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特表2025-506506S1P受容体モジュレーターと組み合わせたCAR細胞を用いた処置方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-03-11
(54)【発明の名称】S1P受容体モジュレーターと組み合わせたCAR細胞を用いた処置方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/17 20250101AFI20250304BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250304BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20250304BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250304BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20250304BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20250304BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20250304BHJP
   A61K 31/137 20060101ALI20250304BHJP
   A61K 31/661 20060101ALI20250304BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20250304BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20250304BHJP
   C07K 14/705 20060101ALN20250304BHJP
   C07K 16/30 20060101ALN20250304BHJP
   C07K 19/00 20060101ALN20250304BHJP
【FI】
A61K35/17
A61P43/00 121
A61K45/00
A61P35/00
A61P35/02
A61K47/68
A61K39/395 T
A61K31/137
A61K31/661
C12N5/0783
C12N5/10
C07K14/705
C07K16/30
C07K19/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024547697
(86)(22)【出願日】2023-02-16
(85)【翻訳文提出日】2024-10-09
(86)【国際出願番号】 EP2023053857
(87)【国際公開番号】W WO2023156506
(87)【国際公開日】2023-08-24
(31)【優先権主張番号】22305171.5
(32)【優先日】2022-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】22305781.1
(32)【優先日】2022-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523281412
【氏名又は名称】プリオセラ エスエーエス
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100141195
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 恵美子
(72)【発明者】
【氏名】ダートスチニグ,シモーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ブソー,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ボウルチ,モルガーヌ
(72)【発明者】
【氏名】オーヘン,ステファン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C085
4C086
4C087
4C206
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C076AA95
4C076BB13
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE59
4C084AA19
4C084NA05
4C084ZB261
4C084ZB271
4C084ZC412
4C084ZC751
4C085AA16
4C085BB01
4C085CC03
4C085CC31
4C085DD62
4C085EE03
4C085GG02
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA34
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA66
4C086NA05
4C086ZB02
4C086ZB26
4C086ZB27
4C086ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087CA04
4C087CA16
4C087MA02
4C087MA66
4C087NA05
4C087ZB02
4C087ZB26
4C087ZB27
4C087ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA08
4C206JA49
4C206KA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA86
4C206NA05
4C206ZB02
4C206ZB26
4C206ZB27
4C206ZC75
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA75
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、それを必要としている対象において、血液悪性腫瘍の処置において使用するためのCAR細胞組成物であって、前記CAR細胞が、がん関連抗原と結合するキメラ抗原受容体分子を発現する免疫細胞であり、治療上有効な量のCAR細胞組成物を、治療上有効な量のS1P受容体モジュレーター、または薬学的に許容されるその塩もしくはそのリン酸誘導体と組み合わせて投与する、CAR細胞組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要としている対象において、血液悪性腫瘍の処置において使用するためのCAR細胞組成物であって、前記CAR細胞が、がん関連抗原と結合するキメラ抗原受容体分子を発現する免疫細胞、好ましくは免疫T細胞であり、治療上有効な量の前記CAR細胞組成物を、治療上有効な量のS1P受容体モジュレーターと組み合わせて投与する、CAR細胞組成物。
【請求項2】
前記がん関連抗原が、CD19、CD123、CD20、CD22、CD30、CD33、CD38、LeY、ROR1、CLL-1、BCMA、およびその組合せからなる群、好ましくはCD19から選択される、請求項1に記載の使用のための、CAR細胞組成物。
【請求項3】
前記S1P受容体モジュレーターが、モクラビモド、シポニモド、フィンゴリモド、オザニモド、ポネシモド、エトラシモド、AKP-11、セネリモド、アミセリモド、CBP-307、OPL-307、OPL-002、BMS-986166、SCD-044、BOS-173717、CP-1050、好ましくはモクラビモドから選択される、請求項1または2に記載の使用のための、CAR細胞組成物。
【請求項4】
前記S1P受容体モジュレーターがS1P受容体アゴニストである、請求項3に記載の使用のための、CAR細胞組成物。
【請求項5】
前記S1P受容体アゴニストが、以下の式(I)または(II)または(IIa)または(IIb)のもの:
【化1】
[式中、
は、H、ハロゲン、トリハロメチル、C1~4アルコキシ、C1~7アルキル、フェネチル、もしくはベンジルオキシであり、
は、H、ハロゲン、CF、OH、C1~7アルキル、C1~4アルコキシ、ベンジルオキシ、フェニル、もしくはC1~4アルコキシメチルであり、
およびRのそれぞれは、独立して、Hもしくは式(a)の残基:
【化2】
[式中、RおよびRのそれぞれは、独立して、H、もしくはハロゲンによって任意選択で置換されたC1~4アルキルであり、
nは1~4の整数である]であり、
は、水素、ハロゲン、C1~7アルキル、C1~4アルコキシ、もしくはトリフルオロメチルである]、
または、
【化3】
もしくは薬学的に許容されるその塩
または、
【化4】
である、請求項3または4に記載の使用のための、CAR細胞組成物。
【請求項6】
前記S1P受容体アゴニストが、モクラビモド、または薬学的に許容されるその塩もしくはそのリン酸誘導体である、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用のための、CAR細胞組成物。
【請求項7】
前記血液悪性腫瘍が、好ましくは、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性リンパ性白血病(ALL)、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、マントル細胞リンパ腫(MCL)、縦隔原発B細胞性大細胞型リンパ腫(PMBCL)、または多発性骨髄腫、より好ましくはALL、DLBCL、PMBCL、およびMCL、さらにより好ましくはDLBCLからなる群から選択される白血病および/またはリンパ腫である、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用のための、CAR細胞組成物。
【請求項8】
効率的な量のCAR細胞、好ましくはCAR-T細胞を、0.1×10~6×10個のCAR陽性生免疫細胞/体重1kgの投薬量で投与する、請求項1から7のいずれか一項に記載の使用のための、CAR細胞組成物。
【請求項9】
前記CAR細胞、好ましくはCAR-T細胞を、リンパ枯渇化学療法の完了の2~14日後に投与する、請求項1から8のいずれか一項に記載の使用のための、CAR細胞組成物。
【請求項10】
前記S1P受容体モジュレーターを、1日あたり0.05mg~40mg、好ましくは0.1mg~35mg、より好ましくは0.5mg~30mg、さらにより好ましくは1mg~15mg、さらにより好ましくは1.5mg~7mg、さらにより好ましくは2mg~5mg、さらにより好ましくは約3mgまたは約1mgの投薬量で投与する、請求項1から9のいずれか一項に記載の使用のための、CAR細胞組成物。
【請求項11】
前記S1P受容体モジュレーターを、好ましくはCAR細胞を含む前記組成物を投与する1~20日前、より好ましくはCAR細胞投与の11日前の開始日から、少なくとも1、2、もしくは3カ月間、またはそれより長くの間、毎日投与する、請求項1から10のいずれか一項に記載の使用のための、CAR細胞組成物。
【請求項12】
前記S1P受容体モジュレーターを、CAR細胞が骨髄を去ることを防止する、ならびに/またはCAR細胞の生着および持続を促進する、ならびに/またはCAR細胞療法の有効性を増加させるために十分な量で投与する、請求項1から11のいずれか一項に記載の使用のための、CAR細胞組成物。
【請求項13】
使用するための前記S1P受容体モジュレーターを、好ましくは自己または同系のCAR細胞を受けている対象において、サイトカイン放出症候群、特に全身性サイトカイン放出症候群の危険性を低下させるために十分な量で投与する、請求項1から12のいずれか一項に記載の使用のための、CAR細胞組成物。
【請求項14】
それを必要としている対象において、CAR細胞療法(たとえば抗CD19療法)でのサイトカイン放出症候群(CRS)および/またはマクロファージ活性化症候群(MAS)および/または免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)の防止において使用するための、S1P受容体モジュレーターであって、前記使用が、S1P受容体モジュレーター(たとえばモクラビモド)、または薬学的に許容されるその塩もしくはそのリン酸誘導体を、前記CAR細胞療法と組み合わせて、前記対象に投与し、それによって、前記対象においてCRSおよび/またはMASおよび/またはICANSを防止することを含む、S1P受容体モジュレーター。
【請求項15】
前記CAR細胞療法が、CAR-T細胞療法、好ましくは抗CD19CAR-T細胞療法である、請求項14に記載のS1P受容体モジュレーター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞免疫療法の分野に関し、より詳細には、それを必要としている対象において、血液悪性腫瘍の処置において、S1P受容体モジュレーターとの組合せ療法において使用するための、がん関連抗原と結合するキメラ抗原受容体分子を発現するCAR細胞を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
血液悪性腫瘍を有する多くの患者は、標準療法では不治である。さらに、従来の処置の選択肢は、しばしば重篤な副作用を有する。がん免疫療法を用いた試みがなされているが、いくつかの障壁により、これは、臨床的有効性を達成するために非常に困難な目的となっている。数百個のいわゆる腫瘍抗原が同定されているが、これらは一般に自己に由来しており、したがって免疫原性が乏しい。
【0003】
天然に存在する腫瘍反応性T細胞の存在は、がん患者の末梢血中および腫瘍内において十分に報告されている。しかし、T細胞は新生細胞を認識するが、その存在は多くの場合、臨床的腫瘍退縮を媒介するには不十分である。腫瘍は、免疫攻撃、特にT細胞媒介性応答を中和するまたは逃れるために、無数の機構を用いる。これらの機構としては、とりわけ、MHC分子の発現の下方制御、または抗原のプロセシングおよび提示の装置の破壊が挙げられる。
【0004】
キメラ抗原受容体(CAR)を発現するようにex vivoで改変させた自己免疫細胞の養子移入が、これらの障壁のうちの一部を回避するための新規治療ツールとして出現している。そのような手法は、そのような免疫エフェクター細胞を、血液悪性腫瘍などのがん細胞上の適切な細胞表面分子に向け直すことに依存する。たとえば、最近の臨床治験では、CD19分子を標的とするCAR-T細胞が、B細胞白血病およびB細胞リンパ腫の処置において顕著な活性を示している(Maude et al., 2014; Neelapu et al., 2017; Schuster et al., 2017; Park et al., 2018)。これらの有望な結果にもかかわらず、循環腫瘍細胞は、骨髄へのCAR-T細胞輸送を強力に防止し、したがって、標的腫瘍細胞のCAR-T細胞媒介性の排除およびCAR細胞の持続の相当な障害物を表すことが見出されている(M. Cazaux et al.; J Exp Med 6 May 2019; 216 (5): 1038-1049. doi: https://doi.org/10.1084/jem.20182375)。したがって、遺伝子改変した免疫エフェクター細胞上のキメラ抗原受容体の、標的細胞を認識して破壊する能力以外に、成功した治療免疫エフェクター細胞療法は、白血病の再発を調査するために、増殖する、持続する、機能的に活性のまま保たれる、および時間とともに骨髄へと輸送される能力を有する必要がある。
【0005】
残念ながら、CAR-T細胞療法は、様々な臓器に影響を与え、治療の成功を制限する、重篤な毒性を引き起こす場合もある(Brudno and Kochenderfer, Blood 127, 3321-3330 (2016))。CAR-T細胞は、腫瘍抗原認識の際に高度に活性化されており、これがサイトカイン放出を始動させる。この局所的サイトカインストームは、傍観者免疫細胞をさらに活性化させる場合があり、これはより多くの炎症性サイトカインを放出させ、高い全身性サイトカインレベルによって特徴づけられるサイトカイン放出症候群(CRS)病理学に寄与する。活性化された免疫細胞は末梢部位へと遊走し、組織において全身性炎症反応を引き起こす(Lee et al. Blood 2014 124(2):188-195)。
【0006】
最も劇的な応答率を有する臨床治験においてさえも、重篤な、生命を危うくする事象が患者において起こっている。具体的には、CAR-T細胞療法で処置した急性リンパ芽球性白血病/リンパ腫(ALL/LBL)患者の事例では、ほぼすべての患者が、少なくともある程度の、重篤度がより低い毒性徴候を有する一方で、患者の20~50%が、重篤な超生理的なサイトカイン産生および大量のin-vivo T細胞拡大を示した。一部の患者における、全身性サイトカイン放出および重篤な免疫細胞交差活性化のこれらの毒性があるレベルは、以下の毒性をもたらす:(1)超生理的なサイトカイン産生および大量のin vivo T細胞拡大に関連する、サイトカイン放出症候群(CRS)、(2)CRS、ならびに血清フェリチンの上昇と血球貪食、腎不全、肝酵素、脾腫大、肺水腫、および/またはNK細胞活性の非存在との組合せによって特徴づけられる、重篤な過剰炎症症候群として定義される、血球貪食性リンパ組織球症および/またはマクロファージ活性化症候群(MAS)、ならびに(3)脳脊髄液サイトカインレベルの上昇および血液脳関門の破壊によって特徴づけられる免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)(Sheth, V.S., Gauthier, J. Taming the beast: CRS and ICANS after CAR T-cell therapy for ALL. Bone Marrow Transplant 56, 552-566 (2021))。
【0007】
CAR-T細胞療法における別の課題は、たとえば、がん細胞悪性腫瘍における阻害および耐性、抗原逃避、限定的なCAR持続、乏しいCAR輸送、および腫瘍浸潤、ならびに免疫抑制性微小環境によって引き起こされた、血液がんに対する有効性の喪失である。たとえば、再発性および/または不応性ALL患者の70~90%が、CD19を標的としたCAR-T細胞療法に対して耐久性のある応答を示すが、最近の経過観察データは、処置後に再発性疾患を有する患者の30~70%におけるCD19抗原の下方制御/喪失を含む、共通の疾患耐性機構の発生を示唆している(Sterner, R.C., Sterner, R.M. CAR-T cell therapy: current limitations and potential strategies. Blood Cancer J. 11, 69 (2021))。
【0008】
したがって、血液悪性腫瘍を標的とする改善された戦略の継続中の必要性が存在し、特に、CAR療法を改善させるための新規組成物および方法が非常に望ましい。
【発明の概要】
【0009】
骨髄および/またはリンパ節などのリンパ組織内へのCAR-T細胞の隔離を促進することは、適切な微小環境下においてCAR-T細胞調節およびCAR-T機能的活性化を維持することの結果として、臨床上の利点を提供し得る。正常なT細胞では(Zinkernagel RM, Ehl S, Aichele P, Oehen S, Kundig T, Hengartner H. Antigen localisation regulates immune responses in a dose- and time-dependent fashion: a geographical view of immune reactivity. Immunol Rev. 1997 Apr;156:199-209.)、そのようなリンパ微小環境は、CAR-T活性化、したがってCAR持続を拡張させるが、CRSおよびICANSをもたらす場合がある免疫応答のオーバーシュートも調節すると予想される。さらに、末梢からのCAR-Tの隔離は、有害事象に関連する末梢組織の活性化および損傷を縮小させると予想される。FTY720は、アロジェネイックTボディの持続を増強させることが示されている(Marcus et al., Blood 2011;118(4):975-983)。さらに、CAR細胞の隔離を促進することは、アロジェネイックCAR細胞療法におけるGVHD発生の危険性を低下させ得る(Depil et al., Nature Reviews Drug Discovery 19, 185-199(2020))。
【0010】
本発明を任意の特定の機構に限定せずに、S1P受容体モジュレーターと組み合わせたCAR細胞を含む組成物の記載した組合せは、CAR細胞がリンパ組織を去ることを防止することによって、および/または殺滅モードのCAR細胞をさらに活性化させることによって、および/またはさらにがん細胞を直接殺滅することによって、相乗的な治療効果を提供し、その結果、CAR細胞とS1P受容体モジュレーターとの組合せを与えた血液悪性腫瘍患者の、抗腫瘍有効性を改善させる、および/または再発を防止するはずであるため、本明細書中に記載した本発明はこの必要性を満たす。S1P受容体モジュレーターによる、リンパ組織におけるCAR細胞の隔離は、自己細胞療法のすべてにおいて臨床的に観察される、CAR細胞療法またはICANSなどの他の有害事象の後に、CRSおよび/またはMASを制限する潜在性も有する。
【0011】
したがって、本開示は、少なくとも部分的に、キメラ抗原受容体(CAR)分子を発現する免疫エフェクター細胞(たとえば、T細胞またはナチュラルキラー細胞(NK細胞))(たとえば、B細胞抗原、たとえばCD19と結合するCAR-)を使用して、がん(たとえば血液がんまたは他のB細胞悪性腫瘍)などの障害を処置する組成物および方法を提供する。
【0012】
本方法は、CAR(たとえばB細胞を標的とするCAR)を発現する免疫エフェクター細胞(たとえばT細胞またはNK細胞)を、S1P受容体モジュレーターと組み合わせて投与することを含む。一部の実施形態では、組合せは、どちらの療法単独と比較しても、CAR-T機能的活性を維持する、より良好な臨床的有効性を有する、および/またはより低い毒性を有する(たとえばCRSの防止が原因)。一部の実施形態では、対象は、CRSおよび/もしくはMASの危険性にあるもしくはそれを有する、または、対象は、CRSおよび/もしくはMASを発生する危険性を有するもしくは危険性にあると同定されている。一部の実施形態では、組合せは、CAR細胞療法、特に血液悪性腫瘍を処置するためのCAR細胞療法の抗腫瘍有効性を改善または軽快させる。
【0013】
本開示は、前記がん関連抗原の前記発現に関連する血液がんを処置するために、がん関連抗原(たとえば本明細書中に記載のがん関連抗原、たとえばCD19)と結合するCAR分子を発現させるための操作した細胞、たとえば免疫エフェクター細胞(たとえばT細胞またはNK細胞)の、S1P受容体モジュレーター(たとえばモクラビモド)と組み合わせた使用にさらに関する。
【0014】
また、S1P受容体モジュレーター(たとえばモクラビモド)とCAR発現細胞(たとえばB細胞を標的とするCAR発現細胞、たとえば抗CD19CAR細胞)との組合せを使用することによって、対象においてCRSおよび/またはMASを防止するための組成物および方法も、本明細書中に提供される。
【0015】
また、S1P受容体モジュレーターとCAR発現細胞(たとえば、B細胞を標的とするCAR発現細胞、たとえばCD19CAR発現細胞)との組合せを使用することによって、対象においてCRSおよび/またはMASを防止するための組成物および方法も提供され、たとえば、対象は、CRSおよび/もしくはMASの危険性にあるもしくはそれを有する、または、対象は、CRSおよび/もしくはMASを発生する危険性を有するまたは危険性にあると同定されている。一態様では、抗原、たとえば本明細書中に記載のがん関連抗原の発現に関連する疾患を有する対象、たとえばヒトを処置する方法が、本明細書中に提供される。本方法は、対象に、有効量の、がん関連抗原(たとえば、本明細書中に記載のがん関連抗原、たとえばCD19)と結合するCAR分子を発現する細胞、たとえば免疫エフェクター細胞(たとえばT細胞またはNK細胞)を、S1P受容体モジュレーター、たとえばモクラビモドと組み合わせて投与することを含む。
