCCMを形成するか、又はデカールから膜に転写することができる。インクの配合及び/又は触媒層の形態は、機能的性能に影響を及ぼし得る。例えば、触媒インクは、アイオノマー又はPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)又は他のフルオロポリマー若しくはポリマーを含有してもよく、これらは、層が乾燥されるときに触媒のためのバインダーとして作用する。触媒がアイオノマーと結合している場合、アイオノマーは更に、電極触媒表面上の活性部位に向かって(カソード)又は活性部位から離れて(アノード)プロトンを移動させるためのイオン(プロトン)伝導媒体として作用する。
【0006】
既存の水電解槽システムに関する1つの問題は、イリジウムがそれらの製造において重要な構成要素であるが、限られた量のイリジウムが世界中で利用可能であり、高価であることである。イリジウム、又はより具体的には酸化イリジウム材料(IrOx)が、水素生成PEM水電解槽におけるアノード触媒として使用される。酸化イリジウム材料は、必要とされる酸素発生反応を触媒するのに十分な活性を有するが、PEM水電解槽内でさらされる過酷な酸性及び酸化性環境に耐えるのに十分な安定性を有するという点で特に有利である。しかしながら、イリジウムが不足しているため、イリジウムのキログラム(kg)当たりのギガワット(GW)電力の大幅な増加(又は逆に、単位電力-kgIr/GW当たりのイリジウムの量の減少)を提供するプロトン交換膜水電解槽システムを開発する必要がある。したがって、電解槽システム、特にそのようなシステムの触媒被覆膜における改善が必要とされる。
【0007】
電解槽において、カソードは水素電極としても知られており、水素が生成される電極である。アノードは、酸素電極としても知られており、酸素が生成される電極である。水素の過剰なクロスオーバーの結果は、アノード側での分子Hと分子Oの組み合わせであり、これは、O中の5~95%のHの広い爆発範囲に起因して、重大な安全上の問題を呈する潜在的に爆発性の混合物である。したがって、PEMWEの効率的な動作及び最大性能のためには、CCM内の電子抵抗及びイオン抵抗を可能な限り低く保つことが重要であるが、膜を通って酸素流への水素クロスオーバーを最小限に抑えることも重要である。従来、膜は、そのような水素クロスオーバーを制限する必要があるため、125ミクロン以上の厚さであった。しかしながら、より厚い膜の使用は、CCM内の電子抵抗及びイオン抵抗を増加させる。水素クロスオーバーは、PEMWEではより薄い膜の使用によって悪化するので、125μmを超える厚さ、典型的には200μmに近い厚さ、又はそれより厚い厚さを有する膜を使用することが非常に典型的である。
【0008】
したがって、PEMWEではより薄いPEMを使用することによって改善された性能が得られるが、実際には、これは、水素クロスオーバーの増加及び結果として生じる安全上のリスクのために不可能であった。伝統的に、PEMWEにおけるPEMの厚さは、水素クロスオーバーのレベルを減少させるために125μm以上であるが、イオン抵抗の付随する増加は、PEMWE特性を厳しく制限する。現在使用されている膜の例としては、Nafion(商標)N115(厚さ125μm)及びNafion(商標)N117(厚さ175μm)が挙げられる。
【0009】
したがって、水素生成水電解槽用途における安全性リスクを低減するために水素クロスオーバーを制限し、更に、例えば、従来の現在使用されている膜よりも薄い厚さ又は高い導電率であることによって、より低いイオン抵抗を有する高性能PEMが必要とされている。「高性能」とは、PEMWEが、可能な限り高い電流密度で、可能な限り高い電気的効率性(すなわち、低いセル電圧)で動作できることを意味する。
【0010】
Johnson Mattheyは、前述の必要性に対処することを対象とする特許出願(国際公開第2018/115821号として公開)を以前に出願している。国際公開第2018/115821号は、3つの膜を一緒に積層することによる、PEM水電解槽のためのCCMの製造を記載している:カソード触媒層(アイオノマーの分散液中の白金黒などの水素発生反応又はHER触媒)で被覆された第1の膜、アノード触媒層(酸素発生反応又はOER触媒、例えば、アイオノマーの分散液中のIrOブラックなど)で被覆された第2の膜、水素クロスオーバーを低減するために再結合触媒(例えば、アイオノマーの溶液中のカーボンブラック上に担持されたパラジウム)で被覆された第3の膜であって、第1の膜と第2の膜との間に挟まれている第3の膜。
【0011】
国際公開第2018/115821号に記載されている積層方法の利点は、非常に薄い膜構成要素を利用することができ、得られるCCMも薄いことである。
【0012】
国際公開第2018/115821号に開示されている実施例では、3つの膜のそれぞれは、17μm厚の膜であり、PTFE補強材料を有するAsahi Glass Group製の900 EW Flemion(商標)アイオノマーを含んでいた。セリア過酸化水素スカベンジャー触媒を、3つの膜のそれぞれの片側に被覆した。アイオノマーの分散液中にPtブラックを含むカソード触媒層を、セリア層上の膜構成要素の1つの上に被覆し、アイオノマーの溶液中にIrOブラックを含むアノード触媒層を、セリア層上の膜構成要素の別の上に被覆し、アイオノマーの溶液中にカーボンブラック上に担持されたPdを含む再結合触媒を、セリア層上の最終膜構成要素上に堆積させた。次いで、3つの触媒被覆膜構成要素を、再結合触媒層を有する膜構成要素が中央にくるように配置し、アノード触媒層及びカソード触媒層が外側を向くように他の2つの膜構成要素の間に挟んだ。中心膜構成要素は、再結合触媒層がアノード触媒層を担持する膜構成要素に面するように配向された。次いで、これらの3つの層を積層してCCMを形成した。
【0013】
国際公開第2018/115821号に記載されている積層方法は、従来の積層方法と比較して欠陥のレベルが低いCCMを製造することができるが、この方法は、ポリマー膜間に2つの積層界面を有するCCMを依然として製造し、積層に関連する問題を完全には回避しない。
【0014】
以下の特性の1つ以上、好ましくは全てを満たす、代替的な改善された膜、及び対応するCCMが依然として必要とされている。
強度と高い導電率との間の良好なバランス。
低い、又は少なくとも許容可能なHクロスオーバーレベル、及び
界面欠陥を含まないか、又は少なくとも実質的に含まない。
【0015】
また、以下のことも必要である。
そのようなCCMで使用するのに適した触媒材料を選択又は開発する。
改良された触媒層を製造するための改良された触媒インク配合物及び堆積方法を開発する。
ラジカルスカベンジャーなどの他の添加剤の最適化されたレベル及び分布を提供する。
【0016】
本明細書は、これらの必要性に対処することを目的とする。
【発明の概要】
【0017】
本明細書に記載される水電解槽用の触媒被覆膜(CCM)は、第1の表面及び第2の表面を有するアイオノマー膜を形成することと、アイオノマー膜の第1の表面上にアノード触媒層を形成することと、アイオノマー膜の第2の表面上にカソード触媒層を形成することであって、アイオノマー膜が少なくとも1つの補強層を含み、当該補強層がアイオノマーを含浸させた多孔質ポリマー補強材料を含み、補強層又は各補強層が、補強層中のアイオノマー及び多孔質ポリマー補強材料の総重量に対して5~20重量%の多孔質ポリマー補強材料を含む、ことと、を含む方法により製造される。
【0018】
アイオノマー膜は、液体キャリア中のアイオノマーの分散液を固体バッキング層上に堆積させ、少なくとも部分的に乾燥させて第1のアイオノマー層を形成することと、液体キャリア中のアイオノマーの分散液を第1のアイオノマー層上に堆積させ、少なくとも部分的に乾燥させて、第1のアイオノマー層の上に第2のアイオノマー層を形成することと、任意選択で、第1及び第2のアイオノマー層の上にアイオノマーの1つ以上の更なる層を順次堆積させ、乾燥させて、固体バッキング層上にアイオノマー膜構造を構築することであって、アイオノマー層のうちの少なくとも1つが補強材料を含む、ことと、を含む多層法によって形成することができる。
【0019】
補強層は、液体キャリア中のアイオノマーの分散液を堆積させてアイオノマー分散液の湿潤層を形成し、多孔質ポリマー補強材料のシートに張力を加え、張力を維持しながら多孔質ポリマー補強材料のシートをアイオノマー分散液の湿潤層中に移動させ、次いで層を乾燥させて補強層を形成することによって形成することができる。
【0020】
