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特表2025-506487Rhoキナーゼを阻害する組成物及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-03-11
(54)【発明の名称】Rhoキナーゼを阻害する組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/08 20190101AFI20250304BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20250304BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20250304BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20250304BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20250304BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20250304BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20250304BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250304BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20250304BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20250304BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20250304BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20250304BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20250304BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20250304BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20250304BHJP
   C07K 7/06 20060101ALI20250304BHJP
【FI】
A61K38/08 ZNA
A61P1/04
A61P1/16
A61P13/12
A61P3/10
A61P9/00
A61P11/00
A61P35/00
A61P35/02
A61P35/04
A61P29/00
A61P27/02
A61P11/06
A61P9/12
A61P9/04
C07K7/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024547502
(86)(22)【出願日】2023-02-09
(85)【翻訳文提出日】2024-09-17
(86)【国際出願番号】 US2023062247
(87)【国際公開番号】W WO2023154770
(87)【国際公開日】2023-08-17
(31)【優先権主張番号】63/308,330
(32)【優先日】2022-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524299373
【氏名又は名称】インタールード バイオファオーマ カンパニー
(71)【出願人】
【識別番号】520159592
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ メリーランド, カレッジ パーク
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジン ヨンゴン
(72)【発明者】
【氏名】バラク ニール
(72)【発明者】
【氏名】キム ジェイン
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA09
4C084BA17
4C084BA23
4C084CA59
4C084DC32
4C084MA13
4C084MA43
4C084MA55
4C084MA56
4C084MA58
4C084MA59
4C084MA65
4C084NA14
4C084ZA331
4C084ZA332
4C084ZA341
4C084ZA342
4C084ZA361
4C084ZA362
4C084ZA591
4C084ZA592
4C084ZA661
4C084ZA662
4C084ZA681
4C084ZA682
4C084ZA751
4C084ZA752
4C084ZA811
4C084ZA812
4C084ZB111
4C084ZB112
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB271
4C084ZB272
4C084ZC351
4C084ZC352
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA14
4H045DA55
4H045EA20
(57)【要約】
本発明は、組織内のROCK活性を阻害するのに有効な量及び方式で、有効量のララゾチド又はララゾチド誘導体、又はその薬学的に許容可能な塩を、治療を必要とする被験体に投与することにより、該被験体におけるRho関連コイルドコイルキナーゼ(ROCK)活性を特徴とする病態を治療する組成物及び方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Rho関連コイルドコイルキナーゼ(ROCK)活性を特徴とする病態について被験体を治療する方法であって、組織内のROCK活性を阻害するのに有効な量及び方式で、有効量のララゾチド若しくはララゾチド誘導体、又はその薬学的に許容可能な塩を、前記被験体に投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記組織が消化管である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記病態が、癌、腺腫、セリアック病、炎症性腸疾患(IBD)、クローン病、潰瘍性大腸炎、環境性腸症、食道炎、壊死性腸炎、腸管虚血、炎症性肝疾患、腎臓病、膵炎、高血糖症、及び肺又は心臓の炎症又は線維症から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記癌が任意の組織に由来し、任意に前記癌が、皮膚、結腸、乳房、肺、脳、骨、膵臓、腎臓、肝臓、膀胱、卵巣、精巣、又は前立腺に由来する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記癌が任意に大腸癌、白血病、骨髄腫、又はリンパ腫である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記被験体が大腸癌を起こすリスクがある、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記被験体の家族歴、遺伝子変異、及び/又は健康歴が大腸癌のリスクを高める、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
被験体の家族の一員が、家族性大腸腺腫症(FAP)、遺伝性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC)、ポイツジェガース症候群、又はMUTYH関連ポリポーシス(MAP)に罹患しているか又は罹患していた、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記被験体が、大腸癌のリスクを高める、APC、MLH1、MSH2、MSH6、PMS2、EPCAM、STK11(LKB1)、及びMUTYHから選択される1つ以上の遺伝子の変異を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記被験体が、rs6983267、rs4939827、rs3802842、rs16892766、rs10795668、rs4444235、rs10411210、rs6691170、rs4925386、rs3824999、rs647161、rs2423279、rs3217810、及びrs59336から選択される1つ以上の一塩基多型(SNP)を有する、請求項6~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記組織が癌であり、任意に原発性癌又は転移性癌である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記癌が、肺癌、乳癌、腎臓癌、肝臓癌、前立腺癌、子宮頸癌、大腸癌、膵臓癌、黒色腫、卵巣癌、骨癌、尿路上皮癌、胃癌、頭頸部癌、膠芽腫、頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)、非小細胞肺癌(NSCLC)、小細胞肺癌(SCLC)、膀胱癌、ホルモン抵抗性前立腺癌、及びリンパ腫から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記組織が転移性癌である、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