【0016】
別の態様では、抗腫瘍免疫を、抗原、たとえばがん関連抗原、たとえば、本明細書中に記載のがん関連抗原の発現に関連する疾患を有する対象、たとえばヒトに提供する方法が、本明細書中に提供される。本方法は、対象に、有効量の、抗原(たとえば本明細書中に記載のがん関連抗原、たとえばCD19)と結合するCAR分子を発現する細胞、たとえば免疫エフェクター細胞(たとえばT細胞またはNK細胞)を、S1P受容体モジュレーター、たとえばモクラビモドと組み合わせて投与することを含む。
【0017】
別の態様では、それを必要としている対象において、サイトカイン放出症候群(CRS)、たとえば、CAR療法(たとえば本明細書中に記載のCAR発現細胞)および/またはマクロファージ活性化症候群(MAS)に関連するCRSを処置および/または防止する方法であってS1P受容体モジュレーター(たとえばモクラビモド)を、CAR細胞療法と組み合わせて、対象に投与し、それによって、対象においてCRSおよび/またはMASを処置および/または防止することを含む方法が、本明細書中に提供される。
【0018】
別の態様では、それを必要としている対象において、CAR療法(たとえば本明細書中に記載のCAR発現細胞)の有効性を増加させる方法であって、S1P受容体モジュレーター(たとえばモクラビモド)を、CAR細胞療法と組み合わせて、対象に投与し、それによって、殺滅モードのCAR発現細胞を活性化させ、および/またはがん細胞を直接殺滅し、したがって抗腫瘍効果を増加させることを含む方法が、本明細書中に提供される。
【0019】
実施形態では、対象は、CRSおよび/またはMASを発生する危険性にある、有する、または診断されている。実施形態では、対象は、CAR細胞療法、たとえば本明細書中に記載のCAR発現細胞を投与されていた、投与されている、または投与される。
【0020】
実施形態では、本方法は、S1P受容体モジュレーターの投与のために対象を選択することを含む。実施形態では、対象は、(i)そのCRSおよび/もしくはMASを発生する危険性、(ii)そのCRSおよび/もしくはMASの診断、ならびに/または(iii)対象がCAR細胞療法(たとえば本明細書中に記載のCAR細胞療法、たとえば抗CD19CAR細胞療法)を投与されていたか、投与されているか、または投与されるかどうかに基づいて選択する。
【0021】
実施形態では、対象が、CRSおよび/またはMAS、たとえば重篤(グレード3もしくは4)または重篤でないCRSおよび/またはMASを診断された場合に、対象をS1P受容体モジュレーターの投与のために選択する。実施形態では、対象が、CRSおよび/またはMASを発生する危険性にある(たとえば危険性にあると同定された)場合に、対象をS1P受容体モジュレーターの投与のために選択する。実施形態では、対象が、CAR細胞療法(たとえば本明細書中に記載のCAR細胞療法、たとえば抗CD19CAR細胞療法)を投与されていた、投与されている、または投与される場合に、対象をS1P受容体モジュレーターの投与のために選択する。
【0022】
したがって、一態様では、本開示は、それを必要としている対象において、血液悪性腫瘍の処置において使用するためのCAR細胞組成物を提供し、前記CAR細胞は、がん関連抗原と結合するキメラ抗原受容体分子を発現する免疫細胞、好ましくはT細胞であり、治療上有効な量のCAR細胞組成物を、治療上有効な量のS1P受容体モジュレーターと組み合わせて投与する。
【0023】
別の態様では、本開示は、それを必要としている対象において、固形腫瘍がんからの転移性腫瘍、好ましくはリンパ器官転移、より好ましくはリンパ節転移の処置において使用するためのCAR細胞組成物を提供し、前記CAR細胞は、がん関連抗原と結合するキメラ抗原受容体分子を発現する免疫細胞、好ましくはT細胞であり、治療上有効な量のCAR細胞組成物を、治療上有効な量のS1P受容体モジュレーターと組み合わせて投与する。
【0024】
別の態様では、治療上有効な量のS1P受容体モジュレーターは、治療上有効な量のCAR細胞組成物の投与の前または投与時に、投与する。
【0025】
別の態様では、CAR細胞は、その投与の前に、有効量のS1P受容体モジュレーターまたはそのリン酸誘導体を用いて、ex vivoまたはin vitroで処理する。したがって、本開示はまた、それを必要としている対象において、血液悪性腫瘍の処置において使用するための、活性CAR細胞組成物も提供し、前記CAR細胞は、がん関連抗原と結合するキメラ抗原受容体分子を発現する免疫細胞、好ましくはT細胞であり、治療上有効な量の活性CAR細胞組成物を前記対象に投与し、前記CAR細胞は、有効量のS1P受容体モジュレーターまたはそのリン酸誘導体、たとえばモクラビモドを用いて、in vitroまたはex vivoで処理されている。
【0026】
別の態様では、本開示は、それを必要としている対象において、血液悪性腫瘍を処置するための医薬品の製造のための、CAR細胞組成物の使用を提供し、前記CAR細胞は、がん関連抗原と結合するキメラ抗原受容体分子を発現する免疫細胞、好ましくはT細胞であり、治療上有効な量のCAR細胞組成物を、治療上有効な量のS1P受容体モジュレーターと組み合わせて投与する。
【0027】
別の態様では、本開示は、血液悪性腫瘍を処置する方法であって、治療上有効な量のCAR細胞組成物を、治療上有効な量のS1P受容体モジュレーターと組み合わせて投与することを含む方法を提供し、前記CAR細胞は、がん関連抗原と結合するキメラ抗原受容体分子(たとえばCD19)を発現する免疫細胞、好ましくは免疫T細胞である。
【0028】
一組の実施形態では、本方法は、
1)白血球除去を実施することによって、免疫細胞、たとえば免疫T細胞を、それを必要としているドナー対象から収集するステップ、
2)ドナー対象の免疫細胞を、がん関連抗原(たとえばCD19)と結合するキメラ抗原受容体(CAR)分子を発現するように、ex vivoで遺伝子改変させ、それによってCAR細胞組成物を得るステップ、
3)たとえば、前記レシピエント対象を有効量のリンパ枯渇(lymphodepleting)化学療法剤で処置すること、または全身照射を行うことによって、前記レシピエント対象をコンディショニングするステップ、
4)治療上効率的な量のステップ2)で得られた前記CAR細胞を含む組成物を、前記レシピエント対象に投与するステップ、
5)たとえばステップ4)の前または後に、レシピエント対象に、有効量のS1P受容体モジュレーター、好ましくは式IIのモクラビモド、または式IIaもしくはIIbなどの薬学的に許容されるその塩もしくはそのリン酸誘導体を、好ましくはステップ4)の前に投与するステップ、
6)任意選択で、レシピエント対象に、有効量の1つまたは複数の免疫抑制剤を投与するステップ
を含む。
【0029】
別の態様では、本開示は、それを必要としている対象において、CAR細胞療法(たとえば抗CD19CAR-T細胞療法)でのサイトカイン放出症候群(CRS)および/またはマクロファージ活性化症候群(MAS)を防止するまたは低下させる方法であって、S1P受容体モジュレーター(たとえばモクラビモド)、または薬学的に許容されるその塩もしくはそのリン酸誘導体を、CAR細胞療法と組み合わせて、対象に投与し、それによって、対象においてCRSおよび/またはMASを防止することを含む方法を提供する。
【0030】
別の態様では、本開示は、それを必要としている対象において、CAR細胞療法(たとえば抗CD19CAR-T細胞療法)でのサイトカイン放出症候群の防止において使用するための、S1P受容体モジュレーターであって、使用が、S1P受容体モジュレーター(たとえばモクラビモド)、または薬学的に許容されるその塩もしくはそのリン酸誘導体を、CAR細胞療法と組み合わせて、対象に投与し、それによって、対象においてCRSおよび/またはMASを防止することを含む、S1P受容体モジュレーターを提供する。
【0031】
別の態様では、本開示は、S1P受容体モジュレーター(たとえばモクラビモド)、または薬学的に許容されるその塩もしくはそのリン酸誘導体を、CAR細胞療法と組み合わせて、対象に投与し、それによって、対象においてCRSおよび/またはマクロファージ活性化症候群を防止することを含む、それを必要としている対象において、CAR細胞療法(たとえば抗CD19CAR-T細胞療法)でのサイトカイン放出症候群および/またはマクロファージ活性化症候群を防止するための医薬品の製造のための、S1P受容体モジュレーターの使用を提供する。
【0032】
本開示を、以下に概要を示す様々な態様において提供する。
【0033】
1.それを必要としている対象において、血液悪性腫瘍の処置において使用するためのCAR細胞組成物であって、前記CAR細胞が、がん関連抗原と結合するキメラ抗原受容体分子を発現する免疫細胞、好ましくは免疫T細胞であり、治療上有効な量の前記CAR細胞組成物を、治療上有効な量のS1P受容体モジュレーターと組み合わせて投与する、CAR細胞組成物。
【0034】
2.前記がん関連抗原が、CD19、CD123、CD20、CD22、CD30、CD33、CD38、LeY、ROR1、CLL-1、BCMA、およびその組合せからなる群、好ましくはCD19から選択される、実施形態1に記載の使用のための、CAR細胞組成物。
【0035】
3.前記S1P受容体モジュレーターが、モクラビモド、シポニモド、フィンゴリモド、オザニモド、ポネシモド、エトラシモド、AKP-11、セネリモド、アミセリモド、CBP-307、OPL-307、OPL-002、BMS-986166、SCD-044、BOS-173717、CP-1050、好ましくはモクラビモドから選択される、実施形態1または2に記載の使用のための、CAR細胞組成物。
【0036】
4.前記S1P受容体モジュレーターがS1P受容体アゴニストである、実施形態3に記載の使用のための、CAR細胞組成物。
【0037】
5.S1P受容体アゴニストが、以下の式(I)または(II)または(IIa)または(IIb)のもの:
【0038】
【化1】
[式中、
は、H、ハロゲン、トリハロメチル、C1~4アルコキシ、C1~7アルキル、フェネチル、もしくはベンジルオキシであり、
は、H、ハロゲン、CF、OH、C1~7アルキル、C1~4アルコキシ、ベンジルオキシ、フェニル、もしくはC1~4アルコキシメチルであり、
およびRのそれぞれは、独立して、Hもしくは式(a)の残基:
【0039】
【化2】
[式中、RおよびRのそれぞれは、独立して、H、もしくはハロゲンによって任意選択で置換されたC1~4アルキルであり、
nは1~4の整数である]であり、
は、水素、ハロゲン、C1~7アルキル、C1~4アルコキシ、もしくはトリフルオロメチルである]、
または、
【0040】
【化3】
もしくは薬学的に許容されるその塩
または、
【0041】
【化4】
である、実施形態3または4に記載の使用のための、CAR細胞組成物。
【0042】
6.S1P受容体アゴニストが、モクラビモド、または薬学的に許容されるその塩もしくはそのリン酸誘導体である、実施形態1から5のいずれか一項に記載の使用のための、CAR細胞組成物。
【0043】
7.前記血液悪性腫瘍が白血病および/またはリンパ腫である、実施形態1から6のいずれか一項に記載の使用のための、CAR細胞組成物。
【0044】
8.前記血液悪性腫瘍が、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性リンパ性白血病(ALL)、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、マントル細胞リンパ腫(MCL)、縦隔原発B細胞性大細胞型リンパ腫(PMBCL)、または多発性骨髄腫、好ましくはALL、DLBCL、PMBCL、およびMCL、より好ましくはDLBCLからなる群から選択される、実施形態1から7のいずれか一項に記載の使用のための、CAR細胞組成物。
【0045】
9.効率的な量のCAR細胞、好ましくはCAR-T細胞を、0.1×10~6×10個のCAR陽性生(viable)免疫細胞/体重1kgの投薬量(dosage)で投与する、実施形態1から8のいずれか一項に記載の使用のための、CAR細胞組成物。
【0046】
10.前記CAR細胞、好ましくはCAR-T細胞を、リンパ枯渇化学療法の完了の2~14日後に投与する、実施形態1から9のいずれか一項に記載の使用のための、CAR細胞組成物。
【0047】
11.前記S1P受容体モジュレーターを、1日あたり0.05mg~40mg、好ましくは0.1mg~35mg、より好ましくは0.5mg~30mg、さらにより好ましくは1mg~15mg、さらにより好ましくは1.5mg~7mg、さらにより好ましくは2mg~5mg、さらにより好ましくは約3mgまたは約1mgの投薬量で投与する、実施形態1から10のいずれか一項に記載の使用のための、CAR細胞組成物。
【0048】
12.前記S1P受容体モジュレーターを、好ましくはCAR細胞を含む前記組成物を投与する1~20日前、より好ましくはCAR細胞投与の11日前の開始日から、少なくとも1、2、もしくは3カ月間、またはそれより長くの間、毎日投与する、実施形態1から11のいずれか一項に記載の使用のための、CAR細胞組成物。
【0049】
13.前記S1P受容体モジュレーターを、CAR細胞が骨髄を去ること(leaving)を防止する、ならびに/またはCAR細胞の生着(engraftment)および持続(persistence)を促進する、ならびに/またはCAR細胞療法の有効性を増加させるために十分な量で投与する、実施形態1から12のいずれか一項に記載の使用のための、CAR細胞組成物。
【0050】
14.治療上有効な量のCAR細胞組成物、好ましくは自己(autologous)または同系(syngeneic)のCAR細胞を、治療上有効な量のS1P受容体モジュレーターと組み合わせて投与することを含み、前記CAR細胞が、がん関連抗原と結合するキメラ抗原受容体分子を発現する免疫細胞である、それを必要としている対象において、血液悪性腫瘍を処置する方法。
【0051】
15.前記CAR細胞が、CAR-T細胞、好ましくは抗CD19CAR-T細胞である、実施形態14に記載の方法。
【0052】
16.対象の末梢血中のCAR細胞の数が、7、好ましくは14日間のS1P受容体モジュレーター処置の後に、フローサイトメトリーによって測定して、S1P受容体モジュレーター処置なしで測定した数と比較して、約1%~約40%、好ましくは約10%~約30%低下している、実施形態14または15に記載の方法。
【0053】
17.
1)白血球除去を実施することによって、免疫細胞、たとえば免疫T細胞をドナー対象から収集するステップ、
2)ドナー対象の免疫細胞を、がん関連抗原と結合するキメラ抗原受容体(CAR)分子を発現するように、ex vivoで遺伝子改変させ、それによってCAR細胞組成物を得るステップ、
3)たとえば、前記レシピエント対象を有効量のリンパ枯渇化学療法剤で処置することによって、または全身照射を行うことによって、前記レシピエント対象をコンディショニングするステップ、
4)治療上効率的な量のステップ2)で得られた前記CAR細胞を含む組成物を、前記レシピエント対象に投与するステップ、
5)レシピエント対象に、有効量のS1P受容体モジュレーター、好ましくはモクラビモド、または薬学的に許容されるその塩もしくはそのリン酸誘導体を投与するステップ、
6)任意選択で、レシピエント対象に、有効量の1つまたは複数の免疫抑制剤を投与するステップ
を含む、実施形態14から16のいずれか一項に記載の方法。
【0054】
18.前記リンパ枯渇化学療法剤が、メルファラン、シタラビン、エトポシド、ブスルファン、ベンダムスチン、シクロホスファミド、フルダラビン、デキサメタゾン、およびアレムツズマブ、ならびにフルダラビン/シクロホスファミド、シタラビン/エトポシドの組合せ投与などのその組合せからなる群から選択される、実施形態17に記載の方法。
【0055】
19.ステップ3)のコンディショニングレジメンが、
-フルダラビンおよびシクロホスファミドの投与、または
-シタラビンおよびエトポシドの投与、または
-ベンダムスチンの投与
からなる、実施形態16に記載の方法。
【0056】
20.CAR細胞、好ましくはCAR-T細胞、より好ましくは抗CD19CAR-T細胞を、0.1×10~6×10個のCAR陽性生免疫細胞/体重1kgの投薬量で投与する、実施形態14から19のいずれか一項に記載の方法。
【0057】
21.CAR細胞、好ましくはCAR-T細胞、より好ましくは抗CD19CAR-T細胞を、リンパ枯渇化学療法の完了の2~14日後に投与する、実施形態14から20のいずれか一項に記載の方法。
【0058】
22.前記がん関連抗原が、CD19、CD123、CD20、CD22、CD30、CD33、CD38、LeY、ROR1、CLL-1、BCMA、好ましくはCD19からなる群から選択される、実施形態14から21のいずれか一項に記載の方法。
【0059】
23.前記S1P受容体モジュレーターが、モクラビモド、シポニモド、フィンゴリモド、オザニモド、ポネシモド、エトラシモド、AKP-11、セネリモド、アミセリモド、CBP-307、OPL-307、OPL-002、BMS-986166、SCD-044、BOS-173717、CP-1050、好ましくはモクラビモドから選択される、実施形態14から22のいずれか一項に記載の方法。
【0060】
24.前記S1P受容体モジュレーターがS1P受容体アゴニストである、実施形態23に記載の方法。
25.S1P受容体アゴニストが、以下の式(I)または(II)または(IIa)または(IIb)のもの:
【0061】
【化5】
[式中、
は、H、ハロゲン、トリハロメチル、C1~4アルコキシ、C1~7アルキル、フェネチル、もしくはベンジルオキシであり、
は、H、ハロゲン、CF、OH、C1~7アルキル、C1~4アルコキシ、ベンジルオキシ、フェニル、もしくはC1~4アルコキシメチルであり、
およびRのそれぞれは、独立して、Hもしくは式(a)の残基:
【0062】
【化6】
[式中、RおよびRのそれぞれは、独立して、H、もしくはハロゲンによって任意選択で置換されたC1~4アルキルであり、
nは1~4の整数である]であり、
は、水素、ハロゲン、C1~7アルキル、C1~4アルコキシ、もしくはトリフルオロメチルである]、
または、
【0063】
【化7】
もしくは薬学的に許容されるその塩、
または、
【0064】
【化8】
である、実施形態24に記載の方法。
【0065】
26.S1P受容体モジュレーターが、モクラビモド、または薬学的に許容されるその塩もしくはそのリン酸誘導体である、実施形態14から25のいずれか一項に記載の方法。
【0066】
27.前記S1P受容体モジュレーターを、1日あたり0.05mg~40mg、好ましくは0.1mg~35mg、より好ましくは0.5mg~30mg、さらにより好ましくは1mg~15mg、さらにより好ましくは1.5mg~7mg、さらにより好ましくは2mg~5mg、さらにより好ましくは約3mgまたは約1mgの投薬量で投与する、実施形態14から26のいずれか一項に記載の方法。
【0067】
28.前記S1P受容体モジュレーターが、モクラビモド、または薬学的に許容されるその塩もしくはそのリン酸誘導体であり、前記モクラビモドが固体剤形として配合され、前記固体剤形が、
-1mg/単位のモクラビモド、または薬学的に許容されるその塩もしくはそのリン酸誘導体、
-好ましくは48~88mg/単位の含有量、より好ましくは58~78mg/単位、さらにより好ましくは約68mg/単位の含有量のマンニトール、
-好ましくは5~45mg/単位の含有量、より好ましくは15~35mg/単位、さらにより好ましくは約25mg/単位の含有量の微結晶セルロース、
-好ましくは1~8mg/単位の含有量、より好ましくは2~6mg/単位、さらにより好ましくは約4mg/単位の含有量のデンプングリコール酸ナトリウム、
-好ましくは0.025~4mg/単位の含有量、より好ましくは0.5~2mg/単位、さらにより好ましくは約1mg/単位の含有量のステアリン酸マグネシウム、および
-好ましくは0.125~2mg/単位の含有量、より好ましくは0.25~1mg/単位、さらにより好ましくは約0.5mg/単位の含有量のコロイド状二酸化ケイ素
を含む、実施形態14から27のいずれか一項に記載の方法。
【0068】
29.前記S1P受容体モジュレーターを、好ましくはCAR細胞を含む前記組成物を投与する1~20日前、より好ましくは前記免疫細胞を投与する11日前の開始日から、少なくとも1、2、3カ月間、またはそれより長く、毎日投与する、実施形態14から28のいずれか一項に記載の方法。
【0069】
30.前記血液悪性腫瘍が白血病および/またはリンパ腫である、実施形態14から29のいずれか一項に記載の方法。
【0070】
31.前記血液悪性腫瘍が、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性リンパ性白血病ALL、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、マントル細胞リンパ腫(MCL)、縦隔原発B細胞性大細胞型リンパ腫(PMBCL)、または多発性骨髄腫、好ましくはALL、DLBCL、PMBCL、およびMCL、より好ましくはDLBCLからなる群から選択される、実施形態14から30のいずれか一項に記載の方法。
【0071】
32.前記1つまたは複数の免疫抑制剤が、シクロスポリンA、シロリムス、タクロリムス、メトトレキサート、およびミコフェノレート(mycophenolate)、好ましくはシクロスポリンA、またはシクロスポリンAとメトトレキサートとの組合せからなる群から選択される、実施形態14から31のいずれか一項に記載の方法。
【0072】
33.前記S1P受容体モジュレーターを、CAR細胞が髄を去ることを防止する、ならびに/またはCAR細胞の生着および持続を促進する、ならびに/またはCAR細胞療法の有効性を増加させるために十分な量で投与する、実施形態14から32のいずれか一項に記載の方法。
【0073】
34.前記S1P受容体モジュレーターを、CAR細胞を受けている対象において、サイトカイン放出症候群、特に全身性サイトカイン放出症候群の危険性を低下させるために十分な量で投与する、実施形態14から33のいずれか一項に記載の方法。
【0074】
35.前記CAR細胞のドナー対象がレシピエント対象である、実施形態14から34のいずれか一項に記載の方法。
【0075】
36.前記CAR細胞のドナー対象がレシピエント対象ではない、実施形態14から34のいずれか一項に記載の方法。
【0076】
37.前記S1P受容体モジュレーターを、GVHDの危険性を低下させるために十分な量で投与する、実施形態36に記載の方法。
【0077】
38.S1P受容体モジュレーターを、神経炎症、たとえば免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)の危険性を低下させるために十分な量で投与する、実施形態14から36のいずれか一項に記載の方法。
【0078】
39.それを必要としている対象において、CAR細胞療法(たとえば抗CD19療法)でのサイトカイン放出症候群(CRS)および/またはマクロファージ活性化症候群(MAS)および/または免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)を防止する方法であって、S1P受容体モジュレーター(たとえばモクラビモド)を、CAR細胞療法と組み合わせて、対象に投与し、それによって、対象においてCRSおよび/またはMASおよび/またはICANSを防止することを含む方法。
【0079】
40.それを必要としている対象において、CAR療法(たとえば抗CD19療法)の抗腫瘍有効性を増加させる方法であって、有効量のS1P受容体モジュレーター(たとえばモクラビモド)を、CAR細胞療法と組み合わせて、対象に投与し、それによってCAR発現細胞を活性化させるおよび/またはがん細胞を直接殺滅し、したがって、前記CAR療法の抗腫瘍有効性を増加させることを含む方法。
【0080】
41.前記CAR細胞療法が、CAR-T細胞療法、好ましくは抗CD19CAR-T細胞療法である、実施形態39または40に記載の方法。
【0081】
42.