上記に関連して、補強材料をアイオノマー膜に導入してその機械的強度及び剛性を改善する場合、水電解槽用途における機能的性能に悪影響を及ぼす可能性がある問題となる導電性の低下がないことを確実にすることも重要であることに留意することが重要である。機械的性能と伝導性能との良好なバランスは、アイオノマーが含浸された多孔質ポリマー補強材料を含む補強層をアイオノマー膜内に形成することによって達成することができ、補強層は、補強層中のアイオノマー及び多孔質ポリマー補強材料の総重量に対して5~20重量%の多孔質ポリマー補強材料を含むことが見出された。
【0021】
技術的観点からの重要な特徴は、多孔質補強材料へのアイオノマーの良好な含浸を得ることである。そうでなければ、アイオノマーが存在せず、したがって伝導が存在しない場所を導入する孔、空洞又は空隙が存在することになる。これを達成するための1つの方法は、適切な多孔質補強材料と、アイオノマー及び補強材料のための適切な重量比を選択することに加えて、十分な厚さのアイオノマー分散液の湿潤層を堆積させ、次いで、アイオノマー分散液の湿潤層の中に降ろす際に多孔性補強材料に張力を加え、補強材料の細孔を開き、アイオノマー材料の良好な含浸を確実にする。次いで、この層を乾燥させて補強層を得る。
【0022】
上記の方法に従って、水電解槽のための触媒被覆膜が提供され、触媒被覆膜は、第1の表面及び第2の表面を有するアイオノマー膜と、アイオノマー膜の第1の表面上のアノード触媒層と、アイオノマー膜の第2の表面上のカソード触媒層と、を備え、アイオノマー膜は、少なくとも1つの補強層を備え、当該補強層は、アイオノマーが含浸された多孔質ポリマー補強材料を含み、補強層又は各補強層は、補強層中のアイオノマー及び多孔質ポリマー補強材料の総重量に対して5~20重量%(任意選択で7~15重量%)の多孔質ポリマー補強材料を含む。
【0023】
更に、補強層又は各補強層は、アイオノマー膜内の非補強アイオノマー層又は各非補強アイオノマー層の厚さの1.5~2.5倍の厚さを有してもよい。例えば、補強層又は各補強層は、12~24μmの範囲の厚さを有してもよい。対照的に、非補強アイオノマー層又は各非補強アイオノマー層は、6~12μmの範囲の厚さを有し得る。補強層の厚さ及びアイオノマー対多孔質補強材料の比は、アイオノマーが、補強層中の多孔質ポリマー補強構造を完全に含浸して取り囲むのに十分な量で提供され、同時に、水電解槽用途において所望の機械的特性を提供するのに十分な補強材料を提供するようなものである。更に、補強層は、乾燥中に溶媒が実質的に除去され得るよりも十分に薄い。補強層に捕捉された溶媒は、得られるCCMの性能に悪影響を及ぼす可能性があるので、これも重要な考慮事項である。例えば、かなりの量の溶媒が多層構造中に捕捉されたままである場合、得られる膜の物理的、化学的、及び電子的特性が損なわれる可能性がある。
【0024】
好適な多孔質ポリマー補強材料は、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)である。このような補強材料は当該技術分野において知られているが、本明細書に記載されているように、機能性能を改善し、高レベルの導電性を保持するために、補強層のためのアイオノマー-補強組成物を適合させ、補強層を形成する方法を適合させることが必要であることが見出されている。
【0025】
上記に加えて、補強材料の平均位置がカソード触媒層よりもアノード触媒層に近くなるように補強材料を非対称に分布させることが有利であり得ることが見出された。例えば、単一の補強層がアイオノマー膜内に設けられる場合、それはカソード触媒層よりもアノード触媒層の近くに配置される。あるいは、アイオノマー膜内に2つの補強層が設けられる場合、これらは、2つの補強層間の中点の位置がカソード触媒層よりもアノード触媒層に近くなるように配置される。
【0026】
この非対称構成が有利である1つの潜在的な理由は、水電解槽用途におけるCCMが高品質のアノード触媒層を有することが非常に重要であることが見出されたことである(その層の品質も重要であるが、カソード触媒層よりも重要である)。アノード側に向かって補強材料を傾斜させることは、最良の品質のアノード触媒層が製造され、動作中に維持されることを確実にするために有利であることが分かっており、アノード触媒層は、水電解槽用途においてより良好な性能を達成するために重要である。同時に、そのような補強層がアノード触媒層の近くに配置される場合、それらがアノードで生成されたプロトンに対して高い伝導性を有することが保証されなければならない。
【0027】
本明細書の特定の態様を上記に要約したが、本明細書では、補強層を含むアイオノマー膜の態様、アノード触媒層及びカソード触媒層の態様、触媒層に配置された触媒の態様、触媒層を製造するために使用されるインクの態様、並びに製造方法に関する態様を含む、触媒被覆膜及びその構成要素の様々な態様が記載されていることに留意されたい。本明細書は、これらの異なる態様及びその特徴を個々に又は任意の組み合わせで特許請求するための基礎を提供することを意図している。
【図面の簡単な説明】
【0028】
本発明のより良い理解のために、及び本発明がどのように実施され得るかを示すために、本発明の特定の実施形態が、添付の図面を参照して例としてのみ説明される。
図1】2つの補強層を含むプロトン交換膜の製造に関与する方法ステップの例を示す。
図2】2つの補強層を含むプロトン交換膜を含むCCM構造の概略例を示す。
図3】2つの補強層を含むプロトン交換膜の断面の顕微鏡写真を示す。
図4】本明細書の実施形態による膜対市販のNafion(商標)115膜の性能データを示し、所与の電圧での電流密度の増加に関する性能の改善を示す。
図5】アイオノマー濃度の最適化が、PEMWEに対するCCMの特性の改善をもたらし得ることを示す。
図6】カソード触媒層に対する改変によって達成されるCCM性能の改善を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
概要セクションを参照して背景セクションで説明したように、本明細書は、水電解槽用の触媒被覆プロトン交換膜及びその構成要素を提供することに関する。
【0030】
CCM性能の改善を達成するための重要な焦点領域には、(A)アノード触媒層の改善、例えば、機能性能バランス活性及び安定性を維持しながらイリジウム含有量を低減すること、(B)機械的安定性を保持し、水素クロスオーバーを軽減し、及び/又は化学的安定性及び寿命を改善するためにラジカル濃度を低減するための添加剤を含みながら、プロトン交換速度を増加させるために膜の厚さを低減することなどのプロトン交換膜における改善;及び(C)機能性能を維持しながら白金含有量を低減することなどのカソード触媒層における改善が含まれる。
【0031】
本明細書は、これら3つの領域のそれぞれに対処する。プロトン交換膜及び全体的なCCM構造の改良を最初に説明し、続いてアノード触媒層の改良を説明し、次にカソード触媒層の改良を説明する。
【0032】
プロトン交換膜
本明細書の一態様は、特に、機械的安定性を保持し、水素クロスオーバーを軽減し、製造中に(特に膜の副層間の界面において)導入される欠陥を低減し、化学的安定性及び寿命を改善するための添加剤を含みながら、そのプロトン抵抗を低減するために膜の厚さを低減することを含む、プロトン交換膜構成の改善に関する。
【0033】
PEMWE中の膜は、プロトンがアノードとカソードとの間で容易に移動することを可能にし(低抵抗)、一方でガス(特にH)のクロスオーバーを止めることが必要とされる。より薄い膜は、通過するアイオノマーがより少なく、したがってプロトン移動に対する抵抗がより低いが、ガスクロスオーバーの増加を可能にする。したがって、膜の厚さは、抵抗とクロスオーバーとのバランスをとるように選択されることが多く、最も一般的なものは、それぞれ125μm及び175μm厚のChemours(商標)からのNafion(商標)115及び117である。
【0034】
より薄い膜を使用する燃料電池において、補強材料は、膨潤に対してアイオノマーを拘束し、ピンホール又は亀裂の形成を防止することによって、CCMの可使時間を延長することが示されている。これは電解槽に引き継がれることが見出されている。しかしながら、上述のN115及びN117は補強材料を含まない。鋳造されたNafion(商標)212膜は、補強材料を含むことができるが、現在、電解槽動作には薄すぎる(水素クロスオーバーが多すぎる)と考えられている。特定のPEM水電解槽用途に最適であると思われる50~125μmの間隙内の市販の膜は存在しない。したがって、補強材料を有するこの間隙内の膜は、電解槽の動作にとって非常に有益であろう。理想的な膜はまた、ラジカル分解及び再結合触媒から保護するために、H捕捉触媒(複数可)を導入する。