患者が転移性黒色腫を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記癌が肉腫又は癌腫である、請求項11~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記被験体が、化学療法、放射線、切除、並びに免疫療法及び癌免疫療法剤の1つ以上から選択される癌治療を受けているか又は受けたことがあり、任意に前記癌免疫療法は、免疫チェックポイント阻害剤による治療法である、請求項11~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記ララゾチド又はララゾチド誘導体が、腫瘍内投与用に製剤化されている、請求項11~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記組織が眼である、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記ララゾチド又はララゾチド誘導体が、眼科投与用に、任意に眼表面に、又は眼の奥への眼内投与用に製剤化されている、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記ララゾチド又はララゾチド誘導体が、鼻腔及び/又は副鼻腔への投与用に製剤化されている、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記ララゾチド又はララゾチド誘導体が、外耳道への投与用に製剤化されている、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記組織が呼吸器であり、前記被験体が任意に、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺線維症、嚢胞性線維症、急性肺損傷(ALI)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、気腫、気管支炎、肺炎、肺癌、及び呼吸器感染症から選択される病態を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記ララゾチド又はララゾチド誘導体が、肺への溶液エアロゾル又は粉末としての投与用に製剤化されている、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記組織が血管系であり、前記被験体が任意に、心筋線維症、心臓肥大、高血圧、肺高血圧、狭心症、冠攣縮性狭心症、心不全、及び脳卒中から選択される病態を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記ララゾチド又はララゾチド誘導体が肺投与用に製剤化されている、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記被験体が、ROCK1アイソフォームに対するVal1309、Tyr405、Ser1126、Pro1193S、及び/又は、ROCK2アイソフォームに対するThr431Asn、Asp601Val、及びLys1083Metの1つ以上から選択されるROCK変異を有する、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記被験体に、ララゾチド誘導体又はその薬学的に許容可能な塩が投与される、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記ララゾチド誘導体が、ララゾチドと比較してROCK阻害剤活性を高める1つ以上の修飾を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記ララゾチド誘導体が、少なくとも1つの、少なくとも2つの、少なくとも3つの、少なくとも4つの、少なくとも5つのD-アミノ酸を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記ララゾチド誘導体の各アミノ酸(Gly以外)がD-アミノ酸であり、前記誘導体が任意にレトロ-インベルソララゾチドである、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記ララゾチド又はララゾチド誘導体を前記組織に局所投与する、請求項1~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
組織におけるROCK活性を阻害するアミノ酸配列Gly-Gly-Val-Leu-Val-Gln-Pro-Gly(配列番号1)を有する有効量のペプチド又はその薬学的に許容可能な塩と、薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Rho関連コイルドコイルキナーゼ(ROCK)活性に関連する病態を治療及び予防する組成物、製剤及び方法を提供する。
【0002】
[関連出願の相互参照]
本願は、2022年2月9日に出願された米国仮特許出願第63/308,330号の利益を主張するものであり、この出願の開示は、引用することによりその全体が本明細書の一部をなす。
【0003】
[電子的に提出されたテキストファイルの記載]
本願には、本願とともに特許センターを介して電子的に提出されたXML形式の配列表が含まれる。2023年2月7日に作成されたXMLコピーの内容は、「NMT-038PC_116031-5038.xml」という名称で、サイズは6919バイトである。配列表は引用することによりその全体が本明細書の一部をなす。
【背景技術】
【0004】
Rho関連コイルドコイル含有キナーゼ(ROCK)は、RhoA低分子量GTPアーゼのエフェクターであり、RhoA及びRhoCの活性化の下流でアクトミオシン細胞骨格の収縮性を促進させる重要な役割を果たす。ROCKキナーゼは、細胞収縮、遊走、アポトーシス、生存及び増殖等のプロセスに重要なものである。2つの哺乳類ROCKホモログであるROCK1及びROCK2は、とりわけ心血管疾患、血管損傷、線維症、炎症性腸疾患、及び癌等の様々な疾患プロセスに関与している。
【0005】
ROCKを阻害する、すなわちROCK関連の病状の治療又は予防のための医薬組成物及び方法が求められている。
【発明の概要】
【0006】
本発明は一つには、Rho関連コイルドコイルキナーゼ(ROCK)に関連する病態を治療するのに有用な組成物及び方法を意図している。
【0007】
様々な態様において、本発明は、Rho関連コイルドコイルキナーゼ(ROCK)活性を特徴とする病態について被験体を治療する方法を提供する。本方法は、器官又は組織内のROCK活性を阻害するのに有効な量及び方式で、有効量のララゾチド若しくはララゾチド誘導体、又はその薬学的に許容可能な塩を、上記被験体に投与することを含む。様々な実施の形態において、器官又は組織は、消化管、癌組織、眼、呼吸器、及び血管系から選択される。
【0008】
幾つかの実施の形態において、ララゾチド又はその誘導体は消化管に投与される。このような実施の形態において、被験体は、癌(例えば、大腸癌若しくは胃癌(stomach cancer)等のGI癌、又は非GI癌)、腺腫、炎症性腸疾患(IBD)(例えば、クローン病又は潰瘍性大腸炎)、セリアック病、食道炎、炎症性肝疾患、腎臓病、膵炎、高血糖症、糖尿病、及び肺又は心臓の炎症又は線維症から選択される病態を有している場合がある。或る特定の実施の形態において、被験体は大腸癌に罹患しているか、又は大腸癌を起こすリスクがある。例えば、被験体の家族歴、遺伝子変異、及び/又は健康歴は、被験体の大腸癌のリスクを高める可能性がある。
【0009】
他の実施の形態において、ララゾチド又は誘導体は、原発性腫瘍又は転移性腫瘍であり得る癌組織に直接送達される。例えば、被験体は、肺癌、乳癌、腎臓癌、肝臓癌、前立腺癌、子宮頸癌、大腸癌、膵臓癌、黒色腫、卵巣癌、骨癌、尿路上皮癌、胃癌、頭頸部癌、膠芽腫、頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)、非小細胞肺癌(NSCLC)、小細胞肺癌(SCLC)、膀胱癌、ホルモン抵抗性前立腺癌、及びリンパ腫から選択される癌に罹患している場合がある。幾つかの実施の形態において、組織は転移性癌、例えば転移性黒色腫である。幾つかの実施の形態において、癌は肉腫又は癌腫である。
【0010】
他の実施の形態において、ララゾチド又は誘導体は眼に投与される。例えば、被験体は、シェーグレン症候群、ドライアイ症候群、加齢黄斑変性(AMD)、黄斑浮腫、糖尿病網膜症、及び緑内障から選択される眼病態を有している場合がある。