1)白血球除去を実施することによって、免疫細胞、たとえば免疫T細胞をドナー対象から収集するステップ、
2)ドナー対象の免疫細胞を、がん関連抗原と結合するキメラ抗原受容体(CAR)分子を発現するように、ex vivoで遺伝子改変させ、それによってCAR細胞組成物を得るステップ、
3)たとえば、前記レシピエント対象を有効量のリンパ枯渇化学療法剤で処置することによって、または全身照射を行うことによって、前記レシピエント対象をコンディショニングするステップ、
4)治療上効率的な量のステップ2)で得られた前記CAR細胞を含む組成物を、前記レシピエント対象に投与するステップ、
5)レシピエント対象に、有効量のS1P受容体モジュレーター、好ましくはモクラビモド、または薬学的に許容されるその塩もしくはそのリン酸誘導体を投与するステップ、
6)任意選択で、レシピエント対象に、有効量の1つまたは複数の免疫抑制剤を投与するステップ
を含む、実施形態39から41のいずれか一項に記載の方法。
【0082】
43.前記リンパ枯渇化学療法剤が、メルファラン、シタラビン、エトポシド、ブスルファン、ベンダムスチン、シクロホスファミド、フルダラビン、デキサメタゾン、およびアレムツズマブ、ならびにフルダラビン/シクロホスファミド、シタラビン/エトポシドの組合せ投与などのその組合せからなる群から選択される、実施形態42に記載の方法。
【0083】
44.ステップ3)のコンディショニングレジメンが、
-フルダラビンおよびシクロホスファミドの投与、または
-シタラビンおよびエトポシドの投与、または
-ベンダムスチンの投与
からなる、実施形態42に記載の方法。
【0084】
45.前記S1P受容体モジュレーターが、モクラビモド、シポニモド、フィンゴリモド、オザニモド、ポネシモド、エトラシモド、AKP-11、セネリモド、アミセリモド、CBP-307、OPL-307、OPL-002、BMS-986166、SCD-044、BOS-173717、CP-1050、好ましくはモクラビモドから選択される、実施形態39から44のいずれか一項に記載の方法。
【0085】
46.前記S1P受容体モジュレーターがS1P受容体アゴニストである、実施形態45に記載の方法。
【0086】
47.S1P受容体アゴニストが、以下の式(I)または(II)または(IIa)または(IIb)のもの:
【0087】
【化9】
[式中、
は、H、ハロゲン、トリハロメチル、C1~4アルコキシ、C1~7アルキル、フェネチル、もしくはベンジルオキシであり、
は、H、ハロゲン、CF、OH、C1~7アルキル、C1~4アルコキシ、ベンジルオキシ、フェニル、もしくはC1~4アルコキシメチルであり、
およびRのそれぞれは、独立して、Hもしくは式(a)の残基:
【0088】
【化10】
[式中、RおよびRのそれぞれは、独立して、H、もしくはハロゲンによって任意選択で置換されたC1~4アルキルであり、
nは1~4の整数である]であり、
は、水素、ハロゲン、C1~7アルキル、C1~4アルコキシ、もしくはトリフルオロメチルである]、
または、
【0089】
【化11】
もしくは薬学的に許容されるその塩、
または、
【0090】
【化12】
である、実施形態46に記載の方法。
【0091】
48.S1P受容体モジュレーターが、モクラビモド、または薬学的に許容されるその塩もしくはそのリン酸誘導体である、実施形態39から47のいずれか一項に記載の方法。
【0092】
49.前記S1P受容体モジュレーターを、1日あたり0.05mg~40mg、好ましくは0.1mg~35mg、より好ましくは0.5mg~30mg、さらにより好ましくは1mg~15mg、さらにより好ましくは1.5mg~7mg、さらにより好ましくは2mg~5mg、さらにより好ましくは約3mgまたは約1mgの投薬量で投与する、実施形態39から48のいずれか一項に記載の方法。
【0093】
50.前記S1P受容体モジュレーターが、モクラビモド、または薬学的に許容されるその塩もしくはそのリン酸誘導体であり、前記モクラビモドが固体剤形として配合され、前記固体剤形が、
-好ましくは48~88mg/単位の含有量、より好ましくは58~78mg/単位、さらにより好ましくは約68mg/単位の含有量のマンニトール、
-好ましくは5~45mg/単位の含有量、より好ましくは15~35mg/単位、さらにより好ましくは約25mg/単位の含有量の微結晶セルロース、
-好ましくは1~8mg/単位の含有量、より好ましくは2~6mg/単位、さらにより好ましくは約4mg/単位の含有量のデンプングリコール酸ナトリウム、
-好ましくは0.025~4mg/単位の含有量、より好ましくは0.5~2mg/単位、さらにより好ましくは約1mg/単位の含有量のステアリン酸マグネシウム、および
-好ましくは0.125~2mg/単位の含有量、より好ましくは0.25~1mg/単位、さらにより好ましくは約0.5mg/単位の含有量のコロイド状二酸化ケイ素
を含む、実施形態39から49のいずれか一項に記載の方法。
【0094】
51.前記S1P受容体モジュレーターを、好ましくはCAR細胞を含む前記組成物を投与する1~20日前、より好ましくは前記免疫細胞を投与する11日前の開始日から、少なくとも1、2、3カ月間、またはそれより長く、毎日投与する、実施形態39から50のいずれか一項に記載の方法。
【0095】
52.CAR細胞、好ましくはCAR-T細胞、より好ましくは抗CD19CAR-T細胞を、0.1×10~6×10個のCAR陽性生免疫細胞/体重1kgの投薬量で投与する、実施形態39から51のいずれか一項に記載の方法。
【0096】
53.CAR細胞、好ましくはCAR-T細胞、より好ましくは抗CD19CAR-T細胞を、リンパ枯渇化学療法の完了の2~14日後に投与する、実施形態39から52のいずれか一項に記載の方法。
【0097】
54.前記がん関連抗原が、CD19、CD123、CD20、CD22、CD30、CD33、CD38、LeY、ROR1、CLL-1、BCMAからなる群から選択される、実施形態39から53のいずれか一項に記載の方法。
【0098】
55.CAR細胞療法を必要としている前記対象が血液悪性腫瘍を患っている対象であり、血液悪性腫瘍が、白血病および/またはリンパ腫、たとえば、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性リンパ性白血病ALL、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、マントル細胞リンパ腫(MCL)、縦隔原発B細胞性大細胞型リンパ腫(PMBCL)、または多発性骨髄腫、好ましくはALL、DLBCL、PMBCL、およびMCL、より好ましくはDLBCLからなる群から選択される血液悪性腫瘍である、実施形態39から54のいずれか一項に記載の方法。
【0099】
56.それを必要としている対象において、CAR細胞療法(たとえば抗CD19療法)でのサイトカイン放出症候群(CRS)および/またはマクロファージ活性化症候群(MAS)および/または免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)の防止において使用するための、S1P受容体モジュレーターであって、使用が、S1P受容体モジュレーター(たとえばモクラビモド)を、CAR細胞療法と組み合わせて、対象に投与し、それによって、対象においてCRSおよび/またはMASおよび/またはICANSを防止することを含む、S1P受容体モジュレーター。
【0100】
57.それを必要としている対象において、CAR細胞療法(たとえば抗CD19療法)の有効性を増加させることにおいて使用するための、S1P受容体モジュレーターであって、使用が、S1P受容体モジュレーター(たとえばモクラビモド)を、CAR細胞療法と組み合わせて、対象に投与し、それによって、CAR細胞を活性化させるおよび/またはがん細胞を直接殺滅し、したがって抗腫瘍効果を増加させることを含む、S1P受容体モジュレーター。
【0101】
58.前記CAR細胞が、がん関連抗原と結合するキメラ抗原受容体分子を発現する免疫細胞、好ましくはT細胞であり、治療上有効な量のCAR細胞組成物を、治療上有効な量のS1P受容体モジュレーターと組み合わせて投与するそれを必要としている対象において、血液悪性腫瘍を処置するための医薬品の製造のための、CAR細胞組成物の使用。
【0102】
59.前記がん関連抗原が、CD19、CD123、CD20、CD22、CD30、CD33、CD38、LeY、ROR1、CLL-1、BCMA、およびその組合せからなる群、好ましくはCD19から選択される、実施形態58に記載の使用。
【0103】
60.前記S1P受容体モジュレーターが、モクラビモド、シポニモド、フィンゴリモド、オザニモド、ポネシモド、エトラシモド、AKP-11、セネリモド、アミセリモド、CBP-307、OPL-307、OPL-002、BMS-986166、SCD-044、BOS-173717、CP-1050、好ましくはモクラビモドから選択される、実施形態58または59に記載の使用。
【0104】
61.前記S1P受容体モジュレーターがS1P受容体アゴニストである、実施形態60に記載の使用。
【0105】
62.S1P受容体アゴニストが、以下の式(I)または(II)または(IIa)または(IIb)のもの:
【0106】
【化13】
[式中、
は、H、ハロゲン、トリハロメチル、C1~4アルコキシ、C1~7アルキル、フェネチル、もしくはベンジルオキシであり、
は、H、ハロゲン、CF、OH、C1~7アルキル、C1~4アルコキシ、ベンジルオキシ、フェニル、もしくはC1~4アルコキシメチルであり、
およびRのそれぞれは、独立して、Hもしくは式(a)の残基:
【0107】
【化14】
[式中、RおよびRのそれぞれは、独立して、H、もしくはハロゲンによって任意選択で置換されたC1~4アルキルであり、
nは1~4の整数である]であり、
は、水素、ハロゲン、C1~7アルキル、C1~4アルコキシ、もしくはトリフルオロメチルである]、
または、
【0108】
【化15】
もしくは薬学的に許容されるその塩
または、
【0109】
【化16】
である、実施形態60または61に記載の使用。
【0110】
63.S1P受容体アゴニストが、モクラビモド、または薬学的に許容されるその塩もしくはそのリン酸誘導体である、実施形態58から62のいずれか一項に記載の使用。
【0111】
64.前記血液悪性腫瘍が白血病および/またはリンパ腫である、実施形態58から63のいずれか一項に記載の使用。
【0112】
65.前記血液悪性腫瘍が、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性リンパ性白血病(ALL)、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、マントル細胞リンパ腫(MCL)、縦隔原発B細胞性大細胞型リンパ腫(PMBCL)、または多発性骨髄腫、好ましくはALL、DLBCL、PMBCL、およびMCL、より好ましくはDLBCLからなる群から選択される、実施形態58から64のいずれか一項に記載の使用。
【0113】
66.効率的な量のCAR細胞、好ましくはCAR-T細胞を、0.1×10~6×10個のCAR陽性生免疫細胞/体重1kgの投薬量で投与する、実施形態58から65のいずれか一項に記載の使用。
【0114】
67.前記CAR細胞、好ましくはCAR-T細胞を、リンパ枯渇化学療法の完了の2~14日後に投与する、実施形態58から66のいずれか一項に記載の使用。
【0115】
68.前記S1P受容体モジュレーターを、1日あたり0.05mg~40mg、好ましくは0.1mg~35mg、より好ましくは0.5mg~30mg、さらにより好ましくは1mg~15mg、さらにより好ましくは1.5mg~7mg、さらにより好ましくは2mg~5mg、さらにより好ましくは約3mgまたは約1mgの投薬量で投与する、実施形態58から67のいずれか一項に記載の使用。
【0116】
69.前記S1P受容体モジュレーターを、好ましくはCAR細胞を含む前記組成物を投与する1~20日前、より好ましくはCAR細胞投与の11日前の開始日から、少なくとも1、2、もしくは3カ月間、またはそれより長くの間、毎日投与する、実施形態58から68のいずれか一項に記載の使用。
【0117】
70.前記S1P受容体モジュレーターを、CAR細胞が骨髄を去ることを防止する、ならびに/またはCAR細胞の生着および持続を促進する、ならびに/またはCAR細胞療法の有効性を増加させるために十分な量で投与する、実施形態58から69のいずれか一項に記載の使用。
【0118】
71.S1P受容体モジュレーター(たとえばモクラビモド)、または薬学的に許容されるその塩もしくはそのリン酸誘導体を、CAR細胞療法と組み合わせて、対象に投与し、それによって、対象においてCRSおよび/またはMASおよび/またはICANSを防止することを含む、それを必要としている対象において、CAR細胞療法(たとえば抗CD19CAR-T細胞療法)、好ましくは自己または同系のCAR細胞療法でのサイトカイン放出症候群(CRS)および/またはマクロファージ活性化症候群(MAS)および/または免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)を防止するための医薬品の製造のための、S1P受容体モジュレーターの使用。
【0119】
72.CAR細胞療法が自己またはアロジェネイックCAR-T細胞療法である、実施形態72に記載の使用。
【発明を実施するための形態】
【0120】
詳細な説明
本開示は、それを必要としている対象において、血液悪性腫瘍を処置する方法であって、前記対象に、治療上有効な量のCAR細胞組成物を、治療上有効な量のS1P受容体モジュレーターと組み合わせて投与することを含む、方法を含む。
【0121】
本開示は、それを必要としている対象において、血液悪性腫瘍の処置において使用するためのCAR細胞組成物であって、前記CAR細胞が、がん関連抗原(たとえばCD19)と結合するキメラ抗原受容体分子を発現する免疫細胞、たとえばT細胞であり、治療上有効な量のCAR細胞組成物を、治療上有効な量のS1P受容体モジュレーターと組み合わせて投与する、CAR細胞組成物に関する。
【0122】
本開示はまた、治療上有効な量のCAR細胞組成物を、治療上有効な量のS1P受容体モジュレーターと組み合わせて投与する、それを必要としている対象において血液悪性腫瘍を処置するための医薬品の製造のための、CAR細胞組成物の使用にも関する。
【0123】
本開示はまた、治療上有効な量のCAR細胞組成物を、治療上有効な量のS1P受容体モジュレーターと組み合わせて投与する、それを必要としている対象において、血液悪性腫瘍を処置するための医薬組成物の調製における、CAR細胞組成物の使用にも関する。
【0124】
一般定義
別段に定義しない限りは、本明細書中で使用するすべての技術用語および科学用語は、本発明の属する分野の技術者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
【0125】
本明細書中で使用する「モジュレーター」とは、対象に投与した場合に、化合物が受容体自体に直接作用することによって、または化合物の代謝物が受容体に作用することによってのいずれかで、標的受容体との所望の相互作用をもたらす化合物である。対象に投与した際、S1P受容体モジュレーター、好ましくはモクラビモド(KRP203とも呼ばれる)は、受容体を活性化または阻害または下方変調することのいずれかによってS1P受容体と相互作用し、破壊されたシグナル伝達をもたらす。
【0126】
本明細書中で使用する「S1Pアゴニスト」とは、S1P受容体と組み合わせた場合に生理的応答を開始する化合物をいう。好ましくは、開始される生理的応答は、S1P受容体のアゴニスト誘導性の内部移行(internalization)である。細胞膜からのアゴニスト誘導性内部移行の動力学、および前記化合物脱粒後の、S1P受容体の細胞膜への再循環は、化合物に依存する。そのようなS1P受容体アゴニストは、機能的アンタゴニストとも呼び得る。内部移行の持続は、アゴニストの「機能的アンタゴニズム」特性をコンディショニングする。
【0127】
用語「薬学的に許容されるその塩」は、酸および塩基付加塩をどちらも含む。薬学的に許容される酸付加塩の非限定的な例としては、塩化物、塩酸塩、臭化物、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、スルホン酸塩、メタンスルホン酸塩、ギ酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩、クエン酸塩、安息香酸塩、サリチル酸塩、およびアスコルビン酸塩が挙げられる。薬学的に許容される塩基付加塩の非限定的な例としては、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム(置換および非置換)、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅、マンガン、およびアルミニウム塩が挙げられる。薬学的に許容される塩は、たとえば、製薬分野において周知の標準手順を使用して得られ得る。モクラビモドはそれ自体が塩基であるため、モクラビモドでは、薬学的に許容される塩は典型的には酸付加塩となるであろう。好ましくは、薬学的に許容されるその塩は塩酸塩である。
【0128】
用語「そのリン酸誘導体」は、式IIaまたはIIbなどのリン酸エステルを含む。
【0129】
本明細書中で使用する用語「賦形剤」とは、原薬と共に加え、配合混合物の一部である、不活性物質をいう。薬学的に許容される賦形剤は、たとえば、充填剤、溶媒、希釈剤、担体、補助剤、分配剤および感覚剤(sensing agent)、送達剤、たとえば、保存料、崩壊剤、湿潤剤、乳化剤、懸濁剤、増粘剤、甘味料、香味料、着香剤、抗菌剤、殺真菌剤、潤滑剤、および持続性送達制御剤、抗酸化剤、流動促進剤である。それらの選択および適切な割合は、投与の性質および方法ならびに投薬量に依存する。
【0130】
本明細書中において「平均粒径」とは、粒子の50%が示した値以下の大きさを有するという意味のD50をいう。たとえば、8μm以下の平均粒径とは、8μmのD50をいい、すなわち、粒子の50%が8μm以下の粒径を有する。用語D90とは、粒子の90%が示した値以下の粒径を有することを意味する。たとえば、25μm以下のD90とは、粒子の90%が25μm以下の粒径を有することを意味する。D50およびD90は、液体経路を使用したレーザー光回折によって、たとえば、その小体積分散モジュール(液体経路)を備えたBECKMAN-COULTERレーザー回折粒径分析器LS230上で、技術マニュアルおよび製造者の指示に従って決定する。
【0131】
用語「サイトカイン放出症候群」(CRS)とは、CAR細胞療法に関連する顕著な合併症をいい、これは、臨床症状の範囲および相当であるが一過性の血清サイトカインの上昇を特徴とする急性炎症プロセスである。ほとんどの患者では、CRSはCAR-T細胞輸液の1~14日後に起こり、輸液の17日後より後ではめったに発生しない。データは、CAR-T細胞関連CRSが、T細胞と標的抗原との結合、続いて増殖および機能的応答に依存することを示唆している。CRSに影響を与える他の要因としては、疾患の種類、性質、およびリンパ球枯渇の度合、ならびに場合によってはCARの設計を挙げ得る。CRSはT細胞と標的抗原との結合と関連しているため、これは抗CD19療法のみに限定されない。CRSは、CD22標的化CAR-T細胞を受けた、r/r ALLを有する評価可能な小児または若年成人患者の7人のうち4人(57%)で観察された。さらに、CRSは、CD19を標的とするCAR-T細胞またはB細胞成熟抗原(BCMA)を受けた、多発性骨髄腫(MM)を有する患者において観察されている。ペンシルバニア大学によって開発されたCRSグレード付けスケールが好ましい(D. Porter et al., J Hematol Oncol. 2018; 11: 35)。
【0132】
用語「重篤でないCRS」と対比した用語「重篤なCRS」とは、グレード3または4のCRSをいう。重篤なグレード3のCRSとは、CRSに関連するグレード4のLFTまたはグレード3のクレアチニンを含み、他のどの状態にも起因しない、臓器不全に関連する症状の管理に必要な入院をいい、これは、静脈内輸液(血圧支持のための複数の輸液ボーラスとして定義される)または低用量昇圧剤で処置する低血圧、新鮮凍結血漿または寒冷沈降物またはフィブリノーゲン濃縮物を必要とする凝血異常、および酸素供給(経鼻カニューレ酸素、高流量酸素、CPAP、またはBiPAP)を必要とする低酸素症を含む。重篤なグレード4のCRSは、高用量昇圧剤を必要とする低血圧、人工呼吸を必要とする低酸素症などの、生命を危うくする合併症をカバーする。
【0133】
用語「マクロファージ活性化症候群」(MAS)とは、生命を危うくする場合がある、CAR細胞で処置した患者において観察されるMAS様症状をいう。MASは、時折、続発性血球貪食性リンパ組織球症(HLH)と同義であり、リウマチ専門家によって、全身性若年性特発性関節炎(sJIA)およびその成人相当である成人発症スチル病において最も一般的に見られる、全身性炎症性障害の生命を危うくする合併症を説明するために使用される用語である。従来のMASの定義は、リンパ球枯渇およびCRSとの重複する兆候および症状が原因で、CAR-T細胞を受けている患者に適用するには問題があった。しかし、発熱およびC反応性タンパク質(CRP)の上昇によって特徴づけられるCRS症状が最初に発生し、その後、フィブリノーゲンの減少、フェリチンおよび乳酸脱水素酵素の迅速な上昇によって特徴づけられるMAS(またはMAS様症状)がCRSの後に発生し得る。
【0134】
用語「キメラ抗原受容体」あるいは「CAR」とは、人工細胞受容体、たとえば、Tボディ受容体、単鎖免疫受容体、キメラT細胞受容体、またはキメラ免疫受容体をいい、人工特異性を特定の免疫エフェクター細胞上に移植する、操作した受容体を包含する。CARは、モノクローナル抗体の特異性をT細胞に与え、それによって、たとえば養子細胞療法において使用するための、多数の特異的なT細胞を作製することを可能にするために用い得る。具体的な実施形態では、CARは、細胞の特異性を、たとえば腫瘍関連抗原に向かわせる。一部の実施形態では、CARは、細胞内活性化ドメイン(標的化部分の、標的腫瘍細胞などの標的細胞との結合の際に、T細胞を活性化することを可能にする)、膜貫通ドメイン、および、長さが様々であり、疾患または障害関連のたとえば腫瘍-抗原結合領域を含む、細胞外ドメインを含む。特定の態様では、CARは、CD3-ゼータ、膜貫通ドメイン、および内部ドメインと融合した、モノクローナル抗体に由来する単鎖可変断片(scFv)の融合体を含む。他のCAR設計の特異性は、受容体(たとえばペプチド)のリガンド、またはデクチンなどのパターン認識受容体に由来し得る。特定の事例では、抗原認識ドメインの間隔を改変して、活性化誘導性細胞死を減らすことができる。特定の事例では、CARは、CD3ζ、FcR、CD27、CD28、CD137、DAP10/12、および/またはOX40、ICOS、TLR(たとえばTLR2)などの、追加の共刺激シグナル伝達のドメインを含む。一部の事例では、共刺激分子、イメージング用(たとえば陽電子放射断層撮影用)のレポーター遺伝子、プロドラッグを添加した際にT細胞を条件的に切断する遺伝子産物、ホーミング受容体、ケモカイン、ケモカイン受容体、サイトカイン、およびサイトカイン受容体を含む分子を、CARと同時発現させることができる。さらに、当業者は、共刺激ドメインは、遺伝子の完全長ヌクレオチド配列のみによってコードされている必要はないことを理解されよう。本発明が、それだけには限定されないが、複数の遺伝子の部分的ヌクレオチド配列の使用を含み、これらのヌクレオチド配列が様々な組合せで配置されて所望の免疫応答を誘発することは、容易に明らかである。
【0135】
本明細書中で使用する用語「抗腫瘍効果」とは、腫瘍体積の減少、腫瘍細胞数の減少、転移の数の減少、平均余命の増加、またはがん性状態に関連する様々な生理的症状の軽快によって顕在化し得る生物学的効果をいう。
【0136】
用語「抗原」または「Ag」とは、免疫応答を誘発する分子をいう。この免疫応答は、抗体の産生もしくは特異的な免疫学的にコンピテントな細胞の活性化のいずれか、または両方に関与し得る。当業者は、事実上すべてのタンパク質またはペプチドを含む任意の高分子が抗原として役割を果たすことができることを、理解されよう。
【0137】
用語「がん関連抗原」または「腫瘍抗原」または「増殖性障害抗原」または「増殖性障害に関連する抗原」とは、互換性があるように、がん細胞の表面上に、全体でまたは断片(たとえばMHC/ペプチド)としてのどちらかで発現され、薬理学的剤をがん細胞に標的化するために有用である分子(典型的にはタンパク質、炭水化物、または脂質)をいう。一部の実施形態では、抗原腫瘍は、がん細胞のみ上で見つかり、健康な細胞上では見つからない腫瘍特異的抗原(TSA)、または、腫瘍細胞上で上昇したレベルを有するが、健康な細胞上でもより低いレベルで発現される腫瘍関連抗原(TAA)である。興味深いTSAは、特異的な新規がん突然変異であるネオアンチゲンである。他の興味深いTAAは、MHC系(MHCペプチド抗原)によって細胞表面上に露出される細胞内標的であり、血液学的がんに関連するそのような細胞内TAAは、たとえば、WT1、MAGE-4、チロシナーゼ、PRAME、およびサバイビンである。