【0035】
本明細書の一態様による触媒被覆膜構成は、国際公開第2018/115821号に記載されているものとはいくつかの点で異なる。
【0036】
好適には、触媒被覆膜のアイオノマー膜構成要素は、単一のコヒーレントな非積層ポリマーフィルムから形成され、3つではなく1つのポリマー膜を含有する。ポリマーフィルムは、流体堆積プロセスにおいて複数の層を順次印刷、噴霧、又は被覆することによって好都合に調製されてもよく、ここで、層は乾燥中に固化する。堆積された層の少なくとも1つには、補強ポリマーが設けられる。
【0037】
単層の補強ポリマー膜は、触媒被覆膜を形成するための加工をより容易にする高度の剛性を有し、例えば、カソード触媒層(一方の側)及びアノード触媒層(他方の側)の両方を直接又はデカールを介して堆積させるための基材として使用することができる。
【0038】
先の国際公開第2018/115821号特許出願は、各膜が単一の触媒層で被覆される必要があるだけであるように、3つの別個の膜を処理する利点を論じたが、本明細書は、以下に与えられる理由のために有利である膜内の積層界面を回避しながら、その両側への触媒層の堆積のためにより容易に処理される多層補強ポリマー膜を提供することによって、代替的アプローチを提供する。
【0039】
プロトン伝導性膜の積層は、少なくとも2つの固体プロトン伝導性膜を一緒にプレス及び/又は結合することを含む。積層界面は、2つの膜の間に形成され、ここで、個々の膜の固体表面が一緒にプレス及び/又は結合される。積層界面は、物理的欠陥を含む。更に、積層界面の構造的及び/又は化学的性質も、バルクポリマー材料のそれとは異なる。これは、固体膜が形成される場合、固体膜の外側表面がバルク材料の表面特徴とは異なる表面特徴を有するためである。例えば、疎水性スキンは、空気界面で膜の表面上に形成される。ラマン分光法は、この差を検出することができる。したがって、2つの固体膜が一緒にプレスされるとき、2つの固体表面によって形成される積層界面は、プロトン伝導性ポリマー材料のバルクと比較して、化学的及び/又は構造的形態において特徴的である。したがって、顕微鏡及び分光技術は、プロトン伝導性ポリマーの層間の積層界面と、多層構造を構築するための層の印刷、噴霧、又は被覆などの液相堆積プロセスによって形成された界面とを区別することができる。すなわち、非積層界面は、積層界面とは構造的及び/又は化学的に異なり、製造方法の単なる特徴ではない。更に、非積層界面は、製造方法の事前知識なしに、製品CCMにおいて非積層であると識別することができる。積層界面を検出するための分析技術の例としては、断面SEMが挙げられる。界面における結晶化度の変化は、断面TEMを用いて検出することができる。積層界面を検出するための他の技術は、13C/1H/19F固体NMR、中性子回折、及び/又は前述の技術のうちの2つ以上の組み合わせを含む。
【0040】
プロトン伝導性ポリマー膜間の積層界面における物理的欠陥及び/又は化学的変動に起因して、そのような界面は、多層プロトン伝導性膜の抵抗を増加させ得る。したがって、プロトン伝導性ポリマーの個々の固体層/膜の積層を介するのではなく、液体溶媒中に分散されたアイオノマーの層を堆積させて多層膜構造を構築することによって、多層プロトン伝導性膜を製造することが有利であることが見出されている。
【0041】
したがって、本明細書の膜は、鋳造、すなわち、印刷、噴霧、又は被覆などの液相堆積プロセスを介して互いの上にプロトン伝導性ポリマーの複数の層を堆積させることによって適切に作製される。これは、国際公開第2018/115821号に記載されているように、典型的には押出成形されるか、あるいは共に積層される電解槽CCMで使用される膜では普通ではない。したがって、コヒーレントな非積層ポリマーフィルムは、複数のプロトン伝導性ポリマー層によって構成され、これらの層のうちの少なくとも1つは、アイオノマーで含浸させた多孔質補強ポリマーを含む。
【0042】
個々の層は、液相溶媒中のアイオノマーの分散液を調製し、次いで分散液を堆積させてアイオノマーの層を形成することによって形成されてもよい。このようにして形成された層は、その上にアイオノマーの更なる層を堆積させる前に乾燥させるか、又は少なくとも部分的に乾燥させることができる。このように複数の薄層を堆積させることは、より厚い層の堆積及び乾燥と比較して、薄層を乾燥させ、層から液体溶媒を除去することがより容易であるので、1つ又はいくつかのより厚い層を堆積させることより好ましい。かなりの量の溶媒が多層構造中に捕捉されたままである場合、得られる膜の物理的、化学的、及び電子的特性が損なわれる可能性がある。あるいは、堆積されたアイオノマー分散液の厚い層から溶媒を除去するために膜構造を長時間乾燥させる必要がある場合、製造時間は著しく増加する。
【0043】
層の順次印刷の例を図1に示す。第1のパスにおいて、プロトン伝導性ポリマー層がバッキング層上に適用される。次いで、プロトン伝導性ポリマー層を乾燥させる。第2のパスにおいて、アノード側補強層が導電性ポリマー層上に適用される。次に、アノード側補強層を乾燥させる。この適用及び乾燥の順序は、パス3、4、6及び7の間、プロトン伝導性ポリマー層を生成するために継続される。カソード側補強層は、パス5の間に適用される。
【0044】
得られた膜は、本明細書において「コヒーレント」と呼ばれ、内部積層界面がないことを意味する。図1の説明図は、個々の印刷層の間に破線を示すが、これらは説明のためだけのものであり、最終製品では識別できない。パス7の後に形成された膜の概略断面図を図1の右下隅に示す。
【0045】
典型的には、単一のコヒーレントな非積層ポリマーフィルムを一緒に構成する個々のプロトン伝導性ポリマー層は、6~12μm、例えば7~11μmの厚さを有する。
【0046】
典型的には、アノード側及びカソード側補強層はそれぞれ、14~22μm、例えば16~20μmの厚さを有する。
【0047】
誤解を避けるために、これらの厚さは、層の乾燥後かつ次の層の適用前に形成された層の厚さを指す。必要な厚さの乾燥層を得るのに必要な湿潤層の厚さは、経験的に決定することができる。膜(個々のプロトン伝導性ポリマー層、アノード側補強層及びカソード側補強層から構成される)は、例えば、75~85μmの全厚を有してもよい。
【0048】
図1に示されるように製造された膜は、アノード側補強層及びカソード側補強層を含む。膜の用語「アノード側」及び「カソード側」は、それぞれアノード触媒及びカソード触媒を適用することが意図される膜の側として理解されるべきである。補強材料は、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)又はポリベンズイミダゾール(PBI)から形成されてもよく、プロトン伝導性ポリマー層は、ペルフルオロスルホン酸(PFSA)ポリマーから形成されてもよい。
【0049】
あるいは、図1に示される成膜プロセスは、パス4の後に終了させることができ、膜のアノード側のより近くに位置する単一の補強層を有するより薄い膜製品をもたらす。したがって、膜製品は、以下の層構造を有する。1.プロトン伝導性ポリマー層、2.補強層、3.プロトン伝導性ポリマー層、4.プロトン伝導性ポリマー層。この構成において、膜(個々のプロトン伝導性ポリマー層及びアノード側補強層から構成される)は、例えば、45~55μmの全厚を有してもよい。
【0050】
上記に関連して、膜の「アノード側」は、製造中にバッキング層に隣接する膜の側であることに留意されたい。すなわち、アノード側は、図1に示す多層流体堆積プロセス中にバッキング層上に堆積された第1のプロトン伝導層によって形成される。バッキング層との界面によって形成される膜の側(すなわち、バッキング層の近位)は、バッキング層の遠位にある膜の側(すなわち、膜を形成するために堆積される最終層によって形成される表面)と比較して、アノード触媒層のその後の堆積のためのより良好な表面を提供することが見出されている。更に、水電解槽用途におけるCCMが高品質のアノード触媒層を有することが重要であることが見出された(その層の品質も重要であるが、カソード触媒層よりも重要である)。したがって、膜のこのより良好な表面品質側に形成されることが好ましいのは、カソード触媒層ではなくアノード触媒層である。
【0051】