【0011】
幾つかの実施の形態において、ララゾチド又は誘導体は呼吸器に投与される。例えば、被験体は、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺線維症、嚢胞性線維症、急性肺損傷(ALI)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、気腫、気管支炎、肺炎、肺癌、及び呼吸器感染症から選択される病態を有している場合がある。
【0012】
他の実施の形態において、ララゾチド又は誘導体は血管系に投与されるか、又は全身投与される。例えば、被験体は、心筋線維症、心臓肥大、高血圧、肺高血圧、狭心症、冠攣縮性狭心症、心不全、アテローム性動脈硬化、動脈硬化、糖尿病、膵炎、腎臓病(腎線維症を含む)、及び脳卒中(例えば、脳卒中の予防又は脳卒中の回復における)から選択される病態を有している場合がある。
【0013】
様々な実施の形態において、ララゾチド誘導体は、ララゾチドと比較してROCK阻害剤活性を高める1つ以上の修飾を含む。例えば、実施の形態において、ララゾチド誘導体は、少なくとも1つの、少なくとも2つの、少なくとも3つの、少なくとも4つの、少なくとも5つの(d)-アミノ酸を含む。或る特定の実施の形態において、ララゾチド誘導体の各アミノ酸(Gly以外)は(d)-アミノ酸であり、誘導体は任意にレトロ-インベルソララゾチドである。
【0014】
本発明の他の態様及び実施の形態は、以下の詳細な説明及び実施例から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1A及び図1Bは、ララゾチド酢酸塩(LA)処理したC2BBe1腸細胞における無酸素/再酸素化(A/R)損傷中の傍細胞透過性の評価を示す図である。図1Aは、A/R損傷におけるLA処理及びTEER測定のスケジュールを示す概略図を示す。図1Bは、10mMのLAによる処理によって、未処理のA/R損傷細胞と比較してTEERが有意に(p<0.001)増大することを示す。
図2】無酸素状態によりミオシンがリン酸化され、タイトジャンクションタンパク質オクルディンが内部移行することを示す図である。この概略図は、LAがこのリン酸化を防ぐと予測される仕組みを示す。
図3】1時間の再酸素化後の膜画分及び細胞質画分からの免疫ブロット法及びIF解析によって分析されるTJタンパク質の分布を示す図である。図3は、無酸素損傷細胞では対照細胞と比較して膜貫通タンパク質オクルディンが有意に(p<0.05)内部移行することを示す。しかしながら、オクルディンは、未処理の無酸素損傷細胞と比較して、10mMのLAによって膜内で有意に(p<0.05)増加した。
図4】1時間の酸素化での免疫蛍光顕微鏡分析によるタイトジャンクションタンパク質及び細胞骨格タンパク質の局在性の評価を示す図である。透過性支持膜を固定し、ZO-1(赤)、オクルディン(緑)、及びF-アクチン(紫)で染色した。ZO-1及びオクルディンの免疫局在性は、Zスタック3D分析によって分析した。未処理の無酸素損傷細胞ではオクルディン、ZO-1、及びF-アクチンが破壊されていたが、ララゾチド酢酸塩(LA)処理細胞では、タイトジャンクションタンパク質及びF-アクチンが十分に組織化されていた。
図5】1時間の再酸素化時点での免疫ブロット法によって評価したpMLC-2/MLC-2の比率を示す図である。pMLC-2の発現はA/R損傷後に劇的に増加し、10mMのLAによる前処理によって有意に減少した(♯♯<0.01)。
図6】腸管上皮細胞におけるTJバリアを調節するMLCのリン酸化の調節を示す図である。TJバリアは主に、ミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)及びrho関連コイルドコイルプロテインキナーゼ(ROCK)の2つの酵素によって調節されるミオシンの調節軽鎖(MLC)のリン酸化レベルによって決定される。細胞内Ca2+レベルの上昇はMLCK活性を刺激する。強化されたRhoキナーゼ(ROCK)活性もMLCを直接リン酸化し、またミオシンホスファターゼ標的サブユニット1(MYPT1)をリン酸化することによってミオシン軽鎖ホスファターゼ(MLCP)活性を阻害する。
図7】MLCK及びROCKの阻害により、ララゾチドの有無にかかわらず、未処理のA/R損傷細胞と比較してTEERが増大することを示す図である。Pep18(MLCK阻害剤)単独又はLAとの併用処理により、TEERが増大した。ファスジル(ROCK阻害剤)処理した単層では、TEERが増大した。ファスジルとLAとの併用処理はTEERを増大させたが、ファスジルの単独処理よりも程度が低かった(p<0.05、**p<0.01、***p<0.005、****p<0.0001)。
図8】腸管上皮細胞における傍細胞アクチンミオシンリングを調節するMLCのリン酸化の調節の考えられ得るメカニズムを示す図である。TJバリアは主に、ミオシンの調節軽鎖(MLC)のリン酸化レベルによって決定され、これはミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)及びミオシン軽鎖ホスファターゼ(MLCP)の2つの酵素によって調節される。これらのメカニズムは、Ca2+恒常性、Gタンパク質共役型受容体(GPCR)、及び成長因子(GF)経路等の様々な細胞経路によって調節することができる。
図9図9A及び図9Bは、次世代RNA-seqを使用した種々の発現解析を示す図である。図9Aは、同定された発現変動遺伝子(DEG)の数量のベン図解析を示す。図9Bは、DEGの階層的クラスタリングを示し、これは、異なる実験条件下での発現パターンを推定するために使用した。
図10】種々のグループの組合せからの(DEG)の遺伝子オントロジー(GO)機能分類分析を示す図である。これには、生物学的プロセス、細胞成分、及び分子機能の3つの主要なブランチが含まれる。padj<0.05のGOタームが有意にエンリッチメントである。図10は、有意にエンリッチメントな20の生物学的プロセス、細胞成分及び分子機能を示す。
図11】種々のグループの組合せからのDEGのエンリッチメントの京都遺伝子ゲノム百科事典(KEGG)のパスウェイ解析を示す図である。padj<0.05のKEGGパスウェイタームが有意にエンリッチメントである。
図12】C2BBe1腸細胞における傍細胞透過性の評価を示す図である。10mMのLAで処理すると、処理後1時間で、未処理のA/R損傷細胞と比較してTEERが有意に増大した。
図13】C2BBe1腸細胞の増殖の評価を示す図である。10mMのLAで処理すると、未処理細胞と比較して増殖が大幅に増大する。
図14図14A及び図14Bは、C2BBe1腸細胞の増殖及び遊走の評価を示す図である。図14Aは、通常の培地中の10mM LA処理細胞が48時間で創傷治癒を大幅に増大させたことを示す。図14Bは、無血清培地中の10mM LA処理細胞と未処理細胞との間に有意に異なる遊走パターンが検出されなかったことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、組織内のROCK活性を阻害するのに有効な量及び方式で、有効量のララゾチド又はララゾチド誘導体、又はその薬学的に許容可能な塩を、治療を必要とする被験体に投与することにより、該被験体におけるRho関連コイルドコイルキナーゼ(ROCK)活性を特徴とする病態を治療する組成物及び方法を提供する。
【0017】
本開示は、ララゾチド及びララゾチド誘導体、又はその薬学的に許容可能な塩がrho関連プロテインキナーゼ(ROCK)を阻害することを示す。ROCKの阻害は、ROCK活性に関連する病態を有する被験体に治療上の利益をもたらすことができる。ROCK及びその下流の標的は、アクチン細胞骨格の動態の調節に関与しており、それ故、細胞の遊走及び運動性の原因となっている。さらに、それらは、細胞結合の完全性、細胞周期の制御、及び細胞アポトーシス等の多様な生物学的プロセスに関係している。
【0018】
ROCK酵素には、ROCK1及びROCK2の2つのアイソフォームがある。どちらのキナーゼも、N末端に触媒キナーゼドメイン、続いて、Rho結合ドメイン(RBD)を含む中央のコイルドコイルドメイン、及びC末端プレクストリン相同(PH)ドメインを含む。
【0019】
ララゾチドとして知られるペプチド剤は、アミノ酸配列Gly-Gly-Val-Leu-Val-Gln-Pro-Gly(配列番号1)を有する。ララゾチドは、腸管上皮を含む上皮組織及び内皮組織のタイトジャンクション完全性を促進させ、セリアック病(CeD)患者の治療法として評価されている。或る特定の態様及び実施形態によれば、本発明は、とりわけ、アミノペプチダーゼ分解を含むエキソヘプチダーゼ分解に対する耐性を高めるララゾチド誘導体を提供する。様々な実施形態において、ララゾチド誘導体は、配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドに関して1つ以上のアミノ酸の置換、欠失及び/又は挿入を含む。例示的な修飾は、米国特許第8,785,374号、米国特許第8,957,032号、米国特許第9,279,807号、国際出願PCT/US2019/19350号、及び国際出願PCT/US21/27410号(これらは全て引用することにより本明細書の一部をなす)に記載されている。