【0138】
一部の実施形態では、腫瘍抗原は、正常細胞およびにがん細胞のどちらによっても発現されるマーカーであり、たとえば、系統マーカー、たとえばB細胞上のCD19である。特定の態様では、本発明の腫瘍抗原は、それだけには限定されないが、白血病、リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性リンパ性白血病ALL、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、マントル細胞リンパ腫(MCL)、縦隔原発B細胞性大細胞型リンパ腫(PMBCL)、または多発性骨髄腫、好ましくはALL、DLBCL、PMBCL、およびMCLを含むがんに由来する。
【0139】
一部の実施形態では、腫瘍抗原とは、特定の増殖性障害に共通する抗原である。
【0140】
一部の実施形態では、がん関連抗原とは、正常細胞と比較してがん細胞中で過剰発現される、たとえば、正常細胞と比較して1倍過剰発現、2倍過剰発現、3倍過剰発現、またはより多い、細胞表面分子である。
【0141】
一部の実施形態では、がん関連抗原とは、がん細胞中で不適切に合成される細胞表面分子、たとえば、正常細胞上で発現される分子と比較して欠失、付加、または突然変異を含有する分子である。一部の実施形態では、がん関連抗原は、がん細胞の細胞表面上に、全体でまたは断片(たとえばMHC/ペプチド)として排他的に発現され、正常細胞の表面上では合成または発現されない。一部の実施形態では、本開示のCARは、MHCを提示したペプチドと結合する抗原結合ドメイン(たとえば抗体または抗体断片)を含むTCR様CARを含む。通常、内在性タンパク質に由来するペプチドは、主要組織適合複合体(MHC)クラスI分子のポケットを満たし、CD8+Tリンパ球上のT細胞受容体(TCR)によって認識される。MHCクラスI複合体は、すべての有核細胞によって構成的に発現される。がんでは、ウイルスに特異的および/または腫瘍に特異的なペプチド/MHC複合体が、免疫療法のためのユニークな細胞表面標的のクラスを表す。
【0142】
典型的にはscFvまたは操作したT細胞受容体を介して、CARによって標的とすることができる好ましいがん関連抗原またはがん関連抗原の組合せの例としては、CD4、CD5、CD7、CD19、CD19/CD20、CD19/CD22;CD20、CD22、CD20/CD22、CD30、CD33、CD37、CD38、CD39、CD70;CD123、CD44v6(アイソフォーム変異体6)、CD123/CLL1、BCMA CD38/BCMA、CD19/BCMA、CD56、CD138、LeY、ROR1、SLAMF7、nFLT3、LMP1、BCMA/TACI、CS1、GPRC5D、CS1/BCMA、NKG2D、CLL-1、GD2、MCSP、CD5、NKG2Dリガンド、MHCペプチド抗原が挙げられる。より好ましくは、前記がん関連抗原またはがん関連抗原の組合せは、CD19、CD123、CD20、CD22、CD30、CD33、CD38、LeY、ROR1、CLL-1、BCMA、GD2、MCSP、CD5、NKG2D、MHCペプチド抗原、またはその組合せ、好ましくはCD19からなる群から選択される。
【0143】
本明細書中で使用する「CAR細胞」とは、CARを発現する細胞をいい、CAR細胞組成物とは、CAR細胞またはCAR細胞の集団を含む組成物をいう。一部の実施形態では、CARを発現する細胞は、T細胞、B細胞、マクロファージ細胞、樹状細胞、またはNK細胞であり得る。治療上効率的な量のCAR細胞組成物を投与することを含む治療は、本明細書中でCAR細胞療法と呼ぶ。用語「刺激」とは、刺激分子(たとえばTCR/CD3複合体またはCAR)とその同族リガンド(または、CARの場合は腫瘍抗原)との結合によって誘導され、それによって、シグナル伝達事象、たとえば、それだけには限定されないが、TCR/CD3複合体を介したシグナル伝達、または適切なNK受容体もしくはCARのシグナル伝達ドメインを介したシグナル伝達を媒介する、一次応答をいう。刺激は、特定の分子の発現の改変を媒介することができる。
【0144】
本明細書中で使用する「CAR細胞活性化」とは、CAR細胞における1つまたは複数の活性化マーカーの細胞または細胞内発現の有意な増加によって検出される、CAR細胞の活性化をいい、これは一般に、CAR細胞の殺滅活性の増加をもたらす。CAR-T細胞活性化は、たとえば、以下のマーカー、すなわち、表面PD1、細胞内グランザイムB、および表面CD69のうちの1つまたは複数の有意に増加した発現によって検出し得る。
【0145】
用語「T細胞」(または「T-細胞」もしくは「免疫T細胞」)とは、胸腺中で成熟するリンパ球の一種をいう。T細胞は、細胞媒介性免疫において重要な役割を果たし、細胞表面上のT細胞受容体の存在によってB細胞などの他のリンパ球とは区別される。T細胞は、単離するか、または商業的供給者から得るかのどちらかであり得る。「T細胞」としては、T-ヘルパー細胞(CD4+細胞)、細胞毒性があるT細胞(CD8+細胞)、ナチュラルキラーT細胞、T-調節細胞(Treg)、およびガンマ-デルタT細胞を含む、CD3を発現するすべての種類の免疫細胞が挙げられる。「細胞毒性がある細胞」としては、CD8+T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、および好中球が挙げられ、これらの細胞は細胞毒性応答を媒介することができる。市販されているT細胞系の非限定的な例としては、BCL2(AAA)ジャーカット(ATCC(登録商標)CRL-2902(商標))、BCL2(S70A)ジャーカット(ATCC(登録商標)CRL-2900(商標))、BCL2(S87A)ジャーカット(ATCC(登録商標)CRL-2901(商標))、BCL2ジャーカット(ATCC(登録商標)CRL-2899(商標))、ネオジャーカット(ATCC(登録商標)CRL-2898(商標))、TALL-104細胞毒性ヒトT細胞系(ATCC#CRL-11386)の系統が挙げられる。さらなる例としては、それだけには限定されないが、成熟T細胞系、たとえば、Deglis、EBT-8、HPB-MLp-W、HUT 78、HUT 102、Karpas 384、Ki 225、My-La、Se-Ax、SKW-3、SMZ-1およびT34;ならびに未成熟T細胞系、たとえば、ALL-SIL、Be13、CCRF-CEM、CML-T1、DND-41、DU.528、EU-9、HD-Mar、HPB-ALL、H-SB2、HT-1、JK-T1、ジャーカット、Karpas 45、KE-37、KOPT-K1、K-Tl、L-KAW、Loucy、MAT、MOLT-1、MOLT 3、MOLT-4、MOLT 13、MOLT- 16、MT-1、MT-ALL,P12/Ichikawa、Peer、PER0117、PER-255、PF-382、PFI-285、RPMI-8402、ST-4、SUP-T1~T14、TALL-1、T ALL-101、TALL-103/2、TALL-104、TALL-105、TALL-106、TALL-107、T ALL-197、TK-6、TLBR-1、-2、-3、および-4、CCRF-HSB-2(CCL-120.1)、J.RT3-T3.5(ATCC TIB-153)、J45.01(ATCC CRL-1990)、J.CaMl.6(ATCC CRL-2063)、RS4;11(ATCC CRL- 1873)、CCRF-CEM(ATCC CRM-CCL-119);ならびに皮膚T細胞リンパ腫系、たとえば、HuT78(ATCC CRM-TIB-161)、MJ[G11](ATCC CRL-8294)、HuT102(ATCC TIB-162)などが挙げられる。それだけには限定されないが、REH、NALL-1、KM-3、L92-221を含むヌル白血病細胞系は、免疫細胞の別の商業的供給者であり、他の白血病およびリンパ腫に由来する細胞系、たとえば、K562赤白血病、THP-1単球性白血病、U937リンパ腫、HEL赤白血病、HL60白血病、HMC-1白血病、KG-1白血病、U266骨髄腫もそうである。そのような市販されている細胞系の非限定的な例示的な供給源としては、American Type Cultureが挙げられる。
【0146】
用語「T-reg」または「Treg」とは、免疫抑制機能を有するT細胞をいう。本明細書中で使用するT細胞とは、任意の種類のT細胞、たとえば、アルファベータT細胞(たとえばCD8またはCD4+)、ガンマデルタT細胞、メモリーT細胞、Treg細胞などを含むリンパ球である。適切には、免疫抑制機能とは、病原体、同種抗原、または自己抗原などの刺激に応答して免疫系によって亢進される、いくつかの生理的および細胞性効果のうちの1つまたは複数を低下させるまたは阻害する、Tregの能力をいい得る。そのような効果の例としては、慣用T細胞(Tconv)の増殖および炎症誘発性サイトカインの分泌の増加が挙げられる。任意のそのような効果を免疫応答の強度の指標として使用し得る。Tregの存在における、Tconvによる比較的より弱い免疫応答が、免疫応答を抑制するTregの能力を示すであろう。たとえば、サイトカイン分泌の相対的な減少が、より弱い免疫応答を示す、したがって免疫応答を抑制するTregの能力を示すであろう。Tregはまた、B細胞、樹状細胞、およびマクロファージなどの抗原提示細胞(APC)上での共刺激分子の発現を変調することによって、免疫応答を抑制することもできる。CD80およびCD86の発現レベルを使用して、同時培養後のin vitroの活性化したTregの抑制効力を評価することができる。
【0147】
用語「ガンマデルタT細胞」とは、1本のγ鎖および1本のδ鎖から構成される、明確なT細胞受容体(TCR)、すなわちγδTCRをその表面上に発現する、T細胞の部分組をいう。用語「ガンマ-デルタT細胞」は、それだけには限定されないが、Vδ1およびVδ2、Vδ3γδT細胞、ならびにナイーブ、エフェクターメモリー、セントラルメモリー、および高分化γδT細胞を含む、ガンマ-デルタT細胞のすべて部分組を具体的に含む。操作したおよび操作していないγδT細胞ならびに/またはそのサブタイプを作製および使用するための組成物および方法としては、それだけには限定されないが、操作したおよび操作していないγδT細胞ならびに/またはそのサブタイプを作製および使用するための前記組成物および方法を含む、すべての目的のためにそのそれぞれの内容が参考として組み込まれている、米国特許出願公開第2016/0175358号、国際公開第2017/197347号パンフレット、米国特許第9,499,788号、米国特許出願公開第2018/0169147号、米国特許第9,907,820号、米国特許出願公開第2018/0125889号、および米国特許出願公開第2017/0196910号中に記載のものが挙げられる。本出願は、1本のγ鎖または1本のδ鎖を、任意選択で第2のポリペプチドと組み合わせて発現して、機能的TCRを形成する、T細胞、または他の操作した白血球もしくはリンパ球をさらに企図する。1本のγ鎖または1本のδ鎖を発現するそのような操作した白血球またはリンパ球は、方法において使用し得る、または本明細書中に記載の組成物中に存在し得る。
【0148】
本明細書中で使用する用語「NK細胞」は、ナチュラルキラー細胞としても知られ、骨髄を起源とし、先天性免疫系において重要な役割を果たすリンパ球の種類をいう。NK細胞は、細胞表面上の抗体および主要組織適合複合体の非存在下においても、ウイルスに感染した細胞、腫瘍細胞、または他のストレスを受けた細胞に対して迅速な免疫応答を提供する。NK細胞は、単離するか、商業的供給者から得るかのどちらかであり得る。市販のNK細胞系の非限定的な例としては、NK-92(ATCC(登録商標)CRL-2407(商標))、NK-92MI(ATCC(登録商標)CRL-2408(商標))の系が挙げられる。さらなる例としては、それだけには限定されないが、NK系であるHANK1、KHYG-1、NKL、NK-YS、NOI-90、およびYTが挙げられる。そのような市販されている細胞系の非限定的な例示的な供給源としては、アメリカ培養細胞系統保存機関(American Type Culture Collection)、またはATCC(www.atcc.org/)およびドイツ微生物細胞培養コレクション(German Collection of Microorganims and Cell Cultures)(www.dsmz.de/)が挙げられる。
【0149】
本明細書中で使用する用語「B細胞」または「Bリンパ球または当分野において一般的に使用される任意の用語は、骨髄内で成熟して、適応免疫系の液性免疫構成成分において機能するリンパ球へと発達する、リンパ球の一種をいう。B細胞は膜結合した抗体分子を生成し、これらの抗体を分泌しない。B細胞は、他の2つのクラスのリンパ球、T細胞およびナチュラルキラー細胞とは異なり、B細胞受容体(BCR)をその細胞膜上に発現する。BCRは、B細胞が抗原と結合することを可能にし、これは、それに対する抗体応答を開始する。ナイーブまたはメモリーB細胞は、抗原に応じてT細胞の助けありまたは助けなしで、抗原によって活性化され、増殖し、形質芽細胞または形質細胞として知られる抗体分泌エフェクター細胞へと分化する。さらに、B細胞は抗原を提示し、したがってプロフェッショナル抗原提示細胞(APC)と呼ばれ、サイトカインを分泌し、それによって免疫応答を変調する。これらは、腫瘍流入領域リンパ節、腫瘍関連三次リンパ系構造、および腫瘍微小環境において、抗腫瘍応答を促進するための活動的参加者として見出されているが、特異的な部分組は腫瘍促進効果が分極化されている。その一般的な性質はいくつかの利点を付与し、B細胞を、抗原特異的活性化、in vivo持続、メモリープール形成、およびタンパク質を大量に分泌する潜在性などの治療細胞プラットフォームとして魅力的にしている。CARを形質導入した白血病性B細胞が報告されており、たとえば、クラスター化された規則的な間隔の短い回文リピート(CRISPR)およびCRISPR関連タンパク質9(Cas9)誘導性のホモログに指示される修復を使用して、CAR-発現カセットをB細胞内に導入することが成功している。活性化のためのB細胞受容体(BCR)複合体の構成成分であるCD79βシグナル伝達ドメインを備えたCAR、一次ネズミB細胞中で操作して、内在性BCRに依存せずに頑強な表面発現および抗原認識を誘導することができる。したがって、B細胞は、内在性BCRシグナル伝達を活用することによって、CARに基づく治療の実現可能な担体である。CAR-B細胞は、特定のTAAを標的化することによって、腫瘍部位でのモノクローナル抗体の局所的送達を駆動するために使用することができる。これは、CAR-B細胞の、全身投与において重篤な毒性を付与する有効な治療抗体を放出するための安全かつ制御可能なビヒクルとしての可能性を導入する。あるいは、CAR-B細胞は、自己免疫疾患および予防的ワクチンの新規プラットフォームであり得る。
【0150】
本明細書中で使用する用語「マクロファージ細胞」とは、適応免疫系の恒常性を編成することができるプロフェッショナル食細胞である先天性骨髄細胞をいう。多くの固形腫瘍におけるその高い豊富さを考えると、腫瘍関連マクロファージ(TAM)はTMEにおいて特別なニッチを占有し、多くの媒介因子がその表現型をあつらえることができる。[免疫抑制性TAM(M2)は、T細胞応答の勢いを弱め、腫瘍の進行を促進する場合がある。対照的に、M1の分極化は、炎症誘発性表現型を包含し、抗腫瘍活性を保有し、それによって、免疫監視を支援するためにがんにおいてマクロファージを操作することの大きな興味をもたらしている。CARは、マクロファージに、腫瘍関連抗原(TAA)に対する応答の特異性を、腫瘍に対するエフェクター機能の増強と平行して与える。たとえば、食作用シグナル伝達を模倣するために、マクロファージを、Megf10またはFcRγのサイトゾルドメインを取り込んだCD19-CARを用いて操作することができる。その結果、これは、リンパ腫細胞の抗原特異的貪食およびトロゴサイトーシスを始動した。CD3ζ-CARマクロファージはまた、FcRγ-CARに匹敵する活性貪食も示す。したがって、向け直した抗原特異的貪食は、がん細胞の排除における空間的な制御および精度を与え、最終的には治療効果に寄与する。さらに、マクロファージは、アデノウイルスベクターを介して慣用のCARを用いて形質導入してよく、炎症誘発性M1表現型および刺激されたT細胞応答に向けて分極化され、著しい腫瘍退縮および生存延長をもたらす。
【0151】
本明細書中で使用する用語「樹状細胞」(DC)とは、ナイーブT細胞をプライミングし、メモリー応答を再活性化する、プロフェッショナル抗原提示細胞の異種部分組をいう。がんでは、DCは、リンパ器官または腫瘍微小環境において環境キューを感受し、危険シグナルの感受はDCの成熟を誘導し、免疫寛容または腫瘍特異的応答のいずれかをもたらす。重要なことに、細胞毒性があるCD8+T細胞は、より強力な抗腫瘍応答を促進するためのTAAまたはネオアンチゲンの交差提示を通じて、DCによって活性化させることができる。これらはがん免疫療法において主要な意味あいを有しており、CARは、腫瘍に対する有効な応答のためにDCを操作するための新興戦略となる。
【0152】
本明細書中で使用する用語「白血球除去」とは、ドナーまたは患者の血液をドナーまたは患者から取り出すこと、および、白血球などの選択された特定の構成成分を分離して取り出し、残りをドナーまたは患者の循環に、たとえば再帰輸血によって戻す機器に通すことによる、当分野で認識される体外プロセスをいう。
【0153】
用語「有効量」または「治療上有効な量」とは、研究者、獣医師、医師、または他の臨床家によって探求されている、細胞、組織、系、または対象の生物学的または医学的応答を誘発する組成物の量をいう。たとえば、組成物は、単一用量としてまたは一連の用量の一部としてのいずれかで対象に投与した場合に、少なくとも1つの治療効果を生じるために有効な、たとえば、処置している障害または疾患(たとえば血液がん)の兆候または症状のうちの1つまたは複数の発生を防止する、またはそれをある程度まで軽減させるために十分な、有効量のCAR細胞、好ましくは抗CD-19CAR-T細胞および/またはモクラビモドを含む。有効量は、当業者によって理解されるように、たとえば、投与経路、賦形剤の使用、および他の活性薬剤との同時使用に応じて変動する。特定の疾患または状態の処置の事例では、所望の治療効果は疾患の進行を阻害することである。これは、疾患の進行を一時的に遅くすることのみに関与し得るが、より好ましくは、これは疾患の進行を永久に停止させることを含む。これは、ルーチン的方法によってモニタリングすることができる、または、本明細書中に記述した診断方法に従ってモニタリングすることができる。疾患または状態の処置に対する所望の応答は、発症を遅延させること、または疾患もしくは状態の発症を防止することでさえあることもできる。投与するCAR細胞を含む組成物の正確な量は、医師によって、年齢、体重、腫瘍の大きさ、感染症または転移の程度、および患者(対象)の状態の個々の相違を考慮して決定することができる。他の実施形態では、S1P受容体モジュレーターに言及する場合、有効量のS1P受容体モジュレーター(モクラビモドなど)とは、in vivo、in vitro、もしくはex vivoで、本明細書中で定義するCAR細胞組成物を活性化するため、および/または、それを必要としている対象において有効量のCAR細胞組成物と組み合わせて投与した場合に相乗的な治療反応を生じるために十分な量をいい得る。
【0154】
本明細書中において用語「約」とは、続く値が±20%、好ましくは±10%、より好ましくは±5%、さらにより好ましくは±2%、さらにより好ましくは±1%変動し得るという意味を有する。
【0155】
用語「患者」、「対象」、「個体」などは、本明細書中で互換性があるように使用され、哺乳動物、好ましくはヒトをいう。一部の実施形態では、処置を必要としている患者、対象、または個体は、疾患、状態、または障害、たとえば血液悪性腫瘍を既に有する者を含む。
【0156】
本明細書中で使用する用語「組み合わせて」または「組合せ療法において」とは、対象が障害を患っている過程において、2つ(以上)の異なる処置を対象に送達すること、たとえば、対象が障害を診断された後、かつ障害が治癒するもしくは排除される、または他の理由で処置が終わる前に、2つ以上の処置を送達することを意味する。一部の実施形態では、1つの処置の送達は、第2の処置の送達が始まる際に依然として行われているため、投与に関して重複がある。これは、本明細書中で時折、「同時」または「同時発生的送達」と呼ぶ。他の実施形態では、一方の処置の送達は、他方の処置の送達を開始する前に終わる。いずれの場合でも一部の実施形態では、組合せ投与が理由で、処置はより有効である。たとえば、第2の処置がより有効である、たとえば等価な効果が少ない第2の処置で見られる、または第2の処置が、第1の処置の非存在下で第2の処置を投与した場合に見られるよりも、症状をより高い程度まで低下させる、または類似の状況が第1の処置でみられる。一部の実施形態では、送達は、症状、または障害に関連する他のパラメータの低下が、一方の処置を、他方の非存在下で送達した場合に観察されるであろうものよりも高くなるようなものである。2つの処置の効果は、部分的に相加的、完全に相加的、または相加的より高い場合がある。送達は、送達した第1の処置の効果が、第2を送達した際に依然として検出可能であるようなものである。一実施形態では、がん関連抗原と結合するCAR分子を発現するCAR細胞を本明細書中に記載の用量および/または投薬スケジュールで投与し、S1P受容体モジュレーターを本明細書中に記載の用量および/または投薬スケジュールで投与する。一部の実施形態では、「~と組み合わせて」とは、CAR細胞療法とS1P受容体モジュレーター(たとえばモクラビモド、KRP203)とを同時に投与しなければならないおよび/または一緒に送達するため配合しなければならないことを暗示することを意図しないが、これらの送達方法は本開示の範囲内にある。CAR細胞療法は、S1P受容体モジュレーター、たとえばモクラビモドの用量と同時発生的に、その前(たとえば、5分間、15分間、30分間、45分間、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、12週間、もしくは16週間前)、または、好ましくは、その後(たとえば、5分間、15分間、30分間、45分間、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、12週間、もしくは16週間後)に、投与することができる。ある特定の実施形態では、それぞれの薬剤は、その特定の薬剤のために決定された用量および/または時間スケジュールで投与する。
【0157】
本明細書中で使用する、別段に指定しない限りは、用語「処置すること」または「処置」とは、そのような用語が適用される障害もしくは状態を好転させる、軽減させる、その進行を阻害する、もしくは防止すること、またはそのような用語が適用される障害もしくは状態の1つもしくは複数の症状を好転させる、軽減させる、その進行を阻害する、もしくは防止することを示す。
【0158】
本明細書中で使用する用語「~に由来する」とは、第1と第2の分子との間の関係性を示す。これは、一般に、第1の分子と第2の分子との間構造的類似度をいい、第2の分子に由来する第1の分子に対するプロセスまたは供給源の制限を暗示または含むことをしない。たとえば、CD3ゼータ分子に由来する細胞内シグナル伝達ドメインの場合、細胞内シグナル伝達ドメインは、必要な機能、すなわち、適切な条件下でシグナルを生じる能力を有するように、十分なCD3ゼータ構造を保持する。これは、細胞内シグナル伝達ドメインを生じる特定のプロセスに対する制限を暗示または含むことをせず、たとえば、細胞内シグナル伝達ドメインを提供するために、CD3ゼータ配列から開始して望まない配列を欠失させる、または突然変異を強要して、細胞内シグナル伝達ドメインに達しなければならないことを意味しない。
【0159】
本明細書中で使用する用語「シグナル伝達ドメイン」とは、二次メッセンジャーを生成すること、またはそのようなメッセンジャーに応答することによってエフェクターとして機能することによって、細胞内で情報を伝達して定義されたシグナル伝達経路を介して細胞活性を調節することによって作用する、タンパク質の機能的部分をいう。
【0160】
用語「遺伝子操作した」または「遺伝子改変した」とは、細胞のゲノムを改変する方法をいい、それだけには限定されないが、コードもしくは非コード領域またはその一部分を欠失させること、あるいはコード領域またはその一部分を挿入することが挙げられる。一部の実施形態では、改変された細胞は、免疫エフェクター細胞、たとえばリンパ球、たとえば、T細胞、B細胞、またはNK細胞であり、これは患者またはドナーのどちらかから得ることができる。細胞は、細胞のゲノム内に取り込まれた、たとえばキメラ抗原受容体(CAR)などの外因性構築体を発現するように改変することができる。
【0161】