留意すべき別の点は、前述の例における補強層が、膜の外面に配置されず、膜の中心面に対して中心に及び/又は対称的に配置されないことである。例えば、単一の補強層を組み込んだ前述の4回の被覆パスの例では、その補強層(第2回目の被覆パスで堆積される)は、膜のカソード側よりも膜のアノード側の近くに配置される。2つの補強層を組み込む、先に議論された(及び図1に示された)7回の被覆パスの例では、第1の補強層(2回目の被覆パスにおいて堆積される)は、膜の中心面よりも膜のアノード側により近く位置し、第2の補強層(5回目の被覆パスにおいて堆積される)は、膜のカソード側よりも膜の中心面により近く位置する。いずれの場合も、補強材料は、膜の中心面に対して対称な配置と比較して、膜のアノード側に向かって斜めになっているか、又はシフトしている。直観に反して、この非対称性は、おそらく水電解槽用途におけるCCMの動作環境における非対称性に起因して、水電解槽用途におけるCCMにとって有利であり得る。このアプローチを使用して製造された膜は、Nafion(商標)115などの他の市販の電解槽膜と比較した場合、有益な機械的特性及びクリープ特性を有することが見出されている。膜はまた、縦方向対横方向において非対称的に挙動し、補強材料は、使用中の膜の膨潤、特に膜のx、y平面における膨潤を減少させる。これに関して、膜がロールツーロールプロセスを使用して製造される場合、2つの方向、すなわち、印刷された材料の移動方向に対応する長手方向である縦方向と、印刷された膜ストリップを横切る左右方向である横方向とが存在する。クリープなどの機械的特性において観察されている、製造プロセスに関連するいくつかの非対称特性が存在することが見出されている。非対称性の1つの原因は、他の方向よりも一方向において強いePTFEから生じ、N115などの非補強膜では見られないものである。
【0052】
補強層(複数可)がプロトンに対して伝導性でなければならないことに留意することも重要である。典型的な補強ポリマー材料は、プロトンに対して伝導性でないか、又はプロトンに対して十分に伝導性でないので、補強層は、層の一方の側から層の他方の側へのプロトン伝導経路を提供するために、材料の孔を通してアイオノマーを含浸させた多孔質補強ポリマーを使用して形成される。補強ポリマーの多孔性、厚さ、強度、及び孔へのイオノマーの良好な含浸を確実にするために使用される方法は、補強層の機械的要件及び導電性要件の所望の組み合わせ、並びに製造中に溶媒が除去されることを確実にする乾燥特性を達成するために重要である。例えば、有利には、補強層はそれぞれ、非補強プロトン伝導性ポリマー層の厚さの1.5~2.5倍の厚さを有する。更に、各補強層は、補強層中のアイオノマー及び多孔質ポリマー補強材料の総重量に対して7~15重量%の多孔質ポリマー補強材料を含む。例えば、補強層は、4.7g/mの補強材料(例えば、ePTFE)の濃度及び36g/mのアイオノマーの濃度を有してもよい。したがって、補強材料は、100×4.7/(4.7+36)=11.5重量%に寄与する。この点に関して、補強層は他の非補強プロトン伝導性ポリマー層の2倍程度の厚さであるが、層のかなりの量が補強ポリマーによって占められることに留意すべきである。したがって、層のアイオノマー分散液充填量は、他の非補強層のアイオノマー分散液充填量と同様のままである。このようにして補強層の補強材料とアイオノマーの厚さと充填量のバランスをとることにより、機械的強度、導電性、乾燥、及び層形成特性の良好な組み合わせが得られる。より大きな厚さは、補強材料を収容するのに役立つ。技術的観点からの重要な特徴は、多孔質補強材料へのアイオノマーの良好な含浸を得ることである。そうでなければ、アイオノマーが存在せず、したがって伝導が存在しない場所を導入する孔、空洞又は空隙が存在することになる。これを達成するための1つの方法は、アイオノマー及び補強材料のための適切な材料及び重量比を選択することに加えて、十分な厚さのアイオノマー分散液の湿潤層を堆積させ、次いで、多孔性補強材料がアイオノマー分散液の湿潤層の中に降ろされるときに多孔性補強材料に張力を加えることである。次いで、この層を乾燥させて補強層を得る。好適な補強ポリマーの例は、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)である。
【0053】
多孔性補強ポリマーの性質、膜におけるその位置、及びアイオノマーを堆積及び含浸させる方法は全て、膜の改善された機械的特性を得ると同時に、低減された耐プロトン性も達成するために重要である。
【0054】
補強ポリマーに加えて、アイオノマー自体は、膜に構造的/機械的完全性並びに導電性特性を提供し、導電性及び機械的完全性の所望の組み合わせを達成するために、好適なアイオノマー及び堆積方法を選択することが重要である。アイオノマーは、パーフルオロスルホン酸(「PFSA」)であってもよく、750 EW超、770 EW超、又は790 EW超、850 EW、830 EW、又は810 EW未満から選択され、又は前述の下限及び上限の任意の組み合わせによって定義される範囲内である当量を有してもよい。
【0055】
溶媒中に分散されたアイオノマーを含むアイオノマー分散液が形成される。溶媒は有機溶媒と水の混合物であってもよい。例えば、溶媒は、アルコール(例えば、エタノール又はプロパノール)と水との混合物であってもよい。有機溶媒の水に対する体積比は、少なくとも60:40、70:30、又は75:25、95:5以下、90:10以下、又は85:15以下、又は前述の下限及び上限の任意の組み合わせによって定義される範囲内である当量を有してもよい。溶媒は、所望の分散、被覆及び乾燥特性を達成するために配合される。
【0056】
アイオノマーは、少なくとも7重量%、10重量%、14重量%、又は16重量%の重量%、22重量%以下、20重量%以下、又は18重量%以下;又は前述の下限及び上限の任意の組み合わせによって定義される範囲内である当量を有してもよい。アイオノマー含有量は、所望の分散、被覆、及び乾燥特性を達成するために選択される。
【0057】
アイオノマー分散液はまた、ラジカル低減添加剤(例えば、セリアなどの過酸化物ラジカル低減添加剤)を含んでもよい。例えば、ラジカル低減添加剤は、アイオノマーの重量に対して、少なくとも0.15重量%、0.20重量%、又は0.23重量%の重量%、0.35重量%以下、0.30重量%以下、又は0.28重量%以下;又は前述の下限及び上限の任意の組み合わせによって定義される範囲内である当量を有してもよい。ラジカル還元剤は、プロトン伝導性ポリマー層及び/又は補強層のうちの1つ以上の中に分散されてもよい。特定の例では、同じアイオノマー分散液組成物が全ての層に使用される。過酸化物は分解して、ある範囲のラジカル(O、OH、OOH)を形成することができ、ラジカル低減添加剤は、これらのラジカルの1つ、複数、又は全ての量を低減することができることに留意されたい。
【0058】
触媒被覆膜
触媒被覆膜は、膜のアノード側にアノード触媒層を適用し、膜のカソード側にカソード触媒層を適用することによって調製される。触媒被覆膜の例を図2に示す。図2に示すCCM構成は、図1の方法を使用して形成された膜構造を含む。図において、膜1は、その一方の側にアノード触媒層2を有し、その反対側にカソード触媒層3を有する。破線は、図1に示されるように堆積されたアイオノマー層を示す。層4及び5は、それぞれ補強ポリマー4a及び5aを含む補強層である。図2に示すように、補強ポリマーは、それが配置される補強層の厚さよりも薄い厚さを有する。すなわち、補強層内のアイオノマーは、補強ポリマー材料に含浸し、それを取り囲む。
【0059】
先に述べたように、アノード触媒層は、成膜プロセス中にバッキング層に隣接(近位)していた膜の側に適用される。これは、その上にアノード触媒層を製造するためのより良い品質の表面であり、アノード触媒層が良好に形成されることが水電解槽用途にとって重要であることが分かっている。更に、膜はまた、膜の中心面の周りの対称配置と比較して、補強材料がアノード側に向かってオフセットされるように配向される。
【0060】
カソード及びアノード用の触媒の特定のタイプは、変更することができる。水素発生反応を触媒するためのカソード触媒層は白金を含むことができ、及び/又は酸素発生反応を触媒するためのアノード触媒層は、酸化イリジウム又はイリジウムと別の金属(複数可)との混合酸化物を含むことができる。アノード及びカソード触媒層を適用するために、様々な方法を使用することができる。1つの方法は、触媒層をデカールとして適用することを含む。デカールを提供するための典型的な手順は、触媒、アイオノマー、有機溶媒及び水を含むインクを製造することを含む。インクをテフロンのシート上に適用してバー被覆し、乾燥させてデカールを形成することができる。触媒デカールを膜と共にホットプレスしてCCMを形成することができる。別法として、触媒インクを膜上に直接被覆することができる。