【0020】
幾つかの実施形態において、ララゾチドのペプチド誘導体は、1つ以上の(d)アミノ酸を含有する。例えば、ララゾチド誘導体は、1つ、2つ、3つ、4つ又は5つの(d)アミノ酸(すなわち、L体ではなくD体)を含有し得る。幾つかの実施形態において、ララゾチド誘導体は、Gly-Gly-Val-Leu-Val-Gln-(d)Pro-Gly(配列番号2)のアミノ酸配列を有する。このペプチドは本明細書において「(d)-Pro」又は(d)-Proララゾチドと称される。他の実施形態において、ララゾチド誘導体は、Gly-Gly-(d)Val-(d)Leu-(d)Val-(d)Gln-(d)Pro-Gly(配列番号3)のアミノ酸配列を有する。このペプチドは本明細書において「(d)-ララゾチド」と称される。本明細書で実証されるように、(d)-ララゾチドは、大幅に低い濃度でも高い濃度でも、ララゾチド(ベル型の用量反応曲線を示す)と比較してタイトジャンクション完全性を促進させるのに驚くほど効果的である。これは驚くべき観察である。なぜなら、通常、ペプチド薬物においてLアミノ酸をDアミノ酸に置き換えると、効力が失われるからである。すなわち、Dアミノ酸を有するペプチドは、天然のLアミノ酸を有するペプチドと比較して受容体機能への低い親和性での結合が予想されると考えられている。
【0021】
様々な実施形態において、本発明は、特に消化管への投与の場合に、ララゾチドと比較して、実質的に低用量又は高用量でより効果的なララゾチド誘導体を使用する。したがって、本発明の医薬組成物は約0.5mg未満のララゾチド誘導体を含有していてもよい。例えば、幾つかの実施形態において、医薬組成物は、約0.4mg以下のララゾチド誘導体、又は約0.3mg以下のララゾチド誘導体、又は約0.25mg以下のララゾチド誘導体、又は約0.2mg以下のララゾチド誘導体、又は約0.15mg以下のララゾチド誘導体、又は約0.1mg以下のララゾチド誘導体、又は約50μg以下のララゾチド誘導体、又は約25μg以下のララゾチド誘導体を含有する。幾つかの実施形態において、医薬組成物は、約50μg~約400μg以下のララゾチド誘導体、又は約50μg~約200μg以下のララゾチド誘導体、又は約50μg~約150μg以下のララゾチド誘導体を含有する。
【0022】
他の実施形態において、本発明は、約0.5mgを超えるララゾチド誘導体を含有し、ララゾチドで観察される逆用量又は「ベル型」反応を実質的に回避する医薬組成物を意図している。例えば、幾つかの実施形態において、医薬組成物は、約0.6mg以上のララゾチド誘導体、又は約0.75mg以上のララゾチド誘導体、又は約1.0mg以上のララゾチド誘導体、又は約1.25mg以上のララゾチド誘導体、又は約1.5mg以上のララゾチド誘導体、又は約2.0mg以上のララゾチド誘導体を含有する。
【0023】
幾つかの実施形態において、ララゾチド誘導体(例えば、(d)-ララゾチド又は(d)-Pro)は約0.5mgで投与される。例えば、誘導体は、ララゾチドよりも0.5mgの用量でより効果的であり得る。
【0024】
本発明は、ララゾチド又はララゾチド誘導体を含む組成物を、ROCK活性を有する組織に投与し、それにより該組織内のROCK活性を阻害することによって、治療を必要とする被験体におけるROCK活性に関連する病態を治療する方法及び組成物を提供する。「被験体」及び「患者」という用語は、本明細書において区別なく使用され、一般的に哺乳類の被験体/患者を指す。様々な実施形態において、被験体はヒト被験体である。このため、組成物は、所望の器官又は組織内のROCK活性を阻害するために処方され、及び/又は様々な経路で送達され得る。様々な実施形態において、ララゾチド又はその誘導体(又はその塩)を含む医薬組成物は、例えば、消化管(GI)(例えば、経腸送達)に、又は非経口、鼻腔内、口腔内、眼科若しくは肺送達によって投与される。送達は、影響を受けた組織に対して局所的又は全身的であってもよい。
【0025】
幾つかの実施形態において、ペプチド又は医薬組成物は、被験体の消化管(GI)に投与される。
【0026】
幾つかの実施形態において、被験体は、セリアック病、炎症性腸疾患(IBD)(例えば、クローン病又は潰瘍性大腸炎)、環境性腸症、食道炎、壊死性腸炎、及び腸管虚血等の、消化管に対する炎症病態又は損傷を有する。幾つかの実施形態において、被験体は、腺腫(例えば、進行性腺腫)、大腸癌、又は胃癌(stomach cancer)に罹患している。ROCK活性は、腫瘍の発生に関与していることが示されている。Wei L., et al., Novel Insights into the Roles of Rho Kinase in Cancer, Arch Immunol Ther Exp (Warsz). 2016; 64: 259-278。幾つかの実施形態において、被験体は癌に罹患しており、この癌は、皮膚、結腸、乳房、肺、脳、骨、膵臓、腎臓、肝臓、膀胱、卵巣、精巣、又は前立腺等の任意の組織から発生する可能性がある。
【0027】
他の実施形態において、被験体は白血病、骨髄腫、又はリンパ腫に罹患している。
【0028】
幾つかの実施形態において、被験体は大腸癌を起こすリスクがある。例えば、実施形態において、被験体は、被験体の家族歴、遺伝子変異、及び/又は健康歴(例えば、進行性腺腫又は大腸癌の既往歴)に起因して大腸癌のリスクが高い。幾つかの実施形態において、被験体、又は被験体の家族の一員は、家族性大腸腺腫症(FAP)、遺伝性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC)、ポイツジェガース症候群、又はMUTYH関連ポリポーシス(MAP)に罹患しているか又は罹患していた。幾つかの実施形態において、被験体は、限定するものではないが、APC、MLH1、MSH2、MSH6、PMS2、EPCAM、STK11(LKB1)、及びMUTYH等の、大腸癌のリスクを高める1つ以上の遺伝子の変異を有する。例えば、限定するものではないが、被験体は、rs6983267、rs4939827、rs3802842、rs16892766、rs10795668、rs4444235、rs10411210、rs6691170、rs4925386、rs3824999、rs647161、rs2423279、rs3217810、及びrs59336から選択される1つ以上の一塩基多型(SNP)を有していてもよい。幾つかの実施形態において、被験体は、慢性的な抗生物質の使用を受けている。例えば、慢性的な抗生物質の使用は、少なくとも6か月の抗生物質療法の使用を含み、CRCのリスクを高める可能性がある。
【0029】
幾つかの実施形態において、被験体は、癌の発症に関連するROCK変異を有する。このような変異の例としては、ROCK1アイソフォーム対するVal1309、Tyr405、Ser1126、Pro1193S、又はROCK2アイソフォームに対するThr431Asn、Asp601Val、及びLys1083Metが挙げられる。
【0030】
幾つかの実施形態において、被験体は、化学療法、放射線、切除、並びに免疫療法及び癌免疫療法剤の1つ以上から選択される癌治療を受けているか又は受けたことがある。実施形態において、癌免疫療法は、免疫チェックポイント阻害剤又は免疫刺激リガンドを用いた治療法であり、これには、プログラム細胞死リガンド1(PD-L1、別名B7-H1、CD274)、プログラム細胞死1(PD-1)、CTLA-4、PD-L2(B7-DC、CD273)、LAG3、TIM3、IDO1、IDO2の阻害剤が挙げられるが、これらに限定されない。T細胞刺激リガンドとしては、CD28、OX-40及びICOSのアゴニストが挙げられるが、これらに限定されない。或る特定の実施形態において、被験体には、抗CTLA-4、抗PD-1、抗PD-L1及び/又はPD-L2剤から選択される免疫チェックポイント阻害剤が投与される。幾つかの実施形態において、免疫チェックポイント阻害剤は、イピリムマブ、トレメリムマブ、ペムブロリズマブ及びニボルマブから選択される。
【0031】
更に他の実施形態において、被験体は、炎症性肝疾患、腎臓病、膵炎、高血糖症、又は肺若しくは心臓の炎症若しくは線維症に罹患している。例えば、幾つかの実施形態において、被験体は、限定するものではないが、NAFLD、NASH、アルコール性脂肪肝炎(ASH)、又は、肝炎、肥満、糖尿病(diabetes)、インスリン抵抗性、高グリセリド血症、慢性腎臓病、IgA腎症(ベルジェ病としても知られている)、無βリポタンパク血症、糖原病、ウェーバークリスチャン病、ウォルマン病、急性妊娠脂肪肝、及びリポジストロフィーに起因する脂肪性肝疾患を含む脂肪性肝疾患に罹患している。米国特許出願公開第2019/0358289号及び米国特許出願公開第2021/0069286号を参照されたい(引用することによりその全体が本明細書の一部をなす)。