本明細書中で使用する用語「CD19」とは、表面抗原分類19タンパク質をいい、これは、すべてのB系統細胞において発現され、白血病前駆細胞上で検出可能である、抗原決定基である。ヒトおよびネズミのアミノ酸および核酸配列は、GenBank、UniProt、およびSwiss-Protなどの公開データベース中に見つけることができる。たとえば、ヒトCD19のアミノ酸配列は、UniProt/Swiss-Prot受託番号P15391として見つけることができ、ヒトCD19をコードしているヌクレオチド配列は、受託番号NM_00l 178098で見つけることができる。本明細書中で使用する「CD19」は、完全長野生型CD19の突然変異、たとえば、点突然変異、断片、挿入、欠失、およびスプライス変異を含むタンパク質を含む。CD19は、たとえば、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ球白血病、および非ホジキンリンパ腫を含む、ほどんどのB系統がん上で発現される。CD19の発現に関連する他の疾患は、それだけには限定されないが、血液がん、たとえば、白血病、リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性リンパ性白血病ALL、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、マントル細胞リンパ腫(MCL)、縦隔原発B細胞性大細胞型リンパ腫(PMBCL)、または多発性骨髄腫、好ましくはALL、DLBCL、PMBCL、およびMCL、より好ましくはDLBLCである。これはB細胞前駆体の初期マーカーでもある。たとえばNicholson et al. Mol. Immun. 34 (16-17): 1157-1165 (1997)を参照されたい。一態様では、CARTの抗原結合部分は、CD19タンパク質の細胞外ドメイン内の抗原を認識して結合する。一態様では、CD19タンパク質はがん細胞上で発現される。
【0162】
本明細書中で使用する用語「CD20」とは、B細胞上で検出可能であることが知られている抗原決定基をいう。ヒトCD20は、膜貫通4-ドメイン、サブファミリーA、メンバー1(MS4A1)とも呼ばれる。ヒトおよびネズミのアミノ酸および核酸配列は、GenBank、UniProt、およびSwiss-Protなどの公開データベース中に見つけることができる。たとえば、ヒトCD20のアミノ酸配列は、受託番号NP_690605.1およびNP_068769.2で見つけることができ、ヒトCD20の転写変異体1および3をコードしているヌクレオチド配列は、それぞれ受託番号NM_152866.2およびNM_021950.3で見つけることができる。一態様では、CARの抗原結合部分は、CD20タンパク質の細胞外ドメイン内の抗原を認識して結合する。一態様では、CD20タンパク質はがん細胞上で発現される。
【0163】
本明細書中で使用する用語「CD22」とは、白血病前駆細胞上で検出可能であることが知られている抗原決定基をいう。ヒトおよびネズミのアミノ酸および核酸配列は、GenBank、UniProt、およびSwiss-Protなどの公開データベース中に見つけることができる。たとえば、アイソフォーム1~5ヒトCD22のアミノ酸配列は、それぞれ受託番号NP 001762.2、NP 001172028.1、NP 001172029.1、NP 001172030.1、およびNP 001265346.1で見つけることができ、ヒトCD22の変異体1~5をコードしているヌクレオチド配列は、それぞれ受託番号NM 001771.3、NM 001185099.1、NM 001185100.1、NM 001185101.1、およびNM 001278417.1で見つけることができる。一態様では、CARの抗原結合部分は、CD22タンパク質の細胞外ドメイン内の抗原を認識して結合する。一態様では、CD22タンパク質はがん細胞上で発現される。
【0164】
本明細書中で使用する用語「IL-3受容体のアルファサブユニット」、「IL3Ra」、「CD123」、「IL3Ra鎖」、および「IL3Raサブユニット」とは、互換性があるように、白血病前駆細胞上で検出可能であることが知られている抗原決定基をいう。ヒトおよびネズミのアミノ酸および核酸配列は、GenBank、UniProt、およびSwiss-Protなどの公開データベース中に見つけることができる。たとえば、ヒトIL3Raのアミノ酸配列は、受託番号NP 002174で見つけることができ、ヒトIL3Raをコードしているヌクレオチド配列は、受託番号NM 005191で見つけることができる。一態様では、CARの抗原結合部分は、CD123タンパク質の細胞外ドメイン内のエピトープを認識して結合する。一態様では、CD123タンパク質はがん細胞上で発現される。本明細書中で使用する「CD123」は、完全長野生型CD123の突然変異、たとえば、点突然変異、断片、挿入、欠失、およびスプライス変異を含むタンパク質を含む。
【0165】
本明細書中で使用する用語「ROR1」とは、白血病前駆細胞上で検出可能であることが知られている抗原決定基をいう。ヒトおよびネズミのアミノ酸および核酸配列は、GenBank、UniProt、およびSwiss-Protなどの公開データベース中に見つけることができる。たとえば、ヒトROR1のアイソフォーム1および2前駆体のアミノ酸配列は、それぞれ受託番号NP_005003.2およびNP_001077061.1で見つけることができ、それらをコードしているmRNA配列は、それぞれ受託番号NM_005012.3およびNM_001083592.1で見つけることができる。一態様では、CARの抗原結合部分は、ROR1タンパク質の細胞外ドメイン内の抗原を認識して結合する。一態様では、ROR1タンパク質はがん細胞上で発現される。
【0166】
本明細書中で使用する用語「CD33」とは、表面抗原分類33タンパク質をいい、これは、白血病細胞および骨髄系統の正常な前駆細胞上で検出可能な抗原決定基である。ヒトおよびネズミのアミノ酸および核酸配列は、GenBank、UniProt、およびSwiss-Protなどの公開データベース中に見つけることができる。たとえば、ヒトCD33のアミノ酸配列は、UniProt/Swiss-Prot受託番号P20138で見つけることができ、ヒトCD33をコードしているヌクレオチド配列は、受託番号NM_001772.3で見つけることができる。一態様では、CARの抗原結合部分は、CD33タンパク質またはその断片の細胞外ドメイン内のエピトープを認識して結合する。一態様では、CD33タンパク質はがん細胞上で発現される。本明細書中で使用する「CD33」は、完全長野生型CD33の突然変異、たとえば、点突然変異、断片、挿入、欠失、およびスプライス変異を含むタンパク質を含む。
【0167】
本明細書中で使用する用語「CD38」とは、表面抗原分類38タンパク質をいい、これは、白血病細胞および骨髄系統の正常な前駆細胞上で検出可能な抗原決定基である。ヒトおよびネズミのアミノ酸および核酸配列は、GenBank、UniProt、およびSwiss-Protなどの公開データベース中に見つけることができる。たとえば、ヒトCD38のアミノ酸配列は、UniProt/Swiss-Prot受託番号P28907として見つけることができ、ヒトCD38をコードしているヌクレオチド配列は、受託番号NM_001775で見つけることができる。一態様では、CARの抗原結合部分は、CD38タンパク質またはその断片の細胞外ドメイン内のエピトープを認識して結合する。一態様では、CD38タンパク質はがん細胞上で発現される。本明細書中で使用する「CD38」は、完全長野生型CD38の突然変異、たとえば、点突然変異、断片、挿入、欠失、およびスプライス変異を含むタンパク質を含む。
【0168】
本明細書中で使用する用語「CLL-1」とは、ヒトC型レクチン様分子-1(CLL-1)をいい、これはII型膜貫通糖タンパク質であり、その発現は、骨髄細胞および大多数のAML芽細胞に限定される。さらに、CLL-1は、白血病幹細胞(LSC)中で発現されるが、造血幹細胞(HSC)中には存在せず、これはAML処置の潜在的な治療標的を提供し得る(Wang, J., Chen, S., Xiao, W. et al. CAR-T cells targeting CLL-1 as an approach to treat acute myeloid leukemia. J Hematol Oncol 11, 7 (2018))。
【0169】
本明細書中で使用する用語「BCMA」とは、B細胞成熟抗原をいう。BCMA(TNFRSF17、BCM、またはCD269としても知られる)は、腫瘍壊死因子受容体(TNFR)ファミリーのメンバーであり、高分化B細胞、たとえばメモリーB細胞、および形質細胞上で主に発現される。そのリガンドは、TNFファミリーのB細胞活性化因子(BAFF)および増殖誘導リガンド(APRIL)と呼ばれる。BCMAは、長期的な液性免疫を維持するために形質細胞の生存を媒介することに関与している。BCMAの遺伝子は染色体16上にコードされており、184個のアミノ酸のタンパク質(NP_001183.2)をコードしている、994個のヌクレオチドの長さの一次mRNA転写物(NCBI受託NM_001192.2)を生じる。BCMA座位に由来する第2のアンチセンス転写物が記載されており、これはBCMA発現の調節において役割を果たし得る。(Laabi Y. et al., Nucleic Acids Res., 1994, 22: 1147-1154)。
【0170】
用語「GD2」とは、NBL、黒色腫、および肉腫上に見つかるTAAであるジシアロガングリオシドをいう。
【0171】
用語「MCSP」とは、黒色腫において見つかる別のTAAである黒色腫関連コンドロイチン硫酸プロテオグリカンをいう。
【0172】
用語「CD5」とは、T細胞の表面上およびB-1aとして知られるネズミB細胞の部分組において発現される、受容体CD5をいう。CD5は、B-1細胞が、非常に強力な刺激(細菌タンパク質など)のみによって活性化させることができ、正常組織タンパク質によって活性化されないように、BCRからの活性化シグナルを緩和させる役割を果たす。
【0173】
用語「NKG2D」とは、宿主を感染症およびがんから保護することにおいて重要な役割を果たす、ナチュラルキラーグループ2D(NKG2D)受容体をいう。感染細胞または腫瘍細胞上で誘導されたリガンドを認識することによって、NKG2Dは、リンパ球活性化を変調し、免疫を促進して、リガンド発現細胞を排除する。
【0174】
用語「scFv」とは、軽鎖の可変領域を含む少なくとも1つの抗体断片と重鎖の可変領域を含む少なくとも1つの抗体断片とを含む融合タンパク質をいい、軽鎖および重鎖可変領域は、短い柔軟なポリペプチドリンカーを介して隣接して連結されており、単鎖ポリペプチドとして発現されることができ、scFvは、それが由来するインタクトな抗体の特異性を保持する。指定しない限りは、本明細書中で使用するscFvは、VLおよびVH可変領域を、たとえばポリペプチドのN末端およびC末端に関していずれかの順序で有しよく、scFvは、VL-リンカー-VHを含み得る、またはVH-リンカー-VLを含み得る。
【0175】
本明細書中で使用する用語「再発」または「再発性」は、当分野におけるその通常の意味を有し、処置による完全寛解の期間(たとえば初回完全寛解)後の、血液悪性腫瘍または血液悪性腫瘍の兆候および症状が戻ることをいう。
【0176】
本明細書中で使用する用語「寛解」は、当分野におけるその通常の意味を有し、がんの兆候および症状の減少または消失をいう。部分的寛解では、すべてではないが一部のがんの兆候および症状が消失している。完全寛解(CR)では、がんのすべての兆候および症状が消失しているが、がんは依然として身体内にある場合がある。
【0177】
本明細書中で使用する用語「コンディショニングすること」とは、免疫エフェクター細胞療法を必要としている患者を、適切な条件のために準備することを示す。本明細書中で使用する、コンディショニングすることは、免疫エフェクター細胞療法の前に、それだけには限定されないが、内在性リンパ球の数を減らすこと、サイトカインシンクを除去すること、1つもしくは複数の恒常性サイトカインもしくは炎症誘発因子の血清レベルを増加させること、コンディショニング後に投与するT細胞のエフェクター機能を増強させること、抗原提示細胞の活性化および/もしくは利用可能性を増強させること、またはその任意の組合せを含む。一実施形態では、「コンディショニングすること」は、患者をリンパ枯渇させることを含む。
【0178】
用語「自己」とは、後に個体内に再導入する者と同じ個体に由来する任意の材料をいう。たとえば、本明細書中に記載の細胞療法方法は、リンパ球を患者から収集し、その後、これを操作して、たとえばCAR構築体を発現させ、その後、同じ患者に投与して戻すことを含む。
【0179】
用語「同系」とは、後に個体内に再導入する者と遺伝学的に同一である個体、たとえば同じ個体または一卵性双生児に由来する任意の材料をいう。
【0180】
用語「アロジェネイック」とは、材料を導入する個体と同じ種(たとえばヒト種)の異なる動物に由来する任意の材料をいう。2体以上の個体は、1つまたは複数の座位での遺伝子が同一でない場合に、互いにアロジェネイックであると言われる。一部の態様では、同じ種の個体からのアロジェネイック材料は、抗原的に相互作用するために十分に遺伝学的に異なっている場合がある。
【0181】
キメラ抗原受容体(CAR)細胞
本明細書中で使用するCAR細胞組成物とは、1つまたは複数のキメラ抗原受容体分子を発現するように遺伝子改変された、細胞または細胞集団を含む組成物(compositing)である。
【0182】
具体的な実施形態では、CAR細胞は、ヒト免疫エフェクター細胞または細胞集団(たとえば、慣用T細胞もしくは制御性T細胞などのヒトT細胞またはヒトNK細胞、たとえば、本明細書中に記載のヒトT細胞または本明細書中に記載のヒトNK細胞)である。一実施形態では、ヒトT細胞はCD8+T細胞である。一実施形態では、細胞は自己または同系のT細胞である。一実施形態では、細胞はアロジェネイックT細胞である。用語「細胞」に言及する本明細書中に開示した組成物および方法は、1つまたは複数の細胞、たとえば細胞集団を含む組成物および方法を包含することを理解されたい。
【0183】
CAR-T細胞を生成するための方法は、たとえばFeins et al. Am J Hematol. 2019;94:S3-S9中に記載されている。CAR NK細胞を生成する方法は、たとえばXie et al. EBiomedicine 59 (2020) 102975中に記載されている。CAR Treg細胞を生成する方法は、たとえばEnrico Fritsche et al., Therapeutic Biomanufacturing, volume 38, issue 10, P1099-1112, October 2020中に記載されている。
【0184】
本発明に従った使用のためのCAR細胞を生成するための免疫細胞は、他の遺伝子修飾(CAR分子の発現に必要なものに加えて)、特にアロジェネイック使用のためのものをさらに含み得る、すなわち、CAR細胞は、レシピエント対象とは異なるドナー対象免疫細胞から作製する。
【0185】
具体的な実施形態では、CAR構築体は、CD28、CD3、CD4、CD8α、およびCD16からなる群から選択される膜貫通ドメインを含む。
【0186】
具体的な実施形態では、CAR構築体は、CD28、4-1BB、ICOS、およびCD27からなる群から選択される細胞質シグナル伝達ドメインを含む。
【0187】
本明細書中で使用する用語、CARは、特に腫瘍回避を回避するおよび/または毒性を緩和させるための、複数のがん関連抗原、典型的には2つの明確ながん関連抗原(たとえばCD20/CD22)を認識する、キメラ抗原受容体分子またはキメラ抗原受容体分子の組合せを、さらに包含する。複数のがん関連抗原を認識するそのようなCARは、それだけには限定されないが、二重CAR、タンデムCAR、ループタンデムCAR、コンビナトリアルCARを包含し、これらはたとえばGuedan et al 2019, Molecular Therapy: Methods & Clinical Development Vol. 12, pp 145-156中に開示されている。
【0188】
CARは、細胞質シグナル伝達ドメインに適合するモジュールに従って分類されている。第一世代CARは、1つのシグナル伝達モジュールがTCR/CD3複合体のζ鎖に由来する、細胞質シグナル伝達ドメインを示す。第二および第三世代は、それぞれCD3ζ鎖に付随する1つまたは複数の共刺激領域を含むように設計されている。OX40、CD27、およびICOSを含む様々な共刺激分子が、前臨床研究において評価されているが、CD28および4-1BBが臨床治験において最も一般的に使用されている。
【0189】
第一世代CAR-T細胞は、in vitroで細胞毒性がある活性を示したが、in vivoで最適以下の持続を示し、その治療可能性が制限されている。実際に、第二世代CARは、第一世代CARと比較して、輸液後により良好なT細胞持続を示していた。しかし、4-1BB含有CARは、CD28ドメインを保有するものと比較して、in vivo、異種移植片モデル、および患者において大きな持続を示すことが報告されている。CD28に基づくCAR-T細胞は、構成的増殖、エフェクターメモリーの分化、および消耗し易さを示した一方で、4-1BBに基づくCAR-T細胞は、生存および消耗阻害が増強されたセントラルメモリー特長を示すことが報告された。共刺激ドメインはCAR-T細胞機能、生存、および持続を改善させたため、2つの共刺激ドメインを組み合わせる第三世代CARが作製された。モノクローナル抗体のエピトープ特異性を特異的T細胞の殺滅能力と連結することによって、CARは、MHC分子による抗原提示の要件を迂回する。さらに、CAR-T細胞はまた、脂質および炭水化物などの非古典的TCR標的を認識することもでき、CAR-T細胞に、より広範囲の標的抗原を認識する能力を与える。TCR-トランスジェニックT細胞とは異なり、CAR-T細胞は抗原プロセシングを必要とせず、HLA制限されておらず、これにより、この治療がより大きな患者部分組に達することを可能にする。さらに、CAR-T細胞輸液生成物は末梢血から得られるため、切除不可能な腫瘍(no resectable)または腫瘍内への低T細胞浸潤(TIL治療に不適格)を有する患者がCAR療法の恩恵を受けることができる。
【0190】
したがって、好ましい一実施形態では、本開示によるCAR細胞は、CARを発現するT細胞(すなわちCAR-T細胞)であり、前記CARは、少なくとも:
(i)抗原結合ドメイン、典型的にはがん関連抗原(たとえばCD19)に対する結合特異性を有する単鎖可変断片を含む細胞外ドメインと、
(ii)膜貫通ドメインと、
(iii)好ましくはTCR/CD3複合体のζ鎖に由来する、1つのシグナル伝達モジュールと、任意選択で1つまたは複数の共刺激ドメイン、典型的にはCD28または4-1BB共刺激ドメインとを含む、細胞質シグナル伝達ドメインと
を含む。
【0191】
CAR-T細胞の養子移入はB細胞由来の悪性腫瘍の処置において見事な結果を示している。その結果、米国食品薬品局(FDA)は、2017年に、CAR-T細胞に基づいた、B細胞悪性腫瘍のための、最初の2つの遺伝子療法を認可している。Kymriah(チサゲンレクユーセル)は、CD19を標的とする第二世代CARであり、4-1BB由来の同時刺激ドメインを含有し、小児急性B細胞リンパ芽球性白血病の処置のために認可されている。Yescarta(アキシカブタゲンシロルユーセル)は、やはりCD19抗原を標的とし、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫を有する患者に適応される。Kymriahとは異なり、YescartaはCD28由来の共刺激モジュールを含有する。2020年7月に、FDAは、やはりCD19抗原を標的とするTecartus(ブレクスカブタゲンオートルユーセル)を、他の処置に応答しないまたは再発したマントル細胞リンパ腫を有する患者のために認可した。2021年2月に、FDAは、CD19抗原を標的とするBreyanzi(リソカブタゲンマラルユーセル)を、再発性または不応性の大B細胞リンパ腫を有する患者のために認可した。2021年3月に、FDAは、多発性骨髄腫を有する成人患者を処置するための、BCMAを標的とする最初のCAR-T細胞標的として、Abecma(イデカブタゲンビクルユーセル)を認可した。
【0192】
本開示において使用するCAR細胞は、がん関連抗原と特異的に結合する抗原結合ドメインを含む細胞外ドメインを含むCARをコードしている核酸を含む。
【0193】
具体的な実施形態では、前記がん関連抗原は、造血細胞、好ましくは免疫細胞、たとえばBまたはT細胞の細胞表面マーカーからなる群から選択される。
【0194】
1つの特定の実施形態では、本開示において使用するためのCAR細胞は、CD4、CD5、CD7、CD19、CD19/CD20、CD19/CD22;CD20、CD22、CD20/CD22、CD30、CD33、CD37、CD38、CD39、CD70;CD123、CD44v6(アイソフォーム変異体6)、CD123/CLL1、BCMA CD38/BCMA、CD19/BCMA、CD56、CD138、LeY、ROR1、SLAMF7、nFLT3、LMP1、BCMA/TACI、CS1、GPRC5D、CS1/BCMA、NKG2D、CLL-1リガンドからなる群から選択されるがん関連抗原と特異的に結合する抗原結合ドメインを含む細胞外ドメインを有するCARを含む。より好ましくは、前記がん関連抗原またはがん関連抗原の組合せは、CD19、CD123、CD20、CD22、CD30、CD33、CD38、LeY、ROR1、CLL-1、GD2、MCSP、CD5、NKG2D、MHCペプチド抗原、BCMA、およびその組合せ、好ましくはCD19からなる群から選択される。他の具体的な実施形態では、前記がん関連抗原は、血液悪性腫瘍に典型的ながん関連抗原、または、固形腫瘍がん、特に乳がん、典型的にはHER2もしくはHER3からのものであり得る、リンパ器官転移、好ましくはリンパ節転移のがん関連抗原から選択される。前記がん関連抗原は、転移がんの表面上に発現される抗原、または主要組織適合複合体分子のコンテキストにおいて転移がんの表面上に発現される抗原を含む。
【0195】
好ましい実施形態では、前記好ましいがん関連抗原は、CD19、CD30、CD33、CD123、CD20、CD22、CD38、LeY、ROR1、CLL-1、GD2、MCSP、CD5、NKG2D、MHCペプチド抗原、BCMA、好ましくはCD19からなる群から選択される。
【0196】
具体的な実施形態では、本開示による使用のための前記CAR細胞は、細胞外抗原結合ドメインとして、CD4、CD5、CD7、CD19、CD19/CD20、CD19/CD22;CD20、CD22、CD20/CD22、CD30、CD33、CD37、CD38、CD39、CD70;CD123、CD44v6(アイソフォーム変異体6)、CD123/CLL1、BCMA CD38/BCMA、CD19/BCMA、CD56、CD138、LeY、ROR1、SLAMF7、nFLT3、LMP1、BCMA/TACI、CS1、GPRC5D、CS1/BCMA、NKG2Dリガンドからなる群から選択され、より好ましくは、CD19、CD30、CD33、CD123、CD20、CD22、CD38、LeY、ROR1、CLL-1、GD2、MCSP、CD5、NKG2D、MHCペプチド抗原、BCMA、好ましくはCD19からなる群から選択される細胞表面マーカーと特異的に結合する単鎖可変断片(scFv)を含む、CARを発現する。
【0197】
本明細書中に記載のようにがん関連抗原と結合するCAR構築体の例は、国際公開第2019227003号パンフレット(その全体で本明細書中に参考として組み込まれている)中に記載されている。
【0198】
他の例示的なCAR構築体は、以下のCAR-Tの市販または開発製品中に使用されるものである:Kymriah(チサゲンレクユーセル)、Yescarta(アキシカブタゲンシロルユーセル)、Tecartus(ブレクスカブタゲンオートルユーセル)、Breyanzi(リソカブタゲンマラルユーセル)、Abecma(イデカブタゲンビクルユーセル)。
【0199】
本明細書中に記載のCAR細胞を含む組成物は、S1P受容体モジュレーターと組み合わせて使用する。
【0200】
S1P受容体モジュレーター
S1P受容体を、多種多様な組織において発現され、様々な細胞特異性を示す、5つのサブタイプ関連G結合タンパク質受容体(すなわち、S1P、S1P、S1P、S1P、およびS1P)へと分類する。
【0201】
ある特定の実施形態では、本開示の本方法に従った使用のためのS1P受容体のモジュレーターは、シグナル伝達のために受容体を活性化または内部移行または阻害することによって、5つのS1P受容体型1~5(S1PR1~5)のうちの1つまたは複数を変調する、化合物である。そのような化合物は、本明細書中でそれぞれ「S1Pアゴニスト」および「S1P阻害剤」とも呼ぶ。
【0202】
具体的な実施形態では、本開示の処置方法において使用するための前記S1P受容体モジュレーターは、KRP203(モクラビモド)、FTY720(フィンゴリモド、Gilenya(商標))、BAF312(シポニモド、Mayzent(登録商標))、オザニモド(Zeposia(登録商標))、ポネシモド、エトラシモド、AKP-11、セネリモド、アミセリモド、CBP-307、OPL-307、OPL-002、BMS-986166、SCD-044、BOS-173717、CP-1050から選択される。好ましくは、本開示の処置方法において使用するための前記S1P受容体モジュレーターは、KRP203(モクラビモド)、FTY720(フィンゴリモド)、およびMayzent(登録商標)(シポニモド)、最も好ましくはモクラビモドから選択される。