【0061】
アノード触媒層のための低欠陥表面
本明細書による特定の例の1つの特徴は、膜が製造されるバッキング層に近接して形成される膜の表面が、水電解槽CCMのアノード触媒層を支持するのにより適しているという発見に焦点を当てている。前節で前述したように、この表面は、それが製造されるバッキング層に対して遠位にある膜の表面よりも欠陥が少ない。水電解槽CCMにおいて、アノード触媒層をその上に製造するために、下部欠陥表面を使用することが好ましいことが見出されている。したがって、水電解槽のための触媒被覆膜が提供され、触媒被覆膜は、第1の表面及び第2の表面を有するアイオノマー膜と、アイオノマー膜の第1の表面上のアノード触媒層と、アイオノマー膜の第2の表面上のカソード触媒層とを備え、アイオノマー膜の第1の表面は、アイオノマー膜の第2の表面よりも少ない欠陥を有する。
【0062】
「欠陥がより少ない」とは、第1の表面が、第2の表面よりも高い表面平坦度、第2の表面よりも低い表面粗さ、第2の表面よりも低いレベルの微粒子及び/若しくは化学的汚染、並びに/又は第2の表面よりも少ない数の空洞若しくは空隙の1つ以上を有し得ることを意味する。
【0063】
触媒被覆膜のアイオノマー膜は、少なくとも3つ、5つ、又は7つのアイオノマー層;15以下、12以下、又は10以下のアイオノマー層、又は前述の下限及び上限の任意の組み合わせによって定義される範囲内のいくつかのアイオノマー層によって形成された多層構造を有することができる。アイオノマー層の少なくとも1つ、任意選択的に少なくとも2つは、アイオノマーに加えて補強材料を含んでもよい。補強材料は、アイオノマーを含浸させた多孔質ポリマー層を含むことができ、補強材料は任意選択で延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)である。更に、先に示したように、補強材料は、その平均位置がカソード触媒層よりもアノード触媒層に近くなるように、アイオノマー膜の中央平面に対して非対称に分布させることができる。更に、アイオノマー膜はまた、ラジカル還元添加剤、任意選択でセリアを含んでもよい。
【0064】
アノード触媒層は、イリジウム含有触媒材料、任意選択で酸化イリジウム含有触媒材料を含むことができ、カソード触媒層は、白金担持炭素触媒材料を含むことができる。アノード触媒層及びカソード触媒層の一方又は両方は、触媒材料及びアイオノマー材料の両方を含むことができ、触媒材料はアイオノマー材料中に分散されているか、又はその逆である。アノード触媒層及びカソード触媒層の一方又は両方におけるアイオノマーは、アイオノマー膜中のアイオノマーと異なっていてもよい。
【0065】
また、上記のような水電解槽のための触媒被覆膜を製造する方法であって、液体キャリア中のアイオノマーの分散液を固体バッキング層上に堆積させることと、堆積された分散液を乾燥させて、液体キャリアを除去し、固体バッキング層上に配置されたアイオノマー膜を形成することであって、アイオノマー膜は、固体バッキング層に近接する第1の表面と、固体バッキング層に遠位の第2の表面とを有する、ことと、固体バッキング層からアイオノマー膜を除去した後に、アイオノマー膜の第1の表面上にアノード触媒層を形成することと、アイオノマー膜の第2の表面上にカソード触媒層を形成することであって、カソード触媒層は、固体バッキング層からアイオノマー膜を除去する前又は後のいずれかに、アイオノマー膜の第2の表面上に形成される、ことと、を含む、方法が提供される。
【0066】
アイオノマー膜は、複数の堆積及び乾燥ステップによって固体バッキング層上に形成することができ、この方法は、液体キャリア中のアイオノマーの分散液を固体バッキング層上に堆積させ、少なくとも部分的に乾燥させて第1のアイオノマー層を形成することと、液体キャリア中のアイオノマーの分散液を第1のアイオノマー層上に堆積させ、少なくとも部分的に乾燥させて、第1のアイオノマー層の上に第2のアイオノマー層を形成することと、任意選択で、第1及び第2のアイオノマー層の上にアイオノマーの1つ以上の更なる層を順次堆積させ、乾燥させて、固体バッキング層上にアイオノマー膜構造体を構築することと、を含む。アノード触媒層は、デカールからアイオノマー膜の第1の表面上に転写することができる。あるいは、アノード触媒層は、液体堆積プロセスによってアイオノマー膜の第1の表面上に直接製造することができる。
【0067】
補強材料の非対称分布
本明細書による特定の例の別の特徴は、アイオノマー膜内に補強材料の非対称分布を提供することが、水電解槽CCM性能にとって有利であり得るという発見に焦点を当てている。したがって、水電解槽のための触媒被覆膜が提供され、触媒被覆膜は、第1の表面及び第2の表面を有するアイオノマー膜と、アイオノマー膜の第1の表面上のアノード触媒層と、アイオノマー膜の第2の表面上のカソード触媒層と、を備え、アイオノマー膜は、補強材料を含み、補強材料は、その平均位置がカソード触媒層よりもアノード触媒層に近くなるように、アイオノマー膜の中央平面に対して非対称に分布している。
【0068】
ここでも、アイオノマー膜は、少なくとも3つ、5つ、又は7つのアイオノマー層、15以下、12以下、又は10以下のアイオノマー層、又は前述の下限及び上限の任意の組み合わせによって定義される範囲内のいくつかのアイオノマー層によって形成された多層構造を有していてもよい。アイオノマー層の少なくとも1つ、任意選択で少なくとも2つは、アイオノマーに加えて補強材料を含む。特定の例によれば、アイオノマー層のうちの1つのみが補強材料を含み、当該層は、カソード触媒層よりもアノード触媒層に近い。あるいは、別の例によれば、アイオノマー層のうちの2つは、補強材料を含み、2つのアイオノマー層間の中点は、カソード触媒層よりもアノード触媒層に近い。
【0069】
これらの例の他の特徴は、前述の通りである。そのような触媒被覆膜は、第1の表面及び第2の表面を有するアイオノマー膜を形成することであって、アイオノマー膜が補強材料を含む、ことと、アイオノマー膜の第1の表面上にアノード触媒層を形成することと、アイオノマー膜の第2の表面上にカソード触媒層を形成することであって、補強材料は、その平均位置がカソード触媒層よりもアノード触媒層に近くなるように、アイオノマー膜の中央平面に対して非対称に分布している、ことと、を含む方法により製造される。先に説明したように、アイオノマー膜は、液体キャリア中のアイオノマーの分散液を固体バッキング層上に堆積させ、少なくとも部分的に乾燥させて第1のアイオノマー層を形成することと、液体キャリア中のアイオノマーの分散液を第1のアイオノマー層上に堆積させ、少なくとも部分的に乾燥させて、第1のアイオノマー層の上に第2のアイオノマー層を形成することと、任意選択で、第1及び第2のアイオノマー層の上にアイオノマーの1つ以上の更なる層を順次堆積させ、乾燥させて、固体バッキング層上にアイオノマー膜構造を構築することであって、アイオノマー層のうちの少なくとも1つが補強材料を含む、ことと、によって形成することができる。有利には、アノード触媒層は、固体バッキング層からアイオノマー膜を除去した後に、第1のアイオノマー層の外面上に形成される。
【0070】
補強層組成物
本明細書による特定の例の別の特徴は、CCM中の補強層の組成及び構造に焦点を当てている。したがって、水電解槽のための触媒被覆膜が提供され、触媒被覆膜は、第1の表面及び第2の表面を有するアイオノマー膜と、アイオノマー膜の第1の表面上のアノード触媒層と、アイオノマー膜の第2の表面上のカソード触媒層と、を備え、アイオノマー膜は、少なくとも1つの補強層を備え、当該補強層は、アイオノマーが含浸された多孔質ポリマー補強材料(例えば、延伸ポリテトラフルオロエチレン-ePTFE)を含み、又は各補強層は、補強層中のアイオノマー及び多孔質ポリマー補強材料の総重量に対して5~20重量%、任意選択で7~15重量%の多孔質ポリマー補強材料を含む。各補強層は、12~24μmの範囲の厚さを有してもよい。
【0071】
少なくとも1つの補強層に加えて、アイオノマー膜は、少なくとも1つの非補強アイオノマー層を含んでもよい。各非補強アイオノマー層は、6~12μmの範囲の厚さを有し得る。有利には、各補強層は、各非補強アイオノマー層の厚さの1.5~2.5倍の厚さを有する。
【0072】