【0032】
幾つかの実施形態において、被験体は、肺線維症、心筋線維症、腎線維症、又は肝線維症等の臓器線維症を伴う病態を有する。Knipe R., et al. The Rho Kinases: Critical Mediators of Multiple Profibrotic Processes and Rational Targets for New Therapies for Pulmonary Fibrosis, Pharmacol Rev. 2015 Jan; 67(1): 103-117。幾つかの実施形態において、被験体は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症、急性肺損傷(ALI)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、気腫、気管支炎、喘息、肺炎、及び呼吸器感染症等の肺線維症に関連する病態を有する。
【0033】
他の実施形態において、ララゾチド又は誘導体は、癌組織に直接投与され、これには、限定するものではないが、腫瘍内投与、又はナノ粒子へのカプセル化若しくは結合を介した手段、又は他の手段が含まれる。ROCK酵素は、腫瘍の浸潤及び転移、増殖、及びアポトーシス又は生存等の癌の進行の様々なプロセスで機能し、また癌、並びに線維芽細胞及び内皮細胞等の癌関連細胞の両方に影響を与える。
【0034】
実施形態において、組織は原発性癌である。原発性癌とは、臨床的に検出可能になる発生部位の癌細胞を指し、原発性腫瘍である可能性がある。例えば、癌はステージI又はステージIIの癌である可能性がある。幾つかの実施形態において、組織は、原発性癌であり、癌は、肺癌、乳癌、腎臓癌、肝臓癌、前立腺癌、子宮頸癌、大腸癌、膵臓癌、黒色腫、卵巣癌、骨癌、尿路上皮癌、胃癌、頭頸部癌、膠芽腫、頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)、非小細胞肺癌(NSCLC)、小細胞肺癌(SCLC)、膀胱癌、ホルモン抵抗性前立腺癌、及びリンパ腫から選択される。
【0035】
実施形態において、組織は転移性癌である。「転移」とは、原発性部位から体内の他の場所への癌の拡散を指す。癌細胞は、原発性腫瘍から分離し、リンパ管及び血管に浸透し、血流を介して循環し、体内の他の場所の正常組織内の遠隔病巣で増殖する(転移する)可能性がある。転移は局所的であっても又は遠隔的であってもよい。幾つかの実施形態において、組織は、転移性黒色腫等の転移性癌である。様々な実施形態において、患者は、肉腫又は癌腫である癌に罹患している。
【0036】
幾つかの実施形態において、被験体は、化学療法、放射線、切除、並びに免疫療法及び癌免疫療法剤の1つ以上から選択される癌治療を受けているか又は受けたことがある。実施形態において、癌免疫療法は、免疫チェックポイント阻害剤又は免疫刺激リガンドを用いた治療法であり、これには、プログラム細胞死リガンド1(PD-L1、別名B7-H1、CD274)、プログラム細胞死1(PD-1)、CTLA-4、PD-L2(B7-DC、CD273)、LAG3、TIM3、IDO1、IDO2の阻害剤が挙げられるが、これらに限定されない。T細胞刺激リガンドとしては、CD28、OX-40及びICOSのアゴニストが挙げられるが、これらに限定されない。或る特定の実施形態において、被験体には、抗CTLA-4、抗PD-1、抗PD-L1及び/又はPD-L2剤から選択される免疫チェックポイント阻害剤が投与される。幾つかの実施形態において、免疫チェックポイント阻害剤は、イピリムマブ、トレメリムマブ、ペムブロリズマブ及びニボルマブから選択される。
【0037】
幾つかの実施形態において、ララゾチド又は誘導体は、眼の表面等の眼に、又は硝子体内注射によって投与される。
【0038】
実施形態において、被験体はシェーグレン症候群(SS)に罹患している。シェーグレン症候群は、体内の水分産生腺が影響を受け、例えばドライマウス(口腔乾燥症)、ドライアイ症候群(例えば、慢性ドライアイ及び/又は眼球乾燥症)、及び/又はドライスキン(例えば乾皮症)、並びに他の症状を引き起こす自己免疫状態である。本発明の実施形態によれば、シェーグレン症候群は、一次性シェーグレン症候群である場合もあれば、又は、二次性シェーグレン症候群である、すなわち、別の自己免疫疾患又は結合組織病に関連して発生する場合もある。SSに起因する炎症は、腺を徐々に損傷し、腺内のリンパ球浸潤、B細胞活性化因子(BAFF)のレベルの上昇、及び自己抗体の産生(例えば抗SSA/Ro)を特徴とする。Nair JJ and Singh TP, Sjogren's syndrome: Review of the etiology pathophysiology & potential therapeutic interventions. J. Clin. Exp. Dent. 2017; 9(4): e584-9を参照されたい。例示的な実施形態において、ララゾチド又は誘導体は、一次性シェーグレン症候群又は二次性シェーグレン症候群の治療のために眼の表面に投与される。
【0039】
幾つかの実施形態において、被験体は緑内障に罹患している。ROCK阻害剤は、例えば緑内障における眼圧(IOP)を下げるための有望な治療の選択肢である。例えば、幾つかの実施形態において、緑内障は、ララゾチド又はその誘導体(又はその塩)を眼表面に投与することによって治療される。
【0040】
他の実施形態において、被験体は、黄斑変性、黄斑浮腫、又は糖尿病網膜症等の炎症性眼疾患に罹患している。加齢黄斑変性(AMD)は、加齢とともに段階的に進行する失明を引き起こす眼疾患である。炎症は、脈絡膜新生血管及び地図状委縮を含むAMDの病因に関与している。幾つかの実施形態において、ララゾチド又はその誘導体は、眼の奥への眼内投与(例えば硝子体内注射)によって投与される。
【0041】
本発明の幾つかの実施形態において、ララゾチド又は誘導体は呼吸器に投与される。米国特許第10,723,763号、米国仮出願第63/181,486号、及び国際出願PCT/US21/2741号(これらは全て引用することにより本明細書の一部をなす)を参照されたい。実施形態において、被験体は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺線維症、嚢胞性線維症、急性肺損傷(ALI)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、気腫、気管支炎、喘息、肺炎、肺癌、及び呼吸器感染症から選択される病態を有する。
【0042】
実施形態において、ララゾチド又はララゾチド誘導体は、肺への溶液エアロゾル又は粉末としての投与用に製剤化されている。
【0043】
他の実施形態において、ララゾチド又はララゾチド誘導体は、鼻腔用溶液又は鼻腔用乳剤として鼻腔上皮に投与される。
【0044】
幾つかの実施形態において、ララゾチド又は誘導体は血管系に投与される。例えば、ララゾチド又は誘導体は、全身投与されてもよく、又はカテーテルによって局所的に適用することもできる。例えば、被験体は、心筋線維症、心臓肥大、高血圧、肺高血圧、狭心症、冠攣縮性狭心症、心不全、アテローム性動脈硬化、動脈硬化、糖尿病、膵炎、腎臓病(腎線維症を含む)、及び脳卒中(例えば、虚血性脳卒中の予防又は脳卒中の回復)から選択される病態を有している場合がある。
【0045】
本明細書で提供される医薬組成物は、GIの患部(例えば、胃、小腸及び/又は大腸)で放出されるように製剤化することができる。他の実施形態において、ララゾチド又は誘導体は、(例えば、静脈内又は皮下注射により)全身投与される。幾つかの実施形態において、ペプチド組成物は、溶液エアロゾル又は粉末として肺に投与される。幾つかの実施形態において、ペプチド組成物は、鼻腔用溶液又は鼻腔用乳剤として鼻腔上皮に投与される。幾つかの実施形態において、ペプチド組成物は、液体又は口腔内崩壊錠として口腔又は食道に投与される。幾つかの実施形態において、ペプチド組成物は、眼表面又は眼内に投与される。
【0046】
本発明のララゾチド誘導体は、塩を含む任意の適切な形態で投与することができる。例えば、ペプチドは酢酸塩として投与してもよい。代替的な塩を使用してもよく、これには、Journal of Pharmaceutical Science, 66, 2-19 (1977)、及びThe Handbook of Pharmaceutical Salts; Properties, Selection, and Use. P. H. Stahl and C. G. Wermuth (eds.), Verlag, Zurich (Switzerland) 2002(引用することによりその全体が本明細書の一部をなす)に挙げられているもの等の任意の薬学的に許容可能な塩が含まれる。
【0047】
様々な実施形態において、ペプチドは医薬組成物として製剤化され、錠剤、丸剤、ペレット剤、カプセル、液体を含有するカプセル、多粒子を含有するカプセル、粉末、溶液、乳剤、ドロップ剤、坐剤、乳剤、エアロゾル、スプレー、懸濁液、遅延放出製剤、持続放出製剤、放出調節製剤、制御放出製剤の形態、又は使用に適した任意の他の形態をとることができる。