【0203】
一実施形態では、本開示の処置方法において使用するための前記S1P受容体モジュレーターはS1Pアゴニストである。そのようなS1Pアゴニストの例は、KRP203(モクラビモド)、S1PR選択的アゴニストもしくはFTY720(フィンゴリモド)、S1PR3~5のマルチS1PRアゴニストもしくはシポニモド、S1PRアゴニスト、またはその薬学的に許容される塩もしくはそのリン酸誘導体のうちの任意のものである。好ましくは、ある特定の実施形態では、前記S1Pアゴニストは、S1PRを選択的に活性化させるS1Pアゴニストものから選択される。
【0204】
好ましい実施形態では、本開示による使用のためのS1P受容体モジュレーターは、式(I)の化合物:
【0205】
【化17】
[式中、
は、H、ハロゲン、トリハロメチル、C1~4アルコキシ、C1~7アルキル、フェネチル、もしくはベンジルオキシであり、
は、H、ハロゲン、CF、OH、C1~7アルキル、C1~4アルコキシ、ベンジルオキシ、フェニル、もしくはC1~4アルコキシメチルであり、
およびRのそれぞれは、独立して、Hもしくは式(a)の残基:
【0206】
【化18】
[式中、RおよびRのそれぞれは、独立して、H、もしくはハロゲンによって任意選択で置換されたC1~4アルキルであり、
nは1~4の整数である]であり、
は、水素、ハロゲン、C1~7アルキル、C1~4アルコキシ、またはトリフルオロメチルである]
である。
【0207】
具体的な実施形態では、前記式(I)の化合物(compoud)は、S1Pアゴニスト、好ましくはS1PR選択的アゴニストである。典型的には、好ましい実施形態では、Rは塩素である。より好ましくは、RはHであり、Rは塩素であり、Rは水素である。たとえば、RはHであり、Rは塩素であり、Rは水素であり、RおよびRのそれぞれは、独立してHである。
【0208】
より好ましい実施形態では、本開示による使用のためのS1P受容体モジュレーター、好ましくはS1Pアゴニスト、好ましくはS1PR選択的アゴニストは、式(II)の2-アミノ-2-[4-(3-ベンジルオキシフェニルチオ)-2-クロロフェニル]エチル-プロパン-1,3-ジオール(モクラビモドまたはKRP203とも呼ばれる):
【0209】
【化19】
もしくは薬学的に許容されるその塩である。
【0210】
本開示による使用のための他のS1P受容体モジュレーター、好ましくはS1PR選択的アゴニストは、以下の式のリン酸誘導体:
【0211】
【化20】
を含む。
【0212】
前記化合物およびその合成方法は、国際公開第03/029205号パンフレット、国際公開第2004/074297号パンフレット、国際公開第2006/009092号パンフレット、国際公開第2006/041019号パンフレット、および国際公開第2014128611A1号パンフレット(その開示は本明細書中に参考として組み込まれている)中にも開示されている。
【0213】
モクラビモド、または薬学的に許容されるその塩もしくはそのリン酸誘導体が、特に好ましい。実際に、健康なボランティアにおいて確立されたモクラビモド、FTY720、およびBAF312などの様々なS1Pモジュレーターの薬力学的効果を比較することで、リンパ球隔離の有効性の相違が明らかとなる。作用機構の維持、すなわち二次リンパ器官および骨髄中のリンパ球の隔離を決定する測定可能なパラメータは、末梢リンパ球計数の低下である。単一の1mg用量のFTY720、BAF312の28日間の複数用量の施用、または単一の3mg用量のKRP203後の、絶対的リンパ球計数の正常計数の80%までの回復は、それぞれ8、7、および10より長い日数の後に達成された。したがって、KRP203のリンパ球回復時間は、BAF312およびFTY720よりも有意に長かった。
【0214】
S1P受容体モジュレーターの粒径
製薬業界では、粉末材料の粒子の特徴づけは、薬物製品の開発および固形経口剤形の品質管理において重大な側面のうちの1つとなっている。原薬の粒径分布は、最終薬物製品の性能(たとえば、溶解、生体利用能、含有量の均一性、安定性など)に対して顕著な効果を有し得る。さらに、原薬の粒径分布は、流動性、混和均一性、成形性などの薬物製品の製造可能性に影響を与える場合があり、事前混合/混合、顆粒化、乾燥、ミリング、混和、コーティング、カプセル封入、および圧縮を含む固形経口剤形の製造プロセスのほぼすべてのステップに対して著名な影響を与える。したがって、原薬の粒径は、最終的に薬物製品の安全性、有効性、および品質に影響を与える。
【0215】
一実施形態では、本開示のS1P受容体モジュレーターは、8μm以下、好ましくは6μm、より好ましくは5μmの平均粒径(D50)を有する。別の実施形態では、本開示のS1P受容体モジュレーターは、25μm以下、好ましくは22μm、より好ましくは19μmのD90を有する。実際に、発明者によって、8μmより大きい、好ましくは6μmより大きい、より好ましくは5μmより大きい平均粒径(D50)および/または25μmより大きい、好ましくは22μmより大きい、より好ましくは19μmより大きいD90が、溶媒との表面接触を減少させ、生体利用能およびin vivo性能の低下をもたらすことによって、薬物の溶解を損なわせることが見出された。
【0216】
S1P受容体モジュレーターを含む医薬組成物
本開示はまた、特に開示した処置方法におけるその使用のための、上述の前記S1P受容体モジュレーター、好ましくはモクラビモドまたは薬学的に許容されるその塩もしくはそのリン酸誘導体の医薬組成物にも関する。
【0217】
一実施形態では、本開示の医薬組成物は、S1P受容体モジュレーター、好ましくはモクラビモドまたは薬学的に許容されるその塩もしくはそのリン酸誘導体と、1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤とを含む。
【0218】
医薬組成物において使用するための、当業者に知られている任意の適切な賦形剤を、本明細書中に記載の組成物中で用い得る。
【0219】
医薬組成物は、医学分野の技術者によって決定された、処置する疾患または障害に適した任意の様式で投与し得る。適切な用量ならびに投与の適切な期間および頻度は、患者の状態、患者の疾患の種類および重篤度、活性成分の特定の形態、ならびに投与方法を含む、本明細書中に記述したものなどの要因によって決定される。一般に、適切な用量(または有効用量)および治療レジメンは、医薬組成物を、治療効果、たとえば、より頻繁な完全もしくは部分的寛解、またはより長い疾患のない生存および/もしくは全生存、または症状の重篤度の軽減、または本明細書中に詳述する他の利点などの、改善された臨床成績をもたらすために十分な量で、提供する。
【0220】
本明細書中に記載の医薬組成物は、有効量の化合物を有効に送達することができるいくつかの経路のうちの任意のものによって、それを必要としている対象に投与し得る。医薬組成物は、経口、直腸、非経口、大槽内、膣内、腹腔内、局所、頬側でまたは、経口もしくは鼻腔スプレーとして投与し得る。好ましい実施形態では、医薬組成物は、経口投与するために適している。
【0221】
別の実施形態では、医薬組成物は、経口投与に適した固体剤形であり得る。経口投与用の固体剤形としては、カプセル、錠剤、丸薬、粉末、および顆粒が挙げられる。好ましい実施形態では、医薬組成物はカプセルまたは錠剤である。カプセルは、軟または硬ゼラチンカプセル、好ましくは硬ゼラチンカプセルであり得る。たとえば、カプセルは、HGCクラッシュ(Crushed)またはHPMCカプセルクラッシュである。
【0222】
一実施形態では、カプセルまたは錠剤の内容物の放出は、即時または遅延、標的、もしくは延長などの改変であり得る。好ましい実施形態では、固体剤形は即時放出剤形である。
【0223】
一実施形態では、医薬組成物は、S1P受容体モジュレーター、好ましくはモクラビモドと、1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤、特に、少なくとも1つの充填剤およびその混合物、崩壊剤、潤滑剤、ならびに流動促進剤とを含む。
【0224】
充填剤
充填剤(希釈剤(diluent)、希釈剤(dilutant)、または薄め剤とも呼ぶ)とは、原薬を経口投与に適したもの(たとえば、カプセル、錠剤)にするためにそれに加える、物質である。充填剤自体は人間に対していかなる薬理学的効果も生じるべきではない。充填剤の例としては、マンニトール、微結晶セルロース、ラクトース一水和物、無水ラクトース、コーンスターチ、キシリトール、ソルビトール、スクロース、リン酸二カルシウム、マルトデキストリン、およびゼラチンが挙げられる。本開示の医薬組成物は、マンニトール、微結晶セルロース、およびその混合物から選択される少なくとも1つの充填剤を含む。好ましい実施形態では、本開示の医薬組成物は、マンニトールおよび微結晶セルロースの混合物を含む。
【0225】
崩壊剤
崩壊剤は、経口固体剤形の脱凝集を助けるためにそれに加える。崩壊剤は、水分と接触した際に固形剤形の迅速な分解を引き起こすように配合されている。崩壊は、典型的には溶解プロセスの最初のステップとして見られる。崩壊剤の例としては、デンプングリコール酸ナトリウム、カルボキシメチルナトリウムデンプン、およびアルファ化デンプンなどの加工デンプン、架橋結合ポリビニルピロリドン(クロスポビドン)または架橋結合カルボキシメチルセルロースナトリウム(クロスカルメロースナトリウム)などの架橋結合ポリマー、およびケイ酸カルシウムが挙げられる。本開示の医薬組成物はデンプングリコール酸ナトリウムを崩壊剤として含む。
【0226】
潤滑剤
潤滑剤とは、摩擦を減らすために本発明者らが錠剤およびカプセル配合物中で使用する物質である。潤滑剤は、マトリックスからの錠剤の押出成形を容易にし、したがって、その表面上の擦り傷の形成を防止することができる。性質として、潤滑剤は2つの群、すなわち、a)脂肪および脂肪様物質、b)粉末状物質に分けることができる。脂肪用物質は錠剤の溶解度および化学的安定性に影響を与えるため、粉末状物質は脂肪様のものよりも施用性が高い。粉末状潤滑剤は顆粒の粉末化によって導入される。これらは、原薬投薬量の正確さおよび定常性を保証する、ホッパーからマトリックスへの錠剤化のための、質量の一定速度の流出を提供する。
【0227】
潤滑剤の例としては、ステアリン酸マグネシウム、水素化ヒマシ油、ベヘン酸グリセリル、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、鉱物油、シリコーン溶液、ラウリル硫酸ナトリウム、L-ロイシン、およびステアリルフマル酸ナトリウムが挙げられる。本開示の医薬組成物はステアリン酸マグネシウムを潤滑剤として含む。
【0228】
流動促進剤
流動促進剤は、錠剤コアブレンド材料の流動特性を増強させるために配合物と混和する。圧縮の初期の間、流動促進剤を錠剤粉末ブレンドの粒子配置内で混合して、錠剤プレスの金型空洞内での流動性および均一性を改善させる。流動促進剤は、粒子間の摩擦を減少させることによって、錠剤顆粒化の流れを奨励する。顆粒の流れに対する流動促進剤の効果は、顆粒の粒子の大きさおよび形状ならびに流動促進剤に依存する。一定の濃度を超えると、流動促進剤はむしろ流動性を阻害するように機能する。錠剤の製造において、流動促進剤は、通常は圧縮の直前に加える。流動促進剤の例としては、コロイド状二酸化ケイ素、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、およびタルクが挙げられる。本開示の医薬組成物はコロイド状二酸化ケイ素を潤滑剤として含む。
【0229】
本開示の医薬組成物は、S1P受容体モジュレーターと、マンニトール、微結晶セルロース、およびその混合物から選択される少なくとも1つの充填剤と、崩壊剤としてのデンプングリコール酸ナトリウムと、潤滑剤としてのステアリン酸マグネシウムと、流動促進剤としてのコロイド状二酸化ケイ素とを含む。
【0230】
医薬組成物の分野の技術者に知られている任意の適切な賦形剤を、本明細書中に記載の組成物中でさらに用い得る。
【0231】
一実施形態では、固形剤形のS1P受容体モジュレーター、好ましくは式(I)の塩酸塩または式IIaもしくはIIbのリン酸誘導体の投薬量の強度は、0.05mg~15mg/単位、好ましくは0.1mg~10mg/単位、たとえば約0.1mg/単位、または約0.4mg/単位、または約1mg/単位、または約10mg/単位、より好ましくは約1mg/単位である。
【0232】
より詳細には、本開示の医薬組成物、特にモクラビモドまたは薬学的に許容されるその塩もしくはそのリン酸誘導体を1mg/単位で含むものは、以下の成分:
-好ましくは48~88mg/単位の含有量、より好ましくは58~78mg/単位、さらにより好ましくは約68mg/単位の含有量のマンニトール、
-好ましくは5~45mg/単位の含有量、より好ましくは15~35mg/単位、さらにより好ましくは約25mg/単位の含有量の微結晶セルロース、
-好ましくは1~8mg/単位の含有量、より好ましくは2~6mg/単位、さらにより好ましくは約4mg/単位の含有量のデンプングリコール酸ナトリウム、
-好ましくは0.025~4mg/単位の含有量、より好ましくは0.5~2mg/単位、さらにより好ましくは約1mg/単位の含有量のステアリン酸マグネシウム、および
-好ましくは0.125~2mg/単位の含有量、より好ましくは0.25~1mg/単位、さらにより好ましくは約0.5mg/単位の含有量のコロイド状二酸化ケイ素
をさらに含む。
【0233】
別の実施形態では、本開示の医薬組成物は以下の成分:
-好ましくはモクラビモド、または薬学的に許容されるその塩もしくはそのリン酸誘導体、好ましくは0.05%~15%、より好ましくは0.1%~10%mg/単位の含有量、さらにより好ましくは約0.1%または0.4%または1%または10%の含有量のS1P受容体モジュレーター、
-好ましくは48%~88%、より好ましくは58%~78%、さらにより好ましくは約68%の含有量のマンニトール、
-好ましくは5%~45%、より好ましくは15%~35%、さらにより好ましくは約25%の含有量の微結晶セルロース、
-好ましくは1%~8%、より好ましくは2%~6%、さらにより好ましくは約4%の含有量のデンプングリコール酸ナトリウム、
-好ましくは0.025%~4%、より好ましくは0.5%~2%、さらにより好ましくは約1%の含有量のステアリン酸マグネシウム、
-好ましくは0.125~2mg/単位の含有量、より好ましくは0.25~1mg/単位、さらにより好ましくは約0.5mg/単位の含有量のコロイド状二酸化ケイ素
を含み、百分率は、全組成物の乾重量のmg/mgとして表す。
【0234】
一実施形態では、本開示の医薬組成物は、少なくとも1カ月間、50℃で、好ましくは2カ月間、50℃で安定である。
【0235】
別の実施形態では、本開示の医薬組成物は、少なくとも24カ月間、5℃で安定である。
【0236】
別の実施形態では、本開示の医薬組成物は、少なくとも24カ月間、25℃/60%の相対湿度で安定である。
【0237】
本明細書中で使用する、組成物の安定性は、以下の方法、すなわち、当分野で広く知られている高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)に従って測定する。不純物の和が[98~102]%の信頼区間で0.7%以下である場合に、組成物は安定である。
【0238】
医薬組成物を調製するプロセス
本開示の別の態様は、上述の医薬組成物を調製するプロセスであって、
a.S1P受容体モジュレーター、または薬学的に許容されるその塩もしくはそのリン酸誘導体を、微結晶セルロース、コロイド状二酸化ケイ素と、好ましくは22rpmで18分間、混和するステップ、
b.マンニトールを加え、生じた混合物を、好ましくは22rpmで9分間、混和するステップ、
c.デンプングリコール酸ナトリウムを加え、生じた混合物を、好ましくは22rpmで5分間、混和するステップ、
d.ステアリン酸マグネシウムを加え、生じた医薬組成物を、好ましくは22rpmで5分間、混和するステップ、
e.本開示の医薬組成物を回収するステップ
を含むプロセスに関する。
【0239】
好ましい実施形態では、プロセスは、
f.生じた医薬組成物をカプセル内に満たすステップ、
g.医薬組成物を満たした生じたカプセルを回収するステップ
をさらに含む。
【0240】
組合せ療法によって好ましく標的とされる患者集団
本明細書中に開示した処置方法は、血液悪性腫瘍またはリンパ器官転移、好ましくはリンパ節転移を有する患者に適している。血液悪性腫瘍は、血液、骨髄、およびリンパ系に影響を与える、白血病、リンパ腫、および悪性リンパ球増殖性状態などの種類のがんである。リンパ器官転移、好ましくはリンパ節転移は、固形腫瘍がん、特に乳がんからのものであり得る。
【0241】
一実施形態では、血液悪性腫瘍は白血病である。白血病は、急性白血病および慢性白血病に分類することができる。急性白血病は、急性骨髄性白血病(AML)および急性リンパ性白血病(ALL)にさらに分類することができる。慢性白血病は、慢性骨髄性白血病(CML)および慢性リンパ性白血病(CLL)を含む。他の関連する状態としては、骨髄血液細胞の無効な生成(または異形成)およびAMLへの悪性化の危険性によって結ばれた、血液学的状態の多様なコレクションである、脊髄形成異常症候群(MDS、以前は「前白血病」として知られていた)が挙げられる。
【0242】
他の実施形態では、血液悪性腫瘍はリンパ腫である。リンパ腫は、リンパ球から発生する、血液細胞腫瘍の群である。例示的なリンパ腫としては非ホジキンリンパ腫およびホジキンリンパ腫が挙げられる。
【0243】
非ホジキンリンパ腫(NHL)は、BまたはT細胞のいずれかから形成される、リンパ球のがんの群である。NHLは任意の年齢で起こり、しばしば、通常よりも大きいリンパ節、体重減少、および発熱によって特徴づけられる。様々な種類のNHLが侵襲性(成長が早い)および無痛性(成長が遅い)の種類として分類される。B細胞非ホジキンリンパ腫としては、バーキットリンパ腫、慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫(CLL/SLL)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、濾胞性リンパ腫、免疫芽細胞性大細胞リンパ腫、前駆体Bリンパ芽球性リンパ腫、およびマントル細胞リンパ腫が挙げられる。T細胞非ホジキンリンパ腫の例としては、菌状息肉腫、未分化大細胞リンパ腫、および前駆体Tリンパ芽球性リンパ腫が挙げられる。骨髄または幹細胞移植後に起こるリンパ腫は、典型的にはB細胞非ホジキンリンパ腫である。たとえば、Maloney. NEJM. 366.21(2012):2008-16を参照されたい。びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)は、B細胞から発生するNHLの一形態である。
【0244】
急性リンパ性白血病(ALL)
急性リンパ性白血病(ALL)とは、骨髄(morrow)、血液、リンパ節、および脾臓における、新生物の細胞増殖および蓄積によって特徴づけられるB細胞悪性腫瘍である。ALLは、成人または小児の集団において生じる場合があり、迅速に進行する場合があり、未処置のまま放置すると致命的な場合がある。ALLは、再発性および/または不応性ALL(r/r ALL)を含む。再発性および/または不応性ALLでは、処置の選択肢としては、高用量化学療法および続くアロジェネイック幹細胞移植(SCT)、標準の化学免疫療法、小分子経路阻害剤を用いた標的化処置、または非治癒的な対症目標を有する支持療法が挙げられる。アロジェネイックSCTは、r/r小児ALLでは治癒的な潜在性を有する唯一の選択肢であるが、結果は最適以下である。3回目以降の寛解でアロジェネイックSCTを受けた、活動性疾患でアロジェネイックSCTを受けた、または以前のアロジェネイックSCTからの再発後にアロジェネイックSCTを受けた、再発性および/または不応性小児ALL患者のうち、1年全生存(OS)率は25~55%であり、5年OS率は一般に20~45%である。
【0245】
フィラデルフィア染色体に陽性(Ph+)であるALL患者について、ダサチニブ(Sprycel)が、2006年に、以前の治療に対して耐性または不耐容を有する成人患者の処置のために認可された。ポナチニブ(Iclusig)は、2013年に、ダサチニブに対して耐性または不耐容であるPh+ ALLを有する成人患者の処置のために認可された。Blincyto(ブリナツモマブ)、二重特異性抗CD3/CD19モノクローナル抗体は、Ph-再発性または不応性B-前駆体ALLを有する成人の処置のために認可されている。現在の処置様式にもかかわらず、再発性ALL患者において寛解を維持することは困難であり、患者は長期間、乏しい生活の質で入院している。再発性および/または不応性疾患を有する患者の予後診断は依然として乏しいままである。
【0246】
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)
DLBCLとは、リンパ節中またはリンパ系の外、たとえば、胃腸管、精巣、甲状腺、皮膚、乳房、骨、または脳において生じる場合がある、侵襲性リンパ腫である。3つの細胞形態学の変異体がDLBCLにおいて一般的に観察される:中心芽細胞、免疫芽細胞、および未分化。中心芽細胞の形態学が最も一般的であり、最小限の細胞質を有する、中等度から大サイズのリンパ球の外見を有する。DLBCLのいくつかのサブタイプが存在する。DLBCLを有するほとんどの患者は成人であるが、この疾患は、小児においても時折起こる。DLBCLの処置は、化学療法(たとえば、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾン、エトポシド)、抗体(たとえばRituxan)、放射線照射、または自己幹細胞移植(ASCT)を含む。しかし、第一線療法に対して再発性および/または不応性である患者の約半数が、高齢および/または併存症が理由でASCTに適格でない。さらに、高用量療法および自己幹細胞移植(HD-ASCT)に適した患者のうち、約半数のみが、HD-ASCTに進むために十分な、救済療法に対する応答を有する。さらに、HD-ASCTに進む者のうち、患者の60%が移植後に再発する。臨床的研究、対症化学療法、および稀な事例では第2のHD-ASCTまたはアロジェネイック幹細胞移植(AlloSCT)が、これらの患者が利用可能な選択肢の一部である。
【0247】
縦隔原発B細胞性大細胞型リンパ腫(PMBCL)
縦隔原発B細胞性大細胞型リンパ腫(PMBCL)は、DLBCLと比較して明確に異なる臨床的、病理学的、および分子学的特徴を有する。PMBCLは、胸腺(延髄)のB細胞から生じると考えられており、DLBCLを診断された患者のおよそ3%を表す。PMBCLは、典型的には40代のより若年の成人集団において同定されており、わずかに雌優位である。遺伝子発現プロファイリングは、ホジキンリンパ腫とのPMBCL重複における、調節解除された経路を示唆する。PMBCLの初期療法としては、一般に、浸潤野の放射線療法を用いたまたは用いない、アントラサイクリンを含有するレジメンおよびリツキシマブ、たとえば、輸液用量調節したエトポシド、ドキソルビシン、およびシクロホスファミドならびにビンクリスチン、プレドニゾン、およびリツキシマブ(DA-EPOCH-R)が挙げられる。再発性/不応性PMBCLの処置の選択肢は、DLBCLにおけるものと同様である。化学療法不応性疾患を有する患者は、不応性DLBCLを有する者と同様またはそれより悪い予後診断を有する。
【0248】
マントル細胞リンパ腫(MCL)
MCLは、現在利用可能な治療に対する応答性が乏しい、すなわち本質的に不治である、侵襲性がんである。マントル細胞リンパ腫は、白血球の一種であるB細胞において生じる。一般に、これらの患者は予後不良を有しており、最終的に疾患が致命的となるまで、寛解および再発のサイクルを繰り返している。マントル細胞リンパ腫は、疾患は非常に侵襲性である場合があり、化学療法は治癒を提供しないため、歴史的に、あらゆるB細胞リンパ腫のうちで最も悪い予後診断のうちの1つを有している。
【0249】
一実施形態では、本明細書中に開示した処置方法は、固形腫瘍がんからの転移性腫瘍を有する患者に適切である。固形腫瘍は、乳がん、トリプルネガティブ乳がん細胞、ER陽性乳がん、ER+およびER-乳がん、ER+乳がん、前立腺がん、膵がん、尿路上皮がん、非筋肉浸潤性尿路上皮癌細胞、卵巣がん、低酸素卵巣がん、膀胱がん、黒色腫、非小細胞肺がん(NSCL)などの肺がん、結腸直腸がん、ウィルムス腫瘍などの腎芽細胞腫、甲状腺癌、甲状腺がん、肝細胞癌、胆管癌神経芽細胞腫、または多形成膠芽細胞腫であり得る。実際に、これらの種類の固形腫瘍は、転移がそのようなリンパ器官、好ましくはリンパ節中に見つけることができるような様式、リンパ器官、好ましくはリンパ節中に排出され得る。したがって、本明細書中に開示した処置方法は、リンパ器官転移、好ましくはリンパ節転移を有する患者に適している。典型的には、開示した処置方法は、リンパ器官、特にリンパ節中に見つかる転移を排除することを助けるであろう。一部の実施形態では、血液悪性腫瘍は、白血病、リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性リンパ性白血病(ALL)、ホジキンリンパ腫(HL)、非ホジキンリンパ腫(NHL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、縦隔原発B細胞性大細胞型リンパ腫(PMBCL)、または多発性骨髄腫からなる群から選択される。