先の実施例で説明したように、アイオノマー膜は、少なくとも3つ、5つ、又は7つのアイオノマー層、15以下、12以下、又は10以下のアイオノマー層、又は前述の下限及び上限の任意の組み合わせによって定義される範囲内のいくつかのアイオノマー層によって形成された多層構造であり、少なくとも1つ、任意選択で少なくとも2つのアイオノマー層が、アイオノマーに加えて多孔質ポリマー補強材料を含む。アイオノマー層のうちの1つのみが補強材料を含む場合、当該層は、カソード触媒層よりもアノード触媒層の近くに設けることができる。あるいは、アイオノマー層のうちの2つが補強材料を含む場合、これらは、2つのアイオノマー層間の中点がカソード触媒層よりもアノード触媒層に近くなるように配置することができる。
【0073】
これらの例の他の特徴は、前述の通りである。触媒被覆膜は、第1の表面及び第2の表面を有するアイオノマー膜を形成することと、アイオノマー膜の第1の表面上にアノード触媒層を形成することと、アイオノマー膜の第2の表面上にカソード触媒層を形成することであって、アイオノマー膜が少なくとも1つの補強層を含み、当該補強層がアイオノマーを含浸させた多孔質ポリマー補強材料を含み、補強層又は各補強層が、補強層中のアイオノマー及び多孔質ポリマー補強材料の総重量に対して5~20重量%の多孔質ポリマー補強材料を含む、ことと、を含む方法により製造される。この場合も、アイオノマー膜は、液体キャリア中のアイオノマーの分散液を固体バッキング層上に堆積させ、少なくとも部分的に乾燥させて第1のアイオノマー層を形成することと、液体キャリア中のアイオノマーの分散液を第1のアイオノマー層上に堆積させ、少なくとも部分的に乾燥させて、第1のアイオノマー層の上に第2のアイオノマー層を形成することと、任意選択で、第1及び第2のアイオノマー層の上にアイオノマーの1つ以上の更なる層を順次堆積させ、乾燥させて、固体バッキング層上にアイオノマー膜構造を構築することであって、アイオノマー層のうちの少なくとも1つが補強材料を含む、ことと、によって形成することができる。
【0074】
前述の例は、主に、CCM構造内のアイオノマー膜の特徴に焦点を当てている。アノード触媒層及びカソード触媒層の詳細は、以下のセクションで提供される。
【0075】
アノード触媒層
アノード層に好適な触媒材料は、J&J Materials Inc.製の電気化学グレードの酸化イリジウムである。J&J Materials製のこの電気化学グレードの酸化イリジウムは、水電解槽用途において良好な性能を提供することが分かっている。
【0076】
アノード層に使用される酸化イリジウム触媒材料以外に、性能を改善するために、そのような触媒材料を使用してアノード層をどのように製造するかについてのいくつかの重要な態様もある。アノード層の重要な態様には以下が含まれる。
-インク成分の配合、それぞれの量、溶媒の選択、アイオノマーの選択(膜に使用されるアイオノマーとは異なる);
-インク製造プロセス中の段階的な希釈;
-適切な層構造を得るための乾燥条件;及び
-最終層を横切る/通る酸化イリジウム触媒の分布。
【0077】
インクは、デカールを形成するためにキャリア基材(例えば、PTFEシート)上に堆積され、次いで、(例えば、ホットプレスによって)膜に転写され得る。あるいは、インクを膜上に直接被覆することができる。堆積される場合、適切な乾燥条件の選択は、層全体にわたる酸化イリジウム触媒の適切な分布を含む適切な層構造を得るために重要である。
【0078】
アイオノマー濃度及び乾燥条件を最適化することは、水電解槽用途におけるCCM性能の有意な改善をもたらすことが見出されている。更に、アノード触媒層において、アイオノマー膜において使用されるものとは異なるアイオノマーを利用することが、改善された性能をもたらすことが見出された。したがって、水電解槽のための触媒被覆膜が提供され、触媒被覆膜は、第1の表面及び第2の表面を有するアイオノマー膜と、アイオノマー膜の第1の表面上のアノード触媒層と、アイオノマー膜の第2の表面上のカソード触媒層と、を備え、アノード触媒層は、アイオノマー中に配置されたイリジウム含有触媒材料を含み、アノード触媒層中のアイオノマーは、アイオノマー膜中のアイオノマーとは異なる。
【0079】
アノード触媒層中のアイオノマーは、好ましくは、900 EW以上、950 EW以上、1000 EW以上、又は1050 EW以上、1300 EW以下、1200 EW以下、又は1150 EW以下;又は前述の下限及び上限の任意の組み合わせによって定義される範囲内である当量を有してもよい。アイオノマーの側鎖はそれぞれスルホネート基を含む。任意に、アイオノマーの側鎖は、骨格へのエーテル結合に加えてエーテル基を含む。更に、任意選択で、アイオノマーの側鎖はCF3基を含む。アイオノマーの側鎖は、構造:-CF2-CF(CF3)-O-CF2-CF2-SO3Hを有してもよい。このようなアイオノマーの例は、Nafion D-2021CSである。
【0080】
アノード触媒層のアイオノマーは、膜アイオノマーよりも高い当量、膜アイオノマーより長い側鎖、及び/又は膜アイオノマーと比較して側鎖中の異なる化学基(例えば、エーテル基及び/又はCF3基)の1つ以上を有する点で膜のアイオノマーと異なる。対照的に、膜中のアイオノマーは、880 EW以下、850 EW以下、又は830 EW以下、750 EW以上、770 EW以上、又は790 EW以上;又は前述の上限及び下限の任意の組み合わせによって定義される範囲内の当量を有する。膜アイオノマーの側鎖もそれぞれスルホネート基を含む。しかしながら、側鎖はアノードアイオノマーの側鎖よりも短い。膜アイオノマーの側鎖は、エーテル基(骨格へのエーテル結合を除く)を含有せず、かつ/又はそれらはCF3基を含まない。膜アイオノマーの側鎖は、構造:-CF2-CF2-CF2-CF2-SO3Hを有してもよい。このようなアイオノマーの例は、3M 825アイオノマーである。
【0081】
したがって、一例によれば、アノード触媒層中のアイオノマーは、Nafion D-2021CSアイオノマーである。Nafion D-2021CSは、スルホネート末端基を有する長い側鎖を有する高当量アイオノマーである。水の存在下で、これらのスルホン酸基は水和し、溶媒和し、プロトンに解離し、これによりアノードからカソードへのプロトンの交換が可能になる。対照的に、アイオノマー膜中のアイオノマーは、3M 800、3M 825、又はAsahi 800アイオノマーであり得る。これらのアイオノマーは、より低い当量及びより短い側鎖を有する。
【0082】
アノード触媒層は、5~20重量%、例えば8~15重量%のアイオノマーを含むことができる。アノード触媒層中の触媒材料の量は、80~95重量%、任意選択的に85~92重量%であり得る。アノード触媒層のイリジウム担持量は、好ましくは3mg Ir/cm未満であり、任意選択的に0.05~3mg Ir/cmの範囲である。イリジウム含有触媒材料は、酸化イリジウム触媒材料とすることができ、アノード触媒層は、6~15マイクロメートルの厚さを有することができる。
【0083】
上記に加えて、アノード触媒層中のアイオノマーは、カソード触媒層中のアイオノマーと異なっていてもよい。例えば、カソード触媒層は、アイオノマー中に配置された白金含有触媒材料を含んでもよく、カソード触媒層中のアイオノマーは、アノード触媒層中のアイオノマーとは異なる。カソード層中のアイオノマーは、膜中のアイオノマーと同一又は類似であってもよい。
【0084】
これらの実施例では、CCMは、第1の表面及び第2の表面を有するアイオノマー膜を形成することと、アイオノマー膜の第1の表面上にアノード触媒層を形成することと、アイオノマー膜の第2の表面上にカソード触媒層を形成することであって、アノード触媒層は、イリジウム含有触媒材料とアイオノマーとの分散液を液体キャリア中に含むインクを調合し、インクを堆積させ、乾燥させることによって製造され、アノード触媒層中のアイオノマーは、アイオノマー膜中のアイオノマーとは異なる、ことと、を含む方法によって製造される。インクをアイオノマー膜上に直接堆積させ、乾燥させてアノード触媒層を形成することができる。あるいは、インクをキャリア層上に堆積させ、乾燥させてアノード触媒層を含むデカールを形成し、次いでデカールからアイオノマー膜に転写することができる。
【0085】
インクは、有利には、イリジウム含有触媒材料を水と混合してスラリーを形成し、次いで、スラリーを有機溶媒及びアイオノマーと混合することによって調製される。インクは、35~55重量%の固形分を有するように配合されてもよい。更に、堆積後、層から溶媒を蒸発させると共にアイオノマーの流れを促進するために、アノード触媒層中のアイオノマーのガラス転移温度以上の温度でインクを乾燥させる。
【0086】