【0048】
幾つかの実施形態において、医薬組成物は、非経口投与に適応する組成物として製剤化される。非経口投与に適した剤形(例えば、静脈内、筋肉内、皮下又は腹腔内注射及び注入)としては、例えば、溶液、懸濁液、分散液、乳剤等が挙げられる。それらは、使用直前に滅菌注射媒体に溶解又は懸濁することができる滅菌固体組成物(例えば凍結乾燥組成物)の形態で製造することもできる。それらには、例えば、懸濁剤又は分散剤が含まれていてもよい。これらの実施形態において、組成物は、全身性炎症又は損傷若しくは炎症を起こした内皮組織を伴う病態を治療するのに有効であり得る。
【0049】
幾つかの実施形態において、組成物は、消化管の上皮組織又は粘膜表面に接触させることによって被験体に投与される。例えば、組成物は、胃、小腸及び/又は大腸の1つ以上に送達されるように製剤化することができる。患部領域(複数の場合もある)(例えば、十二指腸、空腸及び回腸、横行結腸、下行結腸、上行結腸、S状結腸、並びに盲腸)におけるペプチドの放出を標的とすることにより、GI内の任意の位置でのROCK阻害を行うことができる。小腸又は大腸におけるペプチドの標的送達は、ペプチドでビーズ又は粒子をコーティングすることで、胃での放出を防いで、標的の位置(複数の場合もある)又はその近くで分解する遅延放出コーティングを施すことによって達成することができる。
【0050】
幾つかの実施形態において、ララゾチド又はララゾチド誘導体は、腸内で約0.5mg~約5mgのララゾチド又は誘導体を放出する持続放出製剤又は制御放出製剤において投与される。或る特定の実施形態において、制御放出製剤は少なくとも0.5mg又は1mgのララゾチド又は誘導体を含有する。
【0051】
幾つかの実施形態において、ペプチド(例えば、ララゾチド又はララゾチド誘導体)は、GIの1箇所以上の位置での持続的又は調節された又は制御された送達のために製剤化される。例えば、本発明は、少なくとも約2時間にわたって、又は少なくとも約2.5時間にわたって、又は少なくとも約3時間にわたって、又は少なくとも約4時間にわたって、又は少なくとも約5時間にわたって、小腸及び/又は大腸においてペプチドを機能的に放出し得る持続放出製剤又は制御放出製剤を意図している。幾つかの実施形態において、持続放出組成物又は制御放出組成物は、模擬腸液への曝露の約10分~約30分以内にペプチドを放出し始め、ペプチドの放出は、模擬腸液への曝露から少なくとも約180分間、又は少なくとも約210分間、又は少なくとも約240分間、又は少なくとも約280分間継続する。放出プロファイルは、例えば、異なる腸溶性ポリマーコート及び/又はポリマーコートの異なる厚さを有する組成物を使用して作成することができる。幾つかの実施形態において、本発明は、生分解性又は浸食性ポリマーマトリックス内に含有される有効量のララゾチド又は誘導体(又はその塩)を含む組成物を提供し、この組成物は腸溶性コーティングを更に含む。生分解性又は浸食性マトリックスを使用する製剤は、国際公開第2021/034629号(引用することによりその全体が本明細書の一部をなす)に記載されている。さらに、浸食性ポリマーマトリックスは多糖類マトリックスを含んでいてもよい。幾つかの実施形態において、マトリックスは、セルロース、キチン、キトサン、アルギン酸塩、アミロース、ペクチン、カロース、ラミナリン、クリソラミナリン、キシラン、アラビノキシラン、マンナン、フコイダン、ガラクトマンナン、キサンタンガム、デキストラン、ウェランガム、ゲランガム、ジウタンガム、プルラン、ヒアルロン酸、及びそれらの誘導体の1つ以上を含む。更なる実施形態において、マトリックスは微結晶セルロースを含む。これらの実施形態において、組成物は、低有効用量のララゾチド又はララゾチド誘導体(例えば、(d)-ララゾチド又は(d)-Pro)を活用しながら、不活性フラグメントの局所的蓄積を最小限に抑える。さらに、これらの実施形態の製剤は、輸送中に継続的に沈着する低用量のペプチドでGIの広い表面を治療するという利点がある。
【0052】
様々な実施形態において、医薬組成物は、遅延放出プロファイルを備えるように、すなわち、摂取後すぐに有効成分(複数の場合もある)を放出するのではなく、むしろ、例えば、小腸(例えば、十二指腸、空腸、回腸の1つ以上)又は大腸(例えば、盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸又はS状結腸の1つ以上)での放出のために、ペプチドが胃を通過して消化管の下部に到達するまで有効成分(複数の場合もある)の放出を延期するように、製剤化することができる。実施形態において、医薬組成物は、例えば米国特許第8,168,594号(その内容全体が引用することにより本明細書の一部をなす)に記載されているような遅延放出プロファイルを備えるように製剤化される。
【0053】
例えば、ペプチドは、ペプチドを含有する経口投与用の(oral dosage)遅延放出組成物として、患者の少なくとも十二指腸に投与され得る。このような実施形態において、組成物は、胃液中では安定で、腸液中では不安定なコーティングを有する第1の集団のビーズを含み、そのため、十二指腸でペプチドを分解して実質的に放出する。組成物は、患者の空腸及び/又は回腸でのペプチドの放出に影響を与えるpH依存性コーティングを有する第2の集団のビーズを更に含み得る。例えば、第2の集団のビーズは、ビーズが十二指腸でペプチドを放出した約30分又は約45分後にペプチドを放出し得る。経口投与用組成物はカプセル又は錠剤の形態をとることができる。幾つかの実施形態におけるpH依存性コーティングは、メタクリル酸とアクリル酸エチルとの1:1コポリマーであり、層の厚さによって各ビーズの放出プロファイルが決定される。ビーズは、ベースコート、分離層、及びオーバーコート層等の1つ以上の追加コーティングを有していてもよい。これらの実施形態において、ビーズの内容物は、標的位置でよりボーラス的に放出されるが、(d)-ララゾチド又は(d)-Proの特性は、このような放出プロファイルを備えたララゾチドよりも効果的である。
【0054】
例示的な経口投与用組成物では、有効量のペプチド(例えば酢酸塩として)が、患者の十二指腸でペプチドを放出することができる第1の遅延放出粒子、及び患者の空腸でペプチドを放出することができる第2の遅延放出粒子で提供される。各粒子は、コア粒子、コア粒子を覆うペプチド(例えば、(d)-ララゾチド又は(d)-Pro)を含むコート、及びペプチドを含むコートの外側の遅延放出コーティング(例えば、アクリレートとメタクリレートとの1:1コポリマー)を有する。第1の遅延放出粒子は、pHが5を超える模擬腸液に約60分曝すことによって、第1の遅延放出粒子中のペプチドの少なくとも70%を放出するのに対し、第2の遅延放出粒子は、pHが5を超える模擬腸液に約30分及び約90分曝すことによって、ペプチドの少なくとも70%を放出する。
【0055】
一般的に、遅延放出コーティングは、pH及び/又は酵素の存在に関係なく、時間に応じて分解する可能性がある。このようなコーティングは、例えば水不溶性ポリマーを含み得る。それ故、その溶解度はpHに依存しない。本明細書で使用される「pH非依存性」という用語は、ポリマーの透過性及び医薬成分を放出する能力が、pHに応じたものではなく、及び/又はpHに極めて僅かしか依存しないことを意味する。このようなコーティングは、例えば持続放出製剤を調製するために使用することができる。適切な水不溶性ポリマーとしては、セルロースエーテル、セルロースエステル又はセルロースエーテルエステル、すなわち、セルロース骨格上のヒドロキシ基の一部がアルキル基で置換され、また一部がアルカノイル基で修飾されたセルロース誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。例としては、エチルセルロース、アセチルセルロース、ニトロセルロース等が挙げられる。
【0056】
遅延放出コーティングを構成するポリマーの他の例としては、ラッカー、並びにアクリル及び/又はメタクリルエステルポリマー、第四級アンモニウム含有量の低いアクリレート若しくはメタクリレートのポリマー若しくはコポリマー、又はそれらの混合物等が挙げられるが、これらに限定されない。不溶性ポリマーの例としては、EUDRAGIT RS(商標)、EUDRAGIT RL(商標)、及びEUDRAGIT NE(商標)が挙げられる。不溶性ポリマーとしては、例えばポリビニルエステル、ポリビニルアセタール、ポリアクリル酸エステル、ブタジエンスチレンコポリマー等が挙げられる。
【0057】