【0250】
したがって、本開示の方法は、ALL、DLBCL、PMBCL、およびMCLを有する対象に特に適している。
【0251】
好ましい実施形態では、血液悪性腫瘍は、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)である。
【0252】
具体的な実施形態では、前記対象は、血液学的障害を処置するためのCAR細胞療法に適格な対象である。典型的には、対象は、CAR細胞療法、たとえば本明細書中に記載のCAR細胞療法を投与されていた、投与されている、または投与される。実施形態では、対象は、抗CD19CAR細胞療法を投与されていた、投与されている、または投与される。
【0253】
具体的な実施形態では、前記対象は、CAR細胞療法、たとえばCAR-T細胞療法、たとえば抗CD19CAR-T細胞療法後に、サイトカイン放出症候群(CRS)および/またはマクロファージ活性化症候群(MAS)および/または免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)を発生する危険性にある。
【0254】
具体的な実施形態では、前記対象は、CAR細胞療法、たとえばCAR-T細胞療法、たとえば抗CD19CAR-T細胞療法後に、CRSおよび/もしくはMASおよび/もしくはICANSを有する、またはCRSおよび/もしくはMASおよび/もしくはICANSを診断されている。
【0255】
具体的な実施形態では、前記対象は、アロジェネイックCAR細胞療法後に、GVHDの危険性にある。
【0256】
組合せ療法
本明細書中に記載のようにS1P受容体モジュレーターとの組合せ療法において使用するための、CAR細胞を含む組成物は、それを必要としている対象において、血液悪性腫瘍を処置するための方法、より詳細には上記定義した患者集団および疾患適応症における薬物として、有用である。
【0257】
一実施形態では、前記CAR細胞、好ましくはCAR-T細胞、より好ましくはCD19抗原を標的とするCAR-T細胞を、0.1×10~6×10個のCAR陽性生細胞/体重1kgの投薬量で投与する。別の実施形態では、前記CAR細胞、好ましくはCAR-T細胞、より好ましくはCD19抗原を標的とするCAR-T細胞を、リンパ枯渇化学療法の完了の2~14日後に投与する。
【0258】
一実施形態では、対象の末梢血中のCAR細胞の数は、7、好ましくは14日間のS1P受容体モジュレーター処置の後に、フローサイトメトリーによって測定して、S1P受容体モジュレーター処置なしで測定した数と比較して、約1%~約40%、好ましくは約10%~約30%低下している。
【0259】
別の実施形態では、S1P受容体モジュレーターの量は、1日あたり固定量で投与することができる。好ましくは前記固定1日投薬量は、1日あたり0.05mg~40mg、好ましくは1日あたり0.1mg~35mg、より好ましくは0.5mg~30mg、さらにより好ましくは1mg~15mg、さらにより好ましくは1日あたり1.5mg~7mg、さらにより好ましくは2mg~5mg、さらにより好ましくは約3mg、または1日あたり約1mgである。
【0260】
たとえば、S1P受容体モジュレーターはモクラビモドであり得、前記モクラビモドは、1日あたり約1mgの1日用量で投与し得る。あるいは、モクラビモドは、1日あたり約3mgの用量で、好ましくは3つの約1mgの固体剤形としてまたは1つの約3mgの固体剤形として投与し得る。あるいは、モクラビモドは、1日あたり約2mgの用量で、好ましくは2つの約1mgの固体剤形としてまたは1つの約2mgの固体剤形として投与し得る。
【0261】
一部の実施形態では、前記S1P受容体モジュレーターは、好ましくはCAR細胞を含む前記組成物の1~20日前、より好ましくは前記T細胞療法の11日前の開始日から、少なくとも1、2、もしくは3カ月間、またはそれより長くの間、毎日投与する。
【0262】
本明細書中に記載のようにS1P受容体モジュレーターとの組合せ療法において使用するための、がん関連抗原と結合するキメラ抗原受容体分子を発現するCAR細胞、好ましくはCAR-T細胞、より好ましくはCD19抗原を標的とするCAR-T細胞(CD19CAR-T細胞)を含む組成物、より好ましくはモクラビモドは、CAR細胞が骨髄を去ることを防止する、ならびに/またはCAR細胞の生着および持続を促進し、それによってCAR細胞療法を改善させるために特に有用である。
【0263】
そのような方法の詳細な実施形態を、本明細書中以下に開示する。
【0264】
具体的な実施形態では、本開示の方法は、以下のステップ:
1)白血球除去を実施することによって、免疫細胞、たとえば免疫T細胞を、それを必要としているドナー対象から収集するステップ、
2)ドナー対象の免疫細胞を、がん関連抗原と結合するキメラ抗原受容体(CAR)分子を発現するように、ex vivoで遺伝子改変させ、それによってCAR細胞組成物を得るステップ、
3)たとえば前記レシピエント対象を有効量のリンパ枯渇化学療法剤で処置することによって、または身体照射を行うことによって、前記レシピエント対象をコンディショニングするステップ、
4)治療上効率的な量のステップ2)で得られた前記CAR細胞を含む組成物を、前記レシピエント対象に投与するステップ、
5)レシピエント対象に、有効量のS1P受容体モジュレーター、好ましくはモクラビモド、または薬学的に許容されるその塩もしくはそのリン酸誘導体を投与するステップ、
6)任意選択で、レシピエント対象に、有効量の1つまたは複数の免疫抑制剤を投与するステップ
を含む。
【0265】
それぞれのステップの詳細な実施形態を、本明細書中以下に開示する。
【0266】
白血球除去によって免疫細胞をドナー対象から収集するステップ(1)
本明細書中に開示した処置方法を行うために、ドナー対象からの免疫細胞を白血球除去によって収集し、白血球をex vivoで収集、富化、または枯渇させて、目的の細胞、たとえばT細胞を選択および/または単離する。医師は、対象の静脈内に配置したカテーテルを使用することによって、対象の血液を採取する。対象の白血球の一部を患者の血液から分離し、患者の血液の残りを患者の静脈に戻す。この手順は3~6時間かかる場合があり、ステップ2)を行うために十分な白血球を得るために繰り返す必要があり得る。その後、白血球を凍結し、遺伝子修飾を行うために送り出す。
【0267】
好ましい実施形態では、前記ドナー対象は、処置を必要としているレシピエント対象と同じである、すなわち、ステップ4)で投与するCAR細胞を含む前記組成物は自己または同系のCAR細胞を含む。
【0268】
他の実施形態では、前記ドナー対象は、処置を必要としているレシピエント対象と同じではない、すなわち、ステップ4)で投与するCAR細胞を含む前記組成物はアロジェネイックCAR細胞を含む。
【0269】
好ましい実施形態では、前記免疫細胞は、リンパ球T細胞またはナチュラルキラー細胞、より好ましくはリンパ球T細胞からなる群から選択される免疫エフェクター細胞である。
【0270】
特定の態様では、免疫細胞、たとえばT細胞は、10cc~400ccの採血液から得ることができる。特定の態様では、免疫細胞、たとえばT細胞は、20cc、30cc、40cc、50cc、60cc、70cc、80cc、90cc、または100ccの採血液から得られる。
【0271】
遺伝子改変させるステップ(2)
具体的な実施形態では、凍結した白血球を解凍してよく、細胞を、目的の免疫細胞、たとえばTリンパ球またはNK細胞を優先的にとるように選別してよい。これらの免疫細胞は、単離した後、当分野で知られている方法によって拡大し、1つまたは複数のCAR構築体が導入され得るように処理し得る。
【0272】
免疫細胞は、上記開示したようにがん関連抗原と結合するCAR分子を発現するように、遺伝子改変する。好ましい実施形態では、前記がん関連抗原は、CD19、CD30、CD33、CD123、CD20、CD22、CD38、LeY、ROR1、CLL-1、BCMA、GD2、MCSP、CD5、NKG2D、MHCペプチド抗原、より好ましくはCD19からなる群から選択される。
【0273】
この手順は、少なくともおよそ2週間かかる場合がある。
【0274】
リンパ枯渇のステップ(3)
患者の身体をCAR細胞療法のために準備するために、輸液の1週間前以内の患者の白血球数が1,000個の細胞/μL以下でない限りは、患者のコンディショニングまたはコンディショニングレジメンを行う。コンディショニングは、本明細書中に記載の前記治療の投与の前、後、またはそれと同時発生的な、有効量のリンパ枯渇化学療法剤を用いた前記患者の処置を含む。
【0275】
本明細書中で使用するリンパ枯渇化学療法は、リンパ球枯渇、リンパ枯渇治療、またはリンパ枯渇レジメンとも呼ばれる。
【0276】
一部の実施形態では、リンパ枯渇化学療法を、対象に、本明細書中に記載のCAR細胞療法、たとえばCAR-T細胞療法を投与する前に、たとえばS1P受容体モジュレーターと組み合わせて行う。実施形態では、リンパ球枯渇は、メルファラン、シタラビン、エトポシド、ブスルファン、ベンダムスチン、シクロホスファミド、フルダラビン、デキサメタゾン、およびアレムツズマブ、好ましくはシクロホスファミド、フルダラビン、デキサメタゾン、およびアレムツズマブのうちの1つまたは複数(たとえばすべて)を投与することを含む。
【0277】
一部の実施形態では、対象に、リンパ枯渇化学療法を、本明細書中に記載のCAR細胞療法、たとえばCAR-T細胞療法を投与した後に、たとえばS1P受容体モジュレーターと組み合わせて、投与する。これは、たとえば、CAR細胞療法をさらに1回または複数回行わなければならない場合に、特にそうである。
【0278】
具体的な実施形態では、ステップ3)とステップ4)との間の遅延が4週間よりも長く、患者の白血球数が1,000個の細胞/μLより多い場合、ステップ3)は、ステップ4)を行う前に1回または複数回行い得る。
【0279】
一実施形態では、前記リンパ枯渇化学療法剤は、シクロホスファミド、シタラビン、エトポシド、ベンダムスチン、ブスルファン、メルファラン、フルダラビン、およびフルダラビン/シクロホスファミド、シタラビン/エトポシドの組合せ投与などのその組合せからなる群から選択される。
【0280】
別の態様では、ステップ3)の前記コンディショニングレジメンは、以下からなる:
-フルダラビンおよびシクロホスファミドの投与、または
-シタラビンおよびエトポシドの投与、または
-ベンダムスチンの投与。
【0281】
一実施形態では、フルダラビンは、25~30mg/mの投薬量で毎日、3または4日間の間、静脈内投与し、シクロホスファミドは、フルダラビンの第1の用量から開始して、250~500mg/mの投薬量で毎日、2または3日間の間、静脈内投与する。
【0282】
別の実施形態では、シタラビンは、500mg/mの投薬量で毎日、2日間の間、静脈内投与し、エトポシドは、シタラビンの第1の用量から開始して、150mg/mの投薬量で毎日、3日間の間静脈内投与する。
【0283】
別の実施形態では、ベンダムスチンは、90mg/mの投薬量で毎日、2日間の間、静脈内投与する。
【0284】
CAR細胞を含む組成物を投与するステップ(4)
本明細書中に開示した処置方法を行うために、ステップ(2)で得られた前記CAR細胞を含む有効量の組成物を、本明細書中に記載のそのような処置を必要としている対象に投与する。
【0285】
具体的な実施形態では、ステップ(2)で得られた前記CAR細胞、好ましくはCAR-T細胞を、有効量のS1P受容体モジュレーターによって、in vitroまたはex vivoで活性化させ得る。したがって、本開示の一態様はまた、特に本明細書中に記載の処置方法において使用するための、CAR細胞、好ましくはCAR-T細胞を活性化または前処置する方法にも関する。特定の方法では、方法は、(i)CAR細胞を、ex vivoまたはin vitroで、そのようなCAR細胞(好ましくはCAR-T細胞)を活性化させるための有効量のS1P受容体モジュレーターを用いて前処置し、それによって、活性CAR細胞(好ましくは活性CAR-T細胞)を得ることと、その後、(ii)治療上有効な量の得られた活性CAR細胞を、本明細書中に記載のそのような処置を必要としている対象に投与することとを含む。後者の方法の具体的な実施形態では、(場合によってはCAR細胞組成物を(in vitroまたはex vivo)で活性化させるために使用した微量のS1P受容体モジュレーター以外は、)S1P受容体モジュレーターを活性CAR細胞組成物と組み合わせて対象に直接投与することはしない。
【0286】
前記CAR細胞を含む医薬組成物は、処置(または防止)する疾患に適切な様式で投与し得る。投与の量および頻度は、患者の状態、ならびに患者の疾患の種類および重篤度などの要因によって決定するが、適切な投薬量は、臨床治験によって決定し得る。
【0287】
好ましい実施形態では、投与するステップ3)のCAR細胞は、CAR-T細胞、たとえば抗CD19CAR-T細胞である。
【0288】
前記CAR細胞を含む組成物は、1つまたは複数の薬学的または生理的に許容される担体、希釈剤、または賦形剤をさらに含み得る。そのような組成物は、中性緩衝生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水などの緩衝液;グルコース、マンノース、スクロース、またはデキストラン、マンニトールなどの炭水化物;タンパク質;ポリペプチドまたはグリシンなどのアミノ酸;抗酸化剤;EDTAまたはグルタチオンなどのキレート化剤;アジュバント(たとえば水酸化アルミニウム);および保存料を含み得る。一態様では、本発明の組成物は、静脈内投与用、好ましくは輸液用に配合する。細胞は、免疫療法において一般的に知られている輸液技法を使用することによって投与することができる(たとえばRosenberg et al., New Eng. J. of Med. 319: 1676, 1988を参照)。
【0289】
一実施形態では、医薬組成物は、たとえば、内毒素、マイコプラズマ、複製可能レンチウイルス(RCL)、p24、VSV-G核酸、HIV gag、残留抗CD3/抗CD28コーティングビーズ、マウス抗体、プールしたヒト血清、ウシ血清アルブミン、ウシ血清、培養培地構成成分、ベクターパッケージング細胞またはプラスミド構成成分、細菌、および真菌からなる群から選択される、汚染物質を、実質的に含まない、たとえば検出可能なレベルが存在しない。一実施形態では、細菌は、アルカリ糞便菌(Alcaligenes faecalis)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、大腸菌(Escherichia coli)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenza)、髄膜炎菌(Neisseria meningitides)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、肺炎球菌(Streptococcus pneumonia)、および化膿性連鎖球菌A群(Streptococcus pyogenes group A)からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0290】
一実施形態では、ステップ3)のCAR細胞、たとえばCAR-T細胞、特に抗CD19CAR-T細胞は、0.1×10~6×10、0.5×10~5.0×10、1.0×10~4.0×10、2.0×10~3.0×10、3.0×10~2.0×10、3.0×10~1.0×10、4.0×10~9.0×10、5.0×10~8.0×10、6.0×10~7.0×10、7.0×10~6.0×10、8.0×10~5.0×10、9.0×10~4.0×10、1.0×10~3.0×10個のCAR陽性生T細胞/体重1kgの投薬量で投与する。好ましい実施形態では、ステップ3)のCAR細胞(たとえばCAR-T細胞、特に抗CD19CAR-T細胞)の用量は、1.2×10~6×10個のCAR陽性生免疫細胞/体重1kgのものである。別の実施形態では、ステップ3)のCAR細胞の用量は、0.4×10~2×10個のCAR陽性生免疫細胞/体重1kgのものである。
【0291】
別の実施形態では、ステップ3)のCAR細胞(たとえばCAR-T細胞、特に抗CD19CAR-T細胞)は、リンパ枯渇化学療法の完了の2~14日または3~14日後に投与する。
【0292】
CAR細胞を含む組成物の投与は、エアロゾル吸入、注射、摂取、輸注、植込、または移植によるものを含む、任意の好都合な様式で実施し得る。本明細書中に記載の組成物は、患者に、経動脈、皮下、皮内、腫瘍内、結節内、髄内、筋肉内で、静脈内(i.v.)注射によって、または腹腔内に投与し得る。一態様では、CAR細胞を含む組成物は、患者に、皮内または皮下注射によって投与する。好ましい一態様では、本発明のT細胞組成物は静脈内注射によって投与する。本発明の組成物は、リンパ節内、または感染部位に直接注射し得る。
【0293】
一実施形態では、CARをステップ2)に従って免疫細胞内に導入し、対象はCAR細胞の初回投与、および最終的にはCAR細胞の1つまたは複数の続く投与を受け、1つまたは複数の続く投与は、以前の投与の15日未満、たとえば、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、または2日後に投与する。
【0294】
一実施形態では、CAR細胞の1週間あたり複数回の投与を対象に投与する、たとえば、1週間あたり2、3、または4回の本発明のCAR細胞の投与を投与する。一実施形態では、対象は、CAR細胞の1週間あたり複数回の投与(たとえば、1週間あたり2、3、または4回の投与)(本明細書中でサイクルとも呼ぶ)を受け、続いて1週間CAR細胞の投与がなく、その後、CAR細胞の1つまたは複数の追加の投与(たとえばCAR細胞の1週間あたり複数回の投与)を対象に投与する。
【0295】
別の実施形態では、対象は複数のサイクルのCAR細胞を受け、それぞれのサイクルの間の時間は、10、9、8、7、6、5、4、または3日間未満である。一実施形態では、CAR細胞は、隔日で、1週間あたり3回の投与で投与する。一実施形態では、本発明のCAR細胞は、少なくとも2、3、4、5、6、7、8週間、またはそれより長い間投与する。
【0296】
CAR細胞を使用して(特にCARを保有するネズミscFvを用いて)処置している患者において生じる可能性がある潜在的な問題は、複数回処置の後のアナフィラキシーである。この理論に束縛されずに、そのようなアナフィラキシー応答は、患者が液性抗CAR応答を発生すること、すなわち、抗CAR抗体が抗IgEアイソタイプを有することによって引き起こされ得ると考えられている。抗原への曝露に10~14日間の中断がある場合に、患者の抗体産生細胞が、(アナフィラキシーを引き起こさない)IgGアイソタイプからIgEアイソタイプへのクラススイッチを経験すると考えられている。患者が、一過性CAR療法(RNA形質導入によって生成されるものなど)の経過中に抗CAR抗体応答を生じる危険性が高い場合、CAR-T細胞輸液の中断は、10~14日間より長くは続かない可能性がある。
【0297】
特定の態様では、CAR細胞を対象に投与し、その後、続いて血液を再採血し(またはアフェレーシスを行い)、ステップ(1)に従って収集した免疫細胞を遺伝子改変させ、患者にこれらのCAR細胞を再注入することが望ましい場合がある。このプロセスは、数週間毎に複数回実施することができる。
【0298】
S1P受容体モジュレーターを投与するステップ(5)
本明細書中に開示した処置方法を行うために、本明細書中に記載の有効量のS1P受容体モジュレーター、好ましくはモクラビモドを、そのような処置を必要としている対象に投与する。
【0299】
一部の実施形態では、1日あたり投与するS1P受容体モジュレーター、好ましくはモクラビモド、または薬学的に許容されるその塩もしくはそのリン酸誘導体の量は、固定量である。一部の実施形態では、固定1日投薬量は、1日あたり0.05mg~40mg、好ましくは1日あたり0.1mg~35mg、より好ましくは0.5mg~30mg、さらにより好ましくは1mg~15mg、さらにより好ましくは1日あたり1.5mg~7mg、さらにより好ましくは2mg~5mg、さらにより好ましくは約3mg、または1日あたり約1mgである。
【0300】
たとえば、S1P受容体モジュレーターはモクラビモドであり得、前記モクラビモドは、1日あたり約1mgの1日用量で投与し得る。あるいは、モクラビモドは、1日あたり約3mgの用量で、好ましくは3つの約1mgの固体剤形としてまたは1つの約3mgの固体剤形として投与し得る。あるいは、モクラビモドは、1日あたり約2mgの用量で、好ましくは2つの約1mgの固体剤形としてまたは1つの約2mgの固体剤形として投与し得る。
【0301】
本明細書中で使用する、モクラビモドの薬学的に許容される塩またはリン酸誘導体の量は、モクラビモドベースの量をいう。
【0302】
本明細書中に記載のCAR細胞を含む組成物および/またはS1P受容体モジュレーターは、同時に、同じもしくは別々の組成物中で、または逐次的に投与することができる。
【0303】
逐次的な投与には、一実施形態では、本明細書中に記載のCAR細胞を含む組成物を最初に投与することができ、S1P受容体モジュレーターを二番目に投与することができる。逐次的な投与の別の具体的な実施形態では、S1P受容体モジュレーターの投与(典型的には1日投薬量として)は、CAR細胞組成物の最初の投与より前に開始する。
【0304】
一実施形態では、S1P受容体モジュレーターは、CAR細胞を含む組成物の投与の前に投与する。実施形態では、S1P受容体モジュレーターは、CAR細胞組成物の投与の開始の少なくとも1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日、15日、20日前、好ましくはCAR細胞組成物の投与の開始の11日前に投与する。
【0305】
一部の実施形態では、S1P受容体モジュレーターはモクラビモドであり、前記モクラビモドは、好ましくはCAR細胞を含む前記組成物(CAR細胞療法)の最初の投与の1~20日前の開始日、より好ましくはCAR細胞療法の開始の11日前から、1、2、3カ月間、またはそれより長く、毎日投与する。
【0306】
S1P受容体モジュレーターの1日投薬量は、1日あたり1回の用量、または単一日中の複数用量として投与し得る。好ましい実施形態では、1日投薬量は1日1回投与する。一部の実施形態では、用量は、1日数回、好ましくは1日3回投与する。一部の実施形態では、有効な治療を提供するために十分である最小用量を使用し得る。
【0307】
別の実施形態では、前記S1P受容体モジュレーターはモクラビモドであり、前記モクラビモドは、3mgの1日用量、たとえば1日に3つの1mgの固体剤形で投与する。実際に、間隔を空けた様式で投与する3つの1mgの固体剤形、たとえばカプセルまたは錠剤は、単一の3mgの固体剤形よりも飲み込みやすい。
【0308】
一部の実施形態では、CAR細胞療法は、本明細書中に記載のように血液悪性腫瘍を有する対象に投与する。CAR細胞療法は、継続し得る(たとえば、一部のがん関連抗原発現がん細胞が依然として対象において検出可能である場合)または中断し得る(たとえば、リスク便益分析が治療の中断を支持する場合)。
【0309】
CAR細胞を含む組成物の複数回の投与が望ましいCAR細胞療法では、S1P受容体モジュレーターレジメンは、CAR細胞を含む組成物の投与の前に開始または完了する。
【0310】
一部の実施形態では、1つまたは複数の免疫抑制剤を患者にさらに投与する。1つまたは複数の免疫抑制剤としては、それだけには限定されないが、以下の薬剤のうちの任意の1つまたはすべてが挙げられる:シクロスポリンA、シロリムス、タクロリムス、メトトレキサート、およびミコフェノレート、好ましくはシクロスポリンA、またはシクロスポリンAとメトトレキサートとの組合せ。
【0311】
本開示の方法の好ましい実施形態では、前記S1P受容体モジュレーターは、CAR細胞(典型的にはCAR-T細胞)が骨髄および/もしくはリンパ節を去ることを防止する、ならびに/またはCAR細胞(典型的にはCAR-T細胞)の生着および持続を促進する、ならびに/またはCAR細胞療法活性化(典型的にはCAR-T細胞)の有効性を増加させるために十分な量で投与する。実際に、CAR細胞療法の有効性を増加させることは、そのようなCAR細胞を活性化することを意味し、これは、それを必要としている対象において、腫瘍細胞を殺滅し、したがって血液悪性腫瘍をより良好に処置するCAR細胞の能力を改善させる、すなわち抗腫瘍効果を増加させることを可能にする。
【0312】