一例では、2mg Ir/cmアノード触媒層は、J&J Materials製のIrO触媒と、長側鎖を有する12%の高EWアイオノマー(例えば、Nafion D-2021CSアイオノマー)とを含むインク配合物を使用して製造することができる。湿潤インクは、触媒、アイオノマー、水、及び1-プロパノールを含む。水及びプロパノールは、製造されるインクの固形分を調整するために添加される。第1ステップは、触媒を必要量の水で濡らすことを含む。このスラリーを十分に混合して、触媒が完全に湿潤されることを確実にする。これは、溶媒が可燃性であるので重要なステップであり、したがって、それが発火するのを防止するために、触媒は、アイオノマー/溶媒と混合する前に予備湿潤される。次のステップは、必要量のアイオノマー及びプロパノールの添加を含む。この添加の後、スラリーは混合され、次に堆積のために目標固形分に希釈される。これに関して、インクが被覆プロセスで使用される直前に最終希釈を行うことが有利である。例えば、液体キャリア中にイリジウム含有触媒材料及びアイオノマーの分散液を含むインクを配合した後、インクは、インクを堆積させる前に、24時間以内、12時間以内、8時間以内、4時間以内、2時間以内、1時間以内、又は30分以内に目標固形分に希釈される。
【0087】
インクが堆積のために適切な固形分に希釈されると、インクをPTFE上に印刷することができる。インクは、溶媒を蒸発させ、かつ層内のアイオノマーを安定化させるのに適した温度で乾燥される。
【0088】
PTFE上のアノード触媒層をアイオノマー膜に転写して、ホットプレスによってCCMを形成することができる。最終的なCCMのSEM画像は、得られたアノード触媒層がホットプレス後に9~11.5マイクロメートルであることを示す。
【0089】
図5は、触媒層中のアイオノマーに対する変更及び触媒層を製造する方法に対する変更が、所与の動作電位における電流密度に関してどのように性能の改善をもたらすことができるかの例を示す。
【0090】
カソード触媒層
カソード電極層は、PEMWE用途において有益な特性のために選択された特定のタイプの白金担持炭素触媒に基づくことができる。白金担持炭素触媒材料は、インクに配合され、PTFEシート上にex-situで印刷され、ホットプレスによって膜上に転写され得る。あるいは、インクを膜上に直接被覆することができる。触媒層は、触媒とアイオノマーの両方を含む。
【0091】
本明細書は、水電解槽用の触媒被覆膜において使用するための改善されたカソード触媒層を提供する。触媒被覆膜は、第1の表面及び第2の表面を有するアイオノマー膜と、アイオノマー膜の第1の表面上のアノード触媒層と、アイオノマー膜の第2の表面上のカソード触媒層とあって、カソード触媒層が、アイオノマー中に配置された白金担持炭素触媒材料を含み、カソード触媒層が、白金担持炭素触媒材料によって提供される1mgPtcm-2未満の白金担持量を有する、カソード触媒層と、を含む。
【0092】
驚くべきことに、特に特定のアイオノマー/炭素重量比で白金担持炭素触媒材料を使用する場合、白金担持量を減少させると、電流密度に関して性能が実際に改善されることが見出された。すなわち、白金担持炭素触媒材料を使用して白金担持量を減少させると、驚くべきことに、所与の電位に対する電流密度が増加した。これは、カソード触媒層を最適化することによって、低い白金担持量で高い性能を達成できることが図6に示されている。とは言うものの、提供されなければならない白金の量に対する下限も存在する。したがって、カソード層の白金担持量は、1mgPtcm-2、0.8mgPtcm-2、0.6mgPtcm-2、0.5mgPtcm-2、0.4mgPtcm-2、0.3mgPtcm-2、0.2mgPtcm-2、又は0.1mgPtcm-2未満、0.01mgPtcm-2超、0.04mgPtcm-2超、又は0.06mgPtcm-2超、又は、0.5mgPtcm-2未満かつ0.01mgPtcm-2超、又は0.2mgPtcm-2未満かつ0.01mgPtcm-2超など、前述の上限及び下限のいずれかによって定義される範囲内である。
【0093】
白金担持炭素触媒材料は、20~60重量%の白金、任意選択的に40~60重量%の白金を含み得る。白金は、炭素担体材料上にナノ粒子として提供される。白金のナノ粒子は、少なくとも1nm、2nm、又は3nm、15nm以下、10nm以下、又は6nm以下、又は前述の下限及び上限の任意の組み合わせによって定義される範囲内である当量を有してもよい。結晶子サイズは、XRDによって測定することができ、リートベルト分析を使用して適合させることができる。Bruker AXS D8でCu Kα線(λ=1.5406及び1.54439Å)を使用してX線回折データを収集する。結晶子サイズは、LVol-IB法を使用してリートベルト精密化から計算される。
【0094】
白金担持炭素触媒材料は、少なくとも50m-1、55m-1、又は60m-1、120m-1以下、100m-1以下、80m-1以下、75m-1以下、又は70m-1以下、又は前述の下限及び上限の任意の組み合わせによって定義される範囲内の白金1グラム当たりのCO金属面積を有してもよい。金属表面積は、Micromeritics Autochem II化学吸着分析器を使用して、ヘリウムキャリアガス中のパルスCO化学吸着によって決定することができる。
【0095】
白金担持炭素触媒材料は、部分的に黒鉛化された炭素材料(例えば、熱処理されたカーボンブラック)である炭素担体材料を含んでもよい。グラファイト材料は、より耐食性である。しかしながら、グラファイト支持体材料は表面積が小さい。したがって、大きな表面積と高い耐食性の要件の間に妥協がある。部分的に黒鉛化された材料は、この水電解槽用途における炭素支持体のための表面積要件と耐食性要件との間の良好な妥協点であることが見出されている。
【0096】
カソード触媒層中のアイオノマーは、880 EW以下、850 EW以下、又は830 EW以下、750 EW以上、770 EW以上、又は790 EW以上;又は前述の上限及び下限の任意の組み合わせによって定義される範囲内の当量を有し得る。カソードアイオノマーの側鎖は、それぞれスルホネート基を含む。しかしながら、側鎖はアノードアイオノマーの側鎖よりも短いことが好ましい。カソードアイオノマーの側鎖はまた、エーテル基(骨格へのエーテル結合を除く)を含有しなくてもよく、及び/又はそれらはCF3基を含まなくてもよい。カソードアイオノマーの側鎖は、構造:-CF2-CF2-CF2-CF2-SO3Hを有してもよい。このようなアイオノマーの例は、800 EW 3M C4側鎖である。カソード層のアイオノマーは、膜に使用されるものと同一又は類似であってもよい。
【0097】
カソード触媒層は、0.6~1.0のアイオノマー/炭素重量比を有してもよい(これはアイオノマーと炭素との重量比であり、白金はこの計算では考慮されないことに留意されたい)。更に、カソード触媒層は、1~15、4~15、又は8~15マイクロメートルの範囲の厚さを有してもよい。
【0098】
このようなカソード層の例は、以下の特徴を含む。
-公称Pt担持量-0.4mgPtcm-2
-アイオノマー-800 EW 3M C4側鎖
-アイオノマー/炭素重量比-0.8
-厚さ-約10~11マイクロメートル
-触媒は50重量%Pt担持炭素である
-炭素は、部分的に黒鉛化された炭素担体材料である
【0099】
また、水電解槽用の触媒被覆膜を製造する方法が提供され、方法は、第1の表面及び第2の表面を有するアイオノマー膜を形成することと、アイオノマー膜の第1の表面上にアノード触媒層を形成することと、アイオノマー膜の第2の表面上にカソード触媒層を形成することであって、カソード触媒層は、白金担持炭素触媒材料とアイオノマーとの液体キャリア中の分散液を含むインクを調合し、インクを堆積させ、乾燥させることによって製造され、カソード触媒層は、白金担持炭素触媒材料によって提供される1mgPtcm-2未満の白金担持量を有する、ことと、を含む。インクは、アイオノマー膜上に直接堆積され、乾燥されてカソード触媒層を形成することができる。あるいは、インクをキャリア層上に堆積させ、乾燥させて、カソード触媒層を含むデカールを形成することができ、次いでデカールからアイオノマー膜に転写される。
【0100】
例示的なCCM構造
本明細書に従って、発明者らは、緑色水素電解槽用途のための触媒被覆膜(CCM)のいくつかの異なるバージョンを開発した。これらのCCMは、カソード触媒層/プロトン交換膜/アノード触媒層という共通の構造を共有する。カソード触媒層及びアノード触媒層は、各変形について実質的に同じであり、カソード層は、本明細書で前述したような白金担持炭素触媒に基づき、アノード層は、本明細書で前述したような酸化イリジウム触媒に基づく。更に、各変形の膜は、本明細書で前述したように、セリア添加剤を有するアイオノマー層及び補強層を含む多層構造である。アイオノマー、セリア、及び補強材料は、全ての変形において同じである。変形間の主な違いは、膜の厚さ及び膜の特定の多層構造である。膜変形は以下の通りである。