活性剤をGI管に遅延して実質的に送達するための様々なタイプの腸溶性コーティングが知られている。幾つかの実施形態において、持続放出組成物には、酸性環境では実質的に安定であり、中性付近からアルカリ性の環境では実質的に不安定な腸溶剤が含まれる。実施形態において、持続放出コーティングは、胃液中で実質的に安定な腸溶剤を含有する。腸溶剤は、例えば、メタクリル酸コポリマー、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ポリビニルアセテートフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース、及びEUDRAGIT(商標)型ポリマー(ポリ(メタクリル酸)、メタクリル酸メチル)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート、セルロースアセテートトリメリテート、シェラック、又は他の適切な腸溶性コーティングポリマーの溶液又は分散液から選択することができる。EUDRAGIT(商標)型ポリマーとしては、例えば、EUDRAGIT(商標)FS 30D、L 30 D-55、L 100-55、L 100、L 12.5、L 12.5 P、RL 30 D、RL PO、RL 100、RL 12.5、RS 30 D、RS PO、RS 100、RS 12.5、NE 30 D、NE 40 D、NM 30 D、S 100、S 12.5、及びS 12.5 Pが挙げられる。幾つかの実施形態において、EUDRAGIT(商標)FS 30D、L 30 D-55、L 100-55、L 100、L 12.5、L 12.5 P RL 30 D、RL PO、RL 100、RL 12.5、RS 30 D、RS PO、RS 100、RS 12.5、NE 30 D、NE 40 D、NM 30 D、S 100、S 12.5、及びS 12.5 Pの1つ以上が使用される。腸溶剤は前述の溶液又は分散液の組合せであってもよい。幾つかの実施形態において、腸溶剤はEUDRAGIT F30Dであり、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、及びメタクリル酸のコポリマーを含む。コポリマーは、遊離カルボニル基とエステル基との比率が約1:10である。
【0058】
幾つかの実施形態において、ビーズは、模擬胃液への溶解に対して実質的に耐性がある腸溶性コーティングを含む。組成物は、胃液中で本質的に無傷のままであるか、又は本質的に不溶性であってもよい。胃耐性コーティングの安定性はpHに依存する可能性がある。例えば、腸溶性コーティングは、模擬胃液中、及びpHが約5.5の模擬腸液中におけるペプチドの実質的な放出を防ぐことができる。幾つかの実施形態において、マトリックスは、pHが約6以上、例えば約6.5~約7.0の模擬腸液中におけるペプチドの持続放出を提供する。このため、腸溶性コーティングは、模擬胃液中では安定しているが、pHが約6.0を上回る模擬腸液中では不安定である。このような実施形態の腸溶性コーティングは、十二指腸ではペプチドを実質的に放出せず、組成物が空腸に入るまで放出を遅らせ、その後、空腸及び回腸で持続放出をもたらす。
【0059】
幾つかの実施形態において、組成物は、ビーズの集団を含む経口送達用カプセルであり、ビーズの集団は、浸食性ポリマーマトリックス内に含まれるララゾチド又は誘導体(例えば、(d)-ララゾチド若しくは(d)-Pro又はその塩)を有効量含み、ビーズは腸溶性コーティングを更に含み、該腸溶性コーティングは、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、及びメタクリル酸のコポリマーを含んでいてもよい。コポリマーにおける遊離カルボニル基とエステル基との比率は、約1:10とすることができる(例えばEUDRAGIT F30D)。このような実施形態において、腸溶性コーティングは、組成物の総重量の約20%~約30%であってもよい。幾つかの実施形態において、浸食性マトリックスは微結晶セルロースを含む。幾つかの実施形態において、組成物は、模擬胃液中で約2時間後にペプチドの約15%未満の放出を提供する。さらに、組成物は、pHが約5.5の模擬腸液中で約2時間後にペプチドの約25%未満の放出を提供する。様々な実施形態において、組成物は、pHが約7.0の模擬腸液中で約2時間後にペプチドの少なくとも約40%~約80%以下を放出する。様々な実施形態において、pHが約7の模擬腸液中における100%の放出には、少なくとも3時間まで、又は幾つかの実施形態では、少なくとも約3.5時間若しくは少なくとも約4時間まで到達しない。
【0060】
幾つかの実施形態において、医薬組成物は、例えば米国特許第8,168,594号(その内容全体が引用することにより本明細書の一部をなす)に記載されているような遅延放出プロファイルを備えるコーティングされた錠剤、又はコーティングされたビーズ若しくは顆粒を含む。例示的な腸溶性コーティングは、アクリレートとメタクリレートとのコポリマーを含み、幾つかの実施形態では1:1コポリマーである。シールコート又はトップコート用のものを含む他の充填剤、結合剤及び可塑剤は、米国特許第8,168,594号(引用することにより本明細書の一部をなす)に記載されている。
【0061】
或る特定の実施形態によれば、本発明は、本明細書に記載の組成物を1日1回以上投与することを提供する。例えば、組成物は、1日約1回、1日約2回、又は1日約3回投与してもよい。様々な実施形態において、1日1回から1日3回のレジメンは、長期間にわたり継続される。幾つかの実施形態において、組成物は毎日投与される。他の実施形態において、ララゾチド又はララゾチド誘導体組成物は、週に1回~3回投与される。幾つかの実施形態において、レジメンは、少なくとも約1か月、少なくとも約2か月、少なくとも約4か月、少なくとも約6か月、又は少なくとも約8か月継続される。幾つかの実施形態において、治療は、疾患の進行を遅らせるか若しくは防止するため、又は慢性疾患の症状を軽減若しくは改善するために継続される。
【実施例
【0062】
実施例1:腸管バリア機能におけるララゾチド酢酸塩の作用機序の解明
本実施例は、A/R損傷時のMLC-2のリン酸化の調節におけるララゾチド酢酸塩の役割を調査した結果を提供する。結果は、A/R損傷を受けたCaco-2BBe1単層に頂端処理したララゾチド酢酸塩が、TJタンパク質の調節とアクチンの安定化を介して上皮バリア機能を保護したことを示す。さらに、ララゾチド酢酸塩処理は、A/R損傷時のMLC-2のリン酸化の増加を軽減し、上皮バリア機能を調節した。
【0063】
A.バリア機能の評価
ララゾチド酢酸塩によるヒト腸管上皮細胞の前処理は、無酸素/再酸素化(A/R)損傷時に腸管バリアを引き締めることが示された。傍接合部のアクトミオシンリングは、ミオシン軽鎖2(MLC-2)のリン酸化に反応して収縮し、TJ膜貫通タンパク質の内部移行を引き起こすため、本研究では、ララゾチド酢酸塩が、MLC-2リン酸化の阻害を介して無酸素/再酸素化(A/R)損傷時にTJバリアを保護するかどうかを評価する。
【0064】
具体的には、バリア機能を評価するために、ララゾチド酢酸塩(LA)で処理したか又は処理していない無酸素/再酸素化(A/R)損傷C2BBe1(Caco-2刷子縁-Caco-2発現)細胞において経上皮電気抵抗(TEER)を測定した。C2BBe1の単層をLA(0.001mM、0.1mM、1mM、及び10mM)で処理し、2時間無酸素状態にした後、21%Oで再酸素化した。図1Aを参照されたい。A/R損傷を生じさせるために、C2BBe1細胞をモジュラーインキュベーターチャンバ(Billups-Rothenberg(カリフォルニア州サンディエゴ))に入れ、95%N/5%COで5分間フラッシュを行った。次に、モジュラーチャンバを気密にし、インキュベーターに2時間置いた。2時間後、細胞をモジュラーインキュベーターチャンバから取り出し、21%Oの通常環境に置いた。A/R損傷及び回復中のバリア機能を評価するために、TEERを測定した。TEERは、単層の基底側と頂端側にチョップスティック型電極セット(Chopstick Electrode Set)(WPI, LLC(フロリダ州サラソタ))を使用し、Epithelial Volt Ohm Meter2(WPI, LLC(フロリダ州サラソタ))に取り付けて測定した。
【0065】
得られたTEERは、対照細胞と比較して、10mMのLAで処理したC2BBe1単層で有意に増大した(p<0.001)ことが示された。図1Bを参照されたい。TEERの増大は、無酸素損傷によって誘発された「漏れやすい」タイトジャンクションバリアを閉じるLAの能力の証拠である。
【0066】
B.タイトジャンクション及びMLC活性の評価
図2に示すように、A/R損傷は、タイトジャンクションタンパク質を内部移行するようなミオシン軽鎖2(MLC-2)のリン酸化を誘発する。この実験の目的は、LAが、A/R損傷中にタイトジャンクションバリアを保護するためにリン酸化MLC-2の阻害を助けるかどうかを判定することであった。この目的のために、タイトジャンクションタンパク質の局在化、アクチンの構造、及びpMLC-2について調べた。
【0067】