別の実施形態では、前記S1P受容体モジュレーターは、CAR細胞を受けている対象において、サイトカイン放出症候群(CRS)、特に全身性サイトカイン放出症候群および/またはマクロファージ活性化症候群(MAS)および/または免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)の危険性を低下させるために十分な量で投与する。実際に、サイトカイン放出症候群および/またはマクロファージ活性化症候群および/または免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群の危険性を低下させることは、CAR細胞処置に対する患者の応答を改善させることを可能にする。CRSは、投与したCAR細胞、特にCAR-T細胞が大規模に活性化され、大量のIFN-γ、TNF-α、IL-2、IL-4、IL-6、IL-10、およびIL-17Aなどのサイトカインの放出をもたらす結果であり、サイトカイン放出を防止することは、CRSを防止することを助け、したがって、CAR細胞処置に対する患者の応答を改善させるである。MASは、CRS、ならびに血清フェリチンの上昇と血球貪食、腎不全、肝酵素、脾腫大、肺水腫、および/またはNK細胞活性の非存在との組合せによって特徴づけられる重篤な過剰炎症症候群であり、サイトカイン、血清フェリチン、肝酵素の放出を防止することは、MASを防止することを助け、したがって、CAR細胞処置に対する患者の応答を改善させるであろう。
【0313】
ICANSは、脳脊髄液サイトカインレベルの上昇および血液脳関門の破壊によって特徴づけられ、脳脊髄液におけるサイトカインの放出を防止することは、ICANSを防止することを助け、したがって、CAR細胞処置に対する患者の応答を改善させるであろう。
【0314】
その結果、それを必要としている対象における、血液悪性腫瘍、特にびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の処置は、改善される。
【0315】
一実施形態では、前記S1P受容体モジュレーターは、アロジェネイックCAR細胞を受けている対象において、サイトカイン放出症候群、特に全身性サイトカイン放出症候群の危険性を低下させるために十分な量で投与する。
【0316】
好ましい実施形態では、前記S1P受容体モジュレーターは、自己または同系のCAR細胞を受けている対象において、サイトカイン放出症候群、特に全身性サイトカイン放出症候群の危険性を低下させるために十分な量で投与する。
【0317】
したがって、本開示はまた、それを必要としている、CAR細胞療法を受けている、典型的には上記開示したCAR細胞療法を受けている対象において、サイトカイン放出症候群(CRS)、特に全身性サイトカイン放出症候群および/またはマクロファージ活性化症候群(MAS)および/または免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)を防止するまたはその危険性を低下させることにおいて使用するための、S1P受容体モジュレーターにも関する。
【0318】
レシピエントがCAR細胞のドナーではない、たとえば、CAR細胞がアロジェネイックまたはユニバーサルCAR細胞である方法の具体的な実施形態では、前記S1P受容体モジュレーターは、GVHDの危険性を低下させるために十分な量で投与する。
【図面の簡単な説明】
【0319】
図1】実施例1の実験スキームを示す図である。C57BI/6マウスにおける-7日目の致死量以下の照射(4Gy)および0.5×10の白血病注射IV。KRP203の3m/kgの注射またはPBS注射を、注射の日に応じて黒い矢印によって表す。+および-は、0日目のCAR T細胞の投与または非投与を示す。
図2】リンパ節、脾臓、骨髄、および血液から回収した腫瘍細胞の百分率を示す要約のグラフを示す図である。それぞれの点は1匹のマウスを表す。左から右に、薄灰色はCAR8+PBS群を表し、中灰色はCAR8+KRP203 -1日目群を表し、濃灰色はCAR8+KRP203 +2日目群を表す。
図3】リンパ節、脾臓、骨髄、および血液内の、CAR-T細胞における表面CD69、細胞内グランザイムB、および表面PD-1の発現の定量を示す図である。それぞれの点は1匹のマウスを表す。
図4】実施例2の実験スキームを示す図である。
図5】モクラビモド(濃灰色)およびフィンゴリモド(中灰色)が、CAR-T細胞注射によって誘導されたIFN-γのレベルを減少させたことを示す図である。(A)INF-γのレベルを、CAR-T注射の5日後に血漿中で測定した。個体値および平均+/-SEMを示す。n=6~8匹のマウス/群。一元配置ANOVA、続いてダネット事後検定(post-test)を使用して、すべての処置した群間を比較した。***p<0.001。
図6】モクラビモド(黒色)が、CAR-T細胞注射によって誘導されたIFN-γ、TNF-α、およびIL-2のレベルを減少させたことを示す図である。INF-g、TNF-a、およびIL-2のレベルを、CAR-T注射の5日後に血漿中で測定した。平均+/-SDを示す。n=5匹のマウス/群。対応なしt検定を使用して、それぞれの時点のビヒクルおよびモクラビモド群を比較した。**p<0.005、***p<0.001、****p<0.0001
図7】モクラビモドが、血液中のCAR-T細胞の絶対数を減少させたことを示す図である。CAR-T細胞の絶対数を、CAR-T注射の1~5日後に血漿中で測定した。平均+/-SDを示す。n=5匹のマウス/群。対応なしt検定を使用して、5日目にモクラビモドをビヒクル群と比較した。p<0.05。
図8】モクラビモドが、未処置のアームと比較して、骨髄中のCAR-T細胞の百分率を増加させたことを示す図である。CAR-T細胞を、CAR-T注射の4日後に骨髄中で測定した。個体値および平均+/-SEMを示す。n=3匹のマウス/群。対応なしt検定を使用して、モクラビモドを対照と比較した。p<0.05。
図9】モクラビモドがin vitroで腫瘍細胞を殺滅することを示す図である。対応なしt検定を使用して、モクラビモドなしを7.5μMのモクラビモドと比較した。**p<0.005、***p<0.001、****p<0.0001。
図10】CAR-T細胞単独および未処置と比較した、CAR-T細胞と組み合わせたモクラビモドの延命効果を示す図である。p<0.05、**p<0.01、***p<0.001
図11】CAR-T細胞と組み合わせたモクラビモドが腫瘍排除を増加させることを示す図である。
【実施例
【0320】
[実施例1]
S1PモジュレーターがCAR-Tの活性化を増加させる
材料および方法
マウスおよび細胞系
6~8週齢のC57BL/6J雄マウスをEnvigoから入手した。Ubi-GFP RAG1-/-OT-I TCRマウスを繁殖させ、本発明者らの動物施設内、特定病原体除去条件下で交雑させた。すべての実験は、Institut Pasteurの安全性委員会によって、フランスおよび欧州指針(CETEA2017-0038)に従って認可された。不死化pro-B細胞を、ウイルスアベルソンキナーゼ(v-abl)をコードしているレトロウイルスを用いて骨髄細胞を感染させることによって作製した。その後、この腫瘍細胞系をレトロウイルスによって形質導入して、カスパーゼ3活性のための蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)に基づくレポーターを発現させた。マウスを毎日検査し、虚脱、乱れ毛、衰弱、または結節腫瘍塊>1cmの場合は屠殺した。細胞を、10%の熱失活ウシ胎児血清、50U.mL-1のペニシリン、50μg.mL-1のストレプトマイシン、1mMのピルビン酸ナトリウム、10mMのHEPES、および50μMの2-メルカプトエタノールを添加したRPMI培地1640-GlutaMAXTM中で培養し、37℃および5%のCO2で維持した。細胞を、マイコプラズマ属(Mycoplasma)汚染の非存在についてルーチン的に試験した(Venor-GeM Advanceマイコプラズマ検出キット、Minerva Biolabs)。
【0321】
CAR-T細胞の生成および養子移入
抗CD19CARをコードしているtCD34.2A.amCD19.CD28IEVζレトロウイルスベクターは、1D3ラットハイブリドーマに由来する抗ネズミCD19単鎖断片可変ドメイン、CD28の膜貫通および細胞内ドメイン、ならびにCD3z細胞内ドメインから構成される。このレトロウイルスベクターは、また、CAR-T細胞の同定および精製に使用される、切断されたヒトCD34分子もコードしている。CD8+T細胞を、Ubi-GFP RAG1-/-OT-I TCRマウスのリンパ節から単離した。T細胞を、2.5μg.ml-1の抗CD3 mAb(クローン17.A2、BioLegend)をコーティングしたプレート中、2.5μg.ml-1の可溶性抗CD28 mAb(クローン37.51、BioLegend)および10ng.ml-1のネズミIL-12(I8523、Sigma-Aldrich)の存在下で活性化させた。2ラウンドのスピン-感染を、T細胞活性化の24および48時間後に、8μg.ml-1のポリブレン(Merck)を添加したレトロウイルス粒子を使用して行った。T細胞をさらに4日間、10ng.ml-1のhIL-2(202-IL、R&D Systems)の存在下で培養した。CAR形質導入の有効性は典型的には>80%であった。それより低い場合は、形質導入した細胞の精製を、hCD34陽性選択キット(Miltenyi Biotec)を使用して行った。B細胞腫瘍は、致死量以下の照射(4Gy)の後に、0.5×10個の形質転換させたpro-B細胞をマウス内に注射することによって確立し、CAR-T細胞生着のコンディショニングレジメンとして使用した。腫瘍は主に骨髄中で発生し、7日目までに血液中で検出可能となり、この時点で、CAR-T細胞(5×10個の細胞)を静脈内(i.v.)で注射した。
【0322】
KRP203処置
マウスは、連続的なKRP203(3mg.kg-1体重)を腹腔内で2日毎に受けた。KRP203処置は、CAR-T細胞の注射の1日前または2日後のいずれかに開始した。対照動物はPBSを腹腔内で受けた。実験スキームを図1中に表す。
【0323】
フローサイトメトリーおよび抗体
ex vivo分析には、骨髄細胞は、大腿骨および脛骨を腫瘍保有マウスからフラッシュし、続いて70μmの細胞濾過器を通して濾過することによって単離した。脾臓およびリンパ節からの単個細胞懸濁液は、細胞を70μmの細胞濾過器を通して濾過することによって調製した。マウスの屠殺後に心穿刺によって血液を収集し、赤血球溶解緩衝液(eBiosciences)を使用して赤血球を除去した。抗CD16/32 mAb(クローン93、BioLegend)および正常ネズミ血清1%を使用して単個細胞懸濁液をFc遮断した。以下のmAbを用いて染色を行った:hCD34-Alexa Fluor 647(クローン561、BioLegend)、CD69-BUV737(クローンH1.2F3、BD Biosciences)、CD8a-BUV395(クローン53-6.7、BD Biosciences)、CD19-APC-fire750(クローン6D5、BioLegend)、およびPD-1-PE/Cy7(クローン29F.1A12、BioLegend)。細胞内染色は、Cytofix/Cytopermキット(BD Biosciences)を製造者の指針に従って、およびPEコンジュゲート抗グランザイムB mAb(クローンQA18A28、BioLegend)を使用して行った。分析はCytoflex LX(Beckman Coulter)フローサイトメーターを使用して行い、FlowJoバージョン10.8.0(BD)を用いて分析した。
【0324】
統計分析
すべての統計的検定は、Prismバージョン9.2.0(GraphPad)を使用して行った。データは平均±SEMとして表す。一元配置分散分析(ANOVA)および二元配置ANOVA試験を多重比較補正に使用した。すべての統計的検定は、0.05の有意水準の両側性であった。ns、非有意、p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
【0325】
結果
明確なリンパ器官中における白血病腫瘍細胞を評価した。結果を図2中に表す。リンパ節中の、腫瘍細胞の絶対数で測定した腫瘍量は、腫瘍細胞のみを受けているマウス(未処置群)に対して、CAR8+PBSを受けているマウスにおいて低下していた。CAR-T細胞およびKRP203を-1日目または+2日目に投与する場合、リンパ節中の絶対的腫瘍数は、対照(CAR8+PBS)および未処置のアームと比較して有意にさらに減少することが実証されている。これは、KRP203をCAR-T細胞と組み合わせて白血病マウスに投与する場合、リンパ節中の絶対的腫瘍数の低下を達成することができることを意味する。リンパ節中の絶対的腫瘍数は、2日目のみのKRP203の投与と比較して、KRP203の投与が-1日目、1日目、および3日目である場合に、さらに低下する。
【0326】
CAR-T細胞の活性化および排除を評価した。結果を図3中に表す。結果は図2と一致しており、リンパ節中の腫瘍量が低下している。実際に、KRP203処置と組み合わせた場合に、より高い割合のCAR-T細胞が活性化マーカー(CD69、GrB、PD-1)を発現することが実証されている。リンパ節では、KRP203を-1日目から投与した場合、CAR-T細胞の活性化百分率は、対照と比較して2~3倍有意に増加する。+2日目に投与した場合、対照と比較してやはりCAR-T細胞の活性化の増加の傾向があるが、-1日目の投与と比較してより低い程度である。活性化マーカー(CD69、PD-1)の増加は、CAR-T細胞が腫瘍細胞に対してより応答性であることを示し、グランザイムB(GrB)含有量の増加は、CAR-T細胞ががん細胞を殺滅する能力が増強していることを示す。さらに、S1Pモジュレーターを用いてCAR-T細胞をリンパ節内に隔離することは、そのようなCAR-T細胞がより長く生存することをもたらし得る。
【0327】
さらに、マウスの生存、およびそれがCAR T細胞と組み合わせたKRP203の投与によってどのように影響を受けるかを、調査した。CAR T細胞とKRP203との組合せによって処置したマウスは、未処置のまま、またはCAR T細胞を単独で受けたマウスと比較して、統計的に有意な延命効果を示した。(図10
【0328】
[実施例2]
S1PモジュレーターとCAR-T細胞との組合せがCRSを防止する
材料および方法
動物
本研究は、雌NOD/SCID/IL-2Rγヌル免疫不全マウス株(NCG)を用いて実施した。本研究中に記載したすべての手順は、現地の倫理委員会(CELEAG)によって検討および認可された。マウスは、2/6匹の個体の群で、TCS BSL-2動物施設内に宿した。それぞれのマウスをユニークに同定した。
【0329】
腫瘍細胞生着
JEKO-1-luc-GFP腫瘍細胞を、ATCCの推奨に従ってin vitroで拡大させた。5×10個の腫瘍細胞を、10%のSVFおよび1%のペニシリン/ストレプトマイシンを含むRPMI-1640中、37℃、水飽和および無菌的な雰囲気および5%のCO下で成長させた。生存度の確認後、対数増殖期中の腫瘍細胞を選択した動物内に注射した。
【0330】
JEKO-1-luc-GFP腫瘍細胞を、50×10個の細胞/mLの濃度でPBS中に懸濁させた。
【0331】
腫瘍細胞を、24匹の免疫不全マウス内に、100μLの細胞懸濁液(5.106個のJEKO-1/マウス)を用いて静脈内に注射した。腫瘍生着を0日目として定義した。
【0332】
ランダム化、群、および処置
マウスをその体重に応じて4つの群にわたって分配し、以下のように処置した:#1 ビヒクル-ビヒクル、#2 CAR-T-ビヒクル、#3 CAR-T-モクラビモド、および#4 CAR-T-フィンゴリモド。
【0333】
モクラビモドおよびフィンゴリモド(FTY720)は、3mg/kgの用量で腹腔内注射によって投与した。モクラビモドおよびビヒクル群(#1、#2、および#3群)は2日毎に処置した一方で、フィンゴリモド群(#4)は6日目に開始して毎日処置した。CAR-T細胞は、7日目に1回、0.75×10個の細胞/マウスの用量で投与した(以下の表を参照)。
【0334】
【表1】
【0335】
実験スキームを図4中に表す。
【0336】
出血および臓器の収集
血液を、血漿単離およびCBAアッセイのために12日目に、ならびに安楽死日である25日目にフローサイトメトリー分析のために、眼窩後方から収集した。
【0337】
脾臓および骨髄も収穫し、TransCure bioServices標準操作手順(SOP)に従って機械的に分解し、RBC溶解緩衝液を用いて室温で1分間赤血球溶解を行った後、内部TransCure bioServicesプロトコルに従ってフローサイトメトリー分析を行った。分解の前に、さらなるIHC分析のために、脾臓の小部分を4%のPFA中で固定し、パラフィン包埋した。
【0338】
得られた単離細胞を、内部TransCure bioServicesプロトコルに従って、フローサイトメトリーによる免疫表現型決定のために染色した。
【0339】
サイトカインアッセイ
サイトカイン(TNF-α、INF-γ、IL-10、IL-6、IL-4、IL-2、およびIL-17a)を、カスタマイズした細胞数測定ビーズアレイ(CBA)キットによって、製造者の指示(BD Biosciences)およびTransCure標準手順に従って、血漿試料(25μL)に対して分析した。
【0340】
いくつかのヒトサイトカイン(IFN-γ、TNF-α、IL-2、IL-4、IL-6、IL-10、およびIL-17A)のレベルを、12日目(CAR-T細胞注射の5日後)に、細胞数測定ビーズアレイ(CBA)アッセイによって測定した(図5)。処置群にかかわらず、マウスの血液中で、IL-2、IL4、IL-6、IL-10、IL-17A、またはTNF-αは検出されなかった、または非常に低いレベルで検出された。
【0341】
CAR-T細胞投与の5日後の血液中におけるサイトカインプロファイル分析は、IFN-γが、CAR-T細胞で処置したマウスでのみ検出されたことを示した。中間レベルのIFN-γがCAR-T-モクラビモドおよびCAR-T-フィンゴリモド処置群において見つかり(10pg/mL未満)、ビヒクル-ビヒクル群と比較して有意に高いレベルがCAR-T-ビヒクル群中で見つかった(図5)。さらに、IFN-γのレベルは、CAR-T-ビヒクル処置群と比較して、CAR-T-モクラビモドおよびCAR-T-フィンゴリモド群において有意に低かった。
【0342】
結論
CAR-T細胞は炎症誘発性IFN-γ放出を誘導し、これはモクラビモドまたはフィンゴリモド処置の際に有意に低下した。これらの結果は、S1Pモジュレーター処置が、CAR-T細胞療法によって誘導されるサイトカイン放出症候群(CRS)を防止するために有用であろうことを示唆している。
【0343】
[実施例3]
S1PモジュレーターとCAR-T細胞との組合せがCRSを防止する
材料および方法
サイトカインアッセイ
CAR T細胞と組み合わせて投与した場合の、サイトカイン分泌の動力学を決定し、循環サイトカインのレベルを低下させることにおけるモクラビモドの有効性を評価するために、NOD CRISPR Prkdc Il2rガンマ(NCG)マウスに、5×10個のJEKO-1-luc-GFP腫瘍細胞を静脈内注射した。モクラビモドまたはビヒクルのいずれかを用いた処置は、腫瘍細胞生着の6日後に開始した。モクラビモド(3mg/kg)を2日毎に投与した。0.75×10個のCAR T細胞を、腫瘍細胞生着の7日後に静脈内注射した。マウスをCAR T細胞注射の24時間、48時間、72時間、96時間、および120時間後に出血させ、血漿を収集した。インターフェロン-g(IFN-g)、腫瘍壊死因子-a(TNF-a)、およびインターロイキン-2(IL-2)を、血漿試料中で、BD CBAヒトTh1/Th2/Th17サイトカインアッセイを使用して分析した。CAR T細胞を表現型決定し、血液中で数えた。
【0344】
CAR-T細胞投与の5日後の血液中におけるサイトカインプロファイル分析は、IFN-g、TNFa、およびIL-2のレベルが、CAR-T-ビヒクル群(それぞれ約250pg/mL、約6pg/mL、約3pg/mL)と比較して、CAR-T-モクラビモド処置群(それぞれ約100pg/mL、約0pg/mL、および約2pg/mL)において有意に低かったことを示した(図6)。
【0345】
CAR-T細胞の生着
骨髄中のCAR-T細胞を分析する方法には実施例1と同じプロトコルを実施し、血液中のCAR-T細胞を分析する方法にはサイトカインアッセイと同じプロトコルを実施した。
【0346】
CAR-T細胞注射の前の-1日目にモクラビモドの投与を開始する際、血液中のCAR-T細胞の絶対数は、5日目に対照(ビヒクル)と比較して有意に減少することが実証されている(図7)。モクラビモドとCAR-T細胞との組合せを対照と比較すると、1日目の血液中のCAR-T細胞の絶対数は同じであった(約500個)。しかし、血液中のCAR-T細胞の絶対数は、対照では3日目から5日目で増加する傾向にある一方で(約500個から約1500個まで)、血液中のCAR-T細胞の絶対数は、モクラビモドとCAR-T細胞との組合せでは減少する傾向にある(約500個から約100個まで)。
【0347】
これらの結果は、4日目の骨髄中のCAR-T細胞の百分率と一致している。モクラビモドをCAR-T細胞と共に投与した場合、骨髄中のCAR-T細胞の百分率は対照(CAR-T+PBS)と比較して有意に増加した(図8)。この結果は、モクラビモドとCAR-T細胞との組合せにおける、血液中のCAR-T細胞の枯渇および骨髄中のCAR-T細胞の増加を示し、これはCAR T細胞のリンパ器官への隔離を示す。したがって、モクラビモドとCAR-T細胞との組合せは、細胞が骨髄を去ることを防止し、CAR-T細胞の生着を促進し、CAR-T細胞療法の有効性を増加させる。
【0348】
結論
CAR-T細胞は炎症誘発性サイトカインIFN-γ、TNF-α、およびIL-2を分泌し、これらはモクラビモド処置の際に有意に低下した。これらの結果は、S1Pモジュレーター処置、より好ましくはモクラビモドが、CAR-T細胞療法によって誘導されるサイトカイン放出症候群(CRS)を防止することに有用であるだろうことを裏付けている。
【0349】
CAR-T細胞は、骨髄を去り、血液中で見つかる傾向にある。これらの結果は、S1Pモジュレーター処置が、CAR-T細胞が骨髄を去ることを防止する、CAR細胞の生着および持続を促進し、したがって、CAR-T細胞療法の有効性を増加させることに有用であるだろうことを裏付けている。
【0350】
[実施例4]
S1Pモジュレーターがアポトーシスを誘導する
材料および方法
様々な血液がん細胞系に対するモクラビモドの細胞毒性(細胞死の誘導)を調査するために、細胞系を拡大し、7.5μMのモクラビモドの存在下で2および24時間インキュベートした。以下の細胞系を使用した:MOLM-13、THP-1、Kasumi-1、ジャーカット、Raji、JEKO-1、およびMV-4-11。10個の腫瘍細胞/ウェルを96ウェルプレート中に播種した。37℃、5%のCOでのインキュベーションの2および24時間後、細胞死を評価するために細胞をアネキシンVおよびDAPIで染色した。
【0351】
結果
それぞれの腫瘍細胞系、MOLM-13(AML)、THP-1(AML)、Kasumi-1(AML)、ジャーカット(ALL)、Raji(B細胞リンパ腫)、JEKO-1(マントル細胞リンパ腫)、およびMV-4-11(AML)の死細胞の百分率は、対照の未処置のアームと比較して、処置アームでモクラビモドを投与した場合に高かった(図9)。したがって、モクラビモドは、すべてのMOLM-13、THP-1、Kasumi-1、ジャーカット、Raji、JEKO-1、およびMV-4-11細胞系において腫瘍細胞のアポトーシスを誘導する。したがって、CAR-T細胞と組み合わせたモクラビモドの投与は、血液悪性腫瘍を殺滅することの有効性を増加させることを可能にする。
【0352】
[実施例5]
モクラビモドとCAR T細胞との組合せが腫瘍排除を増加させる
材料および方法
Scid-ベージュマウスに、0.5×10個のNalm6-GFP腫瘍細胞を、尾静脈を介して注射した(0日目)。腫瘍細胞はin vitroで事前に拡大させた。一部のマウスは未処置のままであった一方、一部のマウスは、腫瘍注射の2週間後(14日目)に1×10個のCAR T細胞および1×10個の末梢血単核球(PBMC)を受けた。CAR T細胞を受けたマウスの半数をモクラビモドで処置した一方で、残りの半数はビヒクル(DMSO)を受けた。モクラビモド処置は、CAR T細胞注射の3日前に、3mg/kgの用量で開始し、実験の終わりまで2日毎に投与し続けた。腫瘍細胞をCAR T細胞投与の4日後(18日目)に骨髄(BM)中で分析した。
【0353】
結果
すべての群において、Nalm6-GFP腫瘍細胞をBM中で評価した。CAR T細胞処置を受けなかったマウスが最も高い腫瘍量を示した(図11)。腫瘍細胞はCAR T細胞投与によって効率的に低下した。さらに、KRP203をCAR T細胞と組み合わせて投与した場合は、腫瘍細胞はさらに低下した。したがって、CAR-T細胞と組み合わせたモクラビモドの投与は、腫瘍排除を増加させることを可能にする。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【国際調査報告】