50ミクロンの単一補強膜、
80ミクロンの二重補強膜、及び
15ミクロンの単一補強膜。
【0101】
これらの異なる変形の各々は、以下により詳細に説明される。
【0102】
実施例1:50ミクロン、単一補強CCM製品変形
50ミクロンの膜は以下の構造を有する。
【0103】
【表1】
【0104】
層は、アイオノマー(800 EWパーフルオロスルホン酸「PFSA」)及びセリア(アイオノマーの重量に対して0.26重量%のセリア)を80:20のエタノール:水の混合物中に懸濁させることによって調製されたアイオノマー溶液から形成される。ePTFEは延伸ポリテトラフルオロエチレンである。層は、各添加の間に乾燥させながら、互いの上に直接印刷/被覆することによって連続的に適用される。厚さは、乾燥後の層の厚さを指す。
【0105】
触媒被覆膜は、酸化イリジウムを含有するアノードを50ミクロン膜の一方の側に、白金担持炭素を含有するカソードを50ミクロン膜の他方の側に取り付けることによって調製される。触媒層は、PTFEシート上にex-situで印刷され、ホットプレスによって膜上に転写される。触媒層は、触媒とアイオノマーの両方を含む。触媒インクの配合、製造プロセス、及び層構造は、本明細書において前述した通りである。
【0106】
以下の表は、セリア添加剤を含む単一の補強された50ミクロン厚の膜の構築のための材料及び方法を要約する。
【0107】
【表2】
【0108】
アイオノマー分散液組成は以下の通りである。
【0109】
【表3】
【0110】
膜を製造するための4回の被覆パスは以下の通りである。
【0111】
【表4】
【0112】
被覆プロセスのために、ポンプは、必要とされる乾燥gsm被覆を達成するために、1分当たりのアイオノマー分散液の設定重量をダイに送達するように較正される。要因は以下を含む。目的のgsm;アイオノマー分散液固形分%;アイオノマー分散液粘度;及び被覆速度m/分。プロセス制御は、各層が、厚さgsm(超音波厚さ測定システムによって測定される)、Ce担持量(μg/cm-インラインXRFによって測定される)、被覆速度(m/分)、及びオーブン温度(℃)についての目標を有するようなものである。
【0113】
50マイクロメートル厚の単一補強膜は、電解槽用途で使用される典型的な膜よりも薄いが、その薄さに対して異常に高い剛性を有する。膜が薄いために、同じ当量(EW)のより厚い膜よりも低いプロトン抵抗を有し、したがって所与の電流密度でより低い動作電圧を有する。例えば、膜は、Nafion(商標)115(N115)と比較して抵抗の>60%の低減を示す。
【0114】
実施例2:80ミクロン、二重補強CCM製品変形
80ミクロンの膜は以下の構造を有する。
【0115】
【表5】
【0116】
層は、アイオノマー(800 EWパーフルオロスルホン酸「PFSA」)及びセリア(アイオノマーの重量に対して0.26重量%のセリア)を80:20のエタノール:水の混合物中に懸濁させることによって調製されたアイオノマー溶液から形成される。ePTFEは延伸ポリテトラフルオロエチレンである。層は、各添加の間に乾燥させながら、互いの上に直接印刷することによって順次適用される。厚さは、乾燥後の層の厚さを指す。
【0117】
触媒被覆膜は、酸化イリジウムを含有するアノードを80ミクロン膜の一方の側に、白金担持炭素を含有するカソードを80ミクロン膜の他方の側に取り付けることによって調製される。触媒層は、PTFEシート上にex-situで印刷され、ホットプレスによって膜上に転写される。触媒層は、触媒とアイオノマーの両方を含む。触媒インクの配合、製造プロセス、及び層構造は、本明細書において前述した通りである。
【0118】
80マイクロメートルの膜を作製することは、印刷/被覆するには厚すぎ、押出成形するには薄すぎるので困難である。図1は、80マイクロメートルの二重補強膜が一連の7回の印刷/被覆パスで製造され、補強層がパス2及び5で追加される様子を示す。プロトン伝導性ポリマー層は、ペルフルオロスルホン酸(PFSA)アイオノマー(3M 800 EW PFSAアイオノマー)から形成され、一方、補強ポリマー層は、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE補強材料:4.7gsm)から形成される。基材(1つの側面剥離層を有するPET)を膜の製造に使用する。
【0119】
以下の表は、セリア添加剤を含む二重補強された80ミクロン厚の膜の構築のための材料及び方法を要約する。
【0120】
【表6】
【0121】
アイオノマー分散液組成は以下の通りである。
【0122】
【表7】
【0123】
膜を製造するための7回の被覆パスは以下の通りである。
【0124】
【表8】
【0125】
被覆プロセスのために、ポンプは、必要とされる乾燥gsm被覆を達成するために、1分当たりのアイオノマー分散液の設定重量をダイに送達するように較正される。要因は以下を含む。目的のgsm;アイオノマー分散液固形分%;アイオノマー分散液粘度;及び被覆速度m/分。プロセス制御は、各層が、厚さgsm(超音波厚さ測定システムによって測定される)、Ce担持量(μg/cm-インラインXRFによって測定される)、被覆速度(m/分)、及びオーブン温度(℃)についての目標を有するようなものである。厚さは、パス2~7についてドロップゲージを用いて手動で測定した。1回のみの印刷/被覆パス後の膜の脆弱な性質のために、パス1で重量測定検査を行うことは不可能であり、その結果、層をバッキングから正確に切断することができない。基本重量/厚さは、重量測定法を使用し、インライン超音波厚さ測定システム(Mesys(商標)製)を使用して手動で測定する。超音波厚さ測定システムの較正は、パス5の後に精度を失い始めることに留意されたい。
【0126】
図3は、80ミクロンの二重補強膜の顕微鏡写真画像を示す。それは80マイクロメートルの厚さであり、2つの補強ポリマー層を含む。それはまた、フリーラジカルスカベンジャーであるセリアを含み、膜の劣化を防ぎ、運転寿命を延ばす。80ミクロンの二重補強CCM生成物は、図4に示されるように、Nafion(商標)115膜と比較した場合、所与の電圧での電流密度の増加に関して改善された性能を有する。
【0127】
80マイクロメートル厚の二重補強膜は、電解槽用途で使用される典型的な膜よりも薄いが、その薄さに対して異常に高い剛性を有する。膜が薄いために、同じ当量(EW)のより厚い膜よりも低いプロトン抵抗を有し、したがって所与の電流密度でより低い動作電圧を有する。例えば、膜は、Nafion(商標)115(N115)と比較して60%の抵抗の低減を示す。
【0128】
実施例3:15ミクロン、単一補強CCM製品変形
このCCM製品の変形は、15ミクロンの単一補強膜に基づく。膜は、前述の変形と同様の方法で製造されるが、2つの印刷層のみを有し、そのうちの1つは補強材料を含む。他の点では、CCMは同じ方法を使用して製造される。15マイクロメートル厚の単一補強膜は、他の実施例よりもはるかに薄い。膜の薄さに起因して、それは、同じ当量(EW)のより厚い膜よりも、非常に低いプロトン抵抗を有し、したがって、所与の電流密度において非常に低い動作電圧を有する。とはいえ、この膜構造は、多くの水電解槽用途には薄すぎるので、特定の用途にのみ適している。
【0129】
実施例4:触媒層の改善
先の3つのCCM例は、同じ触媒インク配合物及び触媒層の処理方法を使用して製造された。先に示したように、水電解槽用途におけるCCM性能の改善を提供するために、配合及び処理パラメータが開発されている。触媒層のアイオノマー濃度及び乾燥条件を最適化することは、本明細書において前述したように、水電解槽用途におけるCCM性能の著しい改善をもたらすことが見出された。図6は、0.4mgPt/cm-2(1A)、0.1mgPt/cm-2(2A)、及び0.08mgPt/cm-2(3A)の、3つの触媒層の電気化学的性能を示す。
【0130】
本発明を特定の実施例を参照して具体的に示し、説明してきたが、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく、形態及び詳細における様々な変更を行うことができることが当業者には理解されよう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】