具体的には、膜画分及び細胞質画分のウエスタンブロットと、免疫蛍光顕微鏡分析とを使用して、タイトジャンクションタンパク質と、アクチン構造との分布を評価した。Mem-PER真核生物膜タンパク質抽出試薬キット(Mem-PER Eukaryotic Membrane Protein Extraction Reagent Kit)(Thermo Scientific)を使用して、膜及び細胞質のコンパートメントを分画した。抽出したタンパク質は、抗ZO-1及び抗オクルディンの一次抗体(Invitrogen)でブロットした。冷メタノールで固定した単層を一次抗体(ZO-1及びオクルディン)及びファロイジン(F-アクチン)で染色し、免疫蛍光顕微鏡分析を行った。染色した単層は、cellSensソフトウェアを搭載したOlympus IX83倒立電動顕微鏡(Olympus IX83 Inverted Motorized Microscope)(オリンパス株式会社(日本、東京))で検査した。pMLC-2/MLC-2発現は、pMLC-2及びMLC-2に対する一次抗体(CST(マサチューセッツ州ダンバース))を使用したウエスタンブロット分析で評価した。
【0068】
データから、A/R損傷中にタイトジャンクションタンパク質オクルディンが細胞質に内部移行し、ZO-1が破壊されたことが示された。しかしながら、図3に示すように、10mMのLAで処理すると、A/R損傷中のタイトジャンクションタンパク質の破壊が防止された。F-アクチン構造もA/R損傷中に破壊されたが、10mMのLAで保護された。図4を参照されたい。さらに、図5は、pMLC-2がA/R損傷によって大幅に増加し、10mMのLAで処理するとこのリン酸化が大幅に減少したことを示す。総合すると、データは、LAがpMLC-2を減少させることによってA/R損傷中のタイトジャンクションバリアを保護することを示唆している。
【0069】
LA処理により、A/R損傷中のヒト腸管細胞におけるタイトジャンクションバリアが強化された。A/R損傷中のC2BBe1細胞では、LA処理によりタイトジャンクションタンパク質が保護されることが示された。A/R損傷中に増加した無酸素誘導性のリン酸化MLC-2及びリン酸化MLC-2は、LAによって大幅に減少した。
【0070】
A/R損傷中のヒト腸管上皮細胞では、LA処理によりタイトジャンクションタンパク質の分布が保護された。LA処理によって誘導されるA/R損傷中のこの強化されたバリア機能は、アクチンの安定化によるリン酸化MLC-2の減少によってもたらされた。
【0071】
C.MLCK及びROCK活性の評価
図6は、リン酸化ミオシン軽鎖(pMLC)が、ミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)、ミオシン軽鎖ホスファターゼ(MLCP)、及びRhoキナーゼ(ROCK)によって制御されていることを示す。本実施例の目的は、キナーゼ阻害実験を行うことによって、キナーゼ活性におけるLAの役割を明らかにすることであった。
【0072】
バリア機能を評価するために、LAで処理したか又は処理していないA/R損傷を受けたC2BBe1細胞においてTEERを測定した。C2BBe1の単層を10mMのLA、1μMのY-27632二塩酸塩(ROCK阻害剤、ApexBio(テキサス州ヒューストン))、及び400μMのペプチド18(MLCK阻害剤、Tocris Bioscience(ミネソタ州ミネアポリス))で処理し、その後、2時間無酸素状態にしてから、21%Oで再酸素化した。
【0073】
図7に示すように、A/R損傷細胞においてペプチド18を単独又はLAとともに処理すると、未処理のA/R損傷細胞と比較してTEER値が増大した。特に、ペプチド18とLAとの併用処理が、A/R損傷細胞において相乗効果を示した。しかしながら、LAと併用して処理したY-27632では、相加効果も相乗効果も示されなかった。
【0074】
TEERが大幅に増大したことから、LAとペプチド18とをA/R損傷細胞に併せて適用すると、LAがMLCKとは別の経路で作用すると推定される。LA処理したA/R損傷細胞と、LA及びY-27632で処理したA/R損傷細胞とのTEERレベルは、同様であった。これらのデータから、LAによるMLC-2のリン酸化の減少がROCK活性によって制御され得ることが示される。
【0075】
D.RNAseq解析
MLCのリン酸化は、図8に示すように様々な細胞経路によって制御され得ることから、LAの作用機序を解明するために、ハイスループットRNAseq解析を実施した。具体的には、C2BBe1の単層を10mMのLAで処理し、2時間無酸素状態にしてから、21%Oで1時間再酸素化した。次世代RNAシーケンス及び生物統計解析を使用して、細胞制御経路を評価した。
【0076】
種々の発現解析により、12999個のクラスターが存在することが明らかになり、そのうち11925個が、対照群(CT)、LAを伴う対照群(CT+LA)、無酸素状態群(Anox)、及びLAを伴う無酸素状態群(Anox+LA)の間で共有されるものであった。図9Bを参照されたい。これらの解析では、CTとCT+LA及びAnoxとAnox+LAの間で最も有意な発現変動遺伝子も示される(表1に示す)。
【0077】
【表1】
【0078】
遺伝子オントロジーアノテーションの更なる解析により、細胞極性の確立に関与する生物学的プロセス、接合構造を制御する分子機能、及び上皮修復に関連する細胞成分(細胞先端、波状構造、及び頂端結合複合体)を含む、LA処理された細胞で異なる発現を示す重要なシグナル伝達経路が幾つか明らかになった。表2を参照されたい。
【0079】
【表2】
【0080】
さらに、図10は、LA処理した細胞においてRas/Rho GTPアーゼ結合と、タンパク質セリン/スレオニンキナーゼ活性とが異なる発現をすることを示す。また、京都遺伝子ゲノム百科事典のパスウェイエンリッチメント解析により、「細胞周期」、「接着結合」及び「Wntシグナル伝達経路」に関する標的遺伝子がエンリッチメントされていることが明らかになった。図11を参照されたい。
【0081】
GO解析に基づき、LA処理細胞では、未処理細胞と比較して、様々な翻訳プロセスが大幅に増大した。解析により、LAはタンパク質翻訳シグナル伝達において重要な機能を持つことが示された。LA処理は、カドヘリン結合及び細胞接着等の様々な結合経路にも関連していた。KEEG経路解析では、LAが細胞周期、接着結合、及び翻訳経路と密接に関連していることが示された。RNAseq解析を含むデータは、LAが、細胞周期、遊走及び頂端結合複合体を含む様々な細胞経路を調節することによってA/R損傷時にタイトジャンクションバリアを保護することを示唆する。
【0082】
E.正常条件下でのバリア機能の評価
この実験では、正常条件で傍細胞透過性におけるLAの役割を評価した。
【0083】
バリア機能分析では、10mMのLAで処理したか又は処理していないC2BBe1細胞の単層でTEERを測定した。TEERは、単層の基底側と頂端側にチョップスティック型電極セット(WPI, LLC(フロリダ州サラソタ))を使用し、Epithelial Volt Ohm Meter2(WPI, LLC(フロリダ州サラソタ))に取り付けて測定した。
【0084】
図12に示す結果は、10mMのLAで処理すると、C2BBe1単層でTEERが増大したことを示し、A/R損傷時だけでなく正常条件下でも傍細胞間孔を引き締める機能がLAにあることが実証される。LAには、正常条件で細胞間結合構造を引き締める機能がある。
【0085】
F.増殖及び遊走の評価
この実験では、増殖及び遊走におけるLAの役割を評価した。具体的には、未処理又はLA処理(10mM)C2BBe1細胞の増殖を、製造業者の指示に従ってCCK-8アッセイキット(Dojindo Molecular Technologies(メリーランド州ロックビル))で評価した。96ウェル培養プレートに播種した細胞に1日おきに10mMのLAを処理した。生存細胞はCCK-8アッセイキットで5日間連続して評価した。遊走は、C2BBe1細胞を3ウェル培養インサート(ibidi GmbH(ドイツ、グレーフェルフィング))に播種し、コンフルエンスに達した後にインサートを除去して細胞単層に「創傷」を作ることで評価した。10mMのLAを無血清培地及び通常培地に加えて、それぞれ遊走及び増殖を評価した。画像は、Axio Vert A1顕微鏡(Carl Zeiss AG(ドイツ、オーバーコッヘン))で0時間、4時間、8時間、24時間及び48時間後に撮影し、ImageJソフトウェアで遊走距離を測定することによって創傷の閉鎖を分析した。
【0086】
図13は、C2BBeにおいて10mMのLA処理を行うと、CCK8により測定される増殖が大幅に増大したことを示す。10mM LA処理細胞の増殖は、未処理C2BBe1細胞と比較して大幅に増大したことを示した。さらに、図14は、無血清培地条件で証明されるように、LAの追加によって遊走が大幅に変化しなかったことを示す。
【0087】
結果は、LAが細胞増殖を促進させるが、細胞遊走は促進させないことを示唆している。LAにより誘発されるこの増殖は、腸の損傷からの修復メカニズムを促す可能性がある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13
図14
【配列表】
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【国際調査報